白川方明総裁(2011年度下期)


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白川方明(まさあき)総裁

白川さんの略歴(日銀Webより)

昭和24年9月27日生
昭和47年3月 東京大学経済学部卒業
昭和47年4月 東京大学経済学部入学
信用機構課長、企画課長を経て平成6年5月大分支店長
平成7年12月 ニューヨーク駐在参事
金融研究所参事、国際局参事を経て平成9年12月国際資本市場担当審議役
企画調査担当審議役を経て平成17年7月日本銀行理事に就任
平成18年7月退任、京都大学公共政策大学院教授に就任
(実質的な前職:日本銀行理事)

平成20年3月20日 日本銀行副総裁に就任
平成20年4月11日 日本銀行総裁に就任

詳しくはこちら→http://www.boj.or.jp/about/organization/policyboard/gv_shirakawa.htm/

例によって発言を半期ごとにファイル分けしています。

2011年上期
2010年下期
2010年上期
2009年下期
2009年上期
2008年下期
2008年上期

2011年下期のお題は以下の通りです。

2012/03/27「米国での道場破り講演は正論だがそれは日本向けにはどうかと思います」
2012/03/15「決定会合後の会見はヘッドラインほどの積極性でも無いような気が」
2012/02/20「2月17日の重要な講演:前向きの緩和スタンスを強調」
2012/02/16「追加緩和後の総裁会見より:今回は追加緩和に対するスタンスが違いますね!」
2012/02/01「決定会合後の総裁会見より:下振れリスクを警戒」
2012/01/12「英国LSEでの麿絶好調講演」
2011/12/26「総裁定例会見より/経済団体での講演は絶好調!」
2011/12/02「6中銀協調スワップ拡充決定後の記者会見より」
2011/11/30「名古屋での講演より」
2011/11/18「総裁定例会見は海外警戒でややトーンダウン」
2011/11/15「オランダ中銀のフォーラムでの「金融イノベーションの光と影」というスピーチは秀逸です」
2011/11/09「10月2回目の決定会合での会見ではロジカルハラスメント攻撃が出てました^^」
2011/10/12「総裁会見は長い割にはあまり変わったネタはなくて麿独演会っぽい」

2012/03/27

○麿節キタコレ

麿が講演をしておられるようで。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120326a1.pdf
セントラル・バンキング―― 危機前、危機の渦中、危機後 ――

というお題なのですが、今回何がキタコレと申しましても場所が『Federal Reserve Board と International Journal of Central Bankingによる共催コンファレンスでの講演の邦訳』とありますようにFEDに乗り込んで(大げさ^^)FEDビュー破れたりという講演をしている事でして(^^)、海外に行くと急に生き生きと麿節全開になるとゆーのも不思議っちゃあ不思議な方ではございます(^^)。

・麿の「頼もう!」ですかそうですか(違)

冒頭から飛ばしておられます。『1.はじめに』から。

『世界的な金融危機とそれに先立つバブルは、中央銀行に多くの課題を突き付けている。』

さいですな。

『日本銀行は、先進国の中で戦後において最初にこの問題に直面した中央銀行であった。』

まあ自慢にもならんがな。

『日本の経験は海外の政策当局者や学界でも知的な関心を呼び、日本銀行は非常に実験的なものも含め多くの政策提言を受けてきた。』

どう見ても「お前ら他人事だと思って実験台みたいな無茶提言しやがってふざけるな」と仰せのようです(^^)。

『しかし、ごく少数の例外を除くと、バブル崩壊後の日本の低成長は、大胆な政策を迅速に実行することに失敗した日本に固有のエピソードとして簡単に片付けられることが多かった。』

そして次がこれである。

『ご記憶の方も多いと思うが、FRB の多くのエコノミストの共著による“Preventing Deflation: Lessons from Japan’s Experience in the 1990s”と題する論文が、2002 年に公表されている。この論文は、金融政策の効果について、当時の私からみると、下記のように楽観的な見方を
提示していた(図表1)。』

『「我々の感覚では、金融緩和が資産価格の下支えや景気回復につながらなかったのは、下振れショックを十分にオフセットしなかったからであって、金融政策の波及メカニズムが棄損してしまったからではない。...1990年代前半の日本において、金融の脆弱性が、追加金融緩和の有効性を取り除いたわけではない。」』

FEDに乗り込んで麿節キターという感じで、麿が「頼もう!」と道場破りに出かけているような力強い姿を想像致します(ニヤニヤ)。


・麿のBISビューキタコレ

ちょっと進んで『2.危機前:金融的不均衡と金融政策』という所がこれまたキタコレである。

『最初に、金融危機前のフェーズを取り上げたい。ここで私が特に提起したいのは金融政策の役割についてである。』

ふむ。

『標準的な考え方に従えば、金融政策の変更を迫るトリガーは物価変動である。実際、どの中央銀行も先行きの物価上昇率を左右する要因として、需給ギャップや予想物価上昇率に多大な注意を払っていた。しかし、バブルの発生から金融危機に至る過程を振り返ってみた場合、事後的にみると、その後のマクロ経済を不安定化させることになった最も大きな不均衡は、物価上昇ではなく、金融的な不均衡――すなわち、資産価格の急激かつ大幅な上昇、信用やレバレッジ、期間ミスマッチの拡大――という形をとって現れていた。』

不均衡は必ず物価に出るという前提に基づく考え方を否定してまして、(ここでは露骨には言ってませんが)日銀はインフレターゲットだけやってりゃ良いんだよ裁量とかすんなヴォケというような見解も斬っていますな、うんうん。

『金融的不均衡は、最終的に金融機関や金融システムに大きなショックをもたらし、経済活動を急激かつ大幅に収縮させた。そうした急性期の症状は、危機発生後に採られた政府や中央銀行の積極的な政策措置で解消したが、バランスシートの修復に伴う低成長という、慢性症状は現在なお続いている。』

さいですな。

『明らかになったことは、バブル崩壊後に積極的な金融政策を実行しても経済活動の長期間にわたる低迷は回避できなかったということである。その意味で、政策の力点は、バブルの後始末ではなく、金融的不均衡への事前対応に置く必要がある。』

FEDビュー(と言われるもの)をFRBのコンファランスでケチョンケチョンにDisるとかこういうのを見ると麿って本当は相当に戦闘的な性格(まあそうじゃなきゃ日銀みたいな所で偉くなれないと思いますけど)なんですなあとか思いながら読んでいたのですがどうでしょうかねえ。

『金融的不均衡への事前対応という点では、「ティンバーゲンの原理」や「マンデルの割当て原則」に基づき、金融政策は物価安定に、規制・監督は金融的不均衡の是正に割り当てるべきという見方がある。しかし、そうした割り当て論が妥当するのは、物価の安定と金融システムの安定という政策目的が互いに独立な場合であろう。』

FEDは基本的にこの辺りの件については(あたくしがこれまで見た限りでは)主流になっているのは「ティンバーゲンの原理」を持ち出してくる方だと思う(だいたい地区連銀総裁やらFRBのボードメンバーの講演とかではそういう話をしているのがメジャー)ので、これまた道場破りモードになっておられるようでございますな。でその続き。

『一連の経験を経て明らかになったのは、二つの目的が独立ではないということである。物価が安定しマクロ経済環境が安定すると、経済主体のリスク認識は徐々に緩み、そのリスクテイク姿勢も変化していく。また、物価安定の下で低金利の持続予想が強まると、金融機関は「利回り追求」の行動を強め、レバレッジや、資産・負債の期間ミスマッチ、通貨のミスマッチを拡大させる(図表6)。こうした不均衡はある閾値を超えて拡大すると、金融システムを不安定化させ、ひいては実体経済や物価を不安定にすることになる。』


・金融不均衡への対応は意識を相当強くしないと難しいという話

更に続き。

『日本銀行を含め多くの中央銀行はこのような金融的不均衡に気付いていなかった訳ではなかった。中央銀行にとって厄介だったことは、不均衡が拡大する過程において、皮肉にも物価上昇率が上がらない、ないし低インフレが続いたという事実であった(図表7)。少なくとも、日本の場合は、高成長と低インフレが続く下で、後の時代の言葉で言う「ニューエコノミーの到来」という見方が利上げに対する強力な反対論として立ちはだかった。』

ふむふむ。

『低金利の持続は金融的不均衡を生みだす一つの要因であり、中央銀行が非対称的な金融政策の運営――すなわち、金融的不均衡が拡大しても物価が安定している限り政策対応しないが、バブル崩壊後には積極的に利下げを行うこと――に予めコミットすると、以下の経路を通じて、事態はより悪化する可能性がある。』

キター。

『第1の経路は、そうしたプット・オプション型の金融政策が金融機関の過度のリスクテイクを助長することである。第2の経路は、物価安定のみに焦点を当てた政策スタンスによって、マクロ経済環境が安定化すると、様々な経済主体の支出増加やリスクテイクを更に後押ししていくことである。』

『金融政策自身が高成長と低インフレをもたらしているにもかかわらず、見た目には、ニューエコノミーの到来と識別困難な状況になる。この点を十分意識せずに、中央銀行が緩和的な政策を継続すると、物価安定がみかけ上維持されたまま、民間部門の支出増加や金融的不均衡は増幅され、その分、バブル崩壊後のショックも大きくなる。「物価安定のパラドックス」とでも言うべき現象である。』

ということで第2の柱が重要という話ですかそうですか。

『もちろん、金融的不均衡は金融政策だけで起こる訳ではなく、発生のメカニズムは複雑である。この面では、規制・監督の果たすべき役割は大きい。また、その際、マクロプルーデンスの視点が重要なことについても異論はない。それでは、「割当て原則」に従って、金融的不均衡に対しては、規制・監督で対応すべきという議論については、どのように考えるべきだろうか。』

『私の答えは、適切な金融政策と規制・監督の両方ともが必要という単純なものである。低金利という水道の蛇口を開いたまま、ひたすらバケツから溢れ出る水を汲み続ける、すなわち、金融政策はそのままにして、マクロプルーデンス政策や規制だけで対応するというアプローチが有望であるとは思えない。』

どう見てもBISビューです本当にありがとうございました。


・金融政策の効果と限界とかその他

という辺りまでが今回の麿節の最大の見どころでございまして、まあ後は引用するのどうしようかなあという感じなのですが。

『3.危機の渦中:最後の貸し手の重要性』という所から少々。

『次に取り上げるのは、危機の渦中のフェーズである。このフェーズにおいて、中央銀行に求められる本質的な役割は「最後の貸し手」である。その重要性は歴史が証明しており、今回も、危機時における中央銀行の積極的な行動は経済活動の大きな落ち込みを防ぐ上で非常に効果があった。日本銀行の量的緩和政策、FRBの信用緩和政策、ECBの3年物LTRO、いずれもその有効性は本質的に「最後の貸し手」としての役割に根差している。「最後の貸し手」に関連して、ここで強調すべきは決済システム政策の重要性である(図表8)。』

ということで、決済システムというか決済機能の維持をしないと大変な事になりますよという話をしていまして、これはこれで確かにそうですなと思いつつ読むわけですが、この話って結局キリキリ詰めるとリーマンをいきなり法的整理に追い込んだ当局対応に対する嫌味にもなっているような希ガス。

『4.危機後:積極的な金融政策の効果と限界』から少々。

『最後に取り上げるのは、金融危機後のフェーズ、より具体的には、急性症状は終わったがバランスシート修復が続く慢性症状期の金融緩和政策の役割である(図表10)。金融緩和に当たっては、本来意図した便益と意図せざるコストに関する注意深い分析が不可欠である。バブル崩壊後の積極的な金融緩和政策はもちろん必要であるが、副作用や限界についても意識する必要がある。結論は国や時期によって異なり一義的な答えはないが、危機前の議論において十分な注意が払われていなかった側面として、以下の4点を指摘したい。』

キリッという感じですが、まあそう言ってる麿先生の所でどう見ても便益とコストの注意深い分析とかじゃなくてエイヤーで突っ込んだ追加金融緩和をしていたような気がしますがあれはいったいなんだったのでしょうか(ニヤニヤ)。

『第1は、バランスシート修復の重みである。』

ということで、バランスシート修正に時間が掛かる間に金融政策は時間稼ぎに過ぎないというような話で締めるのかと思えばさにあらず。

『金融緩和は、バランスシート修復に伴う痛みの緩和剤でしかない。しかも、この緩和剤は長く服用すれば、過剰債務の削減インセンティブを低下させ、最終的に必要なバランスシート修復の達成時期の遅れというコストを伴う側面もある。』

キタコレ。

『もちろん、低金利の効果はバランスシートの毀損していない経済主体にも及ぶ。そうした経済主体が現在の低金利を利用する形で、将来の需要を現在に繰り上げるならば、需要創出効果が期待できる。しかし、バランスシート調整が長期間にわたって続くと、低金利のもとでも、現在に繰り上げることのできる需要は次第に減ってくる。過剰債務の削減インセンティブの低下は、政府についても当てはまる。増加した政府債務の水準が持続可能でないとみられるようになると、欧州債務問題が示すように、物価安定と金融システム安定を脅かすことになる。』

まあ何だ、それはそれで正論だし海外向けの話という意味では仰る通りではございますが、日本向けの話じゃねえわなという感じがする訳でございまして、これをそのまま日本向けの話だという風にどうせ報道されてしまう訳で、そうなりますとまた無駄に変なコンフリクトが起きますなあ全くねえという風にも思うあたくしなのでございました(第2以下はめんどいので割愛)。


・最後の金融政策の課題も中々

『5.おわりに――今後の金融政策運営上の課題――』から少々。

『第1の課題は、金融政策運営の枠組みに関するものである。』

『この点については、先進国の中央銀行の間で、金融政策の枠組みの名称が異なっても、中長期の物価安定を目的として政策を遂行するということに関して、既にコンセンサスが得られている。また、物価上昇率の短期的な動向に過度に焦点を当てて政策を行うと、金融的不均衡の蓄積とその後の不可避な調整を通して、経済の振幅をより大きくしてしまう可能性があることも明らかになっている。』

『金融的不均衡に関する状況把握など、マクロプルーデンスの視点を金融政策運営に取り入れようと試みているのは、日本銀行だけではなかろう。しかし、今なお残る課題は、そうした望ましい政策の枠組みを、経済の安定と繁栄に不可欠な中央銀行の独立性の政治的基盤に組み入れていくことである。』

ほほう。

『特定の物価上昇率水準の達成について中央銀行に説明責任を負わせることは、比較的分かりやすいものである。この意味で、特定の物価上昇率水準に注目が集まることは、重要な経済政策の一部が専門家組織に委ねられることの代償といえる。これに対して、マクロプルーデンスの視点を金融政策運営に生かしていくという考え方は一般にはかなり分かりにくく――サイエンスというよりアートの側面が強く――、そうした政策運営のスタイルが民主主義社会においてどの程度受け入れられていくかが今後試されることになるだろう。』

まあそうです罠(第2の話は割愛)。

まあ日本の場合はそれ以前の問題で、一部では日銀法改正して日銀は執行機関で良いんだよ裁量的な政策なんていらねえんだよ的な議論をする人もいますけど、もしそういう風になったら政府、というよりは政治の方が金融政策の責任も取るというケツ持ちをすることになる、という当たり前の話に帰着すると思うのですが、そっちのケツ持ちをする気はサラサラ無くて、財政構造改革(ただ単に増税とかいうしょぼい話ではなくて、財政の長期的な維持可能性の確保という話だわさ)に着手すらできないというダメダメ連中の癖に日銀にあれだせこれだせと恫喝するのは一人前以上というのが跋扈するという状況であるというのが実にorzでありますな。いやまあ米国でもFRB廃止とかおつむのアレなのが大統領選挙指名レースに出てきたりするので似たような事なのかも知れませんがね。

#何故か最後はあたくしのどうでもよい悪態になってしまってどうもすいません

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2012/03/15

○ヘッドラインほどのイメージでは無い総裁会見テキスト

という小見出しにしてみましたが、こう書くと何か白川総裁の方がとばっちりという感じでして、情報ベンダーのヘッドラインの打ち方が片思いのおまわりさんこの人ですモードになっているのが要因であるのでして、そーゆー意味では情報ベンダーちゃんと報道しろやヴォケという感じではあるのですけどねえ。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1203b.pdf


・前回の追加緩和とパッケージとな

冒頭説明部分から。

『こうした基本認識のもとで、日本銀行は、先月、政策姿勢をより明確化するとともに、金融緩和を一段と強化しました。デフレ脱却に必要なもう1つの柱である成長力強化については、かねて日本銀行として取り組んでいる成長基盤強化を支援するための資金供給──長いので、以後「成長支援資金供給」と呼びますが――、この成長支援資金供給について、円貨および外貨の両面で拡充し、貸付額の総額を、これまでの3兆5,000億円から5兆5,000億円に2兆円増加させることを決定しました。先程申し上げた通り、前回の金融政策姿勢の明確化、金融緩和の一段の強化と、今回の成長力強化の支援は、パッケージとして打ち出しているものです。具体的な措置は、以下の4点です。』

前回とのパッケージにしては随分と決定会合に時間が掛かりましたなあとかいう悪態は置くとしまして(^^)、当然ながら質問が出る訳で。

『(問) 本日の決定内容の柱である、成長基盤強化の関連ですが、先月の金融緩和とパッケージであるとおっしゃった意味、また、その中の、小口、米ドルあるいは期間2年の延長という対応に込められた狙いを、ご説明下さい。』

例によって回答がやたら長いので一部だけ、特則の話については引用割愛します。

『(答) 先程も申し上げましたが、わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面しています。デフレという現象も、成長率が低下するもとで将来の成長期待をなかなか持てない、その結果、支出が本格的に増えないということの反映です。そういう意味では、デフレという問題は、成長力低下の裏返しの現象です。』

いつもの説明キター。

『私どもとしては、先程申し上げた通り、成長力強化の取組みと、金融面での下支え、この両方が相俟って、デフレから脱却していくと考えています。日本銀行として成長力強化という面で果たせる役割はそう大きなものではありませんが、日本銀行が持っている手段を使って、少しでも成長力の強化に貢献できる道を模索した結果、2年前に成長基盤強化を支援する資金供給を導入しました。この措置は、そもそも成長力強化が重要であるというメッセージ、これを送ることを通じて、世の中全体としての取組みを少しでも後押ししたいということ、それから、金融面でこの資金供給の持つ利点を活かす形で、金融機関の具体的な取組みを後押ししていくというものでした。』

メッセージとか言ってまあ一応サービスしているちゃあサービスしてますか、前から言ってるには言ってますけど。で、途中をスルーしまして。

『また2年の期間延長についてですが、こうした取組みを粘り強く進めて行くためには、もちろん永遠の課題、ずっと続く課題ではありますが、1年は少し短いということで、2年の期間延長を行いました。』

そういや2年延長してましたな。途中で出口モードになっても継続ということになるのかなあ???(今の所どうでも良いが)


・成長基盤強化に関連して

これは良い質問。

『(問) 2点お伺いします。成長基盤融資については、2010年6月から色々な批判等もあったかと思います。場合によっては、金利の引下げ競争につながるとか、中央銀行としての役割を逸脱しているという声もあったかと思います。そこで、今回、2年間の延長、さらに拡充を決められたこの施策の分析と総括――どういった効果があったのか――を教えて下さい。もう1点、米ドル特則ですが、わが国経済の成長に資する外貨建て投融資について、具体的にどういうものを想定されているのか。場合によっては、国内の雇用を脅かすような企業の海外進出といったものも外貨建て投融資につながるかと思うのですが、この辺のバランスを教えて下さい。』

これがまた答えがクソ長いのですけれどもかいつまんで。

『(答) まず、成長基盤強化について、一部の金融機関から、ご指摘のような懸念が示されていたことは事実です。もっとも、この措置に対する理解が浸透するにつれて、そうした懸念の声は以前ほど強くなくなってきていると認識しています。』

はあそうですか、まあ応札は続いているからそう言ってしまえばそうですけど。

『今回、小口特則を導入したわけですが、「小口」の世界は、金額当たりの手間やコストが相対的に大きいことを踏まえると、金利引下げ競争という形ではなく、個々の金融機関が独自の目利き力や特徴を発揮しやすい分野であると考えています。』

・・・・・・・・・・・?????????何か良くワカランチ会長なのですが、そもそも日本の金融機関って現状でファンディングに制約の無い状態というか預金超過で貸出先が無くて困っている中でもあるので、何かまあこの辺りの話ってどうも日銀の説明が腑に落ちないような感覚があるのですが。

で、効果について。

『それから、この効果をどう評価するかです。私どもが、この制度を始めた時から繰り返し申し上げていることは、これは「呼び水」であるということです。いつも強調していることですが、デフレから脱却するためには――これだけ金融が緩和されているわけですから――、この金融環境を最大限活かしていく、成長力を強化していくことが不可欠です。私どもとしては、日本経済が直面している最大の問題は、この成長力の強化であるというメッセージを送り続けているつもりです。』

ほほう。

『その際、日本銀行として、自分たちもできることは最大限やるという姿勢をみせない限り、これは単なる言葉で、力を持たないと思います。』

と、ここだけ切り取るとやる気満々発言にも見えますが・・・・・・

『そういう意味で、この制度を始めた2年前と現在を比べた場合、少しずつ成長力強化が重要であるという認識がやはり高まってきており、私はこれが最大の効果だと思っています。』

まあ何ですな、麿的にはそれなりにサービスフレーズを散りばめているとは思うのですけれども、この結論を意地悪く読むと「デフレ脱却のためには成長力強化が重要という我々の理屈がやっと広まってきました!!!」と言っているようにも見えるという代物でございまして(-_-メ)、まあ微妙な流れですなあ(ニヤニヤニヤ)。

『当初は、確かにご批判もありましたが、現実に、色々な金融機関の経営者の方から、「日本銀行がこういう施策を打ち出したことを契機に、改めてこの問題に取り組む態勢を作りました。その結果、色々な反応も出ています」という声も聞いています。』

ヒント:ヨイショ


でまあ米ドル特則の話については引用しようかと思いましたが、麿先生も発言の最後で仰っているように、何かまあフワフワした話なので引用しても何ですなあという感じです。

『今、抽象的に申し上げましたが、これをどういう形で実現していくのかについては、今後、十分に意見交換をし、具体案を詰めていきたいと考えています。』


・追加緩和の効果について

これまた良い質問。

『(問) 先月打ち出された包括緩和の延長の金融緩和強化について、改めて確認させて下さい。総裁としては、どういった経路で、先般の追加緩和がデフレ脱却に資するとお考えなのか、つまり、長めの金利を下げることに主に働きかけるということなのか、為替市場を通じてなのか、もしくは実質成長率やインフレ期待に働きかけることを主眼においているのか、そのあたりをもう少し詳しく教えて下さい。』

『(答) 先般の措置の中で、まず「中長期的な物価安定の目途」についてですが、これは、日本銀行という組織にとっての目指すべき物価安定の数字を明らかにしたものです。こうした数字が明らかになることによって、人々の将来の物価に対する予想がしっかり数字にアンカーされていくということを期待しています。それから資産の買入れについては、現在、国債やリスク性の資産を買い入れています。これはいずれも、買入れを行うことによって金利の低下を促していくものです。金利の低下の効果が、色々な形で経済全体に染み出していくということです。そういう意味では、基本は、今回のケースではあくまでも中短期金利を下げていく、そしてそのことが経済・金融全体に染み渡っていくことを期待している、ということです。』

つまり、目途についてはインフレ期待に働きかける、資産買入基金については中短期金利(中長期金利ではない事に注意)の引き下げに働きかける、ということですね判ります。


・複数ニュースベンダーのヘッドラインとちょっと違うイメージが

一昨日のブルームバーグニュースから引用。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-M0T71U1A1I4H01.html
白川総裁:足元の円安・株高、日銀の政策姿勢も一因に−会見 (2)

あたくしが聞いたりした限りではこのヘッドラインはブルームバーグの他にクイックも打っていたようでして、このヘッドラインだけを見ると「白川総裁が追加金融緩和によって円安株高が進んだという認識を示した」→「円安株高の為に金融緩和を更におかわりする姿勢を示した」とかいうような発想になったのかどうか知らんですが、まあ会見報道のトーンが麿積極的という感じでしたので報道ヘッドラインが出る中で円安モードアゲインという感じになったのですけどね。

該当部分の総裁発言を引用するとこうなります。

『(問) 前回会合で、事実上のインフレ目標を導入されましたが、現時点で、その政策決定をどのように評価しているか教えて下さい。また今回、成長基盤融資制度の拡充を決められましたが、物価上昇率1%の上昇に向けて、今後も様々な施策を次々と打っていかないといけないという認識なのか、それとも打てる施策はだいぶ打ち切ったという認識なのか、総裁のご認識を教えて下さい。』

