決定会合議事要旨や金融経済月報などについて(2008年度上期に書いた分)

トップページへ

見出しのページはこちら

2007年下期はこちら
2007年上期はこちら
2006年下期はこちら
2006年上期はこちら
2005年下期はこちら
2005年上期はこちら
2004年下期はこちら
2004年上期はこちら
2003年下期はこちら

2008年上期の見出し

2008/09/30「ドル資金供給オペの拡大」
2008/09/25「8月決定会合議事要旨から」
2008/09/21「臨時政策決定会合でドル資金供給オペレーション実施を決定」
2008/09/20「9月通常金融政策決定会合、声明文及び金融経済月報に関して」
2008/09/12「コール市場に関する日銀レポート(メモ)」
2008/09/08「日銀レビューから、証券化取引に関して」
2008/08/28「日銀レビューから、銀行券問題&FX取引の市場への影響」
2008/08/25「7月会合議事要旨から」
2008/08/22「金融経済月報、かなり多くの項目で判断を下げています」
2008/08/19「決定会合、順当に判断を下げてきました」
2008/08/18「金融政策決定会合議事録、尾身長官をフォローの巻」
2008/08/14「市場の流動性に着目した金融市場レポート」
2008/08/13「金融政策決定会合議事録、円キャリー取引に関する昔の議論」
2008/08/05「金融政策決定会合議事録、低め誘導時代の金利誘導に関する議論」
2008/08/04「金融政策決定会合議事録、積み上に関する議論」
2008/08/01「金融政策決定会合議事録、無茶苦茶面白いですよ!!」
2008/07/31「最近の各国における金融調節に関する良いレポートが出ています」
2008/07/30「日銀レビューシリーズの英語版がお茶目な件について」
2008/07/29「日銀レビューシリーズ、短期市場における資金需給逼迫のメカニズムについて」
2008/07/24「銀行決算に関する日銀レビューシリーズ/その他」
2008/07/23「下振れ意識高まる6月決定会合議事要旨」
2008/07/18「金融経済月報、前月との比較」
2008/07/16「決定会合、発表内容の変更や展望レポートレビューなど」
2008/07/08「さくらレポートと総裁挨拶」
2008/07/07「生活者意識アンケート」
2008/07/02「さあ日銀短観」
2008/07/01「ヘッジファンドの動向に関するレポート」
2008/06/24「5月会合議事要旨を改めて、景気下振れリスクへの部分を確認」
2008/06/19「4月会合、5月会合議事要旨、既に下振れリスクに警戒モード」
2008/06/16「今回も若干下向きになった金融経済月報」
2008/06/11「リスク・バランス・チャートの解説」
2008/06/10「金融調節に関する解説レポート」
2008/06/09「日銀からペーパー3本」
2008/05/27「下振れ警戒全開の4月決定会合議事要旨」
2008/05/21「月報、生産を下げて住宅と物価を上げる」
2008/05/01「展望レポートはロジックを現実転換」
2008/04/21「さくらレポートは判断下方修正」
2008/04/16「続きと松江支店情報流出の件と」
2008/04/15「3月会合では緩和措置の可能性に言及」
2008/04/10「あちこち下方修正の4月金融経済月報」
2008/04/04「生活意識アンケート」
2008/04/02「短観チェック」

2008/09/30

○ドル流動性拡大策の拡大

金融安定化法案否決もそうですが、実を言えばその前に欧州で色々と大騒ぎになっていた訳でして、東京の夕方には既にLIBOR1か月やらEURIOR1か月やらが上昇したり、アイスランド第3位の銀行が公的管理(政府が株を75%取得)されてみたり(日曜にはフォルティスの部分国有化とかもありましたが)と、インターバンクのドル資金取引枯渇状態は欧州の方が深刻っぽい感じがしますわなということで。どこぞの銀行の資金繰りがどうのこうのとかいうネタはどうせ向こうじゃ頻発してるんでしょうねえ。

んな訳でこんな施策が昨晩も出ていたようで。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/mok0809c.pdf
「米ドル資金供給オペレーション基本要領」の一部改正等について

何と昨日の夜も決定会合やってたのですか。それはまたお疲れ様でございます。

『1.「米ドル資金供給オペレーション基本要領」(平成20年9月18日決定)の有効期限を平成21年4月30日まで延長すること。』

期間3か月延長ですかそうですか。

『2.「米ドル資金供給オペレーションにおける貸付対象先選定基本要領」(平成20年9月18日決定)の有効期限を平成21年4月30日まで延長するとともに、別紙のとおり一部改正すること。』

別紙を読みましたが、これは1に付随するテクニカルな文言変更ですね。

『3.「ニューヨーク連邦準備銀行との間の為替スワップ取極要綱」(平成20年9月18日決定)中、4.に定める為替スワップ取極の有効期限を平成21年4月30日とするとともに、5.に定める引出限度額を1,200億ドルに増額し、これに沿ってニューヨーク連邦準備銀行との間のスワップ取極の内容を一部変更すること。』

600億ドルから1200億ドルになりました。3か月のタームオペを100億ドルから200億ドルに増額するのでしょうかね。

こちらが追加対策の声明文。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/un0809d.pdf

トップに戻る











2008/09/25

○8月金融政策決定会合議事要旨

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080819.pdf

8月の金融経済月報は基調判断を変えない中で色々な需要項目の見方を下げまくったという会合だったのですが、議事要旨自体は割とすんなりという感じがします。

・国際金融市場について

『国際金融市場の現状について、委員は、米欧金融機関の損失拡大懸念、世界経済の先行きへの懸念の高まり等を背景に、不安定な状態が続いているとの見方で一致した。何人かの委員は、消費者ローンの延滞増加や商業用不動産の価格下落による引当の増加、A R S( Auction Rate Securities) の買戻し等による米国金融機関の追加損失の発生状況を注視する必要があると述べた。』

とまあ8月の時点ではこういう懸念でしたが、結局のところ問題の出発点でありますところの資産、つまり住宅価格の下落が止まって反転上昇に向かってくれないと問題そのものは解決せんわけで、という議論が行われています。

『米国経済について、委員は、引き続き停滞しているとの認識で一致した。住宅市場の動向について、ある委員は、住宅価格が上昇している地域が増えているなど前向きの動きもみられていると述べた。一方、別の複数の委員は、住宅価格は、全体としてみると大幅な下落を続けており、底打ちの兆しはみえないとの認識を示した。』

『先行きについて、何人かの委員は、減税による個人消費押し上げ効果の剥落、住宅価格の一段の下落、金融機関の貸出態度の更なる慎重化、世界経済の減速等によって、今後、景気停滞が長期化する可能性があると述べた。こうした議論を踏まえ、委員は、金融市場・資産価格・実体経済の負の相乗作用が、いつどのように収束に向かうのか、不確実性が大きいとの認識で一致した。』

で9月にはその不確実性が顕在化しましたということですな。


・各需要項目に関してはブルーな話が続く

8月の月報をご紹介するとき(8月22日の駄文をご参照いただければ)にやや詳しく並べましたので今回は先行きの懸念項目の引用をば。

(輸出)
『ある委員は、先行きの輸出について、欧州経済の減速の強まりやアジアの内需の弱さの影響に注意する必要があるとの認識を示した。』

(設備投資)
『中小企業について、何人かの委員は、エネルギー・原材料価格の上昇に伴う収益の減少により、投資意欲が弱まっているとの認識を示した。』

(雇用・所得)
『ある委員は、企業の支出抑制の動きが人件費にも広がっていると述べた。別の委員は、景気停滞によって、雇用環境の悪化が緩やかに進んでいるとの見方を示した。』

(生産)
『ある委員はI T 関連財を中心とする意図せざる在庫増のリスクには注意する必要があるとの認識を示した。』

なお、ブルーな部分を拾っておりますので、一応ちゃんと全部見てくださいませ。基本的には下向き話が多いですが、「まあそうは言いましても底割れはしませんですなあ」というのが全体を通したトーンであります。


・物価の二次的効果云々の話

『これまでの会合と同じく、エネルギー・原材料価格の上昇が物価全般に与える影響について議論が行われた。』

『複数の委員は、エネルギー・原材料価格高によるコストの転嫁分以上に物価が上がっているか、あるいは、賃金と物価のスパイラル的な上昇が起きているかという観点などから、二次的効果の発生の有無を点検すべきと述べた。これを踏まえ、多くの委員は、コスト転嫁の動きは続いているが、コスト転嫁分以上に物価は上昇していないほか、賃金も上昇していないなど、現時点では、引き続き二次的効果はみられていないとの認識を示した。』

まあそうでございますね。

『このうちの一人の委員は、その背景として、第一次石油ショックの時とは異なり、もともと経済の過熱感がみられていなかったこと、様々な指標から判断すると、現在、経済の過熱度合いを見誤っている可能性は低いこと、労働市場の柔軟性が高まっていることを指摘した。その上で、この委員は、今回のエネルギー・原材料価格の上昇は、新興国を中心とする世界的な需要の増加によって、趨勢的に上昇していることに特徴があり、現在、二次的効果が発生していないからといって、今後、企業や家計のインフレ予想が変化し、二次的効果が発生するリスクへの注意を怠るべきではないと付け加えた。』

・・・・うーむ、この委員って誰だろう?

『別の委員も、世界的な金融環境は緩和的であり、足もと原油価格が下落し、賃金・物価のスパイラル的な上昇がみられていないからといって、インフレ・リスクへの警戒を怠るべきではないと指摘した。』

『こうした議論を経て、ある委員は、二次的効果の把握は難しい問題であるが、様々な指標などから、引き続き丹念に点検していく必要があると述べた。』

ということで、2次的効果に関してはまだまだ先の長い話っぽいですね。


・中小企業の資金繰りに関して

金融経済月報で指摘されていましたが。

『ただし、複数の委員は、建設・不動産業では倒産が増加し、これらの業種では起債環境が悪化していると指摘した。また、ある委員は、中小企業について、金融機関の融資態度も含め、企業金融を巡る環境の厳しさが増しており、今後の企業金融を巡る環境には注意が必要であると述べた。』

ということで、この部分に関しては引き続き警戒でございましょう。中小企業の資金繰りの前に一部業種における起債環境の悪化の方が先に来ている観はございます。

金融政策に関する部分についてはそれほど特筆すべき話も無かったみたいですので割愛。

トップに戻る








2008/09/21

(その3)臨時金融政策決定会合に関して

流動性強化策公表文書
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/un0809c.pdf

ドル資金供給オペレーション実施要綱
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/mok0809a.pdf

ドル資金供給オペの対象先公募要綱
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/mok0809b.htm

総裁会見
http://www.boj.or.jp/type/press/kaiken07/kk0809c.pdf

○凄いスピードですな

一番下の要綱読みますと、木曜の夕方に公表されたこのオペ公募ですが、説明会が金曜の午後2時で、公募締切が土曜の正午、選定先への当選通知が土曜の夜という韋駄天ハインツもビックリの電撃戦でありまして、市場の猛烈なスピードに中央銀行も素晴らしいテンポで対応しているという事ですね。

まー中央銀行ってどこもそうですが、まさしく決済システムの中枢でありますので、そういう点からしますと今般の金融市場における取引の収縮がどのようになっているとか、決済が止まってエライコッチャになっているとか、その戦場状態が体感できているという所なので、スピード感も早くなるという事でしょう。

しかし関連部局の皆様は不眠不休だったりするのではないでしょうか、本当にお疲れ様でございます。いやもう秘密厳守の誓約書入れますから土日祝日手伝いさせてくださいな(無給)とか思うあたくし(一応ネタですが半分本気)。



○オペの概要に関して勝手に妄想

残念ながらあたくしはこの説明会に出席するような立場にありませんので、実務上どうなのという話は詳しく判らないのですが、実施要綱を見ますと、従来の本店オペ先および債券系のオペ先に対してこのオぺを実施ということになりますので、基本的には東京でドル資金調達ニーズのある所はカバーできそうな話。

貸付形式が電子貸付ですからこれも従来のオペと同じようなやり方になりますが、実施するのが国際局ですし、そもそもシステム対応とかできている訳はないでしょうから、応札が電話+紙とかになって、資金決済はNY連銀の口座(自分の所のNY連銀口座またはカストディ経由)で行うという形になるんでしょうかね。

で、担保が根担保形式で適格担保入れますよという話ですから、基本的にこれは「ドルの流動性の無い資産を担保にしたオペ(TSLFみたいな奴)」ではなく「円投でのドル調達を市場調達しなくて済みますよ」という物になります。

実は金曜の短期市場ではFBが全般的に妙に堅調だったのですが、もしかしてこのオペの担保としてFBが使える(上に使い勝手が良い)のでFBを売る人が居なくなったとか、ひょっとしたら換金売りした人の中で買い戻しに回った人がいたとかいう事情があったのかもしれませんなという妄想。(明日の朝のメモで書くもの無くなったらもう一度同じ事書きます)

担保掛目に関しては良く判らないけどこのくらいマージン取っておくもんでしょ。多分ヒストリカルデータからこの位なら過去何年かで何%の範囲内でフルカバーとか計算してるんでしょうから。


○ドルのインターバンク取引レートのストレス軽減目的ですが

基本的にはドルのインターバンクなどの取引で金利がアホほど上昇してしまったのが背景にありますが、それに加えまして(後で引用する総裁会見でも説明がありますが)同じ理屈で円投為替フォワード市場にもストレスが掛かっていますので、そのあたりも軽減されるでしょうというお話。

まーそう考えますと、日本や米国というよりは欧州の方がインターバンクのドル調達圧力が高い次第でして、本件に関しては米国もさることながら、欧州からのニーズも相応に高かったのではないかと思われますがどうでございましょうか。


○規模と額について

これは総裁会見にありますが、(1)9月中に第1回のオペがオファー、(2)1か月もので300億ドル、3か月もので100億ドルのオペを実施、(3)年末越えの時点では500億ドルのオペ残高を予定、という所ですが、スワップ金額は600億ドル取っているので600億ドルに結局増えている予感も(^^)。


○総裁会見より

・今回の協調策の趣旨について

『最初に今回の協調策の趣旨についてです。最近の国際金融資本市場の動きをみますと、短期金融市場における資金調達圧力が持続的な高まりをみせています。すなわち、ドルの短期金融市場ではオーバーナイト物、ターム物ともに金利の急上昇や日中の金利の大幅な振れが目立つほか、年末越えの資金調達にかかる不安感も高まっています。こうしたドル市場における緊張感の高まりは、各国通貨建て市場にも影響を及ぼしています。今回の各国中央銀行による協調策は、こうした短期金融市場の状況に対処し、金融市場全体の状況の改善を目的として、ドル供給スキームの導入やその拡充策を協調して行うものです。』

要するにドルの短期市場での流動性クランチ対応ですと。

『次に、日本銀行が協調策に参加した趣旨ですが、日本銀行としても、こうしたドル市場の流動性の逼迫が円市場の流動性や市場の安定性に対して影響を及ぼす可能性が高まっていると判断しました。こうした判断を踏まえ、金融市場調節を円滑に行い、金融市場の円滑な機能の維持および安定性の確保に資することができるよう、米欧中央銀行の協調行動に参加してドル資金供給オペを導入することが適当であると考えたものです。』

欧米(特に欧州の方が大変だと思うが)のドルファンディングの圧力が日本の円投圧力に波及しちゃったりするのも宜しくないので参加しますっていう感じですかいな。では日本の銀行でそんなドルファンディングで酷いことになっている所があるのかというとそうでも無いみたいで。

『最後に、日本の金融機関──邦銀と呼ばせて頂きますが──の外貨資金繰りとの関係について説明します。邦銀は最近における金融市場の動向を踏まえ、外貨の資金繰りについて慎重な運営を行っており、現時点において邦銀の外貨資金繰りについて特段の懸念を持っているものではありません。今回の本行の措置は、円にかかる金融調節の一層の円滑化を図るとともに、金融市場の円滑な機能の維持および安定性の確保に資する趣旨から実施するものです。(以下割愛)』

ということですので、外銀は兎も角として、邦銀に関しては今般のドル資金市場のシュリンクで直接的に大変な騒ぎになっている訳ではないという話。即ちまあぶっちゃけてしまえば日本の足元は大丈夫ですが国際協調しないと市場が全然落ち着かないから国際協調するって所なのではないかと思料されます(^^)。いやまあその後の質疑応答で「米国から頼まれたのでは」みたいな質問とか出て否定してますけどね。


・円投フォワード調達圧力に関して

何で円の資金供給ではなくドルの資金供給をするのかという質問に対して。

『日本のケースでいえば、相対的に円の市場は安定しており、この円の市場で資金を調達し、先ほど申し上げたとおりこれをドルに変換するオペレーションを行うことによってドルを調達してきたわけです。これまではそうした動きを吸収しながら円の短期金融市場は安定していたという評価が可能だったと思います。ただここに来て、ドルの調達市場が急速にタイト化しており、円をドルに変換する圧力が以前に比べると高まっているわけです。』

『そうすると、この動きに元から対処するためにはドルで供給することが一つの有効な策となります。ただしこれは円の資金供給オペと補完的なものであり、代替的なものではありません。もちろん円の資金供給オペについても現在の状況をみながら丁寧に行っていくつもりです。』

ということで、円投フォワードによるドル資金調達圧力の増大が円金利にも影響を与えかねませんという説明になっています。でもまあ実はその部分だけで言えば円の資金供給オペを親の敵のように打ち込んでいれば平均レートだけは下がりますけど、現状の問題ってオペをやたら打てばよいとか言う単純な話じゃなくて、必要な所に流動性を供給するにはどうしたらよいのかという話になりますので、そーゆー意味でドル供給の意味があるんでしょうかね。


・まあこれは止血措置みたいなもんで

前日の会見では米国の措置を最善と言ってましたが、今日の動きを踏まえてどう思いますかという意地悪質問に対する答えから。

『まず、ドルの短期金融市場において緊張感が高まっているという背景には、今ご指摘のリーマン・ブラザーズの破綻やAIGに対する公的支援等に象徴される一連の出来事があると思います。金融市場の参加者が、相手方と取引をする際のリスク――カウンターパーティリスク――について、意識を高めるということが現実に起きたわけです。AIGの措置について、私は、FRBが置かれた状況に照らして最善の決定だと申し上げましたが、既にあの時点で金融市場が緊張感を高めており、そうした状況のもとで、もしFRBの措置がなければさらに緊張感が高まったと思ったからです。現実には、そうした措置にも関わらず緊張感は高まっているわけですが、だからと言って、金融市場の安定にとって公的支援は意味がないということではなく、やはり意味はあったと強く思っています。』

『その背景についてですが、昨日の話の繰り返しになりますが、金融市場の不安は流動性の逼迫という現象を引き起こしますが、これは問題のあらわれ方であり、最終的にはソルベンシ―(支払能力)という金融機関自体の資産の健全性の問題に関わる話になります。この問題にどう対応していくかが最も大切であり、流動性の問題に対応することで全てが解決するわけではもちろんありません。』

『今回のドル資金供給オペはあくまでも流動性の問題に対して対処したものであり、流動性の逼迫がきっかけとなって経済全体が混乱する事態を避けるためのものです。繰り返しになりますが、その背後にある基本的要因について取り組まない限り、問題は解決しません。』

即ち、不良債権の分離と損失の確定、資本の増強と言った抜本対策が必要になるということですな。前日の会見と思いっきり被りますが重要な論点なので引用しました。


・まあ欧州市場対策でしょ

最後の質疑にこんなもんが。

『(問) イエスかノーかでお答え頂けるのではないかと思うのですが、発表された時間が午後4時頃だったというのは、欧州のマーケットが開く時間を意識したものであるという理解でよろしいでしょうか。』

『(答) 各国の金融市場の状況や各国における事務対応がありますので、そういうものを全て勘案した上でこの時間に至ったということです。』

ま、今回は欧州の市場が暴れる前に日銀からアナウンスして欲しかったという所なんでしょうね(^^)。


・超脱力質問

オペの要綱を見てから質問して欲しいですよね。

『(問) 先ほど、担保があるので大丈夫との話でしたが、FRB等は、最近、信用リスクがあるものまで担保を広げています。米国債も未来永劫安泰というわけではないと思います。そういう意味では、もし外国の金融機関が殺到した場合、日本銀行がドル資産の持っている様々なリスクを全部引き受けて、世界中にお金をばら撒かざるを得ないというリスクもあるのではないかと思うのですが、その辺は如何でしょうか。』

オペ実施要綱のどこをどう読むとそんな質問が出来るのか、質問した記者の知能を激しく疑いたくなりますね。もう馬鹿馬鹿しいので総裁の答えは割愛しますが、どこがどう変なのかという話はもう最初から最後まで変としか言いようがないですわな。

正直、質問する人の所属と名前を名乗らせて、会見記録とかにも掲載して欲しいもんだと思いますよ。マッタクモウ。

トップに戻る






2008/09/20

16日、17日に実施された金融政策決定会合に関しまして。

○声明文では金融市場の不安定さに言及

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080917.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080819.pdf(前回)

例によって前月と比較しますと、経済の現状及び先行きの見通しに関してはあまり大きな変化がありません。物価に関連する部分で先行きの見通しを上昇しにくいという見立てを強くしています。

『(景気の)先行きは、当面停滞を続ける可能性が高いものの、国際商品市況が落ち着き、海外経済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(9月)

『(景気の)先行きは、当面停滞を続ける可能性が高いものの、国際商品市況高が一服し、海外経済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(8月)

『(物価の)先行きは、当面現状程度の上昇率で推移した後、徐々に低下していくと予想される。』(9月)
『(物価の)先行きは、当面上昇率がやや高まった後、徐々に低下していくと予想される。』(8月)

ということで、物価に関しては国際商品市況の落ち着きを反映して先行き見通しをマイルド(もともと先行き低下基調という予想になっていますが)にしています。

で、リスク要因の部分。

『リスク要因をみると、国際金融資本市場は不安定さが増しており、また、世界経済には下振れリスクがある。』(9月)
『リスク要因をみると、国際金融資本市場は不安定な状態が続いている。また、米国経済など世界経済には下振れリスクがある。』(8月)

ということで(リーマン破綻とメリル救済合併にAIG公的救済を受けているのですから当たり前ですが)国際金融資本市場の不安定さに関して下振れリスク認識を高めています。また、最後の部分にこのような記述がございます。

『この間、日本の金融市場は安定的に推移してきたが、日本銀行としては、最近の米国金融機関を巡る情勢とその影響を踏まえ、引き続き、円滑な資金決済と金融市場の安定確保に努めていく方針である。』(9月)

ということで、今回の会合に関してはリスク認識を高めたけれども景気の見方は変えていないというところになろうかと思います(公表分ベースでは)。


○金融経済月報

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0809.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0808.pdf(前回)

月報の概要部分に関してこれまた前月と比較します。

・現状判断では設備投資、住宅投資をやや下方修正

『設備投資は足もと幾分減少している。』(9月)
『設備投資は横ばいとなってきている。』(8月)

『また、住宅投資は横ばい圏内で推移している。』(9月)
『また、住宅投資は回復の動きが一巡している。』(8月)

ということで、設備投資と住宅投資を下方修正で益々停滞状態ですね。


・ただし当面の動向に関しては下げていません

一応ご参考までに全部引用しておきます。8月と全く同文。

『当面の動向を需要項目別にみると、輸出は、海外経済の減速から、ごく緩やかな増加にとどまるとみられる。企業収益が減少を続け、家計の実質所得も弱めに推移するもとで、国内民間需要は伸び悩む可能性が高い。この間、公共投資は減少傾向で推移すると考えられる。以上の需要動向を踏まえると、生産は、当面弱めに推移するとみられる。』(9月)



・物価に関してはやや下方修正

これは基本的に声明文と同じです。

『物価の現状をみると、国内企業物価は、国際商品市況の反落により、3か月前比でみて上昇テンポが幾分鈍化している。』(9月)
『物価の現状をみると、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、3か月前比でみて大幅に上昇している。』(8月)

『物価の先行きについて、国内企業物価は、国際商品市況の反落を主因に、当面、上昇テンポが鈍化するとみられる。』(9月)
『物価の先行きについて、国内企業物価は、当面、国際商品市況高の影響が残るため、上昇を続けるが、伸びは鈍化していく可能性が高い。』(8月)

『消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品の価格動向などを反映し、当面現状程度の上昇率で推移したあと、徐々に低下していくと予想される。』(9月)
『消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品の価格動向などを反映し、当面上昇率がやや高まったあと、徐々に低下していくと予想される。』(8月)

基本的には上でご紹介した声明文と同じトーンです。


・金融面では一部業種の資金繰りの悪化を指摘

基本的には金融面に関しては同じ話をしているのですが、この部分だけちょっと違うという感じです。

『企業の資金繰りは、全体としてみれば引き続き良好に推移しているが、中小企業や一部業種で悪化している。』(9月)
『企業の資金繰りは、全体としてみれば引き続き良好に推移しているが、中小企業でやや悪化している。』(8月)

一部業種での資金繰り悪化を指摘しています。


・交易条件の悪化に関して

今回の概要部分の中で脚注としてこんなのがあります。

『交易条件の悪化は、国民経済計算(SNA)において交易損失の拡大として現われている(図表4)。この点についてはBOXを参照。』

んでまあ図表4というのが上記PDFファイルの23ページ目にございまして、その説明のBOXというのがPDFファイルの18ページにございます。(本文16ページ)

正直言ってマーケット状況に振り回されておりますあたくしがここの文章をゆっくり読んで理解するヒマは無かったので、何となく引用しておきますね。

『わが国の輸出入価格の最近の動きをみると、輸入価格は、資源等(鉱物性燃料、天然資源、食料品等)の価格高騰から、大きく上昇している一方、輸出価格は、全体に占める比率の高い工業製品の価格が上がっていないため、落ち着いた動きとなっている。このため、交易損失は拡大しており、実質GDPと実質GDIの前年比は大きく乖離している。』

『米国の実質GDPと実質GDIの動きをみると2、両者の乖離はわが国ほど大きくない。これには、輸出入構造の違いが影響している。すなわち、米国では、資源等の輸入に占める割合が日本よりも小さく、輸出に占める割合が日本よりも大きい。』

なるほど。

『もちろん、交易条件面では所得流出になっていても、実質輸出の面では日本は海外から所得を得ている。また、工業製品(特に機械製品)の価格については、品質調整を行っているため、高付加価値化の動きは、輸出価格の上昇ではなく、実質輸出の増加として現れる。以上を踏まえると、交易損失の大きさを評価する際には、実質輸出の動きと併せてみていくことが望ましい。』

で、結論。

『そこで、わが国の実質輸出や交易損失の動きをみると、2007年半ばまでは、交易損失の拡大を実質輸出の増加が上回ることが多かった。ところが、昨年末以降、交易損失の拡大が急激となる中で、実質輸出の増加テンポも落ちてきている。資源高が急激なものとなったことなどを受け、海外経済が全体として減速し始めたことが影響している可能性がある。資源高が内外需要に及ぼす影響については、今後とも注意深くみていく必要がある。』

なるほどそうですかとしか申し上げようが無いのですが、詳しくは月報をご参照下さい。

トップに戻る








2008/09/12

○これはマニア向けの話(後日追記予定かも)

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/wps/wp08j14.htm
コール市場のマイクロストラクチャー:
日銀ネットの決済データにみる日中資金フローの連鎖パターン

本文はPDFです。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/wps/data/wp08j14.pdf

えーっと、中身ですけれども前半の13ページまで超熟読しまして(ヒマ人ですかそうですか)後半はまだ斜め読みの段階なんで恐縮なのですが、興味のある方には中々面白い内容になっています。決済の回り方に関してCHAPS、Fedwireと日銀ネットを比較して、その背景にある制度や市場慣行の違いについて説明しているので大変に面白いです。

・・・・でですね、中身のご紹介とかしようと思って小一時間ほど色々と考えたのですが、あまりにもマニアにも程があるので内容紹介割愛。興味のある方的には最初から13ページまで読むと取りあえず概略はつかめると思います。

それで、このレポート読んでて思ったのは、日本の決済システムに関しては市場参加者の努力によって決済が円滑に進むような市場慣行作りが大変良くできているんですねというのが判るんじゃないかなあと思います。他国と比較しても日本の決済システムの回り方の円滑さは優秀。

このレポートでは資金決済の話が論点なのですが、モノも扱っております市場の中の人的には国債決済の問題とか保振DVP絡みのモノの問題とかの論考を是非お願い致したく存じます。レート上昇がどうのこうのという問題よりはレポやフェイルなどが論点になると思いますが。

#今般次世代RTGSが運用開始になりますので、そんなタイミングでこのレポートも出たというところなのでしょうね

トップに戻る







2008/09/08

○これはなかなか

金曜にでてた日銀レビュー

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j06.htm
証券化商品のリスク特性の分析
――再証券化によるレバレッジ上昇のインパクト――

本文(PDF)はこちら
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j06.pdf

えーっと、まあ式だのグラフだの沢山あるのですが、証券化商品の各トランシェに関して単純な証券化商品と、レバレッジが効いた再証券化商品を比較して、そのトランシェの価格感応性に関して分析しているというのが内容だと勝手に理解しましたが、それで大丈夫ですよね(汗)。その算出の経過をちゃんと見ましょうという話なのでありますが。

んでまああたくしの場合は頭の出来に問題が大有りなので、この証券化商品なんぞは全然専門範疇外なのでございまして、途中を全部豪快にスルーさせていただくと致しまして(超大汗)、結論部分を引用なのであります。

『本稿の分析設定では、シンセティックCDO と2種類のCDO スクエアードのスーパーシニアについて、一定のデフォルト率とデフォルトの相関のもとで、期待損失率がトリプルA 相当水準を下回るようストラクチャーを想定した。しかし、分析結果から明らかなように、同じトリプルA の商品でも再証券化商品か否か、また、再証券化商品の場合は裏付トランシェの劣後水準等によって、原資産プールの損失分布のパラメータ変化、あるいはパラメータ水準の見誤りがもたらすインパクトは異なってくる。』

『この結果は、証券化商品の定量的なリスク評価や投資判断を行う上で、ストラクチャーの相違で生じる各種パラメータに対する感応度の違いを考慮することの重要性を示している。』

で、本来そういう話についてちゃんと格付けに反映されるべきものだったのではないかという気が思いっきりするのですけれども、つい1年半前くらいまでの格付けってどうだったんでしょうかねえ。

『サブプライム住宅ローン問題を受け、証券化商品の評価にあたり、裏付資産のルックスルーの重要性が指摘されている。本稿の感応度分析を踏まえると、再証券化商品の評価においては、直接の裏付トランシェプールだけでなく、さらにその背後にある1 階建て証券化商品の原資産プールについても、全体としてのリスク特性の変化を的確に見極める必要がある。』

『このため、証券化を重ねるほど、原資産プール全体としてのリスク特性の変化を捉える、またパラメータ等の設定に関する適切性を確認するという意味で、ルックスルーの視点が重要となってくる。同時に、証券化商品の格付の意味合いや再証券化商品のリスクなども含め、証券化商品への投資に際する審査・リスク管理の体制整備を進めていくことが大切である。』

