白川方明総裁(〜2008年度上期)


トップページに戻る


白川総裁発言目次に戻る
審議委員一覧に戻る


白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/


総裁就任以降の発言

2008/09/21「臨時政策決定会合、ドル資金供給オペレーションに関して」
2008/09/20「9月定例会見より」
2008/09/05「名古屋大学での講演から少々」
2008/09/04「記者会見でちょっと興味深い質問が」
2008/09/03「名古屋での講演を大阪の講演と比較」
2008/08/27「総裁会見はそれほどタカではなかったです」
2008/08/26「総裁講演にちょっと鷹の香りが」
2008/08/21「定例記者会見、景気判断をなお下げる」
2008/07/22「再び総裁講演、従来どおりの内容ですね」
2008/07/17「総裁会見、景気は下振れ物価は上振れ」
2008/06/20「総裁講演から(メモ)」
2008/06/18「総裁会見なおも続き」
2008/06/17「総裁会見続き」
2008/06/16「総裁定例会見もヘッドラインリスク全く無く」
2008/06/05「参議院での半期報告質疑応答は質問も応答も良い内容です」
2008/05/29「金融研究所の国際コンファレンスでの挨拶:資産バブルとプルーデンス政策」
2008/05/28「国会答弁から少々(予告編)」
2008/05/26「総裁会見続き」
2008/05/22「白川総裁会見でのこれは良い発言」
2008/05/14「白川総裁講演続き」
2008/05/13「日本記者クラブでの講演、少なくともハト派には非ず」
2008/05/02「展望レポート公表後の記者会見」
2008/04/16「信託協会での挨拶」
2008/04/14「総裁就任記者会見」

副総裁就任以降の発言
2008/04/11「4月前半金融政策決定会合会見」
2008/03/25「就任記者会見(西村副総裁と共同)」

理事時代の発言
2004/02/03「国債市場と日本銀行」


2008/09/21

○総裁会見より

・今回の協調策の趣旨について

『最初に今回の協調策の趣旨についてです。最近の国際金融資本市場の動きをみますと、短期金融市場における資金調達圧力が持続的な高まりをみせています。すなわち、ドルの短期金融市場ではオーバーナイト物、ターム物ともに金利の急上昇や日中の金利の大幅な振れが目立つほか、年末越えの資金調達にかかる不安感も高まっています。こうしたドル市場における緊張感の高まりは、各国通貨建て市場にも影響を及ぼしています。今回の各国中央銀行による協調策は、こうした短期金融市場の状況に対処し、金融市場全体の状況の改善を目的として、ドル供給スキームの導入やその拡充策を協調して行うものです。』

要するにドルの短期市場での流動性クランチ対応ですと。

『次に、日本銀行が協調策に参加した趣旨ですが、日本銀行としても、こうしたドル市場の流動性の逼迫が円市場の流動性や市場の安定性に対して影響を及ぼす可能性が高まっていると判断しました。こうした判断を踏まえ、金融市場調節を円滑に行い、金融市場の円滑な機能の維持および安定性の確保に資することができるよう、米欧中央銀行の協調行動に参加してドル資金供給オペを導入することが適当であると考えたものです。』

欧米(特に欧州の方が大変だと思うが)のドルファンディングの圧力が日本の円投圧力に波及しちゃったりするのも宜しくないので参加しますっていう感じですかいな。では日本の銀行でそんなドルファンディングで酷いことになっている所があるのかというとそうでも無いみたいで。

『最後に、日本の金融機関──邦銀と呼ばせて頂きますが──の外貨資金繰りとの関係について説明します。邦銀は最近における金融市場の動向を踏まえ、外貨の資金繰りについて慎重な運営を行っており、現時点において邦銀の外貨資金繰りについて特段の懸念を持っているものではありません。今回の本行の措置は、円にかかる金融調節の一層の円滑化を図るとともに、金融市場の円滑な機能の維持および安定性の確保に資する趣旨から実施するものです。(以下割愛)』

ということですので、外銀は兎も角として、邦銀に関しては今般のドル資金市場のシュリンクで直接的に大変な騒ぎになっている訳ではないという話。即ちまあぶっちゃけてしまえば日本の足元は大丈夫ですが国際協調しないと市場が全然落ち着かないから国際協調するって所なのではないかと思料されます(^^)。いやまあその後の質疑応答で「米国から頼まれたのでは」みたいな質問とか出て否定してますけどね。


・円投フォワード調達圧力に関して

何で円の資金供給ではなくドルの資金供給をするのかという質問に対して。

『日本のケースでいえば、相対的に円の市場は安定しており、この円の市場で資金を調達し、先ほど申し上げたとおりこれをドルに変換するオペレーションを行うことによってドルを調達してきたわけです。これまではそうした動きを吸収しながら円の短期金融市場は安定していたという評価が可能だったと思います。ただここに来て、ドルの調達市場が急速にタイト化しており、円をドルに変換する圧力が以前に比べると高まっているわけです。』

『そうすると、この動きに元から対処するためにはドルで供給することが一つの有効な策となります。ただしこれは円の資金供給オペと補完的なものであり、代替的なものではありません。もちろん円の資金供給オペについても現在の状況をみながら丁寧に行っていくつもりです。』

ということで、円投フォワードによるドル資金調達圧力の増大が円金利にも影響を与えかねませんという説明になっています。でもまあ実はその部分だけで言えば円の資金供給オペを親の敵のように打ち込んでいれば平均レートだけは下がりますけど、現状の問題ってオペをやたら打てばよいとか言う単純な話じゃなくて、必要な所に流動性を供給するにはどうしたらよいのかという話になりますので、そーゆー意味でドル供給の意味があるんでしょうかね。


・まあこれは止血措置みたいなもんで

前日の会見では米国の措置を最善と言ってましたが、今日の動きを踏まえてどう思いますかという意地悪質問に対する答えから。

『まず、ドルの短期金融市場において緊張感が高まっているという背景には、今ご指摘のリーマン・ブラザーズの破綻やAIGに対する公的支援等に象徴される一連の出来事があると思います。金融市場の参加者が、相手方と取引をする際のリスク――カウンターパーティリスク――について、意識を高めるということが現実に起きたわけです。AIGの措置について、私は、FRBが置かれた状況に照らして最善の決定だと申し上げましたが、既にあの時点で金融市場が緊張感を高めており、そうした状況のもとで、もしFRBの措置がなければさらに緊張感が高まったと思ったからです。現実には、そうした措置にも関わらず緊張感は高まっているわけですが、だからと言って、金融市場の安定にとって公的支援は意味がないということではなく、やはり意味はあったと強く思っています。』

『その背景についてですが、昨日の話の繰り返しになりますが、金融市場の不安は流動性の逼迫という現象を引き起こしますが、これは問題のあらわれ方であり、最終的にはソルベンシ―(支払能力)という金融機関自体の資産の健全性の問題に関わる話になります。この問題にどう対応していくかが最も大切であり、流動性の問題に対応することで全てが解決するわけではもちろんありません。』

『今回のドル資金供給オペはあくまでも流動性の問題に対して対処したものであり、流動性の逼迫がきっかけとなって経済全体が混乱する事態を避けるためのものです。繰り返しになりますが、その背後にある基本的要因について取り組まない限り、問題は解決しません。』

即ち、不良債権の分離と損失の確定、資本の増強と言った抜本対策が必要になるということですな。前日の会見と思いっきり被りますが重要な論点なので引用しました。


・まあ欧州市場対策でしょ

最後の質疑にこんなもんが。

『(問) イエスかノーかでお答え頂けるのではないかと思うのですが、発表された時間が午後4時頃だったというのは、欧州のマーケットが開く時間を意識したものであるという理解でよろしいでしょうか。』

『(答) 各国の金融市場の状況や各国における事務対応がありますので、そういうものを全て勘案した上でこの時間に至ったということです。』

ま、今回は欧州の市場が暴れる前に日銀からアナウンスして欲しかったという所なんでしょうね(^^)。


・超脱力質問

オペの要綱を見てから質問して欲しいですよね。

『(問) 先ほど、担保があるので大丈夫との話でしたが、FRB等は、最近、信用リスクがあるものまで担保を広げています。米国債も未来永劫安泰というわけではないと思います。そういう意味では、もし外国の金融機関が殺到した場合、日本銀行がドル資産の持っている様々なリスクを全部引き受けて、世界中にお金をばら撒かざるを得ないというリスクもあるのではないかと思うのですが、その辺は如何でしょうか。』

オペ実施要綱のどこをどう読むとそんな質問が出来るのか、質問した記者の知能を激しく疑いたくなりますね。もう馬鹿馬鹿しいので総裁の答えは割愛しますが、どこがどう変なのかという話はもう最初から最後まで変としか言いようがないですわな。

正直、質問する人の所属と名前を名乗らせて、会見記録とかにも掲載して欲しいもんだと思いますよ。マッタクモウ。

トップに戻る










2008/09/20

○総裁記者会見

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0809b.pdf

基本的にはリーマン、AIG問題に関する質疑が多いので、まあ翌日の流動性供給策によってこの辺の話も前提が変化しているのであります。で、その辺りの質疑の前にそれ以外の質疑から。

・現状維持にした理由

金融経済月報を見れば概要部分で景気に関する先行きの項目別見通しが全然変化無いのが判るのですが、残念ながら月報の公表が翌日であり、この会見時にこういう質問が飛んでしまうのも仕方ないのかもしれません。

『(問) まず今回の金融市場調節方針の考え方についてお伺いします。景気認識については、前回停滞という表現に下方修正し、今回も停滞ということですが、それにもかかわらず利下げはしないという判断をされていますが、その理由をお聞かせ下さい。』

幹事社いきなり質問の巻です(^^)。で、利下げしない理由部分から引用。

『なぜ利下げをしないのかというご質問についてですが、金融政策を運営するに当たっては、その効果の波及にタイムラグがあることを念頭に置いた上で、各国とも経済の置かれた状況やそれをもたらす要因の性格に照らして、どのような政策が有効か、どのような政策が望ましいかを判断していく必要があると考えています。』

ちょっと途中を割愛しまして。

『日本経済に即して申し上げますと、先ほども触れましたが、景気は当面停滞が続くものの、その後は次第に緩やかな成長経路に復していくと予想しています。物価面では、消費者物価の前年比は、当面現状程度の上昇率で推移した後、徐々に低下していくというのが相対的に蓋然性の高い見通しであります。ただし、先行きの不確実性は高く、景気には下振れリスクがあり、物価には上振れリスクがあり、これら双方に注意が必要な局面にあるということは、いつも申し上げているとおりです。』

『こうした中で、中長期的にみて物価安定の下での持続的な成長を確保していくという観点から、現在の金融市場調節方針を維持することが適当と判断しました。』

この辺りですけれども、やはり金融経済月報の基本的見解部分を当日に公表した方が良いのではないかと言う気がせんでもないです。当日に公表されたのは国際金融資本市場の不安定さによる下振れリスクの高まりを指摘した文書なので、こういう質問が飛ぶのも致し方なしなのですが、金融経済月報の概要部分を見るとこの質問はでなかったのではと思われますが、どうでしょうか??


・何だかなあと思う質問

激しく脱力した質疑応答の部分がございますので引用。

『(問) 今後の経済の行方について、天気の晴れ、曇り、雨の中でどれが一番適当と思われるか教えて下さい。また、その理由についてもお願いします。』

『(答) これは、晴れ、曇り、雨というかたちではなかなか表現しにくく、(私は)そういう意味での表現力に乏しいので、日本銀行流の地味な表現ですが、足許は停滞、ここ暫くは停滞が続くということで勘弁して下さい。』

『(問) なるべく一般の方々にも分かりやすいかたちでお願いします。』

『(答) これから努力してみたいと思っています。』

何だかね、ワイドショーじゃないんだからそう簡単になたでぶったぎるようなワンフレーズな説明できるわけないじゃないよのと思うのですが、というかそういう単純化をするんじゃなくて多面的な見方をするように世の中を持って行くのが報道機関という公器のあり方なんじゃないですかねえ。全く金融政策までワイドショーにするなとはどんなアホバカだと思いますが。


という悪態は兎も角。


・中央銀行の金融システム安定維持に対して

上記の質疑以外がほぼ全部(新興国経済に関する質問が一本ありましたが)今般の国際金融市場の緊張に関する話に終始してまして、まあ中身は読んでいただければと思いますが、一応どれかを引用するとなるとこれになるのかなあとあたくしが思ったものを引用。ちと長いのは勘弁。

『(問) 先ほどFRBの流動性供給の枠組みが整ったという話がありましたが、そうしたかたちでFRBのバランスシートはだんだん大きくなる方向にあると思います。今回のAIG救済でもその方向にあるかと思います。そうしたことが将来的なドルの信認に悪い影響を与えないのかどうか、考えをお聞かせ下さい。』

まあこういう質問はでますわなと思いますが、その答えです。

『(答)中央銀行はいくつかの重要な機能を担っていますが、最終的に最も重要な機能として残るものは何かというと、私は金融システムのシステミックリスクの顕在化を防いで、金融システムの安定を維持していくということであると思っています。』

というのは日本の経験から正にその通りでございますと痛感します。で、その続き。

『こうした観点から、FRBのあり方、そして理念的な中央銀行のあり方を考えた場合、中央銀行は流動性の供給に専念すべきであり、資本の問題あるいはソルベンシー(支払能力)の問題が生じ、もしそれがシステミックリスクの危険を含む場合には税金で対応する、というのが基本的な考え方だと思います。』

これまた仰るとおりです。

『FRBは、システミックリスクに直面した時に中央銀行としてどのような対応をとるべきか、ということを考えて、その上でギリギリの決定を行ったのではないかと思います。これは私の個人的な推測ですが、中央銀行がそうした対応をとらなかった場合――つまりシステミックリスクが顕在化する惧れがある状況――と比較してどちらがドルの安定に繋がったかというと、私は今回FRBがこうした対応をとった方がはるかにドルの安定に寄与したと思います。そのことを申し上げた上で、最終的にこの問題──経済全体として資本の不足があるということが仮にあるとすれば、それにどう対応するべきか──については、真剣に考えるべきだと思います。』

ということですから、仮に日本でこの手の問題が発生した場合(されても困りますが)、白川総裁としては(というかそれが日銀としても普通の考え方だと思いますが)、日銀のバランスシートがどうしたこうしたとかいう細けえ話よりも、流動性クランチの回避に向けて全力投球をしてくれるということに関しては安心してよいというのは理解しました。


じゃあ日銀はソルベンシーに関する所は知らん振りなのかというとそういう訳でもなさそうでして、AIGの救済に関しての別の質問に対してこのように答えています。

『先ほども申し上げましたが、システミックリスクに直面した場合の公的当局の対応のあり方としては、中央銀行がなすべきは流動性の供給であり、政府・議会が決定すべき事項は、ソルベンシー(支払能力)、国民の税金をどう使うかという問題である、という概念的な整理ができると思います。しかし、仮に何らかの理由でそのような分担がなされていない場合、中央銀行としてどのように対応すべきなのかという点が非常に難しい課題です。振り返ってみると、1990 年代以降の日本銀行も、多少程度の差はあるかもしれませんが、質的には同じような問題に直面していたと思います。今回の措置については色々な評価は有り得ると思いますが、そうした時期をくぐり抜けてきた中央銀行の人間の一人としては、現在置かれた状況の中でFRBは最善の決断をしたと受け止めています。』


その他質疑応答あったのですけれども、翌日のドル資金流動性供給策発表で話のステージが変わってしまったので、まあ今回に関してはこの部分の引用だけということにしておきます。その他、リーマンへの与信に関する質問もありましたが、それに関しては『わが国の金融機関のリーマン・ブラザーズへの与信は大手行中心であり、これに関連した損失が発生する可能性はありますが、大方の先では期間収益で吸収可能な範囲内とみられます。』ということで直接的な影響は無いが、米国経済の混乱という文脈での影響は勿論あるでしょうという話になっていたことを付け加えておきます。

トップに戻る







2008/09/05

○名古屋大学での白川総裁講演(だいたい人のふんどし)

白川総裁は先日名古屋大学でも講演をしてまして。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0809b.pdf

で、こちらに関しては本石町日記さんが既にエントリーを上げておられまして、後だし恐縮ですがあたくしも実はこの講演読んでおりまして、決済システムの話をほうほうと思いながら読むの巻でございました。本文の8ページから10ページを目を皿のようにして読むべきであると思います。

・・・と言ってるあたくしも実際に決済実務まで中々触る機会がないもので、次世代RTGSになるとこれはもう一から勉強しないといけないんですけど、こーゆーのは100回本を読むよりは1回実務を回す方が勉強になるんですよ(汗)。

この次世代RTGS絡みのエントリーがこちらに。
http://hongokucho.exblog.jp/9427252/

エントリー中のコメントで「かるパース」さんが指摘しているのですけれども、『で苦言を一言、表裏をなす国債清算機関の設立が後になったのは、ちょっいけすかないですね。どちらかというと、最初の導入時にはDVPと国債決済が順調にいくかが最大の脅威だったのですが、有能な市場参加者の自助努力によりなんとなったのは、忘れないでほしいものです。』というのは正におっしゃる通りだと存じます。

RTGS導入前は国債決済で結果的にループ取引となるような売買がもうアホほど行われていたのですが、RTGSになった時にはスクイーズが頻発しねえかとか確か10ウン年前にもどこぞで申し上げた筈なのですが、相変わらずフェイル慣行が根付かないわ(これは正直言って債券に関する会計とか計理処理規程などがフェイル前提になっていないのを是正しようとしないバイサイドの問題)スクイーズしようとするアホウはいるわと、金のように色がなければ日中流動性供与とか出来ますが、モノは中々そう行かないというのは昔も今も実はまあ問題は問題かと。

今は1銘柄当たりの発行量が相応にでかいからまあ良いのですが、将来的に財政再建して(???)国債発行額が前年比減少方向になるとか(??????)になったら今のままだと回るのかいなというのは杞憂ですかそうですか。


さて、そんな人のふんどし攻撃ですが、まあ最新の金融工学を駆使しておられるお勉強のお出来になる皆様に置かれましては本文11ページのあたりを読んでいただきたく存じます。

『一方で、こうした新たな金融技術の進展は、技術の意味を正確に理解していないと、結果的にリスク管理に失敗することになります。例えば、先程の分散効果ですが、多数の住宅ローンを裏付けとする証券化商品であっても、住宅バブルが経済全体に拡がっている場合には、裏付資産に含まれる個々の住宅ローンは似たような属性を持っていることになり、結局のところ、大数の法則は成立しません。昨年来、サブプライム問題に端を発する国際金融市場の動揺が続いています。その背景には、証券化商品市場が急速に拡大する中で、今指摘したようなリスクに対する誤った評価に起因したリスクテイクの行き過ぎがありました。』

全くその通りでございまする。ただまあこういう話をしている中でバーゼルUでは中小企業向け貸出のリスクウェイトが分散が効いているという理由で何故か低く設定されるという珍現象が発生してたりするのが、理念と実際の違いというか政治的配慮というか(以下自主規制)。

まーこの手の金融工学モノっていうのは前提とする条件をちゃんと把握した上で、使う時にはその前提条件と現実の差異を理解した上で調整していくというのが正しい態度だと思いますし、まあ実際にトレードしている一番の前線ではそういうのちゃんと把握してる筈なのですが、上位階層(?)になるほどその辺の補正が上手くいかなくなるので、「AAAなのにL+50もある金融商品に注目集まる」というような素敵な記事がどこぞの金融情報専門誌に出たりして、それをみたエライ人が「何でうちでは買ってないんだ」(以下ありがちな展開なので自粛)。

・・・・・などと最後はいつもの悪態になったことをお詫びいたします(^^)。

トップに戻る










2008/09/04

○白川総裁会見から面白い質問が

昨日ご紹介した講演(挨拶)後の記者会見です。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0809a.pdf

質問が面白いので(^^)思いっきり引用します。

『(問) 2つお聞きします。本日の講演の中で、現在非常に厳しい状況にあるという、その要因について2つの要因を語っています。一つは、国際金融資本市場の動揺と世界経済の減速、第二としては、エネルギー・原材料価格の上昇です。この順番にあまり大きな意味はないのかもしれませんが、一週間ほど前に行われた大阪での講演では、第一にエネルギー・原材料価格の上昇を挙げられていて、二番目に市場の動揺と世界経済の減速の影響を挙げられていました。この順番が変わったことで、優先順位が変わったのか、どのように認識されているのかというのが、まず一点です。』

・・・・・(^^)。

『もう一点は、やはり大阪の講演と比較して、少し新しい見方をご提示されていらっしゃいます。挨拶の4ページの中ごろで、「原油価格上昇とサブプライム・ローン問題がそれぞれ独立した現象ではない」と、同根ではないかという考え方をおっしゃっています。』

この部分はご紹介してませんでしたね、どうもすいません。

『その大きな背景として、金融緩和の長期化を挙げていらっしゃいます。国内については、長い期間金融緩和が続いているわけですけれども、それにもかかわらず、大きなバブルは発生していないと思います。白川総裁ご自身が、3つの過剰が解消されているとおっしゃっているわけで、新たな過剰が発生していないこともあり、国内で大きなバブルが発生したとは一般的にはみられていないと思います。』

そうですね。

『それにもかかわらず、この講演で、大阪の講演以上に金融緩和の長期化というもののリスクを指摘されていらっしゃいますが、ある種、日本においてこれだけ長期間緩和が続いたにもかかわらず、大きな過剰なり、バブルが発生していないという中で、金融緩和の長期化のリスクを繰り返されていらっしゃるというのは、ちょっと斜めにみると、狼少年といいますか、実体のないものに怯えているように理解する向きもあるのではないかと思います。白川総裁としては、日本の金融緩和の長期化が、ここで指摘されている原油価格の上昇とかサブプライムバブルとかを引き起こす大きな要因となったとお考えなのかどうか、その点についてお考えをお聞かせ下さい。』

ということで、この質問は中々楽しいツッコミなので質問から延々と引用しちゃいました。で、その答えですが。

『(答) 先週の月曜日に大阪で講演をしまして、本日、名古屋で講演があるということで、短期間のうちに2つ講演があって、地元の経済界の主要な方々に対して経済情勢を説明するという時に、どのような話をするかというのは、なかなか頭を悩ますものであります。同じ話をするというのは、大変失礼なことでありますし、しかし、僅か8日間でマクロ経済の状況が一変するわけではもちろんあませんから、経済の基本的な流れというかメカニズムについては、同じように説明をしているわけです。その上で、この名古屋という場所を考えながら、大阪ではなく名古屋で語ったほうがいいということを伝えたい、という気持ちで今回講演をしました。』

はあはあそうですか。で、まずは最初の質問に対する答えです。

『先程、国際金融資本市場の問題、それからエネルギー・原材料価格の話、この順番が変わったことについて何か深い意味があるのかというお話がありましたけれども、結論からいいますと、深い意味は全くありません。敢えていえば、この講演で少し丁寧に申し上げたことは、両者はもちろん同じ現象ではないけれども、しかし、同じような要因を背景とするものであるということを少し丁寧に語ったという点では、前回とは違いますが、別に8日前に無い認識が、その後考えた結果今回新たに分かったというわけでは決してありません。』

という事になってますが、米国の信用問題のステージに関する説明の表現が微妙に変化していた点はどうなのよという気はせんでもない。

『しかし、両方が全く同じ現象であるということを言っているわけでもありません。サブプライム住宅ローン問題については、いろんな議論が現在なされています。非常に複雑な要因が絡み合っていますし、全体像が今解明できているわけではありませんが、ただ両方を全く独立の現象として考えるという思考様式は適切ではないということを、この中で申し上げたかったということです。』

