木内登英審議委員

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木内さんの略歴(日銀のサイトから)

昭和38年11月29日生
昭和62年 3月 早稲田大学政治経済学部卒業
昭和62年 4月 (株)野村総合研究所 入社
平成14年 8月 (株)野村総合研究所 経済研究部 日本経済研究室長
平成16年 4月 野村證券(株) 金融経済研究所 経済調査部次長 兼 日本経済調査課長
平成19年 7月 野村證券(株) 金融経済研究所 経済調査部長 兼 チーフエコノミスト
平成24年 7月24日 日本銀行政策委員会審議委員
(前職:野村証券金融研究所経済調査部長)

http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_kiuchi.htm/

2015/12/07「資本市場研究会での講演は白川ドクトリンで木内ワールドという感じ」
2015/09/08「木内審議委員会見続きだが会見録も編集無しって感じで良いテンポです」
2015/09/07「木内さんの金懇講演続き&記者会見はもう凄いです^^」
2015/09/04「木内さんの金懇講演は更に論点を綺麗に整理して執行部大砲撃」
2015/03/09「木内審議委員会見は盛大に砲撃である」
2015/03/06「木内審議委員金懇講演は予想通りに白川ドクトリンで攻めてきます」
2014/08/05「木内審議委員会見はニューロジックで飛ばす飛ばす(^^)」
2014/08/01「木内審議委員のロジックは益々クリアカットになっていますがこれは異次元緩和とは真っ向対決」
2014/03/26「会見での説明は更にクリアカットで明らかに白日銀の路線を踏襲するもの」
2014/03/25「政策ロジックを遂にクリアカットに説明しだした木内さんですがこれは麿ロジックですわ」
2013/11/29「木内さんのロジックはこれはこれで正しい面はあるのだが・・・・」
2013/11/28「木内さんの政策ロジックが分かりやすい講演だがこれは執行部と水と油ですわ」
2013/09/30「講演&会見は色々と面白いネタが多いです」
2013/09/20「講演では海外経済と国内景気の持続性についての下方リスクを強調(その1)」
2013/03/06「会見より(その2)何気に新執行部に向けて宣戦布告しているっぽくもあり」
2013/03/04「会見より(その1)」
2013/03/01「講演デビュー戦ですが随所に新執行部予定のお二方をdisっているように見えますな」
2012/07/26「就任記者会見の要旨を見ると木内さんの方が佐藤さんより日銀ペースに近いような気がします」
2012/07/25「佐藤、木内両審議委員発令」
2012/06/12「空席の審議委員にモルスタ佐藤さん、野村木内さんがノミネートされる」

2015/12/07

○木内審議委員講演は当然ながら木内ワールドを展開

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko151203a1.pdf
「量的・質的金融緩和」再考
資本市場研究会における講演要旨


・経済は既に実力にあった状態

経済に関するパートではいつもの説明をしています。『3.経済・物価見通しに関する留意点 』から。

『私は、「量的・質的金融緩和」の政策効果などに助けられ、国内の経済・物価は、現時点での日本経済の実力に概ね見合った安定した状態を、既に取り戻したと考えています。また、展望レポートの見通し期間である 2017 年度にかけても、このような安定した状況が続くことを標準シナリオと考えています。』

これに関しては毎度木内さんが説明していますが、今の経済の実力対比で安定した成長軌道であるという評価をしているんですよね。

『もっとも、こうした私の見方は、展望レポートで示された政策委員の中心的な見通しと比べると、より慎重と言えます。そこで、以下では、私自身の見方に基づいて、経済・物価見通しに関する留意点を幾つか申し述べたいと思います。』

てな訳で木内さんの認識。

『(1)潜在成長率と需給ギャップ 』から。

『日本銀行が 10 月の展望レポートで示した推計では、供給面から日本経済の実力に見合った成長ペースを示す潜在成長率は、0%台前半ないし半ば程度と依然低い水準に止っています(図表5)。また、労働力および生産設備の稼働状況を示す需給ギャップを本年4〜6月時点で−0.7%と推計しており、足もと幾分下振れたとは言え、2013 年末頃から概ねゼロ近傍の中立的な水準を維持しています(図表6)。』

『この点、OECDの推計値をみても、日本の需給ギャップは、他の主要国よりも良好な水準にあります(図表7)。このように需給ギャップが概ね解消された局面においては、景気回復初期のように需給ギャップが拡大した局面と比べると、潜在成長率を大きく上回る成長は実現しにくくなると考えられるほか、人手不足などの供給制約が経済活動に抑制的な影響を及ぼしやすくなると私自身はみています。』

うむ。

『こうしたなか、以下で詳しくみていくように、私自身は、需要面からは、輸出、設備投資、個人消費のそれぞれに下押し要因がある一方、「量的・質的金融緩和」の累積した効果は、当面経済に好影響を及ぼし続けることから、2017 年度にかけて、基調としては、潜在成長率並みの緩やかなペースでの成長が続き、政策委員の中心的な見通しよりは低いながらも、安定した経済・物価情勢が維持されると考えています。』

という評価ですな。

で、次の『(2)海外経済と輸出動向 』というのは要約すると海外は腰折れしないけど下振れリスクという話なので飛ばしまして、『(3)設備投資動向 』に入ります。


・設備投資が伸びるためには

『設備投資は、2015 年度計画をみると概ね強めの内容となっていますが、実際の投資活動は依然として力強さを欠いており、企業の慎重な投資姿勢は大きく崩れてはいないようにみられます。収益環境が明確に好転するなかでも企業の姿勢に変化がみられない背景には、良好な収益環境の持続性に対する不安があると考えられます。』

同意。

『すなわち、企業は、既往の円安やエネルギー価格下落などの交易条件の変化によって一時的に収益環境が改善したとしても、それが潜在成長率の高まりなどの構造的な変化に支えられた持続的な収益環境の改善ではないと判断した場合、潤沢な手許資金を積極的に設備投資に回すようなことはしないと考えられます。』

そらそうですな。

『こうしたなか、企業が設備投資を一段と積極化するためには、この先、政府の成長戦略や人口対策などにも後押しされて、中長期の期待成長率が明確に高まることが欠かせないと思います。』

白川さんの最後に作った政府との共同文書に則ってみれば日銀は金融政策やってるんだから政府も成長戦略やって下さいという話ではあるのですが、物価の方には2%というのが書いてあるのに成長戦略の方はほわっとした書き方しかないのが残念ではある所です。

『他方、設備投資のストック循環に着目すると、設備投資は、2015 年度に増加した後、現時点の期待成長率が今後も続くと仮定すると、2017 年度に向けて、増加率は頭打ち傾向を示す可能性があると私自身は考えています。』

ということで設備投資が出るという執行部の見通しとはここで思いっきりずれてくる。


・個人消費では物価が上がるとダメじゃんという指摘が

次が『(4)個人消費動向 』である。

『個人消費は、雇用・所得環境の改善や緩和的な金融環境といった好環境のもとで底堅さを維持していますが、なお勢いを欠く状態が続いていると思っています。その背景には、消費者による当面の値上げ観測と、賃金上昇期待の低さがあると私自身は考えています。』

置物リフレ理論によりますと当面の値上げ観測(値上げと打とうとして利上げと打ってしまうアタクシの勝手な手はナンナンデショ)があったらそれは需要を拡大させる、ということになっておりますが、現実問題としてはそういうのってダブルデジットのインフレにでもなればそうかも知れんけど、収入も増えないし何となく最近物の値段が高いなあ程度の状態だったら消費が抑制的になるという方が違和感のない動きでございますな、とまあそういう事でしょ。

『特に、本年春先以降、食料品や日用品の価格引き上げが広くみられている一方で、賃金の伸びが緩やかなものに止まっており、これらが消費者心理に悪影響を与えている可能性があるとみています。』

さいですな。

『こうした状況を、金融緩和の効果と合わせてみると、』

キタコレ。

『「量的・質的金融緩和」の導入当初は、政策の影響を受けて実質金利が低下を続ける一方、実質所得の見通しには大きな変化が生じなかったため、将来の消費を前借りする金融緩和効果が生じたものと考えています。しかし、現在の局面では、実質金利の低下が一巡している一方、賃金上昇率が物価上昇率に簡単には追いつかないとの見方が消費者の間に広まっているようにみられることから、当面の値上げ観測の広がりに伴って、実質所得の見通しが悪化し、消費活動が抑制的になっている可能性があります。また、そうした傾向は、年金生活者を含む高齢者世帯や低所得者により顕著に表れうると考えられます。』

まあそうですねと思うのですが、どうも置物先生の先日の講演やら総裁の講演やらを始めとして執行部の方では家計は価格上昇を容認しているということになっているのがうーむという感じで。


・物価の見立て

『(5)物価情勢と物価見通し 』は展望レポートの中で一番低いのですが理由を鑑賞。

『物価情勢について、消費者物価の基調的な動きを、食料・エネルギーを除くベース(いわゆる「コアコア指数」)でみると、足もとで改善傾向がみられます。これには、昨年末から本年初にかけての景気情勢の改善や、既往の円安の効果が、時差を伴って物価の押し上げに寄与している面があると思います。』

ところが・・・・・・・・・・

『しかし、足もとの景気情勢には鈍さがみられること、前年比での円安効果が今後一巡していくこと、川上に位置する企業物価が足もとで明確な下落基調にあることなどを踏まえると、コアコア指数が今後さらに加速傾向を続けていく余地は然程大きくないと私自身は考えています。』

木内さんの物価見通しからしたら順当だが早速来ました。

『ちなみに、このところ、食料品や日用品、耐久消費財などの価格上昇が目立っていますが、この点を企業物価指数で確認すると、上昇しているのは輸入品が中心です。このことは、最近のコアコア指数の上昇が円安の影響を強く受けており、円安効果の一巡で先行き上昇ペースが鈍る可能性を示唆していると考えられます。』

しかも直近の日銀御自慢(?)のコアコアに関しても所詮は円安効果という指摘。

『また、物価の先行きを考えるうえでは、物価と賃金との関係に注目することも重要です。』

ほいな。

『基調的な賃金動向を示す指標の一つである所定内賃金は、直近9月時点で前年比+0.1%に止まっており、伸びは緩やかなものに止まっています(図表 10)。また、先行きの賃金を大きく左右する来年の春季労使交渉での賃上げ率については、今年と比べて不確実性が相応に高いように思います。』

『すなわち、労働需給の逼迫や高水準の企業収益は、過去2年と同様に賃上げに追い風になるとしても、賃金上昇率の更なる押し上げという観点からは、効果は大きくないように思います。また、賃上げ交渉に大きな影響を与える物価上昇率の前年実績については、消費税率引き上げ効果の剥落とエネルギー価格下落の影響から、今年の春季労使交渉の際と比べて低く、賃上げの材料としては勢いに欠けるように思われます。こうしたもとで、実質所得の見通しが伸び悩み、個人消費に抑制的な効果をもたらすことで、基調的な物価上昇率の加速は一巡していくことが予想されます。』

まあそんな感じではありますよね。というかベア何とか%とかやっている間に他の手段で人件費の帳尻を合わせに行くような動きになって結局適当に骨を抜かれるのではないかという悪寒。

『こうしたなか、私は、10 月の展望レポートについて、「2%程度に達する時期は、・・・2016 年度後半頃になる」との表現に反対しましたが、現時点でも、消費者物価(除く生鮮食品)の上昇率は当面0%程度で推移した後、かなり緩やかに上昇率を高めていくと考えており、2017 年度まで視野に入れても2%に達する可能性は低いとみています。』

だったら何故追加緩和じゃなくてTaperなの、というのは既にご案内の通りでしょうがこの次に参ります。


・今回は自分の毎回の提案についての説明が更に詳しくなった感じで

『(1)「量的・質的金融緩和」と私の提案 』というのいが次でまあメインイベント。

導入直後から反対してる件についての説明は皆様ご案内の通りと思います(いつも通りの話をしていた)ので割愛しまして木内さんの提案内容から。

『今年4月以降は、マネタリーベースおよび長期国債保有残高の増加額を、現行の年間約 80 兆円に相当するペースから、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る年間約 45 兆円に相当するペースへと減額することなどを提案し、その後も直近 11 月の金融政策決定会合まで、同様の提案を続けています。』

さいですな。

『これは、「量的・質的金融緩和」導入から2年経過したタイミングで、効果と副作用の比較衡量を改めて慎重に行い、もはや長期国債の買入れペースなどについて、導入時の方針であっても、副作用が効果を上回ると判断したためです。また、日本銀行の長期国債保有残高を、導入時を下回る年間約 45 兆円に相当するペースで増加させる方針に修正すれば、日本銀行の年間買入れ額は国債のカレンダーベース市中発行分の 50%弱程度の水準まで下がるなど、国債市場への過度の圧力が相応に緩和されるほか、国債買入れが早期に限界に達するリスクが軽減されて、国債買入れの持続性・安定性がむしろ当面は高まると考えました。』

「年間買入れ額は国債のカレンダーベース市中発行分の 50%弱程度の水準まで下がる」「国債買入れが早期に限界に達するリスクが軽減」がポイントとな。

『こうした私の提案は、資産買入れ額(フロー)の減額を意図するものであって、資産買入れ残高(ストック)を減額するものではありません。マネタリーベース増加額および長期国債買入れ額を減額しても、残高の積み上がりとともに今後も金融緩和は累積的に強化されていきます。私自身は、当面は、資産買入れ額を段階的に減額し、マネタリーベースと長期国債保有残高が一定となる状態に至ることを目指すのが適当であると考えています。』

いきなり45兆にしないで80から段階的に10づつ減らすでもゴールががそうだというのが見えて来たら売りにくくなる前に外そうってことになるからいきなり45にしなくても効果は似たような感じで出るようにも思えますけどどうでしょうかね。実際にやってみないと分からないけど。

『もっとも、それは、「量的・質的金融緩和」の終了を意味するものではありません。超過準備が解消され、長期国債保有残高が正常化する「量的・質的金融緩和」の終了までには、極めて長い時間を要すると考えられます。そこで、以下では、私の提案の背景にある考え方について、「量的・質的金融緩和」の効果と副作用という観点を軸に、より詳細に述べたいと思います。』

ということでプロコンキター!!!


・QQEのプロコン説明が詳しい

『「量的・質的金融緩和」の効果については、主に実質長期金利の低下を通じて国内民間需要を増加させる点にあると考えています。』

おーここは執行部と一緒。

『この点、実質長期金利の押し下げなどを通じて、これまでに累積した効果は、既に経済にしっかりと定着してきているとみています。特に、@需給ギャップが 2013 年末頃にほぼ解消され、その後も概ね中立的な状態が維持されていること、A企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率と実際の物価上昇率の間のギャップが縮小したことは、「量的・質的金融緩和」の効果の表れと評価しています。』

『もっとも、2014 年半ば頃からは、実質長期金利の低下傾向が一巡し、足もとでは反転の動きもみられているため、追加的な効果は既に明確に逓減してきていると考えています(図表 13)。また、各種サーベイや市場指標から中長期の予想物価上昇率をみると、2%の物価安定目標と整合的な水準まで依然として距離があるもとで、足もとでは一部に下振れ傾向さえみられています(図表 14)。 』

ということで・・・・・・・・・

『私としては、今後も、期待に働きかけるといった日本銀行の政策姿勢のみで、中長期の予想物価上昇率を継続的に高めていくことは困難であると考えています。』

しれっと執行部に盛大な砲撃を加えておりますね!!!!!!!!!!

『また、日本銀行が国債購入残高を増やし続けても実質長期金利が下がりにくくなっており、追加的な効果が明確に逓減する局面に至っているとみられる点を踏まえると、国債買入れ額を減額することで、効果を大きく減殺させることなく、以下でみるような各種副作用を減少させることによって、限界的な効果と副作用のバランスを改善させることができると考えています。』

減額した場合にどうなるかという話ですが、買入を長期的にサステイナブルにすることによって副作用を減らして結果として効果の方が高くなるという話をしたいようです。

『(3)潜在的な副作用への配慮』というのに参りまして・・・・・・・・・・

『「量的・質的金融緩和」の副作用については、潜在的な要素が強いことから、必ずしも現時点で明確になっている訳ではありません。しかし、将来どこかの時点で顕現化すれば、上手く対応することが難しく、手遅れになってしまうリスクには十分注意する必要があります。』

なお決定会合で「理論的にも実証的にも観測されない(キリッ)」と反論していた置物ジンバブエ軍団が居た模様(あの2名以外に考えられないので勝手に置物ジンバブエ軍団にしているが)。

『こうした特性を踏まえて、私は、日本銀行が国債を大量に購入し保有することによって、国債市場を過度に歪めることから派生する様々な問題を特に注視しています。』

まあ既に様々な問題が起きてるけどな!!!!!

『具体的には、「国債市場の流動性や価格発見機能といった市場機能の低下や金融機関の収益悪化が、金融システムの不安定化に繋がりうるリスク」、「金融政策の正常化の過程での金利上昇リスク」、「国債価格の大幅な変動によって、広く金融・資産価格の見直しが生じ、金融・経済に深刻な影響を及ぼすリスク」などです。』

流動性が無くなってショックに対する脆弱性が高まるのは気になりますね、まあこの指摘の中に含まれているんでしょうけれども。

『また、日本銀行による長期国債の大量購入に伴い、「中央銀行による財政ファイナンスとの認識がより高まる可能性」や「国債市場の安定が今後も保たれるとの過度な期待から、金利による財政規律メカニズムが損なわれるリスク」についても留意する必要があると考えています。』


さらに続いて『(4)国債購入の持続性と金利の安定性 』である。

『以上の点に加えて、日本銀行による国債購入の技術的な限界と国債のタームプレミアムの上昇について述べたいと思います。現在のところ、日本銀行による国債買入れオペは円滑に行われており、技術的な問題は目立って表面化していません(図表 15)。』

この図表15というのを見るとどう見てもあと1年しか持ちません本当にありがとうございましたという風情になるんですけどね。

『しかし、今後その限界が突然意識されれば、国債のタームプレミアムの大幅上昇など市場の混乱が生じやすく、それが実体経済や金融市場全体の安定を損ねることも考えられます。』

最初に金利がどどーんと下がってその後流動性が皆無の中で訳の分からん動きをするというイメージ。

『また、海外での金融不安などを受けて、国内金融機関がリスク回避姿勢を強め、国債保有の選好度合いを高めれば、国債需給の逼迫度が高まり、日本銀行による国債購入が俄かに困難化する事態も考えられます。こうした潜在的なリスクは、日本銀行による大規模な国債購入の進捗とともに、着実に高まっていると私自身は考えています。』

そらそうよ。

『今後、経済・物価環境の改善に伴い、期待インフレ率や成長率見通しの引き上げによって名目長期金利が上昇する場合、実体経済や金融市場への影響は大きくないと考えられます。一方、日本銀行の国債購入の持続性に対する不安など、その他の要因からタームプレミアムが上昇することで名目長期金利が上昇する場合は、その影響が深刻なものになる可能性も考えられます。』

ですなあ。

『国債買入れ策のもとで、「タームプレミアムは、現時点の日本銀行の国債保有残高に加えて、将来の日本銀行の国債保有残高の見通しによっても決まる」という考え方に立つと、』

ちなみにこれ置物一派が国債買入やれ言ってた時に使っていた理屈なので、木内さん的にはイヤミをしらっと混ぜているのですよね。

『市場で日本銀行の国債買入れの限界が突然意識された場合、日本銀行による国債買入れの継続期間や国債保有残高維持の期間が予想よりも短くなる、あるいは日本銀行の国債保有残高のピーク水準が低くなるなどの見通し修正が生じ、それがタームプレミアムの大幅な上昇に繋がる可能性が考えられます。』

ですです。

『こうしたリスクは、@国債買入れの限界が表面化するよりも前の段階で、国債買入れ額の減額措置を実施することによって、国債購入の持続性・安定性を高めるとともに、A当面の国債の購入継続や国債保有残高維持の考えを情報発信(フォワード・ガイダンス)することによって、軽減できる余地は比較的大きいと私自身は考えています。』

そらそうなのだが、そもそも中長期で達成するんじゃなくて早期に達成するつもりで打ち込んだ政策で、今でも早期に達成しないと自分の存在意義が飛んでしまう(というか麿ドクトリンに戻ってしまうのであれば麿批判しまくっていた黒田日銀の否定になるからできないということでしょう)のでこういう手段はよーできんと思う。政府から見直してくれと懇願してこない限り。


副作用の話は更に続き『(5)日本銀行の財務の健全性 』である。

『「量的・質的金融緩和」の長期化に伴う副作用としては、日本銀行の収益およびバランスシートに与える影響にも注目しています(図表 16)。「量的・質的金融緩和」のもとで、日本銀行の国債購入に伴う利子収入は、現在、年間1兆円を上回る規模に達しています。』

『その多くは国庫に納付され政府の歳入となるため、日本銀行の国債買入れ策が長期化すると、その分政府の歳出を増やす余裕が生じ、景気浮揚効果を生じさせるとの見方もあります。』

単にタコが自分の足を食っているだけの話なのだが前の審議委員の宮尾さんが卒業講演(という講演ではないけど)でこのジンバブエ理論変形バージョンの話をおっぱじめて腰が抜けるは赤点再履修呼ばわりするわなどという事がありましたな。

『しかし、将来の「量的・質的金融緩和」の正常化の過程では、長期金利が上昇するなかにあっても、現行の会計ルール(償却原価法)のもとでは日本銀行の国債利子収入は緩やかにしか増加しない一方、日銀当座預金に対する付利金利の引き上げによって、日本銀行の利払いが一気に増加し、逆鞘が生じる可能性があります(図表 17)。』

含み損がどうのこうのとかは国債の場合はどうでも良くて、問題は期間損益のマイナスですという話。

『その場合、日本銀行の収益悪化や資本の毀損に繋がるとともに、国庫納付金の減少や滞りが発生し、政府の歳入が減少する事態を招くこととなりえます。しかも、ここで重要なのは、「量的・質的金融緩和」が長期化し、日銀当座預金の水準が高まるほど、その影響が大きくなる見合いにあるということです。』

その通り。

『もちろん、長い目でみれば、長期金利の上昇に伴い、徐々に国債利子収入が増加するとともに逆鞘が解消し、収益環境の改善や自己資本の再積み増しに至ることも予想されますが、その道筋は具体的な金融政策手法や市場金利の動向に依存しており不確実性が高いうえ、相当の時間を要することが考えられます。こうした潜在的なリスクを考慮すれば、先ほど述べた景気浮揚効果への期待は容易には高まらないと思います。』

うむ。

『加えて、日本銀行の収益悪化や自己資本の毀損が日本銀行の業務に直接支障を来すものではないとしても、日本銀行の財務の健全性に対する不安から、通貨価値の安定に何らかの悪影響を及ぼす可能性にも留意する必要があると思います。』

然り。

『また、日本銀行による国庫納付金の減少を受けて、それ以前はみえにくかった「量的・質的金融緩和」のコストが、国民に明確に認識されるきっかけになる点も重要です。これは、日本銀行が、「量的・質的金融緩和」を通じて、政策的な所得配分に強く関わったことが、国民の間に広く認知されることでもあります。こうした問題は、「量的・質的金融緩和」が長期化するに及んで、より深刻度合いを強めていく点には十分に留意しておく必要があると考えています。


これは重要な論点ですね。


・プロコン考えて長期的に維持可能な政策にしろという話の間にしらっとネタが

『(6)今後の金融政策運営のあり方 』ですけど。

『これまでみてきたように、「量的・質的金融緩和」の副作用には様々なものがありますが、これら副作用は、「量的・質的金融緩和」の継続とともに逓減することなく、増加を続けていると考えています。また、「量的・質的金融緩和」は、正常化に着手してもその過程を完了するまでに相当の時間を要することを踏まえると、先行き相当な期間に亘って生じうる副作用を十分に考慮する必要があり、伝統的な金利政策と比べて格段にフォワード・ルッキングな政策運営を心掛けることが重要です。』

なるほど。

『この点を踏まえて、私は、短期的な環境変化に対して「量的・質的金融緩和」の拡大措置をもって対応するといったファイン・チューニング的な金融政策手法は妥当ではないと考えています。』

どうでも良い規模だったらファインチューニングで対応だったと思うの。

『一方で、金融政策は特定の手段に依存するのではなく、各種手段を組み合わせながら柔軟かつ総合的に運営されるべきであると考えています。したがって、経済・物価情勢や金融環境が著しく悪化するような事態が起きれば、「量的・質的金融緩和」におけるマネタリーベースの年間増加目標額に拘らず、一時的に潤沢な円資金・外貨資金の供給を実施するなど、「量的・質的金融緩和」の拡大とは異なる追加的措置を検討する余地があると私自身は考えています。』

しらっと「外貨資金の供給」とかFRBがトサカを立てそうなネタを打ち込んでいるのがチャーミング。


・物価安定は中長期的にというのはご案内の通りですがせっかくなので鑑賞

『(7)「物価安定の目標」の考え方 』というのが最後の所。

『最後に、今後の金融政策運営方針と深く関わる「物価安定の目標」について、私自身の考えを申し上げたいと思います。私は、これまで述べてきた金融市場調節・資産買入れ方針の修正(国債買入れ額の減額等)提案に加えて、2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度と限定せず、「中長期」の目標と位置付けることを提案しています。これら2つの提案は、以下にみるように一体であると言えます。』

まあご案内とは思いますがせっかくこうやって纏まった説明があるので鑑賞鑑賞。

『日本銀行が掲げる2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率を一時的にではなく安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。その実現に向けては、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が2%程度に達するだけでなく、その水準で安定することが必要条件になると考えています。』

そらそうよ。

『また、企業や家計の中長期の予想物価上昇率は、日本銀行が掲げる物価目標の水準や、財・サービスおよび労働市場の需給関係、実際の物価上昇率の動向などの要因よりも、潜在成長率や労働生産性上昇率など供給側の要因、いわば経済の実力とも言える成長力によって決まる部分が大きいと考えています。この点から、私自身は、2%という物価目標水準は、現時点では日本経済の実力をかなり上回っていると思います(図表 18、19)。』

麿ドクトリンキタコレ!

『したがって、物価上昇率の基調を高めるような構造変化が一段と進まない限り、金融政策のみで安定的に2%の物価目標を実現することは、現時点では難しいと考えています。こうしたなか、金融政策を通じて短期間で経済の実力以上に物価を押し上げようとすれば、経済・物価の安定をむしろ損ないかねないと考えています。』

これが正に麿ドクトリンでして、黒田ドクトリンはそうではなくて2%の物価安定目標は潜在成長率などのようなものから決まるものではなくて、金融政策のみで達成が可能なものであるという話なので、中長期的に達成という話って自体は海外だってそうジャンとは思ってもこの部分が相容れないので、黒田さんがここをブレークスルーするのは(政府が泣きを入れてミッションが変更にならない限りは)難しいのよね。

『また、経済の実力を高めるためには、企業の技術革新とそれを生産性向上に繋げる設備投資の積極化が必要となります。企業の国内での設備投資活動を積極化させ、資本ストックの蓄積を通じて潜在成長率の上昇に結びつけるためには、企業の中長期的な内需の成長率見通しを高めるような政府による各種施策も必要となります。』

『既に述べたように、「量的・質的金融緩和」は相当の成果を挙げたと考えています。こうした現状のもと、経済政策全体の中で金融政策が今後担うべき役割は、良好な金融環境の維持を通じて、生産性上昇率や潜在成長率が2%の物価上昇率と整合的になる水準まで高まるよう、政府や企業の取り組みを側面から粘り強く支えることに重点を移していくことにあると私自身は考えています(図表 20)。』

というスタンスになっている訳で、これは最終的に政府がどういう風に考えるかということによって決まると思いますし、政府の方としてはフォワードルッキングにこりゃマズイとなって泣きを入れてくるのか、それとも日銀のオペが明確に爆発して慌てて直すことになるのかというのはまだ良く分からん。アホじゃなかったら前者になる筈なのだが・・・・・・・・・・・・

『そのためには、将来、金融市場の大きな混乱に繋がりうるような金融緩和の副作用を軽減し、先行きのリスクや不確実性の低下に努めることで、景気が現在の経済の実力(潜在成長率)に見合ったペースで、緩やかながらも息の長い回復を続けていけるような政策運営を行うことが重要です。現在私が提案している金融市場調節・資産買入れ方針の修正は、こうした考え方に基づいたものであり、2%の物価安定目標の実現のためには、この方がむしろ近道であると考えています。』

ということで、従来の木内さんの主張ではありますが、詳しく説明しているので後半ほぼ全文引用になってしまいました(大汗)。

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2015/09/08

○会見録の勢いがあってこっちが能書きを入れる必要があまりない会見である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1509a.pdf

ということで昨日の続きですが、この会見録って木内さんの説明をそのまま文字にしたのでしょうか状態(要旨だから丸まったりすることは普通にある筈なのですが^^)で、しかも文章の切れ目が中々ないという勢いのよさで、下手に能書きを入れにくい位のテンポなのが何とも味わいがある次第。

・既に現在が一定の安定状態であるという認識&フィリップスカーブのシフトアップ論がありましたなあ

この質問は短いので引用するだよ(^^)。

『(問) もう 1 点目は、この挨拶要旨にも書かれていて、かねてからのお考えを表明されていますが、2%物価上昇率目標についての達成見通しについて、ここにも細かく書かれていますが、改めて、今、足許の経済をみて、その辺について簡潔にご説明頂けますか。


これまた例によって答えが1ページ半ほどある(^^)。

『(答) 金融政策の目的は、経済と物価の安定を確保するということであります。量的・質的金融緩和を導入する前は、需給ギャップも非常に開いておりましたし、それを反映して物価もマイナスでした。』

うむ。

『マイナスが悪いということは一概には言えないのですけれども、少なくともアンケート調査などでみられる中長期の物価見通し、これが企業とか家計にとっては望ましい物価の水準だとしますと、それが、色々な主張はありますが、1%くらいのプラスであったことに対して、実際の物価はマイナスであって格差があったわけです。』

しらっと「マイナスが悪いということは一概には言えないのですけれども」というのが入っているのがチャーミング。

『そういう意味では、経済・物価環境ともに決して望ましい環境ではない。それが、量的・質的金融緩和の当初の効果、量的・質的金融緩和というのは、やはり短期間で比較的効果が出やすい、ただ長期間続けていると、だんだん効果が逓減していくという性格のものですし、実際、そうなっているという風に思いますが、それによって、需給ギャップはほぼ解消され、物価も一応、2%という水準と比べると低いですけれども、例えばコアコア指数等でみますと、ゼロから 1%まで、あるいは 0.5%から 1%くらいまでの間にあって、私はこれが今の日本経済の実力と言いますか、構造面からみたときの比較的安定した状態にあると思っています。』

講演の方でも(昨日引用した部分)こういう説明になっていましたが、QQEが短期勝負であるという話と勢いでごっちゃになっている辺りが話し言葉のテンポという奴を感じますな。

『2%の物価目標というのは、経済が一時的に 2%を目指しているわけではなくて、安定的に 2%を目指している。そのためには、経済が比較的通常の状態、例えば需給ギャップがほぼゼロの状態で、2%で安定する必要がある。』

何か勢いで話をしていますな。まあ仰せの事は分かりますが。

『実は需給ギャップというのは、本行の計算で言いますと、2013 年末以降、もう 1 年以上、1 年半くらいあるいはそれ以上、ゼロ%近傍なのです。その時の物価状態はどのくらいかというと、コアコア指数──通常のコア指数ですとエネルギー価格で振れますので──、食料とエネルギーを除いて、為替変動、エネルギー価格の変動の影響を除いてみた場合は、幅広くみると、ゼロから 1%くらいの状態で安定しています。』

為替変動は除けないような気がしますがまあ言いたいことは・・・・・・・・・・・・

『そういう意味では、デフレではなくなってきていますし、比較的安定している状態だと。そういうことで、私としては、経済・物価環境は安定していると。』

という事を言いたいのでしょうな。

『ただ、物価が 2%で安定するためには、例えば潜在成長率がもっと高くなければいけない、日本経済の構造がもっと強くなければいけないということであり、日本銀行としては──これも個人の意見ですが──、経済を安定させる中で、そういった成長力強化の試みを側面から支援していくと、これが今の時点での金融政策の大きな役割なのではないかと。』

とまあこれはこれで有りな話なのですが、QQE導入時に主に執行部ベースで説明をしていたのは当時の推計されるフィリップスカーブの形状から考えると、需給ギャップを改善させることによって物価の上昇をするにしても、2%に上昇するにはそのままでは非現実的な需給ギャップの大幅プラスが必要という事になるので、まずはフィリップスカーブのスティープ化とカーブそのもののシフトアップが起きる必要があって、特に「2%の物価安定目標達成」という意味で考えた場合には、フィリップスカーブのY切片が2%程度となるようなシフトアップが起きないと安定的に2%とはなりませんな、とまあそんな話で、ではどうやってシフトアップするのかというと「期待に働きかける」というお話になっていた筈です。

ちなみにその説明って昨年の春先CPIが1%台に上昇してカザフスタンだかで黒田総裁が「市場の見通しは間違っており我々大勝利(ドヤァ)」とやっていた時くらいまでは思いっきりしていたのですけれども、最近はすっかりその話をスルーしている辺りが実にこう味わいが深い訳でして、政策効果の説明とか物価の見方に関する説明が全然首尾一貫しておらずに都合の良い数字を出してきて「基調は確り」というのが最近の仕様になっているのは皆様ご案内の通りではありますな。

『今積極的な金融緩和をして、効果は薄れているとはいえ、例えば円安株高などを通じて、景気がやや過熱気味に回復したとしても、それが、潜在成長率が高まってない中で、需要が高めに振れれば、人手不足ですとか成長の制約にぶつかって、景気がむしろ不安定になって、景気が後退する可能性もあると思います。』

成長の天井論ですな。

『そうしますと、痛みを伴う構造改革とか、あるいは景気後退期ではなかなか企業が積極的に設備投資をするということにはならないわけです。そういった、構造改革が進まない、企業の設備投資が積極化しないということになると、潜在成長率も高まらないということになりますので、金融政策の役割としては、私が考える役割としては、実力に見合って、決して強くはなくても、安定した経済、金融、物価の環境を長く維持させる中で、そうした成長力強化の試みを側面から支援していくと、それが 1 年とか 2 年とかいう期間ではなく、もっと長い話です。そうしていくことで、経済の実力も高まり、潜在成長率も高まり、物価もいずれは 2%というのが当たり前になるほど強い経済になるということを私どもは目指していると。』

ということで無理のない御尤もな話ではあるのですがどう見ても麿ドクトリンです本当にありがとうございました。

『その上では、量的・質的金融緩和というのは効果もありましたが、一方で副作用も非常に大きな政策なので、そういった副作用を、将来のリスクを取り除いてやることによって、息の長い経済・物価の安定を確保するというのが、実は私どもとしての非常に重要な役割なのではないかというのが私の考えでありまして、それがいわゆる減額提案の背景となる考えとなっております。 』

ということで説明が思いっきり長いのですが、一方で先般来の議事要旨を見ると木内さんの提案に対して毎回いちゃもんつけている人がいて(しかも回を追う毎に段々いちゃもんのトーンが上がっている)、いちゃもんのレベルは議事要旨を見てお察しという内容な訳でして、木内さん今回の会見でやたら勢いよく話をしているのはそのいちゃもんに対する怒り成分も結構入っているのではないかと勝手に推察するのですけれどもどうでしょうかねえ。


・期待に働きかけたのは当初だけという無慈悲な砲撃で執行部を火の海にするの巻

質問がそもそも木内さんをけしかけていますな、なお前半に関しては昨日回答のみを引用しております。

『(問) (前半割愛)もう 1 点は、木内委員がこのように、1 人、量的・質的金融緩和の減額を提案されていることについて、議事要旨に出ていますが、期待に働きかける政策に対して、冷や水をかけるようなものだというような批判も出ているわけですが、』

前後関係で言いますと上で引用した質疑の次がこの質問でして、木内さんの怒り成分を受けてさらにけしかけに来るとか中々お洒落な燃料投下。

『一方で木内委員ご自身は、黒田総裁を始めとする日銀執行部の、とにかく期限を設定して、そこまでの目標実現に向けて何が何でもやれることは何でもやるというような、ある種硬直的な情報発信についてはどのようにお考えなのかという点です。むしろ、悪害・悪弊の方が大きいのではないかというお考えはお持ちなのか、そしてまた黒田総裁を始めとする執行部の情報発信に対して、ボードメンバーの間でそれをよしとされているのかどうか、その辺りをお聞かせください。 』

どう見ても燃料投下ですがそれに対する答え。

『(答)(前半割愛)2 番目の期待に働きかけるという部分は、政策導入当初については、そういう考え方も部分的には私は支持しておりましたが、既に 2 年あるいは 2年半経って、果たして期待に働きかけるメッセージというのは、どれほどの重要性があるのかなと思っております。』

2年経ってとか入れている辺りに強烈なイヤミ成分を感じます。

『特に、インフレ期待に働きかける政策というのは、むしろ消費にマイナスの面も出てきてしまいます。』

講演でも出ていましたがまさに現象としてはそうなっている訳ですよね。所得とか成長とかの期待が高まらない中で物価だけ上昇させるとか通貨の対外価値を減価させるだけの政策を実施しても、それは残念ながら先行きの消費や投資を手前に持ってくる効果は極めて乏しかったというお話で、経済が全体として成長過程にあるステージではない時には有効性にかなりの疑問がある話だったという事でしょうな。

置物リフレ理論の根幹として「デフレマインドがあるから投資や消費に先送りのインセンティブが働く」という話はそらまあだいぶそうだったのかも知れません(実は単に成長期待や所得増加の期待が無いからだったのでは疑惑はあるのですが)けれども、そこから「だからインフレマインドになると投資や消費を前倒しする効果がある」というのと、そのインフレに関して「インフレは貨幣的現象だから日銀がマネタリーベースを拡大するだけでインフレ転換が可能」という話がどうだったのかという社会的実験については既に2年半とか経過してこの有様で、置物リフレ理論自体が成長経済を前提にした話で、潜在成長率がゼロ%台そこそこというような状態の中では惜しくも置物理論は机上のお伽噺に過ぎなかったっちゅー事なのではと。

なお、現在の執行部理論ですと潜在成長率とは関係なく2%目標はグローバルスタンダードで正しい(キリッ)という話なのでインフレ期待に働きかけてフィリップスカーブをシフトアップさせるという理屈には変化がない筈なのでこの木内さんの説明はこれまたマッコウクジラ。

『ですから政策については、一時的には期待への影響を配慮することを否定はしませんが、持続的にはやはり期待に変化を与え続けるのは難しいので、基本的には政策効果というのは、それが実際にどういうチャネルを通じて実体経済に影響を与えるかというと面で言うと、やはり実質金利をどれだけ押し下げるかということ、これについては昨年半ば以降、実質金利は下げ止まってきていますので、限界的な効果というのは出にくくなっています。』

実質金利の効果は木内さんも乗っている話ですが、そもそもインフレ期待に働きかける方が逆効果なのであれば期待の改善で実質金利を下げてもマイナスという話にはなるように思える。

『ただ、そこまでに金利を下げた累積的な効果はまだ残っていますので、政策効果自体はトータルでいうとまだ出ていると。ただそれは、繰り返しになりますが、残高を減らせば累積的な効果も減ってしまうかもしれませんが、残高を減らさずに減額をするということであれば、今まで作ってきた政策効果自体は損なうことはありません。』

『一方で、効果についてはストックで決まる部分が大きいと思いますが、副作用については、フローで決まる部分もあると思います。つまり、国債をいっぱい買うということによって、国債の流動性が落ちてしまうと、あるいはそれによって市場が不安定になってしまうリスクがあるということもあると思います。』

『そういう意味で言いますと、減額によって、効果にはあまり悪影響を及ぼさず、副作用はある程度逓減できる、つまり限界的な効果と副作用のバランスをよくすることができるというのが私の考え方です。』

とまあこういう風に分けているのですが、ここのストックビューとフロービューの部分て良く分からん所があって、現実問題として米国がTaperingトークを行った際にはストックは依然として増えているのに金利がどどーんと上昇してみたりとかっつーのもある訳で(一方でその後金利が落ち着いたのはストックが維持されているから、という考え方も成り立つ)、何とも言い難いものがありますのでこの切り分け自体はちと物事を単純化し過ぎの可能性はありますな。

『ちょっと話が逸れましたが、情報発信については、期待に強く働きかける政策の、ある意味実効性といいますか、どの程度効果があるかは、常に検討・検証していかなければならないのではないかと、個人的には思っています。ボードの中でどういう議論があるかについては、申し訳ありませんが、議事要旨等でご理解頂ければと、それ以上のことはちょっと私の方から申し上げることは控えさせて頂きたいと思います。 』

まあそもそも論として「2年で達成」というのは有耶無耶のうちにすっかり無かったことになって執行部の皆様は頬かむり状態ですし、この調子で情報発信を有耶無耶のうちに誤魔化して行くことになるんではないでしょうか。まあ最後の部分も木内さんの気持ちを拝察いたしますという所で。


・置物理論に砲撃は続く&共同文書の文言って実は麿ドクトリン成分入りなんですよねえ・・・・・・・・

でもって次の質問(つーかこの流れだと同じ人が質問しているのかね????)。

『 (問) 講演要旨に書かれている 2%の達成については期待に働きかけるような現在の金融政策では限界もある、難しいと認識を示されていますが、2%を達成するために必要なその他のツールというのは──潜在成長力を上げるということをおっしゃられましたが──、具体的にはどのような政策を想定されてお話しされているのか、お願いします。 』

という質問なのに置物リフレ理論に十字砲火を浴びせているのがチャーミングな木内さんの答えを鑑賞。

『(答) 先程のお話でだいたい尽きているとは思いますが、』

と言いながら以下話が尽きない(約1ページ)。

『つまり 2%の物価安定目標は日本銀行が掲げている目標ではありますが、それを掲げるに至った経緯を考えますと政府との共同声明があり、政府が財政の健全化と成長戦略に取り組む、一方で私どもは金融政策を通じてデフレ脱却に取り組むという中で出てきた目標なわけです。』

うむ。

『そういう意味では、私の理解としては、共同声明の中でも 2%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成するということが謳われていますが、それは、各主体、企業とか家計などが、成長強化に前向きに取り組むと、そしてその成果が表れる中で 2%が妥当になってくるというような文言になっています。ですので、ある意味それが前提になっています。』

共同声明導入当初の麿ドクトリン的な読み方が出来る部分が2年半を経て復活とな!!!!!

