植田和男前審議委員

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植田和男審議委員

植田さんの略歴(日銀Webより)

昭和26年9月20日生
昭和49年3月東京大学理学部卒業
昭和49年4月東京大学経済学部入学
昭和50年4月東京大学経済学部大学院入学
昭和51年9月マサチューセッツ工科大学経済学部大学院入学
昭和55年9月同卒業(Ph.D.)
昭和55年7月ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授
昭和57年4月大阪大学経済学部助教授
平成元年4月東京大学経済学部助教授
平成5年3月同教授
平成10年4月8日日本銀行政策委員会審議委員(任期2年)
平成12年4月8日審議委員に再任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/basic/pb/ueda.htm
(サイトリニューアルの際に過去のデータリンクが切れてしまったようです)

平成17年4月7日をもって審議委員を満期退任しました。


2007/05/29「日経新聞インタビュー記事より」
2005/10/31「日経新聞の経済教室(詳細)」
2005/10/28「日経新聞の経済教室」

以下は在任中の講演、発言等です。

2005/05/11「植田さんの置き土産:補足」
2005/05/10「植田審議委員の最後の置き土産?(3月15日、16日の決定会合議事要旨より)」
2004/09/30「植田審議委員の記者会見(その2)」
2004/09/29「植田審議委員の記者会見(その1)」
2004/09/17「植田審議委員の講演」


2007/05/29

○植田前審議委員の日経新聞インタビュー

例によって本石町日記さんのエントリーを見て存在に気が付くあたくしは日経ヨクヨマナイの巻でありました。元記事は5月26日の日経新聞3面の「月曜経済観測」コーナーですが。
http://hongokucho.exblog.jp/6910909/

植田氏の主張は大変明快かつ仰るとおりとしか申し上げようが無いのですけれども、記事にある発言(の一部)を自分の備忘録として引用させて頂きたく。

『利上げの説明で日銀は政策判断の第二の柱、つまり確率は高くなくても起こると経済が混乱するリスクをかなり強調した。低金利がバブル的行動を招く恐れがあるというわけだが、上昇率がまだ「物価安定の理解」の下限でリスクを強調するのは理解しにくい』

『デフレの結果、人々の予想インフレ率がゼロ近辺で安定してしまった。物価をもう少し上げるのに金融緩和で経済をどの程度刺激すべきかが不明確だ。むしろ日銀は経済を潜在成長率近辺で安定させることに重点を置き、少しずつ金利を上げていこうとしている』

『一%程度の物価上昇を実現するには潜在成長率以上に経済をふかさなければならない。過熱は危ないから嫌だという態度を貫きすぎると結局物価が上昇せず、一種のワナに陥る。地価や株価上昇は金融緩和で経済を刺激する時に必然的に起きる』

いちいち頷くことしきりです。本石町日記さんのコメント欄も盛り上がっておりますのでこれまた勉強になりますな。と人のふんどしなのでした。

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2005/10/31

お題「植田前審議委員の量的緩和政策レビュー(続)」

金曜の続き。解除さきにありきで前のめりになっている政策委員会はまあ落ち着けって所なのでしょうか?以下『』内は10月27日の日経新聞25面より。

○量的緩和政策効果について

量的緩和政策は「時間軸効果」+「大量の流動性供給」とであると指摘した上でその効果についてはこのように。

『ゼロ金利を続けるという時間軸効果は、短期から中期の金利を低位に安定させ、経済や金融システムを下支えした。これに対して、ゼロ金利実現に必要とする以上の流動性供給がどのような役割を果たしたかはいまひとつはっきりしない。』

だいたい多くのビューもそんな感じです。特に量的緩和政策導入当初に期待されていた「量」のポートフォリオ組み替え効果などに関してはこんな感じ。

『流動性の量そのものが強いポートフォリオ組み替え効果や総需要刺激効果をもったという説得的な証拠は得られていない。』

植田さんもスルーしているのですが、かつて岩田副総裁が講演で指摘した「当座預金残高目標の引き上げが事後的にドル買い介入とバランスしてますけど」って話に関してのレビューが欲しいところではございます。(植田さんは「景気判断を上方修正しているのに当預目標引き上げするのは筋が通らない」という立場だったと記憶しておりますが)

ちと話がそれますが、まー今般の景気復活に関してあたくしの勝手な見方としては、それまでの銀行シバキアゲ政策による政府のデフレ政策がりそな銀行救済スキームのあたりで一転して、「いやもう税金突っ込みますよ法的整理はしないから安心してね〜」っていう「政府の債務保証」って形の見せ金スキームへの転換が何だかんだと言っても効いているんでしょうねって所ではないかと思うのですが。直接の財政支出は伴ってないけど、偶発債務って形の債務ですかねぇ。何せあい変らず「決済性預金は全額保護」しているんですから金融システムは国が丸抱えな状態である事には変化が無かったりするのですが。


○時間軸政策を崩すのはどうかという話

話を元に戻しまして。

『短期金利がゼロになった後、金利の世界でさらに緩和効果を生み出す一つの方法は、将来の短期金利について強いメッセージを発することである。例えば景気がよくなりインフレ率が上昇して、普通の中央銀行なら金利を上げ始めるような情勢になってもしばらくゼロ金利を続けるという意思表示ないし約束を前もってしてしまうわけである。すると市場が予測する将来の短期金利、したがってその時点での中長期金利にも低下圧力がかかる。この金利低下が経済を刺激するのである。』

まぁ皆様もご存知の話ではございますが、時間軸政策のキモはここですな。で、それに対して恐らく現在の地均し前のめり状態になっている政策委員会に対する苦言なのではないかと思われるくだりが。

『そう考えると、普通の(優秀な)中央銀行員が当然と思うタイミングで金利を上げ始めるのは時間軸政策の趣旨に反することになる。そこから少し遅れて動くというのがポイントである。』

この先は金曜日に引用しましたので割愛。まぁこれが植田さんの「べき論」なんですが、以前ご紹介したように、植田審議委員最後の政策決定会合(4月5、6日)でもこんな意見があったのですが、まぁこれも植田さんのご意見でしょう。

