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金融政策の枠組みの「第1の柱」「第2の柱」とは何ぞやというお話(特集ページ)

現在(2007年6月現在)の金融政策においては、政策の枠組みに「第1の柱」「第2の柱」といわれるものがあるのは皆さんご案内の通りかと存じます。で、その中身に関しては、「第1の柱が向こう2年まで」「第2の柱はより将来の視点」と捉えられる事が多いのです。斯く言うあたくしも、実は次の駄文を書く時には完全にそうだと思っていたんですよ。

ところが、この理解は大間違えなのでして、「それは違うぞ」という指摘を相当お詳しい方から頂きまして、改めてあたくしは当時の公表文書を読み、整理してそれなりに自分なりにまとめたというのが6月21日、22日の両日のエントリーの流れだったんですね。

という訳で、皆様のご理解の一助になれば幸いと思いまして、余計な部分を削除して2日分のエントリーをこちらに並べます。間違えている21日の方を先に読んで頂いて、22日のエントリーとの違いを確認すれば吉かと存じます。


まずは6月21日のエントリーから該当部分。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g070427.pdf

○2つの柱の検討部分でちと判らなかったんですが><;

本文8ページより。

『第1の柱、すなわち、2008年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検すると、委員は、わが国経済は、生産・所得・支出の好循環のメカニズムが維持されるもとで、息の長い拡大が続く可能性が高いとの判断で一致した。』

まあそうですか。

『第2の柱、すなわち、より長期的な視点を踏まえつつ、金融政策運営という観点から重視すべきリスクの点検を行った。この点に関して、委員は、金融政策面からの刺激効果が一段と強まる可能性がある中で、中長期的にみて、経済・物価の振幅が大きくなったり、非効率な資源配分につながるリスクに留意する必要があるとの認識を共有した。また、下振れの場合として、経済情勢の改善が足踏みするリスクがあるほか、経済情勢が改善する場合でも物価が上昇しない状況が続くリスクもあるとの点で認識が一致した。』

ここの部分が正直良く判らなかったんですが、「また、下振れの場合として」云々が「第2の柱の検討」に掛かるのか、単に経済物価情勢の先行きの下振れリスクなのかが読んでて微妙に判りにくいんですよね。で、仕方が無いので展望レポートの該当箇所を読んでみるとこうなります。

(展望レポートより)
『第2の柱(略)を点検すると、経済・物価情勢の改善が展望できる状況下、金融政策面からの刺激効果は一段と強まる可能性がある。例えば、仮に低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、企業や金融機関などの行き過ぎた活動を通じて、中長期的にみて、経済・物価の振幅が大きくなったり、非効率な資源配分につながるリスクがある。一方、前述のような下振れ要因が発生した場合、経済情勢の改善が足踏みするような局面が考えられる。また、経済情勢の改善にもかかわらず、物価が上昇しない状況が続く可能性もある。』

ということですので、展望レポートの記述と議事要旨を合わせれば、先ほどの「下振れの要因として」云々は第2の柱の検討だということになりますです。はい。

じゃあ引用部分で書いてある「前述のような下振れ要因」とは何ぞやという話になりますと、そのちょっと前のあたりで示されている経済物価情勢の先行き展望の中で発生しうる下方向の不確実性ということになると思われます。

・・・・とつらつら考えますと、この金融政策の第2の柱ってのは「より長期的な展望でのリスク要因」というよりは単に「サブシナリオの点検」なんじゃねえのかという気もしてきた(冷静に考えたら展望レポート見た時点で気が付いても良かったように思えますが、そこはあたくしの不勉強の致す所)のであります。(つまり時間のスパンが同じじゃねえのという意味です)

・・・・何だかこの「第1の柱」と「第2の柱」の区別が良く判らなくなって参りました><;