『その中で、政府の財政健全化や成長戦略が重要な役割を果たしていくということですし、それがサポート材料になって、企業の先行きの成長期待が高まり、設備投資が増えることによって潜在成長率が高まってくるということがあると思います。』

「物価は貨幣的現象なので」という置物リフレ理論とは違う建付けね。

『ですので、私どもの金融政策以外の部分については、あまり詳細にどういう政策かというのは言えませんが、今申し上げた財政の健全化、規制緩和などの構造改革、そして将来の成長期待への影響を考えると人口対策が重要になってきます。例えば、企業の先行きの成長期待が高まれば──あるいは生産性が高まると──、労働需要が高まる、労働需要曲線がシフトすると賃金が上がる、実質賃金が上がるとそれが物価上昇につながっていくという経路を辿っていくだろうと思います。』

なお、実質賃金が下がることによって雇用が増えて生産のパイが増えるので物価上昇に繋がるという説明をリフレの方はしておられましたですな、うんうん。

『その意味で、物価が何で決まっているかというと、中央銀行が 2%と言ったから皆の期待が一気に 2%になるというのは、ある意味なかなか起こらないというのは既に 2 年半で証明されたわけです。』

>既に 2 年半で証明されたわけです
>既に 2 年半で証明されたわけです
>既に 2 年半で証明されたわけです

十字砲火キタコレ!!

『やはり、生産性が高まる、成長率が高まる、企業の先行きの成長期待が高まる、それによって企業が賃金も上げ、雇用も増やす、賃金の上昇が物価に跳ね返る、ということで将来的には 2%という──2%と整合的な経済というのはかなり強い経済だと思いますが──、高い目標をみんなで目指しましょうというのが、2%の目標の意味です。』

確かに共同文書の方はそういう建付けを前提にしたような書き方もしているのですが、その後の置物リフレ理論では物価は貨幣現象であってインフレとインフレ期待を2%に上げると全て珍重珍重というお話になってしまいましたので、2%の目標の意味そのものが黒田緩和以降変質しているのですけどね!!!!!!!

『そういう意味では、そうした構造変化がどういうペースで起こるか、なかなか予見しがたい部分がありますので、2%目標をいつ達成できるかの判断は難しいと思います。そういう意味で、私としては中長期の目標として位置付けることが必要だと思います。短期的に達成しようとしますと、例えば無理に景気を過熱させるとかですね、あるいは円安を通じたコストアップ型の物価上昇になってしまって、むしろ経済の安定を損ねてしまいます。』

「例えば無理に景気を過熱させるとかですね」という部分が思いっきり文字起こし状態でワロタ。

『私どもの目標は物価を上げることではなくて、実体経済を改善させ、人々の生活をよくすることが目標ですので、物価だけに無理に焦点を当てた政策は本末転倒で、国民の生活の改善にマイナスに働く可能性があるということですので、中長期の目標として柔軟に位置付けていくのがいいのではないかと考えています。』

質問は「2%を達成するための政策とは」だったのに延々と置物リフレ理論の砲撃大会になっているのが普段どれだけ政策委員会でギスギスして木内さんストレスをためているんでしょうかというのを拝察する次第で、誠に同情の念を禁じえません、ってアタクシのような三下に同情されても意味がありませんかそうですか。

あと質疑の中では「円安に無理に振っても地方や中小企業などには弊害」というネタと米国金融政策の話がございますが、その辺りはパス致します。


○関連してちょっとだけメモ

この木内さんの講演&会見を見ながら仰せのとおりとか言いながら感じているのですが、最近元々が置物リフレ派でQQEの時に大勝利的な話をしていた何とかストの各位が退却というか転向モード(踏みとどまってマネタリーベースの拡大ガーという方もおいでですが)になっているのが実にこう味わいがある訳で、どこの誰とは言いませんが先般は「米国の適正な物価水準が2%ならば日本のそれは1%台前半」「今の日銀のMB拡大ペースは過大」とか言い出す方まで現れるという事象を拝見するに、何というか人の世の浅ましさというものを感じて山奥に庵でも結びたくなる(結ばないけど)始末でありまする。

昨年の場合は「消費増税ガー」という事で話を済ますことが出来たのですが、今年に入って起きているのってまさに木内さんが上記で指摘しているように「生活物価を中心とした物価上昇の中で消費が伸びてこない」「企業は最高水準の収益で円安水準になっているのに国内設備投資はその状況に見合っていないし、賃金もその状況に見合うような力強さに欠ける」という事でありまして、それはつまり「円安輸出ドライブでトリクルダウン」という話と「インフレとインフレ期待を引き上げて投資や消費を喚起する」というメカニズムの根本部分が本当にワークするのか、という話になるのですからそらまあ話は去年よりも本質的ですわな。

と申しますか、実際問題としては去年も同じことだったのが消費増税に伴う駆け込み需要とその反動および消費増税に伴う消費者から見た場合の実質的なコストプッシュ部分が混じってしまい判明するのが遅れたという事なのかもしれませんが、まーしかしネズミが泥船から逃げるかの如き動きに爆笑の発作を禁じ得ないという所でしょうな。

そんな中でそういえば思い切り「デフレは貨幣現象だからマネーを増やせば解決でインフレにすればめでたしめでたし」な話がこんな所にあったなあとか思いながら見ますとすっかり置物理論から逃げておられる方も散見されるのが味わい深いというものです。
http://kazuyomugi.cocolog-nifty.com/private/2010/08/post-70ab.html(直リン自粛)

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2015/09/07

○木内審議委員講演ネタ続きである

金曜にスルーした辺りをまずは参ります。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150903a1.pdf


・QQEのプロコンに関して詳しく

『(2)「量的・質的金融緩和」の効果 』と『(3)「量的・質的金融緩和」の副作用』という小見出しから。

『まず、「量的・質的金融緩和」による効果については、日本銀行が本年5月に公表した「「量的・質的金融緩和」:2 年間の効果の検証」の中でも示しているように、実質長期金利の低下を通じて、国内民間需要を増加させ、国内経済全体にプラスの波及効果をもたらし続けている点にあると考えています(図表 12)。また、これまでに累積した政策効果は、既に経済にしっかりと定着してきているとみています。 』

ということで評価は実質金利ルートです。

『この点について、私自身は、以下の3つのギャップの縮小度合いに照らしてみても、明らかであると考えています。』

ほう。

『第一に、経済が需要不足の状態にある場合、需要面に働きかけて需給ギャップを解消させることが金融政策の重要な役割と考えられます。先にみたように、日本銀行の試算によれば、需給ギャップは 2013 年末頃に概ね解消され、その後も中立的な状態が維持されています。』

この中立な状態が維持というのも木内さん的にはポイント。

『第二に、わが国では、長い間、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が概ねプラスで推移してきた一方、実際の物価上昇率は低迷してきたため、望ましくない経済環境にありました。「量的・質的金融緩和」導入後、中長期の予想物価上昇率と実際の物価上昇率のギャップは縮小しました。』

ほほう。

『第三に、こうした需給ギャップの縮小や物価上昇率の高まりを受けて、テイラー・ルールに基づく政策金利の水準はマイナスから0%近傍まで上昇し、事実上0%近傍にある実際の短期金利とのギャップが概ね解消されたとの試算も得られます。このことは、「量的・質的金融緩和」によって、ゼロ金利制約の影響が克服されてきた可能性を示唆していると思います。 』

QQEでゼロ金利制約の影響を克服とな。

・・・・・・・と、ここまでは効果なのですが、同じ効果の説明の中でこんな話が展開されるのだ。

『もっとも、2014 年半ば頃からは、政策効果の主な源泉と考えられる実質長期金利の低下が一巡しているため、追加的な効果は逓減してきていると考えます(図表 13)。名目金利を 10 年国債利回りでみると、昨年までの低下基調は一巡しつつあるように思います。こうした動きは、海外での金利動向に影響されている面があるとは言え、近年の日本国債のタームプレミアムの著しい低下が既に限界に近づいているといった国内要因にも根差していると思います。』

効果逓減キタコレ。

『一方、中長期の予想物価上昇率については、各種サーベイや市場指標でみて足もとまで大きな変化はみられず、2%の物価安定目標と整合的な水準までには依然として距離があるもとで、比較的安定的に推移しています(図表 14)。』

ここでも予想物価上昇率ですが安定推移という認識。

『この先も、世界的にディスインフレ傾向が根強い点も踏まえると、期待に働きかけるといった日本銀行の政策姿勢のみで、中長期の予想物価上昇率を継続的に高めていくことは困難であるとみています。 』

執行部砲撃キタコレですが、執行部への砲撃は会見の方が凄いのでお楽しみ(?)に。


ではプロコンのコンの方に参ります。

『「量的・質的金融緩和」の副作用については、潜在的な要素が強いことから必ずしも現時点で明確になっている訳ではありません。』

明確になっている訳ではないとな。

『もっとも、副作用については、将来どこかの時点で顕現化すれば上手く対応することが難しく、手遅れになってしまうリスクには十分注意する必要があります。』

(;∀;)イイシテキダナー

『そうした特性を踏まえ、私としては、日本銀行が国債を大量に購入し保有することによって国債市場を過度に歪めることから派生する様々な問題 ― 国債市場の流動性や価格発見機能といった市場機能の低下など、金融システムの不安定化に繋がりうる潜在的リスク ― を特に注視しています。 』

まあ短国市場はすっかりそんな状態になってしまいましたがね!!!!!

『例えば、国債市場の流動性が著しく低下すれば、ショックに対する耐性が低下し、国債市場のボラティリティが高まるなど、市場が不安定化しやすくなります。特に国債価格は、様々な金融・資産価格形成に影響を及ぼすことから、国債価格の大幅な変動が広く金融・資産価格の見直しに繋がり、それが金融・経済に深刻な影響を及ぼすリスクが蓄積されている可能性もあります。』

という話を置物リフレ派系学者に幾らしてもまあ話は通じないどころか国債市場関係者のポジショントークとか言い出しかねない始末で誠に遺憾であります。

『また、長期国債の大量購入に伴い、中央銀行による財政ファイナンスとみなされるリスクがより高まる可能性や、国債市場の安定が今後も保たれるとの過度な期待から、金利による財政規律メカニズムが損なわれるリスクについても留意する必要があります。』

うむ。

『さらには、国債は無制限に存在する訳でなく、また日本銀行が発行済みの国債を市中から全て購入できるわけではないことを踏まえると、国債買入れ策の持続性の問題がいずれ表面化する可能性もあります。国債買入れの限界がいつ生じるかを予見することは非常に困難ですが、仮に国債買入れに支障が生じるような事態が突然生じれば、金融政策に対する信認の低下や先行きの金融政策運営に関する不確実性が急速に高まることで、金融市場の不安定性が一気に高まることも考えられます。 』

仰せのとおり。

『また、「量的・質的金融緩和」の副作用としては、このような国債市場に関わる問題に加え、将来、金融政策を正常化する過程で、日本銀行の収益が悪化し、自己資本の毀損や国民負担の増加へ繋がる可能性を懸念しています。』

ですなあ。

『例えば、日本銀行が保有する国債残高を償還見合いで減少させていくにつれて利子収入が減少する一方、累積した超過準備に対する利払いが増えることによって、日本銀行の収益環境が悪化し、自己資本が毀損する可能性があります。』

ここの表現は適切ではないと思われる次第なのが今回の講演の一番惜しい部分でして、保有国債が減少すれば超過準備も減るのだからそこの部分ではツーペーな話だし、上記の言い方だとそもそも正常化が出来ないという理屈になるので話が変。問題になるのは日銀の保有する長期国債の購入時利回りに対して金融正常化の際に大量の超過準備を持ったままにしておくには常設預金ファシリティを使って金利を上げることになるので、その時にファンディングコストと保有長期国債利回りの逆鞘問題が発生するのですな。、

『こうした事態が生じると、日本銀行の財務の健全性に対する不安が生じて、通貨価値の安定を損なう可能性があるほか、国庫納付金の減少や日本銀行への資本注入などを通じて最終的には予想外の国民負担増に繋がる可能性も念頭に入れておく必要があります。 』

結論は然り。

『こうした副作用は、「量的・質的金融緩和」の継続とともに逓減することなく増加していると考えています。また、「量的・質的金融緩和」は正常化に着手してもその過程を完了するまでに相当の時間を要することを踏まえると、先行き相当な期間に亘って生じうる副作用を十分に考慮し、伝統的な金利政策と比べても、よりフォワード・ルッキングに政策運営を進めることが重要です。』

ほほう。

『金融政策の副作用は、他の経済政策と比べて、実際に目にみえるかたちで顕現化するまではみえにくいという特徴があると思います。そのため、日本銀行が政策の副作用について広く丁寧に説明するとともに、それら副作用に細心の注意を払って政策運営を行っていることを対外的に示すことで、政策への信頼感が高まるとともに、政策効果を高めることにも繋がると考えています。 』

しらっと執行部に爆撃を加えているのがお洒落ですね。


・2年で2%を真っ向否定(まあずっと真っ向否定していますが)の説明もだいぶこなれてきました

その次のプロコン比較考量部分は金曜にネタにしましたので飛ばして『(5)「物価安定の目標」の実現に向けて 』というコーナーに参ります。

『私は、これまで述べてきたように金融市場調節・資産買入れ方針の修正(資産買入れ額の減額等)提案を行っていますが、それに加えて、2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度と限定せず、「中長期」の目標と位置付けることを提案しています。 』

それは存じております。

『日本銀行が掲げる2%の「物価安定の目標」とは、物価上昇率を一時的にではなく安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。その実現のためには、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が2%程度に達し、かつその水準で安定することが必要条件になると考えています。』

ということで、さっき需給ギャップが安定的にゼロ近辺で予想物価上昇率も安定推移という話をしていたのの伏線が回収されます。

『また、企業や家計の中長期の予想物価上昇率は、日本銀行が掲げる物価目標の水準や、財・サービスや労働市場の需給関係、実際の物価上昇率の動向などの要因よりも、潜在成長率や労働生産性上昇率など供給側の要因、いわば経済の実力とも言える成長力によって決まる部分が大きいと考えます。』

QQEで期待に働きかけてフィリップスカーブをシフトアップする(そういえば最近そのネタが都合悪いのか何だか知らんけどフィリップスカーブの話をしなくなりましたなあ日銀執行部は)という理論に思いっきりダメ出ししておりますが。

『この点から、私自身は、2%という物価目標水準は、現時点では日本経済の実力をかなり上回っていると思います。したがって、物価上昇率の基調を高めるような構造変化が一段と進まない限り、金融政策のみで安定的に2%の物価目標を実現することは、現時点では難しいと考えています(図表 15)。こうしたなか、短期間で経済の実力以上に物価を押し上げようと過度な緩和状態を続ければ、経済・物価の安定をむしろ損ねてしまうリスクがあると考えています。 』

というお話ですな。

『また、経済の実力を高めるためには、企業の技術革新とそれを生産性向上に繋げる設備投資の積極化が必要となります。企業の国内での設備投資活動を積極化させ、資本ストックの蓄積を通じて潜在成長率の上昇に結びつけるためには、企業の中長期的な内需の成長率見通しを高める施策も必要となります。この点から、中長期的に内需拡大の障害となりうる人口減少や巨額な政府債務といった構造問題への対応も重要です。また、財政健全化に向けた取り組みは、金融市場の安定維持を通じて、「量的・質的金融緩和」の効果が最大限発揮される環境を整えるとともに、将来的には、「量的・質的金融緩和」の円滑な正常化を可能にさせるという面からも重要です。 』

要するに経済の実力を上げる施策をしろと。

『既に述べたとおり、金融政策に本来期待される役割に照らして、「量的・質的金融緩和」は相当の成果を挙げたと考えます。こうした現状のもと、経済政策全体の中で金融政策が今後担うべき役割は、良好な金融環境の維持を通じて、生産性上昇率や潜在成長率が2%の物価上昇率と整合的になる水準まで高まるよう、政府や企業の取り組みを側面から粘り強く支えることに重点を移していくことであると考えています。』

金融政策だけで経済の実力は上がらないが、経済の実力を引き上げる施策を打っている間に金融環境を緩和的にすることによってサポートをしていくと。

『そのためには、金融市場の大きな混乱に将来繋がりうるような金融緩和の副作用を軽減し、先行きのリスクや不確実性の低下に努めることで、景気が現在の経済の実力(潜在成長率)に見合ったペースで、緩やかながらも息の長い回復を続けていけるような政策運営を行うことが重要です。現在私が提案している金融市場調節・資産買入れ方針の修正は、こうした考え方に基づいたものであり、2%の物価安定目標実現のためには、この方が近道であると考えています。』

という説明は決定会合でもしていると思われるのですが、MPMで木内さんに妙に突っかかっている人(だいたい想像はつきますが)の見解みたいなのが議事要旨に出ているのを見ると、まったくそういうのを理解しようとしないでいちゃもんつけているだけにしか見えないですよね(−−)。


・硬直的な運営はイカンという砲撃が最後に

『また、今後の金融政策運営にあたっては、日本銀行の金融政策運営の枠組みである「2つの柱」をこれまで以上に意識し、柔軟な政策運営を行う必要があると考えます。』

2年で2%ではないのだからそうなりますな。

『具体的には、第1の柱では、先行き2年程度の経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しが、各時点での日本経済の実力に照らして妥当であるか、その都度点検します。この点に関連して、金融政策を通じて2年程度先に目指すべき物価上昇率は、政府や企業といった各主体の取組みによって潜在成長率並びに持続的な物価上昇率の水準が高まるにつれて、徐々に高まっていくと考えられます。その水準は中長期的には2%程度に達する可能性もありますが、その都度、各時点での経済の実力に見合った妥当な水準を踏まえて、政策運営を行うことが重要であると考えます。』

2%は中長期目標と。

『また、第2の柱では、より長期の視点から、物価安定のもとでの持続的な成長を実現するとの観点から、政策運営にあたって考慮すべき様々なリスクをつぶさに点検することが重要です。その際、短期的な経済・物価情勢のみに目を奪われることなく、金融システムの不安定化に繋がりうる中長期のリスクに十分注意し、長い目でみた経済・物価の安定確保を図るといった視点が重要となります。そのことは、中長期的にみて国民経済の健全な発展に資するとともに、将来に亘って、日本銀行の政策の信頼性の維持・向上に繋がるものと考えます。』

今の執行部は短期的な物価しかみていないと仰せですね!!!!!


とまあそんなことで積み残し分もこんなにあったのでした。


○木内審議委員会見がこれまたボリュームが多いのだが論点の整理が出来ている&執行部に無慈悲な砲撃を連発

とにかく今回はとんでもなく長いので多分2日に分けないとしんどいです(汗)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1509a.pdf


・中国経済について

『(問) 2 つございまして、世界・日本経済で今何が起きているか、どうご覧になっているかということと、ご講演でも触れられた政策提案について教えて下さい。具体的には、現在世界市場で起きていること、商品市況の暴落と中国からの資金流出、中国の通貨の切り下げ──その後切り下げは中断しましたが──、世界的な株安リスクオフ、これらの日本経済の景気・物価への下押しの可能性とそのマグニチュードというか、腰折れするほどのものなのか、そうではないということなのか、現状での分析をお願いします。それと、そういう状況でも、4 月以降、テーパー提案をされているというようなお話でしたが、市場的に今大丈夫なのかという疑問がございまして、大丈夫なのかどうか、そこもお願い致します。』


ということで中国経済の部分をまずは引用するのだがこれが超長い。


『 (答) 確かに足許では世界の金融市場が俄かに不安定になっているということですが、一方で実体経済については様々な問題を抱えています。特に、中国は色々な構造問題を抱えておりますが、金融市場と同様に、足許で実体経済、世界経済、特に中国経済が、急激に悪化しているということではないのかなと思っています。』

うむ。

『中国発の世界的な金融危機というのはなかなか起こらないだろうと思います。それはやはり、中国は実体経済としては世界と非常に結びついていますが、金融市場としては世界とやや遊離された、乖離された部分が依然としてありますので、そういう意味では、中国発の金融危機というのは起こりにくい、しかもグローバルにみますと、かなりの緩和状態が続いているという中で金融危機はなかなか起こりにくいとは思っています。』

『一方で、より注意しなければいけないのは、中国経済による世界の景気悪化です。世界の株式市場が中国の株式市場と連動して非常に不安定になっているのは、まさに中国経済が世界経済の大きなリスクであるということと、それに対し、中国当局が政策対応で上手くそうしたリスクを軽減できるかどうかに対する心配が浮上しているということが挙げられるのかと思います。』

中国の金融市場はまあ勝手にやってろという所ですが実体経済の方はリスクとして認識と。

『これにつきまして、私自身の考えは、中国経済自体は従来から減速をしてきており、もちろん、潜在成長率が下がるに応じて成長率が下がるのであれば、これはニューノーマルということで、望ましい成長ペースの鈍化なのですが、どうも昨年から今年にかけては、この潜在成長率を下回る、つまり需給ギャップが悪化するような形での減速が起きているのだろうなと思っています。足許で急激ではないにしても、昨年からそういう状況になってきているということで、従来よりも下振れリスクが出てきているのかなと思います。(以下割愛) 』

ということで中国の成長鈍化のペースが速まっているようにみられるので下振れリスクである、という話になっております。更に説明が続くのですが長いので途中を割愛しまして・・・・・・・・・・・・・


・気が付けば執行部に砲撃モード

上記質疑応答の続きです。

『(答)(前半割愛)日本経済への影響ということですが、既に今の時点で日本経済への下方リスクになってきていると思っておりますが、今申し上げた形での政策の変更があれば、年後半、あるいは来年に向けては少し安定化していくのかなと思っています。日本経済全体としては、4〜6 月期にマイナス成長になり、7〜9月期は持ち直してはいるのですが、あまり強くないという意味では、非常に冴えない動きを続けているということです。』

ということで中国の影響の話の続きなのですが・・・・・・・・・・・・

『私自身は、この中国等を原因とする輸出環境の悪化という要因と、一部はやはり値上げ懸念による消費の弱さ、この 2 つが確かに景気の足を引っ張っている部分があると思います。』

>値上げ懸念による消費の弱さ
>値上げ懸念による消費の弱さ
>値上げ懸念による消費の弱さ

『一方で、過去の累積された金融緩和の効果も部分的には効いていますので、ややこれらがバランスする形で、経済の安定が大きく損なわれるということではないのかなと思います。』

うむ。

『ただ、期待されているほどではないというのは、期待自体が過大な部分が大きいのかと思います。』

!!!!

『つまり、日本経済の潜在成長率は依然としてかなり低いということと、金融緩和の効果がそれほど絶大ではないということ、その 2 つを考えれば、概ね、その過大な期待の方が強いのであって、経済・物価の実態の方は、比較的安定した状態にあるのかなと思っています。』

先程の講演の中にもありました安定状態ですね。


・政策対応の話だがQQEって元々短期決戦というのが執行部の話だと思うのでこれはマッコウクジラですな

『最後に、政策対応についてですが、これは従来から申し上げている点ですが、金融政策の目的は何かというと、中長期的な経済・物価の安定を確保するという点にあります。とは言っても、中長期というのはなかなか予測が難しいわけですので、通常の金融政策では比較的短期の経済・物価に合わせてファインチューニングする──景気が弱くなれば金融緩和をする──、これが普通の当たり前の政策なのですが、量的・質的金融緩和というのは通常の金融政策とは全く別種の政策であるというのが私の認識です。』

ほほう。

『非常に中長期の観点から判断をしなくてはいけない政策ですし、特に、量的・質的金融緩和は、私は減額提案をしているとはいえ、やめるということを言っているわけではなくて、私どもがマネタリーベースあるいは国債の残高を長期間維持する必要があるだろうという意味では、副作用についても、向こう 1、2 年ではなく、例えば10 年、20 年先まで考えなければいけないという視点で考えるのが量的・質的金融緩和ですから、それに対して足許の景気が下振れたので、緩和強化という発想には私はならないということでありますし、量的・質的金融緩和の効果自体はかなり逓減していると思っていますので、仮にこれで国債の買入れを増やすとか、マネタリーベースを増やしたからといって、追加的な効果が果たしてどれだけあるのだろうかというと、非常に疑問であると思っています。』

まずQQEが「2年で達成(してないにも程があるけど)」という話をベースにやっているという所を盛大に砲撃した挙句に、昨年の追加緩和に関しても(木内さん反対してますが)盛大に十字砲火を浴びせておりますな。


『もちろん、対応が必要であれば、対応はあるわけですが、それは必ずしも量的・質的金融緩和の方針を変更するというだけではなくて、例えば、一時的に流動性の拡大をするとか、政策手段としては他にもあります。景気の下振れに対して、量的・質的金融緩和を強化するというのは、例えば一つの問題点として、グローバルにやや危機モード、金融危機のような状況になった時は、おそらく金融機関は安全資産の方にお金をシフトさせるわけですから、そういう意味では国債の需要が非常に増えるわけです。』

『こういう時に、私どもがもっと国債を買うということになると、国債の需給が更に逼迫して、つまり、国債の買入れという今の政策の柱の持続性がさらに落ちてしまうと、それが行き詰れば金融市場は大きく混乱してしまうという辺りも考えますと、単純に中国発での足許の景気の下振れに対して、今の政策をさらに強化してくるということが妥当ではないと思いますし、足許のこうした下振れにも関わらず、私自身としては減額という形で正常化の方に足を踏み出すというのが妥当であると考えています。 』

まあここの安全資産のニーズをクラウドアウトする件に関しては少々微妙ではありますが、確かに米国の場合は国債買入に対応して安全資産なくなった時にお助けオペみたいなのがありました。


・買入ペースの減額に関する株安や円高の影響への所感如何?

という質問がありまして(質問も長いので割愛)、その回答の部分を引用してみましょう。

『(答) 第 1 の点ですが、正常化に向かう時には、おっしゃるようなリスクというのが決して排除できないということでもありますし、私の減額提案に対し、議事要旨にもありますが、やや反対意見としては金融市場を混乱させるのではないかと。』

やや反対意見という表現にお気持ちが入っているような味わいが。

『それは配慮する必要があると思いますが、まず今の政策を永遠に続けることはできないわけです。国債を無限に買い続けることはできないわけですので、いずれは正常化に向かわなければいけないと。ただ、今の政策は方針を変えなければどんどん買い続ける政策で、私どもがどんどん国債を蓄積していく政策です。そうすると、それを続ければ続けるほど、正常化に向かう時の金融市場への変動のリスクは高まるのだろうなと思います。』

そらそうですな。

『そういう意味では、もちろん今の時点では、政策変更しない方が波風立たずにいいということですが、それは私としてはやはり無責任ではないかなと、つまり中長期の立場から経済・物価の安定をしっかりと確保できるような政策運営をする必要があるのではないかと。』

これは良い無慈悲砲撃。

『現状で政策効果がすごく大きく出ているのであれば、もちろん考え方は違うかもしれませんが、政策効果は既に大きく逓減している中で、市場の混乱を抑えることが大きな目的で政策を維持するというのは、それはやはり本末転倒ではないかと思います。』

MPMで毎度絡んでいるどなたかの審議委員に対する十字砲火ですね。

『金利あるいは株・為替への影響というのは、もちろん予見できない部分がありますが、私自身としてはやはり、今までの量的・質的金融緩和の経済への効果とか、あるいは他の金融市場への波及効果というのは、基本的には実質金利で決まってきている部分が大きいのではないかと思います。実質金利は、様々な要素で決まるとはいえ、足許ではどれだけ国債を買っているか、いわゆるストックで決まる部分が大きいと思いますので、国債の残高を減らすという判断は非常に大きな判断だなと、将来的には思いますが、私の提案は、国債の残高を減らすという提案ではなくて、買入れ額、つまり本行の持つ国債の残高を増やすペースを減額するということです。さらに重要だなと思うのは、先行き残高を減らすことはとりあえず考えていません、というメッセージを同時に送る、ある意味フォワードガイダンスですが、これをすることによって金利変動のリスクは軽減できると思いますし、そうであれば他の市場、つまり為替・株式市場への影響も抑えることがある程度はできるだろうと考えています。』

文章の切れ目が無くて木内さんもう喋りまくりというのが伝わってくる次第で、以前こんなに喋りまくりだったというほどでもない(もちろん話自体はする方)ので、この金懇会見の場で暴れてしまえホトトギスという勢いが非常によく伝わってくるのであります。

まあそれはそれとして、説明としては「フローは落ちるけどストックは維持」というストックビューの話と、金融緩和政策自体は今の建付けよりも長期化することを前提にしている、というのを前面に押し出せばそんなに金利は上がらんでしょうし、そうなれば株価や為替もそこまで反応しなくてすみませんかねえというようなイメージですかね。

『繰り返しになりますが、国債をもっと買えば買うほど、そうしたリスクはもっと将来的に高まっていくということでして、量的・質的金融緩和が成功か否かというのは、まさに正常化もしっかりした後に判断されるものであって、今の時点で上手くいっていても、正常化で大きく躓いてしまっては、やはり成功とは言えないと思っています。 』

>今の時点で上手くいっていても、正常化で大きく躓いてしまっては、やはり成功とは言えないと思っています
>今の時点で上手くいっていても、正常化で大きく躓いてしまっては、やはり成功とは言えないと思っています
>今の時点で上手くいっていても、正常化で大きく躓いてしまっては、やはり成功とは言えないと思っています

まあ仰せのとおりですな。なお、もっと盛大に無慈悲砲撃が続き、だいたい執行部が火の海みたいな感じなのですけれども、まだまだ量がありまして(大汗)明日に続くのでした。

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2015/09/04

○木内審議委員の金懇講演は論点がかなり整理されてきて説得力が高まるが益々執行部に真っ向勝負モード

ということでECBに金懇の日程をぶつけられるというお洒落なプレイが炸裂している野党審議委員の金懇でございますが。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150903a1.pdf

本当は今日はこのネタだけで行けるという感じなのですが、ECBがきっちりとネタを打ち込んでくれましたので、木内さんの素敵な(褒めてる)金懇講演をネタにする時間が足りねえよ(−−)。

・現状は日本経済の実力に見合った状態での安定、という認識

最初の方は日銀政策委員として現状の日銀による経済見通しの話とかなので割愛しまして、『3.経済・物価見通しを巡る主な留意点』という小見出しから参ります。

『私は、過去2年半近くに及ぶ「量的・質的金融緩和」の効果などから、国内の経済・物価は、既に現在の日本経済の実力に見合った安定した状態を取り戻したと考えており、4月の展望レポート、7月の中間評価の予測期間である 2017 年度にかけては、このような安定した状況が続くと予想しています。』

今がすでに安定状態である、ということは(後でも出てきますが)ここから更に無理をする必要はない、という話になる訳ですな、うんうん。

『もっとも、私自身は、前述の7月の中間評価で示された政策委員の中心的な見通しに比べると、経済・物価見通しについてより慎重な見方をしています。以下では、こうした私自身の見方に基づき、先行きの経済・物価見通しに関する留意点を幾つか申し述べたいと思います』



・需給ギャップなどで見ても安定しているので・・・・・・・・・・・

小見出し『(1)需給ギャップ・潜在成長率と成長率見通し』である。

『日本銀行が4月の展望レポートで示した推計では、供給面から日本経済の実力に見合った成長ペースを示す潜在成長率は、0%台前半ないし半ば程度と低い水準に止っています(図表5)。また、日本銀行は、2015 年1〜3月時点で、労働力および生産設備の稼働状況を示す需給ギャップを+0.1%と推計しており、2013 年末以来概ねゼロ近傍の中立的な水準を維持しています(図表6)。ちなみに、OECDの推計値でみても、日本の需給ギャップは、他の主要国よりも良好な水準にあります(図表7)。』

うむ。

『これら需給ギャップの推計結果については幅をもってみる必要がありますが、短観の生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIを加重平均した指数をみると概ね推計結果と整合的な動きを示しており、有効求人倍率などをみても労働需給は中立よりも逼迫の度合いを強めているようにみられます。ただし、こうした需給ギャップが概ね解消された局面においては、景気回復初期のような需給ギャップが拡大した局面と比べると、潜在成長率を大きく上回るような成長は実現しにくくなると考えられるほか、人手不足などの供給制約が経済活動に抑制的な影響を及ぼす可能性も私自身はみています。』

潜在成長率が低い中での成長の天井という論点ですな。

『こうしたなか、私自身は、以下で詳しくみていくように、需要面からは、輸出、設備投資、個人消費のそれぞれに下押し要因がある一方、「量的・質的金融緩和」による累積された効果が経済に好影響を及ぼし続けることから、2017 年度にかけて、基調としては、潜在成長率並みの緩やかなペースでの成長が続き、7月の中間評価で示された政策委員の中心的な見通しよりは低いながらも、安定した経済・物価情勢が維持されるとみています。 』

ということで。


・米国と中国にも慎重とな

『(2)海外経済と輸出動向 』という所から引用。

『海外経済について、直近のIMFなど国際機関による 2015 年の成長率見通しをみると、昨年末と比較して下方修正されています(図表8)。これには、日本にとって重要な輸出先である、米国と中国の成長率の下振れが強く影響しています。 』

『米国経済は、1〜3月に悪天候や港湾ストなどの影響から成長率が落ち込んだあと、全体としては持ち直していますが、足もとでも個人消費を中心に鈍さが残っています。今年前半の平均成長率は従来のトレンドを下回りましたが、年後半の成長ペースがトレンドを回復するかは依然として不確実であり、今後も労働生産性上昇率の下振れ傾向が解消されない場合は、成長トレンドの下振れ観測も加わり、良好な雇用情勢だけでは景気の先行きに楽観論は拡がりにくいように思います。』

結構慎重。

『この間、中国でも成長率の下振れ傾向が続いており、雇用情勢の悪化やインフレ率の下振れなどと合わせて考えると、現状は必ずしも需給ギャップに中立的な安定した状況とは言えず、潜在成長率の低下を上回るペースでの成長率鈍化が進んでいるようにも推察されます。』

中々厳しい見方で。

『また、高水準の民間債務が積み上がり脆弱性を抱えるアジア諸国については、米中経済の下振れの影響が波及するなかで、経済の下振れ傾向がより顕著になる可能性もあります。 』

ということで見方は慎重です。


・設備投資にも慎重ですの

『(3)期待成長率と設備投資動向 』から。

『設備投資は、収益環境の改善や設備稼働率の高まりなどを背景に、増加基調を続けていますが、国内設備投資を中心に、企業の慎重な投資姿勢は依然大きく崩れてはいないようにみられます。これは、将来の人手不足への強い警戒感などから、企業が新規雇用を積極化しているのと対照的にもみえます。』

うむ。

『こうしたなか、企業が設備投資を一段と積極化するには、この先、政府の成長戦略や人口対策などにも後押しされて、中長期の期待成長率が明確に高まることが欠かせないと思います。』

まあそうですわな。

『また、設備投資のストック循環に着目すると、設備投資は、2015 年度に増加したあと、先々は、現時点の期待成長率が続くと仮定すると、2017 年度に向けて伸び率が頭打ち傾向を示す可能性があると私自身は考えています(図表 10)。 』

ということで慎重慎重。


・ 物価の上昇で個人消費があばばばばーという置物リフレ理論にマッコウクジラのコーナーキタコレ!!!

