野田忠男 前審議委員

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野田さんの略歴(日銀Webより)

昭和22年1月31日生
昭和44年3月京都大学法学部卒業
昭和44年4月株式会社第一銀行入行(第一銀行と日本勧業銀行は昭和46年10月に合併)
第一勧業銀行法人企画部長を経て平成9年6月に同行取締役に就任
平成10年5月に常務取締役に就任し、富士銀行、日本興業銀行との合併により平成12年9月にみずほHD常務執行役員資産運用信託ビジネスユニット長就任
同企画グループ長を経て平成14年4月より代表取締役副社長
みずほフィナンシャルグループの組織改組に伴い平成15年1月にみずほFG代表取締役副社長
平成15年6月より清和興業株式会社常勤監査役
平成17年6月より中央不動産株式会社代表取締役会長
平成18年6月17日に日本銀行政策委員会審議委員に就任
(前職:みずほフィナンシャルグループ副社長)←直近の2社は旧第一勧銀のファミリー企業なので無視

平成23年6月16日に任期満了で審議委員を退任、お疲れ様でした。

写真などはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/bm_noda.htm/

2011/03/07「案の定のフリーダム会見」
2011/03/04「もしかすると最後になるかも知れない講演から、結構いい感じで執行部に嫌味が」
2010/09/21「講演と会見から、景気に対しては慎重で質疑応答は非常に手堅い」
2010/03/09「会見に関する追記」
2010/03/08「会見でも公式見解寄り」
2010/03/05「今回の講演は景気に慎重なるも割と公式見解寄り」
2009/08/03「講演同様に景気に慎重な会見」
2009/07/31「景気に慎重な講演&脚注が面白いです」
2009/03/10「2月26日の講演より、景気悪化を構造的と見做しデフレ懸念も言及」
2008/09/29「景気への弱気は会見でも」
2008/09/26「景気に関して弱気な野田審議委員講演」
2008/03/17「会見は講演ほどは弱気満開でもありませんが・・・」
2008/03/13「経済見通しがかなり慎重な講演」
2007/08/02「野田審議委員会見続き」
2007/08/01「手堅い受け答えの野田審議委員会見」
2007/07/27「野田審議委員講演」
2006/12/04「野田審議委員記者会見」
2006/12/01「野田審議委員講演、意外にも執行部寄りでした」
2006/10/02「日経新聞インタビュー、独自色が出てます」
2006/06/26「就任記者会見より改めて」
2006/06/20「就任記者会見メモ」

2011/03/07

○野田審議委員のフリーダム会見

やはりフリーダム会見でありました(^^)。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1103a.pdf

・物価に対する見方が厳しいですな

CPI改定に関する質問の中から。

『(問)(前半割愛)デフレ克服という最大の課題の中で、物価が基準改定により下がるので、より一層デフレ克服が難しくなるという理解なのか、ここのところをもう少し詳しくお聞かせ下さい。』

『(答) 挨拶の中で述べたことが、若干ないし若干以上舌足らずだったかもしれませんが、基本的には、前から申し上げていますとおり、物価をみるにあたっては、物価の前年比の水準というものが一つの大きな要素であることは否定しません。しかし、それと並んで、いわゆる物価の基調的なトレンド、さらにはその背後にある物価を形成するメカニズムがどうかというところも重視しているわけです。』

『従って、そういったものを一つの物価指標だけではなく、総合的に捉えて、わが国の物価情勢がデフレの状況からどういう方向に向かっているのか、あるいはどの程度改善しているのかというところをみていくということが、これまで私どもがご説明してきたところだと考えています。』

と、この辺までは日銀執行部と同じ話をしているのですが・・・・・・

『ただ、その中で基準改定が現実に5年に1回あって、その統計の数字が上方バイアスを持っているという事実に鑑みれば、そこのところは私どもが今申し上げた物価をいくつかの点でみる中でも、一つの重要な、見失ってはならない、あるいは無視してはならない要素であるというしっかりした認識を持っているということです。それ以上でもなければ、それ以下でもないということです。』

これは何ぞ??と思ったら続いて質問が。

『(問) 今のお答えは良く分からないのですが、物価の前年比が下方修正されるとして、その幅は発表されるまでわからないのですが、下方修正されるということで実体は変わらないにしても、より真実に近い数字になるということなので、もしかしたらデフレが今よりも深刻であるということを意味するかもしれない、そういう可能性があると思うのです。そうなると、金融政策に対する意味合い、金融政策運営にあたりしっかり念頭に置く必要があると言われているので、どういう方向を念頭に置くかということでいえば、今の超金融緩和、超低金利政策をより長く続けざるを得ない、続けるべきだという方向、あるいは、デフレがもっとひどいということになれば、より金融緩和をする方向のバイアスが高まるということを意味するのでしょうか。逆に、にわかには考えにくいですが、超低金利政策を早く脱する方向にバイアスがかかるということなのでしょうか。もう一度お答え下さい。』

『(答) 今、お話になった「より真実に近くなる」ということを、率直かつ真剣に捉えているということです。』

これはキタキタキタ!!!

ということで、まあ先日は総裁の定例会見でも「(高校授業料無償化要因などを除いた)基調的な物価はほぼゼロ近辺まで戻っている」というように、執行部サイドからは物価が基調的にゼロ近辺まで戻っているという話が多く出るようになって参りましたけれども、どう見ても野田さんのこの発言は総裁やら執行部ベースに対して釘を挿しに来ましたという感じでございまして実に素敵でありまする(^^)。

『ただ、それでもって、より今の緩和政策が長く続くのか、―― その「より」というのは何と比べてかということだと思いますが ――、厳密に先行きの線を描いて、物価とコンシステントにきちっと対応させて考えれば、ご指摘のような、何がしか、── 何がしかというのは改定の程度が全くわかりませんので、あるいは限りなくゼロに近いかも知れませんので、そこは何とも申し上げられませんが ──、そこは私どもとしては、幅の不確実性も含めて、この時点ではしっかりと認識しておかなければならないと申し上げているわけです。』

さっきのもそうですがこの辺は禅問答テイスト。

『それでもって、緩和の状況が変わるかどうかということについては、全くノーだということですし、緩和から脱するということが水平線の彼方に視野に入っているのかと聞かれれば、それは全くないというようにお答えしたいと思います。』

緩和脱却の展望は全く無いキタコレ。

・・・・・ということで、物価に対しての厳しい見方をしていると同時に、どう見ても執行部に向けたブチカマシというテイストの高い会見でありまして、退任が近くなってくると民間の審議委員さんって皆さん揃いも揃ってフリーダム発言が多くなるのですが、野田さんもその例に漏れずという所で心温まるのであります。

まあ野田さんの場合は投票行動とかで最初から結構主張してた感じはありますので、打鐘から先行して最後まで逃げ切りと言った所でございましょうか(違)。



・景気に対しては比較的強めの見方だったりします

景気踊り場脱却はいつでしょうという質疑から。

『(答) 踊り場からの脱却の条件、あるいはいつ頃かというご質問ですが、条件として、これがこうなれば踊り場から脱したという判断の基準があるというわけでは決してありません。これは総合的に捉えなければならないと思っています。』

とまあこれは良いとして。

『私どもが常々申し上げているのは、事後的にどうだというのは、別の人が判断すれば良いわけで、私どもが最も重要としているのは、先行きがどうなるのかという判断であり、これについてはある程度幅をもって見なければなりません。』

この部分なんですけどね、いやまあどういう言い方しながらこの発言したかにもよるのですけれども、読みようによっては「事後的な話なんぞ関係無いわボケ」とか言ってるようにも見えますがどうだったんでしょ(^^)。

『ただ、今間違いなく言えることは、踊り場から脱却しつつあり、それを裏付けるような経済指標・データ、あるいは様々な情報が、かなり多くみられているということは言えると思います。ただ、それがいつかと言われると、なかなかお答えするのは難しいのですが、期待を持って言えば、数カ月も脱しつつある状態が続くというのは必ずしも自然なことではないと思っています。』

結構強気なのね。で、その「数か月」とは2〜3か月なのか6〜7か月なのかという質問に対しての答えはこの通り。

『(答) 今は3月ですが、私どもがバックワードに見ている指標は、単月ベースでは12月や1月の統計です。それで方向感、あるいはモメンタムの強さ等をみているわけですから、そういった意味では、今言われた数カ月という中でも、幅があるうちの長い方ではないとだけお答えしておきたいと思います。』


でですな、その次の質問でこんなのがあったのよね。

『(問) 今日の午前中の講演の中で、日銀としては、機動的にかつ適切な政策を、万が一、デフレ脱却の不確実性や、経済、物価の安定性が損なわれた時に実行していく思いだと言われましたが、これは、最近、野田審議委員の方で、危機あるいはダウンサイドリスクが少しずつ明確になってきたということを意味するのでしょうか。』

『(答) 全く意味しません。先程お答えしたように、今そういうリスクが水平線の彼方にもみられるかというと、少なくとも私の視野には、金融政策と結びつける意味において、リスクが顕現化しているというようには全くみていません。』

・・・・・という事は即ち、講演での必要ならば追加緩和発言と言うのは野田さん的に言えば「リスク認識が下方にシフトしたから」なのではなくて「執行部へのブチカマシ」を意図したものであって、それはつまり野田さんが中で認識している状況として、執行部が足元の物価指標の改善と経済指標の改善を受けて出口政策に対して徐々に前のめりになってきているのではないか、という風に懸念しているという事の表れなのではないかなあ、などと勝手に妄想してみたのですが如何でしょうか野田さん(^^)。


・その他少々、特に政策インプリケーションがあるわけではないが

成長基盤強化オペに関して

『あくまで、この成長基盤強化の措置だけでもって、わが国の経済あるいは成長基盤を強化できるというような大それたことは少しも考えていないわけで、それを「呼び水」というように申し上げているわけです。その「呼び水」の量としてどの程度が相応しいのか、あるいは相応しかったのかという点については、その効果そのものもさることながら、副作用というものも何がしか私の耳にも届いていないわけではありません。そういったところをもう少し時間をかけて比較考量、吟味したい、その「呼び水」効果に対する評価も含めてですが、時間をもう少し頂戴したいというのが、現時点での正直な感想です。』

『成長基盤に関する副作用ですが、記者の方が口の端に乗せられた銀行間、特に地域金融機関の間での競争の激化、もう少し言えば金利競争の激化ということを耳にしていることは否定致しません。ただ、それ自体が、長い目で見て副作用なのかどうかというのは、その競争の中で成長企業を切磋琢磨して発見する、見つける努力を競うという意味では、それをもって直ちに副作用と断ずるのもいかがなものか、そこまで確信をもって言えるのかどうか、ということもあります。こうしたところも含めて、今後もう少し時間をかけて、検証、議論、さらには金融機関の皆様方のご意見も詳しく聴取する機会を持ちたいというのが個人的な意見です。』

特に後半部分の「その競争の中で成長企業を切磋琢磨して発見する、見つける努力を競うという意味では、それをもって直ちに副作用と断ずるのもいかがなものか」ってのは前向きなバンカーらしい表現ですなあと思った次第。


熊本県経済に関して

この部分は「へ〜」と思いながら読んだでござる。

『県経済は、新興国向け輸出の増加を背景にIT関連で高水準の生産が続いているほか、短観調査における設備投資も4年振りに増加する計画になるなど、緩やかな回復を続けているとみています。特に近年、県内でウエイトを高めている誘致企業が輸出競争力の強い製品群を生み出していること、あるいは高成長を続けている東アジアに近いという地理的な優位性から、当地の景気が緩やかに回復していることが確認できたところです。わが国全体と比べても、どちらかというと堅調に推移しているのではないかとみた次第です。』

ということで野田さんの会見はページ数は少な目でしたが興味深く読めましたです、はい。

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2011/03/04

○野田審議委員講演:そろそろ任期終わりますな

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110303a1.pdf

野田さんは決定会合の投票行動を見ていますと政策ロジックをきっちりと通す事を一貫して主張していたように見えまして、その点では特徴のある委員であると思います。それから、景気に関して言えば特に欧米不良債権問題以降の流れにおいて、日本のバランスシート問題の解決段階において銀行(野田さんは第一銀行→第一勧銀→みずほ)にいて解消の大変さをみていたという事があるかと思いますが、バランスシート調整に時間が掛かるという話を強調して基本的にハト寄りの主張で、こちらも特徴のある話が多かったと思います。

ということで、傍観者的ヲチャー的に申し上げますと、退任されるのは残念と言った所ではありますが、後任はどなたになるんですかねえ。銀行出身の審議委員って武富さん(興銀)→中原(眞)さん(東京三菱で旧東銀)→野田(みずほで旧一勧)さんという流れだったような気がしますが、後任の方にも銀行から見た政策論議とか、更にはバンカーらしく筋を通す(何せ日銀の場合大人の事情によって突如豹変してロジック崩壊するのが仕様ですから)というような議論を期待したいものであります。

・・・ってここまでの流れを今見たら審議委員の方って旧特銀で来ている(厳密に言えば野田さんは第一入行で勧銀入行じゃないから違うけど)のかと思うとマニア的に微妙なテイストを感じますな(謎)。

などという雑談は兎も角。


最初の方は日銀のシナリオに沿って説明をしているのでその辺はスルーして。

・野田さんの見る上振れ下振れ要因

『以上申し上げてきたことは、現時点で相対的に蓋然性が高いとみている見通しです。こうした見通しに対して上振れまたは下振れ要因として、私が特に注意している点についてお話します。』

『イ.新興国経済に関して』

『まず、新興国経済にかかる上振れ・下振れ要因です。先進国とはっきりとした較差がついた新興国の成長力の高さを背景に、より高い投資リターンを求めて、新興国への資本流入が基調的に続いています(図表6)。こうした資本流入の動きは、先進国各国における大規模な金融緩和の継続や、一部の新興国における自国通貨高を回避するための固定的な為替制度によって増幅されていると考えられます。』

『これにより新興国経済が一だんと拡大することは、主に貿易の拡大を通じてわが国を含む先進国経済にとって当面の間は少なからずプラスに働きます。一方、これらの国は引続き緩和的な政策を続けており、ビハインド・ザ・カーブとなっている――後手に回っている――可能性があります。』

ということで、基本的に政策委員会の話と同じではありますが・・・・・

『こうした状況が続けば、経済が過熱しかねず、その場合、その後それを修正していく際に急激な巻き戻しが発生し、実体経済面の大きな収縮につながるという可能性があります。』

最後の部分での「新興国のバブル崩壊リスク」部分に関してはかなり厳しい表現になっていまして、新興国バブルを相当警戒している風に読んだのですがどうでしょうかね。


『ロ.国際商品市況に関して』

前半でコモディティ価格上昇の背景について説明していますが、その部分はスルーでござるの巻。

『国際商品市況が新興国における需要の拡大といったファンダメンタルズからますます乖離して上昇が続く場合には、先進国、新興国を問わず資源輸入国では、実質購買力の低下を通じて消費支出が抑制されます。最終商品への価格転嫁が困難な場合には、企業にとって収益の圧迫要因となり、結果として、雇用・賃金環境の悪化を通じて消費へ負の連鎖が生じます。』

どう見ても経済への悪影響警戒です本当にありがとうございました(^^)。


『ハ.先進国経済に関して』

『三つ目は、先進国経済に関してです。まず米国経済については、先ほどもふれましたが、バランスシート調整という重石を抱えており、その解消には時間を要しますから、上方に弾みにくく下方に振れやすいという状況が続くと考えています。私は個人的には、米国の成長見通しについて一貫して慎重な見方をしてきたところですが、昨年以降、市場の成長見通しは大きく振れてきました。こうした見方の差は、バランスシート問題の解消についての時間軸に対する見方の差に起因すると考えています。』

バランスシート問題の解消に関する認識が・・・・というような発言をした場合に、銀行出身の野田さんの発言だと更に重みを感じます罠、ということで米国経済に関しては野田さんは従来から極めて慎重な見方をしていますが、この点に関しては引き続き同様の見方をしています。

『第二に、多くの先進国に共通のリスクとして、公的債務残高が大きく増加していることが挙げられます。』

(;∀;)イイハナシダナー

『財政の持続可能性に対する市場の信認が低下すると、金融システムとの間の相乗作用により、実体経済に負の影響が及びます。欧州周縁国では、既に一部で顕現化しており、金融資本市場は緊張が続いています。もっともこれまでのところは、欧州金融安定基金(EFSF)の拡充など、支援制度に一定の枠組みが整いつつあり、他地域への波及は抑えられています。』

まあEFSFで支援してもそれって問題の先送りというか付け替えに過ぎないのですけどね、とは野田さんは仰っていませんが、まー当然ながらそういうご認識はあるでしょうな。

