白川方明総裁(2012年度上期)


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2012/09/21「定例会見から:今回はすんなりとした会見ですな」
2012/09/12「ブンデスバンクの東京事務所40周年でまた余計な事を」
2012/08/28「大阪での講演&会見より:どう見ても麿節全開です」
2012/08/14「定例会見その2:あちこちに微妙に麿節が」
2012/08/13「定例会見の説明が微妙に声明文のニュアンスと違うような気が」
2012/07/20「最近の定例会見で電波質問をする記者がいる件について晒し上げ」
2012/07/17「定例会見から:付利引下げを予想通りに協力否定&見通しは見直さず」
2012/06/19「定例会見では堂々と判断前進を言及するとかどうも往生際が悪い」
2012/06/05「またまた麿節全開の講演である」
2012/06/01「言ってることは仰る通りなのだがこの欧州大火災時に中銀総裁がこんなのんびりした講演するのは如何なものかという件」
2012/05/30「定例会見より(その2)微妙な質問と微妙な答弁」
2012/05/25「定例会見より(その1)「強力な緩和」文言変更とオペ札割れに関して」
2012/05/15「朝日新聞インタビューで財政マネタイズに警鐘」
2012/05/07「4月2回目会合定例会見より(その2)」
2012/05/06「追加緩和&展望レポートの4月2回目定例会見は妙に論点が多いですお(その1)」
2012/04/25「海外で麿節全開となってガス抜きをするのでした(メモのみ)」
2012/04/24「財政の維持可能性と金融政策に関する名講演もベンダーのヘッドライン詐欺が残念」
2012/04/20「ヘッドラインでは無事でしたがやはり良く読むと麿節全開の米国での講演」
2012/04/12「次回会合をお楽しみにという感じで台無し発言は無かったけれども微妙な部分もある総裁会見」
2012/04/03「白川総裁の入行式挨拶で外の人たちとのコミュニケーションを説く」

2012/09/21

○総裁会見から:今回はメインシナリオの下方修正

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1209b.pdf

・冒頭説明部分から

冒頭説明の所が例によって長くていきなり3ページ分あるのですが、メインシナリオを下方修正しましたぞなというのが2ページのケツ辺りから説明されています。

『これまで、景気の先行きについて、やや長い目でみれば、国内需要が底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していく、という判断を行ってきました。また、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014 年度以降、遠からず1%に達する可能性が高い、と判断してきました。』

『しかし、先程申し上げたような情勢判断を踏まえると、日本経済がこうした「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という軌道を踏み外さないようにするためには、一段の金融緩和を行うことが適当であると判断しました。すなわち、資産買入等の基金を10 兆円程度と大幅に増額するとともに、資産の買入れを着実に進めるための措置を講じることとしました。』

という事で、「「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という軌道を踏み外さないようにするためには」とか微妙な物言いをしていますが、まあ要するに「追加緩和措置を打たないと見通しの達成が難しくなってきた」という話ですな。


・シナリオ下方修正を明言し「展望レポートを待たずに」追加緩和実施ということは・・・・・・

で、冒頭説明の後に最初の質問がこうなっていまして。

『(問) 景気判断については、前回の決定会合に比べると下振れリスクを強く意識した内容に変わっていますが、景気回復の時期、あるいは物価上昇率が1%に達する時期は、日銀のこれまでの想定に比べて後ずれしているという認識でよいのでしょうか。』

その答えですが・・・・・

『(答) 最初に申し上げると、下振れリスクを意識したというよりも、メインシナリオ自体を下方修正したということです。』

メインシナリオ下方修正キター!

『わが国の景気は、振り返ってみると、本年前半は「年率3%」と「緩やか」という形容詞で表現できる以上の高めの成長を実現しましたが、その持続性については慎重に見極めていく必要があると考え、「緩やかに持ち直しつつある」と表現してきました。とりわけ世界経済の下振れリスクに注意を払ってきましたが、実際このところ、世界経済は減速感を強めてきました。』

ということで海外経済の減速がメインシナリオ下方修正の最大のトリガーのようですな。後はまあ先月末の鉱工業生産とかも衝撃の弱さでしたけれども、その背景がこれまた同じで海外の減速に伴う輸出の減速なのですから、まあよーするに従来の回復シナリオにあった「海外が回復してそれに回復ドライバーが内需からバトンタッチ」というのがどう見ても無理ですなという話になったという所。

『そうした中で、わが国の景気についても、本日の会合で「持ち直しの動きが一服している」と判断を下方修正し、先行きも当面横ばい圏内の動きにとどまるとみています。そうした状態から脱して緩やかな回復経路に復していく時期については、半年程度後ずれすると予想しています。』

その半年の根拠はどうなんでしょとか思いますがまあ兎も角。

『これまで、景気の先行きについては、やや長い目でみれば国内需要が底堅さを維持し、海外経済が減速した状態から次第に脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくという判断を行ってきました。また、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、徐々に緩やかな上昇に転じ、2014 年度以降、遠からず1%に達する可能性が高い、と判断してきました。』

さいですな。

『しかし、先程述べたような情勢判断を踏まえると、日本経済がこうした「物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していく」という、日本銀行として当初想定していた軌道を踏み外さないようにするためには、展望レポートを待たずに一段の金融緩和を行うことが必要であると判断し、本日の決定を行ったということです。』

>展望レポートを待たずに
>展望レポートを待たずに
>展望レポートを待たずに

・・・・・・・・・つまり、経済物価見通しが展望レポートで示された経路ですすんでいるのであれば、展望レポートの見直し時期の点検作業によって金融政策をどうするかというのを決定する、というパスで問題は無い筈なのですが、今回に関しては「経済物価見通しが展望レポートで示された経路で進んでいない」ので「展望レポートを待たずに」追加緩和をする、とまあそういう理屈になっているのですな、うんうん。


・今回の対応はまあ協調緩和では無いです罠

まあ当然こういう質問が来ますが。

『(問) 9 月に入り、ECBが無制限の国債買入れを表明し、続いてFRBがいわゆるQE3を表明しましたが、こうした欧米の中央銀行の動向が今回の日銀の政策判断に影響したのかどうか、お伺いします。』

『(答) 各国の中央銀行は、常にそれぞれが置かれた経済・金融情勢に応じて、最適な政策を行うよう努めており、日本銀行も含めてどの国の中央銀行も、他国の中央銀行がある政策を行ったから自分たちも行う、という機械的な対応は採っていません。(以下割愛)』

でまあ別の質問に関する説明部分でこういうのがありまして。

『少し具体的に3 つの次元で申し上げます。1 つは、政策課題との関係です。FRBの場合は、米国経済の問題の中心である住宅市場の下支えが重要であるとの観点から、MBSや期間の長い国債の買入れを行っているということです。ECBの場合は、周縁国の国債金利が財政の問題も反映して上昇している中で、その周縁国の国債を一定のコンディショナリティのもとで買い入れることで、金利上昇に対応した政策を採っているということです。日本銀行については、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが重要な課題だという認識のもとで、リスク性資産を含めて様々な資産を幅広く買い入れると同時に、成長基盤強化の支援という、中央銀行としては異例の措置にも踏み込んでいるということです。』

これは金融緩和が積極的かとかいう質問に対する答えの部分なのですが、まあここの説明にありますように、今回の措置ってECBは危機対応の国債買入、FRBは景気判断を引き上げながらの労働市場重視の追加金融緩和となっていて、日銀の場合は景気判断の引き下げによる追加金融緩和と、まあ「景気判断による追加金融緩和」という一番素直な金融緩和措置でございまして、そういう意味では各国中銀のロジックが全然違う中ですから協調行動とかそういうのは表面的な見方という話になろうかと思います。


・日本の方がコミットメントが強いんですがという説明ではありますが・・・・・

上記の後半部分の答えの元質問はこちら。

『(問) 2 つお伺いします。1 つ目は、欧米の中央銀行の政策との比較についてです。9 月にECBとFRBがそれぞれ緩和の強化を打ち出しています。ECBは無制限に国債を買い入れる、FRBは期限をはっきり定めずに毎月MBSを買っていくという策を打ち出しています。日銀も、今回、緩和を強化したわけですが、ECBやFRBと比較すると、外形的には、「無制限」「無期限」という形の欧米に比べ、緩和姿勢が弱いとみる向きもあると思います。この点について、総裁はどうお考えですか。(2番目は次に)』

『(答) まず、各国の中央銀行は、それぞれの国や地域の政策課題や金融経済情勢を踏まえ、最も効果的な政策手段や政策の枠組みを選択するよう努めていると思います。従って、FRBあるいはECBとの比較で、日本銀行が、金融政策において、先程おっしゃった「大胆さ」あるいは「積極性」において見劣りするとは思っていません。』

ほう。

『緩和に対する姿勢は、どのような手段あるいは武器を使ったかではなく、どのような手段あるいは武器を使おうとも、最終的にどのような金融緩和の状態を実現したかという結果でもって判断されるものと思います。』

ほうほう。

『そういう意味では、先程も少し触れましたが、日本の金融環境は、先進国の中でも最も緩和的だと思っています。』

実質金利ェ・・・・・・・

というのは兎も角として、まあこの先の説明部分は中々良い説明。最初の部分はさっき引用した通りなのでその先から。

『第2 に、資産買入れの上限や期限についてです。FRBは、先週のFOMCにおいて、MBS買入れの上限や期限を予め定めず、労働市場の見通しが改善するまで継続すると決定しました。もっとも、予め上限や期限を定めておくかどうかに関わらず、政策目的の達成に不十分と判断されれば金融緩和を強化するという考え方は、どの中央銀行も同じです。』

これは仰る通りで、ECBにしてもFRBにしてもコンディショナリティ―付の「無制限」であって、ドラギ総裁が定例理事会の冒頭で説明したように「あらかじめ上限を設けない」というのが正確な話なんですよね。

『例えば、日本銀行では、資産買入等の基金に上限や期限を定めていますが、それらを累次にわたって拡大、延長してきており、当初の残高目標は35 兆円程度で期限2011 年末であったのが、現在は80 兆円程度で期限2013 年末と、当初の予定を遥かに上回る、大規模かつ長期の緩和政策となっています。』

ということで、必要ならば延長を続けるというのは物価安定の目途で示しているので、別に日銀の基金だって期限が来たら自動終了ではないのですよね、という話を更に詳しく説明。

『第3 に、実質的なゼロ金利を維持する期間の示し方です。FRBは、例外的に低い水準の政策金利が、少なくとも2015 年央まで正当化される可能性が高いとしていますが、これはあくまでも現時点での経済・物価見通しを前提にした場合の蓋然性を述べているものであって、2015 年央まで低金利を維持するというコミットメントではありません。』

その通りですな、というかこういうのを説明する辺りちょっと白川さんバーナンキにムッとしているのではないかと勝手に妄想を逞しくするあたくし。

『一方、日本銀行の場合は、当面の「中長期的な物価安定の目途」である消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していくこととしています。これは、政策の時間軸を日本銀行が目指す状態を見通せるかどうかに紐付けた明確なコミットメントです。』

こらまた微妙な説明ですが、この「中長期的な見通し」という部分だって裁量部分が入るので、「紐付けコミットメント」というのは説明的にどうなのかねという気はせんでもないが、まあ経済状況から考えて日本の方が結果的に低金利が長期化しそうなのはその通りでしょうな。

『従って、「日本銀行の政策の方が大胆さに欠ける」という批判については、政策の内容についてもそうは思っていませんし、政策の結果として実現している金融環境についても、そうした批判は全く当たっていないと強く思います。』

だそうな。


・物価見通しについて

先ほどの質問の2番目。

『もう1 点は、先程の質問と関連しますが、景気の先行きについて、当初のシナリオよりも回復時期が半年程度後ずれする可能性があるとの認識を示されましたが、物価についても、「2014 年度以降、遠からず1%に達する」という見通しが後ずれする可能性があるのか、お考えをお聞かせ下さい。』

これは良い質問。

『それから、物価上昇率1%の達成時期が後ずれしたのかというご質問です。半年に1 回、展望レポートを示す時には、経済・物価について包括的、体系的に検討を行い、その上で数字を出していくわけですが、今回は、経済のシナリオを基本的に修正していくに当たり、先々の経済・物価についてもある程度の見方を共有しながら議論を進めました。』

ほう。

『政策判断に当たって、私ども自身が望ましいと思っている姿を目指して最適と思われる政策を展開するわけですが、そうした軌道を踏み外さないように、今回、こうした対応を採ったということです。数字については、10 月末の展望レポートでお示ししますが、私どもの政策判断との関係でいえば、そうした望ましい状況に至る軌道を踏み外さないように、今回の対応を採ったということです。』

何か答えを誤魔化しておりますが、まあ要するに「遠からず1%に達する」というのはどう見ても遠ざかっている(大体からして物価見通しの前提に「経済回復で需給ギャップが縮小して物価が上昇する」というのがある訳で、その一方で見通しの経済回復が遅れるというのですから当たり前ではあるのですが)という所なのでしょうが、その辺は展望レポートで、という事でしょう。

つまり、展望レポートの所ではきっちりとその「遠からず1%に達する」の見通しが少なくとも後ずれするという形になって、そうなりますと必然的に追加金融緩和が必要という、まあそんな流れになるんでしょうなあというのは把握しました。

#もうちょっとあるのですが今日はこの辺で勘弁

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2012/09/12

○時間が無いので一発ネタ

先週の木曜にこんなのがあったんですけどね。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120906b.pdf
ブンデスバンクの東京での新たな門出に寄せて

ブンデスバンク駐日代表事務所開設25周年
祝賀レセプションにおける挨拶の邦訳

『さて、ブンデスバンクについて、かつてドイツのコール首相は、「政治家としてブンデスバンクの金融政策決定を好ましく思ったことはあまりないが、一市民としての自分はブンデスバンクの存在を喜ばしく思う」と述べたと伝えられています。このエピソードが示すように、ブンデスバンクが独立した中央銀行として物価の安定を実現してきた実績はつとに有名です。』

・・・・・・・・・・・・いやまあお気持ちは判るのですが、何でそういう一々物議を醸さなくても良い所でそういう物議を醸すような発言するかねこの麿は・・・・・・・・


ちなみに本チャンではこう言ってますのでまあ同じですな。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120906b.pdf

『It is said that the German Chancellor Helmut Kohl once stated that "I did not like many of the monetary policy decisions of the Bundesbank, but as a citizen, I am very glad about the existence of the Bundesbank." As this episode shows, the Bundesbank is well known for its independence and achievements in securing price stability.』

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2012/08/28

お題「麿先生麿節のようで何より(棒読み)」

大阪での白川総裁講演は会見の方が見ものでありますが講演の方からも麿節の香りが・・・・・・

○大阪での白川総裁講演から少々

先週金曜に講演があったのですけれども・・・・・・
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120824a1.pdf
最近の金融経済情勢と金融政策運営
── 大阪経済4団体共催懇談会における挨拶 ──

まあ講演の方は基本的にそんなに変な話をしている訳でも無い(ので市場的にもスルーだった)のでちょっとだけ。

・欧州債務問題における中銀対応は時間を買う政策です

というのは毎度話をしていることですが、まあお約束なので引用。

『いずれにせよ、このように厳しい状況が続く中にあっても、リスクの極端な形での顕在化が回避されているのは、金融システムの要である銀行間の資金調達市場が、総じて安定した状態を維持しているためと考えられます。この点では、欧州中央銀行による大量のユーロ資金の供給や、日本銀行を含む6中央銀行によるドル資金供給面での協調対応策といった、中央銀行による流動性供給の枠組みが存在するという安心感が大きな役割を果たしています。』

という事を日銀は毎度強調していまして、まあ確かにそれはそうではございますけれども、流動性供給の枠組みではソルベンシー問題から来るリスク対応はできませんという事で、「極端な形での顕在化」は無いかもしれませんけど「リスクの顕在化」自体は別に起こらない話では無いと思いますし、それこそ他の主要国の中銀(ってFRBとBOEだったりしますが)がリスクの顕在化を全力で懸念するような情報発信をしている中ではちょっと浮いている感じがするので、この話ってあまり強調しない方が良いような気がするんですけどね。

『それと同時に、どの国でもそうですが、中央銀行による流動性支援は、あくまでも「時間を買う」、あるいは「痛みを和らげる」という性格の政策であることも冷静に認識する必要があります。欧州当局は、財政・経済構造改革や金融システムの安定・強化等において着実に取り組みを進めていくことが何よりも重要です。この点、我々も国際会議をはじめ様々な機会を通じて、欧州の当事者に対し、そうした対応を強く促しています。』

つーことで欧州債務問題の影響の可能性として貿易、企業マインド、金融市場(内容が為替なのですが為替市場と言わないのがチャーミング)、金融システムと挙げていますけれどもそこは引用割愛します。


・経済先行き見通し

『わが国の景気の先行きについては、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと判断しています。数字に即して申し上げると、2012 年度は2.2%、2013年度は1.7%というのが我々の成長率見通しです。』

ということで・・・・・・

『そうしたもとで、物価については、需給ギャップのマイナス幅が次第に縮小し、物価を押し上げる方向に作用していくと考えられます。』

そうなんですかねえ。

『再び数字に即して申し上げると、消費者物価の前年比は、原油価格反落の影響などもあり、当面はゼロ%近傍で推移するとみられますが、やや長い目でみれば、マクロ的な需給バランスの改善を反映して、2013 年度には0%台後半となり、その後、当面の「中長期的な物価安定の目途」である1%に遠からず達する可能性が高いとみています(図表10)。物価を巡る環境という点では、最近は、労働需給が徐々に改善するもとで、賃金も下げ止まってきていますし、中国の賃金上昇等を背景に、以前ほどには安値輸入品の流入は目立っていないことも注目に値します(図表11)。』

と仰せなのですが、そもそも需給ギャップが着実に改善していくという見通しがどうなのよという話なのでございますが、まあその辺に関しては置きが甘いんじゃないですかという所ですな。まあ詳しくは会見でもツッコミがありますので後ほど。

『いずれにせよ、先行きのわが国景気の展開を考えるうえでは、堅調な内需が景気を支えている間に、海外経済が減速局面を脱し、外需が回復していくかどうかが重要なポイントになります。』

で内需と外需に関してですが。

『こうした問題意識から、堅調な内需を支えている要因を改めて整理しますと、第1に、エコカー補助金等の政策効果が挙げられます。第2に、広い意味での震災関連需要があります。(具体例の説明部分割愛)第3に、企業収益の改善を背景とした企業マインドの改善とそれを受けた賃金・所得の下げ止まりが挙げられます。第4に、高齢化対応ビジネスなど、企業が潜在需要の掘り起こしに成功する例が増えてきているようです。第5は、円高による輸出下押し効果と裏腹の要因ですが、実質購買力の高まりです。』

また円高の実質購買力の話をしてらあと思うのですが、確かにそらそうなのですけれども、こんな事を言うと当然ながらこの部分を切り取って「日銀は円高を容認している」と難癖をつけられたり、まあ難癖つけないにせよ「日銀は円高阻止に対する姿勢が強くない」という認識を持たれるだけ損じゃねえかと思うのですよね。

まあ白川総裁におかれましてはこういうのはすべて正確にという事で丁寧に話をしようという事だと思うのですが、金融政策の説明している時もそうなのですけれども、すべて正確に話す事によって自分たちの政策姿勢に疑問を持たれたりして政策効果を自分から下げる必要は無いと思うのですけどね。勿論説明の際に嘘八百のペテンをしろという話では無く、それは言うだけ損という時は沈黙は金というのもアリなのでは無いでしょうか、と今となっては更生不能の時既にお寿司状態ですけど思うのでございまする。

『内需の先行きについては、エコカー補助金の反動などを念頭に置いておく必要はありますが、広い意味での震災関連需要や企業収益・雇用者所得の改善基調、高齢者消費などは、ある程度持続性を持ち得ると考えられます。』


で、外需。

『他方、問題の外需ですが、回復のタイミングも含め、様々な不確実性が存在します。先ほど申し上げたとおり、欧州債務問題は既に世界経済やわが国経済に大きな影響をもたらしており、この点は私どもの経済・物価見通しにも既に織り込んでいるところですが、この問題がさらに深刻化し、国際金融資本市場の動揺、ひいては世界経済の一段の下振れにつながるリスクについては、引き続き、最も強く意識しています。』

『中国経済については、金融緩和などの政策対応の効果もあって、インフラ投資や不動産販売など内需の一部で改善の兆しが見られ始めていますが、欧州向け輸出の弱さが続く中で、減速局面がさらに長引くことがないかどうか、十分な注意が必要です。』

『米国経済についても、緩和的な金融環境等に支えられ、緩やかな回復が続くとみていますが、バランスシート調整が徐々に進みつつあるとはいえなお重石として作用するもとで、財政政策に関する先行き不透明感が強い状態が続いており、その回復力を注視していく必要があります。』

ということですが、先日ネタにしたFOMC議事要旨と比較してちょっとお前さんの見通し楽観に過ぎないかというツッコミは明らかにあると存じます。



・金融政策について

まあ毎度の話をしておりますがね。

『実際に金融緩和を推進していくため、日本銀行では、「資産買入等の基金」と呼ばれる金融資産の買入れプログラムを実施しています。これは、国債をはじめとする幅広い金融資産を市場から買入れることにより、長めの市場金利の低下やリスク・プレミアムの縮小を促すための措置です。』

『日本銀行は、2月と4月にこの基金の枠を相次いで拡充し、来年6月末までに、残高を70兆円程度まで積み上げることとしています。ちなみに、現在の残高は57.8兆円です(図表12)。日本銀行の金融緩和については、金融政策決定会合の都度、この基金の残高目標引き上げの有無に注目が集まりがちですが、現在はさらに12 兆円強の基金の積み上げを行っている途上にあります。このことは言い換えると、金融緩和の効果は今後も間断なく強まっていくということを意味しています。』

という理屈はまあそらそうなのですが、そういう理屈を打ち出すとそもそも買入のアナウンスをしただけでは効果が無いという話になりまして、却ってオペレーションの細かい部分までああだこうだと言われるだけじゃねえのという気がしますし、大体からしてこのロジックで話をすると今度は輪番オペの方にも話が波及してくるような気も。

『強力な金融緩和の波及という観点から、金融機関の貸出金利をみますと、引き続き低下しており、史上最低水準を更新し続けています。こうしたもとで、企業の支払い金利は、収益力に比べて、十分低い水準で推移しています(図表13)。金融機関の貸出態度や資金繰りに関する企業の判断をみましても、足もとは、中小企業を含め、2000 年以降の平均を上回る水準まで改善しています(図表14)。』

まあこの辺は経済団体向けの講演ですので。で、金融緩和の効果ですけれども。

『金融緩和政策の効果はこのように低下した金利が企業の投資・支出の増加につながることを通じて実現するものです。金融緩和政策の狙いのひとつとしてしばしば議論される予想インフレ率の上昇についても、支出の増加が物価の上昇につながることを通じて実現するものであり、出発点はあくまでも金利水準全般の低下です。』

という話をしているのですが、金利水準一本槍で効果の説明をするというのが少々どころかだいぶ他の中銀、つーかFRBが主にという事になりますが、他の人たちの説明との比較で温度差を感じる所でございます。つまりFRBの場合は説明をコロコロと変えてはいますけれども、少なくともLASPに関しては期待インフレ率の上昇とかの話をしておりまして、金利に関しては(最近は名目金利の話が多いですけれども)名目では無くて実質金利の下げという話をするのが通常運転モードだと思うのですが、麿の場合は名目金利の話一本槍ですかそうですかという感じです。

でですな、名目金利一本槍という事はど〜ゆ〜事かと申しますと、当然ながら国内の金利は既に10年で1%割れ水準を延々とやっているというように既に下げ余地が乏しいので、そうなりますと「次の手段は何ですねん???」というツッコミにつながるのですが、名目金利一本槍であることからこういう説明になりますぞなもし。

『緩和的な金融環境は日本経済がデフレから脱却し物価安定のもとでの持続的な成長を実現するうえで、強力な後押しとなるものですが、現在の最大の問題は、そもそも企業が国内での投資に魅力を感じていないことです。』

『実際、上場企業をみると、手元資金の量が有利子負債を上回る実質無借金の上場企業の割合は2000 年代初頭の20%台後半から現在は40%を超える水準にまで上昇しています(図表15)。今必要なことは昨年の本席で詳しく述べたように、外需の取り込みと内需開拓の両面作戦です。そのためには、マクロ的には思い切った規制緩和が必要であり、個々の企業経営レベルでは、差別化戦略を意識したビジネス・モデルの確立だと思います。』

まあこういう所が麿の麿たる所以で、読んでいる方としては「あちゃー」という感じでございまする。いやね、仰ることはそらまあその通りでございますが、そういう言い方をしますと「日銀はこれ以上の金融緩和に対して消極的」という言われ方をする訳でして、少なくともこの話の流れで言うのであれば、この仰る通りの話をする前に「金利は既に低下しているのですが、日銀としてはあらゆる手段で経済を下支える為の施策を工夫しております」とか何とか言えば印象は全然違うのですけどねえと思いますが、まあ麿の本音がそもそもやる気満々モードじゃないからこういう物言いになるという正直者モードなのでしょうけど、まあ困ったもんでございます。

『ちなみに、スイスは過去10 年の間日本以上に自国通貨の為替レートが上昇した国ですが、輸出金額の伸びは日本をはるかに上回っています(図表16)。現在の日本経済が直面する真の課題は成長力の引き上げであり、デフレからの脱却という課題は、上述した幅広い主体による成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が揃って実現されていくものです。こうした認識のもと、日本銀行では、中央銀行としては異例の措置ですが、「成長基盤強化を支援するための資金供給」という取り組みも行っています。』

ということですが、成長基盤強化の話はまあ良いのですけれども、その前の説明ってこれまた仰る通りかもしれませんけれども、やはり言い訳じみているというか、日銀はこれ以上何をせえちゅうねん的な話の展開に読める(というか麿的にはそうなんでしょうけど)のでございまして、まあ麿節炸裂という感じなのですが、折角色々と異例の資産購入とかしているというのにその辺のアピールは無くて「ゼロ金利下における金融政策の限界」的な話を展開するというのが説明の損得勘定として如何なものかという気がします。


○会見はどう見ても吊し上げです本当にありがとうございました

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1208c.pdf

・円高に対する文句が出まくるの巻とな

いきなり冒頭の質問で吹いた。

『(問) 本年は、地元の財界から「劇薬もやむを得ないのではないか」とか、「メッセージの出し方が弱いのではないか」といった、例年以上に強い発言があったかと思います。どのような印象を持たれましたでしょうか。』

メッセージの出し方に関しては先ほどまであたくしも悪態をついた通りですが(^^)。

『(答) 昨年10 月に当地へ参った時にも、円高についての強い問題意識、あるいは日本銀行の金融政策に対する様々なご要望を頂きました。財界の方々の声が、昨年との比較で本年が一段と強かったとは受け止めていません。』

ほうほう。

『昨年、本年とも、円高についての問題意識が強いということ、それから金融政策について様々な工夫を凝らして欲しいという要望があったと受け止めさせて頂きました。懇談会でご質問に対してお答えしたことの繰り返しになりますが、日本銀行としては、この為替の問題については、常に景気・物価への影響を注意深くみており、そうしたことも踏まえて適切な金融政策運営を心掛けていきたいと思っています。それから、情報発信の仕方についても、これまでも様々な工夫を凝らしてきていますが、これからも努力していきたいと思っています。』

ほうほう。

『(問) 懇談会での意見の中でも、財界の方々から、かなり動き出したという人もいれば、五重苦、六重苦で経営は非常に厳しいという双方の意見がありましたが、今後の関西景気はどうなっていくのかを教えて頂きたいと思います。』

『(答) 関西景気については、持ち直しの動きもみられるものの、足踏み状態が続いていると認識しています。これは、内需が全体として堅調に推移する一方、輸出や生産でやや弱めの動きが続いていることが背景です。この間、懸念された電力事情については、需要者、供給者、双方のご努力や工夫の結果、これまでのところ安定的な状況が続いており、景気の大きな下押し圧力として作用する事態は回避できていると判断しています。関西の景気を全国と比較してみると、全体として改善方向にあることは共通していますが、緩やかに持ち直しつつあると判断している全国との比較では、関西にやや出遅れ感があることは否めません。こうした違いの背景として、2 点指摘できると思います。』

ということですが関西の話の部分は引用割愛します。


・円高に関する質問に対する答えが麿節であるorz

で、その次に更にこの質問。

『(問) 総裁が出席される懇談会の場にも何度か同席させて頂きましたが、本年は例年になく、出席された方の切実な声が大きかったと思います。特に六重苦の中でも、円高ということに関しては、それへの対応について、前例や従来の色々な対応にとどまらないものを望む声が聞かれました。これに対しては、日銀の役割を踏まえた総裁のお答えがあったわけですが、こうした切実な声に対する総裁ご自身の思いを今一度お聞かせ頂けますでしょうか。』

いやあ吊し上げますなあ。

『(答) 円高が輸出関連企業を中心として景気に対して下押し圧力となっているということは、かねてより認識しており、本日のお話を聞いても、私自身の認識と基本的には同じだと感じました。』

はあそうですか(棒)

『円高への対応については、3 つの次元に分けて考えた方が良いと思います。』

ほうほうそれでそれで?