次が『(4)値上げ観測と個人消費動向 』でありまして・・・・・・・・・・・・・

『個人消費は、雇用・所得環境の改善や緩和的な金融環境といった好環境にも関わらず、なお勢いを欠く状態が続いています。その背景の一つには、消費者による当面の値上げ観測があると考えられます。』

キターーーーーーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーーーー!!!!!

『特に4月以降は、食料品など日用品の価格引き上げが広くみられますが、最近の景気ウォッチャー調査のコメント内容や消費動向調査の消費者態度指数のもたつきは、これらが消費者心理に悪影響を与えたものであると私自身はみています(図表 11)。』

(;∀;)イイシテキダナー

『こうした状況を、金融緩和の効果と合わせて考えると、「量的・質的金融緩和」の導入当初は、政策の影響を受けて実質金利が低下を続ける一方、先行きの実質所得の見通しには大きな変化が生じなかったため、将来の消費を前借りする金融緩和効果が一時的に生じたものと考えています。』

『しかし、現在の局面では、実質金利の低下が一巡していることや、賃金上昇率が物価上昇率に簡単には追いつかないとの見方が消費者の間で広まっているように見受けられることから、各種日用品の当面の値上げ観測が広がれば、当面の実質所得の見通しが悪化し、消費活動がより抑制的になる可能性があります。またそうした傾向は、年金生活者を含む高齢者世帯や低所得者により顕著に表れる可能性が考えられます。 』

インフレ目標2%を達成すれば消費意欲は高まるわ投資は増えるはじいちゃんのリューマチは治るわと全てウハウハですよという理論に対してマッコウクジラ攻撃が来ておられますが、まあ現実問題として今消費が出ていないのってそういうことでしょうからマッコウクジラも蜂の頭も無くて、そもそも「インフレ期待で消費意欲を喚起」という置物リフレ理論が机上空論という話なんですけどね!!!!!



さらに『(5)物価情勢と物価見通し 』という小見出しが登場。

『物価情勢については、民間発表の小売価格統計には、食料品を中心に明確な上昇傾向がみられますが、より広範囲の物価指標である総務省公表の全国消費者物価指数には、依然として大きな変化はみられません。』

東大とか一橋とかの物価指数見ているとまーた生活費が上がるじゃないかと頭がクラクラしてきますな。

『振れの大きい食料品とエネルギーを除くベース(いわゆる「コアコア指数」)でみても、幾分上昇率を高め始めた可能性も考えられますが、消費税増税後で価格上昇率が鈍った前年の裏といった面もあり、なお明確な基調の変化とは判断できないと思います。』

基調の変化を強調する執行部に喧嘩売ってますな(^^)。

『ちなみに、消費者物価の上昇率が顕著に高まった 2013 年から2014 年初めにかけての状況と足もとを比較すると、需給ギャップの改善ペースに大きな差があることに加え、今回は、電気製品の価格上昇が、円安の下でも比較的落ち着いている点に違いがあります。こうしたもとで、既往の円安による物価の押し上げ効果は、2014 年に比べると目立たなくなってきているように窺われます。 』

円安に振っても物価に効きにくい攻撃とな。

『なお、足もとスーパーなどでは、食料品価格を引き上げても売り上げが落ちないため、メーカーの値上げを販売価格に転嫁したり、販売促進目的でのセールを控える動きがみられていますが、これには昨年の消費税増税前の駆け込みの反動減の影響で、今年4月以降の前年比の売り上げが高めに振れたことを、売り上げの堅調さの表れと小売店が過大評価している可能性も考えられます。』

ほほう。

『さらには、食料品は必需性が強く、その消費の価格弾性値は相対的に低いと考えられることから、値上げにも関わらず売り上げが落ちにくい一因である可能性も考えられます。こうした食料品など日用品の価格引き上げが、この先消費者の防衛的な消費姿勢を助長し、その結果、値上げの動きが抑えられる可能性も考慮に入れておく必要があります。』

ですなあ。

『こうしたなか、私は、4月の展望レポートでは、「2%程度に達する時期は、・・・2016 年度前半頃になる」との表現に反対しましたが、現在でも、物価上昇率は当面0%程度で推移したあと、かなり緩やかに上昇率を高めていくと考えており、2017 年度まで視野に入れても2%に達する可能性は低いとみています。』

そもそも経済が安定状態に入っているという認識ですしこういう結論になります罠。


・金融政策運営に関して(ちなみに分量と時間の関係で明日じゃなかった多分月曜に続く)

ということで、ここまででもすでにマッコウクジラモードになっていますが、『4.金融政策運営』という所での説明は論点が整理されてきた感があって内容については説得力が高まっている感がありますな。

木内さんの金融政策に対する反対および反対議案の推移に関する説明がありますがそこは端折りまして、現在の金融政策提案に関する説明を読みましょう。

『これは、「量的・質的金融緩和」導入当初から念頭に置いていた、「量的・質的金融緩和」導入から2年経過したタイミングで、効果と副作用の比較衡量を改めて慎重に行ったうえで、もはや長期国債の買入れペースなどについて、導入時の方針であっても、副作用が効果を上回ると判断したことによるものです。また、長期国債保有残高を導入時を下回る年間約 45兆円のペースで増加させる方針に修正すれば、日本銀行の年間買入れ額は長期国債のカレンダーベース市中発行分の 50%弱程度の水準まで下がるなど、国債市場への過度の圧力が相応に緩和されると考えました。 』

なるほど。

『なお、こうした私の提案は資産買入れ額の減額を提案するものであり、資産買入れ残高を減額するものではありません。マネタリーベース増加額および長期国債買入れ額を減額しても、残高の積み上がりとともに今後も金融緩和は累積的に強化されていきます。』

これはポイントなんですけどね。

『私自身は、ひとまず、段階的に減額を進めていき、マネタリーベースと長期国債保有残高が一定となる状態に至ることを目指すのが適当と考えていますが、それは「量的・質的金融緩和」の終了を意味するものではありません。超過準備が解消され、長期国債保有額が正常化する「量的・質的金融緩和」の終了までには、極めて長い時間を要すると考えられます。私の提案は、全体の政策パッケージの中で、「量的・質的金融緩和」のウェイトをやや引き下げて、実質ゼロ金利政策や貸出増加支援資金供給などを含め、多様な政策ツールの組み合わせといった柔軟な政策運営へと移行していく第一歩であると位置付けています。 』

という説明はまあ分かりやすいですけどね。問題はこれをするには置物あたりのクビを飛ばさないと整合性が取れない所なんですけどね。


でもってこの後にQQEのプロコン比較というのがあって、そこも引用したいのですけれども時間と量の関係上後日改めて紹介することにしまして、その後の『(4)効果と副作用の比較衡量 』から引用しますと・・・・・・・・・・・

『これまで「量的・質的金融緩和」の効果と副作用について詳しくみてきましたが、これら効果については、日本銀行の国債購入残高(ストック)に規定される面が強い一方、国債市場の流動性低下など副作用は、ストックのみではなく、日本銀行の国債買入れ額(フロー)にも相応に影響を受けると私自身は考えています。』

このストックビューとフロービューの切り分けは中々斬新。

『既に国債購入残高を増やしても実質長期金利が低下しにくくなり、追加的な効果が明確に逓減する局面に至っていることを踏まえると、国債買入れ額を減額することで、効果を大きく減殺することなく、副作用を減少させることで、限界的な効果と副作用のバランスを改善させることができると私は考えています。』

なるほどです。

『既に述べたように、私の提案は、国債買入れ額(フロー)の減額であって、国債購入残高(ストック)の減額を提案している訳ではありません。「量的・質的金融緩和」の累積的な効果は既に経済にしっかりと定着してきており、国債購入残高を減少させない限り、その効果を大きく損ねることはないと考えています。』

まあフローでの買入が減ると下駄履いている分は落ちるので金利は上昇しますけれども、その分時間軸を強化することによってある程度相殺させることは可能な気がしますがね。

『国債買入れ額の減額措置など「量的・質的金融緩和」の正常化について、金融市場の反応を危惧するあまり対応を先送りすれば、金融市場が不安定化する潜在的リスクはより一層高まり、結果的に「量的・質的金融緩和」の今までの成果を台無しにしてしまう惧れがあります。「量的・質的金融緩和」の成否は、正常化を円滑に完了した時点で評価される点には留意する必要があります。 』

(;∀;)イイハナシダナー


ということでQQEのプロコン比較部分とこの後にある「2年で2%」でなくていいじゃないかにんげんだものという説明の部分を端折ってしまいましたので、こちらは改めて後日(会見と一緒に)ネタにしようと思います。

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2015/03/09

以下木内さんの演説が長いので大鑑賞会であります。


○木内審議委員会見は期待通りの執行部砲撃な件について&執行部ロジックと水と油な件

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1503a.pdf

質疑応答の形式なのですが、まあ今回の木内さんの説明が長い長いという所でして、この説明の長さは普段あまり出てこない(出してくれない?)からですかね(^^)。


・質疑の最初は追加緩和の副作用とかなのですがその前にこの質疑を

『(問)(前半割愛)2 つ目は物価ですが、CPIが数字の上ではゼロとかマイナスになる可能性が十分あると思うのですが、今のところ順調な期待インフレ率、人々の価格設定行動に影響を及ぼし得るのか、あるいはその点はあまり心配しなくてよいのか、ご見解をお願いします。』

『(答)(前半割愛)2 番目のご質問ですが、個人は物価指数の動きを毎月細かくみて、それによって期待インフレが形成されていくわけではありませんので、原油価格の下落により一時的にコアCPIが前年比でゼロやマイナスになっても、人々あるいは企業の中長期の予想物価上昇率に非常に大きなマイナスの影響を及ぼすことはないと思います。』

バックワードルッキングでどうのこうのという話をして追加緩和をした黒田さんに対するイヤミキタコレ。

『従来から申し上げているとおり、物価については基調的な動きが重要であり、CPIのコアだけではなく、いろいろな指標をみる必要があります。ただ、様々な指標の中で有力な指標の1 つである、食料・エネルギーを除くベースの消費者物価でみても、足許で前年比+0.4%程度です。物価上昇率がプラスで定着しているのは「量的・質的金融緩和」の1 つの大きな成果の表れだと思いますが、物価目標である2%と比べると大きく乖離しているのは、原油価格下落の影響だけではないため、再度、物価の安定というのはどのくらいの水準が適切なのかを考えていく必要があると思っています。』

そもそもコアコアでまだ全然2%じゃないのですからそもそも論として2%見直せ、という話ではあるのですが、もうちょっとクリアにこの辺を整理して具体的な金融政策提案に打ち込んで頂きますと分かりやすいのですけどね。この後で延々と金融政策に関する話があるのですがもうちょっとここをクリアに強調して頂きたい。


・追加緩和の副作用質問さっそく登場:追加的効果が減る中で副作用が高まる

『(問) 2 点お伺いします。懇談会でも詳細に述べられていますが、追加緩和の副作用について、何を一番心配されているのか、改めて教えて下さい。昨年10月末の「量的・質的金融緩和」の拡大に反対した理由だけではなく、さらに拡大するような話が執行部で出てきた時に、どういうリスクが一番心配なのか。特に一般の人の生活に及ぼし得る事象として何があるのか。最近、債券市場では金融と財政の両方が緩みきっている中で、先週NHKで預金封鎖の特集番組が放送されるなど、だんだん警鐘を鳴らす声も出てきていますが、分かりやすくお願いします。(以下割愛)』

ということで先ほど申し上げたようにこれに対する説明が長いのよ(他のも長いけど)。

『(答) 第1 の点ですが、私自身が追加策に反対したのは、一言で言いますと、効果と副作用を比較考量して、副作用の方が効果を上回ると判断したからです。こうした判断に際しての考え方は、もともと2 年程前に「量的・質的金融緩和」を導入した時から変わっていません。』

ほう。

『当初はもちろん効果が副作用を上回るという判断で導入に賛成しましたが、この政策を続けていけば、効果については徐々に低減していくだろうと考えていました。一方で副作用は低減していかないとすると、どこかの時点で副作用が効果を上回り、妥当ではなくなる時期がやってくると考えていました。だからこそ2 年程度を目途に一旦立ち止まって、効果と副作用を冷静に比較考量して、必要であれば見直しをすべきであると言って参りました。昨年10 月末に追加策に反対したのは、まさにこうした考え方の延長線上です。』

なるほど。

『追加策をしなくてもどこかの時点では副作用が効果を上回ると思っていましたが、追加策の実施によってタイミングが早まったということです。』

という所までがマクラでして(^^)。

『副作用に関するご質問でしたが、効果についても一言申し上げたいと思います。政策効果としては、実質金利の低下が重要な源泉だと考えていますが、名目金利は相当下がってさらなる低下余地が小さくなっている一方で、世界的にインフレ期待が高まりにくい中、実質金利の低下余地は狭まってきていると思います。』

MBを積み上げるとインフレ期待に直接働きかける事ができるので実質金利が下がります(キリッ)という執行部の理論に対してマッコウクジラの効果否定。

『足許での国債市場の混乱は、ある意味、実質金利を安定的に下げていくことがやや難しくなってきた可能性を示していると思います。効果については非常に大きなものはなかなか期待できない一方、副作用についてはさらに大きくなると考えています。』

で、その副作用。

『副作用としては、私自身は国債市場を通じた副作用を特に警戒しています。』

ほほう。

『現時点では、国債市場で非常に大きな副作用が明確にみられているわけではありません。しかし、将来のどこかの時点で非常に大きな問題として表面化する可能性があり、表面化してしまってからでは手遅れであるといった類の副作用を個人的には一番心配しています。』

まあ今大きな副作用とは言わん(言うならもっと緩和止めろ的な提案が出ます)ですが、さてこの手遅れの副作用とは????

『もう少し具体的に申し上げると、実体経済で決まるべき水準よりもう少し低い水準に金利が誘導されている可能性があり、その結果として政策効果が生まれているわけですが、それが行き過ぎると、例えば国債の売買が非常に細ったり、流動性が低下したりします。そうすると、何かイベントがあると金利が大きく上昇したり、ボラティリティーが非常に高まったりします。』

QQEの建付けでは資産買入でインフレ期待に直接働きかけて予想インフレ率を引き上げ、その一方で予想インフレ率が上昇する中で上昇する市場金利を資産買入で抑制する、という話なのですが、木内さんの懸念は買入が行き過ぎて市場そのものが壊れてしまうとまずいのではないかという話で。

『金利が非常に大きく上がれば、例えば住宅ローンの金利が非常に上がってしまうとか、急速に円高方向への巻き戻しが起こるとか、それに合わせて株価が下がるといったこともあり得るわけで、これらは我々の生活にも大きく関係します。』

まあこれはさておき。

『また、国債市場の金利水準が経済ファンダメンタルズからみた水準と乖離している、金利がある意味で歪められているということは、国債市場はいろいろな金融資産の価格形成のベースになるので、いろいろな金融資産・商品の価格が影響を受けて歪められている可能性があります。』

第2の柱キター!!!

『これは金融不均衡、いわゆるバブルに繋がり得るものです。金融不均衡の形成過程で、例えば株が大きく上がると、その時点ではもちろん良いわけですが、いずれ何かをきっかけに大きな巻き戻しが起きると、バブル崩壊というかたちで我々の生活にも非常に大きな問題に繋がってくることがあり得ます。こうしたことが起こらないように、十分に配慮しながら政策運営をしていくことが重要だと考えています。』

『金融政策は効果を最大限にすることだけを目指すのではなくて、効果と副作用のバランスを最大限にすることが重要ですので、副作用にも十分注意を払って政策運営をしていく必要があると思います。「量的・質的金融緩和」は、この2 年のタイミングで、政策の重点について、効果を最大限にするという意識から、より副作用に目配りをする方へと、リスク管理の比重を高めていく必要があるのではないかと考えています。(後半割愛)』

ということでリスク管理の比重を高める話は後程出てきます。


・さらに副作用論で副作用のテールリスク顕現を懸念

『(問) 先程の副作用の質問とも重なる部分もあるかと思いますが、もうすぐ2年間の節目ということで伺います。「量的・質的金融緩和」の当初期待された効果や、あるいは新しく明らかになった限界などについて、現時点でどのようにご覧になっているでしょうか。この間、地域が違うので単純比較はできないとは思いますが、半年に1 度のペースでのこうした経済界との懇談会を通じて、実体経済の変化等をどう感じていらっしゃるのか、あるいはまた物価面での「量的・質的金融緩和」の効果や限界などについてどうご覧になっているのか、ご意見を伺わせて下さい。』

ということでまた演説。

『(答) 先程申し上げましたが、私自身は効果と副作用のバランスはだんだん悪くなっていくと思っていました。「量的・質的金融緩和」は、その方針を変えなくても、徐々に緩和が強化されていくものですが、それに合せてどんどん累積的に効果が高められていくかは当初からやや疑問がありました。スタート時点では非常に大きな成果を生むわけですが、だんだんと効果は低減していくだろうと思っていましたが、過去2 年を振り返りますと、やはりそういうところはあるのかなと思っています。』

だったら「比率」で拡大していけばよいのでは、という意見が一部ではあったりしますよね。
まあ物理的に無理ですけど。

『副作用については、これも先程も申しましたが、見えにくい部分があり、今の時点でどれだけ副作用が高まっているかということを示すことはできません。効果については、長期的な効果もありますし、今みえている効果もあるわけですが、今みえている副作用を計算するというのは非常に難しいと思います。しかし、それを放置しておくとどこかの時点で非常に大変なことになってしまって手遅れになる、あるいは手遅れになっては困るということで、副作用に常に配慮して政策運営をするのが原則ではないかと思っています。』

全く持って仰せのとおりで、今の執行部の理論ってほぼ「テールリスクとか無いですから(キリッ)」って感じでの説明になっていますので木内さんの説明が非常に普通に見えます。

ただまあその点について今の執行部に同情する面があるとすれば、そもそもQQEそれ自体が「期待に働きかける」「期待をジャンプアップする」という意味で無理のある政策でして、「2年で2%」という無茶な目標を掲げた政策に関して「本気でタコ踊りを踊る」というのが必要とされる所でもあるので、木内さんの説明は冷静に考えれば普通の対応というかあるべき対応なのですが、そもそもQQEの建付け自体がタコ踊りをすることによって期待に働きかける、というものであるからして、執行部としてはここでタコ踊りを止める訳には行かないというのはあるんですよね。

『そういう意味で、副作用については、依然として慎重にみて政策運営をすべきであると思っています。』

ですからまあこういう委員がいてもよいけど、基本がタコ踊りというのは今更変えられないと思いますし、官邸のリフレ派アドバイザー先生たちが2年の期限が近づいて責任追及を恐れてさっそく逃げ態勢に入っている辺りに対しては日銀執行部静かに怒り心頭という所ではないでしょうかねえ。なおこの演説さらに続きますよ。



・効果について:実質金利の押し下げが難しくなっているので政策の限界という論点

ということで今の続き。

『一方、効果については、これも先程も申し上げましたが、実質金利の低下が「量的・質的金融緩和」の一番の効果の源泉ではないかと思いますので、それが大幅に下がるような局面では効果もかなり出やすいと思います。』

なるほど。

『導入当初はそういう面もあったとは思いますが、その後は、名目金利も下がりにくい一方、世界的な環境の変化もあって期待インフレ率が高まりにくい環境になってしまったため、効果はやや低減している面があるように思います。足許の国債市場の動きをみますと、安定的に実質金利を下げていくこと自体が、技術的にも容易ではないということが徐々に明らかになってきたのではないかと思っています。』

期待インフレが上昇しにくい+名目金利が下げにくいというセット技で。

『先程、金融市場を通じた副作用といったことを申し上げましたが、もう少し実体面からみた副作用について、あるいは政策の限界ということで申しますと、この2 年間で、金融政策の限界点についても世の中でそれなりに理解が進んだのではないかと思っており、これは非常に重要な点だと思っています。』

フリーダム発言キターーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーーーー!!!

『金融政策はオールマイティーではありませんし、金融政策に出来ることは限られています。』

執行部に迫撃砲打ち込みですねわかります。

『その限られた中で、金融政策として、金融当局として出来る限りのことをやるという判断で、「量的・質的金融緩和」を導入したわけです。』

金融政策だけで2%は達成できます(キリッ)ではなかったのか(・・??)


『限界点は何かというと、1 つは1 年ほど前からかなり強く認識されてきたように、人手不足、成長の天井ということです。金融政策は主に需要サイドに働きかけて、需要を高めることに貢献する政策だと思います。実際、「量的・質的金融緩和」以降、大幅なマイナス状態にあった需給ギャップは、日本銀行の計算によれば、1 年程前にほぼゼロの状態まで改善しましたが、これは非常に大きな成果だと思います。ところが、このまま需給ギャップがさらに改善していくと何が起こるかというと、人手不足が強まります。成長の天井にぶつかるということは、潜在成長率並みの成長しかできなくなるということです。それは我々の計算でいうと、0%前半から半ば程度という非常に低い成長率です。そうすると、物価や賃金が上がっても、実質賃金の上昇率は高まりません。実質賃金の上昇率は生産性上昇率並みに高まるものであり、それ以上はあまり高まらなくなれば、生活は良くならず、むしろ供給制約によって景気が腰折れてしまうかもしれない、金融市場が非常に不安定になってしまうかもしれないということで、成長の天井を上げる、あるいは生産性上昇率を高めていくという供給サイドの政策の方が重要であるという認識が広まったと思います。』

白川ドクトリンキタコレ!!!ということで、講演でもありましたが、2%の物価安定目標は経済水準とか成長力とかに関係なくグローバルスタンダードという執行部とはまったく別のロジックで、これ自体どう見ても過去の白川ドクトリンですわなというお話。

『これは、金融政策の限界を理解してもらったということでもあり、その結果として追加緩和の効果が出にくくなっているということでもあると思います。』

アタクシはその通りだと思うのだがおそらく限界を理解してという立場に無い人の方が執行部や政府などだと思いますよ。

『しかし、各種経済政策はバランス良く出していくことが必要なので、金融政策の限界や問題点が広く理解されたということは、ある意味で、「量的・質的金融緩和」の非常に大きな成果の1つだったと思っています。』

これはまた執行部に盛大にイヤミとしか申し上げようがないですな(・∀・)。

『それから、これは我々がそのように考えているということではありませんが、円安を金融緩和の1 つの副作用と捉える人がいることも事実です。実際には金融政策で為替をコントロールできるわけではありませんが、結果として金融緩和が円安に繋がって、円安によって一部の企業や家計が経済的にややデメリットを受けている可能性もありますので、そういう点にも配慮していく必要があると思っています。』

おおこれもイヤミ。



・国債買入の限界について

『(問) 2 点お伺いします。本日の懇談会の中で、国債の買入れについて、「買入れの持続可能性についても留意しておくことが必要である」と述べられていますが、持続可能でなくなるタイミングまたは経済情勢について、どのようにお考えでしょうか。(後半割愛)』

でまあ皆様には耳タコかもしれんがせっかくの良い説明なので引用しておく。

『(答) 国債が円滑に買入れられなくなるタイミングというのは、つまり金融機関から国債を購入することが難しくなってくるタイミングです。現状ではそういう状況には至っていませんが、どこかの時点で、日本銀行が高い値段で国債を買ってくれるとしても売りたくないという金融機関が増えてくると、そこが限界になってくるということです。』

で?

『我々の国債買入れは変動金利入札で行っていますので、金利が変動すれば理屈上では札割れはなかなか起こりにくいのですが、短国などでは既に起こっています。キャピタルゲインではなくインカムゲインをかなり重視する金融機関が多い中で、そうした金融機関は、国債を高値で売れるといっても、一旦売ってしまうとより低い利回りの国債を買わざるを得なくなります。このため、どんなに高い値段でも中央銀行へ売りたくないということになってきた時が限界ではないかと思います。』

さいですな。まあ何度も指摘されている事ですけれどもせっかくの機会なので引用。

『それがどのタイミングかということは、例えば応札倍率などは毎回非常に注視していますが、正直に言って分からないわけですが、突然買えなくなる可能性がないわけではありません。』

ですな。

『その時に何が起こるのかといえば、例えば金融市場では、この政策はどうなってしまうのかということで、いきなり障害が起こり得るわけです。先行きの金融政策がどうなるか分からないと、非常に不確実性が高まり、金融市場に大きな混乱を生んでしまう可能性があるので、そうしたことが起こらないように事前に対応する、つまり国債市場への圧力をやや弱めるような調整を行うということも、リスクを回避するための1 つの手段ではないかと思っています。(後半割愛)』

>国債市場への圧力をやや弱めるような調整

キタコレ!!


・ということで具体的にはどうするのかという話だが説明含めて延々2ページにわたる大演説を鑑賞

『(問) 木内委員は、徐々に「量的・質的金融緩和」の副作用の方が大きくなってきているとして、従来からおっしゃっているように、本日の懇談会でも、「政策運営の重心を資産買入れからその他のツールに徐々に移し始めていくことを、いずれ検討する必要がある」と述べています。ここで言っている「その他のツール」というのは、どういったことが考えられるのか、どのようなことを念頭に置かれているのか、お聞かせ下さい。』

ということですがこの答えが大演説なのよこれがまた(しかも切りにくい)。


『(答) 我々の金融政策は常に複合的に行われていると思います。「量的・質的金融緩和」だけで2%の「物価安定の目標」を達成しようというのは必ずしも正しくなくて、実際には、それ以外の政策も並行して行っています。』

お、おう・・・・・・・

『1 つは支援オペであり、もう1 つは金利政策です。』

ほう。

『金利がゼロで変わらないから、その政策効果が変わらないかというと、そうではありません。例えば、物価が大きくマイナスの時には、いわゆる非負制約があるので、実質金利は高めになり、ゼロ金利はむしろ景気を悪くしている面があると思います。伝統的な金利政策では、金利がゼロまで下がると、厳密にはそれ以下に下がれないわけではないものの、下がりにくいという点に限界があります。物価が下がっていくと実質金利が逆に上がり、金利をゼロに据え置くだけで景気をさらに悪くしてしまうので、その効果を相殺する方策として、資産買入れを含むいわゆる非伝統的な政策を行ってきたわけで、これは日本だけでなく、グローバルなトレンドであると思います。』

この後に出てきますが、つまり物価がマイナスからプラスになってきているので金利政策で良いじゃないかという話になるのですよ。まあそのロジックだと物価安定目標2%に中々到達しないという話だから今のドクトリンとは全く相いれないのですけどね。

『その場合は、例えば、国債を買って長期金利を下げることにより景気を浮揚させる効果によって、ゼロ金利による景気の抑制効果を相殺するという発想になります。つまり、その時点で、伝統的な金利政策と非伝統的な資産買入れ政策は既に混在しています。現在は「量的・質的金融緩和」の効果もあって、物価は2%には遠いとは言えプラスが定着してきて、需給ギャップも改善したことから、おそらくゼロ金利であっても景気を浮揚する効果が出てきていると思います。』

ということでそういう説明来ましたでしょ?

『意識はあまりされていないかもしれませんが、ゼロ金利政策によって景気浮揚効果も出ていることなども含めて、すべてを考えながら金融政策を運営していく必要があると思います。そして、それぞれのツールには特徴があります。』

ほう。

『例えば、「量的・質的金融緩和」について私が2 年間程度の集中対応措置として位置付けているのは、それが非常にパワフルではあるものの、長く続けていくと副作用が高まっていく一方、効果は低減していくものであり、ファイン・チューニング的な政策にもそぐわないと思っているからです。また、2 年間の集中対応措置といっても、2 年間で止めるということを言っているわけではなくて、その期間は規模として最大限を維持していくというのが、集中対応措置の私なりの意味合いです。』

うむ。

『実際に、「量的・質的金融緩和」を止めるために、持っている資産を一気に売却して超過準備をなくすなどということは、金融市場に対しての悪影響を考慮すればまず考えられません。従って、「量的・質的金融緩和」は非常に長期化しやすいということを前提に運営していかなければなりません。』

この次に10月緩和に対するダメ出しが来るのだ。

『「量的・質的金融緩和」は、景気が少し悪くなったから、あるいは物価が下振れたから強化していく、というようなファイン・チューニング的な政策には馴染まないものであり、もっと中長期の観点でやるべきだと思います。』

どう見ても砲弾着弾です本当にありがとうございました。

『一方、他の政策については、もう少しファイン・チューニングが出来ると思います。従って、将来的には、ファイン・チューニングには馴染まない「量的・質的金融緩和」のウェイトを全体の政策のパッケージの中で下げていく、例えば国債の買入れ額を少し小さくするといったことを検討していく必要があるのではないかと思います。近い将来はないと思いますが、遠い将来のいずれかの時期では、金利を変更するというのも選択肢としてあり得ると思います。ただ、これについては付利の金利を下げるという手もありますが、「量的・質的金融緩和」を実施している中で、資産の買入れと金利の引き下げというのは相入れない部分がありますので、そういう選択肢はなかなか選択しにくいと思います。』

時間軸政策ならわかるが付利を下げるのは現実的ではないでしょ。

『しかし、例えば国債買入れを少し減額していくという方向であれば、国債市場に対しても少し圧力が小さくなり、そうした中で、将来は例えば付利の金利を下げていくというのも選択肢としては残されていると思います。』

無理だし意味ありません。国債買入「残高」を落とせるのなら可能性は無いわけではないけど、木内さんのイメージは残高は維持だと思いますので。そらまあ盛大に国債売却するなら付利下げも手だが、そこまで来るとそもそも何をやりたいのかが無茶苦茶になってしまうのでやはりありえませんな。

『いろいろな政策の組み合せの中で、その時々に望ましいツールにウェイトを高めていくことが必要だと思います。2 年前は「量的・質的金融緩和」という非常にパワフルな政策が有効だったと思います。ただ、その結果として需給ギャップもプラスになり、物価もマイナスからプラスが定着しました。私は、金融政策の役割としては、「日本経済の実力に見合った水準で経済・物価の安定を確保する」、「需給ギャップが中立化する」、「物価がそれに見合ってプラスで安定する」、そこまでが非常に大きな役割としてあって、それらはだいぶ達成されつつあると思います。』

この辺が木内さんの微妙に説明が苦しいところで、QQEが効いて需給ギャップがプラスになったという効果は認める云々という話と、ここから先の金融政策効果と副作用の切り分けの部分との整合性があまり綺麗に整理されているように見えないです。

つまり、そもそも2%ではなくて1%的な説明をもうちょっとクリアカットにする(実際は足元で均衡みたいな話をしておりますので、そういう認識をしていて、要するに1%まで目指すのがQQEでその先は無理する必要なしという話だとは思うのですけど)と分かりやすいように思えますという事で。

『望ましい物価の水準というのは、例えば成長戦略が上手くいき、生産性が上がっていけば、その水準も上がってくるので、我々はその望ましい水準を常にみながら、目標を少しずつ切り上げていくことが必要だと思います。その過程では、「量的・質的金融緩和」よりもう少しファイン・チューニングに適した政策が有効になってくるので、そういう変更を徐々に考えていかなければならないというのが、懇談会のテキストの最後で述べている様々な政策ツールの組み合せということの趣旨です。望ましいポートフォリオというか、組み合せに徐々に調整していくという発想が、これから重要になってくるのではないかと思います。』

であれば、木内さんの認識的にほぼ均衡状態なのでしょうから、2年たったところで「国債買入残高の拡大を停止して金利政策の時間軸を導入、2%の物価目標は中長期で目指す」というのを明確に出す位の事をしていただきますとだいぶクリアカットになるのですが、さて4月会合辺りでどういう提案がでますかねえという所で。

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2015/03/06

○木内審議委員金懇講演は予想通りに盛大に野党モードで展開されております

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150305a1.pdf
わが国の経済・物価情勢と金融政策
── 群馬県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──

ということですが、日銀の仕様としまして野党審議委員であることが明確なお方の金懇だの講演だのというのは何故か知りませんが海外中銀の大ネタがあるときにぶつけられたり、国内で選挙とかのような大ネタがある時にぶつけられたりという傾向があるように思えるのですが、スケジュール調整している事務方の(銃声)。


・景気に関しては慎重(だが追加緩和する気が無いのはご案内の通り)

経済物価情勢に関する説明の『3.経済・物価見通しを巡る主な留意点』から。

『私自身は、景気は今後も緩やかに回復を続けるとみているものの、前述の展望レポートの中心的な見通しに比べると、経済・物価見通しについてより慎重な見方をしています。以下では、こうした私自身の見方に基づき、先行きの見通しに関する留意点を述べたいと思います。』

ということで・・・・・・・・・

『(1)日本経済の成長力』

ほほう。

『供給面から日本経済の実力に見合った成長ペースを示す潜在成長率は、日本銀行の推計では、このところ0%台前半ないし半ば程度と低い水準にとどまっています(図表6)。』

さいですな。

『また、設備投資は増加基調に転じているものの、企業の資本ストックの蓄積ペースはなお緩やかであることなども踏まえると、この先、潜在成長率が短期間で顕著に上昇する姿は見込み難いと考えられます。』

おう・・・・・・・

『他方で、同じく日本銀行の推計でみると、需給ギャップはここのところ概ねゼロ近辺の中立水準で推移しており、OECD 推計に基づく国際比較でみても良好な水準にあるほか、労働需給はかなり逼迫した状態が続いています(図表7、8)。これらの推計結果は幅を持ってみる必要がありますが、仮にこうした環境の下で潜在成長率を大きく上回る成長ペースが続けば、人手不足など供給制約が強まっていくと予想されます。』

しかしながら・・・・・・・

『私自身は、潜在成長率から大きく乖離していない緩やかな成長ペースが続くことで、安定した経済・物価環境が維持される公算が大きいとみています。』

つまり先行きの急上昇は見ていないというオチ。


『(2)原油価格下落と世界経済』

という所については原油価格が下がってウマーですよという話をしているものの、その直ぐ後にそんなにウマーでも無いんじゃネーノという話をしております。

『このうち、プラス効果の程度を測るうえでは、原油価格の下落が米国の景気にどの程度恩恵をもたらすかが注目されます。この点、米国でのエネルギー消費効率の高まり等の構造変化によって、原油安は期待ほどには個人消費を押し上げない可能性があるほか、石油関連産業の設備投資の減少や、産油国を含む海外景気の下振れによる輸出の減少につながる可能性も考えられます。』

『また、原油価格の下落によるプラス効果が見込まれる中でも、多くの先進国および新興市場国での中期的な成長期待の低下に起因する投資の弱さなどを理由に、IMF では直近の世界経済見通しを下方修正した点も注目されます(前掲図表3)。これらも勘案して、私自身は、日本の輸出を左右する要因となる海外景気については下振れリスクをより意識しています。』

ということで結局下の話になっておりますな。

『(3)消費動向』

こちらでは賃金上がってウマー論に対してやや異論を。

『但し、仮に主要企業で相応のベースアップが実施されたとしても、経済全体でみた所定内給与の上昇率との間には乖離が生じ得ます(図表11)。その理由としては、中小企業の賃上げ動向も全体の方向性を左右することや、非正規労働者の多くはベースアップの対象にならないこと、相対的に賃金水準が低い非正規労働者の構成比率の高まりが賃金の平均水準を押し下げている面があることなどが考えられます。こうした点を踏まえると、労働需給の改善傾向が続く中でも、先行きの実質所得の改善ペースは緩やかなものにとどまり、個人消費もそれに見合った緩やかなペースでの増加を続ける可能性が高いと考えています。』

というころでまあ慎重ですな。


・物価見通しについてはそもそも展望レポートに反対議案だしていますので・・・・・・・・

次が『(4)物価見通し』である。

『物価見通しについて、私自身は、昨年10 月の「展望レポート」で、「消費者物価の前年比は、2015 年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い」との記述を修正する議案を出しており、その後も中心的な見通しより慎重な見方を維持しています。』

そしてその説明。

『物価見通しと需給ギャップの関係をフィリップス曲線で整理すると(図表12)、消費者物価の前年比が2%程度に達するためには、需給ギャップの改善に物価が比較的明確に反応していく(傾きのスティープ化)とともに、フィリップス曲線自体も中長期的な予想物価上昇率の高まりを反映して上方シフトしていくことが必要です。』

さいですな。

『しかし、「量的・質的金融緩和」の導入以降、需給ギャップは大幅に縮小して過去1 年近くにわたり概ね中立水準を維持し、その間円安の動きもみられましたが、物価の上昇ペースは、原油価格下落の影響を受け難い、食料およびエネルギーを除くベースの消費者物価でみてもなお緩やかにとどまっています。』

図表12を見ますと直近1年(くらいでみるのは妥当性としてどうかという議論はありますがそこはスルーしてくださいませ)のプロットからしますと「フィリップス曲線のシフトアップはやや進んだけど、カーブは相変わらずフラットなまま」という感じに見えますな。

『こうした現状を前提とすれば、先行き原油価格下落の影響が剥落していき、需給ギャップが更に改善していくとしても、物価の上昇ペースは引き続き緩やかなものにとどまるとみられます。』

ということでそうなるという事なのかなとは思いましたがどうでしょうか。


・金融政策運営に関してはこりゃ執行部とは全く相容れない主張だわ

メインイベントは『4.金融政策運営』であるので鑑賞鑑賞。

『「量的・質的金融緩和」の拡大については、政策委員会メンバーの間で慎重な意見もありましたが、採決の結果、その実施が決定されました。私自身は、「量的・質的金融緩和」が既に相応の効果を挙げて、日本経済の潜在成長力に照らして経済・物価は概ね安定した状態を取り戻している中、拡大の効果はそれに伴うコストや副作用に見合わないとの考えから、この決定に反対し、その後の会合でも拡大以前の方針が適当であると考えて反対票を投じています。』

うむ。

『その背景にある考え方は、私が「量的・質的金融緩和」の導入時点から続けている提案、すなわち、(1)2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度ではなく中長期の目標とすること、(2)「量的・質的金融緩和」を2年程度の集中対応措置と位置付け、その後必要に応じて柔軟に見直すこと、とも密接に関わっています。以下では、そうした点も含めて、金融政策運営を巡る幾つかの論点について、私自身の考えを申し上げたいと思います。』

ということで・・・・・・・・・・


まずは『(1)「物価安定の目標」について』ですが。

『日本銀行が掲げる2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率を安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。その実現のためには、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が2%程度の水準で安定することが必要ですが、なお相応の距離があるといえます(図表14)。』

という説明をしている図表14が思いっきりBEIとかインフレスワップの数値を出しているのは置物師匠に対するイヤミですねわかります(^^)。

『私自身は、日本の中長期の予想物価上昇率は、潜在成長率などの供給側の要因で決まる部分が大きいと考えています。従って、2%の「物価安定の目標」の実現には、金融緩和で作り出した良好な経済・金融環境を活かしながら、幅広い経済主体が成長力強化に向けて息の長い取り組みを行っていく必要があり、その取り組みが順調に進んでも、目標の実現には相応の期間を要すると考えています。私が2%の「物価安定の目標」について、2年程度ではなく中長期の目標と位置付けることを提案しているのもそのためです。』

