佐藤健裕審議委員

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佐藤さんの略歴(日銀のサイトから)

昭和36年8月2日生
昭和60年 3月 京都大学経済学部卒業
昭和60年 4月 (株)住友銀行 入行
平成11年10月 モルガン・スタンレー・ジャパン・リミテッド 入社
平成18年12月 モルガン・スタンレー証券(株) エグゼクティブ・ディレクター 日本経済担当チーフエコノミスト
平成22年 1月 モルガン・スタンレー証券(株) マネージング・ディレクター 日本経済担当チーフエコノミスト
平成22年 4月 モルガン・スタンレー証券(株) マネージング・ディレクター 経済調査部チーフエコノミスト 兼 債券戦略部長
平成24年 4月 モルガン・スタンレーMUFG証券(株) マネージング・ディレクター 経済調査部チーフエコノミスト 兼 債券調査本部長
平成24年 7月24日 日本銀行政策委員会審議委員
(前職:モルガンスタンレー証券(正式名称ややこしいので一般的な名前の方で)債券調査本部長MD)

http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_sato.htm/

2015/12/09「会見の説明は色々と執行部に砲撃しまくっていますな」
2015/12/08「奈良金懇は案の定執行部にちょこちょこと砲撃をかましています」
2015/06/12「会見での答弁は佐藤さん的には普通なのだが結果的には多方面への砲撃になっていますな」
2015/06/11「山梨金懇での挨拶は今後のQQEの風呂敷畳みに関する重要な論点を提示」
2015/05/14「レポ市場整備とT+1決済と新現先によるグローバル化に関する講演がありました」
2015/02/12「ロンドンでの講演は高知金懇の線だが成長力強化の必要性を強調」
2014/12/08「高知金懇での会見がいい感じではっちゃけています」
2014/12/05「高知金懇ではいつもの説明だが執行部への砲撃度合いは高まっています」
2014/11/19「ロンドンジャパンソサエティーでの講演は主にマクプルの話題で金融政策については物価安定の理解を」
2014/06/11「佐藤審議委員会見:今回は特段の暴れも無く穏当に」
2014/06/06「大分での金懇での講演は色々と先行きの政策運営の論点を提示する」
2014/03/24「NYジャパンソサエティーでの金融緩和と財政政策に関する講演は近来稀に見る名講演」
2014/03/03「佐藤審議委員講演(その2):金融政策に関しては引き続き白テイストで」
2014/02/28「佐藤審議委員講演(その1):国債決済に関するかなり興味深い話」
2013/12/06「佐藤審議委員会見:会見質疑も論点整理に分かりやすい」
2013/12/05「佐藤審議委員講演:エコノミスト的論点としてはまさに仰る通りという話が色々と合って面白い」
2013/07/24「佐藤審議員講演(その2)/会見から:いずれも微妙に執行部のロジックに嫌味成分あり」
2013/07/23「佐藤審議委員選挙翌日に講演だが物価上昇のメカニズムの説明でしらっと執行部をdisるのでした」
2013/04/11「佐藤さん「にちぎん」で異色の対談(^^)」
2013/02/08「佐藤審議委員講演続き&記者会見:日銀の代弁部分と佐藤さんの見解部分が分かれているのにも味わい」
2013/02/07「佐藤審議委員、講演デビュー戦」
2012/09/28「佐藤審議委員ブルームバーグニュースで初インタビューは当然ながら緩和積極発言」
2012/07/26「就任記者会見の要旨を見ると佐藤さんの方が木内さんよりも積極緩和派」
2012/07/25「佐藤さん、木内さん審議委員に正式着任」
2012/06/12「空席の審議委員にモルスタ佐藤さん、野村木内さんがノミネートされる」

2015/12/09

○佐藤審議委員会見

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1512c.pdf

・最初からアホウの三冠王みたいな質問があるのだが

冒頭の説明の後の実質最初の質問がこれなんだけど。

『(問) 2 つあります。午前中のご挨拶でも触れておられたQQEの時間的な限界についてですが、時期は特定できないと思いますが、ただ、永遠に続けられないということだと思いますし、今日明日に限界がくるというわけでもないと思います。そうするとある程度の幅で、限界が来る時期は幅を持っては想定されるのではないかと推察するのですが、今年 1 年は大丈夫だという理解でよろしいでしょうか。(後半割愛)』

時期が特定できないのに今年1年は大丈夫だという理解でよろしいでしょうかってアホウの三冠王のような質問だなと思います(まさかこの「今年1年」というのは12月末までという質問ではあるまい)。

『(答) まず、QQEの時間的な限界あるいは政策の持続可能性についてですが、午前中の挨拶要旨の中でも触れたとおり、特定の年限というかたちで時間的な制約を現段階でイメージすることは難しいと思います。』

そらそうよ。

『といいますのは、政策の持続可能性あるいは国債の買入の持続可能性は、その時々の経済・物価の情勢あるいは金利の水準やイールドカーブの形状といった様々な要因に規定されるものであると思います。例えば、今のこのQQEが所期の効果を発揮し、人々の予想物価上昇率が実際に上がってくれば、イールドカーブはどちらかというとスティープ化する方向に動くと思いますので、その場合には却って買入が容易になるという面があります。反面、このQQEをもってしても人々の予想物価上昇率がなかなか上昇せず、したがってイールドカーブが低位安定というかフラット化していくと、買入は却って難しくなる、そういう難度の高さを内包した政策であるということです。』

ちなみにどこぞのベンダーはこの中の「予想物価上昇率が上がると買入が容易になる」という所だけ切り取ってヘッドライン打っていて、見ている人を???とさせていた(予想物価上昇率というとBEIを思い出す市場の人も一定量いるのだ)のですが、このようにして読めば単に「金利先高観が出てくれば皆がバカスカ輪番に入れてくるし、金利先高観が出ないと輪番出し渋りになって金利が下がるわオペはしんどくなるわ」というお話をしているのですが、この説明はこうやって改めて読めば皆が理解できるのですが、オモシロヘッドラインを打つという意味不明というか社会的に害悪じゃないかというインセンティブを持つ一部ベンダーに掛かると一見何言ってるのか分からんヘッドラインに加工されるリスクがあるので(会見の場合)、説明の方法をもうちょっと工夫した方が吉だと思うのですがどうでしょうかね。

『このように、様々な要因によって国債の買入の持続可能性は規定されますので、今年1 年は大丈夫とか、来年は大丈夫とか、そういった特定の年限を現時点で明示することはやや難しいと考えています。ただ、もちろん、今のところ国債の買入は概ねスムーズに行われていると認識していますので、これが今すぐ不可能になるということでもないと思います。(後半割愛)』

最後が余計で、当然のように最後の所だけヘッドラインを打っているどこぞのベンダーとかもあったので、印象として「佐藤さんはオペレーションの問題に対して懸念していないのではないか」というのを与えた(まあそのどこぞのベンダーのヘッドラインの打ち方が恣意的なのがそもそもの問題ではあるのだが)感じがあるのですけどね。



・政策の追加的な効果が逓減しているのだが何かあったらどうするのという質問

質問の仕方がヘボなのだが(答えを見れば分かる)がポイントは良い。

『(問) 2 点質問させて頂きます。1点は、挨拶要旨の中で、7−9月期のGDPデフレーターがマイナスになるなど、デフレの兆候もみられているというご発言がありましたが、昨年 10 月末に追加金融緩和に佐藤委員は反対されていまして、また緩和効果が逓減しているという指摘もされていると思います。仮に、このデフレの兆候が顕在化した場合に、日銀として何か対応のしようがあるのかどうかという点についてお聞きしたいと思います。(後半割愛)』

でもって答え。

『(答) まず、最初のご質問、7−9月期のGDPのデフレーターがマイナスに転換したことについてですが、挨拶要旨の中で触れているのは、中国経済の話でして、日本経済についてではありませんので、その点、お含み置きください。』

あちゃー。

『その上で、仮にデフレの兆候があったらという仮定のご質問ということでお伺いしたいと思います。私どもとしては、2%へのパスが危ぶまれる状況では、必要な政策の調整を行うということを予ねてより申し上げていますが、私は、基本的にはそれはリスク認識の程度次第であると思います。』

ほほう。

『例えば、リーマン・ショックあるいは欧州債務危機並みの世界経済の成長パスが大きく揺らぐようなイベント・リスクが顕在化する場合には、日本経済においても、2%の物価安定の目標達成のパスが危ぶまれる状況になる可能性があると思いますので、そういった状況の下では、政策の調整を行うこともやぶさかではないと思っています。ただし、今の政策は、例えば、GDPの見通しがコンマ数パーセント動くとか、あるいは、消費者物価の見通しが同じくコンマ数パーセント動くといったような、微細な経済動向の変化に対して敏感に対応していく性質のものではないと理解しています。』

うむ。

『基本的には、今行っているQQEは、政策の継続に伴って、あるいは資産の買入の進捗に伴って、累積的に効果が出てくるものと認識していますので、政策の調整についても、そういった認識を踏まえつつやっていくことになると思います。』

ショックの際の具体的なイメージについては言及しませんでしたな。


・短期金利マイナスに関して

今の質問の後半。

『(問)(前半割愛)もう1 点は、挨拶要旨の中でもご指摘されていましたが、ドル調達コストの上昇の裏側で円の調達コストが低下し、国庫短期証券や 3 年物の国債ぐらいまでマイナス金利が定着しています。レポ市場でも期末越え取引などでマイナス金利が常態化しつつあるなか、日本経済が、マイナス金利が定着している中で、金融市場に与える歪みというか影響について、佐藤委員がどのようにお考えになられているか、改めてお聞かせください。 』

キタコレ。

『(答)(前半割愛)それから、短期市場におけるマイナス金利の問題についてですが、日本と、例えば欧州のマイナス金利の状況は違うと思います。』

ほう。

『欧州においては、政策金利がそもそもマイナスであることから、短期市場でマイナス金利が常態化していますが、ご質問にございましたように、日本の場合にはドル調達コストの上昇の裏返しで円の調達コストが大幅にマイナス化しています。これはドルの調達が直接出来るドルベースの投資家にとっては、円を事実上、大幅なマイナス金利で調達できるため、マイナス金利の短期国債を買っても十分にペイします。そういうかたちで、短期国債に対する超過需要が発生しているわけです。』

うむ。

『ドル調達コストの上昇は、金融規制の強化等に伴う米国の金融機関のバランスシート制約を反映している面もあると思いますので、この年末越えの調達が一巡したとしても、おそらく先行き簡単に下がる性質のものではないかと、ある程度、構造的な面もあると認識しています。そういう意味では、現時点の短期市場におけるマイナス金利は、ある程度持続する可能性があります。』

さいですな。

『これについては、マイナス金利が実現していること自体は、一つには政策効果の表れである、という言い方も出来ると思います。』

そらまあ買入効果は買入効果ですけれども、問題はそれによって実体経済や物価上昇にプラスになる政策波及ルートがあるのかという話だと思うのですが。ちなみにどこぞのベンダーはここだけ切り取ってヘッドラインを打つという超恣意的攻撃をしているんですがががががが。

『その一方で、マイナス金利になることによる短期資金市場における様々な歪み、例えば、市場機能の低下といったことも、十分認識しているつもりです。私としては、そういった短期市場におけるマイナス金利がもたらす政策効果、それからその反面、その副作用として、市場機能の低下、あるいはMMFやMRFを含めた広義の決済システムへの影響も含めて、その両者の功罪を睨みつつ、今後ともしっかり政策運営をしていきたいと思います。』

ということで副作用に関しても具体的に言及が思いっきりあるのでした。

しかし何ですな。政策金利自体は補完当座預金があるわけで、そこから金利が下に突き抜けている状態というのが政策効果なのかというのも疑問で、中長期金利に関しては中長期年限まで拡大した国債大量買入によって(期待の引き上げによって起きる筈の)フィッシャー効果による名目金利上昇を抑制しようという意図があって実施しているから中長期の実質金利が下がるのは政策の意図した動き(ただし実質金利が下がったからと言って設備投資が出たり消費が思ったように活発化していないという問題があるのだがそれはさておき)なのですけれども、短国の買入で短期金利どマイナスって単にマネタリーベースの帳尻合わせに短国買ったら金利が下に突き抜けましたという話な上に、しかも海外の規制要因によるものであって、最初から短国金利を押し下げることを狙って打ったものじゃないでしょとは思うのですけどね。


・さっきの質問について具体策を質問されたら金融政策の限界論がしらっと出ている件

『(問) 佐藤委員は前から金融緩和の副作用のことも心配されています。今日の講演では、QQEを継続することが重い判断であるということを言われておられます。一方で景気下振れリスクのことも言われて、前向きのメカニズムに関してはそれほど力強くないと、デフレマインドも払拭されていないと言われています。景気の下振れリスクへの対応策として、現状の枠組みで対応できるのか、それとも別のアプローチの仕方があるのかどうかをお伺いします。』

『(答) 所得から支出への前向きの循環メカニズム、これが力強く働いているかどうかと問われますと、現状では、一応働いていることは働いていますが、必ずしも力強いとは言い切れない、ということだと思います。これは、最近の設備投資あるいは賃金に対する企業のスタンスによく表れていると思います。その一方で、ご指摘のとおり、私としては、こういったQQEを毎回の金融政策決定会合で継続するということ自体が非常に重い政策判断であると認識しています。』

うむ。

『では、このQQEによって、所得から支出へのメカニズムをこれ以上サポートしていくことが出来るのかどうかについては、私としては、QQEのトランスミッション・メカニズムとしては、当然、資産価格等も含めた幅広い経済活動への影響を強めることによって、政策効果が望めると判断しています。であるからこそ、毎回の金融政策決定会合で政策の継続に賛成票を投じているわけですが、その一方で、この所得から支出へのメカニズムを強めるためには、やや金融政策を超えた課題があることも事実だと思います。』

しらっと限界論来ました。

『例えば、挨拶要旨の中でも述べていますが、最近、企業収益が過去最高益を更新している中で、あるいは企業経営者のマインドも総じて高水準を維持している割には、設備投資の足取りは今一つ鈍いですし、賃金の基本給の増加ペースも非常に緩やかで、企業経営者の支出マインドが今一つ積極化していません。これは一つには、企業経営者の認識として、過去最高益といっても、結局は円安による海外からの収益の為替換算差によるものであったり、あるいは原油価格下落等による交易条件の大幅な改善のためであることから、こういった企業収益の改善は、総じて一時的なものであり、恒常的な所得の増加によるものではないのではないかと、危惧を抱いているからではないかと思います。言い換えますと、企業経営者が、現状の過去最高益の企業収益を、いわば“windfall profit”と考えていることでもあるでしょうし、これをさらに言い換えれば、利益の成長期待が低い、あるいは成長期待そのものが低いということではないかと思います。そういう意味では、金融政策によって成長期待を鼓吹していくということは、もちろん重要ですが、これはやはり成長戦略の着実な実行によって、生産性の向上、あるいは競争力の向上を地道にやっていくしかないのではないかと思います。』

ちゃっかり麿ドクトリンになっております。

『それから、政策の調整に関してですが、もしこれを考えるとすれば、当然市場に対してそれなりに大きなリパーカッションがあると思いますので、そういった影響も良く考える必要があります。そういう点では、市場とのコミュニケーションは、慎重の上にも慎重を期す必要があると考えています。』

具体策については余計な事は言わないという事ですな。


・何気に砲撃発言登場

『(問) 今日の講演の中で、前回の展望レポートで物価の達成の見通し時期を後ずれさせたことに関して、佐藤委員は、コミットメントについて、改めて説明する必要性を感じていらっしゃる、その中で、佐藤委員の考えとしては、特定の期限を念頭に置いたものではなく、ローリング・ターゲットと考えている、ということでしたけれども、これは改めて説明すればよいというものなのか、それとも現行の執行部の説明を変えていく必要があるとお考えなのか、どちらでしょうか。』

イイハナシダナー。

『(答) 私自身の考えとして、今の物価安定の目標と、目標の達成時期に関する解釈については、これをローリング・ターゲットと考えるのが一番無理なく整合的に解釈できますし、他の諸外国の中央銀行における一般的なインフレーション・ターゲティングの枠組みとの比較でも、整合的な仕組みであると考えています。すなわち、向こう 2 年間程度を展望して、その中で、2%の物価の安定の目標を追求するスタンスをとることが重要です。』

ただし執行部はそうは言ってませんな。

『特定の年限を区切ると言っても、もう既にQQE開始から 2 年半以上が経過しているわけですから、今さら 2 年といったところで仕方がないわけです。』

これは良い暴言(^^)。もちろんヘッドラインに出まくってましたけれども。

『そういう点では、私の説明が人々に対して一番無理なく整合的に説明出来るのではないかと考えています。』

そらそうなのだが執行部の説明は違いますし、大体からして政策の建付けが短期勝負になっているというのが大問題にも程があるのですけどね。


・テーパリングもQQEの中かどうかという質問

『(問)(前半割愛)。それともう一つ、この量的・質的金融緩和の継続期間は、2%の物価目標が安定的に持続すると判断されるまで継続するということですけれども、これは、国債の買入を仮に縮小しても、その政策手段自体がオーバーナイトの金利ではなく、マネタリー・ベースであるという政策を続ける限りにおいては、仮に国債の買入を多少縮小したとしても、約束違反にはならないというような考え方が出来るかどうか、この継続についての考え方についてもご意見をお聞かせください。』

『(答)(前半割愛)それから、最後のご質問で、テーパリングとマネタリー・ベース・ターゲティングの関係と理解しましたけれども、現時点で、もちろんテーパリングをするという具体的な計画があるわけではありませんし、このQQEは、マネタリー・ベース・ターゲティングということで、マネタリー・ベースの水準に目標を置いて、その達成手段として国債を買い入れるという枠組みを採っていますので、その枠組み自体は、とりあえずQQEを続けていく中では変えようがないのではないかと思います。』

微妙な答えで説明を回避していますな。MB水準の目標を持って国債を買う、というのがQQEなのであればその目標水準を維持している状態でもその水準が潤沢であればQQEの枠組みになるのですかとかそういう話なのですが、これは回答を避けた感じですな。

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2015/12/08

○佐藤審議委員の金懇講演は執行部への砲撃をちょこちょこ打ち込んでいるようで

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko151207a1.pdf

まずは経済のパートから少々。

・資源価格の弱さは需要要因もあるんじゃネーノという話から始まります

最初が世界経済の話ですが、まずは資源価格の話。

『資源・エネルギー価格の低迷が続くなか、新興国・資源国の成長率が高まらないうえに、先進国でも資源開発関連投資の減少などの影響がみられる。当初は世界経済全体に好影響をもたらすと思われた資源・エネルギー価格の下落には、供給要因だけでなく需要要因、すなわち中国をはじめ新興国の需要減少も相応に影響しているということであろう。』

うむ。

『また、供給要因面をみると、価格メカニズムにより供給が自動調整されるとのオーソドクスな見方も、例えば、資源開発業者が初期投資費用(サンクコスト)回収のため、採算点以下の価格水準でも操業を続けるなか、必ずしも現実に適合しないようにみえる。』

うむ。

『このように考えると、資源・エネルギー価格が短期的に顕著に持ち直すシナリオは描きにくく、資源国の成長率が短期的に高まっていく姿も想定しづらい。』

しらっと展望レポートの見通しにイヤミが打ち込まれています(^^)。

『世界経済の先行きは、先進国の成長の好影響から新興国も減速した状態から次第に脱していくとしても、全体として成長率の上昇ペースは引き続き緩やかなものにとどまる可能性がある。IMFの世界経済見通しもこのところほぼ一貫して下方修正となっている(図表1)。』

でまあこの後リスクの話があって、リスクは(1)米国一本足打法状態なこと、(2)欧州の難民問題が新たに拡大、(3)新興国資源国が本当に戻るのかよという話、となっていますが引用はパスします。


・金融市場の先行き懸念について

次が国際金融市場の話です。

『こうしたなかで先行き留意すべき点は、第一に、市場の流動性低下の影響である。』

さいですな。

『この夏場の世界的な変動の直接のきっかけは中国の人民元レート改革とみられ、中国の通貨・金融当局の情報発信面の課題が各方面から指摘されるところである。ただし、より根本的には、この7月にいわゆるボルカー・ルールが全面施行されるなか、主要なマーケット・メーカーによるリスクテイクが制約を受け、市場の流動性が低下し、アルゴリズム取引や高頻度取引(HFT)など、テクニカルなプレーヤーの存在感が夏場の薄商いのなかで強まったことが相応に影響したのではないかと感じている。夏場以外にも、年末や四半期末は規制によるさまざまな制約から流動性が低下しやすく、些細なきっかけで市場が不安定化することがないか、注意深くモニターしていく必要性を感じている(図表4)。』

図表4というのはタルーロ理事が良く出してくる昨年10月15日の米国長期金利ヒャッハー相場です。

『第二は、ドル調達コストが構造的に高止まる可能性である。』

キタコレ!!

『年末に向けては例年ドル調達ニーズが強まるが、本年はこれに利上げ見通しが重なったことなどもあり、スワップ市場におけるドル転コストや中長期のベーシス・スワップは上昇している(図表5)。邦銀は海外展開を積極化するなかで従来から安定的な調達基盤の拡充に努めてきていると思うが、これもしっかりとモニターしていく必要性を感じている。日本銀行としては、FRBの協力のもと、ドル供給オペというバックストップを用意しているが、金融機関自身が安定的な調達基盤を構築することの重要性については、改めて強調しておきたい。』

あのドル供給オペというのは金利がNY連銀様が決めるレートで、まあNY連銀的にアレをホイホイ使って常設ファシリティの如く使われるのは金融安定化の観点からも望ましくない、という考えのようでして、バックストップではあるのですがどちらかと言えばスティグマ付のディカウントウィンドウ的な物件となっておりますので、アレがあるから市場が火を吹かないというモノでもなく、本当の本当の最後の駆け込み寺という感じではあるのですな。

まあ一方で米国MMF規制とかでプライムMMFに対する風当たりが厳しくなり、トレジャリーオンリーに近い方向になっているので、安定的な調達基盤言いましてもそっちからも逆風なのでアカンヤツやとなっておりますのはご案内の通り。

『第三は、ECBの追加緩和実施に伴う国際金融資本市場への影響である。』

ほほう。

『欧州ではECBによる中銀預金金利のマイナスへの引き下げ前から、国によっては、通貨政策との関連で既にマイナス金利が常態化しているが、今回のECBによる中銀預金金利の引き下げはこうした状態に拍車をかけることになろう。』

うむ。

『指標となるドイツのイールドカーブは、一時、6〜7年ゾーン近くまでマイナス化していた。こうした金利形成が、米国の利上げとあいまって国際金融資本市場における資金フローにどのような影響を及ぼすか、またイールドカーブのフラット化が進むことでECBによる国債買い入れオペの持続可能性に問題が生じないか、後述する日本銀行の国債買い入れの持続可能性の観点から注目している。』

ということで最後はしらっとオペレーションの維持可能性の話が来ています。


・国内経済に関してはそんなに弱気ではない&金融政策だけでは・・・・・という話がしらっと

まあ展望レポートでの見通しよりは若干弱気ではありますが、基本的にそこまで弱気ではないですな。途中は飛ばして企業の態度に関して。

『このように企業が慎重な支出スタンスを維持する背景は、一つには、広い意味でデフレマインドが払拭されていないこともあると思うが、加えて以下の点もあろう。すなわち、足許は過去最高の収益を計上していても、それは売上数量の増加からではなく、円安による海外からの所得の受取の為替差益や資源価格下落による投入コストの低下による。したがって、企業はこれを恒常的な所得の増加と見なさず、固定費増大に慎重である、言い換えれば、企業の利益の成長期待がさほど高まっていないということが考えられる。』

ですねー。

『こうした状況に対し、金融政策面では、日本銀行は、例えば成長基盤強化のための資金供給などにより緩和的な金融環境の実現に従来から取り組んできている。もっとも、成長期待底上げには、金融政策による対応を超えた課題も多く、やはり政府の成長戦略の着実な実行により企業・家計の将来期待を変えていく地道な取り組みが重要と思う。』

一方で黒田総裁は物価2%になるんだからお前ら投資しろと経済団体に説教して回るという大変に地道な取り組みに勤しんでいるのであったwwww

『企業の支出スタンスと関連して、来年度の春季労使交渉についても触れたい。家計消費支出の着実な回復のためには、また欧米諸国との比較で依然低いとみられる人々の中長期的な予想物価上昇率が高まるかどうかは、就業者の持続的な基本給引き上げがポイントの一つであり、来年度の春季労使交渉で3年連続の基本給引き上げとなるかどうかに注目している。』

まあ問題はその幅だし、基本給上がるけど総支給額大して変わらないというマジックは良くある話だったりするのが油断ならんのですがね。

『連合は、来年度に向け2%程度の賃上げ要求を基本方針に掲げているが、基調的な物価上昇や先行きの物価見通しが基本給にどのように織りこまれていくかには不確実性がある。政府に対しては、労働市場の規制緩和など、企業が基本給引き上げを決断しやすくなるような取り組みを期待したい。』

どう見ても連合が当てにならないという書きっぷりにちょっとニヤリとしてしまいますな。


・物価に関しては1%程度は何とか持つでしょうというご案内の説明

でまあ前段の説明が長いのでそこは華麗にスルーしまして、

『以上を念頭に置いたうえで、このところの生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価の動向について論じたい。』

念頭に置くところはそんなに変わった話はしていないのでスルーしましたが。

『同ベースでの物価上昇には、昨年10月末の「量的・質的金融緩和」拡大以降の円相場の下落が寄与しており、先行きは円安傾向一巡に伴い、来年度入り後には伸び率はピークアウトするとの見方がある。もっとも、最近の同ベースの物価上昇を主導する食料工業製品や耐久財は、2013年4月の「量的・質的金融緩和」開始前後からのほぼ一貫した円安基調の下で、ここにきて改めて値上がり傾向が鮮明となっており、単に円安だけでこの間の一連の動きを整合的に説明することもまた無理があるように思われる。私としては、雇用・所得環境が緩やかに改善するなかで、エネルギー価格下落もあり、値上げに対する家計の許容度が広がり、企業もそれに応じて価格設定を幾分強気化しているとみるのが、むしろ妥当なのではないかと考える。』

ということは・・・・・・・・・・・

『それでも、先行きエネルギー価格下落影響が一巡すれば、家計がこれまでのように値上げに寛容であり続けるかどうかは不確実性がある。』

そういう意味では物価がエネルギー寄与分で上がらない方がサステイナブルな物価上昇基調を続けられるという実に皮肉な展開になる訳して。

『さらに、円安傾向が一巡すれば、食料工業製品や耐久財の値上げの動きも一巡する可能性がある。』

まあ東大物価指数とかそんな感じになっている感が。

『こうしたことから、生鮮食品・エネルギーを除く物価の前年比上昇率が1%程度で安定的に推移するかどうかは、来年度の賃金交渉を経て、足許出遅れているサービス価格に値上げの動きが広がっていくかどうかが鍵を握るであろう。』

問題はそんなことを見ている間に今のオペレーションが爆発しかねないことですがその話は後で。

『この点、先に述べたように賃金交渉の先行きに不確実性があり、日用品・耐久財からサービスへと物価上昇のシークエンスがうまく繋がるかどうかについては、下振れリスクはあるものの、私としては、エネルギー価格による影響を除けば、見通し期間を通じて前年比1%程度の上昇率は概ね維持可能と考えている。』

ほほう。

『先般の「展望レポート」では、物価の安定に責任を有する中央銀行のボードメンバーとして、私なりに最も蓋然性の高いシナリオを提示したつもりである。私としては、基調的な物価上昇率が2%にジャンプするかどうかは、人々の中長期的な予想物価上昇率が2%程度にジャンプするかどうかとほぼ同義であり、相応の賃金上昇などをみていない現時点では、見通し期間中に人々の期待がそこまで強気化することは想定しにくいと考えている。』

つまり2016年度後半に2%というのは蓋然性も低く無責任にも程があると言いたいのですねわかります。


・QQEの考え方コーナーでバンバン砲撃を打ち込んでいます

以下佐藤さんの砲撃コーナーの『3.当面の金融政策運営』である。

『「量的・質的金融緩和」実施から2年8ヵ月が過ぎた。この間の経済・市場動向が端的に示すように、デフレマインドの転換を促すという「量的・質的金融緩和」の所期の目的について、私自身は、依然途半ばではあるものの、次第に達成されつつあると評価している。』

ほほー。

『一方、「物価安定の目標」の達成時期は、10月の「展望レポート」では2016年度後半頃に後ずれした(図表12)。』

うむ。

『これを受け、「2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に」2%の「物価安定の目標」を安定的に実現するというコミットメントに対し、各方面からさまざまな意見があることは承知している。』

何かじわじわ来る表現(^^)。

『私としては、こうした状況を踏まえ、このコミットメントについて改めて説明する必要性を感じており、以前に述べたことの繰り返しになるが、再度、私なりの考え方を申し述べたいと思う。』

まあ執行部の考えと違いますけどね!!!

『私としては、このコミットメントは特定の期限を念頭に置いたものでなく、先行き常に2年程度を念頭にできるだけ早期に「物価安定の目標」の実現を目指す一種のローリング・ターゲットと考えている。』

ローリングターゲット来ました。

『また、「物価安定の目標」自体も上下に幅のある柔軟な概念と考えている。こうした考え方は、他の主要国の中央銀行が採用するインフレ目標の枠組みと同様、比較的無理のない現実的な目標設定である。』

今の目標設定は無理がある非現実的な設定だと。

『物価は、短期的には原油価格などに左右されるほか、基調的な物価についても、それに影響を及ぼす予想物価上昇率は、金融政策のほか、賃金交渉の帰趨や成長期待など、必ずしも金融政策で直接コントロールできない要因の影響も受ける。また、以前も申し上げたが、物価は経済の体温であり、中央銀行が直接に操作可能な変数ではない。このため、特定の期限を区切って特定の物価上昇率を目指すという政策運営にはもともと違和感があるし、それに固執すると、中央銀行の信認が低下するリスクも念頭に置く必要があろう。』

執行部に全面砲撃を加えると共に、白川ドクトリン的なお話も思いっきりしていますな。

『ここで「物価安定の目標」における2%の意味について改めて吟味しておきたい。「物価安定の目標」は消費者物価指数の総合で定義され、その基調をみる上での参考計数として、日本銀行は消費者物価指数(除く生鮮食品)を政策委員会の見通しとして示してきた。しかし、欧米と違い、公共料金の粘着性が高く、また民営家賃・帰属家賃が構造的に消費者物価指数への下押しに寄与する統計上の問題があるなか、公式統計上の消費者物価指数と、例えば、東大・一橋大物価指数に示される日用品の値上がりによる人々の体感物価は足許乖離してきているように思われる。』

『販売製品の頻繁なマイナーチェンジによる企業の価格維持戦略も考慮したSRI一橋大学消費者購買単価指数については以前紹介したが、同指数は直近では前年比2%程度の上昇となっており、同指数と対象商品を合わせた消費者物価指数の伸びを上回っている(図表13)。』

ということで・・・・・・・・

『このように人々の体感物価が統計上の消費者物価指数の伸びを上回るなかで、日本銀行が仮に公式統計上の消費者物価指数のみに着目して金融政策運営を行うと、かえって人々が過度の物価上昇を実感し、マインドや実際の消費行動に影響するなど、さまざまな歪みをもたらす可能性には十分留意する必要がある(図表14)。』

図表14というのは物価が上がると遅行してマインドが悪化するという大変に素敵なグラフです。

『重要なのは、経済の活動水準の上昇に応じて賃金の増加とバランスよく物価が上昇することである。こうした点を踏まえると、「物価安定の目標」については、従来から申し上げているように、単に、消費者物価指数の総合が前年比2%になればいいというものではなく、幅広い物価指標を点検していくなかで、その達成状況について、総合的な見地から柔軟に判断していくべきものと考える。』

バランスよく上昇とは黒田さんも言っていますがその中身は全然別の話をしているのがお洒落です。


・QQEの継続に関しての部分で更に佐藤さんが悪態を

『一方、市場では「量的・質的金融緩和」の更なる拡大への期待が依然あるように見受けられる。』

いきなり悪態。

『そうした見方の背景として、先に述べた「物価安定の目標」の解釈の問題のほか、「量的・質的金融緩和」の政策効果に関し、資産のフローの買入れ規模に応じて緩和・引締め効果が生じるとの考え方があるように感じている。』

そこは分からん。

『もっとも、「量的・質的金融緩和」の効果は、理論的には、資産買入れの進捗とともに累積的に高まっていく性質のものである。すなわち、買入規模を維持するもとでも、買入れを続けていく限り緩和効果は強まっていくこととなる。』

市場の片隅で棲息している身として思うのは、途中まではフローの量が重要なのだが、残高が累増してきたところでストック効果が思いっきり出てくるのではないか(閾値は市場の流通玉が需給ひっ迫状態になる辺りなのではないかという気がするがあくまでも感覚的なお話です)と思うのです。

『このため、毎回の金融政策決定会合において、現行の「量的・質的金融緩和」を継続すること自体が重い判断であると私は考えている。』

よし!そろそろ反対に回るんだな!!!!!(だいぶ違う)

『また、日本銀行は年間80兆円のペースで国債のネット保有額を増額することにコミットしているが、先行き日本銀行の保有国債の償還額が増加することを勘案すると、現行の政策継続のもとでもグロスの買い入れ額は増加していく可能性が高い。このため、先行きの政府の国債発行計画にもよるが、国債市場における日本銀行のプレゼンスは一段と高まる可能性がある。こうしたなか、巨額の国債買入れは金融政策目的であり、財政ファイナンス目的ではないという日本銀行の従来からの見解が十分に説得的であり続けるためには、政府の財政健全化へのコミットメントが重要である点も繰り返しておきたい。』

まあジンバブエ先生を日銀審議委員にしたりしている時点でだいぶ怪しいのですが、消費増税先送りでダブル選挙登場に1万ジンバブエドル。

『効果と副作用という点では、緩和効果は理論的には累積的に表れるとはいうものの、昨年10月末の「量的・質的金融緩和」の拡大後の長めのゾーンの金利低下幅が限られるように、買入れ進捗の割に名目金利低下幅という意味での緩和効果は逓減している可能性がある。』

そらここまで下がればねえ。

『もとより政策効果に副作用はつきもので、効果と副作用を比較衡量の上で政策の継続を判断するのが、オーソドクスなアプローチであると思う。』

ジンバブエ置物一派の木内さんへのいちゃもんに軽く砲撃。

『ただし、大胆な資産買入れにより人々の予想形成に訴えかけるという一種のショックセラピーについては、私自身、もともとあまり長く続けることを想定していなかったし、続ければ効果は逓減する一方、副作用は逓増することを懸念している。


しらっと執行部にも砲撃をしています。


・オペレーションの維持可能性はもうちょっと論じて頂きたかったのですが

とはいえ『(3)オペレーションの持続可能性 』というコーナーがあるというのは良い話。

『現行規模の国債買入れを続けるにつれ、市中の国債保有残高は、政府のネット新規発行額と本行のネット買入れ額の差額分だけ減少する。市中保有残高は有限であるので、こうした買い入れを永久に続けることはできない。現実には金融機関側には担保需要などから一定限度の国債を保有する動機があるので、市中残高が枯渇する前段階で、金融機関は日本銀行への国債売却を停止するであろう。』

さいざますな。

『そうしたクリティカル・ポイントがどこにあるかは、その時々の金利水準やイールドカーブの形状により金融機関の売却インセンティブに違いが生じると見込まれ、現時点で蓋然性の高そうな時期を見通すことは困難である。』

まあそうなんですが。

『「量的・質的金融緩和」が所期の効果を発揮し続け、市場の中長期的な予想物価上昇率が高まれば、イールドカーブはスティープ化し、金融機関の売却インセンティブは高まるであろう。反面、デフレマインドの転換が進まず、市場の中長期的な予想物価上昇率も高まらない場合、イールドカーブはフラット化し、金融機関は国債保有への選好を強めるであろう。』

でまあ今は市場が後者状態になっていると。

『このように、日本銀行による巨額の国債買入れは、政策目的の実現の蓋然性が強まれば容易になる反面、実現が困難と見なされればオペレーション自体も困難化する可能性があるという意味で難度の高さを内包している。私としては、政策継続の判断にあたっては、こうしたオペレーションの持続可能性も念頭に置きたい。』

ということで話が終わっていまして、「ローリングターゲットの考え方でやっていく」という話とオペレーションの維持可能性に関する話を繋げて論じて欲しかったなあとは思う所で、ローリングターゲットの考え方を持ち出してオペレーションの限界が来る前に勝ったことにして撤退をするのか、ローリングターゲットなのだから緩和を長期に継続する必要がありオペレーションの見直しを検討する必要があるのかとか、このローリングターゲットの話と政策をどうするという話の繋がりを見えるようにして頂きますと(って現在検討中なのかも知れませんが)もうちょっと盛り上がるのですけどにゃーと思うのでした。

なお、会見ではブルームバーグのヘッドラインを見ると維持可能性を超楽観してマイナス金利は政策効果(キリッ)と言っているようなヘッドラインだったのですが、共同通信配信の会見詳報を見るとそうは言っていないようにしか見えないというまたブルームバーグのヘッドライン詐欺かという風情が漂っていますので会見要旨を見てから再度このオペの維持可能性や市場金利についての見解を拝見したいと思いますです、はい。

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2015/06/12

○佐藤審議委員会見である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2015/kk1506c.pdf

・為替に関する質疑応答はかくあるべし

『(問) 2 点あります。為替ですが、午前中の国会で、黒田総裁が、これ以上のドル高になる必要はないとおっしゃっていますが、昨今のドル高円安をどうご覧になっているかということと、これ以上のドル高円安は物価目標達成という意味で望ましいのか、それとも経済状況、マクロにみて急速過ぎるということで望ましくないのかご所見をお願いします。(後半割愛)』

ということで実はあのオモシロヘッドライン出る前から国会での答弁は正直おかしかった。午前のはあまり大々的にヘッドラインになっていなかったし英文になっていたのか記憶が怪しいレベルなのですが。

『(答) まず、円安について、為替相場の水準やスピード、あるいは日々の動きなどについて、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、あくまで一般論として申し上げますと、円安は輸出の増加やグローバルに展開している企業の収益改善のほか、株価の上昇といったプラス効果を持つと思います。その一方で、輸入コストの上昇や、その価格転嫁を通じて、中小企業や非製造業の収益や家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するといった面もあると思います。このように円安の影響は、経済主体によって様々に異なり得るということであって、いずれにしても為替相場は、経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいと思います。今後とも、為替相場の動きを含めた金融資本市場の動向については、それが実体経済やあるいは国際金融資本市場に及ぼす影響も含め、引き続き注意深くみていきたいと思います。(後半割愛)』

後の方ではこんなのも。

『(問) 先程黒田総裁が国会で、実質実効レートについて、円安になっているのは事実だとおっしゃったうえで、ここからさらに円安はありそうにないということをおっしゃっています。こういう見方は、政策委員会の中でも共有されているのでしょうか。』

『(答) この通り出張中ということもあり、現在の衆議院での質疑について逐一内容を熟知しているわけではありませんので、直接的なコメントは差し控えたいと思いますが、足許の為替レートの動きについては、私の解釈は、ごく一般的な解釈だと思いますけれども、先行きの日米の金利差拡大を織り込む動きであろうということです。』

うむ。

『すなわち、先般の雇用統計をきっかけにして、マーケットではFEDの出口戦略、すなわち利上げのタイミングが若干前倒しになるのではないかという見方が俄かに強まってきていると理解しておりますけれども、足許の円安の動きはそういったFEDの金融政策に対する期待と整合的な形で動いているということです。さらに円安があるのか、ないのかということは、私どもの立場で申し上げることではありませんし、特にそういった予想ができるわけでもありませんが、現在の動きはそういったFEDの金融政策を先取りする動きであると理解しています。』

全く持って順当な回答でして、黒田総裁が国会でなんであんな話をおっぱじめたのかについては、まあ単になまじ得意だと思っている分野の話なのでドヤ顔で余計な話を初めてしまったという所だとあたしゃ思っていますが、一昨日の終わりから昨日にかけては色々と面白い解釈が出ていてワロタのだが、一番コケたのは「米国経済の為にドル高阻止」というので、日本の中央銀行総裁が何で日本経済の前に米国経済の事を考えて動くんだよお前はアホかと感心することしきりでした。


・さらっと言っているが単なる一般論なのかテーパー示唆なのか

質問が長いのだが丁寧に聞くとこうなるかもね。

『(問) 挨拶要旨の9 ページで、「物価安定の目標」の達成状況と政策継続の是非というのは、「量的・質的金融緩和」拡大後の政策効果や巨額の国債買い入れの持続可能性、及びさまざまな副作用も念頭に置きたい、とおっしゃっています。政策効果と持続可能性、副作用について、色々ご指摘されていますが、ざっくり理解すると、特に追加緩和以降、効果が減っている一方で、副作用は大きくなっているとして、持続可能性についてもその困難度が増している、という理解でいいかと思うのですが、仮に、2%の物価目標の実現前に、こうした副作用が効果を上回ったり、持続可能性に大きな困難度が増した場合には、2%の物価目標達成前にも、佐藤委員ご自身は、このQQEの縮小、テーパリングといったようなことをご提案されるつもりがあるのかどうか。もし、そういうご提案をした場合には、2%の物価目標というのは、一段と難しくなるのか、あるいはテーパリングしたとしても、その物価目標の実現というのは可能なのかどうか、ということをお聞かせ下さい。』

『(答) 2%の「物価安定の目標」の実現前に、仮に、こういった政策効果が逓減したり、あるいは持続可能性の問題が生じたり、副作用が大きくなればということで、これも、あくまでも仮定のご質問になりますので、なかなか直接的にお答えすることは難しいと思いますが、私どもは、この「量的・質的金融緩和」の継続にあたり、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、というフォワード・ガイダンスを提示しているわけであり、今後の政策の継続にあたっては、このフォワード・ガイダンスに照らして、あくまでも毎回の決定会合で判断していくべきものと考えております。』

まあ実際には後の質疑で具体的事例に関する質疑が入っているのですが(^^)。

『そういう意味では、毎回の決定会合で、この「量的・質的金融緩和」を継続することが当然の帰結であるといった予断を持つことなく、政策効果あるいは持続可能性を検証しながら、今後の政策の継続について判断していきたいと考えています。』

>「量的・質的金融緩和」を継続することが当然の帰結であるといった予断を持つことなく
>「量的・質的金融緩和」を継続することが当然の帰結であるといった予断を持つことなく
>「量的・質的金融緩和」を継続することが当然の帰結であるといった予断を持つことなく

特にヘッドラインになっていませんでしたしサラッと流されていますがこれは!!!



・ローリングターゲットの概念について

たしか今回初めて講演で出てきたローリングターゲットですけれども。

『(問) 講演の中で言われていたローリング・ターゲットのことですが、佐藤委員はボードと比べて弱い物価の見通しを持たれていて、2%の物価安定の理解がちょっと異なるかと思うのですが、ここで言われている、ローリング・ターゲットというのは、実際に2%にいってなくても2%が見通せるような状況が常に、2 年程度の先行きをみて、見通せれば十分ということでよいのか。それと、4 月30 日の展望レポートでも、見通し期間にその2%に達するという可能性が低いとみられている、現状の物価の情勢には佐藤委員は満足されてない、というようにも理解できるのですが、その辺をどう思うのかお伺いしたいと思います。』

まあ質問されます罠。

『(答) ローリング・ターゲットという考え方については、挨拶要旨の中でも触れていますが、私どもでは、先行き2 年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」の実現をするというコミットメントを出しており、これが私どもの達成目標になると思いますが、この点について私は、2 年程度の期間というものを固定的に考えるのではなく、先行き2 年程度のタイムスパンを常に念頭に置きながら考えていく、ということだと解釈しています。実際のところ、主要国の中央銀行の物価目標の考え方も、概ねそういった概念に近いものではないかと考えております。』

キター!!!!!!!!!!!!

ということで「期限を切るのが期待形成に重要」と思いっきり「2年」の所を重視するピーターパン置物理論に真っ向斬りかかりキタコレという話ですが、どうみてもローリングターゲットの考えの方が普通だし自然ですなそいつは、というと「期待がアンカーされている国と一緒にやっていては期待の押し上げができない」という執行部理論の反撃もあったりするのですよね。


『それから、私としては、先行き2 年程度のタイムスパンの中で、物価の動きが2%の安定的な実現を見通せるようなパスにあるということであれば、それはそれで政策効果として、あるいは政策目的として、所期の目的は果たしたことになるのではないかと考えています。』

ほう!!

『すなわち、先行き2 年程度を見越して、あくまでもフォーキャスト・ターゲティング的な考え方で、見通しとして2%ということが射程圏内にあるという状況であれば、それはそれで政策の所期の効果、目的というのは果たせるのではないかということです。』

つまり、先般の展望レポートですと現状では2年程度では2%達成しないというのが佐藤さんの見立てになっていて、2016年度になって2年程度での2%が見通せるという見立てになっていますから、この場合は2016年度になって2年程度で2%が見通しとして安定的に出せるという事になったら目出度くQQEからの出口模索という話になりますな、うんうん。



・買入の持続可能性に関して

『(問) 先程もちょっと出ましたが、国債買い入れの持続可能性について、もう少し詳しいイメージを伺えればと思います。講演の中では、限界に達する時期を、現時点で見通すことは難しいということはおっしゃられていますが、とはいえ、例えば今の金利水準がある程度継続した場合に、どの辺の時期が想定されるのか。今、例えば展望レポートで17 年度までの見通しを出しているわけですが、その期間内はどうなのか、そのあたりの時期のイメージを伺いたいのと、実際、限界に達するというのは、どういう現象が現れたとき、限界に達したと判断されるのか、その辺についてもう少し詳しいイメージがありましたらお伺いしたいと思います。』

ということで・・・・・・・・・

『(答) 国債買い入れの持続可能性についてですが、果たして、どの時点まで今の大規模な国債買い入れを継続することが可能かどうかという問題意識は常に持っています。ただ、果たして、そういったクリティカルポイントがどこにあるのか、という点については、挨拶要旨の中でも触れたとおり、例えばその時々の金利水準、あるいはその時々の海外金利の水準、あるいは他の資産価格、例えば株価、そういった色々な要素が絡んでくると思いますので、様々な要素の中で複合的に決まってくるものだと思います。』

確かにそうですな。

『そういう点で、現時点で、何か確からしい見通しを持っているというわけではありません。ただ、そういったクリティカルポイントが、この買い入れを長く続けていく中では、やはりどこかででてくる可能性があるということです。それは、金融機関が国債の保有額を、例えば担保需要等から、これ以上減らせないところまで減らしていくということであり、それが果たしてどこにあるのか、ということは繰り返しになりますけれども、現時点ではなかなか見通すことは難しいです。ただ、言えることは、そういった国債市場における国債の供給曲線がどこかの時点で垂直になるところがあるのではないかと考えています。』

まあそうでしょうな。

『それから、その限界点に達したときに果たしてどうなるのか、ということですが、具体的なイメージとして、例えば私どもの国債の買い入れオペにおいてオペの未達が起きるといったことをイメージしています。』

具体的イメージキタコレ。

『ただ、未達が単発で起きるということであれば、その後のオペレーションで挽回すればいいわけであり、それは特に問題はないかと思います。状況としては、そういった未達が仮に起こるとして、それが連続的に発生し、年間80 兆円のマネタリーベースの増加目標の達成が難しくなる、そういった状況を念頭に置いています。』

そらそうよ。

『ただ、今申し上げたことはあくまでも仮定の話でして、繰り返しになりますが、いつそれが起こるのかということは、なかなか今の段階で見通すことは難しいということです。』

ですな。


・ 量が買えないなら金利を下げればよいじゃないという考えに対しては・・・・・・・

『(問) 今の質問に関連するのかもしれませんが、佐藤委員が講演の中で、国債買い入れの量と金利の間にリニアな関係が成立しにくくなっているとご指摘されています。それであれば、国債買い入れから、金融政策のターゲットを金利に変える、例えば、付利の引き下げのような金融政策に変えるという方法は現時点で可能だとみていらっしゃるのでしょうか。』

『(答) 私どもの政策というのは、もちろんそういった量の拡大によって、金利に影響を及ぼすというものでありますが、その際に、名目金利と実質金利を分けて考える必要があるかと思います。』

ほう。

『挨拶要旨の中でも触れましたように、この名目金利に関しては、既に、10 年金利で0.5%前後ということで、非常に低い水準にあります。そういう点では、私どもはこれから買い入れの残高を累積的に増やしていくということになるわけでありますが、その結果としてリニアにこれまでと同じような経験則で、同じようなペースで名目金利が下がり続けるかどうかというと、金利の非負制約ということもありますので、なかなかそう簡単にはいかないであろうと、リニアな関係というのも成立しにくくなるであろうということです。』

まあ現実にそうなっていますわな。

『ただその一方で、私どもは、もう1 つの政策の柱として、大規模な買い入れを続けるということにより、中央銀行としての決意、あるいは市場に対して明確なコミットメントを示すことで、市場の予想インフレ率に働きかけることを目指しているわけです。』

とは言え、MBで期待に働きかけるという大きな建付けがある中でそれを簡単に捨てることが出来るのかという話ですな。

『もちろん、その予想インフレ率に働きかけるということを中央銀行の大胆な決意によってのみできるかどうかというと、それはそれでまた色々議論のあるところかと思います。』

さりげなく砲撃(^^)。

『市場の予想インフレ率というのは、中央銀行のスタンスだけではなく、例えば、全般的な経済情勢、あるいは資産価格、その他諸々の要因によっても規定されると思いますし、実際そちらの方の要素の方が大きいかもしれません。』

なお砲撃(^^)。

『ただ、例えば私どもの政策がそういったかたちで資産価格に影響を及ぼすことで、それが最終的にやや長めの予想インフレ率に影響を及ぼすことができるのであれば、仮に名目金利がリニアになかなか下がりにくくなるとしても、実質金利に働きかけるということは可能かもしれません。そういう意味では、政策の限界があるということを申し上げているわけではありません。ただ、実際のところ名目金利がかなりゼロに近づいてきているということでありますので、挨拶要旨の中でも触れたように、政策の難度が高まっているということは事実であろうと思います。』

うむ。

『それから、付利に関してのご質問がありましたけれども、基本的には、0.1%の当座預金への付利ということ、これはマネタリーベースを円滑に積み上げるために必須のツールであると私としては理解しております。』

(;∀;)イイハナシダナー

『すなわち、現行の年間80 兆円のマネタリーベースの増加目標、これを達成する上では、0.1%の付利、これが重要な役割を演じているわけであり、ある意味、一体不可分のものであると思います。そういう意味では、付利を動かすという考え方とマネタリーベース目標、これは本来相容れないものであり、そういう点では、私どもとしては、現時点ではそういったことは念頭に置いていません。』

なお、ちょうど国会で黒田総裁も付利の話を答弁しているタイミングだったので、総裁発言と見事にシンクロしているのが中々面白かったです(^^)。

まあ何だ、未だに付利下げあるでといっている何とかストの理屈は短期市場の実態全然把握してないだろとしか申し上げようがないのだが、まあおまいらその席どいてこっちに寄越せやという感じですな。


・「期待」に関する質疑

『(問) 予想インフレを通じて実質金利を引き下げるというこのチャネルは、QQEの他のチャネルと併せて重要なものとして日銀として説明してきたと思うのですが、この予想インフレに与える影響というのを佐藤委員ご自身は講演でも、なかなか支出でみると明確な改善がみられないという主旨で述べられていると思うのですが、その評価を佐藤委員ご自身どう考えられているのか。』

『また、設備投資について、やはり国内に回帰するかどうかというのが大事であるという点を述べられており、その兆候はみられるということですが、円安以外のファクターも大事だと思うのですが、例えば需要のあるところに生産拠点を作るという動きもあると思いますし、そういうことも踏まえて設備投資の今後の先行きについてもう少し敷衍して頂ければと思います。』

質問は2つですな。

『(答) 中長期的な予想インフレ率に関しては、毎回のステートメントの中でも述べていますように、やや長い目でみれば全体として上昇しているとみられるということです。この点について、私どもとしては、例えば毎月の消費者物価指数の前年比のアップアンドダウンに一喜一憂するということではなく、あるいは日々のBEIの動きといったものを逐一フォローしていくということではなく、QQE開始以降のやや長い目でみて人々の物価感がどう変化してきたかということに着目しているわけです。』

>BEIの動きといったものを逐一フォローしていくということではなく

まーた置物師匠に砲撃していますね(・∀・)

『そういう点では予想インフレ率は全体として上昇しているのではないかということです。もう少し具体的に申し上げますと、例えばQQE実施以前と足許との、人々の、例えば家計あるいは企業の物価観を考えてみますと、かつてデフレの下で、消費者は極端に安い財あるいはサービスを追い求めるなど、極端な安値志向であったということであり、企業もそういった極端な安値での供給ということに努力してきたわけであります。ただ、足許、消費者のそういった志向というのは、やや変化してきているということであり、極端な安値志向というのも、もちろん残っているわけですが、その一方でそれなりの質を伴ったものに対しては若干高い対価を支払ってもいいと、そういったスタンスに微妙に変化しつつあるのではないかということです。』

物価上昇の中で賃金に関してはアグリゲートすれば上がっているかも知れないけれども、実際問題としては全体の水準が同じように底上げされているという訳ではない中ですから、この「安値志向と品質志向」の話って、こちらに関してもアグリゲートして出てくる現象はそうかもしれないけれども、実際問題としては賃金などが上がっている人とそうでない人(とか資産効果でどうのこうのな人ですかねえ)の間での2極化が進んでいて、それが「安値志向が残る中でも品質志向」となっているのではないかとまあそんな風に小市民のアタクシ的には思ったりもするのですけれどもね。

『企業側としても、これまでの単にコストを削減するという努力だけではなくて、それなりのクオリティのものをそれなりのコストを掛けて供給していくといったスタンスに変わってきています。すなわち、これは企業の価格設定戦略、これが若干変化してきているということだと思います。こういったことは、やや長い目というか、かなり長い目でみたときの人々の予想物価上昇率の変化ということを象徴的に示しているのではないかと思います。こうしたことは月々の経済指標の変化からは簡単には読み取れないものです。』

まあ上げて売れるのがあるならそっちにも逝く罠。

『もう1 つ重要なことは、賃金の設定行動の変化です。これは、昨年からの春闘の動きにもみられますように、デフレの下では長らくベースアップという概念すら忘れ去られていたわけですが、ベースアップという概念が政治の強い後押しというかリーダーシップもあり、昨年ようやく、久しぶりに実現したということです。かつ今年に関しては、昨年からの流れを引き継いで、そういったベースアップ、これは賃上げ率としては昨年以上の成果というのが出つつあるということだと思います。こうした労使交渉、労使の賃金交渉において、物価上昇を賃金上昇率に織り込むという考え方、これはデフレの世界では長らく忘れ去られていたわけであり、そういった概念が賃金の交渉過程で織り込まれるようになった、あるいは戻ってきたということ、これ自体が長い目でみたときの人々の予想物価上昇率の変化ということを象徴的に示しているのだろうと思います。』

とのことですが、そもそも論としてある程度の右肩上がり賃金というのが想定できるような期待が形成されないような状態だとベアがどうのこうの言われても単なる物価上昇対比の生活保障給としての認識になるんじゃネーノと思う訳で、ある程度の右肩上がりの賃金カーブへの期待というのは実は労働者にとってはインフレ期待と成長期待をビルトインするものではないかという説を考えていまして、そこから見たら今の状況って前よりはマシかもしれないけれども本質的には何も変わっていないような気がします。

『そういう点で、私としては予想物価上昇率の変化を引き続き着目していきたいと思いますし、私どもの究極の目標としては、単に消費者物価の前年比上昇率が2%をつけるということではなく、挨拶要旨でも触れたように、人々、すなわち企業も家計もあるいは賃金交渉においても、ある程度の、具体的に言いますと個々の経済主体が2%程度の物価上昇を前提としてそれぞれ行動するような世界にもっていく、すなわち、中長期的な予想物価上昇率を2%程度にリアンカリングしていくということが究極の目的であると理解しています。』

問題はそれを実行する手段な訳で、マネタリーベース直線一気理論で物価だけコストプッシュで上げても所詮は消費がおちるだけという話なのでやはり「期限を切る」というのが良くないと思うの。

以下設備投資の話。

『それから設備投資に関してですが、企業は既に海外での設備投資を相当積極的にやっているわけであり、伸び率としては前年比2 桁の伸び率をコンスタントに維持しています。』

景気の良いお話ですわおくさま。

『その一方で、国内の設備投資はどうかといいますと、リーマンショック以降長らく低迷していましたが、このところ、ようやく少し持ち直していますが、それでも前年比でみると1 桁台の前半に止まっています。』

アイヤー!!

