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2007年上期の福井総裁発言インデックス

2007/09/21「ヘッドラインで受ける印象よりはタカっぽくないです」
2007/08/28「総裁記者会見補足」
2007/08/27「割とトーンは慎重な総裁記者会見」
2007/07/17「確信度合いへの質問が相次いだ総裁」
2007/06/29「物価と金融政策という福井総裁の直球講演」
2007/06/20「総裁会見続き」
2007/06/19「よく読むといつもと同じ話のトーンな総裁会見」
2007/06/18「総裁会見でショートカバー」
2007/06/13「5月29日の国会発言」
2007/05/31「またバブル警戒的発言をしてますが」
2007/05/21「総裁定例記者会見は穏当な中身と読みました」
2007/05/11「講演は穏当なるも質疑応答はやや威勢が良かった総裁講演」
2007/05/02「それほどタカでもなさそうな総裁記者会見」
2007/04/18「国会半期報告で中銀総裁の資質について質疑応答」
2007/04/12「総裁記者会見」
2007/04/10「リクルートページの総裁メッセージに懐かしいフレーズが^^」
2007/04/03「入行式の総裁挨拶」


2007/09/21

ということで総裁記者会見ですが・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0709a.pdf

まず読んだ印象を申しますと、複数のメディアでは「日銀総裁は利上げ姿勢崩さず」ということでまだまだ早期利上げの意欲満々っぽい報じられ方ですけれども、会見要旨を見ておりますとやたらと「慎重に見極める」「不透明要因」を持ち出しておりまして、ヘッドラインで威勢の良い発言として報じられている部分はどっちかと言いますと、質問者が「もう利上げできないでしょホレホレ」というのに対して(本音は本音なんでしょうが)「言わされてる」発言という感じを受けたんですけど(^^)。




○最初の説明部分が留保つきモード

毎回そうなのですが、会見の冒頭は今回の決定会合の結果と背景の説明になります。で、その説明部分なんですけれども、今回は留保つきモードが目立つ印象です。物は試しに前月の同じところと比較してみる(全文引用すると長くなるので一部になっちゃいますんで、ちゃんと見たい場合は日銀サイトへおねがいしたく)のでした。

『本日の決定は多数意見を背景とするものですが、多数意見では、経済・物価情勢について、これまでに公表された経済指標から、わが国経済は引き続き緩やかに拡大していることを確認しました。一方、金融市場においては世界的に不安定な状況が続いているほか、米国経済の下振れリスクが高まるなど、世界経済について不確実性が増大しているという認識です。従って、金融市場や世界経済の動向を引き続き注視する必要がある、との判断となりました。』

このあたりですが、前月会合時ではこんな感じでした。

『その背景となる経済・物価情勢についてみますと、前回の政策決定会合以降、あるいは前月以降、いくつかの指標が明らかになり、日本経済は引き続き緩やかに拡大していることを確認しました。その一方で、金融市場は、世界的に振れの大きい展開となっており、その影響を引き続き注視する必要があると判断しました。』(8月23日総裁会見)

ということで、金融市場限定の「振れの大きい展開」だったのが「米国経済の下振れリスクが高まる」「世界経済について不確実性が増大」に昇進(?)していますので、金融経済月報ではしらっと「全体として」となってた所ですが、実はリスク見てるのねと言ったところでありましょうか。

同じ発言の続きですが、こんな感じで留保つき発言が増えてるなあという感じをこの字面見てると受けます罠。

『企業部門の状況については、来月初の短観で改めて確認していきたいと思います。』

『一方、冒頭で述べましたとおり、世界経済を巡る不確実性は増大している状況にあります。私どもとしては、今後公表される経済指標や情報、内外の金融市場の状況等を引き続き丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクをさらに見極めたうえで適切な政策判断を行っていきたいと考えています。』

ちなみに、2番目の方は冒頭発言の最後の部分になるのですが、この部分も前月と比較するとやはりトーンダウンを印象つけられますわなあという感じで。

『今申し上げましたとおり、日本経済は生産・所得・支出の好循環のメカニズムが維持される中で、先行き、物価安定のもとで息の長い成長を続けていく蓋然性が高いけれども、今後公表される指標や情報、内外の金融市場の状況などをさらに丹念に点検し、見通しの蓋然性とそれに対するリスクを一層見極めた上で、適切な政策判断を行っていきたいと考えています。』(8月23日総裁記者会見)


○FOMC関連

会見要旨の5ページから6ページのあたりですが、FOMCの結果を受けてどうよという質問に対する総裁の答。ちと長いので適当に段落分けしつつ当該部分を引用します。

『それから、米国経済の方ですが、FOMCのステートメントをご覧になったと思います。日本時間では今朝早く出たものですが、これは日本語で言えば、金融市場の混乱から生じるかもしれない経済全般への悪影響を未然に防ぐという書き方になっています。8月以降の金融市場の混乱が、もはや米国の実体経済に強い下振れの効果を及ぼしつつある、という判断に立っているわけではないと思います。』

『「Today's action is intended to help forestall some of the adverse effects on the broader economy」となっており、つまり経済に悪い影響がいくらか及んでくることに対して、先回りして手を打つという、そのような感じの表現になっているわけですので、FRBは将来の不確実性というものを認識していますが、確実に非常に悪い状況になるというところまで判断しているわけではなさそうです。』

とこの辺までは「明確な下向きではない」となってますが・・・・

『私どももほぼFRBと同じような見方に立っており、これまでのところ住宅市場の調整は、事前の予想よりは少し延引気味、遅れ気味であると。現在も米国の住宅在庫の水準はなお非常に高いわけですので、これからも住宅調整の期間はそう短期間のうちには終わらないかも知れない。』

『その過程で米国の住宅価格に対する下押し圧力がさらにどの程度出てくるか、住宅価格の上昇速度が鈍ったり、あるいは場合によっては下落するという場合には、いわゆる逆資産効果を通じて米国の個人消費に影響が及んでくる可能性がある。』

逆資産効果キター!

『そのリスクがあるということですので、リスクの筋道というものを頭の中に置きながら、これから米国経済の調整過程がどのような形で全うしていくか、かつまた時間的な距離はどれくらいの幅を持って見ておけば良いかということを、これからしっかり読まなくてはいけないということではないかと思っています。現在のところ、少し当初の予定よりは時間はかかるかも知れないけれども、いわゆるリセッションに至るということではなくて、いずれ経済が底を打って米国経済自体の潜在成長能力近傍に緩やかに成長が戻っていくという標準シナリオは崩れていないのではないかと見ています。』

ということでして、ポイントは「時間の距離が伸びました」ということなのかなあと勝手に理解した次第であります。



○日本経済の下振れリスクは否定するけど留保つき

日本経済の下振れリスクが高まっているのかという質問に対する答えの部分(9ページ)から。

『日本経済については、足許までの動きは概ね展望レポートで示した標準シナリオに沿って動いてきており、これから先もそれから外れることなく、物価安定のもとで緩やかではあっても息の長い成長が続く蓋然性が高いという点では判断は変わっておりません。ただし、日本経済を取り巻く環境と世界の金融市場、そして世界の経済、特に米国経済、といった環境要因に不確実性が高まっているということですので、その相互作用がどのように出るかということは従来以上に慎重に点検していくというように申し上げております。』

ここでも慎重に点検というフレーズが出てますが、大体こう「言わされる」部分以外では「標準シナリオ通りだけど時間の距離が伸びたand/or不確実性が増した」とういうトーンになっている希ガス。



○威勢の良いヘッドラインを打たれた質疑応答を

要旨12ページから13ページの部分になります。これは質問も引用するだよ。

『(問) 先程の金利の質問にも関連しますが、現状の金利水準について以前総裁は、金利が変わらない状態が長く続いた時のリスクとして、市場に歪みを生じたり、あるいは安定した成長を目指す中で波を起こすリスクを説明されましたが、現状そのリスクは、後退してしまったのか、変わらないのか、あるいは増大しているのか。また、先行きについてこのリスクが増大する可能性があるのか、変わらないのか、といった足許と先行きについて、このリスクをどのようにみておられるかお伺いします。(後半割愛)』

これは良い挑発(^^)。

『(答) まず前者のご質問については、先程の質問に対して、一定の具体的なあるべき金利水準というような意味での目指すべき具体的なレベルは意識していないと申し上げました。そのように申し上げましたが、現状の金利水準は、実質2%前後で安定的に成長し物価は極めて安定した状況にあるという経済の実勢との対比でみれば、やはり相当低いところにあり、この大幅に緩和的な金融環境が提供され続けているということは否めない事実です。』

『こういう状況がいつまでも続くという認識が市場に定着した場合には、明らかに資源配分の歪みを生ずるような方向に資金が使われていくということは疑いようがないと思っております。従って今後とも標準的なシナリオどおり経済が動いていくのであれば、金利調整の必要性にいささかの変化はなく、私どもとしても重要な政策課題になり続けると思っています。』

で、ここから先が言わずもがな発言。

『これまで皆様方からも度々円キャリー・トレードはどの程度リスク要因として膨らんでいるかという質問を受けました。今の時点で振り返ってみると、幾ばくかやはり低すぎる金利水準に端を発する一つのディストーション(歪み)だと言えると思います。私が言わなくても市場関係者の多くの方がそのように認識しておられます。マスコミの皆様方もそのように認識しておられ、最近の市場の変化の中で多少その歪みは吸収されているという状況ですが、将来に亘ってまた日本銀行はいつまでも金利を据え置くという安易な認識が市場に定着した場合には、同じこと、あるいは同じ以上のこと、あるいは別の形のリスクが膨らむ可能性は十分にあると認識しておかなければならないと思います。』

わざわざ聞かれもしない円キャリ話を言うところなんぞを見ますと、日銀執行部としての福井「総裁」は経済物価情勢における時間の距離が伸びたという認識はしているのですけれども、福井「政策委員」としましては「低金利の継続イクナイので何とかしたいですなあ」というのがあるのかなあと思わせてくれました次第。

でもまあ会見全体のトーンは福井「総裁」になってるように見えますんで(^^)、一部のメディアが言うほど「やる気満々」には見えませんですけど・・・・・

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2007/08/28

○総裁記者会見続き

昨日の続き
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0708a.pdf

昨日は先行きのリスク評価に対して慎重な部分の引用が多かったと思いますので、今朝は強気ヘッドラインの元になったあたりを軽めに少々。

政策金利引き上げは機動的にというようなヘッドラインを打ち込まれた発言部分は質疑応答の真ん中当たり、8ページ目になります。

『従って、全ての状況が画用紙に綺麗に描けるようになるまで政策を行なわないということでは、完全に手遅れになると思います。かといって、何かスケジュール的に先入観を持ってやるというわけではなく、十分フォワード・ルッキングに私どもとして確信のある判断が持てる段階になれば政策は機動的にやっていかなければならないということは、非常に明確だと思います。』

ここだけ拾うと「おお!」なのですが、従ってとありますようにこの発言は前半部分がございます。やたら長いのですが段落適当に切りながら。

冒頭は何となくタカ的なトーンでスタート。

『1つ明確に申し上げられることは、実体経済の姿が画用紙に描いたようにピタッと良い格好になっており、金融市場も凪のようにピタッと静まっている時でなければ金融政策を行わないということであれば中央銀行は要りません。要するに実体経済も市場もダイナミックに変化する中で、いかにより良い姿を実現できるような金融環境を作っていくかということが私どもの役割ですので、判断もプロセスも政策決定内容も全て、是非そのようにダイナミックな観点からとらえて頂きたいと思います。私どもはダイナミックなプロセスにいつも挑戦しているということであります。』

この先ちょっと調子が変わります。

『日本経済のファンダメンタルズを単体で判断すると、前回の金融政策決定会合から比べそれ程変わっていない、もしかしたら多少前進しているかもしれないと、これまで出てきている指標からみる限りそういうことが言える状況であったとしても、それを取り巻く金融資本市場の変化等の環境と実体経済との相互作用の中でダイナミックな判断が必要だろうと思います。』

ほうほうなるほど。

『その環境要因について言えば、今起こってきているリスクの再評価の過程は、今後秩序だって進むかどうか、これが混乱を伴って実体経済に対する悪影響を拡散的にもたらすような方向の動きになるのかどうかということです。』

おや、これは慎重な感じですね。

『仮に秩序だって再評価の過程が進むとしても、やはり特に渦中の米国経済に多かれ少なかれ影響があるでしょうから、それがどの程度かということは、ある程度測定しながら、続いて日本経済への跳ね返りはどうか、これは米国から日本というような単純な構造ではなく、改めてグローバルな経済の篩いにかかって日本経済への影響ということになってくると思いますが、その辺の分析、洞察力が私どもには求められていると思います。』

ということで、最後の部分に繋がる次第です。この発言最初と最後が割と「経済状況見ながらフォワードルッキングで果敢に利上げ」っぽい感じなので、話を聞いている時には強気ヘッドラインを打ちたくなるような気がするんですが、こうやって文章で見ると、どっちかといえば中間の「米国の先行きに対する慎重な見極めが必要」の方が出てるような感じであります。