『1 点目は、円相場水準それ自体にどう対応するのかということです。これは、為替介入政策のあり方ですが、懇談会の席上で申し上げた通り、日本政府が適切に対応されていると考えています。』

政府の仕事ですかそうですか・・・・・・・(・ω・)

『2 点目は、円高の影響を受けた経済に対して、どう対応するのかという話です。日本銀行としては、昨年来、円高が景気・物価に与える影響も勘案した上で、金融緩和の強化を行ってきたということです。』

既に対処していますかそうですか・・・・・・・(・ω・)

『3 点目は、現実に円高が発生しているもとで、これをどのように利用していくのかということです。わが国の急速な少子高齢化あるいは人口減少のもとで、市場が拡大していくという意味では、海外市場のウエイトがどうしても大きくなってくるわけです。そうであれば、海外に生産拠点を作っていくことは、企業経営からすると合理的な判断として出てくると思います。その際、円高を使ってM&Aを行っていく、M&Aを行っていく上で円高は1 つのチャンスでもあります。現実に、日本の企業は円高を使ってM&Aに取り組んでいると思います。そういう意味で、円高の対応については、今申し上げた3 つの点を分けて考えていく必要があると思います。』

お前ら頑張って海外進出しろですかそうですか・・・・・・・(・ω・)

ということで、何というかそらまあ麿的には正論の話ですが、それはすなわち「日銀に何でもやれと言われても知らんがな」という話で、そらまあそういう面は多々あるのですけれども、それを中銀総裁が言っちゃあ台無しにも程がある訳で、麿の麿節も大概にした方が良くないかと思うのですけれども、最近ますます麿節パワーが拡大しているようで誠にアレでございます。


・景気認識に関して

2つほど質問があるのですが。そのうち1つだけ引用しておく。

『(問) 先程の質問にも関連しますが、日本銀行は、これまで、展望レポート等で、緩やかな景気回復経路に復する時期を「本年度前半」としていたように思いますが、本日、総裁はその時期には言及されなかったようです。「本年度前半」と言いますと、厳密には来月末ということになりますが、この時期に回復経路に復していくと判断するのはなかなか難しいと総裁もお感じになっているのか。色々と経済指標をみると、輸出もかなり弱いようですし、先程、総裁は「内需の力強さで外需の弱さが相殺されている」とのお話でしたが、それ以上に外需の弱さが目立ってきて、もう相殺できないような、かなり外需が下振れしつつあるのではないかという感じもするのですが、改めて総裁のご認識を聞かせて下さい。』

・・・・・・・・・(;∀;)イイシツモンダナー

『(答) 先立って、本年第2 四半期のGDP成長率の数字が公表されました。この数字をどう評価するかですが、1〜3 月期のGDPが年率で5%を超えるという高い伸び率でしたから、それとの比較では減速ということになりますが、4〜6 月期のGDP成長率の数字自体は、潜在GDP成長率をかなり上回る数字です。これをどういう言葉で表現するのが良いのかということです。いずれにせよ、年前半の成長率自体は、多分、G7の中で一番高いものになったと思います。その意味で、回復ということを成長率でみると、現に緩やかな回復をしているわけですが、私ども自身は、数字の動きも然ることながら、今後、回復、成長率がどういう見通しで、どういうテンポで変化していくのかを注意してみているということです。この点については、また9 月の決定会合でも点検していきたいと思っています。』

激しく煙に巻いている感じですが、そらあーた前年比で言えば震災の反動分があるのだから成長しているように見える筈で、1−3が強くて4−6もまあ良くてG7の中で一番高いとか言われましても、そもそもそのG7であります所の世界経済が強くないから相対感で強いという話で、そう考えると外需がこれから立ち上がって内需の落ちを埋めるという説明には無理があるんじゃないの?と思わせるお答えではございますな。


・西村副総裁の豪州講演に関して

『(問) 2 つあります。今週初めに西村副総裁がシドニーでの講演で人口動態とバブルの生成・崩壊についての一般論的な文脈の中で、中国について、“danger zone”と指摘されていたのですが、中国経済のバブルの破裂の時期が近いという認識が行内で結構共有されていることなのか、一般論として副総裁が示唆されただけなのか、その点、中国経済の見方について確認させて下さい。(2点目割愛)』

『(答) 第1 問の中国経済に関するご質問ですが、西村副総裁の講演自体については、日本銀行という組織としての見解ではありません。会議の性格上、リサーチのコンファレンスですから、西村副総裁がご自身の考え方を講演という形で表現されたことであると思います。』

うーむ・・・・・・・

でまあ後何故か知らんが中国経済について延々と長広舌をふるっているので、それを一応引用しておきましょう。

『中国経済自体について、どうみているかということについてお答えします。成長ペースが鈍化した状態が続いています。こうした減速には、欧州向け輸出の減速に加え、これまでの金融引き締めや不動産取引抑制策から民間不動産投資等が減速してきたことが影響しています。この影響が製造業の生産にも波及しています。』

『先行きについては、目先は成長テンポが鈍化した状態が続くとみられますけれども、その後は、中国経済の成長ペースは徐々に高まっていく可能性が高いと考えられます。金融緩和やインフラ投資の前倒しなど中国当局による政策対応は強化されており、その効果が次第に顕在化してくると見込まれます。実際最近では、インフラ投資の増加や不動産販売の持ち直しなど、一部では改善の兆しも見受けられています。また良好な雇用・所得環境は維持されており、最近の物価上昇率低下の影響も相俟って消費は堅調な伸びが続くとみられます。』

『もっとも、先行きの中国経済については、不確実な面が残っているのは事実です。第1 の要因は、欧州債務問題の波及が強まるリスクです。中国の輸出の約2 割は欧州向けであり、欧州債務問題が深刻化すれば、中国経済にも影響が及ぶことになります。第2 の要因は、中国の高度成長から安定成長への移行が円滑に行われていくかという、もう少し長い目でみた問題意識です。どの国の経済も、ずっと高度成長を続けることはできません。農村部から都市部への人口の移動・労働力の移動ということがある程度の段階に達すると、追加的な成長力は下がってくるわけです。』

『日本も、かつて高度成長が終わる局面でそういう段階を迎えたわけですが、中国の場合、農村から都市部への人口移動という調整と、生産年齢人口が、もう数年して減少に転じるという2 つの調整が、割と短い時間の中で起きる中で、うまく高度成長から中程度の成長にソフト・ランディングできるかが課題になります。中国当局は、日本のかつての経験も含めて様々な研究を行っていますが、私としては、中国の当局が適切な政策対応をし、高度成長から中程度の安定的な成長にうまく移行していくことを強く願っています。』

とまあそういう事で、西村副総裁の豪州の講演は見事にスルーしているのですが、実際に西村副総裁が中国の不動産バブルに懸念を示す中で総裁はその点全くのスルーとか何という温度差という感じではございます。

という訳で本日は麿節鑑賞会で終了してしまいましたな(汗)。

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2012/08/14

ということで以下総裁会見ネタ。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1208b.pdf

○総裁会見ネタ:基金国債買入の応札下限金利に関連して

まあ当然ながらこれに関する質疑が少々あったのですけれども・・・・・・

『(問) 前回の決定会合で、札割れ対策として一定の政策を講じていたわけですが、その後も8月1日に長期国債の買入れオペで札割れが発生するなど、まだ問題があるように見受けられます。基金残高の積上げ目標を確実に実施していくために、追加的な札割れ対策を講じるお考えがあるかどうか、お聞かせ下さい。』

キタコレという感じですが。

『(答) まず、札割れが生じている背景ですが、今申し上げた通り、主要先進国の長期国債利回りが、欧州債務問題を背景とする「質への逃避」もあって低下しており、そうしたもとで、わが国の国債利回りは、日々の振れはあるものの低下しています。このように、国債利回りが低下する中で、国債の売却を控える先がみられたことから、8月1日にオファーした資産買入等の基金の長期国債買入れは札割れになったわけです。』

『金融機関の応札行動は、今申し上げたグローバルな金融市場の動向を反映した国債金利の動向に加えて、個々の金融機関のポートフォリオの内容や投資方針などにも依存して変化します。』

ということで特に欧州コア国の2年金利がマイナスとかになっているという辺りも背景になっているのはご指摘の通りなのですが、これがまた残念としか言いようのない事に、欧州コア国の2年金利マイナス状態って相変わらず続いている(昨日ちょっと見たらドイツはマイナス6bpだわオランダはマイナス1bpだわ)訳ですし、まあ0.10%のビットは強力ですしという状況。

じゃあ投資家が売りに行ったら0.10割れで売れるかというとショートカバーとか別の人の買いにでもぶつかれば別ですけれども、4ケタ億売りに行けば0.10%なので、まあそういう意味では日銀に売る人もいるでしょうというのが金曜のオペ結果でしたという話は昨日申し上げた通りでありまする。

『市場の状況は日々変動するわけですが、現状において基金の積上げが困難となっているわけではなく、長期国債買入れの下限金利撤廃が必要な状況ではないと考えています。いずれにせよ、日本銀行としては、基金の着実な積上げを通じて、既に発表している残高目標を達成していく方針です。』

>長期国債買入れの下限金利撤廃が必要な状況ではないと考えています
>長期国債買入れの下限金利撤廃が必要な状況ではないと考えています
>長期国債買入れの下限金利撤廃が必要な状況ではないと考えています

・・・・・・・・・・・いやあの市場の中の人として言わせて頂ければ麿様がそこまで力強く言い切る状況ではないと考えています(^^)という所なのですけれどもねえ。まあ調節担当部署におかれましては残り9.5兆円をどう積み上げるのか(昨日は単純に毎旬報告の数字から計算しましたが、実際には月初第2営業日に『日本銀行が保有する国債の銘柄別残高』というのがアップデートされまして、こちらを見ますと基金国債買入の中で年内に償還が来る銘柄(2年299、5年69、10年246までの各銘柄)の残高があたくしのリアル手計算によりますと4971億円ございまして、目標残高24兆円に対して今まで購入したのが15兆円なのですが、償還が5000億円来るという素敵な状況だったりするのでございます。ちなみに内訳は→http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/release/2012/mei1207.pdf
という事に対してより一層の工夫とやらが必要とか誠に同情の念に堪えません。

同情の念には堪えないものの、まあとっととバンザイしておけば良いのにと思うのでありますけれども、もしかしたら神風が吹いて市場金利が上昇してくれれば買入が普通に進むかもしれないと思って6週間粘ってみるとか言う光景を終戦記念日を前にして見ますと以下自主規制。


でまあこの買入下限ガーの話ですが他の質問でこんな話も。

『(問)(前半割愛)2点目は、札割れが相次いでいることについて、正直言って、金融政策に少し手詰まり感が出ているという感じもあります。例えば、最近、外債購入論などが出てくるのも、「ハードルが高いことは分かっているが、なかなか他に手立てが見つからない」という手詰まり感の反映ではないかと考えられます。包括緩和という枠組みに、少し手詰まり感があるのか、総裁の見解をお聞かせ下さい。』

『(答)2つ目の札割れの話ですが、これはある種の「手詰まり感」の表れとおっしゃったわけですが、この札割れという現象自体は、日本銀行による金融緩和がそれだけ強力に浸透していることの表れだと思います。例えば、3年以下の期間で、ECBの長期資金供給オペ(LTRO)による無制限の資金供給に対して、あれだけの金融機関が応募してきています。日本銀行も、残存期間3年以下の国債も買っていますが、時として札割れが起こることは、実は金融機関には、もう十分に資金があるということであり、それだけ日本銀行による金融緩和が強力だということの証だと思っています。』

でも「量を出す」というのをコミットしている訳でして、金利が下がって応札が割れているから問題ないとかいう話では無いと思うのですけれどもねえ、つーかその辺がどういう建付けになっているのかという話になった時に、どうも麿様におかれましては「金利が下がっているから良いじゃないですか何で無理やり買わないといけないのですか」という意識があるように受け止められそうな言い方をするのがアレ。

『その上で、「手詰まり感」とおっしゃったことの意味合いは、こうした金融環境が支出や投資活動の増加に繋がっていくことをどう実現していくのか、という点にあるように思います。それを「手詰まり感」という言葉で表現するのももちろん1つの方法ですが、私としては、それは「手詰まり」と考えるのではなく、前向きに捉え、成長力の強化にしっかりと取り組めば、経済が成長する余地が大いにあるということだと思っています。「手詰まり」と後ろ向きに考えるのはどうかと思っています。』

質問の趣旨を自分の都合の良いロジックに持って行く攻撃で凌ぐの巻でした(^^)。

でまあその後も質疑がありましてね。

『(問) 1つ確認させて下さい。下限金利の撤廃については、今、その必要はないとのことですが、資産買入等の基金の着実な残高積上げをしていく中で、また、強力な金融緩和をしていく中で、札割れが生じていった場合、やはり長国買入れの下限金利撤廃も辞さないということなのでしょうか。』

『(答) 決定会合では、毎回、市場の状況についても点検を行っています。繰り返しになって恐縮ですが、「札割れ」には、国際的な低金利環境のもとで、わが国の国債金利も極めて低い水準まで低下していることが影響しています。日本銀行としては、引き続き、そうした市場の状況や入札の状況等を点検しながら、資産買入等の基金の着実な積上げを進めていく方針です。』

「着実な積み上げを進める為に必要な事をしていきます」とでも言えば良いのにそう言わないのがこの正直者という感じですが、まあやりたくないというのは判った(別の質疑で長期金利の話をしているので、その辺とかとも総合して文脈読めばそうなるのだ^^)。

で、これまた直球の質問(^^)。

『(問) 札割れについて1点質問です。札割れの直接的な原因は、基金で買入れ対象としている残存期間1〜3年までの国債利回りが継続的に0.1%を下回っていることだと思います。この状態が継続するなら、オペの下限金利が設定されている限り、オペに札が集まることは今後も少し難しいと思います。現在の金利の状態が一時的とお考えだから、まだ札は入るとお考えなのでしょうか。今の状況について、総裁のお考えを教えて下さい。』

『(答) 金融機関がオペに応じるには、様々な動機があると思いますし、それに影響を与える1つの大きな要因がイールドカーブの形状なり、あるいは金利水準だと思います。足許で長期金利が低下するもとで、それが札割れを起こす1つの要因になっているとは思います。そういう事態が解消すれば、その分、オペへの応札が増え易いということは言えると思います。ただ、金融機関がオペに応じる理由がそれだけかというと、それ以外にもあると思います。従って、今申し上げた金利変動も含めて、マーケットの状況、オペに参加する金融機関の行動は、これからも注意深くみていきたいと思っています。』

・・・・・・・・・・・・・・えーっと、何を言いたいのか判ったような判らんような話ですが、やはりどうもワカランチ会長ですな。


○総裁会見ネタ:金融政策の限界的な話とか長期金利水準に言及というのはちょっと

欧州関連の質問に対する答えの中で聞かれても居ないのに金利水準に言及しているのでその前後も含めて引用。

『2つ目は、中央銀行のできること、あるいはできないこと、というご質問です。ご質問された方が引用された通り、ドラギ総裁も、「中央銀行のマンデート(責務)の範囲内で」とおっしゃっています。私も、ドラギ総裁の発言に共感します。中央銀行は、無制限で流動性を供給できるという大変大きな力を与えられています。この力を、どういう形で使っていくのかについて、各国の中央銀行法では――表現は少し違いますが――、金融システムの安定、物価の安定のために遂行していく、と規定しています。』

とまあこういうマクラの次に・・・・・

『現在の経済・金融環境に即して考えてみると、先進国の金利水準は、短期金利は概ねゼロ、長期金利も非常に低い水準にあります。もちろん、先程申し上げたように、長期金利については、留意事項はあります。長期金利について低下余地が全くないわけではありませんが、大きくみて長短金利とも非常に低い水準であることは明らかです。そういう意味で、金利低下による景気の刺激効果は徐々に限定的になってきているというのがエコノミストの間での共通の理解になっているように思います。』

まあ言いたいことは金融政策の限界ががががが的な話だとは思うのですが、少なくともバーナンキ議長にしろキング総裁にしろドラギ総裁にしろ、こういう話はトップが率先してしたら少なくとも損得勘定的にダメじゃんと思うのでありまして、正直なのはまあ個人的属性としては美徳ではあるのですが、政策をやっている本人がその政策の限界について話したらそれだけで政策効果が減殺されるじゃネーノとか思うのですけどねえ。そういうのは副総裁なり審議委員なりに喋らせておけばヨロシアル。つーか長期金利水準についての話とかして低下余地がどうのこうのとか言うのもどうかと思いますけどねえ。

『一方、金融システムの安定をしっかり維持することは、現在の環境のもとでも、非常に大事だと思っています。あえて申し上げると、今のような欧州債務問題、つまり財政と金融システムと実体経済の負の相乗作用が心配される時、金融システムの安定性が本当に維持されるかが懸念される時、中央銀行のこの面での機能――これは流動性供給ですが――は大事であり、かつ、できることです。』

『しかし、中央銀行のできないこととして、先程私が欧州について述べた様々な経済・財政の構造改革が挙げられます。これらは、しっかりと取り組んでいく必要があると思っています。流動性供給は、時間を買うことはできますが、本来必要となる構造改革の必要性をなくすものではありません。そのことについての認識を踏まえた上で、中央銀行として適切に行動していくことが大事だと思っています。』

結局ですな、最後の出来ない事の話はその通りで、こらまあ皆さん中銀の偉い人が仰せではあるのでございますが、前半の出来る事の説明の中で自ら限界について話したうえで、長期金利水準まで言及するというのは口が滑るというかこの正直者という感じですなあと。


○総裁会見ネタ:アラン・ブラインダーの「自分の尾を追う犬」ネタキタコレ

この質疑は中々のイイシツモンダナーである。

『(問) 少し抽象的な質問になるのですが、市場との対話について伺います。』

キタコレ。

『マーケットは、常に日銀に対して金融緩和的な政策を求めています。ただ、いちいちマーケットの注文に応えて緩和的な政策はできないわけです。』

まあマーケットったって別に短期市場的にはこれ以上緩和されてもはた迷惑なんですけどまあそこは措く。

『マーケットは、常に短期的な成果を求め、総裁から市場に対して非常に優しい言葉を求めているわけですが、総裁は往々にして、非常に正確に金融政策についてお話され、真面目に、真摯に話すことが、時に、マーケットからは「緩和的でない」と逆のベクトルで受け止められることもあるわけです。そういう市場との対話に関するジレンマについて、どうお考えなのでしょうか。』

ニヤニヤ(・∀・)

『時には、マーケットに対して、リップサービスのようなことも必要なのか、それとも、リップサービスあるいはマーケットの催促に応えて緩和的な政策を必要以上に打つことが、長い目でみると良くない結果を招くということなのか、その辺のジレンマについて、単に金融政策だけではなく、総裁としての発言の仕方も含め、どういうことをお考えか、お聞かせ下さい。』

どう見ても誘導質問です本当にありがとうございました。で、麿節を鑑賞しませう。


『(答) 中央銀行の金融政策は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していくことが目標です。そういう意味では、本質的に、時間の長さは中長期的なものです。一方、「マーケット」という場合、その参加者には、非常に短期のタイムスパンで投資をなさっている方もいますし、非常に長期のタイムスパンで投資をなさっている方もいます。従って、今おっしゃった「マーケット」とは、短期から長期、超長期までを含めた全ての市場参加者かというと、必ずしもそうではなく、実は、より短期の市場参加者を意味しているケースもあるのではないかと思います。いずれにせよ、市場参加者のタイムホライズンは、金融政策のタイムホライズンに比べ、往々にして短いということは、現実問題としてあると思います。』

この短期は短期市場じゃなくて説明にある通り「目先筋」という意味ですな。

『以前、この席でも申し上げましたが、かつてFRBの副議長を務めたアラン・ブラインダー氏が、中央銀行の金融政策の独立性について語った言葉があります。1つは「政治からの独立性」、もう1つは「市場からの独立性」、という2つのことを言っておられます。長い目でみた経済の安定を図っていくという中央銀行の行動原理と市場参加者の行動原理が、時として衝突することについて、経験に基づいた議論展開をされています。』

ブラインダーキター!

『私としては、何かリップサービスをするということではなく、中央銀行としての考え方をできるだけ分かり易く説明していくことが大事だと思っています。自分自身の説明の仕方について、さらにどうすれば中央銀行としての考え方が正確に伝わっていくのか、これからもしっかり考えていきたいと思っています。いつも記者会見で色々な質問を受けて、その後、反芻をしながら、後から、「こう答えれば良かったかな」と思うこともよくあり、これからも、しっかり考えていきたいと思っています。』

とりあえず「自分のやっている政策の効果を無くすような損な物言いをしない」というのだけ心がけて頂ければ宜しいと思いますけど、相変わらずなのは先ほどあたくしが悪態をついた通りでありまする。


○総裁会見ネタ:緩和的状況云々に関して

『(問) 声明文の中で、わが国の金融環境について、前月までは「緩和の動きが続いている」というところが、今月は「緩和した状態にある」と、現在形というか過去形に変わっています。これは、今までやっている緩和の効果がかなり出てきており、これ以上さらに70兆円まで基金残高を増やすことは、なかなかそこまでやる程は必要ないという意味合いが滲み出ているのでしょうか。』

せめて「これ以上の追加をやらない」位にしておけばよいのに・・・・・・・・

『(答) そのような意味合いは、全く滲み出ていません。本年末までに65兆円程度、来年6月末までに70兆円程度という基金残高の目標は、はっきり書いてあります。先程申し上げたことの繰り返しになりますが、基金残高の目標を達成していくという私どもの方針は全く変わっていません。』

という答えで逃げられるじゃないの〜と思うのですが、まあここの文言自体にはそれほど重大な意味は無いと思うのですが、今回の会見での基金国債買入に関する発言を見てると何かねえという気もせんではない所は若干ある。ただまあ普通に考えてここについてはそれほどナーバスにならなくても良いと思います。それよりも現状判断の中の重要項目3つを下げた方が大きいと思います。



○総裁会見ネタ:LIBORガーの話を少々

質疑応答の中でLIBORに関する質問が4つもありまして正直金融政策のインプリケーション的に無駄としか思えない質疑でして、そらまあメディア的には面白いネタなのかも知らんがあたくしと致しましてはんざりという感じですな。大体からして成長支援資金供給を何でまた延期したのかと小一時間。別にLIBOR使わなくたって「期間中のFRBのディスカウントウィンドウ金利」で何か問題あるんでしょうかと思いますというのは先日も申し上げましたが。

『(問) LIBORについて、前回の記者会見からお立場や見解は変わらないとは思いますが、改めて、不正操作が起きたこと自体、および、これから議論になっていく制度設計についてのご見解をお聞かせ下さい。』

『(答) LIBORは、金融市場における重要な金利指標であり、デリバティブ取引を含め、様々な取引がこの指標を用いて契約されています。この点、今回指摘されている金融機関内部での不正操作の働きかけは、金融市場の公正性に対する人々の信頼を失いかねない重大な問題であると認識しています。まずは、金融機関において、こうした不正を防止できるような体制を確保すること、そして、金利指標の作成に関わる諸機関が、指標の信頼性を担保できる枠組みを整えることが、金融市場への信頼確保にとって重要だと考えています。』

ここで話を終わらされるとアレなのですがまあ続きがあります。

『その上で、金利指標を考える際には、そもそも「金利の実勢」をどのように定義し、把握するのかという基本的な問題があると考えています。』

とまあ総裁も言ってますけど、これはまあ世界どこもそういう報道ですけど、銀行は悪の巣窟でケシカランみたいなステレオタイプがあって、不正ガーの話ばかりが先行して話が進んで行くからややこしい事になると存じます次第で、まず最初にこの部分から掘り下げて頂かないと建設的な話にならんと思うのですよね。ですからして中央銀行におかれましてはまずここから話をして頂きたいとか思うのですが、さっきのマクラにあるような話(元文章のデイリーメールまで読んでないからロイターがオモシロヘッドラインにしている可能性は無い訳でも無いが)になるとか何だかなあとか思うのでありました。

『例えば、リーマンショック後の国際金融市場あるいは足許のユーロの資金市場のように、市場の緊張度が高まり、取引が細っている状況では、そもそも「金利の実勢」というものを定義することが難しくなるほか、仮に取引が薄い状況において、実際の取引データに基づいた金利を市場実勢とみなす場合には、個別性が強くなり、指標性としての問題が生じる可能性もあります。』

その通りで。

『また、仮に LIBORの作成過程を見直す場合や、代替する指標を導入する時には、既存の取引への影響などについても考慮する必要があります。』

まあこれ自体はそらまあ膨大に契約書の書き換えとか当事者同士の合意とかそういう話にはなろうかと思いますが、本当にケシカランインチキレートでどうしようもない、というのであればそもそも取引当事者たちから「じゃあ別の物を使いましょう」という話になるのでございまして、そういう話は声は上がれども具体的に始まっている訳でも無い、という事は即ち「他に代わるに足るものが無い」という状況を示している訳でして、ケシカランから金融機関を叩いて溜飲を下げて満足満足というだけの話では無いとは思うのですけどね。


だから、ジャーナリスティックにこういう質問したくなる心境も判りますけれども、まあこういう論点では何も生み出さないだろうと思う質問が別の記者からありましてね。

『(問) LIBOR改革について伺います。不正がないようにしようとすれば、大きな制度の変更が必要かもしれない一方で、大きな制度変更をすると前の指標と新しい指標とで食い違いが生じ、デリバティブの世界に混乱が起きるかもしれないというジレンマがあると思いますが、総裁としてはどちらを重視されていますか。私は、デリバティブの世界の混乱に少々目を瞑ってでも、ちゃんとやらないと、二度と誰も信じてくれないと思うのですが、如何でしょうか。もう1つは、BISで秋にLIBOR改革の議論があるかと思いますが、おそらく英国や米国から提案があるかと思いますが、日本としては、それを聞いて吟味するだけなのか、それとも日本として具体的に提案する用意があるのかについて教えて下さい。』

まあ後半は兎も角として、「誰も信じてくれない」のであればさっさと別の信頼に値する指標を作れば良い訳で、何なら質問をしておられる記者様が所属する報道機関様(どちらさんだか知らんが)でそういうのを作れば物凄い素晴らしい商売になると思いますけれども、結局「ベストではないかもしれないけれどもまあベターなんでしょ」という結果がこうなっている次第なのでして、ちゃんとやりたいとか高い意識をお持ちであれば御社がやって、従来の指標に取って代わる事が出来るかどうかやってみれば宜しいのではないかと存じますけどねえ。破壊的な話をするだけなら誰でも出来る訳で、混乱しても良いからどうのこうのとか無責任でお気楽ですのう。

・・・・・・まあ何ですな、信用格付けの話にも似たような部分もあるかと思いますけれども、このリファレンス金利問題に関しては金融市場の構造変化によって、元々はバカスカ取引されていた金融市場における無担保物ターム物取引が、有担保物取引とか、短期物国債などの取引に代替されてしまうようになったという背景がそもそも論としてあるのでより話はややこしいという所ですかにゃ。


ということで引用大会で長くなってしまいましたorz

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2012/08/13

○さて総裁記者会見(時間が無いので最初だけで勘弁)

思いの外ツッコミ所がある会見ではある。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1208b.pdf

・最初の説明に往生際の悪さを感じたのは気のせいですかそうですか

冒頭の説明部分って普段はスルーするのですが、このところ微妙に声明文のニュアンスなどと説明のニュアンスがアレだったりするのが何ともであります。つまり今回の味わいは現状判断を引き下げた海外、輸出、生産についての説明が何とも。

『こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外情勢をみると、米国経済は、企業マインドなどに弱めの動きがみられる一方、個人消費が底堅い動きをみせ、住宅市場にも持ち直しの兆しがみられるなど、全体としては緩やかながら回復基調を続けています。他方、欧州経済は、停滞した状態が続いており、ここにきて家計や企業のマインドの悪化が周縁国からコア国へ波及しつつあります。中国経済は、金融緩和などの政策対応の効果が内需の一部にみられ始めていますが、欧州向け輸出の落込み等から、減速した状態がやや長引いています。このように海外経済は、緩やかながら一部に改善の動きもみられていますが、欧州債務問題の悪影響を主因として、全体としてなお減速した状態から脱していません。』


ちなみに前回の会見での説明はこちら。

『こうした決定の背景となる経済・物価情勢について、ご説明します。まず、海外経済をみると、NIEsやASEAN経済では、国内需要が堅調に推移しているほか、米国経済も、雇用者数の伸びがこの数か月間鈍化しているとはいえ、ガソリン価格の下落などを背景に個人消費が底堅い動きをみせ、住宅市場にも持ち直しの兆しがみられます。このように海外経済は、緩やかながら改善の動きもみられていますが、他方で欧州経済は停滞し、中国経済も減速した状態がやや長引くもとで、グローバルに企業マインドがやや慎重化しているなど、全体としてなお減速した状態から脱していません』(7月決定会合での定例会見から)

ということで、まあ海外の判断を声明文では下げたのですが、米国経済に関してもしぶとく個人消費が底堅いだの住宅市場の持ち直しだのという所を説明しておりまして、緩やかながら「一部に」改善の動きと判断を下げた割には説明の方が往生際が悪いと申しますか何と申しますかという感じ。

更に国内の説明ですが。

『次に、わが国の景気ですが、外需はやや弱めの動きとなっているものの、国内需要が復興関連需要などを背景に堅調に推移していることから、全体として「緩やかに持ち直しつつある」という前月と同様の判断をしています。』

と、まず総括判断を変えなかった方を先に説明した上で・・・・・・

『国内需要面では、公共投資が明確に増加を続けています。また、設備投資は、最近公表された各種のアンケート調査からも確認できるように、企業収益が改善するもとで、緩やかな増加基調にあります。個人消費は、消費者マインドの改善傾向に加え、自動車に対する需要刺激策の効果もあって、緩やかな増加を続けているほか、住宅投資も持ち直し傾向にあります。』

とまあ強い話を持っていってですな・・・・・・・

『この間、輸出は、欧州向けの減少等から、持ち直しの動きが緩やかになっており、鉱工業生産も足許弱めとなっています。』

と、判断を下げた方は一言コメントという内容。ちなみに今日は時間の都合上そこまでネタに出来なくて申し訳ありませんが(既に時間切れ覚悟モードorz)、金融経済月報における概要部分での説明では、ちゃんと判断を下げた方、つまり輸出と生産を下げた所の説明を先に行っておりますので、まー公式見解的にはその辺の判断引き下げを目立つようにしているのですが、麿の説明はどう見ても判断下げを強調しないような文脈になっておりまして、まー「この正直者!」と申し上げたい所ではございますが、どこぞの逆さ絵おじさんや俊ちゃんのようにおとぼけをした方がお得ではないか(ちなみに会見のこの後でそのような質疑があって味わいがある^^)という気はするんですけどね。


・金融環境に関しての説明

『経済主体の支出・投資活動を支える金融環境は、日本銀行の強力な金融緩和を反映して緩和した状態にあります。すなわち、コールレートが極めて低い水準で推移する中で、企業の資金調達コストは、貸出金利を中心に緩やかに低下しています。CP市場では、良好な発行環境が続いています。社債市場の発行環境についても、これまで起債が見送られてきた電力債も相次いで発行が再開されるなど、総じてみれば、良好な状態が続いています。また、企業からみた金融機関の貸出態度や資金繰りなど企業を巡る金融環境指標は、2000年以降の平均を上回る水準まで改善しています。』

という事なのですが、まあそれはそれで判るのですが、金沢の金融経済懇談会で森本審議委員が円滑化法案の期限切れ以降の中小企業の資金環境に関しての話を聞いてきたばかりで、その話を会見で説明したばかりでこれですかそうですかというのは金曜にも申し上げた通り。これまた当然ながら後に質問があります。


・でまあ質問の1発目も海外経済である

『(問) 海外経済の下振れで日本の輸出回復の時期が後ずれするのではないかとの見方がありますが、総裁の見解をお聞かせ下さい。』

『(答) 海外経済あるいは輸出の動きですが、実質輸出を四半期ベースでみると、4〜6月は3四半期振りの増加となりました。もっとも、月次でみると、5、6月と2か月連続の減少となっており、こうした動きには、欧州債務問題の悪影響を主因とした海外経済の減速が影響していると考えています。』

『地域別にみると、欧州向け輸出は、債務問題の影響を背景に減少しているほか、米国向けは、自動車関連の在庫復元の動きの一巡もあって増勢一服となっています。また、中国向けについては、中国の欧州向け輸出の弱さも間接的に影響し、低い伸びにとどまっています。』

ほう。

『先行きの輸出を規定する最も大きな要因は、言うまでもなく海外経済の動きです。この海外経済の先行きを展望すると、欧州経済は、停滞した状態が暫く続くと考えられます。一方、米国経済については、いつも申し上げている通り、高い成長は期待できないと考えていますが、家計のバランスシート調整が徐々に進捗し、緩和的な金融環境にも支えられて、回復が続くと考えられます。また、中国経済についても、目先、成長ペースが鈍化した状態は続くと考えられますが、その後は、インフレ率の低下に加え、金融緩和やインフラ投資の前倒しなどの政策効果が次第に発現し、かつてのような2桁成長といった高成長ではないにせよ、成長ペースはそれなりに高まっていくと考えられます。このように、海外経済が減速した状態を脱していくにつれて、わが国の輸出は緩やかに増加していくと考えられます。』

まあ確かに先行き判断は変えていないとは言え説明に往生際の悪さ感が漂うのですな。

『もっとも、先程申し上げた通り、欧州情勢の不安定な動きが続く中で、米国経済や中国経済の回復力については、回復の時期を含めて不確実性が小さくありません。日本銀行としては、こうした不確実性も十分認識しながら、先行きの経済・物価動向やリスクの点検を丹念に行っていく方針です。』

まあ何ですな、こういうリスク認識に関しても、ど〜も冒頭部分での往生際の悪いテイストな説明を先に聞かされますと、どうしても棒読み的な印象を受けてしまう訳でして、まあ残り1年でいまさら矯正するのも無理ゲーでしょうが、同じ発言でもそこまでの話の持って行きようでもうちょっと何とかなるような気がするんですけどねえ。

・・・・・・と、ここまで書いたところで時間がががががにつき、超中途半端な所で明日に続くでどうもすいませんすいません。土日に更新すれば良かったですorz

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2012/07/20

○総裁定例記者会見でアレな質問をしている人がいる件について

まあ電波浴の類ではある。

7月定例会見より
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1207a.pdf

『(問) 昨日で、震災から1年4か月が経ちました。前回の記者会見で、マネタリーベースの伸び率に関しては、昨年は震災があったから上がり、今年は下げているという説明がありました。まず、震災復興に関して、今後、日銀が中央銀行としてできることは、何があるのでしょうか。次に、マネタリーベースの平均残高が、昨年12月に115.5兆円、今年6月に119.9兆円と、4.5兆円しか上がっていないので、それ程金融緩和を強力にしているとはみられないのですが、どう解釈したら良いのでしょうか。』

ということですが、ここにありますように「前回の記者会見で」ってのがありますが、前回はどのような質問をしていたのかというと、これがまた6月会見に質問があるのでございますよ。まあネタにするほどのものでも無いと思ったら性懲りもなく第2波がやってきたという所である。

てなわけで多分同じ人によるものと思われる質問を6月会見より引用。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1206a.pdf

『(問) 日本銀行は強力な金融緩和を行っているとのことですが、例えば、3.11以降のマネタリーベースのグラフをみると、3〜2%くらい前年に比べて下がっています。これはどう解釈すればよいのでしょうか。』

