西村清彦副総裁

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西村審議委員

西村さんの略歴(日銀Webより)

昭和28年3月30日生
昭和50年3月 東京大学経済学部卒業
昭和52年3月 同大学院経済学研究科修士課程卒業
昭和56年9月 米国ブルッキングス研究所オークンリサーチフェロー
昭和57年12月 米国イェール大学Ph.D.(経済学博士)取得
昭和58年1月 東京大学経済学部助教授に就任し、平成6年11月に教授に昇任
平成15年10月 内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官兼東京大学大学院経済学研究科教授
平成17年4月8日 日本銀行政策委員会審議委員に就任
平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/dg_nishimura.htm/

副総裁就任以降の発言はこちら

2012/12/06「講演をネタに円安材料にされましたがそんなに変わった話をしている訳でも無いのですが」
2012/08/31「今度はバーゼルで「市場情報の活用」というこれまた入魂の講演を(ただしメモのみ)」
2012/08/29「豪州のあとはトルコで人口動態変化とIT技術進化の影響に関する講演を(メモのみ)」
2012/08/24「豪州での講演で人口動態と不動産バブルについて言及して中国の状況を警告」
2012/04/25「会見はイマイチの内容でしたが(メモのみ)」
2012/04/19「追加緩和を示唆するサービスフレーズの多い講演」
2012/03/08「金融規制改革に関する中々内容満載な講演」
2011/12/02「会見でも景気下振れ懸念全開」
2011/12/01「京都での講演から、景気には結構弱気のようです」
2011/05/02「かなり斬新な『副総裁が執行部案以外の提案をして否決』プレイが炸裂とな」
2011/04/26「会見をよくよく見たら7日の総裁発言を思いっきりDisっていたことに気がつきました(汗)」
2011/04/22「横浜での講演は特にインプリケーション無し」
2010/10/28「国内の講演ではあまりKY発言をしないのね」
2010/10/22「記者会見には特に政策インプリケーションなし」
2010/10/21「イマイチKY気味の講演が2本」
2010/09/29「決済システムに関する講演なのですが、微妙にピントがずれている感がある」
2010/06/29「金融規制に関するスピーチはバランスを意識」
2010/04/23「会見もホーキッシュさは無く追加緩和に含みを」
2010/04/22「今回は空気を読んだのかタカ派っぽい4月総裁総裁会見とは大違いの講演内容」
2009/11/05「非伝統的政策に関するスピーチ:えーっとブエノスアイレスでのスピーチは・・・」
2009/10/23「西村副総裁会見、景気はバンピーロードなのに解除ですかそうですか」
2009/10/22「西村副総裁講演も臨時措置解除やる気満々なのですが、景気と物価の認識は・・・」
2009/09/16「西村副総裁講演続きの続き」
2009/09/15「西村副総裁講演更に続き」
2009/09/14「アルゼンチン中銀コンファランスでの講演」
2009/09/03「非伝統的金融政策に関するアルゼンチン中銀コンファランスでの講演(イントロ)」
2009/05/20「日本金融学会講演金融システム設計に関して(その2)」
2009/05/19「日本金融学会での講演(その1)」
2009/05/18「シカゴでの西村総裁講演:不良債権問題に関して」
2009/02/02「西村副総裁講演」
2008/12/11「リテール金融に関する講演」
2008/11/18「西村副総裁の挨拶から」
2008/10/07「下振れリスク意識高まる講演」
2008/03/25「就任記者会見(白川さんと共同)」

以下審議委員時代の発言

2008/02/04「ハト派の色濃い記者会見」
2008/02/01「下ブレリスクに言及する講演」
2007/07/05「米国での講演よりほんのちょっとだけ」
2007/06/04「慎重な物言いに終始した記者会見」
2007/06/01「今回は無難にまとめた講演」
2006/12/08「記者会見は何か強気を言っちまいましたって感じですか」
2006/12/07「西村審議委員講演は一見弱気のようなんですが・・・」
2006/06/26「西村審議委員記者会見」
2006/06/23「微妙にハトかもしれない西村審議委員講演」
2006/02/22「20日の補足」
2006/02/20「先行きに少々危ういものを感じる西村審議委員記者会見」
2006/02/17「西村委員講演、無難に大勢見解で纏める」
2005/06/08「ブルームバーグインタビュー(メモ):当預下げは容認、景気には強気」
2005/04/12「就任記者会見を読む」
2005/04/11「就任記者会見(予告編)」
2005/02/17「西村清彦氏次期審議委員内定でちとアレなのですが」

2012/12/06

○西村副総裁講演なのですがこれで何で為替市場が動くのかさっぱりわからんぞなもし

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8B403L20121205
ドル82円前半、上海株高や日銀緩和期待で円全面安
2012年 12月 5日 15:57 JST

『[東京 5日 ロイター] 午後3時のドル/円は、前日のニューヨーク市場午後5時時点に比べてドル高/円安の82円前半。午後、円は全面安となった。中国市場での上海総合指数の大幅高に加え、西村清彦日銀副総裁の発言で追加緩和への期待が高まり、円買いポジションの解消が進行した。』(上記URLより)

・・・・・・・・とまあそういう事で、昨日の昼休み時間に上海株が上昇したのはまあ兎も角として、何故か西村副総裁講演が「追加緩和期待高まる」という話になっているのですが、これ正直言って別に凄くインパクトのある話があるとも思えないのですが、まあ為替市場の「チェンジゲーム」への期待がアホのように高まっていて、はてさて本当に政権交代した時にどうなるんでしょうかねえとか思うのですけどね。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko121205a.pdf
デフレからの早期脱却と日本銀行の2つの基金
── 新潟県金融経済懇談会における挨拶 ──


でまあ何でこれで為替市場が動くのかワカランチ会長であるこのあたくしと致しましては、どこのどの部分で為替市場が反応したのか当然ながら判らないという事でございますので、もしかして引用がピントを外すかもしれませんが(汗)、まあそれらしいところを引用してみますだよ。


・景気認識と見通しは確かに弱めではありますが

『まず海外経済の現状ですが、昨年後半以降、欧州債務問題の悪影響が貿易や企業マインドのルートを通じて世界的に拡がり、多くの国や地域で、製造業部門を中心に減速した状態が続いています。日本銀行では、4月と10月に、経済・物価情勢についての点検結果を展望レポートとして取り纏め、1月と7月にその中間評価を行っています。今年7月の中間評価では、海外経済の不確実性を景気のリスク要因として織り込んでいましたが、これが短期間のうちに表面化したというのが、本年夏場以降の金融経済動向に対する私の率直な印象です。』

というかそもそものメインシナリオが強かったのではないかという話はあるがそれは兎も角として、ポイントになりそうな米国と中国に関して。まずは中国への認識。

『これに加えて、世界経済の牽引役として期待が寄せられてきた新興国経済も、勢いを欠いています。中国経済は、一部経済指標にごく足もと改善の兆しがみられるものの、ウエイトの高い欧州向け輸出が落ち込んでいることに加え、リーマン・ショック後の過剰投資の影響が顕在化し、素材産業など幅広い分野で在庫調整局面が予想以上に長引いています。』


で先行き見通しですが。

『海外経済の先行きについては、当面減速した状態が続くとみられますが、その後は、米国の持続的な回復や中国の持ち直しを背景に減速した状態から次第に脱し、緩やかな回復に転じていくと考えています。』

ということですが・・・・・・・

『もっとも、海外経済の先行きについては、回復時期を含めて不確実性が小さくありません。欧州債務問題がさらに深刻化する可能性は、引き続き意識しておく必要があります。米国経済については、緩やかな回復基調を続けていますが、いわゆる「財政の崖」の問題など財政政策の先行き不透明感が強い状態が続いており、その回復力には注意が必要です。中国経済では、過剰設備を抱える素材業種を中心に、需給バランスの改善に時間がかかる可能性があります。また、日中関係の影響が既に各所で顕在化していますが、日本経済にとっては、その広がりが懸念されるところです。』

まあ慎重は慎重です。んでもって日本経済。

『わが国経済の先行きについては、先ほど申し上げた海外経済の見通しを前提とすると、当面、輸出や鉱工業生産は減少を続け、景気全体も「弱めに推移する」と考えています。』

『海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、輸出や鉱工業生産は持ち直しに転じ、経済全体として前向きな支出活動も徐々に強まっていくと予想しています。10月の展望レポートにおける成長率見通しの中央値は、2012年度が+1.5%、2013年度が+1.6%、2014年度が+0.6%となっています。この成長率見通しには、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響が反映されていますが、その分を調整すると、2013年度、2014年度ともに1%台前半という見通しになります。』

というのは展望レポートの見通しですが、消費税引き上げはネット増税になるのですから2014年度は2013年度よりも弱い見通しを出す方が妥当な気がするんですけどまあそれは兎も角。

『こうした見通しを巡っては様々な不確実性が存在することも事実です。上振れ要因・下振れ要因の双方がありますが、現下の局面では、下振れ要因により注意すべきと思います。とりわけ、海外経済の減速が一段と長引くことで、わが国の輸出や鉱工業生産の持ち直しが遅れ、ひいては内需への悪影響が一段と強まることがないかという点については、今後も丹念に点検していくつもりです。』

ということで、まあ慎重は慎重なのですが為替市場がどどーんと反応するほどの事かという所。


・この部分は注目すべき論点でしてね

物価に関する部分ですけれども、この論点は注目すべき所ではございますので引用。

『この物価見通しは、景気見通しの下方修正を反映したマクロ的な需給バランスの改善の遅れや、原油価格下振れの影響を織り込んでいるため、7月の中間評価時点と比較すると下振れています。それでも、日本銀行の消費者物価見通しは、民間エコノミストの見通し対比、なお高めです。』

『両者の違いは、景気動向、言い換えればマクロ的な需給バランスが物価変動にどう影響を与えるか、見方が違っているためだと私は解釈しています。』

という所から始まる部分なのですけど・・・・・・・・

『民間エコノミストの方々は、景気の緩やかな拡大が続いた2000年代半ば頃、マクロ的な需給バランスの改善に比べ、消費者物価の上昇が抑制されていたことを強く意識されていると思います。実は、この時期は景気の緩やかな拡大にもかかわらず物価が上がりにくい状況にありました。』

つまり経済に物価への負のショックがあったという論点でございます。

『供給力の過剰はなかなか解消されないうえ、少子高齢化の影響で国内市場の伸びが抑制され価格競争が激しさを増しましたし、国内製品と競合する中国など新興国からの安値輸入品の増加が目立ちました。国際的な競争激化を背景とした賃金抑制の動きも、製品価格の上昇を抑えたと考えられます。加えて地価の大幅な下落が続いたことから、生鮮食品を除く消費者物価の構成品目の2割という大きな比重を占める家賃が上昇から下落に転じ、消費者物価全体の上昇を抑えました。』

で、この辺りが今はかなり解消されているのではないか、という話でありまして・・・・・・・・

『当時と比較すると現在では、中国からの安値輸入品は目立たなくなっているほか、供給過剰の解消も少しずつですが進んでいます。また少子高齢化に対応し製品やサービスの差別化に成功した事例も増え、消費者が高付加価値の高価格商品にも関心を示すなど、企業が価格を引き上げやすくなる方向に働く要因が散見されます。加えて地価の下落基調にもようやく歯止めがかかり、ラグを伴いながらも家賃も下げ止まることが予想されます。』

ということでその結果として・・・・・・・

『こうした最近の変化も踏まえ、展望レポートの中心的な見通しでは、消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスの改善などを反映して緩やかに上昇していくと想定しています。ただ以上申し上げた変化はまだ力強いものとはいえず、外からのショックには依然として脆弱であり、下振れリスクには注意する必要があると思っています。』

つー話で、まあ確かに負の価格ショックの方は改善されていると思うのですけれども、一方で名目賃金のアガランチ会長状態というのは一層強固になっていると思われますので、そっちの方から物価はやはり上がりにくいと考える方が妥当なように思えますけどどうなんでしょうかねえ。


・で、金融政策の所なのですけど

例によって例の如く金融緩和政策が効果を生むメカニズムとしての「第一段階」「第二段階」の二段階論の説明がありまして、第一段階に関しては資産等買入基金、第二段階への効果を期待するのが今回の貸出支援基金と、まあそういう話をしているのですがその辺は華麗にスルーします。

でまあ資産等買入基金に関しては、よく言われる「無期限じゃないのでケシカラン」というまあそれは思いっきり的を外した批判なのですが、それを意識してこんな話をしています。

『この資産買入等の基金は、強力な金融緩和政策の継続期間に関する約束、いわゆる時間軸政策のもとで運営しています。すなわち、「当面、消費者物価が前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力な金融緩和を推進していく」ということです。』

ただまあ厳密に言えばこの1%の数値が「見通せるようになるまで」という見通しベースの物になっているという点で、かつての日本でのCPIコミットメントのような時間軸政策とは異なっているとゆー所だと思います。FRBのガイダンス文言よりは明らかにこちらの方が時間軸政策に近いのですけれども、ファクトとしての景気遅行指標への紐付けであったかつてのCPIコミットメントよりは時間軸政策という意味では弱い(実際はそのコミットメントの物価水準で置いている数値が今の方が上なのでその点の違いがありますので念の為)という事になろうかと思います。

『先ほど申し上げたとおり、10月に公表した展望レポートでは、消費者物価の前年比について、2014年度には「1%に着実に近づいていく」という見通しを立てていますが、「1%が見通せる」という判断には至っていません。資産買入等の基金の増額は2013年末に完了しますが、その後も、この約束にしたがって基金の運営を行っていきます。』

ということで、いや別に2013年末に完了したらそれで終わりというものではないですよ、という説明をしているのですが、これが為替市場を反応させるとも思えん。


でもって貸出支援基金に関してですが。

『最近1年間をみると、日本銀行の取引先である銀行および信用金庫のうち、貸出が増加した先の貸出残高の合計額は約15兆円増加しています。これをそのまま当てはめると、新たな枠組みのもとで金融機関が資金供給を受けられる額は、15兆円程度となります。成長基盤強化支援の5.5兆円と合わせると、貸出支援基金の規模は20兆円程度となります。金融機関の貸出がこれまで以上のペースで増加すれば、貸出支援基金の残高は20兆円を超えて拡大していきます。さらに、第1の「資産買入等の基金」と第2の「貸出支援基金」を合わせれば、優に110兆円を超えます。日本の2011年名目GDPは468兆円ですから、実にその四分の一という資金規模になります。日本銀行の現在の金融緩和が、かってない規模になっていることをご理解頂けると思います。』

とまあそういう景気の良い話をしていて、もしかしてこれに反応したのかいなという気もせんでもないのですが、そもそも貸出支援基金が拡大すると益々金融機関の資金ニーズが無くなって資産買入等基金の積み上げの方が大変になるとかいう論点をスルーしてバナナの叩き売りモードで威勢の良い話をするというのも如何なものかという気はせんでもない。

『私どもとしては、貸出増加に向けた金融機関の取り組みにより、新たな資金供給の総額が拡大していくことを強く期待しています。このため、制度設計に当たっては、金融機関にとって使い勝手が良いものになるよう検討しているところです。年内には詳細を固め、出来るだけ早期に実施に移したいと考えています。』

はあそうですか。


でまあ最後の所ですがね。

『本日は時間に限りがありますので、2つの基金に絞って、日本銀行の金融政策運営についてご説明しました。ここで改めて強調しておきたいポイントは、日本銀行は、これまでも、そしてこれからも、経済・物価見通しの実現が難しくなったり、見通しを巡るリスクが大きく高まる場合には、適切かつ果断な対応をとる用意があるということです。今後も、当面の物価安定の目途の達成に向けて、新しい手法も駆使しながら、強力に金融緩和を推進していく所存です。』

・・・・・・・・・・うーむ、これで反応したのかもしれませんけれども、こんなの普通に言う事なんですけどねえ。

ということで、不肖このあたくし、西村副総裁講演のどこをどう捕まえると「追加金融緩和期待が高まる」という話になるのかさっぱりワカランチ会長でしたが、まーつまり地合いがそっちに行きたがっていると申しますか、「チェンジゲーム」への期待がアホほど高まっている証拠なんでしょうなあと、まあ斯様に思ったのでありました。

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2012/08/31

○西村副総裁の世界行脚は続くよどこまでも

昨日もこんなのが
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120830a.htm/
英語版HPへの掲載のお知らせ
Market Intelligence, Market Information and Statistics in Central Banking
第6回アービング・フィッシャー委員会主催コンファランスにおける西村副総裁基調講演(8月29日)

『第6回アービング・フィッシャー委員会主催コンファランスにおける西村副総裁基調講演(8月29日)を英語版ホームページに掲載しました。』

ということで講演はこちら。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120830a1.pdf
Market Intelligence, Market Information and Statistics in Central Banking
Keynote Speech to the 6th Irving Fisher Committee Conference Basel, Switzerland, August 29, 2012

21日にはRBAとBISの共同主催コンファランスで『How to detect and respond to property bubbles: Challenges for policy-makers』というのをやり、日本に戻ってから今度は27日にトルコ中銀のセミナーで『Demographic Transition, Impact of ICT, and Globalization: A Long View of the Post-Crisis World』という講演をやって、まあさすがに今回は中1日ですからトルコからバーゼルに飛んでまた講演という世界行脚モード。

で、しかもそれぞれテーマが違っていて(最初のと2つ目のは人口動態が経済に与える影響に関する話の部分が被っているのですが、今回の講演は思いっきり別のお題になっています)まあポイントも色々とある講演でございまして、これ準備も大変でしょうし事務方のロジも大変でしょうが、西村副総裁急に何で世界行脚祭りになってますねんという所でございまして、任期あと半年とかになって西村教授モードになって来て本領発揮モードになっているのはこれはこれで中々興味深い所ではございます。と申しますのも、任期終了を意識して皆様が揃いも揃って本性発揮モードとなった場合はそらまあ政策意思決定でも本性発揮モードになって下さったりする可能性も高まりますので、その辺も加味しながら行動を予想(妄想とも言う)しないと行けませんからね(^^)。

一方、すっかり山口副総裁が城代家老というか国家老状態になっているのではないかと思われる所がこれまた味わい深いのでございますが、国家老は国家老で先般の広島での講演とかいい感じで「追加緩和やってもいいんじゃないですかねえ〜」って感じになっておりますのが味わいがあるというものです



ということでまあ今回の講演を大体よんでみたのですが、内容はまあオモロイというか興味深いのではございますが、何せ講演の量がやたら長い(英文本文貫録の18ページ)のでどこをどうネタにするのかが難しいですな。

つーことでとりあえずざっと纏めますと、前半は「中央銀行が政策判断を行うのにどのような情報を取得していくべきか」という話をしていまして、その中として「起きた事」を知るための経済のハードデータ、「これから起きうる事」を知るためのサーベイなどのデータ、そして「これから起きるかもしれない事」を知るためには通常の経済統計などだけではなく、市場からのデータや市場参加者からの情報など、それから中央銀行として知りうる市場における取引状況や市場参加者のポジション状況などにより注意を払っていくべきであるというようなお話をしています。後半では今般の金融危機に対して具体的にケーススタディーという形で検証を行っておりまして、シャドウバンキングとか市場での取引状況とかの注意をより払う必要があったので、今後は中央銀行はこれらの知見を活かして行動するのが吉とか、まあそんな趣旨の話をしているように読めましたが、間違っていたらご指摘プリーズ。

#ということで本当は引用して内容を紹介しようと思いましたが、最後のまとめの所を引用するだけでも死ねるのでどうネタにするかは週末に悩んでおきます・・・・・・・

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2012/08/29

○西村副総裁がワールドツアーを実施しているようです

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120828d.htm/
英語版HPへの掲載のお知らせ

Demographic Transition, Impact of ICT, and Globalization: A Long View of the Post-Crisis World
トルコ中銀主催セミナーにおける西村副総裁講演(8月27日)

ということで講演テキストはこちら。
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120828a1.pdf
Demographic Transition, Impact of ICT, and Globalization:A Long View of the Post-Crisis World
Speech at the Central Bank of the Republic of Turkey

「人口動態の変化、情報通信技術のインパクト、そしてグローバリゼイション、危機後の世界における長期的な見方」とか何とかいうお題(ICTというのはInformation and Communication Technologyの略です)で、題名と小見出しを見た所(このテキスト出たの昨日の多分遅めの時間だったので中身気が付いたのは不覚にも今朝)西村副総裁というよりは西村教授の講演の香りが致しまして、先般は豪州で不動産バブルの発生に関して人口動態と信用の急速な拡大が寄与しているという話(とバブルへの金融政策対応に関する話)をしておりましたが、今度はトルコにお出掛けという事で、まあこの時期はあちこちで中銀のこの手のセミナーがあります(一番の大玉がジャクソンホール)けれども、何かこう連続でお出掛けになっているのもあまり無かったような気がする次第。

まあ何ですな、政策委員会の皆様におかれましては任期終了が近づくと最後に言うべき事は言わないと状態になって(なるのは当たり前っちゃあ当たり前ですけど^^)急に本領(?)を発揮しだす方が多いのでございますが、西村副総裁も何か本領発揮モードのスイッチが入ったのではないかと思うとこれはこれで胸の熱い展開ですが、総裁ともう一人の副総裁が本領発揮モードに入られてしまって山口副総裁におかれましてはその収拾モードに入らないと行けない場面もあろうかと存じますとか思いますとこれはこれでキングカワイソスではございますな、うんうん。

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2012/08/24

○西村副総裁講演から少々

先日こんなのが出てましたぞな。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/ko120821a.htm/
How to detect and respond to property bubbles: Challenges for policy-makers
Remarks at the Reserve Bank of Australia-BIS Research Conference "Property Markets and Financial Stability" in Sydney

Kiyohiko G. Nishimura
Deputy Governor of the Bank of Japan
August 21, 2012

んでもって本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120821a1.pdf

本文の構成ですが、小見出しを見ますと・・・・

1. How to Detect Malign Bubbles
2. How to Respond to a Malign Bubble

ということで、不適切なバブルの発生をどう抑制するかというお題と、発生したらどう対処するかというお題なのですが、この1番の所を拝読いたしますと・・・・・・

『Let me start with the first question: How can we detect malign bubbles? Here we should be aware that not all property bubbles lead to financial crises, and not all financial crises are preceded by property bubbles. International panel studies have shown that two-thirds of 46 systemic banking crises were preceded by house price boom-bust patterns, while 35 out of 51 house price-bust episodes were followed by a crisis. So there are both malign bubbles and benign ones.』

過去世界で起きた46回の金融システム危機のうち、その3分の2が住宅価格のバブル発生とその崩壊の後に起こったとはほほうという話ですが。

『Then, what leads to a malign bubble? Looking back at past experience of malign bubbles, we find another factor which has not been touched upon by the presentations so far: the demographic transition from a “population dividend” to the “burden of an ageing population.”』

どうも最近日銀的にはこの「人口動態」の話がお好きのようですが、これはプレゼンを上手くやらないと「人口動態の問題というのを口実に日銀は逃げを打っている」と言われるネタになるので要注意という所ですな。いやまあ仰ることはその通りであるにせよ。

『Let us look at the charts comparing the Japanese property bubble of the 1990s, the US house price bubble of the 2000s, and the possible Chinese property bubble. In these three charts, I juxtapose, first, the ratio of working-age population to the rest (the inverse dependency ratio), second, the real property price index, and third, total loans in real terms.』

>the possible Chinese property bubble
>the possible Chinese property bubble
>the possible Chinese property bubble

ではどういう事かという話ですが、過去の日米を比較して足元の中国の話になるのですな。

で、日本の場合。

『In Japan (Chart 1), we have two peaks in the working-age population ratio,accompanied by two peaks in the real property price index, which is the real land price index. Of these two, the second peak, around 1991, happened to be a malign bubble which triggered a subsequent long period of stagnation. Then, what is the difference between the two? The volume of total loans in real terms may suggest an answer. Real loans were increasing at the time of the first peak, but their level was not as high as during the second peak.』

これは図表も比較してみると面白いですが、日本の2度の不動産ブーム(列島改造と80年代後半のバブル)を比較して、前者ではローンの拡大が比較的穏健で、後者ではローンの拡大がとんでもないことになっていますという話っすな。

米国の場合。

『A remarkably similar picture is found in the United States (Chart 2). We have two peaks in the working-age population ratio, though not as pronounced as in Japan. And the real property price index, which is the real house price index, seems to have two peaks, roughly coinciding with the demographic change. Again, the second peak triggered the financial crisis of 2008, though the first peak coincided with the S&L problem, which had a far less severe effect on the economy. Adding the real total loans to the chart, we find a quite similar pattern to the Japanese case. The level of the real total loans in the first peak was high, but far lower than in the second peak.』

これまた日本と同じ話なのですが、労働人口のピークが2回来て、それに若干遅行した形で不動産ブームが起きるのですが、2度目の時にはローンがどどーんと伸びたので不動産ブームが大きなバブルになったという話なのはチャートを見ると判ります。

でもって中国の場合。

『The last chart shows the figures for China (Chart 3). China has not yet peaked with respect to working-age population ratio, but it is close. The property price index was taken from the web site of a Shanghai index provider, who unfortunately and unexpectedly shut down their site and vanished about a year ago (June 2011). I tentatively use this index since it has a longer span than other indexes, although I am not entirely sure how it was constructed. The chart shows a clear upsurge in property prices up to 2010. Again the real total loan also shows a tremendous increase along with the working-age population ratio and the property price index.』

つーことで、中国の場合労働人口ピークはまだ来ていないけれども、価格の上昇とローンの上昇が顕著であるという指摘ですな。

『What lessons can we learn from this rather cursory examination of the recent history of two advanced economies and the present situation of one emerging economy? It is clear that not every bubble-bust episode leads to a financial crisis. However, if a demographic change, a property price bubble, and a steep increase in loans coincide, then a financial crisis seems more likely. And China is now entering the “danger zone.”』

>China is now entering the “danger zone.”
>China is now entering the “danger zone.”
>China is now entering the “danger zone.”

・・・・・・・・・ほほうという感じですが、まあ人の心配してる場合かというツッコミも有ろうかと思いますが、中国コケると色々と困りますので気にするのは重要(しかもこの講演やっているのって豪州なので猶更^^)ではありますもんね。

で、この後のお題が「バブルにどう対処するか」的なお話ですからして、大体どういう話が出るのかというのが想像付くかと思いますが、時間の関係上本日はここで終了、というか続きはやるかもしれないけどネタ切れの時だけだと思います^^;

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2012/04/25

・西村副総裁記者会見

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1204b.pdf

ネタにするの忘れていた訳では無いのですが、この会見は最後のリスク認識に関する部分程度しか読みどころが無いです。ちなみに欧州債務問題の話でして、「基本的な部分ではリスクに変化が無い」という話をしているのがほほうという感じでした。

あとは誰だか知りませんが、やたらめったらクレクレ質問をしている見苦しいのがあったのは見世物としては面白いですけれども、内容的にはしょうもないという感じでした。

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2012/04/19

お題「西村副総裁講演/ちょっとだけ別のメモ」

今月は期初というのもあるけどカレンダーの設定のマジックもあって妙に忙しいですな、うんうん。

○西村副総裁講演である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120418a.pdf
わが国経済のデフレ脱却に向けて

・景気見通しに関して

冒頭は景気見通しとリスク要因の話である。

『まず、海外に目を向けますと、国際金融資本市場では、このところ為替相場や株価が神経質な動きをみせていますが、欧州中央銀行による大量の資金供給やギリシャ支援に一定の進捗がみられたことなどを背景に、金融機関の資金調達環境は落ち着いています。』

えーっと欧州債務問題再引火は・・・・・・・

『しかし、海外経済は全体としてなお減速した状態から脱していません。米国では、このところ消費や雇用の面で改善の動きがみられていましたが、直近の雇用統計が事前の予想を下回るなど、改善の動きがどんどん強まっていくということにはなっていません。そうしたもとで、わが国の輸出や生産も、これまでのところ横ばい圏内を脱していません。このため、景気全体としてみても、なお横ばい圏内にとどまっています。』

ほう。

『しかし、国内需要では、このところ持ち直しに向かう動きがみられています。設備投資を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた動きが出てきているほか、エコカー補助金の再導入や人気新型車の発売など、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、個人消費の底堅さが増しています。生産面でも持ち直しに向かう動きがみられています。先行きは、新興国・資源国に牽引されるかたちで海外経済の成長率が再び高まり、国内でも震災復興関連の需要が徐々に強まっていくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。』

まあ海外頼みという結論は変わらんですな。んでもってリスク要因。

『このような見通しが実現されていくかどうか、点検していく際のチェック・ポイントとなるのが、見通しにおけるリスク要因です。現時点でリスク要因として最も強く意識していることを一言で言えば、世界経済を巡る不確実性です。欧州債務問題の今後の展開や国際商品市況の動向、新興国・資源国で物価安定のもとで成長が続くかなど、様々な不確実性がありますが、私は、現在回復が注目を浴びている米国経済について、経済指標の改善の動きが続くのかどうか、注視していく必要があると考えています。』

ということで、欧州債務問題の話よりも米国経済に注目というのがほほうという感じではございますが、この辺の見通しの話は特段弱いという話では無くてまあ普通に金融経済月報やら声明文やらで示されている割と強めっぽいお話と同じような印象を受けましたけれどもどうっすかね。

でまあ米国に関する話についてこんな指摘。

『その背景として、ここでは2点指摘したいと思います。第一に、現在の米国では、「雇用に安心があるグループ」と「雇用に不安があるグループ」との二極化が進んでおり、このところの底堅い指標は、前者が住宅ローン金利低下や株価上昇の恩恵を受けて消費を回復させた面があるという点です。』

『これに対し今回の景気循環における特徴は、後者の「雇用に不安があるグループ」が大きく増加したことであり、回復局面でもそれが目立って減少していません。このことが今後の米国経済の回復の足取りを重くさせる可能性があります。』

『第二に、リーマン・ショックの影響で米国の主要な統計の季節調整方法に歪みが生じていて、冬場から初春にかけての計数が過大評価される一方、夏場にかけての計数が過小評価される可能性があります。これが当てはまる場合、これまでは実態以上に良い指標が出ていたのが、今後は、実態以上に悪い指標が出てくることになり、これが企業・家計そして市場の回復期待を冷やす可能性には注意が必要です。』

まあそんなに変わった話をしている訳では無いが、先行きに関して楽観している訳でもありません、という事のようですな。

『視野を他の国にも広げ、より長い目でみますと、高齢化の進展の下で不況が長引くと、業種間・地域間の人の移動が不活発になるなど、経済の柔軟性が低下することが考えられます。そのため、需要構造の変化に対する供給サイドの円滑な対応が困難になり、結果として成長力が低下してしまう懸念もあります。日本以外でも米国や欧州の先進国で、高齢化に伴って、こうした経済の柔軟性低下が深刻な問題となりつつあります。アジアなどの新興国においても、今後十年以内に高齢化がかなり進むことから、こうした問題にいずれ直面することになりますが、その影響の兆しが足許に現れる可能性も否定できません。』

ほほう。

『このように、わが国経済の先行きには、様々なリスク要因があることを念頭に、経済・物価見通しについて改めて入念な点検を行い、そのうえで、半年に一度公表しています展望レポートとして、今月末にお示ししたいと考えています。』

ということで展望レポートをお楽しみにという話をしてサービスサービス。


・デフレへの対応

『次に、デフレからの脱却について、お話したいと思います。わが国経済がデフレからの脱却に向けてしっかりと歩を進めていくためには、以下の両面での対応が必要であると考えています。』

『第一に、足もとの景気回復に向けての動きを着実に後押しし、経済の活動レベルを引き上げていくことです。国内外に端を発する前向きな動きをしっかりと後押しすることを通じて、需給ギャップの着実な改善を図っていくことが重要です。』

『第二に、わが国経済が直面する長期的・構造的な問題である趨勢的な成長力の低下に関して、取り組みを進めていくことが必要です。高齢化に伴って働き手の数が減少傾向をたどる中で成長力を高めることは、並大抵のことではありません。新たな需要を取り込んでわが国経済の成長力を高めていくために、民間企業、金融機関、政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して、思い切った取り組みを進めていかなければなりません。』

つーことで、まあ成長力強化の話に力点を置いて結果的に言い訳じみて聞こえてしまうどこぞの麿総裁よりは見せ方工夫してますなという感じがするところは宜しいのではないかと。

ただまあこの先は成長力強化ガーの話になっていまして、まー日銀的には「いやまあ緩和政策はするんですけどそれが中々実体経済に効かないのが困るんですよねえ」という話だとは思いますし、更に勝手にあたくしが脳内補完しますと「いや何でも良いから物価上げろというのであればプリンティングマネーでも財政マネタイズでもすりゃ物価は上がるでしょうけれども、それって国民経済における厚生の向上になるんですか???」という所だとは思うのですがね。



・でまあ今回の講演の見どころは後半ですな

しかしまあ何ですな、この辺の話って2月に出た日銀の政策ロジックを丁寧に読むと自明としか申し上げようがないのですが、その自明の話を捕まえて為替市場が絶賛反応(債券市場はまあ反応したのかしないのか判らない程度の動き)したかのような動きをしているのが実にこうアレでございます。

つまりね、市場との対話という意味で言えば、日銀の政策ロジックを丁寧に解説するにはどういう解説をしたらよいのか、という論点とか、この前の米国での麿のそれは正論だがぶち壊しになるから言うなよというような発言を控えた方が良いんじゃないですかという論点(低金利長期化でバブルがどうのこうのという話では無くて、財政マネタイズするとやばいですよ的な話ならドンドンしても良いと思いますけどね)とか、まあ日銀見物を普段からやっている金利市場には伝わるけれども、一般向けに伝わるのですか、というような部分をもうちょっと日銀も考えないといかんですなあとは昔から言われ続けていますけど、やっぱそうだよねと昨日の市場の反応を見てて思うのでした。

昨日も申し上げましたが、非伝統的金融政策を実施している上に、緩和的な金融環境が実体経済に波及する経路が弱まっている、という認識であったら、緩和的な金融環境を作るだけで良しとはしないで更に工夫しないとねって事でしょうな。

と、しょうもないあたくしの雑感が先に来ましたが、『5.日本銀行は変わったのか?』という小見出しの所から。

『こうした日本銀行による一連の政策対応、とりわけ、2月に行った、政策姿勢の明確化と金融緩和の一段の強化に向けた決定は、事前に予想する向きがみられなかったこともあって、市場参加者に強いインパクトをもって受け止められました。その後の株価の上昇や為替相場の円安方向への動きについては、もちろん、欧州債務問題を巡るリスクの低下や米国経済の改善の動きなど、世界的にやや明るい材料がみられ始めたことが大きく影響していますが、そのことに加えて、日本銀行による政策姿勢の明確化がポジティブ・サプライズとして捉えられたことも、相応に影響していると考えています。』

政策姿勢の「転換」ではなくて「明確化」となという所ですが、西村副総裁がこの先で説明しているので引用するのだ。

『こうした2月の決定を受け、「日本銀行の政策目標、政策運営ロジック、政策スタンスは変わったのか?」と問われる機会が増えています。以下では、幾つかの切り口から、我々の政策運営に関して変わった点と変わっていない点を、私なりに整理してみたいと思います。』

ほうほう。でまずは中長期的な物価安定の目途に関して。

『まず、2月に導入した「中長期的な物価安定の目途」については、日本銀行は、いわゆるインフレーション・ターゲティングの枠組みを遂に導入した、と解説する向きも数多くみられます。この点に関連して、日本銀行が金融政策運営において目指すものは変わったのか、という切り口から整理を試みることとします。』

ちなみに結論は「従来の内容を明確化したんです」という話になりますが(^^)。

『中央銀行として目指すべき「物価の安定」についての日本銀行の基本的な考え方は、以下の三点です。第一に、家計や企業等が物価水準の変動に煩わされることなく、経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況が「物価が安定している状態」である。第二に、「物価の安定」は足許の短期の動きで判断されるものではなく、中長期的にみて実現されるよう努めるべきものである。そして第三に、国民の実感に即し、家計が消費する財やサービスを対象とした指標を用いて、具体的な数値で「物価の安定」は表現されるべきである。こうした基本的考え方は、「中長期的な物価安定の目途」の導入以前から対外的にも明らかにしていたものであり、「目途」の導入によって変わった訳ではありません。』

目途導入時の文書にあった話ですにゃ。

『こうした「物価の安定」についての基本的な考え方に基づき、具体的に日本銀行の目指す方向性を示す上で、「目途」の導入以前にお示ししていた「中長期的な物価安定の理解」に替えて今回「目途」を導入した意義は大きいと考えています。』

ほう。

『各政策委員がそれぞれ金融政策を考える際には、拠り所とする日本銀行が目指すべき「物価の安定」についてのそれぞれの考え方があります。従来の「理解」では、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率を数値で示し、それらを束ねたものを範囲として示していました。物価上昇率が、その範囲から外れていれば、どの政策委員からみても「物価の安定」が実現していないということが明らかになる、というので紛れはないのですが、これでは日本銀行が組織として何を拠り所にしているか分かり難いとの声がありました。また、「理解」という言葉の語感について、日本銀行が「物価の安定」の実現を目指して能動的に行動している感じが伝わり難いといった問題もありました。そうした点を踏まえて、今回、日本銀行が目指すべき「物価の安定」とは何かを組織として決定することにした訳です。名称についても、日本銀行の政策姿勢を明確に伝えるものとして「目途」、英語では「Goal」を選びました。』

『また、「目途」への移行に合わせて、当面の「目途」とより長い目でみた「目途」とを切り分けたことは、重要なポイントであると考えています。』

ほほう。

『このもとで、経済構造の変化など先行きの不確実性が大きい中でも、日本銀行が現時点で目指している物価上昇率を、当面の「目途」としてピンポイントで示しました。他方で、より長い目でみた場合に、成長力強化への取り組みの成果が挙がり、持続的な実質成長率が十分高まっていくなら、持続可能な物価上昇率、ひいては名目成長率も次第に高まっていくと考えられます。そうした長い目でみた可能性を念頭に置き、「中長期的な物価安定の目途」は「2%以下」と幅を持たせ、原則としてほぼ1年ごとにこれを点検していくこととしています。』

判ったような判らんような言い方ですが、要するに「経済が成長軌道に乗ってきたら1%の目途を引き上げます」と受け取って下さいという事ですの。

『以上のような「中長期的な物価安定の目途」の背後にある考え方が正しく共有されていれば、もはや名称を巡る議論は本質的ではなく、また、これを弾力的なインフレ目標と呼んでも、私には違和感はありません。』

つーかフレキシブルターゲットでしょこれ。


2月政策変更のロジックについて。

『次に、2月の金融緩和強化を事前に予想することが難しかったという点についてです。日本銀行では、2006 年3月から、金融政策の運営方針を決定するに際し、2つの「柱」により経済物価情勢を点検してきています。これは、@先行きの経済・物価に関するメイン・シナリオが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているか、新たな枠組みに基づいて言い換えれば、「目途」の達成に向かっているか、という第1の「柱」と、Aそうしたメイン・シナリオに対して、どのようなリスク要因があるか、という第2の「柱」の両面からの点検を踏まえて政策運営を行うという枠組みです。2月の政策変更について、この2つの「柱」に基づく政策運営の枠組みから逸脱しているため予想が難しかった、という解説も見受けられますので、この点をご説明したいと思います。』

ほほう逸脱しないとな。つーことで言い訳コーナーが始まります(^^)。

『2月の決定会合の時点を振り返りますと、国際金融資本市場の緊張の和らぎ、米国経済に関する改善の動き、復興関連需要等による内需の底堅さなど、国内外で前向きの動きがみられていたものの、経済活動の水準から見れば海外経済の減速や円高等もあって日本経済はリーマン・ショックの後の大きな落ち込みからなかなか回復できない厳しい局面が続いていました。同時に、1月会合の議事要旨で明らかにされているように、長引くデフレを巡る議論を進める中で、日本銀行の金融政策運営に関する情報発信が不十分で、その意図が十分に企業・消費者・市場に伝わっていないのではないか、そのために強力な金融緩和の効果が大きく減殺されているのではないか、という認識が政策委員会内で次第に広がっていました。』

はあそうですか(棒読み)。

『更に1月25 日に米国FRBが物価上昇率2%を「longer-run goal(長期的な目標)」としたことで、市場、メディア等の間で中央銀行の物価の安定を目指す姿勢について、改めて関心が高まっていました。』

え、これでしょ??