どう見てもちゃんとしてませんでした。本当にカムサハムニダ。

トップに戻る









2008/08/28

お題「日銀レビューから」

ここのところ日銀から出てくる文書ネタばかりで恐縮なのですけれども、何せ相場様の方が何が何やら訳わかりませんですがな状態が絶賛継続するもんで・・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j09.htm
銀行券・流動性預金の高止まりについて

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j09.pdf


http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j07.htm
本邦外為証拠金取引の最近の動向

本文はこちら
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j07.pdf


という2本から少々。本当はもう一つ『実質輸出入の動きをみる上での統計上の留意点』ってのがあるのですがパス。http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j10.htm


ということで銀行券レポートのほうから参ります。

○銀行券は高止まりが続きますというのが結論ですかな

レポートの冒頭部分にまとめがありますが。

『銀行券・流動性預金は、1990 年代後半以降、高い伸びを続け、足もとは歴史的にみても高い水準となっている。銀行券の券種別流通枚数や年齢階層別の流動性預金のデータを用いて分析を加えたところ、こうした銀行券・流動性預金の増加や高止まりは、主として家計、中でも高齢者の貯蓄目的など「取引需要以外の需要」の増加を反映したものである可能性が高いとの結果となった。』

ま、銀行券に関してはそうですねえというのがかつて金貸しの手先だったあたくしの直感的理解だったので、何となくこの部分に違和感は無いのですが、中身は後ほど。

『銀行券・流動性預金の先行きについては、金利変動が小幅に止まる限り、高齢者の保有行動は大きく影響を受けず、高止まりが続くとみられる。ただし、先行きを考える上では、高齢者の金利感応度が変化することによって、こうした資産選択行動が再び大きく変わる可能性にも十分注意する必要がある。』

ということで、一応将来的には「取引以外の需要」が金利上昇によって変化するかもしれませんねえと、輪番を増額したほうがいいんじゃないですかあという一部の(あたくしもそうですけど)意見に対する釘挿しになっています、のかどうかは知りませんが。

まー流動性預金金利が1%くらいにならないと別に金利感応度上がらないような予感がするんですけどね。ええただの非科学的根拠レスな勘ですけど(その頃は定期預金金利が3%くらいになるでしょうから)。ということは政策金利は1%より全然上になっている時代ですから当分も当分先の話かと。


ま、輪番オペに関しては償還ルールが変更になった時点で、従来とちょっと内容が変わっているという事も踏まえますと、輪番オペの買入額にあまり大きな意味を持たせすぎないよう、調節の一手段としての位置に持っていくほうが良いのかなあとは思うのでありますが、まだこのあたりは漠としたイメージしかないので、もうちょっと頭を整理したいと思います。


○現状に関して

最初の部分から現状分析をしているのですけれども、銀行券の高止まりは主に家計の保有増によって説明できるという話になっています。上記レビュー本文の2ページ目です。引用は割愛しますけど、資金循環勘定と法人企業統計を使って分析してます。

では何でその保有増が非取引需要の増大になるのかという話なのですが、その次の項、『非取引需要の拡大(券種別銀行券発行残高からのアプローチ)』という所に分析が。おもろいので引用。

『まず、券種別に銀行券の流通枚数の推移をみると、1990 年代前半までは、千円札と一万円札はほぼ同じ動きを示してきたが、1990 年代後半から2002 年にかけて、一万円札が千円札を大きく上回って増加している。千円札のような小額紙幣は、貯蓄のために保蔵しようとすると場所がかさむ等利便性が低いことから、専ら決済等の取引需要にあわせて保有額が変動すると考えられる。一万円札を用いた決済が、千円札を用いた決済よりも急激に増加するとは考え難いため、一万円札が千円札以上に増加しているのは、非取引需要で保有を増加させていることが推察される。』

なるほど(^^)。

『また、2004 年に改札が行われた旧札の一万円券(D 一万円券)は、依然として約14 兆円が流通している。これは1984 年の改札時に旧札の一万円券(C 一万円券)の流通枚数が急減していることとは大きく異なっている。』

ほほうそれはそれは。

『仮に旧札が取引に用いられ、銀行に持ち込まれれば、新券に引き換えられることになるため、こうした約14 兆円の旧札の一万円券は取引等に使用されることなく、「タンス預金」等の形で滞留している可能性が高い。この点からも、銀行券の増加、高止まりは非取引需要に基づいていることがみてとれる。』

せっかくここまでデータ出してもらっているのでしたら、2004年の改札後に千円券がどのように推移したのかを見せていただけますとなお説明になると思うのですが、その比較が無いのは残念。

聖徳太子から改札になった時と比較して、今回の改札って確かに旧札と新札を並べるとデザイン(D券の方が字と絵が大きい)とかホログラムとか光当たる角度によって色が変わる部分とか(D券にはそのようなものは無い)だいぶ違うのですけれども、ちょっと見た時にそんなに強烈な違和感が無い(違和感はありますが)あたりが安心して退蔵される理由だったりして(^^)。いやまあ冗談ですけれども。


○で、たんす預金が30兆円という話に

その続き。

『銀行券の発行残高約75 兆円のうち、どの程度が非取引需要に基づくものなのだろうか。。おおよその規模を把握するために、先ほどみたように一万円札の流通枚数が千円札の流通枚数の伸び率を超えて増加した部分を、非取引需要に基づくものとして計算すると、1995 年当時は、一万円札の発行残高の12%であった非取引需要が、最近では38%まで上昇しているとの結果となった。これを額でみると、非取引需要は、1995 年の5 兆円程度から、足もとは30 兆円まで増加している。これは、この間の銀行券の増加の7 割を説明する大きさである。』

で、たんす預金が30兆円という一般紙の記事が出ましたねってことなのでしょうかね。これはまあキャッチーな話ですから通信社が流すと皆さん食いつきますわなという感じです。どうやって分析しているかは上記URLの4ページのあたりにございます。なるほどまあそういう感じで分析するのねって所です。

で、そのたんす預金の推移ですけど。

『これまでの分析からは、銀行券の増加、高止まりの背景としては、主に家計部門が非取引需要を高めたことが主因であることが明らかとなった。また、流動性預金が銀行券と極めて似た動きを示してきたことからすると、流動性預金でも同じ現象が生じている可能性が高いと考えられる。』

さいですな。

『こうした非取引需要の増大には、@低金利環境の持続により、銀行券、流動性預金を保有する機会費用が低下したことや、A2002 年のペイオフ部分解禁による定期預金からのシフトも含め、金融システム不安の高まりに伴い、より安全性の高い資産である銀行券、流動性預金の需要が高まったこと、といった、従来からの説明要因が寄与していると考えられる。しかし、近年に至っても非取引需要が高止まりしているのは何故だろうか。こうした疑問に答える手掛かりをつかむために、以下では、流動性預金についてコーホート分析を行う。』

で、そのなんちゃら分析というのはどこにあるのよという話は本文5ページ目にございますが、何か簡単なことをややこしそうに書いてあるような気がするのですが深く突っ込みません(あほですいません)。

途中全部飛ばしてこの結論部分ですけど。

『高齢層ほどより大きく資産選択を変化させたことには、高齢層は他の年齢階層に比して圧倒的に多額の定期性預金を保有していたため、ペイオフ部分解禁前に、定期性預金から流動性預金に資金をシフトさせるインセンティブが高かったといったことからも類推される。ただし、こうした高齢層は、金融システム不安やペイオフ部分解禁といった大きなショックに対しては資産選択行動を大きく変化させたものの、その後はそれほど積極的に資産構成を見直しているとはみられず、少なくとも今までのところ、ひとたび高めた流動性選好を巻き戻す動きはほとんどみられていない。』

で、これが金利上昇したらどうなるかに関してはまさに推測の世界になりますけれども、定期預金金利がアホのように低い状況は継続してますし、金融ショックはともかく、ペイオフ部分解禁はそのまま生きている訳ですから、中々戻らないんじゃないでしょうかと思うのですけれども。

まあ中々オモロイ分析でした。日銀レビュー・シリーズは最後の方にも説明がありますように、小難しい分析で計算を延々とやってるあたりとかは省略してますんで、あたくしのような学が少々(どころではなく)不足しております人でも詠みやすいので、ややこしい部分を読み飛ばしながら読むと面白いと思います。だから金融政策がどうなのよという話はまああまり関係なく読んでもよかろうかと(強いて言えば輪番オペに関するインプリケーションがあるのですが)。



とか書いているうちにもう一本のを紹介する時間と量が無くなって参りましたけれどもサラサラと。念の為URLを再掲。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j07.htm
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j07.pdf(本文)


○本邦外為証拠金取引の最近の動向

あたくし外為証拠金取引は個人的には縁が無いので(そもそも職業上やりませんけど)今百歩ほどよーわからん世界っすけど。

htmlの方の要旨からですが、

『近年わが国では個人投資家による外為証拠金取引が活発化している。入手可能な情報をもとに、本邦外為証拠金取引の最近の動向についてみると、昨年夏以降、国際金融市場において所謂サブプライム問題を契機とした混乱がみられる中、外為証拠金取引のポジション残高は減少したものの、口座数や取引高は着実に増加している。』

へー、ポジション減ってるけど口座数とかターンオーバーナイト・レートは増えてるんですか。というのは不覚にも存じませんでしたので軽くびっくり。

『また、この間、レバレッジの低下、売買回転率の上昇、高金利通貨への運用シフトなど、取引手法、通貨選択等にも変化が窺われている。』

スイングよりもデイトレが増えているということですね、わかります。


ということで、本文のほうですが、まあ要旨の中身を分析した内容がありますって感じですが、取引の特徴として、『基本的には「円売り・外貨買い」主体であること』、『短期的な相場変動と反対方向のポジションを取る「逆張り取引」主体であること』というのがございまして、まあそうでしょうねという所です。

まあそんな訳で、取引のフローとしてのインパクトが大きくて、一方でポジションの積みあがりという意味では投資信託がでかいですねというお話が「BOX」ってコラムの中にグラフと共にございます。結論はまあ当然の如く『外為市場に対する影響として、ポジションの積み上がりに伴う長期的な通貨需給という観点からは、投資信託経由の取引の影響が相対的に大きいと考えられる一方、取引フローを通じた市場流動性や短期的な市場へのインパクトという観点からは、外為証拠金取引の影響が相対的に大きいと考えられる。』という結論になっております。

・・・・ということで、個人的にあまり詳しくない話なので超あっさり味になってしまいましたすいませんすいません。

トップに戻る








2008/08/25

お題「7月決定会合議事要旨から」

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080715.pdf

○情報発信方法の変更に関して

『V.金融政策運営上の情報発信に関する委員会の検討の概要』で検討されたのが情報発信方法の変更です。

『第一に、委員は、政策変更時のみならず、毎回の決定会合後に、「2つの柱」に基づく点検結果を公表することとすれば、より情勢変化に即した金融政策運営の説明が可能となるとの意見で一致した。』

『第二に、委員は、金融政策の効果の波及には長く可変的なタイムラグがあることを踏まえると、展望レポートの見通し期間を延長し、平均して2年程度先までの見通しとリスク・バランス・チャートを示すことが適当であると述べた。』

『第三に、委員は、展望レポートに加え、中間評価の際にも、政策委員の見通し計数やリスク・バランス・チャートを公表することは、情勢変化をより適時に、かつ分かりやすく説明するための有用な手段になるとの認識を共有した。』

『第四に、委員は、適時の情報提供という観点からは、議事要旨についても、出来るだけ早期に公表することが望ましく、次回会合で承認の上、公表することが適当であるとの意見で一致した。』

というのは実施された施策ですけれども、そのうち意見が一致したと書いてあるのは第1と第4だったりしまして、どういう話になっていたのかはその次に。

『多くの委員は、見通し計数やリスク・バランス・チャートはあくまで、文章による経済・物価情勢メカニズムの説明に対する補完的な参考であり、その点について市場関係者等に理解してもらう必要があると述べた。多くの委員は、他の中央銀行の動向などを踏まえると、見通し計数などの公表は、四半期という頻度が適切であると述べた。』

『この点に関し、何人かの委員は、経済・物価情勢の変化に適時に対応することは重要であるが、例えば月次でデータが公表される都度、見通し計数を見直すこととなると、かえって市場を混乱させることになると述べた。』

ということで4半期になったようですけれども、どうもここの書きっぷりを見ていると4半期発表をする必要があるのかという議論もあったような感じですね。それから、月次公表とかして意味があるのかという話は確かにその通りで、変に月次公表とかすると逆に変更しにくくなっちゃったりする弊害が起きる(変更があるたびに市場が一々意味を求めだすのでやりにくくなるのではないかと思う)ような感が致します。

で、ここでは議論にならなかったのかどうか判らないのですが、あたくし的には金融経済月報の基本的見解部分が早くなったのか遅くなったのか微妙な点が少々気に。と申しますのも、今般の変更によって金融経済月報の基本的見解に相当する部分は簡略化されて前倒しで公表されたという感じになっておりまして、景気判断に関する項目別展開が翌日の金融経済月報全文(の冒頭部分)を見る必要があるというのはちと面倒な気がするんですが。


○緩和的な金融環境云々は風前の灯?

『W.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』から

第2の柱の検討部分。

『次に、委員は、第2 の柱、すなわち、より長期的な視点も踏まえつつ、金融政策運営の観点から重視すべきリスクの点検を行った。実体経済面では、委員は、@ 国際金融資本市場は不安定な状態が続いており、米欧金融機関の損失拡大懸念等を背景に、各種の信用スプレッドが再び拡大しているほか、株価も下落している、A 米国経済が停滞するなど、世界経済には下振れリスクがある、B 国内民間需要については、国際商品市況の高騰に伴う所得形成の弱まりから下振れるリスクがある、との認識を共有した。』

景気に関しての下振れの話満載という感じです。

『物価面では、委員は、@ 原油など国際商品市況高を背景に世界的にインフレ圧力が一段と高まっている、A わが国の物価については、エネルギー・原材料価格の動向に加え、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化など、上振れリスクに注意が必要であるとの見方で一致した。』

物価が上振れというのもありますが、2番目のほうに関しては2次的効果に繋がる話ですね。でもまあその動きは今のところ認められないのであくまでもリスクシナリオと。

『この間、何人かの委員は、景気の下振れリスクが薄れる場合には、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクが高まるため、こうしたリスクについては、常に念頭におく必要があると述べた。』

7月会合では「何人かの委員」が述べているのですが、これが8月にどうなっているのかは楽しみです。上振れに関する論議はここの部分だけって感じですね。

『何人かの委員は、現在は、景気の下振れリスクと物価の上振れリスクの双方に注意が必要な局面になっており、物価安定のもとでの持続的成長が達成されるかどうかという観点から、情勢を丹念に分析する必要があると述べた。』

で、景気の下振れと物価の上振れは現状ではどっちも景気下振れに繋がる話ということですので、7月時点でも警戒モード強まるという所ですよね。まあ景気の現状判断下げてますけど。

8月の相場では決定会合前にそれをやり過ぎた感もありますが、先週後半にGSE問題がどうのこうのという話になった途端に金先とか短い所とかちゃっかり堅調になっていましたので、単に米国追随でぶれているのかも知れず、何かここもとの動きは正直よー判らんのであります。


○景気判断に関して

『U.金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』に戻りますが。

展望レポートの中間評価に関して。

『中間評価について、委員は、4 月の展望レポート公表時に比べ、エネルギー・原材料価格が上振れており、これが景気と物価の両面に影響を与えているとの見方を共有した。委員は、成長率については、2008 年度を中心に幾分下振れる一方、物価は、国内企業物価、消費者物価(除く生鮮食品)ともに、2008 年度を中心に上振れるとの意見で一致した。』

ということで、まあ金融経済月報やら決定会合公表文にも記載されていますけれども、「エネルギー・原材料価格が上振れており、これが景気と物価の両面に影響を与えている」ということで、物価の上振れのうち、原材料価格上昇要因に関しては景気下振れと同じ話だということになりますわな。でもまあこのロジックに関しては福井総裁退任直後くらいから延々と説明してますので、さすがに浸透したでしょ。

で、まあ別に今日明日の話じゃないですけれども、国内要因による2次的効果での物価上昇という話になりますと、交易条件悪化とは別問題の話になるのですが、だいたいこう世間様というのは話を妙に単純化しちゃいますので、2次的効果での物価上昇という話になっても「物価上昇は景気悪化」的な連想が継続してそうな気がするのがあたくしの取り越し苦労でして、過去の説明が効きすぎていざ景気が復活した時に話がややこしくならないかちょっとだけ気にしてます。

ま、基本的にはそういうときには欧米が利上げモードになっているでしょうから、そっちに釣られて勝手に利上げ観測になってくるのだとは思いますけどね。

個別項目に関しては、輸出、消費、雇用・所得のあたりが。

『わが国の輸出について、委員は、足もと鈍化しているものの、海外経済の拡大を背景に増加基調を続けており、先行きも増加基調を続けていく可能性が高いとの認識で一致した。ただし、何人かの委員は、海外経済減速の影響が輸出に現れつつあるように窺えるため、今後、減速の程度には留意していく必要があると述べた。』

というのが思いっきり顕在化したのが8月の金融経済月報に反映されていますわな。

『個人消費について、委員は、石油製品や食料品の価格上昇が続く中で、このところやや伸び悩んでいるとの認識を共有した。何人かの委員は、7 月の支店長会議において、物価高に伴う個人消費の伸び悩みを背景に、景気判断を下方修正したとの報告が多かったことを指摘した。先行きについて、委員は、個人消費は当面やや伸び悩むものの、価格上昇の動きが一巡してくれば、個人消費は次第に底堅さを取り戻していく可能性が高いとの認識を共有した。』

ただまあその価格上昇が全然一巡しないのが困ったもんです。あとは支店長会議の指摘にもありますが物価上昇が地方の個人消費の伸び悩みに効いている感じはありますわな。

『雇用・所得面について、委員は、雇用者所得は、緩やかに増加しているとの認識を共有した。もっとも、複数の委員は、企業収益が悪化するもとで、賞与は抑制的なものとなっていると指摘した。また、別の複数の委員は、労働力調査による雇用者数は足もと伸び率が鈍化しているほか、有効求人倍率も低下を続けており、限界的には、労働需要が幾分減退している可能性があると指摘した。』

これがコケだすとかなり苦しくなりそうですので気になるところです。

・・・・ということで引用ばっかで恐縮です。新聞ネタになってた銀行券に関するレポートは時間と量の関係上後日。

トップに戻る













2008/08/22

お題「金融経済月報から」

一日遅くなりましたが(というか会見と金融経済月報を一度でネタにするのはさすがにしんどいですぅ)金融経済月報から。

先月から「基本的見解」の部分が月報全文の冒頭部分の「概要」という所に反映されていますので、7月の同じ部分と比較してみましょうなのです。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0808.pdf(8月)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0807.pdf(7月)

○現状判断、個別項目下げまくり

・総合判断

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高や輸出の増勢鈍化などを背景に、停滞している。』(8月)
『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、さらに減速している。』(7月)

ここの部分は金融政策決定会合の結果公表文にあった通りで、輸出の増勢鈍化という新たなファクターが加わりました。


・輸出

『輸出は増勢が鈍化している。』(8月)
『輸出は、足もと鈍化しつつも増加基調を続けている。』(7月)

まー7月時点で既に苦しい表現でしたけど、増加基調継続という旗を降ろしました。


・企業収益、設備投資

『企業収益が交易条件の悪化等を背景に減少するもとで、設備投資は横ばいとなってきている。』(8月)
『企業収益は、交易条件の悪化等を背景に減少しており、企業の業況感も引き続き慎重化している。そうしたもとで、設備投資は増勢が鈍化している。』(7月)

設備投資が「増勢が鈍化」から「横ばい」となりまして、下方修正になっています。業況感云々は短観を反映したものですので、ここの部分が削除されているのはそれ以上の意味はありません。


・雇用者所得、個人消費

『雇用者所得の伸び悩みや石油製品・食料品価格の上昇などから、個人消費は弱めの動きとなっている。』(8月)
『雇用者所得は緩やかに増加しているが、石油製品や食料品などの価格上昇が続く中で、個人消費はこのところやや伸び悩んでいる。』(7月)

雇用者所得が「緩やかに増加」から「伸び悩み」へと下方修正。個人消費に関しては「伸び悩み」から「弱め」へと下方修正してますね。


・住宅投資、公共投資

『また、住宅投資は回復の動きが一巡している。この間、公共投資は低調に推移している。』(8月)
『また、住宅投資は回復の動きが一巡している。この間、公共投資は低調に推移している。』(7月)

こちらは変更ありません。


・生産

『以上のような内外需要のもと、生産は弱めに推移している。』(8月)
『以上のような内外需要のもと、生産はこのところやや弱めの動きとなっている。』(7月)

「このところやや弱めの動き」ってとりあえず今は弱いけどそんな事はないですよチックな表現から「弱めに推移」と弱めを断言と。

ということで、ものの見事に個別項目の判断を下げていますね。


○先行き見通し

・基調判断

『景気の先行きについては、当面停滞を続ける可能性が高いものの、国際商品市況高が一服し、海外経済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(8月)
『景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(7月)

これはさっきと同様に一昨日ご紹介した部分と同じです。


・輸出(と海外経済)

『当面の動向を需要項目別にみると、輸出は、海外経済の減速から、ごく緩やかな増加にとどまるとみられる。』(8月)
『すなわち、輸出は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加基調を続けていくとみられる。』(7月)

基本的に足元が下がっている分下がる部分が多いのですが、今回に関しては海外経済に関して「減速しつつ拡大」という器用な見通しから「減速」と素直なものに。「増加基調」が「ごく緩やかな増加」とこれまた下方修正しています。


・企業収益とか雇用者所得とか

『企業収益が減少を続け、家計の実質所得も弱めに推移するもとで』(8月)

『企業収益は、当面減少を続けるが、エネルギー・原材料価格の上昇が緩やかになるにつれて、増益基調に復すると予想される。また、雇用者所得は緩やかな増加傾向をたどるとみられる。』(7月)

「増益に基調に復する」という部分がバッサリ削られて、企業収益の見通しを思いっきり下げています。また、雇用者所得に関しては7月は「緩やかな増加基調」で今回は「家計の実質所得も弱めに推移」と表現が微妙に変化しています。まあこれも下方修正ですが。


・国内民間需要、公共投資、生産

『国内民間需要は伸び悩む可能性が高い。この間、公共投資は減少傾向で推移すると考えられる。以上の需要動向を踏まえると、生産は、当面弱めに推移するとみられる。』(8月)

『そうしたもとで、国内民間需要は、当面やや伸び悩みつつも、その後は次第に底堅さを増していく可能性が高い。この間、公共投資は減少傾向で推移すると考えられる。以上の需要動向全体を踏まえると、生産は、当面横ばい圏内で推移するが、その後増加基調に復していくとみられる。』(7月)

国内民間需要の先行き見通しを「伸び悩み」に下げ、生産の見通しも「弱めに推移」と下げて、「その後戻ります」という部分がどちらもさっくりと消滅しております。


・削除された部分

『なお、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響などに、引き続き注意する必要がある。』(7月)

この部分が削除されています。



・・・・・うーむ、これだけ個別項目の見通しを下げているのに基調判断の部分があんまり下がらんというのも妙(現状判断は「停滞」に大下げしているので違和感は無いのですけどねえ)ですなあ。

てなことで、まあ先行き見通しに関しては個別項目部分を見ますと「次第に緩やかな成長経路に復する」というのは何か願望チックな香りが致しますわな。

個別に引用したからちょっと判りにくいかもしれませんが、先行き見通しの項目別展開部分が、7月のそれよりもかなり短くシンプルになっていましたので、まあそーゆー点では「吹っ切れた」のでしょうか(^^;



○需給ギャップがバランスという話が微妙に削除

物価の先行き見通しの中でこんなんあります。

『消費者物価の前年比は、エネルギーや食料品の価格動向などを反映し、当面上昇率がやや高まったあと、徐々に低下していくと予想される。』(8月)

『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、当面、現状程度ないしそれを幾分上回るプラス幅で推移すると予想される。』(7月)

「経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移」ってのが外れている訳ですが、よくよく考えたら消費者物価の上昇率が先行き低下するという見通しを立てるためには需給ギャップのバランスが需要超過だったりバランスしているだったりすると低下の絵が描きにくいからですかいな。よーわからんが。


○金融環境が微妙に変化

金融面なんですけどね。

『金融面をみると、企業金融を巡る環境は、総じて緩和的な状態にある。』(8月)
『企業金融を巡る環境は、緩和的な状態にある。』(7月)

お得意の「総じて」が入ったのはどの辺が原因なのよと申しますと・・・・

『CP・社債の発行環境をみると、下位格付先や一部業種では厳しくなっているものの、全体としてみれば、良好な状況にある。』(8月)
『CP・社債の発行環境をみると、下位格付先では発行スプレッドがなお高めの水準にあるが、全体としてみれば、良好な状況にある。』(7月)

これはまあその通りですな。「発行スプレッドが高めの水準」という状況から「厳しい」と認識を厳しく見ています。その他の部分に関しては変化ないですが、まあそりゃ公募普通社債発行している上場企業が同じような業種で3打席連続あぼーんしちゃいますとこうなりますわなという次第で。


ということで、あちこち随分下げましたなって感じです。引用だらけの手抜きバージョンでどうもすいませんでしたm(__)m

トップに戻る











2008/08/19

お題「まあ順当に判断が下がりました」

ということで金融政策決定会合ですが、織込み範囲内の下方修正ですかね。

今回の決定内容
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080819.pdf

前回の決定内容
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080715.pdf


○現状判断を下げました

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高や輸出の増勢鈍化などを背景に、停滞している。』(今回)

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高を背景に、設備投資や個人消費の伸びが鈍化するなど、さらに減速している。』(前回)

えーっと、「さらに減速」から「停滞」になりましたので、前に進まなくなって停止しちゃいましたねという事ですからこれはまあ似たようなもんっちゃあ似たようなもんですが、運動として考えますと前進が停止になったのですから、ゼロとゼロじゃないという違いですので、これを大きいと思うのかどうかはよく判りません。大きい気がしますけどね。

さらにもう一つ、今回は停滞の要因として輸出の増勢鈍化を上げています。ここもと(夏休みシーズン前ですが)審議委員の講演などで指摘されていましたが、アジア諸国の交易条件悪化に伴う景気の悪化から輸出に悪影響という話とか、現実問題として輸出が変調になっているという部分がクローズアップされて参りましたという所でしょう。


『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などから、足許+2%程度と90 年代前半以来の高い伸びとなっている。』(今回)

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などから、足許+1%台半ばとなっている。』(前回)

物価の現状に関しては事実関係ですけれども、「90年代前半以来の高い伸び」と上振れを強調する表現になっていまして、「景気下振れ、物価上振れ」という流れを強調してるんでしょうか。


○先行き判断

『先行きは、当面停滞を続ける可能性が高いものの、国際商品市況高が一服し、海外経済も減速局面を脱するにつれて、次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(今回)

『先行きは、当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(前回)


「当面停滞」と「当面減速」の所は現状判断を下げた関係ですが、前回「減速が続く」だったのが今回「停滞を続ける可能性が高い」になっているのは、一応現状判断下げた分足踏みの所を断定調から変化させたって事なんでしょ。

ただ、「緩やかな成長経路に復していく」ための前提条件として、今回「国際商品市況高が一服し、海外経済も減速局面を脱するにつれて」という前提条件を付けていますので、この分判断を下げたという事になるでしょう。白川総裁の記者会見でも「回復は先ずれ」(こういう場合って国語として正しいのがどっちなのか知りませんが、時間的に後にずれるって文脈で「後ずれ」っていうのが耳慣れしているんですけど)ということで、回復経路への復帰までの時間が掛かるでしょうという事になってましたので、先行き判断も下げの巻。


『(物価の)先行きは、当面上昇率がやや高まった後、徐々に低下していくと予想される。』(今回)

これは前回と一言一句違いませんので前回分引用割愛。

『このように、わが国経済は、物価安定の下での持続的な成長経路に復していくとみられる。』(今回)

『このように、わが国経済は、物価安定の下で持続的な成長を続ける可能性が相対的に高い。』(前回)

現状判断が「停滞」になったので「復していく」に変わったのですけれども、「復していくと見られる」と「成長を続ける可能性が相対的に高い」というのとどっちが強いのか良く判らんですな。


○リスク要因

こっちはあんまり変わっていないのですが、現状判断部分で景気の下振れと物価の上振れを指摘した分、リスク要因の下振れと上振れがどっちも表現として弱くなっているように見えましたがどうでしょ。

『リスク要因をみると、国際金融資本市場は不安定な状態が続いている。また、米国経済など世界経済には下振れリスクがある。』(今回)

ここまで前回と同じ。

『国内民間需要については、国際商品市況の動向を反映した所得形成の弱まりから下振れるリスクがある。設備・雇用面での調整圧力を抱えていないとはいえ、景気の下振れリスクには注意が必要である。』(今回)

『国内民間需要については、国際商品市況の高騰に伴う所得形成の弱まりから下振れるリスクがある。このように、景気の面では下振れリスクに注意する必要がある。』(前回)

実質所得の低下を下振れリスクとしてみるのは同じですが、国際商品市況の「高騰」から「動向」に変化している部分、また下振れリスクに対して言及する中で、所謂「3つの過剰問題」が過去の局面とは違い足を引っ張りませんよという所を敢えて指摘していますわなという点で、下振れリスクをちょっと下げた感じもします。

『物価面では、世界的にインフレ圧力が高い状況が続いている。』(今回)

『物価面では、世界的にインフレ圧力が一段と高まっている。』(前回)

ちょっと下がってますかこれって。微妙ですけど。で、以下の部分は前回と同じ表現になっていますので引用だけ。

『わが国の物価については、エネルギー・原材料価格の動向に加え、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化など、上振れリスクに注意が必要である。』

『この間、景気の下振れリスクが薄れる場合には、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクが高まると考えられる。』

という事で、このあたりは変化ありません。

総じて言えば当たり前ですけれども現状判断、先行き判断共に下げましたけれども、先行き判断の基調はあくまでも「成長経路に復していく」でありますし、リスク要因に毎度書いてありますように、現状の金融環境が緩和的であるという事になっていますので、外的ショックなどが起きない限りは金融政策の方向性として利下げというのはまだ出てこないという事になるんじゃないでしょうか。ただまあ停滞という状態であるので利上げという選択肢は有り得ないので、現状維持と。ま、もうちょっと言うなら「現状の緩和的な状況を維持する」っていう事でございましょうかねえ。


○人のふんどしコーナー

http://hongokucho.exblog.jp/9326571/

その2ですけれども、まあ一応白川総裁の為に言い訳をすれば、昔の公定歩合(=補完貸付金利ですな)が0.75%なのでついうっかりというところなのでしょうけれども、こりゃまあネタにされますなああっはっはっはっはっはっは。

