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朝のドラめもん

2004/05/31

お題「須田委員の講演(その2)」

ネタ不足によって予定通り(?)金曜の続きです。

○FRBに学ぶ対話戦略の重要性

FRBの情報発信に関して、特に先般来の金融緩和政策の似非コミットメントとその解除という実例をあげて「FRBの市場との対話ーデフレ懸念を巡ってー」ってなお題でお話をしています。FRBは時間軸効果の解除を徐々に行う為に色々と工夫していましたが、必ずしも全面的に評価しているわけではなく、

『日本の経験を生かしたつもりが、結果的には政策への期待が予想以上に大きくなり過ぎ、金利の振れを生じさせたことは、市場との対話の難しさを示す一例だと思います。』

などと指摘していますが、FRBも日銀からは言われたくないだろうにって感じでしょう。まぁその後でFRBの工夫について学ばないといけないってフォローしていますけどね。

『このように声明文を変更させることで、FRBは時間軸効果を徐々に解除していくのに成功したように思われますが、声明文の変更だけで市場の期待をうまくコントロールできたわけではないと思います。』

確かにご指摘の通りでして、FOMC議事録の公表も市場の期待のコントロールに寄与しているわけであります。

『この間、1月の「相当期間」の削除は市場を驚かせ時間軸が大きく短縮化したと解釈されましたが、その後に公表された12月FOMCの議事要旨が市場の落ち着きに貢献しました。なぜ議事要旨が市場の落ち着きに貢献したかというと、12月のFOMCで複数のメンバーが「相当期間」の削除を求めていることが記載されており、その後の強い指標の発表もあったため、1月のFOMCでは他のメンバーも「相当期間」の削除に賛成したという流れに、市場が納得したという面があったと思います。』

『また、2月11日の半期金融政策報告は、声明文とほぼ同じ文章で締めくくられていましたが、現在の金融政策について適切だと述べていたほか、僅かな言葉の違いを見出して、グリーンスパン議長が利上げを急いでいないというように市場は解釈しました。』

この「僅かな言葉の違いを見出して」ってのが泣かせる所でして、先日どこぞの中央銀行の総裁は記者会見で逆切れしてこんな事を言っていた事を思い出してしまうわけです。

『(答)全く同じ言葉を使わなければ同じ見方ではないというところまで厳密にお考え頂くのであれば、言い直さなければならない。今まで通り「緩やかな回復過程を続けている」という判断に変わりはない。毎回「緩やかな回復」が続いているとしても、何か心配事があるのかないのかということまで考えて言えば、そうした範囲の景気回復であれば、当面そんなに大きな懸念材料がないという意味で「順調だ」ということだ。私の使う単語について、あまり厳密にその連続性をご理解頂かないほうが会話がしやすい気がする。』

ちなみに2月26日の総裁記者会見でのご発言でした。


で、話を戻してFRBですが、5月には時間軸の解除を行ったような事をしたのですが、この時の期待の安定化にはグリーンスパン議長の議会証言を活用しています。

『その後、5月のFOMCに向けて、3月19日に公表された1月のFOMCの議事要旨によって、「辛抱強くなれる」という表現を削除すべきという意見があったことが公表され市場で注目を浴びました。』

『これに対して、4月20日に行われた上院銀行委員会でのグリーンスパン議長の証言では「デフレ懸念は過去のものとなった」と述べるとともに、「辛抱強くなれる」との表現がなくなり「必要に応じて行動する」との表現に変更されたことから、市場では早急な利上げ観測が生じました。もっとも、翌日には「足許、広範なインフレ圧力は発生していない」と、インフレに対してより中立的な発言になったことから、市場の早急な利上げ観測は後退しました。また、それとともに「辛抱強くなれる」という言葉の削除が市場に織り込まれることとなりました。』


○日本は今後どうするのかという話

『このようなFRBの対話戦略に得るものは多いのですが、残念ながらこのような方法は日本について必ずしも適用できません。それは、一つには議会証言で求められる内容やスタイルが異なるということがありますし、議事要旨の内容も議論を幅広く載せるというスタイルであるため、メッセージや焦点が惚ける可能性があるということもあります。』

で、まぁおまけに日本では既に量的緩和のコミットメントに関して一部で誤解があるなんてぇ話もしてますが、引用するとくどくなるので省略。

まぁ議会に年がら年中総裁が引っ張り出されてしょうも無い質問を受けて不規則発言をお返ししてしまうような状況ですんで、中々期待の安定化にはほど遠い状況ではないかと実に寒い状態なわけです。

で、将来の時間軸の強化といった点に関しては須田委員は思いっきり否定的でありまして、こんなコメントをしております。

『今後、現在設定されている必要条件が満たされたことだけを受けて直ちに量的緩和政策を解除するということはありませんが、いつ解除されるかが定かでなくなることに対し、市場における解除時期を巡る不安感の解消のために解除条件を厳しくすることが求められるかもしれません。しかし、デフレ脱却の道筋が見えてきたときには、今のような「物価」だけの強いコミットメントで日銀の手足を縛ることではなく、国民からの信認を得て総合判断で金融政策を運営する方が私は望ましいと思います。そのためにも、今回の米国の対話戦略を学んでおく必要があると思っています。』

と言うことで、須田委員は「総合判断」派であるという宣言をしておりまして、中原委員との今後の論戦(があればの話ですが)が期待される所でございます。


○金融政策の透明性向上のためには

1.金融政策の目的の透明性向上

『まず最初に、金融政策の透明性を高めるには、金融政策目標を明らかにしておく必要があります。金融政策の目的を「物価の安定」と表現すること自体にはコンセンサスがありますが、問題はその解釈です。物価の安定といった場合、何らかの物価指標の数値を用いて定義する場合と、持続的な経済成長の基礎的な前提条件としての物価の安定を考え、物価の安定をより広い概念で捉える場合とがあります。前者は数値目標の達成が、後者はマクロ経済環境の安定化を図ることが重要となります。』

で、まぁ前者のように数値を出す事に関して、昨今ではあたかも望ましいインフレ率について合意ができて、中央銀行の信頼性の向上や物価安定やインフレ期待の形成に役立つという議論がされる場合もありますが、その点に関しては須田委員は『私はそんな単純なものではないと考えています。』と否定的です。

コミュニケーションの道具として物価安定を数値化させることにメリットがあるかどうかという観点から目標の数値化を行う場合、資産価格との折り合いをどうするかという話もあります(が、今更その話は日本では証文の出し遅れかと思いますが)ので、次にこんな話を。

2.バブル下での望ましい物価目標

『金融政策の目標は物価の安定だといった場合に、資産価格の動きをどう扱うかが問題になりますが、資産価格を政策目標に取り込むのは望ましくないというのが一般的な意見です。この際、物価安定下での資産価格上昇にどのように対応するかというのが難しい課題になります。とりわけコミュニケーションの向上を目的に目標の明示化をする場合には、困難が伴います。このことは現在のイングランド銀行のケースを考えると難しさが伝わってきます。』

どういうケースだったかと言うとこういうことらしいですな。

『英国では、政策目標未達の場合、大蔵省への弁明のための公開書簡が必要となりますが、足許、消費者物価上昇率が目標下限値の1%に近付いています(3月+1.1%)。それにもかかわらず、住宅価格の上昇が続いているため、5月の金融政策委員会(MPC)で金利を引き上げました。このことは政策の柔軟性の証であるともいえますが、過去三回の継続的な金利上昇がすべてインフレーション・レポートの公表時(したがって三か月ごと)であったことから考えると、消費者物価上昇率が目標をかなり下回っているために、インフレーション・レポートの力を借りなければ利上げへの政策変更を説明しにくいという意味で、政策決定の制約要因になっていると思います。それでも現在、市場が金利の上昇を受け入れているのは、英国の景気が良いことと、イングランド銀行への信認があることが影響していることは否めません。』

日本では資産価格上昇にも拘らず消費者物価が安定しているために金融引締めが激しく遅れてバブル祭り大発生になってしまい、向こう10年以上にわたる需要を先食いしてしまったかのような好景気の反動で非常に悲しい日々が続いている訳ですな。

そのため、須田委員は望ましい物価目標を定める場合には資産価格上昇時に適切な金融引締めを可能にするために『日本のバブル期を振り返ってみて、望ましい物価上昇率の下限が、バブル期の物価上昇率よりも高いような状況は避けておきたいと思います。』と指摘しております。

3.金融政策ルールの透明性

段々技術的な話になってきましたが、最近はやりの「より透明な金融政策」ってのに対する反論でもあろうかと思える部分であります。おそらくどこぞの学者大臣や学者副総裁あたりはテーラー・ルールのようなものを想定したと思える発言をしていたりするのですが、これに対して須田委員の反論。

『私も政策反応関数として、機械的なルールを適用できないと思っています。委員会で決定している政策を単純なルールでどの程度表わせるのか疑問であると考えています。それは、金融政策のトランスミッション・メカニズムについて、ある程度の共通の理解が前提となるからです。』

『厳密なルールはわかり易いとは思いますが、このような決定プロセスのもとでは、構造変化や大きなショックに直面した場合に、特にルールの継続性について、市場から疑念を持たれ易いと思います。ルールは、その時々のメンバーが日々の判断を積み重ねることと、それを通じて自ら「学ぶ」ことに委ねるしかないのではと思います。』

4.情勢判断の難しさ

どうもこの講演のまとめの部分とおもわれるこのコーナーは話がピョンピョンと飛ぶので、書いているこっちも纏め難いったらありゃしないのですが、まぁ要するに言いたいのは「情勢判断は目先の数字でも中々区々まちまちである事が多い」「従って情報発信に関してはあまり目先の数字で細々と情勢判断を発信していくのは如何なものか」「ところで、市場関係者も日銀の判断ばかり気にしないようにしましょう」と言った所です。


○最後に「出口政策の検討開始宣言」

最後の最後のまとめのところもまた色々と話をしているのですが、出口政策を検討し始めるべきであると言う須田委員の意見表明がなされておりますので、最後にそこを引用します。

『ゼロ金利制約のもとでは、金融政策の波及効果は主として期待を通じるものとなるため、今のコミットメントの必要条件が達成されたあとに、どのような出口政策を考えるのかについても、不確実な要素が多すぎるということだと思いますが、市場の誤解を防ぐためにも考え始める必要があると思います。』

引用多大で恐縮至極でした。



2004/05/28

お題「須田委員の講演」

去る5月15日に須田審議委員が日本金融学会春季大会で講演を行いまして、その内容を加筆修正した講演記録「中央銀行の情報発信と金融政策」というのが日銀のWebにアップされました。紙に打ち出すと18ページ(実質16ページ)の大作となっておりまして、これからご紹介するように「須田委員の個人的な意見」として日銀の情報発信をどうしていくかと言ったお話をしております。中々興味深い内容でして、とりあえず本日はざっと目を通した段階でのご紹介で恐縮であります。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0405c.htm

○金融政策の透明性とは何ぞやという話

講演の最初の方はこの講演の根本であります「金融政策の透明性とは?」って事の説明です。

『中央銀行はオーバーナイト金利や準備預金(または当座預金)などを操作目標として、金融政策を運営していますが、操作目標の水準自体が実体経済に直接働きかけるというより、むしろ金融政策の見通し、例えば、オーバーナイト金利の先行き予想が、長めの金利や資産価格に影響を与え、それらを通じて実体経済に影響が及ぶということです。』

『すなわち、中央銀行がどのような政策目的をもち、足許や先行きの経済をどのようにみていて、かつ政策目的と経済情勢判断とを対応させて先行きどのような金融政策を採ると思われるか(政策運営方法)、についての市場の予想が、政策の波及効果にとって非常に重要となります。』

ということで、「金融政策の透明性」とは何ぞやと言いますと、

『金融政策の透明性は(略)(1)政策目的、(2)経済情勢判断、(3)政策運営方法、という三つの視点から議論されています。』

となるわけですが、なぜ透明性を強調するかと言いますと、

『これらにかかわる情報についての透明性が全体的に高まれば、市場参加者は経済情勢に応じて中央銀行がどのような政策を採るのかをより的確に予想できますので、中央銀行の政策運営に関する不確実性が小さくなります。この結果、長めの金利形成についても、中央銀行の政策意図がより正確に反映されることになります。延いては、期待が安定化し、リスクプレミアムも縮小し、経済主体も中央銀行が望んだ方向に反応すると想定できます。』

と言う事なわけです。


○情報発信は高品質でいきましょう

『透明性を向上させるべく情報発信を行うためには、どのような情報を出すかということに加えて、情報発信のフレームワークの構築が重要です。これを構成するものとしては、日本銀行についていえば、金融経済月報、経済・物価情勢の展望(いわゆる「展望レポート」)、金融政策決定会合議事要旨、総裁の定例記者会見などがあげられます。』

これらの情報発信の枠組みにあるものは「定期的」に行われて、内容が「包括的」であって「事前のコミュニケーション」と言われてるそうです。で、この枠組みで出てくる情報発信の意義はと言いますと、

『このような情報発信は、市場にとって金融政策決定会合での対外公表文に含まれる中央銀行の意図や目的を理解し易くします。政策の意図や目的を明示すれば、中央銀行としては、自らのレピュテーションを守るために明示した意図や目的に沿った行動を採る必要があり、それは結果的に中央銀行への信認を高めることにつながります。また、情報を手にした人が、自分だけでなく、他の全ての人もそれと同じ情報を手にしていると確信できる、つまり「共有知識」につながることが意味を持ちます。』

と言う事になるのですが、当然ここに落とし穴がある事を須田委員は指摘している訳で、何気に現状批判になっているのではないかとも。

『また、有効な情報発信を行うためには、情報発信のフレームワークの構築とともに、そこで発信される情報の質を高める必要があります。裏返せば情報発信のメリットは、質の高い情報、つまりノイズのない情報の存在が前提であって、情報の質が悪ければ情報発信は益よりも害をもたらす可能性が高いといえます。例えば、景気や物価についての判断にかかる情報発信を行ったとしても、その内容が正確でなければ、かえって市場の混乱を招いてしまうといったことです。』

中央銀行といえども無謬ではありえないので「ノイズの無い情報」ってのはちょっと逆の意味で問題ではないかとおもうのですが、まぁそれは兎も角として、「情報の質が悪ければ情報発信は益よりも害をもたらす可能性が高い」ってもしかして他の審議委員を暗に批判してません??