言わんとすることは判らんでもないですが、イマイチ良く判らない(講演の要旨を見てもそんな感じだったんすけどね)です・・・・

で、狼少年の話に関して(^^)。

『それから、金融政策との関係ですが、これも今回名古屋という場所で、特にこれを長く話さなければならないという必然性があったわけではありません。大阪では別途のテーマもありましたので、限られた時間の中で前回十分に説明できなかったことを、今回は少し補強的に説明したということです。』

だそうです。

『いつも申し上げることですが、金融政策の効果というのは、長い時間をかけて実現するものです。いわゆる効果波及のラグは1年半とか2年と言われるわけですが、しかし、もっと大きな長い時間をかけて影響が実現していくものもあります。そうした点は重要であると認識されつつも、足許の議論をするときにはなかなか十分には取り扱えないものですので、記者会見ではなくて講演という場で少し丁寧に説明することに意味があると思いました。従って、今この時点で、目先の金融政策に対して強い意味合いを込めているということではありません。』

でも緩和の長期化が良くないと思ってなかったらこの話しないですよね。

『ただ、金融政策を考える以上、常に足許の短期の話と中長期的な話を全て意識しておく必要があると申し上げたわけです。サブプライム住宅ローンの問題は、主として世界全体といいますか、特に先進国――もちろん先進国の中には日本も入りますが――、先進国全体の金融政策の観点から語ったわけであり、日本の金融政策と世界のサブプライム住宅ローン問題や、その後のバブルの崩壊ということを意識してお話したものではありません。』

FRBのことを言いたいのですね、わかります。


ちなみに、会見の中で(長くなったので引用割愛しますが)日銀副総裁と審議委員の人事がまるっきり放置プレイになっている事に関する質疑がございまして、そういやこりゃ大変だわというのを改めて思い出しましたの巻でござる。白川さんに西村さんだと、金融政策だの経済調査だのには強いでしょうが、内部管理的な総務だとかコンプラだとかは苦手そうな悪寒がするので、そっちの能力もある人なんて吉だと思うのですけど、まあ順当にそういう人は来なさそうですし。ナムナム。

というか、審議委員の残り任期がもうあまり無いと思うのですが・・・・

トップに戻る








2008/09/03

○白川総裁の名古屋での講演を直近の大阪での講演と比較

白川総裁の名古屋での講演(正確には1本が講演で1本が挨拶)が2本あったのですけれども、大阪での講演(正確には挨拶)と同じような話で相場は全然反応せず。こういうときには前回のテキストと比較するのが面白いので、比較してみるの巻なのであります。なお、名古屋大学での講演もこれはこれで面白いのですが今日はパス。

・・・・と思ったら、いつの間にやら大阪での挨拶の日本語テキストのPDFがリンク切れになってて物凄く焦ったのですが、新着情報一覧見たらファイルがHTMLに変わっているような気が。

錯覚かと思ったのですが、元のPDFファイルを保存した物があたくしのPCにあるので、当初はPDFで公開してたんですよねこれって。あのその後から差し替えてリンク切れとかいうの勘弁して欲しいのですが・・・・・・

とひとくさり悪態をついたのですが、比較対象はこんな感じで。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0809a.pdf(昨日の挨拶)
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0808a.htm(25日の挨拶)


・物価上昇の前に世界経済の減速と金融問題に言及しています(^^)

まずは本文の1ページ目(PDFでは2ページ目、以下同様にずれます)にある(日本経済の現状)って所ですが・・・・

『このように、日本経済は景気の停滞と物価の上昇という、難しい状況に直面しています。この背景としては、2つの要因が挙げられます。第1に、国際金融資本市場の動揺と世界経済の減速、第2に、エネルギー・原材料価格の上昇、です。』

これが前回の大阪での挨拶ではこうなっていまして・・・・

『このように、日本経済は景気の停滞と物価の上昇という、難しい状況に直面しています。この背景としては、2つの要因が挙げられます。第1に、エネルギー・原材料価格の上昇、第2に、米国サブプライム・ローン問題に端を発した国際金融資本市場の動揺と世界経済の減速です。』(25日の挨拶)

エネルギー価格の上昇が後になっています。まあ確かに原油価格がピークアウト感強くなってきたと言う現象はあるのでしょうけれども、前回の講演で物価に関する話を先にした点がちょっとタカ派チックに読み取れたという所を気にしたのではないかというのは深読みのし過ぎですかそうですか(^^)。

ということで、当然ながらこの先の話の展開も物価上昇の前に世界経済の減速に言及しているのですが、これはサブプライム問題の進展に対しての表現が実は変わっているという点があったりするのでございますよ。


・サブプライム問題の進展状況の認識に変化が

本文2ページ目より。

『まず、国際金融資本市場の動揺と世界経済の減速について申し上げます。国際金融資本市場の動揺の発端となったサブプライム・ローン問題が表面化して約1年が過ぎましたが、この間、問題の性格は徐々に変化してきています。』

ということで、最初が流動性の逼迫、その次が信用収縮なのですが、

『そして最近は、3番目の局面に移っています。米国の実体経済の停滞を反映して、サブプライム関連商品だけでなく、商業用不動産ローンや消費者ローンについても延滞率が上昇する傾向にあります。この結果、実体経済の停滞が金融機関の資産内容の一段の悪化をもたらし、それがまた景気に悪影響を与える状況、つまり、資本市場、資産価格、実体経済の負の相乗作用が懸念される状況となっています。』

これが25日の挨拶ではこのようになっていたのですな。

『そして最近では、3番目の局面に移りつつあるように窺われます。(以下同じなので割愛)』(25日の挨拶)

移りつつあるように窺われます→移っています、ということですので、要は米国の信用問題の悪影響がついに実体経済にキタコレという認識になってきてますという事で、米国経済に対する懸念状況が更に強まりましたという事になろうかと思います(正直、これを書きながら、我ながら何と言うしょーもない所を気にするのやらという感じがしますが、苦笑)。

まあこの部分も物価の話の前に世界経済の話をするという順序変更の原因かなあとおもいまする、はい。


・世界経済と日本経済の中長期的な課題というお題が追加

という部分もほほうという感じですが、前回8月25日の挨拶を敷衍しつつ中身をもうちょっと膨らませた感じなのですが、論点を整理している所は25日の挨拶に無かった部分ですな。本文5ページ目。

『第1に、現在の世界経済は、より持続的な成長過程への移行過程にあるということです。成長の減速ということはどの国にとっても苦しい過程です。しかし、これまで述べたようなエネルギー・原材料価格高騰の背景を考えると、ある程度の世界経済のスピード調整を経なければ、資源価格の安定も含めた次の発展への条件が整いません。』

ほうほうそうですか。で、2番目の論点は金融緩和の長期化がもたらすリスクって話なのですが、これは25日の大阪での挨拶でも言及してたことなので華麗にスルーして、3番目の論点。

『第3に、今回のエネルギー・原材料価格の上昇の背景を踏まえると、これまでのような高騰はさすがに長続きしないとしても、過去のような低価格の世界に戻る可能性は小さいと考えるべきです。その意味で、今回の原油価格の上昇を、かつてのような「一時的な供給ショック」という意味合いで「石油ショック」と呼ぶことは、必ずしも適当ではないように思います。そうであれば、新しい価格体系に適合するよう企業の生産構造を転換し、資源の効率的な配分を進めるとともに、これを新たなチャンスと捉え、競争力の強い分野を創出していくことは、過去の石油ショック時と比べても、より一層重要になると考えられます。』

後半の構造改革チックな部分は25日の挨拶の中で第2次石油ショックにおける説明部分と重複するのですが、原材料価格は下がるにしてもそんなに大下げしませんよという認識を示したのは「ほほー」という感じでございます。


・CPIは上昇しましたが

CPIに関する部分は当然ながら前回挨拶以降に新しいデータが出ているのでそれに沿った話になっていますが、本文7ページ目にある当面の金融政策運営に関する部分ではCPIに関して前回より詳しく説明をしています。そりゃまあ2%越えましたからねえ。

『次に、物価についてですが、足もとの消費者物価上昇率の数字は「中長期的な物価安定の理解」という言葉で呼んでいる物価安定の範囲の上限を超えています。』

さようでございますな。

『ただし、物価安定はあくまでも、それが中長期的に持続し得るかどうかという観点から判断すべきものです。重要なことは二次的効果が発生するかどうかです。この点では、物価安定への信認が維持されているかどうかが決定的に重要ですが、これは、最終的には金融政策の運営スタンスに規定されます。』

『このことを指摘したうえで、我々の判断を申し上げると、国内の需給バランス、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動からみて、現在は先ほど述べたような二次的効果が直ちに発生する情勢にはありません。二次的効果の発生の有無を判断する上でひとつの重要なデータは賃金の動きですが、現在のところ、賃金の伸びは弱含んでいます。』

『結論的に言いますと、消費者物価は、当面、これまで上昇した輸入価格の転嫁の動きが続き、しばらくは高めの上昇率が続くとみられます。しかし、その後は、国際商品市況の上昇が緩やかとなり、価格引き上げの動きが一巡するにつれて、徐々に上昇率が低下すると予想されます。』

ということで、物価に関しては現在は物価安定の理解を超えているけどこの先下がるので無問題という毎度の話になっていたりします。その他リスク要因に関する話などは、前回の大阪での挨拶と基本的に同じものになっています。

トップに戻る









2008/08/27

お題「総裁会見はタカ的な部分はなさそうですが」

寝坊につき今日は短くて恐縮至極。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0808b.pdf

○二次的価格上昇に関連して

会場でお話を聞かないで後から講演要旨を見てると妙に物価上昇に対する早めの金融引き締めに言及しているような印象があったのですが、記者会見ではその辺に関しての質問が無かったように見えます。まあ「足元の物価上昇は利上げに結びつかない」というロジックの広宣流布が効を奏した結果、その手のツッコミが飛ばなくなっているというところなのかもしれませんが。

辛うじて最後の質問でそれらしきのもあるんですけど、景気に対する質問でして、金融政策に関する質問ではないですな。

『(問) 本日、トヨタ自動車が34 年振りという乗用車の値上げを発表しました。これまで価格転嫁はエネルギー関連や食料品が主なところだったと思うのですが、今回の値上げは、耐久消費財まで価格転嫁が顕著となってきたという象徴だと思います。こういう動きが今後の景気全体についてどういう影響を与えていくか、総裁のお考えを確認させて下さい。』

『(答) 現在までの物価上昇の主因は、エネルギー・原材料価格の上昇に伴う価格転嫁ということでした。本日の懇談会でも申し上げましたが、それがさらに広がって二次的な価格上昇があるかどうかということに現在注目しているわけです。ただいま乗用車値上げの話がありましたが、現時点ではまだ二次的効果が大きく発生しているとは判断していません。』

と、ここまでは講演要旨にあるとおり。

『もし二次的な効果が広がっていくという事態になれば――今のところその可能性は小さいと思っていますが――、これは持続的な成長の基盤を損なっていくということになると思います。いったんそうなりますと、経済はスタグフレーション的体質になっていきますから、そういう意味で注意してみていく必要があると思っています。』

金融政策でどう対応するのかについて聞かれていないので、それに対しては答えないというのがお上手な対応(これが福井さんだと何か言いそうですよね)なのですけれども、さてこの場合に金融政策はどういう対応になるかという話ですが、講演でもあるように2次的効果広がる前の早目の対応って事になるんですかねという気がするんですけど・・・・ま、いっか。

『ただ、繰り返しになりますが、現状はそうした可能性が高いとは判断していません。』

一応念の為。


○9月末の流動性対策に関して

オモロイ質問がありまして。

『(問) 3点お伺いします。(途中割愛)3点目は、9月末の流動性対策についてです。通常の期末の対応で臨むのか、それとも外銀を支援するような手を考えていらっしゃるのでしょうか。今から10 年くらい前には、邦銀を支援するために両建てオペレーションというのがあったと思うのですが、いかがでしょうか。』

金融市場の状況を知って質問しているのか昔の状況しか知らないで質問してるのかが謎展開ですが。

『(答) 3点目の外銀を意識した流動性対策ですが、日本銀行の金融調節は、邦銀、外銀の区別なく、これまでも日本の金融市場全体の安定性を保つために色々な工夫を行ってきました。幸い、今回、日本の金融市場は、全体としては安定しています。本日のマーケットの状況については出張中のため詳細には承知していませんが、先週末までの状況で判断しますと、9月末越えのレートが──もちろん期末ですからレートは若干上がると思いますが──、従来の期末に比べて大きく上がっているということではありません。金融調節の枠組みは、97 年以降の様々な経験の中で大変整備されてきており、日本銀行が、金融調節の面でこの9月に向けて何か枠組みを変える必要はないと思っています。持っている手段を使って、状況をみつつ、必要に応じて適切に対応するということに尽きると思います。』

まあその通りでございます。さすがに最近は(サブプライム問題が大きくなりだした1年前と違いまして)「FEDやECBは機動的な流動性対策を矢継ぎ早に打っているのに、日銀は何もしなくてケシカラン」とかいう批判する向きも無くなって来ましたが(金利操作に関する話は別次元の話ですので念の為申し添えます^^)、あちらさんは日銀のようなツールが無かったのでヒーヒー言いながら色々とやってた訳で、日本に関しては(利下げすべきか否かの話はさておき)やる必要無しの巻なんですけどね。


○景気回復のキーは?

何が景気回復のドライバーになるのかという質問に対して。

『(答) まず、景気回復のメカニズムと時期ですが、回復のメカニズムを考える際には、なぜ足許景気が停滞しているのかということを考える必要があります。いくつかの要因がありますが、大きく分ければ、足許の景気停滞をもたらしている理由は2つあり、1つ目は交易条件の悪化に伴う内需の減少、2つ目はサブプライム住宅ローン問題に端を発した国際金融市場の混乱および世界経済の減速ということだと思います。この2つは少し性格の異なるものですから、それぞれを点検していくことが回復のメカニズムを考えることになると思います。』

『前者の交易条件の悪化についてですが、これまで続いてきたエネルギー・原材料価格の上昇がいつまで続くのかという点に関しては色々な見方があります。(長いので途中割愛)ただ、エネルギー・原材料価格の上昇がずっと続くわけではないと思っています。なぜかと言いますと、仮に上がっていきますと、先進国の交易条件が悪化して景気が減速することによって、世界全体としての需要が減速するわけですし、また、逆にエネルギー・原材料価格の上昇の背後に新興国経済を中心とした世界経済全体の急激な成長があるとすれば、これはいつまでも続くわけではなく、いずれかの段階で政策的に、あるいは自律的に反落があるのだろうと思います。その時期がいつかは現時点ではなかなか特定し難いのですが、交易条件の悪化もやがてどこかで止まり、そこから先は悪化したレベルから好転していく──マイナス要因がやがて減衰していく──ということになるだろうと思います。』

景気が一旦後退しないと交易条件の悪化が収まりませんとな。

『一方、後者のサブプライム住宅ローン問題に端を発した世界経済の悪化については、少し性格が違うように思います。もしサブプライム住宅ローン問題に端を発した金融市場の混乱が世界全体に広がっていく場合には、世界全体の景気を押し下げていくことになります。一方で、米国の金融機関も公的当局も色々な施策を講じてきているわけですから、こうした金融市場の状況が、いつ是正されていくのかということにかかってくるわけです。』

『私どもの見通しの上では、世界経済の減速も――足許は減速しているわけですが――、いずれ徐々に元に戻っていくという想定に立っているわけですが、交易条件についても、サブプライム住宅ローン問題に伴う金融処理についても、色々な不確定性があります。これは日本に限らず、米国もそうですし、欧州大陸諸国、英国もそうですが、各中央銀行の景気判断に関する分析をみてみますと、若干の差はあるにせよ、驚くほど似ているように思います。どの中央銀行もこうした点について色々な議論をしているわけですが、時期がいつかはもちろん特定はできません。特定してもそれにはあまり意味がないといいますか、特定することよりも、標準的なケースを想定しながら、その時期が先ずれするのか、後ずれするのかを丹念に点検するということが、一番賢明な対応であると思っています。』

ということでお話をしているのですが、要するにこの2つの問題が片付かないとダメダメですねっていう結論になっているようにしか見えませんな。打開するのは(特に米国の)政策対応って感じですから、それは早くても来年の頭ということですかそうですか。

トップに戻る






2008/08/26

お題「何か鷹の香りがする講演に見えるのですが・・・・」

すっかり秋の長雨っぽくなってしまいましたね。

あまり材料にならない講演だったのですが、字面を見ると何か鷹の香りがするんですけど・・・・・
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0808a.htm

○第2時石油ショックの教訓が・・・・・

『エネルギー・原材料価格の上昇と日本経済』という部分から。

『エネルギー・原材料価格の上昇は、資源の多くを輸入に頼るわが国にとって、実質的な購買力の減少、すなわち、所得の海外流出となるため、実体経済を下押しする要因となる一方、物価に対しては上昇圧力として働きます。』

『(過去2回の石油ショックと比較して)、石油価格上昇による海外への所得流出の規模も、今回の局面の方が大きく、GDPに対する比率は、第一次と第二次の石油ショック時が共に約3%だったのに対し、今回は約5%に達しています。』

という導入では例によって物価上昇が所得流出という話になっているのですが、過去の石油ショックの話の途中から展開がちといつもと違う感じが。

『第二次石油ショックの際は、経済成長率は3〜5%を維持し、消費者物価上昇率は上昇したとはいえ、1桁台に止まりました。同じ時期、米国の消費者物価上昇率は10%を超え、英国でも20%を超えていましたから、第二次石油ショック時のわが国は、ドイツと並んで世界の中でも良好な実績を示したと言えます。』

で、その理由はと言いますと・・・・

『第1は、石油ショック以前の経済・物価状況とその後の金融政策対応の違いです。第一次石油ショックの時には、原油価格が上昇する以前から、列島改造ブームのもとで景気の過熱と過度の金融緩和が進んでおり、家計や企業のインフレ心理も高まっていました。実際、73 年の春闘賃上げ率は20%に達していました。こうした下地がある中で、原油価格が急激に上昇したため、インフレ心理の一段の上昇を招き、いわば火に油を注ぐ状況となりました。』

『これに対し、第二次石油ショックの際には、景気の過熱や過度の金融緩和はなく、インフレ心理も沈静化していました。そうしたもとで、金融引き締めも遅れなかったため、インフレ心理は抑制され、原油価格上昇に伴って石油製品以外の財・サービスの価格が上昇する事態、いわゆる二次的効果が生じることはありませんでした。このような状況を指して、「日本経済は、ホームメイド・インフレの抑制に成功した」と言われました。』

ちなみに第2の理由もあるんですが、そっちは経済・産業構造を改革して資源価格上昇の影響を軽減するようにし、国際価格競争力を維持するっていうお話なので引用割愛。

でですな、その後ではこんな話が。

『以上の理由から、第一次と第二次の石油ショックの時の経済の姿は大きく異なるものとなりました。この経験を踏まえると、今後わが国が採るべき基本的な方向は明確だと思います。すなわち、第1に、輸入コストの上昇とその転嫁分を超えるような二次的効果を防ぐこと、第2に、新しい相対価格体系に対応した経済・産業構造への転換を進めることです。』

第2の方はどっちゃでもええのですが、『輸入コストの上昇とその転嫁分を超えるような二次的効果を防ぐこと』ってのは「二次的効果が出る前に金融引き締めをすること」ってお話ですよね。いつもの話よりも何か予防的利上げみたいな成分が強い感じですなあ。話をする相手が金融市場じゃなくて経済団体だからトーンを使い分けているのかもしれませんけど、いつもの会見などで景気下振れの話が圧倒的に多いのと比較するとちょっと「おおっ」という感じを受けたのは考え過ぎですかそうですか。



○となると物価上振れリスクも・・・・

『日本経済の展望と当面の金融政策運営』部分から。

まあ基本的にはいつもの話をしているのですけど、リスク要因の中でこれまたいつもどおりの話をしていますわな。

『物価面では、逆に上振れリスクの方を意識しています。先ほど申し述べたとおり、エネルギー・原材料価格は、供給制約に加え、新興国などを中心とする世界的な需要の増加を背景に、長期にわたって上昇しています。したがって、こうした上昇を「一時的」と考えるわけにはいきません。このようなエネルギー・原材料価格の趨勢に加え、わが国では暫く経験してこなかった物価上昇率となっているだけに、今後、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動が変化し、二次的効果が発生するリスクにも注意する必要があります。』

・・・・うーむ、こういう書き方をされると前の部分とあわせると、「二次的効果が発生するリスクに対応して早めの金融引き締めが必要」という風に見えて来るわけでして、この前ちょっとあたくしが書いた気がするんですけど、「物価上昇は利上げに結びつかない」ってロジックを繰り返し過ぎてちょっと効き過ぎたのでここらで「ホームメードインフレには警戒ですよ」って話をしてちょっと釘挿しておかないといけないと思ったのでしょうかねえ。

ちなみに、先般の決定会合における公表文でのリスク要因に関しての物価部分に関する表現はこのようになっていました。

『物価面では、世界的にインフレ圧力が高い状況が続いている。わが国の物価については、エネルギー・原材料価格の動向に加え、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化など、上振れリスクに注意が必要である。この間、景気の下振れリスクが薄れる場合には、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクが高まると考えられる。』(8月19日決定会合公表文より)

いやまあ同じ話をしているといえばそうなのですけれども、二次的効果というのを明示して、その前の段階で第2時石油ショックを例に出しているあたりを見ますと、先程の繰り返しになりますが、トーンがちょっと違う感じを受けましたですよ。


○ただし二次的効果は高まる情勢ではないです

一応念の為ですけど、メインシナリオではいつものようになっています。

『次に、物価の先行きをみますと、国内の需給バランス、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動からみて、先ほど述べたような二次的効果が直ちに高まる情勢にはありません。二次的効果の発生の有無を判断する上でひとつの重要なデータは賃金の動きですが、現在のところ、賃金の伸びは弱含んでいます。』

まあいつもの話ですね。

『結論的に言いますと、消費者物価は、当面、これまで上昇した輸入価格の転嫁の動きが続き、しばらくはやや上昇率を高めるとみられます。しかし、その後は、国際商品市況の上昇が緩やかとなり、価格引き上げの動きが一巡するにつれて、徐々に上昇率が低下すると予想されます。』

物価安定の理解を超えてきそうですので、まあこういう予想をしないと金融政策のロジックが益々難しくなりますわなという所で。

なお、さらに念の為申し添えますと、景気に関する認識はいつものようにもう下振れリスク警戒全開になっています。


○サブプライム問題に関して

サブプライム問題に関する説明ですけれども、現状認識と将来展望は例によって下振れ下振れ不透明という感じです。

『米国の実体経済の停滞を反映して、サブプライム関連商品だけでなく、商業用不動産ローンや消費者ローンについても延滞率が上昇する傾向にあります。この結果、実体経済の停滞が金融機関の資産内容の一段の悪化をもたらし、それがまた景気に悪影響を与えるような状況、つまり、資本市場、資産価格、実体経済の負の相乗作用が懸念される状況となっています。』

『世界経済の先行きですが、先ほども触れたように、米国経済は、資本市場、資産価格、実体経済の負の相乗作用が、いつ、どのように収束に向かうのか、なお帰趨が見えない状況にあります。欧州経済も減速傾向が強まっています。また、アジア経済をみると、中国やインドでは高成長が続いていますが、NIEs・ASEAN諸国では、輸出が減速しているほか、内需にも減速の兆しがみられているなど、世界経済の先行きは、当面、不確実性が高いと思います。』

