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朝のドラめもん

2004/07/30

お題「各種雑談モード」

気がつけば7月も終了となってしまいました。で、ふと見ると今月はまぁ碌に値幅を取っていない相場なのですが、イールドカーブが結構激しく動いた事もあって(終わってみればこれもレンジ内なのですが)先物の値幅以上に相場が振り回されたという印象を強くします。

○2年入札および今月の入札レビュー

昨日の2年国債入札なんですが、前週は0.165%だの0.175%なんぞにいた筈だった2年ゾーンが先週末から親の仇のように売り込まれだしまして、入札前日の一昨日は安値0.22%まで売られてしまったというのがさすがに「売り込み過ぎ」だったようですな。入札堅調で入札後も堅調推移。

とは言いましても、落札結果自体は「事前のプライストークより若干強かった」程度のもので、応札額も10兆円そこそこと今期に入ってからのスーパー盛り上がり状態からやっと脱却する事が出来たようです。大体入札の翌日(つまり今日)に金融政策決定の指標である物価指標が出るというのに、大いにポジションにしようって勇者は(満期まで保有できる体力がある方、すなわち最終投資家なら別ですが)中々現れないと見るのが妥当な判断ですから、そんな事も総合すると「堅調だが過熱感なく順調な入札」という事になったかと。前回のように滅茶苦茶な過熱入札(2年債でテールが2銭はいかがなものかと)にならなかったのは大変結構かと思います。

今月実施された国債の(除く短期国債)入札は総じて落ち着いたものとなりましたのですが、あたくしの感覚的印象では、国債市場特別参加者制度の導入も含めた「シェア拡大意識」的な動きが落ち着いてきた事や、大手銀行の債券投資部門の積極的というかディーリング状態というような売買が沈静化してきたことが効いているといった所ではないかと思います。

その大手銀行さまたちの最近の戦場が中期ゾーンの国債やスワップやらユーロ円金先やらというわけでして、毎月お約束のように出てくる「量的緩和早期終結の思惑」で売られたり買い戻されたりと、最近では中短期ゾーンの方がよっぽど値動きが派手になって参りました。背景に何があるかは今一歩存じませんが、景況感の改善を背景にトレジャリー収益へのプレッシャーが緩和されているのか、それとも日銀、金融庁が揃って「金利上昇へのリスク管理体制」の検査を強化すると言っている事を意識しているのかという感じで、10年債はおろか20年債まで振り回して大暴れした挙句に討ち死にしたつい1年前とは隔世の感がございます。

ま、この方が本来あるべき姿なんでしょうな。


○何だかな〜

以下相場に関係ない雑談です。

先日のドラめもんでご紹介した「週刊!木村剛」での「悩める母親党をブログ上で旗揚げしよう!」という「何じゃこりゃ?」という木村氏の能天気な意見に対して続々寄せられた反響のその後の顛末。

あたくし先週のドラめもんで、「まぁ予想される展開としては、「あえて突っ込みを受けるような意見を書いたのですよおっほっほ」という風に逃げを打ちつつ自分の非は認めないという流れになると思うのですが、これって正に竹中ヘイゾー先生にも似た流れでして、実に香ばしいと共に、如何なものかと思う訳でありますな。」などと申し上げましたが、27日付の木村氏のエントリーはまさにその通りの展開、というか私の想像を上回る展開になっております。

まぁ例によってこの人の文章を批判的に引用すると、どこからどういうリアクションが起こるか判らないので引用は避けますが、もう木村先生いきなり開き直り状態。激しく香しいものなのでまぁご覧いただきますとかなり笑える(ただし読者から寄せられた意見もあわせて読んでいると人によっては不快指数が急上昇しますので要注意)状態でして、あたくしも不快指数が上昇しつつも興味深く拝読しました。

よーするに論議が自分の思う方向に行かないで、自分が叩かれる流れになったので、いきなり論点を変えて「皆さん、批判をしていても物事は前進しません」と開き直る訳です。「本当に世の中を改善したいならば正しい意見を表明するだけではなく、現実的に進めていきましょう」というような話をした挙句に、「皆様から頂いた反響はほぼ予想通りでしたが、前向きな議論が少なく、政策論としての議論が少なかったのが残念です」と美しい逆切れ。

まぁ最初に「悩める母親党」なんて提言した時に一定の批判が来るのはキムタケさん予想してあえて脇の甘い書き方をして議論を喚起するというネット用語での「釣り」をやってみたのでしょう。しかし扱ったテーマが育児という当事者にとって激しく重いものであったので予想外に叩かれまくって、「正論を述べているだけでは世の中動かない」などと言い出したために、真面目に批判意見をフィードバック(ブログの用語ではトラックバック)した一般ピープル(真面目に意見していたのは概ね子育て現在進行形の方々)が激しく落ち込むという展開で、生温かくウォッチしていたあたくしも心痛むものであります。

木村氏の糞長いエントリーの最後の一段落が見事な「捨て台詞状態」でございまして、某匿名掲示板的にいうと「もう来ねぇよ、ウァァァン!」って感じのかなり笑えるというか不快指数急上昇というものですので、まぁ流し読みしながら最初と最後、そして読者の反響がその後にリンクされていますのでまぁ暇つぶしがてらお読み下され。念の為申し上げますと@Niftyの「ココログ」というブログサービスの中に件の「週間!木村剛」がございます。


○自民党の組織硬直化もここまで来たか

まぁあちこちで言われているでしょうが、今般自民党参議院の青木幹夫幹事長が議員会長に就任、つーか昇格。選挙に負けて昇格人事っていうのはさすがに(だいたい)50年の歴史を誇る自民党でも聞いた事のない豪快な人事であります。

もともと自民党は衆議院の中選挙区制の元で各派閥が同一選挙区で競り合い、派閥同士が党内で競い合うという事によって組織の活力を保って来た面があるわけです。主流派のやっている事が時代からずれてきたら反主流派が取って代わるという党内での「政権交代」を実施していたわけでして、選挙で負ける(=主流派の政策が不信任される)と反主流派の発言力が強くなり、場合によっては総裁辞任って動きになる訳です。

で、今回のこのテイタラク。これでは正直言ってもうどうしようもない無反省状態の(悪い例えでの)官僚組織状態。例えてみるならば旧軍の人事運営みたいな状態。ノモンハン事件でソ連軍に大敗した(と言われる)のにその後いつのまにか栄転してその後も対米開戦の推進役になった服部卓四郎氏と辻政信氏のコンビを彷彿とさせる訳であります。(さすがにノモンハン事件の後は辻氏は暫く不遇をかこっていたようですが)

どちらかと言うと現在の「問題ある大企業」の状態と言ったほうがいいかも知れませんが、まぁこれは小選挙区制と政党助成金によって党の執行部の力が強くなってきた弊害ってやつなんでしょう。党組織の官僚的硬直化が進行してしまったのでしょうね〜。


と、本日は全然関係ない雑談だらけでした。スイマセン。




2004/07/29

お題「誤ったな現状認識は無知より有害なのでは」

まぁ自戒を激しく込めて申し上げますと、物事の現実に関して中途半端な理解と申しますか、過てる認識をもっている場合というのは、間違いを元にしてその後の行動が積み上げられる訳ですから、努力すればするほど進む方向が間違ってしまうという悲劇の結果になる訳です。歴史を見ればそのような事例には事欠かない訳でして、だいぶ昔に書いたあたくしの拙文でご紹介した新田次郎氏の名著「八甲田山死の彷徨」もそうですし、大東亜戦争末期の台湾沖航空戦もまた然り。

「山口大隊長は佐藤特務曹長が田代への道を知っていると話したのを軽率に信用し、この雪中行軍の指揮官たる神成大尉に相談せず、『然らば案内せよ』と命じて暗夜田代へ向け行軍したが、進路を誤り、駒込川本流に迷いこみ一歩も進むことができなくなった。雪中行軍のあの悲惨事は実に山口大隊長が軽率にも、行軍計画者であり、指揮官である神成大尉に相談せず命令を発したのがそもそもの原因である」(新田次郎著、八甲田山死の彷徨(新潮文庫)より引用)

鹿屋の海軍飛行場に着いたのが午後一時過ぎ。飛行場脇の大型ピストの前は十数人の下士官や兵士が慌しく行き来して、大きな黒板の前に坐った司令官らしい将官を中心に、数人の幕僚たちに戦禍を報告していた。
「○○機、空母アリゾナ型撃沈!」「よーし、ご苦労だった!」(途中割愛)黒板の戦果は次々と膨らんでいく。「わっ」という歓声が、そのたびごとにピストの内外に湧き上がる。
堀の頭の中には、幾つかの疑問が残った。敵軍戦法研究中から脳裡を離れなかった「航空戦が怪しい」と考えたあれであった。その”あれ”が今、堀の目の前にある。
―いったい誰がどこで、どのようにして戦果を確認していたのだろうか?
―この姿こそあのギルバート、ブーゲンビル島沖航空戦の偽戦果と同じではないか?今村大将のタロキナ上陸の米軍撃退作戦の失敗の原因となった、あれでは?(堀栄三著、大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇(文春文庫)より引用、適宜改行)


さて、前振りが長くなりましたが、何でこんなお話をおっぱじめたかと申しますと、徒然なるままに久々に国会の会議録を見ていたら愕然とする質疑を発見してしまったのがそもそもの始まりなんでございまする。ちと古い話になるのですが6月9日の衆議院財務金融委員会。日銀が定例の「通過及び金融の調節に関する報告書」の報告を行なった日でして、法案質疑ではなくてまぁ日銀総裁へのご質問大会でして、公明党の谷口隆義委員と民主党の五十嵐文彦委員、共産党の佐々木憲昭委員と質問者少ないので一人あたりの時間が長い委員会でした。

で、そこで公明党の谷口委員が色々と質問をしているのですが、決済システムインフラに関する質疑でこんな質問をおっぱじめて入るのですよ先生。(長いから適宜改行します)

『それで次に、バックアップといいますか、大正のときに起こった関東大震災のときに、日本経済が大変混乱をして、麻痺をして、当時の日銀も大混乱をして、震災手形と言われるようなものが出てまいりまして、日銀が割り引く、再割引をするといったようなことになって、それが大恐慌の一つのきっかけになったと言われております。』

『日本銀行の日銀ネットというのは非常に重要でございます。これが安定的に、混乱をしない状況をつくっていかなければなりません。最近は即時決済システムというようなことも入れられてやられておるわけでございますが、また仮に関東大震災と言われるようなものが起こりますと大混乱になりかねない。』

『そのことも含めまして、今、システムのバックアップで、日本銀行にお伺いいたしますと、大阪にもう一つのシステムを置いていらっしゃる、バックアップ体制をつくっていらっしゃるというようなことでございます。』

どうも前後の話の流れを総合すると「政策決定会合をたまには大阪でやりなさい」とかいう話になっております。大阪地区選出の議員が我田引水ならぬ我田引日銀でもしようという話の展開の豪快さにも香しいものを感じるのですが、それより問題なのは「震災手形」のお話。

震災手形っつーのはそもそも関東大震災での被害(当時の国家一般財政規模が20億円余りで、物的被害額は日銀の推算では45億円)によって流通困難になった手形(政府推計で21億円、うち特に決済困難なものは5億円)を流動化するために震災手形割引損失補償令を公布して日銀特融を行なったものであって、そもそも決済インフラの問題とまるで関係ないお話。震災手形は昭和大恐慌の一つのきっかけと言えばまぁそうなんでしょうが、それよりも、第1次世界大戦時に過剰に膨張した信用の収縮の後処理をその場凌ぎの辻褄合わせ的弥縫策で問題を先送りしたら、世界恐慌にぶちあたって先送りが崩壊したと言う方が正しかろう。

という事で、この話の持っていき方は激しくトンチンカンで、恐らく福井総裁以下政府参考人サイドは全員苦笑を禁じえなかったのではないかと思う訳です。で、まぁこれだけならば「ああ、しょうもない議員に質問させているな〜」と例によって笑っていればいいのですが、この議員先生、実を言いますと財務副大臣をやっていて、政府からの出席者と言うことで金融政策決定会合にも出席したりしているお方なのですな、これがまた。

まぁ議員先生は他にも色々やる事があるから、別に何でも知っている必要があるとは申しませんし、そんなの無理な話なのですが、このように「中途半端な間違い」状態で財務副大臣という政策部門の枢要(なのか盲腸なのかは知りませんが)なる役職に就かれてしまうのは激しくいかがなものかと思う訳です。誤った基本認識で雪中行軍隊を悪意なく死地へと連れて行った特務曹長になられるのではないかと懸念する訳です。

ちなみにこの先生のWebをちょっと拝見しましたが、本人の「売り」は「公認会計士出身の初の衆議院議員」だったようなので、恐らく党ではバリバリの「経済通」となっているのでしょう(でなければ財務担当副大臣なんぞやってませんし)ね。ご本人公認会計士をやっておられたのですから、法令規則がコロコロ変わる財務会計の実務で「生半可な知識」が一番恐ろしいということはご存知だと思いますが。

財務副大臣の昭和金融恐慌に対する認識が何かずれている(ように見える)というのは何とも不安になっちゃう訳ですな。


ま、生半可に知識を仕入れていっぱしの通の積りになっている時は誰かに指摘されないとその誤りに気がつかない訳でして、最近あたくしはできるだけ信用できるソースを参考にしたりテキストにしたりするように心掛けている積りですが、やはり同じよ〜な「間の抜けた半端な知識」は多々あるんだろうな〜と拙文を書きながら思うのでありました。読者の皆様におかれましては是非ともあたくしの認識違いを発見したらご指摘賜りますと誠に幸いでございます。

では〜(^^)





2004/07/28

お題「非正規雇用の拡大は家計に好影響?」

昨日の債券市場は他市場の動きとあまり関係なく市場の内部要因で下がったような雰囲気(米国の長期金利は上昇していますが)でして、なんとも不気味なのですがとりあえずよー判らんので書き様が無いと言うのがホンネです。

で、まぁ書き様がない話について書いても仕方が無い訳ですので、ちょこちょこと色々な調べ物をしてみようと思いたちまして探していると「何だかな〜」って思いを深くするような物件が色々と出てくるわけですな、こりゃ。

http://www/boj.or.jp/ronbun/04/rev04j03.htm

日銀レビュー・シリーズってのがあります。どちらかというと学術的にどうのこうのというよりはシロートにも判りやすく簡潔に金融経済の最近の話題についてお話をするって趣旨で毎月いろんなネタで出てくる物。日銀の正式見解を必ずしも示すものではないのですが、まぁ「こういう風に解説できますな〜」って事でしょう。

今回のお題は「雇用形態の多様化とその影響〜パート・派遣・請負の拡大をどう考えるか」というお話でして、上記Webには要旨が載っておりまして、全文は上記Webにリンクがございます。大した長さでもありませんのでお暇なときに。

で、そこの要旨にも書いてあるのですが、話の流れが何ともアレな内容。確かにそういう考え方もあるのですけど、それを日銀が出すのもどうなのかって印象。

「非正規雇用(パート、派遣、請負)が拡大している」ことの影響に関して雇用期間の短期化、一人あたり賃金の抑制効果、企業活力の回復を通じる家計への好影響、というのを挙げていて、よーするに結論としていわゆる非正規雇用が拡大しているのは企業部門の活性化→家計に好影響という理屈になっています。企業の人件費を全体として抑制することによって企業活力が活性化すると、景気が回復して雇用が回復するので家計に好影響って話なのですが、その理屈は何か単に労働者間での分配が変わっただけなのでは無いかと言う気も。

まぁよく言えば「ワークシェアリング」ですし、適正な労働分配が実施されるというお話になるのかも知れませんが、当論文でも「定型業務のウェイトが高い・平均賃金が低い」と指摘している非正規雇用が拡大して労働分配の適正化が達成されるという論理展開はどうよって感じですな。「非正規雇用の拡大に伴って雇用や賃金の調整が、企業内部ではなく労働市場を通じて行なわれる度合いが高まり、それだけ労働市場の役割が増している」(要旨より)という理屈になると、ちょっと待ってくれよって感じなのですが。


正規雇用の流動化という形で労働市場が拡大するというお話なら判るのですが、非正規雇用の労働市場って何のこっちゃっていうイメージも。もちろん「労働市場の現状を見ると、ミスマッチが根強く存在しており、人材の育成や再教育を含めた広い意味での労働市場に、高いマッチング機能が備わるように更なる環境整備を図る事が重要」という風に締めておりますので、ちゃんと問題点への指摘もされております。

もっと惜しいのは「若年層の失業率の高止まりの要因として、正規雇用の若年層の仕事が非正規雇用で代替されている面は無視できない」と指摘しているのですが、そういう部分は「要旨」には書いていないので、一見した時の印象として「非正規雇用の拡大は結構な事です」という趣旨がクローズアップする訳ですな。


ま、言っている事は理屈として間違った話ではないのですが、「非正規雇用の拡大は企業活力の回復などを通じて、新たな雇用の創出につながっている面もあると考えられる」ということを「日本銀行」に言われるとなんとなく「ちょっとそれはどうよ」って感情のどこかが言うのはあたくしだけでしょうか。

福井総裁は副総裁退任後に富士通総合研究所(なのでまぁ結構浮世離れしている事には変わりないですが)という外部に転出し、経済同友会での活動なども含めまして外部から日銀を見る機会を持った事もあって「結局政策を成功させるためには外部からの理解が必要」ってことでちょっと気を使いすぎな程に色々と気を使っている(ただのエエカッコシイという説もありますが)のですが、一方で平然と(論理展開がちと違和感があるが、別に無茶苦茶な話をしている訳ではないと言う意味で)「正論だけどもそりゃちょっと当事者に面と向って言ったときにどうよ」っていう論文(というかレポート)が絶賛大公開される訳ですな。

まぁ冷静に分析するのは大事ですから、それはそれでやって頂くとしても、やはりアンビバレントな感情と申しますか何と申しますか、何かわざわざ日銀の名前で出す事はないんじゃないのって感じな訳です。労働経済学者にでも言って頂ければ済むお話であって、理屈は正しいけど政治的というか感情的にどうよっていうのが結論ですな。

頭で何となく理解はできるのだが、何となく違和感がある議論ってのはどこかに何かがある筈なのですが、あたくしの知能程度が低いのか、あたくしについている感情が問題なのか、その違和感がスッキリしないままダラダラと歯切れの悪い文章をお書き致しました事を陳謝致します。正直、歯切れが悪すぎてこのネタを持ち出したのはちょっと失敗だったと後悔しつつも、歯切れの悪いまま拙文が終了するのでありました、とほほのほ。






2004/07/27

お題「しつこく総裁講演に絡むあたくし」

ご存知のように債券市場が閑古鳥大合唱ですので、しつこくも本日もまた先日の日銀総裁講演の続き。何と申しますかこの講演「福井先生の金融ゼミ」って感じなのですが、ゼミの行なわれている場所が日本経済研究センター主催の会。そこで為される講演を仔細に見ていると現実離れしたお話が満載状態なのは如何なものかと思う訳ですな。

昨日は企業金融の話に突っ込んだのですが、本日はその続きに突っ込みつつちょいと別の話も交えながら。

○金融機関が事業会社にリスクヘッジ手段を提供するそうですが

『また企業活動は日常的に、為替リスクや市場リスク、さらには取引相手の信用リスクなど、様々なリスクにさらされており、これらに対するヘッジ手段の提供といった面でも、金融機関の貢献が重要となっています。』

既にこの時点で突っ込みが入る所なのですが後述します。

『しかも今後は、企業の活動が一層多様化するのに伴って、リスクヘッジのニーズも多様化し、事業の性格に応じた特別仕立の(カスタマイズされた)リスクヘッジも求められるようになるものと予想されます。』

事業活動が多様化するので色々なリスクヘッジをしないといけないという理屈は一見尤もらしいのですが、そもそもコントロール不可能なリスクを取るような事業に打って出る時点で入口が間違っている訳ですな。まぁ普通新規事業やら事業分野の拡大やらをする時に、その事業が失敗して会社がいきなりお陀仏さんになるような大勝負をするのは余程乾坤一擲大勝負をしないといけない人でして、そもそもそう言う方がヘッジがどうのこうのなんぞ考える余裕も無い訳ですな。

『金融理論とITの発達は、複雑なリスクでも計量化を可能にしてきましたが、それでも、個別のヘッジニーズに応えるのは容易ではありません。特別仕立の度合いが強いほど、リスクの受け手を探すことが困難化するからです。しかし金融機関は、顧客の特別なリスクについても、標準的なリスクに分解・加工できるところは極力そうした上で、自己勘定の中で相殺・吸収するとか、はみ出すリスクを市場で再ヘッジする、といった能力を有しています。とくにリスクの加工や再ヘッジの過程では、保険機能の活用も含め、専門知識を有する多様な金融機関の間での分業が威力を発揮すると思われます。』