ちなみに、ブルームバーグニュースではニュース見出しが延々と(内容を後から追加していく関係で(2)とか(3)とか同じお題でニュース見出しが続く)・・・・

JBN 19:08 日銀総裁の発言要旨:「0.75%で全員一致」と言い間違いも(4)
(ブルームバーグニュースのヘッドラインより)

といった感じで延々と言い間違いがヘッドラインになっていたのはテラワロスでございましたな。

で、本石町日記さんの上記エントリーから。

『事務方&記者団の「えっ?」という反応や、広報課長のあせった表情は面白かったです。』

やはり焦るのですね(^^)。

『速水総裁時代にはこの手の出来事は頻発しており、当時の中曾課長(信用機構局)の引きつった顔は忘れられないのであるが、久々の面くらいシーンでありましたね(笑)。』

・・・・・それが速水総裁クオリティ。情報ベンダーのヘッドラインで毎度毎度大変だったのは今でも記憶に・・・・・・orz

#で、深層心理ですよね、ちょっとぬこの被り方が不足してますな、うひょひょひょひょ

トップに戻る











2008/08/18

○ネタも無いので決定会合議事録、尾身長官大奮闘(?)の後始末

正直今日のはヒマネタです。98年5月19日の決定会合の冒頭で、前々回の決定会合で大奮闘しちゃった尾身経済企画庁長官の発言をどのように扱うかで経済企画庁からの出席者が収拾に走るの巻。

塩谷経済企画庁調整局長:『議事要旨7ページの、経済企画庁長官の発言について、ちょっと申し上げたい。第二パラグラフの「なお、以上の執行部説明を受け、経済企画庁長官より・・・」と書いてある部分であるが、本人に確認をしたところ、これは特に公開を前提とせずに率直に見解を披瀝したもので、本人は公にするつもりはないということなので、削除して頂いた方が良いのではないかということであった。従って、ここがもし削除されると、その次のパラグラフの「この件については、ある委員から」という発言についても、長官の発言が無くなると意味が不明になるので、あるいは削除して頂いた方が良い気もするが、これはある委員の発言であるので、私として申し上げることではないと思う。』

『この際、議事要旨のまとめ方について一言申し上げておきたいと思う。両方の記述を読むと、あたかも経済企画庁長官が日銀の説明の仕方にクレームをつけて、日銀の説明責任をないがしろにしたかのごとき印象を世の中に与えるのではないかということを心配致しており、長官の意図は、毛頭そういうことではなかったと聞いている。しかも、三番目のパラグラフに書いてあるように、透明性の精神ということが書いてある。この透明性の精神はそのとおりである。これをもしおっしゃって頂けるのなら、もう少し客観的に記述するようにしていただいたらどうだろうかと思う。』

長いのでここで一服。削除された部分の表現がどうなのかは判らないのですが、以前ご紹介した議事録に記載されたいた尾身長官の発言はありゃまあどう見ても「政府が景気対策打つ中で日銀が暗い見通しを出すと足を引っ張るだろうがヴォケ」と言ってるようにしか読めませんでしたけれども、まー新法施行されたばっかりでしたんで、発言した方も慣れてないってのは判りますけどね。

で、なお塩谷局長は頑張るの巻。発言の続きです。

『私は長官の発言の際には、同席していなかったが、このある委員のご発言の際には、同席していたように思うが、その私の記憶では、このような言い方はされなかったと思う。まず、あの時のご発言は、今回の会合では2人の大臣が出席して、意見を述べてくれたことは大変意義のあることであるというように申されたと思う。そして、政府と日銀との関係は、政策の方向において整合性を確保する必要があるということは当然であるということも言われたと思う。そのうえで、経済企画庁長官が景気対策の足を引っ張ることはよして欲しいというように言われたが、その気持ちは良く分かるけれども、日銀は景気対策の足を引っ張るつもりはまったくないように言われたと思う。そのうえで、日銀が公表する文章については、日銀としてのアカウンタビリティを増すという観点から、言うべき事ははっきり言うべきであるというように言われた訳である。』

・・・・・いやもう何かご苦労様でございますとしか申し上げようが。なお続く。

『その点から言うと、金融経済月報の地価についての言及については、長官の心配されているような表現にはなっていないと思うので、このままで宜しいのではないかという趣旨を発言されたかと思うが、それを一般論に置き換えて、しかも長官の体積後に、長官が、日銀の説明責任を含めて、透明性の精神を踏みにじったかのごとき発言をしたように対比をして書かれて、しかもある委員と匿名で天下に公表しようというのはいかがだろうかと思う。したがって、両方の発言を議事要旨から削除、このままの表現では非常に誤解を与えると思うので、削除して頂いた方が良いのではないかと思うが、もしそれが透明性の精神に反するということであるならば、ある委員を実名にしていただいて、しかももっと正確な記述に変えて頂きたいというように思う。最初であるので、議事要旨のまとめ方について、一言ご意見を申し上げた。』

で、まあこの後話が行われたのですが、要はその後に塩谷局長が言及したように『このままの形で公表されると、いかにも尾身経済企画庁長官が、日銀の透明性の精神とか、説明責任について圧力をかけた、変えさせたというように世の中の人は受け取るのを心配している。』というのが経済企画庁の意見で、結局の所は今回は例外で削除となりました。

皆さんが発言しているのを並べるとエライ量になるので中原審議委員の発言から。

中原委員:『色々な議論はできると思うが、私は結論的には今回に限り削った方が良いと思う。但し、これは前例としない、あくまで例外である。理由は幾つかあるが、一つは尾身長官を私は長年良く知っているが、彼とは直接は話さないが、彼から間接的に話を聞いたところでは、やはりオンレコかオフレコか最初は良く分からなかったという話が一つあった。もう一つは、私も尾身長官がえらい勢いで言っていたので良く覚えており、反論しようと思ったが、悪いかなと思って黙っていた。本当はその場で反論すれば良かった。しかし、反論したのは、先程塩谷経済企画庁調整局長が指摘されたように、後であった。そういうことで、反論したらもう少し論争になったかもしれないが、ちょっと間を置いてしまった。私もあの時あれあれという感じがして、午後になってこういう反論が出たのだが、勿論全く妥当な反論だが、ちょっと結び付かないところもある。私はここでは一回限りの例外的な判断をして情状酌量をしたらどうかと思う。』

・・・・まあ何となく尾身長官が発言した時点での光景が目に浮かんで参りますけれども、新法施行直後で慣れてなかったという事でしょうが、逆に言えば新法施行前はこーゆーのが普通だったんでしょうかねとも思わせるここのやりとりなのでありました。

トップに戻る






2008/08/14

○市場の流動性に関する論考が中々良い感じです

だいぶ前のネタになりますが、先月末にリリースされていた金融市場レポート。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/mkr/mkr0807a.htm
本文は結構重いPDFですので注意
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/mkr/data/mkr0807a.pdf

この中で、市場流動性の低下が市場参加者のリスク許容度の低下につながり、レバレッジの解消に伴う巻き戻しの動きと相俟って流動性の落ちた市場で価格のスパイラル的な下落が生じ、理論価格から大きく乖離するような状況が発生して不測の損失が拡大するというような一連の流れに関して、市場流動性の問題について割と実践的な論考が行われています。

だいたい本文18ページ(その前にリスク・アペタイトの説明コラムがあるので、そのあたりもございます)あたりから読むと面白いです。で、これをまた全部引用しているとエライコッチャなのですが、本文21ページにあるコラムが端的に纏まっているのでちと長いですが引用させていただきたく存じます。なお、図表などもオモロイので本文に当たっていただくことを推奨いたします。

『市場流動性はつかみどころのない概念である。それは、市場流動性の多面的な性質を反映している。この性質を踏まえた上で、比較的広範な支持を得ている定義は、「流動性の高い市場とは、大口の取引を小さな価格変動で速やかに執行できる市場である」というものである。この定義に沿った市場流動性指標としては、ビッド・アスク・スプレッド(売り手と買い手間の提示価格の差)や価格変動の取引高比率(一単位の取引が引き起こす価格変動幅)などがしばしば用いられる。図表I-2-2 に示した市場流動性の動きは、日米欧の様々な市場に関するこれらの流動性指標を、単一の指標として集約したものである。サブプライム住宅ローン問題の発生によって、市場流動性は大きく収縮したが、流動性の変動パターンには、今回の局面に限らず、過去の局面と共通した幾つかの特徴が見出せる。』

『第一の特徴は、順循環性である(図表I-2-2)。好景気時には、多様な経済主体が、リスク・アペタイトの増加を背景に、資金運用を積極化させるとともに、市場での資金調達も活発化させる結果、市場流動性は潤沢になる。』

『第二の特徴は、共変性――流動性が複数市場間で共変動すること――である(BOX3 図表1)。市場流動性が地域間で、あるいは金融資産間で共変するのは、横断的なショックの発生に加え、投資家の地域や市場を跨いだポートフォリオ・リバランスが影響している。特に、多くの投資家が資金流動性制約に直面した場合には、共変性が高まることが指摘されている。』

まあ左様ですな。で、この続き部分は市場の中および周辺の皆さまにおかれましてはご存知の話ではあると思いますが、改めてこのように文章に落としていただきますと、腑に落ちるものであります。

『第三の特徴は、稀に発生する急激な収縮である(BOX3 図表2)。これは、今回の局面で特に顕著に表れているが、市場取付け(market run)の発生――すなわち、群集行動を伴ったパニック的な資産売却の発生――に起因する。個々の投資家は、群集行動に追随せずに、資産を満期まで保有し続ける選択肢もあるが、満期前に流動性ショックに直面する可能性がある。その場合には、出遅れた分だけ、より低い価格で売却せざるをえず、大きな損失を被る可能性がある。このため、投資家は、市場の流れに沿って、資産を今日売却した方が得と考える。全ての投資家が一斉に、こうした予想を持つようになると、実際に市場取付けが発生する。』

『最後の特徴は、ボラティリティとの相関の高さである(BOX3 図表3)。これは、マクロ経済の不確実性(ボラティリティ)が上昇し、リスク・アペタイトが低下すると、非流動的な金融資産に対する投資が抑制され、市場流動性が収縮していくためである。』

ということで、レポートの後半の方でもうちょっと敷衍した話もあったりするのですけれども、市場流動性という計測しにくいモノに関して色々なアプローチをしているあたりが中々結構なお話かと。でもまあその市場流動性の低下がどのような部分にどのような指標として出るのかっていう話になりますと、これまたケースバイケースとしか言いようが無い話でもありまして、一義的にこの指標を見れば定量的に計測できるってもんじゃあないでしょうと思います、というのは現場職人叩き上げ系のあたくしのポジショントークも混じってますけどね(笑)。

ということで、この手の市場モニターをする際には、以前この指標を見たら計測できたけど今回はどれを見るのかというような所に思いを馳せて頂きつつ動いて下さると誠にありがたく存じます。

トップに戻る










2008/08/13

○決定会合議事録ネタ:古くて新しい議論ですな(98年5月19日より)

相場がアレなもんで98年5月19日の決定会合議事録を読んでおりましたら10年前からこのネタですかというのを査収。以下98年5月19日の金融政策決定会合議事録からで、本文30ページ以降の議論になります。米国株式市場に関す論議の流れからこの話が(発言の長いところは適当に段落分けしておりますので、前に発言者の名前がない場合は直前の続きと思ってください)。

三木委員:『前にお話があったかと思うが、日本の今の低金利とか流動性の供給が、アメリカの株高とか債券市場のバブルにつながっているのではないかという議論、それについて、現実の日本から米国への資金の流出の動きを踏まえて、日銀としてはどう考えているのか。』

永島理事:『単純な結論から申し上げると、まず日本の資金が直接アメリカの株に行っているかどうかという点については、87年のバブル期には、アメリカから見た非居住者の株の買いと、日本からの米国株の買いがほぼマッチしているというか、要するにかなりの程度日本の投資家がアメリカの株買いに向かったという事実がある。ところが今回は、97年中の動きで見ると、アメリカの非居住者からの株買いのうち日本からの買いは5分の1位である。そういう意味では、直接的な株買いは非常に少ない。ただ、昨日の新聞に出ていたが、日本は経常収支の黒字があるので、当然のことながらその裏として資本が出ている訳である、80年代後半の資本の出方というのは、アメリカの不動産を買収したという直接投資、それから直接債券とか株を買う、こういう形で出ていた訳であるが、今回はバブルの後始末とかジャパン・プレミアムとかがあり、基本的には債務の返済という形でお金が出ていっている。』

『この債務の返済で出ていったお金が回り巡ってアメリカの株に回っているということはあるかも知れないし、これがいわゆる円キャリー・トレード論の背景にある訳だが、一旦出ていったその後がどうなっているかという実態については、よく分からない。ただ、当然のことながら経常黒字があり、その裏で債務返済の形で日本からお金が出ている訳であるから、直接日本のお金がアメリカの株買いに回っている、あるいは米国債券の買いに回っている、アメリカの不動産の買いに回っているということは、前回と違ってほとんどないにせよ、お金が出ていっていること自体は間違いがない。』

山口副総裁:『その議論は、三木委員の提起されたようなアメリカの株だけではなく、例えば東南アジアのバブルに対しても日本の低金利がかなり影響を持ったのではないかという議論として一般化できるが、ヨーロッパ勢の言い分と、アメリカ勢の言い分というのは実はかなり違ってきている。私の印象では、もし間違っていたら永島理事に訂正頂きたいが、日本の低金利が例えばアジアのバブルにかなり影響したのではないかという言い分が、ヨーロッパ勢からはかなり聞かれる。これは、勘ぐって考えると、アジアの債務処理に当たって邦銀にも相応の負担を求めたいという魂胆が見え隠れしているという感じである。ところが、アメリカの株をバブルと言うのかどうかはともかく、それと日本の低金利の関係ということについては、私はFRBの人にも繰り返しそういう問いを投げかけてきているが、肯定的な答えを得たことは一度もない。彼等はアメリカ国内の要因で大体説明できるということを一貫して言ってきている。』

中村大蔵政務次官:『補足させて頂くと、まさに山口副総裁が言われるように、どういうものか、ヨーロッパのしかも中央銀行筋でも、日本の低金利がアメリカないし自国の株も上がっているが、それを招いているのではないかという、そういう議論がある。ただ、アメリカについては、むしろどちらかといえば逆の議論であり、アメリカの財務省筋等は、むしろ日本は国債を買って量的緩和をすべきであるというような議論を国際会議でやる位であり、まったく逆である。ここは奇妙であるが、見方が欧米で少し違う。』

三木委員:『今の債務の返済というのは、こちらが持っている債務か。』

永島理事:『そうです。色々な段階の債務があるが、企業段階の債務としては、アメリカで色々投資をやった訳であるが、巧く行かなくて、向こうで大変な借入金を抱えたものを、結局バブルの総決算でこちらからお金を送って返済するとか、銀行段階ではご承知のようにジャパン・プレミアムが付いて取れなくなってしまったので、最初は海外で自分が持っている預け金で両建てになっているものを落とし、それもできなくなったので、結局本店から円投を行って返したということである。』

で、ちょっと途中を飛ばしまして・・・・・

速水議長:『ビック・バンの影響もあるかも知れない。』

永島理事:『ビック・バンの影響は、一番出るのはやはり個人の投信の買いとかそのようなところに出てくる訳であるが、これはまだ千億円の単位に止まっている。兆円の単位ではなくて、まだ千億円程度のものが始まったところということである。ただ、長い目でみればじりじり、じりじり出てくるので、これからはそういう要因も資金の流出要因として、無視できなくなってくるように思う。』

で、この議論が終了してますが、ビックバンとか無茶苦茶懐かしいわと思うのですが(あたくしが社会人デビューした時は大口以外の預金金利は規制金利でしたが、笑)、低金利がバブルをどうしたこうしたという話ってこの頃から延々とやってたんですねという感じです。背景状況が今とは違う部分が沢山ありますが、何か議論されてることって昔も今も同じような所っていうのは沢山あるんですねと思います。

ということで、欧米の中央銀行は今般公表された議事録半年分をを1万回くらい熟読すると金融システム問題に関して重要なインプリケーションが得られる宝の山なのではないかと思料されるところでございまする。

トップに戻る






2008/08/05

○議事要旨ネタ:低め誘導時代の金利操作に関する議論

昨日の続きで、98年4月9日の議論から。

議事録の9ページ以降から。

篠塚委員:『昨日の日経金融の記事だと思うが、オーバーナイト・レートが0.35%から0.42%に上がったことについて、日銀は0.40%〜0.50%の幅に誘導しようとする意図が見てとれると書かれていたようだ。それについてじゃ、どのように考えているのか。』

山下金融市場局長:『ご指摘の点は、まさにここでご議論頂くことであり、私どもとしては頂いているディレクティブということで、オーバーナイト・レートについて公定歩合をやや下回るように調節してきている、実績としても、ここ数か月は0.43%前後のところで調節している。その点を捉えてそういう意見が外部にもあることは承知しているが、これについては本席でご議論頂きたいと思う。』

で、この時間帯は基本的質問コーナーなのですが、各委員から見解が出ているのがあたくし的には興味深く感じましたが、多分興味深く感じるのは当時から超足元の金利を触ったり興味津々だったマニアさん位しか感じませんかそうですか。マニアでどうもすいませんm(__)m

武富委員:『その場合、これは仮定の話だが、レンジが示唆されると市場参加者のうちビット側が、低いところ(下限)にあわせてビットしてくることにならないか。自分の資金事情とかマネー・ポジションの度合いを反映して、素直にビットしてきて市場が自然な形で形成されればいいのだが、一種の下限が示されると、それに左右されて却って市場が歪むということはあり得るのか。観念的な質問で恐縮だが。』

山下局長:『要するにレンジの決め方であると思う。例えば、1日の取引だけを考えても、ご承知のとおり朝方は出合いを付けるために慎重に出てきてやや高めになるが、交換尻を過ぎてからは、急激に金利が下がるという展開になる。もし”mandate”を頂くとすれば、レンジについては日々の上下限といったことではなく、一定期間の平均という形で頂かないと”mandate”を守れなくなってしまう。平均ということであれば、それぞれの出合いにおいてはそれは意識するにしても、日々の需給の変化等による振れはならされるので、レンジ自体が制約的になることはないのではないかと思う。まだ、着任したばかりでマーケットの感覚が十分身についていない部分もあるが、直感的にはそう思っている。』

山口副総裁:『レンジを決めて、そのレンジからびた一文コールレートを飛び出さないようにすると決めた場合には、武富委員がおっしゃるように、状況によっては、何とか上を突き破ってみせようとか、あるいは下値をもっと出してみようとか、ということである種の攻撃がかけられる可能性があると思う。それを何が何でも守るということを日本銀行の調節の方針とした場合には、我々は非常に硬直的な資金の供給なり吸収なりを強いられるのではないか。』

中原委員:『その場合、どちらかに張り付く危険性が非常に高い。』

後藤委員:『この問題は、恐らく午後の金融調節のところで議論になると思うが、ちょっとアンビバレントなところがある。透明性という観点からすれば、公定歩合をやや下回るというのは、余りにも漠然としているので、ある程度レンジを示したほうが透明性が高まるという議論がある。ただ、同時に、金融調節というのは一種のカード・プレイみたいなところがあって、要するにマーケットと駆け引きをする訳だから、余りに硬直的にそこにこだわると、逆に市場から発信される情報を制約するということにもなりかねない。結局、「透明性」と「市場との対話」をどこで兼ね合わせるかという問題になってくる。』

植田委員:『学会でもコールレートではないが、例えば為替レートについてターゲット・ゾーンがあっても、ゾーンを公表しないほうが却って為替は安定化するという議論もある。』

武富委員:『私も為替のことを念頭において先程の質問をしたのだが。』


その後の各審議委員議論の中(概ね87ページ目あたりから)で金利誘導数値を出すのかという話も入っているのですが、そっちを引用するとキリがないのでそっちは割愛で勘弁。


規制金利とか指値オペみたいな時代から市場での金利形成になってからそんなに年数が経っていないせいもあって、「市場機能」とか「市場との対話」という議論が昨今の同じお題とはだいぶその内容が違っているのが見て取れると思います。というかここ数年のインターバンクレートガチガチの市場しかご存じない若い衆からしたら上記の議論ってポカーンだと思いますが。

また、この時期(10年前)は(昨日ご紹介した議論の部分でもそうですが)金融調節の中でディレクティブで金利を明示するのかどうかという部分も論議になっていたというのも興味深い所です。引用してませんが午後の議論で、ここ数か月のオーバーナイト・レート水準が0.4%台前半に収まっている(その前は0.4%台後半でした)ことについて各委員が納得し、ファインチューニングとして評価していたのですねというのは議事録公開できっちりと判った点ですね。市場ではさっきの篠塚委員の発言にあるように、この頃は何となく0.4%台前半なのでしょうか状態だったと思われますが。

ただ、10年経って後知恵で思い直しますと、このファインチューニングってのも良し悪しで、ファインチューニングの範囲内ならば再びコールレートの誘導水準が0.4%台後半になる(0.5%を平均的に超えることはないというディレクティブがあるのでそれ以上は上がらないが)可能性はありありですので、足もとのコールレートは下がるにしても、ターム物金利やら中長期の金利形成に対する期待の誘導がしにくい面があるというのが結果としては言えたのかもしれません。

この時の議論(86ページ目以降ね)の中で、委員会では最終的に0.4%台で誘導って話になった(0.3%台までの低下を容認するかという意見の流れで利下げの話もありましたが全員一致で現状のディレクティブ維持)ものの、それに関して議事要旨での公表や、ディレクティブの中で内々に示すという事は行われなかった(100ページ目以降)という流れになっておりました。

#マニア向けの話ですいません

トップに戻る







2008/08/04

○また金融政策決定会合議事録:積み上の議論

この頃の金融政策決定会合におけるディレクティブは「無担保コール翌日物加重平均金利を公定歩合をやや下回るように調節」だった(当時はそれを「低め誘導」と言ってましたが)のですが、このディレクティブによって調節をしてて金利水準が動いていたのねということを思い出しましたのがこの間の議事録を読んだあたくしの感想。

4月9日の決定会合議事録の5ページ目から山下金融市場局長の説明部分を引用。

『前回会合以降の金融調節を、年度末31日までと新年度に入った4月1日以降の2つの局面に分けてみることとしたい。(年度末までは大幅な積み上を作った話割愛)その後、新年度入り後は、季節的な資金余剰期に入ったこともあって、需給がかなり引き緩んできたので、ターム物金利等の落ち着き具合をチェックしながら朝方の積み上幅を徐々に圧縮し、オーバーナイト・レートの過度の低下を牽制する調節を行ってきた。』

『新年度入り後の調節において特に留意してきたポイントは次の2点である。第1の留意点は、オーバーナイト・レートの過度の低下を回避するということである。4月の大幅な資金余剰期に入ったこともあり、これまでのように朝方にかなり大幅な積み上を作るような緩めの調節を続けていると、オーバーナイト・レートは自然に大きく低下するようになっている。現に、4月3日、6日と積み上幅を7千億円にまで圧縮したにもかかわらず、オーバーナイト・レートは0.35%まで低下した。仮に7日以降もオーバーナイト・レート0.35%という水準で調節を行った場合には、15日までの今積み期間中の月間平均レートは0.4%を下回る水準まで低下してしまうことになる。また、2日に公表された短観で景気情勢の悪化が改めて確認されたこと、あるいは国会答弁等で日銀首脳の景気に関する厳しい認識を表明されたことから、オーバーナイト・レートが2日連続0.3%台を付けたことを眺め、マーケットの一部
では「金利低め誘導実施か」といった観測が台頭してきていることも、私ども調節担当としては意識をせざるを得ないところである。(第2の留意点はターム物金利の話などですが割愛)』

で、この後金利誘導をどうするのってお話が続くのですけれども、その中で後藤審議委員が『4か月半振りでリザーブ・ニュートラルに戻して、その割にターム物金利がそれほど跳ねなかったのは多いに慶賀すべきことだと思う。』と発言してまして、最近の市場しかご存じないとナンノコッチャだと思うんですけど、かつての状況を知る者としては懐かしいですね。

で、例によってあたくしが読んだのが全然まだまだ全部を網羅しておりませんので、他の議論となりますと6月25日の会合になるのですけれども、この時は長銀問題でインターバンクにプレッシャーが掛かっていた時期なのですけど、中原審議委員がレートを下げる為にどうするかという質問を山下金融市場局長にしているやり取りがやはりなるほどねえという感じで。5ページ目から。

中原委員:『現在の状態でオーバーナイト・レートを、前回私が申し上げた0.4%まで下げるとしたら、どの程度の追加供給が必要となるのか。』

山下局長:『現在の状況であれば、おそらく2、3兆円の追加供給により、積み上幅を大きく増やし、しかもある程度そうしたアナウンスをしていかないと、なかなか難しいと思う。つまり、マーケットは日本銀行の誘導目標は0.4%から0.5%の間にあり、0.5%を超えると抑え込んでくると考えている。従って、0.5%に近づいてくると資金供給を大量に増やしてくると受け止めており、0.48%〜0.47%のレートであれば、ある程度大量の資金供給をしても、それを日本銀行がさらに抑え込もうとしているとは考えていないと思う。』

中原委員:『クルーグマンが言っているように、大量の資金供給が必要という考え方があるが、その際、一遍にやるか、少しずつ下げてみて市場の反応を見るというやり方があると思う。今の状態では、少し下げるにも2〜3兆円増やさなければならない感じなのか。』

山下局長:『今の状況で例えば3兆円出すとマーケットは驚くと思う。それは日本銀行の意図は何かということになる。一時的に少し過熱感が出てきたのを冷やすということなのか、それともレートの誘導値を下げてきたのかを明確にしないとなかなか的確に調節できない。』

以下続くのですけれども、この時期は明確なアナウンスをしないで金利水準を何となく下げて行った(低め誘導開始当初はオーバーナイト・レートは0.50%近い0.4%台後半だったのですが、短期市場にプレッシャーが掛かっていたこの前後には0.4%台前半が中心になっていましたが、この間ノーアナウンスで調節で意図を出すという形だったんですよ)ので、積み上がどうのこうのとか非常に重要視してやっていたんですねという所です。

まあ後から見ると0.5%を下回る云々というよりはレンジかポイントをアナウンスした方が誘導はやりやすかったと思いますが、この当時も市場機能の問題とか、本当にアナウンスするのが効くのかという議論があったんですけれども、その話に関してはまた明日。

トップに戻る








2008/08/01

お題「そこら辺の小説より断然面白いです」

金融政策決定会合議事録が公表されましたので個人的な感想などを。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gijiroku/data/gjrk.htm

こちらに決定会合議事録へのリンクがございますが、ご覧になれば判るようにファイルサイズが鬼のように重く(スキャナーで読んだPDFになっていますな)、150ページを超えるような回もありということでもうエライコッチャでございます。

○でも一度読み出したら止まりませんな

今回公表されたのは98年前半なのですが、97年後半に三洋、山一、北拓の経営破綻で一部の大手銀行まで信用不安だとか言う話になったという動きがあり、98年前半はアジアではインドネシアでスハルト政権が退陣に追い込まれたとか、長銀の経営問題で大揺れだったとかという時代。当時あたくしはクレジット物などの対顧ディーラーやって日々ヒーコラ言ってました(個人的には97年後半に相場様にボコボコにされて泣きそうだったせいで98年度入りしてからはだいぶ耐性が出来てたんですけど)時代ですので、もう読んでて涙が出るほど懐かしいです。

で、とりあえず新しい分(98年6月)から読んで行ったのですが、6月25日(これは50ページしかないのでお勧め)と12日を読んで(ただし25日は熟読したけど12日は全部熟読できてません)、あと話題になってた所をチョロチョロと読んだだけですけど。

あたくしなんぞのような年寄りと致しますと、当時まさに現場にいたという事もあり、昔のアルバムや日記を読むような気分で超感慨深く読んでしまうのですけれども、ふと冷静になると、10年前に弾の飛び交う現場でヒーコラ(えー10年経ってもまだ現場労務者ですがorz)言ってたとか言うと歳が思いっきりバレますわな。というか「当時は学生さんでしたよ」どころか当時義務教育中だった人とかそこら辺にいる訳で(苦笑)。


ということで、まあ今回はあたくしが読んでほうほうと思ったあたりを少々。読むのに気が遠くなるほど時間が掛かるのでまあ追々ご紹介したいと思います。


○6月25日の会合は山下金融市場局長の説明が臨場感あります

・・・と申しましても、その臨場感って多分当時現場にいたから記憶がよみがえって来たとかいうクチだと思うんですけどね。本文3ページからスタートするんですが。

『お手許の資料の1、3ページをご覧頂きたい。前回6月12日会合以降の短期金融市場の動きをみると、長銀の経営悪化問題が取り沙汰される中で、ターム物金利が金融システム不安再燃への警戒感から徐々に強含む傾向が目立っている。例えば、ユーロ円TIBOR1か月ものをご覧頂くと、12日の0.55%から次第に上昇してきて、昨日の0.59%まで4bpの上昇となっている。この間、極めて落ち着いた推移を辿ってきたジャパン・プレミアムも今週に入って次第に上昇の気配を示している。』

『こうした状況の下での金融調節運営を振り返ってみると、積み最終日となる15日には長銀株を始めとする銀行株価の下落を背景に地銀等が慎重な資金放出姿勢を示したことから、レートが0.50%を窺う気配を示した。このため、朝方の追加オペ分も含め所要額に対して4千億円多い資金を供給したが、結局オーバーナイト加重平均レートは0.48%まで上昇した。この結果、5月の積み期間中の平均レートは0.44%での着地となった。』

『積み明け後の16日以降は、一部で資金を取り急ぐ動きが見られたため、朝方のオペで連日7〜8千億円の積み上幅を造成した。最終時点でもそれを残す調整を行った結果、レートは徐々に低下し、特に18日には協調介入実施に伴う円相場の反発と銀行株価の持ち直しもあり、オーバーナイト加重平均レートは0.41%まで低下した。しかし19日の午後、政府筋が長銀の自主再建は困難と発言したとの報道が流れたことを受けて、出し手が一斉にオファーを引いたため、取り遅れた一部外銀が0.6%を上回る水準まで取り上がり、マーケットの地合いは再び悪化した。』

『そこで22、23の両日は朝方1兆円の大幅な積み上幅を造成した。23日にはさらに2千億円の追加オペを行い、レートの上昇を牽制する調節を行ったが、加重平均レートは0.48%まで上昇した。昨日はレートが寄り付きから0.5%を超えて出合う展開となったので、やや過熱感が出てきた市場心理を落ち着かせるためには、早めに思い切ったシグナルを出す必要があると判断し、朝方の積み上幅を1兆5千億円に拡大した。さらに最終でもこれをそのまま残す調整を行い、準備預金の積みを一気に進捗させたところ、オーバーナイト・レートは午後に入り急低下し、結局1日の加重平均レートとしては0.45%まで低下している。こうした昨日午後の動きを受けて、市場がどの程度落ち着きを回復するかが注目される。』