で、その後日本経済の成長についての話も(;∀;)イイハナシダナーなのですが目先の政策インプリケーションがどうのこうのという話ではないので華麗にスルー(汗)。


・必要ならば追加緩和キタコレ

『5.金融政策運営』の『(2)今後の金融政策とコミュニケーション』部分から。

『先行きの金融政策運営については、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復するために、先ほどお話した措置を今後も着実に実行していくことが肝要であると考えています。』

というのは当然ですが・・・・・・

『そのうえで、今後も新たに得られる経済データや情報を注意深く点検し、仮に経済・物価情勢の見通しが著しく悪化する蓋然性が高まったり、デフレからの脱却への道のりが不確かなものになったと判断する場合には、機動性をもって適切な政策を実行していく所存です。』

・・・・・・・(;∀;)イイハナシダナー

何かすっかり市場ちゃん的にも「追加緩和無し」モードになり、更に日銀執行部ベースから出てくる話も、まあ前のめりでは無いにせよ、基本的に次の方向は追加緩和というよりは出口に向けてみたいな感じになっている今日この頃でありまして、そういう状況下で敢えてこのような発言をかます(別に「今後の経済情勢を慎重に点検しつつ必要な場合は適切な対応を機動的に行う」でも問題なさそうな部分なのに、という意味です)というのは、まあこれは野田さんの景気先行き警戒スタンスというのもありますが、包括緩和実施して更に追加みたいな話を最初はしていたのに最近すっかり内外情勢の好転によってトーンダウンどころか明るい話をおっぱじめている日銀や、市場に対して何かをぶちかましたというような感じが思いっきりするのはあたくしの邪推ですかそうですか。

いや、こんな発言を拝読致しますと更に野田さんにはもう1期継続して頂きたいものだとか思うのでありますけれども、どうもベンダーのニュース見ていると会見でもいい感じのぶちかまし発言があったように見えたので、会見要旨を見たいと思いますです、はい。

ということで野田審議委員ネタの続きに乞うご期待(^^)。

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2010/09/21

○介入前後に講演が沢山あったのですが、まずは野田審議委員講演&会見から

すいません全然追い付いてないのにもう直ぐFOMCだわorz

野田審議委員講演
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009b.pdf

野田審議委員会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1009b.pdf

まずは講演から。

・世界経済は結局新興国次第という話

まず講演の最初は『2.海外経済の現状と先行き』ということで海外経済の話をしているのですが、

『世界経済は、奇しくも2年前の今日のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に大幅に悪化しましたが、翌年(2009年)後半以降、緩やかに回復を続けています。この回復の背景には、各国の財政面での景気刺激策と、一たん大きく縮小した在庫の適正水準への復元とがありますが、このところ、この2つの効果がともに減衰しており、回復のペースは鈍化しています。』

ということで、その小見出しを見ますと、

『(1)米国経済 〜バランスシート調整の重石と減速懸念〜』
『(2)欧州経済 〜域内格差と根深い財政再建問題〜』
『(3)アジア経済 〜ソフトランディングに向けた調整局面』

という感じであまりパッとしないのですが、米国のところでこのような感じの記述がございまして、まあ結局世界経済は結局新興国次第ですねという話に落ち着くのでござんしょうという所で。

『先行きについては、世界的に在庫復元が一巡することから、輸出の増勢が鈍化し、また、景気刺激策の効果が減衰(成長率に対しては一時的にマイナスに寄与)することもあって経済の回復ペースは、年内は一たんは減速するものとみられます。もっとも、輸出が新興国・資源国向けを中心に増加を続け、緩和的な金融環境が維持されるもとで、個人消費や設備投資も増加基調を維持すると考えられ、回復の流れそのものは崩れないものとみています。』

ということで、回復の流れは崩れないのですけれども、やはりこれも外需期待という所があるのですねえって感じですな。


・国内経済は自律的回復には至らず

日本経済と物価に関する部分が次に来るのですが、経済に関しては、

『(1)経済 〜緩やかに回復しつつも、自律的回復力はなお脆弱〜』

と思いっきりありますように、まあ現状に関しても持ち直しはしているものの、

『ただ、国内経済活動の水準を各種経済指標のレベルで確認してみますと、依然として直近のピークを下回る水準に止まっています(図表4)。こうしたもとで、設備や雇用になお過剰感を残しており、収益が顕著な改善をしている割には、企業は支出行動に慎重な姿勢をなかなか崩しておらず、こうしたことから、「民需の自律的な回復」がはっきりと展望できるまでには至っていません。』

という説明をしていまして、この辺りは白川総裁が妙に景気に強気だった時に示していた自律的回復の芽みたいな話とは思いっきり違うトーンで、まあ野田さんは景気回復に対して慎重スタンスですなあと思われます。


・リスクも海外で、特に海外経済の過剰の修正ということですな

先行きリスク要因に関する説明がその後に続くのですが、基本的には下向き警戒のトーンが強い内容になっています。

『わが国経済の回復は、海外経済の改善を起点としたものです。内需の自律的な回復が未だはっきりと展望できない状況のなかでは、海外経済の回復が滞れば、持続的な成長への経路が途切れかねないという意味において、海外経済の動向を最大のリスク要因として捉えています。』

ということで各国の話があるのですが、米国に関する説明がまあ仰るとおりですなあと。足元で米国経済のデータが下振れて急速に米国経済への警戒感が足元で高まっている件について指摘した後、野田さんはこのように話をしています。

『先ほども述べましたように米国はバランスシート調整の影響が続いていますが、楽観的に過ぎた部分とは、つまるところその調整圧力の大きさ、すなわち成長に対する重石の重さの評価にあると思います。』

『我々のバブル崩壊後の長く苦しかった経験と今次金融危機までに積み上がった過剰の大きさを重ね合わせて考えますと、今回の調整にも相当なコストと時間を要するものとかねてからみておりましたので、このところの動きは私にとっては想定の範囲内といえるものです。もっとも、雇用の改善が想定以上に遅れたり、住宅価格が再び下落することになれば、家計のバランスシート調整も遅れることになり、個人消費の抑圧を通じて企業部門への負のフィードバックも生じるといった下振れリスクの連環には注意が必要です。』

という事で、(まだ紹介してませんが)白川総裁も講演でこの辺に関しては同じような話をしてはいるのですが、何故か白川さんが話をしても何だかなあとなってしまうのは、その前に楽観話を自分でもしちゃっているからでしょうな、と話が脱線しましたが、基本的に野田さんは不良資産問題によるバランスシート調整の影響の大きさに関しては(銀行で当事者だったこともあり)かなり厳し目に見ているという感じが致します。


・こういう言い方が良いのではと思うのだが

今後の金融政策に関するところですけれども、まずは最初の方でこういう話をしましてですな。

『既にお話したとおり、経済の先行きに対する見通しには「不確か」がつきまとっています。今後、新たに得られる経済データや情報を注意深く点検したうえで、仮に下振れリスクが顕現化し、経済情勢の見通しが著しく悪化する蓋然性が高まり、デフレからの脱却までの道のりが不確かなものになったと判断される場合には、必要と判断される政策手段を迅速かつ果断に実行しなければならないと考えています。』

で、後のほうでしらっとこういう話をするのですな(ちなみに上記の部分と下記の部分は直接文章として繋がっては居ませんので念の為)。

『その際、留意すべきことは、一つは、政策の効果から実施に伴って発生する蓋然性のあるコストが控除されなければならないことは当然であり、それとともに、潜在的なリスクとその保全についても予め吟味されなければならないということです。もう一つは、こうした効果やコストなどの副作用は、経済・金融の状況はもとより、財政や制度面の違いや変化によって、異なったかたちで生じ得るものですから、絶えず今日的な観点から点検されなければならないということです。』

ここの部分を後にしらっと持って行き、ついでに前半部分は割と判りやすい言い方をしているのに、後半部分では微妙な言い方にしているという辺りが野田さんのプレゼンのきっちりとしたところでございまして、これが白川総裁にかかりますと前半と後半の語順がひっくり返る上に、「副作用に注意」の方は判りやすい言い方をして、「必要な場合には果断に実行」の方は微妙な表現をしちゃうという所でございまして(−−;)、まー見せ方って重要ですねという話ですな。


・会見で非不胎化がどうのこうのとしつこく聞いているお馬鹿さんがいるのだが

非不胎化介入がどうのこうのというのは現在の金利ターゲットを設定した金融調節体系においては議論として意味の無い話である、という事を経済担当の記者(というかこれ日銀担当の記者の悪寒がするんだが)がするという時点で如何なものかと思うのですが、会見ではその質問をウダウダとしつこくしているのがいて正直閉口。

最初の質問では完全に非不胎化の話をスルーして総裁談話の話をしていたのですが、更にアホウな質問をするのがいましてな。

『(問) 今の質問と重複しますが、本日の総裁談話の「強力な金融緩和を推進する中で、今後とも金融市場に潤沢な資金供給を行っていく」について、これはいわゆる介入の非不胎化、つまり介入でマーケットに入ってきた資金を大量にマーケットに残していくという非不胎化の方針を示されたものと見ていいのかどうかをお伺いできればと思います。』

『(答) 先程も申し上げたとおり、まだこのニュースを耳にして数時間も経っていないので、あくまでも個人的な意見ということでお聞き届けいただきたいと思います。先程申し上げたステートメント以上のものでもないし、それ以下のものでもないということに尽きるのですが、私なりに申し上げます。』

『介入資金は一時的には金融市場への資金の供給要因になるということは、ご指摘のとおりだと思います。したがって日本銀行としては、この介入資金の活用も視野に入れながら潤沢な資金供給を行っていくことになるのではないかと、個人的には、かつ現時点では考えています。』

『ただ、だからといって介入額が、そのまま日本銀行の当座預金残高の増加にストレートに結びつくと考えているわけでもないということも、申し上げておきたいと思います。これ以上のことは、現時点では申し上げる状況ではありません。』

・・・・前半でリップサービスをしつつも介入額に紐をつけた当座預金残高拡大という話はきっちりと否定するところが中々の達人。

しかし更にアホウな質問は続く。

『(問) 今のご発言を確認させて頂きたいのですが、これは2003年から2004年のように介入した金額がそのまま当座預金に積み上がるわけではないけれども、定性的な方向としては積み上がるという方向になるのではないかということを指しておられるという趣旨で良いのかが一点です。もう一点は、おそらくFBを発行することになると思うのですが、いずれ市場に消化された時には自動的に、オートマチックに不胎化になってしまうというのが白川総裁の持論ではないかと認識しています。そこで、実際にFBが発行された後に、どのようなマーケットに対するアドオンの資金供給になるのか、よくわからないところがあるので、その辺についてよろしければお話しを伺えればと思います。』

『(答) 先程の説明以上のものは申し上げられませんし、それが定性的にという意味がよく分かりませんので、そのご質問への回答は差し控えさせていただきます。それから、ご質問の中にFBとか、不胎化、非不胎化といった言葉が出ましたが、基本的に私どもの資金供給あるいは金融調節について、不胎化とか非不胎化というベースで議論をしていくつもりは私にはございません。』

『あくまでも、市場にどの程度の資金を供給するのか、その時点で潤沢なのかどうか、あるいは潤沢でないのかどうかということをその都度判断するということで、少なくとも私の頭の中には、不胎化とか非不胎化というベースでの物の考え方はないということです。先程追加でお答え申し上げた以上のものは、あくまで今のところということでお断りしたいと思いますけれども、考えておりません。』

・・・・・うーむ、何と言うパーフェクトな答弁(^^)。


というトンチキ問答だけ引用で申し訳ありませんが、最後のほうで「講演で不確実だの下振れだのという話をしているが、そんなに不確実ならば何で今追加緩和しないのか」という質問があったのは(;∀;)イイシツモンダナーと思いました。引用すると微妙に長くなるのですいませんが割愛、質疑の6ページから7ページです。

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2010/03/09

○昨日の訂正&物価に関連して

昨日野田審議委員の会見に関して「ハト」という用語を素で間違えて使っておりましたのでここに謹んでお詫びすると共に訂正しますが、賠償は致しませんので念の為申し添えます。鳩の支持率が下がっているだけに鬼門ですな(違)。

昨日引用した野田さんの発言ですけど。

『(問) 山口副総裁が2月の講演で、物価下落幅の縮小ペースが想定よりも若干遅いといったことを発言されました。この発言にかかる委員のご見解と今後の対策についてお聞かせ下さい。』

『(答)(前半割愛)個人的に申し上げれば、少なくとも物価下落率の幅が1月の想定に比べて大きいとか小さいとはっきり申し上げるほどの動きは今のところ観察できていません。』(以上3月4日野田審議委員会見より)

ということで、山口副総裁は「物価のマイナスが想定より戻りが弱い」と言っている(=ややハト)に対して野田さんが否定しているのですから、ハトではないですな。まあ山口副総裁の発言が(執行部の人ですけれども)公式見解対比ハトなのかというとこれがまた解釈が難しいのですな。と申しますのは2月の金融経済月報での物価見通しでややこしい事をしていまして・・・・

『消費者物価の前年比は、当面は現状程度の下落幅で推移したあと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、下落幅が縮小していくと予想される。』(2月の金融経済月報概論より)

ということで、2月の月報で「中長期的には需給バランス改善」「足もとは下落幅の改善が遅れる」という器用な訂正をしているのでありまして、中長期的な物価安定の理解という意味ではどっちに政策インプリケーションがあるのか判らん(というかどっちにも取れるようにしているんでしょこの日銀文学は^^)という代物。足元のマイナス継続に対応という言い訳も出来ますし、中長期的には需給バランスは改善するのでとりあえず追加で何かする訳でも無いっすよという事ですな(^^)。

で、その日銀文学っぽい動きに対してなのか、山口副総裁の微妙な発言に対してなのか知りませんが、野田さんは「そんなに急に下落幅縮小に対して反応しなくても良いのではないでしょうか」という話をしていると言う事ではないかと思います。過去の野田さんの発言とか決定会合の投票とか見ていると、野田審議委員って結構ロジックの整合性を重視するタイプで、執行部が時にやらかす「急に今までの話と全然違う事をおっぱじめる」という動きに対しては批判的ということなのでは、と思いまする。

まあ何はともあれ昨日の間違いはどうもすいませんでした。

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2010/03/08

○書いたり消したりしているうちに時間が無くなったので簡単に

野田審議委員会見はあっさり味
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1003a.pdf

・これはまた正直な質疑応答

『(問) 本日の挨拶要旨の中でターム物金利の引き下げが景気に対して効果的なサポートになるとのお考えを示しています。現在、3か月物の固定金利オペを6か月に伸ばすことによって、より効果が高まるとみているかについて教えてください。』

『(答) 挨拶要旨の中で話したように、日本銀行は市場に潤沢な資金供給を行ってきました。新しい資金供給手段もその一環として導入しましたが、こうした手段の導入により通常の共通担保オペ――やや長いターム物――の平均落札金利は、私共の誘導目標金利である無担保コールレート・オーバーナイト物に限りなく近づいた水準になっています。したがって、金利水準だけで判断すれば、今後例えばご指摘のような追加緩和措置を採っても、限界的な効果はかつてよりも小さくなっているものと考えています。』

金曜の6MTB入札は例の記事があった影響で水曜の3MTB入札よりもレートが低くなってしまいましたが、まあとりあえずそれが無くても水準としてはここもと3Mと6Mって1bp差があるか無いか(大体無い)という世界でありますので、これはこの通り。まあ実際の短期ターム物レートよりは中短期の国債金利あたりの上昇を抑える心理的効果があるでしょ、という話になるでしょう。

という関連で、追加緩和措置に関してまあてきとーに想像してみたのですが、上手くまとまらなかったので明日それは書きます(^^)。


・執行部よりもハトなのかなやっぱり(この部分間違えがあるので訂正します。詳しくは9日の本文を)

従来野田審議委員はハト派的な発言が多かった印象がありまして、その背景には金融危機というか信用収縮に端を発したデレバレッジの動きが経済に与える悪影響の深さについて、銀行出身者としてより強く実感しているからというところのようであります。

今回はそんなにハトハトっぽくは無かったですが、この質疑では「執行部と比較したら私はハトですよ」と言っているようにも見えたのですがどうでございましょうかな。

『(問) 山口副総裁が2月の講演で、物価下落幅の縮小ペースが想定よりも若干遅いといったことを発言されました。この発言にかかる委員のご見解と今後の対策についてお聞かせ下さい。』

『(答) 山口副総裁の発言は承知しています。ご案内のとおり、私共は1月の金融政策決定会合で昨年10 月の展望レポートを見直し、改めて先行きの物価上昇率の見通しについて「中心値」と「幅」をお示ししました。このうち、「幅」を捉えれば、政策委員のどなたかはそうした物価下落幅の縮小ペースの遅さを感じているという見方ができるのかもしれませんが、私から個々の政策委員の見方についてのコメントは差し控えたいと思います。個人的に申し上げれば、少なくとも物価下落率の幅が1月の想定に比べて大きいとか小さいとはっきり申し上げるほどの動きは今のところ観察できていません。』