『(答) 前回、日本銀行は「中長期的な物価安定の目途」を発表し、併せて金融緩和の強化を決定しました。その後の経済の動きについては、先程申し上げた通りですが、金融資本市場の動きをみると、国債利回りは中短期ゾーンを中心に低下しています。』

で、該当部分はこの次。

『こうしたもとで、為替相場は、国際金融資本市場における緊張緩和や、米国経済の改善を示す動きもあって、円安方向の動きとなっています。株価も、グローバルな投資家のリスク回避姿勢が弱まる流れの中で、上昇しています。私どもの政策姿勢も、こうした金融市場の動きを形成する1つの要因だったと思っていますが、基本的には先程申し上げたような大きな環境の変化、世界経済の色々な変化ということが、金融市場における価格形成に影響していると考えています。(以下別の論点につき引用割愛)』

どう見ても「追加緩和効果で円安株高」というようなニュアンスではございませんで、確かに発言の一部だけ切り取ると先ほどのブルームバーグ(やクイック)のヘッドラインのようになるのですが、前後の文脈を読むとそこまで「金融緩和したから円安株高になったぜヒャッハー」という感じではないですよね。


・・・・・・・ということで、発言の一部を切り取ってバイアス掛けた報道するのって何なのと思います。市場の人たちの皆が皆総裁会見発言要旨のテキストを最初から最後まで3回くらい読むようなマニア暇人な訳では無い訳で、特に為替とか株とか、あまり日常的に金融政策について細かく見ている訳では無いという人にとっては、やはり情報ベンダーの報道というのが印象に残って金融政策に関する中央銀行の発信として把握する訳でございますからして、てめえらの勝手なバイアス掛けて変な報道するんじゃねえよヴォケどもがお前ら日比谷焼打ち時代から体質が変わってねえのかアホウとか思うのでございます(まあブルームバーグニュースは日露戦争どころかベトナム戦争時代にも存在してない筈ですが^^)。

こーゆーベンダーの売らんかな体質がまた中銀と市場のミスコミュニケーションの原因を作りかねない、という点において、こういう「発言の一部を切り取ったヘッドライン」というのは大袈裟に言えば国益に反すると思うのですけどねえ。


なお、念のため申し添えますと、時事通信(時事メイン)はこの部分だけ切り取ったヘッドラインは打っていない(発言全体で報道)でして、共同通信とロイターは未確認というか無確認でございます(確認したら追記するかも^^)。



・見ててちょっとアレだなと思った件

ミスリードと言えば・・・・・・・ということで、質問の中で物価目途1%の数値に関する言及があったのが4本あるのですけどね(1本はさっきの質問)。

『(問) 2月の政策決定会合で「物価安定の目途」を導入した際、総裁は、これは日本銀行の政策姿勢を明確化したもので、これにより日本銀行の金融政策の考え方が変わるものではないと言われました。一方、3月の国会答弁では、デフレ脱却に向けて日本銀行は能動的に行動していくと話されています。マーケットでは、この発言を受けて、日本銀行は物価上昇率が1%になるまでどんどん金融緩和をしていくのではないかという期待感も高まっています。総裁として、金融政策に対する考え方を変えたのか、それとも従来通りなのか、その辺をもう少し明確にご説明下さい。』

折角だから応答も引用するだよ。

『(答) 日本銀行が、デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長を実現していくことが極めて重要な課題と考えていることは、再三申し上げている通りです。この点について考え方が変わったということはありません。一貫して、こうした課題が重要であると思っています。ただ、そうした日本銀行の姿勢が必ずしも明確に伝わっていないというご批判があったことも事実です。そうした部分について、私どもは最大限解消する努力をしたわけですが、私どものデフレ脱却に対する基本的な構えは一貫して真剣です。前回会合で「物価安定の目途」を発表した際、私どもの構えを具体的に示すものとして、基金の増額を行ったということです。』

今までも積極的でしたという話をしてますけどまあそれははあそうですか(棒読み)という感じですがそこは良いとしてその次の質問。

『(問) 2点質問します。1点目は、この1か月間で金融市場はかなり変動し、為替は円安になり、日本株は上昇しました。日本銀行は1%――英語ではゴールと呼んでいますが――に向かって金融政策をやるとのことですが、こうした外部環境の変化は、ゴールの方向に向けた変化とご認識されているか、お聞かせ下さい。』

・・・・・・・ということで、ちょうど質問が続いたのですが、どうもこの辺の記者の質問を見ていますと、既に中長期的な物価安定の目途に関する数値が「中長期的な数値」であることを失念して足元の物価上昇率1%目標みたいなイメージをして質問しているのではないかというイヤーな悪寒がするのですけれども・・・・・・・・・

なお、もう1つの質問はちゃんと把握しているような感じでした。質問だけ引用。

『(問) 2点お伺いします。1点目は、基本的なことですが、緩やかな回復経路に復していくと考えられるということですが、それでも物価上昇率1%がみえるまで、日本銀行として一段の緩和政策を採っていくという理解でよろしいでしょうか。』

まあこれは良い質問でしたが、回答の方はこんな感じで微妙にはぐらかされています。

『(答) 1点目の物価についてですが、私どもが金融政策を運営していく上では、先行きを展望して、物価安定のもとでの持続的な経済成長の経路に向かっていっているかどうかが、非常に大事なポイントだと思います。デフレの原因が、先程申し上げた日本経済の構造的な成長力の低下にあるわけですから、短期的にこの目的に到達するわけではありません。しかし、そうした方向に経済が向かっているかどうか、これが基本的な判断の大事な点だと思っています。いずれにせよ、望ましい物価の状況が実現するためには、関係者の様々な努力が必要だと思います。』

蒟蒻問答の香りが・・・・・・・



・この質問をしたのは誰だ!!!!(ガラッ)

どうでもいいがこの質問は何だ????

『(問) 2点質問します。(前半割愛)2点目は、米国の景気回復について情勢判断でご指摘になっていますが、米国ではシェールガスの開発が非常に活発化し、液化天然ガスの価格が大幅に下がるほどになっており、一部では、エネルギー革命の兆しではないかとの指摘もあるようです。総裁は、シェールガスの開発がアメリカの経済構造を変えるほどのインパクトがあるとみておられるのかどうか、見解をお聞かせ下さい。』

ちなみに答え(の該当部分)はこうです。

『2点目のシェールガスについては、シェールガスの開発を巡り、米国で色々な議論が高まっていることは十分認識しています。ただ、私はシェールガス問題の専門家ではありませんので、関心は大いに持ってはいますが、ご質問に十分説得的に答えるだけの材料を持ち合わせているわけではありません。』

何なんでしょこの質問者(割愛した1点目の方はまあ良いとして)。

#予想外に引用祭りになってしまったorz

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2012/02/20

お題「これは重要な講演です(2月17日白川総裁講演より)」

当日はあまりネタにはなっていなかったような感じですが、改めて読んでみたら重要な講演に見えるので本日はこちらのネタで。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120217a1.pdf
デフレ脱却へ向けた日本銀行の取り組み
── 日本記者クラブにおける講演 ──

○さきにまとめを

『本日は、まず前半では、今回の決定の狙いや考え方をご説明します。後半では、こうした政策の目的であるデフレからの脱却という政策課題に焦点を当て、デフレの原因や、デフレ克服のために必要な対応の考え方などを申し述べることとします。わが国を含め主要国の短期金利が実質的にゼロ金利になってからは、金融政策の運営手法が、伝統的な「金利の上げ下げ」から、様々な金融資産の買入れなど「非伝統的政策」といわれる領域に拡大しているため、話がどうしてもやや専門的、技術的になる部分があるかもしれませんが、この点はご容赦頂ければと存じます。』

こちらの講演なのですが、先日の追加金融緩和に関する説明が前半で後半は日本経済の課題がどうしたこうしたの話で、まあ後半の方はいつもの話なのですけれども、前半の追加金融緩和に関する話については金融政策決定会合後の総裁記者会見での説明をよりクリアにして日銀の今回の緩和に関するスタンスを示しています。

でですね、そのスタンスなのですが、決定会合翌日のレビューで「俊ちゃんスキーム」などというお題で駄文を書きましたが、声明文、会見を見るとまあそんな感じ(従来の「下振れ対応、リスク対応」ではなく「景気判断を引き上げながらの景気後押し」という積極的な緩和という事)ですなあとか思ったのですが、今回の講演ではその辺りの説明をより踏み込んで判りやすく行っているという印象です。

つーことで、まあ日本記者クラブ相手という事ですから後半の方も白川総裁的にはメッセージなのでしょうが、金融市場的には後半の話は散々聞いておりますし、特段テーマに変化がある訳でもございませんので、ほぼ前半部分をネタにするでござるの巻です。


○物価安定の目途に関する部分から:時間軸の強化とな

『まず初めに、「中長期的な物価安定の目途」からご説明します。これは、中長期的に持続可能な物価の安定と整合的と判断できる状態を物価上昇率の数字で示したものです。具体的には、「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途とする」こととしました。』

さいですな。

『日本銀行の行う金融政策運営の目的は、日本銀行法上、「通貨及び金融の調節の理念」として明確に定められています。それは「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」というものです。その際の「物価の安定」とは、後ほど詳しく説明しますが、中長期的に持続可能なものでなければなりません。』

ふむふむ。

『それでは、この「物価の安定」とはどのような状態を指すのでしょうか。概念的には、「家計や企業などが物価水準の変動に煩わされることなく、経済活動にかかる意思決定を行うことができる状況」ということができますが、金融政策運営に当たっては、これを数字で表現することが必要になります。各国の中央銀行は、名称は異なりますが、物価安定の数値表現を有しています。例えば、イングランド銀行は「目標(target)」、欧州中央銀行やスイス国民銀行は「定義(definition)」、米国FRBの場合は、これまで採用していた「物価の長期的な見通し(longer-run projection)」、あるいは先般新たに導入した「長期的な目標(longer-run goal)」が、物価安定の数値表現に該当します。』

で、その次が「じゃあ何で目途にしたのか」という話ね。

『日本銀行も、今から6年前の2006年3月に、「中長期的な物価安定の理解」という名称で、物価安定の数値表現を導入しました。その後、何回かの表現の変遷を経て、最近では「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、中心は1%程度」というものとなっていました。』

ですな。

『この「理解」という表現を選択したことには、明確な理由がありました。』

ほほう。

『当時は、2001年以降5年間続いた量的緩和政策を終了するという段階にあり、新しい局面における物価安定の考え方については、政策委員の見解にかなりばらつきがありました。それでも、政策委員会としておよその数値的イメージを伝える必要性は全員認識していました。この結果、物価が安定していると各委員が理解している物価上昇率を個別に提示してもらったうえで、それらを包含する範囲で数値表現を行い、これを「理解」と命名し公表するという方法をとることにしました。』

ふむふむ。

『しかし、各委員の見解の集合体という位置づけであったため、日本銀行としての判断がわかりにくいという声が、時が経過するにつれ、多くなってきました。また、「理解」という言葉の語感からは、物価安定の実現、現在の状況に照らしていえばデフレ脱却に向けての日本銀行の政策姿勢が読み取りにくい、といった意見も出ていました。』

上記引用部分から先が今回の変更ポイントです。

『今回、そうした様々な意見も踏まえ、新たに導入した「中長期的な物価安定の目途」について、これまでの「理解」との違いを整理しますと、』

キタコレ。

『第1に、今回の「目途」は「各政策委員の見解」ではなく、「日本銀行としての判断」であるということです。』

『第2に、物価安定の領域として「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラス」としたうえで、「当面は1%を目途とする」ことを明確にしました(図表2)。』

つまり「当面は1%を目途とする」は「日銀の機関決定である」ということです。

『第3に、後で詳しく申し上げますが、実質的なゼロ金利政策などの強力な金融緩和政策の継続期間に関する約束、いわゆる時間軸政策との結びつきを強めました。』

>時間軸政策との結びつきを強めました
>時間軸政策との結びつきを強めました
>時間軸政策との結びつきを強めました

・・・・・・・・!!!!で、この部分は後で出てきますが、今回の声明文とか決定会合後の定例会見よりも踏み込んだ言い方に見えます(いやまあ決定事項の話をしているのですから本当はそこら辺にも含まれているのですけれども、汗)が、それは後ほど。


○物価安定の目途に関する部分から:目途はもしかしたら通過点なのかと思わせる表現も

んでその続き。

『さて、ここまでご説明すると、なぜ「目標」あるいは「ターゲット」という表現を使わなかったのかというご疑問が生じるかもしれません。今回の「目途」は、中央銀行の使命と整合的な物価上昇率を数値的に示し、それを中長期的に目指していくという点では、「ターゲット」という表現を使っている国の中央銀行と、考え方そのものに大きな違いはありません。』

まあ最近のターゲットって中長期的に云々であって、金融政策の自動運転装置では無いですからね。

『しかし、わが国では、「インフレ目標」という言葉が、一定の物価上昇率と関係づけて機械的に金融政策を運営することと同義に使われることも未だ多いように思われます。』

まあこれはそうだというのはこの前晒しあげした中日新聞2月15日社説を見れば一目瞭然ですな。

『実際には、後ほど詳しく述べるように、インフレーション・ターゲティングの採用国を含め、金融政策運営は、そうした機械的な運営ではなく、中長期的にみた物価や経済の安定を重視して行われるようになっています。私どもとしては、そうした金融政策運営の実態にもっとも相応しい日本語の言葉は、「中長期的な物価安定の目途」であると判断しました。』

・・・・・とまあここまでは先日の総裁会見と一緒なのですが、この先の部分がこれまた踏み込んでいるというような感じですよ。

『また、日本の場合、これまで、長期間にわたって低い物価上昇率が続いてきている一方、将来は成長力強化への取り組みの成果が挙がっていけば、持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります2。』

>持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります
>持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります
>持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります
>持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります
>持続可能な物価上昇率が次第に高まっていく可能性もあります

・・・・・・・・・・!!!!!!!!!

で、その2というのは脚注なのですが。

『2 政府が今年1月に公表した「経済財政の中長期試算」においては、消費者物価上昇率の試算結果について、@内外の経済環境について慎重な前提を置いた場合は「1%近傍(2020年度までの平均1.1%)」、A堅調な内外経済環境の下で、「日本再生の基本戦略」において示された施策が着実に実施され、2020年度までの平均的な成長率が2%程度まで引き上げられる場合は「2%近傍(2020年度までの平均1.7%)」という計数が示されている。』

となりますと、この次の説明−この文言自体は金融政策決定会合で示された「この数値は1年ごとに見直します」という話を説明しているのですが−に関しても、ちょっと踏み込んだ説明をしている事からニュアンスが違って見えるものであります。

『こうした構造変化の可能性や国際的な経済環境などを巡り、先行きの不確実性が大きいことを踏まえますと、中長期的に目指すべき物価上昇率について、固定的なイメージの強い「目標」という表現を使わずに、「目途」と位置づけて、原則として1年ごとに見直していくことが適当と考えました。』


という風にありまして、つまり「今回、中長期的な物価安定の目途で示した1%の数値はまず実現に向けてあまりにも遠くならない物を示しましたが、将来的に日本経済が持続的な成長軌道に乗った場合には物価安定のこの数値を2%近傍に引き上げる事も検討課題となるでしょう」という事をこの部分では示唆しているという風に読めます罠。

勿論この辺りの話は単なるリップサービスなのかも知れませんけれども、「世界的に先進国の金融政策の手法が収斂していく」的な話をしている白川総裁なのでこの部分は結構マジで話しているのではないかと思うのですけれども。つーかですね、どこぞの俊ちゃんや逆さ絵のおじさんのようにハッタリを効かすのがとてもとても得意とは思えない麿先生がこういう事を言い出すとは却ってそのやる気っぷりに何か変なもんでも食ったのかとか思ってしまいますけれども、麿の方向性としては望ましい流れになっているような気がする。

ということで、まずこの部分では「物価上昇率を引き上げたい」という麿先生のマジ振りが示されているという所でして、何をどう開き直ったのか知りません(つーかまあ従来からデフレ脱却に熱心だったのでしょうけれども、少なくとも従来こういう言い方をして積極性をアピールしているとは言い難いものがあった)が、まあ頑張った発言をしているように見えます。


○時間軸政策の強化とな

『次に、2番目の措置として、先ほど少し触れた時間軸政策の強化についてご説明します。』

ふむふむ。

『時間軸政策と呼ばれる政策は、将来の金融政策運営方針を何らかの条件に結びつけて約束する手法です。短期金利がほぼゼロ%まで低下し、それ以上の引き下げ余地がなくなると、伝統的な短期金利操作に代わる方法を使って、長めの金利を含むイールドカーブ全体に働きかけることが必要になります。』

さいですな。

『一般に、長期金利は、市場参加者による将来の短期金利の予想にリスク・プレミアムを乗せて形成されると考えられます。したがって、中央銀行が金融緩和政策を長期間にわたって継続すると約束し、政策金利である短期金利の低い状態が長く続くという約束が市場参加者に信頼されれば、それによって、長期金利を引き下げる力が働くことになります。』

まあリスクプレミアムが上昇して長期金利が上がる事もあるけどな。

『日本銀行は、1999年以降のゼロ金利政策時代や2001年以降の量的緩和政策時代にも、時間軸政策を活用していました。最近では、先ほどご説明した「中長期的な物価安定の理解」に基づき、「物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく」という方針を明らかにしていました。この方針も長期金利の安定的な形成を図るうえで一定の役割を果たしてきましたが、今回、日本銀行のデフレ脱却に向けた政策姿勢をより明確にするという観点から、2つの点で見直しを図りました。』

まあ良く考えてみたら時間軸に対して各政策委員の見解の集合体に過ぎない「理解」というのに基づいているというのも変な話っちゃあ変な話でしたわな。

『第1に、時間軸の条件として、「中長期的な物価安定の目途」で示した当面の目途である1%という物価上昇率に明確に結びつけることとしました。』

>1%という物価上昇率に明確に結びつけることとしました
>1%という物価上昇率に明確に結びつけることとしました
>1%という物価上昇率に明確に結びつけることとしました

ほほう。

・・・・いやまあ前から結びついてはいましたが、従来は「中心は1%」というだけでしたので、別に1%じゃなくてもそれこそ安定的に0.5%でも「中長期的な物価安定の理解」の範囲内でございましたからねえ。

まあこの物価上昇率が「中長期的な物価上昇率」なのが論点的に微妙な面がありますけれども、何はともあれ「経済指標の一定の数値に紐付け」というのを明確に示したという事で、これはFRBのガイダンス文言よりも実は強い表現(そういや米国市場もさすがに気が付いたのか、ガイダンス文言出た直後に金利低下したFF先物とか2年国債とかの金利は足元で低下した分全部吐き出して上昇してますよね)となっているんですよね。

『第2に、具体的な政策運営指針については、実質的なゼロ金利の継続だけでなく、それ以外にも実際に行ってきた政策措置を踏まえて、より能動的な表現とすることが適当と判断しました。』

>より能動的な表現
>より能動的な表現
>より能動的な表現
>より能動的な表現
>より能動的な表現

「能動的」キタコレという所でして、これがハッタリ全開の俊ちゃんがいうのではなく、ハッタリの効かない(と思われている)麿大先生が仰せなのですからその気合の入り方が違うのではないかと期待される所ではございます。いやまあもしかしたら麿の精巧な着ぐるみの開発に成功して中に俊ちゃんを押し込んでいるとか、麿がこっそり修行して逆さ絵おじさんの生霊でも召喚しているとかだとただのハッタリなのかも知れませんが、そんな感じでもなさそうですのでね(^^)。


『この結果、新しい時間軸政策として、次のような方針を採用しました。すなわち、「当面、消費者物価の前年比上昇率1%を目指して、それが見通せるようになるまで、実質的なゼロ金利政策と金融資産の買入れ等の措置により、強力に金融緩和を推進していく」というものです。』

まあ第2の柱自体は残っているのですけれどもね。

『ただし、わが国のバブルの発生と崩壊や、近年の世界的なバブルや金融危機などの経験を踏まえ(前出図表2)、物価が安定している場合であっても、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないことを条件とすることとしました3。』

んでまあここの脚注3には・・・・・

『3 バブル期の日本の消費者物価上昇率(除く生鮮食品、消費税調整済み)をみると、1987年度は0.4%、1988 年度は0.6%、1989年度は1.6%であった。』

などとしらっと書いてあるのは従来の麿クオリティーの残っている所ではございますし(^^)、まあそもそも字面的にそんなに従来のと大きく変わったという訳でもなく、そもそも論で言えば金融政策の枠組み自体に大して変化はないのですが、同時に実施された追加緩和のスタンスとか、定例記者会見でのスタンスとかに変化があり、かつ今回のこの講演での説明、ということでして、字面云々ではなくその中のスタンスの変化というのが市場的には重要ですよね、という話ですわな。


○インフレターゲットとお呼びになりたければどうぞどうぞ

んでもってその次は結論の所がポイントなのでその途中はサラサラ流す。

『それでは、以上のような「中長期的な物価安定の目途」と「消費者物価上昇率に結びつけた強固な時間軸政策」の組み合わせは、いわゆるインフレーション・ターゲティングとの関係でどう位置づければよいでしょうか。』

『まず指摘したい点は、各国とも、日本のバブルや近年の世界的な金融危機の経験を含め、そこから得られる教訓をお互いに学び合いながら、金融政策運営の枠組みの改良に努めてきているということです。その結果、各国中央銀行の金融政策運営の枠組みは以下の3つの点でかなり収斂してきています。』

『第1に、自らの責務と整合的と考えられる物価上昇率を数値で示すことです。先ほど述べたように、イングランド銀行の「ターゲット」、欧州中央銀行やスイス国民銀行の「定義」、FRBの「ゴール」、日本銀行の「目途」など、言葉は異なりますが、いずれも同様です。』

『第2に、より重要な点として、今申し上げた物価安定の数値表現を政策運営において活用する際に、短期的な物価動向ではなく、中長期的にみた物価や経済・金融の安定を重視する度合いを強めてきていることです。』

まあそうですな。

『多くの場合、バブルは物価の安定を謳歌している時期に発生し、結局、バブル崩壊後には経済活動や物価の大きな変動をもたらします。また、原油価格の変動といったサプライ・ショックを短期的にコントロールしようとすると経済活動に大きな負荷がかかり、結局、長期的な物価安定が実現できません。これらの近年の経験は、すべて、持続可能な物価安定を中長期的な視野で達成することの重要性を裏打ちするものです。英国のように、金融政策の枠組みをインフレーション・ターゲティングと称している国であっても、実際の運営については、物価目標を短期間で無理に実現するのではなく、経済や金融の安定を図ることを意識して物価目標を中長期的に達成していく、という色彩が強まってきています。』

バブル云々の部分は毎度のアレですけど(^^)。

『第3に、それとの関連で、主要中央銀行が公表する経済・物価見通しは、従来よりも幾分長い期間を視野に入れたものになってきています。ただし、見通しは遠い将来になるほどその信頼性は低下しますので、見通しの数値そのものを過度に強調するのではなく、見通しの背後にあるメカニズムについての考え方やリスクの評価において、中長期的な観点をより重視するようになってきています。』

で、小見出し相当部分がこちら。

『このように、主要中央銀行の間で金融政策運営の枠組みが収斂してきていることを踏まえますと、それぞれがインフレーション・ターゲティングに当たるかどうかという分類学は、本質的な論点ではなくなってきています。実際、FRBが今回採用した「ゴール」についても、バーナンキ議長自身は、インフレーション・ターゲティングではないと言っている一方で、論者によっては、これをインフレーション・ターゲティングと呼んでいます。そのうえで申し述べれば、もし、今回のFRBの金融政策運営の枠組みをインフレーション・ターゲティングと呼ぶのであれば、日本銀行の方法もそれに近いと言えると思います。』

つーかFRBの枠組み自体が日銀の枠組みをベースにして作られたとしか思えん(政策金利の予想パスとかちょっと斬新というかやり過ぎな追加トッピングもありますけど)ですが、まあそういうことでインフレターゲットと呼びたければどうぞという話ですな。


○資産買入と低金利政策の継続に関してはそんなに凄く新しい話をしている訳でも無い

のでまあ引用は各小見出し部分の最後だけにしておきます。途中では「諸外国と比較しても日本の金融環境は緩和的」という話をしていますが、その辺は毎度の話なのでスルーという事で。

