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※2017/11/28にPCが突如壊れるという不具合が発生して11/29〜12/4まで更新していません


2017/12/29

お題「日銀決定会合主な意見が掉尾の一振だった件について/その他メモ」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171228-00000008-jij-pol
中東外交でアピール=「総裁候補」を意識―河野氏
12/28(木) 7:03配信

ええもちろん個人の単なる感想なんですけど、この人は口だけ番長とか一知半解で意識高く暴走するタイプ(某熊手大先生と同じタイプ)のような雰囲気が漂っているのがどうも気になるんですよねえ・・・・・・

〇金融政策決定会合主な意見が年内最後のお笑いになってしまった件について

年末モードの閑散相場に爆笑というよりは?マークが渦巻く日銀渾身のギャグが降臨。

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2017/opi171221.pdf
金融政策決定会合における主な意見
(2017 年 12 月 20、21 日開催分)


・メインイベントのジンバブエ原田選手が登場するまで少々お待ちください

ということで前座を少々。

『T.金融経済情勢に関する意見』ですけれども個人消費がこの先順調に推移しないとそもそも論としての「バランスの良い成長」とやらにならんのですがその辺の意見を。

『人手不足や高水準の企業収益などから判断して、2018 年は、2017 年以上の賃金増加率が期待でき、個人消費は堅調に推移するとみている。』

『わが国経済については、比較的バランスよく成長しているとの評価が可能だが、今後、個人消費が景気の牽引役となっていくことが重要である。』

『2019 年に予定されている消費税の増税を含め、さまざまな形で 将来の国民負担が増えるとの見通しが、家計の消費抑制につながっている。』

まあ提案芸人先生の出す提案は意味不明ですがこの調子では2%物価目標達成いつになるか分からんというのはそうでしょうなあと思いますし、大体からして市場も同じ思いだから全然金利上昇圧力がかからんわけで。

そうなる肝心のお賃金ですけれども、

『政府は、先日の閣議決定で、賃上げに積極的な企業に対する税負担の軽減措置などを打ち出した。こうした取り組みが、企業が賃上げに躊躇している現状を打開する契機となるか、期待を込めてみていきたい。』

まあ期待していませんが(つーかこれまで法人減税して全然個人の方に回ってねえじゃんと思うので、寧ろ法人から取り立てて消費増税しないとか減らすくらいの勢いの方が良いのではとか言いたくなる気分なんですが)、それよりもアレなのは、元々のQQEだと「我々の金融政策によって世の中の期待を変化させて行くぜエイエイオー!」だったはずなのですが、もうすっかり「事態の好転を待っておりますわ」状態になっておりまして、「強力なコミットメントとそれを裏付けする大規模な金融緩和によって期待の転換を図る」という話はどこに逝ったのかと小一時間問い詰めたい。

でまあそれが机上の空論で無理ですよというのが分かったのなら分かったで、中途半端に変な「オーバーシュート型コミットメント」とかいうMBは増やし続ける・・・・・・・増やし続けるが今はその額については何も言っていないしついでに金利水準についても何も言ってない・・・・・・!つまりMB増加は年間1兆円になるかもしれないし政策金利水準は上がっているかもしれない!みたいな謎のコミットメントじゃなくて、普通に金利政策の時間軸政策を導入した方が分かりやすいですし、そこで期待に直接働きかける云々は放棄して、緩和的な金融環境を継続することによって徐々に適合的期待が強化されるのでその時間をこのように明確にして合理的期待形成にも寄与したい、くらいにしておけば良いと思うの。

#ただし、今の「オーバーシュート型コミットメント」だと実は途中の金利調整自由自在だし、MBだって極端に言えば1兆円(は誤差の範囲内だからさすがにそれはアレですが)増えれば増加になるので、超自由自在な内容(したがってコミットメントとしては強力と自称しているけれども曖昧にもほどがある)なので、これを外す方が自由度下がりそうな気もしますけどね

でもってお賃金の話の続き。

『過去、長期にわたる需要不足とデフレのもとで、労働力率の低下に歯止めがかからず、また、企業の過剰サービスや過度な値下げといった過当競争が生産性の伸びを抑制してきた。こうしたある種のヒステリシス(履歴効果)が、足もと、労働需給のタイト化を契機に希薄化しつつある。 』

『今後、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション) やAIの活用が進んでも、労働力人口の減少が見込まれる中、 イノベーションによる新商品・サービスの供給、働き方改革による残業時間削減に伴う新規雇用等の需要も想定されるため、労働需給は一段と引き締まる可能性がある。』

そ、そうかなあ????

『人手不足は、企業が労働生産性を引き上げるための人的投資や ソフトウェア投資を推進する絶好の機会を提供する。また、参入規制などの競争制限規制を撤廃することも、投資促進に効果的である。このような取り組みによって労働生産性が高まってはじめて、実質賃金は上昇する。 』

名目じゃないのかというのはさておき、もはや賃金上がってどうのこうのの話が完全に「中長期のお話」になっているのは順当ではあってもじゃあ今までの話とこれまでにやった金融政策は何だったのでしょうかとは申し上げたくなる。

『企業は現預金を積み上げているが、大企業の現預金の対総資産比率をみると、過度には高まっておらず、正常な状態にあると いえる。しかし、分母の総資産の増加は、海外M&A等によるものと考えられる。すなわち、大企業は、現預金を日本国内の設備投資ではなく海外で使っている。』

えーっと、9月会合の主な意見でも企業の現預金がどうのこうのという話をする人がいたので同じ人だと思うのですが、何を分析してこういう話をしているのかというのと、そもそもこの意見で何を言いたいのかがイマイチよく分からん人だなあと思うのでした。


物価についてですが大本営の話はともかくとして、

『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、上昇傾向を示している。しかし、マクロ的な需給ギャップはプラスである一方、予想物価上昇率の形成が適合的であるため、2%に達するには暫く時間がかかると見込まれる。』

『企業の積極的な価格設定スタンスの拡がりについては、依然として不確実性が大きい状況が続いている。』

『資本市場および労働市場において過大な供給余力が残存していることから、物価上昇率は、エネルギー価格上昇の影響を除くと高まっていない。このため、適合的な期待形成を通じて予想インフレ率が上昇するダイナミクスも、明確には働いていない。』

たぶん最後のが片岡さんで、あと2本物価そう簡単に上がらんのではないかというのがあって、もしかすると重複があるのかもしれませんが、ほかにも物価が上がりにくいという話をしている人がいそうな感じがせんでもないという気はする。片岡さんの意見とみられるところが「適合的な期待形成を通じて〜”も”」とあるのがちと気になるのですが、スラックが存在しているという話と最初の見解の需給ギャップがプラスというのは矛盾するのでおそらく最初の人と最後の人は別人28号とみられるから、片岡さん以外にも2%の到達時期について怪しげという人がいる訳で、この人たちがどういう理屈で整合性をとってくるのかというのも気にかかります(が一応の答えはその次にある)。


・金融政策に関する意見ですが

『当面の金融政策運営については、これまでの方針を維持し、2% の「物価安定の目標」の実現に向けて、現在の政策枠組みのも とで、強力な金融緩和を粘り強く進めていくことが適当である。』

という順当オブ順当なのはさておきまして、

『息長く経済の好循環を支えて「物価安定の目標」の実現に資するべく、現在の金融政策を継続するべきである。』

『2%の「物価安定の目標」達成にまだ距離がある現在は、金融政策は現状維持が妥当である。』

『物価上昇の勢いが増す状況には距離があることから、腰を据えて、きわめて緩和的な金融環境を維持すべく、金融政策を運営していくことが必要であると判断している。』

『2%の「物価安定の目標」を実現するためには、適合的期待による予想物価上昇率の引き上げに時間がかかる可能性があることを踏まえ、強力な金融緩和を息長く続けることが重要である。』

ということで、4名(さすがにここでの重複はなさそう)の意見があって、そのうち「時間がかかる」って言ってて現状維持という人がいるので、多分さっきの物価の所で弱気な話をしていた人だと思うのですが、完全に片岡さん以外の皆さんは「できるだけ早期に目標達成」をスルーしているというのが一層分かりやすくなってきましたなあという所で。

という話のほかには副作用とかの意見がありましてですな、

『今後、2%に向けて物価が上昇し、経済の中長期的な成長力が高まるもとでは、金融緩和政策の効果は強まることになる。そうした環境変化や政策の副作用も考慮しながら政策運営にあたることが必要である。 』

リバーサルレートキタコレ。

でもってその次に凄いのがあるのですがメインイベントは後にしまっておいてその先を。

『先行き、経済・物価情勢の改善が続くと見込まれる場合には、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みのもとで、その持続性を強化する観点も含め、金利水準の調整の要否を検討することが必要になる可能性もあるのではないか。』

まあそれはそうなのですが、YCCの枠組みだと事前地ならしとかできないから、利上げするときには枠組みそのものをいじらないといけなくなると思います。なかなかむつかしいのではないかと。

『ETFをはじめ各種リスク資産の買入れについては、株価や企業収益などが大きく改善していることや、今後も堅調に推移すると見込まれることを踏まえると、政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から検討すべきである。』

これは実にいい指摘ですな。


でもって片岡さんの政策に対する意見は、声明文にもありました理由と同じですが掲載されているので確認しておきましょう。

『消費税増税や米国景気後退などのリスク要因を考慮すると、2018 年度中に「物価安定の目標」を達成することが望ましく、 10 年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である。』

というのに対してさっきのように4名が物価の達成時期少々時間がかかっても政策維持、という話をしているのですからまあこの回の議事要旨でもどういうのが出るのか楽しみですね。


・どう見てもジンバブエ大先生の珍理論に全市場が???????

というような今回の「主な意見」だったのですが、本来は片岡さんの提案に対するほかの委員の評価的なものが見るポイントで、結局のところ先ほどのように「2018年中に達成せんでも今の政策でよかばい」というお話になっていた(まあそのバックにはリバーサルレートとかの話もあるんでしょうな、と思います)次第で、すなわち「追加緩和は要らん」という10月末のMPM議事要旨と同様のお話になっていた訳です(と一応まとめてみる)。

しかしながら、提案芸人に話題を攫われてしまうのを不服としたジンバブエ原田大先生(と思われる)の華麗なドロップキックが登場して日銀ヲチャーの心を鷲掴みというのがこちら。あえて文章を途中で段落分けしますが・・・・・・・・・

『海外の状況をみて「量的・質的金融緩和」の出口を求める議論が盛んである。』

いや別に出口を「求める議論」は全然盛んじゃないだろうと思いますがまあ毎度の藁人形論法なのでどうみてもこれはジンバブエ先生。

『しかし、直近の韓国の政策金利引き上げの背景を考えた場合、』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

か、かんこく?????????????????・・・・・(;゚д゚)

『物価は 1.5%程度でアンカーされているといえ、実質GDPは平均3%以上で成長している。さらに、家計の債務残高はGDPの 90%にもなっている。韓国の状況と比べても、日本の金融政策の転換は時期尚早である。』

>韓国の状況と比べても
>韓国の状況と比べても
>韓国の状況と比べても

いやあのすいません。韓国の利上げとかマジで市場の皆さん別に気にしていない(韓国に直接投資をしている企業の方なら気にするかもしれないけど株とか債券の人だと韓国ウォン建てで直接投資とか普段聞かない話なので正直平常運転のうちはノーケアーなんだが)のですけれども、どこの世界に韓国の利上げを参考にして日本も利上げすべきという話をしている方がいるのかという話で、もしかしてジンバブエ大先生だけ異世界ファンタジーの住人か何かになっておられて、頭の中が異次元緩和しているのではないかと申し上げたくなってしまうようなこのご意見is何???????????????????

だいたいからして主要経済圏というカテゴリーで米国とか欧州とかと比較するなら話はわかるが、よりによって韓国が出てくるというのがさっぱり分からん。マジで誰かこの謎を解いていただきたいのでございますが、たぶん誰にも解けないと思う・・・・・・・・・・・・・・・


ということで年末のまとめがまさかのジンバブエ先生の異世界ファンタジーとなってしまいまして、今年は審議委員の入れ替わりにより金融政策のお笑い度が高まってしまうという甚だ遺憾なことになってしまいましたが、この調子で正副総裁が変わった来年もっとひどくなったらどうしましょうという嫌な予感を胸に年末を迎えることになりましたな。


〇時間が無くなったのでちょっとメモ程度で

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel171228c.pdf
当面の長期国債等の買入れの運営について

大納会の日の午後5時に出るとかいう無慈悲なプレイが無くなって結構ですが、来月はまた月末の午後5時になりますね。

でもって内訳を見たところ据え置きということで、まあ年末にかけてそこそこ買入減らしたのでとりあえず正副総裁人事とかあるし当面は特にオペが面倒なことにならなければ据え置きという感じでしょうな。


http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/index.htm/
基調的なインフレ率を捕捉するための指標

今回は全体的にやや上向きじゃん良かったですねという所ですが、この後ホイホイあがっていくのかといいますとなかなかねえ、というのがアレですな。


〇ということで年末ご挨拶

てなわけで今年はPC突如壊れたり金融政策のお笑い度が高まったり相場が動かなくて市場ネタがなくなったりと散々でしたが、来年は良い年になりますように。皆様よいお年をお迎えください。





2017/12/28

お題「虫干しシリーズにしようと思ったら直近出たペーパーの確認になってしまいました」

29日まできっちり働く現場職人の皆様本日もお疲れ様です!!!!!なおアタクシもきっちりとカレンダーどおりの模様w

#今日は年末なので(というのは関係なく朝起きるのが遅めだったので、汗)簡単にご勘弁を

〇国債市場の流動性指標が出ているので確認

http://www.boj.or.jp/paym/bond/ryudo.pdf

・・・・・・・・ということで見る訳ですが、まあ今回出てきたのは特段直近で何か変わったという感じのしないのが出ていてつまらんという所ですが、見ていてちょっとワロタのは、図表9(PDFの10ページ目)にある『残存年限別の提示レート間スプレッド(depth)』という奴でして、中短期ゾーンのスプレッドは拡大していて長期超長期のスプレッドは縮小となっておりまして、いやまあ相場そのままじゃんという話ではあるのですが、短国需給の関係かどうか知らんけど中短期は金利だけで見れば(特に2年とか)ボラがあるという相場付きがずーっと続いていまして、しかも最近の短いところって(短国が特にそうですけど)突如値段がワープして(ワープするのは需給要因だがありていに言ってしまえばだいたいオペ要因と海外要因)そのあとだいたい戻らないでそのまま行ったっきり(戻るときもあるけど)、というようなところですが、まー居場所がしょせんレンジではあるもののそこそこ動きますな、という相場付きのまんまであります。

一方長いところはすっかり動かなくて1毛超動くと物凄く動いた気がするというような感じですし、ものすごく動くと金利下がる方だとあまり反応ないようですが金利上がるとしらっと押し目買い入りますからさくっと戻ったりしてこれまた何が何やら。

あとSCとかのレポレートは落ち着いていました(ただし11月)というお話のようですな。

#という程度しかネタがないが何せ超長期辺りの位置がもうちょっと動かんとなんともかんとも


〇FSRシリーズが年末に来てここぞとばかりに出てくるわけだが

こちらも虫干しではなく直近ネタ。
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17j09.htm/(要旨)
地域金融機関における競争激化と金融の安定性

でもってこちらは要旨で本文は日銀WPシリーズの
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/data/wp17j09.pdf(本文)
地域金融機関における 競争激化と金融の安定性

でござる。てな訳で以下要旨から引用しますが。

『本稿では、人口減少などを背景に厳しい競争環境に直面している日本の地域金融機関を対象に、競争激化が金融機関の経営安定度にどのような影響を与えるかを分析した。』

このネタについては10月のFSRの前に出た4月のFSRでもネタになっていまして、4月FSR出たときにネタにした覚えがあるので念のため確認したら、4月のFSRの全文の方(http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr170419a.pdf)の80ページ(PDFファイルだと85枚目)に『BOX6 地域金融機関間の競争激化と経営の安定性』ってのがありまして、こちらに関してより詳しく分析した内容になっております(と思って読んでいたのだがそれで大丈夫でしょうかねえ、汗)。

『地域金融機関のマークアップ(=価格−限界費用)を計測してみると、過去30年間ほぼ一貫して縮小している。こうした競争激化が金融機関の経営安定度に及ぼす影響をみると、1990年代前半までは、競争による貸出金利の低下が借り手の破綻リスクを引き下げる経路などを通じ、銀行経営の安定化に寄与していたことが確認できる。』

このマークアップ率とかの話は71ページの『BOX3 地域金融機関の競争激化とその背景』に説明がありまして、こちらを詳しく分析したものもありますということです。

『もっとも、1990年代後半以降の低金利環境下で続いた競争激化は、金融機関の利鞘縮小圧力を強め、むしろ銀行経営の安定性を低下させる方向に寄与してきたとみられる。』

ということで効率性と安定性という話は、前回FSRであった(先ほどご紹介しました4月FSRのBOX6の最初の所)説明もあったのですが、今回のペーパーでも冒頭の部分となります本文2ページの最後の方からになりますが、

『通常の財・サービス市場では、競争の強まりによるマークアップ(=価格− 限界費用)の低下は、効率性の高まり(distortion の減少)を通じて経済厚生の 向上に繋がるため、基本的には望ましい変化と考えられる。もっとも、金融業では、競争激化が経済厚生を向上させるかどうかは、必ずしも明らかではない。』(上記URLのHTML(要旨)ではなくPDF(本文)から引用、本文2ページ以降より、以下暫く当該箇所からの引用)

とありまして、

『これは、システミックリスクが潜在的に内在する金融業では、一般の産業と異なり、「効率性」だけでなく、「安定性」も重要な視点となるためである。』

というのをしらっと入れている(前回FSRでも入れてるけど)のですが、これ自体は誠にごもっともなお話で、金融機関の場合はその金融機関がいわゆるG-SibsやらD-Sibsに該当しないからと言っても、個人や中小法人などの決済や与信機能を担っているのですから、通常の企業と同じ尺度で「地域独占は怪しからん、競争をして企業が淘汰されることによって効率性が上がるので国民厚生に資する」という話をして良いのか、という観点is大いにある、というお話でして、しらっとどこぞの方面に砲撃を加えていたりもするという話。

『金融業における競争環境と安定性の関係を巡っては、理論的には、方向性が大きく異なる二つの見方が提示されている。』

つーことで、

『第一の見方は、銀行間の競争が銀行経営の安定性を高めるという考え方 (competition-stability view)である。これは、銀行間の競争激化によって貸出金 利が低下すると、借入企業の破綻リスクが低下し、信用コストの減少を通じて銀行経営の安定性も増すというメカニズムを重視したものである。』

『第二の見方は、逆に、銀行間の競争が銀行経営の脆弱性を高めるという考え方 (competition-fragility view)である。これは、競争激化によって銀行の利鞘が縮 小した状態が続くと、損失吸収力が低下するほか、銀行が収益維持を目指してリスクテイク姿勢を強めることで、銀行経営が不安定化するメカニズムを重視したものである2。』

競争を行うのは別に悪い話ではないが、どこかの閾値を超えると過当競争による命の削り合いが始まると。

『これら 2 つの見方のうち、どちらが当てはまるかは、国・時代により異なり、すぐれて実証的な問題である。』

そらそうよ。

『本稿では、competition-fragility view と competition-stability view のいずれの見方が、日本の金融機関の実情により合致するのかについて、地域金融機関のパネルデータを用いた検証を試みる。本稿と同様の問題意識から、日本の金融機関を対象に競争激化と経営安定性の関係を分析した先行研究としては、Hong and John (2011) がある。Hong and John (2011) は、Bankscope のデータを用いて、金融機関の安定度として Z スコア、競争指数としてラーナー指数を算出し、両者の関係についての実証分析を行い、大手行では competition-stability view が、地域金融機関ではcompetition-fragility viewが成立すると主張している。』

ほほう。

『もっとも、 彼らの分析対象は、2000 年時点で存続する金融機関に限られ、過去に破綻や合併等によって市場から退出した金融機関は分析の対象外となっている。また、リーマンショック以降、長期化している低金利環境において、さらに激化しているとみられる銀行間の競争環境が、銀行経営に与えた影響も分析の対象外となっている。』

なるほど。

『そこで本稿では、市場から退出した金融機関も明示的に分析対象に加え、足もとまで存続している金融機関と推計結果を比較することで、両者 の行動特性の違いを明らかにした。さらに、Hong and John (2011) よりも長期間のデータセット(1993〜2015 年度)を用いることにより、地域金融機関の競争 環境と経営安定度が、低金利環境の長期化に伴って、どのように変容してきたのかも分析した。』(上記レポート本文からの引用はここまで)

ということで、その結論が最初の方で要旨から引用したように、1990年代前半までと1990年代後半以降において分かれてくる、という分析結果になっておりまして、さらっと読みたい人はさっき申し上げた4月のFSRを見ながら参考にするのがよろしいのではないか、と思います(で合ってるよね)。

『この点について、破綻や合併によって市場から退出した金融機関の行動に焦点を当ててみると、競争環境が激化していく中で、リスクテイクの積極化により一時的に利益が嵩上げされた時期があったものの、その後は、過去の過大なリスクテイクが損失をもたらし、経営が不安定化していった傾向が確認される。』(戻って最初のURL先の「要旨」より)

ってな話ですが詳しく読んでいると時間も量もアレですけど、まあ要するに競争環境が激化する中で特に地域金融機関にとってはこの状況が金融システムを全体への不安定化をもたらす要因になる(もちろん金融システムへの影響は競争要因以外にもあるのでだから直接的に結論は出せないけど)という話で、それなのに独占怪しからん競争をした方が国民厚生に資するとか言っている公取いやなんでもないです(なお念のため申し上げるといつものようにスタッフペーパーなので『また本稿に示される内容や意見は、筆者個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。』となっています^^)。



〇年末年始といってもただの5連休なので簡単に読書室を

いつも年始に読書室とかやって何の意味もない(訳でもなく1月は直後に3連休があるけど)ので読書室簡単版をば。

一応あっさりと書店で入手できそうなものを2冊。

・百戦百勝−働き一両・考え五両 (城山三郎著、角川文庫)

昔の小説ですが、小僧から叩き上げて成功した相場師一代記というお話で主人公のモデルはネタばれになるので申し上げませんがまあ調べればすぐにわかります。これは別に相場の勉強とかそういうもんじゃないのですが、アタクシが高校生の時に何の因果かこれを手に取ったのがこんな人生になった原因のような気がしますのでご紹介。

ISBN-13-978-4041310144

・ライアーズ・ポーカー (マイケル・ルイス著、東江一紀訳、ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これまた1980年代のソロモン・ブラザースとか債券とかの話で、当初英語のペーパーバックをヒーヒー言いながら読んだ記憶がよみがえったので日本語訳で査収して読みました、というだけのご紹介で恐縮至極。

ISBN-13-978-4150503949





2017/12/27

お題「10月決定会合議事要旨:提案芸人様意気揚々と出撃したら直後に無慈悲な砲撃で轟沈の巻とな」

そういやこんなのありましたな。
https://www.asahi.com/articles/ASKDQ5V5JKDQULFA02P.html
ローソン社長「外国人技能実習は必要。コンビニ追加を」
牛尾梓、久保智
2017年12月25日07時25分

・・・・・・うーんこのとしか申し上げようがない。


〇10月決定会合議事要旨:提案芸人の提案がボコボコにされるの巻

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2017/g171031.pdf

・一応経済物価情勢に関する部分も鑑賞しておきましょう

まあ一応『U.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要』を拝読。

『国際金融市場について、委員は、一頃に比べ地政学的リスクへの警戒感が後退する中、米欧の長期金利は安定的に推移しており、米独をはじめとする主要国の株価は、企業業績への期待や堅調な経済指標な どから、上昇しているとの認識を共有した。何人かの委員は、最近の好調な株価については、経済の改善という十分な裏付けがあるものの、 一部に過熱感を指摘する声もあることから、地政学的リスクの動向を含め、引き続き、様々な観点から注視していく必要があると述べた。』

と思うならETF買入減らしたらどうでしょうか(ゲス顔)。

『複数の委員は、米欧の中央銀行は細心の注意を払って金融政策の正常化を進めており、これが最近の国際金融市場の安定に寄与していると の見解を示した。』

いやいいんだけど何その他人事感。

『海外経済について、委員は、世界的な貿易活動の回復が続くもとで、 先進国は着実な回復を続けているほか、新興国も全体として持ち直しているとの見方で一致した。そのうえで、委員は、海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いているとの認識を共有した。海外経済の先行きについて、委員は、先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国経済の回復もしっかりとしたものになっていくことから、緩やかな成長を続けるとの見方で一致した。』

『ある委員は、海外経済の不透明感が和らぐ中で、過去数年間控えられてきた設備投資が、今後相応に出てくる可能性は高く、2018 年にかけて海外経済が成長を続ける確度は高まっていると述べた。 』

まあそんな長い話はそんなにしないのかもしれないですが、2018年後半以降どうなのかという話を見たかったですな。でもって海外の方は以下割愛して国内。

『わが国の景気について、委員は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大しているとの見方で一致した。』

さいですか。

『委員は、企業部門の動きについて、輸出は増加基調にあるほか、設備 投資も、収益が過去最高水準を更新する中、緩やかな増加基調にあるとの認識を共有した。また、家計部門についても、委員は、個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増しているとの見方を共有した。』

昨日の消費支出強めに出てよかったですね(棒読み)。

『一人の委員は、わが国経済は外需主導から内需の改善を伴うより自律的な成長へと移行しつつあるほか、景気拡大の裾野 は、業種や企業規模、地域を跨いで多面的な拡がりをみせていると述べた。また、この委員は、わが国経済については、企業や政府の取り組みもあって労働力率や労働生産性が上昇しており、需要と供給という面でもバランスよく成長していると付け加えた。』

そ、そうか??

『この点に関連し、別のある委員は、「量的・質的金融緩和」導入後のわが国の労働生産性の伸び率は、導入前の 10 年間と比べても、また、主要国と比べても高くなっていると指摘した。』

ジンバブエ先生の金懇に同じような指摘があった気がして頭が痛い。

『このほか、一人の委員は、企業の内部留保が過度に積み上がれば、経済全体として過剰貯蓄の状態となり、 自然利子率が低下する可能性もあるため、企業の貯蓄・投資・労働者への配分のバランスが重要との見解を述べた。 』

なんかこの話って時々出てくるけどイマイチよく分からんので誰か解説プリーズ。

個別項目の話は割愛して物価。

『物価面について、委員は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は0%台後半のプラスとなっている一方、消費者物価(除く生鮮食品・ エネルギー)の前年比については、引き続き、企業の価格引き上げの動きが限定的であることなどから、小幅のプラスにとどまっているとの見方で一致した。』

ほうほうそれでそれで?

『こうした弱めの動きについて、委員は、携帯電話機や通信料の値下げといった一時的要因もあるが、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っていることが影響しているとの認識を共有した。』

ここの所毎回この話になって、まあこの話自体は仰せの通りではあるのだが、そもそもおまいらQQEを最初に打ち込んだ時の置物理論だと「期待を変える」だっただろうと思うわけで、結果として期待のシフトは上手くいっていないという状況なのに、QQEの延長で政策を継続していて良いのかとか、オーバーシュート型コミットメントによってなんで期待が上がるのかを再考するとかそういう話にならないの???と思う。

『この間、委員は、予想物価上昇率について、一部には昨年の夏頃をボトムに上昇傾向を示す指標もみられているが、弱含みの局面が続いているとの認識で一致した。』

あっそう。


・でもって先行きの物価だが

『2.経済・物価情勢の展望 』の途中から。

『委員は、実体経済から物価面への波及に関し、労働需給の着実な引き締まりに比べ、物価が弱めの動きを
続けていることについて議論を行った。』

まあさっきの所で話は尽きている気がするが。

『委員は、企業や家計において、賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が根強く残っていることが、企業の賃金・価格設定スタンスに影響しているとの認識を共有した。』

それを何とかするのが置物リフレ理論だったんだから他人事みたいに言ってないでその総括をしろ総括を。

『こうした 企業のスタンスについて、多くの委員は、人手不足に見合った賃金上昇をパート労働者等にとどめる企業が多く、正規雇用者の賃金上昇が 相対的に遅れていることにも表れていると指摘した。また、多くの委員は、企業において、賃金コストの上昇を吸収し、販売価格の引き上げを避けるため、ITを活用した省力化投資の拡大や、深夜営業の取り止めといったビジネス・プロセスの見直しに取り組む動きが拡がっていると述べた。』

現象の分析はいいから金融政策で何をアクティブにするのかという話は無いのか、というかまあ現実問題無いんだが、無いなら無いで置物リフレ理論は現実に無理があったのでそこは修正する、というのをやらないで、QQEの上からゴテゴテと建築物を後から追加していくから魔界みたいな金融政策になっていくのであって、最初の「金融政策でインフレ期待を引き上げる」というのを「経済物価情勢の好転によって物価が徐々に引きあがる中で適合的期待形成によって徐々にインフレ期待が引きあがっていく(引き上げるのではない)ことをフォローするために緩和的な金融政策を長期間にわたって継続する」というのに明確に変えないと、ベースが違法建築の上に何建てても違法建築なんですからちゃんとレビューしろレビューを。

『一人の委員は、9月短観で、中小企業の本年度のソフトウェア投資額が前年比2割強と大幅に増加する計画となったのは、こうした企業の対応を反映している面もあると付け加えた。』

はあそうですか。

『そのうえで、委員は、企業の賃金・価格設定スタンスに変化がみられてきていることについて議論を行った。』

って言ってるんですが、一方でさっきマクラの所でご紹介したように外国人研修生制度をもっと拡大しろとかいうような話が堂々と出てくるという状況の中、企業のスタンスが変化しているのかというのは何だかなあとは思う。

『大方の委員は、パート時給がはっきりとした上昇基調を続けているほか、既往の為替円安による仕入価格の上昇などもあって、企業のコスト面からみた価格上昇圧力は着実に高まっているとの認識を共有した。一人の委員は、コンビニエンスストアや外食等のパート時給は過去最高を更新し、介護関連の派遣時給も上昇に転じているとしたうえで、現在は正規雇用の賃上げを待つ段階であり、来春の賃上げ交渉の行方を注視していると述べた。 企業の価格設定スタンスについて、ある委員は、人手不足などから値上げに踏み切る企業が増えるなか、外食やビール系飲料等の一部業種では、値上げによって利益率が改善し、株価の上昇に繋がる事例もみられると指摘した。別のある委員は、雇用・所得環境が改善する中、消費者の値上げに対する許容度も徐々に増してきているとの見方を示した。』

ああそうですかという感じですが、別に値上げの許容度自体は増していないと思うが。

『これらに関連し、一人の委員は、わが国では、値上げが 20 数年ぶりという企業も多いことから、物価の上昇に向けて社会のノルム(規範)を変化させるためには、企業が値上げの経験を積み重ね、消費者に受け入れてもらうノウハウを蓄積していくことが大切であると述べた。』

って結局「金融政策で期待を直接引き上げる」というのはもうすっかり引っ込めている話しか出てこないのですが、だったら政策の元々の建付けを何とかしろと小一時間問い詰めたい。

一応以下の寝言も確認すると、

『この間、何人かの委員は、労働力率の上昇や省力化投資などの生産性向上に向けた取り組みは、短期的には物価を抑制する方向で作用するが、やや長い目でみれば、潜在成長力を引き上げるとともに、企業の期待収益の向上等を通じて、物価の押し上げにも寄与すると指摘した。』

って話だがさっきの議論だとスタートが企業のコスト増対応から来ているのでそういう話になるのかな、とも思う。理屈は分かるけど。

『一人の委員は、企業が設備投資や人材投資を積極化させ生産性を 飛躍的に向上させる環境は十分に整っていると指摘したうえで、生産性の向上が実質雇用者所得の持続的な増加をもたらすことで、個人消費は増加に転じ、2%の「物価安定の目標」の達成も視野に入ってくると述べた。』

これに対してどう見ても片岡さんの見解が以下に。

『こうした議論に対し、ある委員は、女性の労働参加の増加に加え、男性の就業率にも改善の余地があることを踏まえると、高齢化が進む中においても、労働市場にはなお過大な供給余力が残存していると指摘した。この委員は、こうした状況が続く限り、雇用の逼迫による賃金上昇が本格化する可能性は低いとの見方を示した。』

スラック過大ですよ論は片岡さん。これに対して・・・・・・・

『これに対し、ある委員は、追加的な労働供給が賃金・物価に与える影響を検討する場合には、生産年齢人口が毎年 50〜100 万人近く減少しているというわが国全体の人口動態も念頭に置く必要があると述べた。また、別の一人の委員は、高齢化の進展によって、労働力率の上限が構造的に低下している可能性が高いことから、労働力率の上昇はいずれ頭打ちとなり、これが賃金や物価を抑制する力も、いずれ減衰するとの認識を示した。』

2名から物言いがついています。


・金融政策のパートが微妙に変調な件について

ということで『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』である。

『金融政策運営にあたって、大方の委員は、企業の賃金・価格設定スタンスがなお慎重なものにとどまっている点は注意深く点検していく必要があるが、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されているとの認識を共有した。』

何でや。

『この背景として、大方の委員は、 @マクロ的な需給ギャップが着実に改善していく中で、企業の賃金・価格設定スタンスは次第に積極化してくるとみられること、A中長期的な予想物価上昇率は、下げ止まりから一部に上昇傾向を示す指標もみられており、先行きも、実際に価格引き上げの動きが拡がるにつれて、着実に上昇すると考えられること、の2点を挙げた。』

さよですか。

『これらを踏まえ、大方の委員は、現在の金融市場調節方針のもと、 強力な金融緩和を粘り強く推進していくことが適切であり、現時点で追加緩和を行うべきではないとの認識を共有した。』

>現時点で追加緩和を行うべきではないとの認識
>現時点で追加緩和を行うべきではないとの認識
>現時点で追加緩和を行うべきではないとの認識

前回9月決定会合議事要旨を見ますと、

『こうした議論を踏まえ、大方の委員は、現在の金融市場調節方針のもと、 強力な金融緩和を粘り強く推進し、経済・物価の改善をサポートしていくことが適切であるとの認識を共有した。』(9月決定会合議事要旨より)

となっていまして、「追加緩和を行うべきではない」って言い方をしていなかったんですが、これは単に提案芸人片岡大先生をdisっているのか、それとも全然物価がアガランチだしインフレ期待もアガランチだしだから追加緩和云々というのを入れた方が良いと考えたのかがよく分からん。謎である。

『ある委員は、持続的な需要拡大が所得の改善を促すような経済の好循環を息長く支えて、脱デフレの完遂に資するため、現在の金融緩和を継続すべきであるとの意見を述べた。複数の委員は、現在の金融政策の枠組みには、予想物価上昇率や潜在成長率が上昇すれば、実質金利の低下や自然利子率の上昇を通じて金融緩和効果が強まる仕組みが内在しているため、現状の金融市場調節方針を維持することにより、2%に向けたモメンタムを強化していくことが可能であるとの見方を示した。』

『別のある委員は、現在の金融緩和政策は、企業が不断の生産性向上に取り組むことができる環境を整える観点からは、最適な政策であるとの見解を述べた。また、ある委員は、現在の実質イールドカーブの水準は、全ての年限において均衡イールドカーブを大幅に下回っているほか、 過去の金融緩和局面と比べても、既に十分に緩和的であり、追加緩和は不要であるとの見解を示した。』