『そういう点では国内とそれから海外の設備投資のバランス、これをどう見直していくかということ、これは企業の生産戦略というか立地戦略に深く関わってくる問題ですので、今後とも注視していきたいと思いますが、1 つの重要な決定要素としては、挨拶でも申し述べましたように、為替、しかもそれは短期的な為替の見通しではなく、かなり中長期的な為替の見通しが影響してくるであろうということです。』

うむ。

『すなわち、企業として先行き例えば5 年、10 年を見通して、2 年前までのような大幅な円高の再燃はないだろうと見越すのであれば、企業の立地戦略というのは必然的に変わってくる、あるいは生産戦略は必然的に変わってくる。すなわち、国内の生産のウエイトを高める方向になっていくのではないかということで、為替は1 つの重要な要素だろうと考えています。』

まったくその意識は無いと思うのですが黒田総裁の国会答弁に盛大に斬りかかっております。

『ただ、為替以外にも、ご指摘のように、幾つかの重要な要素があることはもちろんでして、例えば労働資源、これは国内では不足しつつあると言われているわけですし、それから税制の問題、生産拠点を国内に置くか海外に置くかということで税金が変わってくるということになると、これも企業の意思決定に大きく影響してくるでしょうということであります。そういう点では企業としては、最適な立地戦略を常に考え続けているわけで、税制等の重要な要素はありますけれども、その中の1 つとして私は為替レートということを例示したとご理解して頂ければと思います。』

まあ結局の所消費地に近い所で作れるものならそれが一番リーズナブルという話だとすれば、国内の需要が盛り上がらないといけない訳で、それってコストプッシュのインフレでは残念ですが達成できない、という意味で「物価を上げれば今までのデフレ時代の逆回転が起こって全てがうまく回りだす」という置物師匠一派の置物リフレ理論がナイーブにも程がある議論だったという話になる訳ですが、困ったことにその置物と置物の亜種のジンバブエ理論の人が政策委員会に鎮座ましますという時点でおおもう・・・・・・

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2015/06/11

○黒田さんのオモシロ国会答弁で話題を持って行かれた佐藤審議委員の金懇挨拶である

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150610b1.pdf
わが国の経済・金融情勢と金融政策
── 山梨県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──

前場に金懇挨拶が出て、会見のタイミングがちょうどまたお洒落な事に黒田さんの国会でのぶっ飛び答弁と同じタイミングで出ていたので、非常に真っ当な発言ヘッドラインとぶっ飛び発言ヘッドラインが混在して放流されてくるというシュールな事態になったわけですが、折角の佐藤さんの金懇挨拶が黒田オモシロ答弁に全部持って行かれるという実にカワイソスな展開となりましたが、この金懇挨拶は非常に素敵ですので全文を精読されることをお勧めしたい。


・海外経済の話では国際金融市場動向への指摘がよろしいですな

まずは『2.内外経済・金融情勢』の海外パートから。

米国経済と欧州経済の現状認識に関して述べた後に金融政策当局の話が入っているのがお洒落。

『こうしたなか、FRBは利上げ実施に向けた情報発信を重ねつつも、具体的な時期については今後の経済指標次第という柔軟かつ慎重なスタンスである。』

『こうしたなか、ECBが打ち出した非伝統的金融政策は、当初は為替および債券市場に顕著な影響を及ぼしたが、足許は振れの大きい展開となっている。大規模な資産買入れの持続可能性については様々な指摘があり、私としても帰趨を見守りたい。』

大規模な資産買入の持続可能性指摘キタコレ!!

で、その次の『(2)国際金融資本市場の動向』の見立ては色々と注意すべき点を提示していますのでオヌヌメ。

『以上の世界経済情勢のもとで当面の国際金融資本市場について、第一の注目点は、米国の利上げが国際金融資本市場に及ぼす影響である。』

うむ。

『このところの米経済指標を受け、利上げ時期についての市場の見方は前後に振れている。一方、FRBは利上げ時期について断定的な情報発信を慎重に避けつつも、遠からず利上げがあることを市場に織り込ませるよう腐心している。FF金利先物市場の価格形成をみる限り、FRBのこうした意図は概ね浸透し、一頃のようなFOMCメンバーと市場の見方の乖離は埋まりつつある(図表5)。』

状況を淡々と説明しているだけなのでしょうが現執行部に対するイヤミに見えてしまうのは気のせいですね!!!

『もっとも、市場参加者の間で利上げ時期が具体的に意識されれば、国際金融資本市場はこれまでと違った反応を示すかもしれない。5月上旬にFRB議長が株・債券市場の価格形成に言及した際の市場の反応は、そうした懸念を先取りしているように思われる。各種金融規制の結果、主要なマーケット・メーカーのリスクテイクが制約され、米国債市場でさえ流動性低下が懸念されるなか、先行き利上げ時期が具体化すると、国際資金フローの変化から各種資産市場で大幅なリプライシングや予期せぬ連鎖が生じないかどうか注意深く見守りたい。』

「米国債市場でさえ流動性低下が懸念されるなか」とかチクチクと入っていますが、実際の利上げという話になった時の動きについての懸念は全く仰る通りでありますな。

『第二の注目点は、ECBによる大規模な資産買い入れの影響である(図表6)。』

キタコレ!!

『買い入れ実施当初、その効果は概ね織り込み済と思われたが、実施後も欧州諸国の長期金利は顕著に低下し、ドイツ国債10 年物は一時ゼロ%程度となった。また、ユーロ安も進行した。』

ですなあ。

『もっとも、4月下旬以降は急激な金利低下の反動からか、ドイツの長期金利は買い入れ実施前の水準を上回る振れの激しい展開となっている。このような長期金利のボラティリティ上昇は、ECBの買い入れ規模が国債市場の規模との比較で巨額なことによる市場の流動性低下と関連しているように思われる。』

(;∀;)イイシテキダナー

『日本においても、2013 年4月の「量的・質的金融緩和」実施後や、昨年10 月末の緩和拡大後は長期金利のボラティリティ上昇がみられた。日本国債10 年物金利は、「量的・質的金融緩和」実施直後は当初の意図に反し、一時やや大きく振れた。また、「量的・質的金融緩和」拡大後は逆に一段の低下の後、足許は拡大前の水準に概ね戻っている。』

うむ。

『こうした長期金利の振れについては、金融政策のみならず海外要因も影響しているとみられ、その評価については慎重であるべきだが、金融政策の効果が名目ないし実質金利の低下によるとすれば、巨額の買い入れによる国債市場の流動性プレミアムがその効果を一部減殺している可能性には留意する必要があろう。』

後程QQEに関する話の中でまたこの論点が出ますが重要な論点。

『一方、こうした長期金利の振れが経済・物価見通しの改善を織り込む動きである可能性もあろう。』

でまあ大体当局の皆様におかれましてはこちらの「改善を織り込む動き」の方にばかり注目してウッキウキになってしまってという傾向が強いというのは昨日悪態を申し上げた通りです。


・国内経済については別に弱気ではなくて「基調は確り」という認識ですよ

『(3)国内経済の動向』から少々。

『1-3 月期の日本経済は、設備投資をはじめ輸出や生産の緩やかな改善基調が続いた。個人消費や輸入も底堅く、最終需要は堅調に推移した。4-6 月期は、一部業種の在庫調整等から生産が横ばい圏内で推移の見通しながら、3月以降、個人消費が引き続き底堅く推移しているとみられること等から緩やかな回復を続けていくとみられる(図表7)。世界経済が先行き成長率を幾分高めると見込まれることも日本経済への追い風となろう。堅調な雇用情勢や好調な企業業績を背景に、所得から消費・投資へという回復メカニズムは次第に確からしさを増していくと考えられる。』

ということで基本的に弱い話はしていない。

『ただし、原油安に伴う家計の実質購買力の拡大や企業収益の改善が、期待したほど支出の拡大につながらず、結果として貯蓄超過(経常収支黒字の拡大)圧力がなかなか和らがないリスクも一応念頭に置いておく必要があろう。』

まあこれは順当な懸念ですな。でもって雇用所得環境について。

『こうしたメカニズムのベースとなる雇用・所得環境についてだが、雇用情勢が逼迫の度合いを強めるなか、賃金は毎勤統計で伸び率の下方改定後も緩やかな増勢を維持している(図表8)。今般の2年連続のベア実施の見通しを受け、先行きも賃金の緩やかな増加が続くと見込まれることから、個人消費は昨年の消費税率引き上げによる実質所得減少の影響を徐々にこなし、緩やかに水準を切り上げていくことが期待される。』

基本的に佐藤さんは雇用に関しては特に弱い見方はしていないです。

『やや長い目では、持続的な賃金増加の前提である企業の生産性上昇ペースのほか、高齢化の影響に着目している。』

ほほう。

『消費が中期的に増加基調を維持するには、約4,000 万人の年金受給者の実質所得の動向に対し、約6,000 万人の就業者の実質賃金の持続的な回復が必要となる。』

なるほど。

『先行き設備投資の増加による生産性上昇に応じ賃金増加率が徐々に高まり、また各種改革の実行により社会保障制度の持続可能性への信認が高まるとみても、やや長い目でみた個人消費の回復ペースはかなり緩やかなものにとどまろう。』

ということで雇用所得環境は弱気ではないものの、ではそれが消費に直結するのかというとそこは慎重ですな。


『民間設備投資については、資本財出荷・総供給といった月次指標の持ち直しや短観等にみる企業の設備投資計画の堅調さの割にGDPベースの設備投資の動きはこれまで鈍かった。もっとも、海外での設備投資はこのところ一貫して2桁増となっており、連結ベースでみた企業の設備投資意欲は以前から旺盛である(図表9)。』

ということで設備投資ですけど・・・・・・・・・

『問題は企業が設備投資をさらに増やすかどうかではなく、国内で設備投資をするかどうかである。』

確かに。

『この点、これまで非製造業中心であった設備投資だが、自動車産業では昨年頃から本格化した生産設備の海外移管の流れが一部に残っているものの、ここ2年間の円安方向への動きを映じ、製造業の一部で国内生産増強の動きがようやくみられるようになってきた。』

『やや長い目でみて、企業の立地戦略の変化に広がりが生じ、設備投資の国内増強の流れが強まるかどうかは、企業の中長期的な為替見通しにも依存しよう。』

ですなあ。

『すなわち、過去2年間の円安方向への流れが持続的と判断すれば企業は国内生産設備の増強を進める一方、円高再燃を警戒する企業は足許の為替情勢でも立地戦略を容易に見直さないであろう。その点、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」にみる企業の1年後の予想円レートが119.5 円と3年連続で円安方向に振れている点は好材料といえる(図表10)。』

黒田さんの円安牽制と取られたオモシロ発言対比でこれを見ると実に素敵。

『もっとも、企業にとり設備投資の決定には、先行き5〜10 年といった長期の予想が重要であることからすると、先行き国内生産設備増強の流れが広がりを見せるかどうかは予断を許さない。』

ここでしらっと止まっていますが、国内需要の持続的拡大への期待というのも重要なのではないかと思うのですが、そこは敢えて触れていないのかしら。


・物価についての話は更にイイハナシダナーが

次が『(4)物価面の動向』である。

『エネルギー価格下落を受け、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比上昇率はこのところゼロ%程度となっている。先行きもエネルギー価格下落の影響が残ることから当面ゼロ%程度で推移するとみられる(図表11)。このように消費者物価は現状勢いを欠くが、エネルギー価格下落による物価下落は実質所得の押し上げ要因であり、私としては日本経済にむしろ好材料と受け止めている。』

ですなあ。

『重要なのは月々の消費者物価の前年比上昇率の振れでなく、全般的な経済情勢を反映する物価の基調であり、基調自体はしっかりと維持されていると考える。』

と、執行部の連発する「基調」を佐藤さんも使っているのですが、なんか佐藤さんがこういう言い方で「基調はしっかりと維持」と言われると執行部が連発する「基調」から漂うインチキな香りが1ミリも漂ってこないのはアタクシの気のせいですかそうですか。

で、次が無慈悲な砲撃第一弾。

『過去2年間の円安・エネルギー価格上昇等による物価上昇のもとでは、実質賃金の伸び悩みから、家計の物価上昇に対する否定的な反応が各種ソフトデータに見られ、消費増税の影響もあり実際に個人消費は伸び悩んだ(図表12)。このことは単に物価が上がるよりは、経済情勢が改善するなかで、賃金・所得とバランス良く物価が上昇する姿が望ましいと人々が考えていることの証左であろう。「物価安定の目標」の本来の意味もそうしたものと私は考える。』

物価が上がれは全て上手く行って皆ハッピーという置物リフレ理論に無慈悲な砲撃キタコレ。


でまあインフレ期待の話になりますがちょっと途中を飛ばしましてこの辺から。

『私としては、人々の中長期的な予想物価上昇率の決定要因として、先に挙げた過去の物価上昇率の実績とともに、全般的な経済動向や資産価格動向、及び賃金改定の状況等を踏まえたフォワードルッキングな予想形成も重要と考える。また、これらを踏まえれば、エネルギー価格下落による物価上昇率低下により人々の中長期的な予想物価上昇率が悪影響を受ける可能性は低いのではないかと楽観的にみている。』

なるほどです。次が物価指標そのものに関する論点。

『ところで、物価の計測方法に関する最近の学界の研究成果は、消費者物価をどう定義するかという古くて新しい問題に様々な示唆を与えてくれる。』

ということでこの先ちと長いが引用する。

『例えば、一橋大学の阿部修人教授が開発した「SRI 一橋大学消費者購買単価指数」は企業が頻繁に投入する新商品の価格設定を物価指数の算定に取り入れる試みである3。阿部教授によれば、平均的な小売店では、46-47%の商品は前年の同じ週には販売されておらず、現実には商品入れ替え率が非常に高いという(図表14)。また、こうした新商品の中には以前の商品と実質的にほとんど変わらないものがあり、企業は実質的な価格調整手段として商品入れ替えを頻繁に行っている可能性があるという。』

『一般的な消費者物価指数が、商品価格の変化を計算するにあたって、2時点間で価格情報がある商品に限定されるのに対し、「SRI 一橋大学消費者購買単価指数」は上述の新商品投入の重要性を定量化するものである。』

この前一橋物価指数のニュースが出ていた時の説明だとナンジャソラという感じでついニュースに脊髄反射して悪態つきましたが、要は「日常品の品目更新は実際には極端に早いのだから物価統計でもその品目更新を反映すべきではないか」という話だったのねというのをやっと把握しました、って勉強不足ですいません。

『結論的には、最近では、新商品の投入効果が物価に与える影響等から、例えばスーパーマーケットの「SRI 一橋大学消費者購買単価指数」は総務省の消費者物価指数や継続商品に限定した価格指数より伸び率が高く、前年比+1〜1.5%程度で推移しているという(図表15)。こうした研究成果は、POSコードのある商品に計測対象が限定されるなどカバレッジの問題等から、総務省の消費者物価指数と単純比較できないが、新商品投入による企業の価格設定行動と物価への影響、ひいては家計の実感する物価と物価統計との乖離について、有益な示唆があるように思われる。』

と、この話もここで止めていますが、以前より石田審議委員が指摘する「帰属家賃除くコアCPI」への注目の話と話の筋は同じ方向で、そもそもCPI2%と言うけれどもそのCPIは政策担当者が目指すべき社会厚生の測定に対して本当に適切に計測されているのかというお話にもつながりますが、それをゴリゴリ言い出すとまた別の話で一席できてしまうのでここで止めたんでしょうね。


・「ローリングターゲット」という概念

さてメインイベント(?)の金融政策に関してです。『3.当面の金融政策運営』から。

『(1)「物価安定の目標」の考え方と政策運営のあり方』というのがまず来ますよ!!!

『日本銀行は消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を「2年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現する」ため、約2年前に「量的・質的金融緩和」を導入した。直近の消費者物価の前年比上昇率はエネルギー価格下落のため0%程度となり、また「展望レポート」の中心的な見通しにおいて「物価安定の目標」の達成時期は2016 年度前半頃に後ずれしている(図表16)。もっとも、前述のように、経済の好循環メカニズムのもとで、物価の基調はしっかりと維持されているとの見方から、政策委員会として現時点で政策対応の必要性はないと判断している。』

でまあここから先がメインイベント。

『私としては、特定の物価目標水準を特定の期限を区切って達成するコミットメントはそもそも他の主要国が採用する金融政策運営のあり方とは馴染まないため、「2年程度の期間」はあくまで「念頭に置く」努力目標であり、「できるだけ早期に」の部分に実質的な意味があると考えている。』

執行部にマッコウクジラで無慈悲な砲撃キタコレ!!!!!というかグローバルスタンダード(キリッ)と言ってる総裁副総裁を火の海に投げ込んでいますね!!!!

『すなわち、私の理解では、「物価安定の目標」は先行き2年程度の期間を念頭に置いたローリング・ターゲットであり、これは主要国が採用するインフレ目標の考え方に概ね沿うものである。』

ローリングターゲットという言葉は佐藤さんの講演の中で初めて出てきましたかね。これは分かりやすいコンセプト。

『こうした理解に立てば、達成時期の後ずれは本質的な問題でなかろう。企業や家計も輸入物価上昇によるコスト高への懸念や実質賃金への影響等から、単なる物価上昇には概して拒否反応があることは先ほども触れた。』

確かに仰せのとおり。

『一方、政策の継続にあたっては、「量的・質的金融緩和」が大規模な資産買入れによる実質金利やリスクプレミアムの押し下げ、及び強いコミットメントにより人々の予想形成に訴えかける一種のショック療法であることを念頭に置く必要があると考える。』

ということで・・・・・・・・・・・

『無論、日本銀行は「物価安定の目標」を安定的に実現するのに必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続するとのフォワード・ガイダンスを示しており、政策の継続はこのガイダンスに沿って判断される。したがって、2年が経過したから現状の政策の枠組みを機械的に見直すべきとは思わない。』

何気に木内さんにも斬りかかっているようにも見えるが(^^)。

『もっとも、私の理解では「物価安定の目標」はフォーキャスト・ターゲティングの枠組みで、上下に幅のある柔軟な概念である。また「物価安定の目標」の安定的な実現とは、消費者物価指数の前年比上昇率が単純に実績として2%をつけることではなく、人々の中長期的な予想物価上昇率が2%程度にリアンカリングされる、すなわち家計や企業が2%程度の物価上昇を前提とした消費や投資行動に移行する見通しとなることである。』

非常に納得がいくし無理筋成分が無いですな。

『こうした「物価安定の目標」の達成状況と政策継続の是非については、毎回の金融政策決定会合で政策委員会が「判断」していくが、私としては、以下に述べる「量的・質的金融緩和」拡大後の政策効果や巨額の国債買い入れの持続可能性、及びさまざまな副作用も念頭に置きたい。』

キタコレ!!!!!!


・政策効果の話がイイハナシダナー

『(2)「量的・質的金融緩和」拡大後の政策効果』で先ほどのECBネタの続きが出てくる。

『「量的・質的金融緩和」の継続にあたり点検すべき第一のポイントはその政策効果である(図表17)。昨年10 月末の「量的・質的金融緩和」の拡大後、10 年国債金利は一旦低下して0.2%を割り込んだ後、足許は「量的・質的金融緩和」拡大前の水準に概ね戻っている。この間、市場の経済・物価見通しはむしろ下方修正されており、予想物価上昇率の一段の上昇を説得的に示す材料は乏しい。』

追加緩和の効果があったという執行部に無慈悲な砲撃(^^)。

『「量的・質的金融緩和」が想定する効果の波及メカニズムの一つは巨額の国債買い入れによりイールドカーブ全体に下押し圧力を加えることであり、昨年10 月末の「量的・質的金融緩和」拡大はそうしたメカニズムを強めるものと理解していた。現実には買い入れ規模増大の割に流動性プレミアムの上昇等から名目金利の下押し効果は逓減し、政策の難度が高まっているように私には見受けられる。』

イイハナシダナー

『長期金利が低下しにくくなった背景として、第一に、そもそも金利水準が低く、国債買い入れの量と金利の間にリニアな関係が成立しにくくなっているとみられること、』

直線一気理論ェ・・・・・・・・・

『第二に、極端な低金利下では最終投資家の需要がみられなくなる傾向があること、第三に、流動性低下や海外金利の影響によるボラティリティ拡大でディーラーのリスク許容度が低下していること、が考えられる。』

ちょうど昨日債券市場サーベイの5月版が出ていたのですが・・・・・・・・
http://www.boj.or.jp/paym/bond/bond1505.pdf

これを見ると金利水準が市場の流動性や機能が改善しているのですが、その間金利って上昇してるんですよね♪


『このうち、第一の点は、名目金利が低下しにくくなる中、先行き実質金利が一段と低下するかどうか、すなわち、日本銀行の「強く明確なコミットメント」のみにより人々の中長期的な予想物価上昇率が更に高まるかどうかがポイントとなる。無論、日本銀行がたとえマイナス金利でも買い入れを進めることで名目金利を一段と押し下げることは理論的に可能かもしれない。しかし、その場合、国債の買い手は日本銀行のみとなることが想起され、財政ファイナンスの懸念や市場機能の一段の低下といった問題を惹起しよう。』

ですなあ。

『また第二の点は、最終投資家の先行きの買い入れ目線次第という面がある。例えば、この7月からの生命保険会社の一部保険商品の予定利率引き下げは先行きの投資家行動に影響する可能性がある(図表18)。第三の点は、市況次第でディーラーのリスク許容度は変化しよう。』

『以上を念頭に、日本銀行の買い入れ進捗が金利形成に及ぼす影響はもとより、投資家・ディーラーの動向を注視し、今後の政策効果の出方をしっかりとモニタリングしていきたい。』

宜しくお願い致しますm(__)m


・持続可能性への指摘キタコレ

『(3)巨額の資産買い入れの持続可能性』から。

『「量的・質的金融緩和」の継続にあたり点検すべき第二のポイントは、巨額の国債買い入れの持続可能性である(図表19)。』

キタコレ!!!!!!

『現状、日本銀行は年間約80兆円のペースで中長期国債の保有を増加することにコミットしている。グロスでは政府の市中発行額の約9割に相当する年間約110〜120 兆円のペースである。仮に、最終投資家が満期償還を迎えるごとに国債保有を減少させる、すなわち再投資を行わなければ、日本銀行による巨額の国債買い入れは持続可能にみえる。しかし、現実には担保需要等から一定の国債保有への需要は存在する。』

さいですな。

『例えば、「量的・質的金融緩和」実施当初、国債保有額を削減してきた大手行の国債保有額はこのところ安定し、地域金融機関の保有額も安定的に推移している。このように最終投資家による満期償還分の再投資への一定の需要がみられるなかで日本銀行が現状の巨額の買い入れを継続し、最終投資家が国債保有をこれ以上減らせない限界まで保有残高を削減すると、買い入れの持続可能性が問題となろう。』

イイハナシダナー

『そうした限界点がどこにあるかはその時点の金利水準等にもよるため、現時点で見通すことは難しいが、政策の継続にあたっては、オペレーションのフィージビリティへの配慮も重要である。』

いやもうこれは茶々入れる必要のない論点です。


・副作用の指摘までキタコレですよ!!!

最後に(実際は財政の話と山梨県経済の話があるのですがネタとして引用するのは最後ですので)『(4)副作用の点検』であります。

『「量的・質的金融緩和」の継続にあたり点検すべき第三のポイントは、巨額の買い入れの副作用である。』

(・∀・)!!!

『もとより政策効果と副作用は表裏一体で、副作用のない政策に効果は期待できない。もっとも、異例の政策を続けていくなかでは、効果と副作用を比較し、副作用が政策継続の限界的な効果を上回らないかどうかのチェックは欠かせない。』

置物やジンバブエは佐藤さんの爪の垢を煎じて百万回飲むべし。

『その点、本行の国債保有割合が高まることによる市場機能への影響については、やや長い目でみて出口を円滑に出るにあたっては市場機能の回復が重要なポイントと思われるだけに、2 月に調査が実施された「債券市場サーベイ」の結果については幾分憂慮している(図表20)。』

でまあ先ほど引用しましたが金利が上昇して市場機能が若干回復、という結果になっていましたので、とりあえず金利を馬鹿下げするのが良くないというのは判明したと思いますが、ただまあ日本のこの数か月における金利上昇は特に欧州の直近金利上昇と比較したら思いっきりオーダリーであって、きゃりーがマーライオンになった2013年のようなマーライオン相場になった場合には金利上昇即市場機能回復、では無かったりすると思われますので、今回の債券市場サーベイ結果についてもそのあたりは留意して査収されたいと思うのです。

『また、超低金利の継続による金融機関経営への影響のほか、広義の決済システムの安定性についても引き続き問題意識を持ってみている。』

マイナス金利が続いた場合の問題点指摘ですな、うんうん。


とまあそういう事で、黒田総裁のオモシロ国会答弁で全て持って行かれてしまったという佐藤審議委員の金懇挨拶がこのまま持って行かれたままでは勿体ないので絶賛引用大会をさせていただきましたとさ、という所ですが、途中やや端折った部分もあるので全文鑑賞を推奨しておきますです、はい。

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2015/05/14

○佐藤審議委員の講演は金融政策的には特段の話ではないがトピックとしてはマニア向け

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150513a1.pdf
東京金融市場のさらなる発展に向けて── レポ市場改革の取り組みを中心に ──
(FIAジャパン金融市場会議2015における講演の邦訳)

めんどいので日本語版をネタにします(汗)。

・お話自体は金融政策とは関係ないです

『わが国のレポ市場は、国債の先物市場がそうであるように、国債の発行・流通市場に対して流動性を供給し、円滑なマーケットメイクと価格形成に貢献するという非常に重要な機能を果たしている。その意味で、国債の先物市場とレポ市場はいわば車の「両輪」の関係にあり、レポ市場の発展は、国債市場の流動性向上を通じて、先物市場のさらなる発展にも繋がると考えられる。そうした金融市場間における相乗効果を期待しつつ、レポ市場を巡る国際的な議論の動向や市場の発展に向けた市場関係者の取り組みについて、日本銀行の考え方や役割なども交えながらお話したいと思う。』

という話ですので、金融政策とは関係ない短期金融市場とか債券市場とかの市場整備の話になっております。本件に関しては何で今この時期に推進をするのか意味が分かりかねる国債決済T+1化に向けた取り組みに対して、国債決済T+1を実施するにはレポ市場において現状の取引手法ですと事務が回らないのが明白(そもそも今の時点でも債券ディーラーの事務が繁忙)であって、この点を回すためにはトライパーティーレポのような形で業務の効率化を業界全体ではからないと無理ですから、そもそも論としてT+1実施の前提にレポ市場改革があるという話。

なお、確かに取引未決済リスクの削減とかの為にはT+2よりもT+1取引の方が良いに決まっているのですが、そのリスクというのは参加者が個別にコントロール可能なものであって、そこの削減に伴って発生する膨大なシステム投資や事務的な人的含めたインフラ整備のコスト、(取引に慣熟するまでの)事務リスクの高まりといったコストとの勘案でみた場合に、今のように短期市場金利がゼロ近傍になっていて、かつ日銀による大規模資産購入で債券現物市場の流動性が大きく低下しているときに、そのようなストレスのかかることをするというのはどう見てもダメだろと言うのは昔から申し上げている通りです。この件って大昔からある「取引のDVP化」から始まる一連の流れではあるのですが、国債決済期間の短縮化の為にレポ市場改革という流れになっているのもどうなのかというか、そもそも市場環境が変わっているのに当初の計画を碌に見直さないで突き進もうというのがどうなのかと思うのですがその辺のそもそも論はこの辺にしておいて先に逝きます。


・残高自体はまあそうなのですが短期市場の実質的な主力”運用”商品は別だと思うの

『さて、皆さんご承知のとおり、レポ取引は、資金と証券を一定期間交換する取引であり、多くの主要な金融市場において、資金や証券の運用・調達を行うための重要な取引手段となっている。わが国のレポ市場の残高をみると、2008年のリーマン・ショックの後一旦減少したが、足もとにかけては一段と増加しており、短期金融市場の約半分を占める中核的な存在にまで成長している(図表1、2)。』

何せQQEの前から預金金融機関は基本的に全てがローンポジション状態になっている上に、足元ではQQEの拡大により各行とも超過準備をこれ以上積めるのか、という状態になっていて、無担保コール取引自体は勿論あるのですけれども、そらまあ恒常的にマネーポジションの銀行というのが(一時的にマネーになっているとか、超過準備積み上げのご協力的なマネーという話は別)原則として居ませんがな、という状況において、無担保コール取引自体がそもそも指標性に欠けるし、その市場自体も重要性が落ちているのはその通り。

でまあ現状マネーポジション的になっているのはどこかと言えばそらもう国債大量発行を背景にして取扱高が大きくなっている国債のマーケットメーカーという事になりまして、在庫ファイナンス分は(資本勘定とかCP発行などの無担保調達もありますが)在庫の国債使って有担保調達になりますし、日々在庫は動くのでトランザクションも多いですしということで、まあ残高が大きいのはその通り。

おっちゃんが小僧の頃は都市銀行などが恒常的にマネーポジションでコール市場などで恒常的に資金を取っていて、しかもそのブレを毎日調節しないといけないので必然的にコールへの依存度が高くなり、そういう調達サイドの事情がある一方で農林系とか地域金融機関が恒常的にローンポジションとなっていましたが、調達サイドのニーズがそこにあるから運用サイドも必然的にそちらに向かうという構造で、ターム物に関しては短期国債市場では発行残高が不足していたので常に公定歩合よりも大幅に低い金利で取引されていて運用商品としての妙味がなくて、銀行発行のCDが大きかったとかそういう時代ではありましたな。

然るに、現状では短期金融市場の恒常的なマネーポジションってそういう意味では国債ディーラーが一番大きくて、そちらのニーズとしては当然レポ調達という話になるから図表の2にあるように資金調達サイドのニーズがそこにあるという話。

でまあそらそうなのですが、良く良く考えてみると短期市場で昔から比較して爆発的に調達を拡大しているのは政府もそうなのでありまして、短国市場の残高がこれだけあって、3か月物国庫短期証券が毎週5.4兆円ペース(今の所)で発行されている、という事になるとそらまあ運用サイドはそっちに逝ってしまいます罠という話で、レポ取引自体の残高が大きいのはその通りなのですが、では取引の参加者の広がりとか深みという点で特に資金取引サイドがどうなんでしょうというのは毎度ながら微妙ですなと思うのよね。

『このレポ市場について、わが国では、「市場改革」ともいえる取り組みが、国際的な議論も踏まえつつ、市場関係者の間で進められている。今、「市場改革」と申し上げたが、私なりにこの「改革」でポイントとなる視点を整理すると、「透明性」、「安定性」、「効率性」、「グローバル化」の4 つになると思っている。』

ということで先に進む。


・FSBのレポ改革

『レポ取引については、リーマン・ショックを契機とするグローバル金融危機の経験も踏まえ、G20 のイニシアティブのもと、FSB(金融安定理事会)などの国際的なフォーラムにおいて、その「透明性」や「安定性」を一段と高めるために、さまざまな改革に向けた議論が行われており、日本銀行のスタッフもこうした議論に参画してきている(図表3、4)。』

『こうした議論の背景には、主として米国において流動性の低い証券化商品を対象とするレポ取引が大きく増加し、いわゆる「シャドーバンキング」としてレバレッジの拡大や過大なリスクテイクが生じていたことが、金融危機をより深刻なものにしたのではないか、との問題意識がある。』

後の方で説明がありますが、そもそも日本のレポ取引というのは国債発行額の拡大と共にショートセールのカバー取引と在庫ファイナンスの為に拡大した市場であって、流動性の低い金融商品のファイナンスによってレバレッジを高める取引として使われている訳ではないので、FSBの問題意識を日本にそのまま持ち帰りされても迷惑以外の何物でもないので、FSBにおける議論においては関係各位の奮闘に期待します。

『FSB の議論では、こうした「行き過ぎ」を防ぐためには、まず、金融当局がグローバルなレポ取引の動向を適切にモニターする必要があるとされた。また、適切なヘアカットを導入することでレポ取引のリスク管理をより強化していくことも求めている。つまり、グローバルな金融安定上のリスクに対応するため、プルーデンス政策の観点から、レポ取引の「透明性」と「安定性」を更に高めて行くことが国際的に合意された。』

なお後にありますが国債はヘアカット義務がありませんので中曽副総裁でも安心です(違)。


『(「透明性」の向上に向けた改革<データ収集体制の構築>)』

『FSB は、レポ取引の担保となる証券などの詳細なデータを収集し、レポ取引によるレバレッジの積み上がりのほか、満期ミスマッチの状況、特定の市場参加者へのリスクの集中度合いといった金融安定上のリスクを把握することを狙いとして、レポ取引に関するデータの収集体制を各国およびグローバルの2 段階で整備していく方針を示している。現在、FSB 内の専門家グループにおいて具体的な検討が進められており、日本銀行もメンバーとして議論に参加している。』

しかし在庫ファイナンスとショートセールの在庫確保という観点からするとファンディングがオーバーナイトになってSC借入がタームになるのですが、それを捕まえて「期間ミスマッチが拡大しているのでご指導」とか飛んできたら困るので「国債市場が巨大だから自然に起きている現象」というのと「レバレッジの積み上がりによって起きている現象」というのは良く良く考えて規制をかけていただきたいものです。

『昨年11 月には、データ収集の項目等の詳細を示した市中協議文書が公表され、この市中協議の結果を踏まえて、本年末までに最終的なデータ収集の枠組みが取り纏められる予定である。』

それは良いのですが、いちいち取引データ出せという話になったら只で無くさえ事務面が煩雑な今のレポ取引に対して「単なる余裕資金運用の一環」としてしか考えていない恒常的な資金の出し手が面倒を避けてGCレポ運用から手を引くようなことが起きないようにお願いしたいものです。そらまあ調達サイドは調達できないと困るから当然こういうのは頑張るでしょうけどね。


『今後を展望すると、本年末にかけて、グローバルレベルでのデータ収集に関する議論が深まるもとで、わが国においても、各国レベルでのデータ収集をどのように行っていくか、といった議論が徐々に本格化していくと思う。その際、円滑なデータ収集を行うためには、当然のことながら、システム対応など市場参加者の負担や取引実務にも十分な配慮が必要である。』

と思ったらちゃんと言及している所を見ると相当言われてますな(^^)。

『そのうえで申し上げると、政策当局の間では、今回のデータ収集プロジェクトは、レポ市場、さらに言えば、銀行システムの外側にあるシャドーバンキングの「透明性」を高める効果的な手段であり、金融安定上のリスクを抑制していく上で、とても重要な政策対応であると広く認識されている。』

言いたいことは分かるが米国だけでやってくれとしか申し上げようがない。

『従って、今回のデータ収集プロジェクトにしっかりと対応することは、わが国金融市場に対する国際的な信認を確保し、グローバルな金融市場間の競争力を高めるだけでなく、グローバルな金融安定への貢献といった観点からも大切なことだと思っている。日本銀行としても、レポ取引のデータ収集体制の円滑な構築に向けて、内外の関係者と協力しながら、引き続き積極的に貢献していく考えである。』

そもそも米国様が無茶な取引をしてチョンボをしたのに対して、そういう事を全然していない他国がそのチョンボの後始末に巻き込まれて、無茶をしてないのにわざわざ手間暇かけて(もとより実施していない)無茶取引をしていませんというのを疎明しないと国際的な信認を確保できないというのが話の筋として何だかなあという感じでして、それよりも「まずこれらの取引を行っている米国に対して厳しい開示を求める」という話を他国と組んでやった方がよろしいんじゃないでしょうかとか言うと米国ではドットフランクでという話になるんですかね。


『(「安定性」の向上に向けた改革<適切なリスク管理の実施>)』

『レポ取引における「ヘアカット」とは、担保となる証券の価格変動リスクを反映した「掛け目」をかけたうえで資金のやり取りを行うことで、取引の安全性を高めるリスク管理の仕組みである。金融危機の際には、レポ取引の担保となっていた証券化商品の価格が急落し、そのヘアカットが急激に引き上げられた結果、証券化商品の価格下落や流動性の低下がスパイラル的に加速し、レポ取引の「安定性」が著しく低下したとの指摘がある。』

それはそうだが日本はそもそも国債レポばっかりなのですけど。

『こうした経験を踏まえて、FSB では、各国当局に対し、中央清算機関(CCP)で清算されない全てのレポ取引について、「ヘアカット」に関連した2 つの政策対応を求めている。』

つーことだがそもそもCCPで取引飛んだ時にちゃんとCCPが補填してくれないのであればCCP清算とそれ以外を分ける意味がないのだがその辺はどうなっているのでしたっけ。

『まず、一つ目が、レポ取引のヘアカットに下限値を設定する「最低ヘアカット規制」である(図表5)。景気が良い時には、市場参加者がレポ取引の担保となる証券の価格変動リスクを過小評価し、過度に低いヘアカットを設定する傾向が指摘されている。この規制の狙いは、レポ取引を行う際に、過度に低いヘアカットを適用するインセンティブを抑制することで、好況時の行き過ぎたレバレッジの拡大や、不況時の急激なデレバレッジ、いわゆる「プロシクリカリティ」(景気循環性)を防ぐことにある。』

まあ趣旨は分かる。

『なお、現在の政策提言では、国債を対象とするレポ取引は「最低ヘアカット規制」の対象外とされている。これは、国債の価格動向は景気循環的でない傾向がみられることや、国債のヘアカットは多くの取引でゼロ、あるいはゼロに近いためとされている。この点、わが国のレポ取引は、証券化商品を担保とするレポ取引のウエイトが相応にある米国などとは異なり、その殆どが国債を対象としており、ヘアカットを行わないものが大部分を占めている(図表6、7)。このため、「最低ヘアカット規制」が、わが国のレポ市場に与える影響は、現時点で、全体としてそれほど大きくならないのではないかとみている。』

ということで、順当な話がやっと出てきたわけですが、そこまでの話が米国市場において発生した問題を軸に展開されていて、日本の事情に関する話をここに持ってきているのって、講演の相手が外国の方を念頭に置いている(もともと英語だし)からそれでも良いのかもしれませんが、こうやって邦訳テキストに落とされると文章構成的に先に「なんか日本市場と関係ない話をしていますが」という印象を与えてしまいますので構成上宜しくないのではと思うのですが何とかならないのですかねえ・・・・・・・・・・・・

『さきほど申し上げた通り、わが国のレポ取引は、その殆どが国債を対象としており、ヘアカットを行わないものが大部分である。もっとも、十分な信用力と流動性を備えた国債であっても、金融商品である以上、価格変動のリスクがあることは否定できない。』

『このため、ヘアカットのメソドロジー基準のあり方も含め、レポ取引の安定性を確保していくうえで、どのようなリスク管理が望ましいのか、市場参加者間で議論を深めながら、共通の認識を作り上げていくことが大切だと思う。』

そらまあそうなのですが、図表5の最低ヘアカット基準って担保の残存期間と種別の概念があるのですが、レポ取引そのものの期間の概念がないのが変でして、今の日本のレポ市場みたいにT+1スタートの翌日物取引が主体とかになっているときに、3か月ものとかの取引と同様のヘアカットを適用するのが適切なのかどうかとか(マージンコールの問題もありますが)、その辺の概念って無いのかねとは突っ込みたくなるのでありました。

『この点、FSB では、法域間の規制裁定を抑制する観点から、最低ヘアカット規制の実施状況を定期的にモニタリングする枠組みを導入する予定である。このモニタリングの結果によっては、将来的に、現在国債を対象とする取引をグローバルな規制対象から除外している最低ヘアカット規制の「適用対象」や「最低ヘアカット水準」の見直しを検討する可能性があるとしている。』

日本国債格下げでどうのこうのという話がありましたな。ドメ取引における自国国債担保取引にヘアカット掛けるというのは何だかなあという感じはしますが(価格変動リスクという観点でかけるのなら取引期間やマージンコール適用の有無も勘案して欲しい)。

『日本銀行としては、2017 年末までの導入が予定されている最低ヘアカット規制が、グローバルなレポ市場の流動性などに「意図せざる影響」を与えることがないかどうかにも留意しつつ、今後とも、最低ヘアカット規制の枠組みの検討に関する国際的な議論に積極的に参加していく必要があると思っている。』

自国ソブリンに関しては除外の方向でお願いします。ECBに関しては「財政統合していないからお前らはソブリンじゃない」という事で(^^)。


・国債決済期間短縮化の話は毎度のお話ですがレポ市場と絡めて

次が『3.「効率性」の向上に向けた改革(国債取引の決済期間短縮化)』のコーナーキタコレ。

『以上申し上げたレポ取引に関する国際的な議論と並行して、国内では、国債取引(アウトライト取引)の約定から決済までの期間を2 日(T+2)から1 日(T+1)に短くする取り組みが進められている。』

進めさせられ(銃声)。

『国債決済期間の短縮化は、リーマン・ショック後の国債市場におけるフェイル急増の経験を踏まえた取り組みであり、未決済残高の圧縮を通じて決済リスクの削減を実現するものである。』

それは分かるがカウンターパーティーリスクを厳格に管理すればそんなのは削減できるのであって、しかも各種金融規制により金融市場参加者の資本バッファーが強靭化された中でこの未決済リスク削減を急ぐ必要があるのかというのが甚だ疑問で、市場環境の変化に対応しないで当初決めたからそのまま続けるというのはどこぞのマネタリーベース目標政策のようで実にジャパン的であります。

『しかし、金融市場インフラの整備の観点からみると、国債決済期間の短縮化は、わが国のレポ市場に大きな変革をもたらし得る重要な取り組みであることに気付く。』

つーかT+1するのに今のままだと事務が回らんという話。

『国債のT+1 決済を実現するためには、国債のアウトライト取引等の結果として生じる資金や債券の過不足の調整に用いられるGC レポ取引について、T+0 決済(即日決済)を実現することが大前提となる。そのためには、レポ取引にかかる事務処理の一段の効率化を進める必要がある。これが3 つ目のキーワードである「効率性」の向上である。これを実現するため、わが国では、GC レポ取引に係る「銘柄後決め方式」の導入、そして、そのための担保管理サービスを行うインフラの整備が予定されている。』

『レポ取引における「銘柄後決め方式」と「担保管理インフラ」の導入、つまり、レポ市場における効率化の一層の進展は、わが国の短期金融市場に大きな変革をもたらす可能性がある。なぜならば、それが大規模な即日資金市場の創設を意味するからである。』

・・・・・・・だと良いのですが、そもそもこれらのインフラ整備に金がかかる上に、担保管理サービスに対してもフィーを払わないといけない訳でして、そのフィーが少なくともコール媒介手数料などの現状のコール取引に関するコストと同等かそれ以下じゃないと資金運用サイドの積極参加が見込めないと思うのですがそれは。

つーかですね、このレポT+0の話って国債決済T+1の方から話が先に来ているので、そらまあそうなったら国債のマーケットメーカーは対応するために色々と動くのが必然なので、資金調達市場としてはT+0レポ市場ってのが出来るのですけれども、運用サイドのニーズは特段斟酌して話が進んでいる訳でもないので、運用サイドとしては参加するだけの運用面での有利性が必要で、このウルトラハイパー超低金利の中でシステム対応の投資が必要でフィーが安いのかどうかとかレートが有利なのかどうかとかが分からない上に事務面でどうなるか分からない取引に参加するのかよと言いますと、先ほども申しあげましたように偉大なる3か月もの国庫短期証券市場があり、保振で超便利になったCP市場があり、事務周りがあっという間のSTPで回る短資約確システムに乗るコールローン取引がありとなっているのがどうも。

まあそうは言いましても決済がたくさんある銀行業態もシステム対応はしないといけない口でしょうから、銀行業態と国債ディーラーの所で取引は回るでしょうし、残高も当然ながら積みあがるとは思うのですが、ロット的にそれほどではないにせよ安定的な余資放出主体が参加しやすいような取引になる事によって取引の厚みが出ると思いますのでその辺は宜しくお願いしますというか、日銀のこの手の講演とかを聞いて(見て)おりますと、資金調達サイドの事情については良く把握しているようですが、運用サイドの話になると途端に疎くなる傾向が見られるのでして、まあそちらへの考慮もして頂きたいものです。


・レポ市場の将来の展望に関して

『かなりざっくりとした見積もりだが、現在T+1 決済で行われている翌日物GCレポがT+0 決済に単純に全て移行すると想定すると、その市場規模は20〜30 兆円に達することが予想される(図表8)。一方で、例えば、翌日物の無担保コール市場(短資経由)の残高は、現在2〜3 兆円程度である。つまり、わが国のT+0決済のGC レポ市場は、将来的に、コール市場の規模を大きく上回り、東京短期金融市場において最も大きな翌日物の即日資金市場となる可能性がある。』

そもそも銀行業態が全部ローンポジションの中では翌日物コールというのはマージナルな取引にならざるを得ないのですが、レポ市場に関しても資金調達プレーヤーが「証券会社」に偏ってしまうので、それはそれで残高は大きいにしても本当に指標性のある取引なのかというのは微妙な気がします。まあ将来にわたって無担保コールを政策金利にするというのもどうかと思いますが。

#一番指標性が高いのは今や3か月もの国庫短期証券利回りだと思いますけど

『冒頭に申し上げたとおり、わが国のレポ市場の残高は大きく伸びているが、金融危機以降の資金市場の動きを振り返ってみると、無担保の資金取引が世界的に縮小している一方で、有担保の資金取引は相対的に活発である。これには、金融危機後のインターバンク取引における信用リスクに対する意識の高まりや、無担保の短期資金取引の増加をディスカレッジする金融規制の導入といった、構造的な要因が影響しているように思う。』

まあそれはそうですが、金融緩和によって恒常的なマネーポジションが縮小しているというのもあるような気がします。

『こうした大きな流れを踏まえると、T+0 決済のレポ市場という即日資金市場が創設されることは、既存のコール市場における資金取引への影響のみならず、中央銀行が行う金融調節オペレーションにとって重要な市場である短期金融市場全体に構造変化をもたらす可能性があると思う。』

つまりレポ金利を誘導目標にしたりレポ市場向けオペをすることを正常化後の展望として考えていると。

『この点、現在のコール市場とGC レポ市場の参加者を比べると、資金調達面でのプレゼンスは、前者は「銀行」や「短資会社」が高い一方、後者は「証券会社」が高くなっている(図表9)。』

さっきも申しあげたが何故この話を先に持ってこない・・・・・・・・・・

『また、将来を展望すると、即日決済のレポ市場が発展することによって、即日資金市場の厚みや参加者の多様性が増し、短期金融市場全体の活性化に繋がる可能性もある。』

まあどうなんでしょうね。将来にわたって銀行全部がローンポジションであるという訳でもないでしょうからそうなった時にはまた変わるのでしょうね。


・新現先の話はマニアすぎるので割愛します

『4.「グローバル化」に向けた改革(レポ取引の新現先取引への移行)』という所で新現先方式への移行という話があるのですがこちらは時間の関係もあってスルーしておきます。

ただ、このグローバル化に関する話では日本国内の破綻法制との整合性というのをどう担保するのかも重要で、一括精算条項とか入れても保全命令との関係って実際に誰か勇者が裁判起こしたら本当に大丈夫なのかという法律的整合性がどうなっているのかとか、その辺がどうもよくわからん(アタクシの不勉強で本当はちゃんと破綻法制の改正が行われているのだったらすいませんとしか申し上げようがないのですが)次第なので誰か詳しい人教えてジェネラルという所です。

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2015/02/12

○佐藤審議委員が講演をしておりますな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/data/ko150211a1.pdf
デフレ脱却に向けた日本銀行の取り組み
(第7回日本証券サミット<ロンドン>における冒頭発言の邦訳)

例によって面倒なので邦訳の方をネタにします。本文は3ページ少々なのでサラサラと。

『日本経済は、家計部門・企業部門とも所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し、基調的に緩やかな回復を続けており、先行きも緩やかな回復基調が続くとみられる。前月の中間評価における政策委員見通しの中央値は、原油価格下落や政府の経済対策の効果等もあり、2015、2016年度とも成長率が10月と比べて上方修正となっている。』

ほほう。

『一方、物価面をみると、最近の原油価格低下を受け、日本も含め、主要国のインフレ率は軒並み低下傾向にある。こうしたなか、主要国の中央銀行はインフレ率の低下が人々の中長期的な予想物価上昇率に影響し、それがインフレ率の一段の低下をもたらすフィードバックループに陥るのではないかという問題意識を共通に抱えている。日本銀行が昨年10月に「量的・質的金融緩和」を拡大したのもそうした理由からであった。』

とは言え・・・・・・

『私は「量的・質的金融緩和」の拡大に反対票を投じたので、この場でこの政策を語る人間として適切でないかもしれない。』

ワロタ。

『しかし、デフレ脱却に向けた日本銀行の揺るぎない決意は私も共有している。ここでは、第一に「量的・質的金融緩和」の効果について、第二に日本銀行の掲げる「物価安定の目標」について、第三に、「量的・質的金融緩和」を最終的に成功に導くに当たり、財政健全化努力の重要性について、私の考えを述べたいと思う。』

ということで説明が始まるのだ。


・QQE拡大で債券市場の機能低下に関して言及しているのが順当ではあるがイイハナシダナー

『第一に、「量的・質的金融緩和」の効果は資産買入れの進捗とともに累積的に強まっている。』

債券市場に対する効果が副作用状態になっています、という点についてこの後に指摘があるのが佐藤さんらしいところです。

『日本銀行は、年間約80兆円に相当するペースで長期国債保有残高が増加するよう国債の買入れを行っている。年間約80兆円という額は、政府の新規財源債の発行額を大幅に上回るが、これは最終投資家の国債保有残高の減少を意味する。もっとも、日本の機関投資家は、国際的な金融規制に対応するなか、国内において貸出など他の投資機会が不足していることもあり国債への選好が強い。』

ということで・・・・・・・

『このため、日本銀行による大規模な買入れが続くなかで、その金利形成面への影響は「量的・質的金融緩和」拡大以降一段と顕著になっている。』

(・∀・)キタコレ!