ただまあこちらで引用した発言の中にある「日本経済は多少前進」について別の質疑でも同じ事言ってるのはちと注目かなと思います。金融経済月報ベースでは特にそんな感じ無いと思うのですけど・・・・

ファイルの11ページ目より。

『(前半割愛)。今の時点で言えば、前回の金融政策決定会合に比べ、少なくともこれまで出てきている経済指標を解釈して先に伸ばせば、経済実態についての判断は、多少前進しているかもしれませんが、経済は常に金融資本市場を含む環境要因との相互作用の中で改めて評価し直さなければなりません。そうだとすると、私どもとしてはまだまだ不確定要因を頭の中に抱かざるを得ないというのが、とりあえず本日の判断です。』

ということで、福井総裁としては経済情勢に関してかなり強気で見ているということなのではないかと存じます。

まあ本日はそんな感じで。。。

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2007/08/27

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0708a.pdf

○全体的なトーンは慎重と読めます

今回は当然の如くやたら量が多く、PDFで17ページもありやがるのですが、当日のヘッドラインで見た印象は両論併記だけど利上げへの姿勢も確りという感じでしたけど、会見要旨を読みますと、確かに後半部分で景気に関して基本的に強気という話をしておりますけど、前半の信用収縮問題関連への質問に対するトーンはどちらかというと本件の広がりが実体経済に及ぼす影響について慎重に見極める必要があるというトーンが強い感じです。

ということで、今回の会見では「利上げ前のめり」な印象は受けないどちらかというと慎重なトーンでございますが、例によって裏読みすると、慎重なトーンな時というのは実は総裁としては先行きに対して自信があって「慎重な発言をしても実体経済がついてくるぜベイベー」という認識があるかも知れませんねという事も(^^)。ま〜何か慌てて利上げに走るような姿勢出すのは勘弁して欲しいところでして、利上げに関しては慎重で宜しいんじゃないでしょうかねえ。

ということで以下会見内容ですが、やたら多いので今日終わるかどうか微妙。


○サブプライム問題に関しての慎重な見方

当然ながらこの件についての質問がやたら多かったのですけど、最初の質疑でサブプライム問題の実体経済への影響に関して質問がありまして、それに対する福井総裁の答えから。例によって死ぬほど長いので段落分けしながら。

『今、サブプライム問題とおっしゃいましたが、米欧の金融市場では、サブプライム問題をきっかけとして、社債スプレッドの拡大や、ABS、ABCPといった証券化商品の流動性低下など、クレジット市場の状況が悪化しています。グローバルな金融市場が少し拡がりを持って悪化しているということです。金融市場全般につきましても、振れの大きい展開が続いており、ご承知の通り株価が下落していますし、国債金利は「質への逃避」(flight to quality)の動きから、金利が低下しています。』

『こうした中、実体経済指標をみている限り、米国経済において住宅市場の調整が続いているわけですが、設備投資や個人消費を中心に、減速しつつも緩やかな拡大を維持しているというのが実態です。先行き、米国経済は、家計支出を中心とした調整過程が一巡するにつれて、次第に潜在成長率近傍の成長パスに戻っていくと考えられており、私どももそう思います。』

と、ここまでは一応「今のところ大丈夫だと思うが」ですが・・・・

『ただ、今回の金融市場の実体経済、とくに米国経済への影響については、いくつかのルートでどのように影響が出てくるかを注視していかなければならないと思っています。』

『それは、住宅金融を通じて住宅投資に与える影響、これが一番中心的な影響でありますが、クレジット市場の機能低下が企業金融に与える影響はどうか、今のところサブプライム問題、あるいはクレジット市場の機能の停滞が、企業金融全般に強い影響を与え始めているという兆候はありませんが、市場はどこかでつながっているわけですので、クレジット市場の機能低下が企業金融に与える影響が全くないのかどうか、注目していく必要があります。』

『それから市場の動揺がもし長引くという場合には、株価の下落等を通じた家計のマインド、あるいは企業のマインド、といったマインド面への影響などが考えられるわけです。株価に反応しやすいミシガンの消費者コンフィデンス指数が既に少し下がっているということはご承知だと思います。そうしたマインド面の影響が考えられますので、注視していかなくてはならないと思っています。』

なるほど。こりゃまた随分と詳しく見てます罠。なお続く。

『つい先日の米国のFOMCの声明でも、今後の米国経済の成長を抑制する可能性があるとしておりますが、今申し上げた点を私どもは注視していくべきであろうと思っています。』

以下は欧州圏の話ですが割愛。

ということで、FOMCでのトーンダウンが結構影響してるのねというわけでして、国際的な協調に関しては気にしてるんですなあという印象を(後の質問で「協調とは何ですかいな」という答弁はしてますけどね)。

では今回の動きに関してどういう評価をしているのかという点について次の質問に対する答えとしてこれまた読みようによっては結構慎重な見方に見えるのですが。

『今回は、金融市場の新しい調整プロセス、リスクの再評価のプロセスと言えるわけです。今年の春頃起こった株価の調整や、昨年の5月、6月頃に起こった株価の調整と比較しますと、市場がもとの姿に戻るというのではなくて、リスクの再評価の過程ですので、クレジット市場を中心にこれまでのリスク評価が甘すぎた部分が、市場の中で納得できる新しい価格発見を行っていくプロセスというところが違うと思います。』

ということで、今回の調整に関しては単純に元に戻る訳ではないという見立てをしているのが「ほほー」という感じです。


○金融イノベーションと今回騒動の本質

今回の証券化云々に関しては、イノベーションはイノベーションかも知らんですけど、まーあたくし思いまするところは害債さんのこのエントリー(http://ensaigaisai.at.webry.info/200708/article_17.html)禿しく同意したい所でありますがそれは兎も角として、金融イノベーションに関してケチがつきそうな今回の事態に関して、聞かれる前から答える福井総裁の巻(^^)。

『金融のイノベーションの急速な進展というのは、過去数年グローバルな市場の中でみられてきたわけですが、証券化技術などを含め、多くの人が投資という形でリスクを取り入れやすくするための技術が発展し、過去に比べるとリスク分散がかなり急速に進められるようになりました。』

『リスク分散そのものは、資源の再配分をより有効に促し、かつ金融市場を安定化させる機能がありますが、世界経済も市場も非常に好ましい状況が長く安定的に続いている中で、すなわち、スプレッドが縮小しボラティリティが下がる中で、このイノベーションが進められてきましたので、もしかするとリスクの認定が甘い方向に流れたのかもしれず、改めて時価評価(mark tomarket)できちんと新しいプライスを発見したいというのが今の調整過程の本質です。』

『よくリスク分散が行き過ぎて、今リスクがどこにあるかわからないという言葉を聞きますが、リスク分散そのものは、資源の再配分機能、あるいは市場の安定のために好ましい現象であり、価格評価(pricing)がきちんと行われていれば、あまり問題にならないわけです。価格評価に疑問が生じた場合には、いったいリスクはどこにあるのかが問題になってくるわけです。』

これは正論は正論なのですが、特に短期物になっているCDO絡みのアセットバックもの何てえのは「短期だし償還まで持ちきるからその間時価評価しない」というのがオトナの態度であったと聞いておりましてですな、プライシングの適正さというレベルの問題であったのかという点については少々疑問がございますですわな。

『本質的には、時価評価によってリスクを再評価するということ、これが市場の中で極力秩序だって(orderly)進められていくことが一番大事です。ある程度時間がかかると思いますが、きちんとリスクの再評価が行われる過程では、損失の確定によって痛みを伴うかもしれず、あるいは流動性に問題が生じる可能性もあります。その点、中央銀行は既に先週以降、必要な流動性をきちんと供給するという体制を整えています。』

ということで、福井総裁的には引き続きイノベーション話はお好きなようでございますわな。


○金融経済月報(基本的見解)に今回の動きの評価がほとんど無かった点について

小見出しが長いですが、質疑応答の後半(PDFの14ページ目です)でこんな質問が。質問の後半部分だけ引用します。

『(問)(前半割愛)また、先程の質問とも関係あるのですが、コミュニケーションという意味では7 月に展望レポートの中間評価をしたばかりですが、このように世界でマーケットが乱高下している時は金融経済月報等で改めて4月の時点と比べて見方はどうなっているかということを述べられても良いのではないのでしょうか。』

これに対しまして総裁はこのように述べています。この部分に関わるところだけね。

『また、金融経済月報については、詳しくは展望レポートの時に十分分析をし、詳しいアウトルックを出す。中間レビューにおいてはそれとの乖離を述べる。マンスリーな変化については、基本的な変化について不確実性が多い時に、あえて不確実性を乗り越えて楽観シナリオ、あるいは悲観シナリオを作り上げるということはしないというやり方になっています。』

ほうほうなるほど。しかし今回の場合は不確実性に関する言及も基本的見解には無かった(全文の方は手抜きでまだ読んでません、汗)ですなあという気はしますけど。


#予定通り時間切れになったし増量にも程があるので明日に続く(かも知れない)

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2007/07/17

お題「『確信度合い』への質問が続く総裁記者会見」

今回の会見でやたらと質問があったのがお題の論点。何というか実に微笑ましいものがございますが・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0707a.pdf

○確信度合いとは何ぞや

質疑の最初の方(会見要旨3ページ目)で水野審議委員(というか質問の際には「一人の委員」という言い方でしたけど)の利上げ提案の理由に対して質問されまして、総裁はこう答えました。

『(答) 詳しくは議事要旨、最終的には議事録でご覧頂きたいと思いますが、一人の委員は現状据え置きには反対され、この際金利の引き上げを決断すべきであるという意見でした。その委員は、様々な角度から経済・物価の動きを点検し、そして金融政策決定会合の場で議論をし、最終的に現状において将来の経済のパス、その蓋然性について他の委員よりもより強い確信を、本日持たれたということに尽きると思います。』

というのが今回の利上げ提案になったということですが、まあその是非は兎も角、水野審議委員の提案の方が話の筋は通ってますわなあと思うのですけど。

ということで、暫くサブプライムの話とかがあった後、5ページ目から延々とこの「確信度合い」とか前回の記者会見で総裁が言及した「要確認事項」などという誠に解釈のムツカシイ話について続々とツッコミが来るのであります(^^)。

確信度合いについて他の委員はどういう不安を持ってるのかという質問に対して。

『他の委員は不安を持っているか、というお尋ねに対しては、不安という言葉が適切かどうかは私は各委員の心の底までは量りかねますのでわかりません。しかし、政策委員会として、本日の情勢判断にしても、中間レビューにしても、経済は好循環を伴って先行きも息の長い成長を続ける蓋然性が高いという判断は不変のものとして本日も確認したわけです。従って、不安というよりはこの蓋然性についてより確信を持ちたいというポジティブな方向についての確信度合いの差だと思って頂ければ良いと思います。』

益々訳判らんということで次の質問はこうなります(^^)。

『(問) 確信度合いの差というものをもう少し噛み砕くと、どういう状態になれば政策委員の確信度合いが上がってくるのでしょうか。見通しも全て変わっていないということであれば利上げが決定されてもおかしくないと素直に思う人も多いと思います。しかし、そうはなってないので、もう一度説明して頂けますか。』

で、この答が益々アレでございますが、何か会合でそれなりに論議になっていたのではないかと思うような言い方です。長いので途中で段落わけします。

『(答) 経済状況を点検し、先行きの見通しを固めていく場合、9人の政策委員会のメンバーが誰しも等しく同じ度合いで確信を持つということはありえないと思います。経済は非常にダイナミックに動いており、今後ともダイナミックに動いていくので、将来にわたってフォワード・ルッキングな政策判断をしようと思う場合には、個々の政策委員の持っているものの考え方、それを将来の経済・物価の変動予測のパスに当てはめて考えた場合に、政策措置に結びつけることが適当かどうかという判断にまでその確信が深まっているかどうかということについては、常に差があるということだと思います。』

『その差はありますが、政策委員会の場では一つの結論を出すために議論を戦わせるので、会議に臨むにあたって持っていた差は議論を通じて相当修正されるものです。従って、多数のメンバーの意見が事前に持っていた差が修正されるかたちで収斂すれば、それは政策的結論になるということであり、今回の場合は多数の意見はまだ政策措置の変更に結びつくようなところにまで確信が深まっていなかったということだと思います。水野委員は、その中では先行して確信を持たれたということだと思います。』


さて、前回の会合後の会見で「要確認事項が非常に多い」と発言して債券先物をぶち上げてくれた総裁様でございますが、今回「要確認事項」はどうなったのよという質問に対してはこのように。

『新しい確認事項も色々出てきており、例えば先程のIT在庫の調整についてであれば問題がなくなったというわけではなく、引き続き進展していますがまだ未了だというように、それぞれの要確認事項、あるいは経済全体の姿を認定するために様々な角度から議論します。非常に多くの角度から引き続き議論すべき点があることは確かです。そして、それぞれの角度からみてやはり進展もあり停滞もあり、あるいは新しい問題が出てきている、ということだと思います。』