『つまり「目途」の達成という観点からみて、先行きの経済・物価に関するメイン・シナリオの実現に必要な緩和効果が減殺されているリスクを考えざるを得ない状況になったのです。』

これはこれで理屈は通っているのですが、そうなると「今回の目途導入で緩和的な金融環境が実体経済に波及する経路が強まる」というような話になってしまい、それはそれで日銀のロジック的に微妙な気がするんですけどね。

『そうした状況も踏まえ、「目途」の達成に向けて、経済・物価に関するメイン・シナリオの実現をより確かなものとする観点から、日本銀行の政策意図を一層はっきりと伝える必要性が意識され、また、そのような対応を取らない場合に「目途」の達成の遅れにもつながりかねないことが懸念され、それが2月会合の政策決定につながりました。』

ふーん(棒)

『そして意図を明確にするために、資産買入等の基金の思い切った増額も行いました。これは、この時期見られた前向きの動きを金融面から強力に後押しする形になると考えられ、目に見える金融緩和の効果が期待できると考えたわけです。』

ふーん(棒)

『従って、「理解」から「目途」に替わったことで、2つの「柱」による政策運営まで変更された訳ではありません。今まで日本銀行の政策意図に関する情報発信が不十分であったため、日本銀行の政策意図が十分に伝わっていなかったことが、結果的にサプライズに繋がった一因であるように思われます。「目途」の導入は、まさにこの情報発信の問題を是正しようとすることが目的であった訳です。この点、十分な情報発信を目指して、今後とも工夫を続けていきたいと考えています。』

結局第一の柱なのか第二の柱なのかが良く判らんままの説明であったりしますが、第一の柱という事か??どうも丸め込んでいる感がありますな。


・追加緩和の可能性とかいう小見出しは中々

『当面の政策運営において、追加緩和の可能性は高まったのか?』というお洒落な小見出しが(^^)。

『次に、結局のところ、日本銀行の緩和姿勢は強まったのか、今後の追加緩和の可能性は高まったのか、という難しい問いに対して、なるべく分かりやすくお答えしたいと思います。』

キタコレ。

『既に述べましたように、「目途」と2つの「柱」に基づく我々の政策運営に変化はありません。繰り返しをお許し頂いてもう一度申し上げれば、現在の金融政策の運営方針は、「消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」というものです。この表現は、2月の金融政策決定会合の議事要旨にも記述されているとおり、「日本銀行として、今後も必要に応じて追加的な手段を講じていく姿勢にあること」を表しています。』

まあ正直この声明文とかを見ればこの話って自明としか言いようがないのですけれども、麿の台無し講演とか(そういやまた米国出張するようですが、海外に行くと急に発言が麿節全開になる麿の口に誰か鍵を掛けておいた方が良いのではないでしょうか)で対話がややこしくなっている(金利系の人たちは「ああまた麿か」というような反応だったと思うのですが、やはり普段から金融政策見てる訳では無くて、急に金融政策ネタをメインテーマにした他市場的にはややこしくなる、という事でしょうな)のでこの説明はまあ時宜得てるんじゃないですか。

『こうした我々自身のデフレ脱却に向けた断固たる姿勢の明確化が、これまでよりもしっかりと金融市場に浸透してきており、それが一部では日本銀行は変わったとの印象を持たれているのではないかと考えています。』

でまあ金融政策オタクでも無い限りベンダーヘッドラインがこの部分までをネタにして打ち込まれてそこしか見ないので、まあそーゆー点では今回の講演は狙い通りという感じですかね。実際はこの後にこんなのが続く。

『実際の政策判断は、あくまでも「目途」に照らして経済物価見通しやリスク要因を点検した結果に依存し、政策効果についての判断も重要です。金融政策の効果がいつ出るかには不確実性が大きく、しばしば(時には長い)可変なラグがあると言われますが、この性質は最近のような非伝統的な金融政策でも変わりません。』

『この点、先ほども申し上げたとおり日本経済の現状は、前向きの動きがみえてきたとは言え、世界経済を中心に不確実性は依然として大きいと考えています。また、2月と3月の政策変更が、経済・物価に関する人々の中長期的な期待にどのような影響が及ぶのかについても、無視できない不確実性があります。今後、こうしたリスク要因を十分に考慮に入れながら、しっかりと先行きの経済物価動向を点検し、適切な政策運営に努めて参りたいと思います。』

ということで。

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2012/03/08

お題「金融規制改革に関する西村副総裁講演から」

ちと出遅れましたが良い講演(目先の金融政策とはあまり関係ないけど)なのでネタに(^^)。

○西村副総裁講演:金融規制改革の論点

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/ko120306a.htm/
ユーロ圏危機から何を学ぶべきか?−規制改革の視点を踏まえて−
在米外国銀行協会年次コンファランスにおけるスピーチの抄訳
日本銀行副総裁 西村 清彦
2012年3月5日

ということで、本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120306a1.pdf(日本語訳)
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120306a1.pdf(本チャンの講演は英語)

・規制の枠組みとかいう話ですが何気に盛大な米国disの展開に

『本日の講演では、金融の安定と経済の活動にとって適切な規制の枠組みを如何に構築し実施していくのか?という観点で、現下のユーロ圏危機を検証したいと思います。具体的には2つのポイントがあります。』

ということで。

『1つ目のポイントは、統合の度合いを高めている金融の世界においては、規制の変更が、時として、意図せざる大きな影響を海外に与えることがあるという点です。ある国の規制緩和によって、自国の金融機関のみならず、海外の金融機関までもが過度なリスクテイクを行うかもしれませんし、その影響は、自国金融機関以上に外国金融機関において大きなものとなることもあります。』

米国の金融規制やら規制緩和やらの影響の話キタコレ。

『2つ目のポイントは、規制の有効性が、導入時点における経済情勢に本質的に依存しているということです。このため、(別の時期では)「正しい」政策が「間違った」時期に実施されてしまう可能性は無視できません。同様に、政策の「正しい」順序についても、経済情勢に依存しています。』

これはまたイイハナシダナーですな。

『次の第2節では、まず、投資銀行に対するレバレッジ規制の緩和を中心とした米国の規制変更が、欧州系金融機関の行動に与えた影響について説明したいと思います。規制当局がこうした影響が出ることを意図していたということでは決してないでしょう。これは、規制が国境を越えて意図せざる影響を与えるという古典的な例なのです。また、規制変更のタイミングが望ましいものではなかったことも紹介したいと思います。すなわち、規制緩和は、欧州と米国の金融機関が、利回りを追求し、リスクを取り始めた――後に過度なリスクテイクであったことが判明するのですが――まさにその時期に行われたのです。』

ほうほう。

『第3節では、現下のユーロ圏危機から何を学ぶべきかを検討し、それを踏まえたうえで、現在の規制改革に関する諸論点を分析したいと思います。まず、速やかに“平時”に戻るだろうという希望的観測には浸るべきではないことを指摘したいと思います。』

>速やかに“平時”に戻るだろうという希望的観測には浸るべきではない
>速やかに“平時”に戻るだろうという希望的観測には浸るべきではない
>速やかに“平時”に戻るだろうという希望的観測には浸るべきではない

ほー。

『すなわち、先進国においては、高齢化という困難な環境下で、長く厳しいバランスシート調整に直面する可能性が高いのです。この点に注意しますと、銀行が――レバレッジを拡大する過程ではなく――デレバレッジングする過程においては、適切な順序で規制改革を行うことが必要であるということも指摘いたします。』

キタコレ。

『そして最後に、ドッド=フランク法によって導入される「ボルカー・ルール」が海外に与える問題についても触れたいと思います。これは、規制が国境を越えて意図せざる影響を与えるもう一つの例です。ここで、意図せざる甚大な副作用を一部の国にもたらすことを回避するためには、適切な形で規制が実施されることがポイントとなるのです。』

ということで、この流れはどう見ても「米国規制当局の何も考えてない規制いじりで世界が迷惑しとんじゃヴォケ」という話をしておられるということですね、わかります(^^)。


・ユーロ危機について、2004年というポイント

その背景という話がああだこうだとあるのですが、そのうちから一部引用。

『リーマン危機の数年前、とりわけ2004年以降、欧州系金融機関は、利回り追求の動きを加速させ、バランスシートを拡大させました。図表1は、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの資産規模を2004年水準を100として描いたものです。ドイツ以外の欧州系金融機関の資産規模が顕著に拡大していることが分かります。』

図表は上記URLを見てちょ。

『ここで、ユーロという壮大な実験が極めて重要な役割を果たしました。EU の金融サービス関連指令の下、金融市場および金融ビジネス全般で単一の市場が形成されました。国債の利回りは顕著に収斂しており――今から振り返れば持続不可能であったということなのですが――金融市場におけるリスク・プレミアムが低下しました(図表2)。さらに、伝統的に間接金融が支配的であった欧州において資本市場が発達する中で、課題も生じていました。ファンド・ビジネスも欧州において拡大しており、資産運用ファンドの純資産は2004年頃を境に大きく拡大しています(図表3)。』

なるほど。

『欧州系金融機関は、自国を含むユーロ圏域内向けのみならず、域外向けの債権も増加させました。たとえば、スペインはラテンアメリカ向け、フランスは米国向けの債権が増大しています。BIS(国際決済銀行)が集計する国際与信統計によれば、欧州系金融機関は、伝統的にクロスボーダー与信分野でのプレゼンスが大きいのですが、特に2004年以降、規模・シェアの両面で拡大を続けました(図表4)。ユーロ圏域外の資産規模を国別にみると、スペインとフランスが顕著に増加しており(図表5)、ドイツでさえも目立って増加していることが分かります。』

ということで2004年とは何ぞやという話なのですが・・・・・・

『欧州系金融機関のリスクテイク行動の歴史を振り返ると、その全てが2004年頃に加速していることは注目に値します。しかし、ユーロ圏においては、こうしたリスクテイク行動の加速を十分に説明するような出来事や規制変更は見当たりません。では、2004年に何があったのでしょうか?』

『実は、2004年は、米国の金融市場の転換点でもあります。2004年以降、米国投資銀行のバランスシートが急拡大しているのです(図表6)。同様に、SPV(special purpose vehicles)―― “親”会社である商業銀行のバランスシートにはのりませんが、事実上のサポートがあるとみなされます――の資産規模は、投資銀行以上に急激に拡大しました。SPV は、後で述べるような良好な資金調達環境の下で、証券化商品への投資を含め資産を膨らませていったのです。こうしたSPV の規模拡大は、投資銀行の「積極行動主義」と相まって、いわゆるシャドーバンキングの規模を飛躍的に拡大させました。』

ほっほー。

『こうしたリスクテイク活動の顕著な拡大の一因として、当時の「大いなる安定(Great Moderation)」という一見良好な金融環境があると説明されていました。新興国からの巨額の資金流入によって、当時、米国の金利は低下していました。中国は、2001年にWTO に加盟した後、経常収支の黒字が拡大し、米国の経常収支赤字をファイナンスする上で、重要な役割を果たしました。中国からの証券投資の多くは、米国の国債やエージェンシー債に向かい(図表7)、米国市場の金利とボラティリティの低下に寄与したのです(図表8)。2004年以降のボラティリティの持続的な低下は著しいものであり、リスクが低減したとの認識を醸成するのに一役買った可能性が高いのですが、これが、後に過大であったことが判明するようなリスクテイクを助長したと考えられます。』

図表が多くてそっちも面白いので講演の本文読むのお勧めです。で、ここの部分だけ見ているといわゆるグレートモデレーションがバブルを生んだというような話に聞こえますが西村副総裁はさにあらずという話を続けるのでありました。

『しかし、いわゆる「貯蓄の過剰供給」の議論では、ちょうど2004年にリスクテイクが加速した理由を説明することはできません。貯蓄は2004年よりもかなり前から過剰に供給されていたからです。では、2004年には何が起こったのでしょうか?この問いに対する答えは、米国における2004年の規制変更でしょう。』

ということで、規制変更が影響を与えますという話ですが、まあ確かに金融市場の労務者であります所のあたくしと致しましては確かに色々な部分での価格形成で規制とか会計ルールとかが物凄い勢いで影響を与えるというのは良く判ります。

つまり「緩和的な金融政策の長期化」はそれ単体でバブルのような事象を起こす訳では無く、その他の金融などを巡る規制や制度設計によって起こされるというような話をしているとも言えそうですが、まあその辺りあたくしも腑に落ちる所ではございます。

『2004年に、米国投資銀行に対するネット・キャピタル・ルールが緩和されました(いわゆるベア・スターンズ特例)。具体的には、資本額50億ドル以上の投資銀行は、標準的なネット・キャピタル・ルールの適用除外を受けることによって、レバレッジを高められるようになりました。この規制緩和は、2000年代初頭に経営環境が悪化する中で、レバレッジの拡大によって収益性を高めようとしていた金融界からの要請に応えたものという面もありました。また、金融機関のリスク管理の精緻化――当時はこうみられていました――も規制緩和の理由として挙げられていました。』

『さらに、2004年には、ファニーメイとフレディーマックに関する規制変更によって、それらが保有する米国住宅ローン債権が減少し、民間RMBSという巨大な収益機会が生まれました。そして、多くの商業銀行がこの機会を捉えてSPVを組成しました。2004年以降に金融経済環境が大幅に改善する中で、これら2つの規制変更によって、今から振り返れば過剰なリスクテイクが助長されたのです(前掲図表6)。』

という事で、背景説明部分(の後半になります、前半はユーロ圏という通貨統合に関する説明ですが引用割愛しました)の規制に関する部分が面白かったので引用しておきましたです、はい。

『欧州の金融機関が自国での収益機会が減少する中で、米国市場における一見収益性が高そうな新たな投資機会を活用しようとしたために、欧州から米国への証券投資が拡大しました。なお、欧州系投資家と中国系投資家では明確な違いが存在しています。すわなち、中国系が米国債を中心とする安全資産に投資をした一方、欧州系はクレジット商品への投資を行ったのです(図表9)。』

ふーん。

『欧州系によるこうしたリスク資産への投資が、多少なりとも米国信用バブルの発生の要因となったとの主張が散見されますが、これなどは、まさに、2004年の規制変更が一因となって大量に組成された証券化商品を、欧州系金融機関が購入したという意味で、規制が意図せざる結果をもたらしたのだといえるでしょう。』

『欧州系金融機関は、米国市場における過度のリスクテイクによって、経済ショックに対して3つの脆弱性を抱えることになりました。』

『第一の脆弱性は、レガシーアセットに対するエクスポージャが大きいことです。欧州系金融機関は、サブプライムローン関連のような質の悪い資産のかなりの部分を保有していましたし、現在でもなお、レガシーアセットの処理に苦戦しています。』

『二つ目は、ドル資金の多くを市場調達に依存していることです。欧州系金融機関は、日米と比べて貸出/預金比率が高いという特徴を持っていました。このため、バランスシートを拡大していく過程で、市場調達資金への依存度が高まっていきました。例えば、フランス系金融機関の資金調達構造を見てみますと、居住者預金以外による調達が占める割合が2004年以降上昇しています(図表10)。これが、米国MMFのような機関投資家がユーロ圏のリスクへの懸念を高める中で、深刻な問題をもたらしました。』

『三つ目の脆弱性は、ソブリンリスクです。ユーロ圏には、一つの通貨圏に多数のソブリン(主権国家)が存在します。全てのソブリンに対して同じリスクウェイトを適用することは徐々に難しくなってきています。なお、第一の脆弱性は、米国や他の国にも共通ですが、第二と第三の脆弱性はユーロ圏に固有のものであることには注意が必要でしょう。』

というところでございまする。


・早急な規制強化は良くないという話

で、その後は「今回の危機の教訓について」というようなお話になりますが、早急な規制強化イクナイ!って話をしているのですな。

『次に、現下のユーロ圏危機から我々は何を学ぶべきか、金融規制の観点から考察するとともに、現在の規制改革を巡る論点について考えてみたいと思います。』

キタコレ。

『2008年のリーマン危機後の世界的な金融規制改革の主眼は、言うまでもなく危機の「再発防止」にありました。実際に、いくつかの先進国は、米国のドッド=フランク法にみられるように、金融機関の過剰なリスクテイクを防止することを狙った、新たな規制の枠組みを導入しようとしています。』

さいですな。

『先程も述べたとおり、2004年以降の米国金融市場の状況は、緩い規制がいかに問題を引き起こし、苦い結果を招いたかを示しました。この点において私としても、このような昨今の規制改革の根拠となる考え方は十分に理解するものです。その一方で、規制改革を巡る国際的な議論は、時に、「新しい規制の枠組みは、短い危機の時期を経た後速やかに訪れるはずの『平時』の中で導入できるだろう」といった、迅速な平時への復帰を前提とした希望的な観測に基づいていた部分もあったように思えます。』

>迅速な平時への復帰を前提とした希望的な観測
>迅速な平時への復帰を前提とした希望的な観測
>迅速な平時への復帰を前提とした希望的な観測

・・・・・・・・(^^)。

『90年代の金融危機の後、問題の長期化を経験した日本銀行は、事あるごとにこのような楽観的な見方に警鐘を発してきました。すなわち、金融危機に由来する下方圧力は持続する恐れがあり、危機後に観察される回復の兆しは「偽りの夜明け」かもしれないと述べてきました。』

ちなみにこちらの部分はテキスト原文はこうなっています。単に「false dawn」を引用したいからだけなのですが(^^)。

『The Bank warned that downward pressure stemming from financial crises is likely to be persistent, and any signs of recovery observed shortly after the crisis could be a “false dawn.”』

『我々はまた、とりわけ危機の影響が残っている間、銀行部門のデレバレッジングとバランスシート調整のリスクに最大限の注意を払うべきであるとも強調してきました。実際、日本の金融危機後、我々が直面してきた政策課題は、銀行によるレバレッジングや過剰なリスクテイクではなく、むしろデレバレッジングや信用仲介の機能不全でした。』

『加えて、我々はこの課題に、「金利ゼロ制約」や財政収支の悪化など、マクロ政策が大きな制約を抱えるもとで取り組まなければなりませんでした。残念なことに、リーマン危機後の世界経済の動向は、概ね我々が懸念していた経路を辿っているように思えます。さらに、多くの先進国において、このような金融面に由来する調整圧力が、人口動態に由来する構造的な調整圧力に重なる形となっていることを指摘しておきたいと思います。』

ということで、まあ日銀としてはバランスシート調整の影響が長引くという認識を強く持っている、というか他の中銀が楽観的になるのも如何な物かという話をしているようにも見えますな、うんうん。

で、途中をすっ飛ばして現状認識の結論部分ですが。

『結果的には、新たな金融規制の枠組みの殆どが、期待されたような「危機後の平時」ではなく、ストレスのかかった状況で導入されようとしていることを認識する必要があります。』

ということで、現在の金融規制改革のやり過ぎを懸念する話に繋がります。


・こういう時は「手順」が重要であるという論点

いや全く仰る通りですという話が更に続く。

『このような現在の困難な経済・金融環境の下では、「最善の危機防止策は、必ずしも最善の危機対応策とは限らない」ということを念頭に置く必要があります。』

>「最善の危機防止策は、必ずしも最善の危機対応策とは限らない」
>「最善の危機防止策は、必ずしも最善の危機対応策とは限らない」
>「最善の危機防止策は、必ずしも最善の危機対応策とは限らない」

ちなみに英文ではここ『Finding ourselves in such a difficult economic and financial environment, we should bear in mind that the best “prevention” may not be the best “response” to a crisis.』となっていまふ。

『公的資本注入や無制限の預金保険がモラルハザードを生じさせ得ることは勿論ですが、これらの方策が目前の危機を封じ込めるために必要な場合もあります。同様に、自己資本の増強は中期的に銀行のソルベンシー確保に寄与するものですが、ストレス下での資本負担の増加は、資本制約、銀行貸出の減少、景気後退という負のフィードバックを通じ、深刻なクレジットクランチに繋がるデレバレッジングが急速に進むリスクもあります。』

で、手順が重要という論点。

『金融安定のために「どのような」政策手段があり得るかを考えることは、知的に刺激的な作業です。しかし、実務の観点からより重要なのは、それぞれの政策手段を「いつ」使うかです。いかに個々の政策手段が平時において有効であっても、これら政策手段の実施の順番を間違えれば、むしろストレス下での負のフィードバックのリスクが高まってしまいます。特に目前の「危機対応」がなお強く求められる局面で「危機予防」のための策を導入するような状況では、政策のアナウンスメントの順序を誤ることによるミスコミュニケーションにも、十分注意しなければなりません。』

全く同意であります。

『現下のユーロ圏危機を踏まえれば、自己資本規制の強化を見据えた欧州の銀行が、新たな規制環境に対しどのような行動をとっていくのかを慎重にみていく必要があります。もちろん、先程述べたような、危機に先立つ欧州の銀行のレバレッジングを踏まえれば、秩序立った緩やかなデレバレッジングであれば、これは規制強化の「意図した影響」と捉えられるべきものと言えます。もっとも、ユーロ圏危機の世界経済への影響を判断する上で、欧州の各銀行が、各母国内でのさまざまなプレッシャーのもとで、海外でのデレバレッジングを強めるのか、それはどの程度か、を評価することが必要となります。こうしたアセスメントは、まさに「マクロ・プルーデンス」に要請されるものでもあります。』

ほうマクロプルーデンスとな。


・いわゆるボルカールールに関して

『このように、我々はなお脆弱な経済・金融環境の下で新たな規制を導入するという課題に取り組んでいます。こうした課題の困難さを示す身近な典型例として、ドッド=フランク法の規定する、いわゆる「ボルカー・ルール」についても、若干申し述べたいと思います。』

キターーーーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーー!

『最初にはっきり申し上げたいのは、ボルカー・ルールの背景にある基本的な考え方については、私も大いに賛同しているということです。既に申し述べた通り、近年の金融危機の大きな背景の一つは、いわゆる「originate-to-distribute」型のビジネスモデルに基づく一部金融機関の投機的行動でした。このような認識を踏まえ、ドッド=フランク法は、金融界に対し、自らのビジネスモデルを真剣に検証し、必要であれば修正することを求めるものといえます。』

『同時に、ユーロ圏危機が続く下では、各国の政策当局者は新たなルールを導入する際、これがもたらし得る「意図せざる影響」については、特に現在の局面において海外ソブリン債市場に及ぼす影響という側面からも、十分に注意することが求められます。加えて、中央銀行にとって、ソブリン債市場は金融政策の主要なトランスミッション・メカニズムの中核であり、その流動性の問題には留意することが求められます。』

イイハナシダナー(;∀;)

『ボルカー・ルールは、銀行による、短期の利得獲得を狙った自己勘定でのトレーディングを制限することを狙いとしています。しかしながら、どのように関連規則が書かれ、どのように運用されるかによって、このルールは、マーケットメイク活動や市場流動性に重大な影響を及ぼし得ます。現時点での規制案によれば、米国債および多くの米国エージェンシー債はこのルールの適用から除外されています。このことは、明らかに米国当局が、これらの債券の円滑な取引の確保、およびそのためのマーケットメイク活動の重要性を、十分認識しておられることを示しているように思います。』

『市場の流動性は、言うまでもなく、米国債以外の国債にとっても重要です。しかしながら、現状の規制案は、日本やカナダ、欧州諸国などの国債は適用除外としていません。したがって、仮にボルカー・ルールが字句通り厳格に施行されれば、海外ソブリン債市場の流動性を損なう可能性もあると考えられます。』

つまりボルカールールは金融モンロー主義みたいな規制で逝って良しということですねわかります。

『もう一つの問題として、短期の為替スワップが、現状の規制案ではボルカー・ルールの適用対象となり得ることも挙げられます。このことは、為替スワップを通じた金融機関の外貨流動性調達が、より困難となるリスクを孕んでいます。このことも、とりわけ外貨流動性の調達環境が世界的にタイト化している状況では、多くの金融機関にとっての関心事となり得ます。』

さいですな。

『規制案は、マーケットメイク活動やその他の重要な金融活動について、いくつかの適用除外規定を設けることで対応を試みているように思います。しかしながら、これらの適用除外規定は、厳格かつ複雑な条件のもとで適用され、また、しばしば解釈の余地を残すものとなっているように思えます。この結果、市場参加者の一部は、ボルカー・ルールがどのようにソブリン債市場や資金調達環境に影響を及ぼすのかについて、不確実性を払拭しきれていないように伺われます。』

と、結構いい感じでdisっておりますのうという所です。簡単に済ませるつもりでしたが、意外に引用大会になってしまいまして誠に恐縮至極でありますが、図表も面白いので講演テキストを是非ご覧くださいませm(__)m

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2011/12/02

○西村副総裁は会見でも下振れ警戒

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1112b.pdf

・為替介入と円高に対する姿勢についての質疑から

『(答) 為替介入についてですが、為替の決定要因は世界全体の動きの中から決まっていくことですし、その中で欧州発の金融問題というのは非常に大きかったと思います。そうした点を頭に入れた上での為替介入ということを考えて頂きたいと思うのですが、私は為替介入の効果というのは十分にあったと考えています。』

ほほう。

『それは、具体的なレートに関して効果があったというよりは、過度の為替変動は望ましくない、それは許さないという政策当局の見方が浸透したという意味で、重要な役割を果たしたと考えています。』

では金融政策でもそういう観点で更にハッタリをかます俊ちゃんスキームは如何でございましょうか(ニヤニヤ)。

『それから金融政策の件についてですが、ご承知の通り複雑な力があちこちで動き、そうした中で世界経済が動いているというのが今の状況です。状況の変化を注意深く把握し、どのようなオプションがあるのかということを常に考えながら、その時点、その時点で一番望ましい政策を、先を見ながら考え、必要があれば適切に遂行していくということが、今一番必要だと思っています。』

まあ講演でも先行きのリスク認識が高めに出ているので、追加緩和に関しては何か必要あればやる系でしょうな、とは思われます。


・米国の下振れリスクについて

米国の下振れリスクについて講演で話していた部分についてはまあ確かに目立ったなあとか思ったのですが、予想通りに質問があいましてそれに対する答え。

『(答) 米国経済については、スピーチの中でも説明したように、成長率がだんだん低くなると、ちょっとした動きにも影響を受けてしまいます。私は経済統計を教えていましたので、しばしばみてきたことですが、どんなデータにもノイズが含まれており、伸び率が高い時はノイズが少々あっても大きな影響を及ぼさないのですが、伸び率が段々下がっていくと小さなノイズがものすごく大きな影響を及ぼします。』

なるほど。

『ノイズであるにも拘らず実体経済が動いているのではないかと経済主体は思いがちですので、それをきっかけにいろいろな連鎖作用が起きてしまうのではないか、ということを私は一番心配しています。』

だから米国様におかれましては景気に対して楽観祭りと悲観祭りを繰り返して一々ヒャッハー相場をやっているのですね、わかります。

『特定のどの指標が問題になるかということは、予め分かりませんが、何かデータが出たときに、特にこういう時期は単純に鵜呑みにするのではなく、いくつかのデータを相互にチェックしながら実体経済がどうなっているのかをみなければなりません。したがってマーケットが1つのデータに過度に反応するようなことになったときには、実体経済を評価する人がそうした問題点をきちんと理解していることが重要になるということを説明しました。』

・・・・・・・うーん、それは無理だと思うお。

ということで、まあ講演に引き続き会見のトーンも弱いものがございましたな。

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2011/12/01

○などと書いているうちに時間が無くなったのですが西村副総裁の講演から少々

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111130a.pdf
緊張の続く海外の金融経済情勢とわが国経済の現状と課題
── 京都府金融経済懇談会における挨拶 ──

・・・・・・・もうお題からしてキタコレという感じですし、最初の小見出しが『2.緊張の続く海外の金融経済情勢』という素敵なものでして、そこではこのように指摘しています。

『このように、欧州では、財政に対する信認の低下が金融システムの安定性に対する強い懸念をもたらし、それがさらにマインド面も含め実体経済に悪影響を及ぼすという形で、財政、金融システム、実体経済の三者の間で、相乗作用が望ましくない方向に働き始めています。』

負の相互作用キタコレ。


・欧州債務危機の本質はユーロ統合メリットの先食いのツケ払い

んでもってその次。

『欧州の政府債務問題が深刻化している基本的な背景には、ユーロへの通貨統合から得られた大きな果実を各国が既に食べ尽くしてしまっており、手元に何も残っていない今になって、その対価の支払いを求められている、という状況があります。』

ふむふむ。

『ギリシャ等の欧州周縁国にとって、ユーロ統合の果実は、国債利回りを始めとした借入れ費用の劇的な低下でした。これらの国々は、本来、この借入れ費用の低下に対する対価として、労働市場の改革や、徴税・行政システムの改革に正面から取り組み、これによって成長力と債務返済能力を高めていくことが期待されていました。言い方を変えれば、こうしたプロセスを経ることによって初めて、ユーロ通貨圏は持続可能なシステムとなるはずでした。しかし、これら周縁国は、低い借入れ費用に依存して、過度に財政支出を拡大したため、債務残高が返済能力を超えて大きく増加する結果となった訳です。』

つまりこのままでは持続可能ではないということですね、わかります。

『他方、ドイツでは、これら周縁国に対し、輸出を増やし経常収支を安定的に黒字とする裏側で、融資を増やし続けてきました。このように、欧州の政府債務問題の本質は、ユーロ統合時点から膨らんできた域内諸国間の不均衡にあります。』

つまりドイツもメリット受けてたんだから大概に何とかしろやゴルァと。

『したがって、欧州の政府債務問題を一挙に解決する即効薬はないこと、かつ問題をいくら先送りしても、金融危機以前の状態に戻ることはないことを、しっかり認識する必要があります。要するに、欧州周縁国は、改めて、中長期的な成長力の強化といった息の長い政策対応を、真剣に考えていく必要がある訳です。』

まあそうですな。


・海外経済の下振れリスクを(総裁講演よりも)強調してますわな

『当面の欧州の政府債務問題は、どのような展開をたどるのでしょうか。先行きの不確実性はきわめて高く、予想は困難ですが、市場参加者の間では、直面している政治状況が異なるユーロ諸国間で何とか妥協点を探りながら、財政移転や財政統合への道筋を少しずつ示していくことにより、極端な悲観に走りがちな市場の過剰反応を抑えつつ時間を稼ぐ、という見方が多いように思います。』

さいですな。

『こうした見方に従えば、欧州の政府債務問題を巡って、国際金融資本市場の緊張度が高い状況は、長期間にわたって続くことを覚悟しておく必要があるでしょう。何らかのショックをきっかけに、信用収縮の伝播が起こるリスクについても、意識しておく必要があると考えられます。』

どう見ても弱気です本当にありがとうございました。でもって米国についてはこの通り。

『いずれにせよ、財政・金融政策の発動余地が限られ、家計と金融機関の過剰債務の調整圧力が根強く残る中、成長のペースは当面、緩やかなものにとどまる可能性が高いとみておくのが適当と考えられます。』

というのは日銀の中心的な見通しと同じですがこの先が結構な警戒モード。

『注意したいのは、米国経済に対する見方が一頃に比べ好転しているため、欧州の状況が悪化している割には、海外経済に対する市場の見方が極端に悲観的となる事態は、今のところ回避されているということです。だとすると、仮に、米国経済に対する見方が再び慎重化するようなことがあれば、国際金融資本市場の動揺が一気に拡がっていく可能性がある点には留意が必要です。』

これはまた総裁講演よりもトーンが弱いですな。更に新興国経済に関しても総裁講演よりもトーンが弱めでして・・・・・

『新興国経済に目を転じますと、金融引き締めの効果や、先進国経済の減速に伴う輸出の減少の影響などから、幾分減速しています。実際、牽引役である中国経済では、比較的データの信頼度が高いと言われる税収や発電量、輸入などが、過去の高い成長トレンドと比べると年央から若干弱めの動きを続けています。』

でまあこの先の部分が昨日ネタにした月曜の名古屋での総裁講演ではスルー気味になっていた論点。

『仮に、欧州の政府債務問題がより深刻化するもとで、欧州金融機関において資産を圧縮する動きが強まるようなことがあれば、新興国向け貸出が抑制され、貿易金融などに影響が及ぶ懸念もあります。』

昨日ネタにしたのを再掲しますが、総裁講演では・・・・・

『地域別にみた場合、先程申し上げた 3つの地域の中では、欧州の金融機関の影響を相対的に受けやすいのは欧州の新興国であると思いますので、欧州の新興国の動きと他の地域の新興国では、少しニュアンスが違うと思っています。』(これは28日の総裁講演)

となっていまして、それはちょっと・・・・・と思ってましたが、西村副総裁はこの部分についても指摘していますので、まあトーンは総裁講演よりも弱く見えます罠。

『一方、最近では、食料品価格を中心に消費者物価の上昇が一服していることもあって、中国を含め新興国における金融緩和の余地は一頃に比べ高まっており、この点は安心材料の一つと言えます。』

と思ったら何か中国が金融緩和っぽい事をしてましたな、うんうん。


あと、円高の話とかもあったのですが時間と量の都合上割愛で勘弁です。

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2011/05/02

○西村副総裁の緩和提案とな

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/k110428a.pdf

決定内容は兎も角、脚注がアレ。

『(注1)本日の金融政策決定会合では、西村委員より、資産買入等の基金を5兆円程度増額し、45兆円程度とする議案が提出され、反対多数で否決された(賛成:西村委員、反対:白川委員、山口委員、野田委員、中村委員、亀崎委員、宮尾委員、森本委員、白井委員)。』

・・・・・・・・ほほう。

先日横浜で行った講演および会見でサプライチェーンの回復に関して白川総裁が先月7日の会見で行った発言に対して微妙に気を使いながらダメ出しをしていたのを先般ネタにしてみましたが、まさか今回の緩和提案に繋がる話だったとは思っておりませんでして、ネタにしておいて良かったと思うのでありました(^^)。

票決の際に反対票を入れる、というのであれば岩田一政さんが副総裁の時にもそのようなケースはありましたが、副総裁御自らが独自提案をして思いっきり否決されるというケースは初めて見たと思います。

まあ色々と勝手に深読みする事は可能ではございますが、須田審議委員が退任したことから鉄砲玉(?)役をやる人がいなくなったので突如乃公出ずんば状態になって暴れん坊将軍スイッチが入ったのか、それとも追加緩和実施に向けた先駆けの動きでもしているのか、更には7日の会見での白川総裁の発言の翌週に実施された全国支店長会議後に行われた支店長の会見で、名古屋支店長の前田純一さん(当時)が自動車製造に関するサプライチェーンの回復時期について白川総裁の発言よりも厳しい見方(まあ要するに微妙にダメ出しですが)を示していたように、支店やら個別企業ヒアリングで上がって来るミクロ情報からすると経済状況はかなり厳しいんではないかという行内の見方があって、まあそのあたりの空気を読んで「ここは提案しないと!」と急に頑張ったのか、はたまた今回は誰も追加緩和ネタを予想していなかったし、圧力も無かったということで、今回こそは追い込まれる前に自ら突っ込んでやるとゆー事で西村さんが急にスイッチ入った/西村さんを鉄砲玉にした、などなど(長いね)色々と妄想は膨らむのであります。

まあ執行部の1名がわざわざ違う提案をして否決されるってゆーのは、今までの日銀からすると結構変わった状態というか異様な状態でありまして、いやまあ別にそれがイカンという事ではなく、色々な意見が出てきて結構だと思いますが、執行部が割れている観をわざわざ出すと言うのが中々斬新でありました。これが全体の意思の中で出ているのか、単に西村副総裁に急にスイッチが入って突っ込んだ(あるいは須田さんの生霊が急に乗り移った^^)のかによってもイメージ違いますけど、まああんまり決め打ちはしなくて良いかなと思います。


で、提案内容が良く判りませんが、まあ普通に考えると国債とTBなどの買入拡大の提案をしたんでしょ(ETFとかもあるかもしれませんが)とゆー風に思いますです。あたくしも何度か申し上げたような気がしますが、2次補正以降の国債増発が確実視される中で、日銀も何か経済下支えに協力という話になった場合に、輪番オペ増やすとこれがまた後から減らすの大変です(FRBの出口政策においてMBSやら長期債の売却が市場に混乱を与えずに進行した場合、日本でも輪番で買ったものを買いすぎたから売却攻撃が可能という話になり、ホイホイと輪番を増やしたり減らしたりできますなあという話もこの前書いたですけど、まあ現状では輪番の買入額を減らすと言っただけで大騒ぎになりそうですので輪番は結構硬直的になってしまいますわな)ので、そーゆー意味では基金オペの長期国債買入であれば、残存も2年ですし、包括緩和政策を解除するときには大手を振って買入停止できますし、まあ日銀的ロジックからしても拡大しやすいとゆーことでござんす。

つーことで、まあ(勿論景気次第ではありますが)5月か6月位に基金買入の拡大(今回は国債中心になるでしょ)というのが具体化するかもしれませんわなあという感じです。

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2011/04/26

○西村副総裁会見から

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1104d.pdf

よくよく見たらチャーミングな質疑が(^^)。

『(問) 2点お伺いします。1つは、先程の懇談会のご挨拶で、サプライチェーンの問題の解消に相応の時間がかかるとおっしゃいました。以前、白川総裁が「サプライチェーン問題の解消は6〜7月になろう」と会見で話されていましたが、それと比べて、同じくらいなのか、それより短いのか、長いのか、副総裁のイメージをお聞かせ下さい。もう1つは、今回の震災が、設備投資や個人消費を下押ししているというお話がありましたが、供給面の制約が和らいでくれば、それは解消される問題なのか、あるいはそれだけでは解決されず、リスクとしてみていく必要があるのかについてお聞かせ下さい。』

前半の方がチャーミングな質問だが後半も論点として重要なので両方見る。

『(答) 両方とも不確実性がきわめて高い、と最初にお答えしなければならないと思います。サプライチェーンの問題について、秋口以降に供給面の制約が和らいでいくというお話をしましたが、それは電力とサプライチェーンと両方を合わせて考えて、そう申し上げたわけです。サプライチェーンに関しては、一部でそれなりに前向きの動きもあります。しかし同時に、サプライチェーンの他のところで問題が生じているということもありえますので、サプライチェーン全体に関して、この段階で何か明快なことを言うということは出来ないと思います。いずれにしても、総裁が以前申し上げた認識から、大勢としては大きな変化はない、と考えています。』

どうも総裁が発言(上記質問に関する話をしたのは4月頭の決定会合後の記者会見)した比較的景気の良い話に対して微妙にズレがあるというのにこの質問見てから気がついたというのがあたくしのトンマなところでありますが、確かに講演でもその辺りやや警戒的なトーンになっていましたが、読んでいて個人的に違和感が無かった(つまり白川総裁の言うサプライチェーンの回復のイメージがそら何ぼなんでも強いじゃろと思っていたとゆーことですな)ので思わずスルーしてましたすいませんすいません。

ただ、さっき見た公共放送ニュースによりますと(なのでソースは呈示できずあたくしの脳内記憶ベース)今回の展望レポートでは「秋口から景気は回復軌道」という見通しが出るという報道になっていまして、そうなると何か「サプライチェーンの回復が遅れたからやっぱり見通しより遅れましたわあっはっは」という残念な流れになったときにどうなのよという気もするんですけどどうっすかねえ。いやまあ明るい話をしたいというのも有るのかも知れませんので、リスク認識の辺りと総合して考えないといけないのでありますが。

『それから、供給面の制約と需要面の下押しについてですが、需要が供給に影響されているということもありますので、必ずしも分けて考えることはできないと思っています。このように考えれば、供給面の制約が少なくなっていくにつれて、需要面の問題もそれなりに解消していくだろうと思います。しかし、懇談会冒頭の挨拶でも申し上げましたが、風評被害などが中長期的な成長期待に影響を及ぼす可能性もありますので、全体としてどうなるかについては、今の段階では、非常に不確実性が高いとだけお答えしたいと思います。』

という事で、まあそんな感じで質疑応答の後半は延々と「不確実性が高い」という話が続くのですが、この後は「サプライチェーンの複線化に伴う日本企業への需要低下」とか「電力等供給制約回避を企図した国内企業の海外シフトによる空洞化懸念」などの論点が並んで、これはこれでまあ重要な話ですが、まあ要するに「今後の推移を見ないといけないけれども不確実性が大きく警戒が必要」という警戒トーン全開になっているのが特徴的であります。

ただまあ一応最後の質疑では「そうは言っても回復軌道に復しますよ」という話はしていますので、まあ展望レポートはメイン部分はそんなに大きくは下げずにリスクを下方に思いっきり寄せてバランスを取るという形になるんでしょうかねえとか思うのですけれども、本来的に言えばメイン部分での回復の遅れを指摘した方が先行きの金融政策(目先出口は有り得ないので追加緩和のようなものをする可能性の方ですわな)運営の際に一々訳の判らん理屈を持ち出さなくて済むと思うのですけれどもさてどうなることやらという感じでございまする。

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2011/04/22

○西村副総裁講演は特にサプライズ無しですが日銀の注目点整理に便利

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110421a.pdf

横浜支店での講演ということで、最後の部分で関東大震災の話をしていまして、そこで原三渓の言葉が引用されているのがあたくしには胸熱でありますが、原三渓といわれてピンと来ない横浜市民は神奈川都民認定になるのかな(謎)。

てな話はどうでも良いので経済見通し部分を注目してみますね。

『3.わが国の経済・物価情勢』がちょうど展望レポートを前にした日銀執行部の注目材料の整理になっています。で、その内容でありますが、基本的には4月の金融経済月報やら先日来行われました白川総裁の講演とか記者会見とか、宮尾審議委員の講演とか記者会見で示されていた話を基本的に継承するものとなっていますので、まあサプライズは無いでありまする。

『(わが国経済の先行きを展望する際の視点)』という所から。

『次に、わが国経済の先行き見通しについて、お話しさせていただきます。日本銀行では、四半期に一度、経済・物価の先行き見通しを示しており、来週28 日の金融政策決定会合では、2012 年度までの見通しを示す予定です。そこで、本席では、わが国経済・物価の先行きを展望していく上で大事だと考えられる3つの視点について、お話ししたいと思います。』

ということで3つの視点がありますので一応引用。

『第一の視点は、現在、わが国経済が直面する様々な供給面の制約が、いつ、どのように、どの程度解消していくかです。震災後の日本経済の大幅な落ち込みは、端的に言えば震災・津波による電力供給能力を含めた資本設備の毀損という供給面でのショックを出発点としたものです。したがって、先行きを見通していく上では、震災がもたらした供給面の制約がいつ、どのように解消されていくかが、大事なポイントになります。供給面の制約が解消される時期については、なお不確実性が高いと言わざるを得ません。これは、次の3つの問題に関する不透明感が強いためです。』

つーことで3点があるのですが、よーするに(1)毀損した生産能力の復旧(2)サプライチェーンの復旧(3)電力供給の復旧、という3点という話ですのでこれはまあ従来から出ている話です。

『以上の点を勘案すると、供給面の制約が直ちに解消するとは考えにくく、わが国経済は、当面、生産面を中心に下押し圧力が強い状況が続くとみざるをえません。もっとも、秋口以降を展望すれば、電力の需給逼迫が改善に向かうとともに、サプライチェーンの再構築も進む結果、供給面の制約が和らいでくることが予想されます。そうなれば、世界経済が新興国・資源国に牽引されて高い成長を続けているもとで――今のところその可能性が高いと考えられますが――、生産活動の回復とそれに伴う輸出の増加が、日本経済の回復を支える原動力のひとつとなると見込まれます。』

要するに「先行きは回復軌道に復する」のですが、その前提として2段階ある次第でございまして、「供給制約の緩和」に「外需の好調さが継続する」とまあ今のところはナローパスという程でも無いのかもしれませんが、まあ前提条件が2丁ついているのですねという事でありますなあorz


『震災後のわが国経済を展望していく際の第二の視点は、海外経済の先行きを巡る不確実性をどのように考えるかです。この点は、今後のわが国経済の回復を支える起点のひとつが海外経済の成長であるだけに重要なポイントとなります。』

ということで、これはいつもの話でまあ論点も同じなので詳細の引用はスルー。


『震災後のわが国経済を展望する際に大事だと考えられる第三の視点は、震災によって毀損した資本ストックの復元に向けた動きがどのように現われてくるかという点と、福島第一原子力発電所事故などを通じた間接的な影響が、今後時間の経過に伴ってどのように変化していくかという点です。』

『これまでご説明してきたとおり、震災の影響としては、短期的には供給面の制約に伴う影響が大きく出てきます。しかし、その後、供給面の制約が和らぐとともに、震災によって毀損した道路や港湾、工場や商業施設、住宅といった資本ストックを官民で復元する動きが顕在化してきます。こうしたいわゆる「復興需要」が出てくれば、それは経済を押し上げる方向で寄与してくるものと考えられます。ただ、こうした需要がいつ、どの程度の規模で顕現化してくるかについては、現在のところまだ不確実性が大きいと言わざるを得ません。』

まあこれは西村副総裁の話じゃなくてあたくしがこの部分読んでいて思ったしょーも無い話なんですけどね。

いわゆる復興需要に関する部分を見るのにってえ話になるとあたくしどもの所でそれを見るのって銀行の資金動向かなあとか思うのでありますよ。つまり足元では震災関連での費用が出るかという事で企業にしろ金融機関とかが流動性を確保した結果銀行のところに資金が余っている(預金が拡大してる)状態にある(各種統計を見るとこの間落ちたのはアセマネ系でしたな)訳でして、この預金が今後どういう動きをする/動かないままが継続するという動向を見ているとまあ震災関連の費用とか復興需要とかいうのの動きが見えるかもしれませんなあとか勝手に思っているわけですがどうでしょ。

で、これまた話が逸れますが、そんな要因もあって足元の3M短国の入札が強かったりする訳で、銀行も預金拡大しているけれどもその預金が復興需要によって大々的に抜ける可能性だってある訳で(つーか抜けないとそれはそれで残念)、そうなると預金拡大したから長期債投資ヤッホッホーという訳にもいかんでしょうし、そんなこんなで市場的には短いキャッシュの部分に資金が滞留しているってえ状態なのかなあとか勝手に妄想するでござるの巻でありまする。

・・・・・と、何か全然関係ないあたくしの雑感が入ってしまいましたがその続き。


『また、より長期的な視点からは、震災がわが国の経済構造や趨勢的な成長力に及ぼす影響も、重要です。私は、原子力発電所の問題そのものについての専門家ではありませんが、経済への影響という点では、福島第一原子力発電所事故の解決が長期化し、電力の供給能力不足が続くリスク、また風評被害が内外で拡がり、輸出や観光に大きな影響が生じるリスクには、留意が必要だと思っています。また、企業のサプライチェーン再構築の過程で結果的に生産の海外移転の動きが加速するおそれや、震災と原発事故が企業や家計の投資意欲、購買意欲を冷やし、個人消費や国内設備投資を低迷させ、ひいては国内の成長期待を低下させるリスクも考えられます。』

まあそうですなという所で。


で、物価に関してですが、『(物価を取り巻く環境)』という所から。

『物価を取り巻く環境を展望しますと、震災の影響による供給面の制約から、個々の財やサービス市場では、短期的にボトルネック的な状況が発生する可能性はあります。しかし、マクロ的な需給バランスという面で考えてみますと、震災の影響により供給面の制約が厳しくなると同時に、企業の投資意欲、家計の購買意欲が減退し需要も落ち込む結果、需給バランスが短期的にどちらに向かうかは判然としません。もっとも、やや長い目でみれば、景気が緩やかな回復経路に戻っていくにつれて、マクロ的な需給バランスが徐々に改善していくとの見方が基本になろうかと思います。』

つまり先ほど説明していたように下押し圧力が高く、更に回復にも不確実性が高いとなると、物価ってそんなに上がらないですね、という話をしているように読んでしまいましたが(^^)、あたくしの読み方が正解だとすると、供給ショックによる物価上昇は一時的なもので、基調的物価に関してはむしろ景気回復の遅れから上昇しにくくなる、という認識を日銀執行部もお持ちという事になりますので、そー考えると展望レポートで物価見通しが持ち上がっても実はそれはそんなに政策インプリケーションは無かったりするのではないか、というイメージを持ってみましたが妙に読みすぎですかね(^^)。


んでまあ日銀の対応云々の部分は華麗にスルー致します。

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2010/10/28

○西村副総裁講演はメモだけ

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010f.pdf
金融セーフティネットの重要性と中央銀行の役割
── 国際預金保険協会主催・国際コンファランスにおける挨拶の邦訳 ──

