中村清次審議委員

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中村清次審議委員

中村さんの略歴(日銀Webより)

昭和17年4月28日生
昭和40年3月慶應義塾大学経済学部卒業
商船三井に入社し、財務部長、取締役経理部長、取締役企画部長を経て平成8年6月に常務取締役に就任。代表取締役専務、代表取締役副社長を歴任し、平成15年7月に商船三井フェリー代表取締役社長に就任。
平成19年4月5日より日本銀行政策委員会審議委員
(前職:商船三井代表取締役副社長→商船三井フェリー代表取締役社長)

平成24年4月4日をもって日本銀行政策委員会審議委員を満期退任しました。

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_nakamura.htm/

2011/11/11「中村審議委員はいつものように講演よりも会見の方が味わいがある」
2011/06/06「中村審議委員会見、やはり会見内容は景気に慎重でした&成長基盤強化拡大に慎重スタンス」
2011/06/03「中村審議委員講演、内容的には明るめな感じがします」
2010/12/03「中村審議委員会見から、やはり総裁との温度差が」
2010/11/26「今回の講演は基本的に展望レポートベースだが・・・・」
2010/02/08「中村審議委員会見から、やはりハト派です」
2010/02/05「中村審議委員講演、委員会大勢対比ハト派」
2009/06/29「中村審議委員講演&会見、基本的にハト派だが原則重視」
2009/06/26「中村審議委員会見(メモ)長国買入でやたら絡む不思議な記者がいます」
2009/06/25「中村審議委員講演(メモ)」
2008/11/17「中村審議委員講演&記者会見」
2008/06/30「中村審議委員会見、輸出には比較的強気」
2008/06/27「中村審議委員講演、基本的には景気に慎重」
2007/11/27「記者会見は国内要因の不透明さを指摘」
2007/11/26「講演デビュー、やや慎重派か」
2007/04/13「就任記者会見(亀崎氏と共同会見)」

2011/11/11

○中村審議委員の何故か会見の方から先に

後入先出をやっておりますと在庫が段々陳腐化していくのが難点ですな。つーか先週以前のネタはもうさすがに前過ぎるのでどこかのタイミングで別途書いておきますわorz

一昨日の中村審議委員の講演
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/ko111109a.htm/

記者会見
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1111c.pdf

でまあ中村審議委員は会見が中々味わいがある、というのがこれまでの傾向なのですが、今回も会見の方が味わいがあるのでちょっと順番変えて先に会見から。


・景気への見方は慎重さを増す

まあ講演の方でもそんな感じでしたけれども。

『(問) 輸出についてお伺いします。先程も指摘されていましたが、先行きに関してユーロ経済の減速が続くと、新興国からの輸出も減るかと思いますが、そうなってくると日本の輸出にも影響してきます。10月末の展望レポートでは、生産と輸出に関しては増加基調が続く可能性が高いという見方をされていたかと思います。本日の挨拶の中でも、輸出に関しては増加ペースといいますか、持ち直しが頭打ちとなる可能性がある、と言われています。前回の会合からそんなに大きく変わったのか分かりませんが、輸出の見方が若干慎重化したというか、シビアに変わったというように理解をしていますが、その辺りについての中村委員のご意見はどのようなものですか。』

『(答) 輸出に関しては、震災後の生産制約により、一時的に日本製品のシェアが下がりましたが、それを回復するための需要や、海外における在庫復元の動きが足許みられています。また、その先は、内外の実需がどういう推移を辿るかが、ポイントになると思います。このことは、10月末の展望レポートでも述べられていたと思いますし、そのこと自体は大きく変わっていないと思います。』

と最初は「大きく変わっていない」という話ですが。

『欧米経済につきましても、いずれも非常に緩やかな回復で、新興国、資源国の経済の持ち直しにつれて回復していくとのシナリオ自体は、それほど大きくは変わっていないと思います。しかし、昨今の欧州の情勢は、一部では解決に向かっているところもありますし、一部では混迷を深めているところもあり、予断を許さない状況だと思います。こうしたことは、マインド面、あるいは金融市場を通して、色々な下押し圧力になります。また、タイの問題も加わり、敢えて言えば、前回から変わらないというよりも、若干、心持ち下の方かなと感じていますが、基本的なシナリオは、10月末とそれほど変わっていないと思っています。』

ということで、まあ「変わっていない」という言葉を連発はしているのですが、その辺は政策委員会でこの前決めたばっかりの展望レポートの線を堅持するという配慮に基づく話で、おそらく中村審議委員の本音的には「心持ち下の方」という方なのではないかと思われるように見えますがどうでしょうかね。


・タイ洪水&欧州問題

タイ洪水と欧州問題に関する質問に対する答えですが長いので分けながら。

『(答) まず、タイの洪水の問題からお答えします。タイの洪水の被害は、現在もまだ拡大を続けており、タイ当局による被害予想額も日を追うごとに拡大しています。最終的にどの程度の被害が生じるかについて、現時点で判断することは難しいと思います。浸水などにより、相応の生産設備が毀損されたことから、タイ政府や中央銀行は、当面の経済見通しを引き下げています。タイは、東南アジアの自動車産業で中心的な役割を果たしているほか、ハードディスク装置など、一部のIT関連財の生産の集積地となっています。このため、これらの生産減少の影響はサプライチェーンの障害を通じて、他のアジア諸国などに波及する可能性があり、先行きについては、不確実性が高いと考えています。

今回の水害により、日系企業の現地生産設備にも被害が拡がっており、タイの日系企業の活動が長期間ストップした場合、ウェイトの高い自動車や一部の電気機械などにおいて、連結ベースでみた企業業績に相応の影響が出てくるとみられます。わが国の生産・輸出の面においても、部品の調達難から既に自動車等で生産を抑制する動きが出ていますが、一方で、日本国内での代替生産や、資本財の復旧需要など、わが国の輸出や生産を押し上げる要因もあり、全体としてどのような影響を受けるのか、今後の動向を注意深くみていきたいと思っております。』

まあ個別企業の業績に影響というのは確実ですね、というのは把握した。

『次に、欧州危機については、当初はギリシャの債務問題でしたが、今やユーロ圏全体を巻き込んだ、欧州債務危機に発展しています。金融資本市場では、リスク回避姿勢が急速に強まるとともに、緊張感が強い状態が続いています。背景には、国債の信認低下、金融システムの信用力低下、実体経済に対する下押し圧力の高まりという負の相乗効果が働き始めていることがあります。』

負の相乗効果キタコレ。

『10月末に開催された欧州サミットでは、欧州各国の政府債務や金融システムに対する潜在的な不安感を払拭するために、いわゆる包括戦略の合意がなされました。しかし、その後のギリシャ国内の政治の混乱や、カンヌサミットでの討議でも明らかなように、包括支援策や当該国の財政再建策の詳細、およびその実行性については不確実性が高く、市場の信頼感を回復するかどうか予断を許しません。いずれにせよ、包括戦略の合意だけで、欧州の財政・金融問題が解決するわけではなく、各国政府関係者が、今回の合意に基づいて必要な取組みを着実に進めていくことはもちろんですが、財政再建、経済改革への信認を取り戻すべく、成長を生み出す経済改革を進め、財政健全化の道筋を立てていくことが重要だと思います。こうした観点から、欧州債務危機は、長期化の可能性が高いと思われます。』

ということで、結局の所欧州問題は各国の財政政策に帰着する話ですというのは仰る通りでございまして、ECBがお助けとかIMFがお助けとかだけで片が付く問題ではないでしょと思うのでありまする。で、中村審議委員は「欧州債務危機は長期化の可能性が高い」と思いっきり指摘していまして、そーゆー辺りからしますと中村審議委員は展望レポート(政策委員会の大勢見通し)よりもやや景気について弱めに見ているんじゃないかな、と思われます。

『欧州債務問題のわが国経済に与える影響については、貿易を通じたルートと、金融資本市場を通じたルート、為替市場を通じたルートの3つのルートに則して考えていく必要があります。』

ほう。

『まず、貿易を通じたルートについては、わが国の欧州向けの輸出は、輸出全体の1割程度に過ぎないため、直接的な影響は限定的と考えられます。しかし、米国や新興国経済への輸出の減少を通じる間接的な影響には注意が必要です。』

『次に、金融資本市場を通じたルートについては、日本の金融環境は、企業や金融機関のバランスシートの健全性や日本銀行の強力な金融緩和の推進などから緩和の動きが続いており、米欧の状況とはかなり異なっています。』

『最後に、為替市場を通じたルートについては、円相場の動向や、その経済・物価への影響には注意が必要です。日本銀行としては、関係当局が欧州債務問題の解決に向けてしっかりと取り組むことを強く期待するとともに、この問題がわが国経済や金融システムに及ぼし得る影響について、今後とも十分に注意してみていきたいと思います。』

なるほど。


・日本の財政政策について

これはよい質疑応答。

『(問) 挨拶の中で、「現在1%前後で推移している長期金利が、何らかの切っ掛けで上昇に転じ、金利負担が著しく財政を圧迫する事態も想定外とは言えません」とおっしゃっていますが、この点について、「何らかの切っ掛け」について何かお考えがあっておっしゃっているのでしょうか。また、財政再建に対する具体策をしっかりやっていくべきだということもおっしゃっています。政府は既に財政運営戦略を発表されていますが、それよりももっと踏み込んだものを実行すべきというお考えなのでしょうか。』

『(答) 後段の財政再建については、政府は既にいくつも施策を打ち出しており、これらを具体的に実行に移していくことが大事だと思います。こうした施策の実行には時間がかかることですし、景気動向もみながらトータルで考えないといけないことですが、みんなで合意されたことをアクションに移していくことが大事だということです。』

つまり施策を出すだけ出して実行となるとスタックする政治ふざけるなという事ですね、わかります。

『次に、長期金利の問題については、挨拶でも触れましたように、10年以上2%を超えることがなく、足許は1%程度ですが、一般論として、このレベルがずっとこれからも続くという保証はありません。また、挨拶でもお話したように、資金余剰があって、なかなか資金需要が生じず、また、日本の個人の金融資産がまだたくさんあるということですが、これから高齢化に伴って、いつまでも今のレベルが維持出来る訳ではありません。金融機関にしても、もっと他に有利な運用先があればそちらに回るなど、需給は変わるわけですから、今のレベルを前提とし続けることは、やはり保証の限りではないことです。』

これはそのとーりでして、年金財政が本格的に払い超になるまであとわずかだった筈ですがな。

『それに、欧州の例をみても、経済情勢の変化により、急激に金利が上昇することがあるわけですから、基本的には10年債で1%前後というのは、歴史的にも非常に低位なレベルであり、これがずっと続くことは考え難いということを述べたということです。「何らかの切っ掛け」について、具体的な考えがあってということではありません。』

そらまあ「何らかの切っ掛け」が事前に判るようなものであれば急激な変化とか生じない訳でして、(厭債害債さんもご指摘のように)プライマリーバランス黒(という事になっている)のイタリアが一気にあの有様になる訳でございまして、市場というのは(自分でその市場の中の人であるのに言うのも何ですが)オソロシスですなあと思うのであります。

つーか、これはまあ講演の方でもそうなのですが、従来より中村審議委員は長期的な財政健全化に向けた取り組みの重要性を強調していましたが、今回の講演および会見ではその点についてのトーンが高まっておりまして、これは欧州債務危機問題を受けてのトーンの強まりかなとは思いますが、一方で先般の追加金融緩和でまた押し込みだけしやがってお前ら政治は日銀に押し込むばかりでてめえら何もしないじゃないかふざけるなとかいう思いがあったりするのかもしれませんなあとか勝手に妄想するあたくしでございました。

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2011/06/06

○景気に慎重&成長基盤オペの拡大に慎重とな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1106a.pdf

・景気見通しに関して

まずは米国経済に関する質問に対するコメントから。

『もっとも、米国経済の先行き見通しに関しては、不確実性は依然高く、雇用環境をみると雇用者数の増加が続いているものの、過去の景気回復局面に比べ改善テンポは緩やかです。失業率もまだ高水準で推移しています。原油価格をはじめとする国際商品市況の動向は不透明であり、再び上昇することになれば、原油の純輸入国である米国の所得形成力を弱め、民間部門の支出を下押しするリスクがあります。

また、かねてから指摘されているように「家計のバランスシート問題」が、景気回復の重石となって作用し続けていることも気懸りです。昨年いったん下げ止まったかにみえた住宅価格は再び軟化しており、家計債務の過剰感はなかなか払拭されないと思います。家計の住宅購入需要も弱い動きが続いており、住宅投資の回復は当面期待しがたいように思われます。住宅市場の調整圧力は、実体経済と金融面の双方に対して、引き続き下振れリスクとなるのではないかと懸念されます。』

でもって講演で国内景気に関して「足元改善しているものも見られる」という話をしていましたけどどうなんでしょという質問も来まして、それに対してこのように説明しています。

『まだ、指標が多く揃っているわけではありませんが、生産面では、自動車を中心とするサプライチェーンの回復について、各社の情報からみると、当初の想定よりも早まっているように思います。また、消費についても、小売などはかなり戻っているように感じられます。一方で、観光をはじめとするサービスについては、回復はまだまだ弱い状況です。また、下振れリスクとして、原発問題などの不透明な部分が大きいことから、改善している部分はあるものの、全体として明るさが強くなったとはまだ言えない状況にあると思っています。』

ということで、講演ではちょっと明るい感じの話でしたが、経済に関する先行き見通しの話は丁寧に慎重な言い方をしていまして、就任以来ハト派的な発言が多い中村審議委員はやはり先行きの見方は慎重でございましたです。


・成長基盤強化オペに関して

成長基盤強化オペについての質疑が妙に長かったのでその辺から。

まずは先日の入札で成長基盤オペが3兆円になった件について。

『今回の資金供給では、地域金融機関向けが一段と増加しており、業態や地域の面でさらに拡がりがみられます。また、個別投融資については、引き続き、日本銀行が例示した18分野のほか、地場産業への取り組みなどもみられます。このほか、各金融機関が取組方針において設定した投融資枠の合計額は8.4兆円になります。また、本資金供給の上限である3兆円を大幅に上回っているほか、個別投融資の平均期間も6.6年と、本資金供給の貸付期間の上限である4年を上回っています。 このように、幅広い金融機関が、自らの顧客基盤や地域性などの特性に応じて、成長基盤強化のための多種多様な金融面からの取り組みを活発化させており、本資金供給は、狙いとした「呼び水」効果を発揮していると思っています。』

呼び水効果キタコレと申しますか、成長基盤強化オペそのものよりも「金融機関の自主的な取り組み」を評価しているように見えますが、その後の質疑応答を見るとまあ確かにそんな感じですかなというのが続くのである。

『本資金供給については、今回の貸付けの実施により、貸付総額の上限である3兆円にほぼ達することになります。今後の取扱いについては、成長基盤強化の重要性の観点や、本行からの融資額を積み上げることではなく、民間金融機関による取り組みを後押しするという本措置の狙い等を踏まえつつ、金融機関等による取り組み状況を見極めたうえで、慎重に検討していきたいと思っています。』

ということで、あまり増やす話になっていませんねえとゆー所ですが、ズバリ直球ストレートに「つまり枠の増額は積極的では無いと?」とゆー質問が飛んで来ましたがそちらに対して。

『やや慎重に考えたいということです。先程お答えした通り、この制度は、導入した当初から転貸資金ではなく、あくまでも基本は民間金融機関が金融仲介機能を発揮していくための呼び水です。この制度が、日本銀行がお金を出し続けなければ成り立たない制度だとすると、制度としてどこかおかしな部分があるということになるのではないかと思っています。』