もしかしてこの後半は最近流行の「天候デリバティブ」を意識してお話をしているのかと。まぁ本質的に「お天気保険」なのを最新の金融技術を駆使したようになっている訳で、実際に何か色々と理論はあります。98年だったか99年だったか忘れましたが、海外のその手のデリバティブ雑誌に「Risk」とかいうのがありまして、理論的背景を大特集しておりました。正直数学の出来ない理学士のあたくしにはお経よりも難しかったのですが、「ふーん」と思った覚えが。

話は脱線しますが、大体「新しい金融理論」と言っているのは数年前に米国で実証済みのお話(金融政策論のように米国で提唱されているものを日本で核兵器実験の如く実験するような実証未済の場合もありますが)でして、それを日本に持ち込んでどうのこうのという姿をみていると、アイテーバブル時代にベンチャー三銃士だのカリスマだの言われていたどこぞの禿が提唱していた「タイムマシン経営」と同工異曲ですの〜と思ってしまう訳です。関係ない話ですが。

金融理論で複雑なリスクを計量化可能というお話。確かに理屈の上で計算することはできる訳ですが、昨年の債券市場集団自殺相場に見られるように、モジュールでリスクの計量は出来ても、それで損失を本当に回避できるかと言うとそれは全く別の問題でして、大体皆が同じモジュールを使っていたら何かが起きた時には全員でスパイラル的に集団自殺をする事になり、大体そういう時に最大損失が発生するように世の中というのは上手くできている訳です。

金融理論の落とし穴というのがありまして、基本的に金融理論、特に保険というかオプションというのは確率統計の世界ですので、最大の落とし穴「異常値」に対応できない訳です(色々と異常値に対応するような理論もあるのかもしれませんが)が、大体碌でもない損失が発生するのはこの「異常値」が発生するような時。金融理論の限界もご承知の上でお話しているのであればまぁ無問題なのですがね。

ま、それ以前の問題に戻りますと、企業の事業リスクなんて「最新の金融理論」と無関係な所で色々と発生する訳でして、そっちのヘッジということであれば「株主代表訴訟保険」みたいな世界で、実は精々大数の法則程度の世界で済んでしまう話だったりする訳です。というか先ほども申し上げたように、事業展開においてそんなに訳の判らないリスクが発生するようなものに手を出すべきではないと思うのですが。


○机上の話は美しいのですが

どうも最近の日銀(だけでなくて金融庁もそうなのですが)は何でもかんでも「最新の金融理論的手法」を持ち出すと何でも計量的な分析が可能であって、とにかく小難しい理論を持ち出して美しく分析をしたくなるという傾向にあるようです。今回の日銀総裁の講演を粘着状態でいちゃもんつけてますが、昔からその傾向はあった(副総裁時代に「営業局」を廃止したり)日銀総裁が益々「机上で考えた事をそのまま実行」みたいな動きに拍車を掛けてきているのを非常に懸念しているっつー事であります。

どうも「まず頭で考えた結論ありき」から思考が始まっているのではないかと思うのは、この後に「家計部門への金融機関の貢献」というようなお話の中で随所に展開されているのですよ先生。

『まず、家計の資金運用ニーズに着目すると、家計のリスク選好は、環境の変化に実に敏感に反応していることが見てとれます。例えば、銀行券発行残高の動きを見ますと、ペイオフ部分解禁のあった2002年4月には前年比16%もの高い伸びを示していましたが、信用不安の後退につれて最近では1%台の伸びに止まっています。その一方で、個人の株式投資意欲は企業業績の改善につれて高まっており、2003年度の個人の株式売買シェアは、非居住者に次いで2割強まで上昇しています。』

確かに統計はそうだと申しておりますが、例えば個人の株式売買シェアが2割強って言ってもそれは証券自己なみに売買するひとがわんさかいる事が寄与しているのではないかと思わず突っ込みたくなる訳です。

『従来は、個人にとって臨時かつ短期間の資金ニーズが生じた場合、定期預金の解約や金融資産の売却によって資金手当てを行うケースが多かったように思います。これには、日本の消費者金融がまだ十分には機能していないことも影響している可能性があります。確かに、銀行と消費者金融会社のローン金利の間には大きな開きがあり、このことは充足されていない個人の借入ニーズが存在することを示唆しています。』

企業金融でもそうなのですが、この手の話は何度もされており、時々思い出したように「充足されていないニーズ」とやらで商売しようと打って出る人たちがいるのですが、散々テレビで宣伝しているにも関らず相変わらず業績絶賛低迷中のキャッシュ○ンだのモ○ットだのを見ておりますとお判りのように、正直言って中間層の借り入れというものは存在し無い訳ですな。

精々クレジットカードのキャッシングや銀行のカードローン。そもそも総合当座貸越という便利なものもある訳で、それこそ定期預金を解約しないといけないような臨時資金のニーズでわざわざ手間隙かけて金貸しの門をくぐるほど暇な人はいないと思いますが。

なお、この部分に関しては昨日の時事メインコラム「金融観測」で「日銀の危ない個人金融観=庶民は借金で犬を買うべし?」というお題で鋭く突っ込んでおられますので是非そちらをご覧下さい。つーか勝手に参考にしているという説もありますが、スイマセン。


まーそんな感じで一事が万事「本当にこのお方実態をわかって話をしているのか」と激しく不安に駈られる訳ですよ。別にお育ち良くておエリート様で箸より重いもの持った事がなくても良いのですが、せめて現場で何が起きているのかを少しでも理解してから各種政策を推進していただかないと。結果として現実から遊離した有害無益な政策になってしまうか、あるいは現実とのギャップを埋めるために現場に無茶苦茶な負担が掛かるかと、どちらにしても碌でもない事が起きるわけですな。激しく懸念されるものであります。 2004/07/29

お題「誤ったな現状認識は無知より有害なのでは」

まぁ自戒を激しく込めて申し上げますと、物事の現実に関して中途半端な理解と申しますか、過てる認識をもっている場合というのは、間違いを元にしてその後の行動が積み上げられる訳ですから、努力すればするほど進む方向が間違ってしまうという悲劇の結果になる訳です。歴史を見ればそのような事例には事欠かない訳でして、だいぶ昔に書いたあたくしの拙文でご紹介した新田次郎氏の名著「八甲田山死の彷徨」もそうですし、大東亜戦争末期の台湾沖航空戦もまた然り。

「山口大隊長は佐藤特務曹長が田代への道を知っていると話したのを軽率に信用し、この雪中行軍の指揮官たる神成大尉に相談せず、『然らば案内せよ』と命じて暗夜田代へ向け行軍したが、進路を誤り、駒込川本流に迷いこみ一歩も進むことができなくなった。雪中行軍のあの悲惨事は実に山口大隊長が軽率にも、行軍計画者であり、指揮官である神成大尉に相談せず命令を発したのがそもそもの原因である」(新田次郎著、八甲田山死の彷徨(新潮文庫)より引用)

鹿屋の海軍飛行場に着いたのが午後一時過ぎ。飛行場脇の大型ピストの前は十数人の下士官や兵士が慌しく行き来して、大きな黒板の前に坐った司令官らしい将官を中心に、数人の幕僚たちに戦禍を報告していた。
「○○機、空母アリゾナ型撃沈!」「よーし、ご苦労だった!」(途中割愛)黒板の戦果は次々と膨らんでいく。「わっ」という歓声が、そのたびごとにピストの内外に湧き上がる。
堀の頭の中には、幾つかの疑問が残った。敵軍戦法研究中から脳裡を離れなかった「航空戦が怪しい」と考えたあれであった。その”あれ”が今、堀の目の前にある。
―いったい誰がどこで、どのようにして戦果を確認していたのだろうか?
―この姿こそあのギルバート、ブーゲンビル島沖航空戦の偽戦果と同じではないか?今村大将のタロキナ上陸の米軍撃退作戦の失敗の原因となった、あれでは?(堀栄三著、大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇(文春文庫)より引用、適宜改行)


さて、前振りが長くなりましたが、何でこんなお話をおっぱじめたかと申しますと、徒然なるままに久々に国会の会議録を見ていたら愕然とする質疑を発見してしまったのがそもそもの始まりなんでございまする。ちと古い話になるのですが6月9日の衆議院財務金融委員会。日銀が定例の「通過及び金融の調節に関する報告書」の報告を行なった日でして、法案質疑ではなくてまぁ日銀総裁へのご質問大会でして、公明党の谷口隆義委員と民主党の五十嵐文彦委員、共産党の佐々木憲昭委員と質問者少ないので一人あたりの時間が長い委員会でした。

で、そこで公明党の谷口委員が色々と質問をしているのですが、決済システムインフラに関する質疑でこんな質問をおっぱじめて入るのですよ先生。(長いから適宜改行します)

『それで次に、バックアップといいますか、大正のときに起こった関東大震災のときに、日本経済が大変混乱をして、麻痺をして、当時の日銀も大混乱をして、震災手形と言われるようなものが出てまいりまして、日銀が割り引く、再割引をするといったようなことになって、それが大恐慌の一つのきっかけになったと言われております。』

『日本銀行の日銀ネットというのは非常に重要でございます。これが安定的に、混乱をしない状況をつくっていかなければなりません。最近は即時決済システムというようなことも入れられてやられておるわけでございますが、また仮に関東大震災と言われるようなものが起こりますと大混乱になりかねない。』

『そのことも含めまして、今、システムのバックアップで、日本銀行にお伺いいたしますと、大阪にもう一つのシステムを置いていらっしゃる、バックアップ体制をつくっていらっしゃるというようなことでございます。』

どうも前後の話の流れを総合すると「政策決定会合をたまには大阪でやりなさい」とかいう話になっております。大阪地区選出の議員が我田引水ならぬ我田引日銀でもしようという話の展開の豪快さにも香しいものを感じるのですが、それより問題なのは「震災手形」のお話。

震災手形っつーのはそもそも関東大震災での被害(当時の国家一般財政規模が20億円余りで、物的被害額は日銀の推算では45億円)によって流通困難になった手形(政府推計で21億円、うち特に決済困難なものは5億円)を流動化するために震災手形割引損失補償令を公布して日銀特融を行なったものであって、そもそも決済インフラの問題とまるで関係ないお話。震災手形は昭和大恐慌の一つのきっかけと言えばまぁそうなんでしょうが、それよりも、第1次世界大戦時に過剰に膨張した信用の収縮の後処理をその場凌ぎの辻褄合わせ的弥縫策で問題を先送りしたら、世界恐慌にぶちあたって先送りが崩壊したと言う方が正しかろう。

という事で、この話の持っていき方は激しくトンチンカンで、恐らく福井総裁以下政府参考人サイドは全員苦笑を禁じえなかったのではないかと思う訳です。で、まぁこれだけならば「ああ、しょうもない議員に質問させているな〜」と例によって笑っていればいいのですが、この議員先生、実を言いますと財務副大臣をやっていて、政府からの出席者と言うことで金融政策決定会合にも出席したりしているお方なのですな、これがまた。

まぁ議員先生は他にも色々やる事があるから、別に何でも知っている必要があるとは申しませんし、そんなの無理な話なのですが、このように「中途半端な間違い」状態で財務副大臣という政策部門の枢要(なのか盲腸なのかは知りませんが)なる役職に就かれてしまうのは激しくいかがなものかと思う訳です。誤った基本認識で雪中行軍隊を悪意なく死地へと連れて行った特務曹長になられるのではないかと懸念する訳です。

ちなみにこの先生のWebをちょっと拝見しましたが、本人の「売り」は「公認会計士出身の初の衆議院議員」だったようなので、恐らく党ではバリバリの「経済通」となっているのでしょう(でなければ財務担当副大臣なんぞやってませんし)ね。ご本人公認会計士をやっておられたのですから、法令規則がコロコロ変わる財務会計の実務で「生半可な知識」が一番恐ろしいということはご存知だと思いますが。

財務副大臣の昭和金融恐慌に対する認識が何かずれている(ように見える)というのは何とも不安になっちゃう訳ですな。


ま、生半可に知識を仕入れていっぱしの通の積りになっている時は誰かに指摘されないとその誤りに気がつかない訳でして、最近あたくしはできるだけ信用できるソースを参考にしたりテキストにしたりするように心掛けている積りですが、やはり同じよ〜な「間の抜けた半端な知識」は多々あるんだろうな〜と拙文を書きながら思うのでありました。読者の皆様におかれましては是非ともあたくしの認識違いを発見したらご指摘賜りますと誠に幸いでございます。

では〜(^^)





2004/07/28

お題「非正規雇用の拡大は家計に好影響?」

昨日の債券市場は他市場の動きとあまり関係なく市場の内部要因で下がったような雰囲気(米国の長期金利は上昇していますが)でして、なんとも不気味なのですがとりあえずよー判らんので書き様が無いと言うのがホンネです。

で、まぁ書き様がない話について書いても仕方が無い訳ですので、ちょこちょこと色々な調べ物をしてみようと思いたちまして探していると「何だかな〜」って思いを深くするような物件が色々と出てくるわけですな、こりゃ。

http://www/boj.or.jp/ronbun/04/rev04j03.htm

日銀レビュー・シリーズってのがあります。どちらかというと学術的にどうのこうのというよりはシロートにも判りやすく簡潔に金融経済の最近の話題についてお話をするって趣旨で毎月いろんなネタで出てくる物。日銀の正式見解を必ずしも示すものではないのですが、まぁ「こういう風に解説できますな〜」って事でしょう。

今回のお題は「雇用形態の多様化とその影響〜パート・派遣・請負の拡大をどう考えるか」というお話でして、上記Webには要旨が載っておりまして、全文は上記Webにリンクがございます。大した長さでもありませんのでお暇なときに。

で、そこの要旨にも書いてあるのですが、話の流れが何ともアレな内容。確かにそういう考え方もあるのですけど、それを日銀が出すのもどうなのかって印象。

「非正規雇用(パート、派遣、請負)が拡大している」ことの影響に関して雇用期間の短期化、一人あたり賃金の抑制効果、企業活力の回復を通じる家計への好影響、というのを挙げていて、よーするに結論としていわゆる非正規雇用が拡大しているのは企業部門の活性化→家計に好影響という理屈になっています。企業の人件費を全体として抑制することによって企業活力が活性化すると、景気が回復して雇用が回復するので家計に好影響って話なのですが、その理屈は何か単に労働者間での分配が変わっただけなのでは無いかと言う気も。

まぁよく言えば「ワークシェアリング」ですし、適正な労働分配が実施されるというお話になるのかも知れませんが、当論文でも「定型業務のウェイトが高い・平均賃金が低い」と指摘している非正規雇用が拡大して労働分配の適正化が達成されるという論理展開はどうよって感じですな。「非正規雇用の拡大に伴って雇用や賃金の調整が、企業内部ではなく労働市場を通じて行なわれる度合いが高まり、それだけ労働市場の役割が増している」(要旨より)という理屈になると、ちょっと待ってくれよって感じなのですが。


正規雇用の流動化という形で労働市場が拡大するというお話なら判るのですが、非正規雇用の労働市場って何のこっちゃっていうイメージも。もちろん「労働市場の現状を見ると、ミスマッチが根強く存在しており、人材の育成や再教育を含めた広い意味での労働市場に、高いマッチング機能が備わるように更なる環境整備を図る事が重要」という風に締めておりますので、ちゃんと問題点への指摘もされております。

もっと惜しいのは「若年層の失業率の高止まりの要因として、正規雇用の若年層の仕事が非正規雇用で代替されている面は無視できない」と指摘しているのですが、そういう部分は「要旨」には書いていないので、一見した時の印象として「非正規雇用の拡大は結構な事です」という趣旨がクローズアップする訳ですな。


ま、言っている事は理屈として間違った話ではないのですが、「非正規雇用の拡大は企業活力の回復などを通じて、新たな雇用の創出につながっている面もあると考えられる」ということを「日本銀行」に言われるとなんとなく「ちょっとそれはどうよ」って感情のどこかが言うのはあたくしだけでしょうか。

福井総裁は副総裁退任後に富士通総合研究所(なのでまぁ結構浮世離れしている事には変わりないですが)という外部に転出し、経済同友会での活動なども含めまして外部から日銀を見る機会を持った事もあって「結局政策を成功させるためには外部からの理解が必要」ってことでちょっと気を使いすぎな程に色々と気を使っている(ただのエエカッコシイという説もありますが)のですが、一方で平然と(論理展開がちと違和感があるが、別に無茶苦茶な話をしている訳ではないと言う意味で)「正論だけどもそりゃちょっと当事者に面と向って言ったときにどうよ」っていう論文(というかレポート)が絶賛大公開される訳ですな。

まぁ冷静に分析するのは大事ですから、それはそれでやって頂くとしても、やはりアンビバレントな感情と申しますか何と申しますか、何かわざわざ日銀の名前で出す事はないんじゃないのって感じな訳です。労働経済学者にでも言って頂ければ済むお話であって、理屈は正しいけど政治的というか感情的にどうよっていうのが結論ですな。

頭で何となく理解はできるのだが、何となく違和感がある議論ってのはどこかに何かがある筈なのですが、あたくしの知能程度が低いのか、あたくしについている感情が問題なのか、その違和感がスッキリしないままダラダラと歯切れの悪い文章をお書き致しました事を陳謝致します。正直、歯切れが悪すぎてこのネタを持ち出したのはちょっと失敗だったと後悔しつつも、歯切れの悪いまま拙文が終了するのでありました、とほほのほ。






2004/07/27

お題「しつこく総裁講演に絡むあたくし」

ご存知のように債券市場が閑古鳥大合唱ですので、しつこくも本日もまた先日の日銀総裁講演の続き。何と申しますかこの講演「福井先生の金融ゼミ」って感じなのですが、ゼミの行なわれている場所が日本経済研究センター主催の会。そこで為される講演を仔細に見ていると現実離れしたお話が満載状態なのは如何なものかと思う訳ですな。

昨日は企業金融の話に突っ込んだのですが、本日はその続きに突っ込みつつちょいと別の話も交えながら。

○金融機関が事業会社にリスクヘッジ手段を提供するそうですが

『また企業活動は日常的に、為替リスクや市場リスク、さらには取引相手の信用リスクなど、様々なリスクにさらされており、これらに対するヘッジ手段の提供といった面でも、金融機関の貢献が重要となっています。』

既にこの時点で突っ込みが入る所なのですが後述します。

『しかも今後は、企業の活動が一層多様化するのに伴って、リスクヘッジのニーズも多様化し、事業の性格に応じた特別仕立の(カスタマイズされた)リスクヘッジも求められるようになるものと予想されます。』

事業活動が多様化するので色々なリスクヘッジをしないといけないという理屈は一見尤もらしいのですが、そもそもコントロール不可能なリスクを取るような事業に打って出る時点で入口が間違っている訳ですな。まぁ普通新規事業やら事業分野の拡大やらをする時に、その事業が失敗して会社がいきなりお陀仏さんになるような大勝負をするのは余程乾坤一擲大勝負をしないといけない人でして、そもそもそう言う方がヘッジがどうのこうのなんぞ考える余裕も無い訳ですな。

『金融理論とITの発達は、複雑なリスクでも計量化を可能にしてきましたが、それでも、個別のヘッジニーズに応えるのは容易ではありません。特別仕立の度合いが強いほど、リスクの受け手を探すことが困難化するからです。しかし金融機関は、顧客の特別なリスクについても、標準的なリスクに分解・加工できるところは極力そうした上で、自己勘定の中で相殺・吸収するとか、はみ出すリスクを市場で再ヘッジする、といった能力を有しています。とくにリスクの加工や再ヘッジの過程では、保険機能の活用も含め、専門知識を有する多様な金融機関の間での分業が威力を発揮すると思われます。』

もしかしてこの後半は最近流行の「天候デリバティブ」を意識してお話をしているのかと。まぁ本質的に「お天気保険」なのを最新の金融技術を駆使したようになっている訳で、実際に何か色々と理論はあります。98年だったか99年だったか忘れましたが、海外のその手のデリバティブ雑誌に「Risk」とかいうのがありまして、理論的背景を大特集しておりました。正直数学の出来ない理学士のあたくしにはお経よりも難しかったのですが、「ふーん」と思った覚えが。

