金融庁・銀行経営関連(2003年度に書いた分)

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えーっとですな、検索エンジン経由で来る方は殆どこのシリーズに辿りつくようです(^^)。文体が斜に構えておりますんで、少々読みにくいかと存じますが何卒お付き合いください。ご意見ご感想はこちらのメールアドレスまで一つよろしくです。


現在(2005年5月)来訪者も多くなりましたんで過去に書いた駄文を鋭意整理中ですが、あまり進んでません。


2003年下期

2004/03/02「金融検査マニュアル中小企業編」
2004/02/19「相変わらず上滑りする中小企業融資論議」
2004/02/09「日銀総裁の銀行経営問題への認識」
2004/01/28「銀行への施策、何とかならんのか」
2004/01/06「中原審議委員による『歴史に学ぶ銀行のありかた』寄稿文を読む」
2003/12/29「銀行の証券仲介業開始に関して」
2003/12/29「金融庁『リレーショナルシップバンキング』の自己矛盾」
2003/12/24「益々ねじれる中小企業金融(金融検査マニュアル改訂案関連)」
2003/12/16「春審議委員の講演から見る中小企業金融への誤解?」
これ以前の駄文はそのうち整理して掲載の所存。


「金融検査マニュアル中小企業編」(2004/03/02)

金融検査マニュアルの中小企業編が正式リリースされました。この原案については昨年12月に金融庁から発表されていまして、今回は各方面からの意見、要望を踏まえて内容の手直しを行っております。

金融庁のWebにこの件に関して寄せられたコメントおよびそれに関する金融庁の考え方が掲載されています。量が膨大(よく見ると全般に関する部分とテーマ別分類している部分があるので同じコメントが複数箇所掲載されているのですが)ですが、気がついた点を。

○裁量権の範囲を巡る綱引き

12月24日のドラめもんで「これでは金融庁の裁量権の拡大にならないか?」という疑問を出しておりましたが、さすがにあちこちから同じ趣旨のパブリックコメントが提出されています。

『債務者区分の判断にあたって、(途中省略)キャッシュフローを明確に定義づける(営業キャッシュフロー)ほか、中小企業にとって利用が平易な計算書の様式についても明示するとともに、その普及定着に努めるべきである。(東京商工会議所)』

『(前半省略)「金融機関の企業訪問、経営指導等の実施状況や、企業・事業再生実績等」が良好である場合とはいかなる状況をさすのか、明確にすべきである。(日本商工会議所)』

『現行の別冊では、その対象となる「中小・零細企業等」の定義がなされていない。こうした中、中小企業基本法の中小企業者への特性への配慮がなされず、大企業並みに厳しく検査されたとの金融機関の声がある。このため、検査の現場において別冊の内容を浸透させるため、「中小・零細企業等」とは概ね中小企業基本法の定義による旨を明文化すべきである。(経済産業省)』

最後のコメントを見て初めて気がついたのは我ながら迂闊でしたが、確かにこの肝心の「中小・零細企業等」の定義も曖昧という金融検査マニュアルというのはかなりぶっ飛んでしまいました。

で、これらのコメントに関する金融庁の「コメントに対する考え方」なんですけれども、『一律基準の設定については機械的・画一的な運用にもつながりかねず、適切でもない』という感じの答えとなっております。だいたい予想された事なんですけど、今後の現場での運用が相変わらず恣意的というか妙に厳しい運用になるのではないかと懸念するところです。


○DDSに関する素朴な疑問

過小資本の中小企業において、経常運転資金貸出の「転がし」となっている部分に関しては実質的に資本的性格の資金になっているという事を勘案して貸出金を資本的劣後ローンに切り替えると資本が充実するというお話。銀行から見れば単に貸出金を固定化しているだけのことで、企業にはメリットなので企業から見れば資本が充実するのはそのとおり。

しかし、銀行から見た場合は貸出金の一部が固定化されるので、与信リスクという点からみるとリスクが大きくなっているだけの話だと思うのですが、検査マニュアルの通りに運用すると、資本的劣後ローンの部分の引当率が100%に跳ね上がる代わりに、債務者区分が格上げになります(ならない場合もありますが)。引当が増えるのか減るのかはケースバイケースのような気がしますが、とりあえず公称不良債権額は減少する訳でして、個人的には非常に謎なところです。

ちなみに、パブリックコメントでは「DDSは中小企業取引の実態にそぐわないので、DDSにしていなくてもケースによっては借入金を資本とみなせないか」という意見が幾つか寄せられているのですが、さすがに法的要件を具備しないのに資本と見なすのは不適切という考え方になっております。


その他、色々な面に関してパブリックコメントが寄せられておりまして、紙にうっかり打ち出すと60枚位になってしまいますので、関係者の方しか読む気が起きなさそうですが、とりあえずあたくしが気がついた点についてコメントしておきました。

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「相変わらず議論が上滑りしているようです」(2004/02/19)

昨晩たまたまテレビ東京のWBS(普段は見ないんですけど)を見たら「中小企業金融」というお題の特集らしきものをやっていたのでついつい腰を据えて(と言ってもほんのちょっとした時間ではすが)視聴しちゃいました。

「中小企業融資への新たな施策」という触れ込みでみずほ銀行さんの取り組みが紹介されていました。まぁその施策自体は結構なお話なのですけど、あたくしとしては「新しい取り組み」というのにはあまりにも羊頭狗肉という奴ではないかと思ってしまう次第でありました。

