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2004/10/29

お題「国会は鬼門?」

本日は諸事情(寝坊ではない)により簡単に。

相変わらず国会にせっせと日参させられる日銀福井総裁様、昨日は参議院財政金融委員会で6月国会に提出した平成15年下期分の「通貨及び金融の調節に関する報告書」の概要説明の為に参議院に出席されておられました。で、例によって例の如く会議録が直ぐに出てこないので情報ベンダーのニュースとあたくしの脳内メモリーから発言を拾いますと、またまた妙な発言をしているようなのですよ。

時事メインだか日本語版ロイターだか忘れましたが、ちょうど2年国債入札をどうしましょって話をしているときですから11時半過ぎなんですが、質問に答える形で「金利を無理に押さえつけるような政策は行わない」という発言をしていたようであります。(別のベンダーのニュース記事を取ったら、発言じゃなくて概要説明の公開文書を記事にしただけのものでがっくりですよ先生、って記事読んでからコピーしろよですな)

どういう文脈でその発言が出たのかイマイチ良く判らんのですが、これが英語のフラッシュになりますと(ってこれもまたあたくし入札その他で忙しくて肝心のフラッシュを正確に記憶してないのですが)、「金利」が「long term rate」に化けてしまう訳でして、海外投資家(投機家?)がフラッシュを見ると「日銀総裁は長期金利の上昇を示唆している」ってな思いっきりミスリードな話になっている懸念がある訳です。なお、概要説明の文書として日銀Webにアップされている文章は下記URLでして、まぁ特に目新しい話をしているわけではありません。
http://www.boj.or.jp/press/ko0410e.htm


どうも福井総裁というお方は副総裁時代(懐かしい話だ)の「ジャストタイミング発言(=景気回復期待で金融引き締め懸念があったなどという事が有った時に、何故か連合の人たちとの会談の席で「金融政策についてはジャストタイミングで対応を考える」とかいうような発言をしたと報じられて債券相場瞬間大暴落したという伝説の発言)」を始めとして、誤解を招く発言が多いようでして、これを最近の債券市場関係者は「サービス発言」などと称しております。

新日銀法の下、「開かれた日銀」を標榜する中央銀行さまにおかれましては金融政策に対して広く国民に理解を求めるというわけでして、福井総裁さまにおかれましては恐らくご本人の意識として率先垂範の精神で「わかりやすい言葉で金融政策の説明をしていこう」という意識が働いているのだと勝手に想像する訳ですが、どうも「わかりやすい言葉で説明をしよう」っていう意識が空回りしているのでしょうな〜と思うわけです。

折角わかりやすい言い方をしても、それを言うタイミングとか言い方があるっていうのはどうもご理解頂いてないようでして、債券相場が上昇しまくる今となってはただの馬鹿相場だった昨年の5月だか6月には「国債は株式と違うので国債バブルという言い方は適切ではない」と言って暴騰祭りにガソリンをぶち込んでみたり、その後の暴落時には「景気回復で金利が上昇するのは自然な姿」と言ってまたも燃料投下をしてみたという実績がございました。最近では年初だか何だか忘れましたが、ちょうど長期金利が低下している時に「金利に蓋をする」という迷言で10年金利1.2%割れへと燃料投下して、その後の債券下落での怪我人を増やす原因の一端を担ってみたりと困ったものでございます。


今までの言行を見ますと日銀総裁様におかれましては「原稿の無い場所」で発言をするとその場の勢いで誤解を招くような言い方をしてみたり、余計なサービスフレーズをつけてみたり、心情を吐露したかのような言い方をしてみたりと、どうも市場に余計な燃料を投下する傾向にあるようです。で、講演やら記者会見なんかでは遅くても翌日に発言内容が日銀のWebにアップされますので言ってみれば「公式発言」を確認する事によって冷静に読み直して「ああ、この発言の真意はこういうことだったのね」と確認できるのですが、国会の場合は会議録として閲覧できるタイミングが(その時々で違うのですが)1週間〜2週間かかりまして、その間に相場はどっかに逝ってしまっておりますので、改めて会議録をチェックして発言の真意を確認しようというような物好きはあたくし位しかいない訳ですな。

よって情報ベンダーのフラッシュやら新聞報道だけが駆け巡って終了と言う事になるのが国会という事になる訳です。そう考えますと、前も同じことを申しあげましたが、日銀仮バージョンでもいいですから「日銀総裁の国会答弁概要」に関して日銀からタイムリーに発表するような(多分法令か政令をいじらないといけないと思いますが)環境整備をした法が宜しいのではないかと思う次第であります。


それでは〜^^





2004/10/28

お題「徒然に相場雑談」

何だかんだと申しましても結局債券相場は見事に焦点ボケ状態。イールドカーブはちょこちょこ動くのですが、相場の全体水準を示す(ことになっている)債券先物はと申しますと、これもまたちょこちょこ動くのですがよくよく見ると狭いレンジ内取引という素敵な展開になっております。当然ながら最終投資家様は様子見モードで閑古鳥が日々大合唱しておられます。商売にならん。

てな訳で徒然に思ったことなんぞを雑然と。

○見事な気迷い相場

昨日午前10時40分の地震には驚きましたが、なお驚いた(というかまぁ驚かなかったのですが)のは地震直後から債券先物の買いと株価指数先物の売りが入った事でしょうか。株式市場は兎も角として、債券市場に関して言えば、債券先物の買いが入った後の現物債の気配を見ると明らかに「債券先物だけに買いが入りました」という誠にバチアタリな展開となっておりまして(^^)、まー要するに「ディーラー筋の買戻しなのね〜」ってなもんです。

いやまぁ何と申しますか、よほど相場のネタが無いとゆーことなんでしょうが、週末(つーか明日)発表の展望レポートに関しても内容についてのコンセンサスは出来ている(審議委員の講演その他を並べて見れば大体のところまでは読める筈なのですが)ので、金融政策の方向性みたいな所についてはコンセンサスが出来つつある状況。勿論「方向性」は「現状の政策が暫く続くのではげしく退屈でしょう」ってなもんですが(^^)。

先が大体見えている中で相場として何に反応するかって事になりますと、どうしても目先の話になってしまうわけで、本質的には足元の経済指標(明日の物価指数なんかも変なサプライズが出るとこれまた動くでしょうな、サプライズ無いと思うけど)に一喜一憂と言うことになり、足元の経済指標代わりになるのは例によって例の如く株価(というか株価指数)って事になるようです。

ここの所の債券市場が米国債券だの株式市場の結果で寄り付きから値段を飛ばして始まって、そこから碌に動かずに推移して数日のタームでみると只のレンジ相場という日々が多いのも同じ理由かと存じます。


○何気に2年債入札

本日は誰も注目してくれない2年国債の入札が実施されます。最近の2年債動向はと申しますと、量的緩和政策の時間軸が思ったほど短くならないでしょうという観測から暫く続いていた0.2%近辺での取引から再び0.1%に接近中となっております。ひところはユーロ円金利先物市場という一部のバンクディーラーと円金利スワップのヘッジ取引で局地的に盛り上がる事もある市場であたかも「来年のペイオフ解禁後あまり時間を置くことなく量的緩和解除をしてくるのではないか」というような価格形成がされていた事もあって、0.2%台での取引が定着しかけていましたが、よくよく考えりゃそんなこたぁねぇってなもんですな。

で、話が思いっきり脇に逸れますが、あたくしに言わせればそもそも来年のペイオフ全面解禁なんざぁ看板に大いに偽りありでして、実質ゼロ金利の状態で付利しない決済性預金を全額保護って施策を導入してるなら、実態はペイオフ解禁して無いのと同じであって、それを堂々と「ペイオフ全面解禁」というのは大本営発表というか何というか。

まぁ景気付けってのもありますから「大本営発表」を全て否定する訳ではありませんが、昔から「大本営発表」が何時の間にか「事実」として認識されるという素晴らしい人たちの集うこのお国に置かれましては、恐らく今回の「似非ペイオフ全面解禁というペテン」も「ペイオフ全面解禁がスムーズに実施された」→「金融不安は払拭されている」→「不良債権問題は急速に解消している」という素晴らしい論法に繋がるのでしょうな〜と半年前から既に血圧が上がっているあたくしでした。

で、気がついたら話がアナザーワールドに逝ってましたので戻しますと、2年国債なんですが、特に根拠がある訳ではないですが、大体0.05%刻みで心理的抵抗線がございまして、どのようになっているかと申しますと、

0.00%〜0.05%:馬鹿相場
0.05%〜0.10%:量的緩和が最低でも2年近く続くと思っている相場
0.10%〜0.15%:量的緩和がとりあえず1年ちょっとは続かないと・・・
0.15%〜0.20%:もしかして1年後くらいに量的緩和解除かもしれない
0.20%〜0.25%:いやもう先生1年後には緩和解除ですよ0.25%〜それ以上:量的緩和早期解除織り込み相場

と勝手に命名してますが、まぁそんなところでしょう。大体預金受け入れで入ってくる資金のコストって預金保険だの事務経費だの総合的に考えれば最低でも0.1%はある筈なんで、流動性リスクというか売買執行コストを考えれば0.1%台の前半では余資運用としては少々苦しい水準(の筈だとあたくしが勝手に人の台所事情を想像しているだけですが)だと思う訳でして、日銀の資金供給オペレーションによる当座預金残高30兆円を前提にして(というか日銀が無駄に絶賛大放出しているので、日銀に資金を押し売り^^されているだけなのですが)いないと少々苦しい相場水準と言う印象です。

まぁ現在は「量的緩和政策は向こう1年ちょっとは継続するでしょう」→「じゃあ当座預金30兆円も当面安泰」→「2年債の0.1%前半もまぁしんどいけどコストに合わない訳でもないでしょう」ってな感じで価格が形成されているようでして、入札前にもかかわらず昨日なんかも堅調推移(これはTBFBやCP市場なんかで運用圧力が妙に高まっているのも影響していると思いますが)しておりますが、入札を無事にこなしてその後も堅調に相場が推移してくれるのかどうかは一つ注目しても良いかと思います。


○2年債と言えば・・・・

日銀は国債買入(昔の通称は輪番オペ)で買い入れをした債券の公表ってこともありまして毎月保有国債の銘柄別残高を公表しております。で、その推移を見ていただいても良いのですが、まぁ2年債ばっかり国債買入で吸い上げているというのが実情でして、2年債市場は実を言いますと「数ヶ月保有したら日銀様に絶賛お買い上げ頂く」というのが(ふざけた話ですが)価格形成の前提になっているという面もあります。

日銀さまも作為的にやっているのかどうかは知りませんが、何故か国債買入がオファーされる日に限って債券相場がやたら堅調な時が多く、「前日引値からの利回り較差」で入札を行う関係上、債券相場が堅調であれば必然的に値上がりの小さい短期ゾーンの国債、即ち2年債が落札されることが多くなる訳で、日銀様の在庫は2年債が揃いも揃って大集合の図となっております。

2年債を買い入れている分には国債買入をバンバンやっていてもバンバン償還がやってきまして、現状では償還部分のいわゆる「日銀乗換」はどうも短期国債を使っているようですので、いつの間にやら短期金融市場の資金繰りの中に紛れ込んでしまうという大変に結構至極な状況になるので、日銀さまにおかれましては万々歳の図でもございまして、最近はあまりにも計ったように「ど〜みても2年国債しか買入に応じられないような相場状況」の時に国債買入がオファーされるので、「日銀は狙っているのではないか」との疑惑まで出る次第、というのは大幅にオーバーですが(^^)、まぁそんな感じになっておりますな。以上余談みたいな話ですが。

そう考えると、量的緩和政策終了後にこの2年債の量がちゃんと捌けるのか懸念されますってな話は前もしたような気がするぞ(^^)。





2004/10/27

お題「まぁ建前なのでしょうけどねぇ・・・・・」

昨日の続き。

ご存知の通り福井日銀総裁というお方は生え抜きの大物総裁でして、(この言葉好きじゃないんですけど)「カリスマ総裁」として絶大な権威をお持ちだという風に言われております。でまぁ福井総裁になってからの金融政策を振り返ってみますと、よく言えば「機動的に対処」「市場整備の為に新しい政策に取り組む」となるのですが、現場から見た率直な印象は「自分たちの脳内現実を基に政策を打ってませんかねぇ」と言いたくなるわけであります。

何と申しますか、目の前に起きている現象は現象として把握しているらしいのですが、その現象の因果関係を何か妙に解釈していたり、そもそも現象をちゃんと把握しているのか謎な場合もあったりする訳でしてアレな訳でございます。現場との乖離をそのままにして突っ走られるとそのうち碌でもないことになるのではないでしょうか。

という事で福井総裁発言チェックなのですが、昨日の続きの前にまた国会でサービス発言をしていた話を。

○インフレターゲット論議

昨日の(たぶん)衆議院財務金融委員会に福井総裁が出席(しかし何でそう何度も何度も国会に呼び出すんでしょう。つい先日の国会開会以来3回目ですが。)しまして、金融政策に関して答弁したようであります。国会の会議録がアップされるのは少々お時間がかかりますので、情報ベンダーのフラッシュを脳内メモリーから書き出しベースで書きますと・・・・

どうも「インフレターゲットの導入を検討すべきではないか」というどこぞの委員(議員)の質問に対しまして、福井総裁は「正常な経済状態になった時にはインフレターゲットの導入は大いに考えられる」というような趣旨の答弁をされたようです。

で、この問答が今朝あたりのメディアに取り上げられる(上げられないような気もしますが^^)と、まぁ多分「福井総裁、インフレターゲット導入に含み」みたいな書き方をされると思うのですよ。今までのパターンから言いますと。

しかし、上記の問答を良く見ますと(ってそもそもこの問答が情報ベンダーのフラッシュを見たあたくしの脳内メモリーから書き出しているのでまぁ本当の所は会議録で確認すべきですが)、「インフレターゲット」の意味が質問者と福井総裁との間で違っていると思われる訳です。すなわち、質問者がインタゲを「デフレ脱却の為にインフレターゲットという物価目標を設けるべき」という文脈で使っているのに対し、福井総裁はインタゲを「正常な経済(っていうのは要するにデフレ脱却後という意味)下においてインフレを制御する目標値としての物価目標」という意味で答弁している訳でして(少なくとも今までの福井総裁の言動からするとそういう意味になる)、この辺は福井総裁の「政治性」の面目躍如といった所かと思います。

まぁ質問者の質問をまともに相手にせずに上手にかわすというのは国会の参考人としては一つの作戦でもありますし、そもそも「デフレ脱却にインフレターゲット導入」っつーのがあまり意味が無い(色々議論は続いているのですが、どうも日銀単独の金融政策で一般物価を直接コントロールのはまぁ不可能に近く、目標達成ツールが無いのに「目標」を設定すると言うのはどこかの頭の悪い営業現場で行われている無意味なアレのような^^)という話を延々としだすと委員会質疑が永遠に終わらないっすから仕方ない面はあるのですが、この辺の議論を福井総裁は敢えて避けている面があるのかと思う訳です。

まぁそれも一つの知恵なんでしょうが、用語の定義を曖昧にしたままでこの論議を進めるってのもどうかな〜と思うわけでございます。


○微妙に「それは違うんじゃないかな〜」と思うのですが

というわけで前置きが長くなってしまいましたが昨日の続き。

『大量に発行された国債は、これまでのところ、発行市場において、概ね順調に消化されています。流通市場でも、国債利回りは、歴史的にみて極めて低い水準にあり、景気回復が明確となった昨年夏場以降も、多少の振れを伴いつつも、1%台で推移しています。国債金利はやや長い目でみると、経済・物価情勢を反映して変動するものです。』

『この点、現在、国債金利が低い水準で推移している最も基本的な背景としては、何よりも物価が落ち着いていることが挙げられます。これに加えて、幸いにも、財政赤字の増加から国債金利にプレミアムが上乗せされるといった事態を回避できていることも挙げられるかもしれません。』

前半はその通りなのですが、後半は「物価」じゃなくて「量的緩和政策の効果」であり、「ゼロ金利」+「時間軸」が長期金利の低位安定を促しており、その量的緩和政策が消費者物価指数にペッグしているから「物価が前年比微減」→「量的緩和政策の長期化」なのではないかと。勿論この位は日銀総裁としては当たり前でしょうが、こーゆー言い方はミスリードを招く懸念無きにしも非ずかと。

ちなみにこの「財政リスクプレミアムがなぜついていないのか」という話をした部分を昨日ご紹介しましたが、その解釈として『財政の状況は現在は確かに悪いが、政府が将来は財政収支の改善に向けて着実に取り組んでいくことに投資家は信認を置いている』って話が出てくると「ちょっとそれはどうよ」って話になってくるわけですな。話としては美しいのですが、何時の間にやら結論が「美しい結論」になってしまうのが懸念される訳です。


で、まぁ財政収支均衡に向けて頑張りましょうというようなお話をしているのはまぁあたくし的には所々「え〜」ってのも無くは無いのですが、この辺はイメージ的なお話になってしまうので省略しまして、国債流通市場の話をしているのですが、どうも結論に向けて話を展開している為だと思うのですが、「おまえさんそれはないでしょう」と言いたくなる発言が「国債の保有層の多様化をしましょう」という話の中に出てくるわけです。

『問題は、このように(国債の)保有主体が一部に偏る(金融機関の国債保有比率が極めて高いという状況の事です)と、皆が同じような行動をとりがちになるため、市場の厚みがなくなり、利回りが大幅に振れる可能性が高まりやすくなることです。実際、昨年の夏には、景気が次第に回復する中で、それ以前の金利低下局面で過大なリスクテイクを行っていた金融機関が一斉に国債を売却し、さらに価格下落と評価損失の発生ないしその懸念が、金融機関の国債売却を招くということが起こりました。』

