決定会合議事要旨や金融経済月報などについて(2015年度下期に書いた分)

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2016/01/19「さくらレポートは総裁挨拶文言、地域の判断など横這いで打って来ました」
2016/01/12「生活意識アンケートの物価部分が日銀残念無念/12月決定会合「主な意見」の初見参:少数意見が見えやすくなったかなと」
2015/12/28「11月決定会合議事要旨を見ると12月補完措置は”ただの技術的対応”のようで」
2015/12/21「政策の延命措置を”補完的措置”と銘打って導入するも市場に近い3人の委員は反発」
2015/12/01「10月2回目会合議事要旨の佐藤さん木内さんの反対意見部分のメモ」
2015/11/26「10月2回目会合議事要旨は従来の地蔵からどちらにも動けるような感じに変化しているように見える」
2015/11/24「白塚ペーパーのアップデート&日銀版コアコア指数発表開始へ」
2015/11/20「物価に弱含みという文言が入って来たのに現状維持とな」
2015/11/17「都銀の当座預金残高また拡大/日銀に引当要請とな/証券無き証券の法的性質」
2015/11/06「10月1回目会合の議事要旨では先行き賃金上昇に物価上昇の希望を賭けていますな」
2015/11/05「展望レポート基本的見解のリスクは物価の下方向と賃金動向が示されていますな」
2015/11/04「展望レポート基本的見解:物価見通し先送りも除くエネのコアCPIの強さを強調とな」
2015/11/02「大して議論時間も無くあっさり現状維持+物価目標達成時期半年先送り/日経が展望レポートのフライングリーク記事を出すの巻」
2015/10/30「金融システムレポート巻末コラムを一気に確認」
2015/10/28「内容充実して不動産関連の分析が増えた金融システムレポート」
2015/10/20「さくらレポート、支店長会議挨拶も下方修正は無し」
2015/10/15「折角短期市場サーベイをしても「市場は機能している」という手前味噌結論では・・・・」
2015/10/14「9月決定会合議事要旨を鑑賞したが焦げ臭さがありますな」
2015/10/13「月報比較である」
2015/10/08「追加緩和の示唆すらない決定会合声明文」
2015/10/05「短観の物価観と生活意識アンケートの物価観を確認」
2015/10/02「短観の内容は日銀ホッと一息」
2015/10/01「アナウンスと強力緩和でインフレ期待を押し上げるとかいう手前味噌感強いペーパー」

2016/01/19

○さくらレポート関連

・総裁挨拶が3か月前と一言一句変わらんですな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/siten1601.htm/(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/siten1510.htm/(前回)

『(1)わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。

(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。

(3)わが国の金融システムは、安定性を維持している。そうしたもとで、金融環境は、緩和した状態にある。

(4)「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)


『(1)わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。

(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。

(3)わが国の金融システムは、安定性を維持している。そうしたもとで、金融環境は、緩和した状態にある。

(4)「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(前回)

・・・・・・・・とわざわざ並べるまでもなく一言一句変化なしとなっておりますが、所期の効果を発揮しているという割には全然2%に到達する気配がない物価認識が続いている訳でして、2016年度後半に2%に物価が到達するという認識を示している筈なのに対して何がどう所期の効果なのかと小一時間問い詰めたい所であります。

とはいえまあ特に今回何かを変えようにも変えられない、という状況でもあるので余計な発言変化を示すようなのをリリースできないというのもありますけどね。


・地域経済報告は今回もあまり色は出ていませんな

さくらレポートと言えば2014年の追加緩和の時には物凄い強い内容が出てきたのに直後の10月末に追加緩和を実施ということで、何じゃそらというのがありまして、今回は下手をしたらヤケのヤンパチで特攻追加緩和をしても不思議ではないような年末年始来の総裁講演等があった中でのさくらレポートですので、さてどうなるかと見た訳ですが・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer160118.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer160118.pdf(本文)

前回はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer151019.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer151019.pdf(本文)

概要の『I. 地域からみた景気情勢』から少々。

『各地の景気情勢を前回(15年10月)と比較すると、近畿から、回復テンポが緩やかになっているとして判断を引き下げる報告があった一方で、東海からは、生産の緩やかな増加などを踏まえて判断を引き上げる報告があった。また、残り7地域では、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。』

『各地域からの報告をみると、8地域で、「緩やかに回復している」、「回復を続けている」等、東海で、「緩やかに拡大している」としている。この背景としては、輸出や生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移していることなどが挙げられている。』

ということになっていまして、設備投資と消費と生産の部分だけ比較してみましょう。

『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」等、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、東北から、「堅調に推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、北海道、東海から、「改善している」等、7地域(東北、北陸、関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している」等の報告があった。』(今回)

『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」等、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、東北から、「堅調に推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、「幾分悪化している」との報告があった一方、「改善している」、「総じて良好な水準で推移している」等の報告があった。』(前回)

設備投資に関しての判断は横ばい、業況感は(短観がそうですから当然ですが)横ばいやや弱めとなっていますな。でもってこれ仔細に見ようとしますと、概要の先の方にコンポーネントごとの各地域コメントがあって、良く良くそこを見ましてもコメントは前回対比横ばいとなっています。


『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。』(前回)

こちらもまた前回と全文一致なので、実は前回も前々回と全文一致しておりますけど、こちらの各地域ごとのコメントを見ますと東海で前回の『雇用・所得環境が着実に改善する中で、持ち直している』から前半部分がカットされていて(ただこれは実質上げなのか下げなのかが微妙)となっていたり、四国で『気温が高めに推移したことから一時的に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかに持ち直している』と前半にヘッジクロースが入るなどの差はあります。


続いて生産。

『生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄)から、「弱含んでいる」、「横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。この間、4地域(北海道、北陸、東海、四国)から、「緩やかに持ち直している」、「高水準で推移している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。』(今回)

『生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄)から、「このところ横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。この間、4地域(北海道、北陸、近畿、四国)から、「緩やかに持ち直している」、「高水準で推移している」、「増加している」との報告があった。』(前回)

しらっとこれ弱含みとか入ってるし、増加の所も緩やかにとか入っていまして、これまた地域別のを見ますと、

北海道:堅調な海外需要を背景に、増加している→増勢が緩やかになっている
東北:横ばい圏内の動きとなっている→弱含んでいる
北陸:高水準で推移している→高水準で推移している
関東甲信越:新興国経済の減速に伴う影響に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている→新興国経済の減速に伴う影響に加え、在庫調整の動きもあって、横ばい圏内の動きが続いている
東海:新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている→緩やかに増加している
近畿:増加傾向が続いているが、伸びはやや鈍化している。この間、在庫は横ばい圏内の動きとなっている→このところ横ばい圏内の動きとなっている。この間、在庫はやや高めの水準となっている
中国:全体として横ばい圏内の動きとなっている→全体として横ばい圏内の動きとなっている四国:緩やかに持ち直している→緩やかに持ち直している
九州・沖縄:海外向けは新興国経済の減速の影響などからやや弱含んでいる一方、国内向けの減産が緩和しつつあり、全体として横ばい圏内の動きとなっている→海外向けは新興国経済の減速の影響などから半導体関連を中心にやや弱い動きが続いている一方、国内向けは持ち直してきており、全体として横ばい圏内の動きとなっている

となっていまして、北海道、東北、近畿が下がっていて東海が上がっているという結果になっています。


・・・・・・つーことで今回ほぼ横ばいで出てきていて、2016年度後半に向けて鋭角ターンで回復して物価もホイホイ上がるという見通しに対してもうちょっと威勢の良いのが出てくるかもしれないとは思ったのですが、別に威勢の良いものでもなく悪いものでもなく(生産は微妙だが)という結果でしたな。


展望レポートさくらレポート地域の視点で賃金キター!!!(ただの凡ミス、まとめている時に気が付きました)

引き続き展望レポートさくらレポートネタですが今回の『II.地域の視点』のお題は『各地域における企業の雇用・賃金設定スタンス』であります。

『1.企業の雇用・賃金設定スタンスの総括評価』

『各地域における企業の雇用面の状況をみると、人手不足感が一段と高まる中で、企業規模や業種を問わず、多くの先で積極的な採用活動を展開しているが、依然として必要な人材の確保が難しいとの声が数多く聞かれている。』

賃金を上げれば必要な人材が確保できると思うのですが。

『こうした状況のもとで、賃金設定面では、正規社員に対して、人材確保の観点に加え、最近の収益の改善や同業他社の動向等を踏まえ、近年、都市部の企業を中心に、定昇や賞与増額を実施する先が増加している。さらに、ベースアップ等により給与水準を引き上げる動きも着実に広がっており、来年度に向けて、昨春の伸び率を上回る引き上げの方針を示す先がみられる。』

>来年度に向けて、昨春の伸び率を上回る引き上げの方針を示す先がみられる
>来年度に向けて、昨春の伸び率を上回る引き上げの方針を示す先がみられる
>来年度に向けて、昨春の伸び率を上回る引き上げの方針を示す先がみられる

お、おぅ・・・・・・・・・・・・

『また、派遣・パート等の非正規社員に対しても、人材の確保や最低賃金への対応を図るべく、時給を引き上げる先が広範に見受けられる。そうした一方で、地方の中小企業を中心に、給与の増額に慎重な先も依然として相応にみられており、その中にはベースアップによる給与水準の引き上げは難しいとする先が少なくない。』

そらそうよ。


続いて『2.企業の雇用スタンスと人材確保の現状』である。

『雇用面では、製造業で、新興国経済の減速に伴う影響を受け、非正規社員を削減する動きなどがごく一部に生じているが、多くの先では、業容の拡大や人手不足の解消等を図る目的で、積極的な採用スタンスを継続している。しかしながら、必要とする人材は、一部の企業を除けば確保が難しい状況が続いており、特に労働力人口の減少が著しい地方圏では人手不足が深刻化している。』

賃金を上げれば(略)

『足もとの状況を雇用形態別にみると、正規社員については、多くの先で今春入社予定の新卒者の採用数を増やす方針を打ち出す中で、内定者の確保が計画未達となっている先が少なくないうえ、即戦力と位置付ける中途採用も、企業が求める人材の獲得は困難との声が聞かれている。さらに、非正規社員についても、多くの企業で採用に注力しているが、必要な人員の手当てが進んでいない状況が続いている。』

ふーん。

『また、業種別には、小売、飲食・宿泊、医療・介護、運輸等で不足感の更なる強まりを指摘する声が多く、一部には新規出店の抑制や営業時間の短縮など事業運営面で支障が生じている先がみられる。』

不足しているなら賃金を上げれば良いと思うのですが(しつこい)、賃金をあまり上げずに何とか確保しましょうとか、業務負担に対して賃金設定が低いから人が集まらないとかそういう話ではないでせうか。

『こうした状況に対応すべく、多くの先では、人材の確保や所要人員の削減に向けて、様々な施策に引き続き粘り強く取り組んでいる。』

とまあここまでが前振りというかバックグラウンド。


『3.企業の賃金設定スタンス』というのが次にありまして・・・・・・・・・・・・・

『(1)企業の賃金設定スタンスの現状と背景

以上の労働需給環境のもとでの企業の賃金設定スタンスをうかがうと、業種や企業規模、職種を問わず、都市部の企業を中心に、何らかの方法で給与の増額を図る動きに広がりがみられている。そうした一方で、地方の中小企業を中心に、給与の増額に慎重な姿勢を堅持している先も依然として相応にみられており、その中には、ベースアップなど定例給与の改定による給与水準の引き上げは難しいとする先が少なくない。』

うむ。

『このようなスタンスについて、まず、正規社員への対応をみると、定例給与の水準を規定するベースアップに関しては、今春の方針は、労使交渉が本格化していない現時点では、未だ固まっていない先が大半ではあるが、そうした中で、収益の改善を見込む企業を中心に、昨春の伸び率を上回る引き上げを示唆する先もみられる。』

「収益の改善を見込む企業を中心に、昨春の伸び率を上回る引き上げを示唆する先もみられる」って何か一部の例を出して威勢の良い話をしようとしてないかと思うのですが。

『こうした姿勢を示す理由としては、収益の改善に加え、(イ)人材の獲得・繋留、(ロ)政府等からの要請、(ハ)同業他社の賃上げ実施への対応等も指摘されており、企業が必要に迫られる形で実施している面も見受けられる。また、賞与に関しては、夏季は支給率を前年よりも引き上げる先が多くみられたほか、冬季も支給額を前年実績に上乗せするとした先が大企業を中心に少なくない。』

その割には毎勤がアレなのだが毎勤はサンプルが良くないという事でしたっけ。

『さらに、新興企業や中小企業では、ベースアップの考え方を採り入れていない先が多く、近年の収益改善を受け、賞与等の一時金で従業員に利益を還元する動きも相応にみられている。』

ものは言い様ですな。それだと恒常所得の増加期待にならないから前向きな循環にちゃんと乗るのかが怪しいですけど。

『この間、非正規社員に対しても、小売や飲食・宿泊など多くの業種で時給を引き上げる動きが続いている。これは、(イ)非正規社員も、正規社員同様に人手不足が深刻化する中で、人材の確保に向けて処遇改善の必要性が高まっていること、(ロ)最低賃金の引き上げへの対応が求められていること、が主たる要因となっている。また、こうした賃金面での対応に加え、福利厚生の充実や非正規社員の正規社員化等により人材の確保を図る動きもみられる。』

ほっほー。

とはいえ相変わらずですが、
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160119/k10010376851000.html
春闘を前に経営側 ベアにこだわらない賃上げを
1月19日 4時08分

こんな話になっている訳で、では何でそうですねんという話が以下続く。

『(2)定例給与の引き上げに慎重な姿勢となる理由』(上記URLとは関係なくさくらレポート概要の続きです)

キタコレ。

『このように給与増額の動きは広がっているが、地方の中小企業を中心に、賞与の増額や非正規社員の時給引き上げにはある程度前向きに対応するとしても、定例給与の改定による正規社員の給与水準の引き上げに対して、慎重なスタンスを取る先が依然として少なくない。その要因としては、先行きに対する漠然とした不安を挙げる先が多く、同業他社の動きを見極めたいとする先も相応に見受けられる。さらに、こうした要因に加え、定例給与の引き上げに慎重な姿勢を崩さない根本的な要因として、主に以下の点も指摘されている。』

うむ。

『イ.低い期待成長率

中長期的な国内市場の縮小が想定される中で、事業の安定的な成長が展望し難い環境のもとでは、固定費の増加に繋がる形での給与水準の引き上げには慎重にならざるを得ないとの声が多く聞かれている。』

正直これが一番大きいんじゃないですかねえ。となると政府の役割という話になりますし、大体からして日銀は散々超絶緩和政策を実施している訳で、この超絶緩和がもっと効くためには期待成長率が上がるような政策を政府がきちんとしないと、超絶緩和の効果が金融市場の中だけでグルグル回るということになり、結果として国債市場がナパーム弾で焼かれているだけという何の意味があるのか分からん状態になっている訳でして、威勢の良い大本営チックな賃金上昇はありまぁす!じゃなくてこちらをもっと前面に出して頂きたいものです。

『ロ.現状の収益動向に対する厳しい認識

近年の収益改善は、為替差益等の一時的な要因や海外部門の寄与が大きく、国内事業自体は楽観視できない状況が続いているため、現状の利益水準を前提に国内の従業員の給与水準を引き上げることは難しいとの指摘が聞かれる。このほか、中小企業を中心に、収益は改善傾向ながら、利益水準が依然として低い状況では賃上げは困難との声も聞かれている。』

前段とも繋がりますし、結局それは消費マインドとかにもつながる訳ですが、恒常所得の増加期待というのが無ければ企業だって投資もしないし個人消費だってよーし入社したから36回ローンで新車買うぞーとはならんわなと思います。

『ハ.事業強化に向けた対応を優先

収益の改善を踏まえ、競争力の強化に向け、従業員の賃上げよりも、これまで抑制してきた設備の更新投資や新規投資、新規事業の立ち上げ、M&A等を優先しているとの声が聞かれている。』

それはもしや省力化の設備投資とかではないかというのと、新規事業立ち上げするなら人は要らんのかという????なサムシングを感じる説明ではある。

ということで、どうせなら順番を変えてこの部分をもっと前面に出して欲しかった気がする。政府に喧嘩売るっぽいから厳しいのかも知らんが。


最後に『4.先行きの展望と課題』

『多くの企業では、先行きも現状の積極的な雇用スタンスを継続する方針にあるため、当面、労働需給が逼迫した状況は解消されない可能性が高い。それにも拘らず、来年度の給与増額に向けた企業の動きは、現時点では勢いを増す状況とはなっていない。』

最初の所では威勢の良さそうな話になっていたのに結局最後の方ではこのようにちゃんとした認識になっているのがチャーミングというか大人の事情というかで味わいが深い。

『こうした中で、持続的に賃上げが実施されていくためには、(イ)生産性の向上や新技術・商品の開発等により、企業が自らの成長力を高めていくこと、(ロ)企業間の取引価格の適正化や消費者のデフレマインドの払拭等を通じ、企業が人件費等コスト増加分の製商品・サービス価格への転嫁を進め、収益体質の強化を図ること、(ハ)給与水準の引き上げと各種制度が整合的となるよう手当てされていくこと、などが必要との指摘が聞かれる。』

何か微妙な結論になっていますが、お前らがんばれという話をするよりは成長力の強化じゃないですかねえとは思いますけど、まー成長力強化の必要性を説明しているのは良かったと思います。なお全文の方だと色々と興味深い記述があると思うのですが、そこまで詳しく読んでる時間がミーのショパンの事情により無かったのでパス致します。

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2016/01/12

○俺の物価上昇目標がこんなに支持されな筈がない・・・・・・・・ですかねえ

小見出しが最近ラノベみたいになっているわと思って意識してみたもののいざ考えて書くとイマイチですなあ(汗)。

http://www.boj.or.jp/research/o_survey/ishiki1601.pdf
「生活意識に関するアンケート調査」(第64回)の結果
―― 2015年12月調査 ――

『1.要旨』の方からヒョコヒョコ引用しますが、グラフに関しては上記URL先を見てちょ。


・景況感とかは概ね横ばいですが「良い」系の答えが減っています

『1-1. 景況感等 』の所ですけどね。

『景況感のうち、現在(1年前対比)については、「悪くなった」との回答が減少したものの、「良くなった」との回答も減少したことから、景況感D.I.は悪化した。先行き(1年後)については、「良くなる」との回答が減少したことから、景況感D.I.は悪化した。なお、現在の景気水準については、「良い」、「どちらかと言えば、良い」との回答の合計が減少した。』

ということで、全体見るとそんなに極端に動いている訳ではないのですが、「良い」系の回答がジリジリ減っている感がします。


・雇用関連の回答は強いです

ただ『1-2. 暮らし向き、消費意識 』を見ますと、

『現在の暮らし向き(1年前対比)については、「ゆとりがなくなってきた」との回答が減少したことから、暮らし向きD.I.は改善した。』

とあったりして、次の質問では

『収入の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答の減少幅よりも、「減った」との回答の減少幅の方が大きかったことから、現在の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。先行き(1年後)は、「増える」との回答が増加し、「減る」との回答が減少したことから、1年後の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。』

とありますので、家計という意味では賃金の上昇が効いているようでして・・・・・・・・・・

『収入の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答の減少幅よりも、「減った」との回答の減少幅の方が大きかったことから、現在の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。先行き(1年後)は、「増える」との回答が増加し、「減る」との回答が減少したことから、1年後の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。』

とか、

『1年後を見た勤労者(注)の勤め先での雇用・処遇の不安については、「あまり感じない」との回答が増加し、「かなり感じる」との回答が減少したことから、雇用環境D.I.は改善した。』

というのがありまして、雇用関連の結果が総じて良いので消費関連の結果も良い、という日銀歓喜の結果になっているのですよね。


・物価の見方に関しては残念なのが沢山あったりする訳ですが

本日のメインイベント『1-3. 物価に対する実感 』である。

『現在の物価(注1)に対する実感(1年前対比)は、『上がった』(注2)との回答が減少した。また、1年前に比べ、物価は何%程度変化したかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+5.5%(前回:+5.8%)、中央値は+4.3%(前回:+5.0%)となった。』

『1年後の物価については、『上がる』(注)との回答が減少した。また、1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+4.3%(前回:+4.7%)、中央値は+3.0%(前回:+3.0%)となった。 』

短い期間での物価についての数値が実績、先行き期待ともに若干低下ですが見通し中央値は変わらないので大丈夫、ということにしておくのでしょう。

『5年後の物価(注1)については、『上がる』(注2)との回答が減少した。また、これから5年間で物価は現在と比べ毎年、平均何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+3.6%(前回:+3.9%)、中央値は+2.0%(前回:+2.0%)となった。』

5年後の物価期待もこれまた若干低下ですが、見通し中央値が+2.0%で変わらないので、「インフレ期待はアンカーされている(キリッ)」と言えばヨロシという感じですな。


でもって本日のメインイベントはこの次。『1-3-4. 物価上昇・下落についての感想』である。

『1年前と比べて物価が『上がった』(注1)と答えた人(8割弱)に、その感想を聞くと、8割台前半の人が「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答した。』

まあこれはさておきまして・・・・・・・・

『また、1年前に比べて物価が『下がった』(注2)と答えた人(2.0%)に、その感想を聞くと、「どちらかと言えば好ましいことだ」との回答が5割台前半、「どちらかと言えば、困ったことだ」との回答が3割台半ばとなった。』

・・・・・・・・・・・(−_−)

こちらはURL先の図表12(PDFの12枚目になります)を見ていただくと中々驚異の内容になっておりまして、2015年6月調査の時にはこの「物価が下がったけどそれは望ましいのか困ったのか」という質問に対しては「どちらかと言えば好ましいことだ」が16.7%、「どちらとも言えない」が26.7%、「どちらかと言えば困ったことだ」が53.3%だったのですが、今回は「どちらかと言えば困ったことだ」が前回に引き続き上昇をして52.4%となり、半年前の「物価下落は困ったこと」という認識が過半数という状態はどこに行ったのかと小一時間であります。


でまあこの部分を日銀がどう評価するのか、というのは非常に興味深い所でして、表向きはその前にある物価期待の中央値が変わらないという状態を見て「物価予想は維持されている」という話をして知らんぷりをするんでしょうが、実際問題として直近引用部分は日銀としてはショックな内容になっていると思うのですよね。

つまり、そもそも2%物価上昇目標を設定してそれを早期に達成しようという政策を実施しているのですけれども、物価が下落したと考えている人たち限定とはいえ、物価下落の方が望ましいという答えが出て来るようになる、というのは「期待に働きかける政策」がそもそもワークしてませんがなという話になる訳ですし、「所得から支出への前向き循環メカニズム」もワークしていないという話になりますので、これは日銀何かしろという外部環境からの攻勢が益々激しくなりそうですな。

なお、日銀の方は恐らく上記のアンケート結果に対しては「賃金上昇が確り確認されるようになったら物価上昇を許容するようになるので今は過渡期」とか何とか言うのでしょうが、まーそれにしても日銀マズーにも程があるわという結果でした。


○主な意見キタコレ!!!

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/opinion_2016/opi151218.pdf
金融政策決定会合における主な意見
(2015 年 12 月 17、18 日開催分)

ということで・・・・・・・・・・・・

『1 「金融政策決定会合における主な意見」は、@各政策委員および政府出席者が、金融政策決定会合で表明した意見について、発言者自身で一定の文字数以内に要約し、議長である総裁に提出する、A議長はこれを自身の責任において項目ごとに編集する、というプロセスで作成したものである。』

とありますが、300文字以内という話が前回の決定会合後の会見でも説明がありましたが、出来上がりの文字数からしたら特段誰かの意見を削除しているというような事もなく、文体を見ますと何となくバラバラっぽいので、そういう意味でもこれは日銀執行部によって大幅な添削が行われているようなこともないかと思います。まあてにをはとか文章の止め方とかは同じなのでそこは直している感じがしますけど。


となりますと、今回の「主な意見」ですけれども、基本的に全員の見解が載っているということになりまして、しかも金懇での講演と同様に各審議委員が素で出している文章を概ね使っているという事でございますの、従来読んでいた「議事要旨」と比べると違いますなあという所です。

つまりどういう事かと申しますと、議事要旨って決定会合に出席している事務方が地の文章を作っていて、それに対する意見を各委員が了解したうえで承認を決定会合(次回の)で行うという段取りになっていますので、どうしても書き方が執行部ベースになってしまう訳ですよな。でまあそれはそれで書いている執行部の屁理屈を理解するのには非常に分かりやすくて結構なのですが、少数反対意見が何を言っているのかとか、執行部よりの人が実際にどういうロジックを持ち出しているのか、というのがあまり伝わっていなかったので、そういう意味では今回の主な意見は面白いですなという所です。


ということで軽く鑑賞。

・経済情勢

まずは(経済情勢)のパートですが、まあ公式見解が並ぶ中でしらっと。

『・所得から支出への循環に力強さはみられない。』

とあるのがワロタです。次が『(金融)』ですが、

『・ドル調達コストの上昇が、日本の金融機関の海外投融資での過度のリスクテイク傾向を助長する可能性に留意したい。』

というのはふーんという所ですが、今回は政策決定があったので皆さんそっちの方が重要(展望レポートでやっているというのもあるでしょうが)とばかりにここの部分はサラサラと流れています。

・物価に関して

次は(物価)のパート。

『・物価の基調は改善を続けており、今後も改善を続けると見込まれる。』

というのはさておきまして、

『・雇用環境が改善する中でも、日本企業は労働コスト全体を抑える姿勢を堅持しており、これが先行きの物価にも相応の抑制効果を与えると考える。』

というのはまあそうですねという所ですが、

『・賃金が上がらないのは、企業が、積極的に賃金を上げて正規労働者を集めようとしていないからである。しかし、非正規は賃金を上げて集めようとしており、実際に上がっている。物価は、正規よりも非正規の賃金との相関が高く、需給の引き締まりで非正規の賃金が上がれば、正規の賃金の伸びが鈍くても、物価は上がっていく。』

・・・・・・・・・・・この意見が訳分からないんですけど何ですかこれ???


・ということでメインイベントは金融政策決定に関して

『U.金融政策運営に関する意見』

『・ 経済・物価見通しの下振れリスクが増大しているわけではないため、金融市場調節方針については、現状維持が適当である。』

ほうほう。

『・現状、外需の不確実性が残るもとで着実に作用しつつある経済の好循環を推進する正念場にあり、現在の金融政策は継続すべきである。』

正念場と言えば黒田総裁??

『・今回の諸措置は追加緩和ではないが、資産買入れを一層円滑に進めることを可能とすることで、先行き、「量的・質的金融緩和」をしっかりと継続し、また必要と判断した場合には迅速に調整を行えるようにするものである。』

とまあここまでは執行部っぽい見解ですが。

『・今般の補完措置の導入については、経済の好循環を後押しする効果が期待できるほか、円滑な政策遂行に資することから賛成である。』


経済の好循環を後押しする効果とは?????

『・「量的・質的金融緩和」を推進するために、より円滑な金利低下を促す措置や設備・人材投資に積極的な企業をサポートする措置などをこのタイミングで導入することが適当である。』

より円滑な金利低下もクソも金利低下しまくっているのですが、それから今回のETFですけれども言いたい事は分からんでもないがやはり中央銀行の矩を越えていると思う。

『・国債市場の動向や金融機関の保有資産の状況などを踏まえ、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当である。』

そもそもこれだけ下がっている金利を更に下げる意味があるの???

『・「量的・質的金融緩和」のもとで企業や家計のデフレマインドは転換してきており、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業も多いが、そうした動きがさらに広がっていくことが期待される。』

ヤケクソの理屈ですな。

『・J−REIT買入れの 「5% 」の基準を維持すると、事実上、J−REITのテーパリングが始まることになり、「量的・質的金融緩和」の政策効果を損なうことになる。』

『・現在は、テーパリング等、金融緩和の後退との印象を与える決定は適切ではなく、日本銀行が目標達成のための手段を有し、かつそれを実施する意思があることを示すことを最優先すべきである。』

と言ってますが、そもそもそんな事が起こり得るのは買入実施および追加緩和を実施した時に分かりきっている話であって、「政策効果を損なう(キリッ)」じゃなくて、そもそもの制度設計が「2年で達成」のつもりだったのにそれが失敗した、つまり短期決戦のつもりが長期戦になっているのに、戦術自体は短期決戦のままでやっていて、それを変えないことの正当化をしているだけではないか、という反省をしないのかよと小一時間問い詰めたい。


んでもって後半の方に反対意見が。

『・国債買入れは新たな発行計画のもとでも現行の7〜10 年程度という柔軟な指示のもとで運営可能で平均残存期間の長期化をプレイアップするのは有害である。』

プレイアップってまさにそうですね。今回は妙なプレイアップで墓穴を掘ったとしか思えない。


・「量的・質的金融緩和」導入当初よりイールドカーブ全体に働きかける上で超長期ゾーンも同様に扱うことに違和感がある。』

ほほう。ここは個別委員の方がどこかの金懇で説明して頂きたいですな。

『・国債買入れ平均残存期間の長期化は、買入れの安定性をむしろ低下させる、日本銀行の国債管理政策への事実上の関与を強める、金融政策の正常化に要する時間を長期化させる、等の問題を生むため望ましくない。』

イイシテキダナー

『・「量的・質的金融緩和」をより長い期間継続することになる可能性が出てきている。』

で切れているので何ですが、要は長い期間持つ政策にしろということですかね。

『・市場流動性などの問題は、事前に屈曲点がどこにあるか分からない。中央銀行は保守的、慎重な対応が必要である。』

仰る通り!

『・ETF買入れは金融政策として既に大規模に行っており銀行保有株式の売却というプルーデンス政策補完のための増額は必要ない。』

『・J−REIT買入れは銘柄別上限枠5%の下で導入した臨時異例の措置で所期の呼び水効果は十分発揮されている。個別の証券への資金配分への関与もより強まるので増枠に反対する。』

『・民間企業活動に対する中立性、健全な価格形成、日本銀行の財務の健全性への影響などの観点から、ETFおよびJ−REITの保有残高の増加ペースを現行方針と比べて減額するのが望ましい。』

まあここは見解が割れそうな所ですけれども、中央銀行としての矩を踏み越えている状態である、という認識の元でこれらの政策について考えるべきであり、一度矩を越えたら引き返すこと自体がマイナスみたいな主張をしている前半の方での見解というのも雑に過ぎると思いますのでこういう指摘が3名ほどから出ているというのは中々。たぶん上から順に佐藤さん石田さん木内さんとみたがどうでしょうかね(^^)。

『・今回の補完措置によりかえって「量的・質的金融緩和」の限界が意識され、市場との対話が難しくなることを懸念する。


(;∀;)イイシテキダナー

というかその通りになっていますけれどもね!!!!!!!

