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田中先生の所でご紹介いただいた武藤副総裁講演関連記事はこちら

2005/12/30

お題「年末年始読書室」

ここ半年くらいめっきり書評を書いてませんでしたな。来年はもっと本を読まないといけませんなあ。

○ここ暫くの間に読んだ本(債券市場と全然関係ない本ばかり)

・「「俺様国家」中国の大経済」(山本一郎著、文春新書)

まあ昨年の今頃とは違って大陸中国に対する投資がバラ色の未来で云々って雰囲気は落ち着いてきたとは思うのですが、まあ巨大なる消費市場がそこにあって売り込みに行きましょうって話は相変わらずですわな。で、まあそういう人は読めという所ですか。いつもの切込隊長節で大陸中国の経済に関する不透明さ加減に関して斬るわ斬るわといった所ですな。

・・・って書いたら放映中のブルームバーグテレビで相変わらずの大陸中国投資万歳ニュースをやっておりますな。あっはっは。

ISBN4-16-660469-4 C0233 \790


・「世界ファシスト列伝」(長谷川公昭著、中公新書クラレ)

冷静に考えればいても何らおかしくないのですが、英国や米国にもファシストっていたんですねーなどと思いながら読んでおりました。現代史ってのは歴史的評価で揉めるので色々な角度から論じているものを読まないといかんなあと思ってます。この本はどちらかというと「マイナーなファシストをご紹介しましょう」って内容ですので、まあ思想的に偏ってどうのこうのって物ではございません。第1次大戦から第2次大戦の間の歴史を知る助けになるといったら大げさですが、一般的な歴史物とは違う視点で読めると思います。

ISBN4-12-150127-6 C1222 \880


・「秘録東京裁判」(清瀬一郎著、中公文庫BIBLO)

東京裁判で東条英機元首相の主任弁護人を務め、その後文部大臣や衆議院議長をつとめた方の著書。初出は昭和42年3月です。東京裁判に関する書籍やら論やらというのは山のように出ておりますが、当事者の書いたものということで有益ではないかと思います。中にある「東条遺言の摘記」を読むと(まあよく言われてますが)東条氏は超優秀な官僚であっても政治家(ステイツマン)ではなかったんだなあって思うんですが。

ISBN4-12-204062-0 C1120 \857


・「戦国策」(近藤光男編・解説、講談社学術文庫)

まあめっきり大陸中国と関係の悪化している昨今ではございますが、日本の思想形成というと大げさですが、漢籍を寺子屋でも読んでいた位ですからまあ中国古典は読んでおけと思うあたくし。「戦国策」は前漢の学者劉向が天子の書庫の整理をしていたときに出てきた竹簡を整理して33篇としたものでして、戦国時代の遊説の士の策を紹介したものですな。

「蛇足」とか「まず隗より始めよ」とかご存知ですよね?

ISBN4-06-159709-4 C0197 \1250


・「中立国の戦い」(飯山幸伸著、光人社NF文庫)

第2次世界大戦の欧州で連合国にも枢軸国にも加わらなかったスイス・スウェーデン・スペインの直面した困難とその苦心について中立国の立場から書いてます。まあだいたい戦勝国の立場から「こいつらコウモリ」って評するものは見る事が多いので、こういう見方も必要でしょう。

で、これを見て思うのですが、日本の地理的条件で中立政策を採るというのは国土を物凄い勢いで軍事要塞にでもしないとムリムリですわなあと思ってしまうのでありました。予備知識としてスイスとかバルト帝国の歴史も書いてありますので、そちらも中々役に立ちました。

ISBN4-7698-2463-7 C0195 \724


・「下流社会 新たな階層集団の出現」(三浦展著、光文社新書)

ご存知今年沢山売れた本。たまたま人から貰ったので読みましたが、借りたのではなく何故か貰った理由は10ページも読んでいれば判るという本です。本のカバーに「マーケティング・アナリストである著者が豊富なデータを元に書き上げた」ってあるのですが、そのデータというのが著者が経営するマーケ調査会社のもので、しかもサンプルが統計の名に値しない量。で、山の手は上流だの渋谷は下流だのひたすらレッテル張りをするという実に下らん本でして、この本を読むのに費やした1時間弱を返せと申し上げたい。

つーかこの本をもてはやす大手メディアの皆様は全員揃って腹を切って死んでいただきたいと心の底から思うのでありました。まあ昨今あたくしが悪態をつきまくっている「結論先にありき」のテクニックを学ぶ本としてお使いになるのがよろしいかと思います。

抗議の意味を込めて光人社新書は金輪際読まない事を強く決意いたしました。一応ISBNコードを置いておきますが。

ISBN4-334-03321-0 C0236 \780


○現在読書中の本(そのうちご紹介します)

・「昭和の動乱(上、下)」重光葵
・「エスコフィエ自伝」オーギュスト・エスコフィエ
・日銀や金融庁から出ているペーパー類(^^)

・・・・年末年始4日では全然足りませんが何か?


○という訳で年末のご挨拶

今年もあたくしの駄文にお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。メールなどでご意見ご感想突っ込みなど頂戴しまして、大変に勉強になりました。皆様に御礼申し上げたいと思います。また、今年は経済系著名ブロガーの方から参考として取り上げて頂き、背中がこそばゆいとでも申しますか、恐縮至極でございました。個人的には昨今の景況感改善を反映して(?)会社を替わったのが大きなイベントでございましたが、あたくし如き者の転職が決まった時点で景況感改善=株買いというアクションを直ぐにしなかったのは失敗(笑)。ま、それは兎も角。

来年が皆様と日本経済にとって良い年でありますように。

ドラめもん拝





2005/12/29

お題「あまり債券市場と関係ない話ですが」

昨日の武藤副総裁インタビューの「道しるべ」に何とも微妙な悪態を書きましたら、論点を整理してくださるような鋭いご指摘メールを頂きました。で、その論点について考えているうちに量的緩和解除後にどういう政策運営すべきかって問題についてあたくしの考えが引き続き揺れているという事がよく判りました。感謝いたします。

で、実はあの微妙な悪態は、武藤副総裁の発言を「量的緩和解除後にゼロ金利政策が導入されて時間軸が設定される」という解釈するのは何か違うんじゃネーノというあたくしの違和感が妙な悪態になったのかも知れないな〜などと思うのでした。矛先が全然違う所に向いてしまったか(汗)。

ということで、その問題はまだ考え中ですので置いといて(おい)、本日はあまり市場とは関係ない微妙なネタをば。


○年末越え金利は落ち着きました

まあだいたい先週末(木曜)あたりがピークだったようで、年末の資金繰りも見えてきたのでとりあえず無事終了という感じです。まあそれだけの話ではありますが、一応ご報告。


○Web2.0が早速日経金融に出ましたか

昨日(28日)の日経金融を見てのけぞってしまいました。1面のトップに踊る見出しが「資金呼ぶ知の交流」「『Web2.0』新風」「VC・証券動く」って事で、記事の小見出しは「ブログファンド」「来年IPO続々」「アナリスト推奨」と来てしまいました。

まあ記事を読むともうWeb2.0時代がやって来ますよ最新のトレンドですよ投資したら大儲けですよと言わんばかりの大変に香ばしい記事になっておりまして、何と申しますかイット革命でどこぞの会社の時価総額が日本の高炉全部の時価総額よりも高くなったとかいう時代を思い起こさせるような記事の作りで勘弁していただきたい物でございます。Web2.0という言葉が妙に流行しだしたのはつい最近ですけれども、あたしゃーこの「Web2.0」と「LOHAS」ってのが商売臭があまりにも強くて今年の嫌いな言葉双璧と言った所でしょうか。

などとあたくしの悪態を読んでもしょうもないと言われそうですので、参考になる見解として「R30マーケティング社会時評」という結構有名なブログでWeb2.0について良い感じで指摘していたエントリーがあったのでご紹介しておきますね。

http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2005/12/cybozunite_20_16a6.html

ま、直接にWeb2.0というよりは本件はサイボウズがネタになってるのですけど、そのエントリーのトラックバック先やコメント欄なんかも参考にされると吉かと存じます。

要するにアレですな。新しいコンセプトをぶち上げて投資家の皆さんからお金を集めようという楽しい動きだったりするのですが、まあ皆が金を突っ込めば値上がりもするでしょう。そーゆーもんだと割り切って突っ込むのも一興なのかもしれませんが、まあだいたいこの手の「画期的な」概念は以下自主規制だと思いますんで。

「情報や知恵を広く募り価値あるコンテンツを作って共有するようになったネットの新潮流」(日経金融記事より)とか言われますと、「オープンソース」という言葉を懐かしく思い出す訳ですが、「ブリタニカからウィキペディアへ」とか言われましても、狭いコミュニティの間では情報の共有も有益だけど、拡大していくとノイズの方が増えていって情報の単位辺りの価値(というのが適切な表現かどうか判らんが)は劣化していくと思いますがね。暫く前はWikipediaも面白がって参照してましたが、最近のは妙にノイズが多くなってきて、あまり参照しなくなった自分がいるのでありました。


○こんな投資はしてはいけないですかそうですか

これも暇ネタですが。

http://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2005/12/__2991_1.html

毎度お馴染みの木村剛さまのブログですが、こちらは木村さんが編集長のフィナンシャル・ジャパン誌の記事からのエントリーのようですな。内容はファイナンシャルプランナーのアドバイスというお話でして、話の前半部分(セブンイレブンの上場時に企業のコンセプトに感心したので株を買ってそのまま持ってたら100倍以上になったって話です)はまあ確かに長期投資の王道かもしれませんが、後半の投資商品アドバイス話がいただけませんですな。60歳医師のお方のポートフォリオ改善提案なのですが。

『ポートフォリオを見させていただくと、三〇〇〇万円分のドル建て毎月分配投信を保有しているだけ。しかもドル安で元本が一〇%毀損していた。毎月の分配金も少なくなってきているので、手取りは年率二%程度。しかも、分配金は毎月自動で円転されるから、そのたびに為替手数料も取られていた。集中投資しているからかなりのリスクがあるし、分配金もそれほど高くない。複利の効果も享受できないので、良い資産運用とはいえなかった。』

全体の資産がどうなっているのかよく判らん(まさか資産全部が外貨建て投信などという人はいないと思うんですが)ので何とも言えませんが、まあ元本が10%毀損ってんですから随分前に流行っていたドル建て分配型投信の残骸なんでしょうな。ナムナム。

で、このプランナー氏は(プランナー氏は上記URL先にあるように、木村剛さんとは関係ないっつーか寄稿者だから全く知らない人じゃないんでしょうけれども、この提案は木村さんの考えではありませんので念の為申し添えます^^)どういう提案をしたかといいますと・・・・

『リスクを多くは取れないと考え、二〇〇〇万円をグローバル・ソブリンに移行することによって、為替の分散投資を図るとともに、毎月の分配金を増やした。』『円高になった場合のリスクが残るので、もうひとひねり。九五年以降の経験則では、円高になると日本株が上がる傾向がある。そこで、五〇〇万円を日本株式型投資信託で運用。』

円高になると日本株が上る傾向があるってのは海外からの投資資金流入がどうのこうのって話なのかもしれませんが、既にそのフェーズは終わっているような気もしますが。この前だって円高にビックリして平均株価下がりましたわな。この手の経験則ほどあてにならない物はございませんで、単に相場の方向性に張っていると思わないと逝けませんですな。まあそれは兎も角。

『それらの結果、元本を毀損させることなく、毎月約九万円の分配金をもらえるポートフォリオを組成することができた。お客さまには大変喜んでもらっている。』

グロソブ毎月分配型の基準価格ってhttp://www.kokusai-am.co.jp/に堂々掲載されているように8000円そこそこなんですけど「元本を毀損させることなく」ってのは悪い冗談としか思えませんな。それに複利運用はどこへ行ったの(株式投信がどうも複利運用だということのようですが)かと。基準価格が10000円割りながら分配を続ける投信という事は、元本を取り崩して分配しているという意味なんですが(ここ数年の基準価格は8000円台で上ったり下がったりです)・・・・・(゜д゜)(この部分舌足らずなので訂正エントリーを1月4日に上げてます)

前半の「投資の王道」という部分がまあありきたりとは言え良い例を出していたので後半部分の具体的アドバイス事例のグタグタ振りが実に残念ですな。このエントリーのお題が「こんな投資はしちゃいけない」ってなっているのが空しく響くのでありました(苦笑)。

確かに集中投資はリスクは大きいのですが、変にリスク分散を図ろうとしても必ずしも経験則どおりにマーケットが相関する訳では有りませんので、ちゃんとコントロールできるというのであればある程度集中した方が「こんな筈じゃ無かった」っていう事にもならないと思います。勿論その辺の匙加減は難しいのですが、「リスクの所在をちゃんと把握した上で自分で管理できるリスクを取る」ってのが重要じゃないかという事ですな。

などと似非ファイナンシャルプランナーになってしまいました(苦笑)。





2005/12/28

お題「大したネタは無いのでマーケット関連記事雑感」

○武藤副総裁のインタビュー

実は昨日の日経新聞1面にこんな記事があったのですが、日経を読まないあたくしが知る由もなしということで今更ですが。

ご案内のように昨日の日経新聞1面に武藤副総裁のインタビュー記事(インタビューしたのは滝田編集委員)がございまして、債券市場に影響を与えたのはこの部分。

『量的緩和政策が持っている時間軸の効果はなくなる。それに代わる何らかの先行きへの道しるべが必要だ。数字的なものか、それともソフトな方がよいかは、これからの検討課題。よくよく考えないといけない。』(12月27日日経新聞朝刊1面記事より)

滝田さんも指摘してますが、インフレ目標とは異なる目標とは何になるんでしょうかって感は致しますが、言った人が武藤副総裁なだけに「量的緩和政策解除後にゼロ金利が長期化する」という連想で債券買われるの巻。まあ当然そうなるのですが、量的緩和の解除だけは早く実施してゼロ金利を長期化するって既にコンセンサスじゃネーノと思っていたのでここまで上るのも「ふ〜ん」って感じではございました。

ってか「景気拡大の下でゼロ金利政策を長期化」ってのは物凄い勢いで景気刺激になる訳でして、デフレ突入阻止モードから現在に到る米国の金利の推移を見たら、中短期金利が低下するのは判りますが、長期金利まで一緒になって下がらなくても良いのでは無いかと思うのですが。ゼロ金利の長期化の意味する所は将来の引き締め局面においてより威勢良い引き締めが必要になるって事ですんで。。。。まあ需給要因(月末だし年内最終受渡)とか場の勢いとか米国のイールドカーブが今まさにフラットだの逆イールドだのとか言うのはありますけど、そんなにお付き合いしてて良いのかね?


しかしまあ何ですな、量的緩和政策解除して時間軸が無くなった後に「何らかの先行きへの道しるべが必要」って話も皮肉に捉えれば「日銀そこまで自信ないのかよ!」なんて言いたくなっちゃったりするざます。元々量的緩和継続のコミットメント3条件ってのは量的緩和政策導入時には記者会見などでの口頭ベースでは似たような事言ってましたが、明文化されたのは2003年の「量的緩和政策早期解除観測」相場による債券相場大下げ(2年あたり以外の金利が今よりも高かった訳だが)で市場にメッセージを出す破目に追い込まれたという経緯がございました。で、今回も量的緩和政策の解除をして「新たな時間軸のようなもの」が必要というのは何だかなあ(普通にインフレ目標とか望ましい物価変動水準とかの呈示をするなら判りますが)とも。自分たちの政策判断に自信があるんなら別に「時間軸のようなもの」は不要だと思うんですが(苦笑)。

まあ導入するぞという期待を醸成しておいて量的緩和政策解除への抵抗を弱めたり、市場の金利上昇を抑えようって思惑もあるんじゃねえのかと憶測しちゃいたくなりますけどね。新たな「道しるべ」が日銀の保身の為に使われるものにならないように期待致したく存じます。


○頼むから結論先にありきでストーリーを作るの止めて欲しいのだが

まあそんな秀逸なインタビューがあるかと思えば眩暈のするような記事があるのが日経クオリティなのですが、毎度お馴染みの日経金融新聞昨日の「ポジション」欄なのですが、短期市場のお話をしてるんだがどこでどういう取材をして話を書いてるのかワケワカメな記事が。今朝のモーサテで本村ゆっこ様が「我々も報道を正確に行う責務を改めて思います(ってのは為替市場のニュースに絡めてのコメントでしたが)」ってコメントしてたのをちゃんと聞けという感じですな。

一々イチャモンをつけるのは面倒ですんで、ポイントだけ申し上げます。

(1)前回のFB入札で落札金利が上昇したのはその前に資金吸収オペレーションが連発で行われていた事と、年末に向けたCPの発行ラッシュを控えて「年末越えの資金」の先行きが不透明だった事が最大の要因。記事では「先行きの量的緩和政策解除を睨んで長めの資金運用に消極的になりだしている」って書き方でしたが、もっと短期的な視点での変動でございますよ。その後くだんのFBは当然の如く売れ売れ状態でした。

(2)ここもとのコール残高の拡大は、為替円転スワップによる調達が間尺に合わなくなった外銀のコール調達が入ってきた要因が圧倒的にでかいです。記事では銀行が将来に備えてコールの「試し借り」を行うようになって市場が活性化とかありましたが、それでいきなりコール市場残高が伸びませんが。

記事のストーリーとして「銀行が量的緩和解除を睨んで運用を短期化したりコールの資金取り入れをしてる」ってのに持って行きたかったんでしょうけれども、その結果のために都合の良いネタをピックアップして針小棒大に話を構成していくのはいい加減にしていただきたい物です。

一番困るのは、この手の記事を「偉い人」が読んで「そうなのか」と誤解することでして、偉い人方面から訳の判らん指示が飛んでくるとサラリーマンは困るのよこれが。特に短期金融市場の話はマニアなネタが多くなるので、その記事は変だろうって突っ込む人が少ないので尚更。



○これは豪快な法令違反ですね

金融庁様におかれましては昨日ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント株式会社(長いのでGSAMにします)に対して行政処分ということで業務改善命令をお出しになっていました。
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/syouken/f-20051227-3.html