ということで、これは従前からの木内さんの主張ですが、執行部の説明はご案内の通り「2%はグローバルスタンダード(キリッ)」という奴でして、木内さんの主張と対比した形で言えば「潜在成長率などの条件とは無関係に中長期的に適切な物価上昇率というものは決まっている」という話なので、現執行部の説明とは全くこの部分が相容れない筈です。

『金融政策では、緩和的な金融環境の維持を通じて、こうした取り組みを粘り強く側面から支援していくことが重要ですが、既に述べたように、潜在成長率が依然低水準にとどまる一方、経済の需要面に働きかける金融政策の効果もあって、需給ギャップはここのところゼロ近傍となっています。こうした中、短期間で経済の実力以上に物価を押し上げようと過度に緩和を強化すれば、経済ひいては物価の安定をむしろ損ねてしまうリスクがあります。』

どう見ても白川ドクトリンです本当にありがとうございました。

『私としては、「物価安定の目標」の達成期間を柔軟化して、緩やかでも息の長い景気回復を実現し、その間に生産性上昇率や潜在成長率を高める取り組みが着実に進められるように金融面からサポートすることが、国民経済の健全な発展のためにも、また政策運営に対する信認という観点からも、望ましいのではないかと考えています。』

麿モードですな。

『なお、成長力強化に向けた取り組みの進展に伴って潜在成長力が上がり、それに見合った安定的な物価水準も上昇すると考えられますが、短期的には、そうした取り組みの一環である規制緩和で特定分野の価格が下がるなど、物価に下方圧力が加わる可能性もあります。こうした点からも、「物価安定の目標」は柔軟に運営される必要があると考えています。』

これは最後に良いイヤミ。


・QQEの拡大に効果が乏しいという主張

『(2)「量的・質的金融緩和」の拡大』という所から。

『2013 年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した際、私自身は、一定期間に限れば効果が副作用を上回るぎりぎりの規模と判断し、その具体的な緩和策に賛成しました。しかし、私自身は、導入当初から、この規模の緩和策が長期化あるいは強化されれば、むしろ副作用がプラス効果を上回り、長い目でみた経済・物価の安定を損ねるリスクが高まると考えており、先般の拡大についても効果はコストや副作用に見合わないと判断しました。』

ということで・・・・・・・・・

『拡大の効果の面をみると、追加措置によって金利が更に低下しても、名目金利は既に歴史的な低水準にあり、世界的に予想物価上昇率が高まり難い環境のもと、政策効果をもたらす実質金利の低下余地は小さいと考えられます。また、期待に働きかける経路を通じた効果は、「量的・質的金融緩和」の導入時には相応の効果を持ち得たとしても、追加措置による効果は導入時と比べてかなり限定的なものになるとみられます。』

気合によって予想インフレ率に直接働きかけて実質金利を下げる系の気合話をだいぶ否定していますな。

『他方で、拡大のコスト・副作用の面では、市場機能の一段の低下や、一層の金利の低下が金融機関の収益や仲介機能に与える影響などに注意する必要があります。例えば、国債市場の流動性が極端に低下してしまえば、ショックへの耐性が低下し、ボラティリティが高まるなど市場が不安定化しやすくなります。』

仰せのとおり。

『また、長期国債の買入れを年間約80 兆円の増加ペースに引き上げたことで、フローでみた市中発行額の大半を買入れることになり、実質的な財政ファイナンスとみなされる潜在的リスクがより高くなる懸念もあります。日本銀行の買入れによって国債市場の安定が保たれるとの期待が過度に強まり、金利による財政規律維持のメカニズムが損なわれるリスクについても、これまで以上に留意する必要があると考えています。』

ほう。

『昨年末に日本国債の格下げが行われた際、国債市場に目立った動きはみられませんでしたが、仮にそれが財政環境を映し出す市場機能の低下を示唆しているのであれば注意する必要があります。』

なるほど。

『国債市場は金融・資産市場での多様な価格形成の基礎をなしていることも踏まえると、国債市場において日本銀行が過大な存在となり、金利が極めて低い水準で推移するもとで、各種の金融不均衡が蓄積するリスクにも十分目配りする必要があります。』

第2の柱キタコレ。

『なお、金利が一層低下すれば、資金運用難の状況を強めるとともに、安定的な利子所得の取得を優先する機関投資家の国債売却意欲を削ぐ可能性があります。日本銀行による国債買入れの継続は技術的には当分可能であるとみていますが、先行きにおける買入れの持続可能性についても留意しておくことが必要であると考えています。』

オペの技術的限界指摘キタコレ。

・・・・・とまあ予想通りですが追加緩和やこれ以上の緩和拡大にケチョンケチョン。


・前日の宮尾講演に結果的に大砲撃とな

次が『(3)財政健全化と金融システムの安定維持』であるが・・・・・・・・

『量的・質的金融緩和」を円滑に遂行していくうえでは、財政健全化に向けた取り組みが不可欠です。日本銀行による巨額の国債買入れは、あくまでも「物価安定の目標」の実現のために行っているものです。しかし、仮に財政運営への信認が低下して、市場がこの措置を財政ファイナンスと広く受け止めた場合、リスクプレミアムの拡大から金利が上昇することで、「量的・質的金融緩和」の効果が減殺されるリスクがあります。』

まあこの点に関しては執行部も同じ話をしているのですが、一方で昨日ネタにした宮尾審議委員の講演では国債大量購入でシニョリッジが発生するので(実際にはそれは見せかけのものであり正常化過程で回収されるべきものであるという話は申し上げた通りですが)それを財政支出なり減税に使えるという一種のジンバブエ理論を持ち出してきていましたので、その宮尾さんに対する期せずしたイヤミになっているのがお洒落ですな。

なお、このコーナーでは「第2の柱」に留意しろという話をしておりますが引用割愛しますね。趣旨はさっき引用した第2の柱キタコレの内容を展開したものです。


・QQEではなくて緩和的政策の長期化&それに沿った政策デザインが必要という話

『(4)幅広い政策手段の活用』という所ですけれどもね。

『量的・質的金融緩和」で実施されている資産買入れ策などの非伝統的な政策は、ゼロ金利制約下で経済・物価に上向きのモメンタムを生じさせ、その方向性に影響を与える、例外的でやや時限性の高い手段と位置付けられると私自身は考えています。』

モメンタムを出すという話に関してはこれは執行部(日本記者クラブでの黒田総裁講演ご参照)の整理と同じですね。

『現行の資産買入れ策は、日本銀行の保有資産残高を継続的に増加させるため、買入れを続ける限り、残高の積み上がりとともに緩和が累積的に強化される性質のものです。また、他の政策手段と比較して、「量的・質的金融緩和」は正常化に相当長い期間を要する可能性が高いため、その中長期的な政策効果の発現を十分に考慮に入れて、フォワード・ルッキングに政策運営を進めていくことが重要です。』

その前に第2の柱に関する説明(引用パスした部分)がありますように、やや早期の撤収について望ましい
という立場ですな。

『これに対して、伝統的な金利政策は、経済・物価に強いモメンタムを与えるというよりも、経済・物価を望ましい水準へ誘導していく局面でのファイン・チューニング的な常用手段として位置付けられると考えられます。』

という整理になっていまして、途中をちょっと割愛して結論部分に参りますと・・・・・・・・・・・

『前述のとおり、「量的・質的金融緩和」の最終的な成否は、安定した経済・物価環境を維持しながら、金融政策の正常化を円滑に実現することにかかっています。そのためには、「2つの柱」による点検を踏まえて、こうした様々な政策ツール(引用者注記:ゼロ金利政策効果、量的緩和効果、貸出支援基金などの話をしています)を幅広く並行的に活用しながら、中長期的に望ましい経済・物価環境の実現に向けて金融面からの後押しを粘り強く続けていくことが重要であると私自身は考えています。』

ほほう。

『この点、先に述べた「量的・質的金融緩和」の性質などを踏まえれば、政策運営の重心を資産買入れからその他のツールに徐々に移し始めていくことを、いずれ検討する必要があると私自身は考えています。』

ということで、そもそも木内さんの金融政策論によりますと緩和政策を長期化しないといけないという話になるので、そうなりますと長期的に持続可能な緩和政策が必要だという話になりますし、すでに経済に関しては需給ギャップがゼロ近辺で安定的に進行しているという認識になっていますので、そうなりますと、大規模資産買入のような無理な政策を実施する必要はありませんぞなという話になり、ゼロ金利政策と時間軸の合わせ技に貸出支援基金などのような措置でサポートをするというお話になると思われます。

会見も面白かった(ヘッドラインを見る限り)ので会見テキストを待ちたいと思います。

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2014/08/05

○木内審議委員会見である

遅くなってすいませんすいません。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1408a.pdf

・経済に関しては「腰折れはしないけれども執行部の見るようなペースは無理じゃろ」という見立てとな

質疑では経済見通しの質問が多く、特に輸出と設備の質疑に集中していますな。あと神戸も関係する国家戦略特区の質疑も多いのだがそれは聞く相手を間違えてるだろうと思います、ということで。

『(問) 2点質問があります。1点目は輸出関連です。ご指摘のように輸出の回復が遅れていることについて、昨日公表された鉱工業生産などにもそれなりに影響が出ていると判断できるのでしょうか。また、ご指摘のように世界的に貿易が伸びない中で、輸出に代わる日本経済の需要面の牽引役は何になるのか、見解をお願いします。(後半割愛)』

『(答) 1点目ですが、足許の生産統計は回復の傾向を示していますが、回復は比較的緩やかではないかと思っています。4〜6月期の生産の落ち込みも、予想よりやや大きめだったと思いますし、7〜9月期の回復ペースもやや弱めと見込まれます。』

まず生産の話をしていますが要するに弱めと。

『これは、一つには消費増税の影響があると思います。消費増税に伴う駆け込みとその反動は、予想外の動きにはなっていませんが、実体経済に相応に大きな影響を与えたことは確かです。一方で、在庫にもやや過剰感が生じています。これは、輸送機械を中心に比較的幅広くみられており、少し需要を強く見過ぎていた面があったのかも知れません。』

在庫過剰ネタキタコレ!

『その背景には、消費増税の影響に加えて、輸出の弱さも部分的には貢献している可能性があります。ただ、足許の輸出については、挨拶要旨にも書きましたが、一時的な要因ではなくて構造的な要因だと思います。リーマン・ショック以降は概ね横ばいと言ってよい状態ですので、足許だけが弱いということではないと思っています。』

>リーマン・ショック以降は概ね横ばいと言ってよい状態ですので
>リーマン・ショック以降は概ね横ばいと言ってよい状態ですので
>リーマン・ショック以降は概ね横ばいと言ってよい状態ですので

どう見ても執行部説明にマッコウクジラで反対しています本当にありがとうございました。

『その意味では、輸出の回復を前提としない景気の回復シナリオを展望する必要があると思います。』

で、その場合どうなるかという話は後ほどの質疑で出てくる。

『牽引役というお話がありましたが、現状をみると、内需は比較的堅調なので、輸出が回復しないからといって景気回復がすぐ頓挫してしまう状況にはないと思います。』

ということなので輸出がヨコヨコでもまあ腰折れはしませんでしょという話。

『もう少し長い目でみた場合、牽引役として期待したいのは設備投資です。』

ほう。

『従来は、輸出が回復しないと、特に製造業の設備投資が出にくいということはありましたが、例えば政府の成長戦略などが効果を高め、先行きの成長期待が高まり、これに応じて企業が設備を積み増していく動きが出てくれば、輸出に代わる内需の成長の柱になっていくことが考えられます。ただ、現状はそこまで至っていないと思います。(後半割愛)』

そらまあ時間がかかる話だわな、ということで木内さんの説明は「短期的にグイグイズンズン上昇は無理じゃろうけど中長期的に行きましょうや」というのが基本線になっております(だからこそ2年で2%を引っ込めろという話になっているのだが)なという所です。


で、その輸出の回復を前提にしないシナリオですけど・・・・・・・・・

『(問) 先程輸出の回復を前提としないシナリオも考えていく必要があると仰っていましたが、その場合、日銀の展望レポートで出している緩やかな回復基調が続いていくというシナリオを変える必要はないのでしょうか。また、足許輸出は横ばい圏内で動いていると判断されていますが、輸出が弱い中でも振れの範囲内であり、横ばい圏内に収まっているとみているのでしょうか。』

『(答) 先程申し上げたとおり、輸出の先行きの回復を必ずしも前提としないシナリオも有り得ると個人的には思っています。しかし、だからといって、回復が頓挫してしまうかといえば、現状でもそうですが、輸出が伸びない中、内需で景気の回復が続いていますので、これがすぐ途絶えるということではないと思います。』

ここまではさっきと同じ。

『ただ、従来考えていたよりも輸出が伸びないのであれば、例えば成長率の見通しなどがやや下方修正を受ける可能性が有り得るのではないかと思っています。』

まあそうなりますな。

『輸出については、長い目でみますと、概ね横ばいということだと思います。確かに本行が計算した実質輸出で言いますと、第1四半期・第2四半期はマイナスになっています。そういう意味で言うと、横ばいではなくて減少ととらえる考えもあるかも知れませんが、もう少し均してみる必要があり、均してみると概ね横ばいだと思います。』

『6月までの輸出は弱いという状況ですが、今後については、やはり2期連続マイナスの後なので、多少輸出が戻ると思います。ただ、輸出が戻った時に、それを輸出の回復と言うか持ち直しと言うかについては、私はやはり慎重に考えるべきであって、現状の判断としては横ばいでいいのではないかと思っています。』

ということで横ばいですかそうですか。


・設備投資に関して

とは言いましても、そもそも日銀執行部の標準的なシナリオでも設備投資の話とか需給ギャップと予想インフレ率がどうのこうのという話をしておりますように、日銀執行部も輸出が盛大に伸びない場合でもシナリオがコケないというポンチ絵は描いているのでありまして、では設備投資に関してはどういう話かと言いますと・・・・・・

『(問)(前半割愛)2点目は、先程のお答えでも設備投資を重視と言われていますが、おそらく自動車とか家電の工場をもっと作れということを仰っているのではないと思います。タイやメキシコといった他の国でということであれば、地産地消で日本発の可能性はない訳ですが、具体的にどのような産業の設備投資を仰っているのでしょうか。』

『(答)(前半割愛)2点目については、どの業種で設備投資が出てくると申し上げる訳ではありませんが、昨年は中小非製造業の設備投資が強く、それが足許では大企業製造業中心の設備投資に重心が移ってきている感じがあります。輸出が回復しない中でこうした動きが出てきたことには、やや意外感があります。』

ほう。

『ただ、輸出は伸びないけれども大企業製造業の設備投資がどんどん増えていくかというと、将来的には、国内の期待成長率が上がることが押し上げに寄与する可能性がありますが、まだ少し早い感じがします。足許の大企業製造業の設備投資については、国内経済の需給関係が改善し、需給ギャップが本行の計算で足許プラスに転じた中で、これまで更新投資を控えてきたがやや限界にきて、投資が出てきているという側面が強いように思います。』

ということですが・・・・・・・・・・

『ただ、その場合、必ずしも持続性は高くないと思います。』

そらそうよ。

『これが持続的な回復につながっていくためには、輸出に期待できないということですと、国内の潜在成長率に対する中長期的な期待が高まってくることが必要であり、それに向けて、政府の成長戦略などにも期待したいと思っています。』

つー説明でして、ヴィンテージ更新と省力化投資で設備投資が伸びてヒャッハーという日銀執行部シナリオは持続性無いでしょという指摘なのでした。


・2年で2%を引っ込める場合の話について

『(問) 本日の挨拶では、展望レポートの物価見通しについて修正案を出した話をされていますが、日銀として「2年で2%」という目標をやめた場合の説明責任はどうすればよいとお考えなのでしょうか。また、その場合、どのような政策が考えられるのでしょうか。』

そのお答えが長いのですが引用しますね。

『(答) 挨拶要旨では、従来私が主張していることを繰り返して書いているだけであり、政策委員会全体として今の枠組みを変えるかどうかについては全く分かりませんので、それを前提にお答えすることは難しいと思っております。ただ、私自身の考えということで言いますと、2%というのは日本経済の実力から考えますと、やはり高いと考えています。中長期であれば、そこまで物価安定の妥当な水準が高まる可能性はあるかもしれませんが、現状はそこまで行っていないと思います。現状では、もう少し低い位置に望ましい物価安定の水準があると考えています。それはどの位の水準かというと、明確には分かりませんが、1%あるいは1%前後ぐらいではないかと思っています。』

という説明は講演でも行っている通りですな。

『一方で、現実の物価水準は、例えばCPIのコアで見ますと1%台前半、コアコアで1%弱ということですので、比較的近い水準まではきています。金融政策の役割としては、望ましい物価上昇率に対して現実の物価上昇率が乖離しているときに、金融政策を通じて、その乖離を埋めるというのが重要な役割だと思います。』

つまり望ましい物価上昇率に近いので乖離を埋める役割は今ほど大きくない方が良いとな。

『これは挨拶要旨の中でも「3つのギャップ」という形で書いています。』

この部分は長くなるのでネタにしなかったのですなすいません。まあ読んで味噌。

『物価安定という状況は、多くの人や企業や家計にとって望ましい物価上昇率であり、これを前提に経済活動を行っているという水準だと思います。私は、望ましい物価の水準は、国毎に同じではないと思いますし、時代によっても変わり得ると思いますので、2%の目標を中長期的な目標としては受け入れていますが、現状ではやや高いのではないかと思っています。』

という説明を木内さんが金懇で行っている翌日には内外情勢調査会で黒田総裁が2%を短期的に目指す事についての正当性や、そもそも2%はグローバルスタンダード(キリッ)という説明をしておりまして、木内さんがいう「望ましい物価の水準は、国毎に同じではない」という点を盛大に否定している所が実に味わいがあるというものでございますな。

『私自身の物価見通しについては、概ね現状程度ということですので、物価は比較的安定した状態が続くという見通しです。先程申しました、中長期の予想物価上昇率と現実の物価が乖離しているときに、そのギャップを埋めていくのが中央銀行の役割だという点でいうと、既にそれなりに達成しているということではないかと思っています。』

達成キタコレ!!!

『これに対して、これからさらに需給ギャップが改善していき、景気が過熱感を強めていけば、物価上昇率はもっと上がっていく可能性があると思います。しかし、果たしてそれが持続的な物価上昇なのかと考えると、一時的に物価は上がっても、景気が過熱している状況では、経済が不安定になりやすいと思いますし、いずれ景気後退に向かっていけば、物価はまた下がってしまうと思います。物価を経済の実力に見合った水準に誘導していくほうが、経済の安定にとってはプラスですし、それが中央銀行の役割だと思います。』

どう見ても黒田レジームと真っ向対決です本当にありがとうございました。

『物価安定を通じて、国民経済の健全な発展に資するというのが、我々の最大の、最終的な目標だと思います。それに照らした場合、物価安定の目標については柔軟に運用したほうが、日本経済、国民にとって良いというのが私自身の考えで、それに沿って中長期の目標とすべきだと考えています。』

『短期間で目標達成を目指すと、経済がむしろ不安定になってしまう、あるいは金融不均衡を生みだしてしまうことを個人的には懸念しており、昨年の4月以来こうした提案をしてきています。それを今回の挨拶要旨にも書いた訳です。』

ということでこれはこれで筋が通っているのだが、まあもう一つの論点として「2年で2%」とか盛大にぶち上げないで同じようなQQEを実施した場合にどういう風になっていたのか、という点についてはこればかりは再現実験が出来ないので何とも言えない所で、実験室での自然科学実験みたいに再現性のあるテストが出来ませんからねえ。

『ただ、政策委員会全体としてどういう決定をするかについては、分かりませんし、それについて申し上げるのは適切ではないと思っています。』

そらそうですな、ということでまあ木内さん的には「まず目先の物価安定は達成できているので、今後はこの物価安定を維持しながら徐々に成長力の強化によって中長期の物価均衡水準を引き上げて行く為に金融政策でのサポートを行いましょう」という話なので、国債馬鹿買入とかではない方法で低金利政策継続で行きましょうという話になる(講演にあった通り)ですな。

#その他在庫の話とかQQE長期化の弊害とかもありましたがだいたい上記の引用で木内さんの今回の説明の趣旨はカバーしていると思いますので時間と量の関係でパス

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2014/08/01

○木内審議委員講演キタコレ!!

FOMCの前日に石田審議委員の金懇を打ち込み、FOMCの翌日に木内審議委員の金懇を打ち込むというこの日程の組み方に微妙な味わいを感じるのは深読みのし過ぎですかそうですか(^^)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140731a1.pdf

・前回かなりクリアになりましたが今回も更にクリアカットに

木内さんの前回金懇は3月だったのですが、この時に白日銀ロジックキタコレで結構なクリアカットな説明をしているなあという事を申し上げたと存じますが、まあ今回も更にクリアになった感はあります。

でですね、後でも申し上げますが最初に勝手に私家版まとめをしておきますと、引き続き「2%の物価目標は中長期で目ざすもの」で「今の日本経済の実力からすればこの程度の水準でも上等」という話をしているのですが、それはどう見ても麿時代の物価安定の目途です本当にありがとうございましたという話になるのですな、というのがまあ分かりやすく。

でまあ木内さんのそこら辺の説明に加えまして、今回は講演の最後の方でしらっと「ゼロ金利政策重視への移行」という話をしているのがほほうという所でして、いやまあ木内さんの金融政策に関する説明で一番不透明なのが毎度提案している「2年間の集中期間」に関して、その先のイメージが非常にこう判り難かった所なのですが、今回その片鱗だけちょっと見えたという感じです。

ただまあ相変わらず具体的な細かい話は無い(まだする時期ではないという事なのかも知れませんし、そもそもの提案が「集中期間の後に考えましょう」なのでイメージが確立していないのかもしれませんけれども)のが木内さんの毎度の金融政策の提案における微妙な所でして、何かこう傍から見ていると提案は判るのだが「じゃあその先の金融政策のフレームワークは??」っていうのが何だか判らんのが弱いんだよなあと思っているので、今回この言及がちょっとだけあったのは良かったとは思います。

ということで内容を鑑賞ですが最初の所は展望レポートの説明なのでパスして、『3.経済・物価見通しを巡る主な留意点』という所からになります。

『前述のとおり、今月、日本銀行は4月の展望レポートで示した2016 年度までの経済・物価見通しの中間評価を行いました。私自身は、景気は今後も緩やかに回復を続けるとみているものの、経済に関する中心的な見通しに対して、供給側・需要側両面で成長率の下振れリスクがあることを意識しています。また、物価については、中心的な見通しより慎重な見方をしています。以下では、こうした私自身の見方に基づき、先行きの見通しに関する留意点を幾つか述べたいと思います。』


・実質成長率が上がりにくい件

『(1)需給ギャップと潜在成長率』という小見出しから。

『日本銀行は2014 年1-3 月時点の需給ギャップを+0.6%と、2008 年以来ほぼ6年振りにプラスに転じたと推計しています。この推計結果は幅を持ってみる必要がありますが、短観の生産・営業用設備判断DI と雇用人員判断DIを加重平均した指数もこうした推計結果と整合的な動きを示しており、日本経済は需給逼迫の度合いを次第に強めていることが確認できます(図表5)。』

ほうほう。

『特に労働市場では、直近6月の有効求人倍率が前述のとおり高水準であったほか、失業率も3.7%とここのところ3%台後半の低水準で推移しているなど、需給逼迫の傾向が強くみられています(図表6)。』

ふむ。

『その一方で、潜在成長率は低水準にとどまっているため(図表7)、現行ペースでの成長が続けば、早晩、供給面での制約が顕在化するとみられます。このことは、賃金、物価の一時的な押し上げに寄与するものの、実質成長率は容易に高まらなくなることを示唆しています。』

一時的には上がるが無理に上げると問題が生じますという話は後でも出てきます。


・輸出に関しては構造要因の指摘とな

『(2)輸出動向』について。

『輸出は、4月以降、増税後の輸出余力拡大の効果も予想されていましたが、これまでのところ勢いを欠く状況が続いています。しかし、少し長い目でみると、実質輸出の弱さは足もとだけの現象ではなく、リーマン・ショック以降は均してみれば殆ど横這いで推移しているようにもみえます(図表8)。』

アイヤー。

『この背景には、リーマン・ショック、円高の進行、東日本大震災などにより、国境を超えたサプライチェーン体制のリスクが浮き彫りになったことを契機に、アジア地域を中心とした生産・貿易構造に変化が起こり、その過程で海外需要に対する輸出の感応度がかなり落ちてきたことがあると思います。また、世界金融危機以降は、世界経済の成長ペースと比較して貿易の増加ペースが落ちていることが指摘されていますが、こうしたグローバルな構造変化とも関連している可能性があります(前掲図表8)。』

構造要因キタコレ。

『また、輸出環境を左右する海外経済動向については、中国経済の下振れリスクを最も注視しています。』

ほー。

『中国経済は、景気対策の効果などから、足もとの景気は安定しているように見受けられますが、先行き、不動産市場の調整から成長率が低下すれば、アジア周辺諸国の経済ひいては日本の輸出環境にマイナスになると考えています。』

目先は成長重視に舵を切ったっぽいのでしばらく持ちそうではあるのですがどうなんでしょうかね。


・消費の先行きに関しての指摘で既に2%の短期的な達成をdisるとは

『(3)消費動向』ですが、最初の所は端折りまして実質所得の話の辺りから白い説明が登場。

『他方、所得・消費の両面をみると、直近1-3 月の実質雇用者報酬は前年比-0.6%と、実質個人消費の+3.7%を大幅に下回っています(図表10)。当面一人当たり実質賃金の低下が続くとみられる中(図表11)、先行きについても、実質雇用者報酬の改善傾向は緩やかなペースで進むとみられます。その場合、先行き個人消費の基調的な増勢を弱め、物価上昇率の鈍化に繋がる可能性があるため、注視していく必要があると考えています。』

イイシテキダナーですがこの次が思いっきり漂白モードキタコレですよ。

『もっとも、増税の一時的な影響を除いても実質賃金の低下が続いているとみられるなど、物価・賃金・個人消費の3つの変数の間で、増加ペースにかなり不均衡がみられる現状を踏まえると、仮に個人消費の基調的な増勢が少し弱まったとしても、長い目でみて経済にとって必ずしもマイナスとは言えないと個人的には考えています。』

ほえ??

『個人消費の増勢鈍化が物価上昇率の抑制に繋がれば、実質賃金が上昇し、それに見合ったペースで個人消費の緩やかな増勢が続くと予想されます。』

いきなり物価上昇率の抑制で実質賃金上昇した方が良いという指摘キタコレでこれはどう見ても「2年で2%」をマッコウクジラで否定しているのですな。

『供給面での制約も意識され始める中で、このように需要が適度なペースで増加していけば、緩やかながらもよりバランスのとれた、息の長い景気回復が続いていくと考えています。』

ということで、この時点で「2%は現在の日本経済の実力対比過大な水準」という話がなされているのが実にチャーミングですが、基本的に現在の執行部ベースの説明だと2%の水準設定についてはCPIの計測バイアスの問題と糊代の問題によっての設定となっておりますので、つまり経済の実力云々とは独立に2%の数値を設定しているという建付けになっておりまして、実を言うとここの部分のロジックを木内さん的な変更を行うというのは麿理論を盛大に否定している黒ちゃん置物先生理論からすると容易に受け入れられない(自己否定になるから)ものでありまして、(理屈としてはそうなるはずなのですが実際は知らん)意外にここの間のギャップって大きい筈ですよ、という点だけついでに申し上げておきましょう。


・物価見通しに関しての説明もまあ分かりやすい

その次の『(4)物価見通し』から。

『当面の物価動向は、主として、需給ギャップの改善などによる基調的な物価上昇圧力の強まりと、輸入物価の押し上げ効果の減衰とのバランスにより左右されると考えています。この点について、私自身は、(1)労働需給の逼迫が賃金全体の押し上げにどの程度寄与するかがなお不確かであること、(2)原材料価格上昇分の価格転嫁と比べて、賃金上昇分を価格転嫁することは消費者に受容され難い面もあることから、需給ギャップ改善を背景とした物価上昇圧力が、円安効果の剥落による物価下落の影響を上回るかについては不確実性があると考えています。』

思いっ切り執行部ベースの中心的な見通しをマッコウクジラとな。

『もちろん、予想以上の需給逼迫等を背景に、賃金・物価の上昇率が先行き上振れる可能性も排除はできません。但し、その場合は、成長ののりしろが限られているために成長率は容易に高まらずに、経済が不安定化することで物価上昇率の高まりは持続性を欠くと考えられます。また、中長期の予想物価上昇率も安定的に高まり難いと考えられます。このため、物価上昇率が持続的に2%程度で推移することを目指す「物価安定の目標」の達成に近づくことにはならないと考えています。』

(;∀;)イイハナシダナー


・物価安定の目標に関する説明を鑑賞

今回もまたその説明があって、『4.金融政策運営』の『(2)「物価安定の目標」と中長期の予想物価上昇率』という部分を鑑賞するのだ。

『2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率を一時的ではなく安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。その実現のためには、企業や家計が経済活動の前提とする中長期の予想物価上昇率が2%程度に達し、かつその水準で安定することが必要条件になると考えています。』

そらそうよ。

『私自身は、日本の中長期の予想物価上昇率は、日本銀行が掲げる物価目標の水準や財・サービス及び労働市場の需給関係、実際の物価上昇率の足もとでの変化等よりも、潜在成長率や労働生産性上昇率などの供給側の要因で決まる部分が大きいと考えています。』

つまり金融政策で中長期の安定はさせることが出来るが、その望ましい中長期水準の値そのものについては、経済構造によって決められるものであるという話ですな。前の金懇でもこの説明をしています。

『それ故に、各国毎に「物価安定の目標」の水準は異なるのが自然だと考えており、2%という水準は先進国での平均的な目標水準に近いとしても、少なくとも現時点では、日本経済の実力をかなり上回っていると思っています。実際の物価の上昇を反映して短期の予想物価上昇率が上がった結果、金融市場で示される中長期の予想物価上昇率も緩やかには上昇していますが、2%の水準にはなお相応の距離があるとみています(図表12)。』

ということで。

『その一方で、「量的・質的金融緩和」は、正常化のプロセスが容易でない、財政ファイナンス観測を高めかねないなどの相応に大きな潜在的リスクを抱えていると考えています。私自身は、2%の「物価安定の目標」は中長期でみた場合にのみ、日本経済の実力と整合的になりうると考えていることから、仮に現在の大規模な金融緩和策が長期化あるいは追加的措置によって強化されれば、逆にこれらの副作用がプラス効果を上回り、長い目でみた経済の安定をむしろ損ねてしまうリスクを強く意識しています。』

キタコレ。

『この点、現在のコミットメントのもとでは、2%の「物価安定の目標」を2年程度で達成するのが難しいとの見方が広がれば、プラス効果よりも副作用のほうが大きいと判断される場合でも、金融市場の期待等の外部要因に影響されて、日本銀行の政策がそうした対応を余議なくされる可能性も否定できません。』

なるほど。

『このため、「物価安定の目標」を中長期の目標としたうえで、「量的・質的金融緩和」を「2年間程度の集中対応措置」と位置付ける提案をしてきました。これは、一定期間経過した後に、「量的・質的金融緩和」の効果と副作用の比較考量をしっかりと行い、経済・金融情勢次第で柔軟に見直す環境を予め確保しておくことを狙いとしているものです。』

ということで先ほど申し上げたように後の方でちょっとだけ「金利重視政策」という話をしてはいるのですけれども、木内さんの提案の中で微妙に弱い所は、この「2年間の後」に関するグランドデザインがイマイチ見えない事で、もうちょっと詳しい説明なりイメージなりが欲しい所ですな。


・成長力強化と金融政策という話の中でしらっと凄いことを

『(3)成長力強化と金融政策』ですけれども後半の方でしらっと凄いことを。

『こうした経済の供給面での改善は、基本的には、政府や民間企業の取り組みによって実現されていくものです。これに対して、主として経済の需要面に働きかけることを本来の機能とする金融政策は、良好な金融環境を提供することを通じて、そうした取り組みに対する側面支援を行うことができると考えています。』

さよですな。

『この点、先行き供給制約の傾向が次第に強まっていくと予想される中では、経済の安定維持の観点から、将来的に景気過熱感が出てこないかという点も注視していく必要があると個人的には思っています。』

ピャー!

『「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」という政策運営の理念に照らして、緩やかでも息の長い景気回復を実現し、その間に生産性上昇率や潜在成長率を高めていくことが、実質所得の増加や国民生活の質向上に繋がると私自身は考えています。』

ということで、しらっと「緩和のさせ過ぎはイクナイ」という話を暗にしているのがチャーミングですが、この次の『(4)「物価安定の目標」と「2つの柱」』という部分がこれまた白日銀キタコレになっておりますが、全部白日銀ですので講演テキスト11ページ(ファイルの12枚目)をご鑑賞下さい(^^)。


・フォワードガイダンス政策についてしらっと言及している辺りに盛大な侘び寂びを感じる件について

『(5)市場とのコミュニケーション』という部分ですけど。

『金融政策は、金融市場や金融機関行動の変化を通じて効果を発揮するものです。従って、金融政策の有効性を高めるうえでは、市場参加者とのコミュニケーションが非常に重要です。とりわけ非伝統的な政策を多くの先進国の中央銀行が実施している現在、市場とのより良いコミュニケーションは各国共通の課題になっていると言えます。』

ふむ。

『この関連で、最近の注目すべき事例は、既に金融緩和策の正常化プロセスに着手した米国や、正常化を視野に入れつつある英国で、経済や金融システムを不安定化させる可能性がある長期金利の大幅上昇を回避することを意図したとみられるフォワード・ガイダンスが、短期間のうちに軌道修正を余議なくされたことです。』

これはまた(;∀;)イイシテキダナーな話。

『英国では、政策金利引き上げに関わる失業率の閾値は維持されましたが、その重要性は大きく低下しました。また、米国では、失業率の閾値が撤廃されました。そして両国の対応に共通していたのは、多くの経済指標を参考にする姿勢へのシフトです。』

総合的判断の時代ですねわかります。

『これは、本来フォワード・ガイダンスが持っている「期待への強い働きかけ」という性格が弱められ、政策の自由度、柔軟性を重視した「総合判断」という、伝統的な金融政策手法へ回帰する動きとも解釈できると思います。』

期待への強い働きかけが弱まっているとか中々チャーミングな説明をしますな(^^)。

『このように、非伝統的政策を実施している主要先進国の中央銀行においては、市場とのより良いコミュニケーションのあり方がなお試行錯誤されている状況と言えます。日本銀行としても、こうした諸外国の経験にもよく目配りをしながら、今後ともコミュニケーションをしっかり図っていく必要があると考えています。』

気合で期待を変換の金融政策に対して嫌味をタラタラと言っているように見えるのは気のせいですかそうですか。


・最後の所で「金利政策への転換」の言及がちょっとだけ

『(6)2つの政策ツールの併用』という所から。

『「量的・質的金融緩和」で実施されている資産買入れ策など非伝統的な政策は、ゼロ金利制約のもとで、経済・物価に上向きのモメンタムを生じさせ、その方向性に影響を与える、時限性の高い政策ツールとして有効であると私自身は考えています。これに対して、伝統的な金利政策は、経済・物価を望ましい水準へと誘導していく局面でのファイン・チューニング的な常用手段として位置付けることができると思います。』

ということで・・・・・・・

『前者が既に相応の成果を挙げている中にあって、現在は、ゼロ金利を維持することによる政策効果が、「量的・質的金融緩和」の効果に次第に上乗せされていくかたちで、緩和的な金融環境がさらに強化され始めていると考えられます。』

木内さん的には現状の物価水準はそれなりに経済の実力に整合的ということですから、QQEの効果は既にでているので今後はQQEではなくて金利政策という話になるのですな。

『他方で、非伝統的な政策は歴史の浅い新しい政策手法であるがゆえに、その副作用には概して未知の部分が多いと考えられます。また、資産買入れ策を中核とする非伝統的な政策の正常化過程は、相応の時間を要する可能性が考えられるため、金融市場の安定を維持しながら正常化を円滑に実現させるためには、フォワード・ルッキングな政策姿勢が求められると思います。』

とはどういう事かと言いますと・・・・・・・・・

『これらの点を踏まえれば、今後も経済・物価情勢が順調に改善傾向を辿り続けていった場合、将来的には、この2つの政策ツールの役割や効果と副作用のバランスを勘案しながら、政策運営の重心を資産買入れからゼロ金利政策の方に徐々に移し始めていくことを検討する必要があると個人的には考えています。』

ということで、ここでさらっとゼロ金利政策重視という話をしているのですが、もう少し量の出口も含めましたグランドデザインをこの先の機会に説明して頂けるとアリガタヤと思います。


ということで、まあ説明はこれはこれでクリアカットではあるのですが、異次元緩和とはだいぶ話が違っているというのも事実でありまして、現実問題としてこの木内さんのロジックを入れてくるというのは黒田体制のロジックと相当の隔たりがあって中々難しいんじゃないのと思われますので、まあ野党審議委員(勝手に野党認定)ならではという話ではあったりしますけど、まあ野党の話も無いと合議体の意味がないですから宜しいんじゃないですかねという所で。

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2014/03/26

という余談は兎も角として昨日の続きで木内審議委員の会見ネタから参ります。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1403b.pdf

○現在の日本経済の実力に則った物価水準は1%強程度とな

質疑の実質最初の所でその質問がありまして、まあこの答が割と明快。

『(答) どのぐらいの水準が望ましいかということですが、講演テキストにも書いてあるように、中長期的な物価安定の水準は、潜在成長率や労働生産性上昇率など、主として経済の実力で決定されるものだと思います。金融政策は、基本的には需要サイドに働きかける政策であり、日本経済の実力が十分発揮されるような環境を作り出すことがその役割です。一方で、日本経済の実力を押し上げる、例えば、競争力を高めるとか、潜在成長率を高めるということには、基本的には大きくは貢献できません。そうした点からすると、望ましい物価安定の状況というのは、日本銀行が決めるというよりは、経済で決まるということだと思います。』

講演テキストの通りですな。

『物価というのは、経済の体温だと言われますが、「物価の安定」というのは、いわば基礎体温のようなもので、それぞれの経済の実力によって各国別に水準が決まっていると私自身は思っています。現状で日本がどの水準にあるかということをピタリと言い当てることはできませんが、各種のアンケート調査、あるいは市場に織り込まれている中長期の物価安定、例えば5年、10年のインフレ率の予想値や期待値というものから、目先の消費税の影響等を取り除いてみると、概ね1%か1%強程度だと思います。厳密な答えがあるわけではありませんが、現状で言えば、これぐらいが実力に合った物価安定の状況ではないかと思います。』