つーことで初回なのでこんなもんでしょう。今後はこの見解と議事要旨の間の差分を読むのも面白いと思いますが、どうせ議事要旨書く方もその部分は意識してくるでしょうなあと。

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2015/12/28

○11月決定会合議事要旨

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g151119.pdf

まああんまりおもしろくないのだが。

・企業行動に関連する議論から

『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要 』の国内経済パート。

『わが国の景気について、委員は、輸出と生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているが、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けており、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

という前向きの循環メカニズムネタ。

『多くの委員は、7〜9月期の実質GDP成長率(1次速報値)が4〜6月期に続いてマイナスになったことについて、主因は在庫の減少であり、個人消費や外需を含め最終需要がプラスとなったことを踏まえると、景気が緩やかな回復を続けているという判断と整合的なものであるとの認識を共有した。景気の先行きについて、委員は、所得から支出への好循環が続くもとで、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。』

とまあそういう毎度の認識でして、まあどうなんでしょうねえと思いますが、実際の企業行動に関してはと言えばその先の方で・・・・・・・・・・・・

『委員は、高水準の企業収益やタイトな雇用環境との対比でみて、設備投資や賃金といった支出面への波及がやや鈍い点について議論した。』

というのがありまして、

『何人かの委員は、企業経営者が現在の高水準の収益を過度の円高の修正や交易条件の改善も寄与した一時的なものとみていることが影響しているとの見方を示した。』

何人かですか。

『ある委員は、労働市場の改革などを含め政府が成長戦略を着実に実行し、企業の前向きな取り組みを後押しすることが望まれると述べた。そのうえで、多くの委員は、新興国経済が減速した状況から脱し、内外需の堅調さがある程度継続すれば、設備投資や賃上げに対する姿勢も積極化していくとの見方を示した。』

『一人の委員は、一部では生産を国内回帰させる動きや研究開発分野への投資を拡充する動きがみられており、今後は投資の一層の加速が期待できると指摘した。また、別のある委員は、高水準の企業収益との対比で設備投資や賃金の増加が鈍いという現象は、他の主要先進国でもみられるが、そうした状況が長く続くとは考えにくく、いずれは波及していくとの認識を示した。』

つーことで企業行動はいずれ改善する、積極化するというお話ではあるのですがどうも希望的観測の香りがします。

『この間、複数の委員は、賃金が上がらないということは、現状はまだ完全雇用には達していないことの証左であり、引き続き総需要の拡大が重要であると指摘した。 』

まあそうなのかも知れませんが、企業の成長期待が足りないから雇用にブレーキを掛けている可能性もあるんじゃないですかねえとは思うのですよ。まあそれが完全雇用に達していないと言えばそうなのでしょうけれども、総需要の拡大って言ったって何をどうするのでしょうか。


・物価に関する議論もありまして結局は「賃金の上昇が重要」という話

『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』から。

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。そのうえで、委員は、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)が伸びを高めているほか、消費者物価(除く生鮮食品)の上昇品目数の割合から下落品目数の割合を差し引いた指標が上昇を続けていることなどを踏まえ、物価の基調は改善を続けているとの見方を共有した。』

いつもの基調攻撃。

『物価の先行きに関し、委員は、来年度の春闘において、基調的な物価上昇率の高まりが賃上げに反映されることが重要であるとの認識を共有した。これに関連し、複数の委員は、基調的な物価上昇率を反映して賃金が上昇しなければ、先行きエネルギー価格下落の影響も一巡するもとで、家計が食料品や日用品の値上げに対する抵抗感を再び強めるリスクにも留意が必要であると指摘した。』

ということで、先ほどの企業行動の所でも賃金の話がありーの、こちらでも賃金の話が最初にありーのという事で、要するに賃金ちゃんと上がるかという話が物価目標に関しての重要ポイントという話に完全になっている訳でして、そうなりますと来年4月の展望レポートの時期(先送ったとしても7月)には何らかの総括が求められるのではないか、ということになりそうですね。


『この間、複数の委員は、国際商品市況の下落を受けて仕入価格が総じて低下するもとで、企業の価格設定行動に変化が生じないか、注視する必要があると述べた。この点に関連し、何人かの委員は、物価の基調について消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)を用いて説明する場面がこのところ増えているが、昨年来の急激なエネルギー価格下落を踏まえれば、こうした対応は適切であるとの認識を示した。そのうえで、委員は、物価の基調の判断に当たっては、様々な物価指標を点検するとともに、その背後にある経済の動きと合わせて評価していくことが重要であるとの見方で一致した。』

はいはい基調基調。

『予想物価上昇率について、委員は、マーケットの指標や各種アンケート調査では、このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとの認識を共有した。』

声明文で急に出てきた「弱めの指標もみられているが」ですな。今に始まった訳ではないと思うのだが何故この時期に出たのかというのを見れるかな、と思いつつ以下鑑賞。

『委員は、短期の物価見通しに対するアンケート調査の指標は、直近のエネルギー価格の動向に左右されやすいほか、物価連動国債の利回りを用いて計算されるブレーク・イーブン・インフレ率は、市場流動性や需給動向にも影響されるため、それぞれの指標の特性を踏まえて解釈する必要があるとの見方を共有した。』

BEIをドヤ顔で説明していた置物師匠is何処?

『また、何人かの委員は、本年度入り後、企業の価格改定の動きには拡がりと持続性がみられるほか、家計も値上げを受容するようになってきていることを踏まえれば、予想物価上昇率は上昇していると判断されると述べた。』

ということですがヘッドラインの物価がそんなに上がっていないから値上げに対する痛みが比較的軽くて、その結果として受容するように「見えている」だけなのではないかという論点は???

『こうした議論を踏まえ、多くの委員は、先行き、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度後半頃に2%程度に達する可能性が高いとの見方を共有した。』

とまあいつもの結果。


・今でも2年に拘るんですねえ(棒読み)

『先行きの金融政策運営の考え方について、多くの委員は、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する、その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行うとの認識を共有した。』

という毎度のお話ですが。

『このうち一人の委員は、賃金と物価の関係について、両者は概ねパラレルに動くものであり、デフレマインドが払拭されなければ結局物価も賃金も上がらなくなるとしたうえで、日本銀行の姿勢をしっかり伝えるためにも、「物価安定の目標」の早期実現のコミットメントを堅持することが重要であると述べた。』

それは分かったが早期実現してないじゃん。

『また、別のある委員は、「2年程度の期間を念頭に置いて」という強いコミットメントは、「量的・質的金融緩和」の政策効果の起点であり、そのもとで企業や家計の物価観は大きく変化していると述べた。』

それは分かったが2年で達成してないじゃん。


・一方で木内さんの話はいつも通りですが今回も反論の記載がない

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は、実質金利の低下一巡に伴って限界的に逓減しており、国債市場への影響など副作用が既に効果を上回っていると述べた。』

(;∀;)イイシテキダナー

『この委員は、国債の保有残高を削減しない範囲で増加ペースを減額するのであれば、その効果は損なわれないとの認識を示した。そのうえで、この委員は、@長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額すること、A「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融不均衡などのリスクに十分配慮した政策運営を行うこと、を主張した。また、これは、早期の「量的・質的金融緩和」終了や金利引き上げに向かうものではないことを指摘した。』

という所で話が終わっていますが、まあ前半の部分が実は木内さんに対する反対論なのかなとも思います。というのは木内さんの「中長期」に対するカウンターという感じでの説明になっているのでまあそうかなという風に思ったのですけれども、まー「副作用は理論的に実証的にも認められない(キリッ)」からはだいぶ後退して、「早期達成のコミットメントが重要」に戻っちゃいましたね。この反論の最大の泣き所は以前と違って「コミットメントの結果」が出てしまっていることなのですが。


つーことで、だいたい政策変更をした回の前の分のMPM議事要旨は何らかの政策変更を示唆するようなネタを練り込んでいるのですが、今回は特段のネタの練り込みは観測されず、要するに先般の調整は本当の本当に「技術的修正」だった訳で、あまり追加政策だの何だのという意図はなく、見せ方で変にスケベ心を出したのが勇み足だったというお話なんでしょうなあと思うのでした。

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2015/12/21

お題「策士策に溺れると申しますか・・・・・・・・・(MPMレビュー)」

最初に金曜の訂正ですがFEDのディスカウントウィンドウは75→100でした。思いっきり読み間違えてしまいました。すいません。(大汗)

○概ね技術的な修正(一部変なのあり)を下手にフレームアップするからこんな風に・・・・・・・・・

ご案内の市場反応でしたが。

http://jp.reuters.com/article/kuroda-boj-idJPKBN0U10NV20151218?sp=true
Business | 2015年 12月 18日 16:41 JST
「バズーカ3」は不発、追加緩和か迷い相場乱高下

『意表を突かれた市場は、まず株買い・円売り・債券買いで反応。日経平均.N225は一時500円高まで上昇、ドル/円も123円後半まで約1円上昇した。長期金利も0.265%と1月28日以来の低水準を付けた。「これまで2回のQQEで急激な株高・円安が進んだ記憶による初期反応」(大手証券・株式トレーダー)という。』

『だが、今回は日本株、ドル/円ともに急速に上げ幅を縮小。日経平均の下げ幅は300円を超え1万9000円割れで取引を終えた。ドル/円も122円を割り込み、ともに強化策発表前の水準を下回ってしまった。』

『また、市場が最も「食いついた」ETFの新たな買い入れ枠の設定についても、過去に日銀が買い入れた銀行保有株式の売却の再開(2016年4月から)に伴って行うものだ。ともに3000億円ずつであり、ETFの年間3兆円という購入規模は変わらない。』(以上上記URL先より)

ということで公表が出たのが12:50だったので待っている時間に何をどうするのかと思っていたらヘッドライン的には「80兆円は同じ」の後に「買入年限を7-12年に長期化」で長期化キター!と思ったら今度は「ETFの新たな買入枠年間3000億円」と来てETFキター!!!となって反応したのですが、声明文を良く良く見たらその3000億円は日銀が昔金融機関から購入した株式の売却と見合いというのを見てナンジャソラとか思っているうちに株式と為替があっさり戻るどころかドテン円高株安になってしまって日銀もさぞガックリした事でしょうなあというところです。


まあ良く良く声明文を読んでみますと、「今の政策の枠組みを継続する為に必要な措置」にETFの変な買入を加えてみましたという小手先感溢れる内容でして、こういうのを一々『「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入、12時50分公表)』という名前を付けて「ほーら凄いでしょ」とフレームアップして出したために、フレームアップの第一印象と中身のギャップから失望な市場の反応を示したのに加え、「こういうフレームアップをするというのは追加緩和が出来ないからどうでも良い話を大きく見せようとしているんだな」という見方にも繋がって株と為替が失望モードになったのでしょうねと。

それから今回出た中での追加施策ですけれども3人の反対が出ているのも気にしている人は気にしていると思われまして、ここで3名反対が出たとなると追加緩和をやるという話になったとしても木内さんだけではなくて今回は佐藤さんと石田さんが反対に回ったので、今後は益々難しいことになる(まー元々コンセンサスもへったくれも無く運営している節があるので執行部的には知らんがななのかも知れませんが)と思われます。

#なお金融市場に一番近い審議委員3名が反対しているというのが何とも


○個別の施策は「今の枠組みで政策を延命させたい」というのが基本

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k151218a.pdf
当面の金融政策運営について


・MB増加ペースは同じ

『1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(賛成8反対1)(注1)。

マネタリーベースが、年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。』

MBに意味があるという建付けは何とかならんのかとしか思えないがここをいじらないので追加緩和ではない、という建付けになる。木内さんの反対はいつも通りなので割愛。


・7年〜12年に長期化は3名反対ですが内容を見ると・・・・・・・・・・・

『2.資産の買入れについては、以下の方針とする(賛成6反対3)(注2)。

@ 長期国債について、保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。ただし、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の状況に応じて柔軟に運営する。買入れの平均残存期間は、本年中は7年〜10年程度、来年からは7年〜12年程度とする。

A ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。

B CP等、社債等について、それぞれ約 2.2 兆円、約 3.2 兆円の残高を維持する。』

後で出てくる謎の新ETFスキームはさておきましてこちらでは長期化に3名が反対。木内さんはそもそも副作用がどうのこうのという人なので反対するとして石田さんと佐藤さんの反対理由は・・・・・・・・

『(注2)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、原田委員、布野委員。反対:石田委員、佐藤委員、木内委員。石田委員と佐藤委員は、長期国債買入れの平均残存期間の長期化に反対した。なお、木内委員より、長期国債保有残高が、年間約 45 兆円に相当するペースで増加するよう資産買入れを行うなどの議案が提出され、反対多数で否決された。』

後ろの方に『「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置の導入』というのがあって、4ページ目になるのですがこういうのがあります。

『(2)長期国債買入れの平均残存期間の長期化(賛成6反対3)(注2)

長期国債のグロスベースでの買入れ額が増大することが見込まれることから4、買入れを柔軟かつ円滑に実施するため、平均残存期間を現在の7年〜10年程度から、7年〜12年程度に長期化する。また、国債の市場流動性を確保する観点から、国債補完供給(SLF)の連続利用日数に関する要件を緩和する5。いずれも 2016年1月から実施する。』

SLFの話は後でしますが、こちらに反対理由の説明がもうちょっと詳しくありまして・・・・・・・

『(注2)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、原田委員、布野委員。反対:石田委員、佐藤委員、木内委員。石田委員と佐藤委員は、現在の「7年〜10 年程度」のもとでも運営可能であるとして、木内委員は、長期国債買入れの平均残存期間を7年程度とすることを含む自身の提案と整合的ではないとして反対した。』

ということで、そもそもまだ7−10年で運営できるだろというのが石田さんと佐藤さんの反対理由なのですが、今回はMPMで平均年限を変更したからという事なのでしょうが、突如MPMと一緒に来月の買入予定が出てきまして・・・・・・・・・・・・

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel151218c.pdf
2016年1月以降の長期国債買入れの運営について

『(注4)2016 年 1 月 4 日以降の最初のオファー金額は、残存期間 1 年以下 700 億円、残存期間 1 年超 3 年以下 4,000 億円、残存期間 3 年超 5 年以下 4,200 億円、残存期間 5年超 10 年以下 4,500 億円、残存期間 10 年超 25 年以下 2,600 億円、残存期間 25 年超 1,800 億円、変動利付債 1,200 億円、物価連動債 400 億円とする予定です。』

となっていまして、(買入の回数は同じ)

−1年:700→700
1−3年:3500→4000
3−5年:3500→4200
5−10年:4000→4500
10−25年:2400→2600
25年−:1400→1800
変国:1200→1200
物国:200→400

これを手元の表計算ソフトでヘコヘコと計算しますと、除く物国変国で月間買入が8.64兆円→9.74兆円になるので年間120兆円弱という数字(来年の償還分+80兆円)と整合的なのですが、買入年限って1年の所を0、各年限はそこにあるカレント(25年超はめんどくさいので全部30年にしちゃいました)として9.69年→9.78年という数字になって何でわざわざここで7−12年に延長するのか訳分からんという結果になっているのが謎の日銀クオリティ。

物国がしらっと倍増しているのは原油が下がって困り切っている物国的にウマーなのですが、超長期の後ろの方が手前よりも買入額が増えているのが少々インパクトあるという以外は市場で大体こんなもんでしょうなあと思っていたのと極端には変わらない(市場は平均10年以内に収める方向で計算していたけれどもこの買入も平均10年で収まっているから)というのが何とも。

まあ金曜の市場の反応として何故か2年が最後に大爆発してカレントマイナス5bp(カレント以外はマイナス5.5bp)とかハチャメチャな引けになっておりました(ちなみに当然ですがウェイト上がったので20−30は引値で2毛フラットニング)が、早い時期に中短期の輪番が大爆発して日銀の買入金利が出来上がりマイナス10bpだの15bpだのというお洒落な事になった場合には買入年限の長期化をしないといけなくなるから先手を打って「7−12年」にしておいたのですかね。

まー輪番爆発してから「7−10年」を長期化すると追い込まれ感が強くなるので先手を打ったにしても、それならもうちょっと買入を長期化して「長期化しましたよ」アピールをすれば良いのにと思うのですけれども、そこは一気に長期化して一段のフラットニング(いやまあ金曜も大フラットニングで7年1.5強、10年3強、20年4.5強、30年6強の40年7強でしたけど)をさせると、それはそれで輪番の限界を速めるリスクがあるので、とりあえず今のバランスで粘ってマズイようならもうちょっと長期化しよう、という逐次投入スキームあるいは延命スキームを取りに行ったんでしょうね。


なお、この別添の方での脚注が何とも。

『4 現在の資産買入れ方針のもとで、2016 年中のグロスベースでの国債買入れ額は、保有国債の償還額の増加により、2015 年中の約 110 兆円から、約 120 兆円に増大する見込み。』

まあ単に事実の説明をしただけなのかも知れませんが、もともと既定方針となっているものなので一々説明する必要もない話なのに、わざわざ「110兆円から120兆円に増大」とかグロス買入の額を書くのが「数字を出来るだけ大きく見せよう」的な下心があるんじゃないかと思われて、下手な小芝居に見えてしまいますので出す必要はないんじゃないですかねえ。従来この数字を出していないのに急に出すというのは如何な物かと思いますし、逆に「増加額の目標からグロスの数字にして誤魔化すつもりか」と思う人も出て来て逆効果のような気がします。


・FLSについて

さっきの続きで別添脚注のFLSについて。

『5 長期国債の同一銘柄について連続利用可能な最長日数を、現在の原則 15 営業日から原則 50営業日に変更する。』

ということでFLSの制限日数を延長していますが、そもそも論として問題なのは日銀の中に沈んでしまって売りが出てこないから流動性が無い訳で、何ぼFLSで出して貰っても最終的にカバーをしないといけないので有れば話は同じであって、FLS分のバイインでも可能にしてくれるならともかく、結局カバーしないといけないというのが変わらない上に、大体からしてFLS自体がディスカウントウィンドウ的な位置づけになっている状態のままでは日数拡大しないよりはマシですがまあその程度の問題であって、この延長によって輪番に応札しやすくなるというような話は無いというのはマーケットメーカーサイドでは普通の認識だと思いますが投資家サイドだと意外にこういうのを誤解しやすいので念のため申し添えます。


・景気認識は輸出を上げただけです

声明文項番3〜6ですが、4〜6は同じなので3のみ前回と比較しておきます。

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。そうしたもとで、輸出は、一部に鈍さを残しつつも、持ち直している。国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向にある。鉱工業生産は、横ばい圏内の動きが続いている。この間、企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(11月声明文より)

前回との相違点は輸出の判断が上がっていること、短観を受けた業況感の部分があること(短観直後の声明文の仕様)です。予想物価上昇率が全体として上昇とはどこがどう上昇しているのか小一時間問い詰めたいとかあるのですがまあさておきまして。


・項番7はもう何というか

今回は入っているのが項番7。

『こうした方針に沿って「量的・質的金融緩和」を推進していくに当たっては、国債市場の動向や金融機関の保有資産の状況などを踏まえ、より円滑にイールドカーブ全体の金利低下を促していくことが適当である。また、「量的・質的金融緩和」のもとで企業や家計のデフレマインドは転換してきており、設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業も多いが、そうした動きがさらに広がっていくことが期待される。こうした観点に立って、日本銀行は、「量的・質的金融緩和」を補完するための諸措置を決定した(別添)。』

はあそうですかとしか申し上げようがない。


・新たなETF購入の部分は色々と何だかなあ感が

ということで別添に戻りまして。

『1.設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業に対するサポート』というのがありまして・・・・・・・・

『(1)新たなETF買入れ枠の設定(賛成6反対3)(注1)

ETFの買入れについて、現在の年間約3兆円の買入れ1に加え、新たに年間約3,000 億円の枠を設け、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFを買入れる。当初は、JPX日経 400 に連動するETFを買入対象とし、この施策の趣旨に合致する新規のETFが組成された場合には、速やかに買入対象に加える。新たな枠によるETF買入れは、日本銀行が買入れた銀行保有株式の売却開始に伴う市場への影響を打ち消す観点から、2016 年4月より開始する2。』

まずは脚注1

『1 現在は、東証株価指数(TOPIX)、日経平均株価(日経 225)または JPX 日経インデックス 400(JPX 日経 400)の3つの指数に連動する ETF を対象として、それぞれの市場残高に比例して買入れを行っている。』

市場残高のプロラタで買入をしているので、新たなETF買入を別にしないとって話なのでしょうが、そもそも『「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETF』ってナンジャソレという感じで、この次の(2)にあるそ該当企業への貸出支援で良いんじゃないのとしか思えないのですが、まあ筋が悪そうな事やってるなあと思いますし・・・・・・・・・・

脚注2

『2 日本銀行は、金融機関による株式保有リスクの削減努力を促すための施策として、2002 年11 月から金融機関が保有する株式の買入れを実施した。2007 年 10 月より、取得した株式の市場における売却を開始したが、内外金融資本市場の状況等を踏まえ、現在は売却を停止しており、2016 年4月から売却を再開することとしている。本件については、昨日の政策委員会において、売却期間を従来予定していた 5.5 年間から 10 年間に延長することを決定した。なお、売却の規模は、2015 年 11 月末時点の時価で年間約 3,000 億円となる見込み。』

こちらに関しては言われて見ればそうでしたと思いだすというお話で(汗)、最初「売出の期限延長」というヘッドラインを見た時に売却開始の再延長するのかと思いましたらそうではなくて、ここの売却とのセット施策っていうのがまた残念感が出てしまう内容。

『(注1)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、原田委員、布野委員。反対:石田委員、佐藤委員、木内委員。石田委員と佐藤委員は、現在の「年間約3兆円」の枠内で対応すべきであるとして、木内委員は、ETF 買入れ減額を含む自身の提案と整合的ではないとして反対した。』

ということでこちらも3名反対。


『(2)成長基盤強化支援資金供給の拡充(全員一致)

成長基盤強化支援資金供給における適格投融資として、現在の 18 項目に、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」を追加するとともに、本項目の投融資について、手続きを簡素化する(税制上の優遇措置の対象となっている企業に対する投融資を適格とするなどの措置を講じる)3。』

まあ成長基盤資金供給の方は話は分からんでもないが、今の市場環境で成長基盤供給を積極的に借りに行くインセンティブが金融機関にあるのかというのはかなり疑問だが。



・適格担保の拡大は良い話

『(1)日本銀行適格担保の拡充(全員一致)

「量的・質的金融緩和」のもとでの長期国債買入れに伴って金融機関が保有する適格担保が減少していることを踏まえ、外貨建て証書貸付債権を適格担保とするほか、金融機関の住宅ローン債権を信託等の手法を用いて一括して担保として受け入れることを可能とする制度を導入する 3。』

住宅ローン債権自体の残高はたくさんあるのですが、問題はこの信託等の手法云々の具体的な手間とコストでして、これについては詳細が出ないと何とも。ただまあ将来に渡ってという事を考えますと、いずれ金利がつくようなときになったらここの担保拡大はだいぶ意味が出てくるようにも思えます。



・J−REITは市場が好感でしょ

『(3)J−REITの買入限度額の引き上げ(賛成6反対3)(注3)

現在、J−REITについては、銘柄別の買入限度額を当該銘柄の発行済投資口の総数の「5%以内」としているが、市場における発行残高との対比でみた日本銀行の保有残高が増加していることから、これを「10%以内」に引き上げる 3。』

こちらは今のままですと来年の買入拡大が5%ルールに抵触してできなくなるという事で、買入そのものが停止されるのではないかという見方もあったと思いますので、リート市場ニッコリの巻。

ただし・・・・・・・・

『(注3)賛成:黒田委員、岩田委員、中曽委員、白井委員、原田委員、布野委員。反対:石田委員、佐藤委員、木内委員。石田委員は、買入限度額の引き上げが不動産市場に対する不適切なシグナルとなる懸念があるとして、佐藤委員は、現在の買入限度額の範囲内で買入れを行うべきであるとして、木内委員は、J-REIT 買入れ減額を含む自身の提案のもとでは買入限度額の引き上げは不必要であるとして反対した。


>石田委員は、買入限度額の引き上げが不動産市場に対する不適切なシグナルとなる懸念があるとして
>石田委員は、買入限度額の引き上げが不動産市場に対する不適切なシグナルとなる懸念があるとして
>石田委員は、買入限度額の引き上げが不動産市場に対する不適切なシグナルとなる懸念があるとして

金融機関出身の方がこういう反対をするのは重いですよね。


・金融機関保有株式は予定通り売却(ただし売却期間延長)

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel151218b.pdf
日本銀行が金融機関から買入れた株式の売却完了期限の延長

『日本銀行が金融機関から買入れた株式については、2016 年4月以降、市場売却を開始することとなっています。

本件については、12 月 17 日の政策委員会において、売却に伴う株式市場への影響を軽減する観点から、従来、2021 年9月末としてきた売却完了期限を、2026年3月末まで延長することとしました。これにより、市場売却を行う期間は 10年間となります。』

ということで、実はMPM1日目の前(1日目は午後からなので)か後に通常会合をやって(木曜だし)、これを決めてから金曜に臨んでいたのですね。

しかし上記のような謎施策する位なら単に売却開始を先送りした方がスッキリしていたように思えるのですけどねえ・・・・・・・・・・・




○ということで・・・・・・・・・・・

まあ今日以降の市場反応も見てという話になるでしょうが、今回の措置は、

「今の政策枠組みを延命しようとした修正をまとめて突っ込んで、ついでに新しいETF買入を入れて色々と盛りつけてみました」

という感じでして、小手先感が思いっきりするのが黒田さんの緩和および追加緩和らしくない(まあ追加緩和ではないのだが)次第で、どちらかと言えば白日銀時代に細かい技術的修正を一々無駄に盛り付けを行って中身を市場が良く見るとがっかりしてしまう、という感じで、高座で落語が思いっきり滑って客がドッチラケというような風情の漂う内容。

しかも、中短期の輪番とか結構増やしていて(年限伸ばすんだったらもうちょっと中短期軽くすれば良いのに・・・・・・・)そもそもこの施策自体が延命になっているのかどうかも良く分からんところがあって、実際に1月に買入が始まった時の中短期(短国の方も気になるが)がどう推移するのか次第では早晩買入の手直しが必要かも知れず、益々手詰まり感が強くなるかも知れません。

いずれにせよ、今回は執行部が「今の政策で出来るだけ粘りたい」(なお粘れるかどうかは知らん)という意思を出したというだけの内容で、却って追加緩和余地の乏しさを示して見事に滑ってしまいましたねえと思います。今回の変なフレームアップは今の所失敗になっているように思えます。

あと、何回かもうしあげましたが、石田さんと佐藤さんも各種措置に反対したのは重いと存じます。

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2015/12/01

○補足を忘れていたのでメモ(決定会合議事要旨)

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g151030.pdf

展望レポートに対する反対意見部分を引用するのを忘れたので自分用備忘メモとして置いておきます。

『Y.「経済・物価情勢の展望」の検討』である。

『続いて、「経済・物価情勢の展望」の「基本的見解」の文案が検討され、多数意見が形成された。』

多数意見というのは出来上がりの文。

『これに対し、佐藤委員からは、@物価見通しについて、「2%程度を見通せる時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想される」とすること、A第1の柱についての記述中、「2%程度の物価上昇率を実現し」を「2%程度の物価上昇率を目指し」に変更すること、を内容とする議案が提出され、採決に付された。 採決の結果、反対多数で否決された。』

『木内委員からは、@中長期的な予想物価上昇率の見通しについて、「安定的に推移する」とすること、A物価見通しについて、「当面0%程度で推移するとみられるが、その後はかなり緩やかに上昇率を高めていくと考えられる」とすること、B先行きの金融政策運営について、「日本銀行は、中長期的に2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、金融面からの後押しを粘り強く続けていく。今後とも、2つの「柱」による点検を踏まえた柔軟な政策運営のもとで、資産買入れ策と実質的なゼロ金利政策をそれぞれ適切と考えられる時点まで継続する」とすること、を内容とする議案が提出され、採決に付された。採決の結果、反対多数で否決された。』

ということでですな、これ実質的にお二方とも先行きの政策運営に関する提案をこちらでしているのと同じなのですが、どうせなら木内さんの見解と佐藤さんの見解の着地点は無いものかと考える次第で、物価の見通しに関しては別に揃う必要が無いのですが、佐藤さんの場合は「2%を実現し、ではなく目指し」というのですから要するにローリングターゲット、木内さんの場合は「中長期的に2%を達成すればよろしいがな」という話をしているのであって、これはまあローリングターゲット的な話に収斂できんもんかと思うのですよね。2名が同時に同じ話をするとなるとそれはそれでインパクト違ってくるし、石田さん辺りの加勢も期待できたりしないかなとも思ったりはしますけど。

でもって佐藤さんの見通しは「2%程度を達成」ではなくて「見通せる」なので、よーするにフォーキャストターゲットの考え方でもあって、現時点から見て2年程度の期間内に「よしこの先2%行けるやん!」となれば良いという説明なのですが、そもそも今の建付けでの政策継続可能期間がそんなにあるとも思えない(来年前半位は持つのかもしれませんが、短国がうっかり今の調子のままで続くと中短期から大爆発が開始されるのは意外に早いかもしれません)のですが、2016年度後半頃にフォーキャストターゲットが見えてくるという見通しおよび建付けと、今の続きそうもない政策の建付けとの折り合いをどうつけるという話を考えますと、やはりもう少し継続可能な無理のない建付けになるという事になるんでしょうなあと思いつつ、木内さんの枠組みとの間の着地点が出来ると良いのですがと思うのでありました。

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2015/11/26

○10月30日MPM議事要旨のトーンが変わってきているように見えますが

白井さんの海外講演に続き金懇まで入っているのですが(そもそもFOMC議事要旨もあるしドラギのおっちゃんの講演とかカプランさんの講演とかもあるのだが、汗)多分順序としてこっちの方がネタとしてはピコーンと来ましたので。

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g151030.pdf

・ナシナシからアリアリへのトーン変化

えーっとですね、今回は展望レポート出た回の議事要旨という事で、割と色々な見解が織り込まれる格好になっていたのですが、従来は議事要旨を見ても「ああ日銀は当分様子見で動かないなあ」という印象が強くて、追加緩和みたいなのも無ければ政策の見直しみたいなのも無いだろうなあという感じだったのですが、今回は読みようによっては追加緩和を期待しても良いし、政策の転換(2%は動かさないけれども2年とかそっちの転換で枠組みが変わる)も期待できそうな書き方になっているというのが印象として強いですな。

一応総裁会見とかでは従来の政策を継続して2016年度後半に2%到達ですよという話になっているのですけれども、この議事要旨を見るとそこまで今の政策を継続しながら様子見地蔵となる、というよりは今後「どちらにも動ける」ように伏線を色々と張りに来たのではないかとあたしゃ思ったのですが、まあそれはアタクシの感想であって皆様がどうお考えなのかは存じませんけれども一応そういう感想ですがなという事で以下引用の巻です。


・経済情勢の検討部分である

例によって『U.金融経済情勢と展望レポートに関する委員会の検討の概要』からで海外経済からちょっと引用しておきますね。

『海外経済について、委員は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いているとの認識を共有した。』

『複数の委員は、中国をはじめとする新興国の動向は引き続き予断を許さないものの、海外経済について一部にあった過度な悲観論は修正されつつあるとの見方を示した。ある委員は、先進国は内需牽引型の自律的な回復軌道を歩みつつある一方で、輸出依存型の経済である新興国・資源国は中国の影響を受けて減速しており、両者の違いが顕著になっているとの認識を示した。』

うむ。

『先行きについて、委員は、先進国が堅調な成長を続けるとともに、その好影響が波及し新興国も減速した状態から脱していくもとで、海外経済は全体として緩やかに成長率を高めていくと予想されるとの見方で一致した。そのうえで、何人かの委員は、新興国経済の減速が想定以上に長引いたり、大幅なものになった場合には、先進国経済にも影響が及ぶというリスクシナリオに言及し、今後、先進国が新興国経済の減速のインパクトに抗して、自律的な回復を持続できるのか見極める必要があるとの認識を示した。』

ということでリスクは下。でもって海外の地域別の展開の後に日本の金融環境の話が出てくるのですが、これは展望レポートの回の時の仕様で、他の回では経済の項と金融環境の項が分かれるのでちょっと書き方が変わるのですけれども、これ自体はお作法の問題だと思われます。

『わが国の金融環境について、委員は、緩和した状態にあるとの認識で一致した。委員は、マネタリーベースは日本銀行による資産買入れの進捗を反映して大幅に増加しており、企業の資金調達コストは低水準で推移しているとの見方を共有した。委員は、企業からみた金融機関の貸出態度は改善傾向を続けているほか、CP・社債市場では良好な発行環境が続いており、企業の資金繰りは良好であるとの認識で一致した。委員は、資金需要は運転資金や企業買収関連を中心に緩やかに増加しており、銀行貸出残高は中小企業向けも含めて緩やかに増加しているとの認識を共有した。』

まあここは順当。

『以上のような海外の金融経済情勢とわが国の金融環境を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。』

ということで・・・・・・・・・・・

『わが国の景気について、委員は、輸出と生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているが、国内需要の面では、前向きな投資スタンスが維持されているほか、個人消費が底堅く推移しているなど、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けており、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

お、おぅ・・・・・・・・・・

『ある委員は、わが国経済においては、交易条件の改善からマクロの所得形成のメカニズムは頑健であり、外生的ショックへの耐性が相応に備わってきているとの認識を示した。』

まあそうかも知らんがマクロの所得形成が家計の所得の所までいやまあいいです。

『輸出について、委員は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。委員は、その背景として、中国をはじめ新興国・資源国経済が減速する中で、世界的に貿易・生産活動が停滞していることや、IT関連需要の弱さが挙げられるとの認識を共有した。』

『複数の委員は、9月の中国向けの輸出が、スマートフォンの新モデル投入の影響から、情報関連財を中心に大きめの増加に転じたことをポジティブな動きとして指摘した。』

ほほう。

『先行きの輸出について、大方の委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。そのうえで、ある委員は、構造的に輸出が伸びにくくなっている可能性を考慮すると、先行きの輸出の増加ペースは慎重にみておく必要があると付け加えた。』

「ある委員」の見解の方が分があるように思えますが。

『設備投資について、委員は、企業収益が明確な改善を続ける中で、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。委員は、先行きも、企業収益が明確な改善傾向を辿る中で、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

うーんこの。

『一人の委員は、今後、設備投資の積極化が期待されるとの見方を示したうえで、その際、非製造業を含めて企業が生産性向上や省力化に繋がる工程の改善を併せて図ることの重要性を指摘した。』

