白川方明総裁(2010年度下期)


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白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/

例によって発言を半期ごとにファイル分けしています。

2010年上期
2009年下期
2009年上期
2008年下期
2008年上期

2010年下期のお題は以下の通りです。

2011/03/17「決定会合会見から、特に大きなポイントは無いです」
2011/03/10「ドイツでのBISビューバリバリの気合の講演」
2011/03/01「G20に合わせて実施されたグローバルインバランスに関する白川総裁講演は渾身の内容」
2011/02/17「定例会見から、今回もまた落ち着いた内容です」
2011/02/08「外国特派員協会での講演には特に新味なし」
2011/01/27「定例会見から、今回は麿節を封印して前のめり感を出さないように注意しています」
2010/12/24「定例会見から、余計な発言は無いけど市場に対しては実質ゼロ回答の内容かなあ」
2010/12/07「名古屋での講演及び会見、包括緩和の波及ルートは為替経由?」
2010/12/06「香港での講演、微妙にバーナンキ議長の為替論をdisってますがさて・・・」
2010/12/01「2年金利が0.20%に上昇した件に関する白川さんの発言」
2010/11/25「バーナンキ講演を微妙に意識しているのかどうか知らんが白川さんの香港での講演」
2010/11/10「あまり注目されなかったけれども微妙に味わいもある総裁定例会見」
2010/11/01「定例会見では微妙な麿テイストもありつつ失言には注意しているようで」
2010/10/20「マクロプルーデンスの話とかこのタイミングでする必要があるのかね」
2010/10/08「総裁会見続き」
2010/10/07「積極緩和後の総裁会見はいつもの台無し発言も無く結構でした」
2010/10/05「27日の会見から/9月16日講演から」
2010/10/04「良い講演をしているのに余計な説明があるんですよねえ」

2011/03/17

○1日遅れましたが総裁会見ネタ

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1103b.pdf

まあそんなに先行きの金融政策がどうのこうのっつー話は無いのですが、いくつかピックアップするざますだよ。

・大規模資金供給と追加緩和の実施は「信用緩和」的な発想です

『(問) 本日、即日オペ15兆円を含む大規模な資金供給を実行されました。金融市場の緊張度合いの観点から、このような資金供給の実行を決断された理由と金融市場の評価についてお伺いします。』

『(答) 先行きの不確実性が高い状況となったため、金融市場において市場参加者が予備的な資金需要を大きく増やし、金融機関が多くの資金を保有しようとする状況となりました。短期金融市場は全ての金融活動の出発点であり、経済活動にも通じます。従って、中央銀行としては、この金融市場の安定をしっかり確保し、資金面に関する不安を解消させることが非常に重要であると判断しました。』

『そうした判断の下、本日、即日資金供給オペを15兆円、先日付の資金供給オペを6.8兆円、合計21.8兆円となる過去最大規模の資金供給オペを実行しました。即日資金供給オペとしても、過去の最高金額は4.5兆円でしたが、今回は15兆円という、それを遥かに上回る規模で実施しました。このような潤沢な資金供給により短期金融市場の安定が確保されているということです。』

ということで、大量の資金供給は短期市場に掛かるストレスの回避のためですな。

『市場別にみた場合、国債市場では、今回の地震がわが国の経済に及ぼす影響の大きさが不透明であることなどから、安全資産である国債への資金逃避が進み、10年物国債の金利が1.3%から1.2%へ、2年物国債の金利が0.2%強から0.1%台へと、短中期から長期までのいずれの期間でも国債金利が低下しています。』

『一方、社債の流通市場あるいはCP市場をみると、社債金利の対国債スプレッドやCP金利の対短期国債スプレッドが幾分上昇していることに加えて、市場での取引が成立しにくい流動性の低い状態が続いており、潜在的なスプレッドの上昇圧力はこれまでよりも高くなっているとみています。』

『株式市場をみても、わが国経済や企業収益を巡る先行きの不透明感から株価は大きく下落し、本日の日経平均は昨年12月初以来の1万円割れになったことはご承知の通りです。』

と、当日(月曜日)の市場動向について触れ、

『以上、各市場についてみてきましたが、私どもとして、まず出発点の短期金融市場、それからCP、社債あるいは株式関連市場、そうした市場でリスク回避姿勢が強まることを防ぐことが非常に大事だと判断し、本日の措置に至りました。』

ということでして、今回の追加緩和措置の主眼は「CP、社債、株式市場などでの市場ストレスの緩和」にあるというのがここで明確に示されています。後の方の質疑応答にもある(引用は割愛します)のですけれども、いわゆるリスク性資産の買入にウェイトを置いたのもこの理由であり、つまり今回の追加緩和の趣旨は「外的なショックによって発生した市場ストレスの緩和」であるという点において、信用緩和(CE)的な政策として捉えるのが適切であるということになろうかと存じます。

それを「包括緩和」の枠組みの中で一緒くたに実施するのも後々話がややこしいことになるような気がせんでも無いですが、時あたかも非常時でございますので、まあその辺の所は「包括」緩和という包括の中で包んでしまって今直ぐ使える道具を出しました、という所なのでしょうな。


・決意表明部分

これは良い質疑応答。

『(問) 本日、大量の資金供給が行われ、札割れとなったにもかかわらず再度の供給をし、もう1度札割れが起きました。これは、金利の上昇を抑え込む、混乱を抑え込むという、断固たる決意の現れであると私は受け止めました。そういう理解でよろしいでしょうか。』

『(答) 短期金融市場で不安心理が広まると、各金融機関は資金を抱え込むことになるので、資金が市場の中で回らなくなるわけです。個々の金融機関においては、十分に資金を確保している先があっても、別の先では確保できないということも考えられます。すなわち、札割れとなっていても、金融市場の参加者の中には資金が十分ではないと感じる先もあります。このため、私どもとしては、札割れが起きても、市場の安定を確保するために必要であれば断固実行するという意味で、資金供給を行ったものです。』


・これは悪い質問

『(問) 2つ質問です。前代未聞の災害が起きている割には、買入れ額の規模感やリスク性資産の内訳が、ちょっと「しょぼい」というか、小さいような気がするのですが、どのように受止めているのか教えて下さい。また、復興に当たって、仮に、日銀の国債引受けの議論が国会で出てきた場合、総裁はどのようにお考えかお聞かせ下さい。』

短期市場のストレス緩和のためにオペ大量打ち込みをした上に、CE政策的な買入の拡大という内容を捕まえてしょぼいというのも何だかなあと思うのと、日銀の国債引受に関する質問が如何にも引っ掛け質問臭くて何だかなあという悪い質問にも程がある状況。

『(答) 今、「しょぼい」という言葉を使われましたが、私も含めて政策委員会メンバーの誰一人として、そうは思っていないということを、強く申し上げたいと思います。』

これは白川総裁珍しくお怒りの模様(^^)。

『我々は今回、リスク性資産の買入れを相当増やし、これまで資産買入総額が5兆円程度の中で1.5兆円であったものを、今回はさらに3.5兆円に増額しました。ご質問は、買入金額をご覧になってのことだと思いますが、本来は、保有対象となる金融資産にどれだけのリスクがあるのか、その民間のリスクをどれだけ中央銀行が肩代わりするのかというリスク量換算で評価すべきものです。』

『買入金額という量の多寡で話をすることは、あまり好ましくないと思っていますが、ご質問がありましたので敢えて申し上げます。以前の記者会見でも申し上げましたが、ETF・社債等は、保有に伴うリスク量が国債に比べてかなりの倍数になります。正確な倍数は、その時々のボラティリティ、すなわち価格の変動によって違ってきますから、今はその数字を申し上げませんが、国債とは異なって格段に大きくなります。従って、決して小さくありません。』

しかもご案内の通り金融市場に掛かったストレスの関係で更にリスク量は拡大している訳ですからね。

ただまあ確かにこの基金買入というのは説明的にシロートさんに(というかうっかりすると他市場のプロにも)難しい所でもある「箱」でもございますので、本当は「信用緩和政策(あるいは市場の機能不全を事前に防止するという予防的措置)」という風にして実施する方がクリアカットだったかもしれないなあとは思いますけれども、なにせ事態が昨日の今日という世界ですので、今回に関して言えば今ある「箱」を使う方が圧倒的に迅速対応できる訳で、そーゆー意味では包括緩和という箱が既にあったのは助かったという所でもあろうかと思います。

国債引受に関する質問部分に対する答えはまあこうとしか言いようが無いでしょうなと思われるのでありまして、まあ一応引用だけはしておきます。

『次に、国債引受については、現在、財政法によって国会の議決がない限り、できないこととなっています。日本銀行がどう考えるかという前に、引受は原則できないことになっています。何故、財政法で日本銀行の国債引受について厳しい制約をおいているのかについて、たち返って考える必要があると思います。一旦、中央銀行が国債の直接引受という道に踏み出すと、それが、中央銀行の物価コントロール能力に対する信認の低下に繋がって、その結果、激しいインフレになったというのが内外の経験です。そのような内外の経験に鑑みて、国会において引受を原則禁止するという規定を設けていると理解しています。』

『いずれにせよ、日本銀行が現に法律で与えられている手段を使って、物価安定のもとでの持続的な経済成長への復帰について全力を挙げていきたい、そのことだけを答えとして申し上げたいと思います。』


・リスクプレミアムの拡大防止とは

『(問) 資産買入れについて、今回、国債とリスク性資産の規模を逆転したということですが、これは民間企業の資金繰りを全面的に支援していく狙いという理解でよろしいでしょうか。』

『(答) 現時点で民間企業の資金繰りが窮迫しているという情報が入っているわけではありません。地震の発生前も民間企業の資金繰りは着実に改善に向かっており、特に大企業については、手許のキャッシュが豊かな状態にあると認識しています。リスク性資産の買入れは、資金繰りを円滑にするという効果もありますが、リスクプレミアムの拡大が様々な企業の経済活動に悪影響を及ぼすことを防ぐ方に主眼があります。』

ふーむ。ただまあこの会見が実施された月曜の午後以降の動向も日銀の関係各局は状況を確認しておられるかと存じます。

と言う訳でこんな感じで大したポイントも無くてどうもすいません・・・・

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2011/03/10

お題「白川総裁のドイツでの講演から」

白川総裁のドイツでの講演から。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110309a.pdf
通貨管理におけるイノベーションと挑戦の150年

本当は英語版ですので本ちゃんはこちらですが面倒なので日本語訳で勘弁。
http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2011/data/ko110309a.pdf
150 Years of Innovation and Challenges in Monetary Control

○中央銀行の役割がどうしたこうした

例によって例の如く白川総裁はこういうところでは中々格調の高い話をしているのでありますが、今回は講演のお題にありますように通貨管理という表現で金融政策に関する話をしています。でまあ前半の中央銀行の役割がどうのこうのというのも中々面白いのですが、そこはサラサラと引用するだけにしておきたく存じます。

『2.通貨の管理における4つのイノベーション』というのが冒頭の小見出しになります。

『人類の経済活動の中で、通貨の発明自体が極めて大きなイノベーションですが、その通貨を管理するという面でも、人類は様々なイノベーションを実現してきました。以下では、近代において、私が特に重要と考える4つの通貨管理のイノベーションについて説明することから話を始めようと思います。』

で、その4つというのは・・・・

『中央銀行という組織の発明』

『中央銀行が創設されることにより、金の発見といった偶然的な要因に左右されずに通貨を能動的に管理することが可能となり、また金融市場での取引を通じて通貨を体系的に管理する仕組みが可能となりました。』

ほほう。

『「最後の貸し手」の発明』

『この著書(引用者追記:『ロンバート街』)の中で、バジョットは、金融システムの動揺を防ぐため、「中央銀行は危機時において、懲罰的な金利で、しかし無制限に貸出を行うべし」という「最後の貸し手」の行動原理、いわゆるバジョット・ルールを定式化しました。バジョット・ルールの実際の適用の仕方は金融市場の変化に合わせて修正が図られていますが、今回のグローバル金融危機の際も、欧州中央銀行や日本銀行を含め、各国中央銀行は市場に対し「最後の貸し手」として積極的に資金を供給し、それによって金融システムの崩壊を防ぎました。「最後の貸し手」としての原理が打ち立てられたことの意義はまことに大きいものがあります。』

まあ何だかんだ申しましても中央銀行が一番活躍するのってこの件だと思う。金融市場現場労働者的に言えば。

『金融政策の発明』

はて??

『かつての金本位制の下では、通貨量は金の保有量に制約されており、物価や経済活動水準に能動的に影響を与えることはできませんでした。この意味で、中央銀行が金融政策を展開する余地は限られており、実際、バジョットの著作には金融政策は登場しません。本格的な金融政策は、管理通貨制度に移行してから始まりました。今日では、適切な金融政策は、マクロ経済の安定に貢献し得る政策手段のひとつになっています。』

なるほど。。。。

『中央銀行の独立性という概念の登場』

キタコレ。

『例えば、第一次世界大戦後の国際的な経済ならびに金融システムの再建を目指して1922 年にジェノアで開かれた国際経済会議では、同会議の通貨に関する決議事項において、「銀行、特に発券銀行は、政治的中立を維持すべきである」と提唱されています。この中央銀行の独立性という考え方が定着する上で、ドイツの国民やその支持を受けたドイツ連邦銀行の貢献が非常に大きいことは言うまでもありません。』

『第二次世界大戦直後の8年間という困難な時期に日本銀行総裁を務めた一萬田尚登は、若き日に日本銀行のベルリン駐在として、第一次世界大戦直後のハイパー・インフレーションを終息させた「レンテン・マルクの奇跡」に立ち会いました(図表4)。そのときの経験は、日本の戦後の金融政策運営にも活かされたと言われています。』

ライヒスバンクとか一萬田尚登さんとかブンデスバンカー炸裂の香りが(^^)。いやまあこの講演ドイツで実施してるのですけどね。

で、最後におまけのように書いてあるのがマネーサプライターゲットとかインフレターゲットの話で、これがまた微妙にチャーミング。

『日本銀行はマネーサプライ・ターゲティングを採用しませんでしたが、1970年代から80 年代前半にかけて、ドイツ連邦銀行を含め、多くの先進国中央銀行で採用されました。しかし、その後、金融の技術革新を背景にマネーサプライと物価上昇率や経済活動との安定的関係が崩れるようになると、マネーサプライ・ターゲティングは有効に機能しなくなり、放棄されるに至りました。カナダ銀行のブーエ総裁は「我々がマネーサプライを捨てたのではなく、マネーサプライが我々を捨てた」という有名な言葉を残していますが、技術革新という環境の変化が通貨管理の具体的手法を変えたと言えます。』

ほほう。

『1980 年代後半以降、多くの国の中央銀行で―ただし、FRB、欧州中央銀行、日本銀行は除かれますが―採用されたのが、インフレーション・ターゲティングです。この手法は、インフレを抑制し、あるいは低下したインフレ率を定着させる上で効果を発揮しました。しかし、この枠組みあるいはその背後にある一般物価の安定を重視する考え方も現在、新たな挑戦に晒されているようにみえます。』

キタコレ。

『2000 年代半ばにかけて、物価安定という基準からすると、何ら問題のないと思われた良好な経済状態が長く続いていたにもかかわらず、大規模な信用バブルが発生し、その後、グローバル金融危機が発生しました。そして、現在、少なからぬ先進国はバブル崩壊に伴う厳しいバランスシート調整を経験しています。こうした事態の展開は、インフレーション・ターゲティングや金融政策運営の仕方にも微妙な影響を与えています。』

白川総裁の場合はドヤ顔で話をするという雰囲気の無いお方ですし、あたくしのような下衆とは違いますのでBOEプギャーとかFEDビュープギャーなどとはもしかしたら腹の中でも思わないのかもしれませんが、まあ何となくそんな事を感じてしまう下衆下根のあたくしなのでありました(^^)。

『勿論こう言ったからといって、私はマネーサプライ・ターゲティングやインフレーション・ターゲティングに意味がないと主張している訳では決してありません。私が申し上げたいことは、過去の歴史は、「最後の貸し手」であれ、金融政策であれ、環境の変化に合わせて通貨管理の具体的な手法を常に見直していく、すなわち、イノベーションが必要であることを示唆しているということです。』

ということで、プギャーだの麿が正しかったでおじゃるとかいうような話ではなく、「自分たちが今行っている事、行おうとしている事が最も適切な手段なのかどうかを常に謙虚に見直す事を続けるべき」という謙虚な姿勢を表明している訳ですが、これが多分狸とかポーズじゃなくて恐らく素でこう考えていると思われるのが白川総裁クオリティ。

#なのになんで実際の金融政策になると妙に強気の話とか打ち込んでくるのかが微妙ですが


○サブプライム後の金融政策を「LLR」と「ゼロ金利制約下の追加緩和」に分ける

この整理は重要な論点であります。FRBでもコチャラコタ総裁とかはこういう分け方で説明をしていたりしましたが、バーナンキ議長の議会証言とかではこの辺りを微妙に曖昧にして説明しているような気がせんでもないですが、まあFRBも資産買入とそれ以外の貸出プログラムを分けて説明する傾向にありますので、この分類はそういうことになるんでしょうなあと。

『非伝統的な政策という言葉で思い浮かべる内容は論者によって異なりますが、金融危機の真っ只中でとられ「最後の貸し手」を強く意識した金融システムの安定を目的とした措置と、危機が収束した後の平常時にマクロ経済の安定化を目的としてとった金融政策とに分けてお話します。』

この分け方は判り易い。

『まず、前者ですが、今回、主要国中央銀行のとった行動は、本質的に、バジョットの強調した「最後の貸し手」としての原則に沿った行動と言えます。しかし、当然のことながら、21 世紀の金融システムは、バジョットの生きた19 世紀のそれと、全く同じではありません。世界の中央銀行は、バジョットの想定していなかった新たな挑戦に直面し、様々な工夫を行いました。』

『スティグマの解消』

『第1の挑戦は、いわゆる「スティグマ」の解消です。危機に際しては流動性の積極的な供給が不可欠ですが、金融機関は、流動性供給を受けたという事実が明らかになると、そのことによって信用が低下したとみられるのではないかと警戒し、緊急時でも流動性供給を受けることを躊躇し、なんとしても市場で調達しようとしがちです。そうした金融機関の集合的な行動の結果として、流動性不足はさらに悪化し、金利水準も上昇します。』

でまあその結果としてFRBはTAFを導入しましたね、という話になっていますが、ちょうどあたくしが(全然別の文脈ですが)ネタにしたばかりの件でしたが、まさにこういう市場のロジックを理解している方が外部登用の審議委員に欲しい訳ですよ、特に市場にストレスが掛かるような時には。

『市場流動性の枯渇への対応』

『第2の挑戦は、市場流動性の枯渇への対応です。』

『市場取引の相手方の信用力に対する警戒感、すなわちカウンターパーティー・リスクが極度に高まると、取引相手が市場からいなくなる「市場流動性の枯渇」という事態へと発展しやすくなります。資産の投売りが広がって市場価格の急落が始まれば、資産の評価損によって多くの金融機関の自己資本が毀損され、ソルベンシーの問題へと発展する可能性もあります。』

つーことで何をしましたかという話ですが。

『そのような事態を防ぐためには、伝統的な「最後の貸し手」の手法による流動性供給だけでは十分ではありません。お互いに疑心暗鬼になっている市場参加者の間に立って、誰かが安心できるカウンターパーティーになる必要が生じます。危機において、その役割を果たしたのが中央銀行でした。』

ですな。

『外貨流動性の供給』

『第3の挑戦は、外貨流動性の供給です。』

これはドル資金供給の話ですが引用割愛。

とまあここまでがLLR的な動きとしての対応で、資産買入は同じ「非伝統的金融政策」であっても、これは別の対応である、と分類しています。FRBはQE1実施の時にその辺りの説明を微妙に曖昧にしながら突っ込んで行きましたが、まあ最近は(先ほど申し上げたように)FRB高官もこういう感じでの分類をしていますなあという所でございますです。

『非伝統的金融政策』

『今回の危機後、主要国中央銀行は、マクロ経済の安定化を目的とした非伝統的金融政策も実行しています。これは、短期金利のゼロ制約の下で、経済を安定的な回復軌道に乗せるため、いかにして緩和効果を創り出すかという課題への挑戦です。』

なるほど。

『例えば、FRB が2010 年秋に決定した国債買入れの増額は、長期国債を大規模に買い入れることにより、民間部門の金利リスクを吸収し、長期金利の低下を狙ったものです。日本銀行が2010 年秋に決定した「包括的な金融緩和政策」も、非伝統的な措置を数多く盛り込んだ政策です。特に、金融政策としてのオペレーションの対象を、国債だけでなく、CP、社債、上場株式投信、不動産投資信託にまで拡張した点で、極めて異例性が強い措置です。日本銀行の買入れは、短期金利の低下余地が限界的となっている下で、各種リスク・プレミアムの縮小を通じて経済活動を刺激することを目的としています。』