という話になっているのですが、バブルの発生に関しては行き過ぎた金融緩和に言及しているのですなこれがまた。

『サブプライム・ローン問題だけでなく、日本のバブルも含め、過去の金融活動や資産価格の過熱を振り返ると、その多くは、物価が安定し、低金利が持続した後に発生しています。今回も、投資家や金融機関がリスクの評価基準を緩め、借り入れへの依存度、つまりレバレッジを引き上げながら、証券化商品への投資を通じて「利回り追求」を強めていきました。』

『その背景には、長期にわたって世界的な成長の持続と低インフレが続く中で、グローバルな金融緩和の行き過ぎと信用の膨張がありました。一方、バブルが崩壊し、金融機関の資本が毀損されることを通じて、信用の収縮過程に入ると、経済活動は大きく落ち込み、金融政策の効果は限定的となります。今回のケースをみても、バブルの発生と同様、崩壊をリアルタイムで認識することは難しいということを痛感します。以上のことは、金融政策運営において、金融緩和の長期化がもたらすリスクへの注意が必要であることも示しています。』

FEDビューじゃなくてBISビューですかそうですか・・・・・

ということで、今回の講演ですけど、市場が現状の金融政策長期化擬似時間軸状態になってきている所にちょっと釘を挿しに来るようなトーンを感じたんですよね。あたくしの考え過ぎかもしれませんけど。

トップに戻る








2008/08/21

お題「総裁記者会見」

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0808a.pdf

○言い間違えの所は(笑)

発言を慌てて訂正したということで、冒頭部分は言い間違えをスルーになっていますが、最後に質疑を残していますので、言い間違えをしたこと自体は読めば判るようになっています。

『(問) 総裁は本会見の冒頭で、本日決まった政策金利(無担保コールレート)を「0.75%前後」と一旦言い間違い、訂正されました。ここで「0.25%」ではなく「0.75%」と間違えたことに、ご自身では特に違和感がないように見受けられました。直前まで具体的な数字を検討されていたからなのか、憶測を呼びやすい状況だと思いますので、理由があれば説明してください。』

『(答) これは全く理由はありません。私の全くの不注意で「0.5%前後」と言うべきところを言い間違えただけであり、私自身の深層心理の中にあったというわけでもありません。本当に大事なことを言い間違えてしまい、大変申し訳なく思っております。』

・・・・・で、昨日の債券市場ですが、金先は利下げ提案とかが出る方向へのスケベロングの閉じでもあったのかただの利食いか知りませんが続落し、長いところでは5年入札を控えて売りが嵩んで落札結果発表後に一時先物が62銭安まで下落しちゃいまして、実際問題として全然関係ないですけど、これじゃあまるで0.75%発言が相場をぶち下げたみたいで何と言う間の悪さとしか言いようが無かったのですが(−−)、引けに掛けて押し目買いで戻って先物18銭安で済んだのは白川総裁の引きが強かったのでしょうか(^^)。


○景気現状の「停滞」に関して

「停滞」とは政府の言う「事実上の景気後退入り」とどう違うのかという質問に対して。

『まず、景気基準日付上で現在景気後退局面に入ったかどうかを判定することについては、今後、政府において、各種のデータを分析した上で、定義に従って技術的に判断していく性格のものだと思います。』

さよですか。で、その先ですが。

『私どもは、本日の金融政策決定会合で経済の現状、先行きについて真剣に議論しましたが、先程申し上げました通り、景気は当面停滞を続ける可能性が高いが、次第に緩やかな成長経路に復していくと予測しています。日本銀行のそうした景気に関する認識という点では、政府との間に大きな違いがあるとは考えていません。』

微妙に禅問答の香りがしますが、要するに底割れとか悪化とかがメインシナリオではないですよという見方は政府と一緒ですと。

『それから、政府の景気についての見方ということにも関連しますが、「停滞」という言葉について一言申し上げます。今回、表現を変えたわけですが、日本銀行として景気のメカニズムについて判断を大きく変えたということではありません。(途中割愛)今回、様々な観点から議論したわけですが、基本的なメカニズムについて私どもの判断が変わったわけではありません。それから、「停滞」と言っても、これから経済が大きく落ち込むという可能性は小さいと判断したわけです。そうした意味で「停滞」という言葉を使いました。』

で、益々禅問答の香りがするわけで(途中割愛した部分を補充して読んでも正直あたくしもナンノコッチャ状態)、それじゃあ判りにくいですがな(下方修正したけれども大きく判断を変えたわけではないとは何ぞや)という別の質問に対して。

『基本的判断が変わったわけではないという点についてですが、足許の経済情勢について、データで経済が停滞していることがはっきり確認出来たということです。色々なデータが出ましたが、特に、実質GDPの数字のほか、生産が第1四半期、第2四半期と2期連続のマイナスであったこと、また、第3四半期についても、これはまだ見通しの計数ですが、小幅のマイナスということが、確認されたということです。』

経済のハードデータで確認しましたということですね。

『7月の会合においてもそうした可能性は有り得べし、ということでしたが、データでは確認出来ませんでした。それを今回はデータで確認したということです。』

で、今後に関しては。

『この後の景気・物価の経路ですが、従来から私どもが申し上げてきた基本的なメカニズムの考え方は変わってはいないということです。若干繰返しになりますが、交易条件の悪化が日本の景気を下押ししていること、リスク要因として国際金融資本市場が不安定な動きを続けていること、また、世界経済も下振れリスクがあるということ、これらを含めて、私どもはずっと経済をみているわけですが、そうしたメカニズムについての理解が変わったわけではないということです。』

ということですが、時間のスパンは変わっているという話は後ほど致しますが、停滞という表現を10年ぶり位に使った理由に関して質問されましてその答え。

『最初のご質問については、発表文の第3パラグラフにある通りです。現在、日本経済は設備、雇用の面で大きな調整圧力を抱えていません。90 年代から2000 年代の初頭の頃を考えてみると、日本経済は、設備、在庫、雇用、さらにそれと関連しますが債務、これらの面でいずれも大きな過剰を抱えていました。そうした大きな過剰を抱えている中でマイナスのショックが起きると、そのショックが幾重にも増幅され、深く景気が落ち込んでいくということになりやすいし、現になったわけです。』

『現在、日本経済は、設備についても雇用についても調整圧力を抱えていません。あえて申し上げると、足許、在庫が少し増えていますが、この在庫が今大きな調整圧力を抱えているというわけではありません。そういう意味で、景気が大きく落ち込む可能性が高いかというと、その可能性は小さいと現状では考えています。』

ストック調整が軽いのでスパイラル的な落ち込みも無いという認識ですね。


○物価上昇の2次的効果は発生せず、賃金に注目

従来どおりといえば従来どおりですが、本件に対する質問の答えから。

『結論から言うと、二次的効果が現在発生しているとは判断していません。二次的効果が発生しているかどうかを判断していく上で、いくつかの指標を注意深くみていく必要がありますが、その一つは賃金だと思います。仮に、エネルギー・食料品の価格上昇が出発点であっても、そうした上昇をカバーすべく賃金をどんどん引き上げていくと、賃金は価格の中で一番大きな構成要素になりますから、これはやがて一般の物価にも跳ね返ってくることになります。そういう意味で賃金の動きは一つの重要なファクターではありますが、現在、賃金の上昇率は弱含みになっているということで、どんどん上がっていく状況ではありません。』

ということで基本は賃金に注目ですよね。で、もう一つの指標としては予想インフレ率に関してこの続きで言及していますが、正直計測が難しい概念ではありますな。

『あとは、先行き物価がどの程度上がるかという感覚――エコノミストの言葉で言えば予想インフレ率――が、この面では、家計部門については少しずつ上がっているということかもしれません。企業部門については、注意をしいく必要はあるものの、企業はコストの上昇を全面的に価格転嫁できる状況であるとは必ずしもみていません。従って現状、予想インフレ率がすごく上がっているとは判断していません。今、賃金と予想インフレ率について申し上げましたが、いずれにしてもこの指標をみれば必ず分かるというものではありませんから、色々なデータを注意深くみていくことに尽きると思います。』


○回復に関する時間的見方は後ろにずれています

停滞はどのくらい続くのかという質問が最初のほうに行われたのですが・・・・

『今ここで、わが国経済が成長経路に復していくまでどの程度の時間的長さが必要かを数量的に申し上げることはできません。(途中割愛)今年度の成長率がいくらか、あるいはその成長率がどのような坂で実現していくのかを数量的に申し上げることはできませんが、本日の発表文でも申し上げている通り、当面停滞が続くとみており、その先の展開は、エネルギー・食料品価格や世界経済に関する想定に依存しますが、この場で述べたような想定がやがては実現していく可能性が相当に高いと判断しており、この点は従来と変わっておりません。』

という発言だったのですが、もうちょっと先のほうで「復調時期は後ずれしてるかどうか、どう考えてますか」という質問が飛んできたときにはこういうような答えが。

『停滞の期間をどの程度と考えるかということですが、足許、停滞ということがデータで確認され、この先も停滞が続くという見通しを出したわけです。個々の委員が停滞の期間についてそれぞれどれくらいであると議論したわけではありませんが、私が本日の会合での議論を踏まえて受けた印象で申し上げると、多分、最終的に経済が回復してくる時期のイメージは、足許が停滞している分だけ、従来より多少先にずれているということであったかなというようには思います。』

ま、これが正直なところでしょう。その発言の続きですが。

『ただ、ここについても非常に不確実性があります。私どもの見通しではいつもリスク要因を強調していますし、特に今は不確実性が大きいということを重ねて強調しています。それは、上に向かう、下に向かうというリスクの要因もそうですが、その長さについても同じことが当てはまりますので、その長さについて固定的にこの期間だということを申し上げるよりは、ある程度幅のある概念だと考えて、そのうえで毎回毎回点検をしていくということだろうと思います。』

という字面を見ていますと、先行きの回復経路への復活に関しての時間的な見方は結構後ろにずれているのではないかという印象を受けます。そう簡単に戻ってくれないで、ダラダラ停滞が続くのではないかというのが正直なところなのではないでしょうか。


○米国の不良債権問題に関して

米国金融機関のARS証券問題に関する質問の中で、白川総裁が珍しくサブプライム問題1年ということで質問以上の話を行った(質問以上の話が得意な前任の福井さんだと珍しくないのですが^^)のが印象的だったのでその部分を引用しますね。

『この8月はサブプライム住宅ローン問題が顕在化して1年が経過するということで、色々な教訓について色々な論評がなされていますが、一つの問題意識として、米国は日本の97 年以降の失敗を繰り返すのかどうかといった議論がよく行われています。』

さいですな。

『そうした議論を行う際に、米国は不良債権をタイムリーにディスクローズし処理しており、問題の処理が早いが、日本は、適切な言葉かどうかはわかりませんが、不良債権を隠していたという論評がみられます。』

それも良く聞きます罠。

『当時の日本の会計やディスクロージャー制度に改善の余地があったというのはその通りだと思いますが、振り返ってみますと、90 年当時言われていた不良債権の金額よりも遥かに大きな金額が最終的に実現したその最大の理由は、隠す隠さないということではなく、実体経済と金融の相乗作用が予想を超えて遥かに大きかったということだと思います。従いまして、米国についても、その点をどのように認識するかが一番大事なポイントだと思います。』

これは重要な論点ですよね。すぐアメリカマンセーな話になる方々はこの点よく考えていただきたいものであります。

『この点に関して答えを持っている人はいないと思いますが、個々の不良資産だけに関心が集まると、結果として大きな絵を見過ごす危険性があると思いあえて申し上げた次第です。』

ということで、白川総裁にしては珍しく質問されていない所に自ら詳しく話をしている(質問の要点を判りやすくするために補足説明をすることはありますけれども、補足以上の話を自分から振ってくるのは副総裁就任以来の会見などのベースでは珍しいと思う)のでクリップ致しました。

トップに戻る









2008/07/22

お題「白川総裁講演」

決定会合議事要旨とかネタはいくつかあるのですが、この講演も量が多いので・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0807a.pdf

最初に例によって経済状況の説明とか先行きのメインシナリオとリスクシナリオなどの話がありますがその辺はいつもどおりなのでスルーしまして。

○世界的インフレ圧力に関して

4ページ目から。

『国際商品市況の高騰の原因としては、新興国や資源国の高成長により需要が大幅に増加していること、供給能力が需要の増加に見合って増加していないことの影響が大きいと思います。これに加えて、投機的ないし金融的な要因も指摘されています。現実の国際商品市況の上昇には様々な要因が影響していると考えられますが、2002 年以降の趨勢的な上昇の基本的な原因は、需給バランスというファンダメンタルな要因であると考えています。』

で、90年代から最近までの状況として、

『振り返ってみますと、1990 年代以降2000 年代前半にかけての先進国経済は、計画経済諸国や新興国が市場経済に参入した結果、インフレ率が徐々に低下し、国により時期により違いはあるものの、「高成長、低インフレ、低金利」という良好な経済環境を享受してきました。』

となっていたものの、最近になってインフレが世界的に高進しているという説明をしています。で、その続き。

『このように、世界的にインフレが高進していることを踏まえますと、これまで数年間の世界経済の高い成長率は持続可能なものではなかったのではないか、マクロ経済政策面での対応が十分ではなかったのではないか、という問題に突き当たります。』

ほほう。

『実際、これまで、世界全体として金融環境がきわめて緩和的であったことは、しばしば、世界的な金余りとか、貯蓄過剰といった言葉で形容されてきました。しかし、本年入り後、特に数ヶ月前から、金融政策の運営を従来に比べより引き締め方向に移す国が増えています。今後、世界の国々がマクロ経済政策の面で適切なコントロールを行い、物価の安定のもとで持続可能な成長を達成できるかどうかということは、さきほど述べたような日本経済の見通しが実現する上でも、重要な前提となりますが、どの国も難しい課題に直面しています。』

ということで、これはタカ登場かと思わせますが、現状認識および見通しの中では延々と例によって「でも日本ではインフレ高進コースじゃないですよね」という話になるので、当面の金融政策に関するインプリケーションはございませんなという話でして。


○先行き物価のポイント

3点ですな。毎回のお話に出てますが、今回は箇条書き状態でまとまっている感じがします。

『第1の国内の需給バランスは、現在、ほぼバランスした状態にあります。先ほど述べた経済の見通しを前提としますと、先行きも概ね同様の状態が続くと考えられます。したがって、この面からは、物価上昇率を大きく押し上げたり、押し下げる力が働く可能性は高くないと考えられます。』

『第2の輸入物価については、これまでも、エネルギー・原材料価格高と、それに伴う価格転嫁の動きが、国内企業物価、消費者物価に大きな影響を及ぼしてきており、先行きも、引き続き、影響を与えると考えられます。』

『第3のインフレ予想は、インフレ率を左右する重要な要素ですが、特に、エネルギー・原材料価格の高騰が、企業や家計のインフレ予想を押し上げることによって賃金・物価が一層上昇する二次的効果( second-round effect)が発生するかどうかが大きな鍵を握ります。(途中割愛)この点については、現在までのところ、わが国の賃金の伸び率は前年比1%前後と落ち着いており、他のデータと併せて考えると、二次的効果が発生している訳ではないと思います。』

ということで、従来どおりの話ですけれども、日本の物価上昇はそんなに心配ないぜというのが結論になる訳ですわな。


○当面の金融政策

当面は現状を維持しつつ様子見なのですが、それは兎も角として、

『その際、特に重要となるのは、エネルギー・原材料価格の上昇という、いわゆる供給ショックに対して、金融政策運営面でどう対応すべきか、という問題についての考え方です。この点については、かつての石油ショックの経験なども踏まえ、先進国中央銀行間で共有されているオーソドックスな考え方があります。』

ということで、

『この考え方は、第1に、供給要因に基づく輸入コストの一時的な上昇に対しては、金利引き上げで抑え込むことは適切ではない、第2に、インフレ予想の上昇などを通じて二次的効果が発生する惧れがある場合には、金利引き上げで対応すべきである、というものです。』

では現状はどうかと言いますと・・・・

『しかし、これまでの商品市況の上昇は、長期にわたって続いてきているだけに、これを「一時的」と考えるわけにはいきません。また、これが、供給要因だけでもたらされているわけではなく、世界的な需要の増加という要因が強く働いていることも、さきほど詳しく述べたとおりです。』

国際的にはそういう事なので引き締めを行う国も出ているという話になるのでしょう。では現状の国内に関してどうかと言いますと。

『このようにみてくると、結局、輸入コスト上昇の下での金融政策運営という点では、判断のポイントは3つに集約されます。第1に、原材料価格の高騰に伴う所得流出による内需の減少と、新興国・資源国を中心とする世界経済の強さを背景とした輸出の増加という2つの異なる方向の力が、日本の景気に及ぼす影響をどうみるか、第2に、そうした景気情勢が物価に与える影響をどう評価するか、第3に、国際商品市況の上昇やその下での現実の物価上昇が、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動をどう変化させるか、ということです。』

で、交易条件の悪化による景気への悪影響によってどう見ても物価上昇の二次的効果が発生するとは思えないという展開でありますので、現状は今の政策を維持しておくという結論になるようですね。


○情報発信に関していくつか

今回の講演なのですが、後半部分が情報発信に関する話になっておりまして、こちらでも「ほほー」という部分がいくつかございまして、まずは金融政策決めうち攻撃の効果に関して。

『第3は、中央銀行の行動原理、金融政策運営の考え方をどのように説明するかという課題です。この点では、次回の金融政策決定会合での政策金利の変更を予め市場に織り込ませることが透明性の高い金融政策であるという議論がなされることがありますが、決してそうではありません。』

ECBの決め打ちアナウンスは透明性が高くないですかそうですか。

『予め先行きの政策金利の水準を事実上公表することは、公表後の経済情勢の変化を無視することを意味します。重要なことは、中央銀行の基本的な行動原理をその時々の経済情勢に即して説明することであると思います。』

で、この話がインフレ目標値に関するお話に繋がるのでありまして・・・

『このことは、いわゆる目標インフレ率についての議論にも当てはまります。日本は近年、緩やかながら消費者物価の下落を経験しました。当時、物価下落の原因は何であれ、望ましいと考える目標インフレ率の達成に向けて、あらゆる金融政策手段を動員すべきという議論が行われました。一方、現在は物価上昇に対し、金融政策運営上は、エネルギー・原材料価格上昇の影響を除去して考えるべきという議論が行われています。』

『物価の下落にしても上昇にしてもメカニズムは複雑ですが、中央銀行にとっては、基調的な物価動向を判断し、その上で、長い目でみた物価の安定を通じて持続的な経済成長を実現することが変わらぬ目的です。このことが十分に理解されない場合には、目標インフレ率という数字だけが一人歩きし、物価安定の下での持続的成長の達成という所期の目的達成は難しくなります。』

インフレ目標値に関しては数字の一人歩きが起きるとよろしくないので、それに変わって物価安定の理解とかリスクバランスチャートとかで説明してますというお話ですな。先のほうになるのですが、今回変更した公表方式の中での見通し計数とリスクバランスチャートの4半期公表の話をした後で改めて説明してます。

『なお、ここで申し上げなければならないことは、計数やチャートは、あくまで展望レポートや毎回の公表文の記述を補完する参考としての位置づけであるということです。金融政策判断の根拠となる経済予測がひとつかふたつの数字に集約できるのであれば楽ですが、勿論、どの中央銀行をみても、そのようなことはありません。』

ということで、経済物価情勢に関する定量的な評価よりも定性的な評価をよく見てくださいという結論になるのでありました。従ってインフレ目標値の導入に関しては消極的ですなという事でしょう。

トップに戻る












2008/07/17

お題「総裁会見とか」

空売り規制に為替介入発言と良い感じでヤケクソになって参りましたな。日本の時にはあんなに文句垂れてたのにね、ゲラゲラゲラ。

さて、日銀から出ているものが3つあって、もう内容盛りだくさんという感じなのですよ。

総裁記者会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0807a.pdf

金融経済月報
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0807.pdf

日銀レビュー・シリーズ(主要通貨市場における資金需給逼迫の波及メカニズム)
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j05.htm

全部をじっくり読みきれなかったのでとりあえずは総裁記者会見なのですが、これがまた18ページもあるのよね。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0807a.pdf

○スタグフレーション入りはしてません

スタグフレーション入りしてるのではないかという質問に対して。

『結論を先取りして言いますと、スタグフレーションの局面に入ったとは判断していません。繰り返しになりますが、わが国の景気はさらに減速していますが、先行きについては当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくとみています。物価面では、消費者物価は当面上昇率がやや高まるとみられますが、その後は、原材料価格高の押し上げ効果が縮小することから、徐々に低下していくと予想されます。』

『このように、わが国経済は、引き続き、物価安定の下で持続的な成長を続ける可能性が相対的に高いと考えており、スタグフレーションの局面に入ったとは判断していません。ただ、こうした見通しには不確実性が大きいということは、先程申し上げた通りであり、従って景気の下振れリスクと物価の上振れリスクの双方に注意が必要な局面になっていると考えています。』

ということで、決定会合後に出た文書の焼き直し説明になりますけれども、目先の減速はあくまでも目先という事になっています。


○今度は利下げ質問ですか

ついこの前までは会見で「物価上昇だが利上げを何故しないのか」という質問が飛んでたのに今度は利下げ質問。まあ質問する人は沢山いるので別に同じ人が質問してる訳ではないと思いますが(^^)。

『(問) 今回は政策金利据置きという判断でしたが、展望レポートの中間評価あるいはその論理をみると、今回利下げをしなかった判断を読み取れませんでした。今回利下げをしないという判断、あるいはそうした提案がなかったのは、日銀としてあるいは政策委員会の議論の中ではインフレを警戒しているためということでしょうか。それとも、現在の誘導レートが十分刺激的だから利下げをするには及ばないということなのでしょうか。(以下割愛)』

でその答えだが長いので段落分けするだよ。

『(答) まず金融政策の判断ですが、各国は自らの置かれた経済・物価情勢に即して判断を行っています。日本銀行の判断は先ほど申し上げたとおりですが、もう一度申し上げますと、金融政策の判断は、金融政策の効果の波及にはかなり長いタイムラグあるということを十分踏まえる必要があります。ラグの長さについては色々な考え方がありますが、一般的には大体1年半から2年程度ということになります。』

と、まあここまで来た所で次の流れが想像できると思いますが。

『従って、先行き1年半から2年程度の経済の姿、物価の姿を展望しながら今の政策金利の水準を考えていくということになります。そういう観点で景気の姿をみてみますと、足許はさらに減速をしており、暫くこの局面が続きますが、その後は徐々に緩やかな成長経路に復していくという判断です。一方、物価については、先行き上がっていきますが、その後はまた低下していくということです。』

ということでフォワードルッキングになるのですな。でも質問者(割愛した部分ですが)も指摘してたんですが、今年度1%台前半の成長だと目先駄目なのに利下げしないのは何故という話にもなるわけですし、そもそもそも目先を下げた結果として今があるのですから、先行きの話を元に政策判断変わらずというのも何かどうなのよという気がするのでありますが。

『この景気の姿、および物価の姿を想定すると、現在ここで金利水準を調整する必要はないということであります。ただ、繰り返しになりますが、景気についても物価についても、それぞれ方向の異なるリスクがありますので、そのことは十分に認識したうえで、毎回私どもが想定した経済・物価の経路に変化がないかどうか、これを点検しながら金融政策を運営していきたいというのが本日の決定であります。』