ただのべき論に見えますが。

『この間、ある委員は、短観の設備投資計画に比べると機械受注や資本財出荷は弱めであり、ミクロレベルでは人手不足などから設備投資を見合わせたという話も聞かれていることを指摘し、現時点の高い設備投資計画は下方修正される可能性があると述べた。』

うむ。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

まあ所得が2%物価上昇に整合的な上昇をしていないけどな。

『複数の委員は、名目賃金は、毎月勤労統計のサンプル替えの影響で基調が読みにくくなっているが、実態としては緩やかに上昇しているとの見方を示した。』

確報でまた下がっていたけどね。

『一人の委員は、パートの時間当たり名目賃金が安定的に上昇している点を指摘して、物価を安定的に上昇させるという観点からは、時間当たり名目賃金の動向が重要であると述べた。』

そらそうなのだが全体としてそうならないと厳しいですよね。

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。複数の委員は、7〜9月の実質消費支出と実質小売業販売額がいずれも前期比プラスとなっていることを指摘して、個人消費は天候不順の影響などによる一頃の弱さからは脱しつつあるとの認識を表明した。ある委員は、インバウンド消費の寄与が小さいスーパーの売上高がしっかりしていることは、家計所得の着実な増加の効果の現れであり、個人消費のベースは相応に強いとの見方を示した。』

『複数の委員は、雇用環境の改善の好影響を受けにくい年金世代の消費の動向が個人消費全体に与える影響については不確実性がある点に注意を促した。もっとも、このうち一人の委員は、タイトな労働需給を受けて勤労世代の実質所得は堅調に増加すると予想されることから、個人消費全体としては底堅さを増していくと考えてよいとの認識を示した。』

まあこの辺は先の状況見ないと何ともという感じなのですが、世帯所得が上がるのでウマーという展開よりはやはりパーヘッドの所得が上がる方がウマーな訳でして、生活補填の為に世帯所得を上げようと非正規雇用に参加という状態で世帯所得が上がるという場合だとそらまあ名目の消費は増えているのかも知れませんが、マインドセット的にどうなのよというのはある訳でして、まあ実感としてマインド上がるかという話だったらやはりパーヘッドの所得が物価上昇に整合的に上がっていかないとサステイナブルにならないような気がします。

住宅投資は飛ばしまして生産。

『鉱工業生産について、委員は、新興国経済の減速に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。先行きの生産について、委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱し、在庫調整が進捗するにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。 』

まあその肝心の海外は下振れリスクですけどね。


・展望レポート経済部分

展望レポートの点検部分に参ります。『2.経済・物価情勢の展望 』から。

『経済情勢の先行きの中心的な見通しについて、委員は、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きな循環メカニズムが持続するもとで、国内需要が増加基調を辿るとともに、輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に緩やかな増加に転じると考えられるとの認識で一致した。』

『そのうえで、委員は、わが国経済は、2015 年度から 2016 年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けるとの認識を共有した。大方の委員は、その後、2017 年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持するとの見方で一致した。』

今の建付けで問題なのはその速度なんですけどね。

『大方の委員は、7月の中間評価時点と比べると、2015 年度は、輸出のもたつきや個人消費の鈍さから下振れているが、2016 年度と2017 年度は概ね不変であるとの見方を共有した。』

ということで毎回のように下方修正というか後ずれしている訳で、「2年程度を念頭にできるだけ早期に達成する」という呪縛を何とかしないままで平然と2度目の先送りをやっているのが意味不明というか、ロジックが訳分からなくなっている原因(なので後の方の政策提案で佐藤さんが今回も提案していますけどね)。

『この間、ある委員は、所得から支出への循環メカニズムの作用は、成長期待が低いもとでは力強さが見込めないとの考えを示した。別の一人の委員は、見通し期間中、基調としては潜在成長率に概ね見合った成長が維持されると述べた。 』

前者が佐藤さんで後者が木内さんに見えますが、緩やかでも循環メカニズムが効いているのならばそれはそれで良いのではないか、という発想に立って政策運営をすることによって、今のような短期勝負(というか長期化すると爆発する)政策の継続といういずれかの時点で大激突必至でそうなると今度は政策の継続性に疑問が生じて逆に期待形成がおかしくなるというリスクを避けるのが吉だと思いますな。

『2015 年度から 2016 年度の景気展開について、委員は、輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けた後、新興国経済が減速した状態から脱していくもとで、既往の為替相場の動きによる下支えもあって、緩やかに増加していくとの見方で一致した。設備投資について、委員は、過去最高水準にある企業収益や金融緩和効果が引き続き押し上げに作用する中、国内向け投資の積極化などもあって、増加を続けるとの認識を共有した。ある委員は、人手不足が続くもとで、企業は設備投資によって生産性を向上させる必要性が高まっている点を指摘しつつ、こうしたことも設備投資を押し上げる要因として働くとの見方を示した。』

輸出と設備投資に関しては大体毎度この調子なのですが、見通し通りに出てこないですよね。

『委員は、個人消費について、雇用環境の着実な改善が続き、賃金が上昇していくことや、エネルギー価格下落による実質所得の押し上げ効果が働くことなどから、緩やかに増加すると予想されるとの見方を共有した。』

『2017 年度にかけては、委員は、2017 年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、設備投資の増加ペースが資本ストックの蓄積に伴って低下していくとの見方で一致した。』

おう2016年度後半に2%になるころに所得の増加がそこまで追いつくのかという話はスルーかよ。

『もっとも、委員は、輸出が、海外経済の成長などを背景に緩やかな増加を続けるとともに、国内民間需要も、緩和的な金融環境と成長期待の高まりなどを受けて底堅く推移するとの認識を共有した。また、委員は、見通し期間を通じて、潜在成長率は緩やかな上昇傾向を辿り、中長期的にみた成長ペースを押し上げていくとの認識で一致した。 』

成長期待と潜在成長率についても上がるという見通しの中で全然上がらない訳でして、特に潜在成長率に関してはもう何年その見通しでやっているんだと小一時間。いやまあ政策当局として上がらないという話をするのはイクナイというのは分かるんだけど、その辺の置きが全然達成できない状況が延々と続く中なのに前提が毎度これというのもどうなんでしょうかねとは思います。


・展望レポート物価部分

『物価情勢の先行きを展望すると、大方の委員は、消費者物価の前年比は、@物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていく、A2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016 年度後半頃になる、Bその後は、平均的にみて、2%程度で推移する、との見方を共有した。』

お、おぅ・・・・・・・・・・・

『これらの委員は、7月中間評価時点と比べると、2%程度に達する時期が後ずれしているが、これは主として原油価格下落の影響によるものであり、物価の基調は着実に改善しているとの認識で一致した。』

はいはい原油のせい原油のせいなのですが、逆に原油価格が需要要因じゃなくて供給要因で上昇しだしたら物価にはプラスだけれども経済にマイナスになる訳ですがその時に何を言い出すのでしょうかね。

『物価の基調が改善していると判断できる理由として、多くの委員が、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比が、今年の春先からプラス幅を拡大しており、直近9月には 1.2%まで上昇していることや、消費者物価(除く生鮮食品)の上昇品目比率から下落品目比率を差し引いた指標がはっきりと上昇していることなどを指摘した。』

今度出す幾つかの日銀版物価指数(つーても総務省の数字をベースに出してくる筈ですが)を例にだしていますな。

『この間、複数の委員は、需給ギャップの改善がやや遅れている点も2%の達成時期の後ずれに多少寄与していると付け加えた。』

そらそうよ。

『なお、ある委員は、2016 年度後半頃に2%程度に近づくと考えているが、この見通しは、大方の委員の見通しを包摂する上述の表現と広い意味で整合的であると述べた。』

白井さんとみられますが、また金懇で「私言いましたよね」のクオリティが炸裂している件は後日。

『こうした大方の委員の見方の一方で、複数の委員は、見通し期間中には2%程度に達しないとの認識を示した。このうち一人の委員は、下振れリスクはあるが、エネルギー価格の影響を除けば見通し期間を通じて前年比1%前後の上昇率は概ね維持できるとの見方を示した。』

佐藤さんと木内さんキタコレですが、一人の委員は佐藤さんでしょうな。でもって佐藤さん(と思われる人)がここで1%という数字を出しているのは中々味わいがあって(前からそういう見通しですが)、目標として2%を目指すのはそうなのですけれども、現在の成長力等を勘案すると1%程度の物価上昇が整合的というようなかつての白川ドクトリンの継承を含意していたり、1%程度を維持ということでデフレ状態ではないという説明を含意していたりみたいな話で、後の方でローリングターゲットの話とか出ていますな。


・でもって需給ギャップ

『委員は、物価の基調を規定する主たる要因である需給ギャップと中長期的な予想物価上昇率について議論した。』

ほうほうという所ですが、そういやマネタリーベース直線一気理論はどこに逝かれたのでしょうか?

『まず、需給ギャップについて、委員は、輸出のもたつきの影響などを受けつつも、労働需給の引き締まり傾向が続くもとで、労働面を中心として、着実に改善傾向を辿っているとの見方で一致した。先行きについて、委員は、2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長が続くもとで、需給ギャップは、プラス(需要超過)に転じた後、プラス幅を一段と拡大し、その後2017 年度には、プラスの水準で横ばい圏内の動きになるとの認識を共有した。』

まあ問題はそのペースで2016年度後半に2%行くのかという話ですが。

『一人の委員は、原油価格の下落は、中長期的には、家計の実質所得と企業収益の増加をもたらし、消費と設備投資にプラスの影響を与えることで、需給ギャップを改善させるとの認識を示した。』

言いたいことは分かるが中長期的に原油価格が下落しっぱなしだと見通しの前提と違うのでは。

『この間、ある委員は、過去のデータから作成した需給ギャップによるフィリップス曲線を前提にすると、需給ギャップがゼロの時の物価上昇率は1%以下であり、2%の物価上昇率を目指すには予想物価上昇率の引き上げと需給ギャップのさらなる改善の双方が必要であると指摘した。』

先般の日銀レポート(調統謹製の方)でも粘着性の高いコンポーネントの価格が上がるためには期待の引き上げが必要という話がありましたね。


・予想物価上昇率の話が途中からグダグダになっているのだが

『次に、中長期的な予想物価上昇率について、委員は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの見方を共有した。』

翌月に「弱めの物も見られるが」になっていた気がしますが。

『委員は、労使間の賃金交渉で、本年のベースアップが昨年を上回っていることや、価格改定の動きに拡がりと持続性がみられることなどを指摘しつつ、企業の賃金・価格設定スタンスは、特に本年度入り後、明確に変化しているとの認識を共有した。』

賃金は全然足りないし、価格設定はここからの消費次第でしょうな。

『ある委員は、消費者は、購入頻度の高い商品などが値上がりしていることを敏感に感じ取っており、国民の間ではデフレではないという意識が広まってきているとの見解を示した。』

敏感もへったくれも散々報道されているのですが。

『別の一人の委員も、家計は、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比が0%程度で推移するもとでも、物価は大きく上がっていると実感しており、今後も下がっていくとは予想していないとの見方を表明した。』

ちなみに生活物資の価格設定は実質値上げ的な形の方が目立つようになっていますけどね、単に個人的なアネクドータルな話ですけど。

『複数の委員は、こうした家計の実感を勘案すると、物価情勢などの説明の仕方には十分な注意が必要であるとの見解を述べた。一方、複数の委員が、エネルギー価格下落による実質所得増加の効果が剥落することにより、家計の値上げに対する許容度が低下するリスクに注意が必要であるとの認識を示した。』

えーっとちょっと待て、今更何でそんな話になるんだという感じで、元々は「物価が上がるとバックワードルッキングでインフレ期待が上がってウマー」という話をしていたじゃねえかよおまいらという所で、この議論だと2%に向けてホイホイ物価が上昇する時に家計所得の上昇が伴わないとマズーという話になっていて、そらまあその通りではあるのですが何を今更という感じではありますし、それって「何が何でも2年で2%」というのと話が矛盾するだろと思う次第。

『別の一人の委員は、企業や市場の予想物価上昇率の指標の一部にみられる弱さには留意すべきであると述べた。』

うむ。

『こうした議論を経て、大方の委員は、賃金の上昇を伴いつつ、物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは着実に作用しているとの認識で一致した。そのうえで、委員は、企業収益の水準や労働需給の引き締まりの割には、賃金の上昇がやや鈍い点に留意が必要であるとの認識を共有した。』

『先行きについて、大方の委員は、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向を辿り、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂し、企業の賃金・価格設定スタンスは積極化していくとの認識を示した。』

賃金が上がらないのだったら物価目標達成も後にずれて然るべきみたいな話にも見えますなあ。

『これに対して、一人の委員は、中長期的な予想物価上昇率が、2%程度に向けて次第に収斂していくのは難しいとの見方を示した。』

木内さんですな。

でもって上記の続きに物価の基調の所でコストプッシュだけではない的な話があって、その後にリスク要因の話があるのですがその辺は華麗にスルーしまして(さすがに大杉なのと時間の関係)、


・金融政策運営の話でも両にらみというか何というか

やっと『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要 』に到達(汗)

現在の政策継続が適切という話のあとこんなのが。

『ある委員は、多くの国民や企業経営者の間では、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮し、デフレ脱却は進んでいると評価されており、現在の政策を持続することにより、こうした信認を保つことが重要であるとの見方を示した。』

『別の一人の委員は、日本銀行が物価の改善基調を維持するように政策運営を行っている限り、日本銀行の物価安定に対する信認が失われることはないとの見方を示した。』

前半のはああそうですかという感じですが、後半の「別の一人の委員」の見解って丸め過ぎているので一瞬何のことか分かりにくいのですが、これは「物価の改善基調を維持する政策を実施というのには別に今の政策をそのまま継続することを意味しません」と考えれば要は政策の持続性を勘案したらQQE自体は継続しても中身を変えるのはあり得るでしょということをしらっと記載しているのですなこれ。

『そのうえで、多くの委員は、第2の柱で点検したとおり、見通しに関するリスクバランスは、経済・物価ともに下振れリスクが大きいため、リスクの顕在化によって物価の基調的な動きに変化が生じ、「物価安定の目標」の早期実現のために必要があれば、躊躇なく政策の調整を行うべきであると述べた。』

ということでここを読みますとオー追加緩和という話になるのですが、その前にある予想物価上昇率に関するグダグダ部分とか、直前のしらっと入っている少数意見なんぞも見ますと、結局の所今回の議事要旨は先ほど申し上げたように「なしなし」から「ありあり」を見据えているんだなという事を見せにきているんじゃねえかと思った次第。

『このうち一人の委員は、追加緩和の手段は様々なものが考えられ、必要であれば追加緩和の手段に限りはないと付け加えた。』

手段はあっても実際に出来るのかどうかは別問題ですけどねえ。

『複数の委員は、2%の達成時期が後ずれすることと、「2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」というコミットメントとの関係について見解を述べた。』

キタコレ!

『これらの委員は、日本銀行が2%の「物価安定の目標」の早期実現にコミットすることで、人々のデフレマインドを転換し、予想物価上昇率を引き上げることは、デフレ脱却という目的そのものであると同時に、「量的・質的金融緩和」の政策効果の起点であり、そのもとで、企業や家計の物価観は大きく変化してきたとの認識を示した。』

でもまだ2%達成には足りないという結論が調統謹製のレポートにありましたよね!!!!

『このうち一人の委員は、予想物価上昇率を引き上げて2%にアンカーし直さなければならないという課題に直面する日本銀行にとって、このコミットメントは必要な装置であるとの認識を示した。』

それは良いのだが既に2年半たってそのようなことを言う状況なのにコミットメントが本当に必要なのでしょうか却って信頼損ないませんかねえというお話ですして、先ほど出ていた「物価の改善基調を維持するように政策運営を行っている限り、物価安定に対する信認が失われることはないとの見方」というのがそれに対するカウンターだと思うのですがね。

『この間、見通し期間中には物価上昇率は2%程度に達しないとの認識を示した複数の委員は、これとは異なる見解を唱えた。』

『このうち一人の委員は、このコミットメントは常に先行き2年程度を念頭に置く一種のローリングターゲットと考えていると述べた。もう一人の委員は、2%の「物価安定の目標」の実現は中長期的に目指していくべきであるとの考えを示した。』

ということで佐藤さんと木内さんキタコレな訳です。


・割と早かったのは木内さんへのいちゃもんが無かったからですかそうですか

でもって最後に毎度の木内さんの反対提案。

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は、実質金利の低下一巡に伴って限界的に逓減しており、国債市場への影響など副作用が既に効果を上回っていると述べた。そのうえで、この委員は、@長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額すること、A「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融不均衡などのリスクに十分配慮した政策運営を行うこと、を主張した。また、これは、早期の「量的・質的金融緩和」終了や金利引き上げに向かうものではないことを指摘した。』

という所で今回の議事要旨が終わっていまして、「理論的にも実証的にも副作用は無い(キリッ)」とか威勢の良かった木内さんへのいちゃもんが無くなっていたのにはほほーと思いまして、これは遂にいちゃもんつける元気がなくなったのかどうかは知りませんが、前回もだいぶ短くなっていましたが今回は遂に削除というのが何とも。まあ当月2回目だからもう面倒なのでスルーしているのかも知れませんが、そうだとすればそもそも論としてMPMでの議論が議論になっていないでただの意見発表会で決定は全部執行部オンリーという話になっている惧れがあるので、それはそれであまり健全な姿ではないのですけどねえ・・・・・・・・・・・・

とまあそういう感じで、何ちゅうかちょっとグダグダな感じがしまして、基本は現状維持なんでしょうけれども、何かの拍子に変な物が飛び出してくる将来の可能性を示唆する議事要旨と思った次第です。

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2015/11/24

○日銀満を持して(かどうか知らんが)物価コア指数関連のペーパーキタコレ&日銀コアコア公表とな

・新指数キタコレ

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL20H64_Q5A121C1000000/
日銀が新物価指標、今月から公表 除く生鮮・エネは27日午後2時に
2015/11/20 12:00

『日銀は20日、消費者物価指数(CPI)に関連した新たな物価指数の公表を今月から始める方針を明らかにした。総務省によるCPIの発表日の午後2時ごろに「生鮮食品とエネルギーを除く指数」、「上昇品目数と下落品目数の比率」、価格変動の大きい上下10%の品目を除いて算出する「苅込平均値」の3つの指数を発表する。』

『またCPIの発表から3営業日以内に、物価上昇率ごとに品目を分類した時に品目数が最も多くなる「最頻値」、物価上昇率の高い順に品目を並べた時にちょうど真ん中にくる中央値に、品目ごとのウエートを加味した「加重中央値」を公表する方針。』(上記URL先より、原文ママ)

普通トリムドミーンの平均って「刈込平均」というと思うのですがまあそれは兎も角としまして、総務省の向こうを張って日銀コアコアとか刈込平均を出してくるという事のようですな。

でまあ金融政策月報や展望レポートでも堂々示している位ですから、低い数字ばっかり出てくるコアCPIではなくてほらこのような数字ですよというお話をする為に出してきました、というお話でしょうし、その結果として金曜の債券市場はこのニュースを受けて「物価目標を行ったことにする攻撃が遂に正式にキター!!」という話になって、その前3日連続で前日比引けとかになっていた先物も下がって長期超長期が1.5毛ほど甘くなるという攻撃になりましたですな。


とまあそういうことですので、面白おかしく説明すると「コアCPIが上がらないのだから別のコア指数を作れば良いじゃないか」という荒業に出たという事になりますが、もはや伝統芸能と化している日銀の微妙な間の悪さという事を勘案しますと、これを出したは良いけれども出している内に日銀コアコアの数値が頭打ちから弱含みに転じてくるというようなオモシロ展開になってしまうのではないかという死亡フラグ的なものを感じるのはアタクシだけでしょうかそうですか。



・ということで新指数よりもこっちを読むべし

金曜にコア物価指数に関する2本のレポートがありまして、まずは1本目。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/rev15j11.htm/
消費者物価コア指標とその特性
― 景気変動との関係を中心に ―

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/data/rev15j11.pdf
消費者物価コア指標とその特性
――景気変動との関係を中心に――

まずは最初のエグゼクティブサマリーから。

『本稿では、現実に観測される消費者物価の動きから、様々な一時的要因の影響を取り除いた所謂「コア指標」を幾つか試算したうえで、それらと景気変動との関係を中心に考察する。』

キタコレ。

『具体的には、わが国の消費者物価を対象に、従来から利用してきた「除く生鮮食品」、「除く食料・エネルギー」、「刈込平均値」に加え、最近金融経済月報等で活用している「除く生鮮食品・エネルギー」、品目別価格変動分布において最も頻度の高い価格変化率である「最頻値」や、価格上昇率の高い順にウエイトを累積して 50%近傍にある価格変化率である「加重中央値」といったコア指標の景気循環上の特性について分析する。』

ということで、こちらが思いっきり先ほどの日経記事と被っていますが、日銀コアコアと刈込と上昇下落割合を総務省と同日に出して、最頻値や加重中央値をその後だすという事ですから、つまりこれから日銀が出す数値の解説という大変に親切(かどうか知らんが)なペーパーですね。

『これらのコア指標と景気変動の関係をみると、除く生鮮食品・エネルギーをはじめ変動の大きな品目を予め控除したコア指標は、需給ギャップとの連動性が相対的に高い一方で、最頻値や加重中央値といった分布のシフトを表すコア指標は粘着的で、需給ギャップとの関係も弱めとなっている。』


で、『はじめに』から少々。

『本稿では、わが国の消費者物価を対象に、従来から利用してきた「除く生鮮食品」、「除く食料・エネルギー」、「刈込平均値」に加え、最近金融経済月報等で活用している「除く生鮮食品・エネルギー」、品目別価格変動分布がどの程度シフトしているかを端的に示す新たなコア指標として「最頻値」と「加重中央値」の試算値を算出する。次に、これらコア指標と景気変動との関係について、需給ギャップとの連動性(フィリップス曲線)を中心に、定量的な分析を行う。最後に、得られた分析結果を基に、最近の物価上昇の特徴点やその背後にあるメカニズムについて考察する。


ということで、最初の『コア指標の考え方と試算方法 』というのはご案内のお話だとは存じますが、きちんと説明があるので折角の機会なので引用させて頂くぞな。

『物価の基調的な変動を捕捉することを目的として、様々なコア指標が試算されているが、大別すると2つの方法に分けられる1。』

さいですな。

『第1の方法は、変動の大きな品目を予め特定し、そうした特定の品目を除いた物価指数をコア指標とする方法である。』

うむ。

『日本銀行では、従来、「除く生鮮食品」を重視してきた。さらに、最近では、原油価格の変動が大きくなっているため、その影響を直接受け易いエネルギー関連品目(石油製品・電気代・都市ガス代)も生鮮食品と併せて除いた「除く生鮮食品・エネルギー」の動向を注視しており、金融経済月報や展望レポートでこれを公表している。米国では、総合から食料とエネルギーを除いた「除く食料・エネルギー」が重視されており、わが国でも同指標は総務省から毎月公表されている。』

『こうした方法で作成されるコア指標については、@取り除く品目のウエイトが大き過ぎると、家計が実際に直面する生計費から乖離する惧れがあること、Aどの品目を除くべきかは、各国の経済構造やその時々の外部環境に応じて変化し得るという意味で、優れて実証的な問題であること、に留意する必要がある。』

ってサラッと書いていますが、このAって置物リフレ一派の皆さんが日銀にいちゃもんつけるときに米国コアガーとか言ってやたら有り難がってみたりという話とか、そもそも論として物価目標は良いのだが「Aどの品目を除くべきかは、各国の経済構造やその時々の外部環境に応じて変化し得るという意味で、優れて実証的な問題」なのにグローバルスタンダードで2%(キリッ)というのにも微妙なサムシングががががが(ちなみにこの点については「コアではなくてあくまでも政策目標は総合指数」という返事が返ってくる見込み)。

『第2の方法は、予め特定の品目を控除することなく、消費者物価を構成する個別品目の価格変動率の分布から異常値などの影響を機械的に取り除く方法である。』

うむ。

『図表2では、例として、「量的・質的金融緩和」開始前である 2013 年 1 月時点と、直近 2015 年 9 月時点を対象に、生鮮食品を除く524 品目について、観察された価格変化率の度数分布(ヒストグラム)を示している2。両時点で分布の形状を比べてみると、最近時点において分布は全体として上昇方向(右方向)にシフトしていることが見てとれる。こうした分布の「シフト」を定量的に捕捉するためには、分布の平均値(概念としては「総合」と同じ)を計算して、その推移をみればよいという考え方はありえる。』

『ただし、それでは一時的な撹乱要因や異常値による歪みの影響から物価の基調的な変化を把握することが困難な場合もあるため、「平均値(mean)」に代わって、「最頻値(mode)」や「加重中央値(weighted median)」、「刈込平均値(trimmed mean)」が考案されている(図表3、4)。』

でもってその数値の説明部分は割愛しまして(というか引用していると全文引用になってしまう)、その数値の特性についての部分に飛びます。

『実際に作成した各種コア指標をみると(図表5、6)、除く生鮮食品・エネルギーは、最頻値や加重中央値に比べ、景気変動に応じたアップダウンが大きくなっている。実際、除く生鮮食品・エネルギーと最頻値の前年比変化率の格差をみると(図表7)、需給ギャップと明確な正の相関を示しており、除く生鮮食品・エネルギーは、最頻値や加重中央値よりも、景気との連動性が高いことが確認できる。』

ほほう。

『これは、景気拡張局面において、@除く生鮮食品・エネルギーは、需給ギャップ改善の影響を受け易い一部品目の価格上昇に牽引され、品目別価格変動分布を上昇方向(右方向)に歪めるかたちで上昇する傾向がある一方、A最頻値や加重中央値は、そうした品目が一部に限られている間はあまり影響を受けないこと、すなわち、需給ギャップが改善しても、これらの指標で捕捉される分布全体のシフトには時間がかかることを示唆している。』

価格の粘着性があるものと景気感応度が高いのがあるという事でしてその辺の説明が続くが飛ばしまして。

『各種コア指標と需給ギャップの関係について、さらに詳しく考察するため、インフレ予想を考慮した簡単なフィリップス曲線の推計を試みた。具体的には、各種コア指標を対象に、需給ギャップに加え、インフレ予想としてバックワード・ルッキングな要素(過去の実績に引き摺られる慣性効果)とフォワード・ルッキングな要素(インフレ目標に影響を受ける中長期のインフレ予想)の双方を説明変数として取り込んだ、「ハイブリッド型フィリップス曲線」を推計した。』

・・・・・・・・・・と微妙にこのインフレ予想を出してくる辺りが怪しげな感じになってきますが。

『推計結果をみると(図表9)、第1の変動の大きな品目を除いたコア指標の方が、品目別価格変動分布のシフトを表すコア指標よりも、総じて需給ギャップとの連動性は高めとなっている。本稿で焦点を当てているコア指標についてみても、除く生鮮食品・エネルギーの需給ギャップにかかるパラメータ(計表中のα)は統計的に有意でサイズも大きめとなる一方、最頻値や加重中央値の同パラメータの有意性は低く、サイズも小さめであることがわかる7。』

『さらに、除く生鮮食品・エネルギーについて、@家賃、A公共料金(除く電気代・都市ガス代)、Bそれ以外の価格弾力的セクター(=除く生鮮食品・エネルギー・家賃・公共料金<除く電気代・都市ガス代>)に分けて同様のフィリップス曲線を推計してみると、@とAは需給ギャップに殆ど反応しない一方、Bの需給ギャップにかかるパラメータはかなり大きいことから、除く生鮮食品・エネルギーの景気との連動性の高さは、価格硬直的な家賃や公共料金以外の品目によってもたらされていることがわかる。』

ということになりますが、その先の解説はこれまた飛ばしまして結論に近い所に参ります。

『以上の分析結果を念頭に、最近の最頻値や加重中央値の動きをみると(前掲図表6、図表 11)、着実に伸びが高まってきているとはいえ、0%台前半から半ば程度となっており、1%を明確に上回っている除く生鮮食品・エネルギーと比べ、改善ペースはなお緩慢となっている8。こうした最近のコア指標間の動きの違いについても、上記で説明した需給ギャップに対する感応度の違いが大きく影響している可能性が高い。』

ほほー。

『実際、近年の除く生鮮食品・エネルギーの前年比の寄与度分解をみると(図表 12)、@家賃が小幅の下落を続け、A公共料金(除く電気代・ガス代)も、自動車保険料や高速道路料金の値上げ一服の影響から、足もとではプラス寄与を縮小するなかで、B景気感応的なそれ以外の価格弾力的セクター(除く生鮮食品・エネルギー・家賃・公共料金<除く電気代・都市ガス代>)がプラス幅を明確に拡大していることが、全体の伸びの押し上げに寄与している。』

つまり・・・・・・・・・

『換言すれば、財を中心とする景気感応的な品目の価格上昇は、品目別価格変動分布を上昇方向(右方向)に歪めるかたちで、このところの除く生鮮食品・エネルギーの上昇率の高まりに寄与しているが、こうした品目の動きがなお一部にとどまっているために、分布全体の上昇方向(右方向)のシフトには時間がかかっていると考えられる。』

というのが一定の結論でして、最後の所にあるまとめに飛びますと・・・・・・・・・

『最近の動きをみても、最頻値や加重中央値の上昇ペースは、除く生鮮食品・エネルギーと比べやや緩慢となっており、これには需給ギャップの改善に対する感応度の違いが影響しているとみられる。先行きの最頻値や加重中央値が一段と上昇し、品目別価格変動分布が上昇方向(右方向)にシフトするためには、需給ギャップの改善に加え、インフレ予想ないし物価の「ノルム」がよりはっきりと高まっていく必要があると考えられる。


ということでして、こちらのペーパーで論じられている話はそうですねえと思うのですけれども、この結論ですと粘着性の高い品目の価格が動かないことには物価目標2%を安定的に維持するのは難しいですねえという話になっているような気がするんで追加緩和マダー(すべきとは言ってない)という気もするのが中々味わいがあります。


・白塚さん久々のリバイスキタコレ!