という一般的な話(そもそもの発言も一般論をわざわざ「非常に多い」というような表現で大袈裟にしてる観はありましたが)をするのであれば、そもそも前回時点で「要確認事項が非常に多い」というような思わせぶりな言い方をする必要は無い訳でして、そのあたり総裁のキャラクターでその場その場で判り易い言い方をしようとしてるんでしょうけれども、却って判り難いというかミスリードになるんですけどねえって思うのよ。などと今更言っても遅いのだが。

で、こうなりますと、前回の「要確認事項が非常に多い」発言は、市場の利上げ観測がより前倒しになって「7月利上げモード」にならないよう早期利上げ観測に水をぶっ掛けようとしてハトっぽい表現を使ったんでしょうなあという読み筋になる訳ですわな。


○ブルームバーグが妙に強いヘッドラインを打った質疑応答部分

質疑応答の9ページより、これは中々良い聞き方ですな。

『(問) 今回、8対1で現状維持を決め、水野委員は先行きのフォワード・ルッキングな立場で金融政策の変更と強く結び付けた確信があったのではないかということですが、総裁自身は、ここ2〜3か月の経済・物価情勢を点検してこられ、本日は確信がないということで現状維持と判断したと思います。その確信はある程度高まりつつある状況にあるのでしょうか。それとも、2〜3か月みてもなおまだ情勢をみなければならないというように何の変化も感じていない状況なのでしょうか。』

『(答) 私自身は肩に力を入れて判断することは元々できない性質であり、経済情勢を極めて丹念にフォローし続けているつもりです。4月の展望レポートの線に沿って、全体の太い動き、そして色々な側面からみた個々の動き、それらを総合しながらいつも判断を積重ねています。個々の動きについては若干精粗まちまちだと思いますが、総合してみた場合、本日の結論通り、太い流れとしては標準シナリオに概ね沿って動いていると思っています。従って、この動きが続けば、将来政策変更を行って間違いないという確信につながると思いますが、現在のところ、そういう心境がどこまで進展したかということを自分で測定することは難しいと思っています。』

ということで、まあ先行きへの自信は自信としてあるんでしょうけれども、さほどセンセーショナルな発言でも無いですし、質疑応答の全体的なトーンもそんなにもう来月やっちまいますよ全開という訳でも無い(まあこのままだったらやるんでしょうが)感じでありますんで、他社のヘッドラインの方が表現として適切であったと思料。


○1月との比較

この質問もオモシロイ。(9ページ目)

『(問) 本年1月も票が割れ、その時総裁は、もう少し判断の補強をする時間がいるという人ともう政策判断に踏み切って良いのではないかという人のごくわずかな判断の差だとおっしゃいましたが、今回もそのように水野委員と他の委員はごくわずかな判断の差なのでしょうか、それとも前回と票数も違いますが差が多少あるということなのでしょうか。その点についてお聞かせ下さい。』

『(答) わずかであるかどうかは、それほど正確に判断できませんが、標準シナリオを下回りそうだと心配している委員は本日はいませんでした。そういう意味では、標準シナリオ通り動いているが政策判断にはまだ至らないという多数の委員と、政策判断に至っても良いのではないかという一人の委員との差ということですので、これをわずかと言うか言わないかは、なかなか難しいところだと思っています。』

ということで、何となくこれは福井総裁釣られた観もございますが(^^)、1月時点(利上げ3票)ほどの盛り上がりはございませんでしたという事なんでしょうな。即ち、順当に行けば8月利上げなんでしょうけれども、まだ日和る余地もあるということですわな(^^)。


○第2の柱の説明が・・・・・

『情勢がシナリオ通りに動いているにも関わらず、金利を据え置くことによるリスクというか副作用の面についての議論は、本日行われたのでしょうか。』って質問(本当の質問はもっと長いのでそのごく一部ですが)に対して総裁は第2の柱について点検したよって説明をしてるのは良いのでありますが・・・・・(12ページ目)

『第2の柱についても、本日ももちろん色々と点検をしました。今後とも私どもが決断すべき時に決断をしないで長く金利を据え置くというパーセプション(認識)を市場に残した場合には偏ったリスクをとられる恐れがあり、資源配分に歪みが生じる危険性さえあるという点については引き続き繰り返し点検しています。本日も資産価格の動き、為替市場の動き、あるいは海外における様々な資産価格の動き等も含めて総点検しました。』

だからそう説明するから第2の柱を誤解されるんでしょうがと小一時間・・・・



○物価に関する質疑は興味深いですな

10ページ目から。

『(問) 判断対象となる消費者物価指数について、コアとかコア・コアとか言われているのは承知の上での質問です。最近値上げに関する報道が相次いでいます。主婦の方々がスーパーなどで買い物する時に生活費が余計にかかっているという声も聞きますが、その点について総裁はどのようにご覧になっていますか。そしてそういう声が、庶民が使うもので値上がりするものは輸入品が多く、それは円安が響いており、結局それは内外金利差だというような議論にも発展しかねない状況――ちょっと短絡的ですが――もあります。その点総裁はどのようにお考えですか。』

最近(概ね年明けから年度替り辺りから)日常品の買い物をしてて値上がりを感じるあたくしとしても質問したい所で(^^)。

『(答) 生鮮食品ではない加工食品であるとか、その他の日常生活に密着した色々な商品の値上げがかなり多岐にわたって始まっていますが、(割愛)それが消費者物価指数に反映されていないかというと、消費者物価指数の中身を細かく分析すると正確に取り込まれています。しかし、消費者物価指数全体の中のウエイトからみると、指数全体を押し上げる程の力にはなっていません。逆にウエイトの高い家賃であるとか、エレクトロニクス関連の商品の値下がり幅が非常に大きく、こちらのウエイトが高く、全体の動向が現状のような姿になっているということだと思います。』

この帰属家賃と電化製品のヘドニック(特に家賃)が浅学非才なあたくしには正直訳判らんところでして、いやまあ理屈は判るんですが、品質向上分が世の中の前提になった時に旧製品比較で性能向上分で実質値下げになったとか言われても旧製品が使えないのであればそのヘドニックは掛け過ぎなんジャマイカという風にも思う所でありますが、と素人の戯言でありますけど。

『従って、消費者物価指数もおそらく正確でしょうし、家庭生活を営まれる主婦の方々の感覚もともに正確だろうと受け止め、それらが全て私どもの物価判断に取り込まれているように思います。』

何とムツカシイ禅問答。で、その後にインフレ期待に関してコメント。

『より重要なことは、消費者物価指数に反映されているがなかなか目立たない多くの生活関連品目は、ある段階にくると人々の将来のインフレ予想にまで影響を及ぼすリスクがあります。そういう意味で、将来のインフレ期待にまで影響が及ぶ状況になるのかならないのかということは、より強い関心事項として見守っていきたいと思います。すなわち、消費者物価指数の判断については、消費者物価指数の中身を細かくコアのコア・コアやコア・コアのコアであるとかいうように因数分解をすることばかりが仕事ではなく、最終的には人々のインフレ予想とそこに影響が及ぶかどうかということを中心に判断していけば、間違いないのではないかと思っています。』

とまあそういうことでありますので、今度出てくる日銀による生活者意識アンケート調査の物価に関する内容については注目しておいた方が良いんじゃないでしょうか。


#調子に乗って質問まで引用したので長くなりすぎました。ごみんなさい

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2007/06/29

お題「この講演は・・・(福井総裁の物価に関する講演)」

昨日は鉱工業生産のヘッドラインで買われたけど何か売りがぶちかまされて大いに下落という図。指標前に戻ったから売っちまえということなのかも知れませんが、何もそんなに(寄り直後の高値から安値まで約50銭)下がらなくてもと思うのですが、まあ何はともあれ今日の物価と雇用に注目であります。

で、昨日は相場の方には特にインパクト無かったようなのですが、これはこれはという日銀総裁の講演(というか挨拶)がございました。一橋大学主催国際コンファレンスにおける挨拶です。お題がズバリ『物価変動のダイナミクスと金融政策』でありまして・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0706d.htm


○フィリップス曲線のフラット化の下での金融政策運営

などとあたくし小見出し書いておりますが、まあ学問的なお話は学問詳しい人のご解説に待ちたいと存じます次第であります。あたしゃ短期的(下手すると中期的)には心理戦ばっかやってる市場ばかり見てたんで、実は物価なんて皆が上ると発想を転換したらホイホイ上るもんじゃねえのかとココロのどこかで思うのであります。ま、毎年のように公共交通料金(というか国鉄とか市電とか)などがホイホイ上昇してた時代の記憶が(かすかですけど)ある人なのでその記憶に囚われているのかもしれんのだが。

まあそんなことは兎も角といたしまして。

『フィリップス曲線がフラットな状況では、物価が安定圏内にある場合には、多少の景気変動では物価は安定の範囲からはずれません。一方、一度その範囲をはずれると、修正はかなり難しくなります。フィリップス曲線がフラットであるほど、物価を上昇あるいは下降させようとする場合に必要となる、需給ギャップあるいはその変化幅が大きくなるためです。』

ふむふむなるほど。

『たとえば、米国では、連邦準備制度(FRB)のミシュキン理事が、4月の講演で、「物価の安定と整合的なインフレ率に急速に戻ろうとすると、必要以上に景気を弱めることになるかもしれない。中央銀行は、物価の安定を確保することは不可欠であるが、経済を不当に害しないようなペースで行うべきだ」と述べています。』

物価の安定に注力しすぎてオーバーキルしちゃうと元も子も無いというミシュキン(を変換したら未集金と出てワロタ^^)理事の指摘は全くもってその通りでございます。ただまあFRBの場合は所謂メジャードペースでの金利調整(中立金利へ向けての利上げ)に関して、ペースが遅かったのか着手が遅かったのかして、現在の妙な状況(貧乏人向けチャレンジャー住宅ローン市場のアフォな拡大とか、物価は上るわ景気は怪しいわとか)になっているんジャマイカという気もしないでもない(実際はどうなのよというのは最終的には結果論でしか言えない部分があるので、正直良く判らん)訳でして、FRBの今後の運営も大変でしょうなあという所ではございます。

『日本は、全く逆の方向から同種の問題を抱えています。』

はにゃ?

『日本経済は、このところ、潜在成長率を上回るペースで成長しています。設備や労働といった資源の稼働状況は高まっており、GDPギャップは需給のタイト化を示唆しています。一方、消費者物価の反応はとても弱く、足もとはゼロ%近傍となっています。このような状況では、短期間に消費者物価を引き上げるために必要となるGDPギャップは、極めて大きく、かつ不確実です。急速にGDPギャップを拡大させようとすると、景気変動の振幅を大きくし、景気拡大の持続性を危険にさらすことになりかねません。』

つまり日本では物価が上昇しにくいので、物価だけを見て金融政策運営をしていると(現在の金融政策運営が緩和的だから)景気を過熱させるリスクがあるという事を仰りたいようですな。

逆に考えるんだ、「現在の政策金利水準が中立的だから物価が上昇しにくい」と考えるんだ(AA略^^)。という論点のお話は出てこないのでありましょうか。

『むしろ、できるだけ振幅の小さい、息の長い成長を確保することで、緩やかな物価上昇を期待するほうがより安全な道だと思います。ご賢察のように、日本銀行が緩やかな金利調整を行っているのは、こうした考え方に基づくものなのです。』

まあその理屈は理屈として把握致しますが、これはよほど上手く運営しないと景気をオーバーキルするリスクとか、そもそも景気拡大への期待を摘む(ちょっと良くなると直ぐに日銀はブレーキをかけるという認識が広がる)リスクとかがあると思うんですが。一応好意的に解釈すれば、景気をふかす(by植田元審議委員)ことなく巡航速度で長期的な成長をするために日銀が速度調整をしてるってことなんでしょう。何という好意的な解釈(苦笑)>あたくし

ま、もうちょっと下世話な発想をしますと、日銀がそんなチャレンジャーな事をしなくても(だいたいからしてそのスキームは成功しても褒められず失敗(オーバーキル)したら戦犯として縛り首コースですがな)、ど〜せ物価(あるいは資産価格)とかが一般庶民様がブーブー言い出すレベルに上昇したらマスコミ様の声が「つぶせつぶせ」の大合唱になって、日銀さまおねげえしますだモードになるんですから、そこで颯爽と登場した方が組織防衛上は吉ですわな(それはそれで困るので、まあバランスを取って頂きたいのですけど)。

まーいずれにしても運営は難しいというのは判るんですけど、その間の理屈が首尾一貫した判りやすいものになっていないのが実に困る次第なのでありまして、そもそもさっき引用したように「現状で物価に過度にフォーカスした金融政策運営を行うと、金融緩和が効き過ぎる」と取れる発言をするのであれば、あの「物価安定の理解」は何なのよ(と、書いているうちに、「いやこれこれこうです」という反論が頭の中で何となく浮かび上ってしまうあたくしも日銀理論に洗脳されていますかそうですか)というお話になるような気がするんですけどにゃあ。


