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2017/06/30

お題「本日は原田大先生の講演テキストに盛大にツッコミを入れるという不毛な超大作になりましたorz」

下にありますように今朝はツッコミどころの多い講演のツッコミを夜なべして作っていた物件の推敲をしてたのですが、さて市況確認しようとみたらロイター(ネット版)のニュースランキングの1位にこんなのが。

http://jp.reuters.com/article/harada-germany-polcy-idJPKBN19K1JT
Business | 2017年 06月 29日 21:07 JST
原田日銀委員、ヒトラーが「正しい財政・金融政策」 悲劇起きた

どういう文脈なのか分からん、というのは以下にありますように講演のテキストにはそんな話が無かったのでアドリブで話をしたのか質疑応答で話をしたのか分からんのと、記事だけ見ても文脈がよくわからんのですが、こういう切り取られ方をされるリスクというのを考えて政策当局者は例え話するにしたって言葉を選んで発言する方がよろしいのではないか(市中のチンピラコメンテーターがコメントするのとは全然意味が違う)と思うのですが、まあ講演の出来がお察しの通りという状況ですからねえ。

・・・・と思ったのだが、もしかしたら講演テキストの出来が悪すぎてツッコミどころが満載なので、講演テキストへのツッコミを回避する為にデコイを置いて・・・・(んなこたあ無い)。


○その前に欧米金利が上がっているようなのでメモだけ置いておく

そもそも市況確認のためにロイターとかモーサテチェックしているので。

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1JQ5RC
Markets | 2017年 06月 30日 06:08 JST
UPDATE 1-米金融・債券市場=10年債利回り6週間ぶり高水準、欧州で緩和策後退との見方

『米金融・債券市場では欧州の中央銀行が緩和的な政策を後退させる公算が大きいとの見方から米10年債利回りが一時約6週間ぶりの水準に上昇した。ただその後は米株価が軟調となったことで国債利回りは上げ幅を縮小した。』(上記URL先より)

「6週間ぶりの水準に上昇」とか言っても10年2.3%にも届いてないのですけれども、まあとりあえず出口ネタを欧州が打ち込んで来たら何かつられましたということなのか、それとも景気改善ネタなのかは知らん。

まー欧州に関してはどちらかというと「米国の正常化サイクルが頓挫しちゃうとこっちも正常化着手ができなくなるし、大体からして追加緩和の余地が無くなっているんだから景気サイクル的に下向きになりだす前に何か対応余地作っておかないと」という感じになっているんじゃないのかなあという気はややするのよ。金融政策当局って「全部弾を撃ってしまってもう丸腰」ってのは兎に角回避しようとする、というのが行動パターンなので・・・・・・・・・・・

と思ったのですがどうでしょうかね。いやもちろん糊代だけの話じゃないかも知れませんけど。


以下、不毛な超大作なのですが、本当の本当に政策的な意味が皆無なので、ただのエンターテイメントとしてご鑑賞いただきたいですし、皆様の貴重な時間を無駄にするのもアレなのでお暇な時に・・・・・・・・


○ということで例によって政策的な意味は無いが色々と突っ込んでみたのですが

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170629a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko170629a1.pdf
債券市場の機能と金融政策の誤解
資本市場研究会における講演
日本銀行政策委員会審議委員 原田 泰
2017年6月29日

ということですが、まあ普通の人が読もうとするとあっという間に苦痛の時間になると思います。この前の金懇は情けないという感じでしたが、今回の講演はもっと内容が酷くなっていまして、さすがにこれは殿堂級の馬鹿としか申し上げようが無くて、普通の神経で全文読めるという事はあり得ません、と言い切れますわこれ。

でもってまあ後でネタになりますが、この講演のリファレンスにてめえの著書がありまして、その共同著者に入っているのが今度政策委員になる人(天と地くらい差がある2名が就任されますが当然ながら地の方)だったりしますので、今後日銀大丈夫かとしか申し上げようがない訳ですが・・・・・・

#と本文に入らないうちから悪態モードですが


・そもそも入口の時点でオワットルのだがこれを耐えてツッコミながら読むのは苦行です

・・・・・とか何とか言ってますが、苦行苦行と言うと誰もこの先読んでくれないと思いますので、精々面白おかしくツッコミを入れて見ようかと思います、てなわけで始まり始まり。

『はじめに』から。

『日本銀行は、2%の物価目標の達成を目指して大胆な金融緩和政策を行っているが、これには根強い批判がある。その中には、1)債券市場の価格発見機能を阻害する、2)金利を低位に押さえつけることで、債券市場を歪め、長期的に過度のインフレをもたらす、3)イールドカーブのフラット化をもたらして、国内投資機会を喪失させ、邦銀の外貨調達コストを上昇させる、4)国債市場を不安定にして金利急騰リスクを高める、5)そもそも、金融緩和によって生じる低金利は、将来の需要を前倒しするだけで、現在と将来の生産を拡大するものではない、などという批判的な議論がある。以下、これらの議論について検討したい1。』

えーっとすいません。この中の3番目なのですが、イールドカーブのフラット化に関しては原田大先生様も御賛成された昨年9月の「総括的検証」において過度なフラット化についての弊害ってのを示したと思うのですが、まさかとは思いますが大先生様におかれましては総括的検証の内容を理解しないで賛成されたのではないでしょうか???というのもさることながら「邦銀の外貨コストを上昇させるからけしからん」とかそんな批判は誰がしてるんだよという話で、そもそもどこのどういう言説を読んでこういう論点を出しているのかが分からなくて、この人は人の言っていることを勝手に自分の脳内で変換して勝手に解釈しているのでも無ければ、このような批判がある(キリッ)とか言い出す意味がさっぱり分からんです。

なお、脚注には

『※本稿は筆者個人の見解を示すもので日本銀行の見解を示すものではない。』

というのがあって当たり前じゃヴォケというか、お前は総括検証の文言をどう読んで賛成したのかと小一時間問い詰めたい(現実問題としては会話をするのも苦痛なのでたぶん問い詰める事は有りえんけれども)という所ですが、更に吹いたのは、

『1 他にも関連して、金融緩和をしても何も起きないが、あるとき、いきなり、金融の大混乱が起きるという議論がある。これらの議論のうち、債券市場と金融政策に多少とも関係があるものとして1)金融緩和をしても資産価格がバブル的に上がるだけで、実体経済が改善することはない、2)日銀の国債購入が財政ファイナンスと受け取られると通貨の信認を危うくする、3)同じく、中央銀行が政府の発行する国債を購入することが、財政規律を弱める、4)必要な時に金融を引き締めようとすると物価、生産、金利に大きなショックを与える、5)量的緩和の出口で金利が上昇し、債券価格が下落し、中央銀行のバランスシートが毀損して通貨の信認が失われるなどの議論がある。これらの議論が誤りであることは原田泰・片岡剛士・吉松崇『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社、2017年)で示しているので本稿では議論しない。』

ということですが、この話って先般の岐阜金懇でお話をしていたことだと思うのですが、まるで説明になっていないという事実につきましては先般一々ツッコミをいれさせて頂きましたとおりでございます。


・全般に渡って凄いのだが最初のは特に頭がクラクラします

最初の論点が『1.金融緩和政策は債券市場の価格発見機能を阻害するのか? 』(ちなみにジンバブエ大先生の講演テキストのPDF版って何だか知らないけど訳分からないスペースが所々に入るので、HTMLバージョンが無いと引用するときに困るという仕様になっていまして、こうやってHTML版があると大変に助かります)というのですが、こちらは論旨の矛盾とか論旨の混同とか事実説明が無茶苦茶とか色々と凄いのですよ。まあ鑑賞してみましょう。

『債券市場の多数の参加者が市場に参加して活発な売買を行うことによって債券の正しい価格はおのずから発見される。ところが、現在行っているように、日銀が国債を大量に買入れていると、市場は正しい価格を発見できないという議論がある2。』

ということで脚注2で横山昭雄さんの著書が批判的に引用されているのですが、こういうお方に批判的に引用されるということは横山さんの主張の正当性を示す、という事でもございますので、まさに金鵄勲章おめでとうございますという風情ですが。

『しかし、正しい価格とはなんだろうか。』

えーっと、「債券市場の多数の参加者が市場に参加して活発な売買を行うことによって発見される価格」って今仰せになったと思いますが。

『債券市場ではなく、例えば、コメの価格であれば、国がコメを買うことは価格を歪め、市場の価格発見機能を阻害することは明らかである。』

えーっとすいません、食糧管理制度(ちなみに食糧管理法は廃止されていわゆる食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)になっています)はそもそもが食糧の需給と価格を統制するために行われたものなので市場の価格発見機能とかいう話に持ち出す例として不適切なのですけど・・・・・・・・・・

『正しい価格は市場で決定される価格であり、国がコメを買い入れれば人為的に価格が吊り上げられ、価格は歪む。』

いやだから元来の趣旨からいえば公定価格が「正しい価格」になるんですが、という意味でそもそも需給と価格を政策的に統制していたものを持ち出して比較するのが話がおかしいのですが、まあこの部分はあとでブーメランのように突き刺さって来るので暫くおつきあい賜りたい。

『その結果、コメの販売量は減少し、政府にはコメの在庫が積み上がる。この在庫を売れば米価は下がるが、そもそも米価を上げるためにコメを購入したのだから、在庫は売却するのではなく始末する(捨ててしまう)しかないだろう。これが価格を歪めており、無駄でもあることは明らかである3。』

って食糧管理制度くらいジンバブエ先生のお歳だったら(なお当駄文の中の人は辛うじて米穀通帳を見たことがあったかな程度には年寄りですけど)知ってるだろと思うのだが、この脚注に

『3実際に行われている日本政府のコメ市場への介入は複雑なものだが、政府の介入と市場の関係を議論するために実際の制度を説明する必要はないだろう。』

ってあるのだが、実際の制度と全然違う話してどうするんだよとしか申し上げようがないのですが・・・・・・

『しかし、債券市場で価格が歪むとはどういうことだろうか。』

と来ましたが、ここで先にツッコミを入れて置きますと、この超乱暴な説明も中々良い所がありまして(^^)、

「その結果、国債の販売量は減少し、日銀には国債の在庫が積み上がる。この在庫を売れば国債価格は下がるが、そもそも国債価格を上げるために国債を購入したのだから、在庫は売却するのではなく始末する(償還まで保有する)しかないだろう。これが価格を歪めており、無駄でもあることは明らかである3。」

・・・・・とコメを国債、米価を国債価格と言い換えて、在庫の始末というのは要は売らないで持ち切るということですから、償還まで保有する、と言い換えてしまうとあら不思議。ジンバブエ大先生自らがきちんと今の日銀による国債購入について「価格を歪めており、無駄でもあることは明らかである」と説明しているという大変に素敵な話になっているのですな。いやはや何とも。


つーところで話を終わりにしても良いのですが、せっかく大冗談もとい大上段に『しかし、債券市場で価格が歪むとはどういうことだろうか。』とドヤ顔で話をして頂いているので、その先を鑑賞しようではあーりませんか。


『債券が社債であれば、発行企業の信用度によって金利が異なる。異なる金利が信用度の違いを反映した正しい価格ということになる。』

ほほう。

『国債であっても、さまざまな国の国債であれば、国の信用度によって金利が異なる(各国ごとの通貨の違い、インフレ率の違いを無視できる、同一通貨建ての国債であれば、金利の違いは主として国の信用度の違いとなるだろう)。財政的に厳しい状況にある南欧の国の国債金利は高く、財政が健全なドイツの国債金利は低い。これは異なる金利が国の信用度の違いを反映した正しい価格ということになる。』

ほほう。

『ここで、中央銀行が、特定の会社の社債、特定の国の国債を買い入れれば、信用度の違いから生じる金利の違いを歪めて、債券の正しい価格を発見する債券市場の機能を歪めることになる4。』

なるほど。だったら社債とCPとETFの買入に反対した方がよいんじゃないでしょうかねえ、と思いますが敢えてそこはスルーしておきましょう。

『しかし、現在、批判者が問題としているのは、中央銀行が自国政府発行の国債を購入する場合である。この時、正しい価格とは何であり、中央銀行が自国の国債を購入することが、どのような意味で価格を歪ませることになるのだろうか。』

ほほー。

『そもそも、国債市場は政府が国債を発行することによって初めて市場が生まれる。その意味では、国債市場は本来的に人為的なものである。』

????????????いやあのそれは農産品だって天然資源だって同じだと思いますが。

・・・・というのもありますが、おそらくジンバブエ大先生って国債以外の金利が長期金利の指標金利だった事があるとか、そういう金利やっている人の基礎的な知識(円債やっているのに加入者利付電電債流通利回りという言葉を知らない人間は今すぐ部内の古老に話を聞きに行くように)でありますし、大体からして金利の市場ってのは国債が無くても別に成立しうるんですけど、という時点で何か理解の根本的な欠如というものを感じさせてくれます。

まあそれは兎も角として次。

『日本銀行が国債を購入しないとすると、国債を発行する政府とそれを何らかの理由があって購入する金融機関を中心とする投資家の需要と供給によって国債の価格が決まる。』

そうですね。

『ここで日銀が国債を購入すれば、通常は、国債価格は上昇し、金利は下がる5。日銀が購入するとは、日銀の発行するマネー、マネタリーベースで購入するわけだから、ここで物価に上昇圧力をかけるはずである。すなわち、日銀は、デフレからの脱却を目指して、金利を下げ、経済を活性化し、物価を上げるために購入したのである。』

まず最初に言っておくとそれがまさにさっきのコメの買入と同じことを言っているのですから、それは「価格を歪めており」なのですから、お前は何を言っているんだという話なのですが、ここから先「金利」と「マネー」の話がゴチャゴチャになっていて言っている本人の頭の中が整理されていないのかオガクズで出来ているのか良く分かりませんが、言っていることが支離滅裂になってきます。

『現状で金利が非常に低い状況にあるので、このことが分かりにくくなっているが、90年代初までの状況であれば、分かりやすいだろう。』

ほほう。

『当時、短期金利は8%程度であった。この状況で日本銀行がマネタリーベースを拡大して短期国債を購入すれば金利が低下する。もちろん、当時はマネタリーベースの増減ではなくて短期金利の上げ下げで金融政策を行っていたわけだが、金利を下げればマネタリーベースの需要が拡大し、マネタリーベースも増大した6。』

短期金利の上げ下げで金融政策を行っているのでしたら、短期国債買って金利を下げてしまったら金融政策の目標である短期金利が下がってしまうので、金融政策の運営として間違った手段を取ることになるんですけれども大丈夫でしょうか先生。

それからですね、金利の上げ下げに関して言えば、インターバンク市場の資金需給に関しては中央銀行が基本的に支配権を持っている(インターバンク以外の参加者の資金規模が無視しえないほど巨大な場合は完全には支配できないケースもありますが)のであって、その為に銀行間翌日物金利に関しては(余程の信用危機のような事があってインターバンク市場そのものが機能不全にならない限り)中央銀行が誘導することが可能であり、それをインターバンク市場の参加者が理解しているが故に、インターバンク市場の翌日物金利を政策金利としているのであれば、政策金利の上げ下げを宣言すれば別にマネタリーベースをその前後で大きく動かさなくても金利はジャンプするんですよね。

確かに金利の上げ下げを行えば事後的にはマネタリーベースやマネーサプライにも影響出てくる筈ですが、それは金利の上げ下げによって実体経済に変化が起き、その結果マネーの需給関係が変化するためであって、中央銀行が短期市場金利の上げ下げで金融政策を実施しているのであれば、マネタリーベースの増減と政策金利の上げ下げに関しては中長期的には兎も角短期的にリニアな関係がある訳ではありません。

『債券を売却した金融機関は、金利の付かないマネーを得る。金利の付かないマネーを持っていても仕方がないので、金融機関はそのお金を貸し出す。』

はい残念。貸出というのは別に日銀当座預金の増減とは関係なく増やしたり減らしたりできます。他の金融機関に貸し出せば自分の所の日銀当座預金は減りますのでもしかしたらそういう話をしているのかも知れませんね、と思って次を読みますと案の定、

『8%の金利では貸出が増えないが、金利を下げれば貸出が増える。貸し出されたお金で人々は何かを購入する。』

って貸出が増えるという話をしていますし、人々は何かを購入するとか言ってるので、どこからどう見ても銀行融資が増えるという話をしているようですが、銀行融資というのは銀行の中での両建てが増えるだけの話で、日銀当座預金とは関係なく増えるものです。

しかも頭がクラクラしてくるのですが、「金利を下げれば貸出が増える。貸し出されたお金で人々は何かを購入する。」って言ってるんですが、金利を下げることによって投資の採算ポイントが改善するから投資が促進される、とかいう話ならまだしも「人々は何かを購入する」ってお前は何を言ってるんだとしか申し上げようがない。

『需要が増えるので、需給ギャップがあれば実質生産が増えるが、ギャップが縮小するにつれて物価は上昇していく。物価が上がりすぎてはいけないので、2%程度で収まるように日銀は債券の購入量を調節する。』

まあそもそも論として短期市場金利の誘導目標の上げ下げと債券購入量が別物なのですけれども、さっきまでは金利の話をしていたのに急にここで債券の購入量を調節とか話が変わっているのですけれども、そもそも中央銀行がどうやって金利誘導を行っているのかも分からないで中央銀行の政策委員をやっているとか頭が痛いというよりも何でこんなの選んだのかと言いたいし、こんなアホウを野に放たないでちゃんと幽閉して置けよD和S研(特定の機関を念頭に置いてはおりません^^)と言いたくなりますがまあそれは兎も角。

『中央銀行が国債市場を含む金融市場において債券を売買するのは、それによって需給ギャップと物価を適切な状況にするためである7。』

だったら最初から金利統制でもしておけばとは思いますが。

『日銀が国債を購入するのは、この意味での国債市場の機能をうまく働かせるためである。』

???????????

『日銀の国債購入が国債市場の機能を歪ませるという論者は、この意味での国債市場の機能を理解できていない。国債市場は、コメや野菜や魚の市場とは異なり、中央銀行が、経済全般の需要と供給に働きかけるための市場なのである。』

とまあここまで読んで、というか実は3回くらい読んだところまでは気が付かなかったのですが、こうやってじっくりと悪態(なおジンバブエ大先生へのツッコミに関しては不肖このアタクシもさすがに無意味に大作になるので、前日にじっくりと時間を掛けてやらないと無理ということで、実はこれ前日に夜なべしてせっせと書いて翌朝に読み直して一部いじっているのよ。何せ大先生の文章は論旨不明なので読むのも大変で寝起きとか到底無理なのよん)を書いているうちに気が付きましたのですが・・・・・・・・・

どうもこの先生、市場で決まるべき長期金利の話と、中央銀行が金融政策のために金利誘導を行って明示的に決定してそうなるように市場を誘導する短期金利の話を混同して話をしているんだ、とここで気が付いた訳です。わざとなのか素で分かっていないのかは存じませんが、素でやっているならただの馬鹿で、わざとやっているなら詭弁なのですけれどもね。

すなわち、政策金利としてオーバーナイト金利を誘導することについては別にそれを「市場を歪める」という人がいる訳もないのですが、それ以降の金利に関しては、市場で価格形成をする、という事であれば、その金利というのは市場参加者によって将来の政策金利期待(およびその基となる将来の経済物価情勢への期待)やリスクプレミアム(タームプレミアムや財政リスクプレミアム)を踏まえて自由に価格形成が行われる、というのが「正しい価格」という事になる筈であるが、今の日銀の国債馬鹿買入は明らかにその価格形成をゆがめるから問題だ、という論点での批判が来ているのに対して、ジンバブエ先生におかれましては、その長期金利の話と政策金利の話を意図的か意図的じゃないか知りませんが混同させて、「中央銀行が金融政策として金利の上げ下げをするのを捕まえて「市場の価格発見機能を阻害する」というのは間違い」と言ってはい論破、という結論を導き出しているのですな。


・・・・・・てのに気が付くのに不肖このアタクシでも4回ほど読んで気が付く、ということですから、まあこの先生相手の批判に対して、その批判の一部を改変して自分に都合の良い批判に置き換えてから反論する、という詭弁の手法については非常に長けている(置物リフレ一派の話ってこの手の詭弁のガイドラインの展覧会みたいな話なのよ)訳で、これ全然反論になっていないのですが、まあとにかく最初のこの部分が一番ひどいわと思ったのでかく長くツッコミ大会になってしまいました。

そういや余談で脚注5の所に戻りますけど、

『5クレディ・スイス証券の白川浩道氏は、日銀の国債の大量買入れによって金利が歪み、「長期金利は本来の水準から約1%押し下げられている」と言っているが(「日銀の国債保有4割超す」日本経済新聞、2017年2月9日朝刊)、日銀はデフレ脱却のために意図して金利を引き下げているのである。』

って「意図して金利を引き下げている」んだったらジンバブエ先生自分で出しているさっきの(全然実態と違う無茶苦茶な)コメの介入と同じなのですから、それは「価格を歪めている」のですがという所ですが、大先生から批判的に材料にされたということで白川浩道さんも金鵄勲章受賞おめでとうございます。


・色々と残念な反論は続く

『2.国債の大量買入れは、金利を低位に押さえつけ、長期的には過度のインフレをもたらすのか?』

というのがこれまた色々とアレ。

『すでに述べたように、日銀の国債買入れは、国債市場に政府と金融機関だけが存在する場合に比べれば、金利を低下させる。しかし、デフレで日本経済の力が発揮できない状況にあるので、そこから離脱するためにインフレを引き起こそうとしている訳である。だが、いくらでも高いインフレ率にする訳ではなく、インフレ率には平均で2%程度という上限がついている。』

って簡単に言い切っていますが、そもそもそれだけの強力な金融緩和をやるならば、本当にそんなに器用に2%程度で止められるのでしょうか??というのに関しては相変わらず出来るの一言で済んでいるのがおめでてえなとしか言いようがないのですがまあそんな話が一席あります。その他も酷いのだが。

『インフレ率が高くなりすぎれば、一般的に、中央銀行は、今度は短期または長期の国債を売ってマネーを吸収しなければならない。国債を売るためには国債を魅力的にしなければならない。そのためには、金利を高くするしかない(国債価格は低下する)。金利が高ければ、金融機関からお金を借りてくれる人は減少する。需要は減少し、物価は低下する。』

ほうほう。ちなみにこれもう少し後の方の話と矛盾する部分があるので覚えておきましょう。

『日本銀行はデフレの時には短期または長期の国債を購入し、インフレの時にはそれを売却する。目的はインフレ率のコントロールである。』

そうじゃなくてあんさんも最初に言っていたように短期市場金利のコントロールしてやって行くんじゃないのかね、とは思いますが、まあ金利を従属変数にしてマネーをいじるというのはボルカーショックみたいな例もあるからやってやれない訳ではないですから(それをやると短期市場金利が安定しないから実務的には扱いが難しい)まあそこは目をつむっておきましょう。

『これに関連して、日本銀行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和は、長期金利を目標として金融政策を行うので、アメリカが1942年から51年にかけて採用していた国債価格支持政策と同じであって、高いインフレをもたらすものだという議論がある。』

ないです、というかこれも詭弁のガイドラインで論点は「長期金利の固定化が問題」なのではなくて、それが長期化した場合に起こる財政従属の弊害なのですがね。

『国債価格支持政策は、長期金利を2.5%以下に固定するもので、その結果、確かにアメリカの消費者物価上昇率は1951年初には9%にまで上昇した8。そこで、FRBと財務省は、1951年3月4日、長期金利上限政策の終了を決定する共同声明(アコード)を公表し、政策運営の目的は金利の上限維持ではなく、物価の安定だとした9。アメリカの経験から、長期金利を固定化すれば過度のインフレをもたらすというのである。』

「長期金利を固定化すれば過度のインフレ」というのは話の途中を飛ばして飛躍させている、という意味で先ほどの批判の一部を改変する詭弁のガイドラインな訳ですな。でもって問題は、長期金利を固定化したことによって財政従属状況が発生してインフレ目標よりも金利固定が一義的に行われるようになり、その結果インフレが高進したという話であって、長期金利を固定したから即過度のインフレになるわけではなくて、長期金利固定政策はインフレになった時にそれを止めようとするときに国債管理政策との絡みで止められなくなるリスクがある、という批判なのですよね。

・・・・・・・ということですから、以下のジンバブエ先生の説明そのものは妥当なのですが、それって批判に対する反論になっていないのですよ。

『しかし、現在の日本の政策においては、2%の物価上昇率目標がついており、物価が上がれば金利を上げて消費者物価上昇率が2%を大きくは超えないようにすることが前提となっている。また、金利を一定にコントロールするのは、常識的に考えてほぼ1月半に1回行われている次回の金融政策決定会合までで、アメリカのように長期に金利を固定することを決めている訳ではない。日本銀行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策を、アメリカの国債価格支持政策になぞらえるのは誤りである。アメリカにおいても、1942年当時にも2%の物価上昇率目標が設定され、物価目標が金利目標よりも優先的な目標と位置付けられていれば、インフレの亢進は避けられただろう。』

そらその通りなのですが、当時問題になった原因は国債管理政策との絡みで、肝心のインフレ目標が従属的になってしまったことであり、当時の米国よりも財政状況が悪い日本において、長期金利の低位安定を長期間過度につづけた場合、同様の財政従属状況になるリスクは無いのですか?という問いに対して「インフレ目標を掲げているから大丈夫」というのはナイーブな説明にも程があります。

まあ百無量大数歩譲ってこの論旨を補完して差し上げますと、「2013年に締結した政府と日銀の政策協定により、政府は財政健全化、日銀は2%物価目標、それぞれにコミットしていることを合意している訳だから、過去の米国のような財政従属状況によるインフレ目標の逸脱という事は起きないように担保している」と説明して頂きたい訳ですが、長期金利固定化が国債管理政策に完全にビルトインされた時にこの文書が反故にされるリスクが何故無いのか(政府に関しては結局政治マターですからね)という話をしないといけませんな。



・外貨調達コスト云々の話は意味わからんのだが説明もワケワカラン部分が

次が『3.異常な低金利は邦銀の外貨調達コストを上昇させるのか?』なのですが、そもそもそんな論点で批判している人いるのかよとしか申し上げようがないので中の話は超どうでも良いのです(たぶん外貨調達コストが上昇する要因とかの勉強でもしてその受け売りでもしたくなったんでしょう)が、その最後の方がウケる。

『ドルの調達コストの上昇を云々する以前に、カバー付きの外債投資で平均的に安定して利益が上がる訳がない。日本の金利が低く、海外の金利が高いときに、金利差だけ利益が上がるのであれば、フリーランチがあることになる。フリーランチは存在しないはずだから、金利の差だけ円が上昇し、円で考えた場合には金利差の利益は為替レートの変動で相殺されるはずである(金利平価説)。為替レート変動リスクを避けるために、ヘッジをかければ、そもそも最初から儲かるはずがない。すなわち、異常な低金利は邦銀の外貨調達コストを上昇させるというのは問題設定が間違っている。儲かるはずのないことをしても儲かるはずがないだけである12。』

ちなみに「中央銀行が国債を買うと統合政府の債務が消滅する」というジンバブエも裸足で逃げ出す超理論(と最初は言ってた筈なのですが何時の間にやらジンバブエ原田という拳闘家のような名前になってしまった)もフリーランチ理論なんですけど、「フリーランチは存在しない」とか言い切りながら自分の珍理論がフリーランチじゃないのかという疑問が起きないというのが不思議です。

という話はともかくとして、カバー外債って海外の長短スプレッド取引ただし債券価格が上がったら利食いも出来るけど下がった時は長短金利スプレッドで得られるクッションとの勝負という話なのですけれども、ここの説明の脚注12が腹抱えてワロタ。

『12為替レートの決定には理屈では理解できない様々な謎がある。例えば、安達誠司「第2章 金融政策と円暴落」原田泰・片岡剛士・吉松崇『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社、2017年)を参照。』

いやあのカバー為替やってたら為替レートの決定云々ってこの議論と関係ないんですけど・・・・・・・・・


『ではなぜ邦銀は海外の債券に投資して利益が上がると考えているのだろうか。また、現実に利益を上げているようである。』

ヘッジ外債ってジンバブエ先生が門前仲町総研(仮名)にいらっしゃった時にも普通に存在していた取引手法なのですが。

『その理由は2つある。1つは、日本と海外の債券の質である。日本では限られた量しか存在しないが、海外には大量のミドルリスクミドルリターンのさまざまな債券がある。信用リスクを取れば、利益が上がるはずである。』

ヘッジ外債でそんなのやっている変態は普通いません(投信の海外ハイイールドみたいなのはあるけど、ここで論点となっているのは機関投資家のヘッジ外債で、そんなハイイールドとかの個別銘柄の信用リスク判断までしないといけない投資とは別物ですがな。そらまあ個別で信用リスク取っている外債投資もあるけどハイイールドみたいなのに盛大にぶっこんでカバー為替するってのはメインの外債投資ではない)。

『であるなら、為替リスクを取っても利益が上がるはずであるが、』

?????????

えーっとすいません、その前からつなげますと、「信用リスクを取れば、利益が上がるはずである。であるなら、為替リスクを取っても利益が上がるはずであるが、」とあるのですが、何がどうなるとそういう文章の繋がり方になるのか、まったく論理性というものが感じられない。

『これまでの経験上、為替は短期間に十数%も変化する。このようなリスクを銀行が取ることは難しい。しかし、ミドルリスクミドルリターンの信用リスクなら、管理しやすいということである。』

えーっとすいません、信用リスクって飛ぶときは元本すっ飛びますし、信用リスクの管理って債券の個別発行体の財務状況やらキャッシュフロー状況やら業績動向やらガバナンスやら見て行かないといけないですから相場動向見ていくだけの話よりもはるかに大変(大変だからこそそこに超過収益の源泉があるのだが)ですけど何か物凄く勘違いしてるでしょ、というか金融実務全然わかってないなというのがモロに見えてしまいます。

『私は、必要なことは、日本でもミドルリスクミドルリターンのさまざまな債券を開発することではないかと思うのだが。』

ということでこういう現実を知らない妄言を吐かれても困ります。


『第2の理由は、日本と海外のタームプレミアムの違いである。図2に見るように、日本のイールドカーブに比べて、海外ではよりスティープになっている。日本での1年物と10年物の金利差が0.2%でしかないのにドイツ、イギリス、アメリカでは1%程度となっている。したがって、短期で調達して長期で運用すれば鞘が抜ける。しかし、その場合でも裁定が働くわけだから、長期的に鞘が抜けるはずはないと私は思うのだが、現状では鞘が抜けているようだ。これはドルでの期間リスクを取っていることになる。』

いやだからヘッジ外債ってそういうもんなのですが何を自慢げに言ってるんだとしか。


・前提となる話がおかしいという例

とまあこのような不毛なツッコミを延々とやっているアタクシ(夜だと時間があるので結構考えながら書くから更に時間を食う)も大概にアホタレさんですが、ここで落ち着いて見たら不毛な話をどんだけ書いているんだという感じで、おつきあい頂いている奇特な読者の方にも申し訳ないのですが今しばらくおつきあい頂きたく。

『4.大胆な金融緩和政策は国債価格を異常に上昇させ、かつ破裂させるのか?』という所に参ります。

『大胆な金融緩和政策は国債バブルを引き起こすという議論もある。国債価格を上昇させ、かつ低下させる、すなわち、金利を異常に低下させるとともに、あるとき急騰させるというのである。』

ほうほう。

『この事例として、1)バーナンキ・ショック、2)債券版フラッシュ・クラッシュ、3)2016年7月29日の日本の長期金利急騰が挙げられている13。1)のバーナンキ・ショックとは、2013年5月22日に債券の購入ペースを減額する可能性を示唆したことから、長期金利が5月から9月にかけて1.4%ポイントも急騰した事態である。これはなだらかな金利上昇を意図して、急激な金利上昇を招いた事態である。しかし、その後、FRBが緩やかな金利上昇を目指すと、金利の上昇もなだらかとなった。』

『2)債券版フラッシュ・クラッシュとは、2014年10月15日の9時33分から45分の間で米国長期金利が0.37%ポイントも急低下した事例である。終値にかけて持ち直し、元の水準に戻った。確かに、これが市場流動性の低下がもたらすリスクとの指摘もある。しかし、その要因は特定されておらず、高頻度トレーダーの登場など複合的な要因による現象で、FRBの量的緩和と結びつける議論は米国ではないようである14。』

脚注に何かあるようですが、どうせならFRBのパウエル理事がこのフラッシュクラッシュを米国債券市場の流動性と絡めた2015年8月のブルッキングス研究所での講演でも読んでおくのは良いと思います(ちなみにアタクシも2015年8月17日〜19日にネタにしましたので過去ログ確認してちょ)。

http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20150803a.htm
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/powell20150803a.pdf
Governor Jerome H. Powell
At the The Brookings Institution, Washington, D.C.
August 3, 2015
Structure and Liquidity in Treasury Markets

『3)2016年7月29日の長期金利急騰とは、それまでマイナス0.3%程度に低下していた10年物国債利回りがマイナス0.1%にまで急騰した事例である。しかし、2)の急低下と3)の急上昇という一時的な現象が、経済的に、また金融政策運営の上で、どのような問題を引き起こしたのか全く明らかではない15。』

つーか20bp上がったくらいで急騰とか言われても困りますが。

『他にも、長期金利が「急騰」した例は多い。MCP株式会社シニアストラテジストの嶋津洋樹氏は、1985年以降、日本の長期金利が急騰した例として12の事例を挙げ、それぞれについて分析している。これによると、日銀の国債買入れが金利の急騰を招いたケースはなく、1985年11月14日、1989〜90年にかけて、1994年、2004年のいずれの急騰ともいずれも日銀が金融を引き締めた結果、起こったとしている16。』

1994年って別に金融引き締めしてねえだろと思うし、12の事例の話なのに何で上げているのが4つの事例なんだよという感じですし、そら金融緩和して金利急騰するって財政リスクプレミアムがその瞬間に大爆発でもしない限りないだろうよ。

『要するに、これまでのところ、大胆な金融緩和政策が金利を異常に低下させるとともに、あるとき急騰させるということはなかった。』

って勝手に結論付けてるけど、いわゆるVaRショックとか大規模金融緩和と過度なデフレ継続期待に加えて金融機関の不良債権問題とか金融機関経営の懸念とかで金利が下がりまくったのが反転した事例も思いっきり有る筈なのですが何を言っているんでしょうか。

『これまでのところはなくても、金融政策の転換、量的・質的金融緩和の出口の時点のショックを心配するのであれば、同じように大規模な国債買入れを行ったFRBには安定的に出口に行けるが、日銀にはできないと言っているに等しく、根拠がない。』

ということでここで先ほどの説明でこんなのを言ってた、というのを再掲します。

『インフレ率が高くなりすぎれば、一般的に、中央銀行は、今度は短期または長期の国債を売ってマネーを吸収しなければならない。国債を売るためには国債を魅力的にしなければならない。そのためには、金利を高くするしかない(国債価格は低下する)。金利が高ければ、金融機関からお金を借りてくれる人は減少する。需要は減少し、物価は低下する。』

ってさっき言ってた訳ですが、この時って当然ながら中央銀行がそれまでじゃんじゃか国債を買って居たのを一転して売却するんですから金利って急騰すると思うのですが、さっきは出口で国債を売るという話をしているのに、ここではそういう事を無視するとか話の整合性が無さすぎて涙が出てしまします。

それに(再掲すると)、

『これまでのところはなくても、金融政策の転換、量的・質的金融緩和の出口の時点のショックを心配するのであれば、同じように大規模な国債買入れを行ったFRBには安定的に出口に行けるが、日銀にはできないと言っているに等しく、根拠がない。』

って言ってるけど、FRBだって安定的に出口に行けるかはここから先のインフレがどう進展するのかによって変わってくるかも知れないし、だいたいからして例えば対GDP比で見て米国よりも日本の方が莫大な買入をしている訳で、買入の規模を無視して「根拠がない」という方がよっぽど根拠がない訳で、1億円の買入国債残高と1京円の買入国債残高の違いがあっても出口の時の政策調整が同じように出来る、と言っているようなもんな訳で、ジンバブエ先生の方が根拠がないという誠に残念な説明になっています。


・不毛シリーズもそろそろ終盤になって参りました

『5.金融緩和によって生じる低金利は、単に将来の需要を前倒しするだけなのか?』というお話ですけれども。

『そもそも、金融緩和によって生じる低金利は、単に将来の需要を前倒しするだけで、現在と将来の生産を拡大するものではないという議論もある。』

普通そう言われますが。

『京都大学の翁邦雄教授は、「確かにマイナス金利政策で住宅建設を前倒しさせる効果はあるでしょう。しかし、その効果は、家を来年建てる代わりに今年建てるように働きかけることにすぎません。今年に前倒しさせると、その分、来年になると建てたい家の数は減ります。需要を先食いした分、・・・来年の自然利子率は低下することになります。こうなってしまうのは、金融政策では・・・長期的に建てられる家の総数は変えることができないからです。」と主張する17。』

翁邦雄さんも金鵄勲章来ましたという所ですが・・・・・・・

『しかし、私が別の機会でも繰り返し述べているように、金融政策の効果は、需給ギャップを縮小し、雇用と実質所得を拡大することである18。』

えーっとすいません、そもそもリフレの人たちの理屈って「物価が上がるという期待があれば人々は貯蓄すると物価が上がっただけ将来の貯蓄が目減りするのだからより消費をしやすくなるし、デフレだとその逆が起きるから消費が出ない」って説明していた筈なんですが、それも将来の消費を前倒しするという話じゃないんですかねえ。

つーかですな、実際に物価が上がらなくなってしまったのでそういう言い方をしなくなったというのはよーくわかるのですが、金融政策ってのは物価を適度なインフレに持って行くために実施しているのであって、適度なインフレによって消費を喚起するのは結局先食いの世界で、ただその先食いが物価が適度なインフレで安定すれば恒常的に先食いが出来ますよというだけの話ではないでしょうか。

それから、金融政策で適度なインフレに持って行くということは、名目の物価が適度に上昇するのは分かりますが、実質所得が上がるのは別に自明じゃないでしょ(現にこの前物価が上がった時には実質所得下がっていますが)。

『実質所得が拡大すれば、翁氏の比喩を使わせていただければ、人口によって建てる家の総数が決まっているとしても、より広い、より暮らしやすい快適な家を建てるはずである。すなわち、金融緩和は、単に需要を先食いしているのではなく、現在と将来の両方の需要を拡大するのである。』

ということで、そもそも実質所得が拡大する、というアプリオリに置いている前提がおかしいのでダウト。

『金融緩和が需要を先食いするだけだというのは、1930年代の大恐慌においても金融緩和に反対していたミーゼスの言葉を想起させる。ミーゼスは、「ブームは、誤投資によって希少な生産要素を浪費し、過剰消費によって現有ストックを減少させる。ブームの恩恵が払う代償は貧困化である。他方、不況は、すべての生産要素が消費者の最も緊急にニーズを最もよく満足させるために用いられる状態へ戻す方法である。」と書いている19。』

『これに対してケインズは、1925-29年の世界的投資ブームについて、「世界中で実施された投資の中には、判断を誤り、成果を生まないものもありました。しかし、疑うまでもなく、1925年から29年の5年間の建設投資によって、世界は飛躍的に豊かになりました。この5年間の富の増加は、歴史上存在したいかなる10年間、いや20年間以上に相当する、と考えられます。この拡張は、建築、世界の電化、道路や自動車関連の事業が中心でした。・・・世界的に見て、主要な食糧や原材料の生産能力は大きく拡大し、科学技術による機械化や新技術の導入により、金属、ゴム、砂糖、主要穀類などすべてにおいて生産が著しく増加しました。・・・このすばらしい生産的エネルギーの爆発が貧困と不況への序曲であったというのは、非常に愚かな見解です。厳格なピューリタンのなかには、これを、過度の拡張に対する避け難くかつ望ましい天罰とみなす人がいます。・・・私はこのような見解をとりません。企業の損失、生産の減少、失業の発生の原因は、1929年の春まで続いた高水準の投資にあったのではなく、この投資が停止したことにこそあり、高水準の投資の回復以外に景気の回復はありえない、と私は考えています。」と書いている20。』

って話だが需要を作ったの金融政策じゃなくて財政でしょ。

『私は、一生懸命働いている日本の人々に、より広い、より暮らしやすい快適な家に住んでいただきたいと思う。』

とかワケワカラン締め方をしておりますが、一番最後の『おわりに』は全部笑えるが特に最後吹いた。

『以上、大胆な金融緩和政策が国債市場を歪めるという5つの議論を検討してきた。』

検討に値しないがな。

『検討の結果、1)債券市場の価格発見機能を阻害するという議論は、そもそも何が価格発見機能であるかについての理解が不十分であること、』

原田さんの理解が不十分だったようです。

『2)日本銀行が長期金利を低位に固定すれば過度のインフレになるという議論は、日本銀行が2%の物価目標を優先目標としていることを忘れていること、』

大規模かつ長期に実施した結果財政従属が避けられなくなるのではないか、という質問に対する答えにはなっていないので残念ながら反論としては不十分。

『3)金融緩和政策が、国内投資機会を喪失させ、外貨調達コストの上昇を引き起こすという議論は、そもそも金利平価説の帰結を忘れていること、』

これは論外。

『4)金融緩和政策が国債市場を不安定にして金利急騰リスクを高めるという議論には根拠がないこと、』

と言っている方が根拠がない。

『5)低金利政策は単に将来の需要を前倒しするだけで、現在と将来の生産を拡大するものではないという議論は、需給ギャップの縮小を考慮すると正当化されないこと、が分かった。』

が分かったというのに盛大に吹いたのだが、そもそも反論として成立しない話をならべてはい論破とか言われましても困りますのでツッコミの練習に突っ込んでみましたが、正直これは苦行ですわ。何せこの先生の話が論旨がぐちゃぐちゃだし話は飛ぶし、しかもアプリオリに勝手に結論をつけてしまってその途中が盛大に飛躍しているから何を言っているのかがそもそも3回くらい読んでも分からないし、こんなの3回読むとか余程の変態じゃないと読む気が起きないでしょ。

ということで最後までお付き合いいただきました読者の皆様におかれましては平伏して感謝するとともに、皆様の貴重な時間をアタクシのツッコミ訓練の鑑賞などという不毛な行為に頂いてしまいましたことをお詫び申し上げます。

#他にツッコミどころもあると思うのですが思いついたら後学のためにご教示賜りた
宜しくお願いします、いやはや疲れた(いつもの2倍くらいの量になってしまうま)




2017/06/29

お題「本日も海外の中銀発言空中戦という風情ですなあ(除く日本)」

中銀発言で動くという空中戦ですが日本は無風というのがジャパンクオリティ。

○今度はカーニー総裁とな

http://jp.reuters.com/article/boe-cen-idJPKBN19J229
Business | 2017年 06月 29日 03:00 JST
英利上げ、数カ月以内に討議の公算=中銀総裁

『[シントラ(ポルトガル) 28日 ロイター] - イングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁は28日、英経済が完全稼動の状態に近づくにつれ中銀は利上げを実施する必要が出てくる可能性があり、金融政策委員会(MPC)はこのことについて「向こう数カ月」以内に討議すると述べた。』(上記URL先より)

・・・・・・・蟹先生この前は利上げ3票を受けて火消し発言してませんでしたっけという所で、別にタカでもハトでも良いのですが、いきなり豹変されるのが一番話をややこしくするのですが、まあどこぞの中央銀行も「追加緩和しない」とか言った直後にバズーカ2というのがありましたように、だいたいこういうのやりだすと後でろくなことにならんのですよねー。

と思いながらBOEのサイトを見に行くと当然ながら講演テキストがありました。
図表が多くて中身自体は正味4ページ半。

単なる紹介でもないページはこちら
http://www.bankofengland.co.uk/publications/Pages/speeches/2017/986.aspx
Policy Panel: Investment and growth in advanced economies - remarks by Mark Carney
28 June 2017

でもって本チャンはこちら
http://www.bankofengland.co.uk/publications/Documents/speeches/2017/speech986.pdf
Policy Panel:Investment and growth in advanced economies
Remarks given by Mark Carney, Governor of the Bank of England
2017 ECB Forum on Central Banking, Sintra
28 June 2017

シントラとかエストリルとかフォーラムついでにリゾートですな。

『The experience of business investment in the UK since the onset of the financial crisis broadly matches that elsewhere in the advanced world - a sharp fall followed by a feeble recovery (Chart 1). Peak to trough, the level of UK business investment fell by 20%, and it was six years before it surpassed its pre-crisis level, putting the recent experience at the bottom of the swathe of past UK cycles (Chart 2). In my brief remarks today, I will offer some possible explanations for this performance before concluding with comments on the outlooks for UK investment and monetary policy.』

ということで話が始まりまして、小見出しが

『I. Investment since the crisis』
『II. The Contribution of Central Banks to Investment』
『III. Conclusion 』

という構成になっていまして、まあ1番目は大体読まなくても話の展開は想定できるので二番目から読めばよかろう(とか言って肝心の所を読みそこなうというトンチキプレイはよくやるのだが)ということで最初の方をちょっと読むと・・・・・・・・

『Recognising that the most important contributions will be from structural policies, how can central banks support that belated investment recovery?』

その前のケツの所で『Although these secular forces may likely persist, many of the conditions for a revival in business investment are now in place.』という話をしていまして、金融危機以降に構造的な問題になっている生産性の低下とかそういう話を前段でやっていまして、金融政策はどこへという感じですが、英国の場合はそもそも論として物価の方は目標行ってるどころか盛大に上振れて推移している(http://www.bankofengland.co.uk/Pages/home.aspxの右側にあるCurrent Inflation 2.9%を見ましょうという事で)ので立場がだいぶ違う。

『First, we must acknowledge that, while the cost and availability of finance matters; internal cash flows, the profit outlook and uncertainty are far more important determinants of investment. Monetary policy affects companies’ profits and cash flows through its effects on domestic demand and, via the exchange rate, external demand.』

しらっと金融政策で為替に影響を与えて外需にも影響とか言っているのがチャーミング。

『Given the importance of internal finance for investment, and the high hurdle rates investment projects must clear, such indirect effects are more important for investment than the direct effects on the cost of capital. The biggest contributions of central banks are therefore improving the demand and profit outlooks and reducing uncertainty.』

金利経由で企業の借入コストや資本コストを軽減できるという話をしておりますな。

『Allow me to use the current situation in the UK to illustrate these points. UK output is now in sight of potential, and the capital overhang looks set to be eliminated over the next few years.』

デットオーバーハングじゃなくてキャピタルオーバーハングなのか。

『In order to expand, companies will increasingly need to invest. A strengthening global economy should tempt UK companies to do so, particularly since UK companies are generally competitive given the recent fall in sterling. Indeed, the broad-based global recovery is creating thepossibility of a self-reinforcing revival in investment.』

という話の流れからすると、キャピタルオーバーハングってBOEがスラックの事を「経済のspare capacity」って言ってるから資本というか設備とかそっちの過剰が解消してきている、という話なんでしょうな。

『The Bank of England estimates that more than 80% of the world economy is now growing above potential. Global measures of industrial production and capital goods orders, as well as world trade, have strengthened markedly over the past year, suggesting some rotation in the composition of global demand towards investment. With that more favourable outlook, investment intentions are now rising around the world (Chart 11). 』

でもって世界貿易とか海外の資本財支出とかを見ていても海外経済の多くが潜在成長を上回って成長しているという事を示しており、こんごも投資が伸びるとみられる、という説明でして・・・・・・・・・・

『If these intentions are realised, the global equilibrium interest rate could rise somewhat, making a given policy setting more accommodative.』

ドラギ総裁と同じ話キタコレという所で、これらの動きが顕在化すると世界的な均衡金利は若干上昇し、その結果として(同じ政策を継続していれば)金融政策の緩和度合いが一段と強くなるでしょうというのが来ましたな。

『The extent to which it does will depend on other secular factors that have been holding it down, including demographics, debt overhangs and the capital intensity of production.10 In this generally constructive environment, the main issues facing UK companies are uncertainties - about how consumers will adjust to a period of weaker real income growth; about market access post-Brexit; about the potential risks in the transition to new arrangements with the EU and the rest of the world.』

とは申しましても英国の場合は構造問題がまだ残っているし、ブレクジット以降のコンフィデンスがどうなって行くのかとか不透明な面もございます。

『In this context, the best contribution the Bank of England can make is maintaining financial and monetary stability by pursuing the right policies within consistent frameworks. 』

という話で以下続くのですが、途中を飛ばしまして金融政策ど直球部分を。

『The MPC has also clearly set out its reaction function consistent with its remit. Under the exceptional circumstances Brexit entails (with an inflation overshoot driven entirely by an exchange rate depreciation caused a large fundamental shock), the Committee is required by its remit to balance a period of abovetarget inflation with a period of weaker growth. As the primary objective of monetary policy remains inflation control, any overshoot of inflation above the target can only be temporary in nature and limited in scope. As such, the MPC has been clear that its tolerance for above-target inflation is limited.