均衡イールドカーブがあるなら出してよと思いっきり思うのだが、なんとなく「屏風のトラを捕まえてみよ」みたいな一休さん的なお話にしか思えんというのもこれまたあったりします。

『複数の委員は、「物価安定の目標」 の達成を急ぐあまり、極端な金融緩和策をとると、金融不均衡の蓄積や金融仲介機能の低下といった副作用が生じ、結果的に十分な政策効 果が得られない可能性があると述べた。』

ほお2名からそんな意見が。ということでまあ追加緩和しろという提案芸人からの意見に皆で悪態ついたという事を示したのかなあ、とは思います。

『こうした見方に対し、一人の 委員は、資本および労働市場の双方において過大な供給余力が残存していると見込まれるほか、2019 年の消費税率の引き上げを踏まえ、 現時点で追加緩和策を講じ、「物価安定の目標」の早期達成への確度を高めるべきであると主張した。』

というのが片岡さんの提案ですが、これがフルボッコを食らうというのが後にあるのですが、それは議案の部分になってからということで、今回はジンバブエ大先生の長広舌が間に入るというしょうもない議事要旨になっていましてこれがまた謎の変調を示しています。曰く、

『この間、ある委員は、市場の一部において、日本銀行の金融政策も、米欧とともに「出口」に向かうべきとの声が聞かれるが、』

それは貴殿の幻聴ではないでしょうか?緩和規模の修正をしろという見解は数多あれど今から出ろとは言わないし、出口というのは特に今のような極端な政策を実施するなら出口を考えて始めろというのは別に当たり前の指摘ではないかと思いますし、だいたいからして上記のような極端に偏った「一部の声」を持ち出して反論するというのは藁人形論法って詭弁のガイドラインに思いっきりある奴なんですけど。

『わが国の金融緩和の開始時期は米欧よりも遅いため、「出口」に向かう時期が遅くても不思議はないと述べた。』

でまあ藁人形にちゃんと反論してくれればまだ良いのですが、何ですかこの理屈になっていない理屈は。金融緩和の開始時期がジンバブエ理論によれば2013年というのを1無量大数歩譲って認めても、「緩和のスタートが遅いから出るのが遅い」とかどんな理屈だという話だし、それ以前の緩和開始時期の認識もお前は何を言ってるんだというこの惨状。

『また、同じ委員は、「出口」の局面における日本銀行の収益悪化を懸念する必要はないと述べ、その理由として、金融緩和の過程では、日本銀行の収益増加で国庫納付金が増え、 税収が増大して財政赤字の対GDP比が減少しているほか、「出口」 の後でも、長期的には、金利上昇に伴う日本銀行の収益増加が見込まれることを指摘した。』

その長期的にはってのがいつからくるか計算できていますかねえ。バランスシートを適正規模に縮小するのに現時点でも目の子でみても10年はかかるんですがその間の期間収益計算してます????というのはジンバブエ先生の金懇テキストにツッコミ入れたときにもやったので長くは書きませんが。

・・・・・・・てかね、なんでこんなゴミみたいな話を1パラグラフ使って書いているのかが不思議で、どんだけMPMで実りの無い話しかしていないのかという事が非常に心配になる部分ですが、まあそういう議論の状態である、ってのをお察しくださいという事なのかもしれませんな、ナムナム。

つーことでなんかこう議論があまりアレな話が多くなっていることを示しているような気がする。



・提案芸人の提案がデビューするが出陣した途端にフルボッコで大砲撃を食らうの巻

ということでジンバブエ先生の長広舌(かどうか知らんが)が挿入されてしまいましたが気を取り直してその次が議案の部分。

『長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、 前回会合以降、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブが円滑に 形成されているとの認識を共有した。ある委員は、市場からは、長短金利は非常に上手くコントロールされているとの評価が聞かれるとしつつも、日々の政策運営にあたっては、国債市場の流動性に加え、 国内外投資家の動向や金融機関の保有有価証券のポートフォリオの 中身について一層注視する必要があると述べた。』

「ある委員」の意見がほうほうという感じですが。

『以上の議論を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、大方の委員は、以下の方針を維持することが適当である との見解を示した。』

で現状維持の話になりますが、そこはパスしましてそのあとに提案芸人が意気揚々と出撃した直後に艦砲射撃の集中砲火で敢え無く轟沈の風情を感じさせる味わいのある部分になります。

『これに対し、ある委員は、より長期の金利を引き下げる観点から、10 年物国債金利に代えて、15年物国債金利が0.2%未満で推移するよう長期国債の買入れを行うことが適当であるとの意見を述べた。』

提案芸人意気揚々と出撃。

『この委員の意見に対して、何人かの委員は、15 年物国債金利を引き下げた場合の経済・物価に及ぼす具体的な政策効果や、それをもたらすメカニズムが明らかでないと指摘した。』

これは無慈悲な砲撃にも程があるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

『この点について、別のある委員は、15 年物金利のような超長期ゾーンの引き下げは、保険や年金の運用利回りの低下などを通じ、国民のマインド面に影響を及ぼ すことが懸念されると付け加えた。』

こちらは総括検証を踏まえた指摘ですが、何が御洒落って「何人かの委員」って3名以上な所にきて、追加で「別のある委員」と来ているので、最低4人(あるいは5人)から集中砲撃受けているうえに、最初の方の無慈悲な指摘が3名以上と来てまして、しかも(この会合の議事要旨とは関係ないですが)次の回に「15年」を引っ込めているという事実が、どんだけ無慈悲な砲撃だったのかというのをほうふつとさせるエンターテイメント感溢れる事案だったということで、まあ今回の笑いどころはここでしょうな。


・なおETFについて

最後にリスク性資産の話がありますが、一応副作用の検討を指摘する人がいるのね、というメモだけ。

『ある委員は、市場の一部で、ETFの残高目標を達成するために、日本銀行が年末にかけて買入れペースを加速させるとの思惑が生じて いることについて、そうした見方は適当でないと述べた。そのうえで、この委員は、ETFの買入れは、株式市場におけるリスク・プレミア ムに働きかける観点から実施しており、実際の買入れ額は市場の状況に応じて変動するほか、残高目標の達成時期として、特定の時点を定めている訳ではないと付け加えた。』

なんか怪しげな説明。

『別の一人の委員は、現時点では市場機能に大きな影響は生じていないとしても、ETFをはじめとする各種リスク性資産の買入れについては、政策効果と考え得る副作用について、あらゆる角度から点検すべきであると述べた。 』

キタコレ!

という所でございました。





2017/12/26

お題「宮野谷理事がロイターインタビューでFSRの話をしていたので中曾講演ネタを今更投下」

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO25029220V21C17A2MM0000/
地下鉄24時間運行/月曜午前休みに 夜の観光振興、自民議連提言 長時間労働など課題
2017/12/25付日本経済新聞 夕刊

『提言は「日本の夜はつまらない」と指摘し、昼と同じように利用できる夜間の娯楽やサービスの必要性を訴えた。』(上記URL先より)

って日本の夜って大概に賑やかだと思うし、そもそも夜っぴいて活動する意味があるのか???

#市場の方がアレですので虫干しネタ・・・・って最近ずっと市場がアレなのでPC壊れ中のネタなのだが

〇宮野谷理事のロイターインタビュー(これは虫干しではない)

https://jp.reuters.com/article/boj-miyanoya-idJPKBN1EJ0C3
2017年12月25日 / 16:42
大規模緩和が金融機関の収益圧迫=宮野谷・日銀理事

『[東京 25日 ロイター] - 日銀の宮野谷篤理事はロイターとのインタビューに応じ、マイナス金利を含むこれまでの大規模な金融緩和政策が資金利ざやの縮小を通じて、金融機関の収益を大きく圧迫していることは間違いないと語った。全国的な人口・企業数の減少という構造問題を背景とした金融機関間の競争激化が続けば、中長期的に多くの地域金融機関が赤字になり、地域の金融仲介機能が低下するリスクにも言及した。』(上記URL先より)

ということですが、インタビューは22日に実施ということで、昨日ネタにしたようにMPMで黒田総裁が最近盛り上がるリバーサルレート論だのの政策修正あるでよネタに対して火消しをしたという翌日にインタビューでこのヘッドラインのお話が出てくるという辺りがなんともではございますが、

『宮野谷氏は、金融緩和政策が金融機関経営に与えている影響について「マイナス金利を含む既往の金融政策が、資金利ざやの縮小を通じて金融機関収益を大きく圧迫していることは間違いない」と語った。ただ、現時点ではほとんどの金融機関が当期純利益で黒字を確保し、充実した自己資本を有しているとし「金融仲介機能は円滑に働いており、金融システムの安定は維持されている」と言明。現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策における短期金利マイナス0.1%、長期金利ゼロ%程度という誘導目標も「過度に金融機関経営を圧迫しているとは考えていない」との認識を示した。』(上記URL先より)

ということで記事の方を読みますと基本的にFSRのお話であって、FSRのお話そのものは先月の終わりに中曾副総裁が引退興行のような講演を行っていましたのと同じではあるのですが、そもそも論としてリバーサルレート云々が妙に盛り上がった(なお債券市場の中よりも周辺の方が盛り上がっていた観は相当強くて、何せここもとほとんどウゴカンチ会長だったわけですから)のって、単に「金融政策のプロコン」くらいの話をしておけば良いものを何をサービス精神を出したのか知りませんが(ってだいたい誰がサービス精神を発揮したのかは想像するに難くないのですけど)「リバーサルレート」とか変にキャッチーなサービスフレーズを入れるもんだから後から火消しに回ることになる訳でして、まあこの程度なら大したことないでしょうが、なんだかんだ言って「2バイ2バーイ」もそうですが、安易にキャッチーなものを出すのも後で自分の首を絞めることになりかねない(政策が上手くいけば良いんですけど)のでどうなのかなと思う、って全然宮野谷さんの話と違うネタになってしまいました。


〇ということなので今更11月29日の中曾副総裁講演ですがこれはFSRの解説ですわ

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171129a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171129a1.pdf
マクロプルーデンス政策の新たなフロンティア―銀行の低収益性と銀行間競争への対応―
時事通信社「金融懇話会」での講演
日本銀行副総裁 中曽 宏
2017年11月29日

ということで超昔のネタで誠に申し訳ございませんが中曾さんの引退記念講演かと思ってしまうような講演なのですが、しかも今回は金懇とか日銀主催のコンファランスとかじゃない機会での講演をわざわざ出してきた、しかもこの内容ということで、中曾さん(なのか事務方なのかは知りませんが)の気合というのを感じる訳ですな。

でもって内容自体は先般出てきた金融システムレポートのうち、最後の章にあった『Y.金融機関収益と金融システムの潜在的な脆弱性 』の部分を解説したものとなっておりまして、先般(ってだいぶ前だが)FSR出たときにどこからどう見てもこの第6章が今回の眼目だろうと思って(というのは全体の中でこの章の分析が一番気合が入っている感じがしたので)ネタにしましたが、まあ大体その話をしている、という感じではあるので、講演全体をネタにしていると結構な分量になってしまうのですが、まあ残り3営業日の間他にネタが無かったら随時投下するという方向で参りたいと思います。


・中曾さんの引退講演たる所以は最初と最後にあり

てな訳でですね、この講演については中曾さんFSRの説明をするでござるの巻、となっているのですが、何せプルーデンスウィングに関しては置物副総裁はそもそも決済システムすらわかっていなさそう(それ以前の問題で金融政策とかいうのは黙っておきましょう)なので元より話にならず、黒田総裁は何せ「金融機関の為に金融政策をやっている訳ではない」とか会見での売り言葉に買い言葉というか誘導尋問に引っ掛かったというかな面はあるものの、しょせんその程度の認識しかない、という困った方々ですので、プルーデンスの話をするのは中曾さんしかいないでござるの巻なのですわ。

でもあまりその手の話をやりにくい(何せ展望レポートにおける第2の柱の点検が毎回あの調子な上にプルーデンスネタを出すと「金融政策の後退とは怪しからん」とか言い出しそうな感じでしたからねえ)という中でそーゆー話が出来なかったのですが、大口たたいた政策もそろそろ2年どころか5年となろうという中でこのテイタラクですし、うっかりぶち込んだマイナス金利政策が止めを刺す格好になっているのでここ1年半くらいはFSRも気合が入ってくるようにならざるを得なくなったという所でしょう。でそんな中での中曾さんのお話ですが・・・・・・・

『1.はじめに』から。

『今から20年前の1997年は日本の金融危機がクライマックスを迎えていました。同年11月には、僅かひと月のうちに大手を含む4先もの金融機関が連続破綻し、後に「魔の11月(Dark November)」と呼ばれるようになりました1。』

『1 1997年11月に、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券、徳陽シティ銀行の4先が相次いで経営破綻に陥りました。』

いやもうこの頃の記憶もだんだん(歳なだけに)微妙になっていますが、とは言え97年98年についてはその後よりもよく覚えていますわ、と債券市場老人会の末席くらいには居そうなアタクシは思うのでした。

『日本の金融システムが「メルトダウン」に最も近付いた時期であったと鮮明に記憶しています。当時は、現在と異なり、金融システム安定のための包括的なセーフティネットが未整備であったことから、いわゆる「特融」の発動を含め、日本銀行の金融システム安定化政策に過大な負担がかかりました。金融システムの崩壊はかろうじて回避しましたが、約2,000億円にのぼる特融が回収不能になりました。』

『こうした1990年代のバブル崩壊期の苦い経験を踏まえ、その後、わが国のセーフティネットは格段に整備が進み、今日では、預金取扱金融機関だけではなく、証券会社、保険会社、金融持株会社等の破綻からも金融システムの安定を護る仕組みが構築されています。』

ですなあ。

『このように、わが国では、金融危機を契機に危機対応策が拡充されましたが、同時に金融不均衡の蓄積を察知し金融危機の顕現化を未然に回避する政策の重要性も認識されるようになりました。金融システムの安定性を維持するには、個別金融機関の抱えるリスクを把握し経営の改善を促すといったミクロプルーデンスの視点だけでは必ずしも十分ではありません。実体経済と金融市場、金融機関行動の相互連関なども意識して、金融システムを全体として捉えてリスクの所在を分析評価するマクロプルーデンスの視点も踏まえた対応が重要になります。』

とは言いましても・・・・・・・・

『こうしたマクロプルーデンス政策の重要性は、日本の金融危機から約10年を経たのち世界を震撼させることになったグローバル金融危機の中で国際的にも広く認識されるようになりました。』

てな訳でして、いわゆるBISビューVSFEDビューとかもそうですが、このマクロプルーデンスの話ってのは今でも続いているのですが、ただアタクシが思うのは最近のマクプルは規制で何とかしようという方向に過度に向かい過ぎていて、規制で締めたとしても金融政策がゆるふん(って「緩いふんどし」なんですが死語でしたっけ)だったら規制の隙をついて何とかしましょうというのがどうしても出てくるし、下手に規制当局が自信もって(今のBISとかFSBとかIOSCOってそういう傾向があると思う、個人の感想だが)しまうと規制に安住して監視が緩むとか、あるいは既往の規制を無駄に強化する方向に走ってしまうとか、そういう問題があると思うの。つまりはBISビューじゃないですが、そもそも金融緩和をノーズロでやっていること自体に問題の種が出るという方がちとなおざりにされてねえかというイメージ(個人の感想です)。

とは言いましても、マクプル云々よりもバジョットルールと決済システムの維持やっておけばよろしいのではないか的なイメージもアタクシの頭の中にあって(ただ今は金融機関が無駄に巨大化しているからそうも言ってられないのもあるけど)はてさてどんなもんかいなとは思ってしまうので結論はない。

『本日は、これまでの日本銀行の経験と近年における本邦金融機関を取り巻く環境を踏まえながら、マクロプルーデンス政策の現状と課題についてお話ししたいと思います。』

この次が(・∀・)イイ!

『金融危機はいつも同じ姿形をして現れるわけではなく、その時々の金融経済環境に応じて危機の芽が変装して潜んでいる可能性に注意する必要があります。』

(;∀;)イイハナシダナー

『そうした金融面での潜在的脆弱性をマクロプルーデンスの視点から的確に分析評価し、必要な対応策をとることが重要です。それが従来の基準では異例であったり、非伝統的なものであっても、金融システムの安定性を確保するうえで不可欠なものであれば、適切に対応していかねばなりません。』

で現在の話。

『現状、わが国の金融システムは安定性を維持していますが、潜在的な脆弱性を孕んでいることに注意する必要があると考えています。それが本日お話する、地域金融機関を中心とする銀行の低収益性と銀行間競争の問題です。これには人口や企業数の減少という日本の構造問題が深く絡んでおり、先進国にとってこれまで経験したことのない事象です(図表1)。その意味で、人口や企業数の減少に起因した銀行の低収益性や競争激化の影響は、まさに従来とは異なる姿形をした金融脆弱性です。地域金融機関が地域経済を支える重要な役割を今後とも果たしていくためには、この問題に適切に対処していくことが必要です。また、私たちとしても、プルーデンス政策の新たなフロンティアを自らの手で切り拓いていく必要があります。』

てなことで本論は秋のFSRの話になりましてこちらはこちらで重要なお話ではあるのですが、そもそも前にFSR読んだときにやったネタと被るのと、量がヒジョーに多い(FSRの第6章丸々を解説した内容になっている)ので本日は飛ばしまして最終章にいきなりワープします。

『6.おわりに』から。

『以上、慢性ストレスに起因した金融脆弱性へのプルーデンス政策の対応について説明しました。』

ってのは本文のお話で、FSRの第6章は「低金利だからというだけではなくて、日本経済の構造問題として、人口が減少したり企業数が減少したりというのがあって、しかもそれが地方で先行して起こっている中で、金融機関については減ったとは言えオーバーバンキング(2000年代半ば以降は減るどころか地方中核都市部などでは増えていたりもする)は解消されていないので金融機関、就中ユニバーサルバンキングをやっていない地域金融機関は金利が正常化したから万々歳という話ではない」みたいなお話をしていた訳ですな。

『人口や企業数の継続的な減少という慢性ストレスに対して先進国はこれまで直面したことがないだけに、これをどう克服していくかは大きな課題です。しかし、私は、これまでも多くの困難を乗り越えてきた金融機関経営者の方々の英知と先見性により必ず途は拓けていくと確信しています。同時に、金融システムの安定という責任を担う私たちもプルーデンス政策の新たなフロンティアを自ら切り拓いていかねばなりません。』

そらまあお先真っ暗とは言えませんが、たぶん業態規制とか過去の成長期に最適化し過ぎたシステムを何とかしないといけないとかいう話で、これは金融機関単体とか日銀単体だけで何とかなる話ではないと思うの。

『ただし、どんなにフロンティアを切り拓いていっても、プルーデンス政策だけで金融安定を達成しようとするのには限界があります。金融システムにおける慢性ストレスとは、わが国の潜在成長率の低下、つまり、自然利子率の低下と言い換えることが可能です26。』

『26 貯蓄と投資を均衡させる自然利子率とは、経済が潜在成長率の速度で成長していく際に実現される実質金利を指します。貯蓄投資バランスについて振り返ると、家計部門の貯蓄超過幅が高齢化の影響から縮小する一方、企業部門は1990年代末頃から投資超過主体から貯蓄超過主体へと変化しました。企業数の継続的な減少が企業部門全体の投資縮小につながり、また、人口減少が経済の期待成長率の低下を経由して、企業部門の投資抑制につながってきたと考えられます。自然利子率が1990年代半ばにかけて低下し、その後も回復することなく低水準で推移しているのは、こうした貯蓄投資バランスの変化が影響しており、これが慢性ストレスとなって金融システムに影響を及ぼしています。』

うむ。

『預金スプレッドの低下から、銀行が決済サービスの提供において適正な対価をとることができなくなったのも、根本的には、名目金利の大幅な低下を引き起こした自然利子率の低下が影響していると考えられます(図表13)。』

『決済サービスと貸出サービスという2つの本業のうち、銀行は後者でしか稼ぐことができなくなり、貸出金利の面で競争を強めてきたわけです。市場金利が1990年代半ば以降低位で推移し続けるもとで、貸出スプレッドが趨勢的に低下してきたのは、こうした競争激化の背後にある自然利子率の低下が大きく影響しています。』

全くで。


『このように考えると、金融安定を維持していくには、慢性ストレスを小さくすることも重要であるといえます。慢性ストレスが金融システムに与える影響をプルーデンス政策によって和らげることはもちろん重要ですが、慢性ストレスがいつまでも大きいままでは、プルーデンス政策の効果はなかなか表れません。慢性ストレスのサイズを小さくする政策、すなわち、潜在成長率や自然利子率を引き上げるための政府による成長戦略も金融安定にとって重要です。』

本来2013年の共同文書からしたらこういう話になるはずなのだが、黒田日銀というか置物金融理論によって金融政策万能ちっくな話になって(金融政策万能論というのは中央銀行員にとっても自分らが万能という話だから魅力のある部分があるでしょうな)マクロ経済は俺に任せろ的になって結果的に時間を空費した格好になっているという意味で置物リフレ論というのは実に良くなかったとおもうの。とは中曾さんは死んでも言わないでしょうけれども、中曾さんそういうことは考えてるんじゃないかなと勝手に妄想。

『最後に、金融政策が金融システムの安定性に及ぼす影響について簡単に言及しておきます。』

ほう。

『金融緩和の継続は、人口や企業数の減少という慢性ストレスと相まって金融機関間の競争を強め、金融機関の収益を下押ししてきた側面があります。一方で、金融緩和は、これまで銀行貸出の積極化を後押しして、企業の業況改善に寄与してきました27。これが経済情勢の改善となって表れ、それに伴う信用コストの低下や有価証券の投資収益の増加という形で金融機関の収益にも寄与しています。』

まあ問題は信用コストやら有価証券の投資収益の方がこれ以上改善しないでしょうなあという一方で慢性ストレスはさらに強化されることなんですが。

『金融システムは金融政策の効果波及経路を構成しており、その安定は経済の持続的成長の基盤です。金融政策については、今後とも、経済・物価・金融情勢を踏まえ、適切に運営していく必要があると考えています28。』

まあこういうしかない。

『振り返ると、金融政策もプルーデンス政策も過去20年間に大きな進化を遂げてきました29。1990年代の金融危機対応では、明日はどうなってしまうのか、という絶望的な気持ちになることもありましたが、「日本発の金融恐慌は起こさない」という合言葉のもと自らを奮い立たせてきました。マクロプルーデンスという言葉さえまだ存在せず、危機対応の経験も手段も未熟だった当時から長い試練の時代を経て日本のセーフティネットは格段に整備されました。そして、今日お話ししたようにマクロプルーデンス政策についての知見も蓄積され、今後の課題も見えてきました。ここまで本当に長い道のりでしたが、困難な時代に「金融システムの安定」という目的のために共に人知を尽くした全ての同僚と関係者の方々に対し、いささか遅きに失しておりますが、ここに深く感謝申し上げる次第です。「魔の11月」からちょうど20年目に当たる本日この機会に、中央銀行として、わが国の金融システム安定を護っていく揺るぎない決意を改めて表明することで私の話を締め括らせていただきます。ご清聴ありがとうございました。』

ってどう見ても回顧録モードですな・・・・・・・・・

#つーことで虫干しネタでどうもすいません






2017/12/25

お題「黒田総裁会見は「現状維持」を強めのトーンで発信して色々な火消しを行うの巻」

ほほう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2482430019122017000000/
物価目標は二次的 無理な追加緩和不要 浜田宏一・内閣官房参与
日銀 異次元の次はどこに
政策研究 コラム(経済・政治) 2017/12/22 6:30日本経済新聞 電子版


ここで浜田大先生が白川総裁時代に仰せになっていたことを確認しましょう。

http://diamond.jp/articles/-/30804?page=3
2013.1.20
浜田宏一・内閣官房参与 核心インタビュー
「アベノミクスがもたらす金融政策の大転換インフレ目標と日銀法改正で日本経済を取り戻す」

『デフレ期待がこれだけ定着してしまった現在、個人的には、世界の有力経済学者の言うように、インフレ目標はそれより高く3%でもいいのではないかと思います。』(上記URL先より)

〇総裁会見はサービスフレーズの火消しになりましたな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1712c.pdf

・リバーサルレートはとりあえずうまいこと言ってみようと思ったらバズってしまってさあ大変

『(問) 2 点お願いします。1 点は、先日スイスのチューリッヒで「リバーサル・レート」という言葉を使われて、最近になって総裁、副総裁ともに地域金融機関等の金融仲介機能についての言及が増えていると思います。』

さいですな。

『そこで、今になってそういう新しい言葉を使って言及をされた意図・背景を教えて頂きたいと思います。以前、「金融機関のために金融政策をしているわけではない」という趣旨の発言もあったかと思いますけれども、何がどう変わって、今どう いう環境だからこういうお言葉を出されたのか、この辺りの背景をもう一度説 明して頂ければと思います。 もう1 点、それに付随して、地域金融機関の収益はかなり悪くなっていますが、その点についてのコメントも頂ければと思います。 』

という質問ですが、期待していた回答は「今の金融政策が物価目標の達成が遅れる中で長期化した場合に金融機関経営に掛かる影響はありますが、物価安定目標達成が重要なのでそれに沿って金融政策を実施します」という感じで来て、あとはその前段と後段のバランスをどう取るんでしょ、というあたりだったのではないかと思います。

『(答) ご指摘の「リバーサル・レート」という考え方は、金利が下がり過ぎると金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転してしまう可能性があるという、学術的な分析の 1つです。』

「学術的な分析の1つです」、という言い方にしてウェイトを軽くしていますが、ここで総裁のチューリッヒの講演を確認してみましょう。リバーサルレートに言及した部分ね。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171114a.htm/

『このほか、金融仲介機能への影響という点では、最近、「リバーサル・レート」の議論が注目を集めています11。これは、金利を下げすぎると、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行部門の自己資本制約がタイト化し、金融仲介機能が阻害されるため、かえって金融緩和の効果が反転(reverse)する可能性があるという考え方です。日本の場合、日本の金融機関は充実した資本基盤を備えているほか、信用コストも大幅に低下しており、現時点で、金融仲介機能は阻害されていません。ただし、低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、引き続き、こうしたリスクにも注意していきたいと思います。』(この部分だけ上記URL先チューリッヒ講演)

「注目を集めています」だったのが急に「学術的な分析の1つです」とエライ勢いでトーンダウン。

『これ自体は興味深い分析ではありますが、現在、わが国の場合は、金融機関が充実した資本基盤を備えています し、信用コストも大幅に低下している状況にあり、金融仲介機能に現段階で何 か問題が生じていることはないと思います。短観など各種の調査をみても、低金利環境が続く中で、金融機関の貸出態度は引き続き積極的であり、貸出残高も順調に増加しています。』

という話の進め方でわかりますように、本来このリバーサルレートってのは過度な金融緩和政策を実施し続けた場合の累積的な副作用の悪影響という概念を含んでいる(のか単にその時点でのStaticな話をしているのかは元論文読んでないから知らん)と思う訳で、チューリッヒでは上記引用通りに「長期間にわたる過度な金融緩和政策の悪影響にも目配せしている」という下りがあったのですが、今回はその部分を華麗に削除するでござるの巻。

『もともと、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとでの、イールドカーブの形成に関する考え方は、昨年 9 月の「総括的な検証」で既に明確に示しています。貸出・社債金利への波及、あるいは経済への影響、金融機能への影響など、経済・物価・金融情勢を踏まえて、総合的に適切なイールドカー ブの形状を判断していくことになっています。こうした考え方は、昨年 9 月の 「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入時から、全く変わっていません。』

『特に「リバーサル・レート」という学術的な分析を採り上げたからといっ て、昨年 9 月以来の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」について見直しが必要だとか、変更が必要だということは全く意味していません。チューリッヒ大学で講演したこともあり、「総括的な検証」を踏まえて行った「長短金利 操作付き量的・質的金融緩和」という金融政策の新しいフレームワークについ て、外国の人に分かりやすく説明をするうえで、「リバーサル・レート」だけでなく色々な学者の方の理論を引用しながらご説明したのであり、何か変化があったわけではありません。』

ということですが、それであれば「均衡イールドカーブ」と「超緩和政策のもたらす金融機関経営への悪影響によるシステミックリスクの拡大」の2点、主に金利水準に関して言えば均衡イールドカーブの話を持ち出して説明をすれば話は回る訳で、変化がないのにわざわざ「リバーサル・レート」とかいうキャッチーなフレーズを持ち出す必要はありませんでしたよね。


・・・・・・・とまあそんな説明になっている訳ですが、リバーサル・レートの反響がでかくなってきたところで、もし本気の本気に政策修正する気があるんだったらここから特攻モードだったと思いますが、なんぼ何でも物価水準も全然ダメという状況下で政策の出口方向になるような修正を行う(しかも総裁交代の時期で後任も決まっていないという時期)というような蛮勇は普通に振るえるわけがないですし、第一黒田さんが今までの政策をゴメンナサイして撤回する気がない以上そんなのは無理な話。

となりますと今回はリバーサルレートで盛り上がっているところ(国内債券の人たちは「ど〜せ現状維持よ」とすっかりノーイベントモードで、提案芸人片岡大先生の華麗なる提案芸を楽しみにするのが今回のMPMの正しい味方だったと思いますが・・・・・)なので、今特に日銀が政策を動かそうという意思がないのであれば、リバーサル・レートで盛り上がる(どちらかといえば円債よりもそれ以外の)人たちに対してここは一発冷やし玉を入れておかないとまずかろう、という事になると思います。


しかしまあ何ですな、別に早期に政策見直しをする意図が無くて、特に地ならしとかする気が無いのであれば、リバーサル・レートのようなキャッチーな言葉を出してきて話題を集めるようなことをする必要ってあったのかと思う次第でして、この総裁講演ってその時期に中曾副総裁のマクロプルーデンス関連の力の入った講演があって(ネタにしてませんが年内ネタなし時に投下します)ちょうどイメージ的に「金融政策の副作用についてもちったあ考えるようになったんだね」となったところに「リバーサルレート」ですから、そりゃ反響が大きくなるわなとゆーところ。

なんかね、この手の講演的な奴で時々日銀がやらかすのって「無駄なサービス精神を出して余計なことをする」というのがありまして、それこそ「2年で2倍で2%」とかも(まあその時本気で行く気だったのなら仕方無いですけど)悪ノリの一種で、そういうウケ狙いやって後で自分に降りかかってくる(なんか書いていて自分の事かと思ったぞ、汗)というのは日銀がおまぬけですなあで済めばよいのですが、変なボラを与えるだけとなると政策の情報発信に対する信任が落ちていくことになるので注意してほしいものだと思います。


後半の話。

『 2 番目の地域金融機関の問題については、先般日本銀行が公表した金融システムレポートでも詳しく示している通りです。地域金融機関では、収益力について、最近の低金利環境もあると思いますが、それよりも実は、かなり長い期間にわたって構造的に地域の人口や企業数が減少している中で、従業員数や店舗数に過剰感が生じている可能性があります。そうした中で、貸出取引に付随するいわゆる非金利サービスの提供が限定的であるため、どうしても貸出取引の差別化の度合いが低く、金利面での競争が激化しやすいという、いわば日本の構造的な変化を反映した面があります。』

「構造的な変化」ってのも変な表現で、金融機関制度の構造が人口減少や企業現象という要因に対して対応が難しいことになっている、というのがあって、それは金融機関のすみわけなどを行っていた規制時代の金融行政が金融自由化において斬新的な対応しかできなかったことによってオーバーバンキング問題が厳しくなったとか、金融サービスに手数料を払うという「ノルム」が無いことだって、元を正せば規制金利時代にサービスの画一化を行わざるを得なかったとか、規制金利の中で画一的なサービスで金利競争ができないとなれば金融サービスを無手数料で充実させることが正しい経営方法だった(しかも都市を基盤とする銀行の場合預金吸収力が収益に直結していたんだし)というのがあった訳で、そういうノルムを作ったのは別に銀行だけの話ではなく、寧ろ金融機関行政の中で規制金利→護送船団的なものを維持しようとした政策当局にも、今のノルム形成に対する関与は思いっきりあると思います。然るにそういうの全部知らなかったことにしてやれ金融機関が怪しからんというような(非常に大きな銃撃音の為以下聴取不能となりました)



・・・・・・・さて気を取り直して。

『これに対応して、どのように 地域金融機関が引き続き適切な金融仲介機能を果たしていけばよいかについては、金融システムレポートの中でも触れている通り、やはり、それぞれの金融機関がその地域で持っている強みを更に活かして、金融サービスについて差別化を進めていくことが必要だと思います。他方で、効率性を様々な形で引き上げていくことも重要だと思います。』

効率性はともかく差別化できないようなノルムを作ったのは行政にも責任が無いとは言えないんですが。

『いずれにしても、日本銀行としても引き続き、考査・モニタリングなどを通じて、金融機関の収益力強化や業務改革などの取組みを促し、サポートしていきたいと考えています。』

まあ淡々と回答して、話がリバーサル・レートの方にならないようにしています。



・リバーサルな影響は長期化したらどうなるの?の回答がチューリッヒ講演よりも後退している件

『(問) 先程の「リバーサル・レート」の質問のお答えの中で、現在は金融仲介機能に問題は生じていないというご発言がありましたが、金融緩和の長期化によって、今後懸念はないのかという点と、これに関連して、一部では口座維持手数料に関する国民的な議論があってもいいのではないかという意見もありますが、この点に関してご見解を伺わせて下さい。(後半割愛) 』

『(答) 前段の点については、現時点で金融仲介機能に問題が生じているとは 全く考えていないということです。金融機関が充実した資本基盤を備えていますし、信用コストも低下していますので、近い将来に、何か問題が生じるとは考えていません。ただ、もちろん、金融システムや金融仲介機能については、常に十分に注視し、モニターしていく必要があると思います。それは金融システムレポートで半年毎に詳しく分析し、お示ししている通りです。 』

どこからどうみても「リバーサルレート」の水準は緩和的な金融政策が長期化すれば副作用が累積的に効いてくる結果として上昇してくる、という話になるはずだし、さっき引用したチューリッヒでの説明でも「低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため」とあった訳ですが、今回はそこの部分からツッコミを入れて欲しかった(つまり、長期化したら今後懸念が出てくるという趣旨の話をチューリッヒで行っていましたが、これはすなわちリバーサルレートが上がってくるリスクが時間の経過とともに高まる、ということですよね、と確認する方向で聞けばよろしい)と思いますが、まあここの答え方は明らかにチューリッヒより後退しておりまして、今回の会見では「最近妙に盛り上がってしまった政策見直しへの思惑」をつぶしておこう、という意図がよく見える会見だったと思います。


・均衡イールドカーブとの関係

『(問) 総裁が先程もおっしゃったように、日銀は経済・物価・金融情勢をみて最適なイールドカーブを形成していくということですが、景気回復がこのまま続いていく場合、今のイールドカーブを維持しているだけで実質金利は下がり、緩和の度合いは強まるということになっていくと思います。』

ですな。

『その場合、もちろんマネタリーベースについては 2%を安定的に超えるまで拡大させていく ということですが、長期金利目標については緩和度合いの調整のために引き上げるという選択肢もあるのでしょうか。それとも、景気がよくても物価までの距離がまだある場合、2%の「物価安定の目標」の達成が確信できない場合は、強力な緩和を続けていく必要があるというお考えなのでしょうか。その点についてお願いします。』