で、この訂正になるのが翌日22日のエントリーです。


お題「あたくしの大いなる間違いについて(第2の柱関係など)」

ということで、本日のドラめもんは是非ご覧下さい。いやあの昨日書いた内容っておめえ間違ってるだろと思ったお方は別に良いのでありますが・・・・

○『新たな金融政策運営の枠組み』に関するあたくしの大誤解

本日は自分の不勉強ぶりを晒す文書ばかりでして、こういうのを「穴があったら入りたい」って心境だなあと思うのですが、自分の間違いはちゃんと訂正しないとネットの文章はキャッシュになって半永久的に残るんで、きちんと直さないといけないです。ということであたくしの大誤解をご紹介しましょう(超大汗)。

昨日あたくしはこう書きました。

(昨日のドラめもんより)
・・・・とつらつら考えますと、この金融政策の第2の柱ってのは「より長期的な展望でのリスク要因」というよりは単に「サブシナリオの点検」なんじゃねえのかという気もしてきた(冷静に考えたら展望レポート見た時点で気が付いても良かったように思えますが、そこはあたくしの不勉強の致す所)のであります。(つまり時間のスパンが同じじゃねえのという意味です)

・・・・何だかこの「第1の柱」と「第2の柱」の区別が良く判らなくなって参りました><;
(以上昨日のドラめもんより)

で、読者の皆様からご指摘を受けまして、改めて昨年3月の文書を読んでみたあたくしが愕然としてしまいましたんですよ(滝汗)。

http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji_new/k060309b.htm

『(2)2つの「柱」に基づく経済・物価情勢の点検』

『金融政策の運営方針を決定するに際し、次の2つの「柱」により経済・物価情勢を点検する。』

『第1の柱では、先行き1年から2年の経済・物価情勢について、最も蓋然性が高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているかという観点から点検する。』

『第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するとの観点から、金融政策運営に当たって重視すべき様々なリスクを点検する。具体的には、例えば、発生の確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因についての点検が考えられる。』

目の玉かっぽじってよく読んでみますと、第1の柱はあたくしの理解しております通り、先行き2年以内のメインシナリオに対する点検であります。で、肝心の第2の柱なんですが、「上記メインシナリオ以外のサブシナリオ・リスクシナリオに対する点検」なんですね。『より長期的な視点を踏まえつつ』というのをいつの間にやら『より長期的な視点を踏まえ』と脳内変換して理解しておりました。何たる勘違いと大いに愕然とするあたくしなのであります。いや正直申し上げて、改めて読んだ瞬間にリアルで冷汗でまくりでした。

あたくしが把握したことをもうちょっと詳しく整理してみます(ということですので、もしあたくしの理解に問題ありましたらご教示賜りますと大変ありがたく存じます。えーっと合ってっても「それで大丈夫」って教えていただけるともっと嬉しいのですが、汗)のでお付き合い下さい。

この第1の柱、第2の柱ってえのは、「物価安定の下での持続的な経済成長」を点検するための判断ファクターが2つあるというお話でありまして、じゃあその「物価安定」とは何ぞやというのが展望レポートで示される「中長期的な物価安定の理解」および2006年3月10日の日銀公表文『「物価の安定」についての考え方』であります。

即ち、先行き2年以内の経済物価情勢に対するメインシナリオが「物価安定の下での持続的な経済成長」に合致しているかどうかを点検するのが第1の柱でありまして、それ以外のサブシナリオ・リスクシナリオに関しての点検および、より長期的な観点、即ち2年を超える期間を展望した場合に、目先2年のシナリオでは「物価安定の下での持続的な経済成長」に合致するけれども、その先まで考えた場合にそうはならないリスクなどを点検する、というのが第2の柱であるということとあたくしは理解致しました。即ち、これらの「柱」はあたくしたち市場参加者が良く使う言い方の「相場シナリオ」なのではなくて、相場シナリオに則った「点検作業」なのであります。うーむ書いてて判ったような判らんような表現ですが、もうちょっと良い表現があるのかもしれません。

