金融政策(2004年度下期分)

政策内容・議事要旨・短観・展望レポート等


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2004年下期

2005/03/30「伊藤隆敏先生のインタゲ論、その実務的疑問点」
2005/03/23「2月の金融政策決定会合議事要旨を読む」
2005/03/22「金融の高度化支援って何よ?(プルーデンスの話)」
2005/03/17「金融経済月報3月:基調判断は据え置きも要因展開部分で判断前進」
2005/03/02「またも火消しオペとは大変ですな」
2005/02/24「手形オペが札割れ/当座預金残高問題に関する総裁国会答弁」
2005/02/23「当座預金残高目標問題(1月金融政策決定会合会議録)」
2005/02/21「唐突に期間9ヶ月の手形オペ実施」
2005/02/18「金融政策決定会合あれこれ:月報/全員一致?/火だるま記者会見」
2005/02/17「またまた輪番オペ肩透かし」
2005/01/31「議事要旨チェックの訂正と水野審議委員インタビュー」
2005/01/28「決定会合議事要旨チェック(12月16〜17日)」
2005/01/20「金融経済月報(1月)と総裁記者会見」
2005/01/19「当座預金残高目標引き下げに関する市場関係者アンケート」
2005/01/17「当座預金残高目標維持が困難になっているようですが」
2004/12/27「決定会合議事要旨チェック(10月29日、11月17〜18日)」
2004/12/24「11月17、18日決定会合議事録に見る『当座預金残高目標引き下げ』?」
2004/12/21「現状判断大幅後退、先行きは不変の金融経済月報(12月)」
2004/12/20「オペ騒動始末記」
2004/12/17「オペの打ち方が妙ですが」
2004/12/16「日銀短観」
2004/12/15「短期国債売却オペの実施」
2004/11/25「『宴の後』感が残る10月12〜13日の決定会合議事要旨」
2004/11/19「ダム論が消えた金融経済月報(2004年11月)
2004/11/08「田谷さんの後任に水野温氏さん内定」
2004/11/01「展望リポート2004年10月」
2004/10/19「9月8、9日の決定会合議事要旨に見る景気議論」
2004/10/14「金融経済月報(2004年10月)」
2004/10/04「日銀短観について少々」





2005/03/30

お題「伊藤隆敏先生・・・・・」

昨日の債券相場も先週木曜の相場に似てましたな。朝の経済指標がどっちかというと債券の買い材料の筈なのに何故か売りが出て相場下落。しかし後場になると倍返しで買いが入って大幅上昇しちゃうという格好。まぁイールドカーブを見ますと時間差短期化入替のようですが、最近の日中の動きは訳判らん・・・・


さて、既に別のところでも話題になっているので2番煎じもいいところなんですが、昨日の日経新聞「経済教室」に東京大学教授の伊藤隆敏先生が「物価安定目標の導入を」という寄稿を行っておるのですが、どうも現実に対して事実誤認とまでは申しませんが、そりゃちと違うんじゃないの?っていう点が散見されるのが極めて残念であります。

別にあたしゃー現場の経験主義全てエライとは思いませんが、金融政策に関して提言する学者さまの中でも影響力が高いと思われるお方にしてこのような認識というのは正直情けないと思うと同時に、もうちょっと「実務はこうなんですが」っていう宣伝を行う(日銀のWebを見てると結構頑張っているとは思いますが)必要があるんじゃないかと思う次第。

てなわけで、伊藤先生が見ている訳もないこんな所でこそこそと突っ込みを入れるあたくしはチキンですかそうですか。重大なところから順に愚意見を。


○当座預金残高に付利したら市場金利が上りますが

当座預金残高目標の維持対策として、長期国債買入の増額(それでもダメなら社債やREITなどの債券購入)を提唱している部分は激しく同意なのですが、第二の策として日銀当座預金への付利(当然ですが今は金利つきません)を提唱しておられます。

『余資を日銀に預けるインセンティブが高まるので、当座預金残高の目標維持は容易になる。こうして、デフレからの脱却がはっきりして金融引き締めの次期(追記:「時期」のタイプ間違えです)がくるまで、30兆ー35兆円を維持することは可能になるだろう。しかし、当座預金への付利により30兆ー35兆円を維持していることが、量的緩和の継続としてのシグナルを出し続けることになるかどうかは、確実ではない。』(3月29日日本経済新聞「経済教室」より引用。以下同様)

いやまぁそりゃそうなんですが、日銀当座預金に利息をつけますと資金運用側としては日銀当座預金が一つの「運用先」としての選択肢として浮上(今は利息が付かないのでタンス預金みたいなもん)する訳でして、そうなりますと短期市場金利が日銀当座預金金利まで上昇しちゃうんですけど、マネーの供給がされれば良いから金利が上っても無問題って事なんでしょうか??

金利が少しくらい上っても(屁のような金利だったら市場金利はそんなに上がりませんが、今度は日銀当座預金残高を積むインセンティブが働かないわけでして。事務コストとかバランスシート拡大とのトレードオフという面もありますんで・・・・)問題ないから日銀当座預金残高目標は維持しろという趣旨で仰せなのか、それとも結論である物価水準数値目標の導入への単なる露払いなのか良く判らんのですが、何の断りも無しに堂々と「当座預金残高に付利」って話をされますとちょっともうその時点で伊藤先生の金融市場に対する理解度に?をつけたくなっちゃう訳ですよ。

どうかとおもいますがねぇ。



○「世界で使えて自宅で・・・・」面目躍如といったところでしょうか

福井総裁の量的緩和政策に対する姿勢を高く評価する一節。

『さらに03年春から秋にかけて、福井総裁が講演などで、量的緩和政策の終結までは非常に忍耐強くなるという発言を繰り返して、日銀のデフレ脱却への決意を市場に送った。直接的には言わないものの、「2000年8月に行った、デフレ下の金融引き締めの愚を繰り返さない」というメッセージが込められていると受け取られた。こうした日銀の力強い姿勢が市場に安心感を与え、03年度後半から04年初めにかけての急速な景気回復に貢献したことは間違いない。』

2003年春から秋にかけてといえば、りそな銀行絶賛大救済スキーム発動という政策転換によって株価が反発。いつの間にやら政策委員会方面から出口政策話が浮上して「量的緩和政策の早期解除懸念」から中短期債が大暴落して早期利上げ織り込みモードになってしまった恐怖の時期。大体それで金利が上昇しまくったお仕置きとして「量的緩和政策のコミットメント明文化」などという事になったと金融市場では理解しておるのですが。金融市場(の実務担当者)では福井総裁は発言はぶれる(というか一貫性がない)わ、わけのわからん市場牽制発言をするわと「ちとどうよ」ってイメージだとは思いますが、こういう感じで世間様へのウケは絶大なんですよね。

読んだけどあたくしが頭が悪いので変な感想を書くと恥ずかしいなぁなどとらしからぬ羞恥心から書評を書いてない(だけなので実はこの本は判りやすくって良い本だと思います)岩田規久男先生の「日本経済を学ぶ(ちくま文庫)」でも福井総裁の量的緩和政策維持の姿勢を高く評価する記述があったりと、まぁ金融市場などという狭い世界じゃ無いところからは「福井総裁は量的緩和政策を断固継続する意思が強い」と思われているんでしょう。

まぁ確かに「金融政策期待への働きかけ」という意味においては、市場がどう思っても世間様がちゃんと期待してくれればそれはそれで目標の達成に資するとは思います(本当か?という気もしますが)ので無問題なんでしょうか。

ちょっと昔に某携帯キャリアを揶揄して「世界で使えて自宅で圏外」というのがあったんですが、福井総裁さすがですなって感じであります(^^)。



○まぁ下らない突っ込みですが

『当座預金残高目標の引き上げは、為替介入を非不胎化するというシグナルでもあり、金融緩和の決意を示したものとして市場から歓迎された。』

非不胎化問題に言及したのは岩田副総裁だけですが、その岩田副総裁も講演で「あくまでも事後的にではありますが」という言い方をしておりますんでまぁどうなんでしょ。確かに「公的には認めないけど実際は非不胎化介入の実施」なのかもしれませんが、「財務省が介入ばっかしやがるから当座預金残高を引き上げないと資金が回らん」という後追い引き上げなのかも知れませんし、そこを断言するのは微妙でしょうな。

えー他にも微妙に何か因果関係を取り違えているように思える記述がある(最初のあたり)んですが、あたくしが思うだけなのかもしれないのでその部分はペンディングとしまして・・・・・


○この部分激しく同意です

『30兆ー35兆円の日銀当座預金残高はそもそも「金融政策」として金融政策決定会合で決定してきたことである。決して金融システム安定だけのためではない。したがって、日銀当座預金残高の目標額の引き下げ、あるいは実績が目標を下回るようなことが続けば、これは金融引き締めの第一歩であると理解されたとしても仕方がない。』

全く仰るとおりで、一部政策委員の論理崩壊は如何なものかと存じます。

ではでは。

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2005/03/23

お題「2月16、17日の決定会合議事要旨」

債券相場のほうはと申しますと月末まででかい入札がない事もありまして何となく下がりにくい(今朝は海外要因がありますんで微妙ですが)という感じの動意薄相場でございます。そんな中で昨日は2月に実施された金融政策決定会合の議事要旨が発表されましたが、既に当座預金残高目標引き下げ騒動で大騒ぎをやってしまったので何か反応が全然ありませんでした。

で、金融政策に関る議論に関して読みますと、当座預金残高目標問題の論点整理状態になっておりますので、まーそのあたりからチェックしておきませう。大体今まで言われてきた話ではありますがこの機会に。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/g050217.htm

つー事で「V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」以下の部分なんで議事要旨の最後の1ページ半(実質8ページなんですが)を読むの巻です。


○(政策論ではないですが)資金需給が狂った場合の見方

当座預金残高目標と言いましてもまぁ当日に予期せぬ資金需給のぶれが生じてしまった場合はどうなるかって話が最初のあたりで言われています。

『何人かの委員は、資金需要が予想外に大きく振れるような場合には、当座預金残高が30兆円を幾分下回ることが起こらないとは言い切れないと述べ、万一そうした事態が起きた場合は、出来るだけ早期にこれを解消することが必要であると指摘した。その上で、こうした調節運営であれば、現在の金融市場調節方針が目標レンジを「程度」で示しているとおり上下に若干の糊代をもった枠組みであることから、金融市場調節方針に沿った運営と言って良いのではないか、との考えを示した。』

まぁこの辺に関しては市場コンセンサスと一致するのではないかと愚考しております。糊代がなし崩し的に拡大されると扱いに困りますが。以下は政策論、多くの委員が見解を述べたそうで。

『また、多くの委員は、先行きの調節運営の考え方について見解を述べた。』

個別意見に関して突っ込みを入れるのは最後の方で、というか本日の駄文の趣旨は意見整理でして、あたくしの意見は既に耳タコかと存じますんで(^^)。


当座預金残高目標の引き下げまたは容認に近い見解

○金融システム不安対応の部分は引き下げ可能という説

『ある委員は、量的緩和政策継続の3つの条件が満たされるまで量的緩和政策の枠組みを堅持しつつも、ペイオフ全面解禁を経て金融システムの安定が確認された際には、過去金融市場の安定確保を目的に当座預金残高目標を引き上げてきた経緯を踏まえ、市場の状況等を確認しながら慎重に減額していくことが適当であるとの意見を述べた。』


○技術的な問題という説

『別の委員は、この問題は、政策というよりは技術的な問題と捉えるべきであると述べた。』


○微妙なんですが「説明をすれば出来る」ともいえそうな態度留保

『何人かの委員は、先行きについては様々な不確定要因があり、今の時点で言えることは、景気・物価情勢を的確に判断した上で、実際の金融市場の状況やオペの応札状況なども丁寧に確認するとともに、市場や国民の受け止め方、将来の政策運営への影響等も踏まえつつ、慎重に検討していくことが適当ではないかとの考えを示した。』


当座預金残高目標の引き下げ反対の見解

○引き下げにメリットがないという説(こういう言い方は初めて見たかも)

『これに対し、ある委員は、当座預金残高目標の引き下げは、そのマイナスの影響と比べて、メリットがほとんどないとの見方を述べた。』


○量的緩和政策(なのか時間軸効果なのかという点は微妙ですが)が期待に働きかける点を重視した説

『日本銀行におかれても、このような基本スタンス(注:デフレ脱却の為に政府・日銀が一体となって取り組むべきだということ)のもと、平成13年3月以降、量的緩和政策を開始され、これまで順次日銀当座預金残高目標を引き上げ、これを維持することを通じて、こうした政策スタンスを対外的に示されてきたものと理解している。』

『現状においても、民間主導の持続的な景気回復の達成およびデフレ克服に向けた最大限の努力が必要な状況に変わりはなく、日本銀行におかれては現在の政策内容を継続することにより、こうした日本銀行の断固たる姿勢を市場や国民に示して頂きたいと考えている。』

読めばお判りのようにこの部分は審議委員の意見じゃないです。財務省の出席者からの発言です。


○当座預金残高をマネーサプライと比較的密接に関連させている説

『日本銀行におかれても、政府との意思疎通を密にしつつ、デフレからの脱却を確実にすべく、思い切った金融緩和を続けられることを期待する。デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、当座預金残高の増減が最近注目を集めていることに鑑み、効果的な資金供給により、さらに実効性のある金融政策運営を行って頂きたいと考えている。』

これも審議委員ではなく、マネーサプライといえば内閣府。おまけですが内閣府の出席者からの発言の続きに謎の一節があります。インタゲ導入しなさいって話なのかな??

『また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待する。』



・・・・と言うことで議事要旨を何の芸も無くコピペしておりますが(^^)、反対の見解としてあたくしが勝手につけたお題に関しては財務省と内閣府からの意見をうまく反映しているのかどうかちと微妙。

財務省は「そもそもデフレ脱却の為に当座預金残高目標の引き上げをしているのだがらデフレ脱却してないのに引き下げをするのは変だろう」という原則論というか筋論を言っているという感じですし、内閣府はマネーサプライの増加ペースが相変わらず鈍化している点を踏まえて「当座預金残高目標の引き上げがそもそも不十分ではないか」と言っているようにも思えます。まぁどちらにしても反対である事は間違い無いでしょうな。


まぁ大体上でご紹介した見解(とあたくしが勝手に補足した見解)で概ね本件に関する現状の意見はカバーされていると思います。もう一つあるとすれば総裁が折りにふれて言及する「相対性緩和論」でして、同じ金融緩和政策であっても、状況によって効果が違ってくる(景気が拡大傾向にある時は効果が「押し上げ介入」みたいに大きくなる)っていう話ですかね。


○で、これを見ると政策委員会は当座預金残高目標引き下げに関して・・・

賛成2、反対1、その他6名は態度保留と読めますが、さてその態度保留がどっちの態度保留なのよって感じですわな。まぁ態度保留って事は量的緩和政策の枠組みの範囲内での当座預金残高目標引き下げに関して検討余地があるとしている訳でして、こりゃまぁ5月の決定会合とか4月の議事要旨が出る頃とかの時期はまたぞろ思惑絶賛大浮上の巻って感じなんでしょうなぁという悪寒が致します。

金融政策運営の話以外にも少々「ふーん」って思う部分が無くはないのですが、話題が発散するので本日はこの辺で。





2005/03/22

お題「日銀よお前もか・・・・」

休み明けはおおぼけモードなのですが、3日も休むと・・・・って事で今朝は甚だ簡単に。

○ペイオフ全面解禁後の金融システム面への対応について

先週金曜日に上記のお題で機構改革だの今後の日銀の政策運営だのが発表されております。場中にいきなり「ペイオフ全面解禁後の新しい政策運営に関して3時過ぎに発表」ってのが出た時は一瞬何の事かと思いましたがまぁご愛嬌って奴ですか。
http://www.boj.or.jp/set/faa0503a.htm

まぁ「決済性預金全額保護」と言っている時点でペイオフ全面解禁もへったくれもあったものではないと相変わらず思っているんでその時点ではぁはぁそうですかってなもんなのですが、今回の施策は公式発表文を見たところ一応日銀としては政策の基本的なありかたの転換って感じのようですわな。

「基本的な考え方」の冒頭部分にこんな事がかいてあります。

『こうした変化(引用者補足:ペイオフ全面解禁)を受け、日本銀行の金融システム面の対応も、これまでの危機管理重視から、(以下の太字部分は本文中にわざわざ太字にしているものを忠実に太字化したものです)金融システムの安定を確保しつつ、公正な競争を通じ金融の高度化を支援していく方向へと切り替えていく必要がある。』

はぁはぁそうですか。要するに危機管理モードが終了したという事なんでしょうが、この「金融の高度化を支援」ってのはこりゃまた面妖なお話だと思ってその先を読むと、金融機関に対して何でもかんでも手取り足取りな上に、最近では産業政策までやろうとしてませんかっていう勢いで昔の大蔵省もビックリの金融庁さまを彷彿させる記述がございます。


○金融の高度化支援ねぇ・・・・

2段落目はまぁ普通の話(やや気になる点もあるが突っ込み省略)ではありますが、3段落目以降が「金融の高度化支援」話であります。

で、内容を突っ込みながらネタにする前にあたくしの思うところを申し上げますと、金融庁に影響されているのだか何だか知りませんが、日銀が以下にご紹介するように金融機関に対する「高度化支援」みたいな事をやるのはどうかと思いますな。どうもいまやっている(またはやろうとしている)事は、古き昔の「行政指導」と思いっきりかぶるお話(金融庁も日銀も)に見えます。金融自由化だの構造改革だのってのは確か「一定のルールを適用して原則自由化。監督官庁はルールが正しく運用されているかどうかの公正な審判役」ってのが骨子だったと思うんですが、そーゆー精神はどこに逝ってしまったんでしょうなぁ。

と申しますか、やたらと「ご指導」をした挙句に問題が発生した場合にはだれがどう責任を取るんでしょうなぁと思いますと益々寒いものを感じる訳であります。どこぞの役所みたいに「無税償却は認めないけど繰延税金資産認めてやるから引き当て増やせ」と指導した後に「繰延税金資産の過大計上だ」などと梯子を外して涼しい顔をするのでしょうかね。ま、なんちゅうか困った話だ。では本文に突っ込み。タグのようなものはあたくしの補足(太字部分スタート〜エンド)です、念の為。


○鼻息荒く「かくあるべし」

『一方、金融の高度化は、今後、日本経済が持続的、安定的な発展を遂げていく上で、重要な前提条件となる。日本経済を取り巻く環境が急速に変化する状況において、円滑で効率的な資金の配分を実現し、経済全体の活性化を図っていくためには、より多様な信用供与の仲介チャネルが存在し、金融仲介構造が柔軟で頑健なものであることが必要である。』

いやまぁ重要な前提条件だとか必要だとかそう考えるのは結構なのですが、何と言うか「かくあるべし」みたいな理念先行の香りが致しまして、大昔に読んだ小説「官僚たちの夏(城山三郎)」ですなぁなどという感想でございます。つーかそういうものは「かくあるべし」から生まれるものではなくて、その国あるいは経済主体が必要であるとなればちゃんと発生する物ではないかと思うのよ、あたしゃー。

従って本当に必要なのは、新たに生まれる金融手法に関して不必要な規制(その手法が単に詐欺だとか犯罪的な手法だったら規制せにゃーなりませんが)を行わないようにするとか、法律面などでの整備を行うとかってお話だと思うんですけど。

と、思いながらその次に参りますと、益々「かくあるべし」攻撃が爆裂。



『そして、そうした金融仲介構造の実現のためには、融資慣行の見直し、金融機関のリスク管理の高度化、クレジット関連市場の整備など、金融システム面でなお広範な取組みが求められる。

この太字部分が一々突っ込みどころというのは狙ったギャグなのでしょうかって感じですが、融資慣行の見直しってのは金融庁がお好きなネタ。リスク管理の高度化ってのはバーゼルU絡みなんでしょうが、そもそもバーゼルUは何度か話のネタにしているように「中小零細企業向け小口貸付のリスクウェイトが大企業向け貸付のそれよりも何故か低い」とか「金融機関の金利リスクを図る際に用いる標準的な金利ショックがイールドカーブのパラレルシフトという基本的に有り得ない事を前提にしている」などと精緻化しているように見えても「はぁ何ですかそれは?」ってのがある訳ですな。それをベースに「高度なリスク管理」のご指導をしても、本当に問題が発生した場合に高度なリスク管理とやらで想定しているような結果で収まるんでしょうか?