ということで、個人的に申し上げればと言いながら山口副総裁の見解に対して異議ではないですが、微妙に「その判断は時期尚早ではないっすか」と言っているように見えます。

で、この発言最後にもう一文あるのですが・・・・

『したがって、1月あるいは2月の金融政策決定会合で示した金融政策の運営方針を現時点で変える必要はないと判断しています。』

・・・・という発言の直後の金曜に日経記事が出るとは野田さん微妙にカワイソス。


・これはワロタ

『(問) 今週、菅財務大臣が国会で希望的観測も含めて今年中に物価の上昇があると良いと発言されていますが、それに対するご見解をお聞かせ下さい。』

『(答) 私も希望としては今年中にそういう状態になれば良いとは思います。しかしながら、希望と私共が想定している見通しには差があることはご承知のとおりだと思います。その差についてコメントするほどの材料を、菅大臣の発言の背景として持ち合わせていないので、これ以上のコメントは差し控えたいと思います。』

「その差についてコメントするほどの材料を、菅大臣の発言の背景として持ち合わせていないので」ってこれはまた良い嫌味ですね(^^)。

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2010/03/05

で、野田審議委員講演。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1003a.pdf

お題が『金融政策FAQ』ということで、まあ金利市場的には既に周知のネタなのですが、今朝の日経ネタがなければ今日もネタ無し状態(緩和期待で金利が下がったみたいですが、という市場雑談をする積りだったけどね^^)で、もっとうじゃうじゃ書こうとかと思ったのですが、モーサテが余計な事を言うものですから(笑)、まあ簡単に参ります。本文が17ページで表紙が1ページで、図表が14ページという図表の多い講演録でございます。


○講演での景気見通しは公式見解ベース

最初のFAQは『(FAQ1:日本経済はこの先、どうなるのか?)』という事で(どうせなら「日本経済はこの先生きのこれるか」でお願いしたかったのですが^^)経済見通しですが、基本的には公式見解ベースに近いと思われますので、個人的見解に関しては会見の方をみないといかんですかね。

基本的には緩やかな回復ですけれども、慎重は慎重という事で・・・

『もっとも、わが国経済について、なお慎重な構えを崩せない状況であることも指摘しておきたいと思います。その理由は、経済活動の水準が依然として相当低いところにあるということに求められます。』

『経済活動水準が低いということは、企業にとっては、収益や生産の水準が低く、設備や雇用に過剰感が発生していることを意味します。こうした状況では、企業は設備投資や雇用の増強には慎重にならざるを得ません。個人消費も、政策効果に支えられた耐久消費財を除けば、雇用・所得環境の厳しさが続くもとで、弱い動きが続く可能性が高いとみられます。国内における「民需の自律的な回復」はなお見えにくい状況にあります。』

ただし、リスクに関しては「下振れリスク緩和」となっています。

『昨年10 月の展望レポート作成時と比較すると、新興国経済が上振れていることなどから、総じて上下のリスクがバランスする方向にシフトしていると評価しています。』

ということですから公式見解ベースですね。まあ公式見解ベースなので一々引用しませんです。


○財政維持可能性問題に関して

んでもってそのリスク認識の中に財政維持可能性問題に関するお話が。

『わが国をはじめ、多くの先進国は財政バランス悪化の問題を抱え、財政の出動余地は限られてきており、財政健全化と景気失速の回避のバランスをどう確保するかという難しい課題に直面しています。』

『また、こうした財政バランスの悪化が、長期金利を上昇させ、金融政策の効果を減衰させるリスクにも市場の意識が高まっています。所謂ソブリン・リスクもこの延長線上にあります。事実、ユーロ圏加盟国の中で最も深刻な財政問題を抱えるギリシャでは、長期金利が急上昇しました。財政の持続可能性への信認がひと度失われると、市場の評価が急落するリスクというものを如実に示しているといえます。財政規律の確保、すなわち財政再建の道筋を明らかに示し、それを適切なタイミングで着実に実行することが重要と考えます。』

まあさよですなという感じで。



○今後の金融政策はターム物金利引き下げ方向ですかそうですか

時間が無いので(というのはあたくしの都合だが^^)思いっきり端折って『FAQ2:金融政策をどのように運営しているのか?』に関して。

従来実施した施策に関する説明の話は全部端折りまして、今後の件について。

『ターム物金利の引き下げ 〜最も効果的なサポート〜』

ほほう。

『日本銀行の政策金利は無担保コールレートO/Nですが、リーマン・ショック以来、私が重視してきたのは、やや長めの金利――ターム物金利――の引き下げです。何故ならば、企業や家計の借入金利は、このターム物の金利に基づいて決められることが多く、このレートを引き下げることが景気に対して最も効果的なサポートになると考えているからです。』

リーマンショックの後問題になったのは「足もと下げてもオープン市場のターム物金利が上昇」だったのですよね(しみじみ)。

『具体的には、企業金融支援特別オペ、新型オペという、新しい資金供給手段を導入し、やや長めの資金(3か月もの)を政策金利と同じ0.1%(固定金利)で短期金融市場に潤沢に供給しました。ターム物金利は、ピンポイントの金利ターゲットに誘導することに馴染むものではありませんが、その低位安定化は、実体経済の細部に至るまで金利コストの低減効果を及ぼしています。』

で、ターム物金利のターゲット誘導云々という所に脚注がありまして・・・・

『LIBORやTIBORは、報告銀行が申告する「想定レート」であり、実際の資金取引のレートを示す「実勢レート」ではないこともあり、指標として利用するには限界があります。詳細は、日本銀行の「金融市場レポート(2010 年1月)」の「BOX4 LIBORに関する留意点」(日本銀行のホームページに掲載)をご覧下さい。』

という事ですから、まあ普通に考えるとターム物金利の引き下げを促す政策が追加緩和策なのですが、既にターム物金利もいい感じで下がっているのですけれどもという無粋なツッコミを金利村の方からしてはいけませんですかそうですか。


で、輪番に関して。

『国債の買入れ 〜長期金利の上昇リスクに留意〜』

ほうほう。

『「金融緩和の手段として長期国債の買入れをもっと増やさないのか」というのもFAQの一つです。ここで注意しなければならないことは、日本銀行の長期国債の買入れが財政ファイナンスと誤解され、長期金利が実体経済の見通しから乖離して上昇するという副作用が発生するリスクがあることです。』

『先程2つめのリスク要因でご説明した通り、長期金利の上昇リスクは、多くの先進国が直面している重大なリスクであり、米英の中央銀行が昨年、国債買い入れに踏み切った際に、長期金利が直後の一時的な低下の後、大きく上昇した事実を放念してはならないと考えています。日本銀行は、今後とも、財政ファイナンスとの誤解を与えないように注意を払いながら、長期資金供給のために長期国債の買入れを続けていく方針です。』

まあぶっちゃけて言っちゃえば埋蔵金を恒常的な支出に使うような内閣だったら財政ファイナンス扱いされちゃうから、そっちの方もうちょっとしっかりやってくんなましという事でしょ。


○市場機能論はまあ微妙

『潤沢な資金供給の効果と副作用 〜安心感の醸成と市場規律〜』

『金融市場への流動性供給についても、効果と副作用の双方を勘案する必要があります。先程述べた通り、日本銀行は、潤沢に資金を供給し続けていますが、こうした中でも、「かつての量的緩和16を再開しないのか」、「日本銀行はバランスシートをもっと拡大しないのか」というFAQがあります。』

ほうほうそれでそれで?

『量的緩和の効果については、(1)2001 年の量的緩和政策採用時のように、金融システムに大きな不安がある際には、その不安を和らげ、金融市場を安定させるという効果を発生させるが、(2)経済主体の支出活動を刺激し、物価を上昇させるという効果は非常に限定的である、と評価しています。中央銀行のバランスシートの大きさについては、(1)準備預金の量は各種流動性供給策等の結果であり、(2)準備預金の量と金融緩和の程度は直接的に結び付くものではない、と考えています。』

まあ「効果は限定的」というよりは「需要不足を補うようなサポートが無い中では力不足」位にしておけば良いのにと思うのですけれども、これがまたオモローな事に、2月の終わりに当座預金残高が16.5兆円あった時にはGCレートが0.125%辺りまで上昇した場面がありましたけれども、昨日は当座預金残高が14.2兆円ですけれどもGCレートは0.105%と実質下限レベルに低下している訳でありまして、当座預金残高だけ注目しても良く判らんというのが奥の深い所なのですが、奥が深すぎて恐らく短期市場の超局地的な人達しか理解できないかと思います。つーかあたくしも何がどうなってこうなってるのよという感じなんですけどね(大汗)。

ただまあ市場の実感としては今も「量的には緩和」でしょという風に思う次第でありまして、野田さんはその辺も指摘しています。

『こうした中で我々が金融機関に提供した大量の資金は、銀行が日本銀行に保有している準備預金に残高として積み上がっており、資金余剰感が強まっています。現在は、かつての「量的緩和政策」のように、日本銀行の当座預金残高に目標を設けて資金供給を行うという方法をとってはいませんが、市場の需要を満たす流動性を十分供給してきており、市場における流動性に対する安心感を与えているという点では、かつての「量的緩和政策」と同様の効果を発揮していると思います。』

まあそもそも流動性不安自体が今は落ち着いてますけどね。


で、肝心の市場機能の話は副作用の点で。

『一方、副作用についてみると、市場機能を低下させないという観点が重要です。中央銀行による介入――この場合でいえば、資金取引における日銀オペの依存――が強過ぎると、正常に機能している市場が、中央銀行の介入自体によって、その機能を低下させるという本末転倒な結果をもたらしかねません。』

でもターム物金利誘導とかしたらその時点で市場機能を殺すと言っているのにひとしいのでありまして、そこはあまり強調しないで欲しいと思います。

『かつての「量的緩和政策」は、資金供給量にターゲットを設定していたことから、市場機能を低下させていた可能性もあります。この点、現在の日銀のオペは、市場機能を極力活かしながら、市場が必要とする流動性を十分に供給していると思います。』

とは言いましても、世の中的にターム物取引が随分と減ってしまった訳でありまして、最初のゼロ金利の時にはまだ銀行間のターム物コールとか随分あった訳ですが、今や調達はオペ、運用は国庫短期証券で十分回ってしまうのでありまして、中々こう市場で活発にターム物取引が・・・という感じにならんでしょうなあという所です。まああんまり無理に意識しなくても良いんじゃないっすかと思いますけどね。

#第3のFAQはデフレ話でしたが時間が無いので割愛(大汗)

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2009/08/03

まずは野田審議委員の会見。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0907c.pdf

○長期金利と財政規律

日本経済のリスク要因として「経済実態に合わない長期金利上昇」をわざわざ挙げただけに、長期金利と財政規律に関する質問が結構多かったのが今回の会見の特徴の一つですな。

『(問) 午前中の懇談会で、長期金利についてのお話がありました。今ちょうど、政治の世界で財政についても論じられているところですが、財政について、特に政治に対して、どのような要望・注文をお持ちでしょうか。』

いやあのそういう直球質問をするとこういう答えしか返ってこないのですけれども・・・・・・

『(答) 確かに、財政の規律が重要であるという趣旨は、今朝の挨拶で申し上げましたが、政治に対する注文がどうであるかという質問については、審議委員という立場であり、コメントは差し控えさせて頂きたいと思います。』

その後の方で長期金利に関する質疑が続いた後にこういう質問が出ましてですな。

『(問) 8月30 日に衆議院選の投開票を控えています。政治への要望というよりは、蓋然性、可能性の問題ではあると思うのですが、政権の枠組みや、政策運営の仕方によって、長期金利に悪影響を与える可能性は十分あり得るという認識でよいのでしょうか。』

『(答) 私は、財政規律の確立が重要であるということを申し上げているわけであり、その観点から、仮にも、財政規律に対して不安を国民あるいはマーケットに与えるようなことであっては、私が今朝申し上げた、財政規律の確保が重要であるという趣旨にはもとるということで、ご理解頂ければ有り難いと思います。』

ということで、財政支出の空手形がホイホイ出てくる昨今の状況に対して暗に苦言を呈している訳ですな(^^)。まー立場的にそうそうきつい事は言えないでしょうけれども・・・・・


○長期金利抑制の方策に関して

金曜に引用した脚注「中央銀行による国債の買入は実施直後の一時的なアナウンスメント効果はあっても長期金利の誘導を行うような長期的効果は認められない」という件に関して質問が出て、その流れでこんな質問が。

『(問) 前段の「実施直後の一時的なアナウンスメント効果は相応に認められる」ということについても同意されていることになると思いますが、これは、日銀が今後政策を考えるときにも、こうした一時的な効果を狙って政策を決めることがあり得ると考えればよろしいでしょうか。』

まーこれは「No」を期待した質問なんでしょうけれども。

『(答) 私は、短期的・一時的な効果と中長期的な効果ないしは影響ということを区別して申し上げております。短期的な効果は、日にちが経てば消えてしまうため、私どもは、基本的には中長期的な立場に立って政策を打つというのが基本的なスタンスです。短期的なアナウンスメント効果があるから、直ちにこれでもって政策云々という考えは、少なくとも私には全くありません。』

で、長期金利が上がったらどうするのですかという話なのですけど・・・・

『(問) 長期金利についてお伺いしたいのですが、午前中の挨拶で、「実体経済の回復と乖離した長期金利の上昇は、ただでさえ弱い実体経済の回復力を、さらに弱めることにもなり、警戒を怠れない」と発言されていますが、日本銀行として、何か長期金利の上昇を抑制するような政策を、今後、採る可能性があるとみてよいのか否か教えて頂けますでしょうか。』

『(答) 私ども日本銀行の政策手段は、短期金利に働きかけるという手段しか持ち合わせておりません。基本的には誘導目標です。それに、ご案内だと思いますが、少し長めのターム物に働きかける政策も、年初来、採ってきておりますが、ご指摘のような、いわゆる長期金利の分野に対して、私どもが政策として直接的に働きかけるような手段は持ち合わせておりません。』

というまあ普通の回答。これだけではつまらんのですが、質疑の最後に「時間軸政策の採用についてどう思いますか」という質問がありまして、そちらに関する回答がこうなっています。

『(答) かつて採った時間軸政策といわれる政策を現在視野に入れているかと言われると、入っておりません。ただ、もう少し、長い将来どうですかと言われると、かねてから申し上げている通り、私どもは、あらゆる政策手段について予断をもって臨むということはしておりませんので、選択肢の一つであるかと言えば、選択肢の一つであるという答えになろうかと思います。』

まあ現状はコミットメントこそ無いですけれども、展望レポートの物価見通しが実質的な時間軸みたいな状態になっているので、金利市場だけの事情で言えば敢えて時間軸を明言する必要も無いのですけれども、後はまあ一般向けのアナウンスメント効果をどう評価するかという話になるのではないかと思われます。


○基本的にハトさんですので

米国不良債権プログラムの規模縮小に関して。

『(答) (引用者追記:米銀の資本不足問題が再燃する)リスクについては、挨拶要旨で述べている通りであり、繰り返しは避けますが、米国の当局に対してどうするのかという前段の質問に対しては、この不良債権買取りプログラム(PPIP:Public-Private Investment Program)のみならず、これまでの不良債権処理でわが国が経験したこと、あるいは政策としてやってきたこと、あるいはその効果等々については、グローバルなミーティングの席、あるいは個別のバイラテラルなコミュニケーションの場を通じて、これまで繰り返し述べてきました。今後も、その姿勢、そういったことについて私どもの経験を十分に説明していくという考え方には全く変わりはありません。』

で、講演で懸念しているという話をしていましたので、結論からすると本件に関しては懸念しており、日本でもあった「偽りの夜明け」にならないかと危惧していますわなという話でしょう。

で、この質疑応答を見ていて「ほほー」と思ったのですけれども、今回の質疑応答の中では「出口政策」に関る質問が全然飛んできておらず、「これこれは景気下振れの話だと思いますが審議委員はどうお考えですか」というトーンの質疑応答が延々と続くという流れになっておりまして、これは野田さんの講演のトーンがかなりハト派というか先行きの景気に対する厳しいトーン(字面で感じるよりも!)だった為に会見での質疑応答もそのトーンに引っ張られたのではないかと思料されます、っていうのはあたくしの勝手な想像なんですけどね(^^)。

ということで、野田審議委員は特に今回の経済状況に関しては、金融機関の不良資産問題というポイントを重視しており、その不良資産の規模および欧米の不良資産処理に関する施策が甘いと評価する事から、景気の回復は相当遅れるし、処理を誤れば再び問題発生もという金融面を重視しているのでは無いかと思われます。まあ銀行出身ですからね。