毎回見通しが下がってますが政策は変わってませんな。いやはや。


○交易条件の悪化具合と雇用者所得の伸び具合がポイントですね

景気判断において、設備投資と個人消費を鈍化傾向ということで下方修正した背景についての質問に対して。

『今回から金融政策決定会合後の文章の公表方法が変わり、明日金融経済月報の全文を公表します。こちらのほうにはご質問の需要項目も含めてもう少し丁寧に書いてありますが、とりあえず本日の時点でお答えしますと、足許景気がさらに減速していることの一番大きな原因は、交易条件の更なる悪化です。』

ということで月報ちゃんと読まないといけないのですが(^^)。

『交易条件が悪化しますと、企業収益は圧迫されるということになります。今回の短観でもそうした姿が出ていました。その結果、設備投資にも影響が出てくるということであり、特に大企業製造業は比較的堅調ですが中小企業あるいは非製造業には設備投資の増勢鈍化の傾向がより明確に出てきているという感じがします。』

『個人消費のほうは、雇用者所得の伸びと交易条件の悪化による購買力の低下という2つの要因があると思いますが、この両方の要因から個人消費の伸びは増勢が鈍化と言いますか、伸び悩んでいるという感じがします。それらについては明日の月報で詳しく説明します。』


また、別の質問で物価の上振れリスクに関して質問があったのですが。

『仮に現在の物価上昇を考えてみますと、明確に要因分解できるわけではありませんが、こうした国際商品市況の高騰による直接的な上昇の部分というのがかなり大きいと判断しています。逆に言いますと、セカンド・ラウンド・エフェクト(二次的効果)──つまり輸入コストの上昇により物価が上がった結果、先々の予想インフレ率も上がり、それが賃金の設定を始めとした色々な賃金・物価形成に組み込まれていき、さらに物価が上がっていくという効果──が起きているかというと、現在のところそうしたものは起きていないように見えます。』

ということで、物価上昇に関して現状はあくまでも国際商品市況の影響による直接的な影響が大きく、2次的な物価上昇傾向には至らないという判断になっています。

別の質問でインフレ予想あるいは期待インフレ率をどう測っていくのかというものがありまして、これに対して、日銀が実施するアンケート調査のようなもの、エコノミストの予想、物価連動債(BEI)などの例を並べたあとで、賃金動向を相対的に(今回の会見の質問にもありましたが、この「相対的」って言葉白川さん好きみたいですね)信頼できる指標として挙げています。

『また、相対的に信頼できる指標として、賃金の動き、あるいは賃金の設定態度というものが挙げられます。これは、企業と労働者双方が先行きの物価を想定しながら交渉していくわけですから、インフレ予想というものが間接的に反映されている可能性はもちろんあるわけです。ただ、この指標にも色々な限界がありますから、賃金の動きをみていれば必ずわかるというものではありません。』

2次的な物価上昇にも結びつくものですので、賃金動向を注視ということになるのでしょうか。


○やっぱりこの質問でたか・・・・

GSEの株式なら兎も角、債券に関してそんなに大騒ぎする必要があるとは全く思えないんですけどね。

『(問) 先ほど話題に出た米国政府系住宅金融機関(GSE)についてですが、この政府系住宅金融機関の発行する債券を各国中央銀行が外貨準備等のために相当程度保有しているという指摘があります。日本銀行の現状はどうでしょうか。また、その影響は何か考えられるのでしょうか。』

『(答) 日本銀行は、外貨資産の運用に当たりましては、中央銀行資産としての性格に鑑みまして、高度な安全性と流動性を確保することを目的としています。(途中割愛)米国政府系住宅金融機関債一般についてですが、今回米国当局は、非常に重要な機関であるとしてはっきりと支援の姿勢を示したと思います。市況は日々変動するものですが、昨日のニューヨークの市場をみると、政府系住宅金融機関債の信用スプレッドは若干縮小したと理解しています。』

そうなんですよね。そりゃまあ瞬間的に時価評価で食らう部分があるかもしれませんし、遠い先のことまで大丈夫かって言われたら何とも言えませんけれども、とりあえず現状でGSEの債券をコカすという選択肢は米国にはない(株は別ですよ)と考える方が順当で、鉦や太鼓を打ち鳴らして大騒ぎするほうがよっぽど騒動の自己実現になる惧れがあるんじゃねえのという感じでございまして、騒いでる人におかれましては何だかなあって感じなのですけどね。

トップに戻る





2008/06/20

○白川総裁の挨拶

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0806c.htm

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、減速しています。資源の多くを輸入に頼っているわが国にとりましては、エネルギー・原材料価格の上昇は、所得が海外に流出することを意味します。これに加え、生産が横ばい圏内で推移していることもあって、企業の収益はこのところ減少しています。このような所得形成の弱まりが国内民間需要の下振れをもたらすリスクについて、注意深くみていく必要があると考えています。』

と、真っ先に下振れリスクに言及するとともに、物価上昇は交易条件悪化というのを今回も強調し、物価上昇を即座に利上げに結びつける議論を抑えようとしてますね。でも会見になると必ず聞かれるけど。

でまあ景気や物価の話をしてまして、金融政策に関する話もしていますけれども、これは先般来の会見などと同じ話でございますので、その後のプルーデンス関係話でも。

『わが国の金融システムは、ここ数年、着実に安定化の方向に向かってきましたが、金融機関の2007年度決算をみると、全体として減益決算となり、自己資本比率の上昇トレンドも一服しました。信用金庫業界を含め、地域金融機関におかれては、収益力の強化が極めて重要な課題であることが改めて認識されたように思います。(以下割愛)』

『また、昨年来の米国サブプライム住宅ローン問題においても明らかなりましたように、金融市場が複雑化する状況のもとで、金融機関にとってリスク管理の重要性は、一段と高まってきています。日本銀行では、考査やオフサイトモニタリングのほか、金融高度化センターによるセミナーなどを通じて、金融機関のリスク管理体制の充実化に向けたご努力をサポートさせていただいております。』

まあ個人的には自力でそれなりの所(目の子でも良いんですよ)まで時価算定(というかどのくらいのやられになるのかというものを算定)できない商品なんぞ買うなよなと思うのですけれどもね。貸金だったら「この先はちとヤバイ」とか「まあ大丈夫でしょ」とか決算書類見て相手見て判断するでしょ。

などのように「判らないものは買うな」とか言ってると、金融工学を駆使したおエリート様およびその宣伝にきっちり洗脳されて高級なことをやっていると思っているエライ人からKYなバカタレさん扱いされますので十分注意しましょう(^^)。

『この間、日本銀行では、決済システムの安全性・効率性の向上を図る観点から、本年10月に次世代RTGSプロジェクトの実施を予定しています。私どもとしては、金融機関と緊密に連絡をとりあいながら、円滑な実施に向けて万全の態勢で臨みたいと考えていますので、今後ともご協力をよろしくお願いします。』

全件RTGSは面倒なので進化を激しくキボンヌ。というか時点決済復活でも良いんですけど(時点決済は超効率的だが安全性に関してはよろしくないので念の為^^)。いやあの資金の時点決済復活しろとまでは申しませんが、国債の時点決済でSCレポ問題も絶賛縮小(^^)ってのは時計の針を戻す事なのでやりませんわな(笑)。


トップに戻る







2008/06/18

○4月レポート対比の判断をきっちりと発言

中間ラップをちゃんと話してくれるのは良い傾向だと思います。

『4月末に展望レポートを公表致しましたが、毎回の決定会合において、展望レポートで発表した景気・物価の見通しを、その後の展開やデータを見ながらどう修正していくのか、修正する必要があるのかないのかを点検している次第です。来月の決定会合では、そうした点検を体系的に行い、中間評価として出すことになりますが、それは、様々な仮説を持ちながら連続的に起こる変化を捉え、3ヶ月毎に評価する、ということだと思っています。』

『従って、4月の展望レポート対比でみてどう判断したのかと問われれば――いずれ体系的に発表しますが――、物価については上振れリスクを意識した発言が多かったと思います。逆に、景気については内需の下振れリスクを意識した発言が多かったと思います。(途中割愛)具体的には、4月対比でみて、景気については下振れリスクを、物価については上振れリスクを意識しています。ただ、体系的な点検は7月に行いたいと思っています。また、局面変化についてですが、その言葉自体は主観的な意味合いを持つものですから、私どもの言葉で言いますと、足許景気は減速しているという先程の説明に集約されると思います。』

金融政策の方向性が決めうちじゃなくなったからというのもあるのかもしれませんが、福井総裁の時はこういう感じでの中間ラップ報告ってあんまり無かった印象がありまして、どちらかと言えば「でも基本的には変わりませんよ回復ですよ」ってお話になっていたと思うんですよね。

ま、結局のところ以前の政策ロジックは景気回復から拡大を前提にして利上げ前提になっていたからこういうのをやりにくかったということなんでしょうかと思うのですがどうでしょう。


○この質問者は速水さんですか?

この質問は・・・・・

『(問) 実質金利といいますか円の価値について質問します。本日の金融経済月報の基本的見解にも、物価上昇率は高めで推移しそうだと書いてありますが、今のままでは、例えば1年物の定期預金をして1年経って利息が増えたと思ってもその価値は実質的には減っているということになります。もう少し長期的な視点に立ってみると、ヨーロッパなどを旅行すると顕著ですが、円の価値が非常に落ちており10 年前や20 年前に比べると、場合によっては貧しくなっていると言えるかもしれません。このようにお金の価値が落ちていることに対して、日銀なり金融政策の責任というものについて、どのようにお考えですか。』

じゃあ御社では円高やデフレの時には当然社を挙げて「実に素晴らしい事です万歳万歳」って報道してるんでしょうな、などというような切り返しをしないのは大人の対応(^^)。

『(答) 今ご質問にあったお金の価値という場合、2つあると思います。1つ目は物価上昇率、2つ目は対外的な為替レートです。』

『まず、前者の物価上昇率のほうですが、金融政策は、最終的に目標とする物価安定のもとでの持続的な成長の実現に照らして、運営していくことになります。局面によっては低金利によって利子収入の減少という債権者の痛みが大きい時期もありますし、逆に金利を引き上げることによって債務者への負担が非常に大きい時期もあります。しかし全体を通して中央銀行が目指すべきは、物価の安定のもとでの持続的な成長であり、この1点に照らして、中央銀行は政策を行っていかなければならず、そうでなければ時に痛みのある金融政策を行ってはいけなくなると思います。』

これが不規則発言王の前任だと誰にも良いようにみたいな調子のいい発言になりそうなのですが、白川さんの場合は債権者と債務者のトレードオフがあるのだからどちらかに痛みのある場面もありますとちゃんと言明してますな。

『為替レートは固定しているものではなく、経済全体の不均衡を調整するように動いていくものだと思います。中央銀行が為替レートをコントロールしていくということではなく、経済全体にある不均衡を調整するように為替レートが動いていくのです。』

『従って、もし一国の経済が弱い状態が続くと、長期的な傾向としては為替レート──正確には実質の為替レートだと思いますが──は下がっていき、一国の経済が強い状態が続くと、長期的には為替レートは強くなっていくと思います。そういう意味で、これは日本経済全体が抱えている様々な問題を反映しており、その中に色々な要素があると思いますし、適切な金融政策運営に努めなければならないということはその通りですが、しかし金融政策と為替レートを一対一で結びつけて議論することは必ずしも適切ではないと思います。』

いやあの茶々の入れようが無くて困りますな(笑)。

『いずれにせよ、経済を強くし、その結果として為替レートがそれに応じた動きをしていくということが一番望ましいと思います。』

そういえば昔は為替レートが強ければ経済が強いことの証明だから素晴らしいと言ってるようにしか見えなかった本末転倒にも程があるお方もいましたような記憶がありますけれども、経済を強くするのが前提ということで順番が合っているのでモウマンタイと思料されまする。

あと長期金利の話とかもありましたが、めんどいので割愛。

トップに戻る








2008/06/17

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0806a.pdf

例によって16ページもあるわ説明は丁寧だわという代物でありますのでちゃんと紹介しきれるか微妙・・・・・

○最初の質疑で「日本と欧米のステージが違う」を説明

最初の質疑できちんとこの部分を説明していたので、妙なタカ派ヘッドラインを打たれずに済んだとも言えそうです(^^)。

『(問) 国際的なインフレリスクの高まりを受けて、ECBが来月金融政策の変更があり得るという考えを表明し、FRBも利下げの休止を示唆するような発言を出していますが、国際的なインフレリスクに対する総裁のご見解および今後の金融政策の運営方針についてご説明頂けますか。』

『(答) 今のご質問にある通り、原油をはじめとする国際商品市況が高騰していることなどを背景に、多くの国で物価上昇率は高まる方向にあります。こうしたもとで、各国は、それぞれの置かれた状況に照らし、経済・物価を長い目でみて安定させるよう金融政策を運営していると思います。各国が直面している経済・物価の情勢は異なるので、金融政策運営もそれに応じて異なるものになってくると思います。』

まず最初にこの「各国が直面している経済・物価の情勢は異なるので、金融政策運営もそれに応じて異なるものになってくる」というのをきっちりと説明したのが大きい訳でして、冒頭にきっちりとやったので変なタカ派的な印象を与えなかったのでしょうか。その続き。

『多少先程の説明とも重複しますが、わが国経済の状況は、実体経済面では、交易条件の悪化に伴う所得形成の弱まりが国内民需の下振れをもたらすリスク、物価面では、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動を含め、先行きの上振れリスクについて、注意深くみていく必要があると考えています。先行きの政策運営については、いつも申し上げていることですが、こうした経済・物価両面のリスクを踏まえた上で、物価安定のもとでの持続的な成長を実現できるよう、適切な政策判断に努めていきたいと考えています。』

ということで、「景気に下振れリスク、物価に上振れリスク」という部分も強調しまして、これも今回の会見報道の基本的なトーンとなっています。

これが不規則発言王福井俊彦先生だったら何か余計な事を言い出してエライコッチャになっていたかと思うと・・・・・


○協調利上げなんか無いですよっと

別に市場はそんな点での「足並みの乱れ」を懸念しちゃあいないと思うのですが・・・・まあ敢えてそう言ってネタ振りしてみたと思うのですけれども、記者さんの脳内市場で本当にそうなら困りもの。

『(問) 日本、米国、欧州それぞれの金融政策の方向性の足並みが乱れるのではないかという市場の見方があり、この足並みの乱れがマーケットに対して影響を及ぼすのではないかという指摘もありますが、それについてはいかがでしょうか。』

『(答) いつも申し上げていることで恐縮ですが、金融政策の目的は物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現していくということであります。そのためには、当然のことながら、具体的な判断は各国の置かれた状況によって異なってくると思います。』

と、さっきと同じ説明をより丁寧に。

『欧州、米国、日本、それぞれの景気と物価の状況は異なっているわけであり、日本については、先程、景気、物価の判断やリスクについてご説明した通りであり、欧州、米国の政策について、この場でコメントすることは必ずしも適当でないと思います。』

『いずれにしましても、各国が自らの置かれた状況に応じて物価安定のもとでの持続的な成長にふさわしい政策を追求していくことが重要であり、結果として各国の政策が同じ方向を向いていることが政策運営の乱れがない状態であるとか、あるいは、同じ方向、動きでないことが政策運営の乱れであるということではないと思います。ましてそのことが世界経済全体の安定を脅かすようなことはないと思います。あくまでも各国の置かれた状況に即して判断していく――この判断自体はもちろん難しいことですが――、そういうことだと思います。』

まあこれだけ説明すれば「協調利上げ」みたいなヘッドラインを打つアホウは現れない(というか打ったら虚偽報道ですがな)のでありまして、これが福井さんだと「もちろん各国の協調が大事なのは言うまでもありませんが」とか言い出して大変なことになるんでしょうなあと(笑)。

ま、これだけ説明すればさすがに必要かつ十分でしょう。その後も(昨日紹介した質問のような)似たような質問がありますが、一つ一つへんな足を掬われないように慎重かつ丁寧な説明をしているのが目に付きます。


○輪番オペに関して

3番目の質問が輪番オペでございますが、超技術的な質問であります。説明も超技術的ですが、あたくしのヘタクソな説明よりも判りやすいので読んでくだされ。

『(問) 少し技術的な質問ですが、国債の買い切りオペについて伺いたいと思います。最近、買い切りオペの資金供給期間がかなり短くなっています。本来、長めの資金供給手段として位置付けていると思うのですが、供給期間が短くなっていることについて、何か対応策を考えていらっしゃるのでしょうか。また、買い切りオペの金額についてですが、まだ決定会合で決めることになっていると思うのですが、事務局に判断を委ねることはしないのか、それとも決定会合で決めることを続けるのか、どうお考えでしょうか。以上2点、お願いします。』

質問者は本石町日記さんですね、わかります(^^)。

で、説明が判りやすいので読んで味噌ということで、まずは国債買入(輪番)オペに関しての位置づけを説明。

『(答) 技術的な質問なので、限られた時間の中で説明するのは難しい面もありますが、日本銀行の長期国債の買入オペ――これはFRBの長期国債の買入オペも同様ですが――、基本的には銀行券の趨勢的な増加に伴って負債が拡大するわけですから、それに見合う資産を買い入れていくというものです。』

『中央銀行にとって、銀行券の趨勢的な増加は、長期的な負債の増加になるわけです。従って、それに対応して、資産面でも長期的な資産を買い入れるわけです。つまり、あまりに短期の国債を買い入れた場合、毎日のようにオペレーションを繰り返さざるを得なくなり、結果として短期金融市場における中央銀行の存在が大変大きくなってしまうため、長期的な資産を安定的に買うという考えのもとで運営しているわけです。』

で、実際の運営がどうなっているのかの説明と現状の説明。

『具体的な方法としては、市場のイールドカーブを基準として、中央銀行にとって有利な札を入れた先から買い入れていく、希望利回較差による入札を行っています。これは、全体としての買入金額を決めた上で、どの期間の国債が日本銀行に売られるのか、すなわち日本銀行がどの国債を買うのかは、市場で決められる金利を基に入札で決めていくというものです。どの期間の債券が買入対象となるかは、その時々のマーケットの状況次第で多少変動がありますが、このところ期間の短い国債が入ってきているということはその通りだと思います。』

ということで超短い所がアホほど入っていることについては認めてます。

『国債買入オペの運営をどうすべきかは、基本的には中央銀行のバランスシートが今後どのような姿を描いていくのかということに依存すると思います。銀行券の発行残高は非常に大きいものであり、例えばGDPと比較すると銀行券の割合は約15%と、非常に高い比率になっています。歴史的にみて非常に高い水準ですが、これは金利が低いことの結果としてそうなったわけであり、どの程度が安定的な水準なのか、これまでどのように趨勢的に増加してきたのかをみることはなかなか難しいと思います。』

えーっと、その銀行券は「金利が低いことの結果」だけなのかはよく判らん気がしますが、それこそデフレなのも効いている(デフレだから金利が低いというのはそりゃまあそうですけれども)でしょうし、地下経済規模対応部分とかあるような気もするし・・・まあそれはそれとしまして。

『そうした状況のもとで、長期国債買入オペの運営方法は、今後の日本銀行のバランスシートの姿を展望しながら考えていく必要があるわけですが、現在、長期国債買入オペの方式を差し迫って検討するということでは必ずしもありません。ただ、長い目でみて、国債買入オペも含めてオペのあり方としてどのようなものがいいのかについて、実務的に検討していくことは非常に大事だと思っています。』

ということで、この答えっぷりからしますと、さすがに5月の国債買入で6月償還銘柄ばかりが打ち込まれたという驚愕というかお笑いの事態に関してそれなりに問題意識は持っているんでしょうなとは思われますがどうでしょうかね。


と、質問を最初から3個引用しただけでテキストファイルで8kbとかになってしまった(質疑全部引用してるのだから仕方ないのですけれども)ので、冒頭の3質問で本日は終了の巻といたしとう存じます。すいません。

トップに戻る






2008/06/16

○総裁会見も変なヘッドライン打たれず(詳しくは明日)

とまあそんな訳で金融経済月報があちこち下方修正していた事もありまして、債券先物のイブニングセッション(15時半から)は東証の引けから値を上げてスタートしたのですが、白川総裁記者会見のヘッドラインが打たれだしたところから上げ幅拡大。特に買戻しを誘ったのは・・・・

『16:25 RTRS-日米欧で景気と物価の状況は異なる=白川日銀総裁』
『16:26 RTRS-各国で同じような政策運営が協調しているということにはならない=白川日銀総裁』
(これはロイター日本語版ですが他社も同じ)

って奴ですかね。非常に当たり前の話なんですが、これが前任だと何か余計なことを言い出してタカ派ヘッドラインが打たれてとなるんでしょうが、今回は特に発言に気を使って変なヘッドラインを打たれないように注意しましたね。

その効果か、翌日にあたくしが見た一般紙でも「景気下振れのリスクを強調し、利上げ懸念は遠のく」というようなトーンになっていましたな(その新聞だけかもしれないけど)。めでたしめでたし。

ブルームバーグニュースの総裁会見報道のお題も『日銀総裁会見の発言要旨:各国で情勢異なり金融政策も異なる』となってまして、今回は特に慎重な発言をしたんだなって思いました。

というかですな、福井さんのように何を言いたいのか会見要旨を見てもわけわからんという人と違いまして、白川総裁の場合は総裁会見要旨を読めば何をどう話したいのか明快(ただし説明が丁寧で長いので読むのに時間は掛かるけどそれは頑張って読みましょう。福井さんみたいに読んでて手が止まる場面はないですから^^)ですので、アホウな飛ばし記事とかアホウな質問とかすると後から検証可能でございますわな。これ実は大変に良い傾向だと思うのでして・・・・・

時事メインが金曜の19時04分から05分にかけて14本の記事で総裁会見の詳報を配信していまして(こんな丁寧なのやってましたっけ?)、そこの10番目と11番目に掛かっている質疑応答にいたく感心しましたあたくしがちと引用させていただきとう存じます。(問とか答という部分は現電文の表現を改変しています)

『(問)海外中銀が資源高に対応して、積極的な金融政策を行っている。日銀がこうした流れに乗り遅れると、資金流出や円安などの影響が出てくると思うが、海外中銀の金融政策が日銀の金融政策に影響を与えるか、イエスかノーで簡潔に答えて欲しい。』

なんちゅう質問だと思うのですが、この質問への答えが実に素晴らしい。

『(答)イエスかノーかで簡単に答えられる質問ではない。』

と出鼻をくじいたあとなおも説明(^^)。

『金融政策が動くことをもって積極的というのではなく、状況に則して最適な政策を行うのが本来の意味での積極的な政策だと思う。私どもは現在の政策スタンスが現状では最適だと判断している。ただ、このことが将来にわたって最適であることにはならないので、状況の変化はもちろん丹念に点検していく。』

『海外中銀の金融政策それ自体が影響を与えるというよりも、海外の経済・物価情勢が変化すれば金融政策も変化するし、当然海外の経済・物価情勢が変化する以上、日銀の政策運営の議論も変わってくる。どういう政策になるかは点検の結果によるとしか言いようがない。積極的でないのではなく、積極的に判断している。』

(以上時事メイン13日19時05分配信記事より)

こうきっちりと撃破していただきますと(ご本人的には撃破している訳では無いと存じますが)総裁会見にテレビアナウンサーが出てきて「阪神タイガースが快進撃してますが」というようなアホウにも程がある質問をするような輩とか、筋違い質問をする輩とかが徐々に駆逐されていただいて報道のレベルも上がっていくのではないかとちょっとだけ期待したいです。