ほほう。

『もちろん成長基盤の強化は大事なことですから、引き続き支援していかなければならないわけですが、この制度が当初意図した形で機能しているのかを検証し、制度自体に問題があるとすれば、むしろその点を見直さなければならないということであり、そういったことを含めてトータルで考えていく必要があると思います。当初、導入した趣旨から考えても、単に枠が一杯になったから増額するということにはならないし、そういう制度ではありません。私としても、この制度の延長について全く反対ということではありませんが、日本経済を成長させるという目的に資するのかどうかという点をきちんと検証する必要があると思います。』

成長基盤強化に関する重要性については麿と同じ話をしていますけど、成長基盤強化オペの拡充に関しては麿とはちと(だいぶ)温度差がありそうな感じです。で、何でじゃろという所ですが副作用に関する質問がありまして、そこの答えがこんな感じ。

『この制度の副作用についてですが、一部の金融機関からは金利の引き下げ競争を刺激しているとか、単に転貸のために使用されているといった指摘が聞かれています。本制度の趣旨は、基本的には民間金融機関の自主的な取り組みを支援するということであり、これを歪めているのであれば、好ましくないし、目的にも合致しません。こうした副作用については、本制度を継続するにしてもどのように排除していくのかをしっかりと考えていく必要があります。』

転貸資金になっているのはまあ確かにどうかなという感じですわな。で、同じ質問になるのですが、震災支援貸出制度を成長基盤強化に発展的に乗換みたいな話に関してどう思うのかという質問に対してはこれまた慎重。

『震災の問題については、既に被災地の金融機関に対する支援という形で対応策を打ち出していますが、復興復旧資金については、こうした活動が緒に付いたばかりであり、具体的にどのような形で資金需要が出てくるのかについては、今後の問題だと思います。また、現時点では、民間金融機関の対応や国の財政支援の内容が明確になっていないため、もう少し様子をみる必要があります。このため、単純にこれを右から左に持ってくることには無理があると思っています。』

ということで、中村審議委員は講演などがそんなに多くないのですけれども、講演は兎も角として会見を見ていますと、割と執行部のペースとは違う感じで話していまして地味に面白いです。


・財政問題に関して

まあこれは標準的な話をしていますけど。

『財政再建については、米国でも争点となっているほか、欧州でもギリシャ等の財政再建問題を抱えているわけですが、わが国においてはもっと大きな問題であると認識しています。こうした中、日本国債に対しては市場の信認が維持されており、金利が低いことから、財政にとって大きな金利負担になっていませんが、ある意味では課題が先送りされているように思います。ただ、日本国債に対する信認がすぐさま無くなることは考えられませんし、今回の震災の復興財源についても、どのような形で調達されるかは分かりませんが、国債が増発された場合でも、市場で十分に消化できると思われます。』

さいですな。

『しかしながら、財政問題は時が経つに従って、傷が深くなっていきますし、市場が信認を与えているうちに財政再建の道筋をつけておかないと、ある日突然、市場からバッシングを受ける可能性もありますので、金利が低いから良いとするべきではないと思います。午前中の挨拶でも申しましたが、財政問題は短時間で解決できるものではないので、個人的には、市場の信認がある間に財政再建の道筋をつける必要があるとの危機感を持っています。』

で、改めて国債増発の市中消化に関する質問に対して。

『規模とタイミングによると思いますし、発行後の財政的な裏付けがどういう形で明示されるかということにもよると思います。資金の需給から言えば、国債が増発されても、ある程度は市場で消化する余裕があると思います。ただ、財政面での裏付け等がないままですと、市場から反発が出ることも懸念されます。』

という事で、「しらっと出しても大丈夫でしょ目先は」という感じですが、このイメージには違和感ございませんです。


ということで、中村審議委員の講演は講演よりも会見の方が面白いのでありました(^^)。

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2011/06/03

○中村審議委員講演は経済認識のところをチェック

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110602a.pdf

今回の講演では金融政策の話はまあ正直新しい論点は無い(と思う)のでスルー致しまして、中盤の『3.最近の内外経済情勢』を中心に見物。

でまあ結論を先に申し上げると、中村審議委員の今回の講演は比較的景気に対する認識が普通というか執行部ベースというか、まあそんな感じでありまして、過去の講演では政策委員会平均よりも比較的ハト派ちっくで景気にあまり強い見方をしていないなあという感じでしたので、ちょっとその点では意外感があったのですが、前回(昨年12月)でも講演は展望レポートベースの話をしていたのですが、会見ではやはりハト派でしたという内容でございましたので、今日出る会見要旨も合わせて見るべきだと思いますので判断は保留ということで。

・海外経済について

『海外経済については、先進国経済が緩やかな回復を続けている中、新興国・資源国経済の力強い成長に牽引されるかたちで、全体としても緩やかな回復基調が続いています。IMFは、世界経済の成長率について、2011年は+4.4%、2012年は+4.5%としており、先行きも堅調に推移するとの見通しを示しています。東日本大震災の海外経済への影響は、総じて限定的なようです。』

ということで、比較的明るめの話をしている訳ですが、今回の話のトーンが明るめに見えるのはこの後の文章構成でありましてですな。

『新興国・資源国では、旺盛な内需を主因に高めの成長が続いており、世界経済の成長を牽引していますが、多くの国・地域で、既往の国際商品市況の上昇などを受けてインフレに対する懸念が強まっており、各国の中央銀行は、政策金利や預金準備率の引き上げなど、金融引き締め方向の動きを続けています。中国は、足許では+9%台の経済成長を維持していますが、インフレ率は+5%台であり、政府の目標水準である+4%を上回っています。こうした中、中国人民銀行は、先般、本年入り後5度目となる預金準備率の引き上げや、融資総量規制を始めとする流動性管理の強化を行うなど、インフレ抑制の姿勢を強めており、成長のテンポが幾分鈍化する可能性もありますが、輸出、生産、所得、支出の好循環の中で、全体としては、高めの成長が続くとみています。』

とちと長くなりましたが、海外経済の話をするのにのっけから新興国という足元における世界経済の成長エンジンについての話をしていまして、いやこの手の話を日本でしてる時って米国→欧州→新興国という流れになるのがよくあるパターンなので、新興国がいきなり来るというのは話しのトーンが明るくなる訳で。

まあ中村審議委員的には世の中暗くなってもいけないから明るい話を先にしないとなんて考えてトーンが明るめになっているのかも知れませんですけれども、従来どちらかというと「いやあそんなに楽観しちゃいかんざき」というトーンの話が多かった人なのでこの流れはちと意外でありやした(いやまあさっき書いたように会見ではトーンが違う可能性はありますが)。

んでもって新興国は上記の通りですが、米国に関してはこんな感じ。

『米国経済は、回復を続けており、先行きについても引き続き回復基調を辿ると思われます。(具体的数値部分割愛)もっとも、過剰債務による家計のバランスシート調整が引き続き大きな重石となっており、住宅市場は長期低迷が続いているほか、4月の失業率は9.0%と高水準であり、民間部門雇用者数が増加傾向にあるものの、リーマン・ショック以降失われた約8百万人の雇用を取り戻すにはまだ力不足の感は否めません。』

欧州経済に関して。

『欧州では、低成長のユーロ圏域内周縁国に対して、新興国向けを中心とした輸出の増加や個人消費に支えられて堅調なドイツ、フランス等の経済規模の大きなコア諸国というかたちで、ばらつきを伴いながらも、全体としてみれば緩やかに回復しています。先行きについても、ユーロ圏諸国の財政再建策に基づく緊縮財政が実施に移されていることや、ギリシャなどの債務問題の先行きに対する不透明感などから、全体として緩やかなペースの成長が続くと見ています。』

『ただし、欧州の先行きを巡っては、かねてより懸念材料であったユーロ圏域内周縁国国債の信用リスクを巡る問題がリスク要因となっており、ギリシャを中心に予断を許さない状態が続いています。』


・で、日本の財政再建の話キタコレ

『話は少々それますが、欧米諸国の財政再建問題に注目が集まる中、GDPに対する政府債務の比率が主要国で最も高いわが国の財政についても、関心が高まっています。わが国の長期国債金利は、世界的に見ても低位で安定的に推移していますが、これは、深刻な財政状況の中にあっても、わが国の国債が市場からの信認を維持できているためです。財政再建は、短期間で解決できる課題ではありません。市場の信認が維持されている間に、財政再建に向けた取り組みをしっかりと進めていくことが重要だと考えます。』

まあ今の政権では無理と思いますがwww


・国内経済に関しても割と先行きの明るさを指摘しているのだ

国内経済の部分から。

『足許では、大幅な減産が続いていますが、生産現場の復旧見通しについては、以前の「全く見通しが立たない」状態から、「見え始めた」部分が次第に増えてきており、幾分前向きな動きとして評価できるのではないかと思います。』

『4月25〜30日を調査期間とした景気ウォッチャー調査では、景気の現状判断は大きく落ち込んだ水準にあるものの、先行きについては+11.8%ポイントの改善となっており、マインド面の持ち直しを示唆しています。連休を含めた5月入り後の消費動向については、報道やヒアリング等から得られた情報では、地域間、業態間のばらつきは大きいものの、自粛ムードの後退、財や電力の供給制約の緩和などを背景に、不要不急の消費は控えながらも、徐々に前向きな動きも見られるようです。』

と言う感じで、現状の話に関しては「震災の影響で大きく落ち込みましたが先行きには明るい動きも見えますね」という話になっています。で、先行きですが。

『すなわち、2011年度のわが国経済は、サプライチェーン再構築にそれなりの時間を要すると思われることや、夏場のピーク時における電力供給制約もあることなどから、当面は、生産面を中心に、下押しされた状態が続くとみています。しかしながら、自動車産業を中心に大きく毀損したサプライチェーンの再構築が進捗していくほか、秋口以降は、電力供給制約も緩和され、堅調な海外経済を背景に、生産・輸出が再び増加していくと考えられます。また、これに伴い個人消費も緩やかに持ち直し、復興需要の増加とも相俟って、わが国経済は、本年度後半にかけては、景気回復テンポが高まる可能性が高いとみています。』

ということで展望レポートベースであります。


・上振れ、下振れ要因も展望レポートベース

展望レポートベースの中で特に「下振れに注意」みたいな話が無いのがチャーミング。

『まず、震災がわが国経済に与える影響については、上振れ、下振れ双方において不確実性が大きいということです。また、企業や家計が、わが国の先行きを過度に悲観する状態が続くと、設備投資や個人消費などの内需が中長期的に手控えられ、わが国経済の期待成長率が下振れるリスクとなります。さらに、サプライチェーン修復の想定以上の遅れなどにより、わが国企業の生産拠点や部材調達先の海外シフトの加速や、わが国製品の海外市場シェアの低下が生じたり、あるいは原発事故や電力供給制約などの帰趨次第では、わが国経済が展望レポートでの見通しに比べ下振れる可能性もあります。』

というのが下振れでして、

『一方では、今般の震災による被害を踏まえ、リスク分散のための新たな国内製造拠点の設置やサプライチェーンの再構築、またはエネルギーの効率的な利用促進のための新規の設備投資や新たなライフスタイルに適合した新製品開発などを通じた新規需要の創造などが積極化した場合には、見通しと比べ上振れる可能性もあります。』

というのがありますが、その先にこんなのが。

『さらに、今回の震災が、これまでわが国が長年に亘って先送りしてきた多岐にわたる課題を浮き彫りにした面もあり、これを機会に、抜本的な改革に果敢に取り組むことができれば、長期低迷からの脱出の契機となる可能性にも期待したいと思います。』

麿のようですな(^^)。

海外要因に関してはまあ普通の話(上記と同じく展望レポートベース)なので割愛しますけど、商品価格上昇に関しては「景気下押し」と明言しているのはほほーという感じであります。

『最後に、北アフリカ・中東情勢の緊迫化等の地政学リスクなどから、国際商品市況が一段と上昇し、原材料価格の上昇に伴う企業収益の悪化等を背景に国内民間需要が下押しされるリスクにも注意が必要です。』

物価が上がりますねえ(だから正常化云々)の話に持って行かないのはまあ宜しいんじゃないかと(^^)。


・自動車産業依存経済からの脱却とな

次のお題が『(5)わが国経済と自動車産業について』という部分でありまして、これはまあ中村審議委員の問題意識という事なのでしょう。中身はまあ色々と説明があるのですけれども、その辺を華麗にスルー(自動車産業の裾野の広さとか、現在起きている震災によるボトルネックが発生する背景の話とかをしています)しまして結論を。

『先程申し上げた通り、わが国の経済活動に占める自動車産業の位置付けが大きいだけに、震災後のわが国経済の持ち直しのスピードと拡がりは、裾野の広いわが国の自動車産業やその関連部品メーカーの生産現場の復旧と輸出の回復に大きく左右されると云えるのかも知れません。』

さいですな。

『なお、今回の震災により図らずも明らかになったように、わが国の経済は特定の産業に大きく依存しており、当該産業が大きく落ち込むと日本経済全体が落ち込むというリスクと隣り合わせとなっています。こうした産業構造は、当該産業での新興国の急速な追い上げによる競争激化や、強力な代替製品が現れた場合のリスクも抱えています。』

確かに。

『政府の「産業構造ビジョン2010」では、「一本足打法」から「戦略五分野の八ヶ岳構造」へのシフトを提唱していますが、こうした点は、環境変化に強い国作りに重要な視点だと思います。』

・・・・・・・・すいません、このビジョン知りませんでした(汗)。

#つーか「一本足打法」とか昭和の香りにも程があるわw


ということで金融政策運営の説明が続くのですが、単に現状の政策の説明だけなので割愛します。

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2010/12/03

○中村審議委員の景気認識はやはりハト派(=景気認識は弱め)っぽく

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1011b.pdf

・欧米経済動向のリスクについて

『(問) 午前中の講演の中でも言われていた欧米経済の動向ですが、講演のお話を伺っていると慎重にみられているというか、下振れリスクが大きいと指摘されています。現状において、上振れリスクと下振れリスクの認識といいますか、両者のバランスをどのようにお考えかお伺いします。』

『(答) 新興国については、各国当局による金融緩和策の修正が行われておりますが、場合によっては上振れるリスクがあると思います。欧米の経済については、特に米国を中心に、先行き非常に不透明感が強く、これについては下振れのリスクを考えるということですが、上振れ、下振れ、トータルでみますと、若干、下振れのリスクの方が強いと思います。これは先般の「展望レポート」の各政策委員のリスク・バランス・チャートにおいても、どちらかというと、若干下方という感じであったと思います。』

ということですが、そのリスクバランスチャートの形状に対して白川総裁は「リスクは概ねバランス」とコメントし、中村審議委員は「下振れのリスクを考慮」とコメントする所が実に味わいの深いものがあります(先日の白川総裁会見でも同じ趣旨の質疑があって、応答の中で「リスクバランスチャートでは若干下方」というのを白川さんも認めながら「リスクは概ねバランス」を表現する訳ですな、その会見に関してはまた改めて^^)。


・でまあリスクバランスに関する質問がもう1回出ているのですが(^^)

『(問) リスクバランスについて確認させて頂きたいのですが、白川総裁は、以前、「リスクバランスは、ほぼ上下バランスしている」とおっしゃっていたかと思うのですが、先ほど中村委員がおっしゃった「多少下振れリスクの方が大きい」というのは、白川総裁と中村委員のご認識が多少違うということなのか、あるいは時間とともに日銀全体の認識が変わってきているということなのか、その点をご説明頂けますか。』