うーんこの微妙に逃げられそうな質問。


『(答) 基本的には、まさに 2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に達成することが、日本銀行の金融政策の最大の目標であり、そのために「長短金 利操作付き量的・質的金融緩和」を行っています。従って、金利についても、 景気がよいからそろそろ金利を上げるかとか、そうした考えはなく、2%の「物価安定の目標」を達成することとの関連でみていくということになります。もちろん、従来から申し上げているように、モメンタムが維持されている限りは現状を維持するわけですが、モメンタムが維持されないおそれがある場合には、 更なる緩和を考えますし、他方で 2%がもう達成される、あるいはそうした状況になっている時に、全く「イールドカーブ・コントロール」を変えないということはないと思いますが、あくまでも 2%の「物価安定の目標」が達成されるかどうかということとの関連でみていきます。景気がよいからそろそろとか、 そういうことではなくて、やはり粘り強く金融緩和を続けていき、2%の「物価安定の目標」を安定的に持続できる状況を実現するということが必要だと考えています。 』

蒟蒻問答で返しましたな。まあこういうしかないというのもあるが。

『(問) 今の質問の関連でお伺いします。日銀では「イールドカーブ・コント ロール」政策の運営にあたって、均衡イールドカーブを計測して緩和度合いを評価していると思います。昨年 9 月の導入以降、経済・物価情勢は改善基調にありますが、均衡イールドカーブについては、総裁は上昇していると考えているのか、その場合はどの程度上昇しているとみているのか、この点についてお伺いします。』

これは良い質問。(簡単に逃げられるけど)

『もう 1 点ですが、適切なイールドカーブを形成するにあたっては、経 済・物価・金融情勢の 3 つの基準で判断するということですが、金融情勢に変化が生じた場合に、経済・物価に対する見方に変化がなくても金融仲介機能に配慮して金利を引き上げることはあり得るのか、物価と金融情勢との関係について教えて下さい。 』

引き上げ、っていうとちゃんと答えが返ってこないとおもう。

『(答) まず第 1 点ですが、「イールドカーブ・コントロール」は、おそらく 世界の中央銀行の政策としても初めて行われています。これはそれまでの「量 的・質的金融緩和」の経験、そしてマイナス金利の導入を通じて、中央銀行がイールドカーブ全体に影響を与えられることがかなりはっきりしてきたことを踏まえて、それではどういったイールドカーブが経済に対して最も有効かと いう点を、「総括的な検証」の中で色々議論しました。そうした中で、「総括的な検証」を行った当時は、イールドカーブがかなりフラット化していました。 超長期の金利が相当低下しており、それは必ずしも経済に対して大きなプラスをもたらすものではなく、むしろ年金や生保の運用に対する影響、それ自体というよりも、それが消費者のマインドに影響するおそれがあることも指摘されました。』

何気に超長期のフラットニングは悪と仰せです。

『他方で、経済の拡大、設備投資、住宅投資等に大きな影響を与えるのは、むしろ短中期、それから 10 年以下の長期の金利であることも分かりまし た。これらを踏まえて、今の「イールドカーブ・コントロール」を導入しました。もっとイールドカーブを下げたらどうか、あるいはもっと上げたらどうか、という議論は、理論的にはあるとしても、私どものこの 1 年 3 か月の経験からいって、今のイールドカーブは最も適切な効果を発揮していると思っています。』

つまり政策変更しない。

『 3 つの基準につきましては、今申し上げたように、経済・物価・金融情勢を踏まえて適切なイールドカーブを形成するということですので、当然、 それら 3 つの考慮から、適正なイールドカーブが現状と違うとなれば、そうし たイールドカーブが形成されるように「イールドカーブ・コントロール」を変えていくことになると思いますが、現時点では、今のイールドカーブを変える必要があるとは思っていません。』

『3 つの基準といいましても、それぞれに意味があると同時に、相互に関連している面もありますので、3 つの要素を総合的に勘案して決めていくと思います。1 年 3 か月の経験の中で、「イールドカーブ・コントロール」が十分機能することはよく分かってきましたが、どの辺り のイールドカーブが最適かは、いわば実際の経験の中でよりはっきりしてくると思います。これまでの 1 年 3 か月は、まさに適切なイールドカーブとなっており、その意味で、経済・物価・金融情勢にポジティブな影響を与えてきたと思っています。』

2%到達時期がどんどん後送りになっていてインフレ期待も基調インフレもそんなに上がっていないのにどこがどう「最適のカーブだった」のかという理由を示してほしいもんですな、というかそうであるという理由を説明せよって誰か次回の会見で質問してちょ。


#ということで今回は現状維持を強めに強調した会見でした







2017/12/22

お題「決定会合レビューというか何というか/債券市場参加者会合議事要旨が泣けた」

http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000117032.html
安倍総理大臣 地方活性化は「インスタ映えが鍵」(2017/12/19 23:28)

『また、「お寺でミュージカル、遺跡のパワースポットでヨガ。アイデア次第で観光客を集めるキラーコンテンツに生まれ変わる」として、文化財保護法の改正案を来年の通常国会に提出する方針を明らかにしました。』(上記URL先より)

はいはい虚構新聞虚構新聞じゃないというのが何ともかんとも。


〇真面目に決定会合レビューで声明文のある箇所をさておいて確認すると景気判断が事実上上がっていますな

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/k171221a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1710a.pdf(前回)

前回決定会合の景気判断は展望レポート基本的見解にあるので(ご案内の通り展望レポートの回の声明文は政策決定事項しか記載されない)前回は展望レポート基本的見解と比較します。

・景気の現状判断では個人消費を引き上げ

どうでも良いのですが、アタクシの環境が良くない(PC変えてからブラウザーをIEに戻した)のか、PDFファイルをコピペすると開業のところで無駄な半角スペースが入るんですがこれは日銀の仕様か何かでしょうか?????

『わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。』(今回)
『わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。』(前回)

総括判断は同じ。

『海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。』(今回)
『海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は増加基調にある。』(前回)

同じですの。

『国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が改善するなかで、増加傾向を続けている。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、振れを伴いながらも、緩やかに増加している。』(今回)

『国内需要の面では、設備投資は、企業収益や業況感が改善するなかで、緩やかな増加基調にある。個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅さを増している。』(前回)

投資の判断は引き上げ、消費は「振れを伴いながらも」とヘッジクローズは入っていますが、底堅さから増加になっているのでこれまた判断引き上げとなっています。

『住宅投資は横ばい圏内の動きとなっている。この間、公共投資は高めの水準を維持しつつ、横ばい圏内で推移している。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。』(今回)

『この間、公共投資は増加しており、住宅投資は横ばい圏内の動きとなっている。以上の内外需要の増加を反映して、鉱工業生産は増加基調にあり、労働需給は着実な引き締まりを続けている。』(前回)

公共投資の判断は方向性としては増加か横ばいなので下がっていますが、水準としては「高めの水準を維持しつつ」と入っているので判断が下がったというほどでもない。


『わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%台後半となっている。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。』(今回)

『わが国の金融環境は、きわめて緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、0%台後半となっている。予想物価上昇率は、弱含みの局面が続いている。』(前回)

金融環境、物価、予想インフレ率に関する表現は同じです。


・先行き見通しは見事に同じ

『先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。』(前回)

先行き判断の基調的部分も同じです。

『国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の既往の経済対策による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、 増加基調をたどると考えられる。』(今回)

『国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支 出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。』(前回)

まるで同じですバイ。

『輸出も、海外経済の成長を背景として、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。』(今回)
『こうした海外経済の成長を背景として、輸出も、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。』(前回)

輸出も同じ。

『消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる(注2)。』(今回)

『先行きの物価を展望すると、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、プラス幅の拡大基調を続け、2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(前回)

(注2)というのは先行き物価が上がらんでしょという片岡さんの反対ですが、それ以外の人たちの見解としての声明文の文言はまるで同じというこのですなという感じです。


・リスク要因も変わりませんなあ

展望レポート基本的見解との比較もできますが、書き方がちと異なるので今回は前々回(9月21日)会合の声明文との比較だけするという手抜きで参ります。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/k170921a.pdf(前々回)

『リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、 新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。』(今回)

『リスク要因としては、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、 新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。』(前々回)

ということで見事に一致していまして、今回もまたまた現状維持だわ景気の先行き見通しは変わらないわとなっていますが、ただ国内の設備投資と個人消費という大玉の需要項目の現状判断をともに引き上げていることから、全体的には強気化した格好にはなっていますな、というところです。


〇反対提案が七色の変化球(なお全部暴投)の片岡大先生登場の巻

デビュー以降鮮烈な活躍をしておられます片岡大先生今回も華麗な芸風を披露していただきました。

・片岡大先生七色の反対提案(なお全部暴投)

まあどうせ現状維持だし声明文内容に関してもそんなに変わらんだろう(と思ったら現状判断は割と強気化させましたな感はあるけど)ということでそっちは注目されない中で、声明文公表タイムの注目材料(政策インプリケーションのある材料とは言っていない)は脚注でしょうということでそっちを拝見しますと・・・・・・

『(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:片岡委員。片岡委員は、消費税増税や米国景気後退などのリスク要因を考慮すると、2018 年度中に「物価安定の目標」を達成することが望ましく、10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した。』(今回)

『(注2)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:片岡委員。片岡委員は、イールドカーブにおけるより長期の金利を引き下げる観点から、15年物国債金利が 0.2%未満で推移するよう、長期国債の買入れを行うことが適当であるとして反対した。』(前回)

『(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、原田委員、布野委員、櫻井委員、政井委員、鈴木委員。反対:片岡委員。片岡委員は、資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019年度頃に2%の物価上昇率を達成するには不十分であるとして反対した。』(前々回)

なお前回声明文はこちらです。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/k171031a.pdf

>10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である
>10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である
>10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である

・・・・・(゚д゚)

えーっとすいません前回の「15年物国債金利が 0.2%未満で推移するよう」というのはどうなってしまったのでしょうかと小一時間問い詰めたいのですが、もしかしてマーケット方面から、15年国債というのも訳分らんし、0.2%未満ってのも何なんだよm9(^д^)プギャーとか言われたのを気にして引っ込めた挙句に具体的にますます何をやれば良いのかワカランチ会長なご提案(議案(というかディレクティブ)にはそもそもこれでは落とし込みようがないので議案にできない)をしてきたのでしょうか、と恐らく金利方面の市場の皆様が思われて爆笑の発作が起きたのではないかと懸念されるところではあります。

つーかゴーシ大先生最初(が前々回の9月会合)は「提案なしかよ」と煽られたら10月末の会合で「15年0.2%」という謎にも程がある提案をしてきて、その謎提案が「フィージビリティ無い上に15年の根拠も0.2%の根拠も意味不明」と煽られたら今回の謎提案パート2という具合に益々意味不明に磨きが掛かっておりまして、緩和提案七色の変化球ただし全部暴投という斬新なエンターテイメントを見せてくれますが、ここで誰とは申しませんがシジョーカンケーシャの方々が今回の提案をまたm9(^д^)プギャーと煽ったりすると次の会合でまた新たな提案が出てくるのではないかとか面白がって煽るようなことはするなよするなよ絶対するなよという所でございます。

てかさすがにこの三連続の緩和提案暗黒舞踏大会は見てる方も残念なものを感じるわけで、もう某漫画張りに「もういい…!もう…休めっ…!休めっ…!」って申し上げたくなって来るのですが、とは言いましても次回いきなり色々なの引っ込めて執行部案賛成とか言い出すと更にずっこけ感が高まるばかりですので、これから続く長い道のりで毎回違うタコ踊りをしていただける元気なお姿をこれからも鑑賞させていただきたいと存じますと共に、某リサーチ&コンサルティング社に置かれましては製造物責任(以下割愛)。


・「このままだと物価2%が消費増税前に行かないから追加しろ」というのは話としては分かるんですよ(とフォローの巻)

まあ何ですな、ケチョンケチョンに悪態をついてもただのエンターテイメントになってしまうので、一応真面目にフォローしますと、片岡大先生の『消費税増税や米国景気後退などのリスク要因を考慮すると、2018年度中に「物価安定の目標」を達成することが望ましく』ってえのは、実現性があるかどうかはともかくとして、話の筋としては別に筋が通っていないとかそういうことはなくて、むしろQQEの最初の精神に則れば仰せの通りと言っても差し支えないお話ですな、と褒めてみたものの、よくよく見ますと9月会合の時には『現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は、2019年度頃に2%の物価上昇率を達成するには不十分である』という説明だったわけで、もちろんこの間に解散総選挙があって2019年度中の消費増税が確定的になった、という変化があったので話を変えた、というのもあるかもしれませんが、だったら10月末の決定会合の時もその話出来たじゃんとか思いまして、どうもこの政策達成の時間軸に関する説明がブレブレになっているように見受けられるのは違和感あるのですが、それは兎も角として2018年度中に物価「安定」目標が達成されるべき、という話は意見としては一つの筋の通った話(実現性の有無は言ってない)。

・・・・・・・なんですけど、出てくる提案がうんこオブうんこなので爆笑の発作を金利関係の市場の皆様に提供することになるのですが、この『10年以上の国債金利を幅広く引き下げるよう、長期国債の買入れを行うことが適当である』というののどこがどうアカンのかという論点を整理するとざっくり以下のようになると思うのですが、他にありそうだったら教えてジェネラル。

(1)そもそも具体的な実施手段に落とし込めていない:さっきもちょっと申し上げましたが、あまりにも話が漠然とし過ぎていて、じゃあ何をすればよいのかというのが全くないというのは何ぼ何でも無責任な話で、評論家だってフィージビリティはともかくとして何か具体案出すだろと思う中で片岡さん政策責任の一端を担っているという自覚があるのかと小一時間問い詰めたい訳で、こんなしょうもないこと言うくらいなら最初のように「これでは行かないから反対」の方がまだマシで単にコンフュージングなだけ(まあここまでのトラックレコードがあるので債券市場は誰も混乱しませんけど)じゃろと。

(2)ところでそれやったら何がどうなって2%を早期達成するの??:今まで実施していない、というのならまだしも、10年超の金利とかもっと下げまくっていた時期もあった訳ですし、これまでそれをやってインフレ期待も碌すっぽ上がらず、基調的な物価も碌すっぽ上がらず、というのを既にQQE開始からみたら4年半、マイナス金利導入からみてもほぼ2年近く実施している訳で、その延長の話を今回実施したら何がどういう形で実体経済に波及して、2%の物価目標が来年度中に達成できるのか、という話が全然見えてこないし、これまで大して効かなかったものが今度はドラスティックに効く(だって片岡さんの提案を実施すれば1年ちょいで物価「安定」目標が達成できるんだったらかなりのドラスティックな効果があるという話になる)という説得力のある根拠を提示していただきたいものですな。

(3)前回との一貫性の問題および総括検証の話との整合性が謎:今の政策運営って総括検証を踏まえてYCCやっている訳ですが、YCCでの話って概念的に言えば均衡イールドカーブに対する緩和度合いというのは適正な水準があって、その水準を逸脱して金利を上げ過ぎるのはダメとして下げ過ぎるのもダメという整理(政策の技術的な部分に落とし込むにはフワッとし過ぎているのが難点)になっているのですな。

しかるに、片岡さんの今回の提案は「より金利を下げた方が効く」と言っているのか、「適正な緩和水準に対して今の水準が不足している」と言っているのかがよくわからない状態でして、なんとなく今回の提案だと「特にターゲットはなく10年超の金利をもうちょっと低下させろ」という話になりますので、それであればYCCの建付けにビルトインされている「緩和拡大と言っても金利を過度に下げると副作用の方が大きくなるから適正な水準というのが存在する」という話のカウンター的な提案になるので、むしろYCCをやめてLSAP政策一本槍で提案してきた方が政策ロジックとして理にかなっている、ということになろうかと思います。

でもってここで話がややこしくなるのは、片岡師匠におかれましては前回の提案の際に「15年物国債利回りが0.20%未満で推移するように促す」という提案(not議案)をしていた事でありまして、前回の提案はあくまでもYCCの建付けの中で、超長期の金利水準を訂正しようという意図の提案だったと考えられますから、今回の提案と前回の提案って似たような話をしているようにも見えますが、金利のターゲットを示していないという点で前回の提案との整合性が無くなっているという代物になっておられるんですが、その点について何で変更したのか、というあたりも片岡師匠のご説明をぜひお伺いいたしたく存じ奉ります。


つまりですな、「金利を下げれば下げるだけ効く」という多々益々弁ず理論で行くのであれば、何もYCCの枠組みの中で提案(提案になっていないというツッコミはさておき)する必要はなく、元々のQQE政策に回帰すればよいだけの話で、「国債買入年間80兆円〜100兆円程度の増加を行う、買入平均年限は市場動向を見ながら5〜15年程度で柔軟に調節を行い、より長い金利市場の引き下げを促すことによって実質金利の大幅な引き下げを狙う」で良い(やられたら債券市場ゴーストタウンになってしまいますが)というかまだ話が首尾一貫していると思うの。

でもってそうじゃなくて均衡イールドカーブからの適正な緩和距離の概念で反対をしているんだったら、YCCの枠組みの中で提案するのは極めて当然の話になるのでそっちは驚かないのですが、この場合は、他の政策委員の皆様が「現在の水準は適切な緩和度合いである」というのを引っくり返す論考をする必要が出てくると思うの。特に片岡さんの出し物の場合、「10年超の金利水準を下げる」というのを主眼にしているのですが、総括検証では「実体経済の活動に強く影響するのは主に中短期ゾーンの金利であって、超長期ゾーンの金利は引き下げの効果がさほど無い上に副作用もある」という総括検証の結果から矛盾する提案になりますので、中短期ではなく超長期を引き下げることの効果について総括検証のカウンターとなるようなバックボーンを出していただきたい、という風に思うのであります。


・・・・・・とまあそういうことで、何を考えているのかさっぱり分からんので、主な意見にいいからちゃんとその辺書いとけと思うのですが、はてさてどうなるのやらという所ではあります。なお今回皆さんがまた煽ったりする(わ、わたくしは煽ってなんかいませんよ(キリッ)!!)と次は「国債買入100兆円」とかの量的提案が出てくるに10万ドラクマという所でしょうか(^^)。


しかし、提案が出るたびに違うもの出てくるとか今までに無かった芸で、たぶんこんな芸は主要国の中央銀行でも中々見られないもので、ていうか初めて見た気がするんですが、稀代のお笑い金融政策芸人ではあるのですが、置物とか師匠とかジンバブエみたいな二つ名がなかなか思い浮かばなくて最近のアタクシの悩みの種ではございます(笑)。



〇債券市場参加者会合の意見がなかなか良いし泣ける

http://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond1712.pdf
「債券市場参加者会合」第6回議事要旨
2017年12月21日 日本銀行金融市場局


『1.開催要領
(日時)銀行等グループ(24 先) 12 月 6 日(水)16 時から 証券等グループ(25 先) 12 月 6 日(水)17 時 30 分から バイサイドグループ(22 先) 12 月 7 日(木)16 時 45 分から

(場所)日本銀行本店

(参加者)「債券市場サーベイ」等に参加する金融機関の実務担当者

(本行出席者)金融市場局長、金融市場局総務課長、同市場調節課長、 同市場企画課長 』

ほうほうそれでそれで???


『2.本行からの説明等
・ 各グループにおいて、本行より、@債券市場サーベイの結果、A国債市場の流動性、B最近の金融市場の動向および市場調節運営、について説明した。

── 国債市場の流動性指標等の拡充を検討していく旨も併せて説明した。』


「国債市場の流動性指標等の拡充を検討していく」って言ってますが、まあアタクシのような現場叩き上げのジジイの戯言のような気がしますけれども、「市場の流動性」とか「安定しているかどうか」ってのは確かに色々と出そうとすれば定量データの積み上げで分析が可能なのかもしれないですけれども、実際の所は確かにある程度の定量判断はできると思いますが、一番クリティカルなところっていうのはやっぱり現場職人の職人芸によって「これはなんか気持ち悪い」とか「まあこれは普通ですわ」みたいなのが出漁する漁師さんのごとくなんか感じるとかそういう世界のものではないかと(単に自分がそういう現場叩き上げ職人だからポジショントーク的に言っているだけとも言えますが)思う訳でして、頭のよろしくて分析好き好き大好きマン&ウーマンの日銀のおエリート様の皆様に申し上げたいのは、ブルース・リーの名言から勝手に借りてきて「考えるな!感じろ!」じゃないかな〜と思うのでした。

てなことを考えていたらその次の『最近の債券市場についての見方と今後の注目点 』がなかなか良い意見が続出している。(なお謎なのだがこのPDFをコピペしようとすると「最」の文字をWindows付属のテキストで認識しないんだがこれは何ぞ???)

『最近の債券市場についての見方と今後の注目点

・ イールドカーブ・コントロールが導入されて1年以上経つが、この枠組みはしっかりと機能を発揮しており、海外金利が上下する場面でも、円債金利は安定的に推移してきた。

・ 最近では、米金利がフラットニングするもとで、為替ヘッジコストが上昇した結果、外債への投資妙味が減退し、円債市場への資金流入がみられている。

・ 債券市場のボラティリティが低い状況が続いており、投資家は投資しやすい一方で、トレーディングを収益源とする証券会社等にとっては厳しい環境だとみている。

・ 債券市場は安定しており安心感があるが、株価が大きく変動した時も逆相関となるべき債券価格が動かないため、投資家としてポートフォリオの形成が難しくなっている。

・ 先行きについては、他に大きなイベントが見当たらず、債券市場は金融政策の影響を強く受けやすい環境になっている。来年には正副総裁の任期が 到来する中、政策変更の有無やタイミング、市場参加者がどういったきっかけでそれを織り込み始めるのかなどの点に注目している。

・ 前回会合以降、イールドカーブは円滑にコントロールされてきたが、この背景には、海外金利がさほど大きく上昇しなかったこともあるとみている。 先行き、海外要因などを起点に強い金利上昇圧力が掛かった際に、イール ドカーブ・コントロールの実効性が問われるのではないか。 』

この辺はまあそうすなというお話、次が泣ける。

『債券市場の機能度・流動性についての見方

・ 現在の債券市場をみると、日本銀行と市場参加者の密なコミュニケーションやオペレーションの透明性の高さを背景に、金利の予見可能性が高く、 投資し易い環境にある。』

最初にヨイショが入ったと思ったらそのあとからこのように・・・・・・・・・・

『・ ただし、イールドカーブ・コントロール導入から時間が経過し、投資家や証券会社が市場での取引量を踏まえ、円滑に取引できる範囲にロットを絞っているという面もある。

・ 低金利・低ボラティリティ環境が長く続いていることで、取引量が少なくなるとともに、市場参加者の厚みが減少している。

・ 客観的な指標やサーベイによって評価が異なるようだが、実際に取引している実感としては、債券市場の機能度や流動性は明らかに低下している。

・ ビッド・アスク・スプレッドはタイトで、板の厚みもあり、一見すると流動性があるようにみえるが、これはイールドカーブ・コントロールのもとでボラティリティが低く抑えられている結果に過ぎない。

・ 特にオフザラン銘柄については、日本銀行の保有割合の高まりを背景に取引が難しくなっている。最近では、オファーやビットがみられないという 以前には見られなかった現象も散見されている。

・ そうした状況で、仮に投資家からオフザラン銘柄の大量の売りがでた場合、 マーケットが吸収できるかを懸念している。レポ市場もあまり機能しておらず、オフザラン銘柄については、売買のサイズを絞らざるを得ない。

・ 市場参加者の多くが経済指標やファンダメンタルズへの関心を失い、日本銀行のオペレーション以外の要因で金利が動かなくなくなっており、債券市場の価格発見機能が損なわれているように感じる。 』

ケチョンケチョンでよろしい、というかケチョンケチョンなのを並べて出している金融市場局も中々いい根性をしている(褒めてます)と思う。


『・ 昨今の低金利・低ボラティリティ環境の下では、国債は投資対象になり難く、国内から海外へ、金利からクレジット等へと、人員面などのリソース配分をシフトさせている。

・ 現在のような市場環境が長期化していくと、若手を中心に動きのある相場を知らない市場参加者が増えていくので、将来、金利上昇局面が到来した際にしっかりマーケットメイクできるかを懸念している。

・ 人員減やスキルの低下が一旦起こってしまうと、所謂「出口」を迎えても、 債券市場の機能度の回復には時間を要するのではないかと懸念している。』

さあそこで現場職人ウン十年のロートルトレーダー(元職含む)の出番ですよ!!!!!(ポジショントーク)

『・ 国債の流動性については、引き続き、様々な角度から検証し、指標等も拡充して欲しい。 』

まあ定量でできることは限界があると思う。


・しらっとT+1決済だがもうあきらめて進むしかないということですな

『国債決済期間短縮化への対応等

・ 国債決済期間短縮化について、事務・システム面での準備は着実に進展している。

・ これまでの総合運転試験では、すべての参加先において問題なく完了している。短縮化後に遅い時間の取引が滞りなく実行できるかやや懸念しているが、来年入り後に行われる幅広い市場参加者を対象とした総合運転試験も活用して、しっかりと準備を進めたい。

・ 来年5月の短縮化実施後、レポ市場の流動性がどのように変化するかという点に関心を持っている。』

まったくもって誰得な短縮化なのですが、結局これも市場動向などを見ながらプロコン考えて進捗を見直すなどということもなく最初に決まったらそのまま惰性で特攻してしまうという極めてジャパンらしい話になりましたが、来年5月ですよどうなるんですかねえ、とは思いますがもはやどうしようもないのでまずは特攻するんでしょ。当局的には非常にやりたくないでしょうが、まずかったらまたT+1に戻すという覚悟は持っていただきたいとは思います。











2017/12/21

お題「MPMプレビュー雑談とか市場雑談とか」

ここのところ色々と面白そうなペーパーが日銀から出ているのですが、ショパンの事情(誰ですか飲みすぎとか言う人は)で全然読んでいる暇がないです(大汗)。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17j08.htm/
景気循環と経済成長の連関
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/data/wp17j08.pdf(本文)


http://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/japanese/17-J-18.html
マイナス金利を考慮したフォワードレート・モデルと市場の金利見通し
http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/17-J-18.pdf(本文)


http://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/english/17-E-11.html
Market Concentration and Sectoral Inflation under Imperfect Common Knowledge
http://www.imes.boj.or.jp/research/papers/english/17-E-11.pdf(本文、ただし英語)


〇MPMプレビュー雑談

ということで本日は決定会合2日目ですが、まー今回の決定会合で一番楽しみにしているのは片岡大先生の提案がどうなるかということでございます(なお本質的にはマジでどうでも良い話なのですが)。

ここで昨日の売買参考統計値を見てみましょう。
http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadResult.php
売買参考統計値/格付マトリクス ダウンロード

ここから本日付の売買参考統計値をダウンロードすればよいのですが、残存15年の国債となりますと2032年12月償還ということになると思いますが、銘柄は超長期国債の141回と142回になると存じます。引値の複利利回りをみますとそれぞれ0.304%、0.301%になりますが、どうせ複利とかいう概念はないでしょうから単利の方を見ますと、それぞれ0.280%、0.275%になりまして、15年国債金利を20bp以下にするということになりますと8bp位の金利低下をさせてFIXするというお話になるかと存じますが、まあその8bpってのに何の政策的な意味があるのかという話はきちんと議論していただきたいものだ(まあ無理でしょうが)と考える次第。

元々新発の出ない年限で金利固定とか言いましてもその金利水準をここから盛大に下げるというのであればまだ話は分かります(賛同はしない)が、10bpに満たない金利低下をさせてその後どうするんだかというか、それによってなんで2%達成が早まるのかもわからんし、オペ技術的にも残存15年の所の国債を0.2%で指値オペするにしたって、カレント債が無い以上指値でたくさん吸収するというのも難しいから市場のデルタって落としにくいので(新発なら札がドバドバ入るから市場のデルタがその分落ちる)、金利水準が低いうちはいいですけれども、金利上昇圧力が掛かった時には指値対象の所だけイールドカーブが沈んで、手前は手前で別の金利カーブを形成するようなアホウな事態になると思われますがどういう提案になるのでしょうか???

まあ今回も反対はするし意見は言うけど提案は無しとなると思いますが、反対を撤回したらさらに爆笑の発作を禁じ得ないということになりますし、もっと面白いのは15年0.2%というのの金利水準とか15年という年限を変えて意見を言ってきた場合でして、いやあのそれって前回との整合性はどうよという問題もありますが、それよりもターゲットレートをホイホイと安易に変更するということになりますと、MPMの度に長期(か超長期)の誘導目標水準の変更リスクがあるという話になりますので、それこそ相場の位置がMPMごとにデジタルに動き、しかもその前になると全員ポジションをクローズしている状態(なおどっちに動きそうなのかが明白なら事前に全部織り込むんですけど)になるので市場の流動性が皆無になってしまう、というようなことになります。まあこの点は別に片岡さんが云々じゃなくて今のYCCでも同じことではあるのですが、政策金利水準をデジタルに動かしても別に市場の流動性がそれほどは落ちない、というのは事前織り込ませ云々の話は別にしましても、そもそも政策金利というのが「翌日物金利」(スイスなんかだと3Mだったりするようですが)という「ポジションがその日のうちに解消されてしまうもの」だからというのが大きい訳でして、10年だの15年だのの金利水準がいちいちMPMでホイホイと可変に動かされたら長いところのポジションを実需で取るなら取れるでしょうけれども、そうじゃなくてマーケットメークするということになったらそれはどう見ても無理ですので、もし本日片岡大先生が「15年0.2%未満(以下でしたっけ)」というのをいじってきたらもうお前は何を言ってるんだと一段とお笑い金融政策決定会合となることが期待されます(したくない)。


・・・・・・・という話はさておきましてマジレスしますと、どうせ本日リバーサルレートだの出口だのという質問が出て、それに対する黒田さんの答えって多分火消し成分満載で出てくる(黒田さんがそこでこれまでの反省の弁を述べるようなタマとは思えないし、たぶん却って意固地になって盛大に火消しをするので、それこそ火消しのために隣家を破壊するくらいの強いトーンで逆の話が出てくると思う)って感じで考えておりまして、出口に関する発言がなんか出てくるとか期待するのは難しいんじゃないですかねえ。いや勿論「QQE2以降は調子に乗り過ぎました反省しますマイナス金利もまずかったですね」とか素直に降参していただきたいのですが、まあそんなの無理無理無理というか、もしやるにしても政府の方で「デフレ脱却宣言」とか「じっくりと成長戦略に取り組む」みたいなお膳立てをしないで日銀が単独でそういう話をするのは日銀にとってリスクでしかないですから、まあ最近確かにサービス発言は続々と出てきたとはいえ、それはそれでこれはこれという感じではないでしょうか。

#なお個人の感想なので違ったらゴメンやで


〇市場雑談メモ

・短国ェ・・・・・・・・・・・・・・・

今日がMPM2日目なので3Mは昨日実施。

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20171220.htm
(3)募入最低価格 100円04銭8厘5毛(募入最高利回り) (-0.1751%)
(4)募入最低価格における案分比率 42.9500%
(5)募入平均価格 100円05銭2厘1毛(募入平均利回り) (-0.1881%)

ということで先週の3Mが▲19.54/▲17.86で今週月曜の1Yが▲15.47/▲15.97だったので、強いんだか弱いんだかよくわからん結果ですが、市場的には事前予想よりも弱めの決着だったということのようですな。

ロイターさんの短国のコメント
https://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL4N1OK29L
2017年12月20日 / 15:24
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は大幅続落、長期金利0.050%に上昇

『新発3カ月物国庫短期証券(TB)の入札結果は、事前予想よりも弱めになった。日銀の買い入れオペへの警戒がみられた。6カ月物のTB(725回)は業者間取引で弱含み。』(上記URL先より)

とはなっていますが、新発3Mの売買参考統計値が729回なので▲18bpになっていて、平均よりも弱くて足切りよりも強いという数値になっている一方で、新発1Yの売買参考統計値が▲15.7bpで平均よりも強いので、基本的に明日短国買入が入るとしても1Yの方が優先して打ち込まれるの図ということになるんでしょうな。

でもってこれ年末年始の恒例なのでいつも通りの話ではあるのですが、短国の入札は昨日で年内終了になってしまいましたので、ここから年末にかけては色々な特殊需要も含めて需要のある中で供給がない、という状態になってしかも年末ってそれなりに特殊需要があるので、実際には金曜に打つ短国買入ってのも中々むつかしくて、今のところ需給が少し緩んだような入札結果になってはおりますが、短国買入一発で需給が締まってしまうと、年末特別需要があるので来週盛大に需給が締まるリスクがありまして、かといってゆるゆるにすると今度は短国のマーケットメーカーが死んでしまうのでそれはそれで長期的に望ましくなかったりして、匙加減どうするのでしょうかというのが興味津々(他人事モード)。


・なお長期

ロイターさん再掲しますと。
https://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL4N1OK29L
2017年12月20日 / 15:24
〔マーケットアイ〕金利:国債先物は大幅続落、長期金利0.050%に上昇

『 <15:16> 国債先物は大幅続落、長期金利0.050%に上昇

長期国債先物は大幅続落で引けた。前日の米債市場で強めの金利上昇圧力がかかったことから短期筋からの売りが優勢になった。日銀オペの結果は総じて無難と受け止められて中盤はもみあったが、終盤にかけては海外勢を巻き込んだ調整売りが強まった。現物債も各年限で金利が上昇した。ポジション調整の動きが強まり、一部で益出しの動きも観測されていた。もっとも、好需給に変わりはなく、一方的に売られる地合いにはならなかった。

長期国債先物中心限月3月限の大引けは、前営業日比20銭安の150円76銭。10年最長期国債利回り(長期金利)は前営業日比1.5bp上昇の0.050%。』(上記URL先より)

いや別にロイターさんに悪態つくわけではないのですが、20銭如きの動きで大幅と言われましてもとか思いますし、超長期とかせいぜい1毛甘とかでしょとか思いますと全然大幅とは思えないのですが、まー見事にウゴカンチ会長になっている円債市場ちゃんでございますので、まあこういう書き方になるよねとは思うのでありました。できれば「大幅」というのは超長期で5毛くらい動いた時だけの記事見出しになる程度はボラが復活していただきたいと思う今日この頃。


〇時間がないのでちょっとだけですが来年度発行がらみ

http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbsp/proceedings/outline/171214.html
国債市場特別参加者会合(第74回)議事要旨

http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/meeting_of_jgbi/proceedings/outline/171215.html
国債投資家懇談会(第73回)議事要旨

発行計画以外にもネタがありますのでそれはそれで読む話なのですが、投資家懇の方での超長期国債に対する意見が味わい深かったので一発ネタで。

『・30年債については、減額しても問題ないが、40年債については、依然として市場育成の途上にあるため、発行額を維持することが望ましい。』

原則論として話は分かる。まあ40年出すんじゃなくて30年の次は50年出した方がよかったのかなと今になっては思いますが。

『・30年債については、グローバルに見ても超長期ゾーンのベンチマークになっている国が多いので、減額は避けてほしい。』

うーんこの理屈。

『・超長期ゾーンの発行減額については、できるだけ避けてほしい。』

『・30年債と40年債の減額について、国債市場特別参加者と一部の投資家との間で意見が食い違っているが、短期的に見て国債の消化に問題がない現在の局面では、投資家の意見の方を重視すべきだと思っている。超長期ゾーンの投資家は、日本経済において金融面で重要な役割を担っており、長い目で見て市場に残す必要がある。国債管理政策において、低金利が望ましいのは当然だが、他方で、日本銀行の総括的検証においても明らかにされたとおり、過度な低金利及びイールドカーブのフラット化は景気によくないと指摘されている。当局としても、市場との対話に加え、日本銀行ともコミュニケーションを取りながら、日本経済全体を考えた国債管理政策に取り組んでほしい。』(以上国債投資家懇議事要旨より)

「短期的に見て国債の消化に問題がない現在の局面では、投資家の意見の方を重視すべきだと思っている」というのは言いたいお気持ちは非常によくわかるのですが、この正直者!という感が・・・・・・・・・・・


まあ何ですな、超長期の長いところに関してはかねてよりニーズがあるないという話がずーっと続いていた訳ですが、金利水準の問題がそこに絡んでくると話が非常にややこしくなりまして、ニーズはあるけどこの金利ではちょっと・・・・・というのがそれはニーズがあるのかないのかというのってどちらの方向での意見も尤もらしい話になってしまうので、なかなか難しい問題じゃのうと思うのでした。というメモだけ。






2017/12/20

お題「虫干しネタでジンバブエ先生の会見を今更(もう20日以上前ですがな)」

おうおうもう20日ですよ20日、ということで今年は皆さま如何でしたでしょうか?