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/rev15j12.htm/
消費者物価コア指標のパフォーマンスについて

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2015/data/rev15j12.pdf
消費者物価コア指標のパフォーマンスについて


量的緩和解除の時に
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2006/rev06j07.htm/
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2006/data/rev06j07.pdf(本文)
消費者物価指数のコア指標

ってのがありましてそのアップデートという所ですな。

まずはエグゼクティブサマリーから。

『日本銀行は、金融政策の運営に当たって、毎月公表される消費者物価から基調的な変動を見極めるため、総合指数に混入している一時的な撹乱要因を除外した各種コア指標を利用している。もっとも、こうした撹乱要因は常に一定とは限らない点を踏まえ、本稿では、わが国で利用されているコア指標のパフォーマンスについて、分析期間を通じた安定性に注目して検討した。その結果を総括すると、除く生鮮食品、刈込平均値のパフォーマンスが総じて高いことが確認されたが、同時に、原油価格の大幅な変動の影響を受けた一時的なものである可能性が高いとはいえ、足許、除く生鮮食品のパフォーマンスが低下していることも確認された。』

基本は従来通りという事ですね。

『物価の基調を的確に判断し、対外的な説明を行っていくうえでは、指標としての定着度の高さも踏まえると、引き続き除く生鮮食品を中心的な指標としつつも、刈込平均値、除く生鮮・エネルギーなど幅広い指標を活用していく必要がある。』

ということで本文の内容ですが、攪乱要因に関する分析結果が示されているのですが、思いっきり手抜き引用して(すいません)足元の物価基調に関する結論部分『(足許の基調的な変動の捕捉力の評価)』から。

『足許の基調的な変動の捕捉力に関する 2 種類のアプローチでの検証結果を踏まえると、全体として、刈込平均値、除く生鮮食品のパフォーマンスが安定して高いことが確認された。ただし、除く生鮮食品は、最近時点において、原油価格の大幅な変動から、一時的な可能性が高いとはいえ、足許のトレンドの捕捉力が悪化していることも確認された。』

では『先行きの基調的な変動の予測力 』の方に参りますと、これまた途中の分析を全部飛ばすというこのペーパーの趣旨を分かってるのかお前と小一時間問い詰められそうなプレイをして結論を引用しますと『(予測力テストのまとめ)』に飛びます。

『以上、予測力テストの結果を総括すると、刈込平均値と除く生鮮食品のパフォーマンスが総じて高いと判断される。ただし、基調的な物価変動の捕捉力と同様、最近時点においては、原油価格の大幅な変動から、除く生鮮食品の信頼性が低下していることも確認された。』

ということでして、2006年の分析とほぼ同様とはなっていますな。でもってまとめ。

『本稿では、わが国で使われているコア指標を包括的に取り上げ、それらのパフォーマンスについて、@トレンドの捕捉力、A先行きの基調的な変動の予測力という 2 つの観点から、統計的な手法に基づく検証を行った。その際、物価の基調的な変動をわかりづらくしている一時的な撹乱要因は、その源泉や影響の度合いなど、金融経済環境の変化に伴い、時間を通じ可変的であることを踏まえ、コア指標としてのパフォーマンスの時間を通じた安定性に注目し、分析を進めた。』


まあそこの部分引用していませんが(汗)。

『その結果を総括すると、除く生鮮食品、刈込平均値のパフォーマンスが総じて高いことが再確認された。ただ同時に、原油価格の大幅な変動の影響を受けた一時的なものである可能性が高いとはいえ、足許、除く生鮮食品のパフォーマンスが低下していることも確認された。』

ということで再確認されましたが、

『こうした点を踏まえると、基調的な物価変動を的確に判断し、対外的に説明していくうえでは、指標としての定着度の高さも踏まえると、引き続き除く生鮮食品を中心的な指標としつつ、刈込平均値、除く生鮮食品・エネルギーなど、幅広い指標を活用していく必要がある。同時に、各種コア指標のパフォーマンスについても、時間を通じて変化している可能性が高いことを念頭において、必要に応じ、今後とも点検していくことが望ましいと考えられる。』

ということで上の方のペーパーに話が続く、という感じですね。

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2015/11/20

○金融政策決定会合レビューだがこの声明文で現状維持だと昨年と整合性が取れませんが

声明文
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k151119a.pdf

前回(というか月報の出ている回との比較ですので10月7日分)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k151007a.pdf

・経済面と金融面は基本的に全文一致

ということでご案内の通りなのですが

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(10/7)

から始まるのですが、経済面は全文一致でありますな。

『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(今回)
『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(10/7)

うむ。

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(今回)

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。この間、企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している。わが国の金融環境は、緩和した状態にある。』(10/7)

ここでは企業の業況感に関する文言に変化がありますが、これはご案内のように短観出た直後の仕様なのでつまりこでは全文一致のようなもんです。


・一番大事な所で・・・・・・・・・・・・・・・

ということで物価。

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、このところ弱めの指標もみられているが、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)
『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(10/7)

>このところ弱めの指標もみられているが
>このところ弱めの指標もみられているが
>このところ弱めの指標もみられているが

・・・・・(゚д゚)

おうてめえら先月末の展望レポートで『この間、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる(図表 33)。 』(10月展望レポート全文の18ページより)って言ったたじゃねえか何を今更弱めの指標も見られるがだよというお話ですし、昨年の追加緩和の時には、

『ただ、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクもあると考えられます。』(昨年10月31日の追加緩和時の総裁記者会見の冒頭説明部分より)

と言ってたのに、今回は漫然と「このところ弱めの指標もみられているが」とか涎垂らしながら言ってる場合かよこのスットコドッコイと申しますか、少なくとも昨年10月31日の追加緩和に賛成した総裁副総裁に白井審議委員は追加緩和を何故提案しないのか全く理解に苦しむ訳でございますし、原田さんだって置物一派として何で追加緩和提案しないのでしょうと全く理解致しかねる所でありますな(なお石田さんと佐藤さんと木内さんはこの時反対していますし、布野さんは就任前の話ですからこの4名が追加緩和不必要というのは別に違和感ないです)という所でして、元々昨年10月の追加緩和以降ロジックがグダグダになっておりますが、遂にここまでロジックが崩壊したかと落涙を禁じ得ない所であります。

前回の追加緩和では上記引用した発言にもありますように、期待が低下するリスクに対してプリエンティブに対応したのですが、今回は一部の指標に弱めの数値が見られる、というまさにプリエンティブな対応が求められるという話になるのに今回は現状維持とか益々分かりにくいですし、どうも会見では「これはあくまでも一部のものです」みたいな話をしていたっぽいのですが、その程度のどうでも良い指標の変化をわざわざ金融政策決定のステートメントに書くのはもっとおかしいので、ロジック崩壊なので無ければ「短期間で2%を達成する」という短期間の部分を放棄しに逝っているとしか思えないのですけど一体全体何でこの期に及んでこういう認識を示しているのかが謎にも程がありますなということで。

しかしまあ何ですな、2年で達成とか大見得切った挙句に延長に延長重ねて2%到達時期の見通し実質3年半以上になる(しかもただの見通しで実際に達成できるのかは極めて怪しいとしか申し上げようがない)上に予想物価上昇率の方は2年半散々マネタリーベースを拡大しやがった挙句に「このところ弱めの指標もみられているが」って置物MB直線一気理論はどうなったのでございましょうかと小一時間問い詰めたいというか置物師匠とジンバブエ先生をお白州に引き出して取り調べをしたいものでありますな。


・先行き見通し、リスク要因は全文一致

とついうっかりトサカに来てまたコケコッコーと血圧を上昇させておりましたが気を取り直して。

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(10/7)

全文一致全文一致。

『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(10/7)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。
』(10/7)

でまあ毎度のように木内さんのいつもの提案が出て残りの全員が否決するというのがあった訳ですが、オペレーションの弊害もさっき申し上げたように出てきていると思うのですからもうちょっとそういう話って出てないのかねえとか思いますし、木内さんに賛成増えないかとも思いますが、まあ木内さんの提案もちょっと現実に落とし込むのに断層があるので「段階的減額を視野に年間70兆円増加ペースに変更」ということにして、段階的減額を強調することでいきなり45兆じゃなくても良いじゃんという気もするんですけどね。

なお、日銀の現状の建付けで言えば「金利が低下しているのは効果(キリッ)」となりますけれども、名目ゼロ金利の所には壁がやはりある訳でして、正の名目金利が低下することと、負の名目金利のマイナスが深くなってくることというのは金融環境という面で考えた場合に必ずしも同等な事象ではなく、名目ゼロ金利の問題がある以上(つまりリテール預金などにマイナスチャージをする訳に行かない以上)、名目ゼロ金利の部分と市場における負の名目金利の間のギャップは金融システムの中で誰かが負担しないといけないという話になり(一方でそこで日銀に国債売りつけてウマーという人もいるから全員が負担している訳ではない、為念)、それは金融システムに負担を強いるという意味で全体としての金融環境への悪影響があるし、その金利水準が大きく下がってくるというのは副作用じゃないのかねと思うのですけれどもね、市場が壊れてどうのこうのというのもありますけれども。

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2015/11/17

○日銀から出ていたリリース関連で少々

・業態別当座預金残高は最近都銀がまた残高増えてますな

毎度のこれ
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/cabs/cabs.htm/
業態別の日銀当座預金残高(10月)

平残を見ますと10月積み期間に関しては全体で当座預金残高が6兆円ほど増えているのですが、うち3兆円が都市銀行でその他準備預金適用先が2兆でして、今年度入ってから超過準備の増加を抑制気味にしていた(ように見える)都市銀行がここに来て超過準備を積んできているのは日銀のMB積み上げにとってはウマーなお話なのでしょうな。

末残を見ますとこれまた5月から8月まで当座預金残高の末残をほぼ同水準でキープしていた(ように見える)都市銀行の残高が増えている次第で、この間って平残は抑制気味とはいえ増えていたのに末残はきっちりと調整(5月末から8月末まで末残は横ばい平残は4兆拡大していた)していた(ように見える)という動きになっていて、そらまあ末算の所で帳尻入れられると月末の所が色々とアレになりますなあとか思いますし、10月末は比較的平和だったのも何となくそんな感じですかなというところで。

MB目標って買入の方は注目されるのですが、反対側で発生する超過準備を誰が持つのかというのも政策の維持可能性という意味で重要で、だれも超過準備を積み上げたがらないという事になると日銀の買いが立ち行かなくなる(というか札割れとかになる)という事になりますからね。


・引当要請とな

先週金曜の話で恐縮ですが。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel151113b.pdf
引当金制度に関する検討要請について

『日本銀行は、本日、「量的・質的金融緩和」の実施に伴って生じ得る本行の収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、引当金制度に関し、別紙のとおり財務大臣に検討を要請しましたので、お知らせします。』

『平成27年度以降の日本銀行の財務について、「量的・質的金融緩和」の実施に伴って生じ得る収益の振幅を平準化する観点から、引当金制度による対応をご検討いただきますよう、お願いします。』

でまあ日経に謎の解説があったようですが。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF13H04_T11C15A1MM0000/
日銀、引当金を数千億円積み増し 金利上昇に備え
2015/11/13 14:00日本経済新聞 電子版

『日銀は13日、将来の金利上昇や株安など市場の相場変動に備えるため、引当金の計上を大幅に増やす方針を固めた。年に数千億円規模の引き当ての積み増しで国庫への納付金を減らす代わりに、長い目で見た自己資本比率が高まるようにする。日銀は大量の国債や株式を購入する異次元緩和政策を進めており、リスクの増大に応じた資本の積み増しが必要との判断からだ。資本の充実でリスク資産の買い増しなど追加の政策余地も広がる。』(上記URL先より)

途中まではその通りなのですが、「長い目で見た自己資本比率が高まるようにする」というのと「資本の充実でリスク資産の買い増しなど追加の政策余地も広がる」というのが謎で、これって基本的に日銀が保有している資産のリスク量が増えたから引き当てを行うという受動的な話で、「自己資本比率が高まるようにする」というよりも「自己資本比率が下がり過ぎないようにする」という話(必要が無くなったら引き当ては戻して国庫納付するでしょ)ですし、同様に「追加の政策余地も広がる」って別に日銀の自己資本比率そのものが制約条件になって政策が出来る出来ないという話がある訳ではなく、リスク性資産の購入に関して言えばその(目先の)メリットと(将来の)デメリットを比較衡量するのと、財政と金融の垣根という問題も衡量して行うのであって、それ自体が政策の制約条件という話ではないでしょと思うので、何じゃこの書き方はと思いましたのでメモを置いておくのですが昨日置けですかそうですか(汗)。


・個人的にはこのネタは好きなのですが

これまた少々前に出ているのですが(汗)。

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/lab/lab15j06.htm/
「証券なき証券」を巡る法制度のあり方について

『要旨』から。

『近年、わが国では電子的記録に基づく権利に関する法制度の整備が進んでおり、紙の証券を前提としてきた法律論は見直しや修正を迫られている。また、国際的にも、先般の金融危機を機に顧客資産保護に対する関心が高まっている。例えば、証券会社の倒産時に、振替証券の売買を委託した顧客は保護される必要があるが、現行法制度のもとで、当該顧客が保護されるかが必ずしも明らかでない場合が生じている。そこで、諸外国の取扱いを整理したうえで、わが国における法的対応のあり方として、(1)取次における権利移転の仕組みを変更する立法、(2)倒産時に顧客に特別な優先権を付与する立法の2案を提示する。』

『本稿は、日本銀行金融研究所が事務局を務めた法律問題研究会の成果(「顧客保護の観点からの預かり資産を巡る法制度のあり方」 [PDF1,020KB]、「振替証券・電子記録債権の導入を踏まえた法解釈論の再検討」 [PDF762KB])を中心に整理したものである。』

ということで以下興味のある方は読んでちょという所なのですが、最後の『おわりに』にあるように・・・・・・

『社債・株式等振替法の制定による振替制度の創設に加え、本文では触れることができなかったが、電子記録債権法の制定により、新たな類型の金銭債権である電子記録債権の制度が創設されている。こうした電子的な記録に基づく権利についての法制度の整備に伴い、従来の紙の証券を前提としてきた法律論は見直しや修正を迫られている。』

『かつて、米国統一商事法典の電子的記録に関する法制度をわが国に紹介する際には、「uncertificated securities」は「証券なき証券」と訳すのか、という議論があったようである。新たな法制度を紹介したり、自国の法制度に即した形で導入したりする際には、検討すべき課題が少なくない。』

『先般の金融危機時におけるリーマン・ブラザーズ証券の破綻を機に、国際的にも顧客資産保護に対する関心は高まっている。わが国においても、電子的記録に基づく権利の特性や金融取引実務の発展に応じて、法の解釈や立法についての検討を不断に重ねていくことが重要であろう。』

という話でして、本稿の趣旨とはちとズレますけれども、リーマン破綻の時には未決済取引関連でちょっと混乱したりもしましたなあとか、法が制度に追いついていけているのだろうかという疑問はあったりする次第です(まあ法だけじゃなくて取引のリスク管理の問題もあったと思うが)ので、特に破綻絡みの法整備というのは上で指摘されているように常に取引実態との比較を行って思考実験をしていただければとは思うのでありました。つーてまあ取引実務に直接携わっているとあまり破綻法制との絡みとか普段気にしないのが仕様なのですが(汗)。

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2015/11/06

○10月1回目の決定会合議事要旨である

http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g151007.pdf


・経済情勢の検討部分はまあ基本的には展望レポートの話と同じなのですが・・・・・・・・・・・・

例によって『V.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』から。

『海外経済について、委員は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、基調として先進国を中心に、緩やかな成長が続くとの見方で一致した。』

ということで・・・・・・・

『地域毎にみると、米国経済について、委員は、米ドル高や新興国の減速などから鉱工業部門は力強さを欠いているが、家計支出に支えられて回復しているとの認識で一致した。また、米国経済の先行きについて、委員は、当面、鉱工業部門は力強さを欠くものの、堅調な家計支出を起点として民間需要を中心に成長が続くとの見方を共有した。』

『複数の委員は、9月の雇用統計は市場予想対比下振れたものの、やや長い目でみれば、失業率などでみた労働市場のスラックは着実に縮小していると指摘した。別の委員は、米国の個人消費が堅調な背景には、低金利環境が続いていることがあり、利上げによって耐久財消費などに負の影響が生じるリスクに注意する必要があると述べた。』

まあ米国はこんなもんですかな。

『欧州経済について、委員は、輸出の緩やかな増加基調や、消費者心理の回復基調を背景に、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。一人の委員は、これまでのところ景気は緩やかな回復を続けており、自動車販売も好調であるなど、個人消費の堅調さは維持されていると述べた。複数の委員は、難民問題が経済に影響を与える可能性に懸念を示した。欧州経済の先行きについて、委員は、緩やかな回復を続けるとの見方で一致した。』

おお自動車orz

『中国経済について、委員は、総じて安定した成長を維持しているが、製造業部門を中心に幾分減速しているとの認識で一致した。ある委員は、既往の賃金上昇により家計の可処分所得が増加しており、海外旅行の状況にもみられるように、最近の株価下落や製造業の低調さのもとでも、家計のセンチメントは低下していないとの見方を示した。一方、別の一人の委員は、自動車販売が落ち込むなど、製造業全般に勢いがなく、原材料や部品の海外からの輸入が低迷していることを指摘した。』

なるほど。

『中国経済の先行きについて、委員は、製造業部門を中心に幾分減速しつつも、当局が景気下支え策に積極的に取り組むもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。そのうえで、複数の委員は、中国経済の先行きについては不確実性が高く、その減速が想定以上に長引くリスクには注意が必要と述べた。』

まあそうですな。

『新興国経済について、委員は、減速が続いているとの見方を共有した。このうち、中国以外のアジア経済について、複数の委員は、中国向け輸出の鈍化やI T 関連財の需要の弱さなどを背景に減速しているとの見方を示した。別の一人の委員は、マレーシア、インドネシアなどの資源国や、政情不安のあるタイでは、経済の減速が続いている一方、フィリピンやベトナムでは消費や輸出が堅調であり、アジアの中で状況は二極化していると指摘した。先行きの新興国経済について、委員は、当面、減速した状態が続くが、その後は、先進国の景気回復の波及や金融・財政面からの景気刺激策などによる内需の持ち直しから、成長率が徐々に高まっていくとの見方を共有した。』

とまあそういうことで中国とアジア新興国は下振れの話をしているのですが、相変わらず結論は先進国が伸びてくるのでそのうち戻るでしょうと。



でもって国内。

『わが国の景気について、委員は、輸出と生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているが、国内需要の面では、前向きな投資スタンスが維持されているほか、個人消費が底堅く推移しているなど、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けており、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

そ、そうなのか?????

『ある委員は、従来の日本経済の回復パターンでは、輸出の増加を起点に、製造業の企業収益・設備投資が増加したのに対し、今回の局面では、内需の堅調さを背景に、非製造業が回復を主導しており、海外経済減速の景気全体への影響が相対的に小さくなっている可能性を指摘した。』

だったら何で円安に振ったのよ(結果論とはいえ)。

『景気の先行きについて、委員は、所得から支出への好循環が続くもとで、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。』

はて。

『輸出について、委員は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。委員は、その背景として、中国をはじめ新興国・資源国経済が減速する中で、世界的に貿易・生産活動が停滞していることや、IT関連需要の弱さが挙げられるとの認識を共有した。何人かの委員は、ウエイトの大きい東アジア向け輸出の減速を懸念材料として指摘した。』

『先行きの輸出について、大方の委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員が、中国を含む新興国経済の減速が長引いた場合のわが国の輸出や国内景気への影響については注意が必要であると指摘した。』

中国の下振れ懸念と。

『企業収益について、委員は、新興国経済の減速にもかかわらず、円安や原油安の効果もあって明確な改善を続けているとの認識を共有した。多くの委員は、9月短観における本年度の事業計画において、売上高経常利益率が過去最高水準となっていることを指摘した。』

『この点に関連して、複数の委員は、資源価格の下落が、幅広い業種に好影響を与えていると述べた。』

それは世界需要の後退によって発生しているのではないか??

『また、ある委員は、海外経済の減速は、数量面ではマイナスに働く一方、資源価格の下落を通じた交易条件の改善がプラスに働き、後者が前者をある程度相殺する結果、ある種の自動調整が働いているとの見方を示した。』

それは良いのだが、だったら海外経済が持ち直して資源価格が上がってシナリオ通りに推移したら「幅広い業種に好影響」の裏が出てくるという話になるのだが・・・・・・・・・・・

『一方、別の一人の委員は、最近の収益改善は円安や資源価格下落といった要因に支えられており、企業が必ずしも恒常的な所得増加とみなしていないため、支出拡大に繋がるにはなお時間を要するとの見方を示した。』

現実問題として労働分配は増えないわ設備投資の出はまだまだだわという状況となると、この「別の一人の委員」の見解の方が妥当に見えるのですけどねえ。

『設備投資について、委員は、企業収益が明確な改善を続ける中で、緩やかな増加基調にあるとの認識で一致した。多くの委員は、9月短観の2015 年度の設備投資計画は、過去最高水準の利益率が見込まれるもとで、企業の設備投資スタンスがしっかりとしていることを示す内容であったとの見方を示した。』

まあスタンスは確りなんですが。

『先行きの設備投資についても、企業収益が明確な改善傾向を辿る中で、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。多くの委員は、これまで公表された設備投資の先行・一致指標では設備投資の明確な増加が確認できないものの、企業マインドが総じて良好な水準を維持していることなどから、先行きは増加していくとの認識を示した。』

という話なのだが、結局の所さっき出ていたように「恒常的な所得増加」となるための成長期待がまだ高まっていない訳で、収益が良くたって成長期待が無かったら将来に備えて保守的になるでしょと思うのですが・・・・・・・・・・・

『もっとも、このうち複数の委員は、9月短観では年度上期の実績を踏まえた修正が行われていない可能性があることなどを理由に、設備投資計画が示すよりは幾分慎重にみる必要があると述べた。』

ですなあ。

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

『委員は、新興国経済の減速を受けた生産活動の低下にもかかわらず、9月短観の雇用人員判断DIは、企業の人手不足感が一段と強まっていることを示しているとの認識を示した。何人かの委員は、名目賃金は、毎月勤労統計のサンプル替えの影響で基調が読みにくくなっているが、実態としては緩やかに上昇しているとの見方を示した。』

まあ上昇が物価に対して足りてない感は満載ですけどね!

『この点、企業収益が高水準の割には、賃金上昇率が緩やかなものにとどまっている背景として、ある委員は、小売や介護など相対的に低賃金の業種での雇用増が全体の賃金上昇率を抑制している可能性を指摘した。別のある委員は、パートの新規求人倍率は足もと非常に高く、新規のパート採用が難しくなっていると指摘し、今後の賃金動向をみるうえで、パートから正規社員へのシフトが行われるかどうかが一つのポイントになるとの見方を示した。』

最初のマクラでご紹介したように、そもそも非正規雇用を入れる理由が「賃金の節約」が4割とかいるという状態(しかし「賃金の節約」という発想は節約する所間違ってないですかねえ)なのに上記のようなのんびりした認識で大丈夫かよと思いますし、これもまた企業の恒常的な所得拡大期待をどうやって付けていくかって話じゃないですかねえ。つーか賃金節約って目先的には正しいかも知らんが、企業単体としてもそれで良いのかというのもありますし、経済全体で見れば個人所得が消費の源泉なんだからそら先行き盛り上がらんわという所ですが、物価をコストプッシュで上げたからどうなるという話でもないのは2年半の実験で見えてきましたしねえ。


『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。多くの委員は、販売統計や家計調査をみると、7〜8月の個人消費は増加しており、雇用・所得環境の着実な改善や消費者マインドの改善傾向を背景に、個人消費は底堅く推移しているとの見方を共有した。』

まあこれは今後を見ていくしかないがそんなに強いのかなあという疑問はある。

『ある委員は、自動車販売について、軽自動車の税制変更の影響は残るものの、昨年の消費増税の影響が薄れつつあり、新車販売も一部では持ち直していると述べた。』

ほう(布野さんの指摘ですかね^^)。

『一方、ある委員は、8月の消費が増加したことには、新車投入効果や猛暑といった要因以外にも、このところの消費マインドの改善も影響していると述べた。そのうえで、この委員は、サーベイ調査によれば、先行きについては収入と支出のDIが悪化しており、今後の消費が必ずしも順調に増加しない可能性もあると指摘した。』

『また、別の委員は、所得の伸びが緩やかにとどまる中で、物価上昇が、家計の消費行動や消費マインドに影響しないか、注意深くみる必要があると述べた。』

極私的感想としてはこれらの見解に賛成。


『鉱工業生産について、委員は、新興国経済の減速に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。多くの委員は、企業の生産活動は、内外需要の緩やかな増加を背景に持ち直してきたが、新興国経済の減速の影響や世界的なIT関連需要の弱さに加え、軽乗用車の在庫調整が長引いていることもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの見方を共有した。』

『先行きの生産について、委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱し、在庫調整が進捗するにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。ある委員は、8月の生産が幅広い業種で低迷しており、短観の先行きの業況判断も悪化が見込まれているため、予測指数が下方修正される可能性があると述べた。』

この後に出た生産統計が踏みとどまってくれてほっと一息という所ではないでしょうか。


・金融政策に関しては鑑賞場所はたぶん2か所

『W.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』である。

『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

まあ最近ずっとこれですけれども・・・・・・・・・

『多くの委員が、8月の消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比がプラス幅を拡大し、1.1%まで上昇したことや、消費者物価(除く生鮮食品)の上昇品目比率から下落品目比率を差し引いた指標がはっきりと上昇していることなどを指摘し、物価の基調は改善を続けており、こうした点では昨年とは明確に異なっているとの見方を示した。』

昨年と違うのはその通りだが、基調で持ち出してくるものが政策スタンスの後付説明に都合の良いものを色々と出してくるというのがどうもね(ちなみに昨年10月1回目(追加緩和前)は複数の委員がコアコアの上昇に一服感がみられるという指摘をしていたよ)。

『ある委員は、物価の基調が改善している背景として、マクロ的な需給バランスが改善傾向を辿っていることや、企業や家計の物価観が変化していることなどを挙げた。一方、何人かの委員は、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比の上昇には、円安に伴う食料工業製品や家電製品の値上げが影響している面がある点には留意が必要と述べた。』

ということで、執行部ペースの基調ガーだけでもなさそうなこの議論。

『委員は、2%の「物価安定の目標」の実現に当たっては、賃金の上昇を伴いつつ、緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要であるとの認識を共有した。』

予想インフレが上昇するのがすべての起点だったのではないでしょうか岩田副総裁様???

『この点、多くの委員は、企業収益が過去最高水準となっているにもかかわらず、名目賃金の上昇ペースは緩やかなものにとどまっているとの見方を示した。また、何人かの委員は、今後の賃金動向を決めるうえで、来年の春闘におけるベースアップを含めた賃上げが重要であると述べた。』

お賃金キタコレ。

『これらの委員は、様々な指標でみると物価の基調は着実に改善しており、そうしたもとでは、賃金もバランス良く上昇していくことが重要との見方を示した。』

別に物価が上がったらと言って企業が賃金を上げるとは限らない希ガス。

『このうちある委員は、政府による成長戦略や構造改革の着実な実施と、日本銀行による「量的・質的金融緩和」の推進により、企業が賃上げを実施しやすい環境を維持・促進していくことが引き続き重要であると述べた。』

・・・・・・・・だったらマインドを更に上げる為に追加緩和、という話をせんのか????(中長期的に継続するというコミットというのなら分かるけど)


でまあ毎度の木内さんの提案と反対意見。

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は、実質金利の低下一巡に伴って限界的に逓減しており、国債市場への影響など副作用が既に効果を上回っていると述べた。また、日本銀行の国債購入に限界が生じると意識されれば、タームプレミアムが大幅に上昇するリスクがあり、国債購入の持続性を高めるためにも、当面の購入継続方針の表明とともに、買入れ額の減額措置を行う必要があるとの認識を示した。』

国債買入の持続性ではなくて、QQE政策を長期的に維持可能な施策にする、というほうが見栄えが良いのではないかと思います。

『そのうえで、この委員は、@長期国債保有残高の増加ペースを、段階的減額を視野に入れて、「量的・質的金融緩和」導入時を下回る水準まで減額すること、A「物価安定の目標」の達成期間を中長期へと見直すとともに、金融不均衡などのリスクに十分配慮した政策運営を行うこと、を主張した。また、この施策は、早期の「量的・質的金融緩和」終了や金利引き上げに向かうものではないことを指摘した。』

副作用が上回っているからという話なのでいきなり45兆円なのですが、拡大ペースについてはちょうど来年はMPM8回なのですから、年間80兆円ペース(実際は償還分の購入を含めるとフローでは120兆円)から毎回10兆円ペース減らして行って来年には国債残高維持まで戻す方が美しいというか乗りやすくなるような気がするんですけどね(途中でペース変わると買入フローの調整が途中で来るのですが)。


でもって反対見解ですが。

『これに対して、一人の委員は、現時点での国債買入れの減額は、長期金利の上昇をもたらし、経済に悪影響を及ぼす可能性が高いと指摘した。』

どうせ上昇したって長期金利1%も下手したら行かないと思うのだが、その程度の金利上昇に耐えられない経済でどうやって安定的に2%の物価上昇が出来るのかという気はしますがまあそれはそれとして。

『また、別の委員は、重要なのは国債市場の流動性、機能度、取引量、厚みなど、様々な観点から市場の状況を把握しつつ、国債買入れを継続することであると述べた。』

??????????木内さんはそこに問題があると言っているのにナンジャコラ。


ちなみに前回の反対見解ですが。

『これに対して、ある委員は、中国経済が減速しており、その影響が懸念されるもとで、金融緩和の程度を縮小することは適当ではないとの見方を示した。別の一人の委員は、「量的・質的金融緩和」はタームプレミアムの押し下げ以外にも、予想物価上昇率への働きかけなど、複数の経路を想定した政策であり、政策効果は幅広い観点から分析していく必要があると述べた。』(9月議事要旨より)

となっていまして、当初は「QQEの副作用は理論的にも実証的にも見られない(キリッ)」とか威勢の良かったいちゃもんが徐々にトーンダウンしているようで実に香ばしいですな。


#サラサラやる積りだったのだが思いのほか引用大会になってしまいました(大汗)

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2015/11/05

○展望レポート基本的見解の続きでリスク認識の所では賃金攻撃である

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1510a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504a.pdf(前回)

つーことで昨日の続き。『2.上振れ要因・下振れ要因』から。

まずは経済情勢の方から。

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(今回)

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の成長ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、新興国経済における持続的な成長に向けた構造調整の進展度合い、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(前回)

海外なのですが、ここに「中国をはじめとする新興国経済の減速の影響」と思いっきり入れたのと、「米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融資本市場に及ぼす影響」と要するに米国の利上げとそれによって発生する影響なのですが、下振れという位なので利上げで新興国がウギャーとなるとかそっちの懸念ですかねえ。


『第2は、2017年4月に予定される消費税率引き上げの影響である。駆け込み需要とその反動の影響や実質所得減少の影響は、消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(今回)

『第3に、企業や家計の中長期的な成長期待は、規制・制度改革の今後の展開や企業部門におけるイノベーション、家計部門を取り巻く雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。』(今回)

『第4に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の将来不安の強まりや経済実態から乖離した長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、人々の将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。』(今回)

第2〜第4は前回と全文一致(無駄に量が多くなるのも何なので前回分を引用していませんが、ご確認したいかたは上記URL先からご確認ありたし)となっていまして、今回は中国および新興国と米国利上げの影響ってんですから結局の所大体全部新興国になっております。


物価ですけれども。

『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、賃金の上昇を伴いながら実際の物価上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇し、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、エネルギー価格下落の影響から現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある。また、賃金と物価の関係を考えると、来年度に向けた労使交渉において、既往の基調的な物価上昇や先行きの物価見通しがどのように織り込まれていくかが重要である。』(今回)

『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、賃金の上昇を伴いながら実際の物価上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇し、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、エネルギー価格下落の影響から現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある。』(前回)

前回と比較しますと、最後の「また、賃金と物価の関係を考えると、来年度に向けた労使交渉において、既往の基調的な物価上昇や先行きの物価見通しがどのように織り込まれていくかが重要である。」というのが入っていまして、まずここで賃金キタコレという所なのですが、前半では実際の物価が0%で推移している事が予想物価上昇率を押し下げるリスクという話をしているのに、賃金に関しては何故か既往の「基調的な」物価上昇というのがなんかこうアレでして、昨日(というか一昨日)ネタにした総裁会見でも「バランスの良い物価上昇」とかいう発言がポロリと出ていたように、物価だけホイホイ上昇してもそれはインフレ期待の上昇が却って経済成長を委縮させる(費用の増加というマインドを招くので)ので、結局インフレ期待は上げないといけないのだけど、その間に所得や収益の拡大期待が伴わないと意味がないという認識が背景にあるんでしょうなあ的なサムシングを感じるのでありました。



『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性があり、その動向によっては賃金・物価に影響する可能性がある。』(今回)

これは前回と全文一致。


『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度が挙げられる。すなわち、先行きの海外経済の不透明感などから企業の賃上げに対するスタンスが慎重化する場合や、そうしたもとで消費者の物価上昇に対する抵抗感が強まる場合には、物価の上昇ペースが下振れるリスクがある。また、公共料金や一部のサービス価格、家賃などの価格硬直性が想定以上に強い場合には、消費者物価指数の上昇率の高まりを抑制する要因となる可能性がある。』(今回)

『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、すなわち、企業が財・サービス需給や労働需給の引き締まりに応じて、販売価格や賃金をどの程度引き上げていくかについて留意する必要がある。この点、労働需給の引き締まりを背景として賃金の改善ペースが上振れ、物価にも影響を及ぼす可能性がある一方、消費者の物価上昇に対する抵抗感が強い場合や企業の賃上げに対する姿勢が慎重な場合、販売価格や賃金の引き上げがスムーズに進まない可能性もある。』(前回)

ここの部分が結構変わった所でして、従来は上振れの話を入れていたのですが、今回は下振れの話ばかりになっているというのが1点、更に「先行きの懸念から賃上げが期待ほど行かない」→「賃上げ期待が弱まって価格上昇による消費の落ち込みが大きくなる」→マズーという話をしているのが目立つ所で、それなら追加緩和したらどうなのよとも申し上げたくはなるのですが、その辺りについては追加緩和したから良くなるってもんじゃないという認識(なのか単に総裁会見でうっかり言い間違えたように実はオペの限界が近づくのがマズーだから追加緩和しないだけなのかは知らんが)でいる、という建付けになっているようですな。

それから家賃などの価格硬直性というのが出ていて、これはもう石田審議委員が以前から提唱している「帰属家賃除く物価指数」の出番がキタコレかも知れませんよ(って確かその数字になると強い数字が出る筈)というのは考えすぎですかそうですか。


『第4に、原油価格といった国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(今回)

こちらは前回と全文一致。


・第一の柱、第二の柱

最後の金融政策運営の所ですけどね。

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、わが国経済は、2016年度後半頃に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと判断される。』(今回)

『まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、わが国経済は、2016年度前半頃に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと判断される。』(前回)

ご案内の通りで半年後ずれ。

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に下振れリスクが大きい。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(今回)

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向などを巡る不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(前回)

ということで今回は経済リスクもバランスから下振れでして、物価達成期間は後ずれするわリスクバランスは下になるわなのですが、そうは言っても見通しは変わらないし2%は行きまぁすと言って現状維持というのは去年の追加緩和と比較すると論理的整合性が無いにも程があるのですが、最近の会見などでの説明の延長でみれば追加緩和なっしーという話になっておりましたのでそらまあ予想も割れましたなという事で。

『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない11。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、全体として減少傾向が続いているが、なお高水準である点には留意する必要がある。』(今回)

『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない11。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、漸減傾向が続いているが、なお高水準である点には留意する必要がある。』(前回)

金融機関の国債保有残高の話をする前にオマエガナーという感じでして、長期国債の保有残高に関しては民間金融機関と日銀の保有がこの先逆転コース(1年少々先でしたっけ)になるのにお前は何を言ってるんだという気がするのでこれ書く必要あるのかねとは思いますけどね!!!!