リスク値の計測そのものは要するに計算の世界でして、問題はその前提条件が実態に即しているかどうかなんですが、だいたい「最新の金融工学を駆使した手法」ってのは計算の精緻化方面に走りたがるらしいんでご注意ありたい所でありますわな。まぁそりゃ世の中全てを前提条件に組み込む事は不可能なんで、使う側はモデルの前提条件がどうなってるかを知っておく必要があるということですわな。何だか話が逸れましたが。


○あっはっは

『このような金融高度化が関係者の努力で進展していけば、日本銀行の金融政策運営面でも、その効果がより効率的に経済に及んでいくものと考えられる。』

これだけ散々「かくあるべし」話をぶち上げておいて「関係者の努力で進展」といきなりひとごとモードになるのは如何なものかと。まぁそりゃ「私たちが絶賛ご指導する」と言うのは問題ありだってのは判りますがねぇ。


『金融の高度化に向けた民間の取組みを支援するため、日本銀行としては、考査・モニタリングにおいて、金融機関のリスク管理・経営管理の高度化を促すことを通じて、新しい業務展開などの動きを積極的に後押ししていくほか、組織体制、金融機関との対話チャネルなどの面でも工夫を凝らしていく。』

と書いてますが、要するに「乃公出でずんば蒼世を如何にせん」って事なんでしょ。まぁ後押しされたらその先は崖でしたって事のないようにして頂きたいものでございます。

ちなみに、基本的な考え方の続きは上記日銀WebからPDFファイルへのリンクがありますので、その辺でもご覧頂けるとなお「???」なのですが、その5ページ目あたりなんぞを見ておりますと、今般の組織改変に伴い「金融高度化センター」なるものが設置されるようでして、「公開セミナーの実施」という目玉施策が予定されているらしく、あんたは金融コンサル会社かと突っ込みたくなります。その部分を引用。

(公開セミナーの定期的開催)

金融の高度化に関する諸問題に取り組むための前提条件として、問題の所在、解決の方策等に関して金融機関等と広く理解を共有する必要がある。そのため、内外の金融機関の経営者や実務担当者を主たる対象とする公開セミナーを定期的に開催する。本公開セミナーは、考査・モニタリングと並ぶ、金融機関等との間の第三の対話チャネルと位置付ける。

テーマとしては、@試算の経済価値把握のための高度な手法の開発と共有、A融資を巡る金融慣行のあり方、B金融情報セキュリティを巡る経営上の問題と解決の方策、C新しい金融業務の展開に見合った会計処理のあり方、D新たに実施する考査・モニタリング技法の解説、などが考えられる。

(引用終了)いやまぁそうですかとしか言いようがありませんが、何か既に「頭でっかちの人たちが寄ってたかって高度な金融手法の話をした挙句、使えない施策を押し付けてくる」という予感が思いっきりするのはあたくしの杞憂ですかそうですか。


○というわけで

まぁこういう方向になりそうだなかというのは昨今の日銀の偉い人たちの言動を見ておりますと予想はできない事もなかったのですが、金融庁と日銀がせっせとご指導(つーか金融庁の場合は強制みたいなもんだが)する金融機関って何なんでしょうなぁというのが感想でございました。まぁ碌なもんじゃあねぇな。

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2005/03/17

お題「景況感と物価先行き判断が微妙に強気復活のようで(3月月報)」

20年国債入札だというのにNYで株安とは甚だ迷惑ですな。上ったらインデックス系のリバランスか新規資金流入しか買いがなくなっちゃうんでご勘弁願いたいですな。

さて、100人のうち200人が現状維持を予想した金融政策決定会合ですが、金融政策は兎も角として、発表された金融経済月報はあたくし的にはちょっと意外感がある「強気」な内容になっておりました。例によって2月(=1月とまるっきり同じ内容でした)分と比較検討します。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/gp0503.htm

○景気の基調判断をやや上方修正

(3月)『わが国の景気は、IT関連分野における調整の動きを伴いつつも、基調としては回復を続けている。』
(2月)『わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるものの、基調としては回復を続けている。』

こう比較すると、1〜2月時点で「生産面など」と言っていたのを「IT関連分野」と限定列挙した形になっていると読めます。全体基調に関する「生産面の弱さ」という所を削っており、判断をやや確り目にさせたと言えそうですな。


基調判断の個別展開部分を順に見て行きます。まずは輸出と生産。

(3月)『輸出は持ち直しつつあるが、IT関連分野の在庫調整が続いていることなどから、生産は横ばい圏内の動きとなっている。』
(2月)『輸出が横ばい圏内で推移する中で、IT関連分野の在庫調整などから、生産に弱めの動きがみられる。』

輸出も生産も基調判断を上方修正。やや弱めとなっている生産の要因としてあげているのが2月の「など」が消えて基調判断と同じように限定列挙型になっております。次は設備投資。

(3月)『一方、設備投資をみると、企業収益が改善基調を維持するもとで、製造業を中心に増加傾向にある。』
(2月)『一方、設備投資をみると、企業収益が改善するもとで、引き続き増加傾向にある。』

微妙に言い回しが変わってますが、改善するってのが改善基調を維持っていうのは良くなっているのか足踏みなのかよーわからんですな。いつもながら雇用、個人消費、住宅投資、公共投資に関しては2月と同じなので引用省略。


○先行きの景気に関しても微妙に強気っぽい

『先行きについても、景気は回復を続けていくとみられる。』ってくだりは同じですが、輸出や生産に関る部分でまた微妙に表現が判断前進。

(3月)『すなわち、海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、IT関連分野の調整の影響が徐々に弱まるにつれて、輸出や生産は増加していくとみられる。』
(2月)『すなわち、当面はIT関連分野の在庫調整の影響が残ると予想されるが、海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、輸出や生産は、基調的には増加していくとみられる。』

先行きとしてはIT関連分野の調整が終了に向かっていくと輸出や生産は増加しますなぁって話です。2月時点での判断は絶賛調整中なので、先行きの輸出や生産について「基調的には増加」という日和見的な表現をしていたのと比較するとこの部分に関しても判断を前進させているということが見えますな。日銀結構強気ですなぁ。雇用者所得と公共投資に関しては2月と同じなので引用略。


○物価に関して

現状判断部分。

(3月)『物価の現状をみると、国内企業物価は、昨年末にかけて原油価格がいったん反落したことなどから、足もと弱含んでいる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、電気・電話料金引き下げの影響もあって、小幅のマイナスとなっている。』
(2月)『物価の現状をみると、国内企業物価は、昨年末にかけての原油価格の反落などから、足もと弱含んでいる。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナスとなっている。』

国内企業物価の足もと弱含み状態に関しては昨今の原油価格上昇を意識して「いったん反落」という言い方で先行きの反転を意識させてますな。実際この後に「先行き強含み」って書いてます。また消費者物価に関して小幅マイナス状態に関して「電気・電話料金引き下げの影響」を強調しておりまして、最近日銀審議委員から出ている「財の価格は基調としてゼロ」って話と平仄をあわせているのがちと気にかかる所ではありますなぁ。

先行きに関して。

(3月)『物価の先行きについて、国内企業物価は、内外商品市況の上昇を受けて、強含んでいく可能性が高い。一方、消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、電気・電話料金引き下げの影響が続くこともあって、小幅のマイナスで推移すると予想される。』
(2月)『物価の先行きについて、国内企業物価は、内外の商品市況次第であるが、当面、弱含みないし横ばいで推移する可能性が高い。一方、消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、公共料金引き下げの影響などもあって、小幅のマイナスで推移すると予想される。』

というわけで先行きの国内企業物価については強含みを予想。消費者物価については小幅マイナス推移と毎度お馴染みの表現ですが、消費者物価のマイナス推移の要因として電気・電話料金と言う形で明記しているのが、上で書いた事と同じ理由で少々気にかかる所ではあります。


なお、金融面に関してはマネタリーベースの数字が実際に出てきた統計にあわせて直しただけで基本的にまるっきり同じ話なんで例によって引用省略。


結論としては「細かく判断を前進させてますなぁ」という所でしょうか。


○おまけ:総裁記者会見に関して

例によって会見要旨は今日日銀のWebにアップされますんでそれを見てからなんですが、情報ベンダーから出てきた記事を見ていて思わず茶を吹きそうになったのが2本ほど。ソースは時事メイン。

その1はこの前のBIS総会での記者会見と同じですが「2月28日の講演は一般論として言ったに過ぎない」って話。「特定の相場水準を意識して話をした訳ではない」って事らしいんですが、それなら最初から一般論として話をするとか、行き過ぎた金融緩和長期化観測による長期金利の過剰なフラット化の例として一昨年の20年金利1%割れの話をするとか、話の言い様ってものがあるでしょうと思いつつ。

まぁ本当は漠然と相場のイメージをしていたんでしょうが、いきなり「福井ショック」などと口の悪い人たちに言われて非難轟々だったので慌てて一般論とか言ったんじゃねーのとか意地の悪い見方をしたくなりますな、あっはっは。

その2は就任2周年って事で感想を問われた時の答えなんですが、「私は立ち止まって後ろを振り返る習性はない」と(実はなお笑える前置きもあったとの事ですが)ご発言になられたそうです。

・・・・量的緩和政策のレビューはしないということですかそうですか(苦笑)。

特に2番目の方は大笑いさせていただきました。さすが芸風を外しませんな。


ではでは。

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2005/03/02

○火消しオペリターンズ(か?)

昨日の日銀の金融調節は「ほほう」と思わせるものが2本ございました。

まず10時10分に行われた国債買入。最近ややパターンが崩れているというのはありますが、基本的には月曜か水曜に実施されるというパターンが目立つオペだったのですが、昨日はいきなり月初の火曜に実施。あまり市場としては予想をしていなかったせいかちと不意打ちになったようで先物が少々戻りましたな。で、これがまたお笑いなのですが、昨日の前場引けはバイカイ食い合いの引けもうさずになってしまい、引けで先物のヘッジが出来なくなるというスカポンタンな事になりました。そのために事前予想より長期債がオペに吸収されなかったようですな。

先日来指摘しておりますように、ここの所妙にオペのタイミングに「オペを打つ人の意思らしきもの」が感じられるようになっている訳ですが、金融政策決定会合直前に実施しない国債買入が「決定会合に配慮して結果待ち」というものを感じさせるのに対しまして、昨日の場合は「福井総裁の内外情勢調査会における講演にショックを受けた金融市場の火消し」という意図があるんじゃぁねぇかというそこはかとないものを感じさせてくれました。


もう一つのオペは13時に行われた全店手形オペ。3月3日スタートで何と来年1月11日エンドとGWに半期末2回に年末越えという314日の資金供給。この前久しぶりに長期間のオペ実施などと言っていたものからいきなり50日ちょっとの期間延長。もう何だかヤケクソになっているのじゃないかと何か心配(^^)。

これもまた「市場に配慮」って奴なのかなぁという感じでして、まぁ当然ながら一昨日の福井総裁講演によってユーロ円金利先物市場なんかでも金利先高感が台頭しているかのような価格形成が行われておりましたんで、「まぁお前ら落ち着け」というオペだったのかもしれませんな。

「かもしれない」という言い方になったのは別の見方もある訳でして、とりあえず今回資金供給期間を長くしたのは先日期間259日の供給オペが見事に札割れしていたんで、「資金供給への努力をしておりますよおっほっほ」という姿勢をみせているとも言えるのでございますな。

この場合は「資金供給オペの期間を長くして工夫してみました」→「(そのうち)どうも札割れが発生しますなぁ」→「やっぱり流動性を減らした方が良いんじゃねーの」→「当座預金残高目標・・・・」という連想が働いてしまったりする次第でございまして、そうなりますとやっぱダメダメじゃんってことにもなりますので、まぁ正直真意がどこにある(何も考えないで単に札割れ回避したかっただけかもしれませんが)のか判らんところですな。


手形オペの場合はイマイチよー判らんところがあったからなのかどうかは不明ですが、債券市場ではそれまでどちらかと言えば超長期ゾーンなどが堅調に推移していたのですが、オペオファー後にはイールドカーブがスティープ気味に推移しました。あまり関係は無いかもしれませんが、「長めの短期金利の安定化」というようなオペに対してイールドカーブがスティープで反応というのも自然と言えば自然なのかな?

ちなみに、全店手形オペ結果は1兆円の予定額に対して応札は目出度く22273億円で札割れ回避なんですが、応札サイドは見事に日銀の足元を見透かしているようでして(笑)、一発目から下限レートの0.001%の札しか入っていなかったようですな。落札10008億円で按分比率44.9%って言う事は全部の札が0.001%に入っていたと容易に逆算できる訳でして、次回以降のオペ大丈夫かな〜と不安になりますわな。


いずれにせよ、いつの間にやら「シグナリングオペ」という古き時代のオペレーション手法が局地的にではありますが絶賛大復活中となっているということでしょうな。何だかな〜。

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2005/02/24

お題「相変わらずオペ札割れ問題」

まぁこの話ばっかで恐縮なんですが・・・・・

○手形オペの札割れなんですが

昨日実施された期間264日間(2月25日〜11月16日)の手形買入オペが1兆円の実施予定に対して9297億円の応札しかなく見事札割れ。まぁ先日の総裁記者会見を受けた(?)259日の手形オペをやったのが金曜日で、そんなに間をおかずに長期間のオペを打ったというのも何なんですが、とりあえず札割れは札割れでございます。

期間のながーい手形オペを実施したのですがいきなり札割れって事でして、「またまた札割れ」と札割れがクローズアップされそうではありますが、これは基本的にオペの打ち方が(札割れさせない積りなら)あまりお上手ではなかったのではないかって感じです。

と申しますのも、短期国債市場のほうでは一頃の100円落札祭り状態は沈静化しておりまして、手形買入じゃなくて短国買入とか債券買現先オペを実施すればそうそう札割れにもならんと思う状況らしいようなんで、そう長期間の手形オペを連発する必要があったのかね〜って感じです。

もともと銀行は資金調達意欲が乏しいですし、どっちかと言えばオペ札割れ→当座預金残高目標維持困難→無理に資金供給する位なら当座預金残高目標維持に拘らない→短期金融市場の市場機能の復活という方向性をの望ましいと考えている人が多そうな短期金融市場のメジャープレーヤー様に「足もとを見透かされた」格好にもなってしまったの図って事で実に香しい。益々本質から外れそうですが(^^)、札割れさせたくなかったら相対的に資金調達能力が劣る(預金という究極の無担保調達が出来ないから)証券会社が参加しやすい債券系のオペを打ちますと吉ではないかと思いますがね〜。

一回札割れしちゃうとまぁ余程資金需給が逼迫する(ということは基本的にありえませんわな)事が無い限り「所詮前回札割れですし」って話になっちゃって、益々応札が消極的になるという楽しい悪循環が待っておりますんで、そう簡単に札割れになってしまわないようにもうちょっと慎重(1兆円も打たないとか)になったほうが良かったのではないかと、後出しじゃんけんながら思うのでありました。

まぁ最近の「意図だしオペ(か?)」に見られるように、今回のオペは実は調節担当部門で「とっととオペ札割れして当座預金残高維持問題を再燃させなさい」という隠れた意図があって、以心伝心で応札側が乗った結果が札割れでした、な〜んて話だったら物凄い勢いで感動する(何に?)のですが・・・・・・


○財務金融委員会での総裁発言

昨日の衆議院財務金融委員会に出席した福井総裁は公明党の谷口委員(って事は昔の財務副大臣でしたっけ)から札割れ議論に関して質問を受けたらしいですな。国会の会議録ってのは直ぐにアップされるものではないんで、後で見るときは兎も角とりあえずは情報ベンダーのニュース記事を参考にする(インターネットの国会審議中継を見て文字起こしするという手はあるんですが、そこまで細かくチェックする時間が無いのでゴメンナサイ)事として本日はブルームバーグニュースを参考にしつつ(以下総裁発言のソースはブルームバーグニュース)。

まぁ当然ながら「量的緩和政策の堅持」については強調しているのでそのあたりは安心できますな。

『いずれの委員にも共通することは、金融政策の基本的なフレームワーク、つまり量的緩和政策の枠組みと実態的な緩和の度合いに修正を加えようということでは全くない』

ただ、札割れを受けても当座預金ターゲットを堅持するのかという点に関しては報道される限りにおいてはだいぶ怪しげなところがありますな。まぁ最終的には「本当は何言ってるの」という検証が必要だったりしますけれども。

『4月以降ペイオフの全面解禁後、まず経済情勢がどう展開するか、それと金融システムの安定度合いはさらにどの程度、どのようなスピードで確立していくか。その関係のなかで、金融市場でイールドカーブがどういう形状で形成されるか。それらによって実態的な流動性需要の出方そのものが大きく変ってくる。そこをまず見極めていくことが先決』

『そのうえで初めて、札割れという現象と、30−35兆円程度のターゲットとが現実的な整合性という点でどれくらい問題が生じてくるか、正確に認定できる。そこのところを正確に認定しながら、技術的な対応を加味していくことがより望ましいのかどうかは、その時点で判断できるだろう』

・・・・・何か雲行きが怪しい答弁に見えますわな。

『そこのところ(技術的な対応が必要かどうかとかいう話だと思われます)は今からその先を見通して議論は始まっているが、まだ具体的な結論に向かって収束していく段階ではない。まず前段階の諸情勢の変化をこれからもしっかり見極めながら必要な議論を進めていきたい』

ということで、あくまでもペイオフ解禁後の状況を見るって言ってはおるのですが、市場というのはいわゆる自己実現ってぇのをするものでありまして、「ペイオフ解禁後には当座預金残高目標の見直しが必至」だという認識が共有されれば市場の方としては勝手に織り込みに行くものですし、織り込みに行く事によって多少懐疑的な人もついていかざるを得ないという話になるという点に関して少々配慮が不足しておられるのではないかという感じですな。今に始まったことではないですが。

まぁ当座預金残高目標割れに関して「技術的対応」をする気だというのであればそれはそれで政策判断なんですが、少なくとも前回会合時点で当座預金残高目標維持が全員一致だったのにそれはどうよって思うのはケチのつけすぎですかねぇ。反対票が入っているのならまだ判るが。


で、札割れそのものに関しては以前国会内での多分ぶらさがりインタビューで答えた事と同じ話をしております。

『(資金供給オペの札割れは)経済、金融システムが次第によい方向に向かってきていることの市場のメッセージであり、好ましい方向としてポジティブに受け止めている』

「企業金融の円滑化」「資金の出前持ち」を標榜して福井総裁就任から間もなく鳴り物入りで導入された資産担保証券の買入が全然実績を上げていない事について参議院財政金融委員会(だったと思います)で突っ込まれたときにも同じような答弁(=そもそも日銀は資産担保証券市場の育成のためにオペの導入をした。円滑に資産担保証券市場が機能すればオペが機能しなくても結構というかより好ましいって趣旨です)をしていたのを思い出す答弁。

まぁ何というのかそう言ってしまえばそうなのかもしれないけど、その理屈は何か「じゃあ元々そんな事やる必要があったんですか?」という突っ込みをしたくなるお話でもありますわな。「それは見込み違いでした」っていうのも一つの勇気ではないんでしょうかと思うんですがね。まぁそもそも「ゼロ金利解除は見込み違いじゃ無かった」という理屈の元に量的緩和政策を「金利ターゲットではない」と言って始めた時点で理屈が妙になっている所へ来て、速水総裁時代にあった「当座預金残高目標の引き上げ=中長期国債買入オペの増額」というある意味判りやすい話も福井総裁になってからは無くなってしまったので益々話がややこしくなっているんですけどね。

ま、あまり突き詰めて考えないのが吉なんでしょうが、それではあまりにも中央銀行の金融政策として情け無いって感じではありますわな。

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2005/02/23

お題「会議は踊る(ただし無用に)」

昨日の時事メインコラム「金融観測」記事「政策論が迷走したら・・・=『教えて!にちぎん』を読む」は必見ですな。ちなみに日銀のWebを見ますと、トップページの真ん中左の方にこのコーナーがありまして、知る人ぞ知る存在。輪番が成長通貨の供給でその他のオペは資金繰りだとかのお話を始めとして、勘違いしやすい問題に関して日銀の見解が書いてあります。これは便利なのですが、最近の政策委員会の支離滅裂政策論と違い誠に明解ですな〜って感じです(^^)。

おまけに申しあげますと、トップページには「キッズコーナー」という所へのリンクもありますが、これも馬鹿にしてはいけません。そこを見ると「お金とは?」ということに関してお子様向けにアニメーション付きで説明しておりまして、「お金の信用とは何ぞや」とか「お金がお金であるために」などという話をしておりまして、これもまた中々です。


もう一つ雑談。目の前のニュース番組によりますと、偽造カード問題で金融庁が金融機関にICカード化などの対策を求め、その対応状況を3月末までに提出しろとか言ってるようですが、「余計な仕事を増やすなボケ」と言いたい訳ですな。金融機関が対応をするなという意味ではなく、これだけ偽造カードがどうのこうのという話になっている中ではさすがにICカード化するのが他行との差別化になって安全重視の客が来るから顧客拡大できるでしょって話しだし、それはそうでもICカード化するコストというのもある訳で、それは偽造カード被害への補償で発生するコストとの比較問題だからそれこそ経営判断の世界じゃネーノかと思うんですが、とにかく何でも画一的対応を要請して一々報告させる金融庁さま。そんなに金融機関を統制して何が楽しいのか良く判らん(訳でもないが^^)ですなぁ。

特定産業振興法(は成立しませんでしたが)時代の通産省かお前らはという感じですな。>金融庁


前置きが長くなりましたが本題。

当座預金残高目標問題の議論はどうでしたか?って意味でそれなりに注目されていた先月の金融政策決定会合議事要旨が公表されたのですが、場中はさすがにフラッシュしか見ている暇がなく(20年国債の入札でしたから)あとで読んだのですが、途中で腰が砕けてしまいました。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/g050119.htm

例によって景気の認識とか先行き見通しの部分は思いっきり割愛。



○ちょっと怪しい「金融市場の現状認識」

「金融経済情勢に関する委員会の検討の概要」における金融面の動向に関する検討の部分なんですが、よくよく見ると「???」というのもありましてちょっといちゃもん。

『何人かの委員は、4月にペイオフ全面解禁を控えているが、金融システム不安が後退しているもとで、金融機関間の預金シフト等特段の資金シフトはうかがわれていないと指摘した。』

そりゃそうなんですが、そもそもペイオフ全面解禁が尻抜けなんで金融機関間での預金シフトは起きんでしょ。シフトするなら預金→国債などって事だと思いますが。細かい言いがかりですかそうですか。


『社債市場などで信用スプレッドが縮小している点について、ある委員は、低金利政策の継続により、イールドカーブのフラット化と信用スプレッドの縮小が生じており、投資家や金融機関は大きな金利リスク、信用リスクを抱えている可能性があると指摘した。』

それはちょっと違うと思うぞ。イールドカーブが極度にフラット化していた一昨年の初夏までは絶賛信用不安モードでもあって、そんなに信用スプレッドの縮小は起きてなくて、りそな銀行絶賛大救済からの財政下支え攻撃政策大転換によって信用不安の拡大が抑えられてから株式市場が復活してからはイールドカーブは基本的にスティープしてるんだが。まぁ目先直近の1ヶ月くらいの話をしているのなら現象は上記の通りですが、何かちょっと結論に書いてある話を見ると違和感が。


『また、最近の地価の動向に関して、複数の委員は、東京都区部の地価がここにきて上昇に転じていることは注目すべき動きであると指摘した。』

局地的にはもう既に無茶苦茶に上ってますが。何か今更「上昇に転じている」ってのがちょっと何と申しますか。


○当面の金融政策運営に関する検討は・・・・

いやもうこの「検討の概要」部分の話は何と申しますかアヒャヒャって感じ。以下は「先行きの金融政策運営」に関するお話を順を追って紹介します。

『ある委員は、金融システムの健全化による流動性リスクの低下を背景に、日銀当座預金残高への需要が減退していることを指摘したうえで、これまでの当座預金残高目標の引き上げの過程では金融市場の安定確保を通じて景気回復を支援することを変更の大きな事由としてきたことを踏まえると、オペの札割れにみられるように市場自身が不要であるとのシグナルを発している部分については、現行の政策の枠組みの中で慎重に当座預金残高を減額することが適当であると指摘した。』

物凄く局地的技術論で言えば「所要準備+資金繰りバッファー」以上の額はイラネって話なんで、当座預金目標引き上げは技術的にはいらねぇ金をぶちこんでいる(技術的にはいらねぇ金でもまぁそれによる効果を狙うという事が出来るかという議論はあたくし否定はしませんが・・・)だけなんですが、ぶち込むときは押し売りしておいて減らすときは「どうも要らないらしいから減らしましょう」ですかそうですか。


『これに関して、別の委員は、4月のペイオフ全面解禁を契機に金融市場の流動性リスクが一層後退していく場合、現在の当座預金残高を維持していくことの効果と副作用のバランスが変化することも考えられると述べた。』

これを誰が発言したのか謎ですが、「流動性リスク対応の当座預金引き上げ部分は減らせるのではないのか」という理屈(屁理屈)ですな。そもそも流動性リスク対応って言ったって、出すときの理由は別だったし、その理由らしきものはとっくに片付いており、引き上げるときは別の理由ですか?って感じでもう支離滅裂ですな。笑えるけど。


『また、ある委員は、財政資金の受払いが金融調節に与える影響について留意する必要があると述べた。』

これは政府預金が当座預金残高目標維持を邪魔している可能性の話です。


『何人かの委員は、現在の量的緩和政策は、金融不安への対応も含めてデフレからの脱却を目標としたものであり、金融不安の後退だけを理由に当座預金残高目標を減額することは説明が難しいのではないかとの認識を示した。また、一人の委員は、景気が踊り場を迎えている中で当座預金残高目標の減額が金融引き締めと誤解される惧れはないのかどうかなど、当座預金残高目標を調整することについては、慎重に検討すべき点があるとの認識を示した。』

筋論としてはこっちが正しい。勿論「実は量的緩和政策は単にゼロ金利+時間軸に過ぎなかったので、ゼロ金利が維持できるレベルを超えた当座預金残高の存在は意味が無かったですよあっはっは」とあっさり認めれば最初の人の意見が筋論として正しくなる訳ですが(^^)。


『別の委員は、当座預金残高目標の減額は景気が良い場合に限られるように思うが、当座預金残高目標を引き下げずに一時的な資金需給の振れを許容するような工夫も必要ではないかと述べた。』

なお書き追加ですかそうですか。そりゃちょっとどうよって感じですな。


『ある委員は、当面の金融政策運営として、量的緩和政策を堅持していくことについては委員の間で共通の認識があると述べた。』

こりゃ当たり前なんですが、まぁお前ら落ち着けとでも言いたかったのか?