○例によってインタゲに関して

『歴史的に見ても、物価変動のダイナミクスは、中央銀行の政策の枠組みやその実践に大きな影響を与えてきました。例えば、80年代までの高インフレの経験は、インフレーション・ターゲティングなど、物価に焦点を当てた金融政策の枠組みを発展させる方向に作用しました。その後、物価は安定傾向をたどり、フィリップス曲線はフラット化しました。中央銀行が物価の安定という目的を追求していくうえでも、このような物価変動のダイナミクスの変化に伴い、視野を広げておく必要が生じてきました。』

『すなわち、フィリップス曲線がフラットなもとでは、物価面にはなかなか不均衡(imbalances)は現れません。むしろ一般物価に変調が生じる前に、実体経済や資産価格面で不均衡が現れる可能性があります。このため、インフレーション・ターゲティングを採用した中央銀行においても、物価以外の経済の動きにも柔軟に対応することで、長い目で見た物価の安定を図るという方向に変化してきています。』

物価が安定しているけれども物価以外の動きに対応することで物価の安定を図るとはこれまた禅問答のようなお話ですが、まあ住宅市場の強さに対応して利上げしたBOEとか、インフレターゲット導入してて為替方向から足引っ張られてさてどうしたもんか(この前為替介入してましたけど)ニュージーランド中銀(確か)とか、まあ物価「だけ」にフォーカスというのもアレなのでしょうが、FRBだって物価と雇用の安定が目的でその中でコアPCEデフレーターを重視するとかしてるとあたしゃ理解している訳で、そういうのを混ぜながらというのがインフレターゲットなんじゃねえのかという気もするんです(が、日銀批判してる政治家から出てくるのはどっちかというとガチガチの「物価上昇率ターゲット」という傾向があったりしますわな)。

『日本銀行が2006年3月の量的緩和政策解除の際に導入した金融政策運営の枠組みも、こうした物価変動のダイナミクスを念頭に置いて、かつそれが今後変化しうることも考慮したうえで作った枠組みです。』

そうなのですか。いやあのあたくし浅学非才につきその辺は良く判らんのでありますけれども。

『物価変動のダイナミクスは今後変化しうると申しましたが、そうした不確実性が、政策運営上のもう一つの重要なポイントです。すなわち、フィリップス曲線がフラットな状況が今後も続くかどうかは分かりません。本年4月の日本銀行の「展望レポート」でも、インフレ期待や企業の人件費抑制姿勢の変化によって、フィリップス曲線の形状は変わりうると指摘しました。そもそも、これまでにフラット化が進んだ理由についても、様々な仮説があります。フラット化の原因として、たとえば、規制緩和やグローバル化に伴う競争激化を受けた企業の価格支配力の低下を指摘する向きもあれば、ディスインフレ下での企業の価格改定頻度の低下を挙げる向きもあります。どの仮説に立脚するかで、将来の見通しは変わりえます。』

結論から逆算して都合の良い理屈を引っ張り出さないように心の底から切にお願い申しあげます。

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2007/06/20

○いつものことですがインフレ警戒全開モード??

昨日最後にご紹介した「インフレ期待が高まることが最大の敵」云々ですが、これってどう見ても言わずもがなですなあと思うのは、その話に対応する質問がこうだったからでもあります。

『3点目は、足許金融市場で長期金利が上昇し、為替相場では円安が随分加速していますが、金融政策との関係も含めて金融市場の動向をどのようにご覧になっているか、お伺いします。』

強いて言えば、その前の部分になります「金融政策の変更は第1の柱ですか第2の柱ですか」ってのに答えたということなのかも知れませんが、それにしてもわざわざ『一般論として申し上げると』って話をしてインフレ期待が高まるリスクに言及するというのはちと早いんじゃないかと。まあ逆に言えば、福井総裁のホンネには「緩やかなインフレ」という選択肢は無いちゅうことなんでしょうなあという印象を強くするのでありました。ヘッドラインにならなくて良かったですね(という問題ではないが)。

で、米国経済に関しての次の質問(要旨4ページ目)に対しても以前から同じ趣旨の話をしてますが、インフレ圧力に関して「アップサイドリスク」とするような発言をしておりますわな。例によってやたら長いので適宜引用。

『米国経済が、いわゆるソフト・ランディング・シナリオを全うしていく調整プロセスの中で残るインフレ圧力を完全に吸収し終えることができるかどうかについては、まだ幾ばくか不確実性を残しているのではないかというとらえ方ができると思います。そういう意味では、米国経済についての見方が、一頃に比べて手放しに楽観できる良い方向に大きく振れているかというと、私はそうではないと思っています。米国経済をウォッチする非常に多くの人々は、引き続きダウンサイド・リスクと、残存するインフレ圧力がどう吸収されるかというアップサイド・リスクの両方のリスクをにらみながら今後の推移を引き続き注目しているというのが実態ではないかと思います。』

ちなみにダウンサイドリスクに分類されるのは住宅市場の調整問題ですのですが、あたくし思いまするに景気が云々って文脈だったらインフレ圧力が吸収できないってのは必ずしもアップサイドじゃない気もするんざますが、まあ金融政策って意味では利上げってことなんでしょうかにゃ。


○確認すべき事項が非常に多い云々の追補ですが

これまた昨日の補足なんですけど、要確認事項が多い云々の部分に関して実は具体例を列挙してましてですな、それは何かと申しますと、「米国経済」「設備投資」「個人消費」でして『内需の基調的な拡大の持続性について私どもはより確証が欲しい』という話をしております。ということは、もうちょっと良い指標が揃ったらやりますよって話な訳でして、まあ例によってバックワードルッキングなフォワードルッキングですなあと微苦笑を禁じ得ませんが、日本語のニュアンスとは恐るべしといったところでしょう。まあ国内市場は冷静に反応してますから福井さんのサービス発言(またの名を梯子外し発言とも言う)への耐性がようやく確立されたとも思えますが(^^)。

で、このくだりで物価に関してはまあこれに注目するでしょうなって発言をしております。

『また、物価の動きにしても、失業率が3.8%というところまで下がってきた段階で、労働市場の構造変化まで含めて物価形成の基本的なメカニズムが今後どのように変わっていくかというところをよりリサーチしたいとも思います。』

あたくし的には今月末に公表される失業率などの雇用指標を注目しておりますが、まあ暫くは失業率が相場の最大注目点になるんジャマイカという気がします。

『私どもは経済・物価情勢の分析と政策判断とを結び付けるに当たって、そこにこそ丹念な継続的分析が要ると考えており、そういうことを本日確認しました。従って、要確認事項が非常に多いという点でも全員一致で決まっているということです。』

何と申しますか、「経済物価情勢を確認した結果、政策変更を行う判断に至らなかった」と言えば済む事をわざわざ丁寧に説明するのはそれはそれで福井総裁の親切というかサービス精神の発露であるとは思うのですが、その説明の中で上記のように「要確認事項が非常に多いという点でも全員一致で決まっている」というような主観的な印象を与えるような表現をするのがヘッドラインリスクを誘発するモトだと思うんですよね。



○イールドカーブとインフレ期待

今回の会見要旨ですが、ヘッドラインは何となく穏健な印象を与えてくれましたが、よくよく見ると(あたくしの見方なんで必ずしも正確かは保証いたしかねますが)やたらインフレ期待の話が出てくるのであります。所謂グリーンスパンの「謎」が解消されたのかどうかという話を昨今のイールドカーブ動向と絡めて質問された時の答え。また例によって途中でぶったぎっておりますので念の為。

『少なくともこの一か月近くの動きだけで、いわゆる「conundrum(謎)」が解け始めた、イールド・カーブが昔のスティープな姿に戻りつつある、今はその初めだ、と言い切る自信はありません。』

『長期金利がこのように動いたのは最近では比較的新しい現象であり、注意深くみなくてはなりません。何よりも、その背後にインフレは抑えられているが健全な経済成長への期待がより強まって、金利水準なりイールド・カーブが変わるということであれば、それは市場自体の健全な動きであり問題はありません。しかし、もしインフレ期待を市場が何がしか感度良く、感度鋭く、私どもが感ずる以前に感じ取っているということがあるならば、これは非常に問題含みになってきます。』

『国際会議でも、しばらくはこの件について真剣に材料を持ち寄って議論し合うことになるかと思います。』

ということで、世界的な「経済堅調だけど物価は上りにくい」モードの転換についても言及ということで、まあインフレ警戒モードにスイッチが入ったような印象を思いっきり与えてくれるのですよね。


○でもまあメインシナリオはインフレ期待は落ち着いているということですか

と、インフレ期待に関する話を聞かれもしないのに話してくれたので(?)最後の方でインフレ期待に絡めて商品市況や原油価格動向についての見方を質問された時の答え。

『人々のインフレ期待を正確に把握するのはなかなか難しいものです。日本の消費者物価指数は、足許まだ前年比若干マイナスですが、色々なアンケートをみると、先行きの人々の物価感は何がしか物価上昇の方向でみていることは認識しています。しかしインフレを強く心配しているという状況ではないことも確認しています。そうした人々の先々の物価感は、原油価格が上の方向に振れたり、商品市況が振れたり、あるいはマヨネーズが値上がりしますといった話など、身近な物の値上がりが起こった時に、非常に敏感に反応することがあると感じています。』

『いずれにしろ、人々は物価の先行きについて、極めて緩やかな上昇はみているがインフレの心配までには到っていないと思われ、その意味でインフレ期待は落ち着いた状況にあると理解しています。』

ということですけれども、何せ「第1の柱と第2の柱のウェイトは同じ」(昨日の駄文でご紹介したとおり)ですので、そこまでに言及したインフレ期待がどうのこうのってのが気になっちゃうんですよね。

ま、あたくしの気にし過ぎなのかも知れませんけど、「福井総裁はタカ派」という印象が強い中でインフレ期待の広がりがどうのこうのというポイントを何度も並べられると、「いやあのまだ発射台が低いんで今からそんなに懸念なさらなくても」とは思うのでありますが、実際のところどうなんでしょうかねえ。

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2007/06/19

お題「良く見りゃいつもと同じ話でもある総裁会見」

体感的な物価情勢と現在の物価統計はどうもこう違和感があると思うあたくし(今もそうですが、吉牛280円の頃のデフレ時代も)。いやまあヘドニックっていう手法も意味は何となく判るんですけど、実際問題としては名目の購入価格が変らないで性能向上したから物価指数が下がりましたされても何かねえと。今売ってるもんだったら例えば扇風機みたいに値段が下がった従来機種が販売されてるなら「下がった」って思うんだけど・・・・

という話をするにはあたくしの勉強が不足してるのも甚だしいのでとりあえずつぶやいてみただけです。

本論は例の総裁記者会見ということで。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0706b.pdf

で、最初に相場の燃料ヘッドライン発言の検証をしようと思ったんですが、相場ヘッドラインにならなかったけど、「えええええ!」という発言がございましたのでそちらから。


○第1の柱と第2の柱のウェイトは同じだったんですか!

冒頭の質問で説明以外に質問が3つ出てまして、その答えがやたら長いのですが、その質問に対する答を見て驚倒。会見要旨の3ページ目になりますが、「市場の一部では最近の金融政策が第1の柱ではなく第2の柱に基づいて行われているとの見方があるが如何」(意訳)という質問に対する答えであります。オモロイので驚愕した部分を先に引用しますね(^^)。

『どちらかの柱を他方の柱に優先させるといったことではなく、あくまで2つの柱を共に点検し、等しくウエイトを置いて政策判断を行っていくという考えです。』

えーっと、金融政策に関する基本的な考え方に関する説明を読みますと、ど〜考えましても第1の柱(=先行きの経済物価情勢に関する基本的な見方)がメインで、第2の柱(=リスク要因)はオマケに過ぎないと思うのですが、「等しくウェイト」とはこりゃ如何なものかと。こういう話をされると第2の柱を結構意識してるんじゃないのかと思わざるを得ませんわな。「実は第2の柱で利上げしてたのをニュートラルに戻したんじゃないですか」と意地悪い解釈をする知人も居ましたが(^^)。

でね、この発言の前半ではこんな話してるんですよ。

『2番目にお尋ねのあった、リスク要因である第2の柱と基本的シナリオの第1の柱のどちらを重視しているのか、密かに重点を特に資産価格に移していないかというご質問ですが、私どもは量的緩和政策解除以降、一貫してこの2つの柱双方の点検結果に基づいて政策判断を行ってきています。この点は現在も些かも変わっていません。』

『私自身あるいはボードメンバーの発言で資産価格に触れる回数が多いというお尋ねも時々聞きますが、それはそれらに関する質問が多いからであって積極的にその発言を増やしているとは思っていません。』

まあそりゃそうですな。で、ちょっと途中を割愛してその先。

『今後の金融政策運営においても、こうした基本的な考え方を維持する、つまり量的緩和政策脱却の時点で決めた枠組みの中できちんと判断していくという方針です。』

で、その先にちょっと説明があった後で先ほどの発言になるのですけれども、正直言ってここまでで発言を止めときゃ何の問題もないと思うのですが、最後の部分(最初に引用した部分)は丁寧に説明しようとして何か余計な発言をしたように見えるのであります。