まあQE2にしろ包括緩和にしろ、導入の時に「長期金利の引き下げ」「リスクプレミアムの縮小」という話をしてまして、この部分に関して言えば名目を下げるのか実質を下げるのかという論点があって、特に市場規模がでかくて他の要因での決定力の方が大きい中長期金利市場に関してはどう見てもお前話が違うだろというような結果になっているのが少々微妙な所であります。

まあ包括緩和での「長めの市場金利の引き下げ」というのは正直言ってFRBのQE2導入前の「長期金利下げるぞコノヤロー攻撃」に煽られてしまった面が多々あるような感じですので、そーゆー意味では同情の余地もあるのですが、そもそも話を突っ込んだ時に日銀の場合は「2年までの国債を買いまっせ」と何となく市場的にも「そうか2年だったら日銀の庭先のちょっと前くらいだから行けるのかも」とか思われてしまう所が微妙だったかなとか思います。FRBの長期金利云々に関しては、雨公どもはマジで長期金利引き下げとか思ってたかもしれません(つーかそういうプライスアクションしていましたし)が、まあ傍観者的には「長期金利のコントロールとかQE1でも出来なかったのに土台無理じゃろ」という感じだっただけにね(^^)。

話が逸れましたなorz


○中央銀行は本来流動性の供給を行うべきであるという話

日本の金融危機(90年代後半)の施策の話もありますがそこはスルーして最後の方から。

『第1の挑戦課題は政府と中央銀行の役割分担という問題です。危機時に「最後の貸し手」として行動する際、中央銀行は、直面している問題が流動性に関するものなのか、金融機関のソルベンシーに関するものなのかを判断しなければなりません。』

で、ソルベンシーの救済となると財政政策になっちゃいますよね、という話をして、そのまとめの部分がもう全く仰る通りという結論なので耳をかっぽじって聞くべし。

『中央銀行に独立性が与えられているのは、基本的には、その使命が流動性の供給だからです。個別の資源・資金配分に関与する度合いが強まるほど、そうした政策措置は準財政政策の色彩を帯びますが、民主主義社会において財政政策は議会において決定されるべきものです。しかし、一方で、経済や金融の安定を維持するために、何らかの危機に対応して機動的に行動することも必要です。この問題について普遍的に妥当する正解があるようには思えません。日本銀行について言えば、この難しい問題について、経済情勢の厳しさや切迫度、中央銀行の法律的な枠組み、社会の許容度等を踏まえて重い決断をしてきたと思います。』


○そして最後にBISビュー節が炸裂するのであった

まあドイツでの講演ですし(え?)。

『そのような難しい挑戦課題を考えるにつけ、何よりも、そうした状況に陥らないように予防措置をとることが重要という、自明なことを言わざるを得ません。この点では、金融政策の果たすべき役割について深く問い直すことが不可欠です。』

どう見てもBISビューです本当にありがとうございました。

『過去20 年間、金融政策はバブルにどのように対応すべきかというテーマほど、議論されたテーマはなかったように感じています。グローバル金融危機以前の正統的な考え方は、一言で言うと、バブルに金融政策は対応すべきではなく、バブルが崩壊した後に中央銀行が積極的な政策対応をとれば解決できる、というものでした。この文脈では、日本の「失われた10 年」は、日本の政策対応の遅れが主因であるとして簡単に片付けられていました。』

『しかし、米国の住宅バブルが崩壊して既に5年目に入ったにもかかわらず、この間、米国の実質GDP がほとんど拡大していない事実に直面して、そうした楽観的な見方を支持する論者はほとんどいないと思います。』

・・・・・・・・・(^^)

『過去 20 年間の経験から得られる第1の教訓は、「物価の安定は重要ではあるが、それだけでは経済の安定を意味しない」ということです。』

『バブルは低金利の持続予想だけでは起きませんが、それなしに起きないことも事実です。物価安定は重要ですが、足許の物価上昇率の動きだけに過度に焦点が当たると、物価安定の究極の目標である経済の安定から見て重要な金融システムの安定を阻害することにもなりかねません。』

来ましたな。

『第2の教訓は、金融政策がファイン・チューニングの方向に振れ過ぎることの危険性です。もちろん、ファイン・チューニングができれば理想的ですが、金融政策にはそれ以上に中長期での金融経済の安定確保という重要な役割があるように思います。』

そしてECBの二つの柱と日銀の二つの柱の比較が出るのであった。

『この点、金融政策運営を考えてみますと、欧州中央銀行と日本銀行のアプローチは似ているように感じています。欧州中央銀行は、経済分析(economic analysis)で、経済・金融動向に焦点をあてつつ、短期から中期の物価の決定要因について評価し、マネタリー分析(monetary analysis)で、マネーの面から中・長期的な物価動向を評価し、これらをクロスチェックするというtwo pillar approach を採用しています。』

『日本銀行の金融政策の枠組みは「2つの柱(perspective)」による政策運営ですが、第1の柱では、先行き1年から2年の経済・物価情勢について、最も蓋然性が高いと判断される見通しが、物価安定のもとでの持続的な成長の経路を辿っているかという観点から点検が行われます。第2の柱では、より長期的な視点を踏まえつつ、物価安定のもとでの持続的な経済成長を実現するとの観点から、発生の確率は必ずしも大きくないものの、発生した場合には経済・物価に大きな影響を与える可能性のあるリスク要因も点検しています。様々な情報から金融面の不均衡についても点検する習慣(practice)を組み込んでいるという点で、日本銀行と欧州中央銀行の金融政策の枠組みには共通点があります。』

そしてその後はマクロプルーデンスの話と白川総裁絶好調。

『金融政策上どのような枠組みを採用するにせよ、日本の経験や今次グローバル金融危機に示されるように、確率は小さいが起きれば非常に大きな影響を及ぼすリスク、すなわちテール・リスクへの備えは、今後ますます重要になっていくと考えられます。これらの課題はマクロ・プルーデンス政策という名前の下で議論がなされています。そのためには、まず、リスクの的確な把握が不可欠です。この点、欧州では本年1月、欧州システミック・リスク理事会が始まりました。』

さらには予防的措置が重要と益々快調な白川総裁。

『そうした分析面の努力と同時に、社会として問われているのは、予防的措置をとることの是非であるように思います。この点では、独立性とマンデートの明確化は、マクロ・プルーデンス政策を運営するための大前提ですが、それだけで必要な政策がとられると考えるのは楽観的です。たとえ経済環境が良好に見えたとしても、バブルが起こるとその後のコストは極めて高くつくので、あえて「パンチボール」を持ち去ることが必要という考え方が、社会全体として受け入れられるかどうかが重要な鍵を握っています。』

まあその考えは雨公には絶対に受け入れられないと思いますし、もう一つの俺様国家でありますところの中華人民共和国もそういう考えはしなさそうな気がするのが実にこうアレな所ではないのか、と思うあたくしなのでありました。

#引用手抜き大会で恐縮至極

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2011/03/01

○グローバルインバランス

G20に合わせてフランス中銀が「Financial Stability Review」というのを出しまして、それに各国中銀が寄稿していまして、その邦訳が18日に出ておりましたが他の中銀のも一緒に見ようとか思って思わずスルーしていたのでありますが、その時の講演の邦訳が先週金曜に出ましておりまして、あまりパスしている場合でも無いので講演の方から少々。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110224a.pdf
グローバル・インバランスと経常収支不均衡
―― フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにおける講演の邦訳 ――

講演よりもやや詳しい説明が寄稿文のほうにありますが本日はお家の事情で手抜きの為講演からでご勘弁。

『まず、フランス銀行「Financial Stability Review(FSR)」の「グローバル・インバランスと金融の安定」に関する特集号に寄稿する機会をいただいたことについて、ノワイエ総裁とフランス銀行に対してお礼を申し上げます。また、本日の公表イベントのパネルに参加させていただき誠に光栄です。』

後でURL置いておきますが、各国中銀から寄稿なり講演がありますが、最近の中銀のテーマはグローバルインバランスにとなっておりますわな。で、そのURLの中にありますけれども、トリシェ総裁が講演のお題を『Intellectual challenges to financial stability analysis in the era of macroprudential oversight』とマクロプルーデンスの観点というのもありまして(中身は読んでいませんすいませんすいません)これはこれはと思うのでありまする。

『グローバル・インバランスは非常に複雑かつ難しいテーマであり、数多くの論点が含まれています。正直に申し上げまして、FSRの全170ページを読んでいるわけではありませんが、昨日、パリに向けた飛行機の中で、いくつかの論文を読みながら、その論点の多様性に強い印象を受けました。G20諸国の中央銀行総裁が寄稿した論文はそれぞれ独特の視点が含まれており、これは、本テーマの多面性を反映したものです。』

さすがは趣味がセントラルバンキングであるところの貫禄の白川さんクオリティですが、170ページの半分以上を読んでいるに100ユーロ(^-^)。

『私は、日本の過去の経験や、今回の世界的な金融危機から得られた教訓を踏まえつつ、経常収支をグローバル・インバランスの持続性を測る指標として活用することに焦点を当ててお話したいと思います。』

寄稿文の方ではもう少し色々な論点がありますが、今日は手抜きに付き講演の方から。


・不均衡は持続不可能になったときに問題になる

『2.日本の経験』から。

『1980年代に日本の経常黒字と貿易黒字は急増し、80年代半ばには、通貨を増価させ、黒字を削減するよう強い対外的な圧力を受けていました。1985年のプラザ合意以降、協調介入を通じて急速な円高が進んだほか、金融政策を含むマクロ経済政策は、国内需要を喚起する方向に向かっていました。経常黒字は80年代末までには減少しましたが、日本は、バブルの破裂への対応という重い課題を背負うことになりました。』

『私は決して、対外的な圧力と経常黒字の圧縮に焦点をあてたことが、バブルを引き起こしたと主張しているわけではありません。しかし、それらは、経済が過熱している可能性の兆候を示している時に、当局が速やかに行動しにくい環境を作り出す一因にはなりました。経常収支の計数それ自体は、経済政策に影響を与える持続不可能な不均衡の発生について情報を提供していませんでした。』

この辺に関しては実は寄稿文の方に詳しい話があるのですが(じゃあ寄稿文をネタにしろというツッコミはしないように)、持続可能な不均衡と持続不可能な不均衡という物があって、その不均衡が発生している背景を良く吟味する事が重要という事になるのですけれども。

『こうした議論は、今回のグローバルな金融危機にも当てはまります。米国の経常赤字が増大するとともにエマージング諸国の外貨準備が積み上がる状況に着目して、2000年代中頃になると、ドルの急落と米国長期金利の急騰を通じた無秩序な調整が突然生じるのではないかとの懸念が高まりました。しかしながら、周知の通り、実際には全く異なる展開となりました。金融危機発生当初、市場参加者のリスク回避姿勢が極度に高まり、世界的に「質への逃避」が発生し、米国国債への需要の増大によって米国長期金利は大幅に低下し、ドルは大半の通貨に対して上昇しました。』

というのが最近の事案で、米国の経常赤字増大と新興国の外貨準備積み上がりという不均衡が持続可能なのか不可能なのかという議論もこれまた最初に言われていた流れと違って展開しているということです罠。

『すると、次の論点として、「持続困難なグローバル・インバランスに繋がり得る不均衡や歪みをどうすれば見極めることができるか」、「経常収支では十分に把握できない如何なる情報に着目する必要があるのか」が浮上してきます。重視すべき点として以下の二つが挙げられます。』

『第一点は、経済への過度なレバレッジの積み上がりです。』

『日本と米国ともに、危機に先立って民間部門の債務残高が長期トレンドから大きく乖離しました。(途中割愛しますがミクロ的な観点が必要という話をしています)もう一つ重要な要素として、信用がどのような仕組みを通じて供与されるかという点があります。両国ともシャドーバンクは信用ブームを支える重要な役割を果たしました。』

『第二点は、グロスの資本フローです。』

『経常収支と表裏一体の関係にあるネットの資本フロー―― これは資本収支に対応しますが ―― に関する情報は、その他のデータで補う必要があります。近年のユーロ圏の動向がよい例です。(ユーロ圏ではドル調達→米国非金融セクターに運用という「グロスが大きいけれどもネットが小さい」というフローがあったという説明をしています)』

ということで、今そこに発生しているインバランスの持続可能性に関する検討が常に必要であるという話でありまして、思いっきりマクロプルーデンスの観点バリバリの白川総裁クオリティが炸裂する渾身の講演(というか更に渾身なのは寄稿文ですが)であります。


・過去の教訓

『3.過去の教訓』から。

『決して網羅的なものではありませんが、ここで、現在および過去の経験から得られる教訓として三つの点を指摘したいと思います。』

ふむふむ。

『第一に、経常収支のトレンドは、貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したものであり、経済の発展段階や人口動態に強く左右されます。こうしたトレンドの中で、経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるものであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではありません。経常収支不均衡は、それが持続困難なものとなった場合にはじめて問題を引き起こすものです。』

『第二に、経常収支の構造的な側面と景気循環に伴い変動する側面を見分けることは決して容易な作業ではありません。マクロ経済政策や為替政策を通じて構造的な要素の調整を試みることは、経済を不安定化させる金融面の不均衡の蓄積を助長しかねません。経常収支そのものに焦点を当てた政策運営は、むしろ副作用が大きくなります。』

この辺りは寄稿文における日本の経験の話(経常黒字拡大からプラザ合意などの話)で詳述しておりますので読んで味噌。

『第三に、中央銀行やその他の政策当局は多様な指標を用いて持続困難な不均衡が生じているかどうかを評価する必要があります。こうした指標には、資産価格、レバレッジ、グロスの資本フロー、そしてリスクに対する市場の価格付けや金融機関のリスク・プロファイルに関する情報などが含まれます。経常収支に関するデータだけでは、全体像の一部分しか見えてきません。』

つまりどういう事かと言いますと。

『かつて、国境を越えた財やサービスの移動が国際経済上の相互関係の大半を占めていた時には、経常収支や貿易収支のデータをみることによって、対外不均衡の拡大しつつある状況を比較的容易に把握することができました。しかし、グローバルな資本フローは、巨額になるとともに、国境を跨いで動く速さも加速しています。グローバル・インバランスの評価の在り方もこうした環境変化に応じた見直しが必要になっています。』

あたくしが小僧の頃はまだ貿易統計で為替市場が動いていたりしてた記憶が辛うじてあるのですよね、今では貿易統計を毎回材料にするとか無いと思いますけど(^^)。


・中国をdisするの巻

『4.変化する環境』の所では、まず世界経済の環境が変化しているという話をしながら中国の為替政策にきっちりと注文を付けているのが白川さんクオリティ。

『もう一つの基本的な変化は、エマージング諸国のプレゼンスの拡大です。エマージング諸国が世界の経済成長を牽引しており、それに伴い国際社会における同諸国の責任も重くなってきています。例えば、主たるエマージング諸国の為替レートが硬直的となっている場合の世界経済への影響が従来よりも大きくなっていることを認識する必要があります。』

どう見ても中国です本当にありがとうございました。

『国内産業の秩序だった構造調整という視点からは、固定相場制から柔軟な為替制度への緩やかな移行と、自国通貨の増価ペースを調整していくことが正当化されるかもしれません。しかし、緩やかにしか進まない為替調整は、同時に、金融政策を含む国内マクロ経済政策の柔軟な運営を阻害するほか、調整コストを他国へ輸出する性質を持っていることをエマージング諸国の政策当局者は認識する必要があります。』

つまり中国が小国であればその辺は問題が小さいけれども、足元の経済規模において実質ドルペッグみたいな政策を実施しているのは近隣窮乏化政策の実施に他ならないと思いっきり仰せであります罠。

『もし他の諸国が自国通貨高を抑制する類似の施策を講じると、柔軟な為替制度を採る地域がより大きな影響を受ける可能性もあります。』

という話をしつつ、

『第三の特徴点は、景気回復のペースが異なっている点です。』

という文脈で、

『伝統的な金利チャネルや信用チャネルを通じた金融緩和効果は平時のようには効いていないため、制約要因が働いていないエマージング諸国への資本流入が活発化しています。』

という事で、資本流入はQE2のせいではありませんとヤケクソ気味に開き直り気味となっておられるFRBにもチクリという感じですが、前半の中国向けの話はバーナンキが言っても「お前が言うな」で片付けられますが白川さんならまあ説得力ありますわな。


・最後の政策当局者の課題というのはイイハナナシダナーではあるのだが・・・・

『5.政策当局者の課題』から。

『マクロ経済政策を組み立てるにあたっては、自国経済の安定を確保することが伝統的に強調されてきました。しかし、グローバル化の深化に伴い、個別国の政策対応を単純に積み上げた結果が世界全体にとって最適な政策になるとは限らなくなってきています。』

『ある国の政策の効果が国境を越えて対外的に波及すること(spillover effects)や、経済や金融の相互連関を通じて影響が自国へ回帰してくることを分析することもこれまでになく重要になっています。』

『大規模な資本流入や硬直的な為替制度から発生し得る金融面の不均衡への対応を検討するにあたっては、経済的にも政治的にも、全ての国のニーズを満足させる簡単な方策など存在しないことを認識しなければなりません。しかし、世界経済が運命共同体であること(we are all in the same boat)を踏まえますと、各国がそれぞれ異なる方向に進みだすと合成の誤謬が生じる危険性を高めることになります。われわれの経済政策を導いてくれる機械的ないし自動的な仕組みは存在しません。』

というのはイイハナシダナーではあるのですが、ではこれをどのように国際協調として進めていくかという話は中々困難な事ではあるのでしょうな。

『冒頭で、各総裁方からの寄稿には多様な視点が提示されていると述べました。同時に中央銀行界からの共通のメッセージも込められています。すなわち、政策当局者間の協力は必須であり、さらに強化される必要があるという点です。地道な取り組みではありますが、政策当局者は、世界経済が海図なき航海を続けるにあたり、互いの経験から謙虚に学びながら、丁寧かつ建設的な対話を続けることが不可欠です。』


・ちなみにFRBとECBとBOEのサイトから

日銀の寄稿文
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110218a1.pdf(邦訳)
http://www.banque-france.fr/gb/publications/telechar/rsf/2011/etude14_rsf_1102.pdf(寄稿文)

多分上記URLにあるように、フランス中銀のサイトを見に行くと色々な寄稿文が読めそう。

FRB(バーナンキ講演)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20110218a.htm
Global Imbalances: Links to Economic and Financial Stability

ECB(トリシェ講演)
http://www.ecb.europa.eu/press/key/date/2011/html/sp110218.en.html
Intellectual challenges to financial stability analysis in the era of macroprudential oversight

BOE(寄稿文)
http://www.bankofengland.co.uk/publications/speeches/2011/speech473.pdf
Global imbalances:the perspective of the Bank of England

・更におまけなのだが

野田大臣のG20後の会見から
http://www.mof.go.jp/kaiken/my20110219.htm

『野田大臣)  あくまで、何回もそれぞれの国の人も確認的に言っていましたけれども、対外不均衡是正が目的であると。そのための議論であるということは、お互いに再確認をしながら進んだつもりです。指標のところだと、うっかりすると対外不均衡是正というのを忘れてしまう。例えば、国内の不均衡だけが注目を浴びるような指標にもなりかねないので、何のために指標を使うのかということは行きつ戻りつ対外不均衡是正のためのだという議論はできたと思います。』

・・・・・・対外不均衡是正そのものを目的化してしまうとそれは白川さんの講演テキストにある話の真逆になってしまうのですが大臣状況把握しておられるのでしょうか?????