『さらに、同じ委員は、市場の流動性需要の変化に応じて当座預金残高を調整することが適当であるかどうか、そうした当座預金残高の調整が市場関係者そして国民の理解を得ることができるのかといった点については、景気の動向と市場の反応を十分確認しながら、今後とも検討していく必要があるとの認識を示した。』

まぁ一応きれいにまとめてはあるのですが、「市場の流動性需要の変化に応じて当座預金残高(目標でしょうな)を調整」してたらそりゃ量的緩和じゃなくて金利ターゲットでしょって話な訳で、検討も糞も無いと思うが。それこそ最初にご紹介した時事メインコラム「金融観測」氏のご指摘のように「おしえて!にちぎん」を読めって感じですな。まぁ皆さんも「おしえて!にちぎん」を是非お読みください。


という訳で、議論も論理も迷走する量的緩和論。まぁはっきり言って不毛な話ではあるのですが、ギャグとしては実に笑える展開になって参りまして最早日銀政策委員会による身を切ったギャグとしか思えません。あははのは。

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2005/02/21

○唐突に9ヶ月もの手形オペ

昨日の短期金融市場ですが、午後の定例オペのお時間に実施されたのが2月22日〜11月8日(期間259日)の全店手形買入でした。この259日というのは一昨年の夏に金融市場が早期の量的緩和解除モードになった時に市場沈静化のため(とは日銀は言ってませんが)に行った期間260日並みの長さでして、まぁ「やたらと期間の長いオペ」という事であります。

金曜日にご紹介して、この後にも会見要旨をご紹介する木曜日の金融市場決定会合後の日銀総裁記者会見で「当座預金残高目標30兆円維持問題」に関してやたらと強気姿勢で「懸念全く無し」という福井総裁発言が出た翌日に「資金供給オペの期間延ばし攻撃」を行うというのは、もうそりゃー意図を忖度するなと言っても勝手に意図を忖度したくなるものですわな。

で、まぁこの意図は直ぐに判ろうという物でして(^^)、総裁様の鶴の一声を受けまして「当座預金残高目標維持への資金供給に工夫してみました〜♪」って話としか思えませんな。金融政策決定会合の期間中になると輪番オペの日程を微妙にずらしてみたり、総裁発言に呼応するかのように久しぶりに「長期間のオペ」というある意味伝家の宝刀を抜いてみたりと中々最近の調節は「意図がございますかそれは」という動きが徐々に増加中でありまして、昔の「日々の金融調節で意図を出す」という職人芸の世界が復活しつつある気がしてまぁそれはそれで楽しいですな。

で、今回の「オペの出すシグナル」ですけど、「当座預金残高目標維持は無問題でっせ〜」というシグナルと共に出されていると勝手に推測するのは、「資金供給問題で無理をするときには短期金融市場に皺寄せが行きますんでそこんとこヨロシク」というものでしょう。先日来申しあげておりますように、当座預金残高目標維持でやや無理をしないといかんという状況では、結局どこかにある程度無理をかけないといけない訳ですが、案の定現在手持ちの道具で簡単にできる措置を行うという作戦にでることになったようですな。短期金融市場の皆様ご愁傷さまです。

まぁ後でもご紹介しますが、目標の引き下げもしないし、輪番増額もしないと総裁が言い切っちゃってますからまぁ仕方ないですわな。

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2005/02/18

お題「金融政策決定会合あれこれ」

目の前でやっている某経済ニュース番組の報道によりますと、どこぞの巨大ソフトウェア企業さま@米国が最近アンチウィルス業界への進出(というか侵略)を狙って企業買収して安値攻勢を掛けたりしているそうですな。いやあんさんの所がアンチウィルス業界へ進出って悪い冗談というかマッチ(自主規制)。

文章書きながら某ニュース番組が続いているのですが、量的緩和政策に関してどこかの誰かさんが解説しているんですけど、その内容が何というかもう聞くに耐えない説明でして、可及的速やかに黙っていただきたいとか書いていたらやっとCMになってくれました。あの会社はタレント経済解説者プロダクションとして機能しとるとですか?・・・血圧が朝から上昇したのでチャンネルを東京MXテレビに変更。

んな話はともかくとして金融政策決定会合話。


○まずは金融経済月報

金融経済月報の基本的見解が出ました。今回の月報の特徴(と言えるのかどうか)は「景気に関してではなく物価に関しての見通しがやや弱気方向になっている」という所でしょうか。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/gp0502.htm

毎度毎度お馴染みの『わが国の景気は』から始まる景気の現状判断と先行き見通しなのですが、1月に発表(1月19日ですな)された金融経済月報の基本的見解とまるっきり同じという素晴らしい内容です。景気の現状認識部分と先行き見通し部分って大体の場合4つの部分に分けてかいてあるのですが、物の見事に一言半句違いなしであります。

で、物価に関して何気に先行き見通しを弱含みさせている感じで、1月分と比較しながら読んでみるとこんな感じになりますわな。

・国内企業物価の現状

(2月)『国内企業物価は、昨年末にかけての原油価格の反落などから、足もと弱含んでいる。』
(1月)『国内企業物価は、原油高の一服等により、上昇テンポが幾分緩やかになっている。』

・国内企業物価の先行き見通し

(2月)『国内企業物価は、内外の商品市況次第であるが、当面、弱含みないし横ばいで推移する可能性が高い。』
(1月)『国内企業物価は、商品市況の騰勢一服を受けて、目先、頭打ちとなる可能性が高い。』

「頭打ち」→「弱含みないし横ばい」でございますよおほほのほ。国内企業物価の上昇傾向が川下でありますところの消費者物価に波及してきて珍重珍重という流れが見えてくる前にこの有様になっておりまして、まぁ何と申しますか益々出口が見えない量的緩和政策ですなぁというお話ですわな、こりゃ。

・消費者物価の先行き見通し(現状判断は変化無)

(2月)『消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、公共料金引き下げの影響などもあって、小幅のマイナスで推移すると予想される。』
(1月)『消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、小幅のマイナスで推移すると予想される。』

先日の須田審議委員の講演で述べられていた「広義公共サービス価格」について触れてまたまた消費者物価下落弱含みの特殊要因(?)を並べておりますが、まぁしかし肝心の川上が弱含みになっていてさてどうなるのよという気はしますな。


物価見通しに関しては判断が後退している訳ですから、まぁまたまた出口はどっちだってなもんでしょうなぁ。



○全員一致ですかそうですか

現状の金融政策の維持を「全員一致」で決定したそうなんですが、んじゃあてめぇら当座預金残高目標維持問題についてどういう議論をしていたんだと小一時間問い詰めたいところであります。てめぇらじゃなくて須田審議委員およびあと一人(当座預金残高目標下限割れ問題に関して議論していた人)についてですが。

「今回もまたまた単に議論しただけ」って事なんでしょうが、それならまぁわざわざ先日の講演で当座預金残高目標維持問題に関して下限割れ容認のような話をして世間様を騒がせたですかという話になる訳ですな。

ま、実際問題としては須田さんの講演で騒いでいた訳ではなくて、「当座預金残高目標の下限割れ容認ネタで相場をきゃあきゃあ」というのに使われてしまったに過ぎないのですが、まぁ本件はそういう神経質なネタでもある訳ですから、あまり本気度が低いときに論じるのはいかがなものかと言う教訓にしていただきたいものです。まぁあちこちから不規則発言が飛び出すのが政策委員会クオリティでもあるのですけど。



○何か喧嘩腰じゃあありませんか

金融政策決定会合も終わり、金融経済月報も出たところで日銀総裁の定例記者会見になるのですが、今回の記者会見は何だか情報ベンダーに総裁発言として出てくるフラッシュが妙に喧嘩腰に見えるわけですな。内容に関しては日銀Webに今日アップされる会見要旨を待ちたいのですが、例えばロイター日本語版でのニュースフラッシュを見ますとこんな感じ。

『当面30−35兆円の当預目標が維持不可能になるとは全く予見できない』
『長期国債買入枠、全く変えるつもりはない』
『量的緩和政策の出口を模索する時期とは全く思わない』
『ボリュームに政策ターゲット置くのが緩和政策の枠組み』

フラッシュはこれ以外にも一杯あったのですが、まぁこの「全く」が3度も出て来たのには「もしかして福井総裁怒ってませんですか?」というざわめきが起きるというものでして(^^)、先日須田審議委員の講演後に行われた記者会見でも何か痛烈な質問をしている人がいましたが、まぁ今回も何だかんだと福井総裁様の逆鱗に触れるような急降下爆撃的質問が行われたのでしょうかね〜って感じであります。

福井総裁になってからの記者会見ってまぁ平和だったのは最初だけで、何か途中から会見で火だるまになっている事が多く、その後は「この人は何でもありだから突っ込んでもしょうがない」という諦観モードが流れていたという経緯があるのですが、ここへ来てまた火だるま合戦となっていただきますと観客としては大変に楽しいものを感じますので今後とも是非宜しく。

しかし何ですな。また上記のように自分の手足をガチガチに縛る発言をしておる訳で、まぁ福井総裁おちつけ(某掲示板用語では「もちつけ」)と言ったところであります。

自分の手足を縛りながらも、緩和政策の効果について「景気が回復基調にある中では量的緩和の効果は高まるので、同じ量を出していても効果がより高い事になる」というお馴染みの判ったような判らんような理屈についても言及しているようですので、まぁ必ずしも落ち着いていない訳ではないようでございますがね。


ではでは。

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2005/02/17

○これで2度目ですが・・・・(輪番オペ肩透かし問題)

昨日は「まぁあるでしょう」と思われていた輪番オペが実施されませんでした。となると今日か明日に実施(多分明日)という事になるんでしょうが、今回は金融政策決定会合の期間中な上に、当座預金残高目標下限割れ問題がどうのこうのという話が盛り上がりモードになっている最中でありますので昨日の輪番見送りは「あれれ?」という感じでした。

債券相場では「福井総裁になってから輪番の増額を行っていない」という点を重く見ている人が多いんで、昨日の輪番見送りで「すわ輪番増額か」という騒ぎにはならなかったような感じでした(ただ、債券先物の当日安値が「輪番オペ無し」が明らかになった直後の10時12分で、その後先物が上昇してますんで、もしかしてアオリイカはいたのかもしれませんが)が、今までひたすら淡々と機械的にオペを打っていた日銀の調節がちょっと変化している兆しなのかもしれないと考えるあたくしは考えすぎですかそうですか。


輪番問題では昨年12月にも同じようなことがありまして、この時は12月15日(水)に輪番が実施されずで、金融政策決定会合が16〜17の日程。結局16日も17日も輪番が実施されずで、日程的に17日に輪番やらねぇと月末までの日程がタイトになるから(というのと、基本的に週に1回実施するという慣例もあるので)輪番やるでしょってコンセンサスだったので債券市場ビックリの図。おまけにそのとき実施したオペが短国売却。「輪番見送り」→「絶対ありえない筈なんだけど決定会合で輪番減額されたらシャレにならん」という不安がよぎる中、タイミング良く債券先物を売り叩く人がいたので債券先物が30銭くらい売りたたきの図となった訳です。

12月に引き続き今回も金融政策決定会合を前に「日程的にはやるでしょ」ってタイミングで輪番オペを見送って下さいましたので、まぁこっちとしては「金融政策決定会合の週は輪番オペのタイミングに注意しますか」って事になる訳ですが、このタイミングのずらし方は意図があるのか何も考えてなくて単に資金需給だけみている(3000億くらいツイストで吸収打てば何とでもなると思うんですが・・・)だけなのか良く判りませんが、まぁ今後もちょっと気にはしておく必要があるのかもしれませんね。

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2005/01/31

お題「相変わらず量的緩和雑談など」

○まずは金曜の訂正

金曜日に金融政策決定会合の議事要旨をご紹介しましたが、その中で当座預金残高目標減額に関して言及があったのですが、「水野さんですかねぇ」などと申しあげたのは大間違い。病み上がりでぼけてましたな。

ブルームバーグのインタビューでで水野さんは当座預金残高目標引き下げに関してこのようなコメントをしております。まぁ実に真っ当なコメントです。

「当座預金残高目標を引き下げると、量的緩和解除の第1歩と受け止められるリスクがある。日銀は過去、目標引き上げの際に『金融緩和効果を高めるための措置』と説明してきただけに、持続的な景気回復に自信を深め、景気判断を上方修正できるような状況にならないうちに目標を引き下げると、政治的に批判される可能性も高い」

「量的緩和の枠組みを変えないまま目標を段階的に引き下げることは、技術的にも非常に難しい。日銀がいったん目標を引き下げ始めると、さらに誘導目標が引き下げられるという思惑が働き、新しい誘導目標を維持する事が難しくなる。『なお書き』や『ただし書き』を加えることはあり得るかもしれないが、いずれにせよ簡単にできることではないと思う」

「そもそも、量的緩和政策の枠組みは、市場参加者が必要と考える量よりも潤沢に流動性を供給することによって景気刺激効果を出そうという枠組みだ。日銀の資金供給オペに対して資金需要が低下し、札割れが頻発したからと言って、簡単に目標を引き下げると、自己矛盾が生じてしまう。当座預金残高目標を引き下げても、潤沢な資金供給と、その結果としてゼロ金利は維持されるので、量的緩和政策の枠組みは維持できるという議論は、市場が受け入れないと思う」(以上ブルームバーグニュースより)

まぁそりゃそうなんですが、じゃあ量的緩和政策の量を増やしていく意味は何なんでしょうかという質問をしたくなる気もするのですが、まぁこの量的緩和政策における「当座預金残高目標額という量の意味」に関しては以前からドラめもんでも申しあげているように、正直どういう意味とどういう効果があるのかさっぱり意味不明でございまして、(あたくしの個人的な印象としては、量的緩和の量に関しては恐らく超過準備数兆円までのレベルに関しては「ゼロ金利を維持する」という意味があると思うのですが、残りに関しては単なる過剰準備。非不胎化介入とか、危機回避の意味はあると思いますがその辺の匙加減は良く判らん)まぁ融通無碍な解釈をしつつ時間軸効果が発揮されていくって感じではないかと思う訳です。

それはさておきまして、水野審議委員が量的緩和政策の枠組みの中における当座預金残高目標の減額に明確に反対をしましたので、政策委員会の票読みをしますと、岩田副総裁、中原審議委員(この二人は量的緩和の糊代論を主張しているので減額に賛成する訳が無い)、水野審議委員が明確に反対となりますな。残り6人中5人が賛成しないと過半数にならないと考えますとまぁ当分は現実問題にはなりそうもありませんなぁという感じです。


○ちなみに水野さんのインタビューによりますと

まぁ当然と言えば当然なのですが、水野さんのインタビューもまた「タカ派」なのか「タカ派じゃない」のか謎な節がございますな。量的緩和政策の弊害について言及して「量的緩和コミットメントの3条件にかかわらず量的緩和政策の解除を行う」可能性について言及しているかと思えば、量的緩和の枠組みを終了する時には「量的緩和の枠組みからゼロ金利政策を経て、複数回の利上げができるような環境まで待ちたい」とビハインド・ザ・カーブ容認とも取れるようなコメントをしておりまして、正直どうとればいいのか良く判らん。というか恐らくは「総合判断で量的緩和政策の脱却。ただし予防的利上げは行う気はさらさらない」という辺りなのではないかと。

水野さんが一番恐れているのは、景気に遅行して動く消費者物価指数のプラス転換をひたすら待ち続けているうちに、量的緩和政策の弊害というか景気刺激効果が効きすぎてしまって「どこかで変なバブル発生」→「みんなでそこに突っ込む」→「不動産バブル崩壊の二の舞」という下らない事態が生じることなのでしょうかなぁと思う次第でございます。そうならないようにどこかでブレーキをかける必要があるというのが「量的緩和政策の弊害への言及」となっているんでしょうな。


○というわけで、当座預金残高目標引き下げの話が少々遠くなりましたが

債券市場および短期金融市場の今年の最大のネタあるいはメシのタネになりそうな話題が「当座預金残高目標引き下げ」でございましたが、皆さんネタが無いせいかせっせと話題盛り上げを頑張りすぎまして(^^)、時期尚早とばかりに見事に話が潰れてしまった形になってしまいましたわな。残念!って感じですが、足もとの経済指標もどうもパッと致しませんし、特殊要因が色々と効いているとは言え12月の東京都区部CPIは▲0.5%と見事なトホホ状態になっておりまして、債券市場と致しましては誠に困った事に死角なし状態になってしまいました。

ま〜世の中良く出来た物で、こ〜ゆ〜時には皆で総強気になったあたりで意表をつく材料が飛び出してきてアヒャヒャヒャヒャ状態になるというのが債券市場の伝統芸能でございますが、今のところはまだ「ああ死角がございませんなぁ」くらいの感じではないかと思うところでございます(金曜の相場は少々強気相場の香りがしましたが)が、正直先週は前半風邪引きで休業し、後半はやみあがりボケボケ状態でしたので、相場の空気みたいなものが実感として感じられてませんので、よーわからんという説も大有り。

まー今週は10年国債の入札もございます。2月債ってのは同償還3回目の発行です。同償還3回目の発行の場合、往々にして「同じ償還もの既に2回出てるからニーズが無いんですがねぇ」という状態になりがちなのですが、その状況を「死角なし相場」が打破できるかというのが注目材料でしょうな。10年のあとにも5年、20年が「同償還3回目の法則」に引っ掛かりますので、最初のうちはともかく後半は・・・・・・


#てな訳で相変わらず病み上がりのあたくしでございますので今日も簡単な雑談で恐縮。

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2005/01/28


お題「今更ですが12月16〜17日の決定会合議事要旨」

いやはやどうも、病み上がりなので本日は簡単に参ります。

さて、あたくしがインフルエンザでひっくり返っている間に日銀からは金融政策決定会合議事要旨が出て世の中の話題になってみたり、難しそうな論文が何本もでてみたりとなっております。で、既に世の中では随分話題になっていたようですが、あたくしのリハビリも兼ねて本日は簡単に議事要旨のチェック。

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/g041217.htm

○話題になった「当座預金残高目標引き下げ論」

『当面の金融市場調節に関して、多くの委員は、金融システムに対する不安感の一段の後退などから、市場の資金余剰感が強くなっているが、このところは資金余剰期に入っており、オペレーションによる資金供給必要額が減っているため、短期資金供給オペの運営上の工夫によって、当座預金残高目標を達成していくことは可能であるとの見方を示した。』

運営上の工夫という事になりますと、手形オペとか現先オペの期間をまた長くするとかいうお話か、短期国債の入札の翌日に短期国債買入オペを実施するという実質短期国債引受状態のオペを乱発するというような豪快な工夫になるのですが、それでもいいのでしょうか?とおもいつつ、問題の部分。

『複数の委員は、当座預金残高目標の引き下げは引き締めと捉えられる可能性があり、景気が微妙な情勢である現状は、残高目標をしっかりと達成していくことが大切であると述べた。』

そりゃそうですなぁ。何でそういう話になるかというと、

『この間、一人の委員は、ペイオフ解禁を契機として金融市場の流動性不安が後退していく中では、デフレが継続するもとで、量的緩和政策における潤沢な資金供給と結果としてのゼロ金利の維持という枠組みは堅持しつつ、タイミングを十分に見極めながら、市場の資金の余剰度合いに応じて徐々に当座預金残高目標値を減額していくことも考えられるのではないかとした。』

こういう話をした人がいるようです。水野さんですかね。 追記:水野さんは「現行の政策の枠組みの中で当座預金残高目標の減額をするのは金融引き締めになるので不可」とブルームバーグのインタビューで語っていました。ということで水野さんではなくて須田さんか福間さんあたりになるのでしょう。