でもってアタクシは割と肝心な時期にPCクラッシュ(のおかげで年末に思わぬ物入り)とかあったのでMPMを前に積み残しネタが多いうえにPC操作にイマイチ慣れない所に来ましてアタクシが一番朝苦手な12月(ヒント:日の出時刻)なもんで・・・・・・・

ということでまあ債券市場もろくに動かん(短いところだけ短国需給とかあるけど)ので虫干しネタを色々と(実は今年も最終週がフルに金曜まであってそっちのネタの方が無いことを恐れるのだが多分海外中銀ネタの棚卸をしていると思う)。


〇ジンバブエ大先生の福島金懇記者会見を満を持さないで投下の巻

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1712a.pdf

なおたまに金懇挨拶の方を引用しますのでURLを置いておきます。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/


ちなみにわざわざ地元経済の質問を質問を入れて時間を稼ぐというのはやらかしリスクのある審議委員が金懇をやった場合のお約束のパターンになっているようにしか見えないのですけれどもいや何でもありませんすいませんすいません。

ということで質疑がかみ合っていない質疑ですが、3ページ目から地元以外の話になります。


・人手不足に関する質疑

『(問) 1 点目は、懇談会の挨拶要旨の 21 ページで、賃金・物価が上がらないのは人手不足が不十分だからという結論をおっしゃっており、その前のところで本を引用されて、色々な議論があるとおっしゃっていますが、構造的あるいは制度的な問題で、労働組合がそこまで高い賃金を要求していないとか、あるいは労働市場改革が進んでいないといったことを無視してまでも、現在の金融政策を続けていけば賃金・物価とも上がるとお考えなのでしょうか。また、人手不足が不十分というのはどのようにして判断されているのか、あるいはどのような状況になれば人手不足がさらに進んだということが、どのような統計で今後確認できるのかという点を教えて下さい。それと、細かい点ですが、挨拶要旨で貧困率について述べていらっしゃいます。確かに改善はしているのですが、15.6%というのは今でもOECDの平均を上回っています。この点に関して、方向性と水準についてどのようにお考えでしょうか。』

後半の方はアタクシもツッコミを入れましたが、OECDの平均との比較というのは気が付かなかったです良いツッコミ。でまあ前半は要約すると「特に賃金に関しては労働需給はプラスの需給ギャップという状態になっているが、構造的な要因で賃金が上がりにくくなっている、というのが最近の政策委員会の大勢見解だと思うが、人手不足と判断する根拠と人手不足が解消したら賃金上がるの?」という話ですな。

『(答) まず、人手不足については、もちろん、様々な問題がありますが、これについて細かく議論していると終わらなくなってしまいますので、この文献を挙げたということです。』

ということですが、この部分って金懇挨拶要旨だと、

『以上申し上げましたように、QQEは大きな成果を上げています。また、その危険とか副作用とか言われているものも、根拠がありません。問題は物価が上がっていないことだけです。これに関連して、人手不足なのになぜ賃金や物価が上がらないのかという疑問が良く聞かれます17。私の答えは、人手不足が不十分だからだということにつきます。』(原田審議委員2017年11月30日福島金懇挨拶要旨より)

ってなっていて、その17の脚注が、

『17玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶應義塾大学出版会、2017年。』

とあるのですが、質疑応答に戻りますと上記部分の続きが、

『ただ、私は色々な議論があるけれども、賃金が上がらないのは人手不足が不十分だということが一番大きな問題だと思っています。』

ってなっていまして、質問の方で「どのような根拠で人手不足が不十分なのか」と聞いているのになんでそういう答えになるのでしょうか?????

『金融政策だけで十分に賃金を上げることができるかとのご質問ですが、私は名目の賃金を金融政策で上げるということは十分に可能だと思っています。』

ということで、質問にあった「人手不足と判断する根拠」とか「何をもって人手不足が解消したという話になるのかの判断材料は」というのに対する答えになっておりませんがなというお話で、さすがジンバブエ先生人の話聞かないどころか勝手に俺様解釈するわと感心することしきりでございます。

いやまあ1京歩くらい譲ってこの大先生の言葉を翻訳すれば「人手不足と巷間言われているが、賃金が上がっていないというのは、例えば高スキルの労働者に対するニーズが少ない、というような状態である、というような状況であり、未だに労働市場にスラックが残っている証拠である」とか言いたいのかもしれませんが、もうちょっとものの言い方を工夫してくれないと何を言ってるのかさっぱりわかりませんので何とかしてください。

『これと関連して 2 番目の質問については、挨拶要旨では、需給ギャップを用いてフィリップス・カーブのグラフを書いていますが、ほとんど同じようなグラフを失業率を用いて書くこともできます。これでみますと、物価が 2%になるためには、失業率でいうと 2%台の半ば位にならないといけないですし、需給ギャップでみても 2%台の半ばにならないといけません。』

それは1番目の後半の質問ではないかと思いますがまあ良いとしまして、人手不足の質問をしているのにこの答えは答えになっていないのが問題点のその1。それからこれは講演テキストにネチネチ突っ込んだときに(だいたいこのテキストへの全力ツッコミがネタの滞貨要因な訳ですが)も申し上げましたが、2%の物価目標というのは「物価安定目標」であって、需給ギャップが大幅なプラスになってやっと2%になってもそれは意味がないとは言わないけど物価安定目標の達成とはならないんですが、というかその2%台半ばという数字も相当に違和感あるのだが。

『ですから、2 つの指標でみて、人手不足がそこまで続き、かつ物価がある程度上がるという状況が続けば、物価上昇率 2%を達成できるだろうと考えています。』

物価が上がるという状況が続けば物価が上がるってもうちょっと言い方何とかならないの。

『それから指標について、もう少し申し上げますと、有効求人倍率はこれまでで一番高くなっていますが、介護や保育など、特に介護は非常に求人倍率が高いため、その結果、平均も高くなっています。』

はあそうですね。

『ただ、介護や福祉関係の仕事は、賃金を自由に決められるわけではなく、言わば公定賃金に近いものです。そのような中で何とか人をかき集めようと、みんなが行動しますので、その分野の有効求人倍率が非常に高くなり、結果として平均も高くなります。』

介護保険なんぞ使わんがなという仕事では求人が無いちゅうことですな。

『物価が 2%程度上昇していた頃の有効求人倍率は、もちろん介護需要はありましたが大きなウエイトを占めていませんでしたので、少しその指標の数字の意味が変わっているのではないかと思います。』

ということですから、つまり原田大先生によれば要は現状では人手不足というほどのこともない、っつーお話になるのですが、ここで金懇挨拶の方を見てみましょう。

『第2は、ある人々には良いことが起きているが、多くの人々に悪いことが起きているという議論です。確かに、人手不足は働きたい人には良いことですが、人を雇う経営者の立場からすると悪いことかもしれません。しかし、商品が売れなくて困るより、売れるのに売ったり作ったり運んだりする人がいなくて困る方が望ましいと思います。売れなくて経営危機ともなれば、雇用を削減しなくてはいけません。そんなことをするのは大変です。2008年のリーマンショックの後には、やむを得ず人員整理が必要になった、あれほどつらい思いをしたことはない、と多くの企業経営者の方々からお聞きしました。日本で、そんな簡単に人員整理のできる経営者の方はいらっしゃらないと思います。人余りより人手不足の方がずっと良いと思います。』(この部分のみ前掲福島金懇挨拶より)

ということで、QQE政策の効果として人手不足が起きるくらいに雇用環境が改善している、というアピールをしているのですが、その一方で物価が上がらないことに関して質問されるとこのように「人手不足ではない」とか言い出す始末でして、だいたい置物リフレ一派の皆様は毎度そうなのですが、一つ一つのパーツでの説明はその中で完結して意味はつながっているのですが、その時々で自分の説明に都合の良い部分だけを拾って都合の悪い部分をカットするもんだから、全体的な話の整合性が全然取れないというのが仕様になっていまして、まあそんな方の提言する政策なんぞをやったらどうなるのかというのは推して知るべしということになる訳っすな。

『それから、貧困率は、もちろん、今のレベルがこれでよいと言っているわけではなくて、量的・質的金融緩和を続けた結果、良くなっているということを申し上げたということです。現在の格差の状況が良いとか悪いとかということを申し上げたものではありません。良い方向に進んでいるのは事実であるということです。』

ということのようですが、先般アタクシがツッコミを入れた通りで、同じ統計の中でも、2012年と2015年を比較すると、世帯収入が平均値を下回っている比率は2015年の方が高くなっていまして、そういうのを引っ張り出すと格差拡大ともいえたりしまして、そもそもこの「良い方向に進んでいる」というのに関しましても、これまた都合の良い数字を引っ張ってきて話をしているだけではないかという問題があります。まあ理屈の方はしょせん理屈の話だから矛盾していても実際に政策に落としたときにまた修正を入れれば済む話なのですが、現状認識の部分で都合の良いものをピックアップしてこんなに成果が上がっているとか言い出すのって、どこの台湾沖航空戦だよという話で、間違いに気が付かずに暴走するリスクがあるのでマジで勘弁してほしい。


・これはナイスツッコミ

という質疑の次にナイスツッコミ。

『(問) お答えの中で、名目では賃金を上げることができるとおっしゃったのですが、実質で賃金を上げるためにはどうしたらよいのでしょうか。』

まあ何せQQE始まる前に重鎮の浜田大先生は実質賃金は上がらない方がよいとまで仰せでしたし。

『(答) 実質で賃金を上げるためには、労働生産性が上がらないといけません。労働生産性が上がるためには、金融政策だけでは駄目で、成長戦略、規制緩和、貿易の自由化など色々な面において――貿易自由化も広い意味での規制緩和だと思いますが――、広い意味で規制緩和が進んで経済が活力を取り戻すことが大事だと思います。』

これはもうこう答えるしか無いでしょうが、金融政策で何でもできる置物リフレ理論といえどもさすがにこうなってしまうのはなかなか味わい深い。

『ただ、このところの動きをみていますと、例えば金融緩和で人手不足が作られた結果、ビジネスプロセスの見直しが進んで、あまり効率的でないところに人員を配置していたのを取り止めることによって生産性が上がりました。それから、安定的な経済成長を作り出したことによって、安心して設備投資ができる。そうすると、新しい機械によって生産性が上がるわけですから、そういう意味では金融政策も、実質賃金を上げることに多少の貢献はしていると思います。』

との仰せですが、物価が上がらない方に関しては「人手不足が不十分」という話をしているのに、こちらでは「人手不足が作られた」という話をしているとか、まさに都合の良い時に都合の良い説明をするので前後の論旨に一貫性が無い、という置物リフレ一派の面目躍如という感じですな。


・リバーサルレートに関して

『(問) 1 点目は、黒田総裁が先日の講演で言及されて話題になっている「リバーサル・レート」について、そもそもそういうものはあるのかないのかをお伺いします。(後半割愛)』

『(答) 「リバーサル・レート」というものがあるのか、ないのかということですけれども、もちろん概念的にはそういうものはあり得ると思います。ただし、現状がそうであるのかと考えますと、私は現在行っている「イールドカーブ・コントロール」のもとでそういうことが生じているとは思っていません。現在の「イールドカーブ・コントロール」によって力強い金融緩和効果をもたらしていると考えています。(後半割愛)』

珍しく普通の質疑応答になっていますな(^^)。


・片岡VS原田ファイッ!

『(問)(前半割愛)2 点目は、片岡委員が提案された追加緩和について、原田委員としては、片岡委員の提案に対して時期が間違っているということなのか、手段として賛同しかねるということなのか、どちらなのでしょうか。』

これは嫌らしい質問(さっきのの後半になります)。

『(答)(前半割愛)2 点目の片岡委員の提案に対する私の考え方と、現状の「イールドカーブ・コントロール」への評価は同じですが、現在の「イールドカーブ・コントロール」は力強い金融緩和効果をもたらしていると考えています。』

つまり今の政策で効果があるので追加が不要、ということですが、この部分を一応素直に読みますと、もはやジンバブエ大先生ですら「2年で2%」とか「できるだけ早期に」というような達成時期に関しては華麗にスルーするようになった、ということを示していると思います。

ただまあ何ですな、本来置物リフレ理論だと「期待の変化」が必要という話をしていたはずで、期待の変化を行うために一種のマネタリーショックを行ったという政策だったわけで、追加緩和をしないで時間の経過とともに物価の上昇を待つ、というのは期待の変化を起こして2%を安定的に推移させるようにする、というのとずいぶんとアプローチが違うので、その辺はちゃんと整理してくれないと、ここでのジンバブエ先生のように需給ギャップが大幅なプラスになったら2%達成だぜというような、それはそうなれば行くのかもしれないが、全然サステイナブルな話じゃないし、大体からしてその間に海外経済が後退局面に入ったらお前らどないすんねんというような態度になってしまいますので、もっとこのあたりの時間的な話とフィリップスカーブ上のY切片を上げるという話の整理(とそもそも2%なのかという話もあるのですが正面切るとややこしいのでそこはお察しできる分析でよいので)を総括検証パート2でもなんでもよいですがやってくれないと。

『それから、片岡委員の提案につきましては、金融政策決定会合での発言は主な意見および議事要旨を通じてのみ公表するということになっていますので、私からどういう議論があったかということについて、主な意見および議事要旨を超えるご説明することはできませんが、私としては、現在の金融政策は 2%の「物価安定の目標」に向けて十分な効果をもたらしていると考えています。もし、外的なショックがあって、これが不十分であるということになれば、私としては追加緩和をしなければならないと思っています。』

ということですが、意見の内容であるところの「15年金利0.2%以下にキープ」というのは出ていたのでそれに対する見解は何なのよとは思いますが、「外的なショックがあって」っていうくらいですので、基本は今の政策を継続に賛成ということですが、量的にはずいぶんと緩和ペース落ちてるんですけどその辺は大丈夫なんでしょうかねえ(棒読み)。


・どう見ても蒟蒻問答です本当にありがとうございました

まあ鑑賞して味噌。

『(問) 人手不足が不十分だという点を懇談会の挨拶の中で指摘されていますが、人手不足は今に始まったことではなく、90 年代や 60 年代にもそういった議論があったと思います。とりわけ人口減少社会と言われる中で、特に福島を始め地方経済ですと、人口減少によってマーケットの一段の拡張が見込みづらいという中で、例えば、原田委員がおっしゃっていたような新しい機械を入れて生産性を上げるという省力化投資というのは、ややもするとリスクになるという実情もあるのではないかと思います。現実的には、外食産業等で人手不足倒産等が起きている中で、一段の人手不足が必要というのは、立場によっては若干ラフな議論に映る方もいると思いますが、その辺をもう少しご説明頂ければ幸いです。』

ふむ。

『(答) まず、人口減少の中で人手不足は問題ではないかということですが、人が減れば需要も減るし供給も減るわけです。もちろん、細かいことについては、色々と議論はあると思いますが、ざっくり言えば需要も供給も減るわけですから、人手不足に対する影響としては人口減少は中立的だと考えてよいと思います。』

???????????????????

『それから、需要が先細りの中で、省力化投資はリスクになるというのはその通りだと思います。』

それはそうだがさっきの説明との整合性は?????

『今までのデフレの中で、ずっと需要が減少していきましたので、省力化投資に踏み切れないという状況だったのではないかと思います。今は 16 年振りに 7 期連続のプラス成長となったとか、そういうことによって将来的に需要が減少しない、少しずつでも需要が増えていくと確信が持てることによって、省力化投資も増えてきたということだと思います。』

質問に対する回答になっていない・・・・・・・

『それから、もっと簡単なのは、ビジネスプロセスを見直すことで、例えば、お客さんが非常に少ないのに深夜営業をやっていたのを止めるということは、人手不足を緩和することであり、同時に厳しい労働環境を減らすことになりますから、非常に良いことなのではないかと思います。』

えーっとすいません、それは雇用機会が減るということでもあるのですが非常に良いこととかエライまた一面だけとらえてますな。

『確かに、人手不足は労働者にとっては良いことでも、雇う企業経営者にとっては悪いことかもしれません。けれども、企業経営者の立場としても、人手不足はモノが売れるのにモノを作る人がいないから人手不足なわけで、逆に、モノが売れなくて人が余ったとしたら経営者としても大変なことなのではないでしょうか。この場合、解雇しなければならないわけですが、そのようなことを気楽にできる日本の経営者はいませんので、人手不足は誰にとっても良いことだと思います。』

もはや会話になっていない・・・・・・・・


・追加緩和の手段がほぼないことは把握しているようですな

『(問) 先程、外的なショックがあった時に不十分であるならば追加緩和しなければならないとおっしゃいましたが、どういった手段があるとお考えですか。(後半割愛)』

『(答) まず、追加緩和の手段ですけれども、それについては、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の範囲をどのように広げるかということだと思いますけれども、それを具体的にどうするかということについては、金融政策決定会合で決めることであり、私がここでこういう手段を採ると言うのは適当でないと思いますので、コメントは差し控えさせて頂きたいと思います。(後半割愛) 』

以前なら「量を増やせばよい」だったはずなのですが、すっかりこの辺の威勢良さはなくなっていますな。


・・・・・・などと鑑賞していたらPD懇とか投資家懇ネタをはじめいろいろなネタがまだ未成敗なのに時間が来てしまうまということで誠にすいませんただの虫干しデーになってしまいました(反省)。






2017/12/19

お題「日銀短観は肝心の物価以外は強い内容ですな/昨日の朝刊でマイナス金利に関するちょっとしたニュースがあったので備忘」

まあ実際にそういう詐欺サイトがあるんでしょうなとは思いますが。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel171218b.htm/
日本銀行の関与を装った不審なウェブサイトにご注意ください

2017年12月 日本銀行

『最近、何者かが、日本銀行が関与しているかのように装ったウェブサイトを作成し、金品を騙し取ろうとする事案がみられているとの情報が寄せられています。こうした事案と日本銀行とは一切関係がありませんので、ご注意ください。』

先週金曜日にまさしく日本銀行の関係者からの発言であるかのような観測記事が出た直後なので吹いてしまいました。政策広報か情サか存じませんが(情サですかね)、ナイスタイミング(^^)。

#てなギャグはともかくネット詐欺には注意ですな

最近利上げで云々利下げで云々という話をモーサテの講釈者がしていますが、この人たち金融政策は「経済情勢に対する結果として金融政策の操作が起きている」という話を思いっきり逆転して話をしているようにしか見えない次第で、「利下げ局面では株価が下がる」とかいう講釈はさすがに朝から茶を吹いた(それは株価がさがるような経済物価情勢なので政策金利を下げなければいけない、という話で別に金融政策は因果関係でいえば結果の方)です。


〇1日遅れましたが短観で内容は良いでしょうなこりゃ

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/tankan12b.htm/(概要)



・先行きDIの達成度合い

         (9月時点)     (12月時点)
         現状→12月予測    現状→3月予測
製造業大企業   +22→+19     +25→+19 
製造業中堅企業  +17→+13     +19→+14        
製造業中小企業  +10→+8      +15→+11

非製造業大企業   +23→+19    +23→+20
非製造業中堅企業  +19→+14    +20→+14
非製造業中小企業  +8→+4      +9→+9

一応ここで前回(9月短観)の時にこんなことを書きました。

さて今回ですが、前回に引き続き先行き見通しDIを上回っていますし、そもそもDIの水準自体でも製造業が前回水準をやや多めに上回るという状況(非製造業は微増または横ばい)になっておりまして、今回の景気回復は非製造業がという話もありましたが、製造業までこのような状況という事ですから大変に結構な数字になっている訳で、需給ギャップもプラスに転じている(片岡審議委員に言わせるとそうではないのですが)という中で、逆に何で物価上昇が加速して来ないのかと小一時間問い詰めたいというようなヘッドラインになっていると思うの。

企業の収益にはなるけどそこから中々波及してこない、というような状態になっているのは理屈としてはどういう事であって、それを何とかするにはどうすれば良いのか、というお話になると思うのですが、とにかく異次元緩和で期待のチェンジというのは残念ながら不発だったので、それを更に緩和したら何とかというのも変な話なのですが、そうは言いましてもその辺りを認めてしまうと金融政策の存在意義を問われてしまいます(なお中央銀行の存在意義の方はバジョットの話まで戻って決済とLLRと発券があるので存在意義は十分にある)ので中々話が難しいですの。(ここまで前回10月3日作成の駄文より)

でもって今回ですけれども、今回もまたまた製造業大企業以外のDIが前回よりも水準が上昇しているという素敵な展開になっている訳でございます。先行き見通しが堅めに出てくるのは上昇時の仕様なのでまあこんなもんですが、気持ち前回の先行き見通しよりもよくなっていて、これはもう絶好調オブ絶好調という企業の業況判断、という結果になっております。

でもってですよ、問題はここまで業況感が良いという状態なのに物価も賃金も碌すっぽ上がランチ会長になっているどころか、こんだけ業況感が良くてお賃金を碌に上げない企業から重加算でもするならともかく、ベア出したら企業減税とか甘やかせにもほどがあることをするけどその分帳尻で個人の所得控除削減とか社会保険料上げるとか、やっていることが全く持って逆だろ法人税増税個人所得税減税(年末調整の戻し税がボーナス増えたような錯覚になって気が大きくなるのでオヌヌメなんだが)したほうが個人消費の喚起になって企業の価格設定にもプラスじゃろと一部(全部)ポジショントークが入っている気がしますがそう思うのですけどねえ。

と、話が脱線しましたが続き。


・雇用判断DI(ここの数値はマイナスが大きい方が雇用情勢的には良い)

        (9月時点)      (12月時点)
        現状→12月予測     現状→3月予測
製造業大企業  ▲12→▲11      ▲13→▲13
製造業中堅企業 ▲22→▲25      ▲27→▲26
製造業中小企業 ▲23→▲27      ▲26→▲30

非製造業大企業   ▲24→▲24    ▲25→▲26
非製造業中堅企業  ▲34→▲37    ▲36→▲39
非製造業中小企業  ▲37→▲42    ▲36→▲39

前回10月短観の駄文ですが、

いやこれだけ人足りない言ってるのに賃金って何でホイホイと上がらないのかよと小一時間問い詰めたい訳ですが、「業況は良いです」「人が足りません」とか言っているものの、だからと言ってそこからバンバン待遇上げようとかゆー話になってこないというのが実に不思議ちゃんな世の中です。そんな中で社会保障負担とかしらっと上がってきているので、実質可処分所得とか上がっている気が全然しないのが困りもので、このサイクルどこを動かすと前向きに回りだすんでしょうかねえ・・・・・・・・・・(ここまで前回10月3日作成の駄文より)

って書いたのですが、この前ニュース見てたら「海外の技術研修留学制度(でしたっけ?)の対象を拡充」とかいう話が出ていたりして、結局企業が人足りないと抜かしているのは「安い給料で働く人が足りない」ということですかそうですか(ちなみに技術研修の制度については色々と思うところがあるのですがその話はさておきまして)ってな話でございます。何をどうすると賃金が恒常的に上がっていくというアタクシのようなクソジジイが小僧の時にあった期待が戻ってくるんでしょうかねえ。


・販売価格判断(「上昇」-「下落」)

        (9月時点)      (12月時点)
        現状→12月予測     現状→3月予測
製造業大企業  +0→▲2        +1→+0
製造業中小企業 ▲2→▲1        +0→+1

非製造業大企業  +3→+1       +4→+2
非製造業中小企業 ▲3→▲2       +0→+2



仕入価格判断(「上昇」-「下落」)

        (9月時点)        (12月時点)
        現状→12月予測       現状→3月予測
製造業大企業   +14→+13       +18→+18
製造業中小企業  +28→+31       +33→+37

非製造業大企業  +12→+15       +15→+15
非製造業中小企業 +19→+24       +24→+28

ここの数字あまり動かないのですけれども、今回は何と販売価格判断がプラス転しているざますわよ奥様これは素敵ですわね、と言いたいところなのですが、仕入価格判断の方がより盛大に悪化(上昇)しているのでただのコストプッシュなのかもしれませんが、なんぼ何でもここまで消費が堅調で企業も業績判断強くしているのだから、価格設定が強気化する兆候が出ている、と日銀的には思いたいところではないかと存じます。まあそうなってもさて定着かというところでまた個人に増税と社会保障負担拡大が来た挙句にそのあと消費増税と来ますけどね。


・需給判断DI

国内需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (9月時点)        (12月時点)
        現状→12月予測       現状→3月予測
製造業大企業  ▲5→▲6         ▲2→▲3
製造業中小企業 ▲16→▲17       ▲13→▲15


海外需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (9月時点)        (12月時点)
        現状→12月予測       現状→3月予測
製造業大企業  +0→+0          +3→+1
製造業中小企業 ▲8→▲4          ▲7→▲6

これも基本あまり動かないのですがなんか改善している感じでして、まあ今回の短観って見た感じやたら強いじゃんという風に思うのですが、何せ最近は物価2%達成ガーという話なのでここの数字がどうこうなっても反応しませんな。


・金融商品取引業ェ・・・・・・・・・・・

金融商品取引業の業況判断に全オレが泣いた。

        (9月時点)        (12月時点)
        現状→12月予測       現状→3月予測
金融商品取引業  +10→+13       +38→+28

ちなみに9月は+23(次回予測数値+23)でしたので、お前らどんだけ目先に振り回されているんだよと小一時間問い詰めたいというか、そういう業界の人たちが市場予測などいやなんでもありません。


・物価判断関連

昨日出た方になります。
http://www.boj.or.jp/statistics/tk/bukka/2016/tkc1712.pdf
短観(「企業の物価見通し」の概要)―2017年12月―

1.販売価格の見通し(現在の水準と比較した変化率)

基本的には、「全規模合計 全産業」で見た場合、

1年後:前回+0.5%→今回+0.6%
3年後:前回+1.0%→今回+1.1%
5年後:前回+1.2%→今回+1.3%

となっているので日銀としてはニッコリというほどではないでしょうが、何せ最近は別に2年じゃなくていいじゃないかじったいけいざいだもの、という物価目標達成の時間軸に関しては相田みつを状態になっておられますので、むしろこんな感じでチンタラと上がった方が一時的要因じゃなくていわゆる一つの「ノルム」(最近やたら使われるパワーワードです)の変化ということになるから却って望ましいんじゃないですかねえ。

なお、今回は製造業中小企業の5年後の所が外れ値みたいな上げ方していますが何なんでしょうかね。


2.物価全般の見通し(前年比)

基本的には、「全規模合計 全産業」で見た場合、

1年後:前回+0.7%→今回+0.8%
3年後:前回+1.1%→今回+1.1%
5年後:前回+1.1%→今回+1.1%

と、日銀しょんぼりの展開ですが、かつてはやたら主張していた「大企業は足元の経済物価情勢に振らされた答えを出しやすいのですが中小企業の数値の方がより世間の物価観を示している(キリッ)」に則って拝見しますと、

中小企業製造業
1年後:前回+0.8%→今回+0.9%
3年後:前回+1.1%→今回+1.2%
5年後:前回+1.2%→今回+1.2%

中小企業非製造業
1年後:前回+0.8%→今回+0.9%
3年後:前回+1.2%→今回+1.2%
5年後:前回+1.2%→今回+1.3%

となっていまして、日銀涙目の展開になっていることには変わらないのでしたが、まあ心眼で見れば少しは上がっていないこともないという状態ではございますので、なんか無理やり「上がっている兆候が見られる」という締め方にするんでしょうな対外的というか大本営発表的には(自分らの中での分析は知らん)。


ということで物価は相変わらずぱっとしないけど企業業績と雇用逼迫はますます拡大している、という短観になっておりますな、という結果ではありました。


〇これはキタコレニュースですわ

実際は昨日の日経朝刊に出ていた話ですが、何せ日経宅配で取っていないので(つーかそもそも新聞を宅配で取ってない)ニュースに気が付くのが微妙に遅れるの巻。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24744560X11C17A2MM8000/
マイナス金利、公的年金が負担 みずほ系信託が要請
経済 金融機関 2017/12/18 1:31日本経済新聞 電子版

『公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、預金の預け先である銀行が日銀に支払うマイナス金利分を負担する方針を固めた。運用難でGPIFの預金(短期資産)は10兆円以上に膨らみ、信託銀行がマイナス金利分を負担しきれなくなった。現状の残高を前提にすれば負担は年に数十億円程度とみられる。日銀のマイナス金利政策の副作用が大口預金者にも波及した。』(上記URL先より、詳しい内容は昨日の日経朝刊か有料会員の方は続きを見てちょ)

とまあそういう訳でマイナス金利適用でござるという話ですが、まあこのマイナス金利で運用するのが出来なくなって公募の国内MMFが全部お取り潰しにせざるを得なくなったりとか、MRFに一部マクロ加算適用になるとか色々とドタバタしておりましたが、まあこういう流れになりますよねえってところでございます。

ここから民間金融機関が預金者にもマイナス金利転嫁とかいう話になると熱い展開というか日銀総叩きの展開になる訳ですが、これってマイナス金利導入のころから「日銀に預金からマイナスを召し上げられるってそれただの財政的な引き締めじゃねか」という論点がありましたので、マイナス金利とかいううんこオブうんこの制度については可及的速やかに問題という認識をしていただいてさっさと撤収をしていただきたく存じます。






2017/12/18

お題「年末進行の月曜日につき本日は簡単なメモでご勘弁賜りたし」

12月も18日になりますと一気に年の瀬感が高まりますな。そしてこの時期は日の出が遅くて朝がしんどい。

〇FOMCネタ補足(なお会見Q&Aは後日回し、汗)

・エバンスの反対意見とな

https://www.chicagofed.org/publications/speeches/2017/12-15-2017-evans-rationale-for-dissent-december-fomc
Rationale for My Dissent at the December 2017 FOMC Meeting
Comments on the December 2017 Federal Open Market Committee vote.

