白川方明総裁(2009年度上期)


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白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/


例によって発言を半期ごとにファイル分けしています。


2009年上期の発言等

2009/09/24「新内閣発足のため答え難い質問が並ぶの巻」
2009/09/02「会見ではデフレスパイラル懸念の話になると煙に巻こうとします」
2009/09/01「大阪経済団体での発言はとても景気に慎重な物言い」
2009/08/26「金融危機対応およびバブルの発生に関する講演」
2009/08/20「総裁定例記者会見の補足、金融機関の資本問題に関して」
2009/08/18「上海の講演のその他部分では日銀の政策をアピってますね」
2009/08/14「妙なところで話が長かった総裁定例記者会見」
2009/08/13「白川総裁、上海で悪態をつくの巻」
2009/07/17「総裁会見は淡々と進行」
2009/06/30「バブル対応の金融政策の話だが単純な予防引き締めの話ではない」
2009/06/18「メディアの報道っぷりに不機嫌なようで」
2009/06/10「中央銀行の役割に関する講演から」
2009/05/29「金融コンファランスでの総裁挨拶、最近の金融政策に関するテーマから」
2009/05/27「総裁講演から」
2009/05/26「総裁定例会見から」
2009/05/15「NYでの不良債権(資産)問題に関する講演から」
2009/05/07「展望レポート公表後の会見、景気の下方リスクを注意」
2009/04/27「不良債権問題に関する白川総裁の講演、というか白川教授の講義ですね」
2009/04/10「定例会見続き」
2009/04/09「定例会見、輪番に関するツッコミ多し」
2009/04/03「白川総裁の新入行員向け挨拶」

2009/09/24

○答えにくい質問が並ぶ総裁会見

こりゃ疲れますわな。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0909d.pdf

冒頭の幹事社からのを除くと質問が20個あるのですが、亀井金融相発言に関する質問がそのうち5個あって、藤井財務相発言に関する質問が3個と、3分の1以上が答え様が無い質問と言う素敵な事態になっています。まあ新内閣発足直後ですから致し方無いのですが。

で、その中でまあこの質問くらいはご紹介。

『(問) 今回、中小企業などの資金繰りに関して、総裁は判断を一歩進めたと思うのですが、このように日銀が考えている現状に対して、新しく政府に入った亀井大臣、直嶋大臣はまだまだであるとしており、その認識にかなり温度差があることに関してどう思われますか。』

『(答) 繰り返しになりますが、私はまだ詳細を知っているわけではありませんので、温度差があるかどうかということも含め、私からのコメントを控えています。誰かとの比較ということではなく、日本銀行自身が毎回の金融政策決定会合で点検している経済金融情勢について少しご説明したいと思います。今のご質問に対する直接の答えではないことを承知の上で、本日の会合における金融環境の評価についてご説明します。』

でまあ延々と説明をしているのですが、まあ要するに大企業は改善して中小企業はまだ厳しいという話を声明文や金融経済月報(本文は金曜に出ましたので明日にでもご紹介)などに沿って説明しています。

いやもうそう説明するしかないですねという感じですが、この手の質疑応答が多くて、会見時間も何も無かった(いやまあ新内閣発足という大ネタがありますけど)会合の割には55分と長いものでありました。

で、まあ今回の質疑応答でちゃんとした意味でポイントになりそうなのは「デフレ懸念」と「金融機関の自己資本問題」かと思います。


・デフレ懸念に関して

幹事社の次にいきなりデフレ懸念質問キタコレ

『(問) 景気の方は持ち直しつつあるということなのですが、企業物価、消費者物価の方をみると非常に下げ幅がきつくなっています。そのため、デフレ懸念が強まっているのではないかという声も出てきているのですが、その点についてどのようにお考えでしょうか。』

んでまあ困る質問に関しては説明が長くなるのが仕様みたいで、これまた説明がやたら長いのですけれども、またまた煙巻きシステムが作動するのです。応答の途中から。

『こうした物価情勢をデフレと呼ぶかどうかは、論ずる人によって定義が様々ですから、当然異なり得るものです。ただ、過去のパターンをみてみますと、物価は経済活動に遅れて反応していくという性格のものです。経済にとって大事なことは、そうした物価の下落圧力が続く間に、物価下落と景気悪化の悪循環、いわゆるデフレ・スパイラルを起こさないということです。』

『そのためのポイントは、金融システムが不安定化しないこと、それから、企業や家計の中長期的なインフレ予想が下振れないこと、というこの2つだと思っています。』

ほほう。

『これまでのところ、わが国の金融システムとインフレ予想はともに安定しているというように判断しています。ご質問はデフレの懸念という話ですが、デフレ懸念、あるいはそのデフレ懸念のもとにあるデフレ・スパイラルに陥るリスクということについて述べると、そうしたリスクが高まっているとは判断していませんが、物価の下落圧力が暫く続くとみられるだけに、今後の物価動向については、細心の注意をもってみていきたいと思っています。』

すっかりデフレ慣れしちゃってますから、物価下落に関して一般ピープルが「下がるのね」と思い出すと結構その認識も広がっちゃうんじゃないかという気がせんでもないのでございますがどうでしょうかねえ。


・金融機関の資本に関して

これは重要な質問。

『(問) G20 等での銀行の自己資本比率規制の議論についてですが、欧米ではコアTierTをもっと厚くしろという議論が強くなってきていて、日本の主張が受け入れられ難いという流れが出てきているのではないかと思います。その場合に邦銀がメガバンクを中心に相当大幅な自己資本の増強をしなければいけないのではないか、もしくは貸し渋りが起ってしまうのではないかという懸念が出ていますが、この点についてどうお考えでしょうか。』

『(答) (冒頭部分割愛)ご質問は日本への影響ということですが、まず最初に全体的なことを申し上げます。今回の金融危機を踏まえると、国際的に活動する金融機関にとって、市場の変動などに伴いまして財務内容が急速かつ大幅に悪化する場合に備えて、損失バッファーとしての資本基盤の充実が必要との問題意識は、私どもとしても共有しています。一昨日金融システムレポートを公表しましたが、そのレポートでも強調している通り、株式リスクや信用リスクの大きさが金融システムの頑健性の先行きに不確実性をもたらしているという面があると判断しています。このため、そうしたリスク削減や適切な管理と並んで、リスクに応じた資本基盤の強化が重要な課題であると考えられます。現実に、大手金融機関がこのところ相次いで普通株発行による増資等を実施してきていますが、こうした経営判断は金融システムの安定に資するものと評価しています。(以下割愛)』

これはまあ重要な論点ですわな。最近銀行株価とかもちょっと反応しているみたいですけれども、まーこの点に関しては今後も勉強致します。とりあえず金融システムレポート読まないと・・・・


・企業金融措置に関して

『ご質問のCP・社債の買入れ、あるいは企業金融支援特別オペ等の一連の時限措置ですが、それぞれ対象とするマーケットも目的も若干異なります。よって一括して議論することはなかなか難しいですが、中央銀行の政策手段としては異例な措置であり、リーマン破綻以降の急性症状に対応するための時限措置として導入したものであります。その取り扱いについては、今申し上げましたように企業金融や金融市場の展開を注意深く点検し金融環境を総合的に評価した上で、時限措置の期限である12 月までに判断していくということになります。その際には、金融環境の改善度合いに応じて適切に対応を決定していくということです。』

うーむ、ちょっとトーンは変わったかな??まあバックストップとかが無くなるとは思わないですけど、ちょっとビミョーですな。


・ほとんどオマケですが円高どうのこうの発言

『(問) 円高が進んでいます。物価に対する影響について、冒頭で総裁からデフレ・スパイラルのリスクというものはあまり感じていないという旨の発言がありましたが、円高になれば、物価にとってマイナス圧力が働くと思いますので、その辺の認識をお願いします。』

という質問が出たので、円高のデメリット以外にメリットの話をしたんですな、うんうん。

『(答) 円高が短期的に経済に対してどのような影響を与えるかというように問いを立てた場合には、確かに円高は物価を下げていく方向に働くと思います。ただ、円高の影響というのは、輸出企業と輸入企業でも異なります。それから経済活動に与える影響も短期的にはデフレ的な圧力となる一方、中長期的には経済をまた押し上げていくという力もあり、それから金融的な変化を及ぼす面もあります。』

『そのような意味で、円高の影響のうちごく短期のものだけを捉えてみるのではなく、少し長い目で見た場合には、経済全体のバランスの中で判断していく必要があると思います。経済全体のバランスの中で予想される物価の姿については、先程申し上げたような判断です。』

なるほどね。で、それを円高容認発言と報道するのもなんかちょっと意地悪な感じがありますけど、まーちょっと売り言葉に買い言葉的な感じですなあ。

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2009/09/02

○総裁会見から少々

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0909a.pdf

何か「それは具体的にお答えできま千円」という質問がやたら多いのですが、最後の3つの質疑応答が中々でして、デフレスパイラルに対する質問、カンサスシティ連銀のコンファレンスに関する金融危機対応への質問、国債増発への対応への質問だったのですが、2番目の話はまあこの前総裁講演引用したのでスルーして残りの2つから、。


・デフレスパイラル懸念に対する質問には煙巻き装置が発動します(-_-メ)

まー物価はご案内の通りのアレな状況で、甚だ遺憾な今日この頃なのでありますが、デフレスパイラル云々に関しての質問から引用。

『(問) デフレ・スパイラルに陥る可能性があるかどうかの重要な判断ポイントとして、1つ目は、金融システムの安定性が維持されているかどうか、2つ目は、家計や企業のインフレ予想が下振れることがないかどうか、ということを挙げています。この点、わが国の金融システムは総じて安定しており、デフレ・スパイラルに陥るリスクは高まっていないとしていました。一方、物価の下落が経済活動の収縮をもたらした事例として、1930 年代の米国の大恐慌のケースを指摘していますが、その他に期待インフレ率が大きく下振れた事例として過去どのようなケースがあったのか、というのがまず1点目の質問です。』

『2点目の質問として、金融システムが不安定にならなくても期待インフレ率が大きく下振れるということが起こり得るのかどうか、仮に、起こり得るとすれば、どのような時に起こるのかお聞かせ頂きたいと思います。3点目の質問として、期待インフレ率が大きく下振れた時に、金融政策として何か有効な手立てがあるのかどうかという点についてお伺いします。』

ということで、中々難しい質問で総裁の答えも全般的な説明になっております。

『(答) 難しい質問ですが、何れも関連した質問ですので、ひとつひとつの質問に個別にお答えするのではなく、まとめて私なりの考え方を申し上げたいと思います。デフレという現象は、19 世紀後半から今日に至るまで少なからずみられますが、このうちデフレ・スパイラルに陥ったケースがあるかどうかについては、2000 年以降問題意識が随分高まり多くの研究がなされています。』

『もちろん、こうした実証研究の常として確定的な答えが出ているわけではありませんが、デフレ・スパイラルに陥ったケースはそれほど多くないと思います。1930 年代の米国で発生した大恐慌がその典型例であり、同時期に幾つかの国でも発生したと認識しています。ではなぜデフレ・スパイラルに陥ったのかという点については、確定的な答えがあるわけではありませんが、経験的にみると、金融システムの安定性と大いに関係があると思います。』

ほほう。

『期待インフレ率については、どちらかといえば経済学者が重視している議論です。この期待インフレ率と金融システムの安定性がどのような関係にあるのかという点については見方が様々です。両者が全く無関係というわけではなく、おそらく大いに関係があると考えられますが、両者が全くイコールだというわけでもないと思います。』

微妙に煙に巻かれているような気がするのですが・・・・・(−−)

『また、最後の質問に対しては、昨年秋以降の経済の急激な落ち込みの中で、中央銀行が何を行ったのか申し上げることがその回答になると思います。まず、金融システムの安定性を維持していく観点から流動性を潤沢に供給し、さらには、CPや社債市場などクレジット市場が正常に機能しなくなると需要自体が減退するため、日本銀行をはじめ各国の中央銀行は企業金融支援の措置を採ってきたわけです。』

つまり金利ルートでの政策効果を相殺するような市場機能悪化を防ぐための信用緩和というロジック(量が目標なのではなく、FRB的に言えばdisfunctionalな市場への資金供給ですな)ということですな。

『この点、後者については、中央銀行の間でも、これを実施することについて必ずしも議論が整理されてきたわけではありませんでしたが、現実の経済の展開の中でこのような措置が必要だということで対応したわけです。今後とも、中央銀行の目的に照らしてどのような政策が望ましいのか、常に考えていきたいと思っています。』

ということで、デフレスパイラルの質問とかになるといい感じで微妙に煙巻きのスイッチが入って微妙な回答になる辺りが物価下落に対して困ったなあ状態になっちょるという事でしょうかねえ、ニヤニヤ。


・国債増発に対する話

この質問はごもっとも。

『(問) 民主党が経済政策を運営していくと、さらなる国債発行が避けられないとみられています。鳩山代表は、国債発行を抑制するようなことを言っていますが、マニフェストに書かれていることを実行していくと、それは避けがたいのではないかと思います。そういう場合、例えば日本銀行に対して国債購入の要請などがあった場合、基本的にはどのようなスタンスで臨まれるのでしょうか。』

まあ予想通りっちゃあ予想通りの答えですが。

『(答) 金融政策は、物価安定のもとでの経済の持続的な成長を目的として運営していくということに尽きると思います。日本銀行の金融政策の目的について疑念が生じると、リスクプレミアムが発生することになりますから、結果として、経済の実態を離れて長期金利が上昇することにもなりかねません。そうしたことにならないように、日本銀行として――これは従来もそうですし、今後もそうですが――判断の軸はしっかり持って政策運営をしていくということに尽きます。』

まー実際にそういう因果関係だったのかは微妙なのですが、FRBが長期国債の大量買入を実施しましたが、買入のアナウンスで金利が低下したものの、その後は国債発行増額に対する需給懸念なのか財政ファイナンスに関する連想なのかはよーわかりませんが、長期金利は上昇しちゃいましたので、単純に「国債増発するから中央銀行買えやゴルァ」とやった場合に金融緩和効果が相殺されるような長期金利上昇になるかもしれませんですねえという実例はちゃんと出来たとも言える訳で。よー判らんですけど。

しらっと「財政ファイナンスに協力していただく」という地雷を踏むような物の言い方をすすセンセイが金融関連の政策キーマンとか言う時点で非常にこう何をやりだすか判らん債券市場的には寒いものを感じるとあたしゃ思うのですけど、割とその辺気にしてないのか目をつぶっているのか、今の所はそのあたりは問題になってないような気もします。

どちらにしても首班指名が16日(随分遅いですな)となりますので、それまでは何となく間延びした感じになるんでしょうけどね。

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2009/09/01

○総裁講演は場所柄もあって景気に素敵に慎重です

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908d.pdf

今回は『大阪経済4団体共催懇談会における挨拶』という場所柄もありまして、やたらめったら景気に対する慎重姿勢が目立ちます。で、その慎重になるポイントは「バランスシート調整」という所のようですね。

・市場機能の崩壊による経済の急速な収縮は急性症状

冒頭でリーマンショックの影響についてこう話しています。

『「深い調整局面に陥る可能性は小さい」という部分については、そうした可能性の方が現実のものとなり、予想を超える厳しい展開を辿ることとなりました。言うまでもなく、その直接の原因は昨年9月のリーマン・ブラザーズの破綻でした。これによって世界的な規模で流動性危機が発生し、金融市場が正常に機能する際の前提とも言うべき信認が崩壊するという深刻な事態になりました。この結果、どの政策当局者も予測しなかったことですが、世界経済は同時かつ急激に落ち込みました。』

まあさいですな。で、これがそもそも存在していたバランスシート調整の圧力と共に悪影響のコンボになったという事で。

『こうしたバランスシート調整が、長期間に亘り、経済に対して「慢性症状」的な影響を及ぼすものだとすれば、景気落ち込みの第2の要因である流動性危機は、経済活動を短期間で一気に収縮させる強烈な「急性症状」をもたらすものです。』

つまり・・・・

『先ほど申し上げたように、リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、金融機関や機関投資家などの資金の出し手は、取引先の信用度を極度に警戒するようになりました。これにより、銀行同士が資金をやり取りする短期金融市場だけでなく、企業が資金調達を行うCPや社債市場でも、取引が極端に細る事態に陥りました。この結果、金融資本市場の機能は一気に低下し、経済活動に必要な資金が行き渡らなくなりました。そしてこれは、企業や家計における不安心理の高まりと相俟って、世界の金融・経済活動をパニック的に収縮させました。』

ということですな。で、こちらは急性症状なので・・・・

『世界経済は本年春以降、下げ止まりの動きを見せていますが、これは、以下の3つの理由から、こうした「急性症状」が消えてきたためです。』

ということだとなっています。で、その3つの理由は(1)金融市場や個別金融機関による資金供給や資本注入による市場安定化(2)在庫調整(3)財政刺激策効果という説明になっていますが、引用は割愛。


・でも慢性疾患は慢性疾患なのです

ということで急性症状の方は改善傾向なのですが、もともとの慢性症状はやはりダメダメさんですよという話をしています。この辺りに関しては、FRBなどよりもよっぽど慎重に見ているのではないでしょうか。

『今後は、景気落ち込みの第1の要因である欧米諸国を中心とするバランスシート調整の影響をどのように評価するかが、より重要なポイントになってきます。この点については、不確実性が大きいと思っています。大きなバブルを経験した後のバランスシート調整には長い時間がかかります。米国で商業用不動産価格の下落が続いていることなどが、こうした調整を想定以上に長く、厳しいものにする可能性も否定できません。』

一応明るい話も付け加えてますので念のため引用。

『一方で、中国を始めとする新興国の経済は予想よりも強めの動きを示しています。中国における大規模な景気刺激策が周辺の東アジア諸国にも波及し、地域全体の経済成長を高める牽引役となっているようです。先進国における大胆な金融緩和が、バランスシート調整の問題が相対的に小さい新興国の経済にどのような影響を与えるかについても注目していきたいと思います。』

どうなんでしょうかね。


・で、日本の話ですが・・・・

現状の話を華麗にスルーして先行き見通し。

『先行きについては、今後、世界経済が持ち直しに転じていく中で、わが国の輸出も増加を続けると見込まれるほか、これに伴う企業収益の回復や各種の景気刺激策の効果などから、設備投資や個人消費も徐々に回復に向かうと考えられます。このため、日本銀行では、先行きに関する中心的な見通しとして、「本年度後半以降、わが国経済は持ち直していく」という姿を想定しています。』

という話の直後にこのくだりはちょっと微苦笑。

『ただ、急いで付け加えなければならないことは、私どもとしては、こうした持ち直しの動きは緩やかなものに止まる可能性が高いと判断しているということです。』

>急いで付け加えなければならないことは
>急いで付け加えなければならないことは
>急いで付け加えなければならないことは

・・・・・いやあもう前半部分だけでヘッドライン打たれたら敵わんというのはよーく判りますですよ、おっほっほ(^^)。

『世界的なバランスシート調整が続く中、輸出についても、短期間で目覚しく回復するという訳にはいかないと思われます。また、設備の強い過剰や厳しい雇用・所得環境を背景に、設備投資や個人消費は、当面、弱めの動きを続けると思われます。先ほど申し上げたとおり、欧米を中心とするバランスシート調整が今後どういった形で進むのかということ自体も、なお不透明です。日本銀行としては、わが国経済を取り巻く様々なリスク要因に十分注意しながら、引き続き、内外の金融経済情勢を丹念に点検していきたいと考えています。』

ということで、白川総裁としては日銀が景気に強気だとか出口政策を考えるだとか、まあその手のヘッドラインを打たれないように特に慎重に発言しているという感じがひしひしと伝わりますな。まあ相手も経済団体の人たちですから、そんな場で「出口政策」だの「緩和の長期化による弊害」など言った日には矢でも鉄砲でも持ってこられるでしょうという空気を読んでおられるというのもあるでしょうけれどもね!