で、ヘッドラインが踊った会見であったということで、今回の会見要旨を読むとこの手の余計なサービス発言が多いのよ。ということで次にヘッドラインで燃料投下になった部分の検証を。


○相場への燃料ヘッドラインになった発言部分は・・・・

ヘッドラインで要確認事項がどうのこうのとあった部分は、案の定今回現状維持になった理由への質問に対する答えでありました。要旨の5ページ目。

『(問)今回、金融政策は現状維持でしたが、経済・物価については、4月の展望レポートで示したシナリオに基本的に沿って動いているという判断でした。先程まだ滑り出しに過ぎないとおっしゃいましたが、今回現状維持を決定された理由は、4月の展望レポートから間もないからという時間的理由なのか、それとも、例えば昨年の12 月あるいは1月のように基本的シナリオに対する蓋然性に対してまだ確信の度合いが十分でないから現状維持にしたのかお伺いします。』

これはある意味オイシイ質問の仕方ではありますな。こう聞けば「7月利上げ観測を市場にばら撒きたくない」と考えているであろう福井総裁はハトっぽい発言をしちゃいますもんね(^^)。で、答がいつものようにやたら長いので一部だけ。

『(答) 一か月半という比較的短い時間が経った現段階でみて、標準的なシナリオに概ね沿って経済が動いており、少なくともこの趨勢でみる限り先行きも物価安定のもとでの息の長い拡大が期待できるというところまではしっかりと判断しています。しかし、政策変更という行動に結びつけるためには先行きの経済・物価の動きについて私どもはより確証を持つ必要があると思っています。』

まあここまでは良いのです。で、その後各項目について一々説明するのは親切は親切なのですが、最後がどう見ても言わずもがなでございます。

『しかし、私どもは経済・物価情勢の分析と政策判断とを結び付けるに当たって、そこにこそ丹念な継続的分析が要ると考えており、そういうことを本日確認しました。従って、要確認事項が非常に多いという点でも全員一致で決まっているということです。』

「非常に多い」っての外信だとどう報じられるのか知らんですが、すぐ大げさな言い方をする福井発言の仕様に慣れてれば「非常に」とか言ってるけど経済指標1か月分良いのが揃ったら豹変するでしょと思うのですが、福井さん独特のおおげさ表現を真に受けるとこれはどう見ても当面の利上げ無しと読んでしまいますわな。しかもここだけ切り取ると・・・・ナムナム。


もう一丁の市場がどうのこうのって奴ですが、これまた何だかなあって感じです。要旨の8ページ目。

『(問) 今、マーケットでは金利引き上げの時期について、8月ということを8割くらい織り込んでおり、対して7月は2、3割の織り込みになっていると思いますが、総裁自身はマーケットがなぜそのようにみているとお考えですか。』

どう見ても釣り質問です。本当にありがとうございました。

『(答) 短期金融市場を色々眺めていますと、私どもにとって市場は正に鏡です。(略)しかし、同時に申し上げたいことは、市場金利は、あくまで私どもにとってはひとつの参考材料であり、私どもに予断を持たせる材料には決してなり得ないということです。(略だけど後で書きます)一方、市場は市場金利という形で経済に対する見方を示しており、これは私どもの参考材料ではあるものの、逆に「市場が私どもに対して交通信号を灯している」、「市場は青信号だからやっていいよ」、「だからやるよ」というような感じには決してなっていません。(略)』

なんちゅうか別にそんなこたあいわなくても良いのにと思うのでありますが、多分この釣り質問に対して容認みたいな発言をすると「すわ7月利上げ」って話になりかねないと警戒して喋っているうちに例によって口が滑らかになって言わずもがなの例え話をしちゃったんでしょうかと推測。

ちなみに(略だけど後で書きます)部分には微苦笑。

『これまでも様々な場で申し上げたかと思いますが、私どもが申し上げることは、経済や物価についての情勢判断や先行き見通しです。金利をいつどうするかといったことは、予断を持っていないが故に、残念ながらサインを送れない、つまり私どもから交通信号を灯すわけにはいきません。』

地均しと言われるのが相当気に食わないですかそうですか。


○ロンバートについて

会見要旨の10ページ目より。発言の途中を切り取っています。

『そういう意味(引用者注:誘導目標金利へのコントロールが円滑に運営できているということ)では、補完貸付金利との幅をもう少し引き上げていっても良い可能性がこの先はだんだん出てくると思いますが、まだよく分かりません。郵政の民営化をはじめ、市場には色々と資金繰り円滑化要因もあれば、不円滑化要因もまだ色々と孕んでいますので、この先の市場の変化をきちんととらえながら――別にこれは急ぐ課題ではありませんので――、ゆっくり点検しながら適当な状況にもっていければと思います。今非常に不適当な状況であるとは思っておりませんので、時間をかけて検討していけば良いと思います。』

別にロンバート引き上げてもどこからも苦情出ないと思うのですが、何でここで決め打ちするのか良く判らんです。以前ゼロ金利解除の時にもロンバートを政策金利と別に変更するのを否定しましたが、ロンバート回廊を広げるだけじゃなくて狭くするという選択肢だって将来的にはある筈なのに何でじゃろ。正直、短期市場の中の人的にはちょっとがっかりだったのではないかと思うのですが。

ま、この発言も「7月利上げ観測を抑えるためにホーキッシュな発言をしないように」って意識の余りなのかもしれないけど・・・・



○聞かれもしないのにインフレ期待の問題に言及するのでした

最初の質疑に戻りまして、要旨の4ページ目(最初の質疑応答で3ページとはこりゃまた長い)にあります金融市場動向に対する質問に対して何故かインフレ期待がどうのこうのという話に。

『一般論として申し上げると、過去かなり長い間、世界経済が全体として高い成長を続ける中で緩和的な金融環境が維持されてきました。日本経済もそうしたグローバル経済の中にきちんとビルトインされてきました。こうした組み合わせを可能としたのは、グローバル化の進展などを背景とした物価やインフレ期待の安定があると思います。こうした構図が崩れるリスク、つまりインフレ期待の高まりなどから、国際的な資金フローや金融市場に大きな変化が生じ、世界経済全体、つまり実体経済に悪影響が跳ね返ってくるリスクについては注意していかなければなりません。』

それは仰せの通りですな。で、続きですが途中割愛してます。

『今のところグローバルなインフレ期待は安定しているとみられます。私どもはインフレ期待が高まることが最大の敵だと思っています。まだ最大の敵は顔をみせていないと思っていますが、為替市場も含めて世界的な金融市場の動向の背後にある経済・物価の動きとともに、深く探りを入れながら今後とも十分注視していく必要があると考えています。』

何か別にインフレ期待が安定してると見ているならわざわざリスクに言及するこたあねえと思うのですが、まー本邦では何かの期待あるいはブームが発生すると鉦や太鼓でメディアが煽って国民踊っていきなり大爆発という仕様になっておりますので、懸念するのもまあ判らんでもないけど、別に言わなくても良いような希ガス。

そういう点ではまあ真面目に全部の可能性の話をするという意味で福井総裁はきちんとしたお方なんですけど、全部の話をしようとするからヘッドラインリスクが高まる訳でして、ある程度木で鼻をくくった答弁も必要なんじゃないですかねえと思います(が今更遅い^^)。

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2007/06/18

○総裁会見でビックリ

で、まあ債券市場の方は「そうは言ってもまあメインシナリオ通りだし」ということで後場のビックリ上昇後は落ち着いたもみあいになったんですが、引け後の総裁記者会見でご案内の通り先物更に上昇。大引けが30銭でしたが、総裁会見のヘッドラインが出てくるといきなり10銭ほど上昇して、イブニング引けにかけて一段高となって53銭で終了の巻。為替とか金先とかも反応しておりまして、金先12月限は99.000まで買われる場面があるわ、為替はご案内の通り海外で円一段安で帰ってくるわと、どう見ても総裁会見が燃料投下です。本当にありがとうございました。

でまあその総裁会見の内容はどうせ今日の午後とかにならないと日銀のサイトにはアップされませんのですが、そりゃまあヘッドライン見たらあたくしも「ありゃりゃ」と思いますわな。例えばあたくしが見ておりましたブルームバーグニュースのヘッドラインから「ありゃま」と思ったのは3つありましてこんな感じ(出た順序とは違いますので念の為)。

『市場が青信号だからといって政策変更行うわけではない』
『政策変更するには確認すべき事項が非常に多い』
『補完貸付金利とのスプレッド拡大は急ぐ課題ではない』

3番目のはちと別の話ですけど、2番目はブルームバーグニュースの配信記事の題名にもなってましたし、最初のも「市場が織り込んでいても利上げしない」→8月利上げ織り込み相場だが8月利上げをする訳ではない→こりゃ8月利上げも無いでしょ→こりゃエライコッチャという連想が働きやすいヘッドラインなのでありまして、まあ恐らく今朝の本職の皆様のレポートの中で「8月の利上げにも消極的」とか言い出して元気になる債券強気派が出るに100ジンバブエドル(^^)。

で、まあそういうヘッドラインを出されると、普通だったら特に驚倒しないはずのヘッドラインであっても意味がありそうになってくるのです。曰く、

『設備投資と消費の持続性判断にはより確証ほしい』
『円安が即、リスク要因というほど単純ではない』
『中間評価と政策変更の可能性は全く無関係』

今回政策変更しなかったんですからこういうのは当然ではあるのですけれども、上記のようなヘッドラインが出るとこういうのも燃料になり得るのでありますよ。まあ心理的なもんなのでこれがこうと定性的に話すことができないのがムツカシイ所なのですが。

でまあ肝心の記事を読んでみますと、これらの発言の流れ自体は、7月利上げに関しての質問を打ち込まれて、それに対して否定的なニュアンスでの発言をした流れ(ちなみにあたくしが読んだのは15日18時01分配信のブルームバーグニュース)でやっちまいやがりましたなあという感じのようですな。そして「市場が青信号云々」は市場が7月利上げを20%織り込んで8月利上げを80%織り込んでいますが如何でしょうかとかいうチョー引っ掛け質問を受けての発言で、おまけにそれは言わずもがなのサービス発言に見えます。何やってんだか。


あたくしが勝手に想像するに、この前から書いておりますが、福井総裁としてはこれ以上の早期利上げ観測が盛り上がられても困るので、とりあえず7月利上げ観測が盛り上がるような燃料の投下を避けようと思って、そのニュアンスで発言したら、いつもの福井仕様によって逆方向へのサービス発言が飛び出したと逝ったところなのではないかと思うのですが、まあ今日出る総裁会見要旨を良く読んでみるのが吉だと思いますのであたくしなりの最終判断は保留です。ただまあ参考になりますのは例によって本石町日記さんのエントリーでございます。

http://hongokucho.exblog.jp/6982104/

で、コメントのところにもありましたが、ロンバードの拡大を否定したのがあたくしにも激しく意外でございました。というか今時点で否定する理由が良く判らん。

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2007/06/13

ひねもす国会会議録(^^)。

・5月29日の参議院財政金融委員会

富岡委員(民主党・新緑風会)からの質疑応答は日銀短観などの調査で零細企業が網羅されてないのは判断を誤るもとではないのかとか、まあお馴染みの格差社会がケシカラン的な質問で、その間に「これが美しい国ですか」とかもう正直くだらねえのですけれども、質疑の最後の方で先般OECDの報告書だか何だかで利上げを慎重にという話があったことに関して総裁に質問してたんですな。で、それに対する答え。

『OECDの方々とは日本銀行もいろんな形で対話を続けてきておりまして、基本的な認識に非常に大きなそごがあるというふうには思っておりません。先般のOECDのレポートは表現的にややそういうふうな形になっておりますけれども、現在各国中央銀行、少なくとも先進国の中央銀行の金融政策の基本的なスタンスというのは、足下の物価だけを見ていて金融政策の責任が全うできると、こういうふうに考えている中央銀行は一行もございません。』

『やはり先行きの経済をどういうふうに深く読み、そして将来につながる金融政策をするかという点がむしろ共通のスタンドポイントになっていると、こういうふうに認識しておりまして、日本銀行の今取っておりますスタンスは、足下の物価を無視するということは一度も申し上げたことはございません。現在の物価を更に将来に引き延ばしてどういうパスが想定できるかと、その望ましい蓋然性のシナリオを持つことができるんであれば、それを実現できるような金融政策を必要なタイミングでやっていくということでありまして、将来につなげる立体的な枠組みという点で御理解をいただかなければならないと、こういうふうに思っています。』

まあ別にいつも通りの発言をしているのですけれども、情報ベンダーに乗せられると「足下の物価を無視するということは一度も申し上げたことはございません」がクローズアップされるので、第一印象として「福井総裁慎重ですな」となるのですけど、よく見りゃいつも通りでした(^^)。ただまあ勝手に福井総裁の考えを憶測致しますと、先行きの利上げシナリオの達成に自信がついてきてその分発言に余裕が出てきたという事ではないかと思うのですけれども。