となりますと取り敢えず現状の水準がある程度安定的に維持されればQQEでのレジームシフトは成功したというのが木内さんベースでの評価という事になりますな。で、昨日紹介した講演テキストにあるように、木内さんとしてはバランスシートの超越拡大政策はこの状況が維持されれば年末までとして、その後は(フォワードガイダンスみたいなのを導入するかどうかは分かりませんが)ゼロ金利政策を維持することによって緩和効果を出すのが宜しいという話になると思います。

『しかしながら、私が2%の「物価安定の目標」を中長期の目標とすべきだと提案している理由は、物価安定の水準は変わり得るためです。政府の成長戦略がさらに進み、その効果が現れてくることや、企業や家計がそれぞれ努力していくことで経済の効率が高まっていけば、その水準は上がってくると思います。従って、それを見極めたうえで、将来、必要であれば見直すことができるのではないかと思っています。現状では、2%という水準は高いと思っています。』

中長期での2%という旗は降ろさないものの、目先は1%強でヨロシとするというのはまあ微妙ちゃあ微妙な話ですけれども、まあその辺をもうちょっとソフトに言わないと「中長期で目指すと言ってるけど日銀やる気あんのか」という話になりそうなので難しいですなあとは思うのですけどね。

『それから、「物価安定の目標」というのは、インフレ率を2%に誘導することではなく、持続的に2%程度を達成するということです。物価安定というのは、本来は抽象的な概念ですが、それを消費者物価上昇率に置き直せば、2%程度ということです。従って、例えば急激な円安とか、景気の過熱、あるいはエネルギー価格の上昇によって、一時的に消費者物価が2%に達したら「物価安定の目標」の達成かというと、そういうことではありません。経済が比較的安定した状態で2%に達している、2%が維持されるような経済環境が達成できているというのが、2%の「物価安定の目標」を達成している状況だと思っています。』

物価安定の目標に関して佐藤審議委員がフォワードターゲットという話をしていますが、木内さんの説明はフォワードターゲットともちと違うように見えます。フィリップスカーブのY切片が2%という話をしている感じですかねえ。

『消費者物価指数をレンジで示すということは、実際の物価の動きを非常に注視して、それを誘導しようという考え方に基づいていると思いますが、そうした考え方と「物価安定の目標」の達成の考え方とは、やや相容れないような感じがします。』

ほほう。

『私は、「物価安定の目標」はレンジではなく、やはり2%程度ということだと思います。ただし、2%程度ということは、実際のインフレ率を2%に誘導していくということと必ずしも同じではありません。』

なるほど。なお最後の所は質問でCPIの上方バイアスの話をしているのでその答えです。

『最後に、消費者物価指数の上方バイアスについてですが、従来から、望ましい物価安定の水準を検討するときには、そうしたバイアスや、もう一度デフレに陥ってしまうことのリスクを踏まえたのり代などを考慮しており、2012年に決定した「中長期的な物価安定の目途」でも、そうした点を考えたうえで1%とした経緯があります。従って、例えば1%という水準が妥当だとしても、その中にはご指摘のような統計のバイアスやのり代といった考え方が既に入っており、それを踏まえたうえでもっと高い水準でなければならないということではないと思っています。』

そらそうだ。


○QQEでの追加緩和はまあ基本的に否定ですな

下振れリスク意識との事ですが追加緩和についてどう考えるのですかとの質問の答えもまあ分かりやすい。

『(答) 1点目ですが、日本銀行が示す経済・物価見通しのシナリオに対して、上振れ・下振れのリスクが出てきた際に、政策を調整していくというのは、比較的オーソドックスな金融政策のあり方だと思います。しかし、私は、今実施している「量的・質的金融緩和」というのは、そうした伝統的な金融政策のアプローチではない、つまり、戦力の逐次投入はしないとの考えの下、最大限に積極策を実施したということだと思っています。そうした考え方に基づくと、見通しが下振れたので追加緩和をしなくてはならない、ということではないと思います。』

この説明は詳しくは後ほどまた出てくるのですが、要するにQQEは期待の転換などの為に行うものであって、経済の変化に対応した微調整みたいな使い方をするものではないという話で、それは伝統的な金利政策で対応すべきもの、という話になっています。

『そもそも、私は「量的・質的金融緩和」に賛成していますが、それと2%の「物価安定の目標」とを結び付けてはいないため、2年程度で2%の目標を達成するのが難しくなったら追加緩和します、という考え方を私自身はしていません。』

確かに。

『2点目の追加緩和の効果についてですが、どういう政策を採るかにもよりますが、1回目の政策を上回るような効果を期待するのは、やや難しい感じがします。』

そらそうだ。

『例えば、長期国債の買取りの効果を言えば、私どもは基本的にはストックビュー、つまりどれだけの国債を買い取っているのか、これによって政策効果が決まってくるという考え方をしています。それに従いますと、国債を買い続けている限りは、追加の緩和効果が出ているという考えになります。』

うむ。

『ただ、最初に国債買い入れ額を決めた時に、金融市場は、この政策が例えば2年続くということで、それによる効果を価格に織り込んだわけです。私どものストックビューの考え方に従えば、同じように国債を買い続けている限りは追加効果が出てくるわけですが、実際は、政策を実施した最初にかなり大きな効果が出てきたわけです。』

なるほどそういう発想もあるな。なお余談ですが「前年対比のMB伸び率がこれから鈍化するから追加緩和」という分母が拡大している件を無視した電波をこの前受信したような気がします。

『これに対して、どれくらいの規模で実施するかにもよりますが、追加策でこれを上回る効果を上げるのは非常に難しいと思います。』

そらそうよ。

『また、一方で、追加措置には副作用が伴うことが考えられます。例えば、長期国債の買増しであれば、色々な副作用があり得ます。金融市場の機能を損なう、それを通じて金融機関の財務体質を脆弱にさせるということが考えられます。また、財政ファイナンスのリスクを高めてしまうとか、将来、金融政策を正常化する時に大きな問題が起こるかもしれないとか、金融市場を安定化させながら円滑な正常化を図ることがより難しくなってくるといった副作用を考えると、追加緩和に見合った副作用を正当化するようなイベントというのは、余程大きなショックということになると思います。私自身は、追加緩和を正当化するような条件というのは、非常にハードルが高いと感じています。』

プロコン比較キタコレ!!でまあ直後にも同じ質問があるのですがそちらの引用はパスします。


○ファインチューニング云々の件について

同じような質問がまた来まして(後半は別の質問だったので前半部分のみ引用)更に説明が。

『(答) 1点目ですが、「量的・質的金融緩和」というのは、景気の大きくない上振れ・下振れに対して、ファイン・チューニングを行う手段としては適していないと思います。デフレが続く中で、そこから脱却するための大きな手段として「量的・質的金融緩和」を実施したと私は考えています。「量的・質的金融緩和」に私自身が賛成しているのは、3つのきっかけになるとの考えからです。』

この先の説明は講演テキストにもあった話。

『第1に、需要面をサポートして需給を改善させて、デフレ状態を脱するということです。第2に、金融政策では経済の実力になかなか影響を与えられませんが、経済の実力に影響を与える企業・家計の取組みとか、政府の取組みを後押しするきっかけになるということです。第3に、金利政策という伝統的な政策を取り戻すために実施するということです。』

この第3は何ですねんという事ですが。

『「量的・質的金融緩和」が大きなきっかけになって需給ギャップが改善し、物価も2%であるかどうかはともかく基調的にプラスを続けるということになれば、金利をゼロに据え置いていても、金融緩和の効果が出てくるようになります。そういう形で政策の重点を金利政策に移していくことができれば、ご指摘のように、景気が少し下振れたときに金利を下げ、景気が少し上振れたときに金利を上げるというファイン・チューニング的な政策手段をとることができると思いますが、現状ではそういう局面には至っていません。』

その為にはそもそも利上げもしないといけませんけどね。

『「量的・質的金融緩和」は、もっと長い視点で日本経済がデフレから脱するための大きなツールとして実施したということであり、ファイン・チューニング的な政策手段には馴染まないのではないかと思います。』

ということでこれは分かりやすいとしか申し上げようが無いのですが、一つこの木内さんロジックの穴を指摘致しますと、「QQE導入当初からこういう話をしていたら期待の転換が出来なかった可能性が高い」という所でして、最初の時点でこういう話が全面展開されていたら麿路線の転換とは認識されなかった可能性が高く、そーゆー意味ではQQEの効果に薩摩守(って最近使われませんねえ)状態であるというのはあるっちゃあ有ります罠。

まあ木内さんも今回の講演および会見でようやくクリアカットな話をするようになったのは最初からその話をしちゃあおしマイケルというのを意識しているのではないかと勝手に妄想しているのですけれども、つまりは木内さん的にはCPI+1%強の水準が維持されるという見通しが見えて来て、QQEの所期の目的が達成できる目途がついたという認識なので、まあこの時点になったらクリアカットに話をしてもよかろうと判断して今回の妙に吹っ切れた物言いになったのではないかとゆー話で、その前にこれだけクリアカットな話をすると台無しにも程があるので自制していたのかと思ったのですがどうでしょうかね。

『ただ、そうした中でも、追加策が必要になるような局面というのは有り得ると思います。追加策でマクロ経済を刺激するというのは簡単ではないと思いますが、例えば、金融システムに不安が生じるような局面では、我々は今のマネタリーベースの目標に拘らずに、一時的には大量に短期資金を供給して、金融システムの安定を確保するといった緊急策も採る余地はあると思いますし、そういう局面では当然実施すべきだと考えています。(後半割愛)』

つまり追加緩和はシステム不安みたいな時に行う流動性対策としての対処であって、経済物価情勢に対応してどうのこうのというのは中々難しいのではないかという話ですな。


○物価上昇ペースは落ち着いても良しとの話

最後の質疑だけ質問も引用しますね。

『(問) 「量的・質的金融緩和」の副作用についてお伺いします。先程、本日の金融経済懇談会の参加者の方から、円安による原材料価格の高騰について指摘があったと紹介されましたが、これも「量的・質的金融緩和」の副作用として認識しているのでしょうか。また、円相場は最近ボックス圏で動いていますが、110円/ドルまで進むというような意見も根強くあります。円安がさらに進むということについて、どのようにお考えでしょうか。』

なお冒頭の説明では原材料価格高騰の他、労働需給ひっ迫の結果として上昇したコストの転嫁が厳しいとの特に中小企業では収益圧迫要因になっているとの指摘があったとの話をしています。

『(答) 金融政策は、為替市場に間接的な影響は与えると思いますが、私どもは為替市場にターゲットを設けているわけではありませんし、為替の先行きについては、予断を持つことなくみておきたいと思います。』

そらそうよ。

『私は、物価が過去1年、非常に上がってきた理由としては、為替の影響が大きいと思っています。為替円高が修正されたことによって、もちろん日本経済にプラスの影響は相応に与えたと思いますが、その一方で、コストアップとか生活費が上昇するといったマイナス面もあります。円安がさらに進んだ時に副作用の方が大きくなることは可能性としてはあると思いますが、どの水準が分岐点となるのかはよく分かりません。』

さいですな。

『金融政策を考えるうえでは、バランスの良い経済の改善というのが重要であり、それが「物価安定の目標」を達成するための重要な条件だと思います。現状をみると、必ずしもバランスが良いかどうか分からない部分があります。』

キタコレ!!

『賃金の上昇ペースは、物価の上昇ペースを依然として下回っています。もちろん、春闘で賃金の上昇ペースは高まることになるとは思いますが、なかなか物価の上昇ペースには追いつきません。円高修正が進み、それが物価の押し上げに効いてインフレ率が上昇し、生活コストも増加するのに対して、賃金の上昇が追いつかないという面は、やはり少しバランス感を欠いている面があるのではないかと思います。』

(;∀;)イイハナシダナー

『今後、消費のペースがやや落ちれば、インフレ率の上昇ペースも落ちて、賃金とインフレ率のアンバランスが少し緩和される可能性もあり得ますが、これ自体は、経済が全体としてのバランス感を取り戻していく過程であり、むしろ経済は安定感を強めていくのではないかと思います。』

ほほう。

『私自身は、消費者物価指数を短期間で2%に誘導していくことは、「物価安定の目標」を達成することとは違うと思っています。』

少数提案している人の強みキタコレ!

『経済がバランス良く改善しながら、少し時間をかけて、「物価安定の目標」を無理なく達成していくのが望ましいと思っています。この観点からすると、為替の動きに大きく影響を受けたインフレ率の上昇が、やや突出している感じがあります。少しインフレ率の上昇ペースが落ち着いてきて、賃金と物価の上昇率のギャップが縮まる形で経済が安定を取り戻すことは決して悪い話ではないと私は思いますが、今後そうした状況が起こり得るかもしれないと思っています。』

(;∀;)イイハナシダナー

ということで、まあ少数意見だからクリアカットな話が出来るという面はあるのですが、こりゃまあ麿のイタコ芸かというような白日銀話になっておりまして、まー折角黒日銀がQQEで2%と黒田節ヒャッハー踊り(博多の方にはヒャッハー踊りのようなものは無い筈なので念のため)をしている中でこういうのを打ち込まれると黒い方々的にはアチャーという所かもしれませんが(^^)、まあどう考えてもここから半年後位にはこの物価安定の理解に関する考察というのは一旦総括しないといけない時期に来るのではないかと思います。

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2014/03/25

ということで前座の悪態が少々長くなってしまいましたが昨日ネタにした佐藤審議委員の講演もそうでしたけれども、本日もやはり心を洗うのが必要ということで木内審議委員の講演をば。

滋賀での金懇
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140319b1.pdf

会見
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1403b.pdf

○今回はロジックが非常にクリアカットになりましたね

昨日も申し上げましたが、今回の講演および会見ではロジックが非常にクリアカットになっていまして、講演もそうなのですが特に会見の質疑応答を見ますと講演での説明の行間を埋める話もありまして、まあ時間が無い場合は会見を読んでから講演を斜め読みするのが吉。

でですね、総括いたしますとこんな感じの金融政策ロジックではないかと理解したのですが、当然ながらあたしゃ木内さんじゃないですから間違って理解してるかも知れませんので念の為。

まず経済見通しについては基本的にそんなに弱くは無いけれども、ただしリスクは政策委員会全体の見解として示されているバランスというよりは下振れ意識になっているので、まあ平均的な見方からしたら弱めちゃあ弱めです。

んでもって重要な金融政策ロジックの方ですが、まず大前提として「物価安定目標」の2%の水準についてですけれども、「日本経済の現在の実力からすると物価安定水準は2%より低い位置にある」(会見で1%を少し上回る位というコメントをしています)という認識を示しております。

では2%を目指さないかというとそういう話をしているのではなく(これ重要ですので念の為)、経済状況に安定的な物価水準というのは供給側の要因で決まる部分が大きく、それは金融政策以外の経済政策や構造改革による取り組みが必要で、それが効果を発揮するには中長期の時間がかかるものだから、「2年での達成」という看板は下ろして、その代わりに中長期的に目指すという話をしている訳ですな。

じゃあ何でQQEには賛成しているかと言うと、QQE自体はいわゆる「Shock abd Awe」によってデフレ均衡に陥っていた期待を変化させることに効果(その他の効果も言及していますが)があると想定されまして、それによってデフレ均衡からの脱却には一定の効果があった(ように見える)ので、まずはこれはこれで良しとするものの、先ほどのようにそもそも2%を短期に実施するのは無茶なので、QQEでそこまでは求めないという話。

つまりですな、QQEを2年間の集中対応云々という木内さんのいつもの話なのですが、QQEをデフレ均衡からの脱却への政策として位置付けているのねというのが何となく読めて来まして、そう考えますとデフレ均衡からの脱却にはQQEで、その後日本経済が実力をつけていく中では金利政策で対処しましょうという話をしておりまして、現在の馬鹿緩和に関しては拡大を続ける事自体がメリットデメリット考えた場合にデメリットが大きいからQQEは2年で一旦区切れというお話になっているという事だと思います。

で、これで合っているのかどうかは木内さんじゃないから知らんがなという所ではありますが、まあそういう理解をしてみました。


○経済の下振れリスクは輸出と消費

まずは講演から。最初の2ページ半くらいは日銀の展望レポートベースの説明をしていまして、その次から木内さんのお話が始まります。

『以上のような日本の経済・物価に関する中心的な見通しに対しては、上下双方向のリスクがありますが、私自身は下振れリスクをより意識しています。消費税率引き上げの影響については、経済の振れを一時的に大きくするものの、緩やかな回復を続ける経済の基調に影響を与える可能性は低いと考えています。その一方で、私は経済の下振れリスクとして、輸出動向と消費動向に特に注目しています。また、金融政策決定会合の議事要旨などで明らかにされていますが、私自身は物価見通しについてより慎重な見方をしています。以下では、こうした私自身の見方に基づき、先行きの見通しに関する留意点を幾つか述べたいと思います。』


輸出に関しては構造要因の問題と、そもそも外需に対して強気では無いという話をしています。

『輸出はやや勢いを欠く状況が続いています(図表4)。その背景としては、外需環境とそれ以外の要因の双方が作用していると考えており、私自身は、先行きも輸出は勢いを欠く状況がしばらく続く可能性が高いとみています。』

で、外需に関してなのですが、実は外需のほうでも構造要因の話をしていて、アジアや米国に関してどちらも構造問題の対処などの話をしていて、循環的な話での外需弱気ではない点がほほうという感じなのですが、引用しているとクソ長くなるので割愛して国内の部分から。

『次に、外需環境以外の要因としては、第一に、本邦企業の部品等の現地調達拡大を伴う海外生産シフトといった構造的な要因が作用していることが考えられます。直近の内閣府の調査では、先行きも製造業は海外生産比率を高める計画となっていますが、このことは、企業が為替環境の変化よりも、外需と比べた内需の成長率の相対的な低さをより強く意識していることを窺わせます(図表5、6)。』

うむ。

『第二に、本邦企業が外貨建てで契約している輸出価格の引き下げに慎重な姿勢をとっている可能性があります(図表7)。このことは、企業が為替環境の変化を海外市場の拡大につなげるよりも、円建てでの輸出代金の増加による一時的な収益拡大として享受する傾向が現状では強いことを示唆しているように思います。これら外需以外の要因が今後どのように作用していくかも注目しています。』

「一時的な収益拡大として享受する傾向が強い」ってさらっと話をしているがつまり円安メリットが成長力強化に結びついていないって話ですからこれはこれでアチャーな話ではありますな、うんうん。


消費に関しては足元のコンフィデンスの低下、労働市場の改善の質の問題、賃金問題を指摘しています。

コンフィデンスの低下に関して。

『消費は引き続き底堅く推移しており、このところは消費税率引き上げ前の駆け込み需要もみられています(図表8)。しかし、2月の消費者態度指数が2年5ヶ月ぶりの低水準まで下落したこと、2月の景気ウォッチャー調査の先行きDIが家計関連を中心に下落し、2年10月ぶりの低水準となったこと等は、消費者心理の変調の兆しの可能性もあります(図表9)。特に、足もとでみられる実質賃金の低下傾向が今後も継続した場合、いずれ個人消費の勢いが弱まることがないか、注視していく必要があると考えています(図表10)』

労働需給に関して。

『労働需給を示す有効求人倍率は直近1月に1.04倍と1倍を超えていますが、正社員の労働需給はそこまで逼迫していないとみられ、賃金交渉の対象となる正社員の大幅なベースアップは生じにくい環境にあると言えます。』

賃金問題。

『また、ベースアップがある程度は実現しても、賃上げ率の大部分が定期昇給分や一時金となる可能性に加えて、賃金交渉の対象にならない非正規社員の比率が高まる方向にあること、中小企業や公的部門での賃上げ率は相対的に低くなりやすいことを考慮すれば、復興財源捻出のための国家公務員給与の減額措置終了に伴う一時的な影響を含めても、全体の賃金上昇率はなお控えめな水準にとどまる可能性があります。その結果、仮に名目賃金上昇率が消費税率引き上げの影響を除いたベースでみた消費者物価上昇率を下回れば、実質賃金の低下が長引くとの見方が消費者の間で強まる可能性があるため、注視していく必要があります。』


○物価の押し上げは為替であって2%の水準は今の実力では高いという話(その1)

続いて物価見通し。

『これまでのところ、「量的・質的金融緩和」は国内需要を刺激し、経済の前向きの流れを後押しすることで、相応にプラスの経済効果を発揮しています。このことが、需給ギャップの改善を通じて物価上昇にも一定の寄与をしています。』

ほう。

『しかし、私自身は、この間の物価上昇率の押し上げに最も大きな影響を与えたのは為替要因であったと考えており、為替要因を除いた基調的な物価上昇ペースは、より緩やかであるとみています。これに加えて、後述するように中長期の予想物価上昇率の上昇も依然として緩やかであることや、賃金上昇率が当面緩やかなものにとどまる可能性が見込まれることも、私が慎重な見方をしている理由として挙げられます。』

ふむ。

『昨年来、物価上昇率は短期間でかなり高まりましたが、日本銀行が掲げる「物価安定の目標」が目指すところは、経済の好転に伴って賃金と物価がバランス良く上昇していく好循環が作り出され、それが安定的に持続することです。すなわち、日本経済の実力の高まりに見合ったペースで物価が上がっていくことが求められています。この点を踏まえれば、後述する金融政策運営に関する提案とも関連しますが、私自身は、2%の「物価安定の目標」は中長期の目標とした場合にのみ妥当性をもちうると考えています。』

キタコレ。


○QQEは期待形成の影響を通じて効果とな

金融政策運営の話というメインの部分に参ります。最初の政策の説明部分はまあ良いとしてその評価。

『「量的・質的金融緩和」は、その導入から約1年になりますが、これまでのところ金融市場や家計・企業などの期待形成への影響等を通じて、日本経済に好ましい効果を与えてきています。』

なるほど。

『ただ、私自身は、「量的・質的金融緩和」の具体的な緩和策には賛成しつつも、政策委員会の中では少数意見ですが、2%の「物価安定の目標」の達成時期と、「量的・質的金融緩和」の継続期間について、「量的・質的金融緩和」の導入時点から修正議案を出し続けています。以下では、そうした点も含めて、金融政策運営を巡る幾つかの論点について、私自身の考えを申し上げたいと思います。』

ということで・・・・・・・・・


○物価安定の目標に関する論点はこれから盛り上がってくるんでしょうねえと思います

『(1)「物価安定の目標」について』という小見出しである。

『日本銀行は、「量的・質的金融緩和」の導入に先立ち、昨年1月の金融政策決定会合において、2%の「物価安定の目標」を導入しました。まず、この機会に「物価安定の目標」の意味するところを改めて確認しておきたいと思います。』

佐藤さんも講演でこの確認を佐藤さん流にしていましたが(^^)、木内さん流の整理を鑑賞しましょう。

といいつつ全部引用していると長くなるのでダイジェストで勘弁ですが(汗)。

『別の言い方をすれば、「物価の安定を図ること」は、「国民経済の健全な発展に資すること」という最終目標を実現するための中間目標、いわば道しるべの役割を果たしていると私は考えています。金融政策運営に際しては、月々の物価指数の動きのみに注目するのではなく、「物価の安定」の実現に向けて、経済全般の動向に幅広く目配りしながら、この最終目標を実現していくことが何より重要だと私自身は思っています。』

『第2に、2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率を安定的に2%程度で持続させることを目指すものです。経済の持続的な成長と整合的な「物価の安定」は、中長期的に持続可能なものでならなければならないからです。従って、2%の「物価安定の目標」を達成するためには、実際の物価上昇率が一時的に2%に達するだけでは十分でなく、その水準で安定することが求められ、その実現には、家計や企業や金融市場でも先行きの物価上昇率を2%程度と見込んで行動するようになること、換言すれば中長期の予想物価上昇率も2%程度になることが必要です。』

さいですな。

『これまでは、中長期の予想物価上昇率がトレンドとして概ねプラスの水準で推移してきた一方、実際の物価が長らく下落基調を続けてきたため、「物価の安定」が達成されずに経済環境は望ましくない状況に置かれていました。この点に、「量的・質的金融緩和」の導入が必要となった背景があります。』

ほほうという所ですが、つまりここの説明を敷衍するとQQEはデフレ均衡からの脱却という意味があったという話になるんですな。

『ただ、私自身は、日本の中長期の予想物価上昇率は、日本銀行が掲げる物価目標の水準や財・サービス及び労働市場の需給関係よりも、潜在成長率や労働生産性上昇率などの供給側の要因で決まる部分が大きいと考えており、少なくとも現時点では、2%という水準は日本経済の実力をかなり上回っているとみています。』

キタコレ!!!

『現実の物価上昇率がかなり高まる中でも、足もとの様々な指標をみると、5年、10年といった中長期の予想物価上昇率の上昇はなお緩やかなものにとどまっています(図表13)。従って、2%の「物価安定の目標」の実現には、「量的・質的金融緩和」が作り出した良好な経済・金融環境を活かしながら、幅広い経済主体が成長力強化に向けて息の長い取り組みを行っていく必要があると私自身は考えています。その結果として、中長期の予想物価上昇率が上がってくれば、いずれは2%が妥当な目標水準となる可能性もありうると考えていますが、その場合でも相応の期間を要するとみています。』

つまり緩和的な金融環境は必要だが成長力の強化が必要ですという話をしている訳で、2%は今直ぐの安定的な推移というのは無理でしょという事で、フィリップスカーブを気合で上方シフトという話とは基本的なスタンスに相違があります罠という話ですし、(木内さんは説明してませんが)フィリップスカーブを期待の変化で上方シフトさせるにしても今やろうとしている2%水準がフィリップスカーブのY切片という所に持って行くのは何ぼ何でも無理じゃネーノという話なんでしょうな、うんうん。

『こうしたことから、私は2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度と限定せず、それを中長期の目標とすることが望ましいと考え、そのような提案をしてきました。また、私としては、今後の成長力の変化や中長期の予想物価上昇率の変化を踏まえて、将来的には2%という「物価安定の目標」の水準を再検討する余地もあると考えています。』

この部分は質疑応答で質問出ておりましたのでまた後ほど。


○QQEのメリットデメリット

『昨年4月に「量的・質的金融緩和」の導入を決定した際に、私自身が「量的・質的金融緩和」の具体的な緩和策に賛成したのは、それが3つの点で大きなきっかけになると考えたためです。』

ほう。

『すなわち、第1は、需要面から、経済を刺激し前向きの循環を作るきっかけとなること、第2は、供給面から、成長力強化に資する政府の成長戦略や財政健全化、企業や家計の前向きな動きを引き出すきっかけとなること、そして第3は、経済・物価の改善を通じてゼロ金利が効果を発揮し、伝統的な金利政策を取り戻すきっかけとなることです。』

第3は何??という感じですが、後ほど説明がありますが要するにテイラールールなどでの適正とされる金利水準をゼロ以上に引き上げることによって、名目ゼロ金利制約からの脱却をするということのようです。

『他方で、「量的・質的金融緩和」は、正常化のプロセスが容易でない、財政ファイナンス観測を高めかねないなどの相応に大きな潜在的リスクを抱えていると思っています。』

キタコレ!

『現在のコミットメントのもとでは、2%の「物価安定の目標」を2年程度で達成するのが難しいとの見方が広がれば、プラス効果よりも副作用のほうが大きいと判断される場合でも、金融市場の期待等の外部要因に影響されて、日本銀行の政策がそうした対応を余議なくされる可能性も否定できません。』

それどころかクレクレ攻撃隊が4月緩和クレクレとか言い出しそうな勢い(昨日の中国PMI予想より下振れで中国の緩和政策期待株高ワロタですが、FEDが期待できなくてECBがやる気なさそうな中で日本と中国にクレクレ攻撃が集中砲火されそうですし、特に日本という事になりそうですなあ)ですけどね!!!!

『この点、私自身は、2%の「物価安定の目標」は中長期でみた場合にのみ、日本経済のファンダメンタルズと整合的になりうると考えていることもあり、仮に現在の大規模な金融緩和策が長期化あるいは追加的措置によって強化されれば、逆にこれらの副作用がプラス効果を上回ってしまい、長い目でみた経済の安定をむしろ損ねてしまうリスクを強く意識しています。』

非常にクリアカットな言い方でして、プロコン考えたらこれ以上の馬鹿緩和をすべきでないと思いっきり仰せになっています。ちなみにこれまた会見の方で言及していたのですが、じゃあ一切追加緩和をしないのかと言いますとそういう訳では無くて、金融不安で流動性危機みたいな話になった場合に短期金融市場の流動性供与などのような政策を実施するのはアリという話をしています。

『このため、私は「物価安定の目標」を中長期の目標としたうえで、「量的・質的金融緩和」を「2年間程度の集中対応措置」と位置付ける提案をしてきました。これは、一定期間経過した後に、「量的・質的金融緩和」の効果と副作用の比較考量をしっかりと実施し、経済・金融情勢次第で柔軟に見直す環境を予め確保しておくことを狙いとしているものです。』

まあ今の説明を見るとどう見ても資産馬鹿買い政策ではなくて低金利政策の継続的な方向で金利中心の政策を実施するという話になると思いますけどね。

で、ちょっと飛ばしまして先の方に『(金利政策の効果も視野に入れた政策運営)』というのがありまして、今の説明部分の補足になっています。

『「量的・質的金融緩和」で実施されている資産買入れ策などの非伝統的な政策は、ゼロ金利制約の下で、経済・物価に上向きのモメンタムを生じさせ、その方向性に影響を与える、例外的でやや時限性の高い手段と位置付けることができると思います。これに対して、伝統的な金利政策は、経済・物価を望ましい水準へと誘導していく局面でのファイン・チューニング的な常用手段として位置付けることができると思います。』

という事で、最初にアタクシが勝手にまとめさせて頂いたのはこの辺の木内さんの説明を参考にしているのですが(^^)、QQE政策は「Shock and Awe」によってモメンタムの変化を起こさせる物であるが、そもそもがバズーカ砲というかバンカーバスターみたいなもんで、これはファインチューニングの政策として使う物ではなく、そういうファインチューニングをするのは金利政策で行う物だという話をしています。

『私自身は、「量的・質的金融緩和」の奏功により経済・物価のモメンタムが十分に高まり、期待収益率などが上がってくれば、ゼロ金利を維持するだけで伝統的な金利政策が累積的に金融緩和の効果を高め、経済への刺激効果が出てくると考えています。』

ということですので、つまりは1%ちょっとの経済の実力に見合った物価水準を安定的に維持できるようになった所で(2%ではなくても)QQEの拡大は止めてゼロ金利維持をしてフォワードガイダンスみたいな感じにする方が良いのではないかという話ですな。

『実際、足もとでは、「量的・質的金融緩和」以降の需給ギャップの改善や物価上昇を映じて、テーラー・ルール1に基づく政策金利水準はマイナスからゼロないしプラスの領域に入りつつあるとの試算も得られます。』

ほう。

『従って、将来、「量的・質的金融緩和」の緩和効果に加えて、ゼロ金利の維持による累積的な緩和効果が更に高まっていけば、この2つの政策ツールの役割や効果と副作用のバランスを勘案しながら、政策運営の重心を資産の買入れからゼロ金利政策の方に徐々に移していくことも考えられるのではないかと個人的には思っています。』

つーことですな。

『非伝統的な政策は歴史の浅い新しい政策手法であるがゆえに、その副作用には概して未知の部分がなお多いと考えられます。特に、将来、金融市場の安定を維持しつつ金融政策の正常化を円滑に実現させるためには、財政健全化と並んでこうした政策運営の重心移行を図っていくことが重要な要件になると私自身は考えています。』

(;∀;)イイハナシダナーとしか申し上げようがない。


○金融政策と構造改革とな

ちょっと戻って『(3)金融政策と構造改革』という所から。

『「量的・質的金融緩和」は、それ自体、強力なものですが、官民による様々な取り組みと相俟ってこそ、最大限の効果を発揮します。』

ほほう。

『一般に、金融政策は、主に経済の需要面に働きかけることを通じて、構造改革を側面支援することはできますが、構造改革自体を代替することはできません。例えば、先ほども述べましたように、潜在成長率や労働生産性上昇率を向上させるためには、成長力強化に向けた供給側での様々な施策が必要となります。』

ですなあ。

『この点とも関連しますが、最近、米国をはじめ主要先進国で潜在成長率の低下や自然失業率の上昇等の可能性がよく議論されていますが、こうした構造変化を的確に認識せずに金融緩和が行き過ぎれば、経済・金融面での不均衡が蓄積されてしまうリスクがあることにも注意する必要があります。』

キタコレ!!というかそれ2%達成までQQE続けるのを盛大にdisっていますな!!!

『また、金融政策に対して過度に期待が高まる場合、あるいは金融政策の本来の対応領域を超えて金融緩和が進められる場合には、必要な構造改革を進める機運が殺がれ、長い目でみた経済の成長にむしろマイナスに働いてしまう惧れがあります。』

(;∀;)イイハナシダナー

『金融緩和の効果を十分に発揮していくうえでは、財政の信認確保も不可欠です。』

キタコレ。

『仮に、日本銀行による巨額の国債購入が続けられる中、そうした政策によって債券市場の安定が保たれるとの期待が過度に強まり、構造改革を通じた財政健全化の動きが弱まる、あるいはそのような観測が市場に広まれば、財政に対する信認が低下して長期金利が上昇し、財政状況を悪化させるとともに、緩和効果を大きく損なう可能性があります。』

まあ安倍ちゃんと愉快な仲間たちが本当に財政健全化やる気あるのか怪しいもんですけどね!!!!

『昨年1月の政府と日本銀行の「共同声明」でも示されたように、財政健全化策の遂行は、「量的・質的金融緩和」が成功するためのいわば重要な前提であり、日本経済がデフレを脱却し持続的な成長を達成する上で不可欠と考えています。』

ということでこの辺をゴリゴリ突っ込んでいるのが昨日ネタにした佐藤さんのNYジャパンソサエティーでの講演なのでした。


○おーのー時間と量の関係で会見ががががが

つーことで記者会見なのですが、ここでの説明が講演内容を補足する感じでクリアカットな話をしていまして、2番目からの質疑応答が全部読み所という中々のスグレモノなのですけれども、案の定(なら前日に準備しておけというツッコミは却下^^)時間と量がアチャーとなりまして本日は勘弁ということですいませんすいません。

#まあ是非ご一読をオヌヌメ致したいです

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2013/11/29

○木内審議委員講演ネタ追記雑談

昨日は木内さんの講演をネタにしたら「何かエライ絶賛してるじゃん」というお問い合わせ(というか何というか)を結構頂きまして書いた本人の方がちとビックラしたので追記雑談。

んーっとですね、今回の木内さんの講演ですけれども、まあシンプルに纏まっていたのと、ロジック内容が良く判って「こりゃ執行部(つーか今の日銀の基本ロジック)とは水と油だわ」というのが理解できましたし、木内さんの論点はなるほどこれは筋通っていますなと読んでてご機嫌モードになったのでそれがあったのかとか思ったのですが、良く良く考えたら木内さんのロジックって債券市場的にも無理がないっすなあというのがあるので、それもあったかもねと思いました(^^)。

つまりですな、今の無理繰りなMB拡大大会ってフィージビリティー的に3年も4年も続けられる物ではなく、それどころか既に債券市場の流動性は数値的に何といわれようとも市場前線労務者の体感的に言って明らかに盛大に低下している状態でこの政策あと丸々1年は最低続く上に、どうせ来年末時点で2%達成してねえだろと債券市場の多くの人は見ているだけに、そうなると(やり方の変更がなければ)更にこのおかわりが続くというオソロシスな流れになりますと債券市場そのものが市場の体を成さなくなりそうですよねどうしましょアヒャヒャヒャヒャとまあそんな意識があるので、まず2年やってみてその後は別途考えるという話と、MBの無理繰り拡大をやり過ぎると弊害があるでしょという話はいやもうそうですわとなるっつーことですね。

てな訳で絶賛モード(?)であったのですが、しかしこの木内さんのロジックって基本的にその気合でフィリップスカーブをどうのこうのという話と全然違うグラデュアリズムの世界でありまして、それって実は以前からの日銀ドクトリンでもありますので、これはこれで筋は通っているし、話として無理がないという点でアタクシ的にも共感する所はあるのですが、じゃあ4月4日の時点でこのロジックを全面的に押し出して追加金融緩和をして「期待の変化」が起きたかというとそれは相当怪しいですし、大体からして対政治という面を見た場合に全然通らないでしょという話でもありますので、現実世界にこのロジックを押し出していくのはまあ普通に時期尚早ですよねと思います。つまり、少数意見としては有りかも知らんし、異次元緩和を実行してその後さてどうしましょとなった時点では異次元世界からの徐々に足抜けをしてこの話へとシフトするというのも有りかも知らんですが、惜しくもそういう環境を勘案するとフィージブルではないという話で、実際の政策運営的には異次元イリュージョンよりも無理なくフィージブルではあっても中々難しいでしょうなと思うのでした。

そういや9月のきさらぎ会での総裁講演も何だかんだ言って後からネタにしてこれまたあたくし絶賛モード(?)だった記憶があるのですが、あれはあれで異次元緩和イリュージョンのロジック(というかイリュージョンなのでロジックは怪しい部分があるのだが^^)を丁寧に総括して説明していて非常に分かりやすかった(のに微妙に誤解したのが最初に色々と出ていたのでトサカに来て後からネタにしたのだが)という所でして、異次元イリュージョンにとりあえず乗っている状況(だけどポジションはそうじゃない人の方が多そうだが)でもありますので、日銀の動きがどうなるのよと考える場合はやはり異次元イリュージョン劇場で気合だ気合だとゆーロジック(??)を把握するのも重要ということですな、うんうん。

恐らくですね、きさらぎ会で総裁が言っていた「デフレはそれが長期化することによって脱却が困難になる」というのもこれまた相当正しい話で、セントルイス連銀のブラード総裁が言う「望ましくないデフレ均衡」から「望ましい適正なインフレ均衡」へと遷移させる為にはグラデュアリズムだけでは厳しい(だいたいからしてそれをやって今まで遷移できていなかったのだし)からイリュージョンでも何でもいいから兎に角思い切った政策の実施で均衡をぶち破る必要があるというのもこれまでの推移だと全く可能性無しという訳でもないかもね程度の進展はしている訳ですから、今の異次元イリュージョンもこれはこれで有りだと思いますし、じゃあ何が正解なのかと言われるとワタクシも良くわかりません。どうなんでしょうかねえ。

・・・・・・・・・・てな独り言でした。何か勝手な独り言でどうもすいません。

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2013/11/28

お題「木内審議委員の講演は主張が非常にクリアカットで分かりやすいという話」

特定秘密保護法案って知る権利云々よりも運用次第で言論活動に強いプレッシャー掛けることが出来ちゃうリスクが有る部分があるのが問題だと思うのだが、今の与党って自分らが下野するリスクを考えていないのかなあ・・・・・・・・・


まあそれはさておき、一昨日は木内さんの講演、昨日は白井さんの講演があって、白井さんの講演の会見ヘッドラインは微妙に昨日の引け近くの債券市場に影響あったような気もするのですが、今日は時間と量の関係上木内さんの講演ネタで終わってしまいましたので(すいません)白井さんの講演は会見と合わせて明日にネタにしますどうもすいません。

なお、何故そうなったかと言いますとお題にありますように今回の木内さんの講演は従来どういうロジックで反対提案を行っていたのかという点について、そもそもの物価安定目標に関する考え方と共に、いいもん見せて貰いましたという講演だったのでついつい話が長くなるのですな。

つーことで一昨日の木内さんの講演である。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko131126a1.pdf
内外経済の展望と金融政策
─ 日本証券経済倶楽部における講演 ─

今回の講演では一応展望レポートの話を最初にしていますが、その後は基本的に木内さんとしての説明をしていまして、んでもって今回の講演テキストは論点が非常に分かりやすく説明されています。これまで議事要旨とかの中で断片的には示されていた木内さんの金融政策および経済物価見通しに関してですが、この講演でやっと整理できました今まで判らんとか言ってどうもすいません。

でですな、今回の木内さんのロジックを見てひじょーに良く判ったのですが、これはこれで筋の通った話でして、その一方で現執行部が現在実行している金融政策で行おうとしている政策ロジックとは思いっきりロジックが合わずというのも分かります。まあつまり水と油ということですので執行部がバンザイしない限り木内さんは常に少数意見反対側となるというのが結論なのです。

なお、以下鑑賞する訳ですが、木内さんのロジックは異次元ロジックではなくて基本的に無理のないロジックで展開されておりまして、これはこれで普通というか真っ当な話だと思う(ただし今は異次元イリュージョンで踊っておりますのでそうは言われましてもいやはやという所ですが^^)のですな。


○経済の先行きリスクは主に海外とな

経済のリスク認識部分についても重要ではあるのですが、今回主に鑑賞したいのは金融政策ロジックの部分でして、正直そっちの方が見せ場になるので経済の所は簡単に。

講演テキスト2ページ目(PDFファイルの3枚目)の『2.先行きのリスク要因』から先が「木内さんの説明」部分になります。なおさっき言い忘れましたが、今回は金懇じゃないので日銀ロジックを説明して回るという必要があまりないので、その分だけ木内さんのロジックを説明しやすくなっているのは日銀も一応考えてアレンジしたんでしょうかね。

『「展望レポート」では、以上の中心的な経済・物価見通しに対する上振れ・下振れ要因を挙げていますが、私自身は下振れリスクをより意識しています。また、4月に続いて10月公表の「展望レポート」でも、物価見通しなどの記述を修正する議案を出しました。以下では、そうした私自身の考えに基づき、先行き見通しに関する留意点を幾つか述べたいと思います。』

『私が一番注目しているのは、海外経済の動向に関する不確実性です。IMFの世界経済見通しは、ここのところ下方修正が続いています(図表2)。直近でも、7月時点から10月時点までの僅か3か月間で、2013年の世界成長率見通しは0.3%ポイント、2014年は0.2%ポイント下方修正されました。中国など新興国・資源国経済の見通しが下方修正されたことが主因です。』

うむ。

『この背景には、新興諸国における不均衡の調整があると思います。リーマン・ショック後の財政・金融面からの過剰な政策対応や、過大な成長期待に基づく海外資金の流入により、新興諸国でも民間債務の大幅増といった形で不均衡の蓄積が進み、現在はその調整過程にあるとみています(図表3)。そうだとすれば、成長に勢いを欠く状態が長引く可能性が高いと思います。』

新興国の調整が長引くとの見通しのようです。

『他方、米国経済を中心とした先進国経済の回復力についても、不確実性が残っています。私が特に注目しているのは、米国をはじめとして、先進国の労働生産性上昇率のトレンドが低下しているように窺われることです(図表4)。』

キタコレ!