『実際、イールドカーブは中期ゾーンが一時マイナス化したほか、超長期ゾーンも大幅に低下するなどフラット化が更に進んでいる。一方、このところ、金利のボラティリティの高まりがみられる。私としては、こうした金利形成が、政策効果として、様々な資産価格や投資家の資産配分に及ぼす影響を注視している。一方で、広義の決済システムを含めた金融システムの安定性や市場機能などに影響をもたらさないかどうか、副作用も注視している。』

(;∀;)イイハナシダナー

『日本銀行が現状、グロスベースでみた市中発行額の約9割の国債を買い入れていることから、やや長い目でみて、「量的・質的金融緩和」が出口を迎える際には、市場の価格発見機能の円滑な回復が課題となろう。』

まあしかし先ほどの森本さんの会見で示されておりますように大本営参謀の上げてくる市場の認識がアレという時点で課題は解決しないまま出口に突入することになるんでしょうなあと思うのでございました(出口が無いというツッコミは置く)。


・物価安定目標に関する説明はいつもの佐藤節であるが執行部に砲撃

『第二に、「物価安定の目標」の達成状況の評価について、私は、特定の物価指標に着目するのではなく、賃金を含む幅広い物価指標を丹念に点検していくなかで、企業や家計など人々の行動様式がある程度の物価上昇を前提としたものに変化していくかどうかが重要と考える。』

それこそが期待インフレのシフトを見るという事ですな。

『もとより人々の中長期的な予想物価上昇率を計測する決め手がない以上、長期にわたり欧米対比で低位にあった人々の中長期的な予想物価上昇率が上方にシフトしつつあるかどうかは、幅広い経済主体の行動様式などから定性的に判断していくほかはない。』

「人々の中長期的な予想物価上昇率を計測する決め手がない以上」「定性的に判断していくほかはない」とは全く同意なのですが置物直線一気BEI理論を盛大に棄却しているのが実に素敵(^^)。

『その点、デフレ下で顕著であった家計の極端な低価格志向はかつてほどではなくなり、企業の価格設定行動にも前向きな変化がみられる。何よりも重要なのは、デフレ下で大方忘れ去られていた物価上昇率に応じた基本給の改訂という賃金決定の基本的なメカニズムが労使交渉の場で復活しつつあることである。基本給は上がらないものという人々のデフレ下の固定観念に風穴があけば、人々の中長期的な予想物価上昇率に好影響が及ぶ可能性がある。』

なお極私的アネクドートでは最近価格設定が徐々に弱気化しているようにも思える(たぶん高額品のようなものは高いのでしょうからコモディティ化した商品との2極化なんでしょうけど)し、賃金に関しても別にこう全体が上昇するような感じにはなっていないと思うので、マクロ的に見るよりも実際はそこまで行ってないようにも思えるのですけどね。

まあいずれにせよ賃金が重要ですよという話をしておりますが、その次に賃金だけではなくて設備投資上昇(とそれに伴う生産性の向上)の重要性を指摘しています。

『加えて、私としては、「物価安定の目標」実現には、幅広い主体の構造改革努力を通じた生産性上昇とそれによる潜在成長力向上も必要と考える。そうしたもとで緩やかな物価上昇が生じ、生産性に見合う賃金の改善が持続的に進むことで人々はデフレ脱却の恩恵を享受できるようになるであろう。生産性上昇の鍵を握るのは設備投資であり、最近の労働市場の逼迫などが企業行動の変化の呼び水となることを期待している。』

ということで。


・そらまあこれだけやっているのですから財政再建もちゃんとやってほしい訳で

『第三に、「量的・質的金融緩和」を最終的に成功に導くうえで、財政運営への信認確保は重要である。この点、2013年1月の共同声明では、「政府は、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」とされている。2015年度の予算案をみても、政府は財政健全化の努力を続けているものと理解している。』

消費増税は先送りするわ、おまけにジンバブエも裸足で逃げ出す珍理論を唱える人を次期審議委員候補としてノミネートしていますけれどもね!!!!!!

『日本銀行による国債買入れは金融政策目的であり、財政ファイナンスではない。』

あーかコーナー!早稲田大学政治経済学部所属!ジンーバブエーーー(略)

『そうした日本銀行の説明が説得力を持ち得るのは政府の財政健全化努力があるからである。仮にそうした努力に市場が疑念を持てば、リスクプレミアムの拡大から「量的・質的金融緩和」の効果が損なわれる可能性がある。』

ジンバブエ理論によりますとそういう事は起きないそうですが是非政策決定会合でその辺の議論を行っていただきたいものです、って佐藤さんが頭痛を起こすだけですかそうですか(−−;

『リスクプレミアムが一旦拡大すればその制御は困難である。日本銀行の大規模買入れにより、国債市場でリスクプレミアムが拡大する余地は乏しいとの意見が一部の市場参加者から聞かれるが、リスクプレミアム拡大の可能性は国債市場に限られる訳ではなかろう。』

さらっと言っているけどこの「リスクプレミアム拡大の可能性は国債市場に限られる訳ではなかろう」というのは仰る通りでございます。

『政府の財政健全化に向けた取り組みは、やや長い目で見て、「物価安定の目標」を安定的に実現し「量的・質的金融緩和」からの出口を探る際にも、同様に重要になってくると思われる。今後も、持続可能な財政構造の確立に向けた取り組みが着実に進められることを期待している。』


・最後に改めてQQEの説明をしている中に執行部砲撃成分も

『「量的・質的金融緩和」は名目金利を国債買入れにより抑えつつ、人々の中長期的な予想物価上昇率の引き上げを図ることで実質金利を押し下げるという難度の高い政策である。』

置物先生によればMBを拡大すると自動的にインフレ予想が高まってその時に長期国債を大量に購入しているからフィッシャー効果を相殺して結果として実質金利が下がれるという実にこう簡単な政策っぽい説明になっているのに対してこの説明は良いイヤミですな。

『これまでのところ、資産市場をはじめ、家計や企業の行動様式に前向きな変化が生じるなど「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しているとみている。日本銀行としては、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に維持するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続することとしている。また、その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行っていくこととしている。』

まあこれは良いとしまして。

『私としては、先に述べたように、人々の行動様式がある程度の物価上昇を前提としたものに変化していくかどうかが、その際の判断の基準になると考えている。』

ということで、「人々の行動様式を見て定性的に判断」というあたりがポイントになっていますね。

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2014/12/08

○佐藤審議委員会見はいい感じではっちゃけ気味な件について

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1412a.pdf

・高知県経済に関連して

実は講演ネタの所で最後の所を割愛してしまったのですが、冒頭質疑の所で懇談の席上での話について質問があったのでそこから少々。

『(答)(冒頭割愛)本日の懇談会では、ご意見が多岐にわたりましたため、全てを網羅してご紹介することはできませんが、私なりに席上で聞かれた話題等を整理して申し上げます。まず、当地の経済が直面する課題として、県内人口の減少やそれに伴う長期的な県内経済の成長鈍化・縮小への懸念にかかる話が聞かれました。例えば、地元企業では、人口減少・高齢化による休廃業が相対的に多いほか、第一次産業の担い手も減少しているといった話がありました。また、こうした人口減少が市場規模や雇用の場の減少につながり、若年層を中心としたさらなる人口減少が進んでいることから、雇用の場の受け皿を早急に確保する必要があるとの話が聞かれました。』

というような構造問題に関しては、これは講演で言及がありましたが将来の日本で起きる構造問題を先行している部分がありますよねという話であります。なお当地の取り組みの部分は割愛しまして・・・・・・・・

『(途中割愛)また、最近の高知県経済は、全体として改善傾向にあるが、そのテンポは鈍化しているとの話が聞かれました。雇用・所得の面では、有効求人倍率が過去最高水準で推移し、賃金も上昇するなど改善がみられるとの話があった一方で、夏場の天候不順や、為替円安や人手不足等によるコスト高や生活用品の価格上昇が企業収益や消費に与える影響について、懸念が聞かれました。このほか、有効求人倍率が過去最高水準であるものの、その水準は全国平均と比べて低水準にありますし、所得面でも業種ごとにバラつきがあるといった話もありました。』

コストプッシュの問題とか回復のトリクルダウンが進んでいないという問題意識を呈示ですな。

『一方、為替円安の影響については、当地の特徴として、輸出型産業のウエイトが相対的に小さいことから、全国と比べて輸入資材や生活用品の価格上昇などのマイナス面の影響がみられるとの話が聞かれました。(以下割愛)』

円安のデメリットキタコレという所ですが、高知県経済に関する質疑がこの後2本あってネタとしては興味深いのですが金融政策的な話ではないので割愛しますね。


・原油安に関連して

『(問) 2 点お伺いします。1 点目は、原油価格ですが、昨今の動きをみていますと減産ということは暫くなさそうなので、市況は下がる可能性が高いと思いますが、CPIについても0.5%、0.4%ぐらいに下がるという見方も出ています。佐藤委員のご意見からしますと、供給要因の物価下落というのは長期的には日本経済に対してポジティブですので、これに対する政策対応、追加緩和は必要ないというご見解かと推察しますが、この点確認させて頂けますでしょうか。(以下割愛)』

もう思いっきり答えさせようとしていますね!

『(答) まず、ここもとの原油価格の下落が日本経済に与える影響としましては、これは午前中の挨拶要旨でも触れましたように、日本経済にとって明確なプラス要因であると判断しております。』

そらそうよ。

『もちろん、目先の消費者物価指数――生鮮食料品を除いたコアに関してですが――、これはエネルギー価格を含んでおりますので、若干の円安のもとでも原油価格の下落の影響のほうがより大きく出てくるということで、目先は伸び率がさらに鈍化する可能性はあるかと思います。』

それもそうですが・・・・・・・

『ただ、今申し上げましたように、原油価格が供給要因で低下するということはある意味では日本経済にとって絶好の追い風が吹いているということも事実です。』

全く仰せのとおり。

『この追い風をうまく経済に均てんさせていくことが必要なのでありまして、そうしたことが実現する暁には、長い目でみた時には、物価にもプラスに作用していくものであると理解しています。』

なお日銀は円安に振ってメリットの均霑をさせないようにしていますが・・・・・・・・

『そういう点で、目先の消費者物価の下落ということに過度に焦点を当てる必要はないものと考えています。』

砲撃キタコレ!!!


・なお円安に関しても弾幕が厚いのだ

なおさっきの質問の後半はこれでもう佐藤さんに盛大に話をさせようという攻撃ですな。

『(問)(前半割愛)2 点目は、景気ウォッチャーのようなマインド系の指標が少し弱い理由というかコメントとして、消費増税と天候に加えて、円安も言及され始めているということを懇談会で触れられていらっしゃいますが、これは、円安がある種、実質所得の下押しを通じたマイナスのスパイラルの起点にもなりつつあるというご懸念を表明されたということなのでしょうか。』

『(答)(前半割愛)それから、マインド系の指標、すなわち、ここもとであれば景気ウォッチャー調査ですが、こういった指標が若干弱めの動きを示しているということについても挨拶要旨で触れましたように最近の動きを注視しています。その中で、各ウォッチャーのコメント等を拝見しますと、強気のコメント、弱気のコメント色々あるわけですが、弱気のコメントの中には、挨拶要旨で指摘したような、3 つの要因というものが特に目立っている、その中でも円安への言及ということが目立っているということです。』

円安デメリットキタコレ。

『為替について、日々の動きについて私の立場から具体的なコメントを申し上げるのは差し控えますが、ごくごく一般論として申し上げますと、円安というのは輸出の増加やグローバルに展開している企業の収益の改善につながることでありますし、株価の上昇といったプラス効果も生むと思います。その一方で、輸入コストの上昇あるいはその価格転嫁を通じて中小企業や非製造業の収益や、家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用するという面もあるわけです。』

ふむ。

『というわけで、円安の影響ですが、これは経済主体によって様々に異なり得るということでして、どちらか一方の見方というのはとりにくいと思います。いずれにしましても、為替相場というのは経済あるいは金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するということが望ましいわけでありまして、今後とも為替相場の動きを含め、金融資本市場の動向については、それが実体経済に及ぼす影響も含めて、引き続き注意深く見ていきたいと思います。』

とまあそういうことでデメリット強調するのはさすがにアレなのですが、同じ質疑でも「メリットを均霑」という話をしている訳でして、まあ円安のメリットを均霑するような経済政策を実施してくんなましというお話なんでしょうな、うんうん。


・追加緩和の反対と財政健全化に関して

『(問) 先般、佐藤委員は、ロンドンでの講演後の質疑で、財政健全化は金融緩和の成功の前提だということをおっしゃられて、今日の講演でも同じ趣旨のことを言及されていると思います。追加緩和で金利を押し下げることは、財政健全化へのコミットメントを弱める方向に働くとも考えられますし、その中で増税先送りが決められて、それに反対する党がない中で選挙が行われることになっていて、佐藤委員のおっしゃるような懸念が今後顕在化してくるようなリスクが高まっている方向ではないかと思いますが、改めて追加緩和に踏み切ったことは、正しかったのか、誤りだったのか、その点をお伺いしたいと思います。また、財政健全化への努力という点について、より詳しく敷衍して頂ければと思います。』

何という誘い水。

『(答) 追加緩和に関して、私は10 月31 日の会合で反対票を投じたわけですが、理由としては大きく3 つあります。』

うむ。

『第1に、「物価安定の目標」は、そもそも柔軟な目標であり、特定の期限を区切って特定の物価上昇率を目指すといった考え方は、中央銀行の政策運営のあり方としては馴染まないと考えました。』

『第2 に、中央銀行による資産買い入れが過大ですと、ご指摘のような財政従属といった懸念を市場から持たれやすい、と考えたことであります。そういう意味で財政健全化が重要であるということです。』

『第3 に、追加緩和に踏み切る際のリスク認識が、そもそも異なっていたということです。』

ということで・・・・・・・・・・・・

『ご質問は、まず財政のことでしたので、その点に関してお答えしたいと思います。2 番目の点でございます。』

キタコレ。

『国債の市中グロス発行額の約9 割を日本銀行は今買い入れていますけれども、こういった買い入れは過大であると考えています。』

これは!!!

『本行はこれを金融政策として買い入れており、また市中から間接的に買入れているということでして、直接的な財政ファイナンスではないとみています。ただ、仮に、マーケットがこれを財政ファイナンスであると判断すれば、例えば日本が経常赤字に転落するといった条件次第では、リスク・プレミアムは拡大する可能性があるということです。』

仰せのとおりですし、恐らく今のように市場機能をすっかり殺してしまいますと、市場からの警告のような動きではなくて、警告なしでどこかの閾値を越えた途端にいきなりリスクプレミアム大爆発となりそうに思えます。勿論理論的な話では無くて市場現場職人の勘なのですけれども。

『そういった事態が仮に顕在化した場合に、本行が国債買入れを増やして名目金利の上昇の抑え込みを図ろうとしても、かえって事態を悪化させる可能性があると考えたわけです。政府が消費税率引き上げの延期を表明して、2015 年度までのプライマリー・バランスの半減目標、2020 年度までの黒字目標の達成が厳しくなるという声が聞かれる中で、市場は政府の財政健全化へのコミットメントが本物かどうかを改めて注視していると思います。』

ですなあ。まあ今申し上げたように市場が注視して警告を発するのではなくていきなり大爆発のように思えますのであまり市場からの警告を当てにしない方が良いような気がしますけど。

『財政健全化議論に関して付け加えますと、これも一般論ではありますけれども、国全体として財政運営に対する信認を確保していくことが非常に重要であると考えています。この点、政府は「中期財政計画」において、数値目標とその達成に向けた取り組みを明確に示していますし、税制や歳出のあり方など財政運営の内容については、私の立場からコメントすることは差し控えますが、日本銀行としては、こうした計画に沿って持続可能な財政構造を確立するための取り組みが着実に進められていくことを期待していますし、その進捗状況については、先程も申し上げたような問題意識から、注視していく必要があると考えております。』

だいぶズバリ言うわよ状態だったので最後に中和剤を入れている模様(^^)。


・質問されていないテーマで演説キタコレ!!

こんな質問がありましてね。

『(問) 10 月31 日に、佐藤委員は、景気回復の前向きなメカニズムが基本的に維持されているということを言われています。足許、懇談会の中で言われていた、輸出の動向、円安のマイナスの影響、マインドの影響、IMF成長率が下振れていることなどを考えると、メカニズムそのものが維持されていると言い続けることが無理のような状況かもしれないのですが、その点、現状をどのようにみていらっしゃるのでしょうか。また、佐藤委員が追加緩和を決める・決めないのポイントとして、現状のメカニズムが壊れれば、様々なことを考えて、追加緩和に前向きになるかもしれないという理解でよいのか、お伺いします。』

という質問で、まあ経済に関する質問に関しては割愛(基本的に強いです)しまして後半を。

『(答)(前半割愛)それから、2 点目のご質問、リスク認識に関するご質問については、10 月末の会合での私の投票行動にも関わることですので、少し付言します。』

ということで・・・・・・・・・

『「量的・質的金融緩和」拡大の主たる理由ですが、これは本行の対外公表文にあるように、最近の原油価格の下落が物価の下押し要因として働く中で、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するためということであったわけです。』

ですなあ。

『ただし、先程申しましたように、原油価格の下落、これは他の主要国と同様、家計・企業の実質購買力の増大に資するということで、日本経済にとっては明らかに追い風です。中長期的にも物価の安定に資すると思います。ということで、原油価格の下落は、基本的には緩和強化の理由としては適切でないと判断致しました。』

これは見事な執行部にマッコウクジラ。

『それから、足許の状況が、ご質問にあったように、追加緩和を必要とするほど下方リスクが強いかどうか、すなわち、リスク認識の程度についてでありますが、私としては、経済・物価情勢について、「上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」という、対外公表文に示されたリスク要因というのは、例えば、リーマンショックや欧州債務危機など、世界経済の安定性を揺るがす著しいリスク要因が顕在化する、あるいは顕在化しそうな状況というのがフォワードルッキングに見えてくるような状況を念頭に置いているのであり、例えば、GDP成長率や物価の見通しがコンマ数ポイント下振れる、という話を念頭に置いているわけではないわけです。』

>GDP成長率や物価の見通しがコンマ数ポイント下振れる、という話を念頭に置いているわけではないわけです
>GDP成長率や物価の見通しがコンマ数ポイント下振れる、という話を念頭に置いているわけではないわけです
>GDP成長率や物価の見通しがコンマ数ポイント下振れる、という話を念頭に置いているわけではないわけです

これは全く仰せのとおりですな。

『経済・物価情勢全般を点検する中で、経済・物価が、「物価安定の目標」の実現のパスに引き続きあるという判断であれば、「量的・質的金融緩和」は一定の役割を果たしていると評価できるのではないかと思います。その点、「物価安定の目標」の達成状況の吟味にあたっては、これも挨拶要旨で述べた通り、人々の行動様式が2%程度の物価上昇を前提としたものに変化していく、あるいはそういう見通しになるかどうかというのが重要なのであって、月々の物価上昇率、消費者物価上昇率の動きに過度に焦点を当てて、政策を紐付けるということは適切でないと判断しています。』

>月々の物価上昇率、消費者物価上昇率の動きに過度に焦点を当てて、政策を紐付けるということは適切でないと判断しています

大向こうから声を出したくなる締めですね!!!!!


・物価見通しはフォーキャストで

『(問) 2 点お伺いします。まず、佐藤委員ご自身の予想をお伺いしますが、コアCPIでみた前年同月比が2%に達する時期というのは、大体どのくらいになるとお考えでしょうか。(後半割愛)』

『(答) まず、消費者物価上昇率の予想に関して、私自身の見通しについては、展望レポートの中で数字としてあげていますが、これは総裁が定例会見でも触れているとおり、私自身の見通しは政策委員会の見通しの中心値よりやや慎重な見通しを示しています。』

ですな。

『具体的に2%に達する時期についても、既に議事要旨の中に明らかにされているように、私自身はこの見通し期間の中盤頃に2%を見通せるようになる、という議案を提出しています。』

展望レポ―トは「達する」ですよ。

『要は、アウトカムとして2%を評価するのではなくて、基本的にはフォーキャスト・ベースで、経済・物価情勢がその「物価安定の目標」のパスにあるということであれば、それはそれで政策の使命を果たしているのではないかと考えています。ですから、具体的な時期につきましては、特に言及は避けたいと思います。』

ということで「足もとの物価に過度に反応するのはイクナイ」という説明に沿った話なのでちょっと引用。



・今回減額の提案をしなかった理由について

『(問)(前半割愛)もう1 点ですが、先程国債の購入額が過大であるとおっしゃったと思いますが、それではなぜ11 月のMPMで、例えば購入額の減額をご提案されたり、現在のQQEの継続に反対されたりといった行動に出られなかったのでしょうか。』

まあ難しい所ではありますが。

『(答)(前半割愛)それから2 点目のご質問ですが、前回会合で金融調節方針について賛成票に転じた理由ですが、これも11 月の金融政策決定会合後の総裁定例記者会見で説明がありましたが、政策委員会として、いったん決定した政策について短期間で変更することは、日本銀行の政策運営に対する信認を損なうものであるなどの判断から、熟慮の上、賛成票を投じました。』

まあ難しい所ですけどこれはこれで考えとしてあると思います。

『ただし、10 月31 日の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大に反対票を投じたことは、今も適切な判断であったと考えております。』

なるほど。

『ただ、一般論として、政策委員会でいったん決定した政策については、審議委員も日本銀行の役員として執行に責任を負う立場にあります。また、マーケットは拡大された「量的・質的金融緩和」を前提とした価格形成に既になっており、先程申しましたように、短期間で以前の「量的・質的金融緩和」に戻ることはもはや現実的でないですし、政策運営の信認にも関わることであります。従って、改めて以前の「量的・質的金融緩和」に戻すことを求める考えは、現時点ではございません。次回以降の政策継続の是非につきましては、経済・物価情勢を点検していく中で、決定会合の都度、引き続き熟慮を重ねた上で判断して参りたいと思います。』

まあそうですね。近い時期にまた暴れて頂く事を楽しみに(おい)。


・さらに執行部に無慈悲な砲撃

まあそういう質問を打ち込んでいるのですけどね!!!

『(問) 挨拶要旨において、中央銀行が物価を操作することはできないとか、特定期間の中で特定の上昇率を目指す考えについては違和感を持っていると、そのような趣旨が書かれていたと思いますが、この表現の真意・考えについてお聞かせください。』

さあもりあがってまいりました!!!

『(答) 私自身の物価に対する考え方は、他の主要な中央銀行の考え方とさほど相違はないのではないかと思います。すなわち、物価について、中央銀行が直接的にマネタリーベースを変化させることによって影響を及ぼすことができるかどうかということは、なかなか深淵な問題であります。』

>なかなか深淵な問題であります
>なかなか深淵な問題であります
>なかなか深淵な問題であります

何という大人の対応(^^)。

『要は、その波及メカニズムということです。一つの波及メカニズムとしては、あらゆる市場における資産価格の価格形成に影響を及ぼすことによって、間接的に物価に影響を及ぼそうということは、あり得ると思います。為替市場の動きはその一例でありますし、株価、あるいは資産価格という広い意味で言うと地価とか不動産価格といったものも需給ギャップの変動を通じて、最終的には物価に影響を及ぼし得るということです。』

資産価格ルートの影響はあるでしょうと。

『ただし、その物価に影響を及ぼすそのトランスミッション・メカニズム──波及のパスですが──は、非常に迂遠なものがありまして、仮に金融政策で資産価格を動かし、それが実際の物価に波及するとしても、それが相応のタイムラグを伴うということです。』

ですなあ。

『ですから、日本銀行としては、2 年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の「物価安定の目標」を実現することをマンデートとして掲げていますが、私としては、2 年程度ということで、特定の期間を区切って、特定の物価上昇率を目指すことが、果たして中央銀行のやり方として正しいのかどうかということについては、かねてから疑問を持っていますし、実際に昨年1 月に「物価安定の目標」を日本銀行として政策委員会の中で機関決定した際には、反対票を投じています。』

そういやそうでした。

『要は、そういった特定の期間内に、間接的に物価に影響を及ぼそうとしてもなかなか実現できるとは限りませんし、仮に実現が困難になった時に、その政策の信認はかえって低下するリスクがあると思います。』

無慈悲砲撃キタコレ!

『そういう点で、私としては、「物価安定の目標」というものは、結果にコミットするというか、硬直的な枠組みではなく、上下に幅のあるフレキシブルな概念としてみるべきであると考えています。』

ということですな。


・追加緩和に関して更にダメ押しの砲撃で「2年」に関してと政策デメリットに関する話がヒャッハー

ちょっと質問が散漫なのですが。

『(問) 挨拶要旨において財政について語られている箇所で、「仮に市場で政府のコミットメントに対する疑念が高まれば、その影響は国債市場におけるリスク・プレミアムの拡大として現れるであろうが、それに対する中央銀行の処方箋は限られる」とおっしゃっています。限られるということは、あるということをおっしゃっているのではないかと思いますが、あるのであれば、どういうやり方があるのでしょうか。また、今回の追加緩和に反対されている理由として、購入額が過大であるとか、財政規律が低下しているなかで、財政従属の懸念をもたらすということですが、もうちょっとこの反対された理由を考えると、出口が難しくなっていくということにもつながるのではないかと思います。反対された方の責任としても、この出口というものが、どのようなハードルがあるのか、どのように難しいのか、そしてどういう方法があるのかというのを、もっともっと語っていくベきではないかと思います。黒田総裁の公式見解としては、時期尚早であると繰り返されています。佐藤委員ご自身、今回反対された方の責任としても、今までよりも、より明確に出口について語っていくべきではないかと思うのですが、如何でしょうか。』

イマイチ質問が散漫で何を聞きたいのか判らんので答えが結構長いのだが、回答の中で無慈悲な砲撃が更に入るのだ。

『(答)(前半割愛)それから、追加緩和に関して、もう一言申し添えたいと思います。』

さて(^^)。

『反対理由として申し忘れたことですが、昨年4 月の「量的・質的金融緩和」開始時の対外公表文では、本行が2 年程度の期間を念頭においてできるだけ早期に「物価安定の目標」を実現するということにコミットしたわけです。私の理解では2 年程度の期間というのは、あくまでも念頭に置く努力目標であって、特定の達成期限を示すわけではないと考えています。』

ほっほー。

『むしろ、できるだけ早期に、という現実的な目標を掲げたが故に、私としては昨年の4 月に「量的・質的金融緩和」に賛成票を投じたのであって、そもそも2 年での達成ということをコミットすることに同意したわけではありません。』

これは!!!

『先程の繰り返しになりますが、特定の期限を区切って中央銀行が物価の押し上げを狙おうとしても効果は一時的に止まる可能性が高いと思いますし、そこでさらに物価を押し上げようとすれば、一段の金融緩和を繰り返すことになり、結局は長い目でみて、中央銀行の物価安定に向けた信認が問われることになると思います。』

無慈悲砲撃!

『加えまして、日本銀行の政策運営の枠組みは、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状・見通しに加えて、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら運営してきているということであります。』

ということで・・・・・・・・・・

『既に市場金利は極端に低下しており、金融機関のマージンは先行き一段と圧迫されると思います。そういう中で、短期的な物価の安定を優先しすぎると、長い目でみると、先行き金融システムは不安定化していき、ひいては、中長期的な物価の安定が損なわれる恐れがあると考えました。(以下割愛)』

(;∀;)イイシテキダナー
(;∀;)イイシテキダナー
(;∀;)イイシテキダナー


・出口に関して

さっきの質問の答えの続きです。

『(答)(前半割愛)それから、出口に関してもっと語るべきではないかというご質問ですが、基本的には出口の状況ということに関しては、その時点の経済・物価情勢次第ということに尽きるのではないかと思います。もう少し具体的に出口の手段、あるいは手続き、これを明示せよという声があることは承知していますが、これはどの中央銀行にも共通して見受けられる課題ですけれども、透明性と柔軟性のトレードオフの問題がどうしてもあると思います。』

これはそうですね。

『すなわち、出口を語ることでその手続きにおいて透明性を高めようとすればするほど、将来の政策の柔軟性が失われるということですし、あるいは透明性を高めようと努力しても、その後の経済情勢の変化によって、そういったルール・ベースの政策変更ルールが結局取り下げを余儀なくされてしまう例が実際に海外の中央銀行ではみられています。』

講演でも指摘されていました件です。

『そういう点で、基本的に私としては、出口の問題に関しては、いざ中央銀行がそれについてコミュニケートを始める時には、その時々の経済・物価情勢に応じて、臨機応変に考えていくしかないのではないか、予め決められた手続き・ルールに則って、あるいは経済指標に則って、機械的にやっていけばできるという単純なものではない、と思います。』


#てなわけで引用増量企画で恐縮至極ですが佐藤さんが盛大にはっちゃけているのでこうなるのだ(^^)

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2014/12/05

○佐藤審議委員の講演の説明は概ね今までの主張通りなのですが表現の剛球度合いが高まっております

ということで高知金懇ですが金利の方々的には賛同できる部分も多いのではないでしょうか。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko141204a1.pdf
わが国の経済・金融情勢と金融政策
── 高知県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──

『本日の懇談会では、まず私から国内外の経済・金融情勢と最近の日本銀行の金融政策についてお話させて頂いたうえで、高知県経済について若干触れさせて頂きたい。その後、皆様方から、当地実情に関するお話や、日本銀行の政策運営に対するご意見などをお伺いしたい。』

ということでまずは経済の部分ですが・・・・・・・・・

・経済見通しに関しては割と強気です(海外編)

『2.内外経済・金融情勢』からまずは『(1)世界経済の動向』

『IMF による最近の世界経済見通しの下方修正に示されるように、世界経済の先行きについては、このところ欧州や一部の新興国にやや慎重な見方がみられる(図表1)。世界経済の減速懸念などから、原油価格等の国際商品市況も軟調に推移している。国際商品市況の下落は消費国である先進国・地域の経済には購買力の増加を通じて追い風となる一方、新興国・地域に含まれる資源国の経済には下押し要因となりうる。』

『国際商品市況の変動により全体として、所得形成や分配にどのような影響が及ぶかを注視しているが、このところの世界経済の成長において、新興国・地域の寄与度は無視できないだけに、先行きの世界経済がIMF の見通しにあるように順調に成長率を高めていくかどうかは不確実性がある。』

で、地域別の中ではこういう指摘がしらっと入っているのが素敵。

『国・地域毎の状況について概観すると、米国経済は雇用の順調な回復を映じた家計支出の拡大から民間需要を中心とした着実な回復が続いており、先行きも前向きな循環に支えられながら徐々に成長率を高めていくと見込まれる。このところのガソリン価格低下も消費への追い風である。』

>ガソリン価格低下も消費への追い風である

(^^)。

それは兎も角結論部分ですが。

『このように世界経済は、欧州と新興国・地域の減速リスクが意識されるなか、比較的順調な回復基調を辿る米国頼みの様相となっている。もっとも、世界経済のリンケージが強まるなか、足許好調な米国も欧州や新興国・地域の減速の影響を受ける可能性は相応にあろう(図表5)。また、足許、地政学的リスクが一部に高まっているほか、西アフリカにおける感染症の拡がりも新たなリスク要因として意識されている。』

ということで米国一本足打法という認識ですが、まあ米国に関しての説明は比較的強気で、あとは米国単独だけでどこまで世界を引っ張れるのか、一緒にズブズブ沈むリスクはあるかもねという感じですかな。


・国際金融市場の話の中で金融規制の影響を指摘しているのが中々ですよ

『(2)国際金融資本市場の動向』というのがあるのがほほうという感じですので引用。

『国際金融資本市場では、夏場までは低ボラティリティ下で投資家にsearch for yield の動きがみられるゴルディロクス的状況であったが、先に述べたように世界経済の見通しが慎重化するなか、秋口には投資家のリスク回避姿勢が一時強まり、市場のボラティリティも全般に高まった。先に挙げた国際商品市況の下落のほか、質への逃避の動きを映じた長期金利低下もみられた。足許はこうしたリスク回避的傾向が和らぎ、株価は世界的に堅調だが、国際商品市況は引き続き軟調である。』

うむ。

『こうした市場の状況が、単にこの夏場までの過熱の反動であったのか、あるいは最近の「長期停滞論」にみられるような慎重論の拡がりを示唆するのか、各市場の連関を整合的に説明するのは難しいが、背景として、FRB による金融引き締めが具体的に意識されるなか、一時的にせよ、過度の楽観の巻き戻しが生じ、国際商品市場でその余波が続いている側面はあろう。また、先に述べた欧州や新興国・地域の減速が、成長のけん引役である米国を巻き込むリスクも、とりわけ国際商品市場では相応に意識されていると考える。』

ほほう。

『前者について補足すると、足許進行中の国際的な金融規制強化の動き(図表6)も市場のボラティリティ上昇にいくばくか関連しているように見受けられる。』

ということでここで金融規制の影響についての指摘があるのが良い指摘。

『すなわち、規制の結果、主要なマーケット・メーカーのリスクテイクが制約され、市場全体としてリスクの吸収余力や流動性が低下している可能性である。』

ですなあ。

『こうした問題は、主要国の中央銀行が潤沢な流動性を市場に供給している間は概ね封印されてきたものの、米FRBが出口政策に関し情報発信を始め、市場参加者の間で政策金利の引き上げや流動性供給の絞り込みがある程度具体性をもって意識されるなかで、改めて浮上してきたのであろう。』

なるほど!!

『先行き、実際に引き締めが実行される局面では、規制の影響が一段と色濃く市場に出る可能性もある。』

これは良い論点。

『無論、リーマンショックのような大規模な危機再来を予防する上で規制は重要だが、規制が市場参加者のリスクテイクを過度に妨げたり、市場の価格形成機能を過度に阻害することがないよう、バランスも望まれる。』

これは見事な論点提示だと思うのですが、たぶん講演のヘッドラインの方ではこういう話があまり出ていなかったように思うのでこの部分を通しで引用してみましたよ!!!



・経済見通しに関しては割と強気です(国内編)

国内の説明は結構強気。

『国内経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から、自動車などの耐久財消費や住宅関連に弱めの動きが残り、自動車などの消費の弱さはこれまで生産面に影響してきた。もっとも、足許は輸出の弱めの動きに歯止めが掛かり、自動車中心に生じたミニ在庫調整の関連分野への波及もごく短期間で終わりそうな様相である。また、堅調な雇用・所得環境が維持されるもとで、企業収益は好調で、回復のメカニズム自体はしっかりと働いていることから、先行きは、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響が収束に向かうもとで、景気は緩やかな回復経路をたどっていくとみている(図表7)。』

これは強いですわ。

『こうした見通しは、7-9 月期GDP一次速報が2四半期連続のマイナス成長となり、また景気動向指数の一致指数が基調変化の可能性を示すなかでは楽観的に聞こえるかもしれない。』

うんうん。

『確かに、雇用関連指標などは遅行指標であるがゆえに、足許の堅調な雇用情勢が必ずしも先行きの景気の堅調さを示すとは限らない。実際、雇用の先行指標である新規求人数や新規求人倍率は、製造業における生産調整がやや長引いたことを受け、企業の採用スタンスが慎重化したとみられることから、夏場にかけ一時的に頭打ち感がみられた。』

うむ。

『もっとも、短観にみる企業の雇用不足感は90 年代初頭のバブル期以来であるほか、国内生産が不芳な割に製造業の企業マインドは底堅さを維持している(図表8)。』

ほう。

『こうしたマインドの底堅さの背景として、海外子会社の良好な業績を受け、企業の連結利益が好調であることも指摘できよう。連結ベースの企業の良好なパフォーマンスは足許の輸出の弱さを補完する役割を果たしていると思われる。すなわち、海外子会社の生み出す利益が配当などの形で国内に還流することで、いわば新たな所得形成パターンが強まっているようにも思われる(図表9)。』

そ、そうなのですか・・・・・・・・

『国内経済指標は確かに一部に弱さが残るものの、私としては、企業のグローバル化の進展という現状を踏まえ、より包括的な判断をする必要性を感じている。』

ということでこれは強気ですわという所です。


・リスク要因であるがしらっと執行部にマッコウクジラキタコレ

『先行きのリスク要因にも留意したい。第一は輸出の動向である。海外経済が先行き順調に成長率を高めていくかどうか不透明感があるなかで、製造業の海外生産シフトの動きはペースを鈍化させつつもなお続く見通しである。このため茲元の一段の円安が輸出の回復を後押しするかどうかは不透明感がある。』

一段の円安が輸出拡大に繋がらないリスクキタコレ。

『第二は円安の影響である。エネルギー価格低下は家計・企業の実質購買力を高め、日本経済に明確にプラスに作用する反面、円安は国内生産の多くを占め、かつ今回の景気回復の牽引役である非製造業にとり交易条件面でマイナス要因となる。』

どう見ても執行部の説明にマッコウクジラで逆張りです本当にありがとうございましたなのですが、普通に佐藤さんの説明の方に分があると思います。

『第三は家計・企業マインドの動向である。これまで国内経済指標の弱さの割に、とりわけ製造業のマインド指標は底堅く推移したが、ここに来て景気ウォッチャー調査の各DIの動きが一段と冴えなくなるなど、マインドには弱めの動きがみられる。同DIは短期的に景気に高い先行性を有しているだけに、その動きには注意を要する。』

キタコレ!

『同調査のコメントをみると、消費税率の再引き上げや天候要因、円安への言及が目立っており、これらの要因がマインドに与える影響には注意が必要である。』

「円安への言及」とここでも円安に振ってめでたし理論に砲撃キタコレであります。


・物価に関する説明辺りから徐々に弾幕用意

次が『(4)物価面の動向』である。

『来年前半ぐらいまでを見通すと、原油価格や為替相場を現状横ばい程度とみると、先行きは本年前半の物価上昇の裏が出ることもあり、消費者物価の前年比は引き続き伸び悩む可能性がある。』

まあ元々佐藤さんは物価見通しはそんなに強くは無い。

『もっとも、私の考えでは、国際商品市況の下落は、資源国への所得移転の縮小を意味し、日本経済にとり明確なプラス要因であり、やや長い目で見れば物価にとってもプラス要因と考える。』

また原油等の下落が「明確なプラス」キタコレであります。

『また、供給側の統計をみる限り、駆け込み需要の反動の影響はほぼ収束しており、反動減の下で幾分慎重化した企業の価格設定行動にも先行き幾分好影響が及ぶことが期待される。』

とよろしいのですが個人的アネクドートで言えばここへきて日用品の価格設定がだいぶ弱気になってきた感があるのは気になりますけどね。


でまあ中長期的には賃金に注目という話は執行部と同じ(つーかそうなるのが普通ですけど)ですが・・・・・・

『やや長い目で見た物価上昇メカニズムについては、先般の「展望レポート」にあるように、生産資源、すなわち労働力と資本ストックの稼働状況に着目している。とりわけ、最近の人手不足、すなわち労働資源の逼迫は、全体として賃金上昇圧力をもたらし、こうした賃金上昇圧力が物価に相応の影響を及ぼしているように見受けられる。その点、堅調と見込まれる冬季賞与を受けて消費が持ち直し、その好影響が物価に及ぶという経路も目先期待が持てよう。』

しかしこの先辺りから微妙に執行部的な説明からずれだすのだ。

『もっとも、持続的な経済成長と物価安定にとって重要なのは、生産性の上昇に見合った賃金の上昇であり、それはやや長い目でみれば、企業の設備投資スタンスに依存する。』

なるほど。

『足許は労働需給逼迫を梃子に、企業が省力化投資などを活発化することで、生産性の面で一段の飛躍を果たせるかどうか、あるいは設備投資への消極スタンスから生産性の顕著な向上を果たせず、したがって賃金の伸びも持続的でなくなるか、引き続きその岐路にあるように思われる。』

執行部的説明だと労働需給逼迫の一点突破で説明しているのですよねこの辺りは。

なお設備投資に関してはこのような見解。

『企業の設備投資スタンスについて付言すると、引き続き更新・維持目的中心ではあるものの、合理化・省力化、製品高度化に向けた投資に前向きな動きがみられるようになってきた点は心強い(図表11)。最近の為替動向を映じて企業の間では、国内と海外生産のバランスを見直す動きも一部にみられる。』

ほほう。

『こうした企業のいわば立地戦略は短期的な為替相場動向に左右されるものではないので、足許の為替情勢を受けて生産の国内回帰が一気に強まるとは考えにくい。もっとも、企業の中長期的な相場観が修正されていくなかで、過度の円高の再来はないとの見通しが強まれば、その限りでもなかろう。』

となると結局国内の需要が盛り上がらない中でホイホイ回帰してくれるのかというのもありそうに思えますな、うんうん。


・まずはフォーキャストターゲットの観点から砲撃

さてお待ちかね(かどうか知らんが)の『3.当面の金融政策運営』である。

『(1)「量的・質的金融緩和」の拡大について』

キタコレ。

『日本銀行は10月末の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した。私自身はこの決定に反対票を投じたことから、この政策変更について話すには微妙な立場にあるので、可能な範囲で私自身の考え方を示したい。』

うむ。

『まず第一に、私自身はこれまで述べたように、経済・物価の基本的な前向きのメカニズムは維持されているとみていることから、追加的な金融緩和は不要と判断した。』

さっきの説明はこの前振りでもありますな。

『当面の消費者物価コアの前年比上昇率はエネルギー価格下落の影響が円安の影響よりも強めに出ることから、1%前後から1%未満となり、2%の「物価安定の目標」実現がやや遠のいたように見えるかもしれない。先般の日本銀行の決定は、そうした物価の下振れリスクにある種の保険をかけるものだと思う。』

と、理解を示しているような文言は入れているものの・・・・・・・・

『もっとも、私としては、月々の物価指数の振れよりも、重要なのは、物価の基調と考える。』

砲撃キタコレ!!!

『その点、最近の原油等、国際商品市況の下落は確かにコア指数の下押し要因となる一方、先に述べたように、やや長い目で見れば、所得移転の縮小により日本経済には明確なプラス要因である。』

(・∀・)砲撃砲撃。

『また、「物価安定の目標」の達成度合いを評価するにあたっては、特定の指数の月々の振れに着目するのではなく、より幅広くかつフォワードルッキングに、例えば企業や家計など幅広い経済主体が、実際に2%程度の物価上昇率を前提とした経営計画なり消費行動をとるかどうか、より一般化すれば、過去15 年超にわたるデフレの下で米国対比低位に張り付いているとされる人々の中長期的な予想物価上昇率が米国並みの2%程度にリアンカリングされる見通しとなるかどうかが重要と考える(図表12)。』

>特定の指数の月々の振れに着目するのではなく
>特定の指数の月々の振れに着目するのではなく
>特定の指数の月々の振れに着目するのではなく

無慈悲砲撃キタコレですが、フォーキャストターゲット的な論点とかフレキシブルターゲット的な論点とかで説明していますな。

『ただし、中長期的な予想物価上昇率は、特定の経済指標があるわけでもなく、計測が困難である。事後的にはフィリップス曲線の切片の変化として捉えることは可能かもしれないが、リアルタイムの計測は仮にできたとしても推計誤差などを考慮するとその評価には慎重にならざるを得ない。』

ですなあ。

『結局のところ、人々の中長期的な予想物価上昇率が変化する、あるいはしたかどうかは、幅広い経済主体の行動様式などから定性的に判断していくほかはないように思われる。』

ここの部分もフォーキャストターゲットやフレキシブルターゲット的な話に繋がりますので、今の執行部が投下したリジットな物価ターゲット的な話を盛大にdisっている訳です。まあ従来から佐藤さんはこの点は指摘しているので特に新しい訳でも無いですが、よりクリアカットに以下の説明もされている感じですな、うんうん。


・なお賃金動向に注目するという話です

『その点、例えば、本年度の賃金交渉ではリーマンショック以降久方ぶりに多くの企業でベースアップが実現した。その背景には政労使協議の立ち上げなど、実現にむけた政府のイニシアティブがあった上に、労使も物価上昇という経済状況の変化を受け、物価上昇に見合う賃金上昇率の達成、というデフレの下で大方忘れられていた命題を改めて意識し、実際の賃上げに一部なりとも反映されるようになったことが挙げられる。こうした観点からは「量的・質的金融緩和」は一定の役割を果たしていると評価できる。』

まあ消費税の影響だったりすると残念なのですけどね!!!

『無論、こうした賃上げが人々の中期的な予想物価上昇率の2%へのリアンカリングに十分かと問われれば、現状は道半ばである。しかし、来年度に向けた労使交渉でも過年度の物価動向や先行きの物価見通しが実際の賃金にある程度織り込まれていき、2年連続で相応のベア実現となれば、デフレ下で賃金、なかんずく基本給は上がらないものという人々の固定観念、いわばデフレ予想を打ち破る突破口が更に開けることになろう。その意味で、来年度に向けた賃金交渉の動向を注意深く見守っている。』

それはそうですな。


・このコーナー締めの部分でまた正論だが砲撃が

『私としては、「物価安定の目標」実現に真に必要なのは、幅広い主体の構造改革努力を通じた生産性上昇とそれによる潜在成長力向上と考える。そうしたもとで緩やかな物価上昇が生じ、生産性に見合う賃金の改善が持続的に進むことで人々はデフレ脱却の恩恵を享受できるようになるであろう。』

何でもいいから物価を上げてバックワードルッキングにインフレ期待を上げようという執行部説明をしらっと砲撃しているのがチャーミング。


・政策効果への砲撃が無慈悲にも程がある件について(^^)

次の小見出しが『(2)「量的・質的金融緩和」の効果』です。

『第二に、「量的・質的金融緩和」の拡大についてはその限界的な効果の逓減に留意する必要があろう。』

さあもりあがってまいりました!!!

『そもそも、「量的・質的金融緩和」の拡大により先行きの金利は一段と低下すると見込まれるものの、名目金利は既に歴史的な低水準にあり、実質金利も大幅なマイナスとなっていることを踏まえると、経済・物価に対する限界的な押し上げ圧力は大きくないと判断される。』

いやもう親指立てながら溶鉱炉に沈んで行く方としては冥途の土産にQQEの定量的効果についてのレビューを政策委員会の総意で出して頂きませんと、このままでは市場と共に安らかに成仏できないで化けて出てくること必至ですからねえ。

『また、「量的・質的金融緩和」の効果は日本銀行による資産買入れの進捗とともに累積的に強まる。その効果は長短金利水準に端的に現れており、今後も買入れ進捗により更に強まろう。こうしたプロセスを「量的・質的金融緩和」の拡大で更に加速する必要性は、コストとベネフィットを勘案すると乏しいように思われる。』

(;∀;)イイハナシダナー

『ここで「量的・質的金融緩和」が金利面に及ぼす効果に触れると、日本銀行は長期国債について、政府の新規国債発行予定額を大幅に上回る年間80 兆円をネットで買入れることにコミットした。日本銀行による買入れが政府の新規発行分を上回る部分は、結果的に、日本銀行が直接あるいは間接的に市中の国債保有残高を減らすこととなる。』

『もっとも、国債を保有する機関投資家の多くは金融規制上の事情などから消去法的に国債を保有せざるを得ない状況にあり、もともと国債への選好が強い。こうした投資家のネット保有残高を減らす形で本行が買入れ行うと、その影響は、買入れの継続とともに市場の価格形成面でより強まっていくであろう。すなわち国債価格はより上昇(金利は低下)しやすくなる。』

さいですな。

『短期金融市場には、買入れの影響がより端的に現れ、マイナス領域での金利形成も頻繁にみられる。こうした金利形成については、本行の10bps のいわゆる付利(補完当座預金制度)との裁定が働くことから、超過準備にマイナス金利を課すECB の例とは異なり、マイナス幅が大幅に拡大する状況にはないと認識している。』

まあ問題が起きるとすれば超過準備をバランスシート上積めなくなる人が続出してくる場合で、その場合は結構重篤な事になるリスクもありますな。

『もっとも、市場におけるこうした金利形成が実体経済面に何らかの歪みをもたらしたり、金融不均衡の蓄積に繋がらないかどうか、あるいは預金金利や、MMF やMRF など広義の決済システムに不測の影響が出ないかどうか、注意深く見守っていく必要がある。』

>預金金利や、MMF やMRF など広義の決済システムに不測の影響が出ないかどうか、注意深く見守っていく必要がある

実体経済における名目ゼロ金利制約と市場のリンケージの部分の指摘で(;∀;)イイシテキダナーでありますな。


・フレキシブルターゲットとフォーキャストターゲットの話である

次が『(3)「量的・質的金融緩和」の継続期間について』です。

『第三に、新たな「量的・質的金融緩和」は、「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点までオープンエンドで継続することとしているが、私としては、「物価安定の目標」はもともと柔軟、かつ上下にアローアンスのある概念と考えているので、「物価安定の目標」を安定的に持続するために「必要な時点まで」という対外公表文の文言についても、従来から、見通しベースの柔軟なターゲティングを提唱しているところである。』

ということでこちらの説明も鑑賞しませう。

『そうした柔軟なターゲティングは政策運営の透明性の点で劣るとの指摘はあろう。今回の緩和拡大もそうした認識のもと、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の実現という「結果」にコミットしているからこそなされたものと私は考えている。』

とまたさっきと同じく理解を示しつつ・・・・・・・・

『しかし、透明性と柔軟性のトレードオフは主要国の中央銀行が同様に経験しているところであり、透明性を高めようとしても、単純なルールに基づく政策運営は、実際は容易ではない。』

>単純なルールに基づく政策運営は、実際は容易ではない
>単純なルールに基づく政策運営は、実際は容易ではない
>単純なルールに基づく政策運営は、実際は容易ではない

てな感じでバッサリ後ろから斬るのでして・・・・・・・・

『FRB やBOE も経済指標に基づく政策変更ルールを撤回し、結局、総合判断に戻ったことは重要な教訓を含んでいるように思われる。私としてはルールベースの政策運営は一見容易に見えても、実際の運営上さまざまな課題が見えてくるものであり、結局は将来の経済・物価情勢に応じて臨機応変に考えていくしかないように思われる。』

全く仰る通りで。

『物価は経済の体温であり、中央銀行が直接に操作可能な変数ではない。』

砲撃弾幕がかなり厚くなって参りました!!!

『一般論として、中央銀行の政策が物価に波及する経路は、金利低下や為替相場、資産価格などが考えられるが、いずれも間接的なものである。』

うむ。

『その点、特定の期間内に特定の上昇率を目指すという硬直的な考え方には違和感があるし、仮にそれが実現できない場合、中央銀行の信認は低下のリスクに晒されよう。』

これは無慈悲なミサイル攻撃(^^)。


・財政再建の重要性指摘部分でどこぞの馬鹿審議委員を盛大にバッサリ斬るのが素敵です

『(4)財政健全化の重要性』というパートである。

『最後に、消費税率再引き上げ延期に関連して、財政健全化の重要性について改めて触れたい。』

キタコレ。

『前述のように、日本銀行は政府の新規発行額を大幅に超える国債買入れ等を行い、人々の中長期的な予想物価上昇率の押し上げを図っているが、その最終的な成否は政府の財政健全化へのコミットメントに依存する。また、そうしたコミットメントが守られているかを判断するのは政府や日本銀行ではなく、市場である。』

さあもりあがってまいりました!!!