・・・・・・まあ何ですな、確かに本職の何とかストでもこの手のレポート書いてドヤ顔してるのがいて、誠に如何な物かと思う次第で、しかもこの手の何とかストレポートを拝読しますと、「海外の為替市場関係者が注目しているから」とか言い出していたりするんですが、おまいらの仕事はそういう為替市場関係者に向けて「マネタリーベースの動きで危機対応などの流動性対策で増えたり減ったりする部分を捕まえて緩和拡大とか縮小とかいうのは間違いにも程があるわヴォケ」とレポートを出す事であって、間違いを前提にポジション作っている馬鹿の為に金融政策動かせとかいうのじゃねえわそんなアホウ何とかストはさっさとマリアナ海溝ドラム缶クルーズツアーにでも逝って来やがれと思う次第ではございますけれども、そういうお方に影響されて質問するのは質問をするなとは申しませんけど、ちゃんと説明受けてるのに2か月連続で同じ質問してんじゃねえよとか思うのであります。

ちなみに6月会見の時のお答えは見るまでもないでしょうが引用。

『(答) ご質問の数値は、前年比の数字だと思いますが、今おっしゃったように、前年3月は、東日本大震災の後、非常に市場が不安定になる惧れがあった時に、日本銀行が大量に資金を供給した時期です。その前年同期との比較でみて、マネタリーベースの伸び率が下がったということですが、マネタリーベースの水準自体は非常に高い状態にあります。また、月々のマネタリーベースは、様々な要因で変動します。私どもは、内部的にマネタリーベースの予測をしていますが、その中の当座預金は、この先また増えていく局面に入ってくるという予測になっています。そういう意味で、マネタリーベースの水準は、趨勢として高まっていくと考えています。』


さらにどうでも良いのですが、さっきの最初の質問に対する答えがまた懇切丁寧で麿も(というか日銀も)こんなの丁寧に対応しなきゃいいのにとか思いますけどね。

『(答) まず、日本銀行が震災復興に対してどういう形で貢献できるかということです。昨年4月、震災復興支援のための資金供給オペレーション(被災地金融機関を支援するための資金供給オペ)を始めました。これは、現在も行っています。現在、被災地の金融機関に、様々な資金が流入し、資金繰りは非常に好転していますが、日本銀行として資金面で金融機関の不安を取り除く趣旨から、このオペレーションを行っています。それから、日本銀行からの資金調達をし易いようにとの狙いで、被災地金融機関に関して担保要件も緩和しています。』

まあここまでの話は良いとして。

『マネタリーベースは、銀行券と、日本銀行に預けられている当座預金ですが、両方とも、季節性が高いものです。例えば、銀行券については、年間で12月が一番多く発行される月です。先程おっしゃったのは、12月と6月の水準比較ですが、マネタリーベースの伸びをみる上では、一般的には、季節性を均す意味で「前年対比」が使われます。あるいは「名目GDP対比」でみると思います。マネタリーベースの伸びは、この3月、4月は前年の震災時の資金供給の裏で、一旦、低下しましたが、先般発表した6月のマネタリーベースの前年比は、+6%弱(+5.9%)であったと思います。名目GDPとの比較でみたマネタリーベースは――いつもこの席で申し上げていますが――、先進国の中央銀行の中では最も高い水準です。』

いやーしかしこうやって前月の質問と一緒に並べると面白いのですが、前月の質問の時には「震災対応で拡大した前年同月比対比」で少ないとかいちゃもんをつけ、今月の質問の時には「年末要因で拡大した半年前対比」で伸びが少ないとかいちゃもんを付けるとか、仮に同じ人が質問していたらという前提ですけれども、人間として恥ずかしくないのかね批判の根拠をコロコロ変えてとか思うのですけれども、まあその手の話って電波浴シリーズでお馴染みのどこぞのウォッチマン先生とかがお得意とする手法でもあったりするのですよね〜。いやはや。

『それから何よりも、金融緩和の度合いは、最終的にどういう金利で資金調達ができるのかということで測られるわけです。この面でみると、短期の金利にしても、あるいは長期の貸出金利にしても、日本は非常に低く、例えば、米国の住宅ローン、モーゲージ・ローンの借入金利と、日本の同じような借入金利を比べても、日本の方がインフレ率の格差を調整してもなお低いという形で、現に、非常に緩和的な状況を実現していると思います。その上で、日本銀行としては、今般の措置を含め、金融緩和をさらに着実に進めていく方針です。』

まあ最後の話はいやそれだけじゃなくてマネーの量も大事だろとかいう論点もあると思います(動かないマネーに意味あるのかねとかその辺の話ももちろんあるが)のではあそうですかとだけ申し上げておきますね。


さて、折角電波浴ネタを出したので、これまた古いのですが前回の総裁定例会見でもっと電波成分の高い質問をしているのが実は存在していたのですよ。ということで、政策決定会合関連ネタの時にはスルーしておりましたが電波浴ネタで晒しあげ。

『(問) 少し古い話になりますが、98年から日本の自殺者数というのは3万人を超えております。その98年から、例えば、日銀の金融引締めが始まっていたり、消費税が3%から・・・』

『(答) 「98年から金融引締め」とは・・・』

『(問) 引締めというか、前年比でも比率が下がりつつある。下がり続けているのですが、例えば日銀の金融引締めが、日本の自殺者数に何か影響があると関連付けられる可能性はあるのでしょうか。』

・・・・・・・・・・・強力な電波を感知致しました!!!!!!!!!!

えーっとですな、1998年と申しますと三洋、北拓、山一の破綻で大騒ぎとなった1997年の翌年でございますが、この間の日銀の金融政策はと申しますと・・・・・・

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_1998/index.htm/
9月に政策金利の引き下げを行ったのですがそれ以外は政策据え置きですな。

その間の市場金利がどこにあるかと探したら微妙な所で見つけましたけど・・・・・・
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_filp/proceedings/material/zaitoa171207/zaitoa171207b.pdf
こちらのファイルの9ページ目に『(参考) 我が国の長期金利の推移(1976年〜2005年)』というのがあると思いますが、長期金利は概ね低下傾向だったとしか読めませんなあ。

特に98年9月の政策金利引き下げ以降の98年は、いわゆるクレジットスプレッドも全体的には縮小方向だったという記憶があるのですが、これはデータとかが手元にある訳では無いので自信は無い。

(この部分、当初引用していたネタがあったが、よく見たら97年の話をしているもの(まあ97年は金融危機だったからある意味引締めっぽくなったのは判らんでも無い)だったので当該部分全部削除しました)


なお、先ほどの怪電波質問に対する白川総裁のお答えは以下の通りです。

『(答) 私自身は、自殺ということについて、十分な社会学的な分析をしているわけではありません。私も、今ご指摘の点を含めて、色々な論評は読んでいます。もちろん、広い意味で経済の状況が関係しているとは思いますが、お尋ねの金融政策との関係では、金融政策として経済の安定をしっかり維持していくことが、国民生活全体の安定につながっていくと認識しています。分析の話については、コメントを差し控えますが、そのように思っています。』

・・・・・・・この「色々な論評は読んでいます」というのが麿の場合本当に読んでいてしかもその質および量が半端ないと思われるのがお洒落なのですが(^^)。



なお、話は100メートルほど飛びますが、電波浴と言えば昨日(だったか一昨日だったか忘れたが)はどこぞの証券会社の何とかストの方が「LIBOR騒動で無担保コール金利の信頼性が低下してどうのこうの」とかいう意味不明の怪電波レポートを出しておられまして、欧米の銀行間取引が金融危機前まで無担保主体だったとかアレな(実際はレポ主体で無担保取引は資金繰りの限界的な部分だけ。無担保で大きいのはCP発行とかによるオープン市場であってLIBOR的なイメージの銀行間取引では無い)話をしていたりして、電波浴晒しあげネタとしてはかなりの逸品だったのですが、まあネットとかで公開されているものでも無いので惜しくもネタにするのは断念させていただきましたとさ。興味のある方は探して間違いさがしの勉強でもすると短期市場の勉強になるんじゃないかと(^^)。

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2012/07/17

○総裁会見はポイントが幾つか

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1207a.pdf

今回の質疑はまあ当たり前なのですが景気見通しについて(特に海外)と今回の追加緩和なんだか追加緩和じゃないのかよく判らない措置(まあ「追加緩和じゃないけれども緩和政策の円滑化を図る施策なので実質的な意味では緩和の強化をしています」というのが日銀的な説明になるんでしょう)についての話が殆どだったのですが、景気見通しに関する部分と今回の施策に関する部分から少々引用しますです、はい。

・見通しは変えず

声明文の方でもございましたように今回は展望レポートの中間見通しの中で手前の見通しは下げたものの、先行きの見通しについては下げていないというのが誠に味わいがあるちゅうか往生際が悪いちゅうか。

冒頭の説明から(途中引用割愛しまくっていますので念の為)。

『まず、海外経済をみると、NIEsやASEAN経済では、国内需要が堅調に推移しているほか、米国経済も、雇用者数の伸びがこの数か月間鈍化しているとはいえ、ガソリン価格の下落などを背景に個人消費が底堅い動きをみせ、住宅市場にも持ち直しの兆しがみられます。このように海外経済は、緩やかながら改善の動きもみられていますが、他方で欧州経済は停滞し、中国経済も減速した状態がやや長引くもとで、グローバルに企業マインドがやや慎重化しているなど、全体としてなお減速した状態から脱していません。』

ほう。

『ただ、こうした中にあっても、わが国の景気は、復興関連需要などから国内需要が堅調に推移していることから、「緩やかに持ち直しつつある」と判断しています。』

はあそうですか(棒)、でまあ展望レポート中間評価としては・・・・・

『4月の展望レポートで示した見通しと比較すると、内需はやや強め、外需はやや弱めと内外需のバランスは若干変化していますが、実質GDP成長率、消費者物価ともに概ね見通しに沿って推移すると見込んでいます。すなわち、潜在成長率を上回る成長が続くもとで、消費者物価の前年比は、見通し期間後半にかけて0%台後半となり、その後、1%に遠からず達する可能性が高い、とみています。』

>その後、1%に遠からず達する可能性が高い
>その後、1%に遠からず達する可能性が高い
>その後、1%に遠からず達する可能性が高い

ほほう(棒)。


・でまあ総合的にはこんな話

『(問) 3つ伺います。1つ目は内需です。復興需要とエコカー補助金があったと思いますが、復興需要に関しては、予算の執行が遅れているという問題もありますし、エコカー補助金ももうすぐ終わるということで、今後、内需がどうなっていくとみているのか伺います。2つ目は、海外です。欧州問題や新興国経済の低迷が思ったより長引いているという見方をされているのか伺います。また、1つ目と2つ目に関わりますが、これらが今後、回復シナリオにどういう影響を及ぼしていくのか、伺います。』

当然ながら3つもあるので答えがクソ長いのですが。

『(答) 先程申し上げた通り、4月の展望レポートとの比較でみると、内需はやや強め、外需はやや弱めということで、全体としては、構成は変わっていますが、概ね4月の見通し通りです。その意味で、今後の見通しを考えていく上では、内需の底堅さが今後とも維持されるのか、内需の堅調が維持されている間に、海外経済の減速が止まり外需が回復していくのかどうか、その辺がポイントになってくることは、ご指摘の通りです。』

とまあここまではヨロシ。

『まず、内需ですが、足許の内需が強いことは、6月短観でも示されていると考えられます。こうした堅調さの背景として、5つほど考えられます。第1に、エコカー補助金などの政策効果です。第2に、被災地における生活再建消費や、被災した設備の修復・建替え、耐震・事業継続体制の強化、メガソーラーなど新たな発電設備増強の動きなどを含めた広い意味での震災関連需要です。第3に、企業収益の改善を背景とした企業マインドの改善と、それを受けた賃金・所得の下げ止まりです。第4に、高齢化消費を中心とした潜在需要の掘り起こしが進捗していることです。第5に、円高メリットです。これら 5つの要因を考えてみた場合、今後は、エコカー補助金の反動などを念頭に置いておく必要はあると考えていますが、広い意味での震災関連需要や、企業収益・雇用者所得の改善基調、高齢者消費などは、ある程度、持続性を持ち得ると考えています。』

内需に関しては足元の強さがしばらく維持されるという話なのはまあ兎も角として、確かにそらまあ内需には円高メリットだけど何もそれを要因に一々挙げなくても良いのではないかという気がするんですが。内需という意味では正しいのは判るんですけどね。いやまあこれがベンダーのヘッドラインとかに出てこなくてよかったですねえ(棒読み)という感じであります。

『次に海外経済や外需ですが、現在、減速が長引いていることをどう理解するかが出発点になると思います。色々な原因があると思いますが、一番大きい原因は、欧州債務問題が欧州経済の停滞をもたらし、そのことが、日本の輸出減少――欧州に対する直接の輸出もありますが、特に中国等を通じた間接的な輸出の減少――の影響が想定より大きかったということだと思います。加えて、この欧州債務問題に伴うテールリスク、不確実性を意識した企業が、世界的なレベルで様々な投資を当面見合わせることもあったのだろうと思います。そういう意味で、今後の世界経済を考えていく上では、やはり欧州債務問題がどのように展開していくのかが大きなファクターだと思います。』

で、その欧州債務問題は即効薬のような解決策は無いという話では無かったのではございませんかと思うのですけれども。

『一方、先程、海外経済については、持ち直しや改善に向けた動きもみられると申し上げましたが、例えば、米国では住宅バブルの崩壊から5年以上が経過する中で、住宅市場には、さすがに持ち直しの兆しがみられています。自動車販売を始め、個人消費も緩やかに増加しています。その背景を考えると、ガソリン価格が下落し、長期金利もかなり低下してきたことが挙げられるように思います。』

とまあそういう話をしているのですが、米国経済に関する質疑は別の所で味わいがある部分がございますのでそちらを後ほど(^^)。

『NIEs、ASEAN経済では、原油価格の下落等から物価上昇率が低下するもとで、金融緩和などの政策対応や実質購買力の回復等を背景に、個人消費や設備投資が堅調に推移しています。今申し上げた、先行きの内需を巡る要因、それから、外需をみていく上での点検ポイントについて、これからも注意深くみていきたいと考えています。』

という事でまあ先行きは持ち直すでしょうという見通しなのは把握した。


・海外見通しが甘いのでないかという質問に対して

これはまあ当然ながらやってくる質問ですが。

『(問) 2点伺います。まず、海外経済の見通しですが、本日の展望レポートを点検した内容でも、今のご説明でも、内需は強くて外需は弱いが、外需はじきに回復してくるだろうという話だと思います。一方、海外の中央銀行、政策当局の対応をみると、どんどん緩和してきており、おそらく予想よりも経済状況が悪いということで、そのような対応を採っているものと思います。その中で、日本銀行の海外経済の見通しは、比較的強気にみえますが、海外経済は、いつ頃に弱い状況を脱してくるとお考えですか。(2点目は物価見通しの話ですが割愛)』

まあ来ますわな。

『(答) まず、1点目の海外経済に関する見方については、日本銀行が他の中央銀行に比べて楽観的であるというご指摘と理解しましたが、日本銀行の方が楽観的であるということは全くありません。』

ほほう(棒読み)。

『日本銀行の見方という意味では、米国経済を例にとるのが最もふさわしいと思います。米国経済の見方は、 FOMCの議事要旨、あるいはFOMCメンバーの経済見通しをみても、確かに下振れてきています。しかし、この間、日本銀行は、一貫して米国経済について慎重な見通しを立てていました。従って、米国当局あるいはエコノミストの見通しの方がやや振れており、逆に、私どもの見方に割合い近づいてきたというのが率直な印象です。』

確かついこの前までは米国の改善についてここぞとばかりに強調していたように見えますが・・・・・

『米国経済を考えていく上で、私どものこれまでの判断が結果的に正しかったように思っていますが、それは、何と言っても、バブル崩壊後の日本の経験が私どもの判断に活きているためと思っています。』

まさにドヤ顔である。

『バブル崩壊後の経験としては様々なものがありますが、今の経済見通しとの関係では、2点あると思います。第1点目は、大きなバブルが崩壊した後の経済の調整には時間がかかり、その間、成長率は低いものになり易いということです。第2点目は、経済活動が大きく落ち込むかどうかは、金融システムの安定が維持されるかどうかにかかっているということです。』

まあいつもの話であるが、それなら先ほどの米国経済見通しは何ですねんという感じなのですが。

『そのような観点からみた場合、日本銀行では、米国経済について、経済活動が大きく落ち込むことはないだろうが、成長率が大きく高まることもないだろうという一貫した見方をしています――「上に弾みにくく、下に振れ易い」という言葉で表現していました――。その意味では、米国当局あるいはエコノミストの見方が、日本銀行の見方に割合い近づいてきたというのが、率直な印象です。』

他に中国経済に関する質疑もあったのですが長くなるので割愛。


・今回の措置は技術的対応になるのかという話

これは良い質問。

『(問) 確認に近くなるのですが、今回の措置、資産買入等基金の色々な組換えについてですが、金融緩和の強化ではなく、残高を積んでいくための技術的な措置と捉えて良いのかお伺いします。2つ目は、短期国債とCPの入札下限金利0.1%の撤廃についてですが、これは、市場の実勢レートを受け入れるということだと思いますが、実際に今、市場ではどういう形になっていて、今回撤廃することによって、どのような効果が望めるのかをお聞かせ下さい。』

『(答) まず、今回の措置の意味合いです。日本銀行は、資産買入等の基金の残高について、本年末には65兆円程度、来年6月末には70兆円程度を達成すると申し上げています。この買入れを毎月行っていくことは、毎月毎月、金融緩和を強化しているということです。』

これ別の所でも話をしていまして、麿はこの説明をドヤ顔風味で仰せなのかと勝手に愚考しますが、さすがに「〜月まで資産買入を行います」というアナウンスする時に「その間毎月強化してます」と言い出す中銀はあまり居ないと思いますので如何なものかという感じではございますし、それよりも問題なのはこの理屈を繰り出すと輪番オペに関しても「残高ベースの推移はどうなっている」という話に発展してくる(輪番で買ったものが短国に化けてそれが償還すると引締めという話になりますがな)ので、正直自分で自分の首を絞める理屈だと思うんですけど。

『今回の措置は、そうした金融緩和の強化を予定通り着実に推進していくことを担保していく措置です。今、「技術的な措置」とおっしゃいましたが――「技術的」という言葉の定義にもよりますが――、そうした間断なく強化している金融緩和を着実に行っていくための措置ということです。』

などと言ってますが、まあ要は残高達成のための措置ですわな。

『次に、短期国債とCPの入札下限金利撤廃の効果です。短期国債の取引をみると、現在、0.1%を下回る金利水準で発行されているのがマーケットの状況です。そうしたもとで、日本銀行が0.1%の入札下限金利を設定していると、短期国債の買入れが十分に行えないということが起こるわけです。そういう意味で、今回、この下限金利撤廃によって、短期国債の買入れをより確実に遂行できると思っています。』

つーかまあ短国の残高を積み上げやすくしたというのが実情でしょうな。


・固定金利オペを短国に振り替えた理由

『(問) 先程の質問と少し重なりますが、今回、固定金利オペの札割れが多いので減額したのは分かり易いのですが、一方で、短期国債を増やすところが少し分かり難いです。むしろ、4月からは年限を延ばして長めの金利に働き掛けることを中心的にやっているかと思います。今回は短期国債の増額としたことについて、もう少し説明して頂けますか。』

ふむ。

『(答) まず、資産買入等の基金の目的として、長めの金利あるいはリスクプレミアムに働きかけるというのはご指摘の通りですが、これは、本年4月からではなく、一昨年10月に始めた時から、そういう目的で運営しています。そうした目的のもとで、固定金利オペ、短期の国債、長期の国債、ETF、REIT等を買うという思想自体は変わっていません。現在、札割れが最も頻繁に発生しているのは固定金利オペです。つまり、札割れが短期の固定金利オペで最も頻繁に発生しているということですから、同じ短期のオペという意味で、短期の国債に振替えるのが最も自然な対応と考えました。』

判ったような判らんような言い方をしていますが、要するに「技術的対応だから短期国債にしました」という事でございますわな。


・付利下げないよ発言

『(問) ECBが先日の決定会合で利下げを行い、それに伴って預金ファシリティー金利をゼロまで引き下げました。これを受けて、日本の市場でも、一部、日銀の付利金利引き下げを織り込んで金利が下がっていくような動きがありますが、その点について総裁はどうお考えですか。これまで、短期市場の機能低下ということで、それについては否定的にみていらっしゃったと思いますが、そのお考えに変化がないかどうか教えて下さい。』

『(答) まず結論から申し上げると、その考えは全く変わりません。この席でも繰り返し申し上げたことですが、日本銀行としては、政策金利の引き下げによって得られる効果と副作用の双方を勘案した結果、「0.1%の超過準備への付利金利と、0〜0.1%程度の金利誘導目標」という組合せのもとで、金融緩和効果が最大限発揮されると考えており、付利金利の引下げは考えていません。誘導目標と切り離して付利金利の引下げという議論になるわけでありません。』

ふむ。

『この点、わが国の無担保コールレート・オーバーナイト物は、足許は0.07%から0.08%の水準で推移していますが、これを完全なゼロ金利とすることについては、市場機能や金融機関行動に与える副作用について、十分意識する必要があると考えています。短期金融市場の金利が極限的にゼロに近づくと、市場の流動性が著しく低下し、市場参加者が必要な時に市場から資金調達ができるという安心感を損なう惧れがあります。従って、短期金利が極限的にゼロに近づくことで、確かに、何がしか金利水準が下がる効果があるとは思いますが、それ以上に、今申し上げたマイナスの効果が大きいということであり、ご質問の点について、考えは全く変わっていません。』

ということで、まあこれはこれでいつもの話ではあるのですが、まあ今後は折に触れて付利下げの思惑が出てくるでしょうから毎回この話はしないといかんでしょうなあという所で。


・LIBORに関する質疑では微妙な発言が

『(問) 2点伺います。1点目は、今、英国バークレイズによるLIBORの不正操作が問題になっており、英国中銀の関与も疑われるような状況になっていますが、日銀の総裁として、この状況をどのようにご覧になっているか、率直な感想を伺います。LIBOR、日本のTIBORもそうですが、銀行の申告をベースに算出しているという仕組みですが、再発、不正ができないような仕組みに改めるべきなのかどうか、もしお考えがあればお伺いします。(2点目は割愛)』

『(答) まず、LIBORに関するご質問です。英国のバークレイズ銀行が、実勢と異なるレートを報告することによって、ドルLIBORと EURIBORを不正に操作したとされ、今般、英米当局から処分を受けたことは承知しています。ただし、本件については、関係当局による調査が続けられている段階にあると理解しており、私の立場からコメントするのは適当ではないと思います。(以下割愛)』

いやね、この「実勢」という言葉って超曲者でして、そもそも「実勢とは何ぞや」という話から始めないといかんと思うのですよね。でまあその話をしだすとオワランチ会長になるから割愛します(というかこの前もちょっと話をしたような気がしますが)けれども、現実に取引が活発に行われている訳でも無い物に対してどのような数値を持って「実勢」というのかというのは非常に微妙かつ難しい問題であって、正直言って中銀とか規制当局とかがこの「実勢」という数字をあまり定義しないで使うのはどうかと思いますけどねえ。

まあ何ですな、これ今の感じの流れだと「じゃあ変に何か言われるの嫌だからウチはもう出さないですよ」とか皆が言いだしたらどうするんじゃいと思うのでありまして、まあなんとなく麿の言いたい「実勢」のイメージは分からんでは無いですけれども、その辺の概念はきっちりと整理してからお話をして頂きたいですわな。

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2012/06/19

○総裁会見ですが海外経済の先行きに関する往生際はまだ悪いようで何より(棒読み)

ということで調べ調べ書いていたら時間が怪しくなり総裁会見ネタは打ち込めるがFOMC前にキング総裁の(結構衝撃の)講演に手が回らないという不覚であるorzが気を取り直して麿会見。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1206a.pdf

・最初の説明の時点で往生際の悪さが

とか何とか悪態ついておりますが、いやまあ確かにハードデータはコケそうでコケないと申しますか、新興国がどう見てもコケ気味の中米国が意外に底堅いとかは仰る通りの部分もありまして、麿様の見通しの方が正確でしたどうもすいませんという可能性は勿論あるのですけどね。

冒頭の説明から。

『わが国の景気の現状については、「復興関連需要などから国内需要が堅調に推移するもとで、緩やかに持ち直しつつある」と判断しています。先月の決定会合では、わが国の景気について、「なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きが明確になりつつある」と判断していましたが、今月は判断を一歩前進させています。』

>今月は判断を一歩前進させています
>今月は判断を一歩前進させています
>今月は判断を一歩前進させています
>今月は判断を一歩前進させています
>今月は判断を一歩前進させています

いやあの何と申しますか、そらまあ直近までのデータはそうかもしれませんけど、何も週明けにテールリスク地雷のある中(まあそのテールリスク地雷は回避されましたが)わざわざ「判断を一歩前進させています(キリッ)」とか勝負する所じゃないと思うのですけど。展望レポートの見通しに引き続きトラックしているというのを強調したいからこういう話になったというのは判るのですけれども、リスクバランスを考えて政策の自由度を確保するという観点からしたら、テールリスクの状況が不明な中でわざわざ判断前進とか自分で自分を追い込んでいるだけのような気がするのですが麿様におかれましてはそういうプレイがお好きなのでしょうか。

更に冒頭の説明は続く。

『この間、海外経済をみると、欧州経済は停滞し、中国経済は減速した状態がやや長引いているなど、全体としてなお減速した状態から脱していませんが、米国経済が緩やかな回復を続け、 NIEs、ASEAN経済も内需を中心に持ち直しつつあるなど、緩やかながら改善の動きもみられています。こうしたもとで、輸出には持ち直しの動きがみられています。』

はあそうですか(棒)という所ですが、中国やらインドやらがコケる(ちなみに昨日も申し上げましたがアトランタ連銀総裁は中国、インド、ブラジルを名指ししてコケ気味の新興国として説明したのが6月6日)という中で米国が意外に底堅いという話になっているようですが・・・・・・・


従って先行き見通しの話は麿的にはあまり変わっていない。

『このように、輸出・生産については、判断を引き上げたと言っても、海外経済がなお減速した状態から脱していない中で、ようやく持ち直しの動きがみられ始めた段階ですが、先程述べたように、内需はしっかりしていますので、全体としては、「緩やかに持ち直しつつある」と判断しました。』

『わが国経済の先行きについては、国内需要が引き続き堅調に推移し、海外経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかな回復経路に復していくと考えられます。物価面では、消費者物価の前年比は、当面、ゼロ%近傍で推移するとみられます。』

物価はまあ兎も角、こういう字面を見るとどうも麿的にはあまり変わっていないようですな。引き続き冒頭説明部分を見ますと、不確実性の部分に関しまして・・・・・・

『新興国・資源国についても、物価安定と成長を両立するかたちで経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高い状況が続いています。中国経済は、成長ペースの鈍化した状態がやや長引いていますが、先行き、物価上昇率の低下や金融緩和の効果などから、減速局面を脱していくかどうか、そのタイミングも含め、注意してみていく必要があります。』

・・・・・・・・うーむ、あまり下がっていないですなあ。


んでもって新興国云々の文言が抜けた事に関する質疑がありましてですね。


『(問) 先行きの景気認識について伺います。今回の声明で、今までずっとおっしゃっていた「新興国・資源国に牽引される」という表現がなくなりました。これは、中国の減速等を念頭においているかと思いますが、景気の回復経路について、これまで想定されていたパスと少し違う想定になっているのかどうか教えて下さい。また、ずっと「年度前半の回復」とおっしゃっていましたが、その想定についても、多少下振れというか、さらに遅れてしまう懸念はないのか、お伺いします。』

とまあ良い質問がありまして。

『(答) 従来、「新興国・資源国に牽引される」という言葉を使っていましたが、今回発表文からはその表現を落としています。その理由は、牽引する主体である国の構成が少し変わってきたという感じがしているためです。』

な、なんだってー!