現状英国の場合は物価がターゲットから思いっきり上振れていますが、これポンド安によるショックであってつまりは一時的、一方で経済が強い訳ではないのですから、政策のバランスとして緩和を継続しとります。という話をしております。

『Since the prospect of Brexit emerged, financial markets, notably sterling, have marked down the UK’s economic prospects. Monetary policy cannot prevent the weaker real income growth likely to accompany the transition to new trading arrangements with the EU. But it can influence how this hit to incomes is distributed between job losses and price rises. And it can support households and businesses as they adjust to such profound change.』

ブレクジット云々に関しては中銀が何かするという訳には参りませんが。

『As spare capacity erodes, the trade-off that the MPC must balance lessens, and, all else equal, its tolerance for above-target inflation falls (Chart 15).』

とはいえ経済のスラックが解消してくれば我々の政策を考えるバランスは変わりますし、同様にインフレが上振れて推移している状況への許容度も変わってきますよ。

『Different members of the MPC will understandably have different views about the outlook and therefore the potential timing of any Bank Rate increase. But all expect that any changes would be limited in scope and gradual in pace.』

だから利上げとか言ってる委員が増えました、つーても利上げ自体は別にドカドカ利上げする訳でもないですよ、とは断っていますな。

『When the MPC last met earlier this month, my view was that given the mixed signals on consumer spending and business investment, it was too early to judge with confidence how large and persistent the slowdown in growth would prove. Moreover, with domestic inflationary pressures, particularly wages and unit labour costs, still subdued, it was appropriate to leave the policy stance unchanged at that time.』

前回の政策委員会ではカーニー総裁のビューとしては消費や企業投資についてはまだミックスであり、海外の成長に関してもまだそこまで確信を持つには時期尚早、更に国内の賃金上昇やユニットレーバーコストの動向も抑制されているので現状維持が適切と判断しました。

と来てこのコーナーの最後。

『Some removal of monetary stimulus is likely to become necessary if the trade-off facing the MPC continues to lessen and the policy decision accordingly becomes more conventional.』

キタコレ!

『The extent to which the trade-off moves in that direction will depend on the extent to which weaker consumption growth is offset by other components of demand including business investment, whether wages and unit labour costs begin to firm, and more generally, how the economy reacts to both tighter financial conditions and the reality of Brexit negotiations. These are some of the issues that the MPC will debate in the coming months. 』

ということで今後数か月以内に云々というのがここの小見出しの最後に出てくる訳ですが、これは「今後改善すれば」ということで消費だの賃金だのULCだのブレクジットの交渉推移だの色々と留保条件付けまくっていて、別に数か月以内に利上げが適切になると言っている訳ではなくて、今後この辺りを検討して行くことになるでしょう、という話をしているのですけれども、カーニー総裁がこの前時期尚早的な話でしらっとスルーしていたのに今回は真面目(?)にちゃんと話をしている点、そもそも英国の場合は物価がターゲットを上に逸脱しているので誰がどう見ても景気が悪いのであれば文句は出ないでしょうが、そうじゃないとなってきてポンド安で物価が上がって庶民の生活ガー的な批判は思いっきり食らいやすいし説明しないと行けないでしょうから、そんなに放置プレイもできないという点、というのもあって思いっきり反応した、ということのような気はしないでもないです。


○ECB火消し発言来てるようで

http://jp.reuters.com/article/ecb-policy-idJPKBN19J1WW
Business | 2017年 06月 28日 23:13 JST
ECB総裁発言、差し迫った政策引き締め意図せず=関係筋

『[シントラ(ポルトガル) 28日 ロイター] - 複数の関係筋は、今週のユーロ高につながったドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁の発言について、総裁は弱めのインフレ期間への容認を示したものであり、差し迫った政策引き締めを意図していないとの見方を示した。ECBはコメントを差し控えた。27日の欧米金融市場では、ドラギ総裁の発言は金融緩和解除に向けて地ならしとの受け止めが広がり、ユーロが急伸。国債利回りが跳ね上がった経緯がある。』(上記URL先より)

ということで早速火消しは入っているのですが、ドラギ俊彦先生の先達の狸である福井の俊ちゃんの例を見ますとこういうのって「地均し」→「火消し」を繰り返して様子を見るというのが狸又中央銀行総裁の仕様だったりして、そういやこの地均しと火消しの連発で随分昔は悪態ついたなあと遠い目で思うのですけれども、まーこれは市場が真に受けて振り回されるの図というのが見えてきたなあと思うのは考えすぎでしょうかねえ。

ちなみに、アタクシ思いまするに、「弱めのインフレ期間への容認」というのは即ち「インフレが2%に達していなくても経済の状況を重視して正常化路線に着手することもある(さっきの蟹先生の講演でもあった「金融緩和度合いが経済の進展とともに自然と強くなる」という理屈を持ち出す)という事を意味しますので、確かに直ぐに正常化着手になるかというと謎ではありますが、その一方でまだまだ緩和は長々と続くぜという反応をするのはちとどうかと思います。

てかね、昨日も申しあげましたが、この前買入のペースを下げて期間を延ばしすことによって、80×6=480対60×9=540という謎の朝三暮四理論によって緩和の縮小ではないとか言ってたのに、昨日の講演でドラギ俊彦先生は「先般の買入の変更もこの考え(経済が良くなって来たらやってる緩和が同じだと緩和度合いが高まってくる)に基づく」とか思いっきり前に言ってた事と違う説明をおっぱじめている方が密かなポイントじゃネーノと思う訳で、まあ様子見ながら地均しと火消を繰り返しながらという展開になるんじゃないかなーと思うのでした。

というメモを置いておきます。


○なおカナダも正常化ですか(メモだけ)

http://jp.reuters.com/article/canada-cenbank-poloz-idJPKBN19J1XG
Business | 2017年 06月 28日 23:17 JST
カナダ中銀総裁「利下げ、役割成し遂げた」、7月利上げ観測強まる

『[トロント 28日 ロイター] - カナダ銀行(中央銀行)のポロズ総裁は、2015年に実施した利下げがその役割を成し遂げたとし、余剰生産能力が使い果たされる中、カナダ中銀は選択肢を検討する必要があるとの見解を示した。ポロズ総裁はCNBCとのインタビューで「こうした(2015年の)利下げはその役割を成し遂げたようにみえるが、われわれは新たな金利決定に近づきつつあり、先入観は持ちたくない」と語った。同時に「少なくとも、余剰生産能力が着実に使い果たされつつあるという全体的な状況に配慮する必要があることは明白だ」とした。』(上記URL先より)

ほうほうそうですかという事でメモだけ。

#うーむ連日の海外ネタ出稼ぎシリーズでございますな


2017/06/28

お題「ドラギ先生の発言があったので寝起きでインスタント斜め読みしてみた」

お、おぅ・・・・・・・・
http://www.sankei.com/politics/news/170627/plt1706270035-n1.html
2017.6.27 20:51
稲田朋美防衛相、都議選応援演説で「自衛隊として(自民候補を)お願いしたい」


ところで過去数回の利上げでフラットニングした2年10年のスプレッド推移のデータをそのまま10回利上げした時に適用するという説明をして米国10年金利は中々上がらないという説明をするモーサテのおじさん何ぼ何でも話が無理筋過ぎるんですけど、つーか市場がフラットニングしないのは10回利上げとか出来ないのを見越しているんじゃないですかねえ、と今日も無駄なツッコミ。

#こう年中無理筋ネタが続くとさすがにゲスト解説者の問題というよりは無理矢理トピックを作って結論をつけようとする番組編成の問題じゃないかという気がしてきた(でもそれに乗るなよ解説者とは思うけど)

#米国フラットニングの話をするならFRBの考えているターミナルレートと市場の考えているターミナルレートの差を説明してその差異はどこにあるのでしょうか、という話をした方が建設的じゃろ、番組編成的に出来るのか知らんが


○とりあえずドラギ先生が発言したようなのでインスタント読み

http://jp.reuters.com/article/eu-draghi-idJPKBN19I0UN
Business | 2017年 06月 27日 21:02 JST
ECB総裁、政策微調整の可能性示唆

『[シントラ(ポルトガル) 27日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は27日、大規模な債券買い入れや超低金利といったECBの政策を微調整する可能性を示唆した。市場では、ECBが9月にも緩和策の縮小を発表するとの観測が浮上した。ただ、総裁は、いかなる調整も世界的な資金調達環境が良好かどうかに左右されるとした。』(上記URL先より)

ということですがドラギ総裁の発言はこちら。
http://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2017/html/ecb.sp170627.en.html
Accompanying the economic recovery
Introductory speech by Mario Draghi, President of the ECB, at the ECB Forum on Central Banking, Sintra, 27 June 2017

まず冒頭の所がアレ。

『For many years after the financial crisis, economic performance was lacklustre across advanced economies. Now, the global recovery is firming and broadening. A key issue facing policymakers is ensuring that this nascent growth becomes sustainable.』

『Dynamic investment that drives stronger productivity growth is crucial for that - and in turn for the eventual normalisation of monetary policy.』

キタコレ。

『Investment and productivity growth together can unleash a virtuous circle, so that strong growth becomes durable and self-sustaining and, ultimately, is no longer dependent on a sizeable monetary policy stimulus.』

「no longer dependent on a sizeable monetary policy stimulus」とな。

『The discussions we will have over the next two days - in particular understanding the puzzles of slowing productivity growth and persistently low investment - are therefore highly relevant for the path of the economy and of our monetary policy.』

とは言いましても物価が上がらない件については金融政策のパスに影響すると。

『Yet as we anticipate the problems of tomorrow, we must also work on the issues of today. For central banks, this means addressing an unusual situation. We see growth above trend and well distributed across the euro area, but inflation dynamics remain more muted than one would expect on the basis of output gap estimates and historical patterns.』

経済は順調に推移しているのに生産性の伸びが弱くてインフレの拡大圧力が弱いのが従来のパターンと異なるのが我々の論点ですよと。

『An accurate diagnosis of this apparent contradiction is crucial to delivering the appropriate policy response. And the diagnosis, by and large, is this: monetary policy is working to build up reflationary pressures, but this process is being slowed by a combination of external price shocks, more slack in the labour market and a changing relationship between slack and inflation. The past period of low inflation is also perpetuating these dynamics.』

「monetary policy is working to build up reflationary pressures」という認識を示していまして、ただ金融政策が通貨膨張的なプレッシャーとして作用しているにも関わらず、外的な価格ショック、労働市場のスラックの存在、需給ギャップとインフレの関係の変化(=フィリップスカーブのフラット化)によって物価上昇が抑えられている、という認識を示していまして・・・・・・・・

『These effects, however, are on the whole temporary and should not cause inflation to deviate from its trend over the medium term, so long as monetary policy continues to maintain the solid anchoring of inflation expectations.』

これらの物価下押し効果は全体としては一時的なので、物価の弱さが中期的にトレンドを下回っているという事ではなく、したがって金融政策はインフレ期待を強固にアンカーする作用をしているとな。

『Hence we can be confident that our policy is working and its full effects on inflation will gradually materialise. But for that, our policy needs to be persistent, and we need to be prudent in how we adjust its parameters to improving economic conditions.』

金融政策が効果を発揮して効果を全てだす(=つまり上段で言っていた通貨膨張的プレッシャー)ようになってくることに対して自信を持てるようになったとか威勢のいいことを言ってますが、緩和的な金融政策は持続的に行う必要があると言って「we need to be prudent in how we adjust its parameters to improving economic conditions」と「経済の好転具合に応じて金融緩和のパラメーターを調整することについても慎重に行う必要がある」とは言っているのですが、そもそもその「金融緩和のパラメーターを調整する」というのがうへーという話なのでありますから、そりゃ反応するわなというお話でしょう。


でもって小見出しが、

『Monetary policy is effective in raising demand』
『Temporary external shocks』
『Uncertainty over slack and its impact on inflation』
『Low inflation feeding into price and wage setting』

ということで経済の需要は高まっているけれどもこれこれこういう理由でインフレーションダイナミクスへの波及が遅れております、という説明をしているのですがインスタント読みなので全部ぶっ飛ばして(手抜き)次の小見出しに参りますと『Accompanying the recovery』という今回の講演の題名と同じになるのでそちらを小見出しの頭から。

『So what do these various explanations imply for our monetary policy stance?』

というのは上記小見出しで色々とお話をしている件を受けて、というお話ですな。

『The first point to make is that we face a very different situation today from the one we encountered three years ago. Then, we also faced global shocks and significant labour market slack. But the recovery was still in its infancy. Global growth was slowing, depressing both import prices and net exports. Fiscal policy was less supportive than it is now. And headline inflation was much lower than today and inflation expectations more fragile, creating a higher risk of low inflation becoming entrenched.』

3年前の話からおっぱじまりまして、3年前は世界的なショック(世界的というよりはてめえの所だろという気もするが)や顕著な労働市場のスラックがあって、景気回復もその初期にあったし、外需が弱くて域内の財政政策も今に比べると景気に対してのサポートが弱くて、インフレは今よりも低かったしインフレ期待は壊れやすかった、だそうです。

『In this context we faced another risk, too: of permanent damage to the economy through so-called “hysteresis effects”. Given the large degree of slack at the time, the risk was that if output remained below potential for too long, we would see a permanent destruction of productive capacity. The output gap would close the “wrong way” making the losses permanent.』

というような状況が続くと履歴効果が起きて宜しくない状態が定着するリスクもありましたと。

『When we said we wanted our policy to have effects without undue delay, we meant we wanted the output gap to close “upwards” - and before such hysteresis effects could develop. This is why we had to act forcefully.[8]』

だからこそ強力な金融緩和を実施しましたと。

『Now, we can be confident that our policy is working and that those risks have abated.』

でもって今やそのようなリスクは弱まったそうで。

『The threat of deflation is gone and reflationary forces are at play.』

最初の所でもあった奴が来ました。

『And since one of the drivers of inflation today is positive supply developments, this should feed back positively into potential output rather than produce hysteresis. In these conditions, we can be more assured about the return of inflation to our objective than we were a few years ago.』

でもってポジティブフィードバックサイクルが働き出してきていくような状態になってきているので、今後数年のうちにインフレが目標に戻ることに対してより確信度が上がっているそうで。

『This more favourable balance of risks has been already reflected in our monetary policy stance, via the adjustments we have made to our forward guidance.』

だから先般フォワードガイダンスを変更しました(キリッ)ってこの前フォワードガイダンスを変更した時には「買入の総額は増えている(ただし期間が6か月→9か月になっているというインチキ)」とか言ってたのに、ここに至って前回のフォワードガイダンス変更はやっぱり緩和政策の規模調整というのをしらっと認めているのがドラギ大先生の大狸ぶりを発揮していますが、何となくドラギさんって福井の俊ちゃんチックな狸キャラクターを感じるので、まるで俊ちゃんですなとか思ったりする次第ですが、この言い方だと既に政策調整サイクルには入っている(ただし直ぐに投下する訳ではないけど)というお話でもあるのですよねー。


『Another considerable change from three years ago is the clarification of the political outlook in the euro area.』

もう一つが政治的な見通しの改善とな。

『For years, the euro area has lived under a cloud of uncertainty about whether the necessary reforms would be implemented at both the domestic and Union levels. This acted as a brake on confidence and investment, which is tantamount to an implicit tightening of economic conditions.』

『Today, things have changed. Political winds are becoming tailwinds. There is newfound confidence in the reform process, and newfound support for European cohesion, which could help unleash pent-up demand and investment.』

とは言ってもルペンがどうしたとかそういう話ではなくて毎度ECBが言ってる改革の方の話ですな。

『Nevertheless, we are still in a situation of continuing slack, and where a long period of subpar inflation translates into a slower return of inflation to our objective. Inflation dynamics are not yet durable and self-sustaining. So our monetary policy needs to be persistent.』

ただ改革の効果が出てきてスラックが良くなるのには時間が掛かるし、0近辺のインフレが長かったから物価のダイナミクスはまだ強固でもないので緩和政策は持続的に行う必要がありますと。

『This is why the Governing Council has repeatedly emphasised that a very substantial degree of monetary accommodation is still needed for underlying inflation pressures to build up, and to support headline inflation in the medium term. This is reflected in our forward guidance on net asset purchases and interest rates, as well as our decision to reinvest the principal payments received under the APP for as long as necessary.』

だから緩和的な金融政策を必要なだけ継続すると毎度申しております。

『With reflationary dynamics slowly taking hold, we now need to ensure that overall financing conditions continue to support that reflationary process, until they are more durable and self-sustaining.』

通貨膨張的なダイナミクスは徐々に起こっているものの遅いので、物価上昇に向けて金融環境を緩和的に維持する必要があります、とまあここまでは一応殊勝な話をしておりますが・・・・・・・・・

『As the economy continues to recover, a constant policy stance will become more accommodative, and the central bank can accompany the recovery by adjusting the parameters of its policy instruments - not in order to tighten the policy stance, but to keep it broadly unchanged.』

キタコレ!ということで最初にもあった「経済が好転してきたらそれに応じて金融緩和の程度を調整」という話で、政策を同じにしても経済が強く成れば緩和度合いが高まるのだから調整ですそれは引き締めではありません、ってのもう中央銀行の仕様と言える理屈(いやまあ理屈としては正しいのだが)来ました。

『But there is an important caveat that we need to consider. Financing conditions are not only determined by the calibration of central bank instruments, but also by other market prices, some of which are significantly affected by global developments.』

金融環境は海外の状況を受けた金融市場の動向によっても変化するのでそこは注意しないと、とは言ってますけど。

『In the past, especially in times of global uncertainty, volatility in financial market prices has at times caused an unwarranted tightening of financial conditions, which has necessitated a monetary policy response.』

金融市場のボラによって望ましくない金融環境のタイト化が起こることも注意しないといけません、ということなので一応留保は入れています。

『So in the current context where global uncertainties remain elevated, there are strong grounds for prudence in the adjustment of monetary policy parameters, even when accompanying the recovery. Any adjustments to our stance have to be made gradually, and only when the improving dynamics that justify them appear sufficiently secure.』

でもって最後にさっきあった慎重に対処というのがあって、その条件としては「only when the improving dynamics that justify them appear sufficiently secure.」ということではあるのですが、まあ中央銀行の仕様として、明らかに景気がヒャッハーになるまで待つという事は無いので、そこは今はそう言っているけれども、たぶんこの文言をそのままとって高圧経済キタコレと読む人はいないでしょ(イエレンが既に実演中ですし)とは思いますな、というか市場はきちんとその前の「調整が必要」に反応しているようで。

#ということでインスタント読みで終わってしまった




2017/06/27

お題「6月会合主な意見/遅くなりましたがイエレン会見ネタファイナル(物価に関して)」

おー合意したか。
http://jp.reuters.com/article/britain-may-agreed-idJPKBN19H1VP
World | 2017年 06月 27日 00:58 JST 関連トピックス: トップニュース
メイ英首相、北アイルランド地域政党と閣外協力で合意

○6月決定会合主な意見を鑑賞

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2017/opi170616.pdf

・物価の所の見解が思いっきり割れていて面白い

物価というか賃金に関する話なのですが・・・・・・・・・・

『・賃上げの動きが中小企業に拡がっていることは、物価の上昇にとって非常に重要である。今年の春闘では、現時点で中小企業のベアの上昇率が大企業を上回っており、大変心強い。』

『・企業収益や需給ギャップの改善の割には賃金や物価の上昇率が高まらない。今後の物価動向については、新年度入り後の賃金や物価の動向を丹念に点検しつつ、展望レポートを取りまとめる7月の会合でしっかりと議論する必要がある。』

『・2017 年度は、海外経済が好転する中での人手不足により、企業、特に、中小企業において、更なる労働生産性の向上とそれに見合った実質賃金の上昇が実現する年になると予想する。消費も緩やかな増加基調に転じ、企業が賃金上昇を価格に転嫁しやすい好循環が実現すると見込まれる。』

『・企業がサービスの見直し等により労働生産性を引き上げることは、短期的にはユニット・レーバー・コストの低下をもたらすが、経済全体としてやや長い目でみれば、実質賃金の上昇や雇用者所得の増加などを通じて、需要面から物価の上昇圧力につながっていくはずである。』

『・サービス削減によるサービス業の生産性上昇余地は直感的にまだ大きく、雇用逼迫による賃金から物価への波及には相当距離がある。』


何ちゅうかこの統一感の無さという感じですが、まー見事に賃金の先行きの話とかそれによる物価への影響に関する部分の見解が分かれていて、これは面白いなーとは思うのですが、逆に言うとこんだけバラバラなのに展望レポートの見通しだと労働需給の逼迫で賃金が上がって物価に影響という説明の一点張りというか、そこを思いっきりメインドライバーにしているというのはどうなのかよとゆー感じもする。


・金融政策に関する部分を鑑賞

『・物価の伸びが鈍い背景には、人々の将来不安や適合的期待形成などやや構造的な要因もある。ごく短期間で「物価安定の目標」を達成することは容易でなく、緩和的な金融環境を維持し、可能な限り長く景気の拡大を持続させることが重要である。』

って野党の方が言い出しそうな話ですが、すっかり最近その部分が曖昧になっているのですが、確か「2年を念頭に出来るだけ早期に達成」という看板は引っ込めていない筈(2年はさすがに無かった事にしているが)でして、そもそも論として今の政策を複雑骨折にしているのは「出来るだけ早期に」というのを前提にした最初のQQEにおける「短期決戦前提の枠組み」を引っ張っている事によるのですから、このように「ごく短期間での目標達成は難しいが、着実に目標に向かって進むように粘り強く金融緩和を続ける」という枠組みにしないと、効用が限界的に逓減するなかで副作用がドンドン拡大するだけですよね、と野党審議委員のような事を言い出すアタクシなのだが、この「2年で達成」という置物リフレ理論がどんだけ足かせになっているかという話としてはもっとここを明確化して欲しいと思うのでした。

でもってこれは何をゆうとるんだという話。

『・2%の「物価安定の目標」の達成には未だ距離があるが、「量的・質的金融緩和」は、雇用の改善、消費の継続的な増加、財政状況の改善という成果を上げている。SNAベースの財政赤字の対GDP比は「量的・質的金融緩和」導入以前と比べて、消費税の増税分を除いても 4.5%ポイント程度低下した。これらの成果を考えれば、現在行っている金融緩和政策を粘り強く続け、需要の着実な増加、失業率の低下、それによる賃金の上昇、物価の上昇、予想物価上昇率の上昇を待つことが必要である。』

目標達成していないのに効果を上げている(キリッ)とか自画自賛されてもそれは鹿を撃ちに行ったら狸を撃ちましたので効果がありましたと言っているようなものですし、雇用の改善とかそれはQQEの効果なのかよと言いたくなるのもありますし、大体からして今やっている政策をそのまま粘り強く続けると副作用がドンドン増えてくるというコストベネフィットの論点が欠落している時点でお前は何を言ってるんだという見解で落涙を禁じ得ません。

『・2%の「物価安定の目標」への理解を推進しつつ、息長く経済の好循環を支えて脱デフレの完遂に資するべく、現在の金融政策を継続するべきである。』

だからこの件って政策の副作用の問題への考慮が無いんですよねー、ということで次は別件になりますが。

『・2%の「物価安定の目標」は、消費者物価指数の上方バイアス、金融政策の対応余地、グローバル・スタンダードの観点から堅持することが重要である。』

これってこの前も講演で出ていましたが、2%目標は別に目標として残したって良いと思うのですが、それを何が何でも短期間で金融政策単独で達成する、という今のアプローチが無茶なのであって、「我々の目標とする経済は前年比2%の物価上昇率が安定的に達成されている状況と整合的な経済状況です」という意味での目標にすれば良いだけの話。

という意味で飛ばして後の方に木内さんと思われるコメントが。

『・2%の「物価安定の目標」は、金融政策の自由度を奪っていると考えている。これを、中長期の目標へと柔軟化したうえで、金融政策の正常化に向けた道筋に関して、金融市場、金融機関とのコミュニケーションの正常化を図るべきである。』

まあ中長期に柔軟化した方が良いと思うのですが、大見栄切った手前どう収拾するのかが難しいのはその通りなんですけどね〜。まあ執行部変えるしかないですよね。政府との共同文書の縛りはあるけれども、別に「2年で達成」とは言ってない(黒田日銀が勝手に言い出した)のですから任期満了で総裁取り換えるしかないでしょう。

と普通に考えるとそういう結論になると思うのですが、何故か知らんが何とかスト相手のサーベイみたいなのをベンダーが取ると黒田再任が最多になってしまう、というのは何とかストは今の政策の枠組みをもう一段変えていかないと金融市場も金融機関も国内債券投資家も持たんのでおまいらのメシの種も無くなるんじゃという点への危機感が全然ないのかと小一時間問い詰めたい。

・・・・・すいません話がついうっかり逸れました。

『・出口への関心が高まっている背景には、日本銀行の資産規模拡大もあるが、景気が改善していることが大きく影響している。今後、景気改善が続くもとで、市場の不安を高めることがないよう、金融政策運営の考え方について、しっかりと説明していく必要がある。』

債券市場的に言えばトランプユーフォリアヒャッハーとやっていた時は「もしかしたら2017年後半は前年比効果にトランプユーフォリアが支援して物価1%台半ばとか見えてきて日銀勝ち逃げワンチャンあるで」となっていたのですが、今は債券市場以外の人が騒いでいるだけで債券市場は不安とか以前に「できねえだろ」という認識ですけれども、それ以前の問題で今の政策が目標達成に向かって進展していけば出口の議論になる筈なのであって、この「金融政策運営の考え方について、しっかりと説明していく必要がある」とは一体全体何を言いたいのかが意味不明にも程があります。

本来目標達成時期が展望レポートの通りで来年度のどこか、という話であれば、FRBの例を見ても分かるように今から出口政策に関するコミュニケーションを始めて行かないと後で色々と面倒な事になるのですが、今の時点でこのような言い方というのは要はおまいら2018年度の平均が1.9%とか誰も思ってないだろという話ですな。

『・中央銀行の財務の良し悪しは、通貨の信認を支える要素の一つであると考えている。円という通貨の信認は、日本銀行のみならず、国全体の信認に依存するところが大きく、複数の座標軸で決まってくるものだと捉えている。』

なので財務を気にするべきなのか気にしなくて良いのか良く分からん(たぶん前者)のですが、まーこの辺りの見解が「主な意見」に出てくる、というのは割と外野から出口がどうのこうの言われているのを気にしているのかなあ(単に他にネタが無いから埋め草で書いたのかも知れないけど)、と興味深く読んだのですけどね。

ただまあ気になる(これまたいちゃもんテイストが強いと言われればその通りですけど)のは、債券市場が出口的な事を少しだけでも気にして値動きしていたのって昨年の11月から2月くらいまでの話で、その時は「海外金利上昇に連れて金利が上昇」みたいな話をしていて、市場が出口とか知らんがなとなっているこの時期になってから出口がどうのこうのみたいな話をおっぱじめるというのに微妙なこのズレ感を受けるというのもありまして、佐藤さんと木内さんいなくなった後に市場のその辺りのニュアンス分かって話をしてくれそうな人が今度来られる鈴木さんだけになってしまう(中曽さんは分かっていても大本営発表マンになってしまうのが残念)のってどうなのよと思うのでした。


・なお今回の主な意見の中で一番辛辣なのはこれです

『・出口に関する真の問題は、2%の「物価安定の目標」の達成まで相当な距離がある中で、出口の時期を見通せないことである。


これは声を出して10回朗読したい名文ですが、たぶん佐藤さんではないかと思いますが、出口がどうのこうのという意見を全部粉砕して火の海にする無慈悲な攻撃過ぎて盛大にウケてしまいました。


○その他ネタですっかり飛ばしていましたが物価に関するイエレン会見を鑑賞

米国方面ネタ少々ということで。

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20170614.pdf
Transcript of Chair Yellen’s Press Conference
June 14, 2017

物価に関しては当然ゴリゴリと突っ込まれているのですがそれに関する部分を飛ばしていたので改めて。

『SAM FLEMING. Thanks very much. Sam Fleming from the Financial Times. We’ve now had a very long streak of-or fairly long streak of weak inflation numbers, at least measured by the CPI this morning as well. Marketplace-based inflation expectations are declining. What kind of vigilance are you now saying is needed in terms of weak inflation? How does that interact with your policy outlook? And would further disappointments argue for pressing “pause” on rate hikes or delaying balance sheet runoff? How do you think about those two potential responses to weak inflation?』

インフレが弱めでBEIは下がっているのだが政策大丈夫かと。

『CHAIR YELLEN. So let me just say, as I emphasized in my statement and always say, monetory policy is not on a preset course.』

一応そこは断るけどどう見てもバランスシート正常化とかは先々までセットしてますよね。まあいいけど。

『We indicated in our statement today that we’re closely monitoring inflation developments and certainly have taken note of the fact that there have been several weak readings, particularly on core inflation.』

ほうほう。

『Our statement indicates that we expect inflation to remain low in the near term. But, on the other hand, we continue to feel that with a strong labor market and a labor market that’s continuing to strengthen, the conditions are in place for inflation to move up.』

足もとは弱いが今後インフレが上がるコンディションは整ってきているとかどこかで聞いたような言い逃れチックに見えますな。

『Now, obviously we need to monitor that very carefully and ensure, especially with roughly five years of inflation running under our 2 percent objective-that is a goal to which the committee is strongly committed. And we need to make sure that we have in place the policies that are necessary to achieve 2 percent inflation, and I pledge that we will do that. But let me say, with respect to recent readings, it’s important not to overreact to a few readings, and data on inflation can be noisy.』

「最近の数字はノイズ」来ました!!

『As I pointed out, there have been some idiosyncratic factors I think that have held down inflation in recent months, particularly a huge decline in cell telephone service plan prices, some declines in prescription drugs.』

「特殊要因による押し下げ」来ました!!

『We had an exceptionally low reading on core PCE in March, and that will continue to hold down 12-month changes until that reading drops out. But we are-this morning’s reading on the CPI showed weakness in a number of categories, and it’s certainly something that we will be closely monitoring in the months ahead. We will-we’re focused on making our policy decisions on the medium-term outlook, and we will, you know, be looking carefully at incoming data and, as always, revising our outlook and policy plans as appropriate.』

基調は強いです中期的な見通しに変化はありませんという話を強調。

『SAM FLEMING. Any implications for beginning of runoff and further increases in the fed funds rate?』

と質問が続いても・・・・・・・

『CHAIR YELLEN. So-continue, as today’s actions show, to feel that the economy is doing well, is showing resilience.』

まあ止めるようなサインは無いのかと言われたらレジリアントですと答えるのは順当ですけど。

『We have a very strong labor market, an unemployment rate that’s declined to levels we have not seen since 2001. And, even with some moderation in the pace of job growth, we have a labor market that continues to strengthen and policy remains-remains accommodative. So, I-it’s important that inflation move up to our 2 percent objective, as our projections show we continue to expect that and believe the conditions are in place. But we will monitor incoming data, obviously, and be attentive to rethinking our outlook if it seems appropriate.』

データを見る、とは言っているけどまあ基調は強い攻撃ですよね。

・・・・という質疑の直後にこういう追い打ちの質問が飛んで来るのがどこぞの国の総裁会見と違う出来の良いところでして。

『CRAIG TORRES. Craig Torres from Bloomberg News. Hate to belabor the point on inflation, but I was wondering, I hear a lot of the so-called NAIRU in your conversation now and in other committee members’. It’s an unobservable thing. At best, it’s an estimate. And the assumptions in there seem to me that the economy today is much like the economy yesterday, when, if anything, we’ve learned that the post-recession economy is vastly different than it was before the recession. So I’m wondering, something you’ve talked about is to focus more on the change in inflation-actual inflation, and is it going up or is it going down, and basing policy more on that. What would be the risk of that, and why not adopt that if you have such a long period of underperformance?』

物価の話をまたするのもスマンがのう、と最初に言いつつも、NAIRUの話とかして今後物価が上がるとかゆうとるけど、経済構造が変化していたらNAIRUだって変化している可能性が有る訳で、そんな推測値の話をするよりも実際の物価が上がっていないやんけどうなっとるんじゃゴルァ!という口調ではないですが「現実を見て話をして下さい」とは中々強烈。

『CHAIR YELLEN. Well, we are closely looking at the actual performance of inflation and altering our views on the basis of discrepancies between what we see and our expectations. And, well, it is very difficult to pin down what is the longer-run normal rate of unemployment, and there’s a great deal of uncertainty about it, and it’s hard to pin down, especially given the fact that the so-called Phillips curve appears to be quite flat. That means that inflation doesn’t respond very much or very quickly to movements in unemployment.』

フィリップスカーブがフラット化している可能性があってNAIRU以下に失業率が改善しても物価への感応度が弱い可能性がある、というのはご指摘の通りとな。

『Nevertheless, that relationship, I believe, remains at work.』

でもワークしていると思う、だそうです。

『We have seen that operate historically. Now, in the face of very low unemployment that we have seen, while wage growth has picked up somewhat, it remains low, and inflation is influenced by a number of different factors, but we certainly haven’t seen much or any evident upward pressure on inflation. In light of that, the Committee has successively moved down its estimate of the normal longer-run rate of unemployment, and in this projection, it’s moved down to 4.6 percent, a tenth lower than it was last time. So, while the unemployment rate is below that, it’s not that much-it’s not that much below it.』

賃金の上がり方が弱いのを受けて我々のロンガーランの失業率(概ね自然失業率と同義)を引き下げました。ああそれから足元の失業率はロンガーランよりも低い所にありますけれども、ロンガーランとの乖離が小さいからそんなに賃金物価に反応してないんですよ、だそうです。


もうちょっと先に行ってまた物価に絡んだ金融政策の質問。

『HOWARD SCHNEIDER. Howard Schneider with Reuters. So, on inflation again, I just wonder, what’s the possibility that something more, sort of-I mean, nefarious is at work here,right, which is that the, sort of, weight of central bank credibility now-for a generation, really- plus globalization has just pushed the world into a low-inflation environment that’s going to be very hard to get wages and prices moving again. And then, related to that, you know, if NAIRU is 4.2, why not 4 or why not 3.8? You banked a quarter-you know, a full percentage point now, so you’re probably at less risk of falling behind whatever curve exists. Why rush?』

グローバル化とかの構造的に賃金が上がり難くて物価に効きにくいかもしれないし、NAIRUだってもっと低いかもしれないという中なのに何で利上げを急ぐのかという質問。

なお回答がすげえ長い。

『CHAIR YELLEN. So I don’t think central bank credibility-at least the Fed’s credibility-has been impaired. We look at a whole variety of indicators of inflation expectations. Professional forecasters-whether it’s in the Blue Chip or the Survey of Professional Forecasters, those expectations have remained quite steady and in close alignment with our 2 percent inflation target. TIPS-based measures of inflation compensation do not provide straight reads on market participants’ estimates and expectations about inflation. They embody other elements-risk premia and liquidity premia as well. They had moved down and now have moved-they remain at low levels, but they have moved back up again. It is true that some household surveys of inflation expectations have moved down, but overall I wouldn’t say that we’ve seen a broad undermining of inflation expectations.』

まずはインフレ期待に関する説明ですが、プロフェッショナルフォーキャスターとBEIと家計のインフレサーベイの話をしているのですが、自分に都合の悪い数字(BEI)については色々と計測上のケチを付けているのが微笑ましい。

『But you asked also, I guess, about have structural changes perhaps impacted the inflation process, and that certainly is possible. And estimates of the normal longer-run unemployment rate-they are quite uncertain. I agree with your assessment there. We’re really not certain what they are. And policy is not being-is not based on some firmly held preconceived notion.』

「And policy is not being-is not based on some firmly held preconceived notion」ってそれがホンマカイナというのを質問しているのですが結局こう言い切って返されるのよね〜。

『We’re watching very carefully how the actual economy performs. And, you know, I continue to believe, though, that with job growth running well in excess, even with the moderation of the level that’s needed to provide for new entrants in the labor market, we do have a strengthening economy. With policy accommodative, all that we’re doing in raising rates is moving-removing a bit of accommodation heading toward a neutral pace. And I see that as appropriate.』

あくまでも緩和度合いの縮小ですとな。

『We’re not moving so aggressively as to put a brake on continued improvement in the labor market. But I think that that’s a prudent move, to move in a gradual way to remove accommodation, with unemployment now-and not only, I should say, the unemployment rate, but I think any indicator of labor market performance and tightness that you could look at, whether it’s household perceptions of the availability of jobs, difficulty that firms report in hiring workers, the rate at which workers are quitting their jobs, the rate of job openings, all of these indicators do signal a tight labor market.』

労働市場の改善にブレーキを掛けるようなアグレッシブな動きはしていませんとな。

『Now, with inflation below 2 percent, I think it’s appropriate that the labor market be that tight. But, on the other hand, I think we want to avoid the risk. We want to keep the expansion on a sustainable path and avoid the risk that at some point we need-we find ourselves in a situation where we’ve done nothing and then need to raise the funds rate so rapidly that we risk a recession.』

物価は2%より低いですが、今の強力緩和を継続すると、今後いずれかの時点で物価抑制のために一気に引き締めないといけなくなって、そうなるとオーバーキルのリスクが生じると。

『So moving to some extent in a timely way to remove accommodation with a strong economy and continued labor market strength, the Committee believes, is an appropriate management of risks. But we are attentive to the fact that inflation is running below our 2 percent objective, that we’ve faced that situation now for a long time, and it’s really quite essential that we put in place policies that will succeed in moving inflation back to our 2 percent objective, and it’s a symmetric objective. So that’s a risk that we face as well. The Committee believes we have conditions in place for inflation to move up, but that’s also a risk. And those things point, I think, to a gradual pace of reducing accommodation.』

つーことで、物価についても重要ですがとは言っているのですが、ここでの説明は「物価2%に達していないのを過度に重視することによって景気を吹かし過ぎて後で強力引き締めをしないと行けなくなる点に注意すべき」というのを強調していまして、これはつまり(あちこちで指摘されていると思いますが)物価にフォーカスするのではなくて「総合的判断」で景気を吹かすアクセルを徐々にゆるめて行っています、という事を示しているのでして、物価がホイホイ上がりだせばそらもう利上げペース早くなるし、物価が上がらなくても巡航速度のままだったらやっぱり利上げ路線(とバランスシート縮小)も継続、という事になっているという話でしょうな。


○ダドリー講演があるようだが当然読めていないがメモだけ

http://jp.reuters.com/article/usa-fed-dudley-idJPKBN19H19W
Business | 2017年 06月 26日 21:01 JST
金融状況の改善、米FRBの引き締めに追い風=NY連銀総裁

『[26日 ロイター] - ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、このところの利回り差縮小、株価の過去最高値更新、債券利回りの低下は、連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めを進める上で心強いとの見解を示した。25日に行った講演の原稿をニューヨーク連銀が26日公表した。それによると総裁は「金融政策当局者は金融状況の動向を考慮する必要がある」と指摘。「最近のように緩和的な状況なら引き続き金融を引き締めるさらなる誘因になる」と述べた。』(上記URL先より)

講演はこちら(だと思う)。
https://www.newyorkfed.org/newsevents/speeches/2017/dud170626
Panel Remarks at Bank for International Settlements' Annual General Meeting
June 25, 2017
Posted June 26, 2017
William C. Dudley, President and Chief Executive Officer
Remarks at the Bank for International Settlements' Annual General Meeting, Basel, Switzerland

でまあ中身を読んでないので何ともですが、上記URL先の解説が正しいとしますと、市場が物価がそんなに上がらないんだから正常化路線は途中までしか行かないんじゃネーノとか言いながら短期上がっても長期上がらないどころか下手したら下がる、というのをやっているのは実はFEDにとってもウマーであって、さらに喜んで利上げが出来る、という謎のパズルみたいな状態になっていますなあ、と思ったのでメモだけしておきます。



2017/06/26

お題「超長期輪番ェ・・・・・・・/岩田副総裁会見鑑賞だが例によって役に立たない鑑賞会」

FF金利を上げるだけだと金利はフラット化するけれども資産買入を縮小して金利全体を上げないといけない、と某S井大先生が仰せのようですが、金利がフラット化しているのは資産買入云々じゃなくて物価が上がらない中での正常化路線がどこまで続くのかとかターミナルのFF金利が下がるんじゃないか、とか、利上げによる景気減速懸念とかの方がメインだと思いますがねえ>モーサテ


○他にネタが無いのは分かるが日銀買入が毎度ネタになる相場という備忘録

毎度のロイターさんからで恐縮ですが。
http://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL3N1JK280
Markets | 2017年 06月 23日 15:22 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続伸、長期金利0.055%に上昇

『[東京 23日 ロイター] -  

<15:11> 国債先物は続伸、長期金利0.055%に上昇

長期国債先物は続伸。手掛かり材料が乏しく積極的な売買は控えられた。後場中盤に短期筋からの買い戻しがやや優勢になった。22日の米債市場からの影響は限られた。現物債では、連日強含みで推移してきた超長期ゾーンが軟化。残存10年超の日銀オペ結果が想定以上に悪く、需給の緩みが強く意識された。長期ゾーンもさえない。一方で金利に上昇圧力がかかってきた中期ゾーンは横ばい圏となった。日銀オペ結果から判断して在庫がある程度処理できているとの見方が出ていた。』(上記URL先より)

ということですが金曜のオペ結果。

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba170623.htm
国庫短期証券買入 18,561 7,505  0.000 0.006 56.6
国債買入(残存期間1年超3年以下)9,329 2,805  0.001 0.002 25.0
国債買入(残存期間3年超5年以下)9,967 3,004  0.002 0.003 27.2
国債買入(残存期間10年超25年以下)6,225 2,002  0.005 0.007 31.6
国債買入(残存期間25年超) 4,491 1,000  0.009 0.010

短国買入は7500億円の方でオファーされていましたが前回(先週月曜日)の応札が3.2兆と盛大にあったのに対して(買入は1兆円)今回の応札が1.86兆円になっていますので、先週買入で減った分まるまる以上に応札が減っている感じなので、やはり1年がメインの札なんですかねえ(3Mのカレントの入札足切がほぼ2糸甘だし引けで入れてもマイナス一桁bpになるのでわざわざ入れに行くこともないのでしょうかね)という所ですが、3Mの入札があったのに応札が盛大に減っているのはほほーという感じで。

中期輪番は別に増額とかありませんでしたが(まあ当然ですけど)、ロイターニュースにもあるように順調だったのですが、超長期輪番は久々に前場引けよりも甘い所でバサッと入れてきた人がいたようで結果出てからヘロヘロの巻という久々のパターン登場なのですが、そうなったらすかさずイールドカーブがツイストスティープするとか他にネタは無いのか(無いんだけど)という風情ではございました。


○師匠の金懇挨拶は腹話術スキームで何とかなったのですが・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1706c.pdf

金懇挨拶では腹話術スキームで(置物リフレ理論がまるでないという謎の挨拶ではございましたが)何とかなったのですが会見の方が見るも無惨な・・・・・・・


・そもそも最初の時点で妙

『(問) 質問は 2 点あります。まず、本日の金融経済懇談会で話題になった主な内容をご説明下さい。』

『(答) 本日の金融経済懇談会では、青森県の行政や経済界、金融界を代表される方々から、地域経済の現状や課題のほか、日本銀行の金融政策の運営に関して色々なご意見を賜りました。(以下延々と続くが割愛)』

という質疑なのですが、「質問は2点あります」って言ってるのに1点の所で応答が始まる、というのが中々不思議な会見で、実際の会見は放映とか無いからどういう流れになっているのか良く分からんのですが、勝手に師匠が答えをおっぱじめているのであればナンジャソラという感じですし、わざわざ2回に分けて説明させようとしているのであれば、通常の質疑だと「地域経済に関する質問」というのは最初の所で終わらせるのですが、わざわざ2回に分割して会見時間を稼いでボロを出さないようにしよう(地域経済に関する部分って想定問答が用意されている筈なので)という配慮が入ったのか良く分からんのですが、謎の質問形態になっています。

『(問) 次に、今のお話も踏まえて、県内の経済状況について、現状と今後の見通し、また、課題などあればお聞かせ下さい。』

と、その次にありまして、ここで2ページ分使われているのですが、まあその後も色々と謎。


・謎の質疑

3番目の質疑も謎なのだが。

『(問) 21 日のニューヨーク市場では、原油の先物価格が 1 バレル 42 ドル台まで下落し、去年 8 月以来の安値の水準となっています。今回の原油価格の下落はアメリカのオイル供給過剰懸念が主因とも言われていますが、金融市場や国内の物価動向にどのような影響があるとお考えでしょうか。また、懇談会のご挨拶で、副総裁は「物価上昇率の高まり方が緩慢だ」と認めていますが、原油価格の下落でエネルギー価格の押し上げ寄与が減少すると考えると、来年度頃としている 2%を達成する時期がさらに遠のく懸念も出るのでしょうか。』

いやその数日下がったという話で質問してどうするのというのもありますし、原油価格が下がったからどうのこうのという話は既に言い訳が入っているでしょうから聞くだけ無駄な質問なんだが。

『(答) 原油価格は一昨年頃に急落して、その後一旦立ち直ってからまた下がるというようなことが起き、最近では少し上昇トレンドに入ったかと思うと、おっしゃったようなことも起こっています。今後も原油価格が一本調子で上がっていくということはなく、上がったり下がったりしながら、トレンドとしてはある程度上昇ではないかと思いますが、一時的な下落といったことは起こってくると思っています。ただ、原油価格が急落したような時には、日本の物価に大きな影響を与えるわけですが、一時的な下落といったことは、それほど長期にわたって日本の物価に影響するということはあまり考えられません。原油価格が一時的に下がったり上がったりすることで、物価の見通しをそれほど変えていく必要はないと感じています。』

そらまあ質問がこれだとこういう答えになるわなと思ったのですが、何かこの質疑応答もなんのために質問をしたのかさっぱり意味が分からんのですけどねえ・・・・・・・・・


・・・・・・というのが前座なのですが、この先が色々と酷い。


・この質疑だが師匠の説明がさっぱりわからん

『(問) 本日の講演で、2%の物価上昇率の必要性について、景気後退の局面に入った時に必要とおっしゃっていましたが、物価の伸び率が低いまま、景気後退局面に入った場合、どのようなことが起こるとお考えでしょうか。また、今の緩和策を続けても、なかなか物価が上がらないまま、また景気後退局面を迎える可能性もあると思いますが、そのようなリスクについて、お考えをお聞かせ下さい。』

何かわざわざ二つに分ける必要ないと思うのだがまあ良いとして。

『(答) 世界経済は、昨年の前半頃に底を打ち、そのような状況で、先進国は良かったわけですが、新興国はあまり良くなかったところ、ここにきて新興国も良くなってきています。一つの要因はやはり貿易が拡大し始めたことです。これは在庫調整がほぼ終わったことなど、色々な要因があると思います。また、先進国の経済が引っ張ってきた影響がようやく新興国に波及したこともあると思いますが、いずれにしても貿易を中心に経済活動が復活してきました。貿易が復活し、生産活動も増えて、それが設備投資にも結び付くという循環に入ってきています。』

まあここは兎も角としまして、

『今年は、一昨年から昨年の前半までが非常に悪くて、そこから底を打って景気回復過程にあるので、差し当たり景気が悪くなることはなかなか考えられません。』

さしあたり悪くならないというのは兎も角として、「一昨年から昨年の前半までが非常に悪くて」って展望レポートや声明文ではその期間中ずーっと「わが国の景気は、新興国経済の減速の影響などから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている。」って説明していた訳で、勝手に過去の景気判断を「非常に悪い」とか改変するなよ・・・・・・・・・

『ようやく上昇トレンドに入ったということです。むしろ今年は非常に良くなる年ではないかというのが私の考えです。』

まあこれはさておき次がアレ。

『ただ、今おっしゃったようなリスクは、特に海外面から起こる可能性はあると思っています。』

・・・・・・・・今しがた海外要因を主因として「非常に良くなる年」と言っていたのに「リスクは特に海外面」と仰せになるというのがまるで意味が分からん。一つ一つの現象とかリスク要因に関してはそらまあ確かにこういう見方も分かるのですが、「海外が底を打って(そもそもその底を打ってというのも妙だがそれは置く)ここから非常に良くなる」という説明をしているのに同時にリスクは海外って話をしたら、それは見通しの立て方がおかしいでしょ、となると思うのですけれども。

まあ置物リフレ一派の皆さんのお得意な「パーツパーツの説明は正しいのだが全体の話の整合性が取れていないので最初と最後で矛盾した話をする(ので政策として使えないどころか有害)」という話の面目躍如でして、これ説明するなら普通に国内の需給ギャップがここにきてプラスになってきており、ここから良くなってきますという説明の後に海外リスクの話をすれば説明が変な流れにならないと思うのですが、何でこういう説明をしちゃうのでしょうかねえ。

『米国経済政策がどうなるのか依然として不透明ですし、ブレグジットがどういう影響を与えるのか、欧州の債務問題もありますし、中国でも過剰生産の問題が完全に解決したわけではありません。』

だったら何で「非常に良くなる年」という見通しが出せるのか小一時間問い詰めたい。

『さらに地政学的リスクが非常に増しているということがあります。これまではヨーロッパあるいは中東が主でしたが、最近では、日本のそばでも地政学的リスクが多くなりましたので、そのようなことが顕在化して大きくなると、人々のマインド面から、景気回復のモメンタムが削がれる可能性があると思います。』

「マインド面」とか呑気な話ではないと思うが。

『ただ、それがそれほど大きいかというと、やはり地政学的リスクがあまり大きくならないよう、なんとか歯止めが掛かるように政治は運営されるだろうと期待しています。従って、そういう意味では、日本の回復が始まったばかりなのに、もう景気が悪くなるという蓋然性は少ないと思っています。』

「日本の回復が始まったばかり」ってずーっと基調判断「緩やかな回復」なんですけど・・・・・・・・


という事ですが、追加質問が。

『(問) 物価が低いまま景気後退局面に入っていったらどうなるのでしょうか。』

結局さっきの質問に対する答えになっていなかったという事で。

『(答) 万が一のことはあまりお答えしたくありませんが、そのような場合には、やはり金融の一層の緩和ということと、もう一つは財政面での協力ということで、よほど悪いショックの場合は対応していくことになると思います。』

ということで、何のことは無いこの答えだけしておけば良いものを謎の説明をするから話が長くなるのでした。


・リスクプレミアムに働きかけるけれども特定の株価ではないとな

まあこれは師匠答えられないだろうという質問ですが。

『(問) ETFの買入れに関して 2 点お伺いします。今、景気の認識についてお伺いしたところですが、昨年の 7 月に年間の買入れ額を 6 兆円に倍増させて、まもなく 1 年になります。当時の海外経済を含めたリスク要因等と現状は変わってきていると思いますが、今、買入れ額を改めて見直す必要性についてどうお考えでしょうか。また、それに関連して、年間の買入れ額を大きいまま続けていくと、個別銘柄の株価を左右するなど、市場の機能を歪めるのではないかという懸念の声も聞かれています。そのような声に対してどのようなご意見をお持ちでしょうか。』

『(答) ETFの買入れは、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みの一つの要素として、株式市場におけるリスク・プレミアムに働きかけることを目的にしていますので、特定の株価水準を念頭に置いていません。従って、そうした水準を実現するという目的でやっているのではありません。』

まあ日銀の公式説明も突っ込まれたらこういう答えになるのだが、じゃあそのリスクプレミアムがどの程度の水準にあるとか、そういうのは計測しているのでしょ幾らほどなのですか、という話ですよね。

『つまるところETFの買入れは、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するために必要な政策であると考えてやっていますので、先行きについては経済・物価・金融情勢を踏まえて、毎回の金融政策決定会合で、適切に判断していくということに尽きると思います。』

『(問) 当時の状況として判断したリスク要因等が今も継続している、それが必要な状況には変わりないという認識でしょうか。』

『(答) 先日の決定会合で、そのように判断したということです。また、次回どのように判断されるかは議論の過程で決まってくると思います。』

リスク要因等、ではなくてリスクプレミアムは依然として大きい、あるいは今後拡大する可能性があると判断しているのでしょうか、という言い方をした方が良いと思う(そういう趣旨で質問しているのは分かるけど)。


・再度質疑応答が噛み合っていない

『(問) 物価動向について 2 点伺います。4 月の消費者物価指数が力強さに欠けていて、本日の副総裁の講演でも緩慢というお話がありました。2017 年度の見通しも 1.4%ですが、足許の動向と比べるとだいぶ距離が離れている実感がありますが、これをどう受け止めていらっしゃいますでしょうか。』

『もう一つは、日銀の物価見通しですが、市場からすると、常に期待を織り込んでしまっており、高すぎるという懐疑的な見方があります。結果として、その物価見通しを引き下げることが多く、そうなると日銀がせっかくパスを示しても、その信頼が揺らぎかねないということもあると思うのですが、そういった声についてお考えをお聞かせ下さい。』

そういうのは総裁会見で聞いてほしい。

『(答) 一番最初に「量的・質的金融緩和」を始めた頃には、レジーム・チェンジということが大きく働いて、人々の期待形成が変わり、予想物価上昇率も上がり、物価も順調に上がっていました。』

えーっとすいません、だったらとっくの昔に物価目標達成している筈なんですが。

『そういう時にはむしろ、マーケットとの関係では、マーケットのほうが遅れて日本銀行についてきている状況でした。それが少し崩れてくるのは、消費税増税後の需要の弱さ等に加えて、原油価格が最大で 4 分の 1 まで下がるという想定外のことが起こり、予想物価上昇率がこれと同じように下がってしまうことを、日本銀行としては、十分には織り込めなかったからだと思います。そのためにマーケットや実態との差が開いていったと思いますので、そういう面を捉えて「総括的な検証」を行いました。』

何じゃこの説明?