「この間、ある委員は、強力な金融緩和策を維持することによって将来インフレや資産価格の過度な上昇が生じる可能性は否定できないが、現時点では、依然として物価下落率が拡大した場合のコストの方が大きい、と述べた。さらに、この委員は、資金余剰感の強まりを背景に金融機関が余剰資金の運用に苦慮していることは事実であるが、こうした状況は、金融機関が必要とする以上の流動性を供給することを通じて金融機関行動に働きかけるという観点からは、量的緩和政策の本来の効果が発揮されてきたものとみることも可能であるとして、当座預金残高目標の削減に対して否定的な見方を示した。」

この方が退任してからはもう政策委員会大暴れというか自作自演というか。。。


○で、まぁ早めの対処は如何なものかと

量的緩和政策の出口をどうするのかという話に関して『出口の必要条件しか明らかにしていないので、日銀サイドにかなりの裁量余地が残る。』と指摘し、景気の見通しに関しては『出口のための必要条件は来年の早い段階で満たされることになる。』ということを踏まえたうえで植田さんは『中央銀行としてのリスク・マネジメントの問題』という表現を使って説明しています。

『早めに利上げをすれば、再びデフレに舞い戻るリスクを若干覚悟することになる。利上げを遅らせれば、インフレが加速していくリスクをとることになる。どちらを重視するかだが、』

ということで比較する訳ですが、

『長期的に望ましいインフレ率がゼロよりもかなり上(2%前後としている先進諸国が多い)とすれば、インフレ率がゼロ%を超えた後、多少加速して上昇するのはある意味望ましいともいえる。』

『他方、再びデフレが深刻な問題となるようなことがあれば日銀の信認は大きく低下することは必至である。』

全くアグリーなのですが、まぁ政策委員会には須田審議委員のように講演で「理念的には物価上昇率がゼロ%」(2005年2月9日の講演、一応フォローしておくと、物価統計のバイアスやサンプリングの問題があって物価統計上の数値にそのまま当てはめる訳には行かないとは言ってますが)というようなお話をするインフレファイターならぬ物価上昇ファイター(苦笑)がいるので中々こういう判断にならないのではないかと存じますが。

植田審議委員としては量的緩和解除のタイミングはこのような見解だそうです。

『いったん利上げに転じれば、0.5−1%程度までは無理なく翌日物金利を引き上げることが出来そうだと確認してからでも遅くはなさそうである。時間軸政策の基本的考え方もそういうことであった。』


まぁ日銀におかれましては落ち着いて対応して欲しいのですが、べき論は兎も角として予想屋として考えると日銀先走りのリスクを考慮しておかねばなるまいっていうのが市場的な判断になっているんでしょうな。そうじゃなかったら今更金融緩和余地がろくすっぽない状況で中短期ヘロヘロの長期超長期ゾーンはやたらと確りという展開にはなるまいて。

という訳で、延々とご紹介をさせていただきましたが、まぁこの植田さんの言うような方向には行きそうも無いのが実に悲しい所でございます、涙。

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2005/10/28

○植田和男前審議委員の「経済教室」

えー何度かお話したように、あたくしは5年ほど日経新聞というものを購読していないという市場関係者にあるまじき行為を継続しております。よって話題の官能じゃなかった文学作品ネタを振られても全く判らんということで、協調性の無い事甚だしい人間でございます。

などという宣伝は兎も角(^^)、そんな訳で昨日のドラめもんで「植田和男総裁キボンヌ」などと書いたのは別に日経の経済教室(25面)とタイアップしていたのではなく偶然の一致。

で、その経済教室ですが、内容に関しては不肖あたくしが禿げ上がるほど賛同したくなるような所でありますわな。量的緩和政策の枠組みに関する部分は現在の絶賛地均し中の政策委員会の皆様は百万回読めと。

『すなわち、時間軸政策をあまりに強い形で実施すると、金利引き上げがきわめておそくなり、結果としてインフレ率が適切な値を大きく上回って上昇するリスクを冒すことになる。ただし、こういうリスクを全くとらないのでは、そもそもこの政策を実行していることにならない点に注意が必要である。』

まぁその他もろもろは昨日の日経新聞朝刊25面を読みましょうという所ですが、本石町日記さんのところでもエントリーがございますのでそちらも併せてご覧下さい。

#続編は書くかもしれないし書かないかもしれません

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2005/05/11

○植田さんの置き土産(続き)

昨日ご紹介した3月15、16日の金融政策決定会合議事要旨での植田審議委員のものと思われる発言。あたくしは「こりゃ福井総裁向けに言ったんですなぁ」という感じでご紹介いたしましたが、早速読者様から「水野さん向けの発言では?」とご指摘を頂きました。

確かに議事要旨では「金融政策運営に関する」最近の情報発信に関して指摘しているので、イールドカーブに言及した福井総裁の発言(というか講演)を指摘したとは言い切れませんですね。で、就任早々からせっせと情報発信をしている水野さんに対して「それはちとどうよ」と諫めたのかも知れませんね。ご指摘ありがとうございました。

水野さんと言えば就任早々と言っても良い2月9日に日経金融新聞に寄稿しておりましたが、その内容たるや、正直「審議委員なんだからストラテジストみたいな話してもしょうがないんじゃないかなぁ」というようなもので、おまけに「超長期ゾーンのグローバルフラットニングが継続する」と書いたらそこが目先の超長期ゾーンフラットニングのピークという笑うに笑えない物でした(以前ご紹介しましたが)。

また、この会合時点ではまだ豹変表明してませんでしたが、就任直後に当座預金残高目標の技術的な引き下げに対して政策の筋論で反対(これはブルームバーグニュースのインタビュー)していたのに、4月20日の共同通信インタビューでは引き下げ大容認状態。短期相場見通しじゃないんだからそうコロコロと見解を変えるのはどうよとあたくしは思いますが。ついでに講演などで日銀Webに記録が残る形じゃない「どこぞのメディアとの単独インタビュー」で頻繁に政策論議をするというのもどうかって気がしますな、あたしゃ。

と思いながら改めて植田さんの発言だと勝手に思っている(まぁ十中八九そうでしょう)部分を考えてみると、「これは福井総裁だけじゃなくて、政策の筋論を思いっきり無視した当座預金残高引き下げ論議に対して警鐘をならしているのかな〜」と思えてきました。具体的には水野さんに福間さんに須田さんですか(^^)。