・物価に関しては相変わらず判ったような判らんような話

結局のところ認識は結構厳しいようなのですが、どうもデフレスパイラルという話には持って行きたくないんでしょうかねえ。

『わが国の物価の前年比下落幅がこのところ拡大している最大の理由は、昨年夏にかけて、資源・エネルギーなどの輸入物価が高騰したことの反動が出ているためです。秋以降は、こうした反動要因の影響は徐々に薄れていくとみています。その先の物価動向は、基本的に、経済全体の需給バランスに影響されることとなります。この点、わが国経済が先ほど申し上げたような見通しに沿って持ち直していけば、需給バランスは徐々に改善し、そうしたもとで、物価の下落幅は縮小していくとみられます。』

まあ毎度の説明ですが。

『ただし、昨年秋以降の急激な景気の落ち込みを反映して、需給バランスが現在大きく悪化しているほか、その改善のテンポも、先ほどのような景気見通しを反映してゆっくりとしたものになると予想されます。このため、物価の下落圧力は、長い期間に亘って残るとみています。このような状況は、米欧でも同様であり、多くの国において、望ましい物価上昇率の水準―その水準自体は国によって異なりますが―に戻るまでにはかなり時間がかかるとの認識が拡がっています。』

でもデフレスパイラルのリスクは小さいとな。

『経済政策の運営に当たって大事なことは、こうした物価の下落が景気悪化をもたらし、これが更なる物価下落につながる悪循環、いわゆるデフレ・スパイラルに陥る可能性があるかどうかということです。そのための重要な判断ポイントは2つあります。』

でもって、その2つは(1)金融システムが安定しているか(2)中長期的なインフレ予想が下振れるかどうかというなのですが、今の所はどちらもリスク小さいという話をしています(引用割愛)。

ただまあその後にこんな話をして一応リップサービスもしていますな。

『先ほどは、昨年来の世界経済の大きな変動について、流動性危機とバランスシート調整の2つの要因に整理してご説明しました。金融市場に大きなストレスが加わった場合、中央銀行が最優先に行うべき仕事は、流動性を潤沢に供給し、金融市場・金融システムの安定を確保することです。デフレ・スパイラルに陥るリスクを避けるためにも、中央銀行は「流動性の番人」として、適切かつ迅速に行動しなければなりません。』

ほっほーという感じですが、ここで「通貨の番人」じゃなくて「流動性の番人」と言ってるのがチャーミングでして、つまり長期国債買入拡大や利下げではなくて個別市場向け信用緩和などで対応したいと言いたい訳ですね、意地っ張りですなあマッタクモウ。

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2009/08/26

お題「金融危機対応に関する白川総裁講演」

・・・・なのですが、「低金利長期化でバブルが発生する」というヘッドラインの方ばかりが話題になるというのも何だかねえという感じがするんですけどね。ロイター辺りの報道を各社がネタにしているのでしょうけれども、別に総裁は「今の低金利政策」の話してるんじゃないのですが・・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908c.pdf

○ヘッドラインを見つつ「トラックレコードは大事だ」と思うのでした

http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20090824-00000460-reu-bus_all
金融政策がバブル加速させることを回避する必要=日銀総裁

ってこれロイターの記事ですな。

・・・何かね、このニュースのヘッドラインの書きっぷりを見てると、あたかも「現在の低金利政策の継続によってバブルが再燃することを懸念しています」と言ってるような印象を受けるのですけど、今回の講演では別に危機対応後の話をしている訳ではなくて、危機の発生の前の話をしているんですよね(記事の中身をよく読んでも判るのですけどね)。

ま、金融市場は別にこのヘッドラインに1ミリも反応してませんからマーケット的にはどうでも良いのですけれども、それこそモーサテ辺りでも似たような報道のされ方して、こりゃ世間的に叩かれそうな燃料になっちゃいますなあと思ったら案の定っぽい感じで。

・・・・・ただまあ仮に同じ話をバーナンキ議長がしても「早期利上げの必要性を示した」とは間違っても受け止められないという事を勘案しますと、「日銀はどんな時でも利上げバイアス」というイメージが強いのは、速水総裁時代のやらかしゼロ金利解除が強烈に効いているんでしょうなと思うのでありまして、やはりトラックレコードは大事ですねという所でしょう。

白川さん、市場との対話という点では明示的なコミットメントを出していないのに1年くらいまでの金利が堂々の時間軸状態になっているという点では随分と「日銀の利上げバイアス懸念」を払拭させて、金融市場へのアピールは上手く行っている(まあ白川さんの対話だけじゃないですけど)のですが、政策の効果という点では市場との対話だけじゃなくて一般世間向けの対話をこれからは考えていかないといけませんなあという感じなのでしょうか。

・・・・・でね、そう考えたときに、伊藤隆敏先生が執行部にいらっしゃったら一般世間向けのアピールがより円滑に(って別に西村副総裁や須田審議委員がダメとか言ってるわけでは無いので念の為申し添えますが)進むのではないかとか思うのでありまして、今回の報道ヘッドラインを見ていると何だかねえ感が漂うのでありました。

#問題なのは「キャッチーなヘッドラインを打とう」として一々バイアスを掛けた書き方をしたがる報道機関の姿勢にもあるんですけどね

などと下らん雑感を述べまして恐縮ですが、講演の方から少々。


○安定→リスクテイクの過剰→崩壊の流れ

最初の所で危機の原因という話をしておりますが。

『危機に先立つ局面では、通常、今回の危機の前にみられた「大いなる安定(great moderation)」のように、良好な経済状態がしばらく続き、経済主体のリスクテイク姿勢が積極化します。経済分析では、選好(preference)は時間を通じて不変であると仮定されますが、実際には、良好な経済環境のもとで、経済主体のリスク認識は楽観的となり、リスク許容度は高まっていきます。』

んでまあそれが拡大する訳ですな。

『残念なことですが、こうしたリスクテイク姿勢の内生的な変化、つまりリスクテイキング・チャネルについてのわれわれの知識は、極めて限られています。規制、評価、報酬等の制度的な取決めはミクロレベルでのインセンティブを規定しますが、制度的な取決めを所与とすれば、そうしたインセンティブは、マクロレベルでの金融経済環境に大きく影響されます。この点、低インフレと高成長、さらにインフレと成長率の低いボラティリティは、強気の期待を醸成するうえで、確実に重要な役割を果たします。また、いつでも流動性を確保できるという安心感は、そうした強気の期待を、現実の行き過ぎたリスクテイクへと変化させました。』

『リスクテイクの過程では、信用量やレバレッジの増大、満期構成のミスマッチの拡大、資産価格の上昇など、様々な形で金融面の不均衡が累増していくことになります。こうした金融面の不均衡の累増は持続可能なものではなく、いずれかの時点でバランスシート調整が生じることになります。調整は当初ゆっくりと進みます。しかし、何らかのショックをきっかけとして、資金流動性不足という形で危機が表面化し、金融市場参加者間での信認が崩壊することによって、危機は深刻化していきます。幅広い市場で市場流動性が低下し、金融システムと実体経済の負の相乗メカニズムが働き出します。この過程で、金融機関の資本不足が明らかになりますが、危機のもとでは、そもそも流動性不足と資本不足を識別すること自体が困難になります。』

というのが今回の流れでしたが、まあ局地的に起きた日本の80年代後半のバブルなんかですと、それが銀行セクターなどによる不動産融資やら株式などの投資およびそれに対する与信行為に特攻してたのですな。うんうん。


○ということで今回の信用バブル拡大に関して

『それでは、日本のバブル崩壊や東アジア危機と異なり、なぜ今回の危機はグローバルな危機に至ったのでしょうか。』

ということで。

『第1に、危機に先立つ局面において、世界的な規模で過剰流動性がみられ、この結果として、金融面の不均衡が大きく拡大し、さらにこれが世界中の多くの地域に広がっていたことです。その背後には様々な要因が複雑に作用しており、先進国で低金利が長期化するという予想がいつでも流動性を確保できるという誤った認識を作り出しましたが、これが金融面の不均衡拡大に大きな役割を果たしたといえます。』

一方で日本の80年代後半バブルに関しては局地的な問題でしたと。

『これに対し、日本のバブルの事例では、インフレと経済成長率の顕著な高パフォーマンスは、かなりの程度、わが国に限定された現象でした。1985 年から89 年における日本の消費者物価の平均上昇率は、総合でみて1%をわずかに下回り、すでに低い水準にありましたが、日本とドイツを除くG7 諸国平均では、依然として5%程度となっていました。インフレのパフォーマンスの全体としての構図は、食料とエネルギーの価格を控除したようなコア指標でみても、概ね変わりません。このため、低金利が長期化するという予想が世界的な規模で同時に発生することは、ありませんでした。』

ということでしたな。で、今回世界的に広がったのは80年代後半の日本とは違って世界的に金融取引が拡大して相互の連関が拡大していたからという話がありますがそこは引用割愛。


○過剰貯蓄よりもグロスの資本移動だそうで

こういう話になってくると頭の悪いあたくしは徐々に煙に巻かれて行くので、煙の中で訳判らんコメントを入れて話をややこしくせずに引用だけで勘弁なのれす。

『関連する論点として、今回の世界的な信用バブルの要因の1つとして、「世界的な貯蓄過剰(global savings glut)」がしばしば挙げられますが、私は、こうした議論にやや懐疑的です。』

『確かに、世界全体の実質金利が世界経済全体の貯蓄・投資バランスによって決定されることを考えると、エマージング諸国における貯蓄は、実質金利の決定要因の1つとなります。しかしながら、世界的な信用バブルという現象を理解するためには、ネットの資本移動よりも、グロスの資本移動が圧倒的に重要になります。』

『グロスの資本移動は必ずしも、各国・各地域の貯蓄・投資バランスに対応するものでありません。実際、ユーロ圏の銀行はクロスボーダー貸出を大きく増加させましたが、ユーロ圏全体として経常黒字になっていたわけではありませんでした。』

・・・・・あたくしの頭の周りに先程から煙が掛かっているような気が(とほほ)


○で、金融政策運営に関する考え方という話

そのあと国際協調の話をしているのですがそこは華麗にスルーしまして、その次の『通念(conventional wisdom)への挑戦』って小見出しから続く部分から。

『簡単化すると、中央銀行やそれ以外の政策当局の間で有力な政策運営哲学は、次の3つの「予定調和」ともいうべきものに立脚しています。』

『第1に、マクロ経済の安定は、低水準かつ安定的なインフレ(low and stable inflation)を追求する金融政策によって実現できるというものです。このとき、マクロ経済の安定は、金融システムの安定と補完的と考えられています。』

『第2に、金融システムの安定は、ミクロプルーデンス的なアプローチを追求することで、実現できるというものです。このため、規制・監督当局は、個別金融機関の規制・監督を適切に行う必要があるとされます。そのための重要な手段として、自己資本比率規制は、具体的な業務分野におけるリスクを測定するよう、一段と洗練されてきました。』

『第3に、金融機関は、十分な自己資本を有してさえいれば、金融市場で流動性を容易に調達できるというものです。従って、流動性への配慮は、規制・監督の枠組みの中で、副次的な役割しか与えられていませんでした。』

ということですが、

『しかしながら、これまで有力であった政策運営哲学は、今回の危機に照らして、再検討する時期に来ていると思います。』

ということで、その第1の論点に関しての話が例の「金融政策でバブル加速させることを回避する必要」って話になるのですな。

『第1の予定調和であるマクロ経済の安定について、金融政策は低水準かつ安定的なインフレを目指し、過去20 年の間、極めてうまく運営されてきました。皮肉なことではありますが、この金融政策の成功が問題の一部にもなってしまったのです。人間心理と様々な制度的条件のもとで、低金利が継続するとの根拠のない期待は、良好な経済環境のもとでインセンティブのねじれ(perverse incentive)を醸成することにつながってしまいました。こうしたインセンティブのねじれはさらに、金融面の不均衡の蓄積と顕在化というプロセスを後押しし、やや長い目でみて経済を不安定化させてしまいました。』

で、これが微妙にチャーミングなのは、ここの部分の脚注に『金融面の不均衡の蓄積とマクロ経済環境についての詳しい議論については、Rajan [2006]、Bank for International Settlements [2009]をご参照ください。』とあることで、BISビューキタコレとかまた言いたくなる訳でございますな。

『私たちが直面している問題は、不適切な表現ですが、物価安定と金融システム安定の同時点におけるトレードオフ(intra-temporal trade-off)と捉えられることがあります。ここでの本当のトレードオフは、現在と将来の経済の安定という異時点間のトレードオフ(inter-temporal trade-off)です。』

ほほー。

『この点に関し、金融政策が担うべき役割についての議論が活発に続けられています。金融政策のみでバブルを防ぐことはできませんし、金融政策のみで防ぐべきでもありません。実際、金融政策は、もう少し控えめな、しかし重要な役割を担っています。インセンティブが結局のところマクロレベルの金融経済環境によって規定されることを考えると、低金利が継続するとの根拠のない予想を醸成することを通じて、金融政策がバブルを加速させることは回避しなければなりません。』

ということで、BISビュー的な香りは確かに微妙に漂ってくるのですが、いわゆる予防的引き締めのような話をしている訳でもないですわな。というか白川総裁はこの手の話をする時に、従来からバブル発生に対する予防的引き締めという発想を否定する説明を繰り返していますので、あたくしがこの件を読んでも別に「今の危機脱出モードの金融政策運営について話をしているんじゃないなあ」と思うのですけれども、まー普段から細々と毎度毎度講演要旨を熟読するヒマ人ばかりではございませんから、単体でこれを見たときに「日銀に利上げバイアス」というのが頭に入っていると「白川総裁が現在の低金利長期化に警鐘を鳴らした」という解釈になってもおかしくは無いなあと思うのでありました。

じゃあその手の話を避けとけば良いかというとそーゆーもんでもありませんし、まあ匙加減が超難しいところですわな。

で、第2、第3の論点に関しては長くなるのと時間が無いので華麗にスルー致します。ご興味のある方は講演要旨を読んで味噌。

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2009/08/20

○総裁定例会見の続き

古いネタでどうもスイマセン。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0908a.pdf

今回の会見って、この前ご紹介した物価の話以外で目についたのは、金融機関の資本とか収益とかの話だったりします。

まずは欧米金融機関関連。

『(問) 金融機関の経営問題についてです。欧米主要行の4〜6月決算は、概ね黒字を維持し、業務純益ベースでは邦銀を上回るような非常に高い利益を出している一方、不良債権の発生は明らかに増えてきているようにみえます。総裁はこの欧米主要銀行の健全性についてどのようにみておられますか。』

『(答) ご質問にもありましたように、この4〜6月決算をみると、前期に比べて収益内容は改善しています。改善の主たる理由は、金融市場全体の改善を反映して、トレーディングの収益が上がっている、また、様々な債券あるいは株式の発行が増加したことに伴って手数料収入が増加しているということです。』

『ただ一方で、信用コストのほうは増えています。米国についてみると、商業用不動産に関連する信用コストの増加が前期に比べ更に大きくなっている状況だと思います。世界経済の様々な不均衡の調整、好況期に積み上がった過剰の調整は経済全体としてまだ進行中ですし、その内容は金融機関の収益内容、資産内容にも反映してくることだと思います。現在、金融機関の健全性という面では、まだ取り組むべき課題があると認識しています。』

ということで、これは7月末の野田審議委員の講演及び会見とトーンは同じかと思います。

で、銀行の自己資本に関する話。

『(問) 先程、損失バッファーとしての金融機関の資本の問題に触れられました。その水準や構成等をどのようにするかという議論が国際的に進んでおり、経済への影響等を吟味することが重要とされていましたが、この点についてもう少し噛み砕いて説明して下さい。』

『(答) できるだけ噛み砕いてご説明しますが、規制にはかなり技術的な内容がありますので、必要に応じて日本銀行の担当部署で聞いて頂きたいと思います。』

『先程は自己資本比率について説明しましたが、規制についてはこれ以外にも様々な議論があります。例えば流動性についてですが、今回の危機からの教訓の1つは、金融機関の流動性リスク管理が甘かったということです。その結果、金融機関がもう少し流動性保有を強化するように議論されています。』

『しかし、流動性と自己資本の関係をみると、両者には密接な関係があります。例えば、ある金融資産について流動性が非常に高ければ、市場で売却して最終的には資金調達ができます。流動性が低ければ、状況が悪い場合、値段が大きく下がり、自己資本の不足につながっていきます。その意味では、自己資本と流動性は同じものではありませんが、密接に関連しています。』

なるほど。

『それ以外でも、例えば会計制度の見直しを行うなど、色々な見直しが行われています。ただし、1つ1つを単独にみた場合にはそれぞれ望ましいことであっても、それを合成した場合にどのような帰結をもたらすかということは必ずしも十分に議論されていないと思います。こうした意味で、規制全体を合わせた時にどうかということを議論することが必要です。1つ1つの規制の議論について否定するものではもちろんありませんが、それと並行して、少し振り返りながらその意味合いを議論する必要があると思います。』

これはその通りであるかと存じます。つまり次の質疑に繋がるのですが・・・・

『(問) 今の自己資本を巡る国際的な議論に対して、邦銀が「日本の銀行は十分である」とか「粘着性のある預金がある」など、反論のような見解を発信しています。今の欧米の議論が一方的というか配慮がないのではないかと邦銀は言っているのですが、それについてはどう考えていますか。』

『(答) 規制には様々な論点があり、一括で議論するのは難しいのですが、まず言えることは、この2000 年代に入り良好な経済が続く中で、内外金融機関が様々なリスクをとってきたことです。従って現にとっているリスクに照らしてどの程度の自己資本が必要かという議論が求められます。』

『今回の危機の経験が示したように、最終的に公的資本の注入が金融機関において必要になったということは資本が不足していたことを意味するわけです。そういう意味で、まず一般論として、現にとっていたリスクに照らして自己資本の強化を図っていくことは、頷ける方向だと思います。』

それはそうです。

『現にとっているリスクに照らして最適な自己資本を考えていく、その結果、資本の量と質を高めていく、そのこと自体は大事なことだと考えています。一方で、自己資本規制という制度の設計をしていく時に、自己資本だけに着目して議論をしていくことはバランスがとれず、様々な他の規制との関係も考える必要があります。そしてなによりも金融機関自身が与信管理や、信用リスク・流動性リスクの管理をしっかりと行っていくことが一番大事なわけです。そういう意味では、バランスのとれた規制・監督が必要ということです。』

『ご質問に関する直接的なお答えにはなっていないかもしれませんが、私が申し上げたいのは、そうした規制・監督をバランスよくやっていく必要があるということです。』

判じ物のような話ですが、金融機関の自己資本問題で最近の国際的な論調として「資本の質」の話がやたらクローズアップされるるわけですが、資本の質論議一点張りではなく、そもそも論として資産の構成を勘案して、資本バッファーがどの位必要になり、そのバッファーとしてどのような質の資本が適切なのかというような話も良く考えましょうという話なんでしょうな、と勝手に脳内補完をしながら読みましたがどうでしょう。

金融機関の資本問題と言う意味では、金融システムレポートとその後に出ていた日銀レビュー(日銀レビューの方は暫く前にご紹介しましたが)にも色々とありましたので、改めてその辺りも読み直してみるのも吉かもしれませんね。

『(問) 欧米で進んでいる議論を単純に日本に適用することは、あまりふさわしくないのではないかとお考えですか。』

『(答) 先程申し上げた通り、欧米と言いましても各国それぞれ歴史的な経緯で規制・監督の制度が違いますから、欧米との対比で議論するのではなく、現在浮かび上がってきているマクロ・プルーデンスの問題について、日本の状況に則して、どのような活動、分析をしていくかを考えていくことが大事だと思います。それから、ミクロ・プルーデンスについてもさらに充実を図ることが大事だと思っています。欧米との比較で議論することは、少し難しいという感じがします。』

つまり、資本の質がどうのこうのという話でよく言われる話としては、資本の質としてふさわしいのは負債性も持つようなものではなく、普通株で行うべきであるというような話だったりするのですが、まあこれって主張する側のポジショントークも入っているように思えまして、その点に関して日本は単純に欧米に追随するのではなく、きっちりと論点提示を行っていくという事を白川総裁は言っているのだと嬉しいなあと脳内補完しながら思うのでありました。

ま、金融機関の資本問題は今後のテーマとしては結構影響がある話かと思いますのでクリップしてみました。

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2009/08/18

んでもって虫干しネタは先日ご紹介した中国人民銀行主催の国際コンファランスにおける白川総裁の講演(要旨の日本語訳)から。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908a.htm

上海での中国人民銀行国際コンファランスにおける講演ですけれども、「当時海外の皆様は随分と勝手に実務に落とせないような無茶な政策提言をしてくださいましたが、実際に自国の問題になったら無茶言わないですなあ」(超意訳)という話をした結びの部分が話題になりましたけれども、よくよく見たら最初から何気にチャーミングというかアピっている元気な講演なのでありました。


○日銀の過去の施策をアピるでござるの巻

『2.1990年代後半以降の日本銀行の金融政策運営』って所から。

『最初に、本コンファレンス出席の皆様の記憶を呼び起こすため、日本銀行が前回1990年代後半以降に採用した金融政策のうち、革新的な(innovative)要素を―ただし、当時、外部の人からは必ずしも革新的とは見られていなかったものも含めて―挙げてみます。 』

>ただし、当時、外部の人からは必ずしも革新的とは見られていなかったものも含めて
>ただし、当時、外部の人からは必ずしも革新的とは見られていなかったものも含めて
>ただし、当時、外部の人からは必ずしも革新的とは見られていなかったものも含めて

良い感じで「外部の人」への悪態が最初から入っているのが今回の講演クオリティだった訳ですな(^^)。

んでまあ日銀が当時何をしましたかという話をしてますが、やったことはご案内の通りで、

『第1に、オーバーナイトのインターバンク金利を文字通りゼロ%、正確に言えば、0.001%まで引き下げました。』

『第2に、当座預金残高を操作目標とした上で、所要準備をはるかに上回る水準にまで増加させる、いわゆる「量的緩和政策」を採用しました。』

『第3に、資金供給オペレーションの期間を長期化しました。』

『第4に、ゼロ金利ないしは量的緩和政策の継続期間に関するコミットメントを行いました。』

『第5に、今日の言葉で言う「信用緩和政策(credit easing)」に該当するABCPやABSの買い入れを行いました。』

『第6に、金融政策には属しませんが、日本の金融システムを不安定化させる大きな要因となっていた、金融機関の株式保有に伴う市場リスクを軽減させるため、金融機関保有株式の買入れも実施しました。』

・・・・・とどさくさに紛れて第5のあたりで信用緩和政策を実施とアピっていますが、実は速水総裁のときに実施するという方向で検討を開始したのですが、福井総裁の時にいざ実施となったらちゃっかり信管は抜かれていたのですけどね。実際問題として資産管理証券関連市場で何かエライコッチャになっていた訳でも無くて、どちらかというとアナウンスメント効果的な施策だったと思いますけど・・・・・いやまあいいです。

なお、引用時にスルーした中にもいい感じでアピってる部分がございまする。量的緩和政策の部分ですけどね。

『実際、ピーク時の超過準備額は29兆円と名目GDPの5.8%に達しました。この水準は、現在のグローバルな危機のもとでの、FRBの6.2%、ECBの3.5%と匹敵するものです。』

でも後日の研究によりますと、超過準備の規模じゃなくてゼロ金利の時間軸効果が効いていたって話じゃなかったでしたっけ、いやまあいいですけどね(ニヤニヤ)。

『このように、日本銀行は、現在、世界的に導入されている革新的な措置の多くを既に行っていました。』

まあ他国のやってる施策が(BOEを除いて)段々言ってる事が近くなってきていることはその通りですけど、何か大きく出ましたなあ。


○悪態を再掲しつつ非伝統的政策の論点について

途中を飛ばして「ではどういう事を中央銀行はすべきか」という話の部分ですけれども・・・・・・・

『このような問題にどう対応すべきでしょうか。答えは、様々な要因に依存しています。中でも、そうした要因としては、それぞれの中央銀行が置かれた経済・金融環境、中央銀行の責任や利用可能な政策手段を定めた法律が挙げられます。国を越え、時代を越えて普遍的に妥当する答は存在しません。』

伝統的チャネル以外での政策をするという話になると、その国の金融市場や資本市場の構造によって「具体的な処方箋」が違ってくるという話をしたいというのは判りますが、最後の所が悪態成分に見えるのは気にしすぎですかそうですか。

『前回の日本の危機や今回のグローバルな危機の経験を踏まえつつ、非伝統的な金融政策について私が感じていることを述べてみたいと思います。』

ということで。

『第1に、金融危機への対応で最も重要なことは、金融市場や金融システムの安定の維持です。』

これはそうですな。

『そのために、中央銀行は最大限の努力を行う必要がありますが、結局のところ、危機の際には、金融市場や金融システムの安定を維持することこそがセントラル・バンキングというものです。』

大きく出ましたな。

『この点、日本銀行は、量的緩和政策、信用緩和政策、株式の買入れを行いました。量的緩和政策について、エコノミストの中には、マネタリスト的なチャネルを通じた経済活動の刺激効果は自明なものと考えている人もいましたが、金融システムへの影響という視点は十分には認識されていませんでした。』

また悪態成分が。

『しかし振り返ってみますと、量的緩和政策の最大の意義は、潤沢な流動性の供給を通じて金融市場と金融システムの安定に貢献したことでした。今回、主要国の中央銀行は、自らのバランスシートを拡大させていますが、イングランド銀行以外の中央銀行は、こうした金融緩和政策を量的緩和政策とは位置付けていません。この点は、量的緩和政策の実体経済に対する有効性が、これまでのところ確認されていないという日本の経験からみても、肯けるものだと思います。』

つまり、潤沢な流動性供給は有体に言っちゃえば金融市場における機能を中央銀行が代替することによって、金融市場の機能低下を定性的に補完するという機能があるけれども、マネーの量がどうのこうので景気刺激というような定量的な効果については良くわからんとしか言いようが無いですという話。うーん悪態成分。