『予想物価上昇率は日本ではどのように形成されるのかを検証した結果、足許の物価が上がらないと、なかなか上がらない。2013 年に「量的・質的金融緩和」を実施した時には、レジーム・チェンジの効果が働いたため、足許の物価が上がらなくても予想物価上昇率はそれ以上に上がる状況が続きましたが、今はまた元に戻ってしまい、足許の物価が原油価格等で下がると、予想物価上昇率も下がるという、いわゆる適合的期待に変わってきました。』

「足許の物価が上がらなくても予想物価上昇率はそれ以上に上がる状況が続きましたが」というのが訳分からないし、さらに「適合的期待に変わってきました」って元々適合的要素が強いというのが総括検証の結果じゃなかったでしたっけ??

『そうなると、日本銀行は少しフォワードルッキングな要素を織り込んで予想していましたので、物価に関する展望について、マーケットと日本銀行に乖離が生じ始めた。そういうことで「総括的な検証」をした結果、』

マーケットと、じゃなくて実態として外したから総括検証したんでしょ。

『今後は、需給ギャップの改善もありますので、足許の物価が上がり、予想物価上昇率も上がる、ということを繰り返しながら、次第に皆さんが、物価が実際に上がってくることを期待することによって、予想物価上昇率も、足許だけではなく、もう少し先をみながら予想するようになると私どもは考えています。適合的期待だけではなく、もう少し先行きをみた予想物価上昇率の形成の要素も加わってくると予想していますので、徐々にまた一番最初の「量的・質的金融緩和」を始めた頃と同じように、民間の予想物価上昇率も日銀に近づいてくるということが、今年から来年にかけて始まるのではないかと私は判断しています。』

何つーかわけわからん。

『(問) 1.4%と予想されていますが、足許の物価の動向が鈍いことに関して、どのようにお考えでしょうか。』

さっきと同じでワロタのだが・・・・・・・

『(答) 足許は鈍いですが、労働市場をみますと、労働需給の逼迫度を反映するパートの賃金はすでに前年比 2%台後半まで上がっています。正社員の有効求人倍率も 0.97 倍と、1 倍が視野に入ってきている段階です。さらに今年は実体経済も良いということであれば、次第にパートだけではなく、正社員の賃金も上がってくると思います。むしろ、足許の物価が少し弱いのは、一昨年から去年くらいまでの状況が尾を引いているほか、原油価格が大きく下がったために実際の物価が下がったことが効いています。今後はそれが反転していく局面に入っていくと理解していますので、足許は弱くても徐々に物価は 2%に近づく軌道に入っていくと思っています。』

会話になっていない・・・・・・・・・・


・80兆円を残した方が柔軟に対応できるという謎理論を鑑賞

『(問) 1 点目は、日銀は今の「イールドカーブ・コントロール」のもとで、金利をターゲットにしていますが、80 兆円をめどに国債の保有残高を増やしていくガイダンスも残しています。このガイダンスは引き続き維持すべきだとお考えでしょうか。また、仮に将来これを変える、あるいは取り除く場合、どのような条件のもとであればそれが可能なのかをお聞かせ下さい。(後半割愛)』

『(答) 「イールドカーブ・コントロール」では、短期金利を−0.1%、長期の 10 年物国債の金利をゼロ%程度という目標を持ってやっています。金利の裏には量があるわけで、金利の下がり方あるいは上がり方によって、国債の買入れ額は自動的に変動せざるを得ません。』

マネタリーベース理論は撤回したようです。

『そのうえで、なぜ 80 兆円のめどが同時にあるかですが、それを外さないほうが柔軟性があると考えられることが1 つあります。』

これは珍理論。

『例えば、先程、景気後退があったらどうなるのかというお話がありました。蓋然性はないかもしれませんが、万が一、非常に大きなリスクやショックが生じた時に、ゼロ%程度を維持するために、国債買入れ額のめどを外してしまった後に、やはり国債買入れ額は 80 兆円必要ということになるかもしれません。そういう意味で、国債買入れの 80 兆円はめどとして柔軟に残しておいたほうが、金融政策の運営が上手くいくのではないか。』

??????????

『いったん外したのにまた 80 兆円をめどにするといった、市場に余計な混乱を予想させる必要はないのではないか。それよりも、80 兆円をめどにして、フレキシブルに買入れ額や、イールドカーブの形状を現状程度に維持する方法を考えたほうがよいのではないかということで、80 兆円というめどを残しているわけです。
(後半割愛)』

・・・・・・・何を言っているのか分からない。


・これは良い質問

良い質問だが質問が長いのは逃げ場を無くして聞いているからです。

『(問) 岩田副総裁は、就任会見で、2%のインフレを達成するためには 2 つの条件が必要だとおっしゃっています。そのうち 2 つ目として、「2 年くらいで責任をもって達成するとコミットしているわけですが、達成できなかった時に、『自分たちのせいではない。他の要因によるものだ』と、あまり言い訳をしないということです。そういう立場に立っていないと、市場が、金融政策を信用しないということになってしまいます。市場が金融政策を信用しない状況で、いくら金利を下げたり、量的緩和をしても、あまり効き目がないというのが私の立場です」とおっしゃっています。』

ですなあ。

『もう 4 年以上経っても目標を達成できていないわけですが、その理由として先程も、原油が下がった、消費税増税の影響があった、想定外のことが起こった、といったことをおっしゃっています。本日の講演の中では、もう 1 つ大きな要因として、リーマン・ショック後、わが国の予想物価上昇率が低位にとどまり、あるいは大きく低下したために、名目金利を引き下げても実質金利が十分に下がらなかったことにある点は否定できない、とおっしゃっています。』

はい。

『これはつまり、異次元緩和を始める前の白川総裁時代のことをおっしゃっていると思いますが、もともと黒田総裁、岩田副総裁、新しい執行部というのは、前の白川総裁の政策を否定して異次元緩和をされたわけで、その政策が 4 年以上経っても上手くいっていないからといって、前の白川総裁の時代のせいにするのは、あまりフェアではないと思うのですが、いかがでしょうか。


白川総裁の説明と同じ説明になっているように見えますがどうでしょうか、と締めた方が良かったと思います。

『(答) 白川総裁時代のせいにするということではありません。率直に説明しますと、2 年くらいをめどにして達成するという時に言い訳をしない、という時の言い訳としては、合理的な説明になっていないことを言い訳と私は申し上げました。』

ほほう。

『例えば、安い中国からの輸入品が多いから日本はデフレになる、ということが、合理的な説明になるかということです。世界でデフレになっているのは日本だけだったわけですが、中国からはアメリカでもどこでも大量に輸入しています。従って、中国から大量に安いものを輸入しているからデフレになるというのは合理的な説明にはなりません。日本だけがなぜそうなっているのかを示さなければならないので、こうした合理的な説明でないことを私は言い訳と言っています。』

今も個別物価の話をしていますし、欧州や米国は物価が2%とは言いませんが1%台半ばとかに上昇している中で日本だけ低空飛行なのですが今でも。

『国会ではそれは言葉の遊びだと言われてしまいましたが、言い訳とはそういうことだと思います。合理的な説明であれば言い訳ではありません。』

これが合理的なら前の説明も合理的ですが。

『原油価格がこれだけ急落した場合、物価が下がるというのは、ある期間はどうしても起こります。なぜならば、原油価格が急に 4 分の 1 にまで下がった場合、交易条件が良くなり、例えば地方で自動車を運転して外出したり、モノを買ったりする時の輸送コストが大きく下がります。その分、他に購買する力が出てきます。他のモノを消費する購買力が生じますが、他の物価は上がるのに時間がかかります。これを物価の粘着性と言います。生鮮食品などはわりあい簡単に上がることはありますが、簡単には上がってこないモノがありますので、原油価格の下がり方を相殺してなかなか物価は上がりません。』

じゃあ日銀版コアCPIは何で上がらないのでしょうか。

『決して言い訳ではなく、時間が掛かるという意味です。』

言い訳ですが。

『原油価格が永遠に下がり続ければ、さらに金融緩和をしなければならないことになりますが、』

今原油が下がったら購買力が上がるという話をしていたのですが・・・・・・・・

『そうでない限りは、物価はどこかで底を打って反転してきますので、金融政策は最終的には効きます。』

?????

『金融政策で物価が上げられないということではなく、一時的にどうしても物価が下がることは、どのような金融政策であっても致し方ありません。』

「一時的に」はその前の上昇の方ではないでしょうか。

『「量的・質的金融緩和」を始める前の日本銀行は、どんなことをしても金融政策では物価は上がらないと言いながら、量的緩和をしました。』

そんな事は言ってません。時間が掛かるという話をしていました。

『そこに矛盾がありました。その矛盾について、合理的な理由にならないことを言っていました。例えば、人口減少は必ずデフレになるかと言えば、必ずしもそうではありません。ドイツでも人口は減少していますが、物価はむしろ上がっています。世界では色々なことが起こっていますが、日本だけでデフレが起こっている原因を探らなければいけません。』

ほほう。

『探ってみると、結局、金融政策が本当の物価安定を目指して粘り強くやっているか、コミットしてやっているか、色々と物価を下げる圧力があっても、それを跳ね返す努力をしているかということについて、日本銀行は常に努力をしてきたかと言えば、少し違うのではないかと思います。』

でも今そうやってますけど物価上がってませんよね〜。

ということでまあ見苦しい説明を鑑賞した所で終了ということで何の役にも立たない鑑賞会でどうもすいません。



2017/06/23

お題「2年▲9.5bpとな/きくお師匠がすっかりアレな件について」

何とかブームで当選すると碌なのが出ませんな。
中選挙区に戻した方が良いんじゃないのかね。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170622/k10011026961000.html
自民 豊田真由子衆院議員が離党届を提出
6月22日 16時21分

しかし音声データとかこちらのニュースの所でもあった(ということは地上波で堂々放送されたということですが)のですが号泣地方議員並みの破壊力があるコンテンツですな(ここの地上波放送コンテンツだから大丈夫だろうと思ったらあまり大丈夫では無かった)。


○中短期ェ・・・・・・・・

http://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL3N1JJ29O
Markets | 2017年 06月 22日 15:20 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が小幅上昇で引け、長期金利は横ばい0.055%

ええい長期金利はどうでもよい中短期じゃ中短期。

『<15:08> 国債先物が小幅上昇で引け、長期金利は横ばい0.055%

現物市場は需給の緩みが意識されている中期ゾーンが軟化。5年債利回りは一時マイナス0.060%と昨年12月16日以来の高水準となった。一方で原油安によるインフレ期待が後退していることで、相対的に高い利回りが確保されている超長期ゾーンを物色する動きが出ている。10年最長期国債利回り(長期金利)は同変わらずの0.055%。』

『<14:20> 10─20年利回り格差50bp割れ、原油安でインフレ圧力後退

一方、3月から相次いだ日銀買い入れ減額で需給不安が出ている中期ゾーンの利回り上昇の影響を受けて、10年ゾーンは利回りが下がりにくい状況が続いている。「日銀が中期ゾーンの利回り上昇を放置するのか、あるいは買い入れ増額に再びかじを切って利回り上昇をけん制するのか、調節姿勢に市場の注目が集まりつつある」(国内金融機関)との声が聞かれた。』(ここまで上記URL先より)

ということで昨日は2年が途中しらっと▲9.5bpつけてみたり5年が上記記事に有りますように▲6.0bpをつけてみたりとなっている訳ですが、よくよく考えて見ますと昨年11月17日の指値オペ(ただし応札ゼロ)の金利水準が、

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/of161117.htm

にありますように「2年▲9bp、5年▲4bp」となっているので水準的にはお洒落な事になっているのですが、そうは言いましてもここもとの金利上昇って短国買入を減らして行って短国の金利水準が政策金利並みまで修正されてきたことによって2年とか5年の金利水準が訂正されている、という状況なので既定路線でありますし、大体からして超長期の金利がじりじりと下がっているように、そもそも出口だの何だのという事で金利が上がっている訳ではない。

前回の中期指値の時は昨年11月半ばとありますように、トランプ大統領爆誕で財政炸裂ヒャッハーで株高円安キタコレとなってこれはもしかしたら出口(2%に行かなくてもそれなりに物価が上がってくる→日銀堂々の勝ち逃げ、というそれまで思いっきりタカをくくっていたシナリオ)が来年(今年)の終わりに掛けて出るという事もあるのではないか、というのがメインじゃないですけどリスクシナリオとして市場参加者の頭の中を掠めた、という段階でして、勢い付けて中短期の金利が(スワップ主導だったと思うけど)上がりだした、という展開だった訳ですな。

然るにまあ今回は今申し上げた通りで、単に日銀が過剰に締めていた短国の需給が改善された(為替スワップ要因での海外の買い意欲が下がったというのもですが、よー知らんけど)ので金利が上昇、ということですから、ここで指値オペとかやるとなんのために短国買入減らしているんだという話になる訳ですし、大体からして昨日の3M短国入札も安定の「▲10bp以下の金利だとニーズがあまり強くないけどマイナス一桁ベーシスの金利だとホイホイニーズが出てくる」という市場状況を如実に示した感じだと思います。でもってメディアは出口出口うるさいですけれども、市場的に言えば米国でも物価が上がるのに時間が掛かりそうとかいう話になっている中で日銀が出口云々だの長期金利コントロールの目標水準を変えるだのというテーマってあさっての話にも程がある状態になっておりますので、(出口あるいは金利水準の訂正、という話が復活するには円安進行か実際の物価が上がってくるとか米国の物価が上がり出してくるとかそういうのが必要でしょ)まあ別にここで頑張って金利上昇止めなくても良いんじゃネーノ、とは思うのですけれどもどうでしょうかね。

つーかまあ2年は来週火曜日に2年国債入札あるからここで変に気を使われてせっせと水準調整したのがパーになってしまうのもトータルで見て良いのか悪いのか良く分からん。

なお今日は中期超長期輪番(1年以下か物国も入るのかしら)という割とお洒落な入り方になっているので結果は鑑賞物として楽しみではあります。あと短国買入は幾らで打つのでしょうかね。淡々と減額の平常運転だと5000で先週1兆に増やしているからそれを踏襲すると7500なのですが、あとは需給状況があまりにも悪ければ変わるという事なのですけど。

なお短国。
http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20170622.htm

(3)募入最低価格 100円02銭4厘0毛(募入最高利回り)(-0.0962%)
(4)募入最低価格における案分比率 45.9318%
(5)募入平均価格 100円02銭5厘0毛(募入平均利回り)(-0.1002%)

平均が▲10.02で足切が▲9.62とか絵に描いたような結果で、691回の売買参考統計値単利が▲9.8bpなのでまあ順当なんですかね。


○わしはこんな師匠の姿を見とうなかったんじゃ、という青森金懇

本人に言わせると「進歩した(キリッ)」という辺りが何とかモーモーしいというか何というか。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170622a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko170622a1.pdf

・まあ端的に言って腹話術人形状態

こんな姿は見とうなかったんじゃと言いつつどうせ今回の金懇はそうなるだろうなあと思っていたので実は全然期待していなかったのですが(しかも会見で誰かが燃やしてくれたようなヘッドラインも出ていなかったように見えますし)、2013年辺りのツッコミどころ満載の講演はどこに行ったのでしょうかという事で、先般の櫻井さんの金懇挨拶が見事なまでに執行部(というかあの局のというか)の腹話術人形状態になっておりましたが、師匠におかれましてもここしばらくの人形化傾向が益々定着した、という状況。

まあ腹話術人形の方が中身の内容自体は師匠オリジナルよりも3億倍くらい真っ当である、というのは事実としてある(相変わらずリフレ派のままのジンバブエ大先生と比較すれば良く分かりますように)のですが、別に腹話術人形の師匠なんぞ居てもそれは置物以外の何物でもないのですし、これがまた自分の間違いを認めて素直に反省して反省の弁を述べて謝罪した結果置物化したのならまだ救いようがあるのですが、御本人どう考えても「アウフヘーベンした」位の意識しかなさそうなのが(以下書いていると悪態が止まらないので割愛)。

つーことなので実はこの金懇要旨読んでもこれがまた面白くないのですが、まあ腹話術の話でも鑑賞してみましょう。


・物価が上がらない言い訳を確認

前半の『2.日本経済の現状と先行き』の途中から。

『もっとも、企業収益が過去最高水準にあり、労働市場が完全雇用に近いといえる状況にあるわりには、物価上昇率の高まり方が緩慢であることは認めざるをえません。この点は、米国や欧州の物価上昇率が、既に大きく回復していることときわめて対照的です(図表9左)。』

マネタリーベースを爆発的に出して長期国債をジャンジャン購入して力強いコミットメントをすれば2%に行くんじゃなかったんでしたっけ???

『こうした背景には、わが国の場合、物価の先行きに対する人々の見方――これを予想物価上昇率と呼んでいます――が、過去に低下した物価上昇率の実績に引きずられやすいことがあると考えています。』

お前は何を言ってるんだ。

『このような過去を重視した期待形成は、他の主要国ではあまりみられない日本特有のものです。』

「世界標準の金融政策を実施しない白川日銀および歴代日銀は無能」とか言って悪しざまに罵っていたリフレ派の大先生が「日本特有」を言い訳にするとか豆腐の角に頭をぶつけて以下自粛。

『実際、原油価格はグローバルに下落しましたが、米国や欧州の予想物価上昇率はほとんど下落していません(図表9右)。米国や欧州では、物価の先行きを考えるうえで、過去の物価上昇率に引きずられる度合いが小さいためです。』

『なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。わが国では、90年代後半以降のデフレ期に物価上昇率の低い状況が長く続いたため、過去の実績に基づいた予想が実際によく的中したからだと私は考えています。』

私は考えていますじゃねえよ。

『この時期には、前年の物価上昇率が例えばゼロ%であれば、来年は+2%に上昇すると考えるよりも、またゼロ%になると考えた方が合理的でした。』

それを変えるのが貴方が散々吹聴していた「世界標準の金融政策」では無かったのでしょうか。

『もっとも、経済学の大家であるミルトン・フリードマンは、こうした人々の行動は変化しうるものだとして、次のようなことを言っています。物価上昇が続くときには、人々は自分の受け取る賃金が上がらないと、物価上昇の分だけ損をしてしまう。人々はこうした状況をいつまでも甘受しない。やがて将来の物価上昇を先取りして賃金が上がるようになるのだ、ということです。』

『これは賃金の例ですが、企業の製品やサービスの販売価格でも同様に、物価上昇局面ではやがて将来の物価上昇を先取りしていくようになるということだと思います。』

だからその物価が上がらないんだから行動が変化しないんだろうが、ということですし、期待に直接働きかけるという話に成功していないのに何を言ってるんだという話。

・・・・・・とまあ悪態をついておりますが次を読みますと、

『わが国の物価は、先行き、労働需給の引き締まりがさらに進み、賃金への上昇圧力が一段と高まっていくことに加えて、エネルギー価格による押し上げ寄与が拡大していくことで、伸び率を高めていくとみられます。フリードマンの指摘は、このような物価上昇局面においては、わが国でも米国と同じように、人々の物価に対する見方が過去に引きずられる度合いが小さくなっていき、人々の間で将来の物価上昇を先取りする動きが徐々に広がっていくことを示唆しています。』

それフリードマンの説であって公理じゃないだろお前は何を言っているんだという点はさておき、ここで示されている話ってのはどこからどうみても「期待に直接働きかけて一気に2年で2%」という話とは違う「時間を掛けて徐々にインフレ期待を高めて行く」というアプローチで、つまりはインフレ期待を政策で一気に上げる、という挑戦的(と一応言っておいてあげる)なアプローチはやっぱり挑戦したけど難しいので、物価が上がりやすい環境を金融政策としてサポートしていく中で徐々にインフレ期待が上がっていく、というアプローチに戻した、という事を意味している訳ですよね。

『また、この後お話しするように、日本銀行は物価上昇率について、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、強力な金融緩和を続けていきます。予想物価上昇率の動向には不確実性があり、留意してみていく必要がありますが、いま申し上げたようなメカニズムを背景に、わが国の物価上昇率は、日本銀行の「物価安定の目標」である2%に向けて徐々に上昇率を高めていくと考えています。』

ということで、まあこの徐々にインフレ期待が上がっていく(出来るだけ早期に達成すると良いなあとは思うので早期にという気持ちはあるけれども無茶はしない)というアプローチって要するに先日も申し上げましたように白川ドクトリンに戻っているという話で、この前の櫻井さんの金懇挨拶の説明も白川ドクトリンに実際は戻っているので、今回の腹話術人形挨拶も然りという話になっておりますので、政策の早期達成は事実上ギブアップ、でもギブアップと言うとお前は何を言ってるんだと言われるから美しい説明でそこは誤魔化すという事で、政策のアプローチが明らかに変化している、というお話。

まあ実際は総括的検証の所がターニングポイントだったのですが、そこはいきなり話を白川ドクトリンに持って行く訳にも行かないので徐々に話を美しい説明によって有耶無耶にしながら、半年少々掛けて事実上白川ドクトリンのアプローチに戻ったという事なんでしょう。

ただ、ここで問題になるのは「インフレ期待が徐々に上がっていくのを待つ」という政策になると、2年とかそういうしょぼい話ではなくてもっと長い期間に今の政策長期間持続可能かという所でして、技術的な面で言えば暫くの間は持続可能でしょうが、マイナス金利に国債バカスカ購入するという政策そのものの副作用を考えたらそんなに長くやっている訳にも行かない(元々のQQEが短期決戦を前提に作ってあって、今の政策はだいぶそれを改変したとは言え元の建築物の継ぎはぎで作っているので、土台の部分が長期戦向きになっていないので長期継続すると副作用が大きくなるんだと思う)ので、さてどうするのでしょ、という事ですなーと思います。


・ちょっとだけ師匠らしいのがこの部分

話がそれてしまいましたが次の『3.金融政策運営の考え方』ですが、

『続いて、日本銀行の金融政策運営に対する考え方についてお話しいたします。日本銀行は、昨年9月から、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という枠組みのもとで金融政策運営を行っています。この枠組みは2つの要素から成り立っています(図表10)。』

ということで、

『第1に、「オーバーシュート型コミットメント」です。』

と来た部分だけは「おー」と思いました。今の政策枠組み、という話になるとYCCの話ばかりになるのが多いのですが、マネタリーベースの拡大にコミットしている(ただし80兆円なのか1兆円なのかはその時になってみないと分からない)というのを先に入れて、しかもこれがインフレ期待に効く、ということに話の建付け上なっているのですが、そっちの話を最初にするとは師匠らしいとここだけ感心(するほどのものでもないが)しました。

なお内容の説明はどうでも良いので割愛。


・なお金融政策に関する意見の反論が藁人形論法になっている件

この部分なんですが、何でこういう粗雑な作り方をするのかが良く分からん。

『ここで、私どもの金融政策運営について、このところ一部で聞かれる2つの提案について、私の考えを述べたいと思います。』

という件なのですが、その2つの提案というのが・・・・・・・・

『最初の提案は、世界経済の成長モメンタムが高まり、米国が利上げのプロセスを進めるなど、グローバルな金利環境が変化するもとで、日本でも金利を引き上げていくべきではないかというものです。』

『2つ目の提案は、日本銀行が掲げる2%の「物価安定の目標」について、「経済成長率が高まりつつある中で、今実現している以上の物価上昇率を目指す必要はないのではないか」、あるいは
「日本ではそもそも物価が上がりにくいのだから、2%ではなく、例えば1%でも十分ではないか」というものです。』

という話ですが、最初の話って黒田さんもそういう言い方で反論するんですけれども、別に「海外の金利が上がるから日本も利上げしろ」という話ではなくて、物価目標達成に向かっていくと市場金利に上昇圧力が掛かるし、大体からして物価が2%になろうという時に長期金利を0%に押さえつける政策というのは土台無理でしょう、というような話なのであって、確かにまあメディアとか一部の話が粗雑な何とかストとか(が存在するのが困るのですけど)が上記のような言い方をするのでそれもまた困り物なのですが、こういう粗雑な提案に対する説明を幾らされてもまた下らん話をしてらあで終わってしまう訳でして、そういう話ばかりするのもどうかと思うのですよね。

でもって2番目も藁人形論法で、それこそ反対派の木内さん佐藤さんだって別に2%の目標を下げろと言っている訳ではないですし、中長期的に目指すとか、気持ちの問題として2%というのを掲げる、というのまで否定している訳ではなくて、問題は「早期に達成する」と言って結局成功しなかった「期待に直接働きかけて2年で2%」というアプローチに則って行った金融政策の収拾をしないとマズインジャないの、という話にこれからどうお答えするんですか、という事になった時に木で鼻をくくったような答えしか出て来ない、というのが問題なのであって、まあ残り1年切っているのですから、そろそろそういうのちゃんと総括して頂きたいと思うことしきりなのであります。

然るに、相変わらず批判の中でもわざわざ粗雑な論点を拾ってきてそれに反論してはいおしまい、という説明ばっかりやっておりますと、丁寧な説明だの市場との対話だのと言われましてもこちらはヘソが茶を沸かすだけなので、もうちょっと虚心坦懐にご説明をされたいと思うのでございます。まあ先般の総裁会見にもありますように、質問するメディアの話も粗雑だからそれに合わせた説明が多くなる、というのも分かるのでメディアとかも猛省して頂きたいとは思うのですけどね。

と最後は全然話が違ってしまいましたが、まあ師匠の金懇そのものは別にどうでも良かったりしました、ということで。




2017/06/22

お題「4月議事要旨を鑑賞していたら思いの外時間と量を使ってしまいました(大汗)」

ほほう。
http://jp.reuters.com/article/britain-boe-haldane-idJPKBN19C1K2
Business | 2017年 06月 22日 01:20 JST
今年下半期の利上げを支持する公算=ハルデーン英中銀理事

最近手が回っていませんでしたがBOEの文書も読んでいかないとですなあ。

○2年がまた▲10bpとな

http://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL3N1JI2BD
Markets | 2017年 06月 21日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は横ばい、長期金利0.055%に上昇

『<15:11> 国債先物は横ばい、長期金利0.055%に上昇

長期国債先物は横ばい。20日の米債高を受け買いが先行した。日経平均株価が軟調に推移したことも買いを誘った。ただ、買い上げるには材料が乏しく、次第に戻り売りが出て上値が重くなった。現物市場は高安まちまち。中期を対象にした日銀オペで需給の緩みが確認されたことから2年債と5年債が軟化。長期ゾーンもさえない。一方、超長期ゾーンは週末の日銀オペ期待などで強含んだ。』(上記URL先より)

ということで来週火曜日に2年の入札があるからっつー事なのか存じませんが、また微妙に短い所が甘くなって超長期は堅調というフラットニングをやっておりますが、短国が強くなると戻るのですが、2年もどうもパッとしませんなあという中で3Mの入札ですが、どうせ▲10bpを明確に上回って金利が上昇してくれば何とかなるでしょうという大変に安易なイメージを持っておりますがどんなもんでしょうかねえ。


○4月決定会合議事要旨である

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2017/g170427.pdf

・経済物価情勢に関して

『U.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要 』の国内経済の所から。

『わが国の景気について、委員は、輸出・生産を起点とする前向きの循環が強まる中、労働需給は着実に引き締まり、経済活動の水準を表す需給ギャップのプラス基調が定着しつつあるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、現状判断を、「緩やかな回復基調を続けている」から、「緩やかな拡大に転じつつある」へと一歩進めることで一致した。』

ということですがこれ自体は上記にあるように需給ギャップがプラス化しましたという話。でまあ需給ギャップがプラス化したという状況になったのが要は3月のデータという話ですから、7月展望レポートの時には3か月近く経過する中で全然物価が強くならない、という話になってくるとどうなのと思いますし、3か月だから波及ラグがありますよねという事であったとしても、10月展望レポートの時に前年比効果を除いた部分でどの程度上がっていますか、というのがどうなってくるのか、うまく行ってない場合にどうするのやらという辺りは楽しみにしておく件ですな。

でもって個別項目に関しては雇用と消費をば。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給は着実な引き締まりを続けており、雇用者所得も緩やかに増加しているとの認識を共有した。複数の委員は、今春の賃金改定交渉では、多くの企業で4年連続となるベースアップが実現し、その水準も概ね昨年並みと見込まれると述べた。このうち一人の委員は、特に人手不足感が強い中小企業において、引き上げ率が大企業を明確に上回るなど、賃上げの動きに拡がりがみられていると付け加えた。先行きの雇用者所得について、委員は、労働需給の着実な引き締まりが続き、企業収益も改善するもとで、緩やかな増加を続けるとの見方を共有した。』

ここの理屈がアレなのでして、人手不足要因が純粋に需要の盛り上がりなのかというと、人口動態の問題で人が減ってきているという要因もある訳で、それは「円安で物価が上がる」の変形バージョンみたいな話だと思いますし、「企業収益が改善する中で労働需給が引き締まっている」という威勢の良い話の部分も勿論あるでしょうが、労働需給の引き締まりが企業収益を悪化させる、というルートの事を華麗にスルーしているのが何だかねえとは毎度申し上げておりますが思います。

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。一人の委員は、消費活動指数は、雇用者所得の増加との対比でみれば伸び悩む状態が続いてきたが、昨年半ば以降上昇に転じ、このところ雇用者所得に見合うかたちで伸びが高まってきていると指摘した。』

ふーん。

『別のある委員は、幅広い地域や企業規模、業種で労働需給の引き締まりがみられていることが、消費マインドの好転を支えているとの見方を示した。』

なんでそうなる。

『先行きの個人消費について、委員は、雇用者所得の着実な増加とこれまでの株価上昇による資産効果に加え、耐久財の買い替え需要にも支えられて、緩やかな増加傾向を辿るとの見方を共有した。』

ほほう。

『この間、一人の委員は、2000年代央の景気拡大局面に比べると、現在は高齢化が進んでいるため、年金受給者の増加や現役世代の社会保障費の負担増が重石となって、消費への波及が進みにくくなっている可能性があることには留意が必要であると述べた。』

ここも毎度指摘されている話ですの。


でもって物価に関して。

『物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は0%程度となっているとの認識を共有した。また、委員は、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比は、小幅のプラスで一進一退の動きとなっているとの見方で一致した。』

ということで・・・・・

『ごく最近の消費者物価の伸び悩みについて、何人かの委員は、携帯電話市場の競争激化を背景に、携帯電話機やその通信料が下落していることが大きく影響していると指摘した。委員は、こうした特定のセクターにおける一時的な動きは、基調的な物価の動向とは区別して考える必要があるとの認識を共有した。』

言い訳キタコレ。

『そのうえで、多くの委員は、こうした要因を除いても、景気がしっかりと改善し、労働需給が引き締まりを続けていることとの対比でみれば、賃金や物価の改善はやや鈍いとの見方を示した。』

この話は後程出てきます。

『この間、予想物価上昇率について、委員は、現実の物価上昇率が昨年末まで小幅のマイナスで推移してきたことから、「適合的な期待形成」の要素が強く作用し、弱含みの局面が続いているとの認識を共有した。』

つー論理展開自体は既に展望レポートなどで聞かされている訳ですが、原油価格の時にも同じように「特定のセクターにおける一時的な動きは、基調的な物価の動向とは区別して考える必要がある」という話をしていて、その後結局適合的な期待形成って話になっている訳でして、特定セクターにおける一時的な動きで済ませて良いのでしょうかねえという気はするのですが、まあ大人なのでツッコミはしないことにする(してるけど)。


・物価が中々上がらない件について議論はあるのですが・・・・・・・・・・・

『2.経済・物価情勢の展望 』という所に参ります。途中から。

『委員は、実体経済から物価面への波及について議論した。現状、労働需給の引き締まりとの対比でみて、賃金や物価の改善がやや鈍いとみられることについて、何人かの委員は、企業が人手不足に直面するもとで、賃金を引き上げて労働力を確保し、これに伴うコストの増加を価格に転嫁するのではなく、営業時間の短縮や提供するサービスの見直しなどによって対応する動きがみられていることを指摘した。』

ということで、これだと「労働需給が引き締まって企業業績が改善するもとで」とはなっていませんぞな、というのが現状であるっつーことですなあ。

『これらの委員は、その背景として、人々の間にデフレマインドが根強く残っており、企業が価格引き上げに動きにくい状況があると述べた。』

最近は「期待に直接働きかける政策」という話をフェードアウトすることによって最初に言っていた威勢の良い話をフェードアウトさせる作戦に出ていますので、すっかりこうやって「適合的期待でデフレマインドが残っており」という話をしているのですが、そもそも論として企業が価格を引き上げ難いのはマインド云々の前に需要が盛り上がっている訳ではないからじゃないのと思う訳で、需要が上がらん中で労働需給がタイトになってコストプッシュで収益下がるんだったらそら値上げしにくいわという話。

・・・・・ってえのをよくよく考えてみれば、QQE最初にぶっこんだ時は(消費増税の駆け込み需要だの便乗値上げだのもありましたが)、マネタリーショックで円安に持って行って物価が上昇した所で期待インフレも上がって来てウマーという図で進んでみたものの、物価が上がって個人セクターの実質購買力がスクイーズされて需要がコケてしまいました、という話になっていた訳で、今回は人口動態がフォローになって労働需給が引き締まる中で、賃金が(後で何とかなる非正規労働者を中心にしているとは言え)上昇するのでここを起点にインフレ期待を上げて行く、という図が想定される訳ですが、その前に企業の方が労働コストの引き上げがシンドイということになるとまーたコケるという話にならんのかということにならんかと懸念されますな。

『複数の委員は、正社員の賃金の伸びが鈍いことを指摘したうえで、その背景には、労使間の賃金交渉において、前年度の物価上昇率の実績を基準とする慣行や、正社員の雇用の流動性が低いため、労働需給の引き締まりが人材獲得競争を通じて賃金上昇に結び付くメカニズムが弱いことなどがあると指摘した。』

ということですが、本格的に成長期待だの需要拡大期待があるなら正社員も増やすと思いますので、やはり成長期待の方が盛り上がるような施策が無いとって思うのですが、それを言い出すと「金融政策で2%物価目標達成」という大見得を切った話が無かった事になってしまいますので言い出せないというこの困った状況。

『そのうえで、多くの委員は、先行き、労働需給の引き締まりが一段と強まるもとで、賃金と物価への波及が進んでいくとの認識を示した。複数の委員は、労働需給が引き締まりを続けるもとで、パート労働者の賃金が前年比2%台の高めの伸びとなり、今春の賃金改定交渉において中小企業でのベースアップ率が大企業を上回る見込みにあるなど、変化は既に現れてきていると指摘した。別のある委員は、就業者の過半が中小企業で働いていることを踏まえれば、賃金上昇を実感できる世帯は着実に拡がりつつあると考えられ、これは予想物価上昇率を高めていくうえできわめて重要な動きであるとの認識を示した。』

ということなのですが、中小企業を中心に企業収益に重石になっていく、ということになりますと、設備投資とかに影響してこないかという方は気にならんのかとは思います。まあ都合の良い面をつまみ食いしてロジック作ってるなあという感は否めない。


・先行き物価見通し

その続き。

『物価情勢の先行きについて、大方の委員は、消費者物価の前年比は、@需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていく、A2%程度に達する時期は、見通し期間の中盤である 2018 年度頃になる可能性が高い、Bその後は、2%程度で安定的に推移していく、との見方を共有した。』

Aのような急角度で物価が上がるのであれば、物価上昇とか慣性があるでしょうからBにならんじゃろというのは「2年で2%」という話をしている当初からツッコミを入れているのですが、何せ急角度で物価が上がってくれないので実際にどうなるのかは分からん。

『これらの委員は、2017 年1月の展望レポートでの見通しと比べると、2018 年度までの物価上昇率の見通しは、概ね不変との見方で一致した。この間、複数の委員は、見通し期間中には2%程度に達しないとの見解を示した。』

佐藤さんと木内さんですね。

『委員は、物価見通しの背景となる中長期的な予想物価上昇率と需給ギャップについて議論した。』

ここがロジックのベースなので。

『まず、中長期的な予想物価上昇率について、大方の委員は、@「適合的な期待形成」の面では、マクロ的な需給ギャップが改善する中で、エネルギー価格の動向などを映じて、現実の物価上昇率は高まっていくと予想されること、A「フォワードルッキングな期待形成」の面では、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことから、中長期的な予想物価上昇率は上昇傾向を辿り、2%程度に向けて次第に収斂していくとの認識を共有した。』

そもそもAがワークしてないんですが。

『次に、需給ギャップについて、大方の委員は、輸出・生産の増加に伴う設備稼働率の改善に加え、経済対策の効果の顕在化もあって労働需給の引き締まりがさらに強まることから、需給ギャップはプラス幅を拡大していき、そうしたもとで、賃金の上昇を伴いながら、物価上昇率が緩やかに高まっていくという好循環が作用していくとの認識を共有した。』

という話で、賃金が上がって内需が伸びて、という図を想定しているのですけれども、ここまではまだワークしていない(力強さに欠ける)という状況でありますと(引用飛ばしちゃいましたが)先行き新興国が戻って来ると強くなってくるでしょう、という見込みになっている外需がコケてしまうと一気にダメダメになりそうな話のようにも思えます。やはり外的コストプッシュ的な要因だけではなくて需要増が伴わないと難しい、という事ですと海外経済がイマイチさんという状況ではどうしてもこの想定メカニズムは(コケなければコケはしないと思いますが)遅々として進まず、という事になるのではないかと。


・YCCの効果の話なのだが「金利を安定させる」のは手段であって効果と言うのはおかしいのではないでしょうか

ということで金融政策のパートに参ります。

『長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に形成されているとの見方を共有した。』

円滑かどうかは別にして市場は安定して推移しましたな。

『一人の委員は、昨年秋以降世界的に長期金利が上昇した局面においても、わが国の長期金利は低位で安定的に推移したことにみられるように、イールドカーブ・コントロールの有効性は明確となっており、先行きもしっかりと効果を発揮していくとの見方を示した。』

これ誰が言ってるのか(与党委員か執行部の誰かでしょうが)わかりませんが、「イールドカーブ・コントロールの有効性は明確」ってYCCは「物価目標2%を早期(早期というのはまだ引っ込めて居ないことになっている筈だが)に達成する」為に実施しているのであって、そこまで散々議論をしていたように物価の伸びが期待よりも弱い、という状況になっていてナンデジャロと議論をしているのに「有効性は明確」ってお前は何を言ってるんだという話で、それは金融市場局のオペレーション部隊がディレクティブをきっちり運営できましたと言って報告するレベルの話ですがなと思うのですが、というかこういう説明をおっぱじめられますとみているこっちの方が恥ずかしくなるのでお願いだからこういう事言わせないで欲しいです事務方の皆様宜しくお願い申し上げます。

『国債買入れについて、委員は、現行の政策枠組みのもとでは、長期金利の操作目標を実現するように国債買入れを運営しており、買入れ額は、金融市場の状況に応じて、ある程度の幅をもって変動することを改めて確認した。そのうえで、委員は、金融市場調節方針との関係で問題は生じていないとの認識で一致した。』

ということですが、これ「一致した」って原田さん一致したらダメでしょ貴方は80兆円にこだわりを持っているんじゃなかったでしたっけ、というのも気になりましたな。

あとまあ今に始まった事ではないのですが、

『長期国債以外の資産の買入れについて、多くの委員は、次回金融政策決定会合まで、@ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約 900 億円に相当するペースで増加するよう買入れを行うこと、ACP等、社債等について、それぞれ約 2.2兆円、約 3.2 兆円の残高を維持すること、が適当であるとの認識を共有した。』

と毎度リスク性資産の買入に関してはこの件しか書かれていないのですが、本来は「過大に拡大しているリスクプレミアムの縮小を促すことによって政策効果を発揮しやすくする」というのがリスク性資産買入の趣旨であるのですから、リスクプレミアムがマイナスになるようなところまでの買入をするというのはアカンがなという事でもありますし、この部分に関してなんらかの検討をしている風情が全然ないというのは如何なものかと思いますので、是非木内さんと佐藤さんが残っておられる次回の最後の金融政策決定会合でこの辺りのご議論をお願いしたく存じます(平伏)。






2017/06/21

お題「FEDは市場とのギャップをどうするんでしょうかねえという世間話」

どう見ても虻蜂取らずです本当にありがとうございましたorzorz
https://mainichi.jp/articles/20170620/k00/00e/040/240000c
小池知事 豊洲移転を正式表明 築地復活も視野 緊急会見
毎日新聞2017年6月20日 15時40分(最終更新 6月20日 18時51分)


○日銀から引き続き色々と出ているのだが

まあこの前日経で記事がちょこちょこ出ていましたように、この時期って日銀定例の人事異動があるのでその前に片付けるものは片付ける的なのもあるんだろうなあと思いながら最近のペーパーその他ラッシュを鑑賞するのでした。

・内容を読んでみようと思った瞬間にページ数を見て断念したが・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170620d.pdf
日本銀行が運営する国債振替決済制度に関する情報開示

『本資料は、BIS 決済・市場インフラ委員会(Committee on Payments and Market Infrastructures: CPMI)および証券監督者国際機構代表理事会(Board of the International Organization of Securities Commissions: IOSCO)が 2012 年 4 月に策定した国際基準である「金融市場インフラのための原則」に従って、日本銀行が運営する国債振替決済制度および日銀ネット国債系を主な対象範囲とし、情報開示を行うものである。必要に応じて、国債振替決済に付随する日銀ネットの関連事務(国債の DVP 決済、同時担保受払機能など)や日本銀行の運営体制等にも言及している。』

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170620c.pdf
日本銀行が運営する資金決済システムに関する情報開示