話は脱線しますが、大体「新しい金融理論」と言っているのは数年前に米国で実証済みのお話(金融政策論のように米国で提唱されているものを日本で核兵器実験の如く実験するような実証未済の場合もありますが)でして、それを日本に持ち込んでどうのこうのという姿をみていると、アイテーバブル時代にベンチャー三銃士だのカリスマだの言われていたどこぞの禿が提唱していた「タイムマシン経営」と同工異曲ですの〜と思ってしまう訳です。関係ない話ですが。

金融理論で複雑なリスクを計量化可能というお話。確かに理屈の上で計算することはできる訳ですが、昨年の債券市場集団自殺相場に見られるように、モジュールでリスクの計量は出来ても、それで損失を本当に回避できるかと言うとそれは全く別の問題でして、大体皆が同じモジュールを使っていたら何かが起きた時には全員でスパイラル的に集団自殺をする事になり、大体そういう時に最大損失が発生するように世の中というのは上手くできている訳です。

金融理論の落とし穴というのがありまして、基本的に金融理論、特に保険というかオプションというのは確率統計の世界ですので、最大の落とし穴「異常値」に対応できない訳です(色々と異常値に対応するような理論もあるのかもしれませんが)が、大体碌でもない損失が発生するのはこの「異常値」が発生するような時。金融理論の限界もご承知の上でお話しているのであればまぁ無問題なのですがね。

ま、それ以前の問題に戻りますと、企業の事業リスクなんて「最新の金融理論」と無関係な所で色々と発生する訳でして、そっちのヘッジということであれば「株主代表訴訟保険」みたいな世界で、実は精々大数の法則程度の世界で済んでしまう話だったりする訳です。というか先ほども申し上げたように、事業展開においてそんなに訳の判らないリスクが発生するようなものに手を出すべきではないと思うのですが。


○机上の話は美しいのですが

どうも最近の日銀(だけでなくて金融庁もそうなのですが)は何でもかんでも「最新の金融理論的手法」を持ち出すと何でも計量的な分析が可能であって、とにかく小難しい理論を持ち出して美しく分析をしたくなるという傾向にあるようです。今回の日銀総裁の講演を粘着状態でいちゃもんつけてますが、昔からその傾向はあった(副総裁時代に「営業局」を廃止したり)日銀総裁が益々「机上で考えた事をそのまま実行」みたいな動きに拍車を掛けてきているのを非常に懸念しているっつー事であります。

どうも「まず頭で考えた結論ありき」から思考が始まっているのではないかと思うのは、この後に「家計部門への金融機関の貢献」というようなお話の中で随所に展開されているのですよ先生。

『まず、家計の資金運用ニーズに着目すると、家計のリスク選好は、環境の変化に実に敏感に反応していることが見てとれます。例えば、銀行券発行残高の動きを見ますと、ペイオフ部分解禁のあった2002年4月には前年比16%もの高い伸びを示していましたが、信用不安の後退につれて最近では1%台の伸びに止まっています。その一方で、個人の株式投資意欲は企業業績の改善につれて高まっており、2003年度の個人の株式売買シェアは、非居住者に次いで2割強まで上昇しています。』

確かに統計はそうだと申しておりますが、例えば個人の株式売買シェアが2割強って言ってもそれは証券自己なみに売買するひとがわんさかいる事が寄与しているのではないかと思わず突っ込みたくなる訳です。

『従来は、個人にとって臨時かつ短期間の資金ニーズが生じた場合、定期預金の解約や金融資産の売却によって資金手当てを行うケースが多かったように思います。これには、日本の消費者金融がまだ十分には機能していないことも影響している可能性があります。確かに、銀行と消費者金融会社のローン金利の間には大きな開きがあり、このことは充足されていない個人の借入ニーズが存在することを示唆しています。』

企業金融でもそうなのですが、この手の話は何度もされており、時々思い出したように「充足されていないニーズ」とやらで商売しようと打って出る人たちがいるのですが、散々テレビで宣伝しているにも関らず相変わらず業績絶賛低迷中のキャッシュ○ンだのモ○ットだのを見ておりますとお判りのように、正直言って中間層の借り入れというものは存在し無い訳ですな。

精々クレジットカードのキャッシングや銀行のカードローン。そもそも総合当座貸越という便利なものもある訳で、それこそ定期預金を解約しないといけないような臨時資金のニーズでわざわざ手間隙かけて金貸しの門をくぐるほど暇な人はいないと思いますが。

なお、この部分に関しては昨日の時事メインコラム「金融観測」で「日銀の危ない個人金融観=庶民は借金で犬を買うべし?」というお題で鋭く突っ込んでおられますので是非そちらをご覧下さい。つーか勝手に参考にしているという説もありますが、スイマセン。


まーそんな感じで一事が万事「本当にこのお方実態をわかって話をしているのか」と激しく不安に駈られる訳ですよ。別にお育ち良くておエリート様で箸より重いもの持った事がなくても良いのですが、せめて現場で何が起きているのかを少しでも理解してから各種政策を推進していただかないと。結果として現実から遊離した有害無益な政策になってしまうか、あるいは現実とのギャップを埋めるために現場に無茶苦茶な負担が掛かるかと、どちらにしても碌でもない事が起きるわけですな。激しく懸念されるものであります。





2004/07/26

お題「引き続き福井総裁の講演」

本題の前に金曜の債券市場。いきなり現物中期債というか中短期ゾーンのスワップに売り(払い)が出て相場下落。まーある程度下落する事もあろうかと思いますが、いきなり直近発行の5年38回債が安値更新をしてしまいましてちと驚きでした。何でも日経新聞1面の囲み記事で先日の日銀総裁講演が取り上げられて、どこをどう読むとそうなるのかサッパリ判らないのですが「量的緩和の出口政策を検討していることを示唆」などというお話だったようです。

超長期国債の入札がまぁほぼ無難に終了し、日本株が相変わらず弱体商状だというのにいきなり売りがご登場って事ですので、まぁ常識的に考えるとまたも新聞記事に踊らされて偉い人から「大丈夫か」の鶴の一声でもあったのかという感じであります。日経新聞も「景気回復で金利上昇」という「甘いささやき」がお好きなようで(-_-メ)、困ったものです。

それはそれとして福井日銀総裁の講演。お題は「金融サービスの高度化――経済の将来を切り開く」という奴ですので、金融政策の出口がどうのこうのというのは本題ではありませんでして、銀行経営に関するお話が本題。ご存知のように日本銀行は「銀行の銀行」でありまして、銀行の元締めとして銀行の現状をご認識していただきたいのですが、今に始まった事ではないのですけど兎に角現状認識が恐ろしくステレオタイプな状態であります。

別に福井さん個人が銀行経営の現状に関して紋切り型の事しか判っていないならば「アフォじゃの〜♪」と言って笑っていればよいのですが、何せ「銀行の元締めの親分」なので、トップのトップがこの調子では銀行監督行政がまともに回るとは思えないわけでして、激しく懸念される所でございます。


○担保を取ることと担保に依存する事は別ですが

金融機関のあり方として「効率的な信用供給」というのを挙げつつこのようなお話をしております。

『信用供給面では、新たな事業が求める高度で多様な資金調達ニーズに十分応え得るよう、金融機関側の工夫が不断に求められています。現に金融機関は、不動産担保への偏重を見直しながら、事業の将来キャッシュフローの評価を基本に、担保に依存しない与信を広げようとしています。』

「担保に依存する貸出」という言い方にはど〜も引っ掛かる訳でございます。現実に貸出をするための原資は銀行の場合は預金。預金というのはご存知のように元利払いを保証しているものでございまして、預かってきた預金に利子をつけて(最近は碌に付いていないようですが)お支払する為に貸出金に対して保全措置を取るのは預金者様に対して当然為すべき事ではないかと思う訳です。

まぁ確かに1980年代後半には「とりあえず金借りて株か不動産でも買いますか」状態でしたんで、あたくしが金貸しの手先だった頃にこの時代の貸出稟議書を見ますと「担保がありゃー金を貸す」という見ていて実に馬鹿馬鹿しい案件があちこちに転がっていた訳であります。これは確かに「担保に依存した貸出」って奴でしょう。

しかし、あたくしが金貸しの現場に立っていた時には既に不動産も株もバブル崩壊モードでして、曲がりなりにも事業の将来採算性がどうのこうのとか言う事は気にして貸出をしていた(ただし絶賛担保割れという話が多い訳ですが)訳でして、その貸出金の回収見込みについてやたらと五月蝿くなったために担保をビシバシ徴求しましょって話になっていた訳です。

確かに「担保が無いと入口時点で門前払い」というのも如何なものかとは思うのですが、元利金の支払を保証して調達した資金の運用として貸出を行なっているのですから、福井総裁が常々いうような「無担保貸出は有担保貸出よりも立派な貸出である」という論理には全くついていけないというか、融資の現場というのを理解しているのかこの人は?って感を強くする訳ですな。

『今後とも、こうした動きを推し進めていくためには、企業の取り組む新しい事業の内容に即し、キャッシュフローの評価方法を進歩させていく必要があります。また不動産担保に代えて、売掛債権や知的財産権など有形無形の価値を信用補完に活用していくことも重要になってくるものと予想されます。』

前半のキャッシュフローの評価方法の進歩というのは全く意味不明。不動産以外の担保を取りやすくする制度(というか法令というか)上の措置は推進していただきたいですが、あまり何でもかんでも担保に取れるようになると一般債権者の取り分がどんどん侵害されるので、両刃の剣でもあります。しかし冒頭の「新しい事業が求める高度で多様な資金調達ニーズ」っていうのも意味不明でして、別に新しい分野で事業をやるから高度な資金調達をする必要がある訳でもないでしょうに。というか「高度で多様な資金調達」って何よ??


○高度な資金調達の実例?

で、その続きとして証券市場の重要性について言及している訳ですが、

『また、資本市場調達が容易な大企業向けでは、証券業務の役割も重要です。例えば、最近、内外証券会社が、グローバルに活躍する本邦企業の公募転換社債を引受け、これを株価オプションと普通社債に分解し、内外の多様な投資家に転売する動きが見られます。今後、金融機関には、企業と投資家をともに満足させる高度な信用仲介が、一層必要とされるものと考えます。』

要するにCBリパッケージ。CBは債券+株式オプションの合成商品なので、それをばらして組替えるというのはまぁ裁定取引みたいなものなんですけど、このCBリパッケージというのはあたくしが債券部門の小僧だった頃から既にあった商品ですのでもう10年はあったでしょ。株価オプション部分(普通は激安お買い得オプションになる筈なのですが)は証券会社が自己ポジションで持つものと認識していましたが、国内店頭でも今は株式店頭デリバティブが解禁(1998年に解禁)になってますので、もしかしてオプションを買う人もいるのかも知れませんな、よー知らんけど。

既に「最近」と言っている時点で頭痛がするのですが、非常に単純な裁定取引を捕まえて「高度な信用仲介」呼ばわりされても激しく困るのでありまして、前段で言っていた「高度で多様な資金調達」というのがこの程度の基本的なお話(しかも全然メインの資金調達ではないのですが)をネタにしておられるとなると、恐ろしく情けないと思う訳であります。


○現実無視はなお続く

そんな話はまだ続くのですが、その流れで「企業と金融機関の今後はこうあるべきです」というようなお話になってくる訳で、これもまた福井さん何度か言及しているお話になります。

『わが国の企業と金融機関の長期にわたる緊密な関係については、企業金融の一つのモデルとして世界的にも注目されてきました。しかし今後は、互いにある明確な時間的距離を意識しながら建設的に提案し合い、チェックし合う、より時代の要請に沿った関係に修正していく必要があります。』

『このような新たな関係の下では、金融機関が企業の業況を肌理細かくレビューし、業況が変化した場合に機動的に信用供与の条件変更を行い、それを契機に企業側も業況改善への取り組みを加速する、結果として互いに時代の流れに沿って進むことができるといった、双方がメリットを享受できるようになるものと考えられます。』

機動的に信用供与の条件変更を行なったら「貸し渋り」だの「零細企業イジメ」だのと言われるのですが、そちらの方への認識はどうなっているのかと小一時間問い詰めたくなる訳です。市場で値段がつくようなモノじゃないんですから。それに業況が悪化してリスクが大きくなったからと言って信用供与の条件を厳しくしていったら相手方の負担が増加しるのですから益々業況が悪化する訳ですが。

『また、そのための工夫としては、信用供与の段階で契約継続条件(コブナンツ)をより明確化しておくことが有効であろうと思われます。また、例えば貸し手に将来の新株予約権を付けるといった技法により、債務(デット)と資本(エクイティ)を使い分けることも一案か、と思われます。』

非公開会社の新株予約権に一体全体何の価値があるのかと。大体世の中の企業というのが株式公開企業ならびに公開する気満々の会社だけではないんですが、何なんでしょう。まぁ「債権放棄」の変形として「貸出の株式化」などという事は良く行われておりますが、もしかしてそれが「高度な信用供与」と仰るのでしょうか?益々意味不明。

『このような形で企業と金融機関の関係を構築し直すことができれば、日本発の新たな企業金融のモデルとして改めて世界に向けて発信できるようになるかもしれません。』


という事で、相変わらず立脚点がへんてこりんな状況で企業金融に関して色々なお話をしているのですが、この人のこの手の話を聞くたびに日本の銀行及び企業金融の将来に不安を抱く訳であります。

では。





2004/07/23

お題「これでいいのか?」

昨日の相場も平穏でして、20年国債入札も相場を崩す事なく順調に推移。と言っても相場が上昇して慌てて買いを入れるのはお調子者のディーラーくらいなものでして、フツーの投資家様は追っかけ買いの動き特になしという感じです。益々債券市場はのんびりモードになりそうです。

さて、そんな中で日銀総裁が日本経済研究センターで「金融サービスの高度化―経済の将来を切り開く」というお題で講演をしておりました。日銀総裁がお好きな「これからの金融斯く有るべし」というお話なのですが、まぁ突込み所満載というか、お笑いのネタとしては実に楽しい講演であります。内容的には激しく無内容でありまして、まるで学生時代のあたくしが金融機関への就職を希望して面接試験で言いそうな、というとかなり失礼ですが、正直その程度のお話であります。日銀総裁がこのような現状認識で「金融はこうあるべきだ」などと言うのを見ると激しく寒いものを感じる訳です。本当に大丈夫か今後の金融機関?

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0407c.htm


○大本営発表的表現

まぁこの部分は判っていて言っているんでしょうが、こういう表現のレトリックは敗走を転進と呼ぶ大本営発表的なものを感じます。

『そこで金融システムの現状ですが、焦点の不良債権の処理は順調に進捗しています。(中間割愛)また、昨年度決算では、大手銀行、地域銀行を通じて9割程度の先が最終利益の黒字を確保しています。』

大手で大赤字出している所があったような気がするのですが(-_-メ)。


○まるで学生のゼミ論文のような意味不明なお話

『わが国の信用仲介のあり方を巡る議論に関しても、私はかねがね、信用供与チャネルの多様化──つまりは間接金融から直接金融まで連続的にサポートできるシームレスな信用供給システムの構築が必要であると申し上げてきました。そうしたシームレスな信用供給システムは、多様な分業の中で構築されていくものだと考えられます。』

この「シームレスな信用供給システム」っつーのは福井総裁のお気に入りに登録されているようでして、金融の将来がどうのこうのという時に必ず出てくるのですが、未だもって意味不明です。何を言いたいのか解読できた方教えてくださいませ。

『また金融界で、比較優位を活かした多様な分業が成立するようになれば、金融機関の数の多寡を巡る議論はあまり意味を持たなくなります。わが国金融界に対しては「金融サービスが必ずしも十分でない」という批判がある一方で、「オーバーバンキングである」とも指摘されています。多様な分業が進展していけば、こうした複雑な状況も次第に解消していくように思われます。』

何でも、金融界で色々な部門に関しての分業がもっと進むべきだというお話の流れでそういうお話になっているのですが、分業が進むとなぜ上記のような話になるのかも謎な上に、それ以前の問題として業務は多様化してますが金融機関は集約化しているんですけど。。。。

ちなみに、総裁様講演の後の方で、個人部門への融資業務に関してこんな事を言っております。

『最近、金融界では、銀行、カード、信販、消費者金融といった形で分断されている現状を見直して、充実した店舗網を有する銀行自身が営業戦略面で工夫を凝らすとか、業界横断的なアライアンスを強化するといった対応を図っており、こうした努力を続けることによって、全体としてサービスの一層の向上が期待できるように思われます。』

お前はさっき「多様な分業が成立するのが結構」と言ったんちゃうかと。


○リスク管理に関して楽しいお話が

統合的リスク管理がどうのこうのと日銀総裁大得意になってお話を(^^)。

『金融業務についてまわる多様なリスクを全体として管理し、経営体力とのバランスや部門毎の収益性を判断できる枠組みが必要となります。これが統合的リスク管理の手法と呼ばれるものです。』

『具体的には、市場リスク、信用リスクといった諸リスクを計量化するとともに、各リスク量をバリュー・アット・リスク等の共通の手法で統合し、ビジネス全体のリスク量を把握した上、各業務分野に適切な資本を割り振るものです。』

何でも計量化できると考えているところがすでに痛いのですが。

『この先も、企業や家計の金融ニーズが多様化・複雑化するにつれて、金融機関が引き受けるリスクの態様や性格が変容を遂げることは避けられません。金融機関のリスクや収益管理の枠組みも、最新の金融理論や技法を取り入れながら、不断に改良されていかなければなりません。』

いかにも頭の良さそうな人が考える事ですが、この手の尤もらしい金融最新理論を持ち出してくる人たちの商業的目論見にずっぽり嵌っているわけでして、今後とも日本の金融機関は良いカモになりそうですな。

それはそれとしまして、その次が素晴らしい。

『そう申し上げたうえで、私は、リスクや収益を管理する枠組みが有効に機能するための最大の要素は、人間、とくに経営者の判断にあることを強調したいと思います。』

『実際、経済情勢の変化のみならず、金融市場での市況の変動、さらには地政学的リスクの顕現化など、様々な要因により、経営環境は事前の想定とは異なる方向に振れることがあります。このような局面でこそ、金融機関経営陣の機敏で冷静な判断が求められますが、それを可能とするには、平時から備えを充実しておくことが必要です。』

はぁそうですか、っつーか「避難訓練をやっておけば火事が起きても安心」みたいな香りがして(訓練が無意味とは言いませんが)なんとも。

『すなわち、金融機関が環境の変化に対し、ためらうことなく迅速かつ的確に取り組むことができるかどうかは、スタッフが、自社や業界を巡る現状はもとより、需要予測など将来に関する分析や情報を、常日頃から十分現実味のある形で経営陣に提供しているか、経営陣は、それに加え、平素から、幅広い視野、深い洞察力、豊かな構想力、強い決断力を磨いているか、にかかっていると思われます。』

統合リスク管理の話というよりはそれは「経営論」のお話。そもそも総裁のいう「スタッフが、自社や業界を巡る現状はもとより、需要予測など将来に関する分析や情報を、常日頃から十分現実味のある形で経営陣に提供」するというのはごく小規模なベンチャー企業みたいなところなら兎も角、大組織でそんな事ができると思うのが最早現実を理解していないという物です。

益々大丈夫かと思ってしまう今日この頃。


○変なレトリック

さて、突込み所満載でもっと色々と突っ込めるお笑い講演なのですが、昨日遅かった上に目覚まし時計のご機嫌が麗しくなくて寝坊してしまった為に遺憾ながら本日はあと2箇所ほどつっこんでお開きとさせていただきます。

『課題の第三は、郵貯や公的金融の改革です。わが国では、もともと郵便貯金が金融資産の中で大きなプレゼンスを占めていることから、資金仲介のかなりの部分が公的セクターを通じて市場メカニズムの外側で行われ、結果として効率的な資源配分を歪めている可能性が強いと指摘されています。』

公的金融も確かに色々とアレな所もありますが、それより郵貯資金の「出口」として激しく巨大なのは「財投」であったり「国債」であったりする訳で、効率的な資源配分がどうのこうのというのであれば現在の政府のあり方を如何なものかと言うのが話として先なのではないかと。郵政民営化の結果が先にありきという論理展開に見えますな。

『また、現状においては流動性預金の全額保護措置が継続されていることから、公的な元利保証が付された預貯金のプレゼンスが一層高くなっており、その結果、個人の間で「様々な金融資産の収益性とリスクを判断し、貯蓄保有形態に工夫を凝らす」という意識が育ちにくくなっています。このことは、日本の金融システム全体としてのイノベーションを妨げる一因にもなっているように思えます。』

という事でペイオフの全面解禁が行われるからどうのこうのという話をしているのですが、ご存知の通り決済性預金を全額保護する訳ですから、現状の超越的低金利が維持されている限りは、決済性預金全額保護がペイオフの骨抜き効果を生み出すと思いますが、そこについて判って話をしているのかどうかが怪しいわけですな。これも大本営発表なのでしょうか。


で、講演の後の方でペイオフ解禁に絡んで新BIS規制の話をしていますが、これがまたお笑いというか情けないというか。

『因みに、6月26日に公表された新BIS規制は、銀行の破綻を前提にしています。そこでは、銀行に対し、百年に一度起こるぐらいの最大の年間損失にも耐え得るような自己資本を最低限、保有することを求めています。これを裏返せば、それ以上の損失が生じた場合は、銀行破綻が発生することを想定していることになります。誤解を恐れずに単純化して言えば、ぎりぎり最低限の自己資本しか持たない銀行が百行あるとすると、そのうち年に一行ぐらいは破綻が生じても不思議ではないということです。』

多分銀行経営ってのは基本的に景気産業なのですから、年に一行破綻するのではなく、百年に一度起こるくらいの最大の年間損失が発生するような状況になったら全部が破綻すると思うんですけれども。確率問題じゃないでしょ。

まー判りやすくお話をしている積りなのかも知れませんが、あまりにも論理構成が???な部分が多すぎ。本講演の本当のお題は「金融サービスの高度化」というでして、そちらのお話が益々ツッコミどころ満載というか、「この人本当に現状認識しているのか????」と思わせる内容であります。お笑いと言えばお笑いなのですが、正直言って現実に起きている事と全然違う事を元にして政策決定されたら洒落にならんという感じです。既に鳴り物入りで導入された「資産担保証券の買入」のように形骸化しているものもありますが、形骸化しないで政策が暴走してしまうと激しく寒いのでして、何とかならんのかと申し上げたいところではあります。




2004/07/22

お題「相場の話と相場に関係ない話」

○昨日の相場点描

昨日の債券市場、後場の先物値幅は9銭。イールドカーブはそんな中でもしっかり動くというマーケットメーカー泣かせの展開でした。具体的には先物の水準が碌に変わらないのに、先物VS10年の力関係が勝手に1毛近く変化(10年が強くなる)するという攻撃でして、うっかり10年ゾーンの現物債を売ったら、先物が全然動かないのに勝手にやられてしまう蛇の生殺し状態。最近お馴染みのパターンで入札を翌日(=今日)に控えた20年ゾーンが堅調になるという動きが影響したと思うのですが、先物の水準は寄り付き後大して動かずにイールドカーブだけ動くの図。

中々お笑いだったのは15年変動利付国債でして、10年以降のイールドカーブがフラット化して中期債が軟調なのですから理屈の上では売られる筈なのですが、終わってみれば100円5銭まで業者間で買われるという有様。既発債から比較して妙に安い入札結果だったので割安修正が起きたということなのでしょうが、それにしても相変わらず間の抜けた値動きだな〜と笑ってしまいました。昨日のドラめもんで勝手に憶測していた「もしかして大手業者の一部は新発債ショートなのでは?」というのが当たりだったのではないかと(^^)。

○夏枯れか大荒れの前兆か?