そもそも現在の金融政策と財政やら経済運営、金融行政なんかを総合すると、国債の保有主体が金融機関になるのは政策運営の結果として必然的に生じる自体な訳でして(まぁそれらしいことはその直前で総裁も言及してますが)、それをケシカランと言われてもリンダ困っちゃう〜って感じでしょうな。で、それよりも血圧急上昇なのは「過大なリスクテイクを行っていた金融機関が」っていう件でして、そもそも「過大なリスクテイク」をせざるを得ない状況に債券市場を煽ったのはどこの誰だと小一時間問い詰めたいわけでございます。当時の記録を引っ張り出したいところですが、ドラめもん過去ログ整理が進んでいないので惜しくも具体的事例が出てきませんが(-_-メ)。

で、結論としては『こうした出来事を踏まえても、国債は、個人、非居住者を含め、できるだけ幅広い投資家に保有されることが望ましいことは言うまでもありません。』って言ってます。どうも講演やら会見やらで妙な横文字を多様する(指摘されてから急に使わなくなったのがまたお笑いなのですが)のがお好きなだけに、「非居住者の国債保有」にえらく御執心のようで、わざわざ『米国では、個人が約10%、非居住者が40%強の保有となっています。』などとお話をしているのですが、そもそも経常収支が黒字の国と赤字の国の国債保有比率を同じ土俵に並べる事自体がおかしな話だと思うんですが。経常収支が大黒字で政府部門が大赤字だったらISバランスがどうのこうのと言わなくても、政府部門の債務は民間部門が保有することになるのは初歩的な簿記の知識だけでも判りそうな気がするわけでして、外貨準備で持ってもらう分は兎も角として、それ以外に非居住者に国債を沢山保有してもらわなければいけない理由が意味不明でございます。(勿論将来の事を考えているのでしょうけど)

どうも「国債保有主体の多様化」という結論を持っていくために強引な論理展開をしているように見えまして、この論法が拡大していくと次第に現実と遊離した「脳内現実」を基にした「こうあるべきだ政策」が炸裂してしまうのではないか(既にしているという気もしますが)と懸念される次第であります。


#うーん、今日も話が発散してしまった。


2004/10/26

お題「気になる小ネタを2つほど」

債券相場は金曜日に「おいおい」って下げをやった分だけ反動の上昇もでかいと言う訳でして、またまた20年が2.0%台に戻って入札を迎えることになってしまいました。困ったものであります。で、相場の話をすると碌なことが起きないので(苦笑)、つらつらと相場を眺めつつ思うよしなしごとをば。

○円高VS原油高

円高進行、と言うよりドル安進行なのですが、まぁとりあえず対ドルベースで円高が絶賛大進行となっておりまして、長い間ウゴカンチ会長状態だった市場は俄かに風雲急。よー知りませんが、大体過去のパターンですと105円くらいまで円高ドル安が進行すると下らねぇオプションのバリアが爆発して相場がなお一発動いてしまうという事が容易に想像される訳で(しかしまた同じことが起きたら「学習効果という言葉はないのか」と小一時間)すので、この水準は中々寒いようです。

で、円高と言えば財務省外国為替特別会計というお馴染みの伏魔殿じゃなかったドル買いマシーンの登場が期待されるのですが、はてさて今回も介入するのかと言うと(まぁ恐らくは介入してくるんでしょうが)「ちょっと待ったぁ!」と突っ込みを入れたくなる訳です。

と申しますのは、小見出しに書いてあるからお判りのように現在は原油価格上昇も絶賛進行中(上昇しているのは軽質油だからどうのこうのという議論をしだすとややこしくなるのでその話は置いておきます)だという点。海外経済の回復によって国内景気回復がもたらされているので円高は困るという面はありますが、原油価格が上昇している中でもありますので、ここで円安に強引に持っていくと「輸入インフレ」という激しく日本経済のアキレス腱を刺激する事にも繋がるんじゃないかな〜とも思う訳ですよ。

ま、為替がどのへんにどのくらい寄与しているとかいうのを判って話をしているわけではないので(調べてから書けよって言われそうですが^^)、禿しくいい加減なお話なのですが、輸入インフレのリスクを気にせずに円売りドル買い介入をやってくるのかという点はちょっと個人的には注目しています。

まぁ介入の主管はインフレ絶賛熱望(財政問題が誤魔化せるので)の財務省なので委細構わず介入してくると思いますがね。


○正しい判断をするためには正しい認識が必要ではないかと

これも実は重い話題なので続編を書くかも(^^)。

仲間内の議論で「日銀の政治からの独立」って話題が出てきたのですが、まぁ「日銀が金融調節や金融政策を行うにあたって正しい判断を行うためには独立性は不可欠であって、正しい判断をする為には色々な意見を聞く開かれた日銀という姿勢が大事でしょう」ってなまともな結論に落ち着いた訳ですが・・・・・・

昨日日銀のWebにアップされたのは福井総裁の財政制度等審議会における日銀総裁発言「わが国経済と財政について」というお話。
http://www.boj.or.jp/press/04/ko0410d.htm

さらっと読んだだけなので突っ込みもさらさらなのですが、どうもこの講演って建前で言ってるのか本音で言ってる(本音で言っていると言えば財務省の日本経済の将来ビジョンに関する審議会に勝る物はないでしょう。だいぶ前にご紹介しましたがあれは白眉^^)のかよー判りませんが、思わず「そいつはどうかな」と突っ込みを入れたくなるご高説が少々。


『現在、わが国の景気は回復を続けています。ここ数年、実質成長率に対する政府支出の寄与はマイナスを続けていますので、2002年から始まった今回の景気回復は、「民需主導」と表現することができます。』

この政府支出ってのに金融機関に対する公的資金(預金保険機構だか何だかの特別会計)突っ込みだとか莫大な円売りドル買い介入(外国為替特別会計)による米国経済下支え攻撃というのが含まれているのでしょうかと思うと頭の中に「?」が百万個くらい飛び交ってしまう訳ですな。ついでに申しあげますと、りそな銀行救済スキーム以降の「銀行への見せ金」とか、そこにぶちこむと要管理債権が突如通常債権に化けるという銀行お助けスキームの官営債権管理会社の産業再生機構なんてものまでありますわな。

確かに統計上の「政府支出」は減少してますが、その代わりに各種の問題点を政府部門に飛ばしまくっているという現実もある訳でして、こう堂々と「民需主導」とか言われると非常に違和感を感じる訳でありまする。大体民需主導で本当に景気が回復してるならGDPギャップがもっと縮小してデフレなんぞとっくに脱却してると思いますがねぇ。

企業部門の回復って企業部門全体で見た政府部門への飛ばしと家計部門への配分減少が結構寄与しているんじゃねーのかと言う気もするのですが、こーゆー分野の分析は苦手というか出来る人が近くにいないので、勉強するっきゃ無いのですが、とほほのほ。

念のため付け加えますと、総裁はこの続きとして要因を「海外経済の好調さによる輸出拡大」と「企業の過剰投資、過剰債務、過剰雇用の調整が進んだ」と挙げているので、「民需主導」ではあってもまだ「前向きの循環」進行中という認識のようですが(^^)。



『すなわち、財政収支は悪化し国債残高も多額に上っているにもかかわらず、国債は順調に消化され、リスク・プレミアムもみられていないという状況はどのように解釈すべきでしょうか。一つの解釈は、「財政の状況は現在は確かに悪いが、政府が将来は財政収支の改善に向けて着実に取り組んでいくことに投資家は信認を置いている」というものです。もう一つの解釈として、「投資家である金融機関は、将来の財政の状況をにらみつつも、当面の収益確保を優先して、取り敢えず安全な運用手段として国債に投資をしている」という見方もあるかもしれません。』

まぁ概ねよろしいといえばよろしいのですが、そんなに信認を置いているかというとその辺はちと判りかねる面がございますな。国債の投資主体の殆どが国内の機関投資家であって、この人たちは何だかんだと言っても「利息をつけて返さないといけない金」を使って運用しているので、財政収支の改善がどうのこうのというよりは当面の収益を重視するって事になるでしょう。それに(そう言っちゃあ身も蓋も無いのですが)将来のインフレで資産価値が毀損するリスクは金主(銀行なら預金者、保険会社なら契約者)が負担してる訳ですから、あまり一つ目の解釈に重きを置くのは如何なものかと思う訳ですよ。

まぁ実際問題として皆様がどう思っているのかはよ〜知りませんし、あたしゃ思いっきり財政のサステイナビリティ(持続可能性)に悲観的なので、もっと信頼をしている方の意見が耳に入りにくいという問題点があるのですがね(^^)。


ま〜この程度しか突っ込みませんが、さらっと見ただけでも「ちょっとそれはどうよ」ってのが見当たるわけでして、まぁ世の中どこでも「偉い人」には下々の真相が伝わりにくいという話はあるんでしょうが、正しい判断をする為には正しい現状認識(ただし現場というのはその現場だけの視野狭窄になる訳で、視野狭窄モードでは正しい話でも全体俯瞰した場合どうよってのもありますが、と一応謙虚な姿勢も見せるあたくし^^)という事で、建前だけではない話もお願いしたいと思うわけです。

どうも過去の「役立たず金融調節新手法」とかの実績を見ると「本当に状況を判っているのか」が禿しく不安になる訳ですし、名指ししちゃうと偶に講演をする度にとてつもない珍説を披露してくださる福間審議委員なんかを見ちゃいますと「はて本当に大丈夫なのか」と思っちゃうんですよね。


○時にこれは良いお話

と、総裁の講演で意外に長くなって時間がなくなったので、続きはまたいずれなのですが、講演中に大変結構なご発言がございましたので余計な茶々を入れずに引用します。

『なお、終戦直後のわが国の経験などを踏まえ、多額の国債負担を解消するためには、インフレ率を上昇させるしかないという考え方が、あるいはあるかもしれません。仮にそうした議論があるとすれば、金融市場の姿が終戦直後と現在とでは全く異なっているという現実を忘れているように思えます。何よりも、現在は、市場が発達し、しかも、その市場がグローバルにリンクされるようになっています。そのため、国債負担の軽減を目的としてインフレ率を無理に高めるような政策をとると、国債利回りが急上昇し、既存債務の借換えや新規の借入れに支障をきたすことになります。また、金利の上昇により、企業や家計のコンフィデンスが毀損され、経済活動が収縮してしまうおそれがあります。中央銀行は物価の安定や経済の持続的な発展と整合的な金融政策を運営することによって安定的なマクロ経済環境を維持し、そのことによって、財政再建にも寄与することになると思います。財政再建は、そうした安定的なマクロ経済環境が維持される中で、歳出入両面での見直しに取り組むとともに、地道に中長期的な経済の潜在力を高めることによって、実現していくしかありません。』

それでは〜(^^)/



2004/10/25

お題「要するに板の薄い相場なんでしょうか」

おいおい、また地震だよ・・・・・(@6時5分)

○また外したか・・・・

自分で「良く外れる」とヘッジを入れながら(苦笑)珍しくも満を持して堂々と強気を書いたら先週末は10年ゾーン中心に相場が見事に下落してしまいまして、金曜日朝の時点で「20年国債入札が2.0%台前半で大丈夫でしょうかね〜」などと言ってた20年国債が物の見事に2.1%台まで下落するというとても素敵な相場展開になりました。

まぁ金曜日のドラめもんでもちょっと申しあげたように、その前(水曜と木曜)の相場上昇も後場の2時くらいから勢い良くなるという如何にもお馴染みの買い方でしたが、金曜日はもうどう考えてもピンポイントで10年ゾーンの売りがぶちかまされたという展開でして、水曜と木曜で相場が上昇した分を帳消しにするまでの下落・・・・・なのですが、そもそもそんなに下落するような材料ってあったっけ?と申しますと、今まで誰も材料にした事の無い中国のGDP統計(を受けた株価指数)くらいしかないわけで、「その材料でそんなに動くかぁ?」という感じです。


○結局は「材料出尽くしで様子見」なのかなぁ?

という事で、何だか良く判らない間に相場が威勢良くに上昇した後に威勢良く下落となった訳ですが、状況証拠から推測するに上げも下げも特定の投資主体(あるいは特定投資家)の売買が入ったのが相場を引っ張っていると言う状態でして、業者(というかディーラー)以外に追随の売り買いは目立っていないという状況のようです。

先週金曜日に申しあげたように、今月最大の材料であり、向こう3ヶ月から半年位の金融政策に影響を与えそうな展望レポートに関して(リークなんだか観測記事なんだか判りませんが)記事が出てしまいましたので、発表日を待たずして材料出尽くし(実際の展望レポートが事前記事と全然違ったら話は別ですが、過去の日経新聞の実績からするとそれは考えにくい)となってしまったのが大きく、「まぁ実際に展望レポート出てからですな〜」状態に益々なってしまったようです。困ったもので。

そんな訳で様子見のお方が多いせいで、一部の投資家さんがポジションを動かすとその影響が派手派手に出てくるということになっているというのがここもとの債券相場の状況になっているようであります。債券先物市場での出来高自体はそこそこあるのですが、現場で見ている印象としては「板が薄い中で相場がスルスルと上昇あるいは下落している」でして、相変わらず「10年1.4%〜1.6%、20年2.0%〜2.2%」というレンジから脱却できていないという事のようですな。

・・・・・と書くと相場がぶれそうな悪寒もするのですが。


○という訳で明日の20年国債入札ですが

明日の入札に関してはとりあえず先週末の下げによって2.1%のアンダーパー水準まで相場が切り下がりましたので、絶対水準を重視する人の買いもまぁ2.0%台前半なんかにいるよりは遥かに期待できる状態になりました。で、期待できるのは良いのですが、2.1%水準になるとこれがまたリオープン発行となりまして、仮にリオープン確定となりますと、発行日が既発債のレギュラー受渡と同じですので、もう入札前から新発と既発の区別が完全に無いという状況でして、まぁ相場水準は見え見えとなる訳ですな。

そんなこともありますので、絶対水準的にもうちょっと魅力的な水準に持っていきますと「入札後の販売順調」→「フラットニング」となるのかと思いますが、最近の相場では「入札が順調になりそうだから事前に買う」という訳のわからん事をする人が必ずと言っていいほど出てきますので今日の20年国債が他年限対比どのような感じで動いていくかには注意が必要でしょう。

事前に買いが入って相対的に20年が買われながら絶対水準が切りあがる形になるのが、入札後の展開を考えますと最も(業者として)望ましくない展開になる(入札がショートカバー合戦になって割高になり、落札後は全然売れないという地獄の展開になるので)と思います。

その次に頭が痛いのは20年は割安になっても相場の絶対水準が上昇する場合でして、この場合は割高割安を見て買いに来る人はいるのですが、絶対水準からの買い即ち最終投資家さまの買いが細りますのでやはり販売苦戦必至。

結局のところ、入札前に相場水準もうちょっと下がれと言いたい訳ですが、あまり願望を言い出すと曲がりの常連だけに碌な事が起きない物と思われますので以下自粛と言うことで宜しくお願い致します(謎)。

本日は米国10年国債4%割れという好材料と、緊急補正予算という悪材料がぶつかりそうですが、例によって例の如く株式指数を材料にするんでしょうな〜と思ってはおります。


#ネタ不足で甚だ簡単な相場与太話で大変恐縮でございました。




2004/10/22

お題「ネタもないので久々に相場後講釈とよく外れる見通し」

○材料出尽くし(か?)