『本資料は、BIS 決済・市場インフラ委員会(Committee on Payments and Market Infrastructures: CPMI)および証券監督者国際機構代表理事会(Board of the International Organization of Securities Commissions: IOSCO)が 2012 年 4 月に策定した国際基準である「金融市場インフラのための原則」に従って、本制度および日銀ネット当預系を主な対象範囲とし、情報開示を行うものである。必要に応じて日中当座貸越や日本銀行の運営体制等にも言及している。』

というものなので(なので章立てとか文章が翻訳調)たぶん決済ネタが好きな人じゃないと読まないという奴だと思います。何気に決済ネタも好き(というか決済回りに近い事もやっていたりしたので)なアタクシ必読と言いたいが二つで約160ページェ・・・・・・・


・これも面白い人には面白そう

http://www.boj.or.jp/research/brp/psr/psrb170620.htm/(紹介ページ)
モバイル決済の現状と課題
2017年6月20日
日本銀行決済機構局

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/psr/data/psrb170620a.pdf
決済システムレポート別冊シリーズ モバイル決済の現状と課題

ということで紹介ページのと本文の最初に「要旨」があるのでそこだけ引用しておく。

『FinTechの潮流の中での、リテール決済分野における一つの特徴的な動きとして、世界的に急速な普及が進んだ携帯電話やスマートフォンを用いる「モバイル決済」の拡がりが挙げられる。』

ほほう。

『このようなモバイル決済は、先進国よりも、むしろ中国やケニアといった、従来はリテール向け銀行サービスが十分に発達していなかった国々で急速に拡がるケースが目立っている。』

電話線の整備されていない所で衛星通信使った携帯が普及するようなもんですかな。

『この間、日本では、世界に先立って、既に2004年の段階で、電子マネーの技術を携帯端末に搭載する形で、店頭でのモバイル決済サービスが開始されたが、現在のところ、店頭でのモバイル決済は、広範に利用されているとは言い難い状況にとどまっている。』

携帯で決済とかしてると携帯落としたらおしマイケルになってしまうと思うクチなのであたしゃ無理。

『もっとも、モバイル決済とのリンクが期待される、カード型の各種キャッシュレス決済手段(電子マネー、デビットカード、クレジットカード)は、利用総額は決して多いとは言えないものの、カード自体はかなりの程度普及が進んでいる。今後のモバイル決済の拡がりを展望する上では、(1)人々のセキュリティ面での不安感などを払拭できるかどうか、(2)モバイル決済の便利さやスマートさを演出できるかどうか、が鍵であるように思われる。』

現金の匿名性ってのも気にする人は気にすると思います。


・・・・・・・ということで色々とお話がありまして、こちらは金融市場的な話ではないので決済回りに興味があるとは言っても興味あるの金融機関間の決済とか中央銀行の決済システムとかなアタクシとしては読むの後回しという感じですが、こちらの方がより一般的に面白いと思います(ざっくりと斜め読みしただけの印象ですが)。



○まあ国内の市場ネタがイマイチなので出稼ぎで米国ネタでも

昨日は流動性供給入札がその前甘くしたからというのはありますが確りで結局ツイストフラットかよという話はあるのですが、何せ最近見事にネタなしウゴカンチ会長なので米国に出稼ぎにでもとゆーことで。

・既定路線の発言を受けてもこうなるのか

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1JH4S7
Markets | 2017年 06月 21日 04:45 JST
米金融・債券市場=長短期債利回り格差縮小、FRB高官のタカ派発言受け

ということですが、昨日はフィッシャー副議長のアムステルダムでの講演の中で「低金利環境のせいで不動産価格がややケシカラン事になっている」的なヘッドラインが出た辺りでドル円がホイホイと上昇する(ように見えたのだが)とか、だいたいその辺は既定路線だろという中でこの動きとなという感じ(債券よりも為替の方が)はナンナンデショという不思議感は少々。

上記URL先から引用しますと、

[ニューヨーク 20日 ロイター] -

30年債(指標銘柄) 15時33分 105*11.00 2.7370%
前営業日終値 104*09.00 2.7880%
10年債(指標銘柄) 15時33分 101*29.50 2.1582%
前営業日終値 101*21.00 2.1880%
5年債(指標銘柄) 15時32分 99*30.00 1.7632%
前営業日終値 99*26.25 1.7880%
2年債(指標銘柄) 15時23分 99*26.00 1.3480%
前営業日終値 99*25.00 1.3640%

(上記URL先より引用)

ってあって、米債の方はそれ以外のネタ(原油価格があばばばばー)で結局金利が下がっているようですが、ここもとタカ派発言出ても長い所は堅調推移というか寧ろ最近金利下がってるだろうという事でして、利上げの方は完全織り込みだったからまあ良いとして、その後の利上げ路線に関しては(それだけを盲信しても良くないのだが)FF先物とかだと結構織り込みが足りないようにも見える値付けになっているにも関わらず、SEPでも会見でもその後の主流派執行部系高官の発言が利上げやる気満々モードなのに平然と長期金利が下がるというのがもう市場とFRBの温度差拡大という所でこの後が楽しみ(不謹慎)ではありまする。


・とりあえずヘッドラインで脊髄反応してみるがカプラン総裁発言関連

だいたい人が読もうとしている側からバンバン新しいのが出て困るんですけど。

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1JH4ZD
Investing | 2017年 06月 21日 05:07 JST
米FRB、国債利回り低迷するなか追加利上げに慎重になる必要=ダラス連銀総裁

『[サンフランシスコ 20日 ロイター] - 米ダラス地区連銀のカプラン総裁は20日、米10年債利回りが低水準にあるなか、連邦準備理事会(FRB)は追加利上げについて慎重になる必要があるとの考えを示した。同総裁は講演で、国債利回りが低水準にあることは市場で経済成長が低迷するとの見方が出ていることを示していると指摘。金利の現在の水準に違和感は持っていないとしながらも、「10年債利回りが現行の水準にとどまる場合、FRBはどのように緩和策を引き揚げていくか、非常に慎重になる必要がある」と述べた。』(上記URL先より)

誠にケシカラン事に
https://www.dallasfed.org/en/news/speeches/kaplan.aspx
Speeches and Essays by President Robert S. Kaplan

を見ましても講演テキストらしいのが載っていないのもあってヘッドラインだけで脊髄反応してみる(後で出るかも知れないが)のですが・・・・・・・・

市場の見方がFRBの見方と乖離しているから政策運営を慎重に、というのは話の筋としては仰る通りではありますが、だいたい中央銀行って(そらまあ人間自分のビューが正しいと思いながら行動するのだから中央銀行に限らず当たり前ちゃあ当たり前ですが)てめえのビューに対して市場がそう反応しないという状況を見ると「市場がちゃんと理解していなくてケシカラン」となってオリャーとばかりに「我々の考えはこうなのにお前ら分からんとはアホかと馬鹿かと」みたいな情報発信を開始して話がややこしくなる、というのが仕様でございます。後でそのネタやりますが市場との認識の乖離に関してはどう考えていくのかとゆー話もありますし、そうは言いましてもそのうち結果というのは出るのであって、市場が正しかったのかFRBが正しかったのか、という結果が出た時にどうするのかとか、まあ色々と興味は尽きないので暫く米国ネタは楽しめそうな(不謹慎)気はします。

でまあ指摘されているように、最近物価の話ダイレクトではなくて、「このように物価が上がっていく状況は満たされている」というような形での話が増えている、というのはこれまた興味深い所でありまして、物価そのもので結果勝負すると負けるかも知れないと思って、「総合的判断」「先行きの基調が強い」という話に土俵をしらっと摩り替えることによって勝負で負けたことにしない、という風になってきたのかも、という気もするのでこの辺りのロジック展開にも興味があります。


・まあBISビュー的な利上げでもある訳で

昨日のタカ派発言。

ローゼングレン総裁
https://www.bostonfed.org/news-and-events/speeches/2017/financial-stability-in-a-low-interest-rate-environment.aspx
Financial Stability in a Low Interest Rate Environment
By Eric S. Rosengren
June 20, 2017

Boston Fed President Eric Rosengren spoke at the De Nederlandsche Bank & Sveriges Riksbank Macroprudential Conference Series in Amsterdam, The Netherlands. He was a discussant for one of the conference papers.

フィッシャー副議長
https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/fischer20170620a.htm
June 20, 2017
Housing and Financial Stability
Vice Chairman Stanley Fischer
At the DNB-Riksbank Macroprudential Conference Series, Amsterdam, Netherlands

ということで、お二方ともオランダとスウェーデン中銀共催の「Macroprudential Conference Series」で講演していて、そらマクロプルーンデンスネタだったら利上げの話をするし金融安定とか住宅バブルとかの話をするわな、とまあ納得のBISビュー炸裂なのですが、BISビューチックな利上げという考えは当然ながらあると思います。それならフラットニングというのも整合性取れるので、実はカプラン総裁のいうような「慎重に」というのはBISビューチックに言えば非常に宜しくない態度(市場の反応で反応するというのは市場の動きを増幅させる効果があるので、リーンアゲインストザウィンドな態度ではない)なのですな。



○イエレン記者会見ネタの続き

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20170614.pdf
Transcript of Chair Yellen’s Press Conference
June 14, 2017

・市場との認識ギャップに関して

つーことでここまでの話に関連して市場とFRBの認識ギャップに関する質疑がありまして、14ページの下の方からになります。

『DON LEE. Thank you, Don Lee with the LA Times. The Fed's projections continued to show the longer-run federal funds rate at 3 percent. The markets are expecting 2 percent. How big of a concern is that gap in your mind? What are the reasons for that disconnect? And, you know, what are the implications and the risks for the real economy? 』

目先の話というよりもロンガーランの方についてですが、まあこちらは長期金利の水準という意味で論点としては重要な質問ではありますな。ロンガーラン3%って言ってるけど債券市場はロンガーラン2%だと思って値段がついてるけどこのギャップがそのままで問題は何か無いのか、という質問ですの。

『CHAIR YELLEN. So let me first say it's not straightforward to determine exactly what expectations are embodied in market prices because they're are Term premia that affect these rates and they may not really be as low as one would infer from a straight read.』

という答えなのだがそもそもタームプレミアムがどうのこうの言いましても金利水準は低い(30年が3%行ってないんですから)のですけど・・・・・・・・・・

『That said, in part, expectations reflect estimates of what the neutral federal funds rate is and how it's likely to evolve over time. And views have changed about that over time and there is a good deal of uncertainty about it. So, we have recently put out charts that try to show what the range of uncertainty is around our path for the federal funds rate, especially as one goes further out. There's a good deal of uncertainty and that reflects the like all the shocks that can affect the evolution of the economy. And also the fact, we're quite uncertain ourselves about what the likely-- what the evolution will be of the neutral federal funds rate.』

見通しに不確実性がある(のを示すようにチャートを工夫した)し、中立金利水準についても推測するしかないので不確実、と話の筋を外しに来ています。

『So, we do try to write that down and provide the public with information about our current expectations. And the median now stands at around 3 percent but we have uncertainty about that. Many of my colleagues, and I, think that the current neutral level is lower than that. And as I said in my opening statement, the fed funds rate path reflects an expectation that that neutral rate will be moving up some in future years. But that remains uncertain and I think that's something that market participants are trying to assess and we will be as well.』

でまあ質問の意図とズレた答えなので再質問。

『DON LEE. Are these to create a volatility in the markets as it adjust to the difference and the gap between the expectation and what the Fed's projections are for longer-run federal funds rate?』

『CHAIR YELLEN. Well, our expectations are little changed. I mean, the projections we released today are essentially identical to those. And I think the market is aware of the views of participants. And is assessing evidence itself to form their own views.』

で?

『And it's important that the market take an independent look and that we get to understand and see how market participants are interpreting evidence on the evolution of the economy. So, it's not an unhealthy thing to have such a gap. And as I just said, our own views are not set in stone but are likely to evolve as well over time.』

ということで、市場とわたしらの見方にギャップがあるのは認識しているし、何でワシらの見方と違っているのかという点について認識するのも重要だけれども、ギャップがあるのは別に問題ない、という言い方をしています。

質疑はここで終わっているのですが、さっきのカプラン総裁とは違った話をしていまして(そらまあ市場の見方が正しいのではと思って、という話になるとアセスメント変更になっちゃうから、というのはありますけれども)、しかもその後の主流派高官の発言があの調子、という事になりますと、市場のギャップとかありますが知らんがなという話になるでしょうから、当面は「FEDは強気を言うけど市場は何をゆうとりますかという反応」という感じになるんでしょうか債券市場の方は(為替は知らん)、とは思いました。


でもって物価でゴリゴリ詰められる部分をやろうと思ったら時間配分間違えて時間が無くなってしまったので明日に続くで勘弁してください(すいません)。







2017/06/20

お題「市場メモ/総裁会見だがおもろくなかったです」

このネタは今日は間に合わんのですが話自体は既定路線なんですけどね。
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-dudley-idJPKBN19A26S
Business | 2017年 06月 20日 00:43 JST
米労働市場の改善継続、インフレ率2%に回帰へ=NY連銀総裁

しかし何ですな、金利が上がると金融株が買われるようになっている訳ですから、ジャパンもマイナス金利撤回した方が株価上がるんじゃないですかねえ(個人の感想です)。


○市場雑談メモ

・債券先物出来高ェとか

http://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL3N1JG20N
Markets | 2017年 06月 19日 14:01 JST
〔マーケットアイ〕金利:超長期債利回りに上昇圧力、あすの流動性供給入札前の調整

『<13:59> 超長期債利回りに上昇圧力、あすの流動性供給入札前の調整

超長期債利回りに上昇圧力がかかっている。足元の20年債利回りは前営業日比0.5bp高い0.565%、30年債利回りは同1bp高い0.815%にそれぞれ上昇している。市場では「あすの残存15.5年超39年未満を対象にした流動性供給入札を前した調整が入っているようだ。残存10年超の日銀国債買い入れオペは今週末に予定されているが、入札から少し間隔があくため、慎重な調整が続いているようだ」(国内証券)とみられている。』(上記URL先より)

今日は超長期流動性供給が5000億円ありますが30年国債って新発で出る時8000億円ある上に30年ってまだまだ償還無いから償還再投資ってのは無い訳で、一方で輪番って25年超だけでは1000億円しかなくて、10-25を入れると3000億円、という事ですから、翌日に輪番が有る無しとかいう話を考えたとしても単純に額だけ見たら流動性供給って新発30年よりも物量的なインパクトは無い筈なのですが、毎度のように流動性供給入札はこんな感じですの。

まー投資家のカレント指向っつーか新発だから買うとかございますので、需給が違うっつーのもありますが、「いざとなったら翌日輪番で外せるので札入れできますなあ」というのが支えになっていますとか、応札義務だの落札義務だのってのがどんだけインパクトありますの、という事を示しているのであれば、応札義務の方はさておきまして、「翌日の輪番」というのが外れてしまうと国債消化に苦労する、ってのがどの程度のものなのか、永遠に出口が来ないのならまだしも、何らかの形で国債買入が減ってくる話になった時にどういう事になるのかとか考えると中々オソロシイですの。

それはさておき昨日は前後場合わせて債券先物の出来高8000枚程度とか月曜だし金融政策ネタ一段落したのは分かりますが、アチャーという感じではあります。


・先物だけ見るとまだマシなのだが現物債市場ェ・・・・・・・・・・・という流動性指標

http://www.boj.or.jp/paym/bond/ryudo.pdf
国債市場の流動性指標

ということで毎度おなじみの流動性指標が出ていまして、グラフの連打になっているので貼り付けとかのスキルの無いこのアタクシ(というかまあグラフを貼るのはさすがにどうかと思うので)と致しましてはとりあえずコメントだけしておきますが。

こちらの数値なのですが、先物関連の所(特に図表3:板の厚み(depth)とか図表4:価格インパクト(resiliency)の辺り)に関しては改善しているように見えるのですけれども、その次の現物関連の所の、図表5:ディーラー間取引高(volume)や図表6:投資家等の売買動向(volume)が徐々にゴーストタウン化している、という感じでして、その後の 図表7:対顧客取引のビッド・アスク・スプレッド(tightness)以降にある売買スプレッドの方は改善しているように見えるのですが、これって単に「市場が動かないからスプレッドが縮小している」だけの話ではないかと思うのよね。

つーことでまあどうせ大本営発表ベースでは「先物の板の厚みやアスク・ビットスプレッドの縮小などにみられるように国債市場の流動性の顕著な悪化は見られない(キリッ)」という話になるのでしょうが、現物市場見るとまあ動かない状態になっていますな、とは思います。

まーこの現象自体は日銀の金融政策に対する先行き変更の思惑が全然出て来ない(緩和にしても正常化にしても)というのも背景にありますし、輪番も全然「動かなく」なっていますしとなって、10年金利も動かないという状態、という外部環境も思いっきり寄与していると思いますから、動くときには動くし、その時には(まだ目先の将来であれば)売買を伴って動いてくれるとは思うのですが、そうは言いましてもこの政策がより長くなった場合にはどこかれ取引を伴わないで動くような市場の状態になるのかなあというのだけは漠然と思っていて、それが今や近い将来ではないことは多分確かだと思うのですが、では何時になったら市場がその閾値みたいなのを越えるのか、というとこれまた良く分からん。


・短国買入とか

その前に先週木曜に1年入札ありまして、

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20170615.htm
(3)募入最低価格 100円11銭3厘(募入最高利回り)(-0.1128%)
(4)募入最低価格における案分比率 55.4943%
(5)募入平均価格 100円11銭6厘(募入平均利回り)(-0.1158%)


という結果で▲10bpまでは上がらないという微妙な結果でしたが、昨日の輪番は何故か1兆円に増額されていて結果が、

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba170619.htm
国庫短期証券買入 32,309 10,001 0.006 0.007 55.1

平均7糸甘足切6糸甘なのですが、昨日付けの売買参考統計値だと1年新発が▲12.4bpなので入札の平均よりはマシな所(超若干ですけど)では捌けているという結果ですが応札3.2兆円かよという感じで、投資家の使い勝手の良い3Mとは別にすっかり短国買入専用機になっておられますのう6Mと1Yはという風情。ちなみに3Mの新発は売買参考統計値が▲10.3bpで、入札レベルが平均▲10.35bpで足切▲9.91bpだったので輪番で売ると投げになってしまうので外してはいないと思うのだが日銀短国残高でもあとで鑑賞してみる。


という俺様相場メモでした。


○FEDネタ続きの前に総裁会見なのですが・・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1706b.pdf

・当初期待に直接働きかけると言っていたのにすっかり無かった事になっている件について

最初の方の質疑から。

『(問) 物価情勢について伺います。新年度入りの 4 月も企業の価格改定が非常に小規模であったという感触を受けています。経済が高水準で成長しているにもかかわらず物価が弱いという状況については、これまでもいろいろご説明はあったかと思いますが、日本に限らず、米国を含め先進国でも同じような状況が今、起きているかと思います。こうした事態が先進国で共通して起きている理由について、どうお考えでしょうか。』

需給ギャップに対する価格感応度が弱い、という答えをすると展望レポートで示しているロジックが破たんするということでイヤミ感は強めの質問ですが、まあ直球でこれを投げ込むと言い訳が苦しくなる。

『(答) まず、わが国において、潜在成長率を上回る経済成長が続き、需給ギャップが改善している割には、物価上昇率がなかなか高まらないことはご指摘の通りです。こうした傾向は、他の先進国でも多かれ少なかれ共通してみられる現象です。その背景について、学界などでいくつかの仮説が指摘されていますが、現時点でコンセンサスは得られていないと思います。』

ということですが・・・・・・・・

『この点、特に、わが国については、デフレが長期間にわたって続いたため、デフレマインドの転換に時間がかかっていることがあると思います。すなわち、賃金や物価が上がらないことを前提とした考え方あるいは慣行が根強く残っていると言えるのではないかと思います。』

・・・・・・と最近はすっかりこういう説明で通すようになりましたが、記者会見でぜひお願いしたいのは、どうせこの説明は毎回出てくるのですから、「ということは当初QQEで目指していた期待に直接働きかける政策というのはワークしなかったという事ですね」と突っ込んで頂きたいところではあります。

なお、さらにどうでも良いのですが、その質問に対しては「ベアなども行われるようになるなど、デフレではなくなったという意味で効果があった」という回答が来るので、更にツッコミをしないと行けないのですけどね。

『もっとも、このところ、有効求人倍率がバブル期のピークを超え、失業率が 2%台後半まで低下するなど、労働需給の引き締まりが一段と明確になるもとで、賃金上昇圧力は着実に高まっています。例えば、多くの企業において 4 年連続でベースアップが実現した模様であるほか、労働需給に感応的なパートの時間当たり賃金は、このところ前年比 2%台後半のしっかりとした伸びとなっています。』

ここまでは良い。

『こうした賃金の上昇は、次第に販売価格やサービス価格の上昇につながっていくものと考えています。』

という風に結論づけられるのですが、需給ギャップに対する価格感応度が弱いのであれば、労働需給のタイト化が価格の上昇に中々繋がらない、ということでもありますし、いやそうではない賃金上がるのだから価格も上昇するでしょう、というのであればそれは企業サイドの収益がスクイーズされた結果としてコストプッシュ的に価格設定を変更せざるを得ない、という事になりますから、その価格改定はサステイナブルなものなのか、という点で疑問がありまして、何ちゅうかここで話が毎度結論に飛ぶのだが、この間を埋めるロジックが「行くのだから行く」的になっているのはちょっと・・・・・・とは思います。

『以上のような点を踏まえると、わが国の物価上昇率は、先行き、緩やかに高まっていくと考えています。』

まあいずれにせよ「2年で2%」はどこかに行ってしまっているのですけどね。


・出口政策のシミュレーションは出す気は無いようで

今回は出口政策の質疑が多すぎで、しかも話が循環しているだけだし、総裁は一々大演説して質問がはかどらないし、という流れでしたが、記者の皆様におかれましても、「自分の所で質問したいこと」を質問するってのはそうなのかもしれないですけれども、他社で同じような質問が出たら別の質問に切り替えるとか、人の質問の追撃質問をするとか、そういうの考えないのかねと毎度思うのでありまして、今回は出口ネタがメディア的に使えるネタだったからという事しょうが正直つまらなかった。

てな訳で一つだけ。

『(問) 5 月の衆議院財務金融委員会での民進党の前原議員との質疑において、出口局面での日銀の財務について、総裁は、影響を含めて分かりやすく説明することは重要だと、検討していくと表明されていますが、今後の試算の公表等について見通しをお聞かせ下さい。また、前原議員は日銀が赤字になるとの試算を公表されていますが、それに対しても、一定の条件のもとでは矛盾のない試算だという認識を示されています。赤字になる可能性はあるとの認識でよいのか、また日銀が赤字になった場合、通貨の信認の低下や日銀業務への支障を懸念する声もありますが、こういった点に問題はないのでしょうか。』

通貨の信認の低下、という質問に関しては「信認」という話なのでこれは「私はそうは思いません」で話が終わってしまう訳でして、どうせ質問するなら「出口においてこれまでの政策が効果を発揮してインフレを止めないと行けなくなった場合、日銀の財務問題が足かせになってインフレを止められないという思惑が出てしまわないようにするには何らかの方策はあるのでしょうか」とか質問した方が建設的な気がする。

『(答) 金融政策運営の考え方について、日銀の財務面への影響も含めて理解を得ていくということは、非常に重要だと思いますし、これまで同様、しっかりと説明してまいりたいと思っています。ただ、ご案内のとおり、2%の「物価安定の目標」に向けての道は、まだかなりあります。今から具体的に出口がどのようになるのか、そのもとで日銀の収益がどうなるかということは、まだ道半ばの状況で、将来の経済・物価、あるいは金利などに加えて、そのもとで日銀がどういう手段をどのような順序でやるかということによって当然変わってきますので、現時点で具体的なシミュレーションを示すことは、却って混乱を招くおそれがあるために難しいし、また、あまり適当ではないと考えています。』

暫く前には出すような話もあったような気がしますが、結局出さない事にしたのね。

『いずれにしても、あくまでも 2%の「物価安定の目標」が達成され、安定的に推移する状況のもとで出口というものがあるわけですので、今の時点で具体的に出口の手法とか順序を示すのは、なかなか難しいし、またそのもとでの収益の状況等について具体的なシミュレーションを示すのは、却って混乱を招くおそれがあるのではないかと思っています。』

とまあこういう答え方で躱していますが、日銀の土俵に乗って質問するのであれば「これだけの強力な金融緩和を行っているのですから、物価が上昇した時に安定的に上昇するのではないという事は考えられないのでしょうか」と聞いて、そこから今度は「ところで物価目標を2年をめどに出来るだけ早くに達成するというのは止めたということですか」と聞けばヨロシ(なお大体その場合の想定問答も思いつくのが日銀ヲチャー病に罹患しているとしか思えんこのアタクシ)。

『従って、2 番目にご指摘の点につきましても、色々な前提を置けば色々な結果が出てくるということでありまして、今の時点で、このような財務状況になるとか、収益状況になるということを具体的な数字等でお示しするのは適当ではないと思っています。』

つーことで結局出て来ないそうです。まあそうなるかね、とは思いますが。


・80兆円の文言も下げる気がサラサラないと

『(問) 質問は 2 つあります。(前半割愛)2 つ目は、国債買入れのペースですが、80 兆円と今回も変えませんでした。ただ、足許では確か 55 兆円でかなり、だんだんちょっと離れてきているかなと思います。これは今後どのように、ずっと 80 兆円のままにしておくのであればもうこれはめどですらないような気もしますし、かといって数字を示すこと自体を止めるのか、その辺りについて、今後の見通しを含めて教えて下さい。』

『(答)(前半割愛)2 番目のご質問は、先程もお答えしましたが、80 兆円というのはあくまでもめどでして、金融市場調節方針は「イールドカーブ・コントロール」という形で政策金利残高に−0.1%のマイナス金利を適用すると同時に、長期金利について、10 年物国債金利がゼロ%程度で推移するように国債の買入れを進めるということです。国債の買入れ額は、一応のめどはありますが、そのもとで、めどを上回ったり下回ったりすることは、ある程度の幅をもって考えていくべきものだと思っています。あくまでもこれは、「イールドカーブ・コントロール」という形で金利をターゲットにしてやっています。購入額はいわば内生変数として出てくるわけですので、様々な状況によって上下に変動するものです。ただ、これまでの「量的・質的金融緩和」の経験、あるいは「イールドカーブ・コントロール」のもとでの「量的・質的金融緩和」の経験のもとでも、やはりこの程度の国債買入れは必要であったのは事実ですので、めどはめどとして十分機能しているのではないかと思います。ただ、それをターゲットにしていませんので、当然、その上にいったり下にいったり、特に毎月の買入れ額はある程度変動するということだと思います。』

だいたいこの辺りの説明を見ても今回の会見は(最近その傾向が強いのだが今回は特に)やたら無駄に長広舌をふるって会見時間を引き延ばして時間切れを狙っている感を強く受けるのですけれども。いや丁寧に説明しているつもりなのかも知れませんが、先刻ご承知の話をやたらうだうだやっている感しか受けない。

『(問) それは半分以下ですとか、例えば 20 兆円、30 兆円でも、80 兆円のめどは変えないということでしょうか。』

『(答) 先程申し上げたように、月々、結構変動していますので、足許で 80兆円をかなり下回っていても、その翌月にはまた上の方に増えるかもしれませんし、そういうめどであるという意味でお示ししていることを理解して頂ければと思います。』

ということで全然下げる気は無いようです。まあ良いんだけど何だかなあとは思います。


・ETF買入に関して

ここはちょっとだけ面白かったが多分そうはならんと思う。

『(問) 先程のETFの議論に一部関連しますが、2%の目標の達成や出口云々の議論に先立って、それとは別に例えばETFの買入れを減らす、緩和を縮小させるなどの方向に金融政策を調整することはあり得るのでしょうか。』

『(答) 理論的にはあり得ると思います。ETFの買入れの拡大をしたときと、長期国債の買入れ額を拡大したり、「イールドカーブ・コントロール」を導入したときとは、必然的に結びついているわけではありません。』

ほほー。

『ただ、ETFの買入れも、2%の「物価安定の目標」を実現するための「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の一環です。2%の「物価安定の目標」と離れて、こちらはずっと緩和しているがこちらはやめるといったことは普通考えられないと思いますが、ご指摘のような、国債の買入れによる「イールドカーブ・コントロール」と、リスクプレミアムを縮小するためのETFの買入れとが、完全にシンクロナイズして動く必要もないし、過去においてもそうなっていませんので、そこはそのようにお考え頂く必要はないと思います。これは毎回の金融政策決定会合で議論していくことですが、今申し上げたような全体の金融緩和の一環ですので、2%の「物価安定の目標」と離れて、これはこれで違うようにするという考えはないと思います。


ということなので、ETF買入が市場を歪めている、という議論が株の方から盛り上がれば、ということでしょうが、多分そうはならないと思うのでETFだけ単独で、ということにはならないと思います。


#とか何とかやっておりましたら時間切れなのですが、総裁会見は正直この位しか見るところないので本日はこれにて勘弁





2017/06/19

お題「MPMは無風/イエレン会見を鑑賞(その1)」

今後のドル円で重要なのは日米実質金利の差です(キリッ)と説明しているモーサテのおじさんですが、実質金利の差が動くには米国の長期金利と期待インフレ率の両方が上昇する必要があります!(キリッ)とか仰せなのですが両方上がったら実質金利どっちに行くかが程度次第になるんですけど・・・・・・・

・・・・・というのが今日のモーサテの「生兵法は怪我の元」でございました。とか何とかゆうとるアタクシも生兵法は良くやっていると思いますのでそういう時は教えてジェネラル。


○決定会合は想定通りの無風で

・ということで声明文比較(前回は展望レポートなので比較対象は基本的見解)。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/k170616a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1704a.pdf(前回)

『わが国の景気は、緩やかな拡大に転じつつある。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな拡大に転じつつある。』(前回)

ということで基調判断は同じ。

『海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。』(今回)
『海外経済は、新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。』(前回)

新興国の一部に〜というのが抜けたのですが、「総じてみれば」というのが入るというややこしい変更なのでこういう時は英文を見る。

『Overseas economies have continued to grow at a moderate pace on the whole』(今回英文)
『Overseas economies have continued to grow at a moderate pace, although emerging economies remain sluggish in part. 』(前回英文)

英文を見ると主文にon the wholeが入っている(日本語もそうですけど)ということなので、判断に微妙なヘッジクローズを入れているという読み方になってしまいますけれどもどうなんでしょうかねえ。

『国内需要の面では、設備投資は、企業収益が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増している。この間、住宅投資と公共投資は、横ばい圏内の動きとなっている。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。』(今回)

『国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が業種の拡がりを伴いつつ改善するなかで、緩やかな増加基調にある。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移している。この間、住宅投資と公共投資は、横ばい圏内の動きとなっている。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。』(前回)

業況感の所は短観直後の時に出てくるのでこれが抜けているのは特段の意味はなくて、個人消費の所が「底堅さを増している」と判断引き上げとなっています。


『わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。』(今回)

『わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。』(前回)

ここも表現変わらず(以下同じ、とあるのは文章の量が違うから)で、相変わらず予想物価上昇率は「弱含みの局面」の連呼なのですが、この先に見通しがありますけれども、物価見通しは相変わらず同じでして、いやまあそうなるのは大人の事情で分かるんですけどそれで大丈夫なのかと思います。


でもって先行き見通し。

『先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。』(今回)

『先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。2018 年度までの期間を展望すると、国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。』(前回)

ということで基本的な部分は今回も同じです。

『輸出も、海外経済の改善を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。』(今回)
『こうした海外経済の改善を背景として、輸出も、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。』(前回)

同じですなあ。

『消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる(注3)。』(今回)

『もっとも、先行きの物価を展望すると、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(前回)

こちらも同じ、ということで先行き見通しは同じです。

『リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。』(今回)

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。具体的には、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。』(前回)

とまあそういうことでリスク要因の話は基本的に経済の一発目のやつが声明文に出てくるのですけれども、それよりも「予想物価上昇率の高まりが行かない事」なのではないかと思ったりもするのですが、「経済のリスク要因」の話と「物価目標達成に向けたリスク要因」の話が噛み合わない状態になっていて、今の問題って経済自体が別に悪い訳でもないのにいつまで経っても物価目標が行く気配無し、という所になるので、ど〜もこの声明文を読んでもピンとこないなあと毎度思うのでありました。

つーことで見事に無風会合でしたぞな。


○FOMC会見の質疑応答を鑑賞の巻

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20170614.pdf
Transcript of Chair Yellen’s Press Conference
June 14, 2017

・バランスシート縮小着手時期関連の質疑をまずは拾ってみます

冒頭の質問がこれ。

『NICK TIMIRAOS. Nick Timiraos of the Wall Street Journal. Chair Yellen, the principles you released today say the balance sheet wind down should commence once interest rate normalization is well underway. With this latest rate increase, do you believe normalization is now well underway?』

今日利上げしたのでしたら「normalization is now well underway」ではなかろうか、というそら聞くわな、という質問ですがそのお答え。

『CHAIR YELLEN. So that is something that we've said for some time and I previously, when I've been asked what well underway means, said that I don't want to define that in purely quantitative terms but rather in qualitative terms.』

『So, there's no specific level of the federal funds rate that means we're well underway.』

まあそういうのは分かるが、だったら「well underway」とか何で最初に言うのかね、とは思う次第で、FEDってこの辺りの説明が毎度継ぎはぎ説明なんですよ。まあ日銀も同じなんですけれども、まだ日銀の場合は「どうせ全然出口に来ない」という状況だから継ぎはぎしても結果的にやってることが変わらないのですけれども、FEDの場合って出口展望しているのにとりあえず何か出してしまって後からまた説明が微妙に変わるってのが相変わらずなのは何とかならんのか、とは思う。

『But it's also a question of not only the current level but our confidence in the outlook and our projections for the future path of the federal funds rate. So, we have increased our federal funds rate target now several times. Our outlook is that we anticipatefurther increases this year and next year for the federal funds rate and our statement indicates thatif the economy continues to evolve in the manner that we expect that we would feel the conditions are will be in place to begin this process this year. 』

our confidence in the outlookが上がったから利上げはしたが、資産買入縮小を開始する訳ではありません、でもour confidence in the outlookによって縮小開始が決まりますそれはこのままなら年内でしょう、とか禅問答にも程があり過ぎる。


でもって後の方になりまして18ページ目までワープしますが。

『KAREN MRACEK. Thank you, Karen Mracek with Market News International. Today, you guys outlined the details of the plan to, when you begin to, and reinvestments. But you stopped short of saying exactly when it would be implemented, only saying this year, and adding that that depended on how the economy evolved. Can you tell us why you decided not to go ahead with it today? Is there are conditions that you're looking for?』

こらまた直球な質問だが「他に条件があるのか」とは中々よろしい。

『And then as a second question, do you think that the-- you could raise rates and begin implementation of the plan at the same time? Thank you.』

利上げとバランスシート縮小着手は同時開催可能かという質問。

『CHAIR YELLEN. So, we have tried as meticulously as we can to provide advanced warning to markets about how we would go about doing this so that market participants can prepare.』

meticulouslyというのは手元のデイリーコンサイスだと念入りにという意味で、今回のは皆さんが準備できるように事前にだしたのですよ、という言い方ですから・・・・・・・・・・

『And today's announcement is another step in that process.』

ふむふむ。

『So, we certainly wanted to get this information out before we actually undertake the beginning of this plan. And, you know, as the statement says, we've made no definite decision on the timing of the plan but the timing of initiating the plan. But if the economy evolves in line with our expectations which, you know, we will be watching, always are, we could put this into effect relatively soon.』

という言い方で「But if the economy evolves in line with our expectations which, you know, we will be watching, always are, we could put this into effect relatively soon.」って言ってるんですからそんなに後に引っ張る感じじゃないですよね、というのは分かる。

『You asked about whether or not we would do that and raise rates at the same meeting, and I would say, we've made no decision about that, and it really hinges on the outlook and our assessment of conditions.』

どちらとは決めていない、という事なのですからこれは利上げと資産買入気bの縮小着手が同時に来る可能性も残している、という回答になります。


・物価の質問が今回はゴリゴリ来ていてそれも面白いのだがその前にこの質問はお洒落

20ページの所になります。

『MICHAEL DERBY. Mike Derby from Dow Jones Newswires. In light of the plans to trim the balance sheet hopefully later this year, what have you learned about QE and your bond buying policies as a tool for monetary policy?』

縮小するのは良いのだが所でQEって金融政策としてどういうツールだったのとはこらまた良い質問。

『When they were launched, it wasn't something you had, you know, engaged in that scale before, a lot of fear and said it was going to create a hyperinflation that hasn't ever seem to come to pass. So, you know, in light of QE as potentially a tool for the future, you know, it might come back again, what have you learned about how it works in the economy? Like where do you see it affect things? You know, what are sort of the lessons learned of the experience?』

確かに一部で心配されていたハイパーインフレのような事にはならなかったけれども、それはそれとしてQEの量って何に効いたのでしょうか、というお洒落な質問に対してのイエレンさんのお答えは以下の通り。

『CHAIR YELLEN. Well, thanks. That's a great question.』

さて・・・・・・・・

『I mean, staff in the Federal Reserve and outside economists who have done a great deal of work trying to evaluate QE, I think the general conclusion is that it has worked in that it has put some downward pressure on longer term interest rates, so-called term premiums embedded in longer term interest rates.』

タームプレミアムを下げて金利を下げたのが効果、という説明ですが、元々QE2とかぶっこんだ時にはインフレ期待を下げないようにする、と言っていた筈でして、まるでどこぞの極東の中央銀行のようでございますなあというこの説明が何とも。

『There's disagreement among economists about exactly how large those effects are and it's something that's difficult to pin down.』

そらそうよ。なお極東の島国では「世界標準の金融政策」と言って国債をバカスカ買うと期待インフレに直接働きかけて世界標準の期間である2年で達成という話をしていたと思いますが息してますか??

『But obviously, it has not caused runaway inflation quite the contrary.』

確かにインフレの逸走は起きませんでしたな。

『I mean, that was never my expectation but I do remember when people were afraid that that would happen.』

ほうほう。

『We do have the tools. We have, you know, even with a large balance sheet, we intend to shrink our balance sheet now. But even with a large balance sheet, we retain the ability to move the fed funds rate and set it as appropriate to the needs of the economy.』

逆に言えば「出口政策の手段がある」という点に対するコンフィデンスが無くなるとrunaway inflationになるっちゅう話でもありますな。

『So, I think we have learned that it works. It's a valuable part of the toolkit. It's something that if we were to encounter an episode in the future of extreme weakness where I've said, we want the fed funds rate and movements in short-term interest rates, that's our go-to number one main policy tool. But if we were to hit the zero lower bound and constrained in our use of that tool, certainly balance sheet policies and forward guidance of the type that we provided, I believe based on the evidence of how they worked or to remain part of our toolkit. And we have said in the bullets that we released today on our balance sheet that in such of-- an episode of such extreme weakness in the future, those are things we would consider going forward.』

再度経済が非常に悪化して金利政策が使えなくなればバランスシート政策もあり、ということで話は何かずれてきましたが・・・・・・・・・

『MICHAEL DERBY. One small follow-up. Is four and a half trillion sort of a natural limit to how high you might want to push the balance sheet or could you envision it going higher if you needed it to? 』

バランスシート政策って物理的限界あると思うのだが、という微妙なフォロー質問。

『CHAIR YELLEN. Well, we've had no discussion of that issue, you know. And our focus now is on getting it back to a more normal size. But I would say the use of QE in the United States relative to the size of our economy is not as high as it's been in some other countries that have employed it. But that's something we haven't seriously even discussed.』

しらっと日本の方がもっとGDP比のバランスシートがでかいとか言わんばかりの話をしていますが、結局のところ「長期金利が下がった」というのと「なんかとりあえず効いた」という話しかできない(のは分かるが)という状況なのは把握した。

#時間の関係で物価で詰められている部分は明日以降にでも(汗)






2017/06/16

お題「FOMCネタの続きで勘弁」

ほほう。
http://jp.reuters.com/article/boe-idJPKBN1961AU
Business | 2017年 06月 16日 00:33 JST 関連トピックス: ビジネス, トップニュース
英中銀、政策金利据え置き 予想外に3人が利上げ支持

といいましても寝起きで読む勢いはないので勘弁ということで(大汗)。

#なお日銀の決定会合は基本どうでも良いのですが会見で誰かが飛ばしヘッドラインを打ってくる可能性はある、けどこのタイミングで何らかの政策変更示唆は有り得んので飛ばしに踊らされないようにするのが吉かと


○ということでFOMCネタ続きで

まずはSEPの続きである

https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20170614.pdf
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20170614.htm

もうちょっと丁寧に見ますね(すいません)。

・経済見通しだが整合性が取れているようで取れていない気もするSEPの変わり方

ペタペタ貼るのが苦手なのでMedianで見ますね。

         2017 2018 2019 ロンガーラン
Change in real GDP 2.2 2.1 1.9 1.8
March projection  2.1 2.1 1.9 1.8

Unemployment rate 4.3 4.2 4.2 4.6
March projection 4.5 4.5 4.5 4.7

PCE inflation   1.6 2.0 2.0 2.0
March projection  1.9 2.0 2.0 2.0

この数字自体はメディアンですので、「たまたま真ん中の数字になったポイント」となりますから、失業率のメディアンの人と物価のメディアンの人が違うというケースもありまして、そういう点ではゴリゴリと整合性とかいうのも無粋ではあるのですが、この数値を見ますと成長見通しをほぼ変えないで失業率見通しはそこそこ下げて物価見通しが足元は下がっているけどその先は変わらん、というのは微妙。

一応ロンガーランの失業率(のメディアン)は0.1%下がっているのですけれども、これってやはり違和感あって実際はもう少しロンガーランの失業率(NAIRUみたいな話)が下がっているのか、雇用状況に対する物価の感応度が弱まっているのかというような話になってくるのか、という話になると思うのですよね。


・政策金利見通しについて

こちらももうちょっと細かく。

2017年末

(今回)
1.00-1.25%:4名
1.25-1.50%:8名
1.50-1.75%:4名

(前回)
0.75-1.00%:2名
1.00-1.25%:1名
1.25-1.50%:9名
1.50-1.75%:4名
2.00-2.25%:1名

前回の突拍子もない上の人は変態仮面かつ外れましたので無視するとして、実は年内3回(あと1回利上げ)という人が1名降参して今回で利上げ打ち止めという答えに変わっているというのは味わいがありますが、それ以外全然動いていないというのも何とも。

2018年末

(今回)
1.00-1.25%:1名
1.50-1.75%:1名
1.75-2.00%:2名
2.00-2.25%:5名
2.25-2.50%:2名
2.50-2.75%:3名
2.75%:1名
3.00-3.25%:1名

(前回)
0.75-1.00%:1名
1.50-1.75%:1名
1.75-2.00%:1名
2.00-2.25%:6名
2.25-2.50%:3名
2.50-2.75%:1名
2.75-3.00%:1名
3.00%:1名
3.25%:1名
3.25-3.50%:1名

政策金利が動かないという変態仮面は無視するとしまして、2017年末までにあと1回、と予想している人が8名いて、2017年打ち止めの人が4名いる訳ですよね(うち1名は変態仮面)。

ですから金利の低い方から12人分探していくと、実は2.25-2.50%のレンジまでの所では11人しか埋まらないのですし、金利の低い方から4人分探すと2.00-2.25%の所に1名入るという事になります。

つまり、今年は利上げ打ち止めと言いつつ来年は年4回利上げする(確かにまあ3回って据わりが悪くて2回か4回か8回じゃろ、というのは気持ちとしてはアタクシも思う)という人が1名いる上に、年内残り1回利上げ(中心的な見解)の人8名の中でも来年4回利上げする(2.25-2.50%)という考えの人が2名、来年5回(以上?)利上げするという考えの人が1名いるように見える訳ですよ。

これ前回と比較すると、前回の1.25-1.50%(年内3回)のプロットの皆さん9名の2017年の金利分布と思われるもの(つまり下の3人を切って考える)は、2.00-2.25%(3回)が6名、2.25-2.50%が3名になっていまして、2018年は3回派と4回派しかいないのですし、前回低いプロットにいた3人(うち1名は金利不変おじさんのブラードなので2名)を見ると、変態仮面をさておきますと2名とも2018年は3回利上げの所にプロットがあったので、何気に今回ってハト派と中央派の中で2018年の利上げペースが速まっている、というのが味わいがあるというかあれれ?という感じはしました。


ということでプレコンのオープニングステートメントですが、

・物価の足元は「一時的特殊要因」攻撃キタコレ!

ちなみに今朝の時点でQ&Aも出ているような気がしますがどうせそこまで手が回らないので最初からオープニングステートメントと言っておく(汗)。

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20170614.pdf

最初のご挨拶は飛ばしまして、

『Following a slowdown in the first quarter, economic growth appears to have rebounded, resulting in a moderate pace of growth so far this year. Household spending, which was particularly soft earlier this year, has been supported by solid fundamentals, including ongoing improvement in the job market and relatively high levels of consumer sentiment and wealth. Business investment, which was weak for much of last year, has continued to expand. And exports have shown greater strength this year, in part reflecting a pickup in global growth. Overall, we continue to expect that the economy will expand at a moderate pace over the next few years.』

この辺は声明文の第1パラグラフの説明と同じなのですが、こうやって説明されると進軍ラッパに聞こえる訳で、えらい威勢がよろしゅおすなあ(棒読み)と。

『In the labor market, job gains have averaged about 160,000 per month since the start of the year--a solid rate of growth that, although a little slower than last year, remains well above estimates of the pace necessary to absorb new entrants to the labor force.』

NFP+16万は十分に強い数字だそうな。

『The unemployment rate has fallen about 1/2 percentage point since the beginning of the year and was 4.3 percent in May, a low level by historical standards and modestly below the median of FOMC participants’ estimates of its longer-run normal level.』

失業率に関してもロンガーランよりも低いと。

『Broader measures of labor market utilization have also improved this year. Participation in the labor force has been little changed, on net, for about three years. Given the underlying downward trend in participation stemming largely from the aging of the U.S. population, a relatively steady participation rate is a further sign of improving conditions in the labor market. Looking ahead, we expect that the job market will strengthen somewhat further.』

ということで労働市場に関するコメントは強いのは想定通りではありますが威勢がよろしい。

『Turning to inflation, the 12-month change in the price index for personal consumption expenditures was 1.7 percent in April, up from less than 1 percent last summer but down somewhat over the past few months. Core inflation--which excludes the volatile food and energy categories and tends to be a better indicator of future inflation--has also edged lower.』

でもって物価になりまして、足元物価の伸びが減速しているという話をしているのですが・・・・・・・・・・・

『The recent lower readings on inflation have been driven significantly by what appear to be oneoff reductions in certain categories of prices, such as wireless telephone services and prescription drugs.』

『These price declines will, as a matter of arithmetic, restrain the 12-month inflation figures until the extraordinarily low March reading drops out of the calculation.』

一時的な要因キター!ということで、まるでどこぞの大口叩いた割に全然物価目標を達成しない中央銀行の言い訳のようになっているのが実に味わいがありまして、どこぞの中央銀行の場合はただの言い訳なのですが、こちらの中央銀行の場合は「利上げとバランスシートの縮小を継続したいので足もと物価については一時的という事にしておきましょう」という奴でして、こういうのって自分のやりたい政策があるとそっち方面にバイアスが掛かる(どこぞの中央銀行の場合でもQQE2とかいうのやるときにそれまで基調は強い足元一時的にどうのこうの言ってたのが突如豹変するという事案がありましたように)という中央銀行特有の芸風に入ってきている感があります。

『However, with employment near its maximum sustainable level and the labor market continuing to strengthen, the Committee still expects inflation to move up and stabilize around 2 percent over the next couple of years, in line with our longer-run objective. Nonetheless, in light of the softer recent inflation readings, the Committee is monitoring inflation developments closely.