昨日の相場はまぁ夏枯れ相場の雰囲気アリアリ状態でした。概ね7月というのは途中から夏枯れ状態になりつつ相場堅調というのがよくあるパターンでして、今回も順当に行きますと夏枯れモードになりそう(20年入札って一応相場の注目材料扱いされるのですが、1回の発行量が少ないので余程の事が無い限りマーケットインパクトが無いのが実情)です。で、市場関係者が夏休みモードになって、大手機関投資家の偉い人が夏休みに入ったあたりでいきなり仕掛け花火が炸裂して8月に大荒れというのがありがちなパターンですが、今年はこの2日間で行なわれたグリーンスパンFRB議長の議会証言で米国金融市場がやや荒れ模様になってきましたので、8月を待たずに一暴れあるかもしれませんな。

8月を待たずに相場がそこそこ暴れるとなると、その反作用という事で8月相場は例年の大狂乱大荒れ相場にはならないのではないかと勝手に期待(マーケットメーカーはあまり大荒れ相場だと大体ボロボロにされるからなんですが)している今日この頃。

○20年国債入札

20年国債は既発の20年70回債のリオープン発行という事になりそうで、2.4%クーポンの100円近辺であればまぁそんなに売れないという話は無いと思います。この債券、入札以降で殆ど絶対水準が2.3%台後半で小動き(大きく外れていた入札日ととパッシブ系の買いがやたら入った月末日前後くらい)という摩訶不思議な債券でして、昨日の引け値が2.38%ということでして、まぁレンジの下限に近い所にいるという感じですので、益々入札は無難になりそうですね。

今月の入札が回を追う毎に割安な水準で決まっているのが少々気になるのですが。


○全然別の世間話

最近ウェブログ、というか「Blog」の方が一般名称ですが、まぁそのブログが大いに流行っておりまして、大手プロバイダーや楽天なんかのコミュニティサイトなどが競ってサービスを提供しており、客寄せの為に有名人にブログを開設してもらったりしている動きもありますな。

で、まぁあたくしがマターリとウォッチしている木村剛さんのブログというのがあるのですが、このお方のブログ見ていると現在の社会状況というか小泉内閣のありかたというか、まぁそんなものの象徴みたいで中々香ばしいものを感じる訳であります。なお、このお方のブログを見ていただくと判ると思いますが、リンクを貼ると文句が来そうなのでブログの場所はNifty提供のココログで「週刊!木村剛」という名前ですとだけ申し上げておきます。

・商売がやたらお上手

ブログ開設から半年も経たないうちに、ブログで書いた事とそれに対する読者からの意見のフィードバックを纏めて早速本を出してしまうという手際のよい有様(月刊!木村剛って本が出ています。立ち読みはしたが)。

・反対意見の巧みな封殺

普通のブログには意見を受け付けるコーナー(コメント欄)があるのですが、この先生のブログはコメントを受け付けず、他にブログを開設している人からのリンク(トラックバック)しか受け付けない。おまけに「トラックバックしたものは出版物に引用する場合があります」と言っており、おちおち下手な反対意見をトラックバックしようものならどうなるかと思うとまともな一般人は反対意見をぶち込みにくいでしょうな〜。

・時流に乗るのはいいのですけど・・・・・

この先生、ついこの前は金融庁でりそな問題がどうのこうのとやっていた筈なのですが、その後日本振興銀行の設立に関った(しかもそれをネタに本だしてるし)と思えば今年に入って経済評論家の三原淳雄さんとFPによる証券仲介業の認証機関を作ると言い出し、最近は年金問題がどうのこうのとおっぱじめるという状態。

問題提起するのが悪いとは言いませんが、これじゃあ「言うだけ番長」って奴ではないかと。上手く回れば自分の手柄になって、話がややこしくなると(りそな銀行のその後のように)人にケツを拭かせてトンズラっていう香りが濃厚に漂ってくる訳で、まぁ周囲の人間はケツ拭き仕事で大変ですわな。あたくしも経験が無い訳ではないので、氏の周囲の皆様には誠にご同情申し上げたいところではあります。


・言い訳が見ものなのですが

まぁここまではいつもの話ですんで別に「ふーん」程度の話なんですが、木村センセイ、年金問題は実務をやってくれるケツ拭き部隊が確保できたのに気を良くしたか、今度は少子化問題というか子育て問題に手を出そうとしまして「ブログ上で『悩める母親党』を立ち上げよう」という意見をエントリーした訳ですな。子育てと無縁なあたくしですら「何ちゅう能天気なエントリーだ」と思ってセンセイの意見を読んでいたのですが、案の定トラックバックを見たら見事に批判されておりまして、しかも木村様マンセーみたいな常連らしき方から反論食らっていたり、意見を引用されていた人からは「引用の仕方がおかしくて趣旨が伝わっていない」と書かれる始末。木村様ピーンチって感じで実に香ばしい、

まぁ予想される展開としては、「あえて突っ込みを受けるような意見を書いたのですよおっほっほ」という風に逃げを打ちつつ自分の非は認めないという流れになると思うのですが、これって正に竹中ヘイゾー先生にも似た流れでして、実に香ばしいと共に、如何なものかと思う訳でありますな。


まぁ中々面白いのでお暇なときにご覧下さい。何かちょっとページが重いのが難点なんですけれども。。。。





2004/07/21

お題「相場の雑感」

猛暑といえば経済効果があるという事になってますが、気温39度じゃあ外出する元気も湧かなくて、あまり経済効果が無い様な気もしますな。かくいうあたくしも昨日は尻に帆掛けてお帰りしてグタグタになっておりました。なんぼなんでも35度は切ってくれませんと如何なものかと(-_-メ)。

あまりにもグタグタなので本日は昨日の相場の愚感想などを。

○相変わらず上を買う人はいないようで

昨日は米債高に株安という事でお約束のように債券先物が買い気配になってスタートしたのですが、持ち上がったのは先物だけ。先物は日経平均株価指数の動きにつられて上がったり下がったりしておりましたが、肝心の現物債はと申しますと、相場が上がれども現物債の気配はついていかず、下落する過程では現物債の下げにはブレーキがかかるという思いっきり動意の薄い状態でした。

まぁ上昇局面で戻り売りが(少しはありますが)出る訳でも無く、下落(と言っても先物ベースで前日比変わらずですが)局面でも買いがある訳でもなし(中期債が堅調で超長期債が軟調でしたが)という事を反映した相場つきだったという事でして、実に平穏な相場ということでしょう。

総じて申しますと、相場水準自体はやや中途半端なのですが、投資家さまの戻り売り水準も若干引き上げられておりまして昨日もまた寄り付き後の上昇局面での戻り売りは「思ったより少ない」という状態でして、昨日に関していえば先物が80銭に乗っかった大引け間際になってやっと投資家さまからの戻り売りが出てきたという感じです。

上値を買う人は相変わらず居ないのですが、戻り売り水準が引き上げられているのでその分だけ相場は下がりにくくなっておりまして、下がらないけど上がらないという相場展開。まぁ「7月は反発」のジンクスどおりになってきているという事でしょう。


○リーズナブルな入札

15年変動利付国債の入札が行なわれましたが、前場から大盛り上がりという動きには全然ならず、というか前場には新発債の気配がまともに建っていないという素晴らしい状態になっており、入札前の撃ち合いのような美しい光景の無い状況で入札を迎えました。

肝心の発行αは珍しくも前場引けのオファーサイドよりも安い97となりました(ただし97に入れた札の按分は無いに等しい1%でしたが)ので、まぁ入札した人思いのほか目出度し目出度しの巻となりました。

今月に入ってこれで3回目の入札ですが、今まで前場引けのオファーサイドの向こう側を取りあがるような無茶苦茶な水準で行なわれていた入札が徐々にまともな水準に落ち着くようになってきているのは極めて結構なお話であります。今回の入札では入札後の振り落としも大して見られずという状態になってきまして、次第に「割高入札」→「入札後暴落」というアフォのような展開が崩れてきております。そろそろ投資家の皆様に置かれましては、入札段階で玉確保をすることを検討されると業者のあたくしとしては大変に有り難いわけでございますな、と我田引水(^^)。


○今回の入札で気になった事を勝手に推測

以下勝手な憶測ですので話半分で。

今回の入札なんですが、市場観測によりますと、最大額を落札したのが三菱証券さんの1200億ちょっとで、以下の業者は3桁の落札額。(まー不明札が3000億強あるのですが)最近の銀行業態のニーズから考えて上位2社(2位がみずほ証券さんの800億ちょっと)以下の落札が思ったより少ないという印象。

入札がアフォのように強くなってしまって落札が出来なかったというのであれば話は別なのですが、今回の入札結果は先ほど述べましたように別に割高というほどの結果でもないまともな結果。もうちょっと業者の落札額が多くなっていてもおかしくないと思った訳ですな。

前回の入札あたりから妙に「15年変動利付国債はニーズが高い」という話が盛り上がり(あたしゃ「リスク管理バブル」とでも命名したいですが)まして、前回入札は入札前日までに大割高水準に到達し、暫く調整を余儀なくされたという結果になりました。で、今回の入札でもその「2匹目のドジョウ」を狙って「平均握り(イールドダッチ形式の入札なので正しくは発行握りですが)」の顧客ニーズに対して「ど〜せ割高入札になるでしょ」高を括って幾分かショートで対応していた大手業者がいたのではという風に勝手に憶測しております。あるいは既発の在庫がそこそこあるのかも。

発行αが思ったよりまとも(と言っても事前予想は98か97かでしたが)になったので「んじゃショートカバー」という動きもあったのではないかと思います。何せ業者間の安値が確か99円97銭でして、前回の入札後のアフォのような崩れ方からみると全然ましな入札だったので、ややショートカバー的な買いの手が早めに入ったということかと。

以上、この項ははっきり言ってあたくしの勝手な想像の産物ですが、まぁ弱小業者はこんな事も考えながら板読みをしているというご参考までに。





2004/07/20

お題「15年変動利付国債/6月決定会合議事要旨」

○15年変動利付国債

先日「何で入札前に既発債売る必要があるのかね〜」などと悪態をついていた15年変動利付国債。先週末は何とどこからともなく買いが入っていきなり絶賛強含み。まぁ相変わらず需給だけで動くというのは驚きませんが、入札前日にわざわざ買いを入れる神経は相変わらず訳の判らない物であります。こんな債券でプロップトレーディングしているディーラーがいるとはあまり思えないので、いずれ最終投資家様の買いだとは思うのですが、入札前日に気配を強くしてどうするんでしょうな。理解不能。

前回債の入札では直前1週間にアフォのように大盛り上がりしたのですが、今回は入札前前日まではまぁ落ち着いており、今回はまともな入札になるかと思ったのですが、この調子では発行αがまた強くなってしまい、一旦振り落としをやるという毎度毎度のパターンになりそうな雰囲気。まー業者のあたくしがこんな事を言うのもアレですが、正直言って入札後の振り落としで買いを入れたほうが吉かと。ただし振り落とし局面では体力に比例して業者も頑張って抵抗するので、沢山買いたい人については入札で買うしかないと思いますがね。

大昔(去年の12月)の国債投資家懇談会でBISの2次規制案を受けまして「変動利付国債の発行増やせ」の大合唱が起きました(昨年12月5日のドラめもんご参照)が、最近では「当局が金融機関に求めるリスク管理に対応するために変動利付国債は必要不可欠」という事を誰もが言うようになって参りました。んな事でして、貸出が伸びずに預金は絶賛増殖中(政府部門の赤字が増えて民間部門の資金需要が増えないなら民間部門の黒字は貯蓄に回るしか無い訳ですから)という状況でリスク管理がやかましいって事ですから、今回も金融機関中心にニーズが高まる事でしょう。

いや、昔っから言ってるんですけど、金融引締め局面になったら短期金利の方が先に上がるんだから、短期調達だとエライ事になるんですが。金融引締め局面になっても余資ありまくりだというなら別に構わんのですが。BIS2次規制のリスク管理って言ったって、ストレステスト=イールドカーブの平行移動ですので、そういう意味では変動利付国債の現在の商品設計は見事にストレステスト完全対応。所詮は砂上の楼閣ですが、まぁいっか。



今月に入ってからの入札は10年、5年と来て本日は15年変動利付国債なんですが、過去2回は入札当日の前場に当該ゾーンに買いを入れるというアフォな動きがあってショートカバーの為に入札が割高になってしまうという展開が続いております。

すぐ後に入札という大量に玉が出てくるイベントがあるのに、その前に買いを入れて肝心の入札の水準を高くしてしまうという動きを見ておりますと、あたくしとしては「晩ごはんにごちそうが待っているのに、おやつを大食いして肝心のごちそうを楽しめなくなる子供ちゃん」を想像してしまう訳でして、まー頭の良い方々が寄ってたかってやっている事は子供並みって光景に大変香ばしいものを感じる訳であります。

ま、市場ってのは人間の欲が出てしまうから仕方無いのかも知れませんがね(^^)。あたくしも人のことは言えませんし、あはは。


○暴落最中の金融政策決定会合議事要旨

6月14日〜15日というのは前週に「武藤ショックで金利上昇」という捏造レポートが出たり、2年国債の利回りが0.25%まで上昇してみたりと金利大上昇に財務省様大激怒状態になっておりましたが、そんな最中に行われていた金融政策決定会合の議事要旨が発表されましたが、これがまた案外のんびりとしているのですよ先生って感じです。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040615.htm

まぁ例によって長いのでほんのちょっとだけご紹介という事で、「金融経済情勢に関する委員会の検討の概要」に関して「ふ〜ん」と思った所を抜粋いたします。

・景気判断に関して

結論として出てきているのは判断を大幅に前進させた6月の金融経済月報にある通りでして、この時は財務省が必死になって「現在(当時)の金利上昇はオーバーシュートであって大変に遺憾であります」とキャンペーンを行なっていたのを邪魔しないために、金利水準に関して余計な話を全然せず、景気に関しても余計な進軍ラッパを吹かずという状態でありました。


財政再建問題への言及

『ある委員は、景気回復の持続力を強めるためには、財政再建が重要な課題のひとつであると指摘し、それに関連して、インフレ期待が過度に高まることは望ましくない、との考えを述べた。』

4月機械受注(驚愕の前年同月比+11.8%)に関して

『ひとりの委員は、機械受注では非製造業がなお横這い圏内に止まっており、設備投資の裾野拡大はまだ十分には確認できていない、と発言した。また、別のある委員も、設備投資増加の持続性をみていくうえで、製造業の投資が情報関連に集中していることや、原油価格上昇が企業収益に悪影響を及ぼす惧れがあることにも留意する必要がある、との意見を述べた。』

消費者物価に関して

『多くの委員は、先行き、原油高がガソリンなどの石油製品の価格上昇を通じて消費者物価の押し上げ要因として働くと予想されることや、順調な景気回復のもとで企業の価格設定スタンスが強気に傾く可能性があること等から、今後の物価の動きはこれまで以上に注意深くみていく必要がある、との趣旨を述べた。』

『このうち複数の委員は、原油高の影響等から夏場においては消費者物価の前年比が一時的にプラスとなる可能性がある、と指摘した。』

『この間、ある委員は、需給ギャップの縮小が物価上昇圧力に繋がり、それほど遠くない時期に消費者物価のプラス基調が実現するのではないか、との考えを述べた。これに対して、ある委員は、理論上は需給ギャップの縮小は物価を押し上げるが、需給ギャップを正確に計測することは難しいうえ、そうした需給面からの消費者物価への波及については、現状なお確認できていない、とコメントした。』

意見は割れているようですが、プラス基調も有り得るという指摘には要注意。


・金融面の動向について

『ここにきてわが国の長期金利が上昇していることについて、議論が行われた。』ってな事で、長期金利上昇(本当に問題なのは長期ではなくて金融引締めを過度に織り込みに行った中短期の金利なのですが)についてお話があったようでして。

『最近の長期金利上昇の背景について、多くの委員は、株価の上昇や内外の経済指標を眺めた景況感の改善を反映した動きではないか、との見方を示した。』

まぁそれは良いとして、

『ある委員は、中期ゾーンにまで金利上昇が及びつつあり、海外投資家を中心にデフレ脱却の可能性を予想し始めているように窺える、とコメントした。』

まぁこの「ある委員」以外にも中短期金利の上昇に関しては懸念していたのかもしれませんが、議事要旨として出てきた時に「2年あたりの中短期金利の上昇についてコメントしているのが一人かよ!」という印象を与えてしまうのは如何な物なのかと。まー「実は懸念してないよ〜ん」というのが日銀のホンネなのかも知れませんがね。

『また、何人かの委員は、昨年夏の金利急騰時と比べると、スワップ・スプレッドやボラティリティ指標等は比較的落ち着いており、金融機関等が売り急ぐような状況には陥っていないように見受けられる、との認識を述べた。』

売り急ぎの動きが見られましたが何か?

『ひとりの委員は、金利上昇がインカム・ゲインを狙った機関投資家等の債券買い意欲を高めている、と発言した。』

買い意欲があれば急落しませんが何か?