『仮に市場で政府のコミットメントに対する疑念が高まれば、その影響は国債市場におけるリスクプレミアムの拡大として現れるであろうが、それに対する中央銀行の処方箋は限られる(図表13)。』

ということで、インフレ期待引き上げの為には財政マネタイズ無問題というどこぞのバカスケに対してバッサリと斬っているのは当然ですが良く考えたらこうやって全力で斬っておかないと信認問題になります罠という所ですし、あれ結局白井さんが市場の評価的にただのノイズ発生装置と見なされていたから反応しなかっただけで、本当は超マズイ発言でしたのでぶった斬り重要ということですよ。

『やや長い目でみて、日本銀行が「量的・質的金融緩和」からの出口を探る際も、スムーズに出口を迎えるうえで、やはり政府の財政健全化努力が重要である。』

全くその通り。

『その点、米国では緊縮的な財政政策と金融政策の連携が結果的に取れ、長期金利水準はFRB が出口に関する情報発信を始めた頃よりも基調として低下している。冒頭述べたように、主要国における長期金利水準の低下傾向は、緊縮的な財政政策のみならず、長期停滞論が影響している可能性もあり、その評価には慎重であるべきだが、財政と金融政策の連携という点では学ぶべき点があるように思われる。』

・・・・・・と考えますと日本の出口は米国が人柱になるから楽勝などと能天気に言ってられないということでもあるって中々先が思いやられる重要な論点をしらっと指摘しているのでありました。

#以下は高知県経済の話なのでスルーします

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2014/11/19

○佐藤審議委員の講演はマクロプルーデンス

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko141112b1.pdf(邦訳)
マクロプルーデンス政策と日本銀行の取り組み
(ジャパン・ソサエティ<ロンドン>における講演の邦訳)

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2014/data/ko141112b1.pdf(こっちが本チャン)
Macroprudential Policy and Initiatives by the Bank of Japan
Speech at Japan Society in London

で、またまた手抜きなので邦訳の方から。


・マクプル政策の発動タイミングの難しさ

実質最初の小見出しが『2. マクロプルーデンス政策の発動に関する課題』ですが、確かにこの発動の難しさというのが重要な話であって、今はすっかりマクプルブームですけれども現実問題としての適用の難しさ、というのはもっと論じられるべき点だと思います。

『日本でも、過去にこうした政策手段が採られた事例がある。例えば、1990年に導入された不動産融資の総量規制は、過熱していた不動産業向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑制することを求めた政策であった。当時の位置付けがどうであったかは別として、これをマクロプルーデンス政策の手段に含めることは可能であろう3。これらの政策は典型的なマクロプルーデンス手段として取り上げられるものであるが、その他の手段、すなわち個別金融機関の考査・検査や決済システムのオーバーサイトなど、既存の政策についても、関係者との協調を図りつつ、マクロプルーデンスの視点を踏まえて運営していくことも重要である。』

『そこで、これらマクロプルーデンス政策の発動についてであるが、以下の課題に留意する必要があると考えられる(図表2)。1点目は、幅広い政策手段の中でその時点で識別される金融不均衡の抑制に有効と考えられる手段を適切なタイミングで発動することの重要性である。この点、政策手段の発動が適切なタイミングから遅れた場合、経済の平均的水準の低下と変動の拡大をもたらすとの実証研究の結果がある4。』

確かに。

『かつて日本で導入された不動産融資の総量規制については、発動のタイミングが遅きに失したことで、必要なタイミングで地価上昇を抑制することが出来ず、むしろ地価が下落に転じて以降、その下落を加速させる結果となったとの指摘がなされている5。』

当時あたしゃ金貸しの手先だったから体感的には同感できる話。

『このように政策発動のタイミングが非常に重要であることは認識されているが、その前提となる金融不均衡の識別については、現時点においてもなお知見が十分には蓄積されていないように思う。これは、過去において金融システムを脅かす不均衡の蓄積とその崩壊がその都度異なる経路を経て顕在化してきたことと関係しているかも知れない。』

『いずれにせよ、金融システム内部にシステミックリスクにつながり得る不均衡が生じているか否かをリアルタイムで把握し、発動のタイミングの判断につなげていくことは、大きな課題である。』

ともすればマクプル万能的な話になりがちな昨今の流れですが、これは佐藤さんの指摘通りではないかと。

『2点目の課題は、1点目と関係することでもあるが、政策発動時の対外説明の難しさがあげられる。』

というのは・・・・・・・・・

『金融不均衡の兆しがあることについて、政策当局の判断の正しさを「事前に」証明することは難しい。金融不均衡の兆しを確信を持って捉えるのが難しいことは、それへの対応が必要である、という説得的な議論を展開することが難しいことを同時に意味している。』

ということでして・・・・・・

『たとえ金融当局が、分析と経験に基づき、金融不均衡の兆しが強いと判断できたとしても、早い段階では、その必要性について、ステークホルダーから十分な支持が得られないかもしれない。あるいは、金融不均衡の蓄積が多くの人の目に明らかになるまで待つと、政策を発動するタイミングとしては遅すぎてしまう可能性がある。』

さいですな。

『一時期、国際的な金融危機後の議論の中で、金融不均衡をなるべく事前に察知し対応を講じていくべきとの見解と、事前の察知は難しいので実際にバブル崩壊が生じてから対応すれば良いという見解が分かれた時期もあった。』

いわゆるBISビューとFEDビューね。

『そのこと自体、1 点目、2点目の課題にあげたような判断や説明の難しさを物語っているが、現在においては、なるべく不均衡の察知に努め、可能な対応を講じていくという方向で、程度の差はあれ、多くの国が制度や枠組みを設計しているように思う。』

ただまあ今の説明にもありますようにBISビューが使えるかというと実際には難しい部分があるという話ですな。

『3点目として、政策効果の漏れをいかに防ぐかという点にも難しさがある。漏れが生じる例としては、規制アービトラージがあげられる。政策発動により規制対象となる銀行が貸出を減らしたとしても、シャドーバンキングなど規制対象外の金融機関が削減分を肩代わりして貸出を実行してしまうと、政策効果が相殺される可能性がある。先述の日本における不動産融資の総量規制でも、同様の事象が生じた。』

海外店貸出を使ったりですなあ・・・・・・(^^)

『政策効果の漏れを最小化するため、幅広くシャドーバンクに対して規制をかける場合、複数の政策当局間の連携が必要になることも想定される。連携が十分でないと、政策効果が減殺されてしまう可能性もある。金融技術の発展に伴い、規制の対象とならない新たな金融商品が生まれ、それに対して規制対象の拡大で対応しても、また新たな商品が生まれるといった事態も想定される。さらに、自由な資本移動の下で、規制の国際的な調和を図っていくことも必要となるかも知れない。』

とは言え、規制の国際的な調和を図るという中でそもそも同じ名前でも商品の性質が国によって違う場合(MMFとかが典型)に同じような規制を掛けると国際的には調和が取れるけど国内的にスットコドッコイな規制になるという可能性もあり中々難しい所だと思います。


・不均衡を見るには最終的にはジャッジメンタルな部分ですよねという話

次の『3.日本銀行のマクロプルーデンス面での取り組み』ですが、途中の話は飛ばしましてFSRの話がありましてですね。

『そうした視点からこのレポートの中で行っている分析の一例として、この場では、2012年より作成を開始した「金融活動指標」を紹介する(図表3)。「金融活動指標」とは、システミックリスクにつながる可能性のある金融活動の過熱をいち早くとらえるため、総与信・GDP比率や地価の対GDP比率など14の指標を設定し、それぞれの指標が過去のトレンドからどの程度乖離しているかをみる指標である。』

『金融システムレポートでは、こうした個別指標の過熱・停滞に関する判定結果を、過熱を赤色、停滞を青色、それ以外を緑色に色分けした「ヒートマップ」の形で示している。これらの指標を総合的に分析・評価することを通じ、マクロ的な金融不均衡の蓄積状況の把握に努めている。』

ということでマップ自体は図表にありますが具体的にはFSRを見るのお勧め。ちなみに直近では個人の投資部分が住宅駆け込みの関係で赤くなっているだけです。

『無論、「ヒートマップ」が万能なわけではない。例えば、金融循環の代表的な指標である総与信・GDP比率をみると、1980年代後半〜1990年代初頭の資産バブルの生成とその崩壊のマグニチュードがあまりに大きいため、基調を把握しにくくなっている(図表4)。金融循環の周期は長く、かつ不安定で金融システムの強靭性回復にも時間がかかることから、この種の指標のトレンドからの乖離をどの程度の期間許容するかは、結局、「判断」の問題となる。そうした留意点はあるが、同指標は金融不均衡の蓄積を捕捉するツールとして有用であると考えられる。』

でまあ他の話もあるのですがその辺はパスしまして・・・・・・・・・・・


・政策割り当ての問題については「金利を使う事もあり得る」という見解ですな

まあここまでの説明の流れ(かなり端折って引用していますが)からしてそういう話になりますが、金融不均衡の問題に関してはマクプル的な判断だけでは限界があるという話になる訳でして・・・・・・・・

『過去を振り返ると、実体経済の循環すなわち需給ギャップの循環と、金融循環すなわち金融不均衡の生成と崩壊とは、しばしばシンクロナイズしてきた。これは、需給ギャップの変動と金融循環の変動との間に相乗作用が発生し、それぞれの変動幅の拡大につながったためである。このため、日本では、金融政策とマクロプルーデンス政策は、基本的には相互に補完的なものと位置付けられている。』

ということで・・・・・・・

『しかし、長い目でみれば金融政策とマクロプルーデンス政策は相互に補完的なものであるとしても、局面によっては、低インフレのもとで、資産価格が急上昇するといったことも生じ得る。このように、短期的に物価の安定と金融システムの安定の間にトレードオフが生じているような場合に、中央銀行は、どちらをより重視して行動すべきかということが議論とはなり得るように思う。』

という問題が発生した場合についてですが。

『その際の一つのアプローチは、最優先の目標である物価の安定が満たされている場合に限って、他の目標も追及するという辞書的序列に基づく政策フレームワークである。』

『例えば、先進国全般で物価が趨勢として低位安定するなか、物価の安定は既に達成されたものとして、金融システムの安定がより重要との見解が聞かれることもある。リーマンショック前後のような大規模な金融不均衡の生成と崩壊が概ね物価安定のもとで生じたことを考えるとこうした見解は一理あるだろう。』

ふむ。

『また、日本の場合は、デフレが長期に亘って続いてきたことから、当面は物価の安定が金融システムの安定に優先すべきという論者もいるかも知れない。その背景には、これまでのところ、低金利環境の下でも金融機関によるリスクテイクは限定的で、金融不均衡の蓄積がみられないこともあるだろう。』

ふむふむ。

『そうした考え方自体は否定しないが、私自身は、物価の安定には金融政策を割り当て、金融システムの安定にはマクロプルーデンス政策を割り当てるという二分法まで受け入れることには抵抗がある。』

ほほう。

『こうした二分法は、一見分かりやすいが、あらゆる状況において万能な訳ではないからである。それで対応できる場合は勿論あるが、金融循環が十分抑制されず、需給ギャップの変動との相乗作用に繋がっていくような状況においては、結局はマクロプルーデンス政策とともに、広範かつ強力な影響力を持つ金融政策も活用していかざるを得ない。』

キタコレ!!!

『日本のバブル崩壊後の対応のように、金融循環の変動が大きくなってから初めて金融政策を割り当てるとなると、その時点の政策対応は非常に困難なものとなる惧れがある。このように考えると、中央銀行が金融政策を遂行するうえでは、需給ギャップのみならず、金融循環の抑制にも一定の配慮をするというのが望ましい。』

現場職人および過去の金貸し手先経験とかアネクドートな話しかできませんが多分それが一番望ましいんじゃないかと思うので同意であります。

『こうした考え方のもとで、日本銀行の金融政策運営の枠組みは、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら運営している。短期的な物価の安定を優先し過ぎると、先行き金融システムは不安定化し、ひいては中長期的な物価の安定が損なわれる惧れがある。一方、金融システムの安定を優先し過ぎると、中央銀行の物価安定への取り組みに対する信認が低下してしまう。こうした状況に陥らないよう、中央銀行はバランスのとれた政策運営を行っていくということである。』

・・・・・・・・・・これはもしや現執行部に対する嫌味ですか(^^)。


とまあここまでがマクプル話で最後に金融政策の話があるので少しご紹介しておきます。


・金融政策運営に関しては物価安定目標の位置づけに関する説明を行う

『日本銀行は10月末の金融政策決定会合で「量的・質的金融緩和」の拡大を決定した。私自身はこの決定に反対票を投じたことから、この政策変更について話すには微妙な立場にあるが、決定されたことについて、この場を借りて改めて説明した上で、可能な範囲で私自身の考え方をお示ししたい。』

>この政策変更について話すには微妙な立場にあるが

・・・・・・・・・・(^^)

でまあ決定事項の話はさておきまして佐藤さんの見解ですが・・・・・・・

『以上申し述べた決定に対する私の見解については、議事要旨が公表されていない段階であるので、現時点では詳細は控えさせていただきたい。ただし、2%の「物価安定の目標」実現の意味と「安定的に持続するために必要な時点まで」の意味については、従来より私なりの考え方を示してきたので、この場をお借りして改めて話したい。』

ということで説明があるので正座して読みます。

『もとより「物価安定の目標」は消費者物価指数(総合)で定義されているが、私としては、消費者物価指数が前年比2%に達すれば、この政策はその使命を果たしたことになると単純に考えているわけではない。日本銀行が目指す「物価の安定」とは、本来、全般的な経済状況が実体経済・資産市場ともに良好に推移するなかで、賃金の改善とともにバランスよく物価が上がっていく姿である筈である。そのためには、諸外国対比低位に張り付いているとされる人々の中長期的な予想物価上昇率を米国並みの2%程度に引き上げ(リアンカリング)、人々の行動様式が2%程度の物価上昇を前提としたものとなることが重要である。』

ですなあ。

『幸い、人々の短期的な予想物価上昇率は、消費税率引き上げの影響を除くベースで消費者物価コアの前年比1%台前半での安定が続いたこともあり、やや長い目で見れば、全体として上昇しているとみられる。』

まあこの点についてはQQEの効果があったと思うのは多分衆目の一致する所だと思うのです。

『中長期的な予想物価上昇率のリアンカリングには、こうした短期的な予想物価上昇率の上昇により人々がバックワード・ルッキングに予想を改訂するプロセスのほか、賃金の改訂状況等から人々がフォワードルッキングに予想を改訂するプロセスも考えられる。その点、本年の賃金改訂結果は、デフレの下で基本給は上がらないものという人々の消極的な予想形成に風穴を開ける貴重な一歩であった。来年の賃金改定を巡り、政府のイニシアティブの下、新たな政労使協議が現在進行中だが、こうした動きが実際の賃金改定に繋がり、人々の予想形成に前向きに作用することで、中長期的な予想物価上昇率に好影響が及ぶことを期待している。』

まあ本当は政府がイニシアチブ持たなくても動く方向にならないとイカンのですけど最初のうちだから仕方ないという事ですが、そう考えますとそもそも論として日本の雇用慣行から考えると賃金改定って年度替わりの所で起きることを勘案すると、そもそも「2年」での達成というのはスタート時点が年度の頭であった事を考えるともともと無理があったような気がせんでもない(その間に賃金改定のタイミングが実質的に1回しかないから)。

『もとより量的・質的金融緩和の継続期間については、「安定的に持続するために必要な時点まで」というフォーキャスト・ターゲティングの考え方がベースにある。』

フォーキャストターゲットキタコレ!!

『「物価安定の目標」は、消費者物価(総合)の前年比上昇率で示しているが、この精神からすれば、上述のように人々の予想形成にフォーカスし、賃金を含む幅広い物価指標の先行きを丹念に点検していくことが今後も重要と考えている。また、人々の中長期的な予想物価上昇率のリアルタイムでの計測手法に決め手がない以上、政策の継続の必要性については、毎回の金融政策決定会合で政策委員会が改めて「判断」していくべきものと考えている。』

ということで、足元の物価動向に一々反応するのではなくて、本来物価安定目標は少なくとも中期的な物価見通しとインフレ予想を軸にして考えるべきであって、今般の追加緩和のように足元の物価動向および短期的な物価見通しに対応したような動きをするのは政策フレームに対する理解を混乱させる元になるし、その結果中長期的な物価予想の安定化にも却って弊害になる可能性もありますよね、という事を言いたいのだと思いますし、「判断」というカギカッコが入っている(英文テキストの方は普通にjudgeでしたが)というのは、足元の物価にフォーカスするのではなく、フォーキャストターゲットとしてのジャッジメンタルな部分をより強調すべきで、それは中長期的な期待インフレのアンカーという本来の物価安定目標が含む意味を人口に膾炙できるでしょ、ということではないかと(これまでの佐藤さんの説明を読んでいて勝手に)脳内で内容を補足いたしましたがどうでしょうかね。

ただまあ一方で、今回の緩和で黒田さんの説明を見ますと執行部は2%の物価ヒットの方に相当傾斜しているようでして、フォーキャストターゲット的な話よりもまずはとにかく実際の数値という感じなので、この辺りに関しては意見の対立が相当続きそうですし、今日のMPMの後で前回の議事要旨がでますので、議論内容を正座して拝見したいと思います。

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2014/06/11

○遅ればせながら佐藤審議委員会見

遅くなりましてすいませんすいません。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1406a.pdf

・今回の会見は基本的に講演の話通りです

今回の佐藤さんの会見ですが、会見で大暴れするどこぞの審議委員とは違いまして(比較するなですかそうですか)基本的に講演での説明を敷衍したような内容で、会見で変わった話などはございません。

ということでまあ簡単にサラサラと参りますぞな。


・ポートフォリオリバランスに関して

『(問) 2 点お伺いします。まず、午前中の懇談会で、委員は、「いわゆるポートフォリオ・リバランスの進展や中長期的な予想物価上昇率の上昇といった『量的・質的金融緩和』の波及メカニズムが実施当初に期待されたほどには今のところ明瞭に観察されているわけではない」とお話されています。そうであるならば、政策の調整や追加的な金融緩和が必要という考え方もあるかと思いますが、その辺りをどのようにお考えなのか、それが必要でないということであれば、どうしてなのか教えて下さい。(後半割愛、というか後で)』

まあそこの説明は講演でもしていますし、クレクレになるのの意味がさっぱりワカランチ会長なのですが、佐藤さんの説明が整理されているので答えを引用しますね。

『(答) 第1 点の、ポートフォリオ・リバランス効果が当初期待されたほど明瞭に観察されないということについて、若干敷衍します。「量的・質的金融緩和」の波及メカニズムとしては、主に3 点を想定していまして、1 点目は「期待の抜本的な転換」、2 点目は「実質金利の低下」、3 点目は「ポートフォリオ・リバランス」ということです。』

うむ。

『「期待の抜本的な転換」、あるいは、「実質金利の低下」ということに関しては、概ね当初に目指していたことが実現しているのかなと思います。』

ほほう。

『その一方で、ポートフォリオ・リバランスに関しては、これは業態によって色々違いはありますが、例えば、生損保あるいは年金、投資信託といったところが、対外資産、リスク資産を大幅に増やすような動きに出ているかというと、現状では、諸般の金融規制等もあって、なかなか当初期待したほどには進んでいないということは事実かと思います。』

ですなあ。

『しかしながら、私は、このポートフォリオ・リバランスの動きを、全面的に否定している訳ではありません。例えば、限界的な動きではありますが、金融機関、特に銀行では、貸出は着実に増えつつありますし、その伸び率も着実に拡大していると思います。若干なりともリスクを取る動き、よりリスクの高い分野に資産を振り向けるという動きも出つつあると理解しています。そういう意味では、期待水準未満ではありますが、ポートフォリオ・リバランスはゆっくりと着実に進展していると思います。』

なるほどです。なおクレクレという愚問に対しては以下のような説明ですな。

『そういう中で、政策の調整が必要かどうかという点ですが、本日の懇談会挨拶の中でも触れましたように、「量的・質的金融緩和」は、当初描いていたパスをこれまでのところ順調に辿ってきており、所期の効果を発揮しつつあると思います。』

ちゃんとテキスト読めやゴルァというのを丁寧に言うとこうなります(^^)。

『そういう点では、これまでも声明文で、政策の調整に関しては、「上下双方向のリスク要因を点検し」と申し上げていますが、その上下双方向のリスク要因が顕在化したという状況ではないと思いますので、現時点では政策の調整が特に必要な状況には至っていないのではないかと判断しています。(以下割愛というか次に)』

そらそうよ。


・フォーキャストターゲットに関して

先ほど引用した質問の続きになります。

『(問)(前半割愛)2 点目は、同じく午前中の懇談会で「『安定的に持続するために必要な時点』の部分は、私の理解では、見通しベースで判断するということである」とお話しされている点についてです。先般、委員は、「見通し期間の中盤頃に2%程度を見通せるようになる」というふうに日銀の見通しを変更することを求められたと思います。懇談会での挨拶要旨をみると、見通し期間の中盤である2015年度に必ずしも2%程度に達しなくても、そうなる見通しであるならば、「必要な時点」の要件を満たして、出口、あるいは終了に向かうことも考えられるというように読めますが、その点はどのようにお考えですか。すなわち、2015 年度に2%程度に達していなくても、出口に向かう、終了に向かうということがあるべきなのかどうか、その点をお伺いしたいと思います。』

でその答えな。

『(答)(前半割愛)2 点目のご質問の、消費者物価の前年比2%が安定的に持続するかということを見通しベースで判断するという点ですが、この「見通しベースで判断する」というのは、フォーキャスト・ターゲッティングということで、要は「見通し期間の中盤に見通せるようになる」という修文議案を提案したのは、私自身の物価の見通しがそういう状況であることを示している訳です。』

ほほう。

『2%に達しなくても出口に向かうかどうかというところは、基本的には、見通しベースで判断するというところが全てだと思います。』

つまり見通しが有ればヨロシという話。

『2%という物価の概念も、本日の懇談会での挨拶で触れましたように、基本的に「物価安定の目標」というのは、消費者物価の総合であってコアではない訳ですが、それによって私は総合だけで判断すると申し上げている訳ではありません。基本的には消費者物価の総合、除く生鮮食品、除く食料・エネルギーのいわゆるコアコアと言われているもの、あるいはより広い包括的な概念、例えば賃金といったものを含めて、幅広い物価指標を丹念に点検していくことが必要です。そういう中で、2%を安定的に達成することが見通せるかどうかが重要だということです。』

ということで、単にコアCPIが2%に達するか否かという単純な話ではないという事を指摘しています。


・物価上昇の背景に関連して

『(問) 2 点お願いします。前の質問と関連しますが、本日の懇談会挨拶の中の「幅広い指標を丹念にみていく」というところで、帰属家賃を除く指数も取り上げられています。そのベースだと、4 月は4%を超えていますが、ここから先、物価目標の達成が思いのほか早まる可能性はないのでしょうか。また、その時には、どういう順番でどう対応することが委員としてはベストとお考えなのか、今の時点でお話しできる範囲でお願いします。(後半割愛)』

質問は微妙なのですが(今回の質疑は割とそんな感じ)答えの方が面白いというか論点整理されているので答えを鑑賞。

『(答) 1 点目のご質問ですが、幅広い指標をみていくということについて、帰属家賃を除く消費者物価総合指数の上昇率が、4 月は4%を超えているという指摘がありました。4 月は、ご案内のとおり消費税率引き上げの影響を含んでいますので、これを除くと2%に達しているかどうか、微妙な状況だと思います。』

なお帰属家賃除く消費者物価指数の話は石田審議委員も以前行っています。

『また、物価上昇が思いのほか加速する可能性がないかという点ですが、私どもの展望レポートでは、本年1 月の中間評価の時点と比べると、GDP は政策委員の中心的な見通しから下方修正となる一方、物価に関しては、2013 年度の実績が、わずか3 か月前の見通しと比べても上方修正になっています。そういう意味では、やや思いのほか、物価が上昇しているということが言えるかと思います。』

ということで供給の天井に関する話になります。

『物価上昇の背景については、私以外のボードメンバーからも、これまで幾つか説明があったかと思います。私も、本日の懇談会挨拶の中で触れていますが、人手不足ということで、労働力の供給が限られてくる中で、日本経済が思いのほか早く供給の天井にぶつかりつつある、そういう可能性があるかと思います。』

キタコレ。

『供給制約に直面した経済がどういう経路を辿るかというと、供給制約の結果として賃金が上昇し、これは企業にとってみると減益要因になるため、やや長い目でみれば設備投資、あるいは株価に影響が及んでくるということですから、基本的には、そうした人手不足による賃金上昇を背景とした物価上昇は、持続的ではない訳です。私どもが当初思い描いていた望ましい物価上昇の姿ともやや異なると思います。』

(;∀;)イイシテキダナー

『そういう点では、より望ましいのは、生産性の向上に見合った賃金の上昇であり、それとバランス良く物価が上がっていく姿です。生産性の向上の鍵を握るのは、やはり設備投資だと思いますので、企業が設備投資を行い、このところ低下気味と思われる潜在成長率を引き上げていくことで、生産性を引き上げ、そういった努力の上に賃金が上がっていくことで、それとバランス良く物価が上がっていく、そういう姿が望ましいのではないかと思います。』

ということですな。


・財政制約による「マネタリストのある不快な算術」に関連して

この質問は答えにくかろう。

『(問) 今の質問の関連でお伺いしますが、本日の挨拶の中で、出口戦略に関して、「現時点では頭の体操程度」として、「財政の持続性への配慮が金融政策を左右することはあってはならない」、「『量的・質的金融緩和』を最終的に成功に導くうえで、政府の中長期的な財政健全化へのコミットメントが重要な役割を果たす」と言われている部分については、逆に言うと、政府が財政健全化をきちんと進めなければ、日銀は出口に出られないということとイコールなのかと思うのですが、そうであるなら、健全化に向けたコミットメントのイメージがどういうものなのかということをもう少し伺いたいと思います。また、それが例えば、消費税率を10%に上げれば十分なのか、さらにそれ以上に上げる必要があるのか、あるいは歳入だけでなく歳出の改革も必要なのか、その辺りのもう少し具体的なイメージをお聞かせ下さい。』

これは良い質問過ぎて微妙な答えしかできませんわなと思ったら案の定答えは微妙な言い方になっております(^^)。

『(答) 政府の中長期的な財政健全化へのコミットメントが非常に重要であるということについてですが、これは政府が現在そうしたコミットメントをしていないということではなく、既に政府としてプライマリーバランスの赤字を2015 年度までに半減するということを国際公約として打ち出しています。そういう意味では、政府のコミットメントというのは既に厳然としてある訳ですし、そのコミットメントに沿うかたちでこの4 月に消費税率が引き上げられ、さらに来年10 月に消費税率が10%に引き上げられようとしているということです。そういう点では、コミットメントは既に厳然としてあるということだと思います。』

(・∀・)ニヤニヤ

『それから、財政健全化を進めないと出口に出られないのではないかとのご指摘がありましたが、そういう観点からは、政府の財政健全化の努力というのは、今しっかりとなされているというふうに認識しています。』

つまり放漫財政ボヨヨンボヨヨンだと出口で死ねるという事ですねわかります(^^)。

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2014/06/06

○佐藤審議委員講演から:色々な論点が示されています

大分の金懇での佐藤審議委員の講演であります。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140605a1.pdf
わが国の経済・金融情勢と金融政策
── 大分県金融経済懇談会における挨拶要旨 ──

まあ何ですな、ここの所非常に見苦しいテキストを連発で読まされておりました事もございまして、昨日はこちらのテキストを拝読して心が洗われるような気持になりましたが、あのオッペケペーズと比較論考するのがそもそも失礼ですかそうですか(^^)。

というのは兎も角として、今回の佐藤審議委員の講演は(も)幾つかの興味深い論点を示している(と思った)のでオヌヌメでありまする。

・消費税増税の影響について

前半の『2.内外経済・金融情勢』では景気認識に関しての話が展開されます。最初の小見出しは『(消費税率引き上げ後の国内経済・物価情勢)』です。

『国内経済の現状について、4 月の生産、販売統計等では国内民需に相応の消費税率引き上げの反動減がみられるが、基調としては、景気は底堅く推移しているとみられる。』

ふむ。

『留意すべき点は、想定されていたとはいえ一部マインド統計に弱めの動きがみられること、供給制約により駆け込み需要の反動減がやや見えにくくなっていることであろう。後者を補足すると、例えば自動車業界では、反動減に伴う減産は7-9 月期には全体として下げ止まるとみているが、一部には、供給制約からこの1-3 月期の受注残が積み上がり、4-6 月期に反動減の影響があまり出ない見込みの一方、7-9 月期以降が逆に不安との声もある。』

なるほど。

『このように、足許までは概ね想定通りとの声が多いなかでも反動減については引き続き警戒を要するが、やや長い目でみると、先行きは足許みられるベースアップ等、雇用・所得面のプラス影響により増税による実質可処分所得減のマイナス影響をどれだけ吸収できるかがポイントと思う。』

ということですが、雇用者所得の状況に関しての説明がありますが、基本的には雇用者所得は今後も総じて堅調に推移し、消費税率引き上げに対しては頑健という話になっています。で、消費増税の影響に関する結論はこうなります。

『増税後の消費者物価統計が、消費税要因を除けば、総合除く生鮮食品(以下、コア)で概ね前月並みの前年比上昇率であったことも、先ほどの基調判断を裏付ける材料の一つである(図表2)。事前には税率上昇分以上の値上げや値引きセールといったアネク情報が錯綜したが、全体としてみれば概ね消費者への税率上昇分の転嫁がなされたとみられる。』

『見方を変えれば、消費者が税率上昇分の転嫁を受け容れるほど需要の趨勢は底堅かったとも言える。夏場以降、駆け込みの反動減が一巡するにつれ、日本経済は緩やかな回復基調に復するとみている。』

ということで、消費税増税後の景気認識に関してはそんなに弱いという訳ではありません。


・足元までの物価推移に関して

『(成長率の下振れと物価の上振れの併存をどう見るか)』という小見出しから。

『ところで、昨年後半の日本経済は前半の年率+4%前後の高成長から同+1%前後へ減速した(図表3)。円安でも輸出の足取りが鈍かったことがその一因だが、輸入の大幅な増加も特筆すべきである。輸入は、堅調な内需や消費税率引き上げ前の駆け込みの動きから急増し、GDP 成長率を表面上押し下げた。』

ふむ。

『もっとも、ネット外需を除く国内需要に着目すると、昨年は年間を通じて年率+3%程度の成長ペースを保ったことから、経済にさほど減速感は生じなかった。』

これ重要。

『昨年後半のGDP 成長率下振れで今年度のゲタが下がるというテクニカルな要因もあり、先の展望レポートにおける政策委員会の見通し中央値は2013 年度とともに14 年度も下方修正となったが、輸出の回復に加え、内需の基調としての堅調さが続くもと、景気回復のメカニズムは維持されるとみている(図表4)。』

で、先ほどありましたように、消費税増税後の景気認識も特に弱い訳でも無いという話ですな。ちょっと飛ばしまして物価の話ですが。

『消費者物価上昇の要因として円安によるエネルギー価格上昇が挙げられる。』

いきなり木久扇師匠にしらっとダメ出しをしているのが実にチャーミングです。

『ただし、消費者物価(総合除く食料・エネルギー)(以下、コアコア)の前年比上昇率は直近4 月が消費税を除くベースで+0.8%と、エネルギー価格以外でも物価上昇がみられる。こうしたエネルギー要因以外での物価上昇について、私はデジタル家電類1の価格変化に注目している(図表5)。』

で、デジタル家電に関しては輸入浸透度上昇による円安効果の影響の拡大を指摘しています。

『デジタル家電類の消費者物価は2012 年2 月の前年比-22%台から2014 年2 月は同+6%台へ約30%ポイントの変化となり、コアコアの上昇に無視できない影響を及ぼした。』

そうですな。

『背景として、これらデジタル家電類の価格が極限まで下がり切るとともに家電業界の極端な安売り競争が終息に向かったことが挙げられる。』

ですです。

『デジタル家電類の価格低下一巡の背景としては、輸入浸透度上昇とともにこれらの製品が円安の影響を受けやすくなったことも見逃せない。背景として、国内家電業界の競争力及び価格支配力低下がしばしば指摘される。ただし、足許の円安一服のなかで、デジタル家電類の消費者物価はこの3-4 月は消費税要因を除くベースで前年比ほぼ横ばいとなった。また、5 月の東京都区部のコアコアは前月から前年比で0.2%ポイント伸び率が低下した。こうした為替円安傾向の一巡が今後物価に与える影響を注視する必要がある。』

ということで、ここでさらっと日銀執行部の最近の説明である所の「円安がこれ以上進行しなくてもプラスの需給ギャップによる影響とインフレ期待上昇によるフィリップスカーブの上方シフトによって物価目標の達成はヘーキヘーキ」という理論(それを超粗雑に言うと先般の師匠の落語になる)に艦砲射撃を加えているのがチャーミングです。


・主に海外のディスインフレの長期化リスク

海外経済の話がその後に続くのですがそちらはスルー致しまして、その後の『(海外経済のリスク)』から。

『以上の海外経済の見通しについては、上下双方向のリスクがあると考えられる。短期的には足許のウクライナ情勢等の地政学的リスクなどに着目しているが、個人的には、特に中長期的な米欧のディスインフレ傾向や潜在成長率低下の可能性を懸念している(図表10)。』

キタコレ!!!!

『とりわけ、ユーロ圏では、周縁国を中心にディスインフレ傾向が長引く恐れがある点には注意を要する。幾つかの周縁国を中心に、ユーロ高のもとで競争力を確保するために賃金抑制圧力がかかり続けると見込まれ、欧州委員会や欧州中央銀行(ECB)も今年と来年の物価見通しを下方修正している。』

その結果として・・・・・・・

『中長期の予想インフレ率はこれまで米欧ともに2%程度で安定しているとされ、ユーロ圏の政策当局にとってはそこが日本のような長期デフレに陥らないとの根拠の一つであった(図表11)。しかし、日本の経験では、低いインフレ率が長く続くことで人々の予想がバックワード・ルッキングに変化し、中長期の予想インフレ率も適応的に低下した可能性も示唆される。実際に、ユーロ圏でも、ディスインフレ傾向が続くもとで、経済主体や市場の短中期の予想インフレ率は、既に幾分低下してきている。』

キタコレですな。

『中長期の予想インフレ率の安定に揺らぎが生じれば、今後政策面で様々な対応がとられる可能性がある。既にECB はディスインフレ長期化のリスクに対し、非伝統的手段の活用を排除しない方針を明らかにしており、今後の政策運営に注目している。金融システムがなお脆弱性を抱えている点も引き続き念頭に置く必要がある。』

でまあこれに対しては追加緩和を実施したのはご案内の通り。で、米国ですけれども・・・・・・・・

『米国では、今のところデフレ懸念は見受けられず、目先的にはむしろ民間の短期の予想インフレ率も上振れている。しかし、シェール革命によりエネルギー価格が落ち着いていることもあって、インフレ率はこのところFRB の見通しを下振れ続けているだけに、やや長い目でみたときに、インフレ率が望ましい水準との対比で低位にとどまり続けるリスクを念頭に置く必要性を感じている。』

ということで、欧州に対する懸念よりは温度は相当低いですが、まあこちらもディスインフレのリスクを懸念しています。


・論点の提示としてと「潜在成長率の低下」に関連する事項

で、潜在成長率低下の話。

『また、世界経済の長期停滞を懸念する議論がやや目立ってきていることも注目される。』

キタコレ。

『例えば、Summers は米国では金融危機の前後を通じて実体経済に超過需要がなく、実際のGDP が潜在GDP の水準を大きく下回ったままで物価も落ち着いていることから、2000 年代後半から長期にわたり、完全雇用と整合的な均衡実質金利(自然利子率)の水準が-2〜-3%まで低下した可能性を論じている2。』

『1990 年代後半の金融危機や2000 年代以降の人口動態の変化等を背景に、需要が持ち上がりにくい状況が続いた日本の経験からすると危機後の長期停滞論は違和感が少ない。』

さいですな。

『Krugman はかつて日本の均衡実質金利が一時的に-4%程度まで低下したと主張していた3。もっとも、Summers は、経常収支黒字国の過剰貯蓄や資本財価格低下から生じる名目投資額の減少などを背景に、グローバルに均衡実質金利が、一時的でなく長期にわたり低下したとしている点が目新しい。』

ほほう。

『実際に均衡実質金利が長期にわたりマイナスの領域まで低下しているかどうかはさておき、IMF による最近の世界経済見通しがこのところほぼ一貫して下方修正続きであること、新興国もリーマン・ショック以前との対比で成長ペースが大きく見劣りすること等を踏まえると、需要の長期に亘る停滞や、労働投入や技術革新のテンポ鈍化を背景に、世界経済の成長力が単なる景気循環を超えて幾分低下した蓋然性は高いように思われる。』

>世界経済の成長力が単なる景気循環を超えて幾分低下した蓋然性は高いように思われる
>世界経済の成長力が単なる景気循環を超えて幾分低下した蓋然性は高いように思われる
>世界経済の成長力が単なる景気循環を超えて幾分低下した蓋然性は高いように思われる

キタコレですな。

『潜在成長率の低下などにより均衡実質金利が低下し、そうしたもとで需要の伸び悩みが慢性化しつつあると考えれば、足許の先進国のディスインフレ傾向や新興国におけるインフレ率の趨勢的な低下も理解できよう。』

とここまでは潜在成長率が低下している場合の話ですが、この逆の論点もありまして・・・・・・・・・・

『もっとも、即断は禁物である。潜在成長率や経済のslack の把握は容易でない4。インフレ率の低下の背景について、単に循環的なものか、あるいは上述のように構造要因に根差すものかは様々な議論があるほか、循環と構造の識別はしばしば困難である。』

『仮に、潜在成長率がさほど低下していなければ、足許のディスインフレ傾向は単に資本ストックや労働市場のslack を反映したもので、先行きslack の解消とともに、ディスインフレ圧力が軽減することもあり得る。このように、潜在成長率の見方次第でインフレの先行き、ひいてはマクロ政策への含意は変わり得るため、引き続き関心をもってこの問題を見守ってまいりたい。』

なるほどそうですなという所です。佐藤さんは恐らくこのトーンだと基本はインターナショナルにも前者を見ているようですけれども、後者の場合はグローバルな物価上昇圧力がだいぶ変わってくる話でもありますなという所ですな。


・金融政策のパートでは「供給力の天井」に関する論点と「物価と経済のバランス」に関する論点などが提示

つーことで次のパートは『3.当面の金融政策運営』ですが、引き続き物価の話で、先ほどはグローバルディスインフレーションの話でしたがこちらは日本の話になります。

『(量的・質的金融緩和の中間評価)』の部分ですが、足元で効果を発揮しているという展望レポートの評価については特段否定していませんが、留保もついていまして・・・・・・・・

『ただし、物価見通しの上振れといっても、いわゆるポートフォリオ・リバランスの進展や中長期的な予想物価上昇率の上昇といった「量的・質的金融緩和」の波及メカニズムが実施当初に期待されたほどには今のところ明瞭に観察されているわけではない。』

ですなあ。

『無論、それらを否定するわけではなく、金融機関のリスクテイク姿勢が徐々に積極化するといった限界的な変化はみられる。しかし、足許の物価上昇は、円安・エネルギー価格上昇とともに、相対的に生産性の低い非製造業中心の回復で経済が主に雇用面から意外に早く供給力の天井にぶつかりつつあることも影響しているように思われる。以下でこの点に触れる。』

置物副総裁の「失業率と実質GDPが改善しているからディマンドプルです(ドヤァ)」理論と比較しまして何というちゃんとした考察でしょう!!って比較するのがそもそも失礼ですねすいませんすいません。まあ置物は爪の垢を煎じて飲んで頂く事を希望致します。


で、『(物価上昇のメカニズム)』のパートに入ります。

『先行きの物価上昇メカニズムについて、4 月展望レポートでは、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスが、雇用誘発効果の大きい国内需要が堅調に推移していることを反映して労働面を中心に改善を続けており、最近は過去の長期平均並みであるゼロ近傍に達しているとみられることから、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は先行き着実に強まっていく、としている。』

「としている」という位ですから艦砲射撃タイムになりますよ。

『実際、人出不足によるボトルネックは各方面で生じており、その影響はアルバイト、パートなど非正規雇用の時給に現れている。とりわけサービス産業は相対的に労働集約的で賃金上昇の影響が価格に出やすく、外食などサービス価格にはそうした影響が既に出ているように見受けられる(前掲図表5)。』

URL先には図表もありますので図表を見ながら確認してくらはい。

『ところで、需給ギャップについては様々な推計方法があり、その水準は幅をもってみる必要があるが、足許の雇用情勢のタイト感や先の短観における生産設備過剰感の縮小等のマクロ情報を総合すると、需給ギャップはゼロ近傍かどうかはともかく、既に相応に縮小していると考えてよかろう。こうした需給ギャップの縮小が足許の物価に幾分影響を及ぼしているとみられる。』

ということで需給ギャップ縮小(あるいはプラテン)で物価が上昇してきてという執行部理論そのものはそうですねという話ですけれども・・・・・・・・・・

『ただし、これには需要面の持ち直しに加え、供給面の制約も影響しているとみられ、経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する。』

>経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する
>経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する
>経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する
>経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する
>経済・物価の回復メカニズムとして日本銀行が本来目指している姿とは異なり得る点には注意を要する

・・・・・・・・・・(;∀;)イイシテキダナー

で、その背景説明に加えて、供給制約による物価上昇は持続的なものになり得ないという点を指摘していまして、MPMの議事要旨でかねてより指摘されている部分でもあるので、あの指摘は佐藤審議委員による指摘なんですね、というのが判るというものです。以下引用します。

『すなわち、リーマン・ショック以降、製造業の国内での設備投資が低迷したことから設備ストック蓄積のペースが鈍り、生産性も低下した結果、日本経済の潜在成長率が低下した可能性がある。非製造業中心の回復で雇用情勢が逼迫しているのも、非製造業の生産性が製造業対比劣ることが影響しているとみられる(図表12)。』

需給ギャップ縮小ヒャッハーと単純に喜んでいい話かという事ですな。

『もっとも、企業にとり、人出不足による賃金上昇は利益圧迫要因であり望ましくない。企業収益が人件費で制約されれば、設備投資が圧迫され、株価に影響が及び、結果的に賃金の伸びも持続的でなくなろう。望ましいのは、生産性の上昇に見合った賃金上昇である。』

法人減税するから賃金上げろとか円安になったから賃金上げろという話では持続的ではないということですねわかります。

『その意味で持続的な賃金の上昇には、例えば省力化投資等による非製造業の生産性底上げ等が必要なのであろう。そうした非製造業の生産性改善努力が製造業にフィードバックされ、全体として好循環が形成されれば、先行き潜在成長率が底上げされ、ひいては中長期的に2%の「物価安定の目標」達成の蓋然性も高まると思われる。』

つまり今の調子での物価上昇や賃金上昇が起きて瞬間風速で良い数値になってもそれは瞬間風速であるという認識ですな、中々結構な艦砲射撃が連続砲撃されております。

『足許は各所で人出不足が叫ばれ、雇用逼迫感が統計に示されている以上に強まっている印象があるが、供給面の制約から先行き経済が伸び悩むか、あるいは制約を梃子に一段の生産性向上を成し遂げ、新たな成長ステージに向かうか、その岐路にあるように思われる。』

まさにイイハナシダナーとしか申し上げようが無いですな。どこかの置物とかねえねえアタシがやったのよの人(なおアタシがやったのよ先生は良い話もしているんですけど自己アピール部分が無駄目立ちしているのと謎の俺様理論のせいで良い話が霞んでいる面も無いでは無い)とは大違い。


・物価安定の目標に関する論点および成長と物価の関係

その次が『(柔軟な金融政策運営の重要性)』というパート。

『ところで、昨年1 月「物価安定の目標」決定に際し、日本銀行は、金融政策が、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、柔軟に運営していく必要があることを明示している。』

というのはマクラでして。

『柔軟な金融政策の重要性については、これまでも述べてきたとおりで、金融政策の効果は、経済活動に波及し、それがさらに物価に波及するまでに、長期かつ可変のタイムラグが存在するので、金融政策は、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、先行きの見通しを踏まえつつ、柔軟に運営していく必要がある。』

ということでこの辺り以前も佐藤さん講演で主張していますが改めて確認の為に引用しますね。

『また、「日本銀行は2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『量的・質的金融緩和』を継続する」とのコミットメントを明示しているが、「安定的に持続するために必要な時点」の部分は私の理解では、見通しベースで判断するということである。』

フォーキャストターゲットの話と、先ほどの所にあるように物価と経済の関係に関する話でして・・・・・

『その点、「物価安定の目標」は単に物価を実績として2%に引き上げさえすればよいといった硬直的かつ表面的な枠組みではなく、柔軟性のある、経済実勢に即した実践的なものである。』

キタコレ!

『私は、4 月末の金融政策決定会合議事要旨に示されているように、政策委員会の中心的な見通し対比で物価の先行きを幾分慎重に見ているが、これは私が「量的・質的金融緩和」の効果に懐疑的であったり、そのメカニズムを否定しているからではない。』

ふむ。

『「物価安定の目標」は、もとより2%をピンポイントで目指す硬直的な枠組みではなく、上下双方向にアローワンスを持つ柔軟な枠組みであると私は理解しており、そうした理解のもと、その達成のハードルを柔軟に考えているのである。』

これも以前講演で説明している話ですが引用しますね。

『その点、「物価安定の目標」が目指すのは、物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済情勢の改善とともに賃金が上昇し、それとバランスよく物価が上昇する世界である。日本銀行が単に物価上昇だけを追求していくといった誤解は避けなければならない。』

まあ執行部の従来の説明は(最近は給料泥棒の置物野郎まで低インフレと低成長というのは良くないとか今更お前何言ってるの2%インフレ目標で世界は変わるって言ってただろという風になっていますがそれは兎も角)まあ誤解じゃなくてその通りの話をしてましたがね。


・物価安定を判断する「物価」とは??という意外に重要な論点

これ重要な論点なのですが市場の皆さん意外にスルーしている件。

『また、こうした判断の基準となる物価指標についてだが、展望レポートにおける政策委員会の物価見通しが消費者物価のコアで示されていることから、「物価安定の目標」の達成度合いがあたかもコアのみで判定されるかのような誤解も見受けられる。』

うむ。

『しかし、「物価安定の目標」の定義は消費者物価(総合)であってコアではない。』

そうなのよ。

『だからと言って、私は「物価安定の目標」の達成度合いを総合指数のみで判定すると言っているわけでもない。』

では何で判断するのでしょうかと言いますと・・・・・・・・

『その時々の物価情勢を評価するに当たっては、一時的なかく乱要因の影響を取り除き、物価の基調的な変動を的確に見極めていく必要がある。その際、どの指標が適当かは国毎の経済構造に依存するが、日本銀行は、天候要因等で大きく変動する生鮮食品を除くコアを重視し、展望レポートにおける見通し計数もコアを採用している。』

『ただし、物価の基調を判断するに当たっては、それぞれの指標の持つ特性を十分踏まえつつ、総合やコア、あるいはコアコアのみならず、総合除く帰属家賃といった生計費に近い概念を示す指標、ひいては賃金を含む幅広い指標を丹念にみていく必要があり、特定の指数に政策が紐付きになっているわけではない(図表13)。』

という話ですが、ここで図表13を見ると例えば今の説明の中で「生計費に近い概念」という国民厚生上のインプリケーションがありそうな「総合除く帰属家賃」の数値はどうなってますねんとなりますと堂々の2%乗せとなっていたりしまして、フォーキャストターゲットの概念と合わせて考えますと味わいのある部分だと思いますよ。

なお、この「総合除く帰属家賃」に関しては先般の石田審議委員講演(ちなみに石田さんも「物価だけ上がれば良いと言うものではない」という事を明確に述べていました)でも言及がありまして、足元(当時の)で2%に乗っているという話をしているのがこれまた味わいがあるという物です。



・出口政策と長期金利や財政問題など

実質最後の(最後は大分県経済の話)小見出しは『(長期金利の動向)』であります。

『次に長期金利の動向について触れたい。市場参加者の物価見通しはこれまでの本行の中心的な見通しより低く、結果的に長期金利は本行の買入れの効果もあり低位安定している。先行きの長期金利は市場参加者の経済・物価見通し次第だが、消費税要因を除くベースのコアの上昇率が+1%台前半という状況が6 か月続いているなかで、今後、物価情勢と名目長期金利が整合的に形成されていくかどうかという点に注目している。』

「整合的に形成されていくか」キタコレ。

『ここで、改めて「量的・質的金融緩和」が名目長期金利に働きかけるメカニズムを確認すると、名目長期金利は、将来にわたる名目短期金利の予想値の平均にプレミアムを加えた値というのが一般的な理解である(図表14)。日本銀行は、「物価安定の目標」を安定的に達成するまで、粘り強く金融緩和を続けていくことをフォワード・ガイダンスとして述べており、これは「将来にわたる名目短期金利の予想値の平均」を押し下げる方向に作用する。一方、日本銀行は満期の長い国債を大量に購入することによって「プレミアム」の押し下げにも貢献している。』

まあこの辺は皆様ご案内の通り。

『ただし、こうした非伝統的金融政策では、政策効果が実際に発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利に上昇圧力がかかるのが自然である。先ほどの整理でいえば、市場は出口が近付いてきたと判断すれば、名目短期金利の予測値を引き上げるからである。』

ですなあ。

『また、そうした名目長期金利の上昇に際して、政府の調達コスト抑制のために、仮に中央銀行が国債市場での買入れを増やす、あるいは増やす圧力に晒されるとしても、そのことが財政規律を弱めると市場が判断すれば、却って「プレミアム」部分が上昇する可能性もある。長期金利水準の形成において重要なのは中央銀行が何を意図するかではなく、結局は市場がどう判断するかに依存するからである。』

その通りでイイハナシダナーとしか申し上げようがないです。

『この辺りは仮定の話であり、現時点では頭の体操程度に考えておけばよいかもしれないが、経済がデフレ脱却に向かいその影響が長期金利に及び始める時、日本銀行の金融政策は、将来における出口のプロセスを含め、あくまでも2%の「物価安定の目標」を実現する観点からのみ実施していくのであって、財政の持続性への配慮が金融政策を左右することはあってはならない。』

「マネタリストのある不快な算術」キタコレ。

『その点、「量的・質的金融緩和」を最終的に成功に導くうえで、政府の中長期的な財政健全化へのコミットメントが重要な役割を果たすことを改めて強調したい。』

ということですが、つまりこれは裏を返しますと財政が放漫ボヨヨンボヨヨン状態の時に出口政策に向かうのは難しく、ボヨヨンボヨヨン状態の中で物価が上昇した場合には(上昇しなければ緩和継続だから表面化しないが)マネタリストのある不快な算術問題が思いっきり表面化するという話になる訳ですな。

ということで、ECBネタに埋もれてしまうのは極めて遺憾なのでち延々とご紹介させて頂きましたです、はい。

#全部お付き合いいただきまして誠に恐縮至極であります

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2014/03/24

○佐藤審議委員講演(以下引用大会で増量企画勘弁)

ということで佐藤審議委員講演でござる。

英文の方が文章がこなれているのと、単語の使い方や文章の言い回しに微妙に刺激的な部分がある(ように思えるのですが何せアタクシの英単語知識はあくまでも英和辞典読んでのレベルなので違っていたらすいません)ので、まあ英文の方がメインで日本語は後付という感じが漂います。ということで英文と日本文を適当に並べてネタに。

英文
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2014/data/ko140319d1.pdf
Quantitative and Qualitative Monetary Easing:
Importance of Fiscal Consolidation
Speech at Japan Society in New York

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140319d1.pdf
量的・質的金融緩和と財政健全化の重要性
(ジャパン・ソサエティNYにおける講演の邦訳)


○物価安定の目標に関しては佐藤さん提唱の「フレキシブルなターゲット」の話を今回もしているのですが・・・・・

日本語だと『(柔軟な枠組みとしての「物価安定の目標」)』、英語だと『A. Price Stability Target as a Flexible Framework』という所から。

『「物価安定の目標」の枠組みは、他の主要国の中央銀行が採用するインフレーション・ターゲティング同様、柔軟な枠組みである。すなわち、金融政策の効果は、経済活動に波及し、それがさらに物価に波及するまでに、長期かつ可変のタイムラグが存在する。金融政策は、物価安定の下での持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、柔軟に運営していく必要がある。こうした考え方は、各国で広く共有されている。とくに、世界的な金融危機以降、主要国の中央銀行では、金融システムの安定へ配慮することの重要性を対外的に明確にするなど、金融政策運営の柔軟性という視点が強く意識されるようになってきている。』

ということで、この点は従来からの佐藤さんの主張で、ここにフォーキャストターゲットみたいな話が出てきたりするのですが、今回はその話では無く「経済の実力が伴わないで物価が上昇しても意味がないじゃないですか」という方の主張で、これ奇しくも木内さんが滋賀県での金懇で同じ趣旨の話をしているのが味わいが深いというかまあ普通に正論ですよね。

『その点、「物価安定の目標」は、たとえば2%の物価上昇率をピンポイントで実現するといった硬直的かつ表面的な枠組みではなく、柔軟性のある、経済実勢に即した実践的なものである。』

で、ここの部分の英文が何とも味わいがあります。

『From that viewpoint, the price stability target is by no means a rigid and superficial framework which calls for the inflation rate to reach 2 percent with surgical precision. It is a flexible and practical framework that accommodates the needs arising from economic developments.』

先ほど申し上げましたように、日本語だと一文になっているのですが英文だと2文になっていまして、まあ大体こんな感じで文章が展開されているので実は英文の方が読みやすいというのもあるのですけれども、2%物価目標が硬直的かつ表面的枠組みではないという部分なんですが、英文はご覧の通り「rigid and superficial」とありまして、リジッドの方はまあ良いとしまして、スーパーフィシアルとかいうのを手元の英和辞典(デイリーコンサイスね)で拝見したら「表面の、皮相な、浅薄な」と来ていまして、これって時々日銀批判で言われる「2%物価目標設定させる事によって恣意的な政策運営をさせない」とか「自動運転させるようなもの」みたいな人に対する嫌味タラタラなんでしょうなあと思ったのですがこの単語選んだの意図的ですよねえ(^^)。

なおこの続き。

『すなわち、「物価安定の目標」が目指すのは、単に物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済情勢の改善とともに賃金が上昇し、それとバランスよく物価が上昇する世界である。私見だが、そうした世界では、2%の目標といえども上下にアローワンスがあると考えるのが自然であろう。また、「物価安定の目標」は、政策委員会が見通しとして示す消費者物価コアに限らず、賃金の動向等を含む幅広い見地からその達成度合いを評価していくべきであろう。』