題名を見た瞬間に「これは目先の金融政策に関するインプリケーション皆無だろう」と思ったのですが、その通りの内容でありました。超お暇な方以外は特に読まんでもというものです。

・・・・とそれだけでは何ですので一応引用しますが。

『2.金融システムの安定と金融セーフティネット』という所から。

『(2)金融セーフティネット整備におけるバランス確保の重要性』 というのがございましてですな。

『こうした金融セーフティネットの整備は重要なものですが、単に拡大・強化していけば良いというものでもありません。長い目でみた金融システムの安定維持を考えると、さまざまな面で「バランス」を確保していく必要があります。以下では、この「バランス」というキーワードを用いながら、金融セーフティネットのあり方に関するいくつかの重要な視点についてお話しします。』

ということでお話が始まるのですが、その小見出しがこんな感じで、まあ一般的というか穏当な話になっています。何かこう国際基準よりも独自に厳しい基準を作りましょう!!!!などというようなマゾヒスト的な話になっていないのは実に結構なお話だと思います。

(規制の強化とマクロ経済のバランス)
(金融セーフティネット整備とモラルハザードのバランス)
(セーフティネットの規模における地域間のバランス:協調の必要性)

で、金融システムがどうのこうのという話をする中でマクロプルーデンスの話があるかなあと思ったら、今回は一応言及はあったのですが、先般の白川総裁の講演のようなマクロプルーデンス節満開というようなKYな話になっていなかったのは、まー良かったのではないでせうかという感じです。

『この点、日本銀行は、従来からミクロ・マクロの両面で、金融システム安定上の役割を担ってきています。すなわち、ミクロ・プルーデンスの面では、日本銀行は、証券会社も含め幅広い先に考査やモニタリングを行い、必要に応じてリスク管理や経営状況の改善を促すための助言・指導を行っています。一方、マクロ・プルーデンスの面では、金融市場の状況や金融機関から得られた情報も活用しつつ、金融システム全体を分析・評価し、政策に活かしています。今回の金融危機に際しても、マクロ・プルーデンスの観点から、金融機関からの株式の買入再開や金融機関に対する劣後ローンの供与を実施しました。』

「マクロプルーデンスの観点から物価安定の理解の第2の柱に基づいて政策判断をします(キリッ)」というような話になっていないのは結構結構(^^)。

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2010/10/22

西村副総裁の会見はこちら。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010b.pdf

○展望レポートの見通しに関して

今回の会見を読んでいて「うーむ」と思ったのは展望レポートの見通し作成に関する部分でございましてですな。

『(問) 三点お伺いします。講演の中で、日本経済の先行きについて、7月の中間評価と比べても下振れる可能性が高いというお話がありましたけれども、これは包括緩和の効果を織り込んだうえでも下振れるということなのかを確認させてください。また、次回の会合までに包括緩和の効果を見積もることは可能なのでしょうか。二点目は、物価見通しのところで、たばこ税の引き上げの効果というものを反映するべきかどうかについてお聞かせください。三点目は、CPIの基準改訂による下振れが0.4 とか0.5 とかいわれていますが、いずれも織り込んでやったらどういった形になるのかという点について教えてください。』

で、これに対する西村さんの答え。

『(答) まず最初に、包括緩和の効果に関する見通しですが、見通しは現在検討中ですので、直接のお答えは出来ません。また、政策を決めたときの見通しというのは、当然のことですが、それがないとどうなるかということを考えてやったということです。包括緩和の効果が次回の展望レポートの見通しに反映されるかどうかということですが、それはそれぞれの政策委員の方々の判断に依存するわけです。もちろん、将来に向けてどういうことが起きるかということをそれぞれの皆さんが考えて見通しを立てるわけです。その中の一つとして、それぞれの皆さんがご判断されるという形になります。』

何か禅問答というか蒟蒻問答のような話ですが、どうも「見積もるのか見積もらないのかはそのとき次第」みたいな話のようですわな。

で、物価の話もあったのですが、次の質問に対する答えの方が判り易いのでそちらを引用。

『(答) 基準改定を取り入れるか取り入れないかということですが、これは展望レポートの中で明らかにすることですので、私からは前回のケースについてご説明します。前回の場合は、基準改定が実際どのくらいの大きさになるのかに関して、信頼性の高い予測が難しかったということに加え、コミュニケーション上色々な難しさがあるのではないかとの懸念から、前回の基準改定の前の展望レポートには基準改定を取り入れませんでした。今回どうなるかについては、今回の展望レポートにおける政策委員の判断によるということになります。』

ということなのですが、こういうのってある程度共通のプラットフォームでやってくれないとその度ごとに一々「このときどうだったっけ」って話になるのである程度共通化して頂きたいのでありますが。まあCPIの基準改定もそうなのですが、その前にありましたような「今回から実施する追加緩和政策の効果を見積もるのか見積もらないのか」という辺りっていうのはある程度共通化して欲しいなあとは思うのですけどね。

・・・で、つらつら考えるにこれだと今回の展望レポートには包括緩和の政策効果を織り込まないって話になるのかもしれませんが、それも何だか謎な話で、そうなりますと包括緩和の効果が出てきた時点で(出なかったら涙目ですがそれは無いと言うことにして)「景気は展望レポートよりも上振れて推移しています(キリッ)」って話になってくる訳で、そうなりますと一旦展望レポートで示された時間軸がまた変わってしまいますがなという話になりかねない訳でして、そーゆーのは期待形成っつー意味ではちとどうなのかねという感じはするのですが。

いやね、これがまあ包括緩和を展望レポートと同時に出すという話でしたら織り込みにくいというのもあるのかも知れませんが、一応(具体的内容が出るのが今回というのはあるのですが)前回会合で緩和を実施したという流れなのですからその分を出したほうが良さそうな気がするんすけどね。


○米国経済と新興国経済に関して

『(問) 2 点ご質問します。ご挨拶の中で新興国の米国向け輸出に着目されて、そこにもリスクがあることに触れていらっしゃいましたが、最近、こういう発言をされる方はあまりいらっしゃらなかったと思います。新興国の経済について少し慎重にみ始めたというメッセージであるのかどうか確認させてください。(2点目割愛)』

『(答) 最初の点について、発言の真意ということですが、これは昔から言っていることでありまして、急に考え方が変わったということではありません。データを虚心坦懐にみて頂ければ分かりますように、新興国と先進国との間の貿易の重要性というのは明確ですから、そういう意味で考えれば、特に米国における経済の停滞は、新興国からの輸出、そして新興国間の産業内貿易に影響を及ぼしてくることは十分に考えられます。そういったことは常に考えておかなければならないことですから、そういう観点からご説明した次第です。』

確かにそうなのですが、決定会合議事要旨やら声明文などでは特に本年前半においては「新興国の上振れ」という話のほうが多かったので、今回は久々にきちんと指摘しましたねっていう感じだったかと存じます。

ま、あんまり政策インプリケーションは無かったというか、会見で誰か「第2の柱による点検」の部分とか「マクロプルーデンス」の部分に関するツッコミをして頂きたいところだったのですが、その辺の質問が無かったのでまあこんな感じで。

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2010/10/21

西村副総裁講演が2本になってしまいましたのでその辺から少々。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010d.pdf
マクロ・プルーデンス政策について―― アジアの視点を踏まえて ――

○まあそらそうなのですが今中央銀行の副総裁が言う話ですかね

つまり昨日の白川さん講演で申し上げた悪態と同じ話なのですが(^^)。

『マクロ・プルーデンス政策に対する関心の高まりは、まぎれもなく、近年生じた世界的な金融危機の厳しさ、さらに、そこから教訓を学び取らなければならないという必要から生じているものです。中央銀行は、インフレが低位で安定しているもとで金融システムに蓄積していたリスクに対し十分に注意を払っていたかどうかを自問自答しています。また、金融規制当局は、金融システム全体の安定という関心が、自らの政策の視野の中に欠けていたのではないかと悔やんでいます。』

『このような深い内省の念とともに、政策当局者たちは、マクロ・プルーデンス政策を、これまでのマクロ経済政策とミクロのプルーデンス政策の隙間を埋めるものとして位置付け、これによって大規模な金融危機が再び発生することを避けようとしている訳です。』

そらまあそうなのですが、足元での「大規模な金融危機の再発リスク」はここから低金利環境を延々と継続する事によって発生し得る「金融の不均衡蓄積」ルートではなくて、より積極的な金融緩和が必要となる「バランスシート調整の実体経済への波及によるスパイラル的な悪化」の方であって、今この時期にこういう話を中央銀行の副総裁というお立場の方が話をするのは如何にもピントがずれていると思うのですけれどもねえ。


○マクロプルーデンスは良いのですがこれでは何か景気抑制方向にならないっすかねえ

というころで、マクロプルーデンス政策に関する話が続くのですが、どうもこういわゆるBISビュー炸裂みたいな話が続いていまして、何だかなあという感じなのですが、一応こう引用してみますね。

『ここで私は、日本銀行は、物価の安定とともに、金融システムの安定を明確なマンデートとして有していることを強調しておきたいと思います。また、こうしたマンデートに基づき、日本銀行は、1990年代以降、実質的にはマクロ・プルーデンス的な政策手段を実際に講じてきています。』

マクロプルーデンスの結果物価低迷が続いたと言う事ですか、わかりません(><;

でまあ金融システムの安定という観点で言えば日本やアジアの場合は銀行セクターの役割が大きいというのはまあその通りなのでその辺も。

『このマンデートを果たすために何をすべきかを理解するうえでは、アジアの、さらには日本の金融システムの特徴として、資金仲介において銀行貸出が支配的な役割を果たしているということを理解することが、とりわけ重要となります。一方でアジアでは、証券化市場といった非銀行部門の重要性は相対的には低めです。このことは、米国のサブプライム住宅ローンの証券化や、これに関連する複雑な証券化商品のリスクの過小評価に端を発する2008年の金融危機において、アジアや日本の金融機関が大きな影響を免れた、一つの要因となっています。しかしながら、「同じコインの裏側」の話として、このような銀行貸出のウエイトの高さは、銀行セクターのリスクテイク能力が大きく損なわれる場合には、その実体経済への影響も大きくなり得るということも言える訳です。』

さいざますな。

『金融危機は、過剰なリスクテイクやユーフォリアの終焉に端を発して起こり、その帰結として、極端なリスク回避やアニマル・スピリッツの喪失を経済にもたらします。このため、マクロ・プルーデンス政策は、何よりもまず、過剰なリスクテイクを示すような金融面のアノマリーを見抜き、これを是正しなければなりません。また、不幸にして危機が起こってしまった場合には、銀行セクターのリスクテイク能力を支えていくことが求められます。』

という話なのですが、何かまあそらまあそうなのかも知れませんが、過剰なリスクテイクを示すような金融面の動きを是正って話をすると、今度は事前の是正という方が行き過ぎになってリスクテイクが消極的になりゃあせんですかねえというのが現場労務者的な印象なのですがどうなんでしょうかねえ。


○金融政策の二つの柱に関して

マクロプルーデンスの観点に金融政策の二つの柱がどうのこうのという話があるのですが。

『この点、2006年以来、日本銀行は金融政策判断において、「2つの柱」という判断フレームワークを採用しています。すなわち、このうちの「第2の柱」のもとで、資産価格の変化や銀行信用の膨張が、「経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因」と捉えられれば、日本銀行はこれに対応し得ることになります。このようなフレームワークを通じて、日本銀行は、物価の安定を金融政策の第一義的な目的としつつ、金融面でのリスクの過剰な蓄積に対応し得る弾力性も備えているわけです。この意味で、日本銀行の金融政策の枠組みは一貫して、今回の世界的な金融危機が勃発する前から、金融セクターのリスクにも適切な注意を払い続けてきています。』

という話なのですが、どうもいわゆるBISビュー的な発想に傾斜して、金融政策が経済活動に抑制的に働くんじゃねえのかという不安がそこはかとなく感じられるのは気のせいあるいは杞憂だと良いのですが・・・・・・

てな所でこっちの講演に関しては終了。


以下広島での講演に関して。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010e.pdf

○景気認識はまあ厳しいと

そらまあ追加緩和したんですから景気認識は厳しいというのは当たり前っちゃあ当たり前なのですけれども。

『米国では、家計部門が住宅ローンなどの債務を抱えているため消費を手控え、経済成長を下押ししています。このように、債務を返済し資産状況を健全にしていく過程は、「バランスシート調整」といわれ、「バブル」崩壊後に支出が持続的に下押しされる要因となります。この調整は日本の例をみても時間のかかるものであり、家計部門のバランスシート調整圧力が大きい米国経済の回復は、緩やかなものに止まると以前から考えてきました。ただ雇用者所得の伸びが高まったり、住宅価格が上昇したりすれば、家計部門の債務返済に向けた余力が高まり、相対的には早めに調整されます。』

というよりは米国の場合って今後注目なのは株価なんじゃないかという気がするのだが。

『このため、米国の雇用と住宅に関する指標が特に注目される訳です。雇用関連の代表的な指標として失業率がありますが、これはリーマン・ショック後に10%程度まで急速に上昇した後、春先に若干改善しましたがその後再び上昇し、高止まったままです。また、住宅販売件数も住宅減税の効果で持ち直しましたが、4月末に減税の期限が切れたとたん大幅に落ち込み、その後、低水準に止まっています。こうした中で、住宅価格は、大きく下落した後横ばい圏内の動きにとどまっています。このように雇用と住宅の情勢は思った以上に弱く、従って「バランスシート調整」には、これまでみていた以上に時間がかかる蓋然性が高まってきたと考えています。』

だそうざます。更に新興国経済に関しても・・・・

『新興国経済に目を転じますと、こちらも減速していますが、軽度の調整に止まっています。やや長い目でみれば、耐久消費財の普及や社会インフラの整備に向けて、潜在的な内需が旺盛であることから、高めの安定した成長を維持していく可能性は十分にあります。ただ、いくつかの新興国は、緩和的な政策を修正し経済の過熱を回避しようとしていますが、未だ過熱抑制策が十分でないとみられる国も多く資本の流入が続くもとで、成長ペースが加速していく過熱リスクが残っています。』

でも過熱した後はその反動でヘロヘロになるリスクですよねえ。

『他方、米国向けの輸出がかなりの規模であることから、場合によっては、米国経済の減速の影響を少なからず受ける可能性もあり、下振れ方向にも注意が必要です。』

ということで、メインは「安定成長維持」なるもリスク認識は下という話ですか。


○円高の物価に与える影響に関して

まあやっとその辺の話をきっちり指摘するようになって来ましたねという感じですが、日本経済に関する物価の部分に関して。

『物価面をみますと、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比の下落幅は、縮小傾向を維持しています。もっとも、先行きについては、景気の下振れなど実体経済活動の動きが物価面に影響を与える可能性に、留意が必要です。また、為替円高が、実体経済の悪化を通じる経路だけでなく、輸入物価の変化も通じて、消費者物価を下押しするリスクもあります。』

まあ結局のところ、もう一発円高が進行したら物価下押しと景気下押しを抑制するために追加緩和ですよって話になるんでしょうなあ、てかここ10数年に渡って金融政策がどうのこうのって話って実はドル円レートを見ながらのネタ振りばっかりだったという気がするんですけど(苦笑)。


○改めて今回の緩和措置に関する「目的」を確認しておく

包括緩和って言葉は何かこうあまり威勢の良い感じがしないので、あたくし的には「量的緩和と信用緩和の同時緩和」みたいなもうちょっと景気の良い言い方にすれば良いような気がするんですがいやまあいいですけど。

『今回の措置は、短期金利の低下余地が限界的となっている状況を踏まえ、金融緩和を一段と強力に推進するために、長めのリスクフリー金利の低下に加え、リスク資産のリスク・プレミアムの縮小を促していくものです。』

って既に社債とかCPのリスクプレミアムって大概に潰れていると思うのですけれどもというツッコミは兎も角、こーゆーロジックで来ているという事は、次に追加措置を行うという場合はあくまでも「リスク資産のリスクプレミアム縮小」という話になりますので、利下げ(といっても下げる場合は超過準備付利金利を下げるかどうかという話になるが)方向ではなくて、資産買入の拡大という話になると考えるのが妥当ではなかろうかと。

『これまでも、3か月物や6か月物の資金を0.1%という低金利で貸し出す固定金利オペという手段を活用し、やや長めのリスクフリー金利の低下を促してきましたが、今回は、残存期間1〜2年程度の長期国債や社債を買入れることで、さらに長めの金利の引き下げを促すことにしました。また、リスク・プレミアムを縮小させるため、ETFやJ−REITの購入も検討することにしました。日本銀行にとって初めての試みですが、リスクをとって買入れることにより、株式や不動産のリスク・プレミアムを縮小させる方向に作用することが期待できます。』

つまり株式や不動産価格支持政策という話になるのですが、まあまだ実際に何をどうするのかという話が出てこないからシャーナイ所でもありますが、もうちょっとこうその辺の意図を株式市場も感じてやりゃーいいのにと思うあたくし。


○しかしマクロプルーデンス的なネタを今から出すこともないだろうに・・・・

てな感じで講演の多くは今般の緩和措置と成長基盤強化支援貸出の説明をしているのですけれども、この辺の説明は正直言って丁寧にやらんでヨロシカロと思うのでありましてですな・・・・・

『第2の措置は、実質ゼロ金利を継続する条件を明確化したことです。』

という話の説明部分はまあ良いのですが、その後の話がねえ・・・

『ここで強調させて頂きたいことは、日本銀行は、足もとの物価上昇率ではなく、先行きに想定される物価上昇率の動きが、「中長期的な物価安定の理解」と整合的かを判断基準としているということです。長い目でみて物価安定を実現していくためには、金融政策の効果の浸透には時間がかかる事を考えれば、足もとの短期的な物価上昇率だけでなく、先行きの物価上昇率がどのように推移していくかを予測し、それと「中長期的な物価安定の理解」との整合性を考えていく必要があります。』

まあここまでは百歩譲って良いと致しましてですな。

『さらには、今回の世界的な信用バブルの生成・崩壊において、金融面での不均衡の蓄積といった重大なリスクが見過ごされた結果、長い目でみた経済・物価の安定が損なわれた経験から学ぶことも大事です。つまり、足もとの物価が安定していることに安心し、「バブル」のような金融面の不均衡の蓄積を見過ごすことがあれば、「バブル」崩壊後に再び持続的な物価下落に直面するといった可能性もあります。今回の時間軸の明確化においても、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを、実質ゼロ金利政策を継続する条件としています。』

いやあの足元の問題を片付けるのが先で、その後のバブルがどうのこうのの話を今からしてどうすんですかという風に思う訳よ。まあ(昨日もそんな話したけど)足元ではFED高官発言にやたら注目が集まっていて正直西村さんの講演も市場的にはスルー状態だから良い様なものですが、こーゆー話を今からするこたあねえと思うのですけどね、いやまあ言ってる事自体は正論は正論なのでしょうけれども、物には言い様というものがあるかと。

逆に、こういう発言をしてもスルー状態なのは「そんな話したって結局外部から押し込まれたら日銀って押し込まれた通りに動くんでしょ」っていう認識がここもとの流れですっかり定着したから何言ってもスルーだったりするのだと残念無念感も致しますけど実際のところはどうなんでしょうかねえ(ニヤニヤ)。

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2010/09/29

しかしまあ何ですな、ドル安対応で追加緩和しなきゃという話って結局「米国の景気が悪いから追加緩和しますよ」って事で冷静に考えるとトンチキではありますな(苦笑)。

で、為替介入だ非不胎化だ追加緩和だという話(どうでもいいが昨日の日経の記事も「日銀によるリーク」とか言われてコーヒー脳の先生が国会でまた追及するに100ドラクマ^^)をしているうちに色々な講演が行われまして、その間スルーしていたネタがゴロゴロあったりするので、期末なのに全然短期市場が荒れない事もありますので虫干し大会と参りたく候。

ということで超地味なのですが西村副総裁のユーロマネーなんちゃらでの講演、という事はつまり介入の日に行われた講演でおじゃる。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009a.pdf
市場の安定性確保と利便性向上の取組み

というお題はいいのですが、現場労務者的に微妙にアレな部分がございまして、まああたくしの主観的独断的なツッコミをしながら読む訳ですが、あたくしのツッコミがトンチンカンでしょというツッコミ返しを頂きますと心からありがたく存じますので一つよろしくお願いいたしたく(^^)。


○金融市場の安定性が重要というのは深く同意

冒頭の部分から。

『金融資本市場の安定性は、ストレス時においても市場の流動性が維持されていることであり、それは金融機関や企業の経済活動を支えるうえで必要不可欠なものです。このことはしばしば人間の活動を支える血液循環にもたとえられます。血液の循環は、普段は当然のこととして意識に上ることはありません。資金の流動性、そしてそれを支える市場の流動性も、普段は空気のように存在してその存在を特に意識することはありません。血液循環と同じく、市場の流動性は、それが失われて初めてその重要性に気付くことになりがちなのです。』

まあ喩えのほうはいいとして、この「ストレス時に流動性維持」というのが効けばこれはまあ大変に結構な話でして、これはこれで同意です。まあこちとら90年代半ば以降に局地的に流動性がいきなりうんこになる(例えば急に非上場国債市場がうんこになってみたり、アジア系のサムライ債がうんこになったり、一般債市場がうんこになったりとかね)という事態で何度ヒーヒー言った事か(さすがに2回位痺れる目に合うとその後は学習効果が働きますが^^)ということでありましたなあと。

つーか、これは要するに「リーマンをいきなり法的にコカしたポール損は坊主になって詫びるべき」という事ですけど中銀の人は仕様としてそういうことは言わないのでまあそれはそれとして。

で、2008年の話になるのですが。


○2008年に「相対的に安定していた」という話よりも論点は別ではないかと思う

2008年の金融危機に関する説明に関しては禿げ上がるほど違和感があります。

『他方、この間のわが国の金融資本市場をみると、リーマン破綻直後は、国際的な金融資本市場混乱の影響を受け、同様に不安定化する動きがみられましたが、足もとまでの動きをみると、相対的には安定しています。』

そらあーた日本の金融機関がそもそも不良資産の直撃弾を激しく食らったわけじゃない(すこしは食らってましたが)もん。

『例えば、短期金融市場では、リーマン破綻後に金利の上昇圧力が高まりましたが、カウンターパーティ・リスクに対する警戒感は、主として外資系金融機関との取引に止まりました。このため、円のLIBOR-OISスプレッドをみると、米欧と同様に拡大はしましたが、その拡大幅は相対的に小幅に止まりました。さらに、足もとでは、日本銀行による金融緩和効果が徐々に浸透することで、短期金融市場の金利は、やや長めの金利も含めて、極めて低い水準に低下しています(図1、「円」を参照)。』

『また、企業の資金調達環境をみると、わが国においても、リーマン破綻後に発行体の財務内容の悪化や同時期の株価の大幅下落を背景に銀行や生保など主要な社債の投資家のリスク許容度が低下し、社債の発行環境は米欧の動きにつられるかたちで悪化しました。しかしながら、発行ウエイトの過半を占めているAA格以上の高格付社債についてみると、危機後においてもスプレッドの拡大幅はBBB格に比べてかなり小幅に止まりました。この点は、高格付銘柄においても社債スプレッドが大きく拡大した米欧とは異なっていたと考えています。 こうしてみると、敢えて誤解をおそれずにいえば、わが国の金融資本市場は、今回の金融危機に対して相対的には――あくまで相対的という条件付ではありますが――安定的であったと言ってよいでしょう。』

すいません、金融危機の時の記憶がもう抜けたんかいなという感じなんですが、日本の場合何が一番問題だったかと言いますと、CP市場の極端な悪化とレポ市場の金利上昇でして、前半の引用にあるように「カウンターパーティ・リスクに対する警戒感は、主として外資系金融機関との取引に止まりました」だけで済んでいた問題だったらばレポ市場におけるGCレートの上昇は一部に留まる筈ですが、実際問題としてはGCレポ取引金利が日銀の貸出ファシリティ金利(つまりロンバート金利)近くまで上昇するという事態になりましたし、CPに関してはそれこそ電力会社さんの3か月CPの発行レートまで0.9%台とかに上昇して、AA格のメーカーさんとかの3か月CPが普通に1%を上回ってみたり(ちなみにそのときの政策金利は0.5%でロンバートは0.75%)という事態になった訳ですよね。

で、先ほども申し上げましたように、直撃弾を派手に食らった訳ではない日本市場が相対的に安定的になるのは当然で、それよりも問題なのは、そんなのと関係ないはずのCP発行市場がいきなり無茶苦茶な動きになってしまった事に関して、その辺りの背景および波及メカニズム、ついでに再発しないためにはどういう風になる事がポイントなのかとかゆー所をご考察いただきたいと存じます次第。

まあ日銀の中の人は当然ながらこの辺りの面に関する考察をしておられると存じますけれども、当時CPとかレポレートがアホのように上昇して(そらまあポジショントークだけで言えばウハウハでしたが)さすがにこれは経済厚生的にどうなのよと連日悪態をついていた頃を思い出しますと、このCP市場とレポ市場の話を軽くスルーするのはちょっと違和感がござんすな。


○米欧における市場安定化の取り組みに関する雑感

『今回の金融危機の経験を経て、市場関係者の間では、市場のストレス時においても、金融資本市場の安定性が確保されていることの重要性を改めて強く認識しました。こうした認識のもと、内外の市場関係者の間で、市場安定化に向けた市場インフラ整備の取組みが進んでいます。』

ということで、最初に米欧の話があるんですけれども、まあこっちはツッコミというより雑感を少々。

『米欧においては、例えば、CDS取引を含む店頭デリバティブ取引について、市場の透明性やリスク評価の面で課題が認識され、清算集中など決済・清算に係る市場インフラ整備の検討が進んでいます。また、米国におけるフェイル慣行の見直しとレポ市場の改革を、目立つ取組みとして挙げることができます。』

まあそうですな。であたくし的な雑感なんすけどね。

取引集中に関してはまあ今は取引集中してセントラルクリアリングシステムみたいなものを作りましょうって各市場もここぞとばかりに誘致活動していると思いますが(^^)、店頭デリバティブって取引を定型化しないと取引所に取引を集中する意味が無いような気がするんですよね。つまり物凄いシロート丸出しの感想なんですけれども、取引をある程度定型化しないで清算集中だけやっても、取引集中によるリスクのネッティング効果があまり出でこなくて、結局のところ取引所が莫大なカウンターパーティーリスクを引き受ける結果になって却ってストレス時にややこしい事になるような気がするんですけれども、おじちゃん素人だから良くわかんない。まあそれに取引定型化しちゃうと今度は使い勝手が悪くなりますからにゃあ。

で、フェイル慣行の話はまあ日本の例で出てくるほうで軽く参ります。


○ということで日本の例ですが

『これに対し、わが国の国債市場やクレジット市場が相対的に安定していたことは、前に申し述べたとおりです。こうした背景には、今回の金融危機においては、90年代に金融危機を経験したわが国の金融システムが、米欧の金融システムに比べ相対的に頑健であったことが挙げられます。』

とか言われますと何か微妙にはあそうですか感が漂いますがそれはそれとして。

『また、国債の決済においても、DVP決済への移行により元本取りはぐれリスクは回避されました。さらに、国債の清算機関であるJGBCC(Japan Government Bond Clearing Corporation)が、セントラル・カウンターパーティとして、取引当事者の間に入って双方の債務を引き受け、資金・証券決済の履行を保証しました。それにより国債流通市場全体でみた決済リスクは抑制され、国債決済においてデフォルトが市場全体に連鎖的に広がる事態が回避されました。』

まあ途中では混乱しましたが最終的にはJGBCCがあって良かったねという感じでしたな。

『わが国の金融資本市場において、このように非常に深刻な事態が回避されたことは素直に歓迎すべきことではあります。がこれをもって、わが国の市場インフラが、危機時の市場安定性確保の観点からみて、米欧に比べて十分に整備されていたとは言えるわけではありません。むしろ、今回の金融危機においては、米欧とは異なるわが国固有の課題が改めて浮き彫りになりました。』

で、ここから急に話が我田引水っぽくなってくるのですけどね。

・フェイル慣行を定着させればC/Pリスクが軽減する訳ではないのですが

『具体的には、国債流通市場においては、フェイルが急増するもとで、既存のフェイル慣行が十分に機能せず、国債決済が大きく遅延しました。また、市場参加者の間では、フェイルするリスクを回避するため、新たなレポ取引そのものを手控える動きが広がりました。信用度の高い国債を担保とする有担保取引であるレポ取引は、無担保取引より安全・確実な資金調達手段として、危機時の流動性確保において大きな役割を果たすことが期待されていました。しかし現実には、フェイルの急増等に伴い混乱をきたし、国債レポ市場の流動性が低下しました。』

別にそれはフェイル慣行が機能してもしなくても同じ話で、カウンターパーティーリスクを強く意識するというのは、よーするにフェイルが解決する前に取引相手が飛んだ場合に未決済約定の取引の原状回復のコストが掛かるという話であって、フェイル慣行があってもなくても本質的には変わらない話では無かろうかと。どちらかというとフェイル慣行云々というのは平常取引時における下らないスクイーズだのに対する抑制とか、平常時における取引の円滑化に資する話であって、それは危機に対するデザインではなくて、通常の流通市場円滑化への整備という論点で語られるものではないかと思うのですけれども。

『こうした経験を踏まえて、市場関係者では、フェイル慣行の定着に向けた同慣行の見直しを始め、国債決済期間の短縮によるリスク管理強化などが課題として認識されています。』

ということで、未決済約定を削減するという観点からの証券決済期間の短縮というのはまあ危機対応のデザインとしては判るのですが、フェイル慣行の定着をしてもストレス時にはカウンターパーティーリスクの意識は高まって取引はシュリンクすると思うのですけれどもね。いやまあ決済期間を短縮する為にはフェイルに対する一定のルールあるいは慣行の定着をしないと決済期間短縮が回りませんね、という話からフェイル慣行の定着がどうのこうのというのなら判りますが、いきなり途中を飛ばして「フェイル慣行が定着すればカウンターパーティーリスクが軽減」というのは論議として如何なものかと。


・フェイル慣行云々は日証協WGだけでは正直荷が重いと思うが(中の人はご苦労様です)

『具体的には、フェイル慣行の定着に向けた見直しについて、日本証券業協会のワーキング・グループにおいて検討が行われ、本年11月より、フェイルチャージの導入などの見直しが実施される予定です。今回の見直しにより、これまでフェイルの容認に慎重であったと言われる最終投資家側で、フェイルについての理解が広く浸透し、実務上フェイルに対応可能な事務処理体制が整備されることが大変重要です。今後、フェイル慣行の定着が進み、平時の流動性のみならず、ストレス時においても市場の流動性を維持または早期に回復する環境が整備され、わが国レポ市場の安定性が強化されることを期待しています。』

現状ではフェイルに関する事務的負担を業者サイドが一方的に負担しているというか被っているような状況ですので、まあチャージがどうのこうのがこの状況の改善に繋がって頂きたいものではあるのですが、結局のところこの話って業者マターというよりは投資家マターの話であって、まあ正直本件に関して日証協がWG作ってどうのこうのっていうのはカワイソスと思いますです。

事務処理体制はもとより、投資家サイドの会計制度の問題もありますし、じゃあ事務的にフェイルに対応できるという話と、投資家がレポ市場への参加がより活発に出来るかという話はまたまた別問題でしょうし、何か上記のようにさらっと言われてしまうと微妙にこう違和感があるなあという感じです。つーか、さっきも申し上げたように、フェイル慣行が定着したからストレス時に市場の流動性に寄与するかというとそれは全く別問題だと思いますので、期待するところがピンボケじゃないのかと思いますけどね。


・国債決済期間の短縮も大事だがその前に短期金利の付く経済にしてください

『例えば、国債のアウトライト取引の場合、米国や英国では約定日の翌日に決済するT+1取引、ドイツでは2日後決済のT+2取引が主流であるのに対し、わが国では、約定日の3日後に決済するT+3取引が標準的な決済期間となっており、米欧より長めであるのが実情です。わが国の決済期間が長めであるのはレポ取引も同様です。そこで市場関係者の間では、国債のアウトライト、レポ取引について、未決済残高を抑制する観点から、決済期間短縮の実現に向けた方策が検討されています。』

つーことでT+1にしようというのがどうもご当局様のイメージっぽいのですが、T+1決済にするにはレポ(つまり資金とモノ)をT+0で回さないといけないのですが、それをするとなりますとリアルタイムの資金および債券ポジションの管理が必要という話になりますけれども、それは業者や決済がやたら多い銀行さんでは対応できる話かもしれませんが、純粋バイサイドでそもそもの資金が一般の皆様からの投資資金で対応している人たちはそんなリアルタイム管理なんぞする必要がないので(基本はバッチ処理でしょ、金はともかくモノの方は)T+0レポだのといわれましてもナンジャソリャ状態。まあ今の状況でT+0レポ対応となると業者さんやら銀行さんでも色々と設備投資が必要になる話だとおもいますが、この鼻くそのような低金利状態で短期資金市場で収益がろくすっぽ上がらないという悲しい状態になっているので、投資する銭をどこから算段してくるのよと存じます次第。

つまりですな、決済制度の改善は改善でやるのはまあよいのですが、そんな事よりも早いことデフレ脱却して短期金利の付くような状況にするほうにエネルギーを割いて頂きたく存じますがなとか身も蓋も無い事を言い出すあたくしなのでありました。


○時間がなくなったのであと少々雑談

・社債市場の活性化ねえ

『3. グローバル競争下での利便性向上に向けた取組み』といういかにもなお題のコーナーから。

『わが国の金融構造を改めてみますと、@企業の資金調達は銀行借入が中心で、米国などに比べて、社債市場の規模は小さいのが実情です。また、このことの裏返しでもありますが、A社債市場における発行体の構成をみると高格付の企業が中心で、投資家についても国内の銀行や生命保険会社が中心であるなど、市場参加者の拡がりが乏しい状況です。さらには、B社債の発行が活発でないもとで、社債流通市場が未整備であるといったことがわが国固有の課題として改めて認識されました。』(機種依存文字は原文ママで勘弁)

『このため、日本証券業協会の「社債市場の活性化に関する懇談会」においては、低格付社債を
含め、社債の発行や投資をしやすい環境を整備し、発行体や投資家のすそ野を拡大するための方策について検討が行われ、本年6月に報告書が公表されています。 』

報告書読んだ気がするが忘れた(汗)。

でね、まあ社債市場がどうのこうのの根本にあるのはローン対比で社債が有利じゃない、というかローンが有利という事でして、これって「ローン金利を上げろ」という主張になると思いますが、そもそも今の資金需要の無い状況では無理な話ですし、大体からしてあんさんがた「成長基盤強化のための資金供給」とかやっている訳でして、そらまあ問題意識として社債市場の活性化がどうのこうのというのは結構ですけれども、政策全体の中での整合性ってどうなのよと思いますけどね。

#つーか、日銀の社債買入が行われた時に「BBBも買え」だのという話が散々出ていたような市場状況で何が市場の活性化なんだかという気もしますしねえ

つまりですな、社債市場活性化の話はそれはそれでまあよいのですが、そんな事よりも早いことデフレ脱却して短期金利の付くような状況にするほうにエネルギーを割いて頂きたく存じますがなとか身も蓋も無い事を言い出すあたくしなのでありました。(あれ?)


・株式市場のインフラ強化ねえ

『この他、株式市場においても、アジアの新興国市場などとの競争が高まる中で、取引の利便性向上に向けた取組みがみられています。具体的には、東京証券取引所において、本年1月に、現物取引を行う新しい売買システム、アローヘッド(arrowhead)が導入されました。』

あ〜、あの大口取引優遇システムですね。

『このほか、東京証券取引所では、主要国では少ない立会い時間における昼休みの廃止など、取引時間の拡大について、市場関係者との意見交換を進めています。』

何かさ、債券先物のシステム変更2回見た時の印象もそうなんですけれども、東証のこの手の取り組みって過度にグローバルスタンダードとやらを意識しすぎで、日本市場が今までの歴史の中から生み出してきた値付けルールによる優位性とかに関する考察というかリスペクトというかが足りないんじゃないかと。板寄せなんて大量の売買をスムーズかつ透明かつ比較的公平に行う優れたシステムだと思うのですが(その他昔の人だったら一般投資家への公平性を担保する注意気配制度とかの話もあると思いますが^^)、とにかくグローバルスタンダードとやらに走り過ぎだと思うのですよねえ。まあシャチョーも国際派を自認するアンディー先生だけにそうなってしまうのかなあとは思うのですが。

と最後は西村副総裁の話と関係ない雑談になった事をお詫びいたしますが賠償はしません。

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2010/06/29

○西村副総裁講演(というよりスピーチ)

何か英語の講演が出てただよ。
http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/data/ko1006c.pdf

あんまり真面目に読んでないので後日真面目に読みますが、後半の方では「金融規制に関しては各国の状況に合わせたものにすべきであって、一つの規制ですべてを括るようなやり方は間違え」とか「金融規制を変な時に実施すると景気に悪影響」というような話をしていまして、昨今妙に金融規制のやる気満々モードになっているブンデスバンクじゃなかったECBの皆様に対する微妙なカウンターになっているのではないかという気もせんでも無い。

金融規制を一律に行うのがダメでしょという話はこの辺ね(改行はあたくしが適当に入れた)。講演の最後の方です。

『In order to prevent another global financial crisis of this magnitude, we truly need a thorough and internationally harmonized overhaul of financial regulations, as is currently being undertaken by various international regulatory bodies. However, as mentioned before, proper consideration must be given to the regional heterogeneity of banks’ business functions, especially in the bank/non-bank spectrum.

The difference is not arbitrary but reflects real structural differences between regions. In particular, it would be unrealistic to always assume that “one size fits all”: We should not put carnivorous lions and herbivorous elephants in the same cage. We should also follow a well-balanced approach that properly recognizes the synergetic cross-effects of item-by-item regulations.

An appropriate criterion should be the combined effects of all item-by-item regulations. Simply focusing on the “marginal effects” of individual measures may be misleading, even though they have good individual rationale.』

んでもって金融規制を下手に行ったら景気の腰を折りますがな、という話はその後の最後の部分。

『At the same time, we should be aware of a possible trade-off between the long-term benefits and short-term costs of stronger regulations. Such regulations may indeed enhance financial stability and economic prosperity in the long run, but the hasty implementation of stringent regulations may hamper a fragile recovery, such as we find ourselves in now.』

とか警告してもアホウ規制を炸裂させるのがブンデスバンクの血でございます(−−)

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2010/04/23

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1004b.pdf

○追加緩和には含みを持たせる

3月の追加緩和(のようなもの)に関する理由を改めて説明してくんなましという質問に関する西村副総裁の説明から。

『それから、金融政策についてですが、前向きなモメンタムがある時に効果があることについて特に東北の方々に分かりやすい別の例えをすれば、雪の中で車の後輪が空回りしている時にいくら押してもうまくいきませんが、後輪がうまく土を捉えた時に押すと大きく効く訳です。そのようなことで、私どもは追加的な対応をとったということです。これは、いわばその時々の金融・経済情勢、そして市場の状況、それから諸々の経済政策を考えなければならない状況の下で、どのような時期が一番よいかを考えたということになります。従って、毎回の金融政策決定会合で常に精査し、必要な措置を必要な時期にとっていくというかたちになります。』

例えの方はまあどうでも良いのですが、これはまあ「押し上げ介入」っぽい説明になっていますので、まあそーゆー文脈からすれば、「構造的な物価の問題に対応するために更に押し上げ介入」という説明はできると思うのですが、あんまりそのロジックで行くと「効いてくるまでラグがある金融政策で押し上げのような事をするとやり過ぎにならないんですか」という話になって来るんじゃないかなあとは思います。

んでもってデフレ脱却に関する時間が掛かるのではないかという質問が後の方に出ていまして、まあそこの答えを見ますと、とりあえずポーズとしては緩和的な話をしていますなあという感じです。そらまあ選挙で負けそうな民主党様からまた色々と圧力が来てますから下手に藪をつついても仕方ないですもんね!