○金融政策決定会合の運営話

金融政策決定会合の議事録は10年後に公表され、そのときには誰が何を言ったかというところまで公開される訳でして、その辺も意識しながら須田委員はこんな感じで決定会合に出席するそうです。

『議事録がいつかは公開されると思うと、自分の発言に責任を持つという意識がより強まります。例えば、過去の発言との整合性もなければならないと考えますので、過去の発言などもチェックしながら、時間をかけて発言原稿をしっかりと準備します。』

FOMCでも発言原稿を準備しているそうですね。

『金融政策決定会合のディスカッションは、まず各委員が順番に金融経済情勢と金融政策について、意見を開陳しますが、この意見開陳については時間制限(各々5分程度)があるため、いかにポイントを絞って意見を述べるか、いつも苦労しています。また、各ラウンドの後に自由討議の時間があります。自由討議は、各委員の発言内容に沿った部分で盛り上がることはありますが、発言を超えて自由闊達にドンドン議論を広げていくことには難しさがあります。』

中々興味深いご指摘でありますな。

『言いたいことを前もって準備しておくこのような意見開陳の仕方は、少なくとも私にとって、その場の判断でアドリブで話すよりもわかりやすくかつ内容は濃いものになりますし、時間の節約にもなります。他方、準備なしに特定の問題について突然議論を始めても、全ての話題について質の高い議論をする自信はありません。また、他の委員の意見を聞いてその場で判断を大幅に変えるということもまずあり得ません。他の委員の発言に対してその場で意見を述べることはあるものの、本格的にその意見に対応したい場合には、次回の金融政策決定会合で対応しよう、ということを考えます。』

と言う事は、次回の会合ではインフレ参照値の話題が俎上にのってくるのかもしれませんね。そう言われて議事要旨を見ると尚面白いかな。

『このように情報公開を前提にすると、その場の突然の議論には慎重になりますが、今の方法でもよく考えて意見を述べることができるうえ、時間の経過とともに議論が蓄積されることになります。したがって、時間の経過も加味して、行われた議論を全体で捉えると、私自身は自分の意見を十分に言っているといえます。』

ドラめもんも審議委員の発言等について鋭意アーカイブ整理中です(^^)。

『一方、限られた時間のなかで結論を導かなければならないとき、情報公開が前提の会合の問題点は、会合の前に委員会のメンバーが集まって非公式に議論することができないことにあります。委員会には様々な考え方のメンバーがいますので、他のメンバーの考え方を事前に聞いて、自分の考えをまとめていくという作業ができれば、自分の考えもまとまりやすく、また自分の意見がどのような位置付けにあるのかもわかります。ただ、情報公開が前提の会合において、取り扱うテーマによってはこのようなことができませんので、各メンバーは、別々に勉強・検討してから会議に臨むしかありません。』

『重要事項を1回の会合ですぐに決定するのではなく、何回かの会合に分けて議論を行うことができればよいのですが、次の会合までの間に情報が漏れてしまうリスクやその間に公表される議事要旨に議論途上の話題を掲載するのかしないのかといった問題もあります。このことは、取り扱う議題によっては議論を複数回の会合に分けて行うことを難しくしている面があります。』

なるほどなるほど。ところで、別の所ではこんな話もしております。ほうほう。

『金融政策決定会合の資料は、会合の2営業日前に手元に届きますので、会合までの2日間に、月報や展望レポートの基本的見解の文章表現についても、自分の見方と違うところはないかチェックしています。』



○議事要旨形式で発表する場合の問題点

須田委員はこのように指摘しております。あたくしも同感。

『情報発信のツールとしては、議事録よりも議事要旨の方が、その要約の仕方やそれが公表されるタイミング等の面で難しい問題があると思っています。』

『一つは会合ごとに、先に述べた事情から、議論が各回で完結しない場合がありますので、ある意見について他のメンバーから反応がなかった場合について、それが必ずしも「同意」を意味するわけではないため、誤解を呼ぶ惧れがあることです。もう一つの問題は、日本銀行では金融政策決定会合の議事要旨において、少数意見も含めて記述していることです。』

というのが、どういうことかと言いますと、

『私が日本銀行の審議委員に就任する前に議事要旨を読んだときの感想は、様々な意見が並列して記載されている結果、大勢意見や議論の大きな流れがわかりにくいということでした。議事要旨は、「一人の委員は」とか「複数の委員は」というような形で書かれていますが、メンバー全員が発言時にそれを意識し、例えば、他のメンバーと同じ意見であっても敢えて繰り返したりすれば、そうした表現は意味を持つことになります。もっとも、現実的には発言には時間的な制約もあるため、執行部の説明や他のメンバーの意見が自らと同じであれば、自分はそれに言及しないということもあります。』

なるほどなるほど。この次がまた奥の深いお話で。

『つまり、その話題に言及した人数の多少が必ずしもメンバーの関心の強さに比例しているわけではありませんので、その数に敏感に反応されてしまうと、議論の内容や方向が誤って伝わる可能性があります。議事要旨が薄いからとか、行数が少ないから議論がなかったということでもありません。』

『そういう意味でも、議事要旨で各委員の持つ意見の全体像を示すのはなかなか難しい作業です。今後も改善の努力は必要でしょうが、これについてもメンバーそれぞれの考え方がありますので、いまのところ妙案は見出せていません。』

昨日のドラめもんでも議事要旨の分量の話をちょっとしましたが、時々議事要旨の分量が妙に少ない気がするのは「議論持ち越しで結論が出ていない」というような場合もあるのでしょうなと思えば、後から考えると「なるほど」と思える節もありそうですね。


で、この議事要旨の発表タイミングに関しては須田委員の割と的確な指摘かつ反省が述べられています。

『議事要旨がいつ公表されるかということも重要です。昨年の夏、金利の上昇が納まったときに開かれた7月の金融政策決定会合の議事要旨が、債券市場が再び荒れ始めた8月に公表されたため、非常に反感を買うことになりました。「日本銀行は量的緩和政策を解除するのではないか」という意見まで出ました。仮に会合時点に時間的に近い市場環境で公表されていたなら、議事要旨が市場の材料になることもなく、このような混乱が起きなかったかもしれません。』

全くご指摘の通りであります。しかしこの「非常に反感を買う」って表現は笑っちゃいけないんですけど思わず笑ってしまいますね〜(^^)。

どのタイミングで発表するかと言う点については、やはり一長一短があるわけで、FRBでも色々なメリットデメリットを考えながら慎重に継続検討中という状況になっているそうです。

で、この講演はまだまだ続くのであります。昨年の秋口からつい先日に至るまでFRBがFOMCの声明文やグリーンスパン議長の議会証言を活用して行った「市場との対話」の経緯を実例にあげて検証したあとに、講演のまとめになっていくのですが、これまた内容充実かつ量が多いので、後半は後日ということでよろしくお願い致します。





2004/05/27

お題「4月9日の議事要旨」

超長期国債の入札でどっと疲れも出てきたのか昨日は月内最終受渡日とは思えないほどぼけーっとした相場でありました。まぁたまには良いでしょう。

先日公表された4月8〜9日の金融政策決定会合の議事要旨をさらっと見ておきましょう。
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040409.htm

○金融経済情勢に関する委員会の検討

当たり前ですが毎回の会合でいつもこのコーナーが一番重くなっておりまして、本当はここの推移を細々見るとそこそこ楽しめるのですが、そのあたりは現在アーカイブ鋭意整理中(ただし気が向いた時しかやらないので遅々として進みませんが)でございますのでいずれ。

今回特に目についたのは物価に関する短い記述であります。

『ある委員は、商品市況の上昇は、今後、企業収益の圧迫要因となるリスクがある、と述べた。また、複数の委員は、消費者物価や消費デフレーター(PCE)などの物価指数の前年比伸び率に下げ止まり傾向がみられ、ディスインフレ傾向が終息に向かいつつある、との見方を示した。』

「ディスインフレ傾向が終息に向かいつつある」ですよ先生。しかも「複数の委員」がコメントしてるって事でして、政策委員会は物価動向に関して上ぶれの可能性をかなり気にしているという所でしょう。

まぁ海外経由でやってきた物価上昇が国内経済の回復を待たずして国内物価に影響を与えてデフレ脱却っていうのも何ともうしますかって感が致しますが、まぁそもそも日本が為替介入+量的緩和拡大のセットによる実質的な「日本銀行による米国債の購入」という凄まじい荒業によって世界経済の牽引役である米国経済が引っ張られたのが主因の一つであるわけですから、これもまた「量的緩和政策の効果」が訳のわからんルートで効いてきたという事なんでしょう。

以前も指摘しましたが、「回復の波及効果」っていう話もあちこちに見られます。昔の「ダム論」と同じ論理展開でありますが、やたらそこかしこに「回復が波及してきている」という表現があり、一々引用しているときりがないので引用は省略いたします。

景気に関するまとめはこんな感じになっています。

『このような議論を踏まえ、委員は、景気の現状認識としては、緩やかに回復するもとで、様々な面で回復に広がりがみられるようになっており、国内需要は底固さを増しているとの認識を共有した。また、先行きについても、足許みられる景気回復がこのまま続いていけば、生産活動や企業収益からの好影響が雇用・所得面へ徐々に及んでいくことなどを通じて、前向きの循環が次第に強まっていくとの見方が共有された。』

前月の会合では「緩やかに回復している」とだけ表現され、そのうえで多くの委員の意見として「いくつかの需要項目の足許の強さについては今後の指標などから見極めていく必要がある」という表現に留まっておりまして、表現的にも前進しております。

4月の金融経済月報で景気への現状判断や先行き見通しがやたらと強気になっていることは既にご紹介した通りですが、この議事要旨で改めて確認されたってことで宜しいのかと思います。

物価に関してはこんな感じ。

『物価面については、多くの委員は、内外の商品市況の上昇が続いており、国内企業物価も上昇しているが、こうした川上段階での価格上昇が川下の最終財価格に及ぶ動きは、現時点では限定的なものに止まっている、との見方を示した。また、これらの委員は、その背景として、(1)技術革新に伴う生産性の向上や賃上げの抑制などにより、企業におけるコストの吸収余地が拡大していることや、(2)原材料価格の上昇は、世界的な景気回復に起因するものであるため、輸出・販売数量の増加が企業のコスト負担をある程度相殺していることなどを指摘した。この間、ひとりの委員は、今後、原材料価格が一段と上昇した場合には、企業収益が圧迫され、最終財への価格転嫁が生じる可能性がある点に留意すべきである、と述べた。』

上記記述のなかにあります「上段階での価格上昇が川下の最終財価格に及ぶ動き」に関して、前回3月15〜16日の金融政策決定会合議事要旨には多くの委員の指摘として、「川上の価格上昇が川下に及ぶ傾向は、現時点ではさほど見られていない」となっておりました。ほんの3週間で世の中そんなに変わるもんなのかよとも思うのですが、企業経営なんかでもある閾値というか変曲点を超えると急に物事が好転したり悪化したりする事がありますんで(なんて偉そうに言ってますが^^)、経済っつーのも後から振り返ると「そこが閾値だったのね」みたいなのがあるんでしょう。

これだけ強気転換していればそりゃー金融経済月報はやたら強気になる訳でありまして、去年の「日銀の景気回復傾向万歳万歳モード」に超越的過剰反応をした金融市場っつーか金利の市場のことを思えば、長期金利の上昇によるオーバーキルに関してやたら懸念したくなるのは理解はできるというものです。


○当面の金融背策運営に関する委員会の検討の概要

本当はこっちも話題にしたかったのですが、本日はどうも遅筆モードになっておりまして、既に時間切れになってきましたので、一応コメントだけ。

今回の検討の概要は大した文章量はないのですが、その中で話になっているのが殆どマネタリーベースの事ばかりになっております。日銀としては90年代後半以降に関してはマネタリーベースの伸びと経済情勢の動きが従来見せていた長期的な相関関係から外れているというお話を百万回位あちこちでしているにも拘らず、相変わらずこの話をさせられているのは苦痛ではないかと思ってしまいますが、最近めっきりマネーサプライ云々の話ばっかりする副総裁ばかりがクローズアップされて、もう一人の副総裁は絵の個展なんかやってとーっても手持ち無沙汰なようでありまして、この時間の無駄とおもえる議論はまだまだ続くんでしょうな。

最後にインフレ参照値に関する部分を引用しておきます。

『何人かの委員は、今後、景気が回復を続けるもとで、デフレ克服の目途が立たないうちに長期金利が先行して上昇するリスクを指摘し、日本銀行の政策スタンスについて適切な情報発信を行うことが重要である、と述べた。このうちひとりの委員は、金融政策運営に対する市場の期待を安定化させる観点から、中央銀行として望ましいと考えるインフレ率を早めに提示し、期待形成のアンカーとすることも検討すべきではないか、と述べた。』

一人の委員=中原さんですね。





2004/05/26

お題「久々に息抜きの雑談」

文体はともかくとして書いてあることが糞真面目かつ肩の凝る話題が多いので、とりあえず20年国債の入札も終わったので本日は肩の力を抜いて与太話。肩の凝る話題のし過ぎであたくしの肩が滅茶苦茶に凝ってしまって久々に行ったマッサージで呆然とされてしまったのはナイショです(^^)。

○ボーナスを否定しているのに・・・・??

銀行決算が横並びよろしくうじゃうじゃと発表になっておりました。で、後付けで見れば結局債務超過なのに公的資金大投入という大技が炸裂したりそなHDなんぞも決算発表してお約束通りの大赤字。

まぁ大赤字なのは兎も角として、只でなくさえ減っている夏と冬のボーナスを出すのを止めて業績連動の報酬とやらを出すそうで、労働組合に呈示しているそうな。ま、銀行の弁解すると石が飛んできそうですが、もともと銀行って年収に対するボーナスの割合がでかく(基本給を高くすると世の中から批判されるので、ということやら厚生年金などの負担分を軽減するためとか色々と理由はあるらしいですが、まぁ大昔からずーっと伝統的にそうなっていたのです。大手行ほど特に)て、ボーナス減らされるのは実質基本給カットなんで、まぁ行員のみなさま大変ですな〜なんて話はさておきまして。


何せ定例のボーナス支給という被雇用者が半年に一回やる気を出す(雀の涙しか出なくて却ってマインドを低下させる場合もありますが^^)イベントを否定するわけですから、従来の一種ぬるま湯的な労働環境を打破して実力本位、実績本位にして行こうという意気や良し。まぁ頑張って頂きたいのですが、それにしては如何な物かと思うのはこの銀行、相変わらず住宅ローンの返済方法に「ボーナス併用払い」というのを当然のように認めている訳でありますな(-_-メ)。

てめぇの従業員には「ボーナスは業績連動(しかも今回の夏の分は一月分の給与にまるで届かないらしいです)」としておきながら顧客への住宅ローンは従来の安定的雇用環境を前提にした支払方法を設定しているというこの素晴らしい自己矛盾。ボーナス併用払いを選択するのは顧客の勝手あるいは自由意志なのかもしれませんが、自分の所の従業員が組んだら一発で資金ショートしかねない返済方式を従来どおりに通常商品にしておくのは如何なものでございましょうか??顧客への親切を考えたらボーナス併用払いはやらない方が良いのではと思うわけで(^^)。

まぁそこまでやらんでも良いと思いますが、ボーナス併用払いの負担が大きい住宅ローン債務者に対して条件変更をより柔軟に行ってあげるとかすれば良いのにな〜などと下らん事を考えてしまいました。


○既存顧客を大切にしましょう

とまぁそんな下らん話を書くために念の為埼玉りそな銀行のWebなんぞをみていたら「住宅ローン満腹感謝キャンペーン」などというのをやっている事を発見。さては住宅ローンの融資目標が達成できて満腹にでもなったのかと感心して内容をチェックしたら、単に住宅ローンを新規にやった人から抽選で3万円分のお食事券(最初に変換したら汚職事件になってしまった^^)があたるというキャンペーンでした。やらないよりはマシかも知れんがどうもしょうもない企画ですにゃ。

銀行っていうのはどうも相変わらず昔ながらの「他行シェア奪取」の意識が抜けないようでして、例えば住宅ローンであれば「他行(住宅金融公庫も含む)借り換え」だの「新規」だのを既存顧客と比較してやたらと優遇する傾向が抜けないどころか益々拍車が掛かっているようです。まぁ新規客は大事ですから優遇するなとは言いませんが、継続的にきっちりと元利払を行っている既存顧客のほうが、もしかしたら不良貸し出しに化けるかもしれなかったり、とっとと条件の良い他行に乗換えかねない新規顧客より少なくとも現時点まででは収益に貢献しているという事実をつい等閑視してしまうのは如何な物かと思う訳であります。何で既存顧客に対してもっと感謝しないんでしょうかね〜。


で、引き続き話のネタで埼玉りそなのWebをつらつら眺めていますと、相変わらず借り換えキャンペーンを絶賛推進中。「りそな借り換えローン」の宣伝文句はと申しますと、「現在ご返済中の金利の高いローンから、今の金利のローンへの借換を、スムーズに実現するための住宅ローンです。」「もしご自宅の担保評価額がローン残高より値下がりしてしまっていても大丈夫なように、担保評価額の最高300%まで借換を可能にしました。」という大変結構な商品。もちろん借り入れ後3年以上正常に返済しているとか色々と条件はつくのですが、担保不足でもオッケーなんて夢のような条件変更ができるのであれば、自行のローン客で3年以上前に高い固定金利で借りた顧客の条件変更なんか大楽勝でできるんじゃないかと思ってしまうわけですが、ど〜せこの銀行も「他行からのお借入の借換に限定」なんでしょう。そうでなかったら中々の勇者なんですけど。

たまたま埼玉りそなが槍玉に挙がりましたが、同世代の人々と呑みながら住宅ローン話になると、もと金貸しということで良く借換話で色々とお話を聞く破目になり、言われるのが「なんであの借換ってのは自分の所のは受けないの?」と至極ご尤もな質問。あたくしはいつも「業界全体で足の引っ張り合いをするのが好きなんでしょ」としか答えませんが(-_-メ)。

ところで、全然話は違うんですが、ここのWebPageってページ幅を指定しているせいなのか紙に打ち出すと右側が切れてしまいます。時々こういうページに出くわすのですが、正直言って使いにくいったらありゃしませんな。