一昨日の日経新聞さまの観測(と言う解釈にしておこう)記事によりまして、月末に皆様お楽しみにしていたイベントが前倒しになってしまいましたの巻と相成りまして、とりあえず当面の注目材料が出尽くした格好になりました。困ったものです。

でその材料出尽くしモードになった後の債券相場なんですが、一昨日は脅威のブルフラット、昨日は引けで叩き落されるという不気味な動きはありましたが、とりあえずまたブルフラットの図と相成りました(引け際の妙な売り方は気になりましたが)。

日本株下落とか円高(つーかドル全面安ですが)という材料は勿論あるのですが、先物中心の上昇ではなくて現物長期債が主導する形の相場上昇となっているので、一応は「展望レポート待ちの投資家さまの買いがやってきたのか?」の図になっています。実態としてここもとの上げ(というかブルフラット相場)の買い手が誰だかがやや謎な所があって「本当に皆さん買いに行っているのか?」という問いには「???」という感じではありますが。


○経済指標より内部要因という事で20年国債

こうなりますと、月末(でしたっけ?)に出てくる物価統計くらいしか経済指標のネタが無い(しかもど〜せマイナスでしょう)ので、注目材料はどちらかというと市場の内部要因という事になるかと思うわけですな。で、市場の内部要因と言えば来週の2発ある入札でして、そのうち注目すべきは来週火曜の20年国債入札でございます。

20年国債といえば今年の4月に景気の良い短観及び景況感の上方修正やら日経平均12000円乗せ(うーん、懐かしい)というのを背景に2%に乗って以来、大きく言えば2%−2.5%のレンジ、ここもとの10年国債のレンジにいる間で言えば2%−2.2%のレンジでまぁ安定しちゃっている訳です。イールドカーブ的には割高になったり割安になったりと忙しいのですが。

特に最終投資家比率(勝手な造語ですがニュアンスで判りますよね♪)の高い20年国債に関しては、イールドカーブ上の割高割安もさる事ながら、「相場の絶対水準」というか要するに「で、利回り幾らよ?」というのが重要なファクターでもありますので、現在堅調に推移している20年国債が入札後も無事に推移できるかというのが気になるところであります。

実は来週の入札は「クーポンが2%だと販売低調」という仮定に立ちますと、2%クーポンだと販売低調で、2.1%クーポンだとリオープンになるのでこれまたやりにくいという大変に素敵な展開が待っておりまして、落札どうしようかな〜などと悩み中のあたくしにとっては激しく血圧の上がる展開になっているわけです。


○困ったときには過去の記録を見る訳だが

まぁ何と申しますか、先行きの相場展開の勝手読みを行うのに困ったときには昔の帳面でも見ながら「ああそう言えばこんな事あったのね」などと思い出して最終的に何を考えていたのかしばしば忘却するのですが(汗)、「じゃあ今年の3月以前ってどうよ」と思う訳であります。

大体ですな、10年国債のクーポンをご覧になるとよー判ると思うのですが、やたらめったら1.4%クーポンの発行というのがここ数年多くて、10年の1.4%というのが一つの大きな壁になっていたりするのであります。何とも中途半端な数字なんですけど。

で、今年の3月以前の相場を見ますと、10年が1.4%をおおむねずーっと割っていまして、この頃は10年1.4%と20年2%が下値の目処になっていた訳でして、そう考えますとまぁ現在の相場の位置というのは「ここをぶち抜けるかどうか」というポイントに到達していると言うことになるわけですな。

うーん、我ながらいい加減な分析だ。


○大変当たらない勝手な見通し(あるいは妄言)

で、「ここを抜けないとちと相場は上がらんでしょう」で話を終了させると無責任なので(何のこっちゃ)、まー勝手な予想を申しあげます。

平均株価の位置だとか、為替がまたまたドル安に振れて来たとか外部要因が段々本年3月以前の状態に戻りつつある上に、馬鹿税調がまたも勤労者世帯からショバ代を巻き上げようと画策したり、海外投資で1兆2000億円ドブに捨てる金はあるのに国内にお返しする金は無いという素晴らしいどこぞの公社上がりの大企業の画策などと個人の先行き不安を煽って下さるような素晴らしい施策が絶賛目白押しという状態でありまして、あたしゃーとても景気に対して先行き強気には見れないのですよ。

確かに算術平均を取ると相変わらず数字は良いのですが、良い所と悪い所の格差が画然としてきて、「一部の良い所と多数の悪い所」という形になってますんで、算術平均というか算数の言葉で言うと「中央値」(「モード」でしたっけ)は良くても「最頻値」(えーっと「メジアン」っすか)はダメダメじゃんって事になっておる訳ですな。

で、「期間30年の住宅ローン」に見られるように、基本的に日本の個人消費(というかそれは住宅投資だが)ってのは「安定して見えている未来からの前借り」を前提にして動いている部分がございますので、先から前借りプレミアムが剥落した場合にどうよって気は思いっきりするのですな。高村が自派の寄り合いで言っていた「社会保障費増大だの定率減税廃止だのをやるなら消費税上げるのが筋ではないか」というのには賛成したいところであります。下手に小出しにすると却って将来不安を煽ると思うのですがね。


と、いつの間にか話が大きく逸れましたが、要するに「債券相場は暫く(数ヶ月のスパンで)は結局は下がらんでしょう(5年とかのスパンになると財政破綻シナリオになるのだが)」という結論に落ち着くのでありました。


・・・・また後日へ向けて恥のタネを蒔いてしまったような気がするぞ。
(追記:この日は10年ゾーン中心に派手派手に売られて6毛甘になっちゃいました。合掌。)




2004/10/21

お題「来年度物価見通し+0.1%記事が出ましたが」

まずは昨日の訂正。30年国債の話してた時に、20年ー30年スプレッドがど〜のこ〜のという能書きを垂れていましたが、思いっきり数字間違えてましたな(超大汗)。スプレッド30じゃ今の水準よりも縮小ではないですか。40の間違えです。誠にお恥ずかしいことで、賠償はしませんが謝罪いたします。


さて、昨日の債券相場といえば、朝っぱらから日本経済新聞の1面トップに「展望レポートでの来年度物価見通しがプラス0.1%になる見通し」というような記事が出たそうで(何せ日経新聞を読まない人なのでモーサテで見落とすと日経独自記事は判らんのよこれがまた)して、とりあえず朝は「これは織り込み済みなのかどうか」という話題でもちきりでありました。

当該記事を日経新聞のWeb判「NIKKEI NET」ではこの辺に掲載。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20041020AT1F1901D19102004.html
まるっきり引用するとアレですのですが、まぁ最初の一言はこんな感じ。
『日銀が29日に公表する「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、政策委員が予測する2005年度の消費者物価が前年度比で小幅の上昇に転じる見通しとなった。』

展望レポートの「見通し」が報道されるのは今に始まったことではありませんで、前回の展望レポートの時も1週間前に同じようなリーク記事なのか観測記事なのか一見すると良く判らん(というか真性リークだったらタイーホですので当然ながら体裁は上記引用にあるように「見通しとなった」と観測記事ではありますが)記事が出まして、結果は記事と同じ物となったという実績が既にあります。実はリークなのではないかという議論も無くは無いのですが、ま〜その辺りの話はスルーしまして。


○そもそも三者択一でしたから

展望レポートにおける来年度の物価見通しに関して既に世の中で言われていた(と思う)ことは、っていうか来週の頭あたりにあたくしの大予想でも書きたかったので日経新聞迷惑この上なしという所でありますが(^^)、来年度見通しかいくらかといえばまぁ3択問題みたいなもんでして・・・・・

まず「景気判断として回復基調」というのがある訳ですから見通しを足元の基調数字以下におくのは自己矛盾。よってマイナス0.1%が下限となりますわな。

で、先日ご紹介した9月の金融政策決定会合議事要旨にあるように、『複数の委員は、物価動向と景気動向との乖離が改めてはっきりしてきたのではないかとの認識を示した。これらの委員は、もともと7〜9月中には、消費者物価の前年比がプラスになる可能性も視野に入れていたが、その後の展開をみると、その可能性はかなり小さくなっており、景気回復に物価が反応し難い姿が鮮明になってきているのではないか、との見方を示した。』なんて事になっているというのを認めている訳ですから、足元の基調数字から大きく強気な数字も出せませんわな。

それにあまりにも高い数字(+0.5%とか)を出すと、量的緩和のコミットメントのうちの「先行きの物価見通しも継続的にプラス」って条件が成就されるというお話になりますので、足元のCPIがプラスの数字をマークした暁にはこりゃ大騒ぎって事になりますから、その意味からも強い数字を出すわけにも行きませんわな。

と考えますと、結局は▲0.1%〜+0.1%の三者択一状態になりますし、マイナスに設定すると今までの金融政策の流れを踏襲すれば(って散々支離滅裂なパフォーマンス路線を驀進していましたので論理的整合性を期待するのが間違っているのかもしれませんが)、論理的必然は追加的金融緩和(ただの当座預金残高拡大なので実効性という意味は無いのですが)をしましょうよって事になる訳で、結局は実質2択みたいなものだった訳です。


○総合判断の方が大事だとしたいのか?

で、まぁその見通し数字がゼロなのかプラスなのかで大騒ぎしているという説を唱える人もいたようですが、待てど暮らせど足元のCPIが上がらない方が問題になってきている(って言うか、景気が順調に推移して物価が上がらないんだからこれほど良い事はないだろうと思うのですがまぁそれは兎も角)ので、上記したような余程のとんでもない高い予想数値でない限りは先行きがゼロだろうがプラス0.1だろうがど〜でも良いとと思う訳です。

まぁ「最終的には総合判断」っていう方向に金融政策を持って行きたいというのが日銀の本来の意識(ただし岩田副総裁のように機械的金融政策を提唱したがる変な人もいますが)でしょうから、あたくしが勝手に想像する日銀としての理想的な流れとしては、「景気は順調に推移」→「景気順調で先行きのデフレ脱却見通し」→「足元のCPIもマイナスから脱却」→「総合判断をした結果量的緩和政策解除」って所なんじゃないかな〜って思っている訳でございます。

ま、それ以前の問題として、以前ちらっと書きました(で、まとめた物を作るとか言ってましたがその前に昨日の記事によって証文の出し遅れモードになってしまいましたが)各審議委員の講演などから伺える「物価見通し」と「金融政策のスタンス(というか量的緩和をどこまで続けるのか)」を比較すると、「物価見通しが強気の人は量的緩和継続期間を延ばそうとしている」「物価見通しが強気じゃない人は量的緩和のコミットメントを遵守しようとしている」というコントラストを見せておりまして、結局のところそう簡単に時間軸が縮まるとは思わない方が吉ではないかと存じ奉る次第でございます。


○相場への影響は?

昨日の債券市場は朝っぱらは株価指数の下落(と米債の堅調さか)を受けた先物買戻し攻撃で先物独歩高だったのですが、その後20年、30年ゾーンを中心に午後2時前くらい(もうちょっと早かったかな?)からイールドカーブが猛烈に変化するという攻撃が炸裂して終わってみれば脅威のブルフラット。まぁこういう動きの時は大体どこぞに新規資金がやって来たと想像されやすい所ではありますが、まぁ兎に角20年だの30年だのに買いが入るという豪快な相場をやってくれました。

昨日1日の動きだけで判断するのも早計でしょうし、大体昨日の動きが引け前1時間攻撃みたいな感じでもありましたので何ともアレなのですが、とりあえず結果から見れば「市場は織り込み済み」という事だったのでしょう。大体今月頭に読売新聞も「物価見通しがプラス」などと読売とは思えん経済観測記事書いてましたし。

勿論実際の展望レポートがでてこないと始まらないのですが、とりあえず債券市場は織り込み済みだったという事にしておきますが、一番懸念されるのは「時間軸がこれで一気に短くなった」などと勘違いする「偉い人」が出てくることくらいでしょうか(笑)。まぁ無問題という事で。


○しかしこの手の記事は如何なものか

と思うわけですな。リークなのか観測記事なのか知りませんが、金融政策の方向付けに大きな影響のあるモノに関してあたかもリーク記事であるかのような観測記事が流れるというのは福井総裁さまが常々仰っている「市場との対話」というのとは違うと思うんですが。

まぁ金融政策に関しては先日は日経新聞さまやたら熱心に「2段階解除論」を提唱してみたりしてまして、債券市場が妙に一喜一憂して意味不明な暴れを展開して下さいまして大変に香しい日々が続いておりましたが、どうもこの新聞社はリークなのか観測記事なのかよ〜判らん記事を出して下さりまして、余計なことに市場関係者の「偉い人」がこの記事に一々反応して下さるので市場が勝手に反応してしまうという困った傾向があるように思えます。

せっかく日銀が「市場との対話」をしようとしてWebサイトに講演要旨をその日に直ぐ発表したり、翌日には記者会見がアップされると言う素早いディスクローズをして下さっているのですが、ど〜もあたくしが見ているとこの新聞社が訳の判らん解釈をおっぱじめて妙な報道をするので日銀の意図しない所でリアクションが発生することが有るのではないかと思う訳でございます。

別に観測記事書くなとは言いませんが、何か微妙に「その書き方は無いんじゃね〜の」って思う今日この頃でございます。





2004/10/20

お題「本日はまとまらない雑談」

書こうかと言うネタが無いわけではないのですが構想が纏まらず。

○衆議院予算委員会

国会が始まりますと代表質問を本会議でやった後は予算委員会でひとくさりお話があると言うのがお約束。で、昨日は福井日銀総裁が予算委員会に呼び出されて答弁をさせられたようです、

国会の会議録は例によって例の如く早くて1週間後位にならないとアップされないので、とりあえず情報ベンダーによる報道を見ておりますと・・・・・・

日本の景気について民主党の中塚議員からの質問に対して構造調整の進展をやたらとアピールしていたようです。ロジックとしては景気の足を引っ張っていた構造問題が解消されることによって景気回復が進展しやすくなったというモノでして、思いっきり現内閣の「構造改革で景気回復」というほんまかいな(改革の必要性には同意しますがね)という理屈をサポートするお話になっています。福井総裁相変わらずサービス精神が旺盛で。

「日本の景気は回復している。先行きについても、経済成長率そのものは多少調整されていくだろうが、より安定的な、というか、より持続可能なベースに沿う形で景気回復が続くだろうという判断をしている」

「その背景としては、もちろん米国や中国を中心に世界経済の拡大が順調に続き、そのなかで日本の輸出の増加が国内で生産活動の活発化を招き、企業収益の好調ぶりを生み出して、設備投資の拡大を促すという前向きの循環がしっかり働いていることが1つの根拠だ」

「もう一つの根拠としては、長い間苦しんだ企業の過剰投資や過剰債務、過剰雇用、あるいは信用システムの脆弱性といった、バブル経済の崩壊以降、日本経済の回復を遅らせてきたさまざまな要因の調整が相当進んだ。したがって、経済の足取りが再び軽くなった。構造調整の進展の成果を享受できるようになったことが挙げられる。」

(以上ブルームバーグニュースの19日16時28分配信記事より)

他の情報ベンダーで打たれたフラッシュで「日本経済は構造調整の進展をエンジョイしている」などというのがありまして、「そりゃ政治的にいかがなものよ」って思ったわけですが、もしかして上記発言の最後の部分かと。また変なところで変に英語を使ってたようですが、却ってニュアンスが伝わらない外来語の使用(以前は「ヴィンテージの高い設備」などというお笑いなフレーズがありましたが)はいい加減ヤメレと思うわけですな。


ま〜あたくし的に思うのは構造調整が進展って言ったって結局政府部門にややこしいのを押し付けてるだけじゃんって事でして、そんなに過剰投資だの過剰債務問題なんぞがマクロで片付いているのなら政府部門の赤字が絶賛大拡大したりせんでしょうし、政府のバランスシートや日銀のバランスシートに民間企業のモノがどしどし入ってきませんわなって認識ですが、まぁその辺は相変わらずスルーしているようですな。

実際問題としてはだいぶ前にご紹介した「驚愕の審議会」にありますように、構造調整の問題点の「飛ばし」を受けた政府部門をどうするのってことは極めて深刻に政府(というか霞ヶ関)内部で検討されている形跡があるのでこれまた気にかかるところではあります。


○30年国債入札レビュー

漠然と「2.5%になったら何とかなるんじゃないの」という感じでの入札。前場から何となく20年とか30年ゾーンの下げにブレーキが掛かり気味という展開でしたので、まぁこりゃ2.5%になってくれそうですなって雰囲気になり、落札結果は思いっきり予想通りの2.5%の100円発行となりました。しかも2.5%で按分が掛かるという事でしたので、まぁ落札した業者としては必要な玉は確保したけどプラスアルファー部分が足りね〜んじゃね〜のかという結果でした。

ところが、入札が余りにも予想通り過ぎた上に思ったほど買いが来なかったのか結局2.50%は第U非価格競争入札の応札時限直後の2時半ちょい過ぎに業者間で買われたものの後が続かずという結果でして、もうちょっとだけ下げが必要なのかもしれませんな。下手に相場が戻ると売れ残りの悪寒。

ちなみに、第U非価格競争入札で少々落札した人がいるようですが、応札時限までの間は業者間の気配が延々と「2.50%売り2.505%買い」だったので落札があったというのはちと??でありました。こういうときは理由を愚考してみる訳ですが、(1)本当に完売したので応札(2)前回の二匹目のどじょう狙い(3)完売した振りをするために犠打を放つ、とまぁあまり根拠のありそうな想像はできませんな。完売したからカバーする必要はあるのだが、業者間でオファーサイドを買うのはシャクだから応札したっていうのが一番美しいのですが、引け後売られているところを見ると、んな訳はなさそうですな。

ちなみに、プライストークの段階で「30年ってどうよ」って言いながら色々と意見交換したのですが、一番説得力のあったざっくりとした意見はこんな感じ。

「20年が売られた場合の止まり所はまぁ2.2%、このポイントを押し目買いの最初のターゲットにおいている最終投資家様は多い。と考えると、20年ー30年スプレッド30bp(じゃなくて40です。思いっきり間違えてるよ〜)が一つの目安なので30年は2.6%が止まり所。2.5%は売れないことは無いけどもうちょっと利回り欲しいって感じではないか。」

こういうざっくりとした分析って好きなので昨日は受け売りしまくってました(^^)。







2004/10/19

お題「日銀政策委員会での景気議論」

昨日公表された9月8、9日の金融政策決定会合の議事要旨。まぁ政策変更は全然ありませんので金融政策に関する議論は最近めっきり平穏無事になってきております(ついこの前までは所謂2段階解除論を巡って議論があったのでそちらの部分を読むと中々香ばしい物を感じたのですが)が、景気に関する議論は盛り上がってきているようですな。

まぁ景気に関してというか特に物価に関しては先日来ご紹介しているように、各審議委員の講演やら記者会見やらを見ますと意見が結構割れているように見えるのですが、公表された9月の議事要旨を見ると、やはり景気の見通しにかかわる部分で盛り上がりを見せております。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040909_f.htm

この中の『U金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』

というのが景気見通しなどなどにかかわる部分なのですが、その各項目について意見が色々と出ているの図であります。

『経済情勢について、委員は、(1)幾分減速感がみられている海外経済の動向をどう評価するか、(2)わが国経済に関しても輸出・生産や賃金などで弱めの指標が幾つか発表されているが、これらが景気回復基調の変化を示唆するものであるかどうか、という点を中心に検討を行った。』


○海外経済

・米国経済

『米国経済について、多くの委員は、第2四半期のGDP成長率が低下したことについて、ガソリン価格の上昇や減税効果の一巡等を背景とした個人消費の伸びの鈍化を主因とした上で、その後の動きをどう評価するかがポイントであると指摘した。』

で、意見がいくつか出ているのですが、全部引用しているときりが無いので端折って纏めますと、要は「原油価格の影響をどう見るか」「雇用状況をどう見るか」という点でして、多くの見解は、

『多くの委員は、原油高や地政学的リスクが引き続き根強いこと、企業部門から雇用・所得への波及が遅れていることや、金融政策が利上げ局面に転じていること等から、今後の米国経済の動向は丁寧にみていくことが必要であるとの認識を示した。』

という感じのようです。後で触れますが、基本的には強気というか景気は巡航速度に入っているという認識なんですが、留保条件付きって言うかやや警戒心を持ちながら先行きを見ているって所なんでしょう。個人消費の先行きに関して9月の頭から「クリスマス商戦」に言及している人がいたのには笑えましたが。そんな先まで判断留保かよ!