『もう一人の委員は、こうした考え方に基本的に賛成であるとしたうえで、実際に目標値を見直していく際には、その時点の景気動向なども無視できないと述べた。』

もう一人の委員が誰だか判りませんが、「当座預金残高目標減額問題」が実際に論議に上ったというのはそれなりにインパクトのあるお話ではないかという感じですか。大体今まで議題にはならないけれども話題に上った話ってのは基本的に量的緩和政策の解除先送り論に類するお話だったことを思えば隔世の感とまで言うと大げさですが、まぁ量的緩和政策の終了に向けてこっそり雰囲気を作ろうとしているという気持ちが伝わってきますな。


当然ながら、この部分に関しては早速「こんな議論をするなら量的緩和政策のコミットメントをする意味が無い」という趣旨の批判も所謂リフレ派の方からは出ているようです(この点に関してはあたくしも理解できますな)し、それ以前の問題として議事要旨の最後にある「政府からの出席者の発言」を見ますと、財務省と内閣府の出席者から『デフレは依然として継続しており、その克服に向けた揺るぎない姿勢を堅持していくことが重要であると考えている。したがって、日本銀行におかれては、引き続き量的緩和政策堅持の姿勢を明確に示して頂きたいと考えている。(財務省)』、『デフレ克服には、結果としてマネーサプライが増加することが不可欠であることから、効果的な資金供給に繋がるような措置も含め、さらに実効性ある金融政策運営を行って頂きたい。また、金融政策運営に関する透明性の一段の向上に努める中で、デフレ克服までの道筋を明確に示して頂くことを期待している。(内閣府)』といちゃもんがついております。実に香しい。

で、内閣府は相変わらずマネーサプライがどうのこうのという話が好きなのね〜とも思う訳ですが、まぁそれはともかくとして、当座預金残高目標の引き下げだけでこれだけ大騒ぎになるようであれば、やはりCPIが小幅マイナス近傍でフラフラしているうちはちょっとダメダメの予感ですな。


○量的緩和政策の効果と副作用という不毛な論議

先ほどの話の続きの部分で量的緩和政策の効果について総括しようという動きがあるのか、量的緩和政策の効果についてお話している人がいます。

『現在の政策が金利に働きかける効果について、ある委員は、(1)ゼロ金利が一定期間続くことをコミットすることにより中長期の金利を引き下げる時間軸効果、(2)当座預金残高目標の引き上げが時間軸のアナウンスメントを補強する効果、(3)様々なオペレーションを通じて銀行間のクレジットスプレッドのばらつきを縮小させる効果、の3つに整理した。』

(1)以外は意味不明ですな。しかも(2)を認めたら同じ理屈で当座預金残高目標の引き下げは時間軸のアナウンスメントを弱める事になりますので、当座預金残高目標の引き下げ=金融引き締めになってしまうので、解除まで残高目標の引き下げが出来なくなるという罠(^^)。


『別の複数の委員は、こうした整理に概ね同意したうえで、現在の政策が経済に働きかける効果としては、さらにクレジットスプレッドの縮小が企業のバランスシート調整を促す効果なども考えられるとコメントした。』

「クレジットスプレッドの縮小」は良いとしまして、それが「企業のバランスシート調整を促す」という理屈は物凄く意味不明。どっちかというとクレジットスプレッド縮小→企業の資金調達の容易化→バランスシート調整の遅れって話にならないのかと小一時間問い詰めたいところでございます。


『もう一人の委員は、それぞれの効果の存在は否定しないが、時間軸効果以外の効果がそれほど大きいとは思えないと述べた。』

そうですな。この人だけ割とまともな意見ですなぁ。


で、この後量的緩和政策の副作用に関しての話になるのですが、どう読んでも量的緩和政策の効果と同じ話をしているとしか思えませんのぉ。

『一方、量的緩和政策の副作用として、複数の委員は、(1)資金調達者のモラルハザードの拡大、(2)短期金融市場の市場機能の低下、(3)金融政策の機動性の低下、(4)財政規律の低下などを挙げた。これら委員を含めて、現状においてはこれらの副作用が効果との比較でみて著しく大きいとは言えないとの見方で一致した。』

(1)でいう資金調達者が誰を指して言っているのか良く判りませんが、企業部門というか不振企業という意味で言えばさっきの効果で言っている「クレジットスプレッドの縮小」と同じ話ですし、インターバンクという意味でいうのであれば、「時間軸効果」によるものですからメリットと同じ話をしているでしょって感じですな。(2)も同様。

(4)の財政規律の低下というのも言いたいことは判らんでもないですが、議論としては本末転倒の香りがするお話ではないかと。別に低金利だから財政規律が低下する訳ではないんですからねぇ。しかもさっきは「クレジットスプレッドの縮小が企業のバランスシート調整を促す」と言っておきながら、相手が財政になると急に「低金利の継続が財政規律の低下という副作用を生む」というのはあまりにも話の前後が矛盾しておりますな。

・・・・で、(3)はギャグですか?


病み上がりなので本日は簡単にさせていただきました。皆さんもインフルエンザには注意しましょう!マジでシャレにならん。。。

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2005/01/20

お題「金融経済月報と総裁記者会見」

金融政策の変更が無いのは当たり前なのですが、さて1月の月報はどうなったでしょうかって話ですわな。

○金融経済月報

http://www.boj.or.jp/seisaku/05/pb/gp0501_f.htm

景況感はまるっきり変更なしですが、物価に関して微妙な表現があるというのが今回の注目点、というかそこしか変更部分がないというのが今回の月報でございます。

債券相場強気筋のお方は展望レポート中間評価の部分(上記URL文書の最後の部分)での「景気下ぶれ推移」にも注目していたようですが、惜しくも(^^)上記のように景況感に関る月報の1月分は物の見事に12月分と同じ内容となっておりまして、そ〜ゆ〜意味では日銀の景況感に関しては既に織り込み済み状態になっていると考えるのが至当でございますな。念の為。

・景気の基調判断

『わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるものの、基調としては回復を続けている。』
→12月と全く同じ表現

・景気個別要因の現状認識

『輸出が横ばい圏内で推移する中で、IT関連分野の在庫調整などから、生産に弱めの動きがみられる。一方、設備投資をみると、企業収益が改善するもとで、引き続き増加傾向にある。また、雇用面での改善傾向が続き、雇用者所得も下げ止まる中で、個人消費は底堅く推移している。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しており、公共投資は減少している。』

→12月はこの文の中に短観結果を受けて「企業の業況感にも一部に慎重さが窺われる」って文言が入っていましたが、それ以外12月と全く同じ。

・景気先行き見通し

『先行きについても、景気は回復を続けていくとみられる。』
→12月と全く同じ表現

・景気個別要因の先行き見通し

『すなわち、当面はIT関連分野の在庫調整の影響が残ると予想されるが、海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、輸出や生産は、基調的には増加していくとみられる。企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。また、企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高い。この間、公共投資は、基調としては減少傾向をたどると見込まれる。』

→素晴らしい事に12月の全くのコピペ状態です。先行き懸念材料としてIT関連需要動向と原油価格に対する言及をしている部分までまるっきり同じ。


という事で、ここまでは12月と思いっ切り同じですので、「展望リポート中間評価で景気が幾分下振れで推移した」という部分を注目したコメントをするのは(別に間違っているとは申しませんが)「ちゃんと毎回月報を読め」という事でございますな。あっはっは。


で、ちと気になるのは先ほど申しあげたように、今回の月報では物価に関して微妙に表現をいじっていることでございます。

・物価の現状(消費者物価はいつもどおりなので、国内企業物価に関して)

(1月)『国内企業物価は、原油高の一服等により、上昇テンポが幾分緩やかになっている。』

(12月)『国内企業物価は、内外の商品市況高や需給環境の改善を反映して、上昇している。』

今回「上昇テンポが緩やかになっている」と判断を後退させたのはちょっと注目しておく方が良いのではないかと思う訳でして(つーか指標には既に出てますが)、物価上昇が川上から川下(=消費者物価)に波及するって理屈から言いますと、消費者物価の先行き見通しの「上昇」のペースが緩やかになるという見方もできるわけでして、まぁ今後の川上の物価に関する審議委員等のコメントには注目してみたい所です。まぁ「安定して上昇」というペースなら望ましい状況だって気もしますが(^^)。

・物価の先行き(これも国内企業物価)

(1月)『国内企業物価は、商品市況の騰勢一服を受けて、目先、頭打ちとなる可能性が高い。』

(12月)『国内企業物価は、原油高の一服等により、上昇テンポが緩やかになるとみられる。』

まー別に「国内企業物価が下落する」と言ってるわけではないので大騒ぎする事もないでしょうが、ちょっと気になるところではございます。

金融面に関してはいつもどおりなので割愛。


○展望レポート中間評価

概ね11月以降の金融経済月報での「判断じりじり後退」に対応したものとなっておりまして、そ〜ゆ〜意味では予想通りなんですが・・・・

『わが国の景気は、IT関連財の生産・在庫面での調整が予想より深まったこともあって、昨年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「経済・物価情勢の見通し」に比べ、幾分下振れて推移した。先行きについては、海外経済が拡大基調を続ける中で、春以降、IT関連財の調整が一巡すると見込まれることから、「景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していく」という「見通し」に概ね沿った動きとなると予想される。』

『物価面では、国内企業物価は、10月の「見通し」に沿って推移するとみられる。消費者物価についても、基調としては10月の「見通し」に沿って推移するとみられるが、固定電話通信料引下げの指数面への影響等によっては、やや下回って推移する可能性がある。』

消費者物価に関して「固定電話通信料引下げの指数面への影響」というのが出てきたのが唐突な感じでして、何か毎度毎度コメだの健保自己負担分がどうのこうのだの電力料金だのと特殊要因の話ばっかりですなぁ。何と申しますか(^^)。



総じて申しあげると、今回は物価に関してちと弱気になっているのが注目でしょうね。



○総裁記者会見は玉虫色あるいは本音は??

正式な会見要旨は本日日銀Webにアップされるので今日はロイター日本語版の記事を参考にします。続編は明日にでも。

当座預金残高目標の変更に関して誘導尋問(^^)が。

『問:量的緩和は、2003年10月のコミットメントをクリアしなければフレームワークの変更はしないということだと思うが、その中で、当座預金の変更に関してもコミットメントのクリアが必要か。景気回復過程で緩和効果と副作用の両面が増してくると思うが、その辺の考え方を聞かせて欲しい。』

『答:量的緩和に踏み切って以降、ターゲットとする流動性の目標を数次にわたって切り上げてきた。全体として、流動性の供給枠の追加は、信用秩序、金融システムの安定化を図るということも包摂しながら、究極的にはデフレ脱却という目的を最終的に念頭に置きながら実施してきたものとまとめられる。従って、量的緩和の枠組みと言っているのは、所要準備額を超えて、市場に対して思い切った流動性を供給するという枠組みのことを言っている。』

『(答えの続きですが、一部引用割愛します)景気が以前に比べて回復過程に入っている。一方で、金融システムの不安定性は大幅に後退してきている。環境、金融政策実施の舞台が変ってきている以上、効果と副作用についても両面変化がある。両方付き混ぜた場合のネットでのメリットの大きさというものがどう変っているかということも変化がある。毎回きちんと議論を詰めて、毎回、毎回の結論を出していくという事になっている。』

『景気が回復過程に入ると、量的緩和の景気刺激効果も強まる。一方で、副作用の面もより大きくなる可能性がある。それを両方比べて、差し引きどういうことになるか、よく注意していきたい。』

今回は「甘いささやきには乗らない」というような迷言は残念ながら(^^)出ませんで誠に結構でございますが、要するに「量的緩和政策は継続するぞコノヤロー」といいつつも作用副作用問題に関しては模範解答をし、当座預金残高に関しては「量的緩和の枠組みと言っているのは、所要準備額を超えて、市場に対して思い切った流動性を供給するという枠組みのことを言っている。」という表現を使っておりまして、「思い切った流動性を出す枠組みなのだから絞るという選択肢は無い」とも読めますし、「結果として潤沢な流動性になっていれば量的緩和の枠組みは達成できている」とも読める所でありまして、お上手にかわしたという感じですな。

恐らく金利上昇熱望の短期市場関係者は「副作用問題に丁寧な言及をしている」のをネタに「当座預金残高引き下げの可能性は大有り」と宣伝しそうですが、マネタリストの皆様を説得するのは大変という問題がありますんでそこんとこヨロシクです。


#その他の質疑に関しては(相場でネタが無ければ)明日にでも。

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2005/01/19

○「当座預金残高目標引き下げに関するアンケート」を見て

昨日ロイター通信が市場関係者(債券、短期、株式、為替の各市場)とエコノミスト合計29人に「日銀の当座預金残高目標引き下げに関するアンケート調査」を行ったそうで、その内容が日本語版ロイターの14:03発の記事として配信されました。

で、内容に関しての詳細はロイターのニュースを見ていただきたい訳ですが、この結果を見た印象をいくつか。

・やっぱり「引き締め」扱いにされるわな

「当座預金残高目標を引き下げた場合、市場は金融引き締めのステージ入りと判断するか」という問いには「する」が17票で「しない」が9票となっておりまして、記事によりますと「しない」と見ている人のほとんどが短期金融市場関係者だようです。

記事では大和総研の奥原主任研究員のコメントとして「当座預金残高の引き上げは緩和措置と解釈されているので、その逆の当座預金残高の引き下げは引き締め措置と解釈される」というのがございましたが、ま〜当然の解釈ですわな。残高目標引き上げのときに緩和措置の振りをしながらやっていったツケがここへ来て回ってきている訳でして、誠に香しいものを感じる次第であります。

あちこちで指摘されてますが、もともと当座預金残高目標の引き上げに関る言い訳もその度ごとに違う(イラク戦争だのSARSだのりそな問題だののショックに対する流動性供給強化ってのと、郵政部門の公社化に伴うテクニカルな引き上げと、景気が回復しているのに残高目標引き上げっていう「押し上げ介入」がございます^^)ので、言い訳を今度も使い分けて説明するんでしょうが、残念ながら短期金融市場以外では「引き締め」という解釈をするようで、日銀さま残念無念と言ったところでしょうか(^^)。

このニュースが出た後に読者様にもお伺いしたのですが、やはり「引き締め」と解釈する人が債券市場関係者やら海外投資家などには多いでしょうというのが結論のようでして、テクニカルに残高を減らすのも一苦労のようですな。

元々やっている政策の意味を曖昧にして外部(というか官邸というか)からの政治的圧力をかわしたり、原則を曲げていないように見せかける(最後の方の当座預金残高目標引き上げは岩田副総裁が指摘するように「非不胎化介入」でしょと思うのですが、それは認めたくないらしい。東短リサーチの加藤氏のレポートを見ても再三再四「これは非不胎化介入ではない」と主張してる所をみますと^^)のが良くも悪くも福井日銀クオリティだったのですが、上で申しあげたように、量的緩和政策の出口をどうやってつけていくかというこの時期になって今までの曖昧にやってきたツケを払っていただこうではないですかってなもんですなぁ。


・相変わらず誤解している人がいる訳ですが

ロイターの当該記事によりますと、債券市場関係者である都銀の人のコメントとして「引き下げの延長線上として国債買い切りオペの減額がイメージされ、そのリスクプレミアムが上乗せされる可能性が大きい」というのがあったのですが、債券市場の中でもアクティブに動くためにマーケットインパクト最大級の都銀のお方(全員がそうではないでしょうか)がこ〜ゆ〜理解でおられますと益々当座預金残高目標をいじるのが大変ですなぁという印象を強くすると同時に、「こういう認識ではちょっとCPIが上ったら債券慌てて売りに出すわな」ってちょと納得しちゃいました(^^)。

ご存知のように、福井日銀体制になってからは当座預金残高目標の引き上げに長期国債買い切りがリンクしておらず、速水日銀時代に引き上げた「月額1兆2000億円」から増えておりませんわな。という事は速水さん時代の(確か)5兆円+郵政事業の公社化に伴うテクニカルな引き上げ分5兆円であります「当座預金残高目標10兆円」までは当座預金残高目標の引き下げに長期国債買い切りリンクさせる必要なしという事になりますな。それ以前の問題として成長通貨の供給が命題の長期国債買い切りなので当座預金残高目標とリンクさせるのがどうかと思う訳ですが。

まぁこのあたりの経緯も量的緩和政策の長期化ですっかり忘却のかなたに去ってしまったようですな。ついでに悪態をつけば、これもまた「政策にあえて明確な意義付けを行わなかった福井日銀クオリティ」のツケが回ってきたって事なのかもしれ
ませんな。


・正直すぎるのも如何なものか(^^)

ど〜でもいいのですが・・・・・

記事でバークレイズ銀行資金証券部の箙氏のコメントとして「短期ゾーンのイールドカーブが立つのは、収益機会の創出と市場活性化につながり、短期資金関係者には歓迎される」ってのがご紹介されておりました(^^)。

いやまさにその通りなんですが、そ〜ゆ〜事は思っていても公衆の面前ではコメントしないのがオトナの対応というものでして(笑)、ただでなくさえ「市場関係者は金融政策に関してポジショントーク(と言えばまだ良いのですが、普通は自分たちの利益のために・・・って言い方されます)をして誠にケシカラン」と学者先生(特にリフレ派と言われる人)たちに言われている訳でして、まぁ如何なものかと(^^)。



・結局テクニカルな訳で

このアンケートで一番ウケたのは、「当座預金残高目標を引き下げた場合、各市場への影響は」って部分でして、複数回答可になっているのですが、円高、円安のどっちになるかというところの回答が、円高円安どっちも3票と同数(^^)。

まぁ要するに解釈がムツカシイというかその時の外部要因によって反応が違うでしょってことなんでしょうが、意見が真っ二つな上に、そもそも29票中6票しか為替市場の反応にコメントしていないって事は、「よーわからん」という事なんでしょうね。


ま、当座預金残高目標の引き下げをテクニカルに実施するだけでも相当の困難がありそうですな〜というのが良く判るアンケート記事ではありました。

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2005/01/17

○当座預金残高目標維持大丈夫?

まー既にあちこちで話題になっておりますが、年明けから日銀の行う公開市場操作のうち、短期市場に資金供給をするオペレーションで「札割れ」が連発しておりまして、年明けから既に6回も札割れ。短期国債買入まで札割れになってしまい、恐らく手形オペ以外では何でも札割れしちゃうんじゃね〜のって勢いでございます。

年末年始に運用を控えていた資金が短期市場に流入したり、新規の運用資金が入ってきたりしているのも有るんですが、まー要するに当座預金残高目標の維持が益々しんどくなっているという有様ですが、4月にペイオフ完全解禁(抜け穴ありですが)を控えてまさかここで当座預金残高目標を減らす訳にも行かないでしょうから、ご苦労な事ですなぁとしか言いようがありません。

じゃあ4月のペイオフ解禁を通過した時点で景気腰折れ懸念が無ければ当座預金残高目標を引き下げられるかと言いますとこれがまたムツカシイ。

と申しますのも、相変わらず「デフレは通貨的な問題」(いやそれはそうだけど金融政策単体でデフレ解消できないから困ってるんでしょ)と毎度毎度同じお話をする竹中大臣並びに岩田副総裁がででーんと構えておりまして、この「そもそも意味の無い超過準備なので目標を引き下げても全く問題が無い」という当座預金残高目標引き下げの実施も政治的説明が物凄く困難ではないかと思う訳です。所謂「リフレ派」の巣窟になっている某匿名掲示板(有名な某巨大掲示板ではありません)での論議をROMっておりますと、「デフレはマネーの現象だからデフレ解消は金融政策で」という人たちを説得するのは(前提になっている「デフレはマネーの現象」が正しいだけに)大変だと思う次第。

日銀としては、恐らくマーケットが「当座預金残高目標を引き下げすべし」という大合唱状態になって雰囲気を盛り上げて「援軍」になってくれないと当座預金残高目標の引き下げがど〜のこ〜のって話を持ち出しにくい所でしょう。いざ当座預金残高目標引き下げたら長期金利大上昇の株価下落なんて話になったらシャレにならないですしねぇ。

って事で、まー相場が動意付いてくれないと業者としては商売があがったりだし、少々の金利上昇の方が商売やりやすいし運用サイドも投資環境の改善になるでしょうから、この調子で債券相場がうだうだと値持ちしていると、次の商売ネタとして「当座預金残高目標引き下げ議論」が盛り上がって来るかと存じます。結局空騒ぎに終わるのでしょうが今年前半はこの話が何度か浮上してくると思いますよ(^^)。

ただ、当座預金残高目標引き下げは@技術的に言えばまぁ意味が無い(為替介入をまたおっぱじめれば話は別だが)し、Aそもそも竹中大臣をどうやって説得するかという政治的問題があり、B間違って景気腰折れのトリガーを引いてしまうとシャレにならない、という大いなる問題点がありますので、そもそも実施困難であり実施しても無意味だという事を忘れずに対処したいものです。

ではでは。

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2004/12/27

お題「金融政策決定会合議事要旨をもうちょっと読む」

偉そうな題名ですが、基本的に年末進行で簡単に。

まぁ昔の話ではありますが、先日公開された10月29日と11月17〜18日の金融政策決定会合議事要旨からちょっとトピックスを拾ってみます。正直気が付いた順なので順不同。

10月http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g041029.htm
11月http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g041118.htm


○「当面の金融政策運営に関する委員会の検討」の量

10月の金融政策決定会合では、展望レポートを決定する日であった(のに何故日程が一日なのか理解に苦しみますが)事もあり、金融政策に関する話はあまりウェイトが置かれなかったようです。いつもなら必ず何かの話しがある「当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」がやたらとあっさり味になっておりましております。

で、11月の決定会合では「当座預金残高目標の引き下げ」に関して議論が行われた形跡があるのは先週末にご紹介した通りでありまして、どうもこの時点での日銀政策委員会は金融政策の出口に向けたお話ししか頭にないようですな。(というのは読み方が浅く、実は別の話しもあります。2つ先のトピックスをご覧下さいませ、って内容直せって言われそうですが)

ちなみにこの時点で市場はどの辺にいたかと言いますと、例によってざっくりですが、10年新発債の終値ベースで10月29日が1.490%で11月18日が1.430%と、当然ながら現在の水準よりは金利は高いのですが、徐々に「やっぱ景気ちょっとどうよ」モードになりつつあるの巻って状況でしょうか。


○ペイオフ解禁を気にしすぎなんでしょうな〜

10月29日の決定会合では上記のように展望レポートの検討で時間を大きくとられているようですが、その中で足もとの金利情勢に関してこんなコメントがあり、ちょっとホッと致しました。

『短期金融市場について、何人かの委員は、引き続き安定しているとの見方を示した。ある委員は、ペイオフ解禁を控えた年度末越え金利が低下していることについて、金融システムに対する不安感の後退を表しているとの解釈も聞かれるが、実際には量的緩和政策の時間軸に対する見方がやや強固になっている可能性もあると述べた。』

どうもペイオフ解禁に関して日銀(というか政策委員会)は妙にナーバスになっている(実際は尻抜け解禁なので無問題でしょうというのは何度も申しあげていますが)ようで、短期金融市場で金利が跳ねる(最近は全然跳ねないが)と「すわ金融システム不安か」となるようで、ちょっと違うんじゃネーノと思っていたのですが、この記述を見ますと、ちゃんと理解している方もおいでのようで一安心といった所です。


○量的緩和政策の逃げ水化を提唱する人も相変わらずいるんですね

10月29日の決定会合ではこんな議論もありました。

『これ(引用者注:展望レポートで05年度のCPI見通しがプラスになる事)に関し、ある委員は、量的緩和政策継続の第2の条件について、「ゼロ%を超える」という基準より高めの数値を示してはどうかと述べた。』

『別の委員は、第2条件の明確化ないしは中長期的に達成すべき望ましい物価上昇率を示してはどうかと述べた。』

まぁ10月時点でしたので、まだ景気の先行きに関しては大勢が強気って感じでしょうから仕方が無いのかもしれませんが、どうも量的緩和政策の解除に関して激しく懸念している人が最低でも2名存在すると見てよいのかと思います。中原さんと岩田副総裁ですかね〜?