『(答) 政策委員は9名いるわけであり、それぞれ微妙な違いはあると思います。私が申し上げたのは、「敢えていえば」、下振れリスクの方が大きいということであり、そう大きな違いがあるわけではありません。また、日銀自体の見方が大きく変わったということでもありません。その辺りについては、先ほども触れましたが、「展望レポート」におけるリスク・バランス・チャートからも、若干読み取れるのではないかと思います。』

白川総裁と中村審議委員のリスク認識には違いがあるということですね、わかります(^^)。


とまあそんな感じでして、他にも幾つか質問はあるのですが、そんなに突拍子の無い話は無いです、で終了させるのもなんですから、為替に関する質問と金利に関する質問の部分をば。

『(問) 為替についてですが、今、1ドル82円後半〜83円前後で推移していますけれども、これについて、マーケットでは、史上最高の円高水準と言われた時に比べると、米国の追加緩和策以降若干落ち着いているという見方のようです。中村委員としては、日本経済に与える影響についてどういう捉え方をしていらっしゃるのか。今後、為替がこの水準で進むとするならば、今後の適時適切な政策判断にどのように影響を与えていくのでしょうか。』

『(答) 日々の為替動向や水準について具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。10月に「包括的な金融緩和政策」を決定した際にも、これは、これから起こり得るであろう下振れリスクに対して機動的に対応したものです。為替の水準そのものについては言及していませんが、円高が日本経済へ与える色々な影響、それからマインド面への影響についても配慮したわけです。これからも、為替相場も含めて金融市場の動向は、経済・物価情勢に影響を及ぼしますので、その動向と影響については、引き続き注意深くみていく必要があると思います。』

ということで、まあ普通の話をしているのではございますが、ここでは「追加緩和実施は下振れリスク対応」という話と「為替水準の重要性」についてのコメントをしておりまして、その理屈から行きますと、為替水準がある程度トレンドを持って円高傾向になるような市場動向が再燃した場合は金融政策としては「為替の円高を止めるように市場に作用させる政策」を実施しますよ、ということになるんでしょうなあという所です。

つまりですね、

『(問) 「包括的な金融緩和政策」の効果についてですが、新しく創設した基金の買取りによって社債の対国債スプレッドは縮小していると思いますが、一方で、国債の流通利回り自体はむしろ上昇しています。こうした状況に対するご見解は如何でしょうか。』

という質問に対して、

『(答) 足もと、短期金利には殆ど低下余地がなく、3か月、6か月物金利についても固定金利オペレーションを行っている中、もう少し長い金利については、場合によっては若干の低下余地があるかもしれないということで、国債に関して2年物前後を中心に買入れをしているわけです。』

ってな話をしている所にまあ象徴されるように、為替円高が止まってくれれば結構というのがメインにあるんじゃねえのと思われる次第。まあターム物金利がどうしたこうしたというような細かい話になると中村審議委員が日々の細かいオペレーションがどうなって金利水準がどうなってというような話まで逐一フォローしているとは思えませんので(そんなマニアは日銀出身以外の最近の人だと水野さん、昔の議事録を見ると武富さんとか中原(伸)さんとかですけど、まあ昔の方が短期市場の荒れっぷりがそのまま問題になっていた(何だかんだ言っても今は金融システム危機な訳ではないから細かいオペレーションによる日々の影響がどうのこうのとかは切迫感無いですからね)から昔の方がその辺はマニア度が高かった気がせんでもない)、まあ事務方の説明がどんなモンなのかが何となく窺えるという所でもあるかと。

つまりですね、

『こうしたオペレーションによってすぐにマーケットの動きが変わるということはなく、ある程度時間がかかります。また、色々な条件によってマーケットが変わるわけですから、必ずしも当初意図した効果が直ちに表れるということでもありません。1年かけて行うオペレーションですので、もう少し長い目でみて行く必要があると思います。』

という説明を事務方がしてて、だから別に長い金利が上昇するのって包括緩和をやってないとかいう話ではないですよ、という理屈だと思う(まあ実際問題として長期金利はその面が結構ありますからね)のですけれども、実際にはこの会見の翌週(会見は先週の木曜に実施されている)の月曜(つまり今週の月曜)には2年金利が木曜の0.16〜0.17%水準から瞬間最大風速で0.21%まで上昇した訳でございまして、日銀の庭先というか、もともとの庭先から出張って町内会のお掃除も始めようと言って基金買入を実施した2年ゾーンの金利が絶賛大上昇してあちこちで湯気ポッポーとなった(湯気ポッポーはあたくしだけですかそうですか^^)訳でして、その部分ってえのは基金買入がどうのこうのというのと別問題だったりするのでございました、という落ちが待っていたのですけどね(笑)。

まあ何ですな、こういう理屈も判らんでもないですけれども、市場相手にということになりますと、「包括緩和実施」「長めの金利を低めに推移するように促す」というアナウンスをした以上、そんな「1年掛けて」みたいなノンビリした話では納得しないのでありまして、その辺りのスピード感に絶望的な認識ギャップがありましたねえというのが今回の短期市場謎の大荒れ騒動のベースにあったんでは無いでしょうか、などとも思う金曜の朝なのでありました。

・・・・うーむ、何時の間にか中村審議委員と関係ないところでの悪態が入っておりまして中村さんどうもすいませんすいませんすいませんm(__)mですけれども、まあ審議委員は連帯責任ということですから(^^)。

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2010/11/26

○中村審議委員講演より、基本的には展望レポート通りですが

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1011c.pdf
わが国の金融政策と経済・物価情勢

従来景気認識に関して中村審議委員は比較的厳しい見方(=ハト派的)をしているという感じがするのでありますが、今回の講演では基本的な説明は展望レポートに沿って話をしています。ただまあ中身を見ると微妙にハト派かなあとか思ったのでその辺を少々。

講演の5ページからが日本経済の現状認識および先行き見通しに関する説明になるのですけれども、その中で本文6ページ目に先行き見通しの説明がありまして、2010年度後半の方は今更そんなに差が出る話ではないのですが、2011年度以降に関しての説明が微妙に展望レポートよりもトーンが低めかなあと思ったのはあたくしに中村審議委員=ハト派の認知バイアスが掛かっているせいなのかも知れませんので念の為(汗)。

『先行きにつきましては、2010 年度後半にかけて、個人消費が、耐久消費財に関する各種対策の効果や猛暑効果が剥落するため、一時的に弱い動きとなると思われます。輸出は、一時的に成長ペースが鈍化している海外経済の動向や、これまでの為替円高の影響もあり、増加ペースが緩やかなものに止まるとみられるほか、生産も、暫くの間、弱い動きを続けるものと思われます。鍵となるのは、反動減で低調となっている自動車生産の回復時期ですが、2011 年度の早い段階とみています。』

というのが今年度後半の話ですが、これはまあ今更大差の出る話ではなかろう。

『2011年度入り後以降、海外経済の成長率が新興国・資源国を中心に再び高まる中で、製造業では、輸出が増勢を取り戻すほか、生産も増加基調に復し、企業収益は回復を続けると考えられます。設備投資については、先々の輸出や生産の持ち直しに伴い、企業の設備過剰感が徐々に解消するとともに、持ち直し傾向が続くと見込まれます。非製造業についても、製造業の業績改善の影響が徐々に波及してきており、企業収益や設備投資は緩やかに持ち直していくと考えられます。個人消費も、これらに支えられる格好で、再び緩やかな持ち直し基調に復するとみています。』

いやまあ普通の話をしているっちゃあ普通の話をしているのですけれども、展望レポートではこの部分をどう説明しているかと申しますと以下のようになるのですな。

『2011 年度入り後は、円高の影響は残るものの、海外経済の成長率が再び高まることなどから、輸出が増加を続けるほか、企業収益が改善していくもとで、設備や雇用の過剰感も徐々に解消していくため、わが国経済は緩やかな回復経路に再び復していくと考えられる。2012 年度は、新興国・資源国を中心に海外経済が高めの成長を続けるもとで、輸出・生産から所得・支出への波及メカニズムが強まり、潜在成長率を上回る成長が続くと考えられる。』(10月展望レポートより)

いやまあ同じ話をしてるっちゃあ同じ話なのですが、中村さんは展望レポートで示された2012年度の「輸出・生産から所得・支出への波及メカニズム」という部分を華麗にスルーしているのにあたくしは「ほほう」と思った次第でございまして、いやまあ単にそんな先の話までしてもシャーナイナイと思って2012年度の話をしているのかも知れませんが、展望レポートの明らかに強気っぽいトーンに対して消極的違和感とでも言うものがあってその辺りを反映させた結果としてこの部分の話が展望レポートベースのトーンをちょっと落としたような言い方になっているのかなあとか勝手に妄想をしてみましたけど実際はどうでしょうかね。

ただまあ今回の講演に関しては景気認識および先行き見通しに関しての部分は小見出しが『2.「展望レポート」における経済・物価情勢の評価とリスク要因』となっておりますように、基本的には展望レポートのベースのお話をしていまして、中村審議委員の個人的見解を披露する講演になっている訳ではないので、今回はごく淡々とした内容かと思われます。

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2010/02/08

○中村審議委員会見

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1002a.pdf

・デフレがどうしたこうした

最初の中村さんの話がやたら長いのですが、まずはその中から少々。

『それから、3つ目のデフレに関するご質問については、昨年政府が「デフレ宣言」しましたが、いろいろなところで「デフレ」という言葉が飛び交っています。講演でも申し上げましたが、物価の継続的な下落ということと同時に、景気が悪いことを称しての「デフレ」、中には、鶏と卵の関係ではありますが「デフレがあるから景気が上向かない」と言われることもあるようです。このように「デフレ」はいろいろな意味で使われておりますので、説明しておく必要があると思いました。』

『また、講演の中でも申し上げましたが、こういう事象までデフレと言えるのだろうかというものもございます。例えば、消費者のニーズが変化する中、それに対応した新しい製品・サービスを適正な価格で提供する、あるいは今まであった機能を本当に必要なものだけに削ぎ落として、その分安い価格で提供する、といったことまで「デフレ」というと、物事の本質を見誤ることになると思います。もちろん、「デフレ」は経済にとって良いことではないですし、日銀としてもデフレ脱却に向けて取り組んでいる訳ですが、そのことについて良い機会でありますから、自分自身も含めて考えてみた次第です。』

とは言いましても、名目上の低価格競争になること自体は景気が宜しく無いから低価格競争という話ですし、そもそも「機能を落として低価格」っていうのは名目は低価格だけど実質はどうなのとか、まあ世間的に言われるデフレ話と統計上の話はまた別というのがありますからね。

#ま、それよりも無駄に使いもしない高機能になっていくPCとかの「統計上の価格急落」の方が個人的には「何がデフレなんぞや」と思いますが


・これは泣いた

『(問) 地元の経済界の方からの質問や提案などで、何か特徴的なものはありましたか。』

という質問に対しての最初の部分に泣いた。

『(答) 冒頭申し上げましたように、金融経済懇談会では「早くデフレから脱却して欲しい」とか、「為替の安定を図って欲しい」などの声がございました。(以下略)』



・足元の対策と長期的な財政安定化と

このツッコミは鋭い。

『(問) 講演挨拶の中で「時期をみて緊急対応的な施策を見直すと同時に、中長期的な財政再建策について真剣に検討し、持続可能なバランスが取れた成長に繋げていく必要がある」と発言される一方、「現在の経済の持ち直しは財政政策の効果に支えられている面が強い」とも発言されています。その整合性、バランスについて、ご意見をお聞かせ下さい。』

『(答) その点が一番難しいところです。』

いきなりそう来たか(^^)。

『足もとは、海外もそうですが、いろいろな景気刺激策によって経済が回復している面があります。こうした状況に弾みがついて自律的な回復に向かった時には、アメリカでもおよそ5年以内にと言っていますが、今すぐということではないにせよ、財政再建の道筋をそろそろ考えていかなくてはならないと思います。』

『私がこういうことを言っても、長年に亘って長期金利は上がってないので、オオカミ少年と言われそうです。しかし、景気がボトムを打って回復する過程において、財政規律の問題に光が当たりつつありますし、日本国債の外国人保有比率は今のところ7%程度ですが、これから先どうなるか分かりません。また、経済が発展して長期金利が上がっていくことはノーマルな形ですが、財政規律の面から国債保有のリスクプレミアムが高騰すると大変なことになります。これは今年すぐに起こるとは思えませんが、マーケットより先に取り組んでいかないと大変なことになるのではないかと思い、敢えて申し上げた次第です。』

まあこれはそらそうよとしか申し上げようが無い話ですので、そうなりますとやはり金融政策に掛かるウェイトが高くなるちゅう話になりゃせんかねという気はせんでもない。


・これはどう見ても民主党政権に対する嫌味成分(^^;

『(問) 政府は6月までに「中期財政フレーム」を作ろうとしていますが、中村審議委員として、その財政フレームにどのようなものが含まれた方が良いとお考えですか。』

『(答) それは、政府が考えることですし、それを考えるときには日本を将来どのような国に持っていくかということとも当然絡んでくると思います。現状の財政の問題は福祉の問題に絡んでいますし、結局そういうところまで踏み込んでいかないと解決しないように思います。また、国民に痛みを求めなくてはならないこともあると思います。』

と、まあここまでは普通の話なのですが・・・・・

『やはり数字の辻褄合わせではなく、日本の国をどういう方向に持っていくか、また、これから高齢化社会も進んでいく中、これにどのように対応するかという点まで踏み込んでいかないと、国民の納得は得られないのではないかと思います。そういう意味において、このプランを作るのは簡単ではないという認識は持っています。』

つまり、民主党政権が出してくるビジョンとやらは数字の辻褄合わせで、将来のビジョンもへったくれも無いものであり、なおかつ安易にやっつけで作ってばかりだという事ですね、わかります(^^)。

他にもいくつか質疑応答ありましたが、まあ基本的にそう突拍子もない事は無かったので会見はこんな所で。

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2010/02/05

お題「中村審議委員は日銀大勢対比ハト派ですかな」

ということで中村審議委員の講演ですが。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1002a.pdf

○デフレがどうのこうのについて

最初の部分では日銀の公式見解をベースにした景気見通しの話とリーマンショック以降の日銀の政策対応の流れについての説明をしておりますので華麗にスルー致しますとしまして、『4.国内の物価動向について』の(デフレについて)という部分から。

『一般的に「デフレ」は、一般物価の継続的な下落を指す場合が多いと思いますが、それ以外にも、資産価格の下落や、経済活動の停滞、といった意味で使われることもあると思います。』

『ところが、昨今、デフレという言葉が、様々な意味を込めて、やや安易に使われている印象を受けます。』

まあ政府様のデフレ宣言以降は何かあるとデフレに結び付けて報道のネタにする向きが多いですわなあという話ではあるのですが、この先を読むと、この話は一部の人が時々言ってるのが聞こえてくる「ユニクロ悪玉論」みたいな話に対するカウンターの話をしているっぽいですな。

『日本全国で、小売業やサービス業の現場を中心に、激しい価格競争が繰り広げられていることも、デフレ的な現象として、問題視されています。一方では、必要なものを、必要な時に、必要なだけを適切な価格で買い求めたいとする、賢い消費者が増えてきています。こうした消費者行動の変化を見据えて、消費者の価値観に合った、新しい商品やサービスの提供を行ったり、不必要な機能を削ることによる価格の見直しなどにより、消費の取り込みや拡大を図っている企業も少なくありません。このような価格の見直しについては、デフレ問題と切り離して考えるべきだと思います。』

なるほど。

で、その次が物価の見通しなのですが、物価の先行き見通しに関しては厳しい見方っぽいです。まあそもそもの日銀政策委員会コンセンサスも厳しいのでコンセンサス対比どうなのかはこちらでは読めませんが。