・中国経済とかEU経済

あまり大した話はしてませんが、EUに関して

『ひとりの委員は、賃上げを伴わない労働時間の延長の取り組みの開始を指摘し、構造調整の進展に期待が持てる状況になってきた、と付け加えた。』

ああそうですか労働者はもっと働けと。別に働かねぇつもりはねぇけどよ。それにしては労働者に皺寄せさせるだけで働いた積もりになってる経営連中多すぎやしませんかと。・・・・おっと、全然関係ないところで取り乱しました。

ま〜中国経済に関しては結構これがまた強気っぽい意見のみという感じでして、EUに関しては輸出拡大で回復観が強まっているということのようです。

ということで海外経済の総括はこうなります。

『海外経済に関して、委員は、世界経済を全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつ、着実な拡大を続けているとの見方を共有した。』


○国内景気・企業部門

・生産関連

『国内経済について、7月の輸出、生産が4〜6月に大幅に増加した後、ほぼ横這いとなったこと、また電子部品関係が在庫調整局面に入ったようにみえることをどう評価するかを巡って意見を交換した。』

で、結論は「ITとかデジタル家電が減速しているのが懸念材料だけど、今のところ腰折れの雰囲気は無いのでまぁ先行き良く見ておきましょう」という感じです。

・設備投資

『多くの委員が、法人企業統計調査において、企業収益が大幅な増加を続けるもとで、製造業・非製造業ともに本年度の設備投資が大幅に増加していることを指摘し、設備投資の増加傾向が当面続くとの見方を示した。』

『ただし、複数の委員は、法人企業統計調査における非製造業の設備投資は、短観等の調査結果と比較しても、かなり強い数字となっている点を指摘し、サンプルの変更が影響している可能性もあることから、今後、10月初に公表される短観でも改めて確認していく必要があると付け加えた。』

で、先日の金融経済月報の基本的見解は9月発表分と変化が無いということは、10月短観で確認した結果、判断を変更する必要なしという事になったと言うことですな。


○国内景気・家計部門

・家計部門

『家計部門に関しては、多くの委員が、求人関連指標や雇用者数は改善を続けており、企業収益の増加の雇用面への波及が次第にはっきりしてきている点を指摘した』

というのはいつも同じなのですが、この後出てくる「ただし」以下がまた意外に(^^)見方が慎重。まぁ非製造業○け組に属するあたくしの実感と同じなので全然違和感がございませんが(^^)。

『ただし、賃金に関しては、パート比率の上昇などから、一人当たり賃金の減少傾向が続いていること、伸びが期待されていた夏期賞与について、毎月勤労統計における6、7月の特別給与が前年比−3.1%となったこと等から、賃金面への波及はなお限定的であるようであるとの認識を述べた。』

・個人消費

という話の流れで行きますので、この部門も見方は割と慎重です。

『この間、個人消費については、何人かの委員が、消費者コンフィデンスの改善にも支えられ、やや強めの動きが続いているとの見方を示した。』

と言いつつも・・・・・

『一方、複数の委員は、猛暑やオリンピックによる消費の押し上げ効果は当初予想よりも弱かったようであり、先行き税制改正や年金制度改正による家計負担の増加が予想されることもあって、今後も個人消費が強めの動きを続けていくかどうかは注意が必要であると述べた。』

税制改正というか要するにまた勤労者から巻き上げる政策へと突き進むのは如何なものかというご指摘ですな。誠にごもっとも。

こういう話になると昔の社会党が懐かしく思えるのですよね。「労働者の負担増の前に○○優遇税制やら○○法人への課税を」とか言ってくれたと思うんですが、最近は(以下激しく自粛)。


○国内景気・物価

物価の現状に関してはまぁいつもどおり。先行きに関してはこんな感じ。

『多くの委員は、9月に実施されたガソリン価格の引き上げ等が、消費者物価の押し上げに寄与する一方、豊作が伝えられる米価格の下落が見込まれ、基本的には、7月の中間評価に沿った動き、すなわち小幅の下落基調で推移する可能性が高いのではないか、との見方を示した。またひとりの委員は、この先電力料金の引き下げが、消費者物価の押し下げに寄与するとみられると述べた。 』

何かしょーもないテクニカルな話をしてるように見えますが、その前に現状認識として、

『消費者物価について、多くの委員は、(1)マクロの需給環境は改善方向にあるが、なお緩和した状況にある、(2)原材料価格の上昇が企業段階でのユニット・レーバー・コストの低下である程度吸収されている、という点に変わりはなく、その結果、前年比小幅の下落が続いていると指摘した。』

と言ってますんで、基本的な流れは変っていないということです。興味深いのは岩田副総裁などが指摘したと思われるこの部分。

『この間、複数の委員は、物価動向と景気動向との乖離が改めてはっきりしてきたのではないかとの認識を示した。これらの委員は、もともと7〜9月中には、消費者物価の前年比がプラスになる可能性も視野に入れていたが、その後の展開をみると、その可能性はかなり小さくなっており、景気回復に物価が反応し難い姿が鮮明になってきているのではないか、との見方を示した。』

というかあたくしは日頃から小さい声で申しあげているように、景気は単に循環的に浮上しているだけで本格回復しているだけでしょって認識なんで、物価が上がらないのは当たり前だと思ってますが。大体ここまで浮上させるのに財政(ただし預金保険と外為特会)を幾ら使っているんだと。まぁいいけどさ。

原油価格の影響に関しては所々で触れられてますが、まぁ日本の場合は原油価格の上昇がまともに効いてこない要因(そもそも日本が主に使っているのは軽質油じゃないとか石油依存度が全然違うとか原油から使える状態まで持っていく間に税金だの輸送コストだのが高くついているのでそっちがでかいとか)があるのでまだ懸念するに及ばずだが注意していくという感じのようです。


○国内景気総括

ということで、総括判断は「とりあえず認識を改める必要は無いが、ちと留保付き」という感じであります。まぁあたくしの解釈だけで終わらせると何ですのでこの部分は丸々引用。

『委員は、輸出や生産の伸びが足許幾分鈍化しているほか、賃金面にも注意すべき動きがあり、今後の動きは丁寧にみていく必要があるものの、企業部門の好影響が家計部門に波及していく中で、前向きの循環が明確化していくという基調判断をとくに変える必要はない、との認識を共有した。』

『何人かの委員は、景気拡大ペースの減速がやや早く訪れた感じもあるが、昨年10〜12月、本年1〜3月の高い成長から、持続的な成長が可能な巡航速度になりつつあると評価して良いのではないかと述べた。』

『ただし、複数の委員は、基調判断に大きな変化はないものの、賃金面の動向などをみると、企業部門の好影響が家計部門に波及するスピードが、やや遅れている可能性もある、と付け加えた。』


総じて言えば基本的判断を変えないものの先行きに関する警戒をする必要があるのではないかという総括になっておりまして、今までの景気回復進軍ラッパ吹きまくり状態からやっと冷静になって下さったという事では無いかと思う次第であります。


○おまけ

ちと苦笑したのは(今回はスルーしましたが)金融面に関わるこの辺の件。

『先行きの金融政策運営について、何人かの委員は、金融市場において景気の見方がやや分かれていることに改めて言及し、このような場合には、市場参加者の期待が振れ易くなり、金融市場の変動も大きくなりがちであることから、市場の動向を丁寧にみていくとともに、日本銀行としての経済・物価情勢の見方や政策運営についての考え方を市場に対し、分かり易く示していくことが重要である、との考えを述べた。』

そもそもお前らの意見が分かれているだろうと言いたいですな。またマッチポンプかと小一時間(略)。

ま、金融政策に関しての話は盛り上がってなかったようです。



2004/10/18

お題「日銀総裁記者会見(13日)」

金曜日に書き損なった話なので旧聞ですが、何も無かった金融政策決定会合(その割にはしっかり正午過ぎまでやってましたが^^)の後に行われた総裁の記者会見。最近各地で審議委員の講演が行われて皆さんある意味好き勝手に景気やら金融政策に係わるコメントをしている中ですのでそこそこ注目された(のかな?)会見でしたが・・・・

http://www.boj.or.jp/press/04/kk0410e.htm

○筋違いの質問が多すぎるのではないかと思うのですが

今回の会見(15時20分)の前に発表された金融経済月報の基本的見解(解禁時間は15時)が物の見事に前月と同じという有様(木曜のドラめもんでご紹介しましたが)で、大イベントの日銀短観によっても何の変化も無しというある意味素晴らしい結果だったのですが、あまりにも変化が無かったせいか、金融政策に絡む質問以外の質問が多かったのは自称日銀ウォッチャーたるあたくしとしては誠に遺憾でございます。

質問が7件(冒頭の質問は「では総裁ご説明を」なのでカウントしませんが)ありまして、ダイエー問題に関する質問が2件で政府税調絡みの質問1件でUFJの刑事告発問題が1件ということでして、別に日銀総裁がコメントしなければいけないようなお話じゃぁない質問が過半数となっておりました。まぁ丁度時期的に一番盛り上がりを示していたのでそ〜ゆ〜質問が出てくるのも仕方ないのですが、別に突っ込んだ答えを期待できない質問の方が多いとはこれ如何にって感じですな。

と言っても、いつぞやの記者会見では某テレビ局の美人女性アナウンサーのプロ野球談義に突っ込んだ答えをしていたりしているのが福井総裁でもあるのですが(^^)。

○9月短観の評価

ま〜金融経済月報の基本的見解が一言半句違わないと言っても過言ではない状態ですので当たり前っちゃぁ当たり前なのですが。

『(金融政策判断の)背景となる経済・物価情勢の認識は、前回の金融政策決定会合と基本的に変わっていない。一言で言えば、景気は回復を続けているし、先行きについても回復を続け、前向きの循環も明確化していくとみられるということである。』

『こうした判断については、先般、日本銀行が発表した9月短観のデータが相当程度これを裏付けているという面もある。海外経済が拡大を続けているもとで、足許輸出や生産は、伸びをやや鈍化させつつあるとはいえ、方向としては増加傾向を続けている。また、企業収益や企業の業況感は改善が続いているということが非常に明確であるし、企業の設備投資も引き続き増加している。家計部門では、企業の雇用過剰感がかなり薄らいできているということもあり、生産活動や企業収益などからの好影響が少しずつ強まってくるという動きが続いていると判断している。』

という事で、日銀短観の結果は景気に関する見方に対しては中立というのか強気スタンス継続というのか、とりあえず景気回復加速でも減速でもないという評価になっているようです。


で、まぁ日銀の大イベントである短観(古くからデータがあるから重視されてますが、個人的にはたかがアンケートではないかと思うのですけどね。同じアンケートなら堺屋センセイ肝いりで始まった景気ウォッチャー調査の方が興味深いんですが。まぁそれは兎も角)に関するコメントがその程度では寂しい訳でしてこんな質疑が。

『(問)9月短観の結果をみると、大企業製造業の景況感は市場予測を上回る改善を示した一方で、先行き予測では悪化を見込んでおり、不透明感も指摘されている。こうした今回の短観の調査結果を踏まえた上で、改めて、日本経済の全体像について見解を伺いたい。』

『(答)9月短観の先行き判断についてであるが、短観のDIがこのように高い水準になった時には、過去の経験則でもそうであるが、先行きについては慎重な考え方や判断が出がちになるという、いわば、統計のクセがほとんどを説明していると思う。』

あっさりと「目先の数字が良いので先行きが悪化しただけだよ〜ん」ということで片付けております。だいぶ前に見たときにちと気になった「中国関連業種の先行き悪化見通し」あたりはどうお考えなのかな〜って気になります。

『もちろん、現状から将来を考えた時には、いずれの企業も、ここ暫くの間の高い成長率が少し下方修正されていく──世界経済の動きが巡航速度に向かっていることではあるが──ということは当然織り込んでいると思うし、その他、原油価格の動向等の不確定要因がある──原油価格については不確定要因が少し増している──ということが念頭に置かれていることは間違いないと思う。』

『しかし、基本的には、業況判断の水準がここまで高くなったことに伴う、統計のクセというものが出ているのではないかと思う。従って、これも含めた経済全体の先行きの見方ということになると、世界経済全体としても、あるいは日本経済単体でみても、先行きはやはり巡航速度に向かって成長速度を若干調整しながら、持続的な回復の軌道に近づいていくという標準シナリオに沿って動いているとみて良いと思う。』

○先行き見通し

月末の展望レポートに向けて先行き見通しに関しても質問がありました。

で、先に結論を申しあげますと、今回の福井総裁のスタンスは基本的に「景気には強気、消費者物価に関しては明言はしないけど何となく強気っぽく、金融政策スタンスは現実にCPIの数字が動かないうちは余計な事は言わない(昨年の中短期金利大上昇が相当のトラウマになっていると見ました^^)」という風に読めました。

『(問)昨年の10−12月期、本年の1−3月期、4−6月期の経済成長率を平均すると大体4%から5%近い成長かと思うが、これだけ高い成長率に持続性があるとはなかなか言い難い。人によって潜在成長率の見方が異なるので数値を一概に言えないのも良くわかるし、展望レポートを公表する10月29日より前に具体的数値を発表するのは難しいと思うが、総裁がおっしゃっている「巡航速度」というものがどの程度のものなのか、イメージでも良いので教えて頂きたい。また、来年度に景気が上振れるリスクについて、現状においてはどのように見ているのかも伺いたい。 』

長いので一部端折ります。

『(答)固定的な一定の数値で示される成長率でもって、巡航速度というようなものを表せないと思う。(途中略)一本の数字で表すことはなかなか難しいと思う。おっしゃる通り、昨年の10−12月期から最近に至るまでの日本の経済成長率は、平均してみると5%近傍である。これが巡航速度と比べて高過ぎるということは明確に言えるが、今これよりは低いところで、潜在成長力は着実に上がりつつあるので、その上がっていくラインにかなり近いところで──できれば潜在成長力を少し上回るようなところで──、上手く持続的なパスを日本経済が見出していければと思っている。 世界全体についても、まったく同じようなことが言える。(以下略)』

消費者物価に関して。

『(問)今後の消費者物価の見通しに関して、「小幅のマイナス基調が続く」という見通しを述べられた(引用を省略しちゃいました)が、1月の政策変更時には、デフレ脱却を後押しするために量的緩和の追加に踏み切られた。今、物価はマイナス基調が続いているし、今後もマイナス基調を見通すということであれば、追加的な量的緩和措置をとることによってデフレ脱却を促進するという考えはあるのか。』

1月の追加緩和(景気判断を前進させながら金融緩和というか量的緩和の拡大を行うという前代未聞の自己矛盾金融政策)を絡めているという意地の悪い質問。

『(答)基本的には従来の考え方は変わっていない。より綿密に言うと、同じ消費者物価指数の小幅のマイナス基調であっても、かつてのような大きな需給ギャップというよりは、生産性の上昇あるいは賃金の調整、それらを合わせたユニット・レーバー・コストの低下というふうに、デフレないしはデフレ的現象の背後にある事情というのがかなり変わってきている。今はかつてのようにデフレ・スパイラル再突入を心配するということよりは、景気の回復をより持続的なものにしていくことによって、デフレからの脱却も自動的・並行的に可能になるという方向になってきていると思う。』

『従って、量的緩和政策を維持することによって景気回復の持続性をより保証し、同時に物価のマイナス基調からの脱却も図れるということに、政策スタンスとしての照準が合ってきていると考えている。』

量的緩和の強化については以下にあるように一言も触れないままで回答をしておりまして、まぁ景気先行きにも物価にも強気なんでしょうな。緩和問題を完全黙殺というのはそれはそれで意思表示ではないかと。


○という事で総括(総括できる時は今後も書くように心掛けます)

という事で、さっきも書きましたが、結論としては日銀総裁様に置かれましては相変わらず景気に関してカンカンの強気スタンスで、物価見通しに関しても上記のように『デフレ的現象の背後にある事情というのがかなり変わってきている。』という風に先行きに関してはかなり楽観的(これだけ読むと「需給ギャップは大きな問題ではなく、今後ユニット・レーバー・コストの調整が済めばCPIも上昇に向かう」と言ってるように見えます)ですので、真打ち福井総裁の前に出ていた各審議委員の講演などよりは強気スタンスの総裁ってことが(相変わらずですが)言えると思います。

あんまり話題になってなかったみたいですけど、読めばそれなりに見るべき物もあった総裁記者会見でありました。





2004/10/15

お題「第U非価格競争入札のご教訓?」

本当は日銀総裁記者会見もネタなのですが、働きすぎ(ではなく連休に旅行に逝ったのが原因なのだが)で今朝は寝坊モードによってネタの半分だけはなはだ簡単に。

昨日の5年国債入札から新しい制度が開始と相成りました。詳しくは財務省のWebなんぞをご覧頂きたいのですが、よーするに「入札当日の午後2時半までに平均落札価格でてめぇの落札額のだいたい10%を追加購入することができる。ただしプライマリーディーラー(国債市場特別参加者)に限る」って制度であります。この制度はプライマリーディーラーに与えられたメリットの一つって事になっておりまして、今回の5年入札がその第1回となった訳であります。(ちなみに、第T非競争入札というのもあるのですが、こちらはあまり相場に影響ない話です)