『労働生産性上昇率のトレンドが低下すれば、安定した雇用増加が続いていても先行きの所得増加期待は容易に高まらず、米国経済の先行きを大きく左右する個人消費に容易に力強さが戻らないことも考えられるため、その動向を注視しています。』

ですな。んでもってあと国内に関してはマインドがここもと頭打ちからやや下がっている事と、製造業の投資がそう簡単に戻るのかねという話をしていますがその辺は割愛しまして物価について。


○物価見通しの木内さんの説明が執行部のロジックとはだいぶ違う件について(^^)

本文3ページのケツの方から始まる『(3)物価見通し』のところが最初の見どころ。

『政策委員会の中では少数意見ですが、10月の「展望レポート」の物価見通しについて、私は修正議案を提出しました。具体的には、(1)見通し期間後半にかけての物価見通しについて「「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高いとみている」から、「上昇幅を緩やかに拡大させていくことが見込まれる」に変更する、(2)予想物価上昇率の見通しについて「「量的・質的金融緩和」のもとで、実際の物価上昇率の高まりもあって上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく」から「実際の物価上昇率の高まりもあって緩やかな上昇傾向をたどると考えられる」に変更するという内容です。』

ですな。

『「物価安定の目標」の実現に当たっては、わが国経済が全体として持続的に成長し、国民生活がより豊かになるなかで、物価上昇率が徐々に高まっていく、という好循環を作り出すことが大切です。』

なるほど。

『そうした観点からみたとき、私自身は、2年程度という短い期間で2%の「物価安定の目標」を達成することは容易でないだけでなく適当でもない、と考えています。』

キターーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーー!!

『足もとの物価上昇は、一部に需要増加を背景とした要素も含まれるものの、これまでのところ、エネルギー価格上昇や為替相場の変動の影響といったそれ以外の要因を反映している面も大きいとみています(図表6)。しかし、経済の改善と一体で進む持続的な物価上昇を実現するためには、賃金の上昇、とりわけ所定内給与の上昇が鍵を握ると考えています。』

賃金上昇が重要というのはまあ皆さん言っているのですが、木内さんの場合は前段の説明にあるように、今の執行部が示唆している(けど露骨に言うとポリティカリーインコレクトだから言わないけど)とにかく物価が上がればインフレ期待が高まってウッシッシという説明はまあ軽くDisってます罠こりゃ。

『注目される来年の春闘では、一部企業でベースアップも実施され、平均賃上げ率はある程度上昇する可能性が高いと思います(図表7)。ただ、企業が基本給を大幅に引き上げる動きが広がり、それが基調的な物価押し上げへとつながっていくには、先行きの成長期待の高まりを通じて、労働需給がさらに改善することが必要です。』

というのはどういう事かと言いますと・・・・・・・

『雇用・賃金は景気に遅行するため、賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が高まっていくまでには、相応の期間がかかると私自身はみています。実質賃金上昇率が労働生産性上昇率と一致するという前提のもとで、労働生産性上昇率を仮に1%程度とした場合、2%の「物価安定の目標」と整合的な名目賃金上昇率は3%程度、労働生産性上昇率を0.5%程度としても2.5%程度となる計算ですが、賃金水準をそこまで引き上げるには、相当の時間を要するものと思われます。しかし、肝心なことは、賃金の上昇を伴いながら、徐々にであっても物価が上昇していくという好循環が作り出され、維持されていくことだと考えています。』

つまり「2年程度で目指す」という無茶振りをするのではなく、景気に遅行する雇用賃金の改善を伴う「望ましい形の安定した物価上昇」を目指すのであれば、雇用賃金の改善は景気に遅行する訳だから当然ながら中長期で目指すべきである、というのが木内さんの主張という事になります。

でまあこれはこれで無理のないご尤もなロジックで、謎の気合とかそういう成分が入っていないだけにエコノミスト的にもクリアカットだし理にかなっている話ではあるのですが・・・・・・・・

皆様ご案内の通り現在の日銀の2%物価目標れっつらゴーのロジックは気合でゴーと言ってしまえばそれまでですが、もちょっと丁寧に書くと、「単に需給ギャップを改善させるだけではなく、期待をシフトさせることによって短期間にフィリップスカーブを上方シフトさせる」という話であり、その背景にあるのは(きさらぎ会で総裁が説明していた中での一つのポイントなのですが)「デフレはそれが長期化すると脱出するのが困難になる」ということでして、つまりはデフレ均衡状態から望ましいインフレ均衡状態に遷移させるのにグラデュアリズムでは困難が伴うので異次元政策を実施するという話な訳で、その為には2年で2%達成気合だ気合だ気合だああああとやるのが吉である、とまあそういう話になる訳ですよね、うんうん。

となりますと、ここの部分で分かる事なのですが、木内さんが考える物価安定目標達成へのアプローチと現在の異次元緩和政策で異次元に実施している物価安定目標達成のアプローチは思想の根本が違うという話になる訳でして、つまりは執行部のアプローチ方法に対してマッコウクジラで脳天唐竹割りを打ち込んでいるのでして、こらまあどちらかが折れてこないと永遠に水と油だわと思ったのでした。

でもってまあこれまでは木内さんの説明をこんな感じでまとまった形で読ませる機会が無くて、議事要旨の中で断片的に書かれていただけだったのでイマイチどういうロジックなのかが分かりにくかったのですが、今回の講演を読むとその辺が分かりやすくなったという事で、最近の政策委員の講演の中では出色の出来栄えになっているなあと思ったのでした。


さてその続き。

『なお、時間の経過とともに賃金と物価がバランス良く上昇していく局面に至っても、現在、海外先進国でディスインフレ傾向にある点を踏まえると、日本の物価上昇率に下向きの圧力がかかりやすい状況がなお続いている可能性もあると考えています1。』

これも重要な指摘ですな。つーか(この進行だと今日ネタにしている時間がなさそうなのだが)白井さんも講演でこの点に言及しているし、最近とみにこの話がクローズアップされていますな、うんうん。


○金融政策に関する論点でも執行部にマッコウクジラである(^^)

その次のコーナーが『3.金融政策』でございましてですな。

『「量的・質的金融緩和」は、これまでのところ、金融市場や家計・企業などの期待形成への影響等を通じて、日本経済に好ましい効果を与えてきています。ただ、私自身は、「量的・質的金融緩和」の具体的な緩和策には賛成しつつも、政策委員会の中では少数意見ではありますが、2%の「物価安定の目標」の達成時期と、「量的・質的金融緩和」の継続期間について、4月の「量的・質的金融緩和」の導入時点から修正議案を出し続けています。以下では、そうした点も含めて、金融政策運営を巡る幾つかの論点について、私自身の考えを申し上げたいと思います。』

でまあここの修正議案の背景が分かりにくかったのですが、先ほどの部分とこの先の部分での説明で木内さんのロジックがこれまたクリアカットに理解できた(つもり)なのですな(^^)。


○2年で達成&オープンエンドの気合コミットメントを排除とな

まず最初のポイントが『(1)コミットメントの柔軟化』です。

『私の議案では、先行きの政策運営方針について、「日本銀行は、中長期的に2%の「物価安定の目標」の実現を目指す。そのうえで、「量的・質的金融緩和」を2年間程度の集中対応措置と位置付け、その後柔軟に見直すこととする」と修正することを提案しています。この修正議案のポイントは、コミットメントの柔軟化を目指していることです。すなわち、第1に、2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度と限定していないこと、第2に、「量的・質的金融緩和」の継続期間については2年程度を目途とし、その時点で必要に応じて柔軟に見直すとの考えを明確にしていることです。』

とはどういう事かと。

『4月3、4日会合の議事要旨に記述されているように、このような修正を提案したのは、(1)2%の「物価安定の目標」を2年程度の期間を念頭に置いて達成するには、大きな不確実性がある、(2)そうした中、「量的・質的金融緩和」が長期間にわたって継続するという期待が高まれば、同措置が前例のない規模の資産買入れであるだけに、金融面での不均衡形成などにつながる懸念がある、と考えたためです。』

でまあ確かに記述があったのですが、この時点ではそもそも執行部が打ち込んだ異次元緩和に関しても何をどうやって2年で2%達成させるのかという話が整理されていなかった面がありましたし、受け止める方も何を言ってるのかワカランチ会長だったりした(から債券市場があの有様になった訳だ)し、日銀の方でも何をしたいのかという情報発信に混乱があった(ので5月上旬の黒田総裁会見が梯子外し発言キタコレという認識になった)というのがありまして、その分だけ木内さんのこの説明も伝わり難かったのかもしれませんな。

『同会合の議事要旨では、このほかの潜在的なリスクとして、財政ファイナンスの観測を高める可能性のほか、金融機関の収益を圧迫して金融システムの脆弱性を高める可能性、市場機能を大きく損なう可能性なども指摘されています。』

先ほどのように「そもそも2年で達成させようという気合政策に無理がある上に、それは本来目指すべきアプローチじゃないだろう」というのが木内さんの主張の根底にあるというのが分かりましたので、まあなるほどという感じです。

『これらの潜在的リスクを十分に認識した上でなお、私自身が「量的・質的金融緩和」の具体的な施策に賛成しているのは、政策で生じる経済的なプラス効果の大きさが、それに伴う潜在的なリスクないしは副作用の大きさを僅かでも上回っていると判断しているためです。』

つまり、木内さんのベースの考え方として「そらまあ緩和は必要」だけども「このような規模の量的拡大政策は2年くらいで期限を切って実施するのがフィージブルであり、それを超えて実施すると財政ファイナンスガーとか市場がぶっ壊れるとかの問題が爆裂する」ので「オープンエンドで実施するのではなく期間は切った方が良いでしょ」という説明になるわけですよね。

以下の説明はまあそういう事ですよという説明っす。

『しかし、仮に現在の大規模な緩和が長期化あるいは強化されれば、逆に副作用がプラス効果を上回ってしまう可能性があります。この点、現在のコミットメントのもとでは、「物価安定の目標」を2年程度で達成するのが難しいとの見方が広がれば、プラス効果よりも副作用のほうが大きいと判断される場合でも、金融市場の期待等の外部要因に影響されて、日本銀行の政策がそうした対応を余議なくされる可能性も否定できません。私が修正議案において、「物価安定の目標」の達成時期を特定せず、「量的・質的金融緩和」を2年間程度の集中対応措置と位置付けているのも、効果と副作用の比較考量を一定期間経過した後にしっかりと点検し、経済・金融情勢次第で柔軟に見直す環境を予め確保しておくことが適当との
判断に基づいています。』

結局この「集中対応措置」という表現が木内さんの主張を分かりにくくしている訳で、ここの「2年の集中対応」という表現によって木内さんの「中長期で目指すべき」というロジックの骨子部分がぼやけてしまう(2年で集中という表現だとやはり短い期間で達成という話に見えてしまうから)のでして、単純に「2年後の状況によってその後の措置は考える」的な普通の表現にした方が良いのかも知れませんねと思うのでありました。



○2年で実施は無茶振りだし気合で何とかなるもんでは無いと言う主張

次の部分は『(2)「物価安定の目標」と中長期の予想物価上昇率』ですな。

『私の修正議案で2%の「物価安定の目標」の達成時期を中長期としているのは、2%の「物価安定の目標」は中長期でみた場合にのみ、日本経済のファンダメンタルズと整合的になりうると考えているためです。』

>中長期でみた場合にのみ
>中長期でみた場合にのみ
>中長期でみた場合にのみ

・・・・・・・・どう見ても執行部にマッコウクジラです本当にありがとうございました。

『日本銀行が実現を目指している2%の「物価安定の目標」は、物価上昇率が一時的にでも2%に到達するということではなくて、2%を安定的に持続することです。そのためには、現実の物価上昇率だけでなく、中長期的な予想物価上昇率も2%程度になることが必要です。実際の物価上昇率が平均的に2%程度で変動し、物価が概ね2%程度上がることを前提に企業や家計が行動するようになれば、中長期的にも物価の安定につながると考えられます。』

んだんだ。

『しかし、実際の物価動向は足もと上昇していますが、それにも関らず、各種関連指標に照らすと向こう5年、10年といった中長期の予想物価上昇率の上昇は緩やかです(図表9)。』

でBEIの図表とクイックのサーベイ図表が出てたりします。

『このことは、日本銀行が2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではないことを示唆しています。』

>2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではない
>2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではない
>2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではない
>2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではない
>2%の「物価安定の目標」を決定しても、それだけでは中長期の予想物価上昇率はその水準に容易に誘導されるものではない

・・・・・・・・・・・・これは!!!!!!!!!!!!!

つーことで全力で執行部の気合ロジックを否認している訳でして、こらどう見ても水と油です本当にカムサハムニダというのが判るかと存じます(;∀;)


○予想物価上昇率上昇は需要側より供給側とな

この部分の後半もほほうという感じです。

『私自身は、中長期の予想物価上昇率は、財や労働市場の需給関係よりも、潜在成長率や労働生産性上昇率などの供給側の要因で決まる部分が大きいと思っています(図表10)。』

ほう。

『「量的・質的金融緩和」をきっかけに民間の経済主体の前向きな動きが引き出され、日本経済の成長力を強化するような経済政策が併せて講じられていけば、成長力の高まりとともに中長期の予想物価上昇率も上がってくると思われます。しかし、「展望レポート」の予想物価上昇率の見通しについて修正議案を出したことに示されているように、私自身はその実現には相応の期間を要すると考えているため、「物価安定の目標」の達成時期も特定しないのが望ましいと考えています。』

なるほど。

『さらに、今後の成長力の変化や中長期の予想物価上昇率の変化を踏まえて、将来的には2%という「物価安定の目標」の水準を再検討する余地もあると考えています。』

ほほー。これ上なのか下のかは興味深いですな。まあその時しだいでどっちもという話なのでしょうがたぶん下でしょうな。最後の部分の認識も踏まえますと


○纏めの部分から少々引用だけ

その次のコーナーでは財政健全化に向けた取り組みの必要性について説明していて左様でございますなというのがあるのですがそこはパスして最後の部分を引用しておきます。

『最後に、こうした最近の海外の動向や議論のうち、先行きの日本の金融政策運営を考える上で私自身が注目している点を、2つだけ挙げておきたいと思います。』

『第1に、先ほど海外経済の動向のところで述べましたが、先進国の労働生産性上昇率のトレンドの低下傾向が示唆しているように、主要先進国では潜在成長率が低下している可能性があります。こうした構造変化に対して、金融政策は必要な構造調整を行うための時間を買うことはできますが、生産性上昇率の引き上げや労働市場のミスマッチ解消といった構造改革そのものを行うことはできません。従って、政策当局は、こうした構造変化を正しく認識して、金融政策が果たすことのできる役割とその限界を識別しながら、適切に対応していくことが必要です。構造変化を認識せずに金融緩和が行き過ぎれば、経済・金融面での不均衡が蓄積されてしまいます。』

『第2に、非伝統的金融政策と伝統的金融政策という2つの政策ツールの役割分担についてです。』

ふむ。

『この2つの政策ツールの運用についてFRB(米連邦準備制度理事会)の例をみますと、資産買入れ策は名目金利の非負制約があるもとで経済・物価に上向きのモメンタムを生じさせ、その方向性に影響を与える手段と位置付ける一方、金利政策は経済・物価を望ましい水準へと誘導していく手段と位置付けている、と私は理解しています。』

『米国でのこうした政策ツールの役割分担は、日本の先行きの金融政策を考える上でも、いずれ参考になるのではないかと考えています。』

なるほど。

『日本について、試みにテーラー・ルールに基づく政策金利水準を計算してみると、これまでマイナスであった水準が、足もとではマイナス幅が縮小し概ねゼロ%となっています。もちろん、こうした試算値は、前提条件の置き方によって変わってくるので、幅をもってみる必要がありますが、これは、「量的・質的金融緩和」導入以降の物価上昇や需給ギャップの改善を映じて、金融環境の緩和度合いが強まっており、ゼロ金利を維持すれば景気浮揚効果が先行き累積的に高まっていく可能性を示しています。』

キタコレ。

『将来、「量的・質的金融緩和」の奏功により、わが国の経済・物価の拡大モメンタムが十分に高まってきた際には、こうしたゼロ金利政策の経済効果の高まりにも注意を払いながら、2つの政策ツールについてそれぞれ異なる効果と副作用を十分に比較考量し、その最適な組み合わせを模索していくことが重要になるのではないかと考えています。』

つまりオープンエンドでMB拡大じゃねえだろと言う事ですねわかります。


ということで木内さん講演鑑賞会でございました。

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2013/09/30

○先々週のネタで恐縮ですが木内審議委員講演&会見ネタでまずは講演の残りから

今更の虫干し状態で誠に申し訳ございません。先ずは講演ネタの後半から(超大汗)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130919a1.pdf

・国内経済の下方リスク指摘、というよりはこれ殆ど見通し表明だわ^^;

経済の下方リスクとして新興国を中心とする海外経済が日銀の強気見通し対比で下振れるリスクを指摘していたという話はだいぶ前にネタにした訳ですが、実はまあそれよりも興味深い指摘は国内の方であります。

『日本経済の下方リスクという観点からは、こうした海外経済の下振れリスクのほかに、消費や住宅投資あるいは公共投資に比べるとやや出遅れ感があった設備投資が今後どの程度伸びるか、基本給を中心に賃金がどの程度増加し、消費増加の持続性を高めるかという点を注視しています。』

某師匠の場合はインフレ期待が高まって資産価格が上昇すると必然のように消費が活発化してマインドが好転するので需要が拡大し、それに伴って設備投資も拡大するという大変に都合の良い話になっておりましたが、木内さんはそうじゃねえだろとのご指摘(^^)。

『足もとの国内景気については、雇用増加や設備投資の持ち直しの動きなど、改善傾向にようやく広がりが出てきたと考えられます。しかしその半面、個人的には、これまで個人消費と輸出を押し上げ、景気の回復過程で先導役を果たしてきた円高修正・株高の効果に鈍化の兆しがみられ始めているように思います。』

(;∀;)イイハナシダナー

『その中で、個人消費がけん引役を果たす形で経済が急速に改善するという、従来とはやや異質な景気回復のパターンが、比較的通常の景気回復のパターンへと徐々に変化しつつあるようにも思われます。』

ふむ。

『具体的には、まず、個人消費については、GDP統計ベースや消費者コンフィデンス関連指標でみると、概ね堅調を維持しているようにみえます。ただ、他方で、需要側の統計でみると、家計調査統計の実質消費支出は、1−3月に大きく水準を切り上げた後、7月にはほぼ昨年末の水準まで低下するなど、株高の資産効果等による消費の刺激効果が薄れ始めている兆しも窺われます。この先、消費の拡大傾向に一服感が生じてこないか注視していきたいと思っています。』

『また、輸出についても、持ち直し傾向にあるものの、7月の実質輸出が大きく減少したことや、PMI製造業指数の輸出受注指数における改善の動きが一服していること、さらには先ほど述べました海外経済を巡る不確実性なども踏まえると、この先の輸出環境は従来ほどの改善が期待できない可能性もあると思います。』

『こうした中で、今後、設備投資がどの程度伸びるかが重要になります(図表8)。この点、企業収益が改善する中、4−6月の法人企業統計の設備投資が過去2四半期に比べプラス幅を拡大したほか、6月短観の設備投資計画をみると先行きはしっかりとした増加が見込まれていますが、さらにハードデータを確認していく必要があると考えています。』

ということで、冒頭では「下方リスク」という風に説明していますが、この部分もどう見ても「政策委員会の大勢意見と別の木内さん個人的見通し」であって、リスク認識というよりはメインシナリオじゃねえかこれという所でありますな(^^)。


・物価見通しについては当然ながら弱く、グローバルディスインフレの影響ががががが

『次に、私自身の物価・賃金動向に関する見方について、少し敷衍してご説明します。』

キタコレ。

『現在、日本銀行は、消費者物価上昇率で2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する目標を掲げています。本年2月の金融経済懇談会でも申し上げましたが、私自身、2%の「物価安定の目標」という日本銀行の決定に対する信認を強めることは、デフレ脱却に向けて重要であると考えています。ただ、後述する金融政策運営に関する私の提案とも関連しますが、肝心なのは2年間で2%を達成することではなく、日本銀行の金融政策の最終目標といえる「国民経済の健全な発展」の実現に向けた動きを後押しし、経済が上向いていく結果として、物価の上昇幅が緩やかに拡大していくことだと考えています。』

仰せのとおり。

『足もとの物価上昇には、宿泊料上昇など一部に需要増加を背景とした要素も含まれるものの、これまでのところ、電気料金引き上げや石油製品の上昇など、エネルギー価格上昇や為替相場の変動の影響といったそれ以外の要因を反映している面も大きいと考えられます(図表9)。』

ですなあ。

『しかし、経済の改善と一体で進む持続的な物価上昇を実現するためには、賃金の上昇、とりわけ所定内給与の上昇が鍵を握ると考えています。この点、所定内給与は足もとでも依然として下落を続けています(図表10)。賞与等の一時金の引き上げを実施した大手企業でも、固定費用の性格が強い基本給の引き上げにはなお慎重と見受けられます。今後は大手企業で基本給の引き上げを実施するところが出てくるかもしれませんが、賃金全体の方向性を大きく左右するのは中小企業です。企業部門全体で基本給も含めて賃金を積極的に引き上げる動きが広がり、それが基調的な物価押し上げにつながっていくためには、先行きの成長期待の高まりを通じて、労働需給がさらに改善していくことが必要と考えられます。また、雇用・賃金は景気に遅行するため、賃金の上昇を伴いながら物価上昇率が高まっていくまでには、相応の時間がかかるとみています。』

賃金の話キタコレですな、まあ当然ちゃあ当然ですが。

『ただ、時間の経過とともに賃金と物価がバランス良く上昇していく局面に至っても、現在の海外の物価環境を考え合わせると、私自身は物価の上昇はなお緩やかなペースで進むのではないかとみています。』

ほう。

『OECDのデータによると、日本の物価上昇率は、海外先進国と長期にわたり連動性を維持しながら、一貫して低位で推移してきました(図表11)。日本の消費者物価上昇率は、バブル期を含む1982年から1997年の15年間の年平均でみても、物価の下落時期を含む1998年から直近2013年までの15年間の年平均でみても、G7平均対比でいずれも2%ポイント程度低い水準となっています。また、海外先進国でディスインフレ傾向が現在も続いている点も踏まえると、日本の物価上昇率に下向きの圧力がかかりやすい状況がなお続いている可能性もあると考えています。』

ということで、賃金の上昇も時間がかかるでしょうし、さらにグローバルなディスインフレの影響も物価が上がりにくくなる要因ですよねという説明で、この辺の認識は以前佐藤審議委員もしていましたが、マーケットエコノミスト的にはこういう結論に普通はなる罠という事でしょうね、うんうん。


・中期的に達成すればいいじゃないかという件

次の『5.金融政策運営』の所で木内さんが毎回出して却下されている提案の説明がありますぞな。最初の日銀の現在実施している2年で2%関連の説明はスルーしまして木内さんの説明コーナーに飛びます。

『ところで、私自身は、日本銀行の金融政策の最終目標といえる「国民経済の健全な発展」の実現に向けて、日本経済の流れをゆっくりとでも着実に良い方向へと変えるきっかけを作りだすために、「量的・質的金融緩和」の具体的な施策には賛成しましたが、4月3-4日の金融政策決定会合において賛成多数で決定された「『量的・質的金融緩和』の導入について」と題する対外公表文については、修正を提案しました。』

『決定された対外公表文では、「日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」、「『量的・質的金融緩和』は、2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」としています。』

『しかし、前述した私自身の物価に関する見方に照らしてみますと、2年程度という短期間で2%という高い水準の「物価安定の目標」を達成することを目指すのは必ずしも最適ではないと考えました。』

まあ先程の見方を持ち出してくるとそうなるという話ですな。


『さらに重要なこととして、以下で説明しますように、2%の「物価安定の目標」について、「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」、「量的・質的金融緩和」は「これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」という、2つのコミットメントの組み合わせには、「量的・質的金融緩和」の副作用を高めてしまう潜在的なリスクが内包されている、とも考えました。』

一方でこのコミットメントを「フォワードガイダンス」と説明をする謎審議委員も居まして、何と申しますかこうカオスなものを感じますな(ニヤニヤ)。

『そのため私は、2%の「物価安定の目標」の達成時期、および「量的・質的金融緩和」の継続期間について修正を提案し、9月4-5日に開かれた直近の会合まで毎回同じ趣旨の修正議案を提出し続けています。』

『修正議案では、「日本銀行は、中長期的に2%の『物価安定の目標』の実現を目指す。そのうえで、『量的・質的金融緩和』を2年間程度の集中対応措置と位置付け、その後柔軟に見直すこととする」と対外公表文を修正することを提案しています。この修正議案のポイントは2点あります。第1に、2%の「物価安定の目標」の達成時期を2年程度と限定していない点、第2に、「量的・質的金融緩和」の継続期間については2年程度を目途とし、その時点で必要に応じて柔軟に見直す、との考えを明確にしている点です。』

この2番目が判りにくいのですが・・・・・・・・・・

『既に4月3-4日会合の議事要旨で明らかにされていますが、このような修正を提案したのは、(1)2%の「物価安定の目標」を2年程度の期間を念頭に置いて達成するには、大きな不確実性がある、(2)そうした中、「量的・質的金融緩和」が長期間にわたって継続するという期待が高まれば、同措置が前例のない規模の資産買入れであるだけに、金融面での不均衡形成などにつながる懸念がある、と考えたためです。』

まあ見通しが2年で2%無理無理無理というのであれば、木内さんの想定する異次元緩和というか年間MB70兆円拡大という政策が延々と続く、という見通しになりますので、それはやりすぎでしょうという話だというのは何か把握しました。

『同会合の議事要旨では、このほかの潜在的なリスクとして、財政ファイナンスの観測を高める可能性のほか、金融機関の収益を圧迫して金融システムの脆弱性を高める可能性、市場機能を大きく損なう可能性なども指摘されています。』

まあ既に市場機能は・・・・・・・・

『こうした潜在的リスクを十分に認識した上でなお、私自身が「量的・質的金融緩和」の具体的な施策に賛成しているのは、政策で生じる経済的なプラス効果の大きさが、それに伴う潜在的なリスクないしは副作用の大きさを僅かでも上回っていると判断しているためです。しかし、仮に現在の大規模な緩和が長期化あるいは強化されれば、逆に副作用がプラス効果を上回る可能性が高まる惧れがあります。この点、現在のコミットメントのもとでは、金融市場の期待等の外部要因に影響されて、日本銀行の政策がそうした対応を余儀なくされる可能性も否定はできません。』

とまあそういう説明になっていまして・・・・・・・・・

『私が修正議案において「量的・質的金融緩和」を2年間程度の集中対応措置と位置付けているのも、こうした点に配慮し、「大規模な金融緩和の副作用が効果を上回ることがないか」ということを一定期間経過した後にしっかりと点検し、経済・金融情勢次第で柔軟に見直す環境を予め確保しておくことが適当、との判断に基づいています。』

何となく木内さんの意図が把握できた気がするのですが、あたくしの解釈が間違って居なければ、つまりは「オープンエンド型のMB拡大継続ではなくて、とりあえず今決めた分だけはやる」という形にしたいという事だと思うのですよね。

そうなりますと、木内さんの提案なのですが、「2年間程度の集中対応措置」という言い方が表現として判りにくくなっていると思うのですよ。それよりも単純に「中長期的に2%を目指す」というのと、「その為にMBを2014年末に270兆円程度に持って行きます」というだけの表現(「集中対応措置」という言い方をしない)にして、ただしその買入の規模やペースについては必要があればState-Contingentで対応しますよという注釈をすればすっきりすると思うのですよね。どうもこの「集中対応措置」というのが却って木内さんの意図を分かりにくくしているように思えますがどうでしょうか。


・市場とのコミュニケーションとな

なお、こんな説明もついております。

『この修正議案は、市場と中央銀行との間のコミュニケーションの改善にも資すると考えています。』

ほほう。

『現時点では、2%の「物価安定の目標」を2年程度で達成するのは難しい、という見方が国内債券市場ではなお有力であると思います。』

有力どころか(^^)。

『このため、「物価安定の目標」の達成時期に関する日本銀行の情報発信との間には少なからぬギャップが存在しており、先行きの金融政策等に関する債券市場の予想を不安定化させる潜在的な要素となっていると私は考えています。この点、2%の「物価安定の目標」の達成時期を「2年程度」と特定せず、「中長期」に変更することで、先行きの景気・物価ならびに金利観に関して債券市場での自発的な期待形成が促され、市場と中央銀行との間のコミュニケーションの改善が図られるのではないかと考えています。これによって、債券市場の安定にも貢献すると考えています。』

まあその前に力技で債券市場の自発的な価格形成機能が潰れつつありますけどね!!!!


○木内さんの会見から少々

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1309c.pdf

・つまり今の金融政策は緩和のやり過ぎという認識ですねわかります

『(問) 午前中の講演の中で、審議委員は、下振れリスクを懸念されていると述べておられますが、そうなると、政策の必要性の議論になりかねません。講演では一方で、強力な金融緩和が長期間続くことによる金融のインバランスとか、副作用をもたらすリスクについても述べられていますが、前者と後者、すなわち、下振れを心配されているということと、現状の金融緩和をさらに強化する際の副作用が生じかねない点のバランスについて、どのようにお考えですか。』

これは良い質問。

『(答) 基本的には、独立した判断ということです。前者については、純粋に経済の判断ということでして、国内経済が緩やかに回復しているという判断自体には違和感はありませんが、先行きについては下振れリスクがあるのではないかと思っています。最大の理由は、海外経済、特に新興国の弱さ、新興国自体が従来の不均衡の調整過程に入っているのではないかと思っています。一方で、先進国経済は、新興国経済の落込みを大きく補うほどの力強さがないだろうという趣旨のことを講演で述べています。』

ふむ。

『一方で、政策については、追加措置が必要かどうかは、現時点では申し上げることはできないですし、今後、予断を持たずに判断していくということだと思います。』

ここの所だけヘッドラインになっていましたが、前後(というか後)の文脈を読むと・・・・・・・・・・

『ただ、4月に「量的・質的金融緩和」を決めた時点では、非常に積極的な政策を行ったわけです。その結果として、仮に追加策をするとしても、追加措置による効果、プラスの面というのは逓減していきやすいということだと思います。非常に大きな政策を決めたわけですので、追加策をとるとしても、追加分のプラスの効果は必ずしも大きくはならない一方で、副作用が次第に大きくなる可能性はあると思います。』

キタコレ。

『特に追加策がなし崩し的に進んでしまう場合には、副作用の方が非常に大きくなるということですから、効果より副作用のほうが大きければ、政策として実行すべきではないということになります。』

つまり現時点の政策が既にやり過ぎでしょという認識ですねわかります。

『ただ、どのような時に効果の方が副作用を上回るのかというと、非常に大きな経済のショック、金融のショックという時には、追加策が必要になってくる、正当化されるということだと思います。中央銀行には、Last Resortという機能があると思います。Lender of Last Resort、すなわち、「最後の貸し手」という意味だけではく、広い意味で、経済が非常に大変な事態になった時には手を差し伸べるといった機能は、絶対に残されていると思います。』

『また、「量的・質的金融緩和」というのは、マクロ経済政策としての枠組みですが、それとは別に、我々には「金融システムの安定」という目的もありますので、「金融システムの安定」が何がしかの理由で揺らぐような場合には、当然追加措置が必要であり、それがもしかすると今の「量的・質的金融緩和」を修正しなければならない事態となることもあり得ると思います。』

まあつまり明確な下方ショックがあれば通常の政策というよりは信用緩和的(というかQE1的というか)な意味での政策発動はありますよと。

『そういう意味で追加の道はあるわけですが、それなりの大きなショックでないと、効果・副作用のバランスから考えて、適切な措置ではないということになるのではないかと思います。』

ということですな。


・非伝統的政策のコミュニケーションと資産買入の運営について執行部に盛大にイヤミを

『(問) 2点あります。1点目は、先程の、FRBが緩和の縮小を見送った件ですが、バーナンキ議長をはじめFRBの、市場との対話とか、メッセージの発信の仕方について、どのような所見をお持ちでしょうか。市場へのシグナルとして、そろそろ始めるよと言っておきながら、9月に縮小を開始しなかったというのは、市場にとってサプライズであったようですので、その辺のコミュニケーションについての所見をお願いします。』

『2点目は、講演の中で、FRBの政策ツールの組み合わせについて、日銀の将来の政策に参考になるのではとお話されている点についてです。これは、資産の買入れで景気拡大のモメンタムが十分に高まったら、今度はゼロ金利政策について今よりも明確な何か政策のメッセージを出していくとか、資産買入れを縮小する段階で今度はゼロ金利政策の効果にフォーカスした政策を採っていくとか、今の枠組みの中での変更、出口を意識した説明なのか、その辺りをお伺いしたいと思います。』

中々良い質問ですな。で、答えがこれまたお洒落。

『(答) 1点目についてですが、印象ということでいうと、非伝統的な政策、資産を大量に買い入れる政策の正常化というのは非常に難しくて、その難しさの1つが、市場とのコミュニケーションであると思います。』

ですなあ。

『資産の買入れの縮小自体は、引締めではなくて、緩和の度合いをやや弱めるということであり、これが短期金利の引上げに直接つながるものではないのですが、市場は先々を読んで判断しますので、この春、思ったよりも長期金利が大きく上がってしまった、あるいは新興国の金融市場が動揺したということだと思います。その結果として、国内での金利の上昇が、例えば消費であるとか、住宅投資にマイナスの影響を及ぼし始めたのではないか、あるいは新興国での金融市場の混乱が回りまわって米国の経済の輸出環境を悪くするのではないか、といったことに配慮した結果であろうと思っています。』

『政策自体は、市場の期待に左右されるのではなく、あくまでも経済データ、経済情勢を基本に判断していくというメッセージを今回FRBは送っていますが、市場とのコミュニケーションの過程で金融市場が大きく動き、それが先行きの経済の見方を変えてしまうということが起こってきているのかなと思っています。』

『どこに原因があるのかといえば、非伝統的な政策が持つ1つの副作用、つまり、金融面でのいわゆる不均衡を作ってしまい、その結果として、正常化のメッセージを送ったときに、市場がやや過剰な反応をしてしまい、経済にマイナスの影響が起こり、正常化の見通し自体がやや修正されてくるということであり、非伝統的な政策の正常化の過程での市場とのコミュニケーションの難しさを象徴しているのかなと思っています。』

うむ、読みようによっては中々いい感じで辛辣。

で、2点目ですが。

『2点目についてですが、講演でも触れましたが、FRBの政策運営は、非伝統的な政策――フォワード・ガイダンスと資産の買入れ――と、伝統的な政策としてのゼロ金利政策との2つのバランスで考えるということです。従って、資産の買入れを縮小するからといって、緩和自体をどんどん一方的に後退させるのではなく、ゼロ金利が残るので、かなり緩和状態が続くのだといった考え方です。』

ふむ。

『あるいは両者の政策について、役割を分けているわけです。つまり、資産の買入れについては、オープンエンドといったメッセージを送ったこともありましたが、基本的な考えとしては、経済のモメンタムに影響を与えて高める一時的な措置であり、副作用について分からない部分もあるので、ある意味であまり長く続けるとリスクが高いという考え方が一般的だと思います。』

どう見ても政策委員会を銃撃しています本当にありがとうございました。

『一方で、金利政策については、従来通りの伝統的な政策なので、もちろん副作用はありますが、ある程度既知のものであると思います。資産の買入れのように短期間で経済のモメンタムを高めることはできませんが、経済が改善し、インフレ率が高まってくると、金利をゼロに据え置くだけで、累積的に金融緩和の効果が高まってくるため、じわじわと経済への刺激効果が出てくると思います。』

つまり・・・・・・・・

『FRBは、資産の買入れからだんだんと金利政策の方に重点が移ってくるというプランで考えていると思います。全く個人的な考えですが、日本銀行でも同じような考え方もできるのではないかと思っています。』

まあ4月に全力で逆方向にエンジンフルスロットルにしたばかりなので無理だと思いますが(−−;

『私自身が、、「量的・質的金融緩和」をとりあえず2年間程度の集中対応措置と位置付け、その後はもう一度冷静に考えましょうと提案している1つの背景には、モメンタムに影響を与えるというのは、それほど長期間続けても、ベネフィットとコストが見合わないのではないかと思っている一方、「量的・質的金融緩和」により、経済のモメンタムが高まる、あるいはインフレ期待が高まるということになれば、金利をゼロに据え置くだけでも、期待インフレ率が上がって実質金利が下がってくる、あるいは期待収益率が上がってくるので、緩和効果が出てくるとの考えがあります。』

つまり買入をやり過ぎじゃヴォケということですねわかります。

『政策は、「量的・質的金融緩和」一本ではなくて、将来は金利も視野に入れて、二本立てで、それぞれの効果と副作用のバランスをみながら、運営していくのがよいのではないかと考えています。そういう点で、米国の政策というのは、参考になる部分があると思っています。』

という感じでしらっと辛辣であります。

ちなみに質疑の引用は時間と量の関係でこんなもんにしておきますが、今回の木内さんの質疑応答って木内さんの説明がやたら長くなっていまして、まあ読みごたえがあると思いますので今さらながらですがオヌヌメでありまする。

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2013/09/20

○木内さんの講演をやる時間ががががががが

木内さん渾身(かどうか知らんが)の講演を結果的にパスする結果になりまして誠に申し訳ございません。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130919a1.pdf

時間が無いので(すいません)続きは来週ですけれども、今回の木内さんの講演では景気の見方に関して執行部の中心的見解と比較して「海外経済の先行きに下方リスクを強く感じている」というのが特色だと思います。あと特色は当然の部分ですけれども毎度決定会合で反対&少数提案をしている「2年で2%は無理じゃろ(超意訳)」部分であります。

ということで『3.経済見通しの下方リスク』だけ引用しますね。

『(1)海外経済を巡る不確実性』

キタコレですが。

『以上の経済・物価見通しのメインシナリオに関して、私自身も、日本経済の先行きについては、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基本的に景気の前向きな循環が維持されていくと考えています。但し、個人的には、下振れリスクの方をやや大きめに考えています。その主な理由は、海外経済、なかでも新興国経済を巡る不確実性の高まりにあります。』

ふむ。

『IMFの世界経済見通しの最近の修正状況を振り返ってみますと、2012年4月時点で予想されていた成長見通しは、その後、下方修正を続けています(図表5)。当初は十分に予見されていなかった新興国経済の減速が、その背景にあると考えられます。さらに、最近、一部の新興国・資源国において通貨安・株安が長引いている背景には、過大な成長期待を背景にリーマン・ショック後に形成されていった経済・金融面での不均衡の調整という側面があるように思います。こうした不均衡の形成は、新興国・資源国の民間部門における債務の累積に端的に表れていると思います。世界銀行のデータでみると、低中所得国の民間部門向け与信のGDP比率が2009年頃から顕著に水準を切り上げていることが確認できます(図表6)。』

だすなあ。

『他方で、米国経済を中心とした先進国経済が、新興国経済の減速をカバーしつつ、この先世界経済を十分に下支えできるかについても、不確実性が残っています。』

キタコレ!