毎度不思議に思うのですが、証券取引等監視委員会では各種処分などをこれみよがしにトップページに掲載してるのに、金融庁ではこの手の処分のリリースがトップページの新着情報に掲載されない(「報道発表等」というカテゴリーをクリックすると一覧が出てくる)んですよね。証券会社に対する待遇が随分と宜しくない事でなどというのは僻みですかそうですか。

まあそれは兎も角として今回の法令違反行為は上記URLに書いてあるのですが、ここに書いてある通りだと「間違い商いの付替」「ファンド間売買」「届出書提出前の事前勧誘」とj今日びコンプライアンスに関して皆さんナーバスになっている時代に随分と豪快な法令違反行為で大変に頭の下がる思いです。間違い商い付替えなんて今時やる奴いるのかよ。。。。

何となく2番目あたりは単にロールの売買が同じタイミングで行われただけのような気がしないでも無いですが(本当に対当させてたらアフォ)、まあそれにしても今時こんな法令違反しないでしょうって内容でして、何か行政処分とかがあるとさっくりと発注停止になる今日この頃ですが、郵政公社でご採用になられたGSAMの投信商品はどういう扱いになるんでしょうかねえと存じます。



○相場神のお告げ

昨日ブルームバーグテレビのインタビューで相場の神様であらされるところの某D証券のM大先生様が来年の日本株見通しに関して日経平均で18000円以上の水準まで上昇する可能性があるとのご託宣。

で、リスク要因として米国長期金利上昇(長期で6%とか)を挙げていたら早速10年VS2年金利が瞬間逆イールドになっていたのには思わずひれ伏してしまうわけですが、日経平均株価の上値メドの根拠について相場神はこう語りました。

『需給相場の中で、日経平均株価が1万8000円、1万9000円まで過熱する状況はあり得ないわけではなく、仮に2万円になっても、1.5%という長期金利との比較で割高とは言えないというのがベースにある』(ブルームバーグニュース記事より)

・・・・・日経平均が2万円になっている時に長期金利が1.5%で納まっている訳はねえだろうと思うのですが。まあしかし改めてこの部分を引用したんですが、ここから2000円とか3000円上った位で「過熱」とか言われても「はぁ?」って感じはしますので、このお告げはよく考えると解釈に困りますな。

まあ本日はそんなところで。





2005/12/27

お題「無理が通れば道理引っ込む?」

○因果関係が逆ですが

実は日経新聞読んでない人なので(読むのはネタ拾いの時だけ)気が付かなかったのですが、昨日の日経新聞「経済教室」では「預金金利が3%になると個人金融資産1000兆円に対して30兆円の所得増効果があって経済が活性化」という信じ難い理論が展開されていたようですな。(本石町日記さんのエントリーで初めて知ったという日経ヨクヨマナイなあたくしでありました)

経済が活性化した結果として金利が上昇するというのであればまあ良いのですが、どうしてそういう理屈になるのやら。まー確かにあたくしも昔は預金金利が上ると個人所得が増えてどうのこうのって理屈に対して激しく同意してたというような恥ずかしい時代もあったので、こういう理屈による宣伝(というかプロパガンダ)には一定の訴求効果があるのは理解できるのですが、それにしても論がお粗末でございますわな。

預金金利が3%になって個人金融資産に所得増効果って時には、個人金融資産の反対サイドにある負債部門に負担が発生しているんですが、そちらはスルーとは素晴らしいゆんゆん理論ですな。ここもとの不良債権整理局面において政府部門に物凄い勢いでケツを拭かせているからこその景気回復であると理解しているあたくしとしては、「金利上昇で経済活性化」という意味の判らん議論は「政府部門を見てから言え」と申したくなりますわな。


と申しましても、この素晴らしい理屈は暫く前にご紹介した経済同友会の提言だのでも似たようなお話が出ていたりする訳で、どうも「金利を正常化すると経済が正常化する」という凄い理屈で一般向けに量的緩和解除の妥当性を訴求する作戦に出ているのかと思うと実に嘆かわしいものがございます。

昨日ご紹介した経団連での福井総裁挨拶にも実はおなじようなゆんゆんフレーズがございまして、紹介の際にはめんどいので華麗にスルーしちゃったのですが、呆れてしまったのでご紹介しておきます。昨日引用した部分の続きになるのですが。

『現在、量的緩和政策の効果は、短期金利がゼロであることによる効果が中心になってきており、枠組みの変更自体によって、政策効果の面で大きな変化は生じないと考えています。むしろイールド・カーブが市場の中で自然に形成されるようになり、経済の活性化を促す方向に働くようになると思われます。』

別に量的緩和政策をやっていても10年金利は0.5%になったり1.9%になったりしてましたがそれらの動きは自然な形成ではないですかそうですか、という突っ込みは兎も角として、こちらでも「金利が正常化(とは何のことですか?と言い出すと長くなるわな)すると経済が活性化する」という因果関係を思いっきり逆にしたお話を絶賛展開中。


○この手の話が多すぎやしないかと思うんですが

まず結論先にありきで、その為に訴求するアピールを考えて宣伝するってスタイルが世の中横行しているような気がする訳ですよ。暫く前にご紹介した「霞ヶ関改革プロジェクト」では目的と手段をひっくり返した素晴らしい決意表明が行われていましたが、政策全般に渡ってその調子でやってるとその場その場はトンデモ理論でアピールして物事が進行するのかもしれませんが、将来のことを考えた場合にそれで良いのかよと思うあたくしは政治を判っていませんですかそうですか。

事実関係やら因果関係やらを無茶苦茶にしてその場を通しても先々にひずみがくると言うか何というか。過去の説明を正当化しながら理論を構築していくので、先へ行けば行くほどロジックが無茶苦茶になって来ているのは現在の日銀のロジック崩壊ぶりを見れば明らかなんですけど、常にいきあたりばったりなのは日本の伝統芸能ですかそうですか。

で、ふとだいぶ前のbewaadさんのエントリーを思い出したのですが、今年8月26日のエントリー「構造改革原理主義の誤りを具体的に指摘してみると」ってのがございまして(http://bewaad.com/20050826.html)、構造改革原理主義を支える理屈の拠って立つものが事実を意識的にか無意識的なのか捻じ曲げて説明してませんでしょうかねえということを判りやすく論じています。まあご一読ありたし。

その中で取り上げられていたブログの人(それなりに有名な人で、自民党の機関紙に論文を出したりする人です)がでコメント(http://bewaad.com/20050826.html#c04)してたのですが、そこを読むと中々良い感じで腰が砕けるのでありますわな。

『尚、政治の世界の論理からすれば。「本当に政府は大きいのか」よりは「政府が大きいと思われている」ことのほうが重要かもしれません。「外交官は六千人なのに、郵政は二十数万人。多過ぎると思わないか」。小泉総理の演説の一節ですけれども、こうした訴え掛けは、かなり強烈でしょう。』

有権者に対して実態を説明しないプロパガンダによるアピールを持って判断させる政治手法を容認する政治学者ってのも実に香ばしい。事実は兎も角アピールが訴求すればそれで良しってのは全く困ったものです。


○まあそういうのがスルーするというのも問題なのですが

でもまあアレですわな。そーゆー理屈になってないプロパガンダが通ってしまうのはマスメディアにも問題が大有りな訳でして、日経新聞のくだんの「経済教室」にしたって(日経がアフォを晒し上げする意図で掲載してるのなら話は別ですが)掲載段階で「いや先生、この理屈は幾らなんでも勘弁していただけませんでしょうか」って話にならないんですかねえということですわな。

「大きな政府」議論もそうですけど、政策をやろうって人たちの宣伝に対して実態はどうなんですかってのを検証するのが「社会の木鐸」としての役目ではないでしょうかと思うあたくしは商売を判ってませんですかそうですか。は〜。鳴り物入りで実施された政策の後検証も全然してる気配無いですし(先日郵政公社の国際送金手数料が引き上げ(窓口で行う国内送金も)になってましたなあ、利用者サービス向上するんじゃなかったのかなあ)。

今更メディアの猛省を促しても蛙のツラに何とやらって奴でしょうが(吐息)。


おまけの雑談:もうバブル警戒ですか??

今朝のモーサテによりますと(見た時点ではNIKKEI NETにも出てなかったのですが)東証が15年ぶりだか何だかに信用取引の証拠金規制を全面的に改定して厳しくするらしいですな、早ければ来年にも新規制だとか何とか言ってましたが、いきなりお前は何をしだすんだと思っちゃいますが、変に相場の腰を折らない事を祈ります。





2005/12/26

お題「来年のシナリオを妄想する」

みずほ証券に業務改善命令発動。で、リリースを拝見いたしますと「株式部門の拡大に組織手当てが追いつかなかった」という事のようでして、まさに事故のあった週の月曜日に発行された日経公社債情報のみずほ証券株式部門絶賛大躍進記事がいつもの法則発動という事で恐るべき物を感じます。

なーんて言ってますが、日経公社債情報に大特集記事を組ませると言う事はある意味自他共に「絶好調」モードであったとも言える訳でござんして、得てしてそーゆー時に「魔坂」が待ち受けてるのよね。

有馬記念も超越大本命無配じゃなかった無敗の三冠馬が取りこぼしましたが、大本命が圧勝するというシナリオが崩れるのが来年なのではないかというのはひねくれもののあたくしの考えすぎでしょうか。建築物構造強度偽装問題なんてえのもその流れのような気が。


○総裁講演における金融政策運営のフレーズ

やや注目度低下でありますが福井総裁が経団連で講演(正しくは挨拶)を行いました。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0512e.htm

まあ相変わらず強気の講演なのですが、報道されているヘッドラインを見て「おお!」と思ったのは「来年度にかけて量的緩和政策の変更を迎える可能性が高まっている」という所でした。で、その部分に関しては早速本石町日記さんが採り上げてますので、まあそちらをご参照ありたし。→http://hongokucho.exblog.jp/3937497

講演の当該部分はこんな感じ。

『当面の金融政策運営については、この目的を達成するため、消費者物価指数に基づく明確な「約束」に従って、量的緩和政策の枠組みを継続していく所存です。もっとも、景気回復の持続性が高く、消費者物価上昇率も次第にプラス基調が定着していくことが展望される中、量的緩和政策というデフレ・スパイラル阻止のための異例の政策運営枠組みは、来年度にかけて変更を迎える可能性が高まっています。その際には、経済・物価情勢を十分に点検し、「約束」で示した条件、すなわち「消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上」が満たされたかどうかを確認していくことになります。』

まあ何ですな、話している相手が経団連だからなのかも知れませんが、福井さんのホンネっぽいものが文面から窺えるというのは読みすぎかいな。

第1文はまあ普通なのですが、第2文目を見ますと量的緩和政策に関して「デフレ・スパイラル阻止のための異例の政策運営枠組み」と言ってますが、それでは今までの量的緩和政策における量を増やした事の意味は何だったんでしょうかと小一時間。いやまあなし崩し的に「ゼロ金利+時間軸」だと言う事にしているんですけども、それでは過去において「量的緩和の強化」という題目の下に当預残高目標を増やしていったのは只のプラシーボだったんでしょうかそんなことで金融政策って良いんですかって思うあたくし。

結果よければ全て良しって評価も勿論あるんでしょうが、今後の金融政策という面を考えますと、ちゃんと分析をしていただかないと、将来の経済において似たような事が起こった場合にどう対処すべきかという知見の蓄積が出来ないと思うんですが。まぁ当然中ではちゃんと検証してるんでしょうが、変に政策の正当化を図るような大本営発表的な検証ならしないほうがマシですので、それだけは勘弁していただきたいものです。

と、つい悪態が長くなってしまいましたが、2番目の文には「量的緩和はデフレ・スパイラル阻止」という「あれそうでしたっけ?」という定義(?)が入っておりますので、裏を返せばデフレスパイラルにならなければ量的緩和政策は用無しだと言ってる訳ですな。

で、その文の後半部分は本石町日記さんのご指摘の通りで、「高まると考えられます」ってのが「高まってます」という風に(ここはヘッドラインで見た時に個人的にはちとビックリしました。マーケットへのインパクトは無かったけど)なっているので、合わせますとまぁ強気の進軍ラッパですわな。


第3文目では、量的緩和政策解除の判断に何を考えるかということですが、上記(だいぶ上になっちゃいましたが)にありますように、消費者物価指数の一点張りでして、「再びデフレに戻らない事を重視」といった(岩田副総裁と中原審議委員が提唱中ですが)フレーズは全くございませんですわな。

まあ先日来強気な姿勢が目立つ福井総裁ですが、ここのフレーズを見ておりますと、CPIのプラスがある程度続いたらもう量的緩和政策は解除するってのは明白で、その時期は今年度末から来年度入りくらいですかって所ですわな。

金融機関の決算があるから政策変更を3月に行わないという説もあるのですが、金利引き上げを伴わない限り、枠組み変更は特にその辺気にして行うとも思えませんな。


○という事で来年の政策を妄想

ちょっと株価が上昇してくるとすぐ大喜びで財政再建路線だの金融引き締め路線だのという話になるのは困ったもんですが、まあ予想屋(でも何でもないが)としては政策シナリオを妄想しておく事としましょう。

まあ今回の総裁講演でも判るように、CPIがプラス転換して(明日のCPIは概ねプラス転換予想だと思いましたが)3ヶ月も経てば量的緩和政策自体は解除と言う事になるんでしょう。そう考えると2月までのCPIを見た後に3月の決定会合で解除と考えるのが妥当かな。2月の目も残ってるとは思うけど。

で、政府と言うか与党がおとなしいのは量的緩和政策の解除をしてもゼロ金利を継続するという事で話がついているというのがあたくしの勝手読み。金利を上げるのはCPIが0.5%くらい(あくまでも勘です)になってから検討するって所になるんじゃないでしょうか?まぁ量的緩和解除してもO/Nの金利が現在の0.001%から精々0.01%に上る位(短期にとってはそれでもまあそこそこインパクトあるけれども、長期にはそんなに影響なかろう)の話ではないかと思います。

ちと気になるのは、今朝のブルームバーグテレビでも言ってたんですが、米国のインフレ(と住宅バブル)警戒モードですかな。米国の金融当局では、日本の過剰流動性資金が米国に流れてきてインフレを招いているのではないかという意見が云々というお話がございました。てめえが金融緩和しているときは日銀もっと出せ出せみたいな話で、為替介入も散々やらせておいて金融引き締めモードになったら過剰流動性ですかそうですか随分とご都合のよろしいお話でなどと思うのですがそれは兎も角として、そーゆー論議が回ってくるとなると、日本政府様におかれましても急に静かになってしまうかもしれませんな。


おまけ:ところで益々年末越えの金利が強含みですが

先週木曜のターム物金利はなおも堅調。2月23日エンドのCP買現先オペの平均落札利回りが0.03%という数字を見てあたしゃー桁を一つ間違えたかと(それでは安すぎですが)思わず目をゴシゴシやっちゃいました。

何か毎年同じようなパターンになっているような気がするのですが、学習効果(?)の欠如に短期金融市場の年寄り不足を激しく感じる今日この頃。そろそろ銀行の皆さん年寄りを呼び戻したほうが良いんジャマイカ?






2005/12/22

お題「金融政策決定会合議事要旨を少々拝見」

「破産申し立てをこれから行いたいと思います」って記者会見して、実際に手続きに入るのが来年になってからって・・・・相手に破産申し立て対策を取って下さいと言ってるようなものだと思うんですけれども・・・・・>欠陥マンションの住民の皆さん

金融政策決定会合議事要旨が2本出ておりました。ざっと読んだ感想を少々。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/g051118.htm(11月17、18日)
http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/g051031.htm(10月31日)

○情報発信に関して

10月分ではこんな話がでてまして、まぁ予想される論議ではあるのですが、相変わらず脱力させてくださいます。

『また、多くの委員は、市場の金利形成が経済・物価情勢に応じて円滑に行われるよう、金融経済情勢に関する判断や政策運営の基本的な考え方を丁寧に説明し、期待の安定化に努めることが重要であると述べた。』

経済・物価情勢に応じた市場の金利形成を期待するのであれば、日銀の実施することは、経済や物価に関る統計を迅速かつ正確に公表して、経済実態が良く判るように努力するのが筋ではないでしょうか。まあその点については日銀は良くやっていると思いますけどね。で、その経済統計やら企業業績やらと言った所から市場が経済・物価情勢を判断して価格の形成が行われるというのが上記の趣旨に叶う状況ではないかと思料。

地均しとかってのは結果として日銀の経済見通しが合っていればそりゃまあより効率的な運営に資するのかもしれませんが、逆に行った時に自分の手足を縛るような地均しを行うのはやはり如何なものかと思うのでございますがどうでしょうか。

『このうちひとりの委員は、市場金利は先行きの経済物価見通しや政策運営の予想によって変動するため、円滑な金利形成のためには、政策運営のタイミングを誤らないことが何よりも大事であると指摘した。』

尤もらしい意見ですが、よく考えると何かトートロジーみたいな気がする。

『また、何人かの委員は、情報発信によって、完全に期待を安定化できるわけではなく、この点に誤解が生まれないようにすることが大事であると述べた。この間、ひとりの委員は、何らかの形で物価安定のアンカーを示していくことも考えられるとの意見を述べた。』

「物価安定のアンカー」話については後述。


11月の議事要旨では情報発信問題に関してこんな議論が。

『また、今後の金融政策運営に関する情報発信のあり方などについても、議論が行われた。委員は、先日公表した展望レポートにおいて十分な記述を行ったこともあり、少なくとも市場参加者の間では、(1)景気回復の持続性は高まっていること、(2)消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、年末にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じた後、プラス基調が定着していくと考えられること、(3)そうしたもとで、現在の金融政策の枠組みを変更する可能性は、「2006年度にかけて」高まっていくこと、などの日本銀行の見方はかなり浸透してきているとの認識を共有した。』