まぁど〜ゆ〜事が起きるかといいますと、落札者(プライマリーディーラーが25社もいますのでまぁ落札シェアの殆ど)におきましては「世の中の平均落札価格で落札額の10%を購入するオプション(=コールオプションですな)を2時半(=応札時限)まで持っている」という訳でして、市場全体で言えばまぁ発行額の10%分のコールオプションしかもアット・ザ・マネーがばら撒かれている状態な訳であります。つーことで事前にも「まぁ落札後相場が上がった場合に新発債のコールオプション部分が効いて上値が抑えられますな」という話になっていたのですが、現実に起こった事はと申しますと・・・・

前場引けが安値引け状態だったので、まぁ入札としては応札しやすいという入札。その割にはふたを開ければまぁまとも(=ど割高ではないという意味)な入札だったのですが、まぁ「入札は好調でしょ」って見方で後場は落札結果発表を前にして既に先物上昇の巻と相成りました。落札結果は先ほど申しあげたようにまぁ普通の結果でして、瞬間的にはヘッジ売りなのか何だか判りませんが先物が売られたのですが、その後は平均落札価格(0.631%)のかすかに上である0.63%がやたらと重くなるというお約束のような展開。前場の先物引け値が137円95銭だったのに先物15銭上昇して0.63%オファーサイドってそりゃヘッジ売りをした分丸やられですよ先生って感じ(ただし先物ヘッジの場合ですが)でして、大変に機嫌の悪くなる展開になりました。

ただ、今回の入札に関しては5年新発債のゾーンがここもとの相場下落あんど上昇の間にやや割安化していたのが幸いでして、「いくらなんでもそりゃ割安でしょう」という買いも入ってきたために相場の全体水準の上昇と共にオプション行使価格帯(笑)を何とか抜ける事となりました。まぁオプション行使価格帯を抜けて下されば後はオプションを行使した皆様も「さぁ買いましょう」ってなもんで(^^)、行使時限の2時半を過ぎたら元々割安だった5年ゾーンの修正が入って引け際30分で先物対比1毛近くカーブを修正すると言う大技を実施して下さいました。

という訳で今回初めて行われた第U非競争入札の試みなのですが、相場上昇のおかげで追加発行額1766億円と目出度く発行額の1割近くの追加発行ができましたが、初めての試みで何となく見えてきたあたくしなりのご教訓を今後の参考にメモっつー事で。

・ヘッジの調整がムツカシイ

→同じカテゴリー(中期債を中期債でヘッジ)でヘッジしていれば特に問題が無いのですが、コールオプションの存在によって一時的にはイールドカーブの歪み、というか要するに今回のような「ヘッジだけ丸やられ状態」が発生する。うっかり流動性が高くてスペキュレーターが堂々ご参入してくる先物でヘッジすると瞬間的な股裂きモードになりやすい。

でですな、今回のように当該ゾーンが割安化していれば「割安なものが益々割安になる」というのを見て実需とか裁定取引の買いが入ってくる訳ですが、入札時点で多年限比割高な状態で入札を迎えた場合に相場水準が何らかの事情で上昇した時に割高修正が今までよりも急速に起こる可能性が高いということになろうかと思います。


・しかしこのオプションって罠ですな(^^)

→落札した業者がコールオプションを貰えるわけですからメリットはメリットな筈なのですが、オプションの存在を全員が知っている訳ですし、そもそもオプションの売り手が財務省さまなのでオプションの売り手が踏みに行くという(債券先物オプションで見られるような)香しい相場展開が現出する訳ではありませんわな。

つーことで、逆に「ヘッジ踏ませ仕掛け」のような技も可能(ただし入札のあったゾーンが割高化している場合に限るって事になりそうですが)な気もするわけでして、オプションの行使価格がアット・ザ・マネー(落札平均価格何だからあたり前ですが)なだけに、相場水準がある程度ぶれてくれないと真の意味でのメリットが発生しないのではないかと思ってしまいました。

まぁ落札額の1割なんぞ誤差範囲内と言ってしまえばそれまでなのでしょうが。特に大手の業者様におかれましては・・・・・

たぶん、今回の入札は「事前のヘッジが皆さんそれなりに上で売れている(前場の引けが安値引けだから)」とか「そもそも5年が他年限比高くない」というような要因があったので結果としては皆さんハッピーという形になった(追加発行できた財務省もホクホクでしょう)ようですが、次回以降の入札でどうなるかはちと??ではあります。


まぁそんなところで本日はメモ書き散らし状態で恐縮です。







2004/10/14

お題「金融経済月報(10月分)」

本題の前にまぁ一応ダイエー話でひとくさり悪態を。

結局産業再生機構の活用がどうのこうのって話になったのですが、まぁ金融庁VS銀行業界における「繰延税金資産の梯子外し問題」と同じ穴のムジナっつー話でありまして、散々問題を引っ張った挙句に再建計画を否認ってのはまぁダイエー側としては「話が違う」って事なんでしょうな。そもそも問題を引っ張らせたのは銀行であり、その銀行の行動を是認していたのは金融庁なんですから、今になって「怪しからんのはすべてダイエー」みたいな態度で臨む金融庁なんかの姿勢は激しくいかがなものかと思いますが。

で、民間主導にしたって再生機構送りにしたって結局債権放棄を伴う処理になるのでツケが回ってくるのは国民負担なんでどっちにしてもあまり変わりが無い筈なのですが、朝から見ている某経済ニュースでは小売アナリストのセンセイが「産業再生機構で抜本処理をするので大変に結構」などという話をしておりまして、また朝から提灯かと感服する次第。

さすがに「産業再生機構を使うと不良債権が正常債権になる」ってカラクリに関してはどのニュースでも言及されているのですが、解説の部分で「んじゃぁ産業再生機構でちゃんと抜本処理するのかよ」って事への突っ込みが無い(まぁそんな突っ込みをしたら激しく以下自粛な事になるんでしょうが・・・って書いていたら目の前の某公共放送様が「産業再生機構が抜本処理を行えるのか真価が問われる」と極めてまともなコメントをしておりました。中々やるじゃん。)のが残念な所でございます。

カネボウだのりそな銀行(は産業再生機構とは関係ないがまぁ同じようなもんでしょ)の税金絶賛大注入後の動きを拝見していると、官のご計画通りに実施する企業再生のどこがどう抜本処理なのか激しく理解に苦しむわけですが。

そんなニュースのドサクサに紛れましてUFJ銀行様では経営監査なんちゃらという組織が新設されて元判事だか検事だかの偉い人やらがお呼ばれするという報道がございましたが、まぁひねくれ者のあたくしとしてはどうも一連の流れに「経済における官の絶賛大拡大」という物を感じてしまうのですが、あまり悪態ばかりついていると以下自主規制な訳ですので(謎)、悪態はこの辺までにしておきます。


ということで本題。

○3ヶ月連続で同じ金融経済月報

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0410.htm

先月のドラめもんでは9月の金融経済月報のご紹介をするのに「ある意味驚愕の内容」と申しあげまして殆ど表現が変っていないというお話をしましたが、今回の金融経済月報はそれに磨きが掛かっております(^^)。

日銀短観が発表された後の金融経済月報ですんで景気判断なんかに何か変ったことでもあるかな〜なんてちょっとだけ期待していたあたくしとしては「これではドラめもんのネタにならないではないか」などと本質と全然関係無い部分でガックリですよ先生って感じであります。

日銀短観を受けたと思われる表現は以下の部分だけです。

・景気の現状判断における部分

(10月)『企業収益や企業の業況感は改善が続いている。こうしたもとで、設備投資も引き続き増加している。』
(9月)『企業収益の改善が続くもとで、設備投資も引き続き増加している。』

単に「企業の景況感」に対するコメントが加わっただけですが、これは一応日銀短観の結果を受けたということでしょ。

・先行き見通しにおける雇用に関する部分

(10月)『企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、雇用過剰感が緩和するもとで、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。』
(9月)『企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、そうした中でも、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。』

雇用過剰感が緩和っていうのは日銀短観の数字を受けての事だと思うのですが、その割には雇用だの勤労者世帯だのというあたりに絡む経済指標の数字が伴っていないのではないかと思うのですが、ま〜そういう無粋な突っ込みはお作法として行わないという事に致しまして(って突っ込んでますが^^)、まぁてめぇで調べている日銀短観を重視するというのは非常に判り易いお話でございます。

・普段全然気にしないけど金融面に関する部分

(10月)『企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。』
(9月)『企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き明確に改善している。』

単に「明確に」ってのが取れただけなので別に判断を後退させたわけではないのですが、あまりにも判で押したように同じ文章が延々と続いたので思わずこんなしょうもない所までご紹介してしまいました(^^)。

で、恐ろしい事に他の表現が物の見事に同じでありますので、お暇な方は9月の月報と比較していただくと中々笑えます。ちなみに最初に申しあげたようにこの金融経済月報は4月から8月に掛けて景気判断をせっせと前進させて先行き見通しも明るくさせていったのですが、9月10月と連続して「判で押したように同じ表現」をしております。これを「景況感改善一服」と見るのか「景気拡大サイクルが安定化してきた」と見るのかは正直言って読む人の主観的判断が入ってしまいそうですので、あたくしとしての個人的主観的判断と最初に断っておきますと「日銀も景気拡大ラッパを吹きすぎたんじゃね〜の」って思う訳ですが。先日の短観を受けて景況感その他に変化なしってのはちと??なドラめもんであります。本日アップされると思われる日銀総裁記者会見の要旨もご確認されるのが吉かと存じます。情報ベンダーのフラッシュベースでは相変わらず「景気に強気で金融緩和は継続」というスタンスと見ましたが。


#あたくしの真の本業たる5年国債の入札に関しては正直判らんので以下省略。






2004/10/13

お題「ネタがないのでたまには相場見通し」

米国雇用統計を受けた昨日の債券市場。10年債の1.5%手前で一旦足踏みする場面もあったのですが、結局1.5%を威勢良く割り込みまして、10年264回債の日本相互証券引け利回りは1.465%(実際はその値段付いていませんので実力は1.47%なんですが)とまぁ上がる上がる。20年72回は2.065%とまたまた2.1%割れですよ先生って感じであります。

○相変わらず総員ディーラー相場

前期末、って言っても先々週の木曜ですから営業日で7日前のお話なんですが、期末時点では10年263回債が1.44%でして、その後1.6%近くまで売り込まれた後で昨日の263回債は1.455%って動きですから、まぁ1週間でよくも派手に動いたものだという感じです。

昨日の上げの主体が誰の動きなのかはよー知りませんが、業者だけでここまで相場を動かすのは無理がありますので、大手投資家様の買いが入ったということでしょう。まぁ「雇用統計で米国景気の減速傾向が明確になったから債券買い」という事なのでしょうが、よくよく考えますとその発想はディーラーの発想ではないかと思うわけですな。僭越ながらそもそも論を申しあげますと、債券投資って基本的には調達コストに対して超過収入を取りに行く商売ですが、その収入ってのは利息収入が基本になる筈。

期初から10年債が1.4%半ばから1.6%近くまで利回り上昇しているのに大した買いも入らず(さすがに1.6%の所で長期ゾーンには買いが入っていたようなのですが)に、経済指標一つで一挙に1.5%割れまで買い上げられて期末のレベルまで相場が戻るってそりゃどうよって感じであります。何を基準に投資しているのかさっぱり意味不明でございます。というか「相場が上がりそうだから買う」とか「下がりそうだから売る」っつー事なんでしょうが、まぁ相変わらずの総員ディーラー状態ではないかと思う期初以来の大暴れ相場であります。

総員ディーラーとか悪態をついてますが、実際問題としてこの相場でも10年なんかの絶対水準を見ながら下がった所で買いを入れて、戻り局面では売っているお方もおいでなのは言うまでもありません。ただ債券相場を振り回すパワフルな投資家様の中に「あなたの投資行動ってそりゃディーリングでしょう」という動きがあるのであえて「総員ディーラー相場」と言うわけですが。


○ディーリング相場だけに先行き難しい

後付け理屈で言えば日銀短観と10年国債入札で債券が売り込まれて機械受注と米国雇用統計で大戻しした相場っつー事でありますので、どうも結局は景況感が相場のメインテーマで、たまに入札がらみの需給がネタになるという事らしく、財政問題は無視という事らしい相場のようです。

で、この景況感というのが曲者でして、本来景気の方向性が1週間やそこらでコロコロ変るわきゃー無いのですが、一々指標に反応(というか指標を売り買いのネタにしているだけだと思うが)しているというのは正しくディーリング相場の様相を呈しているわけです。

まぁ業者の立場で言えばある程度相場が動いてくれないと商売にならないので結構なお話ではあるのですが、正直10年金利ベースで0.15%、債券先物で1円40銭とか売られてまた戻るような材料かよって印象でして、現に株式市場方面では日経平均にしろトピックスにしろそんなに動いていない訳ですから、債券市場一人相撲の図って所でしょう。

まー結論にはなっていないのですが、この調子では暫く目先の経済指標だのちょっとした株価の動きなどに派手に反応するという不思議な相場が続くのではないでしょうか。


○もうちょっと金融政策にも注目していただきたいのですが

今日まで行われる金融政策決定会合に関しては特筆することも無く、全員一致で金融政策変更なしという結果になるでしょうが、とりあえず月末の金融政策決定会合で発表される所謂「展望レポート」が注目材料になるのでしょう。

その展望レポートに絡みまして、10月頭の土曜だか日曜のどこぞの全国紙に「展望レポートで来年度のCPI見通しがプラス転換の見込み(だから景気は絶賛回復中でデフレも脱却ですがな恭喜恭喜って事ですか)」って憶測飛ばし記事(なのか意図的書かせ記事なのかは知りませんが)が出ておりましたが、実際問題としてはここもとドラめもんでご紹介しているように各審議委員の講演だの記者会見だのというのが最近出てきているので、その辺を丁寧にチェックするのが正しいあり方でしょう。根拠レスな飛ばし記事(あるいは書かせ記事)に反応するという風習はいかがなものかという気はしますが。

で、それは兎も角として昨今の日銀審議委員の講演をウォッチしておりますと、傾向として見えてくるのは(近日中に真面目にまとめますが)「消費者物価動向に強気な人は量的緩和政策終了のビハインド・ザ・カーブを辞さずという姿勢が見られる」というのと、「量的緩和政策の出口を模索する姿勢がある人は案外消費者物価動向に弱気」という感じでありまして、いずれにせよ量的緩和政策がズルズルと続きそうな雰囲気であります。

穿った見方をすれば、量的緩和政策自体が経済の色々なところにビルトインされた状態になっているので、何だかんだと理屈をつけて量的緩和政策を継続していきましょうって事なのかも知れませんな。何だかんだと言っても福井総裁が一番景気にも物価にも強気だったりするような気がしますが、本日の記者会見には注目したいですし、また臨時国会が始まると財務金融委員会とかいう所に福井総裁がお呼び出されモードになってお得意の不規則サービス発言が出てきそうですので、こちらの大先生ウォッチも欠かせませんな。


○という事でお前の相場観はどうなっているのだと聞かれそうですが

正直期初からの相場はさっぱり理解不能でして、まぁ突如始まった景気回復キャンペーンに躍らされただけという事なのかもしれませんが、根本的に景気にも物価にもあまり強気ではないあたくしとしては(主な理由は雇用部門が全然よくなる雰囲気が無いから、あとは個人的定点観測などによる体感的なものなので根拠レス)、基本的に債券を売る時期ではないと思いますがね〜。超目先で言えば日経平均株価に過剰反応しながら落ち着きどころを探すって感じでしょうね。

と、何を言いたいのか判りませんが、よーするに「まぁ売られたらちょこちょこ買えば如何でしょう」という事でして、ここまで相場が戻ってから買いがどうのこうのというあたくしの神経もいかがなものかという気も激しくしますが、景気に関しても金融政策に関しても「ど〜考えても量的緩和解除の先は見えませんな」という基本認識ですのでそこんとこヨロシクであります。


本日もまたはなはだ訳の判らん雑談で恐縮至極でありました。




2004/10/12

お題「雑談です(半分くらい旅行雑談)」

台風御到来で大変な連休でしたが、あたくしはJALだのJASだのという所のマイレージが期限切れになりそうだったので無理矢理台湾なんぞに行って参りました。

○台湾立法院選挙

まぁ見るとも無しに何となくテレビ番組をつらつら眺めていたところ、とある放送局(たぶん与党民進党系の局)で憲法改正問題がどうのこうのというシンポジウムを報道する特別番組をやっておりまして、総統府政策顧問の人やら李登輝前総統やら、どこぞの米国人が出てきたりして憲法改正問題を大いに盛り上げているような感じ(あたしゃー中国語良く判らんので番組の字幕の字面を追っていただけなのですが)でありました。

台湾の憲法改正は憲法改正っつーよりは新憲法制定っていう意味でありまして(向こうでどう表現しているのか不覚にもメモ取り忘れた)、国民党支配時代に制定された憲法は当然ながら中華民国の大陸反攻をベースにしているものですが、これを現状に即したものにしつつ「1つの中国」から方向性としては台湾独立(というと大陸が軍事介入をすると公言しているので行政機関の人間が堂々と口に出すわけには行かないが)っつーお話になるということのようであります。

前回の総統選挙では同時に憲法改正に関する国民投票(国民というと同じ理由で大陸からミサイルなので公民投票と言ってましたが)が実施されて、憲法改正に関しては否定という形で陳水扁総統の再選とセットでバランスの取れた結果になった訳ですが、今年の年末(確か12月)に立法院選挙がある筈ですので、こちらの結果次第では再度憲法改正問題が盛り上がって大陸との緊張が高まる可能性も否定できないと思う次第でありました。

まぁ中国共産党に気を使っているのか何だか知りませんが、隣国であります台湾に関する報道って日本では本当に少ない(観光情報は別ですけど)と思うわけでして、あたくし不覚にもテレビ番組を見てこれらの話を思い出した次第であります。まぁ東アジアで戦火が走るとすれば北朝鮮よりも台湾海峡の方が可能性があるし規模もでかいでしょうとあたくし的には思うのでして、もうちょっと注目した方が良いのではないかと感じました。