『さらに、同じ委員は、量的緩和政策を解除する際の金融市場調節の基本的なスタンスとして、当座預金残高縮小のテンポや国債買入オペを含めた各種調節手段の発動の仕方に関する基本的な考え方を示すことも考えられるのではないかと付け加えた。』

まぁこの点については結局ケースバイケースになるでしょうし、そもそも以前ご紹介した山口前副総裁のインタビューにもありましたように、量的緩和政策における「量の意義」がどこら辺にあるのかという事が問題になるでしょうな。たぶんどこかの閾値を越えた時点で量に意味が無くなっているのではないかと直感的に思いつつも、実質的な非不胎化介入(懐かしや)の実施という効果もあったのではないかと思うわけで、やっぱ訳判らんですな(汗)。


○11月時点でもまだ景気の先行きに強気なのは凄いなぁと思う訳で

10月末の時点で景気に強気なのは判るのですが、11月時点でも結構強気が継続されています。確かにこの時に発表された金融経済月報に関しても、足もとの景況についての減速は認めながらも、先行きに関してはまるっきり変化なしという強気継続で「はぁそうですか?」って感じだったので、こう書かれても違和感が無いと言えば無いのですが(^^)。

『何人かの委員は、展望レポートに対する市場の反応についてコメントした。これらの委員は、展望レポート公表以降、長短金利が落ち着いた動きとなっていることを指摘し、同レポートで示した日本銀行の金融政策運営の考え方は、市場において特段の違和感なく受け止められているとみられる、との認識を示した。』

いや、そうじゃなくて・・・・・日銀の先行き強気見通しはそれとして、足もとの景気原則を示す経済指標に反応していたんだと思うのですが・・・・(汗)

『このうち、複数の委員は、現在、金利が落ち着いている背景には、市場では、景気の先行きについて日本銀行に比べて慎重にみている参加者が多く、金融政策の枠組みの変更に関する議論が差し迫った課題として受け止められていないという面もあるとして、今後、景気回復が進んでいく過程において、情報発信のあり方について引き続き工夫を重ねていくことが重要である、と指摘した。』

ご指摘その通りですわな。この「複数の委員」が指摘しているのは要するに「日銀の景気見通しと市場の景気見通しに乖離が生じつつある」って事だと思われます。乖離しているときこそ日銀からの情報発信がムツカシイという訳でして、『工夫を重ねていくことが重要』って事になると思います。

それに関連して、GDPデフレーターの連鎖方式への移行に関してコメントが。

『ある委員は、GDPの改訂が足許における景気の減速感と結び付けて理解されることがないよう、情報発信に当たっては十分に留意する必要がある、と述べた。』

散々ドラめもんで悪態をついているのが聞こえたのかどうか知りませんが(^^)、まぁ日本銀行さまに置かれましては不用意な情報発信(というか誰かさんの不規則発言ですけど)によって相場に燃料を投下する事の無いように一つお願いしたいというところでございます。

まぁこの件を見ておりますと、「足もとの景気が減速している為に長短金利が低下している」という事に関して、政策委員会がちょっと懸念しているという事が読み取れると思います。確かに下手に金利の低下が進行するとその後の反動で余計な金利上昇をしてしまうっていう事例をこの2年間で2度派手にやっておりますんでナーバスになりますわなって所です。


それでは〜(^^)。

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2004/12/24

お題「当座預金残高目標の減らし方」

○当座預金残高目標維持が困難なのは・・・・

火曜日(追記:水曜日の間違い)には10月29日と11月17、18日の金融政策決定会合の議事要旨が発表されました。まぁ色々と読むところはあるのですが、今朝は11月17、18日の議事要旨の「当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要」をネタにしましょう。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g041118.htm

『このところ、年度末越えのオペを含め、短期資金供給オペにおいて札割れが発生していることについて議論が行われた。多くの委員は、金融システムに対する不安感の一段の後退などから、市場の資金余剰感が一層強まっている、との見方を示した。』

金融システムに対する不安感の一段の後退っつーのも何か微妙に違和感があるのですが、恐らく格付け機関の格上げ祭りを指しているのではないかとは思います。そもそもりそな救済スキーム発動以来「金融機関は最終的に国がケツを拭く」という暗黙の理解が強化されておりまして(減資はあってもデフォルトは無し)、不安感自体は既に無い筈。ただ、「無い筈」と言う形で断言モードにならないのは、肝心のインターバンク短期金融取引が長期化する量的緩和政策の副作用で死んでしまっているので、「金融システムに関する不安感の後退」が「市場の洗礼を受けていない」状況が背景にありますわな。

『そのうえで、委員は、今後の金融市場調節の運営について、短期資金供給オペの運営上の工夫によって、当座預金残高目標を達成していくことが必要であるとの認識を共有した。』

まぁそりゃ政策の運営目標ですから当たり前ですわな。


○ペイオフ解禁後に当座預金残高目標減額??

『ある委員は、少なくとも来春にペイオフ解禁が完全に実施されるまでは、金融市場や金融システム面の動向を注意深くみていく必要があると述べた。この点に関連して、何人かの委員は、金融システムに対する不安感の解消が一段と進んだ場合には、流動性に対する需要がさらに低下する可能性もある、と指摘した。』

この文章を素直に読みますと、ペイオフ解禁を無事通過→金融システムに対する不安感の後退→量的緩和政策の「量」の必要性の低下→当座預金残高目標額の減少って流れに繋がると思うのですが、まぁ議事要旨に最後の「目標額減少」を堂々と記載すると市場が予期せぬ暴れを起こす可能性もありますし、そもそもが思考実験の状態に過ぎない話しなので敢えて書いて騒ぎを起こす必要は無しという事なんでしょうかね。

ま〜ペイオフ解禁って言ったって、「決済性預金の全額保護」という素晴らしい抜け穴がある訳ですから、付利金利が屁の様な状態にあるうちは実質的にペイオフ解禁は尻抜け状態もいい所で、そうそう大規模な資金シフトは起きないでしょうし、資金シフトが起きなければ「輪の中の弱い鎖」も切れることにはならないと思います。屁でもいいから金利が欲しいっていう資金は既にCPだの現先だのに入っていますし。

とは言いましても、まぁ上記のような論理展開を持って「ペイオフ解禁は無事に通過し、金融システム不安は殆ど払拭されました」って大本営発表じゃなくてお話しになるのは思いっきり予想できる動きですので、ペイオフ解禁通過後に当座預金残高目標の減額が検討課題に上るのかも知れませんな。


○当座預金残高目標減額の障害は?

まず技術的な面を申しあげますと、これは短期金融市場関係者の意見がほぼ一致する筈なんですが、技術的な問題点は(30兆円を5兆円まで一気に落とすとかいう極端なことをしない限り)発生しないと思います。市場で資金需要が一時的に発生した場合の「なお書き」の余地を残しておけばよろし。ただし、またまた為替市場で円売り介入を物凄い勢いで実施しだすとこの限りではありませんので念の為。まぁ25兆円か20兆円位までは無問題ではないかと。

問題は毎度毎度あたくしが申しあげているように「政策の論理的整合性」という部分。まぁ「何でもありだから別にしれっと下げてしまえば」っていう考えもあたくしの頭をかすめちゃったりするのですが(^^)、やはり中央銀行の金融政策が「何考えてるんだかわからん」という状態にしてしまうのは「政策への信認」が失われる結果を呼び込む懸念が思いっ切りあるのでさすがに却下でしょうな。

で、あたくしがいつも申しあげているように、量的緩和政策における「量の意義」をレビューするのが本筋だとは思うのですが、何せ「量を増やす」=「緩和政策の強化」という理屈で突っ走っているので、「量を減らす」=「緩和政策の弱体化」→「金融引き締めですかぁ??」って話しになっちゃうので債券市場大騒ぎになる懸念は大有り。個人的には海外勢の方がこ〜ゆ〜ネタに反応しやすいという印象なんですけれどもね。

ではどうやって話しを有耶無耶にしつつ量を減らす(というのはやはり論理崩壊の上塗りなのであたくしとしてはあまり実行して欲しくは無いスキームですが・・・)にはどうしたらいいかという話が議事要旨の次の部分にしれっと書いてあるように思えるのは気のせいでしょうか??

『ある委員は、量的緩和政策には、金融市場の安定確保や緩和的な企業金融環境の維持を通じて企業のバランスシート調整をサポートするという効果があり、その成果は企業の資本収益率の向上というかたちで着実に現われてきている、と評価した。』

つまりですな、量的緩和政策の「量の効果」については「景気の下支え」「デフレスパイラルに陥らない為のサポート」「金融システム不安に対するアンカー」としての役割があったという理屈を持ち出して、「経済情勢を判断した結果、下支え部分を少しだけ減らしても大丈夫でしょうと判断」と言ったようなお話で当座預金残高目標を減らすって話しはやってきても何らおかしくは無いでしょうなって事でございます。まぁ増やすときは「金融緩和」と言っておきながら減らすときには「さっきの増額は支え効果を狙ったものに過ぎない」ってのも随分ご勝手な理屈だと思いますが・・・・・

議事要旨はこの一文の後にいきなり話題が変わっておりまして、妙なところでこの話題が終わっている事になっているのですが、どうなんでしょうかね〜??

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2004/12/21

お題「よく見りゃ泣きが入ってる金融経済月報」

今更ですが、先週金曜日に発表された金融経済月報の12月分を例によって例の如く11月分とダラダラと比較してみる訳です(^^)。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0412.htm(12月)
http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0411.htm(11月)


○「基調としては」ってのは弱気転換への一歩でしょうね

冒頭の基調判断はこんな感じ。

(12月)『わが国の景気は、生産面などに弱めの動きがみられるものの、基調としては回復を続けている。』
(11月)『わが国の景気は、輸出、生産の増勢に足もと一服感がみられるものの、全体として回復を続けている。』

「全体として回復」→「基調としては回復」という変化でして、回復への自信が弱くなってきているって感じでしょうな。「基調としては」って言い方にはどうも「距離を置いた表現」というものを感じるのですがどうでしょうか??


○現状認識も多くの部分で判断後退してますなぁ

当たり前といえば当たり前なんですが、景気の現状認識に関る部分もあちこち判断後退しておりますな。いつも同じ順番で話をしてるんで、各部門に関して並べてみましょう。『11月』→『12月』という書き方です。

・輸出:『増勢にはこのところ一服感』→『横ばい圏内で推移』
・生産:『増勢にはこのところ一服感』→『弱めの動きがみられる』
・設備投資:『引き続き増加している』→『引き続き増加傾向にある』
・雇用面:『改善傾向が続き、雇用者所得も下げ止まる(変らず)』
・個人消費:『個人消費は底堅く推移(変らず)』
・住宅投資:『横ばい圏内で推移(変らず)』
・公共投資:『減少している(変らず)』
・おまけ:日銀短観をうけて『企業の業況感にも一部に慎重さが窺われる』

この設備投資のあたりなんかは実にウォッチャーが喜ぶ所でして、この「傾向」って言葉が一つ入るか入らないかってのが微妙な匙加減を感じるのですな。絶賛景気回復モードの頃は毎月せっせとこの「傾向」と言ったヘッジクローズ(笑)が外れて景気回復に自信を深めているの図でしたが、今回はちょっと泣きが入っているという風情でございますな。


○先行き判断が全然変化無いですが・・・・・

まぁこれだけ現状判断を弱くしているのに先行き判断に関してはまるっきり同じという素晴らしい内容でして、「この意地っ張り!」と声をかけたくなる訳です(^^)。

11月と比較して変化があるのは、『当面はIT関連分野の在庫調整の影響が残ると予想されるが』って一言が入っているだけで、基本的な部分は物の見事に全て同じでございます。いや〜意地っ張りですなぁ。


○物価は原油価格の影響に関してだけ変化あり

物価の現状は先月と同じです。先行き見通しに関して今月は『国内企業物価は、原油高の一服等により、上昇テンポが緩やかになるとみられる。』というところが変化ありでして、先月までは「当面上昇を続けるとみられる」って感じでしたのでやや先行き判断を弱くしています。その割には直前での景気先行き判断部分では「原油価格の動向と内外経済への影響は要注意」みたいな話はしているので、まぁ手放しで原油価格おちついて良かったねって状態でも無いようですな。


○民間資金需要がどさくさに紛れて判断後退??

金融危機とやらがどこかへ逝ってしまってからはあまり省みられる事も無い金融面に関してですが、よくよく見れば(ってよく見なくても気が付くが)民間資金需要の部分が微妙にこれまた判断後退なのかどうか微妙な表現変化です。

(12月)『民間の資金需要は回復方向の動きに足もと一服感がみられる。』
(11月)『民間の資金需要は減少テンポが幾分緩やかになってきている。』

どっちの方が判断として「強い」のか甚だビミョーな表現ではありますが、文脈をみると「足もと一服感」のほうが弱そうに思えますがどうでしょうかね〜?

まぁ民間資金需要に関しては景気回復傾向が持続するのよって話にも繋がる話だと思いますんで結構重要なのではないかと思う今日この頃。


という訳で、本日は引用部分を少なめに。詳しくはお手数をおかけしますが、上記のURLをご覧くださいませ。


ではでは。





2004/12/20

お題「オペ騒動始末記」

年末になって突然話題を提供する日銀ってポイント外しませんな。

○債券市場で起きた事

金曜日の債券市場ではご存知のように日銀による長期国債の買入が実施されませんで、時あたかも金融政策決定会合をやっている日でしたので、「もしかして輪番(長期国債買入ね。以下輪番と表記^^)減額を決定か?」などという噂も流れたようです。まぁ誰も「そりゃあり得ないだろう」と思っていても実際に先物が売られちゃったりすると「間違って何かあったら・・・・」と不安にもなるものであります。

2日制の決定会合にしては終了時間も遅くなっていたので、終わるまではあり得ないとは判っていても、ちょっと不安は不安(2日制何もないと12時前に終わるので)ではありましたが、まぁ前場引け前に一気に買戻しが入ってさすがにその時点で不安心理は解消という感じではありましたが。まぁ人騒がせなオペ(見送り)でありました。

以下本件に関する論点整理。


○マーケットの誤解その1:金融調節で意思を出すかどうか

金曜日のドラめもんであたくしはこう書きました。

「昔の日銀営業局的手法」を大変に遺憾だとお思いになっておられるらしい福井総裁がトップにいる関係上、「日々の金融調節で日銀の意思表示を行う」というのは基本的にやらない事になっている(昨年の債券市場超越大暴落の最終局面で期間9ヶ月の手形オペを実施したのが唯一の例外)。

現在の金融調節の枠組みにおいては大体からして意思の出しようも無い上に、そこまでマーケットを細かく日銀の方がヒアリングしていないのでして、日銀と市場の阿吽の呼吸というよりは要するに日銀が短期金融市場をガチガチにコントロールしていた時代と現在では前提条件がそもそも全然違うのですが、何故か昔の感覚で「調節姿勢に変化が見られる」などという意見が出てくるのが理解致しかねる所であります。

まぁ調節に変化があって量的緩和政策の解除でもやってくれた方が相場が動いて結構だという人も世の中大量にいらっしゃるので、その手の見方をしたくなるというお気持ちは理解できますけどね。

(説明不足と指摘されましたので翌日に補足説明した部分を以下記載)

昨日の補足:日銀オペレーションの政策意図とは?

昨日のドラめもんで「金融調節で意図は出さない」という話をしましたが、よくよく見ればあたくし全然説明しないでさも自明で有るかのごとく話を展開しておりました。で、補足説明ですが。

日銀法の改正および組織改正によって現在の日銀において金融政策を決定する機関は「日本銀行政策委員会」という事がより明確化して、政策委員会がより重要になりました。旧法下では政策委員会が「スリーピング・ボード」などと揶揄されまして実質的に執行部主導での金融政策決定が行われたので、まぁ名目は兎も角大いなる変化ってぇ事でしょうな。

で、その政策委員会のうち金融政策について決定する会合の事を「金融政策決定会合」という訳ですが、とにもかくにもこの政策委員会が金融政策を決定するのであって、日々の金融調節は「政策委員会が決定した事を粛々と実行する」というのがお仕事になります。現在の金融政策(量的緩和)の枠組みにおきましては、金融政策の目標が「日銀当座預金残高」ですので、当座預金残高が一定の数値(今なら30〜35兆円)に収まるように金融調節をすることになります。

金利(無担保コール翌日物金利)を目標にした通常の金融政策の枠組みにおいては同じ理屈で日々の金融調節は市場で値段が付く無担保コール翌日物金利が目標数値近辺に収まるように調節を行う訳でして、コールレートが上下に振れた場合に日銀が「金融調節で牽制する」ってのはあくまでも「政策委員会の決定事項に則って行う意思表示」でありますが、上記したように現在の量的緩和政策の枠組みでは「当座預金残高の繁閑を均す」という調節しか出来ないので、意思も糞も無いという話になる訳でございます。

とは言いましても、「最近の調節姿勢に変化が見られるのは何らかの意思表示でしょ」って見方もあるとは思いますが、「金融政策は政策委員会で決定し、決定した政策は即公表」という現在の制度に則りますと、金融調節を行う担当部署が「将来の金融政策を予想させるような行為をする」というのは越権行為も甚だしい訳でありますし、日銀内部のもっとエライ人であっても、政策委員会で決まってもいない将来の金融政策を織り込ませるというのは同様に越権行為でございます。

てな理屈でございまして、「金融調節によって将来の金融政策運営の意思表示を見る」というのは現在の制度上ありうべからざる事と言うわけでございます。



○マーケットの誤解その2:輪番減額は可能かどうか

輪番オペの拡大は速水総裁時代に行われていたものですが、この時に買入額を拡大するたびに金融政策決定会合で決定しておりまして、輪番オペの月間買入額の拡大には必ず当座預金残高目標の引き上げを伴っておりました。

従いまして、政策のロジックから行きまして、輪番オペの減額は当座預金残高目標の引き下げを伴う訳ですな。で、現状の量的緩和政策の枠組みにおきましては、当座預金残高目標の引き上げを行うときに「量的緩和政策の強化」という触れ込みになっていますので、当座預金残高目標の引き下げは量的緩和政策の減殺、即ち金融引き締めを意味する訳でして、量的緩和政策の解除に直結するというお話になる訳です。

即ち、「輪番減額」→「当座預金残高目標減額」→「金融引き締め」というロジックが成立するというのが現在の金融政策の枠組みでありますので、量的緩和政策のコミットメントが成立している現状において輪番の減額は(当座預金残高目標の減額も)あり得ないというのが論理的帰結になるわけであります。


○マーケットの誤解その3:当座預金残高目標の減額に関する誤解

とは言ってもマーケットには当座預金残高の減額があるのではないかという見解はありますわな。現実問題として現在の当座預金残高の30兆円を維持するのが技術的にしんどいというのがある為にそういう議論が行われているというのもありますし、「量的緩和政策のコミットメント3条件を変更するのはどうよ」って言ってしまった水野さんが審議委員に就任したというのもそういう見方を後押ししているという面もあるかと。

しかしながら、先ほど申しあげましたように、現在の量的緩和政策においては「量」に意味があるという理屈で政策を展開しておりますので、「量の減額が量的緩和政策の引き締めに当たる」という結論が導かれる訳です。従って当座預金残高目標の減額を行いたいというのであれば、量的緩和政策における「量の意味」についてレビューを行う(というか要は「量には意味はありません。ゼロ金利+時間軸に意味があったのでした。」って認めやがれって事ですが^^)べきものでありまして、それ無しで当座預金残高目標の減額を行うのは、論理崩壊の上塗り状態でして、中央銀行としてそれで良いのかよって話になるでしょうな。



とまぁ上記のようなロジックを市場関係者が熟知していれば本来「輪番減額」などという想像は起き得ないものでありまして、「そんな訳ね〜だろ」と言いながらも現実に相場が下がっちゃうのは(マーケットが何となくロング気味だったとか他の要因があったにせよ)日銀の不徳の致す所としか申しあげようがございません訳です。で、日銀のチョンボについて何点か。

○日銀のチョンボその1:輪番は資金繁閑の調整じゃないでしょ

日銀のWebってのは物凄くよく作りこんでありまして、「わかりやすい金融経済」などというコーナーに金融調節に関する解説が書いてあったりします。そこには各オペレーションの説明がありまして、輪番オペに関しての説明はこういう風になっております。(http://www.boj.or.jp/wakaru/seisaku/wkinqn1.htm)

国債買入オペ:日本銀行が利付国債を買い入れる事によって資金を供給する。長い目出見た日銀券の増加トレンドにほぼ見合うように行うという考え方のもとに実施。

つー訳ですんで、輪番オペは短期市場における日々の資金繁閑の調整では無い訳でして、オペを月4回3000億円づつ実施するというのであれば基本的には淡々と実施すべきものであって、国債入札日程との調整は必要(市場への介入に限りなく近くなるから)でしょうが、足もとの資金が余剰だから実施を先送りするとか不足だから連日実施するとかいう性格の物では無い筈。

先週来資金需給的に大余剰状態になっているというのはよーーーく判っておりますが、それとこれとは別問題な筈なのですが、何か勘違いしていないかと思ってしまう訳ですわな。しかも金融政策決定会合の日に「当然実施するでしょう」と誰もが思っていた輪番オペを打たないのは「思惑を生んで下さい」と言っているような物でして、まさに日銀による身を切ったギャグの世界という感じですな。


○日銀のチョンボその2:TB売却の政策的意義?