最初に紹介されていた事例はこんな感じです。

新たな中小企業融資(恐らく今金融庁からやれやれと五月蝿く言われている中小企業向け無担保ローンの推進)を融資現場20年以上といったベテラン行員が「電話営業」を行い、いざ融資となると行員の長い融資経験を活かして、顧客の気がつかなかった問題点までアドバイスをしたりして顧客企業からの評判も上々です。


と、ここまで見ている分には「ほほー、中々いい感じじゃん」と思っていたのですが、そのすぐ後にこの業務に従事するベテラン行員さんのインタビューでだいぶ脱力してしまいました。と申しますのも、この行員さんは電話営業のメリットとして「顧客訪問では一日に20件〜30件が限界ですが、電話営業なら一日100件の営業をする事も出来ます」と答えているのです。

一日100件の営業って、一日の実働時間を6時間としても1件あたりの電話時間が3分36秒にしかなりません。預金獲得やクレジットカードの勧誘ならともかく、そんなペースで営業かけるってまるで漫画の「ナニワ金融道」状態。どういう基準で電話をする相手をスクリーニングしているのか良く判りませんが、もし手当たり次第に電話して「やっぱり謝絶」って案件だらけになったら却って顧客に迷惑なのではないかと思うのでありました。仮にも銀行と名のつく所が行う融資なんですから一応事前にアタリをつけて営業するもんではないかと思うのでございますが。

と言うことで、この事例はただ単に年寄り行員にテレアポ絨毯爆撃をさせているのとどこがどう違うのか今一歩わからない(とは事情に詳しく無い人は思わないでしょうからそれはそれで結構なのかもしれませんが)事例であって、特に「これは画期的」というようなお話でもないでしょう。まぁテレアポ営業を大手銀行が融資業務でやるってのは画期的ですが。

(2005年5月8日追記:編集しながらふと読んでみた訳ですが、この事例は要するに「アウトバウンド営業」による中小企業融資の推進って奴ですわな。これって要するに商工ローンとかノンバンクの得意とする手法なので、ナニワ金融道状態というのはあながち間違っていませんわな。つーか商工ローンやノンバンクだったら基本がアウトバウンド営業ですんで、そのビジネスモデルを単に持ち込んだだけで、ベテラン行員のコンサルがどうのこうのと言う絵を報道でやっていたのは思いっきりお為ごかしですな。まぁその辺営業推進している方は判ってやってるんでしょうけどね)


次の事例はこんな感じで。

中小企業が船舶を買う(買って海運会社に傭船契約などで貸す)という融資について、その船舶の購入によってもたらされるキャッシュフローを算定して融資内容を決定します。その場合は顧客企業の信用力や船舶の担保価値だけを見るのではなく、船の貸出先の信用力や輸送する貨物の内容などといった点も見て融資内容の検討を行います。融資を受ける社長さんも「銀行が担保だけを見るという姿から変わっている」とインタビューで答えています。


はい。企業の設備投資資金の融資を行う時に、当該設備投資によって発生するキャッシュフローを考慮に入れないで融資する銀行員はいません(バブル時の馬鹿行員にはそういうのがいたかも知れませんが)。そんなのは設備資金融資を行う際の基本中の基本であります。何を今更って感じですね。ただ、あたくしが金貸し現場にいたときには「キャッシュフロー」などという高尚なお言葉はございませんで、「長期資金繰り」などという極めて泥臭い用語を用いて「これは収益返済(企業の収益によって返済原資が確保されている)が可能であるので回収懸念なし」などと申しておりましたが本質は同じ。正確には設備投資それ自体を独立させて考えるか、企業の総合的な収益力を加味して評価するかという違いが有るのですが。

そんな訳でして、これは「極めて伝統的かつ教科書的な設備資金融資の見本」という事例であります。やっている事は非常に立派なのですが、別に新たな画期的手法でも何でもありません。まぁ単に今流行の「キャッシュフローを重視した融資」ってのを番組のゲストである中川経済産業大臣さまに御覧頂きたかったのでしょうな。きっと。

日本興業銀行(なので同じみずほでもみずほCBさんですかね)といえば事業金融(大企業の調達手段が多様化するとともに担保金融もせっせとやっておられたようですが^^)。事業金融融資というのは基本的に担保金融の考えとは一線を画すものでして、米国かぶれの金融庁がやかましく言う「融資先のキャッシュフローを評価して云々」なんていうのは当たり前のお話であります。これを新手法といわれても何だかな〜ってところでしょうね。


念のために申し上げますが、みずほ銀行のこの2事例とも悪い話ではなくて、面白い取り組みであったり、銀行の融資として当然の姿勢であったりするのでございまして、これを殊更に取り上げるメディアが浅薄なのか、それともこういう事をわざわざ好事例扱いにするという茶番を演じさせる金融庁の金融行政がおかしいのか。という所でしょう。

蛇足ながら付け加えますと、金融庁が中小企業金融というか銀行のビジネスモデルとして推奨している「リレーショナルシップバンキング」の定義には「テレアポで新規開拓した顧客に無担保ローンを実行する」というのは甚だしく当てはまらないと思うのですが、如何なもんでしょうかね〜。

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「日銀総裁の銀行経営問題への認識」(2004/02/09)

金融政策と直接関係無いのですが、中小企業融資において「キャッシュフローを見て融資する」という動きが起きるのが望ましい姿であるといった、金融庁と同じく激しく現実を無視したお話を(補足:2月5日における定例記者会見の席上)しておられます。まぁ金融庁がそう言っているのですから仕方が無いかも知れませんが。