『もっとも、何人かの委員は、最近の長期金利の動きは急速である点には留意する必要があるとの認識を示した。ある委員は、市場にエネルギーが溜まっていただけに足許の金利上昇のピッチがやや速くなっていると指摘した。』

「何人かの委員」しか金利の急激な動きに関して懸念してないのかと、ちとアレな内容なんですが、正直言ってあたくしなんぞこの急落状態で「おいおい」と思っていた訳でして(当時のドラめもんご参照)、そんな中で金融政策決定会合ではこんなのんびりとしたお話をしていたのかと思う次第。日銀のホンネは「景気の本格回復で金利上昇は必然ですがな」というところなんでしょうなと思わせる内容でありました。


・量的緩和の景気刺激効果がより強くなるという話

金融政策決定会合後の日銀総裁会見で「量的緩和政策は景気が上向き過程に入り、上向きの動きを続ければ続けるほど、量的緩和の景気刺激効果は強まっていく。」といった趣旨のお話をしていた日銀総裁。何のこっちゃと思っていたのですが、ようするにこういう話だったようですな。

『ひとりの委員は、物価下落圧力の後退により短期実質金利が低下傾向にあるため、金融緩和効果は強まっているのではないか、と発言した。』

『別のある委員は、景気回復が続いている中にあっては、消費者物価を基準とする「約束」が大きな意味を持ってきている、との認識を述べた。この委員は、短期金利がほぼゼロの状態が続く中、経済成長率は名目、実質ともに着実に高まっていると指摘したうえで、このことは現在の政策の景気刺激効果が金利面から強まっていることを意味し、こうした政策を継続することで、今後、緩和効果がより高まっていくと考えられる、と続けた。』

実質金利が低下するから緩和効果が高まるって理屈なのね。


議事要旨に関して、総じて言いますと「金利急上昇にも関らず随分とのんびりとした話をしてますな〜」という所でしょうか。あまり金利上昇に関して懸念していない(財務省は必死ですが)という事で、当時から感じていた「財務省と日銀の金利上昇に対する温度差」がより明白になったといえるかと思います。



2004/07/16

お題「諸々の雑談」

○上を取りあがらない入札

昨日の5年国債入札、前日まで5年37回債(前月債)を局地的に割安水準まで売り込んでおりました反動が発生してしまいまして(というか10年売り→5年買いの動きが前場からあったらしいですが、相変わらずはた迷惑な動きです)、前場の引け時点で既に前日までの割安状態が見事に解消。

で、入札なのですが、入札時点での5年37回債の気配から適正と思われる水準が概ね0.845%程度でして、価格に直すと100円25〜6銭。で、入札の蓋を開けてみれば平均落札価格が100円27銭で最低落札価格100円26銭。しかも最低落札価格での応札も80%以上となっておりまして、ますます穏当な入札になってきております。

市場推計の落札分布も見事に分散されていて、おまけにどこかの最終投資家さまが大量に応札した雰囲気もないという業者主体の入札となりました。前回の10年国債入札に引き続きまして、今回の入札も「穏当な入札結果」「業者に幅広く分散された入札」という結果になりまして、ようやく世の中穏便になってきていると言えるかと。

入札が過熱しないのは大変結構。まぁ今までが悪いのでして、過熱するような入札が続きすぎて業者は疲弊するわ、入札時点で玉を確保しようとする(大量に玉が供給されるのですから入札のタイミングで買うというのは合理的な筈なのですが)投資家さまも過熱入札に巻き込まれて割高な所で買う破目になるという激しくアフォな事態が発生して次第に意欲を失うわという動きが顕在化してきたということでしょう。

上を取りあがらない入札になってきているのは、相場自体の方向性を下にみているお方が多いせいもあるとは思いますが。


○15年変動利付国債の謎

来週の火曜日、というか営業日ベースで言えば明日なんですが、15年変動利付国債の入札が行なわれます。で、その入札を前に先週とか先々週あたりから妙に既発の変動利付国債に投資家(まー銀行業態と観測されてますが)の売りが出ている訳ですな。

この商品の本質はヘッジ商品に近いものでして、リスク量を抑え、長期金利上昇に備える商品って話なのですが、なぜか新発債が出る前に売りが出るというのは甚だ謎なわけであります。まぁ割高だから売っているとかポートの全体調整の一環で売っているとかなら判らんでもないのですが、どうも憶測を逞しゅう致しますと、新発債を購入する前にオーバーパーになっている既発債を利食いしているように見えるわけですな。で、まーあまりケチをつける気はないのですが、変動利付国債ってそんなにちょこちょこ売ったり買ったりするような商品なのかな〜と疑問が起こるわけであります。

財政赤字が累積的に増加するなかでは資金循環のバランス上、銀行部門の預金もまた勝手に増えていくという状況にあるので、債券投資部門での運用圧力が掛かる上に、本業が相変わらずヘロヘロな状況ですから経営からの収益プレッシャーが強いというのもあるのでしょうが、銀行業態の債券運用で相変わらず債券売買益をつよーく意識するような動きがあるという傍証なのではないかな〜とも思う訳です。

まー買ったままホールドされてしまうと業者が干上がるからあの手この手で投資家さまに売買をたくさんしていただくような雰囲気を作るというのもございますので、あまり「バイアンドホールドの勧め」を説いていると自分の存在意義がなくなるという諸刃の剣でございますが(^^)。


埋め草:「日銀総裁のホンネ」補足

昨日のドラめもんで「語るに落ちる」記者会見のご紹介をしましたがその補足。良く良く日銀総裁の発言記録をみていると、量的緩和の継続というお話をする際にいつも言っているのは、『我慢して政策をやっていく』とか『我慢強く今の政策を続けていく』というフレーズであります。

自分の発言意図を強調したいためにやたらと形容詞や副詞を多様する傾向にある日銀総裁のホンネはやはり「今の量的緩和はやりたくないけど我慢してやっている」って事なんでしょう。別に淡々と説明すればいいと思うのですが、自分の意図が市場にきちんと伝わっていないという認識があるために、自分の発言意図を強調しようとして却って裏読みされるという状態。

「市場との対話」ってのは市場を自分の意図する方向に持っていこうとする事ではないと思うんですが、どうも市場に対して何か働きかけたいという意思が見え隠れするんですよ、日銀総裁の言動を見てますと。

いずれこの件もまとめようかと思いつつ纏まりに欠けるのでとりあえず書いてみるの巻でした(^^)。






2004/07/15

お題「日銀総裁定例会見」

金融政策決定会合に行なわれた日銀総裁定例記者会見。一応注目材料だった筈なのですが、まぁ昨今余計な事を言って相場撹乱要因になっているという悪態を気にしておられるのか、材料に使われるような発言はあまり無かったという感じですか。とは申しましても、まぁやはりネタには困らない記者会見でもある訳でして、軽くチェックしておきませう。

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0407b.htm

○いちいち反応する癖は治らない訳でして

会見の冒頭質疑で日銀総裁おもむろに新しい銀行券の見本パンフを持ち出してご説明をおっぱじめました。何と昨日は東京新聞の朝刊にもその件が写真入りで掲載される始末(^^)。

『なお、本日の金融政策決定会合と直接関係はないが、本年11月から偽造に対する抵抗力を強化した新しいデザインの銀行券の発行を開始する予定であり、現在これに向けて鋭意準備を進めている状況である。その点について一言触れさせて頂きたい。』

『1つ大事な点は、新しい銀行券の発行後も、現在の銀行券――新券が発行された後は旧券になる――は引き続き完全に有効であるということである。この点は、前もって世間で多少の誤解があるような気がしており、私どもにとっては心配事である。新しい銀行券と全く同様に旧券も使用できるので、この点はくれぐれも誤解のないようにお願いしたい。』

まぁ書店にいきますと預金封鎖だの財産税だのといった本がうじゃうじゃ出ておりまして(先日あたくしも珍しく1冊買って読書室でご紹介しましたが^^)一応その手の妄説を否定した訳ですが、日銀総裁さまとあろう方が一々妄説の流布に対してご心配されている方が心配という気もするんですが。んな事は質問されたら答えれば良い類の妄言(真剣に今回の新札発行でやると思っている人皆無でしょ)でして、質問される前にわざわざお答えになる必要はないと思いますけどね〜。

『旧券同様、新券についても、国民の皆様に親しまれ、広く流通することを期待しているが、旧券は無効となるのではなく、引き続き全く同様に通用するということである。』

当たり前です。ちなみに、大東亜戦争後に実施された新円切替以降に発行された通貨は全て通用可能(古銭商に売った方が高いので流通しませんが^^)の筈です。日銀のWebに書いてあります。


○「甘いささやき」って・・・・・・・・・(^^)

こんな質問をする記者がおいでです。

『(問)先程、何としてでもデフレ克服が必要だとおっしゃっていたが、景気の実態は非常に良いし、短観も非常に良い数字が出ている。デフレと言ってもCPI変化率はマイナス0.1%程度の状況で推移しているのだが、「デフレを克服しなければならない」とそこまで強く言うほどの問題を抱えているとお考えか。』

『(答)その甘いささやきには決して乗らない。やはり、将来のことを深く考えると、物価がマイナスに陥って国民の皆様が苦しい状況を再度経験しなければならないという不幸な状況をもう見たくないという気持ちが非常に強い。』

この記者会見要旨を作成していると思われる日銀の事務方の担当者が苦笑しながら作っている姿を想像しつつ読んでしまいます。

まぁある意味「語るに落ちる」って奴でして、上記の質問に対して福井さん「甘いささやき」というご認識をお持ちということを示した訳。福井さん個人としてはまさに上記の質問にあるように「景気の実態は非常に良いし、短観も非常に良い数字が出ている。デフレと言ってもCPI変化率はマイナス0.1%程度の状況」だから現在の異常極まりない手足を縛られまくった金融政策から脱却して、中央銀行本来の金融政策運営をやりたいってのがホンネではないかと勝手なる憶測を逞しくするあたくしなのでありました。まー元々景気強気の最右翼ですし。

一応その答えの続き。

『私どもの金融政策の約束の仕方は、あまりにもバーの高いところに縛りを設けて、そこにいくまでは目をつむるというほどに大きな賭けをしているわけではない。鉄棒で言えば、地面すれすれの非常に低いところにバーを設けて、そこにしがみついているとは言えると思うが、それぐらいの賭けは我々に許してもらえると思う。』

えーっとこの部分は、この質疑の前に「景気回復の進行に対してCPIが遅行するギャップが広がっている」という趣旨のお話が出てまして(昨日ご紹介した金融経済月報での「展望レポート中間レビュー」でも景気と企業物価は上方修正して消費者物価は判断据置きでしたね)、記者会見での質疑でも『景気と物価の対比では、物価は今のお言葉を借りれば一番ラグを伴っており、短期的には動きの鈍いところに焦点を当てて──あるいはそこをターゲットとして──政策をやっているというのは事実であるが、』と発言している事を意識しているかと思います。

どうも「甘いささやき^^」を否定するために金融政策のコミットメントのハードルが滅茶苦茶高い話なのではないと言いたいようなのですが、この字面だけ追って読んでますと、さっき話してた事と話のケツが合っていないようにも思える諸刃の剣(^^)。

なおもその続き。

『将来再びデフレに陥って、せっかく出始めた新しい展望を根こそぎ摘み取ってしまうようなことにならないように、多少の賭けをすることはお許しいただきたいし、我々は甘いささやきにはそれまでは応えない。こういう姿勢で臨みたいということである。』

どうもこの「甘いささやき」という言葉がお気に入りに追加されたようでして、この質疑は最後から2番目だったのですが、最後にもこの言葉がでておりました。


しかし、景気が明確に回復基調にある中で、異常な過剰流動性の垂れ流しを続けている金融政策は今後も継続しますっていうのは中々政策の説明をするのに整合性を取りにくいというのは事実でありますので、ど〜しても質疑応答とかを行ないますと、どこかに整合性の取れない所が発生してしまうのは仕方ないのとは思っております。ご同情申し上げてもいる訳です(^^)。


○余計な強調はしないほうが良いのでは

情報ベンダーで「必要な時間をたっぷり保ちながら我慢して量的緩和政策を続けていく」というようなフラッシュが出てきて「おいおいまたかよ」と市場は正直うんざり。この件が出てきた質疑応答の後半部分だけ引用します。

『デフレ脱却のためには、日本銀行はそれだけリスクをとる(引用者注:金融政策のターゲットを、景気回復に遅行するCPIに一点張りしているという事、要はビハインド・ザ・カーブのリスクなんですが、そう言うとまた別の思惑が発生するので慎重に言葉を選んでいますな)価値があるとも同時に判断しているわけである。この通過点だけはどうしても通過しないと、その後の真にダイナミックな日本経済の建設の道に通じないということである。そういう意味で、気持ちの上ではこの通過点を早く脱却したい。しかし、焦りすぎると通過点を通過し損なう心配もあるので、その微妙な結節点をここに求めている。我々は願わくば、結果的にここに過大なリスクを取ることなく、将来ある時点で通過したいが、それまで必要な時間的距離はたっぷり保ちながら、我々は我慢して政策をやっていくという構図になっていると思う。』

別に量的緩和の時間軸を延長しようという話の流れで言っている訳ではないというのはここまで読むとお判りになるかと。ひところ「CPIのターゲット引き上げ論」が妙に流布されて、あたくしなんぞは「もうアフォか馬鹿かと」などと罵倒しておりましたが、最近は逆に「CPIが経済実態に対して反応度が鈍い」という点の突っ込みが来るようになってきている訳でして、まぁ変われば変わるものです。

で、そういう話の流れで回答しているので、「CPIは景気回復に遅行するけれども、CPIへの一点張りの姿勢は堅持する」という事を強調したいがためにまた例によって例の如く「時間的距離はたっぷり保ちながら」などという余計な言葉が出てくるわけです。

変な思惑を呼ぶから止めなさいって言っても伝わる訳は無く(-_-メ)。

あたくしとしては「我慢して政策をやっていく」という方にこそホンネが出ているのではないかと思ってますが(^^)。


まー福井総裁ってある意味正直なお方だなーと思ってしまう記者会見でありました。インフレ参照値に関する質疑がなかったのはちと残念でした。




2004/07/14

お題「益々絶好調の金融経済月報」

はぁ、「UFJが三菱東京に経営統合申し入れへ」ですか。なるほどねぇという感じですが、これじゃあどこぞの夕刊紙がだいぶ前に書いていた超憶測記事通りの展開ですな。最初見た時に「なんたる妄説」と思ったのですが。分類先貸出はどうなるんでしょうかとか、これ以上メガバンクでかくして何の意味あるのとか色々感想はあるのですが、考えはまとまる訳もないのでいずれそのうちに。しかしトップニュースが集中豪雨なのはともかくとして、その次の扱いになっていたのがNHKとテレ朝だけ(朝5時台のニュースあるいは報道番組。モーサテはトップですが)ってのも何ですな。


昨日まで行なわれていた金融政策決定会合において、金融経済月報が決定されまして、基本的見解が例によって例の如く発表されましたので読むことに致しましょう。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0407.htm

○総括判断また前進

最初に総括判断が書かれるのですが、この内容は益々進展中です。

『わが国の景気は、生産活動や企業収益から雇用面への好影響を伴いつつ、回復を続けている。』

ちなみに先月(6月)と2ヶ月前(5月)を並べるとその進展具合がよく判るというものです。

『わが国の景気は回復を続けており、生産活動や企業収益からの好影響が雇用面にも及んできている。』(6月)
『わが国の景気は緩やかな回復を続けており、国内需要も底固さを増している。』(5月)

過去の総括判断と比較してお分かりのように、所謂「ダム論」的な論理展開はめでたく完成の域に達している訳です。『生産活動や企業収益から雇用面への好影響』と明言しております。


○雇用面の判断が前進しています

総括判断の次には、景気の現状認識に関してのコメントが出ます。この部分に関しては、先月の時点で5月から一気に前進させた為か、ほぼ同じ内容になっております。ただし、その中で雇用面に関する現状判断が前進しているという点は注目すべきかと思います。

と申しますのは、昨今の日銀審議委員の講演や発言などを見ますと経済の将来を展望した時のリスク要因として必ず挙げられるのが個人消費に関してでありまして、この個人消費の消長に大きな影響を及ぼすのが雇用情勢であるということですから、雇用情勢が好転しているというのはやはりでかい訳ですな。その割にはあたくしの雇用情勢(以下自主規制^^)。

『輸出、設備投資の増加が続いており、鉱工業生産も引き続き増加している。企業収益や企業の業況感も、幅広い分野で改善が続いている。こうしたもとで、雇用面にも改善の動きがみられており、雇用者所得は下げ止まってきている。個人消費もやや強めの動きを続けている。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しており、公共投資は減少している。』

先月と違うのは『雇用面にも改善の動きがみられており』という所でして、この部分、先月は『雇用面も改善の方向にあり』となっております。ちなみに、5月と比較するとどうかと申しますと、5月時点では雇用に関する部分は単に『雇用者所得は徐々に下げ止まってきており』となっておりまして、通してみれば6月は「雇用者所得の下落傾向が止まり(下げ止まり)」、7月には「雇用面の改善の方向が動きとして現れた」ということになる訳ですな。


○先行きに関しては見事に同じ、違うのは一言だけ

『先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。』

ちなみに、先月だけ何故か『先行きも、』となっていた(まぁ6月の月報では総括判断と現状認識を大きく前進させた時なので、先行き「も」と言いたくなる心情は理解できますな)のですが、今回は本卦帰り。多分これは深い意味はないでしょう。

『すなわち、海外経済が高めの成長を続けるとみられるもとで、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続き、生産も引き続き増加していく可能性が高い。企業の過剰債務など構造的な要因が企業活動に及ぼす影響も和らいできている。また、企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、そうした中でも、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。この間、公共投資は減少傾向をたどると見込まれる。』

6月と違うのは一言。『生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化』と言っている部分でして、「好影響」となっている所が前回6月の時点では「波及」と言っております。この波及と好影響の意味がどう違うのかはよく判らんというのが正直な所です。あまりにも「波及がど〜のこ〜の」と言われだすのを嫌った(ダム論復活→量的緩和の解除への思惑と言う連想が働きやすいので)のかも知れません。まー全然意味はないのかもしれませんが。


○金融面で一言だけ

先日発表された短観のDI数値を受けてという事なのでしょう。

『企業からみた金融機関の貸出態度も改善の動きが一段と明確になっている。』

6月以前は『企業からみた金融機関の貸出態度も改善が続いている。』となっていましたが、ここへ来て金融機関の貸出態度改善が明確化したということのようです。本当なのか?という気も思いっきりするのですが、まぁ日銀短観の貸出態度DIを受けての判断ですからまぁこんなものかと。


○展望レポートの中間評価

今回注目になっていた「展望レポートの4半期ごとの見直し」ですが、こちらは恐らく事前に市場が予想していたとおりの結果でしょう。景気全般と企業物価は4月発表の展望レポート時点から上方修正、消費者物価は修正せずという「とりあえず金融政策の変更はすぐにはありませんよ」という事を言いたい内容です。

『わが国の景気は、4月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「2004年度見通し」に比べて上振れて推移すると予想される。すなわち、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続いているほか、生産活動などからの好影響が雇用面にも及んでおり、先行き、前向きの循環が明確化していくとみられる。』

『物価面では、国内企業物価は、原油価格など内外商品市況の上昇や需給環境の改善を反映して、4月の「2004年度見通し」に比べて上振れて推移すると予想される。こうした国内企業物価の上昇の影響は、注意深くみていく必要があるが、川下段階にいくにしたがって、企業部門における生産性の上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれることから、消費者物価は、概ね4月の「2004年度見通し」に沿って、小幅の下落基調が続くと予想される。』

「生産活動からの好影響が雇用面にも及ぶ」ってのと、「企業部門における生産性の上昇等によって企業物価上昇が消費者物価に与える影響が減殺される」というのは思いっきり正反対の話をしているように見えます。何かまず結論先にありきで作文をしている香りが漂ってきます。消費者物価の中間評価は少々眉に唾をつけたくなりますな。


○総じて言えば予想通りと申しますか

今回の金融経済月報、まぁ市場予想通りの範囲内という事になるのでしょう。特に注目されていたのが「展望レポートの4半期見直し」における消費者物価の見通し部分でしたから、まぁとりあえず一安心という内容という事ですな。

しかし仔細に見ると、と申しますか既に先月の金融経済月報の時点でそうなのですが、CPI時間軸という縛りがなかったら既にゼロ金利状態を脱却していてもおかしくないような景気判断を行なっている状態であります。基本的にその点については留意する必要があると思います。

で、その点に絡んだお話をしますと、じゃあ量的緩和を解除したらどうなるかと申しますと、以前ドラめもんでご紹介した驚愕の懇談会(財務省で池尾先生をお招きして行なった懇談会ね)にあるように、金利上昇が財政赤字問題大浮上のトリガーになり得る訳でして、そうなってから歳出削減だの増税だのと言っても話が間に合わないリスクがあるわけですな。そんな事もあるので、最近福井総裁は記者会見や講演なんかでやたらと「財政再建」に言及するようになってきております。福井総裁のホンネは「政府の言う通りに日銀としては屈辱的に無茶苦茶な緩和政策をやって、もうすぐCPIゼロは達成するんだから、今度は政府がちゃんと財政再建しろゴルァ」って所でしょうな。


おまけ:仕事に全く関係のない本のご紹介

理屈で攻める、男の料理術(ラス・パースンズ著、忠平美幸訳、草思社)

本屋で30秒立ち読みして購入を決断(^^)。

この本の原題は「How to Read a French Fry」となっておりまして、本の内容としては副題の「食材と調理法の基本をきわめる」という方が正しい。

調理における科学というか化学というか、「揚げる」と「焼く」はどう違うのかとか、食材によって、調理法によって味付けはどうするものなのかといった事を科学的にお話をしております。料理における「おばあちゃんの知恵」を科学的に説明しているといった方が判りやすいかな?