で、この後は悪態の成分が減るのであります。

『第2に、金融システムの安定には、流動性供給と並んで公的資本の注入が不可欠なことは先ほど述べた通りです。しかし、こうした政策対応は、金融仲介機能を改善させるものですが、危機を引き起こした根本的な問題を解決するには不十分です。』

『この点は、第3の論点を提起しています。問題解決のためには、民間非銀行部門で積み上がった様々な過剰の解消が必要であることは論を待ちません。しかも、銀行部門への公的資本の注入や量的緩和などを通じた潤沢な流動性供給は、非銀行部門の過剰解消の必要性自体を帳消しにするものではないことも忘れてはいけません。』

ということで、バランスシートから外すことが必要ですという話ですな。

『こうした過剰の解消が完了し、経済が持続的成長軌道に復帰するには、ある程度の時間を要することを認識しなければなりません。どの程度の時間が必要かについては、バブル期に積み上がった過剰の大きさや、バブル崩壊後に発生する危機時において、信頼の喪失によって増幅される負の相乗作用の厳しさに依存しますが、いずれにせよ、その時間は短くないということを肝に銘じる必要があります。』

つまり景気回復にはかなり時間が掛かりますという話ですね、わかります。

『第4に、金融政策と財政政策の境界線についてです。』

という話をしていますが、こちらまで引用していると長くなりすぎるので割愛。危機対応で踏み込んだものを未来永劫踏み込む訳には行きませんというお話をしています。


○スイッチが入りつつある論点は「非伝統的政策と市場とのコミュニケーション」でした

『第5は、市場とのコミュニケーションについてです。』

『金融政策を有効に実施するには、中央銀行という組織に対する信認が必須の条件です。信認の確保のためには、言葉と行動は一致しなければなりません。』

ほほう。

『非伝統的金融政策はその効果に不確実性が高いほか、異例の措置は金融政策の境界線を拡げるものであるため、現在の局面では、市場や国民とのしっかりとしたコミュニケーションがより一層大事な課題となります。』

『その際には、採用した政策の効果と副作用を常に検証しながら、丁寧に説明していくことが重要です。危機時だからといって、時間的整合性のとれない政策を採用すると、かえって、中央銀行の信認に悪影響を及ぼし、結果として、金融政策の有効性を低めることになります。』

段々スイッチが入ってきていますな(^^)。

『結局のところ、中央銀行が信認を確保していくためには、経済が直面している問題の性格に応じた情報発信と整合的な政策の実行が必要です。特に、金融危機時には、金融市場・金融システム安定へのコミットメントを明確にするとともに、そのための政策を果断に実行していくことが何よりも大事であることを改めて述べたいと思います。』

で、最後の「政策提言と称して実務に落とせない無茶な事ばっかり言いやがって、特にそこのクルーグマン!」(超越的ウルトラ意訳)という結びの部分になるのでありました。

理念的な部分は判りますけれども、政策の具体案に落とすときにその理念がいきなり無茶な話を振るコースになられましても困りますがなというのは主張として判らんでも無いのですが、ここの部分&先日(先週水曜)引用した結びの部分ではそれ以上にスイッチが入っている印象でして、まあ何と申しますかという感じではございますな。

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2009/08/14

○総裁会見から

会合はさっくり終了したのに会見は45分実施。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0908a.pdf

・物価に関する答弁は相変わらず判ったような判らんような

現在CPIのマイナスが拡大している事への影響如何という質問が来たのですが、例によって例の如く。

『物価のマイナスが続く状態というのが、いわゆるデフレというものですが、これについては様々な論点がありますので、ここではデフレ・スパイラルということについての日本銀行の見解、という点についてお答えしたいと思います。』

ということで説明が超長いので引用の途中を思いっきり端折るのですが。

『物価情勢を判断していく上で重要なことは、今回世界経済に加わったショックは非常に大きなものであったと思いますので、そういう意味で先程の物価下落圧力が解消されるにはやはり相応の時間がかかることを念頭に置きながら、中長期的にみて、物価の安定が実現する方向に経済が向かっているのかどうか、を点検していくことだと思っています。』

でまあ端折った部分でも強調してたのは「日本だけじゃなくて世界的に同じですよ」という話でして、世界的な金融のデレバレッジに伴うショックで急速に悪化した需要の変化がここものとの下げの背景にありますよということなのですが・・・・・

『この点、米欧においても、成長率や物価見通しが出され、また各国の潜在成長率あるいは中長期的な物価安定に関する見方──定義や目標──が示されています。足許は、そうしたものから下方に大きく乖離した状態が続いていますが、先行きについては、相応の時間をかけて、緩やかに、物価安定のもとでの持続的成長経路に回復していく姿が展望されています。』

ということで、意地悪く解釈すると、今回の下げに関しては「需給ギャップの急速な拡大によるものですからとりあえず一過性で、デフレスパイラル入りの懸念は小さいよ」と言ってるようにも見えますわな。まー市場的には「先行き戻るのにかなりの時間がかかる」っていう認識を強調している方を重視して、少なくとも金利の部分に関してそう簡単に利上げだ何だという話にはならないですねという読み方になるのですけれども、どうも「デフレ」と言われると説明にスイッチが入るのは日銀の仕様なんですかねえ。

と言いつつ総裁の説明はなお続く。

『そうした姿を展望できるかどうかを判断する上で、大事なポイントはいつも申し上げている2点だと思います。1つ目は、金融システムの安定性が維持されるかどうか、2つ目は、中長期的なインフレ予想が下振れることがないかということです。この2つが崩れると、物価下落と景気悪化の悪循環、いわゆるデフレ・スパイラルが生じることになります。』

金融システムの状況とインフレ予想がポイントとな。

『日本銀行の現在の判断としては、冒頭申し上げました経済・物価情勢の判断のもとで、そうしたデフレ・スパイラルのリスクがあるとは考えていません。ただ足許、物価の下落幅が拡大していますので、注意して丹念に経済情勢を点検していこうと考えています。』

注意して丹念にっていうことで、慎重に点検というのを強調しているので、まーどっかの俊ちゃんみたいなやんちゃなことは無いでしょうという点は判るんですけど、デフレネタになると反応がにゃんとも。


でですね、次の質問でBOEの量的緩和拡大に対する見解を求められて、そっちのコメントはしないで、上記の説明の続きみたいな話をしているんですけどね。

『BOEの政策自体についてのコメントは差し控えますが、非常に大事なのは、物価の下落が経済活動の悪化と相乗作用をもたらすという事態を避けることであると考えています。』

そらそうですな。

『過去の色々なデフレの歴史を振り返ってみると、物価が下落すること自体は全く無いわけではありません。戦後でも物価の下落は局面によっては生じています。もっと長い歴史を遡れば、物価が大きく下落したという時期もあります。』

『ただ、物価の下落が経済活動の収縮をもたらしたケースを調べてみると、米国の1930 年代が典型的であるように、実はほとんどが金融システムが不安定になっている時期です。もう1つ考えられるのは、中長期的な予想インフレ率自体が下振れていくというケースです。』

中長期的な予想インフレ率の方はともかくとして、金融システム云々っていうのは「デフレが継続した結果、金融システム内の資産劣化が発生する」っていうような因果関係で回ってくるケースもあるんじゃないのという気がするのですけど。これだけ見てると「足元金融システムに問題が無いので大丈夫」と言ってるように見えますけど、物価下落の継続が金融システムにも悪影響与えませんかねえということで。

『金融システムの安定については、現在、日本銀行も含め各中央銀行がその安定確保に最善を尽くしています。それから、中長期的な予想インフレ率については、その性格からして短期的にすぐ変動するものではありませんが、経済の需給ギャップが拡大すればそれが物価の下落要因になっていきますから、日本銀行としても、政策金利を非常に低い水準に維持しているほか、企業金融支援措置よる企業活動のサポートを通じて状況の改善を働きかけています。』

だそうです。


・まあ時間軸は時間軸

今後の経済見通しに関してどうですかという質問に対して。

『景気の現状評価および見通しを語る時に、短期的な動きと少し長い経済の動きをどのように分けて説明していくのかというのは悩ましい課題だと思っています。足許の景気の動きについては、先程申し上げた通りですので繰り返しませんが、私どもが気にしていることは、現在の内外の政策効果、あるいは在庫調整が一巡した後の最終需要の強さにまだ確信が持てないということです。』

確信が持てないキタコレ。

『そうした確信が持てないのは、2000 年代半ばにかけて蓄積された世界経済の様々な不均衡が非常に大きく、その結果、その調整にも時間がある程度かかるということが背景にあります。その意味で、回復した場合でも、その強さについては目覚ましいものではないという判断があるわけです。』

どう見ても低金利継続です本当にカムサハムニダ。


・アコードがどうしたこうした

最初の方で民主党のマニフェスト説明会でアコードどうのこうのという話が出てた件について質問があったときにはコメントしなかったのですけど、最後に改めて米国での1950年代のアコードをネタに「アコードの結果長期国債買入を行なったら銀行券ルールに引っ掛かるケースも出そうですね」と上手いスイッチの入れ方をしたら、ちょっとだけコメントが(^^)。

『米国の政策アコード導入以前の金融政策は、国債価格のペッグと申しますか、国債価格を支持するということに割り当てられていました。しかし、アコードの導入により、そうしたことから解放されて金融政策が物価安定という目的に割り当てられるように変わり、中央銀行が独立性を回復しました。』

『日本銀行については、1998 年の日銀法改正によって、金融政策については既に独立性、つまり日本銀行の責任と判断で決定するということが法律で定められています。そのもとで、どのような金融政策、どのような金融調節が良いのかということは、経済・金融の状況を毎回の会合で点検しながら判断していく以外に方法のない話だと思っています。』

ほうほう(^^)。

んでちょっと脱線してあたくしの愚見を申し上げますと(おめーの話なんぞ要らんというツッコミは理解しますが)、国債価格支持策がかつての米国でワークしたからそれを活用ってえ話は良く出てくるし、アコード云々の話も良く出てくるのですけれども、それがワークしてた時期っていうのは金融取引が今のようにホイホイ自由に回って(国際的な取引もそうですけれども、一国内での金融取引もそうでしょ)無かった時代ですから、そもそもの前提条件が全然違う状況な訳でして、その当時上手く行ったから今回もというのはちょっと実務面への配慮が欠けているんじゃないですかと思うのですけどね。

と、ここまで書いておりました所、時間と量の関係で他の部分は来週にご紹介するかもしれませんししないかも知れません(すいません)。

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2009/08/13

○白川総裁の中国人民銀行コンファランスでの講演からちょっとだけ

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0908a.htm
「非伝統的な金融政策─中央銀行の挑戦と学習─」

というお題でのお話。資産ショックからデレバレッジを伴いながら金融危機が起きる中では伝統的な金利操作のみの金融政策トランスミッションだけでは不十分で、どのような点について留意しないといけないのかという話をしています。

で、まあ本当はここを全部ご紹介するのが正しいのですが、時間と量の関係上、今日は最初の部分だけで話をぶっ飛ばしてしまいます。続きは明日。

『第1に、金融危機への対応で最も重要なことは、金融市場や金融システムの安定の維持です。そのために、中央銀行は最大限の努力を行う必要がありますが、結局のところ、危機の際には、金融市場や金融システムの安定を維持することこそがセントラル・バンキングというものです。』

『この点、日本銀行は、量的緩和政策、信用緩和政策、株式の買入れを行いました。量的緩和政策について、エコノミストの中には、マネタリスト的なチャネルを通じた経済活動の刺激効果は自明なものと考えている人もいましたが、金融システムへの影響という視点は十分には認識されていませんでした。しかし振り返ってみますと、量的緩和政策の最大の意義は、潤沢な流動性の供給を通じて金融市場と金融システムの安定に貢献したことでした。』

ちょっと張り切り感も見られて中々。

『今回、主要国の中央銀行は、自らのバランスシートを拡大させていますが、イングランド銀行以外の中央銀行は、こうした金融緩和政策を量的緩和政策とは位置付けていません。この点は、量的緩和政策の実体経済に対する有効性が、これまでのところ確認されていないという日本の経験からみても、肯けるものだと思います。』

ということで量的緩和に関する話になると微妙にスイッチが入ってますな(^^)。


で、更にスイッチが入っているのはこの講演の「結び」って所でして・・・・・・

『先ほど申し上げた5つの論点は、かつて日本銀行が非伝統的金融政策を実施した際に、苦心しながら対応してきた問題です。現在と当時との違いは、当時は、これらの問題に対応することの実務上の難しさが、多くのエコノミストに十分には認識されていなかった点です。』

なるほど。

『1990年代後半以降、日本の政策当局に対し、国内外のエコノミストや国際機関から様々な政策提言がなされたことは記憶に新しいと思います。非常に大胆なものも含め、様々な提言が日本銀行に対しなされました。』

ほうほう。

『典型的な政策提言としては、「日本銀行が行うべきことは、高めの目標インフレ率を設定し、その目標を達成するため、実物資産を含めてあらゆる資産を購入することだけである」、「日本銀行は財政赤字のマネタイゼーションを行うべし」などがありました。中でも、最も有名な提言の1つは、、「無責任な政策にクレディブルにコミットすべし」というものです3。』

えーっと、何で最後に「3」とか変な数字があるかと言いますと、これは脚注の意味です。あたくし引用する時に基本的に脚注の数字を削っているのですが、今回に関しては脚注を残しました。さてその脚注付きという名指しで出て来た「最も有名な提言の1つ」は誰の提言でしょう??

(答)『3 Krugman [1999]を参照。』

・・・・(^^)

『興味深いことに、今回の危機では、急速な景気の落ち込みにもかかわらず、エコノミスト達からは、同様の大胆な政策提案は行われていませんし、そうした急進的な措置も実施されていません。』

・・・・(^^)(^^)

『初めて課題に直面すると、政策措置に関する議論は極端に振れがちです。そうした議論は、実際に危機への対応という課題に直面して初めて、真に地に足のついたものになるのだと思います。』

・・・・(^^)(^^)(^^)

『私は、かつてと現在のエコノミストの主張の変化をみるにつけ、人々が過去の経験から学びながら前進していく過程、つまり学習過程が確実に働いていることを感じます。』

・・・・(^^)(^^)(^^)(^^)

ということで、あたくしなんぞは所詮外野で市場に振り回されながらきゃあきゃあ言ってるだけのボーフラみたいなもんですからコメントするのもアレですが、まあ何と申しますかいやはやということで。んで最後も引用しますね。

『我々にとって重要なことは、中央銀行としての基本的な責任を果たしていくことです。そのためには、今後とも、経済や金融の変化に対して常に謙虚さを保ちながら学習を重ね、経済のメカニズムやセントラル・バンキングに関する知恵を磨いていくことが、我々に課されている重要な課題であると考えています。』

ではでは♪

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2009/07/17

それはともかく総裁会見。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0907a.pdf
会見時間30分であっさり味の会見だったようですね。


○金融環境の認識

最初の質問が思いっきり出口戦略に関する質問で、市場機能の現状についてどう考えるかというのがございました。で、それに対して。

『今回、私どもは、金融環境の評価に関する判断として2つのことを指摘しています。1つは、なお厳しいという評価と、もう1つは、方向として改善しているという評価と、2つを指摘しており、それぞれについて説明したいと思います。』

ということで。

『まず、金融環境は全体としてはなお厳しい状態にあるという点についてですが、例えば下位格付け先の社債発行は低い水準に留まっているなど、格付け間での二極化は依然として解消されていません。また、資金繰りや金融機関の貸出態度に関するアンケート調査、あるいはヒアリングでもそうですが、最近では改善しているとはいえ、中小企業を中心になお厳しいとする先が多いとみています。』

貸出の方は存じませんけど、社債発行に関して言えば、ここもとBBB格の会社も発行したりしてまして、金融危機拡大以降に見られた「どんなにスプレッド払っても全然発行が出来ない」という状況なのではなく、まあちゃんとスプレッド払えば発行そのものは出来る筈だと思われますよ、市場の中の人的に言えば。つまり、現在の市場環境って「物理的に発行できない」ではなく、単に「そのスプレッドじゃうちは発行したくないですぅ」っていう状態だという事ですわな。

そりゃまあ以前の何でもかんでもクレジットスプレッド無し無し状態から見たらBBB格付けの発行体様的には「そんなスプレッドで発行できるかゴルァ!」という所でもあるのかも知れませんけど、低格付け不人気銘柄であってもL+二桁とかで発行できるようなかつてのスプレッドぶっ潰れ状態がアレなのでございまして、市場の回復というのをどこまで回復と言うのかという点については、良く考えないと各種施策が社債やCPを発行する企業への過剰な接待モードになってしまうのではないかと思うところでもあります。いやまあ一部ポジショントーク成分が入っていないとは申しませんが(^^)、それこそCPみたいにクレジットスプレッドを徹底的に潰されちゃうと市場が干上がりますんで(汗)。


『企業からみますと、厳しい収益環境が続く中で、在庫調整が一巡した後の景気回復の足取りなどについて、なお不確実な面が大きく、今後の資金調達環境に対する不安感を払拭できない状況にあるのだろうと推測しています。こうした情勢判断を踏まえて、企業金融の円滑化を引続き図っていく観点から、今回措置を延長することとしました。』

先ほどはまあそんな話を申し上げましたが、今回の延長は妥当かと。


『一方、方向として改善しているという点についてですが、昨年末までと異なり、足許の金融環境は明らかに改善の動きが続いているとみています。』

さいですな。

『いくつか例を申し上げますと、CPの発行スプレッドは、リーマン破綻直後に急激に拡大しましたが、年明け以降縮小し、足許では高格付け物を中心にリーマン破綻以前の水準まで低下しています。』

えーっとすいません、官民逆転なので破綻以前の水準どころかそれ以上に低下していますけど。

『また、日本銀行によるCPの買入れについても、3月以降大幅な札割れの状態が続いています。社債については、6月の発行額が月間としては過去最高となったほか、発行銘柄も拡大しています。このように、CP・社債市場の機能は着実に回復しつつあります。銀行貸出は、大企業向けを中心に高めの伸びが続いているほか、資金繰りや金融機関の貸出態度は、大企業・中小企業とも、方向としては幾分改善しています。』

まあしかし何ですな、中小企業金融の環境が厳しいという状態は相変わらずということなんですけど、銀行貸出の部分って金融政策で直接的にどうのこうのできる部分ってかなり限定的だと思われる訳でして、それを全部金融政策で何とかしようとするのも他への皺寄せが来るんじゃないですかという気がかなりするのでございますけどね。


○一部の副作用はあるけど継続ですよ

次の質問は副作用に対する指摘。副作用がどういうものなのかはあたくしもこちらで1万回くらい申し上げておりますので既にご存じかと(^^)。

『(前置き割愛)もっとも、最近では格付けの高いCPの発行金利が同期間の短期国債の発行金利を下回るなど、一部にやや行き過ぎた動きがみられることも認識しています。こうした状態が続けば、投資家の投資意欲が後退するなど、市場機能を阻害してしまうことになり、却ってCP市場の発展にとって望ましくない可能性があることは確かです。』

というか既にかなり後退しているものと思われますが(-_-メ)。

『こうした行き過ぎの要因として、市場では、企業金融支援特別オペの効果が大きいのではないかという議論があることも承知しています。私どもとしては、今申し上げたことは十分に意識していますが、他方で、現状の企業金融の状況を考えますと、先程の二極化現象はまだ解消されていませんし、足許改善はしていますが先々の資金調達環境について、やはり不確実性が払拭できないという状況です。』

『そういう意味で、先程申し上げた部分的な影響あるいはその副作用だけでなく、金融市場・企業金融全体の状況やこれに与える影響を踏まえて判断していく必要があると考えています。』

だったら市場機能が回復しているCPだけ(買切はセーフティーネットとして残しておいて)特別オペ対象から外して、必要ならCP買現先オペ増やせば宜しいのではないかという気はするんですけどね。企業特別オペって本来的には証書貸付などのローン債権への支援だと思うのですけどねえ。

ま、副作用は認識した上で継続という判断であればそれはそれという事で。


○6か月ではなく3か月延長

の理由についての質問がありましてその答え。

『(時限措置を継続した理由は上記と同じなので割愛して)一方、今回は6か月ではなく3か月の延長としたことについてですが、足許改善傾向が続いており、この後もこの傾向が続くと判断していることを踏まえ、3か月後にもう1回経済金融情勢をしっかり点検することにしました。』

ということですから次回は普通に考えると10月の展望レポートが出るタイミングが点検結果が出る本命になるということでしょうか。

『今後、情勢が一段と改善していけば、新たな期限である年末には各種時限措置の終了または見直しを行うことが適当だと考えております。しかし一方で、今回の中間評価でも指摘したように、先行きの金融経済情勢については不確実性が高いとみています。従って、情勢が十分改善せず、それが必要と判断される場合には時限措置を再延長することになります。』

普通の話しかしてませんな。慎重慎重(^^)。

『繰り返しになりますが、時限措置の取扱いについては結論が先にあるわけではなく、今後の企業金融や金融市場の展開を注意深く点検して判断していくこととしており、今回はその判断を3か月の期間延長の中で行うこととしたものです。』


○んじゃ何で8月じゃなくて7月に決定したのか

という質問に対して。

『先程申し上げた通り、企業金融を巡る環境は改善の方向にありますが、しかし現在でも、なお厳しいという評価をしているわけです。なお厳しいという判断をしている以上、私どもとしても、市場からみて不確実な要因である各種の措置をどのように運営するか検討し、その対応方針を早めに出したほうが良いということで今回合意に至ったものです。』

何という隙の無い回答(^^)。


○ところでGDP見通しを下方修正しましたが

昨日スルーしちゃいましたが、展望レポート中間レビューではGDP見通しを下げておりまして、その点についての質問が。確かに「足元の判断を引き上げたのに、何で先の見通しが下がるのよ」というのは質問したくなりますわな。

『いつも申し上げていることですが、経済の見通しについては、数字ではなく基本的なメカニズムというものを重視しています。これは日本銀行に限らず、どの中央銀行にも共通していることです。脱線しますが、BOEはこの点について徹底しており、見通しを示す数字は一切出さないということにしています。BOEは、見通しについては確率分布で示して、その確率分布の推移を示す図にしており、どこにも数字は出していません。』

『私どもはBOEのような確率分布(ファン・チャート)は公表していませんが、リスク・バランス・チャートをお示ししています。このうちの実質GDPについて、2009 年度と2010 年度の分布をみて頂くと、実は前回の見通しと今回の見通しで全体として大きく変わったという図にはなっていません。』

確かにそうでした。

『本日の決定会合では、展望レポート後の推移について議論しましたが、どの委員からも基本的なメカニズムが変わったという見方は示されませんでした。リスク・バランス・チャートを全体として捉えるとそういうことになります。あえて統計量でみると、中央値は幾分下になっていますが、先程申し上げました通り、今回基本的なメカニズムが変わったという認識を皆持っているわけではありませんし、私どもとして下方修正したという意識はありません。』