○しかし相変わらずモノをくれてやれば良いと思ってるでしょ

先日は朝のどこぞの公共放送で「銀行の新たなサービス」と題して、どこぞの地方銀行さまがどこぞの航空会社と組んで住宅ローンの借り入れにマイレージをつけて「住宅ローンを借りて何とマイルがたまる!」という企画を紹介してました。他にはいつもどおりに地元の野球やらサッカーチームの応援定期預金なんてのもありましたが。

応援定期預金とか、昔ながらの定期積金で温泉旅行みたいなのは個人的には微笑ましい企画であっていつまでも続いて欲しいと思うのですが、住宅ローンにマイレージって何かサービスの方向が妙な気がするので「???」という感じ。どこがどう??なのかが上手く言えないんですけどね。

そういう意味ではICカードを利用した銀行と事業会社の新たな決済サービスの提供などと壮大なプランをぶち上げているどこぞの都知事の心意気は壮としたいところであります。あまりにも企画が壮大で、実行部隊が貧弱そうなのでど〜せろくな結果にならずに俺の払った都民税返せよなって事になるでしょうが。

何か新たなサービスって言っても結局「モノをくれてやる」なのか「銀行に手数料やらその他の収益が入ってくる商品を販売する」って範囲から脱出できていない銀行の明日はどっちだ!って感を深くする今日この頃なのでありました。



○ここでも首尾一貫していないお方が(-_-メ)

おまけの話になりますが・・・・

日本振興銀行がとりあえず110億円以上の預金を集めてまずは順調なスタートとなっておりまして、社外取締役の木村某鼻高々。誠に微笑ましいのですが、そもそもこの銀行、当初は「預金に対して代表取締役が個人保証をする」などと激しく格好の良いお話をしておりました。まぁ銀行の預金なんて代取が個人保証して払えるレベルの問題ではないので、実態的には意味が無い気持ちの問題ですが、まぁそれでも偉そうに「お客様の預金を大切に運用する姿勢を示す」などとぶち上げていました。

ところが、肝心の代表取締役に色々とややこしい問題が発生して代取はDKB出身の小穴さんになって、肝心の個人保証もどこへやら。で、この銀行「預金の受け入れは一人1000万円を上限にする」などと言い出しまして預金を集める始末。木村某さまは本人が最近熱心にご更新中のBlog(ココログでやってます)では「預金を一人1000万円にすることによって預金が全額保護されるのがポイント」だなどと話しているようでございます。

当初の「預金を個人保証する」という気概がいつの間にやら「預金保険機構に思いっきり依存した預金集め」に転換し、それを臆面もなく公言するところなんぞは最早あたしゃその面の皮の厚さに尊敬の念まで覚えてしまう所であります。この大先生のBlogを見てて思うのは「一つ一つの言ってることは正論(理論的に怪しいのも多々ありますが、まぁ根本的に間違った話はしてない)なのに、全体を通してみると言っている事がコロコロ変わる」という事でしょうか。そういえばどこぞの大臣もそんな感じですけどね。

まぁ日計りディーラーやインチキコンサルが言ってることが首尾一貫してなくても実害は無い(と言うのはやや嘘)んでしょうが、政策に携わるあるいは政策に影響するような方が「毎回やっている事は正論」でも「前後左右でやっている事が矛盾している」ような事をやっているのも如何なものかと思う訳です。それこそ汪兆銘氏がかつて日本の問題として指摘した「上下不貫徹、前後不接連、左右不連携」は70年経っても何も変わらんって事なんでしょうな。




うむむ、肩の凝らない話の積りが、結局また肩の凝る話をしてしまっているようですな。最早持病状態の肩凝りはあたくしのこの性格に依存するのでしょう。因業な話でありまする、とほほのほ。





2004/05/25

お題「20年国債入札」

見事に手がかりの無い相場でして、昨日は一体全体何の為に市場が開いていたんだってくらいの感じでありました。そんな中で迎える20年国債入札なのですが・・・・・

○そこはかとない安心感

20年国債が毎月入札になるまでは何かと材料視されておりましたが、ようやく毎月の入札というのに慣れてきたせいか、あまり入札それ自体を「イベントリスク」(日程が決まっている行事にイベントリスクもへったくれも無い訳でして、債券市場参加者の横並び意識の反映ですな〜と思うのですが)扱いすることは無くなってきたようです。

相場自体も何となく上がるにも下がるにも材料不足って感じでありますので方向感なし。まぁ何とかなるでしょうという雰囲気が漂っております。


○入札も段々こなれてきた感じです

前回の20年国債入札では、その前に30年国債の入札があって20年よりも長いゾーンに玉が供給された影響もあって、当初は入札前に頑張って20年ゾーンを売り叩く動きがありました。平均株価も12000円近辺で推移するわ、米国金利は上昇傾向を示すわという状況でしたので、相場全体を売り叩くような感じで入札のあった週は相場が下落。

しかし、あまりにも勢い良く相場が下落してしまったので、入札を待たずして最終投資家様の買いを呼び込んでしまい、事前ヘッジが過大になってしまう形になってしまいました。結局入札当日にはショートカバー先行になってしまい、前場から20年激強。煽りが入る形になってただの割高入札(前場引けから平均落札が15銭くらいお高い入札)となってショートカバー終了。

その後、20年債は入札翌日の引けだけはまぁ堅調でしたが、結局期待されていた月末のパッシブ系の長期化も空振りとなって結果としてはただの高値掴み入札になってしまいました。


4月からは「日本版プライマリーディーラー制度」の導入に向けて妙に落札シェアを意識した国債入札姿勢が妙な割高入札を演出しております。しかし、前回の20年国債の入札と先日の15年変動利付国債の入札のように、事前に煽られた入札はその後碌な事が無いという結果が続いておりますし、また、前回の2年国債や5年国債入札のように、特定業者が妙に割高な落札をして世の中の札をごっそりと持って行っても、特段ショートカバーで踏みあがるという動きも見られなくなってきております。まぁ特定業者が買占めをして頑張って割高に持っていくというような市場では無くなりつつあるのかと思えば結構なお話なのですが。

まぁ相場全体が「金利低下トレンドをっほっほ(^^)」という雰囲気に著しく欠ける状態でありますので、当たり前といえば当たり前なのですが、最近はめっきり「新発債完売\(^^)/」という事も無くなってしまい、業者も時間を掛けて売り捌く覚悟ができております。さすがに国債の大量発行もたいがいにしないと消化不良モードになるのではないかと思ってしまう訳です。つーか量的緩和のジャブジャブモードが終了したらどうなるんでしょうな。よーわからんが。


○事前ヘッジと申しますか

てな事もありまして、最近の入札では事前に当該年限の水準を徐々に訂正していってとりあえず安いところで入札を迎えようとする動きが顕著になっております。どちらかというと入札に向けて「ヘッジを売り叩く」というよりは「何となく買い向かう動きが乏しい中で徐々に売りが嵩んでくる」という雰囲気(大手有力業者が実際何を考えてやっているのかは知りませんが)で水準訂正をおこなっているようですね。

で、まぁこの調整もなかなか微妙なお話でして(^^)、4月の20年国債入札のように事前に水準を訂正しすぎてしまうと入札を待たずして強力買いを呼び込んでしまい、入札がショートカバー合戦の場になってしまうという諸刃の剣。次第に学習効果が現れてきたのか、最近の入札では露骨な売り崩しを一気に行う向きもなくなってきました。平和なことで大変に結構なお話であります。


てな訳で、珍しくもあまり材料視されない20年国債入札。まぁ先月の米国金利上昇に端を発した株安米債安なのに何故か日本の債券高相場やら、日銀発の時間軸の長期化がどうのこうのという無駄な情報発信による相場の妙な撹乱が落ち着いてきた証拠ではないかと思うのであります。

ま、ちょっと水準下げながら何とかするんでしょう。別に相場の上を追っかけて買っていくお調子者の投資家様もおいでにならないことですから、結局入札が好調であっても別に買い進む必要は無いと思うんですけどね。まぁ買い進まれた方が業者は助かりますが。


おまけ:時間軸長期化は何だったんだという雑談

今書きながらふと思ったのですが、金融政策決定会合後の定例記者会見で散々火だるま状態にされながら否定というか「その点は今話す事ではない」とコメントしていた「時間軸の長期化」問題。

昨日の日経新聞には山口前副総裁の寄稿が載っていたそうですが、そこでも「ターゲットの安易な変更は金融政策への信頼感を失わせる」と至極当り前の指摘をされています。どうも中原審議委員の講演は相当の大反響を呼び起したようで(^^)、あたくしのような市井の理屈捏ね太郎までもが「驚愕の講演」などと評したくらいですから、金融政策あるいは日銀ウォッチャーや政策に関る人々にとっては激しく評判が悪かったということでしょう。

まぁ考えている案の一つを事前にアドバルーンを上げて反応を見るというやり方はよく政治家がやることではありますが、そういうのは市場を無用に撹乱する要因なので、セントラルバンカーのする事ではないかと思う訳ですよ。結局散々叩かれまくって総裁が別のコメントをするというのは何というかどうも格好の良いものではないかと思いますがねぇ。ま、中原審議委員の場合は事前にアドバルーンを上げるという意識ではなく恐らく素で「この案は素晴らしいアイデアだ」と思ってぶち上げた節があるようですけれども(^^)。

まぁどちらにしても恐らくは米国債金利の上昇やら原油価格の上昇などから「金利上昇の幻影」を見てしまって何か急に「出口政策で時間軸長期化」などと言い出してしまったのではないかという感じですよね。

本気で市場の安定化をしたかったらてめぇら暫く黙っていやがれって感じです。





2004/05/24

お題「総裁記者会見」

金曜日にご紹介した日銀総裁記者会見の要旨が公表されたので、金曜日の補足をば。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0405b.htm

○質問はひたすら「新たな時間軸」

今回の金融政策決定会合はものの見事に何も変化のない結果でして、会見の冒頭で総裁が「本日、ご報告申し上げることは極めて簡潔である。」と言ったのですが、相変わらず会見要旨を紙に打ち出すと6ページ(実質5ページ)になってしまう訳であります。そして質疑応答が(定例の最初の質問を除いて)9問あったのですが、そのうち6問が「新時間軸」に関るものでした。まぁいきなり何の前振りもなしに先日の中原審議委員の講演と福井総裁の講演で出口政策が話題になってしまったのですから質問が集中するのは当然ですが。

金曜日にも申し上げましたが、どうも総裁「市場との対話」というのを妙に意識しすぎているのではないかと思われる節がございまして、余計な発言が多くなっている一因となっているように見えます。元はと言えば、国会やら政府向けやらに行った過剰とも思えるリップサービス発言が市場に波紋を呼び起こしたのが始まり。その動揺を抑えるために何かをすると、「やり過ぎ」になってしまい、今度はまた余計な期待を生んでしまうという状況になっている訳です。こんな応答がありました。

『(問)総裁は、最近「CPIゼロ%は通過点」だと言われているが、これは市場が先行きの景気、物価、政策を織り込んで不安定化することを防ぐ目的で言われているのか。「CPIゼロ%は通過点」ということの真意をもう1度伺いたい。』

『(答)私のほうは正直に申し上げている。多少私のほうから逆に疑っているのは、市場の皆様が、CPIがゼロになった途端に、何か日本銀行が態度を豹変させる、芝居で言えば、舞台ががらりと回って全然違った世界が展開するようなセリフで、いろいろと市場条件を探り合うということがもしかして行われる可能性があるのかな、と思うものだから──市場はそのように想像しておられないと思うし、私の疑いが間違っていればそれは全く良いわけで、むしろ良いケースなのだが──、そういう心配はないのではないかと素直に申し上げている。』

この「私のほうは正直に申し上げている。」というあたりが最早痛々しいというか総裁逆切れ状態というか何なのですが、今まで量的緩和政策のコミットメントの中にある「CPIゼロ」を(最終的な政策判断は「総合的な判断」な筈なのに)やたらと強調したために「CPIゼロ」が何か重大な護符のような扱いになってしまったのは、そもそも自分たちが原因であるという認識が今一歩欠けているよう見えるこの発言。

現在はといいますと、CPIがゼロ以上になりだした時に起こる(と言う事になっている)市場の不安定化を懸念する余りに「新時間軸」みたいな話が出てきて「時間軸が強化されるのではないか」という思惑がでてくる・・・・くらいならまぁ大した事は無いですが、「日銀はそんなに総合的判断に自信が無いのか」と足元を見透かされる事になり、(あたくしも言ってますが)「ゼロ金利解除のトラウマ」などと言われるようになってしまう訳です。

まぁ自分の作った影に自分が反応してやたらと動く破目になっている日本銀行には「まぁ落ち着け」とこっちが言いたくなってしまいますな。もう少し言動を首尾一貫させるのも重要ではないかと。


○景気認識

冒頭の「金融経済月報・基本的見解」に関する総裁の説明で景気への現状認識が示されていますが、例によって例の如く強気であります。

『先般の1―3月期のGDP統計の発表で、2004年度の経済の発射台を高くしたという感じを持っているが、現時点での私どもの2004年度全体を見渡す展望は、前回の「展望レポート」の通りである。内容的にも、先般のGDP統計で個人消費が我々の事前の予想よりは少し強く出ている印象があるが、今後、生産活動や企業収益からの好影響が雇用・所得面へ徐々に及んでいくという裏打ちを伴いながら、さらに個人消費がしっかりしていくということを期待しているし、おそらくそうなるであろうと考えている。』

お馴染みの「ダム論」復活の香り。

『物価面では、本日改めて特別なことを申し上げる材料を持ち合わせてはいない。国内企業物価については、川上段階の商品市況の動き等が波及してきており、上昇傾向がさらに明確化してきている。先行きも当面上昇を続けるとみられる。』

これもそうですな。

『一方、消費者物価は、そのベースにある需給ギャップは着実に縮まってきていると判断しているが、消費者物価指数そのものの前年比変化率という点では、なお当面、ゼロ近傍ではあるが、若干のマイナス幅をもって推移するという見通しを変えていない。』

CPIの見通しをゼロ以上にすると大騒ぎになるので、CPIの見通しだけは相変わらずマイナスになっていますが、言ってることはやたらと明るい見通しになっていることには注意が必要ですな。

『日本も含め、世界経済全体として、拡大シナリオがより明確化してきている。連れて、物価全般の大きな流れも少しずつ変化してきている中で、金融資本市場がこれに適応しようという動きがいろいろなかたちで出てきている。』

物価全般の大きな流れが少しずつ変化してきているそうです。デフレ脱却だというラッパは鳴らしませんが、まぁデフレ脱却が展望できてきたって事ではないかと思われます。


まぁ相場も見事に手がかり難で、イールドカーブも毎日日替わりで変化(時によっては日中で変化しますし)するという困った相場でありまして、どうもドラめもんのネタも同じような話で恐縮であります。週末の経済統計に注目したいですね


2004/05/21

お題「金融経済月報その他」

昨日の金融政策決定会合はさすがに何もなしという事で、いい加減動いてばかり(つーか1つのネタで2回動くような振りをして「機動的な日銀」の演出に余念がなかったのですが)の日銀もややおとなしくなっているようですな。

○金融経済月報

先月は判断を大幅前進させた金融経済月報。今回はGDPを受けてどうするのかと思いましたが、あまり目立った変化はありませんでした。とはいえ、また一言重要かもしれないフレーズを入れているのですが。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0405.htm

景気判断や物価の判断に関しての主要な変更点は2箇所。

冒頭の景気基調判断部分で、住宅投資につきまして今回は『住宅投資は横ばい圏内で推移しており』と今までの「低調に推移」から変更。住宅投資の低調状況が底打ちしたということらしいです。何か個人的実感と違うんですがまぁいっか。

国内企業物価の現状について「需給の改善」という文言が入っているのはちょっと注目すべきことかな〜と思います。今回は『物価の現状をみると、国内企業物価は、内外の商品市況高や需給の改善を反映して、上昇している。』となっているのですが、この「需給の改善」というのは、まぁ需給ギャップの改善というお話にも繋がるところですんで、何気に重要ではないかと思う次第。

金融面について、直接金融による借り入れに関してちょっとだけ状況が改善したと言ってます。今回『CP・社債の発行環境は総じて良好な状況にある』という事なのですが、前回まで入っていた「高格付け企業を中心に」という文言が外れております。