『この観点から、特に足もとの米国の長期金利や原油価格の動向、米国の労働生産性上昇率の低下に注目しています。米国の本年前半の非農業部門の労働生産性上昇率は前年比ほぼ横ばいにとどまりました(図表7)。これは過去の年間値と比較すると、1993年以来の低水準です。労働生産性上昇率のトレンドが低下している場合には、安定した雇用増加が続いても、先行きの所得増加期待は容易に高まらず、米国経済の先行きを大きく左右する個人消費になかなか力強さが戻らないことも考えられるため、その動向を注視していきたいと思います。』

ということで、もう一つは国内要因なのですが、その辺を含めましてと後半の2年で2%に関する部分は会見テキストと共に週明けにでも、というかBOEのミニッツとFOMCの会見ネタがあって、どうせFOMC終わったのでまたぞろ連銀の皆さんがピーチクパーチク言い出すでしょうし、中々ネタ満載モードではありまする(他にも日銀から信用金庫の経営指標に関するペーパー出てたし)。

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2013/03/06

○木内審議委員会見ネタ続き

読み溜めている連銀のいろんな人の講演ネタとかBOE議事要旨ネタとか、面白いと言って紹介を始めたのにすっかり途中で終わっているスタイン理事講演ネタとか、つい勢いの悪態の方がツッコミ所だらけなもので放置プレイと化しておりまして積読ならぬ積ネタ状態(しかも積読と違って積ネタは放置していると賞味期限が切れてネタにならなくなるという残念な仕様)のあたくしですので全力でネタを成敗していきたい所存ではございますが、月曜にやりかけて放置している木内審議委員の講演デビュー戦の会見ネタをまずは(汗)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1303a.pdf

・まあ元々2%目標が拙速といってるのですから当たり前ですが・・・・・・

この質疑を見ますと今後のMPMでの論議がどうなるのか是非拝見したいものであります。当事者的には色々と大変だと思いますので面白いとかあまり軽々しく言う物ではないのでしょうが。

『(問) 本日、国会に日銀総裁・副総裁の人事が提示され、アジア開発銀行の黒田氏が総裁候補として提示されました。黒田氏は2%の物価目標の達成時期について「2年ぐらいが適切だ」と発言していますが、これについては現実的だとお考えでしょうか。また、ご自身も改めて2%の目標については、「1%に戻すのは良くない」というような趣旨の発言がありましたが、実際に2%の物価目標が実現するにはどの程度の期間が必要だとお考えでしょうか。』

『(答) 2%の物価目標の達成については、既にお話しているように、容易ではないということです。さらに加えて、私どもが展望レポート・中間評価で示している消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで見た消費者物価の上昇率は、2014年度の中央値で+0.9%となっています。それを踏まえると、2%というのは決して容易ではありませんし、短期間で達成できるというよりは、相応の時間を要するものではないかと思います。』

という見通し部分は兎も角としてこの先が中々。

『この点については、私どもから何度も説明していますが、拙速に物価を目標値に近づけていくというのは、私どもが掲げている「物価安定の目標」ではないということです。私どもが目指しているのは、あくまでも長い目で見た経済の安定と発展ということです。物価の安定というのは非常に重要ですが、仮に短期間で物価を非常に押し上げることができたとしても、例えば物価が上がって賃金が上がらないという状況になると、それは結局、所得環境を悪化させ、消費を悪化させて、2%を比較的短期間で達成できたとしても、長い目で見ればそれは一時的でしかない、ということになります。』

全く同意。

『そういう点で考えると、物価を機械的に誘導するのではなく、成長力の強化、特に生産性が高まるということが重要で、これについては日本銀行も努力し、政府あるいは企業の各主体の努力の累積によって実現していくものだと思っています。そのもとで、日本銀行の金融緩和も後押しし、物価と賃金、成長率がバランスよく高まっていくことで、非常に安定した形での物価目標が達成できることになるのではないかと思います。』

ですです。

『先行きについては、不確実性が高まるので、「いつまでに」と設定をするのは妥当ではないと思いますし、これは日本銀行だけではなく、現在、物価目標を導入している世界の中央銀行のほとんどが、時期を特定していないという点からすると、比較的、国際的な基準に沿った判断ではないかと考えています。』

キターーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーー!!!!!!!!

2年間がグローバルスタンダード(キリッ)というはるちゃんきくちゃんコンビdisキタコレという所ですが、これはまあ各国中銀の金融政策運営を見ておりますと(だいたいインフレ目標設定国の英国が目標逸脱を何年続けてると思ってるんだという上に、直近では景気がアレだから物価が暫く上に振れるのに緩和をどうしましょという話をしているんですよねえ)木内さんの説明の方がどう見ても普通です本当にカムサハムニダ。


・追加オプションのプロコン比較

『(問) 4点あります。まず、本日の挨拶要旨の中で、「資産買入等の基金」の運営に関する論点ということで、3点あります。1つは、付利の撤廃の話であるとか、買入れ対象となる国債の残存期間の伸長といったところを挙げておられますが、それぞれに対して委員ご自身としてはどのように考えていらっしゃるのか、もう少し教えて下さい。(以下割愛)』

『(答) 第1の点で、個人的にどう考えているかというのは差し控えますが、既に挨拶要旨の中に書かれている範囲内で言うと、色々な政策オプションが議論されていますが、それぞれコストとベネフィットを勘案しながら実施していくことが重要です。』

といいつつもプロコンの分析の話が出てくるのが木内さんのオモロイ所。

『資産の買入れについては、先ほども申しましたが、持続性と政策効果の2点を重視しながら、政策の対象を考えていくという姿勢が重要だと思います。ただ一方で、その結果として、より年限の長い国債を買う場合には――これは4番目の質問と関連してきますが――財政ファイナンスと捉えられるリスクが高まる可能性がないわけではありませんので、こういったコストの面にも注意しながらやっていく必要があると思います。』

『付利金利の引下げについては、そのデメリットというのは、総裁の記者会見などでご説明しているのですが、例えば、市場機能が低下してしまうという面がありますし、金融機関の収益が悪化すると、私どもの政策効果が減じられてしまう可能性もありますので、それもコストの一つだと思います。そして、私が一番コストとして感じているのは、資産の買入れという政策自体の運営をやや難しくしてしまう面があるのではないかという点です。資産の買入れの裏側には、当座預金の積上げあるわけですが、付利金利を引き下げると、金融機関が当座預金を持つインセンティブが低下してしまうことになります。そうなると、オペによる資金供給が、将来もしかしたら難しくなる――難しくなるかどうかはわからないのですが――リスクを幾ばくか上げてしまう可能性があると思います。それが、コストということだと思います。一方、ベネフィットについては、金利を下げる方がいいということで、これは明らかではないかと思います。』

ベネフィットが明らかというのを見て一瞬付利下げを選択肢にしているのかと焦りましたがさにあらずというのはこのちょっと先に出てきます。

『リスク性資産の買入れについては、色々な金融市場に対して、期待に働きかけるのがプラス面、つまりベネフィットということですが、一方で、マイナス面としては、バランスシートを毀損してしまうと、日銀の健全性というものが通貨価値の安定と関わっているため、それを損なうというリスクを考えなければいけないということだと思います。』

で、結論ですが。

『それぞれコストとベネフィットがありますので、それを勘案しながらやっていくということになりますが、私の基本的な感覚としては、この挨拶要旨に書いた通りで、資産を買い入れることが重要で、持続性と政策効果の面から工夫していくことが必要であると思っています。そして、これらの政策を運営する上では、政府との協調が必要であり、政府が財政健全化という方針をより強化していくということであれば、日本銀行がより資産を買う余地が高まっていく、あるいは長めの年限の資産を買っても財政ファイナンスと誤解されるリスクが下がっていくという点からすると、政府との協調強化は、私どもが今後金融緩和を進めていく上で非常に重要な要素ではないかと思っています。』

ということで資産購入重視ですから付利はまあいじらんだろうなあという所です。


・銀行券ルールに関して

上記の質疑と同じなのですが財政ファイナンス絡みで銀行券ルールに関する質問がありましたのでその答えの部分を引用します。

『4番目の日銀券ルールについては、これも具体的な政策についてお話できないのですが、仮に年限の長い国債を買っていくということになると、やはり、今の基金を通じた買入れと、いわゆる輪番オペを通じた国債の買入れとの境目が不明確になってしまうので、将来的には何らかの工夫が必要だと思います。その際には、日銀券ルールについて、何が適切であるかを見直していくことも、検討課題になるかもしれない――これについて正直にいうと、差し迫った課題ではないように思いますが、将来的には課題になってくると思います。』

『ただ、日銀券ルールは、ある意味、「財政ファイナンスではない」ということを担保しているルールですので、そういった重要性にも配慮しながら、将来適当な時期に慎重に判断していきたいと考えています。』

まあ銀行券ルールに関しては「財政ファイナンスではない」という説明のルールであるのと同時に通常の金利誘導政策を行っている時には調節技術上これを入れておいた方が市場金利の誘導を円滑に行う事ができて、変なストレスを市場に掛けないという技術的な論点もありますので、少なくとも包括緩和政策を実施して量的緩和状態になっている場合は、調節技術上の問題には抵触しませんから「財政ファイナンス」の部分をどう担保するのかという論点で考えるものですが、当然ながら正常化の場合も考えないといけません罠。

という所で。

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2013/03/04

○木内審議委員会見ですが時間の都合上今日は少々で明日に続く所存(汗)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1303a.pdf

雑談書いてたら肝心のネタががががが

・2%の数字がどうかという質疑だがどさくさに紛れて質問に悪態

3ページ目にある質疑なんですけど、まあ2%に関する質問は良いのですが読んでて物凄く違和感を覚えた質問があったので全力で悪態。

『(問) 2点伺います。まず物価目標2%の導入に関して、委員は1月の決定会合で反対され、本日の挨拶要旨でも容易ではないという考えを示していますが、その考えについて改めて教えて下さい。また、「アベノミクス」に関しては懐疑的ということなのでしょうか。「アベノミクス」が唱える、デフレからの脱却に対する良い面と悪い面などの評価を教えて下さい。』

>「アベノミクス」に関しては懐疑的ということなのでしょうか
>「アベノミクス」に関しては懐疑的ということなのでしょうか
>「アベノミクス」に関しては懐疑的ということなのでしょうか

・・・・・・・・・・・・?????

えーっとですな、とある政策が打ち出された時に「その政策の理屈は良いのだが実際問題として実行可能なのかという点に疑問がある」という指摘をすると何で「懐疑的という事か」という質問になるのか全く意味が分かりません。

政策なり施策なりに関しての実現可能性に無理があるのではないかというような言論をいうとその政策に対して反対みたいな言い方をするというのは、「暴支膺懲」とか「鬼畜米英」とか言って世の中を煽って反対言論を封殺して回った時代のメディアから行動様式や精神構造が変わってないんですねえとか思うのである訳で、すっかりアベノミクス翼賛モードになっているメディアの翼賛体質が良く表れている質問だなあとか思うのでありますよ。

でまあそんな悪態どうせ聞こえないでしょうけれども、質問した人は恐らくそう悪態をつかれてもそんな意図で質問した積りじゃないと言うのでしょうが、そんな意図が無い中で翼賛モードになるという方が質が悪いんですよねえとか思います次第。

などとこの質疑の質問を見て湯気を出している場合でも無いので木内さんの説明を読みましょう。

『(答) 1つ目の質問については、挨拶要旨において、かなり細かく説明しましたので、要点だけ簡単にお話ししたいと思います。』

といいつつ結構話が長いのがチャーミング。

『まず、1月の決定会合では、2%の「物価安定の目標」の導入には反対しました。これには主に3つの理由があります。1点目は、望ましい物価の水準、つまり、持続可能な物価の安定の水準というのは、企業・家計の物価観の大きな影響を受けると考えています。この1年間を考えると、この物価観に大きな変化がないということです。それを踏まえると、2%というのは従来の私どもの持続的な物価安定の考え方からするとやや飛躍があり、高過ぎるのではないかと感じたという点です。』

『2点目はこれと関連しますが、もちろん高い目標を掲げることによって強く期待に働きかけるというのは重要な点かもしれませんが、高過ぎるということになると、期待に働きかけるプラスの効果もあまり大きくないのではないかと思います。それを達成するための道筋について、説得力をもって強く説明するのは容易ではない、と感じた次第です。』

まあそれに関しては「りろんてきしちゅう」の木久扇規久男先生がいますよ(棒)。

『3点目は、2%の目標実現には成長力強化に向けた幅広い主体の取組みが必要であると私どもは謳っていますが、それはこれからの話です。その実現には不確実性が伴うと思われるため、その実現にかかる不確実性が高い現段階で、それを前倒しして物価目標に反映させると、金融政策に対する信認が毀損されてしまうのではないかという点にも配慮しました。』

『これらの3点から、現状では当面1%の物価上昇率の目標を掲げ、その実現に全力を尽くすといった姿勢を維持した方が、結果的に政策効果が大きいのではないかというのが反対した理由です。』

でまあ2月賛成の理由は以下の通り。

『一方で、2月の政策決定会合では、2%の物価安定の目標を含む対外公表文に賛成しました。挨拶要旨にありますが、2%の物価安定の目標の実現というのは容易ではないという考えに変わりはなく、先ほどお話した、持続的な物価安定水準を大きく規定していると考えられる国民の物価観も、依然として大きな変化はないと考えています。』

『しかしながら、この2%の物価安定の目標を導入したことが、金融市場の期待にかなり強く働きかけたことは確かです。』

ふむ。

『金融市場に既に反映されたという点を踏まえると、それは尊重すべきではないかと思います。』

なるほど。

『さらに2%と掲げたものをまた1%に戻すということになると、政策に対する信認が損なわれるというマイナス面も大きいと思いますし、引き続き反対を示した場合には、どこかで2%の物価目標が覆るのではないかという考えが金融市場に拡がり、私どものデフレ脱却に向けた姿勢がむしろ弱いのではないか、政策効果が逆に弱まってしまうのではないかと考え、2%の物価安定の目標に賛成しました。』

なるほど。んでもってアベノミクスがどうのこうのは以下の通り。

『2つ目の質問の「アベノミクス」に対しては、政府の経済政策に関することですので、直接的な意見は差し控えたいと思いますが、今後進められるであろう構造改革については、非常に前向きな期待をしています。』

というかそれやらないと2%無理無理無理という話ですわな。

『つまり、それによって生産性が上がってくる、成長力が強化されてくることが、日本経済の改善につながることになりますし、さらに言うと、2%の物価安定の目標を後押ししてくれるという点で非常に期待しています。加えて、安定的に金融緩和政策を運営する上で重要な、財政の健全化については、政府は中期的な財政の健全化という姿勢を既に示していますが、今後も引き続きそれを維持・強化して頂くという点に期待したいと思っています。』

ということで成長戦略と財政健全化に取り組んでくださいという話で綺麗にまとめております。

#他に色々あるのですが時間の関係上以下明日に(汗)

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2013/03/01

○木内審議委員講演:読みようによっては色々な所にニヤリとする物を埋め込んでいる仄めかしメソッドにも見えます

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130228a1.pdf

つーことでデビュー戦。まあ同じ市場エコノミスト出身として佐藤さんと比較されやすいかなとは思いますが、物価に関するビューは(佐藤さんと共に反対したのですから当たり前ではありますが)佐藤さんとビューが重なっている部分が結構ありますが、説明のポイントは微妙にずらしている(本質的には似てると思うけど)のですねえとか思ったり。

あと、微妙に端折っている部分があるなあとか思いまして、そこの所はもうちょっと詳しいと良いのですがとは思いましたが、詳しくするとクソ長くなるという問題点がありまして、ここのバランスは難しいですよねと思いますです、はい。

それから小見出しにしましたように、読んでいて(真意がどこにあるのかは勝手にこっちが憶測しているだけなので違っているかもしれませんが)微妙にニヤリとするような砲撃を加えている仄めかしメソッドっぽい部分があるのがチャーミングですなあ(佐藤さんの場合は説明が丁寧な分砲撃状況が判りやすい^^)という所で。以下参ります。


・今後の経済の下方リスクでは中国の記述がちと詳しいですな

経済の基本的な見通し部分は普通に執行部ベースの話をしておりますのでその辺は全部スルー致しまして、たぶんこの辺から木内さん独自の視点が入っているなあと思う所から参ります。本文4ページの『4.経済見通しの下方リスク』から。

『以上の経済・物価見通しのメインシナリオに対して、私自身は下振れリスクの方をやや大きめに考えています。』

『最大の懸念は海外経済の下振れです。海外経済は今後減速した状態を徐々に脱していくと予想しますが、その回復力の持続性については予断を許さないと見ています。』

ということで米国、ユーロ圏、中国の話をしていますが、中国に関する説明が長めなのがほほうという感じです。以下引用しておきます。

『米国では、短期的には、住宅投資と個人消費が持ち直しの牽引役を担うと思われますが、足もとでの長期金利の上昇傾向が今後急激に強まる場合には、先行き、資金調達面から住宅投資や自動車購入に悪影響を与えることが懸念されます。また、なお残る財政を巡る不透明感が、マインド面への影響を通じて米国経済を下押しするリスクにも注意が必要です。』

『ユーロ圏では、政治的・社会的な不安定さが財政再建や経済構造改革の進展を妨げたり、各国間の利害調整に時間を要し財政・銀行同盟などの統合深化に向けた動きが弱まること等を契機に金融市場が再び動揺するリスクは常に意識せざるを得ません。また、銀行の貸出態度に緩和の兆しが見られないことから、資金調達面での制約が後退局面から脱する動きを阻害する事態が長期化する可能性があります。』

で、中国。

『中国については、政府の政策姿勢が最も注目されます。リーマン・ショック後の積極財政策が設備過剰、不動産市場の過熱など多くの課題を残したことへの反省から、前政権はその後、景気減速下でも財政出動策を慎重に進め、現政権下でもそうした慎重な姿勢が維持されているようにみえます。それに加えて、インフレ率の上昇、前政権が抑制を図っていた主要都市での住宅価格の反転上昇、高いリターンを求めて個人資金が流入している信託などシャドーバンキングの急拡大、の3点を主に警戒し、政府が今後財政政策面での緩和姿勢を後退させる可能性も排除できません。』

『金融政策面でも、中国人民銀行はインフレ抑制を最優先課題に掲げる意向を示しています。また1月には銀行貸出が拡大したことを受けて、当局が大手銀行に貸出抑制を指導したとの報道もされています。当局は、シャドーバンキングについても、リスク管理の強化を進める方針を示していますが、こうした動きによって、インフラ・不動産投資などが顕著に抑制されるリスクもあります。』

ということで中国の過熱の反動を警戒しているようですな。まあ米国と欧州に関しては衆目の一致する所で、ある程度警戒モードではありますので中国の過熱が反転するような変化の方がインパクトがあるんじゃネーノという所なのかもしれませんね。


・需給ギャップは戻らないキタコレ

『主要国の需給ギャップは大幅なマイナス水準が続く』という小見出しが更にほほうという所です。

『上記のような短期的な景気下振れリスクのほかに、中長期的にも、欧米や中国経済が過去の信用バブルの後遺症から脱するにはなお時間を要することが懸念されます。』

ほほう。

『わが国が経験したことと同様に、企業は今後も慎重な雇用姿勢を続け、また高水準の失業率が続く中で家計の中長期の所得期待が低下し、その結果、雇用・所得の拡大を伴う、自律的な景気回復に繋がるには相応の時間を要する可能性が高いとみています。この観点から注目したいのは、先進国では、経済の需要と供給のバランスを示す需給ギャップが、リーマン・ショック以降、一様に大幅なマイナス水準を続けていることです。』

キタコレ。

『OECD(経済協力開発機構)によると、主要先進国の需給ギャップは2009年にGDP比−4.0%に達した後、2013年でもなお−3.3%とマイナス幅が3%を上回ると見込まれます。OECDによる昨年11月時点の需給ギャップ見通しによると、日本の水準は2013年で−2.1%ですが、米国とユーロ圏ではそれを大きく上回るマイナス水準が見込まれています。』

これはつまり・・・・・・

『高水準の需給ギャップのマイナスは、バランスシート調整等、信用バブルの後遺症から生産設備や労働者の余剰状態が長期化していることを意味します。これは企業の収益性を損ない、さらなる投資の抑制をもたらすと共に、家計の所得増加期待の低下から消費を抑制し、さらにインフレ率の低下傾向を助長する面があります。わが国の主要輸出先である主要国でのこうした状況を踏まえると、わが国の輸出環境には、多少長い目で見ても大きな不確実性が残ると言わざるを得ません。』

ということで結語が輸出環境になっていますが、この説明部分の真のポイントはそのひとつ前にある「先進国経済は需給ギャップのマイナス継続によって物価が上昇しにくくなっている」という部分ではないかとあたしゃ思うのでありまして、つまりこの点によって物価見通しを高めに見ることが出来ませんよという話だと思うのですが、あまり物価が上がらないという話を連発するのも良くないとでも思ったのかなあとか妄想しましたけど、この部分は物価に関するビューとして強調した方が話が分かりやすくなるような気がしましたです、はい。


・悪い円安や悪い金利上昇のリスク指摘キタコレ

まあ話をしている内容自体は一般的な話ではありますがここでこれを指摘するとな、ということで『貿易赤字拡大と金融市場の安定性』から。

『わが国経済の下方リスクについては、貿易赤字拡大傾向の継続と、その金融市場への影響にも十分に注意を払う必要があります。既にお話ししましたように、わが国の経済成長率は、当面の間は比較的順調に高まっていく見通しであるのに対して、海外景気の回復は力強さを欠く可能性が考えられます。また、素原料輸入は今後も高い水準になると予想されます。こうした状況は、貿易赤字の拡大方向に作用する可能性があります。』

さいですな。

『貿易赤字拡大は為替市場の需給関係変化等を通じて円安圧力となり、景気浮揚や輸入物価の上昇などの面から長期金利上昇要因となるだけでなく、国内資金余剰の後退という側面からも長期金利を上昇させる等、金融市場を不安定にさせる可能性があるため、実体経済への影響を含め注意が必要です。』

ほほう。

『さらに財政政策運営への信認が揺らぐことを通じて、長期金利が上昇する可能性もあり、その上昇の程度によっては銀行システムの不安定性を過度に高めることも含め、国内経済に大きなマイナスの影響を与える可能性があります。』

キタコレ。

『わが国の長期金利は今のところ安定を維持しており、これは、財政に対する信認がしっかりと維持されている証左とみています。しかし、欧州債務危機等の経験に照らせば、市場のセンチメントは、なんらかのイベントを契機として、いきなり非線形に変化しうることを踏まえると、その変化等を、リスク要因として、しっかりとモニタリングし続けることが必要です。』

ということで、まあ話の趣旨自体は特に突拍子もない話をしているという訳では無いのですが、このタイミングでこの点をわざわざ小見出しつけて指摘するとな。


・物価に関する見方:そもそも世界的にインフレが低下傾向と

『5.わが国の物価・賃金動向とその特徴』というのがまあ今回のメインイベントだと思いますけどね。

『さて、金融政策運営のお話しに移る前に、それと深く関わるわが国の物価・賃金動向に関し、長引くデフレの背景についての私自身の見方も交えて説明をさせていただきたいと思います。』

ということですが最初の『わが国インフレ率の歴史的推移と他国との比較』で先ほどの論点を出しているので、まあ先ほどの部分は景気で物価の話は改めて行った、ということなのかも知れませんね。

『1980年代以降の日本のインフレ率は、他の主要国と比べほぼ一貫して低位に推移してきました。OECDのデータによると、1985年から1995年の10年間で、G7諸国の消費者物価上昇率は年平均+3.3%でしたが、日本は+1.4%でした。他方、1996年から2011年の15年間では、G7諸国の平均値が+1.9%に対して日本が−0.1%でした。日本とG7諸国の平均値との差を計算すると、最初の10年が約1.9%、日本がデフレに陥った次の15年が約2.0%となり、ほとんど変わりません。この時期、日本以外の主要先進国でも、総じてインフレ率の低下傾向が続いていたことを示しています。このことは、日本におけるデフレ現象が、こうした国際環境の下で生じていた可能性も示しているとみています。』

ほほう。

『特に、主要国では、リーマン・ショック以降、バランスシート調整等信用バブルの後遺症を背景に、高水準でのマイナスの需給ギャップ、すなわち、供給過剰状態が続いており、インフレ率に下方圧力がかかりやすい環境にあり、こうした動きも、わが国の物価動向に対して下向きの圧力となった可能性があると思われます。』

これは先ほど出ていた論点ですね。


・物価に関する見方:サービス部門と家賃が下押しに寄与とな

『日・米の物価上昇率格差はサービス部門が中心』というそのまんまの小見出し部分から。

『さらにわが国と海外の物価動向を、品目別に比較、検討してみたいと思います。例として日米の物価動向を比べると、1997年から2011年までの平均で米国の消費者物価上昇率は+2.4%、日本は−0.2%で、両者の格差は2.6%です。格差をもたらしている最大の要因は、サービス(除く家賃)であり、2.6%のうち0.9%と約3分の1に達しています。さらに家賃を含めると約1.7%と、3分の2近くにも達します。』

ほっほー。

『サービス価格は一般に賃金の影響を強く受けることを踏まえると、この点に日本のデフレに陥りやすい構造と日本がデフレを克服するヒントが隠されているように思います。』

賃金キタコレ。


・物価に関する見方:供給要因に目を向けるべきであるという話

『潜在成長率と賃金・物価の関係』という小見出しから。

『既に見たように、OECDのデータによると、リーマン・ショックの影響で需給ギャップのマイナス幅が世界的に大きく拡大した2009年以降では、日本の需給ギャップのマイナス幅は他の主要国と比較してとりわけ大きくはなく、需給ギャップの水準がインフレ率の水準を一義的に決めている訳ではないようです。日本のデフレ現象を考える際には、労働生産性上昇率、潜在成長率など供給側の要因により注意を払う必要があると考えます。』

なるほど。

『一人当たり潜在成長率と中長期の期待インフレ率との間には、わが国では比較的強い相関関係が見られます。この関係は、バブル崩壊以降、中長期の成長期待が低下する中で、日本企業が雇用ではなく賃金で調整する傾向が強く、労働者もまたそれを受け入れる傾向が強かった、という日本における慣行を反映している面があると考えられます。』

『日本では主要国の中で例外的にデフレ傾向が長く続いていますが、他方で失業率は相対的にかなり低く、雇用環境の安定性が際立っています。この間、米国では、景気が悪化する中、雇用が減らされる一方で賃金・物価の下落はきわめて限定的となっています。このように、労働市場における調整の違いが、日米の間には観察されます。』

この部分は先般の佐藤審議委員講演で示された「賃金版フィリップスカーブ」の考え方ですな。

『こうした点を踏まえると、日本でデフレが終焉し、インフレ率がさらに高まっていくには、成長力強化の働きかけを通じて潜在成長率が引き上げられ、先行きの成長期待が高まっていくことが重要と考えられます。それが賃金上昇率の高まりから、サービス価格の上昇へと繋がっていくことが期待されるわけです。』

仰せの通りで。

『他方で成長力強化、生産性向上が実現しないままに賃金のみが上昇すると、企業収益が圧迫され、設備投資が抑制され順調な経済の発展が阻害される可能性があり、何れは雇用環境・所得環境の悪化となって跳ね返ってくることも懸念されます。』

『他方、成長力が強化されない中で、賃金上昇率は変わらずにインフレ率だけが高まると、実質的な国民の生活水準が切り下がってしまいます。』

第3の矢は不要とか言っている副総裁候補がいたような気がしますのでしらっとそのような方をdisっているのがチャーミング。

『成長力強化を背景に、賃金と物価がバランス良く上昇していくことが、我々が目指すべきわが国経済の今後の姿と考えられます。』

さて問題です、この「我々」の含意にはには新執行部(のうち2名)は入っているのでしょうか(^^)??


・決定会合議決事項に関する部分でもしらっと素敵な部分が散見されるのですよ

佐藤さんの場合、説明が丁寧な分だけ砲撃を加えている部分も判りやすいのですが(^^)、木内さんの今回の講演テキストは微妙にその辺を仄めかしメソッドで対応している感がございまして、それはそれで味わいがあるというものです。つーことで次のもう一つのメインイベント『6.金融政策運営の現状と今後』から。

途中は割愛して『柔軟性の高い物価目標制度(flexible inflation targeting system)』の説明部分で何か約2名をサックリとdisっている部分があるのが味わいが深い所です。

『主要国中央銀行による物価目標の導入は、1988年のニュージーランドが最初で、その後、カナダ、英国などにも広まりました。ニュージーランドでは、導入当初こそ厳格な運営がされていましたが、それが経済の不安定化を招いたとの認識が広まり、日米欧主要国においては、物価目標の導入が見送られてきたのは、ご存知のとおりです。その後、物価目標導入国においては、柔軟性を高める方向で見直しが進められました。』

とまあここまでがマクラ。

『目標達成時期については明示していない国が多く、達成期間を「一般に18〜24か月」と明示しているカナダ中銀でさえも、経済・物価の情勢に応じて達成期間が変動しうることを許容するなど、柔軟性に十分な配慮がなされています。』

直ぐにでもできますとか言ってる人をしらっとdisっているように見える、というのはもうちょっと先にこれまたしらっと一言地雷を打ち込んでいるのでそう見えるのですけどね。

『この結果、現在、主要国の中央銀行は、経済・物価の現状と見通しや、金融面での不均衡蓄積を含めた様々なリスクも点検しながら、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現を目指して政策運営を行っています。こうした枠組みは、柔軟性の高い物価目標制度(flexible inflation targeting system)と言えます。』

でまあ途中を飛ばしてちょっと先の方に行きまして、『2%の物価安定の目標実現に向けた日本銀行の政策姿勢』という所にこんなのがありましてですね、

『2%の物価安定の目標の実現可能性について、今のところ、市場では様々な見方があるようです。目標実現に向けた日本銀行の姿勢に対して市場が疑問を抱くと、政策効果が減じられてしまう可能性があるため、そうした事態を回避し、目標実現に向けた日本銀行の強い姿勢をアピールし続ける観点からも、持続可能なスキームの下で、所期の政策効果の発現を狙い、資産買入等の基金の着実な買入れを行っていくことが重要です。』

>持続可能なスキームの下で
>持続可能なスキームの下で
>持続可能なスキームの下で
>持続可能なスキームの下で
>持続可能なスキームの下で

・・・・・・・・・・・持続不可能な異次元金融緩和をdisっているんですね、わかります(^^)。


・物価目標達成は容易では無いという話

ちと戻って『1月決定会合での議決について』から。1月に反対した理由の方はスルーしまして・・・・・

『一方、2月の金融政策決定会合では、「日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%としている」という文言が含まれた対外公表文に賛成しました。』

さいですな。

『2%の物価安定の目標の実現は、容易なことではないとの考えに変わりはありません。また、国民の物価観は足もとで大きな変化はみられません。しかし、政府、民間などの多様な主体がデフレ克服に向けたそれぞれの役割をしっかりと果たすという認識の下、2%の物価安定の目標導入後の金融市場動向には日本銀行による金融政策や政府による各種の政策への期待が反映されていると思われることや、2%の物価安定の目標という日本銀行の決定に対する信認をさらに強めることがデフレ脱却に向けて重要であると考えました。金融政策の効果や波及を見極めながら、日本銀行の政策意図について丁寧に情報を発信していくことや、必要に応じて追加的な緩和措置を果断に講じることを検討することも含め、この目標の実現に向けた政策運営に責任を持って取り組んでいく所存です。』

まあ難しいけれどもみんなでやりましょうという話をしているので水を差すのも何ですし努力は努力でしますのでまあ賛成しましたとな(^^)。


・APPや付利金利の今後について

『資産買入等の基金の運営等に関する論点』というのがあるのですが、ここの説明はこの記述でまあ判る人には判るのですけれども、ワカランチンの皆様の為にはもうちょっと説明を詳しくした方が良かったような気がします。まあ引用しておきます。

『第1にまず、固定金利オペで応札額が未達となる「札割れ」と呼ばれる状態が、年明け以降頻発していることを踏まえた、補完当座預金制度にかかる付利、すなわち日本銀行当座預金への付利に関する論点です。』

『一般的には、金融緩和の程度が強まるほど、金融機関の資金需要が充足され、日本銀行による資金供給に対するニーズが低下しますので、市場参加者は市場オペレーションに応札する意欲が低下することが考えられます。また、市場オペレーションは、市場参加者の資金需給の状態だけでなく、様々な市場の事象や思惑にも影響を受けます。』

『こうした中で、資産買入れ実施といわば一体で変化する当座預金残高について、金融機関が同預金を保有する誘因に影響する付利金利の引下げや撤廃の議論に関しては、資産買入等の基金による資産買入れの持続可能性を意識しつつ、コストとベネフィットを勘案した慎重な検討が必要と感じます。』

・・・・・・・・でまあ本当は今日その辺の話を膨らませて雑談コーナー書こうと思っていたのですが、進行的に書いている暇が無いのでここに追記しておきますが、日銀による資産(というか国債というか)買入が拡大すればするほど、その価格上昇=金利低下がおきる訳でして、預金ファシリティーとの金利差は買入による中銀バランスシートの拡大が進むと拡大する傾向になる訳ですな。

ということはですよ、実は「単に買入の量だけを稼ぎたい」という事であれば、本当は預金ファシリティー金利をここから引き上げないと、足元では3か月TBが平均落札0.06%割って2年中期国債が平均落札0.05%割っているという事を勘案すると必要になるという話ですぞなもしという事であって、足元の市場金利の低下を見て「預金ファシリティーの金利を下げた方が良い」というのは量の拡大という観点で言えば真逆の話になるという事ですな(だからと言って付利を上げろとあたくしが言っている訳では無いので念のため)。

つまりですな、米国の場合は預金ファシリティー金利が0.25%になっていますが、FEDがアホほど買入を行っていました(今もしていますが)ので(短期金融市場の資金保有構造の違いの影響とかFDICによる預金保険制度などの制度要因も勿論かなーり大きいのですけれども)TB利回りがゼロ近傍に低下したりしておった訳でして、日本の場合はそもそも預金ファシリティー金利と名目ゼロ金利との糊代が小さいのでありますからして、今後の量の拡大を志向しないというのであれば別ですが、量の拡大のためには付利を下げるというのは現実的な解では無い、という話になるのですよね。