『中小企業の世界でも既にキャッシュ・フローという言葉は、外国の言葉ではもうなくなっていて、自分たちのビジネスについて、将来の収益性を数字の上で予測し、それに対してどの程度リスクがあるかという感覚の掴み方も、かなり広範囲に始まっている。』

将来の資金繰りを数字の上で予測するのは昔からやっている話ですが、収益性でございますか。まぁ株式公開でも目指すというなら判らんでもないですが・・・・

『また、そういう条件が整っていけば、金融機関のほうでも新しい審査能力が身に付いてくる。担保ということを頭の中に真っ先に思い浮かべるというよりは、キャッシュ・フローをどう読むか、企業自身の見方と、自分達の見方とは一体どう違うのか──リスクの評価についても同じであるが──、その辺のすり合わせがもう健全に始まっているということもあるので、一概に悲観する必要はないと思う。』

今の制度下において、税務上合理的に中小零細企業が行動すると、企業に内部留保を行うよりは、代表者個人(と家族)に流出させた方が有利。よってまぁ普通の中小零細企業は揃いも揃って過小資本。そんな過小資本かつ社外流出の多い企業に対して、まともにキャッシュフローを重視して融資したら融資謝絶だらけになってしまうと思いますがね。

どうも金融庁あんど日銀は中小企業というのは将来株式公開を目指すべく日々成長にいそしんでいるものだと勘違いしているのではないかと思ってしまいますな。

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「銀行への施策、何とかならんのか」(2004/01/28)

ど〜も相場は手がかりテーマにかける日々が続いておりまして、イールドカーブはそこそこ動けど結局先物の位置はたいして変わらんという感じですが、如何お過ごしでしょうか?

本日は金融庁関連雑談。

○良かれと思ってやっているんでしょうけど・・・・・・

日銀もやたらと銀行経営がどうしたこうしたとか、ペイオフ完全実施に向けての金融システム安定化がどうのこうのと言うコメントを連発しておりますが、金融庁も相変わらず大手銀行グループへの実質常駐検査に加えて、今年もまた特別検査の実施ということで、銀行経営の監視(あるいは傍迷惑な口出し)をせっせと行うようです。

先週末にUFJ銀行の融資先に関する資料がどうのこうのというお話がいかにも「UFJに裏資料あり」と言わんばかりの言われ方で報道されており、おまけに金融庁が調査を行うというような報道でしたな。何故か金融庁は否定してましたが。

「裏資料」と言えば先日の道路公団騒動を思い出します。任期切れ直前の藤井総裁を無理矢理クビにする口実に裏資料問題が使われておりましたが、あの時も資産評価の仕方で何とでもなる財務諸表が何本かあってもおかしくない筈なのに、さも大問題であるかのように報道されておりましたな。

で、今回のUFJ銀行に降って湧いた裏資料報道ですが、これとて報道の通りに隠蔽しているのかどうかは判らんわけでして、まぁ昨日正式に通告された「来月からの特別検査」に向けて、銀行へ緊張感を持たせようという意味でのリークさせ記事では無かったのではないかな〜と思う訳です。こういうのを別の言い方をすると恫(自主規制)とも言いますがね。

劣後債の発行が延期になってしまったUFJさんはお気の毒でございましたね。


という訳でまたも特別検査なんですが、常駐状態で検査が行われおまけに特別検査が年に一回。欧州訪問時に竹中大臣は特別検査を2005年3月期まで続ける考えを示唆した(日経新聞)との報道もございましたので、来年も特別検査。

銀行の不良債権を何とかしたいと言うお気持ちの現れと好意的に解釈したいところですが、かつて現場のヒラ銀行員をやっていて当時の大蔵省の検査というのがあった時の経験を思い出しますと、これほど営業妨害なお話はございませんです。

まぁ特別検査は限定された超大口の債務者が対象だからまだいいのかも知れませんが、当時「MOF検」と呼ばれていた検査の資料作成というのがこれがまた悲惨なくらいに大変。あたくしの勤めていた会社では融資部門の内勤(事務方ではない内勤)というのはいませんで、日没時間あたりに営業から帰り、通常業務をこなした後に検査資料作成と言うことで、検査前は1ヶ月以上休日出勤と残業の嵐でした。

あれを通常業務のようにやらされるとは悲惨極まりないと思ってしまいます。特に最近は営業店の人減らしで(もしかしたら合併で人余っているのかも知れませんが)ひーひー言っているらしいですし。ご愁傷様です。

ま、景気の悪化が続いているからある意味し方が無いとは言え、銀行が「不良債権わんこそば」「債権放棄わんこそば」を実演し続けていたのがこういう結果を呼んでいるので、銀行経営者にはあまり同情の念は無いんですけどね。


○そもそもチグハグな金融庁

ま〜それ以前の問題として、金融庁が行っている銀行に関する各種施策を傍から見ておりますと、「アクセルとブレーキを全力で踏む」という状況が相も変わらず続いておりますな。以前もドラめもんで申し上げたのでくどくどは書きませんが、中小企業金融に関する施策として金融庁のWebに掲載されている「リレーションシップバンキング」に関する部分なんぞ、門前の小僧であるあたくしですら内容の矛盾が指摘できるわけです。