その他物価判断に関する部分については、『原油高の影響』という文言が入ってきて、『米価格の上昇』という文言が抜けたくらいでしょうか。総裁の記者会見でも原油高問題の影響についてコメントがあったようですが。


まぁ割と良い数字だったGDPが新たに出てきた割には判断をまるっきり変わらないってのも何か微笑ましいものを感じてしまうのであります。最近の「出口政策がどうのこうの」というお話なんぞを気にして判断に手心を加えたとか、GDPは内閣府の出した統計であるから自分たちで発表する短観や物価指数を重要視しているなどといった不謹慎な想像は全く致しませんが(^^)。


とりあえず金融経済月報はそんな感じでさらりと流せる内容でした。


○情報発信蟻地獄状態の日銀総裁

昨日の日銀総裁記者会見の要旨は本日日銀Webにアップされると思いますが、本日はロイター日本語版ニュースで報道された「福井日銀総裁記者会見の一問一答」という記事を参考にちょっと見ておきたいかと思います。

昨日の会見で質問が集中した(ように見える)のはやはり「時間軸強化、インフレ参照値問題」でありまして、手を変え品を変え質問がされておりました。そしてその質問に対して日銀総裁は「まだ時期尚早です」というのに大童な状態であったように見えるわけですな。

記事の中で最後にでてきた質疑応答がちょっと笑えたわけでして、

『問:インフレ参照値が議論になるということは、日銀が量的緩和のハードルの実質的な引き上げを模索しているのではないか、そういう議論を始めているとする市場参加者もいる。そう考える市場参加者は誤解しているのか。』

『答:今のところ、約束しているコミットメントを修正しようという意図は全くないし、そういう議論は一切していない。審議委員の発言がそう理解されると、発言した人の真意にも反するのではないかと推察する。』

大体「量的緩和のハードルの実質的な引き上げ」話を盛り上げているのはどこぞの超有力経済新聞および一部の有力かつ著名なエコノミストあるいは債券ストラテジストの方々なわけですが、これで質問者がそのどこぞの経済新聞だったりすると自爆質問というかかなり恥ずかしい質問のような気もしますな。他社の質問だとするとこれは痛烈な嫌味質問でそれはそれで笑えるのですが。

という話は兎も角(^^)、中原審議委員の講演に関してはあたくしも先週のドラめもんで連日ネタにした通りでまして、その後の記者会見で中原委員は「量的緩和政策を解除したあとに金利ターゲットにしてゼロ金利政策を実施。その際に望ましいCPIターゲットを明示してある種の時間軸効果をもたらす」という発言をしている訳で、これを量的緩和のハードルの実質的な引き上げと言わずして何というのでしょうと指摘致しましたな。

まぁ例によって例の如く、またまた余計な情報発信をして撤回をするという間の抜けた状態が続いているのですが、恐らくこうやって否定を一生懸命しだすと「出口論の封印」などと言われて、またまたそれを否定に回らないといけなくなるというまさに「情報発信蟻地獄」状態。結果として、本人の意図しないところで「究極のマッチポンプ」を演じる破目になってしまっている日銀総裁におかれましては、エエカッコシイでウケ狙いのリップサービスを行ってきたツケがどんどん回ってきたという事でありますので、まぁご本人の自業自得であって、ざまぁ見ろと心の底から申し奉りたい所でございます。


しかしですな、本来は景気(というか株価)回復の初動段階でまだまだ物価上昇の気配も見られず、需給ギャップもでかいという頃には「CPI時間軸が存在するのでご安心」と言って時間軸効果を強調すればよかったのに、景気回復ムードに浮かれて「景気回復に伴う金利上昇は自然なこと」みたいな話やら「出口論」を連想させるような話をしだして市場の不安を煽ってしまい債券暴落祭りの火にガソリンをぶち込み市場大爆発。で、今回はと言うと、時間軸が近い将来ヒットしそうな雰囲気を醸し出してきている最近こそ「量的緩和からの脱却は最終的には総合判断で行う」と強調すればいいのに、妙にCPIターゲットのヒットの方にに拘って「実質的な時間軸の延長をするのではないか」という「市場の期待形成の安定化工作」について語りだして(総裁が語ったのではないが)またも市場の心理を不安定化させる(まだ爆発していないから良いようなものの)情報発信をおっぱじめて慌てて否定ってあまりにもセンスが無さ過ぎであります。

まぁこれだから「通常の金融政策に戻る時に何をしでかすか判らない」というそこはかとない不安をもたれる訳でして、いい加減にしやがれって感じでありまする。困ったものです。



2004/05/20

お題「第2次変動利付国債バブルはリスク管理ブームから?」

本日は15年変動利付国債の入札が行われる訳ですが、昨日の日経クイックなんぞでは「第2次変動国債ブーム到来」などというお話になっており、何か盛り上がりそうな入札であります。

きちんとした理論的検討はあちこちの真面目なレポートが出ているのでそちらを読みながらお勉強すると致しまして、あたくしはあたくしらしく非理論的な愚考をば。

○長期金利上昇へのリスク管理体制監督というお話

そもそもこの変動利付国債と言うのは商品性としてイールドカーブのフラット化に弱いという性質がございます。で、短期調達の人にとっては短期金利上昇に伴うイールドカーブのフラット化、即ち「本格的な金融引締め局面」に弱いという性質があるわけです。全くの自己資金で運用するのなら短期運用と比較した機会損失にしかなりませんが、この人の場合は長期金利の低下に伴うイールドカーブのフラット化でいきなりクーポン減少って話になりますわな。

とまぁそんな商品ではあるのですが、だいぶ前(昨年12月5日)のドラめもんで「澎湃として湧き起こる変動利付国債のニーズ」などという偉そうなお題で変動国債のニーズが増えるらしいですな〜というお話をしております通りでして、どうも金融機関のリスク管理がどうのこうのと最近五月蝿くなってきているせいか、第2次BIS規制による「ならず者規制(アウトライヤー規制)」の導入を待たずして変動利付国債のニーズが高まるようです。

ちょっと記事を見ていないのでアレなのですが、「金融庁が長期金利上昇に対する銀行のリスク管理体制の検査を強化する」という記事がでてみたり(したらしいですな)、日銀からも「リスク管理体制の検査がどうのこうの」と言われておりますので、どうもまた例によって例の如く「思考停止の賜物としてのリスク管理ブーム」が発生して変動利付国債に余計なニーズの発生が起きてしまってしまうのではないかと危惧する次第であります。


○バーゼル委員会の示した「監督原則」再掲

念の為同じ話を致しますと、バーゼル関連ペーパーって事でこの辺→(http://www.boj.or.jp/intl/03/data/bis0309b.pdf)に「金利リスクの管理と監督のための諸原則」というお題の文書がございまして、その中でどういう管理手法でリスク管理をするのかって話が延々と書いてございます。

で、この辺を読めというお話なのですが、死にそうになるほど膨大な文章ですので、当該部分をご紹介した所を再掲致します。

(再掲スタート)
『7.当委員会は、金利リスクを特定の対象として自己資本の手当を義務付けることは現時点において提案していない。しかし、全ての銀行は、金利リスクを含め、引受けたリスクを支えるに十分な自己資本を保有しているべきである。監督当局は、銀行が自らの負っている金利リスクを支えるに足る資本を有していないと判断した場合、金利リスクの削減、同リスクを支える資本の増強、ないしその両者の組み合わせを要請しなければならない。』

要するに、過大な金利リスクを取っている銀行に関しては、追加的な自己資本の増強を求めるか、金利リスクの削減を強要するかということを行うというのがバーゼル委員会のお考えだと言うことです。で、過大な金利リスクとは何ぞやというお話がこの続きに出てまいります。

『監督当局は、“outlier”銀行の自己資本充実度に対して特に注意を払わなければならない。標準化された金利ショック(200ベーシス・ポイント)ないしこれと同等のショックに伴って発生する銀行勘定の金利リスクについて、Tier1とTier2の合計額に対して20%を超える経済価値の低下が生じる場合は、“outlier”銀行と定義する。また、個々の監督当局は、国内銀行システム全般に対して追加的な自己資本の賦課を決定することもできる。』

この“outlier”っつー言葉なのですが、手元にあるポケット版の辞書には載って無かったのですが、「アウトライヤー規制」というのは「ならず者規制」「突破者規制」などとも称されているそうです。まぁそんな感じですよね。

で、要するに(要するにも糞も無いが)過大な金利リスクとして上記のように「200ベーシス(要は2%)の金利変動というショックがおきた」場合に、「Tier1とTier2の合計額に対して20%超」のやられが発生するような状況が定義されているわけであります。

で、ペーパーの後ろの方に計算の方法について丁寧に書いてあるのですが、ざっと申し上げますと、要するに現在のイールドカーブがそのまま上方に2%平行移動した場合に金利ポジションでどれだけの損失が発生するかというお話になる訳でございます。この時のやられ額が「Tier1とTier2の合計額に対して20%超」となると、当該銀行は「ならず者」扱いとなり、より多くの資本を求められちゃったりすることになるというのが、所謂「アウトライヤー規制」という事になります。(以上です)

まぁどうせ監督官庁の行う検査っつーのは概ねBISの出しているこの手の文書に準拠する訳でして、長期金利上昇へのリスク管理がどうのこうのという動きにはこのあたりの指針が参考になるのでしょう。

ちなみに、これも再掲ですが、金利ショックに対するリスク量とやらの算定方法の一例として、このペーパーの最後の方にある「付属文書4」の「標準化された枠組みの一例」というところで、指摘しているのは『固定金利商品は満期までの残存期間により、変動金利商品は次回金利改定日までの残存期間により』銀行のバランスシート上の金利リスク測定のためのマチュリティーラダーに振り分けると記載されております。

とまぁこういう点を総括すると、どうも監督官庁の言っている「長期金利上昇へのリスク管理」というお話によりますと、6ヵ月ごとに金利改定が行われる変動利付国債は長期金利上昇へのリスク管理が出来ているというお話になる訳ですな。

本当にそれで良いのでしょうか?


○監督基準の落とし穴

最初に申し上げた通りですが、日本で発行されている変動利付国債は「短期金利フロート」なのではなく「長期金利フロート」でありまして、商品特性として「イールドカーブの形状変化によって損益が発生する」というものになっております。

しかし、再掲コピペで絶賛増量した上記の「監督原則」に基づきますと、「金利ショックへの対応」として具体的に述べられているのが「現在のイールドカーブがそのまま上方に2%平行移動した場合に金利ポジションでどれだけの損失が発生するかというお話」な訳でして、この「長期金利フロート商品」が対監督当局上ではノーリスク商品という扱いになってしまう訳ですな。おまけにポートフォリオ上のマチュリティーラダーでは「6ヶ月もの債券(半年毎に金利改定があるから)」として扱われるというとっても低リスク商品だという話になってしまう訳です。

で、昨年の「画一的なVAR管理で国債の連鎖的投げ売り相場」という実に馬鹿馬鹿しい相場があった訳ですが、この時も「量的緩和の時間軸が存在し」「景気回復が本格的であるという確信が持てるような状況とはとても言えない」タイミングで1年半後(つまり来年早々)に短期金利が0.5%位引上げになるところまで織り込む水準まで2年国債が売り込まれ、瞬間的には1年後(今年の夏)に同様の引上げがあることを織り込むような水準まで跳ね上がるという激しく間の抜けた相場が展開されておりました。

要するにVARの閾値をヒットしたから保有国債を売却するという「監督当局に対する言い訳を優先した行動」が先にありきで、本来おこなうべき「経済のファンダメンタルズを総合的に分析して将来の金利動向を判断する」という行動がどこかに逝ってしまっていたわけで、相場としてはダイナミックではありましたが、日本経済の将来展望を考えると誠に血圧の上昇するような日々であった事は記憶に新しいかと存じ
ます。


ということで話を戻すと、この「監督基準」をまともに適用してリスク管理をやるというお話になりますと、「想定する金利ショックはイールドカーブの平行移動」「ポートのマチュリティーラダー管理上は6ヶ月もの債券」ということになるので、対監督当局上の言い訳的にはこの商品の肝心のリスク特性が見事にスルーできるという素晴らしい結論になるという想像ができてしまう訳です。

何せ昨年の前科がありますので、「対監督当局への言い訳>>>>経済的合理的判断」という行動がまた発生しないとは言い切れないわけですし、最近の銀行VS金融庁のぶつかり合いをみていると、どうも銀行としても「監督当局への言い訳」を優先しておかないと首筋が寒いという雰囲気も漂ってくる訳でして、まぁそんなこんなを考えますと「長期金利上昇への備えをしていますよ」という言い訳の為に無駄なニーズが発生していくのでしょうな。この変動利付国債ってヤツは。


目先は「時間軸の長期化がどうのこうの」とかいうお話で足元金利が押えられるという観測が強いので、「買っても安心」感が強いですが、余計な金融緩和の長期化というのは将来の金融引締め局面で強烈な引締めを必要とするという結果を招く訳ですから、本当に問題となる金融引締め局面が近くなったという認識が強まった時の反動が激しく恐ろしいというか、恐らく「VARショック」のようなアフォな事がまた起きるんでしょうな。


ま、監督官庁がきちんとフローターの商品特性を把握して金利上昇への管理体制の検査とやらを実行していただければ何の問題もないのですけれどもね〜♪


本当は金融政策決定会合に絡んで別のお話もしようかと思ったのですが、例によって時間と分量の関係で以下省略。まぁここの所散々書いた事の延長というか結局同じことを書くだけの事になりそうですので、問題無しという事で一つよろしくです。

ちなみに、昨日の時事メインのコラム「金融観測」の「政策委とALM委の相似=時間軸の”VAR化”懸念」は絶品コラムでありますので、時事メインが入っているお方は是非ご一読をお勧めします。なお、あたくしは時事通信社の回し者ではありませんので念の為(^^)。






2004/05/19

お題「相場雑談です」

入札なのに二日酔いという状況でしたが、こういう時の方が余計な事を考える余裕がないので却って緊張かつ集中して相場に没頭できたりするのですが、やはり安酒は宜しくないというものでありますな。シナリオ通りに手が振れたのはよかったのですが、二日酔いはキビシーです。しかも前場引け間際に急激に復活するのが因業なあたくし。

○インチキの香り高い債券先物の建玉

昨日の債券市場、寄り付き前から妙に巨大なクロスが入っておりまして、おまけに後場の寄付きにも少々クロスが入っておりました。あたくしの勝手な推計によると前場の寄り付きで6000枚から7000枚程度、後場の寄り付きで2000枚程度という感じでした。

寄り付きのクロスを見たところで「これは先物の両建を落として買い戻し圧力が減ったという雰囲気を出して先物を売り込ませようとしているのではないか」と頭痛のする頭で考えていたのですが、まぁ案の定と申しますか、ちょうどGDPで売りやすくなった上に中期ゾーンに売りが出た事もあり先物は見事に売り込まれました。5年国債も先物でまともにヘッジしていないと苦しいという中々痺れる展開になりました。

入札前の前場引けが先物安値引けで、まぁこういう時には「入札前に相場を安くしておいて後場反発」というのが良くあるパターンなのですが、朝のクロスの印象がやたらと強かったあたくしは「こりゃヘッジの先物売り(5年ショートの先物ロングをドテンする格好ですな)下叩いちゃったな〜」と嘆きつつも「ど〜せ今日は先物を売りやすくしている日よ」と開き直っていたら何と後場にもう一発相場下落でありましたな。とちょっと自慢入ってますが。

で、肝心の先物建玉はと申しますと、昨日は6000枚ほど建玉減少となっておりまして、どこからどう見ても新発5年国債の在庫に対するヘッジ売りが入っていない訳がないのに建玉が減少という摩訶不思議な相場展開。ちなみにどこからどう見ても先物の売り建玉の踏み上げが起こったとしか思えない一昨日の先物建玉は前日から碌に減っておらず(1000枚以下の減少です)、目の前で相場の値動きを見ているディーラーの目からすると激しく不自然な建玉の増減(つーか減ですが)状況。こうなってきますと「両建てによる建玉残高操作」的な動きをしている人がいると思った方が良いのではないかというのがあたくしの勝手な見解でありまする。

つまり、債券先物の高水準の建玉をネタにして「先物の踏み上げ圧力」を意識させたり、「買い戻し終了」を意識させたりして提灯筋を誘ってみたり、ヘッジでの先物建玉を踏み上げさせたり投げさせたりしようとしているのが建玉操作的な動きの目的なのではないかと勝手に想像している所であります。

あたくしの個人的というか体感的な想像ですので、この信憑性は全く保証いたしかねますが、そういう考えもあると言うことで思考のネタ程度にお考えいただければ幸いであります。まぁ公式なレポートでは思っていても書けないでしょうな〜。


○新発5年債の売れ行きが低調な一つの理由(か?)