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2011/02/17

んでもって総裁会見から
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1102b.pdf

○今回はトピックが少ないですな

「商品価格の上昇」とか「財政健全化」とか「長期金利上昇」に関する質問もあったのですが、極めて穏当な受け答えに終始しているので特にねえという感じです。

一応その辺引用しますけど。

・商品価格の上昇に関して

『以上のような国際商品市況の上昇が、わが国経済に及ぼす影響については、こうした市況上昇の背景をどのように理解するかに依存しています。市況上昇の原因が、新興国あるいは資源国の高成長である場合には、新興国・資源国への輸出の増加や投資収益の増加というかたちで、プラスの影響を及ぼす面があります。一方で、供給不安が市況上昇の原因である場合には、そうしたプラス効果は働きにくくなってきます。また、交易条件の悪化による実質的な所得の減少が、マイナスの影響を及ぼす面もあります。以上が定性的な整理です。こうした定性的な整理を踏まえて経済の動きをみていくことになります。』

で、その見方の結果は、

『わが国の場合、2008年夏頃と比べると、為替相場が円高方向となっている分、交易条件悪化の影響が一定程度相殺されている面があると思います。また、世界経済が減速局面にあった当時と異なり、現在は世界経済の成長率が高まっていくことが見込まれています。このため、現時点では、わが国経済が緩やかな回復経路に復していくという先月の中間評価時点の見通しを変更する必要はないものと判断しています。』

非常に淡々としていますわな。


・財政健全化に関して

『わが国の財政状況は、言うまでもありませんが、大幅な財政赤字が続き、一般政府債務残高の対名目GDP比率は約200%と、国際的にみても極めて高い水準となっています。ただ、このグロスの数値は多少ミスリーディングな面もあり、金融資産を差し引いた純債務残高では、GDP対比約120%に縮小しますが、いずれにせよ非常に高いことには変わりがありません。』

グロスの数値がミスリーディングとな(^^)。

『このような厳しい財政状況にある中で、財政悪化の大きな要因にもなっている現役世代による高齢者の扶養負担の増加が見込まれる場合には、消費の抑制要因となります。また、市場において将来の財政の持続可能性に対する信認が低下すれば、金融市場の動揺を通じて実体経済も下押しされ、財政、金融システム、それから実体経済の間でマイナスの相乗作用が生じることになります。こうした影響を抑制するためには、財政の持続可能性を確保することが重要であり、そうした観点から、財政バランスの改善に向けた道筋をしっかりと示していく必要があると思っています。』

さいですな。

『その際に大事な点として、先週の講演でも申し上げたことの繰り返しになりますが、改めて2つの点を申し上げたいと思います。』

『第1に、日本経済の成長力の引き上げが、まずもって必要であるという点です。実質ベースで経済成長率が高まり、活発な民間の経済活動が行われることにより、歳入の増加も期待できます。ただし、財政バランスの改善は、インフレによる名目成長率の上昇によって達成される課題ではありません。物価が上昇すれば、税収は増加するかもしれませんが、同時に各種の歳出も増加するのが過去の経験ですし、長期金利の上昇を通じて利払い負担が増加することも念頭に置く必要があります。従って、重要なことは、実質成長率の引き上げを実現していくことです。また、そうした経済のもとでは、物価も上がっていくということです。』

経済成長を伴わないで物価「だけ」上昇してもシャーナイナイという事ですな。

『第2に申し上げる点は、現在の深刻な財政状況を前提にすると、今申し上げた成長力の引き上げだけで、財政バランスの改善が自動的に実現するわけではないということです。財政バランスの改善は、実質的に歳出を減らし、あるいは歳入を増やす改革なしには実現しません。』

バーナンキみたいですな(^^)。

『それから、財政問題に対する関心が高まる中にあっては、今申し上げた財政規律の確保に向けた努力と並んで、日本銀行が物価安定のもとでの持続的経済成長を目指して金融政策を行っていることに対する市場の信認を確保することが重要であることも、付け加えておきたいと思います。』

正直言ってこの部分は余計でしょ。


・長期金利に関して

『こうした長期金利の上昇は、わが国だけではなく、米国やドイツ・英国などの欧州諸国、さらには多くの新興国においても観察されています。世界的な長期金利上昇の背景は、基本的には、米国経済の先行き見通しの改善により、米国の長期金利が一段と上昇し、グローバル化した金融市場のもとで、各国の長期金利がこれに連れて上昇したものと理解しています。』

つまりうちはやる事をやっていますので長期金利の上昇はまあそれはそれという話でございますね、わかります。

で、まあ上記の部分は正直想定問答集の世界だと思われますが、次に紹介するところはちょっと「ほほー」と思ったのですな。


○今回の会見でほほーと思った部分はこれ

一昨日ヘッドラインでもあったのですけど見落としていますたorz

米国のバランスシート調整に関してですけどね。

『これも何回かこの席で申し上げましたが、バランスシート調整は、日本にとって大変重い経験でしたが、同時に、米国経済や米国社会には、日本とは違う要素があることも認識しておく必要があると思っています。それは、米国経済・社会が持つ柔軟さと、急速な高齢化あるいは人口減少が現在生じているわけではないこと、――少し長い目でみると、米国も同じような難しい問題に直面するのですが――現在はそこまでいっているわけではありません。私としては、バランスシート調整の厳しさと、それを相殺する要因の両方を注意深くみていく必要があると思います。また、日本銀行の判断がいつも正しいと言っているわけではなく、日本銀行も逆方向に行き過ぎることも有り得ると自戒しながら、みていきたいと考えています。』

・・・・・これはつまり「偽りの夜明け」というリスクを思いっきり気にしていた白川さんの見方よりも足元の米国経済が強いトーンで推移していて、もしかしたら偽りの夜明けが偽りじゃないのかもしれない、と思い出しているのかなあって思ったのですが、それはうがちすぎでしょうかねえ。


とまあそんな感じです。

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2011/02/08

○白川総裁の外国特派員協会での講演

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110207a.pdf
日本経済の復活に向けて

まあ基本的に細かい金融政策の話をうじゃうじゃする訳では無いですし、バーナンキ議長のプレスクラブでの講演のように「政府と議会の財政構造改革に向けた努力が必要」というような厳しい指摘も無く、というか日本の場合はどうもそういう話をすると直ぐに「うるせえ」とか言われそうな勢いでありますので、まあそういう話も無く、という事でありますので、基本的にはそんなに新しい話が出たわけではありません。

でね、そういう講演ではありますが、中身を見ると随所にチャーミングな指摘がありまして、こういう場合はそこを鑑賞しながらニヤニヤするのが吉なわけですよ(違)。ということでまあ鑑賞会でも(^^)。

・米国の政策と単純比較しても仕方ないですよという嫌味

まずは『はじめに』の部分から。

『自国の経済状態を他国との比較で評価するという思考様式には長所も短所もあります。長所は言うまでもなく自国を客観的に捉えるきっかけになることです。短所は、時々の経済状況に応じて、過度の楽観論や悲観論に陥る危険があることです。』

ほうほう。

『比較が表面的なものに止まる場合には、誤ったインプリケーションを引き出し、結果として、政策や経営戦略を誤る可能性もあります。』

つまり「FRBとのバランスシート拡大がどうのこうの」という表面的な比較で政策に関してどうこう言うのは誤ったインプリケーションだということですね、わかります。

・米国だって中央銀行バランスシート拡大する中で物価が下がっているよという指摘

『なぜ、長期に亘ってデフレが続いているのか』って小見出しの部分から。

『デフレについては、中央銀行がもっと積極的に資金を供給しさえすれば解決するとの見解が聞かれることもあります。潤沢な資金供給は重要ですが、これだけでデフレの問題が解決する訳ではありません(図表9)。米国でも、FRBのバランスシートは、2008 年後半以降、約2.5 倍に拡大しましたが、物価上昇率は低下傾向を続けています。デフレの克服のためには、粘り強い金融緩和と成長力を高めるための努力の2つが不可欠です。』

・物価が上がれば景気が回復するのではなくてその逆ですよという話

『日本経済にとって必要な取り組み』って所から。

『この点に関連し、「まずデフレの克服が必要である」という議論があります。言うまでもなく、デフレの克服は日本経済にとって大きな課題です。』

さいですな。

『勿論、物価がまず先行して上昇することもありますが、これは資源・エネルギーや食料等の国際商品市況の上昇が物価を押し上げるようなケースです。しかし、そうしたケースでは交易条件が悪化し、わが国の実質的な所得水準は低下します。国民がそのような物価上昇を望んでいる訳ではありません。』

どう見ても嫌味です本当にありがとうございました。

『過去の景気と物価の関係から明らかなように、経済成長率の高まりによって需給ギャップが引き締まり、その結果として物価が上がってくるというのが経済のメカニズムです。日本の経験している緩やかなデフレという現象は、趨勢的な成長力低下という根源的な問題の表れです。』

・・・・・とまあそんな鑑賞会は兎も角としまして、長期金利に関する所は意味が判らんかったので、そこも引用。


・長期金利に関する話はどう見てもインチキです本当にありがとうございました

『なぜ、日本国債の金利は低位安定しているのか』というまんまの小見出しの所から。

『長期金利の趨勢的な動きは3つの要因、すなわち、予想経済成長率、予想物価上昇率、そして国債保有に伴う様々なリスクに応じたプレミアムによって決まります。』

まあそうですかな。実は会計要因もでかいと思うのだがまあそれはマニアネタか(^^)。

『したがって、長期金利の低位安定に対する1つの説明は、日本経済が、当面、低成長と低インフレを続けるという市場の見方を反映しているというものです。』

たぶんそれで終了だと思うのですが、段々この先から我田引水成分が高まるのだ。

『もっとも、これだけでは十分な説明とは言えません。大幅な財政赤字が続く中、仮に財政の持続可能性に対する懸念が拡がり、投資家が国債保有に伴うリスクを意識するようになれば、長期金利は上昇するはずです。しかし、これまでのところ、現実にそうした現象はみられていません。』

格下げの翌日に金利低下しましたもんねえニヤニヤ。

『この点に関し、国内民間部門の貯蓄によって日本国債の大部分をファイナンスできることが、長期金利の安定に寄与しているとの指摘があります。』

ファイナンスできる、というよりは買わないといけないからシャーナイナイというのが体感的な実感のような気がせんでもないがまあいっか(^^)。

『しかしながら、過去の歴史が示すように、どの国も永久に財政赤字を続けることはできません。そうした観点で考えますと、長期金利が安定している根源的な理由は、日本は税制や社会保障制度の改革などを通じて、最終的には中長期的な財政健全化に取り組む意思があると投資家が認識しているからではないかと考えています。』

というよりは、単に現状の資金循環フローは暫くの間は十分に回せるでしょという認識だから安定しているのであって、真面目にこのフロー回らないとか思い出した時は話は別だと思いますけどね。バラマキならまだしも、一旦減税したら増税なんて難しいというのに「減税日本」なんてのが圧勝するご時世ですからねえ。

ただまあ、本当に火が点いたら危機バネが働いて何とかするでしょ日本だってとは思っているとは存じますけれども、それは総裁の発言のような積極的なニュアンスではないと思うのですけどねえ。

『さらに付け加えれば、日本銀行の金融政策運営が、物価安定のもとでの持続的成長の実現という点において軸がしっかりしていることも、重要な要因だと思っています。』

・・・・・・・いやあの中長期的な物価安定の理解くらいの物価上昇率になるのでしたらもうちょっと長期金利が高くて然るべきなんですけどおおおおお・・・・・・

などと悪態をつきましたが、要するに白川総裁が言いたかったのはこの部分の最後の一文なんでしょ。

『このことは逆に言うと、そうした信認を大事にし、中長期的な財政健全化に取り組んでいく必要があることを意味しています。』


んでまあ成長戦略の話とかもオモシロイのですが、まあ割愛ということで勘弁。

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2011/01/27

○明るい話をしながらも麿節は封印した感じの総裁会見

ということで総裁会見ですけどね。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1101a.pdf

・景気や物価に関しては明るめのトーンのコメントが多い

冒頭の説明部分でも割と明るめのトーンの話が。

『物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、マクロ的な需給バランスが緩和状態にあるもとで下落していますが、基調的にみると、下落幅は縮小を続けています。特に、高校授業料の実質無償化等の影響を除いてみると、最近では、前年比が0%となっています。』

高校授業料除くで0%の指摘キタコレ。

『日本経済は、物価安定のもとでの持続的成長経路に向けて、引き続き着実に歩みを進めていくと考えています。』

というようなコメントもありまして、更にCPIの基準年改定問題でのCPI低下に関してもこのような話を。

『いずれにせよ、基準改定自体によって人々の支出行動が変わるわけではありません。大切なことは、デフレ脱却に至る展望が拓けているか、すなわち、物価下落幅が縮小しプラスに転化していくかどうかですが、そうした展望は、先程申し上げたように拓けていると判断しています。』

更に実質的に最初の質問にこんなのがありましてですな、

『(問) わが国の景気改善の動きが「一服」の状態から脱する時期について、本年1〜3月期の可能性を指摘する声も出ていますが、ご見解をお聞かせ下さい。』

『(答) 昨年秋以降、わが国の景気は、改善の動きに一服感がみられていますが、これには、主に2つの要因が影響しています。(以下延々と説明が続くが割愛^^)こうした点を踏まえると、わが国経済は、1〜3月期と確定的に言うことは難しいわけですが、早晩、景気改善テンポの鈍化した状況から徐々に脱し、緩やかな回復基調に復していく蓋然性が高いと判断しています。』

ということで、先般のさくらレポート以来そうなのですが、景気認識および先行き見通しに関する日銀のトーンはかなり明るくなっているという風に見るのですがどうでしょう。


・リスクバランスについて

『(問) リスク要因について、上振れ、下振れのリスクバランスをどのように判断しているのか伺います。』

『(答) リスク要因を昨年10月の展望レポートの時点と比較すると、(以下延々と説明が続くがまたも割愛^^)以上、日本経済を考える上で最も大きな要因である世界経済についての上振れリスク、下振れリスクを整理しましたが、この整理は10月の展望レポート時点から大きな変化があったわけではありません。引き続き、新興国・資源国については上振れ、先進国については下振れを意識しながら、全体としては概ねバランスしているということであり、前回の判断とは変わっていません。』

リスクバランスの他に「スピードの違う世界成長」という点も今回強調した感じがしますが、まあいずれにせよ、声明文の内容ではリスクバランスが変わっているようなトーンの中で総裁は「リスクは概ねバランス」という姿勢を維持しておりまして、まあ元々の総裁のリスク認識の「バランス」がお前強くねえかという感じがしてましたと考えれば世の中が総裁に追い付いたとも言えるのですが(^^)、いずれにせよここで足元の状況好転に踊って「リスクは上方」みたいな麿音頭を踊りださなかったのは誠に結構至極な事では無いかと存じますです、はい。


・引っ掛け質問が2つほどありましたが、どちらも答えはお上手

引っ掛け質問その1

『(問) 日銀の資金供給の拡大と長期金利について、2点お伺いします。1点目は、長期金利が7か月振りの高水準に達した12月半ばから、日銀はマネーマーケットへの資金供給を急拡大していますが、その目的と、急激な金利上昇が景気に与える悪影響をどうご覧になっているのか、先月も言及して頂いたのですが、改めてお伺いします。2点目は、短期金融市場の資金供給オペレーションで札割れが生じる程の潤沢な供給が続けられているわけですが、市場機能への影響をどうご覧になっているのか、札割れが続いても、強力な緩和を推進するという観点から潤沢な供給を続けるというスタンスは変わりないのかお伺いします。』

1点目の質問に関しては「長期金利と資金供給」という筋が悪くて頭の悪い質問なので正直どうでも良い(というかこの後に「この質問をしたのは誰だ!(ガラッ)」という海原雄山先生登場のコーナーがあるのでそっちで晒し者にするレベルの質問)のですが、「市場機能」云々の後半部分はどう見ても引っ掛け質問です本当にありがとうございましたという感じですな。

とうことで後半部分だけ引用。

『(答)(前半割愛)2つ目ですが、現在の日本銀行の金融調節は、かつての量的緩和の時とは異なり、当座預金の残高をターゲットに運営をしているわけではありません。誘導目標はあくまでもオーバーナイトの金利ですし、包括緩和のもとで、さらにやや長めの金利の低下やリスクプレミアムの縮小を促すといった運営を行っています。従って、札割れが生じているもとで、なんとかある一定の当座預金残高を目標にしてオペを繰り出していくわけではありません。』

全く仰るとおりです。

『短期金融市場の機能の低下については、従来から私どもは大きな問題意識をもちろん持っています。私どもとしては、金融緩和の効果と副作用を点検しながら行っていくということに尽きると思います。なかなか難しい点もありますが、それらを総合判断した上で、現在、この包括緩和を進めていくことが適当だと判断しています。』

どこぞのベンダーのヘッドラインだとこの最後の部分が切られていたので「あっちゃー」と思ったのですが、これはケツを切ってヘッドラインにするどこぞのベンダーがうんこなのでありまして、この総裁の答えにあるように、「市場機能云々というのはあるけれども、包括緩和政策に則ったオペレーションを実施するという判断に至った」という説明をしている訳でして、まあ当面はそーゆー意味では変なところで梯子は外してこないでしょうなあと思われる答えではありました(が、急にこれでまた梯子外したらあたくしの鷺連呼が始まるのでありますけどね、苦笑)。


引っ掛け質問その2

『(問) エネルギーや商品価格が、日本だけではなく上がっています。いわゆるコアの部分と総合部分の乖離が、段々大きくなる傾向にあると思います。この先その乖離がどんどん大きくなって、コアはあまり上昇していないけれど総合が大きく上昇した場合、金融政策を判断する立場から、基本的にどうお考えになるのかをお聞かせ下さい。 また、先程もお答えになったことですが、交易条件の悪化の1つの具体的な例として、企業収益への影響、例えば鉄鋼大手何社かが先行きの利益見通しを下方修正する動きも出ていますが、そういう部分はあまり懸念する必要がないのか、それとも注意深くみていった方がいいのかお伺いします。』

この質問ですが、後半部分を切って質問するとかなりの引っ掛け意地悪質問になるのですが、後半で交易条件の悪化がどうしたこうしたという質問をしているので、引っ掛け質問というのは質問者に悪いかもしれませんな(その1の特に後半は明らかに質問者が引っ掛けてやろうとしているのが見え見えなんですけどね)。

『(答) 米国型の「食料とエネルギーを除くコア」を指してのご質問と理解しますが、それぞれの国は、総合的な物価指数とコアと呼ばれる物価指数を持っています。コアとして何が適切かは、その国の経済構造や家計の支出構造に依存しています。なぜコアをみるかというと、変動の大きな品目を除去することによって物価の基調的な動きが判断できるためです。米国の場合は、食料とエネルギーを除いたベースでみた方が、将来の全体の物価動向を把握しやすいということです。一方、日本の場合は、過去のデータから分析すると、米国型のコアの予測力は必ずしも高くなく、むしろ生鮮食品を除くベース、あるいは日本銀行が作成している「刈り込み平均――上下10%ずつ変動の大きい品目を除いたベース――」がありますが、こうしたかたちでのコア物価指数の方が、全体的な物価指数をより正確に予測しているという分析結果があります。そういう意味で、どういう物価指数を考えるかは国によって違いますが、私どもとしては、物価の判断に当たっては、わが国の実態に合ったコアの物価指数をもとに先々の総合物価指数を予測していくという現在のアプローチが適切だと思っています。(後半部分割愛)』

と言う事で、この部分だけのインプリケーションとしては、ECBのトリシェ総裁のWSJでのインタビューのように総合の物価指数が上昇しているからそちらを重視というようなアプローチは取らないですよ、という事でトリシェ総裁の急に出口が来たのでモードには引っ張られないんだからね!!という白川さんのスタンスを見せたというのが1つ。

もう1つは技術的な問題になるのですが、物価指数の推移を見るときに折に触れて日銀から出てくる「10%刈り込み平均」の話がここでも出ておりまして、引き続きCPIの10%刈り込み平均の数値のトレンドを見るのが重要だなという所でしょうか。

ちなみに、この刈り込み平均ネタはかなり前からありまして、日銀からの関連ペーパーとしては、まあ判り易いバージョンの「日銀レビュー」シリーズでは白塚重典さんの書いた「消費者物価指数のコア指標」(2006年4月)→http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev06j07.pdfがございますし、金融研究所のペーパーでは三尾仁志さんと肥後雅博さんの書いた「刈り込み平均指数を利用した基調的物価変動の分析」(1999年3月)→http://www.imes.boj.or.jp/japanese/zenbun99/kk18-1-5.pdfというのがありますので(既にまあご存知の向きも多いかとは存じますが)ご参考までに。


・この質問をしたのは誰だあ!(ガラッ)

と、急に海原雄山状態になっているドラめもんでありますが、今回の質問で一番意味が判らなかったのはこの質問。

『(問) 2011年度の消費者物価指数が10月時点の見通しの+0.1%から+0.3%に上方修正されましたが、これはデフレ脱却に資するものではないという認識でよいのでしょうか。そうでないとすれば、その理由を教えて下さい。また、国際商品市況の上昇の要因は何であるとお考えか、ご所見をお願いします。』

で、答えは割愛致しますが(^^)、まあ当然ながら白川総裁は「上方修正した理由について」の説明として国際商品市況上昇傾向を織り込んだんですよ、という説明をしたんですよね。そうしたらこの人更に同じ質問をしましてですね。

『(問) 確認ですが、2011年度の消費者物価指数が+0.3%に上方修正されたことは、デフレ脱却に資すると考えられるのでしょうか。』

・・・・・「日銀の物価見通し」が上昇したからデフレ脱却に「資する」ってナンジャソラ。

いやその「資する」ってどういう意味なのよ??もしかしてお前は「資する」という言葉を初めて覚えたから得意になって使いたくなっただけなんちゃうのかという位日本語として意味が判らん質問でありますわな。

世の中の現実の期待インフレ率が上昇したとか、足元の物価が上昇しているからデフレ脱却に「資する」というのなら判るけれども、日銀の見通しは見通しの世界だし、その数字を大本営発表したって仕方ない話だと思うのですが。その数字いじってデフレ脱却に役に立ち、更にその手が未来永劫使えるのであれば(一度は効いても当然ながら大本営発表していると信用を無くすので二度目からは倍返し以上の逆効果が待ってますよね)何ぼでも見通しの数字を舐め舐めしてインチキ数字を作りますがなと思うのですけど・・・・・・