TB買入オペの導入は1999年10月13日の金融政策決定会合で決定されたものでありまして、そのときに日銀はこう言いました。(http://www.boj.or.jp/seisaku/99/pb/k991013b.htm)

日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、「ゼロ金利政策」の継続に当たり、金融市場調節手段の機能強化を進めるとともに、その弾力的な活用を図ることにより、金融・為替市場の動向も注視しつつ、金融緩和効果の一層の浸透に努めていくことを決定した。こうした方針のもとで、今般、以下の諸措置を講ずることとした。

という事で、TBアウトライトオペは「金融緩和効果の一層の浸透」のために行うものでして、導入当時当然ながら日銀の買入方向(=資金供給)として実施していたものですわな。で、売却も大昔にやったらしいのですが、まぁこの時期にいきなりTB売却を復活させれば(先週は超久しぶりにやったと思ったら翌々日にも実施)「金融緩和効果の浸透の逆ですか?」という発想が起きても不思議ではない訳ですわな。

まぁ元々99年に実施した時に単に「金融調節の円滑化を図る為に導入」とでも言えば無問題だったのでありますが、実施に当たってさも「金融緩和効果がある」と言わんばかりの触れ込みを行ったのが宜しくなかったという事で、今の人たちに文句言う筋合いではないのかもしれませんが、まぁ論理的整合性を取らないで政策運営をしていると次々と碌でもない事になるって話でしょうな。

下手な言い訳をするとその言い訳の為に更に下手な言い訳をしないといけなくなって無駄なエネルギーが費やされるというお話でしょう。


まぁ市場も市場なら日銀も日銀って事でして。もうちょっと論点があったようにも思えるのですが、話が上手く繋がらん。。。で、金融経済月報に関しては明日にでも触れたいと思います。第一印象は「日銀往生際が悪いな」って感じですが。

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2004/12/17

○タイミングが妙な??輪番オペ

水曜日に実施されると思われていた国債買入(現在は輪番形式じゃないので輪番オペというのは不適当なのですが、昔からの俗称なので年寄りのあたくしもこの用語を時々使います)が実施されずに「???」という感じだった債券市場。月4回のオファーを行う事を考えると、年末進行でもありますのでいつものように水曜に実施するんじゃね〜のって思っていた人は多かったので、昨日もオファーなしで「何かタイミングが変調気味ですな〜」という印象を強くしている人がちらほら。先月も(不覚にも手控え帳面に書いてないのいつだか申し上げられないのですが)皆が「今日はあるでしょう」って身構えモードだった日に輪番オペが実施されずに「あらら?」って事があったのですが、今回も「???」という印象。

まぁ昨日に関して言えば、その前の日にFB3ヶ月もので100円入札事件(えーこれは公取マターにはならないんでしょうかと言ってみるテスト^^)がございましたので、もう一発TB売却オペを実施するタイミングでもありまして、TB売却がある意味「予定通り」実施されております。TB売却は資金吸収にあたりまして、同日に輪番オペを打ちますと「これはもしかしてイールドカーブのフラット化を企図しているのではないでしょうか(短期債売りの長期債買いだから)」などという思惑が発生しちゃったりするので、輪番オペが打ちにくかったというのも確かにあるのですが、それにしても今までまるで機械のように同じようなタイミングでオファーしていた輪番オペの日程がほんの気持ち程度ですが読みにくくなっております。

ま〜ほぼ何も意図は無い、といいますか「昔の日銀営業局的手法」を大変に遺憾だとお思いになっておられるらしい福井総裁がトップにいる関係上、「日々の金融調節で日銀の意思表示を行う」というのは基本的にやらない事になっている(昨年の債券市場超越大暴落の最終局面で期間9ヶ月の手形オペを実施したのが唯一の例外)のですが、ともかくも別に調節をやっている方は特段の政策意図を込めては居ないと思います。あたくしはそう思うのですが、世の中がどう思うかというのはまったく別の問題。

特に組織改革前の日銀における「営業局的手法」というまぁ「あうんの呼吸」と言うのか「調節に意思を込めた職人芸的手段」というのが訳判らんと文句を付けまくるのが得意であった海外投資家の皆様におかれましては、ここもとの「タイミングが良く判らないオペ復活の兆候??」状態にはナーバスになる可能性も高いのではないかと思料される所でございます。で、そ〜ゆ〜見方が流布されだすと、債券市場業界にいる日銀ウォッチャー業務も行っている事になっている方々の中でもあたくしに言わせりゃ〜トンチンカンというかまるで見当はずれの事を言い出す人も存在してますので、「最近の日銀のオペレーションに政策意図か?」みたいな事を言い出す人が出てくるものと推察されます。

そうなるとそれはそれなりに妙な事も起きる可能性があるので一応心の準備をしておくのが吉かと。でもあたくし思いまするに何も考えて無いと見られるので、本件に関する変な思惑に関してはちょっとどうなんでしょうな〜。何せ6月には「海外での武藤副総裁のスピーチを意図的だか意図的じゃないかは知りませんが(っていうか意図的にやってるだろうよイェスパー君よって感じですが)誤訳して『武藤ショック』と言い出したのが債券相場の下落を加速させた事件」ってのが有った位でして、日銀に関するネタに関しては債券市場関係者って意外に「乗せられやすい」という傾向にあるんで、まぁご注意ありたしって事でしょうな。


○短期国債売却オペまたも実施

と言う訳で昨日も短期国債売却オペが実施されたのですが、今まで実施していなかったオペをいきなり実施しだした事に関しても上記の話と同様に「政策的な意図」を気にする向きが出てくるかと思います。

「長期国債の買入はベースマネーの供給で、短期国債の買入はただの短期金融市場での資金繁閑調整」という理屈の根拠もイマイチ「ハァ?」って感じではありますが、一応そ〜ゆ〜事になっている以上、特段の政策意図がある訳ではないかと存じます。手形オペ(売出手形)よりはTB売却の方が売ってるものと買ってるものが同じ短期国債という商品になりますんで、売ったり買ったりをバカスカ実施しても玉不足という事態になりにくい(勿論別の事情で流通市場が玉不足の場合は話は別ですが)ので使いやすいという側面もあります。ただし証券決済のタイミングにあわせてオペを実施する必要があるので3営業日後決済じゃないとワークしないという問題点はあるのですが。

ところで、この短期国債の売買オペレーションなのですが、実施が正式に決定されたときに単に「短期金融市場におけるオペレーション手段の拡充」と言えば何の問題も無かったのですが、実は導入時に「金融緩和効果をより高めるために」とかいう意味不明の屁理屈をつけておられたようでして、導入を決定した金融政策決定会合において「政策意図がおかしい」といった理由で当時の中原伸之審議委員と篠塚英子審議委員という「過激な金融緩和派」と「過激な金融引き締め派」の両巨頭が反対していたそうで、いかにその理屈というか屁理屈が牽強付会なこじつけであったかという事が判ろうかと言うものです。

その屁理屈を援用すると短期国債売却オペは「金融緩和効果を阻害する」という話になりますので、これまた当時のロジックをまともに信用していたり、量的緩和政策における「量の効果」について結構大真面目に信用している人が多いと思われる海外投資家の皆様におかれましては、変な思惑を発生するきっかけになる可能性もある訳でして、まぁこの面からもご注意が必要かと存じます。

なお、この「短期国債売買オペレーションの政策意図云々」という部分に関しましては、昨日の時事通信社提供の「時事メイン」コラムの「金融観測」に書かれております記事を思いっ切り参考にさせていただいております。いつも示唆に富み勉強になるコラムでございますので、読者様におかれましては情報ベンダーに時事メインを導入されているのであれば見逃す事の無いようにされるのが吉かと存じます(^^)。


○日銀ネタ残りは雑談

余談その1:余談じゃないんですが、今日の金融経済月報でどの位日銀が白旗を揚げるかは注目しませう。福井総裁や水野審議委員のお話を聞いているとまだまだあきらめないモードでしょうし、短観も全面悲観ではないですし。

余談その2:神戸支店の新札すり替え攻撃ですが、諭旨免職になった発券課長様におかれましては日銀内部の特別調査チームの聴取に対して「虚偽の説明を行い、交換が行われたことを否定した」(日銀Webの「日本銀行券の不適正な取扱いに関する特別調査結果等について」より)そうですな。で、懲戒解雇じゃなくて諭旨免職ですかはあそうですか。銀行業界では監督官庁の検査忌避行為で刑事告発だの逮(以下略)。

まぁしかし世も末ですな。失った信頼はそう簡単に戻らんよ。

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2004/12/16

○どうとでも取れる日銀短観

昨日発表された日銀短観に関してはエコノミスト、ストラテジストの意見がまちまちで結構楽しいものがございました。あたくしなりにいい加減に纏めるとこんな感じかな。正直「概要」の1ページ目しか騙っていませんが。

・中小企業の業況判断DIが案外悪くない

中小製造で+5というのは9月時点と変らず。しかも9月時点での「12月の予想」が+3だったので「9月に思っていたより悪くない」という結果。同様に中小非製造で▲14は9月の▲17よりも好転しており(って言ってもマイナスはマイナスですが^^)、9月時点での見通し数値の▲16よりも好転の巻。中小企業の数値がもっとズタボロになるという見方もあった中では「意外に健闘してるじゃん」というところかと存じます。

・製造業から非製造業への「回復の波及」か?

製造業の業況判断DIがやや悪化していますが、非製造業の業況判断DIはほぼ変らずという感じ。製造業の回復過程に遅行しているという事になっている(実は分断されているのではないかという気もしますが)流れからしますとこれはこれで一応理屈どおりの話かと。

・「業況判断DIの先行き見通し」は当てにならないのでは?

ドラめもん書くようになってから真面目に短観を見るようになったので短観チェックも9回目になりますが、この間毎度毎度思うのが上記の事です。基本的に「先行き見通し」の数字は足もとの数字に依存しやすく、おまけに基本的に弱めに出るという傾向がありまして、過去の景気回復局面と言われる時期においては毎度毎度の如く「業況判断DIの先行き見通しの数字よりも実際に3ヵ月後に出てきた数字が大幅改善」って結果になっておりますのでご注意ありたし。

今回の短観に関しても「先行きの見通し数値が思いっ切り悪化していますな〜」という見方も出ている(というか普通そう読む)のですが、上記したように、この「先行き見通し」数字は先行指標として全然使えないという素晴らしい数字であって、あくまでも一致指標としての意味しかない(下手したら遅行指標かも)と割り切って見たほうが吉かと。

・個別業種を見ると・・・・

あまり真面目に見ているわけでは無いのですが、前回の業況判断DIから今回の業況判断DIが派手派手に変化している業種(ただし大企業)を見ますと、製造業において改善著しいのが精密機械(+18→+31)。で、悪化が中々なのは紙・パルプ(+25→+13)、電気機械(+28→+11)、造船・重機等(+16→0)でございます。

でもって、上記したようにあまり当てにならない「9月時点での先行き見通し」と比較するというご都合主義的分析(自爆)を致しますと、この中では製品製造サイクルが長くて先行きが読みやすそうな造船・重機等の皆様は12月時点での大幅悪化を読んでいたようですし、電気機械も割と先行きは悪化するでしょうと読んでいたようですが、紙・パルプに関しては予想以上に大幅悪化しているというように読めますな。だからどうしたといわれると困るのですが(汗)。

非製造業に関しては元々9月時点で先行きのある程度の悪化を見ていた通信(+13→+2)はまぁそうですかって感じですが、何気に派手派手悪化をしていて、しかも9月時点では碌に悪化を予想していなかった業種があります。それは飲食店・宿泊(+7→▲4)でして、もしかしてこれは個人消費が悪化しているという事ではないでしょうか何てことも思っちゃったりする数字だったりしますわな。

・結局どうなのかといいますと・・・・

正直「思ったほど悪くない」というのが全体的印象なのですが、上記のように個別を見ると何だか怪しいものもありまして、決め打ちは致しかねますという実に日和った結論になる訳ですな(滝汗)。

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2004/12/15

○短期国債売却オペ

昨日は何年振りだったか忘れましたが(ていうか単に記録手元に無いだけです、スイマセン)、短期国債の売却オペが実施されました。で、売却オペ実施された瞬間にあたくし激しく痛恨だったのですが、実は一昨日の時点で日本証券業協会が発表する売買参考統計値のうち短期国債の複数銘柄で「利回り0%(=単価100円)」という大変に美しい事態が生じていた事は気がついていたので、話のネタにしようかな〜と思っていたので、ネタにする前に「やられた!」って感じです。

売買参考統計値って奴は日本証券業協会のWebから誰でも閲覧できまして、算出方法もそこに書いてあるのでまぁネタバレにならないと存じますが、協会会員のうち報告会社ってのがありまして、この人たちが「今日の価格(利回り)は幾らざます」と報告をしたものを集計しているのですが、以前は「利回り0%というのはあり得ない」という前提に立っていたようで、報告値に利回り0%だのマイナス利回りだのというものを混ぜると協会の担当から「何じゃこりゃ」というチェックが入っていたのですが、短期国債市場での玉無し無し状態を反映してついに)0%もオッケーって事になったのでしょう。

で、日本銀行による短期国債売却オペという事になるのですが、まぁ売買参考統計値で「利回り0%」ってのが出た銘柄が物の見事に売却対象銘柄になっていましたので、今回のオペ実施にあたっては「利回り0%はどうよ」っていうメッセージもこめられているとは思います。また、売却額が3000億ぽっちと相場を壊す事も無く(というか干天の慈雨状態なのですが)、オペの打ち方としては中々宜しかったのではないでしょうか。

ちなみにご存知かと思いますが、短期国債の売買オペは長期国債の売買(というか買いしかないが)と政策意図が全然違いますので、「償還手数料込み利回り」という無茶苦茶(ではなく合理的ではあるのですが)な利回りで売買されたりする事もある期近の長期国債(市中残存量が少なく高クーポンの銘柄群)の売買参考統計値をゼロとかマイナスにしても、売却オペはやってくれません。残念!(というか一瞬考えたのですが・・・・^^)

ちなみに、相変わらず日銀的には「金利ゼロはありえん」という事になっていますので、短期国債だろうと長期国債だろうと、日銀との売買取引において「利回りゼロ以下」という仕切り価格は存在しておりません。

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2004/11/25

お題「夏草や・・・・」

こういうのを「つわものどもが夢の跡」とでも言うのではないかと(^^)。

と申しますのは、相変わらず平均株価くらいしか材料の無い債券市場なわけですが、昨日は10月12日、13日開催分の金融政策決定会合議事要旨が公開されて、世の中に20人ほど存在すると思われる(ドラめもん推測)日銀マニアの間にどよめきが起こりました。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g041013.htm

で、昨日17時23分に配信された時事通信社の時事メインコラム「金融観測」で『決定会合は放談的?=「とりとめのない」議論』というお題で今回発表された議事要旨を斬っておりまして大変に面白いので時事メインをお持ちの方は必見ですな、と書くと話が終わってしまいますが、冒頭のところだけ勝手に引用します。

『日銀が24日発表した10月12、13日の金融政策決定会合・議事用紙は、「とりとめがない」(銀行系証券アナリスト)と受け止められた。政策ロジックの喪失により、同会合が放談的になるのは否定できないが、意味不明の市場機能論がなお浮上する傍らで、それを諭す委員。そして、解除イメージの必要性を叫ぶ威勢のいい声も上がるなど、確かにとりとめがなくなっている。』

今回公表された議事録は指摘のように「とりとめがない放談状態」でもありますし、あたくしが最初にさらっと見た印象では「まぁおまえら落ち着け」とでも言いたくなる「景気楽観でお祭り状態?」というものもありまして、わずか1ヶ月半前には随分と景気回復、というか景気拡大で大喜びしていたんですな〜と思ってしまうわけでして、今月になって内閣府は景気判断を下方修正するし、日銀も金融経済月報で「前向きの循環も明確化」という文言を削っている現在から振り返ってこの議事要旨を拝読いたしますと、あたかも「宴の後」的な風情を感じている訳であります。


○景気回復感を強調しているように見える執行部報告

まず最初に「金融経済情勢等に関する執行部からの報告の概要」というのがありますが、こちらで発表される現状(10月初旬現在ですが)報告はちょうど10月の頭にどこぞの経済新聞が突如景気回復大キャンペーンを張り出したのと同じような感じで景気回復感を強調しているような感じです。

・海外金融経済情勢

『米国経済は、家計支出や設備投資などの国内民需に支えられて、景気の拡大が続いている。ただし、雇用者数や資本財受注など、景気拡大テンポのスローダウンを示す指標もみられている。』

『中国は、内外需ともに力強い拡大が続いており、固定資産投資の年初来累計の前年比は、政策当局が景気過熱抑制策を講じているもとにあっても、引き続き高い伸びとなっている。』

『ユーロエリアでは、景気の回復が続いている。ただ、輸出の増勢が幾分頭打ちとなっていることもあって、企業コンフィデンスの持ち直しは一服している。』

ちょっとずつヘッジクローズが入っているのですが、まず最初に「拡大傾向」を強調しておりますな。で、国内経済に関してはもっと威勢が良いよのこれが。

・国内金融経済情勢

『設備投資は、増加を続けている。資本財出荷(除く輸送機械)は、4〜6月に続いて7〜8月も堅調な増加を続けた。9月短観で、設備投資を取り巻く環境を確認すると、企業収益が増加を続けているほか、企業の業況感も着実な改善を続けている。そうしたもとで、2004年度の設備投資計画は、中小企業を中心に、順調に上方修正されている。この間、先行指標の一つである機械受注(船舶・電力を除く民需)は、4〜6月に大幅に増加した後、その反動が出るかたちで7〜8月は減少したが、もう一つの先行指標である建築着工床面積(民間非居住用)については、このところ増加傾向が明確となっている。』

いやまぁこの設備投資に関する所に関しては強気な見方が思いっきり感じられてしまう訳でして、思わずこの部分だけは全部引用してしまいました。この時点で機械受注は減速していたのですが、建築着工面積を持ち出して設備投資の増加傾向に関して言及しておりますわな。うーむ。

引用しだすときりが無いので上記URLの先にある文書をご覧いただければと思う訳ですが、雇用環境、個人消費に関しても強気の印象を与える内容となっております。


○で、肝心の委員会の検討概要ですが・・・・

まぁ直前に発表された日銀短観も特に設備投資なんぞが良い数字を示してましたし、執行部の報告も強気な現状判断ってことでして、大変に良い感じの検討状況だったのでしょうな〜って感じです。正直、今の時点で景気減速傾向が見られていなかったらこの部分だけでも見事に債券売り材料になったのではないかと思う次第で、いつもながら「まぁお前らおちつけ」であります。

『足許の経済情勢について、委員は、輸出の伸び鈍化が引き続き生産面等に影響を及ぼしているが、(1)9月短観において、素材や機械をはじめ、幅広い業種で業況感の改善がみられ、前向きの循環が引き続き働いていることが確認された、(2)個人消費指標は引き続き強めの動きであり、消費者心理を示す指標も改善を続けている、などの点を指摘した上で、景気は回復を続けているとの認識を共有した。先行きについても、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとの見方が共有された。』

「前向きの循環も明確化していくとの見方が共有された」でございますよ先生って感じですが、どうも9月短観が強気の見方を随分後押ししたと思われます。

『海外経済に関して、委員は、世界経済を全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつも、着実な拡大を続けていくとの見方を共有した。』

まぁこの時に限らず、海外経済に関しては今月の金融経済月報でも強気の見方は継続なんでこんなものでしょう。要因分析部分は引用割愛致します。


『設備投資について、多くの委員は、2004年度の設備投資計画が9月短観においてさらに上方修正されたことを指摘し、設備投資の増勢は、業種・企業規模の広がりを伴いつつ、力強さを増していると述べた。複数の委員は、能力増強投資に踏み切るなど、攻めの経営に転じる企業が増えてきているように窺われるとの見方を示した。先行きについても、委員は増加を続けるとの認識を共有した。』

『生産について、多くの委員は、7〜9月の鉱工業生産指数は、一時的に横ばい圏内の動きにとどまる見込みであるが、10〜12月は、内外需要の回復を背景に再び増勢を取り戻すとの見方を示した。その上で、基調判断として、生産は増加傾向を続けているとの認識が概ね共有された。』

『個人消費について、委員は、やや強めの動きが続いているとの見方を共有した。そうした動きを下支えする要因として、何人かの委員は、消費者コンフィデンスの改善傾向を指摘した。』

『雇用・所得面では、委員は、求人関連指標や失業率、短観の雇用判断DIなど労働需給を反映する諸指標が改善を続けている中で、雇用者数が増加傾向にあるほか、賃金も概ね下げ止まりつつあり、雇用者所得は下げ止まってきているとの認識を共有した。ある委員は、企業収益の増加が雇用者所得に与える好影響は今後明確になり、いずれかの時点で、個人消費の強めの動きが雇用者所得の裏付けを伴ったものとなるとの見方を示した。』