昨日入札の行われた5年国債は3月に発行された0.6%クーポンの35回債のリオープン発行となりました。で、まぁリオープン発行な訳ですから同じ債券が2ヶ月前に発行されているのですが、この債券は発行されてから波乱万丈の旅(^^)を続けておりまして、発行時は0.59%をちょっと割れていたのですが、その後いきなり堅調推移で0.5%を割り込む勢い(割ったかどうか忘れました^^)まで買われたのですが、その後0.7%近くまで下落して0.6%台後半での推移。で、入札前に0.6%を割り込んで0.57%まで上昇とまぁ見事に最近の値幅を全部やっている訳ですな。2ヶ月存在しているんだから当たり前ですが。

で、この債券をお持ちの投資家さまにしてみますと、最初は高値掴んだところで急落の刑を食らったので損出しするのも馬鹿馬鹿しいのでホールド。下がった所で簿価下げの為にナンピン買いを行っている(そのために業者はこの銘柄ショートになって結構苦しかったのですが)訳でして、戻りで利食いもあったようですが、まぁ皆様0.6%台後半で何だかんだと買っておられる訳です。

で、まぁいつも事前予約してくださるお客様なんかに「今回の新発どうっすか〜♪」などとお声を掛けますと帰ってくる驚愕の返事は「簿価上げになるから買えないよ〜♪下がったら買いに行くからよろしくね。」というお話。まぁ一般化するのも何なのですが、こういうケースもよく考えりゃあるわな〜と思ってしまう訳であります。毎日ポジション評価を時価で値洗いされている(企業会計的には別して、ディーラーの評価という意味です)ディーラーがうっかりしてしまうポイントですな〜と思った次第であります。

まぁそういう方々が買いに入るのは0.65%からという感じだそうですんで、とりあえず最初の下げでそこまで行ったら買いは入るでしょう。2回目以降は知らんが。


もう一つ考えていた事があったのですが、うまく纏まらない上に時間の都合もありますので本日はこんな所で。m(__)m




2004/05/18

お題「各種雑談」

昨日予定外に呑みに逝ったら想定以上に呑んでしまい、本日は入札だと言うのに朝からマーライオン状態だったりするので恐縮ですが甚だ簡単に参ります。しかし昔は呑んでも翌日には引っ張らない(元々弱いから)のが自慢だったんですが、さすがにトシってヤツですかね〜。

○悩める外部環境

まさかここまで下落するとは思っていなかったのですが日経平均10500円まで行ってしまいました。ま〜株式市場の方は専門家に評価をお任せする致しますが、どうも雰囲気的にはよろしくなさそうな感じ。日本が渾身の介入、というよりは渾身の米債ご購入攻撃があちこちに効いていたんでしょうかね〜。今にして思いますと・・・・・

そんな状況下で昨日は4月の企業物価指数速報が発表されていましたが、国内企業物価は前年同月比0.5%と、2月にゼロまで復活して以来3月の0.2%に引き続き順調に(?)上昇しております。本来ならこの指標は債券市場に影響を与えてもおかしくはないのですが、何せ昨日は株価は下落するわ、時間軸の強化がされるという思惑が今やコンセンサス状態になるわという状況だしたのであまり問題になりませんでした。

とはいえ、4月の東京都区部消費者物価もそうですし、昨日発表の企業物価もしかりで、今後原油価格上昇がそれなりに効いてくるという可能性を考えますと、物価動向は懸念される所でありますな。これで株価がヘロヘロになったらどうするんでしょうな。


○で、5年国債入札なのですが

株価は下がるは時間軸は強化されるという思惑が台頭するわという状況にありますんで、とりあえず先物には買い戻し圧力が入り易いわけですな。何となく「買い戻し圧力が入りやすい」というのをネタにして提灯買いをしている人もいそうな雰囲気がしますがそれは兎も角と致しまして。

現在は先物の買い戻し攻撃が進んでいる状態ですが、債券弱気筋の大手機関投資家さまが諦めて現物を買いだすとこりゃまた大変ってことになるのですが、今までの所は「売り込まれていた先物の買い戻し」の域を出ない上昇ですんで、相場の上昇は先物一人旅状態。

そんな状況で5年国債入札を迎えるのですが、本日の入札を業者的にごたくを並べると、@相場が急騰して来たところなので投資家の買いニーズが掴みにくいA先物に買い仕掛けをされやすい環境にあるのでヘッジで先物は売りにくい(結局は売るのですが)と言う事でやりにくいったらありゃしない入札であります。まぁこの5年国債が順調に捌けるようなら相場の基本シナリオを変更と言う話になるので息の長い上昇相場になる可能性もありますが、大体今までの傾向では入札だけは堅調でもその後結局駄目駄目になっておりますので、結局は「販売状況に注目」というありきたりの結論になるのでありました。


○読書室

革命商人(深田祐介著、文春文庫)

先日深田祐介氏の著書をご紹介したときに「この本はお勧め」と教えて頂きまして読んだ本であります。実は書店に在庫がないところだらけで八重洲ブックセンターの5階というマイナーな所で発見したのですが。

1970年代のチリで民主的な選挙によってマルクス・レーニン主義を奉じる人民連合のアジェンデが政権につきました。世界をあっと驚かせたこの政権は3年足らずのうちに軍事クーデターで崩壊したのですが、このアジェンデ政権前後のチリにおける日本の二つの商社を中心とした人々の物語です。

とにかく面白かったというか圧倒されるお話で、まいった!って感じです。

文庫本は上下2巻ですが、一気に読めてしまいます。

ISBN4-16-721923-9 \600
ISBN4-16-721924-7 \600




2004/05/17

お題「中原委員の記者会見要旨を見てつらつらと」

金曜の続き。

どうも日銀は早すぎたゼロ金利政策解除(そもそもゼロ金利政策自体が必要な政策だったのかという問題はあるのですが)という「早すぎた政策判断」に加えまして、昨年の「中短期金利が引っ張ってパニック的に発生した金利上昇」が相当のトラウマになっているようです。まぁトラウマになるのはどうでも良いのですが、その結果今度は政策判断が遅れると言うか政策判断をしないような方向に進んでいるのは如何な物かと思う訳であります。


○金融引締めの先送り

金曜日にご紹介しそこなった中原審議委員の記者会見要旨では「一つの考え方」と断った上でこんなコメントをしています。

『量的緩和の状態からいずれ出れば金利の世界に戻る訳であるが、ポジティブな金利水準の世界に戻る前に、ゼロ金利の状況を一旦挟むことがソフトランディングとして適当ではないかと思っている。その過程で望ましいインフレ率を明示することによって、ある種の時間軸効果をもたらすことができる。』

『具体的に言えば、日銀は最低でも1%のインフレ率が望ましいと思っているということが市場に認知されれば、当然ながら中長期的にはそれに向けて政策運営がなされ、政策発動が行われるということであるので、その間、例えばCPIが0.5%、あるいは0.7%の時に、急に日銀が引き締めに走って金利を引き上げることはしないであろうという市場の期待を生むことになる訳であり、──これがある種の時間軸といっても良いと思うが――そういう効果を与えるために下限1%から上限2%程度を望ましいインフレ率として示し、併せて量的緩和の出口でゼロ金利政策を一旦採ることが、経済あるいは市場に不安定感を与えずに、量的緩和からソフトランディングしつつ脱出することができるのではないかということを申し上げているのである。』

量的緩和をゼロ金利にするのは「ソフトランディング」ではなくて「ただの先送り」ではないかという気が思いっきりする所ではあるのですが、とにかく発想としては「現行の短期金利体系をできるだけ長期間引っ張ることによって市場金利を安定化させよう」という意識があるようです。押さえつける必要も無い状況において、足元の金利を押えつけると逆に長期金利が不安定化するという理屈は金曜日に申し上げました通りなのですが、何だか「まぁ足元金利を押さえつけて、金融政策変更は先送りしておきましょ」という意識が見えてくるのはあたくし的には激しく「漠然とした不安」を感じる所であります。

だいたいやるべき事を先送りすると不良債権処理の先送りみたいなもんで、碌でもない結果をお招きすることになるのですが、金融引締めが遅れた場合にどういう結果が起きるかというとこれがまた考えたく無いお話であったりする訳です。


○やはり論理崩壊

さて、この中原委員の「量的緩和の後にゼロ金利+時間軸」という提案なのですが、やはり理屈として激しく変なお話であるかと思います。

別の質問に対する答えとして中原さんはこんなコメントもしています。

『昨年10月に現在のようなコミットメントの明確化が最終的に決定されて、現在の状況を考えると、一部に量的緩和解除のコミットメントの「ゼロ%」を「1%」まで引き上げるべきではないかという議論もあるが、あの段階で「ゼロ%」以上安定的にという明確化を行い、かつ当時に比べてもよりデフレ解消への道筋がはっきりし始めている現在、今の「ゼロ%」以上安定的にというコミットメントを「1%」に設定し直すことが、実効性のあるものだという積極的な議論は出来ないと思う。』

と言っているその答えの続きでこんな事も言っているのですが・・・・・

『私は一つの量的緩和の出口の考え方として「ゼロ金利を挟む」ということを申し上げている訳で、これが絶対であると申し上げるつもりはないが、「ゼロ金利を挟み1%という下限目標を示すことによって時間軸効果を与える」ということは、1%程度に達するまではゼロ金利政策を基本的には続けるというのが前提になる。ただ、現在のコミットメントもそうだが、総合的な判断が最後には必要になってくる。それは、CPIが1%になった時の構成要因、特殊要因、あるいはその他の要因等も勘案したうえで判断していくという話である。繰り返しになるが、ゼロ金利を挟むというのは一つの考え方であるということである。』

その「ゼロ金利+時間軸」というのが実効性があり、「量的緩和の時間軸を延長」というのが実効性がないという理屈は一体全体何を根拠にしているのか全く理解に苦しむ所であります。というかこれって思いっきり屁理屈としか思えないのですが・・・・・・・


○誤解する市場も市場ですが・・・・・・・

まぁ福井総裁の講演でもやたら強調されていた「市場との対話」なのですが、中原審議委員の記者会見でもこんな一幕がありました。

『(問)4点お伺いしたい。(略)3つ目は「2004年度末にかけてわが国の景気がピークアウトし、成長に若干の減速感が出てくる可能性は否定できない」と述べられており、その理由として雇用、外需、素材高、年金・税制等を挙げているが、このうち年金・税制は公的年金課税と所得控除の縮小・廃止、厚生年金の保険料率の引き上げを指しているのかということ。(略)』

この部分に関して中原委員はこのようなお答えを。

『3点目の2004年度末にかけてわが国の景気がピークアウトし、成長に若干の減速感が出てくる可能性は否定できないと申し上げた点であるが、私は景気の後退というところまで考えている訳ではないので、ピークアウトという言葉の使い方は適当でなかったかもしれない。』

その場のアドリブで出てくる談話ならある程度仕方がない面もあるのですが、一応講演ってのは事前に原稿がある(なかったらあんなに早く講演要旨が日銀Webにアップされないでしょうし)筈でして、そういう事前準備が可能な場において出てきた言葉が「適当でなかったかもしれない」というのはちょっと如何な物かと思う訳であります。この手のコメントというのは出てしまった段階で市場に影響を与える可能性がある訳ですから、後から撤回すればよいという問題ではないと思いますが。

福井総裁の「金利に蓋をする」というのが何せ圧巻だったのですが、市場との対話を重視するのであれば、無闇矢鱈と色々なところから色々な情報発信をするのではなくて、ピンポイントで誤解を与えないような情報発信が必要なのではないかと思う次第。大体からして(先日も申し上げましたが)債券市場自体がやたらと目先の一つ一つのコメントに過剰反応する傾向にあるのは今に始まった事ではない(お蔭で年中あたくしは悩むのですが)ので、情報発信もまた誤解のないようにやっていく事が重要なのではないかと思います。

昨年の中短期金利大上昇相場において、市場が問題にしていたのは「早期利上げを結果として織り込んでしまった位の破壊的な中短期金利の上昇」であったのに、長期金利が1.5〜1.6%程度と落ち着いていた事もありまして5年債1%だの2年債0.25%だのという事態になるまで市場の不安を放置して牽制らしき動きが出なかったのと比較すると、最近の動きは「口先介入のやり過ぎ」で市場の過剰な安心感を発生させようとしているように思えますな。

何だかな〜って感じです。





2004/05/14

お題「気が付けば出口政策議論」

中原審議委員の講演に引き続き、昨日は福井総裁の講演がありまして、中原さんと同様に金融政策運営に関する言及がされ、時間軸が延びるというか強化されるという思惑が台頭しているようでもあります。そんなあたりを中原さんの記者会見と福井総裁の講演要旨を見ながら検証してみましょう。って多分さらっと流すだけになりそうでして、詳細検討は宿題になりそうですけど。

総裁講演→http://www.boj.or.jp/press/04/ko0405b.htm
中原氏記者会見→http://www.boj.or.jp/press/04/ko0405a.htm

○量的緩和終了後の話がでてくるという重み

中原審議委員の講演に引き続き福井総裁も「量的緩和政策が終了した後にどういう金融政策の枠組みが構築されるのか」という点についてお話をしている訳ですが、さすがに福井総裁はその「新しいゲームのルール」についての具体的言及は避けております。

『確かに、CPIの前年比変化率0%は一つの通過点に過ぎず、日本銀行としては、その先の政策運営についても透明性の高い方式を模索して行きたいと考えています。ただ、現状において具体的な運営方式を示すことは時期尚早であり、当面は既に掲げた目標達成のため脇目も振らず全力を尽くしたいと考えています。』

まぁ新しい金融政策の枠組みに関して当然ながら検討はしているのでしょうが、その内容に関して具体的な話をする訳はなく、まぁその必要も無いということです。

『もっとも、将来どういう政策運営を行うにしても、現在のような異例な金融の姿から脱して行く過程においては、長期金利をはじめ市場の動向について人々の予想が不安定になるリスクがあることは十分念頭に置いておかなければなりません。日本銀行としては、通過点の前後で市場の状況が急屈折するとか、著しく不連続になることのないよう、細心の注意をもって臨む必要があると考えております。』

まぁこの辺の話も実は微妙なところでして、そもそも現在のCPIターゲットが「足元のCPIをターゲットにする」というものですから、結果として「ターゲットが近づいてくると足元の経済指標に反応しやすい」という特徴というか問題点がある訳です。ターゲットから遠い位置にいるときには期待の安定化に寄与したかもしれないのですが、いざ接近してくるとこれが逆に不安定化を懸念される悩みの種となるという諸刃の剣であることが見えてきたということでしょう。

金融政策のターゲットを単一の指標、しかも足元の数値を参照にするというのはあまり行われない手法でありまして、日本銀行は壮大な実験をしているとも言えたのですが、案の定「ターゲットが近づくと期待が不安定化するリスクが生じる(可能性が指摘される)」というお話になってきたということでしょう。

勿論、現在の量的緩和のコミットメントに関しては、上記の総裁講演にあるように「最終的には総合的な判断で量的緩和の解除を決定する」ということになっているのですが、最初に「コミットメントの明文化」を行った時に期待の安定化を急ぐためだったのか「CPIゼロ以上」の方をやたらと強調した為に「CPIの足元の数字」の方ばかりが意識される展開になりそうになっているのは皮肉なことなんでしょうな。


○よく考えてみると・・・・・・

さて、ここまで話をして良く良く考えてみますと、中原審議委員の講演と福井総裁の講演を経まして「さて、量的緩和終了後の政策枠組みはどうなるんでしょう」などという話を何の抵抗も無く行っていることに気が付く訳であります。