へえへえそうだっかということでちょっと確認。

『At the December 13 Federal Open Market Committee (FOMC) meeting, I dissented from the decision to increase the federal funds rate.』

反対票でしたな。

『I thought the decision was a close one, and I carefully considered all of the arguments for and against raising rates. In the end, I did not share the majority’s view that the balance of evidence favored a rate increase.』

賛成するか反対するかは微妙なところだったそうで。

『 Real activity in the U.S. is on a solid footing, which by itself would support a further adjustment in policy. Inflation, however, is too low and has been so for quite some time. I am concerned that persistent factors are holding down inflation, rather than idiosyncratic transitory ones. Namely, the public’s inflation expectations appear to me to have drifted down below the FOMC’s 2 percent symmetric inflation target. And I am concerned that too many observers have the impression that our 2 percent objective is a ceiling that we do not wish inflation to breach, as opposed to the symmetric objective that it really is; that is, we would like to see the odds of inflation running modestly below 2 percent equal the odds of it running modestly above over the long run.』

前半の「物価が上がらんのは一時的な問題ではなくて構造的な問題の可能性があるし、インフレ期待も下がっているのではないか」という話は分かるのですが、後半の「世間のインフレ期待はFEDが物価2%からの上振れを容認しているとみていくのではないか、という懸念はうーんこのという感じで、おそらくエバンスのこれまでの主張からすると「だからインフレ目標を引き上げるべき」となると思われますが、それってよし悪しの面があって、元々2%目標に行ってないのにそこで目標を上げると、期待が上がるよりも信任が下がるんじゃねーの的なイメージがするんだが。

『I believe that leaving the target range at 1 to 1-1/4 percent at the current time would have better supported a general pickup in inflation expectations and increased the likelihood that inflation will rise to 2 percent along a path that is consistent with a symmetric inflation objective.』

利上げしない方が2%物価目標達成に近づきやすいというオーソドックスな主張。

『Such a pause in the policy normalization process also would have better allowed the Committee time to assess the progress of incoming inflation data. Many analysts think the drop in core inflation this past spring was probably transitory. Waiting a while longer before raising rates would have given us a chance to see whether or not that was true. Hopefully, it will turn out to be the case that the inflation decline was largely transitory and that a gradual pace of rate increases can eventually take place in a context that delivers greater confidence that inflation will reach 2 percent over the medium term.』

ここまでの物価上昇一服が本当に一時的な要因によるものなのかを確認する時間が欲しいと。

『Note: Opinions expressed in this article are those of Charles L. Evans and do not necessarily reflect the views of the Federal Reserve Bank of Chicago or the Federal Reserve System.』

最後のは「エバンスの個人的見解です」というやつですな。


・ドットプロットのロンガーランFF金利補足

   今回  前回
2.25  1   1
2.50  2   4
2.75  6   4
3.00  6   5
3.25     
3.50      1

前回対比下がっているぜヒャッハーとか申し上げたと思うのですが、よくよく考えたら(というか読者様からのツッコミを受けたのですが、汗)3.50%ってのは変態仮面レートで、タカ派おじさんの退任というのがあったりしておりましたので、そこを無視して数字を見ると2.50の人が上がっているじゃんという話でございまして、結局こういうのって算術平均見ていると(寝起きだとつい算術平均だけみたくなるという大変に手抜きマンな悪弊がありますが)横這いなのですが、ロンガーランのFF金利に関してはしばらく前までの「やたら匍匐前進で金利が下がるマン」状態から寧ろ底打ちモードになってきたということで、底打ちモードという認識をFEDの方々が持つようになってきた(そうじゃない人もいるけどそっちがメジャーにということで)のを反映して今回もしれっと利上げ継続でござるの巻となった感は致します。

まーパウエルさんになったらどうなのよ、というのはもちろんここから色々と読み筋(またの名を妄想)たくましくしていきたいのですが、FEDの大勢的な見方が中立金利ずるずる下がるモードから変わってきているというのであれば(そらまあこれだけ経済強気モードが続いていればそうなるわなとは思いますが)来年も市場が今思っているであろう様子見ながら慎重利上げよりも淡々と利上げをしてくるまたはそんな姿勢が出てくるというのもあるかもしれませんな、とは思いますがどうでしょうかね。

#いずれにせよ3月上げられるかが年3回(または4回)になるか2回(または1回)かの勝負の分かれ目



〇短国買入ワロタ

https://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL4N1OF27M
2017年12月15日 / 15:20
〔マーケットアイ〕金利:国債先物が小反発で引け、長期金利は横ばいの0.045%

『 <15:11> 国債先物が小反発で引け、長期金利は横ばいの0.045%

国債先物中心限月3月限は前日比1銭高の150円89銭と小反発で引けた。日銀の国債買い入れで需給が引き締まるとの見方に加えて、日経平均株価が軟化したことを手掛かりに買いが優勢になった。超長期対象の日銀買い入れ結果はしっかりだったが、結果発表後はいったん材料出尽くしとなり、午後の取引では利益確定売りに押されて小幅安まで水準を下げる場面があった。

現物市場は中期ゾーンの利回りが上昇。日銀の国庫短期証券(TB)買い入れ結果が弱かったことで、売りが中期ゾーンに波及した。一方、長期・超長期ゾーンは底堅く推移。10年最長期国債利回り(長期金利)は同変わらずの0.045%。』(上記URL先より)

てな訳で長い方の話ではなくて(おい)短い方ですが、金曜日は短国買入が減額されたでござるの巻。

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/of171215.htm
国庫短期証券買入 2,500 2017年12月19日

つーことで金曜は短国買入が2500億円とかなかなか豪快に減額されたわけですが、結果の方も

http://www3.boj.or.jp/market/jp/stat/ba171215.htm
国庫短期証券買入 12,924 2,500 0.011 0.012

てなことで微妙に甘く決着していてその後の市場は上記のロイターさん記事の通りということになりましたが、だったら前週に短国買入1兆円も入れるなよ感はございまして、まー短国買入に関しては明確な誘導レンジもないし量的なガイダンスも無くて、とはいえ一応短いところの金利としてイールドカーブ全体に影響がない訳でもない(基本的には極端に動かない限りは別世界なんですけど)という短国市場ちゃんの中、そもそも論としてマイナス金利政策やっているから仕方ないけど国内短期資金の実需筋投資家の買えない水準で推移させているので、日銀がオペのさじ加減で先々週のようにちょっとオペを入れすぎたなとなると途端に需給ひっ迫するし、オペを抑えると途端に需給が緩む、という「自分の尾を追う犬」状態になっているのは同情の念に堪えませんが、まあこういうことになってしまっているのは政策のせいなので仕方ありませんな。

まーそれが良いのか、というのも難しいところではあるのですが、短国の需給がぶれる都度ビビットに買入を反応させてしまうと自分の尾を追う犬状態が加速しますから、ある程度細かい需給は気にしないで、週になんぼの買入というのを基本は上げ下げしないで、ある程度の金利のブレは容認するというのもありかなとはふと思ったりしました。まあ今の短国市場もオペでいちいち金利が上がったり下がったりするので今と変わらないのではないか、とも言えますが、買入のデコボコがある結果として金利が上がったり下がったりするのよりは、淡々と同じ量の買入オファーをする中で金利が上がったり下がったりする方が市場機能回復に向けた動きにはなりそうな気がするんですが(大幅に個人の感想です)。ああそれから同じような理由なんですが、6Mと1Yの週は買入増やすという慣例に関しても、そもそも短国買入で買入量を稼がないといけない理由がなくなっている以上、それがあるときに買入を増やしてできるだけ6Mや1Yは日銀が抑えてしましょうという行動も意味があるとは思えないし、だいたいからしてそれをやってしまうと短国市場の6Mや1Yの市場機能が毎度無いという状況が続くので、この辺りもう一工夫の余地はあると思います。


〇まーたこれか(某社の某砲撃)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-15/P0XNC36S972A01
日銀が市場との対話を修正、片岡委員の追加緩和主張に対応−関係者
日高正裕、藤岡徹
2017年12月15日 11:47 JST

『出口論は時期尚早と一蹴も、追加緩和は不要との説明全面に
 リバーサル・レートのリスク言及めぐる早期の利上げ観測は行き過ぎ』

ってことで金曜の債券市場昼のタイムにこんなのが出ていまして、ご丁寧にもこのネット版の表題と同じものを赤いハイライトで速報っぽく出していたという毎度のアレ。

・・・・・・・・・・でまあ何を言っているのかとか、そもそもここに出てくる関係者とは単なる債券市場などの何とかストのみなさんなのではないか(確かに「事情に詳しい関係者」かもしれないのでウソではない)とかいう話ですが、まあとりあえず話の筋は「片岡さんという追加緩和おじさんが登場したのですが、追加緩和しても別に物価があがるわけでもなし、と考えている執行部チームは追加緩和思惑が下手に盛り上がられても困るので、リバーサルレートのような小道具を持ち出して追加緩和思惑の否定を行っているが、それによって今度は市場の一部で出口ではない形で政策の微調整クルーって(願望込みの)思惑が出てきたけどそれは市場ちゃん先走り過ぎだよ、と「関係者は」思う」ってなことのようですな。

ええまあMPM前に例のパターン久々に来たじゃんとは思いましたが、これだと債券市場関係の方々に鼻でせせら笑われてしまう話でそんなの当たり前じゃヴォケということになりますので、そういう反応を債券市場にされると困るから国内債券やってないけど為替やってる時間に振りやがったなという程度のお話と読んでおけば無問題。


#あ!しまった!短観ネタ忘れたが時間がないのでパス



2017/12/15

お題「イエレン議長会見/その他少々」

なるほど。
https://jp.reuters.com/article/ecb-int-1214-trunk-idJPKBN1E821J
2017年12月14日 / 23:14
ECBが経済見通し上方修正、緩和継続強調 指針変更討議せず

https://jp.reuters.com/article/boe-int-1214-idJPKBN1E8213
2017年12月14日 / 23:09
英中銀、政策金利を全会一致で0.50%に据え置き

〇FOMC後のイエレン会見(本日は最初の能書きのみ)

https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20171213.pdf
Transcript of Chair Yellen’s Press Conference December 13, 2017

つーことで会見付きのが出ていますが(昨日の昼間だとまだ会見付きじゃなかった)、とりあえずは能書き部分のみという感じで参ります。


・雇用については自信ニキだが物価に関してはどっちつかずの表現という順当な経済物価判断

まずは経済情勢。

『Following a slowdown in the first quarter, economic growth stepped up to a solid 3-1/4 percent pace in the second and third quarters of the year. Household spending has been expanding at a moderate rate, business investment has picked up, and favorable economic conditions abroad have supported exports. Overall, we continue to expect that the economy will expand at a moderate pace. While changes in tax policy will likely provide some lift to economic activity in coming years, the magnitude and timing of the macroeconomic effects of any tax package remain uncertain.』

税制改革に関しては経済の上方修正要因だけどまだ影響は分からんという話がありますが、その前の経済の部分は1Qに落ちたけどその後はしっかりというか強いお話になっています。

雇用情勢に関してはもう思いっきり自信ニキというところでして・・・・・・

『Smoothing through hurricane-related fluctuations, job gains averaged 170,000 per month over the three months ending in November, well above estimates of the pace necessary to absorb new entrants to the labor force.』

well aboveときたもんだ。NFP170Kのペースは強いんですよと。

『The unemployment rate has declined further in recent months and, at 4.1 percent in November, was modestly below the median of FOMC participants’ estimates of its longer-run normal level.』

失業率の4.1%はロンガーランで見ているよりもやや低いとな。

『Broader measures of labor market utilization have also continued to strengthen. Participation in the labor force has changed little, on net, over the past four years. Given the underlying downward trend in participation stemming largely from the aging of the U.S. population, a relatively steady participation rate is a further sign of improved conditions in the labor market. We expect that the job market will remain strong in the years ahead.』

労働市場はその他の指標で見ても強い状況ですよこの調子で来年も行くでしょうと自信ニキ。

『You may have noticed that we altered the statement language about the labor market outlook.』

これは昨日ネタにしましたように、声明文での変化を踏まえて「雇用に関しては先行きがstrengthen somewhat furtherからremain strongになっていますが、これは完全雇用になっているからこれ以上強くなるという見通しを出すのではなくて強い状態が維持される、という表現に変わったというだけだと思います。」(昨日のアタクシの駄文より)と書きましたが・・・・・・・・

『This change highlights that the Committee expects the labor market to remain strong, with sustained job creation, ample opportunities for workers, and rising wages. We anticipate some further strengthening in labor market conditions in the months ahead; however, we expect the pace of job gains to moderate over time as we gradually reduce the degree of monetary policy accommodation. Allowing the labor market to overheat would raise the risk that monetary policy would need to tighten abruptly at a later stage, jeopardizing the economic expansion.』

今後も先行き数か月は雇用関連の指標は改善するとみているのですが、労働市場の改善に関しては今後緩和程度の縮小を行うにつれて徐々に改善のペースはモデレートなものになっていくという風に見込んでいまして、最後の所に「Allowing the labor market to overheat」などという話をおっぱじめているのが自信ニキというかそこまで自信満々でエエのかとおも思ってしまいますが、労働市場をこれ以上過熱させると金融引き締めを強烈に行わなければいけなくなるからその結果経済に悪影響を与えるリスクがある、とかオバハンどんだけ雇用動向に強気なのと言いたくなりますが、だったらもっとホイホイ利上げすれば良いじゃんという話になるがさにあらずでしてこの先は物価の話になる。。

『Even with a firming of economic growth and a stronger labor market, inflation has continued to run below the FOMC’s 2 percent longer-run objective.』

これエバンス辺りが言うとwell belowってことになるんでしょうが、執行部が言うときには最近は単にbelowとしか言わないですな、余談ですけど。

『The 12-month change in the price index for personal consumption expenditures was 1.6 percent in October, up a bit from the summer but still below rates seen earlier in the year. Core inflation--which excludes the volatile food and energy categories--has followed a similar pattern and was 1.4 percent in October.』

そうですね。

『We continue to believe that this year’s surprising softness in inflation primarily reflects transitory developments that are largely unrelated to broader economic conditions.』

「this year’s surprising softness in inflation」と言いつつも、その要因が「transitory developments」で、それは経済情勢とは関係ないものです、として、メディケアやら携帯電話のせいだみたいな話にしておりますな。

『As a result, we still expect inflation will move up and stabilize around 2 percent over the next couple of years. Nonetheless, as I’ve noted previously, our understanding of the forces driving inflation is imperfect. As emphasized in our statement, we will carefully monitor actual and expected inflation developments relative to our symmetric inflation goal. And, as I’ve noted before, we are prepared to adjust monetary policy as needed to achieve our inflation and employment objectives over the medium term.』

まあこういう文脈で最後に「we are prepared to adjust monetary policy」と言われると、物価が弱く推移するという状況になってくると利上げペースって遅くなるんじゃネーノという解釈をするのが普通のよみかたになると思いますので、ハトちっくだと受け止めるのもむべなるかなとは思う。


・金融政策運営については(そら後に任せるんだから当たり前だが)特段のバイアスを入れずに説明

『Let me turn to the economic projections that Committee participants submitted for this meeting.』

ってことで次はSEPの内容ですが、そちらは経済見通しの結果の話をしているだけなのでめんどいからパスしてその先の金融政策運営に関する部分に飛びます。

『Returning to monetary policy, for the past two years the FOMC has been gradually increasing its target range for the federal funds rate as the economy has continued to make progress toward our goals of maximum employment and price stability. Our decision today continues this process.』

昨日の声明文部分でネタにした通りで、今回の利上げも「経済物価情勢が見通し通りに進捗しているので利上げ」であって、別に見通しを引き上げたから利上げという話ではない。

『We still expect that the ongoing strength of the economy will warrant gradual increases in the federal funds rate. That expectation is based on our view that this rate remains somewhat below its neutral level--that is, the level that is neither expansionary nor contractionary and keeps the economy operating on an even keel.』

自然利子率よりも今の(実質)金利水準は低いところにいるという判断も継続してるようで。

『Because the neutral rate currently appears to be quite low by historical standards, the federal funds rate would not have to rise much further to get to a neutral policy stance. But because we also expect the neutral level of the federal funds rate to rise somewhat over time, additional gradual rate hikes are likely to be appropriate over the next few years to sustain a strong labor market and stabilize inflation around our 2 percent longer-run objective. Even so, the Committee continues to anticipate that the longer-run neutral level of the federal funds rate is likely to remain below levels that prevailed in previous decades.』

でもって自然利子率自体は以前に比べて低いので利上げは慎重に行うし、徐々に自然利子率は上がってくると思うが、2%目標達成したとしてもその時の自然利子率は過去の水準よりも低いと考えています、とターミナルレートが高くならない話をこれまた従来通りに行っています。

でもってその結果としてSEPの政策金利見通しは、

『This view is consistent with participants’ projections of appropriate monetary policy. The median projection for the federal funds rate is 2.1 percent at the end of next year, 2.7 percent at the end of 2019, and 3.1 percent in 2020. Compared with the projections made in September, the median path for the federal funds rate is unchanged through 2019 and a touch higher in 2020.』

ということでしらっと流されているのですが、2020年の政策金利に関するSEPのコレクティブビューに関しては、3.1%水準ということで前回見通しよりも若干上がっていますとのことですが、今回って昨日申し上げたように、ターミナルレートというかロンガーランのFF金利に関しては若干(微妙に)下がっているといいうのもありまして、それと相まってしまいますと、2020年末には「政策金利水準が長期均衡レートよりも高い水準にある」という状態になり、それは一般的に引き締めというものではなかろうか、とも思っていしまいますが、そこについては華麗に触れていないというのがどうも引っかかるこのアタクシ(いやまあこの程度の差は誤差と言われるとそうかなとも思うけどさ)。

『I should note that the economic outlook is highly uncertain, and participants will adjust their assessments of the appropriate path for the federal funds rate as their economic outlooks and views of the risks to the outlook change. Policy is not on a pre-set course. 』

経済物価の先行きはよくわからんから政策はプリセットコースではないよというのはいつもの話。


・バランスシート活用政策からは完全に脱却宣言モード

『Additionally, the Committee’s balance sheet normalization program, initiated in October, is proceeding. As we’ve noted previously, changing the target range for the federal funds rate is our primary means of adjusting the stance of monetary policy, and we do not foresee a need to alter our balance sheet normalization program.』

今後は金利が政策ツールでバランスシート縮小を止めるような状況とも認識していません。

『Hence our statement no longer mentions this program.』

ということで今回声明文で前回までの第5パラグラフ相当部分が無くなった訳ですな、って話で、イエレン議長は自分の議長のうちにバランスシート大拡張政策の終了をきっちりと宣言出来て良かったですねといは思います。

『Of course, we would be prepared to resume reinvestments if a material deterioration in the economic outlook were to warrant a sizable reduction in the federal funds rate.』

経済物価情勢が悪化して先行き見通しに「material deterioration」が起きれて、利下げだけで追いつかない場合などばバランスシート縮小を止めることはあるけれども。とは言ってますが、何せmaterialな悪化という話ですからこれは普通に行った場合には予定通りのペースでバランスシートの縮小を行う、というお話。


・最後にご挨拶

『Finally, I’d like to note that, although I have one more FOMC meeting to attend in the New Year, this will be my last scheduled news conference. Over the next month and a half, I will do my utmost to ensure a smooth transition to my designated successor, Jay Powell. I am confident that he is as deeply committed as I have been to the Federal Reserve’s vital public mission. Thank you for being such an attentive audience these past four years. And as always, I’ll be happy to take your questions.』

ちょっとうるっと来ました。お疲れさまでした。



〇短国3M入札(長い方はしらん)

うむ。
http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20171214.htm

(3)募入最低価格 100円04銭8厘0毛 (募入最高利回り) (-0.1786%)
(4)募入最低価格における案分比率 25.3750%
(5)募入平均価格 100円05銭2厘5毛 (募入平均利回り) (-0.1954%)

先週は
http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20171207.htm

(3)募入最低価格 100円03銭8厘0毛 (募入最高利回り) (-0.1414%)
(4)募入最低価格における案分比率 33.3869%
(5)募入平均価格 100円04銭0厘9毛 (募入平均利回り) (-0.1522%)

てな水準でして、先週金曜に(ネタとしてスルーしてましたが)短国買入をしらっと1兆円打ち込んできたらあっという間に需給絶賛改善ですわよ奥様というところでして、短国の需給はベースになる国内が限界需要しかないから当たり前ちゃあ当たり前なのですが、まあイールド変化だけみたらボラがでかいでかい(2年も同じ感じででかいが)という風情でございまして、本日の短国買入幾らで入れてくるんでしょうかねえとは思いますが、いやこの短国なんですけれども、市場見ながら買入調整するのはそれはそれでわかるのですけれども、何せ需要が海外と日銀オペと国内の限界的需要、という金利水準に置いているために、オペが自己実現的に需給をブラしてしまう面が否めずで、この買入はあり方をもう少し見直した方が良いんじゃないかな、とは思ったりします。まあ思いついただけですが。



〇なかなか面白そうな分析がありますよ

トップページの新着に、
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel171213b.htm/
金融広報中央委員会による調査論文「行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察」の公表について

ってのがあって、そこからリンクを辿ると、
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/report6/
行動経済学を応用した消費者詐欺被害の予防に関する一考察
2017年12月
金融広報中央委員会
福原敏恭

というのがあります。考察の本文の方は
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/report6/pdf/ron171213.pdf
調査論文 2017 年 12 月
Research Paper Series December, 2017

になります。まだ読みかけで、金融政策云々とは直接関係しないですが面白いと思います。

ちなみに『(2)不合理行動と説得的話法の役割 (行動経済学と説得的話法の関係) 』という小見出しが本文にあるのですが、その中で、

『(説得効果を高めるためのメカニズム@:発信源効果)

次に、説得的話法の効果を前節で用いた「特殊詐欺キーワード集」の実例 に即して、具体的に説明する。

そもそも、説得的話法の効果は、主に「発信源効果」と「メッセージ効果」 という二つの効果の組み合わせで発揮されることが多い23。 まず、「発信源効果」とは、メッセージを発する人間(発信源)の信用度 を高くみせることで、メッセージの信憑性を向上させ、ひいては説得効果を高めようとする効果である。』

とか

『(説得効果を高めるためのメカニズムA:メッセージ効果)

第二の「メッセージ効果」とは、メッセージの内容を消費者心理に即して 工夫することで説得効果を高めるテクニックである。』(以上上記URL調査論文本文13ページより引用)

とあるのを読んで、そういえば置物リフレ理論も(銃声)。



2017/12/14

お題「寝起きでFOMC」

頭の動く時間と日の出の時間に相関のあるという原始人のアタクシには一番しんどいFOMCェ・・・・・・・・・

〇声明文は「見通し通りに推移しましたから利上げですよ」という感じを受ける

https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20171213a.htm(今回)
https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20171101a.htm(前回)

前回は11月ですな。

・第1パラグラフ:見通し通りに推移、ハリケーンの影響も想定通り

『Information received since the Federal Open Market Committee met in November indicates that the labor market has continued to strengthen and that economic activity has been rising at a solid rate.』(今回)

『Information received since the Federal Open Market Committee met in September indicates that the labor market has continued to strengthen and that economic activity has been rising at a solid rate despite hurricane-related disruptions.』(前回)

ハリケーン関連の影響の文言が無くなりましたが基本的な部分は同じですね。

『Averaging through hurricane-related fluctuations, job gains have been solid, and the unemployment rate declined further. Household spending has been expanding at a moderate rate, and growth in business fixed investment has picked up in recent quarters.』(今回)

『Although the hurricanes caused a drop in payroll employment in September, the unemployment rate declined further. Household spending has been expanding at a moderate rate, and growth in business fixed investment has picked up in recent quarters.』(前回)

ハリケーン関連については影響を均してみまして失業の改善やジョブの拡大などは続いている、ということで、こちらも見通し通りに推移しています(キリッ)って感じですな。

『On a 12-month basis, both overall inflation and inflation for items other than food and energy have declined this year and are running below 2 percent. Market-based measures of inflation compensation remain low; survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance.』(今回)

『Gasoline prices rose in the aftermath of the hurricanes, boosting overall inflation in September; however, inflation for items other than food and energy remained soft. On a 12-month basis, both inflation measures have declined this year and are running below 2 percent. Market-based measures of inflation compensation remain low; survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance.』(前回)

インフレ期待の所はおなじ表現、物価に関してはガソリン価格が9月に上昇した話が前回はありましたが、今回はそういう一時要因の話は(さっきの所でもそうでしたように)基本的に外していく感じになっていますので、これはまあこんなもんではありますが、ただ前回はコアインフレに対してsoftだったのが今回はdeclined this yearと、年の最後ということもあって足元だけではなく年間の話をした挙句にdelcineですので、まあ弱いのかというと微妙ですが、出来上がりの文言の雰囲気的には物価には弱めの話をしているようにも取れないことはないという感じ。

とは言いましても、今回は総じて「見通し通りに推移してまっせヒャッハー」という感じでしょうか。


・第2パラグラフ:先行き見通しにも基本的な変化はない

『Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability.』(今回)
『Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability.』(前回)

これはいつも通り。

『Hurricane-related disruptions and rebuilding have affected economic activity, employment, and inflation in recent months but have not materially altered the outlook for the national economy. 』(今回)

『Hurricane-related disruptions and rebuilding will continue to affect economic activity, employment, and inflation in the near term, but past experience suggests that the storms are unlikely to materially alter the course of the national economy over the medium term. 』(前回)

ハリケーンの影響については前回想定していた通りに一時的なものにとどまりましたよ。

『Consequently, the Committee continues to expect that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace and labor market conditions will remain strong.』(今回)

『Consequently, the Committee continues to expect that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace, and labor market conditions will strengthen somewhat further.』(前回)

よって見通しに関しても変化なし。雇用に関しては先行きがstrengthen somewhat furtherからremain strongになっていますが、これは完全雇用になっているからこれ以上強くなるという見通しを出すのではなくて強い状態が維持される、という表現に変わったというだけだと思います。

『Inflation on a 12?month basis is expected to remain somewhat below 2 percent in the near term but to stabilize around the Committee's 2 percent objective over the medium term. Near-term risks to the economic outlook appear roughly balanced, but the Committee is monitoring inflation developments closely.』(今回)

『Inflation on a 12-month basis is expected to remain somewhat below 2 percent in the near term but to stabilize around the Committee's 2 percent objective over the medium term. Near-term risks to the economic outlook appear roughly balanced, but the Committee is monitoring inflation developments closely.』(前回)

物価見通しに変化はありません。ということで以下ご案内の通り今回は利上げしていますが「経済物価情勢が予定通りに推移しているので金融政策の正常化路線を予定通りに行いました」という話であって、見通しが上がったから利上げというのとはちと違います。ただし、次にSEPやりますが見通しという意味ではちょっときになる所isあるという感じで。


・第3パラグラフ:利上げですよ〜

『In view of realized and expected labor market conditions and inflation, the Committee decided to raise the target range for the federal funds rate to 1-1/4 to 1?1/2 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting strong labor market conditions and a sustained return to 2 percent inflation.』(今回)

『In view of realized and expected labor market conditions and inflation, the Committee decided to maintain the target range for the federal funds rate at 1 to 1-1/4 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting some further strengthening in labor market conditions and a sustained return to 2 percent inflation.』(前回)

利上げしましたという部分以外では、先ほども指摘しましたのと同じくで、労働市場はこれ以上強くなりようがない(というか強くなったら過熱)ので今の状況を維持できる、という風に変わっているだけで、別に大きな話ではない。


・第4パラグラフ:今後の金利政策運営に関しての文言に変更なし

見事に全文一致です。

『In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. The Committee will carefully monitor actual and expected inflation developments relative to its symmetric inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data.』(今回)

『In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. The Committee will carefully monitor actual and expected inflation developments relative to its symmetric inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data.』(前回)


・幻の第5パラグラフ:バランスシート政策は政策から外れました!

前回まではこの次に第5パラグラウ、すなわちバランスシート政策に関する話がありましたが、前回の時点で、

『The balance sheet normalization program initiated in October 2017 is proceeding.』(前回)

と1行コメントに化けまして、今回はついに資産買入のパートが無くなって次が票決、という段取りになっております。つまりこれじゃ政策インプリケーションの出るような資産買入政策の変更をする気はサラサラなくて、バランスシートのランオフに関しては予定通り実施しますし余計な話もしませんよというのを示した格好で、なんかあったら資産買入をいじってくる、というのは基本的に想定に入れる必要はない、ということを意味しますな。


・第5(前回までの第6)パラグラフ:2名反対ですかそうですか

『Voting for the FOMC monetary policy action were Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; Patrick Harker; Robert S. Kaplan; Jerome H. Powell; and Randal K. Quarles.』 (今回)

『Voting against the action were Charles L. Evans and Neel Kashkari, who preferred at this meeting to maintain the existing target range for the federal funds rate.』(今回)

据え置き派がカシュカリとエバンスなんだがSEPを見ると味わいがある。

『Voting for the FOMC monetary policy action were: Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; Charles L. Evans; Patrick Harker; Robert S. Kaplan; Neel Kashkari; Jerome H. Powell; and Randal K. Quarles.』(前回)


〇SEPを受けてハトだーという感じらしいのですがハトで見ると落とし穴にハマると思うのですが

つーことでSEP
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20171213.pdf(今回)
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/files/fomcprojtabl20170920.pdf(前回)

HTML版はこちら
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20171213.htm(今回)
https://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/fomcprojtabl20170920.htm(前回)


・経済物価見通しはGDP上げて失業率ちょっと下げて物価は横とな

めんどくさいのでMedianで見るというかなりの手抜き。

上段が今回、下段が前回、左から順に2017、2018、2019、2020(各暦年)、ロンガーランとくる

Change in real GDP
2.5 2.5 2.1 2.0 1.8
2.4 2.1 2.0 1.8 1.8

Unemployment rate
4.1 3.9 3.9 4.0 4.6
4.3 4.1 4.1 4.2 4.6

PCE inflation
1.7 1.9 2.0 2.0 2.0
1.6 1.9 2.0 2.0 2.0

Core PCE inflation4(コアだけロンガーランなし)
1.5 1.9 2.0 2.0
1.5 1.9 2.0 2.0

ということでこっちはまあそうなるだろうなという結果。本当だとそれってフィリップスカーブがより平たん化してねえかという話でもあるが。


・政策金利見通しがハトのように見えて実はこれはタカなのではないかと

2017年の政策金利についてはFOMCで反対した2名以外は変更後の金利になっているのは当然。

2018年ですけれども、
      今回  前回
1.00-1.25  1    2
1.25-1.50  1    0
1.50-1.75  1    1
1.75-2.00  3    2
2.00-2.25  6    6
2.25-2.50  3    3
2.50-2.75  1    2

前回2.50-2.75のほかに2.50ピンポイントの人がいたので合わせて2にしました。

でもってこいつを見ておりますと、基本は年3回(2.00-2.25)ですが、分布的には微妙に下がっているので来年の利上げについては3回は3回という感じでしょうが、前回よりは気持ち弱めになっています。
 
それからロンガーランの方ですが

   今回  前回
2.25  1   1
2.50  2   4
2.75  6   4
3.00  6   5
3.25     
3.50      1

となっているのでこっちも少しだけ下がっているんで、これはもうハトですよヒャッハー言いたくなるのが諸葛孔明の罠で、待てあわてるなこれは孔明の罠だ(AA略)っつーことで、2020年の見通しを見ると・・・・・

1.25-1.50という変態仮面はさておきまして、よくよくみますとこのロンガーランの中心になっている2.75%よりも2020年の政策金利を上に置いている人が多くて、3%以上の所の札がなんと11人もいまして、つまりこの人たちは「2020年には引き締め(ロンガーラン3%で置いている人が3%で予想していたら中立ですが)に転じている」という予想を立てている訳でして、グラデュアルに政策調整した後にはちょっと引き締めまでやらないといかん(冷静に考えれば当たり前かもしれませんけど)という話をしているというのは、実際にそうなるかはともかくとして、これは経済物価情勢が想定から上ぶれした場合に利上げペースが加速する可能性を示していますので、注意した方がよいと思います。


#会見はパスということで




2017/12/13

お題「虫干しネタで政井審議委員兵庫金懇ネタ」

ほほう。
https://jp.reuters.com/article/usa-bonds-tips-idJPKBN1E61XL
2017年12月13日 / 00:11 /
米ブレーク・イーブン率高水準維持、PPI統計受け

『[ニューヨーク 12日 ロイター] - 11月米卸売物価指数(PPI)の前年比上昇率が約6年ぶりの大きさとなったことを受け、米予想物価指標の1つ、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が高水準を維持した。トレードウェブによると、米東部時間午前8時43分(日本時間午後10時43分)時点で、10年物BEIUSBEI10Y=RRUS10YTIP=TWEB は1.90%と、前日終盤から0.75ベーシスポイント(bp)上がった。』(上記URL先より)

話は全然違うけど、「米国の来年以降の正常化局面の中で景気が後退するような事の無いように慎重な運営が必要です」って言っているのに「ポイントは物価ですかねえ」からの「そのとおりです」っていうのは説明が変じゃないですかねえ(むしろ物価に過度な注目をするのではなくて景気を見て総合判断すべきって話にならないのか???)>某モーサテの謎解説

というような話はすっかりさておきまして、債券市場の方はまあ何ですので日銀講演系虫干しネタで。

〇虫干しネタで恐縮ですが政井審議委員の兵庫金懇ネタ

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171206a.htm/
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171206a1.pdf(本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171206a2.pdf(図表)

・現状説明で物価の所が超あっさり味でクソワロタ

『II.経済・物価情勢』のところは最初に、

『日本銀行は、10月末の政策委員会・金融政策決定会合において、「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」を取りまとめ、2019年度までの経済・物価見通しを公表しました。経済・物価情勢については、「展望レポート」の内容に沿って、お話したいと思います。』

って最初に断っているので説明は思いっきり展望レポートベースなのですが、『2.わが国の経済・物価情勢』の『(1)現状』を見ますと、物価に関する説明が

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が0%台後半となっています(図表9)。』

だけで片付けられていましてワロタとしか申し上げようがございません。


・物価の先行き見通しとリスク認識について

でもって先行き見通しも基本的に展望レポートなのですが、

『また、物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、エネルギー価格の押し上げ圧力は次第に減衰するものの、需給ギャップが改善するもとで、企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化するとともに、予想物価上昇率も次第に伸びを高めていくことから、2%程度に向けて上昇率を高めていくと考えています。目先は、個人消費が緩やかに増加していくもとで、食料工業製品や生活関連財をはじめとする財の価格が次第に伸びを高めていくとみられるほか、一般サービスの価格は、外食や家事関連サービス等を中心に人件費上昇を転嫁する動きが拡がっていくと見込まれます。10月の展望レポートにおける消費者物価(除く生鮮食品)の前年比について、政策委員見通しの中央値は、17年度+0.8%、18年度+1.4%、19年度は、消費税率引き上げの影響を除き、+1.8%となっています(前掲図表10)。』

というのは展望レポートの通りでして、

『見通しに対する上振れ要因・下振れ要因として、経済情勢については、米国の経済政策運営や地政学的リスクなど海外経済の動向、企業や家計の中長期的な成長期待、財政の中長期的な持続可能性が、また、物価情勢については、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向、マクロ的な需給ギャップに対する価格の感応度が低い品目があること、今後の為替相場の変動や国際商品市況の動向が挙げられます。』

てのも展望レポート通りなのですけれども、

『私自身は、経済の下振れリスクは限定的であると考えている一方、物価の下振れリスクは相応に大きいとみています。これは特に、企業の積極的な価格設定スタンスが、今後どの程度広がりをもってくるかには不確実性が大きいとみているためです。』

という話になっているのですが、そもそも企業の価格設定スタンスは今の時点でそんなに強気になっている訳でもないということを踏まえると、本当は「企業の価格設定スタンスは依然として消極的だから先行きの物価上昇も緩やかなものに留まるとみるけれども、需給ギャップのプラス、とくに労働需給のタイト化が目立つ中で、企業の価格設定スタンスが強気化するという上ぶれリスクがある」という説明の方が普通なんじゃないかと思います。つーてもまあ相変わらず「できるだけ早期に2%」となっていて、2年で2%の呪縛もまだない訳ではないってのがあるから、物価見通しを高めにおいているんでしょうなあとは思いました。


・金融政策に関してはノルムの話をしとりますな

『III.日本銀行の金融政策』ですけれども、『2.強力な金融緩和の狙い』では相変わらず執行部ベースの説明をしておりますな。

『2013年4月に「量的・質的金融緩和」を導入して以降、金融緩和の基本的なメカニズムは変わっていません。すなわち、(1)日本銀行の大規模な国債買入れによって、イールドカーブ全体を押し下げること、そして(2)日本銀行が2%の「物価安定の目標」に強くコミットし、予想物価上昇率を押し上げることです。これらによって、実質金利を引き下げることとなります(図表12)。』

ではその肝心の予想物価上昇率は、というのは次のノルムの話のところで出てくる。

『日本銀行は、なぜこれほどまでに金利を引き下げる必要があると考えているのでしょうか。金融緩和の基本的なメカニズムは、景気や物価に中立な金利――自然利子率と呼ばれます――と比べて、実質金利を低位にすることです。』

これ自体は当然の話ではあって、自然利子率よりも低い水準に金利を置くことによって、借入をして設備投資などをしましょうという動きと預貯金抱えていましょうという動きの相対的な有利不利のポジションを投資するサイドに寄せる、って話ではあるのですが、しかしながらジャパンの場合はもう相当の期間において民間セクターって恒常的に資金余剰主体になっていて、実は大借金王って政府なのでありますからして、金融緩和政策が預金者から債務者への所得移転的な機能をもたらす、ということと現状の日本の資金保有構造を考えると、実は民間主体から政府部門に低金利で所得の付け替えが行われていないか、というような理屈も捏ねられたりして、金融緩和が思ったほど効かないのって、主因は流動性トラップだったり、「未来から力を前借する」というその前借する力がないか使いつくしちゃったか、という辺りだとは思うのですが、所得移転的に見て財政引き締めチックな効果が出ている(もちろんその分を財政支出拡大すれば無問題ということになるのですが実際はそうではないですし)というのってどうなんでしょと屁理屈じみていますが思うのでした。まあこの話と関係ない雑談でどうもすいません。

『わが国の自然利子率は、潜在成長率の低下などを映じて、趨勢的に低下しています1。日本銀行のスタッフの推計によると、最近では、概ね0%近傍で推移しています(図表13)。こうした推計値はその手法によって異なるため、相当の幅をもってみる必要がありますが、非常に低い水準となっています。すなわち、これほど低い自然利子率のもと、緩和的な金融環境を実現するためには、金利を非常に低位な水準まで押し下げる必要があるということです。』

理屈はそうなんですけどね。

『このように、「イールドカーブ・コントロール」によって生み出された現在のきわめて緩和的な金融環境は、金融面から、わが国の経済活動を強力にサポートしていると考えています。』

ということで、この説明で味わい深いのは「オーバーシュートコミットメント」はインフレ期待の引き上げに資するという説明はしていますが、YCCなどにおける金利の引き下げに関しては需給ギャップに効くという話にしていて、インフレ期待に直接働きかけて期待の転換(フィリップスカーブの上方シフト)を図るという話はすっかり存在しなかったことにしているというところでございましょうか。でもってなんで上がらんのかというのに「ノルム」を持ち出しているのが次の章。


・ノルムの話の中にちらほらとネタが仕込んである件について

『3.「ノルム」の変化に向けて』というのが次の小見出しで、たぶん今回はここがメイン。

『わが国では、1990年代の後半から15年以上にわたり消費者物価の前年比がゼロないし僅かなマイナスが続くデフレの状態が続いてきました。わが国において、所謂デフレ・マインドがなかなか払拭されない背景の1つには、わが国の家計および企業が、デフレ期の環境に順応してきたことがあると思います。』

はあ。

『これほどまでに強力な金融緩和を5年近く続けても、2%の「物価安定の目標」を実現出来ていないことは、原油価格の大幅な下落といった外部環境があったにせよ、デフレ・マインドが想定以上にしつこかったことの証左だと思います。』