最後のこれは前回と同じです。

『金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)

ということで賃金が上がらないこと、先行きの成長期待や所得期待が伸びないことについての懸念を示している、という話でありますので、そういう意味では来年の賃上げ時期というのは今の政策に対する一つの決着を求められる時期になるんじゃないでしょうかねえと思うのですけどね、来年9月には長期国債保有が発行残高の4割になることですし!!!!!!!!!

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2015/11/04

○展望レポート基本的見解の確認を

http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1510a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504a.pdf(前回)

前回4月のと適宜確認しながら(全部やるかどうかは分からん)鑑賞ということで。

・まずはメインシナリオの経済情勢から

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、緩やかな回復基調を続けている。』(前回)

既に月報の表記でご案内の通りの新興国経済の影響入りですが結論は同じですね。

『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。一方、国内需要の面では、企業部門において、収益が過去最高水準まで増加していることなどを背景に、前向きな設備投資スタンスが維持されている。家計部門においては、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費が底堅く推移し、住宅投資も持ち直している。』(今回)

『企業部門では、輸出、生産が持ち直すとともに、収益は過去最高水準まで増加しており、前向きな投資スタンスが維持されている。家計部門については、雇用・所得環境の着実な改善が続き、個人消費も全体としては底堅く推移している。』(前回)

総括判断の材料としてあげている個別需要項目の説明が海外の所でヘッジクローズが入っています。

『先行きを展望すると、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きな循環メカニズムが持続するもとで、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸出も、新興国経済が減速した状態から脱していくことなどを背景に緩やかな増加に転じると考えられる。そうしたもとで、わが国経済は、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される4。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される。』(今回)

『先行きを展望すると、国内需要が堅調に推移するとともに、輸出も緩やかに増加していくと見込まれ、家計、企業の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続すると考えられる。そうしたもとで、わが国経済は、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される5。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動などの影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される。』(前回)

国内需要についての表現ですが「家計、企業の両部門において所得から支出への前向きな循環メカニズムが持続」というのを今回は頭に持ってきておりまして、その結果として国内需要が前回の「堅調に推移」から「増加基調」と上がっているということで、とにかく「内生的な循環メカニズムがワークする」という前提が思いっきりビルトインされている見通しということですな。

とまあそう考えますと、来年に向けて賃金がもっと上がらないと話にならんという話だと思うのですけれども、それがコケるかどうかって概ね来年の1-3の辺りで状況が見えてくると思われますから、今のシナリオで粘るというのも賞味期限はそんなに長くない。


・見通しの背景説明の変化を確認

『こうした見通しの背景にある前提は、以下のとおりである。』(今回)から先に参ります。

『第1に、日本銀行が、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を継続する中で、金融環境は緩和した状態が続き、景気に対し刺激的に作用していくと想定している5。』(今回)

これは毎度同じなので前回との比較はスルー。

『第2に、海外経済については、先進国が堅調な成長を続けるとともに、その好影響が波及し新興国も減速した状態から脱していくとみられることから、緩やかに成長率を高めていくと予想している。』(今回)

『第2に、海外経済については、先進国が堅調な景気回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及する中で、緩やかに成長率を高めていく姿を見込んでいる。主要国・地域別にみると、米国経済については、民間需要を中心とした成長が続くと予想される。欧州経済については、債務問題に伴う調整圧力が残り、暫くの間低インフレが続くとみられるものの、個人消費の回復や輸出の増加などに支えられ、緩やかに回復していくと見込まれる。中国経済については、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組んでいく中で、成長ペースを幾分切り下げながらも、概ね安定した成長経路をたどると想定している。』(前回)

前回丁寧に説明しているのに今回はあっさり味に変更しています。一般的にはあっさり味になるのは自信があるからというパターンなのですが、今回内訳の話をしなくなっているのは(先の方で海外の下振れの説明がありますように)見通し自体を細かく説明しだすと怪しげな部分が出るから華麗にスルーしたものと見ました。

『第3に、公共投資は、現在の高めの水準から緩やかな減少傾向をたどった後、見通し期間の終盤にかけては下げ止まっていくと想定している。』(今回)

これは前回と同じ。

『第4に、政府による規制・制度改革などの成長戦略の推進や、そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり、企業による生産性向上に向けた取り組みと内外需要の掘り起こしなどが続くとともに、デフレからの脱却が着実に進んでいくにつれて、企業や家計の中長期的な成長期待は、緩やかに高まっていくと想定している。』(今回)

でまあこちらの文言も前回と全文一致なのですが、アベノミクス新三本の矢に関連するような文言をちょっと入れておいた方が綺麗だったようにも思えますが、元々新三本の矢は単に前の三本の矢の三本目だから変わらないですかそうですか。


・見通しの年次別展開

まずは2016年度に掛けて。

『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2015年度から2016年度にかけては、輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けた後、新興国経済が減速した状態から脱していくもとで、既往の為替相場の動きによる下支えもあって、緩やかに増加していくと考えられる。設備投資は、過去最高水準にある企業収益や金融緩和効果が引き続き押し上げに作用する中、国内向け投資の積極化などもあって、増加を続けるとみられる。』(今回)

『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2015年度から2016年度にかけては、輸出は、海外経済が回復し、これまでの為替相場の動きも下支えに働くことから、緩やかに増加すると考えられる。設備投資は、企業収益の改善や金融緩和効果が引き続き押し上げに作用する中、国内生産強化の動きなどもあって、しっかりと増加するとみられる。』(前回)

輸出の見通しは4月で「緩やかに増加」なのに10月が「当面横ばいでその後緩やかに増加」ですし、「増加する」という語尾の部分が「増加していく」と何か微妙に自信なさげな語尾になっていてだいぶ下方修正(なのだが方向性は変わらないのでメカニズムには変化がない、というのが日銀の理屈)。

なお英文版のこの部分を比較しますと・・・・・・・・・・・

『For fiscal 2015 through fiscal 2016, exports are expected to remain more or less flat for the time being, and after that they are likely to increase moderately as emerging economies are expected to move out of their deceleration phase and given support from past foreign exchange rate developments.』(今回)

『For fiscal 2015 through fiscal 2016, exports are expected to increase moderately owing to the recovery in overseas economies and support from past foreign exchange rate developments.』(前回)

となっているので、先行きの「増加」の部分について前回は「expected to increase」になっているのですが、今回は「likely to increase」となっておりまして、輸出の先行きについては表現がずいぶん弱くなりましたなあという感じです。

一方の設備投資の見通しは「増加を続ける」と威勢が宜しい。


『個人消費は、雇用環境の着実な改善が続き、賃金が上昇していくことや、エネルギー価格下落による実質所得の押し上げ効果が働くことなどから、緩やかに増加すると予想される6。こうした内外需要を反映して、鉱工業生産も、当面横ばい圏内の動きを続けた後、緩やかに増加していくとみられる。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続き、賃金が増加していくほか、2015年度にはエネルギー価格下落による実質所得の押し上げ効果や駆け込み需要後の落ち込みからの回復も見込まれることから、伸びを高めると予想される7。こうした内外需要を反映して、鉱工業生産も、緩やかに増加するとみられる。』(前回)

生産の見通しでも同じなのですが、当面横ばいでその後増加、の英文表現がさっきの輸出と同じでして、目先の見通しが横でその後上がるとは思いますが・・・・・的な感じで味わいがある。

『Reflecting these developments in demand both at home and abroad, industrial production is expected to remain more or less flat for the time being, and after that it is likely to increase moderately.』(今回)
『Reflecting these developments in demand both at home and abroad, industrial production is expected to increase moderately.』(前回)


続いて2017年度。

『2017年度にかけては、2017年4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、設備投資の増加ペースが資本ストックの蓄積に伴って低下していくとみられる。』(今回)
『2017年度にかけては、2回目の消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、設備投資の増加ペースが資本ストックの蓄積に伴って低下していくとみられる。』(前回)

てなわけで2017年度の見通しは変わらないのですよね〜。まあそこを変えたら金融政策アクションに影響が出るからということでしょうけれども。

『もっとも、輸出が、海外経済の成長などを背景に緩やかな増加を続けるとともに、国内民間需要も、緩和的な金融環境と成長期待の高まりなどを受けて底堅く推移すると予想される。この間、潜在成長率は、見通し期間を通じて緩やかな上昇傾向をたどり、中長期的にみた成長ペースを押し上げていくと考えられる。こうしたもとで、2017年度は、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると見込まれる。』(今回)

『もっとも、海外経済の成長などを背景に輸出が緩やかな増加を続けるとともに、緩和的な金融環境と成長期待の高まりなどを受けて国内民間需要は底堅く推移すると予想される。この間、潜在成長率は、見通し期間を通じて緩やかな上昇傾向をたどり、中長期的にみた成長ペースを押し上げていくと考えられる。このため、わが国経済は、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると見込まれる。』(前回)

ということで、手前だけ下げて先は変わらないという形なので物価見通しが後ずれしても無問題というお話になる、というのが日銀の理屈ですな。


・物価に関して

『消費者物価の前年比は、エネルギー価格の下落の影響から、生鮮食品を除くベースでは0%程度となっているが、エネルギーを除くベースでは1%を上回るなど、物価の基調は着実に改善している。』(今回)
『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、このところ0%程度で推移している。』(前回)

わざわざ基調を今回入れているのがお洒落ですね!!!

『物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、新興国経済の減速を背景とした輸出のもたつきの影響などを受けつつも、労働面を中心として、着実に改善傾向をたどっている7。すなわち、失業率が緩やかに低下し、3%台前半で推移するなど、労働需給は引き締まり傾向が続いている8。』(今回)

『物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、着実に改善傾向をたどっている8。すなわち、失業率が緩やかに低下し3%台半ばになっているなど9、労働需給は引き締まり傾向が続いている。こうしたもとで、所定内給与が増加するなど、賃金の改善も続いている。』(前回)

ちなみに脚注によれば構造失業率が3%台前半とあるので、既に完全雇用状態という認識なのですね。所定内給与の言及を外しているのもチャーミング。


『設備の稼働率は、輸出のもたつきの影響などがみられるが、わが国経済が緩やかな回復を続ける中、上昇傾向にあると考えられる。先行きについては、マクロ的な需給バランスは、本年度末にかけてプラス(需要超過)に転じた後、2016年度にプラス幅が一段と拡大し、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は、着実に強まっていくと予想される。その後、2017年度には、マクロ的な需給バランスは、プラスの水準で横ばい圏内の動きになると見込まれる。』(今回)

『また、駆け込み需要の反動の影響が収束してきたことから、設備の稼働率も高まっている。このため、マクロ的な需給バランスは、本年度前半にプラス(需要超過)に転じた後、2016年度にかけてプラス幅が一段と拡大し、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は、着実に強まっていくと予想される。その後、2017年度には、マクロ的な需給バランスは、プラスの水準で横ばい圏内の動きになると見込まれる。』(前回)

とまあこのように説明しているように、需給ギャップのプラス化に関して4月の見通しでは年度前半にプラスに転じて16年度に掛けてプラス幅が一段拡大、となっていたのに対して、今回は本年度末にかけてプラスに転じるという見通しになっております。したがって原油が原油がと(昨日ネタにした)総裁会見では連呼しているのですが、そもそも論として需給ギャップの改善が遅れている訳でして、とりあえず新興国のせいということにしてその遅れに関しての政策対応をしないような建付けにしていますけれども、この需給ギャップ改善が遅れるというのは2%物価達成のメカニズムが遅れるということでもありますので、何度も遅れましたなあで済ませてはいられない(2年程度を念頭に出来るだけ早期に達成するという建付けであるならば)ように思えますがねえ。


『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。こうした予想物価上昇率の動きを受けて、企業の賃金・価格設定スタンスは、特に本年度入り後、明確に変化している。労使間の賃金交渉においては、企業業績や労働需給に加え、物価動向を賃金に反映する動きが拡がっており、本年のベースアップを含む賃上げは多くの企業で昨年を上回る伸びとなった。また、価格改定の動きについても、拡がりと持続性がみられている。このように、賃金の上昇を伴いつつ、物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは着実に作用している。もっとも、企業収益が過去最高水準にあり、失業率が3%台前半まで低下していることとの対比でみると、賃金の改善の程度はやや鈍い点には留意する必要がある。』(今回)

『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。こうした予想物価上昇率の動きは、実際の賃金・物価形成にも影響を及ぼしていると考えられる。例えば、労使間の賃金交渉においては、企業業績などに加え、物価動向を賃金に反映する動きが拡がりつつあり、本年のベースアップを含む賃上げは昨年を上回る伸びとなる見込みである。』(前回)

ということで、実際の賃上げとかを見た結果というのと、東大物価指数に示されるような日常品価格の上昇をここぞとばかりに強調して「中長期的な予想物価上昇率が変化したからこうなっています(キリッ)」という説明になっています。

その結果として「このように、賃金の上昇を伴いつつ、物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは着実に作用している」という文言が入っておりまして、ここのメカニズムに関してのアピールたるやという所ですが、最後に「賃金の改善の程度はやや鈍い点には留意する必要がある」と入れている辺りは日銀心の叫びという事ですな。


『先行きについては、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくとみられる。こうしたもとで、企業の賃金・価格設定スタンスは積極化していくと考えられる。』(今回)

『先行きも、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくとみられる。』(前回)

ということで「企業の賃金・価格設定スタンスは積極化していくと考えられる。」というのがこれまた日銀心の叫びという感じで中々チャーミング。

『第3に、輸入物価についてみると、これまでの為替相場の動きが、輸入物価を通じた消費者物価の押し上げ要因として作用していく一方、原油価格をはじめとする国際商品市況の下落は、当面物価の下押し圧力となる。』(今回)
『第3に、輸入物価についてみると、これまでの為替相場の動きが、輸入物価を通じた消費者物価の押し上げ要因として作用していく一方、原油価格をはじめとする国際商品市況の下落は、当面物価の下押し圧力となる。』(前回)

これは全文一致。


・ということで物価見通し文言

『以上を踏まえ、消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比の先行きを展望すると、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(今回)

『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる。』(前回)

まあここは変わらないというか変えれないですぞな。

『2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる9。』(今回)

『2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後は、平均的にみて、2%程度で推移すると見込まれる10。』(前回)

原油価格の置きは5ドルほど下がっています。

『7月の中間評価時点と比較すると、2015年度と2016年度については、原油価格下落の影響などから下振れているものの、2017年度については概ね不変である。』(今回)

『2016年度までの消費者物価の見通しを1月の中間評価時点と比較すると、やや下振れている。』(前回)

とまあそういうことで、結局2017年度の所が不変というのはつまり「今の政策対応のままで行くことには変わらん」という話なのですが、じゃあ追加緩和をしたらそれが早まるという見込みにはならんのかという話については、大体物価の所で示されていると思いますが、既に政策の効果で企業や価格の行動に変化が生じているので追加緩和を特に実施しなくてもこの変化は継続する。という建付けになっているっつーことですな。

でもってこの後の上振れ、下振れ要因の所の変化が更に味わいがあるのですが、時間と量の関係で明日ということで勘弁してくらはい。

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2015/11/02

○決定会合レビュー

・終了時間がめったやたらと早かった件について

結果はご案内の通りで現状維持。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k151030a.pdf

・・・・・・なのはさておきまして、
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_2015/index.htm/

を見ますと公表時間が出ているのですが、展望レポートの出る会合で12:22に公表というのは黒田体制になってからの中では圧倒的な短さで、その前に昨年4月展望レポートが12:51公表というのがあったのですが、この時は消費増税の影響が出だす前で、その前の駆け込みだので物価が堅調に推移して黒田総裁からは市場エコノミストは間違えましたなウハハハハ(超意訳)的な情報発信まで出るという状況になっておりましたので、そらもう楽勝気分の回だった訳で、その時よりも公表時間が早くなるたあどういう事ですかと申しますか、これ木内さんの反対提案が無かったらうっかりしたら12時前に終わっていたんじゃネーノ状態。

ということはつまり今までの展望レポートよりも論点が無かったという話になる訳で、そうなりますと追加緩和の是非についての議論があったとも到底思えない状況ですよねというお話でありますので、そらもう追加緩和とは何の事ですか状態というお話になるという事なんすけど、どちらかと言えば置物リフレ派の皆さんが何で追加緩和を提案しないのかが意味不明という所ではあります。


・市場の反応に味わいが

http://jp.reuters.com/article/2015/10/30/idJPL3N12U2SN20151030
News | 2015年 10月 30日 17:18 JST
〔クロスマーケットアイ〕バズーカ不発に市場は動揺せず、日銀にイエレンの「助け舟」

『[東京 30日 ロイター] - 日銀は追加緩和を見送ったが、市場の動揺は最小限で抑えられている。物価見通しを引き下げながら、政策維持というわかりにくい決定だったが、直後の株安・円高は限定的で日銀に対する信頼感は保たれたようだ。原油さえ落ち着けば物価は上昇基調に戻るという強気な見通しを疑問視する声も多いが、同じく物価に強気な予想を示した米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文が、日銀にとって思わぬ「助け舟」となっている。』(上記URL先より)

ということで結果が出たのが12時半前でしたけれども、初期反応としては株先が下がってドル円が円高に振れたのですが、その後はあっさり味の切り返しとなっておりまして、債券市場も前場は何か知らんが月末だというのにそこそこ先物とか長い所とか甘かったのですが、後場に入ると徐々に値を戻しだして、しかも株や為替が切り返しているのに債券も戻るの巻で、危うく先物前日比プラス引けになるんじゃないかという勢いでナンジャソラとしか申し上げようがない。

とりあえず「追加緩和が無かったら株安円高でエライコッチャになる」と主張していた金融緩和クレクレの何とかストの皆様におかれましてはこの理由という解説して頂きたいと存じますが、これは「市場でポジションを持って走っている人たちは緩和クレクレの解説する皆さんが言うまで追加緩和を期待していなかった」という事で、その一方で緩和なっしーで見ていて緩和なっしーの結果売られたら買いますかという人がそこそこ居たという事なんでしょうかねえ、よー知らんけど。


今回思考実験として面白いとアタクシが勝手に思っている件としましては、この市場の反応と日銀の信頼感という所をどうリンクさせるかという点で、今の所上記ロイター記事のように「日銀に対する信頼感が保たれたので失望売りが出なかった」という話になっておりますが、必ずしもそういう解釈じゃない可能性もあるのでは?と考えるのですよ。

つまりですね、失望アギャーとならなかったのは追加緩和観測が続いている(ので日銀が2%達成に向けて追加緩和実施は必至、という信頼感)という見方もあるのですが、そうではなくて決定会合前から散々打ち込まれている政府方面からの「追加緩和をやってこれ以上円安に振るな」とか「物価だけ強引に上げても却ってよくない」とかいうようなメッセージの方を重視していて、実際にポジションを持っている人たちがこの辺りの動きに対して流れの変化を感じ取っている(ので今までと違って追加緩和に動かないとみているので失望をしない)という事が起きているのかも知れませんなあというのは有りませんかねと思うのですよ。

まー後半の方はアタクシが今の政策の限界とか2%そもそも行かないだろとかその辺のことを念頭に置いた結果として今の「2年で2%」の建付けと、その建付けを前提にした今のMB超越拡大政策を何とかしないと目標達成する前にオペレーションが爆発してどうしようもなくなる事を懸念しているからそう思っている、というのが多分にあると思いますので本当にそうなのかと言われると分からんとしか申し上げようがないですけどね。

なお、「2年で2%」と言っているのに2016年度後半に達成だと既に「4年で2%」になっているように思えるのだがそこについては形骸化しているのかしていないのかが意味不明モードではありますが、見通しとして政策継続期間が長くなるようであれば短期決戦を前提にしている今の政策建付けを何とかするという話になるのでしょうからまだ粘るという事なのでしょうけど大丈夫ですかねえ。



・何で公表前に報道が出るんでしょ

でまあその結果が出た後に展望レポートが出る時間でもないのにこんなのが。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGF30H0E_Q5A031C1000000/
物価上昇15年度0.1%、2%目標は半年先送り 日銀が下方修正
2015/10/30 14:19

>2015/10/30 14:19
>2015/10/30 14:19
>2015/10/30 14:19

・・・・・・・・・あのーすいません、展望レポート基本的見解の公表時間は30日の15時なんですけどどうして40分も前に報道が出ちゃうんでしょうか???といいつつ上記URL先より。

『日銀が30日の金融政策決定会合で取りまとめた「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の内容が明らかになった。焦点の消費者物価(CPI、生鮮食品を除くベース)の見通しは2015年度が従来の前年度比0.7%上昇から0.1%上昇に、16年度は1.9%上昇から1.4%上昇にそれぞれ下方修正。17年度は消費増税の影響を除いたベースで1.8%上昇で据え置いた。実質国内総生産(GDP)の見通しについては15年度が従来の前年度比1.7%増から1.2%増に、16年度は1.5%増から1.4%増にそれぞれ引き下げた。一方、17年度は0.2%増から0.3%増に引き上げた。』(上記URL先より)

でまあ実際に出てきた数字はその通りだったのですが、何をどうするとこういうフライング報道なのかお漏らし報道なのか知らんですが、何でこうやって出てくるのか良く分からんですし、仮にお漏らしがあったとしても公表時間までは情報管理しろよと思う訳で何で出しちゃうのかねえと思いますし、こういうのをやっている日経新聞が普通にこの後の総裁会見に出てきて普通に質問するのも釈然としないという事案ではございました。


○ということで展望レポート基本的見解

今回の基本的見解
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1510a.pdf

前回(4月)の基本的見解
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1504a.pdf


・いきなり最終ページからネタにしますが

今回の基本的見解の最終ページ(12ページ)に『▽政策委員の経済・物価見通しとリスク評価』というのがあるのが一番目につきますね。でまあ例によってこういうのをテキストサイトに貼り付けるスキルはございませんので図表の方は上記URL先を見て頂きたい(というか皆さんご覧になっていると存じますが)のですが、脚注の方を引用しますと・・・・・・・・

『(注1)「金融政策決定会合の運営の見直しについて」(2015 年6月19 日)において、来年1月以降、「政策委員の見通し分布チャート」にかえて「政策委員全員の経済・物価見通し及びリスク評価」を公表する方針を明らかにしていたが、後者について、時系列での比較が可能となるよう、今回から先行的に公表することとした。

(注2)実線は実績値、点線は政策委員見通しの中央値を示す。

(注3) 、△、▼は、各政策委員が最も蓋然性が高いと考える見通しの数値を示すとともに、その形状で各政策委員が考えるリスクバランスを示している。は「リスクは概ね上下にバランスしている」、△は「上振れリスクが大きい」、▼は「下振れリスクが大きい」と各政策委員が考えていることを示している。』(今回)

ということで従来のファンチャートみたいなのから今回はドットチャートっぽく変化します。

従来のチャートですと、「中心的な見解」のメディアンを中心にして1つの見通しのリスク認識っぽい見せ方になっていまして、政策委員会として出てくる結果というのは1つですので、これはこれで出し方としては一つの考え方になりますが、どちらかと言うとBOEのファンチャートっぽい感じで出ているので、ビューとして元々1本で出している場合にはリスクアセスメントが分かりやすいという代物。

一方で、今回出したドットチャート(と勝手に言ってますが)の場合は各政策委員の個別のビューが見やすくなっていまして、出しているシナリオは1本になるけれども、そもそもそのシナリオがメディアンを使ったもの(従ってケースによっては途中のパスの中でそのメディアンの人が変わっている可能性もあり得る)となっているのが日銀の建て付けになっていますので、個別ビューの分布が見やすい方が分かりやすいなあと思いますので、今回のドットチャートは中々のスマッシュヒットだと思います。


・・・・・・・・・・でまあそれは良いのですけど、今回のCPI見通しのドットチャートを見ますと、2017年度で(2017年度平均で、という意味)2%に乗っているのが4名(どう見ても執行部とジンバブエ先生でしょ)しか居ないというのが謎なのですよ。

つまりですね、基本的見解の冒頭部分の物価見通しなんですけれども、

『2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想される。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(今回)

となっているのですが、「2016年度後半ごろに2%程度に達して、その後安定的に持続する経路に移行」となっているのに、2017年度平均で2%になっていない人が5人いる(うち2名は総裁会見によればこの記述に反対していますが)のでして、2017年度平均が1.6〜1.8%の数値になっているのに「2016年度後半ごろに2%程度に達して」となるのが良く分からんとしか申し上げようが無い訳でして、基本的見解の記述とドットチャートのドットとの整合性が????になっているのが謎。

つまりですな、そもそも論として「2016年度後半ごろ」という見通しの記述に端から「ごろ」を使って後ずれ容認を意図しているのか、それとも「2%程度に達する時期」という2%に対して「程度」を使って「1%台後半であれば2%程度も同様」と解釈しているのか、という辺りについていずれかを容認していないと展望レポート基本的見解の表現との間にズレが生じているように思える訳ですよ。

でまあこれが1名とかならまだしも、執行部がどうせ2%以上の所に置いているので、ジンバブエ先生と思われる(という想像が正しければ置物リフレ派の方々が追加緩和を主張しないロジックは分かるのですが、そもそも2%行くと思っているその根拠についてご説明を賜りたいのでございますが、何せジンバブエ先生におかれましては6月の時点で物価は今年の秋ごろから上向き始めると仰せですけどね!)審議委員だけしか17年度2%以上に見通しを置いていないのに、物価見通しの記述が何故こうなるのかは「2%程度」の定義か「2016年度後半ごろ」の定義が執行部と(除く1名の)審議委員との間で齟齬がある(なお木内、佐藤の両委員はそもそも反対しているのでまた別)のではないかという話で、ドットチャート単体では中々ナイスなスマッシュヒットなのですが、肝心の展望レポートの記述でドットチャートとの間に微妙な差があるのがやや台無し感を。


ちなみに、前回はドットチャートは無かったですけれども、4月展望レポートでは2016年度平均の中心的な見通しが+2.0%になっていて、2017年度の中心的な見通しが+1.9%になっておりますし、7月中間レビューでも2016年度平均の中心的な見通しが+1.9%で2017年度平均の中心的な見通しが+1.8%になっているので、まあ16年度前半に達成して安定的な軌道と言う表現との齟齬があまり目立たなかったのですが、今回は図表と文言の差が非常に気になるところではありますな、うんうん。


なおどうでも良いが物価のドットの2017年度を妄想すると、2.1%が師匠とジンバブエ先生で、2.0%が総裁副総裁で下振れ印が中曽さん、下の2名は低い方から木内さん、佐藤さんで、真ん中の3名ですけれども、リスクが下向きの2名のうち1名は「私言いましたよね」の白井さんであることは間違いなく、残り1名はどちらかと言えば石田さんだと思うので、リスクがバランスしている1.7%なのが布野さん、下振れで出しているうち1.6%と1.8%のどっちをどっちにするのかが難しいですが、一応石田さんの方を下にしてみますかね(正直微妙)。



・ではまず概要から

『2017年度までの日本経済を展望すると、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される2。』(今回)

『2017年度までの日本経済を展望すると、2015年度から2016年度にかけて潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。2017年度にかけては、消費税率引き上げ前の駆け込み需要とその反動の影響を受けるとともに、景気の循環的な動きを映じて、潜在成長率を幾分下回る程度に減速しつつも、プラス成長を維持すると予想される2。』(前回)

脚注2というのは消費税増税時期の前提ですが、そこまで含めまして成長の基本的なシナリオに変化が無いというのが結論だそうな。

『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる3。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、同価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度後半頃になると予想される。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる』(今回)

『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面0%程度で推移するとみられるが、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、「物価安定の目標」である2%に向けて上昇率を高めていくと考えられる3。2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(前回)

半年後ずれキタコレとなっております、原油価格の置きは前回対比で5ドル程度下がっています。


『従来の見通しと比べると、成長率の見通しは、2015年度について、新興国経済の減速を背景とした輸出のもたつきや天候不順の影響などによる個人消費の鈍さから下振れているものの、2016年度と2017年度については概ね不変である。物価の見通しは、2015年度と2016年度については、原油価格下落の影響などから下振れているものの、2017年度については概ね不変である。』(今回)

『2016年度までの見通しを従来の見通しと比べると、成長率の見通しは概ね不変である。物価の見通しは、やや下振れている』(前回)

足元は下げたけれども先行きは変わらない、という話でして、しかも足元の下振れについては長期化するような要因ではありませんというお話。

『金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)

『「物価安定の目標」のもとで、以上の中心的な見通し(第1の柱)と、これに対する上下双方向のリスク要因(第2の柱)を点検した4。金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(前回)

これが物凄い勢いでチャーミングなのですが、前回と比較して分かりますように、第一の柱、第二の柱の点検という文言が無いのですよね。

とは言えこのツーピラーズの点検は基本的なあり方ですからして、当然ながら基本的見解の本文中にはこの点検の内容がある(8ページ以降)のですけれども、今回の大きな変化として「経済見通しのリスクは下振れ」となったのがあり、ついでに物価のリスクについても新たなポイントとなる下振れリスクが打ち込まれているという事で、リスク認識の所が変わっているのですよ。

ところが、ここにありますように今回はその第一第二の柱の点検云々という文言をしらっと外しているのが大変にチャーミングでして、リスクアセスメントが前回対比結構下がっている感が強いのを最初の概要部分だけ見ていると見逃してしまうように書いていまして、まあ下振れ強調されて雰囲気が悪くなると期待が悪化するとでも思っているのかもしれませんが、そこには大本営いや何でもないです。


・ということでリスク認識部分を先に鑑賞すべきである

まずは『3.金融政策運営』から2つの柱の点検。

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向を中心に下振れリスクが大きい。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(今回)

『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、海外経済の動向などを巡る不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(前回)

物価の下振れは同じなのですが今回は経済も下振れリスクキタコレということで、今日はネタにしませんというかテキスト出るの本日ですが、総裁会見でも「物価達成時期は後ずれしてリスク認識は下振れ大きいに変化しているのに何でプリエンティブに追加緩和をしないのか」という質問が来るのは当たり前田のクラッカー。


ではリスク認識の所で『2.上振れ要因・下振れ要因』でありますが、まずは経済の部分。

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、中国をはじめとする新興国経済の減速の影響、米国経済の動向やそのもとでの金融政策運営が国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(今回)

『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の成長ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、新興国経済における持続的な成長に向けた構造調整の進展度合い、資源価格下落の影響、地政学的リスクなどが挙げられる。』(前回)

「中国をはじめとする新興国経済の減速の影響」というのと「(米国の)金融政策運営」というのが入りましたな。

『第2は、2017年4月に予定される消費税率引き上げの影響である。駆け込み需要とその反動の影響や実質所得減少の影響は、消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(今回)
『第2は、2017年4月に予定される消費税率引き上げの影響である。駆け込み需要とその反動の影響や実質所得減少の影響は、消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(前回)


『第3に、企業や家計の中長期的な成長期待は、規制・制度改革の今後の展開や企業部門におけるイノベーション、家計部門を取り巻く雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。』(今回)
『第3に、企業や家計の中長期的な成長期待は、規制・制度改革の今後の展開や企業部門におけるイノベーション、家計部門を取り巻く雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。』(前回)


『第4に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の将来不安の強まりや経済実態から乖離した長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、人々の将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。』(今回)

『第4に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の将来不安の強まりや経済実態から乖離した長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、人々の将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。』(前回)

ということでそれ以外が全文一致ですので、結局の所海外が下振れ要因の変化なのですが、その部分で今回「下振れリスクが大きい」と来ているのという状況になっておりまして、それだけ海外を懸念しているともいえますし、意地悪く見れば見通しよりも成長が鈍化して推移した場合に「海外のせい」と言いのがれをすることが出来るのであれば「内生的なメカニズムは途切れていない」と言い張ってしまうという荒業を炸裂させるのかも知れず、両方の見方が出来るなあと思うのでした。


でもって物価。

『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、賃金の上昇を伴いながら実際の物価上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇し、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、エネルギー価格下落の影響から現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある。』(今回)

『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、賃金の上昇を伴いながら実際の物価上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇し、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。この点では、エネルギー価格下落の影響から現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが、予想物価上昇率の上昇ペースに影響するリスクがある。』(前回)

途中までは全文一致なのですが、今回これが新しく入っているのだ。

『また、賃金と物価の関係を考えると、来年度に向けた労使交渉において、既往の基調的な物価上昇や先行きの物価見通しがどのように織り込まれていくかが重要である。』(今回)

つまり賃金が目論見通り上がらないと日銀の心が折れるという事になるようだが大丈夫なのかね????