しかしまぁ「情報発信に細心の注意と節度」を求められると言われるのも情け無い話ですわな。何か政策論議が迷走しているのがそのまま表に出ているだけって状況なのは甚だ遺憾としか申しあげようがありません。冷静に考えれば情報発信に注意と節度があるのは当たり前な訳でして、こんな事言われている時点で日本銀行政策委員会の審議委員としての(以下自粛^^)。


色々と考えさせられる「ある委員」の意見でした。

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2005/05/10

○植田審議委員最後の置き土産(涙)

上記(こちらをご参照下さい)の「当座預金残高目標引き下げは期待形成を撹乱する要因」という意見を述べた審議委員は同時に2月末の「福井ショック」に関して中々手厳しい意見を述べておられます。きっと植田審議委員の置き土産なんでしょう。

『また、この委員は、金融政策運営に関する最近の対外情報発信に関して、市場の一部には混乱を招いたとの評価もみられるとした上で、今後は細心の注意と節度をもって臨む必要があると述べた。』

良く言えば鋭く切れる当意即妙の応答なんですが、まぁ正直言ってその場その場で反射的に不規則発言をするわ、記者会見は売り言葉に買い言葉状態になるわという総裁さまに対して苦々しく思っていた所へ直近の「福井ショック」なので、まぁこの機会に釘をさしておこうという事ですね。残念ながら「糠に釘」になりそうな悪寒もしますが。

当座預金残高目標の「理由なき引き上げ」に関して反対したと言われております植田審議委員ですので、今回の「理由無き引下げ論」に関しても政策の意義付けという観点から反対するのは当然でしょうが、植田審議委員が退任された現在となっては政策委員会に「政策の筋論」があるのか不安になってしまいますな。

まぁ折角の置き土産ですので、現在の政策委員会というか総裁さまにおかれましてはちったぁ「対外情報発信に関して細心の注意と節度」をもって欲しいものです。

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2004/09/30

お題「量的緩和政策の終了は出来るのでしょうか?」

本題に入る前にお詫びと訂正。一昨日のドラめもんで「最近日銀審議委員の出張が多く組まれているのは間もなく発表になる展望レポートを前に各委員に言いたいことを言わせるっつーことなのでしょうか」などと書いたのですが、実は10月に発表される展望レポートは月前半ではなく、月末の金融政策決定会合で発表されるのでありました(大汗)。

よって、展望レポート直前云々というのは事実誤認でございました事を深く陳謝いたします。ちなみに本日は福間審議委員の出張が予定されているので、まぁこの期末時期に向けて審議委員の出張が妙にあるのは事実としてあります。勝手に想像致しますと、まぁ「上期の総括」を各審議委員にやってもらいましょって事なんでしょうね。どちらにしても、色々な人たちが色々と意見表明してくれますのでよく確認をしておくのが吉かと。

前置きはその辺までとしまして本題は昨日の続き。

相変わらず旧聞ではありますが、植田審議委員の記者会見に関してです。量的緩和政策をど〜するのよって話をしておりますのでその辺に関して読んでみましょう。URLは昨日と同じです。


○いわゆる2段階解除論に関して

元はといえばどこぞの著名債券ストラテジストあたりから出ていたお話であったと記憶していますが、今年5月に中原審議委員が講演で量的緩和政策からのソフトランディング的な脱却方法として、このようなことを言い出したのがそもそものはじまり。

『量的緩和の状態からいずれ出れば金利の世界に戻る訳であるが、ポジティブな金利水準の世界に戻る前に、ゼロ金利の状況を一旦挟むことがソフトランディングとして適当ではないかと思っている。その過程で望ましいインフレ率を明示することによって、ある種の時間軸効果をもたらすことができる。』

で、この考え方は量的緩和政策の実施にあたって「ゼロ金利政策と量的緩和政策は別物」であると言っていた事を今のところ撤回していない日銀のロジックを自己否定するものであるので、あたくしは(どうも知らぬ間に少数派になっていたのですが)中央銀行としての政策としては論理的に有り得ないと散々罵倒の限りを尽くしていた訳ですな。

『(問)本日の基調説明の中で、将来の出口政策のイメージとして、日銀がどのように静かに出口政策を行うかということについて説明があり、オーバーナイト・レートを上げるという話があった。現在の量的緩和はオーバナイト・レートが0%近傍に位置しているのと同時に、リザーブ・ターゲットをかなり積み上げているという2つの側面があると思う。出口政策を実際に行う際、積み上がったリザーブ・ターゲットがどのようになっていくというイメージを持っているか。また、現在、日銀が購入している国債の扱いはどのようになるとイメージしているか。 』

『(答)出口の際に金利が上昇するのは、出口全体を広く捉えれば、結局どこかの時点でオーバーナイト・レートは上がることになるだろうという意味である。 』

とりあえず慎重な言い回しで2段階解除論の発動余地も残してます。

『出口に至るプロセスとして、金利が上昇するということが起るし、同時に、リザーブを現在のように高い水準から格段に低い水準に下げていくことも起る。これが、どれくらいの時間的な長さで起るか、あるいは起こすのか、ということはいろいろなやり方があって、長く時間を掛けてリザーブを回収するやり方もあるし、極端に言えば1日で回収することも理屈上は考えられなくもない。ある程度まで回収しないと、オーバーナイト・レートも上昇しないということだと思う。』

ここは量的緩和政策で積み上がった超越的超過準備をどうするって話。

『その際、どのやり方を選ぶのが適切かというのは、今、こうだとはやはり言い難く、その近くになった時の経済・金融情勢に対応して一番良いと思われるものを選びたいという趣旨で申し上げた。量的緩和の施策の一環である、長期国債買いオペの扱いについても、出口の技術的側面をどうするかということの一環として考えたい。いろいろなやり方があると思うが、それもその時の状況に合わせて、ほかに出口でやらなければならないことと併せて決めていきたい。』