『現在、わが国が直面している持続的な物価の下落は、幾つもの要因が複合的に作用しています。すなわち、雇用や企業の継続性が最優先され、賃金が下方硬直的ではないとか、利益率よりも取引関係の継続性や売上数量の確保が優先される傾向にあるとか、様々な要因から米欧諸国に比べて、物価水準そのものが長期に亘って低目に推移してきました。そうした中、一昨年の140 ドルを超える石油価格高騰の反動に加え、金融危機を契機として世界的に需要が急減したことから、物価が下落していると思います。』

『このため、経済の回復が緩慢なものに止まるとの見通しの下では、
供給に比べて大幅に不足している需要は早急には回復せず、短期間に
物価の下落圧力が解消できるとは考えられません。』

ただまあ書きっぷりそのものは、「持続的な物価の下落」とか「大幅に不足している需要は早急には回復せず」とか、トーンとしては厳しい感じではないかと思います。


○デフレ脱却には流動性供給だけではなく需要の持続的な拡大が必要です

次の段落ではそういう話をしているように読めるのですけれども、どうも情報ベンダー的にはそれだと今一歩刺激的なヘッドラインにならないからなのか、どうも前半だけをヘッドラインにするのが仕様のようで、困ったもんですなあと思うのでした。

(ご参考)
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-13713120100204?sp=true
流動性供給増だけでデフレから脱却できるとは考えにくい=中村日銀審議委員

このヘッドラインだけを見るとまるで「流動性供給増に消極的」と読めそうなのですが、講演全体を読むと中村審議委員の認識は政策委員会コンセンサス対比ハト派と思われるので、別に流動性出さないと言ってる訳じゃないと思うのですけどね。では講演に戻りまして引用。

『現在の金融政策は、金融機関に対する流動性を潤沢に供給することに加え、短期金融市場における金利の低下を促すことを通じて、需要の下支えに寄与してきていると思います。』

つーかターム物誘導でしょうと思いますが、ターム物誘導と言っても短期市場と債券市場の人以外には訳判らんと思われますのでそれはそれとして。

『財政政策も耐久消費財への刺激策など、需要を支える政策を行っています。しかし、需要が持続的に高まっていくためには、民間部門における体質改善も必要です。このように、需要不足解消のためには、日本銀行、政府、民間企業がそれぞれの役割を果たしていくことが重要であると思います。』

日銀が何やるかは後でありますが、要するに緩和的な金融環境を継続しますという事のようですが。

『ところが、デフレからの脱却のために、日本銀行が民間金融機関に対し、大量の流動性を供給しさえすれば良い、といった、将来に亘っての大きな課題に目をつぶり、即効性のある対策が存在するかのような主張も聞かれます。』

これはこれは。

『日本銀行が2001年から2006年に実施した量的緩和政策では、日銀当座預金残高の積み上がりに比べ、市中銀行から民間への貸出は増加せず、直接的なデフレ脱却策としての効果は小さかったように思います。』

時間軸効果とかのルートでの円安とか低金利とかは効いたと思われる節があるのですが、量そのものが定量的に効くというよりは定性的に効いたというような整理ですかな。その辺りの話が微妙に端折られているので良く判らん(まあそもそも効果の検証自体が検証する人によって微妙に違うという中々蒟蒻問答な状態でもあるのですが)ですな。

『足許でも、本行の緩和的な金融調節オペレーションにより短期金融市場の資金余剰感は高まっており、やや長めの金利を含め、補完当座預金制度の付利金利である0.1%に向けて金利は一段と低下しています。』

さいですな(実は昨日はGCが0.11%になってたけどミクロの世界につきスルー)。

『企業の資金需要が減退していることなどを背景に、金融機関の貸出意欲が弱くないにも拘らず、資金余剰感が貸出増には繋がり難い状況になっており、通常の金融緩和政策の波及メカニズムが働きにくくなっています。』

『このため、流動性の供給を増やすなどの施策だけでは、わが国がデフレから脱却できるとは考え難く、日本銀行が物価の安定に向けて金融面からの貢献を行うと共に、各経済主体が様々なイノベーションや地道な努力を積み重ねて内外の需要を創出し、生産性向上を反映した中長期的な所得増加期待を高めていくことが肝要だと思います。』

ということで、別に日銀が流動性を出さないとか言ってるわけでは無いので念の為という所ですわな。


○物価安定の理解の明確化について

『昨年12月18日の会合では、本行の金融政策運営に関連する「中長期的な物価安定の理解」について、日本銀行の考え方を正しく理解してもらうために、改めて「物価の安定」についての考え方を確認し、公表しました。』

さよですな。

『背景としては「日銀はいわゆるインフレ・ファイターではあるが、デフレ・ファイターではない」とか、本行が物価の下落よりも上昇圧力に対する取り組みに軸足を置き、デフレ脱却に対する取り組みに真剣でないとかの印象を国民や市場関係者に持たれているとすれば、払拭する必要があると判断したからです。』

と、この辺りの表現に関しても、12月にこれが出た時の総裁会見ベースの説明で使っていた白川さんの言い方よりもトーンが強めの印象があります次第でして、この辺りも中村審議委員がややハト派寄りだと思われる所でありまする。


○先行きリスクも「バランス」ではなく「下振れリスクが若干大きい」

1月の展望レポート中間評価公表後の白川総裁記者会見ではこのような話をしていました。

『(答)上振れ下振れ両方のリスクを挙げていますが、各委員によって微妙にバランスは異なっていると思います。ただ、私は本日、各委員の議論を聞いて、全体としては概ね上下のリスクはバランスしていると受け止めました。私どもは、先行きの経済成長について、決してどんどん成長率が上がっていく姿を想定しているのではなく、比較的慎重な見通しを出していますが、この見通しとの比較でみると、リスク要因は概ねバランスしているという評価です。』(1月26日の総裁会見より)

一方で中村審議委員は先行き見通しのリスク要因に関しましてこのように指摘しています。

『こうした上振れ、下振れ要因のバランスは、1 年前に比べれば下振れ要因が小さくなってきているとは思いますが、金融危機のショックが極めて大きかっただけに、下振れリスクが引き続き若干大きいように思われます。』

つーことで、下振れリスクを意識しているという事して、この部分はまあ明確に政策委員会大勢見通しよりもハト派寄りということで、そもそも中村審議委員は従来よりハト派寄りの認識を示す事が多かった事も勘案すると、中村審議委員は引き続きハト派寄りという理解で宜しいのではないかと思われますです。


○最近話題の空洞化問題

リスク要因の続きでこんな話を。

『また、損益分岐点の引き下げや、新興国市場の取り込みを目指して、多くの企業経営者は不採算部門からの撤退や他社との部門統合、新規分野の開拓、最適な生産・供給体制や製品開発体制の見直し等を行っています。このため、生産設備の廃棄や海外移転が一段と進む可能性も否定できず、その場合、海外経済が本格的に回復したとしても、国内の設備投資が抑制され、雇用環境の回復が限定的となることも否定できません。』

先般の日銀支店長会議の後で、日銀大阪支店長(理事)の早川さんがこの点を指摘していましたな。
http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK035112720100118
UPDATE1: 企業の海外移転で日本経済は世界の成長についていけなくなる懸念=早川日銀大阪支店長

『例えば、薄型テレビや携帯電話等の情報通信機械は、国内需要分についても海外への生産移管が進行しており、輸入比率が高まりつつあります。製品の研究・開発拠点の現地化も進行しているほか、従来は障害となっていた現地インフラも整備されつつあり、新興国を中心とする海外生産移管は着実に進展するとみられます。これらの動きが、国内の空洞化に繋がるような広がりとなるのかについては注意が必要です。』

じゃあどうするのかと言われるとこれまたムツカシヤな話ですが、この際やはり円安誘導ですな円安誘導(^^;


○財政赤字問題

まあこれは仰る通りの話ですわな。

『リーマン・ショック以降、各国が積極的な財政政策で経済を下支えしてきた結果、多くの国で財政赤字と政府債務残高が極めて高い水準まで増加しています。経済金融情勢が一昨年のパニック的な状況を脱したことなどもあり、最近では政府債務の持続可能性に関する懸念が世界的に高まりつつあります。例えば、ギリシャでは、10 月の政権交代に伴い、従来公表されてきたよりも財政が深刻な状況にあることが明らかになり、国債が格下げされ、金利が大幅に上昇しています。他にも、ポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインがユーロ圏において財政懸念が強い国と認識され、金利が上昇しています。』

昨晩も地中海クラブ絶賛延焼中のようですな。で、途中をスルーしまして。

『米国や英国、そしてわが国も足許の財政状況をみる限り、決して「対岸の火事」として安穏としてはいられません。』

さいですな。

『経済活動の水準が未だに低く、民間需要の回復のペースが緩慢な中では、短期的な財政支援継続と中長期的な財政再建とのバランスを取ることは極めて難しい問題です。しかしながら、一時的であるべき非常手段に過度に依存すると、将来、より大きな問題を惹起しかねません。このため、時期をみて緊急対応的な施策を見直すと同時に、中長期的な財政再建策について真剣に検討し、持続可能なバランスがとれた成長に繋げていく必要があります。』

でもまあ民主党ですからねえ・・・・・

#ということで中村審議委員はハト派ですなあというのが結論でした

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2009/06/29

では中村審議委員の講演と会見から。

講演(挨拶)要旨
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0906c.pdf

会見要旨
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0906c.pdf


○珍しく日銀の業務やら財務諸表の話が先に

金曜にご紹介した記者会見にもありましたが、講演の説明が景気に冠する話の前に、日銀の役割(金利を上げた下げたの話じゃなくてインフラに関る部分)に関する話などを展開しています。まあ皆様におかれましては先刻ご承知の話だと思いますので華麗にスルーしますが、日銀券ルールに関する説明はどうも日銀ご担当の記者様におかれましても理解されておられないお方がおいでのようですので(笑)、改めて引用(^^)。

『わが国では、国債発行や年金の支払い、税金の徴収等、財政関連の資金の変動幅が大きく、時には10 兆円近くも資金の過不足が生じることもあります。機動的に金融調節を行うためには、負債の伸縮に合わせて、資産を伸縮させることが重要です。こうした観点から、短期的な振れが大きい政府預金等や、機動的に残高をコントロールする必要がある当座預金に対しては、短期オペ資産を保有する一方、長期性負債である銀行券残高に対しては、主として長期の資産である長期国債を保有して、円滑な金融市場調節運営を行っています。一般企業が財務体質を安定させるために、流動性と固定性とに分けて、それぞれの資産、負債残高を調整していることと、基本的には同じ考え方だと思います。』

と、企業財務の話を引いて説明するのが企業経営者出身の審議委員さんらしくて宜しいかと。だから銀行券ルールを設定しているのですよという説明はもう何度もあちこちで引用しているので割愛しますが、現状に関してはこんな状況のようで。

『因みに、本年3 月以降、長期性資金供給のために、毎年21.6 兆円ペースでの長期国債購入を行っていますが、当面は「銀行券ルール」に抵触する事態は発生しないと考えています。』

だそうです。


○経済には慎重

海外経済の話に関しては、まあ基本的に金融経済月報で示されるような慎重な見方になっていますが、特に先行きに関しては商船三井出身らしい例えで、厳しい見方をしています。

『世界経済は暴風雨圏からは抜け出しつつありますが、極めて濃い霧の中をレーダーを頼りに、減速航海している状況にあり、引き続き先行きの不確実性は高い状況です。』

というころで、全体感の他に地域別の動向についても説明していますが、米国に関しては住宅市場動向の先行きに対して注目しつつも極めて慎重な見方。欧州に関しては在庫調整の進捗遅れや中欧東欧の金融や経済ショックへの懸念(先般のラトビア通貨切り下げ懸念も引き合いに)、新興国に関しては財政以外での牽引役がいない点と、まあ先行きに関しては極めて慎重な見方を示しています。引用すると長くなるので勝手に端折ってご紹介しました(^^)。


で、国内経済に関しても展望レポートの線よりちょっと慎重っぽく見えますな。

『これまでのところ、国内経済は、只今申し上げたシナリオに沿うかたちで展開しています。足許、わが国景気は下げ止まりつつあり、4〜6 月期にかけては、これまでのフリーフォール的な状態からは脱し、前期比でみた成長率はプラスに転換できると思います。(説明部分割愛)ただし、この半年間に経済活動の水準が大幅に切り下がってしまったため、輸出、生産が持ち直したとしても、回復を実感し難い状況が続くと思います。』

『個人消費は、今後、自動車減税等の経済危機対策による押上げ効果と、物価下落による下支え効果が見込めますが、雇用調整や賃金の引き下げが更に拡大すると、足許、改善傾向にある消費者マインドが再び悪化し、消費全体が弱めに推移する可能性もあります。設備投資についても、先行きの需要がどの程度の水準まで回復するか見極め難いだけに、新たな投資に対しては抑制的とならざるを得ず、大幅な増加は期待できません。』

ということで、まあ慎重ですわな。また物価に関してですが、原油価格上昇を経済に対する悪影響要因として懸念しているのもポイント。

『なお、このところ原油価格が再び上昇していることには注意が必要です。中国が原油、鉄鉱石、銅など様々な原材料の輸入を増やしていることや、リスク許容度が回復してきたファンド等の投機資金が相場を押上げている、といった見方があるようですが、こうした価格上昇が続き、仮に物価全体の上昇に繋がると、所得が減少する中で家計を圧迫することとなり、経済の回復に水を差しかねません。』

で、先行きリスクに関しては下振れリスクと不透明感意識ですが、引用の方は割愛。それほど強烈な下振れリスク意識ではないですが、まあ慎重は慎重です。


○金融環境に関して

金融環境に関する部分で、現状認識と先行きの政策運営に関る部分から。

『これまでに導入してきた各種措置は、市場の安定化にそれなりの貢献ができたと思います。CP や社債の発行環境は昨年末に比べて、大きく改善しています。CP の発行金利は低下しているほか、社債についても、当初計画を増額して発行する企業もみられるほか、昨年末には起債が難しかったシングルA 格企業の案件も増加しています。』

さいですな。

『全体でみましても、CP、社債の発行金利の低下などから、企業の資金調達コストは一頃に比べれば低下しているようです。この間、6 月5 日にオファーされたCP 等買入れオペは、応札額がゼロとなりましたが、これはCP 市場の機能が改善してきたことの証左と捉えることもできます。』

これもそうですね。

『もっとも、世界経済回復に関する不透明感が強い中、今後、企業業績の悪化によるキャッシュフローの減少も見込まれ、合理化等に伴う資金需要の増加も予想されるだけに、先行きの企業金融の環境は全体としてはなお厳しい状況が続く可能性があります。また、金融市場も改善傾向にはありますが、未だ正常な状態に復したといえる状況ではありません。』

ということで、まだ金融環境に関しては厳しいと。

『一方、これまでの政策対応は、中央銀行の政策手段としては異例の措置も含まれており、必要な期間に限り、必要な規模で実施することも肝要です。このため、実施期限を9 月末と定めている措置の今後の取り扱いについては、金融経済情勢の推移をしっかり点検しながら、予断を持たずに検討していく必要があると思います。』

ということですが、まあこれは普通に考えますと、「今の状況のままであれば企業金融に関する各種措置は延長しますよ」という話になるのかと思います。


では記者会見。

○企業金融支援関連の措置に関して

話の流れということで、その辺りの質疑から。

『(答) 現在の政策の期限は9月末ということでまだ時間がありますし、来月には短観が公表されますので、現在の措置が必要かどうかということは、時間をかけてみていきたいと思います。』