ということで、白川総裁もどう答えたらよいのか困ったのがこの答えに窺えます。

『(答) 「デフレ脱却に資するのか」というご質問の意味ですが、仮に「物価上昇率が上がっていますか」というご趣旨であれば、もちろん物価上昇率は上がっているわけです。私どもは、全般的に物価上昇率が、私どもが定義する「物価安定の理解」に照らして、そうした状態に近づいていくことを願っていますし、また同時に、その物価上昇が経済の成長率の上昇を伴うものであることを期待しているわけです。そうしたことも踏まえ、全体をみて判断していく必要があるわけですが、私どもとしては、現在は望ましい方向に向かっていると判断しているということです。』

・・・・・いやこれはお疲れ様です。


そういや上記のように記者の癖に日本語の用法がおかしい人はさておきまして、こんなオモシロ質問もありました。

『(問) 日本国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が、1月に入り若干上昇傾向にあるようですが、これは注意すべき動きなのか、そうとは言えないのか、総裁の見方をお教え下さい。』

総裁の答えが完璧なので以下引用(^^)。

『(答) CDSのマーケット自体は非常に流動性の低い市場ですから、CDSのプレミアムの動き方から、過度にインプリケーションを引き出すことは、必ずしも適当ではないと思っています。CDSのプレミアムが短期的にどういう動きをするかにかかわらず、財政のバランスについて持続可能性をしっかり維持していく取り組みは、非常に大事だと思っています。』

ということで総裁会見はこんな感じで。

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2010/12/24

お題「総裁会見はKY発言は無かったけど別に進展も無いのであった」

クリスマスとか聞くともう年末進行突入ですなあ。

ということで総裁会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1012c.pdf

○包括緩和の自画自賛キタコレ

声明文で金融環境が更に緩和している云々という包括緩和の自画自賛っぽい部分があったわけですが、総裁会見冒頭の説明部分でこのように説明していました。

『次に、金融環境をみると、企業の資金調達コストが低下傾向にあるほか、企業からみた金融機関の貸出態度が一段と改善するなど、緩和方向の動きが強まっています。ターム物金利は、6か月物や1年物の短期国債金利が強含んでいるものの、TIBOR、LIBORは低水準横這いで推移しています。』

はあ、TIBORやLIBORが低水準横ばいですか。そういえばちょっと前に外山金融市場局長様がどこぞのベンダーとのインタビューで「TIBORの水準が高いので是正されるべき」というような発言をしたと報じられていましたが・・・

日本円TIBOR3か月ですが、折角ですので例の発言が報じられた日の7月5日以降どうなっていたかというのを見ますと下記のようになります(途中は包括緩和決定の日の10月5日以外は適当に月末を拾った、ソースは全銀協のウェブサイト)。

12月22日:0.34000%
10月29日:0.34000%
10月5日:0.36000%
8月31日:0.36846%
7月31日:0.38000%
7月5日:0.38000%

10月5日から見ると確かに下がっているのですが、下がったのって包括緩和実施に敬意を表したのか何だか知らんですけれども、包括緩和実施からその月末までに2bp低下しているんですけどその後特に下がった訳でもないですけどね。しかも短国だの2年だの中期だのの金利が本格的に上昇しだしたのは11月の中盤以降なのですけれども、いやまあこれ捕まえて「短期国債金利が強含んでいるものの低水準横ばいで推移」と言われましても。

で、ここの時点で2年国債の金利とかに触れないのがチャーミングなのですが、当然ながら次のような質問が飛んでくるのだ。


○長めの金利が上昇している件について

最初の質問としては実に当然の質問(^^)。

『(問) 最近、長めの金利が上昇傾向にありますが、その背景や日本経済への影響についてお考えを伺います。また、日銀の包括金融緩和は長めの金利の低下を促すことが目的の1つだったと思いますが、その効果が現在十分に発揮されているのか、その辺りのご認識についてお聞かせ下さい。』

で、この答えがやたらめったら長いのですが、そもそもこういうシンプルな質問に対して答えが死ぬほど長いという時点で説明に無理があるという風に思うのですが、説明を読んで見ませう。

『(答) まず、ターム物金利をみますと、TIBORやLIBORなどは緩やかに低下していますが、やや長めの短期国債や長期国債の金利水準は、包括緩和決定後に一旦低下した後、11月初からは上昇に転じています。』

TIBORですかそうですかというのはさっきも書いた通り。

『このような金利の動向、特に、長期金利の上昇は、わが国のみならず、米国やドイツ・英国等の欧州諸国、さらには新興国においても観察されています。わが国の場合、欧米先進国に比べて長期金利の上昇幅が大きいわけではありませんが、日本も含め世界的に長期金利が上昇している背景については、米国経済の先行きに対する悲観論や金融緩和期待の後退により、米国の長期金利が上昇する中、グローバル化した金融市場のもとで、各国の長期金利がこれに連れて上昇したものであると理解しています。』

話を長期金利の上昇に持ち込む事によって「貰い事故」という説明に持ち込んでおりますが、そもそも日銀はFRBと違って長期金利の水準をどうにかするという枠組みは包括緩和実施の際に示していないので、長期金利上昇については別にまあ知らんがなという説明で無問題だったりするのですな。

『いうまでもないことですが、長期金利は経済や物価の情勢や先行きに対する市場参加者の見方を反映して形成されるものです。』

というヘッドラインが出た瞬間に債券先物を売った人が居たのはお笑いみたいなもんですが。

『しかし、同時に、長期金利の変動が企業や家計の資金調達コスト、あるいは国債を大量に保有している金融機関の収益状況などへの影響を通じて、経済・物価や金融情勢に影響を与えるという側面もあります。こうした両方の側面を踏まえて、日本銀行としては、今後の金利の推移やその影響について、引き続き注意深く点検していく方針です。』

ということで、このようなサービスフレーズが直後に入っておりまして、瞬間下がった債券先物はすかさず戻りました(^^)。

『なお、この点に関連して、日本銀行はいわゆる「時間軸政策」を採用していることをあらためて指摘したいと思います。』

と言って時間軸を強調するのもサービス発言の一環なのですが、その次の部分はあまりヘッドラインとか報道で大きく扱われては居なかったのですが、もう何か見た瞬間にまたいつもの麿クオリティですなあと思ったのはあたくしだけですかそうですか。

『この「時間軸」について、再度、公表文に則して申し上げると、「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件」とした上で、「日本銀行は、『中長期的な物価安定の理解』に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく」ということです。』

わざわざ条件の方を先に言うのが麿クオリティでして、要するに「金融面での不均衡の蓄積が起きたら実質ゼロ金利政策は解除しますよ」というのが本音なんですよねと衣の下の鎧が見え過ぎちゃって困るの♪という感じなんすけど。もうちょっとこの辺りって鎧を見せない方法なんですかねえマッタクモウ。

『以上の点も含め、ご質問の包括緩和の効果について現時点での受け止め方を申し上げると、導入後の金利低下が示すように、総額35兆円規模の基金による多様な金融資産の買入れと長めの資金供給は、長めの金利を押し下げる方向に作用しているとみています。』

作用してないしてない。

『加えて、社債スプレッドが格付けの低い銘柄を中心に縮小しているほか、株価やREIT価格の上昇もみられるなど、リスク・プレミアムの縮小にも一定の寄与をしているとみられます。』

こちらの効果は認める。

『さらに、先程も少し触れましたが、企業金融を巡る環境は、貸出金利の低下や社債・ CPの発行環境の改善にもみられるように、着実に改善しています。さらに、時間軸の効果も期待できます。このように包括緩和は、全体として金融環境をさらに緩和方向へと進める効果を発揮していると評価しています。』

いやー市場金利上昇してるんすけどねえ。短観の借入金利判断DIも改善してるの大企業だけなんですけどねえ。

『「包括緩和」という言葉が示すように、私どもが実施している一連の政策を全体としてみた場合には、今申し上げたような評価になります。いずれにしても、私どもとしては、今後の経済・物価情勢、金融情勢を注意深く点検していきたいと思っています。』

ということで、ものの見事に2年とかの金利が上昇している件をスルーして答えるのでございました。で、更に「いやそれは良いのだが、2年以内の国債を追加で購入したという事は2年以内の金利を低位安定させるという政策的なインプリケーションがあると普通は思うはずだが、その点はどうなっているんですか」みたいな質問が飛んで欲しかったのですが、残念ながらその質問は無かったので、是非次の機会にお願いしますどこかのベンダーさん。


○当座預金残高に関して

『(問) 2点質問します。1点目は、当座預金残高についてです。ここ1年間くらいは概ね20兆円程度で推移してきたと思いますが、直近は22兆円程度とかなり厚めになっていると思います。これは偶発的なものなのか、あるいは、ある種意図的にされていることでしょうか。昨今の金利上昇を踏まえた対策なのか、そうではないのか、ご説明頂ければと思います。(2点目割愛)』

まあこの質問もかなり雑で、「ここ1年間くらいは概ね20兆円」というのが既にテキトーにも程がありまして、15兆くらいになってみたり20兆くらいになってみたりしているのですし、そもそも20兆円だと現状の市場状況では既に厚めの供給になっておりますがなという事で、如何なものかという感じがしますが。

『(答)(2点目割愛)1点目の当座預金残高に関するご質問ですが、現在の包括金融緩和政策の枠組みのもとでは、かつての量的緩和の時代と異なり、当座預金残高に目標水準を設定して、その残高に向け日々の金融調節を行うという運営はしていません。従って、現在、意図的に、例えば22兆円が頭の中にあるわけではありません。』

それはそうなのだが、為替介入を実施した後って「介入実施した日の日銀当座預金残高15兆円」+「介入額の2兆円」となります17兆円を思いっきり意識して、17兆円を中心にした当座預金残高で推移させたオペレーションを続けてませんでしたっけと思うのでございますがその点についてはどうなんでしょうかにゃ。

『もっとも、日本銀行はこの1年間、様々な新たな金融緩和措置――包括緩和もその1つですが――を実施してきました。こうした措置を展開していくと、資金供給そのものは当然増えていく方向にあるわけです。その結果、当座預金残高も、方向としては増えていくことになります。』

つまり、国債買入やら6か月オペが増えてきた所で何となく当座預金残高を増やす気はあるけれども、足元では別に増やさないですよという事ですね、わかります。

『ただし、私どもの狙いは量の拡大それ自体にあるわけではなくて、様々なオペ手段を駆使することによって長めの金利に働きかけていく、あるいはリスク・プレミアムに働きかけていくことを通じて政策効果を実現していくことです。』

市場機能重視オペのようなのを実施した結果長めの金利が上昇したんですけどねえ。

『この点は、日本銀行もFRBも同様だと思いますが、そうした政策運営を実施する中で日々の当座預金残高が変動しているとご理解頂きたいと思います。』

でもGCレートを低位水準で押さえつける訳でもなく、日々の需給による振れは容認し、かつ別にGC市場の資金が余って運用側涙目となるようなオペを打つ訳では無いという時点でこの話って実務的に論理破綻状態になっておりますので、何とかして頂きたいと思っているのですが、どうもこの調子ですと調節の現場もどっちを重視すりゃ良いのか判らなくて大変ですし、市場の方も一体全体何をしようとしているのかが判らんという状況は今後も続くという感じでしょうな。オラシラネ。

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2010/12/07

以下虫干しネタで名古屋での白川総裁の講演と会見から。

講演
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1011e.pdf

会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1011c.pdf
2年金利が上昇した件に関する他人事的な答えに関しては先日悪態をついた通り^^;


○包括緩和政策の波及ルートに関する説明

講演の半ば以降に金融政策運営に関する話をしているのですが、そこで先般実施を決定した包括緩和政策に関する政策波及経路の説明をしていますが微妙にアレなテイストを感じますのでその辺から。

『第1の波及経路は、企業や家計の資金調達コストを引き下げ、民間部門の経済活動を金融面から支援していくことです。』

えーっと、包括緩和実施以降金利が上昇していますが(^^)。

『FRBのバーナンキ議長は、先日決定した大規模な国債買入れによる追加金融緩和策について、これを量的緩和と呼ぶことは不適切であると言ったうえで、その狙いは、長めの金利を引き下げることにより緩和的な金融環境を実現することであると説明しています。金利引き下げを通じて緩和的な金融環境を実現するという点では、日本銀行による今回の包括緩和も全く同様です。』

まあ米国も日本も金利が上昇しているんですけどね(^^)。

『加えて、今回、日本銀行は中央銀行としては極めて異例ですが、ETFやJ−REITといったリスク性資産を買い入れることにしました。日本銀行の買入れが「呼び水」となって市場参加者の投資姿勢が積極化することになれば、リスク・マネーの仲介の円滑化に繋がり、企業の資金調達環境がさらに改善していくことが期待できます。』

まあこっちはそれはそれで良いのですけど、金利ルートって全然ワークしてねえだろという所でありますが、米国の場合は金利を下げようとしているのか、期待インフレ率を上げようとしているのか(それは二律背反)がどうも見ててワケワカランというかどっちつかずな状態なので長めの金利が暴れる事態になるという事で、そもそもの長期金利コントロールに無理があったんでねえの??という政策目標の設定の間違いっぽいそもそも論的な話でして、更に雇用統計では量的緩和実施しても失業率は改善しないわ(そらまあ数週間で改善したらその方がオカシイが、笑)という楽しい状態になっている一方で、日本の場合は市場機能だか何だか知らんけど、GCの上昇放置によって(以下いつもの悪態に付き割愛)というどう見ても怠慢です本当にありがとうございましたというのは微妙に違いますがね。


『第2の波及経路は、「時間軸効果」と呼ばれているものです。』

2年金利が0.20%まで上昇したのですがどこがどう時間軸効果なのでしょうか????

で、途中の時間軸の説明をスルーしてその後がはいはいワロスワロス。

『通常、景気が回復していく局面では、金融市場において、それまでの緩和的な金融政策がいつ修正されるのか、という点に関する様々な予想が生まれ、先行きの金利水準に対する見通しがばらついてきます。しかし、今回発表したような枠組みがあると、先行きの金利に関する安定的な予想が市場で形成され、長期金利を安定化させる効果が期待できます。このように、「時間軸効果」とは、景気回復が進み、企業収益が改善してくる過程において、特に大きな緩和効果を発揮すると考えています。』

景気回復も進んでいないのに2年金利が(以下同文)。


でですな、結局のところ麿としてはこの経路でおじゃるというのが第3の経路なのではないかと思うのですよねえ。

『第3の波及経路は、企業や家計の心理面に働きかけることにより、経済を下支えしていくことです。』

どう見ても為替対策です本当にカムサハムニダ。

『今回の措置は、海外経済の減速や円高に伴う悪影響を懸念する企業や家計のマインドを安定化させるうえで、効果があったと考えています。』

どう見ても為替(ry

『日本銀行は、かねてより、「先行きの経済・物価動向を注意深く点検したうえで、必要と判断される場合には、適時・適切に対応する」と申し上げてきました。中央銀行の政策運営に対する信認は、経済の落ち込みに対する不安感を防ぐことを通じて、わが国経済の自律回復に向けた動きを後押ししていく力になると確信しています。』

ほうほうそうですか(棒読み)。


○これは中々お洒落

為替市場の話をしているのですが、名古屋の講演なのに円高が必ずしも良くないという話をするのが白川総裁ったらチャーミングなんですからもう(^^)。

『円高は、短期的には、輸出企業の収益や採算を圧迫する要因ですが、その影響は貿易構造によって通貨ごとに異なり、一様ではありません。』

まあドル円よりも他通貨の方が影響あったりというケースもありますし。

『例えば、日本と韓国は、家電や自動車といった多くの最終製品に関し、近年グローバル市場において競合関係を強めているため、通貨価値の相対的な関係が、両国の輸出品の競争力に大きく影響します。一方、日本と中国の貿易関係をみると、国際的なサプライ・チェーンの中で相互に補完し合う面が相対的に強いため、為替レートの影響の仕方は異なります。このような点については、各地の支店からも報告が寄せられていますが、日本銀行では、そうした点も意識しながら、為替レートの動きとその影響を重大な関心をもってきめ細かく点検しています。』

ほうほう。

『円高は、やや長い目でみると、輸入物価の下落を通じ、交易条件の改善、すなわち、日本全体の実質所得の増加に繋がるという効果も有しています。日本銀行としては、こうした長期的な観点から、為替市場の動向が日本経済にどのような影響を与えるか、また、そうしたもとで、企業がどのような取組みを進めようとしているのかといった点についても注意を払っています。』

・・・・・それは正論だと思うが輸出ドリブン(丼ではない)経済の名古屋で言うとは中々チャーミング。つーかね、(順番逆ですが)為替円高の企業や家計へのマインド悪化を懸念している中で、それに対しての効果があると考える包括緩和を実施しているという中なのですから、別にそういう話はせんでもエエジャロと思うのですよ。折角為替円高対策の波及効果の話をしているのに、その話をする一方で「長い目で見ると円高も日本に良い話」とか言っちゃうと、本当に日銀は足元の円高を懸念しているのか、包括緩和で円高を止める気があるのか、という肝心の今実施している政策に対する日銀の姿勢に対して市場および世間が疑念を持ってしまうのでありまして、白川総裁はその辺りに関する配慮が皆無に等しいのが非常に困るのですよね。

という所です。為替に関する話に関しては香港での講演と重複するので割愛。


○会見での長期金利上昇に関する話

2年金利の質問はこの前引用しましたが、その前に長期金利についてもツッコミがありましたのでそちらを引用。

『(問) 長期金利の状況についてお伺いします。足もとでは長期金利が上昇傾向にありますが、市場ではその背景として、米国の長期金利上昇に連動した動きとの見方があります。この点、米国の長期金利上昇の背景をどのように捉えているのでしょうか。また、包括的な金融緩和政策は長めの金利を引き下げるという狙いがあると思いますが、日本において長めの金利が上昇していることについてご説明下さい。』

(;∀;)イイシツモンダナー

『(答)(米国長期金利の部分は割愛)日本の包括的な金融緩和政策との関係ですが、これはまさに「包括」という言葉で示しているとおり、全体として、パッケージとして理解して頂きたいと考えています。日本の長期金利は、米国の長期金利の動き等を反映して幾分上昇しているということだと思います。』

つまり足元の金利上昇(当時)は気にしないんですね、わかります。

『ただ、全体としてみた場合、まず銀行間の資金市場をみると、もともと極めて低い水準にあったTIBORや円LIBORなどのいわゆるターム物金利は幾分ながらさらに低下していますし、社債金利の対国債スプレッドも縮小しています。このように、長めの金利の引き下げ効果やスプレッドの縮小効果があらわれているほか、REITの価格も上昇しています。これらの動きは、民間経済主体の資金調達コスト全体の低下というルートを通じて、金融緩和効果を発揮していくと考えています。』

これはまたどう見ても言いくるめモード。

『加えて申し上げますと、日本銀行は、時間軸政策を明確化しました。中長期的な物価安定の理解に基づき、物価の安定が展望できるまで実質的なゼロ金利政策を継続することを明らかにしています。講演の席でも申し上げたように、こうした政策は、この先、景気回復が進む局面において、長期金利を安定化させるという効果を期待できるということです。従って、足もとの長期金利は幾分上がっていますが、その部分だけではなくて、全体としてこの政策の効果を捉えて頂きたいと思っています。 それから、CPや社債、J−REIT、ETFの買い入れについては12月に入ってからスタートします。このことも最後に付言したいと思います。』

つーかさ、長いところは米国のせいかもしれないけど、中短期金利の上昇っていうのはどっからどうみても(以下いつもの悪態になるので割愛)。

ということで、この前引用した2年金利に関しての同じ会見での説明もそうでしたが、この辺りを見ていると白川総裁は市場金利を押さえ付ける気が全然無いんじゃねーのよって風に読めてしまうのでありまして、甚だ遺憾としか申し上げようが無いつーか、包括緩和の実施アナウンスしたときと話が違うじゃネーノということになるんでは無かろうかと存じますです、はい。

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2010/12/06

ということで虫干しネタなのですが。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1011b.pdf
先進国と新興国:異なる速度での景気回復

中々こう興味のある論点が前半の方に色々とあって、その部分だけみていると中々良い話なのですが、中盤以降に「低金利長期化の弊害」「バブル発生を防ぐべき」というBISビュー爆発の白川節炸裂になってしまいます。いやまあ香港でやってるからバブル警戒の話をするのは当然ちゃあ当然なのかも知れないけど、あんまりそのネタ振りをするのもどうなのかと思うのですけどね。海外で講演すると白川さん毎度の事ですが白川節が炸裂しまくるのですが、足元で円高株安が一服しているからと言って直ぐに被っている猫を取らない方がよいと思いますけどねえ。天然狸の俊ちゃんになれとは言わないけどさ。