で、西村さんは会見での説明が素晴らしく長いのが仕様なので、引用するのも中々アレなのですけれども、こちらに関しては物は試しに全部引用してみませう。

『(答)デフレ脱却、デフレに象徴される経済の沈滞というのは非常に根深いものであるということはここで述べたとおりですし、その理由についてもこれまで述べたとおりです。物価の見通しについては、少なくとも過去のデータを見る限り今のところ大きく変化していませんが、たとえ経済活動がある程度の回復をみせたとしても、それが具体的に物価水準に影響を及ぼすにはやはりかなり長いラグがあることへの注意が必要です。講演でも申し上げたとおりそのラグは大体1年というのが今までの平均ですが、これは早い場合もありますし遅い場合もあります。』

ほほう。

『この点は、実は日本だけではなく、欧米においてもそうした問題が考えられています。ある種の非常に大きなショック、しかも構造的なショックが起きた場合には、物価が正常な水準に戻ってくるのに時間がかかるということが、日本だけではなく他の国でも考えられています。このショックに対する構造という点では、日本も他の国も同じです。日本の場合には特に金融環境から生じるショックは比較的小さかったということから考えると、日本における実体経済面のショックというのは、他国に比べてもかなりの大きさであったというかたちになります。』

ふむふむ。

『そうすると、このショックを経済が吸収し、新たな安定した状態に戻るにはかなりの時間がかかると予想されます。私どもはこれまでそうしたことを情報発信してきたつもりですが、ここでももう1度申し上げたいと思います。』

かなりの時間がかかるキタコレ(・∀・)

『そのうえで重要な点は、この大きなショックの上にさらに大きなショックが重なるような事態は絶対に避けなければならないですし、それへの対処はしていかなければならないと思っています。また、長いラグがあるということを同時に考え、その時間のラグをきちんと頭の中に入れながら、それに対応した政策を行うことがもっとも望ましいと考えています。』

ここはまあ微妙で、効くのに時間が掛かるのだから効果を見ながら小出しにしていくとか、良くなってきたら緩和を終わらせるとかとも読めますけれども、まーその前段で「かなりの時間が掛かる」攻撃をしているので、そこまでは気にする必要はないのではないかと愚考。一応将来のヘッジは打っているということですかねえ。

『具体的な政策方針は政策委員会で決めることですし、毎回の政策決定会合の中で具体的に検討しますので、ここでそれについて言及することは控えますが、私どもの基本的な考え方、すなわちデフレに象徴されるような経済の沈滞に対して、日本銀行としてこれを克服するための最大限の粘り強い貢献をしていくということに関しては全く振れはありませんし、今後も振れはないと私は確信しています。』

まあそういうことで、白川総裁の決定会合直後の会見のトーンからはだいぶ違うというか空気読んでますなという所でございまして、あたくし的には大変に結構な傾向だと思います。


○インフレ目標がどうしたこうした

こんな質問が。

『(問)物価の中長期的なインフレ期待が大事であるということですが、これについて、日銀が今している以上に何かできることはないのでしょうか。菅大臣などからはインフレ目標という言葉も出ていたり、物価上昇率について、今の1%ではなく2%というもう少し高めがいいのではないかという発言も出ていますが、それについてどのようにお考えになっているのか改めてお話頂きたいと思います。』

ほほう。

『(答)日本銀行としては、現在、過去、将来もそうですが、金融政策に関しては、その幅、種類といったものに関して一切予断を持たずに全ての可能性を追求し、全ての可能性をツールキットの中に入れて、それを毎回きちんと吟味することとしています。そして、以前にもお話したことがありますが、そのツールキットについても、様々なかたちで可能性の幅を広げるということを今までもしてきましたし、これからもしていくつもりです。』

とまあとりあえず頭からダメだしするようなことはしないという空気の読みっぷりは中々結構ではございます(^^)。

『(現在の中長期的な物価安定の理解の説明部分割愛)インフレーション・ターゲッティングに関しての色々な議論がありますが、私どもの枠組みは、インフレーション・ターゲティングの基本にある考え方の重要な部分である、私どもの考え方を明確にする透明性と、国民との対話という重要な点を含んだものです。』

さいですか。

『そのうえで、単純に時間の限られた意味での物価上昇率だけではなく、2つの柱によって、より長期的な物価の安定をめざすほか、金融不均衡の蓄積といった様々なリスクにも同時に目配りするかたちで作られています。その意味では、様々な金融環境の変化にも十分対応できるように作られていますし、実際にこの2つの柱の仕組みができてからうまく対応できていると考えています。』

まあでも最近の主要国のインフレ目標(やっている所では)に関してもその数値ってリジットな短期的な目標ではなくて、中長期的な話になってきてますので、ここでの説明は厳格なインフレ目標の方を意識しているような感じでど〜なんでしょという所ですな。

『当然ですが、中長期的な物価安定の理解と2つの柱で金融政策を運営するという私どもの仕組みは、別に最終形ではありません。常に状況に応じてより良く変わることができるならば、変えていくべきですし、実際に私どもでも物価安定の理解を明確化するということをしてきた訳です。したがって、私どもは今のかたちがベストであると思っていますが、今後、経済・物価情勢や環境の変化、様々な世界的な経済状況の変化があれば、当然ツールキットを広げますし、それについて毎回吟味するという原則に従って、私どもの今の仕組みを洗練されたものにしていくということは、当然のことながら私どもの責務でもあります。』

と、最初に言った話を繰り返して、別にインフレ目標そのものを頭ごなしにダメだししているのではないですよ(まあ実際には厳密誘導を想起させるようなインフレ目標に関してはダメだししているのですけど)というのが割とソフトな物言いにしているのが中々。


ということで、西村副総裁の質疑応答はやたら長いので、答えを引用するのを3つ位やったらもう全部引用と変わらないという世界になるという問題がございましてアレなのですが(^^)、今回の会見に関して言えば、まあ色々と風当たりが強い(特に選挙が怪しい政権与党様的には日銀のせいにする気満々でしょうから)という流れを読んで当たりをソフトにしているのが特徴的な所でしょう。

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2010/04/22

お題「西村副総裁講演は先般の総裁講演とはトーンが違う感じが」

お題が長いですかそうですか(後でインデックス作った時にお題が単に「副総裁講演」とかだけだと自分が何年後かに見なおした時に困るのよね^^)。

ということで西村副総裁講演ですが。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1004d.pdf

○まず読んだ感想なんですけどね

お題に書いた通りの感想でございまして、景気や物価見通しに関しては「循環的には回復しているけれども回復の持続性にはリスクがある」「物価の先行き期待の低下への懸念」などを指摘していまして、先般の「判断を一歩前進」とやたらと元気の良い(KYとも言うが)白川総裁の会見とはトーンが違いますなあという感じです。

また、「景気見通しを引き上げる中での追加金融緩和(のようなもの)の実施」に関する説明もしていまして、まあこの辺りを読みますと、追加緩和をしそうも無かった(ので何を考えとんじゃゴルァ!という書き物をしましたが^^)白川総裁定例会見のトーンを火消しするような感じを受けましたです。

つまりですな、間もなく出てくる展望レポートでは「循環的な回復を指摘しながら物価などの構造的な下押し要因を強調する」というロジックを出して、追加緩和(のようなもの)実施のロジックを用意しておくという形になるんでしょうなあという予想を強めてみたくなったあたくしなのでした。

あたくし的にはそーゆー論理展開をしておかないと景気が腰折れするまで追加緩和出来なくなってしまうから、まあ上記のようなロジックを出して欲しいもんですなあと申し上げていたクチですので、いやあこれは無難な方向になりそう(白川総裁会見のKY突撃のトーンのまま展望レポートを突っ込まれたらさすがに日銀マズイでしょと思ってましたからね)で良い傾向じゃのうという所です。

#ではその追加緩和のようなものをしたら債券市場がどうなるかと言うと、これがまたリアルの短期金利はそんなに下がらないのですから金利の下げよりも例によって他市場の動向に影響されそうな気がしますけどね

では内容をサラサラと。基本的に現状認識に関する部分は華麗にスルーして先行き見通しに関する部分を引用しますね。


○世界経済のリスクで中国に注目とな

世界経済の先行きに関して。

『先行きは、国際金融資本市場の安定が続く中で、海外経済も改善が続いていくとみています。新興国が拡大を続けるほか、欧米経済も、バランスシート問題の解消に時間がかかるとはいえ、徐々に回復の度合いが高まるとみられます。ただし、こうした見通しには、様々な不確実性があります。』

で、その不確実性ですが。

『まず、国際金融資本市場は、長めの期間の資金取引で、市場取引の厚みや流動性の回復が遅れています。また、欧州周辺国の財政赤字を巡る問題を契機に、各国で財政の健全性や持続可能性への関心が高まっています。』

まあこの部分は「はあはあそうですか」という感じですが、長めの期間の資金取引って色々な流動性供給プログラムを実施したら市場取引減るわなという気がするです。

『次に、海外経済の先行きにも、不確定要因が数多くあります。先ほど述べた欧米先進国のバランスシート問題の解消が想定以上に時間を要しますと、それだけ経済の足を引っ張ります。』

日本の経験からすると足を引っ張るだろうなあと思います。

『また、新興国経済の過熱懸念という新たな悩みも生まれつつあります。中国では、住宅価格が都市部を中心に急上昇しています。このような上昇は、従来からの沿海部に加え、最近では内陸部でもみられます。加えて、賃金や物価の上昇率も徐々に高まりつつあります。また、その他の多くの新興国でも、インフレ懸念が生じています。これらの新興国では利上げや貸出抑制策などを発動していますが、いずれも難しい対応を迫られています。』

ということで新興国の話があるのですが、これが白川総裁様あたりにかかると物価方面の上振れとかの話になってもおかしくは無いのですけれども、この後のトーンも警戒的ですな(^^)。

『抑制策が強すぎますと、経済のメインエンジンに急ブレーキがかかってしまいます。他方、抑制策が不十分な場合には、目先は景気の上振れ要因となりますが、先行き、行き過ぎを大きく是正する必要が生じ、結局経済を不安定化させてしまう恐れがあります。』

これは下振れリスク強調ネタという感じですわな。で、その後ですが、

『特に中国経済の先行きには注意が必要です。』

ということで中国経済に関してこのように指摘しています。

『情報通信技術の発展を最大限に利用して、世界的な分業体制の構築が進む中で、中国は「爆発的」ともいうべきペースで成長し、一部では「世界の工場」と言える存在となりました。これまで先進各国は、成長の過程で、人的・技術的・資金的な面での制約を乗り越えながら、いくつもの段階を経て発展してきました。ところが、中国は、技術や金融のグローバル化の恩恵により、これらの制約を一度に乗り越え、かつ同時にいくつかの発展段階が混在するような発展を遂げつつあります。』

ほうほう。

『しかしこのような成長が続いていけば、いずれ労働力や資源などの面にボトルネックが生じ、急速にインフレ圧力が強まり、あるいは成長の天井に達してしまう可能性も否定できません。その場合には、わが国の経済にも大きな影響が及びます。』

と言う事で、中国失速リスクを警戒というお話でした。


○国内景気回復持続力について

国内景気に関しては先行き持ち直しという話で、各需要項目に関する指摘がありますがその辺はスルーしまして。

『市場などでは、一頃、いわゆる「二番底」の懸念もありましたが、景気が再び大きく落ち込む恐れはかなり後退したと判断しています。』

なのですが・・・・

『では、その先の回復持続力はどうでしょうか。ポイントは、金融危機に際し講じられた景気刺激策の効果が次第に弱まっていく時点で、民間需要の自律的な回復力が高まり、うまくバトンタッチできるかです。』

さいですな。

『民間需要が十分に回復していなければ、懸念されていた景気の落ち込みが、後ずれしたタイミングで起きてしまいます。しかし輸出・生産の改善が持続すれば、設備の稼働状況は改善し、売上げ増加から収益も回復します。そうなれば設備投資が回復する条件が整いますし、次第に産業の裾野を構成する中小企業、あるいは給与や配当などを通じて家計へと、回復の広がりが見えてきます。このように、持ち直しが持続すれば、いわば助走区間が長い分だけ、景気回復の基盤がより固まっていく形になります。』

では自律的な回復をするのかという点ですが、

『ただ、中小企業や家計へと回復が広がるタイミングは、やや幅をもってみておく必要があります。輸出や生産を担う企業は、厳しい国際競争圧力に晒されています。競争力維持の観点から海外投資を優先したり、従業員への還元を抑制する可能性もあります。部品調達先が海外にも拡がり、国内関連企業に波及する度合いが低下しているようにも見えます。これらの結果、中小企業や家計への波及が遅れる可能性も意識しておく必要があると考えています。』

これは前回の景気回復過程を勘案すると「可能性を意識する」というよりは「蓋然性が高い」というレベルのような気がします。所謂ダム論的な考え方は残念ながらシナリオとしてはちょっとねえという感じがしますので、そーゆー辺りを考えると回復の持続性ってどうよという話になるような気がせんでもない。


○成長期待の低下も不確実材料とな

『景気の先行きを巡っては、このほかにも上下両方向に様々な不確実性があります。このうち、海外情勢に関する点は、先ほど申し上げた通りです。加えて、国内に起因する不確実性として、企業の成長期待の動向が極めて重要です。』

なるほど。

『金融危機の発生以降、企業は将来に対して慎重なスタンスを急速に強めました。その後、徐々に改善しましたが、企業経営者の方々からは、先行きに自信が持てないという声が根強く聞かれます。先行きに対する悲観的な見方が強まりますと、企業活動の萎縮にも繋がります。この点、内閣府が実施した大企業を対象とするアンケート調査では、中長期的な成長期待は維持されています。ただし、企業数でも従業員数でも、圧倒的多数を占めるのは中小企業です。今月初に公表された短観では、中小企業の業況感は、改善しているとはいえ、大企業、あるいは景気全体の持ち直しに比べ、遅れが目立ちます。』

ということで、短観って割と良さげな数字だったような気がするんですが、中小企業の持ち直しの遅れをここで指摘するというのも何かこう先般の白川総裁会見に見られた「循環的な回復は絶好調だぜヒャッハー!」的な雰囲気とは違いますなあという所で。


○物価見通しに関して

物価に関してはまああまりパッとしない見通しになっていますが、その中で先行きに関する好材料に関する指摘が幾つか。

『しかし、デフレ克服へ向け、幾条かの光が見え始めているとも言えます。』

『1つは、企業の価格設定態度や消費者の購買行動に生じている微妙な変化です。』

ということで、際限のない価格競争に歯止めが掛かりつつあるという指摘。

『2つめに、昨年春先に輸出や生産が底を打ち、その後景気が全体として持ち直しを続けている影響が、今後次第に出てくることが挙げられます。』

って何ですかという話ですが。

『過去の経験則では、景気変動が物価上昇率に影響を与えるまでには1年程度の時間的なずれがあります。その意味では、昨年央から今年春までは、その1年前の急速な景気の落ち込みが、時間差をもって物価に強い下方圧力をもたらした時期といえます。そして昨年春以降の景気持ち直しの影響が物価に及んでくるのは、むしろこれからと見ることができます。』

これはまあ先般白川総裁も指摘していました。ホンマカイナという気もするが。

『3つめは、今まで述べた企業の価格設定態度の変化や、景気持ち直しのずれを伴った影響を反映して、物価の基調的な動きに変化がみられることです。』

ということですが、コアCPI刈込平均の下落幅が縮小している点を指摘しています。引用は長くなるので割愛。

『以上を踏まえますと、先行きも景気の持ち直しが続いてマクロ的な需給バランスが改善していくため、物価下落幅の縮小傾向が続いていくとみています。』

と日銀のメインシナリオに沿っていますが、リスクに関しては2点を指摘。

『1点目は、海外経済に起因するリスクです。これはデフレ方向、インフレ方向の双方向にリスクがあります。』

となっていますので、まあこちらでは上振れのリスクも示していますが、もう1点の方には注意でしょうな。

『2点目は人々の物価観です。人々が今後もデフレが続くという予想を強めますと、物価には押し下げ圧力がかかります。この点、人々の中長期的な予想物価上昇率は、サーベイデータで見る限り、1%程度で維持されています。しかし主観的な要素であるだけに、今後変化が生じる可能性は否定できません。』

『従来から、人々の物価観は、過去の物価変動に影響されやすいと言われています。この点で注意したいのは、今年度からの高校授業料の実質無償化が、消費者物価の変動率を0.5%前後押し下げるとみられる点です。こうした制度変更に伴う特殊要因の影響は1年間で剥落するもので、基調となる動きとは切り離して考えるべき性格のものです。しかし、表面上は当面の物価下落幅を拡大させるだけに、人々の物価観に影響を与える可能性には注意しておく必要があると思います。』

ということで、そーゆー点では先般の消費者意識アンケートでも微妙に物価見通しが下がっているので、懸念材料ではないかという話になるんでしょうな。



○金融政策に関して

で、金融政策に関してですが・・・・・

『金融危機のように大きなショックが生じた際にとるべき対応は、ある意味で明確です。そこで必要とされるのは、適時に(Timely)、対象を絞り(Targeted)、期間を限った(Temporary)、応急措置です。CP・社債市場の急激な機能低下に対処した時限措置は好例です。対照的に、デフレに象徴される経済の沈滞は根深い問題であり、その対応は金融危機への対応とは性格が異なります。生活習慣病に即効性が高い薬がないように、直ちに目覚しい効果がみえるわけではありませんが、粘り強く金融緩和を続けていくことが大切だと考えています。』

という辺りから「循環的な回復とデフレの問題は切り分けて考える」というようなロジック展開が見える気がするのはあたくしの思い込み成分も入っているとは思いますが、まあそういう気がするですな。で、ちょっと先に行きまして、先般景気上振れの中で金融緩和を行った理由について。

『景気が上振れ気味であるなかで追加緩和に踏み切ったことに、意外感を持たれる向きもありました。しかし、日本経済が、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するにはなお時間を要する状況が続いているため、追加的な緩和措置を通じ、経済・物価の改善の動きを確かなものにすることが必要であると判断しました。』

『この点は、次のことを考えて頂くとご理解頂きやすいのではないかと思います。企業活動が萎縮しているときには、低金利の効果が十分に発揮されない恐れがあります。企業に意欲がない限り、低金利が投資や雇用の増加に繋がるとは限らないからです。』

経済が回復してコンフィデンスが戻ったら従来の緩和措置の効果が高まるという話はこの前コーンさんも言ってましたし、まあそれはそうでしょうなあと存じます。

『このことを、古くからある慣用句を用いれば、「馬を水辺に連れて行くことは出来ても、無理やり水を飲ませることはできない」と表現することがあります。しかし逆に、消耗していた馬が少し元気になったタイミングを捉えて水辺に連れて行けばどうでしょう。喜んで水を飲み、また元気に走り出すようになる可能性が高まる、と言えるのではないでしょうか。今回の追加緩和措置は、このような形で、経済・物価の改善を確かなものとすることに資すると考えています。』

まあ何か判ったような判らんような話ですが、回復過程において金融緩和を継続した場合には押し上げの効果が高まりますよという話ですが、そっちのロジックで今後も突き進むのは追加緩和のような物をやるのに中々ムツカシヤという感じも致しますし、デフレの構造要因を強調した方がロジックが楽なのではないかという気がします。で、今回は何気に下ぶれとデフレの話を強調しているようなので、展望レポートではその辺りを強調するんじゃないかなあというのはあたくしの勝手な妄想です、はい。

ただまあさすがに追加緩和のような物をして金利が下がるかと言う話に関してはこれまた判ったような判らんような説明で「回復過程で効果が高まるんです」という話をしてますわな。

『金利が既に相当低いことから、金融緩和による低下余地は自ずと限られてきます。』

そらそうよ。

『しかし、これは、金融緩和が限界に達しているということは意味しません。企業にとっては、資金調達金利の水準は、収益率との関係でこそ意味を持つからです。仮に低コストで資金を調達できても、有望な投資案件に乏しければ、企業活動を活発化する力は限定されます。逆に、低金利が継続するなかで、景気が回復し、収益性の高い案件が増えてくれば、低コストで調達できる資金の使い勝手が大きく向上します。今後、景気は持ち直しを続け、企業の収益率も更なる改善が見込まれます。その中で、日本銀行は、極めて緩和的な金融環境を維持することを明確にしています。つまり、金融緩和の効果は、今後、一段と強まっていくことになります。』

まあそういうことですので、基本的には「このままでも緩和効果は高まりますよ」という事なのでしょうけれども、景気判断上振れの中でも緩和はしますという話をしたので、その点では先般の白川総裁のKYちっくな会見とはトーンが違いますねえという感じがしましたです、はい。


#引用大増量企画でどうもすいません

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2009/11/05

○講演が山のようだが西村副総裁講演からちょっとだけ

本当は展望レポートのリスクバランスの話とか、総裁講演とかも面白いのでありますが、FOMCステートメント読んでいたら時間がだいぶ経過しやがったので、西村副総裁講演から一発ネタを。

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/data/ko0911a.pdf
英文ですが3ページしかありませんのでご安心ください(^^)。

お題は「Unconventional Policies against Fear of “Unknown Unknowns”」ってえことで、最近の中銀ワードが両方出ているといういつもながら西村副総裁の講演(特に英語の場合)はキャッチーな表現が出ますなと感心。

でもって、読んでて「それはそうだがこの前の講演はなんだったんだ」と一人でツッコミを入れてたのは本文2ページ(ファイルの3ページ)目の『Looking Ahead: No Free Umbrella against Plain Old Rain』って小見出しから先の所。何か難しいのですが、「雨が明白に止んだら無料の傘は取り上げますがな」と言ってるんでしょうかね。

『Clearly, central banks’ provision of catastrophe insurance measures has worked quite well, together with various governmental measures of similar characteristics. Immediate dangers have subsided, though we are still facing a possibly bumpy adjustment process after the collapse of the “credit bubble”.』

クレジットバブルの調整圧力はまだ残るものの、当面の危機的状況は中銀の危機対応政策(がUnconventional Policiesなのですが)によって抑制されましたですというのはまあさよですな。

『In order to look ahead, the following two points should be kept in mind.』

ほうほうそれでそれで?

『First, these catastrophe-insurance measures are in fact “free” insurance. Beneficiaries of these measures do not pay fair, or, in many cases, any premium for these hedges. Rather, central banks and governments implemented these measures against the “unusual and exigent” circumstances of contagious confidence erosion.』

『Thus, the measures were to be temporary. A permanent provision of such free put-like options obviously distorts the market mechanism and prompts undesirable risk taking or “moral hazard.” To put it differently, free shelters should be provided against a hurricane, but there should be no free umbrella against plain old rain.』

中銀が行った危機対応の対策は(危機対応お助けプランなのですから当たり前なのですが)言うならば「無料保険」みたいなものなので危機が去っても置いて置くのはモラルハザードやフリーランチが置きますとな。

『Second, central banks’ ability of providing “catastrophe insurance” is not unlimited and depends crucially on market participants’ confidence in them. Some measures taken by central banks impose financial and possibly reputational risks on themselves. An option provider should make sure that it would not seriously undermine its capital base.』

中銀が無制限にお助け政策をする弊害として中銀の信認問題の話をしているような気がします。

『That being said, unconventional, catastrophe insurance-like measures should be explicitly temporary and for some measures “self-fading” as market conditions improve. Currently, we see in fact some measures winding down in the US and other places, including Japan, and some other measures, such as the U.S. Treasury’s Guarantee Program for Money Market Funds, to have expired. The wind-down shall be carefully arranged, in some cases step by step, to avoid possible transitional problems as much as possible.』

危機対応は明らかに一時的であるべきだと。日米もそれを実践中ですという話もしているようで。

『Finally, I would like to add that as the immediate threat subsides and the hurricane shelters are removed, nobody assumes that that is the end of public efforts to rebuild the devastated community. This is exactly the same for central banks’ unconventional measures. Although the balance sheets of central banks may be reduced when these unconventional measures are faded out, this is not a sign of a change in the stance of central banks. Rather, this is the sign that central banks can now use conventional means more effectively to pursue current monetary policy.』

中銀のバランスシートが縮小しているのは危機対応モードの非伝統的政策から脱却していくサインであり、現在の金融政策(というのですから緩和的な金融政策という事を言いたいのでしょう)がより効果的になっていく事を意味する。という話で締めていますので、「非伝統的政策脱却は出口政策ではなく、環境が改善して金融緩和効果が出やすくなっている状態になっているサインだよ」といわゆる出口政策と非伝統的政策からの脱却を分けるという話をしています。

・・・・えーっと、いやまあこの話自体はそれはそれで筋の通った話なのでありますが(タイミングとして今なのかという部分は措くとしてね)、副総裁この前のブエノスアイレスでの講演はありゃ一体全体何だったんですかいなというお話になるのでありまして・・・・いやまあいいです。

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2009/10/23

○西村副総裁会見から

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0910c.pdf

昨日ご紹介した西村副総裁講演と基本的な流れは同じでして、「展望レポートでの先行き見通しは下振れ警戒しつつ、企業金融臨時措置は解除しましょう」ってえのが基本になってますわな。

でですね、それって政策の整合性ってどうなのというのは連日申し上げているので繰り返しませんけど、どうも上記の一連の流れっていうのは、「企業金融関連の臨時措置は解除(または手直し)する」「そうなった場合のマーケットインパクトを軽減しないといけませんね」「じゃあ展望レポートで時間軸を強化しましょう」っていうような感じがヒシヒシと伝わって来る次第。いやまあマーケット的にはその理屈も判らんでも無いのですが、やはり政策としての一貫性という意味ではアクセルとブレーキを両方踏むような話だと思うのですよね。

下振れリスクがあるんなら別に今ここで解除せんでも良いのにと思うのですけど、まあ同じ話ばっかしてもアレですので、以下会見引用ちゅうことで(^^)。


・セーフティーネットの弊害ですかそうですか

『(問) 臨時措置の効果とその必要性に関してお伺いします。9月1日に公表された西村副総裁のブエノスアイレスにおける講演の中で、セーフティーネットについて、改善していることだけをもって臨時措置をやめることについては慎重なコメントをされていました。(途中割愛)このところ間接金融、直接金融ともに改善しているとみられる中で、セーフティーネットからみた各種措置の必要性について現状ではどうお考えなのでしょうか。』

答えがやたら長いので途中から。

『(答)(前半割愛)したがって、ブエノスアイレスの講演でも申し上げましたように、そのスキームというのは確かに効果を持っており、そして、その結果、確かに使われなくなってきました。使われなくなってきたというのは効果があったからです。セーフティーネットが使われないからと言って効果がないと断定するのは適切ではないということになります。』

という話ですが、この先から話の筋がこの前としらっと変化するのだ。

『それと同時に、私もブエノスアイレス講演の中の「4つの基本的な考え方」という箇所で説明しましたが、この異例の措置は、やはり色々な意味でミクロの資源配分への介入になります。かつ、リスク資産の買取り等では中央銀行自らをリスクに晒すことになります。そして市場に対してある種の歪み──これはある程度は意図したというか、予想された歪みですが──をもたらすことになります。』

ふむふむ。

『そしてセーフティーネットがずっと存在すると言うことは、これは明らかに、モラルハザードの問題が生じます。こういった点も含めて全体を勘案して現在はどういう状況にあるかということを見なければいけないのです。』

あらま。

『したがって、先ほど申し上げましたように、1つの市場だけを見ることではいけない、全体を見なくてはいけない、ということです。まさに今はその全体を見る状況だろうと思います。そういう中で、今後この時限措置、主なものは3つの時限措置ですが、その1つ1つを個別に見るのではなく全体として包括的に判断していくというのが一番望ましいだろうと思っています。市場機能の改善の度合い、それから市場参加者の過度の不安心理が十分に解消したか、これからもう一度頭をもたげる可能性があるのかということを考えながら、適切に取りまとめて判断するということが望ましいと考えています。』

どう見てもセットでやる気満々です本当にありがとうございました。


・特別オペをピンポイントで聞く人まで出てきます(^^)

特オペについてピンポイントで質問してきた人まで登場しまして、そちらに対する答がまた微妙にアレでして。

『(答) 企業金融支援特別オペの基本を確認しますと、これは、固定金利で、担保の範囲内で金額無制限に資金供給をするということです。これを通じて、金融機関の資金調達を支援して、金融市場の安定を確保するという点で非常に大きな効果を発揮したと思っています。それと同時に、担保を企業債務に限定しているということで、これは間接的効果ですが、企業金融への支援の効果も相当あったと考えられます。』

何かこの話だと企業金融支援よりも金利固定とか資金の潤沢供給がメインであるかのような話で、企業金融支援のトーンを下げている所が微妙に???なのですが、この施策を導入した時はどういう理屈でしたっけと思って過去の公表文書を見ますとこれがまた何というか微妙なのです。

昨年12月2日の公表文
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/un0812b.pdf

『民間企業債務を担保とする資金供給面の工夫として、「共通担保として差入れられている民間企業債務の担保価額の範囲内で、金額に制限を設けずに、無担保コールレートの誘導目標と同水準の金利で、年度末越え資金を供給するオペレーション」(別紙2)を導入する。』

昨年12月19日の公表文
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k081219.pdf

『2.企業金融の円滑化に向けた措置
(1)企業金融支援特別オペレーションの決定(全員一致(注1))
12 月2日の金融政策決定会合で導入することとした「民間企業債務を活用した新たなオペレーション」について、「企業金融支援特別オペレーション基本要領」等を決定した。同オペレーションは、来年1月8日より実施する(別添)。』

・・・・なるほど。具体的な施策の名前は「企業金融オペ」でCP買入(この時は買入の方は詳細まではまだでした)とセットで実施したのですが、そもそもその前に導入を決定した時はあくまでも「資金供給手段の新しい工夫」だったですわ。で、今になって12月2日の理屈が蘇ってくるというのが日銀恐るべしという所でありまして、色々な筋を使った理屈を埋め込んでいるんですなあと変な所で感心してしまいましたです(−−)。

ということで、どさくさに紛れて徐々に「企業金融支援」よりも「資金供給の新たな工夫による臨時措置」という話に持っていくという驚倒すべき日銀的な「別の理屈がしらっと登場」により続く説明も何となくそんな流れになるのです。

『この特別オペの取扱いを検討していく際に重要な点は、過度の不安感が十分に解消したのか、再び頭をもたげることがないのかという点と、金融市場の分断、それによる価格形成の歪みの有無、価格の情報としての機能が十分に回復しているかどうかの2点です。』

どう見ても市場価格しか注目してません本当に(ry

『そうした2点から考えると、企業金融支援というのは、最初の時点では過度の不安解消ということに対して確かに非常に強かったと思いますし、それは、現在のところはかなり解消したという状況――これは一部を除いてということですが――であると思います。それから、企業金融の状況の改善という点ではかなりの大きな改善があったと思います。』

ちょっと前までは「CP市場などでの短国CP逆転などはあるけど、局地的な動きだけフォーカスして解除議論をするのはイクナイ」って話をしていたというのにこの見事な攻撃はさすがです。

『ただし、これが今後も十分に維持できるかという重要な点を考えていかなくてはいけません。それを考えるためのポイントとしては、先ほど申し上げましたとおり、単純に一つの企業金融の市場をみるのではなくて、企業金融全般をみていく、そして間接金融への染み出しについてもみていかなくてはなりません。』

その前の話で散々金融市場の改善を強調しているのですが・・・いやまあいいです。

『そういう意味で考えていくならば、やはり、しっかりと現在の状況を把握し、将来どういう状況になっていくかということについての予想を立てながら判断していくということになります。また、これは他の手段等とのセットとして考えてきたわけですから、当然、包括的に取りまとめて次回の決定会合以降に判断をすると考えて頂いて結構です。』

つまり次回会合は展望レポートに加えて臨時措置がどうのこうのという議論を1日で行いますという事のようですが、大引けに間に合わないんじゃネーノという感じでございますな。いやまあきっちり議論して頂きたいので別に間に合わなくても良いですけど(^^)。


・でもって景気認識は「バンピーロード」とな

昨日は講演の引用で景気認識の方を散々引用しましたので、まあそっちの引用はちょっとにしますが、キャッチーな言葉があったのでその辺を引用します。国内の景気二番底懸念に対する質問がありまして、それに対する西村さんのお答え。

『「二番底」という言葉が適当か、適当でないかという論点もありますが、日本だけではなく、世界全体を見渡してみましても、各国の政策担当者、特に中央銀行には、今後自らが進む道は平坦な道ではない、つまり「でこぼこ道(バンピーロード)」であるということに関して、ほぼ共通な理解があると言っていいと思います。』

これはまたキャッチーなお言葉(^^)。

『そういう意味で、ご指摘になったように、今の政策効果がどういうかたちで持続していくのか、あるいは剥げ落ちていくのか、それから他の政策効果が効いてくる、例えばアメリカの場合であれば公共事業が効いてくる、日本の場合であれば消費者に対する新しい対応が効いてくる、そういったものが複雑に絡み合うわけです。そういう点から考えれば、私どもが見通している回復そのものも、かなり「でこぼこな回復」という形になると思います。』

そういえば白川総裁は「偽りの夜明け」と仰っていましたなあ(遠い目)。

『ただ、少なくとも各国政府は、景気回復が確実となるまで現在の緩和・拡張的な政策を続けていくというコミットメントをしているのですから、そういう意味で大きな「二番底」は考え難いとみた方がいいだろうと思います。しかし、回復の道が決して平坦ではなくて、かつ時間がかかり、そしてなかなか厳しいものになるということについては、世界がそうなるとすれば、やはり世界との相関がだんだん高くなってきている日本においても同じようなことになる可能性は高いのだろうと思います。』

ということでこちらでも何となく時間軸を強調するでござるの巻。

『重要な点は、「バンピーロードであるから放っておいていい」という話ではなくて、「此処其処に対して適切なマクロ財政・金融政策を世界で考えていく」ということが一番肝要な点だと思っています。』

だからバンピーロードをこれから走るのに何でサスペンション(なのかバンパーなのか判りませんが^^)を外そうという話が出てくるかと小一時間問い詰めたいのですが・・・・・


○まあそりゃ金利上がると金利市場的には結構な話なんですけど・・・・

とまあここもとしつこくこのネタに絡んでいる粘着質のあたくしでございますが、いやまあ市場の上がりでメシの種を頂いておりますあたくしと致しましては、そりゃまあ金利が上がった方がオイチイ(特別オペを外したらそれなりに金利は上昇すると思います。上昇しなかったら全俺が泣くが^^)ですけど、そう話は簡単じゃないっしょって事なんですな。

#市場の人的には今更の話ですが、「金利が上昇」→「債券価格下落」→「保有債券が損失」だから債券の投資家は金利上昇で困るって解説をよく見るんですが、そりゃまあ短期的にはロングの分が時価的にやられるという話なので困るには困りますが、それよりも金利上昇によって(債券は償還や利払いによって自動的に再投資の金が入って来るのが株と違う所)より長い目で見ればポートの利回りが上昇して、その分参加者全体の実入りが増えるのでして、金利急上昇とかいう事でなければ基本的に金利上がっても困らんのです。と一般の人向けに一言

つまりですな、このバンピーロード中かつ政府が中小企業金融支援とか言ってるという状況の元で、(実際問題として本当に中小企業金融支援にどの程度の効果があるかは兎も角として)企業金融支援と銘打った臨時措置の解除を行うとなりますと、今後景気が失速した場合に今度は(市場でメシの種を頂いてる人的には)恐怖のゼロ金利政策とかいう話になってしまう訳でして(−−)、目先オイチイ話でもその後倍返しを食らったら1ミリも意味が無いのですわな。

と思いますので、まあ判断は慎重にして頂きたいと切にお願いしたい次第なのでありますけど、執行部の爆走はノンストップのように見えるのでして、あのーこの先はバンピーロードなんですけど徐行運転しないんっすか??って感じっす。


などとつらつら書いておりまして今更気がつきましたが、政策の整合性という意味ではFRBも大概にワケワカメなのでありまして(^^)、やはり見せ方というか狸成分というか、まあそーゆー物も大事な話ですなあなどと思ってしまうあたくしなのでありました(苦笑)。

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2009/10/22

○西村副総裁講演ですが

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko0910b.pdf

基本的に「景気に対する下振れリスクが依然として残る」というのと「企業金融特別措置は一気にやるかどうかはともかく解除の方向」という話でありまして、何気に西村副総裁の講演は長い(つーか最近の講演は皆さん長いのが仕様)ので、早足で引用するのだ。

・景気に関して

国内景気の先行き見通しについて。

『景気の先行きは、当面は世界経済の動向に大きく依存する展開となりますが、先ほど申し上げました通り、これについては緩やかながらも持ち直していくと考えています。』

『もっとも、景気見通しを巡る不確実性は、依然高いとみています。最大のリスク要因は、やはり世界経済の動向です。これには、先に申し上げた通り、上下両方向のリスクが存在します。また、国内固有のリスク要因としては、国内外で従来と比べ成長率が低下する下で、企業の中長期的な成長期待が下振れるリスクが存在します。』

『このように景気の先行きを巡っては、上下双方に様々なリスク要因が存在しますが、リスク要因全体でみますと、現時点ではなお下振れリスクの方が高い状況が続いているのではないかと判断しています。いずれにしましても、こうした様々なリスク要因に十分注意しながら、引き続き、経済情勢を丹念に点検していく所存です。』

昨日(やっと)引用致しました先週水曜の白川総裁定例記者会見でも指摘している質問者がいましたが、先日の総裁もそうですが、西村副総裁の今回の講演でも、景気に関するコメントとしては「改善方向だけど下振れリスク警戒」の「下振れリスク」の方をやや強調気味になっている感じはします。で、物価の見通しに関してはまあ先行き厳しいでしょという話になる訳で、物価に関する部分を引用。


・物価に関して

消費者物価の先行き見通しに関して。

『消費者物価前年比の先行きについて展望しますと、石油製品価格高騰の反動の影響が薄れていくとともに、景気の持ち直しにより経済の需給バランスが改善していく中で、下落幅は縮小していくと考えられます。もっとも、昨年秋以降の急激な景気の落ち込みを反映して、需給バランスは大きく緩んだと考えられ、その改善テンポは緩慢とみられるため、前年比でみた物価下落が相応の期間続く可能性が高い状況にあります。』

『このような消費者物価の下落傾向は、実は日本だけでなく米国をはじめ主要先進国で広範にみられる現象です。これらの国の多くでは、経済を襲った負の需要ショックが余りに大きかったため、今後景気は持ち直していくものの、物価が望ましいと考えられる上昇率に復するまで、かなり時間を要する姿が予想されています。』

ということで、こちらに関してはダメダメ感の強いお話ですが、これがまたチャーミングな事に、デフレとデフレスパイラルを分けて理解をするという最近良く出てくる説明がその後に続くのでした。


・デフレとデフレスパイラルって話ですかねえ

んでまあデフレという話が出てますが・・・・という所から例の説明になってくるのでありまする。

『重要なのは、こうした特定の「デフレ」の定義に基づいた議論ではなく、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長に復する展望が拓けるか否かという点です。その観点から、物価下落が起点となって景気悪化をもたらすことのないようにすることが大事であると考えています。そのためには、以下の2点が重要であると思われます。』

これはまあ白川総裁なども言及してますし、確かにまあ物価低迷下での景気拡大局面という場面も過去にあったっすなあというのもありますので、まーこーゆー説明が出てくるってえ話になると思うのですけど、やはり微妙な気がするというか、日銀はそんなに物価上昇お嫌いなの?というツッコミを食らいそうな説明だと思うのれす。現実問題としてじゃあどこまで中央銀行単独で出来るのかという話になってくるとこれまた難しい問題になりそうなので、頭の悪いあたくしは勉強しないとお話は出来ないのですけど(涙)。

『第1には、金融システムの安定が維持されていることです。』
『第2には、中長期的な物価上昇率の予想が、足下の物価上昇率の推移に引き摺られて下落することなく、安定していることです。』

という話は既に白川総裁などもしていますので内容割愛。

『こうした観点から、最近のわが国の物価動向を巡る状況を評価しますと、まず、わが国の金融システムについては、これまでのところ欧米諸国と比べて不良債権など自国に由来するストレスは小さいとみられます。また、中長期的な物価上昇率の予想についても、サーベイ調査や市場のデータから推測する限り、これまでのところ大きな変調を来たしているとは考えられません。』

というのがメインシナリオですけど。

『もっとも、世界経済がバランスシート調整の途上にある下では、これに起因する金融システム面でのリスクはなかなか払拭しきれるものではありません。また、物価の下落が相応の期間続くことが見込まれる状況では、中長期的な物価上昇率の予想が、物価上昇率の実績に引き摺られて大きく下振れる脆弱性リスクを抱えていることとなります。これらの下振れリスクに十分に留意して、今後とも物価動向を注視していく所存です。』

ということで、下ぶれるに「大きく」までおまけがつくという次第ですので、物価警戒モードにはなっているというのがアピールされていますわな。



・という訳で緩和的政策の継続という話に

金融政策の出口政策に関する話をしていますが、そちらでは緩和的な金融政策の継続の話が出ています。

『この点、先月のG20 財務大臣・中央銀行総裁会議では、次の通り確認されました。すなわち、出口戦略については、「国や政策手段によって時期や順序は異なるが」、「景気回復が確実になるまで、必要な金融支援や拡張的な財政・金融政策の実施を継続する」というものです。こうした考え方は、先日のG7でも改めて共有されました。』

『実際、欧米において様々な調整が進捗するには、なおかなりの時間を要すると考えられ、その間は、拡張的なマクロ経済政策により経済の下支えを続けていく必要があります。わが国経済も、ようやく持ち直しの緒についたばかりであり、金融政策運営面では、持続的成長経路への復帰を支援するため、緩和的な金融環境を粘り強く確保することが重要であると考えています。』


・・・・とまあそういう感じでして、実は景気の所とか物価の所とかでの話になると「低金利継続」へのアピールはきっちりしているのですけれども、まあ当然ながらニュース的にオイシイのは金融政策の変更に関わる部分でして、企業金融オペの解除に掛かる部分の報道が多いのは当然。


・どう見ても次回会合解除やる気満々です本当にありがとうございました

企業金融環境に関する話の部分とかがこれまた長いのですが、引用してるとキリが無いし、まあ白川総裁の会見やら金融経済月報でも示されているのでその辺の引用を全部割愛しちゃいまして(手抜き)、結論の所だけ。

『一方、昨年秋のリーマン・ブラザーズ破綻をきっかけとする「市場参加者の過度の不安心理」や「市場機能の急激な低下」などの急性症状に対応して導入した緊急手段の取り扱いは、只今申し述べたようなマクロ経済政策の出口とは異なる問題であり、過度の不安心理の解消度合い、市場機能の回復度合いなどに応じて見直していくことが適当であると考えられています。実際、米国では、Fed による長期国債の買入れやTAF(Term Auction Facility)と呼ばれる期間の長い資金供給オペなどいくつかの措置について、既に停止あるいは縮小の方針が打ち出されています。』

『私どもの各種の時限措置の取り扱いについても、それぞれの効果や必要性をできるだけ包括的に点検した上で、次回金融政策決定会合以降の適切なタイミングでとりまとめて判断してまいりたいと考えています。』

もうね、こーゆー時だけサクサクと他国の話を持ってくるのが(緩和の時は協調緩和とか言わないのに)日銀クオリティだと思うのですけど、まーこのトーンは普通に次回会合での解除やる気満々という話になるのですが、本当に全ての審議委員がその線でまとまっているのかも怪しいですし、大体からして展望レポートで厳しい話を出すなかでの整合性はどうよというのもありますし、どっからどこまで解除するのかしないのかとか、さっぱり判らん部分も多いのですが、とりあえず執行部様に置かれましてはやる気満々というのだけは把握しました(というかニュースもその方向で報道されてましたけど)。


○つまり臨時措置解除に時間軸の確認をセットにしたいのでしょうけれども・・・・

以下あたくしのまとまって無い妄想モード。

西村さんの講演をざざーっと読みますと、トーンとしては景気認識や物価認識、特に物価に関する警戒モードになっている中で企業金融措置の解除見直しに積極的という話になっておりまして、これをセットとして考えると、臨時措置を解除しながら時間軸については堅持し、時間軸が揺らがないように注意する。という話で持っていこうとしているのは把握しました。

ただね、そう世の中上手くいくかというと、これまた昨日も申し上げたと思いますが、今回の解除騒動がどう見ても総裁主導で唐突に出てきたものでして、そーゆー点では市場的には「やっぱり白川さんも隙あらば正常化路線」という認識を与えてしまったように思える訳でして、ちょっとでも経済指標(たぶん物価とかそうじゃなかったら株価)が改善してくると時間軸があっさり揺らぐという感じになるんじゃないのかという気がします。

だからと言ってまた前のようなコミットメントをするのかと考えると、まあドタ勘的には白川さんはそういうのやらなさそうな感じですし、目先は展望レポートの物価見通しとセットで(というのも政策の整合性上如何なものかって思いますがそこは一応オミットして)時間軸を確認しつつ臨時措置の解除という市場的には訳判りますが、常識的に考えると微妙なバーターみたいは話で乗り切るんでしょうけど、その先ではまた色々と波乱になりそうな悪寒もするのであります。

というこのネタはもっと掘っていかないといけない話なので、今日はメモだけ。

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2009/09/16

○さて西村副総裁講演の続き

このネタで引っ張ってどうもすいません。

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0909a.pdf

・市場機能回復の施策に関する4原則(の続き)

『Four Practical Principles to Cope with Market Dysfunctions』の続きから。

昨日書いたのを再掲しますけど、
『Principle 1. Select and Concentrate』
『Principle 2. Avoid Further Dysfunction』
『Principle 3. Provide Safety Nets』
『Principle 4. Design Measures to be Self-Fading as Conditions Improve』
の2番目からです。

2の「更なるDysfunctionを避ける」というのは、個別市場への介入のやり過ぎで他の市場の機能低下を招くという結果にならないようにってえ話のようで、

『The decision taken by many central banks to have a policy rate close to, but sufficiently above, zero is based on this consideration.』

という話をしてます。まーそうかもしれないけど実際問題としてやっぱり市場機能は大いに低下しちゃいましたけどね。

3番目はセーフティーネットの構築ということで、市場参加者のリスク回避姿勢が極端に進んだ場合にリスク回避のスパイラルのようになって市場機能が死んでしまうのを防ぐためにセーフティーネットを作りましょうという指摘ですな。

『The current financial crisis has shown how devastating the erosion of market confidence can be. When confidence is eroded, investors are “excessively” averse to uncertainty (or the so-called unknown unknowns), and become sensitive to any news having some bearing on the worst possible case scenario. Actions that may be rational at the level of individual market participants can lead to a "fallacy of composition," which prevents the markets from restoring their functions. Even worse, functional breakdown and confidence erosion aggravate each other. In this respect, a safety-net facility, which works like a put option to mitigate damages that would be incurred in the worst possible case, is likely to reduce the degree of this “excessive uncertainty aversion.”』

で、そのセーフティーネットとしての政策はどんなのがあるかという話を日銀の例を挙げて行っていますが、そこれは「日銀の株式購入、劣後ローンの提供」を挙げ、それに加えて、ドル資金供給オペや国債買入拡大、レポ拡大、企業オペ、当座預金付利なども「ある意味でセーフティーネット」という話をしてるのはちょっと風呂敷広げすぎのような気がします。CP買入と社債買入はまあその通りだと思いますけどね。

んで4番目が「状況が改善した時に自動的にオペが減る設計」ということで、まあその話は色々な人たちがしているので同じ話なのですが、その設計ができているものが「幾つかの措置」にあるという話をしてるのがチャーミング。

『Some of the unconventional measures I have outlined have this characteristic.』

『For example, the term of outright purchases of CP and corporate bonds is substantially higher than the “normal” one, though lower than that in distressed conditions. Therefore, as conditions improve, market participants find it unprofitable to use these facilities, as exemplified in the recent decline in the usage of these facilities.』

では日本の場合で言えば企業金融特別オペとか、米国の場合で言えば財務省証券買入やらMBS買入やらはどうなのよという話になるのですが(財務省証券買入はうまいこと終了方向になりましたが^^)、そこに関しては華麗にスルーしているのがお洒落な所でありまする(^^)。


・非伝統的政策を評価するにあたって「やってはいけない」5つの事

というのがこれまた微妙にオシャレな話でして・・・・・・『3. Five Don’ts in Assessing Unconventional Policies』以下からです。まず項目を引用するとこうなります。

『(1) Don’t Take the Central Bank’s Balance Sheets as a Measure of Monetary Easing』
『(2) Don’t Look only at the Segments of Financial Markets subject to Intervention』
『(3) Don’t Underestimate Safety Nets』
『(4) Don’t Ignore Heterogeneity among Countries and Regions』
『(5) Don’t Assume a Return to the Way It Was』