『国債買入れの10 兆円増額』の最後の所から。

『これほどの大規模の国債買入れですから、それに伴って一段と留意しなければならない点もあります。すなわち、中央銀行による国債の買入れが、金融政策運営上の必要性から離れて、財政ファイナンスを目的として行われていると受け止められると、かえって長期金利の上昇や金融市場の不安定化を招きかねないということです。日本銀行としてこれまでも繰り返し申し上げてきていることですが、財政ファイナンスを目的とした国債買入れは行いません。』

まあそうは言ってますがどう見てもここまで買入が来ると「期間限定、中短期国債限定」の財政ファイナンスって感じですけどね(ニヤニヤ)。

『緩和的な金融環境の確保』の最後の所から。

『さらに、今回の国債買入れの思い切った増額により、長めの金利を含むイールドカーブ全体ヘの影響を通じて、金融緩和効果は一段と強まるものと見込んでいます。』


○最後の部分ね

で、ワープしてまとめの部分ですが。

『振り返ってみると、消費者物価(除く生鮮食品)の下落率は、最近では、2009年半ばに、−2.4%と近年でもっとも大きな下落を記録しました。その後、緩やかではありますが景気が回復基調をたどり、需給ギャップが縮小する中で、物価の下落率も小さくなっており、ようやく、前年比でゼロ%近傍まで到達しました。その意味では、デフレ脱却に向けての歩みは進んでいるのですが、「中長期的な物価安定の目途」で示した当面の目途である1%を見通せるような状況までには、まだまだ距離があると言わざるをえません。』

>1%を見通せるような状況までには、まだまだ距離がある
>1%を見通せるような状況までには、まだまだ距離がある
>1%を見通せるような状況までには、まだまだ距離がある

『さらに、日本経済を取り巻く環境には様々な不確実性が存在します。欧州債務問題の今後の展開によっては国際金融資本市場の緊張を通じて日本に影響が及ぶ可能性は排除できません。国内要因をみても、電力需給や円高の影響に加え、復興関連需要の増加ペースなど、多くの不確実性が存在します。』

というのは今までと同じですが。

『しかし、同時に、このところ内外経済に明るい兆しが出始めていることも見逃せません。欧州債務問題を巡る国際金融資本市場の緊張は、昨年末頃に比べると幾分和らいでいます。米国経済では、バランスシート調整の重石はあるものの、このところ雇用情勢などに改善の動きがみられています。国内に目を転じても、公共事業と民間需要の両面で震災復興関連の需要が動き出していますし、昨年の震災後の支出抑制の反動もあって、このところ個人消費が底堅さをみせています。』

で、今回の追加緩和は「明るいものが出ている中での押し上げ介入だよ」というのをこちらの講演でも改めて示しています。

『今回の私どもの金融緩和強化策も、こうした前向きの動きを金融面から後押しするという狙いを込めて実施したものです。』

ということで、従来は「下支え」というニュアンスが強かった緩和強化が今回「後押し」になったのはまあスタンスの変化ですよね、というのはここもと申し上げた通りかと存じます。

#以上引用大会でありました(大汗)

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2012/02/16

○総裁会見もまあ色々とありますがポイント(と勝手にあたくしが思った部分)だけ少々

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1202b.pdf


・今回の追加緩和は従来とスタンスが違いますなという件

4ページから。

『(問) 今回資産買入れ等の基金を増額した背景について、もう少し詳しくお聞かせ下さい。』

『(答) 先程の説明と多少重複するかもしれませんが、足許のわが国の経済情勢は、海外経済の減速や円高の影響などから横ばい圏内の動きとなっています。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は概ねゼロ%です。先行きを展望した場合には、欧州債務問題の今後の展開やその帰趨、電力需給の動向や円高の影響など、引き続き不確実性が大きいわけです。ただ、前回会合以降の変化という意味では、これから申し上げるような前向きな動きもみられています。(途中割愛)本日の会合では、先程申し上げた、先行きの内外経済の不確実性がなお大きい中で、こうした最近みられている前向きの動きを金融面からさらに強力に支援し、日本経済の緩やかな回復経路への復帰をより確実なものにすることが必要であると判断しました。』

ということで声明文でもそんな感じでしたが、ここでも「明るい材料のある中で追加緩和を実施した」と言っていますな。


質疑応答の13ページの所からですがこれは良い質問。

『(問) これまで日本銀行は、景気見通しが下振れた時に追加緩和を実施することが多かったと思います。今回、「中長期的な物価安定の目途」により日本銀行の意思を明確化したということは、極端な例ですが、非常にファンダメンタルズが良くても物価が上がらないというような時でも、緩和する時には緩和する、という意味合いがあるのかご説明下さい。』

例によって麿の答えがクソ長いのですが。

『(答) 私どもの経済の見通しは、足許、横ばい圏内の動きですが、この先は、新興国・資源国の景気回復あるいは復興需要に支えられ、緩やかな回復経路に復していくというのが基本的な見通しです。この見通しは不確実性が大きいということはかねがね申し上げている通りです。そうした状況の中で、今、内外で少し明るい動きが出てきていることを考えると、この明るい動きを何とか確かなものにしていくことを考えることは、先程申し上げた標準シナリオの実現可能性を高めていくものだと思います。そうした考え方で、今回の措置を採りました。』

ということで、今回はやはり「押し上げ緩和」ですな、うんうん。

『過去の金融政策について振り返ってみた場合、今申し上げたような考え方の意味合いを込めながら金融緩和を行ったことも、何回かあったように思います。もちろん、一般的には景気が悪くなっていく時に金融緩和を強化するというのがオーソドックスですが、今申し上げたような形で、より確かなものにするという思想でやったことも無いわけではありません。』

つまり俊ちゃんスキーム発動と。

『それから、今回、「中長期的な物価安定の目途」を出すという形で私どもの姿勢を示す時に、言葉だけでも目的を達成できるのではないかという議論もありますが、言葉と併せて政策的な行動を採った方が、言葉にもより重みが出てきて、金融緩和の効果も高まってくると判断したわけです。』

まあだいぶこの辺は頑張ってサービス発言してるなあという感じで、つまりは物価がアガランチ会長となれば基金買入の期間を延長して買入を続けますというニュアンスを込めていますな、うんうん。



・台無し発言は無かったようで何より

まあ台無しのレベルは論者によって違うと思いますが、一般的に市場ががっくり来るような発言はございませんでしたなという話です。質疑の最後の方で17ページ以降。

『(問) 先程、政策委員会としての意思を示すという話がありました。安住財務相も「事実上のインフレ目標」というように発言していますが、これが達成できなかった時、中央銀行の信認が低下したり、政府の関与が強まったりという副作用については、どのようにお考えでしょうか。』

『(答) インフレーション・ターゲティングを採用している各国の運営をみても随分変わってきています。例えば、ニュージーランドは、目標インフレ率が達成されなかった場合の規定が入っていますが、多くの国では、物価上昇率が目標等から乖離した場合に、なぜそれが乖離しているのかを、しっかり国民に対して説明していくとともに、政策の決定過程を明らかにしていくことを通じて、責任を果たしていくというのが今の主流になっています。日本銀行もそうした努力をこれからもしっかり続けていきたいと思っています。』

『(問) 英語の表記では、物価安定の目途は「goal」としていますが、先程、各国の表現を「definition」とか「goal」とか、それに日銀は「目途」とおっしゃっていました。英語では「goal」となると、FRBと同じになると思うのですが、この「goal」の方が「目途」よりも若干言い方が強いような気がするのですが、その辺りはどのような考えで「goal」になったのでしょうか。』

『(答) 各国の言葉に、完全に対応している言葉がないわけです。私どもからすると、一番、私どもの思いに近い言葉は「目途」です。「目途」に対応する英語、100%それに対応する英語がない以上、それに一番近い言葉は何だろうかと考えた場合に、「goal」という言葉が近いと判断しました。もっと良い言葉があれば、その言葉をもちろん採用します。』

・・・・・まあ何ですな、要は「目標」というと、従来「インフレ目標導入しろ」と言っていた論者の皆様が良く言っておられた「金融政策を裁量で実施するのはケシカラン」的な話とか、「インフレターゲットによる金融政策はサーモスタット付けた空調みたいなもん」とか例えをしていた(最近さすがにそういう人は減ってるようですが)時のイメージがどうも残っていて、現在のフレキシブルターゲットのイメージがちゃんと伝わるかという懸念があった、というのはまあ判らんでも無いので、目標という言葉を避けるのはまあシャーナイかなという気はする。

ただまあこちらの質疑にあるように「まあインフレーションターゲットと言いたければどうぞ」的なニュアンスで話をするようになっているのは改善ちゃあ改善かなあとは思うのでございまして、今回そういう意味で市場が「あちゃー」となるような発言は特段無かったのは結構結構。

#まあこれでCPIが1%になったころになってこれまでデフレデフレ言ってた「インフレだケシカラン」とかメディアや政治家が言い出したらそいつら全員ラーゲリ送りな


・ということで目標という言葉に関してを見たらちょっと「おお!」という論点が

3ページ目にまあその話があるんですけどね。

『(問) 今回、物価安定の「目途」という言葉にされましたが、これは、これまでの「理解」と何が違うのか、また、金融政策はどう変わっていくのかについてお聞かせ下さい。また、「目標」という言葉を使わなかった理由についてもお聞かせ下さい。』

『(答) まず、「中長期的な物価安定の理解」と、今回の「目途」との違いですが、物価安定の理解については、各政策委員が、それぞれ中長期的にみて物価が安定していると理解している数字、これを政策委員会に提出し、その数字を集める形で範囲を示していました。その数字は2%以下のプラスで中心は1%程度でした。しかし、この数字は、個々の委員の数字を集めているもので、必ずしも、日本銀行という組織、日本銀行政策委員会としての意思、判断を表すものになっていないのではないかという批判がありました。これに対し、今回の「目途」という数字は、日本銀行政策委員会としての判断を示したものであり、そこが大きな違いです。』

・・・・・・・これは見落としていましたが重要な論点。つまりここはFRBのデュアルマンデートにおけるLonger Runにおける望ましい物価水準の置きと同じでして(ちなみに蛇足ながら申し上げると、失業率の中長期的な望ましい水準は従来通りSEPによって示されるFRB理事と各地区連銀総裁の集計によって示されるcentral tendencyの数値であって、FOMCとしての機関決定として示した意志ではありません)、今回は「機関決定した」というのがもう一つの重要な論点でしたな。

とまあ考えますと、やはりこれはFRBの方式と同じ(1%と2%という数字の置きの問題はひとまずスルーしてくらはい)という話になりますなあという所ではございます。うっかりしておりましたです、つーか無意識のうちに機関決定なのかどうかをスルーしてたわ(大汗)。


『それから、「目標」との違いについてのご質問ですが、金融政策の「目標」は、日本銀行法に則して言うと、物価の安定を通じて国民経済の発展に資することです。海外の中央銀行における金融政策の目的も、表現は多少違いますが、要すれば、物価の安定であり、持続的な経済の成長に貢献していくということです。物価安定と整合的な物価上昇率をどのような言葉で呼ぶかは、それぞれの中央銀行の置かれた状況によって異なると思います。FRBは、今回、「longer-run goal(長期的な目標)」という言葉を導入しました。ECBあるいはスイス国民銀行は「definition(定義)」という言葉を使っています。BOEは「ターゲット」という言葉を使っています。日本銀行は「目途」という言葉を使っています。』

ほうほうそれでそれで?

『わが国では、「インフレ目標」という言葉が、目標物価上昇率との関係で金融政策を機械的に運用することと同義に使われることが――もちろんそれだけではありませんが――多いように思います。しかし、実際の金融政策運営は、いわゆるインフレーション・ターゲティングを採用している国を含めて、物価の変動と目標との関係で機械的に金融政策を運営するのではなく、今は、中長期的にみた物価や経済の安定を重視した政策運営をするようになっています。日本銀行は、そうした金融政策の運営の仕方を表すのに最も相応しい言葉は何かを考え、「中長期的な物価安定の目途」という言葉を今回使いました。』

まあ何ですな、確かに天下の中日新聞様がインフレ目標について下記のように仰せでございますので、白川総裁が上記のように言うのもシャーナイナイと言う所ではないでしょうかねえww

http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2012012702000014.html
インフレ目標 日本も導入に決断を 2012年1月27日

『いまのように物価が継続的に下落するデフレ状況なら金融緩和を徹底し、逆に物価が目標値を上回って上昇するようなら迷わず引き締める。』(上記URLより)

いやいやいやいや、各国中銀(日本以外ね)それなら今頃引締め合戦ですよwwwwwなどと悪態ついていたら時間が無くなったorzorzorz


○一応メモ

総裁会見に関してはあとは「政治圧力」の話とかが中々こう味わいというか悲しみのある質疑応答で大変アレでございましたなというのがありまして、それからそれから金融経済月報なんですが、2月の基本的見解は1月とほとんど変わらずという素敵な状態になっていまして、決定会合声明文では今回細かい個別需要項目別の現状認識や先行き見通しに関する話がスルーされていましたが、やはりまあ予想通りで今回は「景気認識を下げない(どころか若干上げている)中での追加緩和」というこれまでとは違う追加緩和でしたなという事で、上記の総裁会見で示されたような事と整合性が取れますよねという話がございますが時間が無くなったので明日にでも(大汗)。

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2012/02/01

○先日の決定会合後の総裁会見は先行きの見方が慎重ですな

次にネタにする12月決定会合議事要旨もそうなのですが、まあ今回も景気の先行き見通しが慎重だなという感じです。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1201a.pdf

・欧州ソブリン問題が最大のリスク要因

まあそらそうだという感じですが、最初の質問が思いっきり「欧州経済のダウンサイドリスクの評価」でありますのでそこに対する答えから。

『欧州ソブリン問題について、最近の情勢をみると、ECBによる大量の資金供給や6か国の中銀によるドル資金供給オペにより、資金市場の緊張は幾分緩和する動きもみられていますが、全体としては不透明感が強い状況が続いています。』

ふむふむ。

『これには、市場の混乱を封じ込めるための資金基盤――最近はよくファイヤーウォール(防火壁)という言葉が使われていますが――の拡充について、具体的な成案が得られていないことが背景となっています。また、各国は財政健全化策を発表しており、ユーロ圏各国の財政規律を強化していく方向性も打ち出されていますが、その具体化にはなお時間を要することもあって、財政の持続可能性について、市場の懸念が払拭されていないことも影響しているとみられます。』

つまり問題は長続きすると。

『こうした欧州ソブリン問題は、既に欧州経済の下押し要因となっていますが、今後の展開次第では欧州経済のさらなる下振れ要因となることも考えられます。』

更なる下振れキタコレ。

『すなわち、各国が、さらなる緊縮財政に迫られ、家計・企業の支出スタンスの慎重化などを通じて景気を下振れさせるリスクがあります。欧州各国の国債を多く保有する欧州の金融機関では、資金調達面での不安などから、資産圧縮――いわゆるデレバレッジング――の動きが強まり、金融面からの下押し圧力が高まるリスクもあります。また、こうした欧州の金融機関のデレバレッジングの影響は、グローバルに波及する可能性もあります。現状、このデレバレッジングは、新興国経済への大きな下押し要因となっているわけではありませんが、特に欧州勢が高いシェアを持つ中東欧向けに加え、アジアなど他の地域向けでも、同じくプレゼンスの大きい貿易金融などの分野において、今後、デレバレッジングによるマイナス面が生じないかどうか、注意してみていく必要があると考えています。』

ということで財政緊縮による景気悪化リスク、金融機関のデレバレッジの影響、およびそのデレバレッジのアジア新興国への波及という話ですな。

『同時に、こうした下振れリスクは、わが国の景気の先行きを見通す上でも、最大のリスク要因となっていることは、かねて申し上げている通りです。わが国経済への波及ルートですが、まず、貿易面を通じた影響があります。わが国の輸出に占めるEU向けの割合は、1割程度とそれ自体としては大きくはありませんが、昨年秋頃からEU向け輸出は減少しています。こうした直接の波及に加えて、EUあるいはユーロ圏との結びつきが強い東アジアに対する日本の輸出も減少しています。』

ほうほう。

『また、為替や株価といった資産価格面を通じた影響もあります。最近では、ユーロが――ごく足許では若干違っていますが――売られやすい中で、為替が円高方向の動きとなっています。現在のように海外経済の先行きを巡る不確実性が大きい局面においては、円高が日本経済に対してマイナスの影響を及ぼす可能性に十分注意する必要があると考えています。』

円高のマイナス影響キタコレ。

『さらに、金融面を通じた影響にも注意が必要と考えられます。』

日本に??

『もっとも、先程申し上げた通り、わが国では、日本銀行が強力な金融緩和を推進していることや、金融機関のバランスシートの健全性が保たれていることなどを背景に、短期金融市場は極めて安定しています。国債金利に対する社債金利の上乗せ幅――いわゆる信用スプレッド――も低水準で推移しています。このように、国際金融資本市場の緊張度は引き続き高いものの、わが国の金融環境については緩和の動きが続いています。』

だったら別にその点指摘せんでも良いと思うのですが・・・・・という辺りに関しては次にネタにしますけど、FOMC後のバーナンキ議長の言いたい放題っぽい記者会見での福井俊彦状態のプレゼンと比較して、何かまあ白川総裁って慎重に話をしているように見えてどこかちょっとアレなんですよねえ。

『いずれにせよ、日本銀行としては、今後とも、今申し上げた点を踏まえながら、欧州の動向をしっかり把握しつつ、わが国経済への影響について注意深く点検していきたいと思っています。』

ということで、この引用部分妙に長いと思われますが、何せほぼ2ページ近く分の回答となっておりまして、まあこの部分での答えの長さというのが、白川総裁が強調したい所ですがな、とゆー所なのではないかと思います。


・欧州リスクが拡大したのかどうか

『(問) ヨーロッパの問題が最大のリスクであるということは、前回も今回もそうだと思いますが、そのリスクは、小さくなっていると感じられるか、大きくなっていると感じられるか、ご説明下さい。』

『(答) 金融市場の中で資金市場に限ってみると、前回の記者会見の時と比べて幾分緊張が緩和していることは、先程申し上げた通りです。ただ、そうした望ましい方向への変化が若干はありますが、欧州ソブリン問題の基本的な構図はまだ変わっておらず、不確実性は高い状態が続いていると思っています。昨日もそうでしたが、本日も欧州の財務大臣の会合がありますし、1月末にかけて他にも重要な会議があります。こうした会議も含めて、ユーロ圏において、しっかりとした取組みがなされていくことを強く期待しています。』

結局どっちなのかはスルーしていますが、要するに「不確実性は高い状態が続いている」という話ですから、そーゆー意味では欧州周縁国債券市場の値動きが昨年末の一番アレなリスクオフ状態からはマシになっているというのと比べてはやや警戒的ですよねという所でしょうかな。


・展望レポート中間評価

展望レポート中間評価に絡めて白川さんの見方として景気回復時期が後寄せになったかどうかという質問がありましてその答え。

『まず、最初の回復時期についてですが、私も、また政策委員会のどの委員もそうですが、回復の時期が多少後ずれしたとみています。発表文で書いている通り、今回の中間評価では、回復の時期について2012年度の前半と書いており、そういう意味では若干後ずれしたとみています。ただ、いずれにしても経済の見通しについては、欧州のソブリンリスク問題が典型ですが、不確実性が非常に高いということを意識しながら、注意してみていきたいと思います。』

まあそんな感じで景気の見方については慎重になっていますなあという事ですな。


・米国は偽りの夜明けか?

これは良い質問。

『(問) 米国経済について、本日の公表資料をみると、若干昨今の良い指標を反映した見方になっていると思いますが、先行きについても回復が持続すると期待できるものなのか、偽りの回復なのかも知れないがとりあえず期待しましょうということなのか、先行きについての見方を教えて下さい。(後半部分割愛)』

『(答) まず米国経済ですが、最近、良好な企業収益を背景に設備投資が増加を続けているほか、個人消費についても、自動車販売が増加し、クリスマス商戦が堅調に推移するなど、明るい面もみられています。さらに、雇用環境が緩やかながらも改善していることが後押しして、マインド面をみても、消費者コンフィデンスは昨年夏前の水準を回復するなど、一頃の悲観的な見方は後退しているようです。先行きについては、プラス材料として、緩和的な金融環境が、引き続き景気の回復を後押しすることを挙げることができます。さらに、雇用が緩やかながらも増加を続けていること、インフレ率が低下しつつあることも、所得面から経済を下支えするとみられます。』

ほうほう。

『一方、マイナス材料としては、住宅市場の低迷は続いており、家計のバランスシート調整にはなお時間を要する点が気がかりです。このような状況のもとで、家計の支出スタンスは慎重で、経済の成長ペースは緩やかなものにとどまる可能性があると思います。これまで繰り返し申し上げている通り、米国経済は、リーマンショック後の回復過程で、何回かの楽観と何回かの悲観を繰り返しています。日本のバブル崩壊以降と同じようなことを繰り返してきています。』

キタコレ。

『その背後にはやはり、バランスシート調整の重石が大きいと基本的には思っています。』

どう見ても偽りの夜明けです本当にカムサハムニダ。

『ただ、このところ米国の株価は大きな流れでみると確実に上昇してきており、その背後には企業収益の改善があるわけです。家計におけるバランスシート調整と、企業の相対的な好調をどのように理解するのかということが、大事な点だと思っています。(以下割愛)』

ということで、何か欧州の長々とした説明もそうなのですが、米国に関する話でもここまでああでもないこうでもないと話さなくても良さそうなもんなのですが、大体質問に対する答えが長い時って概ね白川総裁の持論がここぞとばかりドヤ顔(かどうかは知らんが)で展開されるケースというのが多かったりするように思えますので、そーゆー点からすると米国経済にしろ欧州経済にしろ、バランスシート調整にある経済の中で回復には時間が掛かるし、回復しても回復力は強くないでしょと言う話をしたいんでしょうなあというのは把握しました。


・ボルカールールに関して

まあこれはメモ。

『ボルカー・ルールは、米国で活動する銀行グループに対する、短期の自己勘定取引の禁止や、PE(プライベート・エクイティ)ファンド、ヘッジファンドへの投資の禁止、およびこれらに関する法令遵守体制の整備などを求めるものです。本年7月の施行に向けて、現在、米国において市中協議が行われており――この市中協議のコメントは世界中だれでも出せます――、日本銀行は金融庁と連名でコメントを提出したところです。』

『日本銀行として主に懸念している点は、第1に、米国債以外の国債市場の流動性が低下する懸念があることです。ボルカー・ルールでは、米国債などの主要米国債券は規制の対象外とされていますが、これは、まさに、米国当局が、これらの債券にかかるマーケット・メイキングや円滑な市場取引の確保が重要と認識していることが背景にあると思います。』

さいだすな。

『この点、米国債以外の国債取引においても、円滑な市場取引の確保、流動性の確保は重要ですが、日本国債や欧州国債などは規制の対象から除外されていません。わが国においては、国債の取引高の2割程度を米国系金融機関が占める状況であるだけに、このルールが厳格に適用されると、日本国債の市場流動性に相応の影響を及ぼす可能性があると考えています。』

つーか米国に子会社だったり営業拠点のある金融機関もボルカールール適用だったように読んだのですけれども、そうなったら2割程度どころの騒ぎではないような気も。

『第2に、このボルカー・ルールでは、短期の為替スワップ取引が規制の対象になっているため、こうした取引を通じたドル資金の供給が減少し、金融機関のドル資金繰りに影響が及ぶ可能性があります。』

さいですな。

『金融庁と連名で出したレターについてはホームページにも公表していますが、私自身も国際会議の場で問題提起することなどを通じて、米国当局等にこうした懸念を表明しているところです。』

まあ一応メモ代わりに引用しておきました。


・雉も鳴かずば撃たれまい

金融政策的にはインプリケーションとか言う話ではないのですが、今回の会見を見てて思うのは、ちょうどバーナンキ節全開の会見が同時期に出て鑑賞しているせいもありますが)、白川総裁の会見って微妙に自分から地雷を踏みに行っているような気がするのよね。

つまりですな、さっき引用した中であった冒頭の欧州ソブリン問題の波及に関する話でも、特段話をしなくても良さそうな日本の金融への影響というのを発言して否定するというのってどうなのよ(まあ「日本が安定している」と言いたいのでしょうけれども、それなら最初から「日本の金融市場の直接的な影響は軽微と予想され市場は安定しています」だけ話をすれば良いのであって、「注意が必要」とか(白川総裁的には第2の柱アプローチのつもりなのかも知れませんけれども)言わなくてもよさそうな気がしますし、発言の趣旨を踏まえないヘッドラインを打たれるリスクを高めるような気がするんですよね。