現状に関しては講演と同じですが、より具体的にはこんな感じ。

『足許については、確かに社債の増発などがみられますが、まだBBB格についてはスプレッドが非常に高い状態ですし、金融市場においてもまだ神経質な動きがみられます。企業金融全般としては、一時に比べれば随分緩和的になったと思いますが、これから先については、やはりまだ厳しい面があります。』

ということで、現状のままであればどうなるかと言いますと・・・・・・

『これから色々な資金需要や、業績の悪化といった問題もありますので、現時点の情報で判断すると、まだ少し早いのではないかと思いますが、ただ、まだ2か月ありますから、よく様子をみて総合的に色々なことを考えていかなくてはならないと思います。講演でも述べましたように、こういった異例な措置については、常に出口のことを考えながら行うのが当然です。ただ今のご質問は仮定になるかと思いますが、現時点に限って言えば、以上のような感じを持っているということです。』

現状から著変が無ければ時限措置は延長ですということですな。


ではバックストップの措置に関してどう考えるかという話なのですが。

『(答) まず最初にCP、社債の買入れについてお答えします。これは、セーフティーネットではありますが、セーフティーネットがあればそれを前提に色々なことも想定されます。そのままにしておいても良いのではないか、といった意見もありますが、この措置があるからそれを前提にした行動をとる、ということも考えられますから、必要がなくなれば止めるべきではないかと思っています。』

なるほど、それもそうですね。原理原則に関る部分についてはきちんとしている方なのですな。うんうん。


それから、これらの措置はセット物なのか別々物なのかという話ですが。

『(答) 2つご質問がありました。1点目は、どういう状況になったら止めるのかということですが、導入したときに色々なマーケットに歪みが出ており、非常に緊張感があったため、その状態がかなりの程度回復しているかどうかということを総合的に考えなくてはならないと思います。どの数字が変わればということは言えるものではありませんし、先行きに対する不安感も含めて、総合的に判断しなくてはならないと思います。CP、社債の買入れなど色々な施策があり、実際の施策は個々に行っていますが、例えばCP市場が回復したら良いというのではなく、総合的に考えていかないと政策を見誤るということにもなり兼ねないと思います。』

ということで、企業金融措置は全体として1セットとなっており、それに対して現状認識としてはまだ継続の必要があるという話かと思います。更に具体的にどうなったらどうするというような具体的な考えを聞かれまして、その中での回答はこんな感じです。

『(答) 非常にお答えするのが難しいのですが、完全に全て正常化するまでということではないと思います。現在非伝統的な施策を何のために行っているかというと、やはり企業金融を支援するためですので、金融マーケットがどのような状況にあるかということ、企業金融がどのような状況にあるかということ、そして足許と将来の状況――例えば、先行きに対する不安感――なども影響してくると思いますので、それらを総合的に考えなければならないと思います。』

ということで、答えにくい話ですが、回答のポイントとしては「非伝統的な施策を何のために行っているかというと、やはり企業金融を支援するため」という所かなあと思いましたです、はい。

また期限延長をいつ決定するのかという質問ですが。

『(答) 例えば、期限が切れる前日にいきなり止めるようなことはやってはならないと思います。期限が来たら自動的に止めるというのではなく、きちんと説明し、ある程度の時間軸を置いて行っていかなければならないと思います。』

『(答) こういう異例な対応ですから、そういう意味ではぎりぎりまでみていくということにはなると思いますけれども、あまりぎりぎりでも分かり難いということです。来月か再来月かという質問には答えに窮します。』

ということですので、まあ普通に考えると8月の決定会合で決まるという事ですね。


○景気に関してなど

景気に関してですが、企業業績に関してこのような認識を示しています。

『また、倒産件数についてですが、地方経済は非常に厳しい状態だということを是非理解してほしいという意見がありましたが、具体的な計数を挙げてのお話はありませんでした。日本全体では、先月の倒産件数は少し減少しました。今後について詳細は判りませんが、フリーフォール的に悪化した経済が少しずつ下げ止まりつつあることと整合性があるのかもしれません。ただ、1か月だけの数字ではわからないので、これからもみていく必要がありますし、これまでは製造業がダメージを受けていましたが、それが非製造業などに波及することも考えられます。企業業績等はこれから厳しい局面を迎えることも考えられるため、まだまだ予断を許さないと思っています。』

ということで、企業面に関しては厳しい見方のようですな。

また、今回の懇談会では経済情勢に関する話を色々と聞いたという話をしていたのもまあ印象的ですな。冒頭の中村審議委員の説明から。

『先程申し上げました経済情勢については、色々な方からお話を頂きました。中でも、昨年秋以来の内外経済情勢の急激な悪化が、県内の中小企業に及ぼしている現状について、数多くの指摘がありました。また、新潟県経済の特徴として、経済が回復していく際には、その足取りが全国比で遅めになる傾向があり、最近の全国的な景気の下げ止まり感は、まだ県内では広くは実感されていないとの意見も紹介されました。』

『他方で、県内経済は、食品加工をはじめとする多様な産業がモザイク模様になっていることから、今回の景気悪化の深度は全国ほどには深くないとか、非製造業におけるインフラ関連の設備投資の事例なども紹介されました。このほか、昨年来の為替の円高によって、新潟県に来る海外――ロシア、中国、韓国など――からの観光客が大きく減っているという話もございました。』

『それ以外の話題としては、日銀の金融政策に地方の経済、あるいは地方の声が十分に反映されていないのではないか、きちんと吸収していただいているのか、といった意見も頂戴しました。』

なるほどという所で。中村審議委員の講演関連はこの辺で。

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2009/06/26

○国債買入にやたら拘る面白い人がいるようなのですが

順番が逆なのですが一昨日の中村審議委員の講演(挨拶)後の会見から。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0906c.pdf

2ページ目でこんな質問をしている面白い人がいます。誤解の起きないように質問を全文引用といういつもとは真逆の展開になります(笑)。

『(問) 2点お聞きします。日銀の政策委員の方は、白川総裁を含め何度も講演されていますが、本日の講演録を拝見すると、今までの講演と比べてユニークな点が1つあったと思います。冒頭の「1.はじめに」の後、「2.日本銀行の業務」で随分紙幅を割いています。経済の話に入る前に、銀行券ルールについてかなりご説明されています。これまでは、海外経済などから始めるのが講演の常だったと思いますが、今回、いきなり銀行券ルールが最初にきています。』

まだ中村審議委員講演要旨のご紹介してませんので恐縮ですが、これはその通りで、最初にいきなり銀行券ルールの話を始めているのは「へ〜」と思いました。で、質問は当然ながらまだ続きます。

『先般の定例会見で銀行券ルールについて総裁に聞いた際、何度も同じことを聞くなと言わんばかりだったのですが、なぜ銀行券ルールを初めに持ってこられたのか、その意図をお聞きしたいというのが、1点目です。』

多分貴殿のような人がいるんで、尚のこと説明しなけりゃ行けないという事になったんじゃないでしょうか??しかし「何度も同じことを聞くなと言わんばかりだったのですが」にはワロタです。ちなみに今月18日にこちらで書きましたように、会見要旨ではマイルドに編集(要旨ですから^^)されてますが、時事メインの報道によれば『この席で何度ももう話したので、わたし自身は「またか」という感じで、あまり気乗りはしないが』と大変に素敵な回答を貰っています。


『2点目は、それに関連しますが、銀行券ルールを守る理由として2点挙げられています。総裁も同様ですが、日銀のバランスシートにおいて長期の資産が長期の負債を上回らないように持たないと、調節が非常に難しくなるということを第一の理由に挙げています。ただ、FRB をみると、日銀でいう銀行券を1.5 倍ぐらい上回るほどの長期資産を抱えており、時間が経つとともにもっと大きくなってくると言われています。白川総裁は前回の定例会見で、出口政策を考えていない中央銀行はない、どの中央銀行もしっかり出口政策を考えているとおっしゃっていました。FRB は銀行券を1.5 倍も上回る長期資産を抱えて金融政策運営を行っていて、出口政策をしっかり考えているのであれば、なぜ日銀も同じことができないのか、というのが2点目の質問です。』

・・・・この質問、先日の総裁会見でも同じこと聞いているのですが、そもそも論としてFRBの長短アンマッチに関しては出口政策に関して色々と「大丈夫か?」的な議論がある訳でして、そりゃまあこの質問者の言うように「FRBは出口政策をちゃんと考えている」でしょうけれども「考えている」というのと「スムーズな出口政策が対応可能」というのは話のレベルが全然違いますわな。

先般ご紹介した水野審議委員のスピーチ(6月8日にこちらでネタにしました)では今般の金融危機対応で主要各国が実施した金融政策が出口という話になった時に「バランスシートのコントロール力の高さがポイント」という趣旨の話をしておりまして、FRBの出口政策だってそう簡単な話じゃない(危機対応の出口は兎も角として、インフレ高進となって引き締めモードに入る時に長短ミスマッチが巨大だと、ボルカー的な荒療治モードになる可能性が)ですわな。


というような前提をまず勉強した上で質問に臨んだ方が宜しいのではないかと思うのですけれども、新潟まで出かけて熱心に同じネタに絡むのは見苦しいにも程があるのでございますけどねえ。

と、質問をネタにしたので質問の引用および質問への突っ込みで終了してしまいましたが、中村審議委員の答えも引用しますね(^^)。

『(答) まず、最初の点ですが、一般の方に、日本銀行が金融政策を行っていることは理解していただいていると思いますが、日本銀行のそれ以外の業務については、意外に理解されていないということを踏まえて、今回、業務についてお話しようと思いました。5月末に決算を公表したので、バランスシートについて説明をしようと思ったのです。』

ほっほー(^^)。

『バランスシートにおける長期国債の保有残高は、古くて新しい話題になっていますが、銀行券ルールが理解されてない面もあるほか、一般の方々にとっても分かりにくい面があるため、決算について説明する機会を捉えて、長期国債について説明してみたらどうかと考えました。そうした流れの中で、講演の最初に出てきたのであり、これが最重要課題だから最初にお話したということではございません。』

>銀行券ルールが理解されてない面もある
>銀行券ルールが理解されてない面もある
>銀行券ルールが理解されてない面もある

・・・・・(^^)。

『それから2点目については、海外の中央銀行の金融政策についてコメントするのは差し控えさせて頂きたいと思います。中央銀行は、それぞれ長年の色々な伝統などがあると思います。各国の中央銀行の政策のやり方などは同じではないと思います。FRB の政策はともかく、日銀券ルールがあるから必要な資金がマーケットに出ていない状態でもありませんし、日銀は日銀のやり方でやるということかと思います。』

これはその通りですわな。


ということで、中村審議委員の講演と会見ネタが週末積み残しになってしまいました。気が向いたら週末書くかもしれませんが、基本的に週末は頭がホリデーモードになるので期待しないで下さいませm(__)m

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2009/06/25

○中村審議委員講演(メモだけ)

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0906c.pdf

えーっと、FOMC声明文で時間と量を食ってしまったので詳しくは明日。基本的には企業金融関連の時限措置に関しては一応短観で示される企業金融環境に関する数値に注目って話になっていましたが、先行きの企業金融環境の悪化を懸念している部分もありますので、どっちかといえば延長って事になるんですかねえ。その辺だけ引用するだよ。

『もっとも、世界経済回復に関する不透明感が強い中、今後、企業業績の悪化によるキャッシュフローの減少も見込まれ、合理化等に伴う資金需要の増加も予想されるだけに、先行きの企業金融の環境は全体としてはなお厳しい状況が続く可能性があります。また、金融市場も改善傾向にはありますが、未だ正常な状態に復したといえる状況ではありません。』

『一方、これまでの政策対応は、中央銀行の政策手段としては異例の措置も含まれており、必要な期間に限り、必要な規模で実施することも肝要です。このため、実施期限を9 月末と定めている措置の今後の取り扱いについては、金融経済情勢の推移をしっかり点検しながら、予断を持たずに検討していく必要があると思います。そして、各措置に関する判断については、日本銀行の政策意図が正確に伝わるように、国民や市場参加者との対話に当たって、慎重な対応が必要だと思います。』

ということで詳しくは明日(すいません)。

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2008/11/17

ということで金曜日スルーした分も加えまして。

講演
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0811c.htm
記者会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0811b.pdf

まずは講演から。

○やっぱり第1の柱、第2の柱ってのは判らんですなあ

景気認識に関する部分もいろいろと読んだ方がよいのかもしれませんが、展望レポートやら白川総裁の会見など散々見てちとあたくし的にお腹一杯なのですいませんが敢えてスルーしまして、金融政策運営とか10月31日の利下げに関する説明の辺りを中心に見てまいりましょう。

『3.「10月展望レポート」における経済・物価情勢の評価と今後の金融政策運営』って部分の最後の辺りから、その次の『4.10月31日における金融政策の変更』の頭の部分から。

『以上のような現状認識、および見通しを踏まえた先行きの金融政策運営としては、これまでと同様、経済・物価の見通しとその蓋然性、リスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて適切に政策運営を行うという基本方針を維持した上で、当面、経済の下振れリスクに注意を払う必要があると判断しました。また、適切な金融市場調節を行うことで、金融市場の安定確保に万全を期していく方針です。』

とまあそういうことで引き続き利下げ後も下振れ警戒なのですが。

『10月31日の金融政策決定会合では、金融の一段の緩和を決定しました。それまでも政策金利の水準は0.5%と極めて低く、緩和的な金融環境を通じて民間需要を下支えしてきました。しかしながら、金融環境をより緩和的なものとし、経済活動をさらに支援することが必要との判断から、11月の金融政策決定会合までの当面の金融政策として、政策金利を0.2%引き下げ、「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.3%前後で推移するよう促す」ことを決定しました。』

前の続きから読んでおりますと、「0.5%という政策金利水準は極めて低い」という認識の中で下振れリスクを意識して利下げしましたというようにも見えるのでありますが、そうなると何か「第2の柱で利下げ」っぽいイメージにも見えてくる所がオソロシス。相変わらずこの「第1の柱」「第2の柱」ってのの区分けが良く判らんですよねと思いました。

かつてBISのレポートで「追加利上げは第2の柱」っていうのが出て局地的に話題になりましたが、どうもこの「第1」「第2」っていざ説明する時になんか訳判らん状態になりますのでして、この区分けって却って説明がグタグタになる元のような気が致します。別に柱2本とかにしなくて良いんじゃねえのと思うのですけれども・・・・・・・


○では何で今回利下げしたかですが

『こうした決定の背景には、10月6、7日の会合以降に公表されたデータ等から読み取られる経済・物価情勢に大きな変化があったことが挙げられます。すなわち、(1)米欧の金融危機に端を発する世界経済の調整が一層厳しさを増してきたこと、(2)わが国の実体経済の回復時期の後退懸念及び下振れリスクが高まったこと、(3)世界経済の減速などによるエネルギー・原材料価格の低下や為替の円高により物価の上振れリスクが低下したこと等、がありました。』

ということでこの点に関しては質疑応答でツッコミがございましたので後ほど。

『実体経済面では、世界的な金融危機が、実体経済との負の相乗作用により世界経済を減速させ、ひいてはわが国経済が長期的な調整局面入りする瀬戸際にあるとも考えられるなど、景気の下振れリスクが一段と高まっています。』