技術的な話に持って行ってさらっと逃げてはいるのですが、その後このような質疑がありまして、2段階解除論に関しては実質的には否定的だというのが伝わってまいります。

『(問)出口について金利と量の話が出たが、基調説明の趣旨は、世の中がビックリするように、ある日突然、無担オーバーナイト・レートを上げるのではない、ということであったと思う。要するに、ビハインド・ザ・カーブにしていくということか。世の中の物価が上がってきて、それに併せて中・長期国債の金利も上がってきて、世の中がそういうムードになった時にオーバーナイト・レートだけ上げるから、静かに出口に入っていくという理解で良いか。 』

わかりやすい質問で大変に結構であります(^^)。

『(答)ビハインド・ザ・カーブかどうかという論点は、別にあると思う。私が申し上げたのは、出口に至る際には、裁量的な部分が残る面はあるが、基本的には既に出口に至るプロセス、あるいは出口の条件をきちんと示しているので、マーケットは出口がいつくらいになるかということを予想する手立てを持っているということである。』

いやまぁそうなんですが、債券市場っつーのはどうも余計なことを言い出して暴走するという傾向にあるわけでして、日経平均株価が4桁からようやく戻りだしただけで物価の絶賛マイナス傾向の出口がまだ見えないような昨年の夏時点でもいきなりパニック売り状態になって「1年後には量的緩和政策が終了」って所まで織り込みに行くような金利まで中短期債が売り込まれるという「おまえら何考えてるんだ」状態になったのは記憶に新しいところです。

まぁそれは日銀の政策が何たるかってゆー話をあまり理解しようとしない傾向にある債券市場にかなーり問題があるのですが、市場での動きの底流に何があるかってことに対して無頓着な対応をしていた日銀サイドもやや問題があったと思いますがね。話がそれましたがその続き。

『従って、出口が近くなってくれば、現実問題としてまだ出口ではなくても、将来における短期金利の予想値が上がってくる。これが、中期や長期の金利を先に上げることになる。もっと出口が近くなれば、もっと短めの金利が先に上がって、従って日銀が出口について何もしない間に、ターム・ストラクチャーのかなりの部分は、出口後の姿に修正されてしまうであろう。』

市場追認型の利上げっていうことをイメージしているわけで、このように続けてます。

『出口の周辺で起ることは、非常に短いところの金利調整の部分である。極端にいえば、金利変動というところだけに着目していれば、オーバーナイトの金利だけが上がることになる。現実にはそう綺麗にはいかないと思うが、ひとつの姿として、一番綺麗にいった場合は、そういうことであろうという話をしたつもりである。出口を出る前から、出口を出た後の金利の姿がどうなるかということが、オーバーナイトを除けば、織り込まれてしまうということである。』



○技術的な問題はそれでいいのですが・・・・・

という質問が鋭くされる訳です。先日ドラめもんでもご紹介した山口前副総裁の時事通信社単独インタビューに触発された質問(という事は質問者は時事か)でございまして、日銀的には突っ込まれると痛い点だったりします。

『(問)量的緩和政策解除の技術論は、それはそれで良いと思うが、その前に、量的緩和政策の効果と、量を出したことの物価と経済に対する効果が果たしてあったのかどうか、ということを一度検証しないと、解除する際の政策ロジックとして難しいのではないか。本当にデフレを払拭する効果があったのであれば、ゆっくりとしか解除できないかも知れないし、もし殆ど効果がないのであれば、技術的に簡単に解除する方法にいくと思うが、この点はどのように思われるか。』

『(答)難しい点だが、解除する前にきちんとした分析をして、「これまでの緩和局面でこれだけの効果があった」、「効果の大きさがこれくらいだから、解除のスピードはこれくらいが望ましい」というような綺麗な議論、ないし分析が出来る種類の問題ではないと思っている。従って、解除の時も、ある程度そこに色々なリスクがあるということを頭に置いたうえで、やや試行錯誤的なやり方になる。出口を出て締めてみると、今よりはもう少しはっきり、量の経済への影響はどれくらいのものであったかということが分かる面もあると思っている。』

よーするに「量的緩和政策における量(=日銀当座預金残高、すなわち超過準備額)にどのような効果があったかは知らん」と言っているに等しい訳でして、福井総裁になってからの量的緩和政策において散々「量的緩和政策を強化する」と称して当座預金残高を拡大させ続けておりましたが、それは単なる茶(以下自主規制)。

ちなみに、速水総裁時代に量的緩和政策の強化を行う際には基本的に(全部確認してないので記憶で書いちゃいますが)当座預金残高の拡大と共に長期国債買入の拡大(=日銀の理屈ではベースマネーの供給)を行っていたので、一応「量的緩和効果の拡大=ベースマネーの供給」っていう理屈が成立しておりました。

おそらく日銀の内部的には量的緩和政策の効果の本質は「ゼロ金利+時間軸」だという話がコンセンサスになっているのではないか(岩田副総裁は別)と思われる節はあるのですが、そういってしまうと昨日ご紹介したような「景気が循環的に後退する場合」に打つ手がなくなるという問題があるので、量的緩和政策を終了させるまではこの政策の正式かつ本質的な総括はできないのでしょうな〜とは思っております。


○微妙な質疑応答

『(問)基調説明の中での「下に外れるコストの方が上に外れるコストより大きいとみられる」というのは、簡単に言うと、ぴったりのタイミングよりも早く解除してしまうリスクの方が、やや遅く解除するリスクよりも大きいという理解で良いか。2点目は、なぜ下に外れるコストの方が上に外れるコストより大きいとみているのか。 』

『(答)下に外れるコストの方が大きいということと、早く解除するリスクの方が遅く解除するリスクの方よりも大きいということが同じかというのは、大体同じだと思うが、完全に同じかどうかは自信がない。』

ビハインド・ザ・カーブを全面肯定しているわけではないと言いたいようです。何とも訳の判らん物言いですが、ではどういうことかと申しますと・・・・

『なぜ下側のリスクの方が高いのか、ということについては、現在のスタンスにもインプリシットに入っていると思うが、望ましいインフレ率のようなものをイメージしてみると、少しプラスであるということだと思う。従って、現在の状態からインフレ予測を出して、そこから下に外れるということは、上に外れるという場合に比べると、望ましいインフレ率とのギャップがより大きく拡大するということだと思う。』