とは言ってますが、「in light of the softer recent inflation readings, the Committee is monitoring inflation developments closely.」なんだったら利上げ見送れよという話なのですから、取ってつけた文言であることは明白。

このあとSEPの説明になるのでそこは飛ばして、



・政策に関して:利上げに関して

『Returning to monetary policy, for the past year and a half the FOMC has been gradually increasing its target range for the federal funds rate as the economy has continued to make progress toward our goals of maximum employment and price stability. Our decision today continues this process. 』

と言ってる位でまあ一時的とか知らんがな攻撃で利上げしている訳ですな。

『We continue to expect that the ongoing strength of the economy will warrant gradual increases in the federal funds rate to sustain a healthy labor market and stabilize inflation around our 2 percent longer-run objective. That’s based on our view that the federal funds rate remains somewhat below its neutral level--that is, the level of the federal funds rate that is neither expansionary nor contractionary and keeps the economy operating on an even keel. Because the neutral rate is currently quite low by historical standards, the federal funds rate would not have to rise all that much further to get to a neutral policy stance. But because we also expect the neutral level of the federal funds rate to rise somewhat over time, additional gradual rate hikes are likely to be appropriate over the next few years to sustain the economic expansion. Even so, the Committee continues to anticipate that the longer-run neutral level of the federal funds rate is likely to remain below levels that prevailed in previous decades.』

面倒になって1パラグラフまとめて引用しちゃいましたが、自然利子率の話を持ち出して、自然利子率よりも十分に低い水準にいるからまだ緩和的、というのと、自然利子率自体は下がっているのだから利上げペースはゆっくり、という話をしているのですけれども、その一方でさっき申し上げたようにSEPのビューだと何気に先行きの利上げペースが中立〜ハト系でも若干上がっている人がいる、というのが示されておりまして、割とこう説明に整合性が取れなかったりする面もあるのよ。

でまあこれ質疑とか後から出てくる議事要旨とか見ていくことになると思うのですけれども、「インフレが加速しない中で緩和的な環境をやっていたら盛大なバブルが発生してそのツケを25年以上払わされているどこぞの極東の島国」という事例がある訳で、それに対してBISビューちっくに警戒モードなフォワードルッキング資産バブル予防、というのなら話は分かる(FEDらしくないけど)ので、その辺は確認したいなと思う。

でもってSEPの金利見通しについて言及しているが数字を出しているだけなのでパス。


・政策に関して:バランスシートに関して

『Let me now turn to our balance sheet.』って所からの説明がやたら長くて、今回は利上げは事前織り込み済みだから良いとして、こっちの説明をやたら力入れたんだな、というのは把握しました。

でもって説明が延々とあるのですが、基本的に昨日ご紹介したノーマライゼーションプランの説明を延々としているだけなのでそこは飛ばして結論に近い所を。

『Finally, as noted in today’s addendum, the Committee affirmed that changing the target range for the federal funds rate is our primary means of adjusting the stance of monetary policy.』

『In other words, the balance sheet is not intended to be an active tool for monetary policy in normal times. However, the Committee would be prepared to resume reinvestments if a material deterioration in the economic outlook were to warrant a sizable reduction in the federal funds rate. More generally, the Committee would be prepared to use its full range of tools, including altering the size and composition of its balance sheet, if future economic conditions were to warrant a more accommodative monetary policy than can be achieved solely by reducing the federal funds rate. 』

というのはプランの中にもあったのですが、しらっと「the balance sheet is not intended to be an active tool for monetary policy in normal times.」というのを入れていまして、これは(昨日も申しあげましたが)利下げするような状況に追い込まれるまでは延々とバランスシートの縮小をやる、ということですので、BS縮小着手のタイミングで利上げも可能というお話でもあるので、これはどうせ始まってから暫くしないと影響出て来ない(まあそういう風にプラン作っていると思う)のですが、着手自体はサックリとやってくる可能性は割と高いんじゃないのかなーと思うのでした。

ということで質疑応答は後日。





2017/06/15

お題「FOMCである(が会見の冒頭コメントまでは多分手が回らない)」

ということで毎度の寝起きマンだが「期待インフレ率が下がっているから利上げは間違い」というモーサテに出ている某米国コメントのおじさんが説明しているのだが、その期待インフレ率がTIPSのBEIだけってのは債券市場に詳しくない方がBEIを覚えるとついやってしまうプレイですので注意しましょう。

ああ念のため申し上げますが「利上げは間違い」という考えはありだと思いますけど、そこで「BEIの推移だけ」出してきて債券の人間が説明したら赤点再履修という意味ですからね。


○声明文:さすがに足元の物価弱含みには言及も全般的には強い物言い(と思う)

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20170614a.htm(今回)
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20170503a.htm(前回5月)

・第1パラグラフ:足元の物価の弱さに言及するけれども全般的に強い内容

『Information received since the Federal Open Market Committee met in May indicates that the labor market has continued to strengthen and that economic activity has been rising moderately so far this year.』(今回)

『Information received since the Federal Open Market Committee met in March indicates that the labor market has continued to strengthen even as growth in economic activity slowed.』(前回)

経済に関して前回あった足元の経済活動がスローになっている云々が削除されました。

『Job gains have moderated but have been solid, on average, since the beginning of the year, and the unemployment rate has declined.』(今回)

『Job gains were solid, on average, in recent months, and the unemployment rate declined.』(前回)

雇用の増加に関しても足元モデレートになっているというのを入れていますが、基調の判断は変えていないという攻撃。

『Household spending has picked up in recent months, and business fixed investment has continued to expand.』(今回)

『Household spending rose only modestly, but the fundamentals underpinning the continued growth of consumption remained solid. Business fixed investment firmed.』(前回)

家計の支出と企業の投資に関しての判断は引き上がっています。

『On a 12-month basis, inflation has declined recently and, like the measure excluding food and energy prices, is running somewhat below 2 percent.』(今回)

『Inflation measured on a 12-month basis recently has been running close to the Committee's 2 percent longer-run objective. Excluding energy and food, consumer prices declined in March and inflation continued to run somewhat below 2 percent.』(前回)

前回はヘッドラインのインフレが「running close to the Committee's 2 percent」とか中々威勢の良い話だったのですが足元ヘッドラインインフレ滑ってここは素直に足元下がっているという話に。

『Market-based measures of inflation compensation remain low; survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance.』(今回)

『Market-based measures of inflation compensation remain low; survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance.』(前回)

インフレ期待や市場のインフレ予想の話に関しては毎度同じです。


・第2パラグラフ:目先の物価パスを下げるものの景気と海外リスクは改善と

『Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability.』(今回)

『Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability.』(前回)

これはいつもの話。

『The Committee continues to expect that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace, and labor market conditions will strengthen somewhat further.Inflation on a 12-month basis is expected to remain somewhat below 2 percent in the near term but to stabilize around the Committee's 2 percent objective over the medium term.』(今回)

『The Committee views the slowing in growth during the first quarter as likely to be transitory and continues to expect that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace, labor market conditions will strengthen somewhat further, and inflation will stabilize around 2 percent over the medium term.』(前回)

前回は足もとまでの景気加速ペース鈍化に対して一時的だぞという話をしていた訳ですが。今回は物価に関して「近いタームでは2%を若干下回って推移するが中期的には2%に向けて安定する」という中央銀行お得意の「目先は〜だが中期的には」というパワーワードを投下しております。

『Near term risks to the economic outlook appear roughly balanced, but the Committee is monitoring inflation developments closely.』(今回)

『Near-term risks to the economic outlook appear roughly balanced. The Committee continues to closely monitor inflation indicators and global economic and financial developments.』(前回)

リスクバランスはバランスのままですが、今後も注視してモニターするという内容の中に物価動向以外の海外経済、金融動向という部分をしらっと削除するという地味なのですが、リスクアセスメント実質強くしてるやんというのもほほーと思いました(個人の感想です)。


・第3パラグラフ:利上げ実施だが他の文言は同じ

『In view of realized and expected labor market conditions and inflation, the Committee decided to raise the target range for the federal funds rate to 1 to 1-1/4 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting some further strengthening in labor market conditions and a sustained return to 2 percent inflation.』(今回)

『In view of realized and expected labor market conditions and inflation, the Committee decided to maintain the target range for the federal funds rate at 3/4 to 1 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting some further strengthening in labor market conditions and a sustained return to 2 percent inflation.』(前回)

利上げしましたよーという部分以外は同じですな。


・第4パラグラフ:バランスシートの前段は文言同じです

『In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. The Committee will carefully monitor actual and expected inflation developments relative to its symmetric inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data.』(今回)

『In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. The Committee will carefully monitor actual and expected inflation developments relative to its symmetric inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data.』(前回)

ええいクソ長いという感じですが全文一致です。


・第5パラグラフ:年内にバランスシート縮小開始宣言キタコレ!

『The Committee is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and of rolling over maturing Treasury securities at auction.』(今回)

『The Committee is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and of rolling over maturing Treasury securities at auction, and it anticipates doing so until normalization of the level of the federal funds rate is well under way. This policy, by keeping the Committee's holdings of longer-term securities at sizable levels, should help maintain accommodative financial conditions.』(前回)

つーことで前回までは当面バランスシートを維持しますああ利上げが十分に進んで来るまではバランスシートの維持をしますよという説明でしたが・・・・・・

『The Committee currently expects to begin implementing a balance sheet normalization program this year, provided that the economy evolves broadly as anticipated. This program, which would gradually reduce the Federal Reserve's securities holdings by decreasing reinvestment of principal payments from those securities, is described in the accompanying addendum to the Committee's Policy Normalization Principles and Plans.』(今回)

つーことで、経済が見通し通りに推移すれば年内にバランスシート縮小を開始しますああそのプランについては別紙ですよということで別紙はこのあとで。


・第6パラグラフ:カシュカリさん今回も利上げ反対

『Voting for the FOMC monetary policy action were: Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; Charles L. Evans; Stanley Fischer; Patrick Harker; Robert S. Kaplan; and Jerome H. Powell. Voting against the action was Neel Kashkari, who preferred at this meeting to maintain the existing target range for the federal funds rate.』(今回)

『Voting for the FOMC monetary policy action were: Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; Charles L. Evans; Stanley Fischer; Patrick Harker; Robert S. Kaplan; Neel Kashkari; and Jerome H. Powell.』(前回)

カシュカリさん今回も利上げ反対でした。

ということで、声明文に関して(とバランスシート縮小プランとかSEPとか)に関して言えば既定路線通りではありますが、割と強気スタンスの物を出してきているという感じですけど、これはまあ市場が利上げそんなにできるかよというように高を括っているので逆に強めに出しておかないと市場がFED降参ヒャッハーと言い出してヤヤコシイことになるのでは、というのは考えていると思います。


○バランスシート縮小プラン:まあこんなもんじゃろという感じですがそのうち効いてくるんでしょ

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20170614c.htm
Addendum to the Policy Normalization Principles and Plans

『All participants agreed to augment the Committee's Policy Normalization Principles and Plans by providing the following additional details regarding the approach the FOMC intends to use to reduce the Federal Reserve's holdings of Treasury and agency securities once normalization of the level of the federal funds rate is well under way.1』

ということで、これ全員一致というのがほほーなのですがまあそれはそれとして。

『The Committee intends to gradually reduce the Federal Reserve's securities holdings by decreasing its reinvestment of the principal payments it receives from securities held in the System Open Market Account. Specifically, such payments will be reinvested only to the extent that they exceed gradually rising caps.』

以前のFOMC議事要旨に出ていたような話になりまして、いきなり止めるのではなく(そらそうよ)、今はバランスシート規模を維持する形で行っている償還再投資の量を徐々に減らしていって、バランスシート規模をちんたらと縮小していきますよというお話。

『For payments of principal that the Federal Reserve receives from maturing Treasury securities, the Committee anticipates that the cap will be $6 billion per month initially and will increase in steps of $6 billion at three-month intervals over 12 months until it reaches $30 billion per month.』

『For payments of principal that the Federal Reserve receives from its holdings of agency debt and mortgage-backed securities, the Committee anticipates that the cap will be $4 billion per month initially and will increase in steps of $4 billion at three-month intervals over 12 months until it reaches $20 billion per month.』

国債に関しては当初月に60億ドル減る程度の再投資を行い、四半期ごとにその60を120→180としていって、最終的には月300億ドル減るような再投資ペースにします。となっていまして、エージェンシー債およびMBSについては当初が月40億ドル、その後80、120としていって最終的には月200億ドル減るような再投資のペースにすると。

『The Committee also anticipates that the caps will remain in place once they reach their respective maximums so that the Federal Reserve's securities holdings will continue to decline in a gradual and predictable manner until the Committee judges that the Federal Reserve is holding no more securities than necessary to implement monetary policy efficiently and effectively.』

バランスシート削減に関しては金融政策運営上これ以上削減しなくてもよい、と判断されるレベル(超過準備が相当量削減された所になるでしょうな)になるまではこのペースで実施する、ということで、バランスシート削減に関してはテーパリングの時と違って最初から予定通りで行きまっせとやっているのは変に気を使うほうが不確実性が高まって良くないという判断でしょうがまあ妥当。

『Gradually reducing the Federal Reserve's securities holdings will result in a declining supply of reserve balances. The Committee currently anticipates reducing the quantity of reserve balances, over time, to a level appreciably below that seen in recent years but larger than before the financial crisis; the level will reflect the banking system's demand for reserve balances and the Committee's decisions about how to implement monetary policy most efficiently and effectively in the future.』

『The Committee expects to learn more about the underlying demand for reserves during the process of balance sheet normalization.』

つーことで、今申し上げた超過準備の件がありますが、超過準備に関しては最終形として恐らく金融危機の前よりは多い状態になるだろうと思われるものの、その水準がどの程度なのかというのは始まってみないとわからない面はありますから、説明としてはこういう話になるのは順当です。

で、最後の所ではこの話が。

『The Committee affirms that changing the target range for the federal funds rate is its primary means of adjusting the stance of monetary policy.』

金利の方がメインの話ですよ、としていますがこれは即ち金利云々と基本的に関係なくバランスシートは縮小するよという話でもあります、ただし・・・・・・・・

『However, the Committee would be prepared to resume reinvestment of principal payments received on securities held by the Federal Reserve if a material deterioration in the economic outlook were to warrant a sizable reduction in the Committee's target for the federal funds rate. Moreover, the Committee would be prepared to use its full range of tools, including altering the size and composition of its balance sheet, if future economic conditions were to warrant a more accommodative monetary policy than can be achieved solely by reducing the federal funds rate.』

景気の見通しが著しく悪化して、利下げをしないといけません、というような時になればバランスシートの拡大もしますよ、という話をしておりまして、まあそうなったらFED的には涙目でしょうが、利下げして行く中でバランスシート政策復活というツールを排除していません、というのを最後に入れておりまして、これまた順当な文言ではありますが、わざわざ念押しで入れているのはバランスシート縮小プランが出て金利があばばばばーと上昇されても困るという事ではあるんでしょうな。


○SEP:順当に目先の物価下げ、失業率は強くする、金利見通しはほぼ変わらず、となりました(メモ)

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20170614b.htm
Federal Reserve Board and Federal Open Market Committee release economic projections from the June 13-14 FOMC meeting

ということで
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20170614.pdf
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20170614.htm

こちらの前回は3月なので、
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20170315.pdf
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20170315.htm

になりますが、その前の所でせっせと読み込んでいるのに時間を食ったので(もっと早起きすれば良かった)簡単に(プレコンと共に明日補足します)。

・経済見通しは足元物価下げ、雇用は強め

実質GDP見通しのメディアンが若干上がりましたが目立つのは2017年の物価が下がったけど先行きは変わらない(まさに声明文通り)、というのと失業率が全般的に下がったけれどもロンガーランの失業率も若干下がる(ただしメディアンで見た場合にロンガーランの失業率は0.1%しか下がっていなくて見通しの方は2017年で0.2%、2018、2019年で0.3%下がっているのですから、雇用の物価に対する影響という意味では強い見通しになっている)という所ですな。


・金利見通し

年内利上げ無し派:1名(基本この人はずっと無しの変態仮面ブラード総裁なので放置プレイで良し)
年内利上げ1回派:4名
2回派:8名
3回派:4名

と測ったような分布になっていますが、前回は残り2回が1名、残り3回が2名だったので、実は1人降りてきているというのがありますな。

でもって2018年はスタート時点から見ると大体年3回〜4回で見ている感じ(詳しくは明日で勘弁)

面白かったのはロンガーランでして、今回総投票数が1つ減っていて、減っているのが見通しのやたら高い人というのは前回対比で読み取れますからまあこの人はさておくとしまして考えると、今回はロンガーランが全員動いていないという結果になっていまして、ここは興味深く読みましたですよ。いや色々と均衡金利が低下しているのではないか的な話も出ていたりする中ですが、今回は不動というのには味わいを感じました。

ということで予想通り時間切れの為プレコンは明日。








2017/06/14

お題「中期5年が微妙とな/レポ取引に関する日銀ペーパーより(その2)」

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170614/k10011016951000.html
英首相 閣外協力めぐり民主統一党党首と会談
6月14日 5時19分

いまいちよー分かっていないのだが、DUPと組むと北アイルランドのアイルランド派と英国派の対立が煽られることにならんのか???

○市場雑談メモなんですけど5年ェ・・・・・・・・

・短い所は良いのですが5年が微妙ですの

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1JA2EW
Markets | 2017年 06月 13日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は続落、長期金利0.060%に上昇

『<15:08> 国債先物は続落、長期金利0.060%に上昇

長期国債先物は続落。朝方は買いが先行する場面があったが、買い上げるには材料不足で終盤には戻り売りに押された。現物債は高安まちまち。中長期ゾーンが弱含む一方で、超長期ゾーンは逆行高した。20年債入札が強めな結果になったことや、あす残存10年超の日銀国債買い入れオペを控えていることが投資家心理を強気にさせた。』(上記URL先より)

他に講釈のしようがないから『あす残存10年超の日銀国債買い入れオペを控えていることが投資家心理を強気にさせた。』ってなりますが、明日の輪番があるから強気とかそれは投資家目線じゃなくてディーリング目線の話なのですから、「あす超長期の輪番があるのでディーラーに安心感もあり」とか解説して頂きたいのですがそれは兎も角として。

もうちょっと前の時間の所でも「中期が弱含み」とありましたけれども、引けでは何か帳尻が合っているのですが、昨日は途中で5年カレントが1.5毛甘の▲6.5bpレベルまで甘くなっていたりしてまして、2年辺りはそこまでヘロヘロ感は無いと思うのですけれども5年ェ・・・・・・という感じですの。

まーそもそも論からすると超過準備の政策金利適用部分が▲10bpだからと言って、じゃあ5年がそこで止まる義理は別にない訳でして、短国とか2年とかならまだ話は分かる(物凄いゴリゴリ言えば2年だって2年間マイナス金利政策続けられるという話じゃないと▲10bpより低い金利に突撃する必要あるの、という話になるけど、まあ短国と中長期国債だと買う側として別のカテゴリーだったりする場合もあるので、利付でロット捌ける一番短いのが2年カレントですからね)のですが、そらまあ短国やら2年の金利水準が調整されてくると5年については微妙な年限ってえ話になるのでしょうかねえ。

一方で10年金利「ゼロ%近辺」というYCCの政策があるので、この中期の扱いはオペレーション的には中々微妙な所で、中期がコケて長期に波及する時にどうしますかという話ですが、まあ波及するなら何かお助けはしないとイカンでしょうけれども、本質的には「短期▲10bp、10年ゼロ近傍、と言いつつ+10bpを暗黙の上限にしている、というのが2月のオペで示されたので今の「お約束」は+10bpキャップ」というこの一番広くて20bpという範囲で足元から10年までのJGBのカーブを引けというのがバランスが悪い訳で、以前は短い所をガツガツ買っていて短期JGBを政策金利水準より下げていたので誤魔化されていましたが、そもそもの設定が悪いよ設定が、という問題はどうするんじゃろうかのうとしか申し上げようがない。

もちろんもう一回短期JGBの金利を下げてしまえば据わりは良くなるのですけれども、それをやるのも何だかなあと思いますし中々難しいですの。



・マイナス金利で彼方の物になりましたが

https://mainichi.jp/articles/20170614/k00/00m/020/052000c
MMF25年の歴史に幕 残高ゼロ、運用難で返還
毎日新聞2017年6月13日 19時38分(最終更新 6月14日 00時18分)

『投資信託協会が13日発表した5月の投信概況によると、短期国債などで運用する比較的安全な投信として知られるMMF(マネー・マネジメント・ファンド)の純資産総額(残高)がゼロとなり、1992年5月の販売開始から25年の歴史に事実上幕を下ろした。日銀のマイナス金利政策で深刻な運用難に陥り、取り扱っていた全ての資産運用会社が販売を停止して顧客に資金を返還。最後に残っていた野村アセットマネジメントの商品(506億円)が5月に返還された。投信協会は「金利次第で今後組成される可能性は否定できないが、当面はあり得ないだろう」と指摘した。』(上記URL先より)

つーことでナムナムなのですが、国際的なシャドウバンキング規制の絡みもあってMMFについては米国でもプライムMMFの商品性に手直しが行われたりということで、短期金融市場での資金調達サイドから見た時の安定的な資金運用サイドという訳にも行かなくなっているという(それが良いのかどうかという価値判断は微妙なので差し控えておきますが規制の方向はそうなっているので)ところでして、金利を正常化するプロセス、その後に超過準備が不胎化ではなくて現実的に減っていくプロセスの中でさてどうなるんでしょというのは将来になってみないと分からんのですけれども、米国が先に人柱になっているのでそれを参考にしながらという事かも知れません、つーてまあ日本の場合は米国ほどのシェアは無かったのですけど。


○レポ市場の国際比較という日銀レビューシリーズの続きである

趣味のマニアネタですいません。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/rev17j10.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/data/rev17j10.pdf(本文)

・昨日の続きですが日本の例の話でレバレッジ規制に関する部分

『他方、本邦では、米国・英国と異なり、国内独自のレバレッジ比率規制が導入されていないこともあって、国債レポ市場における最近の変化の要因として、B/S コストの上昇を受けた大手ディーラーの行動変化を重要な要因として意識している先は限られている模様である。』

うーんこの。

『もっとも、本邦においても、四半期末に一部の金融機関がレポ市場での資金調達を消極化させることが、しばしば GC レポ・レートの下方スパイクをもたらすことが指摘されている17(図表 5)。』

ということで脚注(というか最後にあるのだが)17を見ますと、

『17 日本銀行金融市場局「2015 年度の金融市場調節」27〜28 頁参照。この点、こうした一部の金融機関の動きは、四半期末におけるレバレッジ比率の開示を意識したものであるとの指摘もみられる。なお、GC(General Collateral)レポとは、取引対象となる証券の銘柄を特定しないレポ取引をいう。』

つーことでまあこれは最終的には手控えた本人じゃないと分からん話ではありますが、レバレッジ規制自体はまだ本邦では始まっていませんが、数値の開示自体が始まっている、という状況になればそら数値が同業対比やたら違っていて、それがしかも規制に引っ掛かる方向(つまり両建て取引とかが多い方)だったら悪目立ちするから控えるじゃろ、というのはありまして、変に皆で意識するとそうなりますよね、という所でしょうな。

でもってレバレッジ規制を意識して取引が控えられる、という要因があった可能性があるのでレートが下方スパイクする、というのは昨日も申しあげたとおり、GCレポ市場の厚みを支えているのがファンディング市場としてのニーズに加えてGC市場での資金調達を利用した何らかの裁定取引で下駄を履いている、という事を示している訳でして、IOERアーブとかで下駄を履いている状況下において本当の本当にT+0のGCレポ市場って拡大するのかねというのは結構疑問符をつけたくなる部分なのですけれども、じゃあ何でそうなのかと思って今ちょっと書き出したら自分で自分の書いた文章にツッコミを入れて3段落分書いたのを削除して時間を返せという事態になりましたので(涙)、もう少し考えてみます。


・国債買入の影響について

つーことで『変化の要因A:中銀による資産買入れ』に参ります。

『また、非伝統的な金融政策、特に中銀による資産買入れは、様々な形で国債レポ市場に影響を及ぼし得る。例えば、準備預金の積立額の調整に国債レポ取引が活発に利用されているような場合、中銀の資産買入れによって所要準備の要調達額が減少すれば、当該取引を行うインセンティブを低減させ得る。もっとも、こうした影響は、超過準備への付利の状況や、階層構造の有無等によって大きく異なり得る。』

まー突き詰めてしまえば短期市場全般がそうなのですが、所与の制度があって、その制度に最適化した形で市場が出来る、というのもこれまたあります。

『また、中銀による資産買入れは、国債等の高品質かつ流動性の高い証券(以下、「高品質証券」)の不足を通じ、担保の確保を目的とした国債レポ取引を行うインセンティブを高め得る18。


出たな国債の希少性問題、と思ったら注18にはこのような説明も。

『18 この他、中銀による資産買入れがディーラーの超過準備の増加をもたらしている場合には、B/S コストの上昇を通じて、国債レポ取引のマーケットメイク業務の縮小をもたらす可能性もある(CGFS 報告書 16 頁参照)。』

どうもこの報告書は熟読しておかないといけないようですな(ただし一部マニア限定)。


で欧州の話も面白いのですがパスして日本の話。

『また、本邦では 2014 年入り後、SC レポ21の取引残高が減少する一方、GC レポの取引残高が大幅に増加していることが窺われる。前者の背景としては、「量的・質的金融緩和」(2013 年 4 月導入)の下での国債買入れの進捗等による国債需給のタイト化を背景に、現物市場でのショート・ポジションの造成が手控えられ、ショート・カバー目的での SC レポによる債券調達ニーズが低下していることが指摘されている22。もっとも、こうした取引残高の減少とは別に、この間、需給タイト化等を背景に SC レポレートが大きめに低下する銘柄が増加していることが注目される23。』

と、さらっと流していますがそれは国債流通市場の流動性が低下しているということが現象面として出ていますよ、ということでもあります。

『他方、後者の背景としては、a:日本銀行による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入(2016 年 1 月)を受け、日銀当預との間での裁定取引――例えば、マクロ加算残高や基礎残高の余裕枠のある先にとっては、それぞれの適用金利である 0%または+0.1%よりも低い金利で調達できれば、調達した資金を日銀当預に積むことで利鞘が得られる24――が増加したことや、b:為替スワップ市場におけるドル調達プレミアムの上昇を背景に、国債レポ市場において非居住者による資金放出が増加したこと25、等が指摘されている。』

なお昨日と同じですが機種依存文字(マルaって奴)を引用時に改変しています。

『こうした下、ユーロ圏・本邦では、中銀が債券貸出プログラムの導入や利用条件の緩和を実施することで、資産買入れが国債レポ市場の流動性に及ぼし得る影響の緩和に努めている。』

という話なのですが、その割にはSLFについて相変わらず「補完的な措置で恒久的な利用を前提としたものではありません」という扱いになっているのですが、「影響の緩和」であって「除去」じゃないからそういう事なんでしょうかね。


・CCPの話はポジショントークだろこれ

『変化への対応:B/S コストの削減に向けた市場における様々な取組み 』というのが最後にあるのだが。

『市場における B/S コストの削減に向けた取組みのうち代表的なものとしては、中央清算機関(以下、「CCP」)を利用したネッティングの促進が挙げられる。従来、CCP への参加資格は、大手ディーラーにのみ認められる場合が多かった27。例えば米国では、大手ディーラーがトライパーティ・レポ市場において MMF 等から低利で資金を調達し、バイラテラル・レポ市場においてヘッジファンド等に高利で資金を放出するという形でマーケットメイクを行っている(いわゆる「マッチドブック取引」)。』

まあこの辺は説明を鑑賞の巻で。

『ここで、MMF やヘッジファンド等、大手ディーラー以外の市場参加者(以下、「エンドユーザー」)が CCP に直接参加できれば、異なるエンドユーザーとの間で国債レポ取引を実施するディーラーは、(資金調達・運用)両サイドのポジションを CCP を利用してネットアウトすることで、B/S コストを削減することが可能となる28(図表 7)。』

『ところが、現状では MMF やヘッジファンド等のいずれにも CCP への直接参加が認められていないことから、当該ディーラーはネッティングの恩恵を受けることができない。こうした事情を背景に、最近では、複数の CCP において適格参加者の範囲をエンドユーザーにも拡大する動きがみられる29。』

まあこれはこれとしまして、

『なお、本邦では、CCP 経由でのレポ取引が約 5割30と、ユーロ圏・米国・英国と比較しても最も高い水準にある31。この点、市場参加者からは「2018 年 5 月以降、国債の決済期間短縮化(いわゆる『T+1 化』32)が実現した際には、CCP 利用を前提とした『銘柄後決め方式 GC レポ』33が採用されることとなるため、CCP 利用が一段と広がる可能性もある」との指摘が聞かれる。


いやそれはどうかと思うのだが。

というのは、日本ってマッチドブックみたいなのガンガンやっている訳でもないでしょう(いやまあ既にバンバンやっているというのならスイマセンなのですが)し、大体からして海外とのレポでT+0後決めGCとか物理的に無理だしとか思いますし、CCP経由が5割ってのはそれは実は市場の厚みが無い(エンドユーザーの参加が少ない)という事でもありますので、CCP利用が一段と広がるというのも何か違和感ありますし、大体からして銘柄後決めT+0がそこまでバカスカ拡大するのかというとそれもまただいぶ疑問なのですが、その辺の話は時間が無くなったのでもう少し色々と考えてからまたいずれネタにするでしょうということで。







2017/06/13

お題「計数ネタ等雑談/レポ市場の国際比較というマニア向けペーパーだがレバレッジ規制の影響の所は見るべきかと」

http://www3.nhk.or.jp/news/business_tokushu/2017_0612.html?utm_int=detail_contents_tokushu_001
景気は本当に拡大? 日銀文学を見つめる
6月12日 18時48分

『日銀が、大規模な金融緩和策を導入してから4年余り。この間、2%の物価目標を達成する時期の見通しは、すでに5回も先延ばしされています。日銀の展望レポートは、企業や消費者の意識を反映できているのか。金融緩和策の正当性を守るために、数字をあてはめる作業になってはいないか。立ち止まって考えることも必要ではないかと感じています。』(上記URL先より)

(;∀;)イイシテキダナー

○市場メモ世間話

・短国の需給は良くなったものの

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1J9291
Markets | 2017年 06月 12日 15:14 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が反落、長期金利0.060%に上昇

『<14:42> 3カ月物TB強含み、需給引き締まる

3カ月物国庫短期証券(TB)が強含み。足元の3カ月物TB(688回)利回りは業者間取引で前営業日比2.6bp低下のマイナス0.130%で推移している。市場では「前週、最高落札利回りが超過準備の一部に適用されている付利(マイナス0.1%)を上回る水準で決まっていたことから、過度な利回りの上昇が修正されている。9日実施の日銀オペで需給の引き締まりを確認できたことも追い風になっている」(国内金融機関)との指摘がある。』(上記URL先より)

ということでまた▲13bpとかになったようですが、▲10bpを明確に下回ると日銀当座預金の政策金利見合いの買いが無くなるので強くなるにも限界っつーもんがあるじゃろとは思いますからカバー取引みたいな所なんでしょうけれども、短国の金利が上がって中短期が重そうになって・・・・・・という流れの元の部分は一旦めどが見えたとは思うのですけど、水準強くしちゃうと水曜日の3M(今週は水曜日が3Mで木曜日が1Y入札という日程)どうするんでしょという気はせんでもない。まあ新発は▲10近辺でやるのかも知れんけど。

『<15:12> 国債先物が反落、長期金利0.060%に上昇

長期国債先物は反落。前週末の海外市場で米債が下落した流れを引き継いで売りが優勢になった。先物中心限月は事実上、6月限から9月限に移行した。現物債市場では、あすの20年債入札を控えて超長期ゾーンに対する業者の持ち高調整が入った。中期ゾーンは国庫短期証券(TB)の需給引締まりなどが影響して底堅い。』(上記URL先より)

てなことで10年が微妙という事ですが、20年の入札を通過すると後は長い所の供給は来週の流動性供給入札(火曜が超長期で木曜が中期〜超長期前半)しか今月無い所に来て20日の償還があるので需給が時間の経過とともに締まってくる、とまあそういう絵のはずなんしょう(ただ流動性供給ってロット少ない割には結果で相場がぶれるという代物で、これは流動性供給入札をわざわざ事前準備するという動きが少ないとかそういう影響なんですかねえ誰かご見解お願いいたしたいのですけど)。


・そういえば国債買入ペース

久々に再計算してみた。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/index.htm/
日本銀行が保有する国債の銘柄別残高

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2017/ac170531.htm/
営業毎旬報告(平成29年5月31日現在)

5月末の日銀保有国債残高ですけど、5月末の数字って営業毎旬報告だと390兆円、銘柄別残高だと380兆円でして、この差は額面と簿価ベースの差ですな。でもって同じように昨年12月末の数字を拾ってくると12月末の営業毎旬が361兆円で額面ベースが351兆円なので、まあいずれの計算でも5月末までの走りが30兆円弱の増加になっております。

でもって営業毎旬から償還額を計算すると、年内の償還が額面で27.3兆円程度、来年1年間の償還は49.8兆円程度だと思う(この辺から手計算成分が入って来るので内容無保証)のですが、今の買入ペースって1年以内の輪番を除いて考える(というのは基本的に償還銘柄が打ち込まれるから)と、偶数月に入る変動利付の買入を月額換算して考えると月の買入が7.9兆円になると思いますので、年内残り7か月で計算すると5月末までの増加と合わせて2017年(暦年)は58兆円程度の拡大という結果ですが、この計算は手抜きで額面=買入価格にしちゃっていますが、中期とかに関してはカレントを買ってもオーバーパーがそこそこありますので、実際はもうちょっと上振れすることになりますけど、まあ60兆円とかそういう世界ですな。

でもって来年になると額面で単純に計算すると50兆円も行かない数字になる(増加が45兆とかそんな世界)ので、買入価格がオーバーパーのものが多いとかいうのを勘案しても80兆円とは何ぞやという話になるのですが、80兆円って最早なんの為にあるのか分からないけれども、下手にいじると為替市場あたりがやれ出口だとか言い出すリスクがあるので動かせないという珍妙な話になっている(実際問題80兆円を大幅にショートした買いしかしてないから円高ヒャッハーとならないのはナンナンデショとしか思えん)のですが、年内いっぱいくらいは誤魔化せるとして、これ来年どうするんでしょ・・・・・・・・・・・・・

とは思いますが、まあ黒田さんの次になったあとに(ちなみにベンダーとかの何とかストサーベイみたいなのを見ると「黒田再任」も結構多いようなのだが、黒田さんが自分の政策の大風呂敷に関して「あれはやり過ぎでした」と素直に反省して政策の収拾を図ってくれるならともかく、そういうタマでも無いのを再任させたら再度の転進チックな動きってやりにくいと思うのですけれどもどうでしょうかねえ)また政策の枠組みをより長期間の緩和が可能にするように変えるしかないでしょうから、その時までは80兆円は放置プレイになるんでしょうかね、とは思うのでした。


○これはまたマニアな

先週金曜に出ていた(この時期はスタッフペーパーがバカスカ出てくるが大体諸般の事情かなと推測)やつですけれども。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/rev17j10.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2017/data/rev17j10.pdf(本文)
グローバルな国債レポ市場の動向


アブストラクトからですが以下本文より引用です。

『主要国における国債レポ市場の最近の動向をみると、外部環境の変化を受けた市場規模や価格等の変化は国毎に区々ながら、市場参加者からは「流動性が低下している」との指摘が多く聞かれる。』

そらそうよ。

『こうした変化の主たる要因として、CGFS(グローバル金融システム委員会)が 2017 年 4 月に公表した報告書は、金融規制等の影響によるバランスシート・コストの上昇と、非伝統的な金融政策(特に、中銀による資産買入れ)を指摘している。』

読んで無いです(汗)。まあ指摘は仰せのとおり。

『主要国の国債レポ市場は今後も多様な変化が想定されるため、市場の機能度・流動性を含め、引き続き注意深くモニタリングしていくことが肝要である。この点、2019 年 1 月以降、わが国を始め主要国ではレポ取引にかかる詳細なデータ収集を開始する予定であり、一段と肌理細かなモニタリングにも資することが期待される。


ということで本文ですが、最初の所で、

『本稿では、主要国の国債レポ市場における最近の変化について概観した後、レポ作業部会での議論や CGFS 報告書の内容も踏まえつつ、変化の要因等について整理する。』

というこのマニアネタ。


・流動性は縮小とな

『まず、国債レポ市場の規模、価格、流動性について、比較的入手しやすい市場指標(それぞれ、取引残高、レポ・レートの対リスクフリーレート・スプレッド<以下、「レポ・スプレッド」>、ビッド・アスク・スプレッド)を用いて、2014〜2016 年にかけての各国における変化を窺うと、その傾向は区々であることが分かる(図表 2)。』

でまあ図表は本文を見てちょという所ですが、

『その中でも、米国・英国では、ビッド・アスク・スプレッドが拡大する等、流動性の低下が示唆される。また、レポ作業部会が実施した市場参加者向けサーベイの結果をみると、ユーロ圏の一部の国を除き「国債レポ市場の流動性が低下した」との回答が多くなっている7。』

『この点、多くの市場参加者からは「市場流動性の低下は、レバレッジ比率規制等の影響によってバランス・シートの規模に対して賦課されるコスト(以下、「B/S コスト」)が上昇した結果、大手ディーラー(マーケットメイカー)が国債レポ市場におけるマーケットメイク活動を抑制したり、対価として求めるプレミアムを拡大したりしていることが一因」との指摘が聞かれる8。』

このレバレッジ比率って曲者でリスクウェイト関係なくグロスで掛かってくるからレポにとっては鬼門以外の何物でもない。

『この間、各国の国債レポ市場では四半期末にレポ・レートがスパイクする傾向が窺われるが、』

ってマイナス金利前の話になりますがそういや急にGCレポ市場があばばばばーになったという事案が日本にもありましたな。

『この背景としては、大手ディーラーが四半期末に国債レポ取引のマーケットメイク活動を抑制する傾向にあることが指摘されている。』

『実際、各国の国債レポ市場では、資金運用主体にとって四半期末越えの資金運用が困難化しており、レート水準如何に拘わらず、希望する取引金額での資金運用ができない場合もみられる模様である。』

という話ですが、日本の場合だとそもそもGCレポ市場が資金余剰主体の本格的な資金取引市場になっているかというとそれは怪しくて、証券ディーラーの在庫ファイナンスと、そのニーズに伴う裁定取引、以前だったらGC市場とIOERの裁定取引の市場になっているように見える次第で(個人の印象です)、おまけに日本の場合はマイナス金利のあおりを食らってレポ市場などにも(市場規模対比そんなに額は無かったと記憶していますが)安定的に資金を放出していた投信が短期公社債投信中心に出て来なくなっておりますがなとか、まあGC市場が短期市場の資金余剰主体がホイホイと出しに行くという本格的な市場になっていない(個人の印象です)のが米国とかと話が違うかな、とは思います。


・レバレッジ規制に関する復習の巻

『変化の要因@:B/S コストの上昇』という所に参りまして、

『大手ディーラーに B/S コストの上昇をもたらす金融規制等の典型例は、バーゼルVの下でのレバレッジ比率規制である10。国際合意では規制としての適用開始は 2018 年 1 月が予定されているが(開示は 2015 年から実施済み)、米国・英国では先行して国内独自のレバレッジ比率規制が導入されており(大手行に対して追加バッファーを賦課等)、その結果、米国・英国の国債レポ市場では、B/S コストの上昇を受けた大手ディーラーの行動変化が強く意識されている。


開示が始まればそら数値を気にしだすのは理の当然なので、まあ以前似たような事案がジャパンでもあったように記憶しておりますが。

『レバレッジ比率規制は、「単純なエクスポージャー残高(オフバランス項目を含み、リスク・ウェイトによる調整を行わない)」に対して、一定水準以上の「自己資本」の保有を求める非リスクベースの規制であるため、リスクベースの自己資本比率規制と異なり、国債レポ取引のように、一般に低リスクであるが収益性の低い取引へのディーラーの取組み意欲を減退させる可能性を有している。』

というのが先ほど申し上げた鬼門という奴です。

『実際、ニューヨーク連邦準備銀行(以下、「NY 連銀」)のエコノミストによる分析では、米国・英国の国内独自のレバレッジ比率規制に服しているディーラーが、近年、相対的にリスクが高い資産を担保とするレポよりも、相対的にリスクが低い資産を担保とするレポについて、取引活動を縮小したことが示されている11。』

『なお、レバレッジ比率規制が B/S コストの上昇を通じて、大手ディーラーの国債レポ取引への取組みスタンスに影響を及ぼすメカニズムを考える上では、当該比率の算出方法――四半期末ベース、期中平残ベースのどちらで算出することが求められているか――も重要な意味を持つ。』

そらそうよ。

『すなわち、四半期末ベースでの算出が求められている国(ユーロ圏・本邦)の大手ディーラーには、四半期末に国債レポ取引の残高を可能な限り削減することで、B/S コストの上昇を回避するインセンティブが生ずる。他方、期中平残ベースでの算出が求められている国(米国・英国。但し、英国は2017 年第 1 四半期から)の大手ディーラーには、四半期末に限らず国債レポ取引の残高を恒常的に削減ないし抑制するインセンティブが生ずる12


以下現象としてそらそうよなのだが面白い話なので引用しますね。

『実際、両方のタイプの国の金融機関が取引を行っている米国市場13では、四半期末ベースでの報告が認められている国(特に、ユーロ圏)の大手ディーラーについて、四半期末におけるレポ取引の残高減少が顕著である一方、米国・英国の大手ディーラーについては、そのレポ取引残高に四半期末に特有の動きは然程みられない(図表 3)。』

『この間、米国では四半期末になると、a:GCF(General Collateral Finance)レポ市場におけるレポ・レートの上方スパイク(図表 4)、b:トライパーティ・レポ市場における取引残高の大幅な減少、c:NY連銀の翌日物リバースレポ・プログラム(以下、「O/N RRP」)の利用額の大幅な増加(図表 3)、といった事象が生じているが、これには、大手ディーラーのレポ取引への取組みスタンスが密接に関連していることを指摘できる。』(機種依存文字を一部改変しています)

『すなわち、GCF レポ市場は、主として中小ディーラーの資金調達に利用されているところ、ユーロ圏等の大手ディーラーが四半期末に資金放出を圧縮し、その一部を米国・英国の大手ディーラーが、各国の国内規制が求める高いコストで埋め合わせる構図となっていることから、レポ・レートの上方スパイクが生じている。』

これは分かる。

『他方、トライパーティ・レポ市場は、主として MMF 等の資金運用に利用されているところ(担保資産は米国債およびエージェンシー債。取引の相手方は、大手ディーラーに限定される)、ユーロ圏等の大手ディーラーが四半期末に資金調達を圧縮する結果、取引残高が大幅に減少することになる。』

『ここで、GCF レポ市場と同様、その一部を米国・英国の大手ディーラーが高いコストを埋め合わせるために低いレートで資金調達を行う動きが生ずれば、トライパーティ・レポ市場ではレポ・レートの下方スパイクが生ずることが想定される。もっとも、実際には、MMF 等の余剰資金の受け皿として NY連銀の O/N RRP が存在することから、当該 RRP金利がトライパーティ・レポ市場のレポ・レートの下限を画す形となり、下方スパイクは生じていない14。』

もはやマニアすぎて一部の人向けの話になっておりますので英国の話とかはスルーします。なおマイナス金利前の日本で起きたのはGCレポとIOERの裁定取引が蒸発した途端に資金の取り手が居なくなった格好なのでGCレートが下方スパイクしたとかそういう話でしたっけな。


とかマニアなのを引用していたら時間が無くなってしまったので(大汗)続きは明日にでもとは思うのですけれども(すいませんすいません)、『変化の要因A:中銀による資産買入れ』の所は前半に比べるとちと微妙感があるのと、最後のCCP利用がどうのこうのは日銀のポジショントークのような気がするな、という所だけ申し上げておきます。

#超マニア向けネタでどうもすいません







2017/06/12

お題「短国需給良いじゃん/黒田総裁のオックスフォード大学講演を鑑賞」

英国総選挙は結局東京市場を直撃しなかったですが前回の経験ですかね。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-11/ORDK036JIJUO01
英首相府が一転、政権運営で民主統一党からの協力合意まだ得ていない
Alex Morales、Robert Hutton
2017年6月11日 17:54 JST

何か良く分からんが揉めそうなのは把握した。

○何だ短国買入強いじゃんとか市場メモ

・とりあえず後付の講釈も大変ですな

別にいちゃもんをつけている訳ではないがロイターさん。

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1J62HW
Markets | 2017年 06月 9日 15:14 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が反発、長期金利0.050%に低下

『<15:13> 国債先物が反発、長期金利0.050%に低下

長期国債先物は反発。前日に大幅安となった反動や日銀が中期・超長期を対象に国債買い入れを通告したことを受けて、買いが優勢になった。6月限の最終売買日を13日に控え、限月交代に絡む買い戻しも入った。現物債はしっかり。日銀オペ結果で需給の引き締まりを確認した中期ゾーンが強含み。超長期ゾーンもオペ結果が無難だったことから押し目買いが入った。長期ゾーンは先物に連動して金利に低下圧力がかかった。』(上記URL先より)

・・・・・・いや輪番が中期超長期で入るのは事前アナウンス済みじゃんという所で、どんだけネタが無いんですねんという話ですが、まあ金曜の場合は輪番と短国買入が総じて需給強いじゃんという話になりましたので、輪番やったら需給が良いのが確認できたから堅調でしたよという感じで、英国選挙とか知らんがなという結果で中々結構なお話(なおECBがハトちっくという市場の反応の影響は
良く分からん)。

ということですがオペ結果。
http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba170609.htm
国庫短期証券買入 12,124 7,501 -0.019 -0.007 21.2

国債買入(残存期間1年超3年以下) 4,911 2,801 -0.008 -0.003 52.0
国債買入(残存期間3年超5年以下) 6,580 3,003 -0.012 -0.008 79.1
国債買入(残存期間10年超25年以下)4,992 2,009 -0.017 -0.014 5.6
国債買入(残存期間25年超) 2,811 1,007 -0.004 -0.002 78.9

特に中期輪番の3-5年は先々週の金曜が1.1兆円近くの応札となっていましたので、応札減りましたねという話ですが、その前の短国買入の方もあらお助けとか無いのと思えば応札がそもそも1.2兆しかなくて足切が1.9毛強まで流れていますし平均も7糸強なのですから、これは即ち▲10bpを明確に上回ってくると短国はやっぱり買う人が出てくるんですねという事が無事に確認できました、という順当だが誠に結構なことを確認した、ということで短国から大崩れというようなアチャーな展開をする前に実需の確認ができたということですな。

でまあ金曜は超長期もフラットニングしていたっぽいので何となく短期と中期の需給が悪くて微妙な雰囲気というのも政策金利の所がアンカーになってとりあえず無事に(将来的に無事かどうかは知らん)輪番増額とかそういう事もしないで通過の巻と相成ったようで。

つーかまあ短国買入を減らすというのをやっているのですから、そら短国の金利が▲10bpの政策金利の所に向けて上昇する、というのはその時点でオペ運営する方は織り込んでいる筈で、それが起きたから輪番増額とかしたら市場を読めていませんでしたというのを自分で宣言するのと同じですし、別に10年の金利がバカスカ上昇したという話でもないのでそらこの程度で一々輪番増額してたらキリが無いわ、とは思うのですが、日々の需給に過敏に反応するようになる(ってまあ日々の需給しか相場のネタが無いから仕方ないけど)とクレクレモードに直ぐなってしまうので、その手の相場講釈もそういや先週はありましたなあとか思うのでした。


・マクロ加算比率

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170609c.pdf
日本銀行当座預金のマクロ加算残高にかかる基準比率の見直しについて

『日本銀行は、日本銀行当座預金のうち、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高の算出に用いる基準比率(「補完当座預金制度基本要領」4.(3)イ.に定める基準比率)について、次のとおり定めることとしました。