リレーションシップバンキングってのは「融資判断にあたっては顧客との長期的な取引関係から事業内容を重視しろ」という事だそうでして、それはそれで正しい。しかしその理念から出てくる具体的施策が「スコアリングモデルの活用(顧客の財務データから機械的に判断する方式なんですけれども、それって)」とか「起業段階にあるベンチャー企業への融資(起業したばかりの会社のどこに長期的な取引関係があると言うのか)」とか実に香しい状況。

スコアリングモデルにしろ、ベンチャー融資にしろ、一つ一つの言っている事が間違っているとは思いませんが、その施策がトータルで矛盾しており、おまけに全ての施策を各セクションが大真面目かつ厳格に実行しようとしているという状態では現場の銀行は溜まったものでは有りませんな。

一事が万事。恐らく検査の現場では「厳格なる検査」が実施されているのだと思いますが、そんな状況下で「中小企業融資の目標が未達だからケシカランので業務改善命令」などと言われてしまう銀行の経営者も良くもまぁ暴れださないものだと感心する事しきりであります。


そういう状況に対する批判どころか、「全ては銀行が悪い」という事にしておけばウケもよいのでそのまま銀行悪玉論で通しきってしまうメディアの有り方も、金融庁の整合性の無い金融行政に拍車を掛けているのではないかと先週の報道を見ていて思うのでありました。

念のため繰り返しますが、銀行も相当問題あるんですけどね。

と、本日は全然相場と関係ないお話でした。相場関連ネタがないっす。

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「中原審議委員による『歴史に学ぶ銀行のありかた』寄稿文を読む」(2004/01/06)

と言う訳で始まってしまいました新年相場。そんな中日銀のWebに本年一発目にアップされたのは中原審議委員が全国銀行協会の「金融」(たぶん機関誌だとおもうのですが)2004年1月号に寄稿した「歴史に学ぶ銀行の在りかた」という文書でございました。

http://www.boj.or.jp/press/03/ko0401a.htm

で、内容の話はともかくと致しまして、まず気になるのはと申しますと、日銀Webに年初一発目でのアップが「銀行経営がらみ」だったという事でしょうか。

昨年末あたりから日銀の複数の審議委員からやたらと銀行経営に関して色々とご提案と申しますか、外野のお節介と申しますか、まぁいろんな発言がされているのはご存知の通り。でもって、今年の日銀からの情報発信の一発目がやはり銀行関連っつー事でありますので、今年の金融政策における最大の関心事が「量的緩和の解除をどうするか」ではなく、「来年のペイオフ完全実施が無事に出来るか」という事のようだとも勝手に推測出来る訳ですな。

ではちょっとだけ内容を拝見。

○銀行への苦言

まぁ最初は苦言から入るという感じでございます。最初のお題が「銀行への不満」であります(^^)。

『「銀行は要らない」。新年早々、穏やかでない話から始まって恐縮であるが、昨年、東京下町のある工業会々長とお会いした際にお聴きした言葉である。同氏曰く、「民間銀行は担保の積み増し、理不尽な金利引上げを要求してくるだけだ。どんな事業計画を持っていっても聞く耳を持たず担保しかみていない。将来の企業の成長性に着目して融資するということができないでいる」ため、「銀行は要らない」と言われる。』

「担保しかみていない」というのは不正確な表現で、「担保割れしかみていない」の間違いではないかと思うのですが(^^)、金融庁の検査マニュアルの弊害がもろにでているのが昨今でもある(検査マニュアルを言い訳にして無茶やっているという面も否定できませんが・・・・・)と言ったところでしょうな。

特に昔からの顧客からはこういう風に言われるでしょう。

『また、海産物を販売している中央区の老舗の商店主さん曰く、「銀行は今になって金利を引き上げてくれというが、昔は我慢して高い実効金利を払ってやったではないか。まず、昔支払った分を返せ」。これは、かつては、貸し手優位の中で拘束預金や協力預金が存在していたことを指摘されておられるのだろう。』

そういえば銀行は銀行で「昔は税効果資産を認めるからと言われて不良債権の償却を前倒ししたが、今になって税効果資産を否認する行動に出るとは何事だ、まず、昔支払った有税償却分の税金を返せ」と言いたいでしょうな。そう考えるとこの国は結局「ナンジ人民飢えて死ね」って事何でしょうな、とほほのほ。

で、銀行の立場からの弁明というか言い訳が後に続くのですが、それはともかくとして、次のお題の「新しいビジネスモデルを求めて」という部分の冒頭にこんな事を言っておりまして、思わずウケてしまいました。

『もっとも、総じてみれば、依然として銀行の評判が芳しくないのは認めざるを得ないだろう。私自身、民間銀行出身なので、上述のような銀行批判に対し、「そうは言っても・・・」と反論するものの、その途端に「すわ回し者か」と睨まれることもある。』

わはは、あたくしも身に覚えが(^^)。



○「銀行のビジネスモデル」論議への苦言(か?)