『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性があり、その動向によっては賃金・物価に影響する可能性がある。』(今回)

『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性がある。』(前回)

これまた途中までは全文一致なのですが、今回は労働需給の所でも賃金の話が登場ということで、賃金連呼キタコレですな。


『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度が挙げられる。すなわち、先行きの海外経済の不透明感などから企業の賃上げに対するスタンスが慎重化する場合や、そうしたもとで消費者の物価上昇に対する抵抗感が強まる場合には、物価の上昇ペースが下振れるリスクがある。また、公共料金や一部のサービス価格、家賃などの価格硬直性が想定以上に強い場合には、消費者物価指数の上昇率の高まりを抑制する要因となる可能性がある。』(今回)

『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、すなわち、企業が財・サービス需給や労働需給の引き締まりに応じて、販売価格や賃金をどの程度引き上げていくかについて留意する必要がある。この点、労働需給の引き締まりを背景として賃金の改善ペースが上振れ、物価にも影響を及ぼす可能性がある一方、消費者の物価上昇に対する抵抗感が強い場合や企業の賃上げに対する姿勢が慎重な場合、販売価格や賃金の引き上げがスムーズに進まない可能性もある。』(前回)

こちらですけれども、前回は上ぶれの話と下振れの話が混じっていましたが、今回は下振れリスクの話でございまして、しかも公共料金、サービス価格、家賃などの価格粘着性についての言及が入りましたのも何ちゅうか微妙なテイスト。


『第4に、原油価格といった国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(今回)
『第4に、原油価格といった国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(前回)

これは全文一致でございますな。


#という所で本日は勘弁、基本的見解のメインシナリオ部分はの続きは明日で(超大汗)

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2015/10/30

○FSRでは今回の注目ネタがBOXにまとめられていて分かりやすいので鑑賞鑑賞

FSR全文から
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr151023a.pdf

先般引用しましたが、こちらの巻末に

BOX1 海外M&A 関連貸出と与信管理
BOX2 賃家業向け貸出と与信管理
BOX3 与信ポートフォリオの変化と信用リスク分析の高度化
BOX4 地域金融機関の有価証券ポートフォリオのリスク分析
BOX5 不動産市場の状況について
BOX6 金融マクロ計量モデルの改良

というのがあって、まあこの辺を注意していますよいうメッセージ性がありますのでメッセージを鑑賞しようじゃないかという企画である(^^)。

なお、図表がいっぱいあるので内容を見ようと思ったら上記URL先を見に行ってちょ。


・海外関連貸出を調子に乗ってやっているようだが与信管理ちゃんとしろですかそうですか

『BOX1 海外M&A 関連貸出と与信管理』を鑑賞。

『日本企業によるM&A が活発化するもとで(前掲図表IV-1-8)、海外M&A 関連貸出は、大手行の貸出増加を支える主な要因の1 つとなっている。海外M&A案件は、買収に伴う非金利収益(M&A アドバイザリー手数料や幹事行引受手数料等)が大きいほか、買収後の取引機会の増加も見込まれる。こうしたなか、大手行では、海外M&A 案件に積極的に取り組んでおり、グループ証券会社との連携強化等を進めてきている。』

『以下では、主にコーポレート・ローンを念頭に、海外M&A 貸出における信用リスク管理上留意すべき点を挙げる。』

ということで・・・・・・・・・・

『第一に、比較的短期間で審査を行う必要がある点である。競合が激しい海外M&A 案件では、企業から案件を持ち込まれてから1〜2 か月程度で必要なデューディリジェンス(due diligence)を行い、少数行で大口のブリッジローン実行にかかる与信判断を行うことが求められることが多い。ブリッジローン実行後は、いずれかのタイミングで、社債やシンジケート・ローン等によるリファイナンスが行われるのが一般的である。ブリッジローン実行段階では、こうした債務の切り替え等の実現可能性も含めて、適切に審査を行う必要がある。』

『第二に、海外事業のリスク特性の複雑さである。海外事業については、商慣習や法制等の違いを踏まえての審査が必要となる。また、所在国の経済情勢や為替水準の影響も考慮する必要がある。』

『第三に、買収企業にとって規模が大きい海外M&A 案件は、企業の将来性に多大な影響を及ぼす可能性も考えられる。実際、2014 年以降の日本企業による海外M&A 案件をみると、大口案件を含め、取引額(買収価額+被買収企業の純負債)が被買収企業の期間収益の20 倍を超える取引の比重が高まっており、一部では過熱感が指摘されている(図表B1-1)。また、買収に際して計上した「のれん」が買収企業の純資産対比でかなり大きい案件もみられる。』

第一と第二はまあ一般論ですが第三の最後の辺りからメッセージが。

『大手行は、相対的にリスクが大きいと見込まれる案件等を中心に、通常の財務分析に加え、海外拠点や現地コンサルティング会社等を通じた実態把握、買収先企業の経営陣との面談等を行っている。また、買収企業の財務の健全性を担保するために、国内企業向けシンジケート・ローン等に比して保守的なコベナンツ条項を課すケースもみられる。』

と言いつつ・・・・・・・・・

『今のところ、海外M&A 関連貸出における大口の信用コストの計上はみられていないが、潜在的な影響の大きさに鑑み、海外M&A 関連貸出に取り組むに際しては、@海外事業のリスク評価態勢の検証・整備、A為替や海外経済動向等を織り込んだストレス・テストの充実、BM&A 実施後の買収企業のモニタリング態勢の充実等を進めておくことが必要である。』

ということで拡大するのは良いけどザルになるなよというメッセージが来ておりますな。


・アパートローンェ・・・・・・・・・・・・

『BOX2 貸家業向け貸出と与信管理』というのがもうね。

『近年、地域金融機関を中心に、個人や個人設立の資産管理会社等に対する賃貸不動産向け貸出(以下「貸家業向け貸出」)が増加している。これは、土地所有者、富裕層の資産運用や節税ニーズ等の高まりを受けて、各地域で貸家着工が増加していることを反映している(図表B2-1、図表B2-2)。』

さいですな。

『一方、貸家に対する需要をみると、わが国の総人口は減少に転じているが、@高齢化や晩婚化を背景とした単身世帯の増加などに伴って世帯数がなお増加していること、A都市部や市街地への移住等の社会移動があることから、需要も相応に増加しているとの指摘がみられる。』

ほほう。

『実際、足もとの貸家着工は、空室率の低い都道府県ほど高い伸び率となっているほか、世帯数の増加との間に強い相関関係がみられる(図表B2-3、図表B2-4)。』

それは分かったがそっちは供給の話なのではないか??

『もっとも、貸家業向け貸出は、対象物件の経済的耐用年数が長く、融資期間が10 年以上、中には20 年を超えるものも少なくない。この点、やや長い目で貸家を巡る需給環境をみると、貸家着工と将来の世帯数予測との相関は必ずしも高いものではない。』

そもそも節税ニーズで建ったものに本当に需要予測が存在しているのでしょうかねえ。

『ここでの分析は都道府県単位の粗いものに過ぎないが、現実の融資実行に際しては、個々の物件の所在地における貸家需給やその見通しを踏まえて判断していく必要がある。』

ということですが、先ほどアタクシがツッコミを入れた辺りはおそらく書いている日銀でも先刻ご承知の助で、以下の説明を見ると「お前ら担保有るからってホイホイ出すんじゃねえ」というメッセージを非常に丁寧な口調で説明しているようにしか見えないのは気のせいですかそうですか。


『貸家業向け貸出の与信管理では、融資期間の長さなど事業特性を踏まえた入口審査と中間管理の両方が重要である。』

事業特性とな。

『まず、入口審査では事業主や施工業者等が策定した収支計画の妥当性の検証を行った上で、家賃以外の収入や担保保全の適切性を確認する。収支計画の検証に当たっては、対象物件の立地、周辺の家賃設定・空室状況等を確認すること、先行きの家賃収入(入居率×家賃水準)や貸出金利に一定のストレスを負荷しつつ、修繕費見込み等も勘案した収支シミュレーションを実施することが有効である。この点、考査等では、ストレスの妥当性が検証されていない、対象期間が短い等の課題がみられる。』

基本は収益返済らしいのですが、節税マンションの場合を念頭において「家賃以外の収入」という文言が入っているのがチャーミング。

『貸出実行後は、一定の頻度で空室率や収支の計画と実績を比較し、乖離がある場合はその事由を分析した上で、事業主に対する収支改善支援、入口審査基準の調整等、所要の対応を講じていくことが必要となる。また、所在地別、築年数別、債務者属性別の延滞率やデフォルト率など、データの整備を図るとともに、ポートフォリオ・ベースで分析・管理を行っていくことも有用である。』

不動産って特殊性が強いからポートフォリオベースの分析ってあんまり馴染まないような気もするのだが、個別データを集めてできるだけ一般化した分析もしろと言いたいのは分かります。

『現状、与信費用が増加している訳ではないが、融資期間を通じた中間管理が求められる。』

ということでこれは要するに今後与信費用が増加するリスクがあるんじゃネーノというメッセージですな。


・不動産市場に関して

『BOX5 不動産市場の状況について』も鑑賞。

『今回の金融活動指標では、「不動産業実物投資の対GDP 比率」が趨勢からの乖離幅を広げ、引き続き「赤」となった。ここでは、最近の不動産市場の状況を、取引・価格動向や、金融面の動向など、幅広い観点から点検する73。』

うむ。

『不動産の取引金額は、高水準で推移しているが、2007 年頃の水準には至っていない(図表B5-1)。物件タイプ別にみると、引き続きオフィスの取引が活発である。主体別では、足もとは、J-REIT が再び取引シェアを拡大している74(図表B5-2)。海外投資家は、リーマン・ショック前の投資物件の処分の動きと、新規の物件取得の動きが併存するもとで、ネット買越額は概ねゼロ近傍となっている(図表B5-3)。』

取引金額としては全体として見た場合にまだ過熱している訳でもないがREITの買いが目立つと。


『不動産価格は、全国的に下げ止まりつつある。地価の対GDP 比率は、過去からのトレンド並みの水準で推移しているほか、個別地点ごとにみた商業地価(鑑定価格)の上昇率の分布には、過去の2 度の不動産ブーム期にみられたような上方への広がりは、観察されていない(図表B5-4、図表B5-5)。東京23 区の商業用不動産の取引価格分布をみても同様である(図表B5-6)。』

不動産価格に過熱の状況も無いとな。

『J-REIT のイールド・スプレッドも、縮小する動きはみられない(図表B5-7)。もっとも、オフィスビルの空室率が低下している東京都心部では、賃料の本格回復に先行する形で、投資家の購入スタンスの前傾化を映じた高額物件取引も散見され、投資家の期待利回りが過去最低水準を更新する地域もみられている(図表B5-8、図表B5-9)。なお、地方圏においてはこうした動きは一部にとどまっている。』

つまり都心部の局地的な現象が起きているだけよ。


『金融面の動向をみると、J-REIT では高水準の資金調達が続いているが、レバレッジの高まりはみられない(図表B5-10)。』

ほうほうそうですか。

『銀行の不動産ファンド向け投融資を形態別にみると、大手行が貸出を幾分増加させているほか、地域銀行のエクイティ投資が増加している(図表B5-11)。J-REIT 以外の上場不動産業者(主に大企業)も資金調達を増加させているが、不動産ブーム期にあった2007 年頃と比べると低水準にとどまっているほか、借入は限定的である(図表B5-12)。「不動産業実物投資の対GDP 比率」の投資主体は、概ねこの上場不動産業者(主に大企業)に該当しているとみられるが、投資は今のところ、手元資金や資本調達によってファイナンスされている部分が大きいとみられる。』

ここまでは問題なしという説明。

『一方で、中小不動産業者(うち低信用先)における有利子負債残高(前年比)の分布は、不動産業のデフォルト率が急速に高まる直前の2000 年代半ばほど顕著ではないものの、足もと、上方への広がりがより明確になりつつある(図表B5-13、図表B5-14)。』

ここでちょっと指摘が入っています。

『以上みてきたように、多くの指標は、リーマン・ショック前の不動産ブームの頃を下回っており、不動産市場全体としては過熱の状況にはないと考えられる。ただし、不動産業大企業の実物投資の増加に加えて、J-REIT・海外投資家の物件取得が活発化しており、東京都心等では高額物件取引もみられている。また、銀行の不動産関連投融資も積極化しつつある他、中小の低信用先の資金調達では借入れが増加する兆しも窺われている。これらを踏まえると、不動産市場の状況については、引き続き注意深く見守っていく必要がある。』

ということで、まあこういうので「問題があります」とかレポートをドドーンと出すわけには行かないというのは大人の事情として良く分かるので、まあこの辺のニュアンスでお察しという話なので前回の纏め部分を出してみますね。

『以上みてきたように、最近の不動産市場では、景気の回復等に伴って、取引や金融活動が徐々に活発になってきている。不動産価格については、現状、過去の不動産ブーム期にみられた過熱感は、全体として窺われないが、オフィス物件を中心に取引金額が高めの水準にあること、海外投資家など投資家の不動産投資スタンスが積極化してきており、J-REIT 価格が上昇していること、不動産向け貸出が徐々に伸びを高めており、低信用先の資金調達も増加傾向にあることなどを踏まえると、先行きの不動産市場の動向については、注視していく必要があると考えられる。』
(2015年4月のFSR全文のBOX5から)

・・・・・・・・まあニュアンスとしては半年前の記述よりも若干警戒感は出ているようにも見えますね。

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2015/10/28

○FSRキタコレ

つーことでFSR

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr151023.htm/(要旨)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr151023a.pdf(全文)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr151023b.pdf(概要)

前回分はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr150422.htm/(要旨)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422a.pdf(全文)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr150422b.pdf(概要)


・要旨というか紹介ページの方で前回比較をしてみませう

比較する意味があるのかというツッコミはさておきまして(汗)。

『要旨:金融システムの総合評価』から。

『わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融仲介活動は、より円滑に行われるようになっている。』(今回)
『わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融仲介活動は、より円滑に行われるようになっている。』(前回)

全文一致ですな。

『金融システムの機能度』から。

『金融機関は、国内外の貸出において、リスクを取る方向での業務運営を引き続き指向している。国内では、大企業のM&A向けや内外事業展開等に伴う資金需要へ積極的に対応しているほか、成長性や業績回復を見込んだ下位格付け先への貸出や企業再生関連の貸出等への取り組みにも広がりがみられる。こうしたもとで、国内貸出は企業向けが牽引する形で緩やかな増加を続けており、企業規模、業種、地域のいずれの面でもさらに広がりが出てきている。』(今回)

『金融機関は、引き続き、国内外で貸出を積極化している。国内では、リスクを取る方向での業務運営を指向し、成長事業の育成・事業再生への取り組みを強めている。こうしたもとで、金融機関の国内貸出は、企業向けを中心に緩やかな増加を続けており、企業規模、業種、地域のいずれの面でも徐々に広がりが出てきている。』(前回)

ということで国内に関しては貸出などが拡大している話になっていますので、金融緩和効果とか成長基盤だの貸出増加支援だのの効果も出ているというネタになりますな。


『海外でも、本邦企業のグローバル展開を支え、成長力の高い海外諸国の金融ニーズを取り込んでいく観点から、融資に積極的に取り組んでいる。非日系企業を中心とした取引先拡大等を企図して、貸出債権を買い取る動きもみられている。こうしたもとで、海外貸出は高めの伸びを続けているが、このところのアジア経済減速を受けて伸び率は幾分鈍化している。』(今回)

『海外においても、本邦企業のグローバル展開を支え、成長力の高いアジアなど海外諸国の金融ニーズを取り込んでいく観点から融資に積極的に取り組んでおり、海外貸出は高い伸びを続けている。』(前回)

アジアがコケ気味なので表現が変わっているのがチャーミングですが、海外も引き続き拡大という話になっておりますな。

『有価証券投資では、高水準の円債残高を維持しつつ、投資信託等による運用を一層積み増すなど、リスク・テイクを徐々に強めていく姿勢を継続している。生命保険会社・年金などの主要機関投資家でも、リスク性資産への投資を増やす動きが続いている。』(今回)

『有価証券投資では、高水準の円債残高を維持しつつ、外債、投資信託など運用の多様化を図り、リスク・テイクを徐々に強めていく姿勢を継続している。この間、国内長期債投資を中心としてきた主要機関投資家でも、リスク性資産への投資ウエイトを高める動きがみられている。』(前回)

とはいえここの内訳に関しては(これまでもそうですが)ポートの状況に関しては主体によって異なるという話は本文で展開されております。たぶんその辺までネタにしている時間が無いのですけれども(汗)。

『金融資本市場を通じる金融仲介は、エクイティ・ファイナンスが引き続き高水準であるほか、CP・社債の発行環境も良好である。こうしたもとで、企業・家計の資金調達環境は、より緩和的となっている。この間、家計の金融資産運用は、預金中心の構図に大きな変化はないが、投資信託等への純流入が続くなど、リスク性資産の比重が高まってきている。』(今回)

『金融資本市場を通じる金融仲介は、エクイティ・ファイナンスが引き続き高水準で推移するなど、良好な発行環境が維持されている。こうしたもとで、企業・家計の資金調達環境は、より緩和的になっている。一方、家計の金融資産運用は、預金中心の構図に大きな変化はないが、このところ投資信託等への純流入が続くなど、リスク性資産の比重が徐々に高まっている。』(前回)

CPや社債の発行環境は良好というのが書いてあるのですが、これ本文見れば分かるのですが肝心の発行の方って特に伸びていないのですけど、そこは「銀行の貸出姿勢が積極的である」ということで話を丸く収めておりますが、わざわざCP社債の話を入れるのねとふーんと思いましたです(発行がバシバシ増えているなら入れる意味も分かるのですが残高伸びていないのに何で?という意味)。


『金融システムの安定性』はまあ不安定とか出たらマズーではありますのでお察しですけど。

『以上の金融仲介活動において、過熱を示す動きや過度な期待の強気化といった金融面の不均衡はみられていない。』(今回)
『以上のような金融仲介活動において、過熱を示す動きや過度な期待の強気化といった金融面の不均衡はみられていない。』(前回)

そらまあ見られますと言い出すと第2の柱が登場しますから。

『不動産市場は地域差を伴いつつ徐々に取引が活発になっているが、全体としては過熱の状況にはないと考えられる。金融機関は、全体としてみると、充実した財務基盤を有している。自己資本比率は規制水準を十分に上回っている。』(今回)

『金融機関は、全体としてみると、充実した財務基盤を有している。自己資本比率は規制水準を十分に上回っている。』(前回)

でまあここで不動産市場がという話が出ていて、昨日申し上げましたように最後のBOXの所でも貸家向けの貸出と与信管理の話と、不動産市況の話がありますし、こうやって紹介ページの所というある意味新聞1面みたいなところに確りと不動産の話を載せているのは一応のメッセージと受け止めて置けば吉かと。


『金融機関の負っているリスクは、前回レポート時から概ね横ばいとなった一方、自己資本は内部留保の蓄積等から増加した。こうしたもとで、金融機関のマクロ的なリスクと財務基盤の適切なバランスは引き続き確保されており、金融システムは相応に強いストレス耐性を有している。』(今回)

『金融機関の負っているリスクは、前回レポート時に比べて信用リスク量の減少等からやや減少し、自己資本は利益の蓄積等から充実が進んだ。こうしたもとで、金融機関のマクロ的なリスクと財務基盤の適切なバランスは確保されており、金融システムは相応に強いストレス耐性を有している。ただし、経済・金融のショックの背景、程度、速さなどによっては、金融システムの安定性に影響が及ぶ可能性がある点には留意が必要である。』(前回)

ここの説明が妙にあっさりになっていますが、こちらに関しては別に留意をしなくなった訳ではなくて、今回のFSRの位置づけを年度の中間レビューみたいな形にしていて、リスクアセスメントの所は前回との変化を中心にしている事から、前回と同様の話となる部分は概要の所で軽めになっているという建付けになっているからだと解釈しましたがそういう事で宜しいのでしょうかね。

『資金流動性に関しては、金融機関は、円資金について十分な流動性を有している。外貨資金は引き続き市場性調達の比重が高い調達構造となっているが、銀行の安定調達基盤の拡充に向けた取り組みに進捗がみられた。一定期間調達が困難化しても資金不足をカバーできる外貨流動性を確保している。』(今回)

『また、資金流動性についてみると、金融機関は、円資金について十分な資金流動性を有している。外貨資金は市場性調達の比重が高い調達構造となっているが、一定期間調達が困難化しても資金不足をカバーできる流動性を確保している。』(前回)

前回との違いはボルカールールなどの各種規制がより強化というか規制の本格的な実施が始まったものが有る点で、それへの対応が進んでいるという事なのでしょうが、そうは言いましても国内の短国市場やらに外貨ファンディング絡みの影響が出たりするケースもあったりするように見えますので規制効果オソロシス。

『この間、アジアなど新興国経済の減速に対する懸念が強まるもとで、夏場以降、国際金融資本市場のボラティリティが高まった。わが国においても、株価が下落するなど海外市場の影響が及んだが、金融機関の財務基盤や金融システムの安定性への影響は、今のところ限定的なものに止まっている。』(今回)

『この間、資源価格が大幅に下落し、国際金融資本市場では幅広くボラティリティが高まった。ボラティリティの上昇は、ある程度本邦市場にも及んでいる。』(前回)

まあここは4月からはだいぶ変わりましたからね。


・最後の部分がちと書き方が違う

でもって最後が『マクロ・プルーデンスの視点からみた課題』である。

『将来にわたって金融システムの安定を維持していくには、引き続き、金融機関のマクロ的なリスクと財務基盤の適切なバランスを確保していくとともに、先々の脆弱性に繋がっていく可能性がある金融システムの構造的な変化に対しても、着実に対応していく必要がある。

金融機関のマクロ的なリスクは、内外貸出や有価証券投資でリスクを取る方向の業務運営を進めるもとにあっても、総じて抑制されている。もっとも、これは、近年における安定的な金融環境の継続(信用コストの低位安定、市場ボラティリティの低さ)による面が大きく、この間、信用、市場、資金流動性など各種のエクスポージャーは増加を続けている。金融機関は、引き続き、積極的にリスク・テイクを進めている分野におけるリスク対応力の強化を図っていく必要がある。とくに、海外業務では資産の拡大に対応した外貨の安定調達基盤の拡充や与信管理の充実が、市場運用ではリスクの横断的、多面的な把握と管理が重要と考えられる。また、大手金融機関のシステミックな重要性の高まり、地域金融機関の基礎的な収益力の低下といった構造的な課題は、前回のレポートから変わっていない。

日本銀行は、金融システムの安定確保に向けて、モニタリング・考査等を通じてこれらの課題に対応していく。』(今回)


前回は『将来にわたる金融安定の確保に向けて』というお題なのですな。

『わが国の金融システムは安定性を維持しているが、将来にわたってこれを維持していくには、引き続き、マクロ的な視点からみて、金融機関のリスクと財務基盤の適切なバランスを確保していくとともに、先々の脆弱性に繋がっていく可能性があるリスクの構造的な変化に対しても、着実に対応していく必要がある。

マクロ的なリスクの蓄積の観点から注目しておくべき点としては、(1)金融機関の国際業務、海外エクスポージャーの拡大、(2)金融機関の資産負債管理における市場運用の重要性、マーケット・エクスポージャーの高まりが挙げられる。リスクの構造的な変化の観点から注目しておくべき点としては、(3)大手金融機関のシステミックな重要性の高まり、(4)国内預貸業務(とくに地域金融)における収益性の低下が挙げられる。また、(5)家計の資産選択行動の変化や、(6)国際金融規制の実施に伴う金融システムへの影響を注視していく必要がある。

以上の点を踏まえて、個々の金融機関が対応していくべき経営面の課題としては、(1)リスク・テイクを積極的に進める分野、とくに海外業務と市場運用におけるリスク対応力の強化、(2)大手金融機関におけるシステミックな重要性への対応、(3)地域金融機関における基礎的収益力低下への対応が挙げられる。

日本銀行は、引き続き、金融システムにおけるマクロ的なリスクの蓄積状況や構造変化に関する実態把握と分析、ストレス耐性の検証等を行っていく。そのうえで、リスクの所在や課題を提示しつつ、幅広い関係者との間で認識の共有や協議を行っていくとともに、所要の対応を講じていく。金融機関との間では、量的・質的金融緩和による緩和的環境を活用した前向きな金融仲介活動を幅広くフォローしていくとともに、上述の諸課題に対応していく観点から、(1)国際業務、(2)ALM・市場運用、(3)大手金融機関のシステミックなリスク特性と経営管理、(4)地域金融機関の収益力、(5)産業力強化・企業活力向上に向けた取り組み、(6)金融機関・証券会社等のマーケット業務と金融商品販売業務の動向、に関する実態把握を強化し、意見交換を行っていく。』(前回)

前回はこの『将来にわたる金融安定の確保に向けて』の所での金融機関のリスクアセスメントとか金融機関に内在するリスクに関するアセスメントとかの所にやたら力が入っていた感じで、概要の方でもそんな感じの書き振りになっているのですが、今回は中間評価という事もあるのか「マクロプルーデンス」という書き方で割とあっさり味の概要につくってあるのですが、その一方でBOXの方で纏められているのは「与信管理」「ポートフォリオ分析」「不動産市場」というお話になっていますので、今回はリスク管理手法と与信管理の中で一部分野に関する注目を入れているという感じになるんでしょうかね、よくわからんけど。


・ストレステストシナリオのお手本を投下とな

本文の最初の所ですけれども、『(今回の特徴)』というのがありまして。

『今回のレポートにおける編集・分析面の特徴は、次の5 点である。@年度半ばの中間的なレビューと位置づけ、X章のリスク分析やZ章の金融安定に向けた課題に関する部分を中心に、年度初(前回レポート)からの変化を中心とした記述にした。』

『Aこれまで分離していた金融機関の円・外貨金利リスク、株式リスクを「市場リスク」として統合した。金融機関の有価証券投資において運用の多様化が進み、各種のリスクを横断的にみていく必要性が高まっていることに対応したものである。B金融機関が積極的にリスク・テイクを進めている分野(M&A 関連貸出、貸家業向け貸出、有価証券投資等)についてBOX を設け、リスク管理上の留意点を提示した。』

ということで金融システムレポートだから当然ちゃあ当然なのですがリスク管理の話が今回は力入っていますし、そのリスク管理も統合的にやりなさい的なお話になっておりますな。

『Cマクロ・ストレス・テストのモデルやシナリオ設定方法等を拡充するとともに、個々の金融機関が行うストレス・テストの参考に資するよう、方法論やデータの開示を拡充した。シナリオ設定の考え方に関する「別冊」を公表するほか、テストに関する主要データを日本銀行ホームページからダウンロード可能とした。』

http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsrb151026.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb151026a.pdf(本文)
マクロ・ストレス・テストのシナリオ設定について

でもってこちらの概要ページから表計算ソフトにデータを落とせるというモノになっております。とりあえずアタクシも落としては見ましたがそのまま放置プレイだったりしますが。

『Dアジア経済の減速、夏場以降の市場ボラティリティの高まりを踏まえ、X章のリスク分析やY章のマクロ・ストレス・テストにおいて、金融機関への影響や留意点についての説明を加えた。』

という話はありますが、不動産の所はここで書くとやや刺激的なのかスルーしているようで。ただBOXで説明があったりするのでそちらも気にはしている(だいたい日本の場合バブルキタコレは不動産ですから)という事でしょうな。


・それは良いのですが元々FSRって金融市場レポートと統合した筈なのですが・・・・・・・・・

とまあそういう感じで別冊がホイホイと出たりする益々充実のFSRなのですが、甚だ寂しいのは金融システムレポートって金融市場レポートと統合して出すようになった(2011年10月号から)のですけれども、金融市場レポートの方が扱いとしてドンドン影が薄くなっているように見える訳でございまして(書いてある話分量等はまあ同じちゃあ同じなのですが)そらまあQQEで金利市場の流動性を叩き潰す(というかそもそも長期金利に直接働きかける政策を実施しているのだからそうなるのは当然)ようになっているのでその辺をゴリゴリ分析すると日銀が悪いよ日銀がとなって不都合にも程があるというような大人の事情は理解するのですが、すっかりプルーデンス物になってしまいましたなあという所ではあります。

ちなみに市場の流動性指標に関してはオファービットスプレッドが縮小しているとかいう指摘はあって、だからこそ流動性は維持(キリッ)みたいな話がありますが、ちょっとした売買が入るといきなり無抵抗状態でイールドカーブが動くという今の市場動向を見るに、スプレッドが縮小したというよりは単に投資家の方が大玉を振り回せなくなっているだけという気がするんですけどねというネタだけ申し上げておきますです、はい。

#本文ネタについては追々投下するものがあったら投下します(汗)

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2015/10/20

○支店長会議総裁挨拶を一応確認

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/siten1510.htm/(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2015/siten1507.htm/(7月)

『(1)わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)
『(1)わが国の景気は、緩やかな回復を続けている。先行きについても、緩やかな回復を続けていくとみられる。』(7月)

ということでまあここの部分って基本的に直近のMPM声明文から特にはみ出るようなのは出てこないので新味は特に無いですな。でもって以下の部分ですが、7月挨拶の時はちょうどギリシャの選挙とかあったのでそれに関する言及があって、そこの部分が今回削除されているという流れで後は全文一致になります。

しかしですな、

『(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『(2)物価面をみると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。先行きについても、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(7月)

というのを毎度の如く繰り返しているのですが、この「当面0%程度で推移」というのが3か月経っても変わらんという状況と「2016年度前半に物価2%達成」というのを組み合わせますと、それは「物価の動向が見通し通りに行っていない」という話になる筈なのですが、何故か物価の基調攻撃で見通し通りという理屈になるところがオソロシス。


○さくらレポートの現状認識に特に下方修正は無いとな

さくらレポートである。
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer151019.htm/(概要)
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer151019.pdf(全文)

なお前回の概要はこちら。
http://www.boj.or.jp/research/brp/rer/rer150706.htm/

・現状認識は全地域横ばいとな

でまあ概要の方からで『I. 地域からみた景気情勢』から。

『各地の景気情勢を前回(15年7月)と比較すると、全ての地域で景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしている。』

ほほー。

『各地域からの報告をみると、輸出や生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、国内需要は、設備投資が緩やかな増加基調にあり、個人消費も雇用・所得環境の着実な改善を背景に底堅く推移していることなどから、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。』

設備投資は「増加」なのではなくて「増加基調」なのですかそうですかという話ですが、この部分前回7月の判断と比較するとこうなります。

『各地の景気情勢を前回(15年4月)と比較すると、8地域(東北、北陸、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)で、景気の改善度合いに関する判断に変化はないとしているほか、北海道からは、生産の増加などを踏まえて判断を引き上げる報告があった。』(7月)

『各地域からの報告をみると、内外需要の緩やかな増加を反映して生産が持ち直している中で、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、全ての地域で、「緩やかに回復している」、「回復している」等としている。』(7月)

ということで、この後の項目別展開で出てくるのですが、生産の方が下がったのはさておきましても、今回の判断で思いっきり出ている「設備投資」の判断なんですが7月時点での判断と比較するとやや強気度合いが減っておりまして、今回の所で殊更設備投資を出してくるという辺りに大本営発表いや何でもないです。


ということで全地域の矢印は横向きになっているのですが、コメントは変化しているのがありますな。

関東甲信越:「緩やかな回復を続けている」→「輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている」

東海:「着実に回復を続けている」→「輸出や生産に新興国経済の減速の影響などがみられるものの、設備投資が大幅に増加し、住宅投資・個人消費が持ち直していることから、着実に回復を続けている」

近畿:「回復している」→「輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、回復している」

ということで、関東甲信越と近畿ってこれ横向きなのかよという気もする訳ですが、更にややこしいのは東海の判断でして、やたら説明が長くなっているのは何ですかという所ではありまする。