この辺は最初の部分から含めて佐藤さんの従来の主張ではありますが、そもそもこの物価安定目標の定義の定義みたいな所が曖昧模糊となっている部分がありまして、QQEローンチして2年で2%の物価安定目標達成ガーとか言っている中で時間が残り半分になってくると、まあここに関する政策委員会での論争は中々面白い事になろうかと思われます、というのも従来から申し上げている通りです。


○QQEと長期金利:出口において長期金利を抑制できるのかという話の前振り

次が『(「量的・質的金融緩和」と長期金利)』英文で『B. QQE and Long-Term Interest Rate』という所から。

『以上のような「物価安定の目標」の意味を確認した上で、それが実現する場合の市場への影響について考えたい。』

って先生それ意味が政策委員会で確立されているとも限らないじゃないとか思いましたが英文の方は

『I will now talk about the effects of the price stability target on financial markets.』

となっているのでもうちょっとサラッとしています。

『「量的・質的金融緩和」は、巨額の国債買入れにより名目長期金利を抑制しつつ、マネタリーベースの積み上げを通じて人々の予想物価上昇率に働きかけ、これを引き上げることで実質長期金利の押し下げを図るという、ほとんど前例のない取り組みである。』

『巨額のマネタリーベースの供給が人々の予想物価上昇率に実際に影響を及ぼし得るかどうかについて知見は分かれる。しかし、15年超にわたるデフレの下で、人々の中長期の予想物価上昇率が1%程度と他の主要先進国・地域との比較で低水準にとどまり、かつゼロ金利制約があるなか、予想物価上昇率への働きかけは、残された数少ない政策手段の一つと認識している。』

ちなみに同じ部分の英語の方が読みやすいとは何ぞね。

『Under the QQE, the Bank puts strong downward pressure on nominal long-term interest rates through the massive purchases of JGBs. It also tries to raise people's inflation expectations via the accumulation of the monetary base. The combination of the two will lower real long-term interest rates. That is an unprecedented challenge.』

『There are different views on the extent to which the massive supply of the monetary base can have a real impact on people's inflation expectations. Nevertheless, lifting inflation expectations is one of just a few remaining policy options under these circumstances. After nearly 15 years of deflation, the medium- to long-term inflation expectations have been around 1 percent and stayed low, compared to those in other advanced economies. Moreover, Japan has been faced with a zero boundary of nominal interest rates.』

でまあ佐藤さんは長期金利を名目短期金利の予想とリスクプレミアムという2つの概念に分解して説明していまして、ここの説明はまあ佐藤さん独自というよりは執行部の説明と同じではあるのですけれえども。

『ここで、改めて「量的・質的金融緩和」が名目長期金利に働きかけるメカニズムを確認したい。名目長期金利は、将来にわたる名目短期金利の予想値の平均にプレミアムを加えた値になるというのが一般的な理解である(図表4)。』

『日本銀行は、「物価安定の目標」を安定的に達成するまで、粘り強く金融緩和を続けていくことをフォワード・ガイダンスとして述べており、これは「将来にわたる名目短期金利の予想値の平均」を押し下げる方向に作用する。一方、満期の長い国債を大量に購入することによって「プレミアム」の押し下げにも貢献している。このようにフォワード・ガイダンスと資産購入により名目長期金利を低位安定させるというメカニズムを期待することは、米国連邦準備制度理事会、イングランド銀行といった非伝統的金融政策を導入している他の中央銀行と異ならない。』

という部分は(日銀の全体的な説明もそうなのですが)どうも引っ掛かる所はありまして、そもそも今の「2年で2%目指して達成するまで続ける」というのはフォワードガイダンスちゃあまあ先行きQQEを続けるとは言っているんですからガイダンスはガイダンスなのですけれども、本来ここの部分に関しては「2年で」の部分が「2%」と同様に重要であるという意味では、QQE政策の継続期間に対しては、もし日銀の示す政策が達成できると信じるのであれば、ガイダンスと言う程の期間になるのかというのは甚だ疑問。特にQQEローンチ当初なら兎も角、現在は既にこの政策の達成期間の半分まで到達しているのですから。

従って、国債購入でタームプレミアムの縮小は出来ていると思うのですが、コンディショナルコミットメントに関してはそのコミットメント達成への期待が大きいほど将来の短期金利パスを引き上げる方向に働くというのが「2年で達成」という件に関する含意であることからして、実際問題として長期金利の押下げに効いているのはガイダンス文言ではなくて「どうせ行かないでしょ」という市場の見方が背景にある気もしますが、ただまあ今でも2015年のバランスシート見通し出してみたいな話をする人が結構いるので、そういう点からするとフォワードガイダンスなのかも知れませんね。

で、その続き。

『ただし、こうした非伝統的金融政策では、政策効果が実際に発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利に上昇圧力がかかるのが自然である。先ほどの整理でいえば、市場は出口が近付いてきたと判断すれば、名目短期金利の予測値を引き上げるからである。名目金利への上昇圧力がかかる下で実質金利を抑え続けることができるかという点で、この政策はナローパスであり、チャレンジングであるが、何としてもやり遂げなければならない。』

『後で述べるように、中央銀行が名目長期金利水準をコントロールすることには限界があるので、政府による財政健全化の取り組みは極めて重要である。とりわけデフレ脱却の前後では、決定的に重要となってくる。』

このナローパスに関しては後ほど説明があります。


○財政再建の重要性キタコレ

次の見出しが『4.財政健全化の重要性』、英文は『III. Importance of Fiscal Consolidation』である。でもって『(デフレ脱却と財政を取り巻く環境変化)』『A. Overcoming Deflation and Change in Environment Surrounding Fiscal Policy』の項ということで、デフレ脱却

ちなみにこのデフレ脱却と財政再建への影響という点では財務省の過去の審議会でこんなのがありまして、冒頭の池尾先生の説明が今でも状況的に同じというか更に悪化しているんじゃねえのというのもご参考までに。

http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1022127/www.mof.go.jp/singikai/vision/top.htm
日本経済の将来ビジョンを語る懇談会(第十回)
平成16年6月1日(火)

でまあ説明はその通りとしか申し上げようがないので引用します。まあ読んで味噌。

『では、デフレ脱却との関係で、何故政府の財政健全化の取り組みが重要なのであろうか。楽観論に立てば、デフレ脱却実現により中長期的な成長期待が高まるならば、名目長期金利が上昇しても財政構造は依然として頑健である。なぜなら、名目成長率が高まれば税収の自然増を期待できるからである。税収弾性値は、一般に、名目成長率上昇の初期段階で高く、とりわけ法人税収が寄与する可能性が高い。』

『これに対し、政府の利払い費の増加ペースは、国債管理政策面で政府が負債の長期化を進めていること(たとえば、直近2014年度発行国債の平均償還年限は8年5ヵ月)により、当分の間は限られる。政府はデフレ下での民間資金需要が低迷している状況を活用して金利上昇に頑健な財務体質を構築しつつあり、「量的・質的金融緩和」による政策効果と相まって、平均調達コストは足許1%近傍で安定的に推移している。調達の長期化を着実に進めたことで、政府は調達面では時間を買うことに成功している(図表5)。』

この政府の利払いに関する話は後ほどのドーマー条件に関する話でも出てきます。でまあこれはこれでその通りなのですが、一方でQQEによって日銀のポートが恐ろしく長期化していまして、統合政府として見た場合においては利払い費用って金利正常化した時にどうなるのよという話がありまして(日銀が長期国債を購入するのは統合政府で言えば長期金利の払いをO/Nにスワップしているようなもん)、現状では新規国債発行よりも日銀の買入が少ないのでまあ一応負債の長期化は進んでいるには進んでいるのですけれども。と考えるとどこぞの大先生が年間100兆円長期国債の購入も可能とか言ってるのはやはり空論ですなという話なんすけどねえ。

てな話は兎も角。

『ただ、こうした楽観シナリオにはリスクがある。』

キタコレ。

『高齢化の進展により社会保障給付等の増大を通じて財政には歳出拡大圧力がかかり続ける。高齢化は、労働供給の制約要因になるほか、需要構造にも変化をもたらすため、需要構造の変化に対応した供給面の対応がなされない場合、成長の制約要因となる。』

ちなみにここの英文ですけど英文の方がよりニュアンスが厳しくなっていますな。

『Such an optimistic view may entail a risk. The aging population will continue to put pressure on additional fiscal expenditure, such as increasing social security benefits. The aging will constrain the labor supply on the supply side, and change the demand structure of the economy as a whole. Unless the economy responds to a change in the demand structure, it will reduce the potential to grow.』

確かに「成長の制約要因」ですけれども、英語の方だと成長するためのポテンシャルを減らすという言い方なので、よりこう英文の方が(まあ先ほども申し上げましたが随所に)より直截的な表現になっているのが味わいがあります。

『高齢化等により成長期待が十分に高まらない場合、財政構造は依然脆弱であり、人口動態を考えると、デフレ脱却が実現しても財政問題は残り続けると保守的にみておくべきであろう。』

後ほど市場金利との関係の話が出ます。


○国際収支動向ではしらっとオソロシスな指摘もありますよん

『(最近の国際収支動向)』『B. Recent Developments in Balance of Payments』から。

『ところで、最近の日本の対外バランスをみると、昨年の経常黒字は3.3兆円と比較可能な1985年以降最小であった(図表6)。これは電気機器の貿易黒字がほぼ消滅しつつあることに加え、原発の稼働停止等に伴いエネルギー輸入が大幅に拡大したこと等に因る。四半期では、昨年10-12月期の経常収支は初めて赤字化し、足許1-3月期も赤字の可能性がある。』

ふむ。

『ただし、四半期ベースの経常赤字は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の影響もあって、堅調な内需の下で輸入も堅調なことが影響しており、税率引き上げ後も赤字が恒常的に続くとはみていない。足許の経常赤字は、こうしたやや特殊な状況の下で起こっていることと認識している。』

とまあここまでは明るい話ですけど。

『一方、「国際収支の発展段階説」1によれば、人口動態等により、黒字国の経常収支は長期的には赤字に転じるとされ、最近のエネルギー類の名目輸入額の増加は、そうしたプロセスを速めているようにも見える。』

しらっとここの脚注1がお洒落。

『1 一国の国際収支構造の長期的なパターン変化を説明する仮説として、クローサーの「国際収支発展段階説」がある。この仮説は、一国経済における国内投資と国内貯蓄のバランス(ISバランス)が、経済の発展(一人あたり国民所得の向上など)に応じて、債務国から債権国へ、最終的には、債権取り崩し国へと発展していく、と説明するもの。』

債権取り崩し国に発展されますと最後はアチャーなんですけど、そのプロセスが速まるかもってしらっとオソロシスな指摘していますなあ。

『貿易黒字・赤字や経常黒字・赤字という状態自体は、人々の合理的な経済行動の集積の結果であり、経済厚生に直接影響するものではないので、黒字が善で赤字が悪といった見方は妥当でない。』

ですな。

『しかし、経常赤字が定着、すなわち国内の貯蓄投資バランスが不足超に転じる場合、以下に述べるように、潤沢な国内民間部門の貯蓄余剰が低利の財政ファイナンスを可能にしてきた状況が長い目で見て変化する可能性がある点には留意すべきであろう。』


○デフレ均衡脱却における貯蓄投資バランス変化とな

『(デフレ脱却と貯蓄投資バランスの変化の可能性)』『C. Overcoming Deflation, and Saving and Investment Balance』の辺りから更に話が面白くなります。

『デフレ脱却と貯蓄投資バランスは、どのような関係にあるのだろうか。デフレ下の国内民間貯蓄投資バランスは、家計部門の貯蓄余剰が趨勢的に縮小するなかでも企業部門の貯蓄余剰が拡大することで民間部門全体として貯蓄余剰が維持される構図であった(図表7)。』

『Let me now elaborate on the nexus between the saving and investment balance and the overcoming of deflation. I will start with the saving and investment balance under deflation. In Japan, excess savings have been decreasing in the household sector, whereas they have been increasing in the corporate sector (Chart 7).』

まあ図表7を見てちょという所ですが、ここあたりでも英文の方が読みやすかったりするのは何でしょ(^^)。

『これは、デフレ予想の下で、企業が負債の返済によるバランスシート圧縮を経営上の優先課題としてきたことが主因である。いわば、デフレが民間貯蓄投資差額の余剰創出に貢献し、これが政府の国内における低利でのファイナンス維持を可能にする「デフレ均衡」を成立させていた。こうした「デフレ均衡」は、「量的・質的金融緩和」が成功し、日本経済がデフレ脱却に成功した暁には変化する可能性がある。』

ちなみにデフレ均衡の部分は英文で『Behind that, companies have made it a priority to downsize their balance sheets by repaying debts in light of harmful deflationary expectations.』ってあってharmfulってのがあるのがチャーミングですが、それはそれとして「デフレ均衡が変化」はキタコレという感じですが・・・・・・

『デフレ脱却の前後での民間貯蓄投資バランスの変化を先読みすることは難しいが、一般論としては、消費・投資需要の喚起により輸入性向が高まるため、所得の海外への漏出が生じる結果、国内民間部門の貯蓄投資余剰は、不足超に転じるかどうかはともかく、縮小に向かうと保守的にみておくべきであろう。』

どういうことかと言いますと・・・・・・・

『これを企業・家計部門別にみると、まず企業部門の貯蓄余剰は明確に縮小に向かうであろう。デフレ脱却なら企業は財務戦略を180度転換して外部負債を増やしつつ投資を増やすことが合理的となるからである。また、家計部門では、政府や企業部門からの移転等の要素があり一概に言えないが、標準的な経済理論によれば、高齢化によって家計貯蓄率は下押しされる(図表8)。』

まあ現実問題として家計部門はここまでの流れで貯蓄率さがっていますし、企業はまあ余剰資金を持たなくなります罠という事で図表8を見てちょ。

『「量的・質的金融緩和」が成功し、デフレ均衡を脱出する際には、こうした国内民間貯蓄投資余剰縮小の可能性に留意する必要がある。国内民間貯蓄投資余剰が縮小するなかで、仮に財政赤字が不変であれば、経常収支は赤字に転化し政府債務の調達が国内だけでは完結しなくなる。海外投資家は日本の財政状況に鑑みて国内投資家より高めの「プレミアム」を要求し、政府の調達コストは相応の影響を受ける可能性があろう。』

キタコレ!

『そうならないためには、あるいはそうしたショックを和らげるためには、国内民間貯蓄投資余剰が縮小しても問題が表面化しないよう健全な財政運営とすること、あるいは、そうした場合に財政の持続可能性について市場に疑念を持たれないよう、少なくとも財政健全化へのコミットメントを市場に示し、実行し続ける必要があろう。』

ここ英文の方がニュアンス出てましてですね。

『To avoid being trapped in such a situation, or to mitigate the shock associated with that situation, it is vital that the government will continue with its sound fiscal management. That is important in terms of preventing the problem associated with shrinking excess savings from surfacing. Put differently, the government needs to show its firm commitment to fiscal consolidation. Moreover, the government needs to implement its path toward such consolidation in order to avoid leaving an impression with the market that it is not serious about the issue.』

という事ですが、まーしかし肝心の財政再建に関しては安倍ちゃんと愉快な仲間たちの皆様におかれましてはあまりご興味無さそうに見えてしまうんですけど、何気に政府に対して結構厳しい事言ってますなあという所です。

『先に述べたように、デフレ脱却なら名目成長率の上昇による税収増という追い風も期待できるので先行きは悲観論一色ではない。』

『The scenario that I have laid out contains a number of assumptions. In practice, the end of deflation will generate higher tax revenue as the nominal growth rate rises. That is obviously good for fiscal consolidation. Thus, I repeat that it is best to avoid getting trapped by pessimism.』

こんな感じで英文の方がちょっと丁寧なので、実はこの講演英文の方が若干長めになっていて徐々に差が開いて行くので並べて読むとオモロイですよ。


○ドーマー条件に関して

調子に乗って引用していたら途中から全文引用になりつつあるのに反省して『(ドーマーの定理)』『D. Domar's Theorem』の所を端折って引用。

『ところで、財政が持続可能であるとは、一般に、「将来の政府債務残高のGDP比率が発散しない」ことであり、理論的にはその条件は「現在の政府債務残高のGDP比率が現在及び将来のプライマリー・バランスのGDP比率の割引現在価値合計に等しい」ことと整理できる。もっとも、ここから財政が持続可能でなくなる政府債務残高のGDP比率の水準といった閾値は先験的に見出すことができず、財政が持続可能であるかどうかは、結局のところ将来のプライマリー・バランス、あるいはそれに対する幅広い経済主体の期待次第という面がある。』

ということで、ここでも「将来のプライマリーバランス」と来まして、政府がちゃんと財政再建やる気出せという話をしていまして、まあ政府というよりは安倍ちゃんと愉快な仲間たちさんの方に向けた話をしてますなあという所で。でまあドーマーの定理の話の所を端折りまして・・・・・・

『私見だが、それでも「ドーマーの定理」は財政の持続可能性の判定に一定の示唆があるように思われる。その際、成長率と比較すべき金利は長期金利ではなく政府の平均調達コストであろう。それであれば成長率を上回ることも下回ることもあり得る。』

ほほう。

『実際、政府の調達コストは90年代初頭以降の長期金利低下トレンドの下でほぼ一貫して低下を続け1%近傍となっており、足許では名目成長率を下回る(前掲図表1)。こうしたなか、政府はこれまで金利ボーナスを享受してきた。』

『悲観的にみれば、先行きデフレを脱却すれば、調達コスト上昇により金利オーナスが発生しよう。しかし、前述のように政府の平均調達年限長期化により金利オーナスが発生するまでには相応の時間的猶予があり、その間に健全化努力を押し進めることができる。』


○デフレ脱却時に長期金利がコントロールできるのかという話や出口政策に関して

ということで最後のお題2つになるのですが、ここはもうイイハナシダナーとしか申し上げようがない。

『(デフレ脱却と日本銀行の対応)』『E. Overcoming Deflation and the Bank's Response』から。

『では、実際にデフレ脱却で長期金利に影響が及ぶ場合、日本銀行はどのような対応をとるであろうか。』

さてどうでしょ。

『「量的・質的金融緩和」が成功すれば、人々の中長期的な予想物価上昇率は2%近傍でアンカーされ、日本銀行は恐らく出口に向かっているであろうし、市場は実体経済や金融政策の変化の兆しを感じ取り、実際の政策変更よりかなり前の段階で名目長期金利に水準訂正が生じるのが自然な姿であろう。』

キタコレなのですが、ではどのような水準訂正になるかという話。

『純粋にマクロ経済的見地からは、名目金利水準の変化は人々の予想物価上昇率の変化の結果であり、仮に実質金利が不変であれば問題ないとも言える。また、楽観的にみれば、先に述べたように、デフレ脱却で税収増を通じた財政好転も見込める。』

という話なのですが、ここで佐藤さんしれっとスルーしているのですが、実際問題としてQQEにおいては国債の買入によってリスクプレミアムが圧縮されているのでして、QQEの出口という事になるとそのプレミアム圧縮部分が剥落してプレミアムが拡大するでしょうし、これは佐藤さんじゃなくて木内さんの講演(ネタにする時間がねえというかこの時点で量が多くて厳しいですのう)で木内さんが指摘しているのですが、資産買入に関してはストックビューだけではなく、将来の買入に関しても市場が織り込んでリスクプレミアムを圧縮したのではないかという見方を示していまして、まあそれがある程度適合すると考えますと、出口政策キタコレとなりますと長期国債のリスクプレミアムがストックを維持したとしても盛大に上昇する可能性がありますわな。

『一方、悲観的にみれば、名目金利水準が不連続に変化することで財政の硬直化が一段と進んだり、金融システムに影響が及ぶ可能性もある。皮肉なことだが、政府債務の大きさ故に、デフレ脱却に成功することが望ましくない波及効果をもたらすかもしれない。』

政府債務の大きさ故に云々というのは先ほどURL付けた池尾先生の指摘を見てちょという所ですな。

『とりわけ金融システムに深刻な悪影響が及ぶような極端な場合には、中央銀行がいくら物価安定に強くコミットしていても、金融システムの安定と物価安定のいずれかの選択に追い込まれる可能性がある。このように、財政の持続可能性への懸念等から中央銀行が物価安定に専念できなくなると、「マネタリストのある不快な算術」2として知られる状況に陥るかもしれない。』

キタコレ!でございますな。

『こうした悲観シナリオを顕在化させてはならない。日本銀行としては、金利環境の変化の可能性を念頭に置き、ストレス時の金融システムの頑健性をチェックするとともに、金融機関に対してはリスク管理の強化や収益力向上の取り組みを普段から促してきているところである。』

ということで、その中に4年オペも実は効果を発揮する可能性がある訳ですが、とは言いましても何でも日銀が受けていると結局の所政府に戻ってくる話になるので中々その加減は難しい。

で、ここからが白眉。

『一方、政府との関係では、日本銀行の金融政策は、将来における出口のプロセスを含め、あくまでも2%の「物価安定の目標」を実現する観点から実施していくのであって、財政への配慮が金融政策を左右することはあってはならない。』

キタコレですが英文の方がニュアンスが良く分かりやすいっすよ。

『In terms of its relationship with the government, the Bank pursues monetary policy to achieve the 2 percent price stability target. That includes the process through which it will eventually exit from the current easing policy. We simply cannot accept a situation in which a monetary policy decision is affected by the consideration of fiscal policy. There is no question about it.』

>That includes the process through which it will eventually exit from the current easing policy.
>That includes the process through which it will eventually exit from the current easing policy.
>That includes the process through which it will eventually exit from the current easing policy.

(;∀;)イイハナシダナー

『金利環境が変化すれば、政府と中央銀行の関係に改めて焦点が当たりやすく、中央銀行による国債価格コントロールへの期待も高まりやすい。しかし、自由な資本移動の下で中央銀行は万能ではない。』

『Once the financial environment changes, it is possible that people will pay attention to the relationship between the government and the central bank. Expectations for the central bank's operation to support bond prices might rise. However, under free capital mobility, the central bank's involvement will not solve the problem.』

英語の方だと「万能では無い」というよりは「国債価格コントロールなんぞ出来るかヴォケ」という所で誠に味わいがあります(^^)。

『たとえば、先ほどの名目長期金利の決定メカニズムに即して言えば、仮に、中央銀行が政府の調達コスト抑制のために国債市場への介入を増やしても、中央銀行による国債購入の増加が財政規律を弱めると市場に判断されれば、かえって「プレミアム」部分が上昇する可能性がある。また、中央銀行のバランスシート拡大が望ましいペース以上のインフレを惹起すると市場が判断すれば「将来の短期金利の予想値」が高まるかもしれない。』

ですなあ。

『重要なことは、中央銀行が何を意図するかではなく、市場がどう判断するかである。』
『In short,it is the market judgment that matters rather than the central bank's intention.』

(;∀;)イイハナシダナー

『高齢化に伴う社会保障関連支出の増大が見込まれるなかで、今のところ他国対比で日本の国民負担がとりわけ重いとはいえないものの、財政規律について市場にいささかの疑念も持たれないよう、政府による財政再建のための普段からの取り組みが重要である(図表9)。』

『Down the road, social security spending is expected to rise due to the aging. That spending in Japan is not significantly high relative to that in other economies at this moment. However, it is vital that the government makes seamless and tireless efforts to make sure that fiscal discipline remains firmly intact and there is no doubt in the market concerning the government's intention toward fiscal discipline (Chart 9).』

「普段からの取り組み」ってありますが、英語だと「seamless and tireless efforts」でよりニュアンスが強めになっていまして、まあこんな感じで全般英文の方は最後の所に向けてニュアンス強いんですよね。


○いわゆる金融抑圧に関して

『(financial repressionの妥当性)』『F. Plausibility of Financial Repression』の所では最初の部分から何とも味わいのある英文。つまり日本語ですけどね。

『これに対し、中央銀行は財政に配慮して政策運営すべきとの論調も最近見受けられる。』

『Despite the government's determination to achieve fiscal consolidation, it appears that there is still a view stating that the central bank should conduct monetary policy in consideration of the fiscal situation.』

「there is still a view」って・・・・・・・・(^^)

『こうした論者は、中央銀行が物価の安定だけを追求すればよいという考え方に立つと、出口の前後で長期金利上昇を招き、財政の持続可能性が問題となり得るので、そうした問題を回避するには中央銀行は大量の国債を買い続けなければならないと主張する。』

『Those who are obsessed with such a view claim that the central bank should continue its massive bond purchase operations in order to avoid the problem of fiscal concern. They insist that the central bank should be involved in such operations when long-term rates start to pick up around the time of an exit.』

「obsess」ってデイリーコンサイス英和辞典で見るといきなり(悪魔、妄想などが)取りつく、つきまとうとか出てくるんですけど何ですかこの単語の選択は(^^)。

『こうした考え方は、財政の持続性を確保するため中銀が国債を大量に買入れ、名目長期金利水準の抑制を目指すという点で国債価格支持(financial repression)と呼ばれる。』

ふむ。

『また、財政と物価の関係では、拡張的な財政政策が物価の安定に有効であるとする「物価水準の財政理論(Financial Theory of Price Level, 以下 FTPL)」3がしばしば注目されるが、FTPLは拡張的な財政政策とそれを可能にする中央銀行によるfinancial repressionが暗黙の前提となっている。これは、政府支出が拡大して名目政府債務が増大しても国債価格がある程度維持されるという想定があるためである。さもなくば国債を保有した民間主体は負の資産効果によって需要を削減し、政府支出の拡大をキャンセル・アウトしてしまいかねない。こうなると需給ギャップは改善せず、物価は上昇しないであろう。』

しかし・・・・・・・・

『しかし、先に述べたように中央銀行が国債価格をコントロール可能かどうかは、中央銀行の意図よりも市場の判断によるところが大きい。こうしたfinancial repressionに対する期待を生まないためにも財政健全化は重要である。』

ということでそもそもがデフレ脱却で国債価格支持政策とか規制金利時代の残滓じゃないし出来るかヴォケという発想に立ちますと、当然ながら佐藤さんの説明のようになるのはその通りという所で、最後の纏めの所になります。


○最後に(というか全編そうだが^^)財政健全化の重要性で締める

『5.おわりに』『Concluding Remarks』の所ですが、小見出しが『(政府の財政健全化へのコミットメント)』、『(財政健全化努力の上に成り立つ「量的・質的金融緩和」)』という所ですが、ここは日本語読むよりも実際の講演テキストの英語の方が強めのメッセージになっていますので英文を引用します。

しかしまあ何ですな、安倍ちゃんと愉快な仲間たちの皆様におかれましてはデフレ脱却してから財政再建を追々考えればヨロシみたいな話をしてたりして、何かこう何でも金融政策にツケ回ししようとしていますけれども、それで良いのでしょうかという話ではありますな。つーことで最後の所は英文を引用。

『Concluding Remarks』

『A. Government's Commitment for Fiscal Consolidation

Now, let me sum up. In my speech today, I have repeatedly emphasized the importance of fiscal consolidation. Indeed, the Japanese government has already said that it will halve the deficit in the primary balance relative to GDP by fiscal 2015 from the level registered in fiscal 2010. Furthermore, it is committed to turning the primary balance from a deficit to a surplus by fiscal 2020.』

さいですな。

『Those moves constitute an important part of the government's commitment to fiscal consolidation and are now widely accepted by the international community.』

キタコレ!

『Accordingly, the government decided to raise the consumption tax from 5 to 8 percent in April; moreover, the tax rate is scheduled to be raised to 10 percent in October 2015. Down the road, we may hear more discussion concerning whether the consumption tax of 10 percent is enough to make the fiscal structure sustainable. Whatever the discussion might be, it is important to acknowledge that the government will take a crucial first step toward fiscal consolidation, given mounting social security spending. There is no question about that, and financial markets understand the government's intention on that.』

イイハナシダナー。

『B. QQE Based on Fiscal Consolidation

Recent long-term rates have been stable in light of signs of overcoming deflation. That is not just due to the effects of the Bank's JGB purchases. It also hinges on the fact that market participants and businesspeople have full confidence in the government's strong commitment to fiscal consolidation. That enables the Bank to conduct massive JGB purchases without being trapped in fiscal dominance.』

『The Bank offers full support to the government's commitment. The commitment for fiscal consolidation by the government is imperative so that the QQE -- which is designed to overcome deflation -- should not be perceived as the means for "financial repression."』

イイハナシダナーとしか申し上げようがない。

『At the same time, a problem will arise if the government creates a fiscal cliff, as epitomized by the enforcement of the Fiscal Structure Reform Act in the mid-1990s. In practice, a balanced approach may be required between a medium- to long-term commitment for fiscal consolidation and the short-term flexibility in policy.』

一応短期的にガチガチの財政再建じゃないよという話をしていますが、最後の締めはやっぱり・・・・・

『Even so, the government should ensure that it will not lose sight of the importance of fiscal consolidation and that it will reinforce its medium- to long-term commitment on that front. Thank you.』

ということで、中長期的な財政再建姿勢がコケた状態になると大変な事になりますよというのが佐藤さんのお話で、何気に刺激的な話が散りばめられて面白かったのでつい大量引用になってしまい月曜の朝から誠に申し訳ございませんでした。

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2014/03/03

○佐藤審議委員講演ネタの続き:

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140301a1.pdf

金曜は国債決済関連の話の方を注目しましょうという事でスルーした(というと尤もらしいですが実は単なる時間切れです)佐藤審議委員講演の最後のパートの所です。金融政策に関する話の部分だけニュースベンダーのヘッドラインが並んでいたのですが、講演テキストを見れば判るようにどう見ても今回の講演は国債決済に関する話がメインだと思うのですが肝心のメインの話はニュースにしないというのも何だかねえという気はせんでもない。

という話は兎も角として、『6.最近の金融政策運営』のパートから。

『最後に最近の金融政策運営について申し上げる。昨年4 月の「量的・質的金融緩和」の導入から間もなく1 年が経つ。その間の国内経済・物価動向は展望レポートとその中間評価で示した政策委員会の中心的なシナリオに沿い概ね順調に推移しており、政策委員会では現在の資産買入れ方針のもとで、「量的・質的金融緩和」をしっかりと推進していくことが適当と考えている。』

『一方、市場関係者の間では政策委員会の中心的な見通し、とりわけ物価見通しが達成困難、あるいは時間がかかるとの見方から「量的・質的金融緩和」の継続期間や追加緩和等についてさまざまな見方があることは承知している。市場の観測に政策当局者がコメントすることに逡巡はあるが、市場との対話は重要であるので、ここでは「量的・質的金融緩和」の継続期間に絞ってお話したい。』

ということで2年で2%という話がありますがそこはご案内の話なので割愛しましてその次。

『ここで「量的・質的金融緩和」の継続期間について、私なりに整理すると、そのポイントは以下の3 点である。』

ということで・・・・・・・

・フォーキャストターゲットキタコレ

『第一に、「量的・質的金融緩和」の継続期間は2 年という期間で厳密に区切っている訳ではない。ただし、そのことによって「2 年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」というコミットメントをいささかも後退させることがあってはならないと考える。』

とまあこれは良いとしまして・・・・・・・

『第二に、「2%の物価安定目標を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」継続する」との方針は上記のコミットメントと矛盾するものではない。すなわち、「安定的に持続するために必要な時点まで」の部分は私の理解ではフォーキャスト・ターゲティングである。したがって、例えば、実際の物価上昇率が2%に届いていなくても、諸情勢を勘案して先行き2%を安定的に持続できると判断できれば、政策効果の波及ラグを考慮して2%に達する前に出口に向かうことはあり得るし、逆に、仮に2%を超えても持続性がないと判断すれば政策を継続しているかもしれない。「必要な時点まで」という文言はそうした先行きの不確実性に対応した幅のある概念であり、先に述べた強いコミットメントを補完するものである。』

フォーキャストターゲッティングキタコレということでありまして、2%の物価安定目標に関して「実際の数値」なのか「見通しの数値」なのかという問題がありますし、ついでに言えばインフレ期待がどの水準でアンカーされているとかそういう計測が難しい(が故にお手盛りモードが可能な)概念があったりしまして、物価安定目標を2年を念頭に出来るだけ早期に達成という話をして残り1年になった所で徐々にこの物価安定目標の定義とは何ぞやという話が盛り上がってくるというか、かなーりのカオスになってくる可能性がありますなという事で。

なお、フォーキャストターゲッティングの概念は佐藤審議委員は以前からお話をしていましたので、この話自体は以前からあるのですが、ここもと審議委員の講演で次々と黒日銀の話に白日銀の話が混じってくるというシマウマ日銀コースの話が出ている中でありますので、この流れキタコレという感じではございます。


・柔軟な枠組みキタコレ

『第三に、2%の「物価安定の目標」自体も他の主要国の中央銀行が採用する枠組み同様、柔軟なものである。すなわち、金融政策の効果は、経済活動に波及し、それがさらに物価に波及するまでに、長期かつ可変のタイムラグが存在する。』

さいですな。

『金融政策は、物価安定のもとでの持続的成長を実現する観点から、経済・物価の現状と見通しに加え、金融面での不均衡を含めた様々なリスクも点検しながら、柔軟に運営していく必要がある。こうした考え方は、各国で広く共有されており、とくに、世界的な金融危機以降、海外主要国では、金融システムの安定へ配慮することの重要性を対外的に明確にするなど、金融政策運営の柔軟性という視点が強く意識されるようになってきている。』

うんうん。

『その点、「物価安定の目標」はたとえば2%の物価上昇率を一時的に実現すればよいといった硬直的かつ表面的な枠組みではなく、柔軟性のある、経済実勢に即した実質的なものである。私は、昨年10月末の金融政策決定会合議事要旨等に示されているように、政策委員会の中心的な見通し対比、物価の先行きを幾分慎重に見ているが、これは私が「量的・質的金融緩和」の効果に懐疑的であったり、期待の転換を促すという政策委員会の描くメカニズムを否定しているからではない。「物価安定の目標」は、もとより2%をピンポイントで目指す硬直的な枠組みではなく、上下双方向にアローワンスを持つ柔軟な枠組みであると私は理解しており、そうした理解のもと、その達成のハードルを柔軟に考えているのである。』

達成のハードルを柔軟に考えているというのはつまり・・・・・・・

『この点、そもそも、「物価安定の目標」が目指すのは、物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済情勢の改善とともに賃金が上昇し、それとバランスよく物価が上昇する世界である。4 月からの消費税率引き上げで人々はますます物価動向に敏感になるであろう。そうしたなかで日本銀行が単に物価上昇だけを追求していくといった誤解は避けなければならない。そういう意味でも2%の「物価安定の目標」は柔軟な枠組みであることを改めて強調したい。』

(;∀;)イイハナシダナーという所ですが、どう見ても黒日銀の話って「とにかくインフレ期待を引き上げて実質金利を下げる」という話で、実質金利を下げると資産価格は上昇するわリスク投資は増えるわ消費は活発になるわ設備投資は拡大するわ所得は増えるわ爺さんのリューマチは治るわ(それは言ってない)といいことずくめですので実質金利引き下げの為に物価が上昇するのが良い事なのですという話を展開して、しまいには「バックワードルッキングで期待インフレが高まる」というルートに期待するという、何でも良いからまずは物価が上昇すればインフレ期待も上昇しますよという豪直球な話も展開するという大変に楽しい展開になっておられる訳でして、まあ佐藤さんは元よりそういう何でもいいから物価上理論は批判していたサイドですのでこの説明自体は新しい話では無いのですが、黒い日銀におかれましては「日本銀行が単に物価上昇だけを追求していく」というのは残念ながら「誤解」ではないようにしか見えませんぞなという所ではございます。

でまあ直近では企業経営者出身の審議委員(森本さん、石田さん)も本来的な「そもそも物価安定目標は国民の厚生の為にあるんですよね」という論点をより強く見せるような講演を行っておりましたけれども、佐藤さんは従来からこの話をしておりますように、現実問題として考えた場合に黒日銀一本槍というのはどうなのよという話になり、気合と根性が不足しているという点が大問題だった訳ですけれどもそもそも論からしてどう見ても正論な白日銀の「成長力を強化して経済の実力を上げてそれに見合った物価上昇を達成していくのがヨロシ」という白日銀話がこうやって出てきますと何とも味わいが深いと申しますか、置物副総裁先生の置物金融政策理論に関してのご見解をお伺いしたい所です。

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2014/02/28

○佐藤審議委員講演:金融政策の話よりも国債決済の話を読むべし

めんどいので日本語訳の方で勘弁。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko140227a1.pdf
グローバルな日本国債の有効活用に向けて ―国債の決済インフラ改善に向けた最近の取り組み―
国際銀行協会における講演の邦訳

英文みたけりゃこちらへ
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2014/data/ko140227a1.pdf


・政策委員が国債決済に関する話をこれだけ延々とするのは中々無かったですな

ベンダーのニュースヘッドラインとかでは最後の方におまけのように入っている部分の金融政策に関する話をニュースとして打っていましたが、この講演どう見ても重要なのはお題の方の部分でございまして、これは詳しい話なのでおまいら読むべしという所だと思います。


で、最初が決済の進歩に関する話(日銀ネットでの決済という話から時点決済からのRTGS化とか5、10日決済(なお大昔は10日毎決済)からローリング決済とかの話も含めて)『3.国債決済の安全性の向上に向けた取り組み』の所から。

『もっとも、この金融危機の経験を通じて、より強固な決済システムを構築する観点からの課題も少なからず確認されており、国債決済の安全性強化に向けた努力は現在も続いている。そのうち大きな取り組み例を2つ挙げると、1つは、国債取引の約定から実際の決済までの期間(国債決済期間)の短縮化であり、もう1つは清算機関の利用促進とその前提としての清算機関の機能強化である。』

ということで国債決済期間の短縮化とクリアリングの話をしていますので少々。


・国債決済期間の短縮化に関してはT+1に拘る意味は正直良く判らん

『(国債取引の決済期間の短縮化)』という所から。

『まず、国債決済期間についてお話したい(図表2)。国債決済期間の短縮化は1990 年代後半以降、証券決済制度改革の主要課題のひとつとされてきた。取引の約定後、実際に証券決済が行われるまでの期間が長いと、未決済残高が積み上がり、決済リスクが増大する。実際、2008 年の危機発生時には、多額のフェイルが発生し、破綻金融機関を相手方とする取引の解消と再構築に時間を要する、といった事態が生じた。これを契機に、市場関係者の間では、決済期間を短縮する重要性があらためて認識され、日本証券業協会の下に設けられたワーキング・グループにおいて、決済期間を短縮する上での課題が整理・検討され、その結果、2012 年4 月には、国債の決済期間の短縮化(T+2 化)が実現したところである。』

さいです。

『現在は、決済期間のさらなる短縮化(T+1 化)を2017 年以降速やかに実現することを目標として市場関係者による検討が進められている。これを実現するために必要となる取引慣行の見直しや、担保管理のための市場インフラの整備などが当面のテーマとなっている。決済期間の短縮化には、決済リスクの削減効果に加え、金融資産の換金処分をよりしやすくすることで市場の流動性が高まる効果等も期待され、日本銀行としてもこうした取り組みを支援している。』

ということなのですが、そもそも決済リスクの削減という意味では後で出てくるクリアリングの利用促進によってもリスクは削減できますし、大体からしてレバレッジ規制とか流動性規制とかその他のミクロプルーデンスの部分でも規制が強化されるという方向になっている中で、それらが無くてかなりのレッセフェール状態だった金融市場の時代に見られた問題意識をそのまま持ち込んで改善しないといけないというのもどうなんでしょうかねと思います。

と申しますのは、アウトライトT+2決済とT+1決済の間には事務処理という面での大きな壁があって、アウトライトT+1なら資金繰りと証券在庫繰りがT+0になる訳で、リアルタイムでの在庫や資金繰り管理が必要となった場合にそれなりに投資が必要になりますがなという話だったり、資金繰りバッファーがより必要になる(と思うのだが)ので資金負担高まりますわなという話なのですが、資金負担の方は今のご時世ゼロコストみたいなもんとしましても、ご案内のようにこのスーパー低金利で必要な設備投資をする金はどこにも無い訳で、決済リスクの削減が主な理由であるとは思うのですが、そのリスク削減と業界全体として掛かる投資負担とか事務負担的に間尺にあうものなのかという気がします。

それと、只でなくさえ現物債の流動性ガーという話をしている昨今の状況下で、レポをT+0にする事によって更にSCレポ取引にストレスを掛けると現物国債の流動性の更なる低下に繋がるリスクもあると思いますので、それって日銀の出口政策や国債管理政策上もどうなのかねとは思う次第で、まあ佐藤さんも後の方で「効率性と安全性のバランス」という話をしていますが、もしその手の話をするならせめて金利の正常化が一段落してからの方が良いんじゃネーノと思うのですよね。システム投資する原資の問題もありますし、どうせ金利正常化のプロセスのどこかで国債市場にストレスが掛かるのですから、そこでストレスを更に強めるリスクを高めるのもどうかという気がするんですが。

#などと書くと保守反動と言われる訳ですが(−−;

まあ欧州は相変わらず決済までのお時間ありますし、別に米国の決済時間が短いから合わせようとせんでもええんちゃうのバランス的にはこの位が丁度良いと思うのだが、とは思うのですけどね。


・クリアリング機関に関して

『(国債取引における清算機関の利用促進、機能強化)』という所から。

『続いて、国債市場改革の2つ目の例として、国債取引における清算機関の利用促進とその機能強化についてお話したい(図表3)。国債店頭取引の清算機関である日本国債清算機関(JGBCC<現JSCC>)は、国債店頭取引の売り手と買い手の間に入り、取引にかかる債権・債務を引き受け、決済の履行を保証する仕組みを備えている。リーマン・ブラザーズ破綻後の国債市場においては、こうした清算の仕組みも寄与し、わが国では、決済面での混乱が金融システムに波及する事態は回避することができた。金融危機においてJGBCC がリスク拡大を防止する上で果たした役割を踏まえ、国債取引における清算機関の利用促進に向けた取り組みが進められており、2014 年前半を目途に、国債レポ市場における主要な資金の出し手である信託銀行が運用有価証券信託(いわゆるレポ信託)でのJSCC への参加を予定している。』

ほほうという所ですが、他人勘定の場合顧客ごとに取引が分別されていないといざフェイルだのバイインだのという事になった時に色々と面倒な気がするんだが、オブリゲーションネッティングされた後の取引がフェイルした場合ってどういう扱いになるのかは不勉強につきそのうち勉強したいとは思いますがどうするんでしょ。

『このようにJSCC の利用拡大が図られるのと合わせて、JSCC では、金融危機を通じて明らかとなった課題も踏まえつつ、取引規模に見合う損失補填財源や流動性調達体制の確保、参加者破綻時の対応力の強化などに向けた各種の取り組みを行っている。こうした取り組みは、国債決済のインフラを高度化するものである。日本銀行は、日々のオーバーサイトを通じて、こうしたJSCC の取り組みを後押ししている。』

まあリーマン破綻の場合はJGBCC経由の決済まで当初混乱してエライコッチャでしたが、あれは破綻法制の建付けの方の問題の方が大きくて、リーマンの未決済取引の扱いとかリーマンが媒介した取引の扱いとかをどうするのかで数日混乱していたのが問題でしたからねえと思うのですが記憶が既に怪しい(汗)。


・クロスボーダー決済に関する話も面白いですよ

『4.国債決済の効率性の向上に向けた取り組み』という所なのですが、主にクロスボーダーの話をしていまして、講演のお題に関する話になっています。

『(クロスボーダー決済の改善)』からですがまあここは鑑賞するだけです(汗)。

『決済システムの効率性を改善する際の一つのポイントは、国境を跨ぐ取引の決済、即ちクロスボーダー決済の改善にある。例えば、アジアを中心に日本の企業の海外進出が継続する中で、そうした企業によるクロスボーダーの資金決済ニーズが増大を続けている(図表4、5)。こうした動きと併せて、本邦金融機関の海外向け貸出が増加しており、国内の豊富な円建て資産も有効活用するなどして、安定的に外貨を調達するニーズが増大している。また、非居住者による日本国債の投資が増加する中で、日本国債を対象としたカストディ・サービスを海外顧客に展開する余地が拡大している。さらに、店頭デリバティブ取引等に対する国際的な規制が導入される中で、市場関係者の間では、日本国債を含め、優良な担保資産を機動的に移動可能とする市場インフラの重要性がより意識されている。』

ふむふむ。

『このような外部環境の大きな流れに適応可能なわが国決済インフラの将来の姿を要約すれば、「海外を含めいつでもどこでも日本国債や日本円を相手方にデリバリーできる環境を用意すること(日本円と日本国債のユビキタス化)」だと考えられる。』

ほう。

『優良な金融資産である日本国債の使い勝手の良さが向上することは、わが国の金融機関に止まらず、国際金融市場に広くメリットをもたらす。現状、日本国債の発行残高は米国債に迫る規模となっているにもかかわらず、国際金融市場では、米国債が担保資産として遥かに幅広く利用されている。この点をポジティブに捉えるならば、グローバルに日本国債が有効活用される余地が大きく残されていると言える。』

なるほど。

『広く目を転じると、こうした決済システムの効率性や利便性の向上、そうした中でのクロスボーダー決済の改善に向けた動きは既に始まっている。例えば、ASEAN+3 では、市場関係者および当局・中央銀行により、域内のクロスボーダー証券決済を改善し、域内証券投資を促進するための取り組みが進んでいる。また、欧州においても、様々な通貨建ての証券を取り扱う国際的な証券決済システムが、担保資産となる証券を世界中で動かすための担保管理サービスを強化しようとしている。わが国では、先ほどもふれたとおり、国債の決済期間の短縮化の実現に向けて、担保管理のための市場インフラの整備が検討されているが、これが実現すれば将来的に日本国債のクロスボーダー決済の改善に活用されていくものと考えている。』

先ほどの所で証券決済のT+1に悪態つきましたが、要はクリアリング機関だけではなく、いわゆるカストディ機関がより多くの取引を集約することによって、決済機関に直接ぶら下がっている参加者が膨大という日本の決済システムの状況が変化することによって証券決済に関しても期間短縮した時のストレスは軽減されると思うのですが、何せこのスーパーゼロ金利の中でカストディーフィーがそもそも捻出できない状況でもありまして、カストディアン専業(カストディが投資銀行もやってたらそらちょっとカストディし難い罠ということで専業がいる方が良かろうと思うのだが)というのがビジネスとして成立する金利環境になって頂かないと中々こうインフラ整備も大変ですなあと思うのですけど、とちと違う話をしましたねすいませんすいません。

『日本銀行の決済システムの改善策は、こうした内外の努力と結びついて、グローバル市場のインフラをより安全で効率的なものにして、日本さらには世界経済の発展に貢献していくことにつながると思う。』

ということで。


・新日銀ネットキタコレ

『5.新日銀ネットとその稼動時間拡大』からこれまた鑑賞。

『新日銀ネットでは、夜間・早朝における決済ニーズにも応えられるよう、稼動時間の大幅な拡大が可能なシステム基盤を構築している。日銀ネットの稼動時間拡大は、日銀ネットと海外決済システムがオーバーラップする時間帯の拡張を通じて、上述した将来のクロスボーダー決済の改善のための基礎となるものである。』

クロスボーダーの時の問題点として日本の場合時差の関係でヘルシュタットリスクを一方的に抱える立場になっちゃいますからね。

『また、新日銀ネットでは、最新の情報処理技術を採用することによって、利用者の利便性を向上させることとしている。例えば、新たな技術の採用により、異なる電文形式等の取扱いを容易とするほか、国際基準のISO20022 の採用等を通じて、内外の決済システムや金融機関との接続性の改善を図っている。こうした機能が活用されていけば、新日銀ネットは、一層のSTP(Straight-Through Processing)を目指す金融機関を支援し、将来のクロスボーダー決済の増大への対応力を高めると期待される。』

STPに関しては更に推進されていくことを願いたい物です。

『新日銀ネットの開発作業は、新システムへの移行を円滑に進める観点から、2段階に分けて進めている(図表8)。本年1 月には、第1段階開発分にあたる、金融調節(オペ)や国債の入札関連事務等について、国際銀行協会の会員金融機関を含む関係者のご協力により、予定どおり稼動を開始し、順調に稼動を続けている。皆様のご協力にあらためて感謝申し上げる。全面稼動となる第2段階では、日銀当座預金や国債の振替えなど主要な業務の移行を予定しており、2015 年秋から2016 年初までの間を目途に稼動を開始する予定である。』

ということであります。


・なお金融政策に関しては週明けにでも

ちなみに金融政策に関しては「フォワードターゲット」の話をしているのと、まあ佐藤さん従来からそういう話をしていますが、物価を無理繰り上げれば良いのではなくて問題は経済の実力を付けることだろうという石田さんの先ほどの講演や会見と通じる話をしておりまして、そういう意味では今後QQEの大風呂敷をどうするという話になった時には政策委員会の中で素敵な議論になりそうな悪寒。

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2013/12/06

○佐藤審議委員会見から少々

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1312b.pdf

・追加緩和に関する質疑

質問が長いよ。

『(問) 本日の講演に関していくつか質問します。まず1 点目は、講演の中で、「追加的な緩和手段は仮にあるとしても期待の転換を図るという点においては逆効果となりかねない」とおっしゃっています。「あるとしても」という言い方で、何となくニュアンスは伝わってくるのですが、佐藤委員ご自身は、仮に手段があっても限定的で、しかも効果も限定的だとお考えなのか、それとも2 年で2%の物価目標の実現を確かなものにするために、有効な追加的な手段があるとお考えなのか、教えて下さい。』

『2 点目は、「上下双方向のリスクを点検し、必要な調整を行う」とおっしゃった点です。黒田総裁もこれを何度も繰り返しておられますが、佐藤委員の想定する下振れリスクというのは、リーマン・ショック級のショックであって、経済物価見通しが小幅修正されるといった些細な話ではないとおっしゃっています。つまりこれは、リーマン級のショックでなければ追加緩和は想定できないし、仮にそういうショックでない時に追加緩和が提案された場合には、反対するというお考えなのかどうかというのが2 点目です。(以下割愛)』

この後実は3点目もあるのだが話題がちょっと変わるので後ほど。いやあの丁寧に質問していて質問の趣旨が分かりやすいのだが質問を3回(または2回)に分けるというのはダメなのか??