『従来は、新興国・資源国が牽引するということでしたが、この数か月間の動きをみると、ご指摘のように、中国の減速が少し長引いている一方、米国については――もちろん、色々な評価がありますが――、緩やかに回復しているとみています。米国という大きな経済が2%を超えるペースで成長しているということも、やはり意識する必要があると思います。』

ほほう。

『そういう意味で、新興国・資源国だけを取り出して語るより、世界経済全体で語った方がよいと思った次第です。それから、新興国についても、中国については先程申し上げましたが、NIEs、ASEAN諸国は内需を中心に持ち直しつつあることがデータで確認できています。そういう意味で、今回、言葉を変えました。』

ということで、声明文では降参モードになりつつあるのかとも思いましたが、この質疑も合わせてみますとどうもまだ往生はしていないようで、しぶとく「海外が成長のドライバーとして機能」という話は程度を下げつつ(今回は国内の判断を引き上げており、この先の話という意味では海外のドライバー機能が落ちる分は国内がカバーするというロジックになっているようです、これから引用する答えの先の部分になります)も維持しているという中々の往生際の悪さを示しております。


いやね、欧米の中銀の皆様におかれましては(物価重視派の米国地区連銀総裁の話は別として)どちらかと言いますと下振れリスクと新興国の減速をやたら強調する傾向にありまして、それと比較してこの辺りの話を見ておりますと物凄い勢いで違和感を感じる所でございます。ただまあ欧米の場合はそもそも物価がターゲット水準から上の方で推移していて、今後の金融緩和を行う際に物価上昇放置ケシカランと言われやすい為、金融緩和余地を作る為に殊更に弱い話を強調しているという面があるとは思われますので、そういう意味では欧米の中銀のポジショントークに全部お付き合いする必要も無いと言えば言えるのですが、じゃあ日本が主要国の動きとデカップリングしてまで経済成長しますかというとそーゆー訳でも無いと思われる中で、何もこんなに頑張らなくても良いのにとは思うんですけどねえ。


という事で、上記質問の後半部分の答えですな。

『それから、見通しの達成可能性、あるいはその時期についてのお尋ねですが、もちろん経済は生き物ですから、毎回入念に点検していきますが、少なくとも本日の会合で、その蓋然性が下がった、あるいは時期が後ずれしたということではありませんでした。』

はあそうですか。

『これは、先程申し上げた通り、外需は想定比幾分弱いという感じがありますが、内需は想定比幾分強い感じで、現在のところその両者が相殺しあっている感じです。ただ、経済の先行きについては、何よりも欧州債務問題が最大のリスク要因ですから、これについては、純粋に経済のロジックで予想ができるというよりも、かなり政治的な要素もありますので、ある特定のシナリオだけを持つことなく、丹念に状況をみていくことになると思っています。』



・横ばい圏内を外したのは直近までの指標ですとな

『(問) 2つ質問があります。1つは、現状の景気判断を前進させ、前回まであった「横ばい圏内」という表現がなくなりました。総裁は、なぜ、この「横ばい圏内」という表現をなくして判断を前進させたのか、最も大きな要因をお聞かせ下さい。また、政策効果の息切れが指摘されている中で、今後も内需は力強く回復していくのかどうか、総裁の見解をお伺いします。2点目は、先程も出たギリシャの話です。今週末の選挙もあり、週明け以降のマーケットについて懸念する声が非常に高まっています。もしかすると、リーマンショック並みの事態になるとの危機感もあります。総裁はどのようにみておられるのか、国際的に協調して行動する必要性はあるのかお伺いします。』

で、ギリシャの質疑は同じようなのが幾つもあって明らかに質疑応答が重複しているので、まあギリシャの分はこの質問に対するお答え部分で済ませましょう^^;

『(答) 日本の景気、経済活動を総合的に測る統計としては、実質GDPがあります。実質GDPは、昨年の第4四半期が年率+0.1%、今年の第1四半期が年率+4.7%でした。この数字だけみると、既に1〜3月についても、「横ばい圏内」というよりも少しよい数字でした。それにもかかわらず、私どもが「横ばい圏内」という言葉を使っていたのは、いくつかの理由があります。』

いやその前からそもそも横ばい圏内から脱却していたのですよキタコレ。

『1つは、足許のデータで、輸出や生産が横ばいからプラスになっていく姿を確認したいということでした。』

ほほう。

『この点、輸出については、少し出来過ぎの感じもありますが、4月はプラスということが確認されました。生産については、リーマンショック後の変動を季節調整上どう扱うかにより、表面の数字では実勢判断が難しくなっていますが、私ども独自の季節調整で判断すると、足許、緩やかではありますが増加に転じていることが確認できました。輸出・生産ではなくて、支出面からのデータをみると、以前から比較的強い数字が出ていました。個人消費は予想外に健闘しているという感じがありますし、設備投資も、機械受注、あるいは資本財出荷、各種の設備投資アンケート調査等からみて増加しています。』

ほうほう。

『その上で、私どもが、この動きをどう評価するかというと、今直面している状況は、外需については当初の想定よりも幾分弱い、内需は当初の想定よりも幾分強いということです。しかし、これだけ経済がグローバル化しているので、欧州債務問題が色々な形で内需に影響してくる可能性も意識せざるを得ません。そういう意味で、私どもは、判断を慎重に少しずつ進めているということです。今回についても、先々を考えていく上で、最大のリスク要因は欧州であると申し上げたのは、まさにそういう趣旨です。』

判断を進めるのも結構ですが下振れリスク要因は拡大しているのでそんなに判断をホイホイと進めなくても良いと思うのですけれどもねえ。結局それは金融政策の自由度を下げるだけのような気がするとはさっき申し上げた通りです。


でもってギリシャですが。

『2つ目のご質問ですが、欧州債務問題について、どういう言葉で表現するのが最も適切なのか、少し注意して選ばなくてはなりませんが、現在の状況について、細心の注意を持って国際金融資本市場の動きをみているということです。これは、各国中央銀行とも同じだと思います。詳細については申し上げられませんが、先般のG7の電話会議もそうですし、一対一でも他の中央銀行総裁と話していますが、各国はそうした意識でこの状況をみているということだと思います。いずれにせよ、中央銀行は最後の貸し手なので、金融システムの安定をしっかり守っていくことが大事だということは、先程来申し上げている通りです。』

ということで、まあこれに対応するのは流動性供給というのは当然ちゃあ当然の答えですわな。



・強力緩和云々はさらっとかわしておりますな&買入の残高が実は進行している件

『(問) 今回の声明に、先月は抜けていた「強力な金融緩和」という文言がまた入りました。その趣旨についてご説明下さい。もう1つ、強力な金融緩和を推進している中で、資産買入れプログラムのETFとJ−REITがリミットに近付いてきています。リミットが近付いてきている中で、ETF、 J−REITを買い続けていくべきとお考えなのかどうか。と言うのも、4月27日の決定会合で、スタッフメンバー(執行部)から、価格変動リスクが大きいという指摘がありました。そういう中で、総裁は、どういうご見解をお持ちかお聞かせ下さい。』

前半の方の前に後半の話ですが、直近の営業毎旬報告を見ますと・・・・・・

http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2012/ac120610.htm/
営業毎旬報告(平成24年6月10日現在)

(別表2)のところにある「資産買入等の基金」の内訳を見るとヨロシアル。

(単位:千円)
指数連動型上場投資信託:1,162,668,437
不動産投資信託:91,444,466

ということで、現在の目標額がこちらの別紙にありますように、
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/k120427a.pdf

ETFが1.6兆円の目標に対して1.16兆円の買入累計、J-REITが1200億円の目標に対して914億円の買入累計と来ていまして、実はしらっと足元で買入が加速している結果残高がいい感じで積みあがっているのです(しかもETFとかREITの場合は債券やCPと違って償還しないから残高減らないし^^)。

いやね、あたくしも不覚にしてこの質疑見て改めて残高を確認した次第という位で、自分の不勉強を棚に上げて申し上げますと(恥)、まあ買入の中でも特にリスク資産という感じの建付けになっているこれら商品の買入の進捗を日銀もあまりアピールして無いですよねというのもあるんじゃネーノとは思います。まああまりアピールしたくないのかもしれませんけれども、どうせ買っているという結果は変わらないのですから、どうせならもっとアピールして「他の主要国の中銀でもやっていない緩和を日本はやっているんですよ!!」と宣伝した方が良いのではとか思うのですけどね。

つまりですよ、オペレーションツイストに正直何の意味があるのかと(効果が無いとは言わないけど)思うようなものしかやっていないFRBに対しましては金融緩和が積極的で云々と言われ、一方でETFやらREITまで買っている日銀は出し渋り批判を受けるとか言うのって、これやはり見せ方というかアピールをもうちょっと考えないと「勿体ない」と思うのですよね、って毎度申し上げておりますけど。


てな事を書いて長くなってしまいましたが、質問に対するお答え部分を引用。

『(答) まず、「強力な金融緩和」という言葉についてのご質問です。この席でもご説明した通り、私どもの基本スタンス、基本哲学をしっかり説明しようと思うと長い文章になります。そういう意味で、私どもの基本スタンスについては、2月、4月の会合後に公表した声明文で詳しく述べているので、前回は、最終的には「適切な政策運営」と括ったわけです。』

はあそうですか(棒)

『今回は、欧州の債務問題が前回に比べより緊張感を高めている中で、最後に「金融システムの安定」というスタンスを明確に示す必要があるということで、改めて日本銀行の政策スタンスの全体像を体系的に説明した方がいいと判断した結果、その言葉を含めたということです。』

いちいちその度に出したり引っ込めたりするのは如何なものかと思います。

『ただ、見比べて頂ければ分かる通り、2月の発表文と比べると、今回の方がコンパクトになっています。その点については、皆様に十分な知識があるということで、エッセンスだけを書いたわけです。』

いや、英文だと判りやすいけど従来の「未来形」から「現在完了形」に代わってるだろ。

『いずれにしても、今回は、欧州債務問題を踏まえて、私どもの政策全体の体系を説明した方がいいと思った次第です。』

だから一々その度に(以下同文)。



で、ETF関連の方はまあアピールもしないし台無し発言もしないという無難な物です。

『ETFとJ−REITですが、年末までに発表している買入れを着実に進めていくということです。買入基金について、どのような運営が望ましいのかは、基金創設の目的に照らして、また、ご質問された方もおっしゃった日本銀行の運営上考えるべきいくつかの要素に照らして、適切な判断をしていきたいと思っています。』

これで「目標達成したらさらに買入拡大をするというのは議論としておかしい」とか言い出したらダイナシーにも程があるのですがそこは思いとどまって頂いたようで誠に結構。


#という所で時間切れでごわす

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2012/06/05

ということで今日はこれまた市場的には華麗にスルーしていた麿講演から少々(と言いつつ引用大会)

残存1年切ってすっかりスイッチの入った感のある講演は今日も行く。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120604a1.pdf

○引用がクソ長くなってしまったので先にまとめ

引用してたら今回もまたクソ長くなってしまいましたので先にあたくし的まとめを(汗)。

えーっとですな、経済物価情勢に関する前半のパートでは基本的に展望レポートと5月の金融経済月報をベースにした話をしていまして、その中で欧州警戒とか円高警戒のパートも入ってはいるのですが、どうも欧州警戒に関しては警戒はしているものの、LTROによる金融市場の安定化による「時間を買う」状態への評価がちと強いような感じがします。

つまり、警戒フレーズは入れているものの、印象的にはそうは言っても何とかなるでしょ的な感じですかねえという風に読める次第で、実際にそういう認識なら日銀の見通しが甘いですなあとは思いますがまあシャーナイナイのですけれども、もっと警戒感をメッセージとして出したいのであれば構成的にどうだったのかなとは思います。

後半は金融政策の説明と、論点整理とかのパートになるのですが、まあこっちは麿節モードとなっておりまして、いやまあ仰ることは判るのですけれども、前半の印象と合わせますと、何と申しますか足元の欧州火がボーボー&米国や中国もあばばばばー的な話が持ち上がる中で相変わらずその辺華麗にスルーですかそうですか的な印象を与える麿モードだなあと思うのでありました。

ということで以下引用大会でクソ長いのですが、凄く新しい話があるかとか、追加金融緩和にやる気のありそうな話があるかいうとそんな感じでは無いので、べたべたと長々引用して正直反省しているorzorz




○経済物価情勢に関しては欧州警戒や為替警戒の話は入ってるけど・・・・・・・

・経済物価情勢に関しては最初は展望レポートの説明である

『2.経済・物価の現状と先行き』に関しては思いっきり展望レポートベースのお話になっております。

『それでは、経済・物価の現状から始めます。日本経済の動向を左右する最も大きな要因は言うまでもなく海外経済です。海外経済については、なお減速した状態から脱したとは言えませんが、米国経済が大きな流れとしては緩やかな回復過程にあるなど、改善の動きもみられています。』

まあ何ですな、展望レポートもそうですが、金融経済月報での現状認識も強めだったりするのですが、その辺のペースでのお話が続くわけですけどとりあえず引用はしておくだよ。

『一方、内需については、公共投資などの復興関連需要は明確に増加に転じています。企業部門でも、収益見通しの好転を受けて業況感が改善しており、設備投資は緩やかな増加基調にあります。家計部門においても、マインドが改善傾向にあり、個人消費は緩やかに増加しています。このため、先ほども述べたように、景気は全体として持ち直しに向かう動きが明確になりつつあると判断しています。』

んでもって物価に関して。

『このような景気動向を反映して、物価情勢にも徐々に変化がみられています(図表1)。デフレという言葉は日本経済を語る時にしばしば用いられますが、消費者物価指数(総合除く生鮮食品)の前年比を振り返りますと、2009年8月の前年比−2.4%をボトムに下落幅は着実に縮小しており、2011 年度は前年比0%となりました。統計の判明している過去2か月はいずれも+0.2%となっています。』

ほほう。

『品目別に見ると、パソコンやテレビなど、購入頻度が低く、また、技術革新で価格が大きく下落している品目はマイナスですが、購入頻度が月に1回程度以上の品目については前年比+1.9%となっています。このように、食料品など生活に密着した品目に限ってみれば、もう少しはっきりとした前年比プラスの領域に入っています。』

ということで物価に関しても現状認識についての話が微妙に強かったりする訳ですが、この辺は4月の展望レポートと先月の金融政策決定会合で示されている現状認識の強さと整合的な話ではございます。


・見通しの前提について説明しているのはまあ良いとしまして

でもって見通しですけれども。

『次に、先行きの見通しについてお話しします。日本銀行は、4月末の金融政策決定会合において、2013 年度までの経済・物価情勢の見通しを公表しました。言うまでもなく、経済の先行きには様々な不確実性が存在し、見通しは前提の置き方にも依存します。』

ほいな。

『今回の見通しにおいて最も重要な前提は、欧州債務問題の極端な悪化が引き金となり、国際金融資本市場の動揺を通じて世界経済が大きく落ち込むといったことはないという前提です。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うむ。

『そのことを申し上げたうえで、相対的に蓋然性が高いと判断される見通しについては、「やや長い目でみれば、日本経済は、物価安定のもとでの持続的成長経路に復していく」としています。』

つーことでこの後も展望レポートベースの話が続きますので割愛なのですが、一応今回の講演では上記のように見通しの前提に「欧州債務問題による世界経済のリセッション入りが無いとした場合」とはなっているので「警戒してますよ」というメッセージは出しているものの、どちらかとゆーと有りそうなのはリセッションよりも世界経済が減速してうだうだと踊り場入りに入って行くような状況のような気もせんでもないが、この説明をそのまま取ると「いやその程度では大丈夫っすよ」的な感じに見えまして何というかちと楽観じゃネーノという気はする。というか市場の方が悲観に傾いているというのはその通りなので市場の悲観がやり過ぎなのかも知れないですけれども、そのヒーコラ言ってる市場ちゃんからすると温度差を感じてしまう次第で。


・見通しのリスク要因の説明はさすがに海外の説明を細かくアップデートしてますが

リスク要因の説明の所ではさすがに海外の説明が丁寧になっています。

『第1の不確実性は、国際金融資本市場を含めた海外情勢です(図表2)。とくに欧州債務問題は、最も強く意識しておくべきリスク要因です。』

ふむ。

『昨年夏から年末にかけて、欧州債務問題の影響により、国際金融資本市場の緊張が高まりました。その後、欧州中央銀行の流動性供給などから市場は一旦落ち着きを取り戻しましたが、最近は再び、神経質な動きが続いています。』

まーLTROで効く段階じゃなくなっているような感じですからねえ。

『ギリシャでは、財政緊縮政策に対する国民の反発から、5月の総選挙後は連立政権の樹立ができず、6月半ばに再選挙が行われることになりました。スペインでも、財政再建の遅れとともに、金融機関の不良債権問題に対する懸念が強まっています。こうした状況を反映して、グローバル投資家は全般にリスク回避の姿勢を強めています。ギリシャやスペインの国債利回りが上昇する一方、米国、ドイツ、英国の国債利回りは歴史上の最低水準を更新したり、それに近い水準になっています。』

と、ここまでが状況の説明。

『2008 年秋のリーマン・ショックが示すように、リスクが極端な形で顕在化し、経済が大きく落ち込むかどうかは、銀行間の資金調達市場が安定を維持できるかどうかに大きく依存します。この点、現在までのところ、欧州中央銀行による大量の資金供給などにより、資金調達市場は総じて安定しています。これは、昨年末頃とは大きく異なっている点です。もっとも、中央銀行による流動性の供給という対応は言わば「時間を買う」措置であり、その限られた時間を使って、各国政府や関係当局が、欧州経済の持続的な成長と安定へ向けて着実に対応を進めていくことが不可欠です。』

現状の認識についてこのようにお話をしているという所なのですが、問題は金融市場取引におけるシュリンクによるリーマンショック初期にあった金融市場における流動性の蒸発によるリクイディティー欠如ドリブンの実体経済波及だけではなく、スペインの不動産を中心とした金融機関の不良債権処理問題によるソルベンシー問題にも拡大しているように思える次第でして、日本の話で言えば三洋証券、拓銀、山一證券が破綻して市場の流動性がシュリンクした時から、長銀や日債銀の破綻(国有化)の時のような感じで、市場でのファンディングなどのセーフティーネットは張られているものの、不良債権問題ガーという状態になっている時のようなテイストを醸し出している風に思えるのでございまして、そうなると流動性供給をしているからとりあえず危機回避できますとゆーのはちょっとどうなんでしょとか思うのはあたくしの個人的な印象論ではござんすが、どうなんでしょうかねえという気がするざます。

つまりですな、現状の中央銀行による流動性供給について麿先生におかれましては「時間を買う」という話をしているのですが、本当に現在の欧州問題において時間が買えているんですかという話でございまして(そらまあ流動性供給が無かったらもっと悲惨な話になっているので流動性供給は重要なのですが)、現状認識が「時間が買えている」という事になっているのかどうかはこの文脈だけでは定かではありませんが、認識としてどうなっているのかは気になる次第。


・その他海外経済は普通の説明

『欧州以外にも、世界経済には不確実性が存在します。米国については、設備投資や個人消費が底堅く推移していますが、住宅バブル崩壊の影響も根強く残っており、このところ雇用の増加ペースも鈍化しています。世界経済の牽引役として期待される新興国・資源国についても、インフレ率が一頃に比べて低下してきたとはいえ、インフレ再燃を招くことなく経済成長をどの程度高められるか、不透明感の強い状態が続いています。』

まあ従来通り。


・円高への警戒も言及

ここはまあサービスですな(^^)。

『不確実性という点では、最近の円高傾向にも注意しています。昨年夏以降の為替市場の動きは、欧州債務問題を背景とするグローバル投資家のリスク回避の姿勢の変化と密接に関連しています。すなわち、2月から3月前半にかけての円高修正は、何よりも欧州債務問題の改善に伴うリスク回避の姿勢の後退を反映したものでしたし、その後の再度の円高の動きは、逆方向への変化を反映したものです。いずれにせよ、円高が日本経済に与える影響については、企業マインドを通じる影響を含め、日本銀行としては注意深くみています。』

とまあサービス発言もありまして、欧州警戒の話とかも入れておりまして、一応その辺は配慮しているっぽいのですけれども、これ文章構成的にもうちょっと何とかならんのかという気がするのでありまして、最初の説明が思いっきり展望レポートベースの話から始まると、まず文章を読みだした第一印象が「また強気見通しの話か!!」となってしまい、そっちの印象が強くなるという感じなんですよね。

いやまあ欧州問題は足元一時的に悲観に振れ過ぎていて、その結果として円高傾向も一時的ですよってな見立てでいるので、そんなに警戒の話ばっかりして暗くなることもありませんがなでも世間の悲観連中もうるせえから警戒の話でもサービスで入れておくか、とか言う認識でいて、そのままストレートに反映させたらこういう文章構成になりますという事なんですかね。

まーいずれにせよ、最近日銀(というか麿方面)から出てくるメッセージは割とその辺の下振れリスクを強く意識しています的な話が強調されないよねとは思う所でございまして、どうなんでしょうかねという気はします。


・財政のサステイナビリティー確保の話キタコレ

『第2の不確実性は、国内における復興関連需要です。』というのと『第3の不確実性は、日本経済の中長期的な成長見通しに関して、企業や家計が抱いている予想、あるいは自信の程度です。』というのは華麗にスルーしまして第4の不確実性について。

『第4の不確実性は、わが国の財政の持続可能性を巡る様々な問題です。』

キタコレ(^^)。

『財政状況は悪いとはいえ、国内には潤沢な資金があり、国債購入に関する海外投資家への依存度が低いため、問題はないという議論もありますが、いかなる国であれ、政府は無限に借金を拡大することはできません。』

そらそうよ。

『現在、わが国の国債の利回りが低位で安定しているのは、市場参加者が、最終的には財政再建への取り組みがしっかりなされていく、という信頼を保持しているためだと考えられます。あとから述べるように、財政の持続可能性への信認は物価の安定と金融システムの安定を支える最も基礎的な前提条件であるだけに、万が一、そうした信認が損なわれると、経済に悪影響を及ぼします。逆に、財政の先行きに対する不安が家計や企業の支出意欲を低下させている可能性があることを考えると、財政再建の道筋が明らかになることは、やや長い目で見ればむしろ経済成長を高める可能性もあります。』

まあ金融システム云々の話はさすがに今日の明日というか目先数か月とかで出てくるとは思えませんので、あまりその話を強調すると狼おじさんになってしまうような気もしますが、財政の不確実性が将来への支出意欲云々というのはそれこそ米国でも同じ話をしている事もありますし、後者の話をもうちょっとメインにした方が目先は無難なような気もします(^^)。


○金融政策の論点という所が麿モードである(^^)

んでまあ現在行っている金融政策の説明パートに入りますがそこはめんどいのでスルーしまして・・・・

『以上、日本銀行による強力な金融緩和政策の内容と、その効果について述べてきました。私どもの政策運営に対しては、「もっと大胆な政策が必要」という批判がある一方で、「ここまで踏み込んでは危ないのではないか」という批判があることは承知しています。私どもとしては様々なご意見を謙虚に受け止めて、そのうえで、最適と判断する金融政策運営を行っています。そこで、私どもの金融政策についてご理解を頂くための一助として、先ほどお話した日本銀行の金融政策運営上の決定に至る思考プロセスをご説明します。』

というのがメインイベントである。


・「中長期的な物価安定の目途」の水準

目途が1%なのは如何なものかという件に関してですな。

『第1は、目指すべき物価上昇率の水準です。物価に関する意識は人々の行動に深く組み込まれているだけに、何十年という過去の経験から一挙に飛び離れた状態は考えにくいように思います(図表5)。』

つーことで1980年代以降低いんですよという説明がありますが長いので割愛。

『それにもかかわらず、「今後は2%の物価上昇率を目指す」といきなり宣言しても、それだけで2%の物価上昇率が実現できる訳ではありませんし、何よりも、企業や家計に対して無用の不確実性を与えることになりかねません。』

というのはまあ良いとして(そもそもレジームシフトをするのだからそういう数字を出した方が良いという論点もあると思いますがそこは措く)・・・・・・・

『また、仮に宣言が文字通り信用され予想インフレ率がその分上がるとすれば、最も早く反応するのは金融市場です。その結果、実際の物価や賃金が上がる前に、長期金利のみが先行して上昇し、その場合には、金融機関が抱える多額の国債が値下がりし、貸出行動にも悪影響を与えるリスクもあります。』

まあこれは正直どうなのかという話で、予想インフレ率が上昇して企業行動に影響が出れば、当然ながら貸出が活発化する訳でそっちで金融機関ウハウハになりますし、大体からして1%宣言しても予想インフレ率が上がっているとも思えない(物価連動国債のBEIは日本の場合特殊要因によるものが多過ぎでまるっきりあてにならないので単純に長期金利の推移をみればヨロシアル)のに2%を宣言して直ぐに国債暴落するとも思えませんし、金融機関どうのこうのという話よりも「金利だけ先行して上昇すると困る人もいますよね」程度の話にしておいた方が良いような気がします。つーかどう見てもこれ銀行がダシに使われているだけのような。

本来国債暴落で〜って話で問題にしなければ行けないのは国債の信認低下による「実体経済と関係ない金利上昇」でありまして、このデメリットって下手に強調すると「日銀はデフレ脱却をすると金融機関が国債下落で損するので良くないと主張している」という風に捉えられかねない(というかそういう批判する向きもありますわな)メッセージの出し方と思えますので、あまりここで金融機関をダシにするのもどうかと思いますけど。

『これらの問題を踏まえれば、わが国として目指すべき消費者物価上昇率は当面1%とすることが妥当であり、この数字を目途に、努力をしていくことが大切だと判断しました。そのうえで、日本銀行としてはあとから申し上げる成長力強化の進み度合いや人々の物価観の変化などを分析しながら、原則としてほぼ1年ごとに、「中長期的な物価安定の目途」を点検していくことにしました。』

まあこれはこれではあそうですかという話ですが、金融機関がどうのこうのという話をするよりも「あーた急に2%なんて無茶言う前にとりあえず1%目指して頑張りましょう」って話で良いと思うのですけどねえ・・・・・(^^)


・「物価安定の目途」の達成時期と金融政策運営の関係

『第2の論点は、物価安定の目途の達成時期と金融政策運営の関係です。』

ということで、この達成時期における「中長期的な」とは何ぞやという話にも絡んでくる論点。

『4月末に展望レポートでお示しした見通しでは、見通し最終年度である2013年度について、消費者物価上昇率の見通しは政策委員の中央値で+0.7%でした。この時の金融緩和強化の決定は、2013 年度の物価上昇率見通しが1%に達していないという機械的な理由によるものではありません。』

この前もこの説明していたが、何回読んでも蒟蒻問答にしか見えませんけど今日も引用。

『消費者物価上昇率は、2013 年度よりもあと、遠からず1%に達する可能性が高く、やや長い目で見れば、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復する蓋然性が高いと判断したうえで、そうした展望をより確かなものにする観点から、金融緩和を強化したものです。』

蓋然性が高いのなら金融緩和を強化する必要って「より確かなものにする観点」とかではないような気がするんですが・・・・・・・

『中央銀行が目指す物価の安定は中長期的な物価の安定であり、固定的な期限を設けて予め決めた物価上昇率を無理矢理にも達成しようとする、という機械的な運営は、現在どの国でも採られていません。』

まあそれはそうなのですが、この先の説明が益々前の話と繋がっていない・・・・・・・

『もちろん、私どもとしても、「中長期的な物価安定の目途」で示した消費者物価前年比1%という姿ができるだけ早く実現されることを願っています。しかし、わが国のデフレには根強い構造的な要因も働いていることや、金融政策の波及効果には長いラグがあることも念頭に置く必要があります。』

だから追加緩和したのかというのだとそもそも「遠からず1%に達する可能性が高く」というのは何ですねんという話になるのですが、これに続く説明を読むと蒟蒻問答成分が更に高まる。

『そのような状況の中で、例えば、長期国債の月間買入額は、現状でも大変に大きな金額ですが、そういう中で、最適なスピードを超えてアグレッシブな買入れを行っていくと、一時的に長期金利は下がったとしても、国債市場が中央銀行に過度に依存した市場になる結果、今度は何らかのきっかけで反転上昇することも起こり得ます(図表6)。そうなると、金融機関経営にも大きな影響を与えることになり、結果的には、金融システムの安定、ひいては経済の安定自体を損なってしまうことになります。』

まあ野放図に買入を拡大しない理由の方は判るのですけれども、結局ここの説明を読んでも、「より確かなものにする観点」という意味がさっぱりワカランチ会長であることに何の変化も発生しない訳でして、この説明だとやはりここでの論点である所の『「物価安定の目途」の達成時期と金融政策運営の関係』に則した上での4月の追加緩和措置の説明になっていないと思うのですけどねえ。

でまあここの部分が引き続きロジック的に判りにくい(いやまあ状況読んで追加緩和したんだからその辺のロジックは勘弁してくれというのも判らんでは無いですが^^)というのは、今後の物価安定の目途における金融政策の枠組みが読みにくいという話にもなるので、もうちょっと何とかならんのかとは思います。

#まあここのロジックをギリギリ詰める人も今の所あまり世の中には多くなさそうですからスルーしている感もあるのですけど


・多額の国債買入れと通貨の信認との関係

『第3の論点は、日本銀行による国債の多額の買入れと通貨の信認維持との関係です。』

キタコレとしか言いようがない話で、現状の説明をした上で財政ファイナンスはしません(キリッ)と言っている部分は長くなるので引用割愛して(^^)その先を。

『通貨と国債の関係を考える場合、基本に立ち返ることが大事です。そもそも、日本銀行が国債を買えるのは、究極的には、国債の見返りに発行された銀行券を国民が保有してくれるからであり、さらにそれは国民が銀行券の価値を信用してくれているからです。しかし、その銀行券の裏付けは国債です。言い換えれば、「国債には信認がないが、銀行券には信認がある」という事態は想定しにくいといえます。』

バランスシート的な説明だと「国債です」となるのでしょうが、そこは「国家に対する信用です」とした方が一般向けには判りやすいような気がしますが。大体からして国債以外だって日銀のバランスにあるんですし。

『国債に対する信認が崩れると、銀行券に対する信認も崩れます。結局、国民が持ちたいと思っている銀行券の量の限界を超えて中央銀行が国債を購入すると、インフレが起こるか、あるいは、そうした事態を予想して長期金利が先行的に上昇し、景気にも金融システムにも悪影響が及ぶことになります。その意味で、中央銀行の国債の買入金額は「信認」によって上限を画されています。日本銀行は多額の国債を買入れていますが、その際、信認が維持されるよう、微妙なバランスをとって買入れを進めています。それと同時に、日本銀行の国債買入れが財政ファイナンスであるといった誤解を招かないようにするためには、何よりも財政健全化への取り組みが行われることが重要です。』

まあ仰ることはそうですなという所ですけどね。


・金融緩和の果たす役割

『第4の論点は、金融緩和の果たす役割と他の政策や取り組みとの関係です。』

ということで金融緩和の実体経済への波及の2段階論の話が今回も出るのでした。

『金融緩和の効果波及メカニズムは、中央銀行の行動が金融環境に与える第1段階と、その金融環境が企業や家計の支出増加をもたらす第2段階に分けられます。前者の金融環境について言えば、現在、銀行貸出金利にしても、社債の発行金利にしても、また、名目ベースでみても、予想インフレ率を調整した実質ベースでみても、日本は米国と同等か、それよりも低い金利水準になっています(図表8)。』

まあ足元急速に接近しているし、そもそもスライドの方では短期金利の話をしていないのが(短期金利は名目ゼロ制約があるから仕方ないのだが^^)説明的にどうよっつー気がするけど。

『それにもかかわらず、金融緩和が足りないという見方があるのは、中央銀行の供給する通貨の量のもつ意味に関する誤解があるのかもしれません。ゼロ金利のもとでは、銀行券や中央銀行の当座預金を保有する場合のコストがかからなくなるので、中央銀行が資金をいくら供給しても、それがそのまま中央銀行の当座預金等として積み上がる状態になっています。量に関しては、言わば、「暖簾に腕押し」の状態になっています。実際、バーナンキ議長も、量では金融緩和の度合いは測れないことを述べています。』

まあ現場的にはその通りだと思うのですが、この説明をすると「じゃあ何で資産買入基金での残高目標とか作ってそれを増やすと追加金融緩和と言ってるんだ」という風に一般的には「????」的な話になると思いますので、その辺りをもうちょっと丁寧に切り分けて話をした方が変な誤解を招かないような気がしますがどうでしょうかね。

『いずれにせよ、その量でみても日本は最も量が多くなっています。多分、欧米諸国がリーマン・ショック後に量を急激に増やすずっと以前から、日本は量を増やしていたので、そうした状態に人々の感覚が慣れてしまい、目立ちにくいのかもしれません。極めて緩和的な金融環境を活かして、成長力強化に向けた様々な取り組みを進めることが重要というのが私どもの強い思いです。』

ということで、最終パートは成長力強化が重要という益々麿節全開部分になるのですが、そちらは割愛でおじゃる(−−;

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2012/06/01

○市場的にはスルーしてた麿講演ではありますが・・・・・・

まあ市場的にスルーでもあったので斜め読みだけして昨日ネタにしませんでしたけれども、どさくさに紛れてまた地雷を盛大に踏みに逝っておられる麿クオリティな講演だったようなので少々ネタに(^^)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120530a1.pdf
人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス―日本の経験から―
(日本銀行金融研究所主催2012年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳)

まあ何ですな、ネタ的には別に今の市場動向云々に関する話とか金融政策運営に関わる話とかをしている訳でも無いので市場的にどうという話でも無いのですが、麿の得意技の「一般的に申し上げますと」攻撃によってまた例によって例の如く変な地雷踏んでおられるのではないかと思う講演なのではございます。

・人口動態の変化に関する考察が重要という話ですが・・・・・・

『1.はじめに』から。

『今年のコンファランスのテーマは、「人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス」です。このテーマを議論する上で、日本ほど格好の事例を提供している国はないと思います。日本の総人口は2007 年をピークに、生産年齢人口は1995年をピークに減少に転じています。老齢人口比率、すなわち、総人口に対する65 歳以上の人口の比率は1990 年の12%から2010 年には23%と急速に上昇しています(図表1)。過去20 年間、日本経済の成長率は徐々に低下してきました。この期間の前半の低迷は主としてバブル崩壊の影響でしたが、後半期の低成長には、急速な高齢化進行という人口動態の変化が様々なルートで影響を与えています。』

という話でございまして、日本の低成長が長続きしている要因としての人口動態の変化っつーテーマは、これまでの世界においてあまり例が無いのでこの考察が重要であるし、将来的には他の主要国でも同じ問題に直面する可能性がありますよね、というまあ仰せご尤もな話をしているんですよね。

『生産年齢人口、すなわち、15 歳から64 歳までの人口一人当たりGDP 成長率をみると――これは短期的には人口動態の変化にあまり左右されない指標ですが――、日本はG7諸国の中では最高です。しかし、高齢化に伴う生産年齢人口比率の低下の影響を受ける、総人口一人当たりの実質GDP 成長率はG7諸国の平均並み、そして、総人口の減少の影響を受ける実質GDP 成長率は下位グループに位置しています(図表2)。』

ふむふむ。

『新古典派成長理論では通常、人口と生産年齢人口の区別はなされませんが、この違いを明示的に考慮することなしには、日本が現在直面しているような問題は分析できません。』

ここでしらっと新古典派をdisっているのですが、去年の同じ国際コンファランスでも

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110601a.pdf
バブル、人口動態、自然災害
―― 日本銀行金融研究所主催2011年国際コンファランスにおける開会挨拶の邦訳 ――

『次に第2の研究課題として人口動態の問題を取り上げます。ケインズは、1937年に行った「人口減少の経済的帰結」という講演の中で「人口減少期には、総需要が期待を下回り、過剰供給の状態が継続しやすい。従って、悲観的な雰囲気が続く可能性がある」と指摘しています。ケインズは、伝統的なマルサス流の人口増加懸念論とは対照的な視点を提供しました。新古典派成長理論では、経済変数は、一人当たりGDP、一人当たり資本ストックというように、「一人当たり」で議論されることが多く、これでは日本が現在直面しているような問題を扱えません。』(上記URL先にある昨年の金融研究所コンファランスでの講演より)

『日本は急速な高齢化と生産年齢人口の減少といった人口動態の変化期を迎えています。日本経済の現在と将来を考えるために、人口の規模や構造の変化を分析しようとしたケインズの視点が、より重要になってくるのではないでしょうか。この点、先進諸国はもちろんのこと、今後は、エマージング諸国も同様の課題に直面することが、高い確度で見込まれていることに言及したいと思います(図表8)。』(上記URL先にある昨年の金融研究所コンファランスでの講演より)