最後の「ある委員」ってもしかして福井総裁かな〜何て思う訳ですが、まぁ基調としてもうとっても強気。

で、この辺の文章も引用元にあたって頂けるとわかる(全部引用していると時間と量が多くなりすぎるので・・・)のですが、何だか「この間、複数の委員は」とか「また、ある委員は」などというフレーズが妙に多い気が致します。まぁ過去の要旨と並べて比較しているわけではないので本当に多いのかは未確認ですが、毎度毎度見ている人の印象としてそう思うわけでして、冒頭でご紹介した時事メインコラム「金融観測」にあるように、今回の議事要旨は「とりとめのない放談的」な印象を与えるものとなっています。


○金融政策運営の検討は益々放談化

時事メインコラムと思いっきりかぶるのですが、やはりご紹介しない訳にはいかないでしょう(^^)。

『当面の金融市場調節に関して、複数の委員は、量的緩和開始後初めて「なお書き」を発動しないまま半期末越えを迎えるなど、金融市場はきわめて落ち着いた推移を辿っていると評価した。そのうち一人の委員は、こうした状況では、金融機関の当座預金に対する需要が減退しがちであるため、当座預金残高目標の達成は必ずしも容易でないと指摘し、引き続ききめ細かい調節に配慮する必要があると付言した。』

この「こうした状況では云々」の部分が何を言いたいのか良く判らない(原因と結果を混同してね〜か?)のですが、まぁ要するに当座預金残高目標額を達成するのが困難化しつつあるというのは現実としてありますわな。恐らく介入資金の絡みでは無いかと思うのですが。。。。。

『他の一人の委員は、現在のように金融システムに対する不安感が後退しているもとでは、現行の当座預金残高目標を維持するとともに、市場機能復活の芽を摘まないという観点も必要ではないかと述べた。』

えーこれはもしかして福間さんでしょうか。以前あたくしがドラめもんでボロカスに書いた気がするのですが、福間委員は「ターム物取引が活発化しないのは銀行間のクレジットラインが復活していないからであって、金融不安のあるうちは量的緩和政策が必要である」という因果関係を見事に取り違えた怪論を発して、日銀ウォッチャーの間に「おいおい」という声が上がっていたわけですな。

ちなみに市場機能復活がどうのこうのって話は須田さんも得意なのですが、須田さんの場合は「当座預金残高目標を拡大しすぎた為に目標達成の為に日銀がターム物資金を出しすぎてしまい、市場機能(量的緩和の導入時は「市場機能を残しながら緩和効果を出すのでゼロ金利とは違う」って理屈になってました)が損なわれている」という認識だった筈なので、須田さんのご意見では無いと思うのですが。(後日追記:どちらかと言えば須田さんじゃないかという指摘の方が多かったです。あたくしが少々須田さんを買い被っている節がありますんで・・・)

まぁそんな間の抜けた意見に対しては「おいおいおい」と突込みが入ったようで(^^)、

『これに対し、別の委員は、当座預金残高目標の達成と同時に市場機能の回復の芽を摘まないということは、大変難しい要請であるとした。』

つーか無理だって(-_-メ)。

『さらに別の委員は、少なくともペイオフが完全に実施されるまでは、金融市場の動きを注意深くみていく必要があるとの考えを述べた。』

もしかしたらこれが福間さんかもしれませんな。まぁどうせ10年後にならないと判らないので判明した頃にはどうでもいい事になっているでしょうが、10年後にあたくしが同じようなことやっていたら興味本位で全部検証してみましょう。


『複数の委員は、次回の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示される2005年度の消費者物価見通しに市場参加者の関心が改めて集まりつつあることに言及し、見通し計数などに過剰な反応がみられる可能性もあるので、引き続き、市場の動向を丁寧に確認していくとともに、日本銀行としての経済・物価情勢の見方や政策運営についての考え方を市場に対して分かり易く示していくことが重要である、との考えを述べた。』

まぁアレですな。まずは「市場機能の回復をしながら当座預金はスーパーじゃぶじゃぶにする」などというような「おまえ本当は何も判ってないんじゃね〜のか」とあたくし如き人間に突っ込みを食らうような意見を平然と語るようなお方にもっと勉強をしていただかないと、「市場に対して分かり易く示していく」も糞もねぇと思うのですけどねぇ。


○まぁ落ち着けと

で、最後の一文が今回の議事要旨の白眉でして、もしかして事務局は狙って最後にオチをつけたのでは無いかと思っちゃうくらい面白い(^^)。

『この間、一人の委員は、将来のいずれかの時点では、日本銀行当座預金残高を金融市場調節の主たる操作目標とする現在の金融政策の枠組みから移行することになるので、移行のイメージについて十分に議論しておくことが必要ではないかとの意見を述べた。』

時事メイン「金融観測」での指摘はこんな感じです。あたくしも全く同感。

(引用開始)そもそもビハインド・ザ・カーブの政策運営では事前のイメージは「市場との対話」においては雑音となりかねない。恐らく「改善を示した日銀短観直後の昂揚感が言わしめたもの」(都銀)と推測されるが、この点はやはりと言うか、『展望リポート』の「余裕をもって対応を進められる」との文言が必要なのは日銀だったわけだ。(引用終了)


景気減速の指標が出ているときに公表されたのが不幸中の幸い(本当か?)としか言いようの無い議事要旨でして、もし10月初旬の「株価とかは上がらないけど、まぁ何となく景気回復は持続してるんでしょうな〜」という雰囲気が継続しているような状態でこの議事要旨が出たら、昨年の債券相場を髣髴させる暴落を演じてもおかしくはなかったでしょう。

10月の議事でこんなに威勢のいい話をしていた訳で、こうなりますと11月の議事要旨が早く見たくなりますな。どんな雰囲気で話をしてたんでしょう??


ではでは。

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2004/11/19

お題「金融経済月報」

やはり話題はこれでしょって事ですな。昨日あっさり12時前に終了した金融政策決定会合は当然の如く全員一致で現状維持なのですが、注目は金融経済月報でありまして、さてどうなったかと申しますと・・・・・

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0411.htm

○「前向きの循環」は?

話題の展開の都合上現状判断の前に先行き見通しをご紹介。今回は何気に注目の月報だったので既にあちこちで指摘されていると思いますが、先行き見通しの中で登場した「前向きの循環」という文言が消えてしまいました。

この「前向きの循環」が「ダム論復活!」とゆ〜ことで日銀の景気への強気な見方を象徴していた訳ですな。ちなみにこの文言が最初に出てきたのは今年4月の金融経済月報で『先行きについては、景気は当面緩やかな回復を続ける中で、前向きの循環が次第に強まっていくとみられる。』という風にご登場した次第です。で、今回惜しくも消えてしまったのですが、念の為10月と比較してみましょう。

(11月)『先行きについても、景気は回復を続けていくとみられる。』
(10月)『先行きについては、景気は回復の動きを続け、前向きの循環も明確化していくとみられる。』

先月の月報の決定が10月13日でしたので、先月からの1ヶ月で「前向きの循環」という文言が消えてしまったという事になる訳なのですが、福井総裁的にしてみれば散々ご紹介したように月末月初あたりに国会でも景気強気発言を続けていた所ですので・・・・・残念!って感じですな(^^)。という訳でダム論消滅・・・なのか一時引っ込めているのかは存じませんが、何の解説もなく「前向きの循環」が消えているというのは景気の先行き方向性について日銀として懐疑的になっているという解釈をされても致し方なしと言った所かと存じます。

あたくしの大予想は日銀絡みでは外さないのが自慢だったのですが、今回は足元の現実数字が現実数字ですんでそのあたりは認めるにしても、まぁ何とでも言える先行き判断に関してダム論をこうさっさと引っ込めたのは意外感がありました。月例経済報告を先日発表した内閣府に気を使ったのでしょうか???(まぁ使ってないと思いますけどね^^)


○景気の現状判断は「足もとの一服感」に言及

冒頭のお言葉を前月と比較しましょう。

(11月)『わが国の景気は、輸出、生産の増勢に足もと一服感がみられるものの、全体として回復を続けている。』
(10月)『わが国の景気は、回復を続けている。』

6月に「緩やかな回復」から「回復」と判断から「緩やかな」を外して8月には上記10月を同じく余計な言葉を加えずに直球剛速球で「わが国の景気は、回復を続けている」とぶち込んでいたのですが、今回は「足もと一服感」に加えて「全体として」という言葉が入っております。文章の流れ上入れないと表現として変だから入れたのかもしれませんが、前月の直球剛速球と比較すると印象として抑制的にも見える訳ですな。どっちだか判らんけど。

上記文言に続く表現はこうなっておりまして、

(11月)『輸出や鉱工業生産の増勢には、このところ一服感がみられる。一方、設備投資をみると、足もとのペースは緩やかながら、企業収益が改善するもとで、引き続き増加している。また、雇用面での改善傾向が続き、雇用者所得も下げ止まる中で、個人消費は底堅く推移している。この間、住宅投資は横ばい圏内で推移しており、公共投資は減少している。』

10月との相違点はこの中の最初の部分でして、10月は『輸出、鉱工業生産は、伸びがやや鈍化しつつも増加傾向を続けており』となっており、輸出と鉱工業生産の一服について言及しておりますが、他の部分は判断据え置きになっています。まぁ出てくる経済指標がそ〜ゆ〜事になっている(と記憶してます)のでまぁこんな物かも知れませんが、まぁ他の部分据え置きという事でまだまだ頑張っているなという感じでもあります。


○先行き見通しの要因分解は・・・・

海外経済に関してはここの所の中国経済無事軟着陸観測(本当かよとあたしゃー思うのですが)と米国株価の底打ち観測を反映したのか若干判断を微妙に上方修正しているのですが、何故か雇用に関して判断を微妙に下方修正しています。ってゆ〜かあたくし的には雇用判断こんなもんだと思いますがね。

長いですが11月と10月を並べてご覧下さい。

(11月)『すなわち、海外経済の拡大が続き、内需も増加を続けるもとで、輸出や生産は基調的には増加していくとみられる。企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。また、企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高い。この間、公共投資は減少傾向をたどると見込まれる。』

(10月)『すなわち、海外経済の拡大が続くとみられるもとで、輸出や内需の増加が続き、生産も引き続き増加基調を維持していく可能性が高い。企業の過剰債務など構造的な要因が企業活動に及ぼす影響も和らいできている。また、企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、雇用過剰感が緩和するもとで、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。この間、公共投資は減少傾向をたどると見込まれる。』

海外経済の拡大について『拡大が続くとみられる(10月)』→『拡大が続き(11月)』という事で海外経済が国内景気を牽引してくれるでしょうって見方をより鮮明にしております。

しかしその一方で暫く強気(というか回復を楽観的に)に見ていた雇用情勢に関して『生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる(10月)』→『雇用者所得は緩やかな増加に向かう可能性が高い(11月)』とここでも「ダム論」的な「企業収益増加」→「雇用者所得増加」というあたくし的には甚だ実感に乏しい(-_-メ)見通しを引っ込めておりまして、雇用に関して判断をこっそり後退させています。

もしかして海外経済の判断を上方修正させた隙を狙ってバランスをとりつつこっそりと現状追認をしたのかもしれませんが、まぁ先行きの景気回復に関する「上振れ、下振れ要因」の柱である「海外経済」と「国内最終需要(を支える個人消費の基本となる雇用情勢)」に関してビミョーな匙加減が入っているようですな(^^)。


○IT関連にも言及

この次に毎度毎度原油価格上昇に関して「なお書き」をしているのですが、今回はIT関連需要に関してのコメントが追加されました。

(11月)『なお、IT関連需要や原油価格の動向と、その内外経済への影響については、引き続き留意する必要がある。』
(10月)『なお、原油価格の動向と、その内外経済への影響については、引き続き留意する必要がある。』


○物価面、金融面は判断変らず

まぁこのあたりは判断をいじりようが無いのですが、物価に関しては見事に全文一致。

(11月と10月共通^^)『物価の現状をみると、国内企業物価は、内外の商品市況高や需給環境の改善を反映して、上昇している。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、小幅のマイナス基調で推移している。物価の先行きについて、国内企業物価は、原油高の影響もあって、当面、上昇を続けるとみられる。消費者物価の前年比は、需給環境が改善方向にあるとは言え、当面なお緩和した状況が続くもとで、基調的には小幅のマイナスで推移すると予想される。』

「物価の先行き云々」の前のところで実際は段落が分かれております、念の為。

金融面に関しても引き続き変化なし。銀行券発行残高が紙幣改刷の影響で伸びがやや高まっているってコメントが「ほほう」と思うくらいでありまして、特にコメントすることは無いと思います。


○まとめ(のつもり)

まぁ今回は「ダム論(と言うと日銀からいや〜な顔をされるらしいのですが)を引っ込めた」というのが最大トピックスですが、あたくし的にはこのタイミングで雇用情勢に関して判断を微妙に後退させているのも少々気になるところといった感じです。まぁ債券市場に対して売り材料にはならないでしょう。総裁記者会見の方も気になりますが、こちらは日銀Webに会見要旨がアップされてからと言うことで一つよろしくです。

しかし何ですな。前進していた判断(ここ3ヶ月全くの据え置きでしたが)を若干とは言え後退という事ですから向きが変るって話なのに、決定会合はあっさり昼前に終わってしまいましたな。この内容だったらもうちょっと長引いても良かったのではないかとゆ〜気もしますが、実際に会合でど〜ゆ〜感じで議論しているのか良く判らん(この前の須田さんの講演はその意味でも面白かった)のでアレなのですが、何となくね。

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2004/11/08

お題「田谷さんの後任」

金曜日のニュースといえば田谷審議委員の後任人事。CSFBの水野温さんが後任に内定という事でして水野さんの最近のレポートどうなってましたっけなどという話題で盛り上がっておりました(^^)。

田谷審議委員はこのへんhttp://www.boj.or.jp/about/basic/pb/taya.htmにあるように、経済学者というよりはエコノミストっぽい所ではありますが、今度の水野さんはもろに市場関係者ですので、まぁエコノミストっつーよりは市場関係者って感じですな。で、まぁ本日は水野さんがどうのこうのって話しは本職の方もするでしょうから、ちょっとだけ別の視点を交えながら。


○比較的まともな主張をする人のようですが

水野さんのレポートを精読したわけでは無いのですが、野村證券時代にはよく拝見していたレポートは至極まっとうなお話が多うございましたし、最近はレポートを時々しか拝見しておりませんが、まぁ偶に拝見したときの印象は引き続き「バランスの取れた真っ当な事を言うお方」という所です。最近ではどちらかと言うと量的緩和政策からの脱却について言及しておられるようですが、(本人に聞いたわけではないから勝手な憶測ですが)まぁ審議委員入りがどうのこうのという話もあったのでしょうが、それよりも「量的緩和政策の長期化」ばかりが話題になっている風潮に一石を投じている(そもそも日銀総裁の最近の国会答弁にあるように、日銀総裁は別に量的緩和政策を延々と引っ張る気はない点に注意)という面があったのではないかな〜なんて。

まぁ極端な事は言い出しませんし、主張もあまりぶれないお方だと記憶しております。で、金融政策についてコメントする際には金融政策の論理的整合性っつーかアカウンタビリティを重要視していたような気がしますんで、まぁ色々と考えますと、年がら年中日銀やら金融政策のウォッチをしているお方なのですから、あんなお方やこんなお方よりは遥かに適任なのではないかと思ったりするわけですな。

元々市場関係者から審議委員を選ぶって事が所与だったとしたら、まぁ水野さんが最も順当な人事だったと思います。というか順当過ぎという話もあるようですが。


○田谷さんの後任という意味では

田谷さんはご存知のように「金融政策の論理的整合性」を重要視していて、景気が方向として回復に向かっているという認識をしているのに当座預金残高の目標額を引き上げる(=量的緩和政策の枠組みの中では金融緩和扱い)という支離滅裂な金融政策(だから当時は「円売り介入のサポートの為の追加緩和」と散々な言われようでしたが)に堂々の反対票を投じておりました。この時は須田さんと(途中までは)植田さんも反対していまして、一時は「執行部以外の票決が半々」という素晴らしい状態になっておりましたが、岩田副総裁を除く経済学者系の審議委員が全員反対票という香しい状態になっておりましたな。

で、そういう意味ではまぁ審議委員の中では「非主流派」であり「原則論重視」でもあるので本来的に言えば「正統派」でもあると思うのですが、そういう田谷さんの後釜に座る水野さんは、まぁ割と「バランスの取れた人」となりますので、政策委員会におけるバランスはやや執行部よりになるんでしょうが、それほど極端な変化は起きないように思えます。

まぁあたくし的には田谷さんみたいにある意味「執行部に対して耳が痛い」発言をしていただきますと実に面白いのですが、そこまで期待するのは無理があると致しまして、今後のご活躍に期待したいと思います。


○変化がなさそうではありますが・・・・・

さて、そんな感じで(同業者のレポートを引用するのも何ですので具体性に乏しい記述になってしまいましたが)まぁ水野さんになったからと言ってそんなに極端な変化がおきるとも思えないのですが、相場に与えるインパクトっつーのはまた別の問題であります。

と申しますのは、あたくしがこのように「まぁ順当な人事で、そんなに極端な話にはならないでしょう」などとしたり顔で能書きを垂れていましても、世間様がどういう解釈をするかと言うのは別問題(何てったってあたくしが「それは量的緩和政策の自己否定に繋がるから有り得ない」と言い切っていた「量的緩和のあとにゼロ金利政策が延々と続く」といういわゆる2段階解除論が債券市場で主流の見解だった(今でもそうなのか?)りした事ありましたし・・・・)でして、じゃぁ世間様はどうよ?ってのを考えませんと日々のちょこまかとした相場変動できゃあきゃあ言うのを正業としているあたくしとしては困る訳でございます。

てな訳で、まずまともに英文ニュースで出てきたのがあたくしの知る限りではDowJonesNewswiresの金曜午前11時2分のニュースでして、水野さんの金融政策に関する最近のレポートに関してこのような記述がありました。

In one fo his most recent reseach reports, Mizuno said that the central bank could opt for an early shift to a more normal interest-rate targeting monetary policy from its ultra-loose quantitative easing.

でもって、ブルームバーグ同日午前10時19分のニュースでは日本語ニュースですが、水野氏の審議委員就任(の方向)に関して「日銀に力強い援軍、CSFB水野氏が次期委員の報道」という題で記事がありまして、まぁその中から拾ってみますとこんな感じです。

「民間エコノミストより強気と言われる日銀だが、水野氏はその日銀と同じ強気派に属している。」
「水野氏の起用には、福井総裁自身の意向が強く働いた可能性がある。その福井総裁は最近、出口政策について踏み込んだ発言を繰り返している。」
「福井総裁が展望リポートに前後して強気な発言を増やしていることが、来年度の量的緩和解除に向けた「地ならし第1弾」だとすれば水野氏の起用はその第2弾に当たるのかもしれない。」

ついでにこの記事の小見出しを並べると「福井総裁の強気と軌を一にする起用」「来年度の解除に向けた「地ならし」」となっております。


あたくしが読まない日経新聞なんかでもど〜せ似たようなお話はでているでしょうが、まぁ水野氏起用という事で出てくる解説記事としてはこんな感じのものが多いでしょうから、そ〜ゆ〜意味で言えばまたも「量的緩和政策の早期解除がどうのこうの」って思惑が浮上しやすい展開になってきていると見るのが妥当だという事になるでしょう。

特に、ダウジョーンズの英語ニュースとかブルームバーグのニュースなんかは海外投資家というか投機家がいの一番に読むでしょうから、こ〜ゆ〜のを読んで何をおっぱじめるかとかを想定しておくのもまた宜しいかと。今年の6月ごろに武藤副総裁の海外でのスピーチを無茶苦茶に曲解したレポートがどこぞのストラテジストから出されて相場のとんでもない下落を招いたという事件は記憶に新しい所でありますので、まぁ注意するにしくはなしと言ったところでしょうな。


それでは〜

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2004/11/01

お題「展望レポート」

金曜日に発表された展望レポート(正式名称は「経済・物価情勢の展望」)はあちこちで「事前予想」と言われていたような内容になっていたようで、本質的には織り込み済みのような気もしますが、総裁の記者会見とかその後の報道っぷりなんかも見ていく必要はあるかと思います。

とのっけから結論になってしまいましたが、とりあえず日銀のWebにアップされているのは展望レポートの基本的見解部分という事で、最も基本的な部分と言うことで読んでみることとしましょう。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gor0410.htm


○景気に関しては標準シナリオから上方修正

冒頭部分は「経済・物価情勢の見通し」であります。まぁここもとの金融経済月報を見れば上方修正なのは自明なのですが・・・・・・

『このように、わが国経済は、前回(4月)の「経済・物価情勢の展望」において示された「2004年度見通し」と比べると、上振れて推移していると考えられる。』

んじゃあ「このように」とはどのようかと申しますと最初の一節になります。

『わが国経済は、回復を続けている。すなわち、輸出や生産が伸びをやや鈍化させつつも増加傾向を続けるもとで企業収益が増加しており、これが設備投資の増加につながっている。また、雇用面の改善や消費マインドの好転を背景に、個人消費もやや強めの動きを続けている。』

経済は上振れで物価はどうかと言いますと、『物価面では、国内企業物価は「見通し」に比べて上振れて推移している一方、消費者物価は概ね「見通し」に沿った動きとなっている。』という相変わらず何故か消費者物価だけ上がらずに「???」となっているようです。


○先行きの基本的見通し

『先行きについても、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくと考えられる。』ってな訳で、経済の先行き見通しが次の段落なんですが、これまたやたらめったら景気の良い話になってます。景気が回復していると言うことになっているんだから当たり前か(^^)。景気というよりは消費者物価の帰趨のポイントになるという事になっている「個人消費」というか「家計部門」に関する見通しを読みますとこんな感じ。

『企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に転じる可能性が高い。このため、個人消費は緩やかに増加していくと予想される。』

って言ってるのですが、同じ段落内で企業部門に関して『企業収益は、企業のコスト削減や財務体質の強化等ともあいまって、大企業・中小企業ともに幅広い業種で改善を続けると予想される。』などと指摘しておりまして、どうも希望的観測含みなのではないかと思ってしまう次第でございます。

芸が細かいな〜と思うのは企業収益云々の続きに『また、企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。』と言ってるのですが、この一文は何時の間にか日銀総裁が常日頃指摘している「構造調整の必要な過剰問題」から「雇用」が消えてまして、構造調整のうち雇用問題が解決になっているかのような勢い。本当かねと激しく思うのですが・・・・・・

海外経済だの生産だのという話はやたら景気の良い話になっていますが長いので引用省略。アイテー関連の減速傾向に関しては一応『IT関連財の在庫調整が進行中であるが、調整は軽度なものにとどまると予想される。』とは言ってますが、それ以外に関してはひたすらよさそうな話です。


物価に関しての標準シナリオは企業物価上昇で消費者物価は下落という訳の判らんシナリオになっています。2005年度は消費者物価もプラスとなると言うことにはなっていますが、今度は企業物価の上昇が緩やかになり、消費者物価は上昇に転じるという見通しになっていて、そんな器用なことになるんですかと突っ込みを入れたくなる標準シナリオでございます。

『国内企業物価は、原油価格の上昇や素材の需給引き締まりなどを反映して、2004年度中は上昇を続ける可能性が高い。2005年度は、原油価格の一段の高騰等がない限り、上昇テンポは緩やかなものになっていくと予想される。』

『この間、消費者物価については、景気が回復を続けるもとで需給ギャップは改善を続けるものの、企業部門における生産性の向上や人件費の抑制等から、当面上昇しにくい状況が続くとみられる。消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比は、今後、米価格が前年比で下落に転じることもあって、今年度後半も引き続き小幅のマイナスで推移すると見込まれる。2005年度については、需給バランスの緩やかな改善が続くもとで、前年比で小幅のプラスに転じると予想される。』

で、その後『なお、物価の先行きは、原油価格のほか、生産性や人件費の動向にも左右されるため、見通しは上下に振れる可能性がある点には留意しておく必要がある。』とわざわざ言っているのはイマイチ良く判らんのですが、勝手に推測すると、上記標準シナリオが余りにも「器用なシナリオ」になっているので保険を掛けたのではないかとっていうのは深読みしすぎかな?