ふ〜んって感じですな。何か微妙な言い方です。


というわけで、岩田副総裁の講演もあるというのに10日以上前の話で散々勝手に盛り上がり大変に恐縮至極です。ネタ講演はまとめて出すなと言いたいですが(^^)。

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2004/09/29

お題「今更ですが植田審議委員の記者会見」

10日前のネタで恐縮ですが、植田審議委員の記者会見。この講演と記者会見は情報ベンダーのフラッシュで報道された時(=先々週の木曜日)には何となく売りで反応していたのですが、よくよく読んでみると売り材料じゃないでしょって話は連休前に申しあげましたとおりでございます。

講演も結構読み応えがありましたが、記者会見要旨も紙に打ち出すと7ページになる代物でして、読むべきところもありますので、まぁ今更ではありますが読むことと致します。

http://www.boj.or.jp/press/kk0409c.htm

記者会見では「景気の現状認識」と「量的緩和の出口政策」の2点についてかなり突っ込んだ質疑が行われておりました。


○景気の現状認識

講演における原稿ベースではどちらかというと現状認識と先行きに関しては強気判断というのが基調にあるという印象でして、その後で「リスク要因」としてあげている部分がさらっと流しながらも実は結構深刻な話をしている(=実はリスクが結構ある)なぁというようなご紹介を先々週末のドラめもんで行いましたが、記者会見要旨を見ますとこれがまた結構景気の先行きを懸念しているように読める訳です。情報ベンダーのフラッシュではそうは読めなかったのですが。

『(問)まず第一に、基調説明では、潜在成長率をやや上回るという今後の見通しであったが、潜在成長率について、大体何%くらいでみているのか。第二に、日本経済について減速していると判断しているのか、減速しているかもしれないとみているのか。 (第三以下は金融政策話なので後ほど)』

『(答)皆難しい質問である。まず、潜在成長率だが、最近計算し直してみたわけではないので、漠然と頭の中にあることで申し上げれば、2%前後くらいに思っている。第二に、減速しているのか、減速の兆候がみえているのか、ということについては、どのデータをみるかということ次第だが、やはりどのデータをみても、ある程度の期間均したトレンドをみなければならないと思っているので、ここまでに出たデータだけからは、「減速の兆候がある」くらいしか言えないかと思っている。』

あらま、減速の兆候があるんですか。次の質疑も長いのですが、例によってまるまる引用してしまいます。長いので適宜段落分けをします。

『(問)景気と物価の関係で伺いたい。今まで景気が回復してくる中で、需給ギャップが縮小傾向にあった。しかし生産性の上昇によって、需給ギャップの縮小を上回るようなものがあったということで、賃金と物価がなかなか上がらなかった。先行き景気が減速する中、物価は実際の経済に遅れると言われるし、また、生産性の上昇が、非製造業か製造業か、循環的なものか構造的なものかでどれくらい続くかわからないという面もあると思う。こうした点を踏まえ、今、委員が思っている景気の循環面からみた物価の先行きについて伺いたい。』

『(続き)というのは、これだけ景気が回復している、企業収益も強い、しかし労働市場がなかなか締まっていなくて企業経営者の中期的な成長率の期待も低い、またパートの比率が高まっている、そのような中で、生産性の上昇を今後どうみるかによって、物価に対する見方も変わると思う。仮に生産性の上昇が循環的なものであればそれがずっと続くわけではないだろう。その辺の見通しを伺いたい。 』

ま、よーするに「景気回復が循環的なものだったらどうよ」ってことですか。

『(答)生産性の上昇率の今後の推移そのものについては、先程もお話したように、よくわからないというか、循環的に高まっている部分と、根っこの技術進歩その他で高まっている部分と、両方あるのだと思う。それがどれくらいであって、従って循環的な部分がなくなればどの辺に落ち着くのか。これは、ちょっと今読めない状況であると、残念だがお答えせざるを得ないと思う。』

ま、確かにそれはそうですが、どの辺あたりまでが循環的かという分析は恐らく大本営発表ベース以外の部分では為されているのではとは勝手に思っておりますが。 また続きます。

『最初のほうにおっしゃっていたのは、景気が減速した時にインフレ率がどうなるか、というご質問かと思う。基調説明では、減速に2通りある、という話をしたと思う。不況になるというのではなくて、潜在成長率より少し上くらいの所へ成長率が段々下がり、その辺で暫く安定するというような意味での減速と、景気が一旦後退局面に入るという減速と、両方あることを話した。その場合のインフレ率の予想ということであるが、前者においては、潜在成長率を一応上回る姿を想定しているので、普通に考えれば、どこかで物価は上昇し始めるということだと思う。但し、前者においても、生産性の上昇が高い水準で続いたり、あるいは非正規雇用へのシフトがまだまだ続いたり、という場合は、成長率がそこそこ高くてもなかなか物価は上がり始めないというケースが考えられる。』

『一方、景気循環的な意味で、ちょっと調整、という局面に行く可能性もゼロではないと思っている。ただ、先程来お話しているように、その場合でも現在見渡せる範囲では、非常に深刻な調整になるという可能性は少ないのではないか、従って、インフレ率はその調整局面で大幅にマイナス幅を拡大するというのも想定し難い、という感じでみている。』

読んでいると福井総裁あたりが普段吹いている進軍ラッパとはトーンが違うという感じですか。もともと植田さんというのは割と景気に対して慎重派だという話をどこかで聞いたことがある(あまりこの人の講演とかの機会が無いので良く判らんのですが)のですが、景気の先行きに関して「デフレ脱却・量的緩和政策の出口」という観点から読みますと、「時期尚早」というかまぁいくつも但し書きをおいているという感じですね。

量的緩和の出口論議というか金融政策に絡む質問ではありますが、出口と別の問題に関して「景気が減速する場合には追加緩和も必要になる可能性はあるのではないか」という質問がありまして、上記2種類の景気減速のうち、循環的に調整局面に入るという深刻なケースの場合に関しては追加緩和は真剣な検討対象になるというような趣旨の発言もありましたが、長くなるので引用は省略致します。

結構「景気減速」をネタに色々と話をしているという印象を与える記者会見要旨であります。まぁ先週あたりはその辺も材料になっていたんでしょうか?