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2007/05/31

○福井総裁の講演

国際コンファランスにおける福井総裁の挨拶(は英語で行われたようでして、その日本語訳)から。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0705e.pdf

情報ベンダーでも報道されてましたけど、挨拶の中で「またこれですかあ」というのは本文2ページ目の最後の部分。

『東アジアと世界との結びつきの強まりは、国際金融面でも、このところ着実に進んでいます。金融面の結びつきが強まると、東アジア地域には様々な便益がもたらされます。(例えば・・部分割愛)しかし、金融面の結合が深まり、国際資本移動が活発になると、ある国や地域で発生した負のショックが、他の国や地域に伝播しやすくなります。こうしたショックの伝播は、先進国から新興市場国・地域という方向だけではなく、新興市場国・地域から先進国という方向でも発生することがあります。資産価格、とりわけ株価は、世界的にも地域的にも密接に連動しています。そうした状況の下では、資産価格が、時として経済のファンダメンタルズから離れて過剰な変動を示し、それが引いては実体経済に悪影響を及ぼす可能性があることに留意しなければなりません。』

一般論の話をしているとも読めますが、どうも最近の総裁様の発言をフォローしてますと、「バブル警戒」→「第2の柱強調」と読んでしまいたくなりますなあって所でしょうか。

まあ確かにバブルが発生するとその処理はややこしい(単純に退治モードに入ると悲惨な事になるのは実演済み)のでそれはそれで判るのですが、経済のファンダメンタルズから過剰な変動というのには下げの方もあると思うのですが(^^)、どうも上の方への警戒感しか見えてきませんなあ。。。。

なんだかね、どうもここもとは「第2の柱に傾斜してますなあ」と取れるような情報発信が多くて、何かそれで良いのかよと思うのでした。

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2007/05/21

お題「中身は穏当な総裁記者会見」

お休み中のネタ(金融経済月報とか武藤副総裁講演とか)は追々お出しすると致しまして、まずは木曜の総裁記者会見の要旨が出ましたのでそちらから。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0705b.pdf

○CPIがマイナスでも利上げ云々の部分ですが

日経などの報道では利上げの方がヘッドラインになっていたのですけれども、質疑応答を見ると展望レポートの公表時の記者会見での発言よりも慎重な感じでございます。上記ファイルの10ページ目のあたりから。

『(問) 総裁はひとつの指標だけで金融政策を判断するわけではないと常々おっしゃっています。ただ、消費者物価指数が水面下にある中で、第1の「柱」と第2の「柱」に照らしてタイミングが適当であると考えるならば、消費者物価指数が水面下にあっても利上げはできるとお考えですか。また、一般論で言えば、フォワード・ルッキングに考えたとしても、足許の数字がマイナスであるのに、これから先本当に上がる保証はあるのかという批判の声が予想できると思います。これをうまく説明するための条件があるとすれば教えてください。』

もう答を誘導するような質問ですが(笑)、こういう質問ということで総裁の発言も逆に慎重になったのかもしれませんな。で、質問に対する答がやたらと長いので肝心の部分というか最後の部分を引用しますが、一応ここの所はURL先に当たって頂きたいと思います。

『(説明部分割愛)足許の物価が若干のマイナスの時にできるかできないかと言われましても、今私が申し上げましたようなことをきちんと点検し終わらないでマイナスであってもいつでもできると申し上げているわけではありません。今申し上げましたようなことを全て判断し尽くした後で、仮にその時まだ消費者物価指数が多少のマイナスという場合であってもそれは十分利上げは可能だと思いますが、日本銀行は消費者物価指数がマイナスであっても何が何でもやるんだ、やることを先行して考えているというコメントは、大間違いです。』

ということで、最後に「(利上げありきという見方は)大間違い」とコメントしてますが、早期利上げ思惑否定方向でこういう強い言い方するのも最近あまり見なかった次第。まあ質問がいかにも誘導色強かったのである意味で売り言葉に買い言葉(と書くと何か喧嘩腰みたいで表現良くないけど^^)になってしまった面はあるのかも知れませんけど。

ということで、日経やらモーサテで「CPIマイナスでも利上げ」を強調して報道してたのは、明らかに強調する部分を間違えているでしょという事ですな。



○金利の変更をサボると云々発言について

実質冒頭の質問は先日の講演での発言について(2ページ目)。

『(問) 総裁は、先日講演をした際、「日銀が金利の変更をサボると、リスク発生の可能性が少ないとは言えなくなり、われわれの責任を果たせなくなる」と発言しました。どちらかと言うと金利引き上げの方向に力点を置いた発言かと思われますが、この発言の真意について改めてお伺いします。』

『(答) 講演を聴いておられた数多くの方は、私は展望レポートの通り喋ったと聴いておられることを確認しております。いつも申し上げており、また今も説明しました通り、日本経済は物価安定のもとでの持続的な成長を実現していく可能性が高いという判断です。この見通しは、市場や企業が先行きの政策変更をある程度織り込んだ上で意思決定していることを前提としたものであると繰り返し申し上げています。経済・物価が今後とも見通しに沿った動きを続けていくならば、政策金利水準の調整を行っていくことが必要になる、と展望レポートで明確に書いているところです。(以下割愛)』

ということで、「経済物価情勢が日銀のメインシナリオ通りに好調であれば利上げを淡々と行いますといういつもの話ですよ」という発言となっております。割愛した後半部分でも同じようなトーンになっておりまして、まあ今回の会見ではあまり過激な事を言わないように注意しているという感じが伝わって参ります。

ここからはあたくしの勝手な想像の世界になるんですけど、ここもと海外経済とか株式市場等が比較的いい感じで来ている事もあって、CPIは相変わらずですけど、先行き経済に関しては福井総裁は自信を深めているというか余裕をかましていて、その結果として今回の会見では割と穏やかな話をしてるんジャマイカという気がするんですよね。または市場のほうも「CPIがいくら%にならないと日銀は利上げしない」といったような発想をしなくなっている(とは言え流石にマイナスで利上げはねえだろという発想は多いと思うんですが)ので今更利上げを強調する必要もないという風に思っているのか、まあどっちかなのか合わせ技なのかと思うのですけれども。ま、あくまでもあたくしの勝手な想像ね。


○円キャリートレード問題

6ページ目になります。

『(問) 総裁は、国会答弁において先程の資産価格について、円キャリー・トレードという言葉をあえて使われたと思います。私の記憶では、円キャリー・トレードという言葉が、総裁の口から公的な場で出た記憶はなかったのですが、あえて国会で円キャリー・トレードや資産価格の歪みをご指摘されたのには何か理由があるのでしょうか。』

『(答) 特にありません。国会は双方向のQ&Aですので、頭の中に不動産価格を念頭に置いておられる方とか、為替相場のことを念頭に置いておられる方とか、色々な方がいらっしゃいます。頭の中にどのような問題意識を持っておられるかを理解しながら、私はいつも的確に答えを差し上げなくてはならないと思っています。そのように特定の事柄とは関係なく、皆様からより広く問題を捉えて質問を頂戴している場合には、私の言葉としても、展望レポートに書きました通り、資源配分等に歪みが生ずる恐れがありますというような全てをカバーするものの言い方をしています。(以下割愛)』

うーむ、何という模範解答。要するに相手が円キャリートレードを念頭に質問してきたから資源配分の歪みの具体例として円キャリートレードを答えで具体的に挙げただけだと言う事ですかそうですか。何かうまく言いくるめられているような気もするが(苦笑)、まあ今回の会見は全体的なトーンがこんな感じのものが続いておりまして、特に「利上げ前のめり」という印象は受けませんし、総裁もあえてその雰囲気を出さないように注意している感じを受けるのでありました。ただまあ余裕かましているように(字面だけ見てると)見えるのはちょっと気になるんですが。


○その他ですけど

何かこう今回の会見要旨を読んでて思うのは「福井節完全復活か?」ってのであります。実際の会見を見てるわけじゃないから勝手な想像ではあるのですが、例えば6ページ目の真ん中あたりの応答を読んでいるとお得意の横文字がでてきて福井総裁節って感じを受けるんですよね。

『家計は長い将来の生活設計をどのように考えるか、そして企業は次の中期計画、さらにはその次の長期計画と幾重にもロングランなプロジェクトに工夫をこらしながら、一方で足許の企業経営をし、家庭生活を営んでいます。』

一番最後の質問に対する答えの部分(17ページ目)でも何か福井節ですなあ感じです。

『次に、経済が安定するのだからペースも一定で金利を引き上げられるのではないかという極めてわかりやすいご質問ですが、答えは当然わかりにくくなるわけで、先程からもお尋ねの通り、そうは言っても全く波のない経済というのはないわけです。(途中割愛)やはり波のない経済というのはダイナミックな経済ではないので、安定した世界経済の拡大や日本経済の拡大といっても、ダイナミクスがベースになっていますので常に波のある経済です。従って、常に安定したペースは何かということをいつも翻訳しながらでなければ判断できないので、翻訳作業の前に金利調整のペースを先にセットするということはできないということです。』

何かこうまた口が滑らかになってきたんじゃないですかな(^^)。

あとまあ英国のインフレーションターゲットの話とか、物価と経済のどちらか一方を優先しないといけない時にどっちを取るかという話、それからGDPや機械受注に関する質問などもございまして、内容が多くなっておりますんで全部で17ページとなってます。基本的には景気に関して引き続き強気の感じですけれども、どちらかというとあたくしには「余裕かましてますな」という感じに読めました。勘違いかもしれませんけど。。。

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2007/05/11

お題「総裁講演自体は穏当だったのですが・・・」

えーっと、どこぞの内閣府政務官のモーサテインタビューですが、論評未満としか言いようが無いですな。美しい理念らしきものはあるけど具体策なしですかそうですか。大体からして放送される発言部分が細切れなのは、余程話の内容が(以下自主規制^^)

#と思いながら見てたらインタビュービデオが終わった後でゆっこ様(インタビューしてたのは別のお方)が「言ってることはキャッチーですが、打ち上げ花火で終わらないように」とコメントしたので茶を噴いてしまったではありませんか。今朝はゆっこ様に正直感動した。

という話は兎も角(^^)。

昨日は午前中には参議院での半期報告、午後は内外情勢調査会での講演がありました。で、参議院での質疑に関しては会議録出てから改めて確認するとして、内外情勢調査会での講演と質疑応答(質疑応答のソースはブルームバーグニュース)を確認しておこうかと。

ということで、講演要旨は
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0705a.htm
質疑応答に関してはブルームバーグニュース10日15時57分配信記事より。(質疑応答なので内容は日銀のサイトには掲載されないと存じますので、誠に恐れ入りますが参照させていただきます)


○やっぱり極めて低い金利水準ですかそうですか

全体的な流れとすれば、展望レポートの説明という感じです。そりゃまあ展望レポートが出てから10日位しか経ってないのですから基本的な話が展望レポートになるのは当たり前ですけれども、現在の景気状況に関する説明部分で金利水準に関して言及しておるのです。

『今回の景気拡張局面のもう一つの特徴は、この間、極めて緩和的な金融環境が続き、民間需要を後押ししていることです。設備投資の増加の背景には、先ほど述べました、グローバル市場の拡大と過剰設備の調整進捗に加えて、緩和的な金融環境もあります。金利は、経済や物価との関係でみて、かなりの低水準で推移しています。』

ということで、かなりの低水準ですかそうですかという所ですけれども、展望レポート公表の時に「極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持しながら」という文言が抜けていることについて注目されていた(本石町日記でも言及ありましたし、当日の総裁記者会見でも質問がありました。質疑応答では「極めて低い金利水準だ」と総裁は返していますが)んですよね。この先に具体的な数値を出して説明しているのですけれども、ここの辺りに関しては「現状の金利水準が極めて低い水準なのか」という点について政策委員会の中でも議論が分かれているのかなあという想像をさせてくれる部分ではございます。

『例えば、実質成長率と実質短期金利を比べてみますと――実質金利を計算するに当たっては期待インフレ率をどうおくかという論点はありますが、一つの方法として、その時々の消費者物価を用いて実質化するとすれば――、この間、2%程度の成長が続く一方で、実質短期金利は0〜0.5%程度で推移してきました。』

実質短期金利ってそんなもんでしたっけ。いまだともうちょっと高いような気も。

『金融機関は、財務面の改善によるリスクテイク能力の拡大を背景に、積極的な貸出姿勢を続けており、銀行貸出は増加してきています。このように、金利と資金のアベイラビリティの両面で金融環境は緩和的な状態が続いています。また、為替相場は、実質実効レートでみて、プラザ合意後の最安値圏で推移しており、企業の輸出増加に寄与してきたと言えます。大都市部を中心に、地価の上昇地点が拡がってきているなど、資産価格が上昇していることも、民間需要を増加させる方向に作用していると考えられます。』

どう見ても金融緩和のバブル警戒です。本当にありがとうございました。

つーことで、まあこの辺りの点に関して政策委員会の中でも意見が分かれてて、福井総裁はバブル警戒スタンスだという話なんでしょうかねえというのは次にご紹介する質疑応答部分により如実に現れておりますです、はい。