という雑談をもうちょっと展開したいのですが我慢して(^^)その次。

『第2に、資産買入等の基金で買入れ対象となる長期国債の残存期間は、現在、1年から3年としています。これは、企業による平均的な借入期間が3年程度であることを踏まえたものです。これに対して、金融市場参加者等の中には、より長めの金利に働きかけ、政策効果を高めることを重視する立場や、資産買入等の基金を通じた資産の買入れを円滑に実施し、その持続性を確保する立場などから、買入れ対象となる国債の残存期間を伸長してはどうかとの意見もしばしば聞かれます。』

『第3に、CP、社債、ETF、REITといったリスク性資産の買入れについては、日本銀行のバランスシートが毀損されるという潜在的なコストにも留意しながら、市場のリスク・プレミアムに働きかけるという趣旨から実施しています。これに対して、金融市場参加者等の中には、リスク性資産も買入額を拡大してはどうかとの主張もあります。』

ということで。

『この点、買入対象国債の残存期間の伸長も、リスク性資産の買入拡大も、いずれも、2%の物価目標の実現という政策目的に照らし、既に申し上げたように資産買入等の基金を通じた資産買入れの持続可能性と所期の政策効果の2点を十分に踏まえつつ、やはりコストとベネフィットを慎重に見極めながら検討することが重要と考えます。』

ここでも「資産買入等の基金を通じた資産買入れの持続可能性」と言ってますね(^^)。


・対外発信の中でも何気にニヤリ

でまあこの先には政府との間合いの話とかもあるのですが割愛しまして、『政策趣旨浸透のための対外発信の重要性』の中で一か所ニヤリというのがありますのでご紹介。

『私としては、物価の安定を図ることを通じて「国民経済の健全な発展」に資することが金融政策運営上の理念として重要であること、金融政策が物価に与える効果については、需要に働きかけ需給ギャップの改善を促す経路を引き続き重視していること、その上で、期待を下支えするという経路も重要であると考えられること、中長期のインフレ率のトレンドは、生産性上昇率、潜在成長率といった供給側の要因、いわば成長力によって決まる部分が大きいと考えていること等について、国民の間で理解がさらに深まるように、丁寧な情報発信に心掛けたいと思います。』

ここは日銀の公式説明となるのですが、「金融政策が物価に与える効果については、需要に働きかけ需給ギャップの改善を促す経路を引き続き重視していること」と言いつつ、先ほどの木内さんの説明にありますように「供給側の問題が重要」というのが木内さんの主張でありますので、つまり2%達成を金融政策だけで達成するのは極めて困難、という主張と整合的なのですが、そこはクドクド説明しないでしらっと流しているのが木内さんのチャーミングな所ではないか、と斯様思った次第。


・まあこの項も読みようによっては(^^)

『最後に、金融政策を、一人でなく合議で決める中央銀行の委員会制度について、若干お話しをさせていただきたいと思います。』

・・・・・ということで金融政策関連の最後の項は『金融政策決定における審議委員の位置づけ』でして、話をしている事は委員会制度による政策決定という意味では普通の話をしているのですけれども、まあ読みようによってはニヤリという所でもあります。

『元FRB(米連邦準備制度理事会)副議長のアラン・ブラインダー氏がその著書「中央銀行の静かなる革命(The Quiet Revolution)」で、一定の前提をおいた上で、政策委員会によって集団で意思決定が行われることを肯定的に捉える立場から、委員会制度が広まった背景として、中央銀行が政府からの独立性を高めるという世界的な潮流と、委員会制度を先駆的に導入していた米国、ドイツでの成功が広く認知されていったことの2点を挙げています。また同著書の中では、複数の委員会メンバーによる意思決定では、単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスクを分散することにより、より良い意思決定ができうると述べられています。』

>単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスク
>単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスク
>単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスク
>単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスク
>単独の個人による意思決定の場合に伴いうる様々なリスク

・・・・・・・・・・・・・・・(;∀;)イイハナシダナー

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2012/07/26

お題「両審議委員の就任会見:ベンダーヘッドラインとは違って佐藤委員の方が積極派ではないかと」

やはりベンダーのニュースを見ただけでどうこういうのはイクナイとゆーのが良く判りましたとさ。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1207b.pdf
しかし全部で15ページとか長いですの。

#以下引用大会でやたら増量していますのでよろしゅうに

○今の金融政策で緩和が十分ですかというような話

質問はこちら。

『(問) 日銀は、物価上昇率1%を「中長期的な物価安定の目途」として掲げ、その上で、早ければ2014年度にもその1%に到達可能であるという見解を示しています。日銀が示している物価のパス、またデフレ脱却のパスを満たすにあたって、日銀の現状の金融政策が十分であるとみていらっしゃるかどうか、この点をお伺いします。』

・佐藤委員:基金買入の政策効果のパスを検証する必要があるのでは

『(佐藤委員) 現状の金融政策については、周知の通り、強力な金融緩和を進めているということで、資産買入れ基金の増額を順次進めてきていると理解しています。ただ、問題は、資産買入れ基金の増額あるいはそれに伴うマネーの供給増が、実際の物価の安定あるいは物価の回復に結び付くパスが、必ずしも明確ではないということだと思います。そういう点では、資産買入れ等の金融緩和が、如何にして物価の回復に結び付くのかというパスを、もう少しクリアにしていけるような、そういった政策運営が必要なのではないかと個人的には考えています。』

という事ですが、後の質疑を見ておりますと「単純に国債買うだけで効くんでしょうかねえ」ってな趣旨の話をしていまして、まあ要するにマネーがどうのこうのというよりも、政策パスとして(これまた後で話していますが)実質金利パスと資産価格パスを考えているという所のようで。


・木内委員:新たな形の金融緩和とな&物価のスタンダードねえ・・・・

『(木内委員) 現状の経済のもと、デフレ圧力は緩和の方向に向かっていることは確かだと思います。日本銀行の基本的な考え方としては、需給ギャップが縮小に向かう中でデフレ圧力が緩和の方向に向かうというもので、こうした考え方は基本的に正しいのではないかと思っています。しかし、現在想定している成長率で、果たして、例えば2014年度にかけて1%に達するということが、非常に確実性が高いかというと、不確実性も依然として大きいのではないかと思っています。』

物価が上昇するには成長が足りないというのはまあ直球ですな。

『特に足許の物価は、原油価格の上昇によって押し上げられている部分もあります。食料・エネルギーを除くという国際的なスタンダードで見た消費者物価は、前年比では依然として比較的大きなマイナスであるということから、先行きの物価については、不確実性は比較的高いのではないかと思っています。』

まあエネルギー価格云々の話はそうなのですが、基調的な物価を見る際にコアコアを見るという話に関しては「国際的なスタンダード」というのをこの後でも何回か木内さん言ってますけれども、金融政策で目標にすべき物価水準は「中長期的に見た総合物価指数」というのが国際的なスタンダードでもあります(FRBでロンガーランの物価目標として示しているのはPCE物価指数総合ですがな)んで、なんつーかこの説明部分を拝読すると若干の???感を受けるのですけれども。

いやまあ「基調として見る物価」の話と「金融政策として目標にすべき中長期的な物価」の話は違いますってのは当たり前の話だからそこはスルーして説明しているのかも知れませんけれども、そうでは無いような希ガス。

FEDの中心的なビューではありませんが、毎度引用しておりますセントルイス連銀総裁のブラードさんの所では『Key Policy Papers』の所で『"Measuring Inflation: The Core is Rotten" 』などというお洒落なペーパーを出しておられまして(ちなみに初出は2011年5月8日)、「コアインフレで基調の物価を見ると本来目標にすべき総合物価指数よりもバイアスがあるので金融政策運営上問題が有る」とゆーよーなお話しているのでありまして、必ずしも「国際的なスタンダード」なのかというとこれまた議論が起きているというフェーズのような気がするんですけどにゃあ。

http://research.stlouisfed.org/econ/bullard/index.html
http://research.stlouisfed.org/publications/review/11/07/bullard.pdf
Measuring Inflation: The Core Is Rotten


話が逸れましたが(汗)木内委員の話の続き。

『従って、必要であれば、追加の緩和策は検討すべきであると思っています。さらに、資産の買入れを軸とした金融緩和策については、実施から既に2年弱が経過していますので、その効果については、そろそろ検討あるいは総括すべきタイミングにきているのではないかと思っています。その結果として、今の政策の延長線上で1%の目標を達成できる可能性があまり高くないということであれば、ここから新たな形の金融緩和を柔軟に考えていくということは、当然ですが必要になっていくのではないかと考えています。』

新たな形とな(^^)。


○デフレの原因、脱却に向けたルートについて

質問を引用である。

『(問) お二人にお伺いしたいのですが、日本経済がデフレから脱却できない理由はどこにあるのかということをお尋ねします。合わせて、デフレ経済に突入して以降、日銀がデフレ脱却のために行ってきた金融政策への評価も、お伺いしたいと思います。』


・佐藤委員:上昇しない賃金が問題という話&為替ルートと資産効果

『(佐藤委員) バブル崩壊から既に20年余り経ち、未だにデフレ脱却ができていないということですが、私は、デフレには2つのフェーズがあった、あるいは、あると理解しています。』

ほほう。

『1つ目のフェーズは、資産価格の急低下、いわゆるバブル崩壊から起こった逆資産効果、そして、その逆資産効果の結果として、企業や家計のリスクテイク余力が大きく削がれ、それが結局、需要の減少、需給ギャップの悪化、そして一般物価の下落を招く──いわゆるネガティブ・フィナンシャル・アクセラレータ──、そういった作用が働いたということかと思います。これが第1のフェーズです。ただ、こういった第1のフェーズに関しては、2000年代初頭に不良債権処理が概ね峠を越える中で、一旦は終息したかと考えています。』

ふむ。

『ただ、2000年代のどちらかというと後半から、新しい第2のフェーズに入って来ているかと思います。第2のフェーズにおけるデフレですが、要因は色々あると思います。日本銀行の公式見解では、デフレの要因とは、1つには成長力の低下、その背景としては人口の高齢化に伴う労働力人口の減少あるいは生産性の低下が挙げられていると思います。それと並び、私は、賃金の低迷、これが非常に長期的に続いていることを挙げておきたいと思います。』

ほうほう。

『労働需給は段々改善してきている、有効求人倍率も非常にゆっくりとではありますが、徐々に「1」に近付いてきているという状況ですが、完全失業率が4%台半ばという中で、これだけ労働需給が緩いという状況のもとでは、持続的な賃金の回復、名目賃金の回復が図れないということかと思います。過去に実際に物価が1%前後にあった時期の完全失業率は──例えば90年代初頭、バブル崩壊後で、実際には物価が低下していた局面なので、ちょっと今とはフェーズが違うかもしれませんが──、3%程度に低下しており、ほぼ完全雇用の状態にあったということだと思います。足許は、改善しつつあるとはいえ、雇用情勢にまだ厳しさが残っている、そういう中で、名目賃金の回復が非常に微々たるものに止まっているということであり、そういう中では、なかなか需給ギャップの改善というだけでデフレ脱却を図ることは難しいかと考えています。』

『まとめると、1つは経済情勢全般の改善による需要の回復、それによる需給ギャップの改善ということですが、もう1つは賃金の回復がデフレ脱却の鍵になるかと考えています。』

雇用情勢が厳しくて名目賃金が中々改善しないと需給ギャップの改善だけではデフレ脱却が難しい、というビューでして、まあこれは物価に関して弱気ですよねという話ですが、こーゆーロジックで来られますとなるほどと思いますな。で、後半。

『2点目の、デフレ脱却に向けたこれまでの日本銀行の取組み、金融政策についてですが、2010年10月にようやく重い腰を上げて、資産買入れ基金を立ち上げ、株式、具体的にはETFやJ−REIT等のリスク資産の買入れも含めた先進的な政策を打ってきていると思います。ただ、先程も申し上げたように、そうした先進的な政策を打ってはいますが、それが実体経済にどのようにフィードバックしていくかというところのパスが今一つはっきりしない面があるかと思います。』

まあこれに関してはこの先の部分で米国のQEが段々効かなくなっている指摘をしているので日本だけの話では無いという所のようですが。

『金融緩和の効果は、こういったゼロ金利制約のもとでは2つあると思います。1つは実質金利を下げ、為替レートに影響を及ぼそうとすることです。もう1つは資産効果かと思います。すなわち、市場に流動性を供給していく中で、いわゆるポートフォリオ・リバランス効果、資産市場への浸み出し効果を図っていくということかと思います。』

ということで、ゼロ金利制約の下での効果について、実質金利ルート、というか為替ルートと資産価格ルートの話をしていますね。

『前者の為替に関しては、国内要因だけで決まるものではありません。ご案内の通り、欧州情勢等、日本以外の要因で円高になっている部分もありますし、また、他国の金融政策にも大きく影響されるということで、日銀が努力はしていますが、なかなか努力の割に報われないというところは、そういった海外要因も影響しているかと思います。』

ふむ。

『それから資産効果についてですが、これは、2001年から2006年まで量的緩和を行っていく中で、当初そういった効果もあるのではないかということも期待されたわけですが、これも思いのほか大きくなかったと総括できるのではないかと思います。米国においても、QE1、QE2と段階を経るに従い、その株式市場への波及効果も段々薄れてきているということです。これまで様々な政策を打ってきたわけですが、それがデフレ脱却まで今一つ結びつかなかったのは、そういったことが裏にあるかと思います。』

なるほど。


・木内委員:期待の低下が問題&インフレ期待の引き上げと為替ルート

『(木内委員) それでは、私の方からですが、デフレのきっかけとなった要因として、一番重要だったのは、企業部門での過剰債務問題、バランスシート調整ではなかったかと思います。過剰債務の削減のために必要な設備投資も抑える中で需要が弱くなったという面もありますし、必要な設備投資が抑えられたために資本ストックの蓄積が滞った、あるいは設備が古くなる形で競争力が低下していったということで、需要面だけではなく、供給面からも日本経済の活力が削がれていった、これがスタート時点ではなかったかと思います。』

『しかし、これは、2000年代に入ってほぼ解消されてきた。その中でも、低成長とデフレが続いてきたというのは、やはり色々な期待が下がってしまったということではないかと思います。需給バランスが悪化し、成長期待が下がる中で、成長率への期待、所得への期待、物価への期待が、企業や家計の中で一旦下がってしまうと、なかなかそれを浮上させるのは難しいということだと思います。』

当初はバランスシート調整で、その後は期待の低下によるネガティブフィードバックと。

『ただ、色々な期待の中で、インフレ率の期待については、金融政策である程度上げることが可能ではないかと思います。引き続き、インフレ期待の引き上げというのは、日本銀行がデフレ脱却に向けた強い姿勢を示すことで、ある程度可能な分野ではないかと思っています。』

ほほう。

『それから、もう1つ気になるのは、為替の動きです。デフレになった後というのは、デフレと円高が相乗的に進む、スパイラル的に円高からデフレ、デフレから円高というのが進行してきたと思います。』

そうなんすかねえ。物価が沈んでいる中で円安進行してた時期もあったような気もするんですけど。

『つまり、円高の主な要因がデフレであり、さらに円高によってデフレ圧力が高まる、というスパイラルからなかなか抜け出せていない。これは簡単に抜け出せるものではありませんが、それに対する政策は、日本銀行だけではなく、政府も含めて今後も考えていくということが、デフレ脱却にとっては1つの重要な施策ではないかと思います。』

まあそれはそれとして「政府と協力して為替対策」という趣旨は把握しました。


○今後の金融政策について

質問は実は2つあるのですが、纏めるとアホのように長くなるので分割。

『(問) 2点ほど伺いたいのですが、お二方から、これまでの日銀の政策に対する評価についてのご発言がありましたが、既に、ゼロ金利の制約下、打てる手段が相当限られているかと思います。これ以上金利は下げられない、あるいは基金の額を積み増すにしても国債の額をどんどん増やすわけにもいかないと思いますが、逆にどういった政策を打つべきなのか、さらにリスク資産を買うべきなのか、色々な考え方――以前から、お二方がアナリストの立場で示されていると思いますが――、改めて委員就任にあたってお考えになっている新たな政策手段について――先程木内委員からも今までの政策を総括して新しい方法を考えるべきだというお話がありましたが――、伺いたいのが1つです。(2点目は次に)』


・佐藤委員:実質金利ルートということで為替への働きかけ

『(佐藤委員) まず、ゼロ金利制約下の金融緩和手段ということですが、確かにおっしゃる通り、採れる手段は極めて限られているかと思います。そういう中で、私なりに政策効果という観点から採り得る手段を整理してみると、ゼロ金利制約ということで、名目金利はゼロ未満には下がらないわけですから、実質金利を引き下げていく政策が必要かと考えています。それは、先程木内委員からもご指摘がありましたように、期待インフレ率に訴えかけていく、期待インフレ率を引き上げていく、それによって実質金利の引き下げを図っていくということかと思います。』

とここまでは先ほどの話と同じ。

『では、どのようにしたら期待インフレ率を上げることができるのかということですが、これはなかなか難しい問題です。』

さいですな。

『例えば、今やっているように、国債をひたすら買いまくっていけば期待インフレ率が上がるのかということですが、現状では、例えば残存期間が2年あるいは3年の国債を大量に買い入れたところで、市場の期待インフレ率に働きかけるどころか、むしろ5年までのカーブがどんどんフラット化しているという状況ですから、現状では、今のところ効果としては逆に出てきていると思います。』

これは確かにそういう面がありまして、それこそさっき引き合いに出したセントルイス連銀ブラード総裁のペーパー類の中にある『Seven Faces of "The Peril"』ではQE2実施の必要性を主張すると同時に、政策金利を低位水準で長期化するとデフレ均衡に陥る可能性が高まるので望ましくないという主張をしておりまして、低金利によりデフレ期待定着という問題も確かに指摘される所ではあろうかと。
http://research.stlouisfed.org/publications/review/10/09/Bullard.pdf
Seven Faces of "The Peril"

とまあ例によって話が逸れまして恐縮ですが続き。

『そういう中では、採り得る手段としては、例えば、資産買入れを多様化していくということで、これまでも各方面から提案が出ていますが、例えば、岩田前副総裁が提唱しているような外債買入れということも一案かと思います。』

キターーーーーーー(・∀・)

『これは、財務省とのすみ分けというところで、フィージビリティの面で色々と問題があることは十分理解していますが、為替操作を目的とした外債買入れということではなく、資金供給を増やすための外債買入れと位置づければ、そのあたりの問題というのはクリアできるのではないかと考えています。ただ、このあたりは法律論あるいは手続き論、それから諸外国の財政当局との関係ということも絡んできて、色々とクリアすべき関門は非常に多いと思います。これから勉強して、どういったところがフィージビリティの点で問題になり得るのか、見て参りたいと思います。』

法律論もさることながら、おそらく米国財務省を了承させるのが一番のネックではないかと思われるのですがどうっすかねえ。

『あとは、一段のリスク資産の買入れということです。既に ETFあるいはJ−REITの買入れを進めているわけですが、例えば、よりリスク性の高いものにシフトしていくことも一案かと考えています。』

「よりリスク性の高いもの」とな(^^)。


・木内委員:具体的な話は避けましたが基本的にはやはり為替みたいですね

『(木内委員) 今後の政策についてですが、こういった新しい政策をすべきだというのをこの場で申し上げるのは控えるべきかと思っています。先程申し上げましたが、今の資産買入れなどを中心とする包括的な緩和の評価ができていないということです。それが十分な効果を上げているということであれば、その延長線上で、国債やリスク資産――特にこれはETFが中心になると思いますが――の買入れを進めていくことが妥当だという判断になるでしょう。あるいは、今の包括緩和は十分な効果を上げていないということであれば、また新たな政策を考えなくてはいけないということです。現状では、その判断がまだできていませんので、今後考えを深めていきたいと思っています。』

とは言いましてもその総括間に合うんかいなという気はするのですが・・・・・と思いますとその続きがございまして、木内委員も基本は為替ルートですなあという話です。

『ただ、漠然と考えているのは、為替の安定というのはやはり重要で、これは日本銀行だけの業務ではもちろんないということです。政府、財務省と協力して為替の安定に従来以上に関与していくというのが、ある意味新たな政策のフロンティアではないかと、非常に漠然と今は思っています。』

でまあ先ほども申し上げましたが、この件については米国の財務省様を如何にして納得させるかというのが極めて重要という所ではなかろうかってな話ですなあと思うのでした。


○市場との対話について

先ほどの質問の後半部分。

『もう1点は、マーケットとのコミュニケーションですが、2月の物価安定の目途の導入以降、マーケットの緩和期待と日銀の姿勢とに多少ギャップが出て色々な批判も出ていましたが、その点について、お二方がどのようにお考えで、どうあるべきだと考えていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。』

・佐藤委員:2月の「目途」発表以降のコミュニケーションのギクシャクを指摘

まあその点は次の木内委員も同様でございますが、佐藤委員の場合は声明文文言の点まで突っ込む所がイイハナシダナーという感じです(^^)。

『2番目の質問で、マーケットとの対話でギャップがあるのではないかということですが、これは、昨日まで民間エコノミストとして私もマーケットの一員でしたので、そういう中で、若干感じているところです。』

キタコレ。

『2月14日のインフレ目標の設定ということですが、その後、果たして日銀は本気なのかどうかというところが、投資家の最大の関心事であったと思います。ただ、3月に次の一手が出てこなかった――4月は出てきましたが――、そういった中でマーケットあるいは投資家の期待もだんだん萎んでいったということかと思います。』

まあそうは言っても毎月追加緩和というのもどうかという気はしますが、佐藤委員の言いたいのはこの先にある説明を勘案しますと「2月の情報発信はあたかも毎月緩和を継続するかのようなメッセージとして市場が受け止めたので話がややこしくなっとるんじゃヴォケ」という事と存じます。

『また、強力に金融緩和を推進するという2月のステートメントですが、これは5月には一旦剥落してしまったということで、そのあたりの情報発信のやり方をみて、マーケットとしては、日銀の情報発信の一貫性、あるいはスタンスの一貫性というところに若干疑問を持っているかと思います。強力な金融緩和を推進するという文言、これは形を変えて6月には復活したわけですが、ただ、詳細にみると、現在完了形のような形になっています。すなわち、強力に金融緩和を推進してきた、これからは適切な金融政策運営に注力するといったようなことが書かれているわけですが、これだと、やはりマーケットとしては、強力な金融緩和はもう終わってしまったのかと受け止める可能性もあるかと思います。』

細かいですな(^^)。

『そういう点で、情報発信の一貫性というところは、今後大きな課題になってくると思いますし、私も、実際に中に入りましたら、マーケット参加者は果たしてこういうステートメントを出せばどういう反応をするのか ――日銀流に言うと、おそらく政策反応関数ということになるかと思いますが――、そういったところを、市場参加者の目線でボードの方々に提言していくことができるのではないかと思います。』

よろしくお願いいたしますm(__)m


・木内委員:佐藤委員と基本は同じで「情報発信の一貫性」の必要性を強調

『それから2番目のマーケットとのコミュニケーションという点ですが、やはり、多少2月以降の状況をみると、日本銀行とマーケットの受け止め方の間に乖離があったり、混乱があったりということも、もしかしたらあったかと思います。』

この先の部分を見ますと佐藤委員よりは日銀の情報発信については同情的というか何というかというニュアンスを受けますな、うんうん。

『これは佐藤委員も指摘されていましたが、一貫性というところで、1つは2月の物価安定の目途についてみると、内外の市場の受け止め方には、かなり乖離があったと思います。「Goal」という言葉と「目途」という日本語から受けるニュアンスにかなり乖離があって、海外では非常に強い積極緩和期待が急激に強まってしまい、内外でダブルスタンダード的になってしまったのではないかという見方が市場にあったことは確かであり、ある種の混乱が起こったのかと思います。』

さよですな。

『それからもう1つの一貫性というのは、やはり時間軸でみた一貫性であり、非常に強い1%の物価安定の目途達成に向けた強い姿勢がみえたと思ったら、少しトーンダウンしたような印象を市場に与えたということです。実際はそういうことを意図して情報発信したわけではないと思いますので、市場が一貫した姿勢を日銀から感じ、受け取ることが重要だと思いますし、もし、そこにやや誤解があるのであれば、情報発信の仕方というのを工夫できたらと感じています。』

「実際はそういうことを意図して情報発信したわけではないと思いますので」という辺りにまあ優しさというか配慮というのを感じますな、うんうん。


○財政マネタイゼーションとか国債引き受けとかに関して

まあ当たり前ですがお二方ともまあ普通の話をしているのですが、質問がワロタので引用。

『(問) お二方に伺います。日銀の現在の国債の買入れ規模とペースですが、年間で43兆円くらいに達しているということで、日銀は、5月以降、マネタイゼーション懸念ということを割と頻繁に発信するようになっていますが、例えば先程、佐藤委員がおっしゃった岩田先生など、マネタイゼーションの「マ」の字もあまり心配されていない方もいらっしゃると思います。その国債の買入れについて、今後、ある種の天井があるというか、マネタイゼーション懸念をお感じになるのか、ご見解をお願いします。』

多分質問者は岩田一政前副総裁と岩田規久男学習院大学教授を混同しておられると思うのですけれども、「マ」の字も心配されていないというのはオモシロス。

・佐藤委員:市場で買う分にはマネタイゼーションではありませんと

『(佐藤委員) マネタイゼーションという言葉の定義をもう少し明確化する必要があるかと思います。日銀は現在、マーケットから間接的に国債を買い入れているということですが、これがマネタイゼーションなのかどうかというと、私は、量の多寡に拘らず、これはマネタイゼーションではないと思います。』

ほう。

『マネタイゼーションとは、狭義の意味では、やはり国債の直接引受けということかと思います。直接的に政府から買い入れる、それから間接的にマーケットから買い入れる、これらは、似たように見えて、その経済効果としては大きな開きがあるということです。政府から直接買い入れるというのは、要は、政府預金口座に日銀がクレジットすることになり、これは文字通りプリンティング・マネーということかと思います。マーケットから間接的に買い入れるということ、これはマーケットのカウンターパート、主に銀行になると思いますが、その銀行の日銀当座預金にクレジットしていくということであり、これはマーケットというフィルターを通しているという点で、狭義のマネタイゼーションとは大きな開きがあるものだと思います。』

ほうほう。

『そういう点で、現在の政策がマネタイゼーションに近付いてきていると私は特に考えていません。それから、敢えて付け加えておくと、やはり国債の直接引受け、これは、財政規律の観点から厳に避けるべきだと考えています。』

なるほど。


・木内委員:国債の買入拡大が財政規律に影響する事は避けるべきと

『(木内委員) 現状では大きな問題になっているとは思ってはいませんが、国債の買入れが財政の規律を緩めることにならないかどうか、そういうリスクを常に意識して政策を運営しなければならないのではないかと思っています。』

ほほう。

『つまり、日本銀行が大量に日本国債を買うことによって、政府がそれに甘んじて財政規律が緩み、安易に財政環境を悪化させてしまうことにつながってしまった場合には、財政環境は一段と悪化しますし、場合によっては金利が上がるという形で日本経済や金融システムの安定に悪影響を及ぼす、こういったリスクは、今後も常に考えなくてはいけないのではないかと思っています。』

ほうほうほう。

『ただ、足許では、財政再建の動きが、まだ分かりませんが、比較的強まる方向になっていると思っています。消費税の引き上げ、あるいは社会保障制度の一体的な改革の中で、もし中期的に財政改善の方向がしっかりと強まっていくということである場合には、財政リスクを高めずに国債を買う余地が追加的に生まれるのではないか、とも思っています。従って、やや中期的に金融政策運営を考える上では、やはり、政府の財政再建という政策がしっかりと進んでいくかどうかにより、政策のオプションが変わってくるということが、非常に重要なテーマになっていくのではないかと思っています。』

なるほど。


○つーことで総括すると佐藤審議委員の方が(緩和方面に)積極派というニュアンスを感じますな

つーことで延々と引用した結果昨日の山口副総裁講演(割とハト的サービスフレーズが多い)のネタをする時間も量も無くなったでござるの巻となりましたが、会見の前半の所で木内委員が「新たな形の金融緩和を柔軟に考えていくということは、当然ですが必要になっていくのではないかと考えています」って発言したのに見事に釣られて昨日引用したブルームバーグニュースのヘッドラインでは「木内委員がこう言った」というのを題名にしていましたけれども、質疑の後半の方を見ますと、引用した最後の部分の国債買入に対する財政規律との関係に関して(佐藤委員は「市場で買う分には何ぼ買っても無問題」というのに対して木内委員は「買入拡大で財政規律に影響を与えないように」と言ってます罠)とか、その前のコミュニケーションの部分(佐藤委員の方が手厳しい罠)とか、今後の金融政策の枠組みに対する見解(佐藤委員の方が色々とネタ出ししてます罠)とか、あたしゃーどう見ても佐藤審議委員の方が積極派という風に読んだのですけれどもどうっすかねえ。

まあ今後のお手並みに期待したい所ではございまする。山口副総裁講演に関しては明日で勘弁m(__)m

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2012/07/25

○審議委員2名着任である

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120724a.htm/
審議委員の発令について

任期は5年でございます。

佐藤審議委員
http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_sato.htm/

木内審議委員
http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_kiuchi.htm/

ということで就任記者会見があったのですが、会見の方は今日日銀のページにアップされるのでそちらを見てからとは思いますがとりあえずニュースから。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M7NMEN6K50XZ01.html
日銀審議委員の木内氏:政策効果を総括し、新たな緩和策検討も (1)

『木内氏は日銀が掲げる物価上昇率1%目標の達成について「不確実性も依然として大きい」とした上で、「必要あれば追加の緩和策は検討すべきだ」と強調。2010年10月に策定した包括緩和策の効果を検討し、目標達成の可能性が低いと判断されれば、「新たな形の金融緩和を柔軟に考えることが必要になる」と語った。』(上記URLより)

『一方で、佐藤氏は「期待インフレ率を引き上げることで実質金利を引き下げる必要がある」とし、具体的には「資産買い入れを多様化していくことだ。外債買い入れも一案だ。財務省とのすみ分けの問題もあるが、為替操作ではなく資金供給を増やすためと位置付ければよい。クリアすべき関門は多いが勉強したい」と述べた。』(上記URLより)

という事でまあ色々と新しい施策をご提案されるべくという事のようですが、まあお手並み拝見という所でありまする。会見の要旨を見ないとこの辺の「新しい施策」について実際にどの程度の事を考えているのかが良く判らん所(メディア報道だとどうしてもキャッチーな発言をクローズアップするので前後の文脈読まないとミスリードされる可能性がががが)であります。

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2012/06/12

○これはまあ良さげな人事ということで感想と雑談

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M5GB5H0YHQ0X01.html
政府:日銀委員にエコノミスト2氏を提示−21日ごろに採決見込み

『6月12日(ブルームバーグ):政府は議院運営委員会両院合同代表者会議で、空席となっている日本銀行の審議委員に野村証券の木内登英チーフエコノミスト(48)とモルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミスト(50)を起用する国会同意人事を提示した。衆参両院の議院運営委員会での配布資料で11日明らかになった。』(上記URLより)

昨日の夕方に「17:20に提示される」というニュースが出てワクワクテカテカしつつもどこの芸人何とかストが出てくるのやらと微妙にげんなりして待っておりましたが、ブルームバーグ見てたらヘッドラインに佐藤健裕さんと木内登英さんの名前が出てきて「ほほう」と思うと共にちゃんとした人がノミネートされて個人的に少々びびっていた一部の「マネーガー」みたいな変なのが出てこなくて誠に結構と思いましたです、はい。

債券市場的には木内さんはあまり馴染みは深くない(野村で債券系と言えばまず最初に出てくるのが松沢さんのイメージが)のですが、基本的にはマクロエコノミストだったと記憶しておりまして、あまり金融政策に関して積極的にああだこうだという話をするという印象も無いのですが、まー普通にちゃんとした話を展開する人で、変な何とか派みたいな感じの人では無かったかと。

で、あたくし的に今回ヒットと思ったのは佐藤さんのノミネートでして、佐藤さんって債券市場的にはまあ知られていると思うのですが、ご本人そんなにメディアとかに出たがるお方ではない筈で、この前ノミネートされた河野さんや、今回の木内さんと比べると失礼ながら世間一般的な知名度としては低いと思うのですが、佐藤さんもマーケット云々というよりはエコノミスト系の方でして、経済の見立てという点では物価動向に関して早い時期から10%刈込平均の重要性を指摘していたりとか(だいぶ昔に思いっきり佐藤さんのお名前出してネタにさせて頂いた事があるもんで)、安定感があってレポートもよく拝読してたりするもんで、これはほほうという感じでございます。

木内さんの金融政策に関する見解って不覚にもあまり詳しく存じ上げないので何ですが、佐藤さんについては基本的にかねてより緩和バイアスの主張となっていまして、まあそのように報道されていますが、そもそもそれは党派的な緩和云々というのと話が違うとあたくし理解しておりまして、佐藤さんは経済見通し、特に物価見通しに関して厳しい見立てをしていて、その結果として金融政策見通しが「追加緩和」という予想になるという事であって、別に緩和が先にありきという話ではないと思うのですが、どうも報道を見ると「緩和派」的な言い方されているのも何だかなあという気もせんでもないがまあいっか。


木内さんの方は不覚にもあまり詳しくないですけれども、まあお二方とも基本的には経済の見立てに関してフラットな方だというイメージがありまして、それはすなわち巷の何とかストでも良くあるパターンのであります所の「変なポジション的なバイアスを掛けて結論先にありきで材料を拾ってくる」というような傾向(そらまあ人間だからある程度主張にバイアスが掛かるのは仕方ないのですが程度問題という意味で)はあまり無いお方であるという風なイメージですけどどうでしょうかね。

まあお二方ともマーケット系とは言いましてもエコノミスト系でして、マーケットの視点でという意味ではマーケット系なのですが、足元で非伝統的な政策を推進する中で実は重要でもある調節実務の細かい話に関してはそれほどお詳しくもない(つーか調節実務の細かい話をマニアに詰めているとそれだけで労力が掛かるがな^^)と存じますので、そーゆー点から日銀事務方ペースに巻き込まれないようにご留意頂きたいと存じます、はい。


しかし昨日ニュースヘッドライン見ててずっこけたのはこのお方の発言。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M5G49L6KLVR401.html
自民・鶴保氏:金融緩和に消極的な人には否定的−日銀審議委員人事

ベンダーのニュースヘッドラインで最初にこんな感じで出てきたのですがね。
17:56JBN:*鶴保氏:日銀審議委員候補者については個人的には付き合いない

まあ上記記事を見ると自分からこの発言しているのが微妙なので良く判らんのですけれども、まず人事案が出てきて最初に出た発言が「個人的に知っているか」というのは政治に携わる人間として如何なものかと思うのでありまして、自民党は政権に復帰したら知っているか知らないかが先にありきの人事をしますと宣言している、あるいはそういう意識が常にあるから上記のような発言が出るんじゃネーノとか禿しく懸念して「また自民党の劣化か」という悪印象を与えるのに中々効果があったと思うのはあたくしの性格がおかしいからですかそうですかorz

いやまあ「ご存知ですか」と普通に質問されて普通に素で答えただけだと思うと言うか思いたいのですが、それにしてはベンダーのヘッドラインで最初に出たのがこれって何かヘッドラインの打ち方がアレなのか鶴保さんが素でまず最初に「知ってるかどうか」という話をする人なのかは元記事見ても判らんので判断は保留しますけどね。

とまあそんなどうでも良い悪態は兎も角として『その上で、金融緩和に消極的な人物を評価するかとの質問に対しては、否定的見解を示した。』(上記URLより)って相変わらず何を言ってるんだこの人はという感じでして、そもそも河野さんだって今の時点で金融政策の正常化しろとか主張している訳では無いですし、大体からして金融政策を今後どうするのかという件については、経済物価情勢とその先行きの見立てに依存するのであって、中央銀行が無限にジャンジャンマネタイズして政府のお財布になってジンバブエだヒャッハーとか無茶苦茶言うのなら兎も角、普通に何の条件も無く未来永劫緩和しろとか言う話は無いでしょと思うのでございまして、緩和派じゃないとダメ的な言い方って相変わらず何なんでしょうねと思うのでございますがどうなんでしょ。

まあ何時からか、と言われると良く判らん(何となく橋下旋風以降かなという気はしますが)のですが、自民党の主張が妙にエキセントリックに暴走気味になっていて、おまいら政権に復帰する気はないのかよという劣化具合が目立ちまして、あたくし的には甚だ遺憾というか、先般の審議委員騒動に日銀法改正の話ですっかり呆れ果てている次第ではございます。


しかしまあ何ですな、水野さんが退任した後マーケット系の方が審議委員に居なかったのですが、今度はいきなり2名就任(ただし国会承認されればの話ですが)というのも何ですなあと思うのでありまして、元々今回の空席って財界のお方(中村審議委員と亀崎審議委員)の後任だった筈で、前回ノミネートされた1名は伊藤忠商事の方だった訳でして、まあ前回の審議委員騒動で「こんな与野党対立の政治的なおもちゃにされた挙句にあの(=もともと財界で名を成している方から見たら罰ゲームみたいな)待遇でやってられますかとゆー事で誰も受けてくれなかったとゆーのが背景にあるんでしょうなあとしか思えない訳でして、そっちの観点からしますと、まー財界人誰も受けないだろうなあというのは予想されていましたが、それにしてもさびしい話ではあるなあと思うのでした。

なんつーかね、財界人のような金融政策の非専門家が審議委員になるのはどうのこのという主張もそらまあ話としては分かるのですが、あたくしが最近思うのは、たとえば麿に対して普通に対等に物言いできるという意味では日本を代表するような大企業で副社長だの上級役員だのの経験がある方というのは執行部の止め役として重要だと思いますし、例えばFOMCでは各地区連銀が地域差を反映した感じで経済見通しなどの違いを金融政策の主張に反映させる(シカゴは万年ハト派でダラスは万年タカ派みたいな傾向とか)ような機能がありますが、日銀の場合はそれをある意味実業界出身の方が担っているんじゃネーノとも思うのでございまして、東京で金融市場や経済データを見ている人たち(まあミーも含めましてですな)とはまた違った視点で意見の多様性を担保する、という意味で実業界出身の方が審議委員になるというのも重要ではないかと思うのでございまして、今回はちょっと無理でしたが、やはり将来的には実業界出身の審議委員も居た方が良い(今は東電出身の森本さんだけね)と思うのですけどどーっすかね。


さらに今回思いましたが、まあ現在は国会が消費税関連法案に向けて与野党で話をまとめましょうモードだからそんなに問題にならないと思うのですが、前回は国会が対決モードだったからとか、河野さんは運が悪かったですねえとしか申し上げようが無いですな、ナムナム。


#と、しょうも無い雑談を思いつくままに書いたら長くなってしまいましたorz

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