おかげで答えも長い。

『(答) 1 点目の質問は、講演の中で、「追加的な緩和手段は仮にあるとしても期待の転換を図るという点では逆効果になりかねない」と申し上げた点に関してですが、若干補足させて頂きたいと思います。』

4月追加緩和と連呼している何とかストの皆様におかれましては目を皿のようにご確認いただきたい。

『まず、私どもとしては、そもそも4 月4 日に「量的・質的金融緩和」を打ち出すことによって、相当思い切った措置をとったつもりです。よく知られているように、日本銀行は国債の新規発行量の7 割超を買入れるということを行っていますが、その際、ある程度のフィージビリティーを確認し、これ以上買えるかどうかというギリギリの判断をした上で、今の買入れ額を決めています。そういう点では、総裁も申し上げている通り、打つべき手は全て打ったというのが、4 月4 日時点の判断です。その時点での判断は、足許も特に変わっているとは思いません。』

そういうことですな。

『追加緩和手段ということが、最近マーケットでよく取り沙汰されていますが、ここから先、例えば4 月4 日に打ち出したような政策を新たに打ち出すことによって、マーケットや経済全般、あるいは人々の予想形成に与えたものと同規模のショック、ないしはそれを凌駕するようなショックを与えることができるかというと、それはやはり、私としては難しいのではないかと思っています。そういう意味で、追加緩和手段の効果は限られるのではないかと申し上げたわけです。』

次に追加を実施すると結局いつもの「逐次投入」に戻ってしまうでしょという事ですし、大体からして消費税増税の影響について検討した上での「必要な政策は全て投入」なのですから、増税の影響が意外に大きくて見通しが大きく下振れるという話になったら追加措置はアリエールでしょうが、増税の影響に対してプリエンティブに対応するというのは「異次元緩和実施前の日銀ドクトリンに戻る」ということになる訳で「期待に直接働きかける」という異次元緩和政策のポイントからずれているんですよねえ。

『もちろん、これは、効果が限られるからといって、あらゆる追加緩和手段を排除するということを申し上げているわけではありませんので、念のため付言します。』

一方で初めからやらないというとそれはそれで期待に働きかける政策という意味では何となくプットオプションがありますよ的な見せ方も必要だからこういう話になる、っつーことです罠。

『2 点目のご質問は、必要な調整を行う際の下振れリスクの程度に関して、この下振れリスクというのは、例えばリーマン・ショックや欧州債務危機に匹敵する、国際金融資本市場を揺るがすような大きなショックでなければならないかという点についてです。』

ふむ。

『もちろん、下方リスクの大きさや波及の程度をどう評価するかということは重要な問題だと思いますが、それ以上に重要なことは、2 年程度で2%の「物価安定の目標」を実現していく上で障害になるような下振れリスクが出てくれば、何らかの対応を行う必要が出てくる可能性はあるということです。』

『重要なことは、2 年程度で2%が見通せる状態になるかということを判断基準にしたいということであって、そこが揺るがされるような事態になれば、何かを考えなければいけないということです。(以下割愛)』

仰せのとおりですな。つまり現状では「2年程度で2%が見通せる状態」に向けて順調に経済物価情勢が推移している、というのが(佐藤審議委員の見解は別ですけれども)日銀の中心的な見解になっている訳でして、その状況の中で何の必要があってプリエンティブに対応しないといけないのか全くもって意味が分からないですな。いやまあ追加緩和ガーと言っている何とかストの皆さんの経済物価見通しとして、ここから来年の1−3で世界経済が大コケしてもうエライコッチャなので追加緩和が必要になるでしょうというのであればそれはそれで筋が通っているのですが・・・・・・・・・・

#まあそういう点では気になるリスクも無い訳でないが


・日銀資産の積み上げに関して

先ほどのクソ長い質問の後半部分。

『(問) (前半割愛)3 点目は、「マネタリー・ベースの積み上げには相応の不確実性がある」とおっしゃった点です。マネタリー・ベースの積み上げが困難になった時には、どのように対応するのでしょうか。黒田総裁は、2 日前の名古屋での講演で、マネタリー・ベースの本年末、来年末の見通しというのは期限ではないと、先行きもこのペースで増やしていくということを示唆されています。マネタリー・ベースを積み上げていく上で、長期国債の買入れで札割れが起こって資金供給が難しくなる可能性は低いと思いますが、短期国債の買入れで資金供給が困難になる可能性は十分あると思います。その場合に、短期国債でマイナス金利での買入れを行うとか、長期国債の買入れを今以上のペースで増やすとか、あるいは量的・質的金融緩和の枠組みそのものを見直すとか、いくつかの対応があると思いますが、その点をどのようにお考えか、教えて下さい。』

で、そのお答え。

『(答) (前半割愛)3 番目のご質問は、マネタリー・ベースの積み上げに関して、不確実性があるのではないかということです。これはその通りだと思います。』

キタコレ。

『本年に関しては、年末の見通しである200 兆円はほぼ射程圏内に入ってきていますが、来年に関しては、年末に向けて270 兆円を積み上げるわけです。これは、講演でも述べたように、マネタリー・ベースの規模が大きくなればなるほど、その時々の金利情勢や応札する金融機関の金利観などによって色々と影響は出てくるので、積み上げの不確実性は高まるだろうと思います。』

つまり・・・・・・

『そういう点で、マネタリー・ベースの水準が高まれば高まるほど、この達成に向けた不確実性は出てくると思いますが、ご指摘のように、短期の資金供給は、9 月に一時期、期末要因ということもあって短期金利が急低下した際、持続性が危ぶまれるような局面もありました。』

10月1回目の決定会合議事要旨では「一時的」ということで片付けられていた短期国債市場の金利ヒャッハー低下でございますが、このように「持続性が危ぶまれるような局面もありました」という認識を示して頂いているのは心強いですな。

『今後の対応方針について、マイナス金利で買い入れることや、長期と短期の資金供給のアロケーションを変えることがあり得るかというご質問だったと思いますが、私どもとしては、先行きの金利情勢等々を睨みつつ、その場その場で柔軟にオペレーションを考えていくということに尽きるのではないかと思います。既に、執行部には、ある程度のオペレーションの柔軟性を授権していますので、とりあえずは、その柔軟性の範囲内で執行部に考えてもらうということですし、もしその柔軟性を超えるような範疇のことが出てくれば、政策委員会の中で何らかの議論が必要になってくる可能性もあると思います。まずは、オペレーション面における色々な工夫の中で対応していけばよいのではないかと思います。』

金融市場局と調節課が頑張ってくださいと言うことですねわかります(><;

・・・・・・・てかまあこういう風にオペレーションのフィージビリティーに対して認識を示している方が政策委員会の中にきちんといるというのが把握できた点でまあヨロシですなという所でして、どうもこう全体的にはフィージビリティー本当に考えているのかというのが怪しげな感じしか漂ってこないのは来年以降の政策どうなりますねんというのを考えた際に色々と気になる部分ではあります。


・物価安定目標の定義に関する話

この質疑も幾つかあったのですがその中から2つ引用します。

『(問) 「現在の金融政策は、様子をみる段階である」というご見解と、先日の展望レポートについて、「目標設定は正しいけれども、見通しとして2%というのは難しい」というご見解との整合性ですが、佐藤委員は、端的に言って「政策効果の波及には、もうちょっと時間がかかるだろう」というお考えなのでしょうか。』

という質問なのですが、物価安定目標の定義に関する話になっているので答えを引用。

『(答) 私は展望レポートの物価の見通しの記述には反対票を投じましたが、その一方で、政策に関しては、とりあえず足許はwait&see のスタンスで、現状の「量的・質的金融緩和」の効果波及・浸透を見守っていくべきだと考えています。両者は特に矛盾するとは考えていません。』

ほう。

『なぜならば、2%の「物価安定の目標」は、私自身の理解としては、先程も申し上げたように、リジッドに目指すのではなくて、ある程度の幅をもってみるべきだということです。また、もう1 つは、2%という「物価安定の目標」を、実際の統計の結果で評価するのか、あるいは、そういった状況が見通せるという状況であればよい、すなわち「フォーキャスト・ターゲティング」の考え方で評価するのかという問題もあります。』

でまあ現状の物価安定の目標に関してはその辺が微妙に曖昧になったままだったりします罠。

『私としては、リジッドに、実際の統計の結果として2%がピンポイントで出てくるということが、政策の究極の目標であるとは考えていません。実際、仮に2%がピンポイントで出たとしても、それを持続させることは不可能です。そういう点では、何よりまず、全般的な経済状況として2%を見通せるかどうか、あるいは2%のパスに乗っているかどうか、というところの見極めが重要であって、今はその見極めをしている段階ということです。』

基本的には「フォーキャスト・ターゲティング」ですな。

『展望レポートについては、確かに物価に関してより慎重な見方であるということで反対票を投じましたが、それと現在の私どもの政策スタンスとは、特に矛盾するものとは考えていません。』

なるほど。で、次の質疑から。

『(問) 2 点お聞きします。先程、2%の物価目標の上下に一定のアローアンスがあるということについて、「政策委員の間でもある程度の共通認識がある」とおっしゃいました。ただ、アローアンスの幅についても共通認識があるのかどうか。想像するに、岩田副総裁などは極めて狭いレンジで、広くてもプラスマイナス0.5%ぐらいであれば許容範囲ではないかと思っているのではないかと想像するのですが、佐藤委員はその程度なのか、それともちょっと大きいとお考えなのか、それから他の方はどうなのか、これが最初の質問です。(以下割愛)』

『(答) まず、1 点目の質問は、アローアンスについての共通認識があるかどうかということですが、アローアンスの幅に関して、現時点で政策委員会の中で認識の擦り合わせを行っているということはありません。』

ふむ。

『ただ、それ以上に重要なことですが、実際に統計として観測されたインフレ率に基づいて政策を評価していくのか、あるいは2%を目指すパスに乗っていればよいと判断するのかどうかというところは、委員によって意見の違いがあると感じています。』

つまり実は物価安定の目標の定義部分で微妙にフワフワした部分があるというのが現状だったりするっつーことで。

『これはやはり、アローアンスの議論と密接に関連してくると思いますが、今は敢えてそうしたコンセンサスを形成する必要はないと考えています。すなわち、4 月4 日の「量的・質的金融緩和」が始まってから、そもそもまだ8 か月ということで、政策を評価するにはまだ早すぎるということです。将来的には、こういった物価安定目標の考え方を――それぞれの委員でおそらく幅を持って同意していることだと思いますので――、擦り合わせることが必要になってくる、あるいは違いが表面化してくるという可能性はあると思います。(以下割愛)』

ということでして、まあ来年のどこかの時点でこの問題で話がややこしくなる罠と思うのでした。


・海外のディスインフレがどうのこうの

先ほどの質問の後半から。

『(問)(前半割愛)もう1 つは、欧米のディスインフレの話ですが、もし欧米でも、2%を下回る低い水準の物価が定着したような場合には、それでもなお日本だけが2%を目指すということが正しいのかどうか。これは大きな議論になってくると思いますが、その点はどうお考えでしょうか。』

で、その答えですが・・・・・・・・・

『(答)(前半割愛)次に2 点目の質問は、欧米諸国のディスインフレ傾向が持続した場合には、ということですが、これは仮定のご質問ですので、なかなかお答えするのは難しいと思います。ただ、私としては――これは就任会見でも申し上げたことですが――、まずは1%を目指すということが基本であって、1%を目指せばその上で2%を目指すかどうかということを改めて考えればよいのではないかと思っています。』

ほほう。

『足許は、消費者物価指数のコアが前年比で既に0.9%まできており、おそらく1%台乗せは時間の問題となってきているのではないかという状況です。そういう意味では、1%というのは、理由はともあれ十分見通せるようになってきている状況です。』

(・∀・)キタコレ!

『そういう中で、さらに上を目指していくと、先程も申し上げたように、基本的にはリジッドに2%ということではなく、2%を目指すパスに乗っているのかどうか、つまり先行きの物価の経路が望ましいパスに乗っているのかどうかということを判断していけばよいのではないかと思っています。』

なるほど。

『その際、欧米のディスインフレ傾向というのは、当然考慮に入れるべき変数の1 つです。ただ、FRBもさることながら、特にECBに関して、先行きの物価見通しを引き下げた上で一段の金融緩和を行っていますので、こうした物価の下落を長期化させないという意思が感じられます。仮定の質問にお答えするのは難しいですが、いずれにしても、日本銀行としては、引き続き、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、邁進していくということに尽きるのではないかと思います。』

まあ期待に働きかける政策を実施しているからここは大人の対応的な説明になっていますなあ(^^)という感じでございまして、今の所海外の中央銀行は2%の物価目標に対してミートさせるような政策運営を行っているし、従来物価の弱含みをどちらかというと放置プレイ的だった欧州、米国の中銀が最近は物価に関する注目度を引き上げ(特にECBはその為に利下げを実施した訳で)ているのは、引き続き2%水準を目指すべき水準と認識しているという事ですね!!!というような感じで話を纏めていますな、うんうん。

しかしその場合に実は欧米の目標とする物価水準が経済の実力に対して過大だった時にどういう事になるのか、というのも中長期的には考えておく必要があるかもしれませんな、市場の中の人的には。

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2013/12/05

お題「佐藤審議委員講演は多岐にわたる論点を示していて実に興味深い件について」

知る権利ガーとか吹きあがる(公聴会実力阻止とか無駄な所で頑張る皆さんは資源の無駄遣いだわと思うのだが)以前に、この法案審議してる中で後から法案の骨格が変わるような話がコロコロ出てくるザル状態ってゆーのは法案そのものが赤点再履修レベルだろと思うのだが何でここまで強引に通そうとするのですかねえ。安倍ちゃんの政治資源は第三の矢に使っていただきたいのですが・・・・・・・・・・・

http://mainichi.jp/select/news/20131205k0000m040100000c.html
秘密保護法案:ドタバタぶり露呈…参院委審議
毎日新聞 2013年12月04日 23時33分(最終更新 12月05日 00時39分)

そもそも「次官級会議」が何で第三者機関になるんだよという気がするが。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2013120500059
与党、きょう午後成立の構え=民主、森担当相問責検討−秘密法案
(2013/12/05-04:54)

金曜じゃなくて今日の参本でやるとな。第一次安倍内閣いやまあどうでもいいです。

・・・・・という微妙にどうもねえという話はさておきまして。


佐藤審議委員の講演が面白かったというか、論点が色々と呈示されていて非常に興味深いという感じでして、これまた素晴らしい講演でありました。ただ今回の講演論点大杉じゃわという所でして(^^)、一回で全部読めるのかと今から恐れるのでありました(ってまあ前日から書き出せば良いのですが師走ですから汗)。

#なお結局間に合った模様^^;

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko131204a1.pdf
わが国の経済・金融情勢と金融政策
── 函館市金融経済懇談会における挨拶要旨 ──


○多くの論点を呈示した講演(挨拶)である

ということでまあ金融政策に関する話と経済に関する話について多岐にわたって論点を呈示しているというのが今回の講演なのですが、物価見通しの所では執行部ベースの見解とマッコウクジラでございますし、良く良く見ると経済見通しの所や金融政策の論点部分では木内さんともマッコウクジラな部分がありまして、こらまた佐藤さんも独自論点で突っ張って行きそうな悪寒がするのでした(^^)。

ちなみに講演テキスト本文は13ページ(最初と最後の挨拶みたいな部分を除くと実質12ページ)なのでどこかの誰かさんの講演などよりは相当短いのですが、興味深い論点の量では圧倒しているのは何故なんでしょうか。

ということで順繰りに読みつつ論点を見て参りませう。


○海外経済見通しそのものはそんなに弱い訳では無かったりする

最初が『2.最近の経済・金融情勢』ということで経済物価情勢のパートなのですが、海外経済に関する最初の小見出し『(世界経済見通し)』からもう論点満載ですよ奥様(^^)。


『世界経済の見通しは、本年夏場にかけて国際金融資本市場が不安定化したことから一時やや慎重化したが、国際金融資本市場もなお神経質ながらもひと頃に比べて落ち着いてきており、足許では徐々に改善しつつある。』

ふむ。

『やや詳しくみると、本年5 月下旬頃より、米国の金融政策を巡り、投資家の間で、米国連邦準備制度理事会(FRB)による資産買入れの早期縮小観測が強まったことを契機に、一部の新興国でトリプル安が進展するなど国際金融資本市場は不安定化し、このところ下方修正が続いていたIMF の世界経済見通しは新興国を中心に10 月に一段と引き下げられた(図表1)。見通しの引き下げが新興国中心で、先進国は全体として据え置かれた点は、先行きの世界経済の姿について、リスク面を中心に一定の示唆があるように思われる。』

ということで、IMFの世界経済見通しの引き下げについては先日木内審議委員も講演で指摘していましたが、木内さんはこの点について警戒的な説明をしていましたが、割と佐藤さんの説明は普通な説明になっておりまして、下振れ全力警戒という格好では無く読めますの。

『すなわち、目先の世界経済の見通しについてみると、米国経済は家計のバランス・シート(B/S)調整の進捗や住宅市場の改善を背景に緩やかながらも回復経路を辿っており、欧州経済は財政緊縮路線の修正や企業・家計マインドの底入れにより景気は持ち直しに転じつつある(図表2)。中国経済も、当局が経済成長の質を追求しつつも、景気の底割れを防ぐため小規模な経済対策で景気下支えの姿勢を示していることから、景気拡大ペースは、夏場以降、安定してきている(図表3)。』

『新興国市場をみても、概してなお神経質な展開が続いているものの、FRB の資産買入れ規模の縮小の後ずれから、ひと頃に比べれば落ち着いている(図表4)。米国や欧州景気の改善、中国の安定成長の範囲内での上向きな景気などは、韓国や台湾などにも徐々に好影響を及ぼしつつあることもあって、目先の世界経済の見通しにやや明るさをもたらしている。』

先般の木内さんの説明だと新興国がオッペケペーな点を全力警戒している感じでしたが、佐藤さんは先進国が比較的堅調に推移する中で新興国のあばばばばーがカバーされるんじゃないですかね的なニュアンスで、そもそも経済のリスク認識部分でニュアンスが違いますなと。


○佐藤さんの問題意識は物価の構造的な部分ですな

で、その海外経済に関する話の続きで早速論点キタコレであります。まあ小見出しの通り。

『また、中期的には米欧の最近のディスインフレ傾向や潜在成長率低下の可能性を懸念している。』

ディスインフレに潜在成長率低下の可能性と来ましたよ!!

『前者のディスインフレ傾向は、足許欧州でとりわけ目立ってきた(図表5)。背景として、一般に昨年のエネルギー価格上昇や付加価値税増税の影響剥落が指摘されるが、それ以外にも、周縁国の一部にみられる賃金の下落、金融機関などのバランス・シート調整、資産価格低下を映じた資金仲介機能の低下やそれらの影響も含めた実体経済の低迷など、90 年代以降の日本のデフレーションと共通する要因も見受けられる。』

>90 年代以降の日本のデフレーションと共通する要因も見受けられる
>90 年代以降の日本のデフレーションと共通する要因も見受けられる
>90 年代以降の日本のデフレーションと共通する要因も見受けられる

さらにこの次の部分も重要でして・・・・・・・・・

『こうしたディスインフレ傾向は今のところ短期の予想インフレ率に幾分影響を及ぼしてきてはいるものの中長期の予想インフレ率には影響せず、中長期の予想インフレ率は、米欧ともに2%程度で安定しているとされる(図表6)。』

で、この次の一文重要ね。

『しかし、日本の経験に照らせば、低いインフレ率が長く続くことで人々の予想が変化し、中長期の予想インフレ率も適合的に低下するリスクがあるように思われる。』

キタコレ!!!!!

『米国では、今のところ欧州ほどデフレ懸念は強くないようだが、シェールガス革命によるエネルギー価格の低下もあり、インフレ率はこのところFRBの見通しを下振れ続けているだけに、同様のリスクを念頭に置く必要性を感じている。』


でもって潜在成長率低下の論点ですが。

『後者の潜在成長率について、先進国では労働投入や技術革新のテンポ鈍化を背景に90 年代以前より幾分低下した可能性が各方面から指摘されている1。』

ほうほう。

『新興国でもリーマン・ショック以前との対比で足許の成長が見劣りする点について、単に循環的なものか、あるいは構造要因に根差すものなのか様々な議論のあるところである。仮に潜在成長率がさほど低下していないのであれば、足許の米欧のディスインフレ傾向は設備ストックや労働市場に残存するslackを反映したもので、先行きslackがなくなっていくとともに、ディスインフレ圧力は縮小に向かうことになる。』

『一方で、足許、潜在成長率が低下したことで自然利子率が低下し、それと整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る。』

>整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る
>整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る
>整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る
>整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る
>整合的なインフレ率の水準も低下したとの見方もあり得る

ということでここもキタコレでありまして、まあその先の説明ではそこまでの話はしていないですが(ま、今2年で2%をやろうという中でその話をすべきではないという事でしょうけれども)、これってつまりそもそもという目標設定がグローバルに考えても妥当なのかという論点につながる部分でありまして、一方で実は昨日長くなるのと時間が無かったのでネタにしなかった一昨日の黒田総裁会見での総裁の話がありましてですね・・・・・・・・・・・・・

以下3日の黒田総裁名古屋での記者会見の発言を引用しますね。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1312a.pdf

『(答) 政策委員会9人のメンバーの中で、それぞれの経済の見通しなど色々な意見があることは、常にそうです。その中で、大勢見通しは、3か月に1回示していますが、それを見て頂くと分るように、4月、7月、10月とあまり変わっていません。従って、何か特別に全体として物価見通しについて、2%を2年程度での達成が難しくなったとか、その達成は難しいのではないかという意見が増えたとは思っていません。』

>その達成は難しいのではないかという意見が増えたとは思っていません

『なお、2年程度で2%という「物価安定の目標」を修正する必要もありませんし、そのつもりもありません。ちなみに、ご案内の通り、2%という「物価安定の目標」は、ほとんどの先進国が採っており、日本銀行が本年の1月に2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現することを決定したのは、ある意味で、遅きに失したとまでは言いませんが、各国からみて、遅かったわけです。2%の「物価安定の目標」は、いわばもうグローバルスタンダードになっています。』(前段とここまで上記URLの総裁会見より)

>2%の「物価安定の目標」は、いわばもうグローバルスタンダードになっています

・・・・・・・・・もうね、黒田総裁がこういう話をしている一方で佐藤さんは結構なマッコウクジラな論点を堂々呈示しておりまして、まあその現在の日銀執行部の社畜系と申しますか何と申しますかなやれと言うならやるんだよ的なアプローチでは無く、エコノミストとして考えた場合にどうなのよというアプローチで迫る佐藤審議委員(木内さんもそうですけど)という図でありまして、これってそもそもの思想背景がだいぶ違いますので、中々こう足並みが揃うという風にはならないなあと思うのでありました。

で、この次の段落が微妙に端折った書き方になっているので結局どういう「興味深い」なのかがイマイチワカランチ会長なのだが誰か判ったら教えてジェネラル!

『このように、潜在成長率の見方次第ではインフレの先行き、ひいてはマクロ政策への含意は変わり得る。その意味では、先述のFRB による資産買入れ縮小を巡る一連の情報発信の変遷は注目に値する。』

ふむ。

『FRB は失業率とインフレ率を主要なベンチマークとしながら、実際のインフレ率が長期的な目標水準に達していないにも拘らず、このことに当初あまり重きを置いていないように見えた。もっとも、その後9 月の資産買入れ縮小見送りの理由として、全般的な経済状況や財政問題と並び、長期的な目標水準に達していないインフレ率を挙げていたことは興味深い。』

『また、欧州中央銀行が11 月の政策理事会でインフレ率の想定以上の低下と物価見通しの引き下げなどを理由に、利下げに踏み切ったことも同様の文脈で興味深い。』

『先進国の中央銀行は、低インフレ下の最適な政策ミックスの模索過程にあるが、それは今日に至るまで日本銀行が辿った道筋に似てきているように思われる。』

これは構造的に適切なインフレ率が低下している可能性についてなのか、それともそうでは無くて潜在成長率の低下は大きくないという認識を持っているという事なのかが微妙なのですが、最後の一文を見ると「現在主要国の中央銀行が潜在成長率の低下に伴う経済に整合的なインフレ率の低下の可能性を考えている」という意味なのかちょっとワカランチ会長であったぞなもし。


○国内経済見通しはごく普通の説明

次が『(日本経済見通し)』ですが、ここのパートは基本的に展望レポートに沿った説明です。

『日本経済は緩やかに回復している。先行きも世界経済が緩やかな成長軌道を辿るもとで、2 度の消費税率引き上げの影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長パスを描くと想定している(図表7)。』

でもってちょっと飛ばして消費税増税の影響について。

『2014 年度は、当初4-6 月期は駆け込み需要の反動で一時的に経済は落ち込むと見込まれるが、前回1997 年の税率引き上げ時と幾つかの点で環境が異なり、景気の底割れは想定していない。すなわち、@政府が総額約5 兆円規模の景気対策を発動する予定であること、A一部で今年トリプル安に見舞われた新興国は外貨準備の積み上げなどバックストップを整備してきており、アジア通貨危機が起きた97 年当時に比べて負のショックへの耐性を高めていること、Bわが国の金融システムは全体として安定性を維持していることなどもあって、内需が堅調さを維持するなかで、外需も増加していくと見込まれる。』

ということですな。でさらに飛ばしてリスク認識。

『ただし、以上の見通しは国際金融資本市場が総じて落ち着いて推移するという前提に基づく。すなわち、@一旦先送りされたFRB の資産買入れ縮小は先行きスムーズに実施され国際金融資本市場の混乱には繋がらない、A中東では地政学的リスクが燻り続けるが国際商品市況の高騰には至らない、B欧州債務問題も燻ぶり続けるが市場の動揺には繋がらない、C米国は長期間の政府閉鎖や債務不履行などの混乱には至らない、といった点である。以上の前提の一角が崩れれば、国際金融資本市場の混乱などを通じて日本経済に相応の影響が及び得る。』

なるほろ。

『また、個人的には、前述のように米国をはじめ主要国・地域の潜在成長率が近年低下している可能性があるほか、それとの関連で米欧のディスインフレ傾向が続いていることも留意点としたい。』

で、最後の所で個人的にはという先ほどの論点キタコレ!!ですな。


○物価見通しの部分で様々な論点が提示されている件について

次が『(物価見通し)』です。

『既に10 月末の金融政策決定会合の議事要旨などで明らかになっているとおり、私は10 月の展望レポートにおける物価見通しの記述に反対票を投じたので、中心的な見通しをこの場で述べるのは微妙な立場にある。以下では中心的な見通しとの相違点に触れつつ、私自身の見方に即して申し述べる。』

と、こちらの冒頭で思いっ切り話をしていますが、10月2回目の決定会合議事要旨にありましたように、佐藤さんの展望レポートに対する反対部分って物価の所にフォーカスしておりまして、そういう意味では「経済見通しはそれほど変わらないのに物価見通しが違う」という話でありますので、さて何でそういう事になるのか、というのが重要ですな、うんうん。

『まず足許までの動向だが、円安やエネルギー価格上昇のほか、デジタル家電類の下げ止まり等を映じて消費者物価(除く生鮮食品)の前年比(以下、物価)は中心的な見通しに沿う形でこれまで推移しており、既に1%前後に達している。』


・足元物価上昇の持続性

『ただし、為替・エネルギー価格等の前提を横ばいと置くと、この種の物価押し上げ影響は直近7-9 月期をピークに先行き減衰するため、仮に本年前半の高成長による需給ギャップ改善の影響が2014 年度の物価に現れるとしても、フラット化した最近のフィリップス曲線を前提とすれば、物価が1%を大きく超えて推移し続けるとの想定は無理があるように思われる(図表8)。よって、私自身は2014-15 年度の物価見通しについて、政策委員見通しの中央値対比で慎重にみている。』

ということで、そもそもフィリップスカーブが上方シフトしたりスティープするもんかいなというのが足元物価上昇の持続性に関する見方の違いになりますよね、とまあそういう話ですな。



・滞空時間の長い物価上昇が実際の予想物価上昇率を引き上げる可能性に関して

『無論、私の慎重な物価見通しに上振れリスクがないわけではない。すなわち、バブル経済崩壊以降、物価が前年比で1%を超えたのは2008 年の一時期だけで「滞空期間」はほとんどなかった。1%を超えたのも、円安・エネルギー高によるコストプッシュ・インフレによる一時的なものであったため、当時は予想インフレ率も上方にシフトしなかった。』

ですな。

『仮に先行き1%前後の物価上昇率がある程度続けば、家計・企業・市場の期待形成に変化が生じ、予想インフレ率が大きく上方にシフトすることもあり得ない話ではなかろう。これは、先述のように予想インフレ率は実際のインフレ率に応じて適合的に形成される傾向があるとみられるためだ。』

この部分を思いっきり見ているのが現在の執行部である。

『もっとも、それも比較的短期の予想インフレ率のケースであって、中長期的な予想インフレ率が短期間の物価上昇により影響を受けるかどうかは不確実性が高い(図表9)。しかも、過去15 年近く続いたデフレのもとで短期の予想インフレ率も粘着性が高まっている可能性があることを踏まえると、長期はなおさらである。』

ということで、そもそも少々持続した程度で粘着性の高い予想インフレ率が上昇するのかという点について執行部は楽観的にも程があるわヴォケという事ですねわかります。


・BEIの推移について

その続き。

『家計、企業やエコノミスト、債券市場参加者等を対象とする各種サーベイからは全体として予想インフレ率の上昇を読み取れるが、これらの多くは消費税率引き上げの蓋然性の高まりとの厳密な識別が困難である。』

キタコレ。

『固定利付国債と物価連動国債の利回り較差から求められるブレークイーブン・インフレ率(以下、BEI)についても、上述の消費税率の問題があるほか、物価連動国債の市場流動性の低さから流動性プレミアムの変動が無視できない影響を及ぼしているとみられること、インフレ上昇を期待する一部の海外投資家の期待値も反映していること、から経済・市場全般の予想インフレ率を代表する指標として必ずしも適当でないと個人的には考える(図表10)。』

師匠に砲撃を加えておられるようです。

『なお、10 月から発行が開始された償還時の元本保証(フロア)付の物価連動国債のBEI は100bps 程度で推移している。向こう10 年間で計5%の消費税率引き上げを勘案したうえで、BEI がこの程度の水準にとどまっていることは興味深い。』

返す刀で10年物BEIが1%程度にいる件について華麗にスルーしている執行部に砲撃を加えておられるようです。


・賃金が恒常的に上昇する社会においては・・・・・・・・・・

この次の賃金に関する説明がこれまた興味深いのです。

『物価見通しの上振れリスクという点では賃金の動向にも着目している。労働組合がどちらかと言えば賃上げよりも雇用維持を重視するとみられるなかにあって、政労使協議の進展に見られるように政府の後押しで産業界に影響力を有する一部の経営者がこのところベア実施に前向きな姿勢を示し始めたことは特筆すべき変化である。「賃金は上がらないもの」という消極的な期待が前向きに変化するカタリストとして貴重な一歩であろう。』

ということですが・・・・・・・・

『ただし、期待の変化が生じるには、こうしたベアが来春の単年度限りでなく複数年にわたり実施されること、あるいはそうした期待形成がなされることが重要である。』

まあそうですな。でちょっと飛ばしましてこの先の部分が中々興味深いっすよ。

『仮に、大企業中心とはいえ相応の賃上げが実現した場合に起こり得る労働市場の姿についてもテイクノートしておきたい。縦軸に賃金上昇率、横軸に失業率をとった日米の賃金版フィリップスカーブは、仮に日本で相応の賃金上昇が実現した時に労働市場に起こり得る変化を示唆しているようにも見える(図表13)。』

これは佐藤さん以前の講演でも示していましたが、日米の賃金版フィリップスカーブの形状が大きく異なるという話で、今回の指摘はその違いが示す「将来の姿」でありまして・・・・・・・・・・・・

『一般に、米国では、雇用調整を行う際は賃金ではなく労働者を削減し、不採算部門からの撤退を比較的迅速に行う。結果的に、名目賃金は景気循環にかかわらず2〜4%前後の伸びを保ち、経済に超過供給力が温存されにくいためデフレになりにくい構図となっているとされる。一方、これまで日本では解雇による雇用調整は限定的で、人件費の調整は主に賃金の削減によりなされる傾向があった。結果的に、日本では非効率な部門の整理・再編が遅れ、労働分配率が高止まりし、経済の新陳代謝が進まず、超過供給力が温存されやすい構造となっている。このように雇用調整のコストを広く薄く負担しあうことが緩やかなデフレの一因であったとみられる。』

とまあここまでが賃金版フィリップスカーブの形状が異なる含意でして、

『しかし、仮に景気の状態如何に拘らず、日本で持続的なベアを実現していくとすると、企業経営者は特に不況期においては将来の固定費負担増大を意識せざるを得ない。ベアを実現すると同時に、固定費負担の増大を防ぐためには、米国ほどドラスティックではないにせよ、人員削減のインセンティブが高まり、それが結果的に失業率のボラティリティ増大として反映される可能性がある。これは賃金版フィリップスカーブが米国のようにフラット化する(即ち、固定費の増大を賃金ではなく雇用者数で調整するようになる)可能性を示唆する。』

つまりそれはどういう事かと言いますと・・・・・・・・・

『このように考えると、名目賃金の持続的な上昇が実現すれば、家計・企業・市場参加者の予想インフレ率に好影響が及び、人々のデフレ予想が前向きなインフレ予想に変化する、すなわちデフレ脱却の蓋然性が高まる可能性があるのと同時に、失業率の変動も大きくなることによって、雇用調整の社会的コストも高まる可能性がある点には注意する必要がある。』

なるほど。

『賃上げ問題が国民所得のうち雇用者報酬と営業余剰の分配問題に帰着する以上、社会全体での賃上げ実現は相応の経済成長の実現が前提で、フリーランチは存在しないのである(図表14)。』

>社会全体での賃上げ実現は相応の経済成長の実現が前提で、フリーランチは存在しないのである
>社会全体での賃上げ実現は相応の経済成長の実現が前提で、フリーランチは存在しないのである
>社会全体での賃上げ実現は相応の経済成長の実現が前提で、フリーランチは存在しないのである

全くもってご尤もで、デフレを脱却すれば何でもハッピーとか言ってた師匠にしらっと砲撃を加えているような気もしますが、その砲撃云々は別として、確かにまあこういう構造変化が出来るのかというのも大きな問題であって、つまりは気合だけで物価目標達成して適切なインフレ均衡への遷移が出来るのかという点についての課題も提示しているように見えますな。



○金融政策運営の論点について:追加緩和云々とかそれに関連して

・プリエンティブに追加を実施という見通しではありませんが何か?

『経済見通しと政策の関係では、10 月の展望レポートで示した政策委員見通しの中央値をみると、2 回の消費税率引き上げを織り込んでおり、税率引き上げによる経済の一時的な落ち込みを勘案しても2014-15 年度にかけて潜在成長率を上回る高めの伸びを続けることが見込まれる。税率引き上げによる実体経済への影響が需要の一時的なスウィングに過ぎず、かつそれが想定の範囲内に収まると見通せる限りは、それに対してpreemptiveに追加的な政策を発動する必要性は乏しいということになろう。』

ということでまあ話は尽きているのですが、何故か4月に大規模緩和実施とかその手のレポートがホイホイ出てくるのは何なんでしょうかね。

『物価見通しとの関連では、展望レポートの中心的な見通しと市場の見方との乖離は大きく、多くの市場関係者は、将来的な政策委員の見通し引き下げが一段の金融緩和強化のトリガーになるとの見解のようだ。』

だすなあ。

『市場関係者の見方に対して政策当局者が一つひとつコメントすることには若干の逡巡はあるが、誤解を避けるために一言申し上げると、日本銀行としては2%の物価上昇に至るのにリニアな経路を特段想定している訳ではない。』

これ重要ね。そもそも日銀が物価安定目標を達成するパスは従来のグラデュアルなものだけではなく、期待に直接働きかけて結果としてのフィリップスカーブをシフトアップ(スティープも含め)させるものであって、その経過というのはリニアではなく、どこかでジャンプアップが起きるという事になるのですから。

『例えば、展望レポートにおける2014 年度の政策委員見通しの中央値1.3%は2%に至るまでの中間目標ではない。』

ここの所も恐らく何とかストの皆様の中でも市場の中の人でも誤解があるように見えますけど重要ですよん。

『また、そもそも「量的・質的金融緩和」は最初に大胆な政策変更を行うことで期待の転換を図ること、また政策変更の後はwait & see のスタンスでその効果の浸透をじっくり見守ることを意図しており、日本銀行は「包括的な金融緩和」時のような戦力の逐次投入から決別することを明確にしている。』

先ほどあたくしも申し上げましたがそゆこと。

『その点、今は先行きの経済・物価の姿を見据えて政策効果の発現をじっくり見守る局面ということに尽きるのではないかと個人的には考える。』

さらに追い打ち。

『また、我々は4 月4 日に当面打てる限りの政策手段を打ち出したのであり、追加的な緩和手段は仮にあるとしても期待の転換を図るという点では逆効果となりかねない。』

グラデュアリズムからは脱却しているのです。

『無論、日本銀行は「経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」ことを金融政策決定会合後の対外公表文に繰り返し明記しているが、ここでいう下振れリスクとは、私の理解では、リーマン・ショックや欧州債務危機に匹敵する国際金融資本市場の著しい不安定化等、テイル・リスクの示現を意味するのであって、経済・物価見通しが小幅修正されるといった些細な話ではないと思う。』

>経済・物価見通しが小幅修正されるといった些細な話ではない

ということでありまする。


○金融政策運営の論点:物価安定目標に関して

これまた重要な話。

『私は本年1 月の金融政策決定会合で「物価安定の目標」の導入に反対票を投じる一方、4 月以降は展望レポートにおける物価見通しの記述を除き賛成票を投じてきた。これは「物価安定の目標」は柔軟な枠組みであるべきとの理解に基づき、2%を字義通り硬直的に捉える必要はないと考えているためである。』

ふむ。

『この点を敷衍すると、日本銀行は2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する、としている。この「実現を目指し、これを安定的に持続する」ことの意味だが、金融政策の効果発現の不確実性や波及ラグ等を考慮すると、物価の伸びをピンポイントで2%で安定させることは不可能であり、物価目標の枠組みを持つ他の中央銀行と同様、2%の「物価安定の目標」は上下にアローアンスのある柔軟な概念とみるべきである。』

この辺り微妙な表現をしていますが、まあ期待に働きかける政策を遂行している以上、あまり現時点でこの物価安定目標に関する定義でゴシャゴシャするのは望ましくないという事でしょうが、ここの上下にアローアンスがあってピンポイントに着地させる話では無いという辺りは、フォーキャストターゲットという見方を示唆しているように見えますな、うんうん。

『その点、日本銀行は2%の物価上昇を表面的に達成するためにあらゆる犠牲を払うのではなく、国民経済が健全に発展し、雇用情勢の改善が賃金の上昇をもたらすなかでバランス良く緩やかに物価が上昇する状況を目指している。2%の「物価安定の目標」はそうした好ましい状況を示すものとして捉えるべき性質のものと私は理解している。』

まあ本来そうなのですが、最近の執行部はどちらかと言うと(露骨に言うと物議を醸すので明確には言いませんけど)とりあえず足元に関しては良い物価上昇とか悪い物価上昇とかキニシナイ!という感じで、コストプッシュだろうが何だろうがコアコアプラス転換でシンガポール陥落奉祝大提灯行列実施という勢いになっているような説明になっているように見えるのは気のせいですかそうですか。


○金融政策運営の論点:「2年で2%とフォワードガイダンスは本来矛盾する」および気合に関する論点

これまた重要な論点。

『あらゆる政策には効果とともに副作用(コスト)が伴うが、政策効果がコストを上回るとの判断の下で政策は実行される。同様に、「量的・質的金融緩和」は4 月3、4 日の金融政策決定会合議事要旨に示されるように、効果と副作用を慎重に比較考量して決定された。もっとも、効果と副作用の比較考量は主観的な価値判断を含むため、副作用をより重視する立場からは出口の検討なしの政策発動は無謀との批判も聞かれる。あるいは、出口に向かう道筋、すなわちフォワード・ガイダンスをより分かりやすい形で示すべきとの意見も聞かれる。』

さいですな。

『こうした批判や意見は一理あるが、「量的・質的金融緩和」の目的の一つは長期のデフレで委縮した期待の転換を図ることであり、現時点での出口の議論はそうした戦略と矛盾する、いわばマッチ・ポンプ状態を自ら演出することになりかねない。』

確かにそれは仰る通りですが、一応あのそのフィージビリティーとかそういう話は考えて・・・・という話は佐藤さんはさすがに市場にいましたのでその話後で出てきますのでご安心(何を?)くらはい(^^)。

『また、9 月のFRB の資産買入れ縮小見送りに典型的に示されるように、政策の透明性向上の試みと柔軟性の確保はトレードオフの関係にあり、透明性を高めることが必ずしも好ましい結果をもたらすとは限らない。むしろ、中央銀行が発信する情報量が多すぎると受け手がそれらを消化しきれなくなったり、経済・物価情勢が変化したときに中央銀行が臨機応変に対応する機動性が失われることもあり得る。このような考え方から、私の考えでは、日本銀行としては、先行きの経済・物価情勢の変化に応じ、ガイダンスを柔軟かつ適切に示していけばよいと考える。』

とりあえず今はその手の話をするのは時期尚早というのは把握しましたが、先ほどの物価安定の理解に関する論点など、まあ来年は金融政策運営の論点でややこしい事になりそうですな、というかそもそも物価が執行部の見通し通りに上昇しなかったらややこしい事にならないのですが(−−;

で、フォワードガイダンスと「2年で2%」の関係。

『そもそも、日本銀行が現在行っていることはデフレ脱却に向け、2 年程度で2%の「物価安定の目標」実現を目指すという前例のない取組みである。このようにカレンダー・ベースの期限付きで物価を押し上げるという試みは、将来もはや金融緩和が必要でない時点まで緩和を続けることにコミットし、長めのゾーンの金利に働きかけることで、将来の需要を前倒しするという従来のフォワード・ガイダンスの理念とは相容れない。現在の日本銀行の政策はFRB や欧州中央銀行等の採る「伝統的な」フォワード・ガイダンスの概念には馴染まないと考える(図表16)。』

そうなんですよね。これ重要ですので理解するまで良く読むのが吉ですぜダンナ。

『また、フォワード・ガイダンスは、たとえ中央銀行がその政策が必要なくなる時点まで政策を継続すると約束しても、約束はどこかの時点で破られるという動学的非整合性(あるいは時間的非整合性)の問題をはらんでいる。本年5月下旬にFRBバーナンキ議長が資産買入れの縮小の具体的なスケジュールを示した後に国際金融資本市場が不安定化したことは、その端的な一例であろう。』

ですな。

『その点、非伝統的金融政策を採用する主要国の中央銀行はフォワード・ガイダンスの有効性をいかにして確保するかという新たな課題に直面している。果たしてどこまでの範囲で約束すれば、中央銀行はその約束を守ると国民や市場参加者に信じてもらえるか、主要国の中央銀行は模索し続けるであろう。』

ということです。


○金融政策運営の論点:異次元資産買入のフィージビリティーについて

金融政策パートの最後が『(マネタリー・ベース積み上げに向けて)』という小見出し。

『日本銀行は2 年程度で「物価安定の目標」の実現を目指すに当たり、2014 年末までのマネタリー・ベースとバランス・シートの見通しを示している。それによれば、2014 年末のマネタリー・ベース及び長期国債残高の見通しはそれぞれ約270 兆円、約190 兆円である。足許までは見通しに沿う推移となっており、この年末の見通し(それぞれ200 兆円、140 兆円)は射程圏内にある(図表17)。』

とまあこれは行けそうですが・・・・・・・・・・

『ただし、先行きも見通しに沿い順調にマネタリー・ベースを積み上げることができるかどうかは日本銀行のオペレーションに対する金融機関の応札姿勢次第であり、それは経済・金融情勢や現在や将来の金利水準のほか、金融機関のIR 政策上、バランス・シート中でどこまで日銀当座預金の増加を許容するかといった非経済的要因等によって変化し得る。』

ですな。たぶん金融機関が超過準備を決算上アホほど積み上げると「この金融機関は日銀に資金を置いているだけで企業や家計へ資金を流そうとしないのでケシカラン」とか全力で筋違いだわ勘違いだわ間違いだわの批判をする馬鹿のホームラン王が大量に現れるリスクが高いっすからねえ。

『その点、金融機関が既に巨額の超過準備を保有するなかで、先行きのマネタリー・ベース積み上げには相応の不確実性があるし、その水準が高まるにつれ不確実性は高まるであろう。言い換えれば、こうした政策は永遠に続けられる性質のものではない。』

(;∀;)イイシテキダナー

『そうした困難を踏まえつつ、日本銀行は、本年4 月4 日に示したコミットメント達成に向け、万難を排してマネタリー・ベースを積み上げていく所存である。日本銀行の努力を暖かく見守って頂ければ幸いである。』

お、おう・・・・・・・・ナンデサイゴガキアイナノ^^

#おお何とか全部(金懇だから最後に会場の道南経済に関する話があるので全部じゃないが)紹介できましたわ

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2013/07/24

○佐藤審議委員講演ネタの続き:論点が色々とあって非常にオモロイのだが長いっす^^;

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130722a1.pdf

『2.最近の金融政策運営』の所が色々な論点を示していて実に興味深い。

・2%目標はピンポイントではなくより柔軟な物であるという話

でまあその論点なのですが最初から成敗しても良いのですが、とりあえずアタクシ的にオモロスという所を順に並べてみます。まあアタクシの趣味という事で。

『(2%の「物価安定の目標」の意味)』と言う部分は佐藤さんの意見を特に強く反映しているものですけれども、これは将来的な金融政策の枠組みに繋がる論点になり得る話ですので重要だと思います。

『私は、「物価安定の目標」について次のように理解している。一般にインフレ目標政策とは柔軟な金融政策の枠組みであり、インフレ目標導入国でも、目標の達成・未達により機械的に政策を変更するような運営はなされていない。こうしたインフレ目標政策についての理解は同様の枠組みを採用する中央銀行の間で既に共有されている。同様に、2%の「物価安定の目標」を掲げる日本銀行の金融政策の枠組みも柔軟なものであり、2%をピンポイントで達成することを目指すものではなく、2%を「安定的に達成」することに主眼を置いたものと私自身は理解している(図表9)』

という事で、まあ元々佐藤審議委員の場合はこの後に言及しているように「2年でアクチュアルに2%の物価上昇率達成は厳しいでしょ」という見方ですな。恐らくは市場のエコノミストなどのような方々の予想も「2年で2%は無理無理(除く消費税)」という話だと思うのですが、問題はその辺りが見えてきた時にどういう話になるのか、という事であります。つまり・・・・・・・・

『ここで「安定的に達成」することの意味だが、金融政策の効果波及までのラグや不確実性を勘案すれば、そもそも2%ピンポイントで物価を安定させることは不可能で、上下に一定程度の変動が許容される幅(アローアンス)があると考えるのが自然であろう。アローアンスをどの程度みるかは政策委員間で多少見解の相違があるかもしれないが、私自身は2%を中央値としてある一定の範囲内で物価上昇率が安定する見通しが立てば、「量的・質的金融緩和」の主要な目的は達成できたと評価できるのではないかと考えている。日本のインフレ率のトラックレコードを勘案すると、インフレ期待が早々に高まらない限り、2 年程度で2%の「物価安定の目標」をピンポイントで達成する可能性は必ずしも高いとは言えない。しかし、「物価安定の目標」があくまでもこうした一定のアローアンスをもった柔軟な枠組みと考えるのであれば、目標はリーズナブルであるし、達成も可能であろう。』

これ以前の講演(群馬での講演)でもこの論点を示していましたが、つまり2%の目標値に関して「アクチュアルのターゲット」なのか「フォーキャストのターゲット」なのかという論点に繋がってくる話でして、実際に2%に到達しなくても見通しベースで2%というのが中期的に達成できれば良い、という話になってくるかどうかっつーことですな。

『ここで強調しておきたいのは、「量的・質的金融緩和」で目指しているのは、日本銀行法にある「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」である。具体的には、単純に物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済状況が改善するなかで、投資や消費が伸び、企業収益が増大し、雇用・所得環境が改善するなかでバランス良く物価も上がっていく好循環を作り出していくことを日本銀行は目指している。2%というインフレ率を表面的に実現するために「国民経済の健全な発展」を犠牲にすることがあってはならない。』

つまりですな、コストプッシュでのワンタイムエフェクトで物価を押し上げてもそれってサステイナビリティー的にどうよ(まるでルー大柴ですなこりゃ^^)という話なのであって、まあ足元ではコストプッシュなどによりある程度物価上昇するのでしょうが、やはりどう見ても「2年でアクチュアル2%」というのは難しいという状況になった時点で「やはり2年で2%をやる為に無理無理ヤケクソ政策を突っ込んで行く」べきなのか「フォーキャストターゲットという観点で考えてもう少し柔軟に見ていく」のかという話になる筈でして、その際にまあフォーキャストターゲットという観点に戻るような姿勢にしないと、無理矢理のヤケクソ政策による弊害を避けるという点で必要じゃネーノとかそういう話ですよね、と勝手に話を展開させてみましたがどうでしょうかね。


・過去の政策との連続性について

この部分もオモロイ。

『(「包括的金融緩和」から「量的・質的金融緩和」へ)』という所もオモロイ。

『日本銀行は本年3 月まで「包括的金融緩和」を進める一方、正副総裁就任直後の4 月に「量的・質的金融緩和」へと政策転換した。4 月の政策転換に際し全会一致で賛成票を投じた政策委員の投票行動については様々な疑問や批判があることは承知している。』

さいですな。

『ただし、私自身の理解では、日本銀行にとり4 月4 日の金融政策決定会合での決定と同様に、2%の「物価安定の目標」を決定した今年1 月の会合での決定も大きな決断であった(図表6)。』

まあ1月は木内さんと佐藤さんは反対していましたが(^^)。

『この間の議論の詳細は既に公表されている金融政策決定会合の議事要旨に譲るが、1 月の「物価安定の目標」の決定後、正副総裁交代までの2-3 月の会合では、「物価安定の目標」を所与として、その達成に向けた緩和強化策に議論はシフトし、買い入れる国債の年限延長や長期国債買入れオペと資産買入等の基金との統合などについて問題提起がなされた(図表7)。』

白井さんのイミフ提案が話をややこしくした面があるのですが(^^)。

『こうした議論を受けた 4 月4 日の一連の決定は「異次元の金融緩和」と称されるが、緩和策の中身は2001 年3 月〜2006 年7 月の「量的金融緩和」時、及び2010 年10 月〜2013 年3 月の「包括的金融緩和」時のアイデアを多く継承している。例えば、政策誘導目標を政策金利からマネタリーベースとした点は、日銀券発行高がさほど振れないことを前提とすれば政策目標を日銀当座預金残高としていた「量的金融緩和」時のフレームワークと類似している。買入れ対象となる資産は国債のほか、ETF・J-REIT などを含め、「包括的金融緩和」時のものを概ね継承している(図表8)。』

ほほう。

『無論、買入れる国債の平均残存期間を7 年程度としたことにより、必然的に緩和規模は拡大した。しかし、「包括的金融緩和」の最終局面においても、日本銀行は資産買入等の基金の残高を2014 年末で111 兆円程度と見込んでいた。マネタリーベースに換算すると、幅をもってみる必要はあるが200 兆円程度である。確かに、これは現在の「量的・質的金融緩和」下の目安である2014 年末270 兆円に比べれば低いが、それでも日本銀行はマネタリーベースをかなりの規模で積み上げることにもともとコミットしていたとも言える。このように、一連の日本銀行の政策は連続性をもって理解されるべきと考えている。』

まあこの辺は色々と議論がありそうですが、「政策の継続性」を強調するという佐藤さんの説明もその前から政策委員をしている立場としては必要な話でしょうなあと思う次第で、うんうん。


・追加はそう簡単に打ち込まないですよという話

『(「戦力の逐次投入」を避けることの意味)』の小見出しから。

『5 月下旬以降、内外の金融市場が不安定な動きとなるなかで日本銀行が市場安定化のために追加的な措置を行うのではないかとの期待が一部に高まった。』

あの騒ぎは一体全体ナンダッタンダという話ですが。

『ただし、「量的・質的金融緩和」は2 年程度で2%という「物価安定の目標」の実現のため、大胆な金融緩和を一気に行い「戦力の逐次投入をしない」こと、またそれにより家計・企業及び金融市場の期待に働きかけることを狙った点でこれまでの日本銀行の政策とは一線を画している。』

『前者の「戦力の逐次投入をしない」という点は、それまで日本銀行が「包括的金融緩和」の枠組みの下で、景気循環に応じた小刻みな政策変更を行ってきたもののデフレ脱却を果たせなかったことの反省・教訓を踏まえており、その意味はそれなりに重く受け止められるべきである。』

この部分って先ほどの政策の継続性の説明の次に来るものなのですが、つまり今回の異次元緩和に関しては「やっていることそのものは1月の2%物価目標設定からの継続発展版」であるものの、その「運営スタンス」が一線を画したものである、という説明なのですね。

『後者は前者と表裏一体で、現時点で取り得る最大限の政策を打ち出すことで家計・企業や市場の期待の抜本的な転換を狙ったものである。そのためには、最初に市場の期待を上回る大胆な緩和策を打ち出し、あとはその効果を見守ることが肝要で、政策を小出しにすることは却って逆効果となる。』

『同時に、日本銀行は追加策の発動を一切排除している訳でなく、予期せざるテールリスク等が顕在化すれば臨機応変に政策を微調整することを排除していない。』

ということなので、経済に下方ショックでもあれば別だが、そうでもないのに一々クレクレに対応せんわヴォケという話ですね分かります。

『このような日本銀行の新たなスタンスについての市場の理解が必ずしも十分に浸透していないように思われるため、市場参加者との対話を含む情報発信の機会を通じ丁寧に説明していく必要があると感じている。』

まあ市場もそうなのですが、結局のところワカランチンのメディアとかへの説明とか為替などのワカランチンな市場の皆様への説明という話になるので中々ムツカシヤな面もあると思います。


・佐藤さん的には「中短期金利をアンカーさせたい」ようですな

『(国債市場の安定に向けて)』から。

『そもそも「量的・質的金融緩和」は国債市場への政策効果という点において相反する二面性を有する。すなわち、巨額の国債買い入れが国債市場のリスク・プレミアムに働きかけ、名目金利を抑制する一方、政策効果が発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利には上昇圧力が加わる。』

だすなあ。

『「量的・質的金融緩和」導入後の国債市場では、この2 つの相反するベクトルの下で金利が揺れ動き、それがボラティリティ上昇という形で現れた。ボラティリティの高い状態が続くと市場参加者がリスク管理上売り方向に傾きやすく、またそうした動きが一方通行となることで金利上昇が不必要に増幅されるおそれもある。』

さいです。

『こうした国債市場のボラティリティの高まりを受け、5 月の金融政策決定会合では、長期金利安定化策について議論が行われ、弾力的なオペ運営が重要であることが確認された。5 月末にはさらにオペの頻度や金額を見直すなど弾力的なオペ運営の方針を改めて示した(図表5)。』

『その後の6 月の会合では、1 年を超える共通担保オペの導入について検討がなされた。結局、その時点では、共通担保オペについて追加的な措置は必要ないとの結論に至ったが、その主な理由は、日本銀行による巨額の国債買入れによるリスク・プレミアムの圧縮効果は、今後着実に強まっていくことや、当面は、金融調節運営方針(ディレクティブ)の範囲で、弾力的なオペ運営によって対処できると判断したためである。』

で、ここからが佐藤さん独自アイデアの世界と見られます。

『すなわち、現在のディレクティブでは、買い入れる国債の平均残存期間について「6〜8 年程度」という許容される幅(アローアンス)があるので、これを活用して1〜5 年の中短期ゾーンを厚めに買い入れることで同ゾーンをアンカーさせ、それによりイールドカーブ全体の安定化を図ることが期待できる。ディレクティブは「6〜8 年程度」なので、結果として一時的に6 年を多少割り込むことがあっても、私個人の見解としては問題ないと考えている。』

