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2005年度上期の福井総裁発言等インデックス

2005/09/30「ついに福井総裁までもが本格地均し発言(総裁記者会見より)!」
2005/09/12「強気の月報に対しての記者会見」
2005/08/12「総裁、公的部門のリストラを訴える」
2005/08/11「踊り場脱却宣言の総裁記者会見」
2005/07/29「総裁定例記者会見」
2005/07/25「22日エントリーの補足」
2005/07/22「地に足の着いたリテール金融の高度化推進をして欲しいのですが」
2005/07/15「記者会見続き」
2005/07/14「妙に落ち着きを取り戻した定例記者会見」
2005/06/27「全国信用金庫大会に於ける福井総裁の挨拶:当預目標維持を強調?」
2005/06/20「記者会見続き」
2005/06/17「金融政策決定会合を受けた定例記者会見」
2005/06/02「30兆円割れを目前にした総裁の妄言」
2005/06/01「備忘録:ソウルでのコメントのソース見つかりました」
2005/05/31「国際コンファランスでの開会挨拶でインタゲに否定的発言」
2005/05/30「出張先のソウルで『市場機能』に関してまたまたコメント」
2005/05/24「政策決定を受けた総裁会見、量が多いのでポイント部分だけ」
2005/05/16「経済同友会での福井総裁講演・・・・・ロジック変更で当預引き下げか?」
2005/05/06「当座預金残高目標引下げ問題を引き締め論議から切り離した総裁会見」
2005/04/18「G7後の記者会見にひとこと」
2005/04/08「参議院での当座預金引下げ容認答弁と定例記者会見」
2005/04/04「今年も入行式挨拶に野暮な突っ込み」

2005/09/30

○とどめの福井総裁記者会見

須田審議委員の記者会見(http://www.boj.or.jp/press/05/kk0509e_f.htm)をネタにする積りでしたが、福井総裁の記者会見の方が話としてデカイのでそっちが先行。で、本日のソースはブルームバーグニュースのネット版を見ることにしましょう。えーっと多分http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003017&sid=af3g3UXXqLb0&refer=jp_news_index#で読めると思うのですが、リンク切れとかしてたら.comまででトップページに入って「ニュース/コラム」からヘッドラインを探すと見つかると思います。

昨日は大阪経済4団体共催懇談会における総裁挨拶がありまして、そちらのニュースは4時過ぎくらいに流れていたのですが、記者会見のほうに関してはどの辺まで織り込んでるか微妙ですか。まぁ本日のCPIの方が効きそうですけど。。。

総裁挨拶はhttp://www.boj.or.jp/press/05/ko0509h_f.htmですが、経済の見方云々は兎も角として、金融政策に関する最後の部分ですな、注目する所は・・・・

『いつ量的緩和政策解除の判断ができるかは、もとより今後の経済・物価情勢次第ですが、先ほど述べたような見通しを前提にすると、2006年度にかけて、その可能性が次第に高まっていくと考えています。』

2006年度じゃなくて良く見りゃ06年度にかけてな訳でして、その具体的な意味に関しては記者会見で出ております。

『その際には、日々の金融調節における操作目標を日銀当座預金残高から短期の市場金利に戻すことになります。先ほども述べたように量的緩和政策が実態としてゼロ金利に近付いていることを考えると、政策枠組みの変更はそれ自体で、金融政策が不連続に変化することを意味するものではありません。金融政策の姿は、先行きの経済・物価情勢により左右されますが、4月の展望レポートで述べたように、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって、物価が反応しにくい状況が続いていくのであれば、引き続き緩和的な金融環境が維持されていくことになると考えています。』

一応こっちの発言で「量的緩和政策は解除するけど金利は低位安定させますよ」という話にしてバランスを取っている積りなんでしょう。この次にご紹介する記者会見記事にありますように、量的緩和政策コミットメントの第一条件が達成される前に「次の金利水準は幾らになるのか」が相場としてのネタになってしまうという見事なコミットメントの形骸化になってしまいましたな。本石町日記さんも早速エントリー上げておられましたが、こりゃもう流れは止まりませんな。


ではブルームバーグニュース(インターネット版)より引用させていただきます。

『9月29日(ブルームバーグ):日本銀行の福井俊彦総裁は29日夕、大阪市内で記者会見し、量的緩和政策の解除について「06年度にかけてそういう可能性が出てくるだろう」と述べたうえで、「『06年度にかけて』という意味は、06年に入る以前の段階をまったく否定していない。しかし、06年度以前の段階に確実に、とも言っていない。つまり、06年度の入る前か、入って数カ月か、というふうな感じに普通は読めると思う」と述べた。』

ということでして、2006年4月プラスマイナス数ヶ月で解除ですと総裁御自らが言明されてしまったら最早時間軸もへったくれもございませんな。

まぁ「金利をいきなり上げると市場にショックを与える」→「市場にショックを与えないように事前に地均しをする」という発想で「やるぞやるぞ」という話を事前にしておくということで、それが「市場との対話」とは言いませんわなぁという話は既に百回位(そんなにはしてないか)してますな。

結局量的緩和政策のコミットメント3条件を自ら形骸化させる方向に勝負してしまった日銀様。まぁインフレ期待でも醸成されて金利を引き上げても大丈夫って状態になっちゃえば物忘れの激しい金融市場的(まぁそれじゃぁイカンと思うけど、べき論とは別に考えるとそんなもんでしょう、はぁ)には結果オーライになると思いますんで、そうなっていただくことをこころからきぼうしたいものでございます(棒読み)。

まさか自分たちで時間軸の短期化をしておいて「市場金利は先行きの物価上昇を見込んでいるので金利を上げても無問題」とか言い出さないですよねえ・・・・

会見記事をまぁご覧いただければと存じますが、ふ〜んと思った部分をば引用。

『(量的緩和解除後にゼロ金利にするのか金利を引き上げるのかの点について)今この段階でそこまでは予見できない。量的緩和の枠組み自身の修正のタイミングがいつごろになるのか明確に予想しにくい段階にあるので、その先の金利の操作について何か予断を持てるかというと、それはない。そういう予断を一切持たないで、今後の経済、物価情勢にきちんと符合するような政策をしていかなければならない』

一昨日の須田審議委員の「予断」と違いまして、福井総裁におかれましては既に「次の金利操作に関しては予断を持ちません」と仰せでございまして、もうやる気満々とはこのことです。

『(海外で「量的緩和解除=金利引き上げ」と取られているようだが、という指摘について)海外で、とおっしゃったが、わたしはこの間、海外に行って帰ったばかりだが、日本経済について何か、段差を設けて引き締め方向への金融政策が必要だとか、そういうことを日銀が意図しているのではないかというふうな感じで、日本経済や日銀の金融政策をご覧になっている方はあまりいらっしゃらないのではないかと思っている』

引き締め方向への金融政策が必要と考えている人はいないと思いますが、金融政策の「先行き予想」に関しては・・・・・(-_-メ)

『とりあえず、最も最適なタイミングで量的緩和政策の枠組みの修正を図る。そのタイミングを過たずにきちんとつかみたいということであって、そこから先のことはまだ、今から予見を持って考えない』

副総裁時代の「ジャストタイミング」発言を彷彿とさせて下さる懐かしい香りが致しますな。

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2005/09/12

○先行きの金融政策に関して慎重な物言いの福井総裁会見

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0509a.htm

会見要旨を見ると、月報で景気判断を上方修正した割には大人しい内容になっております。

・物価に関しての質疑応答

長い質問なのですが、押さえるべきポイントを押さえているので質問も引用します。

『(問)物価の評価とその総合判断について伺いたい。先程から、年末頃にかけて物価がプラス方向に行く可能性が高まっている、と言われているが、原油高という背景もあるが、基本的には、物価がプラスになるということは、景気が回復していることを裏付けていると思う。現状として、日本銀行の政策は物価にコミットメントしており、先行きデフレに戻らないということを考えるうえで、物価の先行きをどうみるかも重要であるかと思うが、それはやはり景気の持続性や強さにかかっていると思う。これが、日本銀行で言われている総合判断という考え方で良いのか。景気の持続性や物価の強さを含め、考え方を伺いたい。』

『(答)年末頃にかけてゼロ%ないしプラスに転じていく可能性があると申し上げたのは、前々から皆さんと関心を共有している生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比変化率についての話である。これについても、原油高の影響がガソリン等の最終製品にどのように転嫁されるかということとある程度絡んで動いているということは、ご指摘の通りである。』

『金融政策との関連では、そうしたことを含めて、少なくとも消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるまでは、現在の量的緩和のフレームワークは続ける。これは、固い約束であるので最後まで堅持されるということである。』

『先行き、このフレームワークの修正如何という判断になった場合は、単に表面的な物価指数の現れ方というだけでなく、本当に日本経済がデフレに逆戻りしないかどうかについて、より踏み込んだ判断が必要である。まず景気回復の持続性の確かさをしっかりと確認しなければならないし、物価の面でも、表面的な動きだけでなく、その時あるいはそれ以降の経済の中で、生産性の上昇がどのように展開していくか、一方でユニット・レーバー・コスト(単位当たりの労働コスト)がどのように変化していくのかというような基本的な物価形成メカニズムの部分について、踏み込んだ分析と判断をしていかなければならないと思っている。』

ということで、とりあえず「持続性の確かさをしっかりと確認」とかいう辺りで月報での判断の強い内容を緩和するような感じになっています。月報をまんま読むと既に確りと確認しているような気もするんで、踏み込んだ判断もへったくれもないのですがそこはそこって感じですかね(^^)。


・金融政策の「余裕を持って」とは?

『(問)先程、コアの消費者物価指数の前年比変化率が年末頃にかけてプラスになる可能性が強く、景気についても持続可能性のある軌道に向かいつつあるとの判断を示された。量的緩和の解除についてもそう遠くない将来に展望できる状況になってきているのではないかと思われるが、一方で日銀が金融政策運営について、余裕を持って対応するとしていることもあって、金融市場では量的緩和の解除後も相当期間にわたって、金利がゼロ%に据え置かれるのではないかという見方が根強くある。この「余裕を持って」という言葉の解釈としてこうした見方が正しいかどうか伺いたい。』

まぁ相当期間にわたってゼロ金利政策が続くと考えている人だけではないと思いますが(ちなみにあたくしは当座預金残高30兆円を6〜8兆円程度に落としていく段階で結果としてゼロ金利状態になっている事はあってもゼロ金利政策にはしてこないと思ってます)、確かにこの様な解釈をする人は結構多いというか今はメジャーな見方かもしれない。

『(答)「余裕を持って」というのは、景気が着実に回復しても物価上昇圧力が相対的にかかりにくい経済、インフレ期待が急に昂進するリスクが比較的少ない経済として進展していく限り、私どもとしては緩和政策の維持ないし緩和政策を修正する場合にも、その修正のテンポというものにゆとりを持たせながら金融政策運営をしていけるのではないかということである。少なくとも、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまでは、明確にそのことが言えそうだということで、先般からそう申し上げている。』

で、この後も答えは続きまして、そちらもお読みいただければとは思いますが、要するに上記の部分にもありますように、その時点でのインフレ期待がどうなっているかという事によって「余裕をもって」金融政策の対応が出来るのかが決まるというお話をしております。従いまして、この「余裕をもって」というのは実は金融政策のペースに関する話をしているのではなくて、あくまでも現在の経済動向を踏まえて、「インフレ期待が発生していない」と言っているに過ぎないという意味と見た方が宜しいのではないでしょうか。

ですから、実際にCPIがプラス転換した場合にその時点でインフレ期待が高まっていれば別に「余裕を持った」対応をするには及ばずということでもありますので、「量的緩和解除の3条件成立後にゼロ金利が長期間続く」という考えをあまり固定するのも如何なものかという所でしょうか。


この点に関して同じ質問が最後の方に出ております。

『(問)先程の量的緩和解除後もゼロ金利が相当期間続くという見方について、総裁のお答えからして、そういう可能性もあると理解して良いか。』

あたしゃー上で書いたように、そういう可能性もあるけどその時次第でしょって読んだのですが、どっちかというとこの質問は「続く」方に力点置いてますな。

『(答)そこのところについては全くのオープン・クエスチョンである。量的緩和解除後、ゼロ金利の状態が短期間で終わるという材料を持ち合わせていないし、それが非常に長く続くと判断する材料も今のところ存在してない。』

『普通の経済──普通というのはおかしいが──、昔の経済であれば、量的緩和が終わって景気回復が着実であれば、当然中立的な金利を目指して金融をさらに正常化させていくことを一挙に視野に入れながらでなければ、正しい金融政策にならないと思うが、先程も経済の姿が変わっていることを申し上げた。つまり物価の形成のされ方が昔と違っているので、そこを当然考慮に入れながら、どの程度余裕を持つことが適当であるか、もう一枚スクリーニングをかけた判断がいるかどうか、ということを申し上げた。しかしそれが、長い期間になるかどうかの判断は、その時点においてきちんと判断しなければならないことなので、前もって予見を与える──いくら予見性のある金融政策をするといっても、根拠なく予見性を与えることは無責任である──ことを今はできないということを申し上げた。』