つまり、方向感の問題と水準の問題という話はまた別の問題で、そりゃまあ水準が全然違うのであれば兎も角、今回下方修正した程度の数値であればそれはそれ、これはこれちゅう話になるんでしょうな。


ということで月報とか面白そうな日銀のレポートとかFOMC議事要旨とか全部宿題になってどうもすいませんm(__)m

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2009/06/30

○バブル対応の金融政策・・・・ですが、単純な予防的引き締め論ではありません

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/ko0906e.htm
第8回国際決済銀行年次コンファランス(スイス・バーゼル)における白川総裁講演(6月26日)の邦訳「危機を未然に防止するためのミクロ・マクロ両レベルでのインセンティブを巡る考察」

ということで、本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0906e.pdf

本文7ページしかないのですが、講演している場所が場所なだけに、論点をコンパクトにまとめていまして、重要そうな所を引用しようとすると全部引用しないといけなさそうな講演です。

・・・・ということで、まあおまいら全部読めと言うとネタとして終了してしまいますので、無理矢理かいつまんで引用するでござるの巻です。


○冒頭に掲げた「質問」が結構重いです。

『はじめに』って所から。

『こうした点(引用者注:ミクロプルーンス的な観点での金融監督・規制へのアプローチ手法)に関連して、2つ質問を発してみたいと思います。』

ということで。

『第1の質問は、「法的に有効なネッティングは、金融システム全体のリスク削減に寄与してきたのであろうか」というものです。』

『確かに、ネッティングはカウンターパーティリスクの削減という点で意味があったと考えられます。しかしながら、一旦リスクがある程度削減されると、金融機関はより大きなリスクをとろうとします。その結果、ネッティングがマクロ的なリスクを削減することに寄与したかどうかは、必ずしも明らかではありません。』

確かに・・・・・

『第2の質問は、「低インフレ、高成長、低金利という良好な経済環境に将来再び直面した場合、金融機関は、レバレッジの拡大といった戦略とは異なる戦略をとるだろうか」というものです。』

『確かに、今回の金融危機の教訓に学び、慎重な戦略をとる先も存在するでしょう。しかし、多くの先では、厳しい競争のもと、株主のROE(資本収益率)引き上げ要求に抵抗することが難しいのではないでしょうか。』

ということで、マクロプルーデンス関連のテーマでお話が始まります。

『ミクロレベルのインセンティブの問題としては、金融機関が「大き過ぎてつぶせない」(“too big to fail”)という問題にどう対処するかが、最大の論点となりますが、マクロレベルでは、金融政策が重要なポイントとなります。そこで本日は、バブルに対する金融政策対応に主として焦点を当てたいと思います。そのうえで、金融規制・監督についても、若干触れたいと思います。』


○リスクテイキング・チャネルに関連して

で、最初の小見出しは『リスクテイキング・チャネルの重要性』となります。

これまた説明部分のどこを切り取って引用したらいいか悩む所なのですが(超大汗)、バブルに対する金融政策という論点で、従来支配的であった考え(資産価格変動に金融政策が事前対応するのは将来のインフレや成長率に影響を与える場合のみで、バブル崩壊したら積極的に対応)を紹介した上で、このような話に。

『バブルに対する金融政策の対応を議論する際には、金融政策の波及経路をどう理解するかが極めて重要です。ニューケインジアン・マクロ経済学に代表される近年の金融政策分析では、インフレ率と産出量を安定化させる最適金融政策に研究の力が注がれてきました。インフレ率や経済成長のボラティリティの低下は、それ自体経済厚生を間違いなく改善させるものですが、経済のダイナミクスは、それだけでは終わりません。一旦、マクロ経済が安定化すると、標準的なニューケインジアン・マクロ経済学では考慮されていない波及経路が重要になってきます。これは、しばしば、金融政策の「リスクテイキング・チャネル」と呼ばれています。』

『具体的には、良好な経済・金融情勢のもと、経済主体のリスク認識やリスク許容度は、徐々にではありますが着実に変化し、そのリスクテイク姿勢に影響を及ぼします。これにより、金融機関の貸出やレバレッジの拡大が進み、背後で金融面の不均衡の蓄積につながります。このような不均衡は、ある閾値を超えると、何らかのショックを機に突然顕在化します。この結果、金融システムが不安定化し、経済活動は著しく悪化します。』

というのが、まあ現下で現実に起きていることではございます。で、そのリスクテイキング・チャネルがどんな形態を取るのかという説明があるのですが、これを引用し出すと益々全文引用の世界になって、何やってるのかという話になるので引用割愛しますけれども、具体的には「満期構成のミスマッチ」「資産価格の上昇」として表れ、これが相互作用を起こすことによってレバレッジの拡大により順回転を起こすという説明になっています。で、結論。

『リスクテイキング・チャネルを考慮すると、金融政策運営に当たって、以下の2点を認識することが極めて重要です。』

『第1に、銀行は、金融政策効果の波及の媒体として重要な役割を果たしています。銀行行動は、金融仲介における銀行部門のシェアにかかわらず、経済に大きな影響を与えます。(具体的な説明は割愛しますが、状況が良いときに上記した相互作用の順回転が起きて、一旦逆に向かうと銀行部門のバランスシートが毀損するという話です)』

『第2に、上昇局面と下降局面の間には、非対称性が存在しています。上昇局面はゆっくりとしか進行しませんが、下降局面は、資金流動性の不足に対して銀行が待ったなしの対応を迫られますので、非対称的に速いスピードで進みます。さらに、一旦コンフィデンスが失われると、その修復には長い時間がかかります。金融市場参加者が指摘するように、クレジット・ラインを切るのは一瞬でできますが、これを再構築するのには、はるかに長い時間がかかります。』

これまたその通りの現象が発生した訳ですが、別に市場性のものだけじゃなくて、この手の非対称性は色んな所にあると思うのですが、大学受験の数学で頭が止まっている無知なあたくしの脳味噌では理解に苦しむ数式を駆使する皆様におかれましては、数式処理しやすいからなのかどうか知りませんが、この手のノンリニアな挙動を反映してくれない話をされまして、10ウン年も現場で労務者をやっておりますと何度も見る破目になるノンリニアな挙動の話をするといきなり会話が噛み合わなくなるのが誠に遺憾の極みでございまする。いや勿論最先端ではそういう事を反映した研究がなされているのでしょうけれども・・・・・・


○で、金融政策を巡る論点ですが

『以上のようなリスクテイキング・チャネルに関する理解を前提にすると、バブル崩壊の前後における非対称な金融政策は、どのような帰結をもたらすでしょうか。仮に中央銀行がバブルの崩壊まで金融政策対応を行わないとコミットしたと受け取られてしまうと、民間経済主体は間違いなくこの根拠のない期待をもとに行動するでしょう。すると、満期構成のミスマッチと資産価格の上昇が加速し、その結果、バブルは一層拡大し、バブル崩壊後の落ち込みもより深刻化します。』

となりまして、標準的なニューケインジアン・マクロ経済学の話をしていますが、そこの部分は引用割愛して、バブルに対する追加的措置という点に関して。

『では、バブルに対する追加的な措置(extra operation)については、どう考えればよいでしょうか。資産価格の変動は、それがインフレや成長率に影響を与える限りにおいてのみ考慮すべきという命題自体には、私も異論はありません。しかし、ここで真に問われるべき問題は、「インフレや成長率に影響を与える限りにおいてのみ」という表現を、金融政策の実践上、どう理解するかであると思われます。』

『今申し述べたリスクテイキング・チャネルを通じた波及メカニズムの時間的パターンは、住宅投資や設備投資といった通常の金利チャネルを通じた波及メカニズムの時間的パターンと大きく異なります。リスクテイキング・チャネルにおいては、前半のプラス効果と後半のマイナス効果の発現の仕方は非対称的です。そして、何よりも、マイナス効果の発現タイミングに、著しく大きな不確実性を伴います。こうしたリスクテイキング・チャネルの特性から、中央銀行が道具として用いる通常のマクロ経済モデルには、満期構成のミスマッチや資産価格から生じる効果が、短期についても長期についても、十分取り込まれていません。』

ということで、中央銀行の取るべき課題はどうなんでしょうという事ですが、これまた論点の提起という形になっていまして、ってまあ今まさに起きている事態に対することですから結論が出るのは先の話ではありますが、論点を色々と提示しています。

『第1は、バブルに対する金融政策の対応です。』

と来ると、「BISビューキタ-----(゜∀゜)-----!」と言いたくなるのですが、どうもそうでもなさそうな話でございます。

『この問題は、金融政策がバブルの流れ、すなわち過剰な資産価格上昇に対し逆らうべきかという形で、しばしば単純化された議論が行われてきました。しかし、この論点をこのように考えることは、議論をいたずらに混乱させるだけのように思います。いかなるセントラルバンカーも、金融政策のみでバブルを防ぐことができるとも、防ぐべきであるとも考えていないと思います。』

ということで、

『より適切な論点の立て方は、「インフレ率以外のすべての指標が政策の引き締めを必要とする兆候を示している状況、すなわち、資産価格が上昇し、貸出やレバレッジ、満期構成のミスマッチが拡大すると同時に、経済が過熱する一方で、インフレ率のみが低位安定している状況において、金融政策をどのように運営すべきか」ということだと思います。』

ということで、この場合白川総裁は「対応が必要だが、金融政策だけでの対応ではなくて、プルーデンス政策手段などの手段が必要だという第2の論点の話をしていますが、いい加減引用がくそ長くなってきたので割愛。

で、最後の論点はミクロレベルでの規制の対応力という話でして、こちらも金融政策運営のありかたと同じく重要だという結論になっています。

『金融機関の自己資本や流動性の状況は、そのビジネスモデルに大きく左右されます。金融機関のビジネスモデルは、国により、時代により、また金融機関により異なります。問題は、規制当局がビジネスモデルを評価できるかどうかです。ビジネスモデルの違いを踏まえ、自己資本比率規制を見直していくことは、金融政策の運営のあり方と同様、重要な政策課題だと言えます。』


○で、結局結論はこれから出していくのでしょう

で、最後の結びを引用。

『結びにあたり、経済全体としてのリスクテイクの規模を決める要因は結局のところ何であるかを自問してみましたが、単純な回答はないように思います。しかしながら、将来の危機を防ぐうえで、ミクロ・マクロ両面からのアプローチが必要とされていることは間違いありません。』

ということで、これはまあ大変に難しい課題なんだろうなあとは思いますが、今般の知見を将来に生かしていただきたく存じます次第であります。

で、それはそれとして、何かまた例によって例の如く、この講演をニュースに仕立てると、どうせ「白川総裁はバブルに対する金融政策の事前対応の必要性に言及」とかいう書き方になって日銀批判したい人の良い燃料投下になるんでしょうなあとか思う次第ですが、実際に講演内容を読みますとそんな単純な話をしているわけでは無いという事が判るかと思います(^^)。

#結局今日も引用大会になってしまいましたな

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2009/06/18

お題「総裁はメディアのミスリード報道っぷりに不機嫌のようです(^^)」

毎朝の経済ニュース番組(笑)ではメリケン駐在の人たちのコメントが楽しいのですが、今朝は「金融規制法案の規制改革で米国が世界の金融規制のリード役を担う」って・・・・ガイトナーの「厳格なストレステスト実施要請」といい最近のメリケンさんは頭に虫でも沸いてるんじゃないですかね。今に始まった事じゃないのかもしれないけど・・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0906b.pdf

○どう見ても売り言葉に買い言葉です本当にありがとうございました

今回の会見要旨なんですけど、発言のあちこちに白川総裁がいらっとしている感が伝わる感じがして誠に(;∀;)イイハナシダナーというものでございます。まずは上方修正だの底入れだのという話に関する冒頭のやり取りから抜き出して引用。

『なお、ご質問の中で、大幅な見直し、あるいは上方修正という言葉を使われていましたが、先月の会見でも申し上げました通り、日本銀行では、4月末に公表した展望レポートにおいて、既に、「わが国経済は、悪化のテンポが徐々に和らぎ、次第に下げ止まりに向かう」との見通しを示しています。繰り返しになりますが、本日の判断は、こうした見通しに沿った動きが続いていることを確認したものであり、従来の見通しを修正したのではないことを、改めて付け加えておきます。』

という話に対して「底打ちではないのか」という質問が出まして・・・・・

『先程は、今回公表した文章に沿って説明しましたが、改めてご説明します。(下げ止まりの説明割愛)この3点は、それ自体としては先行きの自律的な民間需要の回復を保証するものではなく、公表文で触れている通り、今後の景気動向は内外の在庫調整が進捗した後の最終需要がどのように推移するかがポイントです。』

『この最終需要の回復について、日本銀行はまだ慎重にみていることは文面からご理解頂けると思います。ご質問の底入れという言葉は人によって色々な定義で使われる言葉であり、定義論争を行いたくありません。重要な点は、内外の在庫調整が終わった後の最終需要であり、現在、日本銀行はその点を慎重に判断しているということです。』

と、慎重だという話をしているのにも関らず、その後引き続きこの質問。

『(問) そうしますと、まだ底入れとは言い難いとお考えでしょうか。』

・・・・これはまた挑発ですかという感じですが、答えがどう見ても売り言葉に買い言葉です本当にありがとうございました。

『(答) 繰り返しになりますが、人それぞれで定義が異なる言葉を使って議論しますと混乱を招きますので、あくまでも日本銀行の表現を用いてご説明したいと思います。』

・・・・・いやはや。

ま、昨日も申し上げましたように、過度な楽観ムードになっている報道姿勢(および政府というか政治に対してもそうでしょうねえ)に対して「おまいらそんなに簡単に楽観してるんじゃねえ」と慎重な話を強調したいという考えがあるのに、質問者の方は「景気底打ち!」というヘッドライン先にありきの質問をして来るという状況に対して、白川総裁が会見当初からご機嫌斜めになってしまいましたという感じでございまして実に心温まる展開。

この後の質疑でも『ご質問の点は、本日の発表文でも明示的に触れているほか、その背景にある展望レポートにも詳しく書かれています。』とか『この席でも何度か申し上げていますが、金融機関が抱えているリスクを一定の前提をおいて計算すると、日本の大手行の場合、株式保有リスクがもっとも大きい状況にあります。』など、要するに「判り切った質問すんじゃねえ」的な回答が出ているのには苦笑を禁じ得ないと共に、不勉強な記者は出席するんじゃねえとも思う質疑応答でございました(^^)。

で、その白眉は最後の銀行券ルールの質疑応答。FRBの長期国債買入に対していわゆる銀行券ルールに関する質問があったのですが、それに対する回答から。

『また、長期国債の買入れおよび銀行券ルールについては、この席で何度も話しましたが、ご質問ですのであえてお答えします。』

これなんですけど、会見「要旨」ですのでこのようにマイルドになっていますけれども、会見日に会見詳報ということでテープ起こしをしたのかなあと思われる時事メインの報道によりますと、この部分はこうなっているようですな。

『長期国債の買い入れ、あるいは銀行券ルールについては、この席で何度ももう話したので、わたし自身は「またか」という感じで、あまり気乗りはしないが、質問だからあえて答える。』(時事メイン16日18時58分配信、「白川日銀総裁の会見詳報☆10」より引用)

・・・・・・・(;∀;)イイハナシダナー


○CPの官民逆転はシャーナイナイとな

異例の措置で歪みが生じてないのかという質問に対して、CP市場の官民逆転を引き合いに出しているので、さすがに阿片窟市場状態という事の認識はあるのですな。でも・・・・・

『例えば、企業金融に関して色々な措置を導入していますが、今年の1月に「企業金融に係る金融商品の買入れについて」を発表しました。そこに書かれていますが、CP市場の機能の低下が企業金融全般に悪影響を及ぼしているかどうか、ということがCP買入れの判断材料の一つでした。つまり、CPを買入れることが企業金融全体の改善に繋がっていくのかどうか、という観点で判断したのです。従って、一つ一つの市場の歪みをみて判断するのは必ずしも適切ではなく、全体として企業金融がどのような状況になっているのかという観点から判断すべきだと思います。』

というのが前提にあって。

『歪みという点では、例えば、格付けの高いCPの発行金利が同じ期間の短期の国債金利よりも低いという逆転現象が生じていると報道されています。確かにCPを買入れることに伴ってそうした現象が生じているのは事実です。しかし、そうした現象が摩擦的に起きていても、企業金融全体の改善を図るためには、最終的には企業金融全体で判断しなければなりません。そこに私どもの考え方のポイントがあると理解して頂きたいと思います。』

という話をしています。で、声明文(および今日は時間の都合上スルーする金融経済月報)にありますように、金融環境は全体としては厳しい状況が続いているという話になっておりますので、結論としてはCP社債買入継続という話になるのであります。

ただですな、実際問題として官民逆転になったのっていうのはCP買入よりも企業金融特別オペ効果が大きいのでして、そっちの話を上手いことスルーしているので、そちらに関する見解には興味津々でございます。まー企業金融特別オペだけじゃなくて、CPディーラーのリスク許容度大復活とか、予備的需要も含めて膨らんだ資金需要が一服して引受余力が拡大したとかいうのが要因でもありますけどね。

まあここの質疑応答と、声明文の表現をコンボで考えれば普通に継続でしょという事になるんでしょうが、まあ今後の環境次第でしょう。ただし、日銀の標準シナリオで推移すると仮定すれば、金融環境の改善も時間がかかるでしょとなるでしょうが。

その次の質問でCP社債買入に関する質問が。

『(問) CP・社債の買入れに関してご質問します。導入当初は、市場機能の回復、すなわち、中央銀行が市場メカニズムを改善させるということを言われていたかと思うのですが、市場機能が回復すれば、買入れ措置は廃止するのが普通かと思います。しかし、先行きの下振れリスクが大きい中で、そうした措置を止めると効果は下がってしまうのでしょうか。さらに、金融緩和の効果がある点も否定できないと思うのですが、如何でしょうか。』

これは良い質問ですね。

『(答) 企業金融の現状をどう評価するかが、もっとも大事なポイントです。前月あるいは前々月からの状況をみますと、確かにCP・社債市場の環境は随分改善してきました。先程CPについて触れましたが、社債についても足許は発行ラッシュとも言えるような金額になってきています。しかし、同じ社債でも格付けの低い先、具体的にはBBB格以下については、リーマン破綻前までは一定規模の発行がみられましたが、現在BBB格の発行はほんの僅かであるなど、二極化現象がみられています。』

『また、先程の景気に関する見方とも関連しますが、恐らく多くの企業が懸念していることは、現在の内外の在庫調整が終わった後、本当に景気は回復していくのかということだと思います。何らかのきっかけで金融市場が再び悪化するかもしれないと意識し、企業金融についてまだ自信を持てない状況だと思います。そうした状況を踏まえ、私どもとしては、企業金融の現状について毎回の決定会合で丹念に点検していきたいと考えており、今回は厳しさが残っていると評価しました。次回以降の決定会合でも、入念に点検していきたいと考えています。』

ということで、まだまだ慎重だという話をしています。トーンがより慎重っぽくなっているのは、政府の妙な楽観っぽい動きやらメディアの底打ち報道に対する牽制でもあるのでしょうけれども、今回の会見はこんな感じのが多いですな。


○ところで9月までに見直し云々ですが・・・・

時限措置の議論がどうなってるのって質問に対してですが。

『昨年秋以降、各国の中央銀行は大変に厳しい金融経済情勢を踏まえ、各種の異例な措置を実施してきています。同時に、金融経済情勢が改善していくにも拘わらず、そうした措置を必要以上に長期間に亘って続けると金融市場に歪みを与え、結果的に景気や物価の振幅を大きくするリスクがあることも、最初から十分に意識しています。このため、各国中央銀行は、常にそうした異例の政策の終了時期と円滑な終了方法を意識しつつ、各種措置の制度設計とその運営を行ってきています。そもそも、そうした異例の措置を実施するに当たり、中央銀行がこうした注意深い対応をしていなければ、却って市場の不安感を高めることになりかねないと思っています。』

というのがそもそも論。で、途中端折って。

『そこで、次に、日本銀行が現在実施している時限措置について申し上げると、9月末を念頭に置き、期限を設けて実施している時限措置としては、CP・社債の買入れ、企業金融支援特別オペのほか、米ドル資金供給オペや補完当座預金制度などがあります。このように多くの時限措置があり、それぞれ措置の目的や仕組みが異なっているほか、金融市場や金融環境に与えている効果も様々です。従って、時限措置毎にその対応を検討していく必要があると考えています。』

ここの部分なんですが、「時限措置毎に対応を検討」というのがそのまんま時限措置一本一本に対するものなのか、金融政策対応に対する「3つの柱」即ち(1)政策金利の引き下げ、(2)金融市場の安定確保、(3)企業金融円滑化の支援、の3本になるのですけど、この一本一本という形(まあ利下げの出口はずっと先なので2番と3番の話ですが)でセット販売になるのかはこの辺だけ見てるとよー判らんですな。

『具体的には、今後の経済や金融市場の動向がどのようになっていくかということが、個々の政策を判断する上でもっとも重要な要素です。金融市場や企業金融の動向、各措置の与えている効果などをしっかりと点検した上で、市場参加者からみて予測可能性のあるかたちで9月末までの適切な時期に判断していく方針です。』

ということで、一応必ず延長するとも延長しないとも言ってないのはまー当然ですけれども、そんな感じですわな。

『長く申し上げましたが、要は企業金融の状況を丹念にみて判断していくということに尽きます。』

ということで、さっき引用したCP市場の話になるので、まあ今の状況がそのまま横で推移するなら自然に延長するでござるの巻になるんでしょうね。


ということで、例によって引用ばっかりでどうもすいませんでした。

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2009/06/10

○白川総裁講演メモ

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0906b.pdf

『中央銀行の役割』って所からメモメモ。最初は『システム全体のリスク評価』という話。

『第1の役割として、中央銀行には、実体経済と金融市場、金融機関行動の相互連関を意識して、システム全体のリスクを評価することが求められます。そうしたリスク評価が、金融システムの安定に向けた政策対応の基礎となります。』

と、ここまでは兎も角として、この次からが何とも。

『もっとも、これは「言うは易く行うは難し」の典型的な例と言えます。今回の金融危機が発生する以前から、中央銀行は、金融システムに関する報告書の中で、リスクの高まりについて警告を発してきました。警告を発すること自体は、それほど難しいことではありません。』

>警告を発すること自体はそれほど難しいことではありません
>警告を発すること自体はそれほど難しいことではありません
>警告を発すること自体はそれほど難しいことではありません

全く仰るとおりで。講演の前の方ではこんな話を白川総裁は行ってまして。

『もし将来、あの当時と同じような良好な経済環境、すなわち高成長、低インフレ、低金利と市場の低ボラティリティーに恵まれたとした場合、皆さんは、今度は違った経営戦略を選択されるでしょうか? また、もし皆さん自身は違った戦略を選択されるとしても、競争相手の金融機関経営者は、どのような戦略を選択すると予想されるでしょうか?』