中短期金利をアンカーさせた方が効くという話ですが、一方で「長いのを買う方が効く」という木久扇師匠を始めとした向きの説明もあるので、その辺との見解のズレがどうなっているのかというのは興味があります。


・1年超の固定オペに関しては消極的ですな

で、その続き。

『加えて、1 年を超える期間の共通担保オペの導入については、@日本銀行が金融機関や投資家のポートフォリオ・リバランスを促す目的で現在の政策を進めているなかで、金融機関が国債を保有しやすくする施策を導入することが、無用な誤解を生むおそれがあること、また、A1 年を超える期間の共通担保オペには時間軸に関するメッセージを含んでおり、2 年程度で2%という「物価安定の目標」の実現を目指す「量的・質的金融緩和」の時間軸との関係で混乱を生じさせかねないこと、さらに、B6 月20 日に初めて貸付を実行した「貸出増加を支援するための資金供給」も、ポートフォリオ・リバランスを促すという当初の目的とともに、一部銀行にとっては負債側で最大3 年相当のデュレーションリスクを削減できるという点で1 年を超える期間の共通担保オペと代替関係にあるため整理が必要と考えられること、といった点を総合的に勘案し、現時点では不要と政策委員会は判断した。ただし、市場安定化のためのツールキットとしての意義はあるため、同オペは将来の検討課題として完全に排除したわけではない。』

政策委員会は判断した、という言い方が微妙なのですが、ロジックの説明として見るとまあ普通に消極的なのかな、とは思いますけどどうでしょうかね。


他にも論点有りますが引用大会で大変な事になるのでこの辺で。


○佐藤審議委員会見より

会見は9ページであるのでホッと一息(違)。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1307c.pdf

・どさくさに紛れてコストプッシュの問題点を指摘とな

冒頭の部分でしらっとこんな指摘があるのがチャーミング。

『経済面では、製造業については、電子部品・デバイスなど一部業種における需要の持ち直しなど、改善に向けた動きもみられているというお話があったものの、総じてみれば、なお盛り上がりに欠けるとの印象を持ちました。特に、中小企業では、円安などに伴う燃料費や資材の高騰によって、マージンが圧迫されており、改善に向けた動きが波及していないというお話を伺いました。』

>円安などに伴う燃料費や資材の高騰によって、マージンが圧迫されており、改善に向けた動きが波及していない
>円安などに伴う燃料費や資材の高騰によって、マージンが圧迫されており、改善に向けた動きが波及していない
>円安などに伴う燃料費や資材の高騰によって、マージンが圧迫されており、改善に向けた動きが波及していない

事実そういう事なのでしょうけれどもしらっと言及しているのがおしゃれです。


・さきほどの中短期金利安定化をより詳しく説明

ちょっと引用が長くなり過ぎですので質問は割愛しますが、6年割り込む云々に関する質問があってその回答部分から。

『私個人の見解として、6年を一時的に若干割り込んでも問題ないのではないかというのは――これは金融政策決定会合で何回も確認していますが――、オペレーションを弾力的に行っていくということです。弾力的に行っていくということの背景は、イールドカーブを安定させるためには中短期ゾーンが安定することが必要であって、逆に言うと、中短期ゾーンが安定して、そこがアンカーになれば、10年、20年あるいはそれよりも長期の金利は自動的に安定してくるであろうとの判断があったわけです。』

全くおっしゃる通りで。

『特に中短期ゾーンというと、4月の政策変更直後、あるいは5月の連休明け辺りで金利上昇が激しくなり、特に中期ゾーンが売られましたが、この辺りを中心的に買入れていく、具体的には、3年から5年程度の国債を買い入れています。こうしたことでイールドカーブ全体としても安定していく、あるいは安定化を図ることができるのではないかと思っており、そういう観点で、私は中短期を安定させることが重要と考えています。』

債券市場の中の人的にも違和感が無い(というかそもそも佐藤さんは証券会社エコノミスト出身ですが、直球ストレートで債券系の人でしたから同じような見方になるのは当然ちゃあ当然ですが)ですわな。

『6年を若干割り込んでもよいのではないかというのは、それくらい柔軟で弾力的なオペレーションであるということです。ただし、これは私個人の見解です。』


・2%物価目標の話に関して

同じ質問の回答部分になる(つまり上記引用部分の続きです)のですが。

『2点目の2年で2%のインフレ目標が信認を得られたのではないかというご質問ですが、そもそも2年程度で2%を目指すという物価安定の目標は、1月に日本銀行が機関決定をして、政府と日銀が共同文書を交わして、正式に採択したものです。2%の意味については、本日の講演でも触れましたが、諸外国の物価目標の枠組みと同じように、フレキシブルなものであると理解しています。そうしたフレキシブルな枠組みであるという理解は、政府首脳ともある程度共有されていると私は考えています。』

ふむ。

『それはなぜかというと、消費者物価上昇率を2%のピンポイントで安定させることは、現在の金融政策の技術をもってしても不可能だからです。』

キタコレ。

『金融政策の効果の波及には短くて半年、長ければ1年半とか2年程度のラグがありますので、金融政策の実際の運営にあたっては、そうしたラグを勘案しながら進める必要があり、効果が不透明な中、ピンポイントで2%の水準に安定させることは非常に難しいわけです。』

しらっと「第一の矢の効果は黒田体制以前からの政策効果の波及部分がありますよ」という話もしておりますな(違うか?)。

『そうであるからこそ、今の枠組みは上下に一定のアローアンスのある仕組みとなっており、こうした理解は現政権の首脳とも共有できていると思っています。』

どうなんでしょうかね。

『また、おそらく国民も機械的に物価だけが2%上昇する世界を望んではいないと思います。目指すべきはあくまでも国民経済の健全な発展であり、すなわち経済が回復に向かう中で、重要なのは雇用情勢が改善に向かい、それがさらに賃金の回復に向かい、賃金の回復と整合的な形で物価がバランスよく上がっていくという姿を想定しているわけです。日本銀行としては、まさに、こうしたバランスある、国民経済の均衡ある発展を目指していくスタンスにあり、そうしたことについて国民の理解が進んでいくことを期待しています。』

と言う風に説明していますし、佐藤審議委員の講演での趣旨もそういう事ではあるのですが、一方で「2年で2%行かせる」というロジックの中では「フィリップスカーブの上方シフト」というのがありまして、そっちの理屈ですと「賃金の回復と整合的な形で物価がバランスよく上がっていく」という感じでは無い気もするので、この辺の理屈の落とし前が正直よくワカランチ会長ではございますな。


・そもそも銀行券ルールの一時停止は中長期的財政健全化路線の堅持とバーターな訳で

消費税に関する質問に対する回答は当然の回答なのですが念の為引用。

『消費税率の引き上げに限らず、財政健全化は日本経済を持続的な回復軌道に乗せるための非常に重要なステップであると考えています。私どもは国債のグロス発行量の7割超を買い入れるという非常に大胆な政策を行っていますが、これはまかり間違えれば政府の財政ファイナンスのお手伝いをしているとみられかねないわけで、そうみられないためには、政府の財政健全化に向けた努力が非常に重要になってくると思います。』

この点重要ですな。

『その点、消費税率の引き上げは、財政健全化に向けた重要なステップということであり、その帰趨に注目しています。それから、財政健全化に向けた政府の取り組みを促すという点では、黒田総裁は政府の経済財政諮問会議の議員でもありますので、そうした場で総裁から政府に対して直接意見を申し上げることもできるわけです。日本銀行としては、そうした立場から政府の財政健全化に向けた取り組みを強く促していく、あるいは見守っていくスタンスをとりたいと思います。』

ということでまあこういう説明は日銀として当然ではありますが、まあ念の為引用しておきました。

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2013/07/23

○佐藤審議委員講演である

諸般の事情(単に寝坊)で時間があまりないというのに講演は資料を含めて堂々の49ページ(表紙を含め)となorz

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130722a1.pdf

個別の論点をトピックごとに説明しているので読みやすいですな、うんうん。で寝坊要因により講演テキストの順序を盛大に無視しましてあたくしが最初にほほーと思った箇所をば。


・2%の物価上昇実現に関連する説明に味わいがががが

『2.最近の金融政策運営』という部分が色々と面白いのですが、本当は恐らく最初のネタは市場との対話の部分か2%目標の意義の部分であるべきなのですが、読んでいて最初にほほーと思ったのが『(2%をいかにして実現するか?)』の所なのでそちらをまずは引用(ちと長い)。

『2%の「物価安定の目標」実現のための波及経路(チャネル)として、日本銀行は、@全体的な金利低下圧力と資産価格のリスク・プレミアムを押し下げる効果、Aポートフォリオ・リバランス効果、B家計・企業や市場のインフレ期待へ働きかけてそれを抜本的に転換する効果、を想定している。それぞれについて私の見解を補足したい。』

この前の部分で2%のターゲットについて柔軟であるべき云々という話をしているように、まあ普通にこれまでの説明や展望レポートでの予測分布を考えますと佐藤さんは2年で2%とかそらしんどいでしょという見解と思われますので、そこをどう説明するのかというのが実はワクワクテカテカ。

『@の全体的な金利低下圧力と資産価格のリスク・プレミアムを押し下げる効果は既に述べた通りで、長期国債やETF、J-REIT の買入れを通じてリスク・プレミアムは既に相応に抑制された状態にある。』

『これに関連して、日本銀行が政策の操作目標を短期金利からマネタリーベースに変えたことから日本銀行の短期金利安定へのコミットメントが弱まった、との誤解もみられるが、巨額の超過流動性の供給を通じて短期金利をしっかりとアンカーさせるという日本銀行の方針にいささかも振れはない。』

という話もその前にあるのですが、まあそもそもは従来の政策委員会の皆様ではなくて、総裁と副総裁(のうち木久扇師匠)が「長期金利を下げる」みたいな話を盛大にしていたのにいざ長期金利が上がったら「実質金利ガー」とか「経済物価情勢の改善で金利が上昇するのは自然」とか言い出したので「金利安定へのコミットメントが弱まった」という話になったのであって、誤解させたのはまあ黒田さんです罠という話はさておきまして。

『そもそもマネタリーベースを年間約60-70 兆円に相当するペースで増やすに当たり、年間50 兆円程度の中長期国債の買入れだけでは不十分であり、現在のディレクティブは相応の短期国債買入れないしは短期の資金供給オペを補完的に実施することを暗黙のうちに想定している。短期資産の買入れ規模をディレクティブに明示していないのは、「包括的金融緩和」の経験を踏まえ、短期の資金供給は執行部の裁量に任せる方が、短期金利の変動等により柔軟に対応できると政策委員会が判断しているからである。』

これは仰る通りで、4月の声明文での数字って成長基盤強化や貸出増加支援オペなどで出る分の置きの数字との差分で短期のオペってぶれるのですな。

『一方、日本銀行が2 年程度で2%の「物価安定の目標」の実現を目指すからには2 年後の短期金利はゼロでないかもしれないと市場が受け止め、それが中長期金利に波及することは4 月4 日の「量的・質的金融緩和」導入直後に見られたし、そうした状況は今後も起こり得るかもしれない。』

という相反する話というのはこれまたもうちょっと前でも説明しています。

『この問題に対しては、「量的・質的金融緩和」が含意する自動調整機能により市場が先行きの物価動向に応じて対処することを期待している。すなわち、2%の「物価安定の目標」実現の蓋然性が高まれば、中長期金利がそれを織り込むことはある程度避けられない反面、実現の蓋然性が高まらなければ、中長期金利の水準は抑制され続けよう。重要なことは、その間、日本銀行が買入れを進めることによりプレミアムを圧縮し、経済・物価の先行きの見通しと整合的な水準よりも中長期の金利水準を抑えていくことである。』

つまり「買入をしなかった場合よりも水準が下がっていることが重要で、それによって緩和効果をもたらす」という話なのですが、そもそも買入をする事によって期待を引き上げる分があるので、まあこの話って何とでも言いようがある事でして、そういう意味では実質金利が重要というのはまあその通りですなと思います。導入以前を含む最初の時点で名目金利を下げるような話を散々した(のは総裁ですが)のが話をややこしくしたという訳ですよね。為替市場と違って金利市場は力技だけで全てどうにかできるものでは無い、というのはこの4か月で黒田さんも身に染みたでしょうな。

『これまでのところ、日本銀行による巨額の国債買入れはさまざまな金利上昇要因を抑制してきているし、先行きも買入れが進むにつれてプレミアムの圧縮効果は累積的に強まるとみている(図表10)。』

ほほう。

『Aのポートフォリオ・リバランス効果は日本銀行が金融機関から長期国債を買入れ、巨額の超過準備を供給することを通じて、国債中心の余資運用からより期待リターンの高いリスク資産へのリバランスを促し、実体経済や資産市場の活性化を図るものである。長期国債の買入れの平均残存期間を長期化させたのもこの効果を意識したものである。』

ということで。

『ポートフォリオ・リバランス効果は概ね以下のメカニズムを通じて働く。すなわち、日本銀行による資産買入れが直接的に民間金融機関のバランスシートにもたらす変化をみると、バランスシートの規模は変わらないが、国債等が減少し、その分日銀当座預金が増加するという形で資産サイドの構成が変化する。民間金融機関の資金運用の観点からは、運用資産が減少し日銀当座預金が増加することで、ポートフォリオ全体の収益性が低下するため、収益性維持のために期待リターンのより高い資産にポートフォリオをシフトさせる、すなわちリスク性資産への投資や貸出等を積極化することが期待される(図表11)1。』

脚注1が何気に重要。

『1 その際、気をつけなければならないのは以下の点である。すなわち、民間金融機関が日銀当座預金から期待リターンのより高い資産にシフトさせるとその分だけ日銀当座預金が減少するといった誤解がしばしば見受けられるが、個々の民間金融機関の行動によって日銀当座預金の総量は変化しない。例えば、ある民間金融機関が日銀当座預金から株式へと資産の一部をシフトしても、それは他の金融機関の日銀当座預金を増やすため、日銀当座預金の総量は変化しない。』

まあ未だにこの話って通じてない人多いですよね。余談ですけど。

『このように、日本銀行は巨額の超過準備を供給することで、銀行や生命保険会社、年金基金など主要な投資家の投資行動の変化を後押しすることを狙っている。リバランスの動きが各投資家に広がっていくかどうかはそれぞれの投資家に関わる固有の規制・会計といった制度的要因もあって一概に論じることはできないし、またもとよりそうした変化は一朝一夕に生じるものではないであろうが、私は各投資家がリバランスの制約となり得る制度的要因のなかでも様々な知見を集め、工夫していくことを期待している。』

さて、この部分最後の一文の表現を覚えておきまして次の「期待」の部分。

『Bの期待への働きかけを通じた効果については、一般に、インフレ期待の形成は適合的期待(過去の動向を踏まえて、これまでの期待を徐々に修正しながら、期待を形成すること)の要素が含まれており、日本のように低インフレないしはデフレが長く続いたなかでは、家計・企業や市場のインフレ期待も相応に低めとなっているとみられる。』

『もっとも、現実の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比上昇率は、このところの円安による燃料高や電力料金引き上げといったコストプッシュ要因に加え、薄型テレビやパソコン等のIT 関連財の価格下落がある程度まで進展したことから、足許ではゼロ%となった。このようななかで、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はこの夏場にかけて足許のゼロ近傍からプラスに転じていくことを見込んでいる。』

さいですな。

『現実の物価がある程度持続的にプラスとなれば、家計・企業や市場の期待インフレ率もそれに応じて上方に緩やかにシフトする可能性があろう。』

可能性があろう、ですな。

『内閣府の消費動向調査や日本銀行の生活意識に関するアンケート調査、あるいはエコノミストや市場参加者への各種アンケート調査結果でみた期待インフレ率も、一部は消費税率引き上げの蓋然性の高まりによるものと識別することが困難ではあるものの、既に上昇を示唆するものがみられる。こうした期待インフレ率の変化が現実の物価にフィードバックし、またそれが期待インフレを高めるというフィードバックループが生じることで、中期的なアンカーであるインフレ期待が上向くというメカニズムを日本銀行は期待している。』

>日本銀行は期待している
>日本銀行は期待している
>日本銀行は期待している

・・・・・・・・・・・・先程のポートフォリオリバランスの部分では「私は〜期待している」だったのですが、こちらの期待の変化の部分では「日本銀行は期待している」という表現になっている所が実にこう味わいの深い所でありまして、佐藤審議委員の個人的見解部分の説明をしている筈が何故か「日本銀行は」と書いてあるという事はこれはつまり佐藤さん的には「コストプッシュ起点のフィードバックループがサステイナブルな訳ねえだろ成長力や賃金の上昇が無いと厳しいだろ」と仰りたいものの金融経済懇談会なので政策委員としての矩を派手に外す訳には行かないです罠という事ですねわかります。

などと勝手に解釈してしまったのですが、前の項では「私は」だったのがこちらで「日本銀行は」とあったのに物凄く引っ掛かったのでまずはここをと思いまして引用した次第でありまする(^^)。


・世界経済の先行き見通し&グローバルディスインフレに関して

これまた話がワープしまして講演テキストの最後の部分になるのですが、『3.内外経済・物価情勢』の『(世界経済の先行きとリスク要因)』の部分を注目したかったので引用。

『日本経済の自律成長軌道への復帰の前提として、海外経済が昨年来の減速した状態を脱して緩やかな回復軌道に復することが重要だが、その点ではフィスカル・ドラッグの下でも底堅い米国経済がプラス材料である一方、中国をはじめ新興国にはっきりとした加速の兆しがみられない点はやや気がかりである。改訂されたIMF の世界経済見通しでも、2013 年から2014 年にかけて成長率は徐々に高まる見通しながら、見通し自体は米国も含めこのところ切り下がっている(図表19)。もっとも、新興国の世界経済の牽引役としての影が薄くなるなかでも、頑健性を増す米国の牽引力はしっかりしたものとなることが期待され、全体として世界経済の緩やかな回復軌道への復帰シナリオに大幅な狂いはなかろう。』

ほほう。ということで地域別の見通し。

『米国は、先の4-6 月期は財政緊縮の影響からソフトパッチ気味であったが、足許7-9 月期以降は財政緊縮の影響が限界的に剥落するなかで、堅調な消費者マインドや住宅市場の持ち直しに支えられ、景気は次第に底堅さを増すと見込んでいる(図表20、21)。歳入の好調から債務上限問題が秋以降に先送りされたことも当面のテールリスクを減じる要素と判断している。』

ふむ。

『欧州は引き続き低迷しているが、各国が財政緊縮一辺倒でなくなり、緊縮策に修正の動きがみられること、域外輸出に一部明るさがみられること、また家計・企業マインド面でも改善に向けた動きがみられはじめていることもあり、一段と見通しを引き下げていく局面ではなくなってきている(図表22、23)。』

「一段と見通しを引き下げていく局面ではなくなってきている」ってものは言いようですな、うんうん。

『一方、新興国は米国の資産買入れの早期縮小観測をきっかけに世界的なリスクオフの流れとなるなかで、資金流入ペースの鈍化ないしは流出が生じている点が気がかりである。基本的には、米国において金融緩和の早期縮小が議論され始めた背景に、米国経済が着実に回復を続けていることがあり、そのこと自体は、新興国も含めた世界経済にとってプラスである。もっとも、このような思惑が、急激な資金フローの変化を引き起こし、一部の新興国で景気動向の悪化を招いたり、資金調達面での困難を引き起こすことがないかどうか注意深く見守っている(図表24)。』

新興国の場合はその資本云々以外の要因もあるような気がするんですが・・・・・・・

『また、中国は人口問題や過剰設備問題など構造問題への対処を優先して当局がやみくもに成長を追求しない姿勢が鮮明にみられ、目先成長率が顕著に回復することは期待薄である(図表25)。成長率が8%割れとなるなかでも労働市場が堅調なことは潜在成長率の低下を示唆していると考えられる。このため、当局は成長率が高まらない中でもインフレを警戒している(図表26)。』

ということは更に成長率が抑制される可能性がありますよね、という表現を避けているのか何だかわかりませんが、本当は「その結果として中国の成長率の高まりは想定よりも鈍化傾向になるリスクがある」という結論があるように思えるのですがそこに触れていないのがチャーミング。

『また、6月には、短期金利が一時期急騰する局面がみられたが、そもそも期末にかけて資金需給がタイト化しやすい時期であったことに加えて、信用拡大が急ピッチで進んでいることを受けて、政策当局が流動性リスク管理の強化を促すスタンスを鮮明にしたことが影響したと理解している(図表27)。』

と言う部分も「成長率が一段と鈍化するリスク」の話のような気もするのだがそこは微妙に避けた表現になっているのですな、うんうん。

『もっとも、こうした中国当局の姿勢は成長の質を高め、中長期的には世界経済の安定に寄与するものと考えている。』

まあそれはそうなんですがね。


『以上総じて、先行き、世界経済は米国等での財政面からの下押し圧力が弱まる下で、緩和的な金融環境にも支えられ、緩やかな回復軌道に復するとみている。そうした回復軌道への萌芽として、@グローバルに堅調な家計部門のコンフィデンス、A製造業の良好な出荷在庫バランス、B欧州における財政緊縮路線の軌道修正、といった点を指摘できる。地域別には住宅投資の回復に支えられた米国の牽引力に着目している。また、緩和的な金融環境という点では、金融機関の資金調達環境の改善などが挙げられる。欧州債務問題の不透明感は強いものの、総じて国際金融資本市場の動揺と世界経済の大きな下振れにつながるテールリスクが後退したことに加え、このところの一次産品価格の落ち着きもプラス材料である(図表28)。』

なるほど。で、リスク要因の話なんですけどね。

『先行きのリスク要因としては、先に挙げたFRB の資産買入れペースの鈍化に伴う新興国をはじめとしたグローバルな金融市場への影響と、世界的なディスインフレ傾向に着目している。』

6月決定会合議事要旨に出ていたグローバルディスインフレキタコレ!!!!!!

『金融市場への影響については、前述のようにFRBの政策意図が市場に浸透していくなかで世界経済の成長拡大とともにその影響が次第に吸収されていくことが期待される。一方、世界的なディスインフレ傾向については、特に米国の足許のインフレ率低下が、FRB がみているように一時的なものかどうかに注目している。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・うーむ。

いやね、この世界的なディスインフレ傾向に関する佐藤審議委員の見立てというのを詳しく解説して頂きたいなあと思う訳ですが、この後は惜しくも福島県経済に関する話になってしまいまして話が終了しているのが残念な所。

まー確かに物価目標2年で2%(たぶん佐藤さんと木内さんは2年で2%って難しいですよね派の2名だと思うのですが)というのをぶち上げている中で「グローバルにディスインフレ傾向なんです、ご覧ください!!(ウォー!!!→ってスネークマンショーのネタなんかジジイしか知らんか)」とか言い出したら景気の悪い事この上ないので政策委員会の一員として金経懇に出ている立場で詳細解説をするのは如何なものかというのも判らんでも無いのですが、グローバルディスインフレになっているというのが一時的では無かった場合に、現在のインフレ目標のそもそもの設定が妥当なものなのかとか、そういうフレームワークにも繋がる超重要な論点になると思いますので、本当はこの件に関する解説をお聞きしたい所ではございました。

ま、「一時的なものかどうかに注目している」という言葉の裏側には「一時的でなかった場合にインフレ目標の有り方とかに関しての見直しに繋がる」という話もあるのかなとか勝手に妄想をするのですが、その論点も踏まえて考えた場合に佐藤さんの今回の講演での説明の中にある「2%の目標は柔軟な目標であるべき」という話もまた味わいがあるのかなと思うのですが、全てはこのアタクシの寝坊が悪いのですがここで時間が無くなったので続きは会見ネタと共に明日に続くのでありましたorzorzorz

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2013/04/11

・これは・・・・・・・(^^)

広報誌「にちぎん」というのがあるんですがね。

http://www.boj.or.jp/announcements/koho_nichigin/index.htm/

『「にちぎん」は、日本銀行の仕事や歴史、本支店・事務所のネットワークを利用して収集した情報のほか、金融経済に関する分かりやすい解説を提供する対外広報誌(3、6、9、12月の下旬発行)です。全国の日本銀行本支店および貨幣博物館、小樽金融資料館等で入手可能です。』

やはりここはクールジャパンの一環で「にちぎん!」と題名を変えるのが吉かと(嘘)

でまあ今回の分。
http://www.boj.or.jp/announcements/koho_nichigin/backnumber/33.htm/

http://www.boj.or.jp/announcements/koho_nichigin/backnumber/data/nichigin33-5.pdf
対談/守・破・創
「精神」と「肉体」は表裏一体、運動の習慣化でストレス時代を生き抜く
 鈴木雅(男子日本ボディビル選手権チャンピオン)
 佐藤健裕(日本銀行政策委員会審議委員)

・・・・・・・・・・・・・・(^^)

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2013/02/08

○佐藤審議委員講演続き:金融政策に関連して

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130206a1.pdf

昨日の続きで講演テキストの7ページ(PDFの8ページ)の下の方から参ります。


・デフレ脱却の為の有効と考えられる政策経路は1に為替市場2に資産価格と

『一般論として、名目ゼロ金利制約下でデフレに陥った経済が刺激され、物価の回復に至る経路として有望と考えられるのは、第一に為替市場を通じた経路、第二に資産市場を通じた経路であろう。』

キタコレ(・∀・)

『前者については、昨年12 月の会合で日本銀行は短期国債と中長期国債の買入れ増額を図っているが、これは、現行の付利体系を維持するもとでも金利低下による内外金利差の縮小や逆転を通じて間接的にせよ為替相場への働きかけを強めるものと考えている。また、先の1月会合で導入を決定した期限を設けない買入れ方式は、そうしたスタンスをさらに強めるものと考えている。』

まあこの場合金利への影響をストックビューで見るのかフロービューで見るのか、という話になりまして、まあ基本的にはストックビューの方が理屈としては正しそうなのですけれども、実際に市場でセカンダリーの動きを見ているとフロービューにも一定の説得力がある、と申しますか、目先のプライスアクションという意味ではフローに思いっきり影響されてしまいますので、ここの部分というのは分析するのも中々難しい点があるようにも思えますなあ(たぶん普通に分析をするとストックビューが正しいようになる筈なのですが、じゃあフロービューを丸無視して良いのかというと、市場というのはプライスアクションが一過性のものだけではなく、バンドワゴン効果のような形で自己実現するようなケースもあり、しかも経験的に言えばバンドワゴンの自己実現の方が往々にして大きな相場になって好悪様々な影響を与えるっつーまあテイルリスクじゃないけどそんなのもあるんじゃネーノとは市場現場労務者の端くれであるあたくしの感想)とゆー所で、米国もオープンエンド方式にして「量で勝負」からは足抜きしつつあるものの、そうは言ってもストックビュー的な話をメインに置いていますが、日本の場合は来年のオープンエンド化以降どういうビューに則って動くのかは興味がある所です。ストックビューの観点からすると来年になってからの基金積み上げペースは鈍化してくるという点では「さらに強める」と言い切ってよいのかは微妙な気は致しますです、はい。

と、話が逸れたような気もしますが(汗)。

『後者については、日本銀行は12 月会合で貸出支援基金を正式に立ち上げ、銀行の貸出増加を資金供給面から強力に後押しする政策を取っている。この政策は民間銀行による貸出増加への取り組みが前提であり、日本銀行ができることはそうした民間の取り組みを後押しすることである。足許資金需要が低迷し、民間銀行に資金のアベイラビリティ面でのボトルネックが存在しないなかでは、日本銀行が貸出増加を強力にサポートすることへの限界も指摘される。もっとも、かかる銀行貸出が実体経済や資産市場に向かえば資産価格を通じた物価への波及効果が期待できるかもしれない。』

まあこちらに関しては日銀が金出せばどうなるという話はどうなのかと言うと、かつてこの手の支援策を打ち込んだ時というのは金融機関のアベイラビリティに問題があった時でしたので、佐藤さんの言うようにそのボトルネックを解消するのが資金の流れを良くする為に効果があったという話ですわな。

これまた話がずれるんですけれども、そーゆー意味合いからするとかつての量的緩和政策時代の前半は特に金融機関のアベイラビリティに問題があった訳で、量的緩和政策そのものがアベイラビリティの解消に対する効果が抜群だったのでそーゆー意味で効果があったというのがあると思われまして、量的緩和の量の効果がその分過大に見積もられているんじゃネーノという気はするんですけれども、まあその辺について海外でも同じような感じになって、アベイラビリティが改善した後量を出しても効きが悪くなって来てねえかみたいな話になっているような気もするのですが、こういうの定量的に分析しようとすると結局鉛筆舐め舐めみたいな話になってくるとか言うと思考停止ですかそうですか頭悪くてすいませんという所ですな。

まあこの辺りの説明は執行部ベースの説明っぽいので引用しながらあたくしの雑談のマクラにしただけでして(^^)、その先の所から徐々に佐藤さんペースに。

『もっとも、かかる銀行貸出が実体経済や資産市場に向かえば資産価格を通じた物価への波及効果が期待できるかもしれない。特に経済に対する前向きのモメンタムが実際に働き始めると、この貸出支援の効果は強まると期待している。また、かかる貸出が借り手の円投により企業や銀行の海外での設備投資やM&A に向かうことになれば、為替円安に向けた動きを間接的に促すことにも繋がる。いずれにせよ、金利などへの働きかけを通じて、為替市場や資産市場へ間接的に働きかけていく
観点も重要である。』

ということで、他が「かもしれない」なのですが、前向きのモメンタムが動き出すと貸出支援の効果が強まると「期待している」という説明になっているのがチャーミングで、「かもしれない」と言ってる部分がどちらかというと執行部ペースの説明部分に掛かっているのがさらにチャーミングという所でしょうか(^^)。

恐らく佐藤さんの期待している貸出支援制度のポイントは「4年まで0.10%の固定金利を確約!」って部分だと思うのですよね。つまり足元のように金利水準が低くて資金需要が盛り上がらない(その上今だと各種要因で短期市場金利が0.10%を割り込んでいるのでお得感が全くない)という状況の中ではあまり盛り上がらないこの制度だと思うのですが、いざ本当に景気が上向きになってきて、「さすがにこの調子だとデフレ脱却するんじゃネーノ」というような雰囲気になってきた時にはこの4年まで0.10%で資金出しますよ攻撃に対するニーズが絶賛大殺到するので、前向きのモメンタムを加速する効果があるんじゃネーノというまあそんな所でしょうかねと思うのですがどうっすかね。


・基金オペの積み上げに関連するお話

(実質ゼロ金利下で間接的に為替レートに働きかけるための方策)という小見出しの所から。

『2001 年3月から2006 年3月までの量的緩和期は先進国中で日本のみがゼロ金利であったため、為替円安を通じて緩和効果が発現しやすかった(図表12)。もっとも、リーマン・ショック以降、足許まで先進国中銀が概ねゼロ金利政策を取るなか、金利差の面から円安効果は発現しにくく、日本銀行の緩和努力は報われにくい面がある。』

まあさいですな。

『しかし、かかる状況でも金利を通じたパスはわずかでも働きうる。』

ほう。

『例えば、資産買入等の基金による買入れの結果、付利体系を維持するもとでも、これまで米国よりも金利が高かった短期国債利回り(3か月物)は直近最低値で0.093%と米国と同程度まで接近してきた。折しも、昨年12 月のFOMC(連邦公開市場委員会)において資産買入れの規模の縮小や停止について議論されるなど米国の金融政策に転機の兆しが見え始めたことは日本にとり追い風である。こうしたなか、今後も中長期及び短期国債の買入れを進め、基金を積み上げていくなかで、長短市場金利がどの程度低下するかを我々は注視している。』

ということですが・・・・・・

『一方、先行きの資産買入等の基金の積み上げは、決して容易なオペレーションではない。』

キタコレ(・∀・)

『すなわち、基金積み上げ等が順調に進捗すれば、足許65 兆円台の基金残高は本年末には100 兆円を超える水準に積み上がる(図表13、14)。』

『こうした規模の資金供給は日本銀行にとって未踏の領域であり、仮に民間銀行が財務戦略上の理由から、あるいはコーポレート・ガバナンスの観点といった非経済的要因からバランスシートの肥大化を避け日本銀行当座預金の積み上げスタンスを消極化すれば、基金の積み上げは円滑に進まなくなるリスクがある。』

基金の買入が進むと日銀当座預金残高がそれだけ拡大する訳ですが、基金での買入と言いましても日銀が強制的に民間金融機関の保有証券を召し上げる訳には逝かない訳でして金融機関が応札をしないと話が始まらず、佐藤さんの説明のように金融機関が例えば超過準備を大量に保有した状態で決算を迎えるとワカランチン共に「この銀行は日銀に大量に資金を抱えているのに貸出の伸びが低くてケシカラン」とか言い出されたら困るからちょっとおまいら超過準備額抑えろやとか資金部門に指令が飛ぶとその金融機関は国債買入などに応札しなくなる(応札しなくてもアベイラビリティに困る訳では無いので)ぞなもしという話ですな。

『もっとも、基金積み上げの際、金融機関が日本銀行の資産買入れのオファーに応じるかどうかは金利水準次第という面もあるはずである。』

とはいっても資金部門から「いや今国債買入に応募すると経済的に有利ですから」という話がくればまた別でしょという事ですな。

『今後の基金積み上げの過程では、未踏の領域だけにいろいろと想定外のことが起こる可能性はあるが、そこは臨機応変かつ柔軟に情勢変化に対処していくことで確実な基金の積み上げを図りたい。』

ということで、結論は「基金の積み上げを図る」なのであって、臨機応変かつ柔軟な対応はその為にありますので、そう考えると普通に付利金利いじるという話にはならないでしょというのが結論になる筈ですがその辺は会見の方にも。


・政策オプション:リスク性資産について

以下は他の政策オプションに関する佐藤さんの考察で、論点が整理されているのでお勧め。

(リスク性資産買入れの大幅増額は有望なオプションか?)という小見出しから。

『一方、リスク性資産を大幅に買い増すべきとの意見もある。日本銀行は2010年10月に導入した包括緩和のもと、社債、CP、さらには政府の認可を得てETF、REIT といったリスク性資産を買い入れているが、主要国の中央銀行でこうしたリスク性資産の買入れを自己勘定で行っているのは日本銀行のみである。ただし、日本銀行は資産市場への大規模介入を行うという考え方を取らず、あくまで市場の呼び水となることを念頭に置いている。一方でリスク性資産の買入れを大幅に増やす、すなわち市場に大規模介入すべきとの論調が一部にみられるが、こうした政策は果たして有効なオプションであろうか。』

資産価格ルートの話をしているのですから積極的かと思えばさにあらず。

『私の考えでは、こうしたリスク性資産買入れを一層増やすことについては、日本銀行の自己資本を毀損するリスクがあることから、やや懐疑的である。』

あらそう。

『仮に日本銀行が保有するリスク性資産が値下がりして損失が発生すると、政府への納付金が減少する。自己資本との比較でリスク性資産のボリュームが大きければ、日本銀行が債務超過に陥るリスクも想定される。前者は財政支出増大と同値であるし、そうしたリスクがあるが故に日本銀行は日本銀行法第43 条に基づき政府に認可を申請してETF やREIT の買入れを行っている。後者の場合、日本銀行は債務超過の穴埋めのための増資を政府に仰ぐことにもなるかもしれず、日本銀行や円の信認、あるいは金融政策の独立性に影響し得る大きな問題となり得る。こうした観点から、大幅なリスク性資産買入れ増額の是非は日本銀行のみならず政府全体にも関係する議論である。リスク性資産の買入れが金融政策の独立性に影響することを避けるためには、損失が発生した際の損失負担のあり方について、政府と日本銀行の間で事前にルールを定めておくといった方法もあり得よう。』

うむ、これ前半の話がまるで執行部なのですが、最後の最後に書いてある部分を見ると「事前に損失分担についてきちんと決める(要は穴空いた時に政府が財政資金で埋めるというような形を確定させる)ならやってもヨロシ」とも読める所が微妙でございますがなという所です。

でまあいつも思うのですが、ここの説明をするときに「日本銀行の資本ガー」という論理展開を持ち出すとまたぞろ日銀は自分の庭先だけ綺麗にしようとしているという庭先論の批判が飛んでくるので、まあ理屈としては確かに資本ガーであることはその通りなんですけれども、「損したら回りまわって財政負担になりますんで選挙で選ばれた訳でも無い日銀が財政政策やって良いんですかという議論になるんですよねえ」というロジックで説明した方が一般ピープル的に判りやすいし、庭先論って言われなくて済むと思うのですがどうでしょうかね。


・政策オプション:外債購入に関して

(外債購入は有望なオプションか?)という所ですが。

『私は昨年7月の就任会見で外債購入も一案と発言したが、この実現には様々な留保条件がつく。』

ほう。

『すなわち、現行の日本銀行法では日本銀行は外国為替の売買にあたっては、専ら政府の代理人として事務のみを請け負うと規定されており(日本銀行法第40 条)、日本銀行は円相場の安定を目的とする外国為替の売買に関し主体的に意思決定を行うことはできない(図表15)。では、ETF やREITの買入れと同様、日本銀行が日本銀行法第43 条の規定に基づき政府の認可を得れば、外債を買い入れることができるであろうか。日本銀行法第40 条の規定は、円相場への介入目的とした外国為替の売買を禁じており、第43 条をもってしても日本銀行はこうした目的で外債を買い入れることができないと解するのが自然だろう。』

『それでは、金融市場調節の一環としての定時定額の外債購入はどうだろうか?これもその目的が為替相場の操作と看做されれば、同じく第40 条の規定に抵触する惧れがあるということだろう。』

ってこれまんま麿の説明なのでちょっと???なのですが、過度な円高の長期化がデフレの長期化の要因であるというロジックをもってすれば、そのデフレ長期化の要因を軽減する為に外国為替市場の過度な円高の是正を図る意味で43条認可というロジックって出来ないのかなあと思いますけど。まあ引用した方で切った後半部分にそういうニュアンスが含められているのかも知れんが。

『こうした法律上の制約を踏まえた上で、先の総選挙では自民党が官民共同の外債購入ファンドを立ち上げることを公約の一つとした。政府にせよ日本銀行にせよ、仮に外債を買い入れるのであれば経済効果は同じであるので、私としては買い入れの主体が敢えて日本銀行である必然性はないと考えている。ただし、こうした政策は通貨外交上の問題をはらんでいるので、まずは各国通貨当局と緊密に協議してコンセンサスを得る努力が欠かせないであろう。』

ということで、まあ実際は法律の解釈論がどうのこうのというよりも一番問題になるのはこの通貨外交をどこが実施するのかという話であって、まあ日銀からこの話を持ち出して財務省と揉めるのもどうかという所なんでしょうと思いますが、正面切って通貨外交の権限ガーみたいな話をするのも何なので法律論を持ち出した結果、日銀は法律の解釈論に逃げ込んで消極的でケシカランとか言われるというのも日銀にちょっと同情する所ではあります。

どこが買っても良かろうというのは仰せの通りですな(^^)。


・円安の効果は直接の輸入物価上昇よりも他の効果でという話

(円安だけで物価が上がっても経済厚生は増大しない可能性)という小見出しから。

『私自身は円の対ドルレート10%の変化による消費者物価指数への影響は数年間の累積でも1%を大きく下回るとみており、現状ゼロ近傍にある消費者物価指数を円安だけで2%程度に引き上げるには、大幅な円安が必要であまり現実的とは思えない。』

そういえばどこぞの安倍ちゃん経済ブレーン様によりますと物価上昇率2%の目標が達成できればドル円は98円で日経平均は11300円という計算でしたな。

『そもそも金利政策でかかる大幅な円安を実現できるかは不確実性があるし、仮に政策的に目指すとしても通貨外交面で問題を惹起する可能性がある。』

まあそうですにゃ。

『さらに、円安による輸入物価の上昇や交易条件の悪化は購買力の海外流出をもたらす。物価上昇率が見かけ上高まったとしても、GDI(国内総所得)やGNI(国民総所得)が悪化し、国民は「デフレ脱却」を実感できないであろう(図表16)。』

名目は改善しても実質が悪化するでしょそれって誰得なんですかという話ですねわかります。

『結局、為替レートが物価に及ぼす影響は重要だが、為替レートだけで2%という高い物価安定の目標を達成するという考え方はバランスを欠いている。目指すべきはやはり所得の増加とともに生じる物価上昇である。』

まあそうですな。

『ただし、現在起こっている為替円安による資産市場への刺激効果を過小評価することもまたバランスを欠くであろう。資産市場、とりわけ国内の株式市場は、リーマン・ショック後に名目実効レートで約4割上昇した円の過大評価の影響から海外市場をアンダーパフォームしてきた。しかし、足許は円の過大評価が是正される過程で国内株式市場のバリュエーションに見直しが入り、資産市場は久々に活況を呈している。前述のように、資産価格の回復は、企業や家計のリスク耐性を強め、経済の活動水準を引き上げることを通じて、需給ギャップの改善、ひいては物価の回復に繋がり得るだけに、私としては金融政策を通じた為替レートへの間接的な働きかけというチャネルを引き続き重視したい。』

ということで、後半になるとまたちょっとトーンが変わりますが、要は円安によって輸入物価を上げてデフレ脱却だーというのは誰得無理ゲーではあるものの、円安による資産市場への効果といったルートによる前向きのモメンタムを醸成する事が重要である、という論点でありまして、この辺を重視するのは佐藤さんらしい説明でして、前半は割と普通に執行部的な話をしていますが、後半の部分があるのかどうかが重要なのでありまして、麿様などにおかれましてはこの後半の論点を軽視しているんじゃネーノと思われる節があるのが遺憾とゆー所でありますなっつー所で。


なお、以下経済見通しの部分でいわゆるデットビューのような説明があってこれもまたオモシロスなのですけれどもここまでやっただけで時間と量がちょっとなので割愛します。


○佐藤審議委員会見から

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1302b.pdf


・臨機応変がどうのこうのという部分について

『(問) 3 点質問があります。(1点目と3点目を割愛します)2 点目は、挨拶の中にあった、100 兆円規模の資金供給をするにあたって、想定外のことにも臨機応変に対応するという箇所についてですが、具体的にどのようなことを念頭に置かれているのか確認させて下さい。100 兆円積むのが難しいので、前代未聞のオペの奇策も打たざるを得ないということなのか、アベノミクスが失敗した時の対応も日本銀行としては覚悟せざるを得ないということなのか、お聞かせ願います。』

最後のアベノミクス云々の質問が意味不明ですが、2点目だけでも凄まじく答えが長いですけれども、まあ論点は整理されているので段落分けながら引用。

『(答)(1点目と3点目を割愛します)次に、2 点目のご質問で、資金供給について具体的に何を考えているのかということです。午前中に行った金融経済懇談会での挨拶の中でも申し上げましたが、日本銀行は、資産買入等の基金について、昨年末の目標65 兆円を何とか達成し、さらに今年末に向けて、これを101 兆円に拡大することを既にコミットしています。これは約束です。』

ふむ。

『プラスアルファで貸出支援基金等があります。これらを合わせた追加の資金供給規模は、先般、総裁からも説明があったように、プラス50 兆円超になるということです。まずは、年末までに、そうした未曽有の規模の資金供給を行うということをご理解頂きたいと思います。』

つまりどこぞの安倍ちゃんブレーン様が2%の期待物価上昇率達成の為には77兆円の当座預金残高が必要とか言ってる額をも上回るということで、こっちも実際にそうなった時にどうなるのかとか想像が今の所付きにくいですわ。

『その上で、今後何が起こるのかということですが、基金を101 兆円まで積み上げると、その過程では、日銀当座預金残高も並行して増えると考えるのが自然だと思います。日銀当座預金残高は、昨年12 月20 日過ぎだったと思いますが、既往ピークの48 兆円強という水準でしたが、足もとでも40 兆円台で推移していると思います。これが、基金残高101 兆円ということになってくると、おそらく現在の40 兆円台から、90〜100 兆円といった規模に達してくる可能性があるわけです。』

あたくしがざっくり考えた時は80-90兆円かなとか思ったのですがまあいずれにしても巨大であり未踏の規模ではあります。

『ただ、それだけの量の日銀当座預金を、本行の取引先である金融機関の方々に持って頂けるかどうかは、不確実性があると思います。日銀当座預金には、超過準備に対して0.1%の付利をしていますが、0.1%のリターンの預金には、超過準備に対して0.1%の付利をしていますが、0.1%のリターンの資産を何兆円単位で日銀に預け入れておくということが、果たして、金融機関において、コーポレート・ガバナンス上許されるのかという、経済的な要因以外の要因も働いてくる可能性があると思います。仮に金融機関が、日銀当座預金への積み上げのスタンス、あるいは基金による買い入れに対するスタンスを消極化する、すなわち、本行の買い入れオペへの応札スタンスを消極化するということであれば、日本銀行としては、何らかの対応を考えなければならないだろうということです。結局のところ、本行の取引先である金融機関がオペのオファーに応じてくれるかどうかは、金利水準次第という面があると思います。』

どういうことかと言いますと・・・・・・・

『例えば、日本銀行が市場実勢対比低い金利で、すなわち若干有利な条件でオペのオファーをするのであれば、金融機関としては応札するニーズも顕れてくるということです。今後、基金の積み上げの過程で、積み上げが非常に難しくなってくる、オペの未達で難しくなってくる事態も想定されますが、そこは金利で調整されていくことになるのではないかと思います。すなわち金利の低下効果が、基金の積み上げに伴って顕れてくるということです。』

まあ既に現れていますが・・・・・・・・

『何が起こるかは、実際のところ分かりませんが、そういった想定外の事態、あるいは不測の事態に対しては、オペの条件を臨機応変に見直していくことで、確実に基金の積み上げを図っていきたいというスタンスです。』

ということですので、例えば固定金利オペが厳しいなら短国買入に振るとか、固定金利オペの期間も(昨日のオペのように)もっとニーズに則した期間にするとかでしょうかね。


・まあ当然ちゃあ当然なのですが

この質疑応答は政策インプリケーションは無いが味わいがあったので引用。

『(問) 2%の物価安定の目標に反対した理由について、「持続可能な物価の安定と整合的であると判断される物価上昇率を大きく上回る」と講演で述べておられます。佐藤委員は、具体的にどの程度の物価上昇率が整合的な水準とお考えなのか、お教え下さい。』

『(答) 具体的にどの程度の水準かと言うことを、2%という物価安定の目標が決定された後に申し上げることはあまり適切ではないと思いますので、特定の水準を申し上げるのは差し控えたいと思います。』

・・・・・・・(^^)


・付利撤廃に関する質問再び

何かもうこの質問いつも来るんですよねえ。

『(問) 先ほど、オペが未達の場合には、金利水準で調整するという臨機応変な対応が必要だとおっしゃいました。金利水準の調整といっても、現在、0.1%を下回るような非常に低い水準にあるので、先行きの下げ幅といっても限定的だと思います。先行き、超過準備への付利撤廃ということも含めて、「マイナス金利」ということの実現可能性、あるいは「マイナス金利」にすることによるメリット、デメリットについてお聞かせ下さい。(2点目割愛)』

『(答)(2点目の部分割愛します)まず、1 点目の付利の撤廃に関しては、そのプロコン(メリットとデメリット)について、私自身はもう少しよく考えてみる必要があると考えています。』

キタコレ。

『現時点では、現行の付利体系を維持するもとで、資産買入等の基金を着実に積み上げることが、緩和効果を最大限発揮する上で、一番効果的な方法と考えています。』

で、その説明が以下ございます。

『仮に付利を撤廃すると、日本銀行が資産買入れのオペのオファーをしても、金融機関がオペのオファーに応じなくなり、基金の積み上げが難しくなる可能性があります。ただ、先ほど申し上げたように、金融機関がオペのオファーに応じるかどうかは、金利水準次第です。従って、日本銀行が市場実勢対比で有利な条件を提示することで、金融機関がオペに参加するインセンティブを与えることが出来るかもしれません。』

『仮定の話ですが、付利を撤廃したとしても、日本銀行が、例えばマイナス金利で国債を買い入れれば、オペは成立するかもしれません。ただ、先ほどと同じ問題があると思います。金融機関が、リターンを全く生まない日銀当座預金という資産を、果たして数兆円単位のオーダーで置いてくれるのかという疑問があります。利息を生まない資産を寝かせたままにしておけば、コーポレート・ガバナンスの観点から、金融機関の側で問題になってくる可能性があります。』

『また、仮に日本銀行がマイナス金利で国債を買い入れることになれば、金融機関に対して利益供与しているという見方もあり得るわけです。』

『さらに、国債等にマイナス金利が付くような世界になると、例えば、MMF等のような短期の元本保証型の金融商品が、商品として成り立たなくなります。そういう意味では、金融市場に不測の混乱が起こる可能性もあるということです。』

全く仰せの通り。

『こういったことを考えると、付利のない世界では、政策効果の不確実性は高いと思います。従って、付利撤廃は、オプションの一つではありますが、今申し上げたようなプロコンを踏まえる必要があると考えています。』

どこぞのベンダーがこの会見を報道する時に前後を切り取って「付利撤廃は、オプションの一つ」という部分だけヘッドラインにして報道してやがったのですが、まあそういうアホウにおかれましては6文銭プレゼントしてあげるから可及的速やかに三途の川のリバークルーズにご参加される事を願って止まないものでございます。


・先ほどの2%の円安を為替だけでどうのこうのという部分

先程割愛した同じ質疑から。

『(問)(前半割愛、というか先ほど引用した)もう一つは、講演で、限られた金融政策手段の中で、為替や資産価格への間接的な働きかけというチャネルを重視したいということを繰り返しおっしゃっています。現状、為替の水準は93 円になっていますが、それでもなお、このように為替を通じたチャネルを重視したいということを繰り返し主張されているということは、やはり2%という物価上昇を実現させるためには、現状よりももっと円安の方が望ましいとお考えなのでしょうか。具体的な為替水準ということにも関わりますが、より曖昧な聞き方をすれば、円安の方が望ましいということなのかをお聞かせ下さい。』

『(答)(同様に前半部分は先ほど引用済)2 点目の、為替のチャネルを重視するのかというご質問ですが、講演でも触れたとおり、円安だけで無理やり2%の物価上昇にもっていくという考え方を採っているわけではありません。そこは誤解のないように強調しておきたいと思います。むしろ、円安だけで物価を押し上げるという考え方は、非常にバランスを欠いています。』

先程の説明ですな。

『仮に、円安だけで物価が上昇し、所得の上昇と整合的な物価上昇にならない場合は、単に購買力が低下して、経済全体としては却って厚生が低下します。為替チャネルは引き続き重要だと思いますが、「もっと円安にしたい」といったように、為替水準に引っかけて為替チャネルを重視するということではないと思います。』

まあ下手な言い方をすると為替操作って言われますからそこは慎重な物言いになります罠。

『金融政策で出来ることは、先ほど申し上げたたように、資産買入等の基金の積み上げを通じて長短期金利に影響を及ぼしていくということですが、それによって間接的に、例えば、円の逃避通貨としての「買われ易さ」を除去していくことには繋がると思います。そういう意味で、もっと円安が必要といった為替水準の議論ではなく、円の買われ易い状況を是正していこうということです。それがひいては、物価の安定にも繋がり得るということです。』

円高になりにくいようにするのが重要というような言い方で気を使ってはいますが、まあ要はより一層の円安が望ましいということですね、わかります。


他の質疑も興味深いのですが量が既に引用大増量モードなのでこの辺で。

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2013/02/07

○佐藤審議委員講演

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2013/data/ko130206a1.pdf

図表が豊富で何と42ページもあるのですが、たぶん講演よりも会見の方が更に佐藤さんのカラーが出ているのではないかと思われますので今日出る会見テキストも必見だと思います。

『既に公表されているように、私は「物価安定の目標」を消費者物価前年比上昇率で2%とすることに反対票を投じた。しかし、金融政策決定会合では多数決により政策を決定することとなっており、前述の決定となっている。したがって、以下では、私は日本銀行が今般決定した2%の「物価安定の目標」達成を念頭に置きながら、今後の日本銀行の金融政策運営のあり方について話を進めてまいりたい。』

ということで、まあ今回の日銀決定に則した政策委員会メンバーとしての説明部分があって、佐藤さん本人としての説明部分があるので、そこを読み分けながら読む必要があるという技が必要なのですが、まずは佐藤さんの説明っぽい部分から参りたいと思います。

・2%に反対した理由

『ただし、このように消費者物価の前年比上昇率が2%でアンカーされるためには日本銀行の政策運営に対する信認が確保されていることが非常に重要である。1月会合後の記者会見で総裁が言及したように、私は、@消費者物価の上昇率2%は、現状、持続可能な物価の安定と整合的であると判断される物価上昇率を大きく上回ること、Aまた2%の目標値を掲げる上では、成長力強化に向けた幅広い主体の取組みが進む必要があるが、現に取組みが進む前に2%の目標値を掲げると金融政策の信認を毀損する惧れがあること、から木内委員とともにこの目標の決定に反対した。しかし、冒頭申し述べたとおり、私は日本銀行の決定を履行し、それに責任を負う立場にある。2%の物価安定の目標達成の蓋然性を高め、目標の信認を高めていくことは、先行き私を含めた政策委員に課せられた重要な政策課題である。』

ということで、ハト派委員として投入された筈の佐藤さん、木内さんが共に今回の反対に回った理由と言うのがこちらにありますが、金融政策決定会合議事要旨でもうちょっと突っ込んだ理由が記載されている可能性はありますので(今の建付けだとラッカー怒りの反対みたいなステートメントを出すのってちと微妙で、公表文書に出た部分と総裁(政策委員会議長としての総裁)が会見で言及した以上に突っ込んだ物言いを講演でする、というのは議事要旨が出るまでは難しいように思えます)そちらにも注目ですな。

まー端的に言えば「金融政策単体で出来もしない目標を掲げるのはおかしいだろ」という話だという事(そらまあヘリコプターで無限に金を撒けば貨幣価値が無限に低下するのでインフレが無限大に高まるのですが、それは金融政策では無くて財政政策です)ですが、あたくし勝手に愚考するに、佐藤さんや木内さんは「政策の継続性が何でこのタイミングで飛躍しないといけないのか」という点も問題視してたんじゃねえのと思いますけどにゃ。


・でまあ2%の数値についての話が始まる

出来もしない目標とは何ですねんという話がこの次に始まるのだ。(過去において2%は相当高い物価上昇率であった)という小見出しキタコレですが。

『では、この2%という数字はどういう数字であろうか。日本経済において、石油ショック以降、2%超の消費者物価上昇を実現した時期はわずかであったし、それらは総じて日本経済が厳しい状況に直面していた時期であった(図表6)。』

ふむふむ。

『過去20 年余りの例では、消費税要因を除くと、1980 年代後半の資産バブルの余熱があった1990 年4 月〜92 年12 月とリーマン・ショック直前の2008年7月〜9月がそれに当たる。前者はディマンドプル型インフレではあったが、異常な資産価格高騰後のいわば余熱であり、また相前後して起こった資産価格の崩落は金融危機を誘発し、その後の日本経済の長期低迷の一因となった。後者は典型的なコストプッシュ型インフレで、交易条件悪化による購買力の海外流出を伴い、経済厚生は却って低下した。このように、過去20 年余りの間にほとんど実現しなかった高いインフレ率を物価の安定と整合的な物価上昇率と定義して目指すことは、日本銀行にとり大きな意識変革を迫るものであり、挑戦でもある。』


で、この次に物価目標を数値化しなかった点のレビューが入る。

『そもそも、日本銀行は2000 年代半ばまで物価安定を数値で示してこなかった。』

さよですな。

『例えば、2000 年10 月、ゼロ金利解除の直後に日本銀行は「『物価の安定』についての考え方」という文書を発表したが、その中で日本銀行は「『物価の安定』の定義を数値で表すことは適当でない」と結論付けている。日本銀行が物価の安定についての数値表現に踏み込んだのは、2006 年3月に「中長期的な物価安定の理解」という形で、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解するレンジの和集合として「0〜2%」の範囲を示したのが最初である。その後、こうした数値表現を各委員の考えるレンジの和集合でなく、「中長期的な物価安定の目途」という形で、日本銀行として中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断する物価上昇率を打ち出したのは、そこから更に約6年を経た2012 年2月のことであった。』

さいです。

『その間、日本経済は程度の差こそあれ緩やかなデフレが続いていた訳だが、物価安定の数値表現にこれだけ時間を要したのは、名目ゼロ金利制約のもとでインフレ率引き上げへの決定打を欠いたことが大きい。』

ほほう。

『そもそも諸外国におけるインフレ目標政策は、高すぎるインフレ率を目標内に収束させることを目的としていたが、日本では、インフレ目標政策は低すぎるインフレ率を引き上げるための手段と認識されている。しかし、緩み切った「紐を押す」ことは困難との比喩にもある通り、デフレ下の金融政策運営はインフレ下のそれよりもはるかに困難である。』


・需要創出の必要性

『人口減少や高齢化という経済への逆風が強まるなかで、2%という物価安定の目標は正直申し上げてかなり野心的である。先行き年間1%弱の労働力人口の持続的な減少が見込まれており、何の手も打たなければ、日本経済は毎年1%弱、GDP が減少し続けることが明白な経済である。』

>何の手も打たなければ、日本経済は毎年1%弱、GDP が減少し続けることが明白な経済である
>何の手も打たなければ、日本経済は毎年1%弱、GDP が減少し続けることが明白な経済である
>何の手も打たなければ、日本経済は毎年1%弱、GDP が減少し続けることが明白な経済である

おお・・・・・・・・・・・

『こうした状況下で、2%の物価上昇が見込めるところまで需給ギャップを引き上げるためには、これまで以上に成長力強化の取り組みを進め、需要創出を図っていく必要がある。更に、そうした物価上昇を目指すに当たっては、経済のIT 化やグローバル化に伴う世界的なフィリップス曲線のフラット化の進行、すなわち需給ギャップの改善に対する物価の反応速度の一段の鈍化という現実を踏まえる必要もある(図表7)。すなわち、目標の実現は先行きますます厳しいチャレンジとなってきているのである。』


・賃金が継続的に上昇しないと物価が継続的に上昇しませんがなという話

この論点部分は関連する図表を参考にしながら読むとクリアカットになるので図表を別窓で開きながら読む(紙に出しても良いのですが、白黒印刷をかけるとちょっと見にくい図表が多い(プレゼン資料用の図表なので講演のプロジェクターで出すのに最適化したらまあこうなるのですよね)のでカラー印刷の方が良いがコストががががが)のがお勧め。(必要なのは賃金の回復)という小見出しがキタコレであります。

『それにしても、日本はなぜ10 数年もの間、デフレから抜け出せないのであろうか。1990 年代後半、デフレの初期段階では資産価格の大幅な下落や金融危機による信用収縮、生産性の低い企業の退出が遅れたことによる過剰供給力の温存などが主因であった。』

しらっと過剰供給力の話をしていますが、これは中々ポリティカリーにはアレな論点で、各国の中央銀行、というか特にこの話を最近はBOE(しまったネタにしないうちに2月MPMだわ)がしておりますが、ああ堂々とミニッツに書けるBOE恐るべしとかいうのは話が逸れますな(^^)。

『もっとも、2000 年代半ば以降、金融システム問題を克服した後のデフレは新たなフェーズに入っており、その主因は賃金にあると考えている。』

ふむふむ。

『財やサービスの価格はそれを生産するための費用の影響を受ける。生産費用が人件費と原材料費からなるとすると、多くの原材料費は国際競争のなかで決まるため、その価格の変動は為替相場の動きを別にすれば、ほぼ世界共通に影響を与えるはずで、日本だけがデフレになる理由にはならない。原因は生産費用を決めるもう一つの要素である賃金にあると考えられる。』

なるほど。

『実際、消費者物価と賃金は密接に相関している(図表8)。そもそも消費者物価の構成品目の約半分はサービスで、サービス価格はサービス業の賃金と概ね連動している(前掲図表8)。サービス業は労働集約的で賃金の動向が価格に反映されやすい。』

これは図表を参考にしながら読んで味噌。

『従って、物価安定の目標である2%の消費者物価上昇率を目指すには、とにもかくにも賃金の回復が重要である。』

キタコレ(・∀・)!