で、先ほども申し上げましたように、講演要旨自体は展望レポートと同じ話になっているので、まあ質疑応答の方がオモロイでしょうか。市場的には何かHawkishなものが出るかと期待というか懸念というかしていた面がありましたので、「講演内容に新味なし」という反応を示しておりました。


○金利変更をさぼるとリスク高まるですかそうですか

「金利変更をさぼるとリスク高まる」というのは先ほど申し上げたブルームバーグニュース10日15時57分配信記事の小見出しでございます(^^)。以下同記事より。(5月10日、ブルームバーグ、日高正裕記者)

『福井総裁は「現に市場を見ると、先行き幾ばくか金利は上るという見通しを皆さんが立てている。そういう見通しを持って経済活動をしながら、こういう穏やかだが好ましいバランスの取れた経済が実現していくので、われわれがそれにもかかわらず金利を今の水準で据え置いていった場合、経済の実態から比べて金利がより低すぎる方向に行ってしまう」と語った。』

どう見ても円環性です。本当にありがとうございました。

『福井総裁はさらに「その場合には経済を変に刺激する。資産価格を刺激したり、為替相場を刺激したり、あるいは必ずしも効率的とは言えない投資をしてしまうリスクがある。好ましいシナリオ通りに経済がいく場合、われわれが誤りなきタイミングでゆっくり金利を上げていけば、常に経済のアップサイドリスクとダウンサイドリスクがバランスの取れた状態でいける」と指摘。』

『その上で、「われわれが金利の変更をさぼると、起こるリスクが少ないとはいえなくなってしまう。こちらの方が起こる可能性が少し増したと言われることになる。自分が動かないことによってそうなるといった状況にすることは、われわれが責任を果たせないということになる」と語った。』

いやあのですな、市場の金利がどうのこうのというのであれば、ゼロ金利解除の頃から比較してろくすっぽ上昇しないどころか低下している長いところの金利を見て頂きたいんですけどね。短期市場の金利は最終的なコールレートの決定権限が日銀大魔王様にあるんですから大魔王のご意向を忖度して動きますから、それを捕まえて「市場がこう思ってるから」はねえだろと思うのですけどね。

#とは言え、中長期金利を見ても先行き半年とか1年の政策金利の変更タイミングを市場がどう見てるかなんぞ計測不能ですけど(苦笑)


で、当記事の最後の小見出しを見て驚倒したのですが、何と小見出しが「海外のバブルも防ぐ必要」ですわよ奥様。

『福井総裁は「各国の中央銀行はそれぞれの経済・物価情勢を見据えながら、金融政策をやっていく。そうすると金利差は避けられない。そうすると、為替相場は従来のように経常赤字、経常黒字には必ずしも素直に反映しない相場が形成されることがある。これがかく乱的な影響を跳ね返すところまでいくかどうかを十分注意しながら、各国の金融政策は行われていかなければならない」と述べた。』

『さらに「国内でバブルが起こらなくても、海外のどこかでバブルを起こして跳ね返ってくるということも防ぎながらやっていく必要がある。しかし、そこをあまり急ぎすぎて、肝心かなめの国内の経済・物価のリズムを乱すような政策は絶対取れない。この複雑な作業は多元方程式を解くようなものだ。その方程式自身が毎回変るややこしいものだ」と語った。』

いやあのそんなに複雑な多元方程式解く努力するよりも、「他国のバブルなんぞシラネーヨ、お前らで何とかすればぁ」と割り切って頂いて、国内のフォローをきっちりしていただきたいのですけれども・・・・・・・orz

何か報道される発言順からすると最後の肝心かなめの部分が後回しになっているのではないかと懸念するのはあたくしだけではありますまい。というか日高記者(か編集の小沢さん)がこの部分の発言紹介で『海外のバブルも防ぐ必要』って書いたんでしょう。

なんだかなあって感じではあります。延々と引用して誠に恐縮でございましたm(__)m

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2007/05/02

お題「総裁記者会見、それほどタカでもなさそうな」

報道段階では「CPIマイナスでも利上げ」というヘッドラインが踊っていた為にホーキッシュな印象を受けましたけど、会見要旨を見ると地均し的なニュアンスはあまり受けませんでした。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0705a.pdf

○CPIマイナスでも利上げ云々について

本文4ページ、5ページのあたりです。「経済・物価情勢の改善」という点についての突っ込みに対する答から。

『経済と物価を分解して別々の部品のように判断するのではなく――経済と物価は有機的につながっていますので――、経済が想定通り拡大する中で経済全体の循環メカニズムがどうか、最終的に経済が物価にどのようなメカニズムで変化を及ぼしつつあるかということを、全体として判断して改善ペースを確認した上で金利の調整を行うという意味です。物価がマイナスでも景気が良ければ行うのかという質問に対しては、答えられません。ダイナミックな姿をきちんと認定しなければわからないということだと思います。』

ということで、再度念押しの質問。

『(問)物価がマイナスの状態でも金利水準の調整を行う可能性はあると解釈してよろしいのでしょうか。』

『(答)物価が短期的にどのような動きをするのかということを無視し得ませんが、金融政策運営上大事なことは、やや長い目でみて物価の基調的な動きがどうかという点を判断することだと思います。従って、目先物価の動きが弱いとか、あるいは場合によって前年比マイナスという状況がみられることがあったとしても、経済の拡大メカニズムがしっかりしており、長い目でみて物価の基調もしっかりとしている場合、先程申し上げたような経済・物価の好ましい方向への変化のペースが十分確認できるのであれば、それに則して金利の調整を行っていかなければ、かえって資源配分等で後々好ましくない結果、ひいては安定的な景気の拡大ではなく、波を打った景気の変化に結びついてしまう惧れがあると考えています。』

ということで、確かにこれを見ると「げげえ〜」という感もあるのですけれども、普段から想定問答集の範囲内の答えを見慣れておりますと、「はあはあそうですか」という感じでございまして(^^)、特にこう前のめりになって想定問答から一歩踏み込んだ発言をしているという印象です。

まあ昨日ご紹介したように、展望レポートの(上振れ・下振れ要因)部分で物価上昇率の先行きに関して『上振れ・下振れ両方向の不確実性があることに留意する必要がある。』と言及してますんで、下振れ要因として挙げている中で経済に対するネガティブ要因となりそうな賃金動向に対する日銀の今後の見立てには注意しておく必要はあるでしょうな。

ということで、あたくしの勝手な印象&解釈ではありますが、この物価マイナスでも利上げの可能性云々は、「早期利上げするぞコノヤロー」の地均しではなくて、「まあそうは申しましても絶対に利上げしないという訳でも無くてですなあ」という可能性を否定するのを避けましたってあたりが妥当ジャマイカと存じます。


とは申しましても、例によって例の如く、きっちりと予防線というか伏線(またの名を罠^^)を張っているのが日銀クオリティでございまして(^^)、昨日もご紹介しましたが、展望レポートの最後の部分で「物価安定の理解」の点検をしていましたが、そこにはこのような記述が。以下本年4月の展望レポートより引用。

『「中長期的な物価安定の理解」の検討に当たっては、(1)消費者物価指数の計測誤差(バイアス)、(2)物価下落と景気悪化の悪循環のリスクに備えた「のりしろ」、(3)物価が安定していると家計や企業が考える物価上昇率、を考慮した。』

『この点、バイアスは、昨年の基準改定を踏まえても、引き続き、大きくないと判断される。』

『「のりしろ」に関しては、企業部門の体力や金融システムの頑健性が高まっていることから、物価下落と景気悪化の悪循環が生じるリスクはさらに小さくなっていると考えられる。』

『また、物価上昇率の変動が小さい中で、物価が安定していると家計や企業が考える物価上昇率には、大きな変化はないとみられる。』

一瞬読んだ時に「はて?」と思いましたが、念の為昨日は知人友人とこれはどう解釈するんだとお話をした結果の解釈は・・・・

(1)CPIの上方バイアスは大きくないのでゼロ近傍でも好々
(2)デフレスパイラル再突入に対するバッファーは企業部門や金融システムが健全化し、強化されているので少なくても好々
(3)企業や家計は引き続き物価があまり上昇しないことを物価安定と理解しているので、そんなに物価が上らなくても好々

となりましたがどうでしょうかね。まあそうやって物価が上らない状況でも無問題ですって理論は撒かれているのでありました(^^)。


○「経済・物価情勢の変化に応じて」→「改善の度合いに応じたペースで」

昨日ここを引用しませんでしたが、展望レポートで微妙に表現を変化させているのでありました。先ほど引用した質問の前半部分です。

『(問) 展望レポートについてお伺いします。金融政策の部分で、これまでは「経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行う」となっていましたが、今回は「経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで」と変更されています。表現を変更した理由をお聞かせ下さい。』

『(答) 「経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペース」というのは、特に新しい意味を持っていません。これまでもしばしば申し上げてきたように、金利の調整について事前に一定のスケジュール感を持ち、そのスケジュール感に則って一定のペースで金利の調整をしていくということではありません。フォワード・ルッキングに判断して金融政策を行っていくといっても、足許までに出てくる全ての情報をつぶさに分析し、先々の経済・物価の姿を抽出しながら、その変化に則して金利政策を行っていくと申し上げてきました。このことを短い文章でもう一度表現しておきたいということです。』(この後半部分は先ほど引用した部分です)

ということで「特に新しい意味を持っていない」と言ってますが、公表文書の表現が変るというのに意味が無い訳は無いのでして、確かに総裁の発言にあるように現状のスタンスを表現したものかも知れませんが、それは裏を返せば昨年4月の展望レポートを出した時点ではゼロ金利解除からその先の利上げをある程度スケジュール感を持って展望していたってことだったんジャマイカと思うのであります。これまたあたくしの勝手読みではありますけど(^^)。


○えーっと結局わかりません><;

最後の質疑応答から。

『(問)「中長期的な物価安定の理解」についてお伺いします。導入されて1年経ちましたが、金融政策の運営の関係について、市場においてもわかりにくい部分があると言われています。これまでは、あくまでも念頭に置くものでこの数字が政策を縛るものではないとおっしゃってきましたが、今回の展望レポートでは、「物価安定の理解に沿って」という表現がかなり重要な位置付けとして語られていると思います。「中長期的な物価安定の理解」と金融政策の運営の関係について改めてお伺いします。』

これまた鋭い質問ですな。で、その答え。

『(答)大変重要な点であります。いわゆるインフレーション・ターゲティングではない「中長期的な物価安定の理解」という新しい概念でありますから、それをどのように金融政策運営上意識しているかということは、できる限り詳しく説明していく必要があると思っています。ほぼ1年経過したところで点検しましたが、金融政策運営上、私どもがこれをどのように位置付けているのかということについても、従来よりわかりやすく説明したいという気持ちをもって今回の点検作業をしました。』

から始まって物凄い勢いで長い説明(1ページ半くらい^^)が続くのでございますが、あたくしこれ読んでおりまして結局なにがどういう話なのかどうも判りかねる次第でございまして、誰かこの部分をあたくしに判るように説明していただけると誠にありがたく存じます(><;

そもそもですな、中長期的な物価安定の理解で言われている消費者物価指数ってヘッドライン(=総合)の物価指数だという話だったのに、展望レポートで示される政策委員の見通し数値で出てくる消費者物価指数がコア(=除く生鮮食品)の物価指数という時点でもうかなりお手上げなんですよあたしゃ。

中長期的な物価安定の理解と目先の見通しに関しては考えている時間軸が違うというので、別のモノが出てくるということなんでしょうけれども、このあたりが実に曖昧模糊としているのが何ともという感じなのでございます。

何だかんだと引用長くなりまして恐縮至極。

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2007/04/18

○国会半期報告

今回は新しく就任した審議委員も答弁したようですが、特に新しい話が出た訳でもなかったようで市場は華麗にスルーしてたようですにゃ。で、あたくしも時間無かったので情報ベンダーのヘッドラインをちらっと見た後でまとめ記事を悠然と読んだだけなんですけど、本石町日記さんが衆議院ネット中継をご覧になってたようです。
http://hongokucho.exblog.jp/6745692/

でまああたくしはブルームバーグニュース17日14時5分配信のニュースをソースにしてちと別のネタですけど、くだんのブルームバーグ記事のお題が『福井日銀総裁:総裁の資質は信念、国際感覚、市場重視の気持ち』というエサに豪快に釣られて見るのでした(^^)。

『4月17日(ブルームバーグ):日本銀行の福井俊彦総裁は17日午前、衆院財務金融委員会で、日銀総裁に求められる資質で「第1に重要」な点として「通貨価値の安定性が、経済が健全かつ円滑に発展するための基礎的条件であることに対する強い信念」と、「その信念を貫くための力を十分備えていること」を挙げた。福井総裁はさらに、世界経済と日本経済の先行きを有機的に洞察できる「国際感覚」や「市場を大切に思う気持ち」も欠かせないと語った。』