そりゃまああれだけ鉦や太鼓を打ち鳴らしていただければ浸透しますわなと思うのですが、経済実態に応じた市場の金利形成と日銀(の政策委員会の中の人たち)が言うのが何なのかというのが端的に判ってしまう部分でございます。いやー吐息がでちゃいますわな。


○物価安定のアンカー話

先ほどご紹介しましたように、10月31日の決定会合で「ひとりの委員」が指摘した「物価安定のアンカー」話ですが、11月の決定会合では複数の委員が本件に言及して議論になった模様。

『この間、複数の委員は、経済・物価の先行き見通しにアンカーを提供し、日本銀行の政策意図を分かりやすく伝えていく観点から、金融政策が目指すべき物価上昇率として望ましい物価上昇率を示すことは検討に値するとコメントした。これに対し、何人かの委員は、(1)望ましい物価上昇率はあくまで中長期的に目指すべきものであり、そのことが国民に十分に理解されることが不可欠であること、(2)物価安定のもとでの持続的成長に向けての途上にある現在は、中長期的に望ましいと考えられる物価上昇率を示すことが困難であること、(3)わが国では、低い物価上昇率が続いてきており、経済主体の意思決定もある程度低い物価上昇率を前提に決定されている可能性があること、などを指摘した。』

この論議に関して経済理論的突っ込むのはより詳しい人にお願いするとして(手抜き)、政策運営のテクニック的な観点で考えますと、現状の日銀政策委員会が「期待の安定化」をどのように図ろうとしているかって点になりますけれども、先ほどご紹介したように「日銀の経済見通しや先行きの政策運営に関する考え方を丁寧に説明する」というのが「期待の安定化」に資するという理屈でございますわな。

その理屈に則しますと、「アンカーの提供をして」云々というのは現在のメンバーでは中々ムツカシイのではないかと思いますが。アンカーを提供して判断は市場でやってくれってスタンスでは無さそうに見えますんでね。


○バブル警戒はまだ早かろう

11月の議事要旨で、貸し出しがプラスになったという話をしてまして、その中にこんなお話が。

『そのうち一人の委員は、家計の資産保有の対象が貯蓄型からリスク選好型にも広がっているなど、貸出の動きだけでなくマネーフロー全体の変化を捉えていく必要もあるとコメントした。』

貯蓄から投資ってのは政府も日銀も重要な方向性として推奨していたのではないかと思うんですが、株価がやっとの事で威勢良く上昇してるのを見て早速資産インフレを警戒しちゃうのはちょっと。まあそういう意味で話をしている訳では無いと思いたいのですが、その先でもこんな話がありまして。

『ある委員は、株価の上昇は、株式益回りの低下を通じて、これまで大幅なマイナスで推移してきたイールド・スプレッド(=長期金利−株式益回り)に変化をもたらすものであり、投資家の感じる株式保有に伴うリスクが低下してきている可能性があるとの見方を示した。何人かの委員は、物価見通しの改善により実質金利が低下していることが、株高や円安の進行をもたらしている面があり、金融の緩和度合いは足もとで一段と高まっている可能性があると指摘した。』

まあ現象面について話をしているんだと思いますが、どうも今までの言動を見ていると、金融緩和政策の効果が今まさに発揮されている状態を早くも警戒しているんじゃないかと(まあ色々な面で分析するのは大事なことではありますが)引っ掛かるものがございますな。


何か他にも突っ込みどころはあるような感じですが、とりあえず気になったのはこの3点でございますわな。


○おまけ:ロジック面での日銀のフォローはムツカシイですなあ

ロジック面で日銀をフォローするのは難しいというか諸刃の剣になるという話を本石町日記さんが折に触れてしてますけど、どこぞのリサーチレポートを見ていたらあたくしも事例発見。

インタゲ導入に対するカウンターとしての意見として、「経済論壇や金融市場では望ましい物価上昇率として2%とかの数字が出て来ることが理解されたとしても、日本にあるインフレ忌避的なマインドを考えるとインフレターゲット的な政策は国民に受け入れられないのではないか」というお話が先日読んだ某レポートにございました。

勿論それはそれで一つの考え方でありまして、そういうオブジェクションがあっても良いとは思いますが、そういう理屈を持ち出すと、中川政調会長の「日銀への大いなる異議申し立て」をフォローする事になりかねない(代議士は有権者による選挙で選ばれておりますわな)訳でして(当然ながら論者は政府与党の一部からの露骨な介入発言には否定的)、まあ何というか、こういう話って上手く持って行かないと直ぐに贔屓の引き倒しモードになりかねないので注意が必要であるといった所でしょうか(苦笑)。

それでは。





2005/12/21

お題「ジェイコム株事件関連の雑談/その他」

○論点が山のように出てくるジェイコム株事件

例のジェイコム株事件ですが、日証協が証券会社に収益返上を「お願い」するって何じゃそりゃですわな。「お願い」如きで収益吐き出しなんて会社の利害関係者にどうやって申し開きするんだよと小一時間ですな。「取引が法的に問題無い」って言っちゃったら利益返上の理由無いじゃん。もうね、アホかと馬鹿かと。>日本証券業協会

東証の社長とあと2名が辞任するそうですが、旭硝子ヘタ株事件の強制解け合いの時は東京証券業協会理事全員が引責辞任してまして、強制解け合いってのはそれほど重大事件だという認識が東証にあるのか実に怪しいですな。だいたいこんなにシステムに問題起こしてるのに先週末の新聞報道見たら「東証が夜間取引市場創設を検討」って出てましたが、「寝言は寝てから言え」という言葉がこれほどしっくりくるニュースもございませんですわな。

本件に関しては論点が後から後から発生するという稀有の事態でして、まあ色々な面から考えるのには非常に使えるお話。あちこちのブログで色々な側面から論じられていて勉強になります。そのうち纏めてみる所存。


○ところでうっかりしてたのですが(大株主の短期売買制限)

本件の売買(というか現金決済になったのですが)であたくしが気になっているのは「大株主の短期売買」という点。証取法164条によりますと、議決権ベースで10%以上の株主が6ヶ月以内の短期売買(買い→売りだけじゃなくて売り→買いも含まれるのか?)で利益を得た場合には発行会社にお返しすべしという規定がございますわな。例えばこちら→
https://www.daiwa.co.jp/HomeTrade/hukousei/husei_main_c.html

で、ジェイコムの場合は10%以上に引っ掛かってくるのは1450株になりますので、敢えて1000株しか購入しなかった野村證券の法令に対するガードの堅さが非常に良く判るというものであります。またノムラか!って奴ですな(^^)。

もしかしてジェイコム株が連日アフォのように上昇しているのは、まかり間違ってジェイコムに利益返還されたらもうウハウハになるからって思惑がある・・・・わけはねえか(笑)。値動きの軽い値嵩に足の速い資金が行ってるだけだとは思いますが。


という話は兎も角として、この大株主の短期売買制限の趣旨ですけれども、要するにこんな感じですわな。企業の行動に影響を与える事のできる大株主が自己の短期的利益の為に影響力を悪用すると、公正な株価形成を阻害する恐れがあるので制限を設けてるんですよね。

で、この大株主の短期売買規制に関して11月の後半に金融庁が「投資ファンドは対象外」っていう見解をだしていたらしいのですが、(色々調べ物してたら見つかった)金融庁のWebを見ても良く判らんし、元の新聞記事(11月24日の読売新聞)は既にアーカイブになっているので、gooのニュースのアーカイブを拾ってみました。
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/keizai/20051124/20051124i201-yol.html

本件について言及している幾つかのサイトを見ると、記事で紹介されていた金融庁の見解は「投資ファンドの実質的な株主はファンド出資者。議決権はファンドに無い。ファンドは窓口に過ぎないから主要株主とは見なされない。だから規制も適用されない」というものだそうですわな。

するってえと何ですか、村上某が「ファンドの代表」として企業にあれこれいちゃもんをつけるのはどういう扱いにする積りなんでしょうか金融庁様は。先生、株主でも無い人が経営に介入してます!って話になりますがどうするんですか?

短期売買規制をファンドに関して緩和するなら、ファンドが大株主として経営に介入する行為を制限しないといけないのではないでしょうか?金融庁さまにおかれましては何でこんな筋の通らない「規制緩和」をするのでしょうか。全く意味判らんのですが、やはりこう何か投資ファンド様を優遇ごほごほげっほげっほ。


○相場関連雑談と書き忘れたお話

・昨日のFB入札なんですが、3月末越えの1発目とは言え、いきなり前回の100円入札しかも按分2割から平均99.9991円で最低99.9986円(按分2%)ってのはまた随分と極端な結果。

ここの所短国売却(資金需給上当然打ってくるのだが)が15日、20日と実施され、売出手形や現先オペなどの金利も徐々に上昇してきております。何か(先日も書きましたが)去年も同じ事やってませんでしたっけ学習効果は無いんでしょうかと思う今日この頃。為替がぶれて円転コストがぶれているのも影響しているとは思いますが。

ま、上るって言ったって精々年末年始のGCレートが0.01%とかになるかならないか程度の話(そこまで上らないような気もしますが)だとは思いますが、ちょっとだけ動きがあるかもしれませんね。

・先日ご紹介した日銀の月報ですが、12月分を11月と比較した中で漏れがございましたのでご紹介します。すいません。

(12月)『国内民間需要も、企業の過剰債務などの構造的な調整圧力が概ね払拭されたもとで』

(11月)『国内民間需要も、企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力が概ね払拭されたもとで』

過剰設備の文言が消えておりましたな。




2005/12/20

お題「トーンを抑えているようで抑えていない総裁記者会見」

ということで金曜の総裁記者会見を生暖かくヲチ。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0512e_f.htm

○これは笑うところでしょうか?

冒頭は総裁による決定会合と月報の説明でして、その次の質疑でいきなりずっこけるあたくしなのでありました。

『(問)金融政策のスタンスについて伺いたい。8日の講演において、総裁は量的緩和政策の解除に向けて改めて意欲を示された。一方で、政府はそれを強くけん制する発言を続けている。今後の金融政策運営における政府と日本銀行の関係について改めて見解を伺いたい。』

『(答)意欲を示すとか、示さない、という話ではない。毎回申し上げている通り、あらゆる経済・物価の動きを冷静に点検して、経済の実勢に見合った金融政策を施すことによって、結果として、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していきたいという方向性に一切のブレはない。』

『そして消費者物価指数(除く生鮮食品)が現実に前年比ゼロ%の水準になってきて、今後同指数が安定的にゼロ%以上になるかどうかを、冷静かつ真剣に見極めていかなければならない段階であるので、意欲先行ということは私にとっては全くない。今後とも冷静に判断していきたい。(後半割愛)』

意欲先行では無いそうです。いやまあ奥が深いご発言でございますが(苦笑)、好意的に解釈しますと、「何も解除に前のめりではありませんよ」という言い方をする事によって政治との余計な軋轢を避けるという発想になっているんでしょうな。政府の方面がおとなしくなったのは先日の総理との懇談会が影響しているのではないかと勝手に想像中(罠かもしれんが)。


○望ましい物価上昇率に関して

2回ほど本件について質疑応答がありますが、結局明言は避けておりますわな。まあ元々インフレターゲットみたいな政策に関しては福井総裁は導入する気は無さそうな感じでして、仮にそれらしい政策を導入しても、あまり物価上昇率の期待の安定化という本来の機能が効くような形には持っていかないんじゃないかとは想像してますが。

『(問)先程、物価安定のもとでの持続的成長という点で、政府との間に認識のズレなどありようがないとおっしゃった。その物価安定の中身について、最近何人かの審議委員が、講演等で望ましい物価上昇率のあり方を示すことについてやや前向きの発言しているように思うが、総裁はこの点についてどのようにお考えか。』

『(答)私自身と言うよりも、日本銀行においてももちろんであるが、どの国の中央銀行においても、金融政策運営の責任を担い、かつ実際に運営している立場からは、望ましい物価安定とは何かということを、その国の経済構造の変化等も下敷きにしながら、発見努力を常に行っている。』

ということでこの後色々と理屈が続いているのですが、だいたい長々と理屈が出てくる時ってのは、ややこしい問題(誰が見ても答が明快って訳に行かない問題)に関して持論を述べる時だと思うんですが、福井総裁の会見にもその傾向はあるような気がする。で、そこの理屈部分を変にカットして引用するとミスリードしそうなので結論の所を引用。

『一言でインフレーション・ターゲティングとか望ましい物価安定目標の定義とか言っても、そこに至る思考プロセスに、各中央銀行の創造的な過程が前提となっている。単に、他の国の中央銀行はこういう姿をとっているからといったテキストブック・アプローチでこれを持ってくれば良いというような軽い考え方で、インフレ率のターゲットを置いている中央銀行は一つもないと信じている。』

『そうした状況(引用者注:経済のグローバル化状況だそうです)の下では、あまり先見的に数値のイメージを持たずに、物価形成メカニズムの新しいプロセスを深く分析しながら、私どもは次の新しい透明性の戦略に辿り着くほうが望ましいと思っている。インフレーション・ターゲットに積極的とか消極的とか言うことではなく、そういう事前のプロセスが大事な段階に日本経済は入りつつあると考えている。』

要するに「やらん」と言っている訳ですな。経済に新しい状況が起きるから云々って言い出したら、常に「昨日と同じ今日は無い」んですから、永遠に「望ましい物価水準の設定」は出来ないという話になるという恐ろしい理論。

別の質問に対する答えではこんな感じで話をしております。

『世界では、インフレーション・ターゲティングというか、一つの大くくりで言えばその範疇に入るような色々なやり方をとっている国がいくつもあるが、仔細に見ると国毎にその性格は違っている。日本の場合、どこかにテキストブックがあって、それをそのまま模写すればよいということは絶対にない。よそ見をする前に日本の経済・金融の構造がどう変わるかといった足許の状況をよく見て、日本人特有の国民心理あるいは気持ちにぴったり沿うような透明性確保の方法でなければならない。隙間があれば、必ずそこに便乗した違った思惑が入ってくるので、真似事はいけないということだけは明確に申し上げておく。』

「隙間があれば、必ずそこに便乗した違った思惑が入ってくる」というのは地均しの事でしょうかなどと無粋な突っ込みをしてはいけません(笑)が、物には言い方ちゅうのもあるのではないかと思うんですが、日本の例を参考にしてデフレ回避に成功したどこぞの国の中央銀行ってのもある訳でして、「よそ見」も必要なんじゃないですか?(勿論日銀の中の人たちは先刻そんなことはご承知でしょうし、ちゃんと研究してると思いますが)

まあ要するにインタゲは導入する気無しと。福井総裁になってから当預目標は景気良く上げていきましたが、中長期国債の買入額は速水総裁時代の月1兆2000億円からびた一文引き上げなかったように、「これ」と決めた物に関してはかなり頑固と思われる福井総裁の在任中は物価安定目標の具体的な数値が出てくるってのは難しそうな気がします。


○本日の釣り質問(笑)

本日の釣り質問はこちら。

『(問)先日、FRBのFOMCで再び利上げが決定されて、ステートメントにも若干インフレ警戒的なトーンが出てきた。ECBも利上げをしており、世界的にインフレ警戒とか金利上昇傾向が出てきているように思う。こうした世界経済の環境について、総裁はどのようにお考えか伺いたい。』

答えは会見要旨をご覧下さい(手抜き)。やや釣られ気味ですな。


○最後に結局やる気が出てたりするのですが

今年を振り返ってどうでした?って質問に関して答えをしているのですが。

『(答)あまりうしろは振り返らないのが私の性分であるといつも申し上げており、振り返ってどうかという質問が最も苦手である。』

ここはいつも悪態をついてますが、政策に関してはちゃんと振り返ってね(はあと)。

『特に感想はないが、強いて言えば春のペイオフ解禁という関門を順調にクリアでき、その後日本経済の足取りが、リズム感のいいものになってきたと思う。その時点で、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になることが次の大きな関門、あるいは通過点だと申し上げた。その通過点も、4月の時点で想像していた状況よりは少し良い状況で近づいてきている。10月の展望レポートを、4月の展望レポートに比べ若干中身を上方修正して皆様にお示しすることができたので、そう申し上げている。次の通過点の展望が、遠ざかるよりはより近付いてくる方向で推移しているので、今後ともそうした方向性がより確実になるように十分目配りをしながら適切な金融政策を行っていきたい。』

ということで、景気に関しては思いっきり強気であることは変りありません。

『私どもが正確な情勢判断を持つということが大前提であり、その情勢判断を基に市場とより濃密な会話を繰り返していきたい。これは非常に真剣かつ冷静なプロセスである。』

どうもこう引っ掛かるんですよね。こういうのを見ると元来ひねくれ者のあたくしは「日銀様の情勢判断を市場に押し付けますが何か?」と読んでしまうのであります。

『皆さんも、これをできるかぎり静かに見守って頂ければ、私どもとしては幸いである。』

えーっと、ここも笑う所でしょうか?地均しモードをおっぱじめたのはどこの誰だと。


○最後の最後は何か微妙な話

デフレ脱却がどうのこうのって問題に関して、「デフレを克服したということがきっちりとわかるように、わかりやすい数字を日銀と一緒に共有したいという考えをお持ちの先生方が多いように思うが」という質問が最後にまた出たのですが、デフレ脱却の観測について福井総裁はこのように述べています。

『デフレがいつ脱却したかという時点の観測についても、例えば景気の山谷に関し、今が山である、今が谷であるということを誰もわからず、山や谷を過ぎてしばらくしてから振り返って専門家が山谷を判断し、皆が納得する。なぜ納得するかといえば、専門家の分析に納得しているのではなくて、多くの人々が振り返ってみて、確かにあの頃は頂点だと感じながら私どもは経済活動をしていた、あの時はやっぱり谷底だったと納得がいき、合点がいく。デフレがいつ脱却したかは、経済が良い方向に進んでしばらく経って振り返ってみると、やっぱりあの時に脱却したと皆が納得できる時点というのはきっとあると思うが、前もって、これがデフレ脱却の時点だと言うと、それは嘘じゃないかという人が多いに違いないと思う。』