『マーケットは信用不安の再燃懸念からかなり不安定な地合いとなってきているうえ、当面4月(原文ママ、7月だと思いますが)初めにかけてボーナスの支給や税揚げ等から資金需給が不足方向に振れるため、引き続き潤沢な資金供給により市場の安定確保に全力を挙げていきたいと考えている。』

確かこの決定会合の翌日に住友信託銀行と長銀の合併報道が出たんですよね。結局幻に終わったのですけれども・・・・というか文書手打ちすると疲れますがな(笑)。



○金利誘導の方法も手探りだったのでしょうか

で、この後中原審議委員が山下局長と「どうすれば翌日物を0.4%まで下げられるか」という論議をしていて中々興味深いものを感じました。この前の会合の流れとかも読んだのですが、当時は「低め誘導」の枠組みの中で調節によってコールを0.4%近傍に誘導して緩和効果を出そうという流れだったんですね。

まあ後知恵にも程がありますが、今にして思えばそれなら明示的に金利ターゲットを0.4%とアナウンスしてくれれば市場はそれに沿って金利形成するので、逆にそんな積み上が必要なかったのかも知れませんけれども、当時は今と考えも違っている部分があったということですな。言われてみりゃあたくしにも思い当たる部分があります。

で、この回の議論じゃなかったと思うのですが、一時緩和策の一つとして準備預金率の操作を行って、金融機関の準備資金需要を緩和させるという議論があったんですよね(物凄い勢いで斜め読みした議事録の中にあったので、どこにあったか忘れた)。計算したら金利下げた方が効果高いということで結局お蔵入りになったようなのですが、当時は色々な手段を使って金融緩和の方策を練っていたというのが良く判るところでありました。


○尾身経済企画庁長官(当時)大暴れの図

まあこのあたり散々報道されているのですが98年4月9日の尾身経済企画庁長官の発言は何とも(35ページ目以降)。

『今度のレポートは大変大事だと思っている。今の分析を全体としてみて、パターン認識的に景気が下に行きそうだということを説明するためにいろいろなことをくっつけているような感じがする。私どもも景気の現状の厳しさについては、日銀とそれほど違わない考え方を持っているが、政策責任官庁としては、この日本の景気を上げなければならないということで、いろいろな手を打っている訳である。そのいろいろな手を打つという状況の下で、明日、月例経済報告を出す。そして、「景気が停滞をしていて、厳しさが増している」という表現でいく。しかし、資料−3の1ページは「マイナス方向に働き始めており」と言っている。つまり景気の循環局面がマイナスの方向であるという表現になっている。』

『我々は、今度の対策で、景気を上に向けようとして、対策を出す訳である。だから、景気の底は3月か4月であるという方向でやっていく。それを片方で、日銀がいわゆるエコノミスト的な分析で、「マイナスの方向に働き始めており」という感じにすると、我々としていろいろな対策をやった時にコンフィデンスが回復しない要因がこのレポートにあるというようになる可能性がある。』

『確かに、数字の動きは全部マイナスであるから、日銀としてはある部分のエコノミスト的な感覚で言えばそういう感じを持つのも分からなくはないが。それは良く分かっているが、このレポートそのものがマイナスの暗示に非常に敏感に反応しているものになっていて、プラスの暗示に反映していない。全部が感性が鈍くなっている状況である。感性が鈍くなっている状況の下において、それをやや強調するような下振れ圧力とか、マイナスの方向に働き始めているとか、そのような方向に行くと、せっかく我々が4月に対策を出した時に、経済の動向が下を向いているというレポートになり、「政府がいろいろなことをやっても気分が悪くなっているのでうまくいきませんよ」というような、我々の景気対策の効果を、ここではっきり申し上げるが、足を引っ張るようなレポートはなるべく避けてもらいたいと思う。』

『それと同時に、例えば地価についても、商業地等については上がっているところもあるというのが最近発表された時の新聞の記事である。それをここではそのようなことを何も書かない。地価の問題は一番大事である。何故大事かというと住宅建設にも関係があるし、マーケットでは外国が今商業地等を買いに来ている訳でもある。私は1月にグリーンスパンFRB議長にも聞かれたが、「地価が下げ止まったか」というのが彼の第1の質問であった。地価が下げ止まったかということについての判断が、また下がり始めたという判断であると、買う人も買わない。地価の統計を見ると、必ずしもそう断定できないような部分も私はあると思う。』

『例えば、計表10の商業地の地価の公示価格の上から2つ目の欄で、地価の下落幅が、商業地は、1月は−7.5%になっている。少なくともずっと前を見ていくと、1月といえども対前年比で見れば下落幅が小さくなっている。それから東京の中心部の商業地については、外人が買い向かってきているので、地価が上がっているところもあるというような記事がある。そういうところも取り上げてもらい、傾向として、図表31の図で10月と1月を比べて少し下がっていることは分かるが、全体としては上向きのラインになっている。1回下がっただけでそれが傾向として下振れしているとか、下に向かうかということは簡単に決められない訳であるから、もっとその辺のことも考えながら慎重な表現にしてもらいたいと思う。そのような表現が微妙にあることによって、我々が4月にやる対策の効果が減殺されてるのは困る。意見として申し上げておく。』

『それから、私の認識としても、地価が下げ止まり感があると思っている。金融システムがあれだけパニック的な状態、1月15日位までパニック的な状態であった訳であるから、その状態のしたでもこのような数字になっている訳であるから、少し落ち着いてくればそのような実態ではないのではないかと思っている。やはり委員会のメンバーの方々がある程度日本経済に自信を持ってもらわないと、悪い暗示に感受性が強くなっていて、良い暗示に感受性が弱くなるような状態で、我々は勝負を賭けて、内閣の命運を賭けて政策をやる訳であるから、そこは是非ご理解を頂きたいと思う。』


・・・・・すいません、発言全部引用しないとフェアじゃないかなと思って手打ちしたら死にました。

えーっと、後知恵で尾身さんプギャーというのは簡単なのですが、最後の所にもあるように、まあそういう勢いで景気を何とかしようと頑張っている状態だったという点で気持ちは何となく理解できないわけではないですわな。同意はしないけど。

他の部分でもチョロチョロとあるのですけど、当時の景気悪化に関して日銀が悪いのオンパレードだったりしますけど、こーゆーやり取りを見ていますと、どうも政府の楽観というよりは希望的観測による判断のほうに大いなる問題があったんじゃないのでしょうかと思うのであります。

後知恵だから何とでも言えますというのは申し訳ないのですが、この98年がまだまだ終わりの始まりだった事を思いますと、負けが込んで来て希望的観測入るって大東亜戦争末期入りって感じなんですかというところで。

もう一つ思ったんですけどね、不動産価格って確かに先に暴落したのですけれども、不良債権問題ってここから今度は資産デフレからデフレ不況に波及した訳でして、そう考えると今の米国の問題にもインプリケーションがあるんじゃないのと思ってみたりして。


○ところでこれ出版してくれませんかなんて思うのですが

正直申し上げて、これをPCモニターで読むの疲れますし、紙に出すのは紙代とトナー代が気になる(しかも時間が泣きそうにかかる)次第。

モノが議事録をスキャナーで読んだという感じで、建て付け的に何となく美しくないというのは分かるのですが、この際ヤケクソでこのPDFを製本したようなもんでも良いので出版してくれると買う人が・・・・・・

・・・・・冷静に考えたら精々200人くらいしか居なさそうな気がしてきましたので今の発言はあくまでも独り言という事でお願いします(汗)。


あと、議事録本文読みも面白いのですが、参考資料がまた実に良い内容でして、毎日の交換尻と最終の積み上が幾らあってオペがどう打たれたかとか、もうマニアにはたまりませんです。

#ふ〜疲れた

トップに戻る










2008/07/31

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research07/ron0807c.htm
サブプライム問題に端を発した短期金融市場の動揺と中央銀行の対応

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research07/data/ron0807c.pdf
(本文はPDFで53ページあります)

○準備預金は金融調節円滑化の為にございまする

調節の具体的な話の前に最初のところなんで。毎度お馴染みのお話ですけれども。

『中央銀行の金融市場調節(以下「金融調節」)手段は、各国の調節目標、金融市場の状況、歴史的な経緯などによって詳細が異なるが、大括りに整理すると、準備預金の積立制度、オペレーション(公開市場操作。以下「オペ」)、スタンディング・ファシリティ(「常設ファシリティ」とも呼ばれる)、の3 つから構成されている。』

ということで、準備預金制度なんですけど。

『まず、準備預金の積立制度のもと、金融機関は、一定の期間に一定の残高を中央銀行に準備預金として積み立てる必要がある。金融機関の決済資金需要は日々変動するが、この仕組みによって、比較的安定した準備需要が創出される。そのうえで、中央銀行は、オペを通じて準備需要に対するマクロ的な資金過不足(財政および銀行券要因による中央銀行当座預金の変動)の調整を行い、政策金利と整合的な水準に市場金利(一般には翌日物金利)を誘導する。』

まあ実務やってると当たり前以外の何物でもないのですが、冷静に思い出してみますと、準備預金制度ってあたくし高校の授業では「市中銀行の支払準備を持たせる」「準備預金率操作で金融緩和/引き締めを行う」という話しか教わってませんでしたな。ま、あたくしが教わってたのって昭和時代でございますから全然参考になりませんが。


ところで余談なんですけど、6月に出てた解説レポートでは金融調節を『金融市場調節』って言ってたんですが、今回はまた『金融調節』に戻したのは何ででっしゃろ。

で、もう一つ最近脚光を浴びているのがスタンディング・ファシリティ。

『スタンディング・ファシリティは、金融機関からの申込みに応じて、予め定めた金利で短期の資金貸出や預金受入を受動的に行うものである。これにより、金利変動の大きい時にはその上限や下限を画し、また、そうしたファシリティが普段から利用可能であることを市場参加者に認識させることを通じて、オペによる金利誘導を補う役割を担っている。』

本レポートに後で詳しい説明がありますが、常設ファシリティによって短期市場金利(基本的には翌日物金利)の回廊を形成させることができますよということでござんす。


○昨今の欧米において直面した金融調節上の課題

本文3ページ目あたりから。

『第1は、金融政策上の誘導目標としている翌日物金利のボラティリティの高まりである。』

『第2は、タームプレミアム(1週間、1か月といったターム物金利と翌日物金利との乖離幅)の拡大である。』

という話は昨日ご紹介したワーキングペーパーシリーズ(の英語版)の中にもありましたよね。ボラが上昇すると流動性プレミアムが高まり、更にボラが上昇するという相互作用によって金融調節が難しくなるという問題。

『第3は、短期金融市場の動揺のクロスボーダーでの波及である。』

これも先日ご紹介したワーキングペーパーシリーズの中にありましたな。

『第4は、有担保の資金取引市場の著しい機能低下である。』

これどういうことかというと・・・・

『一般に、無担保での与信には慎重であっても、有担保であればカウンターパーティ・リスクを強く意識せずに取引することができる。しかし、米国レポ市場では、2007年夏以降、特に2008年2〜3月にかけて、MBS(モーゲージ債)担保のレポレートが急上昇し、国債担保のレポレートとの格差が拡大した。これは、質への逃避傾向の強まりから、安全資産である国債の選好が強まった一方、MBS は価格下落、すなわち担保価額が下落するリスクが意識されたためである。レポ取引では、通常、そうしたリスクに備えてヘアカットやマージンコールといった仕組みが組み込まれているが、担保の価格下落が急激な場合には、こうした仕組みでは必ずしも保全されないことがあり得る。』

特に米国だとレポ市場がやたら発達してるようなのですが、有担保と申しましても相手がコケた場合には色々と不具合が生じるんですよね。フェイル上等の国なのでレポの相手方が突然飛ぶことによって資金繰りと玉繰りがいきなりエライコッチャになる訳ではないと思いますが、その担保価値の下落もさることながら、取引再構築コストってのを意識すると相手が少々お危ないとなりますと、取引する勇者も減りますがなという所なのではないかと思うのですよ。

『第5は、貸出スタンディング・ファシリティの利用に対する金融機関の「抵抗感」の強さである。』

『信用不安の強い市場環境の下では、中央銀行の貸出ファシリティを利用したことが明るみに出ると「資金繰りに窮している」という評判が立つ惧れがあり、金融機関がそうしたリスクを警戒するためである。冒頭みたように、貸出ファシリティは、本来、市場金利の上昇時にその上限を画し、金利誘導を行いやすくすることを目的とした金融調節上の仕組みであるが、信用不安の強い局面では、必ずしも所期の役割を十分に果たさない場合があることが明らかになった(貸出ファシリティの利用に対する抵抗感の問題は、一般に「stigma」と呼ばれる)。』

この問題ですけど、後のほうで解説があって最近は利用されてますねって話になってますが、日本の場合でも金融不安ネタというか銀行経営ネタが残っている間って期末にロンバートに行かないでそれより高い市場調達をしてた人がいたりしたという事例もありまして、日本では最近思いっきりご利用されている(というかロンバートを背に寝転ぶ人が続出してるのでございますが)のですけど、いざ金融不安とかなった時に今のような状況が続いてくれるのかというのは一抹の不安も。


○各国金融機関の対応の概観ですが

本文7ページ目以降。

『第1に、即日スタートの翌日物オペの活用が、頻度・規模の両面で増加した。』

特に欧州では即日スタートのオペとか従来殆ど無かったので、これが増加したのは大きな変化なのですが、ちょっとだけ気になるのは(本論と全然関係ないですが)日本で最近即日スタートオペがあまり行われないようなオペレーションになっているのはこの意識が根底にあるんじゃないのかなというところです。どうも翌日以降のオペで調節を完了させようとする結果、四半期末要因とかでレポとかの金利が上昇している時に放置してそこそこ上昇してから供給を急に打ち出し、期末越えてレート下がっているのに今度は供給オペがロールされて今度は低下にダメ押しするというような微妙な調節になってるんじゃないのかなあとか思うのですよ。

・・・・などと書いたんですが、上記の話の意味って超ごく一部の関係者しか何がなにやらですね、どうもすいません。


『第2に、オペ期間の長期化、柔軟化が図られた。』

『タームプレミアムの拡大に対応したものと考えられるが、FRB やECB、BOE は、ターム物金利を誘導目標としていないことから、特定の水準を念頭に置いてタームプレミアムを引き下げることを企図したものではないとみられる。しかし、ターム物金利の不安定さや、その背後にある金融機関の調達不安を放置することは、翌日物金利の誘導を難しくする可能性があるほか、広範な金融市場の機能低下にも繋がり得る。』

これまたワーキングペーパーで述べられていた論点でございますな。で、その説明の中で、実はタームの供給を行った場合は吸収手段も必要になりますというお話も。

『なお、長めのターム物オペによる資金供給残高を増やした分は、何らかの形で資金吸収を行わないと、ごく短期の資金が余剰状態になり、翌日物金利が必要以上に低下するなど、市場金利の誘導に支障が生じる。』

積み最終直前に大供給を行った為に吸収オペを実施した日銀の動きはごく正常なものだったのですが、馬鹿報道やら馬鹿アナリストやらが大騒ぎした為に日銀ボコボコに言われたのは記憶に新しいかと存じますが。

『このため、各国中央銀行とも、より短い期間の資金供給オペや保有国債の減額、資金吸収オペの実施などを通じて、ある程度の期間を均してみれば「リザーブ・ニュートラル」となるよう努めており、オペの長期化や増額の公表に際しては、見合いの資金吸収を行う予定である旨も併せて説明している。』

ま、他の中銀がその説明をしても何も言われないのに日銀が言うと何故か叩く人が出てくるのはご同情申し上げますけど、まー何か意味が無いものを有るように説明するような誰とは申しませんが前の総裁みたいな事やってたのの反動ってのもあるんでしょとは思いますので全面的に日銀カワイソスとも言い難いあたくしがいるのです。

『第3 に、ECB、スイス国民銀行(SNB)は、自国・地域のオペ適格担保を見合いに、外貨であるドルの資金供給オペを実施し、FRBは、為替スワップにより、ECB、SNBに対して必要となる当該ドル資金を供給した。』

『第4 に、オペの適格担保範囲が拡大された。』

『第5 に、貸出ファシリティの利用を促すための様々な対応が講じられた。』

『最後に、FRB では、資金供給の対象先についても拡充が図られた。』

ということで並べたのですが、外貨資金繰り支援以外の話って実は日銀が金融危機対応以降色々と作りこんできた機能てんこ盛りという感じでありまして、この辺りに関して日銀は先端を行ってたりするのでございますわな。先端だから別に米国や欧州みたいに色々と施策を打ち出す必要が無いのですが、それも無策とか言われるのはちょっとねえという感じでございます。

で、具体的に何がどうなったのよという話ですが、それはまあ本文を読んでいただきたく存じます(というかこれ以上やってたらキリが無い)次第。きっちり纏まっているので丁度良い整理になると思います。

トップに戻る











2008/07/30

○日銀の調節手法は世界一と

昨日ご紹介したちょっと前の日銀レビュー・シリーズですが、英語版があってそれが面白いというご指摘を頂きまして(と入れ知恵であることをばらすあたくし)、英語版を何となく読んでみたら確かにこれは・・・・

http://www.boj.or.jp/en/type/ronbun/rev/rev08e02.htm
Cross-currency transmission of money market tensions

http://www.boj.or.jp/en/type/ronbun/rev/data/rev08e02.pdf
(本文はPDFで11ページです)

で、この文章の流れが日本語版と違う(図表の順序が全然違います)のは何でよとか思いましたがまあそれは兎も角として、昨日ご紹介した日本語版であたくしが自賛部分が入ってますなとか申しあげた所なんですけど、英語版では図表入りのボックス扱いになってまして、対外的には「金融調節の技術を駆使した日銀大勝利(ウルトラ超訳ですので念の為^^)」と内弁慶ならぬ外弁慶モードなので、折角ですからご紹介するの巻なのです。その前に昨日ご紹介した部分を再掲するとこうなります。

『円の資金市場で、ショックの影響が抑制されるようになったのは、@邦銀のサブプライム関連商品に対するエクスポージャーが比較的小規模であり、その分だけ資金調達環境の不確実性の拡大も抑制されていたことに加え、A日本銀行が長めの期間の資金供給オペを含め、積極的かつきめ細かい金融調節を実施し、翌日物金利を誘導目標水準近傍に保つなど市場安定に努めたことも、何がしか寄与している可能性が考えられる。』

で、英文7ページ目のBoxって所なんですけどね。

Box: Intraday volatility of overnight interest rates and central banks' market operations

『Intraday volatility of overnight rates reflects the magnitude of financial institutions' liquidity gap and the degree of fine-tuning of central banks' market operations. The larger the financial institutions' liquidity gap, the higher the intraday volatility of overnight interest rates. Meanwhile, the more inclined central banks are to fill liquidity gaps in the market, the lower the intraday volatility of interest rates.』

ということで、無担コールとかフェドファンドの日中値動きに関する考察をしてまして、まあ例によって中身読んでねという話になるのですが、この日中ボラが上昇すると如何なる悪影響があるかという説明がございまして、まあそうですかねというところでそんなに違和感なし。

『Intraday volatility of overnight interest rates may affect the liquidity premium on term funding. If the intraday volatility of overnight rates gets high, banks become concerned about their daily funding and are inclined to raise more funds from term funding markets, which leads to an increase in liquidity premium. In contrast, if the intraday volatility of overnight rates remains low, banks feel secure about their daily funding and are less inclined to raise funds from term funding markets, which reduces the liquidity premium.』

日中ボラが上昇すると流動性リスクプレミアムが意識され、ターム物のレートなどにもえいきょうを与えるというお話で、まーどっちがどっちなのよというのはありますが、これはまあ相互に影響を与えているという(毎度おなじみのファジーな)お話になるんでしょうかね。図表でもそんな感じの絵が。

で、さっきご紹介(というか再掲)した日本語の部分ですけど、英文ではこんな説明になっております。

『On the other hand, intraday volatility of the call rates in Japan's overnight market has remained low. This is probably because there is relatively little uncertainty about Japanese banks' funding environment due to their limited exposure to subprime-related products. In addition, by actively providing liquidity using a variety of operational tools and by extending the average term of providing operations ? e.g. the Bank of Japan started providing fundscovering calendar and fiscal year-end, earlier than in previous years - (Box Figure 2), the Bank of Japan has stabilized the overnight rates at around the target level in order to prevent the intraday liquidity gap from widening.』

となってまして、(引用しませんが)日銀がサブプライム問題による金融市場の混乱に対応した形で、昨年の9月から12月に掛けて90日以上のタームのオペレーションの比率を増やすことによってターム物レートの落ち着きを図ったというグラフが示されています。

・・・・・えーっと、折角なんですから日本版でもこーゆーの説明すれば良いのにとか思うんですが、ツンデレ属性があるのか何だか知りませんが(違)国内向けでは出さないのね。とか思ってたら最初にご紹介したレポートが出てきましたので、まあ日銀の調節は世界一ってのをそっちでご確認下さい(^^)。

トップに戻る









2008/07/29

お題「日銀レビューシリーズより:資金需給逼迫のメカニズム」

米国様ではIMFが何か言いやがったらいきなり金融株大下げとか実に香ばしい。そういやどこかの国でも似たような事がありましたが、あたくし当時「好き勝手ケチつける連中に出してる拠出金なんぞ引き上げれば良いのに」などと不謹慎なことを思ったですなあ(^^)。

ま、国内に関しては昨日の超閑散振りには参りましたな。何と言う国内要因材料の無さよという所ですか。

という話は兎も角として、ちと前の日銀レビューシリーズより。

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j05.htm
主要通貨市場における資金需給逼迫の波及メカニズム

○Libor-OISのスプレッド推移の分析ですな

まあそれに着眼して分析するのは左様ですなと思います。最初の2ページの辺り。

『2007年8月以降、主要通貨の短期金融市場では、ターム物を中心に、資金需給の逼迫した状況が続いている。クレジットリスクや流動性リスクに対するプレミアムの拡大を映じて、銀行間取引レートであるLibor と翌日物金利スワップ(OIS)レートのスプレッドは急速に拡大し、現在も高水準で推移している。そして、日米欧のLibor-OIS スプレッドの推移について、以下の2つの特徴が見出せる。』

で、何でこのスプレッドを見るかという話ですが、

『銀行間取引の指標金利であるLibor は、基本的には、対象期間中の政策金利の見通しに、クレジットリスクや流動性リスクに対するプレミアムを上乗せした水準に決まる。クレジットリスクが勘案されるのは、Libor が無担保の銀行間貸出にかかる指標レートだからである。』

なのですが、まあついこの前まではLibor自体がほとんどリスクフリーレートみたいな金利になってました(超昔の話になりますが、金先のリファレンスがTiborになったのはLiborが実際の市場金利と全然違うので現物ポジションのヘッジにならなくなったとか背景にあったような記憶が)りしてましたわなというツッコミはあるのですが。

ちなみになお脱線すると、Tiborって本当にその金利で例えば銀行CPとかCDとか発行するんかいなと言えば(そりゃまあ出しの金利と取りの金利にスプレッドがあるのも勘案しないといけませんが)んなこたあねえ次第で、銀行様の貸出金利がどうのこうのとかマーケットとちょっと関係が薄いオトナの事情も働いているらしかったりするようで(^^)、まあ日銀レビューでいう分析に必ずしも乗らない部分があったりするのよね。

などと言い出すと分析にならないので、まあこういう感じになっております。

『資金の貸し手は、借り手のデフォルトリスクを、提示レートに織り込む。また、流動性リスクが勘案されるのは、資金繰りに関する不確実性が高まると、金融機関において、手許資金を厚めに保持するインセンティブが働くためである。すなわち、短期金融市場でストレスが強まると、金融機関は市場でのターム物資金調達が困難化する。こうした局面では、ターム物調達の前傾化や資金放出の慎重化を通じて、金融機関の流動性ポジションを維持する動きが広範化するため、Libor に上昇圧力がかかることになる。』

LiborとTiborのスプレッドがやたらついていた時代の事を勘案しても判るように、まあこの話自体は仰るとおりでございます。


『一方、OIS は、一定期間の翌日物金利(O/N 物)と固定金利を交換する金利スワップ取引であり、その取引レートは、基本的には、対象期間の政策金利の見通しのみを反映する。すなわち、OIS取引は、元本の交換が発生しないため、クレジットリスクや流動性リスクに対するプレミアムが極めて限定的である。このため、Libor-OISスプレッドは、クレジットリスクと流動性リスクのプレミアムの指標として捉えることができる。』

ちとツッコミたい気もしますが、スプレッドに関しての結論はまあ概ねそんな感じでざっくり理解するという感じで宜しいのではないかと存じます。まーLibor自体も先般の騒動で実は鉛筆なめなめだったりするのねというのが白日の下に晒されちゃいましたが、他にまともなものも無いですから、これはこれで宜しいのでは。

ところで、このLibor-OIS スプレッドのお話ですが、水野審議委員も先日の講演でこの点に触れてましたが、まーこのスプレッドが開いたままだというのは短期金融市場にストレスが掛かっているというのはまさにその通りですので、そーゆー意味でこのスプレッドを見るのは参考としては良い話かと存じますです、はい。



○スプレッドの要因分解

2ページ目以降のお話ね。

『図表2 は、一定の仮定に基づき、Libor-OIS スプレッド(3 か月)を、クレジットリスク要因と流動性リスク要因に分解したものである。クレジット要因は、Libor のパネル行のCDS プレミアムから推計し、流動性要因は、Libor-OIS スプレッドと推計したクレジット要因の残差として定義した。』

だそうで、脚注見ますとBOEが同様の分析してるそうですが、さすがにそこまでフォロー不能(というかやる気がないだけですが)でございますが、『期間5年のCDS プレミアムから3か月物のクレジット要因を推計した。』ってのそうなのかねという感じはせんでもないのですけど。社債スプレッドと短期支払能力に対する認識に関しては関連性は強いには強いのですが、また別のロジックが働く(だから短期と長期の格付けって別立てになってるんでしょ)ような気もしますが、社債スプレッドとCDSプレミアムはまた関連強いがどこかで別問題だったりするので。

などと言い出すとキリがないですけど、そのプレミアムの数値が細かく動いたからどうこうという分析をしてるのではなくて、もっと大きな目での分析をしている話が本稿の流れでして、別にその要因を全て厳密にやるのでは無い話なのでこれはこれでそんな感じなんでしょう。



○で、その結果ですけど

『Libor-OIS スプレッドの変動の大部分は、クレジット要因ではなく、流動性要因によって規定されている。すなわち、短期金融市場での資金需給の逼迫がグローバルに波及する過程では、クレジット要因よりも、流動性要因が重要な影響を及ぼしていると考えられる。』

という違和感の無い結果に。で、市場がどういう状態の時にどうなっていたかという分析をした結果は・・・・・

『市場の混乱前は、統計的に有意な因果性は検出されず、各市場のスプレッドは、概ね独立して推移していたことが確認できる。これは、平常時には、クレジットリスク・プレミアムは極めて限定的であり、また、流動性プレミアムも各通貨独自の要因で規定されており、中央銀行の金融調節によって制御されており、中央銀行の金融調節によって制御されていることを示している。一方、市場混乱後の期間についてみると、@ドル(USD)からユーロ(EUR)と円(JPY)へ、Aユーロ(EUR)から円(JPY)へ、の方向に有意な因果性が確認できる。』

『一方向の因果性は、流動性プレミアムの波及によってもたらされたと考えられる。これは、「ドル資金市場における需給逼迫が、流動性プレミアムの拡大をもたらし、各国の資金市場に波及した」という市場参加者の大方の見方とも整合的である。』

まあそうですね。そのメカニズムはどうなのよという話もありますが、基本的にその通りですねという話なので割愛。



○スプレッドの分析その2

スプレッドの水準に加えまして、そのボラが高まってますねという部分を分析するのが後半部分で4ページ目後半以降になります。

『最近のLibor-OIS スプレッドは、水準のみならず、分散も大幅に上昇している。流動性プレミアムの観点からみると、スプレッドの分散拡大は、@ファンディング・ショックの大きさの拡大、A同ショックが市場間で波及・増幅するメカニズムの変化、によってもたらされたと整理することができる。』

ということで、何でそんな分析をするかと言うと・・・・・

『中央銀行にとって、金融機関によるリスクの再仲介やデレバレッジの動きは少なくても短期的には外生的なものであり、それらに伴って発生したファンディング・ショックの大きさを直接制御することはできない。しかし、柔軟かつ積極的な金融調節を行うことによって、金融機関を取り巻く市場環境の不確実性を軽減し、外生ショックの増幅度合いを抑制することは可能かもしれない。』

ということで、まあ最後の結論の所にもそんな話があるのですけどね。

で、まあ正直言って数回読んだが何でそうなるのかよく判らなかった(あほです)のですが、分析結果はこうなっているようで。

『1点目は、どの通貨のスプレッドにおいても、ショック要因の説明力が相応に大きい点である。そして、サブプライムローン問題の震源地であるドル資金市場(USD)のショック要因が他の2市場に比べ大きいことは、因果性テストや分散分解の結果と整合的である。』

『2点目は、ドル(USD)とユーロ(EUR)の資金市場では、ショック要因以上に、パラメータ要因の説明力が高い点である。このことは、2007年8月以降、資金調達環境に対する不確実性が強く意識される下で、いったんファンディング・ショックが発生すると、ショックの影響が大きく増幅され、市場間に波及していったことを示している。』

『3点目は、ドルやユーロの資金市場とは逆に、円市場ではパラメータ要因がマイナス方向に寄与している点である。このことは、円の資金市場では、2007年8月以降、ファンディング・ショックに対して、むしろ、スプレッドの拡大が抑制される傾向が強まったことを示している。』

ということだそうです。そうなんですか。で、その理由の考察に一部自賛入ってますな(^^)。

『円の資金市場で、ショックの影響が抑制されるようになったのは、@邦銀のサブプライム関連商品に対するエクスポージャーが比較的小規模であり、その分だけ資金調達環境の不確実性の拡大も抑制されていたことに加え、A日本銀行が長めの期間の資金供給オペを含め、積極的かつきめ細かい金融調節を実施し、翌日物金利を誘導目標水準近傍に保つなど市場安定に努めたことも、何がしか寄与している可能性が考えられる。』

・・・・・(^^)

で、まあこの次に為替スワップのドル転コストの分析があるのですが、益々苦手な世界に突入するので結論だけ端折ると・・・

『サブプライムローン問題によって市場が混乱する前までは、ドル資金市場の需給が、為替スワップによるドル転コストに対して強い影響力を有していたが、2007年8月に混乱してからは、逆に、為替スワップ市場の需給がドル資金市場のターム物金利に影響を及ぼすようになった。この逆方向の因果性は、為替スワップ市場の流動性低下に起因したものと考えられる。』

ということで、その流動性低下によりショックアブソーバーの機能が弱まり他市場への資金需給逼迫の連鎖がおきやすくなってますというお話になるようなのですが、鶏が先か卵が先かみたいなもんで相互にリンクした話なんでしょうねと言ってみるテスト。