ってな話をしていまして、まあ新古典派的な見地からの日銀批判も多い中でこういうネタを打ち込んでくるという事ですが、だいたいロジックとして「いやおまいらの批判なんだがそもそもの立論の前提が日本の現実と合っているのか」という反論が日銀的な反論となっていたと記憶しておりますので(細かいツッコミは頭の悪いあたくしは対応できませんのでご勘弁)また新古典派disかと思ってしまいましたですが。

ちなみに、上記の去年の講演ですがネタにしたのは遅くて去年の6月28日でした(汗)
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/hatsugenshirakawa11-01.html#shirakawa110628


『過去10 年以上にわたって、海外におけるマクロ経済政策の論議に当たっても、日本の経験は頻繁に引用され、様々な政策提案もなされていますが、人口動態の違いを考慮することなく一般的な結論を引き出すと、時として、ミスリーディングなものとなる危険もあります。』

『人口動態の変化に伴う問題は、日本だけでなく、諸外国にとっても今後、重要性を増していくと考えられます。例えば、中国の生産年齢人口の増加率は1990年から減少傾向をたどり、2020 年にマイナスになると予想されています(図表3)。他のアジア諸国にとっても、高齢化はやがて到来する現実です。欧州をみると、ユーロ圏周縁国では、2007 年までは移民流入が人口増加に大きく寄与してきましたが、金融危機後に債務問題が深刻化する中で、移民の流入テンポが鈍化、ないし流出が進み、足もとでは人口成長率の鈍化や減少から潜在成長率の低下に直面している国もみられます。』


・でまあ何が地雷の第一弾かと申しますと・・・・・・・

『人口動態の変化とマクロ経済のパフォーマンスというテーマの下で議論すべき点は数多くあり、私の短い挨拶ですべてをカバーすることはできませんが、以下では、いわば「人口問題先進国」として、日本の経験の幾つかをお話しします。最初に、日本の人口動態の変化に関する事実を簡単に説明し、次にそのマクロ経済のパフォーマンスへの影響を取り上げます。最後に、人口動態の変化に伴う課題について触れてみたいと思います。』

で、最後のまとめの『5.おわりに』では、

『以上、人口動態の変化が日本経済に様々な影響を与えていることを説明してきました。振り返ってみると、世界的な信用バブル崩壊が起こるまで、バブル崩壊のもつ深刻な意味は学界でも政策当局者の間でも十分な理解がなく、日本の経験は日本に固有の出来事と片付けられる傾向がありました。同様に、急速な高齢化や少子化のもつ意味についても、この問題のもつ重要性と比較すると、必ずしも十分な理解があるようには思えません。しかし、ウィリアム・ぺティの「政治算術」やマルサスの「人口の原理」を持ち出すまでもなく、経済学はもともと人口問題を研究対象としていました。経済政策の立案にあたっては、人口動態の変化とその政策含意に関する基礎研究が欠かせません。今回の会議が、そうした基礎研究の蓄積に貢献することを期待して、開会の挨拶に変えたいと思います。ご清聴ありがとうございました。』

という事で、今回のコンファランスって金融政策がどうのこうのという話とはあんまり関係なく、さらには現下の金融政策運営に関するインプリケーションは1ミリも無い話でありまして(だから市場が1ミリも反応しなかったのですけれども)、人口動態の変化が現在一般的とされる経済理論による考察の中でカバーできないような影響を与える可能性があるので、人口動態の変化に関する考察を経済理論の中に取り込んでいく事が大事ですね、というまあ一般的な話をしておられるのですよね。

・・・・・・でですな、その一般的な話は話で結構だと思うのですが、日本の足元で問題と言われて毎度毎度ああだこうだ言われているのってデフレがという話でありまして、デフレに関する言及もこの挨拶中にあるのですが、ここでは人口動態の話をメインにしている事もあって金融政策要因の話って華麗にスルーしているので、悪意を持って読まれると「金融政策要因の話をしないで長期デフレの要因を人口動態に求めるとか日銀は相変わらず責任逃れの理論構築に熱心である」という批判が飛んでくるの大楽勝という所ではございますがなという所ですがな。

まあ責任逃れの理論構築とまではあたしゃ思いませんけど、それにしても日銀総裁という金融政策の元締めの立場で、デフレ脱却しようという話をしている筈の中で、人口動態という短期的にどうしようもない問題を成長の鈍化やデフレ、財政赤字拡大の要因ですね(中でそういう話がある)というような説明をするというのは、やはり「何をのんびりした話をしているんですか」という印象を対外的に与え易いと思うのでございまして、学者としての白川さんが話をするなら別に結構ですけれども、日銀総裁というお立場を踏まえますと、あまりこの手の「学術的な」話を連発するというのもどうかと思うのですよね。そういうのは副総裁とか金融研究所の所長とかにでもやってもらうのが宜しいんじゃないでしょうか。

#と思うとやはり武藤総裁、伊藤&白川副総裁の組み合わせだったよなあとか思いますが

後でニュースクリップしておきますが、足元で消費税法案問題に関して何か進展しそうな流れになる中で、またぞろ次のネタという事で日銀法改正ネタが飛び出してくるというタイミングの中でありまして、まあ何と申しますか間が悪いという所でございまして、この辺の政治的なセンスの方も少しは何とかして欲しいものだと思うのでございますけれどもねえと存じます次第。どうせその辺の配慮とかしているとは思えませんですからねえ。

いやまあその辺のリアクションも覚悟の上でネタ投下しているのであればそれはそれで結構なのですが、2月以降の麿節一般論講演が現実に行っている金融政策との話の整合性という観点からして少々アレではございませんかという風になっておりまして、それは結局の所金融政策運営の元締めが出すメッセージとしてはコミュニケーションの混乱を招くという弊害に繋がるように思えるのでございまして、頼むからあと1年「一般的に申し上げますと」というのを我慢して頂きたいものであります。

#と言っても任期切れが近くなると政策委員の皆様がフリーダム発言をするというのが毎度の仕様になっているので麿の場合も益々「一般的に申し上げますと」攻撃が激しくなるのではないかと思われるので今から頭が痛いのですけれども・・・・・・


・悪態ばかりでは何なので本論を読んでみましょう

『3.人口動態の変化が日本の経済に与えた影響』という所ですが。

『次に、人口動態が日本のマクロ経済のパフォーマンスに与えた影響という観点から、経済成長率、物価上昇率、経常収支の3点について、整理したいと思います。』


ということですが、まあここは興味深い話ではあります。

『経済成長率』

『まず、人口動態の変化が日本経済に与えた影響のうち、最も重要な経済成長率に与えた影響を取り上げます。ソローの成長理論モデルでは、全人口が労働力だと仮定されています。この場合、労働節約的な技術進歩のある場合の長期均衡状態では、一人当たり成長率は技術進歩率によって決まり、マクロの成長率は人口成長率と技術進歩率、すなわち労働生産性増加率の和になります。日本のように高齢化から生産年齢人口が減少し始めた経済では、仮に労働力率を一定とすると、労働力人口も減少し労働供給が制約されるため、労働節約的な技術進歩がない限り資本収益率が低下し、マクロの成長率には下押し圧力がかかります。』

『過去10 年間の日本の現実の状況に当てはめて言うと、労働力人口は年率0.3%の減少、労働生産性は0.8%の増加、成長率は0.6%ということになります(図表8)。ただし、このような分析は高齢化や人口減少の影響を考える上での第一次近似としては有用ですが、政策を考える上では、以下で述べるように、他の要因を取り込んだもう少し現実的なアプローチが必要です。』

ほう。

『第1は、労働力率が長期的に変化する可能性です。例えば、日本の女性の労働力率は国際的にみて低く、特に30 歳代の労働参加率が一旦低くなるという「M字カーブ」の傾向が顕著であり、現在でもそうですが、近年、そうした傾向は徐々に変化しています(図表9)。』

『第2は、総人口一人当たりの成長率と労働力人口一人当たりの成長率の違いです。ソローの成長モデルでは、全人口が生産年齢期にあり労働力人口に一致すると仮定されていますが、高齢化が進むにしたがって両者の乖離は大きくなります。』

なるほろ。

『非労働力化した高齢層のウェイトが高まっていく過程では、総人口一人当たりの成長率は、労働力人口一人当たりの成長率よりも低くなります。生産要素の供給力という観点では、労働力人口一人当たりの成長率が重要ですが、財やサービスの需要を支える消費者の平均所得という観点では、総人口一人当たりの成長率の方が重要です。前者の成長率が高くとも、後者の成長率が低下すれば、需要削減圧力が加わり、経済成長率を押し下げると予想されます。』

『第3は、いわゆる「スペンディング・ウェーブ」の影響です(図表10)。日本の1980 年代後半の資産バブル発生のひとつの要因は、この時期にベビーブーム世代が住宅購入を最も活発に行う年齢層となり、住宅購入を活発化したことです。同様に、1990 年代後半以降の自動車等の国内販売の減少には人口動態の変化も大きく影響しています。一方で、高齢化の進展は医療や介護といったサービスへの需要増加を意味します。現在、日本の消費のうち、約40%は60 歳以上の年齢層によるものであり、今後、その比率はさらに上昇すると予測されています。そうした潜在需要の増加に応じて供給体制が変化すれば、潜在成長率の低下は緩和される筈です。』

ふーん。

『第4は、財政バランスの変化を通じる影響です(図表11)。急速な高齢化は財政赤字の拡大をもたらす大きな要因となりました。言うまでもなく、高齢化の進展は、成長率の低下に伴う税収の伸び率低下や、医療、介護、年金等の社会保障関係費の増大を通じて、財政赤字の拡大要因となります。また、将来の財政バランスに関する不確実性が高まれば、現役世代の消費抑制要因となり、成長を下押しする可能性があります。』

ふむふむふむ。

『さらに、政治プロセスを通じる影響も考えられます。』

ほう。

『高齢化は当然のことながら選挙民の平均年齢の上昇を意味しますが、高齢者の投票率が高く、また、高齢者が社会保障制度の維持の選好を有するとすれば、その程度に応じて、財政赤字が増大する傾向が生じます。』

>高齢者が社会保障制度の維持の選好を有するとすれば、その程度に応じて、財政赤字が増大する傾向が生じます
>高齢者が社会保障制度の維持の選好を有するとすれば、その程度に応じて、財政赤字が増大する傾向が生じます
>高齢者が社会保障制度の維持の選好を有するとすれば、その程度に応じて、財政赤字が増大する傾向が生じます

・・・・・・・・・・いやまたこれはこれは(^^)。

麿様におかれましてはピュアに現象面の話をしているだけだと思うのですが、これはつまり「財政再建の為に年寄りは早く三途の川手漕ぎクルーズ船ツアーに出掛けろやヴォケ」という話の裏返しみたいな事なのですけれども、何もあーたそんな話を中央銀行総裁のお立場の方が言わんでもという盛大な地雷発言がこんな所にもあるのが麿の一般的に申し上げますとプレイのオソロシスな所でありまするorz


『第5は、金融資産選択を通じる影響です(図表12)。特に、経済成長に欠かせないリスク・マネーの供給という観点からは、高齢者の増加が家計の金融資産の選択を通じて、どのような影響を与えるか検討する必要があります。しかし、家計の金融資産選択は、年齢だけでなく、労働所得の動向や、住宅の選択などと同時に決定される問題です。日本については、高齢者になれば他の条件を一定として株式保有が増えるのか、あるいは株式を売却し、国債などの安全資産選好を強めるのか、といった点について、マイクロ・データを用いた分析結果が十分には蓄積されていません。今後の研究が期待される分野です。』

てなまあそんな話をしております。んで物価上昇率と経常収支の所まで引用していると全文引用状態になって何やってんだという事になりますので(^^)、まあ物価上昇率の所だけちょっと引用してみます。

『人口動態とマクロ経済のパフォーマンスとの関係で、次に取り上げる論点はデフレとの関係です。人口動態とデフレと言うと、一瞬、その論理的な関係が理解しにくいかもしれませんが、先進国のデータを横断的にみると、興味深いことが分かります。すなわち、2000 年代の10 年間について先進24 ヶ国の人口増加率とインフレ率を比較すると、両者の間に正の相関が観察されるようになっています(図表14)。この事実は、マネーの増加率とインフレ率の相関が先進国で近年弱まってきていることと対照的です(図表15)。この関係をどのように解釈すべきでしょうか。』

という事で、まあそれはそれでさいだっかとは思いますが、そもそも図表15の部分って「マネーの伸び率とインフレ率」って名前ですけれども、比較しているのが「マネーの伸び率−実質成長率(%ポイント)」と「インフレ率(%)」で、人口動態の変化によって実質成長率が変わっていますがなという話をしている後に実質成長率控除後のマネーの伸び率を引いてインフレ率と比較するのって何か妙な気がするんですけど、あたしゃ頭が悪いので良くワカランチ会長でございます。

つーのもありますが、そもそもこう言いだすと当たり前ですが「日銀はデフレ脱却に金融政策が効かないと言っている」というようなメッセージを与えかねない話でございまして、何かもうちょっと物の言いようっつーのは無いのかねとか思うのですけどどうなんでしょ。

『人口変動とインフレ率の相関に関しては、両者が景気循環を起点として共変動している側面を反映している部分があります。例えば、欧米では、景気の変動が需給ギャップを変動させてインフレ率を変動させると同時に、移民の流出入によって人口の増加率が変化するよう作用した側面があります。しかし、日本のように、移民の流出入が人口変動に及ぼす影響は無視できる国では、景気変動が人口変動をもたらした度合いは小さいと考えられます。その日本についてみると、1990 年代以降、インフレ率と人口変動率の間に正の相関関係が観察されるようになっています(図表16)。これには、高齢化に伴う経済の所得形成力の低下も影響してきたと考えられます。』

という話で、まあそれ自体はファクターの一つとしてあると思いますが、金融政策要因に関する説明が無いとちょっと立論に無理矢理感が出てくるので、まあ正直言って最初の成長の話に止めておいた方が「中央銀行総裁の講演という意味では」吉だったんじゃネーノという風に思いますがどうなんでしょうかねえ。

・・・・・といった所でまあ中身自体は足元の金融政策的に何かインプリケーションがあるかと言うとまるでございませんが、図表が多くてふーんと思いながら読めるのでお暇な方はどうぞという所でありまする。


○あわせてお勧め

とか書くとどこぞのあたくしの嫌いな密林みたいでアレですが(^^)。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2012/wp12j06.htm/
長期金利の変動要因:主要国のパネル分析と日米の要因分解

『要旨

本稿は、日米を含む先進10か国のフォワードレートに関するパネル分析を通して、長期金利の変動要因について検証したものである。インフレ予想や自然利子率を左右する労働生産性の上昇率に加え、財政状況や対外ファイナンス、人口動態も長期金利に有意な影響を及ぼすことが確認された。』

>人口動態も長期金利に有意な影響を及ぼすことが確認された。
>人口動態も長期金利に有意な影響を及ぼすことが確認された。
>人口動態も長期金利に有意な影響を及ぼすことが確認された。

キタコレ。

『主たる分析結果は、以下の通りである。第1に、財政指標としては、フロー変数(プライマリーバランス)よりもストック変数の説明力が高く、また、ストック変数としては、グロス政府債務よりもネット政府債務の方がフォワードレートに対する説明力が高い。第2に、対外ファイナンス指標としては、フロー変数の経常収支よりも、ストック変数のネット対外債務の説明力が高い。政府債務の増加のすべてを海外からの借り入れでファイナンスした場合には、国内からの借り入れに比べ、フォワードレートの上昇が約2倍となる。第3に、高齢化の進行は、金利の上昇要因ではなく下落要因として作用している。高齢層の金融資産需要、特に安全資産に対する需要の強さなどを反映しているとみられる。』

>高齢化の進行は、金利の上昇要因ではなく下落要因として作用している
>高齢化の進行は、金利の上昇要因ではなく下落要因として作用している
>高齢化の進行は、金利の上昇要因ではなく下落要因として作用している

ほほう。

『また、パネル分析で推計されたパラメータを用い、日米のフォワードレート変動の寄与度分解も行ったところ、日本では、政府債務の増加が金利上昇圧力として作用する一方、団塊世代の引退に伴う急速な高齢化の予想や、ネット対外債権の増加が金利低下を促してきた。米国では、2000年代入り後、ベビーブーマーの引退に伴う将来の高齢化が織り込まれ始めたことが、金利低下圧力となっている。』

ということで、本文はこちらですがまだ斜め読みしかしていないのでネタにするかどうかは不明。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2012/data/wp12j06.pdf
長期金利の変動要因:主要国のパネル分析と日米の要因分解

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2012/05/30

○総裁会見ネタの続きを忘れていたので(汗)

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1205c.pdf

・ギリシャのテイルリスクの影響の質問は華麗にスルー

『(問) 先程、テイル・リスクは昨年末に比べ低下したけれども、最も強く意識すべきリスクである、というお話がありました。また先程、総裁からはギリシャ国民の8割はユーロ残留を望んでいるというお話がありましたが、マーケットでは、ギリシャがユーロ圏を離脱するのではないかと公然と言われています。総裁がおっしゃる「最も強く意識すべきリスク」の中に、ギリシャのユーロ離脱が含まれているのかどうか、また仮にそれが起こった場合、日本経済に深刻な打撃を及ぼし、例えば日銀が想定する景気回復のシナリオをかなり下振れさせるような惧れがあると認識しているのかどうか、総裁のご認識をお願いします。』

という質問がありましたが。

『(答) この件に関して、ユーロ圏以外の国の中央銀行の総裁として、どういう言葉でコメントするのが一番適切なのかと、言葉を選んでいるのですが、もちろん中央銀行ですから、様々な事態を常に考えて、景気判断、金融情勢の判断を行っていますし、政策の判断も行っています。離脱について言うと、これがもたらす問題についての関係者の発言を紹介しましたが、私どもとしては、評論家ではありませんから、確率が高いとか低いとかを言うのではなく、欧州の当事者がしっかり問題に取り組んでいくことを強く期待し、そうした取組みを促していくこと、そうした考え方を、国際会議等を通じてしっかり伝えていくことが大事だと思っています。中央銀行という立場からは、先程来強調している通り、金融システムの安定をしっかり維持していくことが大事だと思っています。』

という答えで、まあ変な事言いたくないというのは分からんでも無いのですが、それにしても「そのような事が起きないとは思っていますが、物事に絶対というのは有り得ませんので常に警戒をするようにしています」とでも言って「警戒していますよ」的なメッセージを出せば良いのに(それならタダですし^^)と思うのであります。

でまあ昨日ネタにした決定会合議事要旨(あれはこの会見に対応するのではなくてその前のMPMですけれども)とか、今回の会合における声明文の妙なあっさり味化とか、その辺りの動きを見ていると、こちらとしてはどうしても「日銀は妙に楽観的な見方をしている」という風にメッセージとして受け止めてしまう訳でございまして、別に下振れ警戒の話をする分にはタダだと思うのに、何でそこをケチるのかなあというのが不思議ではございます。

だってさ、逆さ絵のおじさんとか謎のツイストオペで半年以上引っ張って、その後は謎のガイダンス文言で引っ張って、その間やってるのって精々そのツイストオペだけだというのに、一方で日銀は妙に楽観的な見方→やっぱりアチャー→追加緩和のおかわりって流れが続いている訳で、結果としてETFみたいな他の中銀買ってねえよというものを買ったりしているというのに外野からは出渋り感を指摘されるとか勿体ないじゃんよ〜と思うんですけどねえ。


・金利と量の話

またこの質疑かという感じですが。

『(問) 本日、国会で日銀の理事から、目標と目途について、目標という表現をすると機械的になるから目途にしたとの発言がありました。「機械的になる」とは具体的にどういうことなのかをお伺いします。また先程、バランスシートの話で非伝統的な政策を欧米が行っているということですが、欧州や米国がマネタリーベースを2倍、3倍にしていて、日本はそれ程までは上げておらず、マネーの差で為替が円高に振れているという意見があります。これに関しては、どのようなご意見をお持ちでしょうか。』

まあ前半の方はそうっすねという感じですがせっかくなので引用。

『(答) まず、中央銀行として、物価安定の姿を数値的に示していく際に、それぞれの中央銀行が色々な表現を使っています。BOEは「target」ですし、FRBは「goal」、ECBは「definition」です。日本銀行の場合、物価安定の数値表現をどういう言葉で表すと一番私どもの政策運営の考え方に近いのかと考え、「中長期的な物価安定の目途」としました。』

『ご質問の、機械的な金融政策の運営というのは、望ましい物価上昇率と、現実の物価上昇率、あるいは例えば先行き1年なり2年の予想物価上昇率との間に差があれば、その差を解消する方向で金利を上げるなり下げるという方式、これを「機械的な運営」と呼んでいます。こうした機械的な運営は、インフレーション・ターゲティングが採用された直後は確かに、ニュージーランドなどでも行われましたが、その後、機械的な運営は却って経済の変動を大きくするという反省から、今では、機械的な運営を採っている中央銀行はどこにも存在していないと思います。』

BOEが良い見本ですわな。

『あくまでも最終的な目標は、物価の安定を通じて経済の持続的な発展を図っていくことですから、そうした観点に照らして政策を運営しているということです。その点、日本の場合、ターゲットという言葉が――多分、初期のインフレーション・ターゲティング論の名残もあったのかと思いますが――、多少、機械的な運営と今でも誤解されている面がないとは言えません。』

つーか今でも「中央銀行の金融政策に裁量を排した方が良い」という言い方で物価目標がどうのこうの的な話をして日銀法改正ガーとか言ってる人たちがうじゃうじゃいます罠。

『私どもとしては、大事な金融政策の考え方の話ですから、先程申し上げた考え方に、一番近い数値の表現は何かと考え、それは「中長期的な物価安定の目途」だと考えました。』

とまあここまでの前半の話は良いとしまして・・・・・・・・

『マネタリーベースについてですが、記者会見の席でも何度も申し上げ、多くの記者の方は既にお聞きになった話になりますが、あえてお答えします。』

・・・・・・・・・・・・(^^)

まあこの位は言った方が良いと思います。つーかドラギの会見なんかだと「その話はさっきも言ったがな」とかかなりぶっきら棒な返しをしていますな。

『まず、事実として、マネタリーベースの大きさのGDPに対する比率は、先進国の中では日本が最大です。日本銀行による量の拡大は、他の先進国に比べかなり早い時期から始まっていました。日本は、バブルの崩壊やその後のデフレ、あるいは金融危機を早く経験し、1990年代の終わり位からマネタリーベースが急激に増えたわけです。例えば、リーマンショック以降だけに絞ってみた場合、日本銀行の量の拡大が、その時になって初めて拡大した中央銀行に比べて、多少スピードが遅いと映る面があるかと思います。そのことが、日本銀行の量の拡大が少ないという批判の大きな理由になっているのだと思います。』

後半にあるように危機後の増加率ガーとかいう話も出てくるのでこの話っていくらやっても平行線になるので、話をここで転じるのである。

『ただ、いずれにしても、現在はゼロ金利環境で、マネタリーベース――中央銀行が出すお金――を保有することのコストは、ゼロになっているわけです。従って、 FRBでもそうですし、日本銀行でも、大量の資金供給を行っても、そのお金を金融機関がそのまま中央銀行に預けるという、いわば両建ての現象が起きているわけです。量に関する限りは、「暖簾に腕押し」と言いますか、量をいくら出してもその量をそっくりそのまま中央銀行の口座に持っているわけです。従って、金融緩和がどの程度、経済に対して刺激効果を持つのかを議論する場合、今の環境のもとでは、量ではなく金利をしっかりみていくことが大事です。この点は、日本銀行だけでなく、FRBのバーナンキ議長もいつも言っていることです。』

まあこれは現象面からしたら金融市場の中の人とゆーか短期市場の中の人としては話としてしっくりくるのですが、これを捕まえて「量を出しても効かないと白川総裁は言っている」という話になるだろうなあと思ったらやっぱりそうなっていたがなというのはまあお約束の展開なのですが、これはまあ話をここで切らないで「問題はその緩和的な金融環境を生かす為に成長戦略がどうのこうの」という方向の話をしていくのが吉のような気も。


・包括緩和における買入と市場機能とかまあそんなネタ

この質疑見て思ったんですけどね。

『(問) 緩和効果は、金利が低下することによって十分に浸透しているというお話がありましたが、金利の水準自体、10年債では10年振りに近い低水準になっているとか、2年債であれば0.1%を切っているという状態について、かなり下がり過ぎではないか、逆に、将来急反騰するリスクが高まっているのではという指摘があります。現状、相当下がり過ぎの水準ではないかとの指摘があることについて、どのようにみていらっしゃいますか。』

『(答) 中央銀行として、長期金利の水準について高過ぎるとか低過ぎるとか、そうしたコメントは控えたいと思っています。ただ、日本の場合、国債を大量に保有しているのは金融機関です。金融機関が、現に取り組んでいることであると思いますが、リスク管理をしっかり行った上で、自らの体力に見合った形でリスクを取っていく、そのもとで金利が形成されていく、ということが大事であると思っています。』

「長期金利」と包括緩和で言う「長めの金利」が別物である、というのをちゃんと理解しないでこの部分を読むとナンジャラホイという話になりますが(−−)、それでも「長めの金利を低下させる」と言って包括緩和やっているのですから、なんかこれだとじゃあお前は何で国債買ってますねんという話になるような。

「長期金利の低下には色々な要因があると思いますが、本行の包括緩和によって促される長めの金利の低下も要因の一つとなっている可能性もありますね〜あっはっは」ってのはどうなんでしょうかねえ(・・?)

あと、後半の話ですが、さすがに「リスク管理をしっかり行った上で、自らの体力に見合った形でリスクを取っていく、そのもとで金利が形成されていく、ということが大事であると思っています。」というのはお前それは何を言ってるんだという感じで、そもそも包括緩和によって長めの金利を潰しに行ってるのは日銀なのですから、こういう所で市場機能論みたいな話をされると、イールドおよびイールドカーブを潰されて金利難民となっております債券金利投資家と致しましては甚だ遺憾の極みと存じますので、もうちょっと物の言い方を何とかした方が宜しいのではないかと思うのですがどうなんでしょうかねえ。

#いかん、また変な悪態になってしまった上に時間が無いので今日はこんな雑談で終了

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2012/05/25

まずは総裁会見から。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1205c.pdf

○「強力な緩和を推進」の文言削除ネタから

質疑の順序としては中盤以降になるのですが、まずはそのネタをば。

『(問) 2点お伺いします。1つ目は、2月の政策決定会合以来、3回の政策決定会合の「当面の金融政策運営について」の中で、金融政策上のキーワードではないかと思いますが、「強力な金融緩和を推進していく」という言葉がありました。その言葉は、先程の冒頭のご説明の中にはありましたが、声明の中には入っていませんでした。この声明発表後、マーケットの中で、日銀の緩和姿勢について、より中立的な要素を意識しているのではないかという受け止め方があったらしいのですが、総裁としては、この点について、意図的に落とされたのかどうか、コメントを頂きたいと思います。(2点目は割愛)』

ということで、冒頭の総裁説明の中では『金融面からの後押しという点では、日本銀行は強力な金融緩和を推進しており、来年6月末にかけて、基金による長期国債買入れの残高をあと20兆円程度積み増していく途上にあります。日本銀行としては、引き続き適切な政策運営に努めて参ります。』というのがありましたが、さてこの質問に対する答えはどうかと言いますと。

『(答) 1点目については、日本銀行が中立的なスタンスになったということは全くありません。日本銀行の政策スタンスは、4月の展望レポート発表時の公表文に書いた通り、「強力な金融緩和を推進していく」ということで、全く変わっていません。日本銀行の金融緩和政策については、4月末の公表文で丁寧に書いており、それを、もう一度読み上げさせて頂き、その考え方が全く変わっていないということを申し上げます。』

ということでまあご丁寧に前回公表文の第4パラグラフから第6パラグラフを延々と朗読するというプレイが炸裂しますがそこは引用割愛しまして(^^)。

『こういうことを毎回の公表文に書くというのも、一つの手ですが、毎回この文章を書くというのもどうか、ということで、今回は「適切」という言葉で表現しました。もし、「強力」ということについてご懸念があるということであれば、そこは全く変わっていないことを改めて強調させて頂きます。』

ということだそうですが・・・・・・・・・


『(問) 先程の質問と若干重なりますが、「強力な金融緩和」という言葉が消えた点についてですが、昨年以降、短くとも「強力な金融緩和政策を推進する」という1行が入っていたわけです。改めてこれを外したというのは、ここにきて突然「長過ぎる」と思い始めたということなのでしょうか。それから、これに関係あるかと思うのですが、最近、行内の人事異動が発表されましたが、これは政策姿勢と何ら関係ないという理解でよいかどうか、確認させて下さい。』

行内の人事異動というのは企画ラインの理事、局長の異動の事を指しております罠。

『(答) これはしつこいようですが、全く関係ありません。日本銀行はオフィシャルな文章で「強力な金融緩和政策を推進する」と2月に発表し、4月の文章にも書いています。ご質問は、「その文章を反故にする」ような趣旨に聞こえましたが、そうした意図は全くありません。そうした誤解がないように、皆さんの報道をよろしくお願いします。それから、人事と政策は全く関係ありません。』

>ご質問は、「その文章を反故にする」ような趣旨に聞こえましたが、そうした意図は全くありません。そうした誤解がないように、皆さんの報道をよろしくお願いします。

・・・・・・・・・・・ほほう。

まあ強力な緩和の方は兎も角として、まあこんな話をしているので欧州問題に関する警戒とか、そういう感じのトーンのヘッドラインが割と目に付いたという感じでしょうか。

でね、まあ以下雑談になるのですけれども、実際に質疑応答の場にいる訳では無いのでよーワカランチ会長(ブルームバーグとかで会見中継を後付で見られるのでそれを見ろというツッコミはしないように)なのですけれども、もしここにありますように普通に額面通りに受け止めて良い(文言変更に政策意図は1ミリも無い)という事であれば、逆に足元での欧州問題や(相変わらず声明文では指摘されていないけど)夏季電力の供給制約問題など、下振れリスク注意モードになっているタイミングでわざわざこういうのを出す事は無いんじゃネーノと思う訳ですよ。

つまりね、展望レポートで1%が遠からず達成できる可能性が云々とか、この前の調統局長のインタビューとか、麿の財政維持可能性の確保が重要とか、まあその手のモノが最近出てきている中で、「強力な緩和」云々の説明をくどくどとしている部分を削除するとなりますと、それらの一連の流れからやはり「政策意図があるのではないか」と思うのが日銀観察者からすると推測したくなる訳ですよ。

ということはつまり、市場との対話という意味で言えば、もし今般の表現変更が政策意図が1ミリも無いというのであれば、やはりそれはミスコミュニケーションの元となる訳でありまして、こういう状況下で市場はそれなりにナーバスになっているのですから、もうちょっとメッセージ性というものを考えて頂きたいものだと思うのですよ。別にクレクレに全部答えろとか言っている訳では無いのですけれども(つーかあたしゃクレクレには悪態ついてますし^^)、一方で市場に対して変なメッセージを出してしまうというのもどうかと思いますけどね。

ただまあ政策意図が1ミリも無いのかという話になると、景気の現状見通しは強くなっているし、確かにテールリスク地雷はあるものの、その地雷を回避できれば今の株価などに示されるようなダメダメ悲観は行き過ぎじゃろヴォケという考えもまたアリエールな訳でございます。そうなりますと、普通に景気の現在の状況および先行き見通しを勘案したら本来従来のような長い強力金融緩和決意表明なんぞせんでも良くて、今の状況を継続させるって話で良いでしょ、という意見になる訳で、その結果としてナチュラルに今回のような事態になりましたけれども、いざ出してみたら市場がその部分に思いっきり注目しちゃったもんだからアチャーとなって再度強調してみましたとゆーイメージも無きにしも非ず(−−)。

まーいずれにせよ、2月の緩和実施や4月のおかわりの時に見られた「市場に気を使ってフレンドリーに対応」というのは今回の文言削除からはあまり感じられないというのがアタクシの感想でございます。


○オペ札割れに関して

『(問) 国債買入れオペの札割れが相次いでいますが、今後、追加緩和などが必要になってきた時、その手段が限られることにもなってくるかも知れません。今後、その運用に当たり、どのような態度で臨まれるのか、また、銀行の資金調達需要について、どうみておられるのかお伺いします。(2番目の質問割愛)』