何て偉そうに言ってますが、実はあたくしも言われて初めて気がついているのでありまして、実は一昨日の中原審議委員の講演について、みずほ証券の落合氏がデイリーレポートで「出口政策が公然と語られたことは注目すべき」と指摘しておられてまして、「おお、目から鱗!」と思った次第でございます(^^)。

実は時間軸の延長がどうのこうのと言って喜ぶのは早計ではないかと思うのはこの辺りにあるわけでして、勝手読みなのかも知れませんが「量的緩和終了を展望した場合に早いうちから出口政策を意識させておかないと、本当にCPIがゼロになってから大騒ぎになる危険がある」という認識を日銀が持っているために、そろそろ地ならしの準備でも初めてみようかという動きに着手したということなのでは?とも思えるわけです。

で、もっと勝手に読みを続けますと、中原審議委員の一昨日の講演で「新しい時間軸の設定」というような「時間軸の延長」を意識させるような話をしているのは、実は原材料価格の上昇に起因する消費者物価上昇が想定よりも早くやってくる(先日発表されていた4月東京都区部コアCPIは▲0.1%でしたが、「特殊要因で持ち上げられていた分の剥落」が特に見られなかったというお話もあるわけですし)ことを懸念し、事前に「CPIゼロ」のショックを緩和するために行っているという見方もできるわけで(って結構勝手に深読みしているんですけどね^^)、まぁ慌てて債券(特に短期ゾーン)を売り叩く必要は無いでしょうが、そんなに喜び勇んで債券を買い上げるほどのお話ではないと思うんですけどどうでしょうかね〜。


○ペイオフの全面解禁の次に懸念される事は

わずか3行(日銀Web上)のコメントですが、重要なお話と思えるのがここ。

『なお、市場条件の中でも、とくに長期金利については、政府の財政規律が確固たるものであること、投資家のニーズにマッチして適切な国債発行が行われることが、何よりも重要であることは改めて申すまでもありません。』

国債大量発行のケツを全部日銀にもっていくんじゃねぇコノヤローという風に読解したのは例によって読みにあたくしの主観的判断が入りすぎではありますが(^^)、徐々に「財政規律」だとか「国債管理政策」などといった点について日銀から反転攻勢(笑)が行われてくる気配が見られるのは誠に結構なことであります。散々「政治ウケばかり気にしているのではないか」と辛口批評(あるいは悪口雑言)をしていたあたくしも今回のこのコメントには瞠目。

デフレ脱却はかなり明確に見えてきたという自信の表れなのか「今度は政府の番ですよ」と言っているように見えるのは、ちょっとあたくしが希望的に見すぎなのかもしれませんが、今後の金融政策運営というお話と絡めて財政規律の問題を強調している(今までも財政規律について触れていた事はありますが、割とさらりと流していた)のは「ペイオフ全面解禁(何か抜け穴があるので本当に全面解禁するとは全く思えないのですが、それは兎も角)の後は財政規律問題」という姿勢を打ち出したものとして理解しております。


という訳で、結構盛りだくさんかつ内容的にまとめるのにお時間がかかっておりまして、今朝は記者会見の方やら、講演での経済見通しの話やらは宿題という感じになってしまいましたが、続きは後日ということでお願いしますm(__)m。





2004/05/13

お題「驚愕の講演」

本題に入る前に別の話ですが・・・・昨日の前場寄り付き直後は5年から先物がちょっと売られるような展開になって「おっ予想通りじゃあーりませんか」と思っていたらその後いきなり20年ゾーンが強烈に買われてブルフラットの展開。「また予想大外しとはもしかしてあたくしは相場神ではないか」というトホホな展開でありましたな。いやはや何ともであります。結局は入替売買主体の動きで日中イールドカーブが派手に動きましたが、終わってみれば比較的マイルドな結果になっております。何のこっちゃという感じの一日でした。

さて、そんな手がかり材料に欠ける相場の中でちょっとだけ注目されたのは秋田県金融経済懇談会における中原審議委員の講演(正確には挨拶ですが)でありまして、この要旨が日銀Webにアップされております。また、引け後に記者会見もあったのですが、こちらはまだ内容がアップされておりません。しかしちょっと取り上げてみたいので記者会見内容はブルームバーグ社のニュース記事を参考にして(日経金融新聞朝刊には載っているかもしれません)取り上げたいと思います。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0405a.htm

講演は結構長くて、第1のお話が「日本経済の現状と見通し」というお題でありまして、次が「量的緩和政策と今後の政策運営」、最後が「日本経済における変化の芽」であります。で、債券市場で話題になったのは量的緩和云々の部分でありますので、とりあえずこの部分およびそれに関連する記者会見の記事を参考にお話をしていきたいと思います。他の部分の記述も何と申しますか突っ込み所がありそうな雰囲気なんですが、それはまた別の機会にでも。


まぁ最初に総括してしまいますと、この講演と記者会見の内容はあまりにも「痛い」ものであり、何か勘違いのオンパレードとしか申し上げようが無いものであります。あまりにも堂々と「痛い勘違い」を連発しているので、読んでいるこっちの方が「もしかして俺の頭がおかしいのか」と不安になって昨日は複数の読者の皆様に同じような質問をして回ってしまった次第であります。ご質問にお答えいただきましてありがとうございました。


それではこの痛すぎる勘違いを検討していきましょう。

○量的緩和政策の効果に関する誤解

「量的緩和政策と今後の政策運営」というお題で最初に説明しているのは量的緩和政策の評価であります。で、その中にこんなコメントがある訳です。

『当初、量的緩和の狙った効果として、このほかにインフレ期待を醸成し、銀行を通じたポートフォリオリバランス効果によってマネーサプライを増加させ、実体経済へ働きかけを強めることも期待されていました。』

後半の「ポートフォリオリバランス効果」は良いと致しまして、前半にある「インフレ期待を醸成し」って言うのは初めて聞くお話であります。そんな公式見解はでておりません(ということを確認するために思わず夜なべで日銀Webを確認して回ってしまいました。あたくしの睡眠時間を返していただきたいものですな^^)。量的緩和政策の中間評価として日銀の出している公式見解を敷衍しながら説明している資料としては、昨年9月7日と12月5日に須田審議委員が行った講演をまとめた「量的緩和政策について-その暫定的評価と今後の課題-」というのがございまして、(http://www.boj.or.jp/press/03/ko0312d.htm)この内容を昨年12月18日と19日のドラめもんでご紹介致しました。再送希望の方はお申し付けください。

そういえば最近はうやむやのうちに現在の量的緩和政策のスキームがインフレターゲットと同じように論じられたりしております(さすがに中原審議委員はその点間違えてはいません)が、そもそも今の量的緩和のコミットメントの仕組み自体はインフレターゲットと根本的に違う訳でして、その点につきましては量的緩和導入時における「新しい金融調節方式Q&A」と(http://www.boj.or.jp/seisaku/01/pb/k010319c.htm)いうのを出して説明しております。念の為引用しておきます。

問7:インフレーション・ターゲティングを採用したということですか。

答 :通常、インフレーション・ターゲティングと呼ばれる手法は、(1)中長期的に望ましい物価上昇率を目標として設定し、(2)先行きの物価上昇率が望ましい物価上昇率から乖離すると予想される場合に政策変更を行う、という方法です。日本銀行は、現在の日本では、中長期的に望ましい物価上昇率を数値で示すことは難しいと考えており、インフレーション・ターゲティングについては、引き続き検討事項として位置付けています。今回の措置は、あくまで、通常は行われないような政策を、現実の消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることをコミットしたものです。その意味で、いわゆるインフレーション・ターゲティングではありませんが、物価が継続的に下落することを防止し、持続的な経済成長のための基盤を整備するという日本銀行の断固たる決意を示したものです。


と、ちと話が逸れましたが、この審議委員様におかれましては、量的緩和政策の狙った効果と称して、日銀としてそんなものは狙う意図がない「インフレ期待の醸成」というのをお話している訳ですな。量的緩和は上記引用文にもあるように『通常は行われないような政策』でありまして、その政策目的は「デフレからの脱却」であります。その枠組みを逸脱した「狙い」を勝手に吹聴するというのは意図してやっているのか、それとも単なる勉強不足なのか判りませんが、どちらにしても機関としての「日本銀行政策審議委員」としての立場を逸脱した言動と言わざるを得ないと申し上げておきましょう。



○市場の安定化に関する誤解=その1:ターゲットの安易な変更

まぁ誰しもが思うのは「量的緩和からの脱却に際して市場を下手に混乱させずにスムーズに移行するにはどうしたら良いか」という事でありまして、その為に中原委員も案をだしているようなのですが、本当にこの人市場部門のお仕事を銀行(東京銀行→東京三菱銀行)でやっていたのか甚だ疑問に思ってしまうようなお話の連発で激しく頭痛が起きるわけであります。

講演ではこんなことを言っておりました。

『量的緩和の政策レジムの変更時における市場の不安定化を抑え、市場の期待を安定化させていくためには、中央銀行が望ましいと考える物価上昇率を事前に示していくことが一つの解決策になるものと思います。(略)具体的な数字については、諸外国の例や消費者物価そのものが持つバイアスを考えると、最終的には1〜2%というのが適切な水準であると思いますが、目標性が強まるあまり金融政策の機動性や自由度を失うことは望ましくありません。量的緩和からの出口における不安定な動きを抑えるためには、望ましいインフレ率を具体的に示すとともに、実質的なゼロ金利の状態を経ることが現実的かもしれません。』

この文面を最初に読んだときに「なるほど。量的緩和から金利ターゲットに変更する時に短期間ゼロ金利の移行期間を設けて、中央銀行として先行きの物価上昇率の目標値を設定する(即ち本来の意味でのインフレーションターゲットの設定です。さっき引用したQ&Aと同じ事ですね)ことによって過度な追加引締めへの思惑を起させないのですな〜」と常識的な解釈をしていたのですが、あにはからんや、その後の記者会見ではどうも「量的緩和政策を解除したあとに金利ターゲットにしてゼロ金利政策を実施。その際に望ましいCPIターゲットを明示してある種の時間軸効果をもたらす」と発言しているようです(記者会見の内容に関してはブルムバーグ社のニュースを参考にしております)。

ということは、実質的には「量的緩和のコミットメントが達成された後に改めてCPIターゲットを引上げる」と言っているのに等しいお話なわけ(量的緩和とゼロ金利の違いはあるが、実態が同じですから)でして、要するに「CPIターゲットが逃げ水状態になる」という事でありますがつい先日(5月7日と10日)もドラめもんで「論理崩壊」と申し上げたまさにその通りのお話をしているようであります。恐ろしいことです。

こうなりますと、今度は「CPIターゲットが達成されてもまた変更になるのではないか」という思惑が発生する余地が出てくるわけでして、それこそ日銀の意図せざる期待が発生して際限がなくなってしまいます。それ以前の問題として先日も指摘しました通りで、「逃げ水金融政策」を一たび実行すれば、それ以降は金融政策運営においてどんなコミットをしても「どうせ途中で変更になるんでしょ」という事になり、政策への信頼が失われるリスクが非常に高いのですが、途中でゲームのルールを変更するに等しい行為に伴う危険性について中原審議委員は認識をしているのかと小一時間問い詰めたい所であります。


○市場の安定化に関する誤解=その2:ビハインド・ザ・カーブ

念の為申し上げますと、ビハインド・ザ・カーブというのは「政策発動が遅れる」といった意味でございます。記者会見内容の記事によりますと、中原審議委員は「デフレを脱却する上で、ビハインド・ザ・カーブのリスク(金融引締めが遅れるリスク)はどうしても残る」と思いっきり言っております。で、先ほどの「逃げ水金融政策大作戦」やら他社の記事をちらちらみると、どうも「市場の安定化の為には引締め観測を起させないのが有効」→「金融引締めに転じるのが思いっきり遅れても問題無い」という論理構成になっているようです。しかし本当にそれで良いのでしょうか??

確かに、金融緩和を外部環境がインフレ状態になっても長期間に渡って継続していけば足元の短期市場金利については翌日物金利を日銀はコントロールする事ができるので低位安定するでしょう。しかし、金融緩和のタイミングが遅れれば遅れるほど、先行きのインフレ期待が高まる訳でありますし、その手の期待というのは一度発生しだすと自己実現的に肥大化する傾向にあるわけですから、将来の期待インフレ率を織り込んで価格形成が行われる長期金利をより跳ね上がらせる危険が高まるわけです。

というかもうちょっと単純な言い方をしますと、金融緩和政策を余計に続けますと、その後引締めの必要が発生した場合により強力な引締めが必要になるわけですから、その分長期金利が跳ね上がりやすくなるというお話であります。もっと具体的に言えばどこぞの国で15年位前に金融緩和を漫然と継続して、その過剰流動性が不動産と株式に回って価格が狂ったように上昇してしまい、いざ金融引締めをしだしたら今度は狂ったように金融引締めをする破目になってしまい、挙句の果てには引締めのやりすぎでオーバーキル状態になってしまった何てぇのがございますな。ちょっと例えが変かも知れないけど。

てな訳で、中原審議委員におかれましては、時間軸を一段と強化することによって市場の安定化をしようとしているのですが、以上で申し上げたように同じ手がいつも通用すると考えるのは大いなる勘違いであります。景気が現実に過熱しだしている時に時間軸を強化するという行為は短期市場金利の安定化には繋がっても、長期金利は逆に不安定化する危険性がある訳でして、時間軸効果の長期金利安定化効果をを盲信するのは極めて危険極まりない発想であるかと思います。


まぁゼロ金利解除で上手くいかなかったことが相当のトラウマになっているようなので「ビハインド・ザ・カーブは問題ないでしょ」という事になっているのかもしれませんが、金融引締めの遅れによって許容範囲を超えるようなインフレが発生した場合には、その被害が直撃するのは一般ピープルな訳ですから、厳しい言い方をすれば「ビハインド・ザ・カーブ問題なし」というのは、「自分たちの保身の為に国民生活をインフレリスクに晒す」と言っている事と同じなのではないかという批判を受けても仕方無いお話ではないかと思う訳です。つーかそれなら別に金融政策決定会合なんていらね〜じゃん。


どうもこの審議委員の講演(の金融政策にかかわる部分)は先日来「金融政策への誤解」としてあたくしが槍玉にあげたどこぞの著名債券ストラテジストのレポートの論理と酷似しているような気がするのですが、あたくしの勘違いでしょうかねぇ。まぁいいんですけど、何だかな〜と思う今日この頃。

しかしながら、ここまで認識が変なお方が政策委員をやっているというのは実に何と申しますか「日本国を全力売り」と言いたくなってしまうあたくしであります。そういえばどこぞの商社出身の審議委員は「手形の活用」という激しく時計の針を巻き戻すようなお話を講演でしていまして、その中で実務で誰も見たことがない法律上だけの存在ではないかと思われる「無担保裏書」の活用をしましょうなどという浮世離れしたお話をしておりました。

この政策委員会の審議委員の人選ってどうやってるんでしょう。何か激しく脳内現実と現実の間に齟齬のおありになると思われるような方が紛れ込んでいるのは理解に苦しむ所ではあります。


この講演要旨、他にも何か突込み所満載なのですがやりだすときりがないのでとりあえずこんな所で。本日は福井総裁の講演があるようなのですが、同じような話題に触れるのかどうか楽しみかつ恐ろしいものを感じる訳であります。






2004/05/12

お題「昨日の相場で思ったことをつらつらと」

○順調といえば順調でしたが・・・・・

昨日の10年国債入札。前場の早い時間は10年ゾーンを引き続き売り込む向きがあったのですが、例によって売り込み過ぎて1.53%レベルまでやってしまったら事前に買いが入るというお馴染みのパターンで先物VS10年カレントの関係は寄り付きから1毛改善してほぼ先物にスライドという形で入札を迎えました。

で、結果の方はご存知の通りで足切り99円95銭(大体1.53%)で按分40%というのがまぁほぼ予想通りとなりましたが、平均の100円ちょうど(1.526%)というのはちょっと高いという印象ですな。その割には応札倍率が2.3倍程度で盛り上がりに欠ける入札でした。とは言え、前場引けの10年259回債(既発分)の気配1.525%から比較すると受渡が11日先になっている分割高な入札だったので、相変わらずの割高入札ではありましたな。