○量的緩和の出口政策論議に関して

まずはインフレ率の予想と言う問題に関して。

『(問)(第一、第二は前半でご紹介)第三に、政策運営に関連して、基調説明要旨をみるとインフレ率の通常の予測の視野について、1〜2年となっているが、実際の基調説明の中では、2〜3年先のインフレ率の上昇も考えていくことが重要だ、と述べていたと思う。この点について確認したい。 第四に、以前テーラールールに基づいて、翌日物金利は−2%くらいと言っていたと思うが、現在の計測では、テーラールールでは金利は何%くらいになるのか。』

『(答)第三に、出口との関係で、インフレ予想が1年前後先だけでなく、その先も、という話について、もう少し詳しく解説して欲しいということだと思うが、これは、我々がこれまで出してきた1年とか18か月先くらいの見通しをみるだけで十分なケースもあるだろうし、それだけではちょっと不安だ、というケースもある、そういう程度の話で申し上げた。 最後に、テーラールールに基づいた金利はどのくらいのレベルかという点だが、前提の置き方次第であり、まだまだマイナスという数字も出せると思うし、かなり無理をすれば、若干プラスという数字も出せなくもない、という程度かと思う。』

政策運営においてインフレ率の予想が下に外れた場合のリスクの方が大きいという話に関連して質疑が2つほど。

『(問)基調説明において、中央銀行の物価見通しが上下に外れるリスクがあることに関して、政策運営のリスク管理という概念に言及されたと思う。それを今後応用していくと、委員の指摘だと、仮に物価予想が将来下振れた方がコストが大きい、ということを念頭におくのであれば、寧ろ予想を外した場合の保険として、CPIが0%以上という条件を、例えば0.5%まで引き上げることも必要だと考えられるか。』

『(答)それは、今のような話に対応する一つのオプションだと思う。ただ、具体例でお話すると、インフレ予想が0.3%とか0.4%になったとして、それで解除できるかどうか。0.3%や0.4%という予想にかなり確信があり、従ってもう一回デフレに戻ってしまうリスクが非常に小さい場合。そうした場合と、3つくらいシナリオがあって、ひとつは0.3%くらいである、ひとつはデフレに戻る可能性がある、ひとつは0.3%よりちょっと高いインフレ率が出るかもしれない、そういう中での平均0.3%とでは違うと思う。あるいは更に言えば、来年は0.3%だけれども、その辺がピークであって、その後は下がっていきそうだ、というようなケース、同じ0.3%であっても、色々考えられると思う。』

『従って、ある種ののりしろ、保険料みたいなものであるXパーセントという数字を前もって出しておいて、そこを上回れば自動的に解除というような、はっきりと定量化した機械的なルールで対応した方が透明性が高いわけであるが、現実問題としてはそうようなものは難しく、裁量的な判断の余地を残しておかざるを得ないと、今、私は考えている。』

あくまでもケースバイケースという断りは入ってますが、これはよく読めば量的緩和政策の出口は結構先ですよって話な訳でして、量的緩和政策が景気が上昇局面に入っても継続されている可能性を意識すべきではないかと思う訳でありますな。当然こういう質問が起こるわけでして・・・・

『(問)先程、インフレ率の予想が下に外れるコストの方が、上に外れるコストよりも大きいとおっしゃったが、これは量的緩和政策解除に関するCPIの二つの条件が満たされても、なおかつ慎重に判断するという可能性について触れられたのかと思う。仮にそういう状況になって、量的緩和政策を解除するのかしないのか、市場が神経質になっている時に、「もっとやるよ」というように市場に働き掛けるよりも、基調説明で例にあげたグリーンスパン議長のように、「当面は量的緩和を解除しない」というような言い方、あるいは「1年、2年は解除しない」という言い方を今の段階からする方が、長期金利を引き下げる効果があるのではないか。景気が減速しようとしている今についても、景気を刺激する、支援する効果があるのではないかと思う。グリーンスパン議長が言ったように「当面量的緩和は解除しない」なり、「量的緩和は長期化させる」と明言した方が良いと思うがどうか。 』

『(答)Fedは「FFレート1%を相当期間続ける」という言い方をした訳である。これに対し、日本銀行はその点についてはもっと明快なことをずっと言ってきた。すなわち、「インフレ率の現実値と予想値の両方がプラスになるまで、現在の量的緩和を続ける」というスタンスにある。「かなりの期間」という非常に曖昧な表現に比べると、非常に明快な形で量的緩和、従って低金利を続ける期間を表明してきたということだと思う。』

『そのうえで、私が先程申し上げたような保険的な意味で、あるいはリスク管理的な意味での考慮も必要であるという話だが、これをさらに長期金利を下げる手段として使うということになると、先程質問があったとおり、もう少しはっきりと定量化させて、例えば「0.5%に予測値がなるまで解除しない」とか「1%になるまで解除しない」― あるいは他の言い方もあるかと思うが ― そういう定量的にはっきりとしたルールを示すということでないと、なかなか長期金利への強い働き掛けということにならないと思う。』

『しかし、先程お話したとおり、はっきりとした定量化が出来難い部分について配慮が必要であるという話であるので、定量化して期待にはっきり働き掛けるという所まではいき難いように思う。』

まぁ景気に遅行するCPIがプラス基調に転じた場合に景気の向きがどっちに行ってるのかって問題がありますので、中々このような仮定の質問に答えにくい訳ですが、とりあえず現状では「コミットメントの強力化」という事はオプションとしては有り得るけど実施するようなイメージではなさそうですな。


で、もう一つの問題であります「量的緩和の出口政策において金利と量の関係をどうするのか」といういわゆる「2段階解除論」の問題に関しての質疑もご紹介しないといけないのですが、時間と分量の関係から明日という事でご勘弁。

よーするにあたくしが常日頃から「2段階解除論(=量的緩和解除の後にゼロ金利政策に移行する)」に関して「んなものは有り得ません」と申しあげている通りの結論になっている訳ですが、最近知ったのですが、どうも債券市場では2段階解除論的な見方が大勢だったらしいので、市場では一応話題になっていたようでありますね。