ということで、解除の進め方とかに関しては出来るだけオープンというか話を決め打ちさせないようにしてます。当然では有りますが。

まぁそんなところで。

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2005/08/12

○福井総裁、今回も「公的部門のリストラ」を訴える

昨日ご紹介した総裁記者会見の続きです。

『ご承知の通り、日本経済は過去10年以上もの苦しい過程を経て、過去の問題──少なくとも民間部門においては過去の問題──の処理という点について、かなりの進展をみてきた。言い換えれば、ショックに対して脆弱性をもっていた経済が、その脆弱性をかなり脱却し、ショックに対して比較的強い経済に生まれ変わってきている。今回の政治的な変化がさらにどのように発展するかわからないが、このことによって目先すぐ具体的に目に見えるようなかたちで悪い影響が及んでくるかというと、そこまでは言えないような気がする。しかし、今後の政治情勢の展開如何によっては、やはり人々の心理に微妙に悪い影響が染み込んでくるリスクはないとは言えない。このように心理面を通じてボディーブローのように染み込んでくる悪い影響に十分注意を払いながら、今後の経済の動きを判断していく必要がある。その程度の注意深さは必要である。』

『さらに長期的に考えれば、日本経済の新しいダイナミズムを確立するためには、民間部門だけではなく、公的部門のリストラ、構造改革がしっかり伴っていって初めて完成形に近づいていく。将来の課題は非常に明確である。従って、今後の政治情勢の展開が、公的部門の構造改革推進という国民の期待にしっかりと沿うようなかたちで進展していくことが、経済にとって非常に重要である。』

『私は非常に長い目で見て、公的部門の構造改革が民間部門の努力と平仄が合って来ること、これが生命線だと申し上げている。私だけでなくて、日本経済の中で真剣に努力をしておられる一人ひとりの皆様が、過去10年以上の苦しみの過程で築き上げた蓄積の中から十分引き出せる材料をたくさん持っておられる、そのことだけを申し上げている。』

(以上8月9日の総裁記者会見要旨から福井総裁のコメント)

で、この話を読んで思い出したのは「驚愕の審議会」です(^^)。

去年の6月のお話になりますが、財務省における「日本経済の将来ビジョンを語る懇談会」という審議会の第10回会合で、池尾和人先生が大変に身も蓋もない「日本経済の状況」についてお話をされていまして、それに対する議論が行われていました。、その中で池尾先生のプレゼンテーション(まぁ論議の叩き台なんでしょうね)にこんなのがあって「何とまぁそんな本当の事を(^^)」と妙に感動した覚えが。。。。(ちなみに、去年の6月18日に「財務省の密かな悩み」などというお題でドラめもんでご紹介いたしましたが、この当時の文章をさっきざっと斜め読みしたら、ああこんな事書いてたのねと赤面することしきり)

『バブル崩壊によって生じた問題からの脱却の第1局面、すなわち、民間部門の債務を公的部門に付け替え、民間部門の健全化を進める局面は終わりを迎えつつあり、そろそろ公的部門に付け替えられた債務の償却を考えなければならない第2局面に入ってきていると思われる。(実はこの先の方が読み応えがあるのですが、あえて割愛します。是非当該資料をご覧下さい!)』(平成16年6月1日に実施された「日本経済の将来ビジョンを語る懇談会」議事要旨より)

で、まぁ公的部門のリストラをこれから始めましょうってご認識なんでしょうな。今の郵政民営化法案問題ってここで池尾先生が指摘する「公的部門の債務償却」とは何かちと違う気もしますが。。。

当該議事要旨はこちら→http://www.mof.go.jp/singikai/vision/gijiyosi/a160601.htm

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2005/08/11

○というわけでやっと総裁記者会見(^^)

もう進軍ラッパなりまくりですよ先生。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0508a.htm

・踊り場脱却キター

長いので改行入れます。

『(答)日本経済は、実体経済面を見ても物価面を見ても、じわじわと良くなっている。じわじわだが確実に良い方向に進んでいる。従って、前回、「踊り場局面から脱却しつつある」と言ったが、今回も同じかというと同じではなく、少し前進している。』

『なかなか難しいのは、じわじわと良い方向に進む経済がいつ明確に踊り場から脱却したのかということについて、その瞬間を正確にとらえて完了形できちんと判断するのは非常に難しい。少し過ぎてから振り返ってみて、「もう脱却していました」となりかねないのが今の経済の実態の姿だと思う。おそらく今の瞬間はそんなに正確にはわからない。特にIT関連の在庫調整は着実に進展しているが、生産・在庫などの統計で、特に電子部品とかデバイス関連の在庫循環の絵を描いてみると、在庫調整が終了したかあるいは終了するごく直前という感じになり、明確に終了したと断定できるぎりぎりのところにあり、大変微妙な状況になっている。』

『そうしたことも含めて考えると、今の時点で写真判定すれば、少しぼやけた写真判定において、大方踊り場的な局面から脱却したと言えないこともないという感じである。私は文学者ではないので、これ以上うまく言えない。』

いやまぁ強気というか自信満々というか。ところで文学者云々のくだりで茶を噴いてしまいましたが、言葉尻を一々チェックする人が鬱陶しいわけですかそうですか。


・当預残の下限割れ話も結構ありました

結構下限割れ問題も突っ込まれていましたが、「なお書きでの下限割れの程度問題」に関しては定義づけのようなことを極力しないようにという感じを受けました。まぁそりゃ当たり前と申しますか、そもそも「30〜35兆円程度」という「程度」の言葉で済ませる事も出来たところをわざわざ「なお書き」を入れた訳ですから、なお書きの程度問題を明確化しちゃうと自分で自分の首を絞める結果になりますわな(笑)。そんな中で、あたくしもすっかり忘れていた件に関して突っ込みをする人がいたのには受けました。

『(問)当座預金残高目標30〜35兆円程度の中心線は33兆円程度であるという考え方は、変わっていないのかどうか。(後半はのちほど)』

そういやそうでしたすっかり忘れてました(滝汗)。意地の悪い質問ですけど、中心が33兆円だとか言ったのはそもそもが福井総裁な訳ですからね(笑)。

『(答)最初の質問であるが、その点については「なお書き」を今のように修正した5月の金融政策決定会合後の記者会見でご説明した通り、下限割れをしているごく短い期間を除き、通常の状況においては、従来通り33兆円程度を中心に市場調節を行えるであろう、また行っていこうということであり、従来と変わっていない。』

全然33兆円中心じゃありませんが、前に余計な事を言ったツケがこういう所でも回ってきておりますな。この後続けての突っ込みが無かったのは惜しい所ですが、恐らくまた総裁が売り言葉に買い言葉モードになってしまうので矛を収めたんでしょうな。身から出た錆とは言え苦しい答弁だこと。


・市場機能の回復?

同じ人がもう一つ鋭い質問をしております。さっきの質問の続き。

『(問)(前半は上記)また、7月27日の全店手形オペの金利が0.002%となり、最近では0.005%まで上昇しているほか、TBのレートも上がっているが、これは多少なりとも市場機能の正常化に向けて動き出したと見てよいのか、それとも一時的な弾みでなったものと見るべきなのか、あるいは何らかのリスクが出てきていると見るべきなのか、伺いたい。』

『(答)それからごく最近の動きとして、ご指摘のように全店手形オペについて応札が少し増えてきており、応札倍率も上がっている。また応札される方の金利の面での札の入れ方も変わってきている。私どももその変化に十分注目している。』

その通りでございます。ご存知なのは当然とは言えさすが細かいですな。

『今のところ私どもの受け止め方は、経済・物価情勢に関する私どもの基本的シナリオと、世間一般の方々、そして市場参加者の方々の情勢判断について、従来いくらかあったかもしれないギャップが段々と縮まってきており、情勢判断を共有しうる範囲が少し広くなってきている。それに伴って市場参加者の行動が変わり、イールド・カーブの形成のされ方が少し変わり、それが次のオペの機会における応札の態度にも微妙な変化を与えてきている。』

市場がやっと日銀の強気に反応してきたかとご機嫌のようでございます(苦笑)。

『これは、経済・物価情勢の変化、それに対する認識の変化、そして市場参加者の行動の変化、市場のコンディションの変化、それがまた市場関係者の次の行動を促す、というような新しい循環を生み出し始めている可能性があると見ている。まだ始まったばかりのことであるので明確なことは言えないが、そのような循環の走りと受け取れるものではないかと見ている。(以下割愛)』

金利先高感が起きれば「市場機能」とやらはちゃんと復活するんですよ(^^)。


・その他

今回の記者会見では政局の質問と、行財政改革に関する質問が多くでていまして、行財政改革の話が色々と出ていましたが、今日のところは割愛いたします。

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2005/07/29

○総裁記者会見

記者会見要旨はhttp;//www.boj.or.jp/press/05/kk0507b.htm

・表現は控えめかもしれないけど景気の先行きに自信ですな

幾つかの質疑応答の応答部分を注釈なしで引用しておきます。

『本日も情勢をつぶさに点検した。前回の金融政策決定会合以降、多くの経済指標が公表されているわけではないが、個別の情報を刻々と把握している限り、日本経済全体としてじわじわと良い方向に動いているという印象を持っている。公表された指標等は、日本の景気が踊り場脱却に向けて着実に回復を続けていることを裏付けるものであったというのが、本日の金融政策決定会合で共有された判断である。』

『物価に関しての私どもの判断は、先程も申し上げた通り、前回から変わっていない。人によっては、あるいはそれぞれ持っているデータによって、予測のニュアンスに幅があることは当然である。しかし全体として、前回以降、物価についての判断を私どもは変えていない。 あえて言えば、今年末から来年初めにかけて、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比がプラスの領域に入っていく可能性が少し見えている。そういうことまでは言えると思うが、あくまで幅を持ってこれをとらえる必要がある。』

『前回以降、新しい経済指標が多くは発表されていないと申し上げたが、新しく発表された数少ない経済指標の中では、輸出入に関する統計がある。輸出の動向を見ると、全世界向けの輸出として全体をとらえた場合には、輸出の伸びに少し回復の兆しが出ており、これは良い指標と見ている。やや仔細に見ると、中国向け輸出はあまり好ましくない状況であるが、全体としてみると、少し良い感じが出てきている。一方、内需を見ると、設備投資は前回以降新しい数字が出ていないが、夏のボーナスを中心に家計の面に経済の良い影響が均霑(きんてん)してくるという印象もあり、足許の動きにも少し良い感じが強まってきているとみられる。従って、地味だが内需と外需の両方のバランスが比較的良い、地道な回復というシナリオが、新しいデータで少しずつ補強されつつある。』


・当座預金残高目標の「技術的」引下げを排除してませんな

こちらは微妙な質疑応答です。

『(問)量的緩和の枠組み修正という意味を確認したい。量的緩和の枠組み修正の中には、量的緩和の解除はもちろん入ると思うが、現在の当座預金残高目標を積極的に切り込んで減額していくということも、この枠組み修正に含まれると考えて良いか伺いたい。』

『(答)量的緩和の枠組みについては、繰り返して申し上げている通り2つある。1つは、所要準備額を大幅に上回る流動性を供給すること。これは、30〜35兆円程度というような具体的な数値とは切り離した概念である。もう1つは、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで続けるということである。この2つに修正を加える以前の段階は、枠組み修正とは言わない。』

『私が時々申し上げている、積極的に目標値を切り下げるとは、市場条件の変化に則して私どもが受身で何か調整する必要があるかどうかという問題と切り離して、目標値を積極的に切り込んでいくことがあるかどうか、ということを言っている。積極的に切り込んでいくというのは、枠組みの修正に着手したということになっていくだろうと思う。それ以前の段階で──5月に「なお書き」を修正したのもそうであるが──、市場の条件が変わったことに対して受身で現実的な対応をするというのは、基本的なスタンスの修正ではない。別の言い方をすれば、量的緩和の枠組みの修正ではないと明確に言える。そこはセパレートして考えて頂きたい。(以下長いけど同じ話なので割愛)』

要するに「市場の資金需要が乏しく、下限割れを延々と続いた場合の技術的対応はするかもしれませんよ」という事でしょう。会見の度に微妙に強調する部分が違っているようにも(その場にいないからわかんないけど)思えますが、どうも「技術的対応による当預目標引下げ」の願望は強いものと見ましたが
どうでしょうか?