というか、質問者がどこに所属しているのかってのは会見要旨(日銀だけじゃなくて各省庁とかでも)で開示されて然るべきだと思うのですけれども。それによって質問者にも緊張を与えないと馬鹿質問と馬鹿報道が止まらんのではないかって気がしますですよ、はい。

トップに戻る










2008/06/05

○これは良い国会論議ですね

日銀の半期報告ですが、報告やっただけで質疑が後日送りになっておりまして、質疑が行われましたのが5月27日でした。その会議録が(たぶん)昨日アップされたのでざっと読んで見ましたですよ。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0105/169/16905270060012a.html

量的にはやたらめったら長いので紹介するのも大変なのですけれども、この質疑応答は全般的に「白川先生のゼミ」みたいな感じで質問するほうも好意的だしあまり無茶苦茶ないいがかりみたいな質問も(無い訳でもないのですが)ない割と前向きな論議で読んでて結構でございました。

ということで、まあ読むとオモロイのですが、多くの部分が白川総裁への質疑(途中に預金保険機構理事長への質疑などがございます)となっておりまして、まともに読むと30分じゃ効かなく時間を食うと思いますのでその辺は適当に。でもまあ良いのではないでしょうか。

などと褒めてばかりでは面白くないので、変な視点でおもしれえと思ったところを少々ご紹介。

・政務調査費あるんだから買えよ

1番バッターの民主党の尾立源幸委員の質問(どうでもいいのですが、民主党・新緑風会って名乗ってないのはあたくしが知らぬ間に院内会派に変更あったのかな・・・と思ったら川崎稔委員の名乗りが「民主党・新緑風会・国民新・日本」って言ってるから変更はないみたいですが)の一部から引用。

『ちょうどタイムリーに、総裁、教授時代にこの本でき上がったということで、三月の十七日の出版でございます。「現代の金融政策」というタイトル、川崎議員はもうお買いになったということで、私は図書館から借りてきたんですが、六千円ぐらいでちょっと高いと言っておりましたけれども、この中で非常に独立性についてすばらしい議論がされておりますので、この点をちょっと深掘りをさせていただきたいと思います。今お配りをさせていただいておりますのが、そのコピーをさせていただいておりまして恐縮でございますが、BOXという囲みで中央銀行の独立性指数というすばらしい研究成果でございます。』(尾立源幸委員)

とりあえず図書館から借りてきたものコピーするのは立法府のお方として何とも微妙ですなあと思われるのでありますが、とだけ書くと不公平なのでもう1人買っていない人がおいでなようですのでご紹介すると自民党の田村耕太郎委員でした。

『私も民主党の先生方に負けないようにこの本を借りてきまして、』(田村耕太郎委員)

ま、コピー配って回らないからだいぶマシですけど、6000円の本くらい買えよおまいらと思ったら、最後に質問した共産党の大門実紀史委員の発言にワロタです。

『御本も買わせていただきました。六千円という少々高い本ですけれども、その価値はあるなと。もうこんなに附せんを付けて、私が一番熱心に読んだんじゃないかと。図書館から借りている場合ではないと申し上げておきたいと思います。』(大門実紀史委員)

・・・・・(^^)(^^)(^^)(^^)(^^)


・これはまた財務省に理解のあるお話

2番バッターの民主党の大久保勉委員が、日銀の国際的な貢献とかのお話をして、その中で国際的な機関でもっと活躍する人材を養成すべきであるというお話をしているのですが、財務省の丹呉さんに財務省から国際機関に派遣している職員について質問した流れでこのようなお話を。

『この数字が明らかですが、財務省はやはり歴史的な意味で非常に強い、若しくは人材もいっぱいいるということです。ですから、日銀も是非努力して、六十名とは言いませんが二、三十名国際機関に出向できるようになり、そのうち二割か三割は管理職として、いわゆる将来の議長として職務を全うするだけのいろんな能力を高めていったらいいと思います。』(大久保勉委員)

で、その続きが何とも。

『こういった財務省の人材を見ましたら、こういった人材も日銀の総裁、副総裁等に活用できるのか、あるいは理事として活用できるのか、こういったことも是非考えるべきだと思うんですね。』(大久保勉委員)

・・・・・あれ、この前までそちらの政党様は財務省出身者を欠格事由であるかの如き話をしてましたがどういう風の吹き回しでしょうか???


・で、まあ白川さん個人には好意的と

質疑の内容は色々とございまして、景気認識やら金融政策の話とか、先ほど申し上げた国際貢献の話やら総裁の公用車が高級過ぎだという話とかございますが、ちょうど著書が出たタイミングというのも良かったのか、白川さん個人に対してはまずは好意的なスタートのようで良かったんじゃないでしょうか。皆さん総じてそんな感じですけれども適当に引用するとして大久保さんの質問から。

『私の感想ですが、これまで白川総裁とやり取りしまして、前の福井前総裁とは大分違いまして、非常に安定的、そして言っていることが明快で、事務方としては非常に安心できるのかなと思います。まあちゃめっ気とか若しくはサプライズが少なくて、この辺り、新聞記者と話をしましたところ、過去の記者会見で居眠りをしている方がいらっしゃるということも聞いておりまして、非常に活性化した議論も必要かなと思います。』(大久保勉委員)

大門さんの質問から。

『私なりの感想を述べさせていただきますと、とにかく分かりやすいですね。非常に分かりやすい本でございますし、もっと広く読まれていいと思いますし、非常に基礎から分かる金融政策みたいなことと、何といいますかね、ちょっと実録的な日銀論みたいなものもありますし、大変もっと普及すべき、この委員会の指定文献ぐらいにしてもいいじゃないかと思うぐらい本当に思うんでございます。問題意識も、私がずっと速水さんから福井さんにわたって質問してきたところと重なる部分もありますし、もちろん違うところもありますけれども、本当に白川さんらしい本だなというふうに思っております。』(大門実紀史委員)


・じゃあまあ引用のまとめ代わりに

大門さんの質疑では輪番オペにかんする部分もあって、そこの説明もちゃんとしていたのですがまあそこは割愛しちゃいまして、さっき引用した質問の続きの部分を引用してまとめっぽく。

『この白川総裁の本の前書きにもありますけど、やはりこの数年間は何だったのかということを私も同じように問題意識を持っておりますんで、今日は、個々の金融政策、これから何度もお聞きする機会があろうと思いますので、若干、この数年間何だったのかという総括的なことも含めて、基本的なこれからの総裁のお考えを聞いていきたいというふうに思うわけでございます。』

『私は、白川さん、理事のときから御存じだと思いますが、基本的に日銀にずっと質問してきたのは、速水さんのときからそうですけど、日銀の独立性にこだわっていつも質問してまいりました。もちろん中央銀行と政府が協調するのは当然のことでございますけど、この数年間、かなりそれを超えたことがあったんではないかなと思って、心配も含めて質問してきたわけです。』

『いろんな議論がありましたけど、要するに、財政支出はもうできないと、景気対策としても財政支出はできないから金融政策でやれと、日銀がやれと、少々無理なこともやれというふうな時代が続いて、一時は、言うこと聞かなければ総裁首だと言わんばかりの与党の一部の方の大変ヒステリックな質問がこの委員会の場でもされたのを強く記憶しております。その後、私が質問して、そんなこと、言うこと聞かなくていいという反論の質問を何回かした覚えがあるのがこの委員会での流れでございました。』

『白川さんもこの本の前書きの中に、そういう時代とはおっしゃっていませんけど、とにかく今は冷静に議論ができるときになったとおっしゃっておりますけど、どうなんでしょう、振り返って、あのときはやっぱり冷静な議論がされなかったというふうにとらえていらっしゃるんでしょうか。』(以上、大門実紀史委員)

トップに戻る







2008/05/29

白川総裁が日銀金融研究所の国際コンファランスで挨拶をしたんですけれども、それを報道するベンダーのヘッドラインがちょっと興味深かったもんで。で、挨拶はこちら。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805c.htm


○どうもベンダー的には今度は利下げヘッドラインを打ちたいようで

この挨拶が報道されたの9時半ちょっと回ったくらいのところだったのですが、日本語版ロイターのヘッドラインを並べるとこんな感じになります。

09:33 RTRS−足もとの物価上昇率に目が行き過ぎると、必要な金融政策の対応が遅れる危険=白川日銀総裁
09:35 RTRS−多くのバブルはデフレの危険が意識される中で低金利維持後に発生している=白川日銀総裁

最初の方のヘッドラインをみると如何にも「今現在足もとのコアCPIが上昇していますが、これに目が行き過ぎて利下げが遅れるのは良くない」と言っているような印象を与えるのですが、次に出たヘッドラインの通りで、というか挨拶要旨の中身読めば直ぐ判るのですが、言ってることはどっちかというとその逆ですがなというところ。

でですな、ロイター日本語版はまあ穏当なんですが、聞いた話でスイマセンがQUICKは上記ヘッドラインの最初の方に相当する分だけ打って暫くそのままだったようですな。いやはや何ともという感じでありますが、まあ日本語版ロイターの方もこの総裁挨拶記事の題名をこうしております。

09:35 RTRS−UPDATE1:足元の物価上昇に目が行き過ぎると、必要な金融政策対応が遅れる危険=白川日銀総裁

これじゃ思いっきり利下げ示唆ヘッドラインに読めてしまいますって(笑)。


どうもね、ベンダー的には金融政策がどっちかに動いてくれないとニュースとして面白くないんでしょうけれども、白川さんに対して当初はタカ派の印象を持ってそれに合うようなヘッドラインの打ち込んでいる傾向が見られてまして、最近はハト派印象でのヘッドライン打ち込みという傾向が見られますなあという感じがするんですけれども気のせいでしょうか。

1次ソースにちゃんとあたれる状態なのに中身ちゃんと見ないでベンダーヘッドラインでホイホイ反応する方も反応する方ですけれども、何でもかんでもニュースにしようとして発言や講演の一部をミスリードな切り方をして報道するベンダーの姿勢も如何なものかと存じます。そりゃまあ中立だとニュースっぽくないと言いたいのは判りますが、中立姿勢ですっても重要な情報だと思うんすけどね。

というかこの挨拶は・・・・・


○資産バブルに対するお話

『過去20年間における金融市場の混乱は、フリードマンの言う広義の金融政策の面で、中央銀行は以下のような様々な課題に直面していることを示しています。』

『第1の課題は、金融政策の目的である物価の安定をどのように定義し、理解すべきかということです。日本にしても米国にしても、近年発生したバブルの多くは、逆説的ではありますが、物価安定が達成され、あるいは、デフレの危険が意識される中で、低金利が持続した後に生じています。物価上昇率の低下や低金利が、経済主体の積極的なリスクテイクとどのように関係しているのかは、解明されているわけではありませんが、バブルとその崩壊の経験は、経済は時としてノンリニアに変化することを示しています。また、そのノンリニアのプロセスでは、金融と経済の相乗作用など、複雑なダイナミックスが決定的に重要な役割を果たします。』

ロイター日本語版ヘッドラインの2番目のところですな。まあそれは兎も角としまして、この「経済は時としてノンリニアに変化することを示しています」っていうのは市場の片隅に棲息してメシを食わせて貰っておりますあたくし的には「経済」を「マーケット」に置き換えて読んで「なるほどなるほど」と思うところでございます。

『言い換えると、フリードマンが示した金融政策の第1と第2の役割は互いに密接に関連しています。政策当局者やエコノミストは、物価安定とは物価が中長期的に安定している状態と理解していますが、インフレーションのダイナミクスにおいては、ラグが長くノンリニアな変化が生じる可能性もあります。こうした状況の下で、足許の物価上昇率に目が行き過ぎると、必要な金融政策の対応が遅れ、結果として経済活動の大きな変動を招く危険があります。』

で、さっきのヘッドラインのトップ部分になる訳ですが、ここで言ってることは破断界みたいな所を越えてギャップアップ/ダウンするような事態が生じるリスクを常に意識しろちゅうことでしょうから、少なくとも今現在の足元CPI動向の話とか、利下げ示唆の話をしているとかでは全くございませんなあと言う所でしょ。

『この点に関連し、世界中の中央銀行は、物価安定の数値的表現を伝えるための最適な方法を模索する努力をしており、それぞれ異なる手法で公表しています。インフレーション・ターゲティング国は、目標物価上昇率の水準を公表しています。日本銀行や欧州中央銀行(ECB)は、物価安定に関する何らかの数値的定義を公表し、FRBは、足許の経済情勢と適切な政策の下での中期的なインフレの予測値を公表しています。』

とまあそういうお話をしているのですが、実は今回の挨拶で強調されているのは金利操作(やマネタリー操作)と言った話よりも、よりプルーデンスに近い方向でのお話なのですな。まあ足元の金融政策云々と必ずしもリンクしない話ですけれども、面白いので引用引用♪


『第2の課題は、金融システムに関する政策の設計です。バブルの崩壊のような経済のノンリニアな変化はリスクとしては認識できても、崩壊する前に金融緩和を始めることは困難です。バブルがいつ崩壊するかを正確には予測できません。そうした変化を認識した場合には、現在のFRBの対応のように、標準的なテイラー・ルールが示唆する以上のペースで金利引き下げを行うことは適切な対応だと思います。』

ということで、バブル発生のほうじゃなくて崩壊の方に関しても言及していまして、FRBの金利政策に関して適切な対応と評価してますので、これはまあ日本で景気下振れリスクがより顕在化したら利下げも検討って文脈になるんでしょうかね。ヘッドライン打つならこっちじゃないのと思うんですけど(苦笑)。で、ここからがプルーデンスに寄った話。

『同時に、日本の経験が示すように、企業や金融機関のバランスシートの毀損が激しい場合には、金利の引き下げだけでは十分緩和的な金融環境を作り出すことは非常に困難です。』

実はこの部分もロイター日本語版はヘッドライン打ってましたことを付け加えます。

『現在の米国の金融環境をみると、大幅な政策金利の引き下げにもかかわらず、信用度の低い社債の金利は昨年夏に比べて低下している訳ではありません。この事実は、事後的な政策金利の変更に加え、事前に、バブルの生成を招きにくいような金融システムに関する政策や制度の設計も重要であることを示しています。金融政策において採り得る対応策については既に述べましたが、金融機関の行動が景気の振幅を増幅させることのないように、規制や監督のあり方を考えることも重要な課題です。』

「金融環境」ってのは白川さんのキーワードですな(^^)。


『第3の課題は、いわゆる中央銀行のバンキング政策です。金融政策が効果を有するためには、金融システムが安定し、金融市場が十分に機能することが不可欠です。昨年夏以降の経験を振り返ると、市場流動性の枯渇が問題となりました。市場流動性がどのようなメカニズムを経て枯渇するのか十分解明できている訳ではありませんが、中央銀行は自らのバンキング機能を使って、市場流動性の回復に努力してきました。』

左様でございます。

『この点では日本銀行はフロンティアであったと自負しています。例えば、日本銀行は、2001年に、幅広い金融機関を対象とする期間の長い資金供給オペレーションを導入しました。これは、Fedが昨年12月に導入したターム・オークション・ファシリティー(TAF)に相当します。また、日本銀行は同じ年に証券会社を含む金融機関を対象とする貸出のスタンディング・ファシリティーを導入しました。これはFedが本年3月に導入したプライマリー・ディーラー・クレジット・ファシリティー(PDCF)に相当しています。』

原文の脚注スルーしちゃいましたが、貸出ファシリティーって所謂ロンバートのことです。為念。まあこの辺りの対応に関しては本邦では散々やっておりましてそういう意味でインフラ大整備状態なのでありまして、今般のサブプラ騒動で日銀が何もしてねえとか批判するのは批判のピントがボケているという感じですな。ただまあ何もやらないと外野がうるさいので夜中の10時過ぎ集合で緊急記者会(ry


『日本銀行はこれ以外にも、資金供給と売出手形の発行による資金吸収を組み合わせた両建てオペレーションを実行し、金融市場で一種のブローカーとしての役割を果たしました。また、資産担保証券や金融機関保有の株式も買い入れました。これらはいずれも金融市場や金融システムの機能を回復するための措置でした。これらの措置は通常は金融政策とは分類されていませんが、いずれにせよ、中央銀行の展開するバンキング政策を抜きに金融政策の効果を考えることはできません。変化する金融環境の下では、中央銀行は、そのオペレーションの不断の見直しが必要です。』

ま、これも危機対応部分がいつの間にか「ある物」状態になってしまうとそれはそれで如何なものかという所もございまして、例えば3月末に短期市場で寝転がりさんが続出したのも危機対応の丁寧な対応に市場が乗っかって軽めの依存症状態になりつつありって感が無いわけでもないのであります。まー難しいですけどね。

本日はそんなところで。

トップに戻る








2008/05/28

○白川総裁の国会答弁からほんのちょっとだけ

昨日は参議院財政金融委員会に白川総裁などが出席して質疑応答が行われました。で、こっちは例によって最終的には国会の会議録を見たいと思うので2週間から3週間もすれば内容をきちんと読めると思いますが、とりあえずブルームバーグの記事から。以下引用はブルームバーグニュース27日14時57分配信記事によります。

・短期金利が適切な水準にあるというお話

この部分は「ふ〜ん」と思ったんですが。

『白川総裁はまた、自民党の田村耕太郎氏の質問に答え、現在の金融政策運営について「政策金利は0.5%、消費者物価指数(除く生鮮食品)上昇率は1.2%で、実質金利はゼロもしくは若干のマイナスだ。潜在成長率が1%台半ばから後半程度とすると、それとの比較で短期金利は適切な水準になる」と述べた。』

ほうほう。このあたりのロジックが中々難しいのですが、展望レポートの基本的見解の中で先行きの上振れ、下振れ要因として言及されている中で、4番目の部分に『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。』とございまして、第2の柱の方では『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』とありますので、金融「環境」に関しては緩和的だという認識になっていますわな。

一方で需給ギャップがバランスしていて経済見通しが潜在成長率並
の成長パスとなっているので、短期金利の水準に関しては適切だというお話になるんでしょうか。何かわかったようなわからんような話ではございますが、先般の日本記者クラブにおける講演では、『やや大きな構図で捉えた場合、現在、実質短期金利がゼロ%近傍と、極めて低い水準にあるということは、中央銀行として、当然、留意しておかなければなりません。』という話ですので、「低いけど適切」ということなのでしょうか。ヤヤコシヤでございまする。

まあわざわざ低いという話を強調してまたぞろ利上げ思惑が浮上されても困るからってのもあるんでしょうけれども(^^)。


・その他

資産価格と金融政策に関する質問とかまだ出るのかよと思うのですけれども、ヘッドラインをみますと「資産価格をターゲットにした金融政策は難しい」けれども「経済物価情勢を総合的に判断する場合には資産価格を加味するのが基本」というような趣旨のお話のようです。まあそう言う感じですか。

あと、長期金利に関する質問があったようですが、これって質問者が判って質問してたら凄いんですけど、長期金利下げたかったら世間様の期待インフレ率やら期待成長率下げないと行けませんので、早期利上げって話になっちゃうんですよね。

輪番オペに関して共産党の大門さんが質問していたようですが、「輪番オペを無くすと短期の資金供給オペレーションを相当頻繁に行わないといけない」との答弁だったようです。

このあたりに関しては会議録が出てから後日ということで。

トップに戻る









2008/05/26

○白川総裁会見の続き

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805b.pdf

前任者と違いまして、会見要旨を読むと(本人もそう発言してますが)学校の授業のようであります(前任の会見はありゃエンターテイメントでございます)ので、行間を読むとか不規則発言の裏を読むとかいうような作業は不要でして、読みやすい会見でございます。

従いまして逆にこちらで肴にして楽しむという行為が出来ないのが誠に残念ですが(^^)、どう考えてもこの方が良い状況なんでしょう。


・本邦のサブプライム問題

『(国内金融機関のサブプライム問題について)この影響につきましては、赤字の先も含めまして、損失額が金融機関の経営体力で十分吸収可能な範囲にとどまっておりますし、現時点でこのことがわが国の金融システムに対して何か大きな影響を及ぼすとは考えてはおりません。』

『もちろん金融機関の収益を今後も注意深くみていきますが、金融機関の貸出態度への影響や景気への影響などもう少し広い観点で捉えてみますと、欧米では、このところ相次いで発表されたローンサーベイ、つまり金融機関の貸出態度をみるアンケート調査の結果が期を追うごとにかなり厳格化しています。これとの比較でみますと、日本の金融機関の貸出態度はそれほど大きな変化があるわけではありません。』

『中小企業、特に零細企業について、金融機関の貸出態度が少し厳しい方向に向かっている、あるいは資金繰りが厳しい方向に向かっているということは、私自身十分認識し注意深くみておりますが、全体としては、金融面から景気を支える力が弱くなっていっているとか、あるいはその危険性があるとはみておりません。』

即ち、国内金融機関に対して資本増強策などのようなものが必要になる事態になるのかという面と、貸出態度の悪化に繋がり、企業金融としての金融引き締め方向になるのかどうかという面を注視しますというお話でございます。極めて判りやすい。

ところで、中小零細の貸出態度って暫く前に保証協会が全額保証をするのを基本的に止めたってのはどう影響しているのでしょうか。。。


・物価上昇の影響について

今回の質疑応答は物価上昇の話がやたら多く、その一環(?)としてどこぞのテレビ局がアホウ質問をしたのでありますが、実は最初の質疑で説明は終了しているようなもんなんですよね。以下引用しますが、やたら長いので段落わけしながら。

『(問) 先程お話に出ました原材料をはじめとするコスト高の問題ですが、世界経済にとってどのような影響があると総裁ご自身はお考えでしょうか。』

『(答) この問題を話し始めますと、大学のゼミのようになってしまって気が引けるのですが、各国によって状況は違ってくると思いますから、最初に多少筋道をお話しして、その上で日本を中心に説明した方が良いと思います。』

『エネルギー価格が上がっていく場合、日本のような消費国からみると、外から入ってくるモノの値段が上がるという意味で供給ショックと映るわけですが、他方で、この価格上昇の背後には世界経済全体の需要増加があるわけです。そういう意味では、需要ショックという性格も持っています。経済の影響を考えていく時には、物価上昇がどのような性格のものなのかを考えていく必要があると思います。』

『日本からみた場合、交易条件が低下する、悪化するという点で、先程説明した通り、日本全体の所得形成の力が弱くなっていくわけです。従って、設備投資や消費に悪影響を与えていくものであります。これは明らかにマイナス要因ですが、交易条件が日本で悪化している、すなわち消費国で悪化しているということは、産油国を中心に交易条件が改善しているということですから、その地域への輸出が増加するという性格を持つものであります。現在日本は、内需は弱くなっていますが、輸出は非常に堅調を続けているわけです。これは、交易条件の悪化と改善の裏腹で起きている現象とも言えるのです。』

『そうしますと、経済全体の需要はマイナスとプラスの力のどちらが勝るのかという観点で考えていく必要があると思います。また、仮にマイナスの力が勝るのであれば、経済全体の需要が弱くなるわけですから、物価が下がるという力が働きます。他方で、物価が原材料を中心に上昇し、仮にインフレ期待に火が付けば、これは2次的3次的な物価上昇を引き起こすことになるわけです。このように、物価の面でも下がる要素と上がる要素の両方が存在します。』

『以上の通り、景気についても物価についても必ずプラス・マイナス両方の要素があるため、一義的に答えを出すのは難しいと思います。世界経済全体への影響とのご質問ですが、各国は、世界の各地域における今申し上げたような要素を勘案しながら、金融政策を運営しているわけです。最終的にどのような金融政策をとるかによって、その国の景気・物価の姿は変わってきますが、先程説明したような整理をしつつ、各国は、自国の状況に応じて金融政策を運営しており、日本も同様に政策を運営していくということだと思います。』