「専門家の分析に納得しているのではなくて」云々は内閣府に喧嘩を売っているのでしょうかと思わず突っ込みをしたくなりますが、字面でみる印象と会見のニュアンスは往々にして違う(今回は会見の録画まだ見てません)のでまあ良いとしまして。

「後になったらデフレ脱却が判る」と言い、(この会見では言ってませんが)「現在の景気動向では量的緩和政策解除の後の政策は余裕をもって対応する事ができる」と表明しているのであれば、これを二つあわせると「フォワードルッキングあるいはジャストタイミングでの量的緩和政策解除をする必要は現在はございません」って突っ込みが飛んできませんかねえと思いますが。


#意外に突っ込み所が多かったですな




2005/12/19

お題「資産担保証券買入終了/金融経済月報」

○予定通り資産担保証券買入終了

今回の決定会合で予定通りに資産担保証券の買入が今年度末に終了の運びと相成りました。

資産担保証券の買入は2003年の4月に実施決定されまして、その時には「とうとう日銀が震災手形を再開したか」などと悪態をついていたのですが、その後も「何でも買いますシニアだけじゃなくてメザニンも」などという勢いだけは示しながらも実際問題としてろくに利用されずという状況になりました。

まあ2003年5月というか6月以降のりそな救済スキーム発動という政策転換(銀行シバキアゲ政策から一転して救済スキーム発動)が効いて、それまで極度に嫌われていたクレジット物が一転して俺にもよこせ状態になったのでろくに利用されなかったという面はあると思います。

それにしてもこの「資産担保証券買入」施策を発表した時は「もう何でも買いますよ皆さんいらっしゃい」って感じのリリースをしておいて、いざ実際に導入という段になると微妙に使いにくいスキームにして時間を稼ぎ(メザニンを買うて話は後から出た)その後利用がろくに無い状態になっている時に総裁自ら国会で「ええ、利用されなくても市場が育成されているからより結構なことですよおっほっほ(意訳)」とご発言されてましたわな。

この資産担保証券がどうのこうのって話は速水総裁時代からの宿題的な部分もあったのですが、スキームをぶち上げておいて結局「震災手形」化は実施段階で避けるという作戦に、福井総裁の深慮遠謀(というか猫のかぶり方が上手いというか)を感じる訳でございます(ここの所突然本卦帰りしているのは我慢不足と申し上げておきましょう)。

まあ何が何だか判らんスキームではございましたな。札割れにならなかったオペの方が少ないという施策ってそりゃ何なのよという感じで、よく言えば抜かずの宝刀ですが、まあハリボテみたいなスキームではございました(笑)。


○金融経済月報

12月の月報はこちら→http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/gp0512.htm

例によって11月分と比較する訳ですが、まあ今回に関しては事実としてのCPIゼロ%に加えて先行きの見通しに「プラス転換を予想」というのが直球で入ってきましたってのがあるって所ですか。診療報酬がまた引下げ(財政問題がどうのこうのと美しい話ばかり聞くのですが、首相の強い意向と聞いたあたくしにはてっきり政権に批判的スタンスだった日本医師会への嫌がらせだと思ってしまいましたよええ勿論そんなことは毛頭ございませんですよねあひゃひゃひゃひゃ)という事で、CPI引下げの「特殊要因」は後から後から出てきますわなあって感じです。日銀も大変だ(苦笑)。

てな余談は兎も角として。まあ大体内容的には同じなんですけどね。

・現状判断・総括判断

(11月と同じ)『わが国の景気は、回復を続けている。』
ということで、他は11月と違っている所をご紹介しておきます。

・輸出

(12月)『輸出は増加を続けており』
(11月)『輸出は緩やかな増加を続けており』

・住宅投資

(12月)『住宅投資も、強含みの動きが続いている。』
(11月)『住宅投資も、強含みの動きとなっている。』

輸出の増加傾向が「緩やか」が外れ、前月から強含みになった住宅投資が強含み継続ですという形で、まあ引き続き細かい表現の違いだけですけど景気判断的には今回もまた前進方向への書き換えになっております。

・物価について

現状がゼロになったというのは事実認定の問題ですから引用は省略しますが、先行き見通しでも堂々プラス予想になっております。

(12月)『消費者物価の前年比は、需給環境の緩やかな改善が続く中、電話料金引き下げの影響が剥落していくこともあって、若干のプラスに転じていくと予想される。』

特殊要因剥落の為にプラス転換ってのも書き方としては弱いというか抑制的になってますが、まあさすがに散々政治サイドと揉めたのでここは抑制的に書いているんでしょうなあと勝手に想像しております。ちなみにこの部分の11月はこんな感じになっております。

(11月)『消費者物価の前年比は、需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格のマイナス寄与が剥落していくことや、電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じていくと予想される。』

当然ですが方向性は変ってないんですけどね。

まあこれで今月発表のCPIがなお上昇すると解除に向けてまた攻防戦が始まるんでしょうかね。総裁記者会見はあまり見てませんが、一応前のめり姿勢を(今更になって)否定しているようですけれども、やる気は満々なんでしょうねえ。

#ということで本日は甚だ簡単でしたが、月曜の朝はどうもダメダメでして・・・



2005/12/16

お題「大したネタも無いので雑談を」

というか実は何気に色々と話題には尽きないような感じではありますが、下調べとか読み物とかしないといけないようなネタの方が多いもんで。

そんな訳で徒然なる雑感を。

○まあポジションの閉じなんでしょうけれども

ここ2日でドル円はいきなり4円円高(昨晩は115円台に突っ込んだんんですな)になり、日経平均はザラ場高値から600円値下がりという有様なのはご案内の通りでございます。

で、今朝起きてみればモーサテもブルームバーグニュースもドル円市場に関しては「米国の利上げ打ち止め観測と短観による早期量的緩和解除期待で円高ドル安」と言ってるのですが、その割には昨日は債券ちょっと弱め(CPIが弱くてNY連銀景況感指数が強かったのですが)で株も頭打ちになっております。

で、そもそも日銀短観に対する日本債券市場の反応は「何だそんなに良く無いじゃん、別に悪くも無いけど」というもの(株価が下がり出す前には債券少々強い程度)でしたんで、「短観の結果を受けて量的緩和政策の解除が近くなった」というのは物凄い後付け理屈としか言いようがございませんな(まあ最近の外人勢には俄かに金を持って参戦してきてる若葉マークちゃんもおいでになられるとゆーはなしでもあるようですが)。

円高にビックリして(?)日本株も下げている訳ですが、まあ何か先週末から今週頭に掛けての上げ方が何と言うか「ええーそんなケツの重いものも上っちゃうのー」って感じだったんで、ちと冷静になりましたって所なのか、時期的にボーナス資金が株式市場に入ってたのかって事なのかもしれませんんでしたな。しかし為替市場でのドル安円高になっている理由と、日本株式(と債券)の値動きの理由がバラバラですんで、まあどっちかが間違えているという理解で宜しいんじゃないですか?

基本的にはこの辺りの動きは積み上がったポジションの閉じに起因するものかと思います。デイトレーダーによって相場が動くだの何だのという的外れな指摘をよく一般のメディアがしますけど、日計りとか数日しかポジションをキャリーしない人というのは基本的に相場に対してニュートラルみたいなもんでして、相場が一番派手派手に動くのは「ポジションの踏み投げ(即ちロスカット)」であって、まあ今回の場合は踏み投げじゃなくて利食いだから阿鼻叫喚の香りがあまり相場から漂って来ませんが、この動きもポジションの閉じって奴でしょうな。


○売買参考統計値が100円になったら短国売却ですかそうですか

昨日は積み最終日で年金定時払いなので大幅余剰。今日も余剰で当預残35兆行っちゃうよ(ちなみに昨日の当預残は速報ベースで34兆円)〜と思っていたら翌日スタートの売出手形を打ってましたが、昨日はその前に短国売却も実施。

短国売却は良いのですが、銘柄がTB380にFB356で償還が1月11日と12日ってのは日銀の嫌がらせかと突っ込みを入れたくなる(2本立てでオペやるなら償還分散して〜)のですが、まぁど〜せそんなことは考えずにやってたんでしょうけどね。

どうも売買参考統計値ベースで一部の銘柄に100円というものが出てきたタイミングで短国売却を打ってきた節が見受けられるのですが(以前も似たような事はあった)、年末に掛けて余剰分の吸収オペとかやってると、昨年の年末と同じようにギリギリになって慌てだす段取りの悪い資金ディーラーが出てくる悪寒。

ま、だからと言って長期ゾーンなどに何かがあるという事はございません局地的な話ですが。


○改革派ですかそうですか

時々話題になっていたのでチェックしていた霞ヶ関改革プロジェクトK(ブログはhttp://blogs.yahoo.co.jp/projectk2005、本はどうせアレなので買ってません。それからブログのコメント欄にもありましたが、中央官庁を改革したいんなら「霞が関」なんですけどねえ。駅舎の改革でもする積りですかこのプロジェクトは)なんですが、先日東京新聞の記事をみたら「改革を進める為に官邸からトップダウンで動いてもらう事も考える」みたいなのがあって「???」感を強めていたのですが、branchさんの「続・航海日誌」(http://www.seri.sakura.ne.jp/~branch/diary0512.shtml#1214)とbewaadさん(http://bewaad.com/20051215.html)が鋭く突っ込みを入れてましたんで、その突っ込みに激しく同意しつつURLをご紹介させていただきました(と、例によって人の褌攻撃)。

何かこーゆー「改革真理教」の人たちが浅薄なメディアで祭り上げられて時の人になった挙句、地方首長になったり国会議員になったりするんじゃないかと思うと激しく鬱になる年の瀬でございました。正直こういうのは勘弁して欲しいとか言ってるあたくしは抵抗勢力ですかそうですか。


#ところで、自民党さまにおかれましては、個人消費を冷やすような施策中心に増税する案を出して一方で「成長率目標を日銀は設定汁!」ねえ。ふーん。




2005/12/15

お題「いつもの短観チェック/取ろう取ろうは取られのもと」

朝起きたらドル円が3円動いてましたってのも久しぶりです。

○日銀短観

大企業製造業の業況判断DIが+21だったんですが、もっと良いって話が直前は出てたような気もします。でもあたくし的には毎回毎回ちと違う所から見るのでございまして・・・・

・業況判断DIの「前回予想からの達成度合い」

実際に出てくるDIの数値が一番注目されるのは当然の話ですけれども、あたくしが毎回見ているのは「3ヶ月前に回答していた先行き予測と今回のDIはどう乖離してますか」って話。

この数値を見ますと、「9月短観時点での先行き予想DI」よりも今回のDIの数値は概ね改善しております。

大企業製造業+18→+21、非製造業+16→+17
中堅企業製造業+6→+9、非製造業+2→+1
中小企業製造業+4→+7、非製造業▲12→▲7
(左が9月調査時点での先行き見通し、右が今回の業況判断)

この中では、9月の業況判断DIに対して先行きのDI数値が低かった(=先行きに慎重な見方)大企業製造業と中小企業非製造業の12月DIが9月対比改善しております。今回の短観では全体的に先行きの予想DIが12月対比低い数値が出ておりますが、ここまでのパターンを見ているとその「先行き慎重」ってのは毎度お馴染みの高値警戒感みたいなもんではないかと存じます。

で、これだけ株価が堅調であられます昨今ですが、それを考慮に入れてこのDIが思ったほど伸びてませんなあと見るのか、引き続き堅調と見るのかはあたくしよー判らんのでそーゆーものは本職の人が書いたものを参考にしませう(おい


・雇用判断DIは・・・・

日銀さまが単位労働コストがどうしたこうしたとコメントしている訳でして、雇用関係のDIは気にしない訳には参りますまい。雇用関係の数値は短観(概要)の6ページ目になります。

で、雇用判断DIを見るんですが、ややこしい事にこの雇用人員判断DIってのは「過剰」−「不足」で出してくるので、ここはマイナスになっている方が良い数字ですわな。この手の結果をまず斜め読みする人間にとっては一瞬「あれどっちだったっけ」と固まるので困るんですが(苦笑)。

で、この雇用判断DIなんですが、さっきと同じ見かたをするとこちらは案外な内容だったりするんですよこれが。

大企業製造業▲1→+2、非製造業▲8→▲6
中堅企業製造業▲3→▲2、非製造業▲10→▲9
中小企業製造業▲4→▲3、非製造業▲6→▲7
(左が9月調査時点での先行き見通し、右が今回の業況判断)

前回対比で言えばプラス幅縮小かマイナス幅拡大となってはいるものの、9月時点で予想していた「先行き見通し」ほど雇用判断が良くなっていないという次第。こーゆー辺りが業況判断先行きDIの慎重姿勢に影響を与えているのかもしれませんなあと思いながら。


ちなみに、どうでも良い話ですが、7ページ目にあります金融機関の業況判断DI等を見るとまあ証券業の業況がよろしいようで誠に結構でございますな(笑)。


別に悪い数字でも何でもないですけど、全体的には事前に囃されていたほど良くもないけど、かといって先行きを懸念するほどのものも無いという感じではないかと思うのでした。



○取ろう取ろうは取られのもと

頭が最初から最後まできちんと稼動した場合に限り囲碁4段のあたくしですが、その囲碁の格言だか何だかに小見出しのようなものがございます(^^)。

で、ご案内のジェイコム株式問題ですが、どこでどういう話になったのか良く判らんのですが、S安で注文がさらされている間に買いを入れてた証券会社の皆様が急に利益を返還するとかいう話になっておりますな。

どうせ返すならみずほ証券に返してもアレなんで環境対策でも歳末助け合いでも良いんですが、何かもうちょっと楽しい返還方法でもありませんですかねえって気もしないでもないのですが、どういう処理をするのかヤヤコシイですな。まーこの取引は最初から無茶苦茶な話なんで、どこまで逝っても処理は無茶苦茶な異例処理になるんでしょうが(笑)。

野村證券が1000株しか買ってなかったんですが、勝手に想像するとどう考えても明らかにおかしい注文(発行済み株式数を死にそうに上回る売りだから)に付け込んだ買いってのに対して「これは純粋な投資として買いましたが何か?」と言えるロットが幾らですかって考えた結果として1000株しか買わなかった、というか買ったものの当日中に売却してしまい、持ち越したのが1000株だったのではないかという気もしますが、まあそういう事をきっちりと考えて買い玉を残してたと思うんですよ。

まあ他の証券でもせいぜい3000株とか4000株とか、要するに流通株式の範囲内に買い玉を抑えておく事によって「いや割安だと思ったので純粋投資」って申し開きができるように考えてはいたのではないかと思います。

ところが、UBS証券が何を欲の皮突っ張り過ぎで3万株以上というそれこそ「ありえない株数」の購入を行ったというのが出て「こりゃ幾らなんでも・・・」って話を呼び起こす破目になってしまったのではないでしょうかねえ。3万株はねえだろう3万株は。欲張り爺さんが欲張りすぎて全部パーになるというような昔話ってなんでしたっけ(笑)?


ちなみに、この返還はケシカランと金融市場の中の人では評判が悪いのですが、数年前にどこぞの外資系証券が個人向けe-ワラントの売買で価格呈示を間違えててそれに気が付いた一般投資家が大喜びで購入したら、約款の解釈を盾にとって「その売買は成立してません」と押し通してしまったという事件があった事をあたしゃ忘れておりませんです、あっはっは。

まあこれってみずほ証券のやられのかなりの部分が「間違い注文を取り消し出来ない状態で5分以上も晒していた」という東証の不手際による部分がありまして、みずほ証券が東証に賠償請求って話になると東証の負担になって、それは結局東証の会員企業に降りかかってくる(この程度なら別に直接的に金くれ攻撃にはならんでしょうけど)話になるということになると、例によって例の如く「数多くの損VS特定大手の儲け」はケシカランって論法になったのかなあなどと思ったりもするのでした。

まあ何にせよ最初から最後(まだ全部収まってませんが)まで異例ずくめもいい所で誠に香ばしい話ですな。是非ここはジェイコム様からUBS相手に「大株主の短期売買利得の返還要求」を出していただいて話をもっとややこしくして欲しいものでございます(完全に野次馬モード)。





2005/12/14

お題「珍しくFOMC声明文/市場懇での情け無い意見」

ジェイコム株式事件ですが、UBS証券のグループが発行済み株式の2倍に当たる買入をしたそうで、電通株のリベンジが出来てよかったねと言いたい所ですが、さすがにこれは・・・・

一つには明らかに過大な買い付けなので、作為的相場の形成行為に該当する可能性があるという点(ちなみに現物株のでストップ比例配分狙いで大目の注文を出すのは作為的相場の形成行為に該当しますのでご注意下さい)。まあ別名義なんでしょうし、そもそもの売り注文が過大注文なんですけれども(^^)。二つめとしては「大株主の短期売買による利得」に該当する可能性があることで、名義をせっせと分けていても、実質的に同じって裁判所に言われちゃったら儲けたお金は持っていかれちゃいますわな。UBSが現実に株式を手にした訳ではないのでここの適用は非常にグレーなんですが。

ま、どっちにしても発行済み株式の2倍買うと言うのはなかなか浅ましい香りが漂ってきてよろしいんじゃないかと。わはははは。


○珍しくFOMC声明文

http://www.federalreserve.gov/boarddocs/press/monetary/2005/20051213/

前回までの声明文にあった表現『With underlying inflation expected to be contained, the Committee believes that policy accommodation can be removed at a pace that is likely to be measured.』ってのが削除されたのですが、「policy accommodation」が無くなった→「現状の金利が緩和的ではないとFOMCが言ってる」→「利上げ打ち止めワッショーイ」って反応をしたと言う事になっている様なんですが、それはちょっと違うんジャマイカと。

上記表現に替わって今回入っている表現は何かと申しますと(しかし声明文が短くて半分二日酔いの朝起きて読んでも対応可能なのはありがたい)こんな感じ→『The Committee judges that some further measured policy firming is likely to be needed to keep the risks to the attainment of both sustainable economic growth and price stability roughly in balance.』