『もっとも、年間の名目雇用者報酬はリーマン・ショック後に10 兆円超減少した後もほとんど回復らしい回復を示していない(図表9)。』

この図表9の上段にある名目雇用者報酬の推移のグラフを見ると絶望した!となりますのでお勧めorz

『賃金の回復をみるためには、その原資である企業収益を拡大させると同時に、企業が労働分配率を引き下げないことが肝要である。』

全くで。

『賃金回復のチャンスは2000 年代半ばに実際にあった。新興国の需要が火付け役となり、信用バブルも手伝って世界経済が過熱し、製造業中心に企業収益が過去最高益を更新するなか、企業は雇用者への還元を増やすことが期待された。しかし、この時期、企業は内部留保の積み上げを優先し、労働分配率は低下した(前掲図表9)。主要労組も企業の分配政策に異を唱えなかったため、賃金はほとんど上がらなかった。』

図表9の下段を見ると更に絶望できるのでお勧めorzorz

『足許はいわゆる企業を取り巻く6重苦の逆風のなか、主要製造業の一部で競争力が顕著に低下したこともあり、分配を増やそうにも原資が増えない状況にある。』

ナムナム。


・賃金版フィリップスカーブの話

(米国は雇用者数で調整、日本は賃金で調整)という小見出しの部分に参ります。

『日米におけるこれまでの雇用調整のあり方の違いも、賃金のパフォーマンスに影響しているとみられる。』

この論点が興味深いです。

『米国では、雇用調整を行う際には、賃金ではなく雇用者数を大胆にカットし、不採算部門からの撤退を比較的迅速に行う。結果的に、名目賃金は景気循環にかかわらず2〜4%前後の伸びを保っているし、経済に超過供給力が温存されにくいためデフレになりにくい。』

ということでここで賃金版フィリップスカーブの話が出ます。

『横軸に失業率、縦軸に賃金上昇率をとった賃金版フィリップスカーブをみても同様のことが言える(図表10)。』

これは図表10の「賃金上昇率と失業率」「インフレ率と失業率」の2つのグラフを眺めるとほほうと納得できると思いますので図表を見てちょ。

『こうした景気後退下で厳しいレイオフを行っても賃金を削減しないという米国流の雇用調整は日本ではなかなか理解されにくいであろう。一方、日本では、労働法制の違いもあって、失業率は相対的に安定しているが、失業率の変化に対する賃金の反応スピードは大きい。』

『すなわち、景気後退下でも解雇による雇用調整は相対的に限定的であり、調整される場合には主に賃金の削減によってなされる傾向にある。結果的に、日本では非効率な部門の整理・再編が遅れ、労働分配率が高止まりし、経済の新陳代謝が進まず、過剰供給力が温存されやすい。』

『このように雇用調整のコストを広く薄く負担しあう構造となっていることが緩やかなデフレからなかなか脱することができない一因となっている可能性がある。』

この辺りに関してはhamachan先生の見解をお伺いしたいものであります、と召喚呪文を唱えてみましたが伝わるかな??

『では、日本は景気拡大下で雇用市場が逼迫すれば賃金の伸びも高まりやすいと言えるのであろうか。悲観的かもしれないが、足許では日本企業の競争力が低下し、企業の稼ぐ力そのものが弱っており、必ずしもそうとは言えない可能性がある。』

おーのーと申しますか絶望した!と申しますかな悲しい見通しですが、まあ確かにそうなりそうな悪寒はしますですな、はい。

『先行きの成長見通しが低下した産業や不採算部門を時間をかけて整理していくうちに、企業や産業自体がいつの間にか競争力を失っているかもしれない。企業の価格支配力が弱まり、仕入れ値の上昇を売り値に転嫁できていない状況はこうした競争力の低下を端的に示している可能性が高い(図表11)。』

この図表11にある下の線(カラーだと赤い線)が販売価格判断DIで上の線(カラーだと青い線)が仕入価格判断DIの推移でして、段々この乖離が拡大して、それが恒常化しているというのが示されているのがこの部分の説明の意味です。

『いずれにせよ、2%の物価上昇率を目指すには4%程度の賃金の伸びを生みだす経済の基礎体力をまずつけることが肝要である。様々な経済主体による成長力や競争力強化の取り組みへの期待はそれだけ大きい。』

>2%の物価上昇率を目指すには4%程度の賃金の伸びを生みだす経済の基礎体力をまずつけることが肝要である

キタコレという所で、まあこの部分がキャッチーなのでヘッドラインに使われておりましたが、これは先ほどの図表10にありました賃金版フィリップスカーブから出てくる話でして、賃金版フィリップスカーブの下の表にある「インフレ率と失業率」というのをみますとインフレ率2%に相当する失業率が概ね2%程度となりますが、その2%の失業率を上の表にある「賃金上昇率と失業率」の表で見ますと、失業率2%に相当する賃金上昇率が概ね4%になります、というのがこの部分の説明根拠になっております。


・以下続きは会見ネタと共に明日で勘弁

んでもって金融政策で何をするのかという話ですが、(現実的には何ができるか?)という小見出しになります。

『では、2%の物価安定のため、金融政策面からは、どのような貢献ができるだろうか。』

キタコレ。

『本来的には経済の活動水準が高まり、需給ギャップが縮小することで賃金とともに一般物価水準が上昇していくのがバランスの取れた物価上昇である。かつ、そうした物価上昇は持続的でなければならない。幅広い経済主体が競争力強化と成長力強化に取り組むことでそうした物価安定を実現するにせよ、政府や日本銀行はこれまでも成長力強化に取り組んできた。しかし、これまでの延長線上の政策で2%という数字はなかなか現実感を持って受け止めにくく、これまでとは次元の異なる相互の取り組みが必要とされている。』

キター(・∀・)

『一般論として、名目ゼロ金利制約下でデフレに陥った経済が刺激され、物価の回復に至る経路として有望と考えられるのは、第一に為替市場を通じた経路、第二に資産市場を通じた経路であろう。』

ということで、就任記者会見の時にも佐藤さんが主張していましたが、最近はこのロジックが政策委員会の中でも少なくとも第一の為替経路に関しては他の審議委員も主張するようになってきておりまして、徐々に多数派となってきましたなあと思うのですが、以下の話に関しては時間と量の都合上明日に続くでご勘弁頂きとうございますすいませんすいませんm(__)m

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2012/09/28

○佐藤審議委員のロイターニュースインタビュー

一昨日の記事でどうもすいません。

写真の背景が何故真っ暗???
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE88P00D20120926
インタビュー:物価1%到達、後ずれの可能性=佐藤日銀審議委員
2012年 09月 26日 22:27 JST

『[東京 26日 ロイター] 日銀の佐藤健裕審議委員は26日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀が事実上の目標に掲げている消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%の達成について、現段階で日銀が展望している「2014年度以降、遠からず」というタイミングの「不確実性が強まっている」と後ずれを示唆した。』(上記URLより、以下同様)

まあ元々不確実性が高まる以前の問題で佐藤さんってそれ無理じゃネーノという指摘をしていたような気もしますが(^^)。

『世界経済は引き続き下方リスクが大きいとし、日銀が描く日本経済の見通しから、さらに経済・物価が下振れるがい然性が高まる場合には追加金融緩和を「躊躇(ちゅうちょ)しない」と語った。』

10月展望レポートで追加緩和ですねわかります。

『就任会見で新たな政策手段として言及した日銀による外債購入は「期待インフレ率を引き上げる有効策」と述べる一方、法律上の制約や海外当局との関係など実現に向けた課題の多さをあらためて指摘した。』

まあこれに関しては第一に米国財務省様に対して誰が鈴を着けに逝くのでしょうかという話があり、更には日本の場合「通貨政策は財務省が行いますぞな」という仕切りがありますし、というか欧米の場合も大国に関しては中銀は通貨政策には(間接的に金融政策でどうのこうのはしますが)直接的にはタッチしないというのがまあ了解になっているようです(スイスとかデンマークみたいなのは小国なので話は別)のでして、そーゆー従来からの流れからもその手の交渉ルートがあるのって財務省様でございますので、それを日銀に移せるものなのかという話もあります罠。

でその次が<中国経済減速は想定以上に長引いている、内需に変調の兆し>というお題。

『日銀は9月18、19日の金融政策決定会合で、資産買入基金の10兆円増額を柱とする追加金融緩和に踏み切った。理由について佐藤氏は、海外経済の減速の強まりを背景に、輸出や生産が減少する中で、先行きを含めて景気判断を「はっきり下方修正した」と指摘。日本経済が持続的な成長経路に復帰するという「当初想定していた経路を踏み外さないために追加緩和を実施した」とした。』

ここまでは公式の話。

『起点となった海外経済は、特に中国経済について「景気の減速した状態が想定以上に長引いている。中国の景気刺激策も発動ペースが抑制的だ」とし、「その他の新興国にも相乗作用をもたらしており、中国の需要動向が今一つ芳しくないことで輸出が軒並み弱含んでいる」との見方を示した。一方、年前半に堅調に推移していた国内需要も、個人消費などに「変調の兆しが見られ始めていることを懸念している」と指摘。こうした足もとの経済状況を踏まえれば「景気回復の時期は後ずれしていると率直に言わざるを得ない」と語った。』

まあさよですの。でまあ追加金融政策に関する話の部分(上記URLの2ページ目部分になります)ですけれども。

『こうした情勢を踏まえた金融政策運営では、前回会合で下方修正した景気見通しをベースに点検するとしたが、「さらに経済・物価が下振れるがい然性が高まってくると判断された場合には、新たな手を打つことを躊躇(ちゅうちょ)しない」と強調。』

ほう。

『その際の手段について「期待インフレ率に働きかけ、実質金利の低下を促すことが重要」とし、1)バランス・シートの拡大、2)自国の為替レートの減価、3)リスク性資産の買い入れという3つが考えられると語った。』

ふむふむ。

『日銀は国債を中心とした資産買入基金の累次の増額でバランス・シートを拡大させており、リスク性資産の増額も「オプションとしてある」としたが、「必要性が生じた段階で効果と副作用などを総合的に勘案して対応の是非を探っていきたい」と述べた。その上で、経済見通し下振れの可能性が景気回復の障害になる場合は、「新たな措置も当然オプションとして出てくる」と基金以外の緩和手段も選択肢になるとの考えを示唆した。』

基金以外の緩和手段とな??例えばコミュニケーションポリシーの強化という形で物価安定の目途に関する表現を変えるとかそういう話ですかな???????

まあ何ですな、とりあえず佐藤さん安定の緩和派なのですが、佐藤さんのエコノミスト時代の説明がそうだったのですが、ベースとして「物価」の部分で「日本の物価が中々アガランチ会長になっており、それを脱却する為には従来の延長の政策だけでは足りない」という主張を以前からしていたので、そーゆー意味ではハト派とか緩和派というよりは本当は物価重視派というべきなのではないかとも思うのですけどね。

ちなみに物価に関しては一昨日ネタにしましたが25日に出ていた日本経済研究センターの愛宕さんのブルームバーグインタビュー記事も合わせてご参考ということでURL再掲しておくだよ。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MATYGE6KLVRD01.html
日銀は来月末追加緩和も、14年度物価1%未達なら−愛宕・前日銀課長

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2012/07/26

お題「両審議委員の就任会見:ベンダーヘッドラインとは違って佐藤委員の方が積極派ではないかと」

やはりベンダーのニュースを見ただけでどうこういうのはイクナイとゆーのが良く判りましたとさ。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1207b.pdf
しかし全部で15ページとか長いですの。

#以下引用大会でやたら増量していますのでよろしゅうに

○今の金融政策で緩和が十分ですかというような話

質問はこちら。

『(問) 日銀は、物価上昇率1%を「中長期的な物価安定の目途」として掲げ、その上で、早ければ2014年度にもその1%に到達可能であるという見解を示しています。日銀が示している物価のパス、またデフレ脱却のパスを満たすにあたって、日銀の現状の金融政策が十分であるとみていらっしゃるかどうか、この点をお伺いします。』

・佐藤委員:基金買入の政策効果のパスを検証する必要があるのでは

『(佐藤委員) 現状の金融政策については、周知の通り、強力な金融緩和を進めているということで、資産買入れ基金の増額を順次進めてきていると理解しています。ただ、問題は、資産買入れ基金の増額あるいはそれに伴うマネーの供給増が、実際の物価の安定あるいは物価の回復に結び付くパスが、必ずしも明確ではないということだと思います。そういう点では、資産買入れ等の金融緩和が、如何にして物価の回復に結び付くのかというパスを、もう少しクリアにしていけるような、そういった政策運営が必要なのではないかと個人的には考えています。』

という事ですが、後の質疑を見ておりますと「単純に国債買うだけで効くんでしょうかねえ」ってな趣旨の話をしていまして、まあ要するにマネーがどうのこうのというよりも、政策パスとして(これまた後で話していますが)実質金利パスと資産価格パスを考えているという所のようで。


・木内委員:新たな形の金融緩和とな&物価のスタンダードねえ・・・・

『(木内委員) 現状の経済のもと、デフレ圧力は緩和の方向に向かっていることは確かだと思います。日本銀行の基本的な考え方としては、需給ギャップが縮小に向かう中でデフレ圧力が緩和の方向に向かうというもので、こうした考え方は基本的に正しいのではないかと思っています。しかし、現在想定している成長率で、果たして、例えば2014年度にかけて1%に達するということが、非常に確実性が高いかというと、不確実性も依然として大きいのではないかと思っています。』

物価が上昇するには成長が足りないというのはまあ直球ですな。

『特に足許の物価は、原油価格の上昇によって押し上げられている部分もあります。食料・エネルギーを除くという国際的なスタンダードで見た消費者物価は、前年比では依然として比較的大きなマイナスであるということから、先行きの物価については、不確実性は比較的高いのではないかと思っています。』

まあエネルギー価格云々の話はそうなのですが、基調的な物価を見る際にコアコアを見るという話に関しては「国際的なスタンダード」というのをこの後でも何回か木内さん言ってますけれども、金融政策で目標にすべき物価水準は「中長期的に見た総合物価指数」というのが国際的なスタンダードでもあります(FRBでロンガーランの物価目標として示しているのはPCE物価指数総合ですがな)んで、なんつーかこの説明部分を拝読すると若干の???感を受けるのですけれども。

いやまあ「基調として見る物価」の話と「金融政策として目標にすべき中長期的な物価」の話は違いますってのは当たり前の話だからそこはスルーして説明しているのかも知れませんけれども、そうでは無いような希ガス。

FEDの中心的なビューではありませんが、毎度引用しておりますセントルイス連銀総裁のブラードさんの所では『Key Policy Papers』の所で『"Measuring Inflation: The Core is Rotten" 』などというお洒落なペーパーを出しておられまして(ちなみに初出は2011年5月8日)、「コアインフレで基調の物価を見ると本来目標にすべき総合物価指数よりもバイアスがあるので金融政策運営上問題が有る」とゆーよーなお話しているのでありまして、必ずしも「国際的なスタンダード」なのかというとこれまた議論が起きているというフェーズのような気がするんですけどにゃあ。

http://research.stlouisfed.org/econ/bullard/index.html
http://research.stlouisfed.org/publications/review/11/07/bullard.pdf
Measuring Inflation: The Core Is Rotten


話が逸れましたが(汗)木内委員の話の続き。

『従って、必要であれば、追加の緩和策は検討すべきであると思っています。さらに、資産の買入れを軸とした金融緩和策については、実施から既に2年弱が経過していますので、その効果については、そろそろ検討あるいは総括すべきタイミングにきているのではないかと思っています。その結果として、今の政策の延長線上で1%の目標を達成できる可能性があまり高くないということであれば、ここから新たな形の金融緩和を柔軟に考えていくということは、当然ですが必要になっていくのではないかと考えています。』

新たな形とな(^^)。


○デフレの原因、脱却に向けたルートについて

質問を引用である。

『(問) お二人にお伺いしたいのですが、日本経済がデフレから脱却できない理由はどこにあるのかということをお尋ねします。合わせて、デフレ経済に突入して以降、日銀がデフレ脱却のために行ってきた金融政策への評価も、お伺いしたいと思います。』


・佐藤委員:上昇しない賃金が問題という話&為替ルートと資産効果

『(佐藤委員) バブル崩壊から既に20年余り経ち、未だにデフレ脱却ができていないということですが、私は、デフレには2つのフェーズがあった、あるいは、あると理解しています。』

ほほう。

『1つ目のフェーズは、資産価格の急低下、いわゆるバブル崩壊から起こった逆資産効果、そして、その逆資産効果の結果として、企業や家計のリスクテイク余力が大きく削がれ、それが結局、需要の減少、需給ギャップの悪化、そして一般物価の下落を招く──いわゆるネガティブ・フィナンシャル・アクセラレータ──、そういった作用が働いたということかと思います。これが第1のフェーズです。ただ、こういった第1のフェーズに関しては、2000年代初頭に不良債権処理が概ね峠を越える中で、一旦は終息したかと考えています。』

ふむ。

『ただ、2000年代のどちらかというと後半から、新しい第2のフェーズに入って来ているかと思います。第2のフェーズにおけるデフレですが、要因は色々あると思います。日本銀行の公式見解では、デフレの要因とは、1つには成長力の低下、その背景としては人口の高齢化に伴う労働力人口の減少あるいは生産性の低下が挙げられていると思います。それと並び、私は、賃金の低迷、これが非常に長期的に続いていることを挙げておきたいと思います。』

ほうほう。

『労働需給は段々改善してきている、有効求人倍率も非常にゆっくりとではありますが、徐々に「1」に近付いてきているという状況ですが、完全失業率が4%台半ばという中で、これだけ労働需給が緩いという状況のもとでは、持続的な賃金の回復、名目賃金の回復が図れないということかと思います。過去に実際に物価が1%前後にあった時期の完全失業率は──例えば90年代初頭、バブル崩壊後で、実際には物価が低下していた局面なので、ちょっと今とはフェーズが違うかもしれませんが──、3%程度に低下しており、ほぼ完全雇用の状態にあったということだと思います。足許は、改善しつつあるとはいえ、雇用情勢にまだ厳しさが残っている、そういう中で、名目賃金の回復が非常に微々たるものに止まっているということであり、そういう中では、なかなか需給ギャップの改善というだけでデフレ脱却を図ることは難しいかと考えています。』

『まとめると、1つは経済情勢全般の改善による需要の回復、それによる需給ギャップの改善ということですが、もう1つは賃金の回復がデフレ脱却の鍵になるかと考えています。』

雇用情勢が厳しくて名目賃金が中々改善しないと需給ギャップの改善だけではデフレ脱却が難しい、というビューでして、まあこれは物価に関して弱気ですよねという話ですが、こーゆーロジックで来られますとなるほどと思いますな。で、後半。

『2点目の、デフレ脱却に向けたこれまでの日本銀行の取組み、金融政策についてですが、2010年10月にようやく重い腰を上げて、資産買入れ基金を立ち上げ、株式、具体的にはETFやJ−REIT等のリスク資産の買入れも含めた先進的な政策を打ってきていると思います。ただ、先程も申し上げたように、そうした先進的な政策を打ってはいますが、それが実体経済にどのようにフィードバックしていくかというところのパスが今一つはっきりしない面があるかと思います。』

まあこれに関してはこの先の部分で米国のQEが段々効かなくなっている指摘をしているので日本だけの話では無いという所のようですが。

『金融緩和の効果は、こういったゼロ金利制約のもとでは2つあると思います。1つは実質金利を下げ、為替レートに影響を及ぼそうとすることです。もう1つは資産効果かと思います。すなわち、市場に流動性を供給していく中で、いわゆるポートフォリオ・リバランス効果、資産市場への浸み出し効果を図っていくということかと思います。』

ということで、ゼロ金利制約の下での効果について、実質金利ルート、というか為替ルートと資産価格ルートの話をしていますね。

『前者の為替に関しては、国内要因だけで決まるものではありません。ご案内の通り、欧州情勢等、日本以外の要因で円高になっている部分もありますし、また、他国の金融政策にも大きく影響されるということで、日銀が努力はしていますが、なかなか努力の割に報われないというところは、そういった海外要因も影響しているかと思います。』

ふむ。

『それから資産効果についてですが、これは、2001年から2006年まで量的緩和を行っていく中で、当初そういった効果もあるのではないかということも期待されたわけですが、これも思いのほか大きくなかったと総括できるのではないかと思います。米国においても、QE1、QE2と段階を経るに従い、その株式市場への波及効果も段々薄れてきているということです。これまで様々な政策を打ってきたわけですが、それがデフレ脱却まで今一つ結びつかなかったのは、そういったことが裏にあるかと思います。』

なるほど。


・木内委員:期待の低下が問題&インフレ期待の引き上げと為替ルート

『(木内委員) それでは、私の方からですが、デフレのきっかけとなった要因として、一番重要だったのは、企業部門での過剰債務問題、バランスシート調整ではなかったかと思います。過剰債務の削減のために必要な設備投資も抑える中で需要が弱くなったという面もありますし、必要な設備投資が抑えられたために資本ストックの蓄積が滞った、あるいは設備が古くなる形で競争力が低下していったということで、需要面だけではなく、供給面からも日本経済の活力が削がれていった、これがスタート時点ではなかったかと思います。』

『しかし、これは、2000年代に入ってほぼ解消されてきた。その中でも、低成長とデフレが続いてきたというのは、やはり色々な期待が下がってしまったということではないかと思います。需給バランスが悪化し、成長期待が下がる中で、成長率への期待、所得への期待、物価への期待が、企業や家計の中で一旦下がってしまうと、なかなかそれを浮上させるのは難しいということだと思います。』

当初はバランスシート調整で、その後は期待の低下によるネガティブフィードバックと。

『ただ、色々な期待の中で、インフレ率の期待については、金融政策である程度上げることが可能ではないかと思います。引き続き、インフレ期待の引き上げというのは、日本銀行がデフレ脱却に向けた強い姿勢を示すことで、ある程度可能な分野ではないかと思っています。』

ほほう。

『それから、もう1つ気になるのは、為替の動きです。デフレになった後というのは、デフレと円高が相乗的に進む、スパイラル的に円高からデフレ、デフレから円高というのが進行してきたと思います。』

そうなんすかねえ。物価が沈んでいる中で円安進行してた時期もあったような気もするんですけど。

『つまり、円高の主な要因がデフレであり、さらに円高によってデフレ圧力が高まる、というスパイラルからなかなか抜け出せていない。これは簡単に抜け出せるものではありませんが、それに対する政策は、日本銀行だけではなく、政府も含めて今後も考えていくということが、デフレ脱却にとっては1つの重要な施策ではないかと思います。』

まあそれはそれとして「政府と協力して為替対策」という趣旨は把握しました。


○今後の金融政策について

質問は実は2つあるのですが、纏めるとアホのように長くなるので分割。

『(問) 2点ほど伺いたいのですが、お二方から、これまでの日銀の政策に対する評価についてのご発言がありましたが、既に、ゼロ金利の制約下、打てる手段が相当限られているかと思います。これ以上金利は下げられない、あるいは基金の額を積み増すにしても国債の額をどんどん増やすわけにもいかないと思いますが、逆にどういった政策を打つべきなのか、さらにリスク資産を買うべきなのか、色々な考え方――以前から、お二方がアナリストの立場で示されていると思いますが――、改めて委員就任にあたってお考えになっている新たな政策手段について――先程木内委員からも今までの政策を総括して新しい方法を考えるべきだというお話がありましたが――、伺いたいのが1つです。(2点目は次に)』


・佐藤委員:実質金利ルートということで為替への働きかけ

『(佐藤委員) まず、ゼロ金利制約下の金融緩和手段ということですが、確かにおっしゃる通り、採れる手段は極めて限られているかと思います。そういう中で、私なりに政策効果という観点から採り得る手段を整理してみると、ゼロ金利制約ということで、名目金利はゼロ未満には下がらないわけですから、実質金利を引き下げていく政策が必要かと考えています。それは、先程木内委員からもご指摘がありましたように、期待インフレ率に訴えかけていく、期待インフレ率を引き上げていく、それによって実質金利の引き下げを図っていくということかと思います。』

とここまでは先ほどの話と同じ。

『では、どのようにしたら期待インフレ率を上げることができるのかということですが、これはなかなか難しい問題です。』

さいですな。

『例えば、今やっているように、国債をひたすら買いまくっていけば期待インフレ率が上がるのかということですが、現状では、例えば残存期間が2年あるいは3年の国債を大量に買い入れたところで、市場の期待インフレ率に働きかけるどころか、むしろ5年までのカーブがどんどんフラット化しているという状況ですから、現状では、今のところ効果としては逆に出てきていると思います。』

これは確かにそういう面がありまして、それこそさっき引き合いに出したセントルイス連銀ブラード総裁のペーパー類の中にある『Seven Faces of "The Peril"』ではQE2実施の必要性を主張すると同時に、政策金利を低位水準で長期化するとデフレ均衡に陥る可能性が高まるので望ましくないという主張をしておりまして、低金利によりデフレ期待定着という問題も確かに指摘される所ではあろうかと。
http://research.stlouisfed.org/publications/review/10/09/Bullard.pdf
Seven Faces of "The Peril"

とまあ例によって話が逸れまして恐縮ですが続き。

『そういう中では、採り得る手段としては、例えば、資産買入れを多様化していくということで、これまでも各方面から提案が出ていますが、例えば、岩田前副総裁が提唱しているような外債買入れということも一案かと思います。』

キターーーーーーー(・∀・)

『これは、財務省とのすみ分けというところで、フィージビリティの面で色々と問題があることは十分理解していますが、為替操作を目的とした外債買入れということではなく、資金供給を増やすための外債買入れと位置づければ、そのあたりの問題というのはクリアできるのではないかと考えています。ただ、このあたりは法律論あるいは手続き論、それから諸外国の財政当局との関係ということも絡んできて、色々とクリアすべき関門は非常に多いと思います。これから勉強して、どういったところがフィージビリティの点で問題になり得るのか、見て参りたいと思います。』

法律論もさることながら、おそらく米国財務省を了承させるのが一番のネックではないかと思われるのですがどうっすかねえ。

『あとは、一段のリスク資産の買入れということです。既に ETFあるいはJ−REITの買入れを進めているわけですが、例えば、よりリスク性の高いものにシフトしていくことも一案かと考えています。』

「よりリスク性の高いもの」とな(^^)。


・木内委員:具体的な話は避けましたが基本的にはやはり為替みたいですね

『(木内委員) 今後の政策についてですが、こういった新しい政策をすべきだというのをこの場で申し上げるのは控えるべきかと思っています。先程申し上げましたが、今の資産買入れなどを中心とする包括的な緩和の評価ができていないということです。それが十分な効果を上げているということであれば、その延長線上で、国債やリスク資産――特にこれはETFが中心になると思いますが――の買入れを進めていくことが妥当だという判断になるでしょう。あるいは、今の包括緩和は十分な効果を上げていないということであれば、また新たな政策を考えなくてはいけないということです。現状では、その判断がまだできていませんので、今後考えを深めていきたいと思っています。』

とは言いましてもその総括間に合うんかいなという気はするのですが・・・・・と思いますとその続きがございまして、木内委員も基本は為替ルートですなあという話です。

『ただ、漠然と考えているのは、為替の安定というのはやはり重要で、これは日本銀行だけの業務ではもちろんないということです。政府、財務省と協力して為替の安定に従来以上に関与していくというのが、ある意味新たな政策のフロンティアではないかと、非常に漠然と今は思っています。』

でまあ先ほども申し上げましたが、この件については米国の財務省様を如何にして納得させるかというのが極めて重要という所ではなかろうかってな話ですなあと思うのでした。


○市場との対話について

先ほどの質問の後半部分。

『もう1点は、マーケットとのコミュニケーションですが、2月の物価安定の目途の導入以降、マーケットの緩和期待と日銀の姿勢とに多少ギャップが出て色々な批判も出ていましたが、その点について、お二方がどのようにお考えで、どうあるべきだと考えていらっしゃるのか、お聞かせ下さい。』

・佐藤委員:2月の「目途」発表以降のコミュニケーションのギクシャクを指摘

まあその点は次の木内委員も同様でございますが、佐藤委員の場合は声明文文言の点まで突っ込む所がイイハナシダナーという感じです(^^)。

『2番目の質問で、マーケットとの対話でギャップがあるのではないかということですが、これは、昨日まで民間エコノミストとして私もマーケットの一員でしたので、そういう中で、若干感じているところです。』

キタコレ。

『2月14日のインフレ目標の設定ということですが、その後、果たして日銀は本気なのかどうかというところが、投資家の最大の関心事であったと思います。ただ、3月に次の一手が出てこなかった――4月は出てきましたが――、そういった中でマーケットあるいは投資家の期待もだんだん萎んでいったということかと思います。』

まあそうは言っても毎月追加緩和というのもどうかという気はしますが、佐藤委員の言いたいのはこの先にある説明を勘案しますと「2月の情報発信はあたかも毎月緩和を継続するかのようなメッセージとして市場が受け止めたので話がややこしくなっとるんじゃヴォケ」という事と存じます。

『また、強力に金融緩和を推進するという2月のステートメントですが、これは5月には一旦剥落してしまったということで、そのあたりの情報発信のやり方をみて、マーケットとしては、日銀の情報発信の一貫性、あるいはスタンスの一貫性というところに若干疑問を持っているかと思います。強力な金融緩和を推進するという文言、これは形を変えて6月には復活したわけですが、ただ、詳細にみると、現在完了形のような形になっています。すなわち、強力に金融緩和を推進してきた、これからは適切な金融政策運営に注力するといったようなことが書かれているわけですが、これだと、やはりマーケットとしては、強力な金融緩和はもう終わってしまったのかと受け止める可能性もあるかと思います。』

細かいですな(^^)。

『そういう点で、情報発信の一貫性というところは、今後大きな課題になってくると思いますし、私も、実際に中に入りましたら、マーケット参加者は果たしてこういうステートメントを出せばどういう反応をするのか ――日銀流に言うと、おそらく政策反応関数ということになるかと思いますが――、そういったところを、市場参加者の目線でボードの方々に提言していくことができるのではないかと思います。』

よろしくお願いいたしますm(__)m


・木内委員:佐藤委員と基本は同じで「情報発信の一貫性」の必要性を強調

『それから2番目のマーケットとのコミュニケーションという点ですが、やはり、多少2月以降の状況をみると、日本銀行とマーケットの受け止め方の間に乖離があったり、混乱があったりということも、もしかしたらあったかと思います。』

この先の部分を見ますと佐藤委員よりは日銀の情報発信については同情的というか何というかというニュアンスを受けますな、うんうん。

『これは佐藤委員も指摘されていましたが、一貫性というところで、1つは2月の物価安定の目途についてみると、内外の市場の受け止め方には、かなり乖離があったと思います。「Goal」という言葉と「目途」という日本語から受けるニュアンスにかなり乖離があって、海外では非常に強い積極緩和期待が急激に強まってしまい、内外でダブルスタンダード的になってしまったのではないかという見方が市場にあったことは確かであり、ある種の混乱が起こったのかと思います。』

さよですな。

『それからもう1つの一貫性というのは、やはり時間軸でみた一貫性であり、非常に強い1%の物価安定の目途達成に向けた強い姿勢がみえたと思ったら、少しトーンダウンしたような印象を市場に与えたということです。実際はそういうことを意図して情報発信したわけではないと思いますので、市場が一貫した姿勢を日銀から感じ、受け取ることが重要だと思いますし、もし、そこにやや誤解があるのであれば、情報発信の仕方というのを工夫できたらと感じています。』

「実際はそういうことを意図して情報発信したわけではないと思いますので」という辺りにまあ優しさというか配慮というのを感じますな、うんうん。


○財政マネタイゼーションとか国債引き受けとかに関して

まあ当たり前ですがお二方ともまあ普通の話をしているのですが、質問がワロタので引用。

『(問) お二方に伺います。日銀の現在の国債の買入れ規模とペースですが、年間で43兆円くらいに達しているということで、日銀は、5月以降、マネタイゼーション懸念ということを割と頻繁に発信するようになっていますが、例えば先程、佐藤委員がおっしゃった岩田先生など、マネタイゼーションの「マ」の字もあまり心配されていない方もいらっしゃると思います。その国債の買入れについて、今後、ある種の天井があるというか、マネタイゼーション懸念をお感じになるのか、ご見解をお願いします。』

多分質問者は岩田一政前副総裁と岩田規久男学習院大学教授を混同しておられると思うのですけれども、「マ」の字も心配されていないというのはオモシロス。

・佐藤委員:市場で買う分にはマネタイゼーションではありませんと

『(佐藤委員) マネタイゼーションという言葉の定義をもう少し明確化する必要があるかと思います。日銀は現在、マーケットから間接的に国債を買い入れているということですが、これがマネタイゼーションなのかどうかというと、私は、量の多寡に拘らず、これはマネタイゼーションではないと思います。』

ほう。

『マネタイゼーションとは、狭義の意味では、やはり国債の直接引受けということかと思います。直接的に政府から買い入れる、それから間接的にマーケットから買い入れる、これらは、似たように見えて、その経済効果としては大きな開きがあるということです。政府から直接買い入れるというのは、要は、政府預金口座に日銀がクレジットすることになり、これは文字通りプリンティング・マネーということかと思います。マーケットから間接的に買い入れるということ、これはマーケットのカウンターパート、主に銀行になると思いますが、その銀行の日銀当座預金にクレジットしていくということであり、これはマーケットというフィルターを通しているという点で、狭義のマネタイゼーションとは大きな開きがあるものだと思います。』

ほうほう。

『そういう点で、現在の政策がマネタイゼーションに近付いてきていると私は特に考えていません。それから、敢えて付け加えておくと、やはり国債の直接引受け、これは、財政規律の観点から厳に避けるべきだと考えています。』

なるほど。


・木内委員:国債の買入拡大が財政規律に影響する事は避けるべきと

『(木内委員) 現状では大きな問題になっているとは思ってはいませんが、国債の買入れが財政の規律を緩めることにならないかどうか、そういうリスクを常に意識して政策を運営しなければならないのではないかと思っています。』

ほほう。

『つまり、日本銀行が大量に日本国債を買うことによって、政府がそれに甘んじて財政規律が緩み、安易に財政環境を悪化させてしまうことにつながってしまった場合には、財政環境は一段と悪化しますし、場合によっては金利が上がるという形で日本経済や金融システムの安定に悪影響を及ぼす、こういったリスクは、今後も常に考えなくてはいけないのではないかと思っています。』

ほうほうほう。

『ただ、足許では、財政再建の動きが、まだ分かりませんが、比較的強まる方向になっていると思っています。消費税の引き上げ、あるいは社会保障制度の一体的な改革の中で、もし中期的に財政改善の方向がしっかりと強まっていくということである場合には、財政リスクを高めずに国債を買う余地が追加的に生まれるのではないか、とも思っています。従って、やや中期的に金融政策運営を考える上では、やはり、政府の財政再建という政策がしっかりと進んでいくかどうかにより、政策のオプションが変わってくるということが、非常に重要なテーマになっていくのではないかと思っています。』

なるほど。


○つーことで総括すると佐藤審議委員の方が(緩和方面に)積極派というニュアンスを感じますな

つーことで延々と引用した結果昨日の山口副総裁講演(割とハト的サービスフレーズが多い)のネタをする時間も量も無くなったでござるの巻となりましたが、会見の前半の所で木内委員が「新たな形の金融緩和を柔軟に考えていくということは、当然ですが必要になっていくのではないかと考えています」って発言したのに見事に釣られて昨日引用したブルームバーグニュースのヘッドラインでは「木内委員がこう言った」というのを題名にしていましたけれども、質疑の後半の方を見ますと、引用した最後の部分の国債買入に対する財政規律との関係に関して(佐藤委員は「市場で買う分には何ぼ買っても無問題」というのに対して木内委員は「買入拡大で財政規律に影響を与えないように」と言ってます罠)とか、その前のコミュニケーションの部分(佐藤委員の方が手厳しい罠)とか、今後の金融政策の枠組みに対する見解(佐藤委員の方が色々とネタ出ししてます罠)とか、あたしゃーどう見ても佐藤審議委員の方が積極派という風に読んだのですけれどもどうっすかねえ。

まあ今後のお手並みに期待したい所ではございまする。山口副総裁講演に関しては明日で勘弁m(__)m

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2012/07/25

○審議委員2名着任である

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120724a.htm/
審議委員の発令について

任期は5年でございます。

佐藤審議委員
http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_sato.htm/

木内審議委員
http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_kiuchi.htm/

ということで就任記者会見があったのですが、会見の方は今日日銀のページにアップされるのでそちらを見てからとは思いますがとりあえずニュースから。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M7NMEN6K50XZ01.html
日銀審議委員の木内氏:政策効果を総括し、新たな緩和策検討も (1)

『木内氏は日銀が掲げる物価上昇率1%目標の達成について「不確実性も依然として大きい」とした上で、「必要あれば追加の緩和策は検討すべきだ」と強調。2010年10月に策定した包括緩和策の効果を検討し、目標達成の可能性が低いと判断されれば、「新たな形の金融緩和を柔軟に考えることが必要になる」と語った。』(上記URLより)

『一方で、佐藤氏は「期待インフレ率を引き上げることで実質金利を引き下げる必要がある」とし、具体的には「資産買い入れを多様化していくことだ。外債買い入れも一案だ。財務省とのすみ分けの問題もあるが、為替操作ではなく資金供給を増やすためと位置付ければよい。クリアすべき関門は多いが勉強したい」と述べた。』(上記URLより)

という事でまあ色々と新しい施策をご提案されるべくという事のようですが、まあお手並み拝見という所でありまする。会見の要旨を見ないとこの辺の「新しい施策」について実際にどの程度の事を考えているのかが良く判らん所(メディア報道だとどうしてもキャッチーな発言をクローズアップするので前後の文脈読まないとミスリードされる可能性がががが)であります。

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2012/06/12

○これはまあ良さげな人事ということで感想と雑談

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M5GB5H0YHQ0X01.html
政府:日銀委員にエコノミスト2氏を提示−21日ごろに採決見込み

『6月12日(ブルームバーグ):政府は議院運営委員会両院合同代表者会議で、空席となっている日本銀行の審議委員に野村証券の木内登英チーフエコノミスト(48)とモルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミスト(50)を起用する国会同意人事を提示した。衆参両院の議院運営委員会での配布資料で11日明らかになった。』(上記URLより)

昨日の夕方に「17:20に提示される」というニュースが出てワクワクテカテカしつつもどこの芸人何とかストが出てくるのやらと微妙にげんなりして待っておりましたが、ブルームバーグ見てたらヘッドラインに佐藤健裕さんと木内登英さんの名前が出てきて「ほほう」と思うと共にちゃんとした人がノミネートされて個人的に少々びびっていた一部の「マネーガー」みたいな変なのが出てこなくて誠に結構と思いましたです、はい。

債券市場的には木内さんはあまり馴染みは深くない(野村で債券系と言えばまず最初に出てくるのが松沢さんのイメージが)のですが、基本的にはマクロエコノミストだったと記憶しておりまして、あまり金融政策に関して積極的にああだこうだという話をするという印象も無いのですが、まー普通にちゃんとした話を展開する人で、変な何とか派みたいな感じの人では無かったかと。

で、あたくし的に今回ヒットと思ったのは佐藤さんのノミネートでして、佐藤さんって債券市場的にはまあ知られていると思うのですが、ご本人そんなにメディアとかに出たがるお方ではない筈で、この前ノミネートされた河野さんや、今回の木内さんと比べると失礼ながら世間一般的な知名度としては低いと思うのですが、佐藤さんもマーケット云々というよりはエコノミスト系の方でして、経済の見立てという点では物価動向に関して早い時期から10%刈込平均の重要性を指摘していたりとか(だいぶ昔に思いっきり佐藤さんのお名前出してネタにさせて頂いた事があるもんで)、安定感があってレポートもよく拝読してたりするもんで、これはほほうという感じでございます。

木内さんの金融政策に関する見解って不覚にもあまり詳しく存じ上げないので何ですが、佐藤さんについては基本的にかねてより緩和バイアスの主張となっていまして、まあそのように報道されていますが、そもそもそれは党派的な緩和云々というのと話が違うとあたくし理解しておりまして、佐藤さんは経済見通し、特に物価見通しに関して厳しい見立てをしていて、その結果として金融政策見通しが「追加緩和」という予想になるという事であって、別に緩和が先にありきという話ではないと思うのですが、どうも報道を見ると「緩和派」的な言い方されているのも何だかなあという気もせんでもないがまあいっか。


木内さんの方は不覚にもあまり詳しくないですけれども、まあお二方とも基本的には経済の見立てに関してフラットな方だというイメージがありまして、それはすなわち巷の何とかストでも良くあるパターンのであります所の「変なポジション的なバイアスを掛けて結論先にありきで材料を拾ってくる」というような傾向(そらまあ人間だからある程度主張にバイアスが掛かるのは仕方ないのですが程度問題という意味で)はあまり無いお方であるという風なイメージですけどどうでしょうかね。

まあお二方ともマーケット系とは言いましてもエコノミスト系でして、マーケットの視点でという意味ではマーケット系なのですが、足元で非伝統的な政策を推進する中で実は重要でもある調節実務の細かい話に関してはそれほどお詳しくもない(つーか調節実務の細かい話をマニアに詰めているとそれだけで労力が掛かるがな^^)と存じますので、そーゆー点から日銀事務方ペースに巻き込まれないようにご留意頂きたいと存じます、はい。


しかし昨日ニュースヘッドライン見ててずっこけたのはこのお方の発言。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M5G49L6KLVR401.html
自民・鶴保氏:金融緩和に消極的な人には否定的−日銀審議委員人事

ベンダーのニュースヘッドラインで最初にこんな感じで出てきたのですがね。
17:56JBN:*鶴保氏:日銀審議委員候補者については個人的には付き合いない

まあ上記記事を見ると自分からこの発言しているのが微妙なので良く判らんのですけれども、まず人事案が出てきて最初に出た発言が「個人的に知っているか」というのは政治に携わる人間として如何なものかと思うのでありまして、自民党は政権に復帰したら知っているか知らないかが先にありきの人事をしますと宣言している、あるいはそういう意識が常にあるから上記のような発言が出るんじゃネーノとか禿しく懸念して「また自民党の劣化か」という悪印象を与えるのに中々効果があったと思うのはあたくしの性格がおかしいからですかそうですかorz

いやまあ「ご存知ですか」と普通に質問されて普通に素で答えただけだと思うと言うか思いたいのですが、それにしてはベンダーのヘッドラインで最初に出たのがこれって何かヘッドラインの打ち方がアレなのか鶴保さんが素でまず最初に「知ってるかどうか」という話をする人なのかは元記事見ても判らんので判断は保留しますけどね。

とまあそんなどうでも良い悪態は兎も角として『その上で、金融緩和に消極的な人物を評価するかとの質問に対しては、否定的見解を示した。』(上記URLより)って相変わらず何を言ってるんだこの人はという感じでして、そもそも河野さんだって今の時点で金融政策の正常化しろとか主張している訳では無いですし、大体からして金融政策を今後どうするのかという件については、経済物価情勢とその先行きの見立てに依存するのであって、中央銀行が無限にジャンジャンマネタイズして政府のお財布になってジンバブエだヒャッハーとか無茶苦茶言うのなら兎も角、普通に何の条件も無く未来永劫緩和しろとか言う話は無いでしょと思うのでございまして、緩和派じゃないとダメ的な言い方って相変わらず何なんでしょうねと思うのでございますがどうなんでしょ。

まあ何時からか、と言われると良く判らん(何となく橋下旋風以降かなという気はしますが)のですが、自民党の主張が妙にエキセントリックに暴走気味になっていて、おまいら政権に復帰する気はないのかよという劣化具合が目立ちまして、あたくし的には甚だ遺憾というか、先般の審議委員騒動に日銀法改正の話ですっかり呆れ果てている次第ではございます。


しかしまあ何ですな、水野さんが退任した後マーケット系の方が審議委員に居なかったのですが、今度はいきなり2名就任(ただし国会承認されればの話ですが)というのも何ですなあと思うのでありまして、元々今回の空席って財界のお方(中村審議委員と亀崎審議委員)の後任だった筈で、前回ノミネートされた1名は伊藤忠商事の方だった訳でして、まあ前回の審議委員騒動で「こんな与野党対立の政治的なおもちゃにされた挙句にあの(=もともと財界で名を成している方から見たら罰ゲームみたいな)待遇でやってられますかとゆー事で誰も受けてくれなかったとゆーのが背景にあるんでしょうなあとしか思えない訳でして、そっちの観点からしますと、まー財界人誰も受けないだろうなあというのは予想されていましたが、それにしてもさびしい話ではあるなあと思うのでした。

なんつーかね、財界人のような金融政策の非専門家が審議委員になるのはどうのこのという主張もそらまあ話としては分かるのですが、あたくしが最近思うのは、たとえば麿に対して普通に対等に物言いできるという意味では日本を代表するような大企業で副社長だの上級役員だのの経験がある方というのは執行部の止め役として重要だと思いますし、例えばFOMCでは各地区連銀が地域差を反映した感じで経済見通しなどの違いを金融政策の主張に反映させる(シカゴは万年ハト派でダラスは万年タカ派みたいな傾向とか)ような機能がありますが、日銀の場合はそれをある意味実業界出身の方が担っているんじゃネーノとも思うのでございまして、東京で金融市場や経済データを見ている人たち(まあミーも含めましてですな)とはまた違った視点で意見の多様性を担保する、という意味で実業界出身の方が審議委員になるというのも重要ではないかと思うのでございまして、今回はちょっと無理でしたが、やはり将来的には実業界出身の審議委員も居た方が良い(今は東電出身の森本さんだけね)と思うのですけどどーっすかね。


さらに今回思いましたが、まあ現在は国会が消費税関連法案に向けて与野党で話をまとめましょうモードだからそんなに問題にならないと思うのですが、前回は国会が対決モードだったからとか、河野さんは運が悪かったですねえとしか申し上げようが無いですな、ナムナム。


#と、しょうも無い雑談を思いつくままに書いたら長くなってしまいましたorz

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