ここの所「入札だけ業者が頑張ってしまう」という傾向にありますので、入札が割高になる分の保険ということで、新発債の周囲(今回の場合は259回のリオープンが確実になってきてからは259回債を狙い撃ちで)を頑張って叩いて安くするという傾向があります。今回もまた事前に結構頑張って10年259回債を叩いた(上に当日前場に買いが入ったようですし)ので、もうちょっとショートカバーが入るのかな〜と思っていましたが、昨日申し上げたように「リオープンは売れないの法則」「同償還3回目は売れないの法則」が効いたようですな。


○いつも外れる(トホホ)今後の展開大予想

入札前のプライストークで皆が揃って同じような話をしていたのが笑えるところなのですが、今回の入札では皆さん「入札はまぁ堅調でしょう」「ここまで10年を叩いた事だし幾ら何でも10年確りする筈だからとりあえず入札後はフラットニング」「でも・・・・・トレンドはスティープだからどこでポジション手仕舞うかですな〜」とまぁ判で押したように(あたくしを含むのですが^^)同じコメントでしたな。

落札結果発表後の動きを見ますと、結果発表後は中期ゾーンに売りが出た(らしい)のも影響して先物が下落する場面では10年ゾーンは頑張って値持ちして、先物との関係で言えば前場引けよりも1毛近く強くなり、割高入札が正当化されて目出度し目出度し。しかしその後相場が反発して前場引けのレベルを上回ると入札裸ロング隊の外しがさっさとご登場。10年ゾーンが伸び悩みかという雰囲気が漂ってくると引けに掛けては再度10年ゾーン弱含みとなりまして結局は10年の実力は前場引けとあまり変わらない(発表されている引け値ベースでは確りしてますが)状況になってしまいました。

てな感じで細かく見ていますと、やはり皆さんこの新発債は持ちにしたくないというのが本音のようでして、確りしている時は何となく業者はふんばるのですが、ちょっと頭打ちの動きが見られると「いち抜けた〜」攻撃が出てくるようですな。

相場水準が下がりながら推移する場合はここ1ヶ月(も過去もそうですが)跳ね返された1.55%レベル(実は前回は1.57%まで売られておりましたが^^)が押し目待ちの人のターゲットですんで、そこが新発債の在庫を抱えた業者の絶好の逃げ場でしょう。相場水準が上がると誰も買ってくれないので、10年ゾーンが確りするという業者ニッコリの動きになるには相場水準の下げしかなさそうです。


で、来週は5年国債の入札があるのですが、ここまで散々堅調推移してきた5年ゾーンは昨日入替ベースと思われる売りがあったようでしていきなり弱含みの展開。何せ今月の場合は同償還の既発5年債が0.6クーポンと0.7クーポンですのでどう考えてもリオープン発行は必至の情勢。また「リオープンは売れないの法則」が爆裂するのではないかという懸念がある上に、既発債では0.7%クーポンの36回債の方が需給が悪いので、「入札前に水準を安くしておく攻撃」が出ますとリオープンが需給の悪い方の36回債になる訳で、中々販売に苦戦しそうです。

ということで5年ゾーンを安くする動きが出てきますと、今まで堅調だった5年が安くなり、相対的に10年が確りしてくれるかもしれません。以上を総合するとあたくしの基本的大予想は「下げなら5年〜先物主体で長期は比較的確り」「上げなら先物主体で中期も長期も置いていかれる」という感じでしょうか。あまり上昇しそうもないのですがね。

と、勢いでこんなに大予想(笑)してしまいましたが、また赤恥をかく結果になるのではないかと恐怖する次第でもあったりします。アセアセ。


○しかしまぁよく動く現物債

昨日に限らずなんですが、日中にイールドカーブが良く動いています。特に特定年限に玉が大量供給される入札日にその傾向が顕著なのですが、昨日の5年VS10年とか5年VS20年あたりで見ますと正直、先物の日中値幅に匹敵するようなカーブの動きがありました。

業者間の板気配を見ながら勝手に想像すると、昨日の現物債の動きは@入札ヘッジの10年売りA10年押し目買いと中期の売りB5年売りの10年買いC10年または5年売りの20年買い、というような順序で現物に動きがあったようですな。斯様に想像(外しているかもしれませんが)出来てしまうほどに現物債の動きがまともに業者間の板気配に出てきてしまうのですが、これじゃあある程度以上の規模の投資化さんは自分のちょっとした動きでマーケットインパクト爆裂といった感じでしょうからやり難いこと夥しいでしょうな。

そのカーブ形状の乱高下も中々なのですが、一昨日あたりから妙な動きをしているのは2年債。連日のように日中に5糸甘と5糸強が出合うという妙に不安定な動きを示しております。普通このゾーン日中ちょこまか動くんかいな??と思うのですが。

まぁこの謎の2年債の動きもよーわからんのですが、どこかで売り買いやっている人がいるんでしょう。何とも不可思議でありまする。


現物が妙に色々と動く(しかもあまりトレンドがない)というのは、相場の膠着観というか手がかり材料難というか、まぁ取っ掛かりに欠ける相場展開なのかと思われる次第であります。暫くはトレンドが出来そうもないんでしょうな。


と、やたら細かい話になって恐縮ですがそんな感じで^^。





2004/05/11

お題「10年国債入札」

数字を駆使した分析は本職の方々に敵いませんので(汗)、トレーダーらしく入札を心理的(?)な点から愚考してみる訳で(^^)。

○リオープンは売れないの法則

今回は1.5%クーポンの259回債リオープン発行になるのはほぼ確実かと思われます。で、リオープン発行となるとこれがまた売れないという実に下らない経験則がございます。何で売れないかと申しますと、

@新発債と同じものが既に出ているので「新発債なので買いたい」という人の購買意欲を刺激しない。
A発行量が多くなるので需給が悪くなるという印象を与える。何だかよく判らないのですが、国債市場では需給の悪い債券に買いが入りにくいという不思議な構造があります。
Bリオープン発行になる位ですから何回か相場の押し目が発生しており、入札レベルよりも安い水準で買うチャンスがあったというケースが多い。

という所でしょうか。特に今回の259回債に関しては4月6日の入札時点では1.51%(平均落札価格)でしたが、何度も1.55%をマークしに行きまして、既に1.5%のアンダーパーだからといって有り難がられるような状況ではないかと思われます。おまけにこの間に1.45%−1.55%の往来相場を振幅速度を素早くやっていましたので、割と足の早い投資家さんは1.45%近い水準で一旦戻り売りをしている訳でして、259回債は業者に在庫が結構あると思われる節がございます。そんな債券をもう一発1兆9000億円発行と言う事ですから、ちと今回は厳しい事になるかと思います。


○同償還3回目は売れないの法則

10年債(2年債と15年変動以外もそうですが)は償還が3ヶ月毎なのですが、何故か発行は毎月実施。昔から激しく不思議に感じているのですが、まぁこういうものだと皆さん慣れているようですので何で4半期発行にしないのかという話は置いておくと致しまして。

償還が3ヵ月毎で発行が毎月って事になりますと、当然ながら同じ年限の10年債が3ヶ月間連続して発行される訳でして、最初に発行される分は「新しい年限の債券が出た!」という事で人気化しやすく、回を追う毎に同じ年限の債券の発行残高が増えてくるので段々「お腹一杯」になる人が増えてくるというのは理の当然であります。

と、考えますと上記の「リオープンは売れないの法則」と同じような理屈なので笑ってしまうところではありますが、まぁ毎回毎回似たような現象が起きているわけでして、余程外部環境が良好でない限り同償還3回目の発行というのは荷もたれ現象が生じやすい訳です。


○前月との比較

相変わらず視点がミクロなあたくしはあまりまともな割高割安分析をしないのですが、前月の10年債入札前日と比較すると10年の位置が概ね同じ(リオープンになると言っている位ですから当たり前ですが)なのに対して20年は(いい加減にいえば0.1%くらい)甘くなっており、5年や先物は、5年は0.67%などと0.6%後半だったのが昨日は0.61%、先物は単純比較(先物の想定クーポンが激しく高いので本当は7年の利回りで見たほうが良いのですが)で90銭高い水準ですのでこれもまた堅調。2年はまぁ同じところ(0.13%)にいるということですので、前月と比較してイールドカーブ全体の中で割高なのか割安なのか今一歩判りかねる所ではあります。(と、いい加減なことを言ってますが、本職に言わせるとちゃんとした割高割安分析をするに違いない)

国内の他市場環境はと申しますと、昨日の暴落が効きまして日経平均株価は1000円安く、TOPIXは110ポイント安い。ドル円は8円円安ドル高。長期金利がレンジ内で派手に動きながらも結局安定しているのは何だかんだと言って外部環境要因が債券の買い方向と売り方向になるように打ち消しあいながら動いている為なのでしょうか。

日銀の金融政策は金融経済月報、展望レポートと政策自体に変化はないけれども景気認識は強気の度合いを強くしているという訳で、まぁこちらは債券の売りというかイールドカーブのスティープ化要因な訳ですか。

だからどうかという話になるのですが、まぁ元々コアな投資家層が良く判らん10年国債なので、積極的な買い手が出てくる可能性には乏しく(ど〜せ毎月20年債が出てくるので、生保さんや年金さんは20年を買いますわな)、やはり楽観は禁物。ただしレンジ内で派手に動きつつも1.55%は何度もサポートされている訳ですので、まぁ下がっても1.55%だという妙な安心感もあります。それがまた怖いんですけどね。


という訳で今月の入札第一弾の結果、というよりはその後の在庫の消化状況に注目かと思います。まぁそう簡単に捌けないと業者も覚悟していると思いますけれどもね。





2004/05/10

お題「期待形成の道は険しそうですな」

先週末の債券市場は株価指数が下落したのが効いたようで5年が0.6%を割るわ、10年の1.5%どころか1.465%(日本相互証券債券終値ベース)になるわと、海外での株安がそもそも金利上昇(と原油価格の上昇)によって起きているという話をまるで気にしない勢いでございました。債券市場恐るべし。

で、金曜日のドラめもんで「期待形成の正しい進め方」と称して軽くお話を致しましたが、その中で某著名債券ストラテジスト様が指摘している「いざCPIがゼロになってきたら今度はCPIターゲットを今のゼロからプラス(プラス1%とか)に変更するという事も想定できる」という事について、あたくしが思いっきり「香しい誤解」と断言したのはご記憶かと思います。

ところが日経新聞あたりではあたくしが「誤解」と断定したこの論点が話題になっていたよう(日経新聞を読んでいないというあたくしもアレなのですが^^)でして、「再び時間軸が延びるのではないか」という観測もまた債券先物の買い戻しに心理的な影響を与えたようでありますな。どうも驚きの話ではありますが、あちこちでそういう指摘があるらしいのでそうなのでしょう。

何でこんな議論が出てきたのかと申しますと、先日の金融政策決定会合の後に実施された日銀総裁記者会見でのお話であります。再掲致します。

『私どもとしては、この3つの条件(引用者注:量的緩和のコミットメントの3条件)はかなり明確な条件ではないかと思っている。市場がその解釈を巡って混乱する可能性があるとは必ずしも思っていない。』

『しかし、おっしゃる通り、局面によっては理解の混乱が起こる心配というものをまったく打ち消しているわけではない。今後の状況をみながら、私どもとしては必要なメッセージは当然差し上げなければならない、その都度、工夫を凝らして新しいメッセージが必要であれば、差し上げていきたいと考えている。』

どこをどう解釈するとこの「新しいメッセージ」が「量的緩和のコミットメントの基本中の基本の消費者物価指数ターゲット数値の変更」になるのかよくわからんのですが、どうもこのあたりがまたも誤解を招く原因だったようでして。

そもそも量的緩和のコミットメントの3条件の3番目は「前の二つの条件は量的緩和解除の必要条件であって、最終的には量的緩和政策の解除が妥当かという点について総合的な判断を行う」という趣旨の内容であります。すなわち、需要の増加を伴わない物価の上昇という日銀の望まない形でのデフレ脱却がおきた場合に自動的に量的緩和政策の解除を行う破目になるような間の抜けた事態にならないように「総合的判断」という保険を掛けている訳でして、とりあえずはこの「総合的判断」で何とかすると考えるのが妥当ではないかと思います。

と申しますか、「量的緩和のコミットメント」として明文化して掲げた一番最初の「CPIが安定して0%以上になるまで量的緩和を継続」っていう部分の「0%」がいざターゲット到達したらいきなり「1%」にする何て言い出したらもはやそれは金融政策として成り立たない(じゃあ今までの0%は何だったんだって話ですな)お話ではないかと思う訳です。そういう金融政策の態をなさなくなるような論理崩壊的行動を日銀が取るという解釈をするという解説が堂々と罷り通る債券市場って一体全体どうなっているのかと先週末は軽いショックを受けていた次第でありますな、あたしゃ。


まぁ元々債券市場というのは債券投資のベースになっている短期金融市場に疎いお方が多うございまして(偉そうな言い方で恐縮ですが)、昨年の債券相場絶賛大暴落というか大手銀行様ALMの集団売り恐慌相場の時にも「そもそも量的緩和政策はCPIが安定的に0%を上回らないと解除できないんですが」というあたくしの指摘も空しく2年金利が0.25%だの5年金利が1%だの当時の1年後(つまり今年の秋口)にも量的緩和が解除されるのではないかという勢いで金利が上昇して、多くの年寄り中短期債ディーラーを呆然とさせた実績がございます。で、今回は何故か「時間軸がまた強化される」という解釈が発生する訳でして、何と言うかちゃんとおまいら物を考えてやっているのかと小一時間問い詰めたくなるような動きが発生している訳です。ちなみに「おまいら」には読者の皆様は含まれておりません。失礼仕りました(謎)。


まぁこういう訳の判らん解釈が横行するのは訳の判らん解釈をする債券市場だけに問題があるわけではなく、そもそも「何をしだすか判らない」という政策運営を行い続けてきた日銀(というか日銀総裁)の手法にも問題があった訳でして、「取って付けたような理屈(イラン戦争だのSARSだのりそな問題だの)で量的緩和の拡大を実施して、指摘していた問題が解消されても何故かそのまま」という事やら、「景気判断が前進しているのに量的緩和の拡大」というように政策としての理屈付けを放棄したような政策をバンバン実施してしまった為に日銀に対して「何をしでかすかわからない」という評価(?)が定着してしまったのにも問題があったかと。

「何をしでかすか判らない」ので「金融政策として論理的に有り得ないような政策オプションを行使してくるのではないか」という解釈をされてしまうようになっているというのが現在の日銀、というか福井総裁のお姿なのではないかと思います。今後経済が正常な方向に向う(とはあたくしは思ってませんが)にあたって、日銀の考えていることを外部に発信するのは非常に困難を伴うお話になりそうですな。今の時点で「論理崩壊的解釈」が堂々と行われているような状態ですから・・・・

金曜のドラめもんで問題の総裁会見での発言に対してこんなコメントをさせて頂きましたが、早速実現するとは恐れ入ったといった所です。

まぁ精々工夫を凝らしていただきたいのですが、既に「金利をできるだけ低い所で安定させる」とか「金利に蓋をする」とか総裁が発信した「工夫を凝らしたメッセージ」を債券市場が見事に誤解して長期金利低下祭りが発生して余計な怪我人を増やしていただけに、将来CPI前年同月比がゼロになってきた時には「正しい工夫」をして頂きたいものであります。

合理的期待形成への道は険しそうですな>日銀





2004/05/07

お題「まぁ色々と雑談なのですが」

○下げはダラダラ上げは急速

昨日の債券相場は株価指数先物に連動というか逆連動というか債券先物が株価指数先物の下げに反応して買い戻し(なのか新規買いなのか判りませんが)が威勢良く上昇しました。何と債券先物の一日値幅が90銭となるほぼ一方的な上昇になりました。

具体的にチャートだけ並べると必ずしもそういう訳ではないのですけれども、毎日目を皿のようにして債券市場を眺めているあたくしとしては、最近の債券市場は「下げる時はダラダラと相場が下がるけど、反発する時には急騰しますな〜」という印象を改めて深くした昨日の相場でありました。

この傾向は年初の長期金利低下祭りが一服してから始まったような感じなんですけれども、特に4月以降に顕著になってきた感じであります。今までの上げ相場では「上げはダラダラ下げは急速」だったのですが、その裏返しみたいな動きになっている訳でして、まぁ自然な動きといってしまえばそれまでなんですけれども。