これを前任者が説明するとかなりエンターテイメント性が上がり、サービスフレーズが増える結果ヘッドラインリスクになりそうなヘッドラインを2本くらい打たれそうな感じが致しますな(^^)。白川さんの説明は確かに学校の授業みたいな説明で。


・引用していると長くなるので以下あたくしが勝手にまとめると

質疑応答は3分の2くらいまで景気認識と物価に関する話が多くて、説明が丁寧かつちゃんとしている(変なたとえとか不規則発言とかが無い)ので、まあ皆様におかれましてもお読みになられたほうが吉なのでございますけれども、一応あたくしが読んだ感じだとこんな所ですか。

・いわゆる金融環境に関してはそれほど大きく変わっていない
・従って現状の金融環境は緩和的な状態で景気下支え要因になっている
・交易条件の悪化で一番注目しているのは設備投資
・物価上昇に関しては数値自体は上昇するけれども所謂世間で言うような「インフレ懸念」という懸念は今のところ無さそう

という感じになるんでしょうか。しかし総裁会見で「三面等価」という言葉が飛び出すとは(^^)。

トップに戻る








2008/05/22

ということで(どーゆーことだ)白川総裁会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805b.pdf

例によって説明が丁寧なので1回で紹介しきれない(本日は人のふんどしシリーズもあるので)ものと思料。と最初からヘッジクローズ。

○他の部分の引用が明日回しなので先にあたくし的感想

総裁会見の中で例によってロイター日本語版が妙に利下げっぽいヘッドラインを打ち込んで相場が反応してましたけど、会見のトーンでは目先景気に下振れリスクを強調するのと、物価上昇=利上げではないというのを強調しているように見えます。で、あたくし勝手に想像するに、日銀は物価の先行きを結構強く見ており、かつてのCPI時間軸の残像がある中では、物価上昇=利上げという発想から市場が勝手に利上げ催促みたいな動きをしてきて金利が上昇するのはよくないと見ているんじゃねえのかと。コアCPIが早晩前年比1.5%位まで上昇していくと見て、その際に市場が走るのを抑えるために事前に「経済指標は悪いでしょ」って面を強調してるのではないかなあって思うのですが、裏読みのし過ぎでしょうかねえ(笑)。

ということで、まあ下振れリスクへの言及は多いですかね。


○中央銀行の独立性に対する白川総裁の説明

本石町日記さんのエントリーで触れられていた問答ですが、白川総裁の回答があまりにも素晴らしいのでやはり全文引用すべきではないかと思い(量が多くなるのは勘弁)引用。質問のアレな内容と比較してお楽しみください(手抜き)。

『(問) 先般来ずっと続いている物価上昇の話ですが、奥様方の持たれている感覚ではとても1%程度というような感じではなく、もっと上がっており、1%などと言われるととんでもないという次元にきていると思います。そうした中で、注意深くみると言われても、どこをみているのかという感じがするのだと思います。その辺りのずれをどう説明されるのか、ちょっとずれ過ぎている感じがするのですが。』

文句は総務省にされた方がよろしいのではないでしょうか(笑)。回答は長いので段落分けします。

『(答) 物価指数と物価についての実感が食い違っているということは、今回の局面に限らず、これまで繰り返し言われてきている話です。私が日本銀行に入った1972 年、その直後に狂乱物価というものがありました。局面によって若干程度は違いますが、物価指数と物価の実感が違うというのは、実はずっとある議論です。2000 年以降で考えますと、物価指数が若干マイナスになりましたが、あの局面ではデフレの実態としては、指数で表されるよりも実はもっと物価は下がっているのだという議論もありました。現在は逆方向の議論ももちろんあるわけです。』

いきなりここで終了でも良さそうですが(^^)、その後がまた丁寧なのよ。

『ただ、物価がどのくらい上がっているかは、結局はその人が購入しているもので判断するわけです。例えば、主婦が物価が上がっていると感じるのは、現実に毎日買い物に行って買う食料品や身の回り品が随分上がっているからであり、購入頻度が高いものは今非常に上がっていますから、とても1%どころではないと感じるわけです。家計が購入するものを統計で調べて、支出ウエイトを計算して算出した物価指数を項目別にみますと、購入頻度は高くないけれども非常に値段が張るもの、すなわち耐久消費財は、例えばパソコンのように、消費者物価指数の上では価格は下がっているわけです。』

『中央銀行の金融政策は1つしかありません。1つの金融政策、1つの金利で経済全体の調整をしていくわけです。現在の物価指数は100%正確に物価を映しているとはもちろん言えませんが、しかしある程度客観的な支出のパターンに従って上昇率を計算したものであり、これが物価指数だと思います。』

『物価指数の動きについて、例えばコンマ幾つの動きについて上がった、下がったということをこと細かく議論しても、私はあまり意味がないと思います。ある人は物価が10%も20%も上がっていると感じる一方で、ある人はやや下がっていると感じるように、感覚で判断するのはなかなか難しいと思います。長々申し上げましたけれども、私どもは物価指数をただ単に機械的にみているわけではなく、物価指数の背後にある経済の動きを注意深くみながら、その上で物価の動きを判断していることを理解して頂きたいと思います。』

何という懇切丁寧かつ完璧な説明・・・・で、完封されて悔しいのかこの質問者まだ絡むのでありました。どう見ても馬鹿質問です本当にありがとうございました。

『(問) そうすると年金受給の人などは、物価スライドがかからなくなるわけで、どんどんお金が使えなくなってしまうという状況が、もう目の前にみえてきてしまうわけです。預貯金の金利についても、下振れリスクなどと言われると、もう生活面で非常に厳しくなることだけが目立ってしまうのですが、それで良いものなのでしょうか。』

年金需給を支える現役世代や新卒時代に就職氷河期で預貯金もままならない若い世代のことも思い出してください(><;


『(答) 金利の上げ下げは、債権者と債務者で当然相異なる影響を与えるものです。金融政策を運営するという立場に身を置いた場合、それぞれの立場からの悲鳴、苦しい状況についてのお話に十分共感し、理解する力、感覚は非常に大事だと思います。』

そしてこの次が白眉。

『しかし、中央銀行が独立性を持って金融政策を行うということは、それぞれのグループの狭い意味での利害に配慮して金融政策をやっていくことではありません。そうした行為は、結局金融政策の自殺行為になると思います。金融政策を行うにあたっては、相異なる利害を持った人達に対して色々な影響を与えることを十分認識し、それに対する感性を持った上で、最終的には、経済が持続的に成長するということを目的に運営していくしかないと思います。そして、なぜこのような政策を行うのかについて、十分に説明する必要もあると思います。』

いやもうあたくしがコメント入れるのが申し訳ない位の説明でございます。

『今ご指摘の年金生活者の苦しみ――これは大変大きな問題ですが――、一方で景気が悪くなった場合に職を失うという人の苦しみももちろんあるわけですから、物価安定のもとでの経済の持続的な成長という1点に照らしながら、金融政策を判断していくしかなく、そのために中央銀行は最大限の努力をし、誠実でなくてはならないと思っています。』

で、昨日はURL貼るの忘れましたが、本石町日記さんのエントリーはこちらです。この手のネタを出すとコメント欄に変なのが湧いて来ますなあ(苦笑)。

http://hongokucho.exblog.jp/8630225/

なお、質問したのは政治経済問題に関する扇動報道を毎晩垂れ流す(らしいようですが、あたくしは社会人になった途端に馬鹿馬鹿しくなって見るのを止めたのでよー知らん)番組を看板放送としているどこぞのテレビ局の記者様のようで。

ところでそのエントリーの中にあった余談関連ですが・・・・

>「主婦」で思い出した。先輩から聞いた昔話である。

というところで紹介されていたエピソードも何か脱力モノですけど、

>その時のやりたい金融政策を実行するために都合よく世論を取り入れるのは余りにもご都合主義で、政策ロジックもあったものではない。このアイデア、何とか潰したらしいが…。だれのアイデアかって? こういうサービス精神旺盛なことを考えるのはまあ一人しかいないでしょう(苦笑)。お察しください。

サービス発言が旺盛で会見などで不規則発言をするのが仕様になっていたこの前まで執行部にいた人ですね、わかります(^^)。

まあ白川さんはロジカルかつ丁寧な説明をするので、結論先にありきで政策ロジックもあったものではない前任(あ、言っちゃった)と違ってこのあたりはちゃんとやってくれそうですよね。と、ここまでやったら既に量が膨大になっているので肝心の部分は明日になってしまいます、申し訳なし。

トップに戻る






2008/05/14

お題「白川総裁講演続き(引用で増量してます)」

日経ネット見たら白川さんの講演のヘッドラインが「金融政策、中立を強調」となっていたのにはホッと致しました。それが普通の解釈ではないかと。

で、まあネタもあんまりない(というより調べ物したりしないといけないネタはあるんですが)のでこの際白川総裁講演の続きでも。正直引用ばかりの企画で誠に申し訳ございません。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805a.pdf

『本日は、前半では、日本経済の現状および先行き見通しと、当面の金融政策運営についてお話し致します。後半では、金融政策を運営する上で私が重要と考える幾つかの基本的な考え方について、申し述べたいと思います。』

今回の講演ですが、前半部分は展望レポートを踏まえて日本経済の見通し今後の金融政策運営に関する説明をしておりますが、展望レポートの内容をより丁寧に説明した内容になっております。てな訳で本当はそちらもご紹介したいところですが、それをやっているといつまで経っても終わらないので、後半部分の「考え方」部分を。前半は必見だと思いますよ。きっちりとした説明で福井さん時代の「理屈後付け」攻撃と対比すると非常に宜しいと思うのでございます(がドラめもんネタ的には引用以外やる事がなくなってしまうので・・・・^^)。

そういや福井総裁対比で白川総裁の「市場との対話」に課題がどうのこうのというような指摘をする向きも(何故か金融市場の外側からは)ありましたが、結論先にありきで理屈は後付け&発言はサービスフレーズ満載の福井さんと対比して白川さんのほうが安心してられると思うのですけれども。というか福井さんの市場との対話が上手く行っていたとは全然思えませんが(苦笑)。


○不確実性を意識した経済・物価情勢の予測

考え方の第1の部分は中長期的な物価安定の重要性ってのがお題だったのですが、この部分に利下げがどうのこうのというのがありましてこれは昨日ご紹介した通りです。

で、まあ利上げだの利下げだのという話はキャッチーなのでどうしてもそういう所がクローズアップされるのですが、その続きの部分の方があたくし的には興味あります。

『金融政策運営に当たり第2に申し上げたいことは、経済・物価情勢の予測には多くの不確実性が存在していることを自覚しなければならないということです。』

『中央銀行を含め、予測を行う機関はどこも正確な予測をするために最大限の努力をしていますが、それでも予測誤差は決して小さくはありません。例えば、各国の中央銀行や政府、民間予測機関の予測誤差の実績をみますと、1年先の成長率を予測する場合で、平均すると1%を超えています。これが人間の予測能力の現状です。そうした経済に内在する不確実性を踏まえますと、見通しどおりにならない可能性、すなわち、上下両方向のリスクを意識した政策運営が不可欠となります。』

好循環メカニズムが崩れていないから利上げするぞ利上げするぞという自信満々(最後は空元気モードのような感じもしましたが)な前任者の状況から比較して随分と穏当になったものであります。まあ速水さん福井さんと「かくあるべし」が先行する人が続いてしまったので、受け取る側が相変わらず「日銀は決め打ちしてくるもの」という意識になっていると思われますが、実はそうではないですよって事ですよね。

『例えば、米国の住宅バブルや、より広くクレジット市場の行き過ぎについては、最終的に経済に深刻な影響を与える可能性があるという見方は少なからず示されていました。そうした見方は経済に対するビジョンとしては非常に重要ですが、それでは、FRBが2〜3年前に住宅バブルの崩壊や金融市場が大きく混乱するケースを標準シナリオとして想定し、これに基づいて金融政策を運営することが適当であったかと言えば、私はそれにはやや躊躇します。』

それは仰せの通りで。あたくしどもの場合だって、長期的なリスクシナリオのビューが当たった当たったと言われましても、じゃあそれでポジション組んで儲かる(またはオーバーパフォームする)のかという話はまた別の問題でございますからねえ。

『政策当局者としては、住宅バブルの崩壊を標準シナリオとするというより、これを先行きのリスク要因として認識しながら、政策運営に活かすというアプローチの方が説得力が高いと思います。』

ということで、今回の展望レポートの話になるのですが、第1の柱と第2の柱の中で第2の柱の説明を詳しくしたのと、リスク・バランスチャート(最後にあったグラフね)を作りましたというお話をしてますけれどもそこは割愛。


○金融と経済の間の複雑な相互依存関係

面倒なので(おい)小見出しが全部講演から引用なのですが(汗)。

『第3に申し上げたいことは、金融と経済の間に複雑な相互依存関係が存在し、経済・物価情勢の判断に当たって、このことに十分留意する必要があるということです。』

とは何かと言いますと、

『このことは1980 年代後半の日本のバブル以降の経験や90 年代後半の米国のITバブル、今般のサブプライム問題といった実例を思い起こすだけでご理解いただけると思いますが、これらは必ずしも標準的な経済理論に基づくモデルには馴染みません。今回、米国で起きたことは、金融市場における市場流動性の低下という問題でした。つまり、価格は名目的には存在しても、その価格で取引に応じる主体がいなくなり、市場取引が極端に細るような事態です。そうなると、市場参加者はリスクをテイクしたりヘッジすることが出来なくなる結果、経済活動にも悪影響が生じます。』

特に今回のサブプラ関連の問題に関しては、かつて本邦で生じた金融危機における流動性の枯渇状態を(市場の片隅で本当にしょぼいポジションでしたが)垣間見ることができたあたくしから致しますと「何じゃそりゃ」としか申し上げようがない最先端の金融工学手法(笑)が炸裂いたしまして大変に頭の下がる思いでございました。5年くらいのサイクルで「これは6シグマの向こう側」っていう現象が起きるのはそもそも6シグマじゃねえだろうと小一時間。

という悪態は兎も角、『価格は名目的には存在しても、その価格で取引に応じる主体がいなくなり』というのは今回の状況を端的に指摘しておりますな。で、何故かどこぞの会計士協会からは今度は極端な責任回避姿勢からアホウな通達が出てくる訳だが。

で、途中を端折ってこの部分のまとめ。

『こうした分析に当たっては、中央銀行内に蓄積された様々な知識・経験を総動員し、それでも人間の知識には限界があることを十分認識した上で、謙虚な姿勢で臨むことが大切だと思っています。』

この辺でも「謙虚な姿勢」ってのがございますな。うんうん。


○金融環境の総合的な判断(これは講演小見出しと違います^^)

『第4に申し上げたいことは、金融政策の発揮する効果を評価するためには、名目短期金利の水準だけでなく、各種の金利や金融市場の機能度合いや金融機関の貸出姿勢などを含めた、広い意味での「金融環境」を評価する必要があるということです。』

市場におりますとまあこの話は納得しやすいのですが、金融政策のロジックとしてはちょっと判りにくい部分があるかもしれないなと。話が全然切れないのでこの項全部引用しちゃいます。

『中央銀行が政策目標としてコントロールしている金利は短期金利であり、通常はオーバーナイト金利です。日本銀行の場合で言いますと、翌日物のコールレートであり、現在の誘導目標は0.5%です。しかし、企業や家計の行動に影響を与える金利は、短期金利に限られる訳ではなく、より長い期間の金利も含めた、様々な期間にわたる金利、いわゆるイールドカーブ全体です。』

『また、金利水準を評価する上では、将来の予想インフレ分を調整してみること、つまり実質金利を点検することが重要です。さらに、企業が借り入れを行ったり社債を発行する場合には、国債金利のようなリスクフリーの金利ではなく、それに債務者の信用度などに応じてスプレッドを上乗せした金利を支払うことになります。また、場合によっては、高めの金利を払ってもそもそも金融機関が貸してくれない、ということも起こりえます。』

『こうしたことを踏まえますと、金融政策の効果を評価し、先行きの政策を決定するには、政策金利の水準のみならず、イールドカーブ全体の形状、潜在成長率や予想インフレ率との比較、上乗せされる各種の信用スプレッドや金融機関の貸出態度など、金融環境全般の動きを丹念に点検することが不可欠です。』

で、話はここで終了しているのですが、従来の理屈からすると長期金利に関して日銀はコントロールできませんという話になっておりますので、アンコントローラブルな外生変数で金融政策運営が影響されるというロジックはどうなのよとか言われそうな気がせんでもない次第。この話の続きに「だからどうする」という説明は難しいとしか言い様がないのでありますが、この話の続きを聞いてみたいです。


という訳で、目先の金融政策どうのこうのじゃない話ですけれども、あたくし個人的に「ほうほうなるほど」と思いながら読んだ部分ですので延々と引用させていただきました。引用部分でもございましたが、前任対比で現実的というかフラットというか謙虚というか、まあそんな印象を改めて強くする講演でございました。速水さんや福井さんと比較した場合に報道機関的には面白くないかもしれませんけどね(^^)。

トップに戻る








2008/05/13

さて、モーサテ様で「利下げに言及」と報道されている日本記者クラブでも白川総裁の講演なんですが、タカな部分とハトな部分がより強調される形で混在しているのは、相手が記者という素人さん(だと本当は困るのですが・・・プロといえる人は数える程ですよねえ・・・・)相手なので、表現をちょっと明快にしたかったのかなあと思います。NHKが出していた「金融政策、柔軟に対応」という表現の方が適切だと思いますが。

展望レポートと比較してみたりするので、展望レポートのURLも置いときますね。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0805a.pdf(今回の講演)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0804a.pdf(展望レポート基本的見解)

ちなみに展望レポートを受けたあたくしの駄文はこちら。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/seisaku08-01.html#seisaku080501


○当面の金融政策について


講演要旨の7ページ目から。

『次に、以上のような経済・物価見通しを踏まえて、当面の金融政策運営についてお話ししたいと思います。半年前、すなわち、昨年10 月の展望レポートでは、金融政策運営の方針について「経済・物価情勢の改善の度合いに応じたペースで、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる」と述べました。しかし、今回の展望レポートでは、経済を取り巻く不確実性が極めて高い状況のもとで、金融政策運営について、「予め特定の方向性を持つことは適当ではない」と表現しました。』

と、ここまでは展望レポート通りですが、この次の表現は展望レポートの中ではこのように堂々とは書かれていなかったところです。

『やや大きな構図で捉えた場合、現在、実質短期金利がゼロ%近傍と、極めて低い水準にあるということは、中央銀行として、当然、留意しておかなければなりません。したがって、日本経済が物価安定のもとで持続的な成長軌道を辿るという見通しに対する確度が高いのであれば、金利水準は調整していくことになると思います。』

ちなみに、展望レポートではどのように書いてあったかと言いますと、「経済の上振れ・下振れリスク」の第4の部分で『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。』と、現状の金融環境が緩和的であることにしらっと言及して、金融政策第2の柱の説明部分で『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』と表現されております。

で、この2つを足し算すると上で引用したように『日本経済が物価安定のもとで持続的な成長軌道を辿るという見通しに対する確度が高いのであれば、金利水準は調整していくことになると思います。』というお答えになるのですけれども、展望レポートでは金利調整論を前面に出さない事によって福井体制時代のイメージを払拭させようとしたんですかね。しかし埋め込んでいたものがこうあっさりと出てくるとは思わなかったというのがあたくしの印象。

じゃあその下振れリスクが薄れるパスはあるのかというと中々のナローパスなんですけどね。まあ毎度おなじみの如く輸出様次第なのでしょうが、あたくし的には川下の価格転嫁が案外スムーズに進むパスもありなのかなあとか思うんですけど。

というわけで「白川総裁利下げに言及」と見出しを打ったモーサテの報道には違和感があるんですよね。この前の展望レポート後の会見がハト派的な印象を強く与えたような市場の反応(まあ30日に出た経済指標が軒並みダメダメだったのも大きいと思いますが)がハトに振れすぎと思ってちょっと牽制したのか。あるいは、展望レポート作っている時と比較して金先が順イールドになっているのでホッとしてるのか(^^)。


○たぶん利下げに言及というのはこの辺なんでしょう

講演要旨の10ページ目から。

『第1に申し上げたいことは、金融政策の目的である、「物価の安定」をどのように理解するかということです。日本銀行法は、金融政策運営の理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。私はこの日本銀行法の規定に強く賛同していますが、ここで重要なことは物価安定とは、中長期的に持続しうる物価安定であるということです。物価の安定が重要であることも、また、中長期的に持続しうる物価安定が重要であることも一般論としては認識されているように思いますが、これを政策として実践しようとすると、必ずしも多くの人々に支持されるとは限りません。』

ということで、その後が延々と1980年代後半の不動産バブルとその際の金融政策について説明があるのですが、そこは端折りまして。

『ただし、金融政策を運営するに当たり、物価安定のもとで持続的な経済成長を実現するという観点に照らし、資産価格を含め幅広く経済の状況をみていくことは大切だと考えています。そうした観点からみますと、物価指数でみて物価は安定していても、政策金利を引き上げることが必要な局面もあり得ます。逆に、足許の物価指数でみて物価は上昇していても、金利を引き下げることが必要となる局面もあり得ます。』

ということで、ここからが利下げに言及の部分。

『例えば、消費者物価の上昇の原因が純粋に供給サイドの要因による原油価格の一時的な上昇である場合がこれに当たります。勿論、その場合でも、二次的な物価上昇が生じてないという重要な前提条件が満たされる必要はありますが、交易条件の悪化による景気後退に対応して政策金利を引き下げることが持続的な物価安定のもとでの成長という目的に貢献するケースもあり得ます。』

じゃあ消費者物価の上昇が純粋に供給サイドの要因によるものかと言うとこれまた必ずしもそうではない可能性がある訳でして、展望レポートが出た4月30日の記者会見で資源価格の高騰についての見解を求められた白川総裁はこのように言及しておりますな。

(4月30日定例記者会見より)
『資源価格の上昇については、これまでずっと議論がなされてきました。上昇の背景をどのような時間的な長さの中で議論するかによって、答えも変わってくると思います。非常に大きな流れで見ると、新興国を中心として資源を多く使う経済が成長し、その需要要因が基本にあると感じており、これに加えて、資源価格が上がった場合、それに対応して供給を弾力的に増やしていくという構造には必ずしもなっていないという、供給サイドの要因も影響していると思います。(で、途中をばっさり割愛しまして)いずれにしても、諸説ありますが、単純に答えを導き出せるものではないでしょうし、私自身は特定の説に依拠することなく、複眼的に物事をとらえていきたいと思っています。』

ついでにもう一丁引用しますと、消費者物価の話に関して。

(4月30日定例記者会見より)
『石油製品の価格が供給要因で上昇したという説があり、必ずしもそうとは言えないと先程申し上げましたが、供給要因という点では、労働集約的な財が中国を始めとする色々な国から入り、物価が下落した例もあるわけです。現在、供給要因で物価が上昇しているという見方があり、そうした状況下で中央銀行としてどう物価指数をとらえ金融政策を運営していくのか、ということがずっと問われ続けてきたのだと思います。(途中を割愛)先程の消費者の身の回りの物価高というのは、例えば食料品やガソリンということでしょうけども、一方で、色々な労働集約的な財の値段は引き続き下がっているものもありますから、そうした中で、今申し上げたような視点で金融政策を判断していきたいと思っています。』