○世界経済の先行きに関して

『それでは、今後の世界経済の動向についてはどのようにみるべきでしょうか。世界経済の先行きは不確実性に満ちていますが、見通しに当たっては、私は以下の3 つのポイントを特に重視しています。』

で、その3つのポイントですが。

『第 1 のポイントは先進国経済、とりわけバランスシート調整の進捗度合いの評価です。』
『第 2 のポイントは新興国経済の成長見通しです。』
『第 3 のポイントは、上述の2 つのポイントの交差する論点ですが、「異なる速度での景気回復」であることによって生じる資本フローや為替レートを巡る問題、分かりやすい言葉で言えば、通貨を巡る対立(currency conflict)の問題です。』

ということなのですが、1と2はその部分にちょっと説明があるのですが、3は後の方で説明してまして、その部分だけだいぶ前にご紹介しましたけれども、どう見てもECBでのバーナンキ議長の講演に物言いをつけるでござるの巻という風情になっておりまして大変に心温まるものでございます。

で、その1と2は書いてあるとおりですけれども、よーするにバランスシート調整圧力が残存しているうちは先進国経済は本格的な回復には乗らないという話と、新興国経済はバブル警戒が必要ですよという話をしているのですよね。


でまあ上記のポイントを考える際に日本の教訓が役に立ちますよね、というのがその次の章の話になりますけど。

『ところで、この3 つのポイントを検討する際、日本の過去数十年間の経験は色々なヒントを提供しています。過去数か月間における経済政策論議で最大の話題はFRB の大規模な資産買い入れであったと思います。この間、エコノミストや政策当局者の論評を読むと、「『日本型デフレ』や日本の『失われた10 年』を回避する」といった表現にしばしば出くわしました。因みに、グーグルで「日本型デフレ」をキーワードに検索すると、本年7 月以降11 月半ばまでのヒット件数は約100 万件と、年前半の約40 万件から急増しています。』

・・・・調べてるんですか(^^)。

『日本の経験への関心は、デフレや「失われた10 年」だけではありません。中国の友人達と話をしていると、日本の高度成長期やプラザ合意以降の経験を実に詳細に研究していることに驚かされます。そこで、日本の経験も踏まえながら、上述の 3 つのポイントについて私の考えを述べてみたいと思います。』

○バランスシート調整と日本の教訓に関して

でまあ米国のバランスシート調整に関しての話になるのですが、日本のバランスシート調整で成長率が低下して物価はマイナスでしたねという話をしてますが、そこで「でもこうではないか」という話をするのが白川さんの仕様であります。

『このように、近年の日本の経済パフォーマンスは芳しいものではなく、これが米国でしばしば「日本の失敗を繰り返さない」といった議論が行なわれる所以です。しかし、そうした議論を聞いていると、日本の経験やその教訓を誤って解釈(misread)しているのではないかと感じることもあります。私の理解するところ、日本の成長率の低下は以下の 3 つの理由によるものです。』

ほほう。で、その3つの理由ですが(しかし白川さん3つにするの好きですなあ)。

『第 1 の理由は、バブル崩壊の直接的な影響です。』

というのは設備や債務、雇用の過剰調整の影響と言う事ですのでよく判ります。

『第 2 の理由は、1980 年代後半から1990 年代にかけて世界規模で起こった規制緩和、グローバリゼーション、情報通信技術革命といった大きな潮流の変化に対して、日本企業がうまく適合できなかったことです。』

えーっと、そうなんでしょうか??あたくし的には正直よく判らんっす。金融業界に籍を置いてますと、日本企業は全然適合もへったくれもしてないけど、海外も最近は似たようなもんだからこういわれてもピンと来ないのは感受性と調査能力が欠如している証拠ですな、とほほ。一応その先を引用する。

『この時期、世界の市場は統合の度合いを強め、生産工程の世界的規模での分業も拡がりました。海外の企業は生産拠点や販売チャネルを最適に配置して付加価値を生み出す一方、アウトソーシングをコスト削減に効果的に活用しました。これに対し、日本の企業は、中央で集中制御を行い、チームで対応する一括生産管理方式が主流でしたので、こうした環境変化への対応は大きな挑戦となりました。日本の産業モデルは終身雇用制度の下での技術力の高い国内労働者によって支えられてきました。しかし、日本の企業は、過去の成功の記憶に囚われ、グローバル経済に生じた大きな変化への対応が遅れました。』

日本の製造業も普通に対応していると思うのですが、金融とかに関してはこの通りという感じがするのですけど・・・何かピンと来ないですすいませんすいません。

『第 3 の理由は、高齢化や人口減少の影響です。人口動態の変化が経済に与える影響のルートは様々ですが、他の条件が同一であれば、人口が減少すれば、当然のことながら、国内需要は縮小します。供給面でも、労働供給の減少は成長率を引き下げます。』

と言う話の内容はまあその通りというのが並ぶだよ。


○日本のデフレに関して:物価調整と賃金調整に関して

で、その次に日本のデフレに関する話をしているのですが、これはふ〜んという論点。

『「失われた 10 年」の議論とも関連しますが、しばしば取上げられるデフレの危険についてはどのように考えるべきでしょうか。確かに、日本は緩やかな物価下落―10 年間の累計で3%程度―を経験しました。しかし、デフレを恐れる最大の理由であるデフレ・スパイラル、すなわち、物価の下落が経済活動の低下をもたらし、これがさらに物価の下落をもたらすという現象は生じませんでした。一方、2002 年から2007 年にかけての景気回復は決して目覚しいものではありませんでしたが、長さという点では戦後最長でした。』

と、これまたいちゃもんをつけられそうな話をしてますが、論点の方はこの次です。

『香港も近年物価の上昇と下落を経験しましたが、デフレの問題は経済の構造、特に賃金設定から切り離して議論することは適切でありません。』

ほほう。

『日本と他の先進国の消費者物価上昇率を比較すると、上昇率の違いは、専らサービス価格の動きの違いによるものです(図表10)。日本では、物価上昇率が低下するにつれ、賃金がより伸縮的に設定されるようになりました。そうした賃金の伸縮性は、賞与の削減や非正規労働者の採用というルートだけでなく、正規労働者の所定内賃金が下方に伸縮的に調整されることによっても実現されました。サービス業は財の生産に比べると労働集約的であるため、そうした名目賃金の伸縮的な調整はサービス価格の下落という形でデフレの原因ともなりました。』

『日本は、1990 年代後半以降、企業経営者と労働者が雇用の確保を優先し、そのために、労働者は賃金の引き下げを受け入れたといえます。日本の失業率は現在5.0%と、米欧諸国に比べて失業率の上昇幅ははるかに小幅でしたが、その裏側の事実は賃金の下落であり、緩やかなデフレでもありました。』

ふーん。賃金調整するから物価調整するのか、物価調整するから賃金調整するのか卵とニワトリみたいな話で何となく丸め込まれているような気がするが、逆にこの論点って「じゃあデュアルマンデートにしろ」って話になったらどう切り返すのでしょうか。日本の場合は米国とは雇用構造が違うのでデュアルマンデートにするのは難しいとかいう話になるのかね、よー判らんが。


○米国へのインプリケーションの話をしつつ低金利政策の長期化の弊害の話が

で、以上の話を要約するとこうなるというのがこの章の最後に。

『第 1 に、大規模なバブル崩壊を経験した経済が本格的に回復するにはバランスシート調整の完了が必要であり、それ故、長い時間がかかります。』

という話をしているのに何でああ展望レポートだの景気見通しだのが堅調なのかが不思議ちゃあ不思議(確かにあまりコケる感じもしないのですが別に良くなる気はしませんしねえ)ではありますがまあそれはそれとして。

『第 2 に、バランスシート調整の進行中にあっても、経済の供給面の重要性への配慮を忘れないようにすることも重要です。』

というのは何かと言いますと、

『需要の急激な落ち込みを防ぐ上で、緩和的な金融政策は重要ですが、低金利の持続は新陳代謝を不活発化することによって、生産性の上昇を阻害する可能性もあります。』

キタコレ。ただまあこの部分を強調するのではなくて、人口動態の話が続きになっているのはまあ一応引用して置くだわさ。

『やや長い目でみれば、経済成長率の基調は供給サイドの要因、すなわち、労働力人口と生産性によって決まってきます。この点、米国は日本よりも経済構造が柔軟であること、また、人口増加率が+1%程度と日本のバブル崩壊後に比べて高いことは、強みとして指摘できるように思います。』

そしてその次も中々お洒落な指摘。

『ただし、バブル崩壊後の長引く経済低迷の中では、社会の不満が高まる結果、長い目でみて効率性に悪影響を与える政策が採られがちです。潜在成長率の低下傾向に歯止めをかけることは、どの国にとっても決して容易なことではありませんが、それに成功するかどうかが「失われた10 年」と呼ばれる事態を避ける大きな鍵を握っているように思います。』

しらっと財政に関する指摘をしているのがチャーミングですな(^^)。


○新興国経済に関してはバブル警戒とな

いやまあ中国経済はバブル警戒というのはその通りの話ですし、白川さんのお話も判るのですが、人の心配する前に自分の心配しやがれと突っ込まれるような話を海外でしてくるのが得意というのも日銀総裁としての立場としてはどうなのかねえとは思いますけどね。

『ただし、高成長を続けるための一つの重要な前提条件はバブルを防ぐことです。この点は中国の政策当局者にも十分に意識されています。私は日本の1980 年代後半におけるバブル発生は以下のような要因が複雑に絡み合って起きた現象だと思っています。』

『第 1 は、日本全体を覆った過剰な自信です。』
『第 2 は、金融の監督体制も十分ではなかったことです。』

というのはよいとして。

『第 3 は、長期にわたって継続した金融緩和です。』

またこれか!という話ですが、その続きがちゃんとあるので引用しておくだよ。

『ただし、単に金融緩和をバブルの原因として挙げるだけではあまり意味がありません。我々は、金融緩和が長期にわたって継続した社会的、経済的背景を深く掘り下げて考える必要があります。』

ふむふむ。

『その一つの理由は、低いインフレ率が続いたことです。もう一つの理由は、日本は経常収支の黒字の圧縮に向けて強い対外的な圧力を受けていたことでした。』

ほほう。

『経常収支の黒字を圧縮するためには内需の拡大が必要であり、そのために、緩和的な金融政策が必要という議論が強力に展開されました。好景気に転じた後においても、輸出企業を中心に、為替レートが円高に向かうことへの懸念がしばしば聞かれました。こうした幾つかの要因から、金融緩和の修正に対し強力な反論が展開されました。』

つまり為替政策に金融政策を割り当てるなという話ですな。まあ後の方で思いっきりそういう話をしていますけれども。

『以上の日本の経験に照らして、高成長を遂げている新興国がバブルの発生を防ぐ上で重要な教訓があるとすれば、以下の3 点に集約されると思います。』

でその1と2は割愛しまして。

『第3 に、金融政策運営は、物価安定の下での持続的な経済成長を実現するという「国内経済の安定」を目的に運営する必要があります。為替レートや経常収支を金融政策の目的とすると、国内経済の安定が損なわれうることを、心に留めておかねばなりません。』

とは言え、通貨をドルペッグしている国でこういう話をするのも何だかなあという感じはするのでありますが、一応まあそんな事で虫干しシリーズ恐縮でした。

なお、本当は今日は名古屋での挨拶も虫干しネタにする積りで、今回はサラサラと引用する積りだったのですが、バブル警戒の所だけ引用するのはちょっとフェアじゃない気が書いているうちにしてきたので(中身そのものは基本的には良い話をしているのですけれどもね、「そういう話をする前に自分の国の方を何とかしなはれ」という最大のツッコミどころはさておきまして)引用大会になってしまいましたとさ。

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2010/12/01

○白川総裁講演を飛ばして会見の方を先に(つーかメモね)

講演なんですけど、香港の方もそうなんですけど、足元の円高傾向一服と株価の下落傾向一服にすっかり安心して毎度お馴染みの麿節と申しますか、低金利政策の長期化予想が金融の不均衡を招くでおじゃる的な、それは正論かもしれないが包括緩和を強力に推進すると言う状況でその話はせんで宜しいがな的なテイストを感じるものだったりするのでその悪態は後日(^^)。

会見につきましては、昨日ブルームバーグの記事から引用したネタの内容を確認しておきたかったので(^^)、当該部分をとりあえず引用するでおじゃる。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1011c.pdf

最後から2番目の質疑応答が素敵です(^^)。

『(問)先ほどの長期金利についての質問と多少重なるところがありますが、新発2年債の利回りが本日0.21%と、昨年以来の水準に上昇しています。この2年債の利回りは、日銀がやや長めの金利を低めに誘導するという政策目的の対象になっている金利だと思います。先ほどはもう少し長めの金利についてコメントをされていましたが、こうした2年債金利の上昇は、あまり問題視されていないという理解で良いのでしょうか。(後半割愛)』

これはこれは(^^)。

『(答) 最初の点ですが、金融市場は非常にグローバル化していますから、各国の国債の金利はグローバルな動きの中で変動しているという側面があります。これはFRBについてもそうですが、実際に国債の買入れを行った後は、金利が上昇しています。もっとも、だからと言って国債買入れの効果はないということではありません。やはり国債の買入れ自体は金利の低下要因になっていると思います。』

国債の買入どうのこうのじゃなくてお前らの市場機能重視だか何だか知らんがGCの振れを容認するオペレーション&追加緩和期待の後退がタームプレミアムを復活させているのですけれども。

『日本銀行の国債買入れも、長めの金利に働きかける中で、相応の影響を及ぼしていると思っています。ただし、先ほども申し上げたとおり、日本銀行の包括的な金融緩和政策は、これだけ金利水準が下がっている中でどのように政策効果を出していくかということで考えた政策ですから、是非パッケージとして捉えて欲しいと思っています。』

全く意味が判らん。これでは2年金利の上昇について別に懸念していないという風にしか読めないのだが・・・・

2年というのは日銀の庭先の隣くらいのゾーンでもありますし、質問にもありますようにそもそも包括緩和による基金買入という「リスクプレミアムの低下を促す」という新しいコンセプト(=従来の「成長通貨供給」ではない)による2年以下の国債購入を行っているのだから、その政策意図からすれば「足元での2年金利の上昇に関しては包括緩和政策で意図する方向とはやや違った動きを示している」とか何とか牽制するような話でもするのじゃねえのかという所でありまして、こーゆー事を麿が言うもんだから折角の思い切った(ETFにJ−REITにBBB格の2年社債の買取って買っているものの質から言えば随分と頑張った政策なんですよ、量の話しかしない人が多くて困りますが)政策の印象がしょぼくなるという点に関しては、まあ「この正直者!」というのは人間としては好感が持てますが、折角の政策に自分で火消ししてどうするんだという事で、可及的速やかに福井の俊ちゃん辺りと一緒に階段落ちして中身を入れ替えて頂きたく存じます次第でございます。

#いやまあ白川さんの話も良いんですけど、こーゆー火事場モードにおけるインチキパワーに関しては俊ちゃんの方が一日どころか百万年くらいの長がありますので

ああ今日も悪態になってしまったorz

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2010/11/25

○ところでこんなのが(白川総裁講演)

でですな、一方で白川総裁は香港でこんな講演を。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1011b.pdf(邦訳)
http://www.boj.or.jp/en/type/press/koen07/data/ko1011b.pdf(本文)

『先進国と新興国:異なる速度での景気回復』(本当のお題は『Advanced and Emerging Economies-- Two-speed Recovery --』ってお題が既にこうバーナンキ講演(お題は『Rebalancing the Global Recovery』)にぶつけたかのようなお題になっておりますので大変に興味深いのでありますが、昨日は本業多忙の為あまり読んでいる時間が無くて残念無念。

しかし邦訳のPDFの12ページ目(本文11ページ目)に何かお洒落な部分があるのですがこれは何ぞ(^^)。

『最初に、教科書的な基本原則を確認しますと、どの国の中央銀行も最終的に責任を有しているのは自国の物価と経済活動の安定に対してです。先進国であれ新興国であれ、中央銀行が自国の状況をみて金融緩和を強化したり、逆にその修正を図るのは当然かつ正当な行為です。為替レート変動との関連について言えば、自由な国際資本移動の下で、為替レートを固定すると、金融政策の自立性を失います。従って、もし新興国への資本流入が過熱を起こしているのであれば、為替レートの上昇を容認するか、国内の物価や経済活動に影響を与える程度に応じて、金融政策の引き締めを行えば良いというのが教科書に書かれている答えだと思います。』

さよですな。

『こうした原則は重要です。ただし、現在我々の手元にある教科書には、現在の経済における重要な現実―すなわち、ゼロ金利制約とバランスシート調整―は組み込まれていません。ゼロ金利制約に直面し、しかもバランスシート調整に晒されている経済主体が多い場合には、そうでない場合と比べて、金融緩和の効果は国内の主体を通じては発揮されにくくなり、むしろ、対外的なルート─資本流出や為替レートの下落─を通じて発揮されやすくなります。』

『資本が流入する新興国の側では、近年、金融資本市場の成長は目覚しいものがあるとはいえ、市場の規模は先進国市場に比べるとなお小さく、流動性も低いのが実情です。このため、現地通貨建ての株式・債券市場にアンカバーの資本が大量に流入すると、為替レートの上昇と証券価格の上昇が同時に発生する傾向があり、為替差益と証券のキャピタルゲインの両方を狙った投機的資金の流入が自己実現的に加速しやすくなります。』

『こうした過剰な資本流入によって国内の債券利回りが低下すると、国内の銀行貸出金利にも低下圧力がかかり、資産価格の上昇要因にもなります。為替レートの上昇を容認すれば資本流入を抑える効果は期待できますが、為替レート上昇によりインフレ圧力が抑えられ、物価が見かけ上安定していることを背景に低金利が長期化すると、国内景気の過熱やバブルを防げなくなることも考えられます。』

ふむふむ。

『このことは、為替レート上昇も万能薬でないことを示唆しています。』

(;∀;)イイハナシダナー

『いずれにせよ、新興国がバブルとその崩壊を経験することになると、その影響は先進国にも跳ね返ってきます。』

で、まあここで切っちゃうと若干フェアーじゃないのでもうちょっとだけ引用しますけど、長くなるので微妙なところで引用を割愛しますです。

『数年前、日本が量的緩和を実行していた頃、日本はアジア諸国から量的緩和がキャリー・トレードを促進しているとして、批判を受けることがありました。FRB が先般、大規模な資産買い入れプログラムを実行して以降、同じような議論がより活発に展開されています。先進国、新興国それぞれの議論に言い分はありますが、グローバル化した経済の下では、我々全員が同じボートに乗っていることを意識する必要があります。クリアカットな答えはありませんが、私は金融政策の実行に際して、各国が以下のようなアプローチの意義について了解することが大事だと思います。』

『第 1 は、先進国、新興国ともに、自国の経済、物価の安定を達成するということの意味を深く考えた上で、政策を実行することです。中央銀行にとって自国経済の安定が目標であることはいつの時代も変わりはありませんが、経済、金融のグローバル化を踏まえると、自国の緩和的な金融政策や為替レートの柔軟性の欠如が海外に及ぼす影響と、それが再び自らに跳ね返ってくる相乗作用も意識した上で、自国の経済、物価の安定を図ることが重要になっています。』

で、第2以下を割愛するというのが微妙にアレなのですが、また後日こちらに関しては詳しく読もうと思いますです、はい。

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2010/11/10

米債が素敵な状態になっているような気がしますが虫干しネタで。

5日の総裁会見から。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1011a.pdf

○冒頭の説明部分にしらっとチャーミングな話が

基本的には最初の説明部分っていうのは声明文や金融経済月報の概要部分とモロ被りになるので華麗にスルーするのですけれども、今回は思いっきり引っ掛かる部分が2箇所ございましてですな。

・TIBORに言及とな

『次に、金融環境をみると、緩和方向の動きが続いています。 TIBORなどのターム物金利は弱含んで推移しています。また、社債流通利回りの対国債スプレッドが総じて緩やかな低下基調を辿る中、企業の資金調達コストは低下傾向が続いています。CP・社債市場では、引き続き良好な発行環境が続いています。企業の資金繰りについても、総じてみれば、改善の動きが続いています。』

>TIBORなどのターム物金利は弱含んで推移しています
>TIBORなどのターム物金利は弱含んで推移しています
>TIBORなどのターム物金利は弱含んで推移しています

んでもってTIBORちゃんなのですが、日本円TIBOR3か月物金利がヤケクソ緩和実施前の0.360%から0.340%に低下してそこで止まると言う形になっておりまして、いやまあ弱含んで推移していますっていうのはその通りっちゃあその通りなのですが、単にヤケクソ緩和に敬意を表して2つだけ下げてみました感の方が強いのですけれども。