「measured policy firming」って言ってるんですが何故そっちに反応しないのか意味判らんというか、まあ市場として「利上げ打ち止めワッショーイ」ってやりたかったという事なんでしょうけれども、なんちゅうか変な反応ですなあと思うのでありました。まあてめえに都合よく解釈するのは万国共通なんですな。

そもそもFEDはデフレ突入阻止の為に実質マイナス金利とかを延々と続けてていた訳でして、デフレ突入阻止を確認してから緩和解除局面に入ったのですから、中立的な金利水準と思われるところで止めるだけではそこまでの緩和政策の刺激効果を相殺するには足りないと思う(また物凄くシロートっぽい感覚的なお話で恐縮ですが)訳でして、インフレ抑制のためと言う事になるとここから軽く引き締めをしてから打ち止めになるんじゃないかと勝手に考えております。


○市場懇(国債市場参加者特別会合)での何か情けない議論

先週金曜に行われた市場懇の議事要旨がでたのは月曜なんで、ちと出遅れなんですけど→http://www.mof.go.jp/singikai/kokusai/gijiyosi/c171209.htm

このWebページのタイトルって言うんでしたっけ、IEで表示した時に一番上の青い枠の中に出てくるお題のところが今朝6時に見た時点で「国債市場特別参加者会合(第8回)議事要旨(2005.6.24)」になっているのは財務省にしては珍しく手抜かりですな、何て事はどうでも良いのですが(笑)。

今回のお題は来年度の国債発行計画と、国債買入消却がメインでした。何か変動15年国債を減らせという話とか、物価連動国債増やせというようなお話ではございますが、別に何でもかんでも諸外国にあわせる必要ねえだろうと思いつつ単に「ふ〜ん」と思って読む次第。

本邦の場合は残念ながら物価連動国債が機関投資家でそんなに必要とされる状況にはなってないと思います。と申しますのも、基本的に本邦の機関投資家はインフレリスクを資金の出し手(銀行だったら預金者、生保だったら契約者)に負担させるような形を取っている(まだ確定給付物の方が圧倒的に多いでしょ)訳でして、インフレヘッジをしなきゃいけない機関投資家がそんなにいるとは思えませんわな。

今後の期待としては確定拠出型年金とかの個人の年金資金(はインフレヘッジが必要でしょ)でして、これ自体は規模的に大きなものになる話ですんで、DC資産の増加に期待したいものでございますな。

ま、そんなに慌てて増やす必要は無いんジャマイカという気が。増やしても一部の投資家のおもちゃになるだけじゃネーノという希ガス。


と、前置きが妙に長くなりましたが、今回読んでいて目がテンになったのは買入消却に関する中であったご発言でして、まぁ「この正直者!」って所なんですが。


『日銀の買切りオペを利用して、入札後にポジション調整をする場合、直近発行2銘柄がオペの対象から外されていることから、それ以外の既発債を入れざるを得ず、新発債の需給はますます緩み、既発債の需給はますます締まるといった形になることがある。既発債と同じ日に受渡しが可能なものであれば、新発債も対象に加わる方が、オペレーションはやりやすくなる。』

お前は日銀が買い切りオペで新発債を除外している理由(理由自体に意味があるかどうかという話は別の論点ですので気にしないように)を判ってその意見を言っているのかと小一時間問い詰めたくなるようなご意見。しかも「日銀の買切りオペを利用してポジション調整」ってそりゃまあそういう事はありますけど、そこまで露骨に言うかよって感じですな。

「ポジションのケツ持ちが最後は日銀です」って堂々と発言してお前は「プライマリーディーラー」として恥ずかしくねえのかと思うのは大手業者が債券市場をきっちり仕切って大口の売買フローとかが市場に露骨に出なかった古き(良いか悪いかは知らんが)時代の化石ジジイですかそうですか。

そもそも日銀の買い切りオペは本来業者のポジション調整の為にやっている訳ではありません。結果的には確かにそういう面も思いっきりありますが、それと買い切りオペの本来持っている政策的目的は別問題でして、業者の為に日銀が国債買い切りを行って無いのに、そーゆー論点が出てくる事が驚異的我がままというかお上頼りの姿勢と言うか。

ここから先は勝手な想像ですけれども、上記の意見に対応するような事態が生じているのって2年国債(10年国債は確かに新発債の需給は既発債対比で常に悪いですが、別に困ったから買い切りオペにぶち込みまくられている訳ではない)のことでしょうなあと思うと、その辺の商品をやたらめったらお取扱の人たちのご意見なのかと存じまして、この意見で見るべきものがあるとすれば、「日銀の国債買入が減額になると今のペースでの2年債消化は困難になりますよ」って事でしょうな。


しかしまあ他にも本件に関してはオモロイなあというのがあったのですが、

『流動性供給入札の対象となっている12年から15年までの年限のセクターについては、買入対象外とすることを検討しているとのことだが、16年、17年近辺についても流通量が非常に少なく、買入対象になってしまうとさらに流動性が乏しくなってしまう可能性もある。これらのゾーンについては、流動性供給入札による追加発行の対象とはしないまでも、買入対象とはしないでいただきたい。』

買い入れに応じるのは業者なんですから別に皆さんが入れなければいいだけのことではないかと思うんですが、そこまで細々要求する意味がさっぱり判らん。

『発行体として当該年度に発行した銘柄を買い入れるのはどうかという気もするが、理財局が構わないのであれば、我々としては、対象は広い方がよく、日銀がオペ対象から外している直近発行2銘柄も除外せず、チーペストも含めて原則的に全銘柄でやった方が良いと思っている。』

「どうかという気もするが」って所に良心を感じる発言ですな(^^)。

#ま、本日はそんなところで。




2005/12/13

お題「入札とか短観待ちですので雑談を少々」

この前出していた宿題リストはどうなったのかと小一時間問い詰められそうですが、まあそれはそれということで(えー

○超長期ゾーンが相変わらず確りな訳だが

昨日の債券相場は株価指数がまたまた威勢良く上昇したこともありまして下落したのですが、相場全体の下落に対して相変わらず超長期ゾーンは相対的に確り。ここもとの話の流れから行くと株価上昇→景況感の改善→でもゼロ金利はそれなりに続く→イールドカーブはベアスティープという風になってもおかしくはないのですが、延々と「相場が下がる時は先物とか中期主導」「相場が反発する時も先物とか中期主導」って展開が継続しております。

で、まぁ板を細々と見ている訳ではないのでこーゆー時には元ディーラーの比較優位を利用して(笑)、実際に板に張り付いているお仲間に「何なのこの相場は??」とざっくばらんに聞く事が出来る訳ですな。結論としては「決定的な方向感が出ていない」ってのと「相変わらず需給的に超長期ゾーンは相対的に買いが入る」って所が今のところの結論のようですわな。

相場に関する方向感が出ていればもうちょっと長いところが威勢良く売られていてもおかしくはないのですが、株式市場がこれだけ調子良いのに債券の方はまだ半身に構えているっていうのと、「株が上っても物価は上らんでしょ」ってのとがあるのかとは存じますが、まあ方向感が出てませんわな。短観が明日出るからちったあ変らんかねえと思うのですが。

で、需給的な問題と言えば、投資家層の違いってのがあるのかなあとは思う訳で。中期ゾーンに関しては銀行業態が相変わらず売り買いしてるんですが、この人たちはポートといえども時価評価な上に、大体銀行の債券運用部門ちゅうのは銀行の文化から言って「収益の絶対水準はいくらじゃ」という風に言われるという中々大変な部門でもありまして、調達金利(=短期金利)との資金収支あんど評価損益に関して詰められるという素敵な部門でもありまして、必然的にどたばたやる傾向が(個別にはきっちりバイ&ホールドに徹している人も多いのですが)ございますわな。

超長期ゾーンに関しても以前は銀行勢がせっせと投資してたのですけれども、一昨年の20年0.8%からの大暴落で懲り(た上にご当局様のご指導要因もございますようですが)て銀行勢の動きはそれほどなく、より長期性資金であります所の生保やら年金やらとかの資金が入っていまして、年金なんかですとベンチマークは債券インデックスですんで、相場が下がっていてもそれほど慌てなくてもよい(まあ気分は悪いでしょうが)ということで、あまりバタバタしないと。

で、短観とFOMCの前に20年国債入札という実にファンタスティックなタイミングなのですが、細かく見ると20年カレントゾーンのあたりはそれなりにスティープさせてますし、金利水準も2.1%で、需給も悪くは無いという今日この頃ですので、こりゃまあ死角は無さそうで(株価が最大の死角ですが)すわなあとゆー話になるのですがさてどうなんでしょうかね。


○昨日書き忘れたのですが・・・・・

昨日書きました株式売買誤発注問題は結局強制解け合いで解決。55年ぶりって事ですので旭硝子ヘタ株事件以来で損失が400億円ですかそりゃまあ災難でございましたねえとゆー所ですが、昨日書く積りで拾っていた余談ネタを書き忘れたので一個ご披露(笑)。

「日経新聞の法則」という恐怖の法則があるのは時々ご紹介しております。今年の白眉は今年の6月28日だったっけな?10年金利が1.2%割った時に「10年金利1.2%割れ、一段の低下余地も」って日経金融新聞が1面トップで堂々と記事を出したら、7月に入ってから10年金利は上昇するわじょうしょうするわ。まさに神業としか言いようがないのですが。

その日経グループのより専門向けの「日経公社債情報」という月曜発行の週刊誌がございまして、先週の日経公社債情報の特集が何と「みずほ証券の挑戦」というお題でして、記事の趣旨が「元々債券部門が強かったみずほ証券が最近は株式部門が躍進している」という物でして、まあ毎度お馴染みのチョウチごほごほ分析記事なのでありました。まあひたすらみずほ証券の株式部がもう大変素晴らしく躍進してますよって話。

で、その週の木曜日に大災厄が発生したのはご案内の通りでございますが、神業を発揮するのはせめて相場だけにしておいて頂きますと誠に恐悦至極に存じます。

で、その日経がバブルだとか高値警戒とか言ってる内は株式市場は大丈夫と言う事で宜しいのではないでしょうか。本人は物凄く大真面目にそういう話をするんですが、これがまた偉い人とかにそういう話をすると元々ディーラー上りの人以外には全くウケないどころか馬鹿者扱いされて人事査定に響くという諸刃の剣(というか刃が自分にしか向いていない気がするが)でして、お勧めできません(^^)。


○経済財政諮問会議のバブル論議

本石町日記さん(http://hongokucho.exblog.jp/)のところで2本エントリーがございます。論議の中身もオモロイと思いますが、あたくし的にはその他2点ほど感じたのでそちらを。

1.量的緩和解除+ゼロ金利継続の2段階解除論で手打ちですか

バブル論議で議論が進んでいるというのは、ここの所日銀総裁方面やら水野審議委員方面から良く出てくる量的緩和政策の副作用論に相通じるものがございます(あたくしは「ようやくポートフォリオ・リバランス効果が発揮されてきたんじゃネーノ」と思うのですが・・・・・)。で、議事要旨を見る限りではバブル警戒方向で議論がリードされていて、竹中先生出る幕無しのすけの雰囲気ですわな。先週水曜日の日銀あんど政府の懇談会後に急に福井さん燃料投下発言をしたものの特に波乱を呼んでいない所も勘案すると、量的緩和解除してゼロ金利は継続という玉虫色の金融政策で落ち着くんでしょうなあ。ま、ゼロ金利に必要な量って事になるとそれなりに量は出しておく必要はあるんでしょうけれども、まあどうなる事やら。。。。

2.麻生さんと細田さんがいない会議は・・・・・

時々ご紹介する経済財政諮問会議話ってのは大体麻生さんの突っ込みか細田さんの突っ込みをネタにしてました。このお二方は結構本質を突いた突っ込みをしてくれまして、お話が斜め上の方向で驀進しだしてトンチンカンな論議が続くと冷静に「君たちそれはちょっとおかしくないか」と言って、脳内ユートピア話を現実に引き戻してくれるのでありました。

で、このお二方が諮問会議の議員じゃなくなってしまったので、とうとう小泉首相が止め役にならなければいけなくなったんですかねえと本石町日記さんのエントリーを見て吐息するあたくしでありました。





2005/12/12

お題「金曜の補足」

というわけで、まあどうでもいい話と言えばそうなのですが、ああ誤発注の続き。

○取り消しが出来なかったとはご愁傷様です

今朝入ってきたニュースによりますと、誤発注した売買の取り消しが出来なかったという素晴らしいバグが東証側にあったそうでして、そりゃみずほ証券運が悪かったですなあというところで。まあとんでもない間違えをそのまま通してしまったのがそもそもの問題ですが。

それなら尚の事板を止めればそこまでの受注分の決済だけで何とかなったんで300億円とかの損害まで逝かなかった訳でして、金曜日の朝テレビニュースでやっていた東証の記者会見を見たときに思った印象を別のところで書いた(ドラめもんに追加できなかったので)のを再掲。

(金曜に書いたもの)NHKのトップニュースで誤発注事件が出てましたが、東証の記者会見のくだりで顎が外れそうになったのは、「発注の取り消しが出来なかったのはみずほ証券が手順を間違えたから」とか東証は見事に責任転嫁発言(したこと)。

おまえら気が付いているなら板止めるとか注文取消しを通すとかしろよあほと思うのですが。下がりだした時に取り消し間に合ってたらS安まで逝かなかったかもしれませんしねえ。想像するに注文集中で処理追いつかなかったのでは?

まあしかしあの会見はちと頭にきましたね。
(以上金曜に書いた駄文)

てな訳で、やっぱ変ですわなあと思っていたらこの有様。つーか売買管理部門の連中は無駄飯食いかと小一時間ですわな。みずほ証券が誤発注したのが問題とは言え、東証のその後の対応は余りにもアホアホであって、てめえら上場とかいう寝言は寝てから言えという所で。


○ところで参加証券会社がテッポウを撃った場合はどうなるか

金曜日にちょっと書いた参加証券会社がヤケクソで破綻した場合の処理ですけれども、株式市場のお方から説明を頂きましたのでそれをご紹介。

(頂いたメールより)
誤発注した証券会社が破綻した場合、制度上は次の順番で損失の穴埋めを行うようになっています。

@不履行参加者の預託金(Cの内です。)
A株主(取引所)による損失補償:違約損失準備金 合計108.5億円(東証69億円 大証26億 JASDAQ10億 名証3億 札福0.5億)(東証・大証・JASADQ・名古屋については会員組織から株式会社組織に
移行した時点で違約損失準備金として積み立てられていた金額)
B清算機関(JSCC)の剰余金 数億円程度
C相互補償 (現在の預託金は現物分として1072億円。預託金所要額は過去の売買高の実績に応じて決められている。)
DCで不足する分は全参加者が預託金所要額の比率に応じて按分で負担。
(ここまで)

ご教授大変ありがとうございました。さすがに東証が倒産することは制度上有りえませんでしたね。そりゃまあ当たり前でございますが、金曜は少々間抜けな事を書いてしまいました。大変失礼いたしました。

全然違う話になりますが、こんな事態を考えるとどこぞのグリーンメーラーが吼えていた「準備金を配当汁!」という主張はちと如何なものかって所でもあるというお話になりそうですな。


○解け合いしかありませんわなあ

金曜にはくだんのジェイコム株式は売買停止。翌日になってから売買停止とは対応が遅いとしか申し上げようがございませんが、まあ売停になったところで「ああこりゃ解け合いか」という話にはなってましたが、週末の報道を見ると解け合いで決済するという線で収拾する(それしか収拾のしようが無いのですけれども)事になったようで。

ちなみに、解け合いについてもこんなのがありますって事でご紹介いただいてますので自分の備忘録代わりに載せておきます。

(1)総解け合い:売り方の全部と買い方の全部が全部の建玉について解け合うことで、「全部解け合い」ともいいます。
(2)抜け解け合い:売り方の一部と買い方の一部が個々に協議の上、その協議して決めた値段により解け合うことで、「一部解け合い」ともいいます。また、「抜けもらい」ともいいます。
(3)強制解け合い:売買当事者間で協議が出来ないとき等において、取締官庁の命令または取引所の理事会などによって強制的に行わせる解け合いであって、強制的にする総解け合いを「強制解け合い」といいます。
(4)任意解け合い:売買両当事者が合意の上で行う解け合いであって、この場合には両者協議の値段により市場で反対売買を行う。この解け合いを「合意解け合い」ともいいます。

今回は(1)か(3)に該当するんでしょうか。全部を強制解け合いにするのは旭硝子ヘタ株事件以来らしいですな。ちなみに旭硝子ヘタ株事件の時は発行日取引が制度としては確立してなかったんですが、この事件の反省によって上場規定、新株引受権規定が定められて発行日取引が制度として発足したそうですな。

なお、この時は全国を巻き込む一大仕手戦になって、最終的には買い方の圧勝になったものの、売り方に中小業者が多いことも考慮されて解け合い価格は最終売買価格の531円よりも低い514円になった(インチキ解け合いとの声も上ったようです)そうですが、それでも支払不能になった証券会社が続出。混乱の責任を取って東京証券業協会理事全員が引責辞任する事になったそうで。

まぁ今回は思いっきり局地的な瞬間の出来事でしたからまあ最終売買価格に少々プレミアム乗せて決済とかになるんでしょうが、注文の取り消しが出来なかったのが東証の問題だとすると売り方(ってみずほ証券しかいませんが)も粘るかもしれませんですな。買い方代表ってのも見当たらないし、東証の事態収拾能力が問われる状況にはなっておりますな。


○ということで東証の問題点まとめ

1.一口の注文で発行済み株式数を上回る売買が執行可能になっている状態
→そもそもそんな売買は確信犯でやっているとしても過大売買であって、いわゆる「作為的相場の形成行為」に該当します。そんな売買を通すなよ。

2.異常な注文が出た時に売買を止める事はできないのか
→昔のように人力が入っているとこういう時に注文を止めるんですけどね。何でもかんでも自動化してヒューマンエラーを排除できなくなるのは如何なものかと。