ということで、まあ利下げに関してはやるやるナントカじゃないですかね。利下げするよりも時間軸みたいなものを出した方が中長期金利という意味では効くと思いますし。


○実質短期金利0%に言及

経済見通しの部分になりますので、前に戻って3ページ目になります。

見通しとして『先行きは減速を脱して緩やかな成長経路に戻る可能性が高い』となっている理由の3番目です。

『第3の理由は、金融環境が緩和的であることが、引き続き、民間需要を後押しするとみられることです。現在コールレートは0.5%、消費者物価の前年比は1%強ですから、実質短期金利は、大まかに言ってゼロ%近傍です。これは潜在成長率と比較すると、極めて低い水準ですし、海外主要国と比べても低い水準にあります。企業が資金調達する際に、上乗せされる信用スプレッドも、欧米のように拡大している訳ではありません。また、金融機関の貸出態度や企業の資金繰りも、中小・零細企業では相対的に厳しい状況にありますが、全体としては引き続き良好な状況にあります。』

これが展望レポート(基本的見解)ではどのように説明されていたかといいますと・・・・

『第4に、緩和的な金融環境が、引き続き民間需要を後押しするとみられる。短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、引き続き極めて低い水準で推移している。国際金融資本市場の動揺が続いているが、欧米に比べ、信用スプレッドの上昇は総じて小幅であり、金融機関への影響も限定的である。こうしたもとで、金融機関の貸出姿勢は総じて緩和的である。ただし、中小零細企業や非製造業の一部で金融緩和の程度は幾分後退しており、この状態は当面持続する可能性が高い。』(展望レポートより)

達観しますと同じ話をしておりますが、「実質短期金利が大まかに言ってゼロ%」というのが出てきてまして、海外主要国よりも低い(実質の事を意味するんですよね)と指摘しているのは、まあ表現としては強いようにも見えますし、先ほどから申し上げているように相手が素人さんなので、上にも下にも表現を判りやすくした方が良いという判断に基づくものなのかは正直よく判りません。


○結局中立かなあ・・・

プルーデンスの話とか、他にもほほうというお話があったのですが、時間と量の関係上(というか今回も引用で大増量しててすいませんすいません)本日はこのあたりで。あたくし的には最初と最後に引用した部分の方を(文章の流れ上当然なのですが)先に目にしたので、別にそんなにハトな講演内容には思えなかったです。今のところは様子見極めで、良くなりゃ利上げ復活だし、別にダメなら利下げもするっていう中立な話ではないかと思いました。

それから、何だかよく判らんが人事が若返り方向になったというのだけは把握した>本石町日記さん
http://hongokucho.exblog.jp/8581791/

トップに戻る








2008/05/02

さて、展望レポート大幅書き換えを受けた白川総裁の記者会見から。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0805a.pdf

○説明がとても丁寧です

今回は展望レポート書き換えがあったので仕方ない面もあるのですが、PDFファイルで17ページの会見要旨。で、中身を読みますと説明が丁寧かつ発言にサービスフレーズあるいは不規則発言のようなものが無いという代物でありまして、前任の人とはだいぶ違う感じです。

この説明をトンチンカンな質問をしたりトンチンカンな記事を書いたりする記者の皆様におかれましては参考にしてきっちりと勉強していただきまして、よりちゃんとした記事を書いて頂きたく存じます次第なのでございます。不規則発言が全然出てこないのはネタとしては困りますが(笑)、これで会見のヘッドラインリスクは下がるんでしょうねと思うのであります。

「説明が丁寧」ってのと、「柔軟な対応(=最初に物事かくあるべしから入っていた前任の総裁とは違うという意味です)」ってのが白川総裁の特徴なんじゃないでしょうか。

内容盛りだくさんで全部紹介できないんじゃないかと書きながら懸念してますが、まあ参りましょう。


○スタグフレーションの時にどういう対応をするのか

という質問がございまして、質問(の一部)から引用をします。6ページ目の後半から。

『(問) 3点お伺いします。(2点割愛)最後は、標準シナリオでは、わが国景気は減速していくがCPIはじわじわと上がりいずれ伸び率が止まるということですが、仮に景気減速が深まり、CPIの伸び率鈍化が遅かった場合、あるいはCPIが高止まりした場合は、景気はいまひとつだが物価だけは高いという状態に直面すると思います。その時の金融政策については、どちらに舵をとられるのでしょうか。』

『(答)(前半割愛)先行きの日本経済が、物価と成長率の組合せにおいて望ましくない方向に変化した場合に金融政策をどのようにするのかというご質問ですが、物価にしろ、景気にしろ、同じ方向を向いている時には、中央銀行は相対的には金融政策をやりやすいわけですが、両者が食い違っている時はどうするのかというと、これはその都度難しい問題になってきます。中央銀行は、これについてはこのように対応するという答えを予め持って望むべきではないと思います。』

で、この先の説明が長いのよ(^^)。長いから段落分けします。

『多少理屈めいた話で恐縮ですが、そのような食い違いが生じるということは、需要のショックではなく供給のショックが起こるからです。つまり、原油価格が上がりその結果物価が上がるが、所得が流出して景気が下がってくるというのが1つの例です。そうした時に、供給ショックに対する金融政策の対応がどうあるべきかということについては、理屈の上では昔から考え方は比較的整理されていると思います。』

『つまり、純粋に供給サイドの要因であれば、これは消費国からみると景気の減退要因となります。一方、この物価の上昇は一時的な要因ですから、この物価上昇が2次的な物価上昇、つまり期待インフレ率の上昇を通じた物価上昇をもたらさないのであれば、それに対応するということは適切ではなく、もし期待インフレ率の上昇をもたらすのであれば金融政策で対応すべしというのが、オーソドックスな考え方だろうと思います。』

『ただ、現在起きているショックというものは、実は単純に供給ショックだけではなく、需要面の動きが背後にあり、大きな意味で、新興国の成長が拡大しその結果資源価格が上がっているということになりますと、需要要因が既に働いているわけですから、単純に供給面の要因だけ差っ引くということは適切ではないということになってきます。』

物価が上昇しても物価上昇が実質購買力の低下を招き、景気に対して悪材料になっているというのが展望レポートに示された現状認識でありますので、当面の金融政策は足元の物価上昇に対応することは適切ではないという事でありましょう。これが賃金その他全部上昇するという話になると前提条件が変わってくるとなるんでしょうか。

『結局は、その時々において経済の先行きの経路がどのようになっていくかということについて、あらゆる情報を集めた上で判断するしかありません。基本的には、物価安定のもとでの持続的な成長ということですので、少し長い時間的視野の中でデータに則して判断していくということだと思います。』

会見要旨をご覧になられた方におかれましては先刻ご承知かと存じますが、だいたい質疑応答の中で説明が必要だなって物に関しては白川さんの説明がやたら長い(よく言えば懇切丁寧)のが仕様となっております。まあ説明そのものは理詰めで入っていて、変な俺様理論が入ってこないので読む分には良いのですけど。


○改めて方向感を否定

12ページ目の質問から。

『(問) 二点お伺いします。一点は先行きの金融政策についてですが、展望レポートでは、「先行きの金融政策運営について予め特定の方向性を持つことは適当ではない」として、「機動的に金融政策運営を行っていく方針である」と書かれています。機動的に金融政策を行っていくのは当たり前だと思いますが、日銀として、現在の緩和的な政策金利で当面様子を見ていくと書かずに、あえて機動的に行っていくと書いた意味合いについて教えて下さい。例えば、利上げも利下げも別に現在の金融政策にこだわらずにやっていくという気持ちはあるのでしょうか。(以下割愛)』

『(答) 金融政策の運営スタンスとして機動的であるというのは、これはもちろん何時の時代にあってもそうであり、一般論でもその通りです。前回までの展望レポートでは、それまでの経済・物価の見通しを前提として、方向として金利の水準調整をしていくという大きな方向感があったわけです。今回は足許経済が下振れしている、それ以上にリスク要因が大きくなっているということです。そうであれば、私ども自身の金融政策のスタンスをわかりやすく説明していくという観点からすると、機動的という表現が一番良いということです。』

明確に方向感を否定してますな。現実的で結構結構。

『今の私どもの考え方を一番わかりやすく率直に説明するために機動的という言葉を使ったわけであって、機動的という言葉にことさら大きな意味を込めているわけではありません。もちろん、一般的に中央銀行は機動的にやっていくということです。ただ従来は先行きについて大きな方向感を持っていたということであります。』

機動的としたからといっても目先に一喜一憂してやたらめったらホイホイと上げ下げをする訳ではないですよ程度の意味かと存じます。


○第1の柱、第2の柱

あたくしの過去の特集もご参照ください(^^)。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/seisakudainino.html

で、こちらは14ページ目から。

『それから金融政策の枠組みについて、その2つの柱の関係がわかりにくいので、もう1 回説明してほしいという話であります。(前置き部分割愛)その上で、第1の柱と第2の柱の関係についてですが、第1の柱は、現在の市場で形成されている金利を前提として最も蓋然性が高い見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長という目的に照らして、満足のいくものかどうかということを点検していくということです。第2の柱は、少し時間の要素を長く考えて、向こう2年という展望レポートの見通し期間だけでなくもう少し長い先を展望してどういうリスクがあるのかとか、あるいはこの2年の中でも、確率は非常に小さいけれども、しかし起きた場合には非常に損失の大きなシナリオとしてどのようなものがあるかということを点検していこうということです。』

やや丁寧ですけれども、ここまでだと過去の公表文書を説明した感じでございますわな。

『この2つの柱について、頭の中では第1、第2の柱の一つ一つの要因を分解しながら考えていきますが、最終的には、そうした2つの角度に照らして判断しながら金融政策を決めていくということであります。これは、昔から中央銀行が金融政策を行うときに考えていたことをあえて枠組みに落としたものであって、特に日本銀行が変わった枠組みを使っているわけではありません。』

『まず、平均的に何が起こるか、そしていざという場合は確率が低いけれどもどのようなことが起こるか、という考え方は、ごく普通のアプローチです。その表し方としてどのようなものが良いかということについては、さらに考えていきたいと思います。』

ということで、第1の柱と第2の柱というのは期間の違いで分けているのではなく、メインシナリオとそれ以外のリスク要因という分け方になるのですな。公表文書の中で「より長い期間を見通しつつ」というような表現があったのがちとミスリードしやすいものだったという事ではないでしょうか。


○リスクは下向き

好循環メカニズムという表現が外れた理由に関して(6ページ目)。

『次に好循環メカニズムという記述がなくなったのはなぜかという質問ですが、それほど複雑なことがあるわけではありません。繰り返しになりますが、日本経済は、エネルギー・原材料価格高の影響などから減速しています。生産・所得・支出の循環メカニズムも足許弱まっているとみています。』

『個別に点検していきますと、生産は横這い圏内の動きとなり、所得面ではエネルギー・原材料価格高は企業収益等の所得形成を弱めています。支出面では、比較的底堅く推移していますが、設備投資の増勢は鈍化してします。生産・所得・支出は国民所得の三面等価ですが、この3つの面すべてから点検していきますと、いずれも弱まる方向にあり足許弱まっているということですので、その結果ご指摘の記述が落ちたということです。』

リスク・バランス・チャートの説明が2回ほどございましたが、最初の方(7ページ目)は長いので次の方(13ページ目)から。

『次に、2008 年度と2009 年度の成長率についてですが、2008 年度は展望レポート本文にも書いてあります通り、明確に下振れリスクのほうを上振れリスクよりも意識しているということで、そのことがリスク・バランス・チャートにも出ているということです。』

『このリスク・バランス・チャートというのは、7名の委員のそれぞれのリスク・バランス・チャートを合成してできるわけであります。従って、7名の委員それぞれがどのような考えであったかということについては、私がこの場で言うのは必ずしも正確ではないと思います。ただ、そういう意味でリスク・バランス・チャートについて言えることは、2008 年度は下振れリスクを意識した姿と非常に整合的な絵になっているということです。2009 年度は、それとの比較で言えば明確にどちらかに振れているというほどではなく、左右がバランスしていると思います。』


○ということで

とまあそういうことで、福井総裁時代のように「まずは金利水準の調整(=利上げ)」という動きは無いっちゅうことですわな。タカ派の白川さんが総裁になったのは日銀の陰謀って都市伝説(4月17日にあたくしの駄文でネタにしたこの辺とかhttp://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/128/index3.html)は他市場とか海外の人辺りには食いつきが良かったのかも知れませんが、まあ残念でございましたねえ(棒読み)という所でございますな。

会見要旨自体は量多い(何回か「長くなりますが」といいながら長く説明をしている箇所が^^)ですが、まあ今回の内容は読んでおくことをお勧めします。

トップに戻る






2008/04/16

ところで月曜には信託大会で白川総裁挨拶が。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0804b.htm

4月の金融経済月報要旨と似た話でありますが改めて。

『わが国の経済は、エネルギー・原材料価格高の影響などから減速しています。3月短観の結果をみても、企業の業況感は慎重化しています。もっとも、企業収益が幾分弱まりつつも総じて高水準を維持し、雇用者所得も緩やかな増加を続けるもとで、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高いと考えています。景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後は緩やかな成長経路をたどると予想されます。』

『物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラス基調を続けていくとみています。』

需給バランスは中立、(ここでは触れてませんが)今年度の成長予想は潜在成長率並みとなりますと金融政策の方向性は出しにくいとなりますけど、再度成長経路が復活してくれば現状の金融環境が緩和的でありますので徐々に利上げってお話になるんでしょ。ただまあその成長経路復活のパスが何とも良く見えてこないのですけど、悪化というほど悪い数字が並んでいる訳でもないので利下げもねえという所っすか。

利下げしないで長期国債買入増額というのもありますが、利下げが伴わないのであれば基本目くらまし。ただまあ一応世の中の期待(というかマインドというか)に働きかける効果が出ればそれはそれで緩和効果が出るんでしょうが、民主党様があれだけ物凄い勢いで国債買入は財政支援とか言い出しますと長期国債買入増額は非常にやりにくいんでしょうね。オペレーション上はどう見ても長期国債買入増額が妥当なんですけど、変に政策的なインプリケーションがあるかの如き状態になっているのが何ともいただけませんな。

トップに戻る






2008/04/14

お題「白川総裁就任会見」

週初につき物凄い勢いでボケボケです。てな訳で木曜に行われました総裁就任会見なんぞをご紹介。

その前にちと思ったんですが、まあ今般のゴタゴタの結果白川総裁には同情票(?)が入った感じで、G7に出席した白川総裁を報じるニュース方が比較的好意的になっていたような気が。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0804b.pdf

○「戸惑い」が2度登場

質疑応答の一番最初に白川さんの言葉が。

『今ご質問のあった点も踏まえながら、抱負を述べたいと思います。先月20 日に副総裁を拝命してから、総裁代行として職務を果たして参りましたが、この度全く図らずも総裁の任命を受けることとなりました。正直なところ、事態の急激な変化に戸惑っておりますが、(以下割愛)』

他の質問のところでもこんな発言が。

『1か月前は大学の教師をしていましたが、もし私が大学に残っていたら、実は今週から大学で授業を行うことになっており、水曜日のこの時間は金融政策の授業だったと思います。それが金融政策の授業を行う立場から、金融政策を決定する立場に変わりました。この1か月間の自分の身に起きた変化には非常に戸惑ったというのが、率直な気持ちです。』

副総裁はともかく、総裁に関してはサプライズもサプライズでございましたから本人もビックリでしょうな。


○タカ派バイアスがあるかどうかという質問に対して

福井総裁時代と比較してタカ派バイアスがあるのではないかという質問がございました。いやあの同日に公表された金融経済月報とかその後の会見、それから先日の副総裁就任会見を見てると福井総裁時代と比較してタカ派バイアスといわれるものは小さい(というか無いんじゃないの)と思われるのでございますが・・・・・・

『前回、副総裁就任会見で申し上げたとおり、タカやハトというラベル貼りは、バーダー(バードウォッチャー)としては鳥に可哀想だという感じがしますし、私自身はそういうラベルについては、自分自身がどちらだと言うことには非常に違和感を感じます。金融政策に対する姿勢は先程申し上げたとおりですが、それをその時々の経済金融情勢の中でどのように考えていくかということが大事であり、それをタカやハトというようには、なかなか分類できるものではないと思っています。』

基本的にはあまりバイアスが掛からないんじゃないでしょうか。福井総裁の方が思い込み強い系のお方ではなかったのかと思われますが。質問者は『マーケットは、白川日銀は福井日銀に比べタカ派バイアスがかかるのではないかという声があります。』って質問してますが、その辺をネタにして動いてたの金先市場くらいだと思うのですが。


○この辺見てますとBIS>FRBなのでは??

BISビューとFRBビューという話が先日の会見でもございましたけれども、国際的なネットワークとかその辺の話に関して。

『私自身の国際的な会議での経験について若干申し上げますと、1996 年当時、日本の金融システムの状況が一番厳しい時にニューヨーク駐在参事という役割で仕事をしておりました。その後、1997 年から2000年までの間、BISのグローバル金融システム委員会の仕事をサポートしました。当時の福井副総裁、その後の山口副総裁がこの委員会の議長であり、私は議長をサポートする立場で3年強BISの仕事に携わりました。多いときは1年に10 回程バーゼルに行きましたが、その時にBISを中心とする中央銀行間の緊密な関係に非常に強い印象を受けました。私は、その時にこのような国際的な場において活躍できるセントラル・バンカーになりたいと強く思ったことを今でもよく記憶しております。』

で、その後の話もありますがそれは会見要旨を見ていただくとして、最後の質疑でG7に関連して日本の不良債権処理問題で各国にアドバイスすることはないのかという質問が出てまして、それに対する答えがこうなってます。

『90 年代の半ばから後半にかけて、私が日本でこうした問題にタッチしている時に、海外の中央銀行あるいはエコノミストから色々なアドバイスをもらいました。そうしたアドバイスは私にとって随分役に立ったという部分と、日本の本当の実態について十分な理解がないなという両方のアドバイスがあったという気がします。私が米国も含めて海外の当局者に対して日本の経験に基づいてコメントする時にも、彼らから見て同様の感想があるのだろうと思います。私自身は、日本の経験を言わば押し売り的にアドバイスをしていくということではなくて、このような問題が起きた時にどのようなことが問題になったのかということについて、できるだけ話していきたいと思っています。格別何か秘伝があるというわけではありません。』

>日本の本当の実態について十分な理解がないなというアドバイス>言わば押し売り的にアドバイスをしていく

・・・・・・ま、本音はこの辺にありそうですわなあと思う次第でございます(^^)(^^)。


○政府との連携に関して

武藤さんがいなくなってパワーダウンするんじゃないですかって質問に対しましての白川総裁の回答。

『武藤前副総裁は立派な副総裁で、私自身尊敬している上司の一人でありました。武藤前副総裁との比較ということでは全くなく、自分自身が今後どのように対応すべきかということですが、私は審議役とか理事の時代に、例えば国会で答弁するという機会も結構ありましたが、長く政府にいらっしゃった方に比べると十分な経験を積んでいるわけではもちろんありません。その点については、これから経験を積み重ねて努力をしていくと言いますか、オン・ザ・ジョブ・トレーニングをしていくということになると思います。』

国会対応は物凄く大変になるでしょうね。民主党がとにかくやたら干渉するでしょうし。ただまあ民主党の質問って殆どがクソ下らない質問でありますので単に手間がかかりますなあという問題だとは思いますけど。

『ただ、日本銀行への信頼というのは、基本的には自らの政策判断、的確な政策判断によって初めて裏付けられていくと思います。技術ということではなく、それは的確な判断だと思います。この面では、私1人が金融政策を決定しているわけではなく、何よりも政策委員会メンバー全体として決定し、それを支える優秀なスタッフがいると感じています。また、政府あるいは国会との関係は日銀法によって明確に定められています。私としては、そうした法的な枠組みに基づき、その上で政策委員会のメンバーと議論し、スタッフの分析を参考にしながら的確に判断し、それが最終的に政府、政治との関係も良好にしていくという信念で仕事をしていきたいと思っています。』

なんという直球な正論。いやまあそれしか答えようが無いというのもありますが、福井総裁と武藤副総裁のような「政界官界に顔が利きます」って(実際にどうなのかはあたくし如き外部の三下が知る由もないですけど)メンバーではなさそう(もう一人の副総裁に関してもどうせ財務省ダメなんですし)で、まあその点でも変にシナリオ一点張りで勝負ってのは出来なくなったのではないでしょうか。よって政策にバイアスは掛かりにくいと思われます。あの金利正常化路線一点張り(最後に降りてましたが)攻撃は福井総裁、武藤副総裁の政治力あっての張り方だと思うんですよね。


○余談ですが白川さんのキャラクター

この質疑はちと笑いました。

『(問) 総裁はすごく真面目な方だなと思うのですが。』

『(答) 多分、自分自身について性格を聞かれた場合、自己の評価と客観的な評価というのは食い違っているのではないかと想像します。自分自身は決して真面目ということではないと私は思いますが、それは私がコメントする話ではないと思います。』

どう見ても真面目です本当にありがとうございました。

トップに戻る






2008/04/11

本業が微妙に多忙なので就任会見の方まで追いついておりませんですすいませんすいません。ということで、まずは白川さん(この時点では副総裁)の金融政策決定会合後の会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0804a.pdf

本石町日記さんが指摘(http://hongokucho.exblog.jp/8359044/)してますように、基本的に想定問答通りの印象を与える人なので、情報ベンダーがよほど恣意的な発言切り取りをしない限り(笑)、ヘッドラインリスクってのもだんだん減って来るのではないかと思料。


○利下げに関して

景気判断を下げましたが、今後利下げの選択肢はあるのでしょうかという質問に対して。

『いつも申し上げていることですが、経済は常に不確実性を伴うものであります。現在は、そうした不確実性が特に高い状況です。こうしたもとでは、先行きの政策の方向性について、予断を持つことは適当でないと思います。この先の経済・物価の展開において、先程申し述べたような様々な下振れリスクが低下し、持続的な成長経路が実現していくのか、それとも、下振れリスクが顕現化する蓋然性が強まるのかは、毎回毎回の決定会合でよく見極めていく必要があると考えています。これまで日本銀行として繰り返し述べてきているように、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて適切に政策運営を行っていきたいと考えています。』

福井前総裁も途中から「決めうち禁物」コースになっていましたので、その継続といえば継続ですが、基本シナリオならば利上げという話はより後退しておりますわな。金融経済月報の記述変化を見れば当たり前(というか一々「基本シナリオどおりなら本来は利上げ」に言及する福井前総裁の方がタカさんだったのですけど)ですけれども。


○だいたい質疑応答ってこんな感じですな

利下げに関しては、もう一回質問がございまして、こちらは質問が判り易い(というと表現が変ですが)ので質問と答えをまる引用してみます。質疑応答の雰囲気としてあたくしが勝手にイメージしている状況を良くあらわしていると思うので。(適当に段落分けしてます)


『(問) 景気認識と金融政策運営についてお伺いします。副総裁の発言や金融経済月報によれば、経済全体の需給が概ねバランスしており、先行きは潜在成長率並みの成長が想定されていると思います。そういうことであれば、先行きを見通した場合、経済が過熱するリスクはかなり弱まっているという認識でしょうか。』

『白川副総裁は、フォワード・ルッキングということを常々おっしゃっていますが、今回、先行きについては、下方修正といいますか、経済に対する見方を変更されたと思います。日銀は利上げ方向とか利下げ方向といったバイアスを必ずしも使ってはいませんが、直近の展望レポートでは金利の調整をする必要があるというような書きぶりであったかと思います。現状、利上げの必要性はあるのかどうか、利上げの必要性の度合いが落ちているのかどうかということを含めて、お伺いします。』