通貨価値の安定性っていうとどうも前任者の顔を思い出してしまうのですが、そっちの話はまあスルー致しまして、最後の部分の『市場を大切に思う気持ち』というのはひょっとしてギャグで言ってるのかと。

いやまあ福井総裁様が市場との対話とかマーケットは鏡だとか市場を重視しようとお考えなのはひじょーによく存じておりますが、重視しようとしてる割には地均しみたいな発言をおっぱじめてしまうのを見てると、なんちゅうかこの市場重視ってのが総裁様のシナリオ通りにレート形成される市場が良い市場って感じの俺様方便なのか、それとも市場の自由な金利形成を本当に重視しようとしてるんだが、良かれと思って言ってる事が実は市場をかき回す地均しになるというピント外れになってるのかどうもよー判らんですな(苦笑)。

ちなみに、上記ブルームバーグ記事によりますと、福井総裁のその部分の答弁はこうなっております。

『それから、市場経済がますます発展していく。市場と実体経済との絡み合いの中で良い経済が実現していくので、市場を大切にする気持ち、そして、市場を発展させるためのさまざまな工夫が必要であり、総裁自身が頭の中で、創造的な能力が発揮できることはやはり欠かせないだろうと思う。そうしたことがあって、後は職務の公正性をきちんと守ることは非常に大事だ』

まあ短期市場の発展に向けた取り組みとかは大変に素晴らしい企画モノだと思うのですが、変な地均しで利上げの度に大騒動とかいうのは勘弁してくださいね。

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2007/04/12

お題「総裁記者会見」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0704a.pdf
PDFで9ページなのでまあ短めです。

○物価の先行き見通しに関して

冒頭の総裁からの説明の次に物価に関する質問が出まして、2ページ目から延々と(まる1ページ以上^^)総裁が説明しております。そんなのを全部引用すると大変なので勝手にダイジェストにする訳ですが。

要するに先行き上昇するって見通しなんですけど、その根拠として第一に需給ギャップが需要超過に転じているということ、次に雇用者所得の増加で消費が底堅く推移するということ、それからユニットレーバーコストのマイナス幅が今後縮小し、プラスに転じるというのがベースだということのようですな。まあいつものお話。

で、そこ読んでで「今回もこう言ってるなあ」と思うのは家計への波及に関する言及でして、確かこういう言い方は最近ずっとしてるんですけど、改めてこの理屈もちょっとねえって思うのですな。

『賃金の上昇は極めてマイルドですが、雇用が着実に伸びており、雇用者所得は緩やかながら増加を続けていくほか、賃金以外のルートを通ずる企業収益の家計部門への還元も続いていくだろう。配当所得、あるいはその他のいわゆる財産所得を含めてみていけば、一層そういうことが言えるわけです。』

何せ賃金がろくすっぽ上昇しないってのが厳然としてあるのでこうでも言うしかないのでしょうが、賃金以外のルートでの家計部門への波及ってそんなに一般的に幅広く回るもんなんでしょうかねえとか思うのですが。いわゆる財産所得とかも。どうもここの部分はさらっと読むと流しちゃいやすいのですが、あたくし的には引っ掛かってしまうのよね。


○米国経済について

米国経済に関する質問に対しての答えから。

『世界経済全体は比較的順調に高成長を続けているという認識で間違いはないと思います。しかし、その中で米国経済は引き続き調整過程にあると思います。住宅市場の調整が今も続いていることを基本軸として、米国経済全体の減速過程がまだ続いていると思っています。先行きについては、いずれ調整過程が一巡し、次第に潜在成長率近傍の成長パスに戻っていく、いわゆるソフト・ランディング・シナリオが、基本的に維持されていると広くみられていると思いますし、私どももそのようにみています。』

とあるのですが、その先が結構延々と米国経済に関しての注意すべき点についての説明がありまして、結構このあたりへの言及が長くなってきたなあという感じです。ここについては気にしてるんでしょうかね。んでまあ要するに住宅部門とインフレ懸念を主軸に話をしてるのですが、話の展開が引用者泣かせでして、ちょっとぶつ切りしにくい言い方なので華麗に全部スルーして結論部分。

『米国景気のダウンサイド・リスクと、物価上昇圧力が完全に吸収され尽くすかという意味でのアップサイド・リスクという両面の不透明性について、今後ともなお注意深く見守っていく必要があると思っています。』

しかし物価上昇は単純にアップサイドリスクという訳にはいかない(スタグフレーションだってあるんだし)ことを勘案すると結局はダウンサイドリスク方向で不透明感があると言ってるようにも見えますが、物価上昇で利上げという理屈を持ってくる布石でもあるので油断はなりません(^^)。


○物価と失業率の関係

これは良い質問。

『(問) 2点お伺いします。1点目は物価と失業率の関係です。昨年10 月末の記者会見で、総裁は「失業率が4%から3%台に入ると、割と早い段階で賃金上昇に加速力が付く可能性もあり得るとみている」という発言をされました。足許の失業率が4%くらいまできて、3%台間近まできていますが、経済の稼働率と物価ないしは賃金の関係が、以前に比べ感応度が少し落ちているのではないかとの見方もあります。これについてどのように思われますか。(2点目割愛)』

『物価と失業率の関係は、グローバル経済が進展する中で一体化していく個々の国民経済において、景気が良くなって失業率が下がることと、物価が上がることとの相対関係が、昔確認されたパターン通りであるかどうかは、過去のパターンに比べ最終物価は上がりにくいという感じが、次第に確認されつつあります。そういう意味で、いわゆるフィリップス・カーブがフラット化し、過去のパターンに比べ景気に対する物価の感応度が下がっている可能性が強い、あるいは下がっているのではないかという議論が強まっています。わが国についても同様であると思っています。しかし、そのように単純に割り切れるのか、あるいはそれが1つのシミュレーションできれいに計測し尽くすことができるかどうかを判断することは難しいです。』

『一方、雇用の中身をみると、グローバル化の競争の中で企業が将来的に競争に打ち勝っていくためにはイノベーションが大事であり、イノベーションを実現できるように質の高い人材を求める傾向が強まっています。言ってみれば労働市場においては、人材に対する企業の需要との関係で、労働力需給のミスマッチが広がっていく可能性があると思います。こうした点で、ある時点からは質の高い労働力の賃金が上がり、従って物価上昇にも加速がつく可能性があります。』

何かこういう説明になると、先ほど(と言っても引用してないのでなんのこっちゃかも知れませんね。会見要旨の3ページ目あたりで先行き物価が上昇するって話をしているあたりです)の先行き見通しの根拠にしちゃあ何か留保条件つきまくりですなあという気がするんですけど。。。。

『全般的に言えるフィリップス・カーブのフラット化の影響と、労働市場におけるミスマッチの存在、拡大からくる賃金、物価上昇への影響といった様々な要素が交錯して最終的に決まってくると思います。今後の経済の推移を、景気の持続性という点でも、あるいは物価上昇の可能性という点でも、常にかなり深掘りしながらみていかなければならないと申し上げているのは、そういう意味です。』

ということで、(本当は個人消費についての質問もあったんですけど割愛)今回は質問が経済情勢に関する質問が多かったこともあったのか、全体のトーンとしては「金利調整(要するに引上げですけど)への意欲」よりも「将来の景気については相変わらず強気だけど、足元についてはちょっと穏やか(慎重というほどトーンは落ちてないと思う)な物言いでトーンダウン」という印象を受けましたです。

あたくしとしては金利の「正常化」に関してのコメントを聞きたかったのと、金融経済月報における足元物価情勢表現の「非対称性」(昨日書いた通り^^)について質問して欲しかったなあと思うのですけど(^^)。


○相場メモ:GCレートが上昇

昨日のGCレポレートですが、16日スタートの翌日物が0.60%近傍まで上昇した模様でして、いやあの積み期間が変るのは判るのですが、何もそう律儀にそこまで上昇しなくてもと思うんですが、何ともいやはやであります。昨日入札が行われた3か月ものFB入札は前日の2か月物のような流れ入札にはならずに順当な結果になってましたが、こっちが0.57%ビットになってますので恐怖の逆鞘の巻であります。まあどっちか(もしかしたら双方)のレートが折り合ってくると思うんですけどね。フツーに考えるとGC0.6%はちょっと高い気がするんだが・・・・・

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2007/04/10

○なおしょうもないネタを(^^)

日銀2008年度の新卒採用リクルートページの総裁からのメッセージ。
http://www.boj.or.jp/about/recruit/fresh/message/index.htm

何か昔聞いた懐かしい言葉が並んでおりますな。冒頭には

『日本銀行は、サッカーでたとえれば、ゴールキーパーのような存在です。物価の安定、信用秩序の維持といった使命を果たすため、金融・経済の最前線の動きを全体的に俯瞰して政策を運営することがつねに求められています。』

とありましたが、ゴールキーパー云々とはどっかで見たと思ったら平成17年度入行式(http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0504a.htm
で総裁が言っておられました。曰く、

『私は、いつも、日本銀行は、サッカーに喩えればゴールキーパーのような仕事をするところだ、と申し上げています。日本経済の最後の砦として、確りと守りを固める。これが基本ですが、同時にゴールキーパーは戦線の最後尾にいて常に全体の戦況、個々の選手の動きを掌握することが出来る位置にいます。』

で、この続きが平成17年度入行式では・・・・

『日本銀行としては、日本経済や世界経済の状況がどうなっているか、企業や金融機関や家計の動きがどうなっているか、常に情勢を的確に判断するとともに、人々のこれからの行動に指針となるような情報を的確に発信して行かなければなりません。』

となっているのですが、こちらのメッセージでは・・・・

『更に、これからの日本銀行は、これまで以上に「前例」だけでは判断できない局面を迎えることもあるでしょう。ゴールキーパーが時に攻め込んできたボールを果敢に飛び出して取りにいくように、あえてリスクに踏み込む局面があるかもしれません。そうした局面でも、高い識見とバランス感覚で適切な判断を下し問題解決を図っていくことが必要となります。』

どうもゴールキーパーがフィールドに絶賛大出動しているような気もしますが、きっとそれはあたくしの気のせいでしょう。奥が深い。

#ちなみにゴールキーパー云々は昨年以降の入行式挨拶ではとんと触れられておりません


そして総裁メッセージの第2段落にも懐かしい言葉が(^^)。

『加えて、ここ数年、重要になってきている役割として、「金融サービス業の親玉」として金融機関の新たな取り組みをサポートすることがあります。』

さて、この「金融サービス業の親玉」というのは平成15年3月18日の衆議院財務金融委員会での参考人質疑での福井富士通総研理事長(当時は日銀総裁就任直前で20日に就任)の答弁(というか所信表明)にございます。就任にあたっての所感を述べてる最初の答弁のまとめの部分より。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009515620030318009.htm

『日本銀行というのは金融サービス業の親玉でございます。金融機関と常に対話をして、よりよき金融システムの構築そして金融サービスの提供に努めてまいりたい、そこにすべての力を尽くしてまいりたいというふうに考えております。』

そもそも「金融サービス業」というのがナンノコッチャなのですが、この「親玉」はすげえ懐かしいですな。

#だからどうしたと言われると困りますが、ちょっと読んでて懐かしかったので。

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2007/04/03

○総裁の入行式挨拶(かなり余談です^^)

福井総裁の入行式での挨拶。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0704a.htm

一昨年のが結構オモロカッタ記憶があるのですが、まあそれは兎も角として、この「戦略、起動、実現」ってのは日銀の中期経営戦略のキーワードなんですかな。利上げの戦略を(ry

『キーワードは、「戦略、起動、実現」です。これをしっかり胸に刻んでください。深い洞察力を持ってプランを練り、遅滞なくアクションを起こし、そして実際にやり遂げることです。』

ちなみに、去年の挨拶はこちらでして、
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0604a.htm
そんなもんを昨年と比較するのも誠にアレでございますが(^^)、昨年と比較してみますと、日本経済に関してこのような話になっております。

『日本経済は、グローバル経済との連関を強めながら、緩やかながらも着実に前進を続けています。皆さんは、日本経済の良い方向への折り返し地点で入行をされたと言えます。』(これは今年)

『日本経済は、「慢性的に停滞色の強い経済」から、「ダイナミックに前進する経済」へ、今、大きな転換局面に差し掛かっています。皆さんは、正にこの節目の時期に日本銀行の職員になられました。』(これは昨年)

良い方向への折り返し地点とはナンノコッチャでございますが、まあケンチャナヨということで。そしてもうひとつですけど、一昨年、昨年、今年と挨拶の中で「正確な事務」という観点のお話が徐々に減っているのが気になるのですが、これは他にいいたい事があるのでそこまで手が回らなかったということでせうか。

『まず諸先輩のアドバイスを十分に理解し、仕事をきちんとマスターして下さい。』(今年)
『まずは、先輩の指導に従い仕事の進め方を正確に覚えて下さい。』(昨年)
『皆さんは、プロの日銀職員として、「事務の堅確性」ということを瞬時とも疎かにすることは許されません。』(一昨年)

ちなみに、一昨年の総裁挨拶は
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0504a.htm
でして、この回が一番福井節っぽかったんですけどね。

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