で、途中をなお思い切り端折って最後の部分は全く同意でございます。でも分析方法って難しいですよね。市場の構造というか仕組みって時の流れというか何と言うか場面場面で違ってくるので、別の時に同じデータを使った分析が効くのかという話になると、それがまた難しい話のような気がします。どういう手法を使うのかという基本的な発想は同じなので、その時どきで最もよく市場の状況を表すデータを取ってこないといけないのでしょう。その辺は金融市場局だけに良く見てると思いますが。

『今後、様々な角度から、流動性供給策の効果に対する実証分析を蓄積していくことは、中央銀行の金融調節の遂行においても、また、金融市場のダイナミクスを理解していくうえでも重要な課題といえよう。』


#端折り引用でスイマセンが、具体的にはレポートの現物読んで下さいね

トップに戻る






2008/07/24

○ほうほう

例によって日銀レビューシリーズ。

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j04.htm
決算からみた銀行経営の現状と課題

本文はこちら(PDFです)
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j04.pdf

今回は文章部分がやや多めです(ってもそもそも全部で7ページしかないですけどね)ので全部紹介してると長くなるのでまあ読んで下さいませという所ですが。ほうほうと思いながらちと引用。

『2. 収益性の現状評価』って部分ですが、小見出しの名前が
(1)基礎的な収益力の伸び悩み
(2)低迷する貸出ビジネスの採算
(3)金融市況に左右される非資金利益

ということで、まあ課題てんこ盛りですねって感じになっております。また(引用すると長くなるので中身読んでね)貸出利鞘に関して大手行と地域金融機関の間に差が出てきており、その差は貸出金利の引き上げが出来ているかどうかの差で説明されるっていう部分に関しては、以前より指摘されていました地域景気の伸び悩みというか苦戦状況が反映されたものでもあるのでしょうなと思うのでありました。

それから、基礎的な収益力に関する部分では思いっきりこのように書かれておりまして、いやまあそうでしょうねとは思います。

『当期純利益の増減要因をみると、本業収益であるコア業務純益の寄与が小さいなかで、信用コストや有価証券関連損益の動きに大きく左右されてきたことがわかる』

まーこれに関しては商業銀行と投資銀行(「投資銀行宣言」とか言ってるの大手のごく一部ですけど)を一緒くたにして分析するのもアレではございますが、貸出が低迷する中で有価証券運用に突っ込まざるを得ない状況というのはこれまたありますので、分析の結果でも大手行と地域金融機関で比較的似たような傾向になっていますわな。


で、その現状分析を基にして『3. 経営基盤の安定性の現状評価』という部分がありまして、『次に、信用コスト上昇に対する耐久力、自己資本ポジションの頑健さという2 つの視点から、銀行の経営基盤の安定性に評価を加える。』というのが結論部分になるのですが、その小見出しは以下の通り。

(1)信用コスト上昇への耐久力も一部に脆弱さ
(2)自己資本の質の向上が課題

まあ中身は読んでつかーせという所ですが、その後のまとめにもあるのですが、基礎的収益力の改善と財務基盤の強化(優先出資証券や劣後債などによる調達が依然として相応にある部分を改善すべきという話)が課題ですという割と冷静っちゅうか厳しめちゅうか。例によって『ただし、レポートで示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見解を示すものではありません。』とありますが、まあそんな感じで分析してますねという感じですね。




○その他日銀公表文書関連で

・ワクワクテカテカしつつ待つべし

ってのを昨日書くつもりで忘れてました(汗)。

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/un0807c.htm
金融政策決定会合議事録等の公表日時について

ということで、平成10年1月から6月までの議事録が来週水曜日に絶賛大公開でございますよ。とは言いましてもあたくしこの時期まだ日銀ヲチは趣味の域ではなかったもんで(旧法時代は金融調節予想を趣味にしてましたが、笑)読むのに一苦労しそうな悪寒(^^)。

・あとで読みたいけど・・・・・

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/bis0807b.htm
バーゼル銀行監督委員会による市中協議文書「トレーディング勘定における追加的リスクにかかる自己資本の算出のためのガイドライン」及び「バーゼルIIにおけるマーケット・リスクの枠組みに対する改訂案」の公表について

あたくしの本職はリスマネではありませんので、さすがにこれまで読んでられましぇんが、この手の規制によってポジションの取り方に影響がでるような場合というのもありまして、それが妙な具合でマーケットを歪ませる事は多々ございますのでして。

リスクアセット算出における格付け至上主義がCDOやCPODのような「格付けが高いけど利回りが結構」という魔法の商品のニーズを後押しした(今は無きナントカ公社債何ちゃらという雑誌でCPOD特集みたいなのやった時には、「これを買わない奴はアホウ」と言わんばかりの論調でしたなあと記憶してますが^^)ようなもんですな。

ということで誰かがレポート出すのを待つか(何と言う手抜き)。

トップに戻る








2008/07/23

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080613.pdf

○6月時点で下振れ意識相当高まる

まあ当然ちゃあ当然ですが、『金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』の部分での検討状況を見ますと、やたらめったら下振れリスクをみております。

・輸出

『委員は、世界経済が下振れリスクを抱えている状況だけに、今後ともきめ細かく輸出動向をみていく必要があるとの見解で一致した。』

・設備投資

『多くの委員は、第1 四半期の法人季報での企業業績が前年比減収・減益となっていることにみられるように、交易条件の悪化の影響が明確になっており、先行きの設備投資のモメンタムが弱まっているとコメントした。そのうちの何人かの委員は、収益が厳しい状況にある中小企業を含め、企業の設備投資スタンスについて、来月初公表の6 月短観などで確認していきたいと付け加えた。』

で、短観の設備投資は中小企業がイマイチで大企業は思ったほど悪くなかったですねという話でしたっけ。

・個人消費

『ある委員は、最近の物価上昇が家計の実質購買力を低下させていると指摘した。また、別の委員は、それに加えて、物価上昇が消費者コンフィデンスを低下させていることや、企業収益の減少によって雇用・所得環境への影響が懸念されることも含め、先行きの消費動向については慎重にみていく必要があると述べた。』

・住宅投資

『ある委員は、不動産業者への金融機関の融資姿勢の慎重化、マンション在庫の増加などが、住宅投資の回復にどのような影響を与えるか留意が必要であるとの見方を示した。別の委員は、建設資材価格の上昇が不動産業者の採算を悪化させており、特に地方において深刻な声が聞かれている、と述べた。』

というような感じで、下振れの話はうじゃうじゃある(雇用・所得環境と生産はこの時点ではそんなに下振れの話は出てない)のですが、上振れの話はまあございませんな。


○物価上昇と金融政策

同じく『金融経済情勢に関する委員会の検討の概要』部分でグローバルな物価環境に関する議論が行われています。

『ある委員は、新興国を中心に資源制約を上回る超過需要が発生していることが、エネルギー・原材料価格高の基本的な背景にあるとしたうえで、それらの国における政策対応が適切になされなければ、グローバルなインフレ圧力は高まることになるとの見方を示した。』

『複数の委員は、グローバルな物価上昇に対して、金利の上昇が追いついていない可能性を指摘した。このうちのある委員は、その背景の一つとして、米ドルに対して固定的な為替相場制を採用している国について、米国の金利引き下げが影響を及ぼしていると述べた。』

とは言えドルペッグがいきなり外れるとなると今度は基軸通貨の枠組み問題になりかねないんで、まあ米国の政策運営は大変ですなあと言ってみるテスト。

『何人かの委員は、新興国におけるエネルギーや穀物の価格に関する補助金等の措置が、市場メカニズムを歪めているとの見方を示した。』

で、以下は例によって2次的な物価上昇の話で、結論は『ユーロエリアや新興国における賃金上昇圧力の高まりを注視していきたいと述べた』となっているのでした。


その後にある『当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』部分ではじゃあ日本ではどうなのよという話を当然ながら行っておりまして・・・・

『わが国経済について、何人かの委員は、国際商品市況が高騰を続ける中で、景気については下振れ方向、物価については上振れ方向で、それぞれリスクが高まっているとの見方を示した。複数の委員は、需要が旺盛で賃金上昇圧力が強い国と異なり、わが国の現在の局面においては物価面のリスクよりも景気の下振れリスクを重視すべきであると述べた。』

実に当然の話になっておりますわな。


○しらっと利上げ話も

ということで、議論の論調は基本的に景気の下振れリスクを強く意識した内容なのですが、その下振れリスクが払拭された場合(どういうパスで払拭されるのかさっぱり見えてこないのが実にアレな環境なのですが・・・・・・)にはどうなるかという話もしらっと指摘されております。さっき引用した部分においても新興国やらユーロエリアのように物価上昇と賃金上昇のスパイラル傾向が見られる場合に利上げがどうのこうのという話がありましたが、『当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』部分でもこんな話が。

『ある委員は、世界的なインフレ傾向が強まる中で、わが国もそれと無縁であることはなく、インフレ予想が高まることを未然に防ぐ観点から、物価安定のもとでの持続的な成長パスを辿っていることにある程度の確信を得られれば、漸進的かつ早めに政策対応する必要があると述べた。』

この「ある委員」って誰でしょ。須田さんですかねえ。

ということで決定会合議事要旨関連はこんな感じです。

トップに戻る






2008/07/18

まずは金融経済月報から。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0807.pdf

基本的見解部分にあたる所をもうちょっと見ておきましょう。最初の【基本的見解】が【概要】に代わっておりますが、書きっぷりは従来の基本的見解と同様です。

○現状判断で下げたのは個人消費、住宅投資、生産

他の部分も含めて比較します。

・輸出、企業収益、設備投資

『輸出は、足もと鈍化しつつも増加基調を続けている。企業収益は、交易条件の悪化等を背景に減少しており、企業の業況感も引き続き慎重化している。そうしたもとで、設備投資は増勢が鈍化している。』(7月)

『輸出は、足もと幾分鈍化しつつも増加を続けている。企業収益は、交易条件の悪化等を背景にこのところ減少している。そうしたもとで、設備投資は増勢が鈍化している。』(6月)

業況感は短観を受けて加えられたものですね。で、強いて言えば企業収益の所の説明も下がっているのでして、企業収益が「ここのところ減少」が「減少」と「ここのところ」が外れているのは、企業収益の減少というか交易条件の悪化による影響が「ここのところ」状態ではなくなったって事なので、まあこれも下げたと言えば下げた格好かと。


・雇用者所得、個人消費

『雇用者所得は緩やかに増加しているが、石油製品や食料品などの価格上昇が続く中で、個人消費はこのところやや伸び悩んでいる。』(7月)

『個人消費は、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、底堅く推移している。』(6月)

個人ベースの実質購買力の低下によって個人消費の判断を引き下げております。ということで足もとの物価上昇が即座に利上げ判断に繋がるわけではないと。


・住宅投資

『また、住宅投資は回復の動きが一巡している。』(7月)
『この間、住宅投資は緩やかに回復している。』(6月)

住宅投資の予想自体は6月の段階で「回復の動きが一巡」という風になっていた(後でご紹介します)ので、まあ見通しどおりは見通しどおりですけど、改正建築基準法に関連して落ち込んだ分がV字回復という素敵なシナリオも以前はありましたが、まあそこまで行かずに残念無念。


・生産

『以上のような内外需要のもと、生産はこのところやや弱めの動きとなっている。』(7月)
『以上のような内外需要のもと、生産は横ばい圏内の動きとなっている。』(6月)

ちーん。ナムナム。


○先行き見通しには「傾向」だの「基調」だのが入り・・・・

・輸出

『輸出は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加基調を続けていくとみられる。』(7月)
『輸出は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加を続けていくとみられる。』(6月)

「基調」というお馴染みの文言(ヘッジクローズとも言う)が入りました!


・企業収益と雇用者所得

『企業収益は、当面減少を続けるが、エネルギー・原材料価格の上昇が緩やかになるにつれて、増益基調に復すると予想される。また、雇用者所得は緩やかな増加傾向をたどるとみられる。』(7月)

『企業収益は、当面減少を続けるが、エネルギー・原材料価格の上昇が緩やかになるにつれて、増益基調に復すると予想される。また、雇用者所得は緩やかな増加を続けるとみられる。』(6月)

企業収益は変わりませんが、雇用者所得にも「傾向」というヘッジクローズが(-_-メ)。

・設備投資、個人消費、住宅投資など

『そうしたもとで、国内民間需要は、当面やや伸び悩みつつも、その後は次第に底堅さを増していく可能性が高い。この間、公共投資は減少傾向で推移すると考えられる。』(7月)

『そうしたもとで、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高い。一方一方、住宅投資は、回復の動きが徐々に一巡していくと予想される。また、公共投資は、減少傾向で推移すると考えられる。』(6月)

国内民間需要の見通しもちょっとヘッジクローズ入りになっていますわな。

・生産

『以上の需要動向全体を踏まえると、生産は、当面横ばい圏内で推移するが、その後増加基調に復していくとみられる。』(7月)

『以上の需要動向全体を踏まえると、生産は、当面横ばい圏内で推移するが、その後増加していくとみられる。』(6月)

ここも「増加していく」が「増加「基調」に「復していく」」とヘッジクローズ入ってますわな。


・・・・という訳で、ヘッジクローズてんこ盛りの先行き見通しなのでありました。物価関連部分は割愛しますが、先行き見通しの中で『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで』ってなってるんですけど、成長率見通しを下げてそこの部分変わってないのってそれで良いのですかという気もせんでもない。

トップに戻る






2008/07/16

お題「決定会合あれこれ」

結果自体はまあ予想通りでございまして、相場的には米国様次第なんですけどね。しかし地方の銀行コカして中小金融機関の取り付け騒ぎに破綻懸念絶賛大拡大ってのはこれまた既視感が。

○公表方法が色々変更に

決定会合の結果
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080715.pdf

公表方法の変更に関して
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080715b.pdf

ということで、まあ要するに四半期ごとに公表してた展望レポートのレビューを毎回公表しますので、金融経済月報の基本的見解ってのは公表が無くなり(そりゃまあそうなるでしょう)本文公表のみになるので月報は実質的に1日遅れになりますって話が市場でポジション張る人的には一番大きなところですが、まあ分析する人的には展望レポートの見通し期間延長と、見通し数値とリスクバランスチャートの四半期ごとリバイス(従来は半年毎)も面白いところであります。

で、初回だから仕方ない部分もありますが少々苦言なんですけど、今回は決定会合の結果公表時刻から日銀のサイトでのアップ時刻まで10分近くラグがあったんですよね。まあ今回に限らずここの所決定会合の結果公表時刻からサイトにアップされる時間のラグが少々長いのは気にしてたんですけれども、結果自体がまあどうでも良かったのでスルーしておったんですが・・・・・

今回以降は決定会合の公表文書に実質的には従来の金融経済月報基本的見解と同じ位置づけになるものが入る訳でありまして、場中に公表されることでもありますので正確な公表文書を読みたいのですな。然るに公表文書がサイトにアップされるのに10分とか掛かっちゃいますと、それこそどこかの情報ベンダーがフカシヘッドラインを打ち込んだ時にそれが飛ばしヘッドラインなのかちゃんとしたヘッドラインなのか確認できませんので困るんですよね。

いやまあ最終的には文書出すからちゃんと理解されるだろうとかいう理屈も判らんのではないのですが、最近で言えば(暫く前ですが)西村審議委員(当時)の会見だかなんだかの発言が思いっきり誤解されて市場が大動きとか、時と場合によってはトンデモないことになりますのでして、場中に公表される文書であることも鑑みまして、公表文書は極力早く(同時が理想ですが1、2分程度のラグが希望)日銀ホームページへのアップをお願いします。いやマジで。


○大勢見通しが潜在成長率を下回ると

で、こちら。
http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/k080715.pdf

今年度実質GDP見通しが+1.5%から+1.2%に下がっていますが、日銀が従来言ってたのは潜在成長率が概ね1%台半ば辺りとかいう話だった筈ですので、今年度は「潜在成長率を下回る成長」になるというお話。09年度が+1.7%から+1.5%に下がっていまして、来年度になってようやく潜在成長率並みの成長に復帰しますよという見通しになっているのですな。こりゃまあ利上げどころの騒ぎ(をしている人はいませんが)じゃ有りませんね。

で、金融経済月報基本的見解に代わる部分ではこうなってますと。

・景気の先行き判断

『先行きは、当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』

でも来年度でやっと潜在成長率並みということは、「緩やかな成長経路」というよりは「景気の腰折れや悪化までの見通しには至らない」程度のお話じゃないですかという気が致しますがどうなんすかね。


○月報に相当する部分を拝読

比較するのは前月の金融経済月報基本的見解。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0806.htm

・現状判断

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高を背景に、設備投資や個人消費の伸びが鈍化するなど、さらに減速している。』(7月)
『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、減速している。』(6月)

個別展開部分がなくなっていますので、今回は個別展開の中で判断を下げた部分が逆に判りやすくなってるという解釈で良いのでしょうか。まあ結局月報全文を読まないといかん気がしますが、ここを見ますと判断を下げたのは設備投資を個人消費ですね。


・先行き判断

『先行きは、当面減速が続くものの、その後次第に緩やかな成長経路に復していくと予想される。』(7月)
『景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後緩やかな成長経路をたどると予想される。』(6月)

目先が潜在成長率以下で来年度にようやく潜在成長率に届く位という見通しなので先行き判断も下がっていますわなという所です。「次第に」ってのが入ってるのと、「緩やかな成長経路をたどる」から「緩やかな成長経路に復していく」というのはどっちも判断下げておりますわなという所です。「この先で復す」ということは今は成長経路にはありませんというのを(1.2%見通しなんだから当然ですけれども)認めてるんでしょ。


・物価に関して

『物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などから、足許+1%台半ばとなっている。先行きは、当面上昇率がやや高まった後、徐々に低下していくと予想される。』(7月)

『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などを背景に、+1%程度となっている。(途中割愛)消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラスを続けていくと予想される。』(6月)

要するに見通しは上げたんでしょうが、経済が成長経路をたどらない中での物価上昇なので先行きに関しては需要の減退によって物価上昇は収まるでしょうという見通しになっているようです、と理解して良いんですよね。


・この文章は何?

で、この部分の最後にはこんな一文が。

『このように、わが国経済は、物価安定の下で持続的な成長を続ける可能性が相対的に高い。』(7月)

相対的ってなんじゃらほいと思うのですが、(欧米と比較した相対感だと思いますが)これは4月の展望レポートの基本的見解と比較するのでしょうかねえ。よーわからん。

『先行き2007年度から2008年度を展望すると、生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持されるもとで、息の長い拡大を続けると予想される。成長率の水準は、2007年度、2008年度とも、潜在成長率を幾分上回る2%程度で推移する可能性が高い。』(4月展望レポート)

ちなみに、

『4月の「展望レポート」で示した見通しに比べると、2008 年度を中心に、成長率は幾分下振れる一方、物価は、国内企業物価・消費者物価(除く生鮮食品)とも上振れると予想される。』(7月)

というのは次のパラグラフに入ってましたんで・・・・


○リスク要因の点検

これはまあ予想通りですね。

『リスク要因をみると、国際金融資本市場は不安定な状態が続いている。また、米国経済など世界経済には下振れリスクがある。国内民間需要については、国際商品市況の高騰に伴う所得形成の弱まりから下振れるリスクがある。このように、景気の面では下振れリスクに注意する必要がある。』

海外、国内とも下ぶれリスク。交易条件の悪化と金融市場の混乱があいかわらず続いていることが要因と。

『物価面では、世界的にインフレ圧力が一段と高まっている。わが国の物価については、エネルギー・原材料価格の動向に加え、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化など、上振れリスクに注意が必要である。』

総裁会見のヘッドラインを見ますと、国内におけるインフレ期待(懸念)の拡大を見るのは個人所得というか賃金動向の推移に注意する必要があるというような話になってました(ような気がする)のですが、そうなりますと交易条件の悪化やら企業収益の悪化やらという要因の有る中で賃金がどうにも上がりにくいという話が根底にあるので、さっきの物価見通しのように今の上昇は持続的な上昇に繋がるのはちょっとねえって話になるんでしょうね。

『この間、景気の下振れリスクが薄れる場合には、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクが高まると考えられる。』

・・・・・いやまあそれは目先厳しいでしょ。


とまあそんな感じでございます。ところで本石町日記さんの最新エントリーに巨大な釣り針がある(『手がけた金融政策を勝ち負け論(引き締めが勝ち、緩和が負け)で見ると』って所)のですが・・・・釣られないようにしよ。

トップに戻る






2008/07/08

お題「さくらレポートも下方修正」

どう見ても利上げどころの騒ぎではありません本当にありがとうございました。

・・・と書いてしまうとそれで終了なのですが、それではあたくしのネタになりませんのでまあ少々ご紹介。

概要はこちら
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/chiiki_rep/chiiki0807.htm

本文はこちら(PDFで51ページありますので注意)
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/chiiki_rep/data/chiiki0807.pdf

○また今回もほぼ全地域で下方修正とな

今回ほぼ全地域で下方修正してる訳ですが、前回4月のさくらレポートでも実は8地域で下方修正。前々回の1月は5地域で下方修正してるのですな。てな感じで、この際2回分を推移をみると落涙を禁じ得なくなります。ということで、1月判断→4月判断→7月判断という流れを見てみましょう。

北海道
やや弱めの動きとなっている→やや弱めの動きが続いている→弱めの動きとなっている

東北
全体としてみれば、緩やかな回復を続けている→足踏み感がみられている→足踏み感がみられている

北陸
一部で弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している→減速している→減速感が幾分増している

関東甲信越
緩やかな拡大基調にある→やや減速している→減速している

東海
緩やかに拡大している→緩やかな拡大基調にあるが、その速度は足もと鈍化している→引き続き高水準にあるが、足もとは減速がはっきりしてきている

近畿
緩やかに拡大している→一部に減速の動きがみられるが、基調としては緩やかに拡大している→減速している

中国
全体として回復を続けている→一部に弱さがうかがわれるものの、全体として回復を続けている→全体としては緩やかな回復を続けているが、そのテンポは、このところ鈍化している

四国
緩やかながら持ち直しの動きが続いている→持ち直しの動きがやや弱まっている→横ばい圏内の動きとなっている

九州・沖縄
緩やかな回復を続けている→回復に足踏みがみられる→足踏み感が強まっている

(ここまで前回および今回のさくらレポートより引用)

とまあ引用が少々長くなって恐縮ですが、一見して「持ち直し」とか「回復」とか「拡大」という前向きベクトルの表現がどんどん減っているというのが特徴的でございまして、「足踏み感が強まっている」とか「減速感が幾分増している」とか何という日本語表現と思う表現が並んできているという状況。

一応足踏みだの減速だのというのは拡大基調の中で一服していますという文脈として使っている筈ですので(そうですよね?)、これはこれで「基調は拡大だが今のところちょっと踊り場」みたいな話ではあると思われますが、それにしてもトーンダウン継続にも程がある状態ではございます。

何せ今回は「回復」「拡大」的な表現があるのが「高水準にある」の東海と、「全体としては緩やかな回復を続けている」の中国だけでして、半年前(1月判断)では北海道以外に「回復」「持ち直し」「拡大」の表現がズラリと並んでいたことを勘案しますと、これはもう落涙ですよ先生という所かと存じます。



○項目別展開

・個人消費

『消費は、関東甲信越、東海、九州・沖縄で、「底堅く推移」と判断しているが、その他の地域では「弱めの動き」がみられるとの報告が目立ってきている。(内容割愛)前回報告との比較では、すべての地域がやや下方修正した。』

全ての地域キタコレ。前回は北海道、東北、北陸、東海がやや下方修正されたのですけど、今回は全地域ですかそうですか。

・設備投資

『設備投資は、交易条件の悪化等により企業収益が減少していることなどを背景に、「増勢が鈍化している」ないしは「高水準ながら横ばいとなっている」といった報告が目立っている。前回報告との比較では、中国が下方修正したほか、近畿、四国がやや下方修正した。』

交易条件の悪化ですなあ。で、こちらですが、前回やや下方修正したのが北陸、関東甲信越、東海、近畿、四国でしたので、近畿と四国が連敗ですな。そんな感じなんですかね。一応元々のベースが高めの判断ですけど、先行きどうなのよという所で。

・生産

『生産は、北海道、東北、関東甲信越、九州・沖縄で、「横ばい圏内の動き」と判断している。この間、北陸、東海、近畿が「増加テンポが緩やかになっている」ないしは「足もとはやや弱めの動き」などと判断している一方、中国、四国では「総じてみれば引き続き高水準」ないしは「緩やかに増加している」と判断している。(内容割愛)前回報告との比較では、北海道、北陸、東海、近畿、中国がやや下方修正した。』

生産は前回の判断時点で北海道がなんと上方修正だったのですが(と言っても北海道の場合は元々が元々ですが)、東海が下方修正、東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄がやや下方修正だったので、東海地域の生産って、元々がこちらは高水準だったと思われますが、ブレーキ掛かってきちゃいましたねってお話になるんでしょうか。うーむ。

・雇用・所得環境

『雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、北海道、東北、北陸、関東甲信越、四国、九州・沖縄で、「やや弱めの動き」ないしは「改善に足踏み」、「横ばい圏内の動き」などと判断している。一方、東海、近畿では、「雇用者数は緩やかに増加しているが、有効求人倍率はこのところ幾分低下」などと判断しているほか、中国では、「有効求人倍率が引き続き高めの水準を保っている」と判断しており、地域差がみられる。』

『雇用者所得は、関東甲信越、東海が、「緩やかな増加」ないしは「改善」と判断しているほか、北海道、東北が、賃金引き上げに抑制的な動きがみられるなどとしつつも、「一部に持ち直しの兆し」ないしは「緩やかな改善を続けている」と判断している。この間、北陸、近畿、中国、四国、九州・沖縄が、「前年並み」ないしは「横ばい圏内で推移」と判断している。』

相変わらず地域差が大きいのですけれども、関東甲信越と東海の雇用者所得は引き続き結構な状態という解釈で宜しいのでしょうな。益々地域差拡大っぽい感じですよね。

『前回報告との比較では、雇用情勢については、北海道、関東甲信越、近畿、四国、九州・沖縄がやや下方修正したほか、所得面については、東北、近畿、四国、九州・沖縄がやや下方修正、北海道がやや上方修正した。』


○毎度おなじみ「地域の視点」

今回のお題は『最近の企業の設備投資動向 』でありまして、もうリードの部分を見ただけであんまり明るくないですなあというお話が。

『最近の企業の設備投資は、交易条件の悪化による企業収益の減少や先行きの需要に対する不透明感の高まりを背景に、増勢が鈍化している。こうした中で、企業の規模や業種等の違いによる投資スタンスの「ばらつき」が一段と鮮明化している。』

内容は本文に詳しいのがありますが、まあ要するに大企業ではそれなりに前向きだったり高度化だったりという部分への投資はコンスタントに行われているけど、中小企業では投資を抑制してますなあというショボーンという感じのお話。

この「地域の視点」というのはその時点での注目トピックスみたいな感じで展開されますので、このお題を見るとその時点での雰囲気が思い出されるので、展開してみましょう(前回もやったけど^^)。

『最近の企業の設備投資動向 』(今回)

『1.グローバル需要の取り込みに向けた企業の対応について── 中堅・中小製造業や非製造業の動きを中心に
2.地域からみた最近の雇用・賃金情勢について』(2008年4月)

『原材料価格上昇のもとでの企業の対応── 最終消費者に近い「川下」段階にある地場企業を中心に』
(2008年1月)

『1.最近の企業立地の動向と立地戦略の特徴点
 2.北海道農業の現状と新たな取り組み』(2007年10月)

『中小企業の収益動向と支出行動の特徴点』(2007年7月)

『1.各地域からみた最近の雇用・賃金情勢について
 2.近年の東京における高額消費市場の特徴――海外ブランドや外資系ホテルの動向を中心に』(2007年4月)

『各地域からみた最近の住宅投資動向について』(2007年1月)

・・・・・何と言っても2007年4月のお題でしょう(^^)。とか言って高額消費市場って最近どうなんでしょうかねえ。あたくしにはトンと縁の無い(そういやあたしゃ円も無いですが^^)話ではありますが。


○総裁挨拶から

http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/siten0807.htm

『(1)わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、減速している。輸出は、足もと幾分鈍化しつつも増加を続けている。企業収益は、交易条件の悪化等を背景にこのところ減少している。そうしたもとで、設備投資は増勢が鈍化している。個人消費は、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、底堅く推移している。生産は、横ばい圏内の動きとなっている。景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後緩やかな成長経路をたどると予想される。』

というのは金融経済月報などで示されているお話ですが、さくらレポートを見ますと成長だの拡大だのという景気の良い文言は見事にどこぞへ引っ込んでおりまして、今回も下方修正ということでありますので・・・・・・

ま、こりゃ展望レポート中間レビューはどう見ても景気下方修正です。本当にカムサハムニダ。で、物価は上方修正間違いなしですが、景気の下方修正とセットで見れば結局両方ともネガティブな話でありますので利上げどころの騒ぎではありませんなあという結論になるんでしょうね。

#引用で増量企画になりまして恐縮至極でございます。

トップに戻る








2008/07/07

○生活者意識アンケート

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/ishiki/ishiki0807.pdf

一般紙でも話題になってましたけど、要するに景気が悪化する中で物価が上昇してますよという話ですわな。アンケート詳細は16ページ以降。質問と回答部分は引用でして、()内は前回調査(3か月前に実施)の数値です。

・景況感

Q1. 1年前と比べて、今の景気はどう変わりましたか。

1 良くなった1.7 ( 2.4 )
2 変わらない28.8 ( 37.1 )
3 悪くなった69.0 ( 60.1 )

Q2.Q1のご回答について、そのようにお考えになるのは、主にどのようなことからですか。【2つまでの複数回答】

1 マスコミ報道を通じて35.0 ( 30.1 )
2 景気関連指標、経済統計をみて13.5 ( 13.9 )
3 勤め先や自分の店の経営状況から35.1 ( 34.5 )
4 自分や家族の収入の状況から46.0 ( 47.7 )
5 商店街、繁華街などの混み具合をみて21.2 ( 23.7 )
6 その他6.6 ( 6.3 )

ということで、まあお約束のような結果になっておりますが、メディアの報道は大事ですので、あまりアホウな報道は勘弁していただきたく存じます。


・しかしこれは如何なものかと

Q4. 1年後の景気は、今と比べてどうなると思いますか。

1 良くなる2.2 ( 3.6 )
2 変わらない36.9 ( 48.5 )
3 悪くなる60.5 ( 47.3 )

この3か月で先行き悪化見通しが一気に増えましたな。実際問題としてハードデータそこまで悪化してるのかというと少々疑問はあるのですが、世の中の気分というのはオソロシスでございますので注意したいものであります。で、その如何なものかというのはこの次の質問に対する回答。

Q5. 景気の状況を考えたとき、現在の金利水準をどのようにお考えになりますか。
1 金利が低すぎる53.3 ( 55.7 )
2 適当な水準である28.8 ( 28.1 )
3 金利が高すぎる14.0 ( 11.6 )