ただ、最近あまり刺激的な言い方をしないのは、景気と物価の先行きに自信を持っているので、そんなに当預目標下げに拘泥しなくても自然と量的緩和政策の解除条件が満たされてくるでしょうって思っているんでしょうかね。


・郵政問題への質問で政治にコメント

会見要旨では最後から2番目の質疑応答部分に相当しますが、例によって本石町日記さんが取り上げておられますので、テキスト引用はせずに、当該エントリーのURLをご紹介しますのでそちらをお読みくださいませ(と手抜き)。

http://hongokucho.exblog.jp/3199278/

ここで『日本の民主政治のレベルを上げる方向』というところに対して、「では政策委員会での金融政策議論のレベルも一つ宜しく」などという野暮な突っ込みをしてはいけませんのでご注意ください(^^)。

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2005/07/25

お題「地に足をつけて金融高度化をしていただきたい」

夏風邪に注意しましょう(とほほ)。

○早速読者様からご指摘頂きました

日銀総裁の「リテール金融フォーラム(日経新聞主催だったようで)」における「金融の新潮流――新たな個人金融サービスの創造」って講演をネタにして金曜日に書いた中であたくしはこんな事を。

「リスクを世の中にあまねくばら撒く」という行為でもある訳でして、まぁそれを広く薄くしてるから無問題って理屈は判らんでもないですが、そもそもショック耐性が個人と金融機関じゃ違いわせんですかねぇという気もしますし。

・・・こう書きますと、「金融機関のリスク耐性>>>個人のリスク耐性」という文脈になりますが、この部分は筆の勢い(というかキーボード叩きの勢い)で滑ってしまってますな、恥ずかしい限りです。ということで以下昨日の話の続き。

時価評価とか減損会計とかと無縁な個人というのは「いざとなったら塩漬け」攻撃という最強の攻撃があるので、そーゆー意味ではリスクを個人に負担させちゃいましょうという総裁講演の趣旨は実に仰せの通りでございます。

ただ、現実問題としてどうなのよ?って事になりますと、「貯蓄から投資」という美名の下に新しい投資商品がぶち込まれ、銀行の投信窓販に続いて証券仲介業もおっぱじまっていますわな。でも肝心の証券仲介業もそもそもは「株式の販売チャネルの拡大」の筈だったんですが、だいぶ前にちょっと書いたと思いますが、発表される証券仲介業務の中身って「株式の個人への販売」じゃなくて「外債など(仕組債含む)の販売」という運用商品の販売ですわな。まぁ個人に株式売るって事になるとシステム投資が結構重いんで入り口が運用商品の販売になるのは経営上仕方ない面はあるのですが。

でまぁ金曜も申しあげた「南アフリカランド建て債券」(4月20日にネタにしてました)話もそうなんですが、どうも運用利回りをアップさせるために「そんなリスクを取る必要があるのか?」というようなリスクを取っている人々が世の中に多いように思えますし、大体そのリスクをちゃんと判って投資しているのか実に謎な債券とか外貨預金とかが絶賛販売中という現状があると思うんですけど。

この状況が福井総裁が講演で言う『金融機関が家計のニーズを適切に汲み取って多様な金融サービスを提供し、それを通じて日本の家計の資金が企業活動のサポートに有効に活用されれば、家計の幸福の増進はもとより、わが国の経済発展にも資するものと期待されます。』っていう状況になっているんでしょうかと申しますと実に「????」だという思いがあるんですよ。

方向性として「貯蓄から投資」っていうのを否定する気はございませんが、現状の「投資」の方向を見ていると、家計というかリテール金融に「リスクを取りましょう」「投資をしましょう」っていう話を日銀が積極的に行うのは、現実を理解してやってますか大丈夫ですかって思いがどうも抜けない次第でございます。

量的緩和政策長期化による運用難の弊害でもあるんですが、まぁ投資に関するというかリスクリターンを把握して投資しましょうっていう啓蒙活動というか教育に力を注ぐ方が日銀としては吉なのではないかと思います。昨日も書きましたが、投資家保護の観点を『このような取り組みに向けて金融機関を突き動かす力は、一言でいえば、市場規律ということになりましょう。(総裁講演)』って言うのは甘いと思いますよ。リスクリターンの関係を見抜くように投資家への啓蒙活動を行わないと「市場規律」も機能しないと思いますが。

まぁそれ以前に「運用利回りのために過度のリスク選好」というのは個人投資家というよりは金融機うわなにをするやめろhdflふkじlk

・・・・金曜も書いたように「お前が言うな」って青臭い話を延々と展開して誠に恐縮でございます。すいませんすいません。

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2005/07/22

○で、リテール金融の高度化な訳ですが

そんなニュース(中国人民元切り上げ)が飛び込む前の昨日の債券相場は訳もわからず上昇して参加者一同「???」ではありましたが、まぁ先物が訳判らず動くのは最近の相場のお約束という事で宜しいのではないかと存じます(おいおい)。

そんな相場の中で福井総裁の講演要旨が公表されました。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0507b_f.htm

何でも「リテール金融フォーラム」という何でもフォーラムとかにするのが大好きですねって会合での講演でして、講演のお題が「金融の新潮流――新たな個人金融サービスの創造」ってお話。

内容は相変わらずでして、リテール金融を高度化させてバラ色の未来を築きましょうっていう楽観的なお話でございます。どうも冒頭の金融の現状認識のあたりから既に机上の楽観論というか現実はそうじゃねぇと思うがどうなのよっていうお話が並ぶわけでございまして、金融庁様のお出しになる「一つ一つは誠にご尤もな政策なんですが、全体を通してみると右の手と左の手でやってる事が矛盾してませんか」という如何にも頭でっかちな施策にも相通じるところがございます。

で、そのあたりを突っ込むというのもやりたいのですが、論点が拡散するのでまぁ本日は別のポイントに突っ込みを。

・どうもこう「リスクの分散」をしたがる訳ですが

まとめの部分で福井総裁はこういうお話をしております。まぁいつもの持論ではございますが。

『繰り返しになりますが、金融機関が家計のニーズを適切に汲み取って多様な金融サービスを提供し、それを通じて日本の家計の資金が企業活動のサポートに有効に活用されれば、家計の幸福の増進はもとより、わが国の経済発展にも資するものと期待されます。また、それは同時に、リスクの分散を通じて、わが国の金融システムが外部ショックに対して頑健性を増すことにも資するのです。』

家計のニーズって企業活動のサポートなんでしょうかねぇという話をしだすともはやイデオロギー論争になるのでその辺は突っ込まない事と致しまして(笑)、浅学菲才なあたくしめがど〜も疑問に思うのは「リスクの分散」というお話。

いやまぁ確かに金融システムっつーか金融機関の経営の安定という観点で言えば確かに仰せのように「金融システムが外部ショックに対して頑健性を増す」のですけれども、それって「リスクを世の中にあまねくばら撒く」という行為でもある訳でして、まぁそれを広く薄くしてるから無問題って理屈は判らんでもないですが、そもそもショック耐性が個人と金融機関じゃ違いわせんですか(編集時追記:この部分は正直おかしい書き方してますんで、翌日のエントリーで追記します)ねぇという気もしますし。

問題を一箇所にまとめておくというのも一つの考え方にならんですかね。何と申しますか、昨今の「金融高度化」で個人にも色々と趣向を凝らした金融商品が販売されているようでございますが、正直「一般ピープルがこんな種類のリスクをとる意味があるのかよ」って商品も目白押しだったりする(かつてドラめもんでちょっとご紹介したIBRD発行南アフリカランド建債券なんぞ序の口)わけでして(と物凄く抑えたトーンで書いているあたくしに気が付きちょっと自分に萎える)、金利が上昇した時に個人のポートフォリオに「塩漬けになった運用商品」がゴロゴロ転がるという間抜けな結果にならないようにして頂きたいものでございます。

・「投資家保護の観点」が甘いでしょ

で、まぁそうならないために投資家保護の観点が必要だって話はさすがに総裁もしておられるのですが、その話の矛先がいわゆる「投資サービス法」の制定に向かっているのが残念な所でございます。肝心の部分はどうも「金融機関の自主的な取組」と「市場規律」ってことになりそうでして、正直それでは金融機関への抑止力には為らないでしょってのがあたくしの印象。

『そこ(引用者注:投資サービスにおける包括法)では、事細かな義務を羅列するような法制を目指すのではなく、金融サービス提供業者が何をおいても遵守すべき基本原則、例えば運用指図への忠実義務、顧客財産の分別管理といったFiduciary dutyを、明確に示すことを基本とすべきだと考えます。そのうえで、より重要なのは、顧客から高度な信頼性を確保するための、金融機関自身による自発的な取り組みを促進するような枠組みです。』

『このような取り組みに向けて金融機関を突き動かす力は、一言でいえば、市場規律ということになりましょう。ペイオフ全面解禁後は、預金者自身が金融機関を厳格に選別することが期待されるわけですが、金融商品が多様化・複雑化する中で、預金者の選別だけで、市場規律が十全に作用するとは言えません。金融機関の株主、債権者のほか、その株式を上場する証券取引所、さらには監査法人や格付機関、あるいは金融機関のガバナンス機構の中での社外取締役といった様々な主体が、複合的に市場規律を働かせていくことが必要です。また、市場規律を働かせる起点となる市場ルールの形成は、監督当局から言われるまでもなく、市場参加者自身が率先して担っていくべきです。』

だそうなのですが、それはちと楽観しすぎではないかと存じますが(ってセルサイドの人間が言うことじゃねぇぞコノヤローと言われますと「誠に申し訳ございません」となりますが)。

まぁお前が言うなといわれるのを承知の上で申しあげますと、金融商品の高度化がどうのこうのという前に、金融知識の普及、しかも「新しい高度な金融商品マンセー」的な某経済新聞的提灯教育ではない知識の普及をする努力が先決じゃねぇかと思う次第。セルサイドの立場としてはアフォばかりのほうがそりゃ儲かるんですけど、日本経済全体ってこと考えるとそれじゃイカンでしょうと何か偉そうな事を申しあげて本日は時間も無くなったのでこの辺で。

「セルサイドにいる人間が何エラソーに言ってるんだ」というご批判は甘んじて受けますんで・・・・・(と、3度も繰り返すのはくどいですかそうですか)

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2005/07/15

お題「総裁記者会見(続き)」

会見要旨が日銀Webにアップされましたので昨日の続きをば。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0507a.htm

○景気に関する質問が目立つ会見でした

今回の記者会見要旨を読みますと、(昨日ご紹介した)金融経済月報において景気に関る部分の文章構成を組み替えて、強気っぽい書き方が増えたり、先行きの懸念材料の部分を削除したりと「強気トーン」が目立つものだった事もありまして、景気に関する質問がうじゃうじゃ。全部引用していると例によって記者会見要旨の3分の2くらいを使ってしまいますんで。

会見の冒頭で述べた景気に関する現状認識と先行き見通し&踊り場脱却云々の部分。

『若干敷衍すると、日本の景気は、IT関連分野における調整の動きを伴いつつも、回復を続けている。今申し上げた通り、輸出は伸び悩んでいるが、IT関連分野の在庫調整が進むもとで、生産は緩やかな増加傾向にある。企業収益が高水準を続ける中、企業の景況感にも再び改善がみられ──これは短観が示している通りである──、設備投資は増加し続けている。そして、雇用面の改善や賃金の下げ止まりから雇用者所得は緩やかながらも増加しており、そのもとで個人消費は底堅く推移している。』

『先行きについても、海外経済の拡大が続くもと、輸出の伸びが次第に高まっていくとみられるほか、国内民間需要も、高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に引き続き増加していく可能性が高い。こうしたことから、緩やかながらも息の長い景気回復が続くと判断している。』

『踊り場脱却に関するお尋ねであるが、わが国の景気は踊り場を脱却したとまで明確に言い切れないものの、脱却しつつあると判断して良いのではないかと思う。IT関連分野の調整は、なお若干尾を引いているが、企業部門の状況の良さが家計部門に次第に浸透してきており、景気回復が当初のシナリオよりは少し広がりを持って動いて来ている。そこまで含めて私どもは踊り場を脱却しつつあると判断している。』

ということで、景気に関しては昨日ご紹介したように「内需が予想より好調で、外需の伸び悩みをカバーという好循環」になっているというお話で、その結果として好調な企業業績が家計部門に浸透するという昔の「ダム論」的な表現に自信を深めているという所でしょう。


○物価に関して

『消費者物価指数については、本日の中間評価においても、2005年度中は前年比ゼロ近傍、2006年度は前年比プラスに転じるとの見通しであり、前回の展望レポートの見通しに概ね沿って推移すると予想している。私どもは、本年末から来年初にかけて、米価格の下落や電気・電話料金引き下げといった特殊要因の影響が順次消えていく過程で、消費者物価指数の前年比がプラスに転じる可能性が少しずつ見えて来ていると思っている。』

『もっとも、こうした見通しには、原油価格の動向をはじめとして、様々な不確定要因、上振れ・下振れ要因があり、今の段階では幅をもって見ていく必要がある。なお、物価情勢の基本的な判断については、消費者物価指数の動きだけでなく、他の物価指標の動き、その背後にある経済の動向等を総合的に検討していく必要があるという点は、これまでも繰り返し申し上げている通りである。今後ともそうした立場に立って、物価動向を丹念に点検して行きたいと思っている。』

で、原油価格が高止まりしてCPIがプラス転換した場合の「経済と物価の関係」に関する質問に関してはこういう風に答えております。

『いずれにせよ、仮に原油価格が比較的高い水準に止まり、人々の事前の予想よりも高止まりするという動きをする場合には、程度の差はあれ、物価には上昇要因、そして経済にとってはマイナス要因となる。従って、その場合には、いわゆるデフレ経済からの脱却についての判断は非常に複雑なことになってくると思う。』

CPIプラス転換に関しても自信を持っているということのようですが、原油価格要因で物価が上昇した時点での景気動向に関しても注意しておきますよって言っており、CPIの先行き見通し強気発言が過度にマーケットに思惑を呼ばないように気を使っていると見ました。


○やはり家計部門への波及を重視していますな

先ほどと同じ質疑応答で家計部門への景気回復効果波及が物価に及ぼす影響との関係を述べてます。

『一方、景気については「踊り場を脱却しつつある」というように申し上げたが、景気が踊り場を脱却しそれが順調に推移していく中で、家計部門への好影響が順調に進むということであれば、それはユニット・レーバー・コスト(単位当りの労働コスト)の上昇というかたちで、物価面に徐々に浸透してくる可能性がある。この場合は、景気の堅調さと物価の上昇とが両立してくるケースであるから、デフレ経済からの脱却という点では、原油価格の場合よりは方向性が揃っているので判断がしやすいと思う。』

『しかし、今後は原油価格の要因、ユニット・レーバー・コストを通ずる要因、両方が複雑に絡み合って出てくると思うので、良く噛み分けながら正確な判断が必要だということである。』

強気コメントをしながらも、余裕綽々といった雰囲気が感じられますわな。


○「余裕を持った対応」の大切さ

てな訳で、昨日も申しあげたように「余裕」が見られる総裁記者会見。

景気の先行きに関して自信がより強くなったので「余裕をもって対応」できるようになったという事のようで、誠に結構なお話ではございますが、裏を返せばちょっと減速するとまた「余裕が無くなる」のではないかという悪寒もする訳ですが、まぁこの調子で落ち着いて欲しいものです。