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2009/07/31

で、野田審議委員講演ですが、図表を含めてPDF44ページです。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0907b.pdf

特に市場的なインパクトはございませんでした(と思う)のですが、基本的には景気に対する慎重な見方を表明しているのがありますけれども、幾つか独自色を出した論点もありというのが目についた感じです。


○米国不良債権問題

野田審議委員は銀行出身(第一勧銀→みずほFG)ですので、不良債権処理問題に関しては以前から厳しい視点での指摘を講演などで行っていますが、今回もその点をきっちり指摘しています。まず世界経済の全体感として冒頭に『(1)「不均衡」の調整〜調整にはなお時間が必要〜』という小見出しで話をしていますが、そこではいつものように構造問題であるという指摘をしています。

『今回の世界的な不況は、単なる景気循環ではなく、グローバルな構造調整を背景としています。』

『図表からも容易に推測できると思いますが、こうした不均衡の調整には相応の時間が必要であり、世界経済の回復力は暫く弱いものとなる可能性が高いとみています。世界経済の回復力や持続的な成長軌道に復するまでの期間を見極めるうえで、不均衡にかかる調整の進み具合を逐次、確認していくことは重要です。』

で、米欧の金融システムの回復はまだ道半ばであるという指摘をしていまして、その中で野田さんが懸念しているのはこの点です。

『特に、私が懸念しているのは、不良債権買取りプログラム(PPIP:Public-Private Investment Program)の規模が大幅に縮小しかねないことです。』

富士山より高く同意です。即ち・・・・・

『当初、米政府は最大1兆ドルの買取りを目指していましたが、差し当たって証券化商品の買取りに絞って、その25 分の1の400 億ドルの規模でスタートすることを7月8日に公表しました。米国の金融機関は、幾つかの理由――(1)自己資本を拡充したこと、(2)不良債権の安値での売却に繋がりかねないこと、(3)プログラムに参加した後に新たな条件が課されるリスクが懸念されること――から、PPIPの利用へのインセンティブを落としているようです。』

という現状ですが、

『しかしながら、重要な点を2つ指摘すれば、(1)PPIPが本格的に稼動しないとなると、不良債権が金融機関のバランスシートに残ったままとなり、実体経済の回復がストレス・テストでの想定よりも遅れた場合等に、ロスが膨らみ、資本不足問題が再燃するリスクがあること、(2)その場合、金融機関は、政府の経営への介入を嫌がり、公的資本の返済を優先していることから、肝心の「実体経済への信用供与」が進まず、「金融と実体経済の負のフィードバック」が再び強まるリスクがあることです。「負のフィードバック」を解消するための重要なプロセスの全てが着実に進んでいるか、引き続き注視していきたいと考えています。』

まー米国の実体経済のマクロという点ではストレステストよりも状況が悪い筈なんで既に表面上は兎も角として資産の中身ってどうよという話は思いっきり今の話でもあったりしますけど(^^)。


○日本経済に関しても慎重です

で、その後世界各地域の見通しの話があるのですが、そこは引用をスルーしまして(米国の回復はスローで欧州は米国より遅れ、アジアは比較的堅調というまあコンセンサス的な話です)、日本経済に関してですが、基本的には回復基調ですけれども不透明って話で、不透明の方を強調しています。

『その理由を述べれば、第1に、輸出や生産の持ち直しは、最終需要を大幅に下回る水準まで落ち込んでいたところからの、いわば「急落・激落」後の反発(自律的反転)であり、4〜6月期の輸出や生産はピーク(2008 年1〜3月期)比で3割も低い水準に止まっていることです。経済指標については前年比や前期比といった変化率でみることが一般的ですが、今回のように非連続的な変化が発生した後では、水準も併せて点検していくことが適当です。』

『第2に、「内需を含めた最終需要の本格的かつ持続的回復」を示唆する材料がなお乏しく、この点の不確実性が引き続き非常に高いことです。輸出は、内外の在庫調整の進捗を主因に、持ち直しを続け、公共投資も増加を続ける可能性が高いとみています。一方、国内民間需要は、厳しい収益環境が続き、雇用・所得環境も厳しさを増すもとで、引き続き弱い動きが続く可能性が高く、加えて、設備や雇用に大きな過剰感が発生している状況下、生産がある程度回復したとしても、設備投資や雇用の増加には繋がりにくいことから、回復には時間を要すると考えざるを得ません。』

と、そもそも論としての水準が大きく下がったでしょという問題と内需の回復が遅れる懸念に関して指摘しています。また、この先でリスク要因として説明をしているのですが、その部分でもこんな言い方を。

『以上、日本の経済・物価の先行きを展望しますと、景気は今年度後半以降持ち直し、物価の下落幅も縮小していく姿が中心シナリオとして一応想定されます。「一応」と申しましたのも、これまでお話ししたことからもお分かりのように、海外経済が回復に向かうことが言わば前提となっています。言い換えれば、中心シナリオの最大のリスク要因は海外経済、就中、米国経済が立ち直るかどうかであります。これについては、前半に詳しく述べました。』

『その他のリスク要因は挙げれば際限がありませんが、ここでは金融環境、国際商品市況、長期金利の3つについて述べてみたいと思います。これらは、いずれも景気の中心シナリオに対して下振れリスクを意識させるものです。』

>その他のリスク要因は挙げれば際限がありませんが
>その他のリスク要因は挙げれば際限がありませんが
>その他のリスク要因は挙げれば際限がありませんが

なお、長期金利の話はこの後。


○物価に関しても下ブレ懸念

『(2)物価〜拡がりつつある価格引き下げの動き〜』って小見出しで話をしているのですが、そういや決定会合議事要旨でも価格引下げの動きが広がっている事をよく指摘している人がいましたねとか思いつつ。

『物価の先行きを考える上で私が注視しているのは、経済全体の需給バランスの悪化が、物価形成のダイナミクスにどの程度の影響を与えるかという点です。現時点では、これまで比較的しっかりとアンカーされていた中長期的なインフレ予想が、トレンドから大きく乖離し、物価下落と景気悪化の悪循環――所謂、デフレスパイラル――が発生するリスクが高まっているとはみておりませんが、いずれにせよ物価関連データを注意深く点検していきたいと考えています。』

これは結構懸念しているということでしょうね。



○長期金利の話が出てきたのはユニークっすな

で、先ほどリスク要因の中にあった長期金利なのですが。

『3つ目のリスクは、実体経済の回復と乖離した長期金利の上昇です。』

ということで、日本も6月に10年国債金利が1.5%台に上昇しましたねという事実の指摘を致しまして、その結論としてどうなんですかというのは、

『実体経済の回復と乖離した長期金利の上昇は、ただでさえ弱い実体経済の回復力を、さらに弱めることにもなり、警戒を怠れないと私は考えています。』

という話になるのですが、では長期金利上昇警戒と言いますがどうやって警戒するんですかという話になった時に、財政規律の話をしているのはまあお約束のようなもん(バーナンキもイエレンも言いますからね!)ですが、脚注のところでしらっと「金利押し下げの為に実施する長期国債買入とは」という話がございますので引用引用。

『中央銀行による国債の買入れが長期金利へ与える影響に関するこれまでの実証研究や海外の事例をみると、実施直後の一時的なアナウンスメント効果は相応に認められるが、価格を一定水準に誘導するといった長期的な効果は認められない、というのがコンセンサスのようです。』

『むしろ、米英の中銀による国債買増しの後、長期金利がともに上昇したこともあり、国債の買入れが財政ファイナンスと誤解されることに伴う長期金利の上昇リスクへの警戒感が高まっています。』

まー複合要因だとは思いますが、結果的にはFRBの長期国債大量購入決定以降、アナウンス効果で10年国債金利が3.1%近辺から2.5%近辺まで豪快に低下したものの、その後金利が上昇した後には3.1%まで低下することも無いままで推移していまして、長期国債大量購入は少なくとも長期金利を押し下げることは出来ませんでしたという話になりますわな。

『FRBのバーナンキ議長は、5月5日、6月3日、7月21日の議会証言において、「我々は特定の金利水準をターゲットにしようとしている訳ではない(We are not trying to target a particular interest rate)」、「連邦準備は政府債務をマネタイズすることはない(The Federal Reserve will not monetize its debt)」と述べるとともに、「財政の持続可能性に対する懸念に速やかに対処することが非常に重要である(Prompt attention to questions of fiscal sustainability is particularly critical)」、「長期的に持続可能な財政のパスについて合意を得ることは、長期金利の低下や消費者や企業のコンフィデンスの改善といったかたちで大きな短期的なベネフィットを産み出し得る(agreeing on a sustainable long-run fiscal path now could yield considerable near-term economic benefits in the form of lower long-term interest rates and increased consumer and business confidence)」と指摘しています。』

ということで、これ本文で書いても良いと思う論点なのですが、脚注になっている所に微妙なモノを感じるのは深読みのしすぎですかそうですか。


○臨時措置に関して

金融政策に関する部分は基本的に白川総裁や山口副総裁の講演やら会見やらと同じような感じですので、その辺は全部スルーしまして時限措置に関する話で。

『次なる課題として、市場では所謂「出口政策(Exit Policy)」――各種の時限措置をいつまで続けるか――に注目が集まっていますが、出口政策で最も重要な点はタイミングです。』

そらそうよ。

『異例の措置を必要以上に長期間に亘って続ければ、金融市場や経済における自律的な調整を阻害し、結果的に景気や物価の振幅を大きくするリスクがある一方で、早過ぎる政策変更により問題が再発することは当然ながら避けなければなりません。』

ということですが、これを『早過ぎる政策変更で問題再発避ける必要』と意味不明なヘッドラインを打っていたお間抜けベンダーがありましたが(その後『早過ぎる政策変更による問題再発は避ける必要』とヘッドラインを訂正してましたが)全然市場が反応しなかったのがチャーミングです。まー他のベンダーがハト派的なヘッドラインを打ってましたしね(笑)。

それは兎も角、今回延長しましたという話をした上でこのように話をしています。

『もっとも、昨年度末までとは異なり、足もとの金融環境は、改善の動きが続いていることは既に述べたとおりです。この動きがどう展開するかを見極めながら、各種時限措置の一つひとつについて日本銀行の臨時措置によるサポートが必要な状況かどうか――終了、見直しまたは再延長のいずれが適当か――年末までに改めて判断することになります。』

ということで、中身の見直しという選択肢があるのと、時限措置も全部ではなく一部の終了のような選択肢があるというのは把握した。で、しらっとこれまた脚注にCP市場阿片窟の話が。

『この点に関して、企業金融支援特別オペをはじめとする一連の措置が、CPのレートがTBのレートを下回るという「副作用」、つまり市場機能の部分的な低下を招来していることは確かに認識していますが、現時点では、このコストよりも、セーフティーネットとしての評価が高い措置を外すことにより生じかねないコストの方が大きく、引き続き市場に資金調達にかかる安心感を提供することが重要、と私は考えています。』

特オペにおけるCPはセーフティーネットというよりは金利押し下げだと思うのですけどね。セーフティーネットという点では買切ではござーませんかね、とは存じますけど、まあとりあえずこういう文脈になっているというのは把握しました。

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2009/03/10

○もっと前のネタですが野田審議委員の講演

2月26日の話で恐縮ですが(汗)

講演
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0902b.htm
会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0902e.pdf


内容的には金融政策の話よりも景気の話が多くて、ポイントとしては(銀行出身者らしく)欧米の金融問題に関して構造的な見地から論じている所でありまして、それは即ち現在の景気のゲロゲロさん状態が単なる循環的な回復では回復しきれないという厳しい見方に繋がるかと思います。


・欧米を中心とした金融商品不良債権問題

講演の最初(マクラを除く)が『それでは、まず今回の大不況の震源地である米国を中心に、海外経済からお話ししたいと思います。』となってまして、最初の小見出しが『(1)回復への重石となる「不均衡」の存在』というのが構造的な問題に関する指摘となっていますねという所です。従来の海外経済成長の逆回転がグローバルな不均衡の拡大の巻戻しによるという話をしていまして・・・・

『こうした不均衡は、グローバルな経常収支の不均衡の拡大によって支えられていたという側面があります。すなわち、かつて経常収支の赤字の積み上がりから1997年のアジア通貨危機を経験した東アジア諸国をはじめとする新興国は、その後経常収支を黒字化させ、外貨準備を積み上げてきました。この新興国やわが国の貯蓄余剰が米国の経常収支の赤字をファイナンスし、その過剰消費を支えてきたのです。このような不均衡が巨大化し、持続不可能な水準に至り、今まさに調整が進んでいるところであるという大きな流れを認識する必要があります。これは、米国経済をはじめとする世界経済の先行きを展望するうえでも重要です。』

ということで不均衡の内容ですが。

『グローバルな不均衡は様々な尺度によって測ることができますが、まず、米国の家計部門における金融負債残高を可処分所得対比でみると、住宅ローン借入れの急増を背景に、2000年前後から急速に上昇していることがわかります。次に、世界の銀行の対外債権残高の世界GDP比をみると、2002年頃から、国際資金取引および市場流動性が実体経済の拡大テンポに比べ大きく膨張していったことが読み取れます。また、米欧の住宅価格の推移をみると、(1)2007年頃までのグローバルな信用拡張期において大幅に上昇し、その上昇幅は1980年代後半の日本のバブル期の住宅地価の上昇幅よりも大きかったこと、(2)その後、下落したとはいえ、まだ下げ余地を大きく残している可能性が高いことがわかります。』

『今回の世界的な不況は、単なる景気循環ではなく、グローバルな構造調整として捉えておくことが適当と考えています。かつて日本の企業や金融機関は90年代にバランスシート調整を余儀なくされ、その克服に長期の時間を要しました。その経験を踏まえれば、様々な不均衡の調整の進み具合を確認することは、不況の長さや深さ、あるいは回復の時期を見極めるうえで重要と考えています。』

というのが基本認識でして、即ち景気の先行きに関しては構造問題になるのでまあ厳しい見方になりますわなというのが基本線です。


で、バランスシート問題をどうするかという話ですが、これは日本の例を引きながら説明してます。まあ当然ちゃあ当然のことを指摘していますが、念のため引用。

『1998年以降の邦銀に対する資本注入による金融システム安定化へのプロセス――私も当時その渦中に身を投じていましたが――を踏まえれば、米欧の金融機関におけるバランスシートの問題を根本的に解決するためには、(1)厳格な資産査定による損失額の把握や(2)不良債権の処理、という重要課題を克服し、そのうえで(3)明らかになった資本の不足を追加的調達により補填することがまずもって必要になります。その意味では、米政府が、不良資産買取りのための官民共同の投資ファンドの設立等の対策を盛り込んだ新たな金融安定化策7を今月10日に発表し、資産査定を厳格に行うことを含め、メニューを揃え、示したことは前進です。しかしながら、新たな官民投資ファンドというスキームの導入が不良債権の買取り価格をどう決めるのかという難問解決にどう繋がるのか不透明であり、具体策が示されるまでにはまだ時間がかかりそうです。また、買取金額の規模が、推計される不良債権規模に比して小さいといった厳しい評価や失望の声も聞かれています。』

ということで、講演では指摘してませんが、今の米国のお助けスキーム発動ってどうみても(3)から最初に入っているから兵力の逐次投入になっているので203高地絶賛銃剣突撃全部撃退され状態になっとるんでしょうというのも皆様既にご案内の通りですな。

『実効面の課題で特に重要なものは、不良資産買取り価格の決定方法ですが、価格が高ければ買取りを行う政府等の負担が大きくなる一方、価格が低ければ金融機関からの不良資産の分離が進まず、関係者が合意できる価格――公正価格――をみつけることは本来的に確かに容易ではありません。90年代の日本も、不良債権の分離――破綻金融機関以外からの買取り――は、この公正価格設定の困難さから実質的には捗々しくなかったことを思い起こす必要があります。』

だから毎年のように「不良債権処理は峠を越えた」と言いながら翌年になると同じような不良債権要処理額が出てくるという悲しい展開だったのですが。

『現在の米欧の金融機関の不良資産には、価格評価が困難とされる証券化商品が多く含まれているため、価格決定の実作業は90年代の日本よりも難易度が高いとも言えます。とはいえ、この点については、根拠法である「緊急経済安定化法」が成立した昨年10月当時からissueであっただけに、市場の失望は大きいものでした。これらの点を含む実効面の課題が今後どのように解決され、不良資産の処理がどのようなペースで進んでいくのか、引き続き注目してみていく必要があります。』

先行きは厳しいということですね、わかります。


・国内景気に関しても当然厳しい見方で

国内景気が悪化してますという話をしてまして、背景の説明と先行き見通しを。

『この悪化の主因は、先程ご説明したグローバルな構造調整を背景とした海外経済の減速です。わが国が目立って大きい景気後退を余儀なくされたのは、日本経済の2002年度以降の回復・拡大がグローバル需要の増加を背景とする輸出の伸びに大きく依存していたことにあります。2007年度までの間、輸出は約8割も増加し、その間の経済成長への累積寄与度は純輸出が個人消費や設備投資の増加を上回っています。』

『グローバル需要の増加に伴い、また円安環境という追い風を受けたことによって、輸出が大幅に増加し、それとともに、輸出型製造業を中心に設備投資も拡大し、それらが起点となった「好循環」が発生していましたが、グローバル需要の急減に伴い、こうした循環は突然大きく「逆回転」を始めたということであります。加えて、先程来触れているグローバルな不均衡の調整過程にあって、為替が大きく円高に振れたことも、海外の最終需要の落ち込みを増幅するかたちで、わが国の輸出にマイナスに作用していると考えられます。』

ということで構造問題が影響を与えるという話に加えまして・・・・

『昨秋以降は、後でも申し上げる企業金融の引き締まりも景気に悪影響を与えています。先行きについても、企業の収益や資金調達環境が悪化し、家計の雇用・所得環境も厳しさを増す下で、国内民間需要は更に弱まっていく可能性が高いうえ、海外経済の一段の減速を背景に、輸出は減少すると見込まれるため、当面、厳しさを増す可能性が高いとみています。』

という厳しい見方をしていまして、展望レポートの下方修正をした話の最後にこのように付け加えております。

『リスク・バランス・チャートをみると、2008〜2009年度の実質GDPの確率分布は中央値の左方向が膨らんでおり、政策委員が全体としてダウンサイド・リスクをより強く意識していることがわかります。現にこの中間評価から1か月余りしか経っていませんが、利用可能となったデータからは足もとまでさらに下振れて推移していると私は判断しています。』

と、更に悪化しているという見立て。


・何気にデフレ懸念???