だからもともと「2年で2%」とかいうのではなくて、2%の看板は掲げるけれども実際に安定推移するためには経済のベース部分を強くしていかないといけないしそれには時間がかかるし日銀単体でできるものではない、という事だったはずなのですが、5年やって原点回帰ですかそうですか今更何をというところではあるんですけど。

『ただし、そうであっても、強力な金融緩和を行うこと――すなわち、わが国における自然利子率との対比でみて、実質金利を十分に低くすること――が必要であることは何ら変わりないと考えています。』

『他方で、日本銀行の「量的・質的金融緩和」は、導入後5年近く経ちますので、その効果と副作用については引き続き肌理細かくみていく必要があると感じています。』

副作用をきめ細かくみるとかいうのがしらっと入っているのが味わい深くて、まあオーバーシュートコミットメントの説明があっさり味(なのは本文で確認してちょ)なのと合わせまして、QQE当初から追加緩和を経てマイナス金利までのマネタリーベース直線一気理論で特攻みたいなのはフェードアウトしている感が強くなっています。


・これはきさらぎでの総裁講演にもありましたが

『最近、世界的にみて、物価の上昇が控えめとなっている背景として、経済のグローバル化やデジタル化の深化を指摘する向きが改めて多く聞かれるところです。これらの影響については、まだ実証的な研究が積み上げられているところであり、確たることは言えないようです2。』

脚注は面白いので引用。

『2インフレの基本的な決定要因に、グローバルなアプローチを考慮すべきとの主張は、Borio BIS金融経済局長による主張が有名(最近の実証分析としては、Raphael Auer, Claudio Borio and Andrew Filardo (2017), "The globalisation of inflation : the growing importance of global value chains," BIS working papersがある)。一方、先進国において、グローバルなスラックが国内のインフレに直接的に与える明確な効果は確認されないとの分析が、FRBエコノミストから示されている(Jane Ihrig, Steven B. Kamin, Deborah Lindner and Jaime Marquez (2010), "Some Simple Tests of the Globalization and Inflation Hypothesis," International Finance。なお、2017年初までアップデートしても結論は不変の由)。』

まー今まではこの手の話をすると必ずと言っていいほどフリードマンの言葉が持ち出されてきて「個別物価と一般物価を混同するとは無知蒙昧」ってな感じにされていたのですが、結局のところ経済学の総本山(誰かさんの表現を拝借しとります)の米国様で説明ができない事態になってきてやっとこういう話になるのね、というのがもうなんだかねとは思います。

『もちろん、こうした経済構造の変化が物価に与える影響は十分に考慮されるべきことかと思います。しかしながら、グローバル化やデジタル化の影響が先進国の物価を押し下げている面が相応にあるとしても、わが国と米欧の物価動向を同じように議論することは適当でないと考えています。これは、米欧の場合、原油価格の大幅な下落を経験しつつも、インフレ期待は概ね2%でアンカリングされているとみられるほか、基調的な物価指標は1%台半ば程度で推移しているためです。この点、わが国の消費者物価(除く生鮮食品)は、先ほどお話したとおり、0%台後半(除く生鮮・エネルギーでは0%台前半)に止まっています。』

ということでこの辺昨日ネタにしたきさらぎと同じ話ですな。

『わが国において、2%の「物価安定の目標」の実現には、デフレ・マインドを払拭し、社会全体にとって、「物価や賃金は毎年2%くらい上がってくるものだ」という物価観がしっかりと根付いていくこと――2%の物価上昇をノルム(規範)として定着させていくこと――が必要です。』

無理です。

『そのためには、先ほど申し上げたとおり、日本銀行が「物価安定の目標」の実現に向けた決意を示し、金融政策を運営していくことが何よりも大切です。』

5年やって上がらないという状況になったら普通に考えて中銀の物価目標に対するコンフィデンスは失われていると考えるべきではないかと思いますが、じゃあどうすればよいかというのは知らんというか漸進的なアプローチしかないんじゃないですかねえ。まあそもそも2%が本当に正しいのかというのもあるけど海外が2%と言っている以上看板だけは嘘でも掲げておかないといけないでしょうな。

『その際、政府と日本銀行のコミュニケーションがしっかりと取れていることも求められると考えます。また、国全体の慣行や意識も変わっていく必要があると思います。最近、値上げを行う企業では、自社商品・サービスの値上げが20数年振りという例も多く、いまは企業自身も値上げの経験が乏しい状況です。消費者としても、一定程度の賃金・物価が上昇していく環境は当たり前のものとはなっていません。「ノルム」の変化とは、まさに、社会の色々な側面で変わっていくことです。』

そしてこの次がなかなか唐突。

『次に、お話する金融教育は、一見、経済・物価や金融政策から離れているようにみえますが、今申し上げた「ノルムの変化」とも関係すると思っています。』

ということで次が『IV.金融リテラシーの向上に向けた取組み』という小見出し。


・金融教育の重要性は分かるがそれとノルムの話は別のような気がする

途中をすっとばして結論のパラグラフ。

『わが国における金融リテラシーについては、これまで様々な調査がありますが、いずれの結果をみても課題は少なくありません。』

そらジンバブエ先生が日銀の審議委員になるような国ですからねえ。

『昨年、金融広報中央委員会が行った「金融リテラシー調査」のうち、海外と比較可能な設問について比べると、わが国の正当率は、31か国中24番目の水準に止まっています6。また別のある調査では、デフレの意味を問う質問での正答率が2割強との結果となっています7。』

デフレと不景気をわざと混同させて説明する筆頭が置物リフレ一派だったと思いますが。

『金融教育も「教育」である以上、課題が尽きないこと自体は当然だと思います。ただ、気になるのは、わが国においては、そもそも金融教育の必要性すら十分に認識されていないのではないかということです。例えば、金融庁が昨年実施した成人向けのアンケート調査では、「投資教育を受けたことがない」と回答した人――全体の約7割になります――のうち、約3分の2が、「金融や投資の知識を身に付けたいと思わない」と回答しています(図表14)。アンケート回答者のうち、半分弱がそのように答えているということです。殊に「投資」というと、「お金持ちがやるもの」との印象が拭えていないように思います8。このことは、デフレが長らく続いたことが影響している側面もあり得ると思いますが、金融教育の必要性が今以上に社会に認識されることが大切かと思います。そのことは、一定程度の物価上昇をより当然なものとして受け入れられることと表裏一体のようにも思います。』

さすがにこれは話の結論が強引ではないかと思ったら会見でツッコまれておりまして、そこまで今日のネタにするつもりだったのですが寒さのあまり頭の起動が遅れて時間が無くなってしまいましたので講演までで勘弁。

しかし今回割と唐突に金融教育の話が登場しまして、そらもう某情報サービス局ニッコリの展開という感じはしますが(^^)、金融教育に関しては確かにもっと色々と行うのが吉とは思うのでこの話自体はもっと展開していけばーとは思うので、ノルムとかデフレマインドとかに無理やりこじつけることもなかったような気はします(現実問題として会見でゴリゴリ突っ込まれていたし)。

てな訳で政井審議委員講演は「ノルムの変化」という話がメインテーマだったようで、それは時間のかかる話だし、金融政策単体での話でもないということにもなっていまして、これまた当初のQQEでの話をしらっとなかったことにする攻撃がこちらでも展開されているなあ、というのが感想でした。




2017/12/12

お題「きさらぎ会の講演は「脱色」に向けた布石のようにも見えたり見えなかったり」

とりあえず月末月初からの各講演類をぼちぼち成敗してまいります。

〇マクロ加算の掛け目が据え置きですかそうですか

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel171211a.pdf
日本銀行当座預金のマクロ加算残高にかかる基準比率の見直しについて

『日本銀行は、日本銀行当座預金のうち、ゼロ金利が適用されるマクロ加算残高の算出に用いる基準比率(「補完当座預金制度基本要領」4.(3)イ.に定める基準比率)について、次のとおり定めることとしました。

2017 年 12 月〜2018 年 2 月積み期間:21.5%(注)

これにより、日本銀行当座預金のうち、マイナス金利が適用される政策金利残高(金融機関間で裁定取引が行われたと仮定した金額)は、上記3積み期間において、平均して 10 兆円程度となる見込みです。』

ということですが、

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170911b.pdf
日本銀行当座預金のマクロ加算残高にかかる基準比率の見直しについて

こちらが前回の9月〜11月積み期間適用(9/16-12/15)のマクロ加算掛け目ですが、こちらも『2017 年 9 月〜11 月積み期間:21.5%(注) 』となっていまして、今回はマクロ加算掛け目が堂々の据え置きとなりました。

いやまあ絶賛ステルステーパリングが進行していて、超過準備がろくすっぽ増えないのでこれ自体は当然で、前回も今回も『これにより、日本銀行当座預金のうち、マイナス金利が適用される政策金利残高(金融機関間で裁定取引が行われたと仮定した金額)は、上記3積み期間 において、平均して概ね 10 兆円台となる見込みです。』となっていまして、マクロ的に見た場合のマイナス金利適用残高が10兆円程度という形になるのは同じとなっていますので、マイナス金利適用部分でなんかインパクトがとゆー話ではないのですが、MB拡大がろくすっぽ進まなくなっているのがここの掛け目に表れているというのがなかなか味わいがありますな。

ちなみに前々回(6-8月積み期間)の掛け目は20.0%、その前(3-5月積み期間)は17.0%、さらにその前(12-2月積み期間)は13.0%と順調に掛け目が上がっていたわけでして、つまりはここの四半期に来てMB拡大がきっちりと止まってきているという感じになっておりますの。つーてまあ短国買入がここからそんなに減らされなさそう(いや減らせば良いじゃんと思うのだが短国金利が跳ねられても困るって感じみたいですのでよーへらさんというイメージかと)なので今回は短国減額要因と季節要因という感じだとは思いますが。

というメモだけでした。


〇直近の方から成敗ということできさらぎ会の総裁講演である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171207a.htm/(HTML版)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171207a1.pdf(本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171207a2.pdf(図表)

最近の金融経済情勢と金融政策運営
── きさらぎ会における講演 ──

・経済情勢に関する話は特にどうということもない

『2.経済の現状と先行き』のところですが、『海外経済』『わが国経済の現状と先行き』とありまして、海外経済の方は、

『先行きについても、世界経済は、先進国、新興国ともにバランスよく成長を続けると考えています。IMFによる最新の経済見通しによれば、世界全体の実質GDPの前年比は、2016年から2018年まで、順に+3.2%、+3.6%、+3.7%と、この先、しっかりとした成長を維持することが見込まれています(図表1)。』

てな訳で最近海外経済に関してはIMFとか強い数字を出してきているのにそのまま乗っかっている感じの説明になっておりまして、国内経済に関しては、

『以上が経済の現状ですが、先行きについても、わが国の景気は緩やかな拡大を続けるとみています。日本銀行では、四半期ごとに、先行きの経済見通しをとりまとめた「展望レポート」を公表しています。10月末の最新のレポートでは、政策委員の見通しの中央値でみて、2017年度、2018年度の実質GDP成長率は、それぞれ+1.9%、+1.4%と予想しています。これは、「0%台後半」とみられるわが国の潜在成長率を上回る伸び率です。2019年度についても、成長ペースは鈍化するものの、海外経済の成長を背景とした輸出の増加に支えられ、GDPの成長率は+0.7%と、景気の拡大はなお続くとみています。』

となっているのですが、なぜかリスク要因が相変わらず、

『もちろん、先行きの経済がこうした見通しから上振れたり下振れたりする可能性はあります。最大のリスク要因は、海外経済の動向です。先ほど述べたように、先行き、海外経済は緩やかな成長を続けるというのがメインシナリオですし、リスクの方向も、一頃のように下振れを強く警戒する状況ではなくなってきました。それでも、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響については留意が必要であるほか、地政学的リスクなども、わが国経済の下押し要因となる可能性があります。日本銀行としては、引き続き、上下双方向のリスクをしっかりと点検していきたいと考えています。』

という説明になっている(展望レポートの時と同じ話をしているのですが)のですけれども、国内経済に関するアセスメントの部分だと『このように、現在のわが国経済は、外需と内需、民需と公需といった複数の柱によってバランスよく支えられており、それだけに、外的なショックに対して頑健であると評価できると考えています。』って説明になっていまして、「海外がリスク」ってえのは前から大体そうなのと、やけくそマイナス金利適用という話になったときとか言い訳が海外だったりしてましたし、それこそ先般来ネタにしていたジンバブエ大先生の金懇でのグラフとか見ていると「複数の柱で拡大」とか言っても結局世界貿易量のところに連動してるじゃんとか見ていますと、結局海外がコケるとコケるんかいなと思われる節がございますし、国内だってここからは社会保障やら税の問題で個人の可処分所得に影響が来るという話とかもありそうだし、リスクは色々とあるように思えるんですけど、ずーっと「バランス取れた成長」「リスクは海外」となっているのもうーんこのという気はせんでもない(個人の感想です)。


・物価の説明は吹いた

次が『3.物価の現状と先行き』ですが、

『続いて、物価の動向についてお話しします。わが国の物価は、エネルギー価格の上昇などを背景に、徐々に上昇してきています。生鮮食品を除く消費者物価の前年比をみますと、昨年の10月は▲0.4%でしたが、この10月には+0.8%となり、1年間で1%ポイント以上、上昇率を高めています(図表6)。もっとも、エネルギー価格の影響を除いてみると、消費者物価の前年比は、なお小幅のプラスにとどまっています。景気拡大が続き、労働需給が引き締まっていることに比べれば、物価は弱めの動きが続いています。』

ここの説明ですが、例えば昨年11月の名古屋での黒田総裁講演を見てみましょう。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/ko161114a.htm/
最近の金融経済情勢と金融政策運営
名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶

『次に物価動向について、ご説明します。図表6をご覧ください。生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、小幅のマイナスとなっています。一方、エネルギー価格も除いたベースでみると、2013年10月からちょうど3年間にわたってプラスとなっています。このように長期間プラスの物価上昇率が続くのは、1990年代後半に日本経済がデフレに陥って以来、初めてのことです。』(この部分だけ上記URL先の2016年11月14日名古屋での総裁講演より)

ということで、図表6を見ればわかりますが、直近ではコアコアの数字がまるでパッとしない中でコアの方は強いので、説明の主文がコアになっていましたが、昨年はコアの数字が弱くてコアコアは相対的にマシになっているという状態だったので説明でコアコアのプラスがどうのこうのというのを強調している、というこの説明のご都合主義的なところが実に味わいが深いのですが、まあこういうご都合主義的に物は言いようになっているってのは信念で突撃していた黒田総裁らしからぬ感じの答弁になっている(まあ講演のベースの作文は黒田さんじゃないでしょうけれども)なあとか思ったりするのでありました。

『こうした「強めの景気と弱めの物価」という一見相反する関係は、最近では、わが国のみならず、先進各国に共通する現象であると言われています。冒頭でご説明したように、世界経済はしっかりと改善しているにも関わらず、米国やユーロ圏の物価上昇率は、中央銀行のインフレ目標を下回った状態が続いています。』

自分たちだけじゃないという言い訳キタコレ。

『FRBのイエレン議長は、米国における最近の物価の伸び悩みを「ミステリー」と表現しています。そのうえで、議長は、携帯電話通信料などの一時的な要因が物価の弱さの主因である可能性が高いとしつつも、先々の物価を見通すにあたり、様々な不確実性があると指摘しています。具体的には、労働市場の供給余力や中長期的なインフレ予想に関する不確実性に加えて、経済のグローバル化に伴う新興国との競争激化や、技術革新を背景としたオンラインショッピングの急速な普及などが、物価に影響を与えている可能性に言及しています。』

かつて白川さん(とかその前とか)も色々とこういう構造要因に関して説明をしていたはずですが、その当時は置物リフレ一派はこういう説明に対してミルトン・フリードマンの「インフレはいついかなる時も貨幣的現象」という言葉をリファーして盛大に罵っていましたし、そういう言説に乗っていた方も大量にいたはずなのですが・・・・・・・・・・・

『こうした議論は、わが国の物価動向を分析するうえでも大いに参考となります。』

となっちゃうのがもうねという感じでして、結局のところステイツ様が言い出さないと話にならないとか経済学ちゅうのは何なんでしょうなあと思ってしまう今日この頃。

『もっとも、米欧の物価上昇率は、弱めとはいえ1%台半ばで推移しており、わが国の状況とはやや異なることも認識しておく必要があります。わが国の物価上昇率の低さには、わが国固有の要因も影響していると考えることが自然です。』

でもってその次が本邦の特殊性という話になるのですが(小見出しは『弱めの物価の背景と先行き』)、

『そこで、わが国の景気と物価の関係についてお話ししたいと思います。企業の賃金・価格設定スタンスが物価に大きな影響を及ぼすことを意識すると、わが国の物価の弱さについては、次のように2段階に分けて考えることができます。』

『第1段階は、労働需給の引き締まりに比べ、賃金の改善が緩やかであることです。特に、パート雇用者に対して、正規雇用者の賃金上昇が鈍い点が目立ちます(図表7)。正規雇用者の所定内給与は、雇用者所得全体の7割近いウエイトを占めるだけに、その影響は小さくありません。』

ということで賃金の話ですが、

『この点について、わが国では、労使ともに長期的な雇用・賃金の安定を優先する傾向が強いため、景気後退期における正社員の雇用調整や賃金カットが小幅にとどまった一方、景気が拡大し、労働需給が引き締まっても賃金が上昇しにくいといった指摘があります。過去の賃金の下方硬直性が現在の上方硬直性につながっている、との見方もできるように思います。』

って言ってるんですが毎度説明が出てくるジャパンの賃金の下方硬直性に関してはホンマカイナという気がだいぶする訳で、雇用を安定させる代償として賃金下げてませんでしたっけと思うんですけどね。

『第2段階は、緩やかとはいえ賃金が上昇しているにも関わらず、企業の製品やサービスの価格にあまり波及していないことです。この背景には、ITを活用した省力化投資などを通じて、賃金コストの上昇を吸収しようとする企業の取り組みがあります。このことは、人手不足が特に深刻な飲食や小売、建設といった業種で、最近、ソフトウェア投資が目立って増加していることからもわかります(図表8)。こうした取り組みは、個々の企業にとっては生産性を高める合理的な経営判断ですが、経済全体でみると、物価上昇圧力を弱める方向で作用することになります。』

出たよ良いデフレ的な説明と思いますが、そもそも成長期待が低いのが悪い訳で。

『しかしながら、こうした状況は、少しずつ変わってきていると考えています。』

『まず、賃金についてです。さすがにここまで労働需給がタイト化してくると、その影響が正規雇用者に波及してきてもおかしくありません。デフレ期には途絶えていたベースアップが、2014年以降、4年連続で実現していることも重要なポイントです。健全な経済のもとでは、賃金は継続的に上昇していくものとの認識が社会で広く共有されることは、企業収益や所得の増加を伴いながら、物価が緩やかに上昇していくという好循環を作り出していくうえで、欠かせないと考えています。日本銀行としては、現在の良好な経済環境を追い風に、労使双方において、好循環の実現に向けた取り組みが拡がっていくことを期待しています。』

と言ってるそばから個人の税や社会保障負担は引き上げているので世話ないわとしか申し上げようがない。そちらは日銀のせいじゃないから可哀そうちゃあ可哀そうだけど。



・物価上昇時期は知らんがな攻撃キタコレ

上記の続き。

『次に、企業における価格設定スタンスも、次第に積極化していくとみています。パート雇用者の時給が上昇基調を続ける中、既往の為替円安による仕入価格の上昇も加わり、企業のコスト面からみた価格上昇圧力は高まっています。雇用・所得環境が改善してきていることを背景に、消費者サイドの値上げに対する許容度も少しずつ増してきているように思われます。』

前半は単なる企業から見たコストプッシュで後半は気のせいでしょう。

『当面は、値上げにチャレンジする動きと、躊躇する動きが混在すると思われますが、いずれ、価格設定スタンスを積極化させる動きが優勢となると考えられます。ただし、「それはいつか」という問いに対し、明確にお答えすることは簡単ではありません。』

>「それはいつか」という問いに対し、明確にお答えすることは簡単ではありません。
>「それはいつか」という問いに対し、明確にお答えすることは簡単ではありません。
>「それはいつか」という問いに対し、明確にお答えすることは簡単ではありません。

・・・・・・・2年を念頭にできるだけ早期に2%を達成する、という大口は何だったのか。

『個々の企業において、価格設定スタンスが変化する具体的なタイミングは、それぞれの企業や業種が直面する需要動向やコスト構造によって異なるからです。それでも、こうした動きの集積である消費者物価指数についても、先行き、緩やかに上昇していくとみています。』

とまあそういう説明になっていまして、2年で2%をなかったことにしてしまう攻撃をしているのですが、まあこういうのってあまり皆さんがゴリゴリ突っ込まないから顕在化してこないですが、よくよく考えて見れば理論派で信念の人の黒田総裁にしてみれば結構恥ずかしい話をしていると思うの。いやまあどこぞの置物みたいに「私は進化した」とか言いながら幽閉されているのかというくらい碌すっぽ出てこないお方のようなある意味ピュアな方もいる(お前の勉強のために日銀副総裁という職があるわけではないんだと小一時間ですけど)のですが、たぶん信念の理論派であるところの黒田総裁としてはこういう話をするのって割と耐え難い屈辱になると思うんですよね(もちろん勝手にアタクシが考えているだけですけど)。

まあそういう勝手な前提は置くとしましても、こうやって敢えて「達成時期は知らんがな」みたいな話をする、というのは、この先の政策運営ということを考えたときに、黒田レジームの「2年で2%」とか「MB増やして物価目標達成ヒャッハー」という色彩をできるだけ消し去ろうとしている、ということにもつながっていると思いますので、さすがに黒田さんは超幹部の官僚だったこともあって、次の代に向けて黒田イズムの色を落としておいた方が後がやりやすい、とか考えてきているだろうなあ、とは思ったりもしたんですけれども、どうでしょうかね。


・均衡イールドカーブネタで気になるところ

つーことで金融政策に関しての部分が次にあるのですが、あんまりおもしろい話はないので超簡単に。

YCCの説明のところですが、

『こうしたイールドカーブ・コントロールの運営には、いくつかポイントがあります。』

『第1に、2%の「物価安定の目標」に向けて、最も適切と考えられるイールドカーブの姿をどのように判断するのか、という点です。伝統的な金融政策の世界では、ひとつの短期政策金利、例えば無担保コールレート・オーバーナイト物の水準を検討すれば足りたのですが、現在の枠組みのもとでは、当然のことながら、検討の対象はイールドカーブ全体に拡張されます。それぞれの年限に対応する予想物価上昇率や自然利子率の状況を分析したうえで、全体として、金融緩和の度合いが最適となるイールドカーブの形状を探し出していくことが必要となります。』

キタコレ。

『実務的には難しい分析を伴いますが、基本的なコンセプトは、はっきりしています。すなわち、「総括的な検証」で示したとおり、適切なイールドカーブの形成にあたっては、貸出・社債金利への波及、経済への影響、金融仲介機能への影響などを踏まえて判断するということです。こうした姿勢は、昨年9月にイールドカーブ・コントロールを導入した時から一貫して変わっていません。』

この部分ですけど、「貸出・社債金利への波及、経済への影響、金融仲介機能への影響など」ってなっていまして、なんかニュアンス的には「金融仲介」の話が多くねえかというのがちと気になったです。


・ストック効果

YCCの金利コントローラビリティについて。

『もちろん、長期金利のコントロールそのものが、世界でも例をみないチャレンジングな取り組みであり、これを可能としていくためには、様々な年限の金利がどのような要因で決定されるのかについて、きちんと理解することが必要となります。これについては、日本銀行だけでなく、大規模な資産買入れを実施してきたFRBやECBなどでも分析が進められてきました。様々なアプローチがありますが、長い目でみて長期金利に強い影響を与えるのは、中央銀行による日々のフローの国債買入れ額ではなく、こうしたフローの累積値であるストックの買入れ残高、ないし発行残高全体に占める中央銀行の国債保有残高であるとの見方が多いように思われます。』

まあそこはかなり怪しいんですけどね。

『わが国においても、イールドカーブ・コントロールの導入以降、10年物金利を「ゼロ%程度」にしっかりと誘導できている背景には、それ以前から続いていた国債買入れの累積的な効果、つまりストック効果がしっかりと働いていることがあると評価しています。』

実際は物価が上がらんと市場が思っているからですけど。

『ストック効果がしっかりと働くもとで、先行き、国債の需給がタイト化していった場合、他の条件が一定であれば、一単位の国債買入れによる長期金利の押し下げ効果は、より大きなものになるはずです。すなわち、より少ない金額の国債買入れによって同じ程度の金利低下効果を実現できることになります。こうした点からみましても、イールドカーブ・コントロールは、持続性の高い枠組みであることを改めて強調したいと思います。』

ってな話をしていまして、政策の持続性とかそもそもだったら物価は早期に達成するんだからそんなことを気にする必要がないところを「改めて強調」する辺りも、政策が長期化することを念頭において色々と元々のレジームをフェイドアウトして後の人をやりやすくしたい、という配慮が働いている感じがありますな、と今回の講演見て思いました。

以下少しありますけれどもまあそんなに新しい話も無いので割愛します。全般的に「最初の黒田QQEレジームでの思想をフェイドアウトさせているなあ」ということで「後任にやりやすいように余計な色を脱色してきた感じ」を受けたのはアタクシだけでしょうか????




2017/12/11

お題「ジンバブエシリーズファイナルは入れ子の部分に役に立つ講演(ジンバブエ先生の講演ではない)を入れましたよ」

何かと週末は諸事多忙で駄文に集中する余裕にかけておりましたな(とほほ)。

〇不毛シリーズファイナル

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/(HTML本文のみ)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf(図表付き本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a2.pdf(図表)

まあ先週はネチネチ参りましたが、佳境に来るので佳境はしっかり残りはサラサラと。

・・・・・・・あ、記者会見忘れてたwww

・中央銀行の赤字が云々の話はひたすら的が外れているのだがこれが仕様なので仕方ない

『2.QQEへの反対論』の『将来、大変なことになる、という議論』という小見出しから。

『最後は、今は良いことが起きているかもしれないけれど、将来必ずとんでもなく悪いことが起きるという議論について考えます。あるとき、いきなりハイパーインフレになる、円が暴落する、金利が急上昇する、債券価格が暴落するなどという議論があります11。』

今程度の財政運営じゃあそうはならんでしょう。この人たちの言う系での問題なのは物価が上がりだしたときに財政運営(国債利払い費の高まり)に配慮した結果、本来引き締めを行うべきところを実施せずに実質上のプリンティングマネーになってしまい、それを市場だけではなく世間が認識すると信任問題になるという話。

『しかし、これらの議論が主張するようなことはまったく起きそうにはありませんので、』

というのはこの先生の場合「インフレターゲットをやっているから引き締めをきちんと行うのでそのような事にはならない」としているのですが、それって本当に中央銀行が出来るのか、その時の政治的な圧力でできないのではないか、という点に対してあまりにもナイーブな説明だし、また別の考え方からすれば、この大丈夫理論ってのは暗黙のうちに財政運営が抑制的に行われていることを前提としているとも言えるのであって、最近すっかり財政出せ出せになっている官邸筋リフレ一派から見たらどうなんでしょうかとは思ってしまいますが、どうせそんなことまで考えてなさそうだからどうもないんでしょうね。

『現在の議論は、日銀が金融緩和の出口に向かうと、すなわち、金融緩和の程度を縮小すると、日銀がかなりの期間、かなりの額の赤字を計上して大変なことになるという議論に収斂しているように思えます。』

全然収斂していません。大体からして最近問題になっているのって「物価目標達成時期が遅れる中でマイナス金利までついた大規模緩和を積極的に長期間継続すると、その結果として低金利の副作用が金融システムを中心に蓄積していく」という話で、その閾値が概念的にはリバーサル・レートというキャッチーなお言葉になっている訳で、どうみてもそちらが主流なのですが、それに対して反論はしにくいので日銀赤字の方で行くということですねわかります。

『日銀が赤字になるという議論であれば、確かに可能性があります。』

そらそうよ。

『この議論を展開される方々は、日銀が損失を計上すると人々が認識しただけで、現実に損失を計上しなくても、円が暴落したり、過度のインフレに襲われたりすると主張します12。』

ここで脚注12にあるのがなんと植田和男さん。

『12植田和男「自己資本と中央銀行」(2003年度日本金融学会秋季大会における講演要旨)は、中央銀行が債務超過に陥ると、中央銀行の信認低下による通貨価値の下落や高率のインフレ、決済システムの機能低下などの問題が発生すると指摘されていると一般論として述べている(必ずしも自身の主張として述べている訳ではない)。』


・ここからブレイク状態で中銀バランスシートに関する植田和男さんの講演鑑賞会になる

植田さんの講演はこちら。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2003/ko0310f.htm/
自己資本と中央銀行
2003年10月25日、2003年度日本金融学会秋季大会における植田審議委員記念講演要旨

ちょっと面白いので大幅に脱線するけど鑑賞を。

『2、自己資本比率の低下と中央銀行:若干のケーススタディ』から。

『より詳しく個別のケースを見てみよう。大幅な期間収益赤字や債務超過を経験した中央銀行は、どのような経緯でそうした事態に陥り、またそれが金融政策運営にどのような影響を与えただろうか。この点についてはStella(1997,2002)他が詳しい。3 これらの文献によれば、債務超過に陥った中央銀行の例は中南米諸国に多い。その他にも一部のアジア、アフリカ、東欧の中央銀行、また先進国ではBundesbankが1977-1979年に債務超過を経験している。』(以下暫くは上記URL先の植田和男講演(2003)より引用します)

『債務超過に陥った原因は多岐であるが、金融危機処理費用の一部を中央銀行が負担したこと、自国通貨高により外貨準備に評価損が発生したり、為替取引に関わる産業政策に中央銀行が協力させられる過程で外貨建て債務を増やした後、自国通貨安に見舞われたこと、中央銀行保有の国債に政府が利払を実施しなかったことなどが典型例である。』

ケースバイケースですが、最後の部分とかジンバブエ理論を持ち出してやろうとか言いだす阿呆がいるかもしれませんね。

『問題はこうした債務超過に陥った中央銀行の政策がそれによって歪められたかどうかである。』

ここが重要なのですよね。

『現実には多くのケースで物価安定の目標を追求することが困難になり、高率のインフレーションが発生している。』

という主張をしています、とジンバブエ先生が仰っていた部分。

『その理由は基本的には二つである。債務超過を自らのオペレーションで克服しようとすれば、多額の通貨発行益を稼ぐ必要があり、その為には高率の貨幣供給、インフレーションが必要になる。あるいは、債務超過を埋めるための財政措置が議論されたり、発動される場合には、その規模、タイミング、是非等について財政当局等の裁量権や介入余地が強まり、物価安定とは必ずしも整合的でない政策目標が中央銀行行動を縛る可能性がある。』

問題は後者ですな。

『例えば、1980年代から90年代にかけて、ベネズエラ中央銀行は、実勢から乖離した為替レートを用いた輸入補助金、輸出税の仕組みへの関与、また金融危機(1994-95年)の処理費用の一部の負担等から債務超過に陥った。この後、拡張的な財政政策もあって加速したインフレを止めるため、金融引締めに転じたが、そのプロセスで発行した高金利の中央銀行手形が同行の収益を圧迫し、結局引き締めを断念、インフレを放置せざるを得なくなった。4』

『ジャマイカ銀行も1980年代から90年代半ばにかけて類似の経験をしている。1980年代前半に政府の産業政策的な措置に対する協力の結果、多額の外貨建て債務を負っていた。このため、80年代半ばに自国通貨が減価すると外貨建て債務の利払負担のため、大幅な赤字を計上するようになった。このため、政府は国債の贈与による穴埋めを実行したが、無利子国債であったため期間収益の改善にはつながらず、同行は債務超過に転じた。この間、インフレが高進し、同行は自行CDの大量発行により流動性の吸収に努めたが、金利の上昇下での債務発行は期間収益を更に苦しくし、インフレを止めるだけの強力な引締めを実行することが出来なかった。』

『旧フィリピン中央銀行も類似の経緯から債務超過に陥るとともに、インフレが進行したが、政府の政策への協力を余儀なくされ続けたため、インフレは放置された。5』

というようになっているのですが、何せジンバブエ先生の場合は「物価が上がったら中央銀行は問題なく引き締め政策ができるから大丈夫」という考えなので、こういう問題が起こるというのはジンバブエ理論上無いことになっている。

『他方、中央銀行の債務超過が必ずしも高率のインフレにつながらなかったケースもある。 チリ中央銀行は1997年から2000年にかけて債務超過に陥った。しかし、2000年のインフレ率は4%以下と物価安定は維持された。その理由としては、1997年頃まで財政政策が極めて緊縮的に運営され、ある程度拡張的な金融政策と合わせてもマクロ政策全体としては安定的なものであったことが指摘されている。6 7』

つーことで上手くいったケースもありますが、この時って結局のところ財政を締めて居る訳でございまして、財政政策との関連によってインフレ目標を止められなくなるという懸念が生じるかどうか、というのが問題だということになりますね。

『中央銀行の財務基盤が悪化することは、物価安定だけでなく、政府の銀行、決済システムの円滑性の維持という中央銀行の役割を脅かすことにもつながるリスクがある。Stella (2002)は、中央銀行の財務が極端に悪化すると、金融取引が正規の決済システムを通じて行われなくなる、従って、決済の効率性が低下する例が多いと述べている。』

なるほど。

『このように各国の経験を振り返ってみると、中央銀行にとって、健全なバランスシートを保つことは、一般論としては、その責務を全うするための必要条件でも十分条件でもないが、必要条件に近いような状況もしばしば存在したというような評価ができようか。』

という部分をもってジンバブエ先生さっきの脚注で「必ずしも自身の主張として述べている訳ではない」って言ってますが、実際問題としてはその次のところの『3、理論的背景』でこのような話をしてます。

『前節のような自己資本と中央銀行に関する経験的事実の整理をもう少し理論的に考察してみよう。例えば、財務悪化に直面した中央銀行を救済する財政当局は金融政策に介入する誘因を持つと指摘した。しかし、中央銀行が何らかの理由で債務超過に陥ってしまった場合、その損失を穴埋めしてもしなくても政府の予算制約に与える影響は理論的には同じだと考えることができる。』

統合政府の話になります。

『これは政府が中央銀行と一体となったバランスシートで物事を判断していると考えればわかりやすい。そうで無い場合には、債務超過を埋め合わせるための資本注入を実施すると、これは例えば国債発行増でまかなわれなければならない。しかし、注入された資金で中央銀行がちょうど追加発行された国債を購入するとすれば、キャッシュフロー上の負担は発生しない。中央銀行保有の国債に対する利払いは納付金として政府に還流するので、将来も追加的な利払い負担は生じない。』

実際はそれが中銀負債になるので結局中銀負債の利払いがどうなるかが問題なんですけどね。

『以上のような考え方に加えて、中央銀行の債務超過のような状態に対する政府の姿勢について、メルツァー(1999)は、「日本銀行の債務返済能力を損なうような事態が発生した場合に政府がこれを補填して日本銀行を支える保証について、何らかの疑念があると信じる理由は無いと考える。これまで中央銀行が債務不履行に陥ったことはないし、責任ある政府がこうした事態の発生を許すことはないと考える。中央銀行の破綻とはいったいどういうことを意味するのかが私にはわからない」と主張している。』