・需要項目別判断

『公共投資は、近畿から、「増加している」との報告があったほか、3地域(東北、関東甲信越、四国)から、「高水準ながら横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは、「高水準ながらも、減少傾向にある」、「緩やかに減少している」等の報告があった。』(今回)

『公共投資は、東北、関東甲信越から、「緩やかに増加している」、「足もと増加している」との報告があったほか、近畿、四国から、「高水準で横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。一方、5地域(北海道、北陸、東海、中国、九州・沖縄)からは、「高水準で推移しているものの、減少している」等の報告があった。』(7月)

近畿が引き上げ、東北と関東甲信越が引き下げ。


『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」等、5地域(関東甲信越、近畿、中国、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、東北から、「堅調に推移している」との報告があった。この間、企業の業況感については、「幾分悪化している」との報告があった一方、「改善している」、「総じて良好な水準で推移している」等の報告があった。』(今回)

『設備投資は、3地域(北海道、北陸、東海)から、「一段と増加している」、「大幅に増加している」、3地域(東北、関東甲信越、近畿)から、「緩やかに増加している」、「増加している」との報告があったほか、3地域(中国、四国、九州・沖縄)から、「底堅く推移している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、企業の業況感については、「改善している」、「総じて良好な水準が維持されている」等の報告があった。』(7月)

えーっと、設備投資なんですけれども確かに全体としての判断は増加傾向が続いているのですが、これって7月の時の判断よりも悪化しているのではないかと思う(中国、四国、九州沖縄が下がっている)のですが、前回の総括判断の所では「生産が出てきました!!」という説明だったのにそこがコケると早速設備投資の話を出してくる辺りが何とも味わいがあるというものです。


『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境が着実な改善を続けていること等を背景に、北海道から、「回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」、「全体としては堅調に推移している」との報告があった。』(7月)

個人消費は見事に全文一致なのですがホンマカイナという気もせんでもない。

『住宅投資は、東北から、「持家を中心に増加している」との報告があったほか、7地域(北海道、北陸、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「持ち直しつつある」等の報告があった。また、近畿から、「下げ止まっている」との報告があった。』(今回)

『住宅投資は、近畿から、「全体として弱めの動きとなっている」との報告があった一方、3地域(北海道、中国、九州・沖縄)から、「下げ止まっている」等、3地域(北陸、関東甲信越、東海)から、「持ち直しつつある」との報告があった。この間、東北、四国から、「高水準で推移している」、「底堅く推移している」との報告があった。』(7月)

住宅投資は上がっています。


『生産(鉱工業生産)は、新興国経済の減速に伴う影響などから、5地域(東北、関東甲信越、東海、中国、九州・沖縄)から、「このところ横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。この間、4地域(北海道、北陸、近畿、四国)から、「緩やかに持ち直している」、「高水準で推移している」、「増加している」との報告があった。』(今回)

『生産(鉱工業生産)は、内外需要の緩やかな増加を背景に、4地域(北海道、北陸、東海、近畿)から、「高水準で推移している」、「増加している」等、3地域(関東甲信越、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があった。この間、東北、中国から、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。』(7月)

こちらは先に横ばい圏の話をしているのですが、まあそうは言いましても横ばいという話で減少とか弱含みという話ではないので「新興国の影響は一時的だぜヒャッハー」という話なんでしょ。

『主な業種別の動きをみると、輸送機械は、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。また、はん用・生産用・業務用機械、電子部品・デバイス、電気機械は、「緩やかに増加している」等の報告があった一方、「弱めの動きとなっている」との報告があった。この間、化学は、「高水準で推移している」等の報告があった一方、鉄鋼は、「減産を継続している」等の報告があった。』(今回)

『主な業種別の動きをみると、電子部品・デバイス、電気機械は、「高めの操業を続けている」、「緩やかに増加している」等、化学は、「増加している」等の報告があった。一方、鉄鋼は、「操業度を引き下げている」等の報告があった。この間、はん用・生産用・業務用機械は、「減少している」等の報告があった一方、「増加している」等の報告もみられたほか、輸送機械も、「減産の動きが続いている」等の報告があった一方、「全体として高操業となっている」等の動きがみられるなど、区々の動きとなっている。』(7月)

前回の総括判断では「生産が持ち直し」となっていて、今回は「輸出や生産に新興国経済減速の影響」なのですが、個別の書きっぷりを見ると生産に関して前回対比そんなに判断を下げている感じでもないというのがさっきの設備投資の判断の前回対比と並べてみると中々ヤヤコシイですな。まあ水準感ということなのでしょうけれども。

『雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に改善している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。』(今回)

『雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は着実な改善を続けている」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「着実に持ち直している」、「緩やかに増加している」等の報告があった。』(7月)

大体強気なのは同じなのですが、雇用者所得の所で「持ち直し」というのと「改善」というのが表現として変化しているのですが、たぶん「改善」の方が判断文言としては強いと思われまする。


・地域の視点関連

毎度の『II.地域の視点』ですけれども、今回のお題は『各地域における少子高齢化・人口減少を踏まえた企業の戦略・対応状況』となっています。

『1.全体感

わが国は少子高齢化・人口減少に直面しており、先行き一段と進展していく見通しにある。こうした環境下で、各地域の企業においては、現状では人口増加が続いている都市圏を含め、業種や規模を問わず、少子高齢化・人口減少の進展への対応に取り組む動きが着実に広がっている。』

うむ。

『すなわち、多くの先で、国内市場が中長期的に縮小する想定のもとで、既存事業の競争力向上を図ったり、成長分野や海外等で新たな需要を獲得することにより、引き続き業容の維持・拡大を目指す動きがみられている。』

ということで先の方とか本文にもうちょっと詳しい話があるのですが、業務縮小や撤退という話ではないですという説明になっていて、ほほーそうなのですかと思いつつも、そもそもそういう所はひっそりと廃業していくような気もせんでもないのだが。

『また、既に顕在化している人手不足への対応として、シニア層・女性の活用や処遇改善等による人手の確保、省人化投資等を通じた所要人員の圧縮を進める先が数多くみられる。』

処遇改善等による人手の確保という話だがうーんこのというサムシングも。

『2.少子高齢化・人口減少に対する企業の受け止め方

少子高齢化・人口減少の進展に対する企業の受け止め方をみると、需要面に関しては、一部にはシニア層などの需要増加を期待する声が聞かれるものの、人口減少が先行して進んでいる地方圏の内需依存型企業を中心に、先行き国内需要の減少は避けられないと危惧する先が多い。』

そらそうですな。

『また、供給体制面に関しては、最近の国内景気の緩やかな回復もあって、既に人手の確保が困難となっている企業が少なくない状況を受け、多くの先から、更なる人手不足の深刻化が今後の事業展開の制約要因になることを懸念する声が聞かれており、地方圏を中心に実際に事業縮小や廃業に追い込まれる先もみられている。』

なるほど。

『このように多くの先がマイナス面の影響を指摘する中でも、需要の変化に応じて新たな分野での取り組みを強化する契機になり得ると捉える先が少なからずみられる。こうした先を含め、少子高齢化・人口減少への対応は、多くの先で重要な経営課題と位置付けられている。』

でまあ以下具体的な話というのがあるのですが割愛して結論部分を。

『4.先行きの展望

以上のように、多くの先では、国内需要が中長期的に減少していくことを想定しつつも、新たな需要の獲得等による業容の維持・拡大を図っている。一方で、人手不足の解消に関して、企業単独での対応には限界があるとする先がみられており、自治体や金融機関等に更なる支援を求める声も聞かれている。今後、このような面での支援機能の充実が図られるとともに、現在取り組んでいる需要の変化への対応や供給体制面での施策の成果を上げる企業が着実に増加し、地域の活性化に繋がっていくことが期待される。』

まあ暗い話にする訳にもいかんという所なのでしょうが、人手不足なら処遇をもっと上げればいいじゃないと単純に行かないというのもあるんじゃないですかね。


ちなみに最近のお題ですけれども、

『各地域における少子高齢化・人口減少を踏まえた企業の戦略・対応状況』(今回)
『各地域における消費関連企業の最近の販売動向と事業戦略』(7月)
『各地域における製造業の生産動向・生産体制』(4月)
『各地域における中小企業の現状と活力ある企業の特徴』(1月)

となっていて、何気に今回はネタが威勢良くないように見えるのですが・・・・・・・・・・・・

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2015/10/15

○うーんこのレポートは

先週金曜にこんなの出てたんですけどね。

http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/ron151009a.htm/
わが国短期金融市場の動向
――東京短期金融市場サーベイ(15/8月)の結果――

本編はこちら
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2015/data/ron151009a.pdf

でまあ概要の方のHTMLから少々。

『概要』

『短期金融市場の取引残高は増加し、特に資金調達残高は、08年の調査開始以来最高となった。』

ほほう。

『この背景として、資金調達サイドをみると、日本銀行の補完当座預金制度のもとでの超過準備の付利金利(0.1%)をメルクマールとする裁定取引の増加や、円転コストの低下を受けた外貨保有主体による円転の増加が要因として挙げられる。』

ということなのですが、「日本銀行の補完当座預金制度のもとでの超過準備の付利金利(0.1%)をメルクマールとする裁定取引の増加」としらっと書いてありますが、要するに超過準備水準が拡大される中で裁定取引という名前で調達(コールだのレポだの)と超過準備の両建てが拡大しているというお話ですわな。

つーことは現状の超過準備水準を維持していく中では既に「マネタリーベースが拡大する中で、金融機関などが投資として保有する国債を売却する(ことによってポートフォリオリバランスが進む)」というだけではなく、ただの両建てによってMB拡大が進んでおりますぞなというお話でもありますので、それってそもそも金融政策として何の意味がありますねんと突っ込みを入れたいステージということで、そうやって拡大しているMBを更に拡大して実体経済に何の意味をもたらしますねんと小一時間問い詰めたい所ですな。

まあその件をさておくとしましても、バーゼル規制のレバレッジ規制のお試し期間が今年から始まっている訳でして、こちらはリスクウェイト調整を掛けない総資産対比のレバレッジを規制する代物でありますから、そもそも上記の裁定取引がいつまでも出来るわけでもない訳で、先ほどネタにした国債買入フローの方もそうなのですが、「超過準備を誰が持つのか」という点でもMB拡大がどこまでできますねんというお話になると思うのですけどねえ。

『他方、資金運用サイドをみると、株価上昇を受けて増加した余剰資金を投資信託等の主体が短期金融市場で運用したほか、海外貸付や外貨資産投資を企図した円投取引が増加した。こうした中、国庫短期証券の利回りが概ねゼロ近傍で推移したことを背景に、運用利回りの確保を企図して、コール市場(無担保コール市場および有担保コール市場)において運用を増加する動きもみられている。』

>国庫短期証券の利回りが概ねゼロ近傍で推移した
>国庫短期証券の利回りが概ねゼロ近傍で推移した
>国庫短期証券の利回りが概ねゼロ近傍で推移した

どうみてもマイナス水準なのですが何でこういう所で大本営発表するかね。

『この間、短期金融市場の機能度については、利回りの低下等を背景に、全体の2割程度の先が「低下した」と回答したものの、全体の7割程度の先は「概ね変わらない」と回答した。』

全体で、と言えばそら短国のアウトライト以外は概ね変わらないという答えになるのでしょうが、リスクフリー資産であるところの短国アウトライト市場が壊滅しているのって問題のレベルが非常に大きいのですけどねえ。

『これらの点を踏まえると、わが国の短期金融市場の機能は全体として維持されていると考えられるが、日本銀行としては、今後とも短期金融市場の動向を、日々のモニタリング活動や本サーベイ、市場参加者との対話などを通じて、適切にフォローしていく考えである。』

そらまあ「機能が維持されていません」とか言い出すと金融政策の副作用ガーという話になるというのは分かるのだが、もうちょっと物の言い方というのは無いのかと小一時間ではあります。

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2015/10/14

○9月決定会合議事要旨を鑑賞

うむ。
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2015/g150915.pdf

・中国経済と新興国経済の辺りから参ります

『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要 』の海外経済の最初は例によって例の如く、

『海外経済について、委員は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いているとの認識を共有した。先行きについても、委員は、基調として先進国を中心に、緩やかな成長が続くとの見方で一致した。 』

となっていますが、では中国と新興国に関してはどうなのかという事で後半から参ります。

『中国経済について、委員は、総じて安定した成長を維持しているが、製造業部門を中心に幾分減速しているとの認識で一致した。そのうえで、多くの委員は、景気の減速に対して当局は既に金融・財政面での対応を行っており、また今後の政策対応余地も比較的大きいとの見方で一致した。』

ふむふむ。

『この間、何人かの委員は、地方政府の財政問題や資本流出の懸念など、景気対策が効果を発揮していくうえでの懸念材料を指摘した。このうち一人の委員は、中国の金融当局の政策対応について、分かりやすい情報発信がなされることが期待されると述べた。』

先般の泡吹き対応が何ともですけど。

『また、複数の委員は、不動産市場の持ち直しや、とりわけ大都市圏の住宅価格が反転していることなどを指摘したうえで、中国経済についてこのところ過度に悲観論が拡がっている面もあるとの見方を示した。』

まあこの辺はどうなんでしょうね。

『先行きについて、委員は、製造業部門を中心に幾分減速しつつも、当局が景気下支え策に積極的に取り組むもとで、概ね安定した成長経路を辿るとの見方を共有した。そのうえで、委員は、中国経済の減速が世界経済に与える影響については、引き続き注視していく必要があるとの認識で一致した。』

ただ安定した成長経路ではドライバーにはならないですよねとは思いますが、続いて新興国。

『新興国経済について、委員は、このところ減速しているとの見方を共有した。何人かの委員は、その背景として中国経済の減速と資源価格下落の影響を指摘した。このうち一人の委員は、いくつかの新興国において、資本流出を伴うかたちで通貨安・株安が生じている点には注意が必要であると述べた。』

さいですな。

『先行きの新興国経済について、委員は、当面、減速した状態が続くが、やや長い目でみれば、先進国の景気回復の波及や金融・財政面からの景気刺激策などによる内需の持ち直しから、成長率が徐々に高まっていくとの見方を共有した。』

やや長い目でみればというのは色々と便利(?)な言葉で、何せ予想物価上昇率も「やや長い目でみれば全体として上昇」ですからね!!!!!


・前向きの循環メカニズムがワークしているといつまで言い続けられるのやら

『以上のような海外の金融経済情勢を踏まえて、わが国の経済情勢に関する議論が行われた。』

ということで国内経済になりますが、

『わが国の景気について、委員は、輸出と生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているが、国内需要の面では、前向きな投資スタンスが維持されているほか、個人消費が底堅く推移しているなど、家計・企業の両部門において、所得から支出への前向きな循環メカニズムがしっかりと作用し続けており、緩やかな回復を続けているとの認識を共有した。』

『景気の先行きについて、委員は、所得から支出への好循環が続くもとで、緩やかな回復を続けていくとの見方で一致した。』

なんちゅうか「輸出と生産は伸びないけれども前向き循環メカニズム」って何じゃそらという感じですが、所得から支出へのメカニズムがワークしても生産伸びないのにサステイナブルにメカニズムがワークするもんなのかいなという気はだいぶする。

以下項目別展開ですけれども色々と謎な話があって非常にアレ。


・輸出は新興国が回復して回復ということのようですが

『輸出について、委員は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。委員は、その背景として、中国をはじめとして新興国・資源国経済が減速する中で、世界的に貿易・生産活動が停滞していることや、IT関連需要の弱さが挙げられるとの認識を共有した。』

ふむ。

『一人の委員は、最近の輸出の減少が一時的要因によるものであれば、反動増がみられるはずだが、これまでのところ、そのような動きは小さいと述べた。』

イイシテキダナー。

『先行きの輸出について、大方の委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。そのうえで、多くの委員が、中国を含む新興国経済の減速が長引いた場合のわが国の輸出や国内景気への影響については注意が必要であると指摘した。』

これしらっと書いてますけど、そもそも「新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて」って言ってますが、その新興国経済は先程の部分で『当面、減速した状態が続くが、やや長い目でみれば』回復するでしょうという見込みになっておりますので、それって要するに「当分ダメです」というお話なのではないかと存じます。

ただまあここれキチンと予防線が張ってありまして、先ほどの部分にありますように「所得と支出」だけで循環メカニズムが回るという(ホンマカイナという)理屈になっていますので、輸出が伸びないであろうという事に関しては知らんがなという風にとぼけるのが可能(日銀的な屁理屈の上では、という意味で実際の経済がどうなのかというのは別問題)という事になるのがアレです。


・設備投資に関する議論の記述に大本営発表的なテクニックを感じる件

その次が企業部門です。

『企業収益について、多くの委員は、円安や原油安の効果もあって新興国経済の減速にもかかわらず改善を続けており、過去最高水準まで増加していると述べた。』

まあこれは良いとして、

『設備投資について、委員は、企業収益が明確な改善を続ける中で、緩やかな増加基調にあるとの見方で一致した。』

出る出る詐欺っぽいのですがまあそれはともかくとして。

『ある委員は、法人企業景気予測調査をみると、景況感は前回調査時の見通し対比悪化しているものの、2015 年度の設備投資は製造業で大きく増加する計画が維持されているうえ、製造業・中小企業の設備投資の理由の第1位として「生産能力拡大」が挙げられていることを指摘し、前向きな動きとして注目していると述べた。別の一人の委員は、仕入価格を反映する企業物価がこのところ低下していることもあって、中小企業を含め企業収益は幅広く増加しており、企業が支出を拡大するための環境は整っていると述べた。』

ほー。

『一方、多くの委員が、新興国の減速を受けた輸出の弱めの動きなどが、好調な収益環境にもかかわらず、設備投資を下押しするリスクがあるとの見方を示した。』

あれ????

・・・・・・・・・・・えーっとですね、この部分の記述なんですけど、サラッと読んでいると前半の威勢の良い話がああだこうだと書いてあるので先行きが明るいという話に読んでしまいそうなのですが、良く良く見ますと「ある委員」と「別の一人の委員」が威勢の良い話をしている部分を先に丁寧に記述していまして、良く良く見ると「多くの委員」は下押しリスクを指摘していまして、しかもそっちの方が優勢な見解になっているのに、文章作成テクニックによりまして設備投資の先行きに関して明るい話の方が印象的になる、という風になっているのが実にこうお洒落というか大本営テイストというかになっていまして、戦況が悪化してくると大本営発表に磨きが掛かる的な香りを感じてしまったのは気のせいでしょうか。


・雇用所得環境に関して

『雇用・所得環境について、委員は、労働需給が着実な改善を続けるもとで、雇用者所得は緩やかに増加しており、先行きも、経済活動や企業業績の回復につれて、緩やかな増加を続けるとの見方で一致した。』

ほうほう。

『何人かの委員は、名目賃金は、毎月勤労統計のサンプル替えの影響で基調が読みにくくなっているが、ベースアップの効果から、所定内給与は緩やかに上昇率が高まっているなど、改善傾向にあるとの見方を示した。』

『夏季賞与に関連して、ある委員は、7月の毎月勤労統計の特別給与が低い伸びにとどまった一方、同月の家計調査報告の実質収入の前年比は高い伸びを示しており、毎月勤労統計のサンプル替えの影響などを勘案すると、夏季賞与は相応に上昇したとみるのが実態に近いのではないかと述べた。』

だそうなのですがそれならもっと消費が強くならないのかねとは思う。

『また、雇用者所得について、複数の委員が、家計調査報告の勤労者世帯の収入をみると、前年比でしっかりと増加を続けていると述べた。さらに、これらの委員は、同調査において、このところ配偶者の収入が高い伸びを示していることを指摘したうえで、配偶者の労働参加が進むことを通じて家計の所得が高まっているとの見方を示した。』

というと美しいのですが、それは生活費の上昇に所得の上昇が追い付かないので配偶者が労働参加を進めないとマズーという事を示しているだけなのかも知れませんぜ。

『また、別の一人の委員は、所得環境という点では、4〜6月に実質GDPが前期比マイナスとなる中でも、実質GNIは堅調に増加しており、マクロでみた所得形成のモメンタムは着実に強まっていると述べた。』

ほえ?

『実質賃金について、複数の委員は、今年は昨年と違って消費税率の引き上げがなく、原油価格は昨年と比べて低下していることから、実質賃金も持続的なかたちで前年比プラスで推移していくとの見方を示した。』

来年度前半には物価が2%になるのになぜ持続的に前年比プラスで推移できるのか小一時間問い詰めたい。


・消費について

『個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、底堅く推移しているとの認識を共有した。』

『多くの委員は、このところ天候不順の影響などにより一部でもたつきがみられていたが、消費者マインドが改善傾向にあるほか、雇用・所得環境も着実に改善を続けていることから、全体としては底堅さを維持しているとの見方を共有した。』

『この点、ある委員は、家計調査報告で勤労者世帯の実質消費支出をみると、天候要因の影響を受けた6月以外は前年比プラスで堅調に推移していると指摘した。』

もっと伸びないと前向き循環メカニズムで2%目標達成にならんように思えますがまあそれは兎も角。

『先行きの個人消費について、委員は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとの見方で一致した。最近の株価下落の影響に関して、ある委員は、消費に与える悪影響は限定的なものにとどまるとの見方を示した。』

まあ別に株が上がったからと言って全体的な消費が底上げされた訳ではない(高額品とかは別ですが)のですから逆も然りでしょう。

『別の一人の委員は、消費者マインドが改善しているものの、その水準は高くないとの認識を示したうえで、先行き実質所得が高まっていくとの期待が十分強いとは言えないため、今後の消費回復ペースも緩慢なものとなるとの見方を示した。』

激しく同意。


・生産も「新興国が戻ると戻る」だそうで

次の住宅の部分はパスしまして生産ですが、これもまた輸出と同様で・・・・・・・・

『鉱工業生産について、委員は、新興国経済の減速に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの認識で一致した。委員は、企業の生産活動は、内外需要の緩やかな増加を背景に持ち直してきたが、新興国経済の減速の影響や世界的なIT関連需要の弱さに加え、軽乗用車の在庫調整が長引いていることもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっているとの見方を共有した。』

輸出の所と同じ話に加えて軽乗用車の在庫調整の話がありますな。

『先行きの生産について、委員は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱し、在庫調整が進捗するにつれて、緩やかに増加していくとの見方で一致した。』

お、おぅ・・・・・・・・・・

『一人の委員は、新興国・資源国の情勢等から下方リスクに留意する必要はあるが、収益環境が良好であることや資源価格の下落が、外需の悪化に対する日本経済の耐性をもたらしており、マインド面での悪化もみられないことから、先行きは踊り場を脱して緩やかな回復に復していくとの見方を示した。』

ということで、どうも見通しにある「前向き循環メカニズム」からは輸出と生産をスルーしても回るという割と斬新な話を9月の時点で既に示していまして、だからこそ先般ご紹介しましたように、先日の金融政策決定会合後の黒田総裁会見で「ご承知のようにGDPに占める鉱工業生産の影響、シェアは多分2割ぐらいだと思います。(略)鉱工業生産は重要ではありますが、それが大半を決めるという状況ではないと思います。」という斬新な説明が飛び出すという事になったわけでして、まあそういう屁理屈が展開されていたのだろうなあと想像はついていたものの、9月議事要旨で確認できたというものでありまする。


・金融政策論議の部分だが物価の話はまあいつも通りに「基調」攻め

『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』から。

『以上のような金融経済情勢についての認識を踏まえ、委員は、当面の金融政策運営に関する議論を行った。』

てな訳で。

『多くの委員は、「量的・質的金融緩和」について、所期の効果を発揮しているとの認識を共有した。』

本当に発揮していたら今頃2%達成とかいうのは措きまして。

『これらの委員は、需給ギャップや中長期的な予想物価上昇率に規定される物価の基調は、今後も改善傾向を辿るとの見方で一致した。多くの委員は、「量的・質的金融緩和」の導入以降、名目金利が低位で安定的に推移するもとで、やや長い目でみた予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下しているとの認識を示したうえで、そのことが企業・家計の支出行動を支えていると述べた。』

元々の置物理論だと実質金利が低下すると「需要が喚起される」でしたが最近は(別に今回だけではなくて前からこう書いてますので念のため)支出行動を「支える」になっておりますよね。

『委員は、新興国の減速に伴い、このところ輸出や生産が横ばい圏内の動きとなっているものの、「量的・質的金融緩和」のもと、国内需要の堅調さは引き続き維持されているとの認識を共有した。』

って国内だけでサステイナブルに回りきれるのかというのはどうなんでしょうかねえ。


『金融政策を運営するうえでの物価動向の判断について、委員は、「物価安定の目標」は安定的に達成すべきものであり、金融政策運営に当たっては、物価の基調的な動きが重要であるとの認識を共有した。』

基調キタコレ。

『多くの委員が、7月の消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)の前年比がプラス幅を拡大したことや、消費者物価(除く生鮮食品)の上昇品目比率から下落品目比率を差し引いた指標が一段と上昇していることなどを指摘し、物価の基調は改善を続けているとの見方を示した。』

ということで色々なものを見て判断、というのはその通りではありますが、どうもこう自分たちの政策決定に対して都合の良いものを殊更に取り出している感がありますが、つまりはこういう色々な数値を出してきて「基調は〜」という方向で物価は堅調というストーリーを作ろうとしているというのは把握した。

『このうち何人かの委員は、今後、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、一時的にマイナスになる可能性に言及したうえで、そうした動きは原油価格下落の影響がラグを持って続いているためであり、物価の基調が変化したことを示すものではないとの見方を示した。』

マイナス転しても基調に変化なしだそうです。去年は原油下がって急に実際の物価動向によって予想物価上昇率の低下懸念がとか言ってたのにね〜。



・賃金の部分で焦げ臭い表現が・・・・・・・・・・・・

『委員は、2%の「物価安定の目標」の実現に当たっては、賃金の上昇を伴いつつ、緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要であるとの認識を共有した。』

>緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要
>緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要
>緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要
>緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要
>緩やかに物価上昇率が高まっていくことが重要

ここが怪しいのですが、前回8月の議事要旨ではこの部分が・・・・・・・・・

『何人かの委員は、「量的・質的金融緩和」のもとで、2%の「物価安定の目標」を実現するに当たっては、雇用・賃金の増加を伴いながら、物価上昇率が高まっていく、という状態を作り出していくことが大切であり、このところの賃金・物価動向をみると、そうしたメカニズムが働き始めているとの認識を示した。』(8月の決定会合議事要旨より)

となっていて、今回「緩やかに」物価上昇率が高まっていくことが重要となっていまして、えーっとすいません緩やかに上昇していくのが重要だというのと2016年度前半には2%に到達というのとの整合性はどうなっているのかと小一時間問い詰めたいのだが、これはどうも「2%目標」についてそもそも2年で達成はとっくの昔に空文化していますが、この直後に出てくるアベノミクス第2弾において金融緩和で2%早期達成が最前線から一歩引いている(別になくなったわけではないが)のと合わせて考えると何となく焦げ臭いものを感じるのは考えすぎでしょうかねえ。

『この点、多くの委員は、企業収益が過去最高水準となっていることを踏まえると、名目賃金の上昇ペースは緩やかなものにとどまっているとの見方を示した。これらの委員は、「量的・質的金融緩和」を着実に推進していくことによって、企業が賃上げを実施しやすい環境を維持・促進していくことが必要であるほか、政労使会議など、賃上げに向けた企業努力を促すような働きかけや施策も重要であるとの見方を示した。 』

賃上げしろと日銀まで仰せですが、ちなみにこんなのありました。

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/rel151013a.htm/
日本銀行職員の給与等の概要について

#ベア増加よりも年収ベースの増加の方が大きいですかそうですか


・予想物価上昇率ではブーメランが投擲されていますな

『予想物価上昇率について、委員は、やや長い目でみれば全体として上昇しているとの見方で一致した。』

まあいつもの話。

『複数の委員は、2年連続でベースアップが実現し、今年度は価格改定の動きに拡がりと持続性がみられることを指摘したうえで、予想物価上昇率については、市場の指標やサーベイ調査だけでなく、こうした企業の価格設定スタンスなどをみていくことも重要であると述べた。』

という話を9月には行っているのですが、短観でこれが盛大なブーメラン投擲になっているのがワロタとしか申し上げようがない。ちなみに10月の総裁会見では・・・・・・・

『(答) ご指摘のように、短観で企業の販売価格の見通し、あるいは仕入価格の見通しも若干下がっていることは事実です。仕入価格の見通しの方がやや下がっており、その背景には石油その他輸入原材料の価格が低下していることが影響しているようにも思われます。販売価格の下がり方よりも仕入価格の下がり方が大きいので、企業収益はさらにそこから増えることになってくるわけです。(以下割愛)』(10月決定会合後の総裁会見より)

となっておりますがね!!!!