その次に物価面の話をしているのですが、ちょっと気になる記述が。

『今後の物価について重要なことは、(1)このところの急速な需給バランスの悪化が、物価形成のダイナミクスにどの程度の影響を与えるか、(2)急速な物価下落が、物価上昇期には比較的しっかりとアンカーされていた中長期的なインフレ期待に対してどう作用するかを丹念に見極めていくことです。目先数四半期の物価関連指標から目が離せないと考えています。』

>急速な物価下落が(略)中長期的なインフレ期待に対してどう作用するか
>急速な物価下落が(略)中長期的なインフレ期待に対してどう作用するか
>急速な物価下落が(略)中長期的なインフレ期待に対してどう作用するか

これは・・・・デフレスパイラル懸念ですかねえ・・・・・


・金融政策に関して

金融政策に関する話はまあ基本的には皆さんと同じ話をしているので引用を手抜きしますけれども、最後の所では重要な指摘をしています。『企業金融円滑化と市場機能とのバランスの重要性』って所ね。

『以上ご説明したとおり、リーマン・ブラザーズの破綻後、矢継ぎ早に政策対応を決定し、実行しました。私が重視している点は、緩和的な金融環境を維持し、日本経済を下支えするために、最適の政策を選択することです。これまでお話した通り、中央銀行が個別金融市場に介入せざるを得ない局面ですが、その介入が強過ぎると、現在はそれなりに正常に機能している市場が、中央銀行の買入れ自体によって、その機能を低下させるという本末転倒な結果をもたらしかねません。』

そらそうです。

『その意味で、買入れの金額が大きいほど、また金利が低いほど、効果があるとは私は考えておりません。例えば、CPや社債の買入れでは、下限利回りを設定した入札方式を採用していますが、この下限利回りは、市場機能が著しく低下している状況では市場金利に比べ有利な一方、平常時に比べれば不利となるよう設定しています。これにより、市場機能が回復してくれば、入札が自然に減少していく仕組みとなっています。企業金融にかかるクレジット商品の買入れに当たっては、あくまでも市場機能の回復を目指しつつ、企業金融の円滑化という効果を最大限に引き出すとのコンセプトを私は強く意識しています。』

ということで札割れ上等なのですけれども、何か札割れすると悪みたいな話をする各位におかれましては何考えてるんだかという感はしますが。


記者会見では別の話ですが、「ターム物金利を政策の目標、ターゲットにするということの可能性、是非についてお聞きしたいと思います。」って質問がありまして、それに対する野田審議委員のお話を引用します。

『政策金利、誘導目標金利を何にするかということについて、基本的には大きく2つの要件が必要であると思っています。一つは、目標にする市場金利が、私どもの政策等を反映させられるものなのか、反映されるものとして存在しているかどうかということです。もう一つは、誘導目標金利とするからには誘導可能か、――表現が適切かどうかはわかりませんが――コントローラブルなものかどうか、という点であります。そうしてみると、少なくともこれまで私が考えてきたことによると、ターム物金利に働きかける必要性はあると認識しつつも、無担保コールレート・オーバーナイト物に代わるものがあるのかどうか、という点について自信は持てていません。』

ま、これもまたそらそうよという感じでして、目標とするのはいいけどコントローラブルじゃないものを目標にして良いのかという話ですわな。超時空要塞ヒデヨシじゃないのですからそう何でもかんでもコントロールできる訳では無いのでして・・・・・

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2008/09/29

では野田審議委員会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0809d.pdf

○全体的に景気に弱気です

会見要旨の量自体は短いのですが、質疑応答は中々面白いです。で、今回の会見のトーンは政策委員会のコンセンサス比景気に弱気かと思われます。

最初に良い質問がありました。

『(問)(前半割愛)また、本日の講演内容をみると、国内外の景気下振れリスクに対する言及がかなり多くなっている印象を受けています。一つ目に、景気の下振れリスクに大分バランスが寄ってきているのではないか、二つ目に、日本経済が成長経路に復する時期が大分遅れてきているのではないか、三つ目に、それを受けて、日銀の金融政策として利下げが視野に入りつつある、もしくは、入り易くなってきているのでないか、といった点につきまして、野田委員のご認識を教えて下さい。』

『(答) 景気の下振れリスクにバランスが寄ってきているのではないか、という点につきましては、かねてから申し上げているとおり、金融政策の効果が現れるタイムラグをも踏まえて、私どもは1 年半や2 年という先を見通しながら、フォワードルッキングに物事をみようと努力しています。(途中割愛)現状はどちらかと問われれば、先行きについては、先ほど申し上げたメインシナリオのとおりでありますが、もう少し短いタームについて敢えて言えば、上振れリスクとの対比において下振れリスクの方がよりクリアに見えるという感じがしております。』

下振れリスクがクリアですかそうですか。

『日本経済が成長経路に復する時期が遅れてきているのではないか、というご質問についてですが、日本経済も含めて、世界経済は暦年ベースでは2008 年、2009 年は少しずつ減速し、すなわち2009 年は2008 年よりももう少し減速感が強まり、その後2010 年から回復すると講演ではお話しました。回復の兆しは2009 年の後半あたりからみえるのではないかとも申しています。』

『かつて景気の回復時期については、必ずしも明示しておりませんでしたが、いま現在はこのような見方をしているとお示ししている訳であり、回復が遅れているとか、早まったとかという認識はしておりません。この点は、挨拶要旨で述べたことを、そのまま受取って頂きたいと思います。』

となりますと、政策委員会の現在のコンセンサスよりも回復時期が後ずれしているように見えます。

『最後に利下げについて、視野に入り易くなったのでないかというご質問については、必ずしもイエスともノーとも答えられる状況にないということであります。この点は、挨拶要旨の金融政策の部分で申し上げている内容を読み取って頂ければご理解頂けると思います。』

・・・利下げ有り得べしですね。判ります。


○回復時期の見方が弱めな理由

次の質問でそんなのがありまして。

『(答) 一つに、国際金融資本市場の緊張感が予想以上に高まっていること、二つ目として、各国中央銀行の流動性供給努力もあって、その緊張感はどんどん高まって行く状況にないものの、先行き緊張が緩和していくとは考え難いという2点が挙げられます。(以下割愛)』

ということで、基本的に米国(本当は欧州もそうな筈ですが、欧州のこの手の問題に対するインチキ能力は卓越してますので)の信用問題にフォーカスしているというところであります。


○米国の金融安定化策について

どのように評価してますかという質問に対して色々と説明していまして、このあたりに関して野田さんが注目しているという事が良く判ります。

『(答)(冒頭部分割愛)ごく足もとの米国の議会で議論されている公的機関による金融機関の不良債権の買い取り策について申し上げます。こうした不良債権の買い取りは、かつて日本でも行われたように、不良債権をオフバランス化してバランスシートを可能な限り固めていくことを通じて、市場で失われつつある様々な金融商品の価格の発見機能を補完し、更に究極的には市場の安定性を高めていく、という施策であると理解しております。この施策自体は、正にそういう目的に沿った方向に機能していくことを期待しています。』

ということで、まずは損失の確定が重要という論点ですね。

『ただ、巷間言われていることでもあるようですが、その買い取りの価格、プライシングをどうするかということが問題の一つにあると思います。(途中割愛)また、レベル3の資産がよく話題になりますが、これは市場価格そのものが存在しない商品だと思われますが、こうした資産が米欧の金融機関のバランスシートには少なからず残っている状況ですので、これをどうプライシングするのか、あるいは触らないのかという問題については、具体的な対応策が未だ示されておりません。今議論されているのは、ポリシーを含めた大枠に止まっており、私としては法案の成立を期待していますが、個別具体的には、運用も含めて、その詳細をみないとなかなか評価し難い面があります。』

価格の問題およびそもそも価格が出なくなっている物に対する値付けをどうするのか(下手にしたら損失拡大したり、モラルハザードになったりしますわな)という論点ですな。

『また、仮にこういった施策によって、金融機関のバランスシートが固まる、すなわち、資本の毀損度合いがある程度クリアになった場合には、次の課題は必然的にその補填が必要なのか、必要であればどうするのか、ということになってきます。ここ数日の動きで、資本増強に成功した金融機関があることも事実ですが、総じて言えば、市場における資本調達の困難性、ないしは資本調達コストの際立った高まりといった状態は基本的には変わっていないと理解しております。こうした資本調達のアベイラビリティ、困難性が次の課題といいますか、併せて取り組んでいくべき課題であり、注視していく必要があると考えております。』

ということで、損失確定をした所で今度は資本の問題と、まあ日本のケースとその辺は似てるのですが、日本の場合は何かシバキアゲとか言ってドンドン損失計上させた挙句に実体経済と金融問題のスパイラル的な悪化が起きたのはご案内の通りでしたな。

ということで、メインは米国不良債権問題のお話になっていました。あとその他ちょっとありましたので以下続きます。


○ドルの信認の問題

についての質問に対しては明快にノーという回答。

『(答) 確かに、現在報道されているような金額は小さい額ではないと思いますが、今行われている、また、これまで行われてきた施策に伴う追加的な財政負担によって、直ちに米国債の信認、さらに言えば、ドルに対する信認が揺らぐかと言えば、私はノーだと思います。』


○今は本当に金融緩和なのかという質問

この質問は良い。

『(問) 講演の内容をみると、日本の金融システムに関しては、取り敢えず安定しているとのことですが、一部社債市場では発行が滞ったり、中小企業において資金繰りが苦しいとの指摘も聞かれております。日銀としては、金融情勢が緩和的と言っているものの、中小企業を含めた全体への波及を考えれば、本当に緩和的と言える状況なのでしょうか。』

『(答) 金融緩和に関しては、あくまで「全体として」という形容詞をつけております。企業金融の状況を業種や規模別に仔細にみれば、ご指摘のとおり、ばらつきは否定できないと思います。ただ、社債の発行環境については、一部ご指摘のような発行の滞りはあるかもしれませんが、これはごく限られた業種、ないしは銘柄に止まっており、社債市場、あるいはクレジット市場全般が厳しい状況に向かっているとの認識にはありません。特に、欧米市場と比較しますと、その感は強く持っています。(以下割愛)』

ということで、このあたりは金融政策決定会合の議事要旨やら金融経済月報やらでも示されている通りではないかと思われます。

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2008/09/26

今回はリーマン後実質的に最初の審議委員講演(挨拶)となりました。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0809d.htm

○景気・物価の現状に関して

野田さんの講演はポイントの絞り方が判りやすいので、読んでる方としては読みやすい部類に入ると思うのですがどうでしょ。

で、現状の景気、物価に関してですが。

『わが国経済は、2003〜2006年度にかけて2%台の成長を続けてまいりましたが、2007年度は1.6%の伸びに減速し、2008年度入り後、さらに減速し、足もと停滞しています。』

『停滞の第1の要因は、エネルギー・原材料価格の上昇です。(内容説明部分割愛)停滞の第2の要因は、輸出の鈍化です。欧米のみならず新興国も含めて海外経済が全体として減速しており、その影響が輸出にも本格的に及びつつあります。』

『景気の先行きについては、当面、こうした要因の影響から停滞する局面が続くものの、その先は、国際商品市況が落ち着き、海外経済も減速局面を脱していくにつれて、日本経済は緩やかな成長経路に復していくことをメインシナリオとして想定しています。』

『ただ、現在は、そのシナリオの蓋然性についての不確実性が極めて高い状況にあり、この点は、後程、リスク要因としてご説明します。』

ということでリスク要因は後ほど。次は物価でして。

『一次産品の価格上昇が賃金の上昇に繋がり、さらにそれにより価格転嫁が相乗的に進むという、所謂「二次的効果」――“second-round effect”と呼び、根源的なインフレ要因として警戒していますが――は確認されていません。』

『名目賃金は、年初以降前年比プラスで推移していますが、このところプラス幅が縮小しており、先程の交易条件面からくる所得形成環境の急速な悪化に直面している折柄、先行きもその伸びが高まることは考えにくい状況です。当面の内需の弱さなどを勘案すれば、先程述べたような二次的効果が直ちに高まる情勢にはないと考えています。』

『家計のインフレ予想や企業の価格設定・賃金改訂のスタンスが変化し、二次的効果が発生する可能性がないか、注意深く点検していく必要があると考えています。』

ということで、このあたりに関しては従来と変わらずというところであり、物価上昇がトレンドとなるとは見られないという状況においては金融政策は様子見継続ってロジックになるんでしょう。


○リスク要因に関して、国際金融市場の問題

で、あたくしは金融政策様子見だと予想しているのですが(というかマーケットコンセンサスだと思いますけど)、利下げも状況によっては別に無い訳ではないとは思うんですけど、それには現在日銀がメインシナリオとして考えている経路から外れる要因の具現化というのが前提になるでしょとなるのでしょう。

野田審議委員のリスク認識はやはり米国サブプライムローンを発端にした信用収縮問題(信用収縮というかレバレッジ掛けすぎた信用拡大の崩壊という感じですが)となっています。

『日本経済の先行きについては「次第に緩やかな成長経路に復していく」と申しましたが、こうした見通し――メインシナリオ――は、(1)エネルギー・原材料等の国際商品市況が落ち着くこと、(2)海外経済も減速局面を脱していくこと、の2点を前提としております。この2つの前提は、そのままメインシナリオの蓋然性に対する最大のリスク要因であるとも言えます。』

ということですが、海外経済の話がまず先にございまして、米国の信用問題に関してポイントがこれまた纏まっているので引用する方は中々楽だったりします(^^)。以下途中をぶつ切りにしながら引用。

『この問題を考えるに当たっては、(1)金融機関や機関投資家の損失規模、つまりバランスシートの毀損状況と、(2)その修復、つまり資本の補強、が重要なポイントです。』

『先の日本の金融システム不安の際の対応と比較して迅速な対応と評価する向きもありますが、肝心の「証券化商品に関連する貸出の引当・最終処理等の信用コストを含めて、最終的に損失がどの程度になるか」は「霧」の中です。』

『「火元」の「火元」である米国の住宅市場の調整がなお進行中ですし、金融機関の貸出態度の厳格化(クレジット・タイトニング)が住宅から商業用不動産向けや消費者ローンに波及しています。特に米国では、実体経済の悪化が金融機関のバランスシートの更なる悪化をもたらし、それが再び実体経済に跳ね返ってくるという先程の「負のフィードバック」も、いよいよ現実的となってきています。特に、米国の一部金融機関がデフォルトに至ったことにより、米欧の金融機関による資本の調達が極めて困難になったことが、実体経済への負のフィードバックに拍車をかけることにならないかを、90年代の日本の経験を踏まえ、私は警戒しています。』

『先般の米政府による不良資産の買取りが、この「霧」をどの程度晴らすか、買取りのスキームの詳細が判明していない現在は、確かなことは見通せません。』

ということで、このあたりはさすがに銀行出身の方だけに警戒感強いですよね。まあ日本の経験からすると、もともとの資産価格問題が片付かないと結局問題って解決しないんですよねって話が続きます。