とか何とか書きましたが、今回見てて「あちゃー」と思ったのはそこではなくて、最初の決定会合結果説明部分にあります。

『以上の状況は、先般の支店長会議でも確認されたところです。地域によって差はありますが、欧州ソブリン問題の影響などが輸出や生産に及んでいるという声があった一方、個人消費を中心に景気の腰が意外にしっかりしているという見方も少なくありませんでした。この背景としては、震災以降、いったん抑制されていた消費需要がここにきて顕在化しているとか、円高のプラス面が、内需に対して薄く広く及んできている可能性があるとの指摘が聞かれたところです。』

>円高のプラス面が内需に対して薄く広く及んできている可能性
>円高のプラス面が内需に対して薄く広く及んできている可能性
>円高のプラス面が内需に対して薄く広く及んできている可能性

・・・・・・・うーむ、いやまあそういうのは当然ながらあると思うのですけれども、足元で円高の景気に与える悪影響について(さっきの所でもあるように)懸念しているという状況の下でわざわざ言わなくても良い話だと思うのですよね。案の定質疑応答でこういう質問が来るわけで。

『(問) 先程、支店長会議での声を引用される形で、円高差益が薄く広く及んでいる可能性があるという指摘が聞かれたとおっしゃいました。この点について白川総裁ご自身はどのようにお考えなのかをお聞かせ下さい。もうひとつ、ユーロ安・円高が日本経済にマイナスの影響を及ぼす可能性があるので十分注視するとおっしゃいましたが、足許のユーロ安・円高によるマイナスの影響と、支店長会議などで指摘された円高によるメリットのどちらが大きいかも含めてお考えをお聞かせ下さい。』

ってな質問が当然来るわけですし、そらまあ正確を期して全ての話をするという姿勢もそれはそれで大事ですし、本来ならそうであった方が良いとは理念的にはあたくしも賛同する所ではあるのですが、現実問題として考えた場合に、円高の日本経済へのマイナスの影響を懸念していますって話をする中で、わざわざ「円高のメリットがあります」という事を言い出すと、たとえそれが正確な話であっても(というか物事必ずメリットデメリットがありますし、それを一方的に見るのではなくバランスを評価するのが重要というのも判りますけれども)、記者会見のような場所でのプレゼンとして適切なのかどうか(特にバーナンキ記者会見と比較してみると記者のレベルの低さに泣きそうになる(いやまあ日本だって数名ちゃんとした人が居るのは把握していますが)というようなレベルでの場所ですし)という事をもうちょっと考慮に入れた方が良いのではないかと思うのですよね。

つまりですな、バーナンキ議長の記者会見とか見てて(明日以降またネタ出しの所存ですが)まあ何っちゅうか結構インチキ節炸裂してるなあとか思ったりもしますが、少なくとも市場の期待に対して恐らくはバーナンキ議長がこっちに行ってほしいと想定している方向に示唆を与えていて、そーゆー動きを市場にしているという意味では、先になった場合にこの前のFOMCの決定って禍根を残しまくりそうな論点があるものの、少なくとも今は成功している訳でして、まあ逆さ絵おじさんまたはどこぞの俊ちゃんみたいになれとは申しませんけれども、もうちょっとその辺何とかならんもんかなと思うのですよね。

だってさ、この質問とか(するのは当然ですし、ツッコムべき話だと思いますけれども)、明らかに冒頭での説明で藪蛇をかました結果飛んでいる質問な訳でして、んなもんは決定会合議事要旨あたり(つまり直後に記者会見とかないような時に^^)でしらっと言及しておく程度に留めておけば良いのよねえとか思うのですけどねえ。まあ支店長会議ですからさくらレポートの中でしらっと軽く言及しておけばよい(というか確か言及あったでしたっけ)話でしょう。

まあ白川総裁の事ですから、おそらくは単に全ての状況について丁寧に説明しようとした結果として円高のプラス面という所についても言及したという所で、そういう意味では白川総裁が丁寧かつ誠実に対応しているという事なのでしょうけれども、声明文や展望レポートなどで「円高の景気に対する悪影響」って話をする側からわざわざ円高のプラス面とか言われると、白川総裁って実は円高容認なんですかとか思われたり批判されてしまうリスクをわざわざ自分で地雷を盛大に踏みに行っているだけじゃねえのとか思うのですよね。

#まあ蛇足ですが、今回の会見でも「一般論として申し上げると」というのが2か所あったのですが、よほど思い入れでもあるなら仕方ないのかもしれませんが、その手の話も雉も鳴かずば撃たれまいの図になるリスクとなるような気がします


・・・・と、あたくしの悪態が長くなりましたが、一応答えを引用しますね。

『(答) 足許の消費あるいは内需といってもいいと思いますが、支店長会議では、意外に底堅い、という報告があったことを先程紹介しました。これをどのように解釈したらよいかということで色々議論をしているわけですが、なかなか明快な解釈があるわけではありません。先程、円高の影響について申し上げましたが、私は、消費あるいは内需の底堅さの仮説として、3つくらいの理由を想定しています。』

ふーん。

『1つ目は、震災後の広い意味での復旧・復興に伴う需要が顕在化してきているということです。公共投資だけではなく、消費あるいは設備投資の面でもこうした広い意味での復旧・復興関連での支出が増えてきている、これが1つ目の仮説です。』

『2つ目として、理屈の上では、先程申し上げた円高によるメリットが薄く広く拡がっているのではないかということが考えられます。しかし、これはなかなか定量的に証明することは難しいわけです。』

『3つ目は、高齢者層の拡大に伴う販売サイドの色々なビジネス戦略が功を奏して、これが売上げの増加につながっているということです。一応この3つくらいの仮説が考えられると思います。』

ほうほう。

『ユーロ安も含めて円高が経済に対してマイナスの影響を及ぼすのは、これまでも申し上げている通り、収益または企業マインド、あるいは国内から海外への過度な生産拠点の移転等を通じてであり、この点はかねてより意識しているわけです。円高については、時間の経過とともに影響の出方も違ってきますし、従って短期と長期でもその影響は異なってくるわけですが、日本銀行の判断としては、現在の局面では、円高によるマイナスの影響をより注意してみていく必要があると考えていることは従来と変わっていません。』

・・・・・・・・という結論で、別に円高メリットの話にそこまで思い入れがあるようでも無いのでしたらば最初にその話せんでも良かろうとやはり思うのですけれどもねえという気がしますけれどもにゃあ。

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2012/01/12

○総裁講演キタコレの巻

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120111a.pdf
デレバレッジと経済成長 
―先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」 を辿っていくのか?―
London School of Economics and Political Science(アジアリサーチセンター・STICERD共催)における白川総裁講演(1月10日)の邦訳

でまあ「長く曲がりくねった道」ってビートルズの曲の題名ですよねと思ったら英文の元講演はまさにこれですた。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2012/data/ko120111a.pdf
Deleveraging and Growth: Is the Developed World Following Japan's Long and Winding Road?

でですな、こちらの講演英文の方を読んだ方が雰囲気が出ています(元テキストが英文なので当たり前ですが・・・・・)のでまあ日本文読みつつ英文も読むとなかなかオモシロスなので両方読むのがマジお勧めです、などとドヤ顔で大口を叩くあたくしですが、ネタにするのは邦訳なのがドラめもんクオリティである(自爆)。


・二都物語とな

冒頭だけ英文をば。

『"It was the best of times, it was the worst of times..."

Thus begins A Tale of Two Cities, by Charles Dickens, the bicentennial of whose birth we will celebrate next month. While this famous opening sentence of the novel refers to the year 1775, it also strikes a chord with us in 2012. On the one hand, with all due respect to the frustration vented by the Occupy protesters, the people of today's developed nations enjoy a living standard far higher than the harsh realities of Dickensian England. One of the few luxuries available to young David Copperfield, the alter ego of Dickens, was to take a plunge in the cold spring water at the old Roman Bath just a few hundred yards from this hall. On the other hand, it is also true that people feel as if the economy is in the worst possible shape. Difficult issues in their own right, such as mounting government debts, aging of the population and challenges brought about by globalization, are exacerbated by stagnant growth.』

めんどいから邦訳は邦訳を読んでください(手抜き)という所ですが、ディケンズの二都物語というのを見てそういや俊ちゃんも以前二都物語をマクラにした講演してたなとか思って探したらありました(^^)。

http://www.boj.or.jp/en/announcements/press/koen_2005/ko0501a.htm/
A Tale of Two Cities in the Eyes of a Central Banker
Remarks by Toshihiko Fukui, Governor of the Bank of Japan, at Japan Society,
New York on Thursday, January 6, 2005

だからどうしたと言われましても困りますが(^^)。


・FEDビュー破れたり(とは言ってないが)

『2.日本の経験を巡る議論の変化』という所からいい感じで麿ペースである。

『ところで、たった今、「先進国は日本の経験を繰り返すのか」という問いを発したが、過去10数年間、様々な国際会議に出席し、政策当局者や学者の議論を聞いてきた者からすると、こうした問いが発せられること自体、驚きであり、大きな知的変化が生じていることを感じる。と言うのも、過去においては、日本の低成長は「大胆で迅速な政策対応を欠いた日本の社会や政策当局に固有の失敗」として軽く片付けられることが多かったからである。』

おまいら日本に勝手な事言ってたけど結局同じじゃねえかテラバロスwwwww

などと言うような品の無い発言は白川さんからは出てこないようですが要するにそういうことですね、判ります。で、場所が英国だからってミシュキンの当時の発言まで晒しあげとかとってもお洒落なんですから麿ったら。

『そうした状況は2006年春に米国で住宅価格が下落に転じた後も、しばらくは変わらなかった。以下に述べるのは2007年1月に行われた米国の政策当局者の発言である。』

『「90年代に日本を含む多くの国で見られた金融システム不安は住宅価格ではなく商業地価格の崩壊が不良債権問題をもたらしたことによる。…多くの人は日本の経験を読み違えている。問題はバブルの崩壊ではなくその後の政策対応である」』

脚注では『Mishkin, Frederic S., “The Role of House Prices in Formulating Monetary Policy,” Speech at the Forecasters Club of New York, January 17, 2007.を参照。』とあったりするのでした(^^)。

ただまあ麿の場合はミシュキンは謝罪すべきとかいう話をする訳では無くて(^^)、ではどうすべきか、そもそも背景はどうなっているのかというような話をするのであります。って政策当局の責任者なのですから当たり前っちゃあ当たり前ですけれども、(まだネタにしてませんが)ダドリー総裁の先日の住宅市場お助け提言講演を見ててナンジャソラと思ったあたくしと致しましてはもうちょっと雨人向けには文句言ってもいいんじゃないかとか思ったりもする(品が無いですかそうですか)。


『このような主張の背後にあるのは、バブル崩壊後の資産価格の下落や過剰債務の調整、すなわち、バランスシート調整の深刻さに対する過小評価であり、危機発生後の「積極的な政策」の効果に対する楽観論であった3。』

この3番に脚注があってオバマ大統領の発言まで引用とか英国人歓喜の展開ですな(違)。

『しかし、過去数年間の米国、ユーロ圏、英国で起きてきたことを1990年代以降の日本のバブル崩壊後の姿と比較すると、相違点よりも、類似点の方が圧倒的に多いというのが私の印象である。日本で過去起きたことは、日本特有の現象ではなかった。』


・バランスシート調整プロセスの類似点について

『第1の類似点は、経済のパフォーマンスである。例えば、日米について、バブルがピークを迎えた時期―日本は1990年、米国は2006年―以降の実質GDP の軌跡を比較すると、両者は似通っている(図表2)。比較の基準時点をバブルのピークではなく、金融危機の勃発時点としても結論は変わらない。この方法をとると、基準時点は、日本は1997年、米国は2008年となるが、実質GDPの軌跡は似通っている(図表3)。同様の比較をユーロ圏、英国と行っても、程度の差こそあれ、類似性が観察される(前掲図表2、3)。バブルに関連した他の指標についても興味深い類似性が幾つか観察される。例えば、バブル崩壊後の不動産価格の下落速度をみると、日本と米国は同程度である(図表4)。長期金利を比較しても、国や地域により若干の差異はあるが、全体としては似た動きを示している(図表5)。銀行貸出も同様である(図表6)。』

ふむふむ。

『第2の類似点は、政策当局者やエコノミストの当初の反応である。バブルの進行時でも、崩壊直後でも、最初は問題が存在すること自体が否定されるか、問題が過小評価されるかのいずれかである。』

キタコレ。

『日本でも不動産価格が下落に転じた後も、反転上昇が語られていたし、ある程度下落が常態化した後も、これが深刻な金融危機やマクロ経済の停滞に繋がる可能性は否定された。米国の住宅バブル崩壊、欧州の債務危機、いずれも最初の反応は、問題の過小評価であった。』

でね、講演とは話が逸れるのですが、この部分をヘッドラインにして白川総裁の講演を記事にしているアホウ新聞がいまして、しかもこの部分をどう読むとこういうヘッドラインになるのか全くもって理解致しかねると申しますか、この話の内容を見事に矮小化してますねえというのがあったので晒しあげ。

(URLがクソ長いので記載を割愛します。リンクはこちら

日銀総裁、欧州危機「初動の遅れで事態悪化」
英で講演
2012/1/11 8:46

いやまあ間違っている記事な訳では無いのですが、総裁講演は欧州危機問題に関しての見解を述べているというよりはもっとスケールの違う話をしているのでありまして、この記事のヘッドラインだけ読んだら総裁講演が欧州危機に関する講演と勘違いするだろと思うのですけどにゃあ。ま、記事内容まで子細に読むともう少しマシ(なので問題があるのは記事書いた記者じゃなくて東京のデスクだと思うのだが)ですけど、ニュースベンダーのヘッドラインの打ち方をもうちょっと考えて頂きたい物だと思うのでありました。

・・・・・まあどうでも良い話から元に戻しまして。

『事態がさらに悪化し、専門家の間では、公的部門による金融機関への支援の必要性が明らかとなった段階でも、国民の間では、問題の過小評価が尾を引いて、そうした施策の実行には抵抗が強いことも共通している。特に、金融機関への公的資金の投入は、日本も欧米も、極めて不人気であった。ユーロ圏におけるコア国から周縁国への金融支援も政治的に不人気である。』

これはまあ万国共通。


『第3の類似点は、中央銀行の採用する政策の類似性である(図表7)。先進国では、短期金利はゼロ近くに低下し、中央銀行のバランスシートは大幅に拡大した。日本銀行は1990年代後半以降、順次、ゼロ金利、ゼロ金利継続のコミットメント、量的緩和、金融機関保有株式を含むリスク資産の買い入れ等、様々な非伝統的政策を採用した。サブプライム・ローン問題発生後、FRBは革新的と称される様々な政策措置を採用したが、その多くは、日本銀行が採用した政策と本質的に類似している。』

ほう。

『この事実は、同じような状況に直面すると、中央銀行は同じように行動するという、ある意味では当然のことを物語っている。何がしか違いがあるとすれば、日本銀行は手探りで非伝統的政策を決定しなければならなかったという意味で、いささか孤独であったということかもしれない。』

政策を打ち込んだタイミングモナー。


『第4の類似点は、デレバレッジの過程にある経済、すなわち、バランスシート問題を抱えた経済では、金融政策の有効性が低下するという事実である。日本では、かつては低金利が中小企業向け貸出を増加させ、これによる中小企業の設備投資増加が景気回復を牽引したが、バブル崩壊後は、そうしたメカニズムは作動しなかった。米国では、現在、長期国債金利の低下にもかかわらず、住宅ローンの実効金利はそれほど低下していないが、これにはクレジット・スコアの低い債務者について、低金利ローンへの借換えが進んでいないことが影響している。』

ちなみにこの部分に関しても先日のダドリー講演で指摘されていました、というか最近のFRBの高官の講演で住宅問題の話が出ると(ネタにしなかったけど去年10月のデューク理事の住宅市場に関する講演なんかお勧め)過去のリセッション後に住宅関連の需要が経済の回復を牽引したという話を必ず持ち出してきて、住宅市場の回復の遅れが経済の回復をスローにするという話が出てくるのですよね。

『欧州でも、スペインに典型的に見られるように、不動産担保の劣化などからカバードボンドの金利が上昇し、銀行の貸出金利を押し上げている。』


・日本は金融危機を輸出しなかったキタコレ

『以上述べたことはいずれも欧米諸国と日本の経験に関する類似点であるが、もちろん、違いも存在する。』

ほほう。

『第1の相違点は、日本は世界の金融危機の震源地となることはなかったという事実である。その最大の理由は、日本の政策当局が無秩序な金融機関の破綻を許容しなかったからである。』

これ極めて重要な論点。

『この点で日本にとって最も大きな試練の時は1997年であった。この年、国際的に―とりわけ欧州の資本市場で―一定の存在感のあった山一證券という資産規模3.7 兆円(当時のレートで約190億ポンド)の証券会社が破綻したが、リーマン破綻の時と同様、日本でも証券会社の秩序立った破綻処理を可能にする法律は存在していなかった。その中で採られたのが日本銀行による同社に対する無制限の流動性供給であった。』

『これにより、海外を含め他の市場参加者の同社に対するエクスポージャーはすべて日本銀行に対するエクスポージャーに置き換えられることになった。この結果、秩序立った破綻処理が可能になり、システミック・リスクの顕在化は防がれた。』

で、最も重要な論点はこの後。

『これは同社が資産超過なのか債務超過なのか分からない状況の下での決定であり、日本銀行にとって実に重たい決断であった。同社は債務超過であったことが数年後に判明し、また、日本銀行は最終的に若干の損失を被ったが、それでもシステミック・リスクの顕在化を防止したというメリットの方がはるかに大きかった。』

所謂「バジョット・ルール」からすると当時の政策当局者の判断は逸脱しているともいえるのですけれども、この認識通りであったかと存じます次第。

『これにより、リーマン破綻後とは異なり、自国の金融の混乱が世界の他の地域に悪影響を与えることはなかったし、国内的にみても、急激かつ大幅な経済活動の落ち込みも経験しなかった(図表8)。』

で、第2の相違点は割愛。


・失われた20年を前半と後半に分ける

『3.日本経済の低成長に関する事実』の所ではこんな話がありましたので引用。

『以上申し上げた3つのタイムスパンの中で、本日の私の講演の主たるテーマは、中期的なタイムスパンでの経済動向である。私はこれまで便宜的に「失われた20年間」という表現を使ってきたが、前半と後半とでは低成長の原因がかなり異なっており、両者を一括して論じるのは、ややミスリーディングである。1990年代の低成長の主因は、未曾有のバブル崩壊に伴うデレバレッジであった。これに対し、2000年代以降の低成長の主因は世界の経済史に例を見ないような急速な高齢化や人口減少である。』

ほほうという感じでして、この中の説明に関しては引用すると更に長くなるので割愛しますけれども、なるほどという感じであります。


・調整の長さを決めるもの

『4.先進国は日本と同様の事態を経験するか?』の所から。

『それでは、先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」を辿っていくのだろうか。もちろん、これはイエスかノーで答えられる問いではない。採用される政策は、経済的要因だけでなく、社会や政治の反応にも依存する。どの国でも社会や政治には固有の複雑さがあるが、そうした要因に関する私の知識は限られている。したがって、以下では直接的な答えを述べる代わりに、調整に要する期間の長さを左右する要因を3つ挙げることにしたい。』

『第1の要因は、危機の前に積み上がった過剰債務の大きさである。過剰債務に関する大雑把な推計値をみるだけでも、調整に要する時間は長くならざるを得ないように思われる。それだけ、2000年代半ばにかけて発生したグローバル信用バブルは、大規模であったということである。』

欧米のデレバレッジ長期化懸念キタコレというか、報道されてたのはここの部分ですな。

『第2の要因は、潜在成長率の水準である。債務の規模が過剰か否かは、最終的に経済の規模に対する比率で判断できる。同じ額の債務を抱えていても、潜在成長率の高い経済の方が過剰債務の解消はその分早くなる。ただし、潜在成長率の大きさは固定的なものではなく、バブル崩壊後の政策や社会の反応によっても変わってくる。その意味で、バブル崩壊による二次被害(collateral damage)を回避することが非常に重要となってくる。』

ほうほうそれでそれで?

『二次被害はさまざまな形で顕在化する可能性がある。たとえば、デレバレッジ進行下の低成長経済では、社会の不満は高まり、しばしば保護主義や過度に干渉主義的な政策がとられやすい。政治的・社会的理由から存続可能性の低い企業への貸出が続く場合は、生産性が徐々に低下し、潜在成長率が低下する。』

ほほう。

『さらに、金融政策も捻じれたインセンティブを与える惧れがある。低金利政策や潤沢な流動性供給は必要な措置であるが、他方で、これが長期化すると、非効率な企業を温存することを通じて生産性を引き下げる要因ともなり得る。低金利が政府の財政バランス健全化に向けた動きを遅らせる場合も、経済全体としての調整は遅れることになる。』

どさくさに紛れて低金利長期化の弊害キター!

『人口減少も潜在成長率を引き下げることを通じて過剰債務の調整を長引かせる。人口増加率の低下や高齢化は先進国に共通の問題であるが、この点、日本はより深刻である。日本の人口増加率は米国、ユーロ圏、英国と比較すると、最も低いが、それ以上に、人口増加率低下の速度が速いことが経済や社会に様々な負荷をかけている。』

さっきの失われた20年の後半部分ですな。

『他方、欧米諸国は日本と比較すると、人口増加率は高いが、移民による人口増加の寄与度が大きい。しかし、この要因による人口増加は経済の低迷が続けば、減少することも予想される(図表15、16)。』

ふーん。

『第3の要因は、海外経済の成長率である。』

ほほう。

『日本は2000年初頭以降、バブル崩壊後のデレバレッジの影響から徐々に脱していったが、これには海外経済が過去数十年間に例を見なかったような高成長を遂げたことの恩恵という面も大きかった(図表17、18)。しかし、振り返ってみると、当時は、世界的な信用バブルの発生・拡大過程であり、また新興国の力強い成長に牽引されていた時期であった。現在、先進国はバブル崩壊後のデレバレッジの影響から総じて低成長を余儀なくされていることを考えると、新興国がインフレやバブルを回避しつつ成長を遂げることが出来るかどうかは非常に重要である。』

つーか無理ではないかと・・・・・・



・中央銀行の役割に関して

最後は『5.中央銀行の役割』ですな。

『先ほど、バブル崩壊後の欧米諸国と日本との類似性を4つ挙げたが、もうひとつ類似点がある。それは、中央銀行の果たすべき役割について、人々の見方が鋭く分かれることである。米国ではQE2に対する政治家からの否定的な反応に示されるように、どちらかと言うと、中央銀行の積極的な行動に対する批判の方が強いように見える。しかし、その他の多くの先進国では、低成長を背景に、中央銀行への期待や要求が高まっているように見える。特に欧州におけるソブリン債務危機への対応を巡る最近の議論をみると、その感を深くする。』

クレクレは甘えということですね、わかります。

『中央銀行が物価と金融システムの安定という重要な役割を担っていることは言うまでもないが、中央銀行はすべての問題を解決できる組織ではない。特に、ゼロ金利とデレバレッジングで特色付けられる経済においては、そうである。実際、主要国の中央銀行総裁は私自身も含め、最近、そうした趣旨の発言を行っている。』

で、そういう話の時にバーナンキ発言じゃなくてマービンキング発言を出してくる所が味わいのある所です。いやまあ講演の場所が英国だからなんでしょうが(^^)。

『尊敬するイングランド銀行のキング総裁の言葉を借りると、「金融政策に達成を期待できることには限界がある(There’s a limit to what monetary policy can hope to achieve.)」である。』

『中央銀行が達成できること、あるいは中央銀行が達成できると期待されることは何であろうか。逆に、達成できないことは何であろうか。バブルの発生やその後のバブル崩壊、金融危機の過程を振り返って今思うことは以下の4つである。』

ということで。

『第1は、銀行に対する「最後の貸し手」として流動性を供給するという中央銀行の役割である。この役割は金融システムの安定を維持する上で極めて重要である。金融が急激に収縮してしまうと、経済活動も短期間に急激かつ大幅に落ち込む可能性が高まる。現在、欧州債務危機が深刻化している状況下、この教訓は皆が大事にしなければならない。しかし、同時に、「最後の貸し手」としての流動性供給の本質は「時間を買う」政策であることも認識しなければならない。時間を買うコストは着実に上昇する以上、その間に構造改革を進めることが重要である。』