一応あたくし理学部化学科出身の理学士でございますので、もともと料理の科学的なことに興味がありまして、この書は極めて楽しく読む事ができましたが、化学と聞くと脱兎の如く駆け出すお方も騙されたと思って軽ーい気持ちでご一読をお勧めしたい訳です(料理にご興味のない方は読んでも糞面白くありませんが)。既に化学の道を外れているあたくしが申すのも何ですが、できれば高校の化学の教科書なんぞを引っ張り出してきて用語の意味を確認しながら読んで頂きますと幸甚。

なお、この本を読んで理屈捏ね太郎になった挙句、パートナーから煙たがられる結果になっても当方は一切関知いたしませんので念のため(^^)。

ISBN4-7942-1319-0 \1600





2004/07/13

お題「材料の整理」

昨日の債券相場、6月国内企業物価+1.4%に反応したというよりは単に株価指数先物が上昇したのに反応したのではないかと思われる節がありますが、いきなり朝から下落。5年国債があっさり0.8%台後半(0.86%)まで売られてしまいました。で、後場になると長期債がやたらと重くなってイールドカーブスティープ化。木曜に5年入札があるので5年ゾーンがもっと売られるかと思えばこれがまた妙に堅調になってくるという不思議な展開。

で、午後2時半頃から急速に先物を中心にせっせと上を買い上げるような買い方で相場上昇。イールドカーブ上で先物が一番強いという金曜日の裏返しのような相場になって終了の図となりました。最終的には相場が反発したので、昨日のドラめもんで申し上げた「債券は一旦反発する場面があってもいいかなとは思いますが」という状態にはなっているのですが、前場売られて後場反発というのは全く想定にない動きでして、正直、相場予測はまたまた例によって大外しの巻です。とほほ。

昨日は大した材料もないと思われるのに訳の判らんタイミングで債券相場はいきなり上昇してくれましたが、債券市場の材料に関してちと思考整理を致しますので、たたき台にでも使って頂きますと幸甚でありまする。

○物価動向

昨日発表された国内企業物価指数は6月速報が+1.4%で原油関連の寄与が0.5%分あるというお話。昨日は選挙で負けたのが効いているのか判りませんが、細田官房長官が「企業物価上昇が消費者物価に波及してデフレ脱却」などというような妄言を発しておられるようです。物価が現象として上昇すりゃあ良いって話じゃなくて需給ギャップの解消が伴わないと只のスタグフレーションになってしまうと思いますが、まぁいっか。

で、本日まで実施されている金融政策決定会合では、所謂「展望レポートの中間評価(形式は普段の金融経済月報です)」が討議されまして発表の運びになります(発表は3時)。

先月日銀から出た金融経済月報の時点で既に景気回復モード全開状態である事はご紹介したと思いますが、その後に出てくる日銀審議委員の講演などを見ておりましても景気回復に関しては確信を強めている状態。雇用情勢が悪化に転じないか(交易条件の悪化が雇用に皺寄せされないか)という点と、個人消費の好調さが持続可能かという点が国内の懸念要因で、海外経済の懸念要因は例によって中国と米国という事になっておりますな。

で、本日の金融経済月報なのですが、昨日の企業物価指数も月報の作成に加味される訳ですので、まぁCPIに関しても益々強気な内容になっていく事でしょう。で、それを材料に短期金利が不安定になると困るので記者会見では楽しい迷走発言が聞かれることになるでしょう。またも債券市場不安定化と見ました(-_-メ)。


○政治方面

選挙はご覧の通りの結果。自民党単独では最早民主党に対抗できない訳でして、公明党またも勝利という感じですが、肝心の自民党が弱体化するのでは頭の痛いところでしょう。サラミ戦術絶賛進行中(とかいうとクレーム来るかな?)の公明党さまがいつまで連立の枠組みを維持するかというのも気になりますが、それは兎も角と致しまして。

選挙前に出していた「51議席確保」も既に随分低い目標でしたが、選挙が終わってみると「51議席の目標設定は高かった」などという実に香ばしい妄言を聞く事ができて極めて心温まる選挙戦ではありましたが、まぁ政権死に体ですわな。福田官房長官の辞任がやはり相当のダメージだったかとあたくしは思っております。

まー改革を進めるとか言ってますが、例によって例の如く民間叩きの改革はすれども財政の発散は止まらずの図というのが容易に想像できる訳でして、財政問題という観点から見た場合には債券が買いとなるような話は想定できない訳です。政権が弱体化すれば財政大盤振る舞いへの誘惑が強くなる訳ですし、おまけに公明党の発言力が強くなって益々財政改革どころの騒ぎではないかと(しかし公明党というとどうしても地域振興券でしたっけ、あの印象が今でも強烈ですな)。

もっと穿った見方をすると、政権のたがが緩んだこのどさくさこそ日本銀行さま悲願の「量的緩和からの脱却」のタイミングであるという発想もなきにしもあらずという妄説を唱えておきましょう(^^)。



○目先の需給

毎度お馴染みの相場パターンから申しますと、6月下落、7月反発、8月急落で9月に小戻し(春日大社のお告げではありません^^)という動きでございます。大体この時期は昨年もそうですが、暑さのせいか景気回復だの金融引締めだのというお話が盛り上がる傾向にあります。まぁ今年も着々とそのパターンに嵌りつつあるのではと言う感じ。

で、先日行なわれた10年国債入札は入札前に持ち上げすぎて爆死してしまう悲惨な入札になってしまいましたが、今週の5年債は0.8%クーポンになってしまうと見事にリオープン。そもそもこの債券は0.818%の平均価格で入札された後に1%まで下落している訳でして、0.8%割れでめでたく売却していれば別ですが、普通に買っている人にとってはまぁどこで買っても簿価上げになってしまうというオチが待っております。最終投資家の積極的な買いは期待しずらいでしょう。ディーラーみたいな足の速い人は買うかも知れませんが。

つー事で、今週木曜日の入札が今後を占う上では最大の注目入札ではないかと思う所であります。20年より注目って感じですか。ありきたりな意見ではありますがね。



○日銀の地ならしが相場撹乱要因という妄説を提唱

先ほど申し上げたように、日銀の景気に関する見方は益々強気になり、もっと穿った見方をすれば、政権のタガが緩んだチャンスに量的緩和解除へ向けての地ならしをしたいと考えているのではないかと勝手に憶測を逞しくしている今日この頃のあたくし。

で、そういうことを考え出すと、日銀の悪い癖で、訳の判らん地ならしをおっぱじめるという傾向にありまして、市場がそれを受けて突っ走るというまさしくマッチポンプというかバンドワゴンというか、市場と日銀二人三脚の自爆テロをおっぱじめたがる悪癖がある訳です。本来、こういうのは市場に任せておいて、あまりにも目に余るオーバーシュートがあった場合に牽制しるというのが本来の「市場との対話」だと思うのですが、日銀の場合は自分から相場のモメンタムを作ろうとする訳で、いい加減にしていただきたいと常日頃から思うあたくし。

とは申しましても、そういう中央銀行とそういう市場が我らが債券市場でもありますので、日銀の楽しいマッチポンプ攻撃がまた開始される懸念があるのが一番の撹乱要因にならなければ良いな〜と思っております。

とりあえず本日の総裁会見では、金融経済月報の他に、先日の国際コンファランスの開会挨拶という格好の突っ込み材料(7月6日のドラめもんでご紹介しましたのでご参照ください)がありますので、何を言い出すのかは注目してみておきたいと思います。引け後の話ですから今日の相場には関係ないですが。




2004/07/12

お題「選挙与太話」

何もかも非常に微妙な結果で、中々アレな内容ですな。

○比較第1党が民主党(改選分だけですが)

改選議席数で比較第1党が民主党になってしまいました。まぁ1週間前の新聞辞令からするとこんな物なんですが、いざ結果を見せられると「比較第1党」というのはやはり驚きの結果ですな。得票率まで真面目に計算してませんが、選挙区でも比例でも民主党の得票が自民を大きく上回っているのではないかと。これが衆議院選挙だったら「憲政の常道」って奴で、比較第1党の地位を失って下野って話になるようなエライコッチャな結果。まぁ自民党全然駄目じゃんって感じですな。こんなに勝つとはあたくし的には激しく驚きです。

ただし、市場はと申しますと、大体この程度の負けは織り込んでいる事になっておりますが、現実問題として比較第1党を確保したのは今回が初めて。そのインパクトがどの程度あるのか、新聞辞令ベースの結果がいざ現実になるとさてどうなることやら。

○与党対野党では61対60

無所属の5議席のうち自民系になりそうなのが宮崎県(微妙みたいですが)で、後は野党系のようですので、連立与党と野党という観点でみると、一応1議席与党系として(帰趨が微妙な人がいますが)まぁ与党かろうじて勝利といった所でありますな。そう考えるとこの結果の評価もまた難しい。

○自民党弱体化もいいところ

共産、社民党が退潮する中での民主党躍進と、公明党が例によって健闘して選挙協力も思いっきり行なう中での自民党の結果というのは自民党弱体化を思わせますな。公明党が裏切ったら自民党終了の図って感じになっている所が実に情けない状況であります。

そんなに「風」が吹いた訳でもないのに、まぁ自民党の弱さが目立つ状態。報道でも話題になってますが、一人区で今まで圧敗していたところでも民主党が随分善戦している訳でして、自公並みに選挙協力を野党が組めば(共産党の体質から言ってそれは不可能なのだが)強烈な結果になりますな。んな事は起き得ませんが。

で、自民党がより弱体化しているな〜と思うのは、責任問題が出てこないということですな。自民党の各派閥が総裁候補を持って党内で争う(良い意味でも悪い意味でも)という図が自民党の混乱も呼びますが活力の源になっていた面もあった訳です。今回のように事前に「勝敗ライン」と言っていた議席数を下回ったらお約束のように幹事長の責任論が浮上して一騒動になる所なのですが、全然その雰囲気なし(実はあるのかもしれませんが)とは如何なものかと。活力の低下振りが懸念される所であります。

○比例代表を見るとまた違った景色も(^^)

比例代表の票はどうも全部開いていないのかニュースを見ていると票が増えて来ておりますが、とりあえずあたくしの書いている時点でお話をば。

竹中大臣は70万票以上の確保って事ですから、これを見ると改革路線というのは支持されているように見える訳であります。まぁ竹中大臣の票が少ないとそれはそれで内閣がエライコッチャになりますので、それなりにてこ入れもしているのではないかと思われる節はありますが、それにしても取りあえず格好の付く数字であります。

前回50万票だか何だか忘れましたが、結構な票を稼いだ某プロレスラーの2匹目のどじょうを狙って擁立された候補もいましたが、スキーの萩原さん19万票。女子プロレス界における男の中の男と評判の高い(^^)神取さん12万票弱で惜しくも次点。前回は初の試みだったせいで目玉候補だしまくりで却って客寄せ候補のいない自由党に票が行ったのではないかという感じでしたが、今回は随分と穏当になったというものであります。実に微笑ましい。

で、民主党のほうの顔ぶれを見ると、恐ろしくこちらも古色蒼然とするものでありまして、労働組合だのサヨク活動家だのの出身がうじゃうじゃいる訳でして、これもまた何なんでしょうという感じ。いざ政権を取ったらまぁ党運営困難になりそうですな。この状態では。

○出口調査って止めたらぁ??

午後8時に各放送局が予想獲得議席を発表するのでとりあえずチェックしておくわけですが、やたらと広いレンジで予想するNHKは別にして各局の予想が自民党46(テレ朝)〜48(TBSとフジ)で、民主党は52か53という感じで例によって例の如く各局ともきっちりと外しておられます。ちなみに、8時から選挙特番をやっていた民放は日テレとフジなのですが、その一声目が日テレは「民主勝利」で、フジは「連立与党過半数確保」というのが両放送局のスタンスを現しているのかな〜と思った訳です(^^)。

まぁ例によって例の如く外す出口調査なのですが、いい加減無駄だから止めたらと思う訳ですな。



○で、相場の方なのですが

相場は織り込み済みは織り込み済み。自民党大敗リスクまで一応見に行った動きなのではないかと勝手に思っています(外国為替市場の動向なんかを見ておりますと)ので、債券は一旦反発する場面があってもいいかなとは思いますが、本日から金融政策決定会合がありまして、物価に対する見方がどのように出されるのかも気になるところであります。

とりあえず相場的には最悪の結果にはならなかったようでありますな。


という訳で、本日はお約束の与太話で失礼しました。

追加コメント、というか本文書き漏れ。

「共産党がドロップした分民主党が増えた」という分析をする人が出てくるかも知れませんが、それは微妙に間違い。

今回は共産党が減った分は基本的に自民党が奪還した議席にあたりまして、その分増える筈の自民党の分を民主党が食っている形です。従って、本文に書き忘れましたが、前回の衆議院選挙と同じではないと思われる訳です。というか自民党にとっては深刻でしょう。





2004/07/09

お題「成績至上主義というものなんでしょうか」

相場は選挙結果待ちで一気に様子見モードになりましたので、ドラめもんは雑談モードという事で(^^)。

○保阪正康氏の指摘する日本型エリート

昨日のドラめもんの最後でご紹介した保阪正康さんの著書「瀬島龍三」において保阪さんは「日本型エリート」の典型として瀬島氏を位置付けて色々と考察を加えている訳であります。

瀬島氏は陸軍幼年学校から陸士、陸大と当時の典型的なエリートコースを歩んできた訳でして、この陸大教育に関しては、良識派と言われる今村均陸軍大将や遠藤三郎中将の戦後の著書からこのような点を問題点として指摘しています。

「直接成績に関係のある戦術は懸命に学ぶが、考課に関係のない科目は手を抜く、戦術も教官の考えに一致させようとその顔色をうかがう風潮もあった」「陸大の軍刀組(優秀成績者)は、教官に気に入られるように答案を書くのに長けていたから、それだけの成績をあげたと思われるし、時には教官がこのような回答がほしいと思っているのを予期して、それに近い回答をだし、文章力でまた教官を泣かせる才をもっていたといえる。」「今村や遠藤の著書からは、どんな負け戦も勝ち戦にかえてしまうような文章力に秀でた者が評価されたという自省が感じられるのもうなずける。当時は逆に、それが日本陸軍の組織原理を忠実に守るという意味で首脳部に信頼されていたのだ。」

で、まぁこの著書の随所で瀬島氏を日本型エリートの典型(確かに絵に描いたようなエリートなのですが)として定義しつつ、色々な取材を通じて氏の特徴を指摘しています。で、そのコメントはこんな感じ。

「私が話していてわかるのは、あの人はどういう社会をつくるかについては考えていない。起こってくる問題にどう対応するかを考えているんです。(加藤寛氏)」「あの方は、これまで責任というものをいちどもとられていません。大本営参謀であったのに、その責任をまったくとっていないじゃないですか。伊藤忠までは許せます。戦後は実業人として静かに生きていこうというなら、個人の自由ですから。とやかくいうことはありません。それが臨調委員だ、臨教審委員だとなって、国がどうの、教育がどうの、という神経はもう許せません。私たち学徒出陣の世代だって、次代の人たちに負い目を持っているのに、瀬島さんは一体何を考えているのかまったくわかりません。(取材を断ったある財界人)」

まぁ戦後20ウン年経って生まれたあたくしとしては中々難しいお話でもあるのですが、当時の日本っつーのが他の枢軸国と違うのは「国家としての意思を特定の人間が引っ張っていった(ナチスドイツのように)のではなく、目先の処理をしているうちに気が付いたら抜きさしならぬ状況になっていた」という事だと思われる訳ですな。で、結局責任らしきものを取った(というか取らされた)のは一部であって、それこそ自衛隊に旧軍の人間が後から続々と入っていったように、気が付けば現場のエリートたちは元に戻っている部分も大きかったりすると。

どうも現代の状況ともまた相通じる物があるように思えます。と、ここまで書くのにやはり話題が重いためか中々筆が進みませんな。どうにもこうにも難しい話ですが、まぁこの話は皆様の思考材料のネタということで(と自己弁護)。


○で、日銀総裁の講演に何故か話が飛ぶ訳ですが

この部分は一昨日の時事メインコラム「金融観測」を思いっきり参考にしております。というか金融観測の題材に上記の話をつけ加えているだけという説もありますが(大汗)。

先日題材にした日銀総裁のスピーチ。実は冒頭には何か訳の判らない話がありまして、「????」と思いながら読んでいた為にドラめもんでご紹介し損なったのですが、その部分に関してコラムで指摘があって「ああなるほど」と思った次第。

あたくしが訳の判らなかったお話は「持続的な経済成長の主要な源泉」という所でして、こんな話をしていました。

『1980年代中頃の経済成長論の復興以降、われわれの経済成長に関する理解は大きく進展しました。過去20年間ほどの間、経済成長は経済分析の中でももっとも人気の高い研究分野の一つとなってきました。新しい「内生的」成長理論は、アイディアの創造・蓄積・普及といったかたちで、技術革新に関する系統的な説明を模索してきました。』

この部分は前振りですな。

『標準的な経済成長理論によると、労働投入を調整し一人あたりでみた経済成長は主として資本深化と全要素生産性(TFP: total factor productivity)向上の二つの源泉から生じます。資本深化は、生産関数に沿って産出量を増大させます。TFP向上は、生産関数を上方にシフトさせることを通じて産出量を増大させます。前者は、資本の蓄積が進むにつれて限界生産性逓減に直面しますので、持続的な成長を達成する上では、長期的には後者が次第により重要となってきます。』

この時点であたくしは理解するのを放棄したのですが、要するに「成熟段階に達したの経済における経済成長のためには、労働生産性を向上させることが重要」という話だそうで。そんならそう言えって感じですが(-_-メ)。

で、ここまでは前振りみたいな物でして、最後の結論が素晴らしい。

『新しい内生的成長理論が示唆しますように、TFP向上は、人的資本や研究開発といった無形資本の蓄積と密接な関係にあります。実際、こうした無形資本への投資がここ数十年間、拡大傾向を続けている証左は多数みられます。特に、高学歴をもった労働者や研究開発に従事する労働者は、いずれも主要先進国で増加してきています。』

研究開発はまぁいいとして、高学歴を持った労働者が生産性の高い業務に従事しているのかというとこれがまた如何なものかと思う訳ですな。トレーディングの現場(そもそもトレーディングは生産性も糞もない業務という話もありますが・・・・)にいますと、別に高学歴だとかMBA持ちだからど〜のこ〜のという事は全然ないわけですしね〜。

どうもこの件を見ると、旧軍における「軍刀組即エリート」「ハンモック番号人事(説明は長くなるので省略)」という硬直した思想に似た「MBA至上」「ロケットサイエンティスト至上」というような物を感じてしまう訳です。

そういえば金融機関経営に関してもやたらと「精緻なリスク管理」を求め、みょうに色々な理論的なお話ばかりを押し付けて来る(日銀だけではなく金融庁も)訳でして、既にその弊害が昨年「VARヒットで集団自殺相場」という形で現れましたが、将来のことを思うとそこはかとない不安を抱く訳であります。


#結局纏まりのないままの文章になってしまいました。とほほ。




2004/07/08

お題「暑いので(嘘)雑談でも」

お暑うございます。というか梅雨時にこの暑さは如何なものかと。

○壊れっぷり全開の相場

昨日の債券相場もかなり酷いものでした。米国ナスダック市場の大幅下落を受けて高寄り。最初は中期ゾーンの上値がやたらと重くなっている中で長期債、超長期債が堅調でしたが、前場引け際あたりから調子がおかしくなってきたと思えば、後場になってまたまた逆転。20年債は前場には先物(=7年)よりも利回り低下幅が大きかったのに、終わってみればイールドカーブ上一番売られる形になりました。5年VS10年でも、一時は10年が5年より3毛強利回り低下という昨日の中期大堅調を逆転させる展開でしたが、終わってみれば1毛弱までスプレッド縮小。