○厳重警戒の祝賀式典

10月10日は台湾の国慶節でして、当日は色々な催物が各地で行われておりました。台北の総統府前広場では祝賀式典(軍事パレードなどの出し物を含む)が行われておりまして、テレビでも生放送していたので、近くに泊まっていたあたくしはどのくらい近くにいけるものかと総統府に向けてお散歩。まぁ平和ボケした日本人の想像以上に警備が厳重でして、総統府から300メートル位離れた所にある公園(二八一和平公園)は完全封鎖してまして、近くの道路は警察と軍(か憲兵隊だか判りませんが)が絶賛警戒中。式典会場に近づくには入場証と荷物あんどボディーチェックが必要で、軍用銃に鉄兜というお方が物々しく構えているという警戒振りでありました。(さすがに偉い人が出てこない夜の出し物時間には軍隊ご登場という警戒はありませんでしたが)

3月の総統選挙では陳水扁総統が銃撃される(陰謀説などもありましたが)という事件もありましたが、憲法制定問題で国内的には色々と動きのあるさなかでの国慶節祝賀式典という事ですからまぁ大厳重警戒も当然ではありますわなと思いつつその場を後にするあたくしでありました。



○だいぶ前から読んでいる本の続き

話は思いっきり飛ぶのですが、以前ドラめもんでご紹介した「金融政策論議の争点(小宮隆太郎+日本経済研究センター編、日本経済新聞社)」という本を旅行に連れて行きましてまぁ読んでみた訳ですな。

この本では日銀の金融政策に批判的な立場とそれに反論する立場の論文や討論などを交えております。まぁ大変に良くまとまった本なのですが、少々ムツカシイので字面は追えるのですが、経済学の素養に乏しいあたくしなんぞは大変読み込むのに苦労する本な訳であります。

この本では現在日銀副総裁であります岩田一政さんが内閣府政策統括官としてご登場しておりまして、日銀批判の立場から論じているのが今になって読むと結構面白いところでありまして、このあたりを読んでいたのですが、基本的に主張がこの時と今とあまり大きな隔たりがないのはある意味感心してしまう次第であります。

90年代後半以降の「デフレ均衡」の定着の要因として3つ挙げているのですが、その中の一つに「円高シンドロームとデフレ期待の定着」ってのがありまして、円高(98年8月に147円まで円安になったあと日米協調介入で120円台まで戻ってしまいましたな)の定着について結構なウェイトをおいているのが目に付く所であります。

で、岩田さんはこの為替問題に絡みまして円売り為替介入の非不胎化の必要性を強調しておりまして、「ふ〜ん」と思いながら読んでおりました訳です。岩田さんは円売り為替介入の非不胎化の話をしてますし、他の論者は国債買いきりの拡大の話をしたりという感じで、日銀批判の立場の論議もそれはそれなりに説得力があるのですが、金融調節の技術問題として「???」がつくものが多いのが如何な物かな〜と改めて思った次第であります。

もっと書こうと思ったのですが、頭の中が整理されていないので以下後日(大汗)。






2004/10/08

お題「消費者物価の先行き予想がやたら強気な人」

昨日ご紹介した須田審議委員の講演ですが、講演後に行われた記者会見の要旨は特筆すべき内容も無いのでご紹介省略。

須田審議委員の消費者物価に対する先行き見通しに関しては昨日ご紹介したように「消費者物価は上がりにくいのではないか」となっておりまして、まぁ弱気な見方になっているわけですな。

で、この見方とだいぶスタンスが違うのが須田審議委員の講演で皮肉を言われた(かもしれない)岩田副総裁でして、かなりの証文出し遅れではありますが、9月22日の講演および記者会見で物価やら景気見通しについて小難しいお話をしております。

で、本来は「日本経済の現状:景気は屈折するか?」というお題の講演の内容をご紹介しないといけない所ですが、これがまた頭痛を催したくなるような講演要旨でして、あたくしと致しましては「お前は学者なんだからもうちっと判り易く説明できんのか」と申しあげたくなる訳ですな。というわけでおつむの出来がよろしくないあたくしは何を言ってるか判らん講演のご紹介は尚も後日に先送りして、記者会見の要旨から岩田さんのコメントをご紹介することと致します。

○消費者物価は経済成長の影響を受けるというご意見のようで

冒頭の質疑で物価見通し(が外れていること)に対して長々と話をしております。

『コアCPIについては、個人的に昨年10月の時点では、今年の夏ぐらいにプラスになってもおかしくないと考えていた。GDPギャップが1%縮小するとコアの消費者物価が0.4%程度上がってもおかしくないといった、いわゆるフィリップス・カーブの図を展望レポートでも示していたが、現実に2003年度の実質成長率は3.2%となった。これに対し、潜在成長率がいくらかという点については、議論があるところであるが、労働生産性の5年前対比変化率は、大体プラス1.5%となっている。一方、労働投入量の伸びは、増えたり減ったりしているが、均してみれば、ほとんどゼロに近く、その結果、潜在成長率は1.5%くらいなのではないかと個人的には思っている。』

『内閣府の調査でも、最近時点では低いが、平均をとると私の数値とあまり変わらないと思われる。このように、潜在成長率を上回る成長を遂げていけば、GDPギャップが縮小していき、タイミングはいつになるか非常に予測は難しいが、やがてある時点では、コアの消費者物価指数もプラスになっていっておかしくないと思われる。ただ、現在は、原油価格や米価といった、やや一時的と考えられる要因で動く部分がかなりあるので、そういったものが一応出尽くすということを、一応見届ける必要があると考えられる。見届けるには、ある程度の時間が必要である。米も、最初は豊作と言われていたが、台風の影響でどうやら平年並みになるなど、いろいろ事態は流動的であるので、なかなかいつからということは難しい。しかしながら、ある時点では、プラスになっていっておかしくないと思っている。』

実質成長率が潜在成長率を上回ればGDPギャップが縮小するのでコアCPIはプラスになるでしょうという極めて美しい理論展開でございます。

で、まぁ現実はそうでないわけですのでその辺に突込みが入るわけです。

『(問)生産性の上昇やユニット・レーバー・コストの低下によって物価がなかなか上がり難い状況の中で、CPIの上昇に関しては、以前の副総裁の予想に比べて、若干見方が下方修正され、物価に対して弱気になっているということか。』

『(答)以前、私が考えていたメカニズムとどこが違うかを整理すると2つあると思っている。まず一つは、先程申し上げたフィリップス・カーブの傾きについては、過去20年の平均でみると、GDPギャップが1%縮まれば、コアのCPIに0.4%の物価上昇圧力が加わるというのが、歴史的な経験である。今回の回復期は、それがその通りには十分反応していない。CGPI(企業物価指数)は極めて素直に反応しているのに対して違いがある。これは、フィリップス・カーブの傾きが、現在までのところ、過去の20年間の経験よりも、より非感応的でフラットになっていることが一つ言えると思う。そこが昨年10月の時点で思っていたのと違うところである。』

『もう一つは、期待の部分である。人々が期待する物価上昇率がどのようになるかという期待調整の部分について、思っていたよりもデフレ期待がビルトインされている力が強いという要因があると思っている。』

『フィリップス・カーブの傾きがよりフラットになっている理由としては、生産性の伸びが高い中で、賃金への波及が、過去の歴史的な経験よりも遅いためと思われる。単位労働費用のマイナス幅が、過去の回復局面ではみられないほど大幅なマイナスになっている。私は、単位労働費用の前年比がプラスにならないと、コアのCPIがプラスにならないとは思わないが、ある程度マイナス幅が縮小することが必要だと思っている。コアのCPIがマイナスになっている時期が86〜87年と95〜96年にあり、98〜99年くらいから現在までマイナスが続いているが、そのいずれの時も、単位労働費用の前年比はマイナス4%くらいになっている。必ずゼロに戻らなければ動かないといった話ではないが、ある程度マイナス幅が縮小することが必要ではないか。』

結局ここでもユニット・レーバー・コストの問題が出てくるのでありました。

『ごく最近の動きは、若干マイナス幅が縮小する方向に動いており、この辺を注目していきたいと思っている。』

しかし何ですな、ユニット・レーバー・コストが問題で企業物価の上昇が消費者物価上昇に転嫁されないっつーのであれば、現在のデフレというか物価が全然上がらない状態はもしかして「良いデフレ」なのではないかという気さえしてくるのですが。労働分配率を下方修正していく中で消費者物価が上昇したらそりゃ労働者さすがに暴れの図になるでしょうからねぇ。おまけに申しあげると、ユニット・レーバー・コストが消費者物価の絶賛小幅マイナス継続に寄与しているのであれば、デフレ脱却に対してマネー的金融政策で梃入れ(長期国債買入を益々増やすとか、政府紙幣の発行ををするとかのマネーサプライ増加策)するのは話の筋が違うって事になりませんかね〜と思うわけであります。勿論ユニット・レーバー・コストだけが問題ではないですから無意味とは思いませんが。


○という事で岩田副総裁のCPI見通しは?

この講演ならびに記者会見は札幌市で行われたのですが、福井総裁の記者会見で話題になったので「日本ハムファイターズがどうのこうの」という質問をした記者がいたようで、会見要旨を28行ほど占有しておりますが、時間の無駄なのでそのような質問をする記者は可及的速やかに経済部から転出して頂きたいものです。

という無駄話は兎も角、CPI見通しに関して。

『(問)同じところで恐縮ではあるが、本年度のコアCPIの見通しについて、副総裁は、前年10月にはプラスと見通されているが、現時点でもプラスと見通されているのかどうか。また、需給ギャップが大きく縮小してくれば、コアCPIがプラスになるということも考えられるとおっしゃったわけだが、来年度もCPIがプラスでいけるとみておられるのか伺いたい。』

『(答)最初の成長率のほうから申し上げると、民間の強気の予測だと4%ぐらいを見込むところもあると申し上げた。4%というのはどういう意味合いかというと、昨年10−12月期と今年1−3月期の伸びが非常に高い、年率でいうと7%とか6%とか、そういう高い伸びとなったので、いわゆるゲタと呼んでいるが、今年度の出発点が既にかなり高いところから出発する分が、私の計算だと2.1%ほどある。仮に2004年度に4%成長すると高く見えるが、出発点で既に2%くらい稼いでしまっているので、あと4四半期で残りの2%分伸びていくというインプリケーションかと思う。』

『それは、潜在成長率をやや上回る成長を続ければ、十分に達成する可能性がある大きさ、範囲内ではないかと思っている。それから、2005年度については、民間でも見方はそれほど定まっておらず、数字がそもそもないので、予測は振れがかなり大きいと言えると思うが、途中に紆余曲折はあっても、基本的には潜在成長率をやや上回る成長が持続するというのが私の予測である。』

どうもこの先生は質疑応答の答えがやたらめったら長い傾向にあるのですが、ここまでが前置き部分です。

『仮にコアCPIが2004年度中にプラスになって、基調的にプラスの方向に動くことがあるとすれば、当然2005年度はプラスになると思う。』

『もう1点付け加えると、若干技術的ではあるが、フィリップス・カーブが非常にフラットになって、なかなか反応しないという点があるが、GDPギャップがゼロを超えだすと、少し傾きが立ってくる可能性がある。需給ギャップ自体が、マイナスの需給ギャップ、すなわちデフレギャップだったのが、今度は逆に需要のほうが上回りだす。足許のGDPギャップについては、私は今年1−3月期でゼロに近いのではないかと何度か申し上げた覚えがあるが、内閣府では今年4−6月期にほとんどゼロとみている。大体、足許のGDPギャップがゼロだとすると、それ以降、潜在成長率を上回る率で成長すると、プラスアルファが加わってくる。そのアルファの分により、1%のGDPギャップ縮小によるCPIに対する押し上げ効果は、0.4%ということではなくて、恐らくそれをいくらか上回る可能性がある。』

『このところは期待の問題も絡むため、その大きさがどのくらいあるか細かく断定できないが、方向性としては、後押し要因になるというふうに思う。』

先月末にどこぞの全国紙で「次回出る予定の日銀の所謂展望レポートにおいては、2005年の物価見通しがプラスになるでしょう」というお話が出ていたらしいのですが、もしかしてこの辺の発言を見てそんな憶測記事でも書いたのでしょうかね〜。


○強気な物価見通しとCPI糊代論がリンクするわけですな

という訳でCPIの先行き見通しが結構強気な岩田副総裁なのですが、まぁこのように読んでみますと、どうも岩田副総裁的にはCPIが成長率に対して割と感応度が高いということになっているようでして、まぁそれならばデフレに逆戻りするリスクも強く意識されるというものなのでしょう。

『(問)4%成長が仮にあれば、年末にCPIがプラスになることも十分にあるとのことであるが、これは安定的に0%以上ということになる入口になるとお考えか。また、副総裁は、以前から望ましい物価上昇率として1〜2%とおっしゃっているが、来年度は1%の下限を達成できるとお考えか。』

『(答)4%成長が実現するかどうかというのは、もちろんわからないわけで、幅をもってみる必要があるが、仮にそういうことがあるとすれば、年末くらいからプラスになっても、マクロ経済的に考える限りは、十分説明がつく範囲の数字で、しかもそれは、基調としてなっていってもおかしくないと思っている。また、デフレに再び戻らないための糊代(のりしろ)がどのくらい必要か、これは人によって随分意見が違う可能性があるが、私は1%はどうしても必要なのではないかと思っている。』

『これは、もちろん、日本の経済が非常に活力のある経済であれば、必ずしも糊代が1%ない中でデフレ・ショックがあっても、それを跳ね返してしまうような可能性もあるとは思うが、確定した話ではないが、現状の日本経済を考えれば1%というのは糊代としてあったほうが望ましいと思っている。 2005年度については、まさに経済成長、あるいは賃金の決定、あるいは雇用の動きがどこまで強い方向で持続していくか──基本的には持続すると思っているが──、力強さがどこまであるかということに依存していると思う。今の時点で1%いけるかどうかというのは、私にも申し上げられない。』


本来は講演から読まないといけないのですが、まぁこっちの方が判りやすかったので、こちらから岩田副総裁の物価見通しについてご紹介させていただきました。昨日ご紹介した須田審議委員の講演とは随分対照的ではないかと思います。





2004/10/07

お題「須田審議委員の講演」

月末の金融政策決定会合で展望レポートが出されるわけですが、その前に審議委員の皆様一通り講演でもしてくれって感じなのでしょうか。で、この須田委員と言えば「日銀の本来の主張に近いお話をする人」というのがあたくしのイメージでして、その昔あたくしが読んだ「金融政策」って本(今は日本銀行金融研究所所長であります翁邦夫さんの書いた本)の論理展開と同じような金融政策論を展開するのが印象的。

という事で、須田さんの講演はあたくし的には割と注目していたりする訳ですな。ついでに申しあげますと、このお方の講演要旨って非常に読みやすく纏まっておりまして、まぁ字数は多いのですが実際に読んでみると読みやすい(と思う)のでご一読を推奨。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0410a.htm

○景気に関する見方はまぁ標準的

景気に関してはやや減速気味ではあるが、巡航速度へソフトランディングする流れの一環であり、今年度に入ってから日銀が折に触れて言及している「前向きの循環メカニズム」は引き続き絶賛継続中で要するに回復傾向変らず。講演要旨がよく纏まっているのであたくしが余計なコメントするよりは丸引用した方が吉かと(と言う事にして手抜きを誤魔化すのだが)。

『わが国の景気の現状をみると、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続いており、生産活動などからの好影響が雇用面にも及んでおります。更に、個人消費もやや強めの動きを続けており、総括すれば「わが国の景気は、回復を続けている」状況です。』

『最近、米国を中心に世界経済が若干減速気味である中、電子部品・デバイス工業製品の在庫増加や原油価格の高騰等のネガティブな材料もあり、足許と先行きの景気に悲観的な見方が散見されます。もっとも、私としては、4月の沖縄県金融経済懇談会の席上でも申し上げましたとおり、米国の経済成長率は2005年に減速すると考えており、それに連れてわが国経済も減速すると考えておりましたため、減速自体は、然程、驚くようなことではないと思っております。』

『わが国経済の先行きについては、米国を中心とする海外経済が巡航速度へ減速するという想定のもと、わが国経済の成長も減速するものの、引き続き潜在成長率を上回る成長率が実現できるというのがメインシナリオではないかと考えています。つまり、原油の高騰や半導体の在庫調整等による海外経済の調整が本格的なものにならずに一時的なものに止まり、輸出が徐々に増勢を取り戻し、企業部門から家計部門への所得の波及が次第にみられ始め、足許の所得比強めの個人消費の維持や設備投資における製造業から非製造業・中小企業へのバトンタッチの動きが広がり、前向きの循環が明確化していくというシナリオは維持できると思っております。 』

引用した3つの文のうち、最後の部分の文章の書き方なんですが、まず結論を書いた後に「つまり〜」と要因を書くというスタイルが金融経済月報の基本的見解の書き方と似ている(というか同じ)ので本職でもないのにマニアックに金融経済月報読み続けているあたくしにとって「読みやすい」のかもしれませんな。余談ですが。

景気先行きに関するリスクはこんな感じです。まぁありがちですが。

『現時点で特に注視が必要だと考えられるのは、まず、世界の景気を牽引している米国、その恩恵を受けている中国等アジア諸国を始めとする海外経済やIT関連需要が想定以上に減速するリスクです。この点については、これから始まるクリスマス・年末商戦に注目しております。もちろん、原油価格の動向も要注意です。また、米国の「双子の赤字」についても、古くて新しい問題ではありますが、足許の赤字のレベルは既往最大規模となっており、大統領選挙後に米国政府がどのような動きをみせるかが気になります。』

まぁ総じて標準的な見解って感じです。


○物価の見通しはちょっと弱気気味か?