2017 年 6 月〜8 月積み期間:20.0%

(注)これにより、日本銀行当座預金のうち、マイナス金利が適用される政策金利残高(金融機関間で裁定取引が行われたと仮定した金額)は、上記3積み期間において、平均して概ね 10 兆円台となる見込みです。』

これも買入が一定じゃなくなったので見込みで作るという事になりますので中々奥が深いですが、3-5の積み期間が17.0%で3%のプラスになっているのは先日ネタにした調節年報の財政資金の季節性って奴を反映して、6月と8月に年金定時払いがあってとかそういう奴であって、別にこれ自体は政策的な意図は無い(ある場合は「平均して概ね10兆円台」の数字が変わる時に可能性がある)という話だとは思いますが、当然ですが3か月分の平均でやっているので手前の方がマクロ加算部分の偏在が出るということになりますな、うんうん。




○往生際が悪いともいえるが味わいもある総裁講演

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170609a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko170609a1.pdf
「期待」に働きかける金融政策:理論の発展と日本銀行の経験
オックスフォード大学における講演の邦訳

題名の時点で出オチ感しか漂わないのですが・・・・・・・

・正直前半はどうでも良い

『2.思想の源流:20世紀前半の英国経済学における金融政策の議論』という所に色々とお話があるのですが、例えば・・・・・・・・・

『この最後の点について、私は、大学院留学中に、ジョン・リチャード・ヒックス教授から、お話を伺ったことを鮮明に記憶しています。もっとも、この中央銀行の意図を人々が先取りすることから生じる政策効果について、ホートレーが「心理的効果」と呼んでいたのに対し、ヒックスは、その効果は経済主体のきわめて合理的な行動に基づくものであるとし、金融政策の波及経路として、ホートレーが指摘した以上に、理論的に強固なものと考えていました(図表4)。ヒックスはこの効果を中央銀行による「アナウンスメント効果」と呼び、中央銀行による政策は、「人々の期待の変化をただちに生ぜしめるに違いない」としたうえで、「ホートレーの分析から学ぶことは、『古典的』な公定歩合のシステムがそのアナウンスメント効果において強力であった、あるいは強力でありえたことである」と述べています。ヒックスによるこの「アナウンスメント効果」としての解釈は、いわゆる「長期金利の期待理論」に基づくものであり、現代で言う「フォワード・ガイダンス」の重要性を早い段階で指摘したものと言えるでしょう。』

というような話があるのですが、実際問題としてそうやってどんだけ効いたんでしたっけという話になると、名目ゼロ金利制約になった上にそれが長期化してしまい、しかも成長力が無いという事になったら期待を使って将来からの前借りが出来なくなってしまいました、ってな状況なのに「世界標準の金融政策」とか言って置物リフレ理論突っ込んだ結果が今のテイタラクな訳で、期待に働きかける、という政策の限界も示したというのが置物リフレ政策の結論じゃないのかね、と思うのですけどまあ良いです。


・何気に佐藤審議委員の説明と被っているという辺りが味わい深い

次が『3.日本におけるデフレ:潜在成長率の低下とインフレ期待の低下』ですけど、この説明が中々味わい深い。

『前例のない政策対応を行ったにもかかわらず、日本経済はなぜ「流動性の罠」から抜け出せずにいたのでしょうか。事後的に振り返ってみると、当時、日本では、自然利子率の低下とインフレ期待の低下が同時に生じていました。こうした中、名目短期金利がゼロ制約に直面したため、実質金利を自然利子率よりも有意に低い水準まで引き下げ、十分な金融緩和を実現することが困難となりました。この結果、景気の低迷が物価下落を招き、物価下落が実質金利の高止まりを通じて景気低迷を招くという形で、景気低迷とデフレが、長期にわたり相乗的に作用することとなりました。』

『その後、2008年のグローバル金融危機の際には、日本経済は、再び大幅な落ち込みを経験しました(図表6)。当時、日本の金融機関は不良債権問題を既に克服しており、サブプライム関連商品に対するエクスポージャーは限定的であったにもかかわらず、実質GDPでみた経済の落ち込みは、危機の震源地であった米国や欧州を上回る深刻なものになりました。その背景としては様々な理由が考えられますが、当時、日本の政策金利は僅か0.5%であり、3〜4%の利下げが可能であった欧米とは異なり、短期政策金利の引き下げを通じた金融政策の対応余地がきわめて小さかったことも少なからず影響しています。このエピソードは、インフレ期待を2%程度にアンカーすることによって景気に中立的な名目金利の水準を引き上げ、金融政策の対応力を確保することの重要性を示しています。』

ということですが、先般の佐藤審議委員のイェール大学での講演(奇しくも同じように海外でアカデミックな所での講演)では、

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170329a.htm/

『所要準備を上回る潤沢な資金供給により市場金利をほぼゼロ%に低下させ、併せてフォワード・ガイダンスを導入することで政策の予見性を高める先駆的な試みではあった。しかし、90年代後半の流動性不安に対し、もっと早い段階で手を打てたのではないかという思いはある。その点では、当時、日本銀行の金融緩和が不十分であったから危機が長引き、デフレの罠に陥ったとの根強い批判について、シンパシーを感じる部分はある10。

また、日本銀行は、資産価格デフレによる実体経済への負のフィードバックループに重大な関心を払ったのに対し、マイルドなデフレについては長期間関心を払わなかった。実際、日本銀行は、デフレはマイルドで、1930年代の大恐慌のようなデフレ・スパイラルではないと繰り返し説明していた11。

確かに、若干遅きに失したものの、潤沢な資金供給と資本注入によりデフレ・スパイラルは回避できた。しかし、その間進んだ長期予想インフレ率の低下が金融政策にどういう影響を及ぼすか、日本銀行はもとより学界などにもあまり問題意識がなかったようだ。

後知恵だが、金融危機後のFRB、債務危機後のECBのように長期予想インフレ率の低下だけは絶対に許容しない姿勢を明確にしておくべきであっただろう。』(今年3月の佐藤審議委員の講演より)

ということで、2%というのは無いですけれども、長期予想インフレ率を下げないようにしないと、って話は共通な訳でして、要はその長期予想インフレ率を引き上げるアプローチをどうやるか、って所をどうするか、ってことだと思いますし、それは白日銀でも最終的にはそういうお話になっていた訳ですが、マネタリーベースを増やしてインフレ目標掲げればマッカラムルールにもありますようにホイホイとインフレ期待が上がるなどというナイーブなアプローチは今回まあワークしませんでしたね、という話だと思うのよね。


・最初に「効いた」というのですけど・・・・・・・・・・・・

次の小見出しが『4.「量的・質的金融緩和」:期待に働きかける金融政策』なんですけどね。

『2013年3月に日本銀行総裁に就任した私は、速やかに、従来とは全く異なる金融政策レジーム──「量的・質的金融緩和」──を導入しました。』

って言ってるんですが、別に白日銀でもインフレ期待を引き上げようという話をしていた訳で、そのアプローチが違うという話ではあったのですが、確かにまあ置物リフレ理論はそのナイーブさにおいて「従来と全く異なる」ってのはその通りかも知れません(白目)。

『これは、(1)2%の「物価安定の目標」を掲げ、そのためには何でもやるという強く明確なコミットメントを行うことにより、人々の期待に直接働きかけること、(2)大規模な長期国債の買入れによって、直接的に長期金利の低下を促すこと、の2つを柱としています。前者によってインフレ期待が上昇し、後者によって名目長期金利が低下すれば、短期政策金利が「ゼロ金利制約」に直面した状態でも、実質金利を自然利子率より低い水準に誘導することが可能となります。』

そもそもこの説明の時点で微妙感があって、本来QQE政策ってのは「インフレ期待に直接働き掛ける」というのが眼目であって、例えばインフレ期待が2%どどーんと上昇したら長期金利が0.5%や1%上昇しても金融緩和効果がどどーんと出る筈であって、金利を低く誘導する云々というのは単にフィッシャー効果で金利が期待インフレ上昇とフルスライドで上がったら緩和効果が相殺されちゃうからその分を抑制する、というだけの話であり、金利が下がった下がったと言って喜ぶのがそもそもおかしな話。そういう意味で言えばQQE突っ込んだちょっと後から金利が上昇した時に実はインフレ期待がどどーんと上がっていました(まああの直後は「これはもしかしたら行けるのではないか」と市場の中の人たちも思ったというのが実情じゃないかって思いますけどどうでしょ)という姿が一番ビューテホーな形だったのですよね。

『その後、日本銀行は、2016年1月に、国際金融市場の不安定化に伴う強い逆風に対処するため、マイナス金利政策を導入しました。マイナス金利政策は、イールドカーブの起点を引き下げ、大規模な国債買入れとあわせて、金利全般により強い下押し圧力を加えることを狙ったものです。さらに、2016年9月には、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向および政策効果についての「総括的な検証」を行い、その結果を踏まえて、短期金利に加えて、長期金利を操作目標とする「イールドカーブ・コントロール」を導入しました。』

はい。

『もっとも、イールドカーブ全体にわたって名目金利を引き下げるとともに、インフレ期待を引き上げることによって実質金利を低下させるという基本的なアプローチは変わっていません。』

ということですが、元々「期待に働きかける政策」の筈なのに主文が「名目金利の低下」になっておりますし、まあ今の政策ってまさにそうで、今の政策の理屈の上で期待に働きかける成分である「オーバーシュート型コミットメント」のアピールを碌すっぽしていない時点で、「期待に直接働きかける」という黒田ドクトリンは残念ながらワークしていないという状態ですな。

・・・・・というと直ぐにジンバブエ先生的な人たちが「効果が無いと言っているデフレ派云々」とかつまらん事を抜かす訳だが、期待に直接働きかけるというのが回っていないというのと金融緩和そのものが金利面から経済を支える効果があるというのは別問題(副作用との比較衡量という話も含めて)ですがな、と思うのですけど何でああジンバブエ先生は反応するんでしょうかねえ。

『「量的・質的金融緩和」は、現代の中央銀行論の中では「非伝統的金融政策」として位置づけられますが、やや長い視野でみれば、(1)期待への働きかけの重要性に関するホートレーの理論と、(2)長期国債の買入れによって金融緩和を行うことが可能であるというケインズの理論、の現代的な発展であると言えます。東洋のことわざに、「温故知新(visiting old, learn new)」がありますが、「量的・質的金融緩和」に至る知的変遷(intellectual journey)をよく表わす言葉と言えるでしょう。』

ってドヤ顔(かどうか知らんが)で決めているのですが、そもそもホートレーの話はインフレ期待云々ではなくてフォワードガイダンスに近い話じゃないのとツッコミを一応入れて置く。

『「量的・質的金融緩和」は、実際に効果を発揮しました。インフレ期待は、「量的・質的金融緩和」の導入後、はっきりと上昇しました。中央銀行の強い意志が、人々のフォワード・ルッキングな期待の押し上げに影響することを示しています。また、「量的・質的金融緩和」による大規模な長期国債の買い入れは、イールドカーブ全体にわたって、名目金利の低下圧力をもたらしました。その結果、20年近くに及ぶ日本銀行の「ゼロ金利制約」との闘いの中で、初めて実質金利を自然利子率より有意に低い水準まで引き下げることに成功しました(図表7)。』

『こうした金融緩和の効果により、企業・家計の両部門において経済活動が刺激され、需給ギャップは大きく改善しました。企業収益は、過去最高水準で推移しています。失業率は3%を下回る水準まで低下し、ほぼ完全雇用が実現しています(図表8)。労働需給の引き締まりを受けて、賃金は緩やかながら上昇しています。特に、1990年代後半以降、長年にわたるデフレのもとで失われていたベースアップの慣行が復活し、今年まで4年連続で実現したことは特筆すべき変化と言えます。賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が高まっていくという好循環が作用しています。すなわち、日本は、既に「物価が持続的に下落する」という意味でのデフレではなくなっています。』

と思いっきり効果を強調しているのですが・・・・・・・・・・・・・・・


・ここまで大口を叩いたもののその後に効いていないという話が入るのは

次の小見出しが『5.低インフレ下における新たな課題』なんですけどね。

『この4年間の日本の経験は、20世紀前半以降の経済学が示す「期待に働きかける金融政策」の有効性を改めて示すものと言えます。』

まずこのドヤ顔(だとは思わないが)部分が冒頭に来るんですけど・・・・・・・・・

『ただ、その政策は日本経済を正しい方向に導くものではありますが、残念ながら、我々のintellectual journeyは、まだ完了していません。消費者物価上昇率は、このところゼロ%程度で推移しており、「物価安定の目標」である2%の達成には、なお距離があります。』

なるほどまだ途中ですか、と思わせて置いて次の一文が涙を禁じ得ない。

『その主な理由は、「量的・質的金融緩和」の導入によって明確に上昇したインフレ期待が、その後再び低下し、なお弱含みの局面が続いていることにあります(図表9)。』

・・・・・(゚д゚)

これは声に出して読みたい日本語としか申し上げようがないのですが、「その後再び低下」したのでしたら、それは「期待に働きかける政策が不発だった」ということを意味するだけではないかと思うのですよ。

『我々の分析によると、日本の場合、長年にわたってデフレが続いたこともあって、欧米に比べて、インフレ期待の形成における適合的な要素が依然として強い状況です。その結果、様々な要因で現実の物価上昇率が低下すれば、それ自体は一時的な要因であっても、これに引きずられる形でインフレ期待も低下する傾向があります。2014年秋以降の原油価格の70%を超える下落や、2015年から2016年にかけての新興国経済の先行き不透明感に起因する国際金融市場の不安定化などによって、物価上昇率が低下するなかで、インフレ期待も低下しました。日本銀行は、人々の間に定着してしまったデフレマインドを抜本的に転換することを目指していますが、インフレに対する人々の認識を変えることは決して容易ではありません。ホートレーが看破したように、「問題は心理的なもの」だからです。』

って説明しているのに何で「期待に働きかける金融政策」の有効性を改めて示すものと言えます(キリッ)となるのか小一時間問い詰めたい訳でして、この部分をちゃんと総括して欲しいと思うの。

つまりですね、QQEで期待インフレが上昇したのは、大規模政策の実施に伴うマネタリーショックによって、特に為替市場における通貨安が進行したこと(まあ政策先取りして為替は動いていましたが恐らくそれも含めての話)などの金融市場における反応があって、あと今回の場合って消費増税に伴う駆け込み需要の問題と、増税前の財政絶賛拡大という人為的需要引き上げ要因があって、円安ショックによる物価のファクターと消費増税に伴う便乗含む価格引き上げによって、実際の物価が上昇したことによって、一時的に適合的な部分での期待インフレが上昇した、ということであるものの、それ自体が実際には恒常的な需要増を伴うものでは無かったからあっさりコケた、という事なんじゃネーノと漠然とあたしゃ思っているのですけれども、まあそうであれば「マネタリーショックとしてのQQE導入は金融市場経由で効果を出した」けれども「マネタリーショックなので効果が永続するものではない」という事であり、期待に直接働きかけるというアプローチには成功しなかった、とするのが評価としては妥当なんじゃないの、と思うのですよ。

然るに、こうやって「最初は効いたけれども原油ガー消費税ガー」とか言うのってそれはまあそう言わないと黒田日銀の面目玉が立たないという大人の事情は十分にわかりますけれども、そうは言ってもやっぱりここは謙虚に評価すべきだと思いますし、黒田日銀でそれが出来ないのだったらトップ変わった後でもちゃんと反省した方がよいんじゃないかなあと思うんですけどね。

『こうした事態に対応して、日本銀行は、昨年9月、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入の際に、「オーバーシュート型コミットメント」を導入しました(図表10)。』

やっと出てきた。

『消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベースの拡大方針を維持することにコミットしています。人々が実際に2%を超える物価上昇を経験することで、適合的な期待形成を通じてインフレ期待が上昇すると考えられます。同時に、こうした経験を通じて、中央銀行の「物価安定の目標」に対する信認が高まり、インフレ期待形成がよりフォワード・ルッキングなものとなり、2%程度にアンカーされることを企図しています。』

それは良いのだがどうやって2%を超える物価上昇が経験できるのか、フィリップスカーブ的に言えば期待を押し上げられないのだったら需給ギャップのプラスを無理繰り拡大するのか、カーブが立つような話にもっていけないと無理なんだが(なお需給ギャップだけ持って行ってもサステイナブルではない)。


・なお最後にもちょっと佐藤審議委員の講演と被っている部分が

『1990年代後半以降、日本経済が直面してきた問題は、長年、日本に固有の問題と考えられてきました。しかしながら、グローバル金融危機を経て、資産バブルが崩壊し、金融システムが大きく毀損された後には、比較的長期間にわたって経済成長率が低迷し、物価上昇率も低下するということは、多くの国に共通した経験となりました。蓄積された経済学の知見を活かした中央銀行の果敢な対応によって、世界恐慌の再来は免れたほか、グローバルなデフレ懸念もかなりの程度後退しました。もっとも、今日の世界経済のパフォーマンスは、決して満足のいくものではありません。』

『振り返ってみると、「期待に働きかける金融政策」は、1970年代以降の世界的な高インフレの制圧に大きな役割を果たしました。1990年代以降の各国におけるインフレーション・ターゲッティングの導入や金融政策理論のめざましい発展も、暗黙には、高インフレへの対応を念頭に置いたものでした。こうした政策対応や理論の発展は、「大いなる安定」と呼ばれる好ましい状況をもたらしましたが、同時に、中央銀行は、「低インフレ環境下において、ゼロ金利制約のもとで、インフレ期待をどのように適切に管理(manage)していくのか」という新たな課題に直面することになりました。』

『こうした新たな課題に対する政策・理論面での対応は、まだ始まったばかりです。特に、インフレ期待の形成過程は、国・地域や時代によって異なり得るものであり、この点に関する実証分析を深めていくことが重要です。』

>インフレ期待の形成過程は、国・地域や時代によって異なり得るものであり
>インフレ期待の形成過程は、国・地域や時代によって異なり得るものであり
>インフレ期待の形成過程は、国・地域や時代によって異なり得るものであり

置物副総裁大師匠はかつて「世界標準の金融政策」を連呼していましたなあ(遠い目)

『中央銀行としては、そうした分析を踏まえて、インフレ期待を適切に管理するための具体的な手法を検討していく必要があります。日本銀行が昨年導入した「オーバーシュート型コミットメント」は、日本が置かれた状況に対応したひとつの答えですが、学界や政策当局者の間で、グローバルな観点から議論がさらに深められていくことを強く期待しています。』


ちなみに佐藤審議委員のイェールでの講演ですが、

『高すぎる長期予想インフレ率を引き下げることについて、中央銀行には過去の実績に裏付けられた信認がある。インフレとの闘いは、デフレとの闘いより容易、かつ戦略は単純である。この場合、長期予想インフレ率は中央銀行の物価目標により決まる、という経済学の前提が成り立とう。

しかし、低すぎるインフレ率により信認を失った中央銀行の物価目標は経済モデルの前提とはならない。日本のように潜在成長率と長期予想インフレ率の低下が同時進行すると、低すぎる長期予想インフレ率を金融政策で引き上げることができるかどうか、現在の経済学には十分な知見がない。後で触れるように、長期予想インフレ率がほぼゼロ%とみられるなか、潜在成長率(≒自然利子率)もゼロ%台、かつ通常の経済取引には名目ゼロ金利制約があるためである。

実際、大規模な非伝統的金融政策でも、Friedman的な貨幣数量説的メカニズムやNew Keynesian的な期待のジャンプはこれまでのところ不十分にしか起こっていない。長期予想インフレ率のリアンカリングは未だ道半ばである。潜在成長率と長期予想インフレ率がここまで低くなっていなければ金融政策はもっと効果的であっただろう。』(今年3月の佐藤審議委員の講演より)

とありまして、まあちゃんとアプローチすると被るというのはその通りなのかも知れませんが、置物リフレ理論のようなナイーブな話からはすっかり足抜けしたんですね、というのが今回の講演の見どころなのかも知れません。




2017/06/09

お題「寝起きでECB/久々に相場動いたので相場雑談大会」

昨日日経新聞の1面に出ていたこれですが、
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO17441650Y7A600C1MM8000/
金融庁、地銀の債券保有に新規制 金利変動に備え
2017/6/8 1:10日本経済新聞 電子版

どう見てもロイターの方が煽り成分の無い説明になっています。
http://jp.reuters.com/article/financial-services-agency-bank-idJPKBN18Z18B
Business | 2017年 06月 8日 20:58 JST
金融庁、地銀の金利リスクで新規制 19年3月期に導入へ=関係筋

一頃ロイターって煽りニュースするのが仕様だった時期がありましたが、最近は普通にちゃんと報じるので良いと思いますしその一方で・・・・・・・という話は後程。


#なんかモーサテが出口調査がどうのこうのとかで興奮しているのだが、その出口調査が全然当てにならなかったというのは去年やったじゃろと思う訳で、なーにを興奮しとるんじゃと小一時間問い詰めたい


○ECBだがガイドライン文言から利下げを削除して物価見通しを下げるという高等な(?)技が

http://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2017/html/ecb.is170608.en.html
Mario Draghi, President of the ECB,
Vitor Constancio, Vice-President of the ECB,
Tallinn, 8 June 2017

今回はフランクフルトではなくてタリンで実施のようですが、前回(そういやネタにしてなかった気が・・・・・・・・)とちょっとだけ比較する。

http://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2017/html/ecb.is170427.en.html(前回)

・金利ガイダンス文言の中で「先行きの利下げ」を削除

『Based on our regular economic and monetary analyses, we decided to keep the key ECB interest rates unchanged. We expect them to remain at their present levels for an extended period of time, and well past the horizon of our net asset purchases.』(今回)

『Based on our regular economic and monetary analyses, we decided to keep the key ECB interest rates unchanged. We continue to expect them to remain at present or lower levels for an extended period of time, and well past the horizon of our net asset purchases.』(前回)

ということで、金利ガイダンス文言の中で従来「今の金利またはより低い金利を相当の期間継続する」とあった「より低い」を削除するの巻となりました。

『Regarding non-standard monetary policy measures, we confirm that our net asset purchases, at the current monthly pace of ユーロ60 billion, are intended to run until the end of December 2017, or beyond, if necessary, and in any case until the Governing Council sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim. The net purchases will be made alongside reinvestments of the principal payments from maturing securities purchased under the asset purchase programme.』(今回)

『Regarding non-standard monetary policy measures, we confirm that our net asset purchases, at the new monthly pace of ユーロ60 billion, are intended to run until the end of December 2017, or beyond, if necessary, and in any case until the Governing Council sees a sustained adjustment in the path of inflation consistent with its inflation aim. The net purchases will be made alongside reinvestments of the principal payments from maturing securities purchased under the asset purchase programme.』(前回)

資産買入に関する表現には変化ありません。


・経済に対する全般説明も強くなる

『Our monetary policy measures have continued to preserve the very favourable financing conditions that are necessary to secure a sustained convergence of inflation rates towards levels below, but close to, 2% over the medium term.』(今回)

『Our monetary policy measures have continued to preserve the very favourable financing conditions that are necessary to secure a sustained convergence of inflation rates towards levels below, but close to, 2% over the medium term. 』(前回)

ここは通常文言なので毎度同じ。

『The information that has become available since our last monetary policy meeting in late April confirms a stronger momentum in the euro area economy, which is projected to expand at a somewhat faster pace than previously expected. We consider that the risks to the growth outlook are now broadly balanced.』(今回)

『Incoming data since our meeting in early March confirm that the cyclical recovery of the euro area economy is becoming increasingly solid and that downside risks have further diminished. 』(前回)

ここ実は前回と今回でパラグラフ構成が微妙に違うのですが、この回ごとに妙なパラグラフの切り方をするのはECBの仕様なのですが、政策的な意味があるのか無いのかは分からん。たぶん誰も会見で質問していない所を見るとパラグラフの切り方は全体の文章のバランスとか考えているだけで政策の意図はないと思う。

という話はともかくとして、経済の状況は更に強いモメンタムを確認するものとなったとか、前回想定していたよりも経済の成長が強くなっているだの、ユーロ圏内の成長については強いコメントが並ぶという上に成長率ののリスクバランスはバランスになりました。

ただ、この後の所で、

『The risks surrounding the euro area growth outlook are considered to be broadly balanced. On the one hand, the current positive cyclical momentum increases the chances of a stronger than expected economic upswing. On the other hand, downside risks relating to predominantly global factors continue to exist.』(今回)

とあるので海外のダウンサイドリスクはある、という話になってヘッジ文言が入っているのがチャーミング。


・物価に関しては一転して威勢が悪くなる&その場合は利下げじゃなくて資産買入拡大

『At the same time, the economic expansion has yet to translate into stronger inflation dynamics. So far, measures of underlying inflation continue to remain subdued.』(今回)

『At the same time, underlying inflation pressures continue to remain subdued and have yet to show a convincing upward trend. Moreover, the ongoing volatility in headline inflation underlines the need to look through transient developments in HICP inflation, which have no implication for the medium-term outlook for price stability.』(前回)

つーことで物価に関しては(後で出てきますが)見通し下がっているように基調的なインフレが伸びないという認識。

『Therefore, a very substantial degree of monetary accommodation is still needed for underlying inflation pressures to build up and support headline inflation in the medium term. If the outlook becomes less favourable, or if financial conditions become inconsistent with further progress towards a sustained adjustment in the path of inflation, we stand ready to increase our asset purchase programme in terms of size and/or duration.』(今回)

『A very substantial degree of monetary accommodation is still needed for underlying inflation pressures to build up and support headline inflation in the medium term. If the outlook becomes less favourable, or if financial conditions become inconsistent with further progress towards a sustained adjustment in the path of inflation, we stand ready to increase our asset purchase programme in terms of size and/or duration.』(前回)

物価に関する説明の後にある「つーことで物価のモメンタムを高める為に大規模緩和が必要」という話をしているのですが、こちらの方には基調的なインフレや先行きインフレ見通しパスがアカンヤツだった場合には資産買入の拡大や買入資産の平均年限を長期化する、というのが入っていますので、先行きは利下げではなくてAPPの拡充で対応ということで。

でもって以下は超越インスタント読みの場合は大体パスするのですが、物価の見通しに関しては、

『This assessment is also broadly reflected in the June 2017 Eurosystem staff macroeconomic projections for the euro area, which foresee annual HICP inflation at 1.5% in 2017, 1.3% in 2018 and 1.6% in 2019. By comparison with the March 2017 ECB staff macroeconomic projections, the outlook for headline HICP inflation has been revised downwards, mainly reflecting lower oil prices.』(今回)

主に石油価格が低いせいとか良く聞く話ですが、物価見通しは下がりましたので、景気に関しては威勢の良い話をしているのですが、一方でこれだと出口は遠しという話になるので、そこで思いっきり相殺されるという大変に高度(??)な技を使ってバランスさせていますな。

なお会見などは週末読む(つもり)。


○久々に色々と動いたので市場雑談

例によってロイターさんの記事で概況というパターンですいません。
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1J52HR
Markets | 2017年 06月 8日 15:23 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が大幅続落で引け、長期金利は一時3カ月ぶり0.075%

以下(最初のロイター記事URLより)とあるのは上記URL先の引用でござる。


・5年(と短国)入札は結局無事(というか強めに)通過したのですが・・・・・・・・・・・・・

『<11:18> 国債先物は大幅続落、長期金利0.055%に上昇

国債先物は続落で午前の取引を終えた。重要イベントを控えて動きにくい面もあったが、7日の米債安の流れを引き継いで売りが優勢になった。5年利付国債の入札を控えたヘッジもみられた。中心限月の交代に向けたロールは順調に進捗している。現物債は軟調。中期ゾーンは入札前の調整も入り金利に上昇圧力がかかった。2年債利回りはマイナス0.100%と昨年11月16日以来、5年債利回りはマイナス0.080%と2月8日以来の水準にそれぞれ上昇した。今後の中期ゾーンを対象にした日銀オペのオファー額を意識する市場参加者がみられた。超長期・長期ゾーンも弱含み。』(最初のロイター記事URLより)

つーことで寄りから先物13銭くらい下げてスタートしたのですが、前場は中短期弱くて上のロイターさんにありますように2年カレント▲10bpだの5年カレント▲8bpだのやっていて、3Mの短国もWIは▲9.2bpレベルとか政策金利上回る展開となった訳ですが・・・・・・・・・

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20170608.htm

(3)募入最低価格 100円02銭3厘0毛(募入最高利回り)(-0.0922%)
(4)募入最低価格における案分比率 83.1720%
(5)募入平均価格 100円02銭4厘2毛(募入平均利回り)(-0.0970%)

つーことで足切が▲9.22bpということで特に流れたという結果でもなく、その後も確りでして、そらまあ超過準備がマイナス金利適用になっていて、代替で短国の購入が可能な人ならば短国買えますわという水準ですし、しかも3Mの方が使い勝手が良い(期間短いし発行額多いので流動性あるし、3Mは毎週出ているのも使い勝手良い)ですからそら明確に▲10bpよりも高い水準になったらニーズあるじゃろという事ですな。

でもって5年入札ですが、つーかまあ後場の寄りから先物確りしていたのですけど。

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/nyusatsu/resul20170608.htm

6.価格競争入札について
(1)応募額 9兆3,644億円
(2)募入決定額 1兆9,873億円
(3)募入最低価格 100円82銭
(募入最高利回り)(-0.063%)
(4)募入最低価格における案分比率 83.4769%
(5)募入平均価格 100円83銭
(募入平均利回り)(-0.065%)

つーことですが、この足切が市場事前予想よりも強かったのと市場推計の落札分布で割と大口があったということで落札結果出てから中短期大復活(先物も)して引け近くまで戻るとか何じゃその戻りっぷりはという展開だった訳で、

『<13:14> 5年債入札結果は順調、事前調整が奏功

財務省が午後0時45分に発表した5年利付国債の入札結果で、最低落札価格は100円82銭(最高落札利回りマイナス0.063%)、平均落札価格は100円83銭(平均落札利回りマイナス0.065%)となった。落札価格の平均と最低の開き(テール)は1銭と前月債(2銭)から縮小。応札倍率は4.71倍と前回(3.59倍)を上回り、14年8月以来2年10カ月ぶりの高水準となった。市場では、入札結果について、事前調整が奏功して順調との評価が出ている。「5年債利回りが昨年11月の指し値オペを意識する水準まで調整されたことで、さすがにいったん買いが入ったのだろう。9日に予定される中期を対象にした日銀買い入れでの増額期待も入札を支えたのではないか」(証券)との声が聞かれた。』(最初のロイター記事URLより)

正直この中期輪番増額期待というのはちょっと違うんじゃないのと思うのですが、その話はさて置きましてまーこうやって戻りました所に・・・・・・・・・・・


・また英文釣りヘッドラインに釣られている訳だが

13時45分(だと思った)にブルームバーグがヘッドラインを打ち込んできたのですがその記事のインターネット版はこちら。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-08/OR7LC86K50XS01
日銀:出口論は「時期尚早」から「説明重視」に−関係者
日高正裕、藤岡徹
2017年6月8日 13:45 JST 更新日時 2017年6月8日 14:11 JST

でまあこれだと「ああまたブルームバーグH記者のお得意の「関係者」かよ」という話になる筈なのですが、何せ英文ヘッドラインだと、

『BOJ IS SAID TO RE-CALIBRATE COMMUNICATIONS ON FUTURE EXIT』

ですし、ブルームバーグ英語版のネット版を見ましても、

https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-06-08/boj-is-said-to-re-calibrate-communications-on-future-exit
BOJ Is Said to Mull How to Communicate Eventual Stimulus Exit
by Toru Fujioka and Masahiro Hidaka
2017年6月8日 13:45 GMT+9 2017年6月8日 15:00 GMT+9

(日付の所が日本語になっているのは多分日本で見ているから)

と(URLが当初ヘッドラインと同じですな)なっていまして、英文ヘッドラインだと如何にも日銀が将来の出口を展望してコミュニケーション政策を再構築するというような書き方になっているという毎度のまた○高か!という奴ですが、昨日の場合は5年入札の結果が出て一安心モードになって戻った所ですし、まあ狙ってやっているならタチの悪いニュースの打ち込み方ですわ。

ということでこれ出て(というか英文ヘッドラインの方が一瞬先に出るのが海外ベンダーの仕様)先物がホイホイと下がって安値前日比45銭安とかまでやる中で、しらっと中短期よりも超長期の方がコケるという展開(前場は超長期比較的下がって無かったのですが落札結果出ての戻りで超長期パッとしなかったのでその前からだと思うけど)になるの巻となったというオチでした。


・どう見てもただの釣りヘッドラインなのですが

とは言いましても最初のロイター市況解説記事のところにもありますけど、このブルームバーグの記事自体は毎度の日○記者クオリティで、単なる観測記事にも程がある話なのですけど、ということで念のため記事の確認をしてアクセス稼ぎになってしまうというのも血圧が微妙に上昇するのですが致し方なし。

再掲します。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-06-08/OR7LC86K50XS01
日銀:出口論は「時期尚早」から「説明重視」に−関係者
日高正裕、藤岡徹
2017年6月8日 13:45 JST 更新日時 2017年6月8日 14:11 JST

『日本銀行が異次元緩和の出口をめぐる議論について、「時期尚早」としていた姿勢を改め、市場との対話を重視する方向に修正しつつある。複数の関係者によると、国会や報道で出口に関する関心が高まっていることに対し、日銀内には市場心理に悪影響が及ぶことを懸念する声が上がっており、より丁寧な説明を行う必要があるとの認識を強めている。ただ、物価上昇率は2%の目標まで距離があることもあり、出口における財務の具体的なシミュレーションを公表するのは困難との姿勢は変えていない。』(上記URL先より)

ってな話で、何も新しい話は無いですし、大体からして記事の方でも言及しているように、物価が全然上がらんのですから出口もへったくれもないのにEventual Stimulus Exitとか言われましてもナンジャソラという感じではあります。

ただし、政治方面から「助さん格さんもう良いでしょう」と玉が飛んで来るとか、「もう疲れたよパトラッシュ」と日銀が降参するという方向での出口というのは無くはないですが、もう良いでしょうというにも2%の看板は下げられないので、せめて物価が1%台前半に乗っていないと格好がつかない(本当は1%台半ばは欲しい)ですし、まあ黒田日銀がもう疲れたよパトラッシュとか言うのはあり得ないので、結局の所物価がホイホイ上がってこないと如何ともし難い、という事ではないかと思うのよ。


・でもって輪番増額とか指値期待というのも何かピンとこないのだが

いやまあ確かに3M入札まずますで売買参考統計値ベースでみると新発688は▲9.7bpになっているのでアベレージ水準で引かせていますからそこまで悪くはないにせよ、どうせ6Mがあの結果でしたのでビルはそこそこあるんでしょうし、5年も堅調でしたけどその前イマイチ感あって重かったんでしょうかねえというのもある上に、前回中期の指値ぶちかました水準が意識される、とまあそういう所ではありますから期待するのは分かります。

とは言いましても、前回指値オペだのやっていた時ってのはトランプラリーヒャッハーとかやっていた時ですし、昨年末位から今年の頭(2月の10年指値)位までの時期は「2017年の後半に来ると物価が昨年の裏が出るからとは言え上昇するし、もしかしたら今度こそ物価が上昇してワンチャンあるかも」という期待もこれまたあったという所。

一方で足元ってまあ物価は上がらんじゃろという感じになっていて、出口なにそれおいしいのという話になっている中で、短国買入減額の影響で需給がというか、中短期の修正が入っているという風にアタクシなんぞは思っているので、水準がそうだから指値だの増額だのが一気にぶちかまされる、というのも何だかなあとは思う(けどまあそれは個人の見解なので違っていてもサーセンとしか申し上げようがない)。

まー短国は少しお助け成分入れてくるかも知れないなとは思うのですが、中期ってそんなにお助けする必要あるのかねえというのはちと違和感があります、とフラグを立てておきます。

#久々に相場雑談大会になりましたな




2017/06/08

お題「中短期ェ・・・・・・・/レポ市場の分析ペーパー来ました」

マジなのか飛ばしなのか分からんですけど・・・・・・・・
http://jp.reuters.com/article/ecb-preview-idJPKBN18Y247
Business | 2017年 06月 8日 01:44 JST
ECB大規模緩和堅持へ、インフレ予想引き下げの公算

『[フランクフルト 7日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)が8日の理事会で、ユーロ圏の成長率見通しを若干引き上げる一方、インフレ見通しについてはやや引き下げる公算が大きいことが関係筋の話で明らかになった。』(上記URL先より)

でもってスペインではこういうお話ですか。
http://jp.reuters.com/article/bancopopular-ecb-idJPKBN18Y0IS?sp=true
Business | 2017年 06月 8日 00:00 JST
サンタンデール銀がポピュラール救済、株主や債権者ら損失負担

『税金を投入しない代わりに、ポピュラールの株主と債権者が損失の負担を強いられる。「AT1」および「AT2」と呼ばれる社債の保有者はおよそ20億ユーロ(22億ドル)の損失に直面するほか、株主も投資全額を失う。サンタンデールは株主に対し、70億ユーロ相当の資本を要請する。』(上記URL先より)

AT1とAT2が飛ぶとな。BSCHも昔はボロカス言われていた時代がありましたが今や救済する側に回りましたな(スペイン第一位だから国内で救済するなら当然だが)。


○6M入札が滑って中短期ズルズルとな

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20170607.htm

(3)募入最低価格 100円04銭9厘(募入最高利回り)(-0.0982%)
(4)募入最低価格における案分比率 48.9099%
(5)募入平均価格 100円05銭2厘(募入平均利回り)(-0.1042%)

つーことで6Mの足切が▲9.8bpと政策金利水準の▲10bpを上回るの巻となりまして、落札結果出たところで中短期と先物が滑るの巻となったようで。

短国に関しては日銀の買入が順調に減っていきますと、そもそも論として追加緩和の思惑も無いのに▲10bpを下回る利回りをバカスカ買わないといけない理由というのは▲10bpよりも低いレートでファンディングが可能な場合(為替ベーシススワップ絡み)と物として国債が必要な人以外には無い訳でして、まーこの金利水準になってくるというのは本来あるべき姿ではあると思うのですが、そうは言いましてもこれまで金利低かったのでそら元の在庫が食らう(短国はうっかりショート振ると戻すの大変だしコストもかかるので在庫がどうしても持ちになってしまいますわな)ので金利ジリジリ上がってきて、ついでに短国買入で玉を捌く攻撃が買入減額でやりにくいとなればまあ雰囲気は微妙になりますわな。

とは言いましても、まーここからジャンジャン短国の金利が上がるかと言えばそこもよーわからん話で、普通に考えると超過準備の▲10bpを持っている人が短国買いに回るのではと思うので(ただしそういう動きがお家の事情で機動的に出来ない人もいるとは思うので微妙は微妙だけど)すけれども、あとはコールとかGCレポレートとかの関係になって来るんでしょうかね。まあそうなればなったで短国市場が別世界という状況から裁定の効く市場になってくるので正常化の一環とは思うのですけど。

つーことで売買参考統計値ベースでは新発6Mの単利は▲9.7bpになっていて、落札足切水準よりも金利が上がっていましてアチャーという所ですけど、まあ6Mと1Yに関してはこれまでは日銀短国買入専用機状態になっていたので、短国買入減額の影響をモロに受けている、という面もありまして、もうちょっと使い勝手の良い3M短国の入札は本日な訳でして、こっちの方が使い勝手が良いだけにニーズはあると思うのですけど、こっちもコケるとなるとぐぬぬという感じにはなるのですかねえよーわからんけど。


でもって6Mの結果を受けて中短期ェ・・・・・・・・・・な訳で。
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1J427N
Markets | 2017年 06月 7日 15:13 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が小反落で引け、長期金利は0.045%に上昇

毎度のロイターさんで恐縮ですが。

『<15:09> 国債先物が小反落で引け、長期金利は0.045%に上昇

国債先物中心限月6月限は前日比4銭安の150円75銭と小反落して引けた。前日の米債高を受けて朝方は買いが先行し、一時150円89銭と5月2日以来の水準に上昇した。日銀の長期・超長期を対象にした国債買い入れ結果は無難だったが、午後の取引開始直後に発表された6カ月物国庫短期証券(TB)入札結果が低調な内容になると、下げに転じた。8日の5年債入札に備えた調整売りに押された。

現物市場は、中長期ゾーンが軟調。入札を前に短期筋の売りが出た。2年債利回りは一時同3bp高いマイナス0.115%と16年11月16日以来約7カ月ぶり、5年債利回りは一時同0.5bp高いマイナス0.105%と5月19日以来約3週間ぶりの水準、10年最長期国債利回り(長期金利)は同0.5bp高い0.045%に上昇した。』(上記URL先より)


でもってその後には・・・・・・・
http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1J42DQ
Markets | 2017年 06月 7日 15:52 JST
〔マーケットアイ〕金利:5年債利回りが4カ月ぶりに-0.095%、マイナス付利を上回る

『<15:45> 5年債利回りが4カ月ぶりに-0.095%、マイナス付利を上回る

5年債利回りが一時前日比1.5bp高いマイナス0.095%と、当座預金残高の一部(政策金利残高)に適用している付利(マイナス0.1%)を上回った。同水準を付けたのは2月20日以来、約4カ月ぶり。中期の需給不安が意識される中、8日の5年債入札を控え、短期筋から調整売りが出た。

また、入札が予定されている新発5年債は7日の入札前取引で、マイナス0.09%(複利)で出合いを付けたもようだ。市場は、現行の金利水準を前提にすれば、あすの5年債入札を付利水準付近、もしくは付利を上回る水準で迎えることになる。「政策金利残高からの乗り換えを含めて、入札でどの程度の需要があるのか、注目したい」(証券)との声が出ている。』(上記URL先より)

ということで売買参考統計値ベースで5年131回は▲9.5bp、2年377回は▲12bpなんぞになっておりまして、さて日銀はどうするんでしょうという話なのですが、まー10年の方はというと先ほどのように5bp辺りの水準で盤石(のように見える)モードということですし、別にここに来るまでに急落した訳でもないですし、元々追加緩和期待も特に無い中で需給で引っ張られて政策金利以下の水準で推移していた部分の修正であれば普通に考えれば放置プレイとしか思えませんな。

まー短国の水準が政策金利水準位まで調整してくると、先行き追加緩和観測の無い中で2年のより深いマイナスとかを買う意味is何(輪番に放り込んでウマーというのはまだある)という話になってくるでしょうから水準が訂正されるっちゅうことでしょうけれども。


ただまあ何ですな、YCCの中で今の誘導目標水準って短期▲10で長期ゼロな訳ですが、短期のビルとかJGBとかが▲10よりも低い所に居て、10年がゼロと言いつつ若干のプラスで推移しているから何となくこんなもんかなという感じでしたけれども、短期のJGBのカーブの起点金利がリアルに▲10になってくると10年の0%ってカーブが寝過ぎじゃねえのというか据わりが悪い(いやまあその前でも大概に寝過ぎだとは思うけど)感じがするので(個人の感想です)このバランス何とかならんのかと思うのだ、もう指値オペもぶっこんでしまいましたし今更何ともできない(=容認金利バンドの拡大は政策変更みたいに言われるからよほどうまくやらないと無理)のですけどね。


・・・・・・・などとまるでウゴカンチ会長だった円債市場にネタができたので嬉々として(かどうか知らんが)相場雑談を投下していますが、ただの5年入札前のコンセッションだったという落ちもアリエールな訳でして、蓋を開けてみたらマイナス一桁ベーシスの5年新発ウマーで終了してしまう可能性も思いっきり存在しますから(だから書き遅れる前に書いたというのもある^^)まあそういうことでよろしくです。


○日銀からここのところスタッフペーパーが続々出ているのですが

続々出ているので追いつきませんが、とりあえずこちらを。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17j05.htm/(要旨)
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/data/wp17j05.pdf(本文)
SCレポ市場からみた国債の希少性

要旨の方から。

『本邦レポ市場では、近年、需給タイト化等を背景にSCレポレート――担保となる国債の銘柄を特定して行うレポレート――が大きめに低下する、つまり貸借料が上昇する銘柄が増加している。本稿では、こうした個別銘柄でみた国債の「希少性(scarcity)」の強まりの背景について、SCレポレートの取引データから検証した。』

ほほー。

『分析結果からは、(1)日本銀行の国債保有比率上昇が国債の希少性を強める方向に作用している可能性があること、(2)但し、同要因だけで最近の希少性の強まりを説明することは難しいこと、(3)金融規制改革に対応する動きや国債市場において海外投資家のプレゼンスが高まっていることなども希少性の強まりに影響している可能性があること、(4)この間、日本銀行の国債補完供給は、希少性の強まりを抑制する方向に作用しているとみられること、などが示唆された。』(以上要旨の方から)

とありまして、本文の方をサラサラ見てみます(なお面白い人には面白いのでマニアの方は是非ご覧を、ってもう見てますかマニアの方は)。

・レポが厳しくなると大変というのは最初に書かれていますな

本文1ページより。

『後段で詳細にみるように、レポ市場にかかる指標から最近の国債の希少性を確認すると、本邦では、貸借料が上昇し SC レポレートが大きめに低下する銘柄が増加している。また、こうした中で、国債を調達する際に、SC レポ市場ではなく、日本銀行の国債補完供給を利用する頻度も高まっている。この間、ユーロ圏でも、例えば ECB のクーレ理事は講演で、ユーロ圏、とくにドイツでは、SC レポレートが大幅に低下しやすくなっていることを指摘している(Coeure[2017])。』

『こうした国債の希少性の強まりは、様々な経路を介して金融市場に影響を与えうる。』

うむ。

『第 1 に、個別銘柄の希少性の強まりから SC レポレートが頻繁に低下すると、ディーラーのマーケット・メイク活動が制約され、国債市場の流動性が押し下げられやすくなることが考えられる。一般に、ディーラーは、在庫として保有していない銘柄も含め、顧客からの売買注文に応じたり、ディーラー間市場で取引を行ったりする。また、国債入札の前には、関連銘柄を事前にショートしておき、金利リスクをコントロールすることも少なくない。こうした行動は、何れもディーラーが、SC レポ市場で安定したレートで円滑に国債を調達出来ることを前提としている。そのため、SC レポレートが不安定化したり、あるいは債券調達への懸念が強まったりすれば、顧客の注文に対して提示する価格が悪化したり、ビッド・アスク・スプレッドが拡大したりする可能性もある。』

となりますと、どこかで閾値のようなのがあって、流動性低下→マーケットメイク機能の低下→流動性低下というスパイラルになるんですよ。でもってそうなると何らかの外的ショックに対する国債市場の頑健性が損なわれるので大変な事になり兼ねない、というのがあります。

これは運用部ショックと言われる奴がまさにそうで(なお運用部ショックを知らない人はそこらの年寄りに聞いてちょ)、トリガーは運用部の買入停止でしたけれども、元々はその前の東証の先物システムの変更が背景にあって、それまで絶大な流動性があって債券市場のマーケットメーカーの超有力ヘッジ手段であった債券先物が、注意気配制度などの板のつけ方を止めて値がぶっ飛ぶような値付け制度にして暫くした所で大量成行買いで先物ぶっ飛ぶ事件とかあって板に注文置く人がいなくなって、大きめのヘッジが出来なくなってマーケットメーカーが注文捌けなくなって、国債市場の流動性が思いっきり落ちてしまったというのが背景にあったからこそああいう惨状になった訳で、まあ流動性が落ちても動いていないときには特に問題が顕在化しない、というのがこれまた市場の流動性問題の困った所で、だいたい気が付いた時には時既にお寿司になっているのがオソロシイのよ。

『第 2 に、国債の希少性が全体に広がっていけば、投資家の「安全資産」での運用需要や担保需要を満たすことが難しくなっていくリスクも考えられる。例えば、一上・木村・中村・長谷部 [2012]は、やや長い目でみて、安全資産での運用需要が増加している一方で、金融危機後の民間資産担保証券等の信用力低下に伴う安全資産の供給が減少したことで、グローバルに国債の希少性が強まりやすくなっていることを報告している。また、より最近の現象についてみると、前述の Coeure [2017]は、ドイツの国債市場において、2 年債の利回りが OISレートを大幅に下回る傾向が強まっていることを指摘しているほか、ICMA[2017]は金融規制改革と中銀の資産買入れが相まって、期末を中心に GC レポレートが急低下しやすくなったことを指摘している。』

その第2の方はそんなに問題視する話かという気がだいぶする。安全資産の希少性が高まったのならファイナンシングビルでも発行して政府預金とビルで両建てにすればいいだけの話じゃんと思うので、それは致命的な問題にならない(問題になるとすれば政府預金とビルで両建てにすれば良いじゃんというのは市場の方からは気軽に言えるけど政府サイドとしてはそうホイホイとできる話ではないので、その間に変な歪みが起きるというというはなしでしょうか)と思うのだが。

『こうした「個別銘柄の希少性」と「国債全体の希少性」は何れも重要な論点であり、密接に関係している側面もあるが、本稿では個別銘柄の希少性という第 1 の論点に焦点を絞って分析を行う。』

ということで分析があります。


・データが中々結構な件について

でまあレポ市場なのですが、債券市場全体にそうですけど特にSCレポとか個別性が強くて、「これが正しい」というレートがあるのかというと難しいのですが、その点はこうやってクリアしている(できているかどうかは兎も角として)のだ。

『レポ取引において、個々の取引データを入手することは容易ではない。GC レポレートについては、主要市場参加者が報告する市場実勢レートに基づき日本証券業協会が公表している「東京レポレート」が存在するが、SC レポレートについては同様のデータは存在しない。』

そらそうよ。

『そこで本稿では、ジェイ・ボンド東短証券が提供している「JBOND レポシステム」(以下、JBOND)の SC レポレート(取引日の 2 営業日後にスタートする期日 1 日の取引、S/N)の取引データに対象を限定した上で分析を行う。具体的には、銘柄毎の取引高加重平均レート(日次)という粒度の高いデータを用いている。また、データ期間は 2013 年 4 月から 2017 年 3 月と、量的・質的金融緩和導入後の 4 年間をカバーしている(データ総数は 80,281 個)。』

4年間で営業日が1000日位あってデータが8万というのが多いのか少ないのかということについては微妙ではありますが、こういう説明になっておりますので宜しいということでしょうか。

『JBOND 上での翌日物(S/N)SC レポ取引が翌日物 SC レポ市場全体に占める比率は、上述の日本銀行金融市場局[2016]で集計した市場残高をもとに試算すると、概ね 20〜25%程度となっている。もっとも、JBOND 上での日々の取引銘柄数は最近では 80〜100 銘柄と、日本相互証券経由の現物国債のディーラー間市場で取引されている銘柄数とほぼ同水準となっている。』

『つまり、現物国債市場で取引が行われている銘柄の多くは JBOND 上で SC レポ取引が行われており、JBOND の SC レポレートからみた国債の希少性は、現物国債市場における国債の希少性を相応に反映しているとみられる。また、市場参加者から、銘柄別にみたレポレートは概ね市場実勢を反映していると評価されている。』

なるほど。


・でもっていきなり話をすっ飛ばして結論を見ますが(手抜き)

途中の話はマニアと関係者はお読みになられると吉と存じますが結論部分に。本文9ページになります。

『2014 年 5 月から 2017 年 3 月の全期間のデータを用いた推計結果が図表 5 である。推計結果からは、以下の点が指摘可能である。』

『第 1 に、国債の需要要因は、一定程度 GC-SC スプレッドの変動を説明している。即ち、新発債など取引が活発な銘柄ではスプレッドが拡大しやすい傾向が確認された。』

うむ。

『第 2 に、四半期末ダミーの動きをみると、期末超え時には、GC-SC スプレッドが 10bps 弱拡大する傾向がある。但し、今回の時系列は 2013 年以降に限定されているため、こうした傾向が金融規制改革などの影響で過去と比べて強まっているのかについて結論付けることは難しい。』

まあ時々盛大に影響が出ていると思われる点もありますし、昨日ネタにした調節年報でもこの話はありましたな(というか調節年報の中でたぶんここの分析を参考にしている筈なのだが)。

『第 3 に、日本銀行の国債保有比率上昇は、GC-SC スプレッドを拡大させる方向に寄与している。また、両者の間には何らかの非線形的な関係があり、日本銀行の保有比率が高まるほど、限界的な買入れが GC-SC スプレッドに与える影響が強まっている可能性もある。』

これは体感的にアグリー(個人の感想です)でして、どこかに閾値があって、それ以上日銀が国債を買う、というかポートに沈んだままレポに出て来ない状態でも同じなので、別に日銀に限った話でも無かったりするのですが、要はレポに出てくる玉が発行規模対比で少ないと流動性皆無になる、というのは既発の短国とかのようにレポ出て来ない状態になっていたら同じですわな。

ということですので、ぜひどこかのタイミングでこの研究を生かして「1銘柄辺りの購入比率上限」というのを設定して頂きたいものだと思います(迫真)。

『ただし、定式化によって若干の違いがあるが、日本銀行の保有比率上昇がGC-SC スプレッドに与える非線形的な影響はそれほど大きくはない。』

そ、そうか?????