ということですが、良く見ると日銀に対する意見に対する反論に読めそうな気が思いっきりするのがこれまたチャーミングな話です。

(1)バランスシートの規模は緩和度合いを必ずしも現さない

『First, do not assume the size of the central bank’s balance sheets is indicative of the degree of monetary easing.』

ということで、これは昨日ご紹介した話と同じ理屈ですが、機能していない市場への介入を行う中で、その市場規模の違いで介入規模(=非伝統的政策実施によるバランスシート拡大規模)が違ってきますがなという話でございますな。

『Many unconventional policy measures are designed to be selective and are tailored to a specific market dysfunction. Thus, there is no common yardstick evaluating all market intervention. Moreover, the usage of unconventional policy facilities declines as market functions improve. Shrinkage of a central bank’s balance sheet reflecting this mechanism should not be interpreted as a monetary tightening but rather as a sign of improving market conditions.』

で、後半で指摘しているのはその話の延長でして、「市場機能が回復に向かった場合には機能不全市場への介入が減る」ので必然的に「バランスシートは縮小方向に向かう」という事になりますが、中央銀行のバランスシート拡大を緩和度合いと見てしまうと、本来「市場機能が回復してきた」という結果としてのバランスシート縮小を「金融引き締め」と誤解する事になりますよという話ですわな。

まー拡大そのものは緩和は緩和だと思うので(信用緩和ですし)この理屈も中々微妙なところではあるのですが、要するに「信用緩和」部分と「伝統的金利政策ルートによる緩和/引き締め」という点を区別して考えないと話がややこしい事になるという整理ですな。

(2)市場状況を見るのは総合的に

『Second, do not look at the conditions of only those segments of financial markets where intervention has taken place.』

ほほう。

『In fact, there might be spill-over effects to other segments. Given resource and capital constraints, the central banks target their market interventions quite specifically. However, in so doing, central banks expect positive spill-over effects to other segments not so targeted.』

まあそりゃそうなんですけどね、どうも企業金融オペに関する悪態に対応した話なのかと思ったらやっぱりそうでした。

『A good illustration of this lies in Japanese CP markets. We see improvements, as expected and hoped for, in the A2-rated CP market even though they are not eligible for the BOJ’s purchase program. The A2-rated CP market is apparently affected by our purchase of A1-rated CP.』

短期国債と恒常的に逆転する現象が起きたり、A1格付の中での銘柄間較差が無くなって市場機能が阻害されている話に関しては華麗にスルーしているのが実にチャーミングなのですけど・・・・・・


(3)セーフティーネットを過小評価する勿れ

まあそりゃそうですなという話。社債買入などの利用が少ないから止めちまえというのは違うでしょという事ですが、そーいや最近言う人いなくなったみたいですけど、以前は「利用が少ないからもっと低格付けや長い期間の社債を買え」というポジショントークにも程がある主張をしてた何とかストの方とか居ましたな(苦笑)。

『Third, do not underestimate the beneficial effects of safety-net measures especially when investors’ confidence is fragile. When market confidence is eroded, investors are “excessively” averse to uncertainty and tend to “wait and see” until they feel more confident about making market transactions.』

『A “safety net” facility has some of the characteristics of insurance or put options and thus substantially reduces this sort of uncertainty. Just as insurance is an umbrella for unexpected rain, a safety net builds confidence whether or not dire events come to pass. An underutilized facility does not necessarily mean it is ineffective or useless.』


(4)国による状況の違いを無視しないように

まあ1番目の話に通じるのですけど、最初の所で中々心温まる話をしています。

『Fourth, do not ignore heterogeneity among countries and regions. It is not the case that every country should follow a common sequence of policies to exit from unconventional policies.』

ここまでの話に通じる話ですが、この次がチャーミング。

『Economists, including me, have a tendency to ignore statutory differences and institutional subtleties among countries and regions, to get clear-cut empirical results and policy recommendations. There are always pitfalls in this tendency, which we should be very careful to avoid.』

非伝統的政策を実施するのは「市場機能回復」なのであって、その市場状況が国によって違うので、そこを考慮しないで各国全部一緒とクリアカットに割り切る分析をするのは藪医者的だという話をしているように読めますな。

・・・・・(;∀;)イイハナシダナー

んでもって例えばということで、長期国債買入に関して米国、日本、英国がどういう理屈で実施している(いた)かを説明してますがそこは引用割愛。


(5)元に戻るとは思わないように

『Now I come to the last of the five Don’ts: Do not assume we will return to “the way it was.” Although the collapse of the global financial markets took place in a surprisingly short period of time, their rebuilding and restructuring is likely to be a long and slow process.』

ちゅうことですな。

『The “normalcy” to which we are returning is the one in which rebuilding and restructuring are still under way. Moreover, “the way it was,” that is, as financial markets were before the crisis, with high leverage and dubious securitized products, has been shown to be unsustainable.』

そらそうよということで。

んで最後ですが、まあ世の中は後戻りできないですし、状況は刻々変化するから対応も画一的なのではなくフレキシブルに行わないといけませんなあというようなお話をして締めくくっています。このネタで引っ張りまくってどうもすいませんでございましたが、講演の邦訳を出して欲しいと思うのはあたくしだけではありますまい。是非よろしくお願い致したく。

『We live in a world of irreversibility, a world in which we cannot undo what we have done. Both financial markets and real economies have changed in an irreversible way. Now we have to be flexible enough to adjust ourselves to this changing reality.』

『Thank you for your kind attention.』

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2009/09/15

という話は兎も角、西村副総裁講演という虫干しネタが続いて恐縮至極。

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0909a.pdf

○前半部分も割とシンプルに纏まってますが

昨日ご紹介した前文に続きまして本論に入るのですが、まずは「金利ルートによる金融政策(これを「伝統的金融政策」としています)の円滑な遂行には円滑に機能する金融市場が必要」という話をしまして、その後『Three Phases of Financial Markets’ Functional Breakdown in the Current Crisis』ということで、今般金融危機における市場機能の低下(というか崩壊)の過程について説明しています。順序としては(1)カウンターパーティーリスクなどの意識が高まり市場の信頼が失われ、(2)ポジションのアンワインドの動きから個別市場の価格形成機能が崩壊し、(3)金融仲介機能が壊れて実体経済への負のフィードバックが発生する、という説明をしています。

#話が横になりますが、伝統的政策とされる金利ルートでの金融政策ってえのも「伝統的」かと言うと準備率操作や窓口指導(国によっては今でもやってますし)や、マネーサプライターゲット(で金利大ブレとかね)など色々とありまして、金利ルートで一点集中というのも最近の話ではあるのですけどね

と言う部分は市場の中の人たち的には耳タコかもしれないので引用は割愛して次に参ります。


○非伝統的政策は市場機能喪失と信用の崩壊との戦いです

って『2. Unconventional Policies: Coping with Market Dysfunction and Confidence Erosion』という小見出しを勝手に訳してみただけなのですけどね(^^)。

『Given the severe adverse effects of market dysfunctions, the utmost policy priority of central banks was to find a way to alleviate market dysfunctions and thus to enhance financial intermediation, thereby restoring the monetary transmission mechanism.』

『This is what unconventional policies are all about.』

『This means unconventional policies are not exotic but extensions of conventional policies. However, central banks had to go beyond their traditional role as a liquidity provider, and to engage themselves in complementing and enhancing market functions.』

ということで、「非伝統的政策は伝統的政策を機能させる為に実施されるものであるから実は伝統的政策の延長なのです」という話ですな。

でまあ各国の実施した政策を簡単に紹介した後、市場機能崩壊に対処する4つの原則を『Four Practical Principles to Cope with Market Dysfunctions』という小見出しからの部分で説明していますが、その前に原則論を説明してます。

『Unconventional policies entail microeconomic intervention and explicit risk-taking by central banks. Thus, these policies should satisfy two basic criteria.』

その前に2つの基本的判断基準がありますとな。

『First, the benefits of market intervention should outweigh the costs of distorting resource allocation. Second, central banks should have a sufficient capital buffer of their own and appropriate burden-sharing agreements or understandings with the government to guard against possible credit losses. The latter is of the utmost importance to maintain central banks’ credibility in pursuing price stability.』

(1)市場の仲介機能回復による効用が中銀介入による資源配分の歪み発生のコストよりも高いこと、(2)クレジットロスなどに対する中央銀行の資本バッファーや政府との損失分担の仕組みが必要、という事のようですな。

んじゃまあ4原則ですが・・・・・

『Principle 1. Select and Concentrate』
『Principle 2. Avoid Further Dysfunction』
『Principle 3. Provide Safety Nets』
『Principle 4. Design Measures to be Self-Fading as Conditions Improve』

んでまたこの一つ一つの個別説明の中に色々と興味深い説明があって中々宜しいのですが、1から順に。


○各国中銀のバランスシート拡大規模はdysfunctionな市場の規模に対応

『Principle 1. Select and Concentrate』の所ですが、まず最初に説明しているのは「選択と集中」ってなだけに『中央銀行の持つリソースは無限では無いのですから、最も重要かつコスト対比効果の高い市場の機能回復に向けた選択と集中を行うべき』という話をしておりまして、その選択と集中においてはボトムアップとトップダウンのアプローチが必要という話をしています。

『In practice, this required cross-checking of bottom-up and top-down considerations. Bottom up, we started by examining the degree of dysfunction of particular financial markets, and then determined specific target segments of the markets for intervention. We worked out our specific intervention conditions and possible exit mechanisms.』

『At the same time, top down, we carefully examined the pros and cons of allocative distortion, resource constraints and operational capabilities of the central bank, and capital constraint of the central bank if the intended measures exposed it to market and credit risks. The cross-checking of these two was particularly effective.』

何となく言いたいことは判りますが、ちょっと観念的な感じがしたので訳しにくくて引用したのは内緒です。

で、その次の部分が微妙にチャーミングな話でもあるのですが。

『The immediate corollary of this principle is that, firstly, the nature and the magnitude of a particular central bank’s market intervention depends on the nature and the magnitude of its country’s financial market breakdown, and secondly, the resulting increase in the balance sheet of a central bank differs considerably from country to country.』

ということです。で、この後(って今日間に合わないから後日になりますが)で『非伝統的政策を評価するにあたってやってはいけない5つのポイント』というのがありまして、そこでポイントとして指摘されている事に通じるのですけれども、こちらでは「国によって市場(資本市場なども含め)の状況や、問題になっているdysfunctionな市場の状況が異なる」ので、「結果として中央銀行の実施する非伝統的政策によって拡大するバランスシートの規模は国によって異なる」という話をしています。

『Table 1 reports cross-country differences in corporate finance.』

んで、テーブル1というのは引用しませんが、上記URLのケツの部分にあります。具体的には・・・・・・

『In the United States, securities markets were far more important than in Japan, and even financial institutions depend heavily on CP markets for their own finance. And the collapse of securities markets was widespread. Thus, the Fed was obliged to undertake massive and wide-ranging intervention. In contrast, the strain on the Japanese securities markets was mostly contained in CP and corporate bond markets, and we saw a relatively smooth transition from security market funding to bank borrowing. Consequently, the Bank of Japan’s market intervention was limited to CP and corporate bond markets, indirectly through the banking system, which was still functioning relatively well (Item 3 of Chart 1, measures to facilitate corporate financing).』

ということで、米国市場では証券化市場が広範囲かつ大規模に亘って崩壊したのですが、日本市場ではCPや社債市場の機能不全が問題になった(という部分にはちょっとツッコミを入れたい部分があるのですがここではスルーします)のですけれども、米国とはまた違いますという話。

『Consequently, the Fed’s increase in balance sheets is far greater than the Bank of Japan’s, which is depicted in Chart 2. Europe’s structure of corporate finance is closer to Japan’s, so theECB’s increase in balance sheets was similar to the BOJ’s.』

ということで、FEDのバランスシート拡大は日本やECBと違って率として巨大な拡大になっているという話をしています。

えーっと、思いっきり途中で残りはまた後日なのですけどね、この部分ってよーするに「バランスシート拡大規模がFRBと比べて圧倒的に小さいから日本の緩和が足りない」という批判に対するカウンターの意見でもございまして、この点に関して言えば西村副総裁の主張に分があると思われます。つまり、上記の話で有るとおりですし、後日ご紹介しますが、非伝統的政策によるバランスシート拡大規模即ち緩和度合いかというと必ずしもそういう訳では無いという話になるのですわな。

日本の緩和が足りないというのであれば、それはやはり物価水準をベースにした議論から突っ込んでいくべきだと思われます。というのは、暫く前にご紹介した白川総裁の記者会見であたくしが「デフレスパイラルの話になると急に煙巻き装置が発動します」とか申し上げましたが、まあそんな状況というのは、よーするに物価水準の話で突っ込まれる方が苦しいということの証拠でもある訳ですな。一方でバランスシート拡大規模が足りないから云々というツッコミをするのは、それはもう「いやあ貴殿は残念ながら最近の非伝統的政策に対する理解が足りませんなあウッシッシ」という切り返しで砲撃されるという事になろうかと思いますです、はい。

#続きは明日以降ですが、決して「先生!短期市場どころか債券市場ちゃんまでもが息を(略)」なのでネタを引っ張り続けているからではありません(何か知らんが中期が強いですなあ・・・)ので悪しからず(^^)

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2009/09/14

どもども、ご無沙汰してます。

○西村副総裁講演ですが

お休み前にちょっと書いた西村副総裁の講演なんですけどね。

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0909a.pdf

お題が『Unconventional Policies of Central Banks: Restoring Market Function and Confidence』ってなってまして、非伝統的政策に関する整理を行っているのですが、これがまた中々良くまとまっているのですよ。ということでこちらのご紹介を延々とやろうと思っていたのですが、諸般の事情により(謎)、今日は頭の部分だけ。本論は明日にでも(汗)。

『The topic of this panel, "Monetary Policy Boundaries: Alternative Instruments and Policy Coordination" is particularly timely, since many central banks including the Bank of Japan have already crossed conventional boundaries. They have been conducting unconventional policies since the current crisis erupted a couple of years ago.』

このパネルのお題は新たな金融政策ツールと政策に関する境界なのか限界なのか知らんですが(全体の内容見ないと)、まあ従来の伝統的な金融政策および非伝統的政策でどこまでできるのか出来ないのかという事を知る事は重要なのではないかと。

『Some call them credit easing, and others describe them as quantitative easing. This kind of nomenclature is eye-catching, but it is sometimes a distraction, hiding the real picture of what the central banks have done.』

信用緩和とか量的緩和とかのキャッチーな命名は事の本質への理解に対して混乱するですがなというお話をしていますな。ほうほう。

『In fact, if we look at these unconventional policies from a functional viewpoint, they all have this in common: the desire to counteract market dysfunction and confidence erosion.』

と、いきなり重要な論点が出てきました。つまり、各国が行っている非伝統的政策に関して「政策の機能」という観点で考えた場合には「市場の機能不全状況および信用欠如状態からの回復を図る」というのが「全て」に共通していることであるという話です。

『In this short presentation, I will first explain what we, the major central banks have done to prevent market meltdown. Then, from this experience, I will extract four practical principles of unconventional policies that should be borne in mind. Finally, based on these principles, I will point out possible fallacies in assessing these unconventional policies, especially at the time economic conditions improve and seem to offer a glimmer of light at the end of the tunnel. Specifically, I will present five Don’ts for your consideration in contemplating a way out from the emergency measures.』

ということで、話の流れとしては、まず『伝統的政策(=金利ルートによる金融政策)が効果的に機能するためには金融市場が円滑に機能する事です』という話をした後に、『その市場機能が崩壊あるいは極度のストレスに晒された場合には市場機能回復策が必要で、それが非伝統的政策』という話をします。で、そこで西村さんが指摘するのは『従って非伝統的政策は伝統的政策と別物なのではなく、その延長である』という点です。

んでもって、その後に市場機能回復の為に行う非伝統的政策の4つのポイントおよび、非伝統的政策を評価する場合にやってはいけない(つまり従来の考え方だと間違えやすい)5つのポイントの話をしています。

でね、本文は英文で9ページでして、量的には多くない(日本でやる西村さんの講演といえばアホのように長いのが仕様です^^)のですが、内容がとっても充実しておりまして、特に後半に関しては殆ど全文引用しないといけなさそうな感じですので、ちょっと続きは明日以降で勘弁。

・・・・というか、これって日本語訳を掲載した方が良いのではないかとマジで思います。「非伝統的政策は市場機能の回復」という論点で一点突破する流れでも説明できるんですねという感じですし、5つのやってはいけない事の辺りには中々良いテイストのお話もあったりするので、実は読むべきだと思います。あ、できればあたくしがネタにしてから日本語版を出してくれるとアリガタヤなんですが(笑)。

なお、本石町日記さんの所でもネタになっていましたですな。
http://hongokucho.exblog.jp/11894400/

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2009/09/03

○西村副総裁講演ですが・・・・・・

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0909a.pdf

アルゼンチン中銀のコンファランスで講演をしたそうです。見りゃお分かりの通りですが、英語で講演しやがっておりまして、月末月初で忙しい今日この頃のあたくしとしてはろくすっぽ読んでいないので紹介もへったくれもございませんが、小見出しを見てて「ほほー」と思ったのはこの辺。

『2. Unconventional Policies: Coping with Market Dysfunction and Confidence Erosion

Given the severe adverse effects of market dysfunctions, the utmost policy priority of central banks was to find a way to alleviate market dysfunctions and thus to enhance financial intermediation, thereby restoring the monetary transmission mechanism.』

『This is what unconventional policies are all about.』

unconventional policiesとかmeasuresとか言われる政策に関しては市場機能の回復あるいは中央銀行による市場機能の代替作業という文脈で説明していまして、だいたい見てると日銀による論点整理が行われる場合はこの論理展開になっているようです。

『This means unconventional policies are not exotic but extensions of conventional policies. However, central banks had to go beyond their traditional role as a liquidity provider, and to engage themselves in complementing and enhancing market functions.』

なるほど、exoticではなくconventional policiesの延長線上ですかそうですか。

『Central Banks’ Response to Market Dysfunction』

という小見出しがついてですな。

『This was in fact what four major central banks (Fed, ECB, BOE, BOJ) and others did during the last two years in addition to a series of policy rate cuts down to the proximity to zero. Market dysfunctions and severe strains on a banking system significantly reduced the effectiveness of an ultra-low policy rate, which was evident in our experience of Japan’s lost decade. Thus, unconventional policies were devised and implemented essentially as measures to support and enhance the effects of ultra-low policy rates on prices and economic activities.』

でもまあBOEの場合unconventionalな政策はmarket dysfunctionへの対応よりは量的緩和を前面に出しているように見えますし、この辺は各国の金融システム(直接金融か間接金融かとか証券化市場などの大きさなど)によってまた違った対応が必要になりますので、ひとくくりに整理するのも難しいのかもしれません。

ということで話は続くのですが、あまり読んでないのでとりあえずまた後日。

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2009/05/20

お題「金融システム設計に関する西村副総裁講演(その2)」

昨日の続きで恐縮ですが。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0905c.pdf

○金融システムの制度設計に関して、序論

序論の部分は昨日ご紹介しましたが、その先には今般の「信用バブル」崩壊に際して市場の信頼喪失(コンフィデンスの毀損と言いますか)が特徴にあったという説明がありましたが、それこそシカゴでの講演と重なる話なのでそこはスルーして、シカゴでの講演で「我々は何をすべきか」という話で纏めていた部分を敷衍した部分から参ります。

『欧米では、今回の「信用バブル」を機に、規制の枠組みを見直そうとの機運が高まっています。背景として、1990 年代以降に顕著となった金融規制緩和の動きがあります。』

んでまあその具体的な話はスルーしまして。

『近年、銀行規制の外にある金融業者の存在、いわゆる「影の銀行システム」の役割が大きくなってきました。影の銀行システムの興隆を代表するのはヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドです。(あと投資銀行も含まれるでしょうという部分を割愛ます)破綻してもシステミック・リスクを引き起こす危険がないならば、影の銀行システムが大きくなること自体、特に問題はありません。』

『しかし、(具体的な現状の説明は引用割愛)影の銀行システム自体がグローバル金融システムに及ぼす影響も拡大しています。今回の金融危機は、こうした影の銀行システムについても、何らかの規制が必要であるということを示唆しているように思われます。』

まーそうですかね。

『続いて、バーゼル合意(BIS規制)と金融危機の関連について、自己資本比率規制のプロシクリカリティを重要な論点として挙げておきたいと思います。景気が好い時には、ダウンサイド・リスクが低下するのに対応して所要自己資本額が小さくなるため、銀行貸出が増加し、景気が加速されます。逆に、景気が悪い時には、ダウンサイド・リスクが増加するのに対応して所要自己資本額が大きくなるため、銀行貸出が減少し、景気に下押し圧力がかかります。このように、自己資本比率規制には、景気循環を増幅する作用があるとされています。今回の金融危機でも、この自己資本比率規制のプロシクリカリティが、景気の落ち込みを激しくしていると批判されています。』

これもそうなんですけど、それを言い出すならそもそも論として「格付けによって所要自己資本額が増えたり減ったりする」というバーゼルUで導入されるようになった概念をさっさと取っ払って頂きたく存じますと思うのでございますけれども。だいぶ前にも悪態ついたと思いますが、「中小企業やら個人向け貸出のプールは分散が効いているのでBBB格付けの大企業向け貸出よりもリスクウェイトが低い」というような最新の金融工学を駆使した不思議基準を持ち出すような理屈捏ね回しワールドを根本的に改善した方が良いのでは無いかと存じますけれども。いやほんとマジで。


○金融システム安定化の為の「3つのC」

シカゴでの講演に重なる部分があるのですけれども。

『ここからは、個別金融機関の健全性を維持するための諸規制から金融システム全体の安定性を維持するためのセーフティ・ネットまで、最近の議論をトレースしながら、若干の理論的な考察を行っていきたいと思います。その際、いわゆる「3 つのC」の議論が参考になると思われます。3 つのCとは、Comprehensive、Contingent、Cost-effectiveの頭文字をとったものです。』

で、脚注によりますと、この「3つのC」の議論はRajan, R. G. (2009), “Cycle-Proof Regulation,” The Economist, April 8,2009.を読めということのようですので、まあご参考までに。

『Comprehensiveな規制とは、「包括的な規制」という意味ですが、「抜け穴の無い規制」と言った方が分かり易いでしょう。あらゆる金融機関に網をかけておかなければ、規制が強化されればされるほど、規制の厳格なところから緩やかなところへと資金が逃げてしまいます。』

『Contingent な規制とは、直訳すると、「状態に応じた規制」です。具体的には、次のようなことがイメージされています。システミック・リスクの予防の第一歩は、好況期におけるオーバー・コンフィデンスを防止することです。しかし、実際にシステミック・リスクが顕現化した場合には、規制が景気の足を引っ張ることとなっては困ります。コンフィデンスの喪失が激しい場合には、コンフィデンスを回復するための政策的なインセンティブ付けが必要かもしれません。このように、好況期に厳しく、景気後退期に緩くなる規制が望ましいという基準です。』

ということですが、シカゴの講演では、「我々の規制はその逆で好況期に緩く、景気後退期に厳しくなる傾向がある事に注意しないといけない」と指摘してもいますです、はい。

『最後は、Cost-effective な規制です。この概念は、規制を評価する際に重要です。これは、規制として同じ効果が得られるならば、最も安価な方法を採用すべきであるという基準です。』

という基準の下に、バーゼル銀行監督委員会などで議論が行われていますという説明がありまして、その中身としては「事前的な施策」と「事後的な施策」という観点で切り分けて議論しているということで、その議論内容に関してもこちらの講演では説明しているのですが、長くなりますので興味のある方は講演本編を読んで味噌と手抜きざます。

一応あたくしが怪しい解釈をしますと、まず問題として自己資本規制のプロクシカリティーをどうするのという話があって、それに対してContingentな規制をどう設計するのかって話になるのですが、Contingentって口で言うのは簡単ですけれども、まー具体論に落とすのは難しいですねっていう状態になっています。

でね、その中で西村副総裁が「興味深い論点」として紹介しているのは、流動性リスク管理の観点から、資産と負債の長短ミスマッチを考慮に入れるのはどうよという論点なんですな。

『流動性の問題に関して興味深い考え方がありますので、参考までに、ご紹介しておきたいと思います。今回の金融危機を流動性危機という観点から見たとき、ファンド等のバランスシートにおける行き過ぎた長短ミスマッチが原因であったことは間違いありません。したがって、金融危機を防ぐためには、そうした長短ミスマッチを解消するインセンティブを生み出す規制が望ましいと考えられます。この点について、資産・負債のマチュリティ・ミスマッチを所要自己資本額にリンクさせることは1 つの解決策を提供することになります。』

これまた脚注を見ると元の論点はBrunnermeier, M., A. Crockett, C. Goodhart, A. Persuad and H. Shin (2009), “The Fundamental Principles of Financial Regulation,” International Centre for Monetary and Banking Studies & Centre for Economic Policy Research, Geneva Report on the World Economy, Vol. 11, 2009.にあるようで、そっちではもっと詳しい話があるので、そんなにざっくりとした話ではないのしょうけれども、まあ簡単にツッコミを。

えーっとですな、流動性という観点で言えば資産・負債のマチュリティ・ミスマッチ管理も勿論大事なのですけれども、実際に現場でその手の事を見たり聞いたり触ったりしておりますと、負債デュレーションが短いとどーにもならんというのもその通りではありますけれども、資産サイドそのものの流動性がどうにもならんとミスマッチが小さくても問題になるんじゃネーノと思うのであります。何かこの議論を負債サイドの流動性って所を重視しすぎちゃいますと、またぞろ「マチュリティーミスマッチは大きくない上に格付けは高いけれども、途中売却すると死ぬほど穴があくので満期保有以外での流動性皆無な高利回り商品」みたいな最新の金融工学を駆使した新商品が登場するんじゃネーノという杞憂を今のうちからしておきましょう(^^)。

でまあ事後的な施策は今まさに各国がヒーヒー言いながら(かどーかは知らんが)実施しているまさにそのことでありますという感じでした。


○新しいセーフティーネットの話

シカゴでの講演ではさらっと説明してたんですけどね。

『今回の金融危機で如実に示されたのは、金融危機の状況に至ったとき、つまりマクロ・システミック・リスクが顕現化したとき、銀行が資本増強を行うことが著しく難しくなるということでした。逆に言えば、金融危機のとき銀行の資本増強を容易にするようなセーフティ・ネットを作っておけば、金融システムの安定化に大きく貢献します。この点に着目したのが、これから説明する新しいアプローチです。』

ということで、んじゃどういうアプローチなのかと言いますと・・・・・

『ここでは、まず通常の保険の発展形である民間の「資本保険」(Capital Insurance)の考え方を最初に紹介したいと思います。次にその問題点を指摘しつつ、それを克服するものとして、いわゆる「パブリック・プライベート・パートナーシップ」の形の資本保険の可能性を紹介します。さらに、これら以外にも、様々なスキームが提案されていますので、それらのうちいくつかを取り上げて、ご紹介します。』

『これらのスキームは、危機の下で必要が生じたときにできるだけ市場にインパクトを与えずに資本増強を可能にするセーフティ・ネットであり、いわゆる「条件付き資本」(contingent capital)と総称することができます。』

ということで、この説明が後半3分の1位を消費する内容でして、これまた詳しく読むと「へ〜」って感じなのでご紹介したらしたでオモロイというか、金融機関の中の人的には読んでおいた方が宜しいんじゃないの(いやまあ先刻ご承知の話でしたらすいません)というお話なんですけれども、この紹介してるだけでもエライコッチャなので本日は全部スルーしますが、具体的には資本保険の話、資本保険を拡大して包括的に網を被せつつ公的関与も行うパブリック・プライベート・パートナーシップの話をメインにおきまして、その他のスキームとしてはCatastrophe Bondやら、Reverse Convertible Debenturesという債券とか、Margin Call on Shareholdersという契約やらという話なのですが、これまた上記URLを読んで味噌と手抜き(じゃなくて引用してると長くなりすぎるので勘弁)。


○で、結論部分ですけど

シカゴでも同じ話をしてましたね。

『現在、欧州を中心に、銀行規制を強化しようという主張が勢いを増しています。こうした主張は、規制が十分強ければ、今回のような世界的金融危機は発生しなかったはずであるという考え方に基づいています。しかし、規制を強化すれば、それだけで将来の金融危機が防げるのでしょうか。この点について、誰も証明を与えたわけではありませんし、そもそも、学界を含めて、十分な議論が行われたわけでもありません。昨今の銀行規制を取り巻く議論の多くは、危機の再発を防ぐためには、規制の強化が必要であるという前提を批判的に検討することなく受け入れているとの印象が否めません。』

ということで、規制強化の副作用として、過度な規制強化は金融仲介機能の向上および、金融イノベーションの進化を妨げるという論点から、一方的な規制強化論に対して批判をしておりますが、そこの引用はスルー致します。これは一昨日ご紹介したシカゴでの講演と重なる部分かなって感じでした。

ま、金融業界に必要なのは規制の強化というよりは強欲の規制あるいは行動規範の確保って感じじゃねえのかと思いますけどね、金融って達観しちゃえばそれ単独で何らかの価値を生むものじゃなくて、実物経済によって作り出された付加価値の上前をはねるものでしょ。まあ私が言うのも変ですけれども(←大門先生の名言のマネ^^)。

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2009/05/19

○西村副総裁の不良資産問題講演(長いので明日に続く予定)

日本金融学会における講演ですが。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0905c.pdf

表紙込みで25ページもあるのでおお!と思ったのですが、そのお題が『金融システムの安定性とマーケット・コンフィデンス』というので何かアレな予感がした訳ですが、これがまた案の定昨日ご紹介したシカゴ連銀でのスピーチの詳細版が前半で後半が発展版でございました(^^)。

昨日ヘタクソ英語力を恥を承知で晒したあたくしはナンダッタんですかという話になるのですが(苦笑)、まー昨日と同じような話になりますので25ページあります(西村さん基本的に長いのですよ。西村さんと須田さんと水野さんは講演要旨がやたら長い3巨頭^^)ので前半部分をとりあえずご紹介。ついでに昨日のあたくしの訳間違いも見つけた(大汗)のでその訂正も。

で、講演の冒頭にある話が昨日ご紹介したシカゴ連銀での講演の最後の「では我々は何をすべきか」という話になって、その答えとしての案が講演の後半という感じです。

『各国政府・中央銀行は、足許の危機管理に奔走する中、G20 首脳会合をはじめ、様々な場で、危機の再発を予防する施策を巡って、議論を戦わせています。しかし、そうした多くの議論は、規制を強化することに主たる関心が向けられており、既存の規制の有効性を再検討したり、規制を強化することの副作用を考察することが、やや後回しになっているという印象を受けます。』

『本来、金融システムの安定性維持を使命とする私どもがなすべきことは、これまでの政策が、金融機関を正しい方向に導いてきたのかという点を虚心坦懐に反省し、誤りがあればこれを正し、金融機関があるべき方向へと再び歩み始めることを支援することにあります。規制は、決して、金融業の成長を止めるものであってはなりません。規制は、内的、外的ショックを速やかに吸収する柔軟な金融システムの構築を最終的なゴールとすべきです。』

ということで、規制緩和的な言い方だったりしますし、講演の後の方では新たなセーフティーネットの資本増強ツールの話をしてたりするので、何か割と新しモノ好きなんじゃネーノ(まあ以前書いてた本でもそんな雰囲気を感じましたが)という所はちと微妙にアレなものを感じない訳でもなかったりするのですが、まあそれはそれとして。

○「信用バブル」発生の要因

学会での講演らしく、この「信用バブル」という所にわざわざ括弧をつけてまして、おまけに脚注までつけているのがチャーミング(^^)。

『 「バブル」という言葉は、本来経済学的に厳密に定義して使うべきであるが、政策の議論等にみられるとおり、曖昧に使われることが多い。ここでは、厳密な定義ではなく、通称ということで、「信用バブル」と括弧付けにしておくことにする。』

まあそれは兎も角として、「信用バブル」拡大の素地と背景に関しての説明部分になるのですが、素地は昨日ご紹介した講演と同じで、背景も似たような話になるのですけれども、背景のところで論点を2つに絞っているのでそっちをご紹介。

『もちろん、グローバル・インバランスのみが、経済のファンダメンタルズからかけ離れた「信用バブル」を生成する訳ではありません。ファンダメンタルズからの乖離が生まれるには、サブプライム住宅ローンから証券化商品を組成する際のプロセスに内在する問題がありました。この点を証券化ビジネスの拡大とエージェンシー問題という観点から読み解いていきましょう。』

ということで証券化ビジネスの拡大という観点。

『証券化ビジネスの第1 の特徴点は、「複雑化」という現象です。今日の証券化商品は、構造が非常に複雑になりました。(その過程割愛)しかし、このように何度も合成と分解を繰り返していると、リスクの構造が複雑になり過ぎて、リスク量が容易に把握できなくなります。』

そらそうよ。

『リスクがはっきりしないのなら、買わなければよいのですが、今回は、多くの投資家が、証券化商品に付けられている格付会社の格付を過信して、そうした複雑な証券化商品に次々と手を出していきました。』

いやまあそれもそうなんですけど、バーゼルUだの何だのでこういう商品に対するニーズが必要以上に高まったというのもあると思うんですよ。そらまあ末端のいちディーラーだったら「そーゆー判らない商品やるよりもプレーンな国債や社債のディーリング担当やってますわ」って言えますけど、そうばかり言ってられない立場の人たち沢山いますし、その間に何とか金融新聞やら何とか公社債情報辺りが「高格付けCDO投資で超過利回りを稼ぐ」とか金融工学を駆使した新商品の煽りじゃなかったご紹介記事を書くと偉い人から御下問があったりするのでなあ・・・・

『次に、「機能分化」と言う現象を証券化の特徴の第2 の点として挙げておきたいと思います。(途中割愛)こうした住宅ローンの貸付けから証券化商品の販売までの一連の工程は、OTD(Originate To Distribute)モデルと呼ばれています。OTD モデルの問題点は、モラルハザードを誘発しやすいという点です。モーゲージバンクは、住宅ローン債権を売却し、リスクを移転できるのであれば、住宅ローンの審査を真剣に行うインセンティブはありません。本来なら住宅ローンの申込者の信用度が基準に達していないようなケースでも、融資が実行されたであろうことは、容易に想像できます。これは、典型的なモラルハザードであり、「信用バブル」を生み出す素になったと考えられます。』

さいですな。で、結果どうなったかというのは皆様ご案内の通り。

『こうしたプロセスを経て、巨額のサブプライム住宅ローン関連の証券化商品が、市中に出回ることになりました。しかも、最上位の信用度を表すAAA の格付を付与された商品が大量に組成されたのです。驚くべきことに、AAA 格を付与された証券化商品の利回りは、AAA 格であるにも拘わらず、同じくAAA 格である米国債の利回りを大きく上回るケースが珍しくなかったようです。』

前からあたくしの駄文をお読みの方なら大体ご承知かと思いますが、あたくしはとにかくプレーン商品大好きな人なもんで、証券化商品だの金融工学を駆使した商品だのというのを苦手とする(いやまあ一応エキゾチックオプション程度のものでしたら担当してたこともありますよ、念の為申し添えますが^^)もんで、CDPOだか何だか忘れましたが、短期物のこの手の商品とかが結構好評ですなというような話を知るのがかなーり遅かったのですけど(大汗)、スキーム見たときに「これって償還までもってりゃ確かに大丈夫だけど途中で売れないじゃん」とか思った(というか駄文で書いた)覚えがあるんすよね。

『市場が正常に機能しているならば、こうした価格の歪みが長期にわたって維持されるということはありません。しかし、実際には、銀行も、格付会社も、投資家も、監督当局も、誰もこうした現象に異論を申し立てませんでした。おかしいと思わなかった人はもとより、おかしいと思った人も、見て見ぬ振りをしてきたのです。』

まあ総体としてはそうなるんでしょ。実際は判ってて上手く撤退できた人もいるんでしょう。GSとか究極的にはそうなんじゃないですかね。で、本編と関係ない余談になっちゃいますけどバブルの時とかだって、まあそりゃ全部逃げ切りは無理だったと思いますが、てめえらが突っ込んでいる不動産融資がどういう状況なのかある程度判って突っ込んでいった銀行とそうじゃない銀行とがあったという都市伝説は以前から言われていましたよね〜。

『こうしたおかしな状況が、なぜ長期間にわたって続いたのでしょうか。この点について、組織の中での人々の一種の「責任回避」の姿勢、英語の文献でしばしば言及されるPlausible Deniability ── もっともらしい否認根拠── という組織構成員の行動が、重要な役割を果たしたという議論があります。』

昨日紹介した中にもこのフレーズがあって、あたくしの訳が間違ってましたね(恥)。

『証券化商品の売り手は、自分の商品には問題がなかったことの理由づけとして、他の業者も同じような金融商品を販売していて、誰も問題にしなかったのだから、と免責を主張しています。他の業者と同じく自分たちは商品価格を過去の実績と経験に基づいて計算していたのであり、さらに、格付会社のお墨付きまでもらっていた、つまり今回の価格下落は誰も予想し得なかったのだから、仕方がない、と釈明しています。』

『実は、証券化商品の買い手の機関投資家も、似たロジックで自分たちが買ったことの正当化をしています。曰く、他の買い手も同じような金融商品を買っていて、誰も問題にしなかったのだから、と釈明しているのです。このPlausible Deniabilityが、証券化商品による「信用バブル」の発生とそれが長期間にわたって継続した1 つの理由と考えるのは自然に思います。』

いやーまったく耳が痛いですな、あははははははは。そして思いっきり市場の楽観も指摘していましてですな。

『このような「信用バブル」の生成に加え、今回特徴的であった点として、ほとんどの市場参加者が、今回のような深刻な金融危機は実際には起こらないと思いこんでいたことを指摘できます。市場参加者は、なぜそのように考えるに至ったのでしょうか。それには、「大いなる安定」(“Great Moderation”)という現象が関係しているように思われます。(その内容は言うまでもないので割愛)』

で、金融政策に対する過度な信頼も原因という指摘まで(^^)。

『こうした錯覚は、米国の中央銀行であるFRB のグリースパン前議長の名前を冠した「グリーンスパン・プット」、つまり、たとえ金融危機が起こっても、グリーンスパン前議長やFRB が金融政策で何とかしてくれるに違いないという期待によって強化されたという見方があります。グリーンスパン・プットが本当であるならば、市場参加者にとって、金融危機のような稀にしか起こらないリスク、いわゆるテール・リスクは発生しないという前提でリスクテイクを行うことは合理的です。つまり、市場で形成されたオーバー・コンフィデンスは、金融政策に対する市場参加者の思い込みが原因であったとも考えられます。』

金融政策は23世紀から来た未来型ロボットから出てくる道具じゃないのですよ、という所でしょう。まーこの手の話は皆様におかれましては既に耳タコだとは存じますが、例によって俺様備忘録的には引用しておきたかったので勘弁です。

ということで、講演のマクラの部分だけで時間と量が一杯になったので、今日はこれで終了。本論に全然入らないでどうもすいませんm(__)m

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2009/05/18

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0905a.pdf

シカゴなんで当然英語版なのですが、表紙と図表を含めて全部で8ページになります(本文は6ページ)。

“The Past Does Not Repeat Itself, But It Rhymes”: Four Lessons Learned from the Financial Crisies

ちゅうお題のスピーチです。ではその4つのご教訓とは何かと言いますと・・・・

○不良債権問題の時間的速さと広がりの加速度合いについて

まずは『1. Lesson One』です。講演の題名にもなっている言葉はMark Twainの言葉だそうで。

『The first lesson is encapsulated in Mark Twain’s famous line, “The past does not repeat itself, but it rhymes”. It is now fair to say that many thought Japan’s so-called “lost decade” was a problem peculiar to Japan, and also, by learning well from that problem, it was not going to be repeated elsewhere. Unfortunately, this has turned out not to be the case.』

ちゅうことで、日本の不良債権問題と米国の不良債権(資産)問題の類似点を説明してまして、不良資産が発生して負のフィードバックが生じてその間に各種政策が実施されましたという話をしています。で、そういう事情は似ているけれども、その「時間的なスケール」と「加速度」が違うって話を日米を比較しながら(その図に関しては上記URL先にございます)、当初は米国の1か月が日本の3か月だったけれども、最近は米国の1か月が日本の5〜6か月になっているという説明をしています。

『What made the difference to the time scale and acceleration? Innovations and structural changes over the last two decades have no doubt played an important role, namely globalization, advances in information communication technology, and financial innovations and sophistication. Indeed, compared with Japan in the 1990s, the current crisis is far more complex, interconnected and global.』

経済のグローバル化やら通信技術の発達とか金融技術の発達とかによって時間も速くなったし加速度も高まりましたと。ところであたくしの英和辞典みたらsophisticationって洗練とか精巧の他に詭弁って訳語もあったんですが(^^)。んでまあその結果日本の不良債権問題よりもはるかに世界的に破壊力抜群で広がる結果になったという事でした。


○一旦問題が起こると止めるのは容易ではないという話なのですが・・・・・

次は『2. Lesson Two』です。

『The second lesson we have learned from the crises is that once an adverse feedback loop has been started, it is extremely difficult and costly to stop it and to restore confidence.』

危機により負のフィードバックが一旦発生すると、それを止めて市場に発生している信用を回復するのは困難だというのが最初のまとめ部分。ここはまあFRBが従来言ってた(さすがに最近はそんな話はよーせんと思いますが)「資産バブルが崩壊した時には適切な金融政策で危機の拡大を防ぐことができる」というお説に対する話をしているようですが、まーその「適切な施策」ってのが難しいって話を日本を例に出しているのでありまして(^^)。

『This was the essence of Japan’s experience; a series of fiscal stimulus packages and an accommodative monetary policy could not generate sustained economic growth, as the financial system was severely impaired and market confidence continued to be eroded. Injections of public capital in 1998 and 1999 were also, in retrospect, not sufficient to convince the market to jump-start the economy.』

後付で見ますと、日本で打たれた各種施策も不足であったという事ですが、んじゃあ何で日本は回復したかという話をしているのですが、ここの部分に関してはちょっとそれはなんだかねというツッコミをしたくなる説明が。

『So when and how did Japan’s adverse feedback loop stop? With hindsight, perhaps the turning point was October 2002, when the Financial Services Agency urged major banks to halve their NPL ratios by the end of March 2005, and pledged to monitor their efforts continuously and rigorously. The Bank of Japan also urged banks to carry out more rigorous evaluations of NPLs, and to dispose of them promptly based on those evaluations.』

金融庁が2002年10月に金融機関に対して不良債権の厳格な評価と早期処理を促したのが悪化のスパイラルを止めたという説明なんですが、その辺りから地獄の1丁目が地獄の3丁目位になったような記憶の方があるんですけど・・・・・・

『In retrospect, the timing coincided with the reflection point at which the economy had just passed the trough of the 2001 recession, and began to recover, thanks to strong export demand due to the vigorous world economy.』

ということで、この時期が2001年からのリセッションからの変曲点だというお話なのですけれども、それは指摘のように海外需要の引っ張りと、従来のシバキアゲからいきなり政策転換したりそな銀行への公的資金注入方針決定(03年5月)からじゃないのかなあという気がするんですけど。

『This was also the time when substantial progress was being made in corporate restructuring with respect to the so-called “three excesses”: debt, employment and production capacity. This restructuring helped the final pick up. In this way, the Japanese economy was, in general, out of the woods around 2005, although some regional economies lagged behind, having benefited less from the global growth.』

まー確かに3つの過剰が解消されたのも回復の際に足を引っ張らなかったので結果としては大変に結構な話だったのですが、何かシバキアゲ上等みたいな説明に見えるのはちょっと???感がするんですけどねえ。

というか、資産の時価評価を誤魔化・・じゃなかった一部先送りみたいなことをしている(その上「負債の時価評価」という訳判らん事までして会計上の収益を捻り出す方は厳格(笑)に実行してますがな)米国でそーゆー話をするのは何かのギャグか痛烈なイヤミなのか・・・・・・(謎)。


○不良資産問題の政策対処を早期に行うのは困難です

続いて『3. Lesson Three』です。

『I will move on to the third lesson and ask the following question: “Is it possible to solve problems with troubled assets at an early stage?” I find the answer is unfortunately negative: “It is very difficult”.』