『また、第1の柱、第2の柱という言い方をされていますが、現状の景気認識のもとでは、少なくとも第1の柱に基づいた利上げは不要との見方もできるかと思いますが、如何でしょうか。』

で、答えもまる引用攻撃です。

『(答) 今のご質問は、足許の経済だけでなく、向こう2年間程度を展望した場合にどういう経済のパスを辿っていくのか、そしてそのもとでの政策のあり方に関するものだと理解しました。その点については、もちろん毎回の金融政策決定会合で議論しており、特に次回の決定会合では向こう2年間の経済を丹念に分析し、その上で金融政策についての考え方を展望レポートで示したいと思います。』

『そのように申し上げた上で、過熱リスクが今あるとは考えておりませんし、逆に足許は減速しているが先行きは潜在成長率並みで成長するということです。このことは、過熱の状況でも、逆に需要が不足する状況でもないということを意味しています。』

『次に、フォワード・ルッキングということですが、金融政策は常にフォワード・ルッキングでなければならないということはその通りです。ただ、中央銀行がフォワード・ルッキングであることは最近に始まったことではなく、中央銀行の金融政策は常にフォワード・ルッキングであったと思います。足許、あるいは過去の経済データに基づいて、先々の経済状況がどのようになっていくかを判断していくということであり、本質的に昔も今もフォワード・ルッキングであると思います。』

『フォワード・ルッキングという言葉は、時として人によって違うイメージで語られます。私自身も昨日の国会でもこの言葉を使いましたが、私自身の気持ちとしては、少し長い先を展望して経済や政策を判断していくということであって、中央銀行が千里眼のような力をもって将来を見通しそれに基づいて政策を行っているということではなく、経済の標準的なシナリオを考えリスクを点検しながら政策を行っていくことをフォワード・ルッキングという言葉で表現しています。』

『金融政策については、予断を持つことなく判断をしていきたいと思います。つまり、物価の見通しの蓋然性と上下両方向のリスクを丹念に点検しながら、それらに応じて適切に政策運営を行っていきたいということです。現在のような状況で、政策の方向性について予断を持って判断するということは適切でないと思っています。』

長くなってすいません。白川新総裁の質疑応答って手堅いって感じが致します。まだあまり慣れてないからなのかもしれませんけど、福井さんのどっちかといえば自信満々(村上ファンドの一件以来だいぶおとなしくなった印象がありました)振りが伝わってくる会見要旨と比較すると穏やかというか謙虚なお方なんですねって感じです。

で、引用した中で2番目の段落(に勝手に切ったのはあたくしです)にございますけれども、経済の過熱リスクに対しては「かなり弱まっているのか」という質問に「過熱リスクはない」ときっちり言ってますので、まあ月末の展望レポートではこのあたりのリスク認識にきちんと変更が加えられるのでしょうなあと思われます。

じゃあ利下げかといえばそんなにすぐに利下げへという事にもならないでしょうとは思いますけど。


○まあ景気認識は慎重なんじゃないですか

じゃあ上方リスクはどうなのよという質問が。

『(問) 先程、副総裁から上下両方向のリスクを丹念に分析したいという話がありました。月報などをみると、需給バランスもほぼバランスした状態が続くということで、なかなか過熱という上方向のリスクを想像しにくい状況だと思いますが、副総裁は特にどういうところを上方向のリスクとして今考えておられるのでしょうか。』

で、その答えですが、情報ベンダーのヘッドライン読んでた時には気がつかなかった部分がありました(^^)。

『(答) 上下両方向のリスクは改めて次回の金融政策決定会合で点検致しますが、1つだけ自分自身が感じている点を申し上げますと、もともと経済には不確実性があり、特に現在は不確実性が高いという認識です。このことは、一方で景気に対してはマイナスの作用を及ぼすわけですが、逆に様々な調整が終わって不確実性が急遽晴れてくるということもシナリオとしては有り得るわけです。』

まあ急遽晴れるには財政政策(公的資金注入)と金融政策をセットにした抜本対策が必要じゃないですかと思うのですけど、まあ相場見通しの紙芝居書きをする場合に暗い絵ばかり書いてると悲しいのでこういうシナリオを書くのは正直あたくしでも致します(^^)。

『その場合、同じ金利水準が持つ景気の下支えの力が変わってくるわけです。』

来た来た過熱リスクぅ♪と思わせてくれますし、情報ベンダーのヘッドライン的にはこの部分があった気がしました(でも相場は全然反応しないんですけどね)。しかしその続きがあるというオチ。

『これは、日本のことというよりは、主として米国を念頭に置いてのことであります。』

米国ですかそうですか(^^)。

『そうしますと、一方で下振れリスクを中心に米国経済をみてはいますが、常に複眼的に見る必要があるという意味において、やはり上方向のリスクも意識する必要があると考えています。それ以外にもどのようなリスクがあるか、丹念に次回検討したいと思います。』

てな訳でして、日本の過熱リスクとかいうような表現をするのは避けて通ってますなという感じで、いわゆる利上げバイアスととられる様な物言いにならないように注意しているんですなあと解釈しました。


全体的には「今の経済状態は方向として上でも下でもない。でも潜在成長率並みの成長はするので中立ですな中立」ってトーンと読みましたけれどもどうでしょうか。

#長文引用した部分があって引用が却って少なくなっちゃいました。すいません

トップに戻る







2008/03/25

お題「副総裁就任記者会見」

総裁は決まらないわドタバタは茶番だわ。最初に提示されたメンバー構成が中々良かったこともありどうにもまだ脱力なのですな。両副総裁には申し訳ないですが。

全部で19ページもありやがるのでちと大変。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0803d.pdf

○まだ展望レポート前ですから方向感はでにくいですが

質疑の最初の5ページくらいが欠員が出ていますがどうですかという話が延々と続くのでそこは端折りまして、金利正常化または中立金利に関して今後の金利の動かし方について質問がありましてその答えなのですが、初回だからなのかもしれませんがお二人とも話が長い長い。

まずは白川さん。

『(白川副総裁)(冒頭部分で要するに一般的な答えと前置きしています。引用割愛)先程の抱負でも少し申し上げましたが、私が日本銀行の中で金融政策を事務方として担当していた時の経験から、いくつかの教訓のようなものがあります。』

『一つ目は、昔から言われていることですが、金融政策の効果が波及するまでには非常に長い時間がかかりますので、足許の経済情勢は非常に大事ですが、少し長い目でみて物価の安定がどのように維持されるのかどうか、持続的な経済成長が維持されるのかどうかという点検の姿勢も、非常に大事だと思います。それでは具体的な方法論は何かということで、世界の中央銀行は頭を悩ませているわけです。』

ここを切り取りますと従来の「足元減速先行き回復」があるので、利下げに関して否定的という話になりますわな。

『二つ目は、これも抽象論になりますが、経済が変化をする時は非常に変化するということであります。変化する時は上にも下にも非常なスピードで変化すると思います。それだけに、金融政策にあたっては、予断を持ってはならないと思っています。情報を集めその意味を考え、もちろん不確実性に満ち満ちているわけですが、最終的には判断をしなければなりません。その時に予断を持つことなく判断していくということを、これから自分自身に課していきたいと思っています。』

とは言え、景気先行きの不透明なのは認めていますので、ハードデータが全部揃って悪化してきたら利下げもあるのかねえとは思わせますが、予防的に利下げって話は今の所遠そうな気も。といいつつ豹変するのが日銀クオリティでもあるのですけど。

『三つ目は、もう少し具体的な話になってきますが、日本のバブル以降の景気を振りかえってみますと、最近の米国のサブプライム住宅ローン問題、クレジット・ローン市場の崩壊の問題をみてみますと、あらためてこの20 年近く、資産価格と実体経済の複雑な相互依存関係が色々な形で、経済の変動を引き起こしている感じがします。そうしたことも意識していくということは、私自身が意識している一般的な原則であり、当面の金融政策について何かを言っているわけではありません。これから、そうした基本的な考え方を踏まえ、様々な情報を集めて、次の4月の金融政策決定会合に臨みたいと考えています。』

ほほう。資産価格の下落に関しては懸念ですと。なるほど。

続いて西村さん。

『(西村副総裁) 先程申し上げましたが、金融政策は極めて難しい時期にさしかかっているということは、確かにその通りです。その中で一番大切なことは、単に私どもが手にする経済データだけではなく、それ以外の様々な質的なデータも組み合わせながら非常に丁寧に分析し、かつそういったデータの中に含まれるトレンド、長期的な動きをみながら、同時にその長期的な動きに何か変調はないかという小さな兆しにも十分な注意を払い、柔軟で、場合によっては機動的な政策ということも考えていかなければならないということが一般論で言えるわけです。(後半割愛)』

一般論と言いつつも利下げは否定してなさそうですな。まあ福井総裁の退任記者会見で利上げを急いで失敗するよりも慎重にという話が出てまして、その流れでこの話ですから、まー当面利上げはなくて、利下げに関しては否定しないけどまあ直ぐにやるかというとやらんでしょうなあという感じですか。


○名目長期金利と名目成長率の話

経済財政諮問会議でそんな議論がありましたが、そんな質問が。

『(問) 経済財政諮問会議では、名目長期金利と名目成長率のどちらが高い方が経済にとって持続的な成長が考えられるのか、という点について意見が分かれたと思います。お二人は学究肌な方と経済学者ですが、長期的にみた場合、どちらを重視すべきと考えますか。』

で、白川さん。

『(白川副総裁) 私は学究肌というわけでは全くありませんが、諮問会議で議論された事柄というよりも、一般的に成長率と金利の関係についてお話しします。私よりも西村副総裁のほうが専門の経済学者としてのご意見があると思いますが、私自身は、日本銀行の金融政策にとって大事なことは、経済が物価安定のもとで持続的に成長していくということであると思います。従って、先験論的に議論していくものというよりも、物価安定のもとで持続的に経済が成長していく結果、ある金利が実現していくものだと思います。』

で、短期金利と長期金利についてのお話になるのですが。

『金利は、二つの側面を常に持っていると思います。一つは、中央銀行自身が金利を操作し、金利が経済に働きかけていくという側面です。これは主として短期の金利であります。一方で、金利は、経済活動の結果、経済活動の体温でもあります。従って、経済活動が強くなると、その結果として金利が上がっていくものであり、これは特に長期の金利において妥当するわけです。』

これは確かにそうでして、短期金利動かしても長期金利は逆に行く場合がある(というかこの2年くらい逆に行ってるんですが、苦笑)次第でありまして、名目長期金利と名目成長率がどうだから日銀どうしろと言われましてもある意味困る所ではありますわなという所なのでありますよね。

『ご質問の趣旨は、長期の金利のことだと思いますが、私は、中央銀行が物価安定のもとで、持続的な成長を実現するように短期の金利水準を調整し、その結果、経済が物価安定のもとで持続的に成長していく中で形成されていく金利を受け止めていく、ということが大事だと思います。』

何か最後は禅問答みたいですが。うーむ・・・・

続いて西村さん。

『(西村副総裁) この問題は極めて難しい問題であります。実は、一つのディメンジョン(次元)について必ずしも十分に理解されていない部分があるのですが、それはどういうことかと言えば、成長率といった時に何の成長率なのか、それからインフレ率といった時に何のインフレ率なのかといった問題であります。しかも、金利と言っても非常にたくさんの金利があるわけです。色々な定義によって、過去のデータを判断する場合には、色々な結論が出てきます。』

いきなりそもそも論来ました。

『しかし、重要な点は何かと言いますと、特に金融政策の上で極めて重要な点は何かというと、先程、白川副総裁から説明がありましたように、私どもは物価安定のもとで持続的な成長を目指すとの言葉に尽きるわけです。その結果として出てくるものが、長期的には──長期といっても、どのくらいの長さを長期というかに全面的に依存するのですが──、過去の色々な数字であり、これまでの歴史の結果となるわけです。従って、私どもが目指すものは、あくまでも物価安定のもとでの持続的な成長ということであり、これが私どもに課せられたマンデート(使命)であると考えておりますし、それで十分に対処できるということは、私どもの「金融政策運営の枠組み」の中で、非常に丁寧に説明しているつもりであります。』

いやーん禅問答♪


○金利と言っても色々有りますというお話

今の実質金利がどうのこうのという質問に対して白川副総裁が中々判り易い説明をしていましてその部分を引用致します。

『今の実質短期金利は、もちろん計測には色々な問題がありますが、大まかに言うと大体ゼロであり、潜在成長率が1%台半ばあるいは後半ということですので、現在の金融政策はその面からすると非常に大きな緩和方向の力を発揮していると思います。』

潜在成長率がそれでよいのかという話はさておいてその次。

『ただ、金融政策が経済に対して影響を及ぼすルートは短期金利だけではなく、短期金利から始まって中長期の金利、その金利も国債の金利で測られる金利だけではなく実際に民間の企業の金利、つまりクレジット・スプレッドを加味してどうなのか、あるいはクレジット・スプレッドを加味した上でどの程度銀行が積極的な与信態度で臨んでいるかというようなことを、総合的に判断していく必要があると思います。』

『よく専門家の方々がファイナンシャル・コンディションズという言葉で表現していますが、金融政策が持っている金融緩和の力を最終的に評価していくということだと思います。従って、実質短期金利の動きだけから機械的に考えているわけではありません。あくまでも中央銀行としては、長期的な関係ということを常に意識しなければならないという趣旨で申し上げたわけです。』


で、別の質疑で政策金利引下げの効果に関して質問がありまして、米国の例について上記の説明を具体的に補足しています。

『短期金利の引き下げの効果についてのお尋ねですが、金融政策を議論するときに、どうしても短期金利だけに注目した議論をしがちです。しかし、今の米国を見てみますと、昨年の9月からFFレートが3%ポイント下がったわけですが、一方で信用スプレッドが大きく拡大し、放っておくと自質的な金融引き締りが進んでいくため、それを何とか防いでいるという状態です。これらのどちらが強いかということです。従って、短期金利だけをみて、米国がものすごい金融緩和の力を発揮しているかというと、最終的に実現したレベルからいくと、それは必ずしも判然としません。』

つまり放置しておくと金融が実質的に(「自質的」って実質的のタイポですよね)引き締まるので利下げをしているという話になりますが、まあそうするとプルーデンスも大事ですなあという話になる次第。実はその前に米国の事例に関してプルーデンス的にどうですかという質疑もあるのですが、あまりにも長くなるので(これでも長いですけど)必要があれば後日。

『先程申し上げたのは、金融政策が持つ緩和の力、刺激の力を評価する時には、短期金利だけで評価していては必ずしも適切ではなく、イールドカーブ全体、あるいはクレジット・スプレッドを加味した民間の金利がどうなのか、そのもとでのアベイラビリティ(借入の容易さ)がどうなのかということを、総合的に判断しなければなりません。従って、短期金利がどういうレベルにあるかということも一つのベンチマークとして意識しないとならないということですが、短期金利だけを捉えて機械的に評価することは適切ではありません。私は、実質短期金利と成長率の関係だけから足許の政策を評価するというアプローチをとっていません。』

というのはまあ金融市場とか金貸しとかやってた人的には何となくふーんとか思ってしまうところがまさしく諸葛孔明の罠なのでありますが、ルール重視で運営すべしって立場からは批判されるような気がしますけど。

と申しますか、白川さん的な新しい日銀文学としてはこの総合的アプローチで煙に巻くじゃなかった理論構成を行っていくという事になるんでしょうな。


○これはワロタ

『(問) 白川副総裁にお伺いします。趣味は金融政策とよく拝見するのですが、本当のご趣味があればそれも教えて頂きたいのですが、そう言われることについても伺いたいということが1点です。(以下割愛)』

『(白川副総裁) 趣味が金融政策というのは、随分暗い人生を送っているという感じがして、どこか人間として幅がないと言われているようで、私自身はあまり好きではありません。(で、この先延々と仕事の話になっているのが笑ってしまうのですが長いので割愛^^)それでは休みの日に何をやっているかといいますと、バードウォッチングを結構やっていまして、新聞を拝見していますとタカとかハトという言葉がよくありますけれども、バードウォッチングをやっている立場からしますと、その安易なラベル貼りは鳥に対してかわいそうだなという感じがしています。』

ほほうバードウォッチング。で、自分はタカでもハトでもないですよと(^^)。

で、確か写真撮影が趣味だったような気がする(間違ってたらごめんなさい)西村副総裁にはこれまた失礼な質問が。

『(問) 西村先生の過去の優れた業績から言うと、2番目に(引用者追記:副総裁就任の)話がくるというのはちょっと納得がいかないという思いはなかったでしょうか。』

『(西村副総裁) ノーコメントです。』

他に答えようがありませんな(^^)。

今回が就任会見なので話が長かったのかもしれませんが、多分これは白川さんも西村さんも話長い予感が。お二方とも解読が難しいのが実にアレでございますが、本日は衆議院財務金融委員会で早速吊るし上げじゃなかった所信聴取だそうでお疲れ様であります。

トップに戻る








2004/02/03

○白川理事のスピーチ「国債市場と日本銀行」

先週末は日銀関係で白川理事のスピーチ、武藤副総裁の講演、田谷審議委員の記者会見といきなり3本もネタがご登場。武藤副総裁の講演が一番量があるのですが、どうも講演の相手が金融関係というよりは一般ピープルに近いお方が主だったようでして、非常に惜しい事にお話が極めて一般的。武藤副総裁の意見に属するような部分がまるでありません。よって読んでも全然面白くなく、今回はご紹介を省略します。

てな訳で白川理事のスピーチ。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/mpo0401a.htm

「金融調節に関する懇談会」というのがございまして、そちらで日銀白川理事のスピーチが行われました。お題は「国債市場と日本銀行」ということで、国債市場改革の話と金融調節の話がメインになっております。

惜しい事にこのお話、資料も色々あるんですが、非常に一般的なお話が多く「日銀事務方の意思」が前面には出てきておりません。って当たり前と言えば当たり前ですけど。そんな中ですが、まぁ意見表明的な部分を無理矢理見つけて読んでみましょう。


○国債投資家層の拡大について

『例えば、わが国の経済や国債市場の規模を考えると、非居住者の国債保有はもう少し増えても不思議ではありませんが、非居住者の国債保有割合は依然として数%に止まっています。勿論、どの国の市場にも自国の金融資産を選好する、いわゆるホーム・バイアスは存在しますが、わが国の場合は、非居住者の国債保有割合が小さく国内投資家の割合が高いことが、海外主要国とは際立った違いとして指摘されます。この点は、同じわが国の金融資本市場でも、投資家層のグローバル化が進んでいる株式市場とは対照的です。』

日本の国債市場の問題といえば日頃からあたくしが悪態をついておりますように、投資主体が機関投資家ばかりで、おまけに金融再編によって個別投資家がメガ化。止めに横並び(当局がリスク管理の名目で横並び化を推進しているのも問題)という事です。

『保有者構造に偏りがある市場では、保有者の相場観やリスク管理手法、投資ホライズンのバラツキが小さくなるため、多様な投資家が存在する市場に比べ、局面によっては相場が一方向に大きく振れてしまいやすくなります。昨年夏の国債相場の下落局面では、債券ポートフォリオに占める国債のウェイトが高く、市場でのプレゼンスが大きい金融機関が同じようなリスク管理手法を採用していたことが相場下落を増幅したとの指摘も多く聞かれました。』

と言う事なのですが、機関投資家の対極に位置する個人投資家は「個人向け国債」という思いっきり非市場性国債へと誘導する国債管理政策を絶賛推進中であります。個人投資家を参加させない(と言ってこの市場環境で参加する訳ありませんが)方向なのに投資家層の拡大をしようとすれば必然的にそれは非居住者と言う事になります。

『非居住者の国債保有割合が際立って小さいのは何故か、その原因は何であるかは改めて検討する必要があると思っています。』

本質的には金利が低すぎる所にあるのではないかと思いますが。


○金融調節に対する密かな悩み

金融調節に関して、白川理事はこのように言っております。

『日本銀行は近年、国債系オペの様々な見直しを行ってきましたが、それらを貫く縦糸をひとつ挙げるとすれば、私は「市場に対する中立性の維持」ではないかと思っています。』

現在の金融政策の枠組みにおいては、短期金利の基本であります翌日物金利がゼロに張り付いておりまして(金利はターゲットになっていないのでゼロである必要はないのですが、実質的にやっている事はゼロ金利固定政策)、「時間軸効果」に代表されるように「市場の期待形成に効果を与える事を狙った政策」を行っております。先週末の日銀総裁の国会答弁なんてまさにその典型。

基本政策が「市場の期待形成に効果を与える事を狙った」ものとなっている中で「市場に中立」というのも中々苦しいお話ではあります。まぁこの場合の「市場に中立」というのは「期待形成の結果として現れる取引価格に極力介入しない」という事なんでしょうな。

旧日銀法時代のように、金融調節に一々日銀の「意思」がでている方があたくしのような(元)職人としては判り易いんですけど、新日銀法時代になってからは淡々とした調節になってしまっておりますので、そういう点では「市場に中立」となっております。

『日本銀行は金利ターゲットの下ではコールレートを、また現在のような量的緩和のレジームの下では、日本銀行当座預金のコントロールを目的としています。ただ、金融調節によってコールレートあるいは当座預金の総量はコントロールしますが、あとは極力市場に任せ、市場機能や個別銘柄の価格形成に対しては、中立的であることが望ましいと考えています。』

『と言うのも、中央銀行が市場をドミネートするようになると、「リスクフリー金利を示す機能」、「金融政策判断を行う上での情報源機能」が損なわれることになるからです。そうなると、「金融調節を実行する場」としての役割も低下しかねません。』

と、言いながらもやはり悩みは累増する長期国債買入残高なんでしょうな。

『長期国債についても、多額の買入オペを行っており、市場でのプレゼンスは拡大しています。デフレからの脱却を図るという重要な課題と、経済の発展を支える市場の機能を維持するという重要な課題との両立をいかにして図るかは、昨年7月の本席で武藤副総裁が述べたように、悩ましい問題です。』


日銀(の事務方)としては、市場機能を封殺するような現在の金融政策の枠組みについては「困った物だ」と思いつつも、その政策の枠組みが強化されている訳で、実に苦しいところでしょうな。ご同情申し上げます。


○おまけ

『本日は、国債市場の機能向上に向けた日本銀行の取組みについて、とりわけ金融調節の面での工夫を中心に、お話させて頂きました。国債市場を巡る議論の中では、このような実務に関するお話は、テクニカルな部分も多いため、ややもすると見過ごされがちですが、市場が本来あるべき機能を健全に発揮するためには、そうした面での改善の積み重ねは極めて重要です。』

誠に仰せのとおりです。

『私は仕事柄、国債市場を含め金融市場に関するエコノミストやストラテジストの皆様のレポートには比較的目を通しています。その際、私にとってはマクロの金融経済情勢に関するレポートも重要ですが、市場機能に関するやや専門的なレポートや分析も非常に貴重で、そうしたレポートや分析には必ず目を通すようにしています。』

ぜひドラめもんも御覧下さいませ(嘘^^)。

本当は(昨日手抜きだった分)田谷さんの記者会見も入れないといけない所なのですが、こちらに関しては基本的部分は講演で言い尽くされておりますので、明日ネタが乏しい場合にはちょっと登場するかもしれません。読むと田谷さんの金融政策に関する「言いたい事はあるけど立場上これは言えない」という雰囲気が伝わってきまして、これはこれで中々のもので(^^)。

トップに戻る