で、あくまでも最後の貸し手というのは金融システム維持であって政府に対する最後の貸し手では無い点は留意が必要だと思うのですけど欧州問題では何だかねえですよね。

『第2は、バブル崩壊後の金融政策についてである。金融緩和政策の効果の源泉は、将来の需要を現在に手繰り寄せるか、海外の需要を自国に持ち込むかのいずれかに求められる。しかし、前者のルートについて言うと、次第に現在に持ち込むことができる需要が減ってくる。後者のルートについて言うと、先進国全体が低成長の中では、ゼロサム・ゲームの色彩を帯びるようになり、世界経済全体の持続的成長という観点からすると、望ましくない。』

ふむふむ。

『しかし、だからといって中央銀行が何もせずに責任を免れるわけではない。だからこそ、現在、主要国の短期金利がゼロ近くに低下している中で、日本銀行を含め、主要国の中央銀行は様々な非伝統的政策を使って長期金利を引き下げたり、信用スプレッドを引き下げることによって金融緩和効果を創出する努力をしている。しかし、それと同時に、中央銀行がこうした措置を講じて時間を買っている間に、必要な構造改革を進めることが不可欠であることを感じる。』

で、構造改革が進まないので時間を買うコストが上がってエライコッチャになるんですねorz


『第3は、金融政策における成功のパラドックスについてである。』

またFEDビュー破れたりキタコレ。

『金融政策の目的は物価安定の下での持続的成長を実現することである。この点は、インフレーション・ターゲティングの枠組みを採用するか否かにかかわらず、日本や英国を含め、今や確立した考えである。しかし、こうした金融政策が成功すればするほど、物価は安定し、経済や市況のボラティリティも低下する。安定的な環境が長期に亘って持続するという予想が拡がると、レバレッジや金融機関の資産・負債の期間ミスマッチが拡大しやすくなる。』

『ところが、レバレッジやミスマッチは、何かのきっかけで大きく巻き戻される可能性を内包していることから、その拡大は経済の脆弱性を高める。バブルの崩壊とはその脆弱性が顕在化したものである。』

ほうほう。

『今回のグローバル金融危機以前はバブルへの対応戦略に関して、事前の予防か、事後の後始末戦略かの論争があったが、バブル崩壊のコストはあまりにも大きいことが、今回の危機を通じて、誰の目にも明らかになった。』

どう見てもFEDビュー破れたりです本当にありがとうございました。

『過去のバブルはほとんどの場合、低インフレ下で生じた。経済を安定させようとして消費者物価指数の短期的な安定に過度に焦点を当てると、不安定性の増大という反対の結果を招いてしまう。バブルは低金利だけで発生する訳ではないが、低金利が長期間にわたって持続するという予想が拡がると、レバレッジや金融機関の資産・負債の期間ミスマッチが拡大しやすい。その意味で、中央銀行は金融政策の運営に当たり、金融的不均衡の発生にも注意しなければならないと思う。』

マクロプルーデンスキタコレという所ですが、昨日のバーゼルの流動性規制云々もそうですけれども、こういうのが世界的に広がると先進国の潜在成長率ってどう見ても鈍化しますよねえと思うのですが、それが良い世の中なのか悪い世の中なのかと考えますとねえ・・・・

『第4は、金融の規制・監督のあり方である。』

いやーん。

『バブルの発生過程を振り返ると、資金の借り手、貸し手双方の積極的な行動に行き着くが、安定的な環境の持続に対する期待に加え、金融機関の場合には、規制・監督を通じて生じるインセンティブも影響を与える。』

キタコレ。

『バブル期における金融機関の積極的な行動を振り返ってみると、ほとんど例外なく、収益性の低下した金融機関が、規制・監督によって妨げられることなく、事後的にみればリスクの高い貸出に手を染めている。日本のバブル期もそうであったし、2000年代半ばの世界的な信用バブル拡大過程における欧州の金融機関もそうであった。現在、各国の中央銀行や規制・監督当局は規制・監督の改革を進めているが、過度なリスクテイクの抑制と、金融機関の収益性確保という両方の課題のバランスをどうとるかも大きな論点である。』

で、結局リスクテイクの抑制になってしまうんでしょうねえとか思う今日この頃でありました。


・最後も英語を引用しておきましょう(^^)

『Closing Words

The recent financial crisis has certainly left not one, as the Beatles song said, but many a pool of tears. As a result, if I may return to the Dickens quote, it feels for many of us like the worst of times. It may be a bit of a stretch to say that we are in the best of times, but it is too early to despair. Our economies have the resources, not only money but also the intellectual and institutional capabilities, to resolve the issues we face. If we can adapt the economy to a new environment and resist pressures that would lead to collateral damage, even after the bursting of the bubble, we should still be able to find a path leading to renewed growth. What we need is the determination and will. Ultimately, if we have this determination and will, we can shorten the long and winding road.』

まあ何だ、講演の元テキストが麿絶好調という感じなのでそっちを読むアルヨロシという事ですな(^^)。

#引用増量祭りでどうもすいませんでした

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2011/12/26

お題「総裁定例会見と総裁講演から少々」

おいおい、公共放送が「外貨準備が殆どドルで一部ユーロだから欧米経済の影響を受けやすい」とか中国の国債購入する言い訳の説明をしているけど、外貨準備ってそういうもんじゃねえだろペテン説明にも程があるだろ。


という悪態は兎も角として、総裁の定例会見も木曜日の講演も今回はいい感じで麿節が出ておりまして中々(^^)。


まずは決定会合後の総裁会見から。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1112d.pdf

○欧州問題に関して

最初の質問がEUサミットでして、欧州問題の日本経済へのリスクについてどう見ますかという話の所で欧州問題に関する説明が一通りあるので引用。

『(答) 先日の欧州サミットでは、欧州安定メカニズム(ESM)の前倒し設立や支援能力強化を企図したIMFへの資金提供など、金融市場の安定を図るバックストップの充実に加え、均衡財政ルール導入によって財政規律を強化するとの合意がなされました。財政の信認を中長期的に高めるとの観点からは意義が大きいと考えられます。もっとも、その後、各国の国債利回りが上昇に転じるなど、金融資本市場の緊張感は引き続き高い状況です。市場では、バックストップの資金規模やその迅速な実現について、なお不透明感が払拭されていないという見方が多くなっています。』

ということで、域内諸国における財政規律の強化への取り組み姿勢を強化と。

『欧州経済は、足許停滞色を強めており、周縁国のみならず、ドイツでも輸出や生産が減少に転じています。こうした中、欧州ソブリン問題は、以下のルートで欧州経済に影響を及ぼしています。』

欧州経済には厳しい認識を示していますな。

『第1に、コンフィデンスの悪化を通じて家計や企業の支出スタンスが慎重化しています。第2に、緊縮財政の強まりが景気を下押ししています。第3に、欧州金融機関では、資金調達面での不安から、貸出スタンスが厳格化し、金融面からの下押し圧力も強まっています。』

まあこれは前から指摘している話ですけれども、ここの第2の部分を勝手に深読みしますと、日本においても財政再建姿勢が明確化されるのであれば、その間は短期的に景気の下押し要因になるから金融政策はより緩和的に出来ますがな、というようになるような気がせんでもないがどうなんでしょうかね。

『さらに、そうした影響は、貿易や金融のチャネルを通じてグローバルにも波及しつつあります。まず、貿易面では、欧州向け輸出の減少から、輸出依存度の高い東アジアや中東欧経済への下押し圧力となっています。』

グローバルに波及キタコレ。

『金融面では、国際金融資本市場において、投資家のリスク回避姿勢が強まれば、新興国からの資金流出につながる可能性があります。また、欧州金融機関では、ドルの資金調達環境の悪化から、ドル資産を圧縮する動き――いわゆるデレバレッジング――もみられています。現在、これらが新興国経済の大きな下押し要因になっているわけではありませんが、特に欧州勢のウエイトが高い中東欧に加え、アジアなど他地域向けでも、プレゼンスが大きい貿易金融などの分野などにおいて、デレバレッジングによるマイナス面が生じないか、注意してみていく必要があると考えています。』

デレバレッジのマイナスに関してはこれから出てくるかも知れませんという事ですか。

『以上、欧州問題が欧州経済あるいは世界経済にどのように影響を与えるかについて申し上げましたが、これは、当然、日本経済にも直接・間接に影響を与えてくることになります。』

ということでまあ欧州が最大のリスクで警戒してますよというのは把握した。

『欧州危機への対応が遅れれば、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。そうした事態は何としても防がなければならないと考えています。各国政府など関係者は、これまでに合意した事項を強い意志で迅速かつ着実に実行していくことが不可欠です。ご質問の範囲を超えているかもしれませんが、欧州ソブリン問題への対応策には3つの要素が不可欠です。』

『第1に、個別国における財政改革を含め不均衡の是正と競争力の強化、第2にユーロ圏内部のガバナンスの強化、そして第3に市場の混乱を封じ込めるための強固なファイヤーウォール(防火壁)の用意です。前2者が根本的な解決に向けた中長期的な対応、3点目が金融経済システムや市場の安定を確保するための短期的な対応です。これら3つの要素を一体にして同時に実施していくことが重要であると考えています。』

ということで、最後は「どうすべきか」という話まで加えるという力の入れようでした。


○今年を振り返っての話でもしらっと主張が

『(問) 今回は今年最後の定例会見ですので、今年を振り返ってどのような感想をお持ちになっているかをお聞かせ下さい。』

で、最初は当然東日本大震災なのですがそこは華麗に引用をスルーしましてですな、

『第2の感想は、現在世界経済の最大のリスク要因となっている欧州ソブリン問題についてです。この問題を巡る展開をみると、金融経済の安定を実現する際に、最も根源的な次元でソブリン債務に対する信認がいかに重要であるかを物語っていると思います。それと同時に、市場は平常時から先行きへの警戒シグナルを発してくれるとは限らず、何らかのきっかけで、突然非連続的に変化する可能性がある、ということを改めて実感しました。この点、日本としても様々な教訓を引き出し得る出来事が展開していると思います。』

>市場は(略)何らかのきっかけで、突然非連続的に変化する可能性がある

ふむふむ(^^)。

『第3は、このような状況にあっても、わが国が極めて緩和的な金融環境を維持していたということです。(途中の状況説明部分長いので割愛)その背景としては、潤沢な資金供給を始めとする様々な金融市場の安定確保策に加え、包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進も大きかったと考えられます。』

誰も褒めてくれないから自画自賛キタコレ、と思うのですがポイントはその次である。

『逆に言うと、これだけの金融緩和にもかかわらず、支出が本格的に増えていかないということは、それだけ日本経済が直面している中長期的な課題が大きいことを意味しており、成長力強化の必要性を強く感じた1年でもありました。』

つまり金融政策限界論なのですが、これに関しては翌日に行われた講演で思いっきり言及がありますので後ほど。


○これは地雷ネタの質問であるが地雷であるとは当然ご認識のようですな

『(問) 欧州危機を受けて、ECBの中では、ソブリンに関するリスクを、これまでのようにア・プリオリにリスクフリーの資産としてみるべきではないという声もあるようです。そうなると、これまでのBIS(規制)の考え方も変えなければならないと思いますが、総裁の見解をお聞かせ下さい。』

今の状況でこんなの実施したら危機を増幅させるだけなんですけど、さて総裁の答えは・・・・・

『(答) 非常に難しい問いですが、現在重要なことは、まずソブリン危機に対してしっかり向き合って必要な対応策を採っていくことだと思います。ソブリンの信認と金融システムと実体経済が負の相乗作用を起こしている状況の中で、まずはこの問題に対応した取組みを進めていくことが大事だと思います。この問題に限らず、様々なリスクに対応した規制のあり方については常に議論していますが、今、このタイミングでそういう検討が必要というより、むしろ本来のソブリン問題に対して取り組むことが大事だと考えています。』

ということで「今そんな話をする段階ではない」という極めて真っ当な答えが返ってきて大変に安心でありまする。

『(問) 自国通貨建ての国債とはいえ、これからア・プリオリにリスクフリー資産としてみていくべきかについて、どうお考えでしょうか。』

『(答) 現在も、金融機関は自ら持っている有価証券について、国債を含め、どういったリスクを持っているのかを認識した上でリスク管理体制を組んでいます。金融機関がア・プリオリにリスクフリー資産とみなしていないからこそ、周縁国の国債が売られているなど、現実には、金融機関はそういう対応を採っています。その対応が時として行過ぎになるということは別の論点としてありますが、金融機関はア・プリオリではない対応を採っているということだと思います。』

監督当局としてこの点に変なコメントすると、危機モードの中ではとんでもない地雷発言になるという点に関してはさすがに日本の金融危機での経験値がありますので認識をしておられまして、こういう感じで受け答えして頂きますとまあ安心ではございます。


○中国経済について

中国経済に関する見通しについて。

『私自身、ある特定のシナリオに固執するということではなく、中国経済をみていく上で、どういう点がポイントなのかを申し上げることがお答えになるかと思います。3点あります。1つは、中国経済の成長のポテンシャルはまだ引き続き高いということで、都市化の進展等に支えられて潜在需要は増加していくと思います。第2点は物価を巡る動向です。中国のインフレ率は、水準としてはまだ高いですが、明確に低下方向に向かっているように思います。そうなると、実質購買力の回復、あるいは金融緩和の余地が出てきて、そうした面から景気が持ち上がってくる、景気が刺激されるという効果が生じます。3つ目のポイントは、欧州ソブリン問題の影響ですが、日本に比べると、中国は欧州向けの輸出ウエイトが高いため、それが貿易ルートを通じて影響してきます。』

ということで、欧州問題が輸出の落ち込みに繋がるかどうかという点に関しては先行きへの懸念みたいな話をしていますが、中国の国内要因という意味では最初の2点にありますように、そんなに懸念して無さそうですわな。

『以上、3つのポイントを意識しながら中国経済を点検していきたいと思っていますが、記者の方のご質問の背後にあるような、中国経済が短期的に大きく落ち込んでいくというような見通しには、現在、立っておりません。』

とのことで。


○日本経済について

『(問) 景気の現状について、足踏み状態といいますか、踊り場入りしたという認識でよいのかという点と、もう1点、2012年のいつ頃に、緩やかな回復経路に復していくのかの見通しをお伺いします。』

これは良い質問。

『(答) 景気判断については、先程申し上げた通り、「持ち直しの動きが一服している」という認識です。現在、相反する2つの動きがあると思います。 1つは、世界経済の減速、円高、そして今、タイの洪水の影響も加わって、輸出・生産が横ばいの動きになっています。他方、内需をみると、今回の短観でも意外に底堅かったなという印象です。この背景には、復興関連需要やその他の事情があると思います。』

ふむふむ。

『この2つの要素が今は拮抗しているわけですが、それがどうなっていくのかということです。』

ほうほうそれでそれで?

『私どもの基本的な見方は、やがて新興国の成長に牽引されて世界経済が回復していくということです。日本経済が横ばいから抜ける時期が正確に1〜3月なのか4〜6月なのかという点については、現在色々な議論をしていますし、次回の展望レポートの中間評価の時には、またさらに議論していきたいと思いますが、今、正確にその時期を特定していつとは申し上げられません。ただ、基本的なメカニズムについては変わっていないという判断です。』

ほほう(棒)

ということで、とりあえず次の展望レポート中間レビューの所で何らかの見通しを出すという事になるんでしょうかね、うんうん。


○この質問をしたのは誰だあ!!!!(例によって海原雄山風で)

こういう馬鹿質問をする記者とか馬鹿質問させるメディアとかは可及的速やかに引退あるいは廃業して頂きたく存じます次第でございます。

『(問) 本日オリンパスに対して強制捜査が入りましたが、この件に対するご感想をお聞かせ下さい。』

会見の貴重な時間を費やすのも無駄ですが、もうそれ以前の問題として呼吸をするのも酸素の無駄遣いですので以下割愛。

と、ここまでが会見ネタ。


続きましてこれがまた麿全開の日本経済団体連合会評議会での講演である。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111222a1.pdf

最初の所でこんな話をしていまして、これはどう見てもイイハナシダナーの予感。

『こうした景気の先行き見通しは重要なテーマではありますが、この点については既に様々な機会にお話していることでもあり、また、本日は年末という区切りのよいタイミングでもありますので、本席では中長期的なスパンで日本経済を捉え、わが国の直面する課題やその下での中央銀行の課題について、日頃感じていることを申し述べたいと思います。』


○日本経済の課題について

その前に過去15年の日本経済レビューがあって、「グローバル化の進展」「高齢化の進行」と「成長率の低下」の話をしててそこもほほーという所なのですが長くなるのでそちらはスルーして『3. 日本経済の課題をどう設定するか』から。

最初の『現状を放置することの深刻な帰結』という部分がほほーという感じで。

『そこでただ今の第1の問いかけを考えてみます。比較的見通しやすい人口動態だけに焦点を絞っても、日本経済の成長を支える条件が劇的に変化していくことが確認できます。』

ほう。

『過去の経済成長率を10年単位の平均成長率で申し上げますと、1980年代の+4.3%から1990年代は+1.5%、さらに2000年代は1%にも満たない成長率まで低下しています(図表7)。』

『経済成長率は、就業者数の増加率と、就業者一人当たりがどれだけ付加価値を増やしたかを意味する労働生産性の上昇率、この2つに分解できますので、そのことを手掛かりに先行きの姿を計算してみます。』

ほほう。

『まず就業者数の増加率については、2000 年代に年平均−0.3%と減少に転じたあと、現在の人口動態や男女別・年齢別の労働参加率がそのまま反映された場合、2010年代は−0.6%、2020年代は−0.7%、2030年代は−1.3%と、減少が加速していく見通しになります。こうした人口減少の影響は地方圏では特に深刻です(図表8)。』

『もう一つの労働生産性上昇率については、過去20 年間の平均は+1.0%程度となっています。バブル崩壊による影響の残る1990年代を除き、2000年から2008年という比較的良好な時期をとると、+1.5%となります。』

なるほど。

『他の先進国でも、近年における労働生産性の上昇トレンドにそれほど大きな違いがないことも踏まえて、今後もこれが+1.0%から+1.5%程度で変わらないと仮定しますと、先ほどの就業者数の減少率と合わせた経済成長率は、2010年代は年平均+0.5%から+1.0%程度にとどまり、2030年代はゼロ%近傍となる計算となります。』

あちゃー。

『中長期的な成長力如何は、財政にも大きな影響を与えます。欧州債務危機は、財政に対する信認が非連続的に変化することを示す貴重な教訓です(図表9)。それだけに、強い決意で成長力の強化に取り組んでいく必要があります。』


んでまあ成長力の強化が大事ですよとか、産業空洞化の問題とかの話になってそこもオモロイのですけれどもその辺をスルーしまして。


○金融政策は万能薬ではありませんネタキタコレ

『緩和的な金融環境を成長につなげる必要性』という辺りから更に絶好調に拍車が掛かるのである(^^)。

『ここまで申し上げてきたことから明らかだと思いますが、成長力の強化は、働いて価値を生むという実体的な努力によって実現するものです。』

ふむ。

『この点、一部の論者からは、「デフレを止めるのが先であり、それは金融緩和で容易に実現できる」という見方が示されることがあります。しかし、実質成長率は上がらず単に物価だけが上がっても生活水準は上がりませんし、財政バランスも改善しません。問題はどのようにして実質成長率を上げるかということです。』

キタコレ。

『過去の経験をみても、実質成長率が上がる中で、物価は遅れて上昇しています。たとえて言えば、物価は経済の体温であり、成長力は経済の基礎体力に当たります。基礎体力を改善せずに、体温だけを単独に引き上げることは無理ですし、仮に一時的に成功したとしても副作用が発生します。実際、日本のデータをみると、潜在成長率と予想物価上昇率の間には高い相関関係が観察されます(図表14)。』

で、その次が更に絶好調。

『かつては米国の有力な経済学者の中にも、「日本の低成長やデフレの問題は大幅な金融緩和で簡単に解消できるはずだ」という主張がみられました。しかし、そう主張していた学者も、リーマン・ショック後における米国経済立て直しの難しさを経験してからは、かつての日本への批判を撤回して謝罪を口にするなど、認識が随分変わってきています。』

どう見ても絶好調です本当にありがとうございました。

『いずれにせよ、日本の金融環境自体はきわめて緩和的です。名目金利水準はもとより、企業の実際の資金調達金利、例えば社債金利を予想インフレ率を勘案した実質ベースでみても、米欧に比べて低くなっています(図表15)。この点に関連して、「日銀のお金の出し方が足りないことが円高やデフレの原因である」といった議論がなされることがあります。そうした主張の論拠として、中央銀行が供給する通貨であるマネタリーベースの大きさが取り上げられることがあります。』

更に続く絶好調。

『FRBのバーナンキ議長も指摘するように、私もこれが金融緩和の適切な指標と考えているわけではありませんが、このマネタリーベースの大きさを対名目GDP比率でみても、日本では米欧よりも大きくなっています(前掲図表15)。』

いつもの説明キタコレ。

『本席におられる皆様が企業経営の現場で感じられているように、現在は保有する現預金の量や金利水準が制約となって、投資が起きないとか外貨資産の購入が行えないという状況ではありません。きわめて緩和的な日本の金融環境を成長力の強化にどう活かしていくか、これが直面している課題の本質だと言えます。』

まあ企業や家計の投資行動という文脈で言えば確かに総裁の仰せの通りでして、金融政策非万能論という事になろうかとは思いますけれども、これを日銀の責任回避と言ってしまえばまあそういう話にもなるんでしょうが、ただまあ少なくとも現在の日本について市場的に見た場合となりますと、90年代後半以降の金融環境の中では緩和的ですよねとはいえると思いますし、まあこの辺の話は難しいと思われ。


で、次の章が『4.中央銀行の役割と課題』なのですが、そこの頭の部分がここまでの話の続きにもなっていますわな。

『実は、日本銀行に限らず、他の先進国の中央銀行も同じような状況に直面しています。欧州は債務危機問題、米国はバランスシート調整問題です。その下で、FRBのバーナンキ議長も、ECBのドラギ総裁も、中央銀行の政策措置が万能薬ではないことを繰り返し指摘しています。』

『このように述べたからといって、私の意図は中央銀行の果たす役割の重要性を否定することではありません。その逆です。中央銀行にしかできないことが多くあります。重要なことは、政府、民間、中央銀行それぞれが自らの役割を適切に果たしていくことです。問題は何が中央銀行の役割かという点です。』

でまあ適切な金融政策と金融システムの安定が重要という話をしているのですが・・・・・


○これは珍しい言及

『金融緩和が需要刺激効果を持つ原理に立ち返ってみますと、一つは金利の低い今のうちに投資を行うという企業行動を促し、将来の需要を現在へ持ち込ませることです。』

というのはまあ普通の話ですが・・・・・・・

『もう一つは、低金利で自国通貨が安くなれば、輸出を通じて海外需要を自国に引き寄せることができる、というチャネルです。』

!!!!