えーっと、景気の状況が悪くてこれから悪くなると思うのでしたら金利水準が低すぎるという答えが過半数になるのはどういうことなのよと言いたくなります。これこそ「マスコミ報道を通じて」の弊害キタコレという所になるのでしょう。まあ元々の金利が低かったという流れからのバイアスが効いてるから低すぎるというのが多いのはある面仕方ない所もありますが、これだけ悪化見通しが増えているのに「金利が低すぎる」が全然減らないというのは、高校で政経(今の科目名何というのか知りませんが)ちゃんと勉強したんかいなと。


・これはこれは

Q10-1.Q9の支出のうち、あなたの世帯では、生活費や教育費などの日常的な支出をどうしていますか。

1 増やしている12.2 ( 11.6 )
2 変えていない48.0 ( 48.8 )
3 減らしている37.6 ( 37.8 )

景気が下がっているのに支出が増えている人と減っている人(ってアンケートだからリアルの増減はこれとは別なんでしょうけどね、脳内で節約してても何故か貯金が増えないのはよくある話でして^^)の構成比が変わっていないのは生活用品価格の上昇を反映してるのかなと思ってみたり。


Q10-2. それでは、趣味やレジャーなど選択的な支出をどうしていますか。
1 増やしている3.4 ( 4.0 )
2 変えていない32.4 ( 32.8 )
3 減らしている62.7 ( 62.3 )

(;∀;)イイハナシダナーっていやまあ良い話じゃないんですけどね。そりゃまあ日銀短観で「飲食店・宿泊」のDIが▲3→▲11と悪化するわなという事で。


Q11. 今後1年間、あなたの世帯では支出をどうされますか。
1 増やす3.8 ( 4.1 )
2 変えない36.2 ( 37.6 )
3 減らす58.7 ( 57.3 )

支出を減らすですかそうですか。


・で、物価なのですが

Q13. それでは、1年前に比べ現在の「物価」は何%程度変わったと思いますか。
―― 数値をご記入のうえ、上・下いずれかに○をお願いします。なお、「0%」と   思われる方は、記入欄に「0」とご記入下さい。

平均値:+10.2 ( +7.6 )
中央値:+10.0 ( +5.0 )

Q15. それでは、1年後の「物価」は現在と比べ何%程度変わると思いますか。
―― 数値をご記入のうえ、上・下いずれかに○をお願いします。なお、「0%」と   思われる方は、記入欄に「0」とご記入下さい。

平均値:+9.0 ( +7.6 )
中央値:+7.0 ( +5.0 )

中央値と平均値の定義はアンケートの本文(19ページにあります)をご覧いただくと致しまして10%とは大きくきましたなこりゃという感じでございます。どさくさに紛れていろんなものが余計に値上げされている印象は近所のスーパーを御用達にしている(汗)あたくしでも思う所でございますので、こんな数字が出てくるのかなとかとか。とはいえ、何という上昇バイアスという感じですけど。そんなにポンポン物の値段上げられるかいなと。

と申しますのは、さっきございました支出を今後どうするという質問に対する答えなんですけど、支出を減らすって答え(単に節約しますって言ってるだけのような気がしますが^^)が多いという状況があるわけで、この予想を全部真に受けますと、平均的な考えとしては、「物価が10%上昇してるのに支出減らす」という実質的に生活を1割以上切り下げをしますっていう壮絶な節約大会になるのでございまして、物価上昇すると選択的な支出に皺寄せが行くのか、高額品が売れなくなって中国産また大ヒットとなるのか、まあそんな感じになるって事でしょう。

とか考えますと、冷静に考えればこのアンケート調査の回答者も全体の回答の整合性まで考えて回答している訳でもない(というかそんなの一々考えて回答する人はよーおらんでしょうが、笑)のでして、回答の一部を切りとって大々的に報道するのも如何なものかという話になるような気が致します。


というわけで、生活者意識アンケートですが、要するにマインドがだいぶ宜しくないというのは極めてよく判る内容でございました。

トップに戻る






2008/07/02

お題「さて短観でしたが」

家庭のCO2削減義務付けるくらいエコロジーに熱心ならオリンピック招致で浪費されるCO2を全面的に削減した方がよろしいのではないでしょうか>どっかの知事様

#ま、その前に新銀行(以下悪態)

などという悪態は兎も角日銀短観。

http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/tk/gaiyo/tka0806.pdf

○相場は妙に下がって反応しやがりました

大企業製造業のDI+5ってのは元々のコンセンサスとそんなに違わなかったのですが、直前になってコンセンサスが段々下がって来まして、マイナス予想を出す人とかまでいましたし、相場の流れが6月16日の週から行き過ぎた分も含めて金利低下基調でやってきた事もありましたので、ちょいと肩透かしで金利上昇の巻。ユーロ圏のインフレネタでECBの利上げ一発で済まないかもというネタが浮上したのもタイミング的には金利低下モードに水を差すのに使えたネタかも知れませんですなあという感じでして。

まあ特に金融機関の中の人たちはここもと景気の悪い話に囲まれておりましたので(汗)、どっちかと言えば景気が悪いという話になるとちょっとメタメタに悪いんじゃねえのという連想になりやすいのもありまして、景気に目が行くという話になった時にはどうも悪いですねって事になりやすいのが最近の仕様でもございまする。

すげえ悪いとか思ってたらそんなでも無かったという程度で別に良い数字ではないのですけどね。


○まずは例によって前回見通しの達成度合いを見ますと

            (3月時点)      (6月時点)
           現状→6月予測   現状→9月予測
製造業大企業   +11→+7    +5→+4
製造業中堅企業  +5→▲1     ▲2→▲5
製造業中小企業  ▲6→▲9    ▲10→▲15

非製造業大企業  +12→+13    +10→+8
非製造業中堅企業 ▲3→▲6      ▲5→▲10
非製造業中小企業 ▲15→▲21    ▲20→▲27

こうやって並べてみるとやっぱダメじゃんという感じですわな。事前に悪いのを期待しすぎたから「予想比上振れ」って話になっていますけど、まあ3月時点での想定よりも若干悪化しています(非製造業の中堅中小を除く)し、そもそも3月時点よりもベクトルは下を向いてますしという状況で、別に良い話ではない。

それとですね、この「前回予測DIの達成度合い」なんですけど、半年前の12月短観では9月予測を達成してまして、3月になってから達成度合いがどう見ても未達です本当にありがとうございましたとなったんですな。でまあ今回は3月の想定より悪化してますけど、これまた前回と同じ理屈になりますが、原材料価格上昇だの何だのと言う中でこの程度で済んでいるというのかどうかですよね。


○雇用判断DIが悪化方向に

これは気になったんですが。

            (3月時点)      (6月時点)
           現状→6月予測   現状→9月予測
製造業大企業   ▲7→▲7       ▲5→▲5
製造業中堅企業  ▲7→▲8     ▲3→▲5
製造業中小企業  ▲3→▲3     +3→0

非製造業大企業  ▲18→▲19    ▲14→▲17
非製造業中堅企業 ▲14→▲17    ▲8→▲13
非製造業中小企業 ▲9→▲9     ▲6→▲6

こちらの数字は「過剰」−「不足」の数値になりますので、マイナスがでかいほど人手不足ということですが、今回は全体的に不足感が減少。12月調査までは毎度毎度不足感が拡大すると言う実に威勢の良いDIだったのですが、3月調査で不足感拡大が一服して横ばいになったところでしたので、今回横ばいから下向きトレンドになったのかどうかについては次の調査を益々注目したくなってきました。


○証券業の業況判断

こればかりは毎度笑いながら見ておりますが、ちょっと長期(?)時系列で今回は見てみましょう。去年の6月調査から並べると・・・・

        現状→次回予測
(6月時点) +34→+52
(9月時点) ▲30→+23
(12月時点)▲26→+4
(3月時点) ▲55→▲15
(6月時点) ▲45→0

毎度毎度先行き楽観予想を出して全てにおいて達成しないという極めて香ばしい業況判断なのですが、今回は前回対比好転して良かったですねえ(棒読み)といったところかと。


○その他

本職の人が注目する設備投資に関してはちゃんと時系列を追っていませんのでパス。シロートが見てもすぐわかる「想定為替レート」でありますが、3月の109円21銭から今回は102円74銭になっていまして、年度が替わって想定為替レートも一気に厳しくしてきましたですねという所です。逆に言えばそういう環境下でもDIプラスなんで一気腰折れっていう流れでも無いんでしょうかね、と思いたいところでございまする。

あと、これまた真面目に見てるわけではないのですが、業況判断の業種別を見てましたら、前回対比業況判断DIがだいたい悪化する中で、大企業製造業においては「木材・木製品」「非鉄金属」「食料品」「金属製品」「精密機械」が前回対比好転してまして、金属製品とか精密機械は良く判らんのですが、木材・木製品とか非鉄金属とか食料品とかは価格転嫁が進んできて一息ついたのかなあとかこれまたシロート感想ですが思ったのでありました。一方で絶賛悪化した(15以上悪化)のが「鉄鋼」「造船・重機等」「自動車」というのはまあそうなんでしょうねというところで。


ということで何気に本業も多忙なもんで今日は短観ヲチで勘弁して下さいませなのであります。手抜きでどうもすいませんm(__)m

トップに戻る





2008/07/01

○これまた虫干しネタ

5月のネタで恐縮ですが。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j02.htm

本文はこちら。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j02.pdf

ヘッジファンドのレバレッジに関する考察なので欧米のデータに基づくお話なのですけれども、まあここの部分はヘッジファンドだけではない話かなあとか。金融機関が証券化商品(シニア部分ですけど)に投資するのも実はある種のレバレッジだったんじゃないのかねえとか結果論の後知恵としては思うのですけれども。

『近年、ヘッジファンドは、機関投資家からの資金の流入によって運用すべき資金が膨らむ一方、クレジット・スプレッドの縮小、市場ボラティリティの低下等に伴って、裁定取引等により超過収益(いわゆる「α」)を稼得する機会が減少する事態に直面していた。このため、ヘッジファンドの間では、広い意味での「レバレッジ」を拡大することでパフォーマンスの維持・向上を図る動きがあったものとみられる。また、投資家としても、レバレッジに関する規制の厳しい金融機関から、運用戦略に関する自由度の高いヘッジファンド等に資金をシフトすることで、レバレッジ拡大による運用収益の底上げを図っていた側面もあったと考えられる。』

ということで、そのレバレッジ動向を『借入れ・信用取引を通じたレバレッジの動向』、『証券化市場等におけるレバレッジとヘッジファンド』という切り口でデータ分析をしております。データ分析自体は本文(全部で6ページで図表だらけなので斜め読みするだけならまあ早い)をご覧いただければと。

んでまあ分析部分を全部すっ飛ばしてまとめを見るのですが。

『ヘッジファンドは、近年、金融機関とのレポ取引等による資金調達を増加させていたほか、証券化商品を含むクレジット市場において相応のプレゼンスを有し、最終投資家がレバレッジ拡大を通じてリターン底上げを図るチャネルの一つとして機能していたとみられる。その結果、再証券化商品等を含めた広義のレバレッジ拡大プロセスにも寄与したと考えられる。』

『レバレッジの利用自体は資本効率を高める側面もあり、レバレッジの積み上がりを一概に不適切と断じることは出来ない。もっとも、レバレッジを利用して投資を行う主体(ヘッジファンド等)の資金調達が不安定な場合には、(1)運用資産の劣化、(2)与信を行う側の資本制約、(3)担保価格のボラティリティの上昇といった要因が複合的に作用することにより、大規模な「レバレッジの巻き戻し」が発生するリスクがあることを認識する必要がある。』(機種依存文字を(1)とかに改変しました)

まあ左様でございますな。で、リスク管理上の留意点という話になっておるのですけれども。

『最近の市場の混乱の背景の一つとして、高水準のレバレッジとその巻き戻しがあったことを踏まえると、いずれの立場からも、ヘッジファンド等によるレバレッジの状況を適切にモニターする取り組みを続けることが重要と言える。特に、金融機関内でも、プライム・ブローカレッジ部門やヘッジファンド運営部門(子会社を含む)に、レバレッジの水準をコントロールする十分なインセンティブが与えられているかという点も含めて、適切なガバナンスを確保することが必要と考えられる。』

自分の傘下のところならそれはその通りなのですが、人様の所だと中々そういうわけにも参らず。と申しますか、その辺どこら辺まで理解して投資してるんだかっていう気は思いっきりするんですけど、サブプライムでの素敵な捕まりっぷりから致しますと。その辺りをきちんとモニタリングしだすと委託元のレバレッジ規制との絡みはどうなるのかとか、そっちの方も難しいお話になりますなあということで、一歩間違えると全部規制という金融庁スキームになり兼ねません諸刃の剣ですなあと。

図表とかデータがたくさんある(本文少なめ)なのであっさり読むことはできますのでどうぞ。

トップに戻る








2008/06/24

○5月金融政策決定会合議事要旨リターンズ

ということで前のネタなんですが。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080520.pdf

あたくし先週木曜に5月の決定会合議事要旨に関連しまして、こんなことを申し上げたかと思います。

議事内容は当然ながら公表文書(金融経済月報とか展望レポートとか)に沿ったものになりますけれども、政策委員の討議内容という部分を読んでおりますと、景気に対する下振れリスクを意識した内容が目立ちます。ということで、日銀タカ派転向説はこの議事要旨を見てもちょっと有り得ませんわなという所になるのかと思います。(19日の駄文より)

で、その内容をご紹介すると言いつつあまり5月の議事要旨内容を紹介してなかった(物価に関する部分の紹介に終始しちゃいました)ので、5月議事要旨から景気に関する部分をご紹介しますです。別にネタ切れだから書いたんじゃないですからねっ(汗)。

・海外経済、特に米国経済について

『海外経済に関して、委員は、全体として拡大が続いているが、国際金融市場の動揺が続き、米国経済が停滞するなど、ダウンサイド・リスクが引き続き高いとの認識を共有した。』

『米国経済について、委員は、金融市場・資産価格・実体経済の負の相乗作用が、いつどのように収束に向かうのか、不確実性が大きいとの認識で一致した。(途中割愛)もっとも、別の複数の委員は、金融・建設業以外の企業決算はさほど悪くなく、米国経済が大きく下振れるリスクはやや後退したと述べた。』

ということですが、これが金融経済月報(基本的見解)になるとこうなるんですな。

『すなわち、輸出は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加を続けていくとみられる。(途中割愛)。なお、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響などに、引き続き注意する必要がある。』(5月月報基本的見解より)

6月13日の白川総裁会見を見てからこの議事要旨を見ているのであまり違和感が無いちゃあ無いのですが、月報(基本的見解)での表現に対して言えば議事要旨の方が下振れリスクを強めに意識してますねと思われるのですがどうでしょ。

なお、本当は月報については背景説明を含めた全文を読まないと、特にこういう上下のリスクに関する部分は読み取れない場合がありますので、月報全文というのも(図表が多くてページ数見た瞬間にビビリますが)ちゃんと読み込む必要があったりします。


・所得形成の弱まり

『何人かの委員は、交易条件の悪化に伴い、所得形成力は弱まっており、1 〜 3 月期のG D P 統計でも、G D I の前年比がマイナスとなるなど所得形成の弱さが確認され、こうした動きが国内民間需要の下振れにつながらないか注意してみていく必要があると述べた。』

『このほか、複数の委員は、特に中小企業において、原材料高や円高の影響を受けて、収益が伸び悩み、設備投資や雇用スタンスが慎重化している、と指摘した。』

『多くの委員は、4 〜 6 月期の機械受注の見通しに言及し、過去の修正状況を勘案すれば、上方修正される可能性が高いとはいえ、企業収益の伸び悩みがなにがしか影響している可能性があるとコメントした。』

で、このあたりに関してですが、

『これらの委員は、先行きの設備投資動向については、6 月短観での設備投資計画の修正状況を含めて注視していきたいと述べた。』

ということのようです。


・雇用環境に関して

『雇用者数について、多くの委員は、短期的な振れが小さいとされる毎月勤労統計の常用雇用者数が前年比2 % 程度の伸びで推移している一方、調査対象の広い労働力調査はこれより弱めの動きとなっており、中小企業を中心に限界的な労働需要が鈍化している可能性があると指摘した。』

という指摘が。その他で申し上げますと、所得に関しては夏季賞与の伸びの小ささ、消費に関してはマインド指標の悪化の指摘があり、住宅に関してはマンションを中心に需要の弱さが観測されるという指摘があったりとなっています。

総じて申し上げますと、最初の繰り返しになるのですが、金融経済月報の基本的見解をベースにしつつもあちこちで「でもこんな下振れリスクがありますね」っていう議論が続いているという印象です。逆に上振れになるような威勢の良い議論は殆ど見当たらずという有様でして、この議事要旨がもうちょっと早く出てたら変な思惑も台頭しにくかったかとは思うのですが。

とは言いましても、決定会合議事要旨自体が次回以降の決定会合で内容承認されないと公表できない筈ですので、どうしても次回会合以降になっちゃうんですよね。別に決定会合じゃなくて通常の政策委員会での内容承認で良いじゃんとか思わんでもないのですが(どうせ法改正が必要なんでしょ)。

本日はまあそんなところで虫干し攻撃でした。

トップに戻る








2008/06/19

お題「決定会合議事要旨」

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080520.pdf(5月19、20日)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080430.pdf(4月30日)

○全体的に議事内容は慎重な見方が多く

えーっと面倒なんで最初にざっくりとまとめちゃいますとですな、どちらの議事要旨でもそうなのですが、議事内容は当然ながら公表文書(金融経済月報とか展望レポートとか)に沿ったものになりますけれども、政策委員の討議内容という部分を読んでおりますと、景気に対する下振れリスクを意識した内容が目立ちます。

ということで、日銀タカ派転向説はこの議事要旨を見てもちょっと有り得ませんわなという所になるのかと思います。以下かいつまんでご紹介。

○展望レポート第2の柱

展望レポートの第2の柱部分にはこのような記述がございました。

『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』(展望レポートより)

で、これ読んだ当時は「おお、一応信管は埋め込んでるじゃん」と思いそんな事を書いたような気がするのですが、4月30日の決定会合議事要旨を見るとこんな記述が(本文7ページ)

『緩和的な金融環境がもたらす影響について、多くの委員は、短期的には経済の減速により、緩和的な金融環境が金融・経済活動の振幅拡大につながるリスクは小さくなっていると述べた。しかし、海外経済の動向などの下振れリスクが薄れ、いわば霧が晴れてくれば、緩和的な金融環境がもたらすリスクが顕現化する可能性があると述べた。』(4月30日会合議事要旨より)

えーっと、「現在はリスク小さい」「霧が晴れたらリスクが顕現化する可能性がある」っていうこっちの表現の方が展望レポートの「リスクは引き続き存在」「下振れリスクが薄れた時に重要性は増す」という表現よりも弱い印象を与えますがどないでしょ。


○物価安定の理解

同じく4月30日会合の11ページ、12ページ目に物価安定の理解の点検部分がありまして、いくつかの論点の記述が。

・物価の糊代論

『物価下落と景気悪化の悪循環に備えた「のりしろ」に関しては、一人の委員は、経済や金融システムの状況に則して、実証的に評価すべきとの見解を示した。この点、多くの委員は、わが国においては、名目賃金の下方硬直性は小さいこと、金融システムの頑健性が高まっていることなどから、悪循環のリスクは小さいとの意見を述べた。』

つまりのりしろは小さくても無問題ということですか。ほほうなるほど。


・ゼロ金利制約論

『ある委員は、金融政策運営上のゼロ金利制約についても、日本の経験では、いわゆる時間軸効果や為替レートの変化などを通じて、その制約は緩和されたと付け加えた。』

ゼロ金利の後は時間軸効果に非不胎化介入・・・なのかな??まあ要はゼロ金利制約は実はそんなに大変じゃないから物価の糊代をそんなに取らなくても良いですよという話なんでしょうか。


・各委員の出した数値

『複数の委員は1%を中心値として上下1%の範囲内との意見を述べた。』

『また、何人かの委員は、1%程度を中心値として上下0.5%の範囲内との認識を示した。』

『ある委員は、0.5〜 1 % との意見を表明した。』

『一人の委員は、1 % よりもゼロ%に近いプラスを中心に考えていると述べた。』

えーっと、出来上がりの数字はゼロから2なのですが、ゼロから1までは全員のレンジなるも、1.5以上になると最初の「複数の委員」だけになるのね。


・で、その批判に対して

『この間、ある委員は、「中長期的な物価安定の理解」に対するいくつかの批判について言及した。』

『まず、レンジにゼロ%が含まれることに対する批判について、この委員は、ゼロ%は最も低いレンジを示した委員の下限であり、大勢として「中心値は1%程度となっている」ことについて理解を求めていくことが適当であると述べた。』

『また、レンジが全体として海外に比べて低いという批判について、この委員は、海外においても、インフレーション・ターゲットや物価安定の定義は、当該国における物価のトラック・レコードを反映している面があり、実際にインフレ率が長期にわたって低位で推移していた日本において人々が物価が安定していると感じるレンジが低くなることは自然ではないかとの見解を示した。』

レジーム転換が必要と主張する人たちが批判しそうですなそりゃ。



と、4月分の引用が長くなりまして5月はどうしたと言われそうですが、5月はそんなに月報での判断が動いてなかったので、トピック的には景気判断的にはやっぱり下向き意識してたんですねというところかと。物価に関する話が多かったりするのでその辺でも。


○物価環境に関して(5月議事要旨より)

本文6ページより。

『グローバルな物価環境について、委員は、原油など国際商品市況は高水準にあり、世界的にインフレリスクが高まっているとの見方で一致した。』

で、その要因分析ですが。

『多くの委員は、現在の一次産品の価格上昇の背景には、新興国の成長に伴う需要の増加があるが、それ以外にも、供給の制約、地政学的リスクの高まり、緩和的な金融環境、flight to simplicity の動きなど様々な要因が関連していると述べた。複数の委員は、一次産品価格の上昇に伴う所得流出は、新興国などへの日本の輸出増加と同時に生じており、単なる供給ショックとして捉えることは適当ではないと述べた。』

本文8ページより。

『委員は、エネルギー・原材料価格の上昇に起因する物価上昇について、その背景と政策対応について討議を行った。ある委員は、現在生じている一次産品価格の上昇は、需要ショックと供給ショックの2 つの面で日本経済に影響を及ぼしており、これらのショックが持続的に続いていることに特徴があると述べた。』

『この委員は、一次的な供給ショックについては、インフレ予想の変化を通じて二次的な影響が生じないのであれば、必ずしも金融政策で対応する必要はないというのが教科書的な回答であるが、現在は、持続的で複合的なショックが生じているため、政策対応は難しくなっていると述べた。』

どっかで見た表現(^^)。

『何人かの委員は、現在生じている一次産品価格の上昇の背景には、新興国の高成長というファンダメンタルズがあり、日本経済にとっては、輸出増加という需要ショックと輸入品価格の上昇という供給ショックの両方をもたらしていると述べた。これらの委員は、こうした需要ショックと供給ショックが、マクロ的な需給バランス全体にどのような影響を与えていくのかについて丹念にみていく必要があると述べた。』

『また、ある委員は、一次産品価格の上昇は、相対価格の変化をもたらし、資源配分の調整を促すが、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動次第では、一般物価水準の大きな変動につながるリスクもあるので、これらの動向に注意しながら、金融政策運営を行う必要があると述べた。』

という話になっていますが(今回引用しませんが)景気に関してはもう思いっきり5月の時点で下振れリスク警戒モード全開って感じの議事内容になってますので、だから政策対応どうするとなると「警戒しつつ様子見」継続となる感じですわな。


○物価指標の何を見るか

本文9ページより。

『また、こうした物価情勢において、どのような物価指標をみていくことが適当かについても議論が行われた。』

これは重要な論点。

『ある委員は、持続的なエネルギー・原材料価格の上昇が生じている現状では、それらを除いた米国式のコア消費者物価指数は、物価の実勢を表していない可能性がある点には十分留意する必要があると述べた。』

『別の委員は、重要なことは、ヘッドライン消費者物価の中長期的なトレンドを把握する上で、どのような指標が有効であるかという観点であると指摘した。』

まあそれはそうだと思われますですが。

『また、別の委員は、そうした中長期的な消費者物価のトレンドをみる上では、生鮮食品を除く消費者物価指数や刈り込み平均指数が有益であると述べた。』

おお!刈り込み平均指数。ちなみにこれって物凄く地味に延々と(コアが小幅マイナスになっても)小さいプラス数値が継続してたんでは無かったかな。

『また、ある委員は、現在のように川上から川下に価格転嫁が進んでいく状況では、企業物価指数も引き続き重要な指標であると述べた。』

『これらの議論を経て、委員は、様々な物価指標を丹念に点検しつつ、消費者物価のトレンドを把握することを通じて、中長期的にみて物価安定のもとでの持続的成長を目指すことが適当であるとの見方で一致した。』

最後は禅問答っぽくなってますが、まあ色々と見ていきましょうということでしょう。従来の物価上昇と違った形ですからねえ。

トップに戻る










2008/06/16

ということで何とかレポート敗れたりという所なのですが、正直言って量的緩和解除あたりから百発百中で外しているレポートを未だに購読する輩がいるというのが意味判りませんな(まあ百発百中だから逆の意味で使えるかもしれないけど)。

ではまず金融経済月報から。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0806.htm(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0805.htm(前回)

○景気に関する判断をあちこちで下げています

まずは現状判断部分。最初の基調判断は同じですが、中身が結構な下方修正に見えるのですけどどうでしょう。

・輸出

『輸出は、足もと幾分鈍化しつつも増加を続けている。』(6月)
『輸出は増加を続けている。』(5月)

今般の景気における牽引車の輸出に関して「足もと幾分鈍化」としたのですね。

・物価上昇に関する悪影響に関して

企業収益の部分でこういう書き方があるのも注目される所です。

『企業収益は、交易条件の悪化等を背景にこのところ減少している。』(6月)
『企業収益は高水準ながら伸び悩んでおり』(5月)

交易条件の悪化キター。ってのと企業収益もついに減少に。


続きまして先行き部分ですが、こちらも基調判断に変化はないものの、個別部分では下がっているところが。

・企業収益

『企業収益は、当面減少を続けるが、エネルギー・原材料価格の上昇が緩やかになるにつれて、増益基調に復すると予想される。』(6月)
『企業収益が幾分弱まりつつも総じて高水準を維持し』(5月)

ということで、企業収益の先行きには「当面減少を続ける」となってて、理由にはエネルギー・原材料価格という話ですから、上記の現状判断と平仄を揃えた見通しになっていますな。


・住宅投資

『住宅投資は、回復の動きが徐々に一巡していくと予想される。』(6月)
『住宅投資は、回復傾向をたどるがそのテンポは緩やかと予想される。』(5月)

あらま、もう一巡なの。

ということで、あちこち下がっているのですけれども、民間資金需要に関する部分だけ上方修正されています。

・民間資金需要、民間銀行貸出

『民間の資金需要は緩やかに増加している。』(6月)
『民間の資金需要は横ばい圏内で推移している。』(5月)

『民間銀行貸出は増加しており』(6月)
『民間銀行貸出は緩やかに増加しており』(5月)

ということで、この資金需要増加が前向きの資金需要であることを祈ります。

トップに戻る









2008/06/11

○リスクバランスチャートの解説ですが・・・・

この前日銀から色々と出てたシリーズの一つですが簡単に。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/data/rev08j03.pdf

まあ要するに今回の展望レポートで出てきたリスク・バランス・チャートの解説なんでしょうけれども、BOEのファン・チャートを例にして説明しているのでほうほうなるほどと読むのでありましたです。

で、その後半の部分で『3.経済・物価見通しの予測誤差』ってコーナーがございまして・・・・・

『先行きの経済・物価情勢の不確実性について考える場合、過去においてどの程度予測が外れてきたか、すなわち、過去の予測誤差はどの程度であったのか、ということが一つの尺度となると考えられる。こうした考え方に基づき、各国中央銀行では、過去の予測誤差に関する分析を行い、先行きの不確実性を判断する際の材料としている。(途中割愛)以下では、まず、諸外国における予測誤差について概観した後、日本における予測誤差について考察する。最後に、予測誤差の源泉について考えてみたい。』

ということで分析してるんですが。

『日本銀行では、2000 年10 月より、経済・物価の見通しの計数の公表を始めた。経済・物価見通しの対外公表の歴史は浅く、信頼度の高い統計解析を行うことが難しいことには留意した上で、過去の見通しの予測誤差についてみてみたい。まず、1 年先の実質GDP 前年比の予測誤差(RMSE)は1.0%となっている。一方、消費者物価(除く生鮮食品)前年比については、2000 年代の日本において、消費者物価前年比の水準が低かったこともあって、予測誤差は極めて小さく、0.2%となっている。同じ期間における民間見通しの予測誤差をみると、実質GDP 前年比は1.2%、消費者物価(除く生鮮食品)前年比は0.2%となっている。』

めんどいから引用割愛してますけど、欧米に比べて予測誤差小さめに出ていますってお話。

はあはあそうですか。と思うんですけれども、その割に日銀の見通しが毎度外れている印象が強いのは何なんでしょと思うのですが、それはきっと誤差小さいけれども方向性がいつも同じ方向に(要するに景気楽観方向に)働いているからではないでしょうかというのは気のせいですかそうですか。

ま、分析した結果ここ数年の予測誤差が小さいというのですからそうなんでしょう(棒読み)ということで。


ところで最後の部分のまとめの脚注でちょっと微苦笑。

『そもそも、経済・物価の見通しは、様々な前提条件に基づく「条件付の見通し(conditional forecasts)」であり、常に不確実性は存在する。11』

ってのに11番の脚注があるんですけれども。

『11経済・物価の見通しが、様々な前提条件に基づく「条件付見通し(conditional forecasts)」であることは、いずれの中央銀行の見通しにおいても強調されている。これは、中央銀行の経済・物価の見通しが「公約(commitments)」であると誤解されないためである。公約であると誤解された場合、市場との対話は、かえって阻害されることになる。』

まあそうですけれどもBOEはインフレーションターゲットの数字がウェブサイトに堂々と記載されておりますと存じますが(^^)。

トップに戻る










2008/06/10

相場は連日大暴れですが、正直訳わからんので、先週日銀から出たペーパーでも読みましょということで、金融調節に関するテキストを(PDFです)。

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research07/data/ron0806b.pdf

○まあ言ってみれば一昨年の続編みたいなもんで

実は以前こんなのが出ているのはあたくし何度か紹介しましたし、本石町日記さんのところで物凄い勢いでお勧めされていましたのでご存知かと(PDFです)。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research/data/ron0606c.pdf

こちらのペーパーでは各国の金融調節について解説しておりますが、今回はわが国の金融調節に関して説明を詳しくしておりまして、本文34ページ以降に諸外国における金融調節に関する紹介がございますので、そーゆー意味では今回のペーパーは前回の続編みたいなもんですな。で、前回のペーパーは本石町日記さんによりますと「白川理事の置き土産」だそうですので(本石町日記さんがブログでそう言ってたという意味ですよん)、今回はその続編キタコレという所なんですか。


○ところで何で「金融市場調節」???