『(答) まず、国債買入れの「札割れ」についてのご質問ですが、ご案内の通り、5月16日にオファーした資産買入等の基金の長期国債買入れのうち、「残存期間1年以上2年以下」については、いわゆる「札割れ」が生じました。5月18日にオファーした成長通貨オペでも、「残存期間1年以下」について「札割れ」が生じました。』

さいですな。

『「札割れ」が生じた背景としては、2点あると思います。第1点は、こうしたゾーンの金利水準が一段と低下していることです。これは、日本銀行による金融緩和効果がそれだけ強力に浸透しているということでもあり、その意味では、意図した効果が実現しているということだと思います。』

やはりこの理屈が来たか(^^)。

『もともと金融緩和を進めていけば――現在、強力な金融緩和を進めているわけですが――、こうした「札割れ」が発生する可能性が高まることは意識しており、先月27日の緩和措置の際にも、この観点から固定金利オペを減額しました。』

と、こういう言い方をすると今後も減額の可能性があるっぽい言い方なのですが、しかしながら「基金の総額」という形でどどーんと打ち出している以上は、その辺どう折り合い付けるんでしょ。

『もう1つの「札割れ」の要因は、このところ国際金融資本市場で神経質な動きもみられる中、いわゆる「質への逃避」が影響し、安全資産としての国債の需要が高まっている側面もあると思います。こうした動きが今後どのように展開していくかについては、その背後にある欧州情勢と併せて注意深く点検していきます。日本銀行としては、引き続き、オペの応札状況や市場全般の情勢を見極めながら、金融資産の買入れ等を着実に進めていく方針です。(以下欧州問題が日本の金融機関に与える影響についての話なので引用割愛)』

禅問答のようですが、つまりFTQの動きで国債選好が高まっていると考えた場合には、買入系のオペの札割れは一時的なものに過ぎず、FTQが一巡したらまた買入系のオペには札が入りますよという主張ですな。


んでもって次の質問。

『(問) 「札割れ」について、このような状況が頻発していくと、日銀のマネーの供給が計画通り進まないことが生じかねないわけです。そうした中で、例えば、先般、3年まで延ばした残存年限をさらに延ばすとか、当座預金の付利を引き下げるといったことが、今後、選択肢として入ってくるのでしょうか。』

『(答) 私どもは、基金の買入れ残高について、本年末の目途、来年6月末の目途を示しています。この目途を確実に達成していくという方針は変わっていません。マーケットのことですので、時々、色々な変化がありますが、私どもが持っている手段を使って確実に達成していくということです。』

ということで、後で説明してますけれどもFTQによる一時的な現象と見ているっぽい言い方だなあという感じっすな。ではまず付利下げについて。

『当座預金の付利水準の引下げについては、日本銀行として金融緩和政策を行うことによる金利低下の効果と、他方で市場金利が低下し過ぎて短期金融市場における流動性が低下し、いざという時に市場参加者が資金調達を行おうとしてもなかなかできないという副作用があります。その双方を勘案した上で、現在の枠組み、つまり、「0.1%の超過準備への付利金利と、0〜0.1%程度の金利誘導目標」という組合せのもとで、金融緩和効果が最大限発揮されると考えています。従って、それらの金利の更なる引下げは、デメリットが大きいという点で、現在の水準が実質的なゼロ金利だと考えています。』

当然の如く総裁もお判りなのですが、当座預金の付利を引き下げると基金残高の拡大がスムーズにいくのかと言いますと別にそんなことは無く、単純に今0.10%近辺で3年までの金利が張り付いて買入系のオペが札割れになるという現象から、付利金利引き下げた後の水準の近辺で3年までの金利が張り付いて以下同文という現象になるだけの話でございますし、そもそも付利ゼロとかにしちゃった日には固定金利オペへの応札がゼロになるだけの話(資金繰りの限界的な部分でのニーズは残るでしょうけれども)で、「基金の残高目標達成」という文脈では無意味にも程があるという話をもうちょっと強調して頂きたく存じますけどどうでしょうかね。まあこの説明でも「金利」の話はしているけれども「量」の話をしていない、という点からして「当座預金の付利引下げは量という文脈では意味があまり無い」と説明しているのですけれども、その辺は短期金融市場の現場に近い所に居ないと良くワカランチ会長な話で、日銀的には自明であっても債券市場ですら説明10回しないと伝わらないような気がします。

と、あたくしの長広舌ですいませんすいません。

『また、基金の残高目途を達成するために、残存年限を拡大する選択肢があるかというご質問も、先程申し上げた通り、今の「札割れ」は、足許の欧州情勢に関する要因を反映している面もあります。今後、こうした傾向がどの程度続いていくかにも依存しますが、直ちに足許の「札割れ」で基金の残高目途の達成が難しくなるとは考えていません。いずれにせよ、私どもとしては、基金の残高目途を達成するように努力していくということです。』

ね、残高目標達成のために、っていう部分では残存年限の拡大の選択肢という説明しかしてないでしょ。まあ札割れ動向は今後見ながらという話なんでしょうね。

他にもいくつかポイントと思われる質疑応答があるのですが、今日は時間の関係でこの辺で。

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2012/05/15

○なし崩し財政マネタイゼーションを避けたいのは判るけど(雑談である)

日曜の朝日新聞に記事があったようで。

http://www.asahi.com/business/update/0513/TKY201205120656.html
「通貨安定へ財政再建を」 白川・日銀総裁が政府に注文
2012年5月13日8時18分

『インタビューは11日に行った。白川総裁は「(金融市場で)日本の財政が持続できないと思われれば、国債が売られる。国債を大量にもっている金融機関は大きな損失を被り、経済に悪影響がでる」と指摘。そうしたとき、金融システム危機を防ぐため、日銀が国債を大量に買い支えれば、通貨の安定が失われて「制御不能なインフレになるのが歴史の教訓だ」と述べた。』(上記URLより)

残念ながらインタビュー内容は朝日新聞の購読者じゃないと読めない上に、日曜の本紙記事ですので普段購読してないと手に入ら無さそうという残念モードでございますが、まあ要するに「安易に財政マネタイズすると大変な事になりますよ」という話をしているのですが、麿的に言えば「これだけ色々と緩和措置やってるんだから財政再建にしっかり取り組んでくれないとどこかでエライことになるんで政治は緩和要求ばっかりしないでやる事をやってくれ」ってなもんでしょう。

しかし朝日の見出しも「通貨安定に財政再建を」って微妙にミスリードにも程があって、これだとどうせまた日銀批判してる人たちが「通貨安定しろという日銀は今の円高を容認していてケシカラン」という風に言いだすに1万ドラクマ。


でまあ昨日は昨日で公共放送ニュースがこんなネタを。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120514/k10015092541000.html
日銀保有国債 流通紙幣超える見通し
5月14日 4時53分

『日銀は金融緩和強化のため、国債の買い入れを拡大していますが、その結果、ことし年末には保有する国債が92兆円程度と、日銀が発行している紙幣の額を上回る異例の規模になる見通しで、金融市場などでは国の借金依存が進むのではという懸念も強まりそうです。』(上記URLより)

ということで、昨日公共放送ニュース見てて何でまたこのタイミングで(金融調節に関するレポートは連休明け直後に出ていたので昨日のニュースで改めて取り上げられるというのはタイミング的に妙なので)と思いながら見ておったのですが、これを前述の日曜の朝日新聞での麿インタビューと合わせてみますと、ってどうしてもこういうのってシンクロさせて考えたくなっちゃうところが陰謀脳かもしれないのですけれども(汗)、何か急に麿大先生におかれましては「なし崩しの財政マネタイズに向かわないようにするのはセントラルバンカーとしての責務でおじゃる」というスイッチが入ってしまった感の漂う展開になっているように見えるのはあたくしの気のせいでしょうかどうでしょうか。

いやまあ確かに無限に財政マネタイズしながら財政のタガは緩みっぱなし(少なくとも自民党政権時代は一応追加の赤国発行をあまり増やさないようにという雰囲気はあったけれども民主党政権になってからはゆるふんにも程がありますからねえ)という状態がサステイナブルではないので、中央銀行家としてそれに警鐘を鳴らしたい、というのは仰る通りで極めて正論ではあるのですが、何もあーた足元で欧州債務問題が再々再度位(もはや何度も火を噴くので忘れたわ)火を噴いて市場があばばばばーになっているタイミングで急にそんな話をおっぱじめなくてもと思うのでありまして、何と申しますかこの前の展望レポートと言い、何ともタイミングの悪い話にも程があります。

まあ間が悪いのは日銀の伝統芸能みたいなもんなのですけれども、何ちゅうか足元でこんな状態になっている中で急に麿にスイッチが入った的な雰囲気になっているのが実にこう気になる所ではございまして、よく日銀審議委員の皆様が任期の最後の方になるとフリーダム発言をしだして中々オモシロスという現象があったりするのですが、まさか麿様におかれましても任期残り1年切ってきて急にスイッチ入ってしまったのではないかと思うとそれはそれで足元の経済、というか欧州とかの情勢を勘案すると少々アレなものを感じざるを得ない所ではございます。

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2012/05/07

お題「総裁会見ネタ(その2)」

連休中に更新するとか大口叩いたものの結局連休中に更新しておりませんでどうもすいませんすいませんすいません。

一応今日の所はその1、その2シリーズにしております(汗)が、まあ実質今朝更新しているのとカワランチ会長ではある。

つーことで総裁会見ネタの続きです。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1204d.pdf

○金融緩和の波及経路について

時間軸云々の質問をした人の後半の質問がこちら。

『(問) 2点ご質問します。(1点目はその1でネタにしたので割愛)2つ目は、FRBなどは、緩和効果がどのように経済へ浸透していくか、波及経路を細かく説明していますが、日銀として、今回の資産買入れの増額が、何にどのように波及してデフレ脱却につながるのか、その波及経路をもう一度細かく説明して下さい。』

これはまた良い質問ですな。

『(答)(1点目割愛)それから、2つ目の金融緩和の効果がどのように及んでいくのかということです。私どももFRBと同じように色々な分析を行っていますし、そうした分析の成果のいくつかは公表しています。先程の説明と多少重なりますが、私は、3つないし4つくらいのルートがあると考えています。』

ほほう。

『1つは、基金の買入れによって、これは需給的な観点からですが、当該金融資産の価格が上がり、金利が下がることで、企業の資金調達コストが低下するということです。』

ETFやJ−REITの買入に関しては???

『2つ目は、先程の時間軸効果です。景気が持ち直し、企業の収益率が向上していくもとでも、消費者物価について前年比1%が見通せない間は、実質的なゼロ金利政策等の強力な緩和政策を継続します。そうすると、同じゼロ金利であっても、その景気刺激効果はどんどん強くなっていくわけです。半年前、1年前のゼロ金利と、今のゼロ金利を考えると、今のゼロ金利の方が刺激効果は強くなっています。物価はまだ前年比1%に達するとは見通せていませんが、私どもの見通し通りに推移する一方、ゼロ金利を続けるとなると、景気刺激効果がますます高まっていくことになります。これが2つ目です。』

ということで、時間軸効果の説明の質疑の後半の方ではこういう話をしておりまして、その1の方での「物価が遠からず1%に達する」云々に関する説明と話が合ってねえですがなという感じです罠。こちらでは「1%に達するとは見通せてません」という事になっていまして、だったら何で「遠からず1%に達する可能性が高い」の文言が出てきますねんという話ではございます。

いやまあ「可能性が高い」とは言っているものの見通しとしてはそこまで置いていない、という話なのでしょうけれども、まあそういう表現は如何にも判りにくいと思われます次第で、見通しと希望的観測(??)の区別を判りやすくして頂きたく存じますという所なのですが。

『3つ目は、潤沢な資金供給を通じて金融市場の安定が確保されるという安心感です。企業が長期的な投資に取り組むためには、この金融市場の安定は、現在のような不確実性が高い時には、特に大きい要素です。』

『4つ目は、金融政策の固有の効果では必ずしもありませんが、私どもとしては、この極めて緩和的な金融環境を大いに活用してほしいと常に申し上げています。様々な成長力強化の取組みの結果、あるいは規制緩和の結果、色々な投資のプロジェクトの採算性が上がってくると、従来は刺激効果を持たなかったものが顕在化してくるわけです。色々比喩を考えましたが――あまり適切ではないかもしれませんが――、ちょうど、オセロで一斉に黒が白に変わっていくように、これまでは強力な金融緩和を十分に活かしきっていなかったけれど、成長力強化の取組みが実を結んでいけば、その効果が顕在化して、どんどん黒が白に変わっていくということもあります。これは、いわば累積的な緩和の効果が顕在化していくということです。そうした形で経済が改善してくると、人々のマインドも好転していきます。こうした効果を期待しています。』

金融市場の安定はまあ判るのですが、4つ目は長々と話をしている割には何だか微妙なテイストでして、いやまあ成長力強化の話は大事なのはその通りではあるのですが、それは金融緩和効果の話と直接的なリンクとしてどうよという感じ。

つーかね、包括緩和ってもうちょっと直接的に「資産価格ルート」とか「為替ルート」への働きかけみたいな理念じゃなかったでしたっけという気がするのですが、その辺の話は麿スルーというのがまあ中央銀行の伝統派ちゃあ伝統派なのですけれども、そもそも非伝統的政策としての包括緩和実施という中で、資産価格やら為替やらへの作用とか、もうちょっと漠然とした期待への働きかけみたいなルートの話を華麗にスルーという辺りが麿クオリティだなあと思うのでございまする。


○長期国債買入額と銀行券発行残高の関係について

『(問) 2点伺います。1点目は、国債買入れと銀行券ルールとの関係ですが、先程も分別管理というご説明をされていますが、今回、さらに長国の買入額を増やすことで、相当な額が日銀のバランスシートに載ってくると思います。今後の見通しとして、基金の分と輪番分を合わせると、日銀券の量に遠からず達すると思いますが、いつ頃達するという見通しですか。また、国債の残存期間を3年まで延ばしていますが、輪番オペのデュレーションは4年くらいだと思いますので、どんどん区別がつかなくなってくると思います。それにより、日銀券ルールが事実上、形骸化するという可能性もあるかと思います。どんどん日銀券を上回る額を買うことに躊躇はないのですか。これが1点目です。(2点目は割愛)』

『(答) まず、国債の保有額が銀行券の発行額を上回るのはいつ頃かということです。もちろん、銀行券の増加のテンポに依存します。私どもの国債買入れテンポは、既に発表しており機械的に計算できますので、いつ頃上回るかは、銀行券の伸びに依存します。いずれにせよ、最近の銀行券の伸びと私どもが発表する国債買入れ金額から計算すると、この年末までに、銀行券を上回る状況になろうかと思います。』

ほほう。

『これは、繰り返しになりますが、色々な前提の置き方次第で変わります。連休明けに、毎年公表している金融調節の年報を公表しますが、その中で、ご質問の件についても、グラフをもってお示ししたいと思っています。』

これは楽しみ。

『「躊躇がないのか」とのご質問ですが、先程もお答えした通り、私どもは、国債買入れを金融政策の目的遂行のために行っています。もちろん、これに伴う潜在的な問題点を意識した上で、それを最小限にする工夫をしながらやっていきます。最終的に日本銀行が財政ファイナンスを行わないという意思を、私も他の政策委員会メンバーも一致しています。この点は、私どもの言葉を信用して頂きたいと思いますし、私どもの行動をしっかり監視して頂きたいと思っています。』

はあそうですかという感じですが、まあこれは日銀が何言っても政府サイドというか政治サイドがアレですのでまあそっち次第ではないかと思います。



○展望レポートの中間点検と金融政策

展望レポートの中間見通しに関する質問が2発あった訳ですが(^^)。

『(問)(前半はその1でネタにしたので割愛)もう1点、今後も3か月おきに大勢見通しが出るわけですが、そういった見通しは、今後の政策決定、政策判断にどの程度の意味を持っていくのですか。この2点について、教えて下さい。』

『(答)大勢見通しの位置付けについてですが、私どもの金融政策の基本的な枠組みは、2つの柱です。第1の柱で中心的な見通しを点検し、第2の柱でそうした見通しに関わる様々なリスク要因、あるいは見通し期間を超えた、もう少し長いタイムスパンでのリスク要因を点検していくという、2つの柱に基づくものです。大勢見通しの数字は、もちろん、これはこれで重要なものですが、私どもとしては、1つ1つの数字自体より、どのようなメカニズムで、経済・物価がどういう方向に向かっているのかという方により力点を置いています。そうしたことを説明する上で、もちろん、数字は一定の優位性があるので「参考」としていつも出していますが、あくまでも、大きなメカニズムを中心に考えて頂きたいと思っています。』

ということで、まあ答えになっているけど答えになっていないという蒟蒻問答モードになっているのですが、大きな話をするのは良いのですが、あまりその方向性がどうのこうのの話を強調しすぎるのもフレキシブルインフレーションターゲットとの整合性ってどうよ的な話になった時に判りにくいとしか言いようがないんで、もうちょっと説明として「物価安定の目途」の話をして「でもそれっていうのは足元の数字で一々振らされる話では無いですよ」という風な持って行き方をした方がエエンデネエノと思うのですけれどもどうっすかねえ。


更に判りやすいクレクレ風味の質問が(^^)。

『(問) 2点お伺いします。(1点目割愛)2点目ですが、総裁は先程、中心的なシナリオの実現可能性をより確かなものにするために、とおっしゃいました。それならば、5月と6月の決定会合が終わって7月にはまた中間評価があるわけなので、その度毎に、やはり金融緩和をすればよいのではないか、という考え方を持つ人も出てくると思いますが、今後の金融政策運営の考え方について、総裁のお考えをもう一度お聞かせ下さい。』

んでまあこれにどう答えたかと言いますと・・・・・・

『(答)2つ目は、先程どなたかのご質問にお答えしたことと重なりますが、金融政策の効果の波及には時間が掛かるわけです。従って、経済・物価がどういう方向に向かっているのかが重要ということです。今回は、先程申し上げたように、望ましい方向に向かっていることを確認したわけですし、そのパス自体も前回の中間評価に比べると上振れしたわけです。そうであれば、ここで緩和をしなくてもよいではないかというのがご質問の趣旨だと思いますが、私どもとしては、確かに、上振れている時に緩和を強化するということは、あまり例はありませんが、日本経済の長年の課題であった物価安定のもとでの持続的成長経路に明るい動きがみえ始めたこのタイミングで、このモメンタムを大事に育てたいということです。』

ということでありがちなパターンではございますが、質問の趣旨を微妙に外して答えておりますな、あっはっは。

『従って、毎月毎月そういう思想でやっていく、ということではもちろんありません。大事なことは、大きな流れとしてどういう方向に向かっているのかということですし、そうしたゴールに向かう上で、日本銀行がどういう役割を果たしているのかということについて、皆さんの理解をしっかり得られているかということです。』

ということで3か月後の中間評価でどうするのかという事は答えにくいので毎月毎月実施する訳では無いですよとそらまあ当たり前だわなという話をしておりますな、うんうん。

『私ども自身はあまり宣伝が上手ではありませんから十分ではないのかもしれませんが、私どもの意思、気持ちはかなり伝わっているのではないかと思います。』

いや多分伝わっているの短期金融市場だけだと思いますよ。

『いずれにせよ、私どもとしては、今後とも上下双方向のリスク要因に注意を払っていくわけですが、景気・物価の展開や金融政策の効果を冷静にじっくり見極めたいと思っています。』

ということで、質問の趣旨を微妙にスルーしているのですが、まあスルーせざるを得ないという事ですかそうですかと意地悪に解釈してみますがどうっすかねえ(ニヤニヤ)。


○これは良い質問だがスルーされましたな

『(問)(前半割愛)2点目は、先程から何回もご説明されていますが、「1%に遠からず達する」だろうと明記されているのですが、そこに達した後の政策はどのようにイメージされているのか、可能な範囲で教えて下さい。』

『(答)(前半割愛)2つ目のご質問、1%に達した後の政策のイメージですが、もちろん、私どもとして1%という状況をできるだけ早く実現したいと思っていますが、今はとにかく1%という状況をしっかりと見通せることがまず先です。従って、今、達成した後の政策について語るというのは、あまりにも時期尚早だなという感じがします。抽象的な言い方になりますが、どういう環境になっても、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現していくという、本来の金融政策の目的に照らして、その時点で的確に判断していきたいということに、現時点ではとどめたいと思います。』

ということで華麗にスルーする訳ですが、こうなってくると何かこう麿の精神安定上入れたのか何だか知りませんが、声明文での1%云々の文言が却って話をややこしくしているようにも思える訳で、展望レポートでの中間見通しの時にはシャーナイかもしれないですけれども、それ以外の時にこの話を出すとコミュニケーションの混乱を招きそうな悪寒がします。



○固定金利オペ減額関連

これは良い質問。

『(問) 資産買入等の基金についてですが、今回一部減額して、他方では増額しており、そうしたケースは初めてだと思います。固定金利オペの札割れが起きているという意味では、緩和が十分できているという見方も可能ですが、一方を減らして他方を増やすことについて、その考え方を改めて教えて下さい。』

『(答) 札割れが生じているという事実は、民間金融機関に資金が十分にある、従って、これ以上の資金は要らないというシグナルであるとも言えます。量の面ではそうなのですが、金利の面では、短期金利がゼロになっている中で、金融緩和効果を作り出していくためには、長めの金利あるいはリスクプレミアムに働き掛ける途しか残っていないわけです。そのような観点からすると、主として1年以下の短期金利である固定金利オペの世界ではなく、残存期間3年以下と期間を延長したゾーンで買入れを行うことは、合理的な判断だと思います。』

という事で、疑似ツイストみたいな答えを引き出しているのは中々。まあ実際問題としては一方が6か月の資金供給オペでもう一方は買入というのが違うのですけど。

一方でこの質問はちと微妙というかなんというか。

『(問) 固定金利オペの5兆円の減額について、2点お伺いします。1点目は、今後も市場動向次第では減額措置があり得るのか、2点目は、過去にコミットした金額を減額すると、今後のコミットメントへの信頼が失われる恐れはないのかについてお教え下さい。』

1点目は良いのだが2点目の質問の意味が少々アレな気が。まあそもそも固定金利オペを基金等に入れているのが話をややこしくしているのですけどね。

『(答) 札割れの状況は、マーケットの状況如何で変わってきます。過去のオペへの応札状況をみると、ある時は非常に低調になり、そうした傾向が続くかと思えば、また順調になるということを何回か繰り返しています。従って、将来の札割れについても、マーケットの状況によるとしか言いようがないと思います。』

ふむ。

『私どもが包括緩和のもとで基金を設けた趣旨は、再々申し上げている通り、長めの金利やリスクプレミアムに働きかけることが目的です。その全体としての目的を達成する上では、いくつかのコンポーネントがあります。目的遂行のために一番有効な方法を、常に金融経済の環境や市場の変化に基づいて見直していくことが、信認を低下させるとは思いません。むしろ、市場の状況が変わったにもかかわらず、最初に決めたことをひたすら実行するということでは、最終目的は実現できません。私どもの考え方をしっかり説明することにより、信認は維持されていくと思っています。』

まあ固定金利オペ減額して信認がどうのこうのという話にはならない筈ですが、まあこれは基金に通常の固定金利オペを入れて数字を大きく見せようとした演出(かどうか知らんがまあそう思うのが妥当でしょ)のツケが回っているだけですのでね。


ということで、今回の総裁会見は微妙に色々とネタがあったので一大引用祭りでクソ長くなってしまいましたことをお詫びいたします。

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2012/05/06

お題「総裁記者会見(その1)どうも論点が多いので分割してみますお」

ということで休日更新、と言っても連休最終日の夜なので実質平常運転にも程がありまして、休日中に更新する(キリッ)とか言ってた手前汗顔至極でございますお越しになった方すいませんすいません。

#やはり休日は頭が休日になっていけませんんわな

ということで言い訳のように日曜の夜にネタ投入でござるの巻。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1204d.pdf

うだうだと引用するので先にあたくし的まとめを書いておきますと、まあ話の筋的にはこんなもんかなとは思うのですが、子細に見ると特に物価見通しに関する部分の話がちょっとどうなのよという部分がありまして、これはこれで麿なりにサービスしている部分もあるとは思うのですけれども、何かイマイチ感がありますなという所です。

ただまあ物価に関する見通しで1%がどうのこうのというのを出してもそもそも国内の金利市場が「はあそうですか(棒読み)」という感じ、というかもうちょっとキツイ言い方すると(棒読み)じゃなくて(失笑)とゆーよーな反応を示すのでここの部分が金利市場的に見事なまでにスルーされているというのであまり反応無いのですけれども、「景気づけ」に言ってるのか「マジ」で言ってるのかが良くワカランチ会長なのが気になるっちゃあ気になります罠。

ということで質疑応答の引用をば。

○2月の緩和路線の明確化の一方で物価に強気な面もあるのだが

実質最初の質疑はお約束というかまあ当然の質問から。

『(問) 足許の経済・物価情勢が特に下振れている様子もない中で、今回追加緩和を決めたわけですが、その理由について、もう少し詳しくご説明頂けますか。』

『(答) 前回1月の中間評価との比較でみると、今回、景気・物価のいずれも上方修正しています。景気・物価情勢が改善する中で金融緩和を強化することは、確かに例としてはあまり多くありませんが、過去にもなかったわけではありません。先程申し上げた通り、物価安定のもとでの持続的成長経路に復する蓋然性が高いと判断していますが、そうした蓋然性をさらに確実なものにしたいというのが、私どもの判断です。』

でまあこの後に「先行き見通しは上方修正しましたが、必要に応じて追加緩和措置を取る用意はあります」などとリップサービスをすれば尚良いのですが、そこから先が麿クオリティになるのが麿の麿たる所以。

『先程の話と多少重複する面がありますが、足許の状況をみると、現在、前向きな経済活動に拡がりがみえるなど、持ち直しに向けた動きが明確になりつつあります。海外経済をみても、欧州のテイル・リスクの後退や、米国経済も緩やかに回復する状況になっています。』

テールリスクの後退とかイミワカンネ。

『国内経済では、企業収益や企業マインドの改善あるいは設備投資の増加もみられるようになっています。家計部門も消費は底堅いわけです。復興関連の需要も増加しています。』

原発止まって夏季電力の供給制約が復活したらそんなの全部飛んでしまいますがな。

『物価については、大きな流れを問うことが重要です。』

我田引水キタコレ。

『2009年夏、消費者物価の前年比は−2.4%と、近年のボトムでした。それ以来、マイナス幅は徐々に縮小し、本日発表された3月の消費者物価指数は、除く生鮮食品ベースで+0.2%です。この消費者物価指数を購入頻度別でみると、購入頻度の高い財・サービスについては――これはプラスの世界ですが――、徐々に上がってきています。企業行動をみても――これはまだ大きな変化ではないかもしれませんが――、高齢者需要に対応した、様々な商品・サービスの開発が成功する事例が増加しており、価格が少しずつ上がっていく動きも出てきています。』

これから徐々に上がるには景気が引き続き良くならないと無理なんじゃねえのと思いますが。

『全体の指数でみると、先行きについては、2012年度は+0.3%、2013年度は+0.7%、さらにその先をみると、遠からず1%に達するというのが私どもの判断です。私どもとしては、このような、今、経済・物価の面で起きているよいモメンタムを大事にしたいということです。』

とまあそういう強気な話をしていますが、国内債券市場や短期金融市場関係者的には「また空元気か」というような感じでこの辺りに関してはまあ今後も強めのCPIが続いてかつ現在相変わらずあちこちにあるテールリスク地雷(夏季電力が最初に逝くのか欧州かという感じですが)が踏まれずにすすんだらそのうち気にするかも知れないですけれども、まあ残念ながらこの部分については「願望レポートですなあ」というようなイメージではないかと。

ただですね、これはまあこの前から申し上げておりますが、ではこの部分を他市場の人が見た場合どういう反応をするのか、というのはこれまた別の話でして、普段から日銀のこの手の文書を見慣れていると何かまあ今回の「遠からず〜」は取ってつけた感がするのですけれども、普段から見慣れていない人がこれを見ると「日銀は早くも物価安定の目途達成の話を始めている」とかだいぶ早とちりな反応をしかねないのがアレな所なので、まあどうなんでしょうねとは思いまする。

とか言いつつ更に麿の話は続く。

『いずれにせよ、一昨年の秋に包括緩和を始め、昨年は3月、8月、10月、そして本年2月と、矢継ぎ早に増額し、さらに、今回の増額が加わったということです。この1年強の間に、基金の規模にして35兆円の増額、長期国債にして27.5兆円の増額であり、大変な増額を行ってきています。先程申し上げた通り、経済に前向きなモメンタムが少しずつ働き始めているわけです。それから、金融政策には、効果波及の長いラグがあります。私どもとしては、展望レポートで記述しているような上下双方向のリスクに十分に注意を払っていくわけですが、景気・物価の展開や金融政策の効果を冷静にじっくりと見極めていきたいと思っています。』

「見極める」という辺りが麿だなあとか思うのでありまして、これがインチキ成分の強いどこぞの逆さ絵オヤジとか俊ちゃんとかだと「今後も追加緩和の余地はある」みたいな話をする訳ですし、大体からしてそういうポーズでも取っておけば逆に余計に緩和をジャカジャカしなくても「緩和するぞ攻撃」で期待を持たせて市場の期待に働きかける事によって結果としてコストが少なくて済む(今回の追加緩和だってETFやREITまで入って居る上に社債の年限まで延長とかサービスにも程があるのですけど)と思われるんですが。

とのっけから悪態ですが、物価に関しての質疑も続くのである。


○物価見通しに関して

早速2番目の質疑でこんなのが。

『(問) 日本はいつデフレから脱却できるとお考えかを教えて下さい。併せて、物価上昇率が「当面の『中長期的な物価安定の目途』である1%に遠からず達する可能性が高い」と公表文にありますが、1%になるのはいつとみているかについても教えて下さい。』

そもそも「中長期的な1%」というのと「実際の数字の1%」というのは話として違う種類の物になるのですが、どうも質問する方(というか報道する方)がこの辺を分かっているんだか分かっていないんだかという感じはします。

『(答) 物価についての見通しは、今回、展望レポートで詳しく記述したつもりです。物価が徐々に上昇していくメカニズムと、その具体的な見通しの数字、それからそれにまつわる上下双方向の要因についても、先程申し上げた通りです。繰り返しになりますが、そうした上下双方向のリスク要因を意識しながら毎回点検をしていくということなので、今この時点で具体的に「何年何月」と言えるような性格のものではありませんが、大事なことは、基本的なメカニズム、それからその背後にある様々なリスク要因を認識していくことだと思います。』

まあ判ったような判らんような話ですが、「中長期的にどうなる」という話と具体的な数字に関する話についてはそもそも展望レポートでの数値の示し方的にも足元の数字と中長期的な数字に関する論点が混同しやすい面があって、まあこの表現の仕方というのはどうしたら良いのかあたくしもイマイチ良く判らん節がございます。

1つ別の質疑が入っていますが、まあ上記の質問の続きがあります。

『(問) 今の質問と関連でお伺いします。「遠からず」とあるのは、14年度も含めてという解釈でよろしいでしょうか。』

『(答) 今回の展望レポートでは2013年度までの数字を出しており、2014年度については数字は出していません。今回、あえて「遠からず」と言及したのは、先般「中長期的な物価安定の目途」を示して、多くの方から、目途に到達していく姿、道筋を示すべきだというご意見を頂戴し、そのご意見について私どもも、もっともだと思ったからです。計数で示すのは、本年の秋の展望レポートになります。「遠からず」は2014年度を含めてかというご質問に対しては、2014年度を含めて、ということで、3年先の経済予測は、景気でも物価でも、一般的にかなり精度が落ちてくるわけですから、私どもとして、大きな見通しや判断を持ちつつも、そうした見通しに拘泥するわけではなく、現実の経済の展開に即してしっかり点検していきたいと思っています。』

まあ結局答えは謎のままなのですが、物価の見通し的には今後上昇していく、という話になってはいるものの、肝心の物価そのものが上がると思いきややはりアガランチ会長的な展開を続ける中で見通しだけは「中長期的に1%の目途に近づく」とか言われましても何だかなあ的な所がございますです。まあこの辺りに関しても国内の金利系の皆様は「また願望か!」で華麗にスルーなので良いのですけれども慣れてない人たちがこの発言を別解釈されると困りますなあと思う次第。それよりも「失業率の改善は苛立たしい程遅い」と言いながら失業率自体は改善しているどこかの逆さ絵オジサンの方がという話になるので、GDP見通しなら兎も角物価に関してあまり願望レポートチックにするのはクレディビリティーの問題になる(もうなってるというツッコミはしません)のでどうなのかねとは思いますけどにゃあ。