つーかこうやって総裁が景気の先行きに自信をもって落ち着いた対応をしていれば、マーケットも「なるほど景気回復ですかそうですか」という反応を示すというもの(あまりにも根拠レスな自信だったらダメでしょうが^^)でございます。ここもとの当座預金残高目標引下げ論議大迷走状態の時は「今の機会に当座預金残高目標を引き下げて置かないと、目標引下げのチャンスを失うかもしれない」というような日銀の「焦り」のようなものが感じ取られるというものでして、その辺の微妙な焦りを感じた市場が、10年金利1.2%割れを演出したなどというのはちょっとマーケットを褒めすぎのような気もしますが(苦笑)。

勝手な推測になりますが、景気が回復傾向→財務省の財政再建路線が炸裂→景気が頭打ち→量的緩和継続→日銀マズーという流れになる前に当預目標を下げておきたいっていう思惑も頭をかすめたのかも知れませんが、まぁ兎も角4月くらいからおっぱじまった「当座預金残高目標引下げ騒動」が日銀の「余裕の復活」で収まったというのは結構なことであります。


○ということで、もう一つのポイントだった今後の金融政策に関る総裁コメント

昨日引用した部分の再掲になりますが、ここの質疑はポイントですんで質問も含めて引用します。

『(問)総裁が景気認識で踊り場を脱却しつつあるとおっしゃった一方で、当座預金残高目標を変更しなかったことは、景気が踊り場から完全に脱却したことを確認しないと当座預金残高の目標を引き下げないという理解で良いのか、あるいは違うのかを伺いたい。』

『(答)これも繰り返しお答えしてきたことをもう一度きちんと申し上げる。量的緩和の枠組みの修正という意味において、当座預金残高の目標額を日本銀行として積極的に切り込んでいくというアプローチは、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるまでは行わない。つまり、3条件を満たしたと政策委員会が判断するまでは行わない。』

質問では「景気認識の上方修正と当座預金残高目標減額をリンクさせるか否か」という意味も込められていると思いますが、この答えによりますと、景気認識そのものだけでの当座預金残高目標減額は行わない(量的緩和政策解除の条件が整えば話は別)ということになる訳ですわな。つまり「解除する時に金利ターゲットに切り替えます」って話でして、まぁ一気に当預残を30兆円減らすのは技術的に問題があるでしょうから半月とか1ヶ月とかかけて減らすんでしょうが、とりあえずそういう対応を取る所存ってことでしょ。その続き。

『もう1つは、先般「なお書き」をつけたように、枠組み修正ということとは全然別に、金融市場の状況の変化に即して現実的な金融政策としての何がしかの調整が必要かどうか。この点については前々回「なお書き」を修正することによって、この金融市場における流動性需要の大きな波という厳しい局面に対応し得るようになった。今後の市場状況の変化と照らし合わせながら、よく観察していけば良い。今のところ、ここで何らかの予定的行動を隠し持っているということはない。今後、全くオープンに判断していけば良いと思っている。』

別の質疑ではこういう話も。

『(問)先程の質問で当座預金残高目標を切り込んでいくといったお答えがあったが、流動性の需要が非常に厳しい状況には、現実的な政策で対応すると言われたということで良いか。』

『(答)対処していくと申し上げたわけではない。そこは全くオープンである。金融システムの安定度合いが強まるにつれて、金融市場の中の反応がどのように変わるか、それは今までのところ「なお書き」措置で十分だということで対処したわけである。今後、市場がどのような反応をさらに示してくるかということによって判断していかなければならない。今のところ「そうしなければならない」という感じで見ているわけではない。 なお、量的緩和の枠組みそのものを修正するということとは別の話としてお答えしたところである。』

つー事で、「技術的対応」に関してはなお書き修正を行ったので当面の対応は済んでいますという立場。まぁ確かに先々の「更なる技術的対応」は排除してませんので、また「やらせ割り込み」でもやらかす可能性は否定できませんが、まぁとりあえず余計な騒ぎを起こさないようにしましょうって事かと。



○「市場との対話」を阻害するもの

えーっとですな。そんな記者会見を受けて某恐怖金融新聞さまにおかれましてはその1面トップ記事の見出しに「秋にも当預残高目標引下げ議論再燃も」というものを掲載して、「次回の展望レポートで景気に関してより判断を前進させて、当座預金残高目標の引下げ議論が再燃するでしょう」みたいな見通し記事を書いておられたりする訳ですが、あんたアフォですかと小一時間ですわな。

だいたい金融政策に関して折角日銀が色々アナウンスしているのに、何故か予断をもって解釈してるんだか何だか知りませんが、素直じゃない珍解釈をおっぱじめて電波な解説を流しだすというのが時折見られるこの新聞社。困ったことに経済のクォリティペーパーなもんで、偉い人とかが見ちゃいまして、ここの言説に思いっきり世の中が誘導されやすいのは悲しいかな現実としてある訳
でございます。

てな訳で、どうも折角の「市場の対話」に関してノイズ発生あるいは増幅装置としての役割を果たしているのではないかと思われるこの新聞社はもうちょっと勉強して欲しいものです。

あ、そうしたらドラめもんの存在意義(んなもんあるかどうか知らんが)無くなるか(爆)

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2005/07/14

○総裁記者会見:景気には強気、政策スタンスは緩和維持の腰が強くなる

以下のソースは昨日18時22分のブルームバーグニュース。会見要旨は本日日銀Webにアップされると存じます。

・景気は踊り場を脱したんでしょうなぁという認識

『まだ景気が踊り場を脱却したとまで明確に言い切れないところが残っているが、脱却しつつあると判断できるのではないか。IT関連分野の調整がなお若干尾を引いているが、企業部門の状況の良さが家計部門に次第に浸透して、景気回復が当初のシナリオより少し幅を持って動いている、広がりを持って動いている。そこまで含めて、われわれは踊り場を脱却しつつあると判断している。』

コメント付け加える必要もない強気トーン。


・コミットメント3条件達成前の当座預金残高目標引下げ否定

『これまで繰り返してお答えしたことをもう1度きちんと申しあげると、量的緩和の枠組みの修正という意味で、当座預金残高の目標額を日銀として積極的に切り込んでいく、というふうなアプローチは、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるまではしない、つまり、3条件を満たしたと政策委員会が判断するまではしない、ということだ』

『もう1つは、先般、なお書きを付けたように、枠組み修正ということとは全然別に、金融市場の状況の変化に即して、現実的な金融政策としては何がしかのアジャストメントがいるかどうか、この点については、なお書きを修正することによって、金融市場における流動性需要の大きな波という厳しい局面には対応し得るようになったので、この状況で、今後の市場の動向、推移というか、市場状況の変化と照らし合わせながら、よく観察していけばよい。』

『今のところ、ここで何らかの予定的行動を隠し持っているということはない。まったくオープンに今後判断していけばよい。こういうふうに思っている。』

じゃぁ「技術的に」目標を下げないのかという点は巧みに回避してますが、まぁこの部分を市場参加者がフツーに読みますと、上記小見出しのような解釈になるのではないかと思いますんで、市場は「やっと落ち着きましたか」とホッとしている(除く短資会社)かと存じます。


景気判断を前進させるとこれまでの場合は大はしゃぎモードになって当預目標引下げがどうのこうのとかもっと昔は緩和解除をどうするのか何て話で盛り上がるという悪癖がありましたが、今般のなお書き修正騒動が相当堪えた(かどうかは知りませんが)のか、今回はヒジョーに「落ち着いた対応」になっておりまして、誠に結構でございます(^^)。というか本来こうあるべきであって(だいたいまた書きだって本来当預残高目標に「程度」って入っていたんだからイラネェ筈だったんですけれども)、やっと本来の落ち着きを取り戻したというのが正しい。

まぁそれだけ先行きの景気に対して強気なんで、「果報(=量的緩和解除の条件が満たされる)は寝て待て」モードになってきたんだと見るのが妥当な所でしょう。

記者会見はもうちょっと見るところがありそうなのでまた明日。

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2005/06/27

○全国信用金庫大会における福井総裁挨拶

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0506d.htm

まぁ大した話はしてないのですが、金曜の経済紙の日銀ウォッチ記事あたりでは「武藤副総裁のハト派講演と平仄を合わせる?」というようなコメントが出てましたのでちょっとだけ。

どうも挨拶のこのあたりをネタにして、「武藤副総裁のハト派講演に呼応して当座預金残高維持を改めて強調した」ということらしく、ちとソースが見当たらないのですが、その後の談話でも同じようなことを強調したと読んだような気が。

『もとより、通常は、「30〜35兆円程度」という当座預金残高目標は維持されます。金融市場に所要準備額を大幅に上回る潤沢な流動性を供給し、これを消費者物価に基づく「約束」に沿って続けていくという、量的緩和政策の枠組みにはいささかも変わりありません。』

「通常は」とか「いささかも」と相変わらず強調をするのがお得意のようですけれども、そんなに一々強調するんだったら何で6月はやる気を感じさせない調節をやってわざわざ当預30兆割り込ませたのか意味判らんということになる訳ですが、突如サービスフレーズが出てくるのは福井総裁の仕様ですので、一々気にしてはいけません(^^)。

今度総裁のサービスフレーズ研究でもしてみたいものですな。

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2005/06/20

お題「総裁記者会見続き」

今やっている某経済ニュース番組のコメンテーターさまは米国債券市場について、「原油価格上昇→消費減退→債券買い」だが、「原油価格下落→景気減速→債券買い」だと堂々コメント。ギャグというか債券市場の地合いが良いという事を例えるために言ってるのかと思えばどうも大真面目らしく、ポジショントークもほどほどにしましょうと思うあたくしなのでありました。

どうもネタがあんまり無いので総裁記者会見の続き。

○市場機能がどうのこうのという話

ほとんど蒟蒻問答の世界となっている質疑応答。

『(問)今までの記者会見でも何度か使われている「市場機能を過度に封殺する」ということについて、もう少し具体的にどういうことを言っておられるのか、説明頂きたい。』

『(答)長い期間にわたって、日本銀行は大量の資金供給を市場に行ってきており、その結果として、日本銀行のオペレーションへの民間金融機関の依存度が、実体的にも心理的にも高まっている。また、市場での価格形成も、日本銀行のオペレーションに左右される度合いが強まっている。』

まずこの時点でマッチポンプな訳でして、金融機関が必要とする量を大きく上回る資金を供給した結果ですから、依存度が高まるもへったくれも無いわけですが。

『本来、市場においては、市場参加者が自らの金利感あるいは資金ポジションの動向等を考えながら資金の取引を行う。これが市場本来の機能であるが、そこが必ずしも十分には働きにくいという状況になっている。』

上に同じ。ここから先が判ったような判らんような理屈。
 
『もともと量的緩和を進める以上、そういうことになりかねない、あるいは、現になるだろうし多少はなっても仕方がないと、ある割り切りを持ってやってきていることは事実である。その程度があまりにも行き過ぎないかどうかという極めて難しい判断である。』

いやまぁ量的緩和政策を長期化してるからそうなるもんなのでして、それは量を減らせば済む問題なのかというのは微妙な気がしますし、そもそも当座預金残高目標を設定する根拠の数字が訳判らんから環境に変化(為替市場への介入が無くなったのが主要因かと存じますが)が生じた時にどうなるのかという検討ができませんなぁという話でしょうか。先日申しあげたように、いざ当預目標引き下げの提案って話になったらいきなり引き下げ額の数字が違っているわけですし、あはは。

『ある数字で示すということはできない世界である。実際の市場の中で、市場関係者の主体的な動きがどれくらい弱まっているか、あるいは逆に甦りつつあるのかということは、現実にオペレーションの舞台の主役として市場の中に入っていけば、非常に明確に感じることであるが、一歩離れて数字だけで判断しようとするとなかなか難しい話だということをご理解頂きたい。』

そんなもの市場にいても判断できませんが何か?短期金融市場の市場機能がどうのこうのって問題は量的緩和政策を行うコインの裏表みたいな話ですから、どうもこの「市場機能の封殺がどうのこうの」っていうのを見るにつれ、「短期金融市場(と、直接的表現を避けるあたくし)>>当預残高の量」というスタンスが見えてきますわな。



○でまぁ市場機能の回復をしたいのかと思えば・・・・・

その後の方での質疑応答では上記の「市場機能封殺」問題と話のケツが合わないお話をしているのですが、大丈夫でしょうか??