『米国経済の先行きの回復について、2つの継続中のダウンサイド・リスクを指摘しなければなりません。第1は、金融市場の混乱が実体経済に悪影響を及ぼし、金融システムと実体経済の間の「負のフィードバック」が益々懸念される状況となっていることです。』

『第2は、問題の「火元」である米国の住宅市場の混迷について、底入れまでにはなお時間が必要とみられることです。(途中割愛)住宅市場が底入れし、つれて金融市場が本格的に落ち着きを取り戻し、実体経済は潜在成長率へ向かって回復の軌道に戻るという、FRBが抱いていると思われるメインシナリオの展望に確信が持てるようになるには、なお時間が必要とみています。』

ということで、野田さんは下振れリスクへの懸念を強めに見ている感じを受けます。景気に関しては政策委員会の中では下振れ警戒派に属するという感じではないかと思われますがどうでしょう。


現在の信用問題の背景に関してもこの部分で言及していますが、そこでは緩和的な金融環境の長期化を指摘していまして、ふ〜んという所でありまする。

『今回の市場の混乱の背景は複雑で、一刀両断という訳にはいかないのですが、はっきりと言えることは、かつてない物価安定と緩和的な金融環境が2002年頃から長期間に亘って続いてきたもとで、多段階にわたる証券化の過程でレバレッジの拡大と同時に、市場参加者のリスク評価に大きな緩み――「リスクの過小評価」――が生じ、その後、市場の自律的機能による大規模な巻き戻し――リスク(価格)の再評価――が起こってきた、ということであります。』



○エネルギー価格、雇用に関して

まあこちらはさらりと流れていますが、一応クリップ。

『こうした中、世界的にインフレ圧力は増大しており、インフレ抑制への「舵取り」を強める必要性は、今やグローバルに共通の認識となっています。特に、経済成長率およびインフレ率が相対的に高い新興国のインフレの加速はより深刻であり、世界経済が持続的に成長するうえでの新たなリスク要因として浮上しました。』

『一方で、国際商品市況の高騰は、既に述べたように、わが国に対して交易条件の悪化をもたらし、短期的には所得を海外へ流出させることにより、企業収益への下押し圧力として働き、賃金、設備投資といった企業の支出行動に、また雇用者所得と実質購買力の低下を通じて家計の消費行動に、負の影響を与えています。』

『エネルギー・原材料価格の高騰は、わが国にとって確かに重荷ですが、「新しい価格体系への移行」という構造変化を世界共通に迫っているものであり、所与のものとして考えざるを得ないと思います。』

設備、雇用に関する調整圧力に関してですが、ほほうと思ったのはこの辺。

『雇用面ですが、雇用者全体に占める非正規雇用のウエイトが3分の1まで高まっており、雇用の調整は過去の景気調整・停滞局面に比べ容易かつ速やかに行われる可能性があります。このことは、企業収益を安定化させる一方で、家計からみると、所得、ひいては、消費に影響が出易くなるということでもあり、その面からは注意が必要と考えています。』

なるほど。


○金融システムの話とか

金融政策運営に関しては特筆すべきこともないので割愛して、日本の金融システムの現状について言及している部分から。

『結論から申し上げれば、米国のサブプライム住宅ローン問題を契機とした国際金融市場の動揺が広がり、緊張感が高まる中にあっても、わが国の金融システムは全体として安定した状態を維持しています。銀行セクターの各種リスク量は全体としてみて、自己資本との対比で抑制された水準にあり、金利リスク、信用リスクのストレスシナリオに対する銀行システムの頑健性も総じて高い水準にあります。』

というのが基本的な見解ですが、留意点として信用コスト増加を指摘しています。

『留意点は、景気が停滞するもとで、金融機関の信用コストが増加に転じたことです。金融機関の2008年度第1四半期決算をみると、企業業績の悪化や建設・不動産等における倒産の増加等を背景に信用コストは増加しました。手数料収入が減少したこともあり、全体としては前年同期に比べて減益となり、一部には赤字となった先もみられました。先程申し上げたように、マクロ的にみれば、足もとの信用コストの増加は、経営体力で十分吸収可能な範囲内ですが、金融機関の収益力・経営体力には「ばらつき」もみられるため、今後とも、信用リスクの動向については慎重に点検していきたいと考えています。』


○中央銀行のバンキング業務

最後の方にこんなのがあります。中央銀行といえば金融政策の話で議論が起きるわけですが、なんだかんだと言いましても肝心の業務回らないと意味ないですから。

『日本銀行というと、まず金融政策をイメージされる方が多いと思いますが、金融システムや金融市場の安定も――先程来の私の話から十分お分かりいただけると思いますが――中央銀行の重要な役割です。これらは、各種の民間金融機関との銀行取引――バンキング業務――を通じて果たされています。』

『日本の金融市場を民間金融機関・中央銀行の双方で長年みてきた者の立場から申し上げれば、どの職場であっても、「現場」や「業務」は極めて重要であります。日本の金融市場は「国際金融市場との連動性」を年々強めている傾向にあり、現在はその中で「相対的安定性」を何とか確保している状況にあります。国際金融市場が不安定に推移する中でも、金融調節をはじめとする中央銀行のバンキング業務の現場における適切な運営を通じて、金融システムや市場の安定化に向け最大限努力していることをご理解いただきたいと思います。』

それはその通りでございまする。

ということで野田審議委員の講演(挨拶)はこんな感じで。

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2008/03/17

まずは野田審議委員会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0803b.pdf

○先行き慎重かつメインシナリオ自体は取り下げずと

メインシナリオとリスクシナリオのウェイト付けはどうなっていますかという質問に対してですが。

『(答) リスクシナリオのリスクウェイトについては、本日の挨拶要旨を仔細に見て頂ければお分かり頂けると思いますが、金融経済懇談会においてメインシナリオの確率が高いとか、リスクシナリオの確率の方が高いとか、どちらが高いということを申し上げた訳ではありません。また、仮にリスクシナリオが顕現化した場合にどういう状況になるのかといったことについて、私としては、こうなればこうなるだろうといった見方を今の段階で持ち合わせている訳ではありません。』

ということで、ウェイト付けに関して慎重ということですけど、先行きを慎重に見ているのでどっちがどうこうとはいいにくいという事なんですかな。他でも似たような質問がでてまして。質問部分も引用してみます。

『(問) 「生産・所得・支出の循環メカニズムについて、幾つかの注意信号が点滅し始めていますが、先行き、この循環が決定的に途切れてしまう蓋然性を示唆するような明確な証拠が揃っている訳ではありません。したがって、「緩やかな拡大を続ける可能性が高い」とのメインシナリオを維持することが適当」とのことですが、これでは消極的な理由から循環メカニズムが維持されているという印象も受けます。』

『これは、このところダウンサイドのリスクが高まり、循環メカニズムはかなり瀬戸際に来ていることを意味しておられるのでしょうか。また、注意信号が点滅し始めている訳ですが、仮に赤信号となると、政策対応は用意されているのでしょうか。さらに、ゼロ金利政策へ復帰することに抵抗感というものはあるのでしょうか。』

ということで、野田審議委員の講演で先行きに警戒感を強くしているので、その点についてツッコミが来ましたと言うことでございますわな。

『(答) 注意信号と申し上げたのは生産・所得・支出のそれぞれのコンポーネントをみた場合、生産面は先行き増加するものと思われますが、当面は横ばい圏内の動きが続くとみており、特に、足もとは横ばいとなっています。これは10〜12 月の生産が自動車やIT、電子部品でかなり好調であったことの反動もあると申し上げています。その他にも海外経済の先行きに対する不安も反映されている可能性も全く否定し切れないのではないかとみています。』

ということで生産に関しては黄色信号ということなのでしょうが、講演で警戒トーン上げた分ちょっとトーンを下げてますね。

『また、所得については、企業収益は伸び悩みつつも高水準で推移しているとみています。足もとは増勢に少し鈍化がみられるという状況となってきており、従来のように青信号で突っ走ってきた状態よりは、少し注意が必要と考えています。ただ、これも水準としては総じて高い利益は今後も維持されるであろうとみています。従って、瀬戸際にあるという認識ではないとはっきり申し上げることができます。』

ほほう。

『将来、これが赤信号に変わるというリスクは全くは否定し切れない訳ですが、これに対応する政策はどうかと聞かれても、あくまでまだリスクの範囲内で、政策云々をここで申し上げることは適切ではないと考えています。』

『ゼロ金利政策云々のご質問についても、その延長線上にあることであり、ここで申し上げることは適当ではないと考えています。』

ということで、その辺りについては答をとりあえずスルーしました。


○欧米5中銀の流動性対策発表に関して

まあこちらの答えは普通なんですけど、どうもインターバンクの状況とかご存じない方が国際協調から日本が取り残されているのはどういう事かとか言うのが如何なものかってのがございますので敢えて引用(^^)。

『そうした中で、日本銀行としては、国内の短期金融市場は相対的に落ち着いているという認識に変わりはなく、特に、ここで屈折的な変化をもってオペレーションで対応するということは今のところ考えられないことであると思います。ただ、世界全体の市場動向を従来以上に注視する必要がありますし、変化に応じた機動的なオペレーションでの対応ということはますます重要になってきているという認識は、日本銀行内で共有されています。』

ま、個別にはサブプライム関連商品に特攻して資本増強しないとエライコッチャになっているどこぞの信金さんとかの事例もありますけど、インターバンクにおける信用収縮とかのような事態は全然発生しておりませんので流動性対策をわざわざ鉦や太鼓で打たなくても良いですよって話でございますわな。(珍銀行東京の場合は純粋な放漫経営でして、もはやサブプライム関連ですらねえ・・・・)そういや日証金が子会社で買ったサブプライム関連商品の償却で創業来初の赤字という報道には顎が外れましたけど。


○ドル安の影響について

足元の円高基調(と質問してた)に対してのコメント。

『(答) 一般的な見方と変わりはないと思いますが、短期的には輸出企業に与える影響が一番大きな問題とみています。ただし、もう少し時間軸を伸ばして考えた場合には、交易条件は良い方向に改善していく訳ですし、わが国経済全体の所得形成力としてはプラスの方向に向かうということもありますので、中長期的な影響もみていかないとならないのではないかとも思います。』

まあアレですよ。原油価格などの原材料価格上昇を景気に対して悪影響って評価をしているのですからドル安に関してもこういう話になるのは違和感はございませんですな。

とは言え輸出が経済のエンジンになっている事を考えるとどうなんでしょうかねという所で。ドル高が国内需要に好影響与えてくれれば良いのですけど。。。。

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2008/03/13

ということで野田さんの講演。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0803a.htm

○日本経済に関して

『わが国経済は、住宅投資の落ち込みやエネルギー・原材料価格高の影響などから減速しているものの、生産・所得・支出の好循環メカニズムが基本的に維持される中で基調としては緩やかに拡大しており、先行きも、当面減速しながらも、その後緩やかな拡大を続けるとみています。』

というのは金融経済月報通りでありますが、その中でリスク要因として幾つか挙げておりますわな。

『中小企業では、原材料価格高により、収益の伸び悩みや業況感の悪化がみられており、その影響を注視する必要があると考えています。』

『物件価格の上昇などからマンション需要そのものに弱さがみられており、回復のペースや水準については、やや慎重にみておく必要があると思います。』

『各種の調査によれば、足もと消費者マインドが急速に慎重化しています。賃金が伸び悩む一方で、ガソリン・灯油・食料品などの生活必需品の価格が上昇していることなどが影響しているものと思われます。こうしたマインドの悪化の影響を含めて、個人消費の動向については、引き続きよくみていく必要があると考えています。』

ということでまあ全部下向けのリスク要因でございますな。

『以上、ここまで日本の経済・物価の現状と先行きについて述べてまいりましたが、こうした見通しの蓋然性に対するリスク要因には十分な注意が必要です。とりわけ生産・所得・支出の循環メカニズムの起点である生産活動の牽引車である輸出と、それを左右する国際金融市場や世界経済の動向は、重要なリスク要因であると考えています。』


○刈込平均キタコレ

西村審議委員がCPIの刈込平均について講演の時によく言及していますが、野田さんも刈込平均に関して言及ですな。ほうほう。

『例えば、刈込平均指数という、品目別価格変動分布の両端の一定割合を機械的に控除した指数で、大きな相対価格変動を取り去った、いわば「物価の基調的な動き」をみると、2003年頃から緩やかな改善傾向にあることがわかります。相当期間に亘って、マクロ的な需給ギャップが需要超過の状況で推移してきたことが、物価上昇の「根っ子」を形成してきたものと考えています。』

とは言え10%刈込平均の上昇ってまあ0%から1%の世界なんですけど(と記憶してますが間違ってたらゴメンナサイ)ね。一応徐々に上昇するというグラフにはなっております筈です。


○米国に関してはかなり慎重

『サブプライム住宅ローン関連商品の損失規模については、諸機関が試算を公表していますが、最終的な損失がどの程度になるか、正確に見通すことは、米国の住宅市場の調整がなお進行中である現時点では困難です。また、昨年夏場以降、米欧の金融機関は、既に相当の規模の損失を計上し、これを補う意味で、資本政策も相次いで公表しましたが、追加損失にかかる警戒感が残る中、市場は落ち着きを取り戻すまでには至っていないばかりか、足もとでは不安定さを増しています。』

『住宅市場の調整や金融資本市場の変動が、その程度と期間の面で予想を大きく上回る場合には、資産効果や信用収縮、企業や家計のマインド悪化などと通じて、米国景気がさらに下振れるリスクがあり、楽観はできない状況にあることには十分留意する必要があります。』

ということで、メインシナリオとしては一応落ち着きを取り戻せば回復基調に復帰するという話ながらも、米国経済に関しては下ブレリスクをかなり意識した部分が目に付きます。


○欧州は下振れリスク、その他は堅調

『欧州経済については、緩やかに減速しつつも成長を続けています。輸出や個人消費が弱い動きとなっている一方で、設備投資は増加傾向を持続しています。ただ、ここでも国際金融資本市場の変動が金融環境に及ぼす影響次第では、景気が下振れるリスクがあります。一方で、中国をはじめとするエマージング諸国や資源産出国は高成長を続けており、世界経済の牽引役としての役割が増しています。』

ということでこちらはあっさり味ですが、結論はやはり先行きの下振れリスクということになりますわな。

『世界経済は、全体として、緩やかに減速しつつも拡大を続けるというのが標準的な見方ですが、米国経済や国際金融資本市場の調整が深まる中で、ダウンサイドリスクが増していると考えられます。繰り返しになりますが、米国経済を含む世界経済の動向は、日本の好循環メカニズムの起点にある輸出や生産に影響を与えますし、金融市場を通じた影響も考えられます。』

『この影響については、中国をはじめとするエマージング諸国の高成長が米国経済減速の影響をどの程度カバーできるかに依存します。これは、「デカップリング」という言葉で論じられていますが、後程少し詳しくお話します。いずれにせよ、世界経済や国際金融市場の動向とわが国経済への影響については、引き続き注意深くみていく必要があると考えています。』

慎重な見方っていうスタンスが目に付きますわな。で、アップサイドのリスクはインフレリスクなのですが、こちらはあっさり味。

『一方、ここでのアップサイドリスクは、いうまでもなく、インフレ方向のリスクです。米国および欧州では、景気の減速が基調的なインフレ圧力の減衰に寄与することになる一方で、原油価格をはじめとする国際商品市況の上昇はインフレ圧力の増大につながります。また、中国では、力強い拡大が続いており、当局は様々な引き締め策を講じていますが、固定資産投資を中心に過熱感が強い状況となっています。中国の消費者物価は、大雪の影響による食料品価格の上昇もあり、2月には前年比+8%台まで上昇しました。』


○デカップリング論に関して

結論部分を先に引用しますとこうなります。

『デカップリングについての見方を総括すれば、完全なデカップリングということはあり得ず、あくまでも「程度の問題」であると私は考えています。』

で、その理由は(1)米国の影響が相対的に低下したとは言え、世界最大の輸入国であることに変化がない、(2)金融面で言えば主要国とエマージング諸国のカップリングが進んでいること、となっております。ということで米国の先行きに下振れリスク警戒モードということは全体的にも警戒モードということになるんでしょう。


金融政策に関してはまあそんなに変った話をしている訳でもございません(と思った)ので、今回は引用を割愛致します。

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2007/08/02

○野田審議委員会見続き

先週の木曜の会見話をここまで引っ張るあたくし。

・ロンバート貸出金利について

『基準貸付金利と、無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導金利との差につきまして、私としては、基本的には市場の金利裁定がより働きやすい幅がどの辺にあるのかということを議論のポイントとしています。今の0.25%という幅が望ましいということではなく、今後、誘導金利が引き上げられる過程で、その幅がどうあるべきかについては、その時点その時点で考えていきたいと思います。』