で、「新しいビジネスモデルを求めて」です。

さすがに中原審議委員は元々が銀行員ですし、寄稿している文書の読み手が銀行関係者だというのを意識しているのもあるでしょうが、他の日銀審議委員やどこぞの監督官庁の人々のような現実を全く無視した夢物語みたいな話は致しません。こういう人の意見が金融庁の金融政策にちったあ反映されて欲しいものです。

『銀行の新しいビジネスモデルは何かとの議論が盛んだが、民間銀行に身を置いた経験から言うと、収益力を一挙に高め、一気呵成に不良債権問題を解決できるような普遍的な単一のビジネスモデルがあるとは思えない。』

金融庁の画一的な管理って一体全体何なんでしょうと思ってしまう訳でございまして、その辺も思い切って指摘して欲しいのですが、まぁそこまで言わせるのは無理というものですね。

『そもそも、足許の不良債権は、日本経済の構造問題と結び付いている根の深い問題だ。外需によってもたらされたフロー収益の国内への還元と、その再分配を前提とした株価・地価等ストックの膨張、これらを担保とした信用供与によって経済を発展させるという旧来の日本経済の構造自体が大きく変化している。』

『他産業と同様、銀行もこのような構造変化に対応した経営を行おうと必死になっているが、新しいビジネスモデルは、思い付きで生まれたり、"お上"から与えられるものではない。』

銀行業界が"お上"に完全屈服状況でございますので、中原さんが言わないといけないっつー事なんでしょうか。何気なく書いていますが、昨今の銀行を巡る好き勝手な議論に物申すって感じに思えるのですが(^^)。

『さらに、銀行業には様々な点で規制が多く、歴史的にみて、収益性の高い業務分野への参入が難しかったということや、公的な金融機能が肥大化し民間市場の拡大の妨げとなっていたことも忘れてはならないだろう。』

『リテール業務の一部の分野や公共料金の振替等、「儲からないからやめる」とは言わせてもらえない分野も多い。新しい銀行のビジネスモデルといった場合、このような銀行に求められている公共性、社会性との関係をどのように考えていくべきかも重要なポイントである。』

そういえば決済業務という一番コストのかかる部分をやろうとしないで「銀行」と銘打って中小企業金融をやるといった「それは商工ローン会社とどう違うんだ」と言いたくなる某銀行(設立予定)もそうですし、民営化してから主要駅を巨大ターミナルにして近隣の商圏を食って成長した積りになっている某国有鉄道からやって来た経営者に好き勝手言われてる(言われる方にも問題があるとおもいますが)某銀行。

現在の銀行の状況は確かに利用者的に言えばかなり「いかがなものか」という感じであるのは事実でございますが、元々精緻な決済インフラが構築されている訳でして、このインフラ整備に如何にコストが掛かっているのかといった宣伝を銀行はもっとすべきであろうかとは思います。正直言って銀行が収益性を重視しだしたら殆どの小口金融が相手にされなくなる(あるいは無茶苦茶手数料が高くなる)と思うわけです。

銀行に規制緩和で色々な業務が出来るようになれば、結局国鉄民営化の二の舞でありまして、それこそ近隣の中小商店あたりがゲロゲロ状態になってしまうとおもうんですけどね。

と、話が何時の間にかあたくしのご機嫌斜め的な発言になってしまった事をお詫びしつつその先を読みますと、銀行に対してきちんと苦言も呈しております(^^)。

『しかし、だからといって開き直ることもできない。取引先企業のニーズを満足させるとともに、社会経済の構造変化に対応した経営を構築し、安定した収益をあげていく、そのために銀行は今後如何にあるべきなのか?明確な将来像は未だ見えていない。』

で、まぁ温故知新っつー事で「銀行の歴史」についてお話があるのですが、こちらは読み物としては楽しいので是非御覧下さい。さすがは「銀行の銀行」の日銀さまだけにこういう文書は天下一品なんでしょう。


○まとめの部分

「歴史に学ぶ銀行のありかた」というのが続くのですが、これはまぁシュンとしている銀行へのエールみたいなもんですので本文を読んでくだされ。

で、最後の「おわりに」ではやはりペイオフ完全実施のことに触れている訳でして、日銀の今年の金融政策の最大の焦点が「ペイオフ完全実施へのスムーズな移行」だという事なんでしょうな。

『明年春からのペイオフ完全実施、再来年の新BIS規制導入は、全銀行一丸となって乗り越えねばならない大きな課題である。今後、今まで経験したことない大きな厳しい環境が待っているかもしれない。しかし、縷々述べた歴史から学べる教訓は、決して悲観することはないということではないか。戦後蓄えた豊かな富を次世代に引き継ぐため、今ほど銀行の叡智が求められている時代はない。換言すれば、いつの時代であっても「銀行は要る」どころか、「経済社会発展の要である」ことを証明するのが、私を含め銀行業に携わる者の責務と認識している。』

と言う事で、今年のメインテーマはペイオフ完全実施への地ならし。その為には量的緩和解除は有り得ないと考えるのはまぁ勝手(というか金利水準は今年1年の量的緩和解除に関して全く意識していない)なのですが、そちらに関しては「関心が薄い」だけのことではないかとも思っちゃうんですけどね〜♪


ではでは。

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「銀行の証券仲介業開始に関して」(2003/12/29)


先日、証券取引法や保険業法の改正に関する話題がでておりました。要するに規制緩和関連と言うことですが、証券に関しては「銀行に証券仲介業務を解禁しましょ」ってお話のようです。市場活性化といいますが、本当に良いのしょうか??