と、メルツァーを持ち出しておいてさっそくバッサリと斬るのが植田和男さんww

『しかし、こうした考え方は中央銀行と政府との関係、政府の予算策定プロセス等に関するかなりナイーブな理解に基づいたものといわざるを得ない。』

分かりやすい日本語にすると「メルツァーの主張は机上の空論」ですねわかります。

『そもそも中央銀行の債務超過を埋め合わせることがかりに物価安定のための金融政策遂行に資するものだとして、政府サイドはそれを素直に実行するのだろうか。そうだとすればそもそも中央銀行の政府からの独立性というテーマ自体が存在していなかったはずである。』

つまり政府が最初からそういうことをきちんとする主体なのであったら別に中央銀行を独立させて通貨発行体にする必要はないということです。

『政府サイドが好ましいと思うインフレ率が必ずしも国民にとって望ましいものではないリスクに鑑みて中央銀行の独立性というテーマが存在するのである。8』

『以上のような技術的な理由で、仮に政府サイドにとって中央銀行の債務超過を埋め合わせることが財政上は本質的な負担を発生させないとしても、そうした行動に出ることは必ずしも容易ではないかもしれない。また、より本質的に、政府が近視眼的に高いインフレ率を目指そうとしている局面では、資本再注入を契機として中央銀行の物価安定化努力に対する介入を招く可能性が高い。』

ですな。

『中央銀行が通貨発行益を稼げるので一時的に債務超過になっても大丈夫という議論もそのままは受け取れない。』

植田さんのこの講演ですが、正直ジンバブエ大先生がリファーしてくれなかったらすっかり存在を忘れておりました(読んだような気がしないでもないという認識)が、引用するのはいいけどここも思いっきりジンバブエ先生が時空を超えてdisられておるwwww

『会計上の債務超過が続く間は、多くの場合中央銀行の監督官庁である財政当局からのさまざまな介入が発生する可能性がある。より本質的には適度のインフレ率の下で稼ぐことのできる通貨発行益は有限である。9 短期間に通貨発行益に頼って債務超過を脱しようとすれば、物価安定の目標を犠牲にして高いインフレ率を目指さなくてはならない。』

ですです。

『そもそもこうしたさまざまな事態を恐れて、債務超過に陥る前からその可能性を高める引き締め政策を躊躇してしまうリスクも無視できない。さらには中央銀行の財務の悪化が民間の投資家の中央銀行・通貨に対する信認を低下させ、通貨価値の下落を招くというよくある主張もこうした脈絡で理解することが可能である。』

ということで、さきほどはジンバブエ先生「(必ずしも自身の主張として述べている訳ではない)」って言ってましたが、まあどう見ても植田先生の主張ですがなというお話。

でもってここまでの話で明らかなように、

『他方、こうした議論、あるいは前節の例から明らかなように、中央銀行の財務悪化がその物価安定化のための努力を阻害する程度は中央銀行と政府の関係に依存しており、一定不変のものではない。』

という話になるわけで、

『従って、中央銀行がどの程度の資本をもてば良いかという問いにもユニークな答えはないはずである。10 ただ、中央銀行と政府がお互いに納得できるような適切な自己資本水準、ないしその計算式が存在することは両者の間の調整費用を節約することに資する局面もあるだろう。』

ってなことになるのですが、

『まとめれば、政府と中央銀行との間では、例えば目標インフレ率に相違が発生する可能性がある。中央銀行のオペレーションは必然的に財政当局の歳出、歳入に影響を与える。これはネットの(歳出?歳入)に影響する場合もそうでない場合もあるが、いずれのケースも財政当局にとっては重大な関心事である。これらの理由で発生しうる政府や財政当局と中央銀行の間の緊張関係は、中央銀行の財務状態が大幅に悪化する場合には、高まりやすいのである。11』

という話でありますし、その次の『4、最近の日本銀行のケース』を見ますと植田先生は、

『ただし、ここでの債務超過の意味は微妙である。現実には日本銀行は過去30年間ほど長期国債を売却していない。また、民間及び公的企業の会計原則が変わりつつあるのに合わせて、国債の評価方法も、低価法から償却原価法へと平成16年度から変更される。仮に満期まで保有する国債の保有期間中の含み損は気にしないということであれば、財務の健全性との関連では、近い将来日本銀行が保有している国債を大量に売却する必要に迫られるかどうかという点が焦点になる。13』

途中の説明部分飛ばして結論を見ますと、

『言い換えれば、現在の状態で更なる国債の購入が不可能であるというような状況に日本銀行があるわけではない一方、ここからの国債購入がきわめて大規模になった場合には、以上で議論したリスクが顕現化する可能性は高くなるわけである。』

とある訳で、日銀のバランスシート問題が出てくるのは物価が上昇したときという話になる訳ですな(なお講演では株式なども保有しているのでそっちの値下がり問題もあるという指摘もしている)。

ということで(まあ折角ですので読んでちょと思いますし、大体最近のリフレ一派の皆様が主張するような債務超過打開策に関しては解説がありますので面白いと思います)植田先生の講演読書はこの辺まで。


・話を元に戻してジンバブエ先生ですが相変わらずのクオリティ

つーことで話を元に戻してジンバブエ先生のさっきの続き。

『しかし、もしそうであるなら、なぜ今それが起きないのでしょうか。いつも私はこう聞いているのですが、答えてもらったことはありません。』(ここから再び原田審議委員の福島金懇(最初のURL先)に戻ります)

なぜ今起きないのかは、まさにジンバブエ先生が引用した植田和男先生の講演にありますように、この問題が顕在化するのは「物価が上昇したときにインフレ目標の制御と財政的な問題がコンフリクトを起こして、中央銀行が物価コントロールを失う、あるいは失う恐れがあるとみなされる場合」なのであって、今起きないのは当たり前にもほどがあって、答えてもらったことが無いのは質問した人が多分この馬鹿に説明してもわからないし、変ないちゃもんばっかりつけてくるし、大体このジンバブエは人の言うことを聞かないどころか一部を切り取って勝手に俺様解釈するからそんな奴に話をしてもろくなことにならないと思ってまともな人が相手をしてくれないからだと思います。ああ残念なお方。

『私は、金融緩和の出口で、日銀の損益計算書が赤字になることがあり得ますが、経済には何も起きないと考えています。その理由についてお話をしたいと思います。』

ほほう。


『まず、歴史に聞くことにしましょう。これまで中央銀行が赤字または債務超過になったのは、1980年以降確認できるもので20ぐらいの国で例があるようです13。』

ほう。

『すべての例で詳しいことはよく分からないのですが、そのうち、インフレなど経済の大混乱が起きていたのは80-90年代のジャマイカ、フィリピン、ベネズエラが挙げられます。一方、70年代の西ドイツ、90-2010年代のチェコ、90年代から現在までのチリ、2000-10年代のスイスなどでは、インフレの高まりなどは見られていません。』

『これらの国で何も起きなかった理由は明らかです。これらの国の中央銀行資産の大部分は外貨資産です。インフレになれば、自国通貨が下落して、外貨資産の自国通貨建ての価値は上昇します。つまり、中央銀行資産の毀損がインフレをもたらすなら、インフレそれ自体に資産価値の回復をもたらすメカニズムがあるからです。つまり、大変なことは起きようがないのです。』

えーっとすいません、日銀資産の大部分は内国資産なんですけれども、それを例に出しても全然「大変なことは起きようがないのです」の答えになっていないどころか、外貨資産持ってないんだからまずいじゃないのよとなるんじゃないでしょうか????????????(実は後に説明がある)

『では、ジャマイカなどでなぜ急激なインフレを抑制できなかったのでしょうか。中央銀行が政府の肩代わりをしてマネーを増大させたとともに、増大したマネーを吸収するために高金利の債券を発行し、結果として利払いが増えて、中央銀行の損益が赤字となりました14。そもそも、中央銀行が政府の肩代わりのためのお札を刷っていれば、中央銀行の資産状況にかかわらず必ずインフレになります。』

あれ???以前のジンバブエ理論だと「日銀はコストをかけずに政府から国債を買っている」だったのですが、これだとプリンティングマネーをしたらインフレになるって話になっていますが。

『しかし、日本の場合は、私が度々述べていますように、QQEの導入とともに財政赤字が減少しています15。』

赤字は減ってるってあのすいません赤字は赤字なんですし累積見たら増えてるでしょ。

『一般政府の財政収支赤字の対GDP比は、QQEが始まる前の2012年の8%から2016年には2%と大きく改善しました。もちろん、このうち8兆円16、1.5%分は消費税増税のお蔭ですが、残りの4.5%分はQQEを含む経済政策で景気が回復しているお蔭ということになります。』

でも赤字じゃん。

『また、2%という物価目標が付いています。これは、物価の2%目標を達成する目途が得られたときには金融緩和の程度を縮小する、または引き締めるということです。ジャマイカなどとは全く状況が異なります。』

ってありますが、そもそもそれがスムーズにできるかどうか、という点は政府と日銀の関係によっても異なってくる訳で、これだと「大丈夫と言っているから大丈夫」というだけの話で、まさに植田先生が指摘する「ナイーブな議論」であることは言うまでもありません。


・よって出口の話もナイーブ

『なぜ出口が問題なのか』という小見出し。

『「80-90年代のジャマイカ、フィリピン、ベネズエラと日本はまったく異なると分かった、スイスなどの中銀の資産が外貨資産である場合も分かった、では、日本のように資産の大部分が自国国債である場合はどうなるのか」というご疑問があると思います。』

最初に言えよ。

『ここで、出口とは、金融緩和の結果、物価上昇率2%の達成が見えるようになるので、金融緩和を止めて金利を引き上げ、マネタリ−ベースを縮小するということです。出口では金利を上げなければなりませんが、例えば、その方法として、現在日本銀行が行っているマイナス金利政策を取りやめて、超過準備に課す付利を引き上げる、または、日銀保有の国債を売却する、といった方法が考えられます。』

まあ出口出られないで副作用が累積する方が現実には脅威のようだがこの話はこの話として聞き置くとしましょう。

『出口政策について、現時点で決まっていることは何もありませんが、この場の議論としては、付利の引き上げで考えたほうが分かりやすいと思いますので、これで説明いたします。出口が危険と主張している方々によりますと、日本銀行が付利を引き上げていっても、過去、日銀が購入した国債の金利は低いままですから、日銀の収益が大変な赤字になるというのです。確かに、高い金利を払いながら、低い金利を受け取るのですから、赤字になる可能性があります。この結果、日銀の収益が赤字になれば、通貨の信認が失われ、ハイパーインフレ、円の暴落、金利の高騰が起きるというのです。』


「この結果、日銀の収益が赤字になれば、通貨の信認が失われ」の所が話が飛躍しているのは先ほどの植田先生の講演での説明でわかると思います。

『しかし、今は長期国債でも利回りは0%近傍ですが、90年代の中ごろまでは3%でした。実質経済成長率が高く物価も上がっていたからです。物価が上がればいずれ金利も上がります。ということは、いずれ、より高い利回りの国債を買えることになります。』

と言ってますが、実際問題としては出口ってんですから物価目標は達成している訳で、そういう状況下では長期国債の買い入れというのはできない(引き締めないといけないのだから)ので「より高い利回りの国債を買えることになる」って言ったって、今のように長期国債の長いのを含めて買っている中では、適正な長期国債の残高に落とすまでの時間が無茶苦茶かかる(この前計算したファイルが飛んだからまた計算しないと)のでこの話は残念ながら却下。

『もちろん、そうなるまで、低い金利の国債を持ちつつ、景気の過熱を抑えるために銀行に対して高い金利を支払わなければならないという局面があります。しかし、最終的には、ほとんどコストのかからない当座預金と現金とで高い金利を得られる国債を買うのですから、中央銀行は長期的には必ず利益を得ることができます。長期的に見た場合、日銀が損失を負うことによる危険など存在しません。』

その間の時間と、損失の規模、およびその時点での財政当局のスタンスによって起こるか怒らないかはわからないですけれども、日銀の長期国債保有残高が拡大すればするほど問題は起きやすくなる、というのは植田先生の説明通りであって、このようなのはナイー(以下同文)。

『そもそも、金融緩和の過程で、景気が改善し、税収が増大して財政赤字の対GDP比の改善があったのですから、出口の時に生じる一時的な日銀の赤字のみを問題にすることは木を見て森を見ない議論です。』

日銀の財務のところだけ見てインフレ目標と財政問題や他の問題とのコンフリクトに思いをはせないのも木を見て森を見ない議論ですね!!!!

『また、米国や欧州の中央銀行が出口に向かっているのだから、日本も向かうべきだという意見があります。』

たぶんそんな人はいない。どさくさに紛れて緩和規模の縮小ができるのでは程度の話でしょ。

『しかし、日本の出口が遅れているのは当然のことです。』

自分らの政策がうまくいってないのを威張られましても・・・・・・・・・・・・・・

『まず、これらの国の消費者物価上昇率は2%にはいかなくても1%台半ばで推移しています。1%に満たない日本とは状況が違います。さらに、日本が大規模な量的緩和政策に踏み切ったのは2013年ですが、これらの国は2008年には量的緩和政策を始めています。』

日本もQQEの前から緩和盛大にやっているんですが頭大丈夫??

『日本は、これらの国と比べて大規模な量的緩和の開始時期が遅いのですから、出口に向かう時期が遅くなることについても不思議はありません。』

あんさんは当時いなかったけど「2年で2%」と言って緩和政策やったのに「出口に向かう時期が遅くなることについても不思議はありません」ってお前は何を言ってるんだだし、だったら追加緩和を提案しろやこのスットコドッコイ。


・そもそも物価目標達成することの定義がわかっているのかが怪しいという恐ろしい部分

『3.2%物価目標達成の道筋』というのが本文PDFの16ページからあるのですけどね、

『以上申し上げましたように、QQEは大きな成果を上げています。また、その危険とか副作用とか言われているものも、根拠がありません。問題は物価が上がっていないことだけです。』

大きな成果があがっているのに物価が上がっていないとはこれ如何に、というかこれヘッドラインでベンダーに出て金利債券市場の100人中200人くらいが爆笑の発作を起こして腹筋が崩壊したし、アタクシはなんでこんな時にPCが壊れるのよと切歯扼腕の巻ですよwwwwwwwwwwwwww

『これに関連して、人手不足なのになぜ賃金や物価が上がらないのかという疑問が良く聞かれます17。私の答えは、人手不足が不十分だからだということにつきます。』

ワロタ。

『賃金が上がれば物価も上がります。賃金が上がればコストが上がりますが、所得が増えることで需要も増加し、コストの上昇を物価に転嫁しやすくなるからです。以下、時間も限られていますので、物価についてのみ説明させていただきます。』

何を言いたいのかよくわかりませんが説明を拝読。

『図7は、物価上昇率と需給ギャップの関係を示したフィリップス・カーブです。ここには、1983年1-3月期から2013年1-3月期まで、1983年1-3月期から1995年10-12月期まで、1996年1-3月期から2013年1-3月期まで、2013年4-6月期から2017年7-9月期まで、それぞれの需給ギャップと物価の関係を示す回帰線を示しています。』

ほほう。

『いずれの回帰線でも、需給ギャップが2%台半ば以上にならないと物価は2%になりません。』

・・・・・( ゚д゚)
・・・・・(つд⊂)ゴシゴシ
・・・・・(;゚д゚)

えーっとすいません。需給ギャップが0(つまり経済に余剰も不足もないとき)の時の物価水準が2%になっていないと物価が安定的に2%で推移しないんですけど。

『1983年1-3月期から1995年10-12月期までの回帰線で考えると、需給ギャップが2%台半ばになれば良いわけですが、その時の現実の消費者物価上昇率は1.5%でした。つまり、1%台半ばの物価上昇が続いて、かつ需給ギャップが2%台半ば程度になれば2%の物価上昇になるということです。現在の需給ギャップは1%台前半ですから、さらに需給ギャップのプラス幅が2%台半ばにまで拡大し、それと同時に、物価も1%台半ばで上昇していなければならないということです。』

なんか無茶苦茶な説明になっているのですが、図表7の方を見ると直近(2013〜2017)で言えばCPI=0.26×需給ギャップ+0.57ってなっていまして、そもそもそのY切片の0.57ってのが2になるのが物価が中長期的に安定的に2%で推移するって話で、この説明で2%がどうのこうの言われても困りますし、大体からしてそこの表に「2%に対応する需給ギャップ推計値」ってのがあってその数字5.8%になっているのですが、そんなに高い需給ギャップのプラスで経済を回し続けるとか全然サステイナブルじゃないんですけど。


ということで、これがどう道筋なのかさっぱりわからないという結論なのでありました。なおこの先に『なぜ2%インフレが必要か』というと『4.終わりに』というのがありますが、こちらは前回のジンバブエ金懇と同じ話をしているのと、アタクシの下準備不足で朝から書いていたもんで時間もないし、さすがにもうお腹一杯どころか下しそうでしょうからジンバブエシリーズは(会見はそのうち埋め草で使います)終了して、その間に出てきていた中曾副総裁の引退挨拶みたいな講演とか、微妙にトーンがおとなしくなってこっちも引退かよと思ってしまう黒田総裁のきさらぎ会に、政井さんの金懇など盛りだくさんなので頑張って追いついてまいります。




2017/12/08

お題「今日も大先生ネタ(しかも少量)で誠に申し訳ありません滞貨は週末に減らします」

今週はおニューPC慣熟運転と称して延々と某大先生ネタで引っ張ってしまいまして誠に申し訳ございませんでした。ほかのネタが押しておりますので週末に元気があれば勝手に更新するかもしれませんし更新しないかもしれません(いずれにせよ月曜日にはネタの滞貨整理モードで)。

#まあ年末で諸事多忙というのもありまして(大汗)


〇今までも大概でしたが今回はリファレンス先の裏取りまで必要とは(その4)

ええさすがにその5は残り全部を土日のうちに作っておきますよ他のネタたまっているし来週再来週は中央銀行金融政策の季節ですし。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/(HTML本文のみ)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf(図表付き本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a2.pdf(図表)

つーことで本文(PDFで見た場合)9ページの『2.QQEへの反対論』の2番目になります『QQEの効果は広がっていない、という議論』から。

・引用がなんぼなんでもスポット過ぎるという話などについて

『第2は、ある人々には良いことが起きているが、多くの人々に悪いことが起きているという議論です。』

という話なのですが、いきなり例えが変。

『確かに、人手不足は働きたい人には良いことですが、人を雇う経営者の立場からすると悪いことかもしれません。しかし、商品が売れなくて困るより、売れるのに売ったり作ったり運んだりする人がいなくて困る方が望ましいと思います。売れなくて経営危機ともなれば、雇用を削減しなくてはいけません。そんなことをするのは大変です。』

いやあの金融緩和政策の効果と副作用の比較衡量という話をして欲しいのですが、なんでそこで人手不足の話になるかねと思いますし、この話へのツッコミをしている最初から申し上げておりますように(図表2ね)、そもそも雇用関連の改善からタイト化の流れって単に2010年度のトレンドラインに乗っているだけであってQQEの直接的な効果がそこにあるのかは検証を要する(といっても結局こういうのって検証のパラメーターにおけるウェイトとかでどうとでもなってしまうのではないでしょうか(偏見)と考えておりますもんで、政策当局者自身による検証というのはどうも話半分に見ないと(偏見)とか思ってしまうのですが)レベルなんじゃないでしょうかと思うのだが。

てかね、まあ政策が効いて人手不足になっているとしましても、それって「政策効果」の方の話であって、政策効果に関して「ある人には良いことでもある人には悪いこと」って話を持ってくるのがそもそもインチキ話法でして、この話はそういう意味で話を読むだけ無駄と言いたいのだが、この後ああでもないこうでもないと説明をしてますますツッコミどころを提供してくださるのがジンバブエクオリティ。

『2008年のリーマンショックの後には、やむを得ず人員整理が必要になった、あれほどつらい思いをしたことはない、と多くの企業経営者の方々からお聞きしました。日本で、そんな簡単に人員整理のできる経営者の方はいらっしゃらないと思います。人余りより人手不足の方がずっと良いと思います。』

失業率は自然失業率まで下がるように持っていくのが経済政策のお仕事なんだからこんなこと今更いう必要も無い話をドヤ顔(かどうか知らんが)で説教するとかお前は金懇に来ている客を馬鹿にしとるのかと小一時間。

『景気回復の恩恵を受けているのは一部の人で、自分のところにはそんな恩恵は回ってこないという議論もあります。これは、全体としての所得は上がったが、多くの人の所得はあまり上がっておらず、格差が拡大したという議論です。では、QQE後、所得分配はどうなっているでしょうか。』

ということで出てくるのがなかなかアレなのですが。

『厚生労働省「国民生活基礎調査」(2016年)によりますと、子供(17歳以下)の貧困率(等価可処分所得の中位値の半分以下の子供の比率)は2012年の16.3%から2015年の13.9%に低下しています7。「国民生活基礎調査」での全体の貧困率も2012年の16.1%から15.6%に低下しています。』

さてここでこの国民生活基礎調査を確認してみましょう。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
国民生活基礎調査 結果の概要

比較しているのが平成28年調査と平成25年調査のようですが、

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html
平成28年 国民生活基礎調査の概況

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/index.html
平成25年 国民生活基礎調査の概況

この中の「結果の概要」の中にある「各種世帯の所得等の状況」ってのが(PDFファイルのリンクになっています)該当する箇所になるのですが、

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf(平成28年)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf(平成25年)

こちらの「貧困率の状況 」って辺りを見ますと、確かに平成28年の分だと『平成 27 年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分、熊本県を除く。)は 122 万円となっており、 「相対的貧困率」(貧困線に満たない世帯員の割合、熊本県を除く。)は 15.6%(対 24 年△0.5 ポイント)となっている。また、「子どもの貧困率」(17 歳以下)は 13.9%(対 24 年△2.4 ポイ ント)となっている。 』(平成28年国民生活基礎調査「II 各種世帯の所得等の状況」の15ページ目より引用)というようなお話があったりするので、この引用自体はまあその通りなんですけど・・・・・・・・・・

例えばですね、同じ資料の『2 所得の分布状況』ってのを見ますと、

『所得金額階級別に世帯数(熊本県を除く。)の相対度数分布をみると、「200〜300 万円未満」 が 13.7%、「100〜200 万円未満」が 13.4%、「300〜400 万円未満」が 13.2%と多くなっている。中央値(所得を低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は 428 万円であり、 平均所得金額(545 万 8 千円)以下の割合は 61.4%となっている。(図 11)』(平成28年国民生活基礎調査「II 各種世帯の所得等の状況」の11ページ目より引用)

ってなっていまして、この「平均所得金額以下の割合」ってのを平成25年調査(なので時点的には平成24年)ので見ますと平均所得金額以下の割合は60.8%となっている(まあ確認してちょ)ので、「平均所得金額以下の割合」という面で見た場合には「平均以下の世帯割合が拡大しているから格差拡大している」という結果を引っ張り出すことも可能でありまして、こういうの統計の一つの数字だけ出して結論をつけるというのは、恣意的に自分の持っていきたい結論に都合の良い数字をピッキングして説明することに繋がってしまいますのでどうなのよとしか思えん。もうちょっと色々な数字を出して説明するならわかるけど。


でまあその次。

『また、QQEによって、銀行業が困難な状況に陥っているという議論もあります。低金利によって銀行の利潤が圧迫されているという議論です。しかし、まず、銀行業が困難な状況にある理由は借り手がいないからです。』

クソワロタ。大本営は金融緩和で貸出が伸びている(キリッ)って言ってるのに。

『民間非金融法人(事業会社)は日本全体では貯蓄超過で現預金を254兆円(2017年6月末時点)8も積み上げています。もちろん、銀行とは資金を短期で調達して長期で運用するものですから、長期金利が下がれば収益が圧迫されるというのは事実でしょう。しかし、長期金利と銀行利益を単純に比べてみますと、低金利によって銀行の利益が必ず低下するとは言えないように思います。』

色々とおかしいのだが、金融機構局金融システム調査課からFSRのレクを30時間くらいぶっ通しで受けた方が良いのではないでしょうかと思うがスタッフの方がレクしたくないですかそうですか。

『図6は、銀行のコア業務純益と長期金利(10年物国債利回り)を比べたものです。コア業務純益とは、貸出や有価証券投資等の資金運用から得られる利益など銀行の安定的な収益を示したものです。』

そもそも「安定的な収益」っていう定義がおかしいが先に行く。図6ってのはPDFの方でも見てちょ。

『1990年から金利はほぼ一貫して低下してきましたが、それと銀行のコア業務純益は相関しているようには思えません。1990年代の前半は金利が下がっていたのに純益は上がっていました。』

大体からして1990年代前半ってその直前の引き締めからの急速な金融緩和をやっているのだからその間って金融緩和に伴う調達金利低下速度と貸出金ストックの金利更改による金利低下速度が違うんだから最初は金融機関収益にプラスに働くわという話ですし、それ以前の問題としてコア業務純益(資金利益+非資金利益−経費)の推移見たかったら前年度差で比較した形で見る方が普通じゃないのかと思うんだが。

『1999年にゼロ金利政策を導入しましたが、その後、純益は増加、金利も上昇しました。2001年に量的緩和を導入しましたが、その後純益は増加しています。』

ってありますが98年〜2000年は全体の数値低下していますけどね。

『量的緩和終了後、純益も金利も低下しましたが、これはリーマンショックに依るものが大きいと考えられます。』

って急に出ているのだが、1990年代後半の不良債権処理問題の方がもっと規模も大きかったのにそこでの話はスルーして何故かリーマンショックェ・・・・・・

『2013年にQQEを導入しますと、景気好転によって貸出先企業の経営が改善し、信用コストが減少し、当期純利益は増加しました9。すなわち、銀行業の収益は金利とともに経済全体の状況にもよる訳です。15年度と16年度にはコア業務純益が低下していますが、一部は消費税増税後の景気低迷の影響と思います。』

って急にここで信用コストの話が出ているのもなんだかなあという感じだし、大体からして信用コストの低下は別にQQEで顕著になったわけではなくてその前からトレンドとしてよくなっているし、最近はついに大手行とかだと信用コストの改善が進みすぎて限界的なところまで来ている筈なんだが。てかコア業務純益の話とちゃうやん。

『16年度以降、純益が低下しているのは事実ですが、それ以前までは良くなっていたこともご考慮いただきたいと思います。』

それこそマイナス金利政策の弊害ではないかと。

『また、銀行の利益が名目金利の上昇に依存するなら、QQEは最終的には金利を上げる政策です。物価が上がれば金利も上がるからです。物価が上がらないのに金利を上げれば、景気は悪化し、物価は低下し、却って金利をさらに下げざるを得なくなります。そのような政策を続けてきたのが1990年代からQQEの導入までだったと思います10。今後、物価の上昇とともに、金利の上昇が期待できると思います。』

すいませんさっき「量的緩和終了後、純益も金利も低下しましたが、これはリーマンショックに依るものが大きいと考えられます」って言ってたのにここでは「物価が上がらないのに金利を上げれば、景気は悪化し、物価は低下し、却って金利をさらに下げざるを得なくなります」って話が違うんですけど・・・・・・・・

つーかそれよりも問題なのはQQE入れて4年以上たつのに物価あがっていなくて、金融機関に対して問題になるのはまさにその物価が上がらんので金融緩和が延々と続いていてしかも修正どころかマイナス金利までぶっこんでさらに酷いことになっている、ということであって、QQEで物価が「2年で2%」になっていればどこからも文句は出ないんですけれどもとしか言いようがない。

つーかね、脚注10ってのがこれまた『10名目金利、金融機関の収益、金融政策との関係については、原田泰「なぜ日本の金利は低いのか」『景気とサイクル』第62号、2016年11月』ってそれあんさんらの仲間内の紙じゃねえかよとずっこけてしまうのですが・・・・・・・・

などと高々2ページ(しかもその間に図表あり)にいちゃもんつけてたら時間が無くなってしまいました(先に作れと言われそうですがまあ勘弁してつかあさい)が、実際は佳境はもうちょっと後だったりするというのがこれまた頭痛のするところではあります。

#今日も不毛シリーズで誠に申し訳ございませんでした



2017/12/07

お題「ジンバブエ先生の読み込み戦線がガダルカナル状態になっているのですが(涙)」

いやーまあPC慣熟テスト中で勘弁とはいえジンバブエ先生ネタで引っ張りすぎでございますし、大体からして折角のおニューのPCでのっけからこのようなネタを書いていたらPCちゃんがこれからどんどん変な成長を遂げてしまうのではないかと考えますと誠に遺憾の意を禁じ得ないのですがががががが。

てな中で世の中はジャンジャン動いていますな。
https://jp.reuters.com/article/trump-jerusalem-1206-idJPKBN1E02Z5
2017年12月7日 / 05:29
トランプ米大統領、エルサレムをイスラエル首都と正式認定

〇めげずにジンバブエ先生(その3)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/(HTML本文のみ)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf(図表付き本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a2.pdf(図表)

ということでやっとPDFの方で言えば7ページ目に入るのですが。

・そもそもジンバブエ先生が論破しにいっているのが藁人形という平常運転

てなわけでやっと『2.QQEへの反対論』というのになるのですが、まずそのマクラがおかしい。

『以上述べましたように、2013年4月からのQQEによって日本経済は改善しています。にもかかわらず、QQEに反対する人は尽きません。』

と言っているのは一昨日と昨日悪態を申し上げたあたりの話になりますが、特に図1と図2(なので一昨日に悪態ついてた部分)に関して言いますと、図1で言えばそもそも国内景気の改善って世界貿易によって改善が進んだり停滞したりしているだけで、QQEによって別にトレンドが変わったというような話じゃない(もちろんQQEやって落ち込んだということでもないのでその時点で悪さはしていないように見えるけど)という反論が成り立ちそうですし、図2で言えば雇用の改善って2009〜2010年をボトムとした改善のトレンドライン上にあって、別にQQEがそれを加速したようには見えない(別にQQEが悪さをしているという程でもなさそうだが)、というようなお話を申し上げたわけですが、そりゃ勝手に自分の都合の良さそうな説明(というか説明になっていないのですが・・・・・・)をして「QQEが素晴らしく効いている」って結論にしたら反対論への反論もお茶の子さいさいですわなあとは思うのだが、反対論がどういうのものなのかの説明もこれまたストローマン炸裂なのであります。

『この反対論は3つに分けられると思います。第1は、QQEと現在の日本経済の改善は関係がなく、QQEをしなくても良くなったという議論です。』

この人(この後のところで出てくるけど)QQEと金融緩和をごちゃごちゃにして以下説明しているのが甚だ話を面倒にしていまして、金融引き締めやれとかいう奴はどこにも居ないわけですが、ここまでのジンバブエ先生の説明だとQQEの効果で改善しているというよりは世界貿易の改善(つまり海外経済の改善)による国内経済の改善と、雇用に関して言えば単に2009-10年からの改善トレンドに乗っているだけの話であって、QQEほど大規模な金融緩和をする必要があったのか、という議論は思いっきりあり得ると思うのですが、何せここまでの説明にあるように、そもそもの時点でQQEが物凄く効果が出ていたという話をしているので、そりゃこれに対する反論とかする必要がないはずなのですが、そこでひたすら余計な話をして更に話をややこしくするのがジンバブエクオリティなので後程。

『第2は、ある人々には良いことが起きているが、悪いことが起きている人もたくさんいるという議論です。』

政策の効果と副作用、という話ならまだ話は分かるのですが、何らかの政策をしたら誰かにとって有利でも誰かにとって不利なことになる、というのはそら当たり前の話で(なお天から金が降ってきたらその瞬間は万人に有利に見えますがそれは将来のコストという時間の概念を忘れているだけの話)、お前は何を言ってるんだというところですな。

『第3は、今は良いことが起きているかもしれないけれども、将来必ずとんでもなく悪いことが起きるという議論です。』

なんでこう「必ず」「とんでもなく」とかアジビラみたいな表現使うのかと思いますけれども、最近だと黒田総裁のチューリッヒの講演でも「マイナス金利の金融機関経営に与える悪影響は累積的に表れてくる」という趣旨の話をしていましたように、政策をやりすぎていけば副作用が累積的に高まっていく(副作用の無い政策はそもそも効かない政策)というのは別にQQEに限らず、特に緩和的な金融政策の場合にはやりすぎたら副作用が累積するっての当たり前の話にしか思えないのですが、この点にもやっきになって指摘しておりますな。

・・・・・・・ってなんでマクラ相当部分でこんなに書かないといけないんだか。

・本人的には丁寧に説明したつもりなんでしょうが寧ろ話がおかしくなっている件について

小見出しは『QQEと経済の改善は関係がない、という議論』になります。

つーことで第1の話だけど、今までの趣旨からいえば「さっき申し上げたように効いているんだから問題ないんだよ」で話を終わらせればよいのに、丁寧に説明をしようとした結果暴論オブ暴論になっているというのはこの大先生の論議が極論に走ってしまっている(そもそも置物リフレ理論というのはインフレはいつでも貨幣的現象なので置物マネタリーベース直線一気理論によってインフレは制御しうるし、マンデルフレミング効果によって財政は効かないので金融政策が重要」というかなりの極論(というか机上の空論的な前提条件による理屈)を持ち出した挙句に「2%インフレ目標で今の世の中の問題の多くは解決に向かいます」と安部ちゃんが飛びつくような美味い話をしておりましたのでその一派が極論を言うのは仕様なのですが)からなんでしょうかね、以下鑑賞。

『第1の議論から始めましょう。今まで述べましたように、QQE導入後、良いことが次々と起きているのですから、私には、QQEをしなくても日本経済は良くなったとは信じられない議論です。』

因果関係と相関関係というのは別物でして、QQEに所期の効果があまりなかったとしても良いことが起きる場合だってあるわけでして、そこの部分の説明がまるでない(そもそもQQEによってどのような波及効果があって効いたのか、という話を説明する図表が無い(期待インフレだの実質金利だのは「こうなった」という話だけで肝心の図表が存在しない)のでは因果関係の説明が抜けているということでして、これでは「QQE導入」の部分を「日銀本店で毎日政策委員会の皆さんが全身白塗りで暗黒舞踏を30分踊る」と書き換えても変わらないんじゃないでしょうかねえ。

でもってその次からがぶっ飛んでいるので色々と凄い。

『しかし、QQEで日本経済が良くなったという私の主張を厳密に証明するのはなかなか困難です。』



『なぜなら、2013年から現在までの日本経済について、QQEをした時としなかった時にどうなったかを比べることはできないからです。』

???