『各推計結果で得られたパラメータから試算すると――幅を持ってみる必要があるが――日本銀行の保有比率が 50%から 60%に上昇した場合、GC-SC スプレッドは、1〜2bps 程度拡大することが示唆される9。こうした試算結果を踏まえると、@日本銀行の国債保有比率上昇は GC-SC スプレッドの拡大に寄与するが、A日本銀行の国債保有比率の上昇だけで最近の GC-SC スプレッドの拡大を説明することは難しいと考えられる。』

これはゾーンにもよるし、さっきあったようにそもそも玉が出て来ない人の所に嵌ってしまえば日銀の買いと同じ効果があるので、そういう意味では日銀だけではないと言いたいのは分かるが、ベースには日銀の買いがあるじゃろ、とは思う。

『第 4 に、国債補完供給が実施された銘柄は、他の銘柄と比べ GC-SC スプレッドが縮小していることが示唆される。但し、定式化によりその定量的なインパクトは大きく異なる。また、日本銀行が特定銘柄について国債補完供給を実施するかの判断は SC レポレートの状況等に関わらず市場参加者からの希望に基づくことを踏まえると10、国債補完供給実施ダミーの解釈は慎重に行う必要がある。』

5年130回ェ・・・・・・・・・でもあるのでまあ結論はそうでしょ。


・なおちゃんとその後に別の考察もある

でもってその後本文11ページに『(2)基本モデルで考慮されていない諸要因の影響』というのがあって、

『基本モデルが示しているように、量的・質的金融緩和の導入以降の日本銀行の国債保有比率上昇は、一定程度、GC-SC スプレッド拡大に寄与している可能性がある。もっとも、日本銀行の国債保有比率の上昇ペースが、全体としてみれば、2014 年 10 月から 2016 年 9 月の長短金利操作導入までほぼ一定であることを踏まえると、前掲図表 2 で示したような最近の GC-SC スプレッド拡大を同要因だけで説明することは困難と思われる。つまり、最近の GC-SC スプレッド拡大には、基本モデルでは捉えきれていない要因も影響していることが示唆される。


ということで考察があるのも中々なのですが、時間の関係で以下割愛で勘弁。まあ面白い(ただしマニア限定)なので読んでちょという所ですな。




2017/06/07

お題「調節年報鑑賞会(その2)」

英国の世論調査があてにならんのは前回の総選挙で証明済みとは言え・・・・・
http://jp.reuters.com/article/britain-election-poll-survation-idJPKBN18W2WW
World | 2017年 06月 6日 08:52 JST
英世論調査、与党保守党のリードが1ポイントに縮小=ITV

でもってこれまた日本の金曜日の朝から開票始まって何故か日本市場が最初に影響受けるんですよね〜。


○一応オペのメモでも

つーか30年入札でも110円割れでも動かん(そらまあその前に2万円ヒャッハーでも動かんのですから動かんなという感じですが)というこの相場ェ・・・・・・なのだが。

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba170606.htm

国債補完供給(国債売現先)・即日(午前オファー分)(注4)488 488 -0.600 -0.600
CP等買入 12,471 3,490 -0.007 0.000 2.7

(注4) 国債補完供給(国債売現先)・即日(午前オファー分)の売却銘柄は、
5年利付国債130回(52億円)、10年利付国債316回(78億円)、10年利付国債324回(10億円)、
10年利付国債326回(341億円)、10年利付国債338回(7億円)です

ということで例の5年130回は52億円まで減っていまして、まだ毎日やってるのかご苦労なことでとは思いますが、ロット的には場で何とかなりそうな気がしないでもないレベルになっているのに宜しいですなと思ったのと、物価連動16回の1億円ってのが実は月曜の補完供給から無くなっていて、カバーできて良かったですねいやマジで。

でもってCP買入なのですが、前回の5/26オファー分は普通(?)に平均▲0.8bp足切▲1.0bpだったのですが、今回は平均が0.0bpまで金利上昇していまして、その前の5/17オファー分は平均+0.5bpで足切▲1.0bpとかになっていたりするので、別にファットフィンガーとかでもないし、CP発行市場全体で何かあるという話でも無くて、特殊要因なのかなあとは思いますけどよーわからんですな。


○ということで材料待ちなので調節年報の鑑賞会

http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2017/data/ron170605a1.pdf(本文)

・SLFを常設(一時的であっても)ファシリティ化する気が無いという気概を示してますな

昨日の続きで個別オペに関する本文での説明の最後の方になりますが、本文64ページの『F 国債補完供給』についての説明を鑑賞。

『国債補完供給は、金融調節の一層の円滑化を図るとともに、国債および資金決済の円滑確保にも資するとの観点から、日本銀行が保有する国債を、市場参加者に対して一時的かつ補完的に供給する制度である。』

ということですが・・・・・・・・

『2016 年度中の国債補完供給の実施回数は、344 回と、2015 年度(192 回)に比べて大幅に増加した(図表 4-23)。こうした利用増加については、日本銀行が、国債の円滑な決済を確保する観点から、利用要件を累次にわたって緩和してきたことにより、その使い勝手が向上してきたことが、基本的な背景にあると考えられる。』

まあ日銀が無慈悲買入をしなければ使わないんですけどね。

『そのうえで、本制度を利用する理由を金融機関サイドの事情からみてみると、非居住者による指図相違等によって生じたフェイルに対応する場合や、国債需給のタイト化などから市場でポジションをカバーできなかった銘柄を手当てする場合がある。』

とさらっと書いてありますが、国債需給のタイト化は日銀買入攻撃によるものではないかと小一時間問い詰めたい訳ですけれども、まあ調節年報では「本行の政策でどうのこうの」という表現が某FSRと違って出て来ない辺りに味わいを感じますな。それから非居住者云々ありますけれども、国債決済アウトライトをT+1にした日には益々決済がタイトになる(ただし本当に全員がT+1に参加するのかという話もこれまたあって、T+2のままで良いじゃないのにんげんだものという話になる可能性もあるような)のではないかという気がしますが・・・・・・・・・

『いずれも、市場参加者が自ら国債を調達しようとしたにもかかわらず、それができなかった場合に、一時的かつ補完的に本制度が利用される。』

お、おぅ・・・・・・という感じですが、日銀のQQE政策(一応今の政策はQQE+YCCでYCCの中にマイナス金利が入っている)が続く上に国債決済アウトライトT+1をするという中で、このSLFもう少し何とか考えた方が良いのではないかという気もしますし、まあそれを全部当てにされても困るというのもあるでしょうが、国債現物の流動性を皆無状態にするといざ良い出口の時でも苦労することになると思われますので何とかしましょう(買入ペースをドンドン落としてくれれば少しはマシになるのだが如何せん元々の買入規模が大きすぎ)とは思うのですけどね。

『例えば、後者については、マイナス金利導入以降、特に四半期末に、一部金融機関がレポ市場での資金調達(保有国債の放出)を控えるため、国債補完供給の利用額が膨らむ傾向がある。2017 年3月末に向けて、こうした動きが特に顕著にみられたことから、日本銀行は、「3月末におけるレポ市場の国債需給タイト化への対応について」(3月 23 日公表)の一環として、国債補完供給の応募銘柄数の上限引き上げを行った。』

さいですな。

『具体的には、3月 31 日から4月7日までの間に実施する国債補完供給について、売却対象先毎の1回当たりの応募銘柄数の上限を一時的に緩和し、従来の 20 銘柄から 30 銘柄に引き上げることとした。この結果、31 日の落札額は2兆 3,515 億円、応募銘柄数の合計は 59 銘柄と、いずれも既往ピーク(9,988 億円<2017 年2月 14 日>、43 銘柄<同年3月 21 日>)を大きく更新した。』

期末の度にこの有様という事になりそうで(四半期末ごとだったら泣く)すが、現物の流動性対策をしないとマーケットメイクをするのにオファービットのスプレッドが開く傾向になってしまうし、そうなると投資家も困るという事になりますからね。もちろん相場が暴れて売買が活発になった結果としてレポ市場でタイトになる銘柄が出てきたり、というような展開になればレポで品貸ウマーとかレポトレードウマーとかいう話にもなるのですが、単に流動性が無いという状況だとポジション捌けなくなるから投資家もマズーだしレポトレードも出来ないですからね。


・昨年度の政策変更記録ェ・・・・・・・・

本文67ページから『5.金融市場調節運営に関する制度変更等』があるのですが、昨年度はマイナス金利導入まではやっていましたがその後の話ということで色々と説明があっていやまあこんなにやったのかと改めて遠い目をしながら思い出すのにお勧め。

(1)長短金利操作付き量的・質的金融緩和の導入
(2)その他の制度変更等
@ 「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の実施
A 熊本地震被災地金融機関支援オペ等の導入
B ETF買入れ額の増額
C 企業・金融機関の外貨資金調達環境の安定のための措置の実施
D ETFの銘柄別の買入限度額にかかる見直し
E 貸出支援基金等の延長

とありますが、ETF増額という割と凶悪な措置が「その他の制度変更等」という括りに入れられているというのがイマイチ釈然としません。


・市場との対話ねえ

最後が『6.市場参加者との対話に関する取り組み』というのが本文70ページにあります。

『日本銀行では、強力な金融緩和を進めるもとで、金融市場の動向や機能度、日本銀行によるオペレーションの影響などについて注意深く点検するとともに、市場参加者との対話を一層深める観点から、日々の市場モニタリングや各種の市場サーベイを実施した。また、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入決定後は、市場参加者等に対し、その内容や市場への影響に関する説明に努めた。これらに加えて、日本銀行金融市場局は、2016 年度において、以下のような市場参加者との対話に関する各種の取り組みを進めた。』

ということで色々とあるのですが、最後の『(2)市場参加者から寄せられた市場運営に関する要望事項への対応』というところ(本文71ページ)を見ますと・・・・・・・・

『日本銀行では、市場参加者から寄せられた市場運営に関する要望事項を踏まえ、市場運営の改善・向上につなげる取り組みを行っている。2016 年度に新たに対応することとした主な要望事項は次のとおりである(図表 6)。』

ということで図表があるのだが、正直それは実績として出す話かと小一時間な話で、SLFの期末お助け措置とかそういう話を出した方が良いのではないかと申しますか、市場と対話して出てくるのが公表内容の充実とかいう話だったらそれはオフサイトモニタリングというか、投書受付して改善しました的なことなので何だかなあと。

#てか市場の要望はQQEとマイナス金利の凶悪度合いを何とかして下さい、だと思うのだが


・それよりも本文34ページからを熟読すべし

という悪態はさておきまして、本文34ページからの『4.金融市場調節手段の運営状況』の『(1)日本銀行当座預金の三層構造と短期政策金利』は丁寧に説明がされているので、普段あまり短期を気にしない人も多いと存じますが理解するまで読み込んでいくのが吉。

でもってこれがまた長いので全部紹介したら時間と量が多すぎにも程があるのでだいぶ飛ばしますけれども、本文37ページの『A 業態別にみた当座預金の三層構造』から参ります。

『次に、当座預金残高の三層構造の変化を業態別に確認すると、それぞれ特徴的な動きをみてとることができる(図表 4-5)。』

『まず、都市銀行については、マイナス金利の導入決定直後に、先行きの金利低下を見据えて国債を積極的に購入したほか、短期金融市場での資金調達を大幅に抑制したため、マクロ加算残高の「余裕枠」が一旦増加した。もっとも、その後は裁定取引目的の資金調達を積極化し、マクロ加算残高の「余裕枠」をほぼ使い切るような形で当座預金を運営している。』

昨日ネタにした部分を見ると全体でみた場合にこの「疑似積み進捗操作」は前半余裕枠に対してショート気味に進捗させて最後に余裕枠を使い切るような形のようですな。もちろんその前に余裕枠つくるためにせっせと有価証券でキャッシュを潰しに行くわけですな。

超大昔だとそもそもがトン調節で推移していたので、進捗操作は基本的に平均ペースで進めて、あとは季節要因の資金繰りを勘案して調整は若干する程度で、先行きの政策金利変更思惑が有る場合は思いっきり進捗操作をする、という話でしたが、元々がマクロ的に超過準備余っている状況だと平均的な進捗というのもまたムツカシイのでしょうかな。

『なお、各四半期末には、基準比率の見直しや貸出増加支援資金供給の利用額の拡大などからマクロ加算残高の上限値が増加する中、期末の当座預金残高を抑制する動きもあって、マクロ加算残高の「余裕枠」が幾分増加している。』

期末に関してはレバレッジ規制の問題があるから(まだ本チャンではないけど)抑制しないといけませんからね。


『地方銀行・第二地方銀行については、その当座預金の規模等に応じて、政策金利残高の積み上がりを回避するため、主に資金の出し手となる先と、政策金利残高の適用までに余裕があり、主に資金の取り手となる先がある。』

ほほう。

『前者に関しては、マイナス金利での取引へのシステム対応が進捗する中、コール市場を中心に積極的に資金を放出している。他方、後者については、コール市場における調達レートの上昇圧力や日常的な事務負担を勘案し、当座預金残高を抑制気味に運営する先も少なくない。この結果、マクロ加算残高の「余裕枠」を相応に残した状態が続いている。』

まあマクロ加算残高の余裕枠で資金裁定取引するって言ったって額がある程度あって鞘がそこそこないと事務コストと事務リスク勘案で間尺に合わないかもしれませんからね。

『なお、積み期間毎の動きをやや仔細にみると、年金の支払(通常、偶数月の 15 日)の影響により資金が余剰方向で推移する偶数月の積み期間に、マクロ加算残高の「余裕枠」も幾分縮小する傾向が確認できる。』

これは季節要因の説明。

『外国銀行については、多くの先において、為替スワップ市場での円資金調達の抑制やコール市場における資金放出などを通じ、政策金利残高が生じない水準まで当座預金を圧縮する動きがみられる。』

そらそうよ。

『特に四半期末には、一部の先がレバレッジ比率規制等を意識して円資金の調達を一段と抑制するため、こうした傾向に拍車がかかり、結果として、基礎残高やマクロ加算残高の「余裕枠」がさらに拡大した。』

『他方、政策金利残高を保有するコスト(▲0.1%)を考慮しても、市場での円資金調達コストがそれを下回る状況であれば、引き続き収益を確保できるとして、政策金利残高の保有に抵抗感を示さない先も一部にみられる。この結果、業態全体として、小幅ながら政策金利残高も生じている。』

ほほー。

『信託銀行は、2016 年度を通じて政策金利残高を保有している。まず、マイナス金利の導入当初は、MRFやその他の投資信託等の運用資金のうち、プラス金利での市場運用が困難になった資金が、「銀行勘定貸」を通じて信託銀行の銀行勘定に流入したことから、その政策金利残高が大幅に増加した。』

そうでしたな。

『もっとも、4月積み期間以降は、MRFの受託残高に相当する当座預金(2015 年の受託残高を上限とする)がマクロ加算残高に加算される扱いとなったことや(脚注7参照)、投資信託の余剰資金(金銭信託)に対する手数料賦課に伴い信託銀行の銀行勘定への資金流入が減少したこと、さらには、この頃から都市銀行や短資会社に対する銀行勘定での資金運用を拡大したことから、信託銀行の政策金利残高は大きく減少した。』

『その後は、国債償還資金が継続的に流入する中、株価上昇に伴う投資信託の余剰資金の滞留もあって、政策金利残高は、2016 年度後半にかけて幾分増加気味で推移している。』

日銀当座預金制度の外側の人の資金があるからどうしてもこうなる。

『その他の補完当座預金制度適用先(その他準備預金制度適用先、および準備預金制度非適用先)の中には、基礎残高やマクロ加算残高の「余裕枠」を有する先もあれば、政策金利残高を有する先も存在する。後者の中でも、金融機関によって資金放出に対するスタンスは区々であるが、一部の先は、政策金利残高を圧縮するため、外債投資やレポ市場での資金運用を積極的に行っている。加えて、本邦国債への投資を再開する動きがみられるほか、コール市場での資金運用も徐々に増加しているが、それでも、国債の償還資金の積み上がりもあって、これらの先の政策金利残高は高止まっている。』

残高多くて大変ですよね。

でもって最後にしらっとこの話があるのですが、ネタとして微妙な気もしたので業態別当座預金残高をネタにするときに詳しくツッコミを入れなかったのですが、調節年報で思いっきりここに言及するというのは中々お洒落。

『このほか、日本銀行の当座預金取引先の中には、政府系金融機関や清算機関のように、補完当座預金制度の対象とならない主体(補完当座預金制度非適用先)が存在するが、これらの当座預金残高は、マイナス金利の導入以降、緩やかに増加している。』

増加している、というのはネタにしておりますが、この人たちが誰なのとかいう話は敢えてスルーしておりましたです(だいたいわかるような書き方は何回かしていますが)。

『この点については、2016 年度の前半に、債券等の利回り低下を受けて運用資金を当座預金に積み上げる先がみられたことに加え、年度後半には、複数の清算機関が清算参加者からの現金担保の受入れ拡大等の措置を講じたことにより、当該清算機関への日銀当座預金の振替が生じたことなどが影響している。』

ということですが、もしも現金担保を無駄に積みまくれるようになると・・・・・・・・・

『このように、補完当座預金制度適用先から補完当座預金制度非適用先への資金移動が生じると、前者の当座預金残高、ひいては「完全裁定後の政策金利残高」が減少する。』

とありますが、要は政策金利残高適用の尻抜けが発生してしまうのですよね。だからここの部分は過剰な尻抜けにならないような措置が講じられているのですが。

『このため、日本銀行では、こうした資金の動きも勘案しながら、マクロ加算残高にかかる基準比率の見直しを行い、「完全裁定後の政策金利残高」の水準をコントロールしている。』

ということで、何か無駄にマニアなスキルのような気がせんでもないですが、超マニアックなコントロール(昨日ネタにした財政資金の出入り問題も加え)をしていて、こういう辺りは将来トン(は無理かもしれんが)調節になった時のスキル継承的に日銀としてはウマーな話でもあるように思えます、民間は全然ついていってない気がしますけどね。


・マニアな分析2題

BOXにマニアな分析があるのですが、まずは本文40ページの『BOX6 政策金利残高と無担保コールレートの関係』である。

『本文で述べたとおり、「完全裁定後の政策金利残高」は、短期金融市場における潜在的な資金余剰の規模を示している。こうしたもとで、日本銀行は、マイナス金利の導入以降、原則として3か月に1回の頻度で基準比率の見直しを行っており、その結果、「完全裁定後の政策金利残高」は、3積み期間毎に、平均して概ね 10 兆円台前半で安定的に推移している。』

『しかしながら、財政等要因による当座預金の季節的な変動などもあって、「完全裁定後の政策金利残高」は、3積み期間(3か月間)を通じて一定ではなく、各積み期間で多少の幅をもって変動している。』

ふむふむ。

『すなわち、積み期間毎にみれば、短期金融市場におけるマクロ的な資金余剰の規模が変動し、これが短期市場金利に対する上昇または低下圧力として作用するものと考えられる。』

なるほど。

『ここで、こうした「完全裁定後の政策金利残高」の変動が、実際のコールレートの形成に与えた影響を確認するため、マイナス金利での取引が拡がり、コール市場残高が回復した 2016 年5月積み期間から 2017 年3月積み期間における「完全裁定後の政策金利残高」と無担保コールレート(O/N 物)の関係をみてみる。』

なんちゅうマニアな分析。

『この場合、相関係数は−0.39 となり、両者の間には弱い相関関係しか確認されない。この2つの数字に単純な負の相関関係がみられない理由としては、本文でも述べた業態間の資金偏在や各市場における参加者の違いが考えられる。すなわち、地銀や信託などの業態は、コール市場で活発に裁定取引を行っている一方で、政策金利残高を保有していても積極的に資金運用を行わない先やコール市場よりもレポ市場での取引を選好する先の存在が、両者の相関を弱める方向に働いている可能性がある。』

『この点を検証するため、日本銀行が公表している「コール市場残高」をもとにコール市場の取引残高が大きい業態(注)を抽出し、あらためてこれらの「完全裁定後の政策金利残高」とコールレートの関係をみてみると、相関係数は−0.64 となり、両者の間にはっきりとした負の相関関係が確認される(BOX 図表 6)。』

はっきりとしてるかという話はさておき何じゃこのマニア分析(褒めてます)という所で。


なお、『BOX7 指値オペの概要と市場の反応』というのがあって、微妙に2月の指値オペについてのレビューになっているのですがそこは敢えてスルーしまして、『BOX8 長期国債買入れの応札倍率』を少々。

途中からですが、

『しかしながら、2016 年 12 月から 2017 年2月頃までの間、短中期ゾーンの国債市場において、オペの応札倍率が高めの水準を維持していたにもかかわらず、金利は継続的に低下した。この点については、まず、オペに参加する金融機関の国債売却スタンスには強弱があることを理解する必要がある。例えば、同じようにオペに応札していても、@ある程度の売却益が得られるのであれば、日本銀行に積極的に国債を売りたいと考えている金融機関もあれば、A国債をそのまま保有することにも一定のメリットがあるため、それを上回るほどの大きな売却益が得られる場合に限り、日本銀行に国債を売りたいと考えている金融機関も存在する。』

『国債の需給環境をよりきめ細かく分析するためには、@のタイプと、Aのタイプの違いを考慮することが考えられる。ここでは、市場実勢利回りに近いレートで応札された金額だけを抽出して算出した応札倍率を「コア応札倍率」として、分析を試みる。』

これは札が全部見える日銀にしか出来ない分析。

『具体的には、オペに対する応札額のうち、応札締切り時刻直前(概ね、前場引け時点)の流通市場において、国債の売り手が呈示しているオファーレートを上回る(同オファー価格を下回る)応札分だけを取り出し、その合計額をオファー額で除した比率を算出した。』

というのがありまして・・・・・・・・・

『2016 年 12 月から 2017 年2月頃までのコア応札倍率の推移をみると、特に残存期間1年超3年以下のゾーンについて、全体の応札倍率から大きく乖離し、1倍を下回る状況が続いていた。コア応札倍率が1倍を下回るということは、市場実勢付近の利回りで売却したいと考える先からの応札額が、オファー額に満たないことを意味する。このことは、国債需給が相当タイト化していたことを示唆するものと考えられる(BOX 図表 8-1)。』

『実際、この時期は、通常の応札倍率が高めであったにもかかわらず、オペは高値(低いレート)で決定する傾向がみられた(BOX 図表 8-2)。』

これはマニアックでワラタです(褒めています)。


あと、その次に『BOX9 10 年物国債金利と 20 年物国債金利のスプレッド』という味わいのあるお題のコラムもあるのですが時間の関係上パスします。まあ読んでみると何が言いたいのかは分かるつくりになっていますけど。





2017/06/06

お題「調節年報が中々面白い件について(その1)」

うむ。
http://jp.reuters.com/article/quatar-gulf-tie-idJPKBN18W0D7
World | 2017年 06月 6日 00:57 JST
中東主要国が「テロ支援」でカタールと断交、イラン反発

○市場雑談という程でもないが計数確認

・短国買入は今月2.5兆ですかねえ

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/tmei/index.htm/
日本銀行による国庫短期証券の銘柄別買入額

こちらなんですけど、トップページのリンクがデータファイル(エクセル)への直リンになっているのですけれども、ファイル直リンされてしまうと過去データを見に行く時に「統計」→「日本銀行関連統計」という形で見に行く必要があって、慣れの問題っちゃあ慣れの問題ですが、微妙にその点は不便感があります。とはいえデータに一発で行けるというのもこれまた便利なのですけど。

という話はともかく、こちらの数字を見ますと(なおアタクシがヘコヘコとエクセルで計算したものなので合っているつもりだが内容無保証)29.6兆円ほど5月末の残高がありまして、銘柄別残高から今月の償還分を計算すると4.8兆円ほどの償還。

月初3営業日になれば
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/fm/juqp/index.htm/
日銀当座預金増減要因(見込み)

からも確認できますが、短国の償還が4.83兆円となっていていますの。

でもって今月の短国残高は
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170531c.pdf
当面の長期国債等の買入れの運営について


にあるように27兆円〜29兆円とありますので、2.5兆円買入を行うと27兆円位になりまして、先週金曜の短国買入が5000億円だったので6Mと1Yの入札後に7500億円の買入を入れるとちょうど2.5兆なので据わりは宜しい感じですな。まー増えたら1兆になって出来上がり3兆円とか。

という俺様検算の確認メモでした(汗)。


○調節年報キタコレ

http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2017/ron170605a.htm/(紹介ページ)
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2017/data/ron170605a2.pdf(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2017/data/ron170605a1.pdf(本文)
2016 年度の金融市場調節

ということで調節年報ですが、今回は中々の力作感があって、特にYCCに移行してから金融政策運営の方は果報は寝て待て(なお永眠していても果報は来ない模様)状態になっていて、調節の方が良くも悪くも目立つということになりましたので、年報の方も力が入ったという所ですか。特に今回はBOXのコラムが色々と面白い。


・最初から中々味のあるグラフが

本文5ページ(なおPDFファイルだと6枚目になります、以下同様)になりますが、『2.2016 年度中の日本銀行の金融市場調節運営の概要』の『(1)金融市場調節運営』『B オペ運営の概要』から。

『まず、長期国債の買入れについては、月次の「運営方針」に沿って、毎月 10 回程度の買入れを行った。1回当たりのオファー金額は、その時々の市場動向に応じて増減したが、月間の買入れ額は、指値オペの金額も含め8〜10 兆円程度(オファー日、額面ベース)で推移した。』

『この結果、2016 年9月以前においては、「マネタリーベースが、年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」という金融市場調節方針や、「長期国債について、保有残高が年間約 80 兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」という資産買入れ方針を、いずれも実現した。』

『また、9月以降の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでは、長期国債の買入れ額等を柔軟に調整することを通じ、市場において、金融市場調節方針(短期政策金利を▲0.1%、10 年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする)と整合的な形でイールドカーブが形成されるよう促している(図表 2-1、2-2)。』

ということで図表があるのですが、このうち図表2-1の所で『(図表 2-1)マネタリーベースと長期国債保有残高』というのがありまして、これは前年対比で国債買入残高が幾ら増えているのかというのを出しているようでして(つまり月の買入を1年間継続した場合にどうなる、という見込み数値ではない)、結果の方だとまだ年間70兆円台のペースになっているので、なるほどこういう見せ方をすれば「今の買入を継続すると60兆円も行かないのですが」というツッコミを受けにくくなるのか、と味わいを感じました。



・ということで「結果の数字」を出すとそんなに大きくドロップしているように見えないという技

本文9ページの『(2)日本銀行のバランスシート』も同様に出来上がりの数字を使って説明しています。まあ調節年報なのだから結果の数字を出すのが当たり前ちゃあ当たり前ではあるのですが、残高拡大ペースを徐々に落としていく(金利が跳ねない限り)中での見せ方としては「この買入を継続するとどうなる」よりもこの方が見栄えが良い(というか何というか)ってことでもあるなあと思うのでした。

『上記のような金融市場調節運営のもとで、日本銀行のバランスシートおよびマネタリーベースは大きく拡大した(図表 2-5)。

すなわち、日本銀行のバランスシートは、2016 年末に 476.5 兆円、2017 年3月末に 490.1 兆円と、前年同時期と比べ、それぞれ 93.4 兆円、84.4 兆円の増加となった。この間、マネタリーベースも拡大を続け、2016 年末には 437.4 兆円、2017年3月末には 447.3 兆円に達した。前年同時期との対比では、それぞれ 81.3 兆円、71.6 兆円の増加となった。』

うむ。

『バランスシートの資産サイドをみると、「量的・質的金融緩和」のもとで、日本銀行が長期国債やETF、J−REITの買入れを進めた結果、これらの資産の残高が着実に増加している。』

しかしこのETFは何とかならんのかね。

『主な資産の 2017 年3月末の残高をみると、長期国債が 377.1 兆円と、前年比 75.2兆円の増加となった。また、ETFが 12.9 兆円(同 5.4 兆円の増加)、J−REITが 3,822 億円(同 886 億円の増加)と、いずれも資産買入れ方針に沿うかたちで、前年に比べ増加した。このほか、貸出支援基金(成長基盤強化支援資金供給・米ドル特則分を除く)も 43.4 兆円と、前年に比べ 13.3 兆円の増加となった。』

『買入国庫短期証券については、2016 年9月までは、マネタリーベースの増加目標に沿って買入れ額を増やしてきたことから、残高は増加傾向を辿った。もっとも、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入後は、国庫短期証券の買入れ額を段階的に減らしてきており、2017 年3月末の買入残高は 32.6 兆円と、前年比 4.3兆円の減少となった。また、共通担保資金供給オペについては、短期金融市場において資金余剰感の極めて強い状況が続いていることなどから、2017 年3月末の残高は 0.7 兆円と、前年に比べ 2.9 兆円の減少となった。』

さいですな。

『バランスシートの負債サイドをみると、日銀当座預金残高は、大規模な資産買入れなどを通じた資金供給を反映し、2017 年3月末には 342.8 兆円と、前年に比べ67.3 兆円の増加となった。』


・コール市場とか資金需給ネタのBOXが面白い件について

本文16ページから『BOX2 日本銀行当座預金増加額の季節性』というのがあって、まあ基本的な解説ではあるのですがこういう解説は中々ちゃんとした形で見れないものなので非常に良いですな。

『例えば、3〜5月積み期間は、公共事業や社会保障費の年度末支払いなどの大口の払い要因が重なることから(注3)、日銀当座預金の増加幅が大きくなる傾向がある。また、6〜8月積み期間は、同期間に年金が2回給付されることに加え、地方交付税交付金の支払いも重なり、増加幅が大きくなる(BOX 図表 2-2)。

日本銀行では、関係部署において、こうした財政等要因の季節的な変動を含め、先行きの資金過不足の状況をできるだけ精緻に予想する努力を続けている。そこで得られた情報は、日々のオペ運営のみならず、3か月に1回、「マクロ加算残高にかかる基準比率」を適切に設定するうえでも、大いに活用されている。』

このマクロ加算の掛け目って前だったらそうは言ってもMB拡大ペースが決まっていたから示しやすかったですけれども、拡大ペースも実際やってみないと分からないという中で掛け目を事前に決めないといけないとかかなりの職人芸が必要になるよな〜とは思っておりますのでこの「大いに活用されている」という締めの辺りが何か気持ち籠っている感じで良いですね。


でもってコール市場についての『BOX4 コールレートと資金需給』というのも、これもまた短期のマニア以外にあまりなじみのない話だと思うので参考になります。その前提が分からん場合は短期の人に質問してちょ。

『マイナス金利の導入以降、無担保コール市場では、各積み期間の前半よりも、後半に出来高が増加し、コールレートも上昇するというパターンがみられ始めている(BOX 図表 4-1)。』

という状況の背景解説が分かりやすい。

『この背景としては、マクロ加算残高の「余裕枠」を有する多くの金融機関の行動、すなわち、積み期間の前半は、政策金利残高の発生を回避しようとして慎重な資金調達スタンスを維持する一方、積み期間の後半となり、自らの当座預金の平残の着地がある程度見通せるようになったところで、資金調達を積極化させるといったことが指摘されている。』

つまりマクロ加算(ゼロ金利適用の超過準備)枠が資金繰り上余っている人だとマイナス調達してゼロ金利適用の超過準備に置いておけばウマーという事になるのですが、マクロ加算を超過すると▲10bpなのでマズーとなる訳で、しかもこの計算が瞬間の残高ではなくて積み期間の積数で計算されることになりますから、最初ウマーのつもりだったのに計算途中で資金がドカッと入ってきてマクロ加算を超過するというリスクもこれまたあるというお話。したがって着地が見えてくるまでは見込みでやらないと行けないからこういう行動になるという話ね。

『また、積み期間後半の資金調達量の増加については、積み期間中の資金過不足要因の動きが影響している面もある。すなわち、金融機関を通じた政府に対する税金の支払い(税揚げ)は各月の初め(各積み期間半ば)に行われることなどから、財政等要因(除く国債の発行、償還)による資金不足幅は積み期間の後半に拡大する傾向がある。』

確かに。

『このため、仮に各金融機関が積み期間中の当座預金残高を一定に保つような運営を行ったケースを想定しても、積み期間後半に、必要となる資金調達量は増加し、コールレートに上昇圧力が働くことになる(BOX 図表 4-2)。』

なるほど。

『このほか、最近では、税揚げ日のコールレートが前日比上昇するなど、1日単位の資金過不足が金融機関の行動に影響を及ぼすケースもみられるようになってきている(BOX 図表 4-3)。』

『こうした中、各金融機関が、日本銀行が提供している資金需給に関する情報(日次・月次の予想など)を積極的に活用し、その動向をより精緻に把握することが可能となれば、それぞれ資金調達・運用のタイミングを最適化し、より効率的な裁定取引を行えるようになる可能性がある。』

とは言え「マイナス回避の資金放出」と「ゼロ金利枠を使った裁定」という形なのでこれが市場なのかというとそれはそれで微妙で、疑似市場みたいな感もありますけど。


・GCレポについては期待しているのは分かるのですが

本文25ページからの『BOX5 レポレートと無担保コールレートの関係』もレポ市場への気持ちが籠っているなあとは思うのですが・・・・・・・・・・・

『レポ市場とコール市場は、主な市場参加者や担保の要否などに違いはあるが、いずれも主要な短期金融市場であり、かねてよりGCレポレートと無担保コールレートの間には相関関係が存在していた。マイナス金利の導入当初、こうした関係は一旦崩れていたが、2016 年半ば以降は再び相関が強まっている(BOX 図表 5-1)。これについては、日銀当座預金の三層構造のもと、金融機関間の裁定取引がレポ市場、コール市場の双方で活発に行われていることが背景にあると考えられる。』

ということで、

『もっとも、レート水準に目を向けると、マイナス金利の導入以降、レポレートとコールレートの水準は乖離する傾向が続いている(BOX 図表 5-2)。こうした乖離の要因としては、担保プレミアムの存在と、信用プレミアムの存在が挙げられる。』

『まず、担保プレミアムについては、日本銀行が大規模な国債買入れを継続する中、海外投資家が為替スワップ取引を介して国庫短期証券や短中期ゾーンの国債の購入を積極化したこともあって、全般的に担保債券の調達コストが上昇している。こうした中、資金調達主体の中には、担保を要しないコール市場を選好する動きもみられ、コールレートはレポレートに比べて高止まりやすくなっている。また、信用プレミアムについては、マイナス金利の導入以降、コール市場における資金の取り手の範囲が、相対的に高い格付けを有する大規模な金融機関以外にも広く拡大したことが、コールレートの上昇につながったと指摘されている。』

ということでGCレポ市場に関しては引き続き「有担保の資金取引市場」として日銀が期待しているのは分かるのですが、アウトライトT+1になった後にGCレポT+0の市場がどどーんと出来てそれが活発になるという期待をしていると思われるのですけど、ど〜見てもそれは難しいのではないかという気がする。という話はまーたアウトライトT+1への悪態になるので詳しくは別途なのですけど。


・中期輪番をスキップして金利が跳ねた件に関しては黒歴史の中に封印された模様(^^)

本文42ページからの『(2)長期国債の買入れ:残高増加目標と長短金利操作』に参ります。

最初の方を飛ばしまして本文43ページの途中から。

『国債買入れの実施状況をこの間の金利動向とともに振り返ると、まず、長期金利操作目標である 10 年物国債金利は、9月の金融政策決定会合直後に一旦低下したが、9月 30 日に長期ゾーン(5年超 10 年以下)のオペを減額(4,300→4,100 億円)した影響もあって上昇に転じ、10 月中は、概ね▲0.1〜0.0%程度のレンジ圏内で安定的に推移した。』

『その後、10 年物国債金利は、米国大統領選後の 11 月中旬にプラス圏に浮上し、1月下旬には 0.09%付近まで一段と上昇した。こうした中、1月27 日には、長期ゾーンのオペを増額した(4,100→4,500 億円)。さらに2月3日には、午前中に利回り入札方式のオペを実施したあと、10 年物国債金利が一時 0.15%まで急上昇したため、同日午後、10 年債を対象とした固定利回り(10 年新発債で0.11%)の指値オペを実施した(オファー額は無制限とし、実際の応札額は 7,239億円であった)。その後も日本銀行は、2月6日(2月3日から2営業日連続)と8日に、立て続けにこのゾーンのオペをオファーしたほか、10 年物国債金利が落ち着きを取り戻す中にあっても、年度末にかけて 4,500 億円のオファー額を維持した(図表 4-7)。』

でもって中期ですが、

『短中期ゾーンの金利(2年物、5年物国債金利)は、11 月初までは比較的安定していたが、米国大統領選後の 11 月中旬に急速に上昇した。このため、11 月 17 日、日本銀行は、2年債と5年債を対象に最初の指値オペを実施した(オファー額は無制限とし、実際の応札額はゼロであった)。』

だいたいオペ増額をすっ飛ばして最初にこの空砲指値をやった辺りからコミュニケーションがおかしくなってきたのですが。

『一方、12 月以降は、オペの落札レートが市場実勢利回りを下回るケースが続くなど、タイトな需給環境のもとで金利が低下傾向を辿ったことから、2017 年1月については、月間のオファー回数を前月の6回から5回に減らした9。』

お、おぅ・・・・・・・・・・・・・

『それでもなお、このゾーンの需給はタイトな状況が続いたため、日本銀行は、3月入り後、1回当たりのオファー金額を段階的に減額した(1年超3年以下:4,000→3,200→3,000 億円、3年超5年以下:4,200→4,000→3,800億円)。』

確かにそうなのだが金利が飛んだ話がスルーされているのはまあ気持ちは分かるがもにょってしまう。


・要素の話はしない方がいいと思う

でまあこのオペの話ですが、このコーナーのケツの方にこんな記載がありましてですな、

『このように、日本銀行は、2016 年9月以降の約半年間、長短金利操作という新たな枠組みのもとで、オペ運営に関する様々な経験を蓄積してきた。上述のとおり、2月末に公表した月次の「運営方針」から、主軸の3ゾーンについて、翌月のオペの実施日を事前に公表することとしたが、これも、この間の経験を踏まえ、市場における過度な金利変動を回避し、金融市場調節方針をより円滑に実現するためには、オペの回数およびタイミングに関する透明性を高めることが有効と判断したためである。』

まーこの間すっかりオペが予見可能になったのと、一々細かく動かなくなってミスコミュニケーションが無くなったのが大きいのであって・・・・・・・・・・・

『その一方で、2月末からは、「運営方針」において示すオファー金額はレンジのみとし、翌月初回のオファー金額の公表は取りやめることとした。もとより、長短金利操作のもとでは、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促すよう、オペの金額は、その時々の市場動向に応じて柔軟に調整される。』

それは理屈の上ではそうなのですけど、

『実際、毎回のオファー金額の決定に際しては、金利水準だけではなく、金利変動の方向やスピード、ボラティリティ、あるいは金利変動の背景、それまでのオペの結果など、幅広い要素を総合的に勘案している。必要であれば、指値オペを実施することもある。その結果、2016 年9月以降における国債の月間買入れ額は、数兆円単位で増減することとなった(前掲、図表 4-6)。』

という事なんですけど、この「水準、方向、スピード、ボラティリティ、変動の背景」とか言い出すのはあまりコミュニケーションとしては宜しくなくて、こういう言い方をすると「今回変更したのはこのうちどのファクターなのか」とか「じゃあこのファクターがこうなっているのだから次はこう動くに違いない」とか市場は連想というか妄想を逞しくしてしまいます。たまたま足元では殆ど動かない状態で、日銀の買入も中期を超長期が何となく減る方向だけど慎重に減らす感じですよねえという方向性だけは市場のコンセンサスな認識になっているし、まあ日銀もその通りに動いている感じですから予見可能性が高まった挙句に高まり過ぎてウゴカンチ会長相場になっていますが、まーたどちらかに動くような事になって来ると同じようなミスコミュニケーションが起きそうな悪寒はするのでした。


ということで他にも面白いのがあります(話の展開上今日は飛ばしましたが3層構造の所とか物凄く良く説明されている)ので続きは明日以降にでも。





2017/06/05

お題「市場世間話/原田審議委員会見から」

いやー平均株価2万超えましたな〜と思ったわけですが。

http://jp.reuters.com/article/japan-stock-nextweek-idJPKBN18T0L9
News | 2017年 06月 2日 15:40 JST
来週の日本株は上値重い、2万円回復で達成感 SQ週の波乱も警戒

まあ時間的に金曜の午後なんで雇用統計は入っていないとは言え、達成感とか警戒とかいうコメントを見るとフラグに見えてしまうのですが気のせいですかねえ。

○と言いつつ市場雑メモ

・という中でも債券市場ェ・・・・・・・・・・・・

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1IZ2BA
Markets | 2017年 06月 2日 15:20 JST
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が横ばい、長期金利変わらず0.050%

いやまあ株高のネタが金融正常化遅れるというネタというのはあるのですが、それにしましても平均株価節目(まあ意味があるのかというとそれは別ですけど)抜けてもこの安定のウゴカンチ会長。

『長期国債先物は横ばい。日経平均株価が2万円台を回復して上昇幅を急拡大する局面では軟化する場面があったが、長期ゾーンを対象にした日銀オペの結果が無難だったことで買い戻しも入った。1日の米債安の影響は限られた。現物債は超長期債金利の振れが目立った。来週の30年債入札を前にした調整で金利に上昇圧力がかかる一方で、終盤にかけては国内銀行勢とみられる押し目買いが入り金利は低下基調になった。長期ゾーンは先物同様に日銀オペ結果を受けて底堅さをみせた。中期ゾーンはポジションを調整する動きがみられた。5月の米雇用統計の発表を控えて模様眺めとなる市場参加者もみられた。』(上記URL先より)

つーことで超長期確りですし、と思ったら雇用統計もこの調子。

http://jp.reuters.com/article/idJPL3N1IZ4WV
Markets | 2017年 06月 3日 06:08 JST
米金融・債券市場=利回り低下、雇用統計受け下期のFRB引き締め観測が後退

これで6月利上げ見送ったらいつぞやの再来になるのでさすがに6月上げてくるのでしょうし、とは言いましても現状のFEDのスタンスだとすると金融市場が堅調に推移していたら正常化路線を継続したいという感じ(まあ今後徐々にそれに対するのが出てくるのかもしれませんし、6月FOMCの後にどういう情報発信が出てくるのかを見たい面はあるけれども)なので、市場とのコミュニケーションギャップをどう埋めていくのか(まあこの調子だとどちらかが間違っているという話になるのでギャップも蜂の頭も無いのですけれども)という所で、FOMCの後から色々とあるのでしょうかね、よー知らんけど。

でまあ米国がこの調子ですと円債は益々動かん・・・・・・・・・・・・・・


・短期輪番増額はまあニーズがあるということで

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/of170602.htm
国債買入(残存期間1年以下) 1,000 2017年6月6日
国債買入(残存期間1年超3年以下) 2,800 2017年6月6日
国債買入(残存期間3年超5年以下) 3,000 2017年6月6日
国債買入(残存期間5年超10年以下) 4,500 2017年6月6日