いやね、基本的に金融政策を為替政策には割り当てませんよという話を結構強硬にするのが日銀クオリティ(実際に金融政策が動くのが為替だったりするというという話はあって、だからこそ為替リンクみたいな話をするのを嫌がる、というのもありますけれどもね^^)なのですが、総裁の講演でこういう形で「金融緩和で為替を誘導して輸出を促進」と取られそうな言い方をするのって珍しいなと思うのですよ。

まあもちろんこの講演が経済団体を前にしたものであるからして、為替に関しての言及を入れておかないとまたぞろうるせえからってえのもあるのでしょうが、それにしても白川総裁がこういう直接的な為替チャネルへの言及をするのは珍しくないかなあと思うのでありました。


○でもまあグローバルに金融政策が影響して云々の話は麿クオリティ

『ところが、金利水準が概ねゼロまで低下してしまうと、現在の投資をそれ以上有利にすることが難しくなりますし、現在のように他の先進国も金利がゼロに近づいている状況では、少なくとも先進国同士では相手の需要を活用できる余地も限られます。すなわち、金融政策のいずれのチャネルも働きにくくなります。』

ほほう。

『もちろん、新興国は成長力も金利水準も高いですから、先進国の金融緩和により先進国通貨が全体として新興国通貨に対して安くなれば、先進国から新興国への輸出が増加することを通じて刺激効果が発揮されることになります。』

しかしながら・・・・

『しかし、米ドルにペッグした固定的な為替制度を採用している新興国が少なくなく、そして米国自身もバランスシート調整に直面しているもとで、米国の金融緩和が米国国内の景気を刺激するというよりも、むしろ新興国の景気過熱や国際商品市況の上昇を通じて、米国自身のインフレ圧力を強め、個人消費を下押す、というような問題が生じました。』

キタコレ。

『このように、グローバリゼーションが進むもとでの金融政策は、海外の経済や市場を経由して思わぬ形で自分自身に跳ね返ってくるという可能性を伴っています。各国の中央銀行は、もちろん最終的には自分の国・地域における経済・物価動向を点検して政策を決定することは当然ですが、複雑な相互依存関係を意識した上での決定が以前にも増して重要になってきています。』

この辺はいつもの麿ペースで安心のクオリティである。

とまあそんな感じで途中端折りましたが引用多量で水増し企画はこんなところで勘弁。

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2011/12/02

○マルチカレンシー協調スワップ後の総裁会見から

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1112a.pdf

・金利を下げたので借りやすくなるでしょうという話

『今回の措置は、少し技術的な部分があり、その部分が分かりにくくなっていると思いますが、従来のレートの決め方は、OISレートというレートに1%金利を上乗せしています。金融機関は、そのレートで中央銀行からドルを調達するということになると、相当に信用度が低い、ドルが調達できない状況にあると市場で受け止められてしまうことを恐れ、ドルを借りにくくなっているとの声があります。これは、英語ではスティグマ(stigma)――日本語では「不名誉」――と呼ばれています。そのために、本来、ドル資金供給オペの枠組みが安全弁として機能するはずのところ、十分には機能していない面があります。これに対し、1%を0.5%に下げると、もう少し借りやすくなってくる。そのことを通じて、先程申し上げた効果が出やすくなることを期待しています。』

基本的にこの手のバックストップオペレーションにおける設定金利は「市場が機能不全になっている状態であればお助けレートだが、通常の場合なら誰も使わないレート」という水準に設定するのが正しいあり方でして、そーゆー意味ではこの段階でレートを下げるというのも何ですねんという感じもある(下げたのが正しいのであればそもそものレート設定がおかしかったという話です罠)のですが、状況から言ってあまり悠長な事を言ってられませんねという所なのでしょう。この先の質疑でも中々良い質問があるので引用。

『(問) 3点質問させて頂きたいと思います。まず、米ドル資金供給オペレーションの適用金利の引下げについてですが、今、総裁は、不名誉なことであるので、なかなか使われていないとおっしゃいました。そうすると、コストが高いから使われていないわけではないと思うのですが、その中で、適用金利の「市場金利+1%」を「市場金利+0.5%」にすることが、なぜ利用を促進することになるのかをお伺いします。(以下割愛)』

『(答) 1つ目のスティグマについてのご質問ですが、現在のように欧州のソブリン問題を背景に、お互いにカウンターパーティリスクに対して懸念を持つという状況において、高い金利を払って資金を調達しているとみられると、それだけ信用度を疑うという状況になりやすいことは一般的にお分かりになると思います。市場の金利よりも、かなり高い金利を払ってもなお借りるというケースと、市場の金利よりも高いけれどそれほど高くないという金利で借りるケースを比較した場合、どちらがスティグマが大きいかを考えると、ごく自然に考えた場合には、スプレッドが小さい方がスティグマが小さいだろうということになります。これだけで、スティグマが解消するかどうかは分かりませんが、スティグマがあるがために、米ドル資金供給オペレーションがあって本来は金利なり市場が安定するはずのところがなかなか十分な効果を発揮しにくいという時には、今回の措置は少なくともプラス方向に働いていくと考えました。』

まあ判ったような判らんような説明ではありますが、ぶっちゃけてしまえば「レートを現在の市場水準近辺まで下げるから欧州銀行の皆さん市場調達せんでよろしかばい」というメッセージを出したのでどんどんつかえという話だとは思うのですけれどもどうなんでしょうかね。


・市場介入措置との安定化の兼ね合いについて

更にこれも良い質問。

『(問) この措置で米ドルの資金供給機能を拡充させるということは、一方ではマーケットの規律に背反する措置でもあると思います。冒頭おっしゃったように、日本の金融機関のドルの資金繰りはさほど緊張した状態にはなく、むしろ欧州を中心として緊張が続いているわけで、ここで各国と協調することの問題意識を改めて教えて下さい。』

『(答) 今ご質問にありました通り、日本の金融機関については、ドルの資金繰り面で問題が生じているわけではありません。この点は皆さんも十分認識されていると思いますが、改めて強調したいと思います。ただ、私どもは金融システムが不安定になった時の怖さを――リーマンショックの時もそうでしたが――、十分認識しています。多くの市場参加者が最悪のケースを考えると、そのこと自体がマーケットの状況を悪くしてしまいます。そのように考えると、円に限らず、他の通貨、例えばカナダの銀行も非常に健全な状況ですが、最終的にはグローバルな金融市場は連関しているので、全体として安定を確保することは、相互の利益にもつながってくるわけです。』

ということで、今回はまあ予防的な措置ですねという話ですが。市場機能論との絡みについての説明もしてほしかったなあとは思います。

『(問) 前の質問とも関連しますが、この結論に至ったきっかけは何かということと、不測の事態に対応するという意識が全体にあるとおっしゃいましたが、そうした意識がどの段階から生まれ、なぜ、この段階で合意に至ったのかということについて、分かりやすくご説明下さい。』

『(答) 国際金融市場の動きを日々観察していると、日によってアップダウンはありますが、この1か月間をとってみても、全体として緊張度を高める方向にあったことはご存じの通りです。短期の資金市場、特に問題となるドルについては、資金調達レートが上昇してきています。欧州の国債金利は、周縁国についても、また、中心的な国の一つのスペインやイタリアについても上昇しています。また、金融機関の株価、あるいは金融機関のCDSプレミアムも、全体として悪い方向に変化しています。繰返しになりますが、正確に特定してこの日がトリガーだという日があるわけではありません。国際金融市場が全体として緊張度を高めてきているということですから、そうした事態に対応して今回の措置を採ったということです。』

ほう。

『ご質問の趣旨が、何か特定のイベントを念頭に置いて今回の措置を講じたのではないかということであれば、そういうことではありません。あくまでも、傾向として、国際金融市場が緊張の度合いを高めてきていることに対応したものです。』

ただまあ昨日の臨時会合は宮尾委員欠席という事で、まあ日程的には急遽やりました感がありますなけど(ニヤニヤ)。

『(問) 誘導的な質問になるかもしれませんが、看過できないレベルに達したわけではないけれども、予防的に何かを行う必要があると意識された、と理解すればよろしいでしょうか。』

『(答) 「看過できない」というのは、定義の問題だと思いますが、今のスプレッドは、1年前、2年前に比べて随分、上がってきています。そういう意味で、「看過できない」という言葉が良いかどうかは分かりませんが、緊張度を高めてきているという、大きな状況認識を持っています。』

まあ「看過できない」んでしょうなというニュアンスは把握した(^^)。まあ日本は兎も角欧州の状況がテラヤバスという状態だという認識で実施したんでしょうな。

・タイミングについて

『(問) 今日、この取組みを決めた背景は、どのようなところにあるのでしょうか。タイミング的なことですが、前日に、米国の主要銀行の格下げなどがありましたが、そのようなものも背景にあったのでしょうか。』

『(答) 米国の主要行の格下げは、全く関係ありません。この席でも、いつも申し上げていますが、主要国の中央銀行間では、日ごろから密接に情報交換・意見交換を行っています。私自身も、そうした電話会議に頻繁に参加しています。先程、申し上げたように、米ドルの資金市場を中心として、緊張度の高い状態が続いており、そうした状況に対応して今回の措置を採ったということで、「なぜ、昨日ではなくて、今日なのか」という意味での積極的な理由はありません(以下割愛)』

・・・・・・これについては次のコーナーをご参照(^^)。

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2011/11/30

○名古屋での総裁講演と会見から少々(といいつつ引用増量企画)

総裁講演
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111128b1.pdf

総裁会見
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1111e.pdf

まずは総裁講演から

・景気の先行き見通し関して

『もっとも、世界経済の牽引役を務めてきた新興国の高い成長ポテンシャルを踏まえると、適切な政策対応によりソフトランディングが図られるという条件付きではありますが、海外経済の成長率も新興国に支えられる形でいずれ再び高まっていくと考えられます。また、国内では震災復興関連の需要も徐々に顕在化していくと考えられます。このため、わが国経済は当面減速した後、緩やかな回復経路に復していくというのが現在の私共の中心的な見通しです。』

というのはまあ基本的に変わっていませんが、だんだんこの「新興国の成長」という見通しに留保条件が付くようになっているのは中々香ばしい感じでありまして、シナリオがどう見ても怪しくなっています本当にありがとうございましたという所でしょう。復興需要に関しても政府があの有様ですし・・・・・・

『このように日本経済はやや長い目でみて物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくと考えていますが、こうした中心的な見通しには様々な不確実性があることは十分認識しています。』

「十分認識しています」とここの表現も強くなっているのは相手が名古屋の経済界ということでその辺を強調しておかないとタコ殴り状態になるでしょうというのもあると思いますが、まあリスク認識を強めているというのは把握した。

でまあ当然ながらその一番手は欧州債務問題なのですがその説明はスルーして結論。

『このように、欧州では、財政に対する信認の低下が金融システムの安定性に対する懸念を高め、それがさらに実体経済に影響を与えるという形で、財政、金融システム、実体経済の負の相乗作用が働き始めています。そして、このような欧州の経済・金融情勢は世界の他の地域の景気にも影響を与えています。』

という認識で何で新興国経済が今後高成長に復帰するのか良く判らんですがまあそれはそれとして。

『欧州のソブリン問題は夏場以降の円高の原因ともなっています。世界経済の不確実性が増大する中、グローバルな投資家はリスク回避姿勢を強めています。グローバルな金融危機はいつも外貨危機という形で顕在化します。この点、日本は後から申し上げるように中長期的にみて様々な難しい課題に直面しているとはいえ、経常収支が黒字であることや、そのことを反映して対外資産・負債のバランスが大幅な資産超過であることもあって、円は相対的に安全な資産と認識され、買われやすい地合いとなっています。』

はあそうですか。


・「追加緩和は円高対応」に表現が限りなく近くなっているのがこれまた香ばしい

で、その次の政策運営に関する部分ですが。

『日本銀行では、こうした海外経済の減速や円高進行の下、先行きのわが国の景気減速やそのリスクに対する警戒を強め、8月と10月の2度にわたって金融緩和の強化措置を講じました。』

とあるのですが、その次の章に『4.円高への対応』というのがありまして、そこではこのように表現しています。

『結論から申し上げますと、日本銀行は、海外経済の先行きを巡る不確実性が大きい現局面においては、円高が輸出や企業収益の減少、企業マインドの悪化などを通じ、景気の下振れ要因となる可能性には十分な注意が必要だと考えています。日本銀行が夏以降、2回にわたって金融緩和に踏み切ったのも、正にそうした判断に基づくものです。』

ということで、円高を金融政策と直接リンクするような言い方を避ける傾向にある白川総裁としては結構この講演では「円高対応」を強調するような表現になっているなあと思うのでありまして、まあ先ほども申し上げましたが講演の場所が円高絶賛直撃中と思われる名古屋ということで「円高対応していますお」とアピールする必要性があるっつー要因もあるとは思いますが、従来よりもちょっと「円高対応」を強く主張した感じになっているのが何か味わいがございます。


・そして金融政策の宣伝キタコレ

さっきの金融政策に関する話の続きですがね。

『日本銀行の金融政策については様々なご意見を頂くことが多いので、以下では現在の金融政策の枠組みに立ち返って少し詳しくお話をします。ご承知の方も多いと思いますが、日本銀行は昨年10月に採用した「包括的な金融緩和政策」という枠組みに基づく強力な金融緩和の推進、金融市場の安定確保、成長基盤強化の支援という3つの措置を通じて、日本経済がデフレから脱却し、できるだけ早く物価安定の下での持続的成長経路に復帰するために、中央銀行としての貢献を粘り強く続けています。』

>日本銀行の金融政策については様々なご意見を頂くことが多いので、
>日本銀行の金融政策については様々なご意見を頂くことが多いので、
>日本銀行の金融政策については様々なご意見を頂くことが多いので、

・・・・・・・・(^^)

でまあやってることの説明はスルーしてその次の緩和的環境の波及についての話がだいぶ泣けます。

『それでは、このような強力な金融緩和政策はどのようなルートで経済に影響を及ぼすのでしょうか。この点を議論する際には、金融政策の波及経路を2段階に分けて考えることが必要です。』

へえへえそうだっか。

『第1段階は、金融政策から金融環境への波及です。すなわち、企業や家計が借入を行う際の金利水準や資金の調達可能性が、どの程度緩和方向に変化しているかということです。第2段階は、金融環境から実体経済への波及経路です。すなわち、企業や家計が緩和した金融環境を活用して、投資や支出をどの程度増やしているかということです。』

でまあ皆様予想通りでしょうが(^^)、第1段階は緩和が進んでいるけど第2段階に進んでいませんがな、という話をするのでありまする。途中を割愛しまして。

『他方、先ほど申し上げた金融政策の効果波及の第2段階をみますと、残念ながら、極めて緩和的な金融環境にもかかわらず、民間の経済主体が投資や支出を積極的に増やしていくという動きには繋がっていません。日本銀行の、そして日本経済にとっての悩みは、正にこの点にあります。』

で、日銀は第1段階はちゃんとやっているお!という泣ける説明が続く(^^)。

『このような状況への対応の仕方として、日本銀行がもっと積極的に行動すれば、やがては経済活動が刺激される筈であるという考え方があり得ます。』

ほう。

『しかし、各種の金利、特に民間経済主体にとっての実際の資金調達金利をみると、わが国は先進国では最も低い水準となっていますし、足もとも緩和方向の動きが続いています。量的な指標という点で、中央銀行の供給する通貨であるマネタリーベースや、家計や企業が保有する通貨であるマネーストックの対名目GDP比率をみても、日本は米国やユーロ圏を大きく上回り、先進国で最大となっています。』

宣伝キタコレ。

『米国はリーマン・ショック後に資金供給量を大幅に増やしましたが、日本は金融危機をより早く経験したこともあって、そうした積極的な資金供給をいち早く行っています。そのため、日本銀行の積極姿勢が目立ちにくくなっているのかもしれませんが、マネタリーベースの対名目GDP比は、米国が現在到達している水準には既に2002年に到達し、ここ数年さらにこの水準が上がっているというのが客観的な事実です。』

まあそれより演技の仕方の問題のような気はするんですがね。ただまあバーナンキ議長みたいな演技も結局のところ効いているのか効いてないのかというと、毎度毎度その場では効いているように見えまして十分に効果を挙げているように見えますが、よくよく考えたらQE1やってQE2やった挙句にまた何かやるのか的な話になるというのはトータルで結果見た場合にどうなんでしょという気もせんでも無い。つーかQE何とかを何度もやっているとそのうち「あれ?」と幾ら物忘れの激しい市場関係者でも思うようになってくるのではという懸念がありまして、まあそうならないようにするのと、間違ってそうなってしまった場合というのが正念場なんじゃないですか、と思うのであります。

でまあ昨日引用して今日も続きをやる予定が段々時間が怪しくなってきている11月FOMC議事要旨で議論されているように「コミュニケーションポリシーの進化」を検討しているというのは、FRBもさすがにその辺りは先刻ご承知で、適当に目先を変えておかないと市場の期待コントロールが難しくなるという認識があるんじゃないかなあとも思うのでありました。


と話が逸れましたが後は会見から少々。

・財政バランスに関して

直近の国内長期金利上昇に関して。

『(答) いつも申し上げている通り、金融市場の日々の動きについては、コメントを差し控えたいと思います。先ほどの質問に対する答えと多少重複しますが、現在の国内の金融市場の動きは、当然ながらその背後にある国際金融資本市場の影響を受けます。そしてその国際金融資本市場は、欧州ソブリン問題を背景に緊張の高い状態が続いています。長期金利について、日々の動きを離れて──私がいつも強調していることですが──、市場参加者の予想は変化し得るものだということです。』

これは市場の中の人的には同意なのですが、中々市場の外の方々にはわかって頂けない部分ですな。

『わが国の現在の財政の状況は大変厳しいわけですから、わが国が財政バランスの改善に向けてしっかり取組みを行っていくことが大事だと思っており、そのような大きな取組みがなされることを期待しているということです。』

まあさいですな。


・欧州問題の波及に関して

という質問に対して。

『(答) ご指摘の通り欧州諸国の国債の金利は上昇傾向にあります。これがどのような形で実体経済に影響を及ぼすのかについては、先程少し詳しく申し上げたところですが、欧州経済への影響についてみると、金融市場の緊張が金融機関の貸出行動を通じて域内の経済活動を抑制するという方向に作用することが一番大きなルートであろうと思います。それから世界経済へは、今申し上げた欧州の経済の下押しに加えて、金融市場を通じる様々なルートを通じて影響していくということです。』

その上直近では資本規制の問題とか流動性規制の問題とかについて、欧州債務危機の影響で他の国の政策当局が強めようとするという動きが起きそうなのが問題のような気がするのです。

『どの程度深刻かということについては、なかなか数量的に評価することは難しいですが、私どもとして一番大事なことは、リーマン・ショックのような金融市場全体が大混乱するという事態は絶対に避けなければならないと思っています。そういう大きな条件が確保されるもとで、欧州の各国が、既に合意されている様々な取組みをしっかり進めていくことが必要だと思っています。 「今後、どのようになるのか」というご質問でしたが、私どもは政策当局者であり、評論家ではありませんので、そうした深刻な事態に陥らないように取組みをしっかり進めていく必要があると思っています。』

では金融政策の第2の波及経路につきましても・・・・・・(−−)


・欧州問題の新興国への波及に関して

『(答) 新興国といっても、地域・国によってかなり状況が違っていると思います。アジア、ラテンアメリカ、それから欧州の新興国の3つを取り上げても、違いがあると思います。丁寧に説明しようとすれば、それぞれの地域毎に説明しなければなりませんが、まず一括して結論を申し上げると、不確実性はまだ高いと思っています。』

ほほう。

『新興国の経済の減速の原因を考えてみると、1つは中央銀行が安定成長を実現するために行ってきた金融引締めの効果が出てきているということです。また、もう1つの理由としては、既往の国際商品市況の上昇に伴って国内のインフレ圧力が高まり、それが実質的な購買力を下げ、減速をもたらしているということです。そこに、今度は欧州経済、世界経済の減速が加わってきているわけです。』

なるほど。

『減速それ自体は、持続的な成長を確保する上では、必要なことですが、それが行き過ぎるかどうかという点については、現状では両方の可能性があると思います。行き過ぎて減速が強くなるという可能性もありますし、程良く減速する中で、新興国はまだ政策転換の余地がありますので、それを使って経済が成長するという可能性もあります。そういう意味では、両方の可能性を意識しながら経済を点検していきたいと思っています。』

そうっすかねえ。

『地域別にみた場合、先程申し上げた 3つの地域の中では、欧州の金融機関の影響を相対的に受けやすいのは欧州の新興国であると思いますので、欧州の新興国の動きと他の地域の新興国では、少し ニュアンスが違うと思っています。』

いやあのたぶん金融機関の資産圧縮の動きがアジアとかラテンアメリカにも影響して来ると思うのでございますが・・・・・・・・

ということで、何かこの辺りの説明を見ると、現在の「新興国や資源国の高成長が復活して世界経済を牽引します」というシナリオがどう見ても楽観です本当にありがとうございましたという風情ではございますが、まあ日銀におかれましてもその辺は懸念している向きはあるでしょうし、とりあえずこの旗今は上げておくけど下げるタイミングが来たらあっさり下げそうな感じはするなあとか思うのでありました。

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2011/11/18

○総裁会見から

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1111d.pdf

・最初の説明部分でほほうと思う箇所が少々

冒頭の白川総裁の説明なんですけどね、まあ基本的には「今回はこのような判断をしましてこのような決定をしました」って話でして、声明文に示された認識と金融経済月報で示される予定の認識に関する話をするんですけれども、その中でほほーと思った箇所があったのでその辺りから。

リスク要因の部分ですけどね。

『もっとも、以上の中心的な見通しを巡っては、様々な不確実性が存在しています。(海外要因の不確実性に関する説明部分は声明文どおりなので割愛)なお、この不確実性そのものについて、その高まりを指摘するなど、委員間でも若干のニュアンスの差がありました。』

ということで、わざわざ「委員の間で不確実性の高まりをより意識する人がいた」というのを説明しているという事ですから、今回の決定そのものは全員一致であっても結構意見は割れているのではないかな、と思わせる所でありました。

そういや先日引用した中村審議委員の記者会見では中村さんが「下振れリスクは更に高まっている」という話をしていましたし、またまた審議委員と執行部でのズレみたいなのがあるのかもしれないなあとか思ったのは思い過ぎですかね。


あと、日銀の金融政策の宣伝(?)部分ですけれども。

『日本銀行は、資産買入等の基金の規模を累次にわたり大幅に増額し、そのもとで、金融資産の買入れ等を着実に進めています。足許の基金の残高は40兆円程度であり、基金の総額である55兆円程度に向けて、今後、さらに15兆円程度の残高を積み上げていきます。』

日銀は声明文の最後の部分で「私たちはこんなにやってるんですよ」というのを入れるようになってから暫く経ちますが、今回ちょっと違うのはわざわざ「足元の基金の残高」を言うようになった点。10月1回目(展望レポートと追加緩和のセットじゃなかった方です)の決定会合後の会見ではこの部分が、

『日本銀行は、8月の金融政策決定会合において、先行きの景気について「下振れリスクにより留意すべき情勢となっている」との判断に基づいて、「資産買入等の基金」を10兆円程度増額し、金融緩和を一段と強化しました。そのもとで、現在、金融資産の買入れ等を着実に進めています。』(これは10月7日の総裁定例会見より)

となっていまして、今回から基金オペの進捗状況についてのアピールまで加わったという事のようですが、これはこれで諸刃の剣みたいな面もあって、進捗が遅ければ遅いで批判されそう(意図的に進捗遅らせたらまあ批判の対象でしょうが、短期金融市場での金余りんぐ状態によって基金オペの札割れとかが頻発すると意図せざる進捗遅延が生じる恐れがありますから)ですし、進捗が早ければ「じゃあそろそろ追加緩和」とか言われそうですし、これ扱いが難しい希ガス。

『また、日本銀行は、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していく方針を明らかにしています。中長期的な成長力強化という日本経済にとって最も重要な課題への対応を進めていくためには、民間企業や政府、さらには金融機関が、現在の極めて緩和的な金融環境を十分に活用しつつ、それぞれの役割に即した取組みを続けていくことが不可欠と考えています。日本銀行としては、こうした包括的な金融緩和政策を通じた強力な金融緩和の推進、さらには、金融市場の安定確保や成長基盤強化の支援を通じて、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰するよう、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。』

後半の方で「日銀だけにクレクレ言うのは甘え」という話が入ったのはこれまた10月7日の会見との変化ではありますが、まあこちらは追加緩和と共に声明文に入るようになったので、ここ自体はサプライズではないですけれども念のため入れておきました。


・欧州債務問題の影響についての整理

『(問) 今回の景気判断で、日本の実体経済にも若干の減速、陰りがみられ、その要因は世界経済の減速である、というご説明だと思いますが、欧州の危機が日本の実体経済に影響を及ぼしつつある、そのパスはどのようなものか、どのように分析をされていらっしゃるのでしょうか。』

ということで。

『(答) 色々な整理の仕方が可能ですが、ルートという意味では、貿易チャネル、金融チャネル、為替チャネルがあると私自身は考えています。』

ほうほう。

『貿易チャネルは、欧州に対する輸出の減少として影響が出てくる面がありますが、日本は相対的には、欧州向けの輸出のウエイトが高くないので、直接欧州向けの輸出減というよりは、欧州の影響を受けてその他の地域、特に新興国経済が減速し、その影響が日本に出てくるルートということになります。』

『2つ目は、金融チャネルですが、世界全体の金融市場が不安定化し、金融機関が資金調達に不安感をもつと、貸出を抑制することになってきます。欧州では既にその影響が出ていますが、日本の場合は、金融機関の資金繰りは現在のところ非常に安定していますので、その影響は出ていません。しかし、もし将来、もっと大きな金融市場の混乱が生じると、もちろん日本の金融機関も無縁ではないので注意をしています。』

『3番目は、欧州を発端として、世界経済全体の不確実性が増大してくると、当然投資家は、リスクを出来るだけ取りたくない、外したいと考えます。現在の環境のもとでは、相対的に安全資産とみられている円が選好されやすく、円高を通じて日本経済に悪影響を与えてくるということになります。』

『このように、欧州の情勢は色々なルートで日本経済に既に影響を与えていますし、また今後も与え得るため、日本銀行として注意をしてみています。8月、および先般10月末の金融緩和の強化も、そうした判断に基づくものです。』