『(問)先程、当座預金残高目標の下限割れの話の中で、市場からは不規則な反応がなかったという話をされていた。そうした反応がなかったことは良いのだが、そうだとすると、今まで維持してきた30兆円という数字の意味合いというのは、以前と今とでは違ってきているということなのか。29兆数千億円でも市場がそういう反応であるということは、30兆円という金額にどのような意味があるのか、意味が変わってきているとお考えなのか、ということについて伺いたい。』

『(答)消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで所要準備を大幅に上回る流動性を供給するという意味は、流動性を大量に供給することによって短期を中心に金利を低めに抑えるとともに、金融システムにおいても資金繰り面での安心感を恒常的に与え続け、そしてコミットメントによって時間軸効果を働かせて金利の安定を一層補強する、というメカニズムは一切変わっていない。』

えーっとそれは量的緩和政策の極めて公的な見解でございますが、さっき話していた「市場機能を封殺しない」だの「市場の金利発見機能を損なわない」という話と整合性が取れないように思えますな。「短期を中心に金利を低めに抑える」とか「時間軸効果を働かせて金利の安定を一層補強」って・・・・・



○そして禅問答

この質問者はどうも「量的緩和の量」に関して突っ込みをしたかったらしく、次に量についての突っ込みをしているのが惜しい所です。市場機能に関するツッコミをして欲しかった所です。

『(問)下限を割っても市場が反応しないということになると、所要準備より多ければ何兆円でも良いのではないかという話になりかねないと思うのだが、そういうことにはならないのか。』

『(答)意味のない流動性の供給をしてきた覚えはない。実際に金融システムに不安がある時には瞬間蒸発的に日本銀行の供給した流動性が消えるという状況であった。今はその状況が変わってきているということは繰り返し申し上げてきたところである。そういうふうに市場の状況が変われば同じ大きさの金額であってもメリットとデメリットの相関関係は微妙に変わってくるということは正直に申し上げているが、基本的な流動性供給の機能、コミットメントの効果、これは変わらないということである。』

この後の質疑応答で「金融システム不安」というところに対してツッコミがありましたが、その質問に対しては『ペイオフ全面解禁が終わったから金融システムの問題について量的緩和の必要がなくなったというのは、極めて皮相的な見方だと言わせて頂く。』と言っておりまして、もはや何が何だか訳のわからない状態になっておりまして実に香ばしい。正直、引用しているあたくしも一体全体何がどうなっているのかワケワカメになってくる一連の質疑応答でございました。


#えーっと、本石町日記さんから「Music Baton」ネタを振られているのですが、意外にまとめに困っているので本日はパスって事で勘弁。

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2005/06/17

○総裁記者会見

金融政策決定会合結果を受けた総裁記者会見はこちら→http://www.boj.or.jp/press/05/kk0506b.htm

例によって紙に打ち出すと9ページと内容豊富ですが、勝手にポイントを拾ってみますと(1)調節現場はつらいよ(2)景気認識のダム論話(3)日銀のバランスシートに関する言及と言った所でしょうか。

(1)調節現場はつらいよ(あるいは営業局手法の復活?)

先日からその気配はあったのですが、総裁記者会見では「当座預金残高下限割れは現場の判断」という大変に香ばしい理論が展開されております。

『(問)前回の金融政策決定会合以降、6月2・3日にいわゆる「なお書き」を適用したと見られる当座預金残高目標の下限割れという事態があった。これに関して、総裁は直前に何らかの場で「現場の判断である」とおっしゃったが、その判断についてどのように評価されているか。また一部には、年度末にあったようなオペをすれば、下限割れは回避できたのではないかという指摘もあるが、総裁がこの間繰り返し話されている「市場機能の封殺」というものとの兼ね合いで、どのような市場機能を封殺しないために、そのような下限割れの容認というかたちになったのか伺いたい。』

『(答)(前半部分割愛)前回の金融政策決定会合以降、今日までの金融市場局における具体的な市場調節振りを見ていると、政策委員会が示したディレクティブ通りの調節が行われてきていると思う。かなり期間の長いオペレーションを多用しながら、基本的にはターゲット達成のための資金供給を相当な努力を払いながら続けてきた。しかし、おっしゃった通り、6月2・3日の2日間について言えば、調節部署の市場の中における感触として、極端に無理な調節をするということと、市場機能を過度に封殺するということとの矛盾のひとつの場面に遭遇したということである。その結果として下限割れを容認したということであるので、文字通り、ディレクティブ通りの調節が行われてきたと理解している。実際、市場のほうでも、そうした調節と呼吸を上手く合わせたかたちで市場地合いが円滑に形成されてきていると思っている。市場と日本銀行の調節とのコミュニケーションは、円滑に進んできていると理解している。』

金融調節に関しては政策決定会合で方針を決定する訳で、金利ターゲットであれば誘導金利の目標水準が決定された方針通りに運営されるように行い、現在の当座預金残高ターゲットであれば当座預金が・・・って筈なのですが、どうもこの理屈では調節現場が目標下限割れ容認の判断をするらしいですな。

・・・・大丈夫か政策委員会。。。

ちなみに、6月2日、3日の当座預金30兆円割れに絡んでより直球をぶち投げた質問がございます。紙に出すと3ページ目になるのですが、質問に対する総裁の答えがもう何というか営業局時代のシグナリングオペの容認みたいな話をしたりしてるんですが、引用すると量が多くなりますし、はてさて?って感じですので、楽しい質問に関して引用しておきましょう(^^)。

『(問)6月2・3日の当座預金残高が29兆円台になったことについて伺いたい。5月31日に金融市場局が通知した手形買入全店オペでは、1兆円の供給枠に対して3兆618億円の応募があり、超過的な資金需要がさらに2兆円あったはずである。つまり、6月2・3日に即日オペをやらなくても、前日にオペをやれば不足を埋められたはずである。今、市場からはなんなく受け入れられたとの話しであったが、私の聞くところによると反論もかなりあった。市場の地合いを見ながらオペをやるというのは十分わかるが、5月31日の全店オペ時の2兆円の「落選した資金需要」をなぜ6月2・3日につぎ込まなかったのか。また、「なお書き」で、「資金需要が極めて弱いと判断される場合には」とあり、英語でも「it is judged」となっているが、この判断は誰がするのか。金融市場に普段関わりがある人であれば、以心伝心で何となくわかるかもしれないが、世間一般の人が読んでも、全然わからないと思うが如何か。』

実に素晴らしいツッコミです。答えは会見要旨をご覧下さい。もちろん最初の第一声は『最終的な判断は、現実に市場の中にあって、市場と直面しながら市場の感触というものを全面に受け止めながら調節にあたっている調節責任者に委ねられている。』でして、その後に延々と理屈を並べているのが香ばしい。

この観点の質疑はもうちょっとありましたが、まぁ代表的な質疑はこの2つかな。いつの間に政策決定会合で決めていた判断が現場に降りて来たんでしょうな。


(2)景気認識のダム論

金融経済月報に関してあたくしが「企業収益の向上が雇用環境の改善に向かう」という話が書いてありますなぁと思ったら、同じ事を質問している人がいました。

『(問)景気について伺いたい。金融経済月報にもあったが、輸出は足許少し伸び悩んでいる、生産は4〜6月は少し停滞気味になるだろうという見方が多い中で、企業の収益が雇用や賃金に波及して消費が底堅さを増しているという状況については、企業から家計へのメカニズムという部分が少しクローズ・アップされてきたような感触を受ける。そう考えると、5年前に「ダム論」というのがあり、その時は結局ITバブルの崩壊によって、そこで唱えられていた家計への波及メカニズムというバトン・タッチは行われなかったのだが、足許と5年前の類似点および相違点について総裁の見解を伺いたい。』

『(答)IT調整については、5年前の大きなハイテク・バブル崩壊後の調整と比べ調整の深度が違うという点は明確に言えると思う。現に、足許のIT調整は順調に進捗中だということにそれが表れていると思う。家計のほうについても、これも企業のリストラの進展度合いが5年前と現在とでは大きく違っているわけで、短観などでも人手不足感という世界に一歩足を踏み入れつつあるところまでリストラが進んでいる。雇用の増加、そして雇用者所得の増加、いずれも今回のほうがより確実性をもって、しっかりした土台の上にそれが実現してきているということが言えると思う。従って、両面からの景気回復への軌道の築かれ方というのは、5年前に比べてはるかに安定したものだということが言えると思う。(後半部分割愛)』

もう一回短問短答がございましたが、景気に関しては「回復の裾野が広がっている」という認識のようです。ちなみに総裁は「派手な回復ではなく、地味で息の長い回復」と言ってましたんで、まぁ景気に関しては自信満々でしょう。しかし地味に回復する景気だったらそんなに慌てて量的緩和の出口論を唱える必要は無いんじゃネーノ?慌てるのはインフレ昂進懸念がでるような回復速度の時でしょうに・・・・


(3)日銀バランスシートの話

『(問)日本銀行のバランスシート問題について伺いたい。先日発表された決算で日銀の資産規模は、6年連続で拡大を続け、過去最高を更新したということだが、これは量的緩和政策によって積極的なオペや長期国債買入を行った結果だと思う。先日の水野審議委員の講演では、量的緩和政策の副作用の一つとして日銀のバランスシート肥大化の弊害を挙げているが、改めてGDPの3分の1に達している日銀のバランスシートの規模──諸外国と比較しても極めて突出した状態だが──についてどう見ているのか伺いたい。』

『(答)日本銀行のバランスシートが肥大化するということ自体は、量的緩和政策をとる以上必然的な現象だと思う。従って、そのこと自体が問題というよりも、量的緩和政策をとり続けることによって、市場の中にディストーション(歪み)が生じ過ぎないかということが論点の一つである。』

ここまでは話わかるのですが、

『また、日本銀行のバランスシートについて関心をお持ちであるとすれば、例えば、日本銀行のバランスシートが、期間の長い資産が多くなり硬直化し過ぎていないか、将来の金融調節のフレキシビリティに対して懸念を持たせる材料を累積していないか、といった点が重要だと思う。』

問題は資産の質であって、持ってるものが国債でそんなに問題なのか??

『バランスシートが大きくなる過程で、資産の中身を見た場合に、極めて期間の短い資産で積み上げられている場合と、期間の長い資産で積み上げられていく場合とでは、そのリスク度に対する判断は随分変わってくると思う。最近までのところを見ると、日本銀行はかなり期間の長いオペを多用しながら流動性供給目標を達成してきており、その結果、日本銀行の資産の平均的な期間は長くなってきている。市場の機能を封殺し過ぎていないかということと、日本銀行のバランスシートの資産面での期間の長期化ということは裏腹の関係にあり、どちら側から見ても、同じ判断に結びつくような状況が出てきているということは確かで、私どもは強い関心を持って見ている。』

うーん・・・・・


ちなみに、他にも結構お笑い(というか笑えない)質疑応答(市場機能がどうしたとか、「関係筋」によると議論が白熱したはずなのに、何か淡々と議事が進行したかのようないい方をしてますなぁとか)があるのですが、まぁ来週ネタが無かったら掲載致します。

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2005/06/02

○総裁、その発言はどうかと思うぞ

時事通信の報じる所によりますと、福井総裁は経済財政諮問会議終了後に当座預金残高の目標下限割れが起きるとの見方について、「あすになってみないと分からない。市場の中で自ずと決まる」と答えたそうです(ソースは1日19時11分配信の時事メイン)。

まぁお馴染みのその場での当意即妙なるご発言だと存じますが、今現在まさしく当座預金残高の誘導を政策として行っている筈なのですが、「市場の中で自ずと決まる」ってそりゃ何よという感じでございますな(-_-メ)。まぁ要するにその辺が福井総裁の本音ってことで今まで良くもまぁ猫をかぶり続けたとそっちのほうに感心するやら呆れるやらと言ったところです。

ちなみに、そのニュースでは調節方針について「(現場に指示は)しない。現場の責任でやらなければうまくいかない」とも仰せでして、「市場機能を封殺しないでとことん供給」という訳の判らん方針にのっとってオペレーションをしなければいけない現場の中の人に対しては激しくご同情申しあげたいところです。

昔々あたくしがとあるところ(今いる所ではないので念の為^^)でディーラーをやっていた時に、一日終わってから日中のチャートを見ながら「ここで売ってからこのあたりで買い戻しをしていくんだ」と得々と解説したり、「良い所で買っとけ」などという発言をする素晴らしい上役がいましたなあそういえばあのひと元気でやってるかなあなどと懐かしく思い出してしまうような福井総裁様の「現場の責任」発言でありました。あっはっは。

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2005/06/01

○備忘録:福井総裁のソウルでの発言

ブルームバーグニュースに発言内容が載ってましたな。5月27日13時55分配信のニュースでした。しかし日高記者@ブルームバーグってソウルにもお出かけだったんですね。まさに東奔西走(^^)。

「市場のなかで、従来の(景気が)悪いとき、日銀という一種の散水車が水を撒いても何も芽が生えてこなかったのと比べると、今は、散水車が同じように水を撒き続けているわけだが、地面は水浸しになっている。しかし、その中から『取引は自分たちでできる、少しは金利機能を生かしながらできる』という新芽が出てきている」

「そんなに新芽が一夜空け(原文ママ)たら出揃うわけではないにしても、ポツポツと新芽が出てきたとき、散水車がそれを全部踏みにじったり、それで根腐れを起こしても平気だ、というのは、やはり将来のことまで考えて良い結果を出そうとする金融政策の姿勢からすれば、無責任になる。引き続き、散水車は水を撒き散らして走るが、新芽には注意深くいかなければならないのではないか」

以上自分の備忘録のために引用しておきました。まぁこれら状況証拠を並べると当座預金残高目標引き下げはもう目前ですな。なんちゅうか人から聞いたゼロ金利解除前の日銀驀進モードに似ている気が・・・・(-_-メ)。

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2005/05/31

○審議委員走る

週末から今週にかけて審議委員の皆様があちこちで発言やら講演やらなさっておられます。先週は中原審議委員の講演(26日)をご紹介しましたが、週末には金融学会で岩田副総裁の講演が行われた(講演内容がどこにあるのか判らんです。苺BBSの経済板で講演の要点を報告したレスがございましたが、今のところそれしか見てないです。学会に行けば資料とか配布されたと思うんですが、日銀Webにのっけてくれないかなぁ・・・・・と思いますが内容の話によるとちと無理ぽの悪寒も^^)ようですな。