最近の多くの投資家様は「急騰した翌日に戻り売り」「下落した翌日に押し目買い」という極めて冷静な動きに徹しているのですが、本日売りから入るのか買いから入るのかは注目される所ではないかと思います。最近毎日のように参加してドンパチしている人って海外ファンド系の先物と銀行の大きい人たち位しかいませんですから。


○期待形成の正しい進め方

連休中にFOMCが行われまして、その声明文ではある意味予想通りに「利上げが近いですよ〜」サインが出てまいりましたが、それも「policy accommodation can be removed at a pace that is likely to be measured.」という事で「市場に衝撃を与えるような金融引締め攻撃はしませんよ」ってコメントになっている所が大変に結構な所であります。

雇用環境の改善やら金利上昇って言っても景気状況の好転によって発生しているお話なのに株が下落するというお馴染みの米国金融市場のロジックも何のことやら良く判りませんが、まぁそれは兎も角としまして、FOMCの声明文(紙に印刷すれば1枚で楽勝で収まる短いもの)の表現やら偶に行う議会証言で市場に金融政策の方向性を示して、いざ金融政策を変更する段階では「材料出尽くし」状態にもっていくFRBの政策運営は大変結構なお話であります。

まぁ日本の場合は金融政策をこれ以上緩和方向で動かしようが無い(緩和している振りをする事はできますが)上に、不良債権問題やら不動産バブル崩壊やらという問題があるので中々難しい運営を強いられているという点で同情すべき所はあるのですが、それにしても中央銀行自らが市場の誤解を招くような余計なシグナルを出して、挙句自分たちが「量的緩和のコミットメントの明確化」といったマッチポンプ的行為を行っているのは如何なものかと思うわけですな。

まぁ比較するのは酷なんでしょうけど、もう少し何とかしていただきたい訳でして、何を基準においてどういう論理で金融政策の運営をしているのかさっぱり判らない(というか論理的に破綻している)状況をどうにかしないと日銀の政策への信頼性ってのがどんどんと無くなって来るような気がする訳です。

先日はどこぞの著名債券ストラテジストがレポートで総裁記者会見でのコメント「早期金融引締め観測が観測して市場が混乱した場合には市場に新たなシグナルを送る必要があるかもしれない」という点について「いざCPIがゼロになってきたら今度はCPIターゲットを今のゼロから僅かなプラスに変更するという事も想定できる」と言った香しい解説を施しておられましたが(今ターゲットを引上げて「インフレターゲットに転換」というならまだしも、設定したCPIターゲットに到達しそうになった所でターゲットを変更したら詐欺みたいな話でしょうに)、斯様に誤解を受けるほどに日銀から送られる「市場へのメッセージ」の発信が下手なんでしょうな。まぁ元々政策運営の根拠としている論理展開がその時々で首尾一貫していないので仕方ありませんが。

だいたい「りそな問題の金融市場への影響を抑える」だの「イラク戦争やSARS問題の(以下同文)」と言って当座預金残高目標を引上げた筈なんですけど・・・・・って話去年の6月頃してましたな。すっかり忘れかけている思い出話状態ですが(^^)。



○便利な情報機器(^^)

いつもと同じ金融政策話で熱くなってしまいましたが、最後は全くの雑談的なお話で。

先日株式公開をしてから3週間で宅建免許の取消処分を食らった不動産業者しかも売上の97%が宅建免許を必要とする業務っていう素晴らしい公開詐欺と言われても文句が言えないような事案がありました。しかも宅建免許取消処分を正式に食らった前日に株式分割を決議して発表するという念の入れようで、かかる企業を株式公開させた公開主幹事および上場承認した取引所は百万回くらい切腹していただきたいと思う訳でございます。あたくしは傍観者としてウォッチするだけなのですが。

何でこのニュース大きな話題にならないままなのか不思議になるのですが、まぁ本日もまた某テレビ東京番組なんかでも「今日の注目は引き続き個人の投資資金が流入している新興市場です」などと煽っている所を見ると、そういう市場に都合の悪い話はスルーだって言う事なんでしょうな。恐るべし情報○○。


まぁこの手の話がでると、過去この会社どういう発表をしていたかとかどういうニュースがでていたのかというのを見たくなるのは人情なのですが、最近はネット上で「新聞記事を検証する」というような各新聞社にとって激しく都合の悪い有名サイトが増えてきているせいか、どの新聞社も過去記事は有料データベースにしかのっておりません。

で、こういうときに重宝しているのが某B社(って言ってもこれもただでは無いんですけど)の端末でありまして、株価コードから企業ニュースを検索できる(しかもカナーリ過去まで辿れる)ので大変結構でございます。一々書いていると長くなるのですが、この会社どう考えても宅建免許取消処分を受ける可能性があることを判っていて処分が明るみにされる前に悪あがきをしていたとしか思えない状況証拠が時系列で取れるわけです。

また、この情報ベンダー様は企業経営者へのインタビューなんかも色々と行っておりまして、いまや塀の向こう側にいる某マザーズ上場第1号企業経営者インタビューだのといった今見ると爆笑の発作が起きそうなアーカイブも見る事が出来て大変に結構なものです。個人で導入するのはコスト的にどう考えても不可能なのが最大の難点ですが。

R社やN社のほうが伝統ある報道機関の筈なんですが、ニュースのアーカイブが全然充実してないのよね。猛省されたし。

なお、あたくしはこの情報ベンダーの回し者ではありませんので念の為(^^)。





2004/05/06

お題「日銀総裁の考え」

先日の金融政策決定会合後に行われた総裁記者会見要旨が先週末に日銀Webにアップされておりました。まぁ最近総裁が折にふれて話す事の集大成みたいな内容ですので、まとめのつもりでこちらをご紹介と言うことで。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0404d.htm

内容をまとめると3点に集約されるかと思います。その3点とは何ぞやと申しますと・・・・・・

1.非常に強気な景気認識
2.袋小路の金融政策
3.ペイオフ解禁への懸念

という感じですな。会見内容を見てみましょう(^^)。

○非常に強気な景気認識

いきなり会見冒頭から強気の進軍ラッパですな。

『背景となる経済・物価情勢の判断については、前回会合(4月8・9日)以降、あまり日が経っていないため、特段大きな変化はないと言ってしまえばそれまでであるが、経済は生き物であるので、注目すべき変化は刻々と出ていると思う。』

金融経済月報における景気判断を大幅に前進させた前回の決定会合以降の情勢に関して「注目すべき変化は刻々と出ていると思う」と言ってしまう所なんぞはまぁ恐るべしという事なのですが、(後でも触れますが)金融政策自体が打つ手なし状態なのを見込んでいるせいかあまりこの総裁の超強気発言を大々的に話題にしていませんな。

まぁ今まで散々この総裁の不規則発言に真正直に反応していた債券市場に学習効果が出てきたという事なのかもしれませんが、景気に関しては常に強気の最先端を行っているのが総裁だと言う事に関しては注意しておく必要がありますな。

『国内のほうも、昨年10〜12月の高い成長率に比べると今は少し反動局面にあるとは思うが、景気回復の裾野が広がってきている。あるいは、物価の面でも企業物価指数の段階では、海外商品市況高騰の影響が及んできているということがある。』

『また、本日、いわゆる「展望レポート」を決定・公表し、2004年度の経済・物価の見通しを明らかにした。そのポイントはいくつかあるが、一言で言えば、2004年度も、生産や企業収益の増加を背景に、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けるという予想である。』

ということで強気一辺倒なのですが、物価に関しては下手に強気な発言が出来ないので、消費者物価だけ奥歯にものの挟まったようなお話に終始してしまうのが「量的緩和のコミットメントの明文化」という中央銀行にあるまじき政策スタンスの副作用という事でもある訳ですな。

『一方、消費者物価についてみると、物価の基調に影響する需給ギャップは着実に縮小すると見込まれる。しかし、米価格上昇などの一時的要因が剥落するほか、商品市況上昇の影響も企業部門における生産性上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれる状況にある。従って、2004年度の消費者物価指数は、基調的にはなおごく小幅の下落が続くと予想し、これをレポートの内容に織り込んだわけである。』

別の質問に関してはこんな感じ。

『展望レポートの中の消費者物価指数の予測、特に中央値の前年比−0.2%というのは、年度全体を見渡して平均して、大体そういう予測を持つということである。年度の中の変化、つまり、いわゆるラップ・タイムでみてどうかというようなことは、今の段階で正確に予測していないので何とも申し上げられない。』

本当かな〜と思うのですが。4月の東京都区部CPIも特殊要因の剥落とやらの影響があまり見られなかったと思うのですがねぇ。世界経済に関してはこんなコメントしてるし。

『世界経済の動向については、順調に経済が拡大する方向性が次第に定着してきているということが確認されたと思うし、一方、物価情勢について言えば、世界的にみてディスインフレーションの傾向に歯止めがかかりつつあるということも確認されたと思う。』


○袋小路の金融政策

大変本源的な質問が出ております。質問の後半だけ引用しますが。

『CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで「現在のフレームワーク」を続けるということであるが、現在のフレームワークは、2001年3月から──「金利」から「量」のレジームに変えた時から──続けているものである。このフレームワークの中では、当座預金残高目標を増やし続ける、一定に保つ、あるいは減らすということについては何も言っていないわけで、量のフレームワークを続けている限りは、「量的緩和である」という定義ができるかと思う。そういう意味からすると、「CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで現在のフレームワークを続ける」ということの中には、現在の30〜35兆円程度という当座預金残高目標を減らしていくということもあり得るのかどうか伺いたい。』

『後段のご質問であるが、「今のフレームワークのもとで緩和政策を続ける」と申し上げた。現状で当座預金残高目標が30〜35兆円程度という幅で、大量の流動性を供給し続けており、基本的にこれは修正しないということを前提に申し上げている。』

当座預金残高を減らす意思は全く無いらしいというご発言なのですが、量的緩和政策を解除する時は現在の当座預金残高30兆円がいきなり大幅減少(5〜6兆円くらいですかね)させるというお話のようです。まぁそれでも技術的にやってやれない事は無いでしょうが、当座預金残高を減らすという選択肢を全く否定するのはどうなのかな〜とは思うわけです。当座預金残高を減らすというのも市場への意思表示のツールだと思うのですが、それをしないで今後も「市場の安定化」について悩む破目になるのでしょうな。別の質問に関してこんなコメントをしております。

『今後、世界の経済情勢がさらに良くなっていき、物価情勢にも微妙な変化が出てくる中では、市場がその状況に相応しい金利形成をしていく過程で、市場の中における期待が常に安定を保つことが自律的にできるかどうか。市場には、いろいろな物事に過剰に反応する性格と、逆にそれを吸収する性格と両方ある。常に落ち着いた市場情勢で新しいファンダメンタルズに沿った市場条件が形成されていくかどうかということについては、事前にはわかり難いところがある。しかし、事後的にはなるべく安定性が常時保たれているという状況を実現する必要があるわけで、そういう難しさのことを申し上げたわけである。』

何か判ったような判らないようなお話ですが、要するに昨年の債券市場暴走には相当懲りているようで市場の安定化に関しては色々と気にしているという事のようで。それなら当座預金残高の減少という選択肢を作れば良いのにと思いますがしないようです。まぁ脅威の為替介入で発生したFB残高の問題ってのは根が深いので当座預金残高を減少させにくいという事もあるんでしょうな。

『私どもとしては、この3つの条件(引用者注:量的緩和のコミットメントの3条件)はかなり明確な条件ではないかと思っている。市場がその解釈を巡って混乱する可能性があるとは必ずしも思っていない。』

『しかし、おっしゃる通り、局面によっては理解の混乱が起こる心配というものをまったく打ち消しているわけではない。今後の状況をみながら、私どもとしては必要なメッセージは当然差し上げなければならない、その都度、工夫を凝らして新しいメッセージが必要であれば、差し上げていきたいと考えている。』

この後に「そのような事は直ぐには起きないでしょう」と言ってますが、まぁ精々工夫を凝らしていただきたいのですが、既に「金利をできるだけ低い所で安定させる」とか「金利に蓋をする」とか総裁が発信した「工夫を凝らしたメッセージ」を債券市場が見事に誤解して長期金利低下祭りが発生して余計な怪我人を増やしていただけに、将来CPI前年同月比がゼロになってきた時には「正しい工夫」をして頂きたいものであります。


○ペイオフ解禁への懸念

これも前から総裁がやたらと指摘している話ですが、ペイオフ前面解禁への懸念というお話があって、金融機関経営に関してもコメントしております。まぁ日本銀行は「銀行の銀行」でもあるのでコメントするのもご尤もなのですけれども。

『来年の春までに不良債権比率を半減することを確実なものにするために、不良債権処理を加速してもらいたいということがナンバーワンだが、特に大手行の場合には、当然自力でペイオフ全面解禁を乗り越え、さらにその先を展望し、前向きの新しいビジネスを顧客のニーズに十分応えられるかたちで展開できるように、できるだけ早い段階から体制の整備をしてもらいたい。』

とか言いながら、「決済性預金は全額保護」というペイオフが本来含む筈の自己責任(そういえばそんな言葉が最近流行しましたが・・・・)原則を見事に骨抜きにする抜け穴を大々的に拡大して「全ての銀行は個人向けの決済性預金を商品として導入すべし」って話になっている所が実に笑える所であり、そんな乳母日傘状態のペイオフ茶番解禁を捕まえて「ペイオフ全面解禁を乗り越え」も糞もあったものではないと思うのですが、まぁそれは日銀ではなくて金融庁マターの金融政策の方ですんで悪態はこの辺まで(^^)。

で、まぁ金融政策でやることがないので、プルーデンス部局がせっせとお仕事をしたいって事なのでしょうか。金融庁と競うように検査の強化をするそうですが、はっきり言って業務妨害以外の何物でもないのが当局の検査であります。金融庁と日銀で似たような検査やるようですが、ど〜せ提出資料は当局ご指定のフォームですので、同じような資料を2度作らないといけない訳で、大変でしょうな。まぁ最近はコンピュータが発達しているから少しは楽かも知れないけど。

『大口与信管理態勢検査──金融庁において新たに実施されるもの──については、金融庁独自の何か新しい考え方に基づくものであるかもしれない。私どものほうからは具体的にコメントを申し上げるのは難しいが、日本銀行の考査においては、金融機関の信用リスク管理体制について、債務者の実態把握あるいは自己査定、企業再生に係る経営改善計画の評価が適切かどうか、管理体制全般について厳正に検証することとしている。』

『特に大口与信については、信用リスクの変化が金融機関の経営全般に与える影響を定量的に算出した上で、適切な対応が講じられているかどうかということを確認するなど、より詳細な検証を行うこととしている。これらの点については、既に「平成16年度の考査の実施方針等について」にも盛り込んでいるところである。』

「信用リスクの変化」ってのはそもそも定量的な現象なのでしょうかと突っ込みを入れたくなるようなコメントでありますな。定性的な現象である信用リスクの変化を定量的に算出するってどういう事なんでしょうか。貸出資産全体を統計的に処理しろって事なのかも知れませんけど、正直無駄な努力でしょうな。まぁそういうのを商売のネタにしている人が多いっつーか最近の流行モノなんですけど、あれって一種の○○でしょ。

『おそらく、金融庁のやり方と、こうした新しい方針を盛り込んだ日本銀行考査とは、平仄のとれたものになっていくだろうと考えている。』

「平仄がとれたもの」なら別に両方でやる事はないでしょ。何か大手といわれる某銀行に勤務していた時代に本店の色々な部から似たような資料を少しずつフォームを変えて提出させられて支店の現場の下っ端としては非常に苦労した時代を思い出しますな(-_-#)。


で、大手金融機関には妙な最先端的管理手法を整備して欲しいらしいのですが、そもそもそんな管理手法に意味があるのか謎ではありますな。

『新しい業務の構築ということがビジネスの最前線できちんと行われるとともに、その銀行の資産サイドのポートフォリオの管理が能動的にできるような新しい経営体制――これは今年度の日本銀行の考査の方針に入れているが、この方針の中で念頭においたようなビジネスの体制――を組んでほしい。(中間割愛)新しい能動的なポートフォリオの管理、新しいリスク管理体制という裏打ちを十分持ちながら、新しいビジネスの体制を整えてほしい。』

何だか新しい事をして欲しいらしいです。何だかな〜って感じです。