相変わらず銀行は貯蓄金融機関として機能している面もあるわけでして、銀行の側もそうですが、客の方も銀行=貯蓄機関=確定利付商品という意識が強いわけでございます。

世の中日々投資活動に専念できる人がそう多くいる訳ではなく、投資活動に関してややこしいことを考えている時間が勿体無い人の為の貯蓄性商品に関する需要は相変わらず強いわけでございます。

その象徴ともいえるのが「個人向け国債」。変動金利型にしたのは兎も角として「元本保証」商品になっております。貯蓄性商品として購入者に受け入れられる為には商品設計として元本保証が必要だという現実があるわけですな。

と、まぁそんな状況の中で銀行の店頭でこれ以上リスク商品を売る(外貨商品以外には投信と変額保険を扱ってますな)必要があるのかは消費者保護の面から甚だ疑問であります。

証券業界で売る側に回った事のある人ならばご存知の「適合性の原則」ですが、銀行という元本保証商品しか売り歩いた経験のない状況においてはこの「適合性の原則」という発想は起きない訳であります。何せ安全な商品しか売らないのですから、常に消費者保護がなされている訳ですから当然です。

で、その銀行っつー箱でリスク商品を売らせると、販売実績をあげる為に(ならば逆の意味で良いのですが、恐らく販売する側が非常に無邪気に)「適合性の原則」を思いっきり軽視、あるいは無視したような販売を行うというのが目に浮かんで来るわけでありますな。

「販売に際しては資格制度などを設けて、適切な投資勧誘を行うようにする」という事で当局的にはオッケーなのでしょうが、組織っつーのは一朝一夕で文化を変える事はできない訳でして、今から先行きが思いやられるものでございます。



「金融庁『リレーショナルシップバンキング』の自己矛盾(2003/12/29)

話は全然変わりますが、先日金融庁から出てきた「経済活性化の為の産業金融強化策」(産業金融機能強化関係閣僚等による会合ってところから出ているらしいですが)なのですが、それを見ているとまたも香しい記述があったのでそれに対して。

『リレーショナルシップバンキングにおける新しい中小企業金融への取組』というお題で、『金融機関による貸出後の業況把握の徹底、財務制限条項や信用格付けモデルの活用等により、不動産担保・保証に過度に依存しない融資の促進を図る』と言っております。

これだけ見ていると流してしまうのですが、この施策の別の所で「信用リスクデータベースの機能強化」が謳われておりますので、恐らく「信用格付けモデルの活用」というのは「企業の信用リスクを定量的に把握するモデルの活用」という事になるであることが推測されるわけですな。

企業の財務データから定量的に信用リスクを算定するというのは、お題にあります「リレーショナルシップバンキング」と思いっきり矛盾すると思うのですが、こういうフレーズがさらっと出てしまうところが実に香しいところでございます。

結局「骨太の方針」みたいなもんで、この首相にしてこの行政ありといった所になるのでしょう。困った話ですな。

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2003/12/24

お題「益々ねじれる中小企業金融」

あまり債券市場とは関係ないですが、「脳内現実」を元に訳判らん政策を打ち出し続ける現在の「頭でっかち政策」を象徴するような出来事と感心したもので。

上が上なら下も下。現実を本当に把握して政策立案しているというよりは、何でもかんでも米国で行われている事や米国の学者の言説を金科玉条の如くありがたがって政策の機軸を打ち出す金融庁の出す碌でもない中小企業政策。その最大の作品であります「金融検査マニュアル」の改訂案が出されました。

マニュアル本体をきちんと読むべき所なのですが、例によって量が膨大なので正月にでも読むと致しまして(読み物だらけになりつつありますな^^)、「主な内容」の部分で気になった所を並べて見ましょう。詳しくは金融庁のWebで読む事ができます。


○貸出金固定化の勧めですか??

まずは「U.擬似エクィティへの対応」でございます。ここには「資本的劣後ローンによるデット・デット・スワップ」っつーのがございます。

『資本調達手段が限られている中小・零細企業においては、事業の基盤となっている資本的性格の資金が債務の形で調達されていることが多い(疑似エクィティ的融資)。』

しかし誰が言い出したのか知りませんが、相当の昔から行われていた融資形態をさも大発見かのように命名するっつーのも香しいですな。先日あたくしがドラめもんで申し上げた通り、過小資本の方が有利になったり、企業に利益の内部留保するよりも給与の形式で社外流出させちゃった方が有利になるという税制、中小企業政策をどうにかすべく提言するほうが先決ではないかと思うのですがね。

『このような状況を踏まえて、金融機関が、中小・零細企業向けの要注意先債権(要管理先への債権を含む)を、債務者の経営改善計画の一環として資本的劣後ローンに転換している場合には、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローンを資本とみなすことができるとする。』

で、まぁ事例みたいなものも別紙で書いてあるのですが、読んでも全く理解に苦しむ内容でございます。何考えているんだか・・・・・

要するに、延滞貸出金状態になっている経常運転資金の短期転がし貸出を劣後ローンに切り替えるとあら不思議、与信先の資本が充実しちゃいますってお話なのですが、もうアホか馬鹿かと。不良債務者の貸出金固定化を推進してどうするんでしょう?

で、この事例を読むと益々訳がわかりません。この「事例」によれば、「実現性が高い経営再建計画」の実施の一環として、一部の貸出を劣後ローンに転換した場合、この会社への貸出金と劣後ローンが全て貸出条件緩和債権に該当しない(=正常先債権)になり、劣後ローンに関しては100%引当を行う、となっておりますな。

これって結局「表面上の不良債権額が減る」だけの事になるようですし、それ以前の問題として契約上短期弁済が可能な(金がないから不可能ですが)貸出金を長期固定化するのを勧めるというのは、単なる「先送りの勧め」であるとしか思えませんな。


中小企業の過小資本を問題にするのであれば、その企業の代表者などが行っている自社への貸出金を資本へ転換させるとか、代表者個人へ融資させて企業の資本金を払わせる(これは商法上の見せ金にあたるので問題がございますが)など、まぁとにかく何でも良いのですが、今まで企業から代表者(およびその親族など)に社外流出していた金を企業に戻させるようにした方が良いのではないかと思いますがね。


○マニュアルの恣意的運用に拍車がかかるのでは??