で、物価に関しては最近おなじみのユニット・レーバー・コストの低下傾向が当面持続するために、物価上昇圧力を吸収してしまうでしょうってお話です。どっちかというと弱気の部類に入るのではないでしょうか。

『さて、物価の先行きについてですが、潜在成長率を上回る経済成長率が実現できるというメインシナリオのもとでは、需給ギャップは次第に改善していくものと思われます。』

となりますと・・・・

『素直に考えれば、その延長線上には消費者物価指数の前年比上昇率のプラス転化が展望できますが、』

「展望できない」というお話が続くわけですな。当然ながら。

『1.生産性の上昇率をどうみるか、2.企業の人件費抑制圧力がどの程度強いのか、によって見通しは変化すると思われます。別の言い方をすれば、これまでは非正規雇用の活用もあって賃金が低下しており、この賃金を生産性で割ったユニット・レーバー・コストが低下したことが物価の上昇を妨げていた原因の一つですが、先行きこのユニット・レーバー・コストの低下傾向をどうみるかがポイントとなります。これには後に述べる企業による構造調整がどこまで進んでいるとみるかにも係ってきますが、それを見通しの中に織り込むことは難しいと考えています。』

という事で結論はこうなります。

『私としては、当面はユニット・レーバー・コストが低下傾向を持続し、原油価格の高騰等のコストプッシュ要因は、基本的には収益で吸収できると想定している一方、所得に裏付けられた消費の増加はまだみられないため、消費者物価の価格上昇圧力は強くないとみています。とはいえ先行き不確実性がありますので、予断をもたずにみていきたいと思います。』


○金融政策に関して

本当はこの講演のお題は「日本経済の現状・先行きと構造調整」というものですので講演の本題であります構造調整に関する部分もご紹介しないといけないのですが、その部分はスルーしてしまいまして(汗)、金融政策に関する部分に飛んでしまいます。

量的緩和政策の副作用について言及しているのですが、まぁ正直言ってそんなに重大な副作用があるような話にはなってませんな。

『景気回復のもとでもこのような超低金利を持続させているがゆえに、利払いの重さが、企業自らが主体的に生き残りをかけて「選択と集中」に取り組むというインセンティブになりにくかったという点で、構造調整を遅らせる面があったことも否めません。また、短期金融市場金利を限りなくゼロにしているため、資金余剰の金融機関、特に地域金融機関が余剰資金を短期金融市場で運用して利鞘を稼ぐという利益機会を結果的には奪ってしまっているということもいえると思います。』

構造調整がどうのこうのという所は昔から言われていることですが、「景気回復のもとで」って前置きをおいているのがちょっとだけ印象に残るかなって所ですか。それにしてもデメリットとメリットを比較したら(講演では比較してませんが)どうみてもメリットが大きいって話になりそうですな。

まぁそれは兎も角と致しまして、本講演での金融政策に関する言及部分でちと読み込む必要があるのはこの後の部分でして、本来はフォワードルッキングで行われるべき金融政策が量的緩和政策の出口において「ビハインド・ザ・カーブ容認」みたいな話が流れとなっているような雰囲気(岩田副総裁が最右翼ですけど。近日中にちゃんと分類しますね)もありますので、ちょっと一石を投じているという感じのお話になっています。

と、書いちゃうと「タカ派」という印象になってしまうのでしつこく補足しますと、恐らくこの辺の部分に関しては「総合判断の重要性」を言いたいのだと思います。岩田副総裁は講演その他で「再びデフレに突入しないためには1%くらいの糊代が必要」と実質的に量的緩和のコミットメントをゼロから1%に引き上げるべきというような論議を展開しておりますが、そういう機械的な金融政策はいかがなものかって事を言いたいのではないでしょうか。

『(量的緩和政策の)コミットメントには「消費者物価の前年比上昇率が先行き再びマイナスとなると見込まれないことが必要」とあります。それを私どもの先行き見通しで判断することになりますので、この政策の枠組みにはフォワードルッキングな部分が含まれているということになります。ところが、先程も申し上げましたように、経済・物価の先行きについてはかなり不確実な面があります。このような不確実性の高い状況下で、フォワードルッキングな政策を行うのは正直にいって難しいといわざるを得ません。政策運営にあたってはマーケットとの対話の観点からもアカウンタブルである必要がありますので、なおさらです。 』

『先行き不確実な状況で、フォワードルッキングかつアカウンタブルな政策を採ろうとすると、一度に大幅な政策変更を行うよりも、まずは小幅な政策変更を行い、様子をみながら必要に応じて追加的な政策変更を行う「漸進主義」(gradualism)がある程度望ましい政策運営方法になると考えられます。バーナンキFRB理事は、「漸進主義」のような政策の方が先行きの金融政策について予想しやすく、中央銀行は長期金利を直接操作するようなことはできないものの、現在と将来の短期金利を通じて長期金利への影響度を高められるうえ、金融市場の不安定化のリスクを減らせると述べています。』

所謂「リフレ派」の皆様が崇拝するバーナンキ氏のコメントを持ってくる所が実に芸が細かいところであります。もしかして岩田副総裁への皮肉ですか(^^)??

『私は、わが国においてもコミットメントが達成され量的緩和政策が解除された後の金融政策については、―― その時点での経済・物価情勢にもよりますが ―― 基本的にはこのような「漸進主義」が採られることが望ましいと思っています。現在は異常事態に慣れ過ぎてしまっていますので、金融政策正常化のプロセスでは、政策の効果がどこにでているか、マーケットの反応や世間の受け止め方はどうか、経済の情勢判断が正しいかどうかを確かめながら、政策を運営する方が望ましいと考えるからです。』

ここで読み間違えてはいけないのですが、須田委員はあくまでも「コミットメントが達成された後」のお話をしている事です。この後に「量的緩和解除が遅れた場合のリスク」について述べているので「タカ派発言」と取ってしまいそうなのですが、それはちょっと売り材料に読み過ぎという事になるでしょう。

ただし、今まで良くあった話では「判断が遅れた場合のリスクは小さい」と言っている人が多かった中なので、この部分はやっぱり目立つでしょうな〜。

『但し、この場合、政策変更の幅が小幅過ぎ、かえって政策変更が遅くなり過ぎる可能性があるため、場合によってはマーケット等の予想が上振れし、結果として、後で大幅な政策変更を余儀なくされる可能性があります。この可能性の大きさは、量的緩和政策解除が適切なタイミングで行われるかどうかにもかかわってきます。仮にコミットメントが達成されたかどうかの判断が遅れ過ぎますと、そのような可能性が高まります。』

しかも「マイルドなデフレのコストが減少している」って話までしてるわけでして、以前ご紹介した山口前副総裁の時事通信インタビューも彷彿させるのですな。

『金融システム不安が解消されつつある今日、デフレスパイラルに陥る懸念を耳にすることはなくなりました。また、これまで申し上げましたように民間企業の債務削減などの構造調整が進展し、潜在成長率の上昇、今後物価が上昇するとみる人の増加、労働市場の硬直性の低下など、デフレになると大きなコストをもたらすと指摘されてきた条件・要因に改善傾向がみられ、かつ不良債権処置に目処が立ちつつあるといえるようになった現在においては、マイルドなデフレのコストは量的緩和政策導入時よりも減少していると思います。』

引用を端折っちゃいましたが、この前に「政策変更が遅れた場合のコストと早かった場合のコストの比較勘案は、先行きの見通し(デフレ再突入リスクおよびそのコストと将来の大幅金利引き上げのリスクおよびそのコストを勘案して)に依存する」というお話をしておりまして、そういう流れで言えば「ビハインド・ザ・カーブのリスクは絶賛容認というのは如何なものか」という発言ではないかと思います。


引用が多くて長くなりましたが本日はこんなところで。




2004/10/06

お題「本日は受け売り話モードです」

○中国経済ばなしの続き

中国経済に関する見方って話を昨日しましたが、中国でのビジネス展開という点について読者様からこのようなお話を頂きました。ご本人の承諾を頂きましたので皆様のご参考に転載させて頂きます。

『えー、中国経済、というか日系企業に関してチマチマとした小商いの観点からウォッチしています。

時間外勤務手当が日本よりブ厚い。通常残業が 1.5 倍、休日出勤 2 倍、法定祝日 3 倍という超過勤務料金を払わなければなりません。ほぼ日本の倍か?

というわけでソフトウェア産業や工場のような「労働時間イコール成果」となるような業界は、今後結構厳しくなっていくでしょう。業務管理コストなどは大手 SI では乗っけて出してきますが、零細ソフトハウスでは、単なる人月受注金額から管理コストと中国の人件費を算出、下手すりゃ出張者を出し、なんてことまでやるわけですから、「業務にあわない仕様」が頻繁に発生してしまう日本の業務アプリ開発ではオーバーヘッドが多く危険です。』

『では、労働単価の安い地方に産業を持ち込むのはどうか?と申しますとやはりリーダーを育成するまでの期間は他所からリーダーを連れてきたいということになるかと思います。しかしながら、日本人でも、あんまり中国のクソ田舎には住みたくないです。不便ですし医療など生活に必要なインフラが…。中国人の場合は戸籍問題というのが出てきまして、都市戸籍を持ってるのに、好き好んで農村なんかに行けるかい、となるわけです。

遠隔地と密なコミュニケーションと強力な執行力を持つ現地リーダーが不可欠ではありますが、なかなか難しいんじゃないか、などと思うわけです。』

沿海部の経済発展に伴いまして、労働コストは確実に上昇しているようで、労働集約型産業が次第に地方にという流れになっていくのでしょうか。もともとITの上流仕事みたいな業務やる人のコストは中国も随分高かった(従って管理コストまで考えると中国に現地展開しても実は余りコストメリットは無い)のですが、まぁそりゃ経済発展すりゃー単位労働コストが安いままって訳にはイカンですわな。

で、そうなった場合に外資導入主体で発展してきた経済がどうなるかって事を考えますと、まぁあとは連想の世界なのでまぁアレなのですが、色々と不具合が発生しそうな悪寒もするわけですな。

有益なレポート有難うございました。>Yさん


○妄想モード全開ではあるのですが

今月というか今週になってから急にどこぞの経済新聞の論調が「景気回復奉祝モード」に一転し、何となく株は上がり債券は下がるという動きになっておりまして、「何でまた急に某新聞社は景気回復キャンペーンを始めたのでしょうか」と訝しく思いつつ過ごしている方々が多いと存じます。っていうか、あたくしはその某新聞を真面目に読んでない人なのでよー知らんのですが「唐突な景気回復キャンペーンが発生した」という指摘をしている方は複数いらっしゃいます。

まー日銀短観っつーのも出てましたが、それにしては債券先物を1円以上下げて10年新発国債を1.6%までマークさせるという派手な相場下落をさせるほどの物かいなって内容。何でこう唐突に「景気回復キャンペーン」がおっぱじまったのかと某読者様に聞きながらつらつら考えるあたくし。

あたくしが夏休みと称してのうのうと旅にでていた頃に、毎度おなじみの「定率減税廃止」話が出ておりまして、「あぁまた取りやすいところから取る攻撃かね〜」と暗澹たる気分にさせて下さいましたが、昨日は財務省方面から、

「来年度の新規国債発行額は今年度以下に抑える」
「各省庁の財務諸表を出すと全省庁債務超過」

などという話が出てきておりました。まぁ新規国債発行を抑えるという話は「ふ〜ん」って感じですが、省庁の財務諸表が債務超過って一般ピープルには危機感をアピールさせる話でしょうな〜って感じでして、まぁ景気が何となく回復しているように見えるので財務省様早速増税路線に着手しましたの巻って印象を強くするわけですな。

で、まぁ妄想というか与太話モードになっておりますが、読者さまとそういうお話をしておりましてお互いに一致したのは「増税路線への地ならしをするために急に景気回復キャンペーンに転じたんでしょうな〜」という点でございます(^^)。まぁさすがに某経済新聞の面目躍如(以下著しく自粛)。


ところで、その財務省様ご発表の財務諸表って奴を真面目に見ている訳ではないので、あくまでもニュースを聞いての感想なのですが、政府部門のバランスシート作ったら債務超過っていうのは別に変な事では無いと思うんですが。政府部門が資産超過だったらその分民間が債務超過になるというのは激しくシロート考えでしょうかねぇ。

ま〜財政問題に目を向けさせるという意図はあるんでしょうが、政府のバランスシートを省庁毎にどうのこうのってのも何の意味があるのかがよ〜判らんところではあります。何も出さないよりは良いと思いますが。


本日は寝坊によってこんなところで。






2004/10/05

お題「まぁ雑感みたいな感じで」

話のネタっつーか叩き台みたいな小ネタで恐縮至極。


○常用雇用者数基準の日銀短観

表題のようなものが日銀Webにアップされております。日銀短観での企業分類は資本金を基準にしておりまして、これを常用雇用者数に引きなおして算出しなおすとどうなるのよって話です。ただし常用雇用者数50人未満の企業は常用雇用者数基準の集計から除外されるので、調査対象対象社数が全体で10312社→8114社と相成ります。

で、まぁその数字は日銀Webをご覧頂きたいわけなのですが、これを並べてみると「ほうほう」と感想が起こる(分析という程の読み込みはしていない)訳でございます。

・出来上がりの業況判断がトータルで好転

2000社弱にあたる常用雇用者50人未満企業を集計から除外するとトータルの業況判断DIが製造業で13→15、非製造業で▲7→▲5と好転します。まぁ直感的に当たり前という気もしますが。

・いわゆる2極化が鮮明に

算出方法の引きなおし効果(^^)が顕著にでるのが大企業製造業でして、業況判断DIが26→33と好転しちゃうわけです。大企業の鉄鋼なんてDIなんと70ですよ先生。つい数年前から比較すると隔世の感があります。で、引きなおしによって悲しくも業況判断が悪化しているのが大企業非製造業でして、こちらの業況判断DIは11→5となっております。いやはや。

余り真面目に読み込んではいないのですが、資本金基準の短観と並べてボケーっと見ているだけで色々と思いつきますな。


○中国経済に関する2つの意見

本当に話をしだすと激しく重いネタなのですが、あたくし正直不勉強なので人の意見の受け売りしかできませんな。で、2つの意見なんですが、まずは「読みます」と言っておきながらまだご紹介していないあたくしの夏休み中に行われた岩田副総裁の講演(証文の出し遅れ感が強いのですが)。

岩田副総裁は9月22日の講演の中で中国経済の現状と先行きに関して以下のようにコメントしております。

『中国の減速については、多くの議論がありますが、その本質的な要因は電力不足にあるものと見ております。90年代の引締期に発電所建設を先送りしたことや、輸送部門などでエネルギー価格が規制されており需給メカニズムが働きにくいことから、電力不足が深刻化しました。そこで、中国政府は、過大な伸びを示している固定資産投資について、エネルギー多消費型産業を中心に選択的な抑制を行なっています。中国政府は、巡航速度へのソフト・ランデイングを実現しようとしているのであり、中国経済の失速リスクは、電力不足が供給増加によって解消されるにつれて小さなものになると考えています。』

で、昨日読んだ本(後でご紹介します)では「猫も杓子も中国バブル斬り!」と言うことで中国経済の問題点について「流入した資金が不動産とその関連で建設、でまぁその流れで鉄鋼だのセメントだのに吸い込まれている」と指摘しておりまして、当てにならない統計だがと前置きをしながら(笑)「不動産関連の不良債権化がまるで日本のかつてのバブルを彷彿させており、資金流入が止まった時に資本蓄積の乏しい中国が耐えられるのか」というお話をしております。

まぁこの2つの意見、タイムスパンが違うのでどっちが正しくてどっちが正しくないとかいう話ではないようにも思えますが、まぁ中国経済に関しては色々な見方があって実に興味深い所ではあります。どうも短観の先行き予想DIを見ていると、日本の大企業はそろそろちょっとどうよ?って思っているように感じられますが。


○まぁ色々と考えてはいるようですが

りそな銀行という所に公的資金絶賛大突っ込み攻撃が行われてからはや1年。その後の決算をみればどう考えても突っ込んだ時点で債務超過でして、まぁもともと公的資金突っ込み基準を決めた法律が建前重視で作ったのが問題の始まりだったのですが、ど〜考えても法律を無視した措置でしたな。結果オーライではありましたがね(ただし、この手の結果オーライって2度目に同じことをやると恐ろしく悲惨な結果を招くと思うので、やっぱり如何なものかという感は拭えません)。

で、この銀行さまは時々訳の判らない施策を打ち出してきてあたくしを驚かせてくれますが、今度は吉野家に行員を派遣して24時間営業のノウハウを学ばせると朝のテレビニュースが申しております。あたくしの脳内メモリーから読み出しているので正確さに欠けるかもしれませんが、吉野家の店舗内にATMを設置するという施策もあるそうですな。

まぁ色々と面白い施策を打ち出すのは壮としたいところなのですが、銀行員をとっ捕まえて吉野家で働かせるという訳ではないんでしょうけど、何だかここの社長だか会長だかの出身母体であります旧国鉄が民営化した時に言うことを聞かない国労の組合員で客商売なんかした事ない人間を駅のコーヒースタンドに無理矢理配置転換していた事を思い出してどうもアレな訳であります。

まぁ吉野家でノウハウ学ぶってことですから24時間有人店舗にでもする気なんでしょうけど、それはちょっと努力する方向が変なのではないかと思いますが。それなら土日に住宅地の店舗を開けたほうが良いのでは??と思いますし、ついでに吉野家で500円で釣りがくる飯を食っている時にATMで金をおろすっつー図も今一歩想像しづらいのですが。時間外手数料で(タダなら話は別だが)半熟玉子食ってお釣りがくるんですけど(^^)。