まあ別の質問でこういう話がありまして。

『(問) 2点ご質問します。1つは、先程、「1%に遠からず達する」との点を説明されていましたが、この文言が入ったことで、具体的に時間軸が短くなったと受け止める向きもあります。この点に関して、14年度以降の政策へのインプリケーションをご説明願います。(2点目はシリーズ「その2」回しです)』

まあこれが出て金利市場が反応したかというと、そもそも金利市場は、というよりは恐らくマーケット全般として「1%なんてとてもとても(消費税で上がるのは関係ない)」という認識をしていて、この「遠からず達する」を「はあそうですか(棒読み)」としているので、全然時間軸が短くならないという話にはなるのですが(つーか相場がフラットニングしておったわ)、そらまあ確かに日銀の声明文およびこの麿の説明を額面通りに受け止めると「時間軸が短くなったアルね」という話に成りかねないのはその通りだと思います。

『(答) まず、前者の時間軸に関する質問です。日本銀行の時間軸に関する考え方は、全く変わっていません。2月に決定した時、時間軸に関連して2つのことを申し上げたと思います。1つ目は、消費者物価の前年比上昇率1%が見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等により、強力な金融緩和を推進していくということです。2つ目は、金融面の不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的成長の観点から問題が生じていないか確認する、ということを申し上げました。この2つの考え方は、全く変わっていません。物価については、私どもとして最大限の努力をして、的確な予測をしたいと思っていますが、予測には上振れ要因も下振れ要因もあります。そうした物価の動きを、毎回の決定会合でしっかり点検していきたいということです。従って、時間軸に関する考え方が変わったということでは全くありません。』

イマイチ答えになっておりませんな。まあこの質問の追加は無かったですけれども、もっと突っ込んで質問するなら「物価安定の目途で示している中長期的な物価上昇率の1%上昇という概念は今回の遠からず云々と同じなのですか違うのですか」と聞くのがヨロシアルという気がします。

つまりですな、そもそも「フレキシブル・インフレーションターゲッティング」としての「物価安定の目途」というのは足元の物価水準がどうのこうのという話では無く(もちろん足元の水準を完無視するという話ではないでしょうが)、中長期的に見た場合に物価水準がどのようになりますかという事を念頭に置いて金融政策を行う、という話であって(だからこそBOEは足元のターゲット上方乖離を「いや先行き2%以下に下がりますから」で引締め方向にしないように運営しているのですし)、そーゆー意味では「遠からず1%に達する」という言い方は本来的には「物価安定の目途は達成できるという見通しです」と言っているに等しいので、そうなるとじゃあ出口政策はどうなのよ???というような話の展開に本来の額面通りに受け止めるとなってしまいかねない、という事です罠。

まあどうせそれって願望でしょというのと、そもそもディマンドプルでCPI+1%なんて行くのかよという見通しが幅広く蔓延しているので無問題扱いなのですが、冷静になって考えてみると声明文でのこの説明というのも何だかなあという感じがしますがな。


○物価安定の目途達成の見込みと金融政策について

別の質疑ではこんなのが。

『(問) 先程、先行きの物価について、2014年度を含めて、遠からず1%という目途が達成される可能性が高いとおっしゃいましたが、一方で、本日発表の展望レポートによる政策委員の大勢見通しの対象期間では、消費者物価の前年比1%が達成される見通しは立っていないわけです。大勢見通しにおいて1%が達成出来る見通しになっていないことが、今回の金融緩和の強化の決定の理由として、意味を持っていたのですか。(もう一つの論点はシリーズ「その2」回しです)』

『(答) 最初のご質問ですが、今回の見通し期間である2013年度までにおいて、見通し中央値で消費者物価の前年比1%が見通せていないことが、今回の金融緩和強化の理由かという問いについてお答えすると、それはそうではありません。』

まあ先ほど来あたくしがああでもないこうでもないと申し上げている件につきまして、ここの質疑応答が微妙にアレなのでございまして、これはちょっと意地悪く解釈すると、麿総裁的なロジックでは実は物価安定の目途の達成への道筋が見えているのですとか言っているとか解釈できそうな勢い。

『私どもの判断は、標準的・中心的な見通しの実現可能性を、より確かなものにしていくためということです。もちろん、私どもは、1%という姿を出来るだけ早く達成したいと思っています。しかし、金融政策の効果波及には、かなり長いラグがあるわけです。そのラグを無視して、無理に金融緩和を強化していくと、却って物価の安定が損なわれていくことになります。』

そらまあそうなのですが、物価の安定云々よりも財政ファイナンス問題による方の話をした方が良いような気が。これだと「羹に懲りて膾を吹く」と批判されねえかと。

『例えば、長期国債の月間買入れ額は、現状でも大変に大きな金額ですが、そういう中で、最適なスピードを超えてアグレッシブな買入れを行っていくと、確かに一時的に長期金利は下がるかもしれませんが、逆に中央銀行に過度に依存した市場になる結果、今度は何らかのきっかけで反転上昇することも起こり得るわけです。そうなると、金融機関にも大きな影響を与えることになり、結果的には、物価の安定、経済の安定自体を損なってしまうことになります。従って、私どもとしては、最適なスピードということも意識しながら、政策運営を行っています。』

ここの理屈がまた判じ物のようで(いやまあ他の所では財政ファイナンス懸念になると良くない云々の話をしているのですが)ありまして、この辺りは金利云々の話では無く、「ただで無くさえGDP比率で国債発行額が大きく、しかもプライマリーバランスが全然達成されていない中で、長期国債をアグレッシブに買って行くと、財政規律に対する信頼が一たび失われた場合にコントロール不可能な事態になるリスクがある」とか何とか思いっきり言った方が良いような気がするんですがどうなんでしょ。

つまりですな、良いとか悪いとか言う言い方はあまり適切では無いかも知れませんけれども、金利上昇が云々の話をするときに、その背景について景気拡大に伴う良いものであれば別に中央銀行の買入がどうのこうのの反動で問題が生じるったって屁のような話だと思う次第で、本来問題にすべきはそうじゃない場合の話であり、まあその辺は当然ながら総裁も踏まえて話をしていると思われるのですが、それこそこの前の金融システムレポートの報道を見て「日銀はデフレ脱却して金利が上昇すると銀行の経営が悪化するとか無茶苦茶な話をしている」とかイチャモン付けられたりもするように、景気が改善して自然に長期金利が上昇するような話については関係ないって論点をもっと強調すべきではないかと思います。

#いやまあ本気で景気が回復して長期金利が上昇した場合に金融機関の経営がエライことになるとか思っているんだったらつける薬はないですけど、まあ中央銀行家って居ないでしょ。


○財政マネタイズ問題

『(問) 総裁は、最近、中央銀行が国債をあまりに大量に買うことに対して懸念を示されていましたが、そういう中で、あえて今回、国債購入の枠を10兆円増額した理由をお聞かせ下さい。』

『(答) まず、基金を増額した理由については、先程申し上げたことと重なりますので説明を省略致します。ご質問は、「あり得べき副作用をどのように考えたのか」ということだと思います。』

と、のっけから財政マネタイズ問題を話す気満々キタコレ。

『まず、国債の買入れは、金融政策の目的を実現するために行っており、財政ファイナンスを目的としたものではありません。そうした趣旨を明らかにするために、現在、「基金」という形で分別管理しており、これにより、国民、市場参加者あるいはマスコミの方が、しっかり監視出来るようにしています。』

はあそうですか(棒)。

『一方、国債の買入れが多額に上っていくと、そうした日本銀行の意思にかかわらず、マーケットで「中央銀行による財政ファイナンスではないか」という見方が出てくることが、一般論としては、もちろんあり得ると思います。仮にそうなると、金融政策の効果が損なわれるだけでなく、先程申し上げた通り、日本経済に大きな悪影響を与えます。従って、そうした事態を避けるためにも、財政健全化に向けた取組みをしっかり進めてほしいと思います。』

この論点はもうちょっと前の質疑でもありましたのでそれは次に引用しますお。

『そして、そうした取組みがしっかり進められていると、日本銀行による国債の買入れがマネタイゼーションであるとは誤解されないと思います。』

つまり財政再建路線を放棄すると財政マネタイズ懸念が起きやすくなりますよと仰っているのはまあ仰せの通りではある。

『それから、ご質問には、マネタイゼーション、財政ファイナンスの問題から離れ、「低金利が続くことの副作用をどう考えたのか」という、もう少し一般的なご趣旨もあったように思います。』

どう見ても言わずもがなの話で、米国での講演ネタを自分で蒸し返してどうする。

『この世の中には、効果だけあってコストが何もない政策手段というものは存在しないだろうと思います。従って、どの中央銀行も、必ず効果とコストを比較して、最適な政策を追求しているということです。日本銀行も全く同じです。現在のような異例の状況、つまり、ゼロ金利が長く続き、中央銀行のバランスシートが各国とも非常に拡大している中で、今申し上げた効果とコストの比較は重要です。』

麿節キタコレなのですが、こういうのを一々言う事によって折角日銀が色々な資産を買う(株とかREITとかECBは当然だがFEDだって買っていないですし、FEDは折に触れて「資産買入や担保の拡大で国民負担は生じていません(キリッ)」というのを主張している訳で、そういうのからしたら日銀の方が信用緩和的には余程やっているのですけどねえ)のに対する市場などへの期待の働きかけ効果を減殺している面があると思うのです。

『私が申し上げたかったことは、そうした副作用があるから金融緩和をするべきではないとか、金融緩和を止めるべきということでは全くありません。そうした副作用が小さくなるように、構造改革にしっかり取り組んでほしいというのが本意です。』

だったら前段の話はしないで「我々が金融緩和を拡大する中で財政の中長期的な維持可能性への懸念が出ないようにして頂きたい」だけで済ませておけば良いんじゃねえのかと思うのですがねえ。


○財政の維持可能性への懸念がデフレ要因の一つとな

早い部分での質問である。

『(問) デフレ脱却に向けて日銀は金融緩和を強力に推進しているということだと思いますが、デフレ脱却に向けて政府が取り組むべきことを具体的に分かりやすく教えて頂けますか。』

『(答) 先程2つのことを申し上げました。1つ目は財政の健全化に向けた取組み、2つ目は成長力強化のための環境の整備です。』

ほう。

『まず、前者ですが、財政の持続可能性は、中央銀行の政策目的である物価の安定と金融システムの安定の重要な前提条件です。この点に関する信認が崩れると、中央銀行の行う政策自体の有効性が低下するのみならず、日本経済全体に悪影響が生じます。』

財政信認の低下による財政インフレは誰得展開な上に制御困難になるリスクがあるという話はまあ良いとしまして。

『また、財政に関して不確実性が残ると、現役世代を中心として、将来の所得に関する不確実性が高まって、そのことが支出を抑制することになり、これがデフレの原因にもなっているわけです。そういう意味で、財政の健全化の道筋をつけていくことは大事であり、これは政府だけではなく、国民全体としてしっかり取り組んでいく課題だと思っています。』

こらまた何か言われそうなネタを投入してますなあ。まあバーナンキとかも「中長期的な財政維持可能性の確保の重要性」の話をしてはいまして、先行きに不確実性が高まると個人や企業の消費や投資行動に悪影響を与えて景気下押し要因になる的な話は良くしていますが、それを「デフレの原因にもなっているわけです」とまで言い出すとこれまた物議を醸しだしそうな。

いやまあこの話ってこの前の米国出張3部作の中でも実はありましてですな、

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120422b.pdf
財政の持続可能性の重要性
―― 金融システムと物価の安定の前提条件 ――

をネタにしたのですが、後半の部分(「日本のケース」)を引用スルーしてましたが、実はその部分にこんなのがあるのよ。ちと長めだけど引用するお。

『先ほど述べた一般的な整理に照らすと、日本は特別な例外であるかのように見えます。しばしば指摘される要因は、日本には膨大な国内民間貯蓄が存在し、海外投資家の保有割合が非常に小さい、という点です。しかし、本質的には、経済・財政の構造改革が進み財政の健全性は回復されるはずだ、と人々が予想しているからこそ、国債金利が安定していると考えるべきでしょう。』

『ただ、現在のところ、そうした人々の予想は、十分に具体的な改革のプランによって裏打ちされているわけではないために、人々は将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっていると考えられます。』

『そうであるとすると、日本のケースは、先ほどの一般的な整理よりも手前の段階、つまり最終的な財政バランス回復に対する信認が維持されている段階においては、巨額の政府債務が、もともとの成長期待の弱さともあいまってデフレ的に作用しうる、という可能性を示していると言えます。』
(以上は上記URLより)

という話で(詳しい話はhttp://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120422a1.pdfの方に寄稿文があるのでそっちを見るアルヨロシなのですが、ネタが無くなったらネタにするかも)、まあこの論点自体はラインハートとかも指摘している(と人から聞いたが中身は読んでない)ような論点らしいので別に麿が突如言い出した話でも無い話ですし、財政赤字が拡大する中で結果的にデフレ均衡的になっているのが財政維持可能性を担保しているという話でしたらばかつて池尾先生が財務省の審議会で論点として提示していたのを何度かネタにしたと思いますので、まあこの話自体はそれもそうですな的な部分ではあるのですが、はてさてこの状況下でそんな話をする必要ってあるんかいなという気はせんでも無い。

という感じで今回はまあ会見自体は大したネタになっていないのですが、子細に見ると何だか微妙な麿テイストを醸し出す文面となっているのですよ。ただまあ報道ベースってその会見場の雰囲気とかにも影響されるように見えますので、その点からすると今回の会見ってこれ以外の質疑の方がまあネタになったのかなという感じでもあるのですが、後半は明日の朝(つーかもうすぐ日付が変わるのでそろそろ閉店ですお)。

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2012/04/25

・麿講演等

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120419a.pdf
社会、経済、中央銀行

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120420a1.pdf
日米の経済関係:互いに何を学ぶことができるか

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120422a1.pdf
財政の持続可能性

最初のは前半だけネタにして、最後のは上記URLの寄稿文ではなくてダイジェスト版の講演というかスピーチの方をこれまた前半だけネタにしました。

で、この3部作はどれもさすがは麿という内容でございまして、まあこれ自体は大変に読み応えのある話なのですが、一方で足元で行っている金融政策に関しては麿節とは乖離した泥レス状態金融政策という大変に素敵な状態になっているのがこれまたアレなお話ではございます。

まあ何ですな、実にいい話なのですが来年になったらどう見ても麿ご退任でございますので(とか勝手に言ってますけどまあ順当に見たら再任は厳しいでしょうなあ)これらの話はご退任後にして頂いた方がアホアホニュースベンダーによるミスリードヘッドラインを呼び込むことも無いので、もうちょっと自制して頂きたいものだとは思うのですけどねえ。

ただまあ自制しろとか申し上げておりますが、あたくしが外野から勝手に妄想を逞しく致しますと、麿様におかれましては、おそらく国内の事情がアレなので海外でこのような「とりあえず正論」講演をすることによって息抜きをしているんじゃないかとあたくしは勝手に邪推する次第でございまして、まあきっとこういう「まあそれはそれで正論だが今やっている事と話が全然別次元だろ」な話をしないと麿が壊れてしまうんですよきっと。

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2012/04/24

○総裁講演(というかスピーチ)なのですがヘッドライン詐欺のミスリードは如何なものかと

こんなスピーチがありまして
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120422b.htm/
財政の持続可能性の重要性 ― 金融システムと物価の安定の前提条件 ―
フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベント(米国ワシントンDC)における白川総裁講演(4月21日)の邦訳

その邦訳の内容がこちら
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120422b.pdf
財政の持続可能性の重要性
―― 金融システムと物価の安定の前提条件 ――

実際は講演だけではなくて寄稿文もあって、そっちの方が非常に読みごたえがあるのですけれども、とりあえずスピーチの方から。

『財政の持続可能性と中央銀行の関係:一般的な整理

中央銀行の使命は通貨の安定を通じて経済の持続的成長に貢献することですが、この目的は物価の安定と金融システムの安定というふたつの側面に分けられます。財政の持続可能性はこのふたつの安定性に根源的に影響する重要な要素です。』

ふむ。

『一般に、財政の持続可能性への信認が喪失し、その回復努力がなされなければ、最終的には、インフレか国債のデフォルトかのどちらかでしか、帳尻が合わなくなります。このため、中央銀行は、物価の安定と金融システムの安定のトレードオフに直面することになると言われます。しかし、両方とも、持続的な経済成長に不可欠な基礎的環境ですので、「トレードオフの中でどちらを選ぶべきか」という問題設定自体、そもそも意味があると思えません。そうしたトレードオフに直面するような事態を初めから回避することが決定的に重要であり、財政の持続可能性は中央銀行が正常に機能するための必要条件だと言えます。以下、この点について少し詳しく述べます。』

現在の日本の政治状況で日銀にせっせと圧力掛けておられる方々が一方で日銀に国債引受を財源にしたいとか言い出したりしている点について盛大にdisっておられます。

『通常、金融市場では、国債は安全資産であるという性格を反映して、大量に取引されると共に、担保としても活用されています。また、金融機関は国債を流動性バッファーや投資ポートフォリオの一部として、保有しています。したがって、国債のデフォルトリスクが増大した場合は、流動性リスクの増大やキャピタル・ロスの増大を通じて、金融システムが不安定化する可能性が高くなります。』

というのは昨日ネタにした金融システムレポートのストレスチェックでも出ている論点となりますけれども、何故かニュースヘッドラインに掛かるとこの意味での金利上昇と景気回復による金利上昇の話がごっちゃになってしまい、その結果として「日銀は景気回復すると金融システムが不安定化するなどと詭弁を弄している」という批判をする人(ちょっと検索を掛けるとそういう言説がホイホイ見つかるのがorzなのですが)が出てくるという件について悪態をついたのは昨日でしたな。

『その際に中央銀行が金融市場や金融システムの安定維持の観点から、「最後の貸し手」として流動性を供給すれば、短期的には有効性を発揮する場合も少なくないと思います。実際、欧州の金融市場では、ECB のLTRO(Longer-Term Refinancing Operations)によって、小康を得ました。このことの意義は大きいと思いますが、同時に、これはあくまでも「時間を買う」政策に過ぎないことも冷静に認識する必要があります。』

この講演ではこの点についての話をさらっと流していますが、寄稿文の方ではもう少し詳しい話をしております。ただECBのケースっていうのはもう一つ重要な論点があって、「最後の貸し手として機能する中央銀行の信用力が、当該政府の信用力と分離されている」という面が効いていたんじゃネーノとか市場の中の人的感覚としては思うのですよ。

つまりですな、一般的に中央銀行が政府に対して最後の貸し手としての機能を果たすって言っても、そもそも政府が飛びそうという状態の時に中央銀行の信用力がそれに対して独立であるとは思えない訳で、最後の貸し手機能というのはやはり効かないんじゃないですかという話です。ちなみに寄稿文の方ではそのような論点について場合分けをしていまして、「政府が実際にはソルベントの場合」には時間を買うことによって市場が安定すれば本来のソルベントな政府を前提にした国債市場価格形成に戻る事ができるが、「そもそも政府がソルベンシーを喪失している場合」には時間を買う事すら出来ない可能性があるし、時間を買っている間にソルベンシーを回復する努力をしないとエライコッチャですがなというような話をこれまたしているのであります。

てな話はスピーチの方ではこうなっています。先ほどの引用部分の続き。

『「時間を買う」ことの意義は、金融市場が不安定化する中で、財政の持続可能性回復に向けた国民の合意形成に必要な時間や財政健全化措置が投資家の信認を得るまでの時間を確保することにあります。』

まあ今あたくしがああだこうだ申し上げた論点ですわな。

『しかし、財政改革へ向けての意志が弱かったり、決定された措置が実効性を欠くものであった場合は、時間を買うことの副作用も大きくなります。すなわち、金融市場の小康が保たれ国債金利が安定することで、事態の深刻さへの危機意識が薄れ、改革へのモメンタムが低下する可能性もあります。』

キタコレ。

『その結果として財政赤字の拡大が続き、金融システム不安が再燃すれば、中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです。』

『投資家や国民はそうした歴史を知っているために、どこかの時点で、言わば「レジーム」の変化を予想し、国債や通貨への信認が非連続的に変化すると、制御不能なインフレのプロセスが始まります。』

という事で、財政インフレ発生のメカニズムの話をしている訳ですな。


・・・・・・・・さてまあこのスピーチの下になっている寄稿文が更に読むと中々の話ではあるのですけれども、まあこういう話もベンダーのヘッドライン詐欺バイアスに掛かるとこうなる。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE83L00O20120422
際限ない国債買い入れ、制御不能なインフレ招く=日銀総裁
2012年 04月 22日 13:05 JST

いやね、記事の方では確かに・・・・・・

『[ワシントン/東京 21日 ロイター] 日銀の白川方明総裁は21日、訪問中のワシントンでフランス銀行主催のパネルディスカッションの参加し、国債への信認が低下することによる金融システム不安を抑えるため中央銀行が際限のない国債買い入れなどを行えば「制御不能なインフレを招く」と警告、中銀の流動性供給で時間を買える間に財政改革を進める重要性を強調した。』(上記URLより)

という事で、財政インフレの発生に関する話をしているというのが読むと一応理解できるようにはなっていますが、当たり前のように世の中には一定量(というか世の中の多くは)ヘッドラインでの第一印象を受けて反応する人がいる訳でして、そのニュースヘッドラインはどう見ても「現在日銀が行っている国債買入についての話をしている」という風にしか見えませんわな。

で、あたくしも忙中閑ありでネットをこれまた探してみると、この記事のヘッドラインだけ見て「白川総裁は追加緩和に否定的でケシカラン」と噴き上がっている方はウジャウジャいるわけで、まあネットの言説だけじゃなくて市場の人とかでもヘッドラインだけ見て何かコメントするような人もいたりいなかったりというような雰囲気もございますし、そらまあロイターとしてはヘッドラインで読者を大量に釣り上げて記事のヒット件数を稼げば営業上ウマーかもしれませんが、ミスリードなヘッドラインとか、殊更にセンセーショナルなヘッドラインとかを出して営業重視とかベンダーとしての自殺行為じゃねえかと思うのですけどねえ。つーか今すぐそこの窓から飛び降りやがれと思いますけど。

何つーかね、貧すりゃ鈍すとはよく言ったものでして、最近はプロ向けの情報ベンダーが営業重視でヘッドラインをわざとセンセーショナルにしたりミスリードを誘うように発言の前半とか後半とかだけ切ってヘッドラインと打ってみたりというような事をやる傾向が酷くなっているように見えるのですよ。どうも経費削減とかの折でユーザーが情報ベンダー代削減するから売上が減るので売上重視のために営業重視のヘッドラインを打つみたいな流れになっているような話なのですけれども、ヘッドライン詐欺の姿勢はいい加減何とかして欲しい所ではあります。と言ってもネットしてニュースヒット件数とかの数字が出るようになっているので更にその辺に拍車が掛かっているような気がする。

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2012/04/20

・・・・・何かネタがどかどか投下されておりますので適宜料理しようと思ったのですが、麿講演の鑑賞だけで量も時間も一杯になってしまいましたので、本日は麿講演鑑賞会で勘弁してくんなまし。本当は山口副総裁の講演とか西村副総裁の会見とか、金融システムレポートとかそれに関連した日銀レビューとか、ネタは満載なのでございます。


○ニュースヘッドライン的には台無し講演では無かったですけれどもやっぱり麿節ではないかと

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120419a.pdf
社会、経済、中央銀行
── Foreign Policy Associationにおける講演(ニューヨーク)の邦訳 ──

ニュースヘッドライン的には金融政策に関する話のほんの一部分がネタになって「白川総裁も金融緩和の継続を強調」という風になっておりましたけど、この講演を読みますと話の筋そのものは麿節全開だと思うのです。

ただまあ今回に関して言えば、BISビューちっくな話をあまり強調しなかったこともあってニュースヘッドライン的には隙を出さなかったという所でしょ。

・金融緩和がどうのこうのの部分

ということでその金融緩和云々の部分ですが、折角なのでその前の部分から引用してみます。

『構造政策の必要性に迫られているのは、どの国も同様である。人口一人当たりの実質GDP成長率について、過去10 年間の平均をみると、日本は他の先進国とほぼ同程度、そして、生産年齢人口一人当たりの実質GDP成長率については、日本が最も高い。それににもかかわらず、日本の実質GDP成長率は1990年代以降低下し、過去10 年平均では他の主要国に比べ見劣りする。』

ほう。

『これらの数字が示すように、現在、日本が直面している最も大きな挑戦の1つは、先進国では過去に例を見なかったような人口動態の急激な変化への対応である。日本の場合、成長率の低下にしても財政悪化にしても、相当程度は人口動態の急激な変化への不適合から生じている。そして、これによる潜在成長率の緩やかな低下は将来所得の予想を引き下げ、支出を減少させることを通じて、緩やかなデフレの大きな原因となっている。』

ということで人口動態がどうのこうのの話をしている所なんぞはいつもの麿クオリティである。

『金融政策の効果波及メカニズムは、中央銀行の行動が金融環境に影響する第1段階と、その金融環境が企業や家計の支出行動に影響を与える第2段階とに分けられるが、金融環境という点では、日本は先進国の中で最も緩和的である。それにもかかわらず、日本経済が緩やかなデフレから脱却しない最大の理由は、成長力が徐々に低下していることである。』

最近はこの金融政策の波及効果の2段階論というのが日銀の主な説明の柱になっています。

『日本経済がデフレから脱却し、物価安定の下での持続的成長経路に復帰するためには、成長力強化の努力と金融面からの後押しの両方が不可欠である。このような認識の下、日本銀行は当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく方針である。』

でまあヘッドラインになったのはこの辺ね。


・でもまあそれ以外の話って中々麿節であったりする

まあ麿節麿節とか申してますが、話そのものはまあ正論ちゃあ正論だけどまたそんなに物議を醸すような事を言わんでもという気もするといういつもの話です。で、その話自体は中々のイイハナシダナーではあって鑑賞用としては大変に面白い。

『1. はじめに』から。

『輸送・通信技術の著しい進歩や、その結果生じている国民と経済の相互交流の増加により、世界は実質的に小さくなってきているが、残念ながら、外交政策は、日常生活の忙しさ故に、しばしば後回しにされてしまうテーマである。正に、Foreign Policy Association(FPA)の活動がきわめて有益となる所以である。1918年の創立以来、ほぼ1世紀にわたって、FPAは、グローバルな問題に対する意識を高め、理解を促し、そして学識ある見解を提供するという、触媒としての役割を果たしてきた。それゆえ、心より尊敬する多くの方々が含まれているメダル受賞者の仲間に、今晩私が加えて頂けることは、光栄である。』

ほほう。でまあ今回はグローバル金融危機の話をしますよ云々の部分は引用割愛して。

『繁栄がかなり脆弱であるという点を連想させる一節を、ケインズ卿の「平和の経済的帰結」の中に、見出すことができる。FPAは、ヴェルサイユ条約締結時の米国代表団を率いたウィルソン大統領が提唱した「正しい平和(Just Peace)」を促進するために創設された組織であること、そしてケインズ卿が前述の著作を執筆した背景には、国際社会が全体として、ヴェルサイユ条約の目的の達成に失敗したことがあること、を踏まえると、このケインズ卿の著作を引用することは、今日の場に相応しいように思う。』

『ケインズ卿は、第1次世界大戦前の世界を、ロンドン市民の中流階級が、容易に「電話で、全世界の様々な産物を注文することができ」、「自分の富を世界の好きな場所に投資することができ」、「どの国にも安価で快適な輸送手段を確保できる」という「経済的黄金郷(Economic Eldorado)」ないし「経済的理想郷(Economic Utopia)」と描写している。さらには、このような状況は、「正常で、確実な、一層の改善という方向以外には変化しないもの」と見なされていた。私は、この一節を読む度に、経済的繁栄をもたらすグローバル化の力が大きなものであったこと、また、2度の世界大戦を踏まえると、そうした繁栄の達成は束の間であったこと、そして第1次世界大戦前の状況と今回の世界的な金融危機に至る我々の経験には類似性があることに、いつも驚かされる。』

とまあ中々格調の高そうなお話。


・中央銀行のマクロ経済の安定に対する機能を果たすには独立性が重要という話キタコレ

・・・・ということでお話が始まるのですが、次の小見出しが『2. 中央銀行を巡る過去50年間の経済・社会情勢の変化』でここがもういきなり国内情勢を勘案すると実にこうイイハナシダナーの話ではあるのですが、これを金融政策スタンスが気に食わないから審議委員人事潰すというような事を平気で行うどこぞの政党の財金部会で話をしたら凄い怒号が飛んできそうですなあというような話でございます。ということで引用(^^)。

『現在、中央銀行がマクロ経済の安定に重要な役割を果たす存在であることを疑う人はいないと思う。しかし、第2次世界大戦後の歴史を振り返れば分かるように、中央銀行がそのような存在として認識されるようになったのはそんなに昔のことではない。中央銀行の役割が高まることを可能にした条件として、私は少なくとも次の3つの変化が重要であったと思う。』

『第1は、いささか自明に過ぎると思われるかもしれないが、金融政策が財政政策と明確に分離されたことである。第2次世界大戦中は米国や日本を含め、多くの国で、そもそも自律的な金融政策は存在せず、金融政策は財政政策の僕(しもべ)として、国債発行への協力を強いられていた。戦争終了後も、金融政策は直ちには自由度を回復しなかった。米国において、FRBが長期国債の金利を財務省の定めた上限金利以下に維持するという制約から解放されたのは、財務省とFRBの間でアコードが締結された1951年のことであった。』

つまり財政政策の下僕にしようとしているどこぞの政治家連中をdisってるんですね、わかります。

『第2は、マクロ経済の安定に果たす金融政策の重要性が正しく理解されるようになったことである。1960年代から70年代前半にかけては、今から考えると誤った理解であったが、インフレは成長や雇用を確保するための必要悪のコストと見なされることが多かった。このような理解を背景に、景気の後退や回復に対応して金融緩和や引き締めが裁量的に行われ、実際のインフレ率は、人々の予想インフレ率の上昇とともに徐々に上昇していった。』

ほほう。

『このため、インフレ率の上昇は、景気回復をもたらさないばかりでなく、経済主体の貯蓄投資に関する意志決定を歪めたり、市場の資源配分機能の低下を通じて、経済の低成長をもたらした。いわゆるスタグフレーションである。1960年代から70年代前半にかけての苦い経験を通じて先進国が学んだことは、経済の持続的成長には物価安定が必要であり、金融政策は物価安定を目的に運営されるべきであるということであった。』

まあここは「インフレを否定する白川総裁の考える物価安定ってデフレですね」とか言われそうな文脈だなあと思ってしまいますが、まあ毎度の麿節である。

『第3は、上述の理解に基づき、中央銀行に法的な独立性が与えられるようになったことである。中央銀行が物価安定を追求するためには、短期的な利害から解放され、中長期的な観点から金融政策を運営することが必要となる。これを法律的に担保するのが、中央銀行の独立性である。1980年代には法的な独立性を与えられた中央銀行は限られていたが、1990年代に入り、日本を含め多くの国で中央銀行法が改正され、中央銀行に金融政策運営の独立性が与えられるようになった。』

で、その独立性に逆行する日銀法改正の動きをdisるということですかそうですか。


・インフレターゲット

んでその続き。

『以上述べた3つの変化を背景に、1980年代後半から90年代にかけて、中央銀行の政策運営に関して、新たな制度的枠組みが徐々に確立していった。その柱は、金融政策を遂行する中央銀行に独立性を付与し、物価安定というマンデートの達成を追求するというものである。そして、中央銀行には独立性が付与される代わりに、物価安定というマンデート達成に関するアカウンタビリティーが強く求められることになった。これを最も端的に象徴するのが1980年代後半に始まり90年代以降、採用が広がったインフレーション・ターゲティングの枠組みである。』

ほう。

『ただし、このような新たな枠組みが生まれる中で、中央銀行が伝統的に担うことの多かった金融の規制・監督の体制についても、微妙な変化が生じた。物価の安定と金融システムの安定が別個の目的であると理解されたことや、中央銀行に対する権限の集中を避けるといった理由から、イングランド銀行をはじめ、幾つかの国では、規制監督機能が中央銀行から別の機関に移行され、中央銀行は金融政策に「純化」することになった。』