そうなりますと、昨日申し上げた「第1の柱と第2の柱の時間軸が同じなんじゃないか」というのは、第2の柱が見ているのは第1の柱でフォローされない部分の全てなのですから、見ている時間のスパンが重なるのは当たり前という事になるのですよ。いやあもう思いっきり誤解もいいところで、自分の不勉強ぶりに情けない思いでございます。

で、こういう位置づけになっているからこそ、6月15日の福井総裁記者会見で「第1の柱と第2の柱に等しくウェイトを置いている」という発言が出るのだと理解致しました次第。「メインシナリオだけでなくてリスクシナリオにも十分目配りしていますよ」というメッセージだったと言う事なんですね。



○ただまあこれ誤解を誘発しやすいのは確かだと思うんです(と言い訳)

えー、こういうのを俗に「引かれ者の小唄」などと申しますが(爆)、あのその一応言い訳になっちゃいますけどちょっとだけ申し上げますね。

先ほども申し上げましたが、市場参加者が相場見通し会議なんぞのようなイベントを実施する際には、時間軸とその間のメインシナリオを中心にして頭の中を整理しながら話をすると思うんですよ普通。そしてサブシナリオとかリスクシナリオとかは「メインシナリオの前提を崩す場合」というような扱いとしてある意味セットで考えるものになると思うんですなこれがまた。

で、一方で先ほどご紹介した「新たな金融政策の枠組みの導入」の説明文書での「第1の柱」「第2の柱」は第1の柱と第2の柱の中で同じタイムスパンと別のタイムスパンが混在しているので、市場参加者が普段慣れている頭の中の整理法とちょっと違っている訳でして、こりゃまあ誤解を誘発しやすい書き方だと思うんですよ。ついでに申しあげると、「より長期的な視点を踏まえつつ」って部分がまた誤解を誘発しやすい訳でして、もうちっときっちりと「第1の柱で点検された見通しに対する様々なリスクや、より長期的な視点に立った場合に重視すべきリスク」というような書き方にしていただけますとクリアカットになったのではないかと思います。冗長な文書があまり美しくないのは理解できますが、時にはくどく説明するのも大事なのではないかなあと思ったのでありました。



そんな訳ですから、昨日ご紹介した4月27日の決定会合議事要旨において、『また、下振れの場合として、経済情勢の改善が足踏みするリスクがあるほか、経済情勢が改善する場合でも物価が上昇しない状況が続くリスクもあるとの点で認識が一致した。』とあるのはまさしく第2の柱の点検であるということになる訳です。

で、ここもややこしいと思うのですが、『経済情勢が改善する場合でも物価が上昇しない状況が続く』のがリスクとは何のこっちゃ(それが一番望ましい姿ではないかという意味ね)と瞬間思ってしまうのですけれども、これは物価が上昇しない状況が続き、物価指数の数値に過度にファーカスして政策運営を行うことによって、経済情勢の改善に見合った政策金利の調整が遅れ、より将来において必要以上に経済情勢が過熱するリスクがあると言いたいのかなと思ったのですけれども、その理解で合っておりますでしょうか。。。。


ということで、議事要旨の続きとか武藤副総裁の講演+記者会見とかネタが全部繰越になってしまい、本日はあたくしの無知蒙昧を披露する場となりました、アセアセ。

(追記:一応上記の理解で第1の柱、第2の柱の整理は合っているようです^^)



ということで、整理していただけたでしょうか??


おまけの追記:6月27日のネタにしたのですが、BISの年次報告で「日銀の第2次利上げは第2の柱に基づくもの」という日銀を後ろから砲撃する部分があったんですわ。まあ中々判らんわな。

○BIS年次報告

本題に入る前に別の話ですが、BIS年次報告の中でオモロイ記述があったという話を本石町日記さんが。あたくしも言われて年次報告斜め読みしたら、『The second move was based on the second perspective』(本年2月の利上げは金融政策の枠組み第2の柱を基に行われた)という所を見てのけぞったのでありました。BISも日銀の公式見解を否定っていうのはまあ本石町日記さんのご指摘の通りで、例の枠組みがムツカシイってのがあると思いますが、BISが実は(第2の柱を物凄い勢いで誤解しているという意味で)あたくしと不勉強振りで大差無いという事でもあろうかと(え?)。