ま〜とにかくイールドカーブが良く動く訳でして、業者が受けた売買をまともに出す(受けた人がそのまま出すという事が常に行なわれているわけでは必ずしも無いと思いますが)のもあるでしょうし、相場の動きが速いので投資家の動きも速くなっているのかも知れませんし、まぁ真相はよく判らんというのが正直なところですけど、どちらにしてもマーケットの懐が浅くなってきていると言うことでしょうな。困ったものです。


○やはり上を買う人はいないという事

昨日の債券相場は株価指数が軟調地合いで昨日も東証1部値下がり銘柄数1000超という「おいおい」という状態でしたが、債券市場の方は朝方高寄りで大引けは安いという見事な陰線を引く形。

まぁ朝方高寄りした時点で10年が1.735%だの5年が0.77%だのと上昇してしまう訳なのですが、当たり前のように寄った時点から戻り売りというかヤレヤレ売りが出てくる訳です。状況証拠から見ますと、昨日の場合は5年ゾーンあたりの中期債に結構な戻り売りが出たような感じです。

まぁ債券先物にはヘッジ売りだの日経平均先物との裁定(なぜ裁定というのかあたくしには激しく意味不明なんですけどね、あんなの単に両方のスペキュレーションでしょう)取引だの、純粋なスペキュレーションの売買など入りますので、ついつい現物債の居場所を軽視してよー動いてくれるのですが、結果から見ますと昨日もまた「10年の1.75%割れ、5年の0.75%近く」での現物債の戻り売り意欲の高さというものを見せ付けてくれたということになったようです。

結局昨日も「相場を持ち上げすぎ」という結果でして、まぁ上を買うのはインデックス系のパッシブ的な買い位しかない(その買いが月末に集中するのがまた問題なのですが)ということが見えてしまったという感じです。

と言っても、下を叩くようにして現物債を売る人もいない訳でして、これがまた難しいところなんですけどね。


○本のご紹介

ま〜選挙結果待ちですから実を言うとあまりネタが無かったりするので以下純然たる雑談になりますが。

新円切替(藤井厳喜著、光文社ペーパーバック)

まぁこの手の本はいくつも出ているのですが、この本では筆者が前書きで述べているように身も蓋もない話をしている所が中々な所かと。前書きでいきなり結論としてこんな事を書いておりまして、そこが気に入ったので珍しくも購入してしまいました。

『あなた(もちろん筆者も含む)がすくわれるには、少なくとも数億円、いたそれ以上の資産が無ければ駄目だ。日本がやがて迎えるであろう国家破産の惨状から逃れるためには、少なくとも数億円ほどの資産は絶対に欠かせないのである。』

この手の本に良くある「海外投資やら実物資産への投資への投資の勧め」は『数千万円から1億円ぐらいの資産家では、やってもムダなのだ』といきなり切って捨てておりまして、書いてある事は身も蓋も無いお話が続いております。別に債券市場を生業にしている人にとっては目新しい事を書いている訳ではないのですが、まぁ一般向け啓蒙書(にしては夢も希望も無い悲観論一色ですが)です。

文章中妙に日本語の後に英単語を入れるのはこの出版社のお約束なんでしょうか???もしかしてこの出版社の出している「ヤクザ・リセッション」をはじめとするシリーズが売れているから同じようにしたのかとも思ってしまいますが、この英単語入れ(例えば『これらの方法は有効effectiveではある。』とか意味も無く英単語が挿入されるのですが)攻撃が激しく鼻について読んでいて萎えますな。筆者は日本人って事になっているのに英単語入れるなヴォケというのが正直な印象。

ISBN4-334-93336-X \952


瀬島龍三 参謀の昭和史(保阪正康著、文春文庫)

第二臨調を実質的に切り盛りした瀬島龍三氏の陸軍時代、伊藤忠商事時代からの軌跡を検証して、所謂「日本型エリート」のありかたや行動様式について考える著書です。著者が文藝春秋昭和62年5月号に寄稿した「瀬島龍三の研究」を発展させた内容となっています。

で、この本をネタにすると現在のエリート論の与太話もできるのですが、そうすると話が長くなるのでまた後日(^^)。大東亜戦争やら連合軍の戦後処理やらというあたりに基礎知識が無い状態で読むのはかなりしんどいと思います。何となく流しながら読めないことも無いでしょうが。

ISBN4-16-749403-5 \457





2004/07/07

お題「相変わらず落ち着きの無い債券相場」

ま〜連日疲れる相場です。

○久々に見た脅威の相場

昨日の10年国債入札。入札があるというのに10年ゾーンが朝から堅調で中期ゾーンが弱いという中々業者泣かせのパターン。碌に相場が下がらないで入札を迎えてしまったので、事前ヘッジが想定どおりに出来なかったということもあったようで、入札の結果はプライストークよりも珍しくも弱いものになりました。

と、まぁそこまではありがちな話で、前場の10年買いは何だったんでしょうな〜という所なんですが、昨日の場合は札入れが終わった後場の寄り付きがいきなり先物売り気配。前場の引けから先物ベースで14銭も下落した上に、前場堅調だった10年ゾーンの現物債の気配が前場引けよりも弱体化するという状況。

状況証拠から見ますと、後場の寄り付き前に10年に結構な売りが出て相場水準が下落すると同時に、10年ゾーン直撃弾被弾ということで一気に弱くなったと言う事でしょうか。超長期ゾーンも妙に弱くなっておりまして、売りが出たのは10年ではなく超長期なのかも知れませんが、超長期の売りでここまで10年を弱くするのは結構大変ですので、10年も出ていたと見るのが妥当かと。

で、もっと悲惨なのは、ヘッジ売りなんかが溜まったあたりで、それまで売り物勝ちだった中期ゾーンに買いが入った事でして相場は中期債と債券先物を中心とした買い戻しモード。終わってみれば新発10年国債は終値ベースで1.780%と、入札時点での最低落札価格とほぼ同じ。債券先物は前場引けから32銭も上昇して135円45銭だわ、5年ゾーンの5年37回債は前場引けの0.825%から0.785%と利回り低下するわという有様でして、まぁ入札でみた地獄の業火って感じでした。


まー入札の日、しかも札入れ終了した後に(もしかしたら札入れ終了直前に出ていたのかもしれないという気がするのですが、状況証拠を仔細に見ると)10年(あるいは超長期)に売りをぶつけてくるというのは激しいエグイ動き、というか相場壊して何が楽しいのか良く判らんというお話でございます。実際に世の中で何があったのかは存じませんが、巷間言われているような10年ゾーンへの売りや5年ゾーンへの買いなんぞがあったとすれば、「まぁようやるわ」という印象です。まさに相場破壊神。


○大口の売買に翻弄されつづける状態

という事で、昨日もまた前場は中期軟調10年堅調だったのに後場に大逆転して中期堅調10年軟調という動きになったのですが、この手の動きは最近しょっちゅう続いております。

どこかで大口の売買、しかも入替形式の売買が出るといきなり長期債と中期債の力関係が大逆転。しかもその動きが日替わりで起きてみたり、昨日のように日中にいきなり変化してしまうというような動きが起きるわけでして、まぁ無茶苦茶な相場になっております。先物の動きだけ見ていると平穏無事に見える相場ですが、もう現物債市場はシッチャカメッチャカでございます。困ったものです。

まーそんな感じで、日々イールドカーブが無茶苦茶(しかも何のトレンドも無いところが凄い)に動く訳でして、まさに一部の大手投資家さまがディーラー状態になって振り回しているというような状態になりつつあるという感を強くするものであります。相場の上下に関しても、急落前の水準に戻ったのは兎も角として、外部環境に振り回されている状況であるのも言えるかと思います。日銀短観が出る前にいきなり暴騰した挙句、出てきた短観で寄りから値を飛ばして暴落した所なんぞはまさしく恐るべしという
所でしょう。

「相場は先行きを織り込んで動く」とはよく言われることですが、最近の債券市場は動きを見ていても「この相場は何を織り込んでいるのか訳わからん」としか思えない訳ですな。何せ短観前に暴騰していざ短観が出ると暴落って幾ら何でもアフォ過ぎです。


という事で、まだまだ相場の受難は続くのであります。しかし何でそんなに皆で何か追いつめられたかのような売買と申しますか、市場参加者全員ディーラー状態と申しますか、とにかく不安定極まりない動きが続くようであります。


○入札に対する不安も出てくるわけで

今期の当初は入札が行なわれると「事前にヘッジ売りが入って当該ゾーン軟調」→「入札堅調」→「その後も割安修正の動きで当該ゾーン堅調」→「ウマー」という動きだったのですが、次第にそのパターンが崩れてまいりまして、ついに今回の入札では入札後に地獄の業火に焼かれる破目になってしまいました。

入札後に何のチャンスもないと判っていて入札をするのはアフォでありまして、こうなってくるとドンドン入札をする気が無くなって来るのは理の当然。一応国債市場参加者狙いだとか落札シェア争いだとかいうのもありますので、札割れみたいな話にはならないでしょうが、さすがに今回の入札後大崩壊は業者としては頭が痛いお話であります。只でなくさえ最近入札で良い事が無いので、次回以降の入札への不安というのも出てくるわけですな。

勿論、入札前のパターンが上記の黄金の法則に則っていれば、それほど不安もないので、結局はそのとき次第って事ですが、まぁ業者が慎重姿勢になってくるようになるでしょうな。



#という訳で、本日は相場に関する愚痴でした。




2004/07/06

お題「ちょいと気になる日銀総裁講演」

日本銀行金融研究所主催第11回国際コンファランスの開会ご挨拶を日銀総裁が行なっております。国際コンファランスだけに挨拶は英語で行なわれまして、ご挨拶の英文が日銀Webにアップされております。

http://www.boj.or.jp/en/press/04/ko0407a.htm

で、んな物を読むのは面倒だというお方の為に日本銀行が仮訳を作っていましてそれはこちら。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0407b.htm

講演のお題は英語ではただの「Opening Speech」ですが、訳では「変貌する経済・社会・国際環境の下での持続的経済成長への挑戦」というお題になっております。どうもこのコンファランス全体のテーマがそういう事になっているようで。で、その講演の中で気になる言及がいくつか散見されたのでそちらをちょっとご紹介致します(訳の方で勘弁)。

○日本の景気認識に関る部分

『しかしながら、日本経済はこのところ、ついに、バブル崩壊後の長く苦難に満ちた調整過程の終点に近づきつつあります。日本経済は、構造的な問題の克服へむけて大きな進展をみせてきました。そして、持続的成長への復帰に向けた勢いは徐々に増しつつあります。また、製造業から非製造業へ、大企業から中小企業へ、大都市圏から地域経済圏へといったかたちで、景気回復の兆しが、より広範にみられるようになっています。』

『ただし、なお注意が必要なのも事実です。現在の景気回復が持続的な成長経路へと経済を押し戻すために十分な持続性と力強さを確実に備えているとまでは言い切れません。このため、現在の景気回復を過去2回の回復と異なるものとしているものは何であり、また、そうした違いは持続的成長経路に到達させるために十分なものなのか、という点を検討しておく必要があります。』

ちなみにこの部分の小見出しは「経済成長経路と景気循環の相互関係」という事になっておりまして、特に目先のお話をしている訳ではなくて、どちらかというと「お勉強」のお話として日本経済を引き合いに出したという感じです。そんな訳ですから、このスピーチでは一般的なお話というかお勉強的なお話をしているという事なのかと勝手に推測しております。


○資産価格の変動と金融システム

という小見出しの部分ですが、ま〜日銀の金融研究所では以前からバブル崩壊に関して色々と研究しておりまして、バブル崩壊の後処理の拙さが長期不況の大きな原因だという分析をしているので、そのお話をしている訳です。

『より効率的な資源配分を進め、長期的な経済成長を促すうえで、資産価格の変動も重要な含意を有しています。金融研究所スタッフからは、わが国の1980年代半ば以降の経験に基づいて、資産価格の変動とその後の経済調整が持続的な成長にどう影響するかを分析した研究が示されます。彼らは、わが国の長期にわたる景気低迷が大規模な相対価格の変動に対する調整が不完全であったことに起因しているものだという視点を強調しています。』

で、ここから話が金融システム話になるのですが、

『バブル崩壊後の経済低迷の中での経済調整が不完全であったという論点に則して考えると、金融仲介の機能不全が金融システム内における資源配分メカニズムを損なっていたことを痛感します。脆弱化したバランスシートのもとでは、銀行は不採算企業への貸出を継続することで、その存続を許しがちです。こうした貸出政策がとられると、より将来性のある企業への生産資源の再配分は阻害されてしまいます。』

と言っているのですが、ここで「脆弱化したバランスシートのもとでは、銀行は不採算企業への貸出を継続することで、その存続を許しがちです。」というのは変ではないかと。本来バランスシートがヤバイ状態なら不採算企業への貸出なんぞやってられない訳でして、それは因果関係を取り違えた論点かと。不採算企業への貸出を継続したからバランスシートが脆弱化したのではないでしょうか。

「銀行が不採算企業への貸出を継続」したのは「脆弱化したバランスシート」が原因なのではなく、金融行政における護送船団方式が問題先送りを容認し、銀行経営側もその護送船団に何の疑問も抱かずに追随していったっつーお話ではなかったのかと存じますが。

どうもこのお方が銀行関連のお話を始めますと、現実認識に関して???を付けたくなる事が目につきます。金融庁もそうなんですが、何か肝心かなめの部分が間違っているような気がするんですよね〜。


○ビハインド・ザ・カーブのリスクに言及(か?)

何気にこの講演はさらりと流されているのですが、良く良く見ますと「低インフレ環境における新たなる挑戦」という小見出しの部分で本来の日銀マンたるインフレファイター発言がどさくさに紛れて炸裂しているのが結構目立つ訳です。

『こうした論点の先にある一つの問題としては、経済の需給関係が逼迫化してきても、中央銀行のインフレ抑制に対する高い信認がある場合には、インフレ期待はさしあたり十分低水準に落ち着いているかもしれない、という点が挙げられます。しかしながら、物価や賃金が実際に上昇を始めるころには、インフレの潜在的なリスクは高まっているでしょう。さらに悪いことに、財・サービス価格が相対的に安定している陰に隠れて、住宅価格などの資産価格の大幅な上昇も見逃されがちです。この結果、金融引締めは大きく後手に回ってしまう可能性が高いでしょう。』

日本におけるバブル発生とその崩壊を念頭においたお話らしいのですが、どさくさに紛れてこの発言は普段「ビハインド・ザ・カーブやむなし」みたいな事を複数の審議委員が発言したり、総裁御自ら「サービス発言」をされているのとまるで違いますが、ど〜なっているんでしょ。

まぁ総裁に言わせればこのお話は一般的な話であって、現在の日本の金融政策はまた別の話って事なのでしょうが、足許の政策論議と一般的なお話が混同されるリスクもある訳ですから、あまりこの手の一般論はしないほうが良いのではないかと。気が付いて一々ネタにしてしまうあたくしのような人間がいる訳ですから。


○特定の物価指数への政策ペッグを否定してます

で、この次がまた結構なコメント。

『わが国は、過去20年あまりの間に、かなり良好な物価環境のもとでの資産価格バブルとその後の長期にわたる経済低迷を経験しています。こうしたわが国の経験は、近年では、多くの中央銀行が強調しているとおり、かなり長い期間を通してみた場合に、物価の安定が持続可能かどうかを評価していくことの重要性を示唆しています。つまり、「物価の安定」は、特定のインフレ率を、特定の物価指数でみた特定の時間的視野で達成することには、必ずしも常に対応するわけではない、ということになります。』

最後の一文が泣かせます。デフレ脱却後のあるべき金融政策は特定の物価指数に事実上ペッグするかの如き政策を取るのではなく、経済状況を総合的に判断して運営すると言及しているように読めますな。昨日と金曜にご紹介した田谷審議委員の講演及び記者会見とあわせますと、日銀内部で考えているであろう将来の金融政策が何となく見えてくるわけで。

この部分の前の方でデフレ経済下における金融政策の限界(名目金利をゼロ以下に出来ない)などに言及しておりますので、恐らく現在の量的緩和政策の枠組みである「CPIが前年比ゼロ以上に戻しましょう」というのはあくまでもデフレ脱却の為の方便みたいなもの(元々がそうでしたが)だという事でしょう。

「特定のインフレ率を云々」という件を読みますと、当然ながらゼロ以上にCPIターゲットを引き上げるというのは論外であるという結論に達する訳でありまして、インフレ参照値だのインフレターゲットだのというような政策の枠組みに関しては仮に導入する破目になったとしても、極力形骸化する方向になっていくという意思が見え隠れする部分でありました。


もしかしたら昨日の時点でも話題になっていたかも知れませんが、今日当りから話題になりそうですな。大いなる懸念はこのあたりに関して後日記者会見で突っ込みを受けた時にまたお得意の不規則発言がでるのではないかという事ですかね(^^)。


#結局10年入札はノーコメントでしたね、あはは。問題無いでしょ。





2004/07/05

お題「田谷審議委員の記者会見」

日銀内部の本音を代弁していると思われる審議委員には田谷さん、須田さんの2名です。ちなみに植田審議委員はカリスマ大総裁に遠慮しているのかど〜か知りませんがあまり発言というものが出てきませんので黙っているのが何ですな。結局外部から来ている審議委員が日銀内部の代弁者状態になっているのは皮肉といえば皮肉なお話であります。

先日の講演の後に行われた田谷審議委員の記者会見をご紹介。
http://www.boj.or.jp/press/04/kk0407a.htm

○金融政策に関して

講演で「米国の金融政策が超緩和から中立的な状況に戻る」というようなコメントをしていた事に絡み「中立的な状況とは何ぞや」という質問が行なわれまして、それに対する答え。

『まず、最後のご質問の「日本のデフレ脱却時における中立的な政策金利水準がいくらか」という点については、まだ私には確たる具体的な答えは残念ながらない。』

『第2点目についても、米国のFFレートが中立的な水準に戻っていくと広くマーケットで信じられていることはご承知のとおりで、一部の連銀理事のコメントだとか、エコノミストのコメントだとかがいろいろある。(中略)これからマーケットがその都度、様々な経済・金融情勢を考慮しながら判断していくものであり、確たる答えは今誰にも言えないだろうと思う。』

『また、「何が中立的か」という最初のご質問についてだが、現在、米国は4%台の実質経済成長率を遂げ、物価変化率も消費者物価指数でみて──あるいはコア消費者物価指数の動きでみて──2%ないしは2%弱の動きをしており、これを以ってFRBは景気刺激的な超低金利は必要なくなったと判断している。従って、「景気を刺激する必要性がないレート」ということなのではないかと思う。』

当たり前なのですが、具体的水準に言及することなく米国の状況を例にあげて、上記のような経済状況であれば景気を刺激するような金融政策を行なう必要は無いという見解を示している訳ですな。何か言われるたびに頭に血が上るのかどうか知りませんが、ついつい具体的金利水準に言及してしまう総裁とは大違い(記者の追及が厳しいか否かの違いはあるでしょうが)ですな。

勝手に「日銀内部のホンネ」を推測すると、CPIがプラスになってくれれば量的緩和もさっさと解除したいし、CPIがプラス2%なんて数字の時には短期金利は1%以上ないと話にならんという事でしょうな。岩田副総裁がいう「糊代論」ではCPIがプラス1%位まで量的緩和を続けるって話になりますから、この田谷さんのコメントが日銀内部のホンネだとすれば、随分と違うお話になります。心に留めて置いても宜しいかと思いますよ。


インフレ参照値に関しての質疑では「インフレ参照値の導入は政策の自由度を過度に奪う」という話を講演でしていまして、当然ながらそちらに関して質問がありましてそのお答えですが、やたら長いので途中で段落わけします。

『インフレ参照値の下限をβ、上限をγとすると、そのβなりγなりということが、金融政策を変更するトリガー(引き金)となる物価変化率αという数字とかなり混同される──例えば、αとβというのがかなり混同されて理解される──危険性があると思う。』

『要するに足許の物価変化率がx%で、参照値の下限がβであったとすると、xがβに近づくに従って、マーケットはかなり不安定化するおそれもあると思う。しかも、その時の資産市場の状況や景気の局面などがわからない状態でそういう数字だけを言うということは、かなりその後の金融政策についてのマーケットの考え方の幅を大きくするのではないかと思う。』