3.注文取消しが出来ないバグ
→論外。というか上にあるように東証が板を止めて取り消しの処理をしていればここまで大事になるとも思えませんが。


#日銀総裁の講演に関しては何かまたやる気満々になっていますが、既に本石町日記さんやbewaadさんがコメントしてますんでそちらでも(手抜き)。ネタがなければ明日にでも。




2005/12/09

お題「色々とあった日でしたが」

○ああ誤発注

昨日の金融市場はこの話で持ちきりでしたが、まぁあちこちで報道されてますので経緯はご案内の通りって感じですが、色々と疑問があったりする訳で。

前回の豪快な誤発注は電通株式上場初日にUBSウォーバーグ証券(当時)がやらかしたのですが、この時は公募株式数以上に売りをかましたものの、発行済み株式数の範囲内であったことから受渡に関しては大株主の共同通信や時事通信から借株をして凌いだんですけど、今回は総発行済み株式数14500株しかないんですよね。ガクガクブルブル。

・間違い注文が何故5分間も晒されてたんでしょうか

9時27分に寄り付いた後暫くしてから売りがでたのですが、S安に張り付いていた時間が9時30分から9時37分。最後の最後に467140株が一発で出来てましたんでそれがみずほ証券の反対売買注文だとは思うのですが、その間何やってたんだか・・・・・

報道される記者会見内容によると取り消ししようとしたけどうまくいかずにって事のようですが、晒され時間の長さ(と言っても債券ヲチャーのあたくしは後から調べたんですけどね)はどうも意味ワカランチ会長ですわな。みずほ証券も何やったんだかという所ですが、電通株式の時みたいに全部他社に持っていかれなくてよかったですねという所ですか。


・電通事件の教訓が生かされていないのですが

2001年11月の電通事件でもまるっきり同じケースだったのでしたが、株式上場初日の制限値幅が初値が決定しないと決定しないのでシステム的に初日のみ入力価格が青天井の発注が可能(普段の売買は制限値幅オーバーの売買注文を入れても弾かれる)でとんでもない注文が入りましたって奴ですわな。

まぁ電通事件だけじゃなくて、時々売買単位間違え注文ってのは起きる話で(1株単位の株式を1000株単位の積りで入力しちゃうというのがありがち)、電通事件の衝撃以来IPO常連の会社ではそんな誤発注が起きないようにガードを掛けたりしてたと思うんですけれども、普段リテールやってない(と思われる)みずほ証券(リテールやってるのは新光証券とみずほインベスターズ証券)だけに抜かってたんでしょうか。信じがたい話だが。


で、東証も思いっきりトンマとしか言いようがないのでして、前回の時も過大注文が何故スルーするのかという問題に関して「1注文に対する総売買金額」でガードを掛けているために、価格と数量をドテンした場合に過大注文として認識されませんでしたって事だったと記憶(ここは記憶なんですけど)してます。

何であの時にその「売買金額」の算定を「直近売買価格」×「注文数量」でチェックするという変更をしなかったんでしょうかねえ。いやまあ後知恵と言われればそれまでなんですけど、今回も同じ事例が発生するというのは東証お前は何やってたんだという感じでございます。


・東証の問題点思いつくところ

上記のように過大注文をあっさり通すシステム上の問題もございますが、明らかにおかしな注文が出たのに板を止めないというのも理解に苦しむ次第。以前は債券先物なんかでも明らかに過大注文が入ると入れた証券会社には東証の直通電話が鳴り響き(事実確認のため)、板は止められるという事になってました。あれは東証職員じゃなくて実栄証券(才取会員)が判断してやっていたんでしょうかねえ。あまり詳しくないのでよー知らんが。

板は止めないわ、(みずほ証券の説明が正しければ)取り消し注文が通らないわってのは東証おまえは当事者意識があるのかという所でございますな。しかし手口が公開されないからいつまでもどこがやらかしたってのが判らなくて他の証券株まで叩き売りになってしまったのは悲惨な話でした。

で、今回はやらかしたのがみずほ証券だし、まぁ殆ど買い戻せているということですからまぁ体力的に損害に耐えられる(受渡の問題はあるけど)とは思いますが、もしかしてまかり間違って61万株全部が売れてしまって買戻し追いつかなくなってたら損害が4桁億円とかになる所でして、そんなことになったら証券会社がお父さん→東証の準備金取り崩し→それでも駄目なら東証までお陀仏さんという無茶苦茶な状況になってたかもしれません。

証券会社がヤケクソで鉄砲(意味が判らない人はその辺にいる株好きに聞いて下さい)をやらかすという前提にどうせ立っていないのが現状だと思いますが、先日の構造計算書偽造問題雑感でも申し上げましたが、まあ性善説前提でシステムを回していくというのは如何なものかと思うのでありました。今回の場合はヒューマンエラーを素通しすると言う時点でそれ以前の問題ではございますが。


・ゲロするのが遅すぎ

「どこがやらかした」モードになって証券株が次々と売られまして、特に公開の幹事証券は軒並み売られちゃった訳ですが、誰も何も言わないもんだから昼過ぎからは幹事証券でも何でも無い会社の名前まで取り沙汰されて、幹事でも何でもない証券会社まで「うちはやってません」って発表をする破目になっていたのは実に香ばしい光景でした。

で、公表が引け後も引け後。4時過ぎになって発表ってそりゃねーだろうという事でして、危機管理意識が無いとか会見で言ってましたが、危機管理というよりははた迷惑以外の何物でもないでしょうな。

しかしまあUBSウォーバーグもみずほ証券も大手町ファーストスクエアだったと思うんですが、やはりこれは将門の首塚と方位の相性に問題があるのではないかなどと訳の判らん事を言い出すのであった。


○福井総裁講演なんですが・・・・・

という騒動ですっかり話題から外れてしまった(わけでもないが)福井総裁講演なんですが、前の話題を書くうちに例によって時間がなくなってしまったので詳しくは後日。

http://www/boj.or.jp/press/05/ko0512d.htm

講演テキスト自体はそんなに過激ではなかったのですが、ヘッドラインに出た上で報道もされていたのは「量的緩和解除が展望出来ることは明らか」というコメントでございました。

いやまあ一昨日の政府との懇談会でまた自信をもっちゃった(政府の理解を得た)んでまたまた暴れん坊将軍モードになってしまったのではないかと想像しちゃうんですけど、日銀法改正を虎視眈々と狙う与党筋が日銀を焚きつけておいて解除強行→景気失速→日銀のせいだから日銀法改正!って陰謀がめぐらされているかもしれないっていう予想はしないんですかね。

と、そこまで裏読みしたがるあたくしの方が変ですかそうですか。

・・・詳しくは記者会見と併せて週明けにでも。


○もうひとつ気になってること

扱いが小さいんですが、何か建物の構造強度がどうよって話がゾロゾロ拡大しておりまして、不動産ファンド大活況(というかバブルっぽいが)状態の昨今にどういう影響を与えるのかというのは非常に気になります。最近は銀行がこぞって不動産絡みのノンリコースローンを突っ込んでおりまして、これらのローンの行く末も気になっちゃうのですな。

あまり詳しく調べている訳ではないのでメモなんですが。

ではでは。




2005/12/08

お題「雑談を少々」

いや〜今朝は館山で初雪観測ですよ。先週前半はまだ暖かかったのになんちゅう季節の飛び方なんじゃろう。

○春審議委員の講演

まあ失礼ながらあまり注目されない人なんですが、昨日行われた講演に関しても特に材料視されませんでした。材料視されなかったのでスルーと言いたくなる所ですが(笑)、俺様メモでもあるドラめもんとしましては「講演がありましたなあ」という記録だけはつけておくのでございました。

前回お話があり、今回話が無かったのは金融政策運営に関してでして、10月4日の講演では『量的緩和政策の枠組みを変更すべきかどうかの決定は、早すぎても遅すぎてもいけない訳ですが、私自身はどちらかと言えば再びデフレに戻らないことを重視しながら約束の条件に照らして判断していきたいと考えています。』って言及があったんですけれども、今回は枠組み変更に関するタイミングに関してのコメントがスルーとなっています。

で、今回に関してはこれがまた「どう見ても展望リポートのまんまです。本当にありがとうございました。」という所でして、ここの所何だかんだと日銀に対する風当たりが強くなっている(理屈にならない理屈をこねくりまわしてるんだから自業自得ですわな)状況にやっと審議委員の皆様お気づきになられたのではないかと勝手に想像しております。

あるいは、昨日ご紹介した本石町日記さんご指摘の武藤副総裁の「現在において言えること以上のことを申し上げるのが透明性向上になるのかと言えば、それはむしろノイズを発信してしまうことになってしまう」ってこと(即ち市場との対話のあるべき姿だと思うんですが)がようやく審議委員の間で共有されてきたのかも知れませんね。まあそれならそれで良い傾向ではないかと思います(記者会見はフォローしてないので何とも言えませんけど)が。

ということで本件はあっさり味でスルーなのでありました。


○2段階解除論がコンセンサスって感じですかね

昨日ご紹介した岩田副総裁の記者会見にもございましたが、まあ金融市場的なコンセンサスってどの辺にあるのかよって事になりますと、来年度入りする前後までには(勿論その間のコアCPI次第ですが)量的緩和政策を解除して金利政策への移行をするものの、ゼロ金利(言い方としては「ゼロ金利」とはならないでしょうが、誘導目標はゼロ近傍になるんでしょ)政策を継続する事によって政府筋との折り合いをつけるって感じになるんでしょうって所ではないかと。

問題はそのゼロ金利がいつまで続くかって話になっている感はありまして、まあ正直それは判らんとしか言いようが無く、要するにコアCPIがプラス転換した後にどのような上昇カーブを描いていくかって事に依存するだけのお話でしょう。で、その点について日銀があまりごちゃごちゃと言うのは「ノイズ発信」になるんじゃないでしょうかねえという所です。

政策ロジック重視派のあたくしとしては、量的緩和解除をしてゼロ金利継続というのであれば解除もしなくて良いのではって思うんですけど、まあこれだけ騒動モードになってしまうと解除をやっぱ遅らせますって訳にも逝かないでしょうから現実解としては2段階解除という政策ロジックとしてそりゃ如何なものかというのになるんでしょうな。

その割には相変わらずイールドカーブが下がってフラット上ってスティープという展開が続いている(昨日はブルフラットしましたが、それは買入消却に30年債が入るとかの影響もあったでしょう)件に関しては市場の内部需給的な別の問題に起因すると思われますが、まだ考え中なのでいずれ。



○マッチポンプ恐るべし(某金融新聞ヲチ)

日本が誇る金融のプロフェッショナル向けのクオリティーパーパー(笑)としてなんちゃら金融新聞という日刊紙がございます。何せ1部220円ですよ先生。で、まぁその新聞さまは昨日の最終面「スクランブル」記事で「オプション売りの怖さ−相場急伸で思惑外れる」ってお話を書いておられました。

あんまり記事を引用しまくると著作権がどうのこうのという話になりますので端折って紹介すると、相場膠着を見越して暫く前まで大流行だったオプションの売り(基本的にはストラングル売りですな)でお小遣い稼ぎをしていた投資信託やら個人投資家やらがここもとの相場急伸で香ばしい事態になっているというお話でございます。で、顎が外れそうになったのは記事中のこのくだり。

『オプション建玉の増加には、ネット証券の普及で取引開始までの障壁が下がり、オプションを売る個人が増えた事も背景にある。(中略)プロの投資家にも難しいオプション売りに、個人がどの程度リスクを認識しているかは微妙だ。』(日経金融新聞12月7日朝刊20面記事より引用・・・あ、名前書いちゃった!)

え?当たり前の記事じゃんと思うのはヲチャーとしてはまだまだでして、ここを見て「あれれ?」と思ったあたくしはてめぇのドラめもん過去ログを調べてみるとこれがまたあるわけですよウッシッシ。本年5月12日のドラめもんで暇ネタ的に採り上げたのが5月9日朝刊の日経金融新聞1面記事でございます。

という訳で昔書いたものを引っ張り出します。

(本年5月12日に書いたお話)
週明けの経済新聞はネタが困るらしくて色々と楽しい記事が登場するものであります。で、ちと古い話ですが今週月曜の日経金融新聞1面の楽しい煽り記事について。(以下あまり債券投資と関係ない話が延々と続きますのでヨロシク)

記事のお題は「個人も参戦『プロ市場』」ってことで、最近ネット専業証券を中心に債券先物やら株価指数先物の取引をやってみましょ(注:ここ変ですな。やってますよの間違いでしょう>自分)って事になっているんですな。ど〜せてめぇが個人で出来ない(注:証券会社の人は先物などの「投機的取引」を個人でやるのは厳禁です)話には思いっきり疎いあたくしは「ほうほう」と感心することしきり。

まぁ大体この手の記事は「皆さんも参加しましょうおっほっほ」という話なのですが、紹介されている取引がお題の順に「先物の裁定取引=比較的堅実」「オプション売り=それなりのリスク」「債先売り・株先買い=かなりプロ向け」、さよですか。
(蒸し返し終了)

売買を煽る記事を書くときには「それなりのリスク」と標榜しておきながら「プロの投資家でも難しい」「個人がどの程度リスクを認識しているかは微妙だ」と早速叩きに回るという素晴らしいマッチポンプクオリティには頭が下がりまくって立位体前屈モードになってしまいます。もうね、アホかと馬鹿かと。ええまあ書いている人は(そのときの記事をスクラップするまでマメではないので正確には判らないのが残念ですが)別人だとは思いますけど、同じ新聞で売買を煽る(いやまあ只の事例紹介記事ですよというのが公式見解でしょうけど)だけ煽っておいて、不具合が発生すると今度は「それ見たことか」的な記事を書くのは如何なものかと思いますけどねえ。

そんなのに一々粘着していちゃもんつけるあたくしも如何なものかとは思いますけれども、あっはっはっはっは(自爆)。





2005/12/07

お題「岩田副総裁記者会見雑感/その他」

ちと古くなりましたが岩田副総裁記者会見のお話を。

○岩田副総裁の記者会見

先週はご案内のように岩田、武藤の両副総裁がスピーチをしておりました。各地で行われる金融経済懇談会では記者会見がセットで付いて来る事が多く、そちらもフォローするわけですが。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0512a_f.htm

30日に行われた講演後の記者会見。前半は鹿児島県経済に関する質疑が続き、後半は金融政策に関する質疑なのですが、質疑応答が見事に一つの流れになってまして、まともに紹介しだすと記者会見後半部分を丸々引用しそうな勢いなので、ポイントと勝手に思ったところを引用含めて少々。

・実質マイナス金利運営に関して

今回の講演と記者会見では米国がデフレ回避の為にFF金利を1%まで下げて実質金利をマイナスにして政策運営を行い、デフレ回避に成功したという指摘がありまして、その点が一番注目されておりますわな。で、その件の質疑応答を見るのですが。

『(問)量的緩和政策解除後の政策運営についてお伺いしたい。講演の中でも、「物価安定化のアンカー」という表現をお使いになったが、量的緩和政策は消費者物価指数にリンクすることで、政策の透明性とか期待の安定化に役立ったと思う。しかし、量的緩和政策の解除後、政策の透明性とか期待の安定化をどう維持していく方策があるのかについて、インフレ・ターゲットについての見解とともに、考えを伺いたい。』

『(答)米国の経験でとても印象深く思うのは、実質金利がマイナスの期間が続いたということもあるが、コアの消費者物価指数であれ、コアの個人消費デフレータであれ、それが1%のところに来た時に、「このまま行ってしまうと1%を割っていき、デフレのリスクが相当高まってくる」という判断を米国の連邦準備制度理事会はされたのではないかと思う。偶然ではあるが、フェデラル・ファンド・レートも1%という相当低い水準にもっていき、しかもそれを相当の期間やるということを約束しながら、透明性の高いかたちで政策運営をされたのではないかと思う。』

ここまでは講演で話をしていた内容です。

『そのことを考えると、少なくとも米国の中央銀行は、デフレにならないための「のりしろ」というものを1%程度辺りに置いておられるのではないかと考えられる。私は日本の場合にも、そういう考え方があり得ると思っている。』

『ただ、私がもう一つ付け加えなければいけないと思うのは、足許の数字が1%にまでならないとデフレ・リスクがなくならないかというと、必ずしもそうは思っていないということ。経済の先行き、例えば予測期間、今後1年半とか、場合によって2年ということになると思うが──展望レポートのタイミングによって、多少ずれがあるが──そういう期間において、基調的なコアの消費者物価指数、実力ベースのコアの消費者物価指数で1%程度が展望できるといった考え方について、日本も考えていいのではないかと思っている。』

と言う事で、米国が実質マイナス金利を相当期間に渡り実施した事を評価しつつ、日本に当てはまめた場合はどうよって話をした場合に、マイナス金利の長期化という点については微妙に言葉を選んで断定的なお話をしては無いように思えます。所謂2段階解除論(量的緩和政策を解除してからゼロ金利政策になるという奴)っぽいお話はしていますが、そのゼロ金利自体がどの位の期間になるのかって話についてはどうなのかなあという印象。

従来から岩田副総裁は糊代論を展開してまして、その数字については1%という数字を出していましたが、じゃあコアCPIが1%を超えるまでゼロ金利のままにおいて置くのかという問題に関しては、上記最後の部分にありますように「1%程度が展望」という表現をしてますのでそこは微妙なんジャマイカ?

この前の方の質疑応答で『金融政策を変更する場合、その効果が現れるまでに財政政策よりも少し時間がかかるのが実態であり、1年とか1年半とか期間を経て初めてその効果が現れるということを念頭に置きながら政策運営を行っている。』と岩田副総裁は言及してまして、なおかつ岩田副総裁は量的緩和政策の量の効果について積極的な評価をしていますので、糊代ポイント(今勝手に作った造語)の1%に到達した頃から引き締めプロセスに入るのはさすがに金融政策変更が遅れるのではないかと考えているのかなあと勝手に想像しましたがどうでしょうか?