これ見ても第2の柱っぽいんですよね。まあそれはともかく。

『例えば、10月6、7日の会合以降、先ほど申し上げたように、米国では、従来からの住宅市場の低迷に加え、個人消費や生産の弱さ、消費者マインドの著しい悪化が確認されました。わが国でも経済を牽引してきた輸出および生産の7〜9月の動向が明らかとなり、いずれも弱い動きであったことが確認されました。また、10月展望レポートを作成する作業の過程で検証した中期的な経済見通しも、経済が持続可能な成長経路に復していく時期がこれまでよりも後ずれしていることに加え、下振れリスクがより大きいことが確認されました。』

ということで、展望レポートの書きっぷりが若干変わったのですが、でも「より長い目で見たら持続可能な成長経路に復活」というのは変わらないというのだとやっぱり「第2の柱」利下げになっちゃうのかなあ。んでまあ金融市場に関する話ですが、前半の国際金融市場の話を端折りまして引用。

『こうした海外市場の混乱は、これまで海外に比べて相対的に安定していたわが国金融資本市場にも波及し始めており、10月以降の株価下落率は主要先進国の中で最大となったほか、日経平均株価がバブル崩壊後の最安値を更新しました。また、為替市場では円高となり、特に対ユーロでは急激に増価し、輸出企業の業績悪化に繋がっています。』

左様でございます。

『また、わが国の企業金融面においても、投資家が運用に対して極めて慎重になっていることから、CPを含め資本市場からの調達環境が悪化し、銀行借入への依存度が高まっています。同時に、先行きの景気や業績に対する危惧もあって、金融機関の融資姿勢は慎重化しており、これまでの緩和的な金融環境に変化が窺われます。』

・・・・・えーっとあのそのオペレーション、いやまあいいです。


ということで記者会見に参ります。

○何で協調利下げしなかったのかという質問

さっきの続きということで最後の質疑から先に参ります。10月6、7日に決定しないで何で半月遅れたのですかという質問に対しての答え。

『(答) まず、今回のケースは協調利下げという訳ではございません。白川総裁が申し上げているとおり、各国が協調して金融政策をやっていくことは必要ですが、同時期に利下げを行うということではなくて、それぞれの国の経済とか物価情勢に対応して最適な金融政策を実施するということですので、今回の利下げについても、協調利下げという観点からのアクションではないということはご理解いただきたいと思います。』

と、まず最初に断りまして。

『その上で、先ほどの講演では、10 月31 日に金融政策を変更するまでの間にどういうことがあったかという事実関係を申し上げたまでです。すなわち、この間において公表された日本経済に関する統計データ等をみますと、これまで日本経済を牽引してきた輸出が頭打ち傾向になったという数字が出ましたほか、生産についても3四半期連続マイナスという数字が出てきました。また、金融市場では、為替や株価が大きく乱高下したということも事実かと思います。このように、先ほど説明しましたのは、これらの理由によって利下げをしたという意味ではなく、この間の事実関係を述べているまででありまして、金融政策決定会合における議論の過程は議事要旨をみていただくしかないということでございます。』

何か判ったような判らんようなお話ですけれども、結局何だったんでしょうかねえ(棒読み)。まあ背景がうっすら伝わりますかなという所でしょうか(−−)。


○追加措置に関して

今後の追加措置に関してどう思いますかという質問が2つ飛んで来ましたが、それに対する中村審議委員の答えになります。

『一般論で申し上げると、景気が大幅に落ち込んだ場合は、中央銀行として常に対応を検討しなければならない訳で、具体的にどのような措置を講じるかは、その時々の経済・物価情勢や金融市場の動向を踏まえて総合的に判断していくということになると思います。ただし、極めて低い金利水準の下では、短期金融市場の円滑な機能確保という観点から、様々な問題が生じる可能性が高い訳であり、先行きの金融政策運営に当たっては、これらの点も踏まえて適切に判断していかなければならないと思います。(以下割愛)』

ということで追加利下げに関してはとりあえず否定的ですかね。ということで別の回答を見るとその辺きっちり説明しています。株価とか為替をからめて質問が来た所に対して。

『(答) 10 月31 日に利下げを決定した訳ですけれども、ご存知のとおり、金融政策が実体経済に波及して実効性が上がってくるまでには、相当な長い時間がかかる訳であります。また、利下げを決定した時の認識と、今の認識が大きく変わっているかと言われますと、―― 確か、10 月27 日は、2003 年4 月28 日のバブル崩壊後の最安値の株価レベルを割っていたと思いますが―― 金融市場とか株式市場の状況はそんなに変わっていません。金融政策は、別に株価対策でやっている訳ではありませんし、今、直ちにアクションを取らなければいけない状態とは思いません。先般の金融政策変更の実効性の浸透を見守っていきたいと思います。』

「金融政策は、別に株価対策でやっている訳ではありません」ってのはその通りでございますわな(^^)。まあとりあえず利下げ直後で追加利下げの話になるのだったらじゃあ最初からもっと下げて置けよという話になりますから、これはまーこんなもんなんでしょう。引用割愛しましたが、景気下振れに関する話は多いので、まあ別にだから金輪際追加措置取らんというもんでもないとは思いますけどね。


○えーっとそれはどうかと思いますが

『(問) 補完当座預金制度の付利の問題ですけれども、メリットについては、公表当日、日銀からよく説明を受けましたが、デメリットがあるのではないかという指摘も市場関係者の中にはあります。付利のデメリットについては、何か認識をお持ちでしょうか。』

『(答) 基本的には、短期コール市場をむしろ活性化していくために行ったことですから、その機能を損なうということは考えておりません。実際、現在の適用利率0.1%よりコール市場の方が高い水準となっており、今の水準であれば機能を損なうことはないと思います。今回の導入に当たっては、その点についてかなり配慮しました。』

既にこの付利にぶつける形で(本来付利が無くても実施出来た筈の)ツイストオペらしきものが実施されるという有様。で、まあそのツイスト実施前に問題が起きてなければよいのですが、先週前半にはオペ不足の結果GCがロンバートの0.50%でも売れない(=資金調達出来ない)状態になって市場が非常に困った状態になってしまったんですよね。

ええまあそれは付利実施前の事象ですから付利が市場機能を損なってませんけどね(棒読み)。



○どうでも良いが物は言いよう

講演に戻りまして、その冒頭部分でこんな話を。

『私が昨年4月に審議委員に就任しました頃は、世界経済は5%前後の安定的な成長を持続し、物価も安定、金融も緩和的で為替も円安傾向で推移し、米国のサブプライム住宅ローン問題の懸念を除けば、先行きもインフレなき成長が展望できるとの一般的な見通しでした。』

というのはまあ良いとして。

『ところが、昨年8月以降に状況は一変し、米国を震源とする金融市場の混乱の影響が実体経済にも波及した結果、足許の経済環境はまさに様変わりです。先行きの不確実性も極めて高く、大変厳しい状況となり、日本銀行も先月31日に、7年7か月振りの政策金利の引き下げに踏み切りました。また、米欧の主要な中央銀行も追加の利下げを行っています。』

「7年7か月振りの政策金利の引き下げ」って言われると・・・・(苦笑)。前回の利上げから計算したら1年8か月なんですけど、いやまあいいです。それ言い出したらFRBとかECBとかもっと凄まじい豹変振りなのですが、別にこーゆー時にわざわざ長いほうの時間を出さんでもよかろうにとちょっと微苦笑しちゃいました。

ここまで中村審議委員講演関連でした。

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2008/06/30

中村審議委員会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0806b.pdf

○景気認識に関して

輸出に関してはあまり下を見ていなさそうに読めます。

『やや詳しくみると、輸出は、新興国や資源国など、幅広い地域に向けて増加基調を保っており、先行きも基調が大きく変化することはないと考えています。』

『一方、企業は原材料価格高騰によるコスト上昇分を製品価格に十分転嫁できていないことから収益環境は悪化しています。先行き、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高いと判断していますが、交易条件の悪化が続いているだけに、これに伴う所得形成の弱まりが国内民需の下振れをもたらすリスクについて、注意深くみていく必要があると思っています。』

『世界経済や国際金融市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響などには、引き続き注意が必要です。』

ということで、交易条件の悪化と所得形成の弱まりに関する指摘はございますが、輸出の下振れリスクに関してはあまり強調していませんですなあってちょっと気になりましたです。

#まあ確かに輸出はコケるコケると言われながらコケないのでありますが、それを言い出すと個人消費も中々コケないですよね。


○海外のインフレ懸念問題について

物価見通しに関しては金融経済月報の通りでして、『先行きについては、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、当面、前年比プラス1%台半ばで推移すると予想されます。』となっております(ちなみに先週末のCPIを受けて秋口にも2%乗せを予想する本職の人が増えてきました)。で、世界的なインフレ懸念問題に関しては白川総裁会見を踏まえたお話に。

『世界各国とも物価上昇率がかなり高くなっており、インフレ懸念が強まっていることは事実です。国によってそれぞれ経済や物価の状況は違いますので、それに伴って金融政策も自ずから異なってきます。勿論、各中央銀行のゴールは、中長期的にみて物価、経済を安定させ持続的な経済発展を図るということに変わりはないと思いますが、そのアプローチについては、必ずしも同じルート、同じやり方ではないと思います。従って、欧米の色々な動きはあると思いますが、日本銀行としては、足許のわが国の経済・物価情勢をみながら、最適な金融政策を図っていきたいと考えています。』

で、この後「じゃあ最適な金融政策はどうなんだ」という突っ込みが飛んできて質疑応答大変そうですなあという部分があるのですが、それは後ほど。

最後の質疑では「でも日本のインフレリスクはどうなのよ」という質問がありまして、それに対しての答えもまあそうかなという感じ。

『確かに、海外の物価上昇に比べれば、足許の日本の消費者物価上昇率は低いわけですが、昨今のエネルギー・原材料や食料品の値上がりは、非常に大きく、このことが日本の消費者心理にどのように影響するか、あるいは企業の価格設定にどのように影響するかをみていく必要があります。』

ということで、以下消費者のインフレ期待の変化とかを見ようってお話になっておりましたです。


○両サイドのリスク高まる

『本日の講演でも説明した通り、海外経済の動向やエネルギー・原材料価格高騰に伴うインフレ圧力、国際金融資本市場の混乱といった日本経済を取り巻くリスク要因については、先行きの不確実性がさらに高まっています。5月の金融政策決定会合と6月の金融政策決定会合を比較すると、6月の時点の方が、両サイドのリスクがさらに高まっているのではないかと思います。』

ということで両サイドのリスク高まるというお話になっておりますが・・・・


○で、どうするの?

という質問が来るのですが、その類の最初の質問に対する答えから。

『このように不確実性が極めて高い状況下にあっては、先行きの金融政策運営について、特定の方向性を持つことは適当ではないと思います。この先、予断を持つことなく、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に分析して、見極めていく必要があると思います。その上で、経済・物価情勢に応じて、機動的に金融政策を運営していくことに尽きるのではないかと思います。具体的にああする、こうすると言えれば良いのかもしれませんが、そこは非常に不透明であるということしか言いようがありません。』

で、それに対してツッコミが来るのでした。これは中々(^^)。

『(問) 先程、金融政策の先行きについて、「不透明としか言いようがない」ということでしたが、これはつまり、先行きどうするか分からない、全くお手上げだという意味なのでしょうか。また、景気下振れリスクと物価上振れリスクは、5月よりも6月の方が両方向にさらにリスクが高まっているとおっしゃいましたが、この両方のリスクが実現した場合、すなわち景気は下向きになり、物価は上振れていくような場合、どのような政策対応を行なうのか、それとも、やはりあくまで不透明である、分からない、お手上げだということなのでしょうか、考えをお聞かせください。』

そりゃそう聞きたくなりますわな(^^)。

『(答) 私どもの政策決定は毎月の金融政策決定会合で行なっておりますが、色々なデータを分析して、次の金融政策決定会合までは現状の政策金利を据え置くことが最善であるという判断から決めたものであって、不透明であるから何もしないということではありません。』

と、勇ましくスタートしておりますが。

『金融政策については、日銀法の基本理念のとおり、物価安定のもとでの安定した経済成長をどのように図るかということに尽きると思います。したがって、様々な状況の変化がありますので、その時々の状況に応じて最適な判断を行なうということです。』

ほうほうそれでそれで。

『私が審議委員に就任して1年になりますが、就任した昨年の春から夏にかけては、米国の住宅産業を除いて何も悪いことがないし、インフレリスクも低い状況でした。昨年の夏場以降、一転して様々な問題が起こり、エネルギー価格は上昇し、世界の経済情勢は刻々と変わっていくということを実感しています。金融政策についても、今申し上げたことに尽きると思います。分からないから何もしないということでは決してなく、その時点その時点で判断しますが、金融政策は、その効果が現れるまで時間がかかりますから、目先だけを捉えて判断するということでは決してありません。』

うーむ、結局「その時の状況で判断しますよ」というお話にしかなっておりませんなあ。まあ仕方ない面もあるが、もうちょっと説明のしようがあったような希ガス。その時の景気悪化と物価上昇のどちらがより問題なのかのバランス次第とか何とかコメントのしようがあるのではないかとも思うのですがどうでしょ。


○政策委員会の欠員

『副総裁、審議委員は、「両議院の同意を得て、内閣が任命する」ものであり、人選等についてはコメントする立場にはありません。ただ、9名いるべきメンバーが7名しかいないということは、意見の多様性や色々な業務執行の面で、やはり好ましくありません。』

というか、日常の業務執行で大変なのではと思うのですけれども。通常業務執行の決裁関連では武藤副総裁が随分と活躍(というか役にたったというか^^)だったようですし(^^)。まあ早いところ決めて頂きたいものだと存じます。というか西村さんの後任さんの予定在任期間がどんどん短くなっているんですが・・・・・

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2008/06/27

あまり材料にならなかったみたいだけど中村審議委員の講演から参ります。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0806d.htm

○まず勝手にまとめ

基本的には中村審議委員は就任会見以来景気に関してはやや慎重な見方を示しています。特に地域経済の悪さに関しての言及が就任会見で目を引いたのですが、今回に関しましても景気に関してはやや慎重スタンスと言えるのかとは思います。

今回の説明そのものに関しては金融経済懇談会という場なので政策委員会大勢見通しに沿ったものとなっていますけれども、特にその説明に関連して個人的見解が強く出ているようには見えませんので、景気に関してはここへきて政策委員会の大勢見通しが中村審議委員の景気見通しに近づいてきたとも言えるのかも知れませんね。その辺に関しましては会見要旨も見ないとですけど。

物価に関しては中村審議委員(だけじゃなかったですけど)は就任当初は上昇しにくいという見通しでしたが、こちらに関しては上昇のリスクを強く意識というところでしょう。


○国内景気に関して

海外部分は華麗にスルーして『4.わが国の経済・物価情勢』の部分から。

『足許のわが国の景気は、エネルギー、原材料、食料品価格高騰の影響などから、減速しています。もっとも、先行きについては、当面は減速が続くものの、その後は緩やかな成長経路を辿る可能性が相対的に高いと考えています。』

というのは金融経済月報と同じで。

『資源の多くを輸入しているわが国にとっては、エネルギー・原材料価格の上昇は交易条件の悪化、すなわち、実質所得が海外に流出することを意味します。輸出価格が上昇しない一方、輸入価格が上昇しているため、海外からの手取りが伸び悩む中で支払いが増加している状況です。このため、名目ベースでみる貿易収支は悪化しており、企業収益の伸び悩みに繋がっています。今のところ、設備投資や個人消費は底堅く推移していますが、こうした所得形成の弱まりが国内民間需要の下振れに繋がらないか、注意深くみていく必要があると考えています。』