ちなみに同報告の中で日本の金融政策どうのこうのというのは4ページ(実質3ページ)ほどの分量でありまする。本石町日記さんの当該エントリーはこちらです。最初のコメントに対する次のコメント氏の豪快な釣られっぷりに乾杯→http://hongokucho.exblog.jp/7023721/


おまけその2:英文だとどうなってるのかという話を7月9日のネタにしてみました。


○唐突ですが金融政策の第1の柱第2の柱リターンズ

BISにも間違えられた金融政策の第2の柱に関してですが、昨年3月の『新たな金融政策運営の枠組みの導入について』を改めて見るのでした。
http://www.boj.or.jp/type/release/zuiji_new/k060309b.htm
で、この英語版を読んでみようという無謀な企画が今朝の雑談なのであります。正直読んでるの1箇所だけなのでアレでございますが。
http://www.boj.or.jp/en/type/release/zuiji_new/k060309b.htm

第1の柱、第2の柱の日本語版をまずは読むのである。

『第1の柱では、先行き1年から2年の経済・物価情勢について、最も蓋然性が高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路をたどっているかという観点から点検する。』

良く見りゃこれも難しい表現でして、「日銀が今見ているメインシナリオが、物価安定の下での持続的成長に該当するか点検」って何か持って回ったような言い方ですな。そもそもメインシナリオがそうじゃない時だったらどういう対応をしていくのでしょうか(まあそのときは緩和的または引き締め的な政策をしますって話なんでしょうが)。

『第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するとの観点から、金融政策運営に当たって重視すべき様々なリスクを点検する。具体的には、例えば、発生の確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性があるリスク要因についての点検が考えられる。 』

んでまあ、この第2の柱の冒頭部分の『踏まえつつ』の「つつ」が重要でありまして、長期的な視点を踏まえた部分と踏まえてない部分がございますという話、要するに基本シナリオ以外の部分が第2の柱になるちゅうことなんですけれども(詳しくは6月22日の駄文をご参照下さいませ)、正直もうちょっと判り易く書いてちょと思うのであります。

で、これが英語になるとどうなるのでせうか。

『The first perspective is examining, as regards economic activity and prices one to two years in the future, whether the outlook deemed most likely by the Bank of Japan follows a path of sustainable growth under price stability.』

第1の柱は向こう1、2年の経済物価情勢に関する蓋然性の高いシナリオが物価安定の下での持続的成長のパスに乗ってるか点検って読めますのでなるほどと。

『The second perspective is examining, in a longer term, various risks that are most relevant to the conduct of monetary policy aimed at realizing sustainable growth under price stability. More specifically, for example, the Bank of Japan may examine risk factors that will significantly impact economic activity and prices when they materialize although the probability is low.』

第2の柱なんですが、日本語で『踏まえつつ』となってる部分が『in a longer term』となっているように見えるのでありまして、ここを見ると「つつ」のニュアンスがちゃんと伝わるのかなあという気もせんでもない。というか逆に『in a longer term』を入れないで様々なリスクの点検をするという文章にした方がニュアンスが伝わりそうな希ガス(と言っても日本語本文にあるのを書かない訳にもいかないですから仕方ないのですけれども・・・・)。

・・・・まあそれって日本語の文章でも同じなんですけれどもね。日本語難しいがな。


ということで本日はあたくしの語学力の関係上これだけなのでありますが、よくよく考えてみたら海外投資家(というかアクティブなファンド筋)が日本の金融政策がらみで「何を考えとるんじゃ」という動きをしてくる事が多々ございます(最近は平和ですが)ので、英語でのリリースも暇があれば(中々ヒマとエネルギーが捻出できませんが^^)見ないといけませんな。

しかしこれは兎も角として、議事要旨まで英文リリースしてるのでありまして、こりゃ作るの大変ですわなあと思います。


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