まーそりゃ同じコアCPI1%でもCPIの上昇幅が縮小しながら1%になっているのと上昇しながら1%になっているのでは話が違う訳ですもんね。

ということで、この論点に関してその後も質疑応答が続きましたが(ってしかし妙に質問のポイントが秀逸なのは注目講演だけにあんな人やそんな人が鹿児島まで出張ったからに違いない^^)この辺に集約されるかなあと。

『(問)そうすると、必ずしも何%までいったらとかそういうことは考えない、むしろその背後にある需給の実勢だとか、それで判断して、例えば、経済実勢がしっかりとしていれば、パーセンテージは足許低くても、構わないということもあり得るのか。』

『(答)何度も申し上げるが、もちろん足許の物価の動きも大事だが、先行きの物価見通しがどうなるのか、先行き仮に+0.5%、+1.0%であるとしてもその時の上昇率を支えるメカニズムがどういうことになっているのかが重要な点である。そういった点をよく点検しながら、いわばすぐにデフレには戻らないような物価上昇率は、現在の日本経済が置かれた状況のもとで、どのくらいなのかということを煮詰めていく必要があると思う。それで、先程の米国の例で言えば、どうやら「のりしろ」として1%くらいを考えている様だと、私は受け取っているということである。そうした外国の経験も、参考になると思う。』


・量的緩和解除前の当預残高目標引下げには否定的

今回の記者会見での金融政策に関する話は殆ど上記のネタに終始したのですが(よって記者会見は話が飛ばず非常に読みやすい)、最後に量的緩和解除前の当座預金残高目標引下げに関して質疑応答が。

『(問)先程の講演の中で、量的緩和政策を終了後の政策対応で日銀当座預金残高の引き下げとおっしゃられたが、これは量的緩和政策を解除してから当座預金残高を引き下げていくという順番なのか伺いたい。』

『(答)当座預金残高の引き下げについては、政策委員会の中にもいろいろな意見がある。別に量的緩和政策のフレームワークの中でも当座預金残高を引き下げることは約束違反ではなく、そういうことがあってもいいのではないかという意見もある。私もその点については同意している。ただ、個人的には、早めに当座預金残高を引き下げるよりは、量的緩和政策を解除した後で、当座預金残高を自然体であまり市場にストレスをかけないかたちで下げていくほうが、現在の日本の景気動向や物価動向からみて、早く安定的に消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%以上となるという差し当たりのゴールを確実なものにするために、良いのではないかと判断している。』

面倒なので(おい)引用しただけで終了。


○武藤副総裁に関しては人の褌が登場するのでした。

武藤副総裁の講演に関しては経済倶楽部で行われたものでして、記者会見がセットされていたのではなくて質疑応答形式。そのため残念ながら日銀のWebにはその内容は載ってこないのですが、本石町日記さんがレポートしていますので既にご覧になった方も多いかと存じますがご紹介。

http://hongokucho.exblog.jp/3853991より引用させてもらいます。

「(政策運営で)将来のことについて、ある程度見通しを述べるのは非常に重要なことだが、それは現時点で、どこまで言えるかという問題に対しても非常に注意深くなければならない。現在において言えること以上のことを申し上げるのが透明性向上になるのかと言えば、それはむしろノイズを発信してしまうことになってしまう」

“自分の尾を追う犬”になってしまった日銀。もはや手遅れの感もある。武藤副総裁、もう少し早い時期にノイズ防止の手立てを取って欲しかった。ところで「市場との対話」を理解しているのは武藤副総裁しかいないような気も。日銀内の潜在的シンパは増えそう…。

(引用ここまで)

いや全く同感でございます。まぁこうなったら某審議委員のように獅子吼しても仕方が無いというか逆効果なんで、大人しく「市場が出口に連れてってくれる」状態を待った方がよろしいんジャマイカと存じます。

ではでは。




2005/12/06

お題「久々に諮問会議議事ヲチ/その他雑談」

○構造計算書捏造問題雑感いまさら

あまり背景知識の無い事に脊髄反射で反応すると碌な事にならないのですが、どうも気になるので一点。

捏造発覚絶賛拡大中に何度か(あたくしは少なくとも2回)耳にしたり目にしたコメントとしてあったのが「偽造するという前提でチェックしていなかった」って点ですわな。本件に関してもそうですけれども、あたくしの本業たる証券取引に関しても現在のチェック体制や罰則が「放置しておくと悪事を働く」というのをいまだに前提にしてないんじゃないかと思う次第。

かつてどこぞの証券会社が某機関投資家の保有株式流動化(ETF編成)案件で業者間のコンペでとんでもないスプレッドを呈示して取引を獲得しておいて(そこまではまあ良いのですが)、引値関与しまくって結局機関投資家様におかれましてはETFの条件が不利になるという正しく「安物買いの銭失い」となったという事例があり、平成15年事業年度のいつだか忘れましたが証券取引等監視委員会で犯則事例として摘発されてました。

が、別に不当利得が返還された形跡も無く、処分で課徴された金額は引値関与で稼いだ額には遠く及ばずという事でしたわな。

いやまあ規制緩和で事後チェック行政という方向性が間違ってるというつもりは無いんですが、チェックする方が従来の性善説対応だったり、犯則事例に対して取りうる罰則が整備されてないとか、まぁそういう点の整備をしないと「やったもん勝ち」の跳梁跋扈は止められない(全くゼロにするのは無理ですけど)のではないかと。



○相変わらず上滑りした理屈が展開されております

ちと昔の話になりますが11月22日の経済財政諮問会議。政府系金融機関の再編関係がお題でして、政府系金融機関を全部まとめてしまうというお話に関してこんな論議があったようで。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2005/1122/shimon-s.pdf

の8ページあたりから始まる議論。いや麻生さん相変わらず良い味出してますがな。

商工組合中央金庫(商工中金)と政策投資銀行を統合しちゃうって話に絡んで二階経済産業大臣が意見を出したあたりから。発言に関してはまともに引用するとやたら長くなるので一部をぶった切って引用します。上記URL先をご覧いただけると幸いかと。

(二階議員)『中小企業というのは、そう簡単に融資を受けられるわけではなく、現在の融資先約8万、組合に入っていて潜在的な融資先というのは280万いると言われるので、その中小企業に不安感を起こさせないためにどうするかということが大事である。中小企業は今日までの自らの経験で、銀行はいざというときには助けてくれないと、世間ではそういうことがよく言われているので、我々は、政治として、その民の声はちゃんと聞いておく必要があると思う。』

まあこれは一つの意見としてありうべきお話ですが、竹中先生の返しが謎。

(竹中議員)『商工中金の果たす役割は大変重要であり、だからこそ市場の中でしっかりとやっていけるような仕組みで出発をさせてあげる、そういう制度設計をしていくことが大変重要だと思う。』

いやですから二階さんは中小企業金融を民営企業オンリーに任せて大丈夫でしょうかって話してるのに、「商工中金が市場の中でしっかりやっていけるように」ってんじゃあそもそも答えになってませんが。まぁこの部分は「中小企業金融が何かの拍子にシュリンクしないような制度設計をする」という風にも取れるのでまあそういう事だと好意的に解釈しますがその次が凄い。

『民間議員から、A案だけれども留保条件というようなお話がしきりに出てきたが、私はその議論がよくわからない。私自身金融機関で働いた者として、金融の機能として、中小企業の融資と国際融資には、やはりエコノミー・オブ・スコープが働くと思う。だからこそ東京三菱銀行も三井住友銀行も、100万円の個人融資と国際融資を分けていない。それが金融の世界の常識であると思う。』

ここにある「エコノミー・オブ・スコープ」っつーのは前回の諮問会議から出てる言葉でして、要するに「範囲の経済」って奴なんですが、『金融の機能として、個人融資と国際融資には、やはりエコノミー・オブ・スコープが働く』ってのはそりゃちょっと違うんじゃネーノと思いますが。それに個人融資と国際融資を組織上分けているみずほFGはスルーですかそうですか(笑)。

それ以前の問題として、竹中先生のお勤めになっていた日本開発銀行は100万円の個人融資はお取扱になってないと思うんですが、その経験とやらを持って金融機関で働いた者として云々とか言われても困る訳ですが。それに先生は調査畑じゃないの?

それから、最近の大手(だけじゃないが)銀行って法人融資関連取引の機能を基幹店舗や本部に集約して、営業店によっては個人取引と出納業務に特化するってのが主要な流れだと思うんですが。確かに同じ会社の傘の下にはいますけど、そういう意味では別に範囲の経済が働いている訳ではなくて、単純に社内分業状態になってるだけじゃないでしょうかねえ。

で、その後ひとくさり本間議員が竹中議員の意見(A案留保条件の議論が分からないって所)に関して説明しているのですが、その後に出ました麻生センセイ。イイヨイイヨー、ということでこのくだりはそのまま引用。

(麻生臨時議員)A案が良いという話の中で、大銀行もそうだったという説があったが、だから大銀行はだめだったのではないか。

(竹中議員) 大銀行でも、良いところと悪いところがある。

(麻生臨時議員) 忘れないでほしい。政府としては、大銀行を救うために幾ら金を突っ込んだか。

ということで、麻生さん良い所で突っ込むわ〜って感じですね。


時々思い立つとこの経済財政諮問会議の議事要旨を読むのですが、読むたびに何というか脱力感を激しく感じるのは気のせいではあるまいて。困ったもんです。

今回の竹中さんの理屈に関しても、「まず政府系金融機関を一つにする」という結論があって、それに対して理論構築をするので、「国際融資と個人融資に範囲の経済が働く」という無茶な話(しかも根拠が個人融資をお取扱いでは無かった筈の金融機関にお勤めになった経験??)が飛び出してくる訳で、本気で言ってるのなら理解に苦しみますし、結論に持っていくためにトンデモを承知の上で理論展開しているのであれば、それは誠実さに欠ける態度では無いかと思う訳ですよ。

まあ結論先にありきで強引な理屈を展開する人って言えばどこかにもいたような気がしますが、どっちもどっちじゃんという感じですわな。とほほ。





2005/12/05

お題「武藤副総裁講演」

平均株価の上昇っぷりに半ば唖然としながらも、株価上昇の後に金融引き締めが来ちゃうと1999年から2000年を思い出してしまうあたくし。まあ不良債権問題が片付いている事になっているらしいので(政府部門に押し付けているのですが)前回の様な悲惨な事にはならない・・・と信じたいですが。

朝冷え込むと寝坊して内容が簡単になるという判りやすいドラめもんクオリティですが、今朝は豪快に寝過ごしたので甚だ簡単に。この手のネタはある程度生ものなものがごさいまして、先日はネタリスト作りましたが、気が付くと風化しちゃうものもあって優先順位って結構難しいのよこれが。


○武藤副総裁講演が買い材料になったのか?

金曜日の債券相場は輪番オペにぶつけたのだか何だか判りませんが中期ゾーンに玉ぶつけ攻撃と、中期売りの超長期ゾーン買いという入替っぽい動きで先物が売られやすい相場となっておりました。で、中期単売り(またはスワップの払い)攻撃の影響?で先物下げている中で武藤副総裁の講演待ちという感じになったので、週末の後場でもありますし何となく売りが売りを呼ぶと言う形になったようですな。

まーこの株高円安でよく値持ちしてるわな〜って雰囲気が流れてましたし、勢いついて下がりだすと「ああやはり」って感じになったという所ですわな。そんな中に出てきた武藤副総裁の講演なんですが、最初に出てきたヘッドラインがやや穏やかな話だったのと、望ましい物価上昇率がどうのこうのという話が出たので短期的(短期的というのはデイトレードレベルでの短期ね)に売られ過ぎたものに一旦買い戻しが入ったというところのようです。

よって武藤講演は買い材料にはなってなかったというのが正しいかと存じます。と珍しく相場の話をしたのは複数のディーラー(=おともだち)と相場話と武藤講演話をした結果でございますので、それなりに本人はちゃんと相場後講釈しているつもりです(^^)。


○どう見ても日銀の公式見解です

あたくしはヘッドライン出てから(ニュースベンダーのヘッドラインが出だすのと日銀のWebにアップされるのがほぼ同時なので)日銀Webを見に行き、全文を速攻で斜め読みしたのですが、感想は「どう見ても日銀の公式見解です。本当にありがとうございました。」ってところですな。

内容を総括すると、前半は何気にインフレファイターっぽいお話が連発しておりまして、後半から「望ましい物価上昇」に関するお題でお話を展開することによって政府にリップサービスをしております。で、なおのこと素晴らしいのは、望ましい物価上昇率の話をするのに英国やら欧州、米国の例などを数字を出して持ち出して説明する事によって「望ましい物価上昇率」に関する数字的なイメージを持たせつつも日本に関しては「よく判りませんな〜」と具体的な数字の言及を全く行わずに言質を与えていない事ですな。

講演要旨の目次を見ると大変によく出来ているとなお感心致します。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0512b.htm

目次の構成はこうなってます。

(はじめに)
1.「物価の安定」はなぜ必要か?
  (中央銀行と「物価の安定」)
  (「相対価格」が持つシグナル機能)
  (所得分配への影響)
  (物価下落固有の問題)
2.「物価の安定」と「国民経済の健全な発展」
3.「物価の安定」をどのような指標で測定するのか?
  (消費者物価指数の位置付け)
  (消費者物価指数以外の物価指標)
4.量的緩和政策と消費者物価指数へのコミットメント
5.望ましい消費者物価上昇率
  (物価指数のバイアス)
  (物価上昇率の「糊代」)
6.「物価の安定」と金融政策の透明性向上
(おわりに)

このヘッドラインがよく出来ていると思うのは、最近とみに政治干渉をしたがっている与党の方々が喜びそうなお題が並んでいる事で、ここを見ると「物価下落はイクナイ!」「物価指数には上方バイアスがある!」「物価上昇率の糊代を検討すべし!」と言っているように見える所ですな。いや勿論そういう話もしているのですが、返す刀で別の論点もお話ししてまして(例えばお題では所得分配への影響って書いてある所はインフレとデフレのどっちもイクナイって話をしてますし)、非常に慎重かつ丁寧に作りこんである講演内容となっています。どこぞの審議委員とは大違い。

内容に関してはいつものように話の矛盾点を突っ込んだり、論旨不明快なところに関して嫌味たっぷりに肴にするという余地は殆どございませんでして、いやあの日本銀行様におかれましてはいつもこんな調子であれば政治から恫喝付きで干渉攻撃が飛んでくるような(正直言って今の日銀(の政策委員会)に批判的スタンスのあたくしであってもあの恫喝的態度は如何なものかと思います)隙を作る事もないのではと思いますな。

勝手に想像するに、このテキストは副総裁と日銀の事務方がきっちり練り上げて作ったという感じでして、優秀な官僚として名高い武藤氏が日銀副総裁という立場とその役割に対して最もふさわしい行動を取っているというのがうかがえるものです。


それはいいのですが、内容に関して引用を始めると終わらないので、本石町日記さんのところでも既に紹介されてたんですが、資産価格上昇問題について言及した所を引用しておきます。

最近ちょっと上昇ピッチが早くなってきた株価指数もそうなんですが、あたくし的には最近の公募REITなんかのディスクロを時間があると丹念に見てるのですが(その成果はご報告するかもしれないししないかもしれない)何か投資対象物件がファンド間でぐるぐる回ってませんですか(物件の入替してるんだけど、購入先と売却先が別会社なるもよくよく見ると同じ資本系列だったりするような事案とか)資本がねえっていうのが気になって仕方ない局地的不動産価格の絶賛大上昇がかつてPER何千倍まで買われたアイテーバブルを思い出させますわな。

という独り言を余計にかましましたが、資産価格に関するくだりは長いので適当に段落わけしてご紹介です。

『1990年代の日本経済に大きな影響を与えた1980年代後半のバブル期を振り返りますと、景気拡大局面は1986年に始まり、実質経済成長率は1987年から1988年にかけて年率5%を上回る高成長を記録しました。ところが、輸入物価の下落や電力料金の引き下げといった供給サイドの要因が強く働いたことから、当時の消費者物価指数の上昇率は前年比ゼロ%台と、極めて落ち着いた状況が続きました。』

『その後、消費者物価指数の前年比は、徐々に上昇ペースを速めましたが、前年比で3%台といった上昇ペースを示すに至ったのは1990年から1991年にかけてであり、景気拡大局面に入ってから既に4年を経過してのことでした。事後的にみると1991年に終焉を迎えた景気拡大局面の最終局面ということです。この間に、地価をはじめとする資産価格の大きな変動が生じて、その後の実体経済の長期低迷につながったことは、ご承知の通りです。』

『こうした苦い経験は、物価が足もとで安定していても、それがいつまでも続くとは限らないこと、つまりバブル期の経験で言えば、輸入物価の下落や電力料金の引き下げなど供給サイドから物価を押し下げる力が働いているケースでは、景気拡大に伴う物価上昇圧力を過小評価し、その後の物価の上昇テンポが予想以上に加速してしまうことがあり得ることを示していると考えられます。』

『また、物価が表面的には安定している場合でも、資産価格の大幅な変動等のかたちで経済に歪みを内包し、むしろ先行き経済の健全な発展を阻害するリスクを蓄積している可能性もあります。その時々において「物価の安定」が実現しているかどうかを適切に判断することは容易ではありません。』

『ただ、「物価の安定」に責任を有する中央銀行としては、「物価の安定」は、あくまでも足もとだけでなく将来にわたって持続し得るものであるかどうか、経済の健全な発展と整合的なものであるかどうか、という観点に立って、物価情勢を常に点検していくことが重要であると考えています。』

暫く前(昨年でしたっけ)にBOEが金融引き締めをした時に当時は物価上昇率は安定目標の下限近くにいたのですが、住宅価格に代表される資産価格の上昇を冷やすために金融引き締めをしたってえのがありまして、まぁ各国は日本のバブル大発生と大崩壊から色々と考えているというのがございますので、まぁその辺を意識しているのかなあと思うのでありました。