『私どもとしては、前回利上げ以降のマーケットの状況をみて、現在の幅で何か支障があるかというと、必ずしも具体的に認識してはいませんので、その意味で、その幅の拡大について市場から差し迫ったニーズがあるとは理解していません。ただ、基本的には、先程申し上げたとおり、市場がいかに効率的にワークするかという観点から、今後も検討を深めたいと考えています。』

先般の福井総裁の記者会見と同じ流れの話でして、この前もちょっとご紹介しました(あの時のソースはブルームバーグニュース)のですが、改めてこちらを見ると、どうも次に利上げがあってもロンバートは100bpですなあという感じですね。


・都合の良いデータを持ち出すのは如何なものかという質問

これは良い質問。

『2点目ですが、日銀では、去年は、家計調査があまり良い数字ではない、あまり信用できないデータだということで、むしろ他のデータ、例えば、景気ウォッチャー調査をみて、それほど状況は悪くないと説明していたと思います。ここにきて、家計調査の数字はそれほど悪くなく、景気ウォッチャー調査の数字がここ数か月かなり悪いわけですが、家計調査への批判はあまり聞かれないほか、景気ウォッチャー調査の数字が悪いことへの懸念も聞かれません。こうした説明の一貫性の無さについてどのようにお考えですか。』

まあこれに答えろと言われる野田さんも少々不憫ですが(^^)。

『2点目の一貫性が無いのではないかということについては、そういう見方をされているとすれば――仮にもそういうご指摘があるとすれば――真摯に受け止め、今後も説明していきたいと思います。ただ、それぞれの調査にはそれぞれの癖というものがあります。個人的に言えば、私どもの行っているアンケート調査にしろ、景気ウォッチャー調査にしろ、その振れが、これまでどのように実体経済ときちんと相関を持ってきたかという点については、私自身、自信が持てる状態ではないため、繰り返しになりますが、そういったものも含めて色々な数字、データ、情報を併せながら、トレンド、基調というものを判断しているところです。』

ちょっと無理矢理っぽい答弁であります(苦笑)。ただまあ昨日も申しあげたように、基本的には非常に手堅い受け答えをする人ですなあという感じであります。

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2007/08/01

○野田審議委員記者会見

と思ったのですが時間が無くなってしまったので一部だけ。続きは明日にします。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0707b.pdf

野田審議委員の質疑応答を見ておりますと、実に確りしたというか不規則発言の無いお方だなあと感心することしきりであります。マーケット上がりの人だとどうもこう不規則発言をやっちまう面があるのは勢いで仕事をしないといけない面が多々あるからだと言い訳いたしまして(^^)、経歴を拝見するにマーケット上がりというよりも企画系のお方と見受けられる野田審議委員の手堅さが印象強いです。しかも手堅いだけじゃなくてゼロ金利解除の時にロンバートの引き上げ幅に反対したり、本年1月の決定会合では利上げ提案に賛成したりと、大勢追随系でもないということで、結構面白い(というとちと失礼ですが)存在かも知れませんね。

で、あたくしが感心したくだり。

『(問) 1月の金融政策決定会合の時点で、3人の委員が利上げを提案して否決され、2月の会合で利上げが決定されましたが、今回は7月の会合で1人の委員が利上げを提案して否決されました。懇談会の冒頭挨拶でも、先行きの経済・物価に関しての確証が必要だと言われていましたが、野田委員からみて、現状では、やはり利上げに関してまだ不透明とか不安要因とかが依然として残っていると理解してよろしいのですか。』

『(答) 不安要因が残っているかどうかについては、今の時点でコメントは差し控えたいと思います。なぜならば、私どもは、金融政策決定会合開催のギリギリまで、新たに利用可能となるデータ、あるいは諸情報というものを過去のものと重ね合わせた上で、その都度その都度、その時点その時点で先行きの見通しを形成していくわけです。極端に言えば、金融政策決定会合の採決の直前まで、そういった頭の中での作業を繰り返しているわけですので、現時点でどのような不安要因があるのかということについて、あるいは確証が持てるのかということについて申し上げるのは適当ではないと思っています。』

何たる手堅い答弁・・・・・・

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2007/07/27

お題「野田審議委員講演」

相変わらずオペ金利が低いがなという話もあるのですが本日は野田さんの講演話で参りますですよ。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0707c.htm

総じて言えば特に方向性を出すようなものではなく、基本的には展望レポートに沿ったお話をしているという感じであります。会見要旨は今日出ると思いますが、会見のヘッドラインを見た限りではこちらでもまあ「手堅い」印象を受けましたです。


○経済物価情勢に関しては展望レポート通りです

講演(というか正しくは挨拶ですが)の前半は経済物価情勢の現状と先行き見通しとなっております。で、こちらの内容に関しては展望レポートのロジックに沿ったものになっておりますので、皆様既にご案内の通りでございましょう、などと書きますと話が終了してしまいますので(^^)、まあ少々ピックアップ。

基本的にはメインシナリオ通りの展開が続くというようになってまして、リスクシナリオに関してはあまり大きな懸念をしていないという発言になっております。

『このように我が国経済は、足許では着実な回復基調を辿っていますが、2008年度にかけての景気を展望しますと、依然として上振れ・下振れの不透明要因が幾つか残っているのも事実です。以下では、こうした先行きを展望するうえで留意すべきポイントについて簡単に述べたいと思います。なお、私自身、こうした要因が顕現化する可能性が特段高いとみている訳ではないことをはじめに申し添えておきます。』

ということで、以下は展望レポートの内容に沿ってリスクに関して説明があるのですが、野田さんはその説明の前に「私自身は特段この可能性が高いと見ているわけではない」と言及していまして、この辺りでも「手堅いですなあ」という印象を強くさせるのであります。


○今後の説明に関しても手堅いです

ということで、これまた量は多いのですが、ネタとしては(おい)まあ通常のお話に終始してますので、特段エライコッチャな内容でもありませんわなという感じではございます。その中から少々ピックアップ。

日銀の政策変更が混乱無く市場に受け止められている点に関して講演で野田さんが指摘した点には「ほほう」と思いましたよ。

『これは、市場参加者の多くが政策変更を事前に予想し、それを相場に織り込んでいたためではないかと考えられます。2月には世界同時株安が、6月には世界同時債券安が発生致しましたが、その後は、株式、債券市場とも反発し、落ち着きを取り戻しています。この間、為替相場をみましても、実質実効レートは、1985年のプラザ合意前の円安水準に達しています。』

『こうした市場の動きを全体としてみますと、私としては、市場参加者がこうした調整に慣れ、先行きも相場が大きく崩れることはないといった過度に楽観的な見方を持ってしまい、市場全体のポジションが一方向に偏り過ぎることがないかどうかという点は常に気になるところです。』

あまりにも事前に市場が織り込みに逝き過ぎたので、ここへ来て「ありゃまあ」の金利低下をやらかしている国内金利市場も然り、メリケン様のように何でもかんでも楽観してたらズドン(しかし貧乏人向け貸し込みまくりローン問題って前から話はあったのにねえ〜)とか、まあ織り込みも程々にと逝った所でしょうか(^^)。

また、この部分からあたくしが勝手に読んだのは(我ながら正直深読みのしすぎだと思いますけど)、政策金利変更にあたって市場に大きな動き(というかショック的な動き)が発生しない事に関してあまりにも重要視しすぎるのは如何なものかという事も野田さんは言いたかったのではないかなあ何て思っちゃいまして、従来の福井日銀路線であります所の「地均し路線」(と言うとまた「そうではない」という公式見解にぶち当たるのですが^^、市場の中の人の印象から見るとやっぱり地均し路線だったでしょ)からの脱却を展望してるんじゃないかなあとも思えるのでありました。

・・・・正直、深読みすぎなのかもしれないけど、講演の冒頭部分でも「ほほう」と思った部分があったので、その印象を受けた次第なのでありますよ。


○ちょっと今までと違う掴みです

中央銀行の情報発信という話は毎度毎度の決定会合で論議されている訳でして、議事要旨にも書かれておりますが、野田さんの今回の講演に関して「ほほう」と思ったのは冒頭部分でのこの言及。

『なお、本会の趣旨は皆様からお話を頂戴することにあります。日本銀行の審議委員に就任して以来、早や1年が経過いたしましたが、マクロ経済に関する様々な統計や指標に接する機会が多くなる一方で、どうしても活きた経済の動きや情報、実際に経営に携わっていらっしゃる方々の考え方を直接得る機会が少なくなっています。この機会に毎日のご商売の実感や地方経済の現状に関する皆様のご意見を拝聴させて頂ければ、私自身、今後の金融政策運営に携っていくうえで大いに参考になり、楽しみにしているところでございます。従いまして、私からのご報告は簡単に止め、その後は、皆様のご意見や日本銀行に対するご要望などを是非お聞かせ頂きたいと存じます。』

そもそも「金融経済懇談会」ですので、『本会の趣旨は皆様からお話を頂戴することにあります。』というのはその通りなのですけれども、懇談会後の記者会見で「有益な話が聞けました」という話は必ず出てきますが、挨拶でわざわざこの言及をしたケースというのはあまり記憶になかったので、ちょっと「おお!」と思ってしまいました。従来の挨拶ですと挨拶の掴みでは「日銀の金融政策をご説明します」という感じだったんで、ちょっと毛色が違いますなって印象を受けました。

まあさっきの深読みの原因もここにあったりするという裏読みにも程があるあたくしなのですが、これは福井日銀の地均し路線からの軌道修正が徐々に図られていると見るのは深読みのしすぎでございますかそうですか。


○第1の柱、第2の柱に関する説明

『この枠組みに沿って、現在の経済・物価情勢を点検しますと、まず第1の「柱」について申せば、先行きの日本経済は、4月の「展望レポート」で示した見通しに概ね沿って、「中長期的な物価安定の理解」に沿った物価安定のもと、持続的な成長を続けることができるとみています。もちろん、こうした見通しの前提としましては、上振れ・下振れ両方向での様々なリスク要因が存在していますが、現時点では、こうしたリスク要因が、この見通しを変更しなければならないほど顕現化する可能性が高まっているとはみておりません。』

『次に、第2の「柱」につきましては、「先行きを展望するうえで注意すべきポイント」でもお話ししましたが、第1に、経済・物価情勢の改善が展望できる状況下、金融政策面からの刺激効果は一段と強まり、楽観的な期待の下で企業や金融機関などの行き過ぎた活動を通じて、中長期的にみて、経済・物価の振幅拡大や非効率な資源配分が生じるリスク、第2に、海外経済の下振れなど、景気後退に繋がるような要因が顕現化し、経済情勢の改善や物価の上昇が足踏みするリスク、というアップサイド、ダウンサイド両面のリスク要因があるとみています。』

で、例によって第2の柱についての説明を確認致しますと、野田さんの説明では「第1の柱でフォローしていない要因」という内容になっておりまして、「アップサイドとダウンサイドがある」ということで、まあわかりやすくなってるんじゃないかなと思うのですがどうでしょう。

で、ここの第2の柱の説明でダウンサイドリスクがあると言及しているのですが、展望レポートの説明を見てると「経済情勢の改善にも関わらず物価が上昇しないリスク」というような記述になっていてどっちのリスクなのか良く判らんがなという感じでして、この部分を「経済の改善が遅れるリスク」とダウンサイドリスクとして捉えているのは、まあバランスの取れた説明ですねと思うのでございますよ。


○ロンバート金利について

講演ではなく会見での発言ですので、詳しくは本日アップされる要旨を確認したいと思うのですが、ロンバート金利に関してどっちかというと上げ幅拡大してくれるんじゃないかと期待(?)される野田さん(理由はゼロ金利解除の時にロンバート0.5%主張だったから)からのご発言はこんな感じだったようで。(ソースはブルームバーグニュース)

『基本的には市場の金利裁定がより働きやすいスプレッドがどのへんにあるのかを頭の中での議論のポイントとしている。基本的には、今の0.25%というスプレッドが望ましいということではなくて、今後、(無担保コール翌日物金利の)誘導金利が引き上げられるに従って、そのスプレッドがどうあるかはその時点その時点で考えたい』

『ただ、前回の利上げ以降の市場の状態を見て、今の幅で何か支障があるかといえば、必ずしも具体的に認識しているところはないので、そういう意味で、幅の拡大について差し迫った市場のニーズがあるとは理解していない。ただ基本的には、先ほど申しあげたように市場がいかに効率的にワークするのか、という観点から、今後も検討を深めていきたい』

ということで、こりゃどうも次回のロンバートは100bpっぽいですな。野田さんはタカとかハトとか分類しにくいのかも。

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2006/12/04

○野田審議委員記者会見

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0612a.pdf

・「金利の調整」はするんですよという話でしょうな

好調な企業部門から家計部門への波及が遅れているという認識を講演でもしていましたが、その点が利上げのタイミングにどう影響するのかという質問に対してこういう答を。

『繰り返しになりますが、賃金が急に落ち込んで、消費が急に落ち込むといったことは考えにくいわけです。挨拶要旨の中でも申し上げていますが、わが国の経済は、現在、展望レポートに沿ったかたちで緩やかな拡大を続けていると私は理解しています。賃金の上昇が遅れるといっても、これは中長期的な展望のもとで述べていることであり、現在のシナリオに沿った金利調整の足取りとは時間的な軸が違うような気がします。』

えーっと中長期的な展望としての「企業部門から家計部門への波及」が遅れているけれども、ペースがゆっくりなだけであって標準シナリオの通りに行ってるから金利の調整はするということでしょうか。何か判った様な判らん様な話ですが。


・日経新聞が端折って報道したので大反響になった部分について

順番としては先ほどの次の質疑応答になります。4ページ目ですな。

『リスクの見極めがつけば利上げを行うのかということですが、挨拶要旨の中で述べましたように、リスクが顕在化する蓋然性はそう高くはないと考えます。従いまして、そのリスクが顕在化するタイミングがいつかという問題は判断が難しく、そのリスクの顕在化云々で利上げを判断することは考えにくいと思います。勿論、仮に想定しているような上振れあるいは下振れリスクが顕在化したということになりますと、それは私どもの判断に重要な示唆を与えるものだろうと思いますので、別の話になると思います。』

『2点目の物価の基調は先行きも緩やかな上昇を辿るとみているのかというお尋ねですが、それはその通りと考えます。』

『3点目ですが、コアCPIの水準自体はプラスであります。懇談会での挨拶要旨や展望レポートで示している通り、緩やかな上昇を辿ると考えておりますが、仮にこの水準に止まったとしても、私どもの判断は、現状の物価水準だけではなく、経済の実態や成長のトレンド、あるいはこれらの先行きの見通しなどを総体でみています。いわばフォワード・ルッキングにみていますので、ただ物価の水準だけの一点をみて判断しているわけではありません。近い将来、コアCPIがこの水準に止まったとしても、政策変更の判断にそれ自体が影響を与えるものではないと考えています。』

ということで、念の為当該部分を全文引用しましたが、物価に関しては上昇すると見ているし、金融政策に関しては物価だけではなく経済状況を総合して対応するってお話をしております。日経の報道を見てると物価が下がると言う見通しでも利上げしそうな書き方でございまして、そりゃ大反響になるわな。ちゃんと報道して欲しいものでございます。「CPI一点張りじゃないですよ、総合判断ですよ」っていうのが発言の趣旨(それに「利上げするもんね」も入ってるのがアレなのですが・・・)かと存じますが。

#ま、日銀の経済見通し楽観過ぎだし資産インフレも懸念し過ぎだとおもいますけどね。


・データ重視なのかデータ重視じゃないのか

その次にこんな質問をしてる人がいて、その後から「データ」という言葉が質疑に頻発してますが・・・・

『(問)政策委員会のメンバーの方々から、金融政策を運営する上でデータ重視といった言葉がよく出てきますが、最近の鉱工業生産、機械受注、GDP、CPIなど指標の動きをどのようにみておられますか。また、それが金融政策の運営に与える影響をどのように考えておられますか。』

ということで、まあお話をしてるのですが、後半部分だけ引用すると・・・

『また、金融政策に与える影響は、経済指標のひとつひとつをみているというわけではなく、金融政策決定会合の都度、それまでに出てきた経済指標を丹念に総合的に検討し、その議論の過程を経て結論を出すものです。今この時点でそれが金融政策にどういう影響を与えるかについてはコメントしかねます。』

データ重視と言いながらも総合判断というのもよくよく考えると判ったような判らんような話でございまして、全部が全部悪いデータとか全部が全部良いデータというのなら兎も角、現在のように(質疑応答で野田さんも言及してますが)まだら模様で出てくると「データ重視」と言いながらも元々の景気への強気スタンスが「総合判断」に影響してきて、「良くない数字は一時的要因で基本シナリオを崩すものではない」とかいうような「良いとこ取り」のデータ重視になるんジャマイカというようなあたりがキングオソロシスなのでありました。