短期輪番ここで打ち込んできましたかという所ですが、案の定レンジの中心の1000億円というオファーになりましたが、応札の方が・・・・・・・・・・

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba170602.htm
国債買入(残存期間1年以下) 5,325 1,005 0.045 0.049 66.6

ということですが、前回の短期輪番が19日に行われていてこの時も応札5,772億円(買入は700億円)で4.2甘足切の4.5甘平均になっていまして、その前が8日に行われていて応札が5,986億円で足切4.1甘、平均4.8甘とかで、レート自体は毎度こんなもん(というか短い所の引値ェ・・・・・という気もするが)ですけれども、毎度毎度このロットで応札入ってくる訳で、まー短い所って捌けない所に来て6月償還ありますからねえ。

この辺りに関しては一時期は短国超逼迫して利付にも波及してという事もありましたが、まあ日銀の短国買入が減ってきたのが色々と影響しているんでしょうな、と思いますけどそもそもの水準がおかしかったのでこれはこれで良い傾向だと思うのですが、お助け増額を微妙に入れてくる辺りが面白いなと思います。お助け以外に意味があるとも思えんけれども。


○金融政策と関係なさそうでメッセージ性もありそうなレポートが出てきた件(さくらレポート別冊)

http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rerb170602.pdf
さくらレポート別冊 「各地域における女性の活躍推進に向けた企業等の取り組み」 [PDF 1,684KB]

表紙の下にこんなのが。

『【「地域経済報告」(さくらレポート)別冊について】

日本銀行では、本支店等が、日頃、企業ヒアリング等を通じて行っている各地域の経済金融情勢に関する調査の結果を、「地域経済報告」(さくらレポート)として、支店長会議の機会ごとに取りまとめている。

「地域経済報告」(さくらレポート)別冊は、地域経済の構造問題に重点を置いたテーマを中心とした調査であり、足もとの景気情勢に焦点を当てている「地域経済報告」(さくらレポート)を補完するものである。公表は、原則として年2回を予定している。本別冊では、「各地域における女性の活躍推進に向けた企業等の取り組み」について整理した。また、補論として、「各地域における高齢者の活躍推進に向けた企業等の取り組み」についても取りまとめた。』

こちらですが、『(別冊 地域の視点)』とありますように、
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer170410.pdf
地域経済報告(さくらレポート、2017年4月) [PDF 1,327KB]

従来は毎回のさくらレポートの中で「地域の視点」というコーナーがあって、何となく金融政策に絡みそうなネタ(住宅投資とか消費について)の場合とそうでない場合の時があるのですが、上記の説明にありますように、今後は「地域経済の構造問題」をネタにした方式で2回に1回出てくるという流れになるようです。

・・・・・・・・とは言いましても、今回のテーマって地域経済の構造問題と言いつつも、物価目標達成の為に金融政策一本槍はもう無理なので、金融政策は金融政策で長期的に緩和政策を続けて経済がコケないようにするけれども、そもそも物価上昇力を強める為には成長力の強化が必要ですから、という隠れたメッセージがあると思ったのですが考え過ぎでしょうか。

なお、中身は読み物としては興味深いのですが目先の金融政策全然関係ないネタなのでパス。


○ジンバブエ大先生の会見である

金曜の金懇挨拶へのツッコミは最初に不毛と断ったのにもかかわらず割と読者様に好評でございまして誠に有りがたき幸せなのですが、残念ながらここまで来るともはやネタ以外の価値がないという代物であります。

でもって金曜の最後にもちらっと書きましたが、これに対して同じ枠で入っている筈の櫻井審議委員の先般の金懇とその後の会見での受け答えというのが、同じリフレ派の筈だったのにすっかり道を違えてしまっていまして、まあ大体執行部の意向をモロに受けた見解を話している、という意味でポイントになりそうですので、ジンバブエ先生のは「これまでのリフレ派の見解」という奴だと思って読みつつ、先週ネタにした櫻井さんのと比較する(ここではしませんけど)と宜しいのではないかと思います。ということでネタコーナーになりますが会見鑑賞をば。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1706a.pdf

・出口戦略の質問だが結局日銀の債務超過の話になる

最初は「どういう話がありましたか」となるのですが、最近は「当地の経済について」という質問が更に来るようになっている事が散見されるのが金懇会見でして、「当地の経済について」という想定問答が確実に作れて安全な答弁が期待できるのですが、当地の経済に関する質問が色々と出てくる会見は誰のでしょうかと確認すると以下お察し。

『(問) 出口戦略についてお伺いします。午前中の講演でも触れていますが、改めて、出口における日本経済への悪影響を指摘する声に対して委員のご意見を伺います。』

これ単発でやったら無駄な質問(そもそも出口に行くのは経済が良い時なのだから)なのですが、以下話が続くのでまあ勘弁ですかね。総裁会見などでこういう質問をするのは勘弁して欲しいですけれども

『(答) 出口戦略というのは、現在行っている金融緩和が成功し、物価が 2%を達成するめどが得られたときに金融緩和の縮小を行うということです。それをどのような速度で行うのかは、物価上昇のモメンタムによりますので、一概にお答えすることはできませんが、基本的には、付利を引き上げる、あるいは、日本銀行が買っている量を減らす、ということを組み合わせて行うものと考えています。』

そらそうよ。しかしこの後の説明が相変わらずおかしい。

『出口の副作用については、基本的に副作用はなく、景気が十分に良くなって金融緩和を止めるのですから、経済は良い状況が続いているわけです。』

そもそも「出口の副作用」というのが意味不明で、出口政策の際にきちんと金融緩和を止めることが出来るのか、という問題と、別の形で出口に向かわざるを得なくなる、すなわち財政に対する信認などのような形での財政インフレ的な事が起きた時に日銀は対処できるのか(できなければダブルデイジットのインフレの中景気が良くないとかいうような昔の英国チックな事になるんじゃネーノと何となく直感的には思う)という話であって、この場合はそら「金融緩和をきちんと止める事ができるのなら」さほどの大問題にはならんじゃろ。

『心配する方は、金利を上げていく過程で、日本銀行は、一方では超過準備に付利している金利を引き上げ、また一方では既に持っている国債の金利は低いままですので、短期的に赤字になる可能性があることを心配されているのだと思います。ただ、それはあくまでも短期的なものであって、金利が上がるので、最終的には日本銀行が高い金利の国債を買って、そこから高い利息収入が得られるので、長期的に考えれば日本銀行の財務の健全性に悪影響を及ぼすことはないと考えています。』

という答えなのですが、金曜も突っ込みましたように「そもそもインフレが加速しないように金融緩和を止めるのだから、その間は日銀は国債を購入しないのであって、「高い金利の国債を買ってそこから高い利息収入が得られる」という理屈が成立するのがいつの話なのか、というツッコミをしないといけないのだ。

『(問) 短期的に赤字に陥る可能性があるというお話ですが、その期間、赤字になっていることの悪影響については、どのようにお考えでしょうか。』

うーんそうじゃないんだよな。

『(答) 短期の期間がどのぐらいなのかは、物価上昇のモメンタムにもよりますので一概にはお答えできませんが、物価が上がる状況になれば当然金利も上がってきますので、ある段階から、日本銀行の保有している国債が高い金利のものに入れ替わるということが容易に予想できるようになります。仮に赤字になるとしても、それは短期的であって、将来的には日本銀行の収益がより改善すると予想できるようになりますので、問題が生じることはないと思います。』

短期的というのを強調していますが、そもそも物価上昇が過熱しないようにするために保有の国債を不胎化する期間って本当はどのくらいかかるの?という辺りを突っ込まれると結構説明が苦しくなる筈なのですから、こういう答え方をするのも間抜けな話なのですけれども、たぶんこれ答えている原田さんの方がこの点を理解していなくて、「入れ替わるのだから問題ない」と思っている節があると思う(だからこんな無防備な説明をする)。


・これは吹いた

『(問) 先日、国会で片岡剛士氏の審議委員就任が承認されました。片岡氏は国債の買入れ量を重視し、日銀が量から金利重視に転換したことに対して批判的です。片岡氏が今後国債の買入れ量拡大などを決定会合等で主張してきた場合、委員は賛同するようなお考えはあるのでしょうか。』

いや確か最近の片岡さんはマネタリーベース芸人から財政芸人になっている(ので日銀審議委員になって何が出来るのと思うのだがそれは兎も角として)と思う。

『(答) 審議委員は自身の見識に基づいて自由に意見を述べるのですから、それについて、事前に、おそらくこういうことを言うだろうからその時に私はこう考えると申し上げるのは、如何なものかと思います。』

そらそうだ。

『今後は政策委員の議論が活発でなくなると問題視している方がおられる中で、ご質問のように議論が活発になると言ってくださるマスコミの方がおられるのはありがたいことだと思っています。』

「議論が活発になると言ってくださるマスコミの方がおられるのはありがたいことだと思っています」っていうのは片岡同士(結構この片岡さんってのも原田大先生チックで言い方とか極端なのでジンバブエ2号になる可能性もあると思う)が来ると議論が活発になる、つまり実は櫻井さんのあの金懇を見ると思うのですが、議論の中でジンバブエ先生一人で浮いている(そらまああの金懇の原稿みればそもそも会話が成立し得ない人だと思えますし)のかも知れないなあ、と思って読んだら吹きました。


・質疑応答が会話になっていない部分の鑑賞

『(問) 足許の物価が十分に上がっていないということで、国債の購入量を拡大することが物価を上げていくことだというのがリフレ派のそもそもの主張だったのではないかと受け止めていますが、これについてのお考えを改めてお伺いします。』

『(答) 現在行っているイールドカーブ・コントロールによって、物価を上げていく効果を十分期待できるので、外的な環境が大きく変化しない限り、これを続けていくことが、現在なすべき政策としては必要で、これにより 2%の「物価安定の目標」を達成することができると考えています。』

会話になっていない・・・・・・・・・・

『それはなぜかというと、まずはイールドカーブ・コントロールによって、イールドカーブが寝過ぎることでかえって誤った期待が生じてしまうということが改善されるということ、それから、景気にポジティブなショックがあった時に、景気の回復を増幅するように動くことが考えられます。』

あんさん講演の方では実質金利が下がりましたって効果の説明してたやん。

『また、80 兆円のめどがついていることによって、ネガティブなショックがあった時にも、そのネガティブなショックを弱める機能があります。』

??????????????????

基本的に金利を操作変数にしていて量を従属変数にしていると、金利が下がったら買入が減って金利が上がったら買入増えるんですが。

『その結果、雇用状況は改善していって、やがてフィリップス・カーブのL字の局面の方に近づき、2%に向けて物価は上昇していくと考えられ、今の政策を続けていくことで、2%の「物価安定の目標」を十分達成できると考えています。』

しかもいきなりそれがアプリオリに雇用状況が改善すると話が飛んでしまうのがワケワカラン。


・80兆円めど文言はまあどうでも良いのだがそもそもの理解が変

『(問) 先程、80 兆円のめどがあるので、ネガティブなショックを弱めると言われましたが、ここ何か月かで国債の買入れが 80 兆円から上がったり下がったりしています。市場では以前ほど 80 兆円のめどをなくしてもあまり気にするような声は聞かれないと思うのですが、委員は 80 兆円のめどを修正することに現状では必要性はあまり感じられていないのでしょうか。』

アタクシも放置しておけばという風に思いますけど。

『(答) 今はネガティブなショックがあるわけではないですが、長期金利をゼロ%程度にするということが目標です。大きいネガティブなショックがあれば自然と金利は下がってしまいます。金利が下がったときに、全く買わなくてもゼロ%程度になっているのだから構わないということになれば、景気が悪くなっているにもかかわらず何も反応しなくても構わないということになります。』

えーっとそういう事なんですけど(ただし何も買わないで0%というのはさすがに無理があるので結局買う事になる筈)。

『しかし、80 兆円のめどがついていれば、ネガティブなショックがあって、その結果、金利が下がっているのだから、何とかしないといけないと当然反応するわけで、80 兆円のめどがついていた方が安心であるという意味で重要だと考えています。』

・・・・・・・・その場合は誘導目標金利の引き下げなり、市場の流動性などに問題が起きているのであればQE1チックな資産買入を行うなりという事をするのであって、80兆円云々は全然関係ない話になるのですが、いつまで経っても理解しませんねえ。


・3層構造の質疑が・・・・・・・・

将来の(ちゃんとした方の)出口の場合の利上げに関する質疑の後にこういう質疑が。

『(問) 現在、3 段階の階層構造で付利を行っていると思いますが、付利というのは、どの部分のことを指しておられるのでしょうか。』

『(答) 超過準備のところです。』

『(問) それは+0.1%の部分を一本にするということですか。』

『(答) そうです。


うーんこの。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf
2016年1月29日
日本銀行 本日の決定のポイント

という所に3層構造の話があるのですが、+0.1%って基礎残高で、▲0.1%が政策金利部分で、マクロ加算部分が0%、さらに正確に言えば基礎残高部分の一部が所要準備でこれは0%となっているので、質問する方も答える方も何か微妙な質疑に出来上がっている気がする。

なお、超過準備全部に付利しないといけないのか、一部は付利しないで良いのかという話は考えると頭がウニになるので後日。




2017/06/02

お題「主張の是非以前の問題なので読んでて情けなくなってきますよ(原田審議委員岐阜金懇挨拶)」

焦点は今月の話ではなくてその先の話だと思うのですが。
http://jp.reuters.com/article/usa-fed-powell-strongly-suggest-hike-idJPKBN18S5GJ
Business | 2017年 06月 2日 02:01 JST
米FRB理事が月内利上げ強く示唆、「経済想定通りなら適切」

という中でございますが本日は大体皆様ご想像の通りのネタを。

○そもそも主張の是非以前の中身というのが実に残念なジンバブエ大先生

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170601a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko170601a1.pdf
わが国の経済・物価情勢と金融政策
── 岐阜県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──

ということで原田大先生の岐阜金懇なのですが、最後に『ご清聴、ありがとうございました。』ってありますがこんな話を聞かされた岐阜県経済界の皆様におかれましては同情の念しか湧きません、いやマジで。


・最初から説明になっていなかったり日本語の用法が変だったりするのだが

マクラの所ですが。

『その結果、経済は好転しています。内閣府の景気基準日付によれば、景気の改善は、2012年11月の景気の谷以来、この6月まで連続55か月続いています。また、日本銀行は、2017年4月には、景気判断を一歩進め、「緩やかな拡大に転じつつある」としています。景気が良くなっていると言っても実感がないとおっしゃる方がおられるのは分かりますが、雇用を見ても改善しているのは確かです。』

実感がないとおっしゃる方がたくさんいるならそれは本来の政策目的としての国民厚生の改善が出来ていないのではないでしょうか、というのは兎も角として次が日本語の用例おかしいと思うんだが。

『本日は、日本銀行が行っている金融政策について説明し、それがどのような成果を上げているのか、また、巷間言われている大胆な金融政策の危険と言われている議論をどう考えたらよいのかについてお話ししたいと思います。』

>巷間言われている大胆な金融政策の危険と言われている議論

えーっと何か日本語としてのつながりがおかしいんですけど、というのもそうですが、そもそも「危険」とかいう話ではなくて「効用と副作用を比較衡量した時に副作用が大きくなっているのではないか」という話なんですけど、それを「危険」とか極端な言葉で表現する、というのが対立する見解に対して極端なレッテル張りをするという絵に描いたような詭弁のガイドラインでして、まあこの時点で大体見るに耐えない話が展開されるのが想像されますがその通りの内容になっております。


・政策効果を比較する期間の切り方が恣意的だったり説明がダメだったり

『1.金融緩和の手段』というところで色々と効果の説明をしているのですけどね。

『2013年になってから、日本銀行がどのような金融政策を行ってきたかを表1で整理しています。(なお図表はPDFの方でご確認ください)このような政策を行った結果、金融関連の指標がどのように動いたかを、2つのグラフで見てみたいと思います。』


『図1に見ますように、日本銀行が直接コントロールできるマネーであるマネタリーベースと日銀当座預金残高の量は2013年4月から急激に増加し、それに応じて、マネーストックも貸出も伸びています1。』

って話なんですけど、これ何が凄いって色々な点で恣意的に切っていることでして、まず期間を切る時点が2013年でQQE前と後という比較になっているのですが、M2は兎も角として貸出って金融政策の波及タイムラグ考えたらそこで比較するのはおかしいんですよね。

さらにもっと酷いのは、このグラフの方を見ていただければ分かるのですが、貸出って別に2013年を境に急に伸びを高めている訳ではなくて、その前から上向きになっているのですが、「QQE前」「QQE後」という比較を入れて『貸出:QQE前 年率−0.3% QQE後 年率+2.5%』とあるのですが、「QQE前」のスタート時期が2000年になっていまして、それは金融機関の貸出縮小、民間部門のデレバレッジングが終わっていなかった時期からスタートして計算しているんだから、それは差が出たように見えるだろというお話であって、比較する時期を恣意的に切っているのが詭弁のガイドラインに見事に刺さっていて落涙を禁じえません。

まあそれにしても日銀当座預金を何倍の規模で拡大させてM2が年率+2.8%→年率+3.7%にしかなっていないんですけどね!!!!!

『次に、図2に見ますように名目金利の低下と予想物価上昇率の上昇によって実質金利(名目金利−予想物価上昇率)は大きく低下しています。』

とあるのですが、これまた図2を見ますと、予想物価上昇率ってQQE直後に上がりましたけれどもその後下がっていて「予想物価上昇率の上昇によって」というのがそもそも説明としておかしい。

でもって効果の説明がこれですよ。

『実質金利が低下したことで、投資が刺激され、株価が上がり、為替が減価しました。株価の上昇は、さらに投資を引き上げ、豊かになった家計は消費支出を拡大します。つまり、これらのチャネルを通じて実体経済が好転しているのです。』

なお図表での説明は無い。

『しかし、残念ながら、このような金融政策は危険という声があります。』

何でこういう風に話が飛ぶんだろう。というかこれスタッフチェックしているのかよ幾らなんでも酷いだろ政策委員会室と企画局何やってるんだよ。

『すなわち、いくら金融緩和をしても何も起きないのだが、ある時急にハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落する、などという議論があります。また、低金利が銀行経営を圧迫し、かえって銀行の金融仲介機能を阻害し、金融緩和効果を阻害する、または利益減少に直面した銀行がかえって過大なリスクを取ることになって、金融システムの安定を脅かすことになるという議論があります。』

『しかし、そもそも、何か行動を起こせば、必ずリスクはあるものです。リスクがあるとしても何か行動を起こすのは、それによって何らかの成果が得られるからです。そして、成果はありました。リスクについては、後に詳しく検討するとして、まず成果を見てみましょう。』

暫く前には「副作用は無い」って言ってませんでしたっけ???まあしかし無茶苦茶なのですが、その次に行きましょう。


・色々と説明がメジャーリーグ殿堂級のアレなのですよ・・・・・・・・

次が『2.大胆な金融緩和政策の成果』ですが、そもそもさっきあるように効果の説明が期間の切り方が恣意的という話をさておきまして更にツッコミどころがあるというのがお洒落でございまする。

『図3は雇用と失業率の動きを示したものです。雇用のうち、増えるのは非正規ばかりだと言われていましたが、2017年から、パート雇用比率(パート雇用者数/全雇用者数)が頭打ちになっています2。』

そりゃ無限に増えないでしょ・・・・・・・・・・・・

『また、失業率が大きく低下しました。図に(原文ママ、図3です、というかスタッフチェック入れろよ)見るように、1990年代の末には失業率が5%となり、2000年代になると日本の構造失業率は3%台半ばだと言われるようになりました3。日本の構造失業率3.5%という数字は、失業率をそれからさらに下げるような金融政策を行ったら、インフレになる、バブルになるなどのことが起きるから、そのようなことをしてはいけないという文脈で一部には理解されていました4。』

別にいけなくはないでしょ。構造失業率を下回る失業率を続けるというのは経済を過熱させることになるから注意しましょうね、という話は概念的なものであって、構造失業率自体がそもそもリアルタイムで計測不能なのですから、その概念からすると物価動向とか賃金動向とか見て行きましょうという話じゃないのかね。

『ところが、今や失業率は2.8%です。インフレにもなっていませんし、バブルも起こっていません。』

そう威張られても困る訳で、あんさんインフレ目標政策やって物価上がると景気が良くなるって話をしているんじゃないでしたっけ。

『構造失業率が3%台半ばだという議論は、構造失業率を下回ったところでインフレになると理解したら、誤りだったということです5。』

そこは威張る所ではないし、自然失業率が下がっている以外にも、いわゆる賃金版フィリップスカーブがフラット化しているかも知れないし、大体からして自然失業率が下がっている要因として人口動態だってあるでしょうし、何を言っているんでしょうかという所ですがこの次がまた頭クラクラしてくる。

『量的・質的金融緩和は2013年4月からはじめた訳ですが、もっと前からはじめていたら、日本の失業率はずっと3%以下を維持できたに違いありません。』

理由を述べよ。

『1990年代半ばから2012年までの失業率の平均はおおよそ4%台半ばですから、2%弱の差があったということになります。すなわち、労働者の2%弱が職を得ることができなかったのですから、GDPのレベルは平均的に2%弱低かったということです。』

????????????

『GDPの低下幅は、さらに大きかった可能性があります。と言いますのは、失業率の1%の上昇は、GDPを1%以上、引き下げるからです。』

?????????????

『なぜなら、不況になって生産が減少すると、企業は生産の減少ほどには雇用を減らさず、維持しようとするからです。また、不況になると就業意欲が低下して、求職する人が減って、失業者が減少し、雇用が減ったほどには失業率が高まらないからです6。』

最早何を言っているのか分からないのですが、雇用が維持されるんだったら失業増えないし、何で不況になると就業意欲が低下するのかさっぱり分からんのですが、こんなの学生相手の授業でも生徒が逃げ出すだろうと思うのに岐阜県経済界の重鎮の皆様におかれましては苦痛に耐えて良く頑張った!感動した!!という感じであります。


・と雇用の話ばかりしているのに急にインフレ目標の話になる

でまあその後も雇用が増えた方が良いという話を延々としているのですが、その辺りはちょっと飛ばしてその直後にいきなり謎の説明が開始されます。

『もちろん、金融緩和で労働需給の逼迫状態を続けるべきという高圧経済論を信じすぎれば、インフレの兆候があるのに引締めが遅れ、許容できない高いインフレを招いてしまうかもしれません。』

さっきはインフレにならないと仰せだったと思うのですが(なお後でまたツッコミどころが出てくるのでここは良く覚えておきましょう)。

『私は、高圧経済論が正しいのではないかと思っていますが、実際の金融政策運営においては、2%のインフレ目標を優先して、さらなる雇用の改善や成長率の高まりは、できたら望ましいもの程度に考えて行うべきものと考えています。』

・・・・・(;゚д゚)

えーっとすいません、今しがたまで(なお引用割愛していますがPDFだと1ページ分位掛けて雇用改善のアピールをしています)雇用が改善したのが金融緩和の効果という話をしていた筈なのですけれども、いきなり何を仰っているのでしょうか。

なおこの後財政が好転しているという話をしているのだが面倒なので割愛。


・藁人形論法の説明なのだが色々とおかしいというツッコミ

次が『3.量的・質的金融緩和政策の危険とは何か』という所ですが最初から乱丁があります。

『量的・質的金融緩和政策が成果を上げていることは確かなので、さすがに、金融政策に対する批判は、今は起きていないが、将来大変まずいことが起こるかもしれないから危険だという議論になってきました。』

昔からそういう批判なのですけど。つまりこの政策累積していくと効果が逓減する代わりに副作用が拡大し、それが顕在化するのに時間が掛かるから気が付いたらヤバい事になるんじゃないの、という話なのですが、まあこの人に普通の理屈は通用しないのでそこは気にしないことにしておく。

『私は、このような議論を岩石理論と呼んでいます。岩石理論とは、図5にありますように、坂に大きな岩があって道を邪魔している。しかし、岩を動かそうとすると、なかなか動かないのだが、いったん転がりだしたら止まらない。だから、岩を取り除かない方がよいのだという議論です。』

ってあるのですが、図5というのがPDFの方にありまして、そちらにある絵も大概におかしいのですけれども、そこの説明って、

『岩石理論=坂にある岩をいくら押しても動かないが、動き出したら止まらない。だから、岩は動かそうとしない方がよい。


ってあって、説明が噛み合っていないのですがスタッフチェック頼むから入れてよ。


と、本論に入る前に既に頭がクラクラするのですがその次。

『金融政策に話を戻すと、いくら金融緩和をしても何も起きないのだが、ある時急にハイパーインフレになる、金利が暴騰する、円が暴落するから金融緩和はしない方がよいという議論です。私は、岩石論者が主張するような危険は生じないと考えています11。』

何で起きないのかの根拠が示されていませんが、それよりもつい先ほど『もちろん、金融緩和で労働需給の逼迫状態を続けるべきという高圧経済論を信じすぎれば、インフレの兆候があるのに引締めが遅れ、許容できない高いインフレを招いてしまうかもしれません。』って話をしていた筈なんですが記憶力大丈夫なんでしょうか。

『岩石論者による批判は、現在、金融緩和の出口の危険岩石理論に収斂してきたように思えます。』

「金融緩和の出口の危険岩石理論」って何だよそれ。

『これは、ハイパーインフレも円の暴落も起こりそうになく、批判しても世間に受けないと岩石論者が考え出したからだと私は思います。』

まあ藁人形を妄想しているので仕方ありませんな。確かにトンチキな批判をするのもいますけど。


・出口政策に関する説明が残念ながらハチャメチャな件について

でもってこの先の出口に関する説明が無茶苦茶なのですよねー。

『出口とは、金融緩和の結果、物価上昇率2%の達成が見えるようになるので、金融緩和を止めて金利を引き上げ、マネタリーベースを縮小するということです。考えてみますと、出口の危険岩石理論とは、金融緩和の結果、物価が上がり、金融を引き締めなければならない状況になるということを前提としています。ですから、いくら金融緩和をしても何も起きないという議論ではないわけで、量的・質的金融緩和政策の成果を認めた議論です。私としては、成果を認めていただけただけ、歓迎すべき議論だと思います。』

止められなくなるという議論なんですけどね、まあ勝手にどうぞ。

『出口では金利を上げなければなりませんが、その方法として、現在日本銀行が行っているマイナス金利政策を取りやめて、超過準備に対する付利を引き上げる、または、日銀保有の国債を売却する、の2つの方法が考えられます。出口政策について、現時点で決まっていることは何もありませんが、この場の議論としては、付利の引き上げで考えたほうが分かりやすいと思いますので、これで説明いたします。』

という前提になっているのですけれども・・・・・・・・・

『出口の危険岩石論者によりますと、日本銀行が付利を引き上げていっても、過去、日銀が購入した国債の金利は低いままですから、日銀の収益が大変な赤字になるというのです。確かに、高い金利を払いながら、低い金利を受け取るのですから、赤字になる可能性があります。』

『この結果、日銀の収益が赤字になれば、通貨の信認が失われ、ハイパーインフレ、円の暴落、金利の高騰が起きるというのです。』

と相変わらず批判の一部だけしか見ないで説明しているのですが、中銀が過大な期間損失を計上するようになる、という時点で、それが財政に対する信認に飛び火するとか、あるいは期間損失の問題を回避する為にインフレ抑制力が弱くなるのではないかとか、そいう意味での信認問題になった場合、マネタリーな現象云々というようなある意味リニア(実際はマネタリーベース直線理論が全然効いてませんが)な話ではなくて、信認というノンリニアな問題が起きると止められないのではないか、というお話をしているのであって、そういう話に関してどう答えるかという話を求められるのですが・・・・・・・・・

『しかし、よく考えてみてください。そもそも、中央銀行の損益が赤字かどうかを気にしてお札を使う人がいるでしょうか。』

今莫大な赤字が出ている訳でもないなのに何で起きて見ないと分からないことを断言できるのでしょうか。

『また、中央銀行は、市中の国債を購入する代わりにお金、マネタリーベースを供給しています。今は長期国債でも利回りは0%近傍ですが、1990年代の中ごろまでは3%でした。実質経済成長率が高く物価も少しは上がっていたからです。物価が上がればいずれ金利も上がります。ということは、より高い利回りの国債を買えることになります。』

えーっとインフレを止めようとしたら国債買えないんですけど。

『もちろん、そうなるまで、低い金利の国債を持ちつつ、景気の過熱を抑えるために銀行に対して高い金利を支払わなければならないという局面があります。』

超過準備への付利でマネタリーベースを不胎化するというインフレ抑制策を「銀行に対して高い金利を支払わなければならない」と矮小化して銀行を悪者にするような説明をしているのが見苦しい。

『しかし、最終的には、ほとんどコストのかからない当座預金と現金とで高い金利を得られる国債を買うのですから、中央銀行は長期的にはかならず利益を得られます。日銀が長期的に損失を負うことによる危険など存在しません12。』

今の調子でバンバン国債を購入していくと、いざ物価が上昇した時に買った国債を不胎化する為に高率の超過準備付利を行う期間がドンドン長くなってしまうし、その損失額もドンドン増えるのですが、話を長期的にということで誤魔化してしまうと全く持って話にならないんですけど。

でもってこの後金融システムに関する説明も何が何だか分からないのだが段々嫌になってきたので物価目標が達成しない言い訳の方を鑑賞しましょう。


・物価目標未達の言い訳に関して

『4.物価目標はなぜ達成できていないのか』というところですけれども。

『以上述べましたように、金融緩和政策は効果を上げ、その危険と言われているものもほとんど意味のないものです。ここで、唯一一進一退の成果しか上げていないのが物価です。』

唯一ってさっき『実際の金融政策運営においては、2%のインフレ目標を優先して、さらなる雇用の改善や成長率の高まりは、できたら望ましいもの程度に考えて行うべきものと考えています。』って思いっきり一丁目一番地という話をしていたのですから、唯一これだけ成果が上がっていないとか説明がおかしいにも程がありますがまあ先に参りましょう。

『まず、物価の動きを見て、次に、なぜ2%の物価目標を達成できていないのかについて考えたいと思います。』

はあ。

『図6には、消費者物価の対前年同期比を見たものです。確かに、2%の物価目標の達成は道遠しの感があります。ただし、ここで消費者物価の基調をとらえるためには、除く生鮮・エネルギーの消費者物価上昇率で見る必要があります。エネルギー価格を含む除く生鮮の指数では、石油価格の一時的な変動の影響を受けてしまうからです。この指標で見て重要なことは、1990年代央以降、基調としてマイナスであった、除く生鮮・エネルギーの消費者物価上昇率が量的・質的金融緩和の導入以後、継続的にプラス基調の領域に転換したことです14。』

2%は???

『次に物価の動きを細かく見ていきましょう。まず、2013年4月の量的・質的金融緩和の導入直後、除く生鮮・エネルギーの消費者物価上昇率はマイナス0.5%程度から1%程度にまで上昇しました。その後、2014年4月の消費増税で上昇のモメンタムを失った後にも、量的・質的金融緩和の拡大でまた上昇に向かいました。しかし、2016年以降、再び低下してしまいました。ですが、後述するように、今後失業率の低下等とともにこれが再び上向くことが期待できると私は考えています。』

その根拠は???

『確かに、2%の消費者物価目標は達成できていません。また、景気が良くなっていると言っても所得の上昇はごくわずかで、実感がないというご意見も多いかと思います。日本銀行も、ただ物価が上がることがよいと思っている訳ではなく、経済が良くなった結果、物価が上がると考えています。』

えーっとすいませんさっきは『実際の金融政策運営においては、2%のインフレ目標を優先して、さらなる雇用の改善や成長率の高まりは、できたら望ましいもの程度に考えて行うべきものと考えています。』って言ってませんでしたっけ????

『つまり、デフレは経済を停滞させる悪いものだから、デフレから脱却して2%物価上昇率を達成すれば、経済も良くなると考えて政策を行っている訳です。』

・・・・・(゚д゚)

経済が良くなった結果物価が上がるのに、物価が上がらないのは経済を停滞させる悪いもの、という説明が論理破綻を起こしているのですけどスタッフチェックスタッフチェック、と言いたいですが多分スタッフチェックするとこの人の講演安宅の関の勧進帳状態になってしまうのでチェックが不能というのも分かります。

『そこで、経済の回復がそれほどでもなかったのはなぜか。2%物価目標を達成できなかったのはなぜかについて考えてみたいと思います。この理由として、日本銀行は予想物価上昇率の低下の影響が大きく、その低下は、1)(1)原油価格の下落、(2)消費税率引き上げ後の需要の弱さ、(3)新興国経済の減速とそのもとでの国際金融市場の不安定な動きが発生し、実際の物価上昇率が低下したこと、2)その中でも、もともと適合的な期待形成の要素が強い予想物価上昇率が横ばいから弱含みに転じたことが大きいと分析していますが15、その中で、消費税増税と世界経済の停滞について私の考えを説明させていただきます。』

ということですが正直何を言っているのか分からんが、途中の謎部分を引用しておく。

『なぜ、消費が伸びないのでしょうか。消費税の8%への引き上げとその後のさらに10%への引き上げがセットで予定されていましたので、人々はもう10%までの5%分の引き上げに対応したのだという説もあります16。そうすると3.5%分実質消費が減ってもおかしくありません。しかし、そう考えたトレンドを引いても、2015年末以降の消費はさらに低迷しています。さらに、人々は、すでに10%の消費税に対応しているという説が正しいとすると、次回、消費税を10%にまで引き上げても、消費に対する影響はわずかということになりますが、これはちょっと信じられないという気がします。』

お前の説明がワケワカラン。

でまあその辺はパスしまして、賃金が上がって物価が上がる筈という所で失業率版フィリップスカーブを持ち出しているのですよね。

『しかし、前掲図3で見た失業率の低下に見られる労働需給の逼迫は、賃金を上げ、やがて物価を上げるはずです。すでにその兆しも見られます。』

最初の方で『ところが、今や失業率は2.8%です。インフレにもなっていませんし、バブルも起こっていません。構造失業率が3%台半ばだという議論は、構造失業率を下回ったところでインフレになると理解したら、誤りだったということです5。』とかドヤっていましたが、ここの話はさっきと違くないですか??????

『失業率と消費者物価上昇率の関係を見たフィリップス・カーブというものがあります。縦軸に物価上昇率、横軸に失業率を書くと、右下がりの曲線がかけるというものです。図8は、フィリップス・カーブを示したものです。図にあるように、失業率が低下しても物価は徐々にしか上がりませんが、失業率が2%に近づくにつれて、物価は急速に上昇します。』

という話なのですが、そもそもこのフィリップスカーブの計測期間が多分相当な長期になっている筈で(そうじゃなかったら7%だの8%だのというプロットが無い)、最初の方で『構造失業率が3%台半ばだという議論は、構造失業率を下回ったところでインフレになると理解したら、誤りだったということです。』って言っているのに、この先物価が上がるという話の時になって急に長期時系列の失業率版フィリップスカーブを説明根拠に持ち出すのは先程のドヤっていた話と思いっきり矛盾するんですよね。

まあ置物リフレ一派の特色でもあります「パーツパーツの説明が合っていても全体の整合性が取れなくて説明が首尾一貫していない」というのがありますが、さすがに一つの講演の中でここまで整合性が取れないのはジンバブエ原田大先生を持って余人には代えがたいものがあると存じます。

『失業率は、すでに2.8%にまで低下しています。これが続き、さらに低下することで、いずれ物価が上がっていくことは間違いありません。』

ってまあこの調子でもう少しありますが、まあ正直罵倒芸の練習には面白いのですが、政策という意味では全く何の意味もなく、櫻井さんの金懇挨拶を見ていた方が為になりますという所で、さて今度就任する片岡さんは櫻井さんに寄るのか原田さんに寄るのか、楽しみにしております。

#以上アタクシの罵倒芸にお付き合いいただきましてありがとうございました




2017/06/01

お題「オペ雑談/帰属家賃除くベースの物価分析ペーパーとな/先週末の黒田講演」

ハンカチ王子とな(^^)。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6241665
日本ハム斎藤佑樹623日ぶりの勝利に笑顔! 主砲中田が3安打5打点の援護


○輪番と短国だが何で1年未満を増額??

月末の恒例行事ですが月末の引け後というタイミングは何とかならんのかと毎度思う。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170531c.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170428c.pdf(前回)

・謎の1年未満増額

5月の最終回の買入オファーと比較する。

短期:500〜1500(700億円)
中期1-3年:2000〜3000(2800億円)
中期3-5年:2500〜3500(3200億円)
長期:3500〜5500(4500億円)
超長期10-25年:1500〜2500(2000億円)
超長期25-40年:500〜1500(1000億円)
物国:250(250億円)
変国:1000(4月は1000億円)

今回は何故か短期が500〜1000のレンジから500〜1500になりまして、いやまあ今月は6月だから償還が多くて、短期輪番って償還銘柄の打ち込みモードになるからニーズがあるのは分かるのですが、別にそんなニーズにこたえる必要あるのかねとは思うのですが、何でこういう妙な所のフローを増やしたのかが意味不明にも程があります。

これでもう少し長い所でやるならば買入残高の増加ペースを上げたとか言えるのですが、今申し上げましたようにあっという間に償還になるものしか入らないので、四半期償還云々以外だとしたら、最近国債の買入ペースが80兆円じゃないという話が話題になるようになってきて(日銀は先日ネタにした通りですっかり「80兆円、そんな事言いましたっけ、ウフフフフ」という状態になっていますが)、大勢に影響の出ない所で敢えてフローの買入を増額することによって減額論議に対して目くらましをしよう、という下心があるのかねえとか思うアタクシは心が濁っていますかそうですか。


昨日悪態申し上げた櫻井さんと黒田さんの講演からしますと、YCCは長期戦覚悟の枠組み(実際にはその長期戦は戦線が塹壕戦のようになってしまった場合にのみ長期戦が出来るのであって、情勢が動くときにはあっさり打ち破られる可能性が高いのですが)ということですから、それはどこからどう考えましても国債買入のペースは金利が跳ねない程度に(これ重要でして、減額して金利が跳ねたら元も子もない)減額という方向の筈で、まあ海外金利情勢から考えてもここらは減らし時じゃないかと思ったのですが、80兆円云々がちょっと話題になってしまって目くらまし、というのはまあやる方の気持ちもわかるのですが、そういうことやられますと「この人たちは何をやりたいの???」というのが真面目な話何が何だかコミュニケーション的に宜しくないので、こういう小細工みたいな事はあまりやらない方が良いと思うのですけどどうでしょうかね。


・短国は減額と

『3.国庫短期証券の買入れ

金融市場調節の一環として行う国庫短期証券の買入れについては、6月末の残高を27〜29兆円程度とすることをめどとしつつ、金融市場に対する影響を考慮しながら1回当たりのオファー金額を決定する。』

先月は29〜31のメドでやりましたが、まあ短国に関してはなんのかんのと言いましても超過準備マイナス金利適用時の金利という▲10bpというのがありますので、日銀の買入を減らしてもそこまで大崩れするような事はありませんな、というのが5月の相場だったと思うのでまあ順当。

というかMBの帳尻以外の意味がないので短国買入は全廃の方向で宜しくお願いいたしたいのですけれども、しかし短国を淡々と減らす中で何で1年以下の輪番が増額(になるかどうかは実際に入ってみないと分からんけど)になるんじゃろとは思います。


○基調的な物価とな

http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm/
http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpirev.pdf(図表)

データは上記HTMの所からエクセルへのリンクがある訳ですが。

刈込平均値(前年比、%)

Jan-17 0.2
Feb-17 0.1
Mar-17 0.1
Apr-17 0.2

加重中央値(前年比、%)

Jan-17 0.0
Feb-17 0.0
Mar-17 0.0
Apr-17 0.0

最頻値(前年比、%)

Jan-17 0.3
Feb-17 0.3
Mar-17 0.3
Apr-17 0.3

上昇品目比率−下落品目比率(%ポイント)

Jan-17 25.4
Feb-17 24.1
Mar-17 25.8
Apr-17 23.9

とかありまして、『(1)総合(除く生鮮食品・エネルギー)・総合(除く食料・エネルギー)』も図表の通りで日銀コアゼロ近辺ということで、中々こう勢いよく上がってくる感じがしないですし、大体からして加重中央値と最頻値の粘着性の強さたるやもうエライコッチャという所でして、つまりはインフレ期待を一気呵成にシフトアップというのは難しくて、粘着性のあるものなのでこちらも粘着力強く忍耐しながら長期戦で物価上昇に向けて各種施策をやっていく、という白川ドクトリンに回帰するというお話なんでしょうかね。いずれにせよ秋口にはもっと物価がホイホイ上がっている筈、という見通しを日銀が置いている訳で、その時に期待(願望)通りに行っているのか、それともやっぱり粘着していましたとなるのか、という辺りで総括検証の総括検証をしないと行けなくなるのかという事になるんじゃないですかねえ。よー知らんけど。



○まあ英文なので良く分からんがこんなん出ました(ちなみに少しだけ味わいがある部分も)

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17e05.htm/
トレンド・インフレ率が低下するもとでのフィリップス曲線と価格変化率分布

おーフィリップスカーブ!と思ったのですが、次の所に『全文掲載は、英語のみとなっております。』とあってこれはアタクシの知能では読んでいる間に天寿を全うしそうなのでアブストラクトの日本語版が上記URL先にあるのでそちらを拝読。

『日本の高インフレ期(1982-1994年度)から低インフレ期(1995-2012年度)にかけての企業の価格設定行動をみると、財の価格変更が一貫して頻繁に行われていた一方、サービスの価格変更は相対的にあまり行われていなかったことが観察できる。』

とありますように分析が行われているのはQQE以前の話、というのは中々味わいがあって宜しいとかつい言ってしまいますが、まあちゃんと分析するとこういう位前のじゃないときちんと出せないという事はあるんでしょうな。

『一方、マクロの需給バランスと物価変動の関係性を表すフィリップス曲線をみると、財・サービスいずれにおいても、その関係性が低下――フラット化――していたようにみえる。一見すると整合的でない、これらの観察結果をどのように解釈するべきであろうか。本稿では、価格変更に一定のコストがかかることを仮定するメニューコスト仮説によって、これらの観察結果を整合的に説明できることを示す。』

『具体的には、サービスのメニューコストが相対的に大きいことを実証的に確認したうえで、メニューコストが異なる2部門から構成される動学的一般均衡モデルを構築した。このモデルにより、サービス部門に高いメニューコストが存在すると、トレンド・インフレ率が低下するもとで、財・サービスいずれのフィリップス曲線もフラット化することが適切に再現できる。』

『この結果は、日本において観察されたような、平均的なインフレ率が低下するもとでのフィリップス曲線と価格設定行動の変化を整合的に説明するうえで、メニューコスト仮説が有用であることを示唆している。』

という辺りになるともうアレなのですが(アホですいません)、本文はこちら。

http://www.boj.or.jp/en/research/wps_rev/wps_2017/data/wp17e05.pdf
Phillips Curve and Price-Change
Distribution under Declining Trend
Inflation

でですな、まあ当然ながら本文を読んでも英文な上にアホのアタクシには良く分からない記号が書かれている数式のオンパレードなのですが、最後に図表というのがあるので図表を見ながら心眼で判断すると、図1(当然英語なので「Figure 1. Median and the First/Third Quantile Points of the Price‐Change Distribution」とか書かれていますけど)を見ますと、最初のCPIのグラフの1番目について、

『(1) CPI (All items, less fresh food and imputed rent)』

と書いてあるのが目に思いっきり刺さって来まして、「除く生鮮食品と帰属家賃」という分析になっておりまして、財の方ではトレンドインフレを出すのに生鮮食品を抜くのは毎度の話ですが、サービスのインフレで帰属家賃除きで来る、という辺りにこれはもしかして今後「帰属家賃抜き物価指数」攻撃が飛び出すのではないかとオラワクワクしてきたぞ、というのに気が付いたのですが重箱の隅ですかねえ。

なお、以前石田前審議委員が思いっきり「帰属家賃抜き物価指数」を持ち出して実際はもうちょっと物価強いんじゃネーノという話をしたのは記憶に新しくは無いですけどまあそんな事もありました。

図表4を見ますと、「総合除く生鮮と帰属家賃」で見た時のフィリップスカーブのY切片(つまり需給ギャップがゼロの時の物価指数なのである意味トレンドの期待インフレ率)は1982-1994年度では+2.11%、1995-2012年度は▲0.19%となっていて、カーブの傾きは0.49→0.34とフラット化している、というのが現実の数値としてあるようですな。


○金融学会での黒田総裁講演はまあどうでも良いのだが相変わらずな面はいつもの通り

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170527a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko170527a.pdf
金融市場に関する理論と中央銀行
日本金融学会2017年度春季大会における特別講演

ああそうですか(棒読み)という講演なのですが、さすがにこの辺りはお前は何を言ってるんだという感じなのでメモだけ残しておく。

『5.中央銀行と市場の関わり』という所なんですけどね。

『(1)市場機能の維持・向上』という最初の小見出しでもうブチ切れですよ。

『以上申し述べたような、金融市場に関する理論と現実との相互フィードバックは、中央銀行にとって重要な意味を持っています。』

リフレ理論によって政策をしたら現実が全然フィードバックしなかったけどな。

『先ず実務に近い点から申し上げると、金融政策は、中央銀行が金融市場においてオペレーションを行うことによってその価格に働き掛け、これが裁定を通じて市場全体に波及していくことを通じてその効果を発揮します。したがって、市場機能の維持と向上は、中央銀行にとって大変重要なテーマです。』

と言っている時点で話が変で、そもそも市場価格に介入して政策効果を出そうとしている上に、今の政策のような金利固定化政策を行うとなると市場機能の維持と向上とかいう話と全然違う事をやっている訳ですが。

『この点に関連して申し上げると、日本銀行は、昨年9月以来、短期政策金利を▲0.1%としたうえで、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう国債買入れを行う、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を行っています。この枠組みのもとでは、金融市場調節方針において操作目標として示す長短金利の水準を、イールドカーブ全体と整合的に結び付ける接点が市場メカニズムと言えます。』

・・・・・・・・・・何が何だかわからない。

『また、市場の状況に応じて日本銀行が保有する国債を一時的に貸出す国債補完供給も、国債市場におけるこうした市場メカニズムをサポートする観点から行っているものです。』

それは日銀が買い占めているから行っているんですけど。

『このほかにも、日本銀行は従来から、金融市場を安全で機能性の高いものにする観点から、短期金融市場や外国為替市場等の市場慣行の整備や、国債の決済期間の短縮化、市場レベルでの業務継続体制の整備などを積極的に支援してきました。』

国債決済T+1って決済事務にストレス掛ける上に金利ビジネスの収益が厳しい中で制度改正対応を強いられるという中々の無理ゲーなんですけど。

『また、市場取引レートの収集と公表によって有用なデータのアベイラビリティを高めるなど、広い意味での市場の基盤整備にも取り組んでいます。本日は詳しく述べませんが、頑健で使い勝手のよい決済システムの提供と安定的な運行の確保も、こうした観点から位置付けることが可能です。日本銀行としては、市場機能の維持・向上に向けたこれらの地道な取り組みを今後も続けていきたいと考えています。』

・・・・・・・・・・いやこれ金融学会だからアレですがオペ先の前で同じこと言ったら、そらまあ皆さん大人だからその場で悪態大会とかにはならないけど、たぶんその場に物凄く冷たい空気が流れると思うんですが。

ということで、市場機能云々に関してはそもそも市場機能を盛大に圧殺して政策効果を出そう、というスキームで進んでいるのですから、こういうお為ごかしな事を言うのは「市場との対話」という点で言えば聞いている実務家の皆さん恐らく揃ってドッチラケとなってしまう話であって、寧ろ「現在の政策は市場機能にプレッシャーを大きく掛けながら2%物価目標というチャレンジングな目的を達成するためにおこなっており、政策目標達成という大目標の為に市場の方々にはその間ご苦労をおかけする」というような説明をしてもらわないと、「ああやっぱり黒田さんって債券市場とか興味ないんだよなー」と市場がドッチラケになってしまうんだと思う。いやマジで。

ということでその後に『(3)マーケット・インテリジェンス』という小見出しがあるのだがヘソが茶を沸かすので以下割愛します(−−;