というのもあるのですが、わざわざTIBORを名指ししたのが背景として何なんですかというのが気になる訳でございまして、先般大変に不評を買ったどこぞの金融市場局長インタビューと同じ文脈だと嫌ですなあという所でございます。ただまあもっと背景は単純だったりする気もしましてですな、短期国債の流通利回りとか2年辺りの国債利回りに関しては、ヤケクソ緩和を実施する前から低かったので、今般のヤケクソ緩和の実施以降に金利が低下したと言うのも無く、その一方でとりあえずTIBORレートが低下したので「このように緩和政策の効果が出ていますよ」という話をしたくてTIBORを出しただけ、というごく単純な話なのかもしれませんのですが・・・・

まあいずれにせよ、TIBORに関しては微妙な部分が色々とありますので、不用意に踏むと地雷化するリスクがあり、あんまり安易に「TIBORなどのターム物金利」とか言及しない方が良いとは思いますがね。勿論何らかの意図があるならまあ良いのですけど。


・リスクはバランスとな

『こうした経済・物価を巡るリスク要因は、概ね上下両方向にバランスしていると判断しています。』

えーっと、下振れリスクに注意が必要だから追加緩和をしたんじゃなかったでしたっけという気がするのですが、追加緩和の具体的な実施が行われる前にもうリスク認識をバランスに戻しちゃって良いのでせうか。


○買入の規模がどうしたとかETFは5年国債の13倍のリスク量があるとか

で、その次の質疑応答はワロタ訳ですが、質問は例によって「米国と比べて規模が小さいのではないか」というものなのですが。

『このうち、資産買入れの部分の5兆円には、ETFやJ−REITという、保有に伴うリスク量が国債に比べて格段に大きな資産が含まれています。また、昨日も別途の場で申し上げましたが、今回のFRBの買入れ国債の中心、これは期間5〜6年ですが、リスク量を計算してみると、例えば ETF、J−REITは、米国の5年国債の約13倍に相当するという計算になります。』

13倍になります(キリッ)という説明ですが、5000億円を13倍しても6.5兆円にしかならないのでやっぱり少ないとか言われるのではないかと思うのですが(^^)、途中を割愛して更に額の話が。

『そう申し上げた上で、日本銀行が行っている長期国債の買入れは、現在、期間を特定せずに年間21.6兆円のペースで行っており、これはGDPの4%強に相当します。今回、FOMCが決定した来年第2四半期末までの買入金額は、同じくGDP対比4%です。私自身は国債の量でもって比較することが適当だとは思いませんが、今、規模についてのお尋ねだったので敢えてお答えするとそういうことです。』

てな話で何かコドモの喧嘩みたいな話になっているのがアレですが、まあ勿論白川総裁的には単純規模の話は本意ではない訳でして、この質疑応答部分でもこのような話をしています。

『いずれにせよ、表面的な資産買入金額のみによって、金融緩和の程度を推し量ることは適当ではないと思います。金融政策の効果は、いわば使っている道具の大きさで評価されるという面もあるとは思いますが、最終的にはその道具を用いて達成しようとしている金利水準や信用スプレッドの水準によって測られるべきものです。』

まあこれは正論は正論なのですが、そこの所のプレゼンをもうちょっとこう上手く出来ないのかなあと思いますし、日銀が何回説明してもその説明を捻じ曲げるメディアの皆様(全員ではないですが)がウジャウジャいるのも困ったもんだわとは思う次第ではございますので、道は遠いと言った所なのでしょうか。

他の質問で「緩和競争ではないですか」ってのがあってそれに対する答えから。

『2つ目の、日米が競争しているというご質問ですが、これも全くそのようなことはありません。これは、新聞紙上で拝見すると、「量」でもって日本銀行の金融緩和の積極性を量るという議論が現実に多い、あるいはそれに対するご質問があったのでお答えしているだけであって、私の方からはこのような議論はあまりしたくないと思っています。これが重要であればもちろん強調しますが、私自身はそのような議論が重要だとは思っていません。』

まあ実態は兎も角として、一応緩和合戦ではないですよという話をしていますが、その中で先ほどと同じように「量の話ばかりするのは勘弁」という話をしているので、まーこの点に関しては相当不機嫌ゲージが上がっているのでしょうなあ。

と申しますか、まあさすがにこの点に関してはあたくしも「量ばかり見ないで質を見ないといかんでしょ」と思うのですけれどもね。


○金融政策のフィードバックがどうしたこうした

これは良い論点と思いつつ引用しますが、「FOMCの追加緩和決定後にさっそく株価や商品市況が上昇していますがどうでしょうか」という質問部分に対する答えから引用。

『それから、2つ目のご質問ですが、これは大局的に問題を捉えてみると、先進国と新興国で成長スピードに違いがある、あるいは成長ポテンシャルに違いがある中で、先進国とりわけ米国で大規模な金融緩和が行われた場合に、世界の金融市場でどのようなことが起こるかという問題だと思います。』

ほほう。

『先進国の金融緩和の影響が新興国で出る、あるいは商品市況も含めて金融市場に大きな影響を与えるという問題意識は私どもも持っています。各国の中央銀行は、自らが置かれた経済状況の中で、自国の物価と経済の安定を図ることが責務です。いつの時代であっても、このことが変わることはもちろんないわけですが、近年、自国の金融政策が他に波及し、それがまた自分の経済に戻ってくる、フィードバックという可能性を以前よりも意識する必要が、次の2つの理由から高まっているように思います。』

『1つは言うまでもなく、経済、金融のグローバル化が進んでいるという事実です。もう1つは、現在、日本も含めた先進国ではゼロ金利になり、加えて米国ではバブル崩壊後のバランスシート調整、あるいは金融仲介機能が十分には働きにくいという状況にあります。その分、金融緩和が自国の中ではなくて他に波及していくことになります。波及していく先の中には為替レートもありますし、商品市況もあると思います。それだけに、先程申し上げた自国の経済・物価の安定を図ることの意味をより深く考えていく必要があるという環境に入って来ていると思います。』

『私自身は、そうした問題意識を強く持っており、国際会議等の場でもそれを度々発言しています。BIS等の国際会議等の場で、各国は──先進国、新興国もそうですが──、意見交換を行い、どのような影響が相互に及ぶのかを考え、その上で各国の中央銀行が最終的に自国の経済・物価の安定をしっかり図っていくことが大事だと思います。』

どう見てもバーナンキ先生への嫌味です本当にありがとうございました(^^)。

・・・・というのはさておき、まあこの辺りの論点は重要な気がするんですけどね。まあそう簡単にコケるような事ではないですけれども、米国の金融政策が明らかに「ポートフォリオリバランス狙い」を標榜している訳ですが、それって身も蓋も無い言い方をすれば「バブルの後始末を別のバブルで何とかする」という発想になり兼ねない訳でして、それを延々とやっていくと管理通貨制度の土台に行き着くリスクだってあるんじゃネーノ(という発想で金価格とか上昇してるんでしょ)という話になると個人的にはちょっとだけ気にしている所でして、米国様におかれましてもその辺の自制心が欲しいなあとか思ったりもするので、この論点に関しても共感する部分もあったりします。

ただまあこれがまたプレゼン的に難しい所でもあるのですが、日銀がこの手の話をすると、どうしても「緩和のやる気を感じない」「デフレ推奨みたいな話をしてる」という文脈で捉えられてそういう報道をされがちと言う点も留意すべきではないかと思いまして、まー難しい話ですわな、と思います。

更に最後の方の質疑でマクロ政策の国際協調に関する質問があって、それに対する白川総裁の答えがこんな感じ。

『また、マクロ経済政策の協調についてですが、協調のための協調ではなく、各国の当局者がお互いのフィードバックも意識しながら、自国の経済の安定にしっかり責任を持っていくという基本思想が大事だと思っています。そう申し上げた上で、この前のG20でも合意され、今、G20諸国が取り組んでいることとして、「相互評価(mutual assessment)の枠組み」があります。これは、誰かが個別国の政策に対して注文を付けるというアプローチではなく、お互いに持続可能な経済成長の実現という観点から評価をし合っていくという枠組みを、微妙なバランスをうまく保ちながら作っていこうということだと思います。そうした取り組みにもG20諸国が努力しているということを申し上げたいと思います。』

米国へのイヤミ成分が入っているような気がするのはきっと気のせいでしょう(^^)。


○副作用の言及を一々することはないのではという論点

これは良い質問。

『(問) お聞きしたことに対して、あまりお答え頂いていないようなので、もう一度シンプルにお聞きします。1つ目の疑問は、大胆な金融緩和に踏み切りながら、副作用のことを毎回強調されるのは、金融緩和の効果を減殺するのではないかということです。先程、リスクバランスが概ねバランスしているとおっしゃいました。これは、裏を返せば、しばらくは静観するということではないかと思いますが、特に海外からは、日本銀行の金融政策はまだまだ少ないのではないかと、また政治家、与党、野党含めてそのような声があります。その中で副作用を強調することは、緩和の効果を殺してしまうのではないかという疑問です。(2つ目は割愛)』

『(答) 最初の質問は、副作用について言及することが効果を減殺するのではないかという問いですが、先程明確に申し上げました通り、一方的に効果だけを言う、あるいは一方的に副作用だけを言うことは不誠実だと思っています。効果を減殺していることは、全くないと思っています。(2つ目は割愛)』

実はこの質疑、同じ質問の2度目だったのですが、最初の答えが微妙に質問の意図と違っていました。ただまあそこの中ではこんな話をしてました。

『どのような政策もそうですが、仮に、効果だけがあって一切副作用・コストがないという政策があれば、もちろんそのような政策が一番良いわけです。しかし、効果と副作用、効果とコストは常に表裏の関係にあると思います。こうした点について熟慮を重ねた上で必要な政策を行っていくことが中央銀行に求められる基本的な姿勢だと思います。一方的に効果だけ、あるいは副作用だけしか考慮しないのはフェアではありませんし、最終的に通貨の発行権限を有している中央銀行として、そうした態度は無責任だと思います。』

ということで、まあそれは全くの正論ではあり、白川総裁の誠実な部分ではあると思うのですが、馬鹿正直にも程があるとも言えるのではないかと存じますけどねえ。

やはりこれもまたプレゼンの問題になると思いますが、先般のようにヤケクソ気味にどどーんと追加緩和を打ち込みましたっていうのは「必要と判断したから」打った訳でございまして、その際にはやはりその政策の効果、メリット、狙いとする所をプレゼンすればよい話で、副作用がどうのこうのというのは別の講演とか、それこそ緩和政策の効果が出てきた辺りからのんびりお話をすれば良いのではないか、というのが質問者の質問の趣旨だとあたくし勝手に解釈したのですけれどもそうですよね???

で、そのプレゼン方法というか見せ方というかの点に関してはインチキ俊ちゃんを見習えとは言いませんけれども(白川さんには無理でしょうし)、やはりもうちょっと工夫すべき点があるのではないかと思うのですけれども、白川さんのこの調子だと当分改善し無さそうですわなあとトホホ感が漂うのであります。

という事で本日は虫干しネタでどうもすいません。5年の金利が何か昨日も上昇していましたねえという話はパスの方向で。

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2010/11/01

お題「何気に味わいのある総裁会見から少々^^」

決定会合の内容も微妙な味わいがありましたが、総裁会見も微妙な味が。
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010d.pdf

○会合前倒しに関して

最初の説明の所で次回通常会合前倒しに関してこのように説明をしていますわな。

『日本銀行としては、今後、速やかに買入れを実施する方針ですが、ETFおよびJ−REITについても、買入れを早期に開始できるよう基本要領の審議・決定等を行うため、次回会合の開催予定日を、11 月15 日および16 日から、11 月4 日および5 日に変更することとしました。もちろん、この会合では、通常の金融政策運営方針等に関する議論も行います。』

でもってそういう説明でスルーするわけにも行きませんので、「FOMCシフトでございますか」という質問が当然ながら出たのですが、それに対しての説明はまあ無難なものの言い方に。

『(答) 他国の金融政策について、私の立場でコメントするのはあまり適切ではないと思います。いずれにせよ、金融政策決定会合では、前回の決定会合以降、新たに判明する様々なデータ、様々な動きをもとに、将来の経済・物価情勢を点検するわけです。これは、今回のFOMCの動きに限らず、毎回の決定会合で行うことです。その上で、最も適切な政策を決定していくという考え方自体は変わっていません。繰り返しになりますが、今回日程を繰り上げたのは、もっぱら、ETF、J−REITの買入れを急ぎたいためです。』

ということで、まあスケジュール的に年内にETFとJ−REITの買入を開始したいというのはそらまあその通りだと思うのですし、まさかここでFOMCシフトと明言する訳にも行かないでしょう。まあ市場が勝手に勘違いするのはそれはそれで良いという事でしょうか。

・・・・・ただですな、同時に出た展望レポートの内容が強いですよねという話を金曜にしたと思うのですが、「景気が悪化した場合には資産買入を拡大しますか」という質問が出ていまして、それに対する答えがちと微妙。

『その中で資産の買入れについては、現在はまだ買入れ自体が始まっていない状況で、目下、実務的な準備を鋭意進めています。ただ、私どもとしてはこの方法が最善であると判断したものの、一方で効果と同時に副作用も指摘されています。効果と副作用を入念に点検した上で効果が勝ると判断し、かつ先行きの経済・物価の見通しが従来の想定に比べて大きく変わってきた場合には、もちろん増額することも有力な選択肢になると思っています。ただ、いずれにせよ、現在はまだそこに至る前の段階にあり、私どもとしてはこれを円滑に早くスタートさせたいという思いです。』

えーっとですな、つまりFOMCを受けて円高が進行した場合に資産買入を拡大という話をする場合は「先行きの経済・物価の見通しが従来の想定に比べて大きく変わった」という認識をするという意味でございましょうが、つまり1週間で見通しが大きく変更するという中々お洒落な事をしないと行けないように読めてしまうのですけれども大丈夫でしょうか????????

つーことで、追加緩和のハードル上げてどうするという感じでございますわな。何せ決定会合を前倒しした以上、FOMCの結果でそれこそドル安祭りになってドル円が79円だの78円だのになった日には、何らかの追加緩和(と世の中が受け取ってくれる施策)を実施しないと今度は自分で追加緩和措置実施の期待を上げた分だけ批判も増える訳でありまして、というか絞首刑モンになりゃあせんですかねえという所でもあります(まあ大規模介入でもしてくれるのなら追加緩和せんでもエエかも知れませんけれども)。

まあね、基本的には「FOMCではそんなに大波乱は無いでしょう」という事になるかとは思いますし、その場合ってFOMCシフトをしたように見える決定会合の日程変更によって「何かあったら追加緩和するんだからおめーら円高アタックしたら踏み上げさせたるでヘッヘー」というのを見せているのですから、無料で円高アタック抑制の効果があるという施策(施策と言えるのか知らんが)なのですから、そーゆー意味では極めて賢い策のようにも見えますわな。

しかしですな、ここで日銀様の芸術的な「間の悪さ」が炸裂した場合には、FOMCの結果が出た後にドル安だか円高だか知りませんが、アタッカー登場で「さてどうするどうする」とやってきまして、はてさてハードルを上げてしまった日銀ちゃんはどういう屁理屈(もはや屁理屈の世界になるでしょ)を繰り出してくるのかお楽しみという落涙を禁じ得ない展開を悪寒する今日この頃でございます。

まあ纏めますと今回の「決定会合シフト」なのですが、強めの展望レポートとか、先ほど引用した総裁発言などとセットになってしまいますと、特にFOMC後の為替市場が波乱にならなきゃ良い(もしかするとFOMCで長期金利がどどーんと下がるというFED的に美味しい展開になった方が日銀的にはヤバイような気が致します)のですが、なった場合の方が却って捌きが難しいという奥の深い話でもあろうかと言う事ですな、うんうん。


○書き方の順序とかを気にするあたくしが気にした部分(^^)

いやまあどうでも良いっちゃあどうでも良いのですけどね。

『こうした中心的な見通しに対する実体経済面での上振れ・下振れ要因としては、4 点を挙げました。第1 に先進国経済の動向、第2 に新興国・資源国経済の動向、第3 に企業や家計のマインドの動き、第4 に企業の中長期的な成長期待の動向です。』

ということですが、前回(4月)の展望レポートでは、この要因が「1.新興国・資源国経済の動向、2.先進国経済の動向、3.国際金融面での様々な動き、4.企業の中長期的な成長期待の動向」という風になっていまして、まあ国際金融面に関してはギリシャだの何だのという話が一旦落ち着いたので引っ込んだのは判りますし、その替わりに「マインドの動き」というのが入ったのでニュアンスとしては弱くなったですかなという所かと。

更に前回の場合はいきなり最初が上振れ要因の「新興国・資源国経済の動向」でしたけれども、さすがに今回はそれを2番目に下げて先鋒は下振れ要因になっておりますので、そーゆー意味でもリスク要因としての認識は下方にシフトしたなあと思うのでございますわな。

ところが、総裁の説明ではこういう話をしているのがまあ本音が出てるのか何だか存じませんがチャーミングでありまして・・・・

『次に、第2 の柱に基づきリスク要因を点検しますと、景気面では、新興国・資源国の経済の強まりなど、上振れ要因がある一方で、米国経済を中心とする不確実性の強い状況が続くもとで、景気の下振れリスクにも注意が必要です。』

上振れ要因が先に来るわ、下振れリスク「にも」注意が必要ですとか、実は総裁様はまだ日本の景気ってそんなにコケるリスクは小さいと思っているのでは無いかと勝手に憶測しているのは妄想にも程がありますかそうですか(^^)。

なお、展望レポートを見ると「結局のところ新興国・資源国が成長続けてくれないと世界経済の回復は厳しくて、従って日本もしんどいですねえ」という内容になっているというのは念の為申し添えますです。


○政策効果の織込みに関して

『前者の「包括緩和」の効果如何ということですが、先程、定性的なメカニズムを説明しました。多くの委員は、そうした定性的なメカニズムに基づいて、各委員なりに政策効果を織り込んでいると思います。私自身も、そうした作業を行っていますが、これを正確にいくらであるとは、なかなか申し上げ難いものです。ただ、メカニズムは、そうしたものを想定しているということです。』

結局のところこれって政策効果を織り込んでいるのか織り込んでいないのか良く判らんという話になると思うのですけれども、こういうのって決めの問題だと思いますので、ある程度統一した方が現実的じゃないかと思ったりもします。

『また、物価について申し上げますと、今回、時間軸を明確にしたわけです。この時間軸の政策だけで予想物価上昇についてアンカー機能が発揮できるわけではないですが、中長期的な物価安定の理解に基づく時間軸を明確化することによって、何がしか、従来よりはアンカー機能が高まっているという感じがいたします。』

それから、物価に関しても結構な幅があって、例えば昨年10月に出した2011年度の見通しって大勢見通しベースで実質GDPが+1.6〜+2.4に対してコアCPIが−0.7〜−0.4なのですが、今回って2012年度の実質GDPが+2.0〜+2.4に対してコアCPIが+0.2〜+0.8と幅が広くなっている次第で、実質GDP予想の推定潜在成長率からの乖離の関係なのかも知れませんけれども、こりゃまた随分と幅がでましたなあと思うのですが、この辺ってどうなんでしょうかね。

ま、緩和効果を織り込んでこうなりますよ!!!!!という威勢の良い話をするのもそれはそれで景気は気からという面もあるから良いのかも知れませんが、ちょっと今回の「政策効果の織込み」に関しては従来と違うのでどうなのよという気はする。


○リスクプレミアムの引き下げとは社債のスプレッドを潰すという事で

いやまあそうであるのは今般の措置を見れば明らかですが、総裁会見でも明言されたので、社債投資家涙目(瞬間は儲かるけれども、投資家的にはリターン減るから涙目なのよ)。

『まず、今回のCP・社債の買入れの際の基準を、前回、別の目的で買入れた際に比べますと、1ノッチ格付け基準を下げています。つまり、よりリスク性の高い資産を買入れるということです。金融政策の効果の波及メカニズムの中で、民間の経済主体が資金調達を行い、様々な投資活動や生産活動を行っていきます。その際のコストを概念的に言い表すと、国債の金利にリスクプレミアムが上乗せされているわけです。その上乗せ金利を日本銀行の買入れによって縮小することができれば、その分調達コストが下がってくるわけです。金利の上乗せ幅は、格付けが低い先ほど大きいわけですから、そうしたものほどリスクプレミアムの引下げ効果が潜在的に大きいということになります。』

市場機能論は何処へお出掛けになられてしまったのでしょうかという投資家涙目の発言。


○より長めの金利に働きかけるとはTIBORを下げろという事ですか

更に銀行も涙目の発言がでておりますた!!!!