データ重視するなら「まだら模様の現在は別に慌てて利上げをする必要はない」って事にならんのかなあと思うのですけど。それに日銀の言う様に景気の先行きに自信があるのなら、ちょっと待てばもっと多くの人が利上げするのが納得できるような経済指標が揃う(というか今だと納得しない人のほうが多いと思うんだが)んじゃないんですかねえ。

#まあ今週も経済指標が色々ございますのでその数字次第だとは思いますが、よほど強い数字が出てこないと今月の利上げを多くの人に納得させるのはちょっと難しいのではないかと存じますが。

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2006/12/01

お題「野田審議委員講演と記者会見」

まずは講演。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen/ko0611i.htm

○経済物価情勢に関する説明はまあ普通

こちらの講演ですが、IE使いの人が普通のフォントサイズでA4の紙に打ち出すと12ページとかになる結構な量でございます。経済物価情勢に関するお話は基本的に日銀の公式見解+最近出てきた政策委員の講演内容を踏まえたものになっているという感じですが、中身は結構丁寧に説明しているので、まあこれは読んでおいて吉なのではないかとは存じます。あたくし斜め読みした感じでは読んでて手が止まる部分は特にございませんでした(読み方が悪くて気が付かなかったらスマン)。強いて言えば「下方リスクに関しての説明がより丁寧」ってことでしょうかねえ。

で、本当はこの部分も引用しておくところなのですが、突飛な話は無かったこともありますので割愛して、ちょっとニヤリとした部分をば。

不動産価格の問題について『私自身の経験も踏まえながら申しあげれば』としてお話をしている中で、バブル状況という点について否定しつつも、まとめの部分で『地価は物価一般と違って一度上がり始めると上昇スピードが速いということもあり、今後とも、地価の動向については注意深くみていく必要があると思っています。』というコメントをしたのは銀行本流部門ご出身だけにまさに実感がこもっているんでしょうなあと(^^)。

まあ気になった点としては「今回はあまり景気悪化についての懸念色が強くないんじゃないの」って感じです。先行きリスクの話あたりは、先日の福井総裁講演のお話を丁寧にしたバージョンと言った感じでして、タカ派じゃないというのはそうなのですが、じゃあハトなのかと言ったらそれもまた別にハト丸出し感も無いですなあという所ですにゃ。


○金融政策に関してはそんなにハトっぽくも無いのですが

最後の2ページ分(A4の紙に出した場合)が金融政策の話になるのですが、金融政策の「第1の柱」に関してこのような話をしております。

『また、この見通しは、市場参加者などの経済主体が、先行きある程度の政策金利の上昇を織り込んだ上で意志決定を行っていることを前提としています。そのため、経済・物価情勢が見通しどおりに推移しているにも拘わらず、これに併せた政策金利の調整をしないとすれば、いずれ、より大きな調整が求められることとなり、経済活動の振幅を招き、我が国経済の息の長い成長を妨げる可能性を高めてしまうことになります。』

これ自体は金融政策の枠組みそのまんまの話なのですが、ハト派としての期待(?)がある野田審議委員がしらっとこの話をすると、「あらら」感が漂って来るというものであります。

で、フォワードルッキングの話もしております。

『この枠組みは、足許の経済・物価動向そのものもさることながら、それよりも金融政策が実体経済に影響を及ぼす時間的なラグなどを踏まえたうえで、より先行きの情勢を可能な限り展望して――これは「フォワード・ルッキング」という言葉で表現していますが、――金融政策運営を柔軟かつ機動的に行うという考え方が基本になっています。量的緩和政策の解除、さらにはゼロ金利解除といった政策変更時はもとより、日本銀行では、折りに触れて「フォワード・ルッキング」なスタンスの重要性を説明してきています。』

ま、こちらも日銀公式見解のまんまですけれども、何かもうちょっとハトなお話を期待していた向きとしては拍子抜けの巻でござる(^^)。


その前に「物価は遅行指標」という話をしておりまして、金融政策のCPI離れをしましょうっていうのは政策委員会の総意なんでしょうなあというのを感じましたですよ。

『私は、物価情勢の判断に当たっては、物価指数の水準そのものもさることながら、物価の基調的な動き、言い換えれば、根源的なインフレ圧力とそのトレンドを重視しています。そこで、消費者物価についていえば、総合指数(ヘッドライン)から生鮮食品を除いたコア指数とともに、それから更にガソリンや灯油などの石油製品などのように変動幅(振れ)の大きい項目や制度的な要因で一時的に変動している項目 ―― いわば「特殊要因」というもの ―― を除いた指数を、基調を判断するうえでのベースとしています。』

『物価指数は、あくまでも遅行指数であり、その動向を「フォワード・ルッキング」な判断に結び付けていくには、自ずから短期的な変動を取り除いた指数の動きが重要であると考えるからです。ただ、だからといって、家計や消費者の実感に即した消費者物価の総合指数そのものを疎んじるものではないことは言うまでもありません。』


○記者会見での質疑は同様にハトっぽさがあまり・・・・

以下ソースは30日16時32分配信のブルームバーグニュース。

『(問)9月コアCPI前年比上昇率はプラス0.2%と低い水準で推移している。表面的な物価指数がこのように低い伸びを続けたとしても、近い将来の利上げを妨げる要因にはならないとお考えか。』

『(答)コアCPIの水準そのものはプラスだし、私もあいさつで申し上げた通り、あるいは展望リポートで示した通り、緩やかな上昇をたどると考えているが、仮にこの水準にとどまったとしても、私どもの判断というのは、現状の水準と経済の実態、あるいは経済の成長のトレンド、先行きというものとの相対というものも見ているし、その他のいろいろな経済事象をフォワードルッキングに見ているので、ただ物価の水準だけ一点を見て判断しているわけではない。将来、コアCPIがここにとどまったと仮にしても、政策の変更の判断にそれ自体が影響を与えるわけではない』

『(問)リスク要因についてはいろいろあるが、そのすべてが消滅したと確認してから利上げをするというわけではない、という理解でよろしいか。』

『(答)その通りだ』

まあそんな感じで、質疑応答を見てると、こりゃこれから出てくる指標と短観次第では12月利上げ提案出ても反対しないですな野田さんっていう印象を受けてしまいました。ところでこの質問は勘弁してくれよというのがあったんですけど・・・・

『(問)昨日公表された10月の鉱工業生産が非常に強い数字になったので、私どもの方で市場参加者を対象にアンケートを取った所、半数近い人たちが12月の利上げの可能性が高いと答えた。あいさつで「市場は鏡だ」と述べられたが、この結果を妥当とお考えか。日銀と足並みが揃ってきたと受け止められるか。』

誰だこんな露骨な質問したのは?ってアンケートした所から考えるとどう見てもロイター通信です。本当にありがとうございました。

いやあのね、電話アンケートよりも市場の価格を見ていただきたい訳でして、あたくし再三申し上げておりますように、ターム物のオペ金利やらFB、CPの利回りを見てると昨日の時点では12月利上げまだ殆ど織り込んでないと思いますが。中長期は「12月でも1月でも2月でも所詮次の次は当分無いから同じことよ」って感じですけど。

で、その答えですが。

『(答)今、初めてアンケートの結果をお聞きしたが、そういう結果であるということは、素直に受け止めたいと考えているが、繰り返しになるが、その判断はやはり1つの流れの中で、金融政策決定会合の時点で判断するわけであり、あいさつでも指摘しているように、市場はこれまでも経済指標の発表の毎にビビットに反応してくるので、1つ1つの動きに対して今コメントするというのは差し控えた方が良いと判断している』

ということで、全体的には普通の答なのですが、最初の「素直に受け止めたい」がヘッドラインで打たれてしまってましたな。

まあこの記事を見た限りでは、思ったほどハトじゃ無いんでネーノってところでして、まあ今日以降出てくる経済指標やアンケート(短観とか)などの数字次第では12月に利上げしても別に反対はしませんよというところでございましょうか。別に急ぐこと無いと思うんだが・・・・・

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2006/10/02

○野田審議委員インタビュー記事:利上げ慎重派登場

金曜の日経金融新聞3面に野田審議委員のインタビュー記事が掲載されました。お題が『米住宅減速、来年前半まで見極め、「国内景気に影響」』(句点は引用者が入れました)ということで、利上げ慎重派ご登場の香り。以下9月の29日日経金融新聞より。

・景気に関して先行き楽観ではございませんな

『現状は順調に推移している。内需では家計部門が消費面での力強さに欠けるが、企業部門は設備投資を主導に拡大を続ける』

『米住宅市場の減速感が想定よりも強い。今後も住宅価格が低下していく可能性は低くない』

ということで、今後の懸念として米国経済の失速と、国内の家計部門が先行きどうなのよってところがありますという話で、先行きに関しては金融経済月報ベースよりも弱気ではないかと。


・よって物価に関しても強気ではないと

『基調として緩やかな上昇を続けるが、当面は経済実態の改善ほどに目立って上昇しない情勢が続く可能性がある』

これも金融経済月報や展望レポートで出てくる政策委員会のメインシナリオとはちと違う見立てになっておりますわな。景気回復の家計部門への波及(要するに賃金の上昇)に関して想定よりも弱いというのがメインの見立てなのかと。


・金融政策変更に関しては但し書き付き

『政策変更のタイミングは予断を持つことなく、経済・物価情勢を点検して決めていく。ポイントは内外需のバランスがとれた景気拡大が続く下で物価上昇率が次第に拡大するかどうかだ』

という訳で、「内外需のバランスが取れた」という点をポイントにしている訳でして、内需に関しては現状の家計部門の弱さ(というか力強さに欠ける)状況、外需に関しては米国の住宅減速懸念ときておりますので、当面は様子見という話になるのでしょうね。


・野田さん面白い存在になるかもしれませんね

いやあ就任時には「この人は順送り人事ですかそうですか」などと悪態をついておりましたが、利上げの時にはロンバート金利に関して反対票を投じ、今回のインタビューでは大勢意見と異なる景気の見立てを表明ということで、独自色が出て中々宜しいのではないかと思います。悪態ついて大変失礼致しましたm(__)m

先日公表された8月決定会合議事要旨で景気の先行きに懸念を示した「ある委員」はまあ野田審議委員だったんでしょうということになるかなあという感じでして、今後の野田委員には注目が必要かも知れませんな。

ロンバート引上げの時に0.4%じゃなくて0.5%を主張したというのが現状の景気見立てに対してどうよという気もしますが、コール誘導金利の金利回廊を狭くすることに関しては反対ということであって、金利を上げろという意味ではないということなのでしょうな。そういう意味ではまあ金融政策に関しては筋論を出してくるお方でもあるわけで(金利回廊を狭くするというのも考え方として変だとは思わないし、そもそもあたくし0.4%を主張してましたように0.4%が筋違いとは思いませんが)、金融政策の筋論に関してはその場その場で都合の良いお話を出してくる福井日銀からするとちと異質な存在になりそうですな。

ということで野田審議委員の今後に期待。


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2006/06/26

○野田審議委員就任記者会見(6月19日)

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken/kk0606d.htm

就任記者会見が行われたのが6月19日でしたので、質問が福井総裁のファンド出資問題絡みが多くて金融政策絡みの話が殆どございません。

・さっそく総裁語録が飛び出すのであった

冒頭での発言から。

『ご指摘の通り、5年間にわたる量的緩和政策が終わり、それから早3か月が経ちましたが、こうした日本経済、あるいは日本の金融政策にとって、言わば屈折点と言えるような時期に日銀の審議委員を拝命致しまして、かつてない程の緊張感を覚えております。』

屈折点ってのは福井総裁が講演(要旨の残らない奴)で「インフレクションポイント」と発言して講演聴いてた時事通信とブルームバーグがどっちも「インフレーションポイント」と聞いてしまってフラッシュが打たれたという曰く付きの総裁語録の和訳になりますわな。

本件に関しては本石町日記さんのところで既に指摘されているので2番煎じで恐縮ですが、レクはしっかりと受けておられるようですなあという感が。しかも総裁語録をさっくりと出して来る所なんざあニクイねえ。

ちなみに、物凄く下らない揚げ足取りになるのですが、冒頭の発言の中で野田さん『銀行時代、あるいはその後の実業界での経験』って言ってるんですが、経歴を拝見するにみずほFGの副社長退任後にお勤めになった2つの企業は旧第一勧銀のバリバリのファミリー企業で、それは一般的には「実業界経験」とは言い難いものがございますので念の為。


・手堅いお方です

潜在成長率、物価水準、株価についての質問に対して。

『まず潜在成長率のご質問ですが、これにつきましては私も勉強途上であり、1%の上の方とか、あるいは2%を超えるのかといった細かいところまでの見解は持ち合わせておりません。最優先の勉強課題であり、今後良く勉強してみたいと考えておりますが、今この場でいくらということは申し上げられません。』

多分これは掛け値なしだと思われます。

『2点目の私が考える安定した物価水準はどの程度かというご質問ですが、そもそも中長期的に安定した物価水準の理解というものは、各委員がそれぞれ示しているのでしょうが、誰がいくらとは公表されているわけではないので、私がこの場でいくらですとピンポイントで申し上げることは、いささか適切ではないと思います。もちろん私なりの考えとしては大体この辺りかなというのはありますが、ここでピンポイントでお示しするのは適切ではないと思います。ただ、あえて申し上げれば、確か中心値が1%を中心にばらついているといった表現であったと記憶していますが、それ自体は私にとっては違和感のない数字ではないかと認識しています。』

実に模範的な回答です。まあこれからどうなのかは見えてくるとは思うんですが、この後に紹介する過去の金融政策に関する何とも表現が微妙な評価から勘案すると基本は大勢順応にしても、ハトになる素地はあるような気がするのは気のせい?

『3点目は現在の株価水準についての評価につき、ファンダメンタルズと比べてどうかということですが、株価についての評価は個人的には持っていますが、私の今のこの立場で株価水準についての評価を申し述べるのは適切ではないと思いますので、回答はご容赦願いたいと思います。』

具体的な水準について言及しないのは実に正しいですな。

総じて言えるのは「非常に手堅い応答話法をする方だ」という所。まあ日銀Webにある略歴を拝見すると銀行の企画畑っぽいお方なので、手堅い対応はお手の物なのかもしれませんな(中原前審議委員は為替資金畑だったかと)。


・過去の金融政策の評価に関して

新日銀法になった98年以降の金融政策の評価に対して。

『ただ、あえて申し上げれば、98年の日銀法改正後の日本経済は、正に私もその中に身を置いていたのですが、極めて混乱と言いますか、未曾有の状況であったわけでございますので、後の評価では、様々なことが言えると思いますが、そのプロセスの中で、混乱の中で政策を執行してこられた先輩方のご苦労に対しては、一定の評価は差し上げたいと思います。』

『この種のものは、いわゆる総括として様々なことが評価できると思いますが、今申し上げたように、私にとっては非常に難しいことです。ただ、混乱の中での大変なご苦労については、一定以上の評価をしたいということでそれ以上の回答はご勘弁頂きたいと思います。』

「ご苦労に関しては大いに評価します」ちゅうのは要するに結果に関しては評価致しかねますなあって事でしょう(と勝手に解釈^^)。ま、これから日銀で仕事しようって状況で露骨に喧嘩を売っても仕方無いというのはよく理解できますので(^^)。

その他の質疑は殆ど全部ファンド出資問題及び関連事項になっておりました。はーこりゃこりゃ。

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2006/06/20

○野田審議委員就任記者会見

会見の録画をブルームバーグプロフェッショナルの放送で拝見。就任のタイミングのせいで総裁のファンド拠出問題の質問がやたら多かったの事もありますが、やたらと慎重な物言いが目立つ人でもあります。で、経歴を見るとこんな感じ。

http://www.boj.or.jp/type/list/pb_member/noda.htm

どう見ても企画エリートです。本当にありがとうございました。

ちなみにみずほFG副社長の後に就任している清和興業と中央不動産ってのはもう思いっきり旧第一勧銀の関連企業です。

いやまあ別に企画エリートが悪いとか言う気はさらさら無い(生涯一職人を目指すあたくしには理解致しかねる世界ですが)のですけれども、前任の中原審議委員(東京銀行→東京三菱銀行出身)が量的緩和解除に対して一人で反対票を投じたようなお方でしたので、野田さんには申し訳ないのですが、やはり何だかなあって感は否めません。正直、最近の政策委員の選定基準が意味判らん、というか総裁寄りの人が多いですなあって意味は判るんですがね。

ちなみに、特に変った話はしてませんでした。現状の展望レポートの内容を踏襲したお話をしてましたな。このままだと影の薄い人になりそうな悪寒(と言って変な知恵を吹き込まれて目だってもそれはそれで碌な事にならんが)。

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