という話ですわな。いやまあ結果から逆算してアホバカ言うのは簡単ですけれども、実際にできるかどうかというのは難しい話。でも「百年に一度だから」をエクスキューズにして「自分もいかれたけれども他人もいかれている」で済ませるのであったら経営者(だったり投資銀行だったり運用担当者だったりクオンツモデルだったりしますけど・・・・)がプロとして存在する意味が1ミリも無い訳でして、可及的速やかに切腹すべきであるという話になるんでしょうな、とか書いてて自分も耳が痛いが(自爆)。

つまり、さっきの続きになりますと。

『また、銀行経営者や市場参加者自身も、そうしたリスクの高まりに、ある程度は気付いているものです。ただ、その上で、本気になってリスクの削減を進めようと思えば、状況を是正するための行動を起こすことが必要となります。分析から一歩進んで、状況の是正に向けた行動をとっていくためには、的確な分析と評価、強い意志、有効な行動を可能とする強固な法的枠組みのすべてが必要です。いずれにせよ、システム全体のリスク評価がなければ、行動は起こせません。』

ということですな。で、そこで中央銀行の出番という話になります。

『中央銀行がそうしたリスク評価の役割を担うのは、極めて自然なことであると考えています。そう考える理由を申し上げますと、中央銀行は、金融政策の運営主体として、マクロ経済に焦点を当てた情勢分析を行っていますし、金融市場の参加者と日々密接に意見交換や情報交換を行っています。さらには、リサーチを重視する組織文化を有している、ということが挙げられると思います。』

ということで次の話になりますが、こちらは『金融政策運営の再考』という話になりますが、ポイントはここですな。

『どの中央銀行も、金融政策だけでバブルを防止できるとか、防止すべきであるとは考えていません。中央銀行にとってより現実的な問題設定は、「資産価格の上昇、信用量とレバレッジの拡大、経済活動の過熱といった、金融引締めの必要性を示唆するような明らかな現象が見られる一方で、一般物価だけは安定しているという情勢に直面したとき、金融政策をどのように運営すべきか」ということだと思います。』

ということで、ここだけ見るといわゆるBISビューといわれるものともちょっと違う言い方をしてますかね。物価と資産価格の乖離が起きた場合にどうするかというもうちょっと現実的な論点ですわな。「バブルは崩壊してから対応」というFEDビューとは全然違いますけど。

『そのような強気のマインドが支配的な状況の下では、金利を多少上げたとしても、短期的には、バブル的な経済活動の鎮静化に大きな効果はないかもしれません。そうかと言って中央銀行が極めて緩和的な金融政策運営を継続すると、信用量やレバレッジの膨張を一段と加速することになります。金融政策とバブルの関係を議論する際には、極端な楽観主義にたつことも、過度の悲観主義に陥ることも適当ではありません。』

『金融政策だけでは、金融・経済活動における様々な過剰の積み上がりを抑えることはできませんから、他の様々な政策との組み合わせが必要になります。ただそうではありますが、金融政策運営が不適切であれば、バブルはさらに膨張し、ついには破裂して経済を急激に縮小させることになってしまいます。』

ということで、やっぱりFEDビューは現実的ではないということですね、わかります。

・・・・・なんてえのを引用しててふと思ったあたくしの雑感なんですけどね、いわゆるFEDビューの問題点って「バブル破裂が小さい時はワークしても破裂が大きい時にはどうにもならん」っていう最近の事例もあるんですけれども、その前のロシアなどの通貨危機での騒ぎとかITバブル崩壊とかの後処理およびその後の状況というのを考えて見ますと、「危機回避」というために打つ施策というのは、その状況が危機下で行われるだけに常に「やり過ぎバイアス」が掛かってしまうんじゃないかと思うのですな。で、そのやりすぎの反動によって次にまた別のバブルが発生して崩壊の連続で徐々にそのバブルが大きくなって行ったのが今般の状況なんじゃねえのかと。

最近の日本の事例で言えば企業金融支援特別オペレーションがそうかなと思うのですが、あのサービスにも程がある施策自体は、導入当初(昨年12月)ではあの位やらないと企業金融の逼迫を緩和する効果が出なかったかも知れないと思いますので、あの時点では適切だったのかなあとも思う次第ですが、市場に資金が戻ってきた現在になってみるとCP市場の阿片窟化を推進する強力ツールになってしまった訳でありまして、まーCP市場の局地的な所で話が止まっているから問題ないちゃあ無いのですけれども(まーあるけどね)、やはり危機下において打ち込む政策は危機脱出の為の強力ツールとなり、それが強力であるが故に諸刃の剣にもなってくれるもんなんじゃないかなあと思った次第です。

・・・・と、余談が長くなってどうもすいません。

でもって、その先のお題は『プルーデンス規制の再設計』『中央銀行サービスの強化』と続きますが、プルーデンス規制の再設計というお題に関しては、先日西村副総裁が講演で指摘していた話題と重なりますのでちょっとだけ引用。

『例えば、プロシクリカリティ(金融と実体経済の間の相互作用)の削減を目的として、所要自己資本に関するプルーデンス規制や引当に関する各種慣行を見直すことが、具体的な課題の1つとして挙げられるでしょう。経済環境が良好なときには、銀行が資本のバッファーを積み増し、経済が悪化したときには、バッファーとして積み増したその資本を金融仲介機能の維持のために使用できるような仕組みを設けることが大事です。』

で、中央銀行サービスの強化というのはこちらは先日白川総裁が「中央銀行は配管工」という話をしていましたが、その話と同じでございます。比喩が面白いので引用するでござるの巻。

『しばしば、金融市場は、比ゆ的に、「継ぎ目のない(seamless)」市場という方向に次第に向かっていると言われます。しかし、金融取引や決済の状況を見るだけでも、実際には、「継ぎ目のない」状態からは程遠いことがわかります。』

で、具体的に日中信用供与の問題とか為替市場でのラグの問題とか、市場急変におけるマージンコールの発生とかを指摘しまして。

『それらの結果として、金融取引の過程において、流動性の漏出(leakage)や一時的な保蔵(storage)が生じることは避けられないため、「継ぎ目(seam)」が生まれてしまいます。危機時においては、そうした「継ぎ目」によって生じる流動性の不足が、状況をさらに悪化させる可能性もあります。中央銀行としては、こうした「継ぎ目」を埋めていくため、どのように中央銀行サービスを提供していくかについて、不断に検討していく必要があります。』

実務担当者的には実にアリガタヤな論点でございます。

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2009/05/29

まずは総裁講演というか挨拶。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0905e.pdf

金融研究所主催の国際コンファランスでの開会挨拶です。

○お題は「金融政策の実践と金融システム」

今回のコンファランスのお題は上記の通りだそうでございますが、最近になって金融政策に関する各国の論点が変化してきているというのはご案内の通り。最初の項『金融システムと金融政策の連関』の最後の方から。

『当時も、私たちは、多くの学界の知見を最大限に活用してきましたが、既存の経済理論ではうまく捉えられないような状況にもしばしば直面しました。』

『たとえば、金融面での不均衡は、良好な経済状況のもとで、信用量の急膨張、レバレッジの急拡大、資産価格の急上昇を通して、蓄積されていきました。バブル崩壊後は、市場参加者は急速に弱気化し、リスクテイク能力を低下させました。結果として、金融政策の有効性は大きく低下し、非正統的手段による金融政策対応が立て続けに採られました。』

で、その対応の多くは速水総裁時代に行われたものだったりします(時間軸のコミットメント明文化だけは福井総裁のときですが、時間軸そのものは速水総裁時代に実施されてますな)。

『金融政策の有効性は、中央銀行の信認に大きく依存します。中央銀行の信認は、中央銀行のバランスシートの健全性や中央銀行の中立性に関する国民の認識によっても影響を受けます。これらの経験は、マクロ経済学や金融論の教科書に、金融システムと金融政策の連関に関する新たな章がいくつか必要であることを示しているように思われます。』

『金融政策運営に関する考え方は、2007 年夏の国際金融市場の混乱以降、間違いなく変化してきました。特に、昨年9月のリーマン・ブラザーズの破綻以降、金融と実体経済の負の連鎖を直接経験したことで、政策議論は一段と変化しました。日本の経験は、もはや日本だけのことではないことが明らかになりました。』


○流動性の重要性

でまあ当時の日本の政策対応の話が続くのですが、そこは華麗にスルー致しましてその次の項にある『流動性の重要性』という所があたくし的に歓喜の項目なので喜んで引用(^^)。

『ここで流動性に話を移したいと思います。現在の金融危機について、その要因をただ1つに絞り込むことはできないと思いますが、私は、流動性が現在の金融危機を理解する上で最も重要な概念であると考えています。信用バブルの拡張期において、積極的なリスクテイク姿勢の背後に、流動性が無尽蔵に利用可能であるという根拠のない期待をもとにした安心感がありました。逆に、バブルの崩壊期においては、流動性枯渇への不安が経済活動の異常なまでの収縮をもたらしました。さらに、流動性の状態は、金融資産の価格評価を大きく変化させ、それによって、金融機関の自己資本の状態も影響を受けました。』

したがってリーマンをいきなりコカして市場の流動性を枯渇させた米国政策当局は猛省すべきであると思いますがそれはともかく。

『ここで、私は、「流動性」という言葉を、資金流動性と市場流動性を包括する概念として使っています。しかし、「流動性」は、決して厳密に定義できるものではありませんし、定量的に正確に測定できるものでもありません。このため、「流動性」という言葉には、いくぶん曖昧さが残ることは認めざるを得ません。しかしながら、「流動性」の状況をある程度評価することは可能です。結局のところ、流動性は、中央銀行業務が始まった時から、経済の実体面と金融面の相互依存関係を理解するうえでの中心的な概念です。中央銀行の主な役割は、これまでも、そしてこれからも、流動性の番人(guardian of liquidity)だといえるでしょう。』

えーっとですね、この流動性の話に関して現場の頭の出来の宜しくないあたくしが感覚的に思う所を勝手に申し上げますとですな(と延々ヘッジクローズ^^)、ポジション持って動いている人的に申し上げますと、「今持ってるポジションをひっくり返す/閉じる事が簡単に出来るかどうか」というのが売買実務的(?)な流動性ってもんなのかなあと思いますです。

例えば短期資金ディーリングみたいなのだと、基本的には足元ファンディングになるので毎日日銭が入るのが普通のポジション(普通の債券ディーリングとは話が違いますので誤解の無いように)のですが、時に思いっきり逆に振らされる事があって、そこをどう凌ぐかがディーラークビになるかクビが繋がるかの分岐点だと思うのですな。で、短期市場の場合は何せ「金融政策変更」というのが年間取引日数から考えたら正規分布の外側にいる訳でして(笑)、まあ日銭入るからと言って漫然とポジション積み上げればよいってもんじゃないですし、逆行った時は全員同じように逃げようとするので、閉じられないポジションを抱えるとそのまま野戦病院送りというケースが多かろうと思われますです。

その辺のポジションとかリスク量のコントロールって、まあ有体に言っちゃえば誰でも必ず1回は何らかの形で痛い目に遭って、そこでコントロールどうするのってえのを感覚として掴むのですけれども、掴まない人は次にもっとでかいやらかしをやって退場になるの巻という話だと思います。まあ確かに今回のベアスターンズが飛んで以来の市場の荒れっぷりは特にイールドカーブの動きの無茶苦茶さが凄かったので、年寄りの感覚も及ばないスケールでもありましたがね・・・・・・

ということで、じゃあその売買実務的(??)流動性ってどうやって計測するのよと言われますと、これまた正直言って現場職人のアートの世界とか言うと大体アホウ扱いされるので申し上げたくは無いのですが(と言いつつアホを自認しているので申し上げてますけどね!)、「答:現場職人の俺様歓喜」(ガッツポーズをするやる大矢のAA略=⊂⊃=⊂⊃=)と勝手に歓喜するのであります。

『このような見地に立つと、中央銀行にとって、経済における流動性の総量を適切にコントロールすることは極めて重要です。しかし、流動性という概念は、必ずしも広義のマネーや準備預金とは一致しないことには留意が必要です。実際、近年の日本では、マネーと経済活動の間に継続的に負の相関が確認されます。経済活動が弱いときにマネーは増加し、経済活動が拡大するときにマネーは減少しています。貨幣乗数もまたかなり不安定です。』

こりゃもう左様でございまして、流動性需要の拡大が金融危機を伴う場合は、問題が悪化する/すると予想される時には予備的な流動性需要が拡大していきますし、問題が解消する/すると予想される時にはその抱え込みマネーが表に出てきますがなっていうところなので、流動性がどうしたこうしたという話をする場合は、その辺りの指標だけ見ててもいけませんがなという事ですにゃ。


○中央銀行の課題

次のパラグラフ『中央銀行にとっての課題』ですけど。

『流動性が重要であるということは、実際的には、何を意味しているのでしょうか。最近の経験をもとに、中央銀行にとっての幾つかの論点と課題に触れたいと思います。』

ということで3つの論点と1つの課題が。端折って印象するです。

『最初に、流動性供給と資本供給の間の微妙な境界について注意を促したいと思います。現在、中央銀行は、非正統的な政策手段を遂行するという喫緊の課題に直面しています。中央銀行の伝統的な役割は、流動性の供給にあります。危機においては、中央銀行は、ときにはある程度の信用リスクをとることで、積極的に流動性を供給しようとします。担保の適格基準の緩和はその一例です。』

ということで、最近に見られるように中央銀行が信用リスクの部分に突っ込んでいく行為には、流動性供給と言いつつも資本供給を行っている面があると指摘し、中央銀行が財政政策の領域に近づくという指摘をしたあと、このようにまとめています。

『そのような状況のもとでは、中央銀行は、政策運営の前提条件である信認が損なわれるリスクにも注意しなければなりません。財務の健全性の悪化や個別の資源配分への大規模な介入といった論点が意識されています。』

信認というのはバランスシートの話だけではないという事ですかね。

『主要国の中央銀行は、一方で物価と金融システムの安定に究極的な責務を負い、他方で民主主義社会における説明責任を適切に図るということのバランスをとろうとしています。普遍的に成立するような明確な答えはありませんが、中央銀行の役割が正しく理解される必要があります。』


で、2番目は最近白川総裁お得意のフレーズ「配管工」が出てまいります。

『第2に、中央銀行は、資金の流れを円滑に効率的にする「配管工」(plumber)としての役割を果たすことが期待されます。ここで重要な分野は、決済システムと中央銀行自身のオペレーション手段です。』

ということで、先日の外国債クロスボーダー担保の話が出てますが、それよりもオペレーション手段の更なる工夫が必要という話のような気がします。


3番目は各国の連携による制度構築のお話をしてますが、その中から引用するとここの部分ですな。

『特に、プロシクリカリティの問題に関しては、ルールや市場慣行に関する適切なインセンティブ機構を構築し、ミクロ・マクロ双方のレベルでインセンティブをコントロールしていくことが求められます。』

先日ご紹介したシカゴやロンドンでの講演要旨にこの辺の話がより詳しく説明されていましたね!


で、最後の課題ですけど。

『最後になりますが、流動性の重要性が十分に意識されると、金融政策はどのように運営されるべきか、という点にも注意を促したいと思います。この点では、中央銀行におけるリサーチが極めて重要になります。』

で、その中では金融面での不均衡の蓄積に注意ということで、まあ所謂BISビューに近そうな論点が出ているのでした。

『良好な金融・経済情勢のもとで低金利が長く続くと、過剰な自信が生まれ、資産価格、担保価値の急激な上昇だけでなく、所得、利益の急上昇を招きやすくなります。すると、リスク認識が甘くなるとともに、リスクテイク許容度が高まります。結果として、金融システム全体における積極的なリスクテイク行動が大きく高まる一方で、金融面での不均衡の蓄積が見過ごされ勝ちになります。このような金融面での不均衡は、経済環境が悪化し始めたときにはじめて顕在化します。』

現行の制度設計の元ではいわゆるプロシクリカリティは拡大方向になり易いと体感的には思われる次第でありまして、その辺の制度設計は難しいと思います。という話をしてるのかと思ったらどさくさに紛れてこんな話を(^^)。

『複雑な波及経路とさまざまな経済主体の行動的側面を考えると、金融政策の制度設計は極めて難しい課題です。たとえば、金融政策の対外説明において、その時間的視野は、インフレーション・ターゲティングで通常想定される標準的な時間的視野と比べて、より長くとる必要が生じます。この場合、もうひとつの重要な政策課題は、いかにして金融政策の透明性を確保するかです。』

いやまあBOEの物価見通しとか既におまいらのインフレーションターゲットはどこに逝ったんだよという数値になってますけどね!

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2009/05/27

米国財務省証券10年物3.5%越えキタキタキタ!

大型連休前に改善されたかと思ったCP市場の阿片窟ぶりに益々拍車が掛かっている話もしないとイカンのですけどね。

○金沢での総裁講演:企業金融の動向に注意

まずは金沢での総裁講演から少々。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0905d.pdf

景気に関する見方についても色々と話をしているのですが、まあ基本的に先般の定例記者会見や金融経済月報でフォローできる話ですので、その辺を華麗にスルー致します。で、金融環境に関連して。

『昨年秋以降の米欧の金融危機の影響は、わが国の金融市場にも波及しました。すなわち、短期金融市場では、銀行間取引金利と短期国債金利とのスプレッドが拡大するなど、緊張が高まりました。また、CP・社債の発行環境が急速に悪化しました。』

『今回の金融環境の逼迫は、出発点が国際的な信用収縮であったことから、この間の変化という点では、中小企業以上に大企業の資金繰りが急速に悪化したことに大きな特徴がありました。海外の金融資本市場の動揺は、海外での銀行からの借入れや国内のCP・社債市場での発行が困難化するというルートを通じて、国内の大企業の資金繰りを直撃しました。そして、資金繰りの悪化した大企業は、銀行からの借入れを増やすとともに、先行き不安から手元資金の積み上げを図りました。そうした大企業の資金繰り悪化は様々なルートを通じて、中小企業の資金繰りにも影響を及ぼしました。』

というのはご案内の通りですね。で、日銀は特別オペを実施したりCPの買入を実施したりしたのですが、その結果どうなったかと言いますと。

『実際、国内金融市場の状況をみますと、潤沢な資金供給によって、短期金融市場は徐々に落ち着きを取り戻し、企業が実際に資金を調達する際に適用されるやや長めの金利も低下しています。また、日本銀行のCP買取り等の効果もあって、CPの発行環境は改善しています。』

よく言う「企業が実際に資金を調達する際に適用されるやや長めの金利」って持って回った言い方はTIBORの事ですよね(^^)。で、CP発行環境ですけれども。

『すなわち、昨年秋のリーマンブラザーズの破綻を契機に、企業に対する市場の見方は厳しさを増し、企業は、短期国債金利にかなりのスプレッドを上乗せした発行金利でなければ、CPを発行できない状況となっていました。』

というよりは、企業の予備的な資金需要と金融機関の予備的な資金需要がつみ上がったことと、株価下落による銀行の資本制約によって市場性商品でのクレジット物に対する配分資本がへったことに加え、ちょっと過剰なリスク回避姿勢が各種要因(当時のドラめもんをみてくんなまし)により発生したことなんかによってCPレートが上昇したちゅう所ですかね。つまりCPホルダーのうち一方にある銀行ディーラーの資金繰りが逼迫した事と、もう一方の最終投資家では市場の資金逼迫に対応して解約等に備えたキャッシュ比率引き上げの動きとか、リスク回避姿勢の強化によって金利がアホほど上昇したという感じですかな。

でね、まあ当時色々と悪態を申し上げておりましたように、GCレートの高止まりとかに対して調節が思いっきり自然体にも程がある(最近の当座預金残高と11月頃の当座預金座残高を比較してみるヨロシ)状況だったのも逼迫感に拍車を掛けたのでありまして、そう簡単に「企業に対する市場の見方は厳しさを増し」で片付けられるのも如何な物かと思いますが。

『しかし、日本銀行をはじめとする政策対応が進められた昨年末頃より、徐々に改善に向かい、足もとでは、上位格付先の発行金利のスプレッドは、リーマンブラザーズの破綻前の水準まで低下しています。また、格付がやや低い銘柄の発行金利のスプレッドも、着実に低下しています。』

えーっと、リーマン破綻前の水準「以下」になっておりますが・・・・・・(-_-メ)


白川総裁の講演からちょっと脱線しますけどね、円債のクレジット市場って毎度毎度思うのですけれども、「買う」「買わない」のデジタル的な2択状態というのが仕様みたいなもんで、いざ「買う」となりだすと買い対象になっている銘柄群だけひたすらスプレッドを潰しに行って、極端になると今のCP阿片窟市場のように、「買い対象銘柄群だけ」銘柄間格差もへったくれも無いような状態になっちゃい、買わないとなると今度は味噌も糞も叩き売り状態になるの巻というデジタルにも程がある動きをするんですよね。結局のところ投資家の多様性が確保されていないってえ事になるんですけれども、これは横並びとかいうだけの問題ではなくて、規制当局による画一的な規制もまた影響しているのではないかとか思うのですが、まあその話はまた後日。


社債の話は割愛してまとめの部分。

『このように、CP・社債の発行環境が着実に改善していることに加え、昨年秋以降みられた手元資金積み増しの動きも後退しているため、大企業の資金繰りには一服感が出ています。中小企業の資金繰りについても、政府による緊急保証制度などの政策対応が下支えの役割を果たしています。』

『以上のように、企業金融を巡る環境をみると、ひところに比べて緊張感は後退しています。ただし、企業業績の悪化などを背景に、資金繰りや金融機関の貸出姿勢が厳しいとする先は依然として多く、全体としては厳しい状態が続いていると判断しています。また、先行きについても、景気の動向如何ではありますが、企業の収益環境が引き続き厳しい中で、企業の信用リスクに対する金融機関や市場の見方が厳しさを増す可能性は否定できません。また、株価が大幅に下落した場合には、銀行の資本制約が強く意識され、貸出姿勢の厳格化に繋がるリスクにも留意していく必要があると思っています。その意味で、企業金融の動向については、引き続き注意深くみていく必要があると考えています。』

企業業績悪化による貸出姿勢に関しては「貸し渋り検査」なるものを実施しておられるようですので、当然ながら金融機関の自己査定を緩和するように金融庁様が動いておられると期待しております次第でございますが、そうは言っても企業業績悪化だの格下げアクションだのという話が出る場合、株価下落で銀行の資本制約が厳しくなる場合のリスクに注意という事ですな。

まー基本的にはこの辺りの動向が次の金融政策アクションに影響を与えるという認識で見ておけば宜しいのではないでしょうかと思います。で、この先で金融政策の説明もしているのですが、これも従来の話と同じですので割愛致します。

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2009/05/26

お題「総裁定例会見」

出来ましたらネタは一度に出さないで頂きたく存じます(汗)。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0905b.pdf