こういう表現にやたら拘るのは日銀文学の読みすぎですかそうですか(^^)。

さて、今回のペーパーですけれども、本文1ページ目(PDFファイルの4ページ目、以下同様で本文とファイルは表紙と目次の関係で3ページずれます)の小見出しが『2.「金融市場調節」とは何か』となっておりまする。

『具体的には、日本銀行は、定期的に開催する金融政策決定会合において、次回の会合までの金融政策の運営方針である「金融市場調節方針」を決定しており、この中で「無担保コールレート(オーバーナイト物)を○%前後で推移するよう促す」ことを定めている。「無担保コールレート(オーバーナイト物)」とは、金融機関等がごく短期の資金を貸借する際の金利であり、「誘導目標金利(あるいは政策金利)」と呼ばれる。また、「○%前後」は「誘導目標水準(あるいは単に誘導目標)」と呼ばれる。日本銀行は、この金融市場調節方針に従って、いくつかの手段を用いて、無担保コールレート(オーバーナイト物)を誘導している。』

『こうした金融政策の実行のプロセス(implementation of monetary policy)を「金融調節」あるいは「金融市場調節」と呼ぶ。本稿では原則として「金融市場調節」の語を用いる。』

えーっと、前回のペーパーではこれに相当する部分がこう書いてあったんですけど。

『現在、金融政策の運営は、民間金融機関がごく短期の資金を貸借する際の金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)を一定の水準に誘導し、これを起点として民間経済主体の金融・経済活動に影響を与えることにより行われている。この無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導は、具体的には、民間金融機関が日本銀行に開設している日銀当座預金に対する需給に働き掛けることによって実現されており、これを「金融調節」と呼んでいる。』

・・・・「金融調節」が「金融市場調節」になった(併記してますけど)のは何か意味があるのでせうか、と意味が多分なさそうな気もしますが無理矢理考えると・・・・

(1)センター試験問題がどうのこうのという話題とか、昨年の協調資金供給後の積み最終前吸収でいちゃもん付けられた件とかがありましたけど、金融政策実行の手段としての金融調節って話が金融政策と混同される(=テクニカルな吸収オペを「金融引き締め」とか言い出す人が減らないとか)ので「金融市場調節」と表記することによってテクニカルな面を強調したい

(2)前回のペーパー書いたのは企画局で、今回は金融市場局なので、金融市場局としては「市場」の文言を入れたかった(^^)

こうですか、わかりません(><;


○ここのところは論争になるんでしょうなあ

本文4ページ目から始まる部分。

『3−2.日銀当預の需要と供給』

『次に、日銀当預の需要と供給がどのように決まっているか、また、日本銀行がこれらにどのように関わっているかを説明する。』

ということで、日銀当座預金の需要が「決済需要」「準備需要」でありまして、供給は「外生要因(=市中銀行券の増減および財政資金の受払)」と「公開市場操作(オペ)」となっておりますが、そのオペの部分の説明がこうなっておりますわな(本文7ページ)。

『上記の外生要因の変動により日銀当預残高の増減(「資金過不足」という)が生じる場合、当預取引先全体の日銀当預への需要に変化がなければ、金融機関等の間のコール取引等では調整しきれない資金過不足が残ることになる。その結果、無担O/N コールレートは大きく変動してしまう。』

『このため、日々の資金過不足を予想したうえで、これを適切に相殺するように日銀当預の供給を調整することが必要になる。日本銀行は、当預取引先との間で、金融資産の売買や資金貸付などの取引を行うこと(公開市場操作<オペレーション>)により、日銀当預の供給を調整している。』

というのは現場で実務を回していると「左様でございますな」としか申し上げようが無いのですが、岩田−翁論争の頃からこの調節を外生要因によって受動的に行うのはどうなのかという話が延々と続いておりますわなという所です。

マーケット実務的に考えますと、金融政策の変数として操作対象になっているものが「短期市場”金利”(日本の場合は無担保コール翌日物加重平均金利)」であることからしますと、日銀が能動的に(というか要するに市場の資金需給を無視してジャンジャンと)資金供給を行った場合は短期市場金利が金融政策の指示通りに動かない(=要するにゼロに向かって低下する)事になると思うのでございます。

ま、短期市場の関係者は先刻ご承知のお話ですし、あんまり短期いじってない債券市場の中の人にも先刻ご承知だと思いますが、本文2ページ目から8ページ目まで読んでおきましょうね♪


○準備預金に関連して

本文8ページから9ページのところが準備預金制度の説明なんですが、9ページ目の部分にこんなことが。

『準備預金制度適用先(準預先)は、積み期間中の日々の日銀当預残高を累計した準備預金積立額(積数)が所要積数に達しない場合、その不足額(準備不足額)に「基準割引率+3.75%」を乗じた金額をペナルティとして支払わなければならない。』

おお、マル公+3.75%は変わってなかったんですね(^^)。マル公じゃないから今だとロンバートでして、過怠金利は4.5%ですな。

『準備預金制度の準備率等については、日本銀行の政策委員会が金融政策決定会合において設定・変更・廃止する。準備率は、1991 年10 月以降変更されていない。このように、本制度の現在の意義は、日銀当預への需要を概ね安定的かつ予測可能にする点にあり、準備率操作により金融緩和・引締めを図るものではなくなっている。』

その脚注。

『準備預金制度について、かつては、準備預金が無利息である下で、準備率を上下させることにより、金融機関のコスト負担の増減を通じてその貸出態度等に影響を与える、つまり、準備率操作は金融緩和・引締めの効果をもつとされていた(例えば、武藤・白川共編<1993>参照)。』

ということで、まあ中国のように準備率操作を金融引き締め(というか銀行貸し出し抑制というか)に使う所もございますけれども、国内の資金需給的なことを考えると(民間も全銀も資金不足じゃないので)準備率操作をしても余程派手に動かさないと引き締めとか緩和とかにならないのではないかと思料されますがどうでしょ。


○これまた確認になりますが翌日物金利形成の説明

本文11ページ目から12ページ目あたりがメインの部分になります。なお、脚注で『以下の説明はあくまで単純化した模式的なものである。』とありますように、もうちょっと細かい話を読むのであれば白川さんが先般書いた「現代の金融政策」の136ページから146ページ(端折るなら142ページから)を読むと吉かと。

で、最初に12ページ目の『準備需要』をポイントにした金利形成の説明部分を読んでから前後を読むと判りやすいかと思う(というか準備需要の部分を理解してくれないと話が始まらない)ので、その部分を引用しますね。

『準備需要(日銀当預を準備預金として保有する需要)は、積み期の最終日とそれ以外の日で次のように異なる。ここでは決済需要は考慮に入れない。』

『積み最終日の準備需要は、残り所要額である。準預先は、この残り所要額を高い金利を払ってでも調達し、必ず積み終えなければならない。準備預金の積立てに不足が生じると、ペナルティが生じるためである。他方、余分に積立てを行うこと(超過準備を保有すること)は、市場での運用機会を逸することになる。従って、準備需要は極めて金利非弾力的になり、需要曲線は残り所要額の位置でほぼ垂直になる。』

用語が難しいのであたくしなりに説明すると、準備預金の積み最終日において残り所要額よりも市場にある資金が多いと翌日物金利はゼロ近傍に向けて低下し、少ない場合は無限大(正確には過怠金金利水準ですよね)まで上昇するというお話だと思うんですが、それで説明よろしいでしょうか。

『積み最終日以外の準備需要は、残り所要額では固定されない。準備預金の積立ては積み期中の平均残高が所要準備額になるように行うものであるため、積み最終日以外の日では、ある日と別の日の準備預金は完全に代替的である。このとき、準預先はその日の金利と将来市場で成立すると予想される金利を比較し、その日の金利が低ければ資金を調達して準備預金の積みを進め、逆にその日の金利が高ければ準備預金を取り崩して資金を運用することで(あるいは市場から資金を調達せず)準備預金の積みを遅らせる。従って、準備需要は極めて金利弾力的になり、需要曲線は、将来予想される金利の水準でほぼ水平となる。』

それ以外の日ですが、準備預金の積みは一定期間の間の合計積数で求められますので、今日のレートは高すぎなので明日多めに積みましょうというような進捗の操作ができますという話。

『こうしたメカニズムにより、オーバーナイト金利は誘導目標水準近傍で安定しやすくなる。これは準備預金制度の「平準化(アベレージング)機能」と呼ばれる。』

これに補足しますと、積み期間中に政策金利の変動が生じないという予想の下では、その日の金利が余程上下に振れない限り進捗操作をするインセンティブは働きませんけれども、期間中に政策金利の変更が予想される場合は、利上げがあると思えば現在の政策金利近傍よりもちょっとくらい高くても積みを進捗させるインセンティブが生じるし、利下げがあると思えばその逆になりますので、政策金利の変更が予想される場合には市場金利が誘導水準から乖離する事もあるという話になりますね。この辺の事情に関してはさっきご紹介した2年前のペーパーに書いてあったと思いますが。

同じ理屈になるんですが、この前の協調供給みたいな時に「大量供給した資金を放置すべきである」という人がいるんですけれども、放置プレイを延々と続けるという予想が市場で確信的になった場合には、上記の理屈で積み最終日に翌日物金利がゼロ近傍に低下するという予想が市場で確信的になる訳でございまして、これは「積み最終に向けて政策金利が引き下げられる予想」と同じ効果をもたらすので、「政策変更しないのに金利が下がってしまう」という結果になるのでありますな。だから「資金を放置すべき」じゃなくて「利下げしろ」というのが筋として正しいのではって指摘をするんですけど、どうにもこうにも理解されないのが困ったもんです。


で、13ページ目の説明にもありますが、実際には決済需要の部分があって、準備預金需要に対する糊代部分として決済需要が機能するのですけれども、糊代がでかい場合(準備率が低くて所要準備が低い場合や、外生的要因によって決済が多くなる場合)には翌日物金利が上下しやすくなるというお話になる訳ですね。


という説明でよろしかったでしょうか(^^)。


ま、読んで味噌ということでよろしくです。

トップに戻る










2008/06/09

○日銀からレポートが3本

あのすいません量が多いのをまとめて出されると読むほうはちと困るのでありますが(^^)。

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j03.htm
経済・物価見通しの不確実性と中央銀行のコミュニケーション

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research07/ron0806a.htm
2007年度の金融市場調節

http://www.boj.or.jp/type/ronbun/ron/research07/ron0806b.htm
日本銀行の金融市場調節

(本文は上記各URLにリンクが張ってあります)

んでまあ特に3番目のレポートはオペレーションに関する説明でございますので、「日銀理論なんぞケシカラン」と仰る皆様におかれましても是非毛嫌いせずに読んでいただくと宜しいのではないでしょうかと思うんですが。オペレーションの話を見事に誤解したままで日銀ケシカランとか言われましても(そりゃまあ一般ピープルはもっと判ってないからそれでもアピールするでしょうが)説得力がございません話ですからねえ。

説得力で思い出しましたが、まあ最近(というか郵政民営化論議あたりから)はロジックが無茶苦茶でも一般ピープルの心情にアピールしちゃえば大勝利というのが政治的には大流行のようでございますのが絶望する話すな。で、郵政民営化論議の時に理屈もへったくれもあったもんじゃないアピールしたのの逆を現政権は今まさに食らっている訳ですが。

内容は追々ご紹介致しますが、3番目のレポートに関してですが、本文の25ページの所にある「オペに関する誤解」という所なんぞまあ読んどけという所ですか。あたくしの駄文などでも同じようなお話はしておるのでございますが。

1番目のレポート(順番逆になってすいません)は今回の展望レポートで出した「リスク・バランス・チャート」が何で出たんでしょというようなレポートだったりしますが、海外中銀での例を紹介しておりまして、これまた参考になるかと思います。と言いましてもまだ斜め読みしかしてないので熟読してから紹介はそのうちやるかもしれません。

トップに戻る












2008/05/27

お題「4月8、9日の決定会合議事要旨から」

昨日の輪番は材料にならなくて良かったですね(棒読み)。とは言え、平均16毛甘で足きりが10毛甘ということは夢の20毛甘とか応札した人がいるんでしょうか。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080409.pdf

まあこの時点で既に下振れリスク警戒のオンパレードという感じでございますが、どのような点を見ているのかという所を引用して参ります。

○海外経済に関して

『こうした議論を経て、委員は米国経済のダウンサイド・リスクが高まっているとの認識で一致した。その上で、複数の委員は、やや長い目でみれば、住宅市場や金融市場の調整がスムーズに進み、不確実性が薄まった場合には、金融環境の緩和度合いなどを踏まえると、実体経済が上振れる可能性もある点は意識しておく必要があると付け加えた。』

『欧州経済について、委員は、ユーロエリアでは、緩やかに減速しつつも成長を続けているとの見方で一致した。複数の委員は、国際金融市場の動揺や、そのもとでの金融機関の与信姿勢の厳格化などの、ダウンサイド・リスクに注意する必要があると指摘した。』

こちらに関してはまあ想定どおりのお話になっております。基本線としては「減速しつつ拡大」という相変わらずの器用な話になっておりますが(^^)、気分はダウンサイド警戒なんでしょ?


○輸出・設備投資と為替動向

『わが国の輸出について、委員は、海外経済が減速しつつも拡大するもとで、増加しており、先行きも、増加を続けていく可能性が高いとの認識で一致した。何人かの委員は、米国向け輸出は鈍化しているが、欧州、アジア、中東向け輸出は好調を持続しており、輸出は全体として堅調に推移していると指摘した。一方、複数の委員は、先行き、海外経済が減速するとみられることから、わが国の輸出にも、いずれ減速感が現れてくる可能性があると述べた。』

と、さらりと書いてありますが、輸出がコケると皆コケるの巻だと思われますので、これもまた結構なダウンサイド警戒ということでありましょう。

『設備投資は増勢が鈍化しているとの認識で一致した。また、先行きの設備投資は底堅いが、伸び率は緩やかなものとなる可能性が高いとの見方を共有した。』

というのは良いとしまして、

『何人かの委員は、例年、短観の3 月調査では設備投資計画が慎重な数字となる傾向があるが、この点を勘案しても、今回の2008 年度設備投資計画は低めであることから、先行きの設備投資について注意深くみていく必要があるとコメントした。』

『また、ある委員は、短観における企業の想定為替レートが足もとの水準よりも円安となっている点を踏まえると、企業の収益率見通しが、今後、下方修正される可能性があると付け加えた。このほか、多くの委員は、特に中小企業において、原材料高や円高の影響を受けて、収益が伸び悩み、設備投資スタンスが慎重化していることが今回の短観で確認された、と指摘した。』

『ただし、多くの委員は、企業に設備過剰感がみられない点は、先行き、設備投資が底堅く推移する可能性が高いことを裏付ける材料であると付け加えた。』

昨日ご紹介した先週の白川総裁定例会見の中でスルーしちゃった(長いもんで・・・・)質問として「所得形成が弱まったことの影響をどのようにみているのか」というのがあった(会見要旨の10ページ目にあたります)のですよ。で、そこで白川総裁は『そういう意味で個人消費にも影響は出て来得る話ですが、交易条件悪化の影響がどの部門の支出に一番出ているか、あるいはどの部門に一番注目しているかという点では、私は設備投資だと思っています。』という応答をしていまして、ここの議論と連携したお話になっていますという所ではないかと思います。

一応最初と最後はメインシナリオの話になってますが、途中には下振れ警戒の話が並ぶという中々素敵な議事要旨になっておりますわなというところで。


○サーベイ、マインドの悪化

『企業の景況感について、委員は、幅広い業種で慎重化しているとの認識で一致した。ある委員は、より小規模の企業を多くカバーする企業サーベイ調査では、業況感の悪化が一層明らかであるとコメントした。』

『個人消費について、委員は、底堅く推移しており、先行きについても、雇用者所得の緩やかな増加を背景に、底堅く推移する可能性が高いとの認識を共有した。ただし、複数の委員は、石油製品や食料品の価格など、身の回り品の値上げが続いていることなどから、消費者マインドが慎重化していると指摘した。』

と、まあこのあたりも予想される議論ではありますが、やはり警戒していますなあという所です。


○雇用・所得の統計面でのチェック

雇用・所得に関してはここまでの下振れリスク満開モードと比較すると、まあ先行き割と強気に見ている感じなのですけれども、動向が読みにくいという話が出ています。

『雇用者数について、何人かの委員は、短期的な振れが小さいとされる毎月勤労統計の常用雇用者数が前年比2 % 程度の伸びで推移している一方、調査対象の広い労働力調査はこれより弱めの動きとなっていることから、足もとの動向の評価が難しくなっており、双方の指標を丁寧に点検していく必要があると述べた。』

毎勤統計と労働力調査の間にギャップがあるというお話ですか。ほほう。ただまあ基本的には「伸び悩み」というリスクは指摘してもかつてのようなもうダメダメ感爆発というような下振れリスクまでは意識されていませんわな。そりゃまあそうでしょうという感じですけれども。


○この部分は少々異論がございますが

話は飛んで金融面の動向に関する政策委員会の認識について。

『短期金融市場の動向について、多くの委員は、年度末にかけてターム物金利が一時上昇したほか、レポ・レートが強含んだ点に言及した。』

左様でございますな。

『何人かの委員は、年度末要因に加えて、米欧市場の動揺の影響から、日本の短期金融市場も神経質になっていた面があると述べた。』

そういえばどこぞの馬○通信社と○鹿新聞が「長短金利逆転」などという○○記事を配信していましたなあとか思い出すのですが、あれはたった2か月前のお話ですかそうですか(遠い目)。という悪態はともかくと致しまして。

えーっと、あたくしかなりしつこく書いたと思うのですが、今回は期末越えで寝転がり(寝転がりを意図してるのか意図してないのか知りませんが)をしやがった参加者が散見だか続出だか知りませんが、まあレートが気に食わないからオペ頼りで最後の最後までファンディングを引っ張ったのが一番の原因であったと認識しておりまして、正直あまり米欧がどうのこうのというのは関係ない(無くはないけど相対的なウェイトは小さい)ですがなという所です。

何故なら、米欧の問題は3月期末に急に浮上した話ではないのでありまして、かつ該当金融機関にとって日本はメインの市場ではない訳でありますから、相対的に影響は低い筈(まあ一番調達しやすいのが日本だったのでその余波はありますが)でして、本来なら別に寝転がりとかやらなければ直前になって大騒ぎする話ではないのであります。

『こうした議論を経た上で、委員は、日本の短期金融市場は、米欧に比べてかなり安定しているとの認識で一致した。この点に関して、何人かの委員は、きめ細かい金融市場調節が奏功したほか、日本銀行の調節手段が、オペ期間、担保の多様性などの点で充実していることも、市場の安定に寄与しているとの見方を示した。』

かなり安定しているのはその通りですが、オペレーションに関しては期末越えのファンディングが活発になるタイミングであります所の3月最終の前2週くらいにやたらめったら期末直前に落とす資金供給オペを実施してまして、期末越えのショートファンディングが増えるような状況に持っていっちゃったんじゃないんですかねと思われますが。肝心の期末最終週の前週の共通担保でショートのオペ連発で、最終週になってから打つのはタイミング的にどうだったのよという感じは致しますが。

いやまあそこまで細かい話突っ込まれても困りますがなという感じでしょうし、調節担当の中の人に置かれましてもまあヒアリングかけたらそんな感じだし言われるのもちょっと心外かもしれませんが、期末の動向に関しては正直言って聞く相手間違えてませんかって感じはしましたですよ。

勿論、もっと大きな視点に立った場合は、欧米がやれTAFだ何だともう泡食っていろんなオペを実施している中で余裕ぶっこいていられる本邦というのはさすが日本だ信用収縮には慣れっこだぜという所でございましょう。ということで、議論のお話そのものは特にどうというこたあねえのですけれども、ちょっとだけ読んでて違和感あったので書いてみましたのです。

トップに戻る







2008/05/21

本石町日記さんのところにあった最新エントリーは中々。で、質問した記者どこの所属なんでしょう。

○5月月報:住宅と物価を上げて生産をわずかに下げる

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0805.htm(5月)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0804.htm(4月)

今回は全体的な内容はそんなに変わっていないのですが、生産、住宅投資、物価というポイントで表現が微妙に変化しているのが目に付きました。

・住宅投資を(目立たないけど)上方修正

現状認識部分の項目別展開で住宅投資の表現を比較すると。

『住宅投資は緩やかに回復している。』(5月)
『住宅投資は、回復に向けた動きがみられるが、なお低水準となっている。』(4月)

明確に「回復」ということになりました。で、先行き見通しですが。

『住宅投資は、回復傾向をたどるがそのテンポは緩やかと予想される。』(5月)
『住宅投資は、回復に向かうがそのテンポは緩やかと予想される。』(4月)

「向かう」だったのが「傾向をたどる」ということで、回復が継続という表現に前進しております。住宅投資は寄与がでかい話(だと思ったのですが)なので回復となってきたのはそこそこ重要ではないかと。


・生産を現状判断だけ下方修正

先行き見通しの部分は変わっていないのですが、現状判断を下げております。

『生産は横ばい圏内の動きとなっている。』(5月)
『生産は、やや強めに推移した昨年後半の反動もあって、このところ横ばい圏内の動きとなっている。』(4月)

このヘッジクローズみたいなのが外れたのは上なのか下なのかという質問をいただいたのですが、こういうときはこのヘッジクローズがどういう経緯で入ったかを確認するのでありまして、この部分の表現が4月と同じようになったのが3月でして、2月までは『生産は増加を続けている』となっており、それが3月に上記4月と同じ書き方になりましたって経緯になってるんですよね。となりますと、3月に入れたヘッジクローズは「このところ横ばいなんですけど、それは反動減の為に横ばいになっているだけで実は強いんですよ」というのが言外に込められていると見るのが妥当かと。

即ち、その込められた言外の気持ちが外れて「いやあ横ばいですよ横ばい」となっているのでこれは下方修正と解釈することになろうかと。いやまあ全文の方読めば簡単に判るのかもしれませんが。


・物価を微妙に上方修正

CPIの現状認識部分

『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などを背景に、昨年末頃からプラス幅が拡大し、足もと+1%程度となっている。』(5月)
『消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、石油製品や食料品の価格上昇などを背景に、昨年末頃からプラス幅が拡大している。』(4月)

物価安定の理解における中央数値でありますところの+1%という数字を明記したのはこれは意味があるでしょ(^^)。


CPIの先行き部分

『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラスを続けていくと予想される。』(5月)
『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラス基調を続けていくと予想される。』(4月)

需給ギャップがゼロ近傍の中で原材料価格などの上昇に起因した物価上昇が継続するという見込みは変わっていない(従って物価上昇は利上げじゃなくて利下げ方向に向かう場合もありますという事ですな)のですけれども、「基調」という文言が外れたので、消費者物価上昇に対する見方は上昇に関して確信度合いが高まったということですな。

ただまあ今申し上げましたように、経済の需給バランスが均衡した状態での外部要因による物価上昇は交易条件の悪化とか実質購買力の低下という話になるので、金融政策の方向性としては引き締め方向には行かないでしょという所は勘違いしないほうが吉かと。ただし下方リスクが弱くなるとか、需給バランスが需要超過という状況になるとかになりますと話がだいぶ変わってくるのでこれまた注意が必要かと。

トップに戻る





2008/05/01

お題「さあ展望レポートです」

米国利下げ打ち止めがコンセンサスだっただけにリスクは金利低下でございましたかそうですか。

さて昨日の展望レポート、今回は基本的見解もPDFになっております。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0804a.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/tenbo/gor0710.htm(昨年10月)
過去の展望レポートはこちらから
http://www.boj.or.jp/theme/seisaku/sakiyuki/tenbo/index.htm

○市場の反応ですが

えーっと、昨日は場中から中期ゾーンが強くて相場上昇の巻でございましたが、展望レポート出てからも上昇。債券市場も5年とか2年とか強かったですが、金先が例によって例の如くやたら上昇の巻で、3時過ぎにはDec08とかMar09が9毛強位でしたけど、5時過ぎに数字みたらDec08は13毛ちょい強くてMar09が16とか17毛強いという中々見事な上昇。

展望レポートの内容とか、総裁記者会見の(ヘッドラインで見ただけですけど)内容とか別にサプライズは無くて事前に報道やら何とかストの皆さんやらが予想している通りだったと思うのですが、どうも「白川日銀はタカ派」という都市伝説が特に金先をいじっている人に信仰されていたのでしょうか。いやまあ戻すわ戻すわ。

ただまあそもそも論と致しましてですな、(昨日書き忘れたけど)月曜の金先なんぞMar08で安値98.800とかマークしてたんですよね。それって「来年3月のユーロ円TIBOR3か月もの金利が1.20%」という事を意味するのでありまして、えーっとそれってざっくり1回半ちょっとの利上げを織り込んでいやあしませんかという数値という豪快にも程がある下げ方をしておった訳でして、戻るのもまあ仕方無いですねえという所です。

というか、金先って何でそう豪快にオーバーシュートするのやら。。。。


では展望レポートのポイントとあたくしが思ったものを整理。

○方向性決め打ち排除

既に皆様ご案内の通りですけど、(金融背策運営)の部分から。ちと長いので段落分けながら。

『金融政策運営については、これまで、@短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、極めて低い水準にあり、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長軌道を辿るのであれば、金利水準は引き上げていく方向にある、A引き上げのペースについては、予断を持つことなく、経済・物価情勢の改善の度合いに応じて決定する、という考え方で進めてきた。』

と、ここまでは従来の展望レポートにあったロジックで、次が実際の政策運営に関する説明。

『実際の政策運営においては、昨年2月に政策金利水準を0.5%に引き上げ、その後は、これを維持した。これは、蓋然性の高い見通しとしては、物価安定のもとでの持続的な成長という見通しが維持されたが、そのペースは、住宅投資の落ち込みやエネルギー・原材料価格高の影響などから減速したことや、リスクの面でも、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響など、下振れリスクが高まったことなどを考慮したものである。』

で、現在の市場の状況に関しても言及しています。

『こうした経済の減速や下振れリスクの高まりを背景に、金融市場における先行きの利上げ見通しは後退し、対応する期間の金利は低下している。』

えーっと、その後この展望レポート出る直前は金先などは年内利上げ確実以上の売られっぷりを示していましたが、ここの表現を、本石町日記さんの最新エントリーなども参照しますと、たぶんこれは「市場が織り込む先行きの政策金利」というのは「現状維持」となっているという意味であると思料されます。

『現在のように不確実性が極めて高い状況のもとで、先行きの金融政策運営について予め特定の方向性を持つことは適当ではない。この先、下振れリスクが薄れ、物価安定のもとでの持続的な成長を続ける見通しの蓋然性が高まるのか、あるいは、下振れリスクが顕現化する蓋然性が高まるのか、よく見極めていく必要がある。』

『日本銀行としては、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく方針である。』

ということで上下決め打ち無し。利下げも利上げもあり得るという事ですが、まあ当面現状維持って話になるんでしょうね。



○瀕死状態の「好循環メカニズム」

経済のメインシナリオ部分は最初のところにございまして、こちらを前回と比較すると面白いのですが、それを最初にやっちゃうと長く成りすぎますので「第1の柱」部分の表現を引用しますね。

『まず、第1の柱、すなわち先行き2009 年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検する。上述した通り、わが国経済は、当面減速するが、見通し期間全体では、概ね潜在成長率並みで推移するとみられる。』(今回)

『第1の柱、すなわち先行き2008年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検すると、上述した通り、わが国経済は、生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持されるもとで、息の長い拡大が続くとみられる。』(昨年10月の展望レポートより)

とまあそういうことで、潜在成長率並みでの推移だから拡大とは言えませんでしょうし、好循環メカニズムに関しても文言削除ということでございまして、メインシナリオが利上げ前提ではなくなりましたな。で、そうなりますと現在の「第1の柱」「第2の柱」に関しても(まあ相変わらず解釈は難しいのですが)今までのようなロジック的苦労は軽減されそうな感じがします(^^)。それから、先ほども申し上げましたけど、「政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観」は「利上げでも利下げでも無く現状維持継続」という「金利観」であるものと見られます。



○物価上昇のネガティブな面への言及

(上振れ・下振れ要因)の部分では物価上昇について言及。

『第2に、エネルギー・原材料価格の動向である。見通しでは、原油をはじめとする国際商品市況については、新興国を中心とする需要に支えられて、高水準で推移すると想定している。国際商品市況が想定以上に上昇した場合には、各国でインフレ圧力の高まりにつながるリスクがあり、その後の景気下振れ要因となるおそれもある。また、日本にとっては、海外への所得流出が増加することにもなり、企業や家計の支出活動にマイナスの影響を及ぼす可能性がある。』

ということで、エネルギーや原材料価格の上昇に関しては「景気にネガティブ」というのを強調。これはまあ当然っちゃあ当然ですけれども、まあ相変わらず記者会見(ヘッドライン見ただけなので会見要旨を見て改めてご紹介しますが)では物価上昇はインフレで利上げみたいなフレームから抜けてない(つまりインフレとスタグフレーションの区別がつかんのでしょうな)質問が飛んでいる事から、この部分を強調しないと勘違いするアホウがいつまでも出続けることを懸念してるのかな何て思ったりして。考えすぎしょうけど(^^)。

物価上昇率の上振れ・下振れの部分から。

『次に、物価上昇率の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の不確実性があることに留意する必要がある。経済活動水準の変動について上述のような上振れ・下振れ要因が顕現化した場合、物価にも相応の影響を及ぼすとみられる。』

『物価に固有のリスク要因としては、第1に、家計のインフレ予想や企業の価格設定行動が挙げられる。消費者の購入頻度の高い財・サービスの価格上昇などを背景に、消費者のインフレ予想はさらに高まる可能性がある。また、企業においても、原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きが広範化する可能性がある。これらの場合、物価は予想より上振れる可能性がある。一方、競争環境が厳しいもとで、企業のコスト削減努力などにより価格上昇が想定ほど進まない可能性もある。第2に、原油をはじめとする一次産品の価格動向には上下両方向に不確実性が大きい。』

まあこのインフレ予想やら川下での価格転嫁やらが雇用者の名目所得の上昇に結びつけばそれはそれで(前向きかどうかは兎も角と致しまして)一種の循環メカニズムになりそうな感じですが、どうにもこうにもそんな感じが無いのが誠に頂けませんな。こっちの部分は前回とあまり変わってませんが、前半部分に関しては今回どどーんと新設されたリスク要因ですので、物価上昇即利上げじゃないですよという所は把握されたし(というか債券市場と短期金融市場の国内参加者はとうの昔に把握してると思うが)と存じます。