という事でやたら長くなりまして恐縮至極。しかも続きあり。

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2004/09/17

お題「植田審議委員の講演」

昨日は静岡県金融経済懇談会で植田審議委員の講演、全国証券大会では福井総裁の挨拶がありました。金融政策の出口論がどうのこうのという質疑応答部分で相場がちょっと反応したような気もするのですが、残念ながらそのあたりの部分は今朝の時点ではアップされていませんので、植田審議委員の講演について景気に関する部分を主に見ていきます。

http://www.boj.or.jp/press/04/ko0409b.htm

講演のお題は皆様と同じく「最近の金融経済情勢と金融政策運営」ってものなんですが、便利なことに目次がついているので大体何を言っているのか最初の1ページで判るという物です(^^)。曰く、

1、予想を上回った景気回復
2、難しい経済予測
3、好調な中国・米国経済に支えられた景気回復
4、構造調整の進展も寄与
5、巡航速度を模索する中国、米国経済
6、世界的なハイテク景気の行方
7、日本経済も巡航速度の模索へ
8、リスク要因
9、生産性上昇と非正規雇用の拡大で抑えられるCPI
10、景気・物価情勢と金融政策


○景気の現状に関する部分

という事で、まーこの見出しでお分かりのように、景気認識に関しては海外っつーか中国と米国の景気に引っ張られているという話。ちょっと面白いな〜と思ったのは、「米国と中国」ではなく、「中国と米国」という表現になってる点。本文中にもあるのですが、輸出の増大に大きく寄与したのが中国向け(ここ2年での実質輸出の増加分に対する中国向け輸出の寄与度が60%近くに達するそうな)なのでそういう見出しになっているのですが、『東アジア向け輸出のかなりの部分は同地域で加工されて対米向けに再輸出されることを考えれば、日本の輸出増の主因は米国経済と中国経済の好調にあったといえよう。』って話になっておりまして、結論は「米国と中国」となっておりました。

GDP2次速報において設備投資が予想より伸びが悪かった点について言及している部分があります。上記「3」の中で言っておりますが。

『設備投資も好調に推移してきたわけだが、その中身がどのようなものだったかはやや不透明である。例えば、9月に入って発表された財務省の法人企業統計季報によると、ここ1年前後の設備投資をリードしてきたのは非製造業の中堅中小企業である。しかし、これは一般的なイメージとやや合わない。実際、9月10日に発表されたGDPの第2次速報での設備投資の上方修正幅は予想より小さいものだった。今回の法人季報に合わせて実施された年1回のサンプル替えで、設備投資額が大きめの中小企業が拾われたことによるバイアスがかなり含まれていると見られる。』

『6月の日銀短観によれば、2002年度から2003年度にかけての設備投資増額のうちの92%を製造業が、60%を製造業大企業が占める。2004年度計画の2003年度実績に対する増分についてもほぼ同様である。製造業の中でも電気機械、輸送機械、精密機械といった輸出関連産業の設備投資のウエートが高い。日銀短観に現れた姿が正しいとすると、設備投資の堅調さは輸出関連企業がリードしてきたものと言えよう。 』

となっております。この設備投資に関してその次には、実質ベースの話になるとまた変わってきており、設備投資の堅調さの裾野が広いという話をしております。

『設備投資のリード役が輸出関連の製造業であることを指摘したが、投資財の価格下落を考慮した実質ベースではかなり様相は異なる。先ほどの短観のデータを2004年第1四半期の設備投資デフレータの対前年比下落率4.3%で実質化してみると、2002年度から2003年度にかけての実質設備投資増額に占める製造業のシェアは47%に低下する。』

『すなわち、設備投資の裾野は格段に広くなる。あるいは、名目額で見ても法人企業統計の情報にもう少しウエートを置けば同様の結論となる。』

ということであります。まぁ要するに現状には相当強気ですな。


○今後の景気に関する部分

今後の景気に関しては見出しにあるように「減速しているが後退ではなくて、巡航速度の模索段階である」という事になっております。米国経済と中国経済に関してそれぞれ『市場における平均的な見方どおり、米国経済は巡航速度へ収束しつつある過程と見ておくのが良いかと思われる。』『要するに、中国経済に失速の気配は見えない。 』という事で、景気後退に関する懸念は日銀的にはひくーいってことでしょう。

で、目の前の某経済ニュース番組でも今後の懸念として大騒ぎしている原油価格に関しては極めてさらりと流しているのが印象に強い訳で(^^)、

『原油価格の上昇傾向も懸念される点だが、サプライサイドの要因もあるが、基本的には世界経済の拡大を映じたものであり、スピードや幅の問題はあるにせよ、原油価格の上昇から予想されるマイナスの効果のみをとりあげて論じるのは木を見て森を見ない議論である。実際、足元の日本の企業業績は原油価格上昇を吸収して好調が続いている。』

こんなのを読みながら唯一真面目に経済報道をしているニュース番組を見ると目の前では「原油価格が上昇しても東アジアでは石炭の依存度が高い」だとか「原油の埋蔵量がどうのこうの」という与太話(植田さんの講演を全面的に信用するとすれば、ですが)が展開されている訳でして、実に朝から心が温まると言うものであります。


○景気に関するリスク要因

じゃあリスク要因は何なんだと言うことですが、

『以上の見方(「リスク要因」の見出しの前の部分で説明している景気の見方でして、基本的には「腰折れ懸念無し」というもの)にリスクが無いわけではない。地政学的リスクが高まる可能性、ハイテク関連の調整が予想以上に深刻なものとなる可能性以外に、米中経済はそれぞれ問題を抱えている。』

『米国については、巡航速度へ移行する過程で循環的な調整局面に入るリスクは消えていないし、財政赤字、経常収支赤字のいわゆる「双子の赤字」を巡って、金融資本市場に波乱が発生するリスクも残っている。また、経済動向次第ではバランス・シートを拡大した家計部門の調整が深刻化する可能性もある。 』

『中国については、GDPの40%強を固定資産投資が占めるという中長期的には維持不可能ともみられる状態の調整が、どのような形で発生するかという問題がある。強めの経済指標が続いた場合、より強力な引き締め政策の発動という形で、近い将来にこうした調整圧力が顕現化するリスクがある。引き締め政策が発動されない場合には、原油を含む商品市況の一段の上昇、それによる中国を含む世界経済の減速という市場メカニズムによる調整となる可能性もある。』

『特に、中国経済が大きく減速した場合は、足許絶好調の日本の素材産業の業況には重大な影響が及ぶと考えられる。』

何か結構深刻なリスクのような気がするのですが気のせいでしょうか(^^)??