昨日の福井総裁は、国際コンファランスでの開会挨拶でまた発言。週末には日経新聞のインタビューに西村審議委員が答えているようですが、日経読まない無精者なので内容は存じません(大汗)。つーか特定メディアとのインタビューの時は後で残るのが新聞記事のテキストだけになっちゃっうので、後からトレースできねぇじゃねぇかよと思いますが。


・福井総裁の国際コンファランス(日銀金融研究所主催)での挨拶より
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0505d.htm

『中央銀行にとって最も重要な成果は、特定の数値目標を達成すること自体ではないと考えています。ある一つの特定の物価指数が現在安定していることは、将来の持続的な成長を常に保証するものではありません。それゆえ、中央銀行が持続的な成長と整合的な物価の経路を追求していくようなインセンティブを生み出すように制度を設計していくことが重要だと考えます。』

いやまぁ経済の持続的な成長が最大の目的ってのはそりゃそうですけど、インフレ参照値を主張する人も経済の持続的な成長に寄与するための手段として参照値を入れましょって言ってるんじゃあーりませんかねぇと思うのですが。この調子では景気が無事に回復したらそのまま昔の金利政策に戻るだけになりそうですな。国会なんかではインフレ参照値に理解ある振りをしてますがね。

『私自身は、日本銀行政策委員会議長としていくつかのことを心に留めています。第一に心にとめている点は、反論や少数意見を歓迎することです。そうした意見は最終的には良い決定に貢献するものだからです。第二に、私の姿勢が議論にあまりに大きな影響を与えないようにすることです。』

ひょっとしてそれはギャグで言って(以下略^^)

金融政策の方向を変えようという動きをしだしたら急に反論少数意見大歓迎ですかそうですか。今までそんなこと言ってませんでしたけどね。

岩田副総裁と西村審議委員の件に関してはソースを鋭意捜索致します。

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2005/05/30

○福井総裁の「市場機能」発言またも

金曜日の福井総裁はソウルでの国際金融セミナーのようなものにご出席。そこで「On Stabilization Politics: A Centaral Banker's Reflaction」ってお題で講演をしております。で、本当はこの講演を訳出しておかないとと思っていたのですが、例によってナマケモノモードになってしまい斜め読みしただけだったりします(汗)。ちなみに本文は英語なので、英文ページだけにしか掲載されておりません。(http://www.boj.or.jp/en/press/05/ko0505b.htm)

英語のスピーチと言えば昨年の6月には武藤副総裁がロンドンで行った英文スピーチを誤訳してレポートを作ったどこぞの証券会社のレポートをネタにして債券大いに下落という事件がありましたな。その時の学習効果で今回は日銀Webのトップページの新着情報で「英文スピーチはこちらを読め」というのが出ておりまして誠に結構ですな。で、さっき「誤訳」と言いましたが、どう考えてもそりゃ意図的なインチキ訳出だし捏造じゃねぇのかというレポート書いた張本人は別にお咎めも無かったんですかねぇ。何だかなぁ。

余談はともかく、昼休み時間に情報ベンダーからフラッシュで流れていた福井総裁発言で、「市場機能の新芽が出てきている」という趣旨のものがありました。どうも講演後でのぶら下がりで先般のなお書き追加についてコメントしたことのようです。

先日ご紹介した金融政策決定会合後の記者会見でもそうでしたが、ここの所総裁の口から出てくるのは「市場機能」って言葉でありますな。この「市場機能」って何のこっちゃというのに関しては金曜日の時事メインコラム「金融観測」でも『もっともこの「市場機能」が何を意味するのかは、市場関係者には「分からない」し日銀内にも分かる向きはいない(27日17:09配信記事より)』といわれておりますし、あたくしも実の所よー判らん。

よーわからんのですが、市場機能と言われますとやはり短期金融市場ということになるとおもいますんで、あたくしの解釈は「短期金融市場におけるタームもの取引の活性化」って事になりますんで、必然的に「長めの短期金利が上昇」って発想になりますが、まぁそれも正しいのかどうかは神の味噌汁でして、市場でも解釈に苦慮しているというのが現状ですわな。

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2005/05/24

では総裁記者会見も目出度くアップされたのでそちらに関して。
会見要旨はhttp://www.boj.pr.jp/press/05/kk0505b.htm

#本日は会見引用が多いので増量企画になっております。

○総裁記者会見:最も象徴的な質疑

会見要旨で5番目に出てくる質問が実に素晴らしい。

『(問)2月の時点では当座預金残高が30〜35兆円程度を下回ることは全く見通していないと発言されていたかと思うが、今回「程度をいささか下回る」という表現で、マーケットを封殺することとのトレード・オフなのだろうが、下回る可能性があるとなったのはどういうことか。3月と6月を比べて6月のほうが厳しい状況という認識なのか。これについては3月のほうが厳しかったのではないかという指摘も聞くがどうか。そうでないとすれば3月の時点で市場を封殺し過ぎたという反省なり総括があるのか、その辺りについてどうお考えか伺いたい。』

この質問は実に鋭い点を突いてますな。6月の資金不足に関しては目標割れは回避できるでしょって話が優勢な訳でして、敢えてこの時期になお書き追加をする意味は何でしょ?って点もそうですが、2月には「全く見通していない」と言っていたものがわずか3ヵ月後に前言撤回とはどういうことよって突っ込みもございますわな。それと最近言ってる「市場機能」問題ですか。で、その回答ですが3段落に分かれてます。

『(答)3月も今回も非常に厳しい状況に私どもは直面していると言って良いと思う。ただ3月の場合には、おそらく下限を割らずに済むのではないかという蓋然性をここで申し上げた。少し賭けをしたような気持ちになっていた。結果的に下限を割らずに済んだのであるが、オペレーション上はかなり苦しい操作を用いたと率直に申し上げて良いと思う。』

「少し賭けをした」ってそりゃ何よ??「売り言葉に買い言葉でその場の勢いで強い表現を使った」の間違いのような気が思いっきりしますが、日本語の「賭け」はどっちかというと「背水の陣の鉄砲バクチ」って印象を与えると思うので日銀総裁の発言としては毎度お馴染みの「勢いでの発言」であってもどうかね。まぁ賭けとはケシカランとか言われたら恐らく「政策決定というのは正しさを期しても100%上手くいくとは限らないという意味で賭けだと言った」とでも返してくるんでしょうが。

それはともかく、この部分であるように「3月はオペレーションでかなり苦しい操作をした」という事にしているので、6月はオペレーションで苦しい操作はしませんよと言っているように取れますわな。さてどうなる事やら。では続き。

『これから目先6月の資金不足のピークにかけて、現実にどういう資金需要あるいはその資金需要の後退という状況に直面するか全くわからない。実際に動いてみないとわからないため予測めいたことは申し上げられないが、ペイオフ全面解禁後の全般的な金融市場あるいは金融機関の動向等を見ていると、やはり一段と落ち着く方向にあるので、資金需要そのものは引き続き緩やかに後退の方向にある。逆に言えば、オペレーション上の困難度は徐々に増していくであろうと想定している。従って、今回こういう措置をとったということである。』

市場では「6月の資金不足も無事に乗り切れる公算が高い」だったように思えますが、何か話を捻じ曲げてね? とにかく「ペイオフ全面解禁(そもそもこれが大いなる尻抜けなのだが)」→「金融不安の後退」→「資金需要の減退」→「当座預金残高が減るのは当然」という話にもっていきたがっているわけですな。第3段落はこうなってます。

『「なお書き」を注意深くお読み頂ければと思うが、上限を突破する場合は上限を突破するような調節を行うとしっかり書いてあるわけであるが、今回設けた下限のほうは、「精一杯下限を割らない努力をする、そういうオペレーションをする」ということが前提で、しかし、結果的に下限を下回ることがあり得るという表現になっている。能動的にオペレーションで下限を割るようにもっていくという意図は全くないということが明確に読み取れるのではないかと思う。従って、これは結果が出てみないとわからない部分がある。 』

大幅資金不足の時に結果的に下限を割るだけだったら「程度」の範囲内で全然問題ない筈なのですが、それをわざわざ入れる意味に関する説明がございませんな。で、その他の説明では「資金需要が減っている中で無理矢理オペレーションを実施しない」と言っている訳でして、結局「技術的」と言いながら全然技術的じゃないように思っちゃうのはあたくしが意地悪なだけですかそうですか。


○市場機能がどうのこうのという話題

まぁこの会見は当然ながらツッコミの嵐になっておりまして、会見要旨を見る限りでは(インタビューは見てない)途中から総裁さまご機嫌大いに悪化モードと思われる節がありますが、市場機能の封殺がどうのこうのって話は何度も突っ込まれてます。総裁のご機嫌を損ねるような質問が登場。

『(問)総裁は、最近、量的緩和政策の副作用についても言及をし始めていると思うが、金融システムが安定化する中で、副作用がさらに出てくる可能性があるのかということと、財務大臣が、最近、量的緩和政策に対して発言していたが、この発言が今回の決定に何か影響を与えたことがあるのかどうかについて伺いたい。』

『(答)副作用について最近考え始めたとおっしゃったのは大変心外である。非常に深い緩和政策をやり続けている時は、常時、作用と副作用の関係を真剣に考え続けていると前々から申し上げている。しかも、それは紙の上にバランス・シートを書いてメリット、デメリットと判定できるほどスタティック(静態的)なものではない。実際、市場の中でオペレーションに入って、その手応え、市場の反応というものを感じながら、私どもがここまでオペに突っ込んだ時に市場の中に生じるデメリット、それが拡散していくデメリットというものをダイナミックに感じながら判定し続けていくというものである。従って、今回「なお書き」を設けて対応する場合にも、オペはとことんまでやるということであり、「とことん」という意味は、市場の中で市場機能を封殺する度合いがあまりに行き過ぎないかということを、現実にオペレーションをしつつ感じながら、ぎりぎりまで限界を追求する。しかし結果としていくらかはみ出るリスクがあるから「なお書き」を設けた、ということである。動きながら判定しているということをご理解頂ければと思う。(財務大臣がどうのこうのという後半部分割愛)』

うーむ、「オペはとことんまでやる」「市場の中で市場機能を封殺する度合いがあまりに行き過ぎないかということを、現実にオペレーションをしつつ感じながら、ぎりぎりまで限界を追求する。」「いくらかはみ出るリスクがある」って説明はどうも訳ワカメですな。量的緩和政策の政策ロジックよりも市場機能とやらが重要だと言いたいのでしょうか。なんてしじょうにふれんどりーなそうさいなんでしょうか(棒読み)。しかしとことんまでオペやるけど市場機能を封殺しないってのは良く判らん。だいたい中央銀行のオペレーションってのは「公開市場操作」っていうくらいでまんま市場介入でしょうと思うのだが。

当然ながら上記説明では訳判らんと思うのが人情でして、その後でこんな質問が出ております。

『(問)先程、「市場を見ながらオペをとことんまでやる」とのことであったが、経済情勢によっては「とことん」の部分が変わるのかどうか伺いたい。例えば、オペの期間について、6か月のオペはやるが、8か月のオペはやらないというような状況もありうるのかどうか伺いたい。』

『(答)期間の短いオペに比べてより長いオペをやったからといって、「とことん」になったと理解されるほど、記者の皆さんは市場の取材者としてアマチュアではないと私は理解している。あくまで、市場の機能との対比で、ダイナミックに物事を判断していくということである。記者の皆さんの取材先の答えも常にそうであろうと思う。何か月のオペをやったから日本銀行は「とことんやった」なんていう、そんな単純な答えを出すマーケット・プレーヤーないしマーケット・アナリストはそれほどいらっしゃらないのではないかと思う。それほど市場調節というのは、その時々の市場条件の中における私どものオペが働きかける作用、それに対する市場の反応を見極めつつ判定していかなければならない。「生きた市場」に対する私どもの「生きたオペ」というものは、答えも「生きた答え」ということであるから一律ではない。事前に一定の数字ないしパターンでもって判定できない性格のものである。』

殆ど喧嘩ですなこりゃ(笑)。結局こういう答えになるしかないんですから「とことん実施」とか余計な事を言う必要はないわけですし、「とことん実施」しても残高維持が難しいのであれば、国債の買い切りを増やすというのが量的緩和政策実行時の政策ロジックだったと存じますが。「とことん実施」とか言いながら下限割れ容認をわざわざ文書化するという行為は意味判らん。そんなに市場機能とやらが大事なのでしょうか?それとも市場機能はただの悪魔祓いの呪文で、要するに当座預金を下げたいんじゃねぇのかと小一時間ですな。


質疑の最後の方では、この市場機能がどうのこうのという点について再度突っ込みがされております。

『(問)従来からあった「なお書き」の明確なメッセージは、金融市場が不安定化している中で、それがさらに実体経済に波及するようなことを日本銀行は断固として防ぐという決意を、市場や国民に対して示すということであったかと思う。これに対して、今回付け加えられた「なお書き」は何がメッセージかということだが、今まで話を伺った範囲では──予防線を張っておくというか、やや言い訳めくということでないのであれば──、局面によっては、結果として残高という量よりも市場機能が死なないことのほうを重視する、というメッセージのように、少なくとも今までの発言からは受け取れるが、そういう理解でよいか。』