○最初に「言葉の定義」の話が出ています

冒頭の説明部分と最初の質疑で「言葉の定義」に関して白川総裁が連発して言及しております(該当部分だけ引用してます)。

『それから、先程質問の冒頭で今回「景気判断を上方修正した」と指摘されましたが、上方修正というのは定義によるのだと思います。今回の景気の落ち込みについては「崖から落ちる」とか「フリーフォール」など、色々な表現がありますが、そういった状態はとりあえず過ぎ去りつつあると思っています。4月末に公表した展望レポートでも、わが国経済は悪化テンポが徐々に和らぎ、次第に下げ止まりに向かうとみられると想定しており、足許の状況はほぼそうした想定通りに変化してきているとみています。従って、景気は私どもの予想通りに展開していますから、これが「上方修正」という言葉に馴染むのかという気持ちはありますが、本日の決定会合での決定内容は以上の通りです。』

ということで、「上方修正」ではなくて「想定の範囲内」というのが正しいという説明を加えております。まあここからは勝手な想像になりますけれども、「上方修正」という言葉のイメージが独り歩きして楽観ムードと見られることに関して釘を刺したという所なのではないでしょうか。

というのは、次の質問で1−3GDPを受けて「景気の底を打ったのではないかという意見があるが如何」とあったのに対して総裁はこのように指摘いる訳でして。

『「景気の底を打った」という言葉自体は文学的な表現であり、お答えするためには「底を打つ」ということについて定義が必要だと思います。』

まー何ですな、先般ご紹介した講演で「偽りの夜明け」での楽観に警戒が必要だという話をしておりましたことも踏まえますと、白川総裁としては今般景気が何となく底打ち感を出している状況に対して「偽りの夜明け」的な警戒を持っているのではないかとあたしゃ想像するんですよ。まあ勿論総裁が本当に何考えているかなんぞあたくしが知る事は出来ませんけど、ここもとの講演や、今回会見の頭で言葉(しかも景気に対する楽観的な)の定義に関して連発で拘る発言をしている所を合わせると、「偽りの夜明け」によるダマシに引っ掛からないように警戒していると想像されるのです。

あとは、メディアが毎度お馴染みの如くヘッドラインにバイアスを掛けて、「上方修正」だの「底打ち」だのとイメージ先行で煽ることに対して、一つは日銀が景気先行きを楽観視していると間違えられたくない(展望レポート標準シナリオが経過しているという線であればそう簡単に楽観にならない)という点と、もう一つはその報道によって「偽りの夜明け」を夜明けとミスリードすることに関して警戒しているんじゃないでしょうか。

などとこの会見冒頭部分を見て思ったのですけれども、白川総裁のホンネはどの辺りにあるんでしょうかねえ・・・・・・


○と言うわけで標準シナリオ範囲内とな

後の方の質問で不確実性について質問されまして。

『(問) 今回の景気判断は、4月末の展望レポートで想定した道のりをほぼ歩んでおり、リスク要因としても不確実性が引続き高い状態であるとのことですが、その不確実性の高さというか不透明さについても、4月末に想定した状況がまだ続いているという理解で宜しいのでしょうか』

『(答) 不確実性の不確実度合いはどうかというご質問になるかと思います。明示的に各政策委員に聞いたわけではありませんが、私自身は、不確実性の度合いがこの20 日間で大きく変わったとは受け止めませんでした。従来と同じように不確実性が大きいということです。』

で、以下割愛しますが、不確実性が大きいので、ピンポイントの数字(成長率など)で見るというよりは全体的にどうなっているのか見てくれって話もしておりまして、展望レポートの標準シナリオの範囲内という話であって、その展望レポートの標準シナリオってのはご案内の通りでして、先行き回復への道は遠いですし不確実ですし物価は全然上昇していきませんよってな話でございますっちゅう事なんでしょ、と思いましたです。



○クロスボーダー担保について

『今回の措置の趣旨については先程簡単に申し上げましたが、改めて申し上げます。近年、国際金融市場の混乱や機能不全を契機として、金融安定化フォーラム──現在は金融安定化理事会と呼ばれていますが──といった場において、クロスボーダー担保の受入れによる流動性供給の実現が各国中央銀行の検討課題とされてきました。こうした中で、主要国の中央銀行では、外国国債等を担保として適格化する動きが広がっており、日本銀行としても、各国と協調しつつ外国国債の適格担保化についての検討をこれまでもずっと進めてきました。ご記憶にあるかわかりませんが、昨年9月の決定会合後の記者会見やその前後の講演でも申し上げてきた通り、クロスボーダー担保の検討はずっと行ってきました。そうした検討が進み、ようやく本日ここに至ったということです。』

法律的にも事務的にも詰める面が多いですし、先様がそれどころの場合じゃないというのもあったんでしょうかね(^^)。

『現状、国内外の金融資本市場の情勢は改善の方向にありますが、なお不安定であることを踏まえ、外国国債を臨時に適格担保とすることとしたわけです。今回の措置は、金融市場の情勢に応じて適格担保を拡大することによって金融調節の一層の円滑化を図り、これを通じて金融市場の安定確保に資することを狙いとしています。それから、先程の説明では省略しましたが、今回適格化する外国国債は、日中当座貸越など金融調節以外の与信の担保としても利用できるようにすることから、円滑な資金決済の確保を図ることを通じて、金融システムの安定にも貢献すると考えています。』

ということは在日外銀とかが助かるんですかね。

『そのうえで今後については、クロスボーダー担保がどの程度使われるかということや、この担保の利用には実務的に大変な面もあるので、そうしたことも踏まえてこれから考えていきたいと思っています。今回、臨時の措置としつつ期限を定めていませんが、先程のご質問のような趣旨で定めなかったわけではありません。』

ということで、まあ担保効率の向上って話だと思うのですが、この質問した人は妙に出口政策の話をしようとしていまして、順序逆になるんですが、質問を引用して見ます(前後割愛しますが)。

『これから景気が持ち直す局面になると、期限があることによって例えば利上げ時期を探る1つの材料になったり、その意味でマーケットにインパクトを与えたりしかねないと思います。そうしたことを配慮して今回の措置には期限を定めなかったのか、それとは全く別の発想だったのかについて教えて下さい。』

・・・・・いやまあその時になってみないと何とも言えませんけど、利上げ時期を探るというレベルの問題になるかに関してはちょっと?が飛びまくり。順序としては各種の臨時措置の解除が来てそれから利上げまではタイムラグあるんじゃないですかって思いますけど。

まーそれ以前の問題として、現状の各種臨時措置っていつ出口になるのよって話は思いっきり致しますけどね。この質問者は次にこういう質問してます。

『出口政策を意識し始めたので期限を定めなかった、という解釈でよろしいでしょうか。』

・・・・・・???????

さっぱり意味判らん質問ですな。出口意識したら逆に期限定めるでしょうに・・・・


○で、タイミングは図ったのですか?

という素敵な質問がございました。米国債券市場における格下げリスクに対応した措置ですかっていう話ですな(^^)。

『ごく最近の海外の国債の格下げリスクが今回の決定の背後の要因なのかというご質問ですが、それは全くありません。私どもとしては、検討が済み次第早く実行したいという気持ちを持っていましたが、それがこのタイミングであったというだけです。国際金融市場のグローバル化が進み、特にこの1〜2年は国際金融市場が動揺しており、中央銀行が流動性を円滑に供給できる体制を作っておいたほうがいいという大きな流れの中で、今回の措置は出てきたものであり、それに尽きています。』

ほうほうそうですか(棒読み)。


○まあ2極化継続はその通りでっしゃろな

『(問) CPと社債の買入れについて伺います。4月の金融政策決定会合では、一部の委員の方から、CP金利が国債金利を下回っていることが市場機能に悪い影響を及ぼしかねないとの発言があったとのことです。最近ではBBB格銘柄の社債発行が再開される見通しにあります。こういう状態は、買入れの基本的な考え方で定められている「著しい市場機能の低下」という条件と合わなくなってきているのではないかと考えるのですが、認識を教えて下さい。』

ある意味別の方向で「著しい市場機能の低下」になっていますが(-_-メ)。

『(答) 確かにCP・社債市場では二極化ともいうべき現象が起きているように思います。上位格付の銘柄については発行条件もよくなっており、発行量も増えているということですが、その一方で、CPにせよ社債にせよ、下位格付の銘柄については基本的にはまだ発行できない状況だと思います。例えば、社債について先ほどBBB格銘柄の発行の話がありましたが、私どもとしては、発行の裾野が広がっていくことを期待しています。現状、BBB格の社債が発行されることはプラスなのですが、業種という面ではまだ広がりがあるわけではありません。そういう意味では、社債市場がかつてのような状況に戻っているとはまだ判断していません。』

結局ですね、「買える銘柄群」と「買えない銘柄群」が明確にあって、その中で買える銘柄群に関してクレジットスプレッドが縮小し、買えない銘柄群に関してはまあ投げ売りモードは一服したかもしれないけれども、別に新規の買いが入っている訳でも無いからダメダメ状態のままで気配値だけ何となく戻っているという所だと思うんですよ。買えない銘柄群で言えば、特定業種や特定企業で投げ売り大会になって極端に開いたスプレッドが縮小したように見えるのですけれども、まー所詮は気配値の世界じゃないんですかちゅう感じじゃないっすか。実際にその手の銘柄売りに行くと相変わらず話は全然違うと思います。

で、買える銘柄群に関しては特に短期ゾーンでは企業特オペと緩めの資金供給の継続というコンボによってスプレッドが縮小し、CPに関して言えばメーカー系中心に発行を抑制(金融系はそんなに変化しませんが)したことも重なり、CPにおいては銘柄間のスプレッドも思いっきり縮小したでござるの巻。つーかそもそも短国よりもレート低いですけど(笑)。

という観点で言えば、まあ市場機能回復には程遠いという認識に同意するものでありまする。


○BISビューとFRBビュー

これはあたくしも聞きたい質問ですな(^^)。

『(問) 大幅な景気変動に対する金融政策の対応において、事前段階からある程度関与するべきであるとするいわゆるBISビューと、事後的に対応するしかないとするFRBビューについて、総裁は昨年4月の記者会見において、自分の考えは敢えていえばその中間にあるとおっしゃいました。先般のロンドンとニューヨークでの講演内容を拝見すると、どちらかというとBISビューにより近いという印象を受けましたが、この1年間で総裁の考え方が変わったのでしょうか。それとも別の事情があるのでしょうか。』

『(答) 便宜的にFRBビューとかBISビューという言葉を使いましたが、FRBやBIS自身が自分たちの公式見解であると明確にいっているわけではありません。私としては当時も今も考え方を変えていませんが、色々な国際会議に出席して感じることは、この1 年間で、政策当局者あるいは学界の議論が随分変わったということです。』

『どのように対応すべきかという点が重要ですが、現時点ではマクロ・プルーデンスといったような言葉で表されますが、金融政策面および金融システム面で色々な議論が進みつつあります。ただし、問題の所在は指摘できますが、具体的にどのように改善を図っていくのかという点については、今後数年間の最も大きな課題だと思います。ご質問の点については、私の考え方は両者の中間で変わっていません。』

ただまあFRBビューではやはり山と谷が深くなるのを覚悟しないといけないということは今般の推移で明らかになったんじゃないのかなってはあたくしは思いますけど。バブル崩壊に対して別のバブル発生して、先に行けば行くほどその振幅がでかくなっているという経過でしょと思ってますので。


○長期金利動向への言及

クロスボーダー担保の質問の中で話がちょっと横になってましたが、ここはちょっと気になったです。

『ご質問の趣旨から多少ずれるかもしれませんが、例えばこの数か月間の欧米の長期国債金利の動きをみますと、若干上がってきています。これは、景気の大幅な落込みがどうやら終わってきて、少しずつ明るい材料が出てきており、その結果先行きの経済の見通しは少しずつ明るくなっているということを反映していると思います。』

勿論それもあるのですが、財政出動に伴う国債需給の悪化も反映しているのではないかと思います。クレジットスプレッドや流動性リスクプレミアム縮小する中での国債金利上昇ですので、まあ勿論ベースに改善期待があるというのもその通りなのですけれども・・・・まあその辺先刻ご承知でこういう言い方になっているのだとは思いますけどね。

『この間、FRBやBOEは長期国債の買入れを実施しましたが、結局、長期国債金利の姿、動きを決めるものは、経済成長率やインフレ率の先行きに関する市場参加者の見方であると思います。短期的な話ではなく、一般的な話として申し上げますと、そうした長期金利が語っているシグナルをシグナルとして受け止めていくという姿勢が大事であると思っています。』

つまり「長期国債金利への働き掛けで金融緩和を行えばよい、歴史的にもそれが有効である」とかつて日銀に向かって言っていた逆さ絵のオジサンへの悪態ですね、わかります(^^)。

まー目先は格下げだ需給悪化だ何だというのと、そもそも金融緩和+財政拡大というコンボは普通にイールドカーブスティープ要因でしょという市場参加者の認識が長期金利を上げている(気がつきゃ米国財務省証券10年もの利回りって3.45%とかに上昇してるじゃねえか)のでしょうけれどもね。


#ということで他のネタに案の定手が回りませんでした。どうもすいませんm(__)m

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2009/05/15

お題「白川総裁のロンドンでの講演」

CPのレートとか短国のレートとかもそうですし、債券市場もそうなんですが、何かどこから金が沸いて出てきたのか知らんが昨日は妙に買い買いっぽい感じだったんですが、あれは一体全体どういう流れなのやら。

・・・という話もしたかったのですが、この講演だけでお腹いっぱいでございます。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0905b.htm

ロンドンでの講演の日本語訳なので英文読むのが正しいありかたという説は少々ございますが、当然ながら日本語版で勘弁(^^)。

○分量は多いのですが中身は中々

PDFで本文16ページありまして、1ページ目が表題で最終ページが脚注なのでファイルそのものは18ページという量なのですが、中身は白川総裁が最近得意とする、というか米国やら英国やらで絶賛大問題になっている金融危機問題に関する講演、というか白川ゼミって感じ。ページ数多いので一瞬読むのどうしようかとか思いそうですけど、内容的にはスラスラと読めるんじゃないかって所です。

・・・・と書くと話が終わってしまいますので、中身をかいつまんで読んで見るの巻。内容的には重要な論点に次々と言及してて、正直言って要点紹介ってのがちと難しいので、出来れば全文ご覧になることを推奨致したく存じますです、はい。では参ります。


○政策当局が事態解決に万能だと思うのは・・・・・

『3.謙虚に歴史の教訓を学ぶことの大切さ』って小見出しの所から。

『歴史を振り返ると、金融危機は繰り返し発生してきました。(事例紹介部分割愛)こうしたエピソードから分かるとおり、我々は、自己満足に陥らないように、謙虚である必要があります。』

『より具体的には、以下の2つの思い込みに陥らないよう注意しなければなりません。思い込みの1つは、良好な経済環境は将来に亘って継続するという予想であり、もう1つは、バブルが破裂しても、事後的に政策当局が積極的な金融政策や財政政策を行うことで適切に対応できるとの見方です。』


先日もNYで似たような話をしてて、「BISビューキタコレ」とかコメントしましたけれども、この部分ではどちらかといえば「事後的に適切に対応すればバブル崩壊しても大問題にはならないっていうのは傲慢な考え方なんですよ」ってニュアンスになってまして、BISビューキタコレというよりは金融財政政策にも限界があるっていう話なんじゃないかなあと思います。ま、そーゆー点ではバーナンキさん(現在のバーナンキ議長というよりは以前のバーナンキさんですかね)的なある種の政策万能的な発想に対して「当局は謙虚になるべき」って話なんじゃないかなあって思いましたです。

で、『全ての金融危機に共通していることは、良好な経済環境が続いた後に発生するという点です。』ということで80年代後半の例を挙げて説明していますが、まあそこは割愛して最近よく言われる『警告はしばしば無視され、パーティーで参加者が踊っている間は音楽にかき消されてしまいます。』というので締めてます。で、その続き。

『危機は繰り返し起きているにもかかわらず、我々はなぜ教訓から学ぶことができないのでしょうか。』

『第1に、記憶は薄れてしまうからです。先程申し上げたとおり、金融危機の下でも、わが国の金融機関は相対的に健全性を維持しています。幸運なことに90 年代の日本の危機からそれ程長い時間が経っていなかったため、経営陣はその際の痛みを鮮明に覚えており、複雑な形でリスクを取ることに対して慎重でした。ただし、将来も同様であるとは限りません。』

日本でも鮮明に覚えていなさそうな金融機関もあるような気がしますが(苦笑)。

『第2に、危機を直接経験せず、他国で起きたバブル崩壊やショックを傍観したり書物で読んだりするだけでは、危機の教訓を学んで必要な予防策を採ることは難しいからです。日本の危機について書かれた文献は多くありましたし、実際幅広く読まれていた筈ですが、その教訓が正しく認識されていたかどうかは疑問です。』

三洋証券をいきなりこかして大変な事になったという超有名事例があったのにポールソンにバーナンキと来たらリーマンを・・・・・・

『第3に、危機は毎回異なった形で現れるからです。日本の危機と現在の世界的な危機には、共通点が多くありますが、違いも多くあります。日本のケースでは、不良債権のほとんどは銀行の商業用不動産向け貸出であり、本質的には国内の銀行セクターの問題でした。これに対し、現在の危機はグローバルな性格のものであり、銀行セクターと資本市場の双方に跨っています。また、CDO スクエアードやオフバランスシート・ビークルなど複雑な商品や仕組みの形を採っているため、危機の性質を複雑なものにしています。』

それなのにストレステストは随分と早いげほげほごほごほ。

で、さっきの当局は謙虚になるべき部分ですけど。

『さらに、現在の危機の前には、たとえバブルが崩壊しても事後的に積極的な金融緩和を講じることによって経済の急激な悪化は避けられる、という見方が政策当局や学界の中で広く受け入れられていました。ただ、私自身は懐疑的でした。しかし今や、危機が長期化するに連れて、こうした見方は急速に後退しています。』

『中央銀行の政策金利はゼロに近付き、バランスシートは大幅に拡大しています。信用緩和政策(credit easing)を採用した中央銀行もあります。しかし、金融システムと実体経済の負の相乗作用は、一部には多少改善の兆しも見られるとはいえ、根強く残っています。先程述べたような無邪気で楽観的な見方を無条件に信奉することは今やできないでしょう。』

『要するに、政策当局や民間経済主体、学界は、いずれも謙虚である必要があるということです。金融と経済の間の相互関係やダイナミクスを完全に理解することは、大変難しいことです。』

お話の上で出来る出来ないというのと、実際にやろうとした時に出来る出来ない、またはワークするのかしないのかという点っていうのは別問題なのだっていう話なんでしょう。


○流動性リスク管理の重要性

その次の『4.国際金融システムの再構築へ向けて』って所から、最近の金融危機の状況に関して流動性リスク管理問題の重要性を指摘しています。

『なぜ、市場参加者や当局は、差し迫ったリスクに対する警戒を怠ったのでしょうか。なぜ、水面下の問題を発見してリスクを削減する措置を採ることができなかったのでしょうか。この点に関して私が重要と考える3つの点を指摘したいと思います。』

以下の説明はちと長いのですが、重要な論点が続いていて端折るのも難しいのでまんま引用させて頂きたく存じますです。

『第1に、今日の金融市場においては、資金流動性と市場流動性の双方を慎重に評価することが必要ということです。これには2つの側面があります。』

『1つは、流動性と自己資本の相互関係です。』

『たとえば、一部の証券化商品などの複雑な商品については、価格評価とリスクをカバーするために必要な自己資本の水準は、市場流動性と資金流動性の双方に依存しています。規模の小さい市場では、市場流動性が低下すると価格が急落し、銀行の収益や自己資本水準に対する下押し圧力となります。』

『また、主要なディーラーの自己資本が不足すると、マーケットメイク活動に制約が生じ、さらに市場流動性が低下することになります。つまり、所要自己資本の水準は、原資産の信用リスクだけでなく、市場流動性リスクの評価に大きく依存するということです。また、安定的な市場環境のもとで、市場参加者が似通ったポジションを積み上げることから生じるリスクも存在します。こうした状況のもとで、市場環境が悪化すると、皆がポジションの解消を急ぎ、市場の緊張がさらに高まる結果、価格の下落を引き起こします。』

上記の状況、日本の市場では証券化商品市場もそうですけれども、一番顕著にでたのは実は物価連動国債市場だった(今も続いてますが)かもしれませんね。規模の小さい市場の中で主要参加者の海外投資家が自己の資金流動性確保の為にポジションの解消に走ったことから元々低かった市場流動性が更に低下して市場の緊張が高まって・・・・の繰り返し。

『2つ目の側面は、長期の資産を短期の負債でカバーする場合の流動性ミスマッチです。このこと自体は銀行業に伴う根源的なリスクですが、危機の前の局面では過小評価されていたように思われます。』

『危機以前は、CP 市場やインターバンク市場は常に機能し、充分な流動性が確保できると想定されており、これが、たとえばSIVs などでの大規模な流動性ミスマッチの拡大に繋がりました。AAA 格資産の価値評価は疑われることもなく、ほとんどリスクがないとみなされていました。市場規模や商品の複雑さに関係なく、必要になればいつでも売却してキャッシュを調達できるとの判断の下、流動性リスクが一層積み上がりました。』

これまた証券化市場だけじゃなくて、プレーンな市場でもマーケットメーカーの体力低下で資金流動性の低下が生じ、ドルベースの取引市場での流動性低下をカバーする為に他通貨市場に流動性確保の動きが生じて色々な市場に波及しちゃいましたもんね。


『第2に、レバレッジが積み上がるメカニズムと、その巻き戻しがもたらす影響を理解することが不可欠ということです。』

『市場の混乱が始まる前には、レポなどの伝統的な手法とオフバランスシート・ビークルや証券化商品といった非伝統的な手法の両方を通じてレバレッジが拡大していました。レバレッジ拡大の多くは伝統的な金融機関の外側で生じており、世界中の様々な投資家が保有する複雑な商品に内包されました。その結果、金融システム全体のレバレッジの水準や、一旦巻き戻しが起こった場合の悪影響の大きさについて、誰も正確に把握することができなくなりました。』


『第3に、分散投資とヘッジ戦略の効果を正しく認識することが重要ということです。』

『市場参加者は、完全には分散またはヘッジすることができないリスクも存在することを理解する必要があります。たとえば、住宅ローン担保証券(Mortgage Backed Securities)は、全国的な住宅価格の下落といったマクロ的なショックから生じるリスクを回避することはできません。また、ヘッジにはカウンターパーティー・リスクやベーシス・リスクがつきものです。AAA 格の取引相手だからといってリスクがない訳ではありません。更に、極端なストレス時においては、ヘッジ戦略の効果は低下します。つまり、通常の市場環境の下ではヘッジされたように見えるリスクも、安定的な市場環境が崩れると、復活してくる可能性があるということです。』

これは全くその通りでございますが、一方で相変わらずバーゼルUでは「中小企業向け貸出は分散が効いているのでリスクウェイトが低い」とか(まあ政治的にそうなって理屈後付けの香りは思いっきりしますけど)いうお洒落な所要資本計算してたりする次第でありまして、正直バーゼルUをもうちょっと何とかした方が良いというか最初から作り直した方が良いのではないかと思う今日この頃。