エネルギーや原材料価格の上昇が交易条件の悪化、所得形成の弱まりに繋がるという話に関しては既に先般ご紹介した5月の金融政策決定会合議事要旨でも触れられていましたが、この点に関しては政策委員会の皆様が毎度毎度指摘していまして、政策委員会的には利上げへの思惑が出るのは取りあえず抑えておきたいというのは把握した。

・企業部門

『国内経済の動きをやや詳しくみますと、輸出は、米国向けは減少していますが、新興国や資源国など幅広い地域に向けて増加基調を保っており、先行きも基調が大きく変化することはないと考えられます。』

『また、企業は、原材料高騰によるコスト上昇分を製品価格に十分転嫁できていないことから収益環境が悪化していますが、収益水準としては大企業中心に一定の水準を維持しているほか、設備・在庫・雇用の面で過剰を抱えていません。こうした点からみて、日本経済はかつてに比べ、景気の下振れのショックに対して、足腰が強くなっていると思います。』

『さらに、金融環境は緩和的であり、引き続き、民間需要を後押しすると考えられます。また、企業の資金繰りや資金調達の面でも、中小零細企業や非製造業の一部では資金繰りが厳しさを増しており、注意してみていく必要がありますが、総じて良好な状態が続いています。』

ということで下振れリスクの話はよく強調されますが、メインシナリオ的にはまあそんなに底割れするような話でもなくて結構確り目の見方であったりするわけなんですな。


・家計部門

『家計関連では、家電販売が堅調に推移しているほか、ショッピング・モールやアウトレットなどの商業施設では売上が好調に推移するなど、個人消費は力強さには欠けるものの総じて底堅く推移しているようです。』

『もっとも、5月の消費者態度指数をみても、石油製品や食料品の値上げの動きが広がる中で、センチメントは弱い状況が続いているほか、小売関係の企業経営者からは、消費者に生活防衛的な動きが一段と強まっているとの声も聞かれます。消費者は、購入する商品に対して高い品質を求めつつ、1円でも安いものを購入しようとしていますが、今後、生活必需品の値上がりが実質所得を下押しした際に、価値観の多様化している消費者の行動がどのように変化するのか、注意してみていく必要があります。』

家計部門に関して言えば、マインド指標がゲロゲロにも程がある状況が続くのに中々底割れしないですなあとか思うのですけど、生活関連商品の価格上昇が効いて来るのはこれからなのかもしれませんね。


・物価動向

『物価面では、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、5月は前年比+4.7%と上昇幅が拡大しました。消費者物価(除く生鮮食品)は、昨年末頃から前年比のプラス幅が拡大し、足許、+1%程度となっています。先行きにつきましては、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移する下で、石油製品や食料品の価格上昇などから、当面、前年比プラス1%台半ばで推移すると予想されます。』

とこれは金融経済月報通り。

『足許の上昇率は、消費税の影響を除けば、15年振りの高い伸びであり、特に購入頻度の高い生活必需品の上昇が目立つだけに、消費者のインフレ期待の変化や企業の価格設定姿勢の動向、さらには海外で高まっているインフレ圧力のわが国への波及等を注意してみていく必要があると考えています。』

これもまあ月報ベースのお話にはなるのですが、物価に関しては4月の展望レポート時点では政策委員会の大勢的には(人によってばらつきがあるのは当然として)そんなに上昇ってイメージが強くなかったという感じだったので、この点に関してはここ2ヶ月ちょっとでだいぶ変わりましたねえという感じです。そういや4月末のFOMCステートメント(昨日ご紹介した奴)でも「次の四半期にはインフレはやや落ち着きの方向」でしたね。


○不確実性はさらに高まるとな

『5.今後の金融政策運営方針』の部分から。

『繰り返しになりますが、このように、わが国の経済は、当面は減速が続くものの、その後は潜在成長率並みの1%台半ばの緩やかな成長経路を辿る可能性が相対的に高いと考えています。』

これは展望レポートのお話。

『ただし、冒頭に申し上げた3つのリスク要因、海外経済の動向、エネルギー・原材料価格の高騰に伴うインフレ圧力、国際金融資本市場の混乱については、先行きの不確実性がさらに高まっています。こうした状況の中、さらに情勢を見極めることが適当であるとの判断から、6月12〜13日に開催された金融政策決定会合では、政策金利を0.5%に据え置いた次第です。』

6月の会合の話をして、その時の情勢判断として「不確実性さらに高まる」って言ってますから、展望レポート時点あるいは5月会合時点よりも不確実性がさらに高まっていますっていうお話だと思われます。慎重スタンスで誠に結構かと存じますが、まあそんな状況で利上げとか有る訳無いのでありまして、世界インフレに対応して日銀も協調利上げとか講釈を垂れる人はギャグじゃないのなら豆腐の角に頭をぶつけるべきであるものと思料されます。

『政策金利から消費者物価上昇率を差し引いた実質短期金利はマイナスであり、潜在成長率との関係でみて極めて低い水準と評価されます。こうした金利水準の下で維持されている緩和的な金融環境は、民間需要を後押しすると考えています。』

これは下振れリスクが軽減されたら正常化復活という話にも繋がるのですけれども、物価上昇が交易条件悪化だの所得形成の弱まりだのという話をしている分にはあまり慌てなくてもいいのかなと思います。逆にその辺が片付いた場合には正常化ペースってのは速くなる(半年毎に25bpとかいうようなちんたらしたペースにはならんでしょという意味)んでしょうね。まあそれ以前の問題が現状なんですけど。

『先行きの金融政策の運営方針については、経済・物価情勢の状況によって、望ましい政策運営は異なるため、不確実性が極めて高い状況の下で、予め特定の方向性を持つことは適当ではありません。』

利下げ方向も排除しませんと。

『この先、経済のダウンサイド・リスクが薄れ、物価安定の下での持続的な成長を続ける見通しの蓋然性が高まるのか、あるいは、下振れリスクが顕現化する蓋然性が高まるのかを、予断を持つことなく丹念に分析し、見極めていく必要があり、その上で、経済・物価情勢に応じて機動的に金融政策を運営していくことが肝要だと思います。』

でもまあ据え置き継続で様子見継続なんでしょうね。


と、金融政策の部分を引用してたらその次の部分の引用をしている時間が無くなってしましましたが、その次の部分は『6.グローバル需要の取り込み』ってお話でして、これは中村審議委員の持論展開部分と見られます。ここもとの金融経済懇談会での挨拶要旨は構成として最後の部分で政策委員の持論コーナーみたいな部分があって、直接金融政策にどうのこうのという話じゃない場合が多いのですが、これはこれで興味深く読んでおります。

でもそっちは月曜以降で勘弁。

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2007/11/27

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0711d.pdf

○まずはまとめ

展望レポートに沿った説明をしながらも、先行きに関しての見極めが必要な点をいくつか指摘してまして、あたくしが読んだ感じでは、(1)米国サブプライムローンが米国景気を大きく後退させてしまうかどうか、(2)国内個人所得の伸びが弱く、マインド悪化で個人消費が悪化しないかどうか、(3)不動産価格の上昇によって住宅投資が減退していないかどうか、という辺りがポイントのように思えます。

まあ(1)についてはお題目みたいな所があって、会見の中でもサブプライム問題に関しては全てが片付かないと景気見通しを上にできないという訳でもないというような感じの発言(後で紹介します)をしてますが、残りの2点についてはモロに日本の景気という部分ですので、まー足元は慎重というところでしょう。ただし景気アセスメントが強くなった場合の利上げ判断に関しては別っぽい(昨日ご紹介した通りで)感じですけどね。

それから、会見要旨を見ておりますと、中村さんの発言はポイントを押さえて判り易いという印象でして、その中で「私の個人的な感触を申し上げれば」というような感じで自分の意見もコメントしてますし、中々宜しいのではないでしょうか(などとエラソーに言ってスイマセンスイマセン)。やたら発言が長くて論点が拡散する(以下自主規制^^)。


○サブプライム問題が全部解決するまで動けない訳ではないという話

最初の方の質問でサブプライム問題が解決しないと利上げの環境が整わないのかというのが来まして。

『サブプライム住宅ローン問題が完全に解決するには、相当の時間を要すると思われます。ただし、サブプライム住宅ローン問題の解決と、今起きている様々な国際金融市場の動揺や不安定な動きが落ち着く時期が必ずしも一致するということではありません。見通しの蓋然性とそれに対するリスクを見極めた上で、適切な政策判断を行っていきたいと考えておりますので、いつまでも金利引き上げができないということにはならないと思います。』

これだけ見ると利上げ先にあり論者に見えないこともないですが、再度確認質問があったときの答えを見ると、まあバランスとった発言なんじゃないですかと思うんですけど。

『次に、二点目についてですが、こうした金融市場の混乱やサブプライム住宅ローン問題の解消と利上げのタイミングを直接結び付けて考えるのは、少し違うのではないかと思います。我々は、これらの問題を、物価安定のもとで、日本経済の持続的な成長を達成していくプロセスの中の一つのリスクファクターとして捉えており、要は、それが日本経済の先行きというか、成長度合いにどのように影響するかを見極めることが、利上げとの関連でいえばカギになると考えています。』

ということですので、まあ景気強気になったらあっさり正常化路線っぽいですけれども、見極めるという部分に関しては慎重ですから、バランスは宜しいのじゃないでしょうかね。


○で、サブプライムの見通し

『サブプライム住宅ローン問題で一番厄介なのは、只今ご指摘のあったとおり、その実態が掴めないということかと思います。米国のサブプライム住宅ローンの融資残高は総額1.3 兆ドルと言われています。サブプライム住宅ローンを担保とした住宅ローン担保証券の多くで格付けの見直しが行われたことを契機に、これら証券化商品の価格に対して不透明感が拡がり、殆ど値がつかなくなりました。かなり過敏になっている面があるかと思います。』

というのは講演でも言及してましたのですが、中村審議委員の個人的印象という部分があったのでそちらを引用しますとこうなりまする。

『私の個人的な感触を申し上げれば、実態はもう少し早く分かるのではないかと思っていましたが、当初考えていたよりも多少時間を要しており、これは影響の範囲が大方の予想よりも少し拡がっている現れではないか、という気がしています。』

ほほう。

『ただ、今後は、欧米の証券会社が決算を発表しますし、何れは価格が再評価されてきますから、何れにしても時間の問題だと思います。なお、運用機会を求めている資金は、待機資金として世界中に大量に存在していると思います。価格が適正でないということが問題なのであって、適正なプライシングが行われてくれば、落ち着くところに落ち着くと思います。』

ま、そうですと良いのですが、どうもサブプライム問題に関しては当局間の連携がちゃんと行ってるのかとか、金融機関同士で刺し合い(自分の話を棚に上げて「誰それは大やられしてますよ」と言い出す見苦しい展開)してる場合じゃねえだろとか見てますと、その時間の問題もやや長そうな悪寒が。


○個人所得を注視

展望レポート対比今の景気は下振れていないかという質問に対して。

『その後、10月以降の状況については、実体経済に関する公表数字について言えば、基本的にはそんなに大きく変わっていないと思います。ただ一つ気になる点は、個人の所得です。企業から家計への波及という部分でもありますが、9月も一人当たり賃金が前年比マイナスとなるなど、考えていたよりも改善のテンポが少し緩やかなのかなと思います。』

『所得以外の動向については、消費等の各種指標や中間決算からみた企業業績は、悪い数字ではありませんでしたので、10月末と比べ、それ程大きく違っていないのではないかと思います。ただし、今後の注目点として、12月短観については仔細に検討する必要があると思います。』

なるほど。ということで中村審議委員は次に紹介する住宅投資問題もそうですけれども、個人消費がコケないかについては注目してるというところなんでしょうか。


○住宅投資に関して

講演では住宅投資について慎重に見ている印象を受けましたが・・・という質問に対して(この質問者はちょっと講演の趣旨勘違いしているようでして、質問のピントがずれてましたが、それはご愛嬌ということで)。

『6月以降現れている建築基準法改正の影響については、何れは戻るだろうということかと思います。ただ、この問題が発生する以前、時期としては今年春過ぎ頃から、首都圏を中心に、土地の値段の上昇等から分譲価格がかなり上昇してきていた一方、購入サイドでは、自分の返済能力を超えるような物件は買わないという傾向になっていたため、今後はかなり売れ行きが鈍るのではないかとの見方をされている方が複数いらっしゃいました。こうしたこともあって、これまで高水準で推移してきたマンション分譲も、法改正の問題を除いたとしても、場合によっては少しスローダウンするのではないか、と思っています。』

『(建築基準法改正の影響が来年度まで)ずれ込む可能性もあるかもしれませんが、申し上げたいのは、法律改正の問題とは別に、ベースの需要が従来想定していたよりも落ち込む可能性もあるということも考えておく必要がある、ということです。』

つまり、特殊要因での落ち込みではなくて実はベースラインが落ち込んでいるのではないかというご尤もな指摘でして、こちらも注意してるというところでしょうな。

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2007/11/26

お題「中村審議委員講演」

中村審議委員の金融経済懇談会デビュー戦です。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0711f.htm

○総合的にはちょっと慎重かなと

講演(挨拶)は基本的に展望レポートに沿って説明が行われてますが(当たり前ですが)、その中でやや慎重な言い方が散見されますというのが全体的な印象でして、景気に関してはやや慎重なスタンスなのかも知れませんねという感じです。

ただし、バブル警戒とか物価上昇警戒とか、そっちの方に関しては割と警戒的な話をしてまして、まずはその辺りから。

冒頭部分の『2.日本銀行の金融政策運営』の『(1)基本的な考え方』から。

『いわゆる「第一次オイルショック」は、1973年の第四次中東戦争に端を発して原油価格が高騰し、翌年の国内の消費者物価指数は前年比+23%上昇しました。「狂乱物価」という言葉がもてはやされ、私の給与も+30%近く上昇しましたが、所得が増えた実感はなく、わが国経済や個人の消費活動が大混乱に陥ったことを鮮明に記憶しています。また、バブル経済は資産価格の高騰をもたらし、一時的に景気を押し上げましたが、その後の日本経済に大きな痛手を与え、長期低迷に陥った次第であり、「物価の安定」の大切さについては皆様にも良く理解して頂いていると思います。』

『金融政策の変更を行いましても、その効果が経済活動の実態まで行き渡るには長い期間を要します。また、金融市場、経済社会、海外情勢等の様々なショックに伴う物価の短期的な変動を、金融政策によって全て吸収しようとしますと、かえって経済の変動が大きくなることから、金融政策決定に際しては、十分長い先行きの経済・物価の動向を予測しながら、中長期的にみて「物価の安定」を実現するように努めなければなりません。』

ということで、以下経済物価情勢に関して話をしている分にはやや見方が慎重っぽい面はあるのですが、特に前半部分のあたりを読みますと、それはそれとして所謂「経済を吹かす」というようなスタンス(by植田前審議委員)ではないんですねという所でしょうか。


○家計部門のマインド悪化と住宅投資の動向

『3.経済・物価情勢の現状と見通し』部分ですが、企業部門については割愛致しまして(やや減速だが基本的には底堅いという感じですけど、やや弱めっぽいかな)、家計部門に関して。

『一方、冒頭で申し上げたように、企業部門の好調さに比べると家計部門の改善のテンポは緩慢な状況となっています。個人消費は、百貨店やスーパーの売上高が天候要因により振れが大きくなっていますが、(具体例部分割愛)底堅く推移しています。ただし、消費者マインドは、賃金が伸び悩む中でガソリンや生活関連品の値上げ、または値上げ表明が相次いでいること、年金問題等将来に対する漠然とした不安などを受けて、例えば、先日公表された消費者態度指数をみても、足許やや悪化していることは気懸かりです。』