○上振れ&下振れ要因

日銀が指摘するのは主に2点。『第1に、海外経済の動向である。』『第2に、国内民間需要の動向である。』でして、その後に並べてある『第3に、国内金融・為替市場の動向である。』『第4に、不良債権処理や金融システムの動向である。』に関してはとりあえず並べてみただけって感じだと思います。

あたくし的には不良債権問題も気にはなるのですが、とりあえず現状では銀行に関してどころか債務超過企業に関してまで政府がケツを拭く体制が見事に確立されておりまして、政府部門への問題飛ばしが進行しており、まぁ無問題(というか単に表面化しにくいように先送りしているだけなのですが、政府部門最強と言うことで)。金融システムに関しては「ペイオフ解禁」によって金融システムの正常化が達成されたことになるんでしょう。実態問題としては金融機関の資金繰り(資金繰りさえ付けば企業は倒産しません)は量的緩和政策でサポートされており、ペイオフ解禁は決済性口座の全額保護という巨大な抜け穴が開いているので、これもまた只の茶番なのですが、まぁ取り敢えず茶番と言えども強力な蓋をしている状況ですんで、確かに民間経済主体に与える影響は軽微でしょう。爆発したら大変な事になりますがね。

という事で、海外経済と国内民間需要がポイントだということです。


○金融政策運営

FRBの真似をしたのか何だかわからないですが、激しく妙な表現が登場して市場の話題をさらっております。

『今後の金融政策運営については、言うまでもなく先行きの経済物価情勢に依存するが、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって生産性の向上を基本的な背景として物価が反応しにくい状況が続いていくのであれば、余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる。』

この「余裕を持って」という新しい表現が当然ながら話題の的になるわけでして、記者会見でもこの点が質問されているのですが、総裁はこんな感じで話をしているようです(ソースは日本語版ロイター29日17時45分のニュース)

『その前段に、2005年度内に枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではない(と書いてある)。文章を補うとすれば、2005年度内か、それより少し後になるか、いずれにしても変更の時期を迎える事になるだろうけれど、そういう場合の今後の金融政策運営については、言うまでも無く、先行きの経済・物価情勢に依存する。経済がゆっくり持続可能な成長過程に移っていく、物価面では生産性向上を基本的な背景として、それほど急激に物価が反応するという状況ではない形で推移していく。これが、展望リポートの主文で長々と書いているメインシナリオだ。経済がメインシナリオ通りにいくとすれば、2005年度内であれ、2005年度を過ぎてからであれ、枠組みを変更するような場合にも、それほど慌てないで、余裕を持って対応を進められる可能性が高いということを言っている。』

ニュースの文章を読みながらタイピングしてみて何となく話が読めてきたという感じでして、この文を一読して何を言いたいのかすんなりは判らん言い方ですが、この応答を見ると「余裕を持って」などという主観的な文言をわざわざ入れる必要があったのかどうかははなはだ疑問でありますな。要するに「景気が良くても物価の上げが大したこと無かったら緩和解除は急がない」って言いたいようです。

あたくしが読んでる東京新聞でも「日銀、物価見通しをプラスに」などと景気の良い話になっておりまして、先日の日経新聞のように「量的緩和の解除条件のうちの一つが達成された」というのが一般的なコメントになるのでしょうが、標準シナリオ(しかしそんな器用なシナリオ通りに動くのかと思うが)に沿って経済が動いた場合あるいは少々の上振れであっても、「余裕を持って」云々の一文を見ると、量的緩和政策の出口はどこに行ってしまったんでしょうって印象を強くするのですが如何なもんでしょうか??


上記の会見でも指摘してましたが、余裕云々の前段ではこのようになってます。

『今回の展望レポートの見通しのもとでは、2005年度内に日本銀行当座預金残高を金融市場調節の主たる操作目標とする現在の金融政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではない。』

現実に2005年度に消費者物価がプラスになっていないとそもそも量的緩和政策の解除の議論にすら到達しないのですが、日経新聞その他が「見通しがプラスになったから量的緩和の出口が見えてきた」などと囃し立てて、それが「偉い人」を始めとする「良く判っていない人たち」の馬鹿売りを誘発して債券市場などに悪影響を及ぼさないようにわざわざこの文を入れたのではないかと思います。実際に「量的緩和政策のコミットメント」に関してちゃんと理解していれば慌てて大暴れという事にはならない筈なんですが、過去の相場のトラックレコードを考えると余計な一言が必要だったんでしょうな。

で、まぁ市場との対話に関しては相変わらず気にしているようでして、最後にこんな一文があります。

『もとより、日本銀行としては、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応するとともに、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していく。 』

まず審議委員というか総裁と副総裁の片方の不規則発言を何とかして下さいと声を大にして申しあげたい所ですが、まぁ精々提供してくれって感じです。あまり努力しない方がいいと思うんですけどね。的外してるし。


○まとめ

・標準シナリオから上振れしているけど、消費者物価だけは反応していないというある意味不思議な展望レポートになっている。

・消費者物価の先行きに影響を与えそうな個人所得の部分に関してちょっと見通しが希望的観測っぽい

・その他の部門は総強気状態

・しかし、消費者物価が上がらないので量的緩和政策はまだまだ継続しそう

・「消費者物価指数の翌年度大勢見通しプラス」が金融市場で過剰反応しないようにやたらと気を使っている


で、うっかり肝心の数字書き忘れましたが、2004年度の大勢見通しは実質GDPと国内企業物価指数がそれぞれ+0.5%、+1.3%の上方修正で、消費者物価指数は変らず。2005年度の大勢見通しは「実質GDP+2.2〜+2.6%(中央値+2.5%)」「国内企業物価指数+0.2〜+0.5%(中央値+0.3%)」「消費者物価指数▲0.1〜+0.2%(中央値+0.1%)」でございます。

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2004/10/19

お題「日銀政策委員会での景気議論」

昨日公表された9月8、9日の金融政策決定会合の議事要旨。まぁ政策変更は全然ありませんので金融政策に関する議論は最近めっきり平穏無事になってきております(ついこの前までは所謂2段階解除論を巡って議論があったのでそちらの部分を読むと中々香ばしい物を感じたのですが)が、景気に関する議論は盛り上がってきているようですな。

まぁ景気に関してというか特に物価に関しては先日来ご紹介しているように、各審議委員の講演やら記者会見やらを見ますと意見が結構割れているように見えるのですが、公表された9月の議事要旨を見ると、やはり景気の見通しにかかわる部分で盛り上がりを見せております。

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/g040909_f.htm

この中の『U金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』

というのが景気見通しなどなどにかかわる部分なのですが、その各項目について意見が色々と出ているの図であります。

『経済情勢について、委員は、(1)幾分減速感がみられている海外経済の動向をどう評価するか、(2)わが国経済に関しても輸出・生産や賃金などで弱めの指標が幾つか発表されているが、これらが景気回復基調の変化を示唆するものであるかどうか、という点を中心に検討を行った。』


○海外経済

・米国経済

『米国経済について、多くの委員は、第2四半期のGDP成長率が低下したことについて、ガソリン価格の上昇や減税効果の一巡等を背景とした個人消費の伸びの鈍化を主因とした上で、その後の動きをどう評価するかがポイントであると指摘した。』

で、意見がいくつか出ているのですが、全部引用しているときりが無いので端折って纏めますと、要は「原油価格の影響をどう見るか」「雇用状況をどう見るか」という点でして、多くの見解は、

『多くの委員は、原油高や地政学的リスクが引き続き根強いこと、企業部門から雇用・所得への波及が遅れていることや、金融政策が利上げ局面に転じていること等から、今後の米国経済の動向は丁寧にみていくことが必要であるとの認識を示した。』

という感じのようです。後で触れますが、基本的には強気というか景気は巡航速度に入っているという認識なんですが、留保条件付きって言うかやや警戒心を持ちながら先行きを見ているって所なんでしょう。個人消費の先行きに関して9月の頭から「クリスマス商戦」に言及している人がいたのには笑えましたが。そんな先まで判断留保かよ!

・中国経済とかEU経済

あまり大した話はしてませんが、EUに関して

『ひとりの委員は、賃上げを伴わない労働時間の延長の取り組みの開始を指摘し、構造調整の進展に期待が持てる状況になってきた、と付け加えた。』

ああそうですか労働者はもっと働けと。別に働かねぇつもりはねぇけどよ。それにしては労働者に皺寄せさせるだけで働いた積もりになってる経営連中多すぎやしませんかと。・・・・おっと、全然関係ないところで取り乱しました。

ま〜中国経済に関しては結構これがまた強気っぽい意見のみという感じでして、EUに関しては輸出拡大で回復観が強まっているということのようです。

ということで海外経済の総括はこうなります。

『海外経済に関して、委員は、世界経済を全体としてみれば、これまでの高い成長からより持続的な成長ペースに速度を落としつつ、着実な拡大を続けているとの見方を共有した。』


○国内景気・企業部門

・生産関連

『国内経済について、7月の輸出、生産が4〜6月に大幅に増加した後、ほぼ横這いとなったこと、また電子部品関係が在庫調整局面に入ったようにみえることをどう評価するかを巡って意見を交換した。』

で、結論は「ITとかデジタル家電が減速しているのが懸念材料だけど、今のところ腰折れの雰囲気は無いのでまぁ先行き良く見ておきましょう」という感じです。

・設備投資

『多くの委員が、法人企業統計調査において、企業収益が大幅な増加を続けるもとで、製造業・非製造業ともに本年度の設備投資が大幅に増加していることを指摘し、設備投資の増加傾向が当面続くとの見方を示した。』

『ただし、複数の委員は、法人企業統計調査における非製造業の設備投資は、短観等の調査結果と比較しても、かなり強い数字となっている点を指摘し、サンプルの変更が影響している可能性もあることから、今後、10月初に公表される短観でも改めて確認していく必要があると付け加えた。』

で、先日の金融経済月報の基本的見解は9月発表分と変化が無いということは、10月短観で確認した結果、判断を変更する必要なしという事になったと言うことですな。


○国内景気・家計部門

・家計部門

『家計部門に関しては、多くの委員が、求人関連指標や雇用者数は改善を続けており、企業収益の増加の雇用面への波及が次第にはっきりしてきている点を指摘した』

というのはいつも同じなのですが、この後出てくる「ただし」以下がまた意外に(^^)見方が慎重。まぁ非製造業○け組に属するあたくしの実感と同じなので全然違和感がございませんが(^^)。

『ただし、賃金に関しては、パート比率の上昇などから、一人当たり賃金の減少傾向が続いていること、伸びが期待されていた夏期賞与について、毎月勤労統計における6、7月の特別給与が前年比−3.1%となったこと等から、賃金面への波及はなお限定的であるようであるとの認識を述べた。』

・個人消費

という話の流れで行きますので、この部門も見方は割と慎重です。

『この間、個人消費については、何人かの委員が、消費者コンフィデンスの改善にも支えられ、やや強めの動きが続いているとの見方を示した。』

と言いつつも・・・・・

『一方、複数の委員は、猛暑やオリンピックによる消費の押し上げ効果は当初予想よりも弱かったようであり、先行き税制改正や年金制度改正による家計負担の増加が予想されることもあって、今後も個人消費が強めの動きを続けていくかどうかは注意が必要であると述べた。』

税制改正というか要するにまた勤労者から巻き上げる政策へと突き進むのは如何なものかというご指摘ですな。誠にごもっとも。

こういう話になると昔の社会党が懐かしく思えるのですよね。「労働者の負担増の前に○○優遇税制やら○○法人への課税を」とか言ってくれたと思うんですが、最近は(以下激しく自粛)。


○国内景気・物価

物価の現状に関してはまぁいつもどおり。先行きに関してはこんな感じ。

『多くの委員は、9月に実施されたガソリン価格の引き上げ等が、消費者物価の押し上げに寄与する一方、豊作が伝えられる米価格の下落が見込まれ、基本的には、7月の中間評価に沿った動き、すなわち小幅の下落基調で推移する可能性が高いのではないか、との見方を示した。またひとりの委員は、この先電力料金の引き下げが、消費者物価の押し下げに寄与するとみられると述べた。 』

何かしょーもないテクニカルな話をしてるように見えますが、その前に現状認識として、

『消費者物価について、多くの委員は、(1)マクロの需給環境は改善方向にあるが、なお緩和した状況にある、(2)原材料価格の上昇が企業段階でのユニット・レーバー・コストの低下である程度吸収されている、という点に変わりはなく、その結果、前年比小幅の下落が続いていると指摘した。』

と言ってますんで、基本的な流れは変っていないということです。興味深いのは岩田副総裁などが指摘したと思われるこの部分。

『この間、複数の委員は、物価動向と景気動向との乖離が改めてはっきりしてきたのではないかとの認識を示した。これらの委員は、もともと7〜9月中には、消費者物価の前年比がプラスになる可能性も視野に入れていたが、その後の展開をみると、その可能性はかなり小さくなっており、景気回復に物価が反応し難い姿が鮮明になってきているのではないか、との見方を示した。』

というかあたくしは日頃から小さい声で申しあげているように、景気は単に循環的に浮上しているだけで本格回復しているだけでしょって認識なんで、物価が上がらないのは当たり前だと思ってますが。大体ここまで浮上させるのに財政(ただし預金保険と外為特会)を幾ら使っているんだと。まぁいいけどさ。

原油価格の影響に関しては所々で触れられてますが、まぁ日本の場合は原油価格の上昇がまともに効いてこない要因(そもそも日本が主に使っているのは軽質油じゃないとか石油依存度が全然違うとか原油から使える状態まで持っていく間に税金だの輸送コストだのが高くついているのでそっちがでかいとか)があるのでまだ懸念するに及ばずだが注意していくという感じのようです。


○国内景気総括

ということで、総括判断は「とりあえず認識を改める必要は無いが、ちと留保付き」という感じであります。まぁあたくしの解釈だけで終わらせると何ですのでこの部分は丸々引用。

『委員は、輸出や生産の伸びが足許幾分鈍化しているほか、賃金面にも注意すべき動きがあり、今後の動きは丁寧にみていく必要があるものの、企業部門の好影響が家計部門に波及していく中で、前向きの循環が明確化していくという基調判断をとくに変える必要はない、との認識を共有した。』

『何人かの委員は、景気拡大ペースの減速がやや早く訪れた感じもあるが、昨年10〜12月、本年1〜3月の高い成長から、持続的な成長が可能な巡航速度になりつつあると評価して良いのではないかと述べた。』

『ただし、複数の委員は、基調判断に大きな変化はないものの、賃金面の動向などをみると、企業部門の好影響が家計部門に波及するスピードが、やや遅れている可能性もある、と付け加えた。』


総じて言えば基本的判断を変えないものの先行きに関する警戒をする必要があるのではないかという総括になっておりまして、今までの景気回復進軍ラッパ吹きまくり状態からやっと冷静になって下さったという事では無いかと思う次第であります。


○おまけ

ちと苦笑したのは(今回はスルーしましたが)金融面に関わるこの辺の件。

『先行きの金融政策運営について、何人かの委員は、金融市場において景気の見方がやや分かれていることに改めて言及し、このような場合には、市場参加者の期待が振れ易くなり、金融市場の変動も大きくなりがちであることから、市場の動向を丁寧にみていくとともに、日本銀行としての経済・物価情勢の見方や政策運営についての考え方を市場に対し、分かり易く示していくことが重要である、との考えを述べた。』

そもそもお前らの意見が分かれているだろうと言いたいですな。またマッチポンプかと小一時間(略)。

ま、金融政策に関しての話は盛り上がってなかったようです。

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2004/10/14

お題「3ヶ月連続で同じ金融経済月報」

http://www.boj.or.jp/seisaku/04/pb/gp0410.htm

先月のドラめもんでは9月の金融経済月報のご紹介をするのに「ある意味驚愕の内容」と申しあげまして殆ど表現が変っていないというお話をしましたが、今回の金融経済月報はそれに磨きが掛かっております(^^)。

日銀短観が発表された後の金融経済月報ですんで景気判断なんかに何か変ったことでもあるかな〜なんてちょっとだけ期待していたあたくしとしては「これではドラめもんのネタにならないではないか」などと本質と全然関係無い部分でガックリですよ先生って感じであります。

日銀短観を受けたと思われる表現は以下の部分だけです。

・景気の現状判断における部分

(10月)『企業収益や企業の業況感は改善が続いている。こうしたもとで、設備投資も引き続き増加している。』
(9月)『企業収益の改善が続くもとで、設備投資も引き続き増加している。』

単に「企業の景況感」に対するコメントが加わっただけですが、これは一応日銀短観の結果を受けたということでしょ。

・先行き見通しにおける雇用に関する部分

(10月)『企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、雇用過剰感が緩和するもとで、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。』
(9月)『企業の人件費抑制姿勢は維持されているが、そうした中でも、生産活動や企業収益から雇用者所得への好影響は次第に明確化していくと考えられる。』

雇用過剰感が緩和っていうのは日銀短観の数字を受けての事だと思うのですが、その割には雇用だの勤労者世帯だのというあたりに絡む経済指標の数字が伴っていないのではないかと思うのですが、ま〜そういう無粋な突っ込みはお作法として行わないという事に致しまして(って突っ込んでますが^^)、まぁてめぇで調べている日銀短観を重視するというのは非常に判り易いお話でございます。

・普段全然気にしないけど金融面に関する部分

(10月)『企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き改善している。』
(9月)『企業からみた金融機関の貸出態度も引き続き明確に改善している。』

単に「明確に」ってのが取れただけなので別に判断を後退させたわけではないのですが、あまりにも判で押したように同じ文章が延々と続いたので思わずこんなしょうもない所までご紹介してしまいました(^^)。

で、恐ろしい事に他の表現が物の見事に同じでありますので、お暇な方は9月の月報と比較していただくと中々笑えます。ちなみに最初に申しあげたようにこの金融経済月報は4月から8月に掛けて景気判断をせっせと前進させて先行き見通しも明るくさせていったのですが、9月10月と連続して「判で押したように同じ表現」をしております。これを「景況感改善一服」と見るのか「景気拡大サイクルが安定化してきた」と見るのかは正直言って読む人の主観的判断が入ってしまいそうですので、あたくしとしての個人的主観的判断と最初に断っておきますと「日銀も景気拡大ラッパを吹きすぎたんじゃね〜の」って思う訳ですが。先日の短観を受けて景況感その他に変化なしってのはちと??なドラめもんであります。本日アップされると思われる日銀総裁記者会見の要旨もご確認されるのが吉かと存じます。情報ベンダーのフラッシュベースでは相変わらず「景気に強気で金融緩和は継続」というスタンスと見ましたが。

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2004/10/04

○日銀短観について少々

日銀短観の結果分析に関してはまぁ本職の方が色々とやっていると思いますが、とりあえず最初に出てきた数字は「あら良いじゃん」というもので、何だかぼーっと概要の部分を眺めていると「何か良いんだか悪いんだか判らん」という感じですね。

前回の「先行き見通し」は「先行きは停滞」という感じでして、それに対して今回実際に出てきたのが思ったほど停滞していないって結果で、それが足元の良好な数字に反映しております。で、今回の今後の見通しを見ますと、製造業中心にやや弱気であります。

業種ごとに見てみますと先行きに懸念を持っているのが「石油・石炭製品」「鉄鋼」「非鉄金属」「造船・重機等」「自動車」というところでして、原油価格の上昇だの素材価格の上昇だのというのがさすがに効いてきているということなのでしょうか。ちなみに非製造業では「建設」の先行き見通しが大変よろしくありません。

ちなみに何だか微笑ましいのは「小売」でありまして、大体日銀短観ってのは先行き見通しの数字よりも実際に3ヶ月ごろに出てくる景況感は良いという傾向にあるのですが、この業種だけは「先行きの見通しがやたら楽観的で、実際に出てくる景況感はダメダメ」という結果が出ております。まぁこの事は色々と解釈可能でしょうが、基本的に景気に強気ではないあたくしとしては「景気回復ムードに煽られて先行き楽観視しているけど、現実問題として個人消費が伸びない(というか所謂2極化が進行しているから)ので結果として毎度毎度見通し対比の足元の数字が悪い」と言うことかと解釈しておきます。


まぁ同時に出たCPIでは9月の東京都区部が▲0.2%と相変わらずのマイナスでございましたし、個人消費支出もイマイチという感じで、企業の景況感が良くても個人には相変わらず回ってこないという今日この頃。景気回復、経済成長は誰の為にあるんでしょっていう証券関係者にあるまじき感想を持ってしまう訳でございますが。

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