ということで、次の話になるのですけれども・・・・・・

『グローバルな金融危機の原因は多面的であり、教訓や改善すべき点は少なくありません。既に他でも再三指摘されていることの繰り返しとなりますが、その教訓としては、@市場参加者によるリスク管理の改善、A市場規律を高める観点からのディスクロージャーと透明性の向上、B当局による規制の改善と監督の強化、C当局間の国際的連携の一層の強化などが指摘できます。もとより、これらは全て重要な点ではありますが、以下では、中央銀行の視点から、国際金融システムを再構築していくうえで、私自身が重要と考えている二つの視点についてお話しします。』

という事なのですが、ここから先を引用しているとこれまた話が超長くなる(実はここまでで講演の半分)のでまあ上記URL読んでちょ(来週に続くかもしれませんが)ということで、途中を全部端折りまして、『長期的な観点を持った主体としての中央銀行』って所に参ります。



○中央銀行の長期的な観点・・・というか白川節というかバブル予防的スタンスというか

『第4に、経済や金融市場は常に変化しており、将来を全て見通して詳細なルールを事前に策定することは現実的ではありません。中央銀行は、こうしたルールの限界を補う存在です。最近の金融政策面での経験はその良い例です。』

ということで、長期的な観点に関する説明が始まります。

『全ての中央銀行は、経済の持続的な成長の前提である物価安定の維持という長期的な目標を有しています。問題は物価安定をどう定義し、物価安定を実現するかです。ほとんどの中央銀行は、理解や定義、目標といった違いはありますが、物価安定について数値を用いて表現しています。日本銀行の場合は、「中長期的な物価安定の理解」として数値で表しており、英国はインフレーション・ターゲティングの枠組みを採用しています。独立した中央銀行として金融政策の運営上説明責任を有しているため、これらの数値は重要な役割を果たしています。』

『しかしながら、中央銀行が特定の数字を提示することにより、中央銀行が短期的な物価上昇率だけに着目しているという認識を社会全体が持ってしまうと、低インフレと金融経済活動の過剰なブームが共存するときにバブルの発生が助長されるといった意図せぬ結果に繋がる可能性もあります。そうなると、物価安定の維持と金融システムの安定という長期的な目標を達成する妨げとなりかねません。』

ということで、以下は信用バブル発生に対するマクロプルーデンスの話とかになるのですが、その中でフリードマン教授の「金融政策の役割は、金融市場と金融システムの円滑な機能を維持すること、および物価安定の2つ」という指摘を紹介しながら説明しています。が、例によって引用するとまた長くなるので本文読んでちょ。

まとめの『6.おわりに』の最後の部分もまあその話。ここに出てくる配管工云々の話とかは途中すっ飛ばした所に関連する説明がございますです。

『中央銀行は、実体経済と金融システムの双方に関するマクロ的な視点と、決済システムについての「配管工」としての専門的知識、市場参加者とのやり取りを通じて得られるリアルタイムの知見を有する主体として、将来の危機を予防する上で重要な役割を果たすことができますし、また果たしていかなければなりません。これは中央銀行にとって大きな責任を伴うものです。中央銀行は、他の当局とともに、こうした役割をしっかりと果たすことができるよう、各中央銀行自ら、また他の中央銀行との協調のもとで、幅広く取り組んでいく必要があります。さらに、金融機関やその他の市場参加者との緊密な協力も不可欠です。』

ということで、やはり白川さんいつものバブル事前予防型な話になってますなあ・・・・

#引用大会で誠に恐縮至極

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2009/05/07

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0905a.pdf

○いつものように日銀券ルールの話

これはまた質問時点で既に纏まっている質問ですが(^^)。

『(問) 銀行券ルールについて改めてお尋ねします。ルールがない場合には、日銀の資産の大宗が究極的には長期国債になってしまい、オペレーションが窮屈になり、長期金利・短期金利の撹乱要因になるという技術的な問題があります。さらに、国債市場における規律が無くなり、国債の格付けの低下を通じた日銀の資産の劣化、ひいては中銀や通貨の信認の低下につながります。こういった事態を懸念しているため、銀行券ルールは必要であるという理解でよろしいのでしょうか。』

で、毎度お馴染みの説明が延々とあるのですが、途中切りつつ読んでてほほーと思った部分を。

『(答) 繰り返しになってしまい恐縮ですが、教科書的な説明をもう1度致します。そもそも日本銀行が長期国債を買入れているのは、物価安定を通じて持続的な成長を実現していくという金融政策の目的を達成するために、資金供給オペレーションを行っているからです。』

ということで、「長期国債購入は資金供給オペの一環」という説明をここで改めて行っております。いやまあ「成長通貨の供給」というかつての意味付けに関しては償還乗り換えルールの変更によって変わっていたのですが、こうやって明快に意味づけをしたのは白川総裁になってからですな。

『例えば共通担保資金供給オペのような相対的に短い期間の資金供給オペと、長期国債による資金供給オペの両方を使って金融調節を行っているのが現在の姿です。その際銀行券という長期安定的な負債に見合った資金を供給するために、長期の安定的なオペレーション手段として国債を買入れることが、円滑な資金供給につながります。』

ということですが、これまた毎度申し上げておりますように、銀行券以外にも実質的な長期安定負債がちょっとだけあるようには思えますけど、まあそれはそれと致しまして。

『要は、長期国債の買入れは金融政策運営のために行うものであり、それはつまり物価安定を通じた経済の持続的な成長の実現のために行っているものです。』

で、その結果現在の数値になりましたという話ですね。以下「長期国債買入が財政ファイナンス目的と見做される場合にはイクナイ」という説明をしてますけど引用割愛します。

で、後の方で別の質問。

『(問) 先程の質問にもあった通り、総裁は、いわゆる銀行券ルールを堅持していくことを繰り返しいわれていますが、原則を維持しつつ、例えば、残存期間が1年に満たないものについては短期国債扱いにするなど、ある程度柔軟な運用を今後検討ないし実施していく可能性はあるのでしょうか。』

まあ実は残存1年切ってる利付国債の場合は償還乗り換えで1年TBに化けるので短期国債より足が1年長いのですが(^^)、短期国債のオペレーションはフレキシブルにいじれますからその辺はうにゃうにゃと曖昧な世界にぶち込んでしまえばヨロシという事で(^^)。日銀保有の長期国債残高に関しては色々と話題になるのですけれども、短期国債残高に関してはまーそこまで気にする人も多くないとは思いますということで、即ちうにゃうにゃの世界にぶち込まれる訳ですな。

などというあたくしの怪しい話は兎も角として(汗)、総裁の答えですけど。

『(答) いつも一般論として申し上げていますが、金融政策を遂行していく上では、経済・物価情勢について予断を持つことなく丹念に点検していくとともに、予め特定の政策を排除したりあるいは必ず採用するといった考えを持つべきではない、というのが私の考えですし、政策委員会のメンバーもそのように考えていると思います。』

ほほう。

『国債の買入れは金融政策の一環として行っているわけですから、金融政策の目的に照らして考えていく必要があると思います。私はルールという言葉をあえて使いませんが、それは、日本銀行が金融政策上の判断から離れて、自らが決めたルールに従って機械的に政策を運営しているというニュアンスがそこに込められているように感じるからです。』

って部分にコアCPI縛りのインタゲ採用とかをしたがらなさそうなニュアンスを感じたのは裏読みのしすぎですかそうですか。

『長期国債の買入れをどの程度にすれば金融政策を円滑に運営できるのか、という観点で考えるべきことであり、繰り返しになりますが、現状の買入れ規模が最適であると考えています。』

・・・・・結局最後まで禅問答で通してしまいましたとさ。


○成長率のゲタの話

既に本職の皆様がご指摘しておりますが、これは俺様備忘録でもありますのでメモメモ。

総裁会見の発言からいくつか引用しますが・・・・

まずは冒頭の説明部分から。

『それから、今回の見通しに関しては、どうしても数字に関心が集まるわけですが、2008 年度後半のGDP前期比成長率が大幅に低下したことが2009 年度GDP成長率に与える影響に注意が必要です。2009 年度は極めて低いGDPの水準から始まるため、この年度中に日本経済が下げ止まる場合でも、前年度対比の成長率自体は大幅なマイナスとなります。このように、経済の変動が極めて大きい場合には、各時点における成長率、すなわち前期比でみた成長率と年度平均の成長率が大きく異なり得ます。』

というのがゲタの話でして、別の所で改めて説明が。

『今回の場合、2008 年度の第3四半期、第4四半期にかけて急激に落ち込みました。その結果、仮に2009 年度がずっとゼロ成長で推移した場合でも、年度平均ではマイナス成長になるわけです。これは、いわゆる「統計上のゲタ」と呼ばれていますが、計算をしてみると、大体「ゲタ」がマイナス5%程度あります。』

ほほう。

『こうした点を踏まえると、先程の数字は2009 年度中の動きとしてはプラスの成長を意味しています。問題はこうした景気の回復経路、すなわち年度後半に向けて成長していくという見通しが正しいかどうか――この理屈については先程申し上げましたが――、その妥当性にかかっているわけです。数字とメカニズムの関係は以上申し上げた通りです。』

ということで、2009年度中の動きはプラス成長という話なのですけど、まあ実際に景気回復経路に乗るのかって話になるとこれはまあ当然ながら弱めの話になっています。


○景気に関しては弱めの見通し発言ですわな

先般引用したNYでの講演で信用バブル崩壊の影響が深刻ですよねって話をしていましたが、その講演を絡めて質問がありまして、それに対する白川総裁のコメントではこんな話を。

『今回の見通しについても、足許これだけ大きな生産調整が行われ、在庫調整が内外で進展しているわけですし、金融政策・財政政策の効果もこれから期待できるということを踏まえると、この先の経済の経路は先程申し上げたようなこと(引用者追記:展望レポートのメインシナリオですね)になると思います。』

『しかし、その調整後の姿がどのようになるかは、様々な要因に依存します。つまり、世界経済が2004 年から2007 年にかけてみられた高い成長率に戻っていくのか、あるいはもう少し低い成長率になるのかは、今後の展開をみて判断していく必要があります。かつての高い成長率の姿に戻ることをもって回復といっているわけではなく、あくまでも、短期の循環としてメカニズムを説明したということです。』

ということですからまー全然強気じゃないですねってお話。もちろん展望レポートにおける景気見通しも暗いのでこんなもんなのでしょうけれども。


○デフレリスクに関して

デフレリスクに関して2度ほど質問がありまして、それに対する答え。

『デフレという言葉で物価の持続的な下落を定義しますと、私どもは、デフレスパイラルに陥ることがないかどうかを注意しています。デフレスパイラルに陥るかどうかはいくつかの条件に依存しますが、最も重要なことは、中長期的な予想インフレ率がどうなっているかということだと思います。それに加えて、今後の経済情勢の展開、金融システムの状況などにも依存すると思います。』

『デフレスパイラルのリスクについて、これを軽視しているのではないかというご質問だとしたら、そういうことは全くございません。物価の下落がデフレスパイラルにつながるかどうかは、金融政策の運営上非常に重要なポイントですから、今回の決定会合でも丹念に議論し、先程申し上げたような結論に至ったわけですが、私どもとしては、今後とも引き続き注意深くみていきたいと考えています。』

ということで、物価の下落がデフレスパイラルになるのかどうかという点に警戒していますなという話は出ておりますですな。


○5月危機に関して

『「5月危機」という言葉が適切かどうかは別にして、決算の発表と前後して、企業金融あるいは金融市場がどのようになっていくのかということについては、毎回の決定会合で注意深くみています。企業金融の現状をみると、日本銀行や政府による政策対応を背景に、CPの発行金利が一段と低下しています。また、これまで発行が止まっていた社債についても足許ではシングルA格の発行がみられるなど、企業の資金調達環境の緩やかな改善が続いていると判断しています。もっとも、企業業績の悪化傾向に加えて投資家の選別姿勢の強まりが続くなど、企業金融はなお厳しい状況にあると認識しています。』

ということですけど、まーCP市場(と残存1年以内の社債市場もA格以上は含むかも知れない)に関しては政策効果出過ぎにも程がありますので、正直言って市場の中にいると「5月危機って何でしたっけ???」状態なのですけれども(汗)、銀行貸出の状況とか見ていかないといけませんね。という話になると金融庁の世界になって日銀だけでは如何ともし難い部分がありますわな。

ま、貸し渋り検査とやらをやっているようですので、当然ながら銀行の自己査定に関して緩和的に運用して貸出をしやすくするようにしてるんでしょうかね、ニヤニヤ。


○在庫調整に関連して

最後に何故か冒頭説明部分の話に戻りますと、メインシナリオではこのような話をしておりましたわな。

『まず、中心的な見通しを述べます。景気面では、2009 年度前半は、内外の在庫調整の進捗を背景に悪化テンポが徐々に和らぎ、次第に下げ止まりに向かうとみられます。その後、2009 年度後半以降は、各国における各種政策が効果を顕わすとともに、金融や実体経済における様々な調整も徐々に進捗するとみられるため、国際金融資本市場が落ち着きを取り戻し、海外経済も持ち直していくと考えられます。わが国経済も、こうした海外経済や国際金融資本市場の回復に加え、各種対策の効果もあって、緩やかに持ち直し、見通し期間の後半には、潜在成長率を上回る成長に復帰していく姿が想定されます。』

その潜在成長率が下がっているのがチャーミングなのですがそれはともかくとして、この在庫調整に関するお話はこれまた測ったようなタイミング(というか測っているのでしょうけれども^^)で日銀レビューシリーズが出ております。

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev09j02.htm(紹介のページ)
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev09j02.pdf(本文)

『最近の在庫変動について――今次局面における特徴点と今後の景気展開に対するインプリケーション――』

えーっと一応これも読んだのですが、時間の都合上割愛。インプリケーションに関しては6ページ目の第4節の部分になりまして、そこまでは基本的な概念の説明になっていますが、あたくしの苦手とするややこしい微分積分や確率の話がございませんので(あほですいません)さっくり読めます。

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2009/04/27

白川総裁が23日にジャパン・ソサエティで講演をした日本語訳がアップされてましたが、こういう話をさせるとさすがの白川ゼミって感じですね。本文18ページで表紙が1ページと合計19ページになりますです。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0904c.pdf

○冒頭部分に「へ〜」

『最初に、個人的な思い出をご紹介したいと思います。日本銀行は、1990 年5 月に金融システムの安定を責務とする新しい局を創設し、私はその課長に就任しました。当時の三重野総裁は私の上司と私に、今後あり得べき金融機関の経営破綻に備えられるよう、政策対応の処方箋を描くよう指示しました。当時と言えば、日本経済はまだ好況に沸いていた頃です。日本の株価は既にピークを付けた後でしたが、地価はまだ上昇を続けていました。金融システム不安が表面化したのはこの数年後でしたから、総裁に先見の明があったことが、今でも思い起こされます。』

これはへ〜なのですが、そこまで先見の明があったのであったら(あんなに拡大しちゃってたら軟着陸は確かに難しかったとは思いますけど)もうちょっとバブルの潰しようがあったようがありませんでしたっけと。いやさすがに90年とかになると最早学生に毛が生えたようなもんなので、当時の状況を後知恵で言うのもちと憚られますけどにゃ。

で、その結果として政策対応の処方箋を作った部分は割愛しますが、

『こうした一般的な処方箋は、現在の状況の中でみても、依然として正しいと思います。しかし同時に、後から振り返ってみると、この処方箋は、現在私たちが経験しているような大規模な金融危機に対処するための包括的な戦略の一部に過ぎない、ということも認めざるを得ません。私たちは、なぜ過去においてそうした包括的な政策を遅滞なく実行に移し得なかったのかを、自らに問うてみる必要があります。』

ということで日米の金融危機の類似点に関しての話になります。


○で、日米の危機の比較ですが

『以上を念頭に置いたうえで、次に、1990 年代から今世紀初頭の日本の危機と、過去数年間における米国の経験との間には、顕著な類似点があることを指摘したいと思います。この類似点は5 つに分類することができます。』

『まず第1 に、日米ともに、金融危機の発生以前に、高成長と低インフレの時期が長く続いたことが挙げられます。』

ですな。

『第2 に、日米ともに、バブルが崩壊した後も、その事実だけではなく、それが経済に広くもたらす厳しい影響が認識されるまでに、相当の時間を要しました。』

つまりどういう事かと言いますと・・・・

『日本の場合、株価のピークは1989 年末、全国の地価のピークは1991年9 月であり、日本銀行が最初に利下げを行ったのは1991 年7 月でした。しかしその当時でも、金利引下げがバブル再燃の引き金になるのではないかと警告を発する声が多く聞かれました。』

『米国の場合は、住宅投資がマイナスに転じたのは2006 年第1 四半期、住宅価格のピークは2006 年5 月でした。一方、FRBが利下げを開始したのは2007 年9 月でした。この時も、FRBの利下げが国際商品市況の非合理的な高騰の一因となっているのではないかとの批判が聞かれました。』

『政策当局者の中には「バブルは破裂して初めて認識できる」という意見も多いのですが、正確には「バブルは破裂しても、容易にはそのことを認識できない」と言うべきだと思います。バブルの識別の難しさは、金融政策に対して重要なインプリケーションを持っていますので、後でこの点をご説明したいと思います。』

確かにその通りですね・・・・

『第3 に、過去の金融危機は、いつも金融機関の流動性不安から顕在化しました。』

どういうことかと言いますと、

『日本の場合、中規模の証券会社がインターバンク市場で債務不履行を起こしたことが、短期金融市場における急激な流動性収縮の引き金となり、その影響は直ちに日本の金融市場に広範囲に拡がりました。』

『今回の米国でも、2008 年9 月のリーマン・ブラザーズ社の破綻が契機となって、資金市場における流動性が枯渇しました。そのことが国際金融市場の信認の連鎖を断ち切ったほか、貸し手と借り手の間の与信の流れを詰まらせました』

返す返すもリーマンを突如法的にコカしたのは残念としか申し上げようがありません。というか前例あるのに何故やりやがったという感じですが。

『第4 に、日米ともに、金融システムの安定性が脅かされているにもかかわらず、公的資本注入等の本格的な対策は、金融市場の混乱が危機的な状況に達するまで採用されませんでした。』

こちらの日米比較はまあご案内の通りというか今ここにある状況ですので引用割愛。

『第5 に、金融政策についても類似性がみられます。』

と言う話は日米でやっている事は類似していますねという話なのでこれまた引用割愛。


○日本の「失われた10年」に関して

『最初に申し上げたように、日本の1990 年代は「失われた10 年」と呼ばれています。このわかりやすい表現から伝わってくる内容はたいへん率直なものであり、要するに、日本経済が長い停滞に苦しんだということだと思います。しかし私は、こうした表現は、物事を単純化し過ぎるあまり、問題に取組み適切な政策対応を策定するうえで誤解を与えかねないと懸念しています。』

ということで、10年間の確認をしているのですが、例によって端折って引用します。

『まず第1 に、日本経済が、1990 年代を通じて停滞していたということは事実です。』

と言いましても、『バブル崩壊後で経済情勢が最も厳しかった1998年度でも、日本の成長率は−1.5%にとどまっており、現在ほどの急激な落ち込みはみられませんでした。また、金融危機の間も、日本の実質GDPの水準は、バブル期のピークであった1989年を下回ることはありませんでした。』という状況でもありましたと。

『第2 に、日本経済は、1990 年代の低成長期においても、何回か一時的な回復局面を経験しました。ただし、このことは、経済が遂に牽引力を取り戻したと人々に早合点させる働きをしたように思います。これは「偽りの夜明け」(false dawn)とも言うべきものでしたが、人間の常として、物事が幾分改善すると楽観的な見方になりがちです。』

ゼロ金利解・・・いやまあいいです。

『第3 に、日本の危機は、デフレーションという文脈で議論される傾向があります。しかし、より正確に言えば、私たちが当時最も懸念していたのは、「デフレーション」という言葉から通常想起される一般物価の下落というよりも、資産価格の下落でした。』

つまり・・・・

『日本の地価は、大都市ではピークからボトムまでに7 割から8 割という規模で下落しましたが、一方、消費者物価の低下幅は1997 年から2004 年までの累積で3%でした。日本が直面していた本当の難しさは、資産デフレと銀行セクターの脆弱性との相乗作用でした。』

さいですな。

『第4 に、バブル崩壊後、長期間にわたって日本経済の成長率が低迷した背景には、構造的な側面もありました。』

で、構造問題から『不良債権問題による信用仲介機能の弱まりとともに、資源の効率的な配分を損ない、日本の潜在成長力を低下させました。』という指摘になっています。


ではその教訓とは何かという話が続きます。日本の政策に関して3点を強調しています。

『第1 に、大胆だと思って採った行動であっても、事後的にみれば必ずしも大胆ではなかったという場合があります。先ほども申し上げたように、日本政府は1999 年に大規模な公的資本の注入を行いましたが、これは、後からみると実体経済の悪化と金融危機の負の相乗作用を食い止めるために十分ではありませんでした。このように、負の相乗作用とは、その大きさを把握することがたいへん難しいものです。』

『第2 に、日本の銀行危機について既に申し上げたように、金融システムの安定を確かなものにするための大胆で迅速な政策対応は、政治的に不人気になりがちです。そのため、政策当局者は、政府や中央銀行による危機管理対応が、経営に失敗した銀行を救済するためではなく、金融システム全体を救うために行なわれているということを、しっかりと説明し、国民の理解を得る必要があります。』

『第3 に、マクロ経済政策は、経済の急激な減速に立ち向かううえで鍵となる役割を果たすのですが、万能薬ではありません。バブル期に蓄積された過剰の整理に目途がつかない限り、力強い経済成長を取り戻すには至りません。同様に、マクロ経済政策は、企業がビジネスモデルを調整できないことに伴う生産性の低下に対処することもできません。この点は非常に重要ですので、若干説明を加えたいと思います。』

ということで一々ご尤もですが、過剰の整理に関して更に説明。

『バブル期において、日本経済に蓄積された不均衡は非常に大きなものでした。1980 年代のブーム期に、日本の企業は借入れを急速に増やし、設備投資は、1990 年までの3 年間に年率2 桁のペースで拡大しました。しかし、一旦バブルが1990 年代初頭に崩壊すると、実体経済面で資源の稼働率が急速に低下するとともに、不良資産が増加し始めました。結局のところ、日本は債務・設備・雇用の3 つの過剰を大幅に蓄積していたのです。このような大きな不均衡を解きほぐすのに長い時間を要することは明らかです。』

で、この講演のお題とはあまり関係ないですが、先日ご紹介したさくらレポートで地域の中小企業における設備と雇用の過剰が現れているという所は気になっちゃいますよね。まあ過去のような深い過剰ではないと思いますけど・・・・・


○で、現在の政策対応に関して

現状の米国における状況および世界的に広がっている問題をどう見て、どのように対処するのかという話が続きます。が、過去の日本との相違点がどうのこうのとか、現状の問題点がどうのこうのという話の部分を全部端折りまして(引用してるとキリが無い)、結論の部分を引用。