で、その次が住宅投資なのですが、先日ご紹介した10月10、11日の金融政策決定会合議事要旨で住宅投資が実は基調的に弱くなっているのではないかという指摘があったんですが、中村審議委員がこの点について言及しています。

『住宅投資については、新築住宅着工件数が改正建築基準法施行の影響により7月以降減少を続けていますが、法改正による影響が落ち着けば先行きは回復するものと考えられます。ただし、回復する時期やその規模については、不透明感が強いほか、法改正の影響が長期化した場合の建設財出荷や建築関連の中小企業の業績に及ぼす悪影響がやや懸念されます。』

『また、家計の所得が目立って増えない下で、分譲住宅の価格が上昇していることが影響し、住宅需要の基調的な動きに弱さがみられるとの慎重な声も聞かれています。このため、住宅投資の動向については注意してみる必要があるように思います。』

ということで、景気先行きに関しては慎重に見極める必要があるという趣旨の言及が多いなあというのが印象でありまする。


○物価についても上りにくいと

その次に物価に関しての言及。

国内企業物価指数が想定より上振れて推移する間に消費者物価指数が伸びない要因に関してこのように話をしてます。

『その要因の一つとして、物価下落が長く続いてきたことで、消費者の提供されるサービスや商品価値に対する厳しい評価や、値上げに対する抵抗感が非常に根強いことが挙げられると思います。多くの企業は、値上げすれば消費者の反発を受けるのではないかと、値上げには極めて慎重な姿勢で臨んでいます。』

『例えば、流通業者間の競合が激しい中、価格転嫁に踏み切ったあるスーパーでは、来店客数の減少により値上げ品目以外の売上高も減少し、結果的には業績が悪化したことから、改めて値下げに踏み切ったとの話もあるようです。また、川下にある家電量販店やスーパー等の流通業者の集約が進展しており、メーカーに対する価格交渉力を一段と強めていることも要因の一つと考えられます。』

なるほどなるほど。ちなみにこういう指摘の続きがいきなり日銀公式見解となっているのですけれども、微妙に話が繋がってない気がする。

『このように、足許、消費者物価は弱めの動きとなっていますが、先行きについては、前年比でみて目先はゼロ%近傍で推移する可能性が高いものの、より長い目でみると、プラス幅が次第に拡大するとみています。(途中割愛)これは、潜在成長率を幾分上回るペースでの経済成長が持続することから、労働需給を中心に資源の稼働状況が緩やかながら着実に高まる中で、これまでの原材料価格の上昇分も含め、昨今の原油や食料品等の高騰している諸コストを価格に転嫁する動きが、企業間取引段階のみならず消費者段階でも徐々に拡がっていくとの見方に基づいています。(以下割愛) 』

前半部分の分析とこちらの話が微妙に飛んでる気がするのはあたくしだけでございますかそうですか。


○米国サブプライムローン問題

『4.先行き見通しに対する上振れ・下振れ要因』部分に関しては展望レポートに沿ったものになっていますが、サブプライム問題に関しては「先行きを見極めよう」という話になってます。まあ普通といえば普通なのですが。

『こうしたサブプライム住宅ローンの不良債権化は、米国の実体経済に対して、担保物権の処分増加により住宅市場の調整を長期化させるリスクのほか、企業や消費者のマインドを悪化させて設備投資や個人消費を下押しするといった悪影響を与えかねません。』

『国際金融資本市場においては、サブプライム住宅ローンを担保とした住宅ローン担保証券の多くで格付けの見直しが行われたことを契機に、証券化商品全般の価格や、流動性に対する疑念や欧米の金融機関の業績に対する不透明感が拡がり、他のクレジット商品や株式市場などへも影響が波及しました。もっとも、こうした国際的な金融市場の動揺が、わが国の短期金融市場やクレジット市場に与えた影響は今のところ限定的とみています。』

で、先行きに関しては。

『先行きについては、どの時点で住宅市場の調整に見極めがつくのか、あるいは国際金融市場における証券化商品の価格形成に関する不透明感が払拭されるのか判然としませんが、サブプライム問題が世界経済に与える影響と、わが国経済への波及について、引き続き注意深くみていきたいと思います。』

まあ穏当というか普通のお話ではあるのですが、福井総裁が比較的やる気のある発言をひところ繰り返してた印象が強いので、ちょっと慎重派に見えてしまうというのもあるかも知れませんね。

また、記者会見に関しては例によって本日のアップを待ってからにしますが、ベンダーの記事を見る限りでは「景気の先行きに関してはちょっと様子見モードですが、金融政策に関しては割と早めに対応してきそう」って感じになるのでしょうか。でもまあ金利調整を全面に出した感じは受けないので、景気の先行き見通し見ながらということになるんでしょう。

ということで、連休明けですので(と言い訳)本日は引用ばっかの手抜きバージョンで誠に恐縮至極でありまする。

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2007/04/13

お題「中村・亀崎審議委員の就任会見」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0704c.pdf

○まずあたくしなりにまとめると

当然ちゃあ当然ですが、いきなり新機軸が出てくるというような話にはなりませんけど、両委員とも産業界出身らしく、地方経済に目を向けると言った点はきっちり言及していますなという感じです。で、会見要旨を読んだニュアンスとしては中村委員の方がややハト色を出している感じです。と申しますのは、亀崎委員の言い回しには早速日銀公式見解なフレーズが出てまして、そのあたりを読んでいると「執行部(除く岩田副総裁^^)寄りなのかなあ」と感じてしまうからっちゅうのもありまして。

質疑応答はPDFで10ページあるのですが、割と興味深いやりとりが続いてまして、一度ご覧になることをお勧め致したいです。では参ります。以下くどくなりますけど、発言引用部分に関しては引用の最後に(中村さん)(亀崎さん)ってつけますね。


○経済物価動向についての見解

中村さんから、

『基本的には、我が国の景気は緩やかに拡大していると認識しており、今後の金融政策については、物価や経済の状況を丹念にみながら、徐々に金利水準の調整を進めて行くことになると考えています。』(中村さん)

ここは日銀の基本スタンスと同じですが。

『ただ、最近の景気の特徴としては、景気拡大のテンポが緩やかであることや、地域間での景況感の差異の存在などを感じております。例えば、先程申しましたように、私は国内の輸送を担当しておりましたが、北海道航路においては微増ないしは荷動きが横這い、九州においては比較的順調であるといった地域間格差の問題を感じております。そういった意味では緩やかに拡大しているとは言いながら、拡大しているということを肌で実感することは難しいという方が多いのではないかと感じています。』(中村さん)

『また、物価につきましては、基本的には上昇基調にあると思いますが、長年物価が上がらなかった、あるいは下がってきたということがありまして、値上げに対するアレルギーが根強いことなどから、上昇テンポは緩やかなものにとどまる可能性が高いと感じています。』(中村さん)

ということでこの辺りを読みますと、内航海運を経営しているだけのことがあって地域経済の動きに関してはアンテナが高い(ので当然景気に対しては慎重になるわな)という印象です。


で、亀崎さんですが、ちょっと長いので途中端折っちゃいます。

『日本経済は、成長率が2%強の緩やかな拡大基調にあって、景気拡大期は5年を超えましたが、5年を超えてもなお堅調に推移していると考えています。ただし、その牽引力は第一に輸出、第二に設備投資ということです。即ち、GDPの約6割を占める個人消費がまだ力強いものになっていません。一方、世界経済をみると、2003 年以降、同時好況ともいえる状態で、最近は年率5%程度の成長を遂げており、日本経済もその恩恵を受けています。従いまして、日本経済についても、外部環境が良好なうちに、早く個人消費が成長の牽引力になることが極めて大事な課題かと認識します。』(亀崎さん)

ということで個人消費に注目ということですな。この先に中国経済と米国経済の先行き見通しについて話をしてるのですが、中国経済の方が話として先に出てきたのはやはり台湾現地法人の社長をやっておられただけにアジア経済へのアンテナが高いんでしょうか(^^)。そして米国経済に関して亀崎さんのまとめですが、

『従いまして、全体としては緩やかな景気拡大が続いていて、基本的にはソフトランディングに向かうのではないかと思います。ただし、サブプライム住宅ローンの問題、それから若干弱さがみられる設備投資、インフレ率の高止まり、こういったリスク要因もありますので、今後も景気・物価双方を注意深くみていく必要があるかと思います。』(亀崎さん)

となっています。昨日ご紹介した福井総裁の会見では米国のインフレ懸念について「アップサイドリスク」と表現してて「???」というようなことを書いたと思いますが、亀崎さんは単に「リスク」と表現している訳でして味わいがございますな。そして物価に関して。

『日本の消費者物価については、原油価格反落等の影響もあり、目先はゼロ%近傍で推移するとみられますが、より長い目でみると、需給ギャップは需要超過方向で推移していく中で、プラス基調を続けていくと予想しています。今後の金融政策については、冒頭申し上げましたように、あまり先入観や予断を持たないで、その時々の経済・物価情勢をしっかりと分析し、できる限り先々の見通しも踏まえた上で適切に判断していきたいと考えています。』(亀崎さん)

ということで、ここの部分に関してはきっちり日銀公式見解どおりでございまして、まあこれが会見要旨の頭の方(3ページ目)だけに好対照って感じになっていると思います。


○望ましい中長期的インフレ率

『長期的な物価安定の理解については、昨年日銀の内部で色々議論が行われて、1年後にレビューということになっていると思います。従いまして、近々審議委員の中で、討議されると思います。全くレベル感がない訳ではありませんが、その中において勉強していきたいと思っております。』(中村さん)

『現在の中長期的な物価安定の理解ということでは、0〜2%という範囲がありますが、私としては、これについて特段の違和感を覚えるものではありません。ただし、これから私自身でしっかりと検証していきたいと思っています。』(亀崎さん)

ということで、こちらでも亀崎さんの方がどちらかというと日銀の公式見解寄りのコメントになっていると思います。


○賃金に関して

賃金が足元あんまり上らないことに関してどう考え、どのような状況になれば賃金が上昇するかという質問が出たのですが、さすがにこの質問に関しては企業経営者だけに具体的なお話です。

『このところ、企業業績が良いのは輸出産業であり、各企業が様々なかたちでのコスト削減や合理化を進めた結果であると思います。一方、消費者物価はなかなか上がらず、為替にしても現在は119 円程度ですが、いつまた110 円に戻るかわからないということで、今の企業にとって居心地の良い状態が、先行きどうなるかわからないという感覚を、経営者は持っているのではないかと思います。』(中村さん)

『一般的に、企業はインフレ率が低い中で、企業業績の好調さは月例給与ではなく臨時手当で応えるのが大勢なのではないかと思います。業績が良い企業は、臨時手当を積み増してきていると思います。』(中村さん)

と、ここまでが現状認識ですが、先行きに関しては結構強めで見てます。

『一方で、昨今労働需給も非常にタイト化し、労働市場も流動化しつつあります。これから優秀な社員を採用する、あるいは現在抱えている社員を組織の中で抱えていくには、それなりの待遇をしていかないと、従業員にも辞める権利があるわけですから、これから賃金は上がっていくと思います。年功序列も崩れつつあり、能力給のようなものも広がってきていますので、賃金の個人的なばらつきはかなり出てくると思いますが、一般論としては、現在の労働需給環境を考えると、賃金は上がらざるを得ないのではないかと考えています。』(中村さん)

ということで、先行きにやや強めかと。「上がらざるを得ない」ってのが企業経営者らしい言い回しでちょっと微苦笑しましたが(^^)。

『企業収益が非常に良いのに比べ、賃金が必ずしも上がっていない、比例的に上がっていないという状況であると思いますが、若干時間が遅れて賃金は上昇してくるのではないかと思っています。昨年から今年にかけての各企業の賃上げ状況をみても、今までなかったような賃上げが随所でみられています。一方で今お話がありましたように、雇用需給も非常に逼迫化してきています。企業の人手不足感はかなり高まっていますので、こうしたことも賃金を上昇させる圧力になっていくのではないかと思います。企業収益が直ちには賃金に反映されていませんが、若干タイムラグがあっても、徐々に上昇していくのではないかと考えています。』(亀崎さん)

賃金に関しては中村さんの方がより強め(とあたくしが読んだ印象ですけど)なのは中村さんが海運業界出身で、現業部門の労働流動性が高いってのもあるのかなあとか思ってしまいました。あくまでも憶測でございますが。


○外からみた日銀とか情報発信とか

『今まで日銀サイドから色々な情報発信がされていたと思います。例えば、こういった記者会見、展望レポート、金融経済月報、議事要旨等で随分発信されており、それは大変な情報量だと思うのですが、なかなか一般には理解されていない面があるような気がしていました。それは、情報量が足りない云々ではなく、もう少し日銀の考えていることをわかりやすくするにはこれからどうしたら良いのかということです。』(中村さん)

そしてその次のところであたくしはウケてしまいました(^^)。

『今はまだアイディアを持っていませんが、商船三井にいた時にIRも担当しており、海外投資家に対し、随分説明してきましたが、そうした投資家も自分が関心のあることにしかなかなか耳を貸してくれませんでした。そういう意味では、コミュニケーションをとる場合、どうすれば耳を貸してもらえるか、どういう言葉を使っていけばよいかということは考えていかなければならないと思います。』(中村さん)

「そうした投資家も自分が関心のあることにしかなかなか耳を貸してくれませんでした」というのは実に素晴らしい指摘でございます。いや全く仰る通りでございますな、うんうん。そして亀崎さんですが。

『何を申し上げたいかと言うと、日銀の近くにいる方たち、例えば、日銀ウォッチャーとか金融機関関係者は、日銀も記者会見をやり、月報も出し、色々なものを毎日情報発信している中で、よくみているのでしょうが、ちょっと遠いところにいる身にはあまり関心がない――こういう言い方は申し訳ないのですが――、そういう状況でした。しかし、この五日間を通して感じたのは、特に、金融政策決定会合で政策委員の皆さんが、国内外の経済・物価・金融情勢についてデータを持ち寄って真剣に議論なさっている。極めて専門性が高く、私にとっては、あっという間に時間が過ぎてしまうような非常に刺激的なものでした。』(亀崎さん)

ということで、お二方にはより一般にも判りやすい情報発信のありかたについてご活躍されることを期待致したく存じます。


○まあ金融政策とは関係ない話ですが

さっき引用した亀崎さんの発言の前段に『4月5日にまいりまして、まだ五日間ですが、大変な量の資料がどんどんきます。読み切れないので、家で読まなくてはわからないものもあります。色々な資料がきますので、中村委員と、どのように資料を読み解けば良いのか一度聞いておこうと話し合いました。』(亀崎さん)というのがありますように、物凄い勢いでご多忙な新審議委員でございますけれども、こんな質問がございました。

『(問) お二人とも日本を代表する企業の副社長をお勤めになられており、日銀審議委員に就任されたことによって、大変失礼かもしれませんが、報酬面ではかなり見劣りしてしまうこともあろうかと思います。待遇面の問題から、なかなか日銀の審議委員を引き受けてくれる人がいないという話も聞かれます。そういう中で、あえて審議委員を引き受けられた理由についてお伺いします。』

で、お二方のお答えはまあ全部読むのをお勧めしますが、亀崎さんが『むしろこの歳になって、今までは民間企業で働いていたのが、今度はお国のために働くことができるということは、なんと幸せなことか。』(亀崎さん)と答えてまして、「年収2800万円という高給取りの審議委員を2期も続けるのは問題だ」などという発言をするどこぞの誰かさんにおかれましては亀崎さんの爪の垢でも煎じて飲んだ方が宜しいのではないでしょうかと思うのであります。

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