まぁ普通そういう理解するでしょうと思うのですが、この答えがまた謎。

『(答)そういう理解では困る。私どもは、量的緩和の枠組みを消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで堅持すると言っている。もっとも、デフレ・スパイラルに陥るリスクが高まるという時とは違うわけだから、市場機能を封殺するにも限度があるわけで、そこの限界を見極めながら、適度な現実的対応を施すことによって、この枠組みを長持ちさせることができる。狙いはあくまでも量的緩和の枠組みの堅持であり、これが主たる課題である。そのために、市場機能を過度に封殺しないということが、金融システムの安定度合が増せば増すほど、もう一つの付帯的条件になってきている。この条件の兼ね合いをきちんと調整しながら、量的緩和の成果を上げることをまっとうしていきたい。狙いは量的緩和の維持ということである。』

何回読んでも意味判らん・・・・・この後も一言質問回答が続きますが、会見要旨読んで下さいませ。



○またも「日銀のバランスシート」話ですが

でまぁ国債買い切り問題に関しては同じ事を考える人は当然ながら取材記者の皆様にもおいでな訳でして、この次の質問ではこんなのが。

『(問)3点質問がある。(1点目と3点目は割愛)2点目は、2001年3月19日に量的緩和の導入を決めた際に、必要であるならば長期国債の買い切り額を増やすと書いてあるが、「オペをとことんやる」というならば、選択肢として長期国債の買い切り額を増やすということが念頭にないのかを伺いたい。(以下割愛)』

『(答)長期国債買い切りの増額については、デフレ・スパイラルのリスクを含みながら経済情勢がどんどん悪くなっていく、そして市場の中における信用不安に絡んで資金需要がどんどん増えていくという中にあっては、日本銀行のバランス・シートを極端に歪めてでも対応しなければならないということが、おそらく暗黙のうちに前提となって行われてきたと思う。その点に関しては、今、明らかに状況が違っているわけである。日本銀行のバランス・シートに大きなディストーション(歪み)をもたらすと、将来のオペレーションの弾力性を著しく欠き、将来の金融政策に責任が持てなくなる。長期国債についてオペレーションの額を増やすという考えは、そういう観点から容易に出てこない考えだとご理解頂きたいと思う。』

国債を沢山買うという行為のどこがどう「バランスシートを極端に歪める」のだか1ミリも理解できませんですが、ここでは日銀のバランスシートの話を持ち出しておりますわな。どうもこれも言い訳に持ち出した悪魔祓いの呪文のような気がする。だいたいそうならそうで、ちゃんと量的緩和政策の政策ロジックを見直して書き直しするのが筋じゃねぇの??


いやまぁ政策ロジックもへったくれもないですが、これからどうなっちゃうのでしょうか?期せずして日々の金融調節が注目を浴びる事態になってしまいましたし、なんだか大変なことになってしまいましたな。

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2005/05/16

お題「うやむやのうちに政策ロジックを変更する人(-_-メ)」

○経済同友会での福井総裁講演・・・・・ロジック変更で当預引き下げか?

13日の金曜日なだけに福井総裁が怪しげな講演をしていたようですな。いつの間に実施したんだって感じで、情報ベンダーなどで見た記憶があまり無いのですが、早速日銀Webにアップされております。

http://www.boj.or.jp/press/05/ko0505a_f.htm

経済同友会会員懇談会での講演で、お題は「日本経済の力強い成長に向けて」ですんで、景気動向と今後の見通しに関連する話もあるのですが、ウォッチャー的に衝撃の内容というか「ああそういう流れになるんでしょうなぁ」という意味では衝撃じゃなかったりしますが、金融政策に関する実に香ばしい言及がございます。多分景気に関する部分も読んでおいた方がよさげな気もしますが本日は金融政策部分だけ。


・「量的緩和政策の枠組み」がいつの間にやら・・・・・

講演の最後の方にある(金融政策運営)以降をご紹介します。

『日本銀行は、現在、日銀当座預金残高という「量」を主たる操作目標とする金融緩和の枠組み――いわゆる「量的緩和政策」――を採用しています。この量的緩和政策の枠組みは、大きく言えば、次の2つから成り立っています。』

枠組みもへったくれもそもそも論として「量を目標にした政策」でしょって言うのは読みが甘い(^^)。今回の講演では堂々と「量的緩和政策はゼロ金利+時間軸」と言い出しております。どさくさに紛れて金利政策に戻るという事のようですが、「量的緩和政策は金利ターゲットじゃない」と言い出して始めた政策を何のレビューも棚卸しもせずになし崩しで変えて良いんでしょうかねぇ。

『先ず、第一に、日本銀行は、金融市場に極めて潤沢な資金供給を続けています。具体的には、金融機関が法律上の義務等で、日本銀行に預けることが求められている資金――これを所要準備預金と言い、現在は6兆円程度ですが――を大幅に上回る資金を供給しています。これにより、金融市場では、流動性に関する安心感が隈なく広がるとともに、コール市場でのゼロ金利が実現しています。』

『第二に、日本銀行は、こうした政策を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比変化率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するという、中央銀行としては異例の「約束」をしています。これによって、市場参加者が、ゼロ金利の継続を予想することを通じて、やや長めの金利を引き下げることとなります。』

いやー、思いっきりロジック変更ですな。こんなに簡単に今までの政策ロジックを放棄するとは思わなかった。こんなのありかよぉぉぉぉ!!!


・相対性緩和論がなお進化しているようですが(-_-メ)

『今述べたような量的緩和政策の枠組みを導入してから、4年以上が経過しました。この間、量的緩和政策の枠組みに変化はありませんが、政策効果は、直面する経済や物価の状況、金融市場や金融システムの状況によって変わって来ます。』

相対性緩和論ですかそうですか、と思うのは同じく読みが甘かった。説明部分をまる引用していると長くなるので思いっきり端折って紹介します。

『こうした金融経済情勢(引用者注:金融不安だのクレジットクランチだのという状況)の下では、機動的に潤沢な流動性を供給することで、人々や市場参加者の流動性に関する不安心理を抑制し、金融市場の安定化を達成することにより、緩和的な金融環境をしっかりと維持することが必要でした。』

『経済・物価情勢が好転すれば、それに応じて金利が上昇するものですが、「約束」があることで、先行きの金利予想を安定させることを通じて、やや長めの金利を引き下げ、企業は引き続き低利での資金調達が可能となります。一方、景気の回復に伴って投資の収益率が高まるため、経済活動における投資採算はそれに応じて改善することになります。』

というこの怪理論はど〜ゆ〜事かと申しますと、要するに上でご紹介した政策ロジックのどさくさ紛れの変更と同じことなのですが、「経済状況が悪い時には量の効果があり、経済状況が良い時には時間軸効果がある」という「相対性緩和論」を発展させた「相対性政策効果論」(命名がイマイチ。誰か考えて〜)だと言うことですわな。

同じ箇所でこういう言い方もしております。

『この時期(引用者注:さっきと同じ時期)、見方によっては、「約束」の効果<いわゆる「時間軸」効果>よりも、流動性不安を鎮めることを通じる「量」の効果の方が大きかったといえるかもしれません。』

『量的緩和政策の枠組みは、景気が回復に向かえば向かうほど、サポートする力も強くなります。この場合、「量」の効果との比較では、「約束」の効果の方に徐々にウエイトが移って来ます。』

まぁ相対性緩和論そのまんまとも言えそうですが(^^)。


・当然ながら当座預金残高目標引き下げの話になる訳で

以前から指摘しているように、当座預金残高目標の引き下げを量的緩和政策のロジックから外すというお話です。

『政策委員会でも、現在のような高い当座預金残高目標をこのまま維持することの是非をめぐり議論が展開されています。ただ、これはあくまでも、金融機関の流動性需要や金融市場の状況が変化している実情に即して、量的緩和の枠組みを堅持して行くためにはどのような対応が適当なのか、という観点に立って行われている議論です。消費者物価指数に基づく明確な「約束」に沿って、所要準備を大きく上回る潤沢な資金供給を続けることでしっかりと金融緩和を継続する、という基本スタンスにはいささかの揺るぎもありません。』


・・・・と言うわけで、経済同友会でまず説明行脚と言ったところでしょうか。この調子だと、あちこち説明行脚して近いうち(まさか今週はやらないと思うが、ありえないとは言えませんな)に当預引き下げですなぁ。困ったもんだ。

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2005/05/06

お題「福井総裁記者会見」

既に1週間前の話になっちゃいますが、金融政策決定会合後の定例記者会見要旨が日銀Webにアップされました。紙に打ち出すと10ページ分になる結構な量です。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0505a.htm

○「量的緩和の枠組み」という表現あるいはトリック

『量的緩和の解除までのプロセスにおける当座預金残高目標の扱い等について、改めて現在の考えを伺いたい。』

質疑応答の中で、こんな部分がありまして、総裁はこれに対して以下のように回答しております。

『緩和の枠組みの修正についてであるが、かねてより申し上げている通り、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで修正には踏み切らないという点は全く変わらない。』

ここまではまぁよいのですが・・・・

『そもそも量的緩和の枠組みは何かということであるが、今回の展望レポートでも改めて書かせて頂いているかと思うが、要するに所要準備額を大幅に上回るような流動性を供給し続けるということ、そして、それを先程申し上げた消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるための条件――3つの条件に噛み砕いて理解頂いているかと思うが――が満たされるまでは続けるというコミットメント、この2つから成り立っている。しかも、この2つのコミットメントは非常に堅い約束だとご理解頂ければと思う。』

量的緩和政策の枠組みというそもそも論をしているのですが、もっとそもそも論で言えば量的緩和政策ってのは「当座預金残高目標」という「量」をターゲットにした政策であって上記回答にある「要するに所要準備額を大幅に上回るような」というのは「所要準備額を大幅に上回っていれば量はどうでも良い」という話じゃなかった筈ですが。

上記の回答は量的緩和政策の「枠組み」を維持するという名目の下に、量的緩和政策と言っていた政策をなし崩し的に「ゼロ金利+時間軸」に変更しようとしている福井総裁(あるいは政策委員会)の意思を反映したものですなぁと読みましたがどんなもんでしょ?

あたくし的には「金利ターゲット政策ではない」と言っておっぱじめた量的緩和政策の「量」の意味をレビューすることなく有耶無耶のうちに「量的緩和政策の枠組み」という言い方でいつの間にやら金利ターゲットに回帰するのはちとそりゃどうなのよって思いますが。


○当座預金残高目標引下げの判断をしたいんですね

『当座預金残高目標を引き下げることは金融引締めとは直接関係ないという説明をされてきていると思うが、この説明は市場参加者も含めて外部でかなり浸透してきていると見ておられるのか。また、先程おっしゃった金融システムの安定が事実として確認されていて、流動性需要も少なくなっているという状況の中で、今の当座預金残高目標の水準を維持しているということは、もう少し様子を見るという意味なのか、それとも実体的に何らかの意味を持ってやられているのか伺いたい。』

福井総裁の回答。

『毎回の政策委員会で今おっしゃった点についても正確に判断していきたいということで、既に過去2回、あるいは3回になるかもしれないが判断を繰り返してきている。今後もそうした判断を繰り返していきたい、正確を期したいということである。』

この部分は何か少々意味判らん。その続き。

『流動性需要が後退しつつあるということは事実である。そうでなければ札割れというような現象は起こらないわけである。しかし、札割れが起こっていても、即座に対応するというほど軽々しく判断はしない。いくら技術的な対応と言っても、流動性供給目標そのものについて何がしかの修正を加えるというのは、やはり金融政策上は非常に重要な判断であることに間違いないので、そこはしっかりすべての材料を繰り返し点検しながら、誤りなきを期させて頂きたいと思っている。』

当座預金残高目標引下げに対して「金融政策上は非常に重要な判断」と言ってますので、うやむやのうちに理屈をごまかしているという意識はあるようですが、「誤りなきを期させて頂きたい」ってんですからやる気は満々なんですねと読むあたくしは読みすぎですかねぇ。


○少数意見に対する総裁の言い方のビミョーな変化(^^)

月曜にも書きましたが、現状の政策継続に反対(=当座預金残高目標を引き下げるべし)する少数意見に対する総裁の表現。

『私自身、前回の記者会見でも申し上げたが、少数意見の中に将来物事を判断していく場合に価値ある部分というのが必ず含まれているはずである。政策委員会の議論というのは一種の創造的な過程であるので、そういう目で少数意見をみて、意見が分かれて困るという見方をせず、将来に価値あるものでうまくつなげられる部分をきちんと活かしていくことに、議長として責任を感じている。』

前回4月6日は同じように政策委員会の議論が創造的な過程という話しをしながらこのように言ってます。

『少数意見については、私は議長として、その中で将来につながる価値ある部分が含まれているかどうかということを、今後よく考えたい。』
『(将来につながる価値があるかどうかどう考えているかという質問に対して)まだ即断を許さないと思う。これから真剣に考えたいと思っている。』

と言うことで、どうも「将来につながる価値ある部分が含まれているかどうか」を「良く考えた」結果として「必ず含まれているはず」という事になったようで(^^)。しょうもない言葉尻かもしれませんが。


○量的緩和政策の継続に関しては逆に強調する形

になっております。当座預金残高目標引下げ問題に関しては何だかんだと言いながらもやる気満々っぽく言ってますので、それが「量的緩和政策の出口論」と結び付けられるのは困るというのは良く判ります。回答の中から2つピックアップしてみますとこんな感じ。

『私どもは古い指数(現在の消費者物価指数。2006年8月の改定で下方修正されるけどどうですかという質問に関連しているのでこういう言い方になってます)がプラスになったら直ちに政策行動を起こすとは言っていない。コミットメントの3条件のうち、3つ目の条件を見ても、経済の実勢、物価の変化の実勢というものを正しく判断していこうということである。』