○ここの解釈が微妙なのですが・・・

(上振れ・下振れ要因)の中にこういう部分がございまして。

『第4に、緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があることである。現在、経済の減速によって、企業や家計、金融機関の行き過ぎた行動が生じる可能性は以前より低くなっているとみられる。もっとも、緩和的な金融環境が長く続き、今後も維持されると予想されるもとで、経済主体の期待の変化によって、その行動に行き過ぎが生じ、それが長い目でみた資源配分の歪みにつながるおそれは引き続き存在する。』

それから、同じことですが第2の柱にはこのような記述も。

『長期的には、低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するなど、緩和的な金融環境の長期化が経済・物価の振幅をもたらすリスクは、引き続き存在し、特に上記のような下振れリスクが薄れる場合には、その重要性は増すと考えられる。』

ただまあ最初に引用した部分にありますように、従来堂々と謳っていた『短期金利は、潜在成長率や物価上昇率との関係からみて、極めて低い水準にあり』って部分は引っ込めておりますので、これは「現状の短期金利水準が緩和的である」と言い切っているのかどうか良く判らんのですけれども、まあたぶん緩和的という認識を残しておいて、景気状況が好転してきた時の利上げロジック用にするのではないかと勝手に想像するのであります。



○第2の柱は下振れリスクに

今回の第2の柱より。

『前述の通り、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響など景気の下振れリスクに最も注意する必要がある。』

「最も注意」ですよ。警戒来ましたコレって感じで。

『ただし、企業部門や金融システムの頑健性が高くなっていることから、物価下落と景気悪化の悪循環が生じるリスクは小さくなっていると考えられる。』

これはまあ前回と同じ。

『物価面においては、エネルギー・原材料価格のさらなる上昇や、消費者のインフレ予想や企業の価格設定行動の変化により、物価が上振れるリスクがあるが、「中長期的な物価安定の理解」から大きく乖離する可能性は小さい。』

ということで、さっき引用しませんでしたが、物価の上昇を即利上げに結び付けられるような表現を排除しているのが判るというものです。その次は先ほど引用した緩和的な金融環境がどうのこうのという部分。


さて、前回の第2の柱はと申しますと・・・・・

『第2の柱、すなわち、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくとも発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営の観点から重視すべきリスクを点検すると、経済・物価情勢の改善が展望できる状況下、金融政策面からの刺激効果が一段と強まる可能性がある。』(これは昨年10月の展望レポート)

以下景気の良い話が続き、最後のほうになりますと、

『また、前述のように海外経済や国際金融資本市場の動向など不確実な要因があり、これらに変調が生じた場合には、日本経済も影響を受けると考えられる。』(これも昨年10月の展望レポート)

とやっと出てくるという次第でしたので、前回対比でリスク点検方向がドテン下向きになりましたという事で。いやまあ本来こうなっていて然るべきものでございましたので別に金先とか中短期国債とかがいきなり持ち上がる必要はないようにも思えますが、その前に下を散々ぶち叩いてやり過ぎてしまった分は反動するんでしょうということで(^^)。


○最後になんか正規分布みたいなチャートが

最後に「リスク・バランス・チャート」ってのが出ています。どうせなら名前出さなくていいから委員ごとにAさんはこうでBさんはこうみたいな図の方が楽しそうな気もしますがまあそれは兎も角。

9ページ目の説明部分から。

『今回集計された「リスク・バランス・チャート」以下の特徴がある。』

『実質GDP
2008 年度の分布は下方向に偏っており、委員は上方リスクに比べて下方リスクが高いと考えていることが示されている。一方、2009 年度は、上下の分布はほぼ均衡しており、委員は下振れと同様、上振れの可能性もあると考えていることを示唆している。また、2008 年度と2009 年度を比べると、2009年度の方が分布の裾野が広くなっており、時間の経過とともに不確実性が高くなることが示されている。』

『消費者物価指数(除く生鮮食品)
2008 年度、2009 年度ともに、やや下方に偏っている。また、実質GDP成長率と同様に、2008 年度より2009 年度の方が分布の裾野が広い。』

要するに本年度は下振れリスクを見てまして、来年度のことはあーたそんなの予想しろって難しいですがなってことでございますか。。。。

まあ総じて言えば、現実的になったレポートで良かったですねという所であります。あと、メインシナリオ部分の表現っぷりも前回と比較すると中々味わいがあるのですけれども、やってるとキリがないので本日はこんなところで勘弁。

トップに戻る









2008/04/21

まずはさくらレポートですが。
http://www.boj.or.jp/type/ronbun/chiiki_rep/chiiki0804.htm

上記のURL先に全文へのURLもありまして、この全文ってのも色々と見ていると面白いのですが、今回は要旨(というか冒頭部分)の部分から。

○景気判断下方修正

元々弱い内容になっている北海道以外の8地域が全部下方修正という中々素敵な内容になっております。で、「回復」という文言が外れたのが東北、北陸で、「拡大」という文言が外れたのが関東甲信越となっておりますわな。んでまあ「足もと減速しているけど拡大」という類の器用な表現が多いのはありがちな仕様。拡大って文言が残っているのは東海と近畿ですけれども東海では「足もと鈍化」、近畿では「一部に減速の動き」ということで、ヘッジクローズ入りまくりの巻でございます。

で、まあ項目別分解ですけれども。

『個人消費は、関東甲信越で緩やかな「増加」と判断しているほか、多くの地域では、「底堅く推移」ないしは「横ばい圏内の動き」と判断している。この間、北海道が「やや弱めの動き」と判断している。(途中割愛)前回報告との比較では、北海道、東北、北陸、東海がやや下方修正した。』

景気マインドに関する指標がアホほど悪い割には個人消費ってコケないですよね。まあ個人的印象で申し上げますと、何だかんだと言いましてもやれ倒産だリストラだ賃下げだという状態は脱却している訳でして、その手の下方不安が外れてくれれば、入った分は消費したくなるでしょって思うのですけれども如何でしょうか。

『設備投資は、企業収益が足もと伸び悩んでいることなどを背景に、高水準ながら増勢が鈍化している、との報告が目立っている。前回報告との比較では、北陸、関東甲信越、東海、近畿、四国がやや下方修正した。』

『生産は、北海道、北陸、近畿、四国が「持ち直し」ないしは「増加」、「増勢」と判断しているほか、関東甲信越、中国、九州・沖縄では、「横ばい圏内の動き」ないしは「堅調に推移」と判断している。この間、東北、東海が、「このところ低下」ないしは「幾分反動減がみられる」と判断している。(途中割愛)前回報告との比較では、北海道がやや上方修正した一方、東海が下方修正、東北、関東甲信越、近畿、中国、九州・沖縄がやや下方修正した。』

設備投資はコケそうでコケないハードデータでしたが、鉱工業生産に関しましても先週公表された確報ベースがいきなり好転しちゃいました。

『雇用・所得環境をみると、雇用情勢については、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国が、「改善を続けている」ないしは「有効求人倍率が高め」などと判断している一方、北海道、東北、北陸、九州・沖縄では、「横ばい圏内で推移」ないしは「改善の動きが弱まっている」などと判断しており、地域差がみられる。(途中割愛)前回報告との比較では、雇用情勢については、東北、北陸、九州・沖縄がやや下方修正したほか、所得面については、東北、北陸、近畿、九州・沖縄がやや下方修正した。』

こちらは相変わらずの地域差が大きい状況です。

まあ結局上方修正しているのは1箇所も無いということで、景気の判断としては下方修正ですけどね。


○今回のお題は・・・・

その次の『U.地域の視点』って所ですけど、毎回お題がありまして、今回のお題は、『1.グローバル需要の取り込みに向けた企業の対応について── 中堅・中小製造業や非製造業の動きを中心に』というのと、『2.地域からみた最近の雇用・賃金情勢について』とになっています。内容に関してはPDFの本文が詳しいです。

で、まあ後者のほうですけど、まとめの部分にありますのは、

『最近の雇用・所得環境を窺うと、原材料価格の上昇に伴う企業収益の悪化等を反映し、足もと、改善の動きに一服感がみられるものの、総じてみれば労働需給は引き続きタイトであり、雇用者所得は緩やかな増加を続けている。』

というのが結論なのですが、内容を見ますと但し書きつきみたいなもんでして、最後の部分はこうなっておりますわな。

『こうした状況を受け、業績好調な製造業の一部では、ベース・アップを実施する先がみられるが、多くの先では、足もと景気の先行き不透明感が強まっていること等から、人件費の増加を極力抑制しようとの姿勢は崩していない。』

『すなわち、賃金については、人件費の固定的な増加に繋がるベース・アップではなく、業績に応じた賞与中心の処遇改善を行うスタンスにあるほか、原材料価格高等により収益が悪化している先では、賞与を削減する動きがみられる。また、業績への貢献度の低い部門や人材に対しては、処遇の見直しに踏み込む動きもみられる。さらに、非正規雇用についても、人件費の固定費化を避ける観点等から、都市部を中心に、安価で貴重な労働力としてのパート・アルバイトや派遣社員を活用する動きが引き続きみられる。』

ということで必ずしも明るくは無いという話ですか。まあ個人的な感想としてはさっきも言ったようにあたしゃ直近の最悪期を見ておりますんで別に暗くもないですなあとか思ってしまったりしてなのです。


なお、この「地域の話題」のお題を過去分並べてみると微妙に落涙を禁じ得ないという話を前回(1月)にもした気がしますが、今回も物は試しに並べてみます。

『1.グローバル需要の取り込みに向けた企業の対応について
── 中堅・中小製造業や非製造業の動きを中心に
2.地域からみた最近の雇用・賃金情勢について』(今回)

『原材料価格上昇のもとでの企業の対応
── 最終消費者に近い「川下」段階にある地場企業を中心に』
(2008年1月))

『1.最近の企業立地の動向と立地戦略の特徴点
 2.北海道農業の現状と新たな取り組み』(2007年10月)

『中小企業の収益動向と支出行動の特徴点』(2007年7月)

『1.各地域からみた最近の雇用・賃金情勢について
 2.近年の東京における高額消費市場の特徴
――海外ブランドや外資系ホテルの動向を中心に』(2007年4月)

『各地域からみた最近の住宅投資動向について』(2007年1月)

ああ昨年は高額消費市場とか住宅投資好調とかいう話をしていたんですなあ(しみじみ)。

トップに戻る







2008/04/16

○昨日の続きと追加

昨日は3月決定会合で緩和的対応(利下げと明記されていないのがチャーミングですが)について言及した人に関してあたくしなりに勝手に想像したのですが、「おめえ岩田さん以外の確率高すぎ(=岩田さんの確率低すぎ)」というご指摘を頂きまして誠にすいませんすいません。まあ本人言い訳すると岩田さんの確率低いって一応ヘッジクローズ(????)入れてましてですな、ちょっと相場を張っている(何の?)部分はあったんですけどね(汗)。

まー普通に考えれば岩田さんなのかもしれないですけど、さてどうなのかってのは展望レポートのロジック(どう見ても組み替え)とか、4月会合の議事要旨公表とかを注目ということになるんでしょうな。正直楽しみにしています。

さてまあ岩田さんなのかそうじゃないのかは兎も角として、先日の西村さんの講演でも上下両睨みの話をしてましたように、利下げに関してどうなのよというのもあるんでしょうけれども、たぶんマーケットでポジション持って参加してる人は「利下げも利上げもないでしょう。でも利下げネタに関しては他の人たちが食いつく可能性が利上げネタに比較して圧倒的に高いから相場がそっちで反応するかもね」ってな感じでやっているのでは無いかと思うのですがどうでしょ。

経済指標に関してもまあそりゃ良くは無いのですが、もう駄目です悪化です後退ですっていうかというと微妙な所で何かの指標が意外に悪くなかったりするのでして、この辺の数値がボコボコになるとか株価がゲロゲロに下がるとかしないと、暫く前の利下げ催促状態のような相場には中々ならないかなあって。


ところで月曜には信託大会で白川総裁挨拶が。
http://www.boj.or.jp/type/press/koen07/ko0804b.htm

4月の金融経済月報要旨と似た話でありますが改めて。

『わが国の経済は、エネルギー・原材料価格高の影響などから減速しています。3月短観の結果をみても、企業の業況感は慎重化しています。もっとも、企業収益が幾分弱まりつつも総じて高水準を維持し、雇用者所得も緩やかな増加を続けるもとで、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高いと考えています。景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後は緩やかな成長経路をたどると予想されます。』

『物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラス基調を続けていくとみています。』

需給バランスは中立、(ここでは触れてませんが)今年度の成長予想は潜在成長率並みとなりますと金融政策の方向性は出しにくいとなりますけど、再度成長経路が復活してくれば現状の金融環境が緩和的でありますので徐々に利上げってお話になるんでしょ。ただまあその成長経路復活のパスが何とも良く見えてこないのですけど、悪化というほど悪い数字が並んでいる訳でもないので利下げもねえという所っすか。

利下げしないで長期国債買入増額というのもありますが、利下げが伴わないのであれば基本目くらまし。ただまあ一応世の中の期待(というかマインドというか)に働きかける効果が出ればそれはそれで緩和効果が出るんでしょうが、民主党様があれだけ物凄い勢いで国債買入は財政支援とか言い出しますと長期国債買入増額は非常にやりにくいんでしょうね。オペレーション上はどう見ても長期国債買入増額が妥当なんですけど、変に政策的なインプリケーションがあるかの如き状態になっているのが何ともいただけませんな。



○いやまあ何とも

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/un0804d.htm

松江支店での情報漏洩の件でございますが、報告を拝読。

http://www.boj.or.jp/type/release/adhoc/data/un0804d.pdf

『今回流出した松江支店の内部情報は、合計34 ファイルで、容量は約3 メガバイトであった。これらは、松江支店の職員(非職位者)1名が、フロッピーディスクに格納して自宅に持ち帰り、個人所有パソコンに保存していたものであった。』

きょうび金融機関ですと外部記憶媒体使用禁止で、古い機種使っている時はFDの入り口塞いだりするとかUSBのジャックもうっかりすると使えませんとか物凄い勢いで五月蝿い(ところが多いと思う)のでございますが、まあまとめの部分にあります原因に関しては仰せの通りでございます。

『今回の件は、情報管理のためのルールを如何に整備しても、職員自身がそれを守らない場合には、重大な問題が発生し得ることを示している。このため、今後は、そもそも資料を外部へ持ち出せないか、持ち出さなくてもすむような、執務環境の整備が必要であると考えられる。』

でまあ持ち出さなくても済むようにするには休日出勤どんどん来いという話になってしまいそうなので日銀としては難しいのでしょうが(休日に来て仕事すると電話も会議もお呼び出しも無いからはかどるんですよね、あっはっは)、物理的に対策をとるのは大事。

と申しますか、なんちゃら規定みたいなの作っても、物理的にノーズロだったり、踏んでしまいそうな穴があいてたりすると、悪意なくそのトラップに嵌ってしまうカワイソウな人も出てきますので、規定の厳格化よりも物理的な対策が重要なんでしょうなあって感を。

しかしこの対策には妙な想像をしてしまうのはあたくしの仕様でしょうか。

『全職員による個人所有パソコン等の定期点検、管理職による部下のルール遵守状況の確認、情報流出を継続的に監視する仕組みの拡充などにより、内部におけるチェック体制を強化する。』

>個人所有パソコン等の定期点検
>個人所有パソコン等の定期点検
>個人所有パソコン等の定期点検

えーっと、あたくし(は別に日銀職員じゃないから関係ないけど)のPCのあんなフォルダやそんなフォルダも点検されてしまうのでしょうか。

・・・いやまあこれって要するに自己点検をして結果を報告しなさいって話になると思いますがね、システム管理者が全員の家に行くわけにはいきませんですから(笑)。

トップに戻る







2008/04/15

お題「さて利下げも有り得ると言ったのは誰でしょう」

先物一人旅の相場も訳判らんのですが、正直理由が全く判らないので言及不能。

てな話は兎も角、3月の金融政策決定会合議事要旨。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/giji/g080307.pdf

○まずは両睨み路線に

最後の『V.当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要』で従来の「シナリオどおりなら金利調整」の他に下向き路線も出てきたというのが今回のネタでしょうな。

いやまあ既に審議委員の講演とかで下振れリスクと下振れリスク顕在化の際には「適切な政策」を取るという話が出てますので、市場としては織り込みなんすけど、決定会合の議論の中でもそういう話になってますというのが出たというのは宜しいのではないでしょうか。

次の体制になる前の最後の会合でこういう方向性を出す(というか従来の方向性を引っ込めるというほうが正しいか)というのは福井総裁お茶目じゃないのよとちょっと思うのでございました。

『委員は、先行きの金融政策の運営について、基本的な考え方を維持することが適当であることを確認した。委員は、内外ともにリスク要因が増加している中で、フォワード・ルッキングに経済・物価の見通しの蓋然性と上下両方向のリスクを点検し、金融政策運営方針を決定していくことが重要であるとの認識を共有した。』

というのはまあいつもの話ですが、この次は大体下振れリスクのお話。

『ある委員は、このところ企業行動に慎重さが目立ってきたことを踏まえ、生産・所得・支出の循環メカニズムの持続性について、しっかりと検証する必要があると述べた。』

『別の委員は、2 つの「柱」に沿って、経済・物価の見通しとリスクを整理し、@ 日本経済は、当面減速するものの、その後緩やかな拡大パスに復するとの、これまでのシナリオは維持されている、A リスク要因については、米国経済や国際金融市場の不確実性に加え、エネルギー・原材料高が中小企業の業況や消費者マインドに悪影響を与えるリスクは、更に強まっている、と述べた。その上で、この委員は、先行きについては、これまでの金融政策運営の基本的な考え方を維持しながら、見通しの蓋然性と上下両方向のリスクを綿密に点検し、最も適切と考えられる政策を機動的に実施していくべきである、との見解を示した。』

こちらの委員の場合はこれまでのシナリオ維持ということなので適切と考えられる政策は上も下もアリということでございますか。で、最後の部分は一般ニュースでも報道されてましたな。

『更に別の委員は、金利調整の方向性は維持されているものの、今後、緩和度合いを高める必要があると判断される場合には、その時々の状況に合わせた機動的な対応を考えていくべきである、との考えを示した。』

緩和度合いを高める必要がある場合には機動的な対応ということですので、利下げとか国債買入増額(後者は目くらましなんですけど)という話になりますですかそうですか。


さて、ではこの考えを示した人が誰でしょうという話ですが、これはまあ想像するしかないお話なのでございますけど、最近の政策委員の皆様の発言から類推(と言っても最近の講演がない人もいますけど、苦笑)しますと・・・・・

須田審議委員は先日の講演でインフレタカ派っぽい話をしてたのでたぶん無し。西村副総裁(この時点で審議委員)と水野審議委員に関しては下振れリスクについて結構きちんと言及していましたのでアリ。岩田副総裁もアリ(ただし1月なのでちとタイミング的に古い講演では下振れリスクに関して西村さんや水野さんほど強調してなかった。タイミングの問題だと思うが)。

福井総裁は無しでしょうし、他の審議委員は正直判らん。最後の決定会合が(この時点で)ほぼ確定の岩田さんがわざわざ利下げの話をするのかなあという気もせんでもないのですが、まあ置き土産ということで発言したかも。

ということで、岩田副総裁の発言のような気もしますが、西村さんあるいは水野さんの線はあり得るかと。水野さんの講演では利下げの効果と副作用のトレードオフについての言及があって目先の利下げに関しては慎重っぽかったので、「柔軟な対応をするのは当然」という話をしていた西村さんの線が結構あるのではないでしょうかと思うのであります。ということで、勝手に予想すると岩田さん40%、西村さん35%、水野さん20%、その他の人5%ということでどうでしょ(チョーあてずっぽうですのであまり信じられても困りますが一応真面目に予想したつもり。ちょっと岩田さんのウェイトが低いかもしれないけど・・・)。一応直近の講演についてはフォローしておりますのでこのへんから適宜ご参照いただければ吉かと。
http://www.h5.dion.ne.jp/~bond7743/hatsugentop.html



○ということでその他少々気がついたこと

今回は上記の部分に釘付けになっちゃいましたが(笑)、他に少々気がついたところを。

・金融面における指摘

『複数の委員は、国際金融市場の動揺が国内金融環境に与える影響は引き続き限定的であるが、中小企業に関する資金繰りや貸出態度、低格付けの社債の発行環境がやや悪化している点には注意が必要である、と述べた。』

で、3月の月報(要旨)の時点ではこの話は出てなかったですけれども、4月月報(要旨)の金融面において上記の部分が指摘されていましたというのは先日ご案内したとおりです。


・今回のお題は交易条件の悪化ですか

『委員は、エネルギー・原材料高による交易条件の悪化がマクロ経済に与える影響について議論を行った。』

『複数の委員は、交易条件の悪化が、収益の圧迫、賃金の下押しなどを通じて、所得形成力の低下をもたらしている、と指摘した。このうちの一人の委員は、こうした交易条件の悪化が、実質国内総所得の伸び率低下にも繋がっていると付け加えた。』

とこれはネガティブなお話。

『ある委員は、交易条件の悪化が、海外への所得流出を生じさせることは確かだが、一方で、海外への輸出が増加し、自国の輸入が減ることにより、実質生産の増加に繋がる面があることも合わせて評価する必要があると述べた。』

こちらはポジティブな面も見ましょうよという話ですが。

『別の委員は、交易条件の悪化というショックに対しては、現在、@ わが国の企業収益が高水準であること、A 産油国を含め、世界経済の成長に伴う需要増が見込まれること、というショックを吸収する要因もあるので、マクロ的な影響は、最終的にいずれの要因が勝るかという問題に帰着する、との認識を示した。』

ということで、字面をトータルしてみますと、交易条件悪化に関する懸念も強いということでしょうか。


まあその他に関しては大体金融経済月報の下方修正で示されているとおりだと思います。

トップに戻る









2008/04/10

○とりあえず「金利調整」ロジックは引っ込むんでしょう

金融経済月報が出ましたが、まああちこち下方修正しております。まー市場の認識はこの月報で示されているような見通しはとっくの昔に織り込み済みではありますので、その点で言えばやっと追いついてきましたかという感も致しますが。

http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0804.htm(今回)
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/gp/gp0803.htm(前回)

もういい感じであちこち下がってますよ。

・現状判断総括部分

『わが国の景気は、エネルギー・原材料価格高の影響などから、減速している』(4月)
『わが国の景気は、住宅投資の落ち込みやエネルギー・原材料価格高の影響などから減速しているが、基調としては緩やかに拡大している。』(3月)

ついに拡大が外れました。合掌。さて以下現状判断の要因部分に関しても変わっております。

・企業収益の下方修正

『企業収益は高水準ながら伸び悩んでおり、企業の業況感もこのところ慎重化している。』(4月)
『企業収益が伸び悩みつつも高水準で推移する中』(3月)

景況感は短観の部分ですのでこれは良いとして、伸び悩み「つつ」となっていたのが伸び悩んでおりと変化してますので、これは伸び悩み状態を認めた格好ですな。


・設備投資の鈍化

『設備投資は、増勢が鈍化している。』(4月)
『設備投資も引き続き増加基調にある。』(3月)

企業収益の下方修正をベースにこのように下方修正。

以下の個人消費や公共投資、住宅投資に関しては変更ありません。個人消費が下方修正されていないのが救い(?)といえば救いなのですが、企業部門下方修正でありますな。


・先行きも減速期間の長期化を覚悟の巻

先行きの基調判断。

『景気の先行きについては、当面減速が続くものの、その後緩やかな成長経路をたどると予想される。』(4月)
『景気の先行きについては、当面減速するものの、その後緩やかな拡大を続けるとみられる。』(3月)

当面減速するってのが当面減速が「続く」となりましたな。アーメン。で、その要因部分になりますが。


・設備投資、個人消費の先行きも

ちと長いですが。

『企業収益が幾分弱まりつつも総じて高水準を維持し、雇用者所得も緩やかな増加を続けるもとで、設備投資や個人消費は底堅く推移する可能性が高い。』(4月)
『また、設備投資や個人消費も、総じて高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に、増加基調をたどる可能性が高い。』(3月)

企業収益の部分は先ほどと同様に下方修正。全体的なところでも「増加基調をたどる」から「底堅く推移」とこれまた下方修正ですかそうですか。


・唯一上方修正されているのが住宅投資です

『住宅投資は、回復に向かうがそのテンポは緩やかと予想される。』(4月)
『住宅投資は、当面低調に推移するものの、次第に回復へ向かうと予想される。』(3月)

住宅投資の回復について上方修正。住宅投資はモノがでかいのでまあこれだけでも上方修正でよかったですねという感じであります。


で、この先の要因分解に変化なしで、物価の現状認識に関しても変化はないのですが、物価の先行き部分でこれはこれはというものが。


・需給ギャップのプラスというのを引っ込めました

ということは従来の展望レポートで展開されていたロジックは一旦封印ということになりますな。まあ市場は織り込んでいるともいえますけれども。

『消費者物価の前年比は、経済全体の需給が概ねバランスした状態で推移するもとで、石油製品や食料品の価格上昇などから、プラス基調を続けていくと予想される。』(4月)
『消費者物価の前年比は、当面は、石油製品や食料品の価格上昇などから、また、より長い目でみると、マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていくと予想される。』(3月)

ということで、需給ギャップのプラスというのをついに引っ込めました。マイナスじゃなくてバランスしているということで毎度おなじみのゼロ近傍攻撃ですね、おっほっほ。


・中小企業の資金繰りに言及

『企業の資金繰りは、中小企業でやや悪化しているが、全体としてみれば、引き続き良好に推移している。』(4月)
『企業の資金調達コストは横ばい圏内で推移している。』(3月)

ということで、金融面でこういう変化が出てくるのはほほうという感じ。


とまあそういう感じでして、今回は福井総裁退任後初回の月報でありましたが、肩の荷が降りたかの如くあちこち下方修正するわ、展望レポートのロジック展開を変更する準備をする(ように見えますが)わということで、実に素敵な月報でございましたことよということで。

トップに戻る






2008/04/04

○生活意識アンケート

ここのマインド数値はよく振れるのでオモロイというか何というか。
http://www.boj.or.jp/type/release/teiki/ishiki/ishiki0804.pdf

・収入は減るわ支出は増えるわ

また二極化進行なんでしょうかね。16ページ目にございますけど。現状認識に関しては前回調査とあまり変っていないのですが、先行き見通しが悪化してまして、実態は兎も角マインドが悪化しておりますって感じです。勝手な想像をすると二極化がまた進行してるとか、所得に関しては現実問題として人手不足なので実際はそんなに下がってないとか、支出に関しては代替物で回しているので、現実の数字はあまり増えないけど質が変化してるとか、そんな感じなんでしょうかね。以下引用。

(上記URLの16ページから引用、()内は前回調査数値)

Q7. 1年前と比べて、あなたの世帯の収入はどう変わりましたか。

1 増えた7.2 ( 7.7 )
2 変わらない47.4 ( 47.0 )
3 減った45.2 ( 45.0 )

Q8. 1年後のあなたの世帯の収入は、現在と比べてどうなると思いますか。
1 増える5.6 ( 6.3 )
2 変わらない53.5 ( 53.5 )
3 減る40.5 ( 39.7 )

Q9. 1年前と比べて、あなたの世帯の支出はどう変わりましたか。
1 増えた42.1 ( 42.4 )
2 変わらない33.9 ( 35.1 )
3 減った22.7 ( 21.3 )

(引用終了)


・物価の巻

(18ページより引用、一部省略)

Q13. それでは、1年前に比べ現在の「物価」は何%程度変わったと思いますか。

平均値:+7.6 ( +6.3 )
中央値:+5.0 ( +5.0 )

Q15. それでは、1年後の「物価」は現在と比べ何%程度変わると思いますか。

平均値:+7.6 ( +6.3 )
中央値:+5.0 ( +5.0 )

(引用終了)

まあニュースではだいぶネタになってましたけど、数字で出される部分に関しては12月時点の数字(が高かったのですが)とそんなに変っていないのであります。

まあこれ色々読むと面白いのでチェック推奨。

トップに戻る






2008/04/02

○まずは短観

http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/tk/gaiyo/tka0803.pdf

真面目に読むのは本職のお方にお任せでして、いつものチェック。

・業況判断DIの達成度合い

12月調査時点での先行き見通しがどのくらい達成出来ているかという話ですが、前回調査では実は見通しが達成できてたのですけれども、今回は年初から予想の斜め上を行く金融市場の展開でありましたので、まあ当然の如く達成できていません。

            (12月時点)      (3月時点)
           現状→3月予測   現状→6月予測
製造業大企業   +19→+15    +11→+7
製造業中堅企業  +10→+6     +5→▲3
製造業中小企業  +2→▲3      ▲6→▲9

非製造業大企業  +16→+15    +12→+13
非製造業中堅企業 +2→▲3      ▲3→▲6
非製造業中小企業 ▲12→▲17    ▲15→▲21

これをまあ「あれだけ株安円高(というかドル安ですが)進行したのにこの程度の悪化ですか」と読むのか、「先行きの悪化が随分増えてマインドが益々ダメダメですねえ」と読むのかはあたくしよく判りませんですけど。


・雇用判断

毎度毎度不足感が拡大するという雇用判断はどうだったでしょうか。

            (12月時点)      (3月時点)
           現状→3月予測   現状→6月予測
製造業大企業   ▲7→▲7       ▲7→▲7
製造業中堅企業  ▲8→▲12     ▲7→▲8
製造業中小企業  ▲3→▲7      ▲3→▲3

非製造業大企業  ▲20→▲22    ▲20→▲19
非製造業中堅企業 ▲13→▲18    ▲14→▲17
非製造業中小企業 ▲11→▲12    ▲9→▲9

ほほう。さすがに不足感拡大が一服してますね。それよりふーんと思ったのは、先行き予測の不足感が毎回概ね拡大していたのが、今回はざっと見て拡大って感じじゃなくなっているように見えるところ(特に非製造業大企業が先行き予測で不足感縮小に転じていますわな)であります。いつまでも続くと思うな就活楽勝モード。


・毎度笑える証券業の業況判断

前回12月調査では9月時点での先行き見通しが+23になるという数値(ちなみに9月の現状は▲30)という大本営発表にも程がある予測を出しておいて12月の現状判断が▲26という素晴らしい実績。毎度毎度3か月先のてめえらの業況見通しがここまで大外れする業態というのも珍しい次第でありまして、いかにこの業界が(以下激しく自主規制)。

        (12月時点)       (3月時点)
        現状→3月予測   現状→6月予測
証券業    ▲26→+4      ▲55→▲15

いやはや何とも申し上げようがございませんですが、一つ希望があるとすればとうとう先行き予測がマイナスになったことでありますか。と言っても先行きが現状から40も改善すると言う引き続き寝言は寝て言え状態であることには変化が無いのが落涙を禁じ得ないところです。まあ先行き下向きになってくれないことにはちょっと安心できませんけど、マイナスはマイナスなんですこしは灰汁抜けが近くなってきたのかも知れませんな(笑)。


なお、本職の人は設備投資計画を注目しておりますので念の為(^^)。

トップに戻る