『私が比べているのは、QQE導入前の2012年以前の日本経済と導入後の2013年以降現在までの日本経済にすぎません。両方の日本経済は異なるのですから、これでQQEの効果があると厳密に証明することはできません。』

えーっとすいません、だったら「QQEの効果は言われているほど無かった」という話をしても同じ結論になってしまいますが・・・・・・・・

『であるなら、私の主張をより説得力あるものにするためには、せめて今からでもQQEを止めてみる必要があります。』

お前は何を言ってるんだ。そもそも金融緩和を全部止めろとか誰も言ってない(木内さんの反対論だって国債買入拡大は継続(徐々に減らすんだが)って話ですがな)。

『これによって経済が悪くなれば、QQEで経済が良くなったと多くの人は信じてくれるでしょう。』

もう「やっちまったらこっちのもん」的な極めて品性のアレな話になっておりますが、YCC政策とか言いながらQQEって「年間80兆円の長期国債買入残高拡大」を既に今の時点で年間40兆円程度(年末からの1年で計算したら来年は40兆も思いっきり下回るのだが、いろいろ計算したエクセルシートがどこぞの呪術によってPCごと飛んでしまっているので細かい数字はまた月末以降に計算しようずら)まで縮小している訳で、そういう意味では「QQEでの国債買入残高拡大ペースを縮小したけれども経済は別に悪くなっていない」という反証がすでに出ているという説もだいぶあるのですがその辺についてはスルーですかそうですか。

『もちろん、これでも不十分です。2012年以前の日本経済は13年以降の日本経済とは異なるからです。』

何の説明にもなっていない・・・・・・・・・・

『しかし、こんな実験をすれば、金利は急騰、円は暴騰、株価は暴落、経済は急降下になるでしょう。』

自説が間違っていたらそうならないのですけれども、いきなりアプリオリにそういう話をするのがおかしいし、大体からしてQQE見直せ論を言っている人たちの誰が「いきなり緩和を全部やめて引き締め開始しろ」と言っているんだということで、QQE見直し論に対する反論が「QQEを全部やめたら大変なことになる」って例によって例のごとくの藁人形論法でして、相手の主張の一部または全部を改変して極端なものにしてから反論する、という詭弁のガイドラインの典型のような話をしている(または藁人形論法でもあるけど)のがもうね。

『そんな危険なことは、もちろんすべきではありません。また、そんな無茶な実験をしなくても、2012年までの日本経済と2012年から現在までの日本経済の条件をできるかぎり同じにして比べようという分析はできます。そのような分析を行ってもQQEは効果ありとなります。前日本銀行審議委員の宮尾龍蔵東大教授は、VARという手法を使って、マネタリーベース拡大のショックが、生産やインフレ率を高めたことを示しています5。』

さてこれですが・・・・・・・・・

『5.宮尾龍蔵『非伝統的金融政策』「第3章 非伝統的金融政策の効果はあるのか(II)」有斐閣、2016年。』

こちらの本ですが、一応アタクシも持っているので読んだのを読み直しましたが、そもそもこの分析って「金融政策のマクロ経済効果を検証する別の分析アプローチとして、より小規模のモデル(少ない数の経済変数)を用いる時系列アプローチがあります。時系列アプローチの特徴は、主要なマクロ経済変数間の時間を通じた(つまり動学的な)相互依存関係を検証する際に、より少ない数の制約式を使うことで分析が可能になるという点です」(上記脚注にもあります宮尾先生の著書「非伝統的金融政策」(2016)の93ページより引用)ってありまして、別に「2012年までの日本経済と2012年から現在までの日本経済の条件をできるかぎり同じにして比べようという分析」でも何でもなくて、分析変数を減らして制約式を減らすことによって分析者の恣意性を減らしながら相互関係の誤差項を政策ショックとして認識する(で大丈夫でしょうか宮尾先生)とかそんな話であって、その際に前後の環境の違いについては別に分析の中で補正もなんもしていないんですが、宮尾先生の話をジンバブエ先生理解してるのかよ。

それから、この宮尾さんの分析の惜しいところは、当該書籍にある分析データ(本書99ページにある「図3.1データ」)を見ますとわかるのですが、肝心のデータが2001年3月〜2015年3月となっていて、CPIとか最後の部分で思いっきり強い状態になっているのを持ち出している点でございまして、QQE政策の真価はそこからグダグダになって補完措置だマイナス金利だ総括検証だYCCだとなった2015年末以降の所が無いからそら効いたようになるわな、というのがあるのと、政策ショック部分が結局QQEということなのですが、実は消費増税による政策ショック成分もあったんんじゃないの(そこまでは分解できないと思う)というのがあるので、これはこれで一つの分析なのですが、ツッコミどころも多々あるじゃろという代物でして、それを決定版のように出してくるジンバブエ先生さすがとしか申し上げようがありません。


さらに続きまして・・・・・

『また、様々な時代の様々な国々と比べてみることも私の主張を補強することになるでしょう。大恐慌期、米国経済は1933年4月、金本位制を停止して金融緩和政策に転じるとともに順調に回復しますが、36-37年に緩和を縮小すると再び不況に陥ってしまいました6。』

全く説明にならない。

『図5は米国の1930年代の大恐慌期の実質GNP、マネーストック(M2)、物価のデータを整理したものです。図に見ますように、米国のGNPや物価はM2の低下とともに大きく下落し、その上昇とともに順調に回復しています。そして1937年にはM2の減少とともにGNPも物価も下落してしまいます。早すぎた出口の失敗です。しかし、金融緩和を再開すると、M2の増加とともにGNPも38年から回復します。』

なんかもう他の要因全然気にしないでたまたま金融緩和と経済の拡大があればそれを持ち出すみたいな話で、1938年から回復ってそれほかの要因がありませんでしたっけねえ。

『これまで申し上げましたように、実は、QQEをしなくても日本経済は良くなったという議論を完全に否定することは難しいのです。しかし、多くの事例を参照することで、皆様方には、そんなことはない、金融緩和が日本経済を回復させたのだと判断していただけると思います。』

そもそも出しているものの説明が色々とおかしい訳で、最初に出したものを見れば単にリーマンショックの世界経済落ち込みに加えて東日本大震災の落ち込みにがあってから以降の日本経済のトレンドラインに沿った回復だったのでは(余談になりますが宮尾先生のさっきの分析でも分析期間全体を通じて日本経済のファンダメンタルズが改善を続けてきたという話をして、非伝統的金融緩和(というかQQE)はマネタリーショックを通じて改善を加速させたという話にはなっております)という説明の反証にあまりなっていないのですなあ。


・・・・・・・などと悪態を丁寧についておりましたら、なんと9ページ目の前半までで時間が無くなってしまい、その次の小見出し『QQEの効果は広がっていない、という議論』にも届かないという誠に遺憾の極みに存じます次第となってしまいました。ええいこれどんだけ続ければよいのよ(次回の金懇はもうちょっといちゃもんを絞るとしまして、今回はもうここまで乗りかかった船なのでせいぜいお付き合いください)。



〇ジンバブエ先生だけだと不毛(まあそっちの方がエンタメとしておもろいといわれそうだが)なのでメモ

・政井さんの金懇

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171206a.htm/

特にどうっちゅうことはないのですが、唐突に「金融教育」とかいうのが出てくるのが味わいがあるのですけれども、教育するのはお宅の同僚(爆発音)。


・短国6か月

http://www.mof.go.jp/jgbs/auction/calendar/tbill/tbill_nyusatsu/resul20171206.htm

(3)募入最低価格 100円06銭9厘 (募入最高利回り) (-0.1382%)
(4)募入最低価格における案分比率 51.8928%
(5)募入平均価格 100円07銭2厘 (募入平均利回り) (-0.1442%)

ここもとの短いところは需給で金利上がりましたが、まあ本来こんなもんじゃろとは思うのですが、今日の3Mのあと短国買入をどう入れてくるのかは興味本位的に楽しみ。


#というこでもうちょっと意味ありそうな金懇とか講演ネタが全然進まないけどまあ今の状況で日銀がすぐに動くわけじゃないから後回しでよいですよね!!!





2017/12/06

お題「ジンバブエ大先生の金懇読みが思わぬ難事業と化している件について/市場メモ」

windows10全然慣れないですというかハイスペック別に要らないんでXPみたいに軽くてサクサク動いてくれれば良い訳で何もcorei7のCPUとか使わんでも良いのだが。

などと今朝も愚痴から入っているのだが引き続きジンバブエ大先生の落語を鑑賞しつつ。

〇実に読んでいて頭がクラクラするジンバブエ大先生の福島金懇(その2)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/(HTML本文のみ)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf(図表付き本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a2.pdf(図表)

・生産性の話の部分が(も)色々とおかしい点について

さてさて昨日のジャブの続きの小見出しが『生産性も上昇している』なのですけれども、

『この間、雇用は増えているが生産性が上昇していない、生産性の上昇なき成長は続かない、だから成長戦略が大事だという議論が盛んになされています1。しかし、生産性は図3に示すように上昇していました。』

ってそもそも定義の部分を明確にしないで「生産性が上昇しないという議論があるが生産性は上昇している(キリッ)」とか言われても困るわけで、「このような数値を出して生産性が上昇していないという議論があるがそれは一面的な話である」とか言ってくれれば議論が始まるのですが、これでは俺様定義の話をしているだけ(というよりは置物一派の得意技なのですが、相手の議論の土台の部分について何も触れないでいきなり俺様定義によればこの話は違うとか言い出すという話を持ち出す一種の藁人形論法です)だし、大体からしてこの先生QQEの肯定をするための議論をしているのに、上記脚注でリファーされている文章って、

『1五十嵐敬喜「成長戦略で経済は成長するか」三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2013年7月16日。』

ってありまして、そもそも2013年7月に出たものだったらQQE始まったばっかりじゃんと思いますし、大体からして「盛んになされている」ってんだったら、どこかのペーパーとかその他幾つかリファーするものがあるだろうに・・・・・とか思いながら念のため検索かけてみたら、どうもこの脚注にあるのって、

http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/igarashi/column/igarashi130716
五十嵐敬喜コラム
成長戦略で経済は成長するか
2013/07/16

って奴だと思うのですが、このコラムって(引用していいのかよくわからんので引用はしませんけれども)「生産性」というワードは一言も出ていないという驚愕の事実があるし、このコラムの中ではジンバブエ先生の仰る「雇用は増えているが生産性が上昇していない、生産性の上昇なき成長は続かない」とかいう趣旨の話全然書いてない(成長戦略が大事という話はしているがアベノミクス第三の矢が重要という話をしているだけのこと)のですけれども、ジンバブエ大先生は一体全体何と戦っているのかさっぱり理解に苦しむものであります。

というような次第でして、そもそも自分の説明の中に脚注としてリファーする文章に碌すっぽ書かれていない事を元にして批判されて五十嵐敬喜さんもいい迷惑にも程がありますし、だいたいからしてそういうような引用をしながら自分の主張を展開している、ということはすなわち脚注とか言って出しているものを本当に正しく引用しているのか、という基本以前の部分についても疑問符が付いてしまうという空恐ろしい話になっているという訳でして、リファレンスを自分勝手に曲解して議論に出された日にはそもそも論議が始まるわけでもなく、まさかとは思いますがこのお方デマを元にアジビラ書いてしまうような人なのではないかとか疑いたくなってしまうようなお話で、ほんの3行程度の一文章だけでこんなにツッコミのネタを与えてくれるとかある意味偉人としか申し上げようがございません。

でもってまあその生産性ですが、

『ここでの生産性は、OECDが推計したもので、労働時間当たりの実質購買力平価GDPです。』

ということですが、生産性って労働生産性だけ取り出して話をすればよいというものではないと思いますけれども。

でもって生産性云々といえばこの前このようなスタッフペーパーが日銀から出ていまして、

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2016/wp16e03.htm/(概要)
失われた20年における全要素生産性の成長率低下の原因について
―バランス・シートの毀損による影響の定量評価
2016年3月22日

http://www.boj.or.jp/en/research/wps_rev/wps_2016/data/wp16e03.pdf(本文、英語ですが)
Productivity Slowdown in Japan's Lost Decades: How Much of It Can Be Attributed to Damaged Balance Sheets?

まあ内容は英文だし数式だしで泡を吹きながら見てもなんだかわからん(無学なので勘弁してちょ)のですが、PDFの52枚目以降が関連図表になっていて、61枚目に「Figure 10: Data Used for Estimation (1)」ってのがあるので実データがあって、それとジンバブエ先生の図表3を見ると一応整合性は取れていると思うのですが、そもそも論として「生産性(実は労働生産性)は上がっています(キリッ)」と言われましても、Figure 10のところにあるように実質GDPがドカンと落ち込んで労働投入量もドカンと落ち込んでいる中で「生産性が向上している(キリッ)」とか言ってもそれ意味のある議論なのかよと思うわけで、ジンバブエ先生はこの話で何を言いたいのかがさっぱりわからん。

『2013年からQQEを始めた訳ですが、2012年から16年までの生産性上昇率は日本が年率1.2%で主要国の中で一番高くなっています。それ以前の10年間の平均では、日本は0.8%でしたから、日本の生産性はQQE導入後上昇しているのです。』

なんで2012年からなのかさっぱりわからないのですが。金融政策って政策波及にタイムラグがあるという話ならよく聞くのですが、時空を超えてバックワードで効くとか聞いたことがないのですが。

『しかも、労働者一人当たりの資本装備率は低下しています2。これは、投資が十分であったならば、生産性はもっと上昇したことを意味します。』

お前は何を言ってるんだという話で、経済成長がたいしたことないから資本投下をする必要が無かった(あるいは成長期待が低いから資本投下を行わなくて、というのかもしれませんが)だけの話で、そういう状況下で投資を十分にしても需要がなかったら供給力上げても意味ないだろうと思うのだが。


『かなり昔、成長会計という手法が開発され、成長率を資本投入と労働投入と技術進歩(全要素生産性)に分解することが試みられました。この時、成長率の8割から9割が技術進歩で説明できるという計測結果が得られることに関して、技術進歩と言っても新しい資本設備を投入しなければ新しい技術を導入できないのだから、技術進歩のうちには資本の投入分、資本に体化された技術進歩が含まれているはずだという議論が盛んになされたことを思い出します。』

えーっとすいません、「成長率の8割から9割が技術進歩」ということでしたらば労働生産性が上がっているから云々とかいう話をその前に持ち出したのは何だったのかと小一時間問い詰めたいわけで、だったら最初から全要素生産性の話をしろとしか申し上げようがない次第で、そもそもこの人は何を言いたいのかがさっぱり分からない次第で、毎度毎度この大先生の金懇ネタというのを頭痛めながら取り組むのですが、回を追うごとに何を言っているのかわからないのが凶悪化していまして、さすがにここまで来たら企画局とか政策委員会室とかが止めに掛かるなり座敷牢に入れるなり金懇には着ぐるみが登場して中の人は日銀のスタッフが喋るなりした方がマジで良いんじゃないかと思う。

というかこれよくよく見ますと、HTMLの方だと題名の直下の右に「English」というボタンがあって、http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/という代物が出てくるのですが、これをどうやって英文にしたのかというのもなかなか興味深い(日本語の解釈で死ねるのにどうやって英訳するんでしょう)のですがそれはまた年末辺りにネタがない時のヒマネタ用に取っておいたほうが良いかもしれませんね。

『この議論は、近年注目されませんが、需要が伸びなければ新しい投資ができず、新しい投資ができなければ、進んだ技術の設備を使うことができません。供給と需要を別のものと考え、日本経済の問題は供給の問題だと考えるのは誤りです3。』

脚注3は成長会計の話があって何が何だかよくわからないのだが、「日本経済の問題は供給の問題」って誰がどこでそういう話をしているのかの案内も無いままそういう話をされても困るわけで、日本経済の問題は成長期待とかそういうのが無いという話ならよく聞くのだが、まあ労働市場が逼迫するという問題がある中で無駄に緩和を吹かす必要はないって話を木内さんがしていたような気がするので、その辺を意識している部分なんでしょうなあとは思いました。


・・・・・・・・ってさあ、これだけの部分だけでなんでこれだけツッコミ要素があるのよマジ疲れるんだが。


・生活実感の話は(も)もはや訳が分からないんですけれども勘弁してください

次の小見出しが『実感がないと言われるが、実はある』と来ましてもはや何を言っているのかわからんのですけれども・・・・・・・・

『「政府は景気が良くなったと言っているが、国民には、生活向上の実感がない」と良く言われます。しかし、そもそも、生活向上の実感をどう捉えたら良いのでしょうか。世論調査は、その手掛かりになります。図4は、「お宅の生活は、去年の今頃と比べてどうでしょうか。」という質問の答えを示したものです。』

ということで話が始まっているのですが、「国民には生活向上の実感がない」というのは例えば実質可処分所得の推移みたいなド直球ものからジニ係数みたいな変化球などいろいろとあって、そういうのを総合して勘案する話だと思いますし、例えばどこぞの言説を取り出してきて(なおさっきみたいな取り出し方は不可)「この論者によりますと一人当たり可処分所得の話をしているけれども世帯で見た場合に家族が働いて家計の補完をしているではないか」みたいな話でもするならまだわかるのですが、いきなり自分の説明に都合の良い統計を持ち出して「実感がないと言われるが、実はある」とか仰いましてもそもそも論として反論になっているのかというお話で、議論の基本的な部分すらできていないという話。

『図から、1年前と比べて、暮らし向きや生活が良くなった、向上したと答える人は極めて少ないと分かります。現在は5%余りですが、実質GDPが毎年10%で成長した高度成長期ですら、10%以上の人が良くなったと答えているのは1959〜63年にすぎません4。』

ということで、図表4を見れば一目瞭然なのですが、元々この手のサーベイって「横ばい」という答えが入るバイアスが大変高い(日銀の生活意識アンケートにしても然り)のであって、統計としての癖が相当あるものなのでこの数字一本槍で説明するのはさすがに無理があるのですが、脚注の4を見ますと、

『4.内閣府「国民生活に関する世論調査」では、高度成長期に「向上している」と答える割合が30%を超える時系列データも公表している。』

って時系列もあるとかいう話になっているのですが、実際の図表4を見ると高度成長期に「向上している」と答える割合が30%を超えている数値データが無くて、しかも図表の注の方には『国民生活に関する世論調査(内閣府)を加工して作成。 』とかあるので変な加工でもしてるんじゃないかと思わず当該調査を調べて見たわけですよ。

そしたらまさに過去の調査結果一覧があるのですけれども、

https://survey.gov-online.go.jp/index-ko.html
世論調査
 世論調査 > 国民生活に関する世論調査
国民生活に関する世論調査

というのがあって、一発目が昭和23年(ちなみに質問項目を読むと泣ける)で年次になったのは昭和29年からなので1954年からになってから(昭和29年は2回実施しているのですが2回目はデフレに関する調査で朝鮮戦争特需の反動デフレの時の話だと思う)なのでこの図表はまあそうですかと思うのですが・・・・・・・・・・

『しかし、この数字は留意すべき点がある。なぜなら、1965年から91年までと94年の調査では、「お宅の生活で,去年の今頃とくらべて,何かよくなっている面がありますか,この中ではどうでしょうか。」と聞き(食生活、衣生活、電気器具・家具・自動車などの耐久消費財の面、住生活、レジャー・余暇生活、その他、よくなったものはない、を選択)、その上で、「それでは,全体としてみた場合,お宅の生活は去年よりも向上していると思いますか,低下していると思いますか,同じようなものだと思いますか。」と聞いている(調査年によって多少聞き方に違いがある)。このように具体的に聞くと、新たに購入した家電製品や昨年は行かなかったのに今年は行った家族旅行などを思い出して、「向上している」と答える人が多くなるようである。』

実際にはたとえば昭和42年(1967年)のを見ますと、最初に「Q1 お宅の今の暮しは楽ですか,苦しいですか,普通ですか」って質問があって、そのあとに良くなったという人に対しては「Q3a (回答票1の1)次に,お宅の生活内容が1年前と比べて良くなつているかどうかお伺いします。この中で去年の今頃と比べてよくなつている面が何かありませんか。(M.A.) 」って質問して次の「Q4 お宅の生活を全体としてみた場合,去年よりも向上していると思いますか,低下していると思いますか,同じようだと思いますか。」って質問になるのです。

ですからこの説明自体はあっているのですけれども、

『ここでは、1965年から91年までと94年では、具体的に聞いていない「この頃のお宅の暮し向きは,去年の今頃と比べて,よくなりましたか,悪くなりましたか,変りありませんか。」という質問への回答を示している。』

ってなっているので、そもそも「留意すべき点がある」ということになっている方の回答ではないのを集計しておりまして(目の子でグラフと結果を合わせてみたけれどもそこはさすがに合っている)、別に留意すべき点があるわけでもない方の数字を引っ張り出してきているのに、あたかも昔の数値が下駄をはいているように印象付けるような書き方をしているのがインチキにも程があります。

『質問の違いは、「お宅の生活」と「お宅の暮らし向き」だけである。また、この調査では「やや向上している」という回答項目がないことも、向上したと答える人が少ない理由と思われる。』

ということですが、まあどう見ても図表4によれば1973年以降から見たら「向上している」が碌にいないという事実があるんですけど、まあこの調査自体が癖が相当あるだろと思われるので、それを説明のワンオブゼムで出してくるならともかく、これ一本足で出してくるとかもう「都合の良いのを選んできて出したんですか」という批判は免れないと思うのですけどねえ。


まあそれ以前の問題として、

『図から、1年前と比べて、暮らし向きや生活が良くなった、向上したと答える人は極めて少ないと分かります。現在は5%余りですが、実質GDPが毎年10%で成長した高度成長期ですら、10%以上の人が良くなったと答えているのは1959〜63年にすぎません4。人間は、なかなか景気が良くなったと感じないものなのです。それでも、「向上している」から「低下している」を差し引いた指標を作ってみますと、景気動向をかなり正確かつ敏感に反映して動いているようです。2013年に上昇した後、消費税増税で低下し、その後、景気の着実な改善とともに上昇しています。』

いやあの「生活向上の実感がない」というのが批判の論点だったのに「経済が成長している」という答えをしてどうするんだよヴォケというところで、もうちょっと具体的に可処分所得が上がったとか平均的な世帯の家計資産が向上したとか、そういうような話をしないといかん訳で、この結論だと「実感がないと言われるが経済は成長している」というだけの話をしているに過ぎないんですけれども大丈夫でしょうか。


・・・・・・・・・・ということで、回を追うごとに難解度が増してくるジンバブエ大先生の金懇挨拶ですが、いちいち引用とかの裏をちゃんと取りにいかないといけないというこの状況はちょっとまずいんじゃないでしょうかということで、この挨拶、PDFの方だと結論の前に来るまでに20ページあるのですが、まだ6ページまでしか終わっていないという絶望的な状況で、しかもこの金懇挨拶を分析しても先行きの金融政策に対する何らかのインプリケーションが得られるでもなしという難行度が更に増すのですが、しかし「書いてあることを偉い人(まあ偉い人なんじゃなくてエライ人なのですが)だからと言って鵜呑みにしないで必ず裏を取っていかないといけません」という教訓を得ながら読んでいく、という意味では(中央銀行の文書読むのに従来そういうことをあまりしないで済んだだけに)なかなか貴重な経験をさせていただいている、という感謝の念をもって(大嘘)、アリガタヤアリガタヤとジンバブエ大先生の落語を引き続き鑑賞したいと思います(長くなりそうだ・・・・)。

#次がやっと『2.QQEへの反対論』になります


〇ということでエンターテイメントだけでは何なので市場備忘俺様メモ(何ですかこの2年債)

https://jp.reuters.com/article/tokyo-dbt-idJPL3N1O520Y
2017年12月5日 / 13:55
〔マーケットアイ〕金利:中期債利回りに強い上昇圧力、日銀オペ減額を反映

『<13:51> 中期債利回りに強い上昇圧力、日銀オペ減額を反映

中期債利回りに強い上昇圧力がかかっている。2年債利回りは前営業日比1.5bp高いマイナス0.135%と10月25日以来、5年債利回りは同1.5bp高いマイナス0.100%と11月14日以来の高水準に上昇している。市場では「入札に絡む入れ替えもあっただろうが、基本的に日銀がオペで手前のゾーンの買い入れを減額していることが、徐々に効き始めている」(国内証券)との指摘がある。3カ月物の国庫短期証券(724回)の利回りも大幅に上昇しており、足元ではマイナス0.130%で推移している。』(上記URL先より)

ということでついこの前2年って▲20とかだったし3Mは▲24とかだったと思うのだが、海外需要とかドル円ベーシスとかその辺が剥落してついでに短国買入ちょっと減らしたら時間差で効いてくるの巻なんでしょうけど、結局のところ国内実需がない(金利水準のせいで)ところで日銀と海外しか買うのが無くて、しかも2年とか今やマーケットメーカーがショートを振れない(短国もそうですが)代物なので、海外需給がずれると一方方向ということでして、まあこの辺の金利は水準的に国内が買えるようなところにもっていった方が短いところそのものは安定すると思うのですが、YCC的に短いところが▲1桁とかで安定されても困るというのもあるでしょうから調節難しいですの。まあ▲1桁ベーシスになれば何とでもなるとは思うが日銀がオペ的にそれを容認してYCCのバランスがどうなるかというのは別問題。

というメモだけ。




2017/12/05

お題「慣らし運転しながら復旧モードということで勘弁」

いやーPCちゃんが突如飛んでしまいましてマジで参りました。しかも今回は全く前兆が無くて帰宅してPC見たらいきなり壊れてしまう、という無慈悲な事案が発生しちゃいまして、しかも某大先生の金懇があったので大先生の金懇を読むのは時間の無駄なので拙駄文をご覧になるという方が多かったらしくて誠に申し訳ございません。

ちなみにwindowsパソコンは2000年から使って(その前はPC9801コンパチ)全部ノートPCなのですが、17年にしてこれで6代目という割とよく壊すあたくし(なお毎回メーカーは別)だったりするのでした。何せ前兆無かったのと実働3年そこそこだったのでバックアップをさぼっていたのも涙目モードということで、データ整備などあって今週は試運転モードかもしれませんが何卒ご理解の程を。

#折角覚えてくれてきたあたくしの日本語変換をまた覚えさせないといけないのは・・・・・

でもって操作環境がwindows10になってこれがまた慣熟するのに時間がかかるかかるとゆ〜ところで操作覚えるまでも一苦労なので当面慣らし運転でヘロヘロとネタに追いついていこうと思います。マジで難しいんですけど98→XP→7と来ているあたくしとしては。

・・・・・・などという愚痴はともかくまずは復帰は軽めにジンバブエ大先生でも。


〇慣熟運転中なので鑑賞も慣熟運転で慎重にやっていきますから今日は終わらない予定ですが何か?

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko171130a.htm/(HTML本文のみ)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a1.pdf(図表付き本文)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/data/ko171130a2.pdf(図表)

ということでジンバブエ大先生の福島金懇ですが、折角の金懇の機会をジンバブエ理論の鑑賞につぶしてしまうとは福島県経済界の皆様残念無念というところではあります。


#そういや全然話は違いますが、ジンバブエ先生のPDFってコピペすると謎の半角スペースが入って簡単にコピペできない問題があったのですが、今回のバージョンになったらなんか大丈夫になった気がします(まだ色々なケース試してないけど)。


・体言止めチックな言い回しが毎度気になるのですが

まずは『はじめに』から。最初の挨拶はスルーして。、

『日本銀行は2%のインフレ目標達成を目指して2013年4月から量的・質的金融緩和政策を行い、さらにマイナス金利、イールドカーブコントロール政策などと様々な政策を導入しています。その結果、経済は好転しています。確かに、好転していると言っても、実質経済成長率はこのところ均して見ると1%余りですから、実感がないとおっしゃる方が多いのは分かりますが、2016年1-3月期から17年7-9月期まで、16年振りとなる7期連続のプラス成長をしています。』

それ好転というのかという話はさておきましても一応潜在成長率を若干上回る程度の成長ということですので経済は好転しているでもよいのですが、それが本当の本当に金融政策の効果なのかという話はだいぶある。

『本日は、日本銀行が行っている金融政策について説明し、それがどのような成果を上げているのか、また、巷間言われている大胆な金融政策の危険と言われている議論をどう考えたらよいのかについてお話ししたいと思います。』

「大胆な金融政策の危険と言われている議論」って使い方大先生お好きなようなのですが、普通は大胆な金融政策の「問題点」みたいないい方になるだろうし、「危険」使いたいんだったら「危険性」とかになると思うのですが、どうもこの日本語の使い方が違和感毎度あるんすけど。


とまあそういうのはともかくとしてはじまりはじまり〜。


・肝心のインフレ期待の変化を示さないで成果だけを示すわグラフのポイントの取り方が意味不明だわ

『1.金融緩和政策と実体経済』という小見出しに参ります。

『日本銀行が2%のインフレ目標達成を目指して2013年から量的・質的金融緩和政策(QQE)を行った結果、マネーストック、貸出などが、これまで以上に増加しています。また、名目金利の低下と予想物価上昇率の上昇によって実質金利(名目金利−予想物価上昇率)が大きく低下しています。』

とまあ書いてあるのですが、

『その結果、実体経済はどうなったでしょうか。図1は主な経済指標を見たものです。』

とありまして、図表1というのがPDFの方だと『図1 大胆な金融緩和の成果』として出ているのですが、(例によってグラフを磔刑にするスキルはないので図表は各自で見てちょ)そもそもその前に出ていた「QQEを行った結果、マネーストック、貸出などが、これまで以上に増加しています」というのと、「名目金利の低下と予想物価上昇率の上昇によって実質金利(名目金利−予想物価上昇率)が大きく低下」というのが示されていないので、QQEによってMSや貸出が伸びたとかQQEによって実質金利が大きく下がったというのに関しての図示がないので、そもそもどういう相関になっているのかがわからんというなかなかオシャレな説明。

『生産、輸出、消費、資本財総供給(設備投資の代理変数)はいずれもQQE導入、またはその少し前から回復を始めています。ただし、2014年の消費税増税後、消費や生産は停滞してしまいます。』

ということである意味正直に書いているのですけれども、この図表1というのが2012年からの数値を示しているのですけれども、なぜか数字のほうが2010年=100にしているという割と謎の数字にしている訳でして、スタートの数字が実質輸出以外は100超からスタートしておりまして、しかもよく見ると2012年の頭から比較するとQQEぶっこんだ後でも2012年の頭を思いっきり下回っているのが「鉱工業生産」「実質輸出」「資本財総供給」としか読めないのですがなんでこうなるんでしょうか。

『特に2014年末からは、世界貿易の停滞とともに輸出なども落ち込み、全体として停滞が大きくなったようです。』

って説明しているのですが、2014年の末から世界貿易が停滞って言うほど停滞してないようにしかグラフでは読めないのですし、世界貿易量でみると2015年の前半はちょっと下がっていますがその後後半には世界貿易量取り返して2014年末並みかそれよりも若干高い水準にあるのですが・・・・・・・

『しかし、2016年中ごろからの世界貿易の回復とともに日本の経済指標は全般に回復しています。』

まあここは外需上がったんだからそらそうよという感じですが、そもそも世界貿易の推移に対して日本のQQEは何の因果関係をもって効果を上げるのか、ということを考えますと、ここの説明って「QQEが効果をもって足元までの回復が来ました」という話ではなくて、単に「世界貿易すなわち海外経済動向に振り回されているだけでQQEは経済のマイナス要素にはなっていないかもしれないが別に海外経済と関係なく経済を引っ張るような力まではありませんでした」という話をしているだけのように見えますが、何がどうQQEとか追加金融緩和の効果なのか小一時間問い詰めたい。

『これらの経済変数では、QQE導入後、一進一退の時期もありましたが、ほぼ一貫して改善してきたのは雇用です。図2は雇用者数と失業率を見たものです。』

ということで図表2なのですが、雇用者数、一般雇用者数、パート雇用者数、失業率、若年失業率を並べて示していますが、そもそも論として人口動態要因にかかわる部分の説明がないので話にならん、というのがある上に、こちらのグラフになると何故かグラフの起点が1990年になっておりまして、ご本人は「1980年代後半の日本の盛大なバブル景気並みの雇用状況が出来ている(ドヤァ)」というのを示そうと思って出したのでしょうけれども、この推移をみますと失業率や若年失業率の数値というのは2009〜2010辺りをピークとしてトレンドとして改善傾向になっていまして、2013年のQQE導入によってそのトレンドラインが明確に改善したとかそういうこともなく、単にここまでトレンドラインに沿って推移しているだけのように見えます。おまけに雇用者数関連の数値に関してはパート雇用が1990年来一貫して上昇する一方で雇用者数全体や一般雇用に関しては2005〜2006辺りをボトムにして徐々に改善傾向にあるように見えますが、これもまた別にQQE導入によってトレンドラインが変化した訳ではない(まあ強いて言えば雇用者数全体に関してはちょっと改善傾向が強くなっているように見えないこともないです)、という図表になっておりまして・・・・・・・

『雇用者が増えると言っても、増えたのは非正規ばかりと言われていましたが、全雇用者に占める非正規の比率は頭打ちになっています。総務省の「労働力調査」と厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で全体に占める非正規およびパートタイム労働者の割合を見ると、いずれも2017年入り後頭打ちとなっています。』

という説明になっていますが、そもそもの増加がトレンドラインにほぼ沿ったものであり別にこれをQQEの効果と威張って言うようなものに全然なっていない、というのが実にこう味わいが深いわけです。そして図表の1と2の話ですが、図表1が2012年の頭(ただし数値は2010年を100にしている)からで、図表2が1990年からという図表になっていまして、同じQQEの効果の話をするのに全然違う時系列を出してくるというのは「自分の説明で都合の良い部分を作為的に切り取ってくる」という置物リフレ一派の皆様がよくやる手法が健在なのは誠に微笑ましいのですが、肝心のグラフを見ると「えーっとすいませんこれ本当にQQEの効果なんですか」というのが連発しているというのが実に香ばしいというかなんというか。


・・・・・・・・・とまあこんな感じで徐々に復旧していくのですが、何せPC慣熟運転中で何がどうなってどう動くのかというのが今百くらい和ランチ会長の中泡を吹きながらPCをいじっておりますので、本日のジンバブエ大先生の検証ネタはこんなもんでご勘弁いただきまして、続きについては徐々に成敗していきたいと思います。何せPC壊れるのに予兆がなかったのでついうっかりデータのバックアップとかがあまりやっていなくて、飛んだデータのサルベージ(壊れたほうのPCは起動しないという割と致命傷だがHDDは生きている模様)をしたり(この年末で忙しいのに)するとかありますのと、PCの挙動に慣れるまでは書き物に使う時間も短縮取引ということで一つご理解の程を(来週くらいからは元のペースに戻したいな)。


〇一応ほかのネタで国債買入予定

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel171130c.pdf
当面の長期国債等の買入れの運営について

『日本銀行は、長期国債等の買入れについて、当面、以下のとおり運営するこ ととしました(2017年12月1日より適用)。 ── 次回公表は2017年12月28日17時を予定。』

おー29日避けたじゃんやるじゃんとは思いました。昨年は年末納会の日(しかも金曜日、今年も納会は金曜)の17時とかに出してきやがりましておうてめえこれが出るまで退社できないじゃねえかざけんなという声があちこちから出ていた(なお偉い場合は別にそんなの気にしないで納会の日は堂々休みだったりしますが下っ端は辛いよ)ような気がしないでもないですがこれは良い変更。

『3.国庫短期証券の買入れ

金融市場調節の一環として行う国庫短期証券の買入れについては、当面、残高を概ね10兆円台後半から20兆円台前半とすることをめどとしつつ、金融市場に対する影響を考慮しながら1回当たりのオファー金額を決定する。』

なんかここ変な半角スペースが入っている(編集済み)のですがそれはともかくとして、短国買入に関してはもう思いっきりアバウトな感じにしてきまして、基本的には▲20bpだかどこだか分らんですが、ある程度以上金利がホイホイ下がって物なし芳一になったら買入下げてくるし、だぶついて金利が上がる(という雰囲気もあまり無いような気がするが)のだったら買入しますよというだけの話ですかね。まあ基本減らせるもんだったら減らすんでしょうが金利が跳ねたら意味ないですからね。

個別の買入については今回減額があったうち、〜1年は『100〜1,000 程度』と思いっきりやる気のないレンジにしていますが、超長期25年超は『500〜1,500 程度』と900にしたのに対してレンジはいじらなかったですが、まあこちらはそらそうよ(ここでいちいち100億分ずらしはせんじゃろ)というイメージですかね。