まーそりゃそうだわなという話ですが、その理由としては、不良資産の価格が訳判らん時には「とりあえず様子見」が最善の選択肢になるので、動きが遅くなるし、ミクロ的に一部の参加者が動いてもてめえの所の問題解決はさることながら、全体の問題が解決される訳では無い(様子見地蔵が多いから)という話をしています。

『This is because when the valuation of troubled assets becomes highly uncertain, in the way Frank Knight described here in Chicago eighty-some years ago, a “wait and see” strategy may be the natural reaction for both sellers and buyers. So, private initiatives alone may not be sufficient to solve the problem. We have a list of such private attempts, with the fate of the M-LEC among them, as well as the Cooperative Credit Purchase Corporation in Japan in 1993.』

93年の日本って共同債権買取機構の話ですね。でまあ問題がややこしくなって市場が疑心暗鬼になると問題解決が更に難しくなってコストも掛かるし、そもそも問題が小さいと思われているうちは金融機関が当局の介入を嫌がるという事もあって、不良資産問題の早期政策対処を行うのは難しいですよって話を次にしていますが、引用は省略。


○当該資産に対する市場の信頼が悪化すると悪化が過剰に進む

んで4つ目のご教訓は『4. Lesson Four』です。

『What is the core of the problem? Lesson Four of the crises is that it is the difficulty in getting “reasonable estimates” of losses and a “reasonable pricing” of troubled assets, on which both sellers and buyers can agree, that leads to erosion in confidence. It is this erosion in confidence which then leads to an “excessive” aversion to uncertainty.』

ということで、売買双方が納得する価格やら損失の推定が難しくなるとその間に信頼が悪化し、不透明さが更に高まる事によって今度は悪化に過度のバイアスが掛かってしまいますというお話。で、現下の信頼悪化にはどのような要因があるかという考察をしていまして。

『Firstly, troubled assets have had macro-systemic effects, including unprecedented levels of downside-correlation.』

『Secondly, these troubled assets’ losses were dynamic and evolved over time. The “estimated losses” increased continuously as the economy slid into stagnation. Valuation of these assets, based on pre-crisis norms, grossly and consistently underestimated the losses, leading to an erosion of confidence in valuation methods and ultimately in the solvency of the institutions with these assets.』

規模でも速度でも想像を遥かに上回る下方スパイラルが発生したのと、それ以前の楽観が背景にあったちゅうことでしょうか。で、もう一つは今般の不良資産商品の複雑さという話ですかね。

『Moreover, troubled assets were very heterogeneous, and the erosion of confidence in existing valuation methods set an adverse selection mechanism in motion, leading to a marked deterioration in market liquidity.』

で、信頼の悪化が過剰になる流れをまとめるとこうなりますって話を最後に。要は急に想定範囲を超えた訳判らん状況になると、参加者が皆揃って「最悪の状況」を想定して動く為に信頼の悪化に拍車がかかるって話をしているかと思います。

『Once they lose confidence, these investors face “unknown unknowns” that they never dreamed of before. They then become “excessively” averse to uncertainty surrounding the future prospects of financial institutions. That is, they make decisions based on the “worst possible case scenario” and try to minimize the losses they would incur in this worst possible case. Their valuation of these financial institutions thereby turns out to be “excessively” pessimistic, and they become very sensitive to any news that supposedly has some bearing on the worst possible case scenario.』

『Moreover, they tend to “wait and see,” until they feel more confident about the valuation of troubled assets. The result of these factors and their erosion of confidence is a significant undervaluation of financial institutions at the trough of an economic downturn.』

ということで。


○んで最後ですが、じゃあ何をするのかという話

で、難しいと言ってるだけではしょーがないので、危機が起きる前に政策当局はどのような点を注意しながら規制やら制度やらを組まないといけないのかという話ですが。

『Firstly, we should avoid any “pro-cyclicality” of reforming zeal, such as strengthening regulations in the downturn when it may further exacerbate the slump, or deregulating the industry in the upturn when vigilance is called for. Past experience, as exemplified in Lesson One, suggests we are very much prone to this tendency.』

規制やらなんやらというのがどうも悪化時には悪化を強めるような規制強化へ、本当に用心しないといけない楽観時には規制緩和へと動きがちなのが過去の経験によるとそうなっているので、それを避けないといけませんねという話ですか。

『Secondly, we should also bear in mind that no regulation is perfect. The origins of financial crises often lie in financial institutions’ regulatory arbitrages and investors’ complacent behavior based on “plausible deniability”. Also, we live in a dynamic world and are always subject to innovations and structural changes so that, as we have just learned, it is virtually impossible to identify and eliminate in advance all possible causes of financial distress.』

で、どのような規制も完全ではないという指摘の次にあるのが「その通りですなあ」と思う指摘でして、金融危機問題が起きる発端にあるのは「規制のアービトラージ」やら「投資家の自信満々」による行動やらであるという話。今回で言えばバーゼルUにおいて格付けを重視しすぎた結果、表面上格付けが高く、高利回りという魔法の商品が出来たことですし、まー別に金融システム関係ないですけれども、同じくバーゼルUで言えば日本の15年変動利付国債なんかもさよですわな。

追記:Plausible Deniabilityっていうのは別の所で西村さんがこのように言及しているのでそういうことなんでしょう。あたくしイマイチ良くわからんので適当に訳しちゃいましたすいません。詳しくは19日のドラめもんで。

『この点について、組織の中での人々の一種の「責任回避」の姿勢、英語の文献でしばしば言及されるPlausible Deniability ── もっともらしい否認根拠── という組織構成員の行動が、重要な役割を果たしたという議論があります。』

『Thus, thirdly, we should prepare for the conceivably worst case in “normal” times, when confidence is still maintained. Lessons Three and Four show the fundamental problem of the financial crises is the difficulty in raising capital when it is most needed, because of the adverse feedback loop and erosion of confidence.』

『It is worth exploring the feasibility of macroeconomic pre-committed or pre-paid “safety-net” schemes to complement ex-ante regulations. In this regard, contingent capital schemes and their variants are particularly worth exploring when designing regulatory reforms for macro-systemically important financial institutions.』

まあそうは仰いますが、平常時っていうのは「資本の効率が悪いからダメ」だの何だのとダメ出しされる訳で。急に資本の充実とか言われましてもっていう感じはするのでありましてですなあとは思いますが、規制当局もそういう意味では平常時にあまり金融機関に頑張らさせ過ぎないようにして頂きたく存じますが。

で、最後にこれらの取組みは民間だけでは難しいので、当局の関与も必要だし、そうなった場合には制度タダ乗り問題を防がないといけないという話を指摘してスピーチをまとめております。


#ということでひたすら引用という週初らしい手抜きバージョンで恐縮でした

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2009/02/02

ということで西村副総裁講演関連から。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0901b.pdf(講演)
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0901b.pdf(会見)

○講演の話の流れが・・・

講演の方なんですけれども、経済状況の次に「金融環境」についてわざわざ一項を割いて説明しています。で、その次が経済の展望、金融政策運営と続きます。

まあここもとの金融政策のテーマが金融環境、特に企業金融の環境問題になっておりますので当然ちゃあ当然ですけれども、まあようやくこの辺りが強調されるようになりましたなという所で。

講演(挨拶)要旨の4ページ目から。

『まず、企業の資金調達コストをみましょう。政策金利の引き下げなどから借入金利は幾分低下したものの、世界的に投資家のリスク回避姿勢が根強く、それが日本の投資家にも反映される中で、CP・社債の信用スプレッドは拡大した状態が続いています。このため、全体としては企業の資金調達コストは横ばい圏内で推移しています。』

と、まあそちらはさらりと流してその後がアベイラビリティの問題。

『次は、資金調達の量の面です。CP・社債の発行残高は、発行環境の悪化から、足もとは前年に比べ大きく減少していますし、企業サイドでは、先行きへの不透明感の高まりから手元資金を潤沢に保有する動きが強まり、銀行貸出への需要は急増しています。』

で、途中の説明を全部割愛して。

『しかし、株価の低迷が続き、わが国の景気が急速に悪化する中で、金融機関は、先行きの信用コストの増大懸念や自己資本制約を意識せざるを得ない状況になってきています。このため、企業側からみた銀行の貸出姿勢は、一層厳しさを増しているのが実情です。また、企業間信用の面でも、中小・零細企業では、決済条件のタイト化の動きなどが拡がっています。こうした金融環境や企業収益の悪化を受け、大企業や中小・零細企業では、資金繰りが厳しいとする先が増加しているほか、先行きの設備投資計画を下方修正するという動きがみられています。このように、わが国でも、金融と実体経済の負の相乗作用がみられ始めています。』

で、問題は資本制約のところですという結論になりますので、金融機関の自己資本動向がポイントですという話ですが、その中でまあ現場労務者的にしっくり来るお話をしているのが中々よろしいかと思ったのでその辺りを。

6ページ目から。

『この点を概念的に整理すると次のようになります。銀行の経営が悪化し損失が拡大する状態になっても、それが自己資本で十分に処理できる範囲にとどまっている限り、社会における銀行の枢要な役割である金融仲介機能が直ちに損なわれることはありません。つまり銀行の金融仲介機能において、自己資本がバッファー、緩衝材として機能していると言えます。』

『しかし、損失の自己資本に対する比率がある臨界点を超えると一気に金融仲介機能に著しい支障を来たす可能性があります。こうした関係は、自己資本の規模と金融仲介機能の非線形性の問題と呼ばれています。これはバブル崩壊後のわが国でも、つとに観察されたことでもあります。』

この手の非線形な変化ってのはマーケットでも起きますし、恐らく経済活動でも起きる話なのですけれども、非線形な変化に関する考察ってのは後付けで検証は出来るのでしょうけれども、事前にどこに閾値があって破断界になっちゃうのかってのは中々定量的な分析が出来ないのではないかと思われる次第。まあだからこそマーケットが荒れる時に古狸の「何となくこれは嫌な予感」という非科学的あんど根拠レスな感覚が役に立つと思うのですが(我田引水)。

『バブル崩壊当初は、不良資産の増加が大きな問題として認識される一方で、金融仲介機能自体はあまり問題視されませんでした。しかし、1990 年代後半になると、銀行の自己資本不足が制約となり貸出を伸ばすことができないという、まさにクレジット・クランチの様相を呈したのです。』

ちゅうことでありますな。では経済状況に関する部分から少々。


○経済状況に関しては厳しい見方

3ページ目から。

『世界の金融経済情勢が急速に悪化する中で、各国政府や中央銀行は、様々な対応策を実施しています。景気悪化への対応としては、多くの国で大幅な金融緩和や拡張的な財政政策が行われています。また、金融危機への対応としては、各国の中央銀行は、自国通貨の流動性だけでなく、協調してドル資金を供給しています。各国政府も、経営不振に陥った金融機関の公的管理や公的資金の注入、預金保険の拡充や金融機関の債務保証を実施しています。このように、政府、中央銀行は矢継ぎ早の対応を行っていますが、米欧の金融危機の帰趨と世界経済の先行きについては、依然として不確実性が高いと言わざるを得ません。』

んでどういう不確実性かと言いますと。

『金融と実体経済が、相互にマイナスの影響を与えて悪化が進む負の相乗作用の下では、金融機関の損失額や資本不足額は時間が経つにつれて増加する傾向にあり、現在とられている対応が十分かどうか確実ではありません。金融システムが安定するには、結局金融機関の損失額についてかなり確信がもてる状況になり、それに対応して自己資本が十分であると認められるようになることが必要になります。まだそれがはっきりしていない現在は、金融危機の帰趨については、なお不確実性が高い状態であります。』

金融危機の帰趨に関しては最も肝心な「損失の確定」が未だに不透明な状況でありますので、兎に角まあその辺りがどうにかならんと話しにならんという所。米国の楽観相場を見せ付けられるとついこの点をうっかりしてしまいますので(汗)。

『世界経済の回復については、主要な地域で資産価格の調整が進み、総需要回復への展望が拓け、更に、金融システムの安定化が進み、金融面から実体経済への下押し圧力が低下していくことが転換点になるものと思います。その展望が拓けてくるのは、今年後半以降になるとみていますが、金融危機の帰趨に不確実性が高いため、世界経済の回復時期も、同様に不確実性が高いと考えています。』

つまり、金融問題が片付かないうちは論外という評価ですよね。そう考えるとかなり厳しい見方なのでしょう。


○長めの金利への働き掛けに関して、会見も含めて

当面の金融政策に関して、講演要旨ではサラサラと流しておりましたが・・・・・・

『こうした金利引下げの効果が十分に発揮されるためには、金融市場が安定的かつ円滑に機能することが不可欠の前提になります。こうした観点から、日本銀行は様々な対応を実施しています。第1は、流動性供給を通じた短期金融市場の安定確保です。』

で、流動性強化策の説明をした後輪番増額に関して言及。

『更に、昨年12 月には、長期国債の買入額をこれまでの年14.4兆円ペースから、年16.8 兆円ペースまで増額しました。現在、資金供給においては、短期の資金供給オペレーションを頻繁に実行していますが、円滑な資金供給を行っていくには、こうした短期の資金供給オペを繰り返し行うよりも、長めの資金供給を行っていくことが有効です。こうした観点から、長めの資金供給となる長期国債の買入を増額することを決定しました。』

ということで、輪番増額は調節上のテクニカルな話にしていますが、今般の金融政策に関連してはこのようなまとめをしております。

『これまで述べてきたように、日本銀行では、年末・年度末に向けた資金需要の高まりに対しては、積極的な資金供給を行い金融市場の安定化を図ってきました。また企業金融のタイト化に対しては、新しいオペの導入なども含め様々な措置を実施することで、企業の資金調達を円滑化させるとともに、これを通じて、実際の資金調達金利である長めの金利にも働きかけてきました。』

年度末はともかく、年末に向けて積極的な資金供給ってまたまたご冗談をというツッコミはさておきまして、一応そういうつもりになっているようですからそういう事にしておきましょう。で、「実際の資金調達金利である長めの金利にも働きかけてきました」っていうのが最近のお得意のパターンになるのですが、この点について記者会見ではヘッドラインで瞬間相場が反応したので、会見の方を見てみましょう。

『この説明(引用者追記:ゼロ金利制約が掛かる状態)を前提にお答えすると、各市場が相応に機能して裁定も働いているが、現在の金利ターゲットであるオーバーナイト金利は、これ以上下げたくても下げることができない状況に達した時は、「そもそもオーバーナイト金利をターゲットとする金利政策は何を目的とするものであったのか」、というところにまで遡って考えてみる必要があると思います。』(ここから先は会見要旨より引用)

さいですな。

『「日本銀行のオペレーションを通じて金利形成に影響を与えていく」というのが目的であるわけです。これに照らせば、「企業が実際に資金調達をしている長めの金利のところに影響を与えていく」というやり方が、やはり望ましいのではないかと思います。そのように考えれば、長めの金利に影響を与えていくために、オペレーション面での工夫を考えることが、このようなケースでは有効であると考えることができます。』

そういう認識なら何でターム物のオープン金利が上昇している時にオペレーションが平然と通常運転だったんですか(ドル資金供給とかはせっせとやってましたが、最初積極的実施すると言ったCP買現先は1本やって2週間放置でしたよね)と小一時間問い詰めたいところですが、まあそれは兎も角。

まあこういう言い方ですとターム物の金利を下げるようなオペレーションをしますよと言っているようには見えますな。実際のオペレーションがそうなっていないのは、今後ターム物誘導する時の糊代作りなんですね!(軽く悪態)

『例えば、長めの資金供給オペレーションによって、結果として長めの金利に下方圧力がかかるということは、2006 年までの所謂量的緩和の時代の経験からみても明らかです。もちろん、これは前提なしで常に成立するものではありませんが、状況によっては、これが有効になり得るということです。これは、例示ですけれども、一般的に申し上げれば、長めの金利に影響を与えるということは、「オペレーション面での工夫」ということで考えていくべきであると思います。』

ほうほう。まあ実際問題として2010年度までコアCPIマイナス予想っていうのは、少なくとも2010年度前半までは利上げ方向になりませんと言ってるような物なので、そこまでとは言いませんが、もうちょっと時間軸が効いても良さそうなもんですが、現状は中々そうなりませんな。話が段々ずれますけど、その点に関してはやはり足元のGCレートなどが不安定に推移している要因があるかなと思われます。別に0.2台前半なら前半で安定すりゃ良いのですけれども、時々急低下してみたり時々急上昇してみたりというのをやらかすとやり難くなるというもので。ま、それは兎も角として、この点に関してはオペの工夫よりも時間軸の方が効くでしょとは思いますけどね。

ところで、量的緩和に関しては「金融システム問題の軽減には効いたが、その他の効果は小さかった」という話になっております(時間軸効果による中長期金利の低下が効いたって話なんでしょ)ので念のため引用。

『ただし、量的緩和そのものは必ずしも当初考えていた結果をもたらしたとは言えないと思っております。すなわち、量的緩和は、金融システムの安定性という点では非常に重要な貢献があったわけですが、その他の点についての影響は比較的少なかった、というのが、その後の色々なデータからみる限り、一つの共通的な理解だと考えています。』


で、別の質問でオペの工夫について更に言及。

『まず、オペレーション面で工夫するということは、あくまでもオペレーションによって、長めの金利に対して直接影響を与えるということです。量的緩和の時代に長めの金利が下がったのは、時間軸効果のほか、やはり長めのところに資金を供給することによって、実質的に長めの金利を下げていったこともあるわけです。』

ということで長めの資金供給でターム物金利を下げるって話をしてますね。ほうほう。

『また、中央銀行は、一番短いオーバーナイト金利においては、比較的規模の小さい、参加者が限られたオペレーションによってかなり正確にターゲットを守ることができるわけですが、それが長めの金利となると、期間が長くなることのプレミアムや、個々の企業や金融機関の信用プレミアムといった要素も入ってくるので、どのようなかたちでオペレーションを組んでいくのかということは、それほど簡単に結論が出る話ではありません。』

TIBORみたいなのを意識している感じが窺える発言ですね。

『私は、現時点において、0.1%というターゲットについては、ゼロ金利制約により0.1%になっているということではなく、0.1%が最適だから0.1%になっていると考えております。そういうことから考えれば、長めの金利に働きかけるオペレーションのあり方に関しては、現在は、コンティンジェンシー(不測の事態)に備えて検討するというような段階にあると考えています。』

ふーんという感じですが、さてターム物誘導ねえって事で以下雑感。


○ターム物誘導に関するあたくしの雑感を少々

ターム物誘導と言いましてもじゃあ何を誘導するのよという話と、どうやって誘導するのよという話がございます。やるやると言ってもコントロールできなきゃ意味が薄いですし、意味無いものを誘導してもしょうがないと。

TIBORのレートが主に議論になると思うのですけどね、このTIBORってのはそもそもの発生時点ではLIBORがジャパンプレミアムだの何だので東京の市場実勢と乖離が生じてしまうから東京は東京で作りましょという話だったと記憶しております。そういう意味では当初は市場金利ちっくだったのかも知れませんが、銀行間でのターム物キャッシュの打ち合いというような事が起きなくなってからというもの、TIBORレートはローンの基準金利となっているというのが実情かと思います。

#だから以前(だいぶ以前)に悪態ついたのですけれども、量的緩和解除前に3か月FBのレートがバンバン跳ねている中でTIBORレートは毎日計ったようにちょっとづつしか動かんという素敵な動きをしてたりするのでありまして(苦笑)。

てな訳で、TIBORが下がるにはローンの需要が減衰する必要があるので、これに関しては通常のオペレーションで工夫の世界を超えているような気がしますわな。窓口指導でもすれば別ですが(苦笑)。

#もうね、臨時金利調整法復活で良いんじゃないですか(ヤケクソ)

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2008/12/11

○リテール金融ですかそうですか(^^)

前半書いてたら時間がなくなってきたので簡単に。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0812b.pdf

まあ正直申し上げて、こーゆーセミナーでお話すべきは西村副総裁ではなくて野田審議委員ではないかと思いますけれどもね。で、これは西村さんのせいではなく、この手のシンポジウムでよくある香ばしい展開なのですが、講演要旨の4ページ目と5ページ目を見ると中々楽しい。

どうも今回のシンポジウムのお題は「顧客ロイヤルティの向上」らしいっす。

『このように、金融機関にとってリテール部門は、資金調達面および収益面での安定をもたらす部門として、経営における重要性がこれまで以上に高まっています。しかし当然のことながら、こうしたメリットを全ての金融機関が一律に享受できるものではありません。リテール部門がもたらし得る資金調達面および収益面での安定性を金融機関経営に十分に活かすためには、まさに今回シンポジウムのテーマ、「顧客ロイヤルティの向上」、を通じてリテール部門の基盤を強化していくことが大切だと思います。』

なるほどそうですか。で、次のページには現状分析としてこんな話が。

『金融機関の収益構造の点で、わが国の主要金融機関が欧米の金融機関対比どのような特徴を持っているか分析してみますと、全体の収益に占めるリテール部門のウェイトが相対的に高いことが分かります。これまで申し上げたことに照らして考えますと、わが国の主要金融機関は資金調達面や収益面での安定性という点で強みを有していると評価することができます。』

さよですか。

『ただし、その一方で、わが国主要金融機関の収益に占めるリテール部門のウェイトが高いことは、その他の部門、特にホールセール部門や資産運用部門から得られる非金利収入が伸び悩み、全体に占める非金利収入のウェイトが依然として低いことの裏返しでもあります。また、リテール部門の収益性も言わば低位安定の状態にあり、結果として、金融機関全体としての収益性が国際的に見て低い水準に止まっていることを考えますと、残念ながら手放しに評価する訳にはいかないのだろうと考えています。』

でも収益性上げると「顧客ロイヤルティ」って向上するんですか?????

・・・・金融業って物凄くしょうもない言い方をすれば、金を右から左に動かして口銭取ってる商売なのでありまして、収益性を向上させるというのは口銭を増やすことに異ならず、それをしながら顧客の囲い込みったって何ですかねという感じではありますわな。で、仕方ないので窓販で手数料がっぽり取れる商品を売って回ったらまあふがふがもごもご。

本当のこと言えば決済機能面ってのがいち個人利用者として考えた場合の最大の付加価値なのですが、歴史的に「規制金利の下で低利調達した資金を企業金融に回して鞘を取る」というモデルが最初にあったことが影響して、決済機能は資金調達をしやすくする呼び込みモノみたいになって、妙に過剰サービスになってしまっているのがどうなのかねという感はございます。

しかしまあ冷静に考えますと、収益性向上もクソも直ぐに「貸し渋り批判」とか言われるわが国の現状でそんなもん出切るのかいなとは思いますけどね。

中小企業金融問題の話は正直苦笑。

『サービスの提供について、申し述べたいと思います。中小企業金融に関しては、貸し手である金融機関と借り手である中小企業との間で緊密な取引関係を長く維持することにより企業に関する情報の不足を解消し、円滑な資金融通を図ることの必要性が久しく唱えられているところです。』

スコアリングモデルで担保や保証人に依存しない融資をやれと言った人たちが随分持て囃された時代があったような気がしますが。

『もっとも、最近になって金融機関の貸出姿勢の、過度の慎重化を指摘する声が再び高まりを見せていることからも、実際には金融機関と中小企業との関係において、こうした緊密な取引関係の構築が十分には進んでいない様子が窺われます。』

それは取引関係の構築ではなくて金(以下自主規制)。

時間がなくなったのでまあこんなところでって感じですが、以前よりはだいぶマシになってきたとは言え、地に足のついてない話が多いですなあってかつてドブ板踏んで金貸しの手先でやってたあたくしは思うのでありました。かつてどんな話がありましたかというのは過去のあたくしの駄文(2005年より前のあたりが懐かしく読めるかなあ)でもご覧下さい(^^)。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/fsatop.html

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2008/11/18

○西村審議委員の講演(というか挨拶)

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0811d.pdf
本文4ページですので。

信用不安問題に関連して、ドル資金市場の話を延々としているのですけれども、こと東京市場に関して言えばドル資金より円資金の方が問題になっておりまして、いやあの国際協調も大事なのですが、足元のお掃除もちゃんとやっていただきたいものですねとか悪態を。

で。その結論部分からですけど。

『国際金融資本市場の動揺をもたらした「信頼の低下」の背景には、世界的に緩和的な金融環境と世界的な低インフレ、高成長が長期にわたって持続する中で、金融、実体経済両面での行き過ぎが生じ、世界的に様々な不均衡が蓄積されてきたことが重要な要因の1つとして指摘できます。現在は、その様々な不均衡の調整過程にあり、G7後、各国政府や中央銀行は矢継ぎ早に様々な対応を採っていますが、その調整には時間がかかるものと思われます。このため、金融市場や金融システムの深い混乱を避けながら、次なる発展への基盤を整えていくしかありません。その際の課題としては、今申し上げた対応策に加え、以下の3つの対応を進めていくことが必要です。』

緩和長期化がバブルの原因ですかそうですか。

『第1は、様々な不均衡が生じないよう、各国ともそれぞれの経済・物価情勢に応じて、適切なマクロ経済政策を行うことです。第2は、金融機関が金融商品の適切な評価やリスク管理などを行うインセンティブが働くメカニズムを構築することです。この点、今年春に国際金融資本市場の動揺を受けて公表された金融安定化フォーラムの提言を、着実に実行していくことが求められます。それに加え、中央銀行や監督当局は、個別金融機関のリスクだけでなく、金融システムに内在するリスクを明らかにすることによって、金融機関の自主的な取り組みを促していくことも必要です。第3に、市場・決済インフラの整備を続けることです。こうしたインフラの整備は、金融危機に伴う混乱の拡大を制御することにつながります。』

第1に「それぞれの経済・物価情勢に応じて」としらっと書いてありますので、当然ながら協調利下げじゃないですよと言いたい訳ですね、わかります。

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2008/10/07

○今更ですが西村副総裁の29日講演

まあ展開が速いので先週月曜の講演とか今更ですけど。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0809e.pdf

・経済の下振れリスク

『現在の中心的なシナリオとしては、景気の先行きは、エネルギー・原材料価格高の影響と海外経済の減速に伴う輸出の増勢鈍化などから、当面、停滞を続ける可能性が高いとみています。問題は、日本経済が深い調整局面に陥るかどうかですが、その可能性は大きくないと判断しています。』

というのがメインなのですが、まあこの日の夜に米国下院の法案否決攻撃によって怪しくなって参りましたという感じですけどね。まあその前提を確認しておきましょう。

『その第一の理由は、90 年代から比較的最近まで続いた日本企業のリストラ努力の結果、設備・雇用・債務のいわゆる「3つの過剰」が解消しており、景気の下振れをもたらすショックに対する日本経済の頑健性が高くなっていることです。』

『第二に、サブプライム住宅ローン問題による日本の金融機関の損失は、欧米に比べ限定的です。国際金融市場の混乱が、日本の金融市場に影響するような場面もみられる場合がありますが、金融システムの機能は、引き続き良好な状態が続いています。』

『そして、第三に、緩和的な金融環境が挙げられます。建設・不動産業や中小企業では、資金繰りが厳しさを増しつつあり、注意が必要です。しかし、政策金利であるコール・レートは0.5%という低い水準にあり、消費者物価上昇率を引いた実質短期金利はマイナスとなっています。こうした金融環境は引き続き企業活動を下支えするものとみられます。』

国内要因だけで言えばメタメタに駄目になるという事はございませんというのがこの並んでいる内容ですわな。では国外要因はどうなるかと言いますと。

『ただし、こうした経済見通しには不確実性が大きく、様々なリスク要因があります。』

『先ほど触れた国際金融資本市場は当面不安定な状態が続くと見込まれ、世界経済には下振れリスクがあります。また、国内でも、エネルギー・原材料価格高による所得の海外流出によって、内需が更に下振れるリスクがあります。このため、日本経済は設備や雇用面で調整圧力を抱えていないとはいえ、景気の面では下振れのリスクを意識しています。』

『先ほど、2002 年から始まった景気回復の特徴点として、成長のエンジンが多様化したことと、各産業における小さなショックが打ち消しあったことを指摘しました。しかし、現在は、エネルギー・原材料価格高とサブプライム住宅ローン問題というグローバルに共通した2つの大きなショックが発生しています。2つの大きなショックが、グローバルに同時に影響を及ぼす場合、今度は、産業間・企業間の同調性が高まり、相互依存関係を通じて、負の方向の力が増幅されるリスクがあります。実体経済の動向については、下振れリスクに注意してみていく必要があります。』

まあ要するに金融市場のショックが実体経済に悪影響を与え、それがまた金融市場にフィードバックされるという97年から2002年くらいまでの展開がリスクというまあ当然のお話。


・サブプライム問題

『金融商品に対する投資家の信認は、2007 年春、いくつかのサブプライム関連証券化商品の価格が大きく下落した時に、大きく揺らぎました。このような証券化商品の価格下落は、それ以前には考えられないものでした。これにより、これまで金融機関に利用されてきた証券化商品に対する格付けの情報が、結局のところ間違っているのではないか、という疑念が生じました。時間が経つに連れ、証券化商品の価値に対する信認の喪失は、明確なものとなりました。』

『証券化商品の価値に対する信認が低下するに連れて、投資家は非常に慎重になり、取引を控えるようになりました。これが、証券化商品の更なる価格下落につながり、一層、証券化商品に対する信認の低下につながりました。更には、金融市場の動揺と実体経済の悪化の悪循環という、過去にもよく見られた現象が、最近になって現れてきています。』

と、ここまでは概論。

『ここ数週間、グローバル金融市場は、非常に混乱しています。株価は大幅に変動していますし、各種の信用スプレッドは拡大しています。また、流動性需要は高まっており、「質への逃避」も顕著となっています。ドルの短期金融市場における調達圧力を緩和するため、9月18 日に、6中央銀行は、ドルの流動性供給のための協調策を公表しました。また、米国政府は、米国の金融機関が保有している不良債権を買い上げる計画を公表しました。』

『不良債権の買い上げは、いくつかの点で、非常に重要な政策であると思います。第一に、不良債権の買い取りにより、これらの資産市場における流動性が高まり、市場における値付けが促されるきっかけとなります。第二に、この施策により、金融機関のバランスシートの透明性が増し、投資家は金融機関の状態について評価を下すことが出来るようになり、不確実性も大きく低下することになります。』

『国際金融資本市場を巡る不確実性は、依然として高い状態が続いていますが、政府や中央銀行による一連の政策が、グローバル金融市場の安定に貢献し、世界経済成長の回復につながることを期待しています。』

ということで、この日の夜にドル流動性資金供給オペレーションの拡大について日本及び欧米の中銀が発表したというのに米国議会下院が法案否決攻撃に出たというのが実に涙目な展開ではございましたことです。

まあ何と言う残念な展開ということで。

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2008/03/25

お題「副総裁就任記者会見」

総裁は決まらないわドタバタは茶番だわ。最初に提示されたメンバー構成が中々良かったこともありどうにもまだ脱力なのですな。両副総裁には申し訳ないですが。

全部で19ページもありやがるのでちと大変。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0803d.pdf

○まだ展望レポート前ですから方向感はでにくいですが

質疑の最初の5ページくらいが欠員が出ていますがどうですかという話が延々と続くのでそこは端折りまして、金利正常化または中立金利に関して今後の金利の動かし方について質問がありましてその答えなのですが、初回だからなのかもしれませんがお二人とも話が長い長い。

まずは白川さん。

『(白川副総裁)(冒頭部分で要するに一般的な答えと前置きしています。引用割愛)先程の抱負でも少し申し上げましたが、私が日本銀行の中で金融政策を事務方として担当していた時の経験から、いくつかの教訓のようなものがあります。』

『一つ目は、昔から言われていることですが、金融政策の効果が波及するまでには非常に長い時間がかかりますので、足許の経済情勢は非常に大事ですが、少し長い目でみて物価の安定がどのように維持されるのかどうか、持続的な経済成長が維持されるのかどうかという点検の姿勢も、非常に大事だと思います。それでは具体的な方法論は何かということで、世界の中央銀行は頭を悩ませているわけです。』

ここを切り取りますと従来の「足元減速先行き回復」があるので、利下げに関して否定的という話になりますわな。

『二つ目は、これも抽象論になりますが、経済が変化をする時は非常に変化するということであります。変化する時は上にも下にも非常なスピードで変化すると思います。それだけに、金融政策にあたっては、予断を持ってはならないと思っています。情報を集めその意味を考え、もちろん不確実性に満ち満ちているわけですが、最終的には判断をしなければなりません。その時に予断を持つことなく判断していくということを、これから自分自身に課していきたいと思っています。』

とは言え、景気先行きの不透明なのは認めていますので、ハードデータが全部揃って悪化してきたら利下げもあるのかねえとは思わせますが、予防的に利下げって話は今の所遠そうな気も。といいつつ豹変するのが日銀クオリティでもあるのですけど。

『三つ目は、もう少し具体的な話になってきますが、日本のバブル以降の景気を振りかえってみますと、最近の米国のサブプライム住宅ローン問題、クレジット・ローン市場の崩壊の問題をみてみますと、あらためてこの20 年近く、資産価格と実体経済の複雑な相互依存関係が色々な形で、経済の変動を引き起こしている感じがします。そうしたことも意識していくということは、私自身が意識している一般的な原則であり、当面の金融政策について何かを言っているわけではありません。これから、そうした基本的な考え方を踏まえ、様々な情報を集めて、次の4月の金融政策決定会合に臨みたいと考えています。』

ほほう。資産価格の下落に関しては懸念ですと。なるほど。

続いて西村さん。

『(西村副総裁) 先程申し上げましたが、金融政策は極めて難しい時期にさしかかっているということは、確かにその通りです。その中で一番大切なことは、単に私どもが手にする経済データだけではなく、それ以外の様々な質的なデータも組み合わせながら非常に丁寧に分析し、かつそういったデータの中に含まれるトレンド、長期的な動きをみながら、同時にその長期的な動きに何か変調はないかという小さな兆しにも十分な注意を払い、柔軟で、場合によっては機動的な政策ということも考えていかなければならないということが一般論で言えるわけです。(後半割愛)』

一般論と言いつつも利下げは否定してなさそうですな。まあ福井総裁の退任記者会見で利上げを急いで失敗するよりも慎重にという話が出てまして、その流れでこの話ですから、まー当面利上げはなくて、利下げに関しては否定しないけどまあ直ぐにやるかというとやらんでしょうなあという感じですか。


○名目長期金利と名目成長率の話

経済財政諮問会議でそんな議論がありましたが、そんな質問が。

『(問) 経済財政諮問会議では、名目長期金利と名目成長率のどちらが高い方が経済にとって持続的な成長が考えられるのか、という点について意見が分かれたと思います。お二人は学究肌な方と経済学者ですが、長期的にみた場合、どちらを重視すべきと考えますか。』

で、白川さん。

『(白川副総裁) 私は学究肌というわけでは全くありませんが、諮問会議で議論された事柄というよりも、一般的に成長率と金利の関係についてお話しします。私よりも西村副総裁のほうが専門の経済学者としてのご意見があると思いますが、私自身は、日本銀行の金融政策にとって大事なことは、経済が物価安定のもとで持続的に成長していくということであると思います。従って、先験論的に議論していくものというよりも、物価安定のもとで持続的に経済が成長していく結果、ある金利が実現していくものだと思います。』

で、短期金利と長期金利についてのお話になるのですが。

『金利は、二つの側面を常に持っていると思います。一つは、中央銀行自身が金利を操作し、金利が経済に働きかけていくという側面です。これは主として短期の金利であります。一方で、金利は、経済活動の結果、経済活動の体温でもあります。従って、経済活動が強くなると、その結果として金利が上がっていくものであり、これは特に長期の金利において妥当するわけです。』

これは確かにそうでして、短期金利動かしても長期金利は逆に行く場合がある(というかこの2年くらい逆に行ってるんですが、苦笑)次第でありまして、名目長期金利と名目成長率がどうだから日銀どうしろと言われましてもある意味困る所ではありますわなという所なのでありますよね。

『ご質問の趣旨は、長期の金利のことだと思いますが、私は、中央銀行が物価安定のもとで、持続的な成長を実現するように短期の金利水準を調整し、その結果、経済が物価安定のもとで持続的に成長していく中で形成されていく金利を受け止めていく、ということが大事だと思います。』

何か最後は禅問答みたいですが。うーむ・・・・

続いて西村さん。

『(西村副総裁) この問題は極めて難しい問題であります。実は、一つのディメンジョン(次元)について必ずしも十分に理解されていない部分があるのですが、それはどういうことかと言えば、成長率といった時に何の成長率なのか、それからインフレ率といった時に何のインフレ率なのかといった問題であります。しかも、金利と言っても非常にたくさんの金利があるわけです。色々な定義によって、過去のデータを判断する場合には、色々な結論が出てきます。』

いきなりそもそも論来ました。

『しかし、重要な点は何かと言いますと、特に金融政策の上で極めて重要な点は何かというと、先程、白川副総裁から説明がありましたように、私どもは物価安定のもとで持続的な成長を目指すとの言葉に尽きるわけです。その結果として出てくるものが、長期的には──長期といっても、どのくらいの長さを長期というかに全面的に依存するのですが──、過去の色々な数字であり、これまでの歴史の結果となるわけです。従って、私どもが目指すものは、あくまでも物価安定のもとでの持続的な成長ということであり、これが私どもに課せられたマンデート(使命)であると考えておりますし、それで十分に対処できるということは、私どもの「金融政策運営の枠組み」の中で、非常に丁寧に説明しているつもりであります。』

いやーん禅問答♪


○金利と言っても色々有りますというお話

今の実質金利がどうのこうのという質問に対して白川副総裁が中々判り易い説明をしていましてその部分を引用致します。

『今の実質短期金利は、もちろん計測には色々な問題がありますが、大まかに言うと大体ゼロであり、潜在成長率が1%台半ばあるいは後半ということですので、現在の金融政策はその面からすると非常に大きな緩和方向の力を発揮していると思います。』

潜在成長率がそれでよいのかという話はさておいてその次。

『ただ、金融政策が経済に対して影響を及ぼすルートは短期金利だけではなく、短期金利から始まって中長期の金利、その金利も国債の金利で測られる金利だけではなく実際に民間の企業の金利、つまりクレジット・スプレッドを加味してどうなのか、あるいはクレジット・スプレッドを加味した上でどの程度銀行が積極的な与信態度で臨んでいるかというようなことを、総合的に判断していく必要があると思います。』

『よく専門家の方々がファイナンシャル・コンディションズという言葉で表現していますが、金融政策が持っている金融緩和の力を最終的に評価していくということだと思います。従って、実質短期金利の動きだけから機械的に考えているわけではありません。あくまでも中央銀行としては、長期的な関係ということを常に意識しなければならないという趣旨で申し上げたわけです。』


で、別の質疑で政策金利引下げの効果に関して質問がありまして、米国の例について上記の説明を具体的に補足しています。

『短期金利の引き下げの効果についてのお尋ねですが、金融政策を議論するときに、どうしても短期金利だけに注目した議論をしがちです。しかし、今の米国を見てみますと、昨年の9月からFFレートが3%ポイント下がったわけですが、一方で信用スプレッドが大きく拡大し、放っておくと自質的な金融引き締りが進んでいくため、それを何とか防いでいるという状態です。これらのどちらが強いかということです。従って、短期金利だけをみて、米国がものすごい金融緩和の力を発揮しているかというと、最終的に実現したレベルからいくと、それは必ずしも判然としません。』

つまり放置しておくと金融が実質的に(「自質的」って実質的のタイポですよね)引き締まるので利下げをしているという話になりますが、まあそうするとプルーデンスも大事ですなあという話になる次第。実はその前に米国の事例に関してプルーデンス的にどうですかという質疑もあるのですが、あまりにも長くなるので(これでも長いですけど)必要があれば後日。

『先程申し上げたのは、金融政策が持つ緩和の力、刺激の力を評価する時には、短期金利だけで評価していては必ずしも適切ではなく、イールドカーブ全体、あるいはクレジット・スプレッドを加味した民間の金利がどうなのか、そのもとでのアベイラビリティ(借入の容易さ)がどうなのかということを、総合的に判断しなければなりません。従って、短期金利がどういうレベルにあるかということも一つのベンチマークとして意識しないとならないということですが、短期金利だけを捉えて機械的に評価することは適切ではありません。私は、実質短期金利と成長率の関係だけから足許の政策を評価するというアプローチをとっていません。』

というのはまあ金融市場とか金貸しとかやってた人的には何となくふーんとか思ってしまうところがまさしく諸葛孔明の罠なのでありますが、ルール重視で運営すべしって立場からは批判されるような気がしますけど。

と申しますか、白川さん的な新しい日銀文学としてはこの総合的アプローチで煙に巻くじゃなかった理論構成を行っていくという事になるんでしょうな。


○これはワロタ

『(問) 白川副総裁にお伺いします。趣味は金融政策とよく拝見するのですが、本当のご趣味があればそれも教えて頂きたいのですが、そう言われることについても伺いたいということが1点です。(以下割愛)』

『(白川副総裁) 趣味が金融政策というのは、随分暗い人生を送っているという感じがして、どこか人間として幅がないと言われているようで、私自身はあまり好きではありません。(で、この先延々と仕事の話になっているのが笑ってしまうのですが長いので割愛^^)それでは休みの日に何をやっているかといいますと、バードウォッチングを結構やっていまして、新聞を拝見していますとタカとかハトという言葉がよくありますけれども、バードウォッチングをやっている立場からしますと、その安易なラベル貼りは鳥に対してかわいそうだなという感じがしています。』

ほほうバードウォッチング。で、自分はタカでもハトでもないですよと(^^)。

で、確か写真撮影が趣味だったような気がする(間違ってたらごめんなさい)西村副総裁にはこれまた失礼な質問が。

『(問) 西村先生の過去の優れた業績から言うと、2番目に(引用者追記:副総裁就任の)話がくるというのはちょっと納得がいかないという思いはなかったでしょうか。』

『(西村副総裁) ノーコメントです。』

他に答えようがありませんな(^^)。

今回が就任会見なので話が長かったのかもしれませんが、多分これは白川さんも西村さんも話長い予感が。お二方とも解読が難しいのが実にアレでございますが、本日は衆議院財務金融委員会で早速吊るし上げじゃなかった所信聴取だそうでお疲れ様であります。

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2008/02/04

お題「西村審議委員記者会見」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0802a.pdf

全体的にはハト派の雰囲気が強いです。

○利下げを否定しなかったくだり

『(問) 本日の挨拶要旨の中で、「時々の経済・物価情勢に応じた柔軟な対処を考えていくのは当然のこと」とありましたが、これは利下げも含めて検討していくと受け止めても良いのでしょうか。』

変に途中で割愛しないでまる引用します。段落わけはしますが。

『(答) 本日お話したことは、過去もそうでしたし今後もそうですが、それぞれの時点時点でフォワードルッキングに先を読みながら、何が起こるかを想定し、その時点その時点で最も望ましい政策のタイミング、刻み幅、方向性といった具体的な内容を考えていくということですから、常に伸縮的に考えなければならないということをご説明しました。』

『従って、どの時点どの時点でも、今までもそうでしたしこれからもそうですが、全ての選択肢は当然のことながら排除する訳ではありません。その時点その時点で最も望ましいものを的確に判断しながら決めていくということが、少なくとも私が考えている政策決定のベストプラクティスだと思っています。』

ということで、このヘッドライン出たとき確かに先物とか反応していましたわなということで。ただユーロ円金先みたいにモロに短期金利な部分だと利下げネタは買いで反応できるんですけれども、より長いところに関しては、メジャードペースの利上げ路線が低金利引っ張る路線に転換した場合には普通に考えて期待インフレ率が上昇するんですから長期金利は上昇しますわなとなるので債券先物は反応しにくい面も。

んでまあこの応答に対して更にツッコミが。

『(問) 西村委員は先程、「すべてのオプションを排除しない」とおっしゃいましたが、今、日銀がはっきり言っているのは、徐々に金利を上げてきたから今後もその部分は崩れていないということだと思います。先週の日銀の調査統計局長の講演では、利下げの可能性について非常に大きな外的ショックがあってデフレの圧力が高まった時に限定して言われていましたが、委員もそのようにお考えですか。次に何をするか仄めかすことは日銀としてはしないということですが、今、徐々に金利を上げていくというフレームワーク、ポリシー・スタンスがある時に、例えば展望レポートとか毎月のレポートで何の前触れもなく、急にもうディレクション(方向性)が変わりましたというのはちょっと違うと思いますが、いかがですか。(以下割愛)』