『普通、金融政策というものは、状況を先取りしながら早目早目に対応するというのが基本原則である。先々を読みながら、引き締めの場合も緩和の場合も、やはり先手を打ってやるというのが常道だと思う。しかし、デフレ脱却という大変難しい仕事、しかも脱却を妨げる条件が必ずしも短期間のうちに一挙に消え去るものではないという前提に立てば、景気が回復しても物価が上がりにくい状況が続く限りは、金融政策の本来の姿は早目早目であるという原則よりも、緩いペースで物事を考えていくことで間違いはないのではないかと思っている。』

まぁこんな感じ。よくよく見ますと、2番目の回答の続きに資産価格やその他の事は見ますが・・・などというお話もしてますが、概ね「量的緩和政策は継続するから当座預金残高目標は引き下げさせて下さいね」ってトーンになっているようですな。


また景気に関しては強気継続しております。

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2005/04/18

○G7後の日銀総裁記者会見

会見要旨はこちら(http://www.boj.or.jp/press/05/kk0504c_f.htm)でして、G7終了後に30分やった割には物凄く簡単な「要旨」になっております。で、朝のブルームバーグテレビによりますと、ここには出てないんですが、福井総裁は日本の景気に関して「日本経済の基礎体温はまだ低い」というお話をしたそうな。(他のソースは無いかと探したのですが見当たらないのであたくしの脳内メモリーベースのお話ですが)

いやまぁ経済指標は確かに弱いのですが、何も株式市場が安くなり債券市場が高くなっている今その発言をする事はないでしょうにって思うのですが。まぁ日銀総裁発言に一々株式市場は反応しないでしょうが、債券市場はうっかりするとまた反応しちゃうんですが、毎度毎度のことですが、総裁の不規則発言は相場の方向性を加速する趣旨のお話が多くて誠に遺憾でございますな。ディーラーとしては「面白い」ので「もっとやれ」とも思いますが(^^)、「市場との対話」などと偉そうな事を仰っているのですからちったぁ発言のタイミングを考えて言えやとおもうのですが。(しかし「基礎体温」は用語おかしくねぇかと思うのですが^^)

ま、G7といえば今回はこんなニュース→http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20050417AT1F1601G16042005.htmlあたりが話題でしょうかって所ですが、まぁ財政再建も結構ですが、デフレ脱却まで待った方がよかとじゃないですかって思いますがどうなんでしょうかねぇ。

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2005/04/08

お題「総裁記者会見と総裁国会答弁」

○参議院財政金融委員会の国会答弁

昨日の参議院財政金融委員会では日銀半期報告質疑が行われまして、福井総裁と武藤副総裁(ほか誰か出席したかもしれませんが)が出席して答弁をしておりました。で、その中で福井総裁は「仮に」ということで「当座預金残高目標を数字の上で調整するとしても、実態的緩和を維持するなかでも技術的調整であるということが理解されるべきであり、日銀としてもそういう説明をすることになろう」(ロイター日本語版)という趣旨のお話をしていたそうな。

一昨日の債券市場では「金融政策決定会合で現状維持に反対票が入った」というのをネタにして債券先物が売られていたというのは昨日申しあげましたが、もし「当座預金残高目標引き下げ問題」が債券相場に対してヒジョーーーにナーバスになるようなお話だとしたら昨日の国会答弁でも債券相場は売られるって事になるんですが、昨日の債券市場は全然売りで反応しないとは誠に遺憾の極みであります。


ま、理由としては、

(1)そもそも当座預金残高目標の引き下げが債券市場的にはテクニカル調整だと解釈されているのであんまり重大視されていない。
(2)まぁ日銀総裁発言に関しては話半分に聞いておかないと2月末の「福井ショック」の二の舞になるから気にしない。
(3)この発言が「当座預金残高目標の引き下げに大きく踏み込んだ発言」だと理解できていない。

なんてののどれか(あるいは合わせ技)が考えられますな。その時の現物債とか先物の売り手と買い手の力関係(一昨日は現物が全般的に重く、昨日は6年〜7年ゾーンの現物と先物が強かった)で「材料にしたり材料にしなかったり」という程度の扱いなのかとも思いますが、実は(3)なのかもしれませんのでご注意を。

しかし当日の答弁のフラッシュが流れましたが、相変わらず金利関連に関する話は金利低下を牽制しているのかなぁってのも散見されまして、相変わらず困ったお方だという感じです。



○珍しく荒れなかったような総裁記者会見

金融政策決定会合を受けた総裁定例記者会見ですが、珍しく平穏な記者会見になったようで誠に結構であります(^^)。http://www.boj.or.jp/press/05/kk0504a.htm

「展望レポートの見通し期間延長問題」に関して

『(答)なぜこの時期にと言われると返事に窮する。この時期とすることに特別の大きな理由があったわけではない。いろいろなかたちで工夫を凝らしながら私どものコミュニケーションを良くしていく。政策決定の前提となる私ども自身の見通しを極力先に延ばしながら、それに基づいて政策決定をしていく。見通しについてはできる限りお示しして、共有して頂きながら、私どもの政策行動についても理解を深めて頂く。こうした以前からの運動の一環であり、別にこれに限らず様々な工夫を凝らしてきているし、今後も続けていくということである。』

以下延々と説明が続きますので上記URLをご参照って事なんですけれども(^^)、いつものパターンならここを先途と「消費者物価指数の今年度見通しが下方修正されるからじゃないんですか」と来てもおかしくないのですが、長々と言い訳をしたことによって「いや日銀様もお苦しいですなぁ」って雰囲気になったのでは無いかと言うのはあたくしの勝手な憶測ですけどね。あっはっは。


ところで、質疑応答の最後の方で反対票(=当座預金残高目標を技術的に引き下げましょうって趣旨での反対)に対する総裁の意見を聞いているお方がおられまして、これに対する総裁発言はちょっと微妙です。

『(答)私自身は議長の立場として、十分議論を尽くした上で、多数意見で本日の結論を取りまとめた。日本銀行の政策委員会は典型的な合議体であり、議論を尽くして一つの結論を導き出すための創造的な過程である。その際に、全会一致の場合もあるし、少数意見が残る場合もある。少数意見については、私は議長として、その中で将来につながる価値ある部分が含まれているかどうかということを、今後よく考えたい。(後半部分割愛)』

最後の一文が実に微妙なんですが、まぁ一般論として言っているというよりは市場としては「こりゃ福井総裁もホンネでは当座預金残高目標引き下げに傾いていますなぁ」って事になるんでしょう。昨日の国会答弁もあわせますと益々その感を強くします。で、まぁこれはさすがに微妙な所なので突っ込みが数本入ります。

『(問)少数意見の中に将来につながる価値があるかどうかについて、総裁は今どのようにお考えか。』

『(答)まだ即断を許さないと思う。これから真剣に考えたいと思っている。』

うーん、やはり総裁は目標引き下げっぽいなぁ・・・・

『(問)以前に、ペイオフ全面解禁後の流動性需要の動向などをみていきたいというご発言もあったかと思うが、即断を許さないと言われるのは、その辺りのこととも絡んでいるのか。』

『(答)この席でも、あるいは国会でご質問があった場合にも、ペイオフ全面解禁後の経済情勢の展開、金融システムの安定化度合いの更なる深まりの状況、それらを背景としながら金融市場がどう変化するか、具体的な流動性需要がどう変化するか、といったことを十分考えながらでなければ結論の出ない問題である、と申し上げてきた。ペイオフ全面解禁後まだ数日の状況であるので、そういう意味で、まだ予断をもって臨むべき段階ではないと私自身は思っている。』

で、この後「じゃあどの程度の期間を見れば見極めがつくのか?」という質問に対しては「期間じゃなくて今後の情勢次第」って回答をしておりまして、まぁこの調子ではある程度経済指標が良くなって来て、その時に当座預金残高目標の維持がしんどくなっていた場合は福井総裁は動きたがりそうですな。岩田副総裁が恐らく反対するとは思うのですが、5月以降とか6月あたりは少々鬼門かもしれませんなぁ。


○「前後不接連」はあるのか??

という訳で当座預金残高目標の「技術的な引き下げ」への道筋を絶賛敷設中となっているように見える福井総裁。今般の金融政策決定会合は植田審議委員の任期中に行われる最後の会合でして、これで量的緩和政策導入(2001年3月)時の審議委員は全員入れ替わりとなりますが、日銀ウォッチャー大先輩(つーかあたくしはなんちゃってウォッチャーなのだが)の某氏は「人の切れ目が政策の切れ目になる、なーんちゃって。そんな馬鹿なこと、あるはずはない。と思う。」って話をしておりましたが、本当にそんなことが起きそうな悪寒。

こんな時は以前ドラめもんでご紹介した深田祐介著の「大東亜会議の真実(PHP新書)」にありました中華民国(いわゆる南京政府ですな)汪兆銘行政院長の言葉を思い出すわけです。再掲になりますが。

「日本政府に対して言いたいことは山ほどある。それを要約すると三つの”不”に到達する。”上下不貫徹”、”前後不接連”、”左右不連携”。上役がよろしいと受けても下が聞かん。前任者が言ったことを後任者はそんなことは俺は全然知らんと問題にしない。左右の連携もまったく欠けている。」(戦後外務次官を務めた黄田多喜夫さんの談話として紹介されています。同書68ページより引用)

つーか前後不接連というか当座預金残高引き上げは今の委員がやっているわけですけどね、あっはっは。

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2005/04/04

○まぁこういうのに突っ込むのは野暮なんでしょうが

平成17年度入行式における総裁挨拶要旨ってのが日銀のWebにアップされております。(http://www.boj.or.jp/press/05/ko0504a.htm)雑談的にくだらなく突っ込み。まずはペイオフ解禁云々の前半部分。

『本日(4月1日)からペイオフ全面解禁と申しまして、政府が預金を特別に保護するといった異常な状態から抜け出すこととなりました。』

決済性預金を全額保護(ついでに申しあげますと銀行間取引も保護なんで、結局政府のコミットメントは続いているんですが)しているのに何か相変わらずですなぁとは思います。まぁ金融危機はもうありませんって雰囲気作りをするためにペイオフ全面解禁を大々的に話すって事なんでしょうか。あまりたばかるのはよろしくないと思うんですが・・・(ちなみに、この後にも「ペイオフ全面解禁は物凄いことなんだ」という話が延々と続きます)

『日本経済が、過去10年以上もの長きに亘り、厳しい状況を続け、その中で皆さんのご両親も、職場において、家庭において、大変なご苦労をなさったことは、ご承知の通りです。』

多分日銀に入るような方々の親御さんにはそういうお方は該当しないのではないかと思いますが・・・・・(苦笑)

『それは、今を去る1980年代以降世界経済の潮流が大きく変化し、それ以前に経済立国として大きな成功物語(success story)を築き上げて来た(以下割愛)』

「success story」キターって感じです。つーか「成功物語」っつーのも余り聞きませんが。フツーはサクセスストーリーってカタカナになるような気がしますが、相変わらず総裁ってばお洒落なんですから(棒読み)。


後半部分では今般の中期経営戦略に絡むお話をしているのですが、どうも気になると言うか腑に落ちない点がございます。

『私は、いつも、日本銀行は、サッカーに喩えればゴールキーパーのような仕事をするところだ、と申し上げています。日本経済の最後の砦として、確りと守りを固める。これが基本ですが、同時にゴールキーパーは戦線の最後尾にいて常に全体の戦況、個々の選手の動きを掌握することが出来る位置にいます。日本銀行としては、日本経済や世界経済の状況がどうなっているか、企業や金融機関や家計の動きがどうなっているか、常に情勢を的確に判断するとともに、人々のこれからの行動に指針となるような情報を的確に発信して行かなければなりません。』

と、このくだりは誠にその通りでございますが、その割には今般の中期経営戦略の目玉施策「金融高度化支援」はどうも日銀様が御自ら前線に出張って金融高度化の推進を行うようにしか思えない訳でして、そりゃあなた全然ゴールキーパーじゃないんじゃねーかと小一時間ですな。司令塔の間違いじゃねーの?


最後の部分も結構笑ってしまったんですが・・・・・

『皆さんが、日本銀行のような安定した職場に入れて良かった、というような気持ちをもし少しでもお持ちであれば、その気持ちは直ちに拭い去って下さい。率直に申して、日本銀行は、皆さんが想像されているよりも遥かに厳しい職場です。』

日銀は安定した職場なんですかそうですか(苦笑)。そ〜ゆ〜意識が元々芽生えないような場所ではそもそも上記のような訓示は出ませんわな(^^)。ついでになおも下らん揚げ足取りをしますと、職場が安定していることと仕事が厳しいことは両立すると思いますが(^^)。

『今この瞬間から、皆さんは、プロの日銀職員として、「事務の堅確性」ということを瞬時とも疎かにすることは許されません。』

堅確性って言葉はあまり見たことないんですが、どうも日銀用語らしいですな。意味は字面の通りだと思いますんでまぁ良いんですが、「プロの日銀職員」と言う事は世の中にはアマチュアの日銀職員がおいでなんですかそうですか。「プロの審議委員として金融政策の堅確性を疎かにしないようにしましょう」という大変にキビシー突っ込みが金曜日の時事メインコラム「金融観測」に出ておりまして、思わず茶を吹いてしまった事を申し添えます(^^)。

まぁ入行式の挨拶なんですからあまりしょうもない揚げ足取りするのも我ながら如何なものかとは思いますが、この挨拶要旨を読んでますと、相変わらずのお気取りっぷりが良く現れていて福井さんらしいですなぁって思っちゃいます。先日の日銀ニューヨーク支店100周年記念講演を思い出してしまいました。