で、他の話に関しては豪快な寝坊のせいでご紹介する時間がないので、講演テキストをよみませう(おい)。いやまあよく出来てます(偉そうな言い方でスイマセンが)よ。





2005/12/02

お題「水野審議委員、獅子吼するの巻」

本当は岩田副総裁の記者会見を昨日の続きでお取扱いする所ではあるのですが、昨日は水野審議委員がJCIF(って何でしたっけ)で講演を行ったそうなのですが、人づてに聞くには水野審議委員大いに吼えるの様相だったらしく(たぶん話が5倍くらいになってると思うが^^)誠に燃料投下な要旨が出てきましたのでご紹介。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0512a_f.htm

○景気に関しては「息の長い持続的成長が続く」見通し

景気に関する件でも突っ込みたいところ(『電力料金や携帯電話料金の値下げは、家計の負担減少を意味します。消費者の生活水準が向上することは望ましいことであり、これらを新たなデフレ要因という解釈は違和感があります。』ってあたりとか^^)もありますが、その辺はbewaadさんにお任せしようとしたら既にエントリーがありつーかこっちに振られており、先を越されましたな(^^)。

引用するとちょっとあちこち長々となってしまうので、省略しちゃいますが、景気の見通しに関しては基本的に『「派手さはないものの息の長い景気回復を続ける」』という文脈で説明をしております。

『いずれにせよ、デフレが懸念されるような状況であれば、量的緩和政策を解除することにならないのであり、現状を多方面から分析することによって「総合判断」を慎重に行っていくことになります。』

と、物価見通しのパラグラフ最後を締めくくってますので、まぁ景気判断を行って物価上昇懸念があって国民厚生上問題が生じると日銀が判断すれば堂々緩和解除でも利上げでもやっていただければと存じますんでここまでは良しとしまして講演の前半部分は華麗にスルー(^^)。

で、肝心の金融政策運営の部分なのですが、以下「???」感漂うゆんゆんなお話が展開されるのはやはり結果先にありきなのではないかと思いたくなったりするのは邪推ですねそうですね。


○市場の金利機能が封殺されている割には・・・

ご案内のように、水野審議委員は「量的緩和解除前に当預残高目標を段階的に引き下げる」という提案を行っているのですが、この引下げ論の根拠に関して色々とお話をしております。

『金融市場の一部では、来春は金利先高観が今よりも強まっている可能性が高く、解除前に当預目標を下げておかないと、TIBOR3ヶ月物金利が0.5%を超えるとの見方もあります。金融政策の目標を「量」から「金利」に変更した直後の市場の混乱を最小限にとどめる上でも、当座預金残高目標を解除前に引き下げることを選択肢として排除しない方が良いと思います』

で、もっと後の「金融市場の健全化に向けて」って部分は水野審議委員の従来からの主張ですが、そこでは量的緩和政策の「量」の副作用のトップに毎度お馴染みの見解がございます。

『健全な経済運営に極めて重要なメカニズム金利機能を封殺し、市場の金利発見機能を弱めていること』

えーっと、先行き現在の量を放置しておくと金利先高感が強まってTIBOR3ヶ月物金利が0.5%を超えるってその前に言ってることと話が矛盾してませんか?まあ百歩譲って解除した途端に金利が跳ね上がるって意味で話をしてるとしたら、そりゃ幾らなんでもマーケットを馬鹿扱いしてねぇかと思う次第。幾ら何でも例えば次回の決定会合で緩和解除するって見通しになったら足元の資金じゃぶじゃぶにしたって金利はちゃんと上りますがな。先日来の地均しモードの時にちゃんと長めの短期金利上ったじゃん。

市場の混乱がどうのこうのって話がありますが、経済情勢に則して粛々と政策運営を行っていれば一時的に混乱しても収斂するところに収斂する訳で、過去2年の間に金利がアホのように跳ね上がった時って日銀が急にやる気満々の姿勢を見せてサプライズを与えてくださった時なんですけど・・・・・


○金融政策と財政の話もしてますが・・・・

基本的に財政政策と金融政策に関するリンクというのは如何なものかという主張を水野審議委員は行っております。まぁ賛成か反対かというとあたしゃ微妙ですな。

『マクロ経済政策全体でみれば、財政再建や構造改革が進められようとしていますが、そうした政策を推進するためには、緩和的な金融環境が好ましいとの考え方があることは承知しています。(中間部分割愛)したがって、先述のような副作用を伴う量的緩和政策を継続しなければ、財政再建や構造改革が実現しないものなのかという疑問が生じます。また、財政再建や構造改革と金融政策では念頭に置くタイムスパンが異なるため、財政再建や構造改革を実現するために量的緩和政策を持続することは、金融政策の機動性を過度に縛ることになりかねません。』

ま、これは一つの主張ですが。マネーフローの話をしているところではこんなお話を。

『バブル崩壊後、わが国の資金の流れは、非金融企業部門の経済活動が鈍化する中、公的部門に資金が流入する構造が続いてきました。しかし、非金融企業部門がいわゆる「3つの過剰問題」の解決にメドをつけてきたことから、マネーフローが重要な転換点を迎えつつあるように思われます。』

ということで、マネーフローの変化がおきていて国債への資金流入が今後大丈夫でしょうかって話をしてるんですが、この人の説明はどうも長い(お前が言うなと言われそうですが)ので、ピンポイントで引用がしにくいです。で、まぁ金利が低いのでリスクマネーに金が行くという話のほかに長期金利を絡めたお話もしております。

『民間銀行は、国債市場のメインプレーヤーです。地域金融機関の多くは預貸率が低下する一方、預証率が上昇し、国債保有残高も増えつづけてきました。しかし、金利上昇局面において、預超構造に変化が生じて、民間銀行の保有国債のデュレーションを短期化する可能性や金利上昇局面に入ると大手銀行の流動性預金が予想以上に早く減少し、「コア預金」対応の国債保有を非常に保守的に行う可能性といった国債保有残高を減らすリスクがあります。』

『マネーフローの変化によって、政策の枠組み変更が長期金利に与える変化が潜在的に大きくなっている可能性については、注意してみていきたいと思います。量的緩和政策の枠組みを変更した「後」には、市中短期金利のボラティリティーが高まる可能性があります。「金利正常化」をできる限りソフト・ランディングさせるためにも、日本銀行としては政策の機動力を損なわない範囲で、金融政策の透明性を高める努力を続けていくつもりです。』

ということで、市場金利の混乱を避けるためにも当座預金残高目標の段階的な引下げが必要ではないかという論旨を補強しているのですが、財政政策とのリンクという問題を否定的に扱いながら、ご自身の当座預金残高目標引下げ論になると急に長期金利上昇すると財政にも悪影響とか言い出すのは何というかちょっと都合が良すぎなのではないでしょうかねえ。


○解除の理由付けに別の話を持ち出すのは如何なものか

という訳で、さっきも申し上げましたが、解除に関する主張で非常に遺憾の極みなのは、ここであるような話を持ち出すところでございますわな。水野さんの場合は「市場への配慮」という話が多くて、市場の片隅でメシを食わせてもらっているあたくしとしてはそりゃまあご配慮は有りがたいという気持ちは無くはないのですが、どうもこうダシに使われているだけのような気がして誠に憂慮の念に耐えませんという所でございます。

景気見通しに関して堂々と「このままではインフレが国民経済上問題になるので金融引き締めが必要」と言って解除するなら兎も角、なんでそう搦め手から話を始めるんでしょうかねえと思うのでした。

他にも色々突っ込む所があるのですが、時間も押してきたので(それはこっちの事情)まあ他の方が突っ込んでくれると期待して(おい)、最後の部分に関してちょっと。


○で、どっちなんだYO!

結びの部分ではこういう話をしてます。

『日本銀行は、現在、極めて緩和的な金融政策運営を行っています。また、先行きについても、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって物価の上昇圧力が抑制された状況が続いていくと判断されるのであれば、引き続き極めて緩和的な金融環境を維持していけると考えています。展望レポートでも、金融政策の枠組み変更やポスト量的緩和政策における短期金利の水準・時間的経路について、「全体として、余裕をもって対応を進められる可能性が高い」としました。』

なるほどそうでございますか。

『今回の景気回復は派手さに欠けるため、金融政策の枠組み変更に対する慎重論が出ることは理解できます。しかし、戦後の歴史を振り返ると、わが国経済をソフト・ランディングさせない限り、日本銀行は政府や金融市場から批判を受ける、すなわち「結果責任」を問われています。』

余裕をもって対応できるのなら「経済をソフト・ランディング」とか言うようなお話が出てくるんでしょうかねえ。結局のところ余裕を持ってるのか持って無いのかよー判らんですわな。

まぁしかし他にも何というかそりゃどうよ感漂うお話が多くて、本来の予定を変更して臨時ニュースをお送りさせていただきました(^^)。甚だ簡単でしたが。





2005/12/01

お題「岩田副総裁講演でしたが」

早いもので今年も師走でございます。体感する時間経過が加速度的に速くなる現状を少々恐れつつある今日この頃のあたくし。

○本題の前に積読状態のネタを少々

日銀方面からだけでも昨日は大注目の岩田副総裁講演(正確には挨拶)以外にもネタが投入されておりますので一応そのリストをば。

http://www.boj.or.jp/set/05/set0511a_f.htm
日本銀行当座預金決済における次世代RTGSの展開

→RTGSにネッティングもどきの機能をつけた次世代RTGSを作りましょうってお話。現在のように超過準備を保有するコストがまあバラスシート使用代程度しか掛からん間は兎も角、コストが無視出来ない状況になった時に今のままでどうなのよって事は重要。昔々から思うのですが、それよりもシステミックリスクと言う観点から申し上げれば、日本銀行の決済システムという一番根っこの部分に山のように直接参加者がいる現状も何とかした方がってのは永遠の課題でもありますが。

http://www.boj.or.jp/ronbun/05/rev05j17_f.htm
日銀レビュー・シリーズ (不確実性下の金融政策)

→式が沢山出てくる時点で数学の出来ない理系(おい)のあたくしは死亡確定ですが、まぁ何と申しますかこの時期に出すと燃料投下扱いにならないかねぇとちと心配ですわな。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/mpo0511a_f.htm
「金融調節に関する懇談会」における白川理事スピーチ「短期金融市場と日本銀行」

→そんなにややこしい話はしていないようですな。

その他、先般の経済財政諮問会議でのオモロイやり取りとかもあるんですが、本業が忙しいので時間が(汗)。ということで言い訳のように積読リストを作って置くの巻。(そうしないと時間の経過と共にネタを忘却するドラめもんクオリティ)


○久々に持論展開の巻(岩田副総裁講演)

昨日は注目の岩田副総裁講演(正しくは鹿児島県金融経済懇談会における挨拶です)が行われ、その後の記者会見も注目されていました。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0511b_f.htm

先に結論を言うと、久々にハト派(タカ派ハト派で区分するのもちょっと違うような気がしますが、話を単純化するためにこの表現を使います)的なお話をしてますなあと昼休み時間にアップされた挨拶要旨を見て思ったのですが、いざ後場が始まってみるとあまり市場は反応せず。「???」と思いつつも本業が忙しくちょっと目を離している隙に14時半頃から債券上昇の株価指数下落をやらかしておりました。

一応後講釈では岩田副総裁の記者会見に反応したことになっているのですけれども、報じられた記者会見内容をさらっと読んでいると「これで反応するなら講演で何故反応しない??」と不思議に思うあたくしなのでありました。相場が動いたのは他の要因じゃないかと。

経済情勢に関する部分も中々興味を引くものがございますが、相場に関連するお話はなんといいましても金融政策はどうよってあたりのお話でございます。


・実力ベースのコア消費者物価指数

前もこの話を岩田副総裁がしていた筈なのですが、どこで説明していたのかてめぇの過去ログを見ても直ぐに見つからなかった、悲しい。

『このように、生鮮食品に加え、石油価格や公共料金などの特殊要因を除いた消費者物価指数(これを私は「実力ベースのコア消費者物価指数」と呼んでいます)は、着実にマイナス幅を縮小し、足許ではほぼゼロの状況が続いています。私は、「実力ベースのコア消費者物価指数」の動きを考えた場合に、先行き経済の基礎条件の改善が続き、回復が持続的であるとすれば、経済全体の需給が引き締まるにつれて消費者物価の変化率は、ゆっくりとしたペースではあるけれどもプラスの幅を広げてゆくものと考えています。』

講演要旨に図表が付いているのでそれを見ますと、エネルギーとして電気ガス灯油にガソリン、特殊要因は診療代、タバコ、米穀、電気代、石油製品、固定電話通信料金と、まぁこの辺をさっぴいたぶんが実力ベースって事のようです。


・デフレ脱却の定義:消費者物価と個人消費デフレーターに注目

挨拶後半のあたりにこの小見出しの部分があります。まぁ全文読んで頂戴って所ですけれども端折りまくってご紹介するの巻。

『かりに先行き生鮮食品を除く消費者物価の変化率が安定的にプラスになったとして、それがただちにデフレ脱却を意味するものであるかどうかについては、多くの議論があります。』

ということで、家計部門への影響に注目して消費者物価+個人消費デフレーターを見るのか、経済全体という意味でGDPデフレーターに注目するのか、資産価格の変動を見るのかという3つの論点を上げて説明をしてますが、そこは飛ばしまして結論の部分をば。

『中央銀行が重視すべきであるのは、国民経済全体の厚生を測るという観点から、家計部門にとって重要な物価指数である消費者物価と個人消費デフレータであると考えています。』

ということですので、岩田副総裁がみるデフレ脱却に関しては、GDPデフレーターよりも消費者物価と個人消費デフレーターに注目するようですね。となるとGDPデフレーターは日銀の判断に対しては影響力小という話ですんで、政府がワーワー言う点とはちとズレが生じるのかなあという気も。

ちなみに、消費者物価指数と個人消費デフレーターの関係についてはこのようにコメントしています。

『一般的に言って、消費者物価指数には物価上昇を過大に見積もるという上方バイアスがあり、個人消費デフレータには物価上昇を過小に見積もるという下方バイアスがあります。(途中割愛)指数の作成方法の違いに着目すれば、消費者にとっての「真の生計費指数」は両者の中間にあると言ってよいと考えられます。アメリカでは、この2つの物価指数のバイアスによる差異は、0.5%程度と見られているようです。過去における日本の2つの物価指数の動きを比較して見ますと、両者の差はアメリカと比べてかなり小さいようです。』


・やっと本来の話がでましたな+デフレ脱却判断の注目材料

その次に金融政策運営という小見出しでお話をしております。

『私は、量的緩和政策終了の3条件が満たされるかどうかのポイントは、当初の約束通り、生鮮食品を除く消費者物価の変化率が「安定的にゼロを上回る」と言えるかどうかにあると考えています。それを判断していくには、物価に一時的な影響を与える個々の要因だけでなく、背後にある経済全体の需給バランスをしっかり見ていく必要があります。』

いやもう本来そういう話だったのに、先日来の福井総裁発言にもありますように、「先行き見通しがプラスで足元プラスだったら当然安定的にゼロを上回るでしょ」っていう地均しモード全開状態の昨今では足元CPIがプラスになって数ヶ月経過したらもう条件達成ですわなあというお話になってしまった訳ですわな。といういつもの悪態は兎も角として、岩田副総裁はどのあたりに注目しているかというお話が次に。

『そのためには、賃金と労働生産性の比率で定義される単位労働費用の動きや、日本国内の需給バランスで決定される消費者物価指数、換言すると生鮮食品のみならず石油関連財、公共料金などの特殊要因を除いた「実力ベースのコア消費者物価指数」などをしっかりと見ていく必要があります。』

つーことでユニットレーバーコストと特殊要因&エネルギー控除後のコアCPIを見るというお話になっております。

『他方で、単位労働費用の変化率がまだマイナスの領域にあることは、物価上昇へのモメンタムが、極めて緩やかであることを意味しています。この意味でかりに量的緩和政策を終了する場合も、その後の政策対応は、当座預金残高の引き下げを含め、充分に余裕をもって進めることができると考えられます。 』

当座預金云々の部分は微妙な表現ですが、記者会見で突っ込みがあったようなので本日は省略。で、ユニットレーバーコストに関してですが、このお話に則しますとこの部分がプラス転換してくると物価上昇のモメンタムが当然ながら高まるという話でもありますんで、まぁ雇用環境注目ではありますな。改善してるような感じではありますが、足元はインフレ期待のモメンタムはまだですかな。


・実質金利マイナス政策に関する言及

『ちなみに、消費者物価の上昇率が1%まで低下したことによってデフレのリスクに直面したアメリカの連邦準備制度理事会は、2002年から2004年にかけて実質FF金利をマイナスにする政策を続けました。そして、デフレのリスク回避を確認した後に、初めて金利引き上げのプロセスに入ったことは示唆的であると考えています。』

と、ここだけなのですが、FFレートを1%まで立て続けに引下げを行いデフレ突入を回避した点を「示唆的である」と言うのは副総裁という立場で、なおかつどこぞの閣僚や与党から日銀法改正などと恫喝されるという中央銀行として非常に憂慮すべき状況である事を勘案した結果の上での抑制された表現なんでしょうなあと思ったのは読みすぎでしょうかねえ。



・物価安定目標は量的緩和解除の後で

『日本の場合は、量的緩和政策の終了時には、極めて低い金利から出発するので、物価上昇率がプラスになるにつれて、実質金利はプラスからマイナスになって行きます。金利面からは、むしろ緩和効果が強化されることになるわけですが、政策運営に当たっては、経済物価情勢がどのような展開を示すのかをしっかり見極めることが重要であると考えています。私は、「安定的にゼロを上回る」という通過点を越した後に、「物価安定のアンカー」をどのように設定するかという課題を議論することが重要であると考えていますが、その際にも、先ほど述べたように、物価に一時的な影響を与える個々の要因だけでなく、背後にある経済全体の需給バランスをしっかりと踏まえることができるような仕組みを考えていく必要があると思います。』

実質金利マイナスの世界に入った時にインフレ期待をオーバーシュートさせない為に物価安定目標のようなものを設定すべしという主張になっております。今設定するという話ではない所は一応チェック。

という所で本日はこの辺で。