またそれは意地悪質問で。

『(答) 最初のご質問につきましては、挨拶要旨でも説明していますが、基本的な考え方は、金利が非常に低い状態、つまりゼロから出発して、経済が非常に長い沈滞の状況から回復をしていく、調整過程でありますが回復をしていく、回復そのものは極めてゆっくりしたものであるということから考えるならば、全体の方向性としては上げる方向にあるだろうというのが、日本銀行が展望レポートで採っているスタンスです。』

『しかし、当然のことですが、その行程においては、経済にはいろいろなショックが入ってきたりしますから、そのショックに応じた対応を採るということは、「経済・物価情勢の改善の度合いに応じて」というところで明快にしてあります。「柔軟に対処する」というところで、それに関しての様々な方向性を含めた柔軟性というものを明確にしている訳です。(以下割愛)』

「経済・物価情勢の改善の度合いに応じて」という言葉もこれまた曲者ちゃあ曲者でありまして、「金利水準の調整」って言い方はメジャードペースの金利調整(要するに引き上げ)を示唆するような感じな上に、「フォワードルッキング」ってお話してるんですから、フォワードルッキングで金利調整をしますとなるとFRBのメジャードペース攻撃を想像したくなりますわな。

でも、西村さんのこの質疑応答を見ておりますと、「経済・物価情勢の改善の度合いに応じて」を足元ルッキングとして位置づけている訳でありまして、まあ都合が悪くなった(=経済がシナリオ通りに行かなかった)場合に足元ルッキングに軸足をそろりとシフトするという技が使えるというのが日銀マジックなのであります。恐るべし日銀文学。

まあそれは兎も角として、西村審議委員は利下げも含めてかなり柔軟に対応するというスタンスとなっていることは把握しました。でまあその後もこの点に関する質疑応答がやたら多かったのですけれども、無難な応答になってましたので、引用は割愛します。


○協調利下げについて

『(問) (前半割愛)次に、渡辺金融担当大臣が欧米との協調という面でも日銀も足並みを揃えるべきだということで利下げにも言及されていると思いますが、協調利下げについては現時点でどのようにお考えでしょうか。』

欧米の協調するなら財政(ry

『(答)(これまた前半割愛)それから協調ということですが、これはちょっと誤解があるかもしれませんが、12 月の米欧の中央銀行の資金供給については日本銀行も参加した形で協調的な行動が採られています。ただ、日本銀行は日本銀行そのもののところで起こっている訳ではありませんので、われわれとしては普通の手段で対応出来、実際対応しているということですが、しかし重要な点としては協調して問題に対処したということです。』

そういやまあこの時も「日本がどうのこうの」と批判する人もいたような気がしないでもないですな。市場実務的には「日本はこの辺りの対応ツールは何でも揃ってるから、海外がやっと追いつきましたなあ」くらいのもんでしたけれどもね。

『従って、協調というのは常に中央銀行間ではなされていることですし、その協調の表れがどうなるかということは、当然ながらそれぞれの国のそれぞれの状況に大きく依存する訳です。そういう状況でありますから、この中央銀行間の協調の体制は今後も堅持して、今後起こりうることについては対処していくという形になると思います。先程申し上げましたとおり、協調しながら対処するということは同じですが、その表れは各国の状況、各市場の状況によって違いが出てくることは極めて当然ということです。』

まあ協調するとしたら効果出る形でやらないと外れになった場合に市場から変に追い込まれてしまうというのもありますし、日銀が協調で利下げとかかましても政府がより一層の財政緊縮とかやらかしたら意味ねえ(しかも閣僚発言とかを見てますと「政府が財政措置などをやる余地無い」というのが繰り返されている次第ですから、より一層その悪寒が・・・・)わなと思うのですが、西村審議委員がそこまで考えているかどうかは別にして、協調対応に関してはあまり積極的ではなさそうだというのは理解しました。



○格差というか爬行色に関して

最初の説明のところでちょっと興味深い発言が。

『また、特に中央と地方の景況感の差について理解して欲しいというご要望があり、それに対しては、本日の挨拶要旨でも言及したように、ハードデータとソフトデータの違い、マクロの経済データに出ている姿と一人一票のサーベイデータ、センチメントサーベイに出てくるものの違いを的確に把握して、政策判断に活かしていきたいと考えており、日本銀行の中でもきちんとそうした議論がなされているということを私からお伝えしたところ、そういったことは非常に励みになるというお話を伺いました。』

講演要旨の中でもこの「ハードデータとソフトデータの違い」について言及されていた部分は金曜日にご紹介しましたが、講演要旨だけ見てますとどういう文脈なのかが今一歩よく判らなかったんですが、ここの説明を読みますと「ハードデータが強いからと言って強気の政策判断に結びつけるのでは無い」という文脈だったんですねということで、これまたハト派な発言ですなという感じであります。


ということで、本日は路面凍結の惧れがあるので引用ばかりで恐縮でございました(汗)。

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2008/02/01

お題「西村審議委員講演」

徐々に「金融政策動かないですし」って感じになってきたんで、よほど突拍子も無い話が出ない限りあまり反応しなくなっているような感じはしますけど・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0801e.htm

○世界経済実体面の下振れリスクについて

『国際金融市場の動揺に加え、実体経済面でも、米国を中心に世界経済の不確実性は高まっています。』

ということで、西村さんも実体経済の下振れリスクに対して言及ということで、まあ審議委員の皆様揃い踏みと言った所でありますので、具体的な部分については引用を割愛しますが、米国経済の見通しに関してはこのように纏めています。

『このように不確実性は下方に大きく高まっていますが、大掴みで見ると、低成長ないしは停滞が当面相当程度続いたあと、その後は住宅市場の調整に応じる形で、潜在成長率近傍の成長経路に向かった動きが出てくるというシナリオに蓋然性があるように思います。』

ということで、まあ下振れをかなり意識しつつという所。

『こうした中、FRBは昨年9月以降、政策金利であるFFレートを順次引き下げ、1月22日には緊急の利下げに踏み切り、米国政府は1月18日に財政支出による景気刺激策を公表しました。今後は、これら一連の景気刺激策がどの程度米国経済を下支えしていくか注意深く見ていく必要があります。』

そして所謂デカップリング論に関しても。

『このように、世界経済は足もと米国経済の弱さをその他の地域が補う形で拡大を続けており、今後も減速しながらも拡大方向の動きを続ける蓋然性は十分にあります。しかし米国経済や国際金融資本市場の調整が長期化し、かつ、深まっている中では、下振れリスクが高まっていることも事実です。』

とまあこちらも不透明不透明。


○国内のマインドとハードデータの差異に関して

『わが国経済は、足もと建設投資の落ち込みや、原材料価格高騰の影響などから減速していますが、基調としては緩やかな成長軌道にあると考えられます。先行きも当面は減速が続くと考えられますが、その後は緩やかな成長軌道に戻ると思われます。ただ日本経済と世界経済のリンクが強まっている中で、世界経済の実物面の下振れリスクと物価面の上振れリスクが日本経済の今後に影響を及ぼす点には十分な注意が必要です。』

というのはこれまた皆さんと同じでして、項目別展開も概ね皆さんと似た話になっていますが、マインド面とハードデータに関する指摘が西村審議委員独自の部分って感じであります。

『このように現状は、改正建築基準法の影響が依然として強く残る建設投資を除けばマクロ経済のハードデータは若干の弱さを示す程度です。しかし対照的に、景気ウォッチャー調査や消費動向調査、生活意識アンケート調査等、センチメントを示すソフトデータには大きく低下しているものが少なくありません。』

さてそれは何故でしょうということを西村さん解説。

『景気判断の基礎となるGDPなどの指標は単純化すれば支出額ベースであり、支出の多い企業・家計の動向に、より強く依存します。これに対してセンチメントサーベイである、景気ウォッチャー調査や消費動向調査、生活意識アンケート調査等のサーベイデータは、一人一票の世界です。』

ふむふむ。

『従って数の多い中小企業、数の多い平均以下の所得層をより強く代表しています。センチメントサーベイで2007年中葉から大きく悪化したものが多いのは、好調な外需の恩恵を受ける企業(大企業とその関連企業)に比べると内需にもっぱら依存した企業(中小企業が多い)の業況が相対的に伸びにくくなっていること、好調な外需関連企業からの波及を享受する家計層に比べて、そうでない家計層では所得の伸びが鈍化していることを示していると思われます。』

それは確かにご指摘のとおりのような気がします。だからどうなのよという話が後続が無いのが残念なのですが。


○国内物価に関して

『ここで注意したいのは直近の物価指数、12月の全国そして1月の東京都速報、に見られる動きです。内訳を見ると、国際的な原油価格、穀物価格の上昇からガソリン・灯油価格そして外食を含めた食品価格が上昇した影響が大きいのは事実です。と同時に、原材料価格高騰とは直接結びつかないサービス価格にも上昇傾向が表れていることを見逃すことはできません。また品質向上が著しいため品質調整後価格の低下が大きかった耐久消費財の一部でもしっかりした需要を反映して品質調整後価格の低下幅を縮める製品も出てきています。』

『物価変動の傾向を見るため、大きく上昇したり下落したりした品目を外して平均をとる10%刈込平均物価上昇率でみても、上昇率はプラスに定着してきています。』

おお久しぶりに10%刈込平均が。(編集時追記:よく見たらこの下に有りますけど、西村さんって以前から刈込平均に注目してるんですね。すっかり忘れてました)10%刈込平均はずっとプラス(と言っても0コンマ何ぼの世界ですけれども)推移なんですよね確か。

で、この物価上昇に関してどう見るかなのですが。

『欧米に比べ日本の物価上昇率が低かったのは、第一にサービス価格が欧米ではコンスタントに上昇していたのに対して日本ではこの十数年間殆ど上昇しなかったことと、第二に品質向上の著しいIT関連耐久消費財の品質調整後価格の低下幅が日本で大きかったことが主要な理由です。』

なるほどなるほど。えーっとそうしますと第二の部分ってもしかしてヘドニック効き過ぎの面があったりするのでしょうか。

『IT関連をのぞく財の価格の動きを見ると日本と欧米の差はさほど際だったものではありません。従って日本のインフレ率の推移を見通す際に、これらサービス価格や耐久消費財価格の一部に見える上昇幅の拡大(下落幅の縮小)が持続するのかどうかが、鍵となります。』

で、その後で物価上昇の悪影響に関して指摘しています。

『また原材料価格の高騰を製品サービス価格にどの程度転嫁できるかは、中小零細企業の収益にも響くことでもあります。原油価格、穀物価格上昇の影響の裏に隠れがちな小さな変化ですが、ごく最近の物価データに見られるこの動きは慎重に見守る必要があるでしょう。 』


○今般の景気回復メカニズムに関して

『以上、経済物価情勢の現状と見通しについて説明いたしました。少し視野を広げて、経済物価情勢の現状が、七年目に入った今般景気回復の基本的メカニズムの変調を示しているのかどうか、検討してみたいと思います。』

『今般の景気回復は、国の内外で需要を生む成長エンジンの多様さとそのバラツキの大きさに特徴づけられます。そのため、生産から所得そして消費への波及は従来型の景気回復に比べて底堅いものの、盛り上がりには欠けるものでした。』

で具体的な説明の後、

『このように、小さな主役が頻繁に交代し底堅いのですが、そもそも景気回復に力強さがあった訳ではありません。従って需給ギャップはプラス領域にあるとは考えられるものの急速に引き締まるというより一進一退の状況であったと言えます。そうした背景の下で、建築基準法改正の影響等から元々力強さに欠ける成長が更に一旦鈍化するという状況となりました。』

で、具体例をして建設投資と不動産市場全体の話をし上でまとめは、

『このように考えると、現状は、減速感はあるものの、景気を動かす基本的なメカニズムに足許で大きな変化は見られないというのが適切な判断と思われます。』

ということになっています。うーむ、こういう話ですと悪化とか失速という判断に中々行きにくいような気もする。足踏みは延々と足踏みになるんでしょうけれども。。。。


○金融政策に関してはかなり柔軟に

展望レポートに関する説明部分は割愛しまして、具体的な政策の部分を。

『さて、日本銀行はこれまで、日本経済が物価安定のもとで底堅く拡大を続けるとの判断のもとで、金利水準を徐々に調整してきました。そのペースについては、日本経済が長い沈滞状況から新しい成長経路への調整プロセスの途上にあることを考慮し、見通しの蓋然性や上下両方向のリスクを十分に点検しながら、ゆっくりと柔軟に決定してきました。こうした考え方は、現在の景気を動かす基本的なメカニズムに変調が見られないのであれば、これからも基本的に維持することになると考えられます。』

で、例によってこの部分までを切ったヘッドラインが打たれていましたが、市場は全然反応しないのがチャーミング。ちなみに次にこのような説明がありますので、実は利下げだって視野に入っているとなるのですけど・・・・・

『と同時に、すでに中間評価のところで説明を加えました通り、現在は10月展望レポートに比して下振れ、後ずれの状態にあり、また「見通し」に対して様々なリスク要因が存在しています。仮にこうしたリスクが現実化する蓋然性が高まるような場合には、当然ながらそうした要因の影響の深さ、広がり、期間を勘案し、時々の経済・物価情勢に応じた柔軟な対処を考えていくのは当然のことです。』

会見でもこの点について突っ込まれてて、利下げの可能性だって排除しませんと取れる質疑応答だったのでほんのちょっとだけ反応したような感じでしたが、何せ月末なもんでインデックス系投資家のリバランスで大変な時間帯で反応してる暇が無かったという感じだったのではないかと(^^)。

『しかしながら現在のところはリスク要因が顕現化する蓋然性はまだ低い状態で、慎重に見守るのが適切な対応であると考えています。 』

ということで結論としては現状維持なんですが、時と場合によっては利下げだって対応するというのは当然ですよって話になっている(別に利下げするとは言ってませんが)のは金利水準調整路線の休止を意味するという所になるんでしょう。

でもヘッドライン打つときに引用部分の最初を切り取られてるくらいですから、どうせ報道される時になると、報道するサイドに「日銀は利上げ」という観念が染み付いている関係上、最初の部分にフォーカス当てた報道をされちゃうんじゃないのかなあという感じではありまする。後半部分の「柔軟な姿勢」にスポットライト当てた報道する所はあるのかなあ。。。。。

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2007/07/05

○西村審議委員講演と刈り込み平均CPI

http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/ko0707a.htm

正直申しあげまして、一昨日3分の2を読んだだけでその先まだ読んでる根性も時間も無かったのですが、とりあえず前半部分を見てるだけでも色々と「ほうほう」と(図表を見ながらですけど)思いながら読んでいたのでありました。で、読んでて「おお!」と思ったのは講演の真ん中あたりにある『2. Increased Uncertainty in the Policy Transmission Mechanism』という見出しの部分でして、フィリップス曲線分析の物価指標として使っているのが、図表4を見るとわかるのですが、10%刈り込み平均CPIを使っておるのですな。で、その脚注。

『The inflation rate is the year-on-year rate of change in the CPI (excluding fresh food), which is widely considered to be representative of Japanese consumer price inflation and on which the Japanese version of Treasury inflation protected securities (TIPS) is based. The basic characteristics of this rolling estimation exercise do not change if we use the trimmed-mean CPI inflation rate referred to later in this speech instead of CPI (excluding fresh food) inflation.』

だいぶまえにCPIのトレンドを見るのに何が適切かっていう趣旨のペーパーが日銀から出てまして、一時は10%刈り込み平均CPIも話題になってましたんですが、ここのところさっぱりその話題も減ってきてるなあと残念に思っていたあたくしと致しましては、ここの部分を読んでて「おお!」と思ったのですよ。いやまあそれだけですけど(^^)。

という訳で、突っ込むとオモシロそうなのですが、全然料理してない途中ものをお出ししてしまい恐縮至極なのでありました。

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2007/06/04

お題「慎重な物言いに終始した西村審議委員会見」

西村審議委員会見でございますが、月曜なのでまあ簡単に。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0706a.pdf


○CPIと金融政策

CPIが上りにくいという解説を行っていた点についてのツッコミに対する西村審議委員の答から。

携帯電話に関するCPIの計測方法が具体的にどの位になるのかという話は「CPI作成のための予算は限られているので正確な調査は無いと思う」という答えをしてまして、物価が上昇しにくい状況に関しては今までどのように考えていたのかという質問に対してこのように答えています。

『次に、物価が上がりにくい状況については、そういった状況についての認識は、私はずっと持っていました。他の政策委員の方がどのように考えていたかは私にはわかりませんが、私がこういうかたちで自分の意見を表明したのはこの挨拶要旨が最初ということになります。そういうことですので、物価が上がりにくいということは、2月の金融政策決定会合の時点で、私も含めて十分に討議をしたと言って差し支えないと思います。』

で、次にもうちょっと直球な質問がありましてそれに対して西村審議委員のお答えはと申しますと、

『まず、物価と金融政策運営の関係の問題ですが、物価の動きというのは非常に複雑な要素があり、色々なかたちの不確実性が存在します。そういった中で、物価をみるときに、物価だけではなく他の要素もやはりみなくてはならない。逆に言えば、他の要素をみる時に物価も当然みなくてはならない、といったかたちの総合的な判断がどうしても必要になってきます。それを勘案して、必要な時期に、もし確信が持てるのならば何らかのかたちの政策変更をするというのが一般的な私共の方針です。それについては何ら変更する必要もありませんし、私はそのかたちが一番正しいと思っています。』

『それから、特定のデータや特定のイベントに特定の意味を持たせて金融政策を考えようというのは、やはりミスリーディングではないかと思っています。従って、経済・物価情勢に応じて、慎重に検討しながら、経済・物価情勢の改善の度合いに応じて徐々に金利水準の調整を行うという考え方が、今の日本経済にとっては一番望ましい考え方であると思います。逆に言えば、その時その時において色々な状況が起こりますから、その起こりうる状況をひとつひとつ把握しながら、その時点その時点で最も望ましい政策運営とは何かということを考えて行動するということになると思います。』

ということで、講演でもありましたように、特定の経済指標にフォーカスするのではなく「フォワードルッキングな総合判断」を支持しているというように読める次第でして、結局現在の金融政策の枠組みの「物価安定の理解」は「理解」であってターゲットでも何でもないですという話になりますわな。

いや別に「フォワードルッキングな総合判断」ならそれでも結構なのですが、それなら目くらましみたいなものを出さない方がよっぽどロジックは判りやすいと思うのですが、その場でいろんな理屈を捻り出すのが福井日銀クオリティですのでねえ。


○金融政策をどうするという発言には慎重さが目立ちますが・・・

まあ前回の会見で「やっちまった」だけに今回は妙に慎重なものの言い方が目立ちます。お蔭でマーケットインパクト皆無の講演&記者会見になりましたが、あたくしの読み方に問題があるせいなのかもしれませんが、講演内容でも割と福井総裁路線っぽい話をしてますし、会見でも上で引用したように、結局「フォワードルッキングな総合判断」をいう話になっているように見えますな。少なくとも西村審議委員が「利上げ時期尚早」と止めに入るという図はあまり想像しにくい(自分から利上げを先導することはあり無いでしょうが)のであります。

まあ昨年2月の会見要旨を見たときに「ちょっと口が滑りそうな人ですなあ」という趣旨の感想を申し上げた事がありますが、前回の反動で「慎重」を強調し過ぎているように見えます。

講演の「今後の金融政策運営の方針」部分で「慎重な態度」というのが連発されてましたが真意は如何という質問に対して。

『「慎重な態度」というのは、別段新しくしたわけでもなく、従来からの「慎重な態度」を今後も続けていくべきだと考えています。(途中割愛)こういう状況の下で、逆に言えば、余裕のあるかたちで金融政策をみていける状況ですから、慎重に物価情勢の改善の度合いを検討しながら、その度合いに応じたペースで徐々に金利調整を行うという態度が一番重要な態度であると私は思っております。(以下割愛)』

ちょっと途中割愛しているのですが、発言全体を良く読んでみると「慎重」は福井総裁の「慎重」と同義に読めますわな。うーん。で、最後の方で改めてツッコミが来るのですが。

『(問)先程の発言の確認をさせて頂きたいと思いますが、「慎重に対処することで一番望ましい金融政策が可能になる」(引用者注:後でそのくだりを引用します)というのは、ここで「慎重にゆっくりと」ということでよろしいのですか。「慎重にゆっくりと対処することで一番望ましい金融政策が可能になる」というご発言でよろしかったでしょうか。』

『(答)正確に言うと、経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、「慎重にゆっくりと」、という意味です。』

『(問)「慎重にゆっくりと」ということでよろしいのですか。』

『(答)はい。これは、これまでの展望レポート等で書かれてきたことと同じ意味であり、「慎重にゆっくりと」ということで私はかまわないと思います。』

ということで、この応答でも「慎重にゆっくりと」」は「展望レポート等で書かれてきたことと同じ意味」としているので、実は執行部(除く岩田副総裁)ペースの発言をしているとも言える訳で、何か前回のせいで今回の発言が変にハトを意識した(というかタカを意識させない)言い回しになっているんじゃないのかなあと思います。

でね、前回の会見でもそうだったんですけど、ここで発言全部読むときっちりバランスを取った話をしているように見えるんですけど、ヘッドラインを打つ場合には「慎重にゆっくりと」の発言が踊る訳でして、「それは展望レポートと同じ意味」って部分はヘッドラインに出てこないというのが普通(記憶が怪しいけどたぶんヘッドラインもそんな感じでした)ですんで、この手の物言いをするときって「両論併記」みたいな言い方をしない方がヘッドラインリスクの回避が出来ると思うんですけどね。

で、この後にも質疑応答があるのですが、この部分を読んでいると良く見りゃ展望レポートと同じこと言ってるんですよね。ヘッドライン打つと慎重派っぽい打ち方になると思うのですが。



○投資行動の積極化に関して

挨拶要旨で投資行動の過熱について説明していましたのでその点に関する質問もございました。

『挨拶要旨に書いてある通り、現時点でこのような差し迫った状況にあるという認識は持っておらず、必要以上にこの点を強調するのは望ましいものではないと思っています。問題は、現在起こっている様々なリスク価格の低下が構造的、永続的な変化であって今後のショックに耐えうるものなのか、それとも、ある構造変化の中でしばしば起こりがちな一方向に偏った投機的な取引が生じているものなのか、を見極める必要があります。(以下割愛)』

『第1の柱のところで書いてあることは、投資の実質収益率が回復しているときに、それに対応する実質コストがかなり乖離した状態が長く続くと、経済の中に、ある種の非効率性が溜まってしまうことを説明しています。これは、先程申し上げた金融面の話とは違う話をしているということをまずは確認させていただきます。ここでは、労働力や設備を含めた実物の資産の資源配分が効率的なかたちに変化していかなければならないが、そうした動きを大きく阻止することがあってはいけないという趣旨で言っています。』

これは一連の質問の中での答えの流れなのですけど、なるほど金曜に「あたくしにはどっちも第2の柱にしか見えないです」と申し上げましたが、そういうことでございますかそうですか。何かこう判ったような判らんような理屈ですが、言いたいことは把握致しました。で、その一連の質問の最後は「現状認識如何」というものでしたが・・・

『こういったリスクに対処するには、全体的にみるならば、先程申し上げた通り、私共には十分な時間があると考えています。この点は、非常に重要な点ですが、投資の実際の収益率は、経済の資本蓄積や労働参加率や、それらの部門間、地域間の配分というかたちで決まってきますので、金融市場のように急に大きく変動するということはありません。従って、これはゆっくり起こりますからこうしたゆっくりした動きに対して、そのトレンドをじっくりとみていくというかたちになります。そういう意味で「余裕がある」といっており、慎重に対処することで、一番望ましいかたちで金融政策が可能であると考えています。』

というお話でして、ほうほうなるほどとか最初読んでて思ったのですが、よく考えて見ると「投資の実際の収益率(=第1の柱)は、金融市場(=第2の柱)もように急に大きく変動しません」という事は、やはり「第2の柱が顕在化する方が早いです」って話に帰着されそうな気がする次第でして、やはりこう金融政策についての論議をする際に資産価格がどうのこうのという話をするとどうしても「第2の柱」というか「予防的引き締め」論議に傾斜しやすくなってしまうのではないかと思うのでありました。

いずれにせよ、あまりこの資産価格云々の話を強調し過ぎるのは(どうせ金利操作でどうこう出来る範囲は限られていると思うので)どうなのよという感は致しますです。はい。

#ロンバートの話とかもうちょっと有るんですが、まあこんな所で。

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2007/06/01

お題「西村審議委員の講演」

今回はまあ穏当にまとめたようで、質疑応答も穏当に終始したようなのですが、何せ前日にカーブが豪快に動いた翌日かつ月末だったので影響があったのか無かったのかよく判りませんでした。多分無かったと思いますが。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0705f.htm
A4の紙に打ち出すと12ページございますが、西村審議委員にしてはまあ標準量ですな。で、結論を先に申し上げますと、概ね現在の執行部というか福井総裁の金利調整云々と平仄があっておりますわな。基本的に利上げ容認でっしゃろ。

○特定の経済指標に注目するのは勘弁してという話

前半の「金融政策の新たな枠組み」解説部分から参ります。

『日本経済は構造変化のただ中にあり、中長期的に安定した発展経路の姿にはまだ大きな不確実性があります。日本経済の様々な分野で進む構造改革は、国民の物価や景気に対する期待形成を今後変えていくことが予想されます。消費者物価指数を含む経済データの作成方法も、実体経済の変化に応じながら変わりつつあります。こうした中では、将来のあり得べき物価安定の姿を消費者物価指数で表す時に、様々な見方がある方が自然であり、且つ構造変化が進むにつれて変わっていくことが考えられます。このような状況を前提とすれば、組織として特定の数字に自らを拘束するのは必ずしも望ましいとは言えません。』

まあ消費者物価指数自体、小市民でありますあたくしから見るとナントカ調整が効き過ぎて上げも下げも過小評価してるんジャマイカ(などというとドシロウトがまた何言うと怒られそうですが、苦笑)という気がするんで、西村審議委員の文脈も判らないではないのですけれども、構造変化がどうのこうのという話を言い出すと、世の中常にどこかで小さい構造変化は起きている(起きなきゃ進歩がございませんし)んですから「大きな不確実性」とか言わなくても良いような気もするんですが。まあ「不確実性」と言ってハトっぽい雰囲気を醸し出そうというのかもしれませんが(何という無理矢理な裏読み^^)。

まあ国内市場的には「日銀は特定の経済指標にフォーカスしているわけではない」という認識は定着してる(香ばしく勘違いするガイジンどもの認識は知らんが)ので、市場向けというよりは金融経済懇談会参加者向けのお話とも言えそうですが。

で、展望レポートの説明をちょっと先でしておりまして、こちらでもこんな話が。

『展望レポートには、当該年度及び翌年度の実質GDP成長率、国内企業物価指数及び消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の上昇率について、各政策委員の見通しの幅やその中心値等が具体的な数値で記載されているため、これらへの注目度が高いのが実情です。しかし、これらは参考として位置付けられています。展望レポートの本来の趣旨は、日本銀行政策委員会が考える標準シナリオ及びこの上振れまたは下振れ要因について、定性的な説明を行うことであり、参考として記載された実質GDP成長率等の達成をコミットするものではありませんし、また、政策金利調整のタイミングや幅等を予め示唆するものでもありません。』

#と、考えると「半年毎の利上げ」をすると全部GDP後になっちゃうのはちょっとアレのような気がするんですけどね・・・・



○どっちも第2の柱に見えるのは気のせいですかそうですか

もうちょっと先で2月の利上げについての背景説明をしてますが、そのあたりから。

『私の見方では、景気の拡大が次第に裾野を広げ、投資の実質予想収益率の上昇は製造業、都市部、大企業から非製造業、地方、中小企業にも緩やかながら広がりつつあります。その中で、投資の実質コストが長期に亘って著しく低位に抑制されると、非効率的な投資や事業の継続から経済全体の生産性向上が大きく妨げられます。こうした非効率性が90年代の日本経済を蝕んだことは、私自身の研究を含め様々な実証研究で裏付けられています。』

いきなりバブル経済警戒でございますかそうですか。

『従って、第1の柱の観点から、「物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどる」ためには、投資の実質予想収益率が経済全体でみれば回復しつつあるのに合わせて、投資の実質コストを調整する観点から政策金利を調整することが適当です。』

あたくしは頭が宜しくないので、どうもこの論理展開は第2の柱の観点にしか見えないのでございますけれども・・・・・

『また、第2の柱の観点に基づく経済・物価情勢の点検については、国内不動産価格は全国平均でみれば底を打ち、経済情勢の好転を反映する水準にあるとみられます。金融機関の不動産関連融資はリスク管理への適切な配慮から慎重ですが、都市部のAクラスのビル等では、世界的なオフィス不動産ブームの一環として資金の流入がみられ、高騰する物件もあるようです。また、国際金融資本市場においては、一方向に偏した取引が生じる可能性もあります。』

不動産バブル警戒と円キャリー取引懸念でございますかそうですか。

『従って、第2の柱の観点からも、低金利が経済・物価情勢と乖離して長期間継続する期待が定着する場合には資金の流れに歪みが生じる可能性があり、先読み的な見地から必要な措置を採ることが適当です。』

ということで、どうもあたくしの無い知能では同じ話を2度しているように思えてしまったりするのですが。まあそういうことのようでございます。



○米国の住宅関連に関する指摘には同意

で、この話の後に経済物価情勢の解説コーナーとなるのですが、経済の上振れ、下振れ要因を説明するなかで米国の住宅市場関連について指摘している部分にはあたくしも同意なのですよ。

『しかし、米国では、保有する住宅価格の上昇分について、銀行から借入を増やすことができるスキーム(ホーム・エクイティ・ローン)があります。従来、住宅価格は上昇基調にあったため、このスキームを利用し銀行から融資を受け消費に回すケースが多く、個人消費が堅調であった一因と目されています。しかし、一部地域で住宅価格が下落に転じた中、逆資産効果が機能し個人消費に水を差すことがないか、注視が必要です。』

『また、昨年末以降、返済能力が低い住宅購入者に対する住宅ローン(サブプライムローン)の利息延滞率やデフォルト率が上昇し、これを専業とするモーゲージバンクの倒産も相次いでいます。これらの住宅ローン証券化されており、信用リスクは広く分散されていますが、それだけにいずれの投資家がこの信用リスクを最終的に負担しているのか、明確見通せない状況です。その意味では、サブプライムローンのデフォルトがより広範化した場合の影響を注視する必要があります。』

特に後半部分ですな。『いずれの投資家がこの信用リスクを最終的に負担しているのか、明確に見通せない状況です。』というのが同意なのでして、米国方面では「サブプライムを扱っていた投資銀行が経営に影響軽微と言ってるから無問題ですよウェーハッハッハ」という見方があると報じられております(本当はどうなんでしょ)けど、んなもん投資銀行が律儀に信用リスク抱えているわきゃあないのでして、西村審議委員のご指摘どおりではないかと思います。


○そして先行き見通しでまたまたバブル警戒

経済の上振れ・下振れ要因の説明の3つ目の項目が『金融環境などに関する楽観的な想定に基づく、金融・経済活動の振幅の拡大』でございますので、こちらでもまたバブル警戒ですかそうですかというところでございますが。

『例えば外国為替市場やクレジット市場における価格形成の変動幅(volatility)は、歴史的にみて低水準となっています。この変動幅の低下が新たな投資資金の流入を招来するといった連鎖が生じているようにも、見受けられます。また、先程は、国内の不動産市場でも、世界的な投資資金の流入による一部オフィスビルの従来の常識を越える高騰といった事例も指摘しました。』

と、改めてビル価格高騰に触れるのでありました。



○なぜ物価の上昇は緩やかなペースに止まっているのか

という小見出しで物価に関する説明をしているのが今回の講演(正確には挨拶です)の後半部分でして、このコーナーが西村審議委員の面目躍如という所なのかと思いました。で、ここなんですが、あたくし「ほうほうなるほど」と思いつつ読むには読んだのですが、ちょっと頭を整理しないとにゃんともはや。一応その要因としてあげているのが挨拶要旨の小見出しベースにしますと、『緩やかな成長の背景にある「ばらつき」:需要の多極化、コストの多様化』、『川下企業と川上企業の力関係の変化』、『サービス産業における価格体系の複雑化』というのがあります。

携帯電話の価格改定に関する話に関しては判りやすく指摘してますな。

『昨年は消費者物価指数における携帯電話料金のモデル式を変更し、この問題に部分的に対処しました。しかし、そこで考えられている利用パターンは3種類のみで、しかも予算制約のもとで詳細な調査も不可能ということもあり(ここに脚注が入ってまして、『この予算制約の下で、モデル式の採用範囲を広げ、特にサービスの分野で大きく変わる物価体系に対処していこうとしている統計部局の努力には、頭が下がる思いである』と総務省をフォローしてます^^)瞬時に最も安価な料金体系を利用できると仮定しています。実際には様々な制約から生じる変更費用(switching cost)があるのですが、これを結果として無視することになっています。』

『この影響から携帯キャリアが企業間競争を勝ち抜くために様々な料金体系を導入した際に、導入時点で大きく携帯電話通信料が下落し、それが消費者物価指数を押し下げるということを生じさせることになっています。実際には、変更費用があり人々は時間をかけて最も安価な料金体系に移って行きます。従って瞬時に平均的な通信料が低下するのではなく、時間をかけて低下するというのが正確と思われます。携帯電話通信料が家計のサービス支出に占める比率は大きいので、携帯電話通信料の頻繁な価格体系の変更は、最近の統計上のサービス物価の上昇率を実態よりおそらく低く抑える効果を生んでいると考えられます。』

なるほど。


○最後に第2の柱強調を否定するのでありました

というような物価に関するお話のあと、まとめの部分で今後の金融政策運営について話をしてるのですが、この結論部分(とたしか記者会見)では「金利調整はゆっくり」という方を強調しております。

『すなわち、2月の金融政策決定会合での政策変更時、経済・物価情勢から乖離した低金利が長期間継続するという期待が形成された場合、資金の流れや資源配分の歪みが生じる可能性を指摘しましたが、これに対する注意の必要性は現在も妥当します。とはいえ、現時点では差し迫った状況にあるとは言えず、必要以上にこの点を強調するのも望ましいことではありません。』

『従って、繰り返しになりますが、展望レポートで謡われているように、「経済・物価情勢の改善の度合い」を丁寧に検討しながら、その「度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行う」という慎重な態度が必要ですし、私もこの方針に従い金融政策運営に携わる所存です。』

一応まとめの部分でそういう話をしてマイルドになってはいるのですけれども、2月の背景説明部分を読んでいるとまあ基本的に福井総裁ペースの路線に親和的な印象を受けましたわなという所かと思うのでございます。

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2006/12/08

ということで西村審議委員記者会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0612b.pdf

○良い質問が続きますな

いや、今回の会見冒頭から中々良い質問が飛び出しますな。

『(問)西村委員は、本日午前中の金融経済懇談会で、最近の経済のリスク要因として、海外経済の他に個人消費に注意すべきと発言されました。これまで日本銀行の報告では消費は比較的堅調に推移しているという判断でしたが、ここにきてモメンタムが少し変ったとおっしゃったのか、あるいは、利上げを今行うと企業部門から家計部門への波及という回復のメカニズムに水が差され回復のメカニズム自体が途切れてしまうような心配があるのか、この辺を詳しく伺いたいと思います。』

で、西村審議委員の質疑応答というのは答が死ぬほど長いのが仕様でございますので、ほんのちょっとだけ引用。

『(答) これは重要な点ですので明確にしておきたいのですが、目先数ヶ月もしくは1 年の議論と、5年から10 年という議論は分けて考えなければならないということです。私が強調したかったことは、長期的に個人消費の弱さが構造的な要因で問題になる可能性があり、この長期の問題について充分考えていく必要があり、特に日本の経済政策という観点から考えていく必要があるということです。』

『ただ、10 月の展望レポートで明確にしたように、個人消費は弱含んでいることは否定できない事実ですし、その後のいくつかの統計をみても、それをサポートする例があります。(内容説明割愛)こういうことから長期的にみると構造的な変化が起きているのではないかと考えられますので、これについて慎重に考えていかなければならないということです。』

ということで、目先の話ではないということでございます。「慎重に考える」ということでハトを期待されましたが、何の事はない慎重なのは長期的な話だそうで、目先は別にってことのようですな。そして実質2番目の質問から突っ込みがなおも鋭く。


○直球質問に対してフルスイングの巻(か?)

『(問)本年3月に量的緩和政策を解除し、その時点でCPIに基づく政策のコミットメントがなくなったわけですが、足許3か月をみるとコアCPIの前年同月比の伸び率が+0.3%、+0.2%、+0.1%となっています。フォワード・ルッキングな金融政策運営ということからみれば、足許よりは先行きの方が重要だと思いますが、足許をみると――デフレに陥るようなことは別にしても――コアCPIのプラス幅が小さくなっている中で、金利の引き上げといった政策変更がなかなか正当化しづらいと思われますが、物価の評価を含めて見解をお伺いします。』

実に素晴らしい直球ストレートな質問(^^)。

『(答) 明確にしておかなければならないことは、金融政策は物価もしくは期待物価上昇率のみで決めているわけではないということです。』

いやーん。

『これは挨拶要旨でも明確にしました(昨日は長いのでその部分引用しませんでした、引用者補記)が、広い意味での投資の実質収益率――これは将来収益のリスクを考慮した割引現在価値に係る概念です――に対してコストの部分、すなわち名目利子率、期待物価上昇率というかたちになります。この3つを勘案して考えているわけで、どれか一つで決まっているということではありません。』

何か判ったような判らんような話ですが、まあ華麗にスルーしまして足元の物価に関しては「物価が上りにくい」という状況を認めつつ、

『足許の物価の状況の中にある将来の物価上昇率に関する情報を非常に慎重に見極めながら、全体として政策判断をしていくことになります。』

どうもこう浅学非才なあたくしには「コアCPIが3か月連続で低下して0.1になっちゃったけど別にそれは利上げしない理由にならないもんねー」と仰っているようにしか読めないのですが気のせいだと有難い。


○話題になった部分を改めて引用

しかしこの日の質問者の皆さん突っ込み方が厳しい。ちょっと先に行って上記ファイルの6ページ目になります。

『(問)(前半割愛)もう1点は、金利水準の調整は慎重にゆっくり行うとおっしゃっていますが、不確実性が先行きだけでなく足許もこれだけ高まっていることを素直に受け止めると、少なくとも西村委員自身は目先1、2か月といったタイミングでの追加利上げには非常に慎重でないかと思えるのですが、そのような理解でよいか、お願いします。』

『(答)(前半割愛)目先の金融政策については、不確実性が高まっているからそれで政策判断が縛られるかというと、そういうことではありません。当然のことですが、あり得る不確実性の下でやらなければならないことはやらなければならないわけです。その時、その時のデータを虚心坦懐に精査し、それでも不確実性はどうしても残ります。残っても、十分な確信が得られるならば、そこで何らかの政策が決められるかたちになります。(以下割愛)』

「不確実性が高まっても確信が得られる」というのは禅問答のようなお話でございますが、まあ何せ目先の不確実性は「経済の指標データそのもの」が不確実というこれまた難しい理屈でございますので何とも。まあ要するに利上げの方向ですよって言ってるんでしょうけれども(というと身も蓋も無いが)。


○ちなみにコーン氏の名前がここでも

不確実性に関するコーンFRB副議長のお話ってが会見の中で2回でておりますが、福間審議委員の講演でコーン氏の言葉が引用されてたのを思い出しますな。そのときは「わずかな予防は、膨大な事後対応にも値する(an ounce of prevention is worth many pounds of cure)」だったんですけど、またコーンさんのお言葉がここでもネタになるんですねってふと思いました。ちなみに西村審議委員は『この間、FRBのコーン副議長が不確実性の話をしていましたが、』とさらっと流していますが(って会見だから当たり前か)。


○本石町日記をご愛読されておられますでしょうか?

『(問)(導入部分割愛)総裁は、市場と日本銀行の見方が一致した時にはそれに遅れることなく判断していくということを常々おっしゃっていますが、西村委員の意見として「市場の織り込み」と「日本銀行の政策判断」について、どのような考えを持っていますか。』

で、この質問のトリッキーな所に西村審議委員さすがに気がついたようで、回答の後半は「私たちは地均しをするなんてとんでもないですよ」という趣旨になっております(^^)。例によって答が長いので後半部分。

『(答)(前半割愛)私どもとして注意しなければならないのは、日本銀行が市場に対して、一方的に情報を押し付けて、それを市場が単純に我々の姿を鏡で映し出しているということであってはなりません。そういうことはかつてもなかったと思いますし、そういうことができる時代でもないと思います。』

でもオーバーナイト金利の決定権限は日銀だしなあ・・ブツブツ

『市場は一つの情報を集約する場であるし、私どもはそこから色々な情報を得ます。私どもの情報発信も、市場はそれを反芻します。その間で、色々な方向性が出るのがあるべき姿であると思っています。総裁が言ったことは、おそらくこういうことであろうと私は理解しています。簡単に言えば、「鏡よ、鏡よ・・・」ということではないということです。』

最後の一文で爆笑。西村さん本石町日記を愛読してますな(^^)。

まあそれは兎も角、やはり最終的に日銀に政策金利決定権があるのですから、市場との対話というのは要するにシャチョー様(=日銀)が下々のもの(=マーケット)に向って「この機会に自由闊達な議論をして欲しい」と言ってるようなもんでして、その場でシャチョー様が黙ってニコニコしながら聞いてるとか、思い切って席は外しちゃうとかすれば(外したら聞けないので議論する意味ないが^^)自由闊達な議論ができると存じますが、そのシャチョー様が急に議論に割って入り意見を言っちゃったら全ては台無しで、後は「シャチョー様の仰るとおりでございます。シャチョー様は偉大なり」で終了でしょって思うんですが。

ということで、市場との対話と一言で言いますが、難しいんでしょうな。

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2006/12/07

さて西村審議委員の講演と記者会見を少々。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0612b.htm

○一見弱気のようだが読んでると訳判らん講演要旨

例によって前半部分はスルーしますが、以前どこぞの講演で西村さんが指摘していた「政策委員会としての意見と、政策委員個人の意見は区別して考えないといけません」ということを政策委員会の説明をする中で改めて指摘していたのが目に付きましたにゃ。

で、景気に関する話と金融政策に関する話ですが、その小見出しが
『3.最近の経済情勢と今後の見通し:「高まる不確実性」の吟味』
『4.長期を見据えて:個人消費に目を向ける必要性』
ということで、ほほうこれは先行き慎重ですなあという印象を。


・統計データの不確実性ですかそうですか

でまあその景気の見立て(最近の経済情勢云々)について。

『それでは、最近の経済情勢と今後の見通しについて、説明したいと思います。私の見方を一言で申し上げると、不確実性が高まっているということです。』

ほほう不確実性ですかそれはそれはと思い続きを読むと・・・

『特に、将来の見通しだけでなく現状の把握についても、様々な不確定要素が存在し慎重な判断が必要な状況にあると思います。』

はて??