『国内に目を転じると、賃金が完全には下げ止まっていないことが、消費の先行きを考える上でのリスク要因である。この背景として、人材派遣に関する規制緩和によってパート・派遣労働者・請負労働者等の非正規雇用が拡大していることがある。この影響もあって、本年夏のボーナスは対前年比ではっきり下げ止まるには至らなかったと見られる。非正規雇用比率の上昇がどこで頭打ちになるかははっきりしないが、しばらくはこの比率の上昇が、平均賃金の足を引っ張る力として働きそうである。』

『ただ、逆に企業部門の体力はその分高まっているわけであり、経済の減速があった場合の抵抗力が高まっているという見方も可能であろう。』

とは言いましても、企業部門ってのは体力がちょっと高くなると経営資源をどぶに捨てたがる傾向もあるので油断はならないのですがね。まぁそれは只の愚痴ですが。


○物価動向に関して

『最後に物価の動きを点検してみよう。よく知られているように、内外の商品市況、それを反映した国内企業物価は上昇傾向にあるが、消費者物価指数(CPI)はなかなか重い動きである。図表7にあるように、コアCPIから診療代、たばこ、コメ、電気、さらに石油製品等の一時的ないし制度的要因を除去した指数の動きを見ると、ここ1年ほど−0.5%程度の変化率でほとんど動いていない。この1年は4%強の実質GDPの成長があったわけであり、通常では考えられないほどCPIの実体経済に対する反応が弱くなっている。 』

多くの審議委員があちこちで指摘しているのと同じように、今後の物価動向に関しては労働生産性と労働分配率に注目すべきと言うことになっております。

『この背景の解明が十分出来ているわけではないが、一つには、製造業中心の回復の中で、図表8にあるように労働生産性が4%前後というきわめて高い率で伸びており、なかなか雇用の増大につながっていないことがある。これに加えて、雇用はここ数ヶ月ようやく増加基調に転じているものの、非正規雇用比率の上昇によって平均賃金が抑えられていることがあげられる。』

まぁ皆さんご指摘のとおりです。


○金融政策に関して

のっけからこういうお話をしてます。

『以上のような分析から予想される今後のCPIインフレ率と金融政策の姿はどのようなものになろうか。まず、足許の原油価格の若干の落ち着きの気配、予想される9月からの米価の下落等を考慮すると、今後数ヶ月というような近い将来にインフレ率が基調的にプラスに転じる可能性はかなり低い。』

で、まぁもう少し先を見た場合どうなるかって話もしてますが、上下にぶれるとしても意外にぶれが小さいって話になっております。で、足元の金融政策スタンスに関してこのように話をしております。

『このように先行きについて様々な可能性を念頭におきながら、足許の金融政策スタンスを決めていくわけである。その際、図表1等で見たように景気予測がなかなか容易ではないこと、また物価の景気に対する反応度合いにも不確定性が高まっている点について中央銀行としてはどのように配慮したらよいだろうか。』

『日本銀行、そしてほとんどのインフレーション・ターゲティングを採用している中央銀行がそうであるように、インフレ率の予測値に基づいて足許の金融政策を決めるというのが基本である。これは政策効果の発現にラグがあるからである。 』

ドサクサにまぎれて足元の経済指標に一点張りを行う金融政策に関してケチをつけているところが実に微笑ましいです。おまけに「インフレターゲットも足元の経済指標ではなく、将来予測で政策をするものだ」と言っているのも中々(^^)。

『しかし、予測が難しい場合には、将来のある時点のインフレ率の予測の平均値のみに基づいての政策決定は最適でない可能性が高い。予測が外れた場合にどのような事態が発生するかが十分考えられていないからである。小さな確率でしか予想されないが、もしも現実化すれば経済にとってコストはきわめて高いというような事態も考えうる。あるいは予測が上にはずれた場合と下に外れた場合とでコストが非対称的だということもあるだろう。通常の予測の視野(おそらく1〜2年)よりも長い先についてのインフレ予測が重要ということもあろう。』

ほうほうなるほど。まぁこう来れば話の先は読めると思いますが、予想通りの展開。

『日本経済のおかれた現状では、当面インフレ率予想が下に外れるコストのほうが上に外れるコストより大きいと見られる(※)。その上で、私の考えでは、以上のようなこと、すなわちインフレ率予想の平均値のみでなく、それがどの程度上下、特に下に外れるリスクがあるか、それによるコストはどの程度のものか、さらに発表される見通しより先の期間についてはどのような見方が可能か、等の点について注意深い配慮が必要だと思う。こうした点を念頭におきつつ、今後の経済動向予測、金融政策決定にあたりたい。』

思いっきり「金融引き締め(というか量的緩和解除)が早すぎるリスクの方が、遅れた場合のリスクよりもでかい」と言ってますな。どうもこの辺りを見ていると原稿みただけでは債券の売り要因にはならんようにも見えますがねぇ。

で、上記の(※)の部分ですが、実際は脚注ナンバーがついていまして、そこにはちゃっかりヘッジクローズが入っております。もしかして実際にはこのヘッジクローズ部分が強調されていたのかもしれませんね。

『もちろん、インフレ率がどこかできわめて強い上昇基調に転じるというリスクを無視しているわけではないし、こちらのコストの方に相対的に大きなウエートをおくという局面に転じる可能性もある。』

その場の雰囲気とか、質問コーナーとか記者会見とかを見ないとどっちにバイアスが掛かっているのかというニュアンスが良く判らない所が残念ですが、普通こういう構成の文章であれば、脚注部分よりも本文にウェイトをおいて見るというのが正しい文書の読み方ではないかと思います。


という訳で、総じて見るとあまり債券を売り込むような講演内容とは思えないのですが、昨日の相場は偶々入札があって超割高になったために売れ行き低調とか、情報ベンダーに出てきたニュースフラッシュが何となく売りたくなるような文言があったとか、そんな感じなのかもしれませんね。あたくし的にはあまり売り材料には見えませんな。

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