ということで、まあ順当な分類なのですが、金融チャネルに関しては総裁の指摘する資金調達絡みの直接的な要因もさることながら、より懸念される点としては金融機関の資本不足という問題から金融機関の資本増強によってクラウディングアウトみたいな現象が起きてしまい、民間非金融部門へのクレジット供給が阻害される、という方が懸念されるように思うのでございますが、その一方でバーゼル委員会はSIFIsに対して資本増強を求めたりしている訳でして、いやまあそれはそれで重要な話なのですがこのご時世でそれをやると景気の下押しにならんかね、とか思うのですけどその辺りに関する質疑が無いのは残念。


・欧州関連&先日のオランダでの講演に関する質疑

『(問) 2つ質問があります。1つは、先程の欧州関連の質問と重なるところがありますが、以前より、欧州ソブリン問題については、金融市場から実体経済への負の相乗効果が進展しつつあるとのご認識だったと思いますが、前回会合から今までの間で、負のスパイラルは、残念ながら若干進んでしまったというご認識かどうか、解説をお願いします。2点目は、先日、オランダで電話会議を通じて金融イノベーションについての講演をされたと思いますが、その中でご懸念を示されていたような金融のイノベーションとは、具体的には、今であればCDSのようなものを念頭に置かれているのか、解説をお願いします。』

あの講演で懸念していた金融イノベーションは主に「複雑なスキームを作ってリスクの所在をわざと曖昧にする」ようなスキームとかで、CDSはあまり念頭に置いてなかったように思えますけれどもまあ良いとしまして。

まず最初の質問の回答部分。

『(答) まず、欧州ソブリン問題に関連して、負の相乗作用が前回会合以降、強まったかどうかとのご質問です。負の相乗作用という抽象概念の性格上、なかなか定量化して、この3週間でどうかと正確に表現するのは難しいわけですが、そうした問題への人々の懸念が端的に表れるのは、金融市場の動きです。』

ほうほう。

『短期の資金市場における緊張度を表す指標、あるいは社債の信用スプレッド、ソブリン物の金利、ドイツ国債とのスプレッドなど、どの指標をみても、この3週間でいったん、良い方向で変化し、それからまた悪い方向に向かっていますが、この3週間全体では悪い方向に向かったことは客観的な事実であると思います。』

まあつまり悪化していると。

『ただこれは、マーケットの認識ですから、大事なことは財政、金融システム、実体経済の3者の相乗作用を断ち切る取組みということですが、この取組みは、ことの性格上少し時間のかかる話です。』

したがって負の相互作用に関してはリスクが高まっている、ということでしょうな、うんうん。


2点目について。

『それから2つ目の、金融のイノベーションに関する、オランダ中央銀行のコンファランスにおける、テレビ会議を通じて参加した講演のことです。まず、お答えから申し上げると、特定の商品を念頭に置いているわけではありません。』

まあそう言う罠。

『オランダ中央銀行のウェリンク前総裁が6月末に退任されたことを記念するコンファランスが開かれ、コンファランス全体のテーマが「金融イノベーションがもつ経済厚生上の効果」というものでした。多少、講演の中身の紹介になりますが、普通のイノベーションの場合は、当然に良いことである、成長力を高めていくものであるとして、イノベーション自体について善か悪かを議論することはありません。しかし、金融イノベーションについては、少なくともこういうテーマでコンファランスが開かれることに示されるように、中には経済の発展につながったものもあるが、経済に混乱をもたらしたものもあるのではないか、もしそうだとすれば、その問題についてどう考えるべきか、ということが論点になります。』

まあ結局イノベーションったって道具なのですから、大事なのは道具の使い方ですよね。

『サブプライムローン問題以降の金融市場の展開をみても、CDSあるいは再証券化商品が、バブルを拡大する過程、あるいは、金融危機の過程でそれを促進する役割を一部担ったことは否定できません。ただ、講演で繰り返し強調していることですが、特定の商品について、金融のイノベーションを否定するものではありません。多くの金融イノベーションは、経済の発展に貢献していますが、どういう場合にイノベーションが経済に貢献しないのか、そのことを考えていくと、金融イノベーションを行っている人の背後にある動機(インセンティブ)の問題に帰着します。経済の発展につながっていかないようなインセンティブを生み出さないようにしていくことが、私ども当局者としては大事であることを申し上げました。』

まあ何だ、それを当局者ができるという発想はどうなのかと思いますが。つーかその手のインセンティブが何も無いのにイノベーションが起きるというのはこと金融屋として考えた場合には難しい、つまりガチガチにインセンティブを抑えれば当然ながら何の進歩も起きません、って話になるような気がします。

『経営者については、新しい金融商品の販売を始める前に、これがどういう形で世の中の付加価値の創出につながっていくのかについてよく考えて、その上で、販売についてゴーサインを出す、出さないということが大事です。これらの積重ねによって、金融イノベーションの良い部分が、最大限発揮されていくのではないかということが、私の講演の趣旨です。』

まーそれは理想的には正しいけれども現実問題に置きなおすとちょっと無理ぽな気がするんざますけれどもにゃあ。


・リスクの高まりを指摘した人は多いとみた

先ほどの冒頭部分での「リスクの高まりの指摘」云々に関する質疑応答が2つ。

『(問) 先程の冒頭のご説明の中に、海外情勢を巡る不確実性そのものについて高まっていると指摘するなど、委員の間で若干ニュアンスの違いがあるとおっしゃいましたが、もう少し具体的にこの点についてご説明頂けますでしょうか。』

『(答) 直前に、欧州の負の相乗作用が前回会合以降に強まったのかというご質問がありました。前回、展望レポートを作成するとき、先々の金融経済情勢について、それぞれの想定のもとで見通しを立てているわけですが、この3週間の動きについて、よりリスクが高まったという認識をされる方も、基本的には変わっていないと認識をされる方もおり、そこにニュアンスの差があったと受け止めました。具体的に、どのように意見を表明されたかについては、議事要旨で発表していきたいと思います。』

ほうほう(^^)。議事要旨が楽しみですな。

『(問) この3週間で「よりリスクが高まった」という委員は、1人ではなく複数いらしたのですか。』

『(答) 全ての委員が、3週間前との対比で「リスクが高まった」とか「変わっていない」と意見表明しているわけではありません。そういう意味で、私が単数だ複数だと申し上げるのは適当ではないと思います。意見表明しなかった委員の中にも、「高まった」という委員があるいはいたかもしれません。ただ申し上げられることは、「高まった」と認識した方が、数として多かったわけではない、と受け止めているということです。』

そらまあ高まった人が多かったらまた追加緩和がどうのこうのみたいな話が持ち上がりますからそらそうですなとは思いますが、わざわざこう言ってるんですから少なくとも1人や2人ではないでしょうな、とは想定されますにゃ。


・先行きの回復見通しについて

『(問) 海外経済の見通しについて伺います。本日の発表文でも、当面は海外経済が減速してから、新興国に牽引される形で海外経済の成長率が再び高まるという趣旨のことが書いてあります。この点に関して、成長率が再び高まるタイミング・時期についてのイメージを教えて下さい。また、成長率が高まった時に、力強いものになるのか、それともまた下振れリスクをかなり大きく抱えながらの成長率の高まりになるのか、その辺のイメージも併せてお願いします。』

『(答) 新興国が足許の減速からいつ成長率が再び高まっていくか、そのタイミングについて、本日の議論で正確に「いつである」とされたわけではありません。時期というより、どういうメカニズムを考えているかについて申し上げます。新興国は、地域によって違いますが、インフレ圧力が高まり、あるいは地域によっては資産価格の上昇圧力も高まってきて、放置すると短期的には大きく成長率が上がり、その後反動で低下します。従って、ソフトランディングを図っていくことが大きな政策課題です。』

ほう。

『その面では、新興国は金利を上げていく、あるいは外生的要因を含めてですが、既往の国際商品市況の上昇によって実質購買力が下がってくるという要因から、今は経済が減速しています。高過ぎる成長率が巡航速度に調整されていくこと自体は、その先々の経済を考えると、もちろんプラス要因です。今、ソフトランディングがうまくいくかどうかについて、私自身不確実性があるとみており、決め打ちはせずにデータに則してみていくしかありませんが、筋道としては今ご説明したように考えています。』

つーかその前に上昇そのものが大丈夫なのですかという話もあるような気がする訳で、どうもこの「海外経済は新興国・資源国が引っ張って再度回復基調(キリッ)」というのに関してはだいぶ説明が怪しげになってきたなあという感じで、この辺もトーンは弱めですなあという感じはあります。


という感じで、まあ主に海外経済に関する質疑が中心となるのは当然ですが、その結果としてこれまた当たり前のように質疑応答のトーンがやや弱めになってしまう、というのが今回の総裁会見の印象ですな。


○決定会合関連のどうでも良い雑談

・共同通信今回は「現状維持」ヘッドライン(^^)

まあ最初はブルームバーグに共同が配信しているヘッドラインで確認しましたが、47NEWSのサイトでも今回はこのような見出し。

http://www.47news.jp/news/2011/11/post_20111116134000.html
日銀、景気判断を下方修正 金融政策は現状維持

・・・・・・散々悪態をついたのが聞こえたのかどうか存じませんが、「追加緩和見送り」というヘッドラインじゃなかったのはやっと改善しやがったかという所でございますな。なお、ブルームバーグに最初に出た時は、リードの後の本文(フラッシュニュースなので本文といっても一言コメントですが)には「金融政策現状維持」の後に「追加緩和は見送られた」と相変わらず書いているのが共同通信クオリティではあるのですが、ヘッドラインに載せなかっただけマシになったかなと。

つーかさ、別に産経あたりがトンチキな事を書いても「産経電波浴」とか言って笑っていれば良いのですけれども、共同の金融関連ニュースって地方ブロック紙がモロにそのまま転電して報道するので、変なバイアス掛けたオモシロヘッドラインとか出すのは止めて頂きたい訳ですよ。大仰に言えば「金融政策の透明性」に水を差す話でもあると思うのですからねえ。


・オリンパスの質問をした記者は誰だあ(ガラッ)!(海原雄山風に^^)

さっきの総裁記者会見なのですが、オリンパスの質問をしたアホウが2名(同一人物が2回聞いているのかもしれませんが)いまして、もうねアホかと馬鹿かと。

当然ながら想定問答が用意してあるので予定通りと思われる回答がありましたが、まあ正直な所「そんなの知らんがなヴォケ」と本当はお答えしたいのではないかと拝察されるところでございまして、んな質問してる場合かよとゆーか、貴重な資源の無駄使いになりますのでそのようなアホウは会見に参加されない事をお勧め致したく存じます。つーかその席どいて俺様に座らせろと(^^)。

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2011/11/15

○これはイイハナシダナー

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111114a.pdf
金融イノベーションの光と影

── オランダ中央銀行主催「金融イノベーションがもつ経済厚生上の効果」に関するコンファレンスにおける講演の邦訳(テレビ会議により参加) ──

題名見た瞬間にこれは面白そうと思ったのですが予想通りでした(^^)。まあとりあえずおまいら全部読めという感じですが、それではあたくしの駄文のネタにならないのでまあ適当に(と言いつつ講演を半分以上引用したのですが、笑)引用である。


・なるほど

最初の部分から。

『セントラル・バンカーは ―― あるいはもっと広く政策当局者は、と言ってもよいかも知れませんが ―― イノベーションを好むものです。イノベーションは成長を促進し、生産性を高める鍵となるものです。これなくしては、我々の経済は生産要素の投入量に比例する形でしか成長できないことになります。イノベーションの重要性は、特に先進国において高まっています。なぜならば、人口の高齢化が進み、労働力の急速な増加が望めない現状において、先進国が今後も経済成長を実現していくためには、イノベーションを通じて生産性を引き上げるという道しか残されていないからです。』

これはこれでその通りの話なのですが、ここを読んでいてふと思ったどうでも良い話として、なるほどそういう発想様式だから特に問題なく動いているような市場の改革とかをしたがって愚にもつかないシステム変更をするどこぞの取引所があったり、しょうもない企画仕事みたいなのを次々と生み出す企画(以下保身のため自主規制)。

『この意味で、イノベーションとは、我々が本質的に望ましいと考えるものだと言えます。しかし、我々は本日、「金融イノベーションがもつ経済厚生上の効果(welfare effects of financial innovation)」を議論するために、このコンファレンスに参加しています。こうしたテーマ設定の下で議論をすることができるという事実は、金融イノベーションと称されるものが、実は必ずしも常に経済厚生を改善させる訳ではないということを暗示しているようにも思われます。』

まあ後の話にありますように、証券化の話とかが出てきまして、それが別に一概に悪いという話ではないのは当然ですが、では問題になるような事になったのは何故でしょ?という話ですな。

『特に、「イノベーション」の前に「金融」という言葉を付け加える場合、我々がその得失について改めて考えることの意味とは何でしょうか? その考案者たちが「イノベーション」と呼ぶ金融業の変化(developments)が、時として必ずしも好意的には評価することができないものであるのはなぜでしょうか?』

金融とは全然話が違いますが、難しく考えるとややこしい事になるますが、身の周りに置き換えてみた場合のカイカクとかカイゼンだった場合、そのカイカクとかカイゼンとかが自己目的化するとか、考案者の仕事のための仕事だったりした場合(あるいはそう理解された場合)に、そこら中から文句タラタラという話になるとか考えると、話の筋は違いますが何となくそうなのかなあと勝手にイメージしてみましたが、イメージを具体化するのは保身のため自主規制(^^)。

『また、社会全体に恩恵をもたらすようなイノベーションを促すという観点からみた場合、中央銀行にとってのインプリケーションとは何でしょうか?15 分という限られた時間の中で、これらの問いに対する明確な回答を用意することは難しいことですが、本日は私なりの考えを申し述べたいと思います。』


・技術ドリブンか様式ドリブンか

『2.金融業のイノベーションを誘導するものは何か?』という所から少々。

『イノベーションとは、顧客のニーズにより良く応えるために、ビジネスの方法を変えることを意味しています。それは絶えざる適応のプロセスであり、その過程で生じる変化は漸進的( incremental )、あるいは非連続(discontinuous)な性格をもっています。こうした点では、金融業も例外ではありません。』

ということで、イノベーションの具体例の話ですが、最初は技術革新による例ですな。

『それ以来、金融業におけるイノベーションは今日まで続いています。銀行が取り扱う書類の量は減少し、取引記録はコンピューター・システムで集中管理されるようになりました。ATM の出現は、それまで人手によって行われていた作業の大部分を不要なものとし、我々の財布の中では、各種のプラスチック製のカードが銀行券や硬貨以上に重要な意味をもつようになっています。こうした変化は、従来と同等、あるいは従来よりも優れた金融サービスを、顧客がより低いコストで享受することを可能にするものであり、言葉の通常の意味において、まさにイノベーションと呼ぶに相応しいものです。従って、この種のイノベーションの経済厚生上の効果について、我々が疑念をもつことは殆どないと言ってもよいでしょう。』

まあ書類って減ったかという気もしますが(^^)、技術革新によるイノベーションについては仰る通りで。

『むしろ我々が懸念するのは、銀行業の中でも「ロケット・サイエンス」と称される側面と結び付いたタイプのイノベーションです。』

キタコレ。

『ここではデリバティブ取引を例にとって考えてみましょう。1990 年代の初頭、各国の中央銀行が初めてデリバティブ取引に関心を向けるようになった際、多くの専門家は「デリバティブ取引とは、リスクを分解し、それらのリスクを引き受ける意思と能力のある主体に低コストで移転することを可能ならしめるもの」と説明していました。』

『経済主体のリスク選好が多種多様であることを踏まえれば、デリバティブ取引を通じて実現されるリスクの再配分は、経済厚生を高めるものと考えられた訳です。さらに、こうして効率的なリスク再配分が可能となる結果、金融システム全体もショックに対する耐性を高めるという点が強調されました。概念的に考える限り、こうした立論は理解できるものですが、実際には想像を超えるような失敗例も発生しています。』

『このような点を踏まえると、「全ての金融イノベーションが同じような働きをする訳ではない」という考え方にも与したくなります。イノベーションの中には、問題なく受け入れることができるものがある一方で、当局による慎重な監視や規制、さらには全面的な禁止に服すべきものもあるということかも知れません。』

ということで・・・・・

『この問題を考えるに当たっての1つのアプローチは、「何がイノベーションを誘導しているのか」という点に着目するものです。イノベーションについては、技術誘導型(technology-driven)のイノベーションと、様式誘導型(modality-driven)のイノベーションに分けて考えることができるように思います。』

ほうほう。

『技術誘導型のイノベーションは、新しい技術の応用によってビジネスの方法が改良される際に現れるものです。銀行のATM は、その代表的な事例と言えるでしょう。一方、様式誘導型のイノベーションは、ビジネスのプロセス自体を再編成することを通じて、その改善を図るものと位置付けられます。例えば、デリバティブ取引がなくても金融リスクを移転することは可能ですが、デリバティブ取引を利用すれば、リスクの移転をより効率的に行うことができるようになります。技術誘導型のイノベーションと様式誘導型のイノベーションは、相互に重なり合う側面もありますが、イノベーションの意義を考えるに際しては、両者を分けて考えることにも、一定の意味があると思います。』

なるほどなるほど。

『一般的には、様式誘導型のイノベーションより、技術誘導型のイノベーションの方が受入れやすいという面があるように思われますが、だからといって、様式誘導型のイノベーションが本質的に好ましくないということではありません。経済厚生を高めるという点では、様式誘導型のイノベーションも技術誘導型のイノベーションと同様に有効な場合があるでしょうし、利用の仕方を誤れば、どのようなイノベーションであれ、有害なものになりかねないリスクを孕んでいます。』

一々ごもっともである。

『もっとも、そうしたリスクを否定することはできないものの、そもそも革新的な商品やサービスであれば、それに満足する顧客の方が不満をもつ顧客よりも遥かに多いと考えられますし、買い手責任(caveat emptor)に立脚した議論を展開することも可能です。あるいはまた、リスクが顕在化した場合でも、「単に不運に見舞われただけだ」という解釈もあり得るでしょう。』


・イノベーションをする際のインセンティブ構造に着目すべきである、という話

で、その続き。

『しかし、我々はこうした議論をすんなり受け入れることができるでしょうか?仮にこの問いに対する答が「YES」であれば、我々に求められることは、幾ばくかの監視強化の努力と、金融教育面の改善に留まりそうです。しかし、本日この場に集まっておられる皆さんが、こうした考え方で満足されるとは、私には思えません。』

『現代の金融業には、金融技術の誤用や悪用を誘発しかねないような、インセンティブ構造上の問題点はないのでしょうか?仮にそうした誤用などがないとしても、一握りの専門家しか理解できないような複雑な金融商品を生み出し、イノベーションという名の下にリスクの所在を曖昧にするインセンティブが存在しているという現実を前に、我々は手を拱いていてよいのでしょうか?これまで我々は、あまりにも多くの「100 年に一度の事象」に遭遇してはいないでしょうか?』

何というイイハナシダナー(;∀;)(皮肉じゃなくて真面目な意味で^^)ということで、次の小見出し『3.誰がイノベーションの恩恵を受けるのか?』になるのです。

『ここまで、私はイノベーションの目的については、敢えて明言することを避けてきましたが、そもそも金融機関はなぜイノベーションを行うのでしょうか?「イノベーションはビジネスの方法を改善する」と言われますが、具体的には何を改善するのでしょうか?』

ということで金融機関の金融仲介機能という基本的な部分に関する話を説明していますが、まあその辺はスルー致しまして。

『こうした見方に立って考えると、金融業のこれまでの変遷の中で、我々が必ずしも好意的に評価できないような事例があったことの理由も、改めて理解することができるようになります。つまり、金融機関が提供する商品やサービスが、金融仲介や決済の円滑化という本来の機能に根ざしていない場合に、問題が発生すると考えられます。金融機関が顧客の、あるいは、広く社会全体のニーズを見失うと、せっかくのイノベーションも価値を失うばかりか、時には有害なものにさえなりかねません。』

つまりさっき思いついた下らない例えに直せば金融機関という部分をおまいらの会社の企画部門と読み替えてみるとだな、つまりは(以下猛烈な勢いで自主規制)。

『この点、技術誘導型のイノベーションは、新しい技術を考案する段階で顧客のニーズを考慮に入れることが多いため、社会的にも有用である蓋然性が高いと考えられます。これに対し、様式誘導型のイノベーションは(後述する証券化が典型例ですが)既存のビジネスを切り出して分解するケースがあり、そこでは、ややもすれば顧客の存在を忘れがちになる可能性が潜んでいるのではないでしょうか。』

キタコレ(・∀・)

『例えば、「証券化」と総称される金融イノベーションは、今回の危機を引き起こす一端になったという汚名を着せられています。しかし、もともと証券化は、貸し手のリスク選好(許容度)と借り手のリスク・プロファイルの間に存在するギャップを埋めることに主眼があり、理念的に考えれば、有益な機能を担うと言えるものです。』

確かに仰せのとおりである。

『証券化がこうした機能を正しく発揮するためのおそらく唯一の条件は、これをアレンジする投資銀行が、証券化商品の全てのトランシェについて買い手を見つける必要があるという点です。』

この点に関してはあたしゃ「金融機関の金融仲介機能」という文脈で証券化を考えた場合に左様でございますなとは思いますが、ただまあ金融機関のバランスシートのスリム化とかそっちの観点からは別の意見がありそうに思える所でして、証券化ビジネスの人たちの見解を聞いてみたく存じます次第ですがまあ先に続きます。

『この点に照らしてみると、今次危機において大きな経済的苦痛をもたらす結果となった再証券化商品の中には、疑問を持たざるを得ないものがあるのも事実です。なぜならば、そうした商品には、売れ残った証券化商品のトランシェ、投資銀行が買い手を見つけることができず、自らのバランスシートに抱え込むことも躊躇せざるを得ないようなトランシェが含まれているからです。』

『「金融イノベーションは金融仲介を通じて社会厚生を高めるもの」という点を踏まえると、イノベーションの功罪を考えるに当たっては、それが金融仲介とどのような関わりを持っているかという点が、議論の出発点になるべきではないでしょうか。このことは、特に様式誘導型のイノベーションの是非を考える際に、重要な意味をもってくると思われます。』


・中央銀行の対応について

『4.望ましくない結果にいかに対応すべきか?』という小見出しの部分になる。

『しかし、幸か不幸か、今や金融の世界は高度に複雑化しており、1つ2つの簡単なテストによって、小麦(有益なイノベーション)と籾殻(有害なイノベーション)を選り分けることは不可能となっています。この点に関連する最も難しい問題の1つは、ある種の金融商品なり金融取引が「公共財(public good)」を提供している ―― すなわち、流動性や価格発見機能の向上を通じて市場機能を高めている ―― と称される場合に、我々はどのように対処すべきかという問題です。』

でまあ具体例もまあなるほどこういう論点があるのかと思ったので引用するだよ。

『例えば、株式市場で話題になっている高頻度取引(high-frequency trading)を例にとってみると、ここでは取引の大半がネットアウトされるため、実質的な金融仲介は行われていないと考えられます。従って、高頻度取引によって取引の執行速度が増しても、社会的な有用性は乏しいと論じることも不可能ではありません。』

ドヤ顔でアローズ導入している東証が憤死しそうな論点(^^)。

『他方、高頻度取引が小刻みな取引を繰り返すことで市場の価格発見機能が向上し、市場参加者にも便益が及ぶという議論を展開することもできるでしょう。株式市場が貯蓄主体と資本を必要とする企業との間で直接的な仲介機能を果たしていないからといって、株式市場自体の有用性を疑う人はいません。』

そらそうですな。

『株式市場にバイ・アンド・ホールド型の長期投資家しかいないとしたら、市場の流動性、すなわち、迅速な取引機会の提供(supply of immediacy)は著しく制約されることになります。株式市場で活発な売買が行われているという事実によって、企業の資本調達活動が後押しされている面がある訳です。』

日本債券市場ェ・・・などと言ってはいけません^^;ってまあ具体的例に関する論点でもまあ色々あるのね、と思いつつでは政策当局はどうするのかという話ですが。


『難しい問題ではありますが、金融機関のリスクのある行動を承知しつつも、最善の対応策が簡単には見つからないことを理由に、政策当局者がこれを黙過するとすれば、こうした態度は許されないでしょう。そうした場合、我々は次善ないし次々善の解決策を見出す努力をしなければなりません。』