順番が逆になりましたが「T.債務者との意思疎通」の部分がございます。

『金融機関が、的確な金融仲介機能を発揮していくためには、その前提として金融機関自らが日頃の債務者との間の密度の高いコミュニケーションを通じて、債務者の経営実態の適切な把握など的確な債務者管理に努めていることが不可欠である。』

言われなくても普通にやっていると思いますがね。まぁそれはともかく。

『こうした事から、検査に当たって借り手企業に関する説明責任の履行状況を検証するとともに、これに加え、金融機関の中小・零細企業に対する企業訪問・経営指導等の実施状況についても検証し、それらが良好であると認められる場合には、以下の取扱を行うこととする。』

ってな訳で「企業の成長性等について金融機関の評価を尊重」だとか「金融機関による中小企業の再生支援の実績を引当率に反映」という話になっております。

この部分、一見するともっともらしく読めるのですが、よく読めば結局金融庁の自由裁量部分が増えております。「良好であると認められる場合」っていうのがどういう内容なのかというのは結局金融庁の検査官に判断が任される(マニュアルそのものにはもうちょっと詳しく書いてあるでしょうが)訳でありますな。

元々「裁量的金融行政を排除する」とか偉そうな事を言っておっぱじめた金融検査マニュアルの策定でありますが、案の定金融庁の権限拡張の道具になってしまい、裁量行政の推進を行う一助となっている訳ですな。こういうものは最初の理念とは関係なく自己拡大していくんですよね。全く困ったものです。

そういえば金融検査マニュアルの策定やら、30社問題やら好き勝手言っていたもと日銀マンの某氏は、りそな救済に関して何の総括もしないままに妙な銀行の設立に名前を出したりしていましたが、今般はFPの新たな認証機関を設立するそうですな。自分の政策の検証とか総括をやらないで次々と新機軸(?)をうちだして「やり逃げ」状態のこのお方、まさに現在の象徴みたいなお方ですな。



ま〜その他にも妙な「キャッシュフロー重視」主義なんかも気になる所でありまして、中小企業融資に関して配慮したマニュアルの改訂らしいのですが、相変わらず零細企業を大企業をごっちゃにしたような内容になっております。

こんな無茶苦茶な当局に資本を持たれてしまっている金融機関というのも実にご愁傷様としか申し上げ様がありませんな。この国の中小企業金融政策ってどうなっちゃうんでしょうね。頭が痛いものです。

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2003/12/16


お題「またも中小企業金融について」

ちょっと古いのですが、12月4日に愛媛県金融経済懇談会で春英彦審議委員が講演をしておりました。講演の内容自体は最近の日銀審議委員の講演と余り変わらないのですが、この中で中小企業金融の問題について触れておりまして、相変わらずの現状認識か!と思わせるものでした。

というわけで、時々書いておりますが中小企業金融に関して元金貸しの手先として愚考を再度。ところで、話は全く逸れますが、最近日銀審議委員の皆様があちらこちらで講演してますけど、講演の原稿作る事務方も大変ですな。最近どう見ても使い回しをしているように見えます(^^)。

http://www.boj.or.jp/press/03/ko0312a.htm

この講演のうち、景気の現状認識や日銀の金融政策に関する自画自賛的なお話に関しては正直言って他の人の講演と変わらないので紹介は省略。「中小企業金融の円滑化」というお題の部分だけちょっと読んでみましょう。まぁいつもの日銀の見解といった文書ではありますが、何故か今回の講演要旨は箇条書きになっておりまして、日銀的現状認識がコンパクトに纏められております。


○それはマッチポンプではないでしょうか??

「中小企業金融の円滑化」というお題で「中小企業金融の課題」というお話が行われたのですが、その一発目がこんな感じです。

『中小企業の活性化のためには中小企業金融の円滑化が欠かせませんが、日銀短観を見ても企業側から見て金融機関の中小企業に対する貸出態度は依然として厳しく、貸出残高も大企業向けよりも大きく落込んでいます。』

金融機関の貸出に関して厳しい自己査定を要求しているのは日銀ではなく金融庁ではありますが、まぁ日銀も不良債権処理をしろと散々言っている訳でして根は同じ。自分たちの政策効果が上がって中小企業の金融が厳しくなってきているのを捕まえて「問題だ」と言うのは如何な物かと思う訳ですよ。

で、その自分たちで作った「問題」を解消するためにABSの買取を行っておりますが、買入対象を「正常先債権を流動化した商品」としたら案の定債券の買取もCPの買取も盛り上がらない事夥しい状況。

この結果から容易に類推される結論は「中小企業金融の目詰まりが起きると宜しくない箇所では実際問題としての目詰まりは発生していない」というお話になる訳ですな(^^)。不良債権処理という政策が進行している中では、不良債務者の金融が目詰まりするのは政策の結果として当然起きることであります。

てな訳ですから、「企業金融の目詰まり論」って話は根本から崩壊しているのでして、日銀短観の数字(対象企業には要管理先以下もいる訳ですから)を都合よくつまみ食いしているというお話だったという事であります。