まぁりそな再生だとか言って人間送り込むだけ送り込んだ竹中大臣もアドバイザーとか言って偉そうに仕切っているように世間にアピールしていた木村某もすっかり当事者ではなくなって、苦労するのは送り込まれた連中ですか。でも経営と全く関係ない世界で日々業務を淡々とこなしていた一般行員が一番苦労させられているんですけどね。


○久々に読書室

投資情報のカラクリ(山本一郎著、ソフトバンクパブリッシング)

以前ご紹介した「ネット界の切込隊長」の本第2弾。今回は一応統計なんぞを引っ張り出しつつ、アニメ産業、M&A、中国、バイオ、消費者金融の5つのカテゴリーのバブル斬りをしております(消費者金融はバブル崩壊してそうですが)。前回作よりは面白おかしさが減少している分、内容は掘り下げておりますな。

まぁいまさら「中国株で億万長者!」とかいうような本がうじゃうじゃ出版されている訳ですから、この辺の事情を理解した上で株式売買をやっている人に取っては「あっそう、だから何?」って感じかもしれませんが、まぁ今からこの手のバブルものに金を突っ込もうという方を一旦冷静にさせるのには良い本ではないかと思うわけです(^^)。

ISBN4-7973-2780-4





2004/10/04

お題「日銀短観/福間委員いかがなものか」

○日銀短観について少々

日銀短観の結果分析に関してはまぁ本職の方が色々とやっていると思いますが、とりあえず最初に出てきた数字は「あら良いじゃん」というもので、何だかぼーっと概要の部分を眺めていると「何か良いんだか悪いんだか判らん」という感じですね。

前回の「先行き見通し」は「先行きは停滞」という感じでして、それに対して今回実際に出てきたのが思ったほど停滞していないって結果で、それが足元の良好な数字に反映しております。で、今回の今後の見通しを見ますと、製造業中心にやや弱気であります。

業種ごとに見てみますと先行きに懸念を持っているのが「石油・石炭製品」「鉄鋼」「非鉄金属」「造船・重機等」「自動車」というところでして、原油価格の上昇だの素材価格の上昇だのというのがさすがに効いてきているということなのでしょうか。ちなみに非製造業では「建設」の先行き見通しが大変よろしくありません。

ちなみに何だか微笑ましいのは「小売」でありまして、大体日銀短観ってのは先行き見通しの数字よりも実際に3ヶ月ごろに出てくる景況感は良いという傾向にあるのですが、この業種だけは「先行きの見通しがやたら楽観的で、実際に出てくる景況感はダメダメ」という結果が出ております。まぁこの事は色々と解釈可能でしょうが、基本的に景気に強気ではないあたくしとしては「景気回復ムードに煽られて先行き楽観視しているけど、現実問題として個人消費が伸びない(というか所謂2極化が進行しているから)ので結果として毎度毎度見通し対比の足元の数字が悪い」と言うことかと解釈しておきます。


まぁ同時に出たCPIでは9月の東京都区部が▲0.2%と相変わらずのマイナスでございましたし、個人消費支出もイマイチという感じで、企業の景況感が良くても個人には相変わらず回ってこないという今日この頃。景気回復、経済成長は誰の為にあるんでしょっていう証券関係者にあるまじき感想を持ってしまう訳でございますが。


○この方が日銀政策委員会における「財務のプロ」とは・・・・

金曜の続きです。

福間審議委員の記者会見要旨が日銀Webにアップされておりまして、そちらを読みますと、金曜のドラめもんで申しあげた「この人本当に現実を判っているのかいな」という懸念が益々強くなるわけです。

『(問)金融経済懇談会での基調説明において、量的緩和政策を解除する際の条件――具体的には3つの条件のうちの3つ目のいわゆる総合判断と言われている条件であると思うが――に金融システムの問題をあえて取り上げていたが、その背景について伺いたい。これはある意味で解除のハードルを少し厳しくしたというように受け止めてもよいのか。 』

『(答)そのようなことはない。事実として、いまだ金融システム問題が残っているということが一つ。ただ、それに対しては今度の2兆円の措置により、地銀等を中心に金融機関が対応できるようになっている。また、メジャーバンクについては、預金保険法第102条による対応が残っている。システム全体については、これだけ揃えば心配はしていない。システムではなく、個別の問題が依然あるかもしれないということを申し上げた。』

まぁこの部分もやや??なのですがスルーしましょう。問題はこの先の答え。

『もう一つ、量的緩和のところであえて申し上げたかったことは、金融市場、コール市場がスムーズに動いていないということである。スムーズに動いていないという意味は、要するに、日銀の量的緩和を前提に動いているということである。銀行間のクレジット・ラインの復活・拡大がまだスムーズにできていない。オーバーナイト市場には自律的かつ機動的な動きが出てきたが、ターム物市場にはそうした動きがまだ殆ど出てきていない。こうした中で、今、量的緩和を急に止めると、そこに不安定な動きが出る危険性がある。』

日銀が「量的緩和政策の強化」と称して当座預金残高を野放図に拡大する中で、目標となる当座預金残高になるように資金を供給するためには、技術的問題として長め(3ヶ月とか)の資金供給を行う必要が発生(長めの資金にしないと所謂「札割れ」が頻発し、当座預金残高目標が達成できない)したというのがそもそもの始まりです。日銀が当座預金残高目標達成の為に無理矢理長めのターム物資金を供給すれば、あえて銀行間で資金を取りに行く必要は無いわけでして、その結果が福間審議委員のいう「ターム物市場にはそうした動きがまだ殆ど出てきていない」という状況な訳です。

まさに因果関係を見事に取り違えた論理でありまして、そんなにターム物取引を活発化させたければ当座預金残高を引き下げればよい訳でして(そうなれば必然的に取引需要が発生する)、自分たちでターム物取引が不要な状況を作っておいてから「ターム物取引市場がダメダメだから量的緩和を終了させられない」ってお前はマッチポンプかと小一時間問い詰めたくなるような論理展開です。

『それをどうしたら一番良いのかというと、やはり、クレジット・ラインを相互に拡大して、ターム物取引ができるほどまでに、金融機関の格付・体力が回復することが必要であると思う。それを見定めなければ、あまり中途半端なところで量的緩和を止めるわけにはいかない。これは、私が2002年に日銀に来てからずっと言っていることである。』

そもそもクレジットラインの問題でターム物取引ができていないのであれば、社債というかこの場合は金融債とか銀行社債って事になるのでしょうが、銀行発行の債券なんぞはもう全然買い手がいないって状況にでもなっていても何らおかしくはない筈なのですが、ご存知のように昨今は銀行社債(だけではないですが)の対国債スプレッドは大いに縮小してますし、銀行発行の劣後債なんかも玉待ち状態と言った方が良い状況になっておりますが、この「財務のプロ」様は一体全体どこに目がついているのかと申しあげたい次第であります。

『けれども、相当良いところまで来ていることは確かである。オーバーナイト市場では取引ができるようになっており、クレジット・ラインも相当復活・拡大が図られている。2002年はこうした動きさえもなかったし、去年は一時的に駄目になっていたこともあった。残る問題はターム物取引である。銀行はオーバーナイトばかりで資金を回しているわけではないので、3か月以上のターム物取引ができるようにならないといけない。この件に関しては、それ以上の含みはない。』


この件もう一回質問されてまして、こんな感じの質疑応答になってます。

『(問)ターム物の話について伺いたい。市場でターム物の取引が少ないのは、ある意味、日銀の量的緩和政策に甘えることができる状況にあるということだと思うがどうか。』

この質問もちょっと??なのでして、そもそも要りもしない当座預金を押し付けてきているのは日銀の方なので甘えるという表現は??なのですが、どうも次の答えを見ると誘導質問だったのかもしれませんし、良く判らんですがそれはそれと致しまして。

『(答)おっしゃるとおりである。ただ、ターム物取引が殆ど出来ていない背景には、ターム物レートを含め金利がほぼゼロであることや、合併・統合により銀行の数が減少していることを指摘する声も聞かれるが、底流には、銀行間で互いの信用力に対する確信が持てない状態が続いていることがあるのではないかと考えている。そういうことを考えると、ここにきて全てを外すのが正しいかと言うとそうではない。もう少し慎重にやらなければいけないと思う。』

ターム物取引が活発化しない→銀行間の信用が復活していない→金融システム不安が払拭されていない→量的緩和解除は時期尚早・・・という福間審議委員流理屈が展開されますと、永久に量的緩和政策が継続するようになってしまうのですが、それでも良いのでしょうかね〜。



どこぞの経済評論家がこういう言説を流しているというのであれば「アフォじゃのう」と笑って済ましていれば良いのですが、このお方は日銀政策委員会で1票を持っておられるお方だというのが実に恐ろしい訳です。日銀の事務方に置かれましてもちょっとこの人の教育が必要なのではないかと切に願いたい所であります。

・・・・って言うか、何でこの人が三井物産の財務畑務まっていた訳?って感じなのですが。あたくし的な三井物産の格付けはもう急低下ですよ先生。


あまり外部で講演とかをしない福間委員ですが、話をするたびに怪電波を発して下さるので、笑いのネタとしては極めて秀逸。ただし真面目に金融政策の今後を考えると笑うに笑えませんな。マッタクモウ。





2004/10/01

お題「相変わらずアレなお方のようですが」

気がつけば今年も10月。光陰矢のごとしという事ですな。

さて、岩田副総裁の講演っつーのもあるのですが、その前に昨日行われた福間審議委員の講演を読みたいと思います。こちらの審議委員さまはかつて「企業金融における手形の活用をしましょう」というお話をして、その中で「無担保裏書の活用」などという実務で誰がそんなことやっているんだよっていう提言を行われた御仁でありまして、昨今の「現実を見ない政策運営」の典型のようなお方であると感心しているのですが。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0409e.htm

○経済の現状と先行き見通しについて

講演の前半は「海外経済と日本経済の現状と先行き見通し」となっておりまして、まぁ色々な話をしているのですが、そんなに目新しい話はしておりません。福間さんの講演における景気の話で目立つのはミクロの話というか個別具体的な事例を挙げている所でしょうか。さすがは三井物産ご出身と言いたいところですが、どうも所々見ていると「え?」と突っ込みを入れたくなる部分があるのですが、まぁ本日はその点については省略致します。

まぁ端的にまとめた発言はこれですな。

『以上のように、海外経済は、全体として拡大傾向を続けながらも、米国および中国経済の動向や、原油高といったリスク要因が存在しています。日本経済についても、地域間、業種間、あるいは同一業種内であっても規模の異なる企業間で、業況格差の問題が未だ残っています。しかし、全体としてみると、景気は引続き内需と外需を両輪に回復を続けており、後程述べるように、ミクロの構造改革が大幅に進展していることを勘案すると、持続的な成長基盤は整いつつあると考えています。』

まー基本的に無難な現状認識となっておりますが、基本的に「ミクロがうまくいけばマクロもうまくいく」というお話になっておりまして、それはそれで全面的におかしいとは思いませんが、昨今の政策(特に金融行政に関してあたくしは悪態を良くつきますが)のような「合成の大誤謬」という観点がすっぽりと脱落しているのは如何なものかと思う所ではあります。こんな話をしているのですが・・・・・

『次に景気の先行き見通しについて述べたいと思います。只今述べましたように、ミクロの構造改革が大幅に進展する中で、「選択と集中」により新たなビジネスモデルを構築した企業の間では、内外の景気拡大に対応して、拡大路線への転換を図る企業が増え始めています。こうしたいわば「攻めの経営姿勢」の広がりは、景気との関係で言えば、研究開発投資や能力増強投資を一段と増加させるとともに、雇用の増加を通じて個人消費を下支えしていくと予想されます。』

基本的にはそうなるのかな〜と思いつつも、「本当にそうかよ」と思ってしまう訳ですよ。現実にあたくしの周りで起きている事なんかを見てますと。


○物価に関しては弱気ではありません

福間さんは物価に対してどういう見通しを立てているかと言うとこんな感じ。

『消費者物価については、米価の下落や電気料金の引下げといった追加的・一時的な要因を除いても、前年比ゼロ%近傍で推移する可能性が高いと予想しています。 』

『なお、一部に、現下のコア消費者物価の下落基調に歯止めを掛けることに対し悲観的な見方も聞かれますが、1.川上の国内企業物価が高めの伸びを続けていることや、2.潜在成長率を上回る成長が続いて経済の体温が上昇すれば、それに伴い物価上昇圧力も緩やかながら強まると考えられること、さらには、3.先程ご覧頂いた図表6にあるように、日本のユニット・レーバー・コストの低下に足元やや一服感が窺われること、等を勘案しますと、消費者物価がこのまま一方向に動き続けるとも予想されません。』

基本的にインフレ圧力は無いけどデフレには行かないでしょうという誠に無難な予想になっております。


○やたら「総合判断」を強調する金融政策に関しての言及

講演の後半は金融政策のお話で、まぁこっちは表題のように、総合判断がどうのこうのって話がやたらと多いのが目立つところです。

『量的緩和政策については、景気の回復基調が次第に確かなものとなる一方、コア消費者物価は、前年比小幅のマイナスを続けている状況を受けて、2つの対照的な意見が聞かれています。1つは、景気が回復しているにも関わらず、消費者物価の動きとリンクした形で量的緩和を続けることは不適当であり、景気の実体に合わせて、日本銀行当座預金残高の目標値を引き下げ、金利を引き上げるべきだという意見です。もう1つは、景気が回復を続けても、物価の下落基調が収まらない事態を重視して、インフレ・ターゲットの導入等により量的緩和政策の解除条件をより厳しめに設定し、量的緩和の「時間軸効果」を強化すべきだという意見です。』

で、この2つの意見に対して福間さんはどちらにも否定的です。

『しかし、どのような形であれ、現段階で日本銀行が対外公約としている量的緩和政策の解除条件を変更することは、日本銀行の信認低下とともに、金融市場の混乱を招く惧れがあります。』

返す刀でインタゲについても一刀両断。

『また、インフレ・ターゲットについては、図表7をもう一度ご覧頂きたいのですが、そこに示されているように、各国の消費者物価は趨勢的に低下傾向を辿っており、わが国の場合、過去20年間の平均的な上昇率は+0.7%、過去10年間でみるとマイナス0.2%と下方にシフトしています。こうした状況の下で物価を直接的な操作目標とすることは、中長期的に経済に歪みをもたらす可能性が高いと考えます。』

図表7ってのは日銀のWebを参考にしていただければと思いますが、まぁ先日の岩田副総裁の講演やら記者会見(まだご紹介してませんが)に真っ向勝負という感じで実に心温まります。正確に言うと岩田さんは物価を政策の直接目標にしろとはいっていないので、岩田さんと言うよりはヘイゾーに真っ向勝負か。しかし最後の一文はいかがなものかと。

『寧ろ、現在の日本において物価をプラスに持っていくために金融政策に求められることは、ミクロの構造改革を粘り強くサポートし、経済の体温が上昇する基盤を引続き整えていくことであると思います。 』

ミクロの改善が集積するとマクロがうまく行くという理屈を全面に押し出すのは結果として議論の説得力を弱めると思いますが(^^)。

『したがって私は、日本銀行が現行の枠組みの中で引続き量的緩和政策を実施していくことが適当であると考えています。そして、コア消費者物価が安定的にプラスになったと判断するためには、景気・物価情勢のみならず、それらに影響を与える様々な要因も踏まえたうえで総合判断を行うことが必要と考えています。そのような趣旨から、日本銀行も、量的緩和解除の条件に、経済・物価情勢の総合判断という項目を設けています。』

『日本銀行としては、コア消費者物価・前年比が安定的にプラスという条件さえ達成されていない状況下では、今後とも、景気回復下において現在の量的緩和政策を忍耐を持って粛々と継続していくことが重要と考えています。そのうえで、将来、コア消費者物価・前年比が数ヶ月均してみてプラスになった段階で、物価が本当に「安定的にプラスになった」と言えるのか、その裏返しとして景気回復に持続性が確認できるのかを、金融システムの健全化の状況も踏まえて総合的に判断し、慎重に量的緩和解除の可否について判断して参りたいと考えています。』

え、たった数ヶ月なのか?という印象もあるのですが、まぁ現実にCPIは絶賛マイナス継続中ですから、現実にプラス転換してから考えましょって程度の意味だと思ってます。ま〜そんなに過激な話をしているわけでは無いですが、少なくとも岩田副総裁に代表されるような「金融緩和は半永久的にやれや」という御仁で無いことは良く判りました。


○市場との対話はいいのですが・・・・・

「市場との対話の重要性」という項目を作って「市場との対話が大事です」ってお話をしておりまして、それはそれで大変結構なのですが、その後に短期金融市場について言及しておりまして、その中で「市場機能の回復が将来の課題」という話をしております。市場機能の回復も勿論重要な話なのですが、その中で短期金融市場における3ヶ月以上の長めの資金取引が依然低調というか開店休業状態で日銀のオペに依存しているという状況についてこう言及しております。

『その背景については、ターム物レートを含め金利がほぼゼロであることや、合併・統合により銀行の数が減少していることを指摘する声も聞かれますが、底流には、銀行間で互いの信用力に対する確信が持てない状態が続いていることがあるのではないかと考えています。』

この絶賛格上げラッシュの昨今においてそんな事はね〜だろ〜と思うのですが、こればかりは短期金融市場というかインターバンクの関係者に聞かないと判りませんな。という事で教えてね〜(はあと)。

どうも「不良債権処理」と「ペイオフ解禁」を意識しすぎなのではないかと思うのですが、どうなんでしょうね。

というわけで、ほかにもちょこちょこ突っ込みどころがあるのですが、どうも福間審議委員は相変わらず現状認識とその分析に「ちょっとずれてるんじゃないの」って突っ込みたくなる所がありまして、誠に遺憾なところではあります。


では下半期もまたよろしくお願いいたします。