『以上をまとめると、金融危機管理の政策対応として、第1 に、流動性の潤沢な供給、第2 に、信用市場の機能の支援、第3 に、マクロ経済政策による有効需要の喚起、第4 に、公的資本の注入とバランスシートの不確実性の除去という4 つの要素を述べました。この4 つの領域で効果的な措置が講じられなければ、経済は一段と厳しい調整を余儀なくされかねません。』

で、白川総裁更に厳しい認識を示しておりまして・・・・

『もっとも、政策当局者は何でも達成できる訳ではないということも認識する必要があります。この20 ヶ月間に採ってきた政策対応は、危機に先立つブーム期に蓄積された不均衡を解きほぐす必要性を帳消しにするものではありません。先ほど申し上げたように、日本の場合は、企業の債務・設備・雇用の3 つの過剰が整理されるまでは、経済が持続的な回復に移行しませんでした。今回の危機についても、同様のことが言えます。』

『米国経済は、金融機関のレバレッジの増加や、家計の過剰債務、そして恐らくは金融産業の行き過ぎた拡大に対する調整が必要になっているものと思われます。これは痛みを伴うことですが、避けては通れないプロセスです。日本の10 年に及ぶ経験からみて、痛みの伴わない近道はありません。』

メリケン様は痛みを伴わないで何とかしようとしているようにも見えないでも無いですがまあそれはそれと致しまして。

『もう一つ注意しておきたいことがあります。過剰の調整に伴う痛みの故に、貿易や金融面で保護主義に傾いていくリスクがあります。しかし、保護主義は断固として食い止めなければなりません。また、保護主義と同様、過剰な規制も経済の効率性を損ね、生産性を低下させます。こうした事態に陥ることも絶対に避けなければなりません。』

保護主義っていうかメリケン様の俺様超モンロー主義と言いますか・・・・


○で、今後の挑戦は「危機の予防」と来ました(^^)

という現状認識を行ったあと、最後の所で白川総裁の本領が実は発揮されてたりするのれす。

『ここまで私が申し上げてきたことは、危機の解決に関するものでした。しかし、中長期的にみると、危機が起こらないように予防することも同じように重要です。以下では、この観点から概略を説明したいと思います。』

『そもそも、現在の危機は、金融政策運営にとって重大なチャレンジとなっています。このことは、政策当局者の考え方だけでなく、実際の政策形成を裏付けてきた理論にも変化を迫っています。学問としてのマクロ経済学は、この20 年間に発展し、洗練の度合いを高めてきました。』

『政策実務家にとってそのインプリケーションを単純化して申し上げるならば、第1 に、経済の潜在的な成長力は一般物価の持続的な安定の下で最大化される、第2 に、中央銀行の金融政策は第一義的には一般物価の安定を目指すべきである、第3 に、第1 と第2 の帰結として、マクロ経済安定の責務は第一義的には金融政策に帰せられるべきである、ということになります。それぞれの命題は今でも正しいのですが、時間が経過するとともに、金融政策だけで全てに対応できるというような、一種の慢心につながってきた面もあるのではないかと思われます。』

金融政策万能理論の下に何でもかんでも金融政策批判をするのはケシカランということですね、わかります・・・・ってのは兎も角として、白川総裁がよく持ち出す「マクロプルーデンス」の観点の重要性について説明をしていますが、そこは微妙に端折りまして。

『「バブルにどう対応すべきか」という問題は長い間にわたって論争されてきました。一つの立場は、中央銀行はバブルが破裂してから積極的な金融緩和で対応すべきと主張してきました。この主張は、バブルを生成時点で認識することは難しいので、中央銀行はバブル崩壊後にその経済に及ぼす悪影響を相殺するしかないという考え方に基づくものです。しかし、私はこの考え方に対して異論を持っています。多くの場合、バブルは、破裂しつつある時でも認識が難しいものです。しかも、バブルの破裂後に、それまでに蓄積された過剰が解きほぐされていく過程では、現局面でまさにみられているように、中央銀行の金融緩和政策の効果はかなり減殺されます。』

BISビューキターーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーー
バーナンキ批判キターーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーー

『それでは、私たちはどうすべきなのでしょうか。まず、最も重要なことは、中央銀行は、バブルの生成を予防することと、バブルの崩壊の影響を緩和することの双方に注意を払うべきということです。私は、こうした対称的な(symmetrical)アプローチが正しいと考えています。』

ということでマクロプルーデンスの観点っつーもんの説明が。

『中央銀行は、不均衡が経済に蓄積されてきていないかどうかを、常に警戒しておくことが必要です。経済の不均衡はみえにくいところで積み上がります。したがって、中央銀行が金融政策判断に当たって一般物価の安定だけに焦点をあてていると、経済活動の様々な側面で生じる危険な兆候を見落とす可能性が高まります。マクロプルーデンスの観点が重要性を持つのは、まさにこのためです。』

『金融の不均衡は、典型的には、金融機関の信用量の伸びやレバレッジの拡大、資産価格の急騰、あるいはそうしたものの組み合わせとして現われ易いものです。中央銀行は、こうした指標を注意深くみることが必要です。』

『しかし、不均衡は形を変えて現れる可能性もあります。経済の不均衡が生成されるまでに長い時間がかかり、しばしば金融政策運営の通常の時間的視野を越えてしまうという点は、中央銀行にとって難しい問題です。したがって、物価の安定を短期的な消費者物価指数の安定として狭く捉えてしまうと、バブルの生成という意図せざる結果を生み出すかもしれません。』

『今世紀初頭にいわゆるITバブルが破裂し、デフレーション懸念が高まったことを背景に、金融政策は、世界的な規模でしかも長期にわたって緩和されました。不幸なことに、このことが、グローバルな信用バブルを発生させ、その結果グローバルな金融システムを混乱させた要因の一つとなっています。』

金融緩和の行き過ぎ警戒キタコレ。

『経済情勢が厳しい時に、積極的な金融緩和を追求すべきことは当然です。厳しい経済危機においては、政策当局者は、経済の一時的な回復──先ほども申し述べたような偽りの夜明け(false dawn)と言うこともできます──を本当の回復と見誤ることがないように注意する必要もあります。しかし、終わりのない経済危機というものはありません。したがって、中央銀行は、積極的な金融緩和からの適切なタイミングでの脱出も、意識しておかなければなりません。脱出が遅れると、より悪い状況への入口に既に足を踏み入れている可能性があるのです。』

ほっほー。

『最後に、金融政策だけでバブルの生成・崩壊の再発を回避できるものではないことを付け加えておきたいと思います。たとえば、規制・監督の領域においても、取り組むべき課題は数多く残っています。』

ということで、延々と引用しまくっちゃいました(特に最後の部分)けれども、最後の部分に関しては白川総裁の主張がどどーんと出てましたなあという講演要旨でした。何かもうアホほど引用しちゃってどうもすいませんでしたm(__)m

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2009/04/10

○総裁会見の続き

昨日は銀行券ルールに関する話で終了しちゃったので、もう少々引用します。

・展望レポート下方修正確実と

展望レポートは下方修正ですよねという質問に対しては素直に下方修正と答えていますな。

『日本銀行は、決定会合で金融経済情勢の点検を毎回行っています。1月に中間評価を発表した後、2月、3月の決定会合では、いずれも1月時点の評価に比べて不確実性が高まっており、厳しい方向に変化しているという認識でした。このように、日本銀行は毎回連続的に見通しを修正してきましたが、それらを文章にまとめ、参考計数と併せて発表するのが年2回の展望レポートになります。景気判断は、4月の展望レポート公表に向けて非連続的に変化するのではなく、2月、3月の決定会合において連続的に変化しており、それとの比較ではほぼ予想通りの展開であると感じています。1月の決定会合における中間評価と比較しますと、下振れてきている可能性があると思いますが、現在4月の展望レポート公表に向けて作業を行っている段階であり、今後入念に点検を行ったうえで発表したいと思っています。』

まあどう見ても下方修正なのですが、では政策金利は引き下げないのかという話になる気がするんですけど、そっちに対してはどういう説明するのか今月末の決定会合で見せてくれるかなあと楽しみ(?)にしておりまする。


・政府との連携について

という質問に対する答えがありまして、やたらめったら長いのですが、段落分けしつつ引用してみますね。

『(冒頭部分割愛)そのうえで、今のご質問は個別の信用リスクを負担する政策を中央銀行としてどこまで行うべきかというご質問だと思います。いつも申し上げていることですが、損失発生を通じて納税者負担が発生する、あるいは個別企業に対するミクロ的な資源配分への関与の度合いを強めるとなると、これは財政政策に近い施策になってきます。特に、買入れ対象とするものの期間が長くなったり格付け基準を下げたりするほど、より財政政策に近くなってきます。』

これは従来より指摘されている説明どおりで皆様もご案内の通りですね。で、米国がどのようにしているかという説明がありまして、まあ普段だと引用端折る所ですが、丁度整理されているので各国の状況説明部分も引用します。まずは米国。

『これは、どの中央銀行も等しく直面している課題です。米国では、CPについてはFRBが買入れる、ABSについては最初の10%の損失を政府が負担するとした上でFRBが買入れる、ということを行っていますが、今のご質問にもあったように、中央銀行が信用リスクを負担することが金融政策遂行の制約となることを回避するという点について財務省が理解をするという趣旨の声明を先だって発表しました。』

では日本はどうかと言いますと・・・・

『日本銀行もCPの買入れを始めるにあたり、政策委員会で議論し、企業金融に係る金融商品の買入れについての基本的な考え方を公表しました。そこでは、企業金融全体の円滑化に照らして、必要な場合には、異例の措置ではあるがこれを行うということを明らかにしました。また、個別企業への恣意的な資源配分を回避し、信用リスクの適切な管理を通じて通貨への信認を確保するということも発表しました。こうした考え方は1月の金融政策決定会合で議論し、政府の代表の方から日本銀行の考え方を理解するという趣旨のご発言がありました。これは議事要旨にも出ています。』

という事になっています。まあ既にご案内の通りという感じですが、丁度説明になっているので引用しました。で、今後の展開なのですが・・・・・

『この先、金融経済が更に厳しくなったときに、例えばより期間の長い社債の購入、あるいは格付け基準の引き下げなどについて、より踏み込んだ対応を公的部門が行うことが適切かどうか、その場合政府の財政政策で行うべきかあるいは中央銀行が行うべきか、といった点について、先ほど申し上げた基本的な考え方に照らして議論していく必要があると思います。政府と中央銀行の関係をしっかり意識したうえで、現在のわが国において最適な方法を実行していると考えています。』

昨日引用した銀行券ルールに対する拘りの姿勢に対しまして、社債購入だのCP購入だのに関してはしらっと「より踏み込んだ対応」とか言うのが正直あたくしには不可解というか理解不能というか。

つまり、あれだけ物凄い勢いで拘る銀行券ルールの話をするなかでは中央銀行のバランスシートについて拘って「長期資産をあまり増やしたくないですぅ」と主張しているのに、その一方で元本が飛ぶリスクがある社債やCPに関しては「より踏み込んだ対応」という発言がしらっと出てくるバランス感はどうなっているのかよ!と思う次第でございます。あたくし思いまするに、社債やCP購入で踏み込む位なら長期国債の買入を増やすほうが(長期国債は償還リスクは無いですし、資金吸収で売りオペだって最終的には選択肢として使えるし)遥かに筋の良い政策だと思うのですけど、この辺りのイメージが良く判らんです、正直言って。

とまあそんな事を思った白川総裁会見でした。

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2009/04/09

お題「総裁会見から、また輪番の話で」

ヘッドラインで見た印象と実際に出てきた会見要旨に微妙な差がある気がするんですが・・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0904a.pdf

○またも輪番の質問がやたら多く

で、それに対して会見当日の情報ベンダーのヘッドラインを見てましたら「また今回も長期国債買入増額を思いっきり否定してますなあ」という印象だったのですが、会見要旨そのものを見るととりあえず説明に終始している感じで少々「???」感が。何回同じ説明させてるんだかという気もしますけど、もういい加減同じ説明するの止めちゃえばとか思っちゃいます。

ただまあ情報ベンダーのヘッドライン見てると、説明を淡々としているというよりは「だから輪番増額はしないんです」みたいなニュアンスが聞き手の方に伝わってくる説明をしてるんだろうなあと想像できる(だから各社のヘッドラインがそういう感じになるんでしょ)次第でして、別に輪番増額に関して自分からテーブルの賭け金吊り上げてどうするんだ(最終的に増額することになった時に総裁の発言に対する信認問題になる、というか既に市場は「そうは言ってもこの総裁追い込まれるとやるんでしょ」というイメージになってるもんね〜♪)という感じです。

それは兎も角。

まず銀行券ルールに関する質問がありましてその答え。

『銀行券ルールと通常言われているものについてですが、金融調節という仕事に普段から関わっていないとなかなか理解されにくい事ですので、少し丁寧に説明したいと思います。銀行券ルールそれ自体を説明するというより、銀行券ルールを撤廃してもっと長期国債を買った方がいいのではないかという質問に答えることによって、今のご質問に答えることにした方がよいかと思います。』

『所謂銀行券ルールを撤廃した方がいいのではないかということを議論する際に意識されている目的は2つあると思います。』

で、まず最初の目的ですが、要は資金を供給しろという話。


○銀行券ルール、調節上のでは・・・・

『1つは、金融経済情勢の悪化に対応して日本銀行が潤沢に資金供給を行えるようにするという目的です。ただし、そうした目的であれば、現在、銀行券ルールを撤廃する必要はないと考えています。資金供給を行う手段としては長期国債を買入れる長期オペと短期の資金供給オペの両方がありますが、現在のところ、長期オペを増額しないと潤沢に資金供給できないという状況ではないからです。むしろ、長期的な負債つまり銀行券に対応させた長期国債オペと、準備預金など短期的に変動する負債に対応させた短期オペの両方を活用した方が、円滑かつ潤沢に資金を供給できると考えています。』

『日本の場合、銀行券や財政資金に起因する当座預金の振れが非常に大きく、そうした短期の振れの調整を全て長期国債オペで行うとすると、その都度長期国債を売買することになり、長期国債市場に攪乱的な影響を与えてしまうことになります。』

ということで、通常の調節だけ考えると実務上はその通りなのですけれども、「日銀が能動的に長期国債の買入を増やすことによってマネーを増やすという発想はないのか」という点については別の質問(FRBが大量に長期国債買っているようですがそれとの整合性は??)に対して白川さんがこのように説明しています。

『中央銀行の政策を議論する際には、バランスシートに則して考えなければなりません。つまり、何らかの資産を買うにはそれに対応する負債が必ずなければならないということです。中央銀行の負債は圧倒的に銀行券であり、無利子である銀行券を国民の皆さんが保有することによって、中央銀行はそれに見合う分だけ国債を買えるのです。それを超えて資産を持つためには、それに対応する負債がなければなりません。』

というと「じゃあ日銀が銀行券を発行すれば良いじゃないか」とか某産経新聞の電波成分入りオジサンあたりが言いそうですが、銀行券に関しては発行、還流に関しては日銀は受身(市中銀行だって実質受身みたいなもんです)なのですけれども、まずそこで議論が成立しないんですよね。つまり、極端な話をすれば日銀が買いオペやって見合いに日銀当座預金残高を増やす代わりに銀行券を金融機関に渡したとしても、その銀行券って即座に還流してくるだけの事ですわなという話じゃないかと。(財政政策とセットになると話は別ですがそれは別の議論)

『例えば、日本の量的緩和の時のように、金融システム不安が非常に高く、その結果、金融機関が当座預金を無利子でもたくさん持っているという状況では、それに見合って国債を多く持つということは理屈のうえでは有り得ると思います。そのような状況でなければ、銀行券を上回って国債を保有するという状態というのは、中央銀行自身が自ら金利を払って債券を発行し、それに見合う分だけ国債を買うという形でしかバランスシートは成り立たないのです。つまり、政府が国債を発行し難い時に中央銀行のような公的セクターが債券を発行すれば、それに見合う分だけ国債を買えるという議論です。』

ほほー。

『以上のように、中央銀行のバランスシートに即してどのような状況を意味しているのかを考える必要があります。所謂銀行券ルールは、日本銀行が勝手に設けたものではなく、こうしたメカニズムを踏まえたものと言えると思います。』

ということなのですが、そういう話をしますと、現在は日銀当座預金における超過準備に付利を行っておりますので、実はこの「中央銀行自身が自ら金利を払って債券を発行し、それに見合う分だけ国債を買うという形でしかバランスシートは成り立たないのです」という状況が自動的に達成できるという素敵な状態になっているのでは無いでしょうかと突っ込まれたらどう答える積りだったのでしょうか(ちなみにそんな質問はたぶん咄嗟に思いつかないですわな^^)。

とは言え、超過準備付利は臨時措置という事になっておりますので、将来もうちょっと普通の金利操作の世界に戻った時に日銀が保有する長期国債の残高がやたら多くなったらどうなるのかという話が主眼だと思うのですよ。そうなりますと、先ほど引用したように、「長期国債買入ばかりやっていると、金融調節のテクニカルな理由で長期国債のアウトライトの売り切り、買い切りが連発される状況になった時に困る(長期金利が乱高下してボラティリティーが高くなるすると一般向けの金利とかも高くならざるを得ないから)という話なんでしょうと。

でも、そういう観点であれば、短期オペの世界に含まれる部分に関しては(どうせ短期で償還されるのだからテクニカルに足を引っ張る話ではないという意味で)銀行券ルールを厳密に適用する必要あるのかいなという気は(毎度申し上げておりますように)するのでありますよ。輪番のゾーニングする前で国債の元利金取扱手数料引き下げ前だと、うっかりしたら短国買入で1年近いものが入る側から長期国債買入で残存1か月ものが打ち込まれていたような状況があった訳でして、そういう場合に「調節上のテクニカルな銀行券ルール」を意識する意味が実質的にどうなのよというお話になりますわな。

ということで、今回銀行券ルールについては大演説をしているのですが、先ほども申し上げたようにあまりテーブルの賭け金を自分から上げていくのはどうなのかと思いますし、折角色々な施策やっているのに総裁会見のニュアンスが「嫌なんですけど渋々やりました」的なものがプンプン伝わってくるのは如何な物かと思われます。そりゃまあ白川さん個人的にはやりたくないんでしょうけれども、そこは前任のインチキ力を見習って、「はらわた煮えくり返っていてもニコニコ笑顔でやる気満々会見」(福井さんがそうだったのかどうかは知らんが多分そういうキャラでしょ)というのをやるべきではないかと。


○銀行券ルール、財政ファイナンスの問題

最初に引用した話の続きから。

『一方、銀行券ルールを撤廃した方がいいのではないかということを議論する第2の目的としては、財政拡大と国債増発が行われる際に財政ファイナンスを容易化する、あるいは長期金利を安定化させるということが考えられます。』

『しかしそのような目的であれば、銀行券ルールの撤廃はむしろ逆の効果を及ぼし、財政ファイナンスの面にも長期金利の面にも悪影響が出てくると思います。つまり、金融政策が、物価安定の下での持続的な経済成長の実現という本来の目的から離れ、財政ファイナンスに焦点が絞られてくると、将来の金融政策に対する不確実性が増大し、長期金利が上昇してしまいます。このことは、特に日本のように財政のバランスが悪い国においては非常に大事なことだと思います。』

財政が発散しない中であれば問題ない話だとは思いますが、まあ日本の場合はねえという話はそうですねという感じです。まあそもそも論を持ち出しますと、財政拡大懸念による長期金利上昇を抑制するために「放置したら経済に悪影響を与えるので緩和する」というのを「あくまでも一時的に」実施するのはアリなのではないかと思いますけど(FRBの長期国債買入だって期限6か月ですわな)、日本の場合はその「一時的措置」が一時的措置で終わらないというのが仕様になっておりますし、日銀と政府がちゃんとアコード結べるかと言えば、アコード結んでも「そんなの知らん」とか言い出しそうな2大政党のもう一方がありますので難しいわなとは思います。

#そういや国債大量発行ネタでドリームショートをしている人がいそうな雰囲気が思いっきり漂ってくるんですけど最近の債券先物は・・・・



ということで、銀行券ルールの所だけ引用して雑感かいてたら長くなりすぎましたので残りは明日にでも。というか金融経済月報もありますわな(大汗)。景気に関してはさすがに下ぶれリスク意識全開で、展望レポートの絶賛大下方修正は必至ではないかという所です。

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2009/04/03

○白川総裁の新入行員向け挨拶(まあ与太雑談です)

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc09/nyukou09.htm

まあそんなにネタ的な話は無いのが白川総裁クオリティなのですが、昨年の入行式での挨拶を見ますと最初のつかみを微妙に変えてますね(^^)。

昨年の挨拶はこちら(当時は白川さんは副総裁です)。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/ko0804a.htm

『皆さんは本日からわが国の中央銀行である日本銀行で仕事をされる訳ですが、中央銀行の最も根源的な仕事は、銀行券を発行し、それを国民の皆さんが安心して、かつ便利に使える環境を整えることです。普段はあまり意識されないことですが、銀行券が使われるのは、その価値が守られるという安心感、言い換えれば、通貨に対する信認があるからにほかなりません。そのためには、物価の安定と金融システムの安定が不可欠です。』(今年)

『中央銀行の仕事を表わす言葉として、皆さんは「通貨の番人」という言葉を聞かれたことがあると思います。「通貨の番人」には様々な側面があります。まず、銀行券や中央銀行当座預金からなる中央銀行通貨を供給すること、金融機関の決済を円滑に遂行することが出発点になります。その上で、物価の安定と金融システムの安定を実現することが求められています。』(昨年)

中央銀行通貨の話だったのがずばり直球で「銀行券」になったのは輪番オペの銀行券ルールだとか政府紙幣の話だとか長期国債の日銀直接引受議論だとかを意識しているからですね!というのは裏読みのしすぎですかそうですか(^^)。

で、まあ去年の挨拶でも『本日の入行式に当たり、日本銀行を代表し、また社会人の先輩として、お願いを3つ申し上げたいと思います。』ということでお願いしている3つのお願いの特に最初に関しては新人さん読んでねという所ですかな(^^)。

『第一にお願いしたいことは、責任感をもって仕事に取り組んで欲しいということです。皆さんが最初に任せられる仕事はそれほど大きなものではないかも知れませんが、職場ではあなた方がその仕事をきちんと遂行してくれるという信頼感を前提に仕事を行っています。与えられた役割をしっかりと果たしてください。そうした個々人の責任ある仕事の結果として、組織に対する信頼が生まれてきますし、ひいては先ほどお話した通貨に対する信認にもつながってきます。』

通貨に対する信認の所はまあ置いとくとして、『皆さんが最初に任せられる仕事はそれほど大きなものではないかも知れませんが、職場ではあなた方がその仕事をきちんと遂行してくれるという信頼感を前提に仕事を行っています。』なのですよね!

と、妙にご教訓状態の引け味になってしまいました(汗)。

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