ふむふむ。

『1990年代以降徐々に確立していった新たな枠組みとその下で、多くの先進国において、高い成長率と物価安定が実現した。「大いなる安定」(Great Moderation)という言葉は当時の良好な経済パフォーマンスを表す言葉として、しばしば用いられた。そして、良好な経済パフォーマンスを実現した立役者の一人として、中央銀行の役割が高く評価された。1990年代から2000年代半ばの金融危機にかけては、多くの中央銀行にとっては、「中央銀行の時代(heyday)」とでも呼ぶべき時期であった。』


・資産バブルの崩壊に関して

でその続き。

『ただし、そのような状況の中にあって、日本は例外であった。正確に言うと、日本はバブル崩壊に伴う経済パフォーマンスの変化を他の先進国に先駆けて経験した。日本は他の先進国同様、第一次石油ショック時には激しいスタグフレーションを経験したが、その後は労使の協力による抑制的な賃金設定や適切な金融政策運営の効果もあって、他の先進国に比べると、経済のパフォーマンスは格段に良好であった。そうした良好なパフォーマンスが最高潮に達したのが1980年代後半のバブル期であった。そして、日本は1990年代以降、このバブルが崩壊し、その後遺症に苦しめられることになる。』

『現在、日本で1990年代以降起きたのと同様の変化が欧米でも生じている。米国で住宅価格の下落が始まったのは2006年のことであるが、それ以降、2007年夏のパリバ・ショック、2008年3月のベア・スターンズ破綻、同年9月のリーマン破綻という形で金融危機が世界的に拡大した。その後、政府・中央銀行の積極的な政策措置の結果、経済は安定を取り戻したが、2010年春頃から、今度は欧州債務問題が波状的に深刻化していった。この結果、現在でも、先進国のGDPの水準は2006年対比で104%の水準であり、2007 年以降の年平均成長率は0.8%に止まっている。』

なるほど。

『一体何が悪かったのであろうか。中央銀行はバブルや危機の再発を防止するために何をすべきだろうか。この点については、危機や危機に至る前の時期の金融政策や金融規制・監督の在り方を巡って、反省が行われている。このテーマについては別の機会に詳細に論じたので、本日は先程述べた中央銀行の政策哲学との関係で、1点だけ指摘することに止めたい3。』

ということで脚注にあるのがこの前のロンドンでの講演とかNYでの講演とかが入っていまして、まあ要するに今回の講演もそういう意味では麿節全開なのですよ。ただまあ講演テキストの方で今回はああだこうだと話をしている訳では無いので、ベンダーヘッドライン的にネタにならないというだけの話なんですな。

まあそういう意味では麿節言いたいことを言って、その一方で台無し講演にならないように講演テキスト自体は工夫した形跡がみられるという事でして、ちったあ学習効果が出たかねという所ではございます。つーかこの講演思いっきり麿節全開なんですが、ニュースベンダーのヘッドラインってまあ正直言って講演の本旨からしたらおまけもおまけな部分でして、そのヘッドラインだけ見て市場が反応とかまあ市場っちゅうのもそんなもんという所ではあるのですよね。

そらまあこの手のテキスト全部読めるかって言ったらあたくしだって全部を完璧に読みこなして居る訳では無いですし、ましてや他国のドキュメント全部とかとても無理無理なので、そらまあベンダーヘッドラインで反応するのもシャーナイナイな部分なんですけどね(^^)。

さてその続き。

『それは、物価安定と金融システム安定は密接に関連しているということである。物価安定の下で低金利の持続予想が強まると、時として、資産価格の上昇やレバレッジの拡大という金融的不均衡が蓄積していく。不均衡はある閾値を超えて拡大すると、金融システムを不安定化させ、ひいては実体経済や物価を不安定にすることになる。その意味で、物価動向と並んで、金融的不均衡にも注意が必要であるし、金融政策運営に当たっては、従来考えられていたよりも長いタイム・ホライズンでの判断が必要となる。それと同時に、中央銀行を金融政策遂行の組織として「純化」することは適当ではなく、規制・監督の分野に関与することの必要性も明らかになった。』

ということで、明らかにいつもの麿節なのですが、まあ今回は「過度な緩和政策の長期化が金融不均衡の拡大を招く」的な言い方をしていなかったので台無し講演にならなかっただけの話で、お話自体はご覧の通りのいつもの麿だったりするのが誠にアレでございます。

まあね、これはこれで正論なのですけれども、それでしたら「今から話をする件は一般論として話をするものであって、現在の日銀の金融政策の枠組みに関連する話をしている訳ではありません」と思いっきり断ってから話をした方が台無し講演にならなくて済むのではないかと思うのですが(断っても台無しになるかも知れんが)どうでしょうかねえ(ニヤニヤ)。

『そうした将来の政策運営にとっての課題とは別に、もう1つの課題は、現在の政策運営の課題である。中央銀行はこの難しい局面において、どのような政策対応をすべきだろうか。もちろん、具体的な政策措置は国によって異なるが、共通する要素を取り上げながら、この問題を考えてみたい。』

・・・・・・・とか何とか引用しているのですが、気が付けば講演全文引用しそうな勢いになっておりまして誠に遺憾なのですけれども、まあ読むとオモロイと思いますけどね。



・中央銀行役割期待の変化というお題

次の小見出しが『3. 中央銀行を巡る現在の経済・社会情勢』でしてその途中から。

『このような状況の下で、中央銀行が今後の政策を考える上で、以下の3つの社会的潮流を事実として認識する必要がある。』

『第1は、多くの先進国で、中央銀行に対する期待が高まっていることである。このことを最も端的に象徴しているのが、欧州債務問題発生後のECBの政策を巡る議論である。中央銀行の重要かつ伝統的な役割は金融機関に対する「最後の貸し手」であるが、昨年夏以降は、政府に対する「最後の貸し手」という、それまで聞いたこともなかった新たな概念を使って、中央銀行の資金供給の拡大を求める声が強まった。』

クレクレは甘えキタコレ。

『このように中央銀行への期待が高まるに至った最大の理由は、低成長や高失業が長く続いていることである。これに加えて、先進国の財政状況が大きく悪化し、財政政策を発動する余地が限られてきていることが挙げられる。因みに、G7諸国の国債残高の対GDP比率は第2次世界大戦直後の水準に匹敵するまで上昇している。さらに、中央銀行の場合は、機動的に政策決定が出来ることも理由として挙げられるかもしれない。これは、金融市場の求めるスピードと、民主主義プロセスの中で決定される財政政策や構造政策のスピードが大きく違っていることの反映でもある。』

まあ米国金融危機でもこの論点はありましたな。

『現在起きている現象をどのように解釈するにせよ、中央銀行に対する期待が高まる一方で、その期待に見合う成果が実現しないと、最終的には中央銀行に対する国民の信頼は低下することになりかねない。そして、後述するように、そのことは中央銀行の政策運営に対しても影響を与えることになる。』

まあオマエガナーという感じですが。

『中央銀行に関連して現在起きている第2の重要な変化は、金融政策と財政政策の境界線が不明確化しつつあることである。』

というのは良く言われる話ですが、この後の論の進め方を見るとまあ麿はやっぱり麿という話になっているのが麿クオリティなので鑑賞しませう。

『前述のように、現在、中央銀行は非伝統的政策の一環として、長期国債の買入れを大量に増やしたり、リスク資産の買入れを行っている。これらの政策は将来、キャピタル・ロスが発生し、最終的に国庫納付金の減少という形で納税者の負担になる可能性があり、また、ミクロの資源配分に介入しているという点で、準財政政策の領域に近づいている。』

『民主主義社会において、独立した中央銀行が強制通用力のある通貨を無制限に発行できる権限を与えられているのは、中央銀行は財政政策の領域には踏み込まないという理解が共有されていたからである。それにもかかわらず、中央銀行が準財政政策の領域には踏み込むことになると、中央銀行に独立性を付与する正統性が失われ、最終的に中央銀行への信頼は低下することになりかねない。』

準財政政策への領域に踏む込むのは遺憾とな。包括緩和の話はどうしたという感じですが、これが麿の一般論攻撃クオリティである。しかしまあこういう小難しい表現にしているからスルーされているけど、真面目に突っ込むと「じゃあお前が今やっている包括緩和政策とこの話の整合性はどうなっているんだ」という話になる訳で、何かもうちょっと物の言い方を考えた方が良いような気がする、いやまあ言っている事自体は正論も正論ではあるのですけど・・・・・・・・・・

『第3の変化は、上述の2つの変化の系とも言えるが、中央銀行がこれまで採用したことのない異例の政策を展開していることを反映して、中央銀行の望ましい政策のあり方を巡って、意見が大きく分かれるようになっていることである。』

キタコレ。

『前述のECBを巡る政策はその代表例であるが、米国でもインフレへの警戒からFRBの金融緩和に対する強力な反対論が存在する一方、幾分改善したとはいえ、なお高い失業率が続いていることを反映して、エコノミストの間では、さらなる金融緩和を求める意見も聞かれる。日本でも金融緩和政策や財政健全化の進め方について、意見が分かれている。』

日本の説明部分で審議委員人事の話でもすりゃ中々面白いのですがそこは言わない所が微妙に惜しまれる所ではございます(ニヤニヤ)。

ということで一大引用大会になってしまいました。もうちょっとあるのですが時間も量も多過ぎになったのでここで勘弁。

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2012/04/12

○色々と質問がありますがやはりこれかという総裁会見

つーことで総裁会見である。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1204a.pdf

まあそんなに台無し発言が無かったようなのは誠に結構ですが、質疑を見ておりますと、まあ予想通りと申しますか「物価安定の目途の1%達成のタイムホライズンがどうのこうの」という質問が何回か出ている訳でございます。

で、その点に関して言えば日銀の今回の声明文でもありますように、金融緩和をするだけじゃなくて成長力を戻さないと中々物価が安定的に上昇しない(ディマンドプル型にならないという事でしょうな)のだから政府の施策も頼みまっせと玉をせっせと投げてはおりまして、その玉投げを今回の声明文でも打ち出してみた(というのは昨日ご紹介したとおり)のですが、まあ残念ながらというかお約束の通りに政治サイドではクレクレ大合唱というか、最早クレクレどころか恫喝大会になっているだけで、ボールがやってきている事すら気が付いていないという極めて残念な状態が続いている訳でございます。

でまあタイムフレームどうこうという話で言えば、米国の場合だってSEPで示している失業率見通しの2014年がロンガーランの数字に至って居なかったりするのにそちらではタイムフレーム云々の質問が飛んでこないとゆーのはま麿の見せ方の悪さというのもありますし、そもそも物価が延々とゼロ近傍という過去のトラックレコードの問題もあるなあとは思いますが、日銀の立場からすると「インフレ目標って言い方するとタイムフレームとかの話になって、本来のフレキシブルターゲットじゃない議論になるから嫌なんですよ」という所でしょうな。

と、あたくしのしょうもない話が先になりましたが、その手の質疑応答が多いので引用をば。


・物価安定の目途とか展望レポートと次回の緩和がどうのこうのという話

『(問) 今月、追加の金融緩和を見送られたわけですが、このままいくと2月に設定された物価上昇率1%という目途、事実上のインフレ目標は達成できるとお考えなのかを伺います。また、以前から、デフレ脱却に真剣であると繰り返しおっしゃっていると思いますが、改めてこの気持ちは変わっていないかを教えて下さい。』

『(答) 日本銀行の金融政策の基本スタンス、つまり、デフレから脱却し物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて重要であるという政策の基本スタンスは、一貫して変わっていません。金融政策を運営していく上で、先行きの経済・物価の見通し、これが一番基本となる要因です。この点について、本日の決定会合でも入念な点検を行いましたが、次回の決定会合は展望レポートの会合ということで、特に念入りに点検し、そうした経済・物価の見通しに基づいて適切な金融政策を行っていきたいと考えています。』

ということで、まあこちらではタイムホライズンの話は避けて、その代わりに次回の金融政策決定会合での念入りな点検云々とまあサービス発言。

『(問) 1%の達成は可能とお考えですか。』

『(答) 1月の中間見通しでは、2012年度についてはプラス0.1%、2013年度についてはプラス0.5%という見通しを公表しました。この見通しがどういう計数になるかということについては、次回展望レポートの作成作業の中で検討し発表していきたいと思っています。大事なことは、物価がどういう方向に向かっているかということだと思います。日本の経済が緩やかなデフレ状態になって、長い期間になっているわけですが、そうした長いプロセスを経て現在の姿があるわけです。従って、この先の経済・物価がどういう方向に向かっているのかということが大事なわけですが、物価情勢をみると、2009年の夏から秋、この時期が一番悪かったと思います。これは、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比、刈込平均の物価指数の前年比、あるいは消費者物価指数の中で上昇・下落の品目数の差など、様々な数字からみると、今申し上げたようなことが言えると思います。そうした状況と現在を比較してみると、確実に物価情勢が改善していく方向になっています。先行きの見通しについては、こうした物価の動きがどのように改善していくのか、しっかり点検していきたいと思っています。』

ということで確実に改善方向になっているそうですが、まあ随分と時間が掛かりそうな話ではありますなあ(棒読み)という気はしますがね。んでもって更にそのちょっと後にこんなツッコミが。


『(問) 今月下旬に展望レポートが出ると思いますが、このレポートで示す物価上昇率の見通しに関して伺います。現時点で、2013年度の物価上昇率の見通しは0.5%ですが、今月下旬のレポートで「物価安定の目途」としている1%に届かない見通ししか出ない場合には、デフレ脱却の姿勢を明確に示すために、追加金融緩和を含めてきちんとした姿勢を示さないといけないなど、具体的な手段を含めて、こうしなければいけないというお考えをお持ちかどうか、お聞かせ下さい。』

ニヤニヤ。

『(答) 決定会合における金融政策の議論は、毎回その時点での経済・物価・金融のデータに即して判断するものです。現時点で、次回会合での決定について予断を持つということは、慎まなければいけないと思っています。大事なことは、経済・物価の軌道が望ましい方向に向かっているかということです。私どもとしては、この1%の実現を目指して、金融政策の面から強力な金融緩和を行っていくという方針を既に明らかにしています。このような物価の望ましい姿を実現していくためには、成長力の強化と金融面からの下支え、この両方が不可欠です。』

とまあここら辺までが次回の金融緩和拡大の有無に関する発言。

『それから、物価上昇率と金融政策の関係ということでは、おそらく、ご質問の方の問題意識には、いわゆるインフレーションターゲットの導入国における金融政策の運営があると考えます。例えば、英国について考えてみると、目標が2%で、その上下1%を超えて物価が変動している場合には財務大臣に対して公開書簡を出すというシステムになっていますが、現在、英国では、3%を超えた状態が長く続いています。しかし、2%の達成に向けて短期間に急激な金融引締めを行うことは避けています。』

ふむ。

『日本銀行としては、英国とは方向は逆ですが、望ましい姿を実現していくこと、「どういう方向に向かっているのか」ということ、それが非常に大事なポイントだと思っています。』

ふーん(棒)。

『いずれにせよ、今申し上げたことは、次回の会合での政策決定の具体的なあり方についてコメントしたわけではなく、基本的な考え方として、成長力の強化も大事であるということ、それから、短期間に一気に実現するということでは必ずしもないとすれば、「どういう方向に向かっているのか」が大事だということを、申し上げた次第です。』


・目途達成のタイムフレームがどうのこうのに関する質疑

まあさっきの部分でもその手の話がございますが、より具体的な質問がその後に。

『(問) 次回の展望レポートについて、少し整理させて頂きたいと思います。展望レポートは、経済成長や物価の見通しを示すものだと理解していますが、その一方で、最近、2月に示した「目途」について、具体的にどのようなステップを経て1%を達成していくのかということを日本銀行に示して欲しい、という声もあると思います。そうした中で、今月下旬に展望レポートを公表するということですので、具体的な「道筋」を示して欲しいという声が出ていることに対して、展望レポートの作業の中でそういう声に答えることを考えていく必要があるのかについて、総裁自身はどのように整理していらっしゃるかを教えて下さい。』

まあそんなのを示されたら苦労せんわという所でしょうけれども。

『(答) 「道筋」というものが多少文学的なので、どのようにお答えしていいか分かりませんが・・・。従来もお示ししていますが、2012年度と2013年度にどのような物価上昇率の経路を辿っていくのか、あるいはその見通しを巡って委員の間の見通しがどのように散らばっているのかということを、数値あるいはグラフでお示しすると同時に、なぜそのような違いがあるのかについての分析または見方についても、従来から行っているように丁寧にしっかりと説明をしていきたいと思っています。』

要するに「それが示されるようならこんなに苦労してませんわ」という事ですねわかります。

『物価の動きを規定するもう1つのファクター、すなわち、成長力の強化という取組みがどうなっていくのかについては、これは日本銀行自身が直接操作できる変数ではありませんので、ここについては、日本銀行としての独自の見通しを置くのはなかなか難しいわけですが、定性的にはそうしたことも物価のパスには影響していくということは、再々申し上げている通りです。』

という部分がよーするに政府とか政治方面に対してボールを投げている話で、実はこの前の部分でもうちょっと切々と(かどうか知らんが^^)主張している部分があるのですがそれは後で引用致します。

更にこういう質問も。

『(問) 2点お伺いします。1点目は、先程の質問にあった1%の目途の件ですが、どういうタイムホライズンか、一体いつまでにできるのか、ということです。中長期ということについて、先程、遠い先のことではなく、持続的に1%の物価上昇を見込める状態をつくりたいというお話でしたが、どういった道筋で、いつできるのかという疑問が、非常に多いと思います。そうしたきちんとした具体的な目途というか、時期的なものを、今後出していくお考えがあるのかどうかについてお伺いします。(2点目は割愛)』

『(答) 1点目の時期的な目途については、先程、別のご質問で答えたつもりです。どの中央銀行にとっても、望ましい状況を実現していく、そのタイムホライズンの長さは、非常に大事な要素です。先程、英国の例を申し上げましたが、FRBの場合について考えてみると、FRBはデュアルマンデートで、物価の安定と雇用の最大化が目標です。FRBの現状見通しでは、先々3年経っても望ましい状況に到達しないという姿です。そうであるからといって、機械的に政策を運営しているわけではなく、どの程度のスピードで望ましい状況を実現していくかということ自体を、中央銀行が判断しているということです。必ずしも機械的に行っているわけではないということです。日本銀行の行っている政策についても、できるだけ誠実に、望ましい姿へのパスを示していきたいと思っています。』

と、今度は(あたくしもさっきネタにしましたが)FEDのSEPをネタに出してそんなタイムホライズンを具体的に示せるなら苦労せん罠という説明をしているのですが、はてさてこういう話って「道筋ガー」とか言ってる人に通じているのかねという疑問はある。正直各国中銀のこの手の文書とか声明文とか講演とかを散々趣味のように(というかほぼ趣味の世界の物好き状態だが^^)読んでいるあたくしだからこの説明受けてもその通りですなあとか思うのですけれども、そもそも「インフレ目標ガー」とか言ってる人たちってその辺の海外との比較とかになると日銀にいちゃもんつける為に都合の悪い部分は知っててやってるのか知らないでやってるのか知らないけれども華麗にネグってしまうのがアレですし、大体からして金利市場以外の人たちは相変わらず(今日のモーサテでもやってましたが)ピントの外れた金融政策論議をして更に議論をややこしくしている次第で、まあ困ったもんですなあとか思いますです、はい。

#ま、しょうがないから「株式向け」とか「為替向け」のアナリスト説明会でもやったらどうでしょうかとか思いますけどねえ

でもってその後に玉投げ部分の発言がある訳ですが。

『しかし、先程申し上げた通り、金融緩和からの下支えと、様々な成長力強化の取組み、この2つがあって初めて実現するものです。従って、日本銀行だけでいついつに完成します、と明確に示せるというものではなく、私どもとしては、ある程度の姿を示していくということです。そして、できるだけ早く実現していきたいという思いは、もちろん再々申し上げている通りです。』

まあ玉を一生懸命投げても誰も受け取ってくれないのはカワイソスですけどにゃ。


・ということで誰も受け取ってくれないボール投げ発言

『(問) 政府との関係についてお伺いします。消費税増税の法案には、成長率を努力目標で入れている。一方で、国家戦略室がデフレ関係の閣僚会議を開いて、総裁もオブザーバーとして参加されるというように、色々協力が求められるようになっています。あるいは、圧力という言い方もあるのかもしれません。その「政府との協力」について、どのようにやっていかれるのかについて、お考えをお聞かせ下さい。』

『(答) ご質問の中にあった国家戦略会議で、デフレ脱却等に関する新たな会議の開催が決まったこととの関係でお答えした方が良いと思います。もちろん、ご質問の趣旨は理解しましたが、かなり抽象的な問題意識も沢山おありと思いますので。』

『日本銀行として、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することは、極めて重要な課題であると認識しています。そうした認識を持って、私どもとしては、現在、強力な金融緩和政策を展開しています。同時に、わが国経済は現在、急速な高齢化のもとにあり、この状況に対する社会全体としての対応が遅れている結果、趨勢的な成長率が低下しているという、長期的・構造的な課題に直面しています。このことが、日本のデフレの問題の根源にあると思っています。そういう意味で、繰り返しになって恐縮ですが、成長力の強化と、金融面からの下支え、この両方が不可欠であり、関係する当事者、つまり、企業、金融機関、政府、日本銀行が、それぞれの役割や持ち場に則して、全力を尽くしていくことが大事だと思っています。』

ということで、まあここで「繰り返しになって恐縮ですが」とあるように何度も成長力強化の話をしている訳ですが、これがまた残念な事にボールを投げてもそもそもそこの趣旨が報道ネタにもならないという所が日銀カワイソスではありますけどにゃ。

『国家戦略会議には、昨日も出席しました。新たに開催される会合では、デフレを生みやすい日本経済の構造に関する検討が行われると聞いています。日本銀行としては、日本銀行としての職責をしっかり果たすと同時に、こうしたデフレを生みやすい日本経済の構造に関する検討が行われ、しっかりとした取組みが政府からなされることを、強く期待しています。成長力の強化について、今般、日本銀行は更なる措置を講じ、その結果、大口・小口、外貨・円貨、それからABLと、色々な道具を揃えました。こうした成長力の強化という面でも、中央銀行の立場から、出来ることはしっかりやっていきたいと思っています。』

とりあえずまあ言いたいことは判るのですが、たぶんメッセージは全然伝わっていないと思われるのがテラ残念。


・金融政策の効果がどうのこうのとかアラン・ブラインダー的な「自分の尾を追う犬」的な論点とか

『(問) 金融緩和の効果に関してお伺いします。もちろん、金融政策の効果に関しては、時間がかかることは分かっていますが、2月の直後、総裁をはじめ審議委員の方々がそれ相応の効果があったことを認めておられるように、米国経済の明るさと欧州の金融市場の安定によって為替市場でも円高が修正され、株価も上昇し、マインドも改善するような動きがしばらくあったかと思います。これが、先程言及された先週の雇用統計を受け、米国での追加的な金融緩和期待、金利差の縮小、それによって円高修正の動きが再び円高方向に振れたり、株価も一頃は1万円を超えていたのが、ここへきて下がっています。先日の短観をみても、やはり円高の修正や株価の上昇がすぐには経営者のマインドには影響していないと思いますが、その辺を含め、2月の金融緩和の効果が減衰しているのかどうか、お伺いします。』

まあ比較的丁寧な質問ではありますが。

『(答) 金融政策の効果について、金融市場での価格の変化に力点を置いたご質問かと思います。金融市場における為替あるいは株価の動きは、経済に影響を与える1つの要因です。しかし、この金融市場における価格形成については、日本銀行の金融政策だけでなく、様々な要因で変動するものです。従って、金融市場の変化と金融政策のスタンスを、いわば1対1で対応付けて考えることは、必ずしも適切ではないと思います。』

まあそらそうなのだが、為替市場とか株式市場とかのクレクレは残念ながら1対1対応状態なのが残念である。しかもまあついこの前まで「2年金利ガー」とか言ってたのに急に最近になってマネタリーがどうのこうのとか言い出す連中ですしねえ。で、更にこの続き。

『前回の記者会見で、2月以降の為替あるいは株価の動きについて、基本的には、世界的なリスクオンの流れの中で生じているということを申し上げました。振り返ってみると、世界経済を考えていく上で最大のリスク要因は欧州の債務問題でしたが、これが最も深刻であったのは、昨年11月から12月でした。その後、欧州のリスクは少しずつ緩和され、現在は、大きくみればテイル・リスクが後退しています。そうした中で、従来、安全資産として買われていた円から、それ以外の資産へのシフトが生じたことがまず基本的な流れであり、そうした大きなリスクオンの流れの中で、日本銀行の金融緩和政策の効果もあったと思います。』

ほうほう。

『この数週間の変化でみると、このリスクオンの流れが、スペインの問題、イタリアの問題、あるいは米国の雇用統計の解釈を巡って、また少しリスクオフの流れ、モードになってきていると思います。』

ちょっと待て、おまいら決定会合声明文では「国際金融資本市場も、総じて落ち着いている」って3月から判断引き上げとるじゃろと思うのでありまして、あっちの判断とこの説明の整合性ってどうなのよと思うのですけれども・・・・・・・・・・いやまあ細かいツッコミなのだが気になるわさ。

『私どもの金融政策は、ベースとして金利に働き掛け、これが経済全体に影響を及ぼしていくと考えています。現在、私どもが行っている政策について、よく「非伝統的金融政策」と言われます。確かに、非伝統的な金融政策を行っていますが、効果波及のメカニズム自体は、非伝統的というわけではなく、伝統的なメカニズムです。』

で、その効果波及の伝統的なメカニズムが成長力が失われている結果として弱くなっているのが問題です(だから成長力強化が必要なのです政府もよろしくお願いします)って説明をもっとした方が良いのではないかという感じはするのですけど、まあこの質疑の流れとは関係ないけど・・・・・・

『つまり、短期金利が既にゼロになっているため、長期金利、あるいはリスクプレミアムに働き掛けていくという、金利を通じて影響を行使しているわけです。この面でみると、私どもが基金の買入れを行っているゾーンの金利は低下していますし、それがベースとなって為替あるいは株価へも影響を与えていると思います。(以下割愛)』


というような話をした後に、アラン・ブラインダー氏の言う「市場の尾を追う犬」の論点の話がございまして、別の質問の後半部分から。

『(問)(前半割愛)2点目は、2月の決定会合における物価上昇の目途と追加緩和の効果について、その後、非常に円安なり株高が進んで、効果が出ていると、マーケットなり政治家なり、国民の中では受け止められていると思います。それにより、もっと日銀が緩和すればいいではないか、効果があるからもっとやれ、という声が非常に強まっていると思います。それに応じて、逆にやらないことが失望感を強めかねない状況に陥っているように思います。そうした現状について、どのように受け止めておられるのかお伺いします。』

『(答)2点目については、先程、2月の政策変更による金融緩和強化以降の金融市場の動きについてご説明しました。この間、金融市場に影響した一番大きな要因は、何といっても欧州債務問題が改善し、リスクオンのモードに切り替わっていたということだと思います。一昨年秋に包括緩和を始めて、基金を設けて以来、4回に亘り基金を増額しました。全部で5回の措置の後のマーケットの反応をみると、非常にはっきりしていますが、例えば円安・株高の方向に向かっている時もあれば、そうでない時もあって、全体として必ずしもそこに1対1の関係があるわけではありません。』

そらそうや。

『ただ、為替なり株価の当面の反応は別として、私どもが金利に働き掛けることにより、そのことが経済全体に対して影響を及ぼしているものと判断しています。マーケットの短期的な反応だけをみて金融政策を運営すると、長い目で見た経済の安定ということにむしろ背馳することも多いと考えています。あくまでも軸足は、物価と景気の姿をみて政策運営を行っていくということです。』

自分の尾を追う犬という論点です罠。

#他にも色々ある(今回の会見要旨18ページもある)のですが、まあこんな所で量もアホのように多くなったので勘弁

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2012/04/03

○総裁の入行式挨拶

平成24年度入行式における挨拶
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/nyukou12.htm/(HTML版)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/nyukou12.pdf(PDF版)

ということで挨拶なのですが、これを前回と比較するとかあたくしの性格もたいがいに如何なものかという気はする(^^)。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/nyukou12.htm/(今年)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/nyukou11.htm/(昨年)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2010/nyukou10.htm/(一昨年)

今年の挨拶から。

『いま一つは中央銀行としての「実務」を遂行していく力を不断に高めていくことです。日本銀行の政策は、全て「銀行」としての業務、言い換えれば、金融取引の執行を通じて実現されます。実務の裏付けがない限り、そもそも政策を実践できません。また、実務に従事することによって得られる経済や金融の動きに関する情報は、他では得られない貴重なものです。日本銀行の職員は、それぞれの現場で、実務をいかに確実に、効率的に遂行していくかに日々知恵を絞っています。』

つまり実務を無視した政策提言をする連中はケシカランという事ですね、と思ったらまあその後東日本大震災の話をしてマイルドにしていますな。

『実務の大切さは、東日本大震災が発生した後の日本銀行の対応をみてもわかります。我々は、金融市場の不安を取り除くため、震災の直後から大量の資金を供給しました。また、被災地で暮らす人が必要とする現金が不足しないよう、平日・休日を問わず、現金の輸送を行ったり、地震や津波で損傷した大量の銀行券や貨幣の引き換えを行ったりしました。また、こうした災害時であるからこそ、財政資金の受払いが確実に行われるよう、被災地金融機関との連携を強め、必要な先には事務支援も行いました。震災後のこうした活動は経済や社会の安定を根底で支えるものであり、我々はそうした実務をしっかりと遂行することに誇りをもっています。』

ふむ。

『皆さんは本日から日本銀行でのキャリアがスタートします。皆さんには職種やコースに応じて、今、私が申し上げた二つの力を身につけて頂きたいと思っていますが、そのために三つのことを意識してください。』

というのは昨年は東日本大震災モードで構成上その部分がありませんでしたが、一昨年のバージョンと比較してみましょう。

『第一は、配属された部署、与えられた仕事の一つ一つに、全力で取り組んで欲しいということです。(内容部分割愛)』

『第二は、関心領域を広く持って欲しいということです。(内容部分割愛)』

『第三は、日本銀行外部の人々との接点、ネットワークを大切にして欲しいということです。(内容部分割愛)』

ということですが、一昨年の挨拶はこうなっていました(^^)。

『第一にお願いしたいことは、責任感をもって仕事に取り組んで欲しいということです。(内容部分割愛)』

『第二にお願いしたいことは、常に新しいことにチャレンジし、仕事の幅を広げていく情熱を持ち続けて欲しいということです。(内容部分割愛)』

『第三にお願いしたいことは、チームワークを大切にして欲しいということです。(内容部分割愛)』

ということで、まあ内容部分を読んで頂ければ判るのですが、第一と第二は同じ話をしている中で第三に変化があるのが味わいがあるというものでございまして、一昨年は「チームワーク」とまあ仕事をする中における協調性の重要性を説いていたのが、今回は珍しくも「外の世界に目を向けて」という話になっていてあたしゃおお!と思いましたよ。

まあ何ですな、最近は通常業務に支障を来すのではないかという位に連日のように(しかし議員もまあ飽きもせず毎日毎日日銀執行部呼んで委員会で同じような吊し上げをして生産性ねえ話だなあ(1回2回なら兎も角何回呼んでるんだと)と思うのでございますが、お前らの仕事やってるアピールの為にどんだけリソースを費やしているんだと小一時間問い詰めたいわ)国会に呼ばれているせいか、さすがの麿先生(麿先生はタイプ的には軟体動物系の俊ちゃんというよりは速水総裁のような強情さがあると思われますが・・・・)も「一般にアピールしていかないと行けない」という危機感を持たれたのかと勝手に邪推するあたくしでございました(^^)。

つーかまー別にそれって日銀だけの話じゃなくて一般的に大企業みたいな所だとそういう話になるかと思います次第で、いわゆる大企業病というか内向き論理でタコツボ化してしまうとゆーのは別に日銀に始まった話では無いと思いますざますけどね。まあしかし麿がこんな話をするとはとゆーことで、読んでてちょっと「ほう」と思いましたという所であります。

ええまあ裏読みのし過ぎですが何か??

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