というか、貸出態度DIってここの所そんなに激しく悪化してないんですけれども・・・・・・・・

ちなみに最近は「日銀による資産担保証券の買入がワークしない」という意見が民間の方から出てきておりますが、正常先債権以外も日銀が買取りをするというのは只の「震災手形」への道だと思いますが。


○現象には理由があるはずなのですが・・・・・

『中小企業の資金調達の特徴は、所謂メインバンクからの土地担保や個人保証による借入が中心で、自己資本比率が低く、約定日(返済日の間違いですな。編集中に気がつきました)毎にロールオーバーを繰り返す形の短期の借入金が言わば自己資本に代る機能を果たしてきたとされています。』

確かに現実はそうなのですが、もともと中小企業の過小資本というのは、企業規模の小さい企業をやたらと優遇する税制にも問題があるわけでして、企業が経済合理性を追及した結果、銀行と企業の利害が一致する形として「貸出金の永久ロールオーバー」という形態が生まれたという面も強いわけであります。

税法上のメリットもそうですし、公的金融(保証協会や制度融資などなど)においても過小資本にしておいた方がメリットが高い(はっきり言って非常に高い)という制度の下では、公開企業を目指す人でもない限り過小資本にする方がお得。その点に関する考察無しに「中小企業の過小資本問題が課題だ」とか言っても困る訳ですな。

さっきの話とも重なりますが、「課題」といっている現象に関して、元々何が原因なのかという因果関係に関する掘り下げが不足しているのではないかと思う訳ですよ。日銀のおエリート様やら大企業出身の大経営者様は・・・・・


○担保や個人保証を徴求するのは悪なのか??

で、この次はこんな事を言うとるわけですな。

『ところがデフレ等により企業業績が悪化すると、土地価格の下落により担保価値が低下し、金融機関の側にも不良債権処理による自己資本比率の低下や利鞘確保の必要があって債務者に厳しい態度を取らざるを得ない状況が出て参ります。この場合、個人保証の存在は、経営者にとって重荷になっていきます。』

不良大企業に対する部分的徳政令の横行に伴い、皆様すっかりモラルを失ったようでありますが、「借りた金は返す」というのが本来の姿なのではないかと思う訳ですよ。特に中小企業では代表者個人の信用力が企業の信用力を補完するものでありますし、税法上企業で内部留保するよりも社外流出させたほうが有利という無茶苦茶(追記:無茶苦茶は暴言ですな、失礼)な税制を取っている日本においては尚更の事。

仮に連帯保証人制度が廃止されて、企業が支払不能になっても代表者個人に遡及できないというような話にまでなってしまいますと、まぁかなーり多くの中小零細企業では普通の金融機関では借入を受けられませんわな。企業の内部留保がろくすっぽありませんもん。

日銀はそこまでアフォな事は言いませんが、一部では「連帯保証人制度を無くせ」という議論を大真面目にしている人もおります。政治家が人気取りで言う(そういえば民主党ってそういうアフォな事言ってましたな。さすが民主党)のが多いとは思いますが、このテキストの底にも同じような思想が流れている訳でして、全く困った物だと思ってしまう次第であります。

ちなみに、この講演の続きには「中小企業金融に関する新しい動き」と称して『その第1は、不動産担保、個人保証に頼らない融資の動きです。』と言っておりまして、要するに担保や個人保証を徴求するのは悪だという論調になっております。

ほんの少しの期間だけですが、金貸し(および回収)の手先をやっていたあたくしとしてはどうも釈然としませんな。



○信用リスクを金利でカバーするのが正しいのか??

この点に関する考察はまだあたくしの中で煮詰まっていないので、お題だけ提示するのですけれども、どうも理解できない点なのであります。講演の中でもこんなことを言っているのですが・・・・・

『また、現在、中小企業にとっての資金調達先は、金利5%以下の金融機関借入と金利15%以上の所謂貸金業者の借入しかなく、その中間のミドルリスク・ミドルリターンの借入の余地が小さいという問題もあります。』

『最近では審査の効率化により、融資の申込みに対して即日可否を決定し、無担保のリスクを若干高目の金利でカバーする形での所謂無担保、無保証の小口ビジネスローンへの取組みが活発になっています。』

まぁこの点はもうちょっと考えて見ますが、そもそも貸出金の信用リスクを補完するのは担保(人的担保を含む)でありまして、貸出金利を高く設定してさっさと回収する事によって信用リスクを補完するというのは、街金の発想ではないかと思う訳ですよ。

でですな、この講演では金融機関借入と貸金業者の設定金利が死ぬほど違うと言っているのですが、そもそも金融機関借入と貸金業者からの借入では、借入の期間も金額も全然違うという観点が抜けているのではないかと思う訳です。貸金業者からウン千万円の借入を無担保で長期で行うという人はいない(というか普通は業者が貸さない)ですし、銀行は小口のカードローンを除けば30万や50万で貸出期間が一月以内などという貸出はやっていない訳でして、金利設定には事務コストという観点もある(筈)です。

だいたい、ジャンク扱いされている社債の流通利回り(公社債店頭売買参考統計値でも御覧下さいませ)を考えたら、信用リスクをまともに金利に反映させたら利息制限法の上限なんぞあっという間に突破すると思いますけど。(追記:この頃はそういう銘柄がゴロゴロしてました)

ちょっとこの点については考えてみます。どうも「信用リスクに見合った金利」という理屈が釈然としないのですが、反論する理論武装もできませんな。


ではでは。

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