なるほど。

『個々のイノベーションがもつ経済厚生上の効果については、見識ある論者であればあるほど多様な意見が存在し、見解の一致は期待し難いものです。そうであれば、むしろ金融業における様々な変化 ―― 特に様式誘導型のイノベーション ―― の背後にあるインセンティブ上の問題を考察することこそが有益かも知れません。というのは、しばしば観察されることですが、様式誘導型のイノベーションには、金融業に課される各種の規制や税制、あるいは会計基準の抜け道を探すことを目的に考案されるという側面があるためです。ルールに対する潜脱を意図して考案されるこの種のイノベーションには、経済に蓄積される過大なリスクを覆い隠し、いずれは深刻な結果をもたらす可能性が潜んでいますが、この点は今回の危機から得られる教訓の1つでもあります。』

うーむ。まあここでも指摘されているように、じゃあ証券化を行わなかったらバランスシート制約によって金融仲介機能が拡大できませんでしたねというような言い方だって出来る訳でございまして、この辺りに関しては中々一筋縄ではいかない論点ではないかと思われますがどうでしょうかね。


・ということでまとめは「金融業のインセンティブを把握する事」のようである

『冒頭で申し上げたように、イノベーションは経済成長の鍵となるものです。この点は金融イノベーションも同様ですが、金融イノベーションの場合は、「他の経済主体の活動をサポートする限りにおいては」という前提条件が加わることを忘れてはなりません。』

ほう。

『市場経済の「見えざる手」は、金融業の利益と社会全体の利益を合致させる方向に作用し得るものですが、今回の危機で明らかになったように、金融機関のインセンティブが歪められている(improperly aligned)と、「見えざる手」が本来の機能を発揮できなくなるケースが発生します。』

ふむふむ。

『それだけに、金融機関の経営陣には、自社の職員やトレーダーが新しい金融イノベーションに基づく商品を提案してきた際に、その商品が経済全体にどのような形で付加価値を生み出すのか、金融仲介をどのように容易化するのかという点について、思いを巡らせ、そのうえで販売の是非に関する判断を行うことが求められます。』

いや申し訳ないがそれを金融機関に求めるのは無理だと思う、正直言って(-_-メ)

『他方、中央銀行には金融業のインセンティブ構造を正確に把握することが求められますし、金融機関の行動インセンティブが歪められ、その結果、社会全体の利益を損なうような様式誘導型のイノベーションが生み出されていないかという点にも、注意を払うことが必要となります。』

さいですな。


・そしてどさくさに紛れてしらっとこんな事を・・・・・

で、その次にしらっとこんな話が。

『そうした努力を通じて、我々は特定の政策措置が意図せざる形で社会厚生を損なうという事態―― 例えば、極端な金融緩和政策を長期間に亘って継続するとか、「最後の貸し手機能」に代表されるセーフティ・ネットを必要以上に広範に提供するといった事態 ―― を回避することができるのではないでしょうか。』

全体的にはイイハナシダナーが続くのですがどさくさに紛れてこれはwwwww

でまあ後は最後のご挨拶なので割愛ですが、『今次危機を受けた銀行規制の強化に伴って、新たなリスクの芽が伝統的な銀行部門からシャドー・バンキング部門へ移転していないかという問題は、今後の課題の1つと言えるでしょう。』というくだりは何かまた妙な規制の強化の香りが銀行&証券業界以外の金融業界にも降ってきそうな悪寒が致しまして、最後の最後の部分でちょっとこうアレな部分がある講演なのでございました。

#ということで結局講演を6割がた引用するという暴挙をしてしまいました大変すいませんすいません

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2011/11/09

お題「追加緩和決定の総裁会見はロジカルハラスメント質疑が見ものである(相当遅れましたが・・・)」

虫干しネタで恐縮至極でございますが、まあ欧州ネタ以外では国内債券市場ちゃん相変わらず息をしてるんだかしてないんだかワカランチ会長でイマイチネタに乏しいので勘弁ということで。

○決定会合後の総裁会見から:ロジックが益々苦しくなってまいりました

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1110c.pdf

・まあ円高に関する質問が冒頭なのはそうですなという感じですが

最初の質問が想定通りのこれですな。

『(問) 足許、歴史的な円高水準が続いていますが、このタイミングでの追加緩和の背景には、この歴史的な円高の水準の影響を強く意識した結果という理解でよろしいでしょうか。』

『(答) 今回の金融緩和は、先程申し上げた経済・物価情勢を踏まえて、決定したものです。もちろん、為替の円高は、経済・物価の見通しに影響を与える1つの要因ですが、これだけではありません。欧州の経済情勢、欧州のソブリン問題が日本の経済に与える影響などを勘案しました。8月の緩和では、先々のリスクを相当程度、前広に織り込んで緩和を決定しましたが、そうしたリスクの一部が既に顕在化してきている上、先々の経済を考えた場合に、下振れリスクをより意識したほうが良いと考え、今回、緩和を決定しました。』

ということで、まあいつもの事ですが円高のせいだけではありません、という事なのですが、先日(ってだいぶ前ですが)ご紹介した展望レポートを見ると確かに下振れリスクの指摘は満載なのですが、一方で先行きの見通しが単に後ずれしただけという結果になっておりまして、いやあのそれで一々追加緩和するのですかってな話になりますと、まーロジック的にだんだん「円高で緩和という訳ではありません」というのが苦しくなります罠と思われるのですが。


・しかし下振れリスク対応ならリスク性資産の購入の方が筋のような気もすんだが

次の質問はこんなのでした。

『(問) 基金増額の規模について、今回、10兆円という提案が委員の中からあったようですが、結果的に5兆円という規模になりました。また、買入れの対象を長期国債にした理由と狙いについて、少し詳しくご説明頂けますか。』

『(答) 先程の説明とかなり重なりますが、今回、買入基金の増額を行う前に、枠の余裕が10兆円ありました。そのもとで買入れを行っているわけですが、今回、先程申し上げたような経済・物価情勢のもとで、私どもとしては金融緩和の強化が必要であるとして、さらに5兆円を上乗せしたということです。昨年10月に包括緩和を始めた時に、リスク性資産を含めて幅広い資産を買って、長めの金利に働きかける、あるいはリスクプレミアムに働きかけることを行ってきました。現在の金融環境をみると、CP、社債の市場は非常に円滑に回っています。従って、このリスク性資産を強く意識して緩和を行わないといけないという情勢ではありません。従って、リスクフリーの金利である長期国債金利に働きかけて、それを通じて、満遍なく緩和の効果を及ぼしていくことが適当だと判断しました。』

まあ何ですな、確かにCP、社債に関しては既に日銀の買入が民業圧迫状態になっているのはその通りですが、ETFはどうした????と思う訳でございますし、そもそもそれを言い出したら中長期の金利だって十分低水準にある(まあ確かに上昇するとマズーであるので買入強化という理屈は成り立つが)と思いますし、基本的な景気の先行き見通しに変化が無いのであれば短期金利操作という伝統的政策の近傍ともいえる「長期金利への働きかけ」よりはETFの買入のような非伝統的政策の方が話が通っているんじゃないのでしょうか??というまあ言ってるあたくしも屁理屈を捏ね繰り回していますが(^^)、どうなんでしょうね、とは思います。

#まあとりあえず円高だし外野がうるさいから一番副作用のなさそうなのを実施する、という文脈で実施というのであれば2年国債オンリーというのは理に叶っていますが^^


・これはロジカルハラスメント質問(^^)

この質問はワロタ。

『(問) 今回決めた基金の5兆円増額が、今回の展望レポートで示された、今年度、来年度と下方修正になっている見通しについて、例えば、経済成長率をどのくらい押し上げるものなのか、その効果について総裁のお考えをお答え下さい。また、今回、長期国債の買入れが増額対象になるわけですが、これがマクロ経済へどのように影響していくのか、もう少し分かりやすくご説明下さい。』

どう見ても嫌がらせ質問です本当にありがとうございました。

『(答) 1問目と2問目を、まとめてお答えしたいと思います。現在の包括緩和のもとで、長めの金利に働きかける、あるいはリスクプレミアムに働きかけることを通じて、全体としていわゆる金融環境――英語でファイナンシャル・コンディションズと呼びますが――、に働きかけて、それを通じて実体経済に対してプラスの影響をもたらしていこうというのが、基本的な考えです。』

はいはい。

『今回、残存1〜2年の国債に限定して買入れるということは、このゾーンの長期金利をその分引き下げる、働きかけるという効果があるわけです。そのことが、そのゾーンに隣接したゾーンの金利にも影響を与えていくということです。それからさらに、民間企業の資金調達コストは、リスクフリー金利に信用スプレットが乗るわけですが、ベースとなる金利が下がることによって、それが企業にも均霑していくということです。これがコストを通ずる効果ですが、もう1つ、現在のように不確実性が高い局面で、日本銀行が経済の下振れリスクに配慮して金融緩和措置を採ったということそれ自体が、やはり安心感に繋がっていくと考えています。』

いや多分下振れリスクに配慮じゃなくて円高で外野がうるさく押し込んできて・・・と世間は思っていると存じますけれども。もし下振れリスク配慮だったら直前に出てたさくらレポートとか何であんなに堅調な内容なのよと思うのですけれどもねえ(ニヤニヤ)。

『量的な形でその効果をうまく検証できないかというお尋ねです。もちろん可能であればそうしたいわけですが、FRBのQE2についてもそうであるように、なかなか定量的な評価をしにくいと思っています。』

最近はFRBが時間軸効果だの言い出す始末ですからすっかりFRBを引っ張り出して説明する技を繰り出すようになってきましたな。

『もちろんQE2についても、いわゆるイベントスタディ、つまり政策措置を発表したその日の金利の変化幅から効果を推測するという方法で若干の定量的な評価結果も出されています。ただこれは、その日のいわば瞬間的な効果だけを取り上げたものですから、少し長い目でみて、どれくらいの効果があるかを測ったものではありません。それから、ましてや金利の低下が実体経済にどれくらい影響を与えるかについては、今のところ私の知る限り、しっかりとした分析はないように思います。もちろんある程度データがまとまってくれば、そういう分析も可能かと思います。そういう意味で、私どもとしては定量的にはなかなか示しにくいところはありますが、先程申し上げたルートを通じて経済を下支えする効果はあると考えています。』

まあ結局これはこう言うしかないですな、うんうん。正直でよろしい。


・更にロジハラは続く

次の質問。

『(問) 2点お伺いします。1点目は、来週、FRBがFOMCの開催を予定しており、市場でも金融緩和観測が出ていますが、このことが今回の政策決定に影響を与えたのでしょうか。2点目は、今回の資産買入れは、2年物を中心としたゾーンに働きかける狙いがあるという話がありました。以前、総裁が2年物の日米金利差と為替相場の連関性が比較的高いという趣旨の発言をされましたが、今回の措置が為替相場に働きかける影響を考慮したのかについて、お伺いします。』

「以前このようにお話になっていましたがその点に即しましてご説明ください」というのが日銀(というかこれは政府とか他の中央銀行とかもそうだと思いますが)からしたら一番アチャーな質問なのですけれども、まあ一方でどこぞの電波浴推奨新聞での日曜経済教室(そういや最近読んでなくて電波浴が不足しているので毒成分が足りないなあと突如おもったあたくし)のように、以前の話どころか一本の話の中でも整合性が取れないような話が平気で横行するのが金融政策とか金融市場を巡る言説を見てて頭が痛くなる所ですが、と関係ない悪態ですかそうですか。

『(答) 次回のFOMCでどのような金融政策上の決定がなされるのかについては、もちろんコメントすることは不適切ですが、どの国の中央銀行も世界経済全体の状況をみて自国の金融政策を決定しているわけです。その意味で、各中央銀行がみている対象は当然同じですので、ある意味で、FRBも――日本銀行の行った金融政策に影響を受けているという言い方が良いかどうか分かりませんが ――、基本的に同じデータ・情報をみているわけです。その意味で、日本銀行の金融政策は、FRBがみている金融経済情勢も含め、入念に点検しているということです。』

まあここまではそういう答えだわなという部分。で、この先が2年金利の話。

『2年物金利については、この席で何回か申し上げたことが2点あります。1点目は、日本の場合、企業の借入れの平均期間は米国と違い随分短いということです。米国の場合、企業は社債による調達が多いですし、住宅ローンについても固定金利30年という長い期間での借入れが多いわけです。従って、より長い金利に働きかけることが、米国経済を考えれば合理的な判断です。一方、日本の場合、統計上の制約があるので細かな部分までは分かりませんが、3年以下のゾーンの借入れが多いということです。』

じゃあなんで3年にしないのかというツッコミは後で飛んでいるのでお楽しみに(^^)。

『2点目は、いつもそうだと言うつもりはありませんが、最近、為替の面でも、分析結果からみれば、2年物の内外金利差との相関が相対的に高いということです。ただ、先程、別の記者のご質問に答えた通り、為替相場を規定する大きな要因は、現在は安全資産選好、つまり世界経済全体を巡る不確実性が大きいということであると感じています。』

こういう所って白川総裁は(元々の緩和決定がロジック的にアレなので仕方ないのですけれども)かなーり苦しいロジックの中でもロジックが中々破綻しないというのがある意味凄いなあと感心する所でありまして、つまり「今回は2年債の買入を拡大しましたが、別に直接的な為替対策でやった訳ではありませんよ、だって足元の円高の理由は2年債の金利差ではないですから、それよりも企業の借入金利などの金融環境の緩和によって下振れリスクを回避するための施策なんですよ」というのが今回の追加緩和措置の背景説明となる、ということで、まー見事なまでに話の整合性が取れているのがオソロシス。

これが俊ちゃんだと大体どこかでロジックに整合性が無くてあたくしの悪態の格好のツッコミネタになるのですが、さすが貫録の麿という感じでございまして恐るべしであります、ってまあ才能の無駄遣いのような気もしますが・・・・・


・ところで今回は何で5兆なんですか?というロジハラ質問が続く

更に次の質問。

『(問) 総裁は、8月に10兆円の基金増額を実施した段階で、相当前広にリスクを織り込んで追加緩和を行ったと言われました。今回、5兆円追加したわけですが、8月と今回を比較して、どのような点が大きく変わったのかについてご説明下さい。』

前回のお話との整合性ツッコミの続きがキタコレ。

『(答) 8月の情勢と現在の情勢を比較して、何か大きな変化があったと思っているわけではありません。8月の段階で織り込んだリスクが、現実に顕在化してきているということです。ただ、問題となっている欧州の情勢について、8月の決定会合の段階から今日に至るまでのプロセスを考えてみると、やはりさらに厳しさを増してきたというのが、ごく直近までの変化だと思います。欧米の金融市場はやや緊張感を高めている一方、今のところ日本の金融市場は非常に安定していますが、先々の下振れリスクを考えた場合、ここでもう一段の追加緩和を行った方が良いという判断になりました。』

ということでプリエンティブな対応を主張しておりますが、前広に実施したのに更に前広に追加実施というのもまあ何ですな、大体からして基金増額した分の執行が全部終わっている訳でも無いのですが、とかあまり意地悪に突っ込んでも何ですのでそういうツッコミはしないという事かとは存じますが(^^)。

話はずれますけど、まーこういうロジック的に突っ込んで行く質問って先日ネタにしたECBの会見とかでも割とありますが、その一方で米国の場合はその辺寛容ですなあとか思うのですが、これはまあそこまでの実績とか、結果良ければすべてよし的な考えなのかつらつらと考えますと、その辺って研究(?)課題にならないかなとか思うのでありました(^^)。


・この質問もワロタ

なお次の質問。

『(問) 質問が重なってしまうかも知れませんが、そもそも論ですが、宮尾委員が本日、10兆円の増額を提案されて否決されています。しかしながら、本日増額を決定した金額は、例えば2兆円でも3兆円でもなく、10兆円でもなく、なぜ5兆円だったのでしょうか。合理的な説明をお願いします。』

ニヤニヤ。

『(答) 多分、同じように、FRBのバーナンキ議長に、QE2は、6,000億ドルですが、なぜ5,000億ドルではないのか、なぜ7,000億ドルではないのか、と聞いた場合に、正確に6,000億ドルと、ピッタリと方程式で答えられるものではないと思います。ただ、従来、日本銀行は、増額する時に5兆円の刻みで行いました。8月の段階では、先々相当リスクが高まるということで、それを思い切って10兆円にしたということです。今回もリスク認識としては引き続き厳しいものを持っていますが、前回増額した枠のもとでこれからまだまだ買入れを進めていくという段階ですから、そういう意味で5兆円にしたということであって、なぜ4兆円ではないのか、なぜ6兆円ではないのか、というのは、なかなか表現するのが難しいところです。』

さすがにこれは気合ですとしか答えようがないのですが、それでも何か理屈を繰り出す所が麿クオリティで落涙を禁じ得ません。


・3年を買わない理由はスルーですかそうですか

『(問) 2点伺います。買入基金では、国債の年限を残存2年以下と限っていますが、その理由と、年限をもう少し延ばしても良いのではないかとの意見もあると思いますが、総裁のご意見をお聞かせ願います。また、展望レポートで2013年度の物価見通しを示されていますが、日銀が考える物価安定の理解と比べての評価をお聞かせ下さい。』

ということで後半の方は兎も角として前半の方ですが。

『(答) 期限についてのご質問は、先程のご質問でお答えしたことに尽きます。(以下後半の質問の答えなので割愛)』

・・・・・ということで、まあその点に関してはゴリゴリ突っ込まれると答えに困る部分もあるのでスルーしたという風情ですな。

つーかですな、「企業金融がどうのこうの」「住宅ローンなどの金利がどうのこうの」というような論点をあまり出していきますと、じゃあTIBOR下げさせればエエンちゃいますかという地雷な論点に繋がる可能性がある訳でございまして、TIBOR云々と言えば前の金融市場局長がロイターで面白インタビューを行って短期市場の一部に局地的な騒動を起こしていましたなあというのを懐かしく思い出すのであります次第でありまして、まあこの辺りの論点ってあまり明快化してゴリゴリやると、じゃあ結局金融政策でそれができるのかねという話になってくるネタでもありますので、あまり突っ込まない方が吉、ということなのでしょうし、だからこそ白川総裁もここの論点については細々とは話をしないんでしょうな、というのは把握しました。

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2011/10/12

○総裁会見がこれまた量はあるけどインプリケーションらしきものが・・・・・

正直今回の会見は困った。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2011/kk1110a.pdf

今回の会見は全部で16ページもあるのですが、何か特段面白い話とか面白い部分が見当たらないというネタ的には困ったちゃんなのですが、今回は短答の質疑応答が少ないというのが印象に残るところ。

でそーゆー流れですからして、質疑応答の流れを見ても「辛辣な質問」→「やや苦し紛れに答える」→「更に突っ込む」→「麿はトサカに来たでおじゃる」という場面が全く見られず、質疑応答が一本一本ブチブチと切れていて流れというものが無く、どう見ても麿の独演会です本当にありがとうございましたという風に思ったのですけれども違いますかね???

ということで苦し紛れにちょっとだけ引用。

・下方リスクに関しては普通に強調

実質最初の質疑応答部分から。いきなり麿の演説が始まるので段落分けする。

『(答) 最初に、世界経済について申し上げたいと思います。世界経済の成長率は、先進国を中心に減速傾向にあります。欧州については、ソブリン問題の拡がりが、金融市場の動揺や企業・家計マインドの悪化を通じて、実体経済にも影響を与え始めていることもあり、景気は横這い圏内の動きとなっています。米国経済についても、雇用の改善テンポが依然として緩慢な上、家計のバランスシートや住宅市場の調整が長引くもとで、回復感に乏しい状態が続いています。新興国・資源国経済では、金融引き締めや先進国経済の減速の影響などから、幾分減速していますが、旺盛な内需を背景に総じて高めの成長が続いています。そうしたもとで、新興国・資源国の多くは、引き続きインフレ圧力が強い状態にあり、今後、物価安定と成長が両立する形でソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高いと考えています。』

『以上のように、世界経済の先行きに関する不確実性が高まっており、これを背景に、為替・金融資本市場では、グローバルな投資家がリスク回避姿勢を強めています。世界的に株価が下落しているほか、為替市場でも、円が相対的に安全な通貨として認識されて、買われやすい地合いとなっています。』

『こうしたグローバルな金融経済情勢の影響は、当然、わが国経済にも及んできます。この点、少し前まで、日本経済の動向は、主として、震災による供給面の制約をいかに早く解消できるかにかかっていたわけですが、供給面の制約がほぼ解消された現在、需要面の動向、とりわけ海外経済情勢の重要性が増しています。従って、先程申し上げたような海外情勢を巡る不確実性や、それらに端を発する為替・金融資本市場の不安定な動きを考えると、日本経済については、下振れリスクをより意識する必要があると考えています。』

『先程申し上げましたが、8月の金融政策決定会合において、今申し上げたような展開になる可能性があることも予想しながら、金融緩和措置を一段と強化しました。現在はそのもとで、金融資産の買入れ等を進めているところです。今後とも、常に最新の情勢を踏まえつつ、先行きの経済・物価動向や、それを巡るリスクについて、注意して点検していきたいと考えています。』

ということでのっけからやたら長い話(質問は「海外経済動向を勘案した場合に日本経済のリスクが高まりましたか」というもの)になっていますが、まあ今回このように大演説になっていますが、要するに「少し前まで、日本経済の動向は、主として、震災による供給面の制約をいかに早く解消できるかにかかっていたわけですが、供給面の制約がほぼ解消された現在、需要面の動向、とりわけ海外経済情勢の重要性が増しています」という部分がポイントで、海外経済動向が重要ですよ、という大演説モードになっている訳です。

まあ意地悪く申し上げると、海外経済動向が問題なんですよ日本単独でやるとかましてや日銀単独とかでやることって限定的なんですよ判りますよね。というようなお話をしているとも言える訳でして、日本だけの問題じゃないんですよ的な責任分散モードになっているとか言うのは酷ですねそうですね。


・金融政策の効果に関して

包括緩和1年でどうですかという質問に対しても演説モード。

『振り返ってみると、包括緩和採用後の1年間は、東日本大震災や欧州のソブリンリスク問題をはじめとして、日本経済にとっては、非常に強い逆風にさらされた1年間であったように思います。従って、包括緩和だけの効果を捉えることは難しいわけですが、企業の資金調達コストの低下を促し、市場参加者のリスク回避姿勢を和らげるなど、緩和的な金融環境を実現する上で、一定の効果を上げてきたと思います。』

まあそらそうです。

『金融政策で最終的に実現している金融環境について、国際比較をしてみると、例えば銀行間取引の緊張度を示すLIBOR-OISスプレッドをみても、米ドルとユーロは夏場以降、拡大していますが、日本円のスプレッドは安定しています。リスク性資産についても、例えば、AA格の社債利回りの対国債スプレッドは、8月初から足許までの間に、欧州では1.7%程度から2.9%程度までに、米国では1.4%程度から2.2%程度までにと、それぞれ上昇していますが、わが国では0.3%程度の低位で安定しています。実際の社債発行金額でみても、米欧市場では8月以降、発行量が急減していますが、わが国では電力という特殊事情のある業種以外は、8、9月とも、前年を上回っています。』

まあ何ですな、こういう数字を出すの得意ですなあ総裁ってと思う次第ですがそれはともかくとして、この辺の金融環境に関する部分って金融政策の効果というよりは邦銀の資本が欧米のそれを比較して充実していて、ファンディングに関しても問題が無いという面もあるような気がするので、全部が包括緩和の効果というのも(欧米と比較という文脈で考えた場合)ちと違うような気がせんでもない。どちらかと言えば銀行の資本の充実度の問題ではないかと。

『ただし、こうした極めて緩和的な金融環境にもかかわらず、実体経済が本格的に成長していくことになかなかつながっていかないことが、大きな課題としてあります。私どもとしては、この極めて緩和的な金融環境を最大限に活用して頂きたいと思っていますし、またそのためには、かねてから申し上げているように、様々な成長力強化に向けた取組みが不可欠です。』

成長基盤強化キタコレ。何か最初は追加緩和の方便で苦し紛れに出したっぽい印象を与えていたのですが、今やすっかり麿の十八番となっております成長基盤強化の理念に合致した施策となっておりまして、この成長基盤強化貸出制度をひねり出した日銀の中の人(どうせ企画のエライ人でしょうけれども)って何というか凄いとしか申し上げようが無いざんす。

『バーナンキ議長は、今週、議会証言を行い、「金融政策は万能薬ではない。様々な取組みが必要だ」ということを強調されていますが、そうした証言を聞きながら、私自身の思いと非常に共通していると感じた次第です。』

そしてバーナンキ議長の「金融政策は万能薬ではない」引用がキタコレという所でありまして、もう何か麿のドヤ顔が目に浮かぶような話の展開ではございましたとさ。

#とここまで書いたら時間が無くなったのですが、明日に続くかどうかは他のネタの出方次第

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