現状の債券市場ですら不安定化している訳ですから、インフレ参照値を設定すると益々不安定になるのではないかという見解。あたくしも同じ事を懸念するものであります。

『例えば、αにしろβにしろある数字を言い、その間に景気の回復が持続し、資産市場にもかなり変化の兆しが見られるような状況になったとする。この時に、マーケットというものが、それだけ長くゼロ金利が継続するということを想定した場合、一旦、金融政策のスタンスが変わった後は、相当大幅な変更があると予想しかねない──大きな金利の引き上げが必要になるということを想定しかねない──と思う。ある数字を言うことによって、そうした数字に近づくに従ってマーケットが大きく不安定化するおそれもあると私が想定しているのはこういう事態だ。』

結局のところは総合判断で(その判断が正確かどうかはともかく)金融政策は先走る事も無く遅れることも無く実施するというスタンスで行くという事しかないのでしょう。金融政策を単一の経済指標にペッグされるという事は弊害が大きいということでしょう。別の質問に対してこんなコメントをしております。

『金融政策スタンスを変更するトリガーとなるような現実の物価変化率と参照値の下限値がある意味で混同される可能性があるのではないか、ということを申し上げた。』


○景気に関して日銀短観から

日銀短観に関してはこんなコメントをしております。

『5点ある。第1点は、設備投資、特に製造業──なかでも大企業製造業──の設備投資計画が強いと思う。第2点は、業況判断D.I.や利益見通しなど多くの指標で、バブル期以降の最高水準となるものが目立っている。第3点は、大企業製造業対その他、あるいは製造業対非製造業、大企業対中小企業といった間で格差が縮まっていないということが読み取れる。その理由としては、大企業製造業の改善がかなり大きかったためにこういう現象が起こったのであり、中小企業にしても非製造業にしても、それなりに改善はしてきていると思う。第4点は、設備判断D.I.とか雇用判断D.I.の改善がみられている。これの意味するところは、需給ギャップがそれなりに縮小してきていることが確認されたということだと思う。第5点は、企業金融が全般的に改善してきているということが確認された。』

まぁ大体ありがちなコメントなのですが、その中でも回復の裾野の広がりに関してコメントしている第3点は「ふ〜ん」という感じですな。しかしながら設備投資は良好、需給ギャップは改善して企業金融も改善と来ると相当の強い内容だという見方になっているという事ですな。日銀短観というのはぶっちゃけて言えば只のアンケート調査なので、そのときの雰囲気にも左右されると思うのですが、何だかんだと言いましても日銀は重視していますので、益々景気回復モードって事でしょう。

短観の先行きの数字がやや下を向いている点について質問があった(実際問題としては、今までも先行きのDIは常に下向きだったので、そもそもこの質問自体がトンチンカンなのですが)のですが、それに対する答えは、

『先行きの数字が若干下がっているが、私は基本的にはあまり気にしていない。横這い圏内の動きが続くと皆さんが見ておられるのだろうと思う。』

景気に関しては総じて強気なコメントが目立ちます。


○地元からの意見

この金融経済懇談会は釧路市で行なわれたのですが、参加者からでてきた質問に関しては大変に興味深いものがあったようで、だいたい今までの講演後に行われる記者会見では参加者からの質問に対して簡単にしかコメントするだけな事が多い中で、結構詳しくコメントしておりますので、特に注釈もせずのやたら長い丸引用で恐縮ですが、引用したします。

『先程の懇談会で出た話題を4つに纏めてお話しする。第1点は、北海道あるいは道東の経済はやはり厳しいという話が異口同音に出た。中央と地方の格差や企業間格差というものがなかなか縮小していないし、ある面では却って拡大しているのではないかということ、そうした中で伝統的企業と言われるかなり長い歴史を持った企業が倒産しているという現実があることなどについて伺った。』

『第2点として、今朝、短観が発表になった訳だが、短観のやり方について、対象企業の見直しが不断に行われているのかというご質問があった。例えば、優良企業ばかり入っているのではないかとか、新興企業がなかなか入っていない面があるのではないかというご指摘もあったが、私からは、やはり経済統計の本来的に持っている1つの弱みというものはそういうところに確かにあるので、そのために5年に1度は大々的に見直しているし、定期的にも見直しているというお話をした。』

『3点目に金融政策に関連してご発言があり、金融政策というものが中央に偏重していないかというご指摘、あるいはマーケットに偏重していないかというご指摘があった。その関連で、地方の実態にもう少し目を向けて頂きたいというご要望もあった。』

『最後に4点目として、将来を考えると不安な要因があるということが幾つか話題に出たので、3つほど申し上げる。1つは財政赤字がかなり拡大しており、国の債務残高が700兆円を超える状態になってまだ増加に歯止めがかかっていないということがあるが、これに対する懸念なり不安なりということが異口同音に聞かれた。2つ目は、長期金利がここのところ上がっていて、その企業収益に対する影響ということについて、不安を口にされる方がおられた。最後に、原油価格について、サウジアラビアの不安定性や、中国、インドといったエマージング諸国の需要拡大によってなかなか原油価格が下がってこないのではないか、もしそうであれば経済の先行きを考える上で困ったものだというお話があった。』

道東の経済状況に関してのコメントもあるのですがそちらは省略します。





2004/07/02

お題「日銀短観/田谷審議委員VS岩田副総裁?の巻」

○日銀短観をいい加減に眺めると・・・・

まぁ解説については本職のエコノミスト様がちゃんとしたものを出しておられると思いますのでそちらをご覧頂くとしまして、あたくしの雑感を。

・製造業の業況判断DIが改善してますが

短観の概要というのを見ると業況判断DIを業種ごとに展開しておりまして、今回改善著しい(前回の「先行き予想DI」と今回の「業況判断DI」を比較した改善幅が大きい)業種を見ると面白いというご指摘を受けまして、良く良く見ておりますと、今回業況判断が景気よく改善している業種が思いっきり中国関連銘柄という感じであります。

特に突出して改善著しいのが鉄鋼。その他では石油・石炭製品だの窯業・土石製品だの非鉄金属だのという素材関連に改善が大きいものがありまして、原材料価格上昇の中間財への価格転嫁が進んでいるということなんでしょうか。

・相変わらず大企業製造業は潤うのですが

中小企業製造業の業況判断DIがプラスになったのは結構なお話ですが、相変わらず非製造業では中堅企業以下の規模での業況判断DIはマイナス(中堅企業は▲1なんでほぼゼロですが)ですな。まぁ相変わらずなのは中小企業非製造業でして、業況判断DIは▲18ですな。ちなみに、調査対象企業というのが全国10416社なのですが、中小企業非製造業の分類に入る企業数が3252社と(当たり前ですが)一番多く、調査対象の3分の1近くを占める訳ですな。

そりゃまぁどこぞの官房長官が「もはや好況といえるのではないか」などと(選挙中だから仕方が無いですけれども)耳を疑うような素晴らしい発言が出ていましたが、ど〜も「はて、そんなに好況でしたっけ?」と思ってしまうのは結局最頻値のカテゴリーに当る部分のDIがこんな有様だからという事もあるのではないかと。

・金融機関の業況判断

これも人から教わったのですが、いつの間にやら(前回から)金融機関の業況判断というのも始まっておりまして、短観概要のケツの方に載っている訳です。

まぁ当然ながら業況判断がアフォのように良好。証券業のDIが激しく結構なのは判ります(しかし何故あたくしの収入が増えない?)が、銀行で業況判断+36だそうで、何かこの辺の数字を見ていると何となく脱力してしまうわけですな。

と、申しますのは、ご存知のように銀行の不良債権問題なんぞは大本営発表ベースではほぼ終了みたいな話になっていますが、ど〜考えてもまだまだ根が深いお話。何の因果か血祭りに上げられているUFJだけの話ではないでしょう。そんな事を勘案してこのDIの+36などろいう数字を見ていると、「業況判断DI」という性格上仕方ないのですが、「足許のフローが結構」という所が妙に強調されすぎになってしまっているのではないかと思うのであります。

元もとの腐っているストック部分まで考慮に入れたら全然別の話になって来るのではないかと。恐らく信用金庫・系統金融機関等のDI+17なんて所が精々正直なところなのではないかと思いますがね。

以上、あくまでもあたくし的なただの雑感でした。


○田谷審議委員、岩田副総裁に物申すの巻(か?)

昨年の10月以降に行なわれた「景気判断を前進させているのに当座預金残高目標の引き上げ」という整合性もへったくれもない金融政策に対して反対票を投じつづけた田谷審議委員。外部からやって来た審議委員が最も原則を重視する姿勢を見せているという大変に皮肉な状況な訳ですが、昨日は釧路市における金融経済懇談会で「最近の金融経済情勢と金融政策運営」というお題で挨拶を行いまして、その要旨が例によって日銀のWebにアップされています。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0407a.htm

・景気情勢の今後に関しての言及

本当は金融経済情勢について色々とお話をしているのですが、まぁ基本的に相当の強気になっております。海外好調、国内も設備投資が非常に強く、不良債権問題も大幅に進捗、企業部門の回復が家計部門に波及しつつあると言うお話です。

で、今後に関しては他の皆様も同じように指摘していますが個人消費の動向がどうなるかというお話になっております。そのあたりだけ引用しておきましょう。

『高齢者層の消費意欲が強いことなどもあって、個人消費は所得対比で堅調を維持しています。個人消費の堅調が、所得面での改善が明確になった段階で、さらに明確化するかどうかに注目しております。』

『個人消費の堅調が続くことになれば、非製造業の業況もさらに好転していくことになるでしょう。非製造業の回復が、景気回復の地方への波及を考える上で重要です。公共投資の減少傾向がまだ続きそうな下にあっては、なおさらです。』


・岩田副総裁に物申すの巻

というのは一応の前振りでして、本題は最近の金融政策運営についてという小見出しの部分であります。最初は今後の物価動向の見通しについて興味深い(のだが、門前の小僧のあたくしは入門しないと良く判らん話をしているので紹介できません)話をしているのですが、それはそれとして今後の金融政策運営に関して大変に結構なお話をしております。

『強めの景気指標が公表される中で、量的緩和解除の第二条件を近々変更するのではないかとの見方が一部に出てきています。来年度についての委員の大勢見通しとして、コアCPIの変化率がプラスになった場合、マーケットの安定化を図るため、条件を厳格化するのではないかといった見方です。』

『個人的には、現在、そうした厳格化は必要ないし、適切でもないと思います。第一に、まだ足許のコアCPIの変化率はマイナスです。これを安定的にプラスにすることが現在第一の課題です。第二に、量的緩和解除を実際のコアCPIがα%を超え、将来の予想変化率がβ%を超えることを条件にする、あるいは、将来の予想変化率がγ%を超えないことも合わせて条件にする、といった一部で言われているような事前のコミットメントは難しいと思います。』

『そうすることで、将来の弾力的な政策対応の余地をなくすことに対し、市場参加者が不安感を抱くということが、かえってマーケットの変動を大きくしてしまうことも考えられます。』

長いので分割しましたが、日経新聞および一部のエコノミスト、ストラテジストや中原審議委員が当初言い出したお話に対して反駁です(^^)。そしてこのあとに岩田副総裁の主張に真っ向反論の巻(か?)。

『この関連で、消費者物価の上方バイアス、あるいは、金融政策のゼロ金利制約が問題となることがあります。消費者物価はさまざまな要因から上方バイアスを持っていることが知られています。バイアスのマグニチュードは、なんとか数値化できる部分に限って言えば、年1%弱であるとの研究が何年か前にありました。その後、指数計算上の基準年が2000年になり、新商品が多く取り込まれたり、ウエイトの見直しも行われました。また、パソコンなど一部の商品についてヘドニック法という品質調整方法が行われるようになったことから、バイアスのマグニチュードは、半分程度に縮小している可能性があります。固より、指数問題は高度に複雑で、バイアス問題に関して確かなことを言うことは難しいというのが率直な実感であり、これはあくまでも個人的に引き出した暫定的な結論です。』

そして、岩田副総裁がよく言う「CPIが再びマイナスにならない糊代」のお話に引き続き真っ向勝負の巻(か?)。

『望ましい物価変化率は、ゼロ金利制約に関連して、再びマイナスにならないだけの糊代をもったものであると言われることがあります。しかし、これも、内外経済情勢と独立に、事前に決めることは難しいでしょう。変化率は、高ければ高いほど、再びマイナスに陥る可能性は小さくなります。ただ、望ましいと考えられる変化率をあまり高くすると、その後の経済や政策の振れが大きくなりかねません。逆に、あまり低すぎても、役に立たないということになります。この問題は、その時点での物価を巡るさまざまな環境との関係で考えることになると思います。』

とは言いましても、望ましい物価変化率という問題に関しては柔軟な事も言っておりまして・・・・・

『望ましい物価変化率ということに関連して、それが若干のプラスであるその他の要因もあります。まず、バランスシート調整を進めるためには、物価変化率が若干のプラスである方が望ましいということです。さらに、賃金に下方硬直性がある場合、プラスの物価変化は、経済の構造調整をスムーズに進めることに寄与すると考えられます。実際には、賃金の下方硬直性はそう顕著なものではなかったとの見方もありますが、依然として、この点も考慮に値する点だと思います。』

「実際には、賃金の下方硬直性はそう顕著なものではなかったとの見方もありますが」という件がさすが証券会社というか証券会社系シンクタンクご出身だけのことはあり、賃金下方硬直どころか上方硬直状態のあたくし読んでいて思わずニヤリとしてしまいましたな、空しい話ですが(^^)。


・金融政策のあるべき姿については「総合判断」だという事で

結論に当る部分はこんな感じであります。

『結局、政策の透明性を高めるためには、景況感や物価見通しについてマーケットとの対話をより密にしていくことが必要です。量的緩和解除の第三条件に関連する点です。金融政策決定会合の議事要旨、総裁を始めとするボード・メンバーのコメント、「金融経済月報」、「展望レポート」と3ヶ月後の中間評価、などを通して、物価の変化方向とそのスピード、物価変動の要因に関する理解、景気の強さとその局面、景気に関する先行きリスクの在りよう、資産市場の状況などについての見方をマーケットと共有することが重要です。』

『コアCPIが仮にプラスになったとしても、変化率が短期的にも大きくなっていくのか、そうでないのか。物価上昇圧力があったとしても、それが需要サイドからきているものか、供給サイドからのものか。たとえば、同じ原油価格の上昇に直面しても、実体経済が景気後退局面に直面しつつある場合などは、その他の場合とは、政策対応が違ってくるかもしれません。また、国内景気を取り巻くリスクは常にありますが、顕在化すればかなり大きなデフレ・ショックとなることが分かっており、しかも、それがある程度の蓋然性をもって予想される場合などは、自ずと政策は慎重にならざるを得ないでしょう。資産価格の動向も政策的に直接反応するしないということとは別に、考慮する必要があるでしょう。』


要するにCPIの数字だけ見ていても仕方ないわけで、内外情勢を見て総合判断するのが大事であるという非常に当たり前のお話をしている訳であります。この辺の所が学者さまなんぞには非常に遺憾に思われる部分なのかもしれません。すぐにCPIなんぞに金融政策をペッグさせて行くような「理論的に美しいお話」に走りだすのはやはりいかがな物かと思う訳でもあります。


最後に結論を入れてくれる所が中々結構な挨拶です。やや重複になりますが結論部分の引用をしておきます。

『わが国の景気は回復を続けており、先行きについても、前向きの循環が明確化していくとみられます。しかしながら、現在のところ、コアCPI前年比はマイナスを続けており、先行きについても、当面、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想されます。こうした中、私としては、現在の量的緩和を粘り強く続けていくことが重要であると考えています。また、強めの経済指標が公表される中で、量的緩和の解除条件を変更するとの見方が出ていますが、適切ではないと思います。望ましいインフレ率の公表についても、政策手段に限界があり、デフレからの脱却を模索している状況下では、政策の自由度を過度に奪い、経済の安定に悪影響を及ぼしかねないというデメリットが大きいように思います。』

では。






2004/07/01

お題「気が付けば急落前/その他」

昨日の補足ですが、日銀のWebにアップされている「バーゼルU」関連ですが、金融庁のWebにも同じものがアップされてますな。というか金融庁が本丸ですからまずこっちを見ろって感じでしたね。

しかし大企業や中堅企業向けの貸出よりも中小企業向け貸出のリスクウェイトが低くなるという理屈だけは相変わらず理解に苦しむものであります。「日本に配慮した施策」なんでしょうけれども、あまりにも馬鹿馬鹿しいお話で、こんなインチキなものを金科玉条として銀行への金融行政をやっている人たちもまた・・・・・(-_-メ)。

と言う話はともかくとして市場のお話。


○気が付けば急落前

急落直前といえば6月8日の5年国債入札なんですが、この日の引け値と昨日の引け値を比較すると物の見事に中期国債だけしっかり戻っております(正確には約1ヶ月時間が経過している分のイールドカーブ上でのロールダウンを考慮しないといけないがここではざっくりとしたお話しかしないのでその辺の配慮は省略)訳でして、5年37回債なんぞは8日の引け利回りの0.835%をしっかり抜いて、あと一歩で平均落札価格の99円91銭まで到達ですよ先生。

一方で10年260回債は1.775%で8日の1.7%と比較して出遅れ感があります。20年は不覚にも手元にある資料(ただの帳面ですが)に69回債の引け値がないのでちと比較をパスしますが、70回債のお値段を見ると多分戻っている筈ですな。

結局落っこちて戻ってくる間に、案の定といえばそれまでなのですが、コアな投資家層がいない10年ゾーンが遅れてしまったと言うわけです。


で、何だか訳のわからない内に相場が上昇して急落前の水準まで戻っているのですが、日銀短観を織り込んでしまっているのかどうかまったくの謎。まぁ元々今回の下落事態が「捏造された武藤ショック」をネタにした仕掛けだという事ならば、これでとりあえずマーケット中立って事なのかもしれませんな。サッパリ訳のわからん話ですが。


ところで、債券相場例年の傾向って奴なんですが、5月が堅調で6月は軟調、7月に戻って8月に急落っていうのがパターンだったりする訳で、その伝で言えばとりあえず目先当面の戻りを試す展開ですな。

しかし株式市場は良好な日銀短観を織り込んで上昇して債券市場は短観が事前に大騒ぎしたほどに良くはないでしょうと言って上昇とは実に都合の良い反応ですな。

さすがにこれで短観が予想通り程度で相場を持ち上げるのは無茶(目先は持ち上げ可能だとおもうけど)な気がしますがいかがな物なのかはもうすぐ判るというものでしょう。


○市場との対話について

FOMCの結果はFF金利0.25%引き上げで、「緩和的な政策は慎重なペースで解除されるであろう」とかいう文言は残すという正に「市場の予想通り」というものになりました。

この「市場の予想通り」ってのがキモな訳でして、「市場の期待の安定化」というのはこのようにしてやるものだというお手本が目の前(正しくは海の向こう^^)にあるのですから、せいぜい日本の中央銀行様も頑張ってもらいたいものです。

と、中央銀行のせいばかりにしていますが、債券市場も債券市場な訳でして、何かの「懸念」が吹聴されると集団ヒステリー状態になって集団自殺的債券叩き売りをしたり、明日がないかのような勢いで買いに回ったりするような人々がいる(価格に対する水準感というのは無いのかな〜?)と思えば、引け値ベースで価格が決まる債券インデックスとのトラッキングエラーを出したくないからといって揃いも揃って「引け値で買いたい、引け値で売りたい」という売買ばかりで挙句に業者連合に終値持ち上げ(下げ)られても平然としている人々がある(自分たちでインデックスを悪化させているという認識はありますかね?)わという状況を年がら年中見せられますと、まぁこの市場にしてこの中央銀行ありという事で結構なのかも知れませんな。

#うーむ、また市場に喧嘩を売っておる。罰があたるな。

ところで、まぁあたくし以外の方も指摘すると思いますが、一応俺様リマインダーと言うことで念のため申しますと、このどさくさに紛れてFOMCの声明文ではインフレ警戒の一文を付け加えております。毎度のキメ台詞の部分を引用します。

With underlying inflation still expected to be relatively low, the Committee believes that policy accommodation can be removed at a pace that is likely to be measured.

これは前回と同じ。次の一文が新しく加えられています。

Nonetheless, the Committee will respond to changes in economic prospects as needed to fulfill its obligation to maintain price stability.

インフレ問題にやや警戒的になってきております。「市場の織り込み済み」声明をだして安心させておきながら着実に次回への布石を打っている訳で、今後も景気拡大ペースにあわせてちんたらと利上げをしていくという事なのでしょう。


なお、5月19日、20日の金融政策決定会合議事要旨に関してはもはや相場の状況が全然違う場所にいるので、余り材料視されませんでした。とりあえず景気に関して強気だというのはわかりました。ダム論も全面展開となってますな。


ということで甚だ簡単でしたが本日はこんなところで(^^)。