『短期国債あるいは残存期間1〜2 年の国債というゾーンについては、金利水準自体が、以前からの強力な金融緩和の結果としてかなり低い水準になっていますから、そこから限界的な低下幅がそう大きなものではないという意味でのご質問だろうと思いますが、それでもまだ低下する余地はあるわけです。』

いやまあ0.5bpを「余地ある」と言われますとそれはまあ余地はありますけれども・・・・

『そのゾーンの金利が低下すると、民間企業に対して貸出す際の基準となる金利が下がってくるわけですから、最終的には、民間経済主体にも波及していくことになります。』

これは銀行涙目の展開。いやまあ市場機能とか適正な貸出スプレッドだとか銀行の基礎的収益力がどうのこうのとか言うような話は当面日銀様におかれましては行わない方が宜しいかと存じますなあという感じです。


○中国は通貨高政策か金融引き締めを実施しろという事のようです

段々日本の金融政策と違う話になってきましたが(^^)、チャーミングなので引用。

『一方、新興国の為替制度が伸縮性を欠いている場合には、単に貿易面で影響が出てくるだけではなく、そうした為替制度は、結局はその国の経済の持続的、安定的な発展を損なう危険があります。これは、かつて日本のニクソンショック以降の経験をみてもそうですが、経済の基本的なファンダメンタルズが変わってきている中で、無理な為替相場を維持した場合には、当該国のみならず、世界経済にも影響を与えていく。今、ますますそういう相互依存関係を意識しないといけなくなっているという一般的な認識を申し上げたのであり、特定の国を念頭に置いた話ではありません。』

どう見ても中国の話です本当にありがとうございました(^^)。


○物価水準ターゲットに壮大なダメ出しを(^^)

この辺は白川さんらしいなあと思います。「物価水準ターゲットに関してどう思いますか」という直球の質問に正面から打ち返します(^^)。

『確かに、物価上昇率が低くなりすぎた時に、将来、通常の目標物価上昇率より高い物価上昇率を一時的に許容することによって、経済の回復を手繰り寄せるという効果は、理屈の上では考えられると思います。』

『ただ、問題はインフレーションターゲティングであれ、物価水準ターゲットであれ、一般の国民の方々とうまくコミュニケーションしないといけないという点にあり、一般の国民の方々からみると、あるのは単に物価上昇率だけです。従って、今の物価上昇率が、恒常的に高い物価上昇率を容認したものなのか、あるいは、一時的に物価水準ターゲットを実現するために高いものにしたのか、区別がなかなかつき難いわけです。』

『これが物価水準ターゲットの最大の難点として挙げられています。その意味で、純粋に理論的な魅力があることは理解できますが、これを真剣に政策のオプションとして考えていこうという人は、そう多くはないと私は受けとめています。』

まあこれはコーン前FRB副議長やバーナンキ議長も指摘している部分でして、白川総裁もこの点では直球打ち返し攻撃しますなあという所でございました。

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2010/10/20

白川総裁講演(10日)
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010b.pdf
『金融政策再考── IMF・ECB・FRB共催ハイレベルコンファランスにおける講演の邦訳 ──』

西村副総裁講演(18日)
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010d.pdf
『マクロ・プルーデンス政策について―― アジアの視点を踏まえて ――(中国人民銀行・IMF共催ハイレベルセミナーにおける発言の邦訳)』

えーっとですな、まあ題名をみていやーな予感はしたのですが、まあ予感どおりのお話をしていまして、何と申しますかそのネタは確かに正論は正論なのかも知れませんけれども、何も今そういう話を日本の中央銀行の総裁及び副総裁の肩書きがある人が話をせんでもええじゃろと思うのでありまする。

足元で金利および為替系のマーケットちゃんの注目がFEDの一挙手一投足に向かっておりまして、まー正直日銀ノーケアー状態だと思われますので(^^)、この辺りの講演ネタが華麗にスルーされているように思われるのが救いっちゃあ救いなのですが・・・・・

ちなみにどっちの講演も本当は英語なのですが、手抜きのあたくしは日銀謹製の邦訳版をネタにするでござるの巻。

ではまず白川総裁講演から。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1010b.pdf(再掲)

○どう見ても白川節炸裂です本当に(ry

もうね、見出しの2番目の『2.事前か事後か(Lean or Clean)』ってところで大変にこうアレな内容を予感するのですが、もうその通りの展開になっているのが心温まるのでありまする。

『今回の危機とその後の経験は、私の友人であるBill White が指摘する「事前か事後か」(lean or clean)の議論に関し、より明確な方向性を与えてくれたと思っています。この問題は、「金融政策は、バブルの発生を未然に防ぐために流れに立ち向かう(lean against the wind)べきか、それとも単に、バブルが崩壊した後に後始末(clean up the mess after the bubble has burst)をすることで十分なのか」と言い換えることができます。』

で、その結論は読まなくても判ると思いますが・・・・・

『しかしながら、今回の景気悪化の深刻さや雇用の喪失、さらには最近における主要国の景気回復ペースの減速は、バブルの生成を許してしまうと非常に大きなコストがかかり、「事後的な対応」という戦略だけでは不十分であることを明らかにしています。金融面での不均衡の蓄積を防ぐための行動も必要となります。』

どう見ても白川節炸裂です本当にありがとうございました。

『それでは、バブルを防止するための「事前」の措置に話題を移しましょう。ここでの問題設定は、「低金利、あるいは長期にわたる緩和的な金融政策とバブルの発生は、どのように関係しているのか」ということです。』

更に白川節が続くのである。オソロシス・・・・


○更に白川節が続く(-_-メ)

さっきの最後のところの続き。

『このことは、低金利環境の下では、利回りを追求する(search for yield)傾向や、より積極的にリスクをとる姿勢につながっていきます。実際、今回の危機に向かっていく局面では、高格付け商品でありながら驚くほど高い名目利回りをもたらすサブプライム関連証券化商品への投資が拡大しました。投資家は、意識する、しないにかかわらず、大きな信用リスクと流動性リスクをとっていましたが、そうした行動は、潤沢な流動性を伴う低金利環境において増幅されていたといえます。このような環境下では認識しにくい「テール・リスク」が、投資家のポートフォリオや金融機関のバランスシートに蓄積されていったのです。』

いやまあそれはそうなんですが・・・・・

『こうした投資行動を強めたと考えられるもうひとつの要素が、低金利環境と緩和的な金融政策が継続するという「予想」です。これは、経済環境やインフレ予想、中央銀行の政策といった様々な要因に影響されます。』

いやーん。

『1990 年代以降、金融政策の透明性とアカウンタビリティを高める枠組みとして、インフレーション・ターゲティングが多くの国で採用されました。これは、将来のインフレ予想とともに現実のインフレ率を安定させることに貢献しました。しかし同時に、この枠組みの設計上の特質ゆえに、市場やエコノミストは、金融政策の将来の道筋を予測するに当たり、需給ギャップとインフレ率の動向ばかりを注目するようになりました。こうした見方は、物価が安定した環境の下では、先行きも非常に低い金利が続くという期待の高まりを通じて、利回りを追求する傾向を生じさせがちだったと思われます。』

いやまあ今般のサブプライム金融問題の現象面という意味では仰る事は全くその通りだと思うのですし、今回の講演はそういう問題に関する指摘をしているからというのは非常によーーーく判るのですけれども、何も足元の景気下振れ懸念対応で時間軸を強化(=低金利環境と緩和的な金融政策を継続させる)という決定をしている直後に、その決定をした中央銀行の総裁がそういう話をせんでもええじゃろと思うのですよね。

まあおさぼり中だったから良く判りませんけれども、日本の3連休中の中日に実施されたネタだし、そもそも足元で日銀に対する注目度が下がっている中だと思われるので、あんまりネタにならんで済んだと思われるのですけれども、この講演だって世が世なら変なヘッドライン打たれて早速批判ネタになってもおかしくないと思う次第でして、もうちょっとこうお立場というのを弁えて頂きたく存じますと思いますがどうでしょうか・・・・・


○事前的対応も可能という話をしているようですなあ

『バブルの発生を事前に回避するために金融政策は役割を果たすべきである、という見解に対しては、様々な議論があります。ここでは2つ紹介します。』

『第1に、バブルと関連する資産価格の変動を見抜くことは難しいという指摘があります。』

『しかし、これに対しては、資産価格の上昇自体は問題ではなく、むしろ不均衡の蓄積、すなわち資産価格の大幅な上昇や、これと連動した過剰なレバレッジや期間ミスマッチが問題であるという反論が可能です。個別の金融機関のミクロ情報を入手することが可能で、経済と金融環境の両面を効果的にモニターできる中央銀行は、そうした不均衡を発見するのに最も適した立場にあり、それだけに、どのような政策対応が採り得るのか検討していく必要があります。』

つまり資産価格の動向というよりは金融機関のミクロプルーデンスという話になるのですが、それって突き詰めると金融機関のsearch for yieldをどないかせんといかんという話になってくる話になりそうな悪寒が。

『第2に、過剰なレバレッジといった不均衡については、監督・規制的な手法を講じることにより、最も効果的に対処できるという指摘があります。この場合、ミクロ・プルーデンスの手法を用いることが求められます。』

『しかしながら、このことは、金融政策の活用を排除するものではありません。わが国の場合、かつて日本銀行が民間銀行に対する窓口指導を実施した際、そうした手法が単独で過剰な銀行貸出を効果的に削減できるのかどうかにつき、学界で議論が行われました。その時の結論は、非常に緩和的な金融環境の下で、金融機関が裁定機会を求めて活動するので、窓口指導の有効性は低下する、というものでした。勿論、一方で、金融政策だけで、こうした状況に対応できる訳でもありません。金融政策とミクロ・プルーデンス政策が相互補完的に実施されることによって、より効果的な対応が可能になると考えられます。』

なんつーかまあそれはそういう考え方もあると思いますが、何も追加緩和政策を実施した直後にそういうネタの話をせんでもええと思うんじゃがのう。別に日銀総裁が話せんでも他の人に話をさせれば・・・・


○事前的対応はやはり困難なのではないかという気がしますけど・・・・

次の章になると更に何と言うかの話が続くでござるの巻。

『たとえ我々が、中央銀行が事前的対応を講じるべきという点で合意したとしても、なお課題は残っています。』

・・・・合意するんですかそうですか(−−)

というツッコミは兎も角、次の所の説明は仰るとおりの話でして、中央銀行の独立性がどうのこうのという話で、マーケットの中の人たちと、そうじゃない人たちの中で特に日銀を批判している人たちとの間のイメージギャップの部分でもありますなあという点への話でして。

『第1に、中央銀行が事前的対応を効果的に行うためには、どのような条件を満たす必要があるか、という点です。中央銀行は、経済の中に持続不可能な不均衡が蓄積されていないかどうか、そして、人々が好景気を謳歌している最中に金融を引き締める必要があるかどうか(take away the punch bowl in the midst of the party)を判断する役割を担っています。』

まあ事前的対応をするならそうなるという話ですな。

『そうした判断は、中央銀行が独立して行う必要がありますが、形式的な独立性だけでは不十分です。幅広い社会的な合意が必要です。』

しらっと話をしているのですが、中々この辺りは微妙な論点だと思われる次第でありまして、結局のところ中央銀行の政策判断に独立性を付与されていると言っても、世間様が納得しない中でそれを強行するのが実際問題としては難しいという点に関連して、まあ日銀のケースで言えばマーケットの方から見ると「形式的には日銀って独立性強いように見えるけれども、実際問題としてそこらじゅうから圧力掛けられる中で政策判断しています(=つまり差し込まれて金融緩和とか)よねえ」っていう見方になる次第なのですが、まあその辺りの論点を含む指摘なのではないかと存じますです。

『すなわち、資産価格の上昇やレバレッジの拡大などを通じて金融面での不均衡が拡大すると、それが崩壊した時の社会的・経済的な損失は甚大なものとなること、そして、こうした動きを鎮静化するためには、予防的な政策対応が適切かつ必要であることが広く認識される必要があります。そうした幅広い合意なしには、中央銀行であれ、他の公的当局であれ、短期的には極めて不人気な、景気を抑制するための政策対応に踏み切ることは、非常に難しいと思われます。』

で、そのような合意形成ってたぶん無理で、合意形成できる頃にはどうしようも無いような状態になっていると思われるところが、この事前的対応の難しさを示しているのではないかと思われますが。


○これは・・・・・

『第2に、特に公的な政策に関する議論の中で、金融政策をどのような枠組みの下で運営していくのかという課題があります。』

とは何ぞやという話ですが。

『人々の考え方や行動は、政策をどのような言葉で表現するか次第で変わり得ます。この点は重要であり、過小評価すべきではありません。』

ほほう。

『「インフレーション・ターゲティング」という表現は、金融政策に関する人々の理解、ひいてはその有効性に対して、プラス・マイナス両面の効果がありました。』

!!!!!

『インフレーション・ターゲティングは、多くの国において、金融政策の透明性とアカウンタビリティを高め、金融政策における物価安定目標について、人々の理解を向上させる助けとなりました。しかしながら、バブルが生成された期間を振り返ると、当初の政策意図から離れ、インフレーション・ターゲティングに対する表面的かつ狭い理解が徐々に定着してしまったとの印象を持っています。』

どう見ても白川(ry

『恐らく余り認識されてはいませんが、そうした理解は、マクロ経済と金融環境の全体を踏まえて柔軟に運営されるべき金融政策を、制約し始めました。ひとたび、狭い理解が人々の意識に浸透すると、中央銀行が、その狭い領域の外に踏み出し、新たな状況──例えば、インフレ率自体は安定しているにもかかわらず、長い目でみた経済成長を阻害しかねない不均衡が蓄積している状況──に柔軟に対応していくことは、非常に難しいものとなります。』

どう見ても(ry

『それゆえ、日本銀行は、インフレーション・ターゲティングの長所を取り込みつつ、こうした隠れた問題を回避するための枠組みを導入しています。』

ということで以下中長期的な物価安定の理解に関する説明と第1の柱第2の柱に関する説明になるのですがそこは全部割愛。ついでに言えばもう一つ論点があるのですがそれも割愛しちゃいます。

・・・・・いやまあこれは過去に起きたことのレビューとしては正論だとは思うのですけれども、白川総裁様におかれましては『人々の考え方や行動は、政策をどのような言葉で表現するか次第で変わり得ます。この点は重要であり、過小評価すべきではありません。』と仰っているのであれば、追加緩和政策を実施するような時に「麿はやりとうなかったでおじゃるしこんなの効果はあんまり無いでおじゃる」というような話をするのは是非とも回避して頂きたく存じますし、先行きの政策オプションに関してでもわざわざ過去の話を引き合いに出して「これは効果が不透明」「この効果はあまり観測されませんでした」というようなダメ出し大会をするのも勘弁して頂きたいものだと切に願うものであります。

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2010/10/08

お題「総裁会見メモ追加」

今日はお休みの積りでしたがちょっとだけメモを。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010a.pdf

○資産買入は「買入額」ではなく「残高」になるとな

今回の「基金」は通常の国債買入のように「購入額が幾らです」という言い方ではないのはちょっと従来と違いますなあという感じです。

『(答) 基金による資産の買入れについては、買入れから1 年後を目途に残高が5 兆円程度となることを想定しています。5 兆円に達した後は、保有資産のうち満期が到来したものについて同種の資産を買い入れることにより残高を維持していくことになりますが、この点は、この基金をいつまで維持するのかという金融政策上の判断にかかってきます。』

『その判断に際しては、初めて行うオペレーションでもあるので、その効果と副作用を入念に点検した上で金融政策運営上の必要があると判断される場合にはこれを維持することになります。その場合には、先ほど申し上げたように、満期が到来したらその分について同種の債券を買っていくことになります。』

従来の国債買入に関しては(まあその額を一々MPCマターにするのがどうなのやらというのもありますがその話は置いといて)年額で幾ら購入をするのかという言い方で決めていましたが、今回は「残高ベース」での買いというのが微妙にお洒落というかBOE方式というか。

つまりですな、BOEの場合は今回のリリースのように、

http://www.bankofengland.co.uk/publications/news/2010/077.htm
News Release
Bank of England Maintains Bank Rate at 0.5% and the size of the Asset Purchase Programme at £200 Billion

てな感じで実際には追加購入をしなくても「額がこの通りですよ」という言い方で緩和のような話をしつつ(実際問題としては「残高を減らしますよ」とか言って売りを打ち込んだらそらあーたエライコッチャやがななので、普通に考えるとこの残高を減らすというのは償還による自然減以外では考えられない)見せるという効果があったりするような気がします。まあ見せ方の問題ですが。

つまりですな、今回の日銀の措置に関しても実は「期間が長くなるかもしれないね」という点に配慮しているような気もするんですよ。なぜならば、これ「年間5兆円」みたいな言い方をすると、来年になってもこの措置が解除できない時(まあ展望レポートでの物価見通しに強化された時間軸を加えるとどう見ても来年もこの基金は継続でしょう)には「おかわり」が必要になってしまいますかれども、残高ベースにしておけば期落ち分のロールをするだけでも「ほれほれ5兆円5兆円」と見せる事ができるので、その点ではBOE方式の方が見せ方としてオイチイということなのかもしれませんね。


○もうちょっとアピールすればよいのに・・・・

まあ「実質ゼロ金利」のワーディングに見事に引っ掛かっている質問者が「過去2回のゼロ金利政策との違いを教えてください」と質問してて、それに対する答えから。

『(答) 日本銀行は、これまでも実質ゼロ金利の金融政策を行っていることを度々申し上げてきましたが、今回の金利誘導目標の変更は、日本銀行が実質ゼロ金利政策を採用していることを、より明確にするものです。日本銀行が潤沢な資金供給を行っている結果、今でも無担保コールレート・オーバーナイト物が、誘導目標水準の0.1%を幾分下回ることが生じていますが、今後、資産買入等の基金を通じて、一層潤沢な資金供給を行うと、日によっては、これがより大きく下回る可能性が高まることも予想されます。資産買入等の基金を通じて、長めの市場金利の低下やリスク・プレミアムの縮小を図ろうという目的を達成するためには、そうしたオーバーナイト金利の一時的な振れを明示的に許容する方が効果的であると判断しました。』

まあここの部分は正直な説明で(^^)、今回の政策金利のバンド化はFED方式と同じで「市場金利がリザーブ拡大によって一時的に下ブレするのを容認する」とゆーことに留まっている訳で、つまりは翌日物金利などを無理無理0%に下げるという事をするわけではない、という話です。

『かねて申し上げている通り、オーバーナイト金利が低下しすぎると、金融機関や投資家の運用金利、ひいては利鞘の低下から、貸出や投資のインセンティブが低下し、信用仲介機能が低下します。その結果、日本銀行の金融緩和によるネットの効果は、かえってマイナスになる可能性があります。そうした金利低下の効果と副作用を勘案の上、日本銀行の当座預金の付利金利は、0.1%としており、今回もこの水準は変更していません。日本銀行としては、「0.1%の当座預金の付利金利と、0〜0.1%程度の金利誘導目標」の下で、金融緩和効果が最大限発揮されると考えています。』

だから副作用の話はしなくて良いのに、と思うのですけれども、どうせ話をするなら「FRBやBOEなども指摘していますが」とか入れてやれば良いのにと存じますけれども、白川さんは(この会見の中でそういう発言をしてますが)「金融緩和のフロントランナー」(謎というか何と言うか、一見凄いけれどもそれって「わが国の経済は世界に先駆けてうんこです」って言ってるだけのような気もするのが悲しいですけれども)ってな話をしてますから、他国がどうなんですよって言いたくないのかもしれませんな(^^)。


それから「包括緩和」っていう微妙な言葉に関してですけど。

『(答) まず、量的緩和関連のご質問については、多分そういったご質問が出るだろうと予測して、自分なりにこれをどう表現するのか考えました。一方で「量的緩和」という表現もありますし、FRBは「信用緩和」という表現もしていますが、私はあえてその両方を含めて「包括的な金融緩和政策」という言葉を使っています。縮めて言えば「包括緩和」になると思います。もう少し丁寧にご説明します。』

で、途中を割愛しまして、

『これは、先ほどの「信用緩和」、「量的緩和」との関係で整理しますと、まず、今回の包括緩和のもとでは、リスク性資産を含めた多様な金融資産を買入対象とすることで、信用プレミアムや流動性プレミアムの縮小を促すことを狙いとしており、この点では、信用緩和という側面を持っています。次に、量という面では、今後、資産買入等の基金を有効に活用して、潤沢な資金供給を行っていくことになります。同基金は総額35 兆円で、買入れの開始から1 年後を目途に、買入資産については残高が5 兆円程度となるように買入れを進めていきたいと思います。こうした意味では、量的な拡大を伴う措置であるということもできます。』

という話をしているのですが、それならもうちょっと「包括緩和」という微妙にこなれない言葉使うよりも「私たちは量的緩和と信用緩和の両方を同時に行うというより強力な緩和政策を実施することにしたんです凄いでしょう!!!」って説明すりゃいいのにと思ったのはあたくしだけでしょうか。


ということで、昨日時間の都合でかけなかった分の補足メモでした。来週は駄文更新をお休みさせていただきますです、はい。

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2010/10/07

○総裁会見に関して、リスク資産買入に関する部分だけとりあえず引用

寝坊したので(汗)あまりこれをやっている時間が無い、正直スマンカッタ。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1010a.pdf

とりあえず重要そうなところと勝手にあたくしが認定した部分を駆け足で引用します。まず重要なのは資産買入に関して「各種のリスクプレミアムの縮小を促す」という点についてだと思うのですが、この点についての質問が多かったのは中々結構でした。大体上記会見要旨の7ページ目以降にその質疑があります。

まず最初に「もう少し噛み砕いて教えてください」という質問がありまして、それに対する白川さんの説明から。

『(答) 金利を考えると、国債に代表されるリスク・フリー金利にリスク・プレミアムが乗って、民間の調達する金利が形成されます。ここでリスク・プレミアムというのは、国債金利に上乗せされている金利の幅を表現しています。ETFあるいはETFを構成する株式、REITの場合には、エクイティなので金利ではありませんが、利回りをリスク・フリー金利と比較するとリスク・プレミアムと表現できます。そういうものを総称して、リスク・プレミアムという言葉を使っています。』

つまりETFやREITの価格を上げましょうという事にしか読めませんな(^^)。

『今、リスク・フリーの金利は、相当低い金利になっています。特に短期の金利は非常に低いです。そうしたもとで、金融政策によって金融緩和効果を上げようとすると、論理的に残されている道は、従来より少し長めの方向かリスク・プレミアムに働きかけていくことになります。』

さいですな。で、何の資産を買うか検討した云々の部分を割愛しまして。

『それから、ETFやREITについてですが、もちろん日本銀行の買入れの金額自体はさほど大きな金額ではないので、これ自体が需給的に直ちに価格を引き上げるものではありません。従って、いわゆるPKOではありません。ただ、私どもとしては、日本銀行がこうした市場で買入れを行うことによって、さらに幅広い投資家の買いが増えていけば、価格の形成にプラスの影響が出て、実体経済にも方向としてプラスの影響が及んでいくと考えました。』

いやあ、普通にマーケットインパクトあると思うのですが・・・・・

で、その後11ページの質問では「異例の措置を実施すると言ってますが、それは今現在が異例の状態なんでしょうか」という中々いい感じの質問がありまして、それに対する答えが中々いい感じで踏み込んでいます。

『それから異例の措置については、もちろん政策だけが異例ということではなく、経済の状況が異例であるからこそ、政策も異例になっているということです。改めて「異例」の意味について申し上げれば、長めの金利の低下、あるいはリスク・プレミアムの縮小といった世界に入ってくることによって、中央銀行が買入れた資産が場合によっては損失を計上する可能性があるということです。』

キターーーーーーーーーーーーー(・∀・)ーーーーーーーーーーーーーー!!!