『将来の見通しはともかく、現状の把握にも不確実性が高まっているということは奇妙に聞こえるかもしれません。しかし、経済指標には一過性の特殊要因や誤差がつきものであり、真の経済の姿は実はかなり時間を経てみないとわからないのが通常です。最近の様々な経済データを見ると、この特殊要因や誤差による指標の振れが大きくなっているように見受けられます。』

という問題提起をしているのですが、まあ確かにそういう事を良く精査して景気判断の正確さを期すべきなのは誠に仰せの通りなのですが、どうもこう特殊要因や誤差を言い訳にするんジャマイカという疑念が頭の中に飛び回るのは火曜日の水野審議委員の講演にあたくしが毒されていますですかそうですか。


で、西村審議委員は展望レポートに沿った説明をした後に、個人的見解として消費を注目すべき点として挙げています。で、その点について詳しく説明しているのですが・・・(実はその前に米国の住宅市場について詳しく説明してるのですが、そっちは割愛)

『GDP統計で7-9月期の民間最終消費支出、特に持ち家の帰属家賃を除く個人消費の伸びが大きくマイナスに転じたことが、大きな話題となりました。しかし、景気の肌感覚に感応的であると言われている内閣府の景気ウォッチャー調査を見ると、DIは50を超えて景気が回復あるいは緩やかに拡大している状況です。このような状況にもかかわらず、GDP統計については、個人消費が単に前期比若干伸び悩みという程度を超え大きく落ち込んだわけですので、その原因を精査する必要があります。』

『結論を先に申し上げますと、GDP統計の国内消費データの弱さの一部は、現在国内消費推計のために使われている統計が実際の個人消費の状況を十分に捉えられなくなっていることに起因しているように思います。』

で、以下統計の話になるのでまあ興味のある方は講演録に当たって頂きたく存じます。本職の方には先刻ご承知の話でしょうけれども、普段は統計数字の詳しい分析なんぞする前にきゃあきゃあ言いながら売り買いするのが仕様となっている人(そんなのはお前だけというツッコミは却下^^)にはまあ読んどけと存じますが。

で、その結果として西村審議委員の見立てはこうなりました。

『以上の事実は、以下のように要約できるでしょう。企業部門の好調さが家計部門へ波及するスピードは比較的ゆっくりとしたものであることは、否定できないと思います。他方、7〜9月期GDP統計の民間最終消費支出の弱さは、家計調査報告に絡む特殊要因の影響による可能性もあるのではないかと思われます。また、現在のGDP統計が、革新が進み拡大が続くサービス産業の一部をうまく捉えていない可能性にも十分に配慮して、統計を使っていく必要があります。』

そして金融政策に関してですが、

『以上述べましたように、私は、現在は不確実性が高まっている状況にあると見ています。将来についての不確実性が高まっていると同時に、「足許の経済状況がどうなのか」ということにも不確実性がつきまとっています。こうした中で、日本銀行政策委員会としては、内外で公表される様々な経済指標を精査し、これらにつきまとう誤差や歪みをできるだけ取り去り、経済指標が指し示している将来への情報を読み取っていかなければなりません。そこには、経済指標を虚心坦懐に慎重に吟味する態度が必要であることは、言うまでもありません。その上で、もう一度基本に戻って金融政策の姿を考える必要があります。』

ということでございますが、足元が不確実なんでしたらフォワード・ルッキングとやらで将来が良くお見えになられると致しましても、「遠い先を見てたら足元の穴に躓いてしまった」などというギャグマンガのような事態にならぬよう存じます。

で、長期を見据えて個人消費が云々という話は何故か結論がリバースモーゲージになっておりまして、西村先生この手の舶来的新らし物がお好きですなあ(以前読んだ著書では社会投資ファンドがとっても素晴らしいって話をしてました)というのが感じられました(^^)。


○で、記者会見がやたらタカっぽい印象を与えるのですが

そして記者会見。引け近く(ブルームバーグニュースだと14時44分頃からから)ヘッドラインが出てきたのですが、その出方が実にタカ全開になってまして、曰く、

『不確実性高くてもやらなければならない時はやる』
『不確実性残っても核心えられればやる』
『足元の物価だけで金融政策決めるわけではない』
『市場が十分消化しなくても利上げあり得る』

ってな感じでして、何ともやる気満々の香りが漂いますが、会見の一問一答の記事を見ますと(会見要旨は今日出ると思いますので詳しくはそちらを改めて読みますが)こんな感じになっています。(ブルームバーグニュース6日16時45分配信の記事より引用)

『(問)講演で金利水準の調整は「慎重にゆっくりと」行うと発言された。不確実性の高まりを強調されたこととあわせると、西村委員は目先1、2か月といったタイミングで追加利上げを行うことには慎重と受け取られるが、そのような理解でよいか?』

この質問なんですが、さきほど講演のご紹介をしたのでお判りになると思いますが、不確実だと言ってるのは実は経済統計の話がメイン(将来の不確実性の話も記者会見でしてますけど、それはもっと長いスケールの話)でございますので、この質問は「ノー」という答えが来るのは承知の介だったんじゃないかなあ。で、そのお答え。

『(答)目先の金融政策だが、不確実性が高まっているから、何かそれで政策判断が縛られる、そういうことではない。当然のことだが、あり得る不確実性の下で、やらなければならないときはやらなければならないわけだから、それはきちんと判断する。そのときそのときのデータを虚心坦懐に精査して、それでも不確実性はやはり残る。しかし、残っても、それが十分な確信が得られるならば、そこで何らかの政策が決められなければならないという形になる』

ヘッドラインや第一報を読んでいた時には西村さんあたかも「不確実性が高まっているけど確信が持てれば利上げ」と無茶しやがって・・・(AA略)と言いたくなるような印象を受けたのですが、さすがにそこまで無茶な話をしてたわけでは無さそうです。ただまあ相場は動いちゃいましたからねえ・・・・

まーそんな訳でして、記者会見がお騒がせでしたが、会見要旨を良く確認した方がいいかもしれませんね。

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2006/06/26

○西村審議委員記者会見(6月22日)

なぜこっちはPDFになってるの?HTMLの方が軽くて良いんですけど。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0606f.pdf


・ゼロ金利は長期化させないけど金利はゆっくり上げるというスタンス

3ページ目で「ゼロ金利が長期化することの問題点を指摘してるように見えましたが」という質問がありましてそれに対する答えから。

『この点については、はっきりさせておく必要があると思います。文脈を読んで頂ければご理解いただけると思いますが、基本的に展望レポートをパラフレーズしています。従って、私の考えが変わったとか私のスタンスに変化があるということではありません。展望レポートの第二の柱を皆さんにきちんと理解して頂きたくて、ここに詳細に書き込んだということです。』

『全体のトーンは、これまで申し上げてきましたように、金利の調整は、非常にゆっくりと非常に慎重に行われるだろうし、行われるべきだと考えています。これは2月に行われた高松の金融経済懇談会でも申し上げたし、他の様々な場面でも申し上げているとおりで、これまでと何ら変化はありません。』


で、その次に「目先数か月以内にゼロ金利を解除する姿を排除しているのか」って質問があったのですが、それに対しましてはこのように答えて目先のゼロ金利解除に関しては否定していない訳です。

『そういうつもりで申し上げている訳ではありません。ゆっくり慎重にというのは、正にゆっくり慎重にということです。しかし、判断そのものは、その時点その時点でしなければいけない時はしなければなりません。その時に利用可能なデータから将来の日本経済の姿を見通しながら、そして金融政策は、短期ではなくより長いところで影響を及ぼすことを頭に入れながら、その時点できちんとした判断をすることになります。』

利上げ→様子見→利上げってプロセスでやっていくんでしょう。当面は。


・比喩のお好きな方ですな

金融政策に関連する質疑は実はこのくらいしかなくて(そもそも質疑応答がPDFで8ページなんで大した量は無い)例によって総裁のファンド出資関連問題の質疑だらけです。そんな訳で経済に関するお話は冒頭部分になりますが、そちらではこんな話をしておりました。

『本日の金融経済懇談会では、私から格差というか「ばらつき」について話をしました。同時に「ばらつき」が「しぶとさ」を生み出しているというか、「ばらつき」があって「しぶとさ」が重なるかたちで、今の景気の状況があるということを話しました。』

講演がそもそもそういうお題で話をしていたのですが、長期化する量的緩和政策を「モルヒネ」と言って見たり、1冊だけ読んだ著書もそうなんですが、比喩がお好きな人だなあと思うのでありました。だからどうだと言われると困りますが。

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2006/06/23

お題「西村審議委員講演」

基本的には「ゼロ金利からの脱却は早期に行う」けど「初回利上げ後は暫く様子見」というお話ではないかと思います。昨日の福井総裁の「早めに、小刻みに、ゆっくりと金利調整」ってのとまあお話は同じですわな。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0606f.htm

やたら話が長いのですが、とりあえず目に付いた所を少々。

○市場が反応した部分

ゼロ金利政策の長期化に対するリスクに対して言及したのは講演の最後の部分になります。反応した部分の前段部分から引用します。

『まず、「物価の安定と整合的な実質利子率」の水準は、今まで説明した「投資の限界収益率」に等しいことに注意が必要です(理論的に正確に申し上げますと「名目硬直性のない時の投資の限界収益率」で、資本の経済的陳腐化以外にショックがない場合ですが、簡単化のため、条件が成立しているとして説明します)。とすると、「物価の安定と整合的な実質利子率」も現在は低位にあるがプラスであり、そこから緩やかに上昇していくと考えられます。』

で、市場が反応した部分(というかヘッドラインを打たれた部分というのが正しいが)はこの先になります。長いので段落分けします。

『実際の実質利子率が、長期に亘ってこの「物価の安定と整合的な実質利子率」よりもかなり低い状態が続くと、資源配分上無視できない無駄な過剰投資を呼び起こし、将来の経済の振幅を大きくしてしまう可能性があります。従って、物価上昇率が低いながらもプラスに定着してきている状況で、名目利子率を極端に低いレベルに長期に置き続けることには、長期的にみると、起こる可能性は小さいかもしれないが、起きた場合には相当な問題を生じさせてしまうリスクが伴います。』

この部分に反応したわけですが、この続きでは「ゆっくりと」の話をしていたりします。

『と同時に、「物価の安定と整合的な実質利子率」が非常に低いレベルから緩やかに上昇していくということは、物価上昇率が目立って加速されない場合は、「物価の安定と整合的な実質利子率」を達成するために必要な名目利子率も、非常に低いレベルから出発して、緩やかに上昇させるだけで十分であり、従って急速な名目利子率の上昇は望ましくないということになります。』

『ただし、外的なショックがあれば、それも勘案しなければなりませんので、時点時点での慎重な検討が必須となることが分かります。』

そういうことでございますので、暫くは「早くゼロ金利から脱却するけどその後の金利調整はゆっくりと行いますよ」ってお話が審議委員の皆さんから出てくるようになるんでしょうな。はー地均し地均し。


で、本来この「ゆっくりと」にもっと反応しても良さそうな物なのですが(ちなみに1年どころの金利を妙に下げようとしている人はいるんですが、金先は兎も角、1年TBは0.4%後半から0.5%前半で推移してるんで、一応向こう1年間で2回強の利上げというシナリオで割と安定推移してるという印象ですが)、そんなにビビットな反応しないのはまだ「ゆっくりと」に対して半身なのかなあと勝手に思ってます。

まあ基本的に景気失速をあまり見て無いとか、グローバルな利上げトレンドがあるというのもあると思いますが、あたくし思いまするに、量的緩和政策解除の時には解除前に「低金利継続」って取れるような情報発信が続いてたのに、いざ量的緩和解除をしたらいきなりどこぞの審議委員方面から「中立的な政策金利がどうしたこうした」という話が出てみたり、総裁方面からは「蓋然性が低くても発生した場合に大きな問題になるリスクに対応」という話で資産バブル警戒話が出たと思ったら先日の講演にあるように「グローバルなインフレ懸念」ってお話が出てみたりという前科(というか現在進行形ですが)があるのも効いてるのかもしれないと勝手に考えています。

まあ実際にそこまで考えて皆さんが動いているかどうかは知りませんが、やっぱ半身になっちゃうんじゃないかなあと・・・・


○景気に関しては比較的コンサバに見てる印象

景気のリスク要因に関しての部分です。『(4)当面のリスク要因』って所です。

『そこで、以下では今後注意しなければならない当面のリスク要因について、いくつか指摘したいと思います。』

『第一のポイントは、米国経済の動向です。同国経済については、特に住宅市場の見通しが一つの鍵になると思われますので、この点について私見を述べさせて頂きます。』

ということで、リスク要因を解説してますが、その辺は端折って結論。

『いずれにせよ、鍵は「住宅市場の減速が目立った価格の下落をもたらすか否か」ということです。この点については、今後の推移に十分に注意しなければなりません。』

メインシナリオはソフトランディングなのですが、リスクに関しては十分注意というコメントになっています。

『第二のポイントは、中国経済の動向です。中国は、固定資産投資が高めの伸びを続けるなど引き続き高い成長を続けており、景気過熱に対する警戒感を指摘する声も出始めています。今後も2007年の党大会、2008年の北京五輪、2010年の上海万博、と政治的にも経済的にも大きなイベントが目白押しです。その一方で、2008年の北京五輪後の経済失速を懸念する声、深刻化する水不足や環境問題などを懸念する声などが引き続き聞かれており、予断を許さない情勢が続いています。』

ということで、こちらに関してはメインシナリオは無事だけど、結構リスクを意識した表現になってます。

『しかし、現在のところ微妙なバランスの中で安定していること、いずれの問題も抜本的な問題解決にはなお時間がかかりそうなこと、を考慮すると、政治・経済の両面から思わぬ波乱があるかもしれません。』

ということで、米国と中国という日本経済に思いっきり影響与えそうな海外経済のリスクに関しては、このように結んでいます。

『このように、米国・中国ともに引き続き景気や経済情勢の判断については、微妙な局面にあることは留意しなければならないでしょう。』


そしてポイントはまだまだ続くのですが、ややおとなしくなってきます。

『第三のポイントは、新興国、特に同地域向けの輸出の動向です。』

ということで、こちらに関しても詳説してます。これまた引用すると長いので内容は講演テキストをご覧になられたいと思うのですが、円の実質実効為替レートが世界規模で見た場合に最安値圏にある点に注目しています。

『第四のポイントは、世界的な商品市場の動向、特に原油価格や素材価格の影響です。』

こちらに関しては説明はあるものの、景気減速とリンクした話にはなってないように読み取ったのですが、まあ講演テキストをご参照下さい。

『さらに、商品市場の乱高下に加えて、最近の世界的な金融市場の乱高下にも、注意をする必要があるのは言うまでもありません。ここのところ続いてきた金融環境の微妙な変化に対する調整のプロセスであり、新しい均衡を探る動きであると考えるのが自然と思われますが、注意深く見守っていくことになります。』

と金融市場動向にもさらっと言及。

『第五のポイントは、個人消費の増加基調の持続性です。』

この点に関しては「消費の二極化」というキーワードで話を展開してまして、これまた全体的な景気減速話とは結びつかないように見えます。

『このように、個人消費の着実な増加傾向は、今後も持続する可能性が高いとみていますが、消費者の選好と企業の商品のミスマッチがどのような影響を消費に与えていくのか、今後引き続き注意してみていく必要があります。』

何か全体の話と個別の話がごっちゃになっている気がせんでもないのだが。


で、結論としては・・・・

『以上を踏まえますと、わが国経済の短期的な見通しにつきましては、当面は「拡大」というメインシナリオを維持することで大きな問題はないと思っていますが、上述したようなリスク要因もあり、これらが顕現化する可能性も頭に置く必要があるのではないかと考えています。』

となっています。まあ後半の2つのポイントは兎も角、外需に関しては結構リスクを意識している感じでして、昨日ご紹介した福井総裁の楽観シナリオ(がメインシナリオなのは西村さんも同じですが)と比較するとリスク要因に関しての意識が強いという感じではないかと思います。微妙なハトになる可能性がありそうですにゃ。>西村さん

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2006/02/22

○西村審議委員に関してちょっと気になることなんですが

昨日書き損なったんですが。

先日ご紹介した西村審議委員の記者会見の中で「量的緩和は護送船団」というような言葉があったのを覚えていますでしょうか?

以前からこのお方は量的緩和政策に関して「モルヒネ」という表現をしていましたが、モルヒネの効能とか護送船団を組むという戦術上の利点とかいう話はさておいて、まあ一般的に人口に膾炙している「モルヒネ」「護送船団」っていうと上記のような文脈で使えばまあネガティブな印象を与える言葉ですわな。

でですな、政策を実際に決定する立場にある人間が金融政策に関連して話をする時に上記のような「言葉そのものに否定的なイメージのあるもの」を使うというのは如何なものかという気がするんですよ(「良い」「悪い」って断言した方がいいんじゃねえの?)。例えとして適切かどうかわからんですが、それこそ上記の木村剛さんを思い出してしまう訳で。

金融政策に関して印象操作のような(インフレ期待の醸成とかいうのと全然別の話ですんで念の為)言葉を使うとどうも「アジテーション」という言葉を墨痕鮮やかに大書したくなりますな。

いやまあ西村審議委員はそういう方では無いと思うんですが、どうも著書読んだ時も感じた違和感が先日の記者会見でも感じられる次第で。恐らく本人は「一般の人にも判りやすい例えを使おう」と思っているだけなんだと見るんですが、そこはかとなく不安もあるあたくしなのでございました。

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2006/02/20

月曜は雑談を少々なので西村審議委員記者会見を少々。今回はまあデビュー戦みたいなもんでしたが、先に結論を申し上げておくと、基本的には無難な立ち上がりなんですが、何かところどころにツッコミどころがあって、ちと先行きに関してはあたくし的には危ういものを感じますなあって所です。

岩田副総裁の講演もありましたが、講演に関しては金融政策の話ではなくて、プルーデンスと申しますか、金融システムのお話がお題になっておりましたので、まあネタが無いときにでも触れてみましょう。


西村審議委員会見要旨はこちら→http://www.boj.or.jp/press/05/kk0602c.htm


○量的緩和は護送船団??

中期債の金利が上昇している事に関して質問されている答えの中で聞かれもしないのにそんな話をおっぱじめた西村審議委員。

『量的緩和というのは、一種の護送船団である。流動性マネジメントに長けている所も長けていない所も、一様にゼロ%、0.001%の金利である。ところが、量的緩和が解除になると、平均ではゼロ金利の状態であるが、流動性のマネジメントに関して言えば、上手いところと下手な所では差が出てくる。もはや世の中ではどこも護送船団をやっておらず、今はやはり、その意味できちんとした管理をされている所には、それなりのrewardがあるという経済になってきているので、金融もやはりそういった普通の経済に持っていくべきだと思う。』

えーっと、全体では問題起きませんでしたが、量的緩和やってる時でも個別には流動性で問題が発生したような事はございましたが。流動性マネジメントが楽になったのは量的緩和よりも、銀行へのセーフティネットの構築とか、コールなどの銀行間取引の全面保護(今でも保護されてますけど)とか、銀行シバキアゲ行政の転換とか、行政サイドの施策効果じゃないでしょうかねえ。大体オペの担保なかったら高い金利取らないといけませんが。

というか、上手い下手によってコストに差が出てくるって話は流動性マネジメントじゃなくてディーリングの上手い下手の話を言うのであって、まあ用語の使い方が妙なのはマーケットの人じゃないから仕方ないけど、護送船団というディーリングと関係ない話をしながらそういう話になっているのは、何か問題がゴッチャに論じられているという強烈な違和感を覚えます。

「危ういものを感じる」と先ほど申し上げたのはここの部分に集約されるなあって思う次第。まあ他の部分を読んでいても、何と申しますか違和感を覚えるお話がちらほらなんですが。アカデミズム枠(?)から採用するんならもうちょっと(以下自主規制^^)。


○景気に関しては無茶苦茶強気

今後、物価が下がる可能性について相当に低いと理解してよいのかって質問に対してのお答え。

『今の日本は、死角がないという状況である。私はこういう表現が好きなのだが、大艦巨砲主義ではなく、ヒットをたくさん積み重ねながら、日本経済がしぶとく成長している、というのが現在の状況であると思っている。そのように考えると、今の状況では全体のトレンドの動きというものが大きく転換するようなことは考え難い。ただし、何度も言っているように、これはその時点その時点で判断すべきことである。それについて予め予断をもって何かをするということができる状況にはないし、今は非常に不透明性の高い時代なので、慎重に考えなければならないと思っている。』

はいはい強気強気。


○資産インフレに関しては先日の総裁記者会見とだいたい同じ

不動産価格に関連して。

『詳しくは挨拶要旨に書いておいたが、今の状況をみると、資産価格の間でも、二極化が進んでいる。東京のある一部では、住宅地価格が20%、30%上昇している所もある。ところが、例えば同じ区の中でも違う場所では全然動いていないところもある。そういった形で、いわば二極化というか、多極化が進んでいる状況にある。こういう状況では、一般的なインフレ状態が今後予想させる、とはちょっと考えにくい。』

で、その後も話が続いてますが、基本的に先日の福井総裁記者会見と平仄があっているという感じです。


○PCEのフィッシャー指数に関しては「重要だが政策判断には使えない」

講演で(金曜にご紹介しましたが)言ってた政策判断に何を使うのかというお話。

『まず、最初の2点についてだが、GDPデフレータの中身については、最終的な結果を判断するうえでは非常に重要なものだと思っている。ただし、その結果が決まるのは、おそらく5〜6年後になる。1次QE、2次QE、1年経って確報、2年経って確々報、5年経って基準改定という形になるので、この基準変更に至るまでのうちにかなり大きな変更がある。成長率が5〜6%の時代では大した大きさではないが、成長率が0.5〜1%の時代では、結構大きな変更となってしまう。従って、出来上がりで我々が判断すべきは――個人的な考えで他の委員と違うかもしれないが――私は、PCE(Personal Consumption Expenditures)のフィッシャー指数で考えるのが、出来上がり、つまり評価という点では望ましいと思う。しかし、これが分かるのは、下手すると3〜5年先になるということであれば、当然、政策に使うことはできない。従って、CPIを依然として使うべきだと思っている。』

どっかの本職ストラテジスト先生が「西村審議委員は講演でフィッシャー指数の重要性に関して指摘」とかいうレポートを出していたような気がしますが、政策判断には「当然使えない」とコメントしてますのでお間違えの無いようによろしくお願いします。


○インタゲ等に関しては何を言いたいのか良く判らん。

まあここを読んでください。

『それから、望ましいインフレ率という話であるが、これは理論の世界では当然のことながら望ましいインフレ率を考えることは可能である。しかし、我々の経済は、簡単に言えば、90年代から2000年代の最初の時期というのは非常に危険な時期であった。特に、90年代後半の時期は危機的であった。この危機的な状況から漸く段々と普通の状態へ戻りかけてきたという状況である。その中で、経済政策を考えなければいけない。その時に、望ましいインフレ率の基本は、将来に対して日本銀行がどういうことを考えているかということを明確にするための方策であるので、望ましいインフレ率も、危機的な状況から普通の状態に戻るという状況のコンテクストの中で考えなければいけない。そう考えると単純ではない。言い方を変えると、今までベッドで寝ていた人に対して、医者が量的緩和というモルヒネを打っていた訳だ。そして、その人がベッドから大体起き上がっていいだろうという状況になった時、その人に、あと1年半後には健康体になるので、健康体の人は一日一万歩を歩くのが望ましいから一日一万歩を歩きましょう、がんばりましょう、と言って本当にそれでいいのか。その人、その人の体の状態、気分の状態に合わせて、やはり過度にプッシュするのでもなく、できるだけ良い状態に引き上げていく、という非常に細心の対処が必要になる。そういった形で「道しるべ」を考えなければいけないと思っている。』

正直、何を言ってるのかさっぱり判らん。結論が無いような気がするんですが・・・・


○あなた英語大杉

福井総裁の英語乱発にも参ってますが、西村審議委員の英語乱発は大変に素晴らしいです。何が素晴らしいって、記者会見の要旨を作る日銀の中の人がもはや匙を投げたのか何だか知りませんが、会見要旨にまともに英単語が出てきてしまうという所まである次第。別に日本語でも済みそうな所に英語がでて来るのは如何なものか。ニュアンスが英語じゃないと伝わらないのなら兎も角。

いくつか挙げてみましょう。

『すなわち、これから出てくる様々なデータや見通し、アネクドータルなエビデンスを総合的に調べながら、一つ一つチェックして、適切な時期に判断をする形になると思う。』

『現在、日本経済は、ある意味でovercautiousともいえるぐらい皆さん病み上がりの状況にあるということから考えれば、』
(本当に心配しすぎなのかねってツッコミは致しません)

『色々なところでみられる様々な動き、特に労働市場の動き、それは要するにresource utilizationの動きというのは、今後の政策判断に非常に重要な役割を果たしていくと思うので、こういうことに関しては、十分注意していかなければならないと思っている。』

何か英語をわざわざ使わないといけねえ文脈とも思えないんですが。


#てな訳でまあ全体を読んでいて何かこう引っ掛かる会見要旨でございました。

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2006/02/17

○西村審議委員講演

その前までに別の審議委員様から色々と出ていたので、悲しいほど材料にならなかった模様ですが。
http://www.boj.or.jp/press/05/ko0602b.htm

何か紙に出すと11ページになるんですが、先生お得意の「見えざる構造転換」とか「社会投資ファンド」のお話が3割くらい混入しておりますな。その辺は兎も角と致しまして、何かこの人も言ってますなあというのが「不動産市場のリスク管理」ってお話で、やたら長々と書いてあるのですけどこの辺がどうも気に掛かる。


・不動産などの投融資に関して

『この点(引用者注記:投資家のリスク管理を意味する)は、特に金融機関についても重要です。収益性向上のため、不動産関連融資やオルタナティブ投資に積極的に取り組む金融機関が増加しています。このことは、ポートフォリオの幅を拡げ、社会全体でみれば新しい投資機会が作り出される可能性を高め、そして金融機関の収益も高めるという点で望ましい動きですが、それはきちんとしたリスク管理がなされていることを前提とします。リスクがあるのにリスクを認識できていなかった、ということがあってはなりません。』

『金融機関におけるリスク管理の重要性は、過去も現在も将来も変わるものではなく、日本銀行としても、考査を通じてそうしたリスク管理の高度化を促しています。』

で、まあリスク管理とやらの枠組みに歪みがあると商品価格と申しますか市場に妙な歪みが発生するというのは変動15年利付国債で皆様ご案内の通りですが、ちょうどタイミングよろしく本石町日記さんが興味深いエントリーをアップしてましたのでご一読ありたし。

いやね、リスク管理の高度化って言い出すと、とにかく最新の金融工学を駆使して大変に立派な管理モジュールが出来上がってくるのですが、もう単純明快なプレーン商品(いやまあエキゾチックオプションとかもいじったことは無い訳では無いですが)の売った買ったで叩き上げてきたあたくし的には(ポジションの計算ツールは重宝しますが、為念)妙な「高度化」よりも他にやる事はねえのかと感じてしまいますです。管理を高度化して安心するだけになりそうな悪寒。

話が逸れましたが(笑)、何かちと警戒するのが早い気もしますし、まあ何でも良いからオルタナ投資とかやっている人の頭を冷やしましょうってことなのかもしれませんが。

『先行き、資産市場価格の動きと連動して、将来のインフレーション率に大きな影響を及ぼす可能性があると認められる事態になれば、金融政策の面でも適切な対処をとる必要があることはいうまでもありません。そして、そのような場合にも、金融機関のリスク管理が徹底され、健全性を維持することによって、政策の波及経路がしっかりと確保されていることは、金融政策が有効に作用する重要な前提条件となります。』

だそうです。


・金融政策に関して

量的緩和政策の効果について話をしているのですが、そこまでやっているとこの講演のご紹介がいつまでたっても終わらないので(^^)端折りまして「今後の運営」の部分を。

『今後、量的緩和政策の枠組みの変更にあたっては、コミットメントに従い生鮮食料品を除く消費者物価指数変化率を中心として経済・物価情勢を総合的に検証し、コミットメントで示した条件が満たされたかどうかを慎重にチェックしていくことになります。』

ということで、これだけ見ていると慎重対応にも見えないことは無いのですが、記者会見の方では「日本経済はもう病人ではなくなってきつつあるので、あまり病人扱いしてはいけない。モルヒネはもうやめた方がよい時期にだんだん近づいている」「生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率は3ヶ月連続でゼロ%以上になっているので、非常に重要な時期に差し掛かっていることは間違いない(いずれもブルームバーグニュースより)」って言ってますんで、まあ大勢容認コースなんじゃないかと思います。歯止め役を期待するのは無理でしょうなあ。

政策運営を考える場合の「物価」の概念について何ですが、講演(挨拶)要旨にある中で()書きになっている方が何か重要な説明のような気がします。まずは物価の概念については消費者物価指数が適切であると指摘した上でその理由を()書きで説明してますな。

『(概念的にみても、カバレッジからみても、GDP統計家計消費支出に基づくフィッシャー型物価指数が、問題はあるもののおそらくもっとも望ましい指数だと考えられますが、現実問題として政策にそれを利用するのは不可能な状況ですので、消費者物価指数で「インフレ率」を測ることになります。また、すでに他の場所で指摘しておりますが、経済統計の専門家の間では、過去にしばしば問題とされた消費者物価指数のバイアスは日本では存在したとしても小さいというコンセンサスがあります)』

更にGDPデフレーターなどを金融政策判断に使う場合の問題点について。

『(さらに若干技術的なことを追加しますと、よく話題になるGDPデフレーターやそのコンポーネントである家計消費支出デフレーターには、ここでは詳しくは述べませんが、推計値が利用可能になるまでにラグがあること、一次速報から二次速報、確報、確々報、更に基準改定と、頻繁にそして時によると政策判断の方向性が変わってしまう程度に変わる可能性があること、さらにいわゆる「ドリフト」の問題等があり、重要な判断材料ではありますが、それを基に判断して機動的に政策を行う、というのには躊躇せざるを得ません。ただし、これはGDPデフレーターやそのコンポーネントの作り方に問題があると言っているのではありません。それどころか、こうした作成方法は、経済をできるだけ正確に捉えるために必要なやり方なのです。ただ、残念ながら政策判断の基になる機動性は持っていないのです)』

ということから、まあ解除(とその先の金利政策への移行というか金利引き上げ)にあたってGDPデフレーターとかの話を持ち出す内閣府方面からの声に関して釘をさす格好にもなっております。基本的には金融政策運営に関して重視する経済指標は消費者物価指数であり、(講演の先の方にあるんですが長くなりすぎなので引用しませんが)その中に変動の大きい項目(エネルギー価格など)を含めて考えるかに関しては、その変動が将来にわたって影響を及ぼすものなのか、一過性のものなのかという観点から「総合的に判断」というお話になっておりました。


まあやっと西村審議委員が色々とお話をしだしましたなあという感じなのですが、基本的には日銀の公式見解モードからあまり出ていないといった所でしょう。正直、読み方によって強気にも慎重にも読めそうですが、記者会見の記事(の一問一答)を併せて読むと言葉を選びながら強気って所なのではないかと思います。要は現在の政策委員会大勢派ということで宜しいのではないかと。

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2005/06/08

○西村審議委員のインタビュー

西村審議委員がブルームバーグニュースでインタビューを受けておりました。堂々15枚組みのインタビューですので一々ご紹介していると終わらないので6月7日12:30配信のニュース読んでね(はぁと)ってことですな。基本的には、1.当座預金残高目標について現時点では変えるべきではない、2.ただし、将来(じつはこの将来が曲者なのですが後述)も下げないかというとんなこたぁ無い、3.CPIの先行き見通し、景気見通しは結構強気。といった所です。


ところで、この「将来」に当座預金残高目標を下げることを否定しないって話の「将来」の定義。この人はもしかして日計りデイトレードでもやっているのでしょうかと突っ込みたくなるアレなコメントがございました。(ブルームバーグニュース6月7日12:30配信ニュースより)

『今の時点では当座預金残高目標を変える必要はないが、ずっと変えないということではまったくない、ということだけははっきりしておきたい。今は変える必要はないが、1週間か2週間すれば変わるかもしれない。経済や市場には魔物が住んでいるので、それが動いたら変らなければならない。』

・・・・・「1週間か2週間」ってそんなスパンで金融政策がコロコロ変るのかよ!と思わず激しい勢いで腰が砕けるあたくし。最近就任された審議委員は何と申しますか、たいへんにじゅうなんなはっそうをおもちのかたばかりでひじょうにすばらしいしきけんをおもちですなぁ(あぁ棒読み)と言った所ですか。とほほのほ。


で、まぁレトリックで言っているのか素で言っているのかは判りませんが(という時点でやはりこの「政策論」は怪しい限りなのですが)、西村審議委員はインタビューの中で今回の「なお書き修正」について「金融政策の方向性を変えているわけではまったくない」とコメントしておりまして、水野審議委員の「金融政策の正常化、金利の正常化に向けた一歩」という解釈と全然違っております。施策の解釈が既に同床異夢ってのは今の金融政策を象徴してますなぁって感じですわ、とほほ。

インタビュー全体を読みますと、上記の話にありますように、CPIのプラス転換に関して結構強気ですし、何せ「1週間か2週間すると変わる」お方ですので、どうも読んでいると当座預金残高目標引き下げに関しては柔軟なんでしょうなぁという印象です。

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2005/04/12

お題「西村審議委員記者会見」

今日は5年国債入札なんですが、相場水準がこの調子だと積極的な買いは期待しにくいですかね。とはいってもあんまり下がる雰囲気もないのでまぁちんたらと消化していく感じになるんでしょうな。大いに強くなったら脅威ですが。

昨日ちょっとだけ触れた西村清彦審議委員の就任記者会見が日銀Webにアップされましたので追加的なあたくし的印象を申しあげませう。

http://www.boj.or.jp/press/05/kk0504b.htm

○総体的印象

・話が長いお方ですな

会見要旨をA4サイズに打ち出しますと7ページ。ちゃんと傾向を取ったわけではないので今までの記憶とイメージベースですが、記者会見の時間約35分に対して量が多いですなぁという印象。

・著書より会見の方がわかりやすいです

先日来先生の著書について「言いたいことは判らんでもないが、何でそうなるのかがさっぱり判らん」などと悪態をついておりましたが、この記者会見要旨を見ますと言いたい事が判りやすいという印象を受けます。あくまでもイメージなんですけど、会見での発言を通して読んだほうが、著書を読んでいるよりも判りやすいと思いました。

・ちょっと持って回った言い方をしますな

まぁ今回の会見では「審議委員」としての発言というよりは「西村清彦氏としての見解」を述べる場となっておりますので、今後に期待したいところではありますが、ちと持って回った言い方をするので片言隻句を切り取られて情報ベンダーでフラッシュを打たれるとそりゃどうよって話になりそうですな。まぁ日銀政策審議委員としてどのような発言をするかというのに期待したいです。

と言いますと気になるのは就任直後は色々とお話していたのに最近めっきりお静かになられた水野温氏審議委員でありますな。日経金融新聞の寄稿で市場レビューをおっぱじめて「グローバルフラットニングが暫く継続」と債券ストラテジストのようなお話をしてしかも見事にフラットニングのど天井で指摘しちゃうという某人気株式評論家も真っ青な攻撃爆裂以来どうなったんでしょうか。

と、唐突に水野さんを持ち出しましたが、西村さんにおかれましても、経済学者としてどうのこうのと言う所と、審議委員としてどうのこうのって話を使い分けするのは情報発信として結構難しいのでご留意ありたしと思うわけです。

では個別のお話


○量的緩和モルヒネ論

『私の著書をご覧になったと思う。そこで「モルヒネ経済」という言葉を使っているが――多分、「モルヒネ経済」についての質問が出るのではないかと予想はしていた――、量的緩和というのは、はっきり申し上げて「モルヒネ」であることは確かである。』

と、ここで発言を切ってしまうと「西村さんは量的緩和積極解除派か?」となってしまうわけですが、

『しかし、この4年間にわたって「モルヒネ」を打ちながら、日本経済がそれまでの非常に大きな困難を乗り越えてきたことは事実であるし、やはりこれは正当に評価しなければならないと思う。』

と言うことで評価もしているので話がややこしい。どう評価しているかは、

『ただし、量的緩和が具体的にどのような影響を持ったかということを、定量的に調べることは非常に難しいということも事実である。先程も申し上げたように、経済は最終的には企業や家計の行動というものに規定されているということから考えるならば、量的緩和を通じた安心のネットワークというようなものが、そういった企業や家計に影響を及ぼしたと考えるのが自然ではないかと思う。これを具体的に数字で表すというのは非常に難しいが、そういったかたちの評価が可能ではないかと思う。』

量的緩和政策の評価に関してはさほど「量の意味」を重視していないという印象を受けます。どっちかというと「一定以上の流動性供与」と「ゼロ金利+時間軸」を評価すると見ました。まぁそりゃそうなんですけど、従来の金融政策運営とどのように折り合いをつけるのでしょうか。

『そのように考えると、量的緩和の出口も、自然に、どういった対処で考えたら良いかということが出てくると思う。「モルヒネ」というのは劇薬である。従って、劇薬は当然のことながら止めてしまったほうが良いわけだが、しかし、劇薬を急に止めるとそこに非常な痛みが生じてしまう。頭ではわかっていても、痛みというものは体(からだ)にきてしまう。経済というものは頭ではなく体であるから、本当に痛いんだ、ということを体に少しずつわからせながら、次第にこの「モルヒネ」を止めていくというかたちで考えるのが、政策としての一つの重要なスタンスではないかと思っている。』

「本当に痛いんだ、ということを体に少しずつわからせながら」なんて所を読むと「シバキアゲですか?」とか思っちゃうんですが、発言を通してみると要するに徐々に緩和政策を解除した方が良いんじゃねぇのって事なんでしょうな。

で、先ほど申しあげたように「発言を通して読むと趣旨は伝わるけど、一部を取ると刺激的なフレーズがある」ってのはミスリードを生みやすいので具体的にどうのこうのというのが判らんのですが、もうちょっと何とかした方が良いのではないかと存じます。


○インフレターゲットに関して

『何度も申し上げている通り一般論で申し上げると、インフレ・ターゲットというのは、いわゆる根拠に基づく政策(evidence based policy)ということから考えて、金融政策の説明責任を明確にして金融政策の信用を高めるという点で非常に重要な政策手段の一つであると考えている。特に、インフレが進行している場合にその効果は非常に大きなものがあると考えている。』

『ただし、日本の現状に当てはめた時に、その効果の得失をやはり考えなければならない。ゼロ金利政策や量的緩和政策の経験から見て、金融政策に十分な対応余地があるのかということを考えなければならない。特に、その目的が政策の信用を高めるということであるから、この点に関してはかなり慎重な対応が必要であると考えている。先程申し上げた、発展途上である統計との関係の問題も考えなければならない。』

デフレ下におけるインフレターゲット政策は、日本銀行として出来る金融政策に限界があることを考えると「根拠に基づく政策」としては取りがたいというご意見のようです。もっと端的に申しあげれば、「デフレ下でターゲット設定しても実行する手段がねぇんじゃコノヤロー」ってところでしょうかね。


○消費者物価指数に関して

『これ(量的緩和政策が消費者物価指数にリンクしているという件)は非常に難しい問題だ。実は統計のあり方そのものが現在動いている。私は統計審議会や内閣府にいたので、このことについての理解は十分にあると思っているが、統計の中身そのものを実態にセンシティブになるように統計の作り方が少しずつ変わってきている。従って、いわば今は統計そのものも発展途上にあると考えている。同じようなことは日本銀行の調査統計局で作成している統計についても言えることである。逆に言えば、そういう動きつつあるものにコミットするようなかたちで政策を決めるということが、本当に望ましいのかということに関しては、若干の躊躇がある。』

と言われると「ええっ!」って感じなんですが、この後にちゃんと『しかし、当然のことだが、コミットメントというのは守らなくてはならない。』って続けてはいます。ただ、西村さんとしては物価指数に関してこんな話を続けてます。

『従って、今後は消費者物価指数や企業物価指数などをいかに良くしていくか、そしてそうしたものが変化してきているということについて、いかにマーケットや世論、そしてマスコミの皆様方と対話し、理解して頂き、より良いターゲットを作っていくか、という考え方が必要ではないかと思っている。具体的なことに関しては非常にテクニカルになるので、ここでお話することは差し控えたい。』

ということで、消費者物価指数の定義をいじるという最終兵器が出てくる可能性は思いっきりありそうですな。ひところ「コア消費者物価指数から特殊要因を除く消費者物価指数がどうしたこうした」ってお話が審議委員の皆さんから聞かれましたが、まぁどうもそういう方向になりそうですな。岩田副総裁このままじゃあ押し切られますよ〜♪


○その他少々

・政策の「質」というお話

『踊り場を脱していく上での政策のあり方に関してであるが、金融政策はかなり目一杯のことをやっているし、財政政策もかなり目一杯のことをやっている。問題は目一杯のことをやっているやり方を、両方とも効率的にやっていかないと、なかなかうまくいかないのではないかということである。効率的というのは、例えば金融政策──これは景気回復をもたらすものではなく景気を後押しするものであると思っている──が、どのような力を持っているのか、その力をどのように使うのがもっとも効率的なのかということを考えなければならない。財政政策のほうも、公共投資の支出の仕方ということを含めて、いかに効率的な支出をすることによって新しい需要を生み出すことができるか、ということを考えなければならないと思っている。』

政策の「量」より「質」ってのが何を意味するのか良く判りませんが、とりあえず西村さん的には重要そうなポイントなので一応引用しました。財政政策に関しては最近西村さんは「政策投資ファンド」を提唱しているので、ま〜その辺をイメージしてるんでしょうなって感じです。この続きの部分で「質が重要」って言ってます。

・当座預金残高目標引き下げ問題

『まず最初の点(当座預金残高目標引き下げ問題)は、金融のマイクロストラクチャーの機微に属するものであるが、私自身は現在十分な情報を持っているとは考えてないので、私の見解を述べるのは差し控えたい。これはやはり十分な情報を頂いてから、金融政策決定会合で私なりの判断をすべきことだと考えている。』

ということで今回は留保となっております。

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2005/04/11

○西村審議委員の会見

西村清彦先生が植田審議委員の後任という形で日銀政策委員会審議委員に就任しまして、記者会見があったようです。惜しくも日銀のWebにはアップされていない(つーかアップされるものなのかよくわからん)のですが、時間が金曜の引け後だったこともあって市場の反応はイマイチというか皆無でした。

まぁ報道されているフラッシュを見た限りにおいては、西村審議委員は「現実派」と申しますか、まぁ政策ロジックの整合性に関しては柔軟な対応って感じのようですな。目だったのは西村先生の著書「日本経済見えざる構造転換(日本経済新聞社)」でも指摘しております「量的緩和政策は痛みを和らげるモルヒネ投与」っていう認識でしょうか。

基本的には「量的緩和政策の早期脱却」というスタンスのようでして、何か「構造改革シバキアゲ論」を彷彿させるものがあって誠に如何なものかって気もしますが、そこはそこ、西村審議委員の「現実的」発想によってあまり極端なお話にはならないのではないかと期待したいところでございます。

金曜日の日経金融新聞では1面を大きく使って「量的緩和政策の修正へ」という趣旨の記事を書いておりまして、量的緩和政策導入時の審議委員である植田さんの退任によって「過去のしがらみからの解放」が出来るというようなお話もしておりました。

まぁ本来中央銀行の政策って「人の切れ目が政策の切れ目(by本石町日記さま)じゃぁ困るんですが(つーかそうならないように政策委員の交代時期が微妙にぶれているのでは???)、どうも流れとしては「人の切れ目が政策の切れ目」って形になって行きそうですな。

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2005/02/17

○西村清彦先生が次期審議委員に起用されるとの事ですが

GDPの発表があり、相場の方は相変わらずイールドカーブが良く動くという展開で西村さんの(というか東大のWebというか)派手派手Webの中をあまり読んでいる余裕は無かったのですが、さすがに東短リサーチの加藤さんが早速西村さんの発言、主張を整理したレポートを出してましたんで、まぁその辺を参考にしながら。

西村さんの近著は「日本経済・見えざる構造転換」って本だそうで(市場関係者が慌てて買いに走るだろうなぁと思う訳ですが^^)、先生のWebには著書の目次が紹介されておりました。で、そこを見ますと「モルヒネ経済からの脱却」というお話をしているようでして、それがど〜ゆ〜趣旨かと言いますと加藤さんのまとめレポートによれば「痛みを和らげるためにモルヒネを打ち、それで問題を先送りしてきたことが、痛みの原因の解明とその除去を遅らせた」ってことらしいですな(週末に真面目に著書読みますが→と言いつつこの編集時点の2月21日現在まだ著書の購入もしていなかったりする訳ですが)。

まぁそりゃそうなんでしょうけど、じゃあ今の経済状況でモルヒネ投与とやらを止めていきなり退院させたらどうなるのよっていう疑問はあるんですが。現在の景気回復だってそもそもの発端はそれまでの基準だったら(後から発表された不良債権新規償却を見れば)債務超過認定コースだったと思われるりそな銀行への公的資金絶賛大投入という政策転換と、産業再生機構(しかもここに不振企業の債権をぶちこむと何故か残りの債権が正常先債権になるという素晴らしい仕掛けもありますし)の大活躍やらペイオフ解禁の骨抜き大作戦やらと、色々な方法で財政出動しているんですからねぇ。

まあ良くも悪くも柔軟なお方のようですので、実際に就任されてからどういうスタンスを出してくるのかを見ないと良く判らんって所もあるのですが、いきなりモルヒネ投与解除はどうかと思いますけどねぇ(そりゃ投与しないで済めばそれに越したことは無いですが)。

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