『別のある委員は、市場関連の予想物価上昇率指標が低下している点について、原油価格の動きとともに欧米の類似の指標と連動している面が大きいとの見方を示した。』

ワロタ。

『こうした議論を踏まえ、多くの委員は、先行き、物価の基調を規定する需給ギャップは着実に改善し、予想物価上昇率も高まっていくことから、原油価格下落の影響が剥落するに伴って消費者物価は伸び率を高め、2016 年度前半頃に2%程度に達する可能性が高いが、原油価格の動向によって多少前後する可能性があるとの見方を共有した。』

お、おぅ・・・・・・・・・


・木内さんの提案と反対意見なのですが・・・・・・・・・・

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は、実質金利の低下が一巡する中で限界的に逓減しており、国債市場の流動性に与える影響などの副作用が既に効果を上回っていると述べた。また、タームプレミアムを押し下げる効果が低下している可能性や、市場が資産買入れの限界を意識することで、その効果がさらに減殺されている可能性もあると指摘した。』

提案内容はご案内の通りなので割愛しますが前月の説明は以下の通り。

『一方、一人の委員は、「量的・質的金融緩和」の効果は逓減しており、導入時の規模であっても、その追加的効果を副作用が既に上回っていると述べた。この委員は、副作用として、金融面での不均衡の蓄積や国債市場の流動性に与える影響に加えて、金融緩和の正常化の過程で日本銀行の収益が減少し、自己資本の毀損や国民負担の増加にも繋がりうることを指摘した。』(8月議事要旨より)

比較してみると味わいがありますが、ではかみついている2名の見解はと言いますと・・・・・・・・・

『これに対して、ある委員は、中国経済が減速しており、その影響が懸念されるもとで、金融緩和の程度を縮小することは適当ではないとの見方を示した。』

木内さんの提案も緩和拡大であって拡大ペースが減るだけなんですけどねえと思いますし、何で「中国経済が減速しており」で反対になるのかが良く分からん。

『別の一人の委員は、「量的・質的金融緩和」はタームプレミアムの押し下げ以外にも、予想物価上昇率への働きかけなど、複数の経路を想定した政策であり、政策効果は幅広い観点から分析していく必要があると述べた。』

じゃあ何がどう効いているのか分析してください。


・・・・・・・とまあ毎度の噛みつきなのですが、最初の頃に比べてここのトーンが落ちているのが印象的でありまして、何せ当初は「副作用は理論的にも現象面でも観測されない(キリッ)」とかカミツキガメ状態になっていたのに、ここに来て随分大人しくなっている辺りもこれはもしかして政策委員会のトーンが置物リフレ理論に対して相当距離を置いてきているという焦げ臭さがあるのか(あたくしのべき論的願望がはいっているような気がするので念のため申し添えます)もしれないとちょっとこの辺を読んでウキウキしているアタクシがいるのでありました。

ちなみに前回前々回はこういう噛みつきになっておりました。

『これに対して、複数の委員は、金融政策の遂行に当たっては、日本銀行の財務の健全性に配慮しつつも、物価安定の実現という政策目標を最優先すべきであるとの見方を示した。そのうえで、委員は、「量的・質的金融緩和」のもとでは、従来より収益の振幅が大きくなると見込まれることを踏まえ、日本銀行の財務の健全性を確保する観点から、平成 25 年度および 26 年度決算では、財務大臣の認可を受けて、剰余金について、法定の5%を超える金額を準備金として積み立てていることを確認した。また、ある委員は、正常化の過程での国民負担を論じるのならば、金融緩和の過程での日本銀行の収益の増加や景気回復の利益についても考えるべきだと述べた。』(8月議事要旨より)

『これに対し、何人かの委員は、消費者物価上昇率が0%程度で推移するなど2%の「物価安定の目標」に向けてなお途半ばである現時点での減額開始は、政策効果を大きく損なうとの見方を示した。複数の委員は、現状、金融面での不均衡や金融緩和の副作用を示す理論や事実に基づく具体的な根拠はないと述べた。このうちある委員は、減額開始が金利の急上昇や実体経済の悪化を招くおそれがあるほか、金融政策の遂行に当たっては、日本銀行の収益よりも、物価安定の実現という政策目標を優先すべきであると付け加えた。また、この委員は、短期間での「物価安定の目標」の達成が難しいと主張しながら、金融緩和スタンスを後退させるのは矛盾しているとも述べた。』(7月議事要旨より)

・・・・・・・なんかこう段々威勢が悪くなっているように見えるのですがこれはどういうインプリケーションがあるのやらという事で、まあ勝手読みすると置物リフレ理論の退場近し(理論は退場するけど置物が退場するとは思いませんがね)なのかも知れませんよ、というのは少々読み過ぎであることはご承知おき頂きたいとしつこいですけど申し添えます。

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2015/10/13

○金融経済月報なんですけどね

http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1510.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/gp_2015/gp1509.pdf(前回)


・声明文が基本的に同じなので現状判断はまあ同じ

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(前回)

ということで全文一致。

『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(今回)

『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(前回)

はあそうですか。

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。この間、企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している。』(今回)

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(前回)

ということで現状認識に関しては声明文で示されている通りで、短観に関する部分が書かれている(大企業製造業の現状判断DIが下がったので「一部にやや慎重な動き」という表現になっている)だけの変化ですね。


・先行き見通しですが

『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(前回)
『先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくとみられる。』(今回)

ここまでは声明文にありますな。

『輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

『輸出は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱していくにつれて、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)

見通しは同じとな。

『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が明確な改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加を続けると予想される。』(今回)

『国内需要については、公共投資は、高めの水準を維持しつつも、緩やかな減少傾向を続けるとみられる。設備投資は、企業収益が明確な改善傾向をたどるなかで、緩やかな増加を続けると予想される。』(前回)

ここも同じ。

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直しを続けると予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、緩やかに増加していくと考えられる。』(今回)

『個人消費は、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、引き続き底堅く推移するとみられる。住宅投資は、持ち直しを続けると予想される。以上の内外需要を反映して、鉱工業生産は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、緩やかに増加していくと考えられる。』(前回)

・・・・・・・・・ということで先行きの見通しも全然下げていないというこの大本営発表モードはナンナンデスカというオソロシイ内容。

#リスク要因の比較はめんどいので割愛します


でもって内容の部分で少々ツッコミを入れたいのですが、図表に関しては貼り付けをするスキルがございませんので図表なんちゃらという部分はすいませんが日銀のページを参照にしてちょ。


・生産の部分の説明が何とも

本文10ページになるのですけどね。

『鉱工業生産は、新興国経済の減速に加え、在庫調整の動きもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている(図表 20)。企業の生産活動は、昨年末以降持ち直してきたが、新興国経済の減速の影響や、世界的なIT関連需要の弱さに加え、軽乗用車の在庫調整が長引いていることもあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』

とありまして、図表20というのがPDFの43枚めにあるのですが、これ目盛をあまり細かくして出していないから分かりにくいのですが、直近盛大に落ち込んでいるような図にしか見えないのに堂々の「横ばい圏内」となっている所が実にアレ。なお先行き急上昇しているように見えるのは予測指数を反映しているからであることは言うまでもありません。

まあ落ち込んでいるにしてもゼロ近傍なら「横ばい圏内」とか言えるのかもしれませんが、マイナスに盛大に突っ込んでいる中で横ばい圏内とはこれいかにという感じですけど、先行き見通しは以下の通りになります。

『先行きの鉱工業生産は、当面横ばい圏内の動きを続けるとみられるが、その後は、新興国経済が減速した状態から脱し、在庫調整が進捗するにつれて、緩やかに増加していくと考えられる。企業からの聞き取り調査などを踏まえると、7〜9月の鉱工業生産は、前期比で小幅のマイナスも含め横ばい圏内で推移すると見込まれる。』

うーんこの。業種別の見通しはご参考までに。

『業種別にみると、はん用・生産用・業務用機械は、中国向けの金属工作機械や産業用ロボットを中心に減少すると予想される。輸送機械は、北米向けが堅調に推移する一方、国内向けは軽乗用車の在庫調整の影響などから、減少すると予想される。鉄鋼も、アジア需給の悪化や軽乗用車の販売不振に伴う在庫調整の動きから、ペースを鈍化させつつも減産が続くとみられる。電子部品・デバイスは、中国のスマートフォン関連需要の伸び悩みを主因に減少すると見込まれる。』

『一方、化学は、化粧品などの日用品が訪日外国人向けを中心に堅調に推移するもとで、石油化学関連のプラント定期修理の終了の影響もあって、しっかりとした増加に転じる見込みである。10〜12 月については、海外需要の動向を巡って不確実性は高いが、生産は再び増加に転じるとの感触である。』

『業種別にみると、輸送機械は、海外需要が北米向けを中心に堅調に推移するもとで、生産拠点の国内回帰の動きや国内向けの新車投入効果もあって、増加すると予想される。電子部品・デバイスも、新型スマートフォン向けの部品を中心に、増産に転じると予想される。化学は日用品などを中心に増産が続き、鉄鋼も自動車関連を中心に8四半期振りの増加に転じる見通しにある。一方、はん用・生産用・業務用機械については、海外向けの半導体製造装置や金属工作機械が弱めに推移するもとで、国内向けの土木建設機械において排ガス規制強化前の作り込みの反動減が予想されることから、全体として減少すると考えられる。 』

だそうです。


・物価に関しては大勝利宣言の布石が着々と打たれています

物価に関しては色々とああでもないこうでもないと説明していますが。

『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、0%程度となっている(図表 30(1))。8月の前年比をみると、除く生鮮食品は−0.1%と前月(0.0%)から伸び率がわずかに低下し、2013 年4月以来のマイナスとなっている。一方、除く食料・エネルギーは+0.8%と、前月(+0.6%)から小幅にプラス幅を拡大している。基調的な変動を捉えるひとつの方法として、刈込平均値をみると(図表 31(1))、このところ振れを伴いつつ0%台半ばで推移している。』

『除く生鮮食品・エネルギーの前年比をみると(図表 31(2))、1〜2月をボトムに再び伸びが高まってきており、8月は+1.1%と、昨年2月の直近ピーク(+0.9%)を上回っている。』

>昨年2月の直近ピーク(+0.9%)を上回っている
>昨年2月の直近ピーク(+0.9%)を上回っている
>昨年2月の直近ピーク(+0.9%)を上回っている

昨年の2月と言いますと消費増税直前の駆け込みでヒャッハー気味になっていた時期で、この時期には日銀大勝利宣言モードのときでして、その時を上回っているという文言をしらっと入れている辺りがなんとも怪しげ。


『この間、消費者物価を構成する各品目の前年比について、上昇品目数の割合から下落品目数の割合を差し引いた指標をみると(図表 31(3))、4月以降、はっきりと上昇しており、足もとでは直近ピーク(2008 年10月)を明確に上回る水準で推移している。 』

>足もとでは直近ピーク(2008年10月)を明確に上回る水準で推移している
>足もとでは直近ピーク(2008年10月)を明確に上回る水準で推移している
>足もとでは直近ピーク(2008年10月)を明確に上回る水準で推移している

2008年と言えば円安原油高で物価が跳ねた時(まあその後海外金融危機で死亡しましたが)という訳でございまして、これまた味のある表現が打ち込まれております。


ちなみに項目別展開。

『最近の消費者物価の前年比をみると、財(除く農水畜産物)は、石油製品を除いてみれば、このところ着実な改善を続けている。』

「石油製品を除いてみれば」だそうです。

『内訳をみると、食料工業製品は、個人消費が持ち直すなかで、4月以降、為替相場の動きによるコスト高の転嫁を背景に、幅広い品目で値上げの動きがみられることから、プラス幅の拡大傾向が続いている。』

強気の価格設定で値上げとはさすがに書いていない辺りはお洒落。

『耐久消費財は、2月をボトムに伸びが高まっており、6月以降は、テレビや白物家電の値上げにも支えられて、プラス幅がはっきりと拡大している。その他財についても、5月以降、生活関連財等の値上げの動きなどから、プラス幅を拡大している。』

『一方、石油製品は、原油価格の動きを反映して、昨年 11 月以降、振れを伴いつつも、下落幅の拡大傾向を続けている。この間、被服は、振れを均せば、小幅のプラスで推移している。 』

うむ。

『一般サービスは、昨年6月以降0%程度で推移していたが、このところ伸びを高めている。』

ほほう。

『仔細にみると、外食が、4月以降、原材料高や賃金上昇を背景とした値上げが幅広くみられていることから、プラス幅をはっきりと拡大している。他のサービスも、このところ緩やかにプラス幅を拡大している。』

コストプッシュ・・・・・・・・・・まあ賃金上昇が消費増につながっていれば前向き循環ですけどね。

『内訳をみると、携帯電話通信料は、6月以降、昨年同時期の新料金導入による押し下げ効果が減衰し、8月には完全に剥落した。宿泊料は、堅調な訪日外国人需要を背景に、振れを伴いつつも、しっかりとしたプラスを続けている。また、家事関連サービスの一部には、人件費上昇を背景とした値上げの動きがみられている。もっとも、医療・福祉関連サービスや教育関連サービスには、そうした動きは窺われないほか、外国パック旅行は、このところ弱めの動きが続いている。この間、ウエイトの大きい家賃は、小幅の下落が続いており、年度替わりの4月以降も基調に変化はみられていない。 』

家賃に関してはさておきまして、結局の所コストプッシュの価格転嫁が出来る所は転嫁しているけれども、そうじゃない所は価格転嫁できなくてキツイという状態になっているのではないかと。

『公共料金については、4月以降、伸び率のはっきりとした低下が続いており、8月は前月から下落幅が一段と拡大している。これは、4月以降、制度変更に伴う保育所保育料の下落などが下押しに作用するもとで、燃料費調整制度に伴う電気代・ガス代の押し下げ寄与がはっきりと拡大していることによる。』

まあこれはよろし。

『国内の需給環境について、9月短観をみると(図表 32)、製商品・サービス需給判断DIは、大企業と中小企業の間で若干のばらつきがみられるものの、総じてみれば、昨年初にかけて改善したあと、横ばい圏内の動きとなっている。生産・営業用設備判断DIと雇用人員判断DIの加重平均である短観加重平均DIは、6月に新卒採用の影響もあってわずかに悪化したが、9月は再び「不足」超幅を拡大しており、先行きも同様の傾向が続くと見込まれている。この間、販売価格判断DIについては、景気回復を背景に既往のコスト高を転嫁する動きが続くもとで、非製造業を中心に緩やかな改善傾向を続けていたが、足もとでは商品市況の下落の影響からやや弱含んでいる。 』

短観は需給ギャップの改善傾向だそうで。

『この間、予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる(図表 33)。 』

でまあこの図表33の所なのですが、毎度毎度予想物価上昇率についてはこの一言で済ませているのですけれども、この図表33を見てますと、『(1)家計の予想物価上昇率』ではきっちり下向き、『(2)エコノミストの予想物価上昇率』は『2〜6年度先の予想物価上昇率(ESPフォーキャスト)』は横ばいですがより長期の『6〜10年先の予想物価上昇率(コンセンサス・フォーキャスト)』は下向き、『(3)市場参加者の予想物価上昇率<QUICK調査>』は盛大に下を向いており、『 <物価連動国債のBEI>』では短い物国のBEIだけ上がっていますが、これは期近マジックによるものなので参考になりません。

・・・・・・・・・ということで、添付されている図表33の何処をどう見るのと「予想物価上昇率は全体として上昇」となるのかさすがにこれは理解に苦しむとしか申し上げようがないのですが、もうちょっと明快な説明を求めたいですし、説明できる別のデータがあるならそれをちゃんと出して頂きたいものですな。

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2015/10/08

○決定会合レビュー雑談

・市場のプライスアクションは中々味があった件

昨日の金融政策決定会合は順当に12時に結果公表となって、債券は昼休みになりますのでさておきまして、株価指数先物とかドル円とかについては「追加緩和実施せず」→「株安円高」というファーストアクションがあった訳ですけれども、その後しばらくすると株はホイホイと値を戻すわドル円はホイホイと値を戻すわという展開になりまして、債券市場ちゃんも後場寄り後に下げて前場の安値(そもそも何で前場下げましたねんという所でもあるのだが)にツラ合わせに来たのですが、そこですかさず買いが入って戻るの巻。

ということで、追加緩和が無くて失望売りがどうのこうのとか恫喝まがいのレポートなんぞが出ていたりもしていたような気がしますが、追加緩和に関しては期待する動きもあったにしても「追加緩和が無かったら売られるだろうからそこで買いですな」という向きも入っていて、その人たちの動きの方が目立ったという事でしょうか(^^)。


・声明文:ものの見事に何も変化がないという攻撃キタコレ

http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k151007a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2015/k150915a.pdf(前回)

『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(今回)
『わが国の景気は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられるものの、緩やかな回復を続けている。』(前回)

ということで声明文の比較なのですが・・・・・・・・・・

『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(今回)
『海外経済は、新興国が減速しているが、先進国を中心とした緩やかな成長が続いている。輸出や鉱工業生産は、新興国経済の減速の影響などから、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(前回)

うむ。

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。この間、企業の業況感は、一部にやや慎重な動きもみられるが、総じて良好な水準を維持している。』(今回)

『一方、国内需要の面では、設備投資は、企業収益が明確な改善を続けるなかで、緩やかな増加基調にある。また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直している。この間、公共投資は、高水準ながら緩やかな減少傾向に転じている。』(前回)

ということで、今回変化があるのは短観を受けて出ている業況感のコーナーでして、前回が7月会合の文言になりますが、前回は「企業収益が改善するなかで、業況感は総じて良好な水準で推移しており」だったのが今回やや表現が弱くなっています。

でまあそこを見ておーという事も可能は可能なのですが、これは今回の短観で大企業製造業の業況判断DIが前回よりも下がったために「一部にやや慎重」という表現を入れているという所だと思われまして、そこまで大きな意味があるという印象はない。

『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(今回)
『わが国の金融環境は、緩和した状態にある。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、0%程度となっている。予想物価上昇率は、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。』(前回)

金融環境とか物価とかの所も相変わらず同じ。


先行き見通し以降も同じです。

『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(今回)
『先行きのわが国経済については、緩やかな回復を続けていくとみられる。消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面0%程度で推移するとみられる。』(前回)


『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(今回)
『リスク要因としては、新興国・資源国経済の動向、欧州における債務問題の展開や景気・物価のモメンタム、米国経済の回復ペースなどが挙げられる。』(前回)


『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(今回)

『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(前回)

ということで、引用するまでも無いのではって勢いのコピペ決定会合声明文でございまして、足元生産が弱い指標が出ているとか賃金の指標があまりぱっとしないですよねとか、そういう話は盛大にスルーして先月と同じです攻撃恐るべしという所ですな。

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2015/10/05

○物価に関する2本のアンケート

・短観の企業に関する物価がどうのこうの

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/bukka/2014/tkc1509.pdf

『1.販売価格の見通し(現在の水準と比較した変化率)』を見ますと今回は全業種、全規模に渡って見通しが下がっていまして、短観の価格判断DIの落ち振りからしてそうなるでしょうなあとは思いましたがぐぬぬという下げ方です。しかも全体でみても▲0.2〜▲0.3%とかになっていますし。

でもってざっと見ますと「5年後」の見通しの下げ方が大きめに出ていまして、足元の仕入れ価格一段落という問題もあるかも知れませんけれども、非製造業とかでも落ちて来ているという感じになっておりますのはこれ賃金が伸びにくいという事を示唆する(賃金を威勢よく上げるのなら販売価格は上がるでしょ)という気もしますなあ。


『2.物価全般の見通し(前年比)』というのが次のページになりますが、こちらは全体でみたところで1年後が▲0.2%ですが3年後と5年後は▲0.1%なので販売価格見通しに比べれば落ち込みは大したことないという評価をして「実際のCPI総合がこのような動きになっている中でも物価期待には大きな落ち込みも無く安定的に推移しています(キリッ)」という解釈をしてくると思いますですよ今の日銀の話の持って行き方からしますと。

まーいずれにせよこの調査に関しては比較的最近に開始された調査ではございますので、あまりここの数字を弄りまわしてどうのこうのと言うのも統計をどう見る的に言えばどうかなというお話でもございまして、あくまでも今のうちは参考計数であるとゆー所ですな。

ただし、何せ「色々な指標を見て判断」とか言っている日銀だけに、その時の行動に対して都合の良い数字が出ればそれに飛びつくというのが仕様になっておりますので、ここの販売価格判断の数値が落ちているのを捕まえて「企業の価格設定態度に弱気の動きがみられ、期待の押し上げが必要ですね」などと追加緩和をするならするで「使える」理屈もあったりはするのもまた事実ではあろうかと存じます。


・生活意識アンケート

http://www.boj.or.jp/research/o_survey/ishiki1510.pdf

まあこのアンケートも微妙ちゃあ微妙ではありますが、先に物価の辺りから。

『1-3. 物価に対する実感 』以降から。

『現在の物価(注1)に対する実感(1年前対比)は、『上がった』(注2)との回答が減少した。また、1年前に比べ、物価は何%程度変化したかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+5.8%(前回:+6.1%)、中央値は+5.0%(前回:+5.0%)となった。 』

『1年後の物価については、『上がる』(注)との回答はほぼ横ばいとなった。また、1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+4.7%(前回:+4.8%)、中央値は+3.0%(前回:+3.0%)となった。 』

『5年後の物価(注1)については、『上がる』(注2)との回答が減少した。また、これから5年間で物価は現在と比べ毎年、平均何%程度変化すると思うかについて、具体的な数値による回答を求めたところ、平均値は+3.9%(前回:+3.9%)、中央値は+2.0%(前回:+2.0%)となった。 』

ということで、こちらを見ますと「5年後の物価」に関する見方については全然変化がない、という結論になっていて日銀ニッコリの展開であります。まあここで出ている「2%」が物価安定目標の数値として出てくる2%水準と整合的な「2%」なのかという点については正直謎な所があって、そもそも論としてここの物価見通し数値などは上方バイアスが思いっきりかかっているので2%ですと足りないのかもしれませんけどね。


『1-1. 景況感等 』から。

『景況感のうち、現在(1年前対比)については、景況感D.I.は概ね横ばいとなった。先行き(1年後)については、「悪くなる」との回答が増加したことから、景況感D.I.は悪化した。なお、現在の景気水準については、「良い」、「どちらかと言えば、良い」との回答の合計が増加した。 』


『1-2. 暮らし向き、消費意識 』から。

『現在の暮らし向き(1年前対比)については、「ゆとりが出てきた」との回答が増加したことから、暮らし向きD.I.は改善した。』

『収入の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答が増加したことから、現在の収入D.I.はマイナス幅を縮小した。先行き(1年後)は、「増える」との回答が減少したことから、1年後の収入D.I.はマイナス幅を拡大した。』

『支出の増減については、実績(1年前対比)は、「増えた」との回答が減少し、「減った」との回答が増加したことから、現在の支出D.I.はプラス幅を縮小した。1年後の支出D.I.については、「減らす」との回答が増加したことから、マイナス幅を拡大した。』


ということで思いのほか景況感が悪くない(先行き弱めなのはしょうがないとして)なあという感じなのですが、そのあとまで見ると支出を減らすというのがやや増えだしている訳でして、その前の6月調査の時には支出を減らす向きが減ったのでおーと思ったのですが、9月になってまた支出を減らす人が増えてきているというのは思ったほどの収入増になっていないせいなのか生活物価の上昇が効いているのか、どうなんでしょうかねえ。


まあいつもの事ですが『1-6.日本銀行の金融政策に関する認知度 』から。

『日本銀行が、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を掲げていることについては、「知っている」との回答は2割台半ばとなった。また、日本銀行が、量・質ともに次元の違う金融緩和(「量的・質的金融緩和」)を行っていることについては、「知っている」との回答は2割台前半となった。』

だいたいいつもこの程度の数字なので別に悲観するような話ではないのですがしかしまあ相変わらずではございますな。


ちとあちゃーなのは物価上昇に関する意識。

『1年前と比べて物価が『上がった』(注1)と答えた人(8割台半ば)に、その感想を聞くと、8割台前半の人が「どちらかと言えば、困ったことだ」と回答した。また、1年前に比べて物価が『下がった』(注2)と答えた人(2.1%)に、その感想を聞くと、「どちらかと言えば好ましいことだ」との回答が2割台前半、「どちらかと言えば、困ったことだ」との回答が4割台前半となった。』

とありますが、まあ物価上昇が困るし下落はウマーという回答が多いのは消費者意識アンケートなのでこれは仕様であって別に絶対水準そのものはあまり気にする必要は無いと思うのですが、前回6月調査で物価上昇や下落に関して「上昇は困ったものだ」「下落はウマー」という回答が減っていたのが今回あっさり戻っているのがふーんという感じで、サンプルバイアスのせいなのかも知れませんけれどもここはへーと思いましたが、他の回答の変化から見るとここまで変化せんでも良かろうという気はします。


ということで生活意識アンケートですが、まあこちらに関しては物価の先行きに関しての見通しが相変わらずの安定モードになっている、という点で日銀的にはウマーな結果だったと思いますし、インフレ期待について質問されたら「家計のインフレ期待は先般公表した生活意識アンケートにもありますように確りとしています(キリッ)」というのにはちょうど良い結果になりましたな。消費の指標もそんなに悪くなかったし。

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2015/10/02

○生産でしょんぼりしていたら短観で蘇生の思いですねわかります

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/tankan09a.htm/
短観

http://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2011/tka1509.pdf
概要


えーっとですな、以下私家版安直前回との比較をしておりますが、今回の短観に関しては内容がそんなに悪くなくて、小見出しで申し上げたような感じで「30日の鉱工業生産でこりゃダメだと思っていたら短観の結果で息を吹き返しました」という内容ではないかと思います。業況感に関しては製造業大企業以外で概ね前回時点での予測指数よりも強いですし、DI水準も概ね改善となっているという内容ですし、(ネタにしてませんが)設備投資計画に関しても特段の悪化でもないですしという事で、まあ蘇生しましたなという感じじゃないでしょうか。

つまり、この短観だけで言えば追加緩和の必要性というのは後退していますよね、という話になると思いますし、日銀的には生産統計があの有様で倒れそうなところにこの短観ですので、息を吹き返して「短観から推測される需給ギャップの改善はありまぁす(キリッ)」ということで元気になるの巻という所でしょう。


とは言いましても、先日来申し上げておりますように日銀の追加緩和とか先行きの華麗なる「QQEの進化」という名目の敗戦処理じゃなかった「転身」とかに関して考えますと、「追い詰められて追加緩和」というのだけは日銀の次のアクションとしては取りずらいと言う中で強めの数字が出ていると「最後の花火で追加緩和をして一撃講和(=政策の転身)」という訳のわからん作戦も出しやすくなっているというのもありましてパズルとしては中々ややこしいのかもしれませんね。まあ常識的にはこの短観で追加緩和やらないで済むという風に予測するのが基本ですけど・・・・・・・・・・・・・



以下私家版簡単ウォッチ。


・前回の先行き予測DIの達成状況

         (6月時点)     (9月時点)
         現状→9月予測    現状→12月予測
製造業大企業   +15→+16     +12→+10 
製造業中堅企業  +2→+4       +5→+4        
製造業中小企業  +0→0        +0→▲2

非製造業大企業   +23→+21    +25→+19
非製造業中堅企業  +16→+14    +17→+13
非製造業中小企業  +4→+1      +3→+1

ということで今回の短観ですが、製造業大企業以外は「6月時点での先行き見通しよりも業況感が上振れている」という状態になっていまして、これ業況判断強いじゃんという所ですし、先行き予測指数が下を向いている点については指摘があるとは思うのですが、元々短観の先行き見通しってDIが上にある所では先行きが下向きに出やすいというのが仕様なので、それを持って先行き弱いというのはちょっと違うと思う。

ちなみに前回予測から大きくぶれている(方向や符号がドテンしている)業種はどこですねんと思いながら見るとこれはこれで興味深い(マイナスで目立つのが「石炭・石油製品」と「鉄鋼」でプラスで目立つのは「対個人サービス」ですかね)ですよん。


・雇用判断DI(ここの数値はマイナスが大きい方が雇用情勢的には良い)

        (6月時点)      (9月時点)
        現状→9月予測     現状→12月予測
製造業大企業  ▲2→▲3       ▲4→▲2
製造業中堅企業 ▲6→▲9       ▲10→▲10
製造業中小企業 ▲9→▲10     ▲8→▲11

非製造業大企業   ▲17→▲18    ▲16→▲18
非製造業中堅企業  ▲22→▲24    ▲23→▲26
非製造業中小企業  ▲22→▲28    ▲25→▲29


ということで、こちらは基本的に不足感が強くなっていて雇用情勢は引き続き需給逼迫状況であるという数値に日銀ニッコリですがその割にお賃金が増えていない気がするいや何でもないです。



・価格判断DI


販売価格判断(「上昇」-「下落」)

        (6月時点)      (9月時点)
        現状→9月予測     現状→12月予測
製造業大企業  ▲4→▲3        ▲7→▲8
製造業中小企業 ▲4→▲4        ▲6→▲9

非製造業大企業  +7→+6      +4→+3
非製造業中小企業 +1→+2      ▲5→▲2



仕入価格判断(「上昇」-「下落」)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業  +14→+16       +4→+6
製造業中小企業 +35→+39       +22→+24

非製造業大企業  +20→+23      +13→+12
非製造業中小企業 +25→+32      +18→+25


こちらなのですが、販売価格判断が下がっているので2%物価目標達成という意味では日銀涙目の展開という事になりますが、仕入価格判断の下げの方が大きくなっているという事ですから「企業のマージンが改善している」という風に取ることもできる訳ですな。

つまりですね、「2年で2%」という文脈で考えればこの数字は明らかにあばばばばーではあるのですが、「2%は強い経済のための手段である」という風に割り切ってしまえば「この要因は原油等の下落であり、2%達成時期が若干後ずれすることを意味するが、企業マージンの改善は経済にとってプラスであるので良い結果(キリッ)」という風に開き直るとこれもまた悪くないですな。というかそもそも開き直るもへったくれもなくて傾向としてコストプッシュの裏が進むのは結構な話ですけど。



・需給判断DI

同じところに需給判断DIがあって、ここの製造業を見るとですね。

国内需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業  ▲12→▲9       ▲10→▲11
製造業中小企業 ▲23→▲22       ▲23→▲24


海外需給判断(「需要超過」-「供給超過」なのでプラスの方が強い)

        (6月時点)        (9月時点)
        現状→9月予測       現状→12月予測
製造業大企業  ▲7→▲5          ▲7→▲7
製造業中小企業 ▲12→▲11        ▲14→▲16


こちらは6月時点の見込みよりも悪化していますし先行きの方向性も前回調査時とは逆(前回は先行き改善方向だったけれども今回は悪化方向)になっているのでこの辺はマズーではあります。



・毎度お馴染み金融商品取引業の業況判断DI

毎度お馴染み金融商品取引業業況判断DIですが。

        (6月時点)       (9月時点)
        現状→9月予測      現状→12月予測
金融商品取引業 +62→+62   +36→+37

この前回からの下がりっぷりがクソワロタという所ですが、最近は先行き予測に色が出ないのでつまらん。

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2015/10/01

○味わいのあるリサーチラボ登場

http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/lab/lab15j05.htm/
家計のインフレ予想:期間構造と金融政策のアンカー効果
鎌田康一郎、中島上智(日本銀行)
Research LAB No.15-J-5, 2015年9月30日

最近幾つか出た関連ペーパーを要約してご紹介みたいな物件ですが。

『要旨

家計のインフレ予想の安定化は、中央銀行が物価の安定を達成するための政策の一つであり、それ故に、中央銀行には、インフレ予想の動態に関する深い理解が必要とされる。鎌田他(2015) [PDF 902KB]は、家計を対象としたアンケート調査を分析し、インフレ予想は予想期間の長短によって振る舞いが異なることを示した。』

うむ。

『短期のインフレ予想が現実のインフレ率の影響を受けやすいのに対し、長期のインフレ予想は安定的で、現実の物価動向に左右されにくい。こうした結果は、わが国のインフレ予想が長い目で見て何らかの水準にアンカーされていることを示している。ただし、長期予想は動かないわけではなく、金融政策によって変化し得る。2013年に日本銀行が導入した物価安定目標と量的・質的金融緩和は、両者が相まって、インフレ予想の水準を引き上げ、その安定に寄与した可能性が高い。』

キタコレ!という所ですが、良く良く中身を読みますと実は今回はQQEだけではなくて包括緩和に関しての分析部分も紹介しているのが味わいがあります。まあ中身を読んでちょとは思いますが、この最後の部分を見ますと・・・・・・・・・・・・・・

『金融政策の効果

以上の結果は、これまでの日本銀行の金融政策が、全体として、家計のインフレ予想のアンカー強化に貢献してきた、あるいは、少なくともアンカーを壊すことはなかったことを示している。しかし、これまでに採られた個々の政策手段が、すべてインフレ予想の安定化に寄与したとは限らない。鎌田他(2015)は、2006年9月以降に実施された日本銀行による政策変更を一つひとつ取り上げ、どの政策がどのような形で、家計のインフレ予想の形成に影響を及ぼしたのか、あるいは、及ぼさなかったのかを分析している。彼らは、家計の何らかの意味でインフレ予想に影響を及ぼした可能性のあるものとして、以下の2つの政策を挙げている。』

ほほう。

『一つ目の政策は、2010年10月に日本銀行が導入した包括緩和である。表1によると、同政策は、インフレ予想の水準を引き上げることに効果を発揮していたことがわかる。長期インフレ予想の平均値は、政策の導入を境に約1%上昇し、中長期的な物価安定の理解(日本銀行が2006年に導入し、2009年に明確化を行った)の枠組みの上限である2%にまで達している。短期予想の上昇はさらに大きく、その平均値は、マイナス圏からプラス圏まで2%以上上昇している。しかし、他の統計量、特に分散に、有意な変化は認められなかった。』

実は包括緩和も効いているという説明キタコレ。

『二つ目は、日本銀行による2013年1月の物価安定目標と4月の量的・質的金融緩和の導入である。表1によると、短期予想の平均値は、目標水準である2%へと約2%の大幅な上昇を示している。長期予想の平均値も、幅は小さいが、統計的に有意な上昇を示した。』

実は長期予想に関しては包括緩和で結構押し上げられていたという事ですか。

『また、鎌田他(2015)によると、短期、長期によらず、インフレ予想の足もとの物価変動に対する感応度が低下しており、しかも、金融政策に対する認知度の高い家計の方が、認知度の低い家計よりも、低下幅が大きい。なお、同様の現象は、包括緩和の際にも観察されている。』

つまりアンカーする力が強くなっているというお話。

『インフレ目標政策の有効性

2006年3月に中長期的な物価安定の理解を導入して以来、日本銀行は、段階的に物価安定の定義を強化してきた。2009年12月に中長期的な物価安定の理解の明確化が行われ、2012年2月に中長期的な物価安定の目途、そして、2013年1月に物価安定の目標が導入された。しかし、表1が示しているとおり、2009年と2012年の政策は、インフレ予想に有意なインパクトを与えることはできなかった。なぜなのか。逆に、なぜ2013年の物価安定目標は、インフレ予想に有意な影響を及ぼし得たのだろうか。』

『鎌田他(2015)での分析結果を踏まえると、インフレ目標を有効に機能させるためには、それをアナウンスするのみでは十分ではなく、中央銀行のコミットメントの信頼性を増すために、何か他の大規模な政策とパッケージで実施することが鍵であるように思われる。』

キタコレ。

『物価安定目標の場合には、量的・質的金融緩和が続けて実施されたが故に有効に機能したと考えられる。また、中長期的な物価安定の理解の明確化も、その後に包括緩和が導入されてはじめて効果を発揮し得たと解釈することも可能である。政策効果を高めるためには、インフレ目標を、大規模資産買入れ、フォワードガイダンス等、どのような政策とパッケージで実施するのが有効なのか、事例研究を積み重ねていくことが望ましい。』

ということですので、まあ政策の枠組みを見直す場合には何かのパッケージを打ち込みましょうという話にはなると思いますので、じゃあもうヤケクソで長期金利ペッグ政策でも実施しますか(ただしこれは出口で死ぬのであまり考え無しにやると大変なことになる)というような所ですかそうですかと思います。

でまあ更に申し上げれば、このリサーチラボの説明ですと家計の長期のインフレ期待はそれなりに望ましい水準でアンカーされています(キリッ)とも言えたりしそうな気もするのが、このタイミングでこういうのが出るとはと中々味わいのあるペーパーですなあと思うのでした。

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