『また、中央銀行が有する通貨発行権限は、国民の皆さんから中央銀行がお預かりしている機能であり、その機能を使って政策を遂行した結果損失が発生する場合には、国庫への納付金が減るというかたちで国民にも影響します。しかしながら、金融政策によって緩和政策の効果を更に追求しようとすれば、そうした世界に入って行かざるを得ないということです。』

(;∀;)イイハナシダナー

『また、様々な金融資産を買うということは、個別の資源配分に関与する度合いが従来に比べて強くなります。私どもも出来るだけ恣意的にならないよう様々な工夫を行っていきますが、例えば個別のCPや社債を購入すると「個別性」の問題が出てきます。その意味では、純粋に金融政策の世界から財政政策的な要素を秘めた領域に入っていくことになります。』

(;∀;)イイハナシダナー

で、途中を割愛しまして日銀のバランスシートに関する部分まで話が進む(^^)。

『日本銀行のバランスシートの問題は、「日銀は自分の庭先を綺麗にしたいのだ」というかたちで語られてしまうことが多いのですが、そういう問題ではありません。民主主義社会における中央銀行の本質的なあり方ということを考えた上で、物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現のために、私どもにどのような貢献ができるのかを、これからも一生懸命考えていきたいと思っています。』

中央銀行の政策が財政の領域に踏み込む件に関しての問題点をややキレ気味(かどうか知らんが)に指摘していますな。

で、その次の人の質問が素晴らしいので質問も引用しましょう(^^)。

『(問) 今後の緩和の一つの方向性は、リスク・プレミアムの縮小にあるとご説明頂きましたが、そもそもリスク・プレミアムが適正価値よりも大きくなっていないと、縮小を促していくという目的が成り立たないと思うのですが、過度にリスク・プレミアムを縮小させてしまうと、かえって民間のリスクマネーの流れを阻害することも考えられると思います。その上で、CPや社債について金融危機の時には、市場が壊れて大きくリスク・プレミアムが高まった経緯があったと思いますが、今はかなり解消されているという判断があると思います。更にリスク・プレミアムを縮小していくことがどのような意味を持つのでしょうか。また、J−REITとETFについては、株価指数や不動産価格が適正価格よりも低いというメッセージにも論理的にはなるかと思いますが、その点について、どのように整理しているのですか。』

何と言う素晴らしい質問(^^)。

『(答) リスク・プレミアムの状況は、金融市場、資産によって異なっており、一律に同じような評価は出来ないと思います。ただ、今言われたように、リーマンショック後の金融市場は、例えばCP市場、社債市場がそうでしたが、そもそも市場で取引ができない、発行ができないという市場機能が大きく傷んでいる時期でした。リスク・プレミアムが拡大し、取引自体が細っていたわけです。そのような金融危機、あるいは日本銀行の言葉で言うと「急性症状」の時期は過ぎ去っています。したがって、日本銀行は昨年の秋以降、個別の金融市場に介入する措置を順次完了しました。その点、現在のリスク・プレミアムが全般として大き過ぎると判断される状況では必ずしもありません。金融政策として、今よりリスク・プレミアムの水準を下げていくという形で、金融緩和の効果を追求しようとするものです。』

・・・・どう見ても価格支持政策です本当にありがとうございました(^^)。

『金融政策については、いろいろな議論がありますが、金融政策でもっとやることがあるのではないかという意見も一方ではあります。その「やるべきことがある」という議論は、言い換えると、必ずしも異常なプレミアムになっていない市場も含めて、「全般に金利水準を下げていく」ということに翻訳されます。』

いやまあ金利水準もそうですが、ETFとREITを買うということは(・∀・)ニヤニヤ。

『一方で、このような政策をやり過ぎると、副作用があるのではないかということも意識しています。今回公表した「時間軸の明確化」の中でも、金融面での不均衡が蓄積するリスクについて点検して、そうした観点から問題がなければ、という条件を付けています。』

と、一応副作用の話。

『これをやれば直ちに金融政策の効果が出てくるというものがあれば、むしろそれを言っていただきたいという思いです。それがないからこそ、このように効果と副作用を見極めながら、金融緩和の効果を追求していこうと我々中央銀行の政策当局者は等しく悩んでいるのです。』

最後はヤケクソ気味になっているのが実にチャーミング。

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2010/10/05

○何故か会見からになりますが、27日の総裁会見から

大阪での大阪経済4団体共催懇談会後の会見から(講演の前に会見で勘弁)。

http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk1009d.pdf

・量的緩和に関する質問を華麗にスルーした件

これは酷い質疑応答。

『(問) 先日の宮尾委員の記者会見の中で、量的緩和の評価について、「金融政策の効果・副作用は、その時々の経済・物価の情勢によって変わってくるので、量的緩和政策に関する評価についても、かつての評価と現時点における評価は当然変わり得るものであると考えています」との説明がありましたが、総裁からみた量的緩和の評価を教えて頂きたいと思います。次に、8月30 日の追加緩和を行った時からみて、ここ1か月間の国内外、特に米国を中心とした景況感については、より下振れリスクは高まりつつあるとみているのか否かをお聞かせ下さい。』

いやね、質問は別に酷い訳ではなくて、極めて普通の質問なんですが・・・・

『(答) 1問目の宮尾委員の意見については、本人に聞いて頂くしかないわけで、私から申し上げるのは不適当だと思います。次に、この1か月間の景況感に関するご質問についてですが、(以下割愛)』

・・・・・・・(-_-メ)

さすがにこれはねえと思ったら後のほうで改めて質問があってですな。

『(問) 質問は3点あります。まず量的緩和についてですが、白川総裁ご自身の評価については、これまでと変わりがないのかという点についてお聞かせ下さい。すなわち、これまでの会見で何度もおっしゃっているように、金融システムの安定には効果があったものの、経済、物価を刺激する効果は限定的であったという見方に変わりがないかということです。(以下割愛)』

『(答) まず1点目について、前回、日本銀行が行った量的緩和政策、すなわち当座預金残高を目標として量を増やすという政策の効果について、私を含めた現在の政策委員会メンバーの評価は、これまで申し上げてきたとおりです。(以下割愛)』

・・・・・・・・まあ要するにゼロ回答ですね、わかります。


・一応こういうサービス回答もしてるんですけど・・・・

基本的に根が正直者だから上記のような大変に楽しい質疑応答になって、それがニュアンスとして伝わってしまうから折角日銀が緩和をしても(実際問題として固定金利オペだって使うタイミングによっては強力緩和ツールになりますわな、3か月オペ実施してから3か月TBのレートって殆ど0.12%割れで推移しているんですし)何かやってるように見えないという事なのでしょうな。

まあそんな中でも一応サービスっぽい発言もある訳で。

『(答) 何回か前の記者会見で申し上げましたが、私どもとしては、下振れリスクの方により注意が必要であると判断しています。下振れリスクというのがリスクというかたちで止まるのか、あるいは中心的な景気見通し自体を変えていくのかについては入念に点検していきたいと思っています。円高は企業マインドを通じて経済に対して悪影響を与えていくというご意見は先程の懇談会でも多く聞かれたところですが、円高の出発点であり、その大きな要因となっている世界経済が、今後どのように展開していくのかということも含めて、来週の金融政策決定会合でしっかり点検したいと思っています。』

『(答) 将来の為替介入という仮定の質問に対してはお答えできません。ただ、日本銀行の基本的な金融政策運営のスタンスは、為替市場の動きについては重大な関心を持ってみているということです。それから、日本銀行自身は、潤沢な資金供給を行っていくということも従来から申し上げている通りです。必要と判断される場合には、適時適切に対応するという日本銀行としての基本的なスタンスに変更はありません。』

ということで、この辺を見れば「為替市場での円高が不必要に進行するようであれば、円高抑制の為に金融政策対応を行います」と言っているように見えるのでありますけれども、何せ具体的な手段になるとさっきのような話になるのが白川総裁クオリティなので困ったもんです。いやね、別に「これをやった場合に効果があるのかどうか疑問です」みたいな話をしなきゃあ良いだけの話で、白川さんは無駄に自分の将来の政策オプションを縛っているだけのようにしか見えませんわな。


・無制限財政マネタイズへの縛りが担保できれば・・・・・

そんな中で「ふ〜ん」と思ったのはこの辺りの発言。

『(答) 銀行券ルールについての基本的な考え方は、これまでの東京での記者会見でも度々申し上げているので、そのこと自体を繰り返すことは差し控えたいと思います。昨日、金融学会での講演では、やや中長期的な中央銀行の政策運営のあり方ということで、国債の買入について申し上げました。只今は、銀行券ルールというかたちでのご質問でしたが、大切なことは中央銀行として現在から将来にわたってしっかりと金融調節ができることであり、それが中央銀行が通貨の安定を図っていく上で大事なことです。そのためにどのような運営の仕方がいいのか、ということが議論の全ての出発点であり根本です。適切な通貨の調節ができなくなった中央銀行を考えると、国民からみれば非常に不安なことになるわけですので、どのようなルールであれ、通貨の調節を適切にできるという信頼感を中央銀行として維持していくことが大事だと思っています。』

まあややこしい言い方をしてますが、要するに無制限財政マネタイゼーションは悪性インフレの元(たぶん悪性インフレというかかつてのアルゼンチン状態になるという話でしょうが)になりますので、それを担保できれば別に国債買入そのものを幾ら実施するかというのは、日本の現在の調節の枠組み上で考えた場合には(米国の場合は償還乗換えを長期国債で無限に実施するので買入はそのままモロに通貨膨張となり、基軸通貨特権があるとは言え本当に莫大な買入実施したらどうするんでしょうかねえニクソンショックにならんのですかねえというのはある)究極的には金融調節技術上の問題(長いオペを行うか短いオペを行うかのバランス問題)になるので、そこの折り合いをどう付けるのかという話になるという気がするのは、この辺の白川さんの発言を見て思うのでありました。

まあ景気見通し関連はスルーして政策インプリケーションの部分だけ軽く引用でした。


○9月16日の講演からちょっとだけ(本当はじっくり紹介したいのですが、汗)

で、昨日の続きを少々。

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009c.pdf
特殊性か類似性か?
―― 金融政策研究を巡る日本のバブル崩壊後の経験 ――

冒頭の部分から。

『以上がバブル崩壊後の日本経済や政策動向に関する簡単な要約ですが、日本の経験を金融政策研究に活用する際には、以下の事実に特に注意を喚起したいと思います。』

ということで、フォルスドーンの話は昨日引用しましたが、まあこの辺の話はポイントになる(真面目な意味で)んでしょうなあという感じがする訳で、そこを引用したく存じます。

『第 3 に、就業者一人当たりのGDP 成長率でみると、1980 年代に比べて大きく低下したとはいえ、2000 年代になっても、日本の成長率は米国と比較してあまり遜色はありません(図表7)。他方、GDP 成長率でみると、かなり見劣りがしています。GDP 成長率と就業者一人当たりのGDP 成長率の格差は言うまでもなく、日本における労働人口の減少を反映しています。いずれにせよ、バブル崩壊後の日本経済の分析に当たっては、生産性と人口動態によって規定される潜在成長率を考慮していくことが不可欠です。』

『第 5 に、日本の物価変動の内訳を米国と比較すると、財価格についてはあまり大きな違いはなく、違いは主としてサービス価格の下落でした(図表11)。サービス産業が労働集約的であることに鑑みると、これは、名目賃金が伸縮的に調整されたことを反映しています。』

ふむふむなるほど。

『第 6 に、デフレ・スパイラルは生じませんでした。すなわち、物価の下落が経済活動の低下をもたらし、これがさらに物価の下落をもたらすという現象は、これまでのところ生じていません。実際、日本経済は2002 年以降、物価が緩やかに下落する中で、回復の力強さは別として、拡大期間という点では戦後最長の景気拡大を経験しました(図表12)。』

という話ですが、これって要するにセントルイス連銀のブラード総裁が言う「デフレ均衡状態」って奴なのではないかという気がします。本当はその辺を突っ込んで考察して、デフレ均衡でも景気が拡大するという状況が社会厚生的に問題があるのか無いのかという点への考察があって然るべきじゃないかなあなんて思うのですけど(もしデフレ均衡でも経済が拡大して、その場合に社会厚生的に良い状態というのであれば、既にデフレ均衡を実演した日本の実例がありますよんって話になるのですが・・・・たぶんそうはならないでしょうけれども^^)どうなんでしょうか、とシロートのあたくしはふと思うのでございましたです。


で、この講演ですが、まあ一番良くシロートが読んでも論点が判りやすいのは『3.バブル崩壊後の経済情勢と政策対応に関する4 つの類似点』のところだと思うのですが、これがまた時間切れになってしまいました(汗)ので、そこはまあ読んでつかーせという所ですが。

『第 2 の類似点は、バブル崩壊後の経済活動水準の急激な収縮が、インターバンク資金市場が不安定化した時期に生じていることです。』

『中堅証券会社である三洋証券の破綻によって生じたインターバンク資金市場への悪影響の大きさを目の当たりにした結果、その直後に発生した、より規模の大きい山一證券の破綻の際には、日本銀行が同社に対し無制限に流動性供給を行うことをコミットし、秩序立った処理を可能としました。これによって、日本発のグローバル金融危機は回避されました。』

まあ実際は債券市場で非上場国債(当時の分類による)やら金融債、社債などのスプレッドが拡大したり、換金売りのような動きで中短期ゾーンの金利が上昇してみたりしましたし、結構市場のほうは混乱したのですが、まあその後の危機と比べればという所なんでしょうかねえ。

『第 3 の類似点は、バブル崩壊期において、教科書に書かれているような伝統的な金融政策の効果波及チャネルが作用しなかったことです。その典型はクレジットチャネルでした。』

『今回のグローバル金融危機の発生前までは、量的緩和がデフレ対策として提案されることが多かったように思います。しかしながら、先進国においては、中央銀行のバランスシートの著しい拡大によって、インフレが高まるという関係は観察されていません。この観察事実は、ゼロ金利とバランスシート調整圧力に直面する経済環境のもとでは、伝統的金融政策の効果がかなり制約されたものとなることを示しています。』

ということで、まあさっきの会見とセットにしますと、量的緩和に関しては本当に効果あるんかいなという話になるようなのですが、現在の日本の場合は欧米と違ってバランスシート圧力が相対的に軽微だから、量的緩和政策がデフレ対策に使えるのではないか、という逆ねじ食わされた場合に白川総裁はどういう反応をするのかなあ、なんて思いましたです。

などと書いているとマジで時間が無くなる(つまり読みながらああでもないこうでもないと考えるのに非常に便利な素材ということです、この講演は)のでこの辺でいきなり終了しちゃいますけれども、ああでもないこうでもないとか適宜ツッコミを入れながら読んでみると面白い(ただ単に棒読みしてると面白くないかも)のでお暇なときにお勧めですが、今日は決定会合ですかそうですか(^^)。

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2010/10/04

○時間が無いが虫干しネタ(後日に続きそう)

今更ですが。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/data/ko1009c.pdf
特殊性か類似性か?
―― 金融政策研究を巡る日本のバブル崩壊後の経験 ――

・・・・これなんですけれども、極めて良い話をしているのですが、最後のほうに余計なKYネタがあって台無しになっているというのはだいぶ前に書いたとおりです。で、まあ仰るとおりですなあという所が色々とあってイイハナシダナーと思うのですけれども、あたくしは性格が悪いのでツッコミどころのネタから今日は入りまして時間切れになる予定です。

本文2ページの最後から。

『第1に、「失われた10 年」という表現は経済がずっと停滞していたというイメージを与えますが、実際には、日本は1990 年代以降の低成長期においても、3 回の景気回復と3 回の景気後退を経験しています(図表5)。回復の動きが広がる都度、バブル崩壊後の停滞局面から抜け出し景気の本格回復が始まったのではないかという期待が高まりました。私は昨年春、先進国の景気に回復の兆しが初めてみえた際、「偽りの夜明け(false dawn)」という表現を使って楽観主義に陥る危険に対して注意を喚起しましたが、これはそうした日本の経験に基づくものでした。』


本文5ページから。

『第 1 の類似点は、バブルの崩壊後、景気が本格的に回復するまでには、かなり長い時間がかかるということです14。日本の場合、景気が本格的な回復軌道に乗り始めたのは2003 年頃からであり、バブル崩壊から10 年以上の長い時間を要しました。今回の米欧の場合、調整はまだ進行中であり、最終的な調整にどのくらいの期間を要するか、まだ結論がでていません。ただし、本格回復までに、まだかなり期間がかかることは確かでしょう。時間がかかる最大の理由は、バブル期に蓄積された様々な「過剰」が解消されるまでの間、バランスシート調整という言葉で表現される、経済活動への強い下押し圧力が働くためです。』


本文11ページから。

『第 4 に、バブル崩壊後の経済の回復に果たした外需増加の役割を考慮していく必要があることです(図表23)。先ほど申し述べたように、日本経済が本格的な回復軌道に復帰するためには、前述の「3 つの過剰」の解消が必要でした。さらに、これに加えて、世界的な信用バブルを背景とする世界経済の高成長と、日本の低金利持続による円安の進行に支えられ、2003 年以降、外需が増加したことの寄与も大きかったことを指摘できます。現在の情勢のもとでは、多くの国々がバブル崩壊の影響を受けていることから、先進諸国は、「外生的な」需要に依存しない形で、景気回復を本格化させていくことが求められています。その意味で、一国だけがバブル崩壊を経験した場合と、世界の多数の国がバブル崩壊を経験した場合とでは、回復のメカニズムが異なることを意識した分析が必要になると考えられます。』


・・・・えーっとですな、そうお考えなのになぜ今年の4月(というか3月短観以降)から白川さんそんなに景気に強気(会見などの発言が明らかに日銀の公式見解ベースよりも強い話になっていましたよね)になっていたんでしょうかと小一時間問い詰めたいですが、きっと白川さんに問い詰めたらあたくしのような頭の悪い者は瞬殺されるんでしょうな(つーかそれ以前に会話のステージに乗れませんが^^)。

いやね、こういう認識があるのに何でああ強気になっちゃったんですかなあと思うのでして、そもそもあの辺りの間の悪さが足元で金融政策論議がカオスになっているスタートだったような気がするんですよね。

ということで(どういうことだ)